検索ワード:アベノミクス/47件ヒットしました

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    「副業解禁」で成功する人、失敗する人

    いま大手企業を中心に社員の「副業」を認めるケースが増えている。経産省の調査によれば、副業を容認している企業はわずか3・8%。労働人口の減少が続く日本の働き方改革の切り札としても注目を集めるが、本当にそうなのか。「副業解禁」によるメリット、デメリットを考えてみたい。

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    本業に生かす経験と年収補完 副業はメリットも普及にはなお時間

                                                                                       (THE PAGEより転載) 社員の副業を積極的に認める会社が徐々に増えつつある。年収の減少や倒産リスクといった切実な事情を背景に、副業解禁を求める声も高まっている。企業側は、社員が副業での経験を本業に生かすといった好循環を当て込む。ただ、依然として大多数の企業で禁止されており、一般的に広まるにはなお時間がかかりそうだ。ロートが副業を認めた理由とは 製薬大手のロート製薬は2016年2月、多様な働き方を推進する取り組みの一環として「社外チャレンジワーク」制度を立ち上げた。休日などの就業時間外で本業に差し障らないという条件付きで、社会貢献をする趣旨に合えば、社員の副業を容認する。既に60人超から応募があり、薬剤師の資格者がドラッグストアの店頭に立つといった形で既に働き始めているという。 ロート製薬は、お金に換算できない「プライスレス」な経験を社員に積んでもらうため、「社外の人と共に働くことで、社内では得られない大きな経験ができ、自立・自走できる社員を育てられる」として副業制度を設けたと説明する。 一般的に、副業をしたい理由で最近人気を集めているのは、やりがいや経験といった金銭面以外のメリットだ。一般に、会社員は会社の看板を背負って取引先やお客さんと接する。長く勤めていると、会社独自のルールが染みつき、それが常識と思い込んでしまう嫌いがある。 一転して副業で他社に身を置いてみると、社風や商品、戦略といったさまざまな違いに気付かされ、自社を客観視できるきっかけになる。また、自社で培ったノウハウが多かれ少なかれ副業先で歓迎され、本業で苦労したことが報われた気分にもなる。逆に、副業で増えた人脈や知識が本業で生かせることもあるだろう。 増収を続け、過去最高の連結純利益を上げている安定企業が、副業という新たな取り組みに挑むのは珍しい。副業を認めている企業は他に、日産や花王、ITのサイボウズなどが知られている。減り続ける会社員の平均年収会社員の平均年収の推移 会社員にとって副業のメリットは大きい。1つは収入源を増やせることだ。国税庁が毎年実施している民間給与実態統計調査によると、会社員の平均年収は1997年の467万円をピークに減り続け、世界的な金融危機、リーマン・ショックに見舞われた直後の2009年には405万円まで急減。近年も410万円前後で推移し、上昇の兆しは見えない。そうした中、補完的に収入を得たいという需要は拡大している。副業を認める企業は依然として少数派 また、非正規雇用の増加を背景に、企業が人員削減するリスクはつきまとい、雇われる側にとっては不安定な時代だ。しかし副業をしていれば、万一リストラで退職を余儀なくされても、すぐに食い扶持が無くなるわけではない安心感がある。退職と同時に無職となるのに比べ、精神衛生上の健全さを保てる。副業を認める企業は依然として少数派 副業への関心は、インターネットが普及して個人間で自作品や中古品を売買しやすい環境が整い始めた2000年前後から高まった。特にリーマン・ショック後、リストラや倒産のニュースが連日報じられていた頃、副業に関するセミナーや出版物も増えた。ロート製薬の山田邦雄会長兼CEO(大阪市北区) とは言え、副業を認める企業は少数派だ。人材採用のリクルートキャリア(東京)が2015年2月に公表した兼業・副業に関する実態調査によると、兼業・副業を「容認」としたのは全体(回答数4513社)の3.8%にとどまり、「不可」が96.2%と圧倒的多数を占めた。 容認する場合も、ロートのように「就業時間以外で本業に支障を来さない」といった条件を示すのが通例だ。副業をしようとするなら、勤め先の服務規定に従う必要がある。規定に違反すると懲戒処分を受けるケースもある。また公務員は公務員法によって副業が原則禁じられている。 望めば誰でも副業が可能という時代はまだ遠そうだ。しかし、ひとたびリーマン・ショックのような危機が起こり、雇用環境が悪化するような事態になれば、副業を含む多様な働き方の議論が急速に熱を帯びるかもしれない。それに向けた準備を今から始めても遅すぎることはないだろう。

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    なぜ大手企業は「副業」を解禁するのか?

