プロレス冬の時代


 月刊、別冊時代まで遡れば39年という歴史を誇り、1984年5月に週刊化されたプロレス専門誌『ゴング』が休刊の憂目に遭ったのは、2007年3月のこと。

 インターネットの普及に伴い、1990年代半ばから始まった出版不況、さらに総合格闘技バブルの影響によるプロレス冬の時代……このダブルパンチをもろに受け、『ゴング』1本で勝負していた会社サイド(日本スポーツ出版社)が経営難に陥り、結局ギブアップせざるをえなかった。

 ただし、格闘技ブームにも陰りが見え始め、2000年代後半にはついにバブルがはじけた。その一方で、2005年11月、新日本プロレスの筆頭株主であったアントニオ猪木がゲーム会社『ユークス』に株式を譲渡し新日本を去っている。ユークスの子会社となり倒産の危機を免れた新日本プロレスは徐々に息を吹き返し始めた。

 さらに、劇的変化が訪れる。2012年1月、トレーディングカードゲームの販売を軸にエンターテインメント業界で時代の先端をいく『ブシロード』が新たな親会社となり、同社の木谷高明オーナーがカードゲームのCMに積極的にプロレスラーを起用したり、新日本の柱となる興行(1・4東京ドーム大会、8月の『G1 CLIMAX』など)に数千万単位の宣伝費をかけるパブリシティ&プロモーションを展開。新日本を全面支援した。

息を吹き返した新日と『ゴング』の復刊


 プロレス(新日本プロレス)に復活の兆しが見えてくるなか、私がゴングの商標問題を知ったのが、同年の秋口。いま現在、ゴングの版権がどうなっているのか調査したところ、商標権が宙に浮いている格好だった。

 私はすぐさま編集プロダクション『ペールワンズ』代表である井上崇宏氏に連絡を入れた。井上氏とは彼が総合格闘技『PRIDE』の大会パンフレットを制作している頃からの付き合いであり、この10年ほど仕事で何度も関わってきた。

 井上氏は2011年12月からプロレス&格闘技専門書籍『KAMINOGE』を月刊で発行し、軌道に乗せてきた実績がある。それでも、向上心と好奇心の塊りのような井上氏は『ゴング』という老舗ブランドに並々ならぬ興味と執着心を持っていた。

 それを知っていたから、彼にだけその事実を報告したのだ。井上氏はやる気満々。

 「ボクがいろいろと出版社に当たってみます。『ゴング』というブランド名があれば、今なら動いてくれるところがあるんじゃないかと思うので。もし、この話が実現したらそのときは金沢さんが編集長をやってください。まだ老けこむトシじゃないですよ。一緒にやりましょうよ」

 「いや、べつに老けこんじゃいないけど(笑)、雑誌の編集から離れて長いしね。まあ、そのときになったら前向きに考えてみるから」

「ボクの中で編集長は金沢さんしか頭にないから、絶対にやってもらいますからね!」

 ポジティブ志向の井上氏は威勢がよかった。私の場合、躊躇しているというより実感がまるで沸いてこないというのが正直なところ。

 実際に、1999年1月~2004年10月の5年9カ月、『週刊ゴング』の編集長を務めた経験がある。これは過去6人の編集長のなかで最長期間となる。しかも、私が編集長を務めていた時期は、出版不況、格闘技バブル、新日本プロレス暗黒時代ともろに被っている。それでいながら、私の編集長時代には実売数で初めて競合誌の『週刊プロレス』を上回るという実績だけは残していた。

 当時いつの間にか、私には『GK』(=ゴング金沢)なる愛称が定着してしまった。2005年12月に会社を辞めフリーになってからも、それ以降ゴングが休刊してからも、なぜかGKの愛称だけは消えることがなかった。GKとはなんの略称なのか知らないビギナーファン、それどころかゴングの存在さえ知らない若い世代のファンにまでGKと呼ばれる。

 井上氏もそれを知っていたからこそ私をゴングの顔に据えたかったのだろう。

「男気で勝負しましょう」


2015年1月23日に発売されたゴング1号(徳間書店) 復刊へ向けゴングがようやく本格的に動き出したのは、2013年の春から。半年間も苦戦した要因は、(新日本)プロレス人気が目に見えて復活してきたうえに、ゴングというブランドに惹かれた出版社は複数あったものの、実際に既存のプロレス専門誌の実売数を知って腰が引けてしまったから。

 想像していたよりも実売数は低く、これでは利益が上がらないという結論が出てしまうのだ。そんな中、別ジャンルの人がもっとも熱心に考えてくれた。TSUTAYAグループのなかでアイビーレコードを主宰する酒井善貴社長。レコード業界のヒットメーカーである酒井社長は、長州vs藤波“名勝負数え唄”やタイガーマスクに熱狂した世代だが、かねてより出版にも興味を持っていた。

