谷岡一郎(学校法人谷岡学園理事長)

「朝日には答えたくない」


 朝日新聞の世論調査は、社会調査に対して大変不誠実です。もはや確信犯的に悪用していると言ってもいいでしょう。

 特に秘密保護法に関する2013年12月2日、8日実施の調査は非常に多くの問題点を孕んでいます。

 2回の調査は、いずれもRDD(Random Digit Dialing)方式で行われたようです。RDD方式とは乱数番号法と言われ、コンピュータでランダムに発生させた電話番号に電話する調査方法です。

特定秘密保護法案の成立を報道する2013年12月7日付朝日新聞朝刊の1面(手前)と社会面
 専門家としてまず驚いたのは、その回答率の低さです。12月2日の調査は回答率50%、八日の調査は46%と大変低い数字でした。RDD方式では、少なくとも回答率が6割に達しなければ「使える」データにはなりません。また、通常は社会調査であると分かれば相手も応じてくれることが多く、最低ラインの6割は保たれるのが普通です。これまでの朝日新聞の世論調査でも、さすがに5割を下回ることはほとんどなかったはずです。

 それがなぜ今回、5割にも達しなかったのか。推測ですが、朝日新聞が「秘密保護法に関して調査したい」と言った時点で電話を切った人が多かったのではないでしょうか。

 いずれにしろ、この時点ですでに「朝日新聞の世論調査に応じた人」というバイアス(偏向)がかかった母集団内での調査ということになります。「秘密保護法に不安を抱く人が70%以上」と言っても、実際は「朝日新聞の調査に応じ、質問内容を聞いても最後まで答え続けた人のなかで70%」という結果にすぎない。

 こういうことは、出口調査などでも起こるようです。ある選挙の出口調査を見に行き、そこで調査を担当した学生アルバイトに聞いた話では「朝日新聞」や「赤旗」と名乗って出口調査を行おうとすると、投票に来た有権者が逃げてしまうケースがかなり多かったそうです。

 一方、「NHK」や通信社ならば受ける人が多い傾向があるようですから、明確に「朝日だから」「赤旗だから」避ける有権者がいたことになります。つまり、答える側が「誰が調査しているか」を選別している。これでは一見、各社が同じように調査している出口調査でさえ、バイアスがかかることは避けられません。

 各新聞社、テレビ局、その他報道機関等で、同じ方式で内閣支持率や政党支持率を調査をしても異なった数字が出る場合がありますが、これも「応じる側が調査相手を選んでいる」ことの影響があるのではないでしょうか。

記事のための調査


 より大きな問題は、朝日新聞は世論調査に用いる質問の文章によって回答を誘導する手法(ラーニング)を用いていることです。

 これまでにも朝日新聞は、自衛隊のPKO派遣やイラク戦争の問題について、この手法をかなり多用してきました。12月2日発表の世論調査の問いの部分にもこう書いてある。 〈この法案は衆議院で与党が採決を強行し可決されました。こうした採決の強行を問題だと思いますか。問題ではないと思いますか〉

 結果は、〈問題だ 61% 問題ではない 24%〉で、問題だと感じる人が倍以上となっています。

 ここで問いの文章に、「採決を強行した」とあるのがポイントです。秘密保護法はきっちりと国会で審議して野党も賛成しており、厳密には「強行採決」はされていません。

 しかし朝日としては、「与党が強引に採決を行った」と印象付け、与党のやり方を「世論が批判している」という結果を得たい。しかし、さすがに「強行採決」とは書けないので「採決を強行した」とし、「(厳密には強行採決ではないけれど)自民党が無理に法案を通した」と印象付け、人々が「自民党の強行な採決は問題だ」と答えるよう誘導しているのです。

 あまりにもあからさま過ぎるやり方ですが、8日の世論調査でも〈衆議院に続いて参議院の委員会でも与党が採決を強行〉としています。

 朝日新聞は、これが誘導になると分かっていてあえて使っているとしか思えません。他の問いにも、〈国会はいま、自民党だけが大きな議席を占めています。国会で自民党だけが強い、いわゆる自民一強体制を良いことだと思いますか〉(12月8日)と、明らかに回答を誘導する表現を盛り込んでいます。

