私が聞いた「モンゴル互助会」と相撲協会の黒い噂

『山岡俊介』

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山岡俊介(ジャーナリスト)


 貴乃花親方が日馬富士の暴行事件の報告を怠ったとして解任されてわずか1カ月ほどにも関わらず、今回、理事候補選に出馬したことに違和感を持たれる読者もいるかもしれない。

 しかし、貴乃花親方は、横綱日馬富士(当時)による弟子の貴ノ岩に対する傷害事件の本質は、モンゴル人力士による「モンゴル互助会」からの八百長の依頼を断ったことに対する報復としての「集団リンチ」とみている。

 ここに来て、昨年末の臨時理事会に提出したが無視された、貴乃花親方が貴ノ岩に聞き取りなどして自らの主張をまとめた通称「貴文書」が流出。暴行時、日馬富士はビール瓶どころかアイスピックを手に「殺してやろうか!」と言ったというし、同席していた白鵬の対応も、協会の報告書とは大きく異なっている。

 私は貴乃花親方と事件後も交流のある関係者から、暴行の始まる前、「日馬富士は『八百長をOKすれば、お前を横綱にだってしてやる』といわれ、貴ノ岩は『そこまでして横綱になりたくありません』と答えた」とも聞いている。

 貴ノ岩は本場所で白鵬に勝った(昨年初場所)が、白鵬はそのかなり前から貴ノ岩は地力があるとみて警戒し、関係者が貴ノ岩に何度も連絡して来ていて、貴乃花親方は、それを八百長への誘いとみて断らせていたそうだ。

鳥取県警の再聴取を受けるため、鳥取に向け出発する元横綱日馬富士関=2017年12月、羽田空港
 ところが、日本相撲協会にしてみれば、その事件の本質が表に出れば、日馬富士だけでなく、現場で傍観していた白鵬、鶴竜と横綱3人が一挙に辞任を余儀なくされ、そうなると興行そのものが成り立たなくなることから、高野利雄危機管理委員長(元名古屋高検検事長)と一緒になって逆に事件の隠蔽(いんぺい)に走り、協会への報告義務などを怠ったとの理由で自分を解任したとみているそうだ。

 貴乃花親方にしてみれば、自分の属する組織に自浄作用がないから警察に頼ったまでであり、自分にはまったく非はないと考えている。

 それどころか、相撲を愛する貴乃花親方は、そうした組織は一刻も早く改革しなければならない、それも内部からということで、そのためには発言力を付ける必要があるから時を置かず、理事候補選に出たわけであり、それに何の矛盾もない。
八角理事長の恐怖政治に怯える親方たち

 もっとも、今回、貴乃花一門から貴乃花親方、それに阿武松親方(元関脇・益荒雄)の2人が出馬したことに対し、貴乃花親方のこの間の協会への徹底した非協力的な態度に一門内でも「分裂」した結果との見方もあるが、そんなことはない。

 候補者を2人立てた理由は二つあり、一つは、たとえ貴乃花親方が当選しても、協会とつるむ評議員会(元文科副大臣の池坊保子議長)が認可しない可能性が十分あり得るとみていたからだ。本当にそうなっても、阿武松親方が当選すれば、彼を通じて貴乃花親方の意向を反映できるように「保険」を掛けたわけだ。

 もう一つの理由は、貴乃花一門が2人立てなかったら、理事は定員10人のところ、10人しか立候補者はなく、無風選挙になるところだった。各一門、相変わらず「談合」で出馬を決めており、2010年2月、貴乃花親方が二所ノ関一門を離脱して立候補し、無風選挙の慣例を破った「貴ノ乱」以降、4期連続選挙になっているわけで、何としても再び無風選挙にしたくないという思いもあってのことではないか。

 もっとも、貴乃花一門の確定票数は昨年末、無所属になった錣山親方(元関脇・寺尾)ら3人を入れても11票。当選には1人あたり9~10票必要であることを思えば、2人当選は非常に厳しいとの見方が専らだった。しかし、若手を中心に改革を目指す貴乃花親方を密かに支持する親方は一門外に相当数おり、理事候補選が実施されるまでは、勝算があると考えたからこそ2人立てたのだろう。

 ただし、1人しか当選しない場合は阿武松親方の方が通らないと評議員会の未承認があり得る。結果的に貴乃花親方は2票にとどまり落選したが、一門内では当初、阿武松親方6票、貴乃花親方5票で調整していたのだろう。

 最後に、貴乃花親方がどのような改革を目指しているかについてだが、八百長一掃のために現在の年6回の本場所回数を減らすほか、負傷の場合、翌場所も同じ地位にとどまることができる「公傷制度」の復活なども視野に入れていると聞く。

 それから、こんな八角理事長体制に多くの親方が従うのは、「正論」を貫く貴乃花親方を徹底してイジメ抜く、恐怖政治に怯えてのことだろうが、その一方で、一部の幹部や取り巻きは「利権」に預かっているからでもある。
2016年3月の横綱審議委員会に出席した八角理事長(右から3人目)、貴乃花理事(同2人目)ら=両国国技館(今野顕撮影)
 貴乃花親方はその利権について、余剰金、親方の退職慰労金など総額200億円ともいわれている協会資金の流用疑惑といった不正の可能性があるとみており、それにメスを入れて行くつもりもあるようだ。


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