     金子欽致(起業コンサルタント) 今年、大手企業はベアを実施し、所得も上向いていると言われます。しかし、景気回復を実際に肌で感じている人は、いったいどれくらいいるのでしょうか? 国税庁によれば2014年の平均年収は414万円。派遣社員、契約社員など非正規雇用となれば、これよりさらに少ない金額となります。一方で平均寿命は延び、男性も80歳まで生きる時代となりました。65歳で定年退職するとして、その後15年間生活するための老後の蓄えが必要となります。1カ月の生活費を20万円とすると1年で240万円、15年では3600万円にも上ります。写真はイメージ 昨年ベストセラーとなった『下流老人』の著者・藤田孝典氏は、「高齢者の9割は貧困化する」と、これからの老後不安に警鐘を鳴らし話題となりました。最近、副業を始める人が増えているのも、まさにこうした背景があってこそでしょう。シンクタンクのMDD研究所が2015年にビジネスパーソン7724人に調査をしたところ、「14%が副業をしている」という結果になったそうです。また『月刊SPA!』の調査によると、「副業はしたことはないが興味がある」と答えた人は43%に上るといいます。世の中が下流化するなかで、副業人口は今後ますます増えていくことが予想されます。 大手企業が副業を認める本当の理由とは? とはいえ現在のところ、副業を禁止している会社のほうが圧倒的に多いのが現実です。ただ、ここ数年で副業NGが当たり前の風潮に変化が起こり始めています。最近も、ロート製薬が4月から副業を容認すると公表し話題となりました。あまり知られていませんが、日産、富士通、花王など、大手企業にも以前から副業を認めている会社は少なくありません。 では、なぜこれらの大手企業は副業をOKとしているのか。その理由はシンプル。「優秀な人材を確保する」というのが最も大きいのです。優秀な人材であればあるほど、各種プロジェクトからの誘いや会社を通さない形で直接仕事を依頼されるケースもまた多くなりますが、副業規定の制限があると当然、彼らも動きにくくなります。その結果、「副業がNGなら会社を辞めようかな」と、より魅力的で自由度の高い会社に引き抜かれてしまうということが起こります。これは企業にとって大きな痛手であり、リスクです。ならば、「優秀な人材を組織に留めておくために、副業を容認しよう」ということになるのです。月30万を稼ぐ「パラレルワーカー」も 副業を奨励することで、優秀な人材を育成している会社の代表格がリクルートです。会社の仕事をしながら、自分で会社を興し、事業をこなしている社員も少なくありません。IT系の会社ではサイボウズも副業OKの会社として有名です。ベンチャー企業のなかには、逆に専業を禁止している会社まで存在しています。オンラインショピング事業を展開する株式会社エンファクトリーは「専業禁止」、つまり、「会社の仕事だけをしていてはいけない」というユニークな制度を導入し、ネット上で話題となりました。自身の事業を持つことで、起業家精神やスキルが身につくので、人材が早く育ち、本業のほうも加速しているといいます。 これらの事例はあまりに突飛で極端な印象を受けるかもしれませんが、将来的には複数の事業を持つ「複業」や「パラレルワーク」を奨励する会社に優秀な人材が集まる時代になっていくことは間違いないでしょう。 月30万を稼ぐ「パラレルワーカー」も また、経済の先行きが見えない不確実な時代において、キャッシュポイントが会社の給料だけというのはリスクが高い、と感じる人は増えているはずです。大手企業でもリストラが当たり前になっていますし、リーマンショックのような経済危機や震災などの大きな自然災害が起これば、瞬時に経済が停滞し、個人の所得はますます打撃を受けます。大企業でも突然倒産するリスクもあります。収入源が1つということではいささか心もとない。 こうした時代の流れを考えたとき、個人として家庭を守るため、本業とは異なる別の収入源を得るための「パラレルワーク」をする人が増えていくことは、もはや間違いないと思われます。 私は起業コンサルタントとして1000名以上の起業指導をしてきましたが、会社に勤めながら自分のビジネスを立ち上げる方は、ここ数年で劇的に増えてきています。そのなかには、本業とは別に副収入だけで月30万円を超えるパラレルワーカーも数多く誕生しています。会社を辞めての「独立起業」となると、リスクがつきまといます。収入ゼロの状態が続くことで精神的にも苦しくなり、再び会社員に戻っていく方を、私も多く見てきました。だからこそ、むしろ会社員の立場のままサイドビジネスを立ち上げるパラレルワークをお勧めしたいのです。 ここまで読んできて、「副業には興味があるけど、うちの会社にもきっと副業規定があるし……」と思っている方も多いと思います。そういう方はまず、今の会社が本当に副業を禁止しているのかどうか、または自分が考えている副業があるなら、その内容が就業規則に抵触するのかどうか、人事部に問い合わせてみることをお勧めします。もし副業そのものを禁止しているなら、その理由を尋ねてみてください。マイナンバーによる「副業バレ」をどう考えるか? 一般的には「本業がおろそかになるから」「情報が漏洩するから」「会社の信頼を落とすようなリスクがあるから」などが代表的な理由として返ってくるはず。その場合、さらに食い下がり、「これらに抵触しない副業ならいい」ということなのかを探ってみてはどうでしょう。それでも「ダメだ」と言われたら、どうするか。そのときはそのとき。時代の流れに逆行する古い体質の会社に自分の未来を託すべきかを冷静に考え、副業OKの会社に転職するという選択肢を一考してみるいい機会かもしれません。 マイナンバーによる「副業バレ」をどう考えるか? また、「マイナンバー制度が普及することで、副業が会社にばれるのでは……」と考え、副業に足踏みしている方もいると思います。この点については、私は逆にマイナンバー制度の普及によって優秀な社員が会社から流出することを恐れる企業が、副業を認めるケースも増えていくのではないかと見ています。それでも副業がNGのままであれば、先ほど申したように転職する道も視野に入れればいいのではないかと考えます。写真はイメージ 確かに、「今」だけを考えるなら、サラリーマンとして安定した給料をもらうことが、安心をもたらしてくれるかもしれません。しかし、あと10年後、20年後の社会を想定したとき、収入源が1つしかないという未来に安心と希望を感じることができるでしょうか。そもそも、副業を禁止する会社は、私たちの未来を保証してくれるというのでしょうか。もし将来、信頼しきって尽くしてきた会社が倒産してしまったとして、「人生が台無しになってしまったのは会社のせいだ」と訴えても、失った未来を取り戻すことはできません。結局、どのような未来を選択するかは、会社がうんぬんではなく、すべて自己責任であるということです。 以上はあくまでも私の考えです。人によっては違和感を抱くかもしれませんし、そのまま鵜呑みにする必要も一切ありません。今回の文章が、あなたやあなたの大切な家族にとっての今、そして未来を考えるうえで、なにかしらの題材としていただければ嬉しいです

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    アベノミクスは「失敗」だったのか

    アベノミクスの宴は終わった」。民進党の岡田克也代表が政権批判をしきりに繰り返している。確かに、ここ最近は円高が進んで株価も下がり、日本経済の先行きが怪しくなった感は否めないが、本当のところはどうなのか? まだ道半ばとはいえ、アベノミクスを一度評価してみる。

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    アベノミクスを「特効薬」のように煽った安倍政権とメディアの罪

    渡邉哲也(経済評論家) 印象論で語られることが多いアベノミクスであるが、そもそも論として、アベノミクスとは何なのだろうか? アベノミクスとは、「デフレ脱却」を目的に 1.量的緩和(金融政策) 2.財政出動(財政政策) 3.成長戦略(経済政策)という3種類の政策を主軸とし、「適宜適切な対応を行ってゆく」という安倍政権の総合政策の名称である。何かの特効薬のように捉えられがちであるが、まともな政府であれば当たり前の政策であり、国民を豊かにするために必要なことを行うという話でしかない。 いつも言っていることだが、問題を解決したければ、印象で語ることは絶対的な間違いであり、問題を分解し、整理したうえで、問題を見つけ対処する必要がある。アベノミクスは政策をミックスした総合政策であるため、特にこれを行う必要があるわけなのだ。これが適切に出来ていないことに関しては、メディアとともに印象論で煽ってしまった安倍政権にも責任があるのだと思う。記者会見する安倍晋三首相=6月1日、首相官邸 また、グローバル化が進む現在、国内の経済情勢を国内事情だけで語るのは絶対的に間違いである。現在発生している株価の低迷も、英国の欧州離脱の国民投票結果による市場の混乱や中国のバブル崩壊などが主要因であり、これは直接的に日本政府が左右できる問題ではないのである。 まずは目標である「デフレからの脱却とは何か」ということについて、考えてみたい。デフレとは、物の価格が低下し続ける現象のことを言う。つまり、今日よりも明日、明日よりも明後日というように、徐々に物が安くなる現象をいうわけだ。これは一見すると良いことのように思われがちである。消費者からすれば、同じ金額で買える物の量が増えるわけであり、得をした気分にさせられるのである。 例えば、100円のものが95円で買えるならば5円得した気分になる。しかし、これを1万人が買っていたとすれば、100万円の売上が95万円の売上になることを意味する。つまり、経済の全体的な縮小が起きてしまうのである。100円のものを95円で売るためには、利益の圧縮も必要となり、これが企業の利益の低下と人件費の圧縮やリストラ原因にななり、先安観から購入を控える動きも起きやすい。そして、商品の購入サイクルの長期化は消費をさらに冷え込ませる。 これがバブル崩壊以降、数十年に渡り続いていたのが日本の現状であり、デフレスパイラルと呼ばれる経済の縮小の再生産を起こしていたわけだ。これから脱却するというのがアベノミクスの目標だったわけである。そして、デフレからの脱却とは政治が意図的にインフレに持ち込むというものである。値上げにヒステリックになるメディア インフレとはデフレとは逆であり、徐々に物の値段が上がる状況であり、経済の拡大に持ち込むには必須の経済環境であるといえる。しかし、長いデフレに慣れてしまっていた日本人の多くはこれにアレルギーを持っている人が多いのも事実である。企業などが少しでも値上げすると、ヒステリックに騒ぐ人やメディアが存在するのも事実であり、これこそが日本の景気が改善しない最大の理由でもある。日本ではこの点に関しての理解が少ないのだと思われる。 また、デフレからインフレへの転換には、時間的な大きな問題もある。デフレの恩恵は物価の下落という形で先に受けられるのに対して、デフレの影響による賃金下落は後から生じる。それに対して、インフレの影響は、物価の上昇が先に生じ、賃金の上昇は企業利益が出てからになる。日本の場合、定期昇給などの賃上げは年1回の企業が多く、恩恵を受けるまで1年以上のタイムラグが生じてしまうのである。 この問題に対処するため、安倍政権では政府と労働者と使用者の三者で政労使会議を作り、政府が使用者(企業)に対して、積極的賃上げを求めたのであった。安倍政権ではこれを「好循環社会の実現」と言っていたわけであるが、一定の効果はあったものの国民の理解を得るところまで認知されたかといえば、疑問符が残る部分も大きい。政府がすべきは、このような経済の基本的な部分の啓蒙であり、国民の理解を深める事にあるのだと思う。この点に関しては、反省すべき点も大きいのだと思われる。政労使会議であいさつする安倍晋三首相(左から2人目)=2014年12月、首相官邸 デフレからの脱却を困難にした最大の理由に、消費税増税もあったのだと思う。消費税増税は、消費に税金をかけるという基本構造から、消費の押し下げ効果が大きい。デフレ脱却が出来ていない状況で、消費税増税を行ったため、改善を始めていた消費が大きく減退し、それが景気改善を妨げてしまったのである。そして、再びデフレに戻ってしまった。この問題に関する反省は、総理がこだわり強硬に進めた今回の消費税増税延期に反映されたのだと思う。 現在の状況であるが、1の量的緩和による対応は、国債のマイナス金利化を見てもわかるように限界に近いものがあり、これ以上の金融緩和を行ったところでそれが国内消費に向かう可能性は低い。アベノミクス初期の超円高への対応としては正しかったが、これ以上の効果はなかなか見込めない。 2の財政出動であるが、地震対策などやるべき問題は山積みであるが、建設労働者の不足など予算だけで対処できる問題でもなく、増やすにも限界があるのだと思われる。そして、3の成長戦略であるが、日本は資本主義の自由経済の国であり、そもそも論として、国に出来ることは産業助成や減税などに限られるのである。 また、助成金や補助金に依存する国内経済構造を作ることは、中長期的に望ましくない。インフラや産業インフラ、海外事業支援など、国でなければ出来ない。または、国の支援が必要な部分に限定すべきだと私は考える。その意味では、価値観外交による国と企業が一体となったインフラ輸出の拡大は成功例であるといえる。逆に、国内向けの支援策には具体的な成功例が見受けられない。この点に関しては、もう一度考えなおす必要があるように思われる。 今回の参院選であるが、与党野党ともに印象論ばかりでろくな争点が見受けられない様に思う。本来、選挙で問うべきは、国家の未来像とその実現のための具体的な政策でなくてはならない。そのためにも、政府は積極的な経済に対する啓蒙活動を行うべきだと思う。国民に正しい知識を与え、判断の基軸を作ることこそが政府に求められている。そして、正しい知識を得れば、それが正しい判断とデフレからの脱却につながるのだと思う。