 そして前述の〈採決を強行〉という問いが続き、重ねて〈国会の議論は十分だと思いますか〉、最終的に〈秘密保護法ができることで(中略)不安を感じますか〉と聞いています。

 これはあとの質問に影響を及ぼすため、それより前の質問のなかで先入観を植え付ける「キャリーオーバー」という手法です。つまり「自民一強」による「強行」、「議論は十分でない」とたたみかけて不安を煽る。「『秘密保護法は不安』が多数」との結果を得るためです。

 朝日新聞調査部には、こういう手法を熟知したかなりの知恵者がいて、こうした手法をあえて使って世論調査を悪用しているとしか思えません。世論を誘導してでも自説に近い結果を出そうと画策している。もっと言えば、秘密保護法には反対という記事や論調が先にあり、それを補完するために世論調査を行っている。つまり、「記事のための調査」をしているのです。

 朝日新聞は大手製薬会社のノバルティスファーマ社が論文の数値を改竄し、誇大広告を打った件について批判的に報じていますが、私から言わせれば、人のふり見てわがふり直せ、です。 

学問に対する冒涜


 しかし、一般の人はこのようなデータや社会調査を読み解く力(リサーチ・リテラシー)がないため、騙されてしまう。一見、公平な「世論調査」として調査方法まで明記して発表されると、恣意性が拭われている客観的な結果のように見えてしまう。だからこそ怖いのです。

 調査をこんな形で使われては、調査論者たちみんなが胡散臭い目で見られ、「持論に有利な結果を出すために調査をしているんだろう」と疑われてしまう。まともに社会調査を行っている立場から言えば、社会調査、社会科学という学問に対する冒涜であり、非常に迷惑です。

 調査だけではなく、発表の仕方にも注意が必要です。朝日新聞は12月29日、〈朝日新聞世論調査、二十代はいま〉という記事を掲載しました。20代を3000人、30代以上を2500人選出し、郵送で行ったアンケートで、回答率、有効回答の構成比なども細かく掲載されています。

 質問は恋愛、経済、友人関係や歴史観など多岐にわたり、見開き二面を使って結果と解説が掲載されていますが、そのなかに非常に面白い結果がありました。なんと、20代の60%が首相の靖國参拝に賛成しているのです。反対は僅か15%。30代以上も賛成が59%に達しています。

 12月26日に安倍総理が靖國に参拝した直後ですから、国民的関心も高いはず。記事でも「若者の右傾化」などを懸念する解説がありながら、なぜかこの回答結果についてはほとんどクローズアップされていません。

 朝日新聞は、「首相の参拝には反対」の回答が少しでも上回れば「靖國参拝 二十代も反対が過半数越え」と大きく報じていたに違いない。しかし、当てが外れたのでしょう。

 どんなに統計的に意味のある調査をしたところで、結果は朝日新聞の論調に応じて「取捨選択」をされてしまい、都合の悪い結果については埋もれさせてしまうか、下手をすれば報じることもしないのでしょう。これこそ、国民の知る権利の侵害の最たるものと言っていいのではないでしょうか。

朝日こそ知る権利を侵害


 朝日新聞は秘密保護法に関して繰り返し「国民の知る権利、言論の自由が侵される」と言っていましたが、報じない自由を最大限に使って知る権利に十分応えてこなかったのは、他でもない朝日新聞自身です。

 たとえば、河野談話が出される経緯で行われた元慰安婦への聞き取り調査の詳細や「尖閣ビデオ」などは、「誰か」の胸三寸で「秘密扱い」に指定されてしまったという事実がまず存在している。秘密保護法はこれを「ある一定の基準や手続きによって選定できる」ようにするもので、民主党も「必要だ」と言ってきました。

 そういう経緯があるのですから、「秘密にするならば一定の線引きをすべきだ」「責任者を明確にすべきだ」というのは当たり前の発想でしょう。

 もちろん、各論に対する批判はあるでしょうが、これまで知る権利を片っ端から侵していたのは実は民主党政権であり、それに乗っかった朝日新聞であったという構図は間違いなく存在してきたのです。しかしそういうことすら、朝日新聞しか読んでいない人は気づくことはない。朝日新聞は、読者にその材料も機会さえも与えずにきたのです。

