重村智計(早稲田大名誉教授)

 韓国人は「統一」の言葉に憧れ、心躍らせる。金大中(キム・デジュン)元大統領や盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は、この感情を利用し支持率を上げた。北朝鮮も韓国から資金を獲得するために、「夢見る統一」の言葉で韓国人の心をつかんだ。だが、さすがの韓国人も南北指導者の「三文芝居」にようやく気が付いたようだ。女子アイスホッケーの南北合同チーム結成に50%が反対し、賛成は40%にとどまった。南北指導者の陰謀はかつての力を失っている。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率も急落した。

 南北の陰謀は「同床同夢」に近い。何より北朝鮮を延命させる「制裁破り」で協力している。韓国では、左翼政権が長期独裁化を目指し、政権内の極左グループは北朝鮮による南北統一に憧れる。「統一旗」の入場は、童話の「裸の王様」の再現だ。「統一」は現実的ではないのに「統一五輪」とはやし立てている。

 北朝鮮は開会式前日の8日に、平壌で人民軍創建70周年の軍事パレードを見せ、平和の祭典に「凍風」を送った。また一方で、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員会委員長を送り込む「微笑作戦」を見せた。制裁対象の貨客船「万景峰(マンギョンボン)92」が芸術団「三池淵(サムジヨン)管弦楽団」団員を載せて韓国に入港した。

 万景峰号は、石油製品を満タンに入れて帰国するとの指摘がある。まさに南北協力の制裁破りだ。金永南氏に権限はほとんどない。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は妹の金与正(キム・ヨジョン)氏を9日、ソウルに派遣した。金委員長が信頼する唯一の人物である。開幕式の翌日に文大統領との昼食会が設定されたが、南北首脳会談について話し合うとの観測がしきりだ。
2018年2月9日、韓国・仁川国際空港に到着した金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正氏(中央、聯合=共同)
2018年2月9日、韓国・仁川国際空港に到着した金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正氏(中央、聯合=共同)
 軍事パレードではひな壇の顔ぶれが注目された。なぜ平昌五輪前日に軍事パレードを行うのか。金委員長による軍の完全掌握と「党優位」の誇示に必要だった。

 社会主義国家では「共産党が軍に命令する」。父親の金正日総書記は「先軍政治」により、「軍が党に優越」する体制を築いた。金委員長は「党が軍に指示する体制」復活に政策転換したが、軍幹部の抵抗が激しく、多くの幹部が処刑、追放された。

 人民軍創建記念日は、昨年までの4月25日から2月8日に変更された。朝鮮労働党の創建記念日は1945年10月10日である。現在の朝鮮人民軍が創設された1948年2月8日を記念日とすることで、「党優位」の論理につながるからだ。4月25日は1932年に満州で創設された「朝鮮人民革命軍」(抗日遊撃隊)の記念日で、「軍優位」の理屈が残ってしまう。つまり、8日の軍事パレードは軍の抵抗勢力への「勝利宣言」で、どうしても来年まで延期するわけにはいかなかったのである。