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    インフレ期待はまがい物 日銀は日本人の価値観を理解していない

    型の国民なのです。「インフレ期待」どころか、「インフレ失望」が働きやすいお国柄なわけです。 今では、アベノミクスの実質的な失敗により、インフレ期待がまがい物だったことが一般の人々にも理解できるようになってきています。おまけに、日本社会の高齢化が進み、貯蓄を取り崩す年金生活者が増えている中、穏やかなデフレのほうが暮らしやすいと考える人々が増え続けてきています。 そんなわけで、原油安によってデフレになるのは、国民経済にとって好ましい状況であるというのは、新しい経済の捉え方として常識になっていくでしょう。「原油安が誤算だった」と説明する日銀の目指すインフレには、いったい何の意味があるのか、私にはまったく理解しようがありません。日銀の黒田総裁は意固地にならずに、いい加減に日本人の価値観を理解する必要があるのではないでしょうか。『経済はこう動く〔2016年版〕』よりG20財務相・中央銀行総裁会議が閉幕し、記者会見に臨む日銀の黒田東彦総裁 =4月15日、米ワシントン 企業がグローバル化に成功するための秘訣は、進出した先での徹底した現地化にあります。徹底した現地化においては、進出先の国の歴史、宗教、哲学、文化、価値観、ライフスタイル・・・そういったものすべてをそのまま、ありのままに受け入れるということが前提となります。たとえ自分の価値観とは相いれないものがあったとしても、すべてをありのままに受け入れる努力こそが、今のグローバル競争には欠かせないわけなのです。 実体経済を動かしているビジネスの現場では、こういったことが当たり前であるのに対して、経済学の理論では、すべての国々の人々が同じように行動するはずだという幻想が未だに信じられているようです。クルーグマンは自分の誤りを認め、「金融政策ではほとんど効果が認められない」と襟を正しましたが、クルーグマンの持論を最大の根拠にしたリフレ派の学者たちは意固地になりすぎて、軌道修正をできないままでいます。 日銀の金融政策は破綻に向けて、一歩一歩近づいているといえるでしょう。マイナス金利は経済全体で見れば副作用のほうが多く、愚策以外の何物でもありません。現代の経済システムでは、金利は必ずプラスになるという前提で構築されています。マイナス金利はまったく想定されていないため、これから数々の副作用が経済を脆弱な状態へと貶めてしまうリスクが高いのではないでしょうか。(2016年05月18日『中原圭介の『経済を読む』より転載)

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    「財政的幼児虐待」を知っているか? 安倍決断は諸刃の剣だ