 秘密保護法では、他にも問題がありました。朝日新聞はあたかも「これが世論である」かのように秘密保護法に対するパブリックコメントを紹介し、〈民の声、聞かぬのか パブコメ、反対が77%〉(13年11月23日)と報じました。 「2週間で9万件の意見が寄せられた! しかも8割が反対意見だ! これが“民の声”だ」というのですが、もうお話にならない。

 パブリックコメントというものに、性質上、あえて意見を申し述べたい「反対派」が殺到するのは当然です。朝日新聞だってそんなことは分かり切っているでしょう。賛成派は文字どおり「サイレントマジョリティ」ですから、寄せられる意見そのものが非常にバイアスがかかった数字だということは十分知っているはずです。

 にもかかわらず、朝日新聞は「反対こそ民意」と報じ、秘密保護法にかかわる記事のなかや「反対派市民」のコメントのなかで、「パブコメでも八割が反対」を引用し、政府が民意を無視しているかのように演出しました。これでは、とても客観報道とは言えないでしょう。

朝日には読む価値がない


 朝日新聞の「声」欄や朝日歌壇を見ていても、反対の声しか掲載されていません。こういう朝日の報道を読んでいるから応募作の大半が反対になってしまうのか、朝日が選んでいるせいなのか分かりませんが、あまりに幼稚で短絡的な反対の声ばかり。仮に読者が「各論には疑問もあるが、大筋では賛成」という意見を投書したところで、掲載されないのではないでしょうか。

 もはや朝日新聞に読む価値はほとんどないと言ってもいいのですが、それでも二つだけ、朝日新聞を読む意味はあると私は思っています。

 一つは、朝日新聞の取材を受け、あるいは寄稿して朝日的な意見を述べている評論家や作家、芸術家の意見や作品は、もう読む必要がないと判断できることです。

 以前、映画評論家のおすぎが『週刊文春』で映画評を載せていましたが、彼が五つ星を付けた映画は僕の好みには合わないので見なくてよし、としていました。それと同じことで、無駄な時間を費やさなくて済む。

 二つ目は「ののちゃん」を読むこと。私は作者であるいしいひさいち氏の大ファンですが、いしい氏は素晴らしいリサーチ・リテラシーを持っていて、彼の作品のなかにそれが十分に表れています。

 彼の作品には統計や社会調査の基本が分かったうえで、世間がいかに恣意的に数字を使っているかを風刺している漫画が山のようにあります。「社会科学とは結果オーライ」と言い切ったのは、特に本質を衝いている。だからこそ『データはウソをつく』(ちくまプリマー新書)という書籍に、テーマにあった四コマ漫画を十篇、掲載させていただいたのです。

 それが朝日新聞に掲載されているところがまた皮肉で、朝日新聞は「ののちゃん」に自分たちがからかわれていることに気づいていないのでしょう。

ミスリードに気をつけろ


 ネットの出現で、偏向や恣意的な報道が検証しやすくなったことはあるでしょうが、新聞記事を疑うクセをつけなければ、読者は永久に騙され続けることになります。

 当然、調査方法や記事の作り方に問題があるのは朝日新聞だけではありません。「俺は大丈夫だ」という人でも、見出しになっている言葉をそのまま受け取ってしまいがちではないでしょうか。

 たとえば最近も、産経新聞が12月26日に〈新聞読む子、勉強もできる!? 学力テスト、文科省が分析〉という記事を出しました。「!?」がついているだけ良心的ですが、見出しを文章として見てしまうと、多くの読者は前が原因で、後が結果だと勝手に解釈してしまう。つまり、「新聞を読むと学力が上がるのか」と考えてしまうものです。

 新聞社はもちろん、そのことを分かっていて見出しをつける。しかし実際には、記事にもあるように「相関関係がある」というだけ。「新聞を読んだから勉強ができるようになった」という因果関係があるわけではなく、あくまでも「読んでいる子供と学習能力に相関関係がある」ということにすぎない。

 少し想像を働かせれば当たり前のことで、新聞を読む習慣があるような家庭環境、子供自身の好奇心、学習意欲があれば、もともと成績もいいに決まっています。

 以前には、日経が〈日経読者は内定率が高い〉という一面広告を掲載したことがありました。これも単に相関関係があるだけで、「読んでいたから内定が取れた」わけではない。広告とはいえ、もはやミスリードに近い。

