では、仮想通貨において預金者保護法のような法令が存在するかというと、現在のところ存在しない。実際、預金者保護法の第2条第1項では規制対象とする「金融機関」を定め、同条第2項では「この法律において『預貯金者』とは、金融機関と預貯金等契約を締結する個人をいう」として、保護対象を定めている。ところがこの中に仮想通貨は含まれていない。実は、預金者保護法も歴史が長い法令でなく、不正送金の犯罪被害が急増する中で、預金者保護の観点から2005年8月3日に成立したものである。

 また、海外の仮想通貨ニュースサイトによると、2018年1月末で仮想通貨は1506種類存在し、時価総額の合計は5088億ドル(56兆円)超となっている。今回の事件で流出したネムの総額(約580億円)は、仮想通貨全体の時価総額の0・1%にあたる。銀行預金の不正送金0・00017%~0・0003%と比較すると非常に高い割合であり、改善の余地が大きいことが分かる。

 このため、今回の事件を教訓として、このような問題を解決するための一つの方法は、仮想通貨取引所(正式名称は「仮想通貨交換業者」)が預かる仮想通貨についても、預金者保護法の対象とするように法改正を行うことではないか。今回の事件ではコインチェック自らが自己資金で補填するとの話もある。しかし、金融庁の立ち入り検査などの結果、補填できないことが明らかになった場合はネムを預けていた人々に大きな損失が発生してしまう。
(iStock)
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 仮想通貨取引所に対し、仮想通貨の所有者が不正アクセスなどで受けた被害の補填を義務付ければ、損害保険会社が新たな保険を開発する。その保険に加入することにより、取引所が自己資金で賄うことができない被害の補填の一部を賄うことができるのである。また、インターネットバンキングと同様、一定のセキュリティー対策を行えば、保険料の割引を行うような仕組みも出てくるはずだ。取引所の選別を厳格に行い、預かり資産の保全が最大限図られるようにする必要がある。

 「ビットコイン」などの仮想通貨やそれが利用するブロックチェーン技術は、成長の起爆剤となる可能性や、不動産の権利移転をはじめ、さまざまな分野で応用可能なものだ。その芽をつむ方向に政治や世論が走ることがあってはならない。仮想通貨を含め、日本が先行してブロックチェーン技術に関するプラットフォームを構築し、覇権を握る視点をもつ必要がある。取引所が保管する仮想通貨についても、通常の預金と同様に保護する必要はないという意見もあるかもしれないが、今回の事件の本質を正しく理解し、その解決策について冷静な議論を期待したい。