    小黒一正(法政大学教授) アベノミクスの評価や今後の日本経済を展望する場合、最も重要な視点は、消費増税の再延期の影響や妥当性を含め、財政の持続可能性や各世代への影響をどう評価するかであろう。増税が不可避な理由は、社会保障を中心とする歳出削減も重要だが、それも一定の限界があり、日本の政府債務(対GDP)が終戦直前の200%を超え、先進国中で最悪の水準であるためである。 政府債務(対GDP)が200%を超えても、利払い費が急増しないのは、日銀による量的・質的金融緩和(異次元緩和)で長期金利が低下しているためである。だが、それも限界がある。2015年時点での国債発行残高約800兆円のうち、既に日銀は約300兆円の国債を保有しており、毎年80兆円の国債買いオペレーションや約30兆円の保有国債償還分を考慮しても、単純な計算で約10年間[(800-300)兆円÷(80-30)兆円]で日銀は全ての国債を保有し、国債市場が干上がってしまう。厳密には、銀行や保険・年金基金等は資金運用のために一定の国債を保有する必要があるため、2017-18年頃に異次元緩和が限界に達する可能性があるとの指摘も多い。このため、財政再建を図る観点から、消費増税や社会保障の抜本改革は、もはや先送りできない喫緊の課題であることは明らかである。 また、増税や歳出削減といった正攻法で財政再建を行う場合、日本財政に残された時間は15年程度の可能性が高い。米アトランタ連銀のアントン・ブラウン氏らの研究では、日本財政の持続可能性を分析している。具体的には、「実施シナリオ」(社会保障費の膨張を抑制せず、消費税率10%を維持するシナリオ)や「先送りシナリオ」(同様に、消費税率5%を維持するシナリオ)という前提の下、「政府債務残高(対GDP)を発散させないために、消費税率を100%に上げざるを得なくなる期限を何年まで先延ばし可能か」という分析を行っている。 この分析に基づく場合、「実施シナリオ」では2032年まで持続可能であるが、「先送りシナリオ」では2028年まで持続可能であるとの推計結果を導いている。 ここで注意が必要なのは、財政を安定化させるため、消費税率を100%に引き上げることは政治的に明らかに不可能であるということである。また、例えば消費税率を30%に引き上げて、残りの消費税率70%分に相当する歳出削減を行うのも政治的に不可能だろう。 もっとも、現在の消費税率は8%である。このため、ブラウン氏らの研究を利用すると、追加の改革を行わない限り、2028年と32年の中間である「2030年頃」を過ぎると、もはや財政は持続不可能に陥る可能性を示唆する。上記の分析が妥当な場合、日本財政に残された時間は15年程度ということになる。つまり、「国家百年の計」でなく、「国家15年の計」が必要な状況である。経済財政諮問会議であいさつする安倍晋三首相=首相官邸 このような状況の中、政府は昨年6月末、新たな財政再建計画を盛り込んだ「経済財政運営と改革の基本方針2015」(骨太方針2015)を閣議決定し、骨太方針2015では、2020年度までに国と地方を合わせた基礎的財政収支(PB)を黒字化する従来の目標のほか、2018年度のPBの赤字幅を対GDPで1%程度にする目安を盛り込んでいる。 また、内閣府は2016年1月の経済財政諮問会議において、「中長期の経済財政に関する試算」(いわゆる中長期試算)の改訂版を公表している。同試算によると、楽観的な高成長(実質GDP成長率が2%程度で推移)の「経済再生ケース」でも、政府が目標する2020年度のPB黒字化は達成できず、約6.5兆円の赤字となることが明らかになっている。 しかも、この「経済再生ケース」は、2017年4月に消費税率を10%に引き上げていることが前提となっている。だが、今年の6月1日に安倍首相は消費増税率10%への引き上げを2019年10月まで2年半延期する方針を表明した。2019年10月の増税は政治的に可能か では、2019年10月の増税は政治的に可能であろうか。最も大きなハードルは、選挙等の政治日程である。次の増税時期は、2018年9月までの自民党総裁任期を超えるが、2019年夏の参院選が直前に控えている。2019年度の税収見積もりを前提とする2019年度予算の執行を考える場合、その予算編成が終了する2018年12月頃には増税判断を行う必要があるが、それは2019年夏の参院選前に増税するか否かを明らかにするという政治的な要因も、次の増税判断には影響しよう。なお、もし2017年4月に増税を行うのであれば、増税判断は2017年度の予算編成が終了する2016年12月頃でも十分間に合い、それは今回の参院選が終了した後でよかった。国会議事堂 その際、2019年10月に増税を実施できれば、「経済再生ケース」で、2020年度のPB赤字は約7兆円と見込まれるが、もし2019年10月の増税も再々延期すれば、2020年度のPB赤字幅は約12兆円に拡大し、2020年度のPB黒字化のハードルは一層上昇するため、財政再建計画が破綻してしまう可能性も否定できない。 このような状況を踏まえつつ、世代会計でみると、増税再延期の影響はどう見えるだろうか。「世代会計」は、「国民が生涯を通じて、政府に対してどれだけの負担をし、政府からどれだけの受益を得るか」を推計する手法をいい、具体的には、「20代」とか「30代」とか「50代」といった世代ごとに、その生涯の受益(年金、医療・介護といった政府の公共サービスから得られるもの)と負担(公共サービスを供給するのに必要な税金・保険料といったもの)を推計して、純受益(=受益-負担)を試算する。 内閣府「2005年度版・年次経済財政報告」の付注を参考に、筆者が試算した結果によると、60歳以上の世代と将来世代との世代間格差は約1億2千万円にも達し、これは普通のサラリーマンの生涯賃金を2億円とすると、約5割にも達する格差である。このような実態を、世代会計の提唱者であるボストン大学のコトリコフ教授は「財政的幼児虐待」と呼び、その改善を訴えている。図表:世代会計の試算結果(単位:万円) もし消費増税の再延期をせずに2017年4月に増税を行った場合、将来世代(0-19歳を含む)は8221万円の損(負担超過)、60歳以上の世代は3982万円の得(受益超過)であったが、2019年10月に増税を行った場合、将来世代の負担超過は8265万円に拡大、60歳以上の世代の受益超過は3990万円に拡大する。すなわち、今回の増税再延期で、将来世代は一人当たり約44万円も損が拡大する可能性を意味する。なお、増税を恒久的に延期すれば、将来世代は一人当たり約780万円も損が拡大する可能性がある。 現在のところ、安倍首相は、次回は増税の再々延期はせず、2019年10月に消費税率を確実に10%に引き上げる旨の発言をしているが、これ以上の延期は、将来世代にさらにツケを先送りするだけである。2020年度までに国と地方を合わせたPBを黒字化するという従来の財政再建目標を堅持する姿勢は言うまでもないが、将来世代の利益も視野に、しっかり財政再建の道筋をつける必要があろう。 なお、そもそも増税判断は「増税実施か延期か」の二者択一ではない。財政再建目標を堅持しつつ、イギリスのEU離脱に伴う世界経済の不透明性や影響も顕在化する中、景気循環の先行きにも配慮するならば、消費税率を2017年4月、18年4月で1%ずつ引き上げることも検討する余地があり、段階的な増税も早急に検討するべきである。

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    見くびられた日本経済の実力 アベノミクス「再起動」は今しかない!

    済問題が並ぶ。これをうけて、各党の公約・主張においても経済問題への言及が目立つ。与党は3年半にわたるアベノミクスの成果と実績を訴え、野党は生活実感の悪化を非難するというのが基本的な展開である。 選挙の時期が固定されている参議院選挙には、現政権の政策を採点するという中間選挙的な役割があるのは確かだ。株価・為替・雇用・GDPが2012年以降どのように変化したか、直近の動向だけではなくやや長い、といっても5年程度の話だが、視点をもって各自検討されたい。その一方で、選挙によって決まるのは「過去の実績」ではなく「これからの政策」であることも忘れてはならない。安倍首相が強調するアベノミクスのエンジンをふかし、脱出速度を最大限に上げるために必要な政策は何か。民進党が指摘するふつうの人から豊かになる経済政策とは何か。ここでは、アベノミクスの今後(またはポスト・アベノミクス)のために必要な経済政策を考える基本について説明したい。 マクロの経済環境、例えば雇用や平均所得などは一国経済における需要(総需要)と供給能力の小さい方から決まる。誰も買わないものを作る企業はなく、みんなが欲しがるものでも作る能力がなければ供給はできないと考えれば当然のことだろう。需要と供給のいずれが経済の足かせになっているかによって、必要な経済政策は大きく異なる。結論に先回りすると、日本経済は未だ総需要不足、それも深刻な需要不足状態にあると考えられる。トヨタ自動車の元町工場=愛知県豊田市 2012年時点では、日本経済の需要不足状態は2年からせいぜい3年程度で解消されると考えられていた。人口減少社会に突入した日本において、労働者の供給には限りがあり、ある程度の需要改善があれば経済は「供給能力の天井」にぶつかる。需要が供給能力を上回るようになると、ディマンド・プル・インフレーションが発生する。さらに労働市場は本格的な人手不足に陥るため、賃金上昇率は高くなる。これが2012年当時想定されていたデフレからの脱却であり、そのために提示されたのがアベノミクス第一・第二の矢(大胆な金融政策・機動的な財政出動)である。そして、需要が供給を上回った後には供給能力の増強が経済成長の源泉となる。そのためには第三の矢(成長戦略)が必要となる。これがアベノミクス始動当初の政策パッケージである。日本経済の実力は事前の想定よりも高かった しかし、ここには大きな誤算があった。一国経済の供給能力とは、言い換えればその「経済の実力」と言い換えても良い。多くの専門家も官邸も、この日本経済の実力を過小評価していたきらいがある。金融政策によって極端な円高が是正され、雇用情勢が改善すると、これまで職に就くことをあきらめていた女性、高齢者が想定外の規模で労働市場に参入してきたのである。数年で頭打ちになると考えられていた雇用者数は2012年平均に比べ157万人(うち正社員37万人)の増加を経てなお増え続けている。「職に就くことをあきらめていた人」が働き出してみると、日本経済の供給能力、いわば日本経済の実力は事前の想定よりも高いということがわかってきた。 実力を過小評価していた――ということ自体は悪いニュースではない。その一方で、政策スケジュールは変更を迫られることになる。事前の想定よりも供給能力と需要の差が大きかったわけであるから、そのギャップを埋めるにはより長い期間とより強力な需要政策が必要とされることになる。 このように、今後のアベノミクスに必要とされる政策の姿が見えてくる。需要不足経済では、「需要を足してやる」ことで経済全体の成長を導くことが出来るからだ。そのために必要となるのが、アベノミクス第一の矢(金融政策)と第二の矢(財政政策)の再起動であり、両者の連動性を高めるための工夫である。 金融政策にはまだまだ出来ることが多い。なかでも重視すべきは、継続性への信頼を高める方法である。金融緩和がより長期にわたって継続されること、金融引締(量的緩和の縮小や利上げ)ははるかに先の話であることを市場に信用させなければならない。そのためには、政府が経済に関する明確な数値目標を設定し、その達成までは現在の金融緩和が強化されることはあっても縮小されることはないこと――それを政府・日銀が共同宣言として発表するべきだろう。目標としては、「(食料・エネルギーを除く指数で)2%のインフレが1年以上継続し、かつ名目GDPが600兆円を超えるまで」といったものや、雇用情勢とリンクさせたものが考えられる。大幅下落した日経平均株価の終値などを表示するボード さらに、政府の財政政策もこのような政府・日銀共同宣言と整合的なものに改めるべきであろう。2014年の消費増税、さらに2015年以降の公的支出の停滞をみても、第二の矢は継続性・一貫性を欠いている。自民党の公約集でも触れられている財政出動について、有効性の高い分野を見極めた上で、財政支出をためらわないことが求められる。 このような政策パッケージは与党の専売特許というわけではない。野党側にとっても合理的な方針となり得る。多くの論者が指摘するように、アベノミクスの政策パッケージは海外ではむしろリベラル政党に典型的な政策方針である。例えば、中道左派政権の首班であるカナダのトルドー首相は大胆な低金利のチャンスを逃さずに財政支出を拡大すべきだと主張している。民進党であれば金融緩和をさらに拡大し、低金利を生かした国債発行や財投債発行によって資金を調達し、自民党案よりも生活支援や低所得世帯対策に予算を優先的に配分することで消費の拡大を目指すといった提案も可能だろう(ちなみに英労働党はこのような方針を「人民のための量的緩和」と呼んでいる)。 アベノミクスの三年半によって、日本経済は大きな変化の時期を迎えている。改善されたことも多い。その一方で、まだまだ満足のいくパフォーマンスではないのも確かだろう。選挙戦も残り少なくなってきたが、次の一手の経済政策について、各党の活発な論戦を期待したい。

