著者 高木右昌(ゆうま)

 評論家の室谷克実氏の言葉を借りれば、「慰安婦教」が韓国で猛威を振るっている。慰安婦に関する歴史的な事実関係は学術的論議の対象ではなく神聖不可侵たる信仰になった。韓国の右派の中にも、慰安婦問題は従北左派による分断政策の一環であることを見抜いている人は多い。著書『帝国の慰安婦』が名誉毀損(きそん)罪に問われた世宗大学の朴裕河(パク・ユハ)教授のような学者もいる。

 しかし、真面目に史料をもって慰安婦の強制性について反論を繰り広げたり、細かい事実関係を基に捏造(ねつぞう)された部分を指摘したりしても手応えはない。現在韓国の世論を主導しているのは左派政権だからだ。その支持勢力の中でも主流と呼べる「韓国フェミニズム」の流れがその背景にある。

 韓国には女性家族部という政府機関があってフェミニズムの制度的基盤となっている。その所轄に「性売買防止及び被害者支援に関する法律」というのがあるが、注目すべきは支援を受ける性売買被害者の範囲だ。

 「性売買被害者」であれば、常識的には自分の意思に反して性売買を強制された人を指す。自ら進んで性を売る人を被害者とは言わない。では、現代の韓国で売春を強要された性売買被害者の基準は何か。性売買被害者支援法の支援対象を見れば明らかになる。
【赤丸部分】支援対象:性売買被害者および性を売る行為をした者(韓国・女性家族部のホームページより)
【赤丸部分】支援対象:性売買被害者および性を売る行為をした者(韓国・女性家族部のホームページより) 
ということになっている。性を売ったすべての人が法律で定める性売買被害者支援を受けられるようになっているのだ。具体的にいうと、性売買被害者支援法では性売買被害者の定義を「性売買斡旋(あっせん)等の行為の処罰に関する法律」に委ねている。この法律上の性売買被害者の範囲は「偽計、威力、それに準ずる方法で性売買を強要された人」(法第2条1項4号)になっている。それが性売買被害者を支援する段階には「性を売る行為をした者」になっているのだ。

 よくフェミニズム団体が主張する「自発的な売春はない」という認識がある。性を売る者すべては何らかの事情によってやむを得ず性を売っている、これは自発的ではなく強要されたのと同然なので被害者なのだという論理だ。キリスト教でいう「すべての者は罪人だ」というのと正反対の立場である。ここに、韓国で慰安婦の強制性に対する反論が支持を集めにくい背景が見えてくる。

 2016年8月、「誣告(ぶこく)共和国」という表題のコラムが韓国のネットメディア、イーデイリーに載った。内容は、男性芸能人と性関係を持った女性が金目当てに性的暴行を受けたと虚偽告訴する事件が連続発生している世態を批判しているものだ。

 こういった虚偽告訴事件は芸能人に限ったものではない。17年にはセクハラで女子生徒に告訴された中学教師が自殺に追い込まれた事件があった。後で無実であったことが明かされたが、教師を虚偽告訴した生徒は携帯のことで自分を叱った教師に腹がたっていたと陳述している。