田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 平昌冬季五輪では各国選手が連日、白熱した競技を展開している。強風や猛烈な寒さの中での大会運営ということもあり、競技によってはテレビ観戦している筆者にもひやひやさせる場面が多い。それでも会場のボランティアや応援する人たち、そして選手たちの五輪に取り組む姿勢は見ていて心地いい。

 だが、他方でこの五輪は開催前後から国際政治の最大の注目場所となった。もちろん北朝鮮側のいわゆる「ほほ笑み外交」攻勢のためである。金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長と、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の実の妹である金与正(キム・ヨジョン)党中央委員会第1副部長らの高位級代表団が韓国入りしてからの過熱報道は、五輪そのものへの関心を上回るものがあった。
韓国の文在寅大統領(手前右端)との会談に臨む北朝鮮の金永南・最高人民会議常任委員長(奥右)、金与正・党第1副部長(奥左)ら=2018年2月10日、韓国大統領府(聯合=共同)
韓国の文在寅大統領(手前右端)との会談に臨む北朝鮮の金永南・最高人民会議常任委員長(奥右)、金与正・党第1副部長(奥左)ら=2018年2月10日、韓国大統領府(聯合=共同)
 特に注目を浴びたのは、各種報道で「実質ナンバー2」「金委員長に直言できるただ一人の人物」などと評されている与正氏の発言と動向であった。確かに、故金日成(キム・イルソン)主席の直系が韓国を訪問したのは初めてである。さまざまなメディアでは、与正氏が金委員長の「親書」を携えて、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に平壌での首脳会談を提案したことが報道されている。

 この一連の報道を分析してきて、韓国・日本のメディアが「金与正ブーム」とでもいう空疎な現象に貢献している、と批判的に見ざるを得ない。まず韓国到着後、初めて文大統領と会談したときの与正氏の表情が、顎をしゃくりあげた感じでまさに相手を睥睨(へいげい)するかのような視線、いわば「女王様」的表情だったことが大きく報道された。

 「白頭血統」というのだそうだが、故金日成主席に始まる北朝鮮の「金王朝の王女」とでもいうべき印象を、その写真は伝えている。だが、このような「白頭血統」なるものの起源、つまり抗日戦士として北朝鮮の独立に貢献した金主席の話は極めて誇張されたものである。ソ連による傀儡(かいらい)政治家として当初は祭り上げられた人物ではないか、というのが正しい見方だろう。