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    円高の主因はデフレ圧力だ 日銀は毅然としてマイナス金利を進めよ

    のまま、日銀が手をこまねいていると、円高が進行する結果、デフレ不況に舞い戻りかねない。株価も低迷し、アベノミクスへの逆風が強まるだろう。チャイナリスクが爆発してからでは、遅すぎる。日銀は毅然(きぜん)としてマイナス金利政策を展開すべきではないか。

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    結局成功したのか アベノミクス景気は謎だらけ

    塚崎公義(久留米大学商学部教授)     アベノミクス開始から3年以上経過しましたが、景気は良いのか悪いのか、はっきりしない状態が続いています。それより何より、従来の常識からは説明が難しいような事が数多く起きています。どんな事が起きているのか、見てみましょう。金融緩和の偽薬効果で景気が回復 経済学者のなかには、「金融緩和をすれば世の中にお金が出回って、それがデフレを終わらせ、景気を回復させる」と考えていた人がいました。「リフレ派」と呼ばれる人々で、黒田日銀総裁もその1人です。しかし、実際には世の中にお金が出回ったわけではないので、彼等は間違っていたことになります。  一方で反対派は、「ゼロ金利の時に金融を緩和しても景気は回復しない」と主張していました。しかし、実際には金融緩和により株価やドルが値上がりし、それが景気を回復させたので、彼等も間違っていたわけです。 「金融が緩和されれば世の中に資金が出回ってドルや株が値上がりする」と考えた投資家がドルや株を買ったわけで、それが景気を回復させたのですが、これは「偽薬効果」とでも呼ぶべきものでしょう。 医者が患者に「良い薬だ」と言って小麦粉を飲ませると、「病は気から」なので治ってしまうことがある、というのと同じです。本来は金融緩和をしても世の中にお金が出回らないのだから、株やドルが高くなるわけでも景気がよくなるわけではないけれども、人々が株やドルが高くなると信じたことで、目指した成果の一部が実現したわけです。東京外国為替市場で円が上昇し、1ドル=104円台と高値をつけた =6月16日、東京都中央区円安でも輸出入数量は変化せず 1ドルが80円から120円に変化したのに、輸出入数量は、ほとんど変化しませんでした。円安になった当初は「企業が円高期に工場を海外に移転したから」という説明がなされていましたが、さすがに円安が始まって3年も経つと、この説明では不自然でしょう。円安なのですから、海外の工場で生産している数量を減らして国内工場の生産量を増やせば良いからです。 実際には、日本企業が「再び円高に戻るリスクがあるので、生産を国内に戻す決断が出来ない」といった要因が強いのかもしれません。そうだとすると、円安傾向が持続し、企業経営者が円高に戻る可能性は小さいと考え始めるまで、本格的な輸出の回復は見込めないのかも知れません。 もしかすると昨今の円高ドル安で日本企業が、再び円高に戻るかも知れないという恐怖心を思い出してしまい、ますます生産を国内に戻す動きが遅れることになったかも知れませんね。 人口が減少する日本ではなく、成長しそうな海外で生産する方が良いと考えている企業も多そうです。そうなると、生産の国内回帰は一層難しいかもしれませんね。 一方で輸入は、消費者が「国産品の方が安いから輸入品は買わない」と思えば減るので、輸出数量増よりも輸入数量減の方が先に生じるかも知れません。もっとも、日本企業が国内生産を高付加価値品だけに限定しているとすれば、輸入数量もあまり変化しないかもしれません。 たとえば日本企業が普段着は国内では生産せず、ドレスだけを国内で生産しているとしましょう。その場合、消費者が「円安だから中国製の普段着を買わずに同品質の日本製の普段着を買おう」と思っても、売っていないから、仕方なく値上がりした中国製の普段着を買い続けるのかも知れませんね。ゼロ成長なのに雇用も企業収益も好調ゼロ成長なのに雇用も企業収益も好調 アベノミクスで景気が回復したと言われていますが、成長率を見ると、過去3年間を平均してわずかな成長にとどまっており、「概ねゼロ成長」と言えるレベルです。 にもかかわらず、雇用情勢は絶好調で、有効求人倍率は高く、各種アンケートでも人手不足感が強くなっています。脱デフレで値下げ競争からサービス競争に移行している事が一因かもしれませんが、それだけでは到底説明し切れるものではありません。 企業収益も好調です。ゼロ成長で企業収益が好調となれば、労働者にしわ寄せが行っているのかと言えば、そんな事もありません。原油価格下落は一因でしょうが、それだけでは到底説明し切れるものではないでしょう。 筆者は、GDP統計に若干の疑問を感じていますが、仮にGDP統計が上方修正されたとしても、雇用と企業収益の絶好調を説明できるようなものにはならないでしょう。 おそらく、高齢化によって医療や介護といった労働集約的な仕事が増えていることが人手不足の一因なのでしょうが、それだけでは説明しきれないでしょう。今後とも、この違和感の解明は筆者の課題です。画像はイメージです結局アベノミクスは成功したのか 経済政策の目標が、「インフレも失業も無い世の中を作ること」だとすれば、今の日本経済ほど理想的な状況は考えられません。一方、多くの庶民は景気回復の実感が得られずに消費税率の引き上げ分だけ生活が苦しくなったと感じています。 結局、アベノミクスの恩恵が、株を持っている富裕層と失業を免れた最下層に集中していて、一部はワーキング・プア等の非正規労働者にも待遇改善という形で及んでいるものの、サラリーマン等の一般庶民には及んでいないため、景況感がバラバラになっているのでしょう。 しかし、兎にも角にもアベノミクスにより株とドルが値上がりし、株高で高級品が売れるようになり、円安で外国人観光客が増加した事、就業者が大幅に増えた事、などを考えると、アベノミクスが景気を回復させたと考えて良いでしょう。 景気の回復速度は充分ではありませんが、安倍政権発足前と比べれば、明らかに景気は改善しています。消費税率の引き上げ(これはアベノミクスと無関係)が無ければ、景気は更に良くなっていた筈ですから、アベノミクスの景気回復効果は決して小さくなかったと考える事も可能でしょう。 今後については、「景気は自分では方向を変えない」ので、引き続き緩やかな回復が続くと考えて良いでしょう。海外の景気が急激に悪化したりすれば別ですが、そうした可能性も高くはなさそうです。 筆者が期待しているのは、労働力不足によって企業が省力化投資を活発化させることです。バブル崩壊後の日本経済は、失業が問題でしたから、企業は安いコストでいくらでも労働力を集めることが出来、それによって省力化投資をせずに来ることが出来ました。 したがって、今の日本経済は「労働生産性の向上余地(少しだけ省力化投資をすれば労働者一人当たりの生産量が大きく増える余地)」が大きいのです。そこに企業が目をつけるはずだ、と考えているわけです。そうなれば、景気の回復が続き、少しずつ拡がりを持ったものになっていくと期待しているのです。【関連記事】■英国のEU離脱でも世界経済は大丈夫 (塚崎公義 大学教授)■アリとキリギリスで読み解く日本経済 (塚崎公義 大学教授)■経済情報の捉え方 (塚崎公義 大学教授)■株価は景気の先行指標だが、景気は改善しそうな理由 (塚崎公義 大学教授)■大学教授が教える、本当に役に立つ就活テクニック (塚崎公義 大学教授)

