[世界潮流を読む 岡崎研究所論評集]

岡崎研究所

 10月27日付のProject Syndicateのサイトで、リチャード・ハース米外交問題評議会(CFR)会長が、中東における「イスラム国」(IS)の勢力拡大や、ウクライナにおける力による領土拡張等を例に挙げ、現在、既存秩序が多くの挑戦に晒される無秩序時代が到来しつつある、と述べています。

 すなわち、我々は、世界史上1つの時代の終焉と、新たな時代の始まりを目撃している。冷戦の終結を告げたベルリンの壁解体から25年、その後の時代は米国の優越が続き、比較的解放された社会と政治制度が生まれ、主要国間では多くの協力が行われた平和な時代であった。そうした時代が今終わろうとしている。

 中東では、30年戦争初期のような、政治的・宗教的な紛争が国境を超えて行われている。ウクライナでは、軍事力で領土を獲得してはならないという法的原則に基づく安定した欧州秩序に対し、ロシアが挑戦を仕掛けている。

 アジアの大部分では平和が保たれているが、それもいつ不安定化するかわからない仮初めの平和である。アジアには、多くの解決されていない領有権問題や、ナショナリズムの台頭があり、紛争を防いだり、それを和らげたりするための二国間・多国間の外交準備も不足している。

 また、気候変動やデジタル時代の到来、伝染病に対応するための努力も不十分である。

 こうした世界的な無秩序化が進む原因の一部には、米国の影響がある。2003年のイラク戦争は、スンニ派とシーア派の緊張関係を悪化させ、イランの野望を防いできた障壁を取り除いてしまった。最近では、シリアの体制変換を要求していたにもかかわらず、シリア政府が米国の警告を無視し、化学兵器を繰り返し使用した後でも、米国は何もしなかった。その後地域で生じたのは、「イスラム国」がその空白を埋めるという事態である。アジアでは、いわゆる戦略的ピボットを新たな政策として声高に掲げたものの、実際にはほとんど何もしていない。

 これらの結果、米国の信頼性に対する疑いが広まり、他の多くの国々はますます独自の行動をとるようになっている。
国連安全保障理事会の首脳級特別会合で議長を務めたオバマ大統領(左)。
その右後方はケリー国務長官(ゲッティ=共同)
 以上の事実は、必ずしも我々が新たな暗黒時代に直面しつつあることを意味するわけではない。相互依存が対立にブレーキをかけることもあるし、世界経済はこの6年間でいくぶん回復した。欧州やラテンアメリカの大部分は安定しているし、アフリカでもそうである。

 新たな無秩序時代の到来を押し返すことも可能である。イランとの国際的な交渉は、彼らの核能力を制限させる可能性が残されている。また、各種の措置を通じて、「イスラム国」を軍事的に弱体化させ、戦闘員のリクルートや資金の流れを減らすこともできる。制裁と油価の低下を踏まえれば、ウクライナについてロシアの妥協を引き出させることもできるかもしれない。

 しかし、各国の国内政治や、国際的コンセンサスの欠如、そして米国の影響力の低下を踏まえれば、成し遂げられることには限界がありそうである。それ故に、これからの世界で享受できる平和や繁栄は、ポスト冷戦期よりも少なくなるだろう、と述べています。

出典:Richard N. Haass ‘The Era of Disorder’ (Project Syndicate, October 27, 2014)

* * *

 リチャード・ハースは米外交問題評議会の会長であり、米外交界の重鎮です。彼の意見は傾聴に値します。

 現状認識として、国際秩序・規範への挑戦は、ロシアのクリミア併合、中東でのISIS台頭とサイクス・ピコ協定への挑戦、中国の南シナ海や東シナ海での振る舞いが代表的なものですが、他にも数多く見られます。世界が無秩序化しているのはその通りです。その一因は、米国が国際秩序維持のために十分な指導力を発揮していないとの指摘もそのとおりでしょう。

 そして、こういう現状を踏まえてどう対処するか、今後どうなるかの見通しが問題です。

 現在の無秩序化の傾向をやむをえないものとして受け入れるのではなく、その傾向を逆転させるべく努力すべきでしょう。逆転の可能性がなければ、そういう努力も無駄でありますが、逆転の可能性は十分にあります。

 まず、米国は人口も増えており、経済も好調で、衰退はしていません。オバマ大統領が対外関与に消極的で、アフガニスタンやイラク戦争に疲れた国民もそれを支持したという事情があり、オバマゆえに米国は国際秩序維持の役割を不十分にしか果たさなかったと言えます。ポスト・オバマでは、それが是正される可能性があります。

 ロシアは旧ソ連よりずっと弱く、衰退しています。ISISもアルカイダよりはずっと強いですが、中東の他の勢力と比較すれば、まだ弱いです。

 世界の規範を変えて新時代を作れるような力を持った勢力は、中国くらいしかありません。しかし、米国、欧州、日本、インドなど、既存の国際秩序・規範を維持する勢力が努力をすれば、世界の無秩序化は逆転できるように思われます。

 日本にとって国際規範が尊重される国際社会が国益に沿います。国際規範をないがしろにしているロシアにも、はっきりとG7と協調して厳しく対処していくことなどが必要です。

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