 あるデータから因果関係を証明するには、さらに突っ込んだ調査が必要です。そういう努力を新聞社は一度でもしたことがあるのか、と言いたいのですが、当然、新聞社はそんな手間のかかることはしない。「こういうデータが出ました」とお役所や企業が発表した数字をただ無批判に、しかも自分たちに都合のいい情報のみ報じているだけなのではないでしょうか。

読者にも努力が必要


 一方で、このような観点は読者、つまり私たちにも必要です。リサーチ・リテラシーの観点は多少は広がってきてはいるとはいえ、まだまだ足りない。長年、このことを訴えている私などは、偏向的、恣意的なデータの使い方をしている報道に接するたびに強い徒労感を覚えることもしばしばですが、報道機関の偏向を是正するためには、まず読者が考え続けることが必要です。

 見出しや数字を鵜呑みにせず、「どうしてこういう数字になったのか」「この数字は正しいのか」「相関関係なのか、因果関係なのか」、あるいは「まともな調査なのか」を常に考えながら記事を読む必要があります。

 それは大変手間のかかることですが、せめて世論調査などの末尾に書かれている「調査方法」の欄くらいは見る習慣をつけてもらいたい。もしそこに回答率や調査方法が書かれていなければ、新聞社に聞くのがいいでしょう。それをオープンにできないようであれば、数字そのものが信用できないと判断していい。

 手間だからと読者が疑問を指摘せず、新聞社同士も互いに痛い腹を探られたくないからか調査の「追試」をしないので、いまの野放しの状況が続いているのです。

 本来なら、新聞社同士で調査結果をつき合わせれば深い調査ができるし、実態に近づいていくでしょう。お互いに嘘のつけない環境にもなる。新聞社がここまで悪質なことを素知らぬ顔でやるようなら、そういう環境に追い込むより是正のしようがありません。

 ですから、ある報道機関の調査結果に疑問を持ったら、読者はもちろん、他の報道機関も公開質問状を出すべきでしょう。イエス・ノーだけでもいいから、しっかりと回答を求めていく。結果は他紙や雑誌、ネットに掲載して公表する。さらに疑問があれば重ねて回答を求める。論点ずらしをさせないために、公開討論を行うのも有効でしょう。

 当然、最初は相手も応じないでしょうが、それでも根気強く、何度でも回答を求めることがバーゲニングパワー(交渉力)になる。「どうせ答えないからやめておこう」「言うだけ無駄だ」という態度は良くない。相手が無視したら、「どうしてメディアに出した公的な質問状に対して答えないのか」とたたみかけるべきです。

「客観」を装った偏向


 これは何も世論調査だけでなく、いま問題になっている慰安婦問題や領土問題などでも使える手法です。たとえば、朝日新聞に対して「産経新聞は河野談話に不備があったと報じている。これに対してどう思うか」と質問し続けるのです。

 相手も何度も断っているうちに、「そろそろ応じたほうがいいのではないか」という声が社内からも上がってくるに違いない。購読者数に影響が出れば応じざるを得ないでしょうし、血気に逸って「俺が答える」と言い出す人も出てくるでしょう。そこで出て来た論点を一つずつ潰していく。こうやって環境を作っていくより方法はありません。

 私のような専門家がいくつも本を出したり、記事を書いて「おかしいぞ」と言い続けることももちろん必要でしょう。幸い、多くの大学で私の著書をテキストに授業を行っているようですが、それでもなかなか国民の間に浸透していかない。

 新聞社は意図的にやっているわけですから、読者のみなさんも客観のふりをして全く客観的でないという報道に騙されない力をつけなければなりません。そして、「偏向的な調査をするな」と指摘し続けていくことが重要です。

たにおか いちろう 1956年、大阪生まれ。80年に慶應義塾大学法学部を卒業後、83年、南カリフォルニア大学行政管理学修士課程を修了、89年、社会学部博士課程を修了(Ph.D.)。大阪商業大学教授を経て、97年、大阪商業大学学長、05年、学校法人谷岡学園理事長。著書に『「社会調査」のウソ』(文春新書)、『データはウソをつく』(ちくまプリマー新書)など多数。