潮匡人(評論家)









「北三陸市」は日本国なのか


 平成25年を代表するTVドラマと言えば、TBSの「半沢直樹」と、NHKの朝の連続ドラマ「あまちゃん」が双璧をなす。前者・最終回の平均視聴率は関東地区で42・2%(ビデオリサーチ)、平成のドラマとして最高記録を樹立した。後者も午前八時スタートとなって以来の最高視聴率となった(8月24日の視聴率23・9%)。

 前者の主人公の決め台詞「やられたら、やり返す。倍返しだ」と、後者の「じぇじぇじぇ」は全国的な流行語になった。ここでは後者に絞ろう。物語の舞台は「北三陸市」、始まりはこうだ。

 《母に連れられ、初めて北三陸にやってきたヒロイン・アキは、祖母と出会う。(中略)アキには、田舎町の暮らしの何もかもが新鮮に映る。何より本気で漁をする女たちの表情、厳しく切り立ったリアス式海岸の海に、恐れもせず潜っていく祖母の姿に衝撃を受けた》(NHK公式サイト)

 作者の宮藤官九郎氏も同サイトで「岩手県北東部、北三陸に位置する久慈市小袖海岸で、今なお受け継がれている素潜り漁」云々と語る。以下のQ&Aも掲載されている。


 《質問・「じぇじぇじぇ」という方言は、実際に使われているのでしょうか?

 回答・岩手県久慈市小袖地区で実際に、驚いた時に使われている言葉です》

 そう、「あまちゃん」の舞台とされた「北三陸市」のモデルは岩手県久慈市。同様に「北三陸鉄道リアス線」のモデルは三陸鉄道北リアス線。「北三陸駅」のモデルは、その久慈駅である。実際に久慈市でロケが行われ、久慈駅や三陸鉄道など実在する施設や光景が繰り返し画面に登場した。

 なぜ東北岩手がモデルとされたのか。その答えが、平成23年3月11日に発生した東日本大震災であることは疑う余地がない。実際、ドラマの作中で地震発生や復興の動きが描かれた。震災と復興がテーマと評してよかろう。報道によると、NHKサイドから「東北を舞台としたい」との意向が作者に示されたらしい。

 私事ながら、今年の夏も家族そろって東北を訪れた。当初は久慈に向かう予定だったが、あまりの混雑で、行き先を宮古市(岩手県)に変えた。地元局は「今日も久慈市には大勢の観光客が訪れています」と報じていた。岩手県内の土産物店はもちろん、東北新幹線の駅や東北自動車道のサービスエリアも「あまちゃん」のポスターや関連グッズで溢れていた。久慈市ないし岩手県の復興に「あまちゃん」が一役買ったことは間違いない。

 再び私事ながら今秋、渡部昇一氏、八木秀次氏との鼎談『日本を嵌める人々』(PHP研究所)が出版された。なかで、NHKのドラマを批判した私の発言を受け、八木氏がこう指摘している。

 《いま放送中の「あまちゃん」も例外ではありません、東日本大震災の関連で、被災地を舞台に選んだのでしょうが、なぜか自衛隊が出てこない。陛下のお言葉にあったように、震災と自衛隊は切っても切れない関係でしょう。自衛隊が出てこないのは不自然です》

 その通りであろう。結局、鼎談後の放送回を含め、自衛隊は登場しなかった。右で八木教授が敷衍した「陛下のお言葉」とは、以下を差す。平成23年3月16日、天皇陛下が被災者や国民に向けたビデオメッセージが発表され、なかで、こう明言された。

 「自衛隊、警察、消防、海上保安庁を始めとする国や地方自治体の人々、諸外国から救援のために来日した人々、国内のさまざまな救援組織に属する人々が、余震の続く危険な状況の中で、日夜救援活動を進めている努力に感謝し、その労を深くねぎらいたく思います」

 はっきりこの順番で「自衛隊」から始め、「その労を深くねぎらいたく」とおっしゃった。陛下がビデオでお気持ちを述べられたのは、これが初めてらしい。現場の隊員はもとより、われわれOB含め、みな感激したことは言うまでもない。