大前研一(経営コンサルタント)

 大韓航空の女性副社長が、自社機のファーストクラスに提供するナッツの出し方に怒り、離陸直前の旅客機を滑走路から引き返させて、客室サービス責任者を降ろした一件で、副社長を辞任した。この女性は、大韓航空も抱える韓進グループの趙亮鎬会長の長女。

 私は韓国には200回以上仕事で行っているし、父親の趙さんもよく知っているが、娘を米国の大学に留学させるなどの教育は施したものの、肝心な人間教育がなっていなかったようだ。このパターンで思い出す経営者も数多い。

 儒教文化が深く浸透している韓国では、恩師や年長者、社会的地位の高い人を敬う意識が高い。それを見ていた娘も、おやじさんと同じような感覚になって、「こいつを飛行機から降ろせ!」と、機長しかできない行為をしてしまったのだろう。機長が従わなければ、「彼もクビだ!」と叫んでいたに違いない。

 航空機は公共の乗り物なのに、オーナー一族が自分の思い通りに動かせるように扱ったことも非難を浴びている。韓国では、財閥の創業者一族はやりたい放題で、絶対君主みたいなところがある。サムスンの李健煕会長のワンマンぶりを告発する元幹部の本が日本でも出ているが、子弟の振る舞いも含めて韓進よりもカラフルかもしれない。

 今回の騒動をきっかけに、「そういえば、ウチの会社のオーナーのバカ息子も、横暴なことをやっているぞ」と他の財閥にも飛び火して、収拾のつかない状態になっている。韓国独特の世襲経営の弊害も批判されている。今回は「ナッツ・リターン」という愛嬌のある言葉も有名になったが、こうした実態が明るみに出ることはある意味、いいことだと思う。

 一方、世界の航空業界に目を転じると、これまで長い間、低収益で悩んでいたのが、旅行需要の拡大と原油価格下落などを背景に最近は景気のいい話が多くなってきた。

 国際航空運送協会(IATA)は10日、2015年の世界の航空業界の最終利益が計250億ドル(約3兆円)になるという予想を発表した。14年の見込みより26%も増え、過去最高になる。原油価格の下落を受け、燃料費の低下が見込まれるからだ。

 今後、この燃料費の低下が航空運賃にも反映され、旅行需要も拡大する。IATAでは、15年の旅客数を14年見込みより7%伸びて35億人になると予想している。実は旅行者数はこの先、どんなことがあっても増えると思われる。

 かつて「憧れのハワイ航路」と言っていた昭和20~30年代、日本はそれほど豊かではなかった。それでも、ハワイに行くとお土産にジョニーウォーカーを2~3本、必ず持ち帰ってきた。それが円高になり、どんどん海外に出かけるようになって、土産も増えてきた。

 現在の中国人がまさにそういう状況だ。円安でタイやインドネシアの人たちも日本に来やすくなった。この年末年始も、海外からの訪日客が大幅に増加している。

 全日空によると、12月19日から来年1月4日までの国際線の予約状況は日本発が1年前の6%増なのに対し、訪日客の利用が多い海外発は42%も増加しているという。日本の主要観光地ではホテルの予約ができないくらい混んできている。

 旅行業は自動車を抜いて世界最大の産業になっている。この傾向はかなり世界的で、今後も続くはずだ。日本の受け入れ体制の整備、拡充が望まれる。

 ■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。