 「金儲け云々ではなく、男気で勝負しましょう!」と言ってくれた。

 アイビーレコードのラインから発売元も徳間書店と決まった。同年6月、ゴング復刊0号の発売が正式決定。交渉をまとめてくれた井上氏は「決まりました。金沢さん、勝ち戦をしましょう!」と一言。すでに私も腹を決めていたし、“勝ち戦”というフレーズがなんとも気にいった。

 結果的に、昨年9月9日に発行されたゴング復刊0号は売り切れ店続出の人気となった。それを受けて、今年1月23日発売のゴング創刊号も好調な売れ行きを示し、3月からの月刊化も決定している。

 ネット社会にあって新規ファンが日々増えていく現状で、ファンが紙媒体に求めているのはなにか? それを考えたとき、雑誌が表現すべきものは、デザイン・写真の格好よさと、より深い読み物だろう。読み捨てにはできない雑誌。本棚に飾っておきたい雑誌。マニアからビギナー層まで惹きつける雑誌。そのコンセプトは、間違いではなかったと実感している。

「四位一体」で前進する新日


 そこで、現状のプロレス界である。どんなに見応え、読み応えのある雑誌を作ろうとも、肝心のマーケットに活気がなければ、需要はついてこない。現状で、ゴング復活を成し遂げられたいちばんの要因は、新日本プロレス人気の復活にある。

 なぜ、新日本が奇跡の復活に成功したかといえば、現場(リング上)、商品(レスラー)、売り手(フロント)、コンテンツ(テレビ朝日をはじめとしたメディア)が一体となって、変化をおそれず前進したから。まず、リング上では世代交代に成功した証拠として、若くてルックスのいいスター選手が次々とトップに躍り出てきた。無論、彼らは強さと技術も兼ね備えているから、作られたスターではない。

 この10年、冬の時代から新日本を支えてきた棚橋弘至、中邑真輔が不動の二大エースとなり、そこに驚異の若者・オカダ・カズチカが参入した。24歳で頂点を極めたオカダは、まだ27歳。比較的選手寿命の長いプロレス界において、あと10年はバリバリのトップで活躍できることだろう。

 同じく、タイガーマスク以来の身体能力を誇る飯伏幸太(32歳)が業界初の2団体所属(新日本&DDT)選手として、さまざまなリングで観客を魅了している。

 リング上の選手が若返っていけば、観客もそれに比例する。この2年で、いわゆる“プロレス女子”と称される女性ファン、小学生・中学生のちびっ子ファンが急増した。親子連れも多く目にするようになった。おそらく、10年前と比較すると会場に集う観客の平均年齢は5歳以上若返ったろうし、その半分は女性ファンが占めている。

 会場における女性ファンのノリは、人気ミュージシャンのコンサート会場のようでもあるし、少年ファンから見たプロレスラーの存在は仮面ライダーや戦隊もののヒーローが実際にリングで闘っている感覚に近いのかもしれない。プロレスの聖地・後楽園ホールは毎回チケットが完売、両国国技館もいっぱいに埋まる。首都圏ばかりではなく、札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡と全国の大会場もつねに超満員となっている。

他団体はどう続く


 コンテンツ面でいうなら、いま唯一地上波で放送しているテレビ朝日の『ワールドプロレスリング』は土曜深夜の30分枠。そのハンデを埋めるために、昨年12月1日から新日本&テレ朝の共同事業として『新日本プロレス(NJPW)ワールド』という動画配信サービスが開始された。これは月額999円で、現在行なわれている新日本の試合がほぼ毎回ライブで視聴できるうえ、1970年代~1990年代の名勝負も観戦できる。

 若いファンからすれば、名前と写真でしか知らないアントニオ猪木、藤波辰爾、長州力、タイガーマスク、武藤敬司、蝶野正洋、橋本真也ら時代を彩ったレジェンドたちの名勝負をいつでも視聴できる。これらのコンテンツをパソコン、スマホで手軽に観られるのだ。12月1日のサービス開始から1カ月半で、すでに会員は2万人を突破。今夏には目標である10万人にとどくかもしれない。

 このように、現状では新日本プロレスの独走状態。はたして他団体がそこにどう続いていくのか? それがいちばんの課題となるだろう。中量級の選手たちがスピード感溢れる闘いを展開するドラゴンゲート、デスマッチ路線の大日本プロレス、エンターテインメント路線を確立させたDDTは、すでにインディー団体という括りを超え固定客をしっかりと掴まえている。

それとは反対に、かつて新日本と並ぶメジャー団体と称された全日本プロレス、ノア、全日本から分裂した武藤率いるWRESTLE‐1は苦戦状態。プロレス界全体の底上げのためにも、奮起を促したいところである。


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