鈴木大介(ルポライター)
 1973年、千葉県生まれ。「犯罪現場の貧困問題」をテーマに裏社会・触法少年少女らの生きる現場を中心に取材活動を続ける。著書に『家のない少女たち』(宝島社)、『出会い系のシングルマザーたち』(朝日新聞出版)、昨年『最貧困女子』(幻冬舎新書)を発刊。

聞き手:オバタカズユキ(フリーライター)

 2008年の大晦日に、大量の派遣切りなどで仕事と住まいを失った失業者に寝場所と食事の提供、弁護士等による各種相談サービスを提供する目的で開設された「年越し派遣村」。東京の日比谷公園内で行なわれたこの支援活動を機に、貧困問題に関する報道が急増した。その後しばらくメディアでの扱いは減っていたが、昨年1月にNHK「クローズアップ現代『あしたが見えない~深刻化する“若年女性”の貧困~』」が放送されたころから、再び貧困問題が注目を集めている。

 裏社会や触法少年少女の取材を続ける鈴木大介氏が昨秋上梓した『最貧困女子』(幻冬舎新書)も話題の書だ。「取材相手の迷惑になるといけないから」とメディアでの顔出しをいっさい禁じている骨太のルポライターに、知られざる「貧困」の実態を聞いた。

マイルドヤンキーと貧困層は違う


 ――リーマン・ショック後のような不況期ではないのに、なにかと「貧困」が注目されています。どうしてなのでしょうか。

 鈴木 長く貧困層を取材してきた立場からいえば「何をいまさら」感が強いのですが、端的にいうと、国内で低所得者の割合が増え、貧困層も確実に拡大しているからだと思います。厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、最低限の生活の維持に必要な収入を表す貧困線は2012年の段階で122万円、相対的貧困率(貧困線に満たない世帯員の割合)は16.1%。前回調査の09年から0.1ポイントですが上昇しています。

 ただ、この調査の数字はあくまで納税者のデータから割り出したもので非常に曖昧です。実際には、納税対象にもならないわずかな稼ぎで生きている人びとが存在します。そしてそのうちの少なからずが、女性の場合はセックスワーク(売春や性風俗産業)、男性はさまざまな「裏稼業」の世界に埋没しています。

 そうした統計にもカウントされない層の実態はどうなっているのか。ないことにされている人びとの姿を可視化したいと思い、私は裏社会に生きる彼ら彼女らを取材してきました。昔からその存在を否定され、社会が当人たちの辛さや苦しみに目を向けようとしない貧困層の問題を、皆さんに知ってもらいたいのです。

「女性の貧困」に注目が集まり、鈴木氏の『最貧困女子』をはじめ、多くの書籍が刊行されている
 ――『最貧困女子』はそうした鈴木さんの仕事をコンパクトな新書にまとめた一冊ですが、昨年は、博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平さんの『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)もヒットし、「マイルドヤンキー」という若者たちの存在が知られました。その層と鈴木さんが追ってきた層とは重なる部分もありますか。

 鈴木 いや、まったく別です。マイルドヤンキーは、強い地縁や血縁をベースとした生活で満足している低所得の若者層のこと。「お金がなくても、地元の仲間とつるんで楽しくやっていりゃいいじゃん」と語る郊外や地方の若者たちですね。僕も取材したことがありますが、彼ら彼女らは「地元を捨てて上京したら負け」といった意識をもっています。ミニバンに乗り合わせて国道沿いのショッピングセンターやリサイクルショップに行けば、お金をかけず何でも手に入れることができる。「なのに、この経済的に逆風のなか、なんで家賃の高い東京に行かなきゃならないんだよ」となる。

 興味深いのは、たとえタトゥーが入っていたりして派手な外見をしていたとしても、彼らは前の世代の不良と違って、親元から早く独立することをプライドにしていません。20代後半、30代になっても、国民健康保険が親の扶養のままだったりして、実家に頼れる部分はずっと頼っている。その代わり、相応の収入が得られるようになったら、親にお金を返していく。「借りた金を親に返すためにも地元にいなきゃダメじゃん」と話すのです。

日本は格差社会ではなく階層社会


 ――格差社会という言葉だけでは捉えられない新しい価値観が生まれているようですね。

 鈴木 知られざる若者の実態は次々と表出しています。でも、日本が格差社会だと私は思いません。新書を出していろいろな読者の方からリアクションをいただきながら、この国は格差社会ではなく、階層社会だったのかと実感します。

 私の印象をざっくり言葉にすれば、まず上から、高所得層、プチセレブ層、中流層がいて、下に低所得層と貧困層、そのまた下にもっとも見えにくい最貧困層がいる(図)。

 各階層のあいだには厚い壁が存在し、それが互いの世界を知ることを困難にしている。私は最貧困層の実態を著しましたが、高所得層やプチセレブ層の方から「先進国の日本でそんな酷い生活をする人がいるはずがない」といわれてしまうことがあります。セックスワークの世界でしか生きていけない女性のリアリティーが、どうしても伝わらない。「国民皆保険で、生活保護制度もあって、中学までは義務教育が保障されているこの国にいて、やむなく最貧困層に追いやられるなどありえない」と思うようですが、現実には「ありえる」のです。

