「見通しが甘かったといわれれば、そうだったかもしれません。ただ、(投資決定は)プロセスを含め慎重に進めたと考えております」

巨額損失について説明する住友商事の中村邦晴社長=2014年9月29日
 9月29日。住友商事社長の中村邦晴は、集まった報道陣を前に、深々と頭を下げた。

 住友商事は今年度決算で、約2400億円の減損処理をすることになったからだ。これにより、最終利益は従来予想の2500億円から100億円へと、大幅に下方修正することになった。翌日の株価は急落した。

 減損処理とは、所有資産の収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合、価値下落を反映させる手続きをいう。2400億円の大半を占めたのが、米テキサス州でのシェールオイル開発の失敗による1700億円の減損だった。

 シェールオイルとは、地下深く、頁岩(けつがん)(シェール)と呼ばれる固い岩盤に閉じ込められた石油を指す。同じ層から取り出した天然ガスが、シェールガスだ。

 住友商事は資源ビジネスの牽引(けんいん)役としてシェールオイル・ガスの資源開発に参画しており、テキサス州の事業では、2012年8月から採掘を試みていた。

 今回の失敗について、中村はこう語った。

 「調査段階では収益化の確度は高いと思っていたが、掘ってみると地下の形状が予想以上に複雑でした。このため採掘コストがかかることになり、可採埋蔵量の下振れも余儀なくされました」

 要するに、採掘コストが予想以上にかかり、この油田から生産できるシェールオイルやガスの量では、資金回収が見込めないと判断した。

 住友商事だけではない。同様の理由で伊藤忠は2014年3月期に290億円の損失を、大阪ガスもシェールガス開発に失敗したとして、同期に290億円の特別損失を計上した。

革命の行方


 2007年ごろ、米国で「シェール革命」という言葉が盛んに使われ始めた。

 固い岩盤層にあるシェールガス・オイルは存在は確認されていたが、商業生産は不可能だった。この岩盤層に流体を満たし、圧力をかけて亀裂を作り、ガス・オイルを採掘する技術が確立し、北米を中心に急ピッチで開発が進んだ。

 米大統領のオバマは2012年の年頭教書演説で、シェールガスと既存のガス田の合計で、米国には消費量の100年分の天然ガスの埋蔵量があると述べた。

 シェールガス・オイル発掘に、投資ファンドなどから多額の資金が流入し、特にガスの生産量は激増した。米国内の天然ガス生産量は1991年の5千億立方メートルから、2011年は6500億立方メートルに増加した。

 米エネルギー情報局の推計によると、2022年ごろに、米国は天然ガスの輸入国から輸出国へ転換するという。

 日本企業も手をこまねいてはいなかった。

 2009年~2010年にかけ、住友商事や三井物産が米国内のシェールガス鉱区の権益を相次いで取得した。2010年8月には、三菱商事がカナダ・ブリティッシュコロンビア州の鉱区の権益を取得し、この開発に東京ガスや大阪ガス、中部電力などが出資したことから話題になった。

 そして日本を東日本大震災が襲う。東京電力・福島第1原発事故の影響で、国内の全原発が停止する中、シェールガスへの注目はますます高まった。

 反原発団体などは、シェールガスを、全ての原発を代替できる“切り札”のようにもてはやした。

 シェールガス普及に伴い、ガス調達価格は下落する。従って、天然ガス発電によって全ての原発を代替できるはずだ-。

 シェールガスは「脱原発」を成し遂げる救世主に浮上した。

先行きに暗雲


 だが、2013年2月、科学雑誌ネイチャーにシェールガス・オイルの先行きに疑問を投げかける「シェールガス革命の真偽」と題する論文が載った。

 「1つのガス井に注目すると、生産開始からガス産出量は短期間で減少している。減少率は1年でおよそ半分、3年後には掘削開始時のわずか5~20%しか産出できない」「シェールガスは需要の100年分以上有るという推計は、このような急激な生産量の減少を考慮していない」「シェールガス生産量を維持しようと思ったら、次々に新しいガス井を掘り続けていくしかない」

 岩盤層に染みこむように存在するガスやオイルを、水圧をかけて取り出す手法だ。大量のガス溜まりに井戸を掘る従来の採取法に比べれば、井戸1本あたりの効率は低く、多くの井戸が必要となる。

 この効率が想定よりさらに低ければ、井戸を掘るだけ赤字という事態にも成りかねない。シェール革命でガス生産量が増加しているのは確かだか、ネイチャーの論文が懸念するように、採掘に失敗した企業も出ている。住商もその一つだ。

 さらに、日本にとっては、米国で予定通りに掘削できたとしても、シェールガスを、直ちに輸入することはできない。

 日本は海外とつながるパイプラインを持たないため、天然ガスは全て液化天然ガス(LNG)にして輸入している。ところがガス輸入国だった米国には、天然ガスを液化する設備がないのだ。

 現在、急ピッチで輸出設備の建設が進められているが、日本向けに輸出許可が下りている施設の稼働は2017年ごろまで待たなければならない。

 全ての事業が順調に進んだ場合、日本向けLNG輸出は2019年に1690万トンと推測される。これは2013年の日本の年間輸入量の2割近くに相当するが、先の理由によって、この数値を下回る恐れは十分にある。

 シェールガスに、脱原発の旗手となるような過度な期待はできない。やはり、資源小国・日本にとって原発は欠かせないのだ。

多様性の一手段


 ただ、シェールガスは、日本のエネルギー安全保障にとって、役に立たないわけではない。米国からのシェールガス輸入は、他のガス産出国との駆け引きの材料に使える。

 11月6日、LNGの生産・消費国の政府関係者や企業の関係者が東京に集い、「LNG産消会議」が開かれた。日本政府主催の会議には、50以上の国や企業から1千人が集まり、経産相の宮沢洋一はじめ、カタールやオーストラリアなどの閣僚5人も顔をそろえた。

 日本の目的は価格交渉力の強化だ。

 日本は天然ガスの輸入大国だ。世界全体のLNG貿易量の4割近くを輸入している。しかも、世界一高い価格で。BP社によると、100万Btu(英国熱量単位)当たりの天然ガス価格(2012年)は、米国の2・7ドル、ドイツの11ドルに比べ、日本は16・7ドルに上る。

 米国はシェールバブルに沸いている。ドイツをはじめ欧州はパイプラインでロシアから輸入している。

 これに対し、日本が輸入するLNGは、パイプラインよりコストがかかる。原油の代替燃料だった歴史的背景から、価格が原油価格に連動していることも価格を押し上げている。

 さらに、原発が停止する中で、電力会社が「価格はいくらでもいいから急いで買う」という姿勢を取らざるを得ず、価格はつり上がった。

 安価で安定したLNG輸入は不可欠だ。経産省の担当者は「受け入れ先を多様化できる意味で、米国産シェールガスに期待している」と語る。

 ただ、こうした資源外交の前提には、原発の再稼働が欠かせない。原発が停止したままで、火力発電に頼ってばかりの現状では、資源外交を展開しようにも、足元を見られ続けてしまう。

 シンクタンク「日本エネルギー経済研究所」ガスグループ研究主幹の橋本裕は「原発が長期停止していることも、日本向けLNG価格が高止まりしている要因であり、ガス以外の選択肢を持つ事が重要だ。九州電力の川内原発だけでなく、国内各地で原発が動くことが、長期的な天然ガス購入価格の安定につながる」と指摘した。(敬称略)