貴ノ岩の最初の「説明」を受けて、すぐに協会に一報すべきだったとする高野委員長の見解は、私には言いがかりのように聞こえる。鳥取県警に被害届を出した際、協会にも連絡をするよう親方が求めたことは妥当である。また貴乃花親方が、加害者側の伊勢ケ浜親方から協会に報告すべきと考えた、というのも事実だろう。この間の貴乃花親方の行動は、親方の協会不信を考えるならば当然というべきである。今回の問題を協会が興行上の配慮からうやむやにされる懸念を抱いたならば、貴乃花親方の言動は適切だったと理解できるからだ。

 もう一つは、協会が鳥取県警からの連絡を受けて開いた11月11日の臨時理事会での対応だ。貴乃花親方が依頼したとおり、協会には県警から連絡があり、八角理事長以下の協会執行部に報告された。先の高野委員長の報告では、執行部が臨時理事会で「緊急に対応すべき案件とは認識していなかったため、報告はされ」なかったという。その際、理事会終了後に、鏡山危機管理部長が貴乃花親方と伊勢ケ浜親方に対して当事者同士で話し合うように要請したとある。内々で収めて解決したことにして、翌日に控えた九州場所を滞りなく興行させることを明らかに優先したのである。この重要な点について、危機管理委の報告は曖昧であり詰めが甘いと言わざるを得ない。

 このように危機管理委の対応も不適切だが、そもそも日馬富士の暴行については、白鵬の言動に問題があった。当初、白鵬は貴ノ岩の言動を問題視し、「説教」を始めたところ、態度が悪い貴ノ岩を日馬富士が「制裁」を加えたのだ。白鵬ははじめ静観していたが、流血の事態になるに及んで、ようやく日馬富士を止めたようだ。まるで日馬富士は白鵬の意向を受けた「下手人」だ。どう見ても、一番悪いのは白鵬である。その白鵬が力士界を代表しておわびをし、「膿(うみ)を出し切る」と善人面で公言したのである。

 要は白鵬が自分の非を感じていることは明らかである。九州場所の嘉風戦で、行司の裁きに不満を示して批判を浴びたことも併せて、自分の立場の危うさを感じたことは想像に難くない。それが千秋楽の優勝インタビューで、観客に万歳三唱を提案するという挙に出たに違いない。批判をかわすため「大相撲ファンは自分の味方だ」ということを演出したかったのだろう。
2014年4月、靖国神社で奉納相撲が行われ、土俵入りした(左から)日馬富士、白鵬、鶴竜のモンゴル3横綱=東京都千代田区
2014年4月、靖国神社で奉納相撲が行われ、土俵入りした(左から)日馬富士、白鵬、鶴竜のモンゴル3横綱=東京都千代田区
 ただ、白鵬が貴ノ岩を「教育」しようとしたのには、当然前提がある。モンゴル力士たちが自分の「支配」のもとで協調しているのに対して、貴ノ岩が従わないからに違いない。この考え方がそもそも間違っている。大相撲は相撲部屋を中心として運営されている。その上に一門があり連合げいこをすることもあるが、それ以外の徒党を組むことは悪い意味での「なれ合い」やひいては八百長を助長しかねないので、望ましくないのである。