ジェンダー論の話をしていると男性から必ずと言っていいくらい、「女性専用車両とレディースデーは男性差別ではないのですか?」という質問が来ます。世の中に女性差別など残っていないと勘違いしている人ほど、こういう質問をしてくる傾向が強いように思われ、いつもため息が出ます。「逆差別」か否かが問題となるのですが、これは痴漢が歴史的には比較的新しい存在で、まだ「犯罪」としての理解が進んでいないから起きるのかもしれません。

 「痴漢は犯罪です」という駅のポスター、私は最初に見たとき、「はぁ?」と思ってしまいました。「強盗は犯罪です」というポスターはないでしょう。なぜそれと同じような犯罪を「犯罪だ」とわざわざ強調し、啓発しなければならないのでしょうか?

 女性専用車両の歴史は古く、1912年の中央線にさかのぼります(その後廃止されたわけですが)。当時は女子学生が増え、また「婦人」が男性と近接する状況自体を避けるべきと考えたからで、かなり古典的な空間感覚です。現代はもっと男性と女性の体が密着しています。

 電車の優先席は「健常者差別」だと思いますか?もしそうでないとすれば、犯罪に特に遭遇しやすい人たちのために、空間を確保するというのは、優先席と同様に社会が認めるべきことではないでしょうか。

日本の性犯罪の現況と痴漢


 女性専用車両が問題でした。話をそこに戻す前に、日本の性犯罪の現況について少し確認しておきましょう。日本の強姦の認知件数は2012年に1240件。もちろんこれは、あくまで警察が把握した件数です。

 強姦は親告罪といって、被害者が立件を要求しない場合、件数にはカウントされません。したがって、認知件数と実際の発生件数との乖離が常に指摘されています。

 ただそれでも、1964年に戦後最高の6854件を記録し、最近のピークでは2003年に2472件だったものが、10年ほどで半分に減ったとすれば、実際の発生件数も減ったと考えるのが妥当ではないでしょうか。2003年と比べて、泣き寝入りをする人が2倍以上になったと考えるのは、どう考えても無理があるはずです。

 日本は世界的に見ても、殺人や強姦の極めて少ない社会で、その点に関しては統計的にも、世界一安全な社会と言ってよいでしょう。もちろん女性が夜道を、男性とは少し異なる緊張感を持って歩いていることは、忘れてはならないことですが。

 本題に戻りましょう。つまり日本の性犯罪の最大の問題点は、毎日、数限りなく起きているであろう痴漢なのです。これはたとえばアメリカのように、地下鉄はあっても満員電車のない社会では起きません。そもそもアメリカの地下鉄で、あんなぎゅうぎゅうづめが起きれば、懸念されるのは痴漢よりも、スリでしょう。たとえばナイフで肩ひもを切って、カバンごと取られるといったことがあっても不思議ではありません。

 そういう意味では、痴漢は人口密度の高い地域固有の犯罪ということもできます。でもゼミの複数の留学生曰く、中国人なら(日本でも)その瞬間に女性がぐっと手をにぎって上に上げたり、ガンと足で踏んだりするそうです。