笹川陽平(日本財団会長)

「朝日新聞 第四者委員会設立か?」―第三者委員会ではありません―


 「今年秀逸の賀状」として「感染症の世界史」の著者であられる石 弘之先生の賀状を1月16日付の本ブログで紹介させていただいた。

 先生はこの中で「昨年も世界ではさまざまな問題がありました。問題が発生したら各国はどんな対処をしたでしょうか?」とした上で、日本については「第三者委員会を組織する」とし、「さて、ことしはどんな『第三者委員会』ができるのでしょうか」と書かれていた。

記者会見する朝日新聞社の慰安婦報道に関する第三者委員会の中込秀樹委員長(中央)ら=2014年12月22日
 一連の朝日新聞問題で、同社が設けた第三者委員会を念頭に置いた賀状で、これに対し私はブログの末尾に「第三者委員会が設置されると公平・公正な議論が行われ、まるで問題が解決したような錯覚に落ち入るのも日本人の特性でしょうか」とのコメントを付けた。

 当事者が第三者委員会の結論を真摯に受け止め、改善に努めるのは当然です。現に朝日新聞も「信頼回復と再生のための行動計画」をまとめ、懸命に努力されているようです。私にも一連の問題に関し、朝日新聞関連の雑誌に寄稿するよう依頼がありました。

 しかし、親の気持ち子知らずとでも言うのでしょうか。朝日新聞や新聞界には、第三者委員会の結論や朝日の対応を潔(いさぎよ)しとしない人たちもいるようです。

 元韓国人慰安婦の証言を初めて記事にし、その内容が問題となった植村 隆・朝日新聞元記者は、1月10日、記事を捏造したと報じられ名誉を毀損されたとして、文芸春秋社と東京基督教大学の西岡力教授を相手取り損害賠償を求める訴訟を起こしました。

 これに対し西岡教授は「言論人が言論で批判されたのであれば、言論で返すべきではないか」とコメントされています。言論人は言論で闘うのが当然であり、訴訟を起こすという行動には驚きを禁じえません。既に退職されており、朝日新聞としてどうこうできる問題ではないでしょうが、なんとも理解に苦しむ話です。

 1月28日には日本新聞労働組合連合(新聞労連)が主催するジャーナリズム大賞授賞式が行われ、その特別賞を、何と! 昨年5月20日付で朝日新聞が「所長命令に違反、原発撤退」と報じた「吉田調書」記事が受賞しています。

 朝日新聞は、この記述と見出しに重大な誤りがあるとして記事を取り消し、同社の第三者機関である「報道と人権委員会」(PRC)も朝日新聞社の記事取り消しを妥当と結論付けています。

 「吉田調書」報道は、慰安婦問題に関する吉田清治氏(故人)の証言(吉田証言)とともに“2大誤報”として朝日新聞を揺るがし、朝日新聞は「第三者委員会」など3つの委員会に原因究明や今後の再建策を委託し、年明けには今後の行動計画を打ち出しています。

 現在は全社を挙げて名誉回復に向け邁進されているところでしょう。ところが週刊文春によると、この記事を書いた木村英昭、宮崎知己の両記者は授賞式に出席、記念撮影にも応じ、「大変励みになる賞をいただいた」とコメントしたというのです。

 「百の説法屁一つ」でしょうか。受賞を遠慮するのが常人のありようだとも思うのですが…。新聞労連の判断とは言え、世上の人々とは大いに異なり、朝日の新経営陣も戸惑っているのではないでしょうか。懸命の努力も「日暮れて道遠し」のような気さえします。

 ジャーナリズムには、言論の自由と共に高い倫理感が求められます。朝日新聞におかれましては、これを機に、社員の倫理向上のための「第四者委員会」を設立されたら如何か。そんな気がするほど、私にとっては理解し難い話です。

ささかわ・ようへい 日本財団会長。昭和14年、東京都生まれ。明治大卒。平成13年、世界保健機関(WHO)ハンセン病制圧特別大使。17年から現職。25年からミャンマー国民和解担当日本政府代表。「民」の立場から「公」への貢献をモットーに内外の現場で公益活動を実践している。著書に「紳士の『品格』わが懺悔(ざんげ)録」など。