 ――中流層以下の反応はどうですか。

 鈴木 中流層と思われる読者からは、「すごい。こういう人たちがいたとは驚いた」といった感想をよくいただきます。それまで不可視だった存在を初めて知ってショックを受けるわけですが、その衝撃は原田さんの本でマイルドヤンキーを知った驚きと、もしかしたらそんなに変わらないのかもしれない。あまりにも自分の生活空間と違うところで生きている他者という意味で、とくに大都市部に住む中流層にとっては、最貧困層もマイルドヤンキーも「想像を超えた存在」に思えるのです。

 低所得層の人たちも最下層のことは見えていません。『最貧困女子』を刊行していい反応をもらえたなと思ったのが、風俗の世界でセックスワークの女の子たちを雇う側にいた男性の感想です。「俺が現役だったころも鈴木さんの本に書いてあるような子たちはいたけど、そんなに苦しんでいるとは認識してなかった。『こいつ、ブスだし、だめでしょ』など酷い言葉を使ったりしたことを、すごく後悔してる」と。

 ――同じ風俗の世界で働いていても、最貧困層は理解されていないのですか。

 鈴木 理解されていません。階層が違うとわかり合うことはきわめて難しいのです。

 たとえ低所得でも、地縁や血縁、地域の支援があれば、貧困までの状態にはなりません。年越し派遣村を率いるなど反貧困活動をなさっている湯浅誠さんたちが言い続けてきたことですが、貧乏と貧困は別物なのです。貧乏はたんに低所得であること。低所得でも家族や地域との関係性がよくて、助け合って生きていけるのならけっして不幸ではありません。

 対して貧困は、家族、友人、地域などあらゆる人間関係を失い、もう立ち上がれないほど精神的に弱っている状態です。その辛さは満たされている者にはわからない。たとえば、地縁や血縁を守ることに力を注いでいるマイルドヤンキーからすれば、「その子(貧困層)の努力が足りないからだ」と見えるでしょう。ありがちで、まったく現実とそぐわない自己責任論です。

 それでも貧困層は、制度による支援の可能性が残されているだけマシともいえます。その人の貧困状態がホームレスという形で見えたなら、行政や反貧困系NPOなどの支援対象になります。あるいは伝統的に、貧困は創価学会と共産党といった一部の組織が支えようとしてきました。誰が見ても明らかな貧困に対しては、何らかの支援の手が伸びるのです。

 一方、そうした支援者の視野からも外れてしまうのが最貧困層です。セックスワークや裏稼業でギリギリ生活できていて、身も心もボロボロの人たち。この層は差別の対象にされても、支援の対象にはなりにくい。理解者も現れません。

悲惨なセックスワーカーの最下層


 ――セックスワークをしているから、差別され、支援の外側に追いやられてしまうのですか。

 鈴木 一概にそうともいえません。なぜならセックスワークのなかにも階層があるからです。

 これはマイルドヤンキー的な低所得層に属すると思うのですが、最近は「地方週一デリヘル嬢」が増えています。地方都市に住んでいて、昼は一般的な仕事をしていて週に1~3回だけ性風俗業でバイトをする女性たちのことです。彼女たちは昼の正職の給料が安すぎて「やむをえず」風俗に副収入を求めているのではありません。むしろ、そうしたバイトで副収入を得ている自分を誇りに思っている節さえあります。

 彼女たちはまず、雑誌の読者モデルでも通用しそうな雰囲気と容姿に恵まれています。そのなかでも店でトップを競う女の子は、ファッション誌でメイクの勉強をし、エステやジムで身体をシェイプアップし、「女を磨く」ことに励んでいる。彼女たちが本番行為なしでも実入りのいいセックスワークをどんどん取っていきます。

 そうした子たちが一番上の階層にいるセックスワークの世界で、容姿がダメ、メンタルが不安定、いわゆる愛されない不細工たちは、信じられないくらい安い値段の売春ワークを繰り返しています。これがセックスワークのなかでもっとも可視化されていない最貧困層女子の実態です。階層社会が進行していくなかで、この問題はより拡大していくでしょう。

 ――愛されない不細工、とはどういうことでしょう。

 鈴木 同じ不細工でも性格が良かったり、「地方週一デリヘル嬢」とも地元の仲間同士で楽しく遊んでいる子は、店のトップにはなれなくても、それなりに働けるナイトワークがあります。でも、不細工でかつ他人から愛されにくい性格の持ち主、メンタルが不安定で、いわゆる面倒くさいタイプの子たちは、ますます自分のメンタルを壊してしまう非常に過酷な売春ワークにしかありつけません。

 最下層のセックスワーカーたちは、そのほとんどが虐待などの悲惨な生い立ちを抱えています。親の暴力や育児放棄が酷く、少女時代に家出をした子もたくさんいます。そして、援デリ(援助交際デリバリー)組織などに捕捉され、毎日のように売春を続け、少しお金ができたころに身体やメンタルを壊して失踪する。食えなくなるとまた同じ売春の場に戻ってくる。そうした悪循環に組み込まれ、身も心もボロボロになってしまうわけです。

