荒井太郎(相撲ジャーナリスト)

 「品格、力量抜群に付、横綱に推挙す」。横綱推挙状の文面にはそう記されている。ただ強いだけでは横綱にはなれない。品格が力量より先に挙げられているのは、その重要性が強さ以上であるからだろう。

 それでも昭和の時代までは「品格」が問題視されるケースはほとんどなかったように思う。大きくクローズアップされたのは、ハワイ出身の小錦が全盛の頃。綱取りに挑んでいた平成4年3月場所中に発行された『文藝春秋4月号』で、横綱審議委員でもあった児島襄氏が「外国人横綱は要らない」と述べ、「外国人には横綱に必要な品格は得られない」などと持論を展開した。当時としても暴論と思えるが、小錦の土俵上の態度が横綱としてふさわしくないといった議論も協会内外では噴出した。

  その後、15年1月場所後の横綱審議委員会では、満場一致で朝青龍の横綱昇進を決めたが、内館牧子委員(当時)からは「品格を直してほしいと注文し、親方に指導をお願いした」と、ここでも「品格」が取り沙汰された。

 内館氏の懸念は残念ながら的中してしまう。夏巡業休場中に母国モンゴルでサッカーに興じて2場所の出場停止、前代未聞の土俵上でのガッツポーズ、極めつけは場所中にもかかわらず泥酔して知人男性を暴行し、最後は「強制引退」に追い込まれた。くしくも朝青龍事件以降、外国人横綱の「品格」は常につきまとうことになる。

退断髪披露大相撲で最後の土俵入りをする横綱・朝青龍=2010年10月3日、東京都(撮影・千村安雄)
退断髪披露大相撲で最後の土俵入りをする横綱・朝青龍=2010年10月3日、東京都(撮影・千村安雄)
 朝青龍とは対照的に「優等生」と思われてきた同じモンゴル出身の後輩横綱、白鵬もまた次第に土俵上の態度が荒々しくなっていく。勝敗が決まった後のダメ押しで相手を土俵下につき飛ばしたり、「子供が見ても分かるような相撲。なぜ、取り直しにしたのか」などと発言し、審判部を痛烈に批判。立ち合いが成立したにもかかわらず、自ら物言いをつけて土俵上で立ち尽くす暴挙に出たのは記憶に新しい。

 そもそも「品格」とは何か。日本人でも、その意味を明快に説明するのは難しい。しかし、多くの社会人は無意識のうちに実践していることではないだろうか。取引先に失礼のないように言動には気をつける、上司や先輩を立てる、礼儀や一般常識をわきまえて行動する。こうした立ち居振る舞いもその一例と言える。

 かつて元横綱で相撲解説者の北の富士勝昭氏は自身の現役時代を振り返り、こんなことを言っていた。

  「日ごろから『品格』を特別に意識したことはなかった。普通に行動していただけでよくない行いがあれば反省し、改めればいいだけの話だ」