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    安倍首相 野党呼びかけの党首討論に応じず上手に争点隠す

    順番に出演した後、野党側が開催を要求しても一切受けない。民放キー局の報道スタッフが語る。「安倍政権はアベノミクスと連呼しているが、本音は憲法改正。前回の総選挙でもアベノミクスを争点にしながら、選挙後は安保法制を強行した。それと一緒で、一番の争点を隠そうとしている。政治部の記者はそれをわかっているが、ニュースでは言えない。政権からクレームが来るからだ。仮に、党首討論をやれば野党が憲法改正を議論するから報じることができるのだが、自民党は党首討論に応じない。 放送局の方も、どうせニュースやワイドショーで参院選を取り上げても数字(視聴率)が取れない。視聴率が取れないのに政権に睨まれるリスクをおかして党首討論をゴリ押しすることもないと考えている。視聴率が高かった舛添スキャンダルがなつかしい」 このままでは与党の望み通り、「過去最低の投票率で3分の2の大勝」ということになる。関連記事■ 民主党 TPP参加を選挙公約にすれば小選挙区議席40との予測■ 菅首相 党首討論に「×詰問 ○真摯に」などのカンペを持参■ 安倍首相 集団的自衛権の是非問う解散総選挙を仕掛ける説も■ 安倍首相 選挙棄権した1000万人超の大衆が動き出すこと恐れる■ 夏の参院選 愛知は河村たかし・名古屋市長の動向が鍵を握る

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    デフレと戦うアベノミクス 大東亜戦争との意外な類似点

    タント)  7月10日投票の参院選では、安倍政権がデフレ脱却を目指して黒田日銀と二人三脚で進めてきたアベノミクスの継続か否かが争点になっている。デフレ脱却を目指して世界でも類のない空前の金融緩和に踏み切ってすでに3年以上が経っている。進むか退くかを考えても良い時期だろう。  ところで、デフレと戦うアベノミクスを戦争と捉えると、あの大東亜戦争と類似点が多いように思う。以下、類似点を紹介しよう。  (1)  追い詰められて逆切れ開戦。大東亜戦争は、ABCD包囲網に追い詰められて、「やるなら戦力が残っている内に」と開戦した。アベノミクスも、デフレ・円高・国際競争力の低下・財政悪化といった問題に直面し、破れかぶれで金融緩和に打って出た。  (2)  効果がなかった戦略をさらに拡大して実施。日本軍は、中国侵攻が行き詰まりを見せる中、東アジアなどに侵攻した。黒田総裁は、前任の白川総裁の金融緩和が効果を発揮していないのを「中途半端だったからだ」として、規模を拡大して実施した。  (3)  コンティンジェンシープランや停戦・終戦のプランなし。大東亜戦争では、真珠湾攻撃の後にどう終戦に持ち込むか、うまく行かなかったらどうするか、というプランがなかった。黒田総裁も、出口戦略の明示を求める市場の声に対し、3年が経っても「デフレ脱却が見えない内に出口戦略を検討するのは時期尚早」としている。 参院選公示を前に開かれた討論会で党の主張を記したパネルを掲げる安倍晋三総裁 =6月21日、東京・内幸町の日本記者クラブ (4)  短期決戦のはずがいつの間にか長期戦に。日本軍は、真珠湾攻撃でアメリカの戦意を喪失させ、短期で講和する予定だったが、ずるずると3年半以上も戦った。アベノミクスも、「2年でデフレ脱却」と高らかに宣言したが、2013年の異次元の金融緩和からかれこれ3年が過ぎている。  (5)  身の丈を超えた戦線拡大。大東亜戦争では、国債濫発で戦費を賄い、中国に始まり東アジア・南洋・インドまで戦線を広げた。アベノミクスも、先進国最悪の財政状態を無視して、世界最大級の金融緩和を展開している。  (6)  戦術的なサプライズを重視。戦力に劣る日本軍は、真珠湾攻撃・インパール作戦・アウトレンジ戦法など敵の裏をかくことを重視した。黒田日銀も、直前まで「検討していない」としていたマイナス金利をこの1月に導入するなど、奇策を市場関係者が予想しないタイミングで打ち出し、サプライズを与え続けている。 (7)  戦力を逐次投入。大東亜戦争で連合艦隊は、真珠湾の基地に打撃を与えるだけでなく米太平洋艦隊を殲滅させるべきだったが、中途半端な戦力投入で最大の勝機を失った。黒田総裁は、当初「戦力の逐次投入はしない」と明言したが、2度に渡って追加緩和を実施している。 大東亜戦争と同じような悲劇を繰り返すな (8)  全体主義的傾向。大東亜戦争では、「一億火の玉」を合言葉に、国家総動員法で全国民を動員して戦った。安倍政権が提唱する「一億総活躍社会」は、早期リタイヤや専業主婦を否定しており、多様な考え方を抑圧する傾向が見られる。 (9)  針小棒大の戦果発表。大本営は、大局的な戦況は悪化しているのに、「ミンダナオ島沖で米軍機を5機撃墜」といった局地戦の戦果を過大に発表した。安倍首相も、“経済の通知表”であるGDPは悪化しているのに、非正規社員が増えたに過ぎない雇用改善を取り上げて「アベノミクスは順調」と発表している。  もちろん、類似しない点もあるのだが、これだけ類似点が多いと、アベノミクスを続けて良いのか、日本の将来は大丈夫なのか、と不安になる。最終的にデフレ脱却・経済成長・財政再建が実現すれば良いのだが、原爆投下でようやく幕を引いた大東亜戦争と同じような悲劇が繰り返されないことを切に祈る。画像はイメージです ところで、たまに「日沖さんは安倍政権を支持していないんですね」「(アベノミクスの失敗を喧伝する)民進党の支持者ですか」と聞かれるが、これは難しい質問だ。アベノミクスは効果が出ていないという以前に金融緩和でデフレを解消できるというロジックが間違っており、安倍政権の経済政策はまったく支持できない。ただし、民進党の分配を重視する社会主義的な政策よりはかなりマシという気がする。  しかも、経済政策はともかく、安倍政権の外交政策は高く評価できる。安倍政権はアメリカとの同盟関係を強化し、問題児の中国や北朝鮮にも冷静・的確に対応している。激動する世界情勢の中、見事なかじ取りだ。当初、安倍政権は経済再生への期待が大きく、対中強硬派として外交が懸念されていたが、まったく逆になっている。  安倍首相は参院選を「アベノミクスへの信認を問う選挙」と位置づけている。むしろサミットを含めた外交の成果で政権の信任を受け、選挙後に経済政策を一新してほしいものである。 (日沖コンサルティング事務所『経営の視点』より転載)

