もっとも、今回、貴乃花一門から貴乃花親方、それに阿武松親方(元関脇・益荒雄)の2人が出馬したことに対し、貴乃花親方のこの間の協会への徹底した非協力的な態度に一門内でも「分裂」した結果との見方もあるが、そんなことはない。

 候補者を2人立てた理由は二つあり、一つは、たとえ貴乃花親方が当選しても、協会とつるむ評議員会(元文科副大臣の池坊保子議長)が認可しない可能性が十分あり得るとみていたからだ。本当にそうなっても、阿武松親方が当選すれば、彼を通じて貴乃花親方の意向を反映できるように「保険」を掛けたわけだ。

 もう一つの理由は、貴乃花一門が2人立てなかったら、理事は定員10人のところ、10人しか立候補者はなく、無風選挙になるところだった。各一門、相変わらず「談合」で出馬を決めており、2010年2月、貴乃花親方が二所ノ関一門を離脱して立候補し、無風選挙の慣例を破った「貴ノ乱」以降、4期連続選挙になっているわけで、何としても再び無風選挙にしたくないという思いもあってのことではないか。

 もっとも、貴乃花一門の確定票数は昨年末、無所属になった錣山親方(元関脇・寺尾)ら3人を入れても11票。当選には1人あたり9~10票必要であることを思えば、2人当選は非常に厳しいとの見方が専らだった。しかし、若手を中心に改革を目指す貴乃花親方を密かに支持する親方は一門外に相当数おり、理事候補選が実施されるまでは、勝算があると考えたからこそ2人立てたのだろう。

 ただし、1人しか当選しない場合は阿武松親方の方が通らないと評議員会の未承認があり得る。結果的に貴乃花親方は2票にとどまり落選したが、一門内では当初、阿武松親方6票、貴乃花親方5票で調整していたのだろう。

 最後に、貴乃花親方がどのような改革を目指しているかについてだが、八百長一掃のために現在の年6回の本場所回数を減らすほか、負傷の場合、翌場所も同じ地位にとどまることができる「公傷制度」の復活なども視野に入れていると聞く。

 それから、こんな八角理事長体制に多くの親方が従うのは、「正論」を貫く貴乃花親方を徹底してイジメ抜く、恐怖政治に怯えてのことだろうが、その一方で、一部の幹部や取り巻きは「利権」に預かっているからでもある。
2016年3月の横綱審議委員会に出席した八角理事長(右から3人目)、貴乃花理事(同2人目)ら=両国国技館(今野顕撮影)
2016年3月の横綱審議委員会に出席した八角理事長(右から3人目)、貴乃花理事(同2人目)ら=両国国技館(今野顕撮影)
 貴乃花親方はその利権について、余剰金、親方の退職慰労金など総額200億円ともいわれている協会資金の流用疑惑といった不正の可能性があるとみており、それにメスを入れて行くつもりもあるようだ。