上念司(経済評論家)

 コインチェックのNEM流出事件を受けて、にわかに仮想通貨のセキュリティー問題が注目されている。しかし、この問題を単なるサイバーセキュリティの問題に矮小(わいしょう)化して捉えては事の本質を見誤る。なぜなら、この問題は情報技術の問題であると同時に経済や市場の問題でもあるからだ。

 本稿では、まず仮想通貨を象徴するビットコインが抱える三つの問題点について明らかにしたい。その上で、仮想通貨全体が抱える問題と取引所の抱える闇に迫っていきたいと思う。

 一つ目は、仮想通貨の中でも特にビットコインの所有者は、一部に偏っているとの指摘がある点だ。名目上はわずか4%が、ビットコインの97%を所有しているそうだ。もちろん、この所有名義には取引所などもあり、単に顧客の預かり資産が取引所名義でカウントされている可能性もある。しかし、ブルームバーグなどの報道によれば、ビットコイン総発行数の約4割を1000人の「クジラ」が保有しているとのことだ。その記事に次のような指摘がある。
仮想通貨「ビットコイン(BTC)」
仮想通貨「ビットコイン(BTC)」
 マルチコイン・キャピタルのマネジング・パートナーを務めるカイル・サマニ氏は「お互いに連絡を取り合えるような大口保有者は恐らく数百人はいるだろう。恐らく、実際すでにそうしているだろう」と話す。つまり、所有者の偏りによって常に相場操縦のリスクに晒(さら)されているのである。

 二つ目はビットコインのリスクについてである。ビットコインの仕組みはマイナー(採掘業者)と取引所の連携によって維持されている。マイナーとはブロックチェーンをつなぐ作業をする人で、最も早く複雑な計算を解いたマイナーは報償としてビットコインを得られるようになっている。

 当初は市場規模が小さかったので個人のパソコンでもマイナーは作業できたが、これだけ市場が大きくなると専用のマシンで大量の電力を消費しないと計算が間に合わなくなってしまった。モルガンスタンレー証券の予想によると、ビットコインのマイニングだけで今年はアルゼンチンの年間使用量以上の電力を消費してしまうとのことだ。ブロックチェーンをつなぐ競争をして一番早い人にコインで報償を出すという仕組みそのものが極めて非効率的な電力消費を産んでいる点は構造的な問題と言えるだろう。

 当然、各国がマイナーに対する消費電力規制は厳しくなっている。中国ではマイナー向けの電力供給停止、締め出しが進んでいる。全世界からマイナーが締め出されるとビットコインの取引市場も大幅な縮小を余儀なくされるだろう。

 また、仮想通貨の美しい理念である「非中央集権」というコンセプトもかなり怪しい。コーネル大学の暗号通貨専門家、エミン・グン・シアー准教授によれば、ビットコインのマイニングは上位4社で53%を独占している。事実上はメガバンクのような電算センターが存在しているのと同じだ。

 また、コインチェックのNEM流出においても、NEM財団が一時ハードフォークを検討し、これをやらないと宣言した。ハードフォークとは、NEM盗難前の状態にプログラムを書き換えることだが、これを検討した時点でNEMが構造上非中央主権的な通貨でないことが改めて明らかになってしまった。やはり、理想と現実の間には相当な開きがあるようだ。