櫻田淳(東洋学園大学教授)

 安倍晋三総理は、はたして2月上旬に挙行される平昌冬季五輪の開会式に出席するのか。それが日本の対外政策上の焦点として、にわかに浮上しつつある。

 1月18日配信の時事通信によれば、自民党の二階俊博幹事長と公明党の井上義久幹事長は、1月17日の会談の折、安倍総理の訪韓に向けた「国会日程の調整」と「環境整備」を図ることで一致し、同党の山口那津男代表も、その翌日の記者会見の席で「平和の祭典だ。出席を期待したい」と語ったとのことである。また、日本経済新聞によれば、自民党の竹下亘総務会長は、1月19日の記者会見の席で「スポーツはスポーツだと割り切って行ってくれればいい」と述べ、安倍訪韓への期待を示したとのことである。こうした政権与党部内からの「安倍訪韓期待論」の浮上は、どのように評価すべきであろうか。

 朴槿恵前大統領の執政期に「底」を付けた感のある日韓関係は、現下の文在寅大統領執政期に至って「2番底」の局面に入りつつある。日韓慰安婦合意に絡んで「ゴール・ポスト」を動かすそぶりを示した文大統領麾下の韓国政府の対応は、例えばJNN世論調査の結果によれば、日本国民の実に8割方の層が「理解できない」ものとして受け止められている。政権与党部内からの「安倍訪韓期待論」には、こうした日韓関係の「2番底」局面なればこそ、日本は大局的見地からあえて韓国に対して「善意」を示すべきであるという考慮が働いているのであろう。
2018年1月、韓国の文在寅大統領の年頭記者会見で、質問のため挙手する記者たち(共同)
2018年1月、韓国の文在寅大統領の年頭記者会見で、質問のため挙手する記者たち(共同)
 もっとも、それにもかかわらず、安倍訪韓は、実際の対外政策上の選択肢としては取り難いものであろう。それは、日韓関係の現況、あるいは米中露3カ国ですら最高政治指導者を送らないという事情に因るものではない。

 安倍訪韓に支障を生じさせている最たる要因は、実は文大統領麾下の韓国政府の姿勢にこそある。韓国政府は、北朝鮮が国際社会から幾度も制裁を発動されている事情を脇に置いてでも、「平昌2018」を朝鮮半島の外には共感の難しい「同胞」意識の発露の舞台にしようとしている。

 韓国政府は、「平昌2018」が「スポーツの祭典」であるという建前を放り出して、それを「南北融和」を図る機会として露骨に政治利用しようとしているのである。韓国国内でも強い批判を招いている「女子アイスホッケー南北合同チーム」の結成は、そうした「スポーツの祭典」としての性格がねじ曲げられていることを示す一つの事例であろう。こうした文大統領の思惑に、日本があえて付き合う合理的な理由は率直に乏しいであろう。オリンピックは「スポーツの祭典」であるという建前の下に、安倍総理が平昌に赴くべき根拠は薄弱なのである。