物江潤(著述家、学習塾塾長)

 私は1989年に改定され、小学校に新たな学習指導要領が実施された1992年に入学し、「ゆとり一期生」と呼ばれる世代に当たります。特に2008年、ゆとり世代の大卒生が初めて入社するということで、私たちはさまざまなレッテルを貼られました。

「ゆとり教育=悪」の空気に端を発した、荒唐無稽なゆとり批判を経験した私は、いかに日本の教育政策が空気に左右され、支離滅裂であるかを痛感しました。そして、その支離滅裂な状況は、2020年度から実施される大学入試改革も例外ではありません。

 2020年の大学入試改革の目的を簡単にまとめると、「受け身から主体性の教育への転換」といえます。変化の激しい時代に求められる人材は、既存の知識を詰め込んだだけの「学校秀才」ではなく、未知の課題に対して自分の頭で考え行動できる主体性を持った人材だと考えたわけです。

 入試改革を検討するにあたり、特に問題視されたのは大学入試センター試験のマークシートでした。受け身の姿勢で暗記をすれば攻略できてしまうからです。そこで、マークシートの試験に加え、記述試験を導入することにしました。記述試験は単純な暗記だけでは解けないと考えたのでしょう。知識偏重の入試から、思考力・判断力・表現力・主体性といった、さまざまな能力が必要となる入試を目指したわけです。従来のマークシート試験に記述試験を加えたセンター試験は、「大学入学共通テスト」と名称を改め、2020年度から段階的に実施される予定となっています。
大学入試センター試験の会場で配布されたマークシートの解答用紙=2018年1月13日、東京・文京区の東京大学(川口良介撮影)
大学入試センター試験の会場で配布されたマークシートの解答用紙=2018年1月13日、東京・文京区の東京大学(川口良介撮影)
 しかし、これは少し調べれば分かることですが、センター試験の前身である共通一次試験が導入される前から、日本の大学入試は知識偏重だと批判され続けてきました。後述するように、暗記科目からほど遠いように思われる数学の記述試験でさえ、知識とテクニックを頭に詰め込めば攻略できるのです。だから、センター試験のマークシートは、日本の大学入試を知識偏重にしている原因ではありません。いま記述試験を導入するため、膨大な時間と労力をかけているわけですが、なぜここまで記述試験の導入にこだわるのか、率直に言って理解に苦しみます。

 このような首をかしげざるを得ない現象の原因として、二つのことが考えられます。ひとつは教育問題の語られやすさです。誰もが教育を受け、そして多くの人は誰かを教育したことがあるのですから、皆がこだわりのある教育理念を持っています。しかも、この教育理念は各人の経験に基づいているので、皆が自信をもって意見を表明できます。一方、語られやすいがゆえに、今回の改革のようにきちんとした検証を踏まえず、政治家や有識者の思い込みが政策に反映されやすいわけです。