澤田克己(毎日新聞記者、前ソウル支局長)

 マニラに設置された慰安婦像に関する一部メディアの報道には首をかしげざるをえないものがあった。新たな慰安婦像の出現に「またか」とうんざりする気分はわかるのだが、釜山の日本総領事館前に新たな少女像が設置されたのとはわけが違う。「そんなに居丈高になってよいものだろうか」という違和感を否めなかった。

 像は高さ2メートルほどで、目隠しされたガウン姿の女性が悲しげな表情を浮かべている。ソウルの日本大使館前にある少女像とは異なるデザインだ。現場ルポを掲載した産経新聞によると、マニラの慰安婦像は台座正面の碑文に「日本占領下の1942〜45年に虐待を受けたフィリピン人女性犠牲者の記憶」などとタガログ語で書かれている。「慰安婦」という言葉はなく、産経新聞は「表現は穏当だ」と評した。台座裏には寄贈者である5個人・団体名と、英語で「フィリピン人慰安婦の像」と刻まれているという。
2017年12月、フィリピン・マニラ湾沿いに設置された慰安婦像(新華社=共同)
2017年12月、フィリピン・マニラ湾沿いに設置された慰安婦像(新華社=共同)
 私が引っかかったのは、在マニラ日本大使館がフィリピン政府に「『日本政府の立場と相いれない』と抗議した」(読売新聞12月13日朝刊)と書かれていたことである。日本はこれまで韓国に対して、歴史に対する捉え方は立場によって違いうると説いてきたはずだ。だから、韓国が主張する「正しい歴史認識」を日本に押し付けるなという意味だ。それなのに、フィリピンには日本の立場を押し付けて当然だというのだろうか。

 日韓関係の文脈で有名なのは、2013年2月の朴槿恵大統領就任式に日本政府代表として出席した麻生太郎副総理兼財務相のエピソードだ。就任式後に朴氏と会談した麻生氏は「米国内でも南北戦争に対する評価は北部と南部で違う」ということを例に出して、歴史認識とは相対的なものであると説いた。朴氏はこれに激怒した。お祝いの席でわざわざ相手を怒らせるのはほめられた話ではないが、歴史の見方は相対的なものだという点への異論は少なくとも日本国内では多くなかった。

 それだけではない。そもそも、この記事でいう「日本政府の立場」が何かという大事な点が理解できないのである。釜山の少女像の場合には、2015年の日韓合意の「精神」に反していることは明らかだ。だから日本政府は大使召喚などという厳しい措置に踏み切ったわけだが、当然ながらフィリピン政府は日韓合意の当事者ではない。この場合に問題となる「日本政府の立場」というのは意味不明なのだ。

 不思議だったので、「読売新聞に出ている日本政府の立場とは何を意味するのか」と外務省に問い合わせてみた。