郵便学者の内藤陽介氏による『北朝鮮事典-切手で読み解く朝鮮民主主義人民共和国』や『朝鮮戦争:ポスタルメディアから読み解く現代コリア史の原点』などの著作を読むと、北朝鮮、金一族の政治的な宣伝工作(プロパガンダ)がどのように構築されていったかがわかる。つまり「白頭血統」や「金王朝」なるものはアイドル(偶像)の中でも最も虚偽性の高いものである。そのようなアイドルの欺瞞(ぎまん)的な側面を全開にした「女王様然」とした表情を垂れ流すメディアの印象操作には、やはり北朝鮮のイメージ戦略にくみしたと評されても仕方がないだろう。
平昌冬季五輪の開会式で、北朝鮮の金与正氏(中央右)と金永南最高人民会議常任委員長(同左)の近くに座る安倍首相(右端)とペンス米副大統領=2018年2月9日(聯合=共同)
平昌冬季五輪の開会式で、北朝鮮の金与正氏(中央右)と金永南最高人民会議常任委員長(同左)の近くに座る安倍首相(右端)とペンス米副大統領=2018年2月9日(聯合=共同)
 この北朝鮮の政治的プロパガンダとしての「アイドル」の利用は、金委員長の父親である故金正日(キム・ジョンイル)党総書記からの得意芸であった。金総書記は、映画や音楽など文化部門への造詣があり、それを政治的手段としても利用していた。

 今回は、美女ぞろいといわれる三池淵(サムジヨン)管弦楽団を韓国に先行して派遣し、まるで父親譲りの「アイドル攻勢」をしかけてきた。これは今回の「ほほ笑み外交」戦略の露払いとなり、またのちに触れるように金与正氏の訪韓イベントのクロージングにも役立っている。

 もちろんこのような北朝鮮の「アイドル戦略」は、なにも北朝鮮単独で行われたものではない。韓国政府の強い協力がなければ不可能である。しばしば報道では、文政権が米国と北朝鮮の間にはさまれて苦境に陥ったとする評価があるが、本当だろうか。五輪の開催日程はとうの昔に決まっていたわけだし、そもそも金与正氏が来韓する情報はかなり以前から流されていたという。つまり、文政権にとっては別に政治的に苦境でもなんでもなく、まさに北朝鮮と共同演出した「金与正ブーム(仮)」なのだろう。

 しかも、金与正氏の在韓最終日には、三池淵管弦楽団のコンサートを文大統領と隣り合わせで観劇するというクロージングまで用意した。さらに北朝鮮の「公式アイドル」といえる牡丹峰(モランボン)楽団の団長である玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が登場し、歌唱を披露したという。