 ――そのなかにはシングルマザーもいると著書では紹介されています。

 鈴木 出会い系サイトで売春をするシングルマザーたちは、私が最貧困女子を取材してきたなかでも、圧倒的に不自由で、救いの光がどこにあるのかわからない「どん底の貧困」にあった人びとです。

 10代で家出をしてセックスワークの世界に取り込まれてしまった少女たちのなかにも、滅茶苦茶な状況で働いている子がたくさんいます。けれども、どんなにひどい環境に置かれていても、目はキラキラ輝いているんです。彼女たちは、自分を傷つけてきた家から飛び出し、売春ワークでまた新たな性被害を受けながらも、自力で自由を手にしているからだと思います。だから、苦難も笑って撥ね返す力強さがある。

 それと比べて、出会い系シングルマザーたちは、自分を傷つけるものを撥ね返す余力がない。ただただ子供を手放したくない、子供と一緒に暮らせていることだけを支えに、月に数万~十数万円の昼の仕事をこなし、残ったわずかな体力でどんな目に遭うかもわからない売春の現場へ赴いているのです。

活用すべき最貧困層の「手」


 ――生活保護がなぜ受けられないのか、福祉行政は何をしているのか、と憤りを覚えます。

 鈴木 出会い系シングルマザーの場合、当人が行政の支援を拒否する側面もあります。彼女らにとっての最大の恐怖は、自分の子供を児童養護施設などに「奪われ」てしまうことだからです。「私自身が施設で育ったから、どれだけ寂しいかよくわかってる」と話すシングルマザーもいました。

 とても難しい問題だと思うのは、彼女たちの共通点にきわめて強い恋愛依存体質があることです。売春相手の男は「客」であるよりも、その場しのぎでも生活を支えてくれる「サポーター」に近い感覚をもっていたりする。そのなかから本当の恋愛に発展できる相手が見つかることを期待し、一縷の希望を抱いていたりもする。それほどまで孤独で辛い思いをしているのです。

 ――そうだとしても、そのまま社会が知らぬ存ぜぬで放置していい問題とは思えません。

 鈴木 もちろんです。行政や国の視点からこの問題を考えるなら、これからの日本の生産人口はどんどん減っていきます。遠からず、外国人労働者を受け入れなければやっていけない時代になるでしょう。そんな国にあって、最貧困層の「手」を使わないのは大きな社会的損失です。働き手、成り手の「手」ですね。前に「産む機械」と最低の表現をした政治家がいましたが、最貧困女子は生産人口を増やす「産み手」になるかもしれない。彼女たちは国にとって重要な資源です。自国にある資源は最大限に有効活用すべきじゃないですか。

 ――彼女たちにはどんな仕事が向いているのでしょう。

 鈴木 まず、女性がはるかに男性よりも優れているといえる職業領域に、対人支援職がありますよね。セックスワークは酷い環境かもしれませんが、彼女たちに多くの考える機会を与えます。人の気持ちが人一倍理解できる人間を育てるのです。他者に対する身体的距離感の許容力も非常に高いので、たとえば介護や看護、それこそ成り手がなくて困っている高齢者支援職などに就けば、驚くほど適性を発揮する可能性がある。介護職員の能力の低下が指摘されてもいますが、それは職業教育が足りないからです。労働時間に対する賃金が安すぎる問題もあります。

 きちんとした教育を受ける機会と、まっとうな労働対価を得られるガイドラインがあれば、最貧困女子も高齢者支援職で十分に働けるはずです。

 ――家庭環境に恵まれていない子供がセックスワークの世界に取り込まれることの回避策として、鈴木さんは学童保育の改革を提起しています。

 鈴木 放課後居場所ケアの視点で学童保育をめぐる議論は活発にされていますが、私にはまったくズレた話に思えます。7時間目、8時間目の発想で授業時間の延長線上に学童保育が位置付けられており、学校のように子供を管理しようとする。それでは本当に居場所が必要な子供たちのニーズと合いません。学校が終わって子供たちが行きたい場所がゲームセンターやネットカフェであるなら、そこに学童保育機能をもたせるような方向性こそが、当事者の児童が求めるものではないですか。

 それと親がご飯をつくってくれなくても温かい食事がとれる。親の暴力が激しいときは夜中でも身を寄せることができる。求められているのは、そんな学童保育です。心身を休ませてくれる空間です。

 ――ほかに、最貧困層の再生産を食い止めるには?

 鈴木 進めてほしいと思うのは、小学校の先生やスクールカウンセラーと児相(児童相談所)の職員との連携です。なんだかんだいって子供の様子をよく見ている地域の大人は学校の先生ですから、「この子の様子がおかしい」と気付いたら、すぐに連絡ができる関係にあってほしい。

 また、生保(生活保護)のケースワーカーも在宅訪問をするので、問題を抱える児童の早期発見者となりえます。生保と児相のパイプづくりも重要です。

 なにより、たとえ少女やその母親がセックスワークに関わっているとしても、社会が彼女らを否定せず、その存在を認めることが肝心です。自己責任論では解決できない当事者たちの実態を知る人が、少しでも増えていくことを願います。

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