ここ数年、NHKの大河ドラマに熱い思いを寄せたことがほとんどない。1年間ダラダラやってるし、土曜日に再放送あるし、オンデマンドでも観られるし。「絶対観ておかなきゃ話題に乗り遅れる!」的な危機感も皆無。ありがたみのなさで言えば、テレ朝の「相棒」と似ている。たとえ見逃しても、思いのほか早く午後に再放送してくれるし。

 考えてみたら、大河ドラマは他のドラマと異なる、最大のデメリットを抱えている。史実に基づいて製作する限り、「ストーリーの顛末を皆がうっすら知っている」のである。ここで誰それが死ぬ、戦に負けるなどの見せ場が周知の事実って、とてつもなく不利だ。度肝を抜く奇想天外な方向へは決していかない。物語の流れ自体にワクワクするような新奇性がないのに、淡々と1年間続けるって、ある意味地獄だよね。

「妹キャラ」大作戦


 そこで、NHKが考案したのが「妹キャラ」である。教科書に載っていない、脚光を浴びていない、皆があまり知らないキャラクターを主人公に据えることで、ひろくあまねく興味を惹きつけようという作戦だ。

 直近の作品で言えば、2011年の「江 姫たちの戦国」(茶々は名実ともに有名だが、その妹・江がメイン)、2013年「八重の桜」(会津藩士の妹)、そして今年の「花燃ゆ」(吉田松陰の妹)である。なんだろう、この一貫した「妹系路線」は。デキる兄でもやんちゃな弟でも手厳しい姉でもなく、「御しやすい」イメージの妹を据えるところがなんとなく薄気味悪い。

 この妹路線三部作の最新版「花燃ゆ」は、さらにNHKが大きく踏み切った感がある(いや、踏み外した感なのかもしれないが)。「若くて血気盛んでインテリなイケメンたちの中に紅一点、妹が混じって、さあ大変♪」……って、乙女ゲーム(恋愛シュミレーションゲーム)と見紛う設定だ。

 2話では、大沢たかおが井上真央にうっかり覆い被さる「壁ドン」ならぬ「床ドン」シーンまで登場。一瞬、私の頭に浮かんだのは「貧すれば鈍(ドン)する」の言葉である。大河でもドンしちゃうのかぁ……。

 登場人物もどこか現代風。現代女性が好きそうな、バラエティに富んだ顔ぶれだ。

 家族に大迷惑をかけまくるも、その熱血が歴史上名を遺した吉田松陰(伊勢谷友介)は、今でいうダメンズ代表格。「この人は私がいなきゃダメなのよ」と女に思わせる、呪わしい、忌々しい存在である。

 女心を1ミリも理解しない、ボサッとキャラの小田村伊之助(大沢たかお)。幕府批判本をなくしてしまう抜け感、手間暇かけた料理をぶっかけ飯でかっこみ、承認欲求の強すぎる嫁(優香)を怒らせてしまう無神経さ。それでも憎まれない、むしろヒロインからは永遠に慕われる。天然ボケでもうっかり勝ち組・エリート男子といった趣だ。

 いいとこのボンボンで世間知らずの久坂玄瑞(東出昌大)は、スピリチュアル志向男子(おみくじに願掛け)である。強気な言動の割に、心情をいともたやすく吐露し、オンオン泣きじゃくって弱音を吐いちゃうあたりは、女心を掴むのかもしれない。「男気・プライド」が標準装備だった過去の大河ドラマキャラに比べると、あまりに素直すぎて。行く先が心配で、皆を母なる気持ちにさせるのだ。

 そうか、大河ドラマもここまできちゃったか、と正直驚いた。この路線で1年間大丈夫か? と心配する声もちらほら聞こえてくる。

 とはいえ、これはこれでNHKの大きな勇断である。今期の大河ドラマのターゲット層を完全に女性に絞ったのだ。史実検証にこうるさい年輩男性層を排除し、過去にさんざん描かれてきた男臭い幕末をビジュアル重視のまったく異なる視点で描くことを決めたワケで。個人的には盛大な拍手を送りたいと思っている。その勇気ある決断に対しては。

手練れのヒール求む


 今後、松下村塾の塾生たちが繰り広げる「尊王攘夷男子ソーシャル」に、ついていけるかどうかは正直自信がない。キラッキラした高身長イケメン男子組を愛でるだけなら飽きてしまうだろう。彼らのもつ自意識や正義感を根本から揺るがすような、強烈な脇役や悪役、人間臭さにおいての汚れ役が出てくることを祈る。

 たとえば、「龍馬伝」における岩崎弥太郎(香川照之)や、「軍師官兵衛」における道薫(田中哲司)のような存在ね。1年の長丁場だからこそ、次々に登場してすぐ死ぬような雑魚キャラレベルのヒールではなく、長期にわたって嫌悪感と興味をそそる手練れのヒールを所望する。私的には。

 ま、今は朝ドラのほうがブーム化しているので仕方ない。平均視聴率も話題性も、そして「壮大な町おこし効果」も、朝ドラのほうがはるかに上回っている。

 というのも、朝ドラには「あさイチ」という強烈な受け皿があるからだ。有働さんが視聴者(中年女性)目線で男優に垂涎し、柳澤さんがしれっと薀蓄をたれ、イノッチが両者をたしなめるという黄金の図式。これ、実は最強なのである。いくら「スタジオパークからこんにちは」やEテレ「歴史にドキリ」(中村獅童が歌って踊って大奮闘する子供向け番組)で大河ドラマを盛り立てようと目論んでも、残念ながら都合の良い番宣としか映らないのだ。

 大河が大儀な時代である。虎視眈々と次の波が来るのを待つしかないと思う。