2018年02月02日 16:55 公開

ヘリエ・チュン記者、BBCニュース

英国の舞台やテレビ・映画界で働く東アジア系の英国人俳優たちは、配役にあたって自分たちが今でも深刻な偏見を受けていると主張する。「目に見えない」マイノリティーとして扱われる恐れがあると懸念している。

女優のルーシー・シーン氏は、「東アジア系はステレオタイプな役柄に配役されたり、人種差別的な使われ方をすることが多い」と話す。

「コール・ザ・ミッドワイフ」や「イーストエンダース」などの人気ドラマに出演し、戯曲家でもあるシーン氏は、「女性はだいたい、スリムで小柄で髪の長い、従順な『蓮の花』のような役か、その逆で売春婦や不法移民として描かれる。一方で、東アジア系男性は中性的で男らしくない存在として描かれる」

東アジア系の俳優が、人種に関係のない役に選ばれることは珍しく、役の一環として中国人のアクセントを求められることが多いとシーン氏は言う。それでもなお、多くのプロデューサーは、中国人の役に白人俳優を使う「イエローフェイス」は許されるという認識なのだという。

シーン氏など複数の東アジア系英国人の戯曲家による初の作品集「Foreign Goods(外国製品)」が、このほど発表された。

編さんしたのは香港出身の戯曲家、ジンアン・ヨン氏。ヨン氏は「東アジア系の人たちの物語や声が、国中の舞台で足りていない」と話す。

「自分たちが正しく描かれていることは大事です。どう表現されているかで、人の認識は作られる。特に若いときはテレビやアート、本から、振る舞い方を学ぶので」

「ダブルスタンダード」

東アジア系英国人が芸術や娯楽分野で正しく表現されていない。そう感じる人は多い。

映画「ハリー・ポッター」シリーズに出演した女優ケイティー・リュン氏は以前、ステレオタイプに立ち向かうのは「大変」だとBBCに話した。ドラマ「ヒューマンズ」のスター、ジェマ・チャン氏は英紙テレグラフに、「ハリウッド映画ではアジア系女性よりも、エイリアンの方がたくさんいる」と話した。

中国を舞台にした昨年の舞台「In the Depths of Dead Love」の出演者が全員白人だったため、数十人がロンドンのプリントルーム劇場前で抗議した。リュン氏とチャン氏も参加した。

チャン氏は当日、「伝説のベネディクト・ウォンとプリントルームでの愛のある抗議」とツイートした。

https://twitter.com/Gemma_Chan1/status/822197042210607104

ロンドン大学ロイヤルホロウェイでドラマや演劇、ダンスについて教える上級講師のアシュリー・ソープ博士は、東アジア系英国人に対して「歴史的な差別の慣習が長く続いている」と指摘する。

「ほかの人種や民族に置き換えたら、考えられないような慣習が今も続いている。例えば、今となっては白人俳優が衣装と化粧をつけて、黒人の役を演じるなど絶対に考えられないはずだ」

東アジア系の配役については、ダブルスタンダード(二重基準)が働いていると、ソープ博士は言う。

英国の演劇では、肌の色にこだわらない配役、あるいは演劇作品の「普遍性」を理由に、白人の役に有色人種をキャスティングすることが多い。しかし東アジア系俳優に対しては、これが東アジア系の役だからといって東アジア系の俳優を起用しないことの言い訳に使われることがあるという。

「しかも同時に、東アジア系英国人は、なかなか他の人種の役に起用されない」

「東アジア系の俳優の間には、自分は決まったタイプの役、東アジア系の役しか与えられないという感覚が強い。なまりの強い英語を話す役か、移民の役が多い」

転換点?