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    消費税5%に引き下げできる財源を内閣府資料は示唆していた

    5%に戻すのが正論です」と指摘するのは長谷川幸洋・東京新聞論説副主幹だ。というのも、2013年度からアベノミクス効果で日本の景気が良くなっていたにもかかわらず、突然失速したのは2014年の消費税8%への増税がきっかけだからだ。だからこそ5%に戻せば個人の所得は増え、株価上昇も間違いなく、日本経済は瞬く間に回復するだろう。にもかかわらずなぜ引き下げをしないのだろうか。 単純な疑問がある。公共事業の景気対策を組む財源があるなら、消費税率を下げられるのではないか。前出・長谷川氏の説明はわかりやすい。「消費減税をすれば社会保障の財源がなくなる、というのは官僚が与野党の政治家と結託して国民に減税をあきらめさせるための理屈です。国の一般会計の社会保障予算は32兆円、それに対して消費税収は17兆円。今も足りない分は別の税収等でまかなっている。消費税収が減っても、他の収入を回せば社会保障予算を削らないで済む。一時1ドル=100円台の円相場を示すモニター =7月6日午前、東京・東新橋の外為どっとコム しかも、政府・与党は経済対策の補正予算を検討しているが、特定の業界にカネを落とす公共事業などより、国民に広くメリットが行き渡る消費減税の方が景気刺激効果ははるかに高い。消費減税で景気が回復して所得税や法人税収が増えれば、社会保障の財源は十分まかなえます」 社会保障財源については、民進党は「赤字国債」の発行を主張し、「法人税減税をやめればいい」(経済アナリストの森永卓郎氏)といった意見もある。 実は、どちらも必要がない。内閣府が作成した興味深い資料がある。「アベノミクスの3年間の成果」という表題で、倒産件数、失業率、財政など安倍政権前と現在の経済指標を比較・分析した資料だ。今年1月の経済財政諮問会議に提出されたものである。この中に、ズバリの数字が書かれている。 国と地方の税収は、安倍内閣発足前の2012年度は78.8兆円だったが、2016年度は99.5兆円に大きく増えた。資料には、〈消費税率引き上げ分を除いても約13兆円の増収〉とある。 消費税率を8%から5%に戻すために必要な財源(税収減)は年間約8兆円であり、13兆円の税収の純増分をあてれば、他に増税しなくても、当面は5%に戻せることを物語っている。やればできるのである。 会期末会見で安倍首相は、「アベノミクスのエンジンを最大限にふかす」と語った。その言葉どおりなら、「8%据え置き」ではなく「5%に戻す」が筋だろう。あとは安倍首相が政治的な面子を捨て、国民と日本経済のための決断を下せるかどうかなのだ。関連記事■ 消費税率を5%に下げない理由を首相ブレーンが解説■ 消費増税 安倍・海江田の「談合質疑」は国民をバカにしている■ 安倍首相 消費増税の一方で法人税減税は明確な企業優先政治■ 赤字国債発行停止には消費税率16%引き上げが必要と専門家■ 安倍政権の増税論は「少子化対策」の失敗を自ら予測している

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    聞けば聞くほど分からない!アベノミクス参院選で本当によかったのか

    か。聞けば、聞くほど、分からなくなってきた。 6月1日、国会の閉会に当たり、安倍晋三総理は記者会見でアベノミクスの成果を強調しつつ、経済の「リスク」を語り、「アベノミクスの加速か、それとも後戻りするのか、これが来る参議院選挙の最大の争点です」と明言した(なお正しくは参議院議員選挙)。参院本会議を終え退席する議員=6月1日午前、国会(斎藤良雄撮影) さらに「中国経済のかげりが見える」「成長の減速が懸念される」「リーマンショックの経験に学ばなければならない」等々の理由を挙げた上で「消費増税を延期すべきと判断した」と表明した。 総理は「延期」と言ったが、正しくは「再延期」である。総理自身、先の解散総選挙に際し「再び延期することはない。皆さんにはっきりと断言する」「必ずやその経済状況をつくり出すことができる」と明言した。にもかかわらず、前言を翻した。総理は「公約違反との批判は真摯に受け止めている」「参院選を通して国民の信を問いたい」と語ったが、それ以上の具体的な説明はなかった。 勝敗ラインについては「改選議席の過半数」という「高い目標」を掲げ、「厳しい選挙戦となる」と、与党への支持を訴えた。最初から最後まで、憲法改正への言及は一言もなかった。拍子抜けと感じたのは私ひとりだろうか。正直、私はガッカリした。 先の解散は「アベノミクス解散」と呼ばれた。私は当時から解散の法的妥当性について憲法上の疑義を表明してきた(拙著『護憲派メディアの何が気持ち悪いのか』PHP新書)。その論点は蒸し返さないが、先の解散を踏まえていえば、今回は「アベノミクス参院選」とでもなろう。本当にこれでよかったのだろうか。護憲派メディアと野党の不思議護憲派メディアと野党の不思議 当初は、「会期末の6月1日に衆議院解散があり、7月には衆参のダブル選挙になる」との見方が強かった。「週刊文春」が舛添要一都知事の金銭スキャンダルを報じたこともあり、「都知事選とのトリプル選挙になる」とも囁かれていた。 それが結局、「サプライズがないのがサプライズ」とでもいうべき結果となった。1日の会見で総理は「解散がよぎった」と漏らしたが、ついに解散は行われなかった。 伊勢志摩サミットも、懸念されたテロなどの事件や事故もなく、無事に終わり、日本で開催されたサミットとしては一人も逮捕者も出さない史上初めての快挙となった。 サミットの成果については様々な評価があり得よう。海洋安全保障について言えば、案の定「中国」という国名を挙げて指弾できなかった点など不満も残るが、厳しい非難に値するような失点はなかったと言ってよい。記者会見で、消費税増税の再延期を正式表明する安倍首相=6月1日午後、首相官邸 マスコミ世論はサミットそのものより、オバマ米大統領の広島訪問や安倍総理が会見で示唆した消費増税再延期に注目した。いずれも好意的に受け止められたと評してよかろう。私自身は「核のフットボール(発射コード)」が広島に持ち込まれた事実や、法律で明記されている税率や期日を内閣が変更しようとすることに異論を唱えてきた。 だが大半のマスコミ世論は、〝核の発射ボタン〟の持ち込みを黙認しながら、「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則を唱え、オバマ大統領に「謝罪せよ」「被爆者と面会しろ」と迫った。いわゆる安保法制を「解釈改憲」「立憲主義に反する」「憲法違反」とまで合唱した護憲派メディアが、なぜ、法律を内閣が変更することに批判しないのか。なぜ「選挙公約と民主主義を踏みにじる暴挙」などと批判しないのか、不思議である。 さらに不思議なのが野党である。民進党の岡田克也代表は5月31日の衆議院本会議で「民進党・無所属クラブ、日本共産党、生活の党と山本太郎となかまたち、社会民主党・市民連合を代表し」、平和安全法制の整備を「立憲主義と平和主義への重大な挑戦」と非難した(安倍内閣不信任決議案趣旨弁明)。そうした非難が当たらないことは前掲拙著で詳論した。一点だけ挙げれば、岡田代表は「憲法違反であることは明らかです。憲法違反の法律は、いくら時間が経っても憲法違反です。我々は、安全保障法制を白紙化することを柱とする議員立法を今国会に提出しました」(同前)と訴えたが、「憲法違反」なら、平和安全法制はすべて無効であり(憲法98条)、改めて立法する必要などない。「最大の争点」たるべき憲法改正「最大の争点」たるべき憲法改正 問題は参院選の争点である。総理が「参院選を通して国民の信を問いたい」と挙げたのは、消費増税再延期の是非である。公約の重大性や財政規律、国際社会の信任など、再延期を非とすべき理由に事欠かない。記者会見を終え引き揚げる安倍晋三首相=6月1日午後、首相官邸(納冨康撮影) だが、最大野党の民進党はじめ野党は(政府与党とは異なる論拠とはいえ)消費増税の再延期を訴えている。つまり与党も野党も延期に賛成している。ゆえに、これが最大の争点と言われても、われわれ有権者は戸惑う。 来月の参院選では、選挙権が得られる年齢が、18歳に引き下げられる。これにより、18歳と19歳の約240万人が新たに有権者となる。また、駅構内や総合商業施設などに「共通投票所」が設置され、投票の利便性も高まる。自治体の判断により、期日前投票の投票時間も最大2時間拡大される。 国民に対し、正面から堂々と憲法改正を訴える絶好の機会だったのではないだろうか。 岡田代表は《安倍総理の目指す憲法改正とは何か。「本丸」は9条です》とも訴えた、この指摘に限り、私は同意する。まさに「本丸」たる9条の改正こそ、安倍政権にとって最大の使命であろう。 先の「アベノミクス解散」総選挙では、集団的自衛権に関する憲法解釈の一部変更を含む「平和安全法制」の整備を正面から掲げた選挙にはならなかった。そのことが、事後いわゆる安保法制の整備にネガティブな影響を与えたと考える。私は、野党が賛成する消費増税再延期などではなく、本来、「最大の争点」たるべき憲法改正を掲げた国政選挙となることを願ってきたが、今回も、その願いは叶わなかった。  先の総選挙同様、今度の参院選でも与党は勝つに違いない。だが、勝てば官軍という政治姿勢はけっして美しくない。もとより結果も大事だが、結果に至るプロセスの適正さも重要である。蛇足ながら、そう考えるのが正統的な保守思想でもある。