東アジア系英国人俳優にどのような機会が与えられているかについて、明確な統計はない。ソープ博士はそれをもどかしく感じている。博士は、調査のため学術資金援助を「何度も」申請したが、「優先事項ではないと言われた」と言う。

それでも博士は、最近の事例をいくつか挙げる。

  • 2009年劇場の「More Light。中国の初代皇帝の墓所に閉じ込められたから出られなくなった妾(めかけ)たちの話だ。俳優は全員白人で、女優たちは着物や東洋風の化粧をしていた。
  • 2012年ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)の「趙氏孤児」。「中国のハムレット」として知られるこの舞台では、17人の役に東アジア系俳優が3人しか起用されず、3人の役が犬とメイドだったため、物議を醸した。批判されたRSCは、多くの東アジア系俳優をオーディションしたと釈明し、「採用する東アジア系俳優が少ないのは、実際の、非常に深刻な問題」だと認めた。
  • 2017年―プリントルーム劇場の「In the Depths of Dead Love (死んだ愛の深みで)」。古代中国を舞台にした作品のキャストは、全員白人だった。劇場の外で数十人が抗議し、「イエローフェイス」だと訴えた。劇場は不快な思いをさせたならと謝罪したが、「神話や古代を参考にしているだけだの、とても『英国的な劇』」なのだと述べた。
  • 2017年ウェールズ音楽劇場「ザ・ゴールデン・ドラゴン。アジア風レストランを舞台に中国系の不法移民を題材にした現代オペラだが、出演者は全員白人だった。ロンドン移転が予定されていたが、ロンドンの劇場側がキャンセル。ウェールズ音楽劇場は後に、「判断を誤った」と認めた。

テレビのステレオタイプ

2012年の「趙氏孤児」騒動は、演劇界の転換点になったと俳優たちはいう。

「見晴らしが良くなって、自分たちの存在が人目に止まるようになった」。ロイヤルコート劇場やナショナル・シアターやRSCへの出演経験があるダニエル・ヨーク氏はこう言う。状況は「確実に良くなっている」とも言う。

2017年にRSCが上演した中国の古典劇「Snow in Midsummer (原題「竇娥冤」)」では多くの東アジア系がアンサンブルとして出演した。

さらに今年は東アジア系の俳優と戯曲家が参加する作品が、相次いで上演される。日本と北朝鮮を舞台にした「The Great Wave」や、南京大虐殺について書いたアイリス・チャン氏を描く「Into the Numbers」、香港出身の作家による「Acceptance」などだ。

それでも、東アジア系が「エキゾチックなよそ者」や「残忍な悪党」、「鈍くて頑固な父親」として描写されがちなテレビは、大問題だとヨーク氏は話す。

BBCの人気ドラマ「シャーロック」では、サーカス団を装う中国の犯罪集団が登場した。動画配信チャンネル「BBC Three」の最新ドラマ「Chinese Burn」は、犬を食べることをからかったり、性的に不器用な中国男性を茶化すなど、ステレオタイプ的な描写が続いたことが批判された。

マイノリティの描写については、米国の娯楽業界の方が英国より進んでいるという意見は多い。

ホームコメディ「Fresh off the Boat (フアン家のアメリカ開拓記)」は、台湾系米国人家族の描写が称賛された。恋愛コメディ「クレイジー・エックス・ガールフレンド」には東アジア系が主人公の恋愛相手として登場し、異例の配役だと言われた。

ハリウッド映画は、「ゴースト・イン・ザ・シェル」や「ドクター・ストレンジ」は「ホワイトウォッシュ」(白人以外の役を白人が演じること)だと批判されたが、状況は改善しつつあるという意見もある。制作中の実写版「ムーラン」には中国出身の女優が起用されたし、「Crazy Rich Asians」のキャストは全員アジア人だ。

一方の英国では、アフリカ系や南アジア系の状況と比べると、東アジア系に対する人種的偏見はそれほど注目されていないとソープ博士は言う。

「英国の東アジア系は新自由主義的、多文化主義的なサクセスストーリーと捉えられている」ため、英国の大多数は、東アジア系が実際に人種差別に遭っていることに気づいていないという。

「自分たちの状況に満足していて、勉強熱心で、何も文句を言う必要がない人たちだとみなされている」

しかしヨーク氏は、だからこそ東アジア系は声を上げ続けなければならないのだと主張する。

「私たちは人種や多様性の議論から(今までは)うまく遠ざかっていた。しかしそれでは、声を上げなければ、脇に追いやられて無視されてしまう」

(英語記事 British East Asian actors 'face prejudice in theatre and TV'