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    アベノミクスは半分しか成功していないことがバレてしまったぞ

    うべきであったことは当然のことなのです。また、どうして消費税が上がらないか、という点に関していえば、アベノミクスの失敗だ、という野党の追及は一定の説得力を持ってしまいます。 私も何度も指摘していることですが、アベノミクスは前半は絶対にうまくいっています。これは皆さん、疑わないで大丈夫です。事実、GDPもかなり上がっているでしょ?それに伴って税収はどれだけ上がっています?順調そのものでしょ? アベノミクスは方向性は間違っていないんです。最初の段階では。でも、続く場所が悪い。 これも何度も指摘していることですが、安倍政権の最大の欠点は2つだけしかなくて、一つは少子化対策。馬鹿の一つ覚えの「保育園を増やしましょう~」政策。私のコラムで何度も指摘している通り、保育園ごときで少子化は改善できません。これは19年も前に世界で行われた調査で明らかになっています。日本ではバカフェミニストたちが握りつぶした情報ですが、保育園を増やしてもイクメンを増やしても 働く女性へのゴマすり しかなりません。少子化は改善できません。結果は出てるでしょ?早く気づけよ、厚労省のアホども。 そして、もう一つが「地方創生対策」です。あまりに稚拙。幼稚園のお遊戯状態。何にも結果が出ていません。 国の経済を改善するための根本的処置って、実はこの2つをかなりドラスティックに改革しなければ出来ないようになっているんです。説明すると長すぎて面倒くさいけれど、とにかく、アベノミクスって、人間の体で言えば、 相当に病に侵されている人間にまず、モルヒネまでは打ちましたよ、と。 で、何とか動けるようにまでしましたけれど、アーダコーダと言い訳しながら「手術に踏み切れない根性なし」状態なのです。 なので時間が経てば経つほどバレてくるんです。「今のままじゃあ経済って回復しないんじゃね?」って。 以前のコラムで指摘した通りで、日本の経済は20年は最低でも回復しません。絶対です。それをちゃんと踏まえた対策を打たなきゃいけないんですけれど、その為には「日本人は間違えたんだ」「失敗したんだ」 とちゃんと厳しく指摘しなきゃいけないんです。「俺たちはバカだったんだ」と。 そして、その上で、老人にばかり垂れ流しになっているお金を奪い取って若者の「子育て世代」に注入しなければいけない。お年寄りはみんなゲロ吐きますが、無視してやらなきゃいけない。東京にばかり流れている金も物も全部奪い取って地方に流さないといけない。東京に土地もってる人は泣き叫びますが、それも断行しなきゃいけない。そうしないと日本って回復しないようになっています。 さて、安倍政権の経済政策が中途半端で止まっていることは完全にバレました。岡田さん以下がダラシナサ過ぎるので今回の参院選は救われるでしょうが…次は持つかな…?応援している人間としては、なかなか心配の尽きない2016年後半と言えそうです。

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    消費再増税をすればアベノミクスの息の根はとまる

    党議員がわが党に「けしからん!」と怒鳴り込んできたそうだ。私は野党議員だから、読者のみなさんは私が「アベノミクスは終わった!」と金切り声をあげて批判すると思われるかもしれないが、そうではない。エコノミスト出身の議員として、ここは理路整然と、アベノミクスと現下の日本経済の問題点を説こうと思う。 一番強調したいのは、わが国経済の将来を考えれば、消費税再増税はとめる以外の選択肢はないということだ。増税を強行すればアベノミクスは、「生活者の消費」という最大の基盤から崩れ落ちるだろう。 ありがちな『アベノミクス崩壊論』は、最近の個人消費の剥落への消費増税の悪影響については目をつむり、原因を日銀による「異次元の金融緩和」の副作用に押しつけるものだ。たとえば、金融緩和をしても、日本経済の「経済の実力」というべき潜在成長率が上がらないからダメなのだという「量的緩和は偽薬のようなものだ」とするもので、主に財政を切り詰めることしか考えていない霞が関官僚からくる批判だ。私は黒田日銀総裁にはあまり高い評価ができないのだが、彼を含む政策担当者はだれも金融緩和で「成長率の天井」や「経済の実力」を上げようとしていない。だから、実はこの議論はまったくあてはまらない。それゆえ与党にとってもまったく痛くもかゆくもない批判だ。12月26日に政権発足3年を迎えるにあたり報道陣の取材に応じる安倍晋三首相=2015年12月25日、首相官邸 実態はこうしたありがちな批判とは逆だ。金融緩和は2013年春以来、なんとか機能しているのだが、2014年4月からの消費増税が原因となって国内で深刻な消費不況が起きてしまった。だから来年4月の消費税の再増税などもってのほかだということが事実だ。 まず、私自身の立場をあきらかにしよう。私は民主党内で政権交代直後の2010年3月に「デフレ脱却議員連盟」を事務局長として結成し、そこで「量的緩和と2~3%程度のインフレ目標の実現」を提唱していた。また、党内の消費税論議では「消費増税を慎重に考える会」の事務局長として、景気が悪くなると予想されるときには消費増税を延期できるという「景気条項」を法案の中にいれるために活動をした。もともとは、経済企画庁やOECDなどで景気動向指数作成や、経済対策の取りまとめなどの仕事をしていた霞が関の役人であった。 さて、アベノミクスをどう評価するのか、この間の経済の動きをみてみよう。経済は、金融緩和に伴う円安がもたらした「円安メリット」で回復した。政府が景気動向指数に基づいて世界的に標準化された方法で定める「景気の谷」(最悪期)は2012年11月。これはちょうど円高が終わった月だ。そこを境に景気が回復しつつある。有効求人倍率、失業率などの雇用状況も改善している。株価にしても、日経平均はいまでこそ世界経済の混乱を反映して1万7千円台をきっているが、昨年夏には15年ぶり2万円に乗せた。これはわが国経済のためにまずは喜ばしいことだ。 やはり債券を主に買い入れ、株式を含む実物資産に民間資金をシフトさせる日銀による金融緩和の力は大きかったというのがすなおな評価だろう。少し以前の話だが、主要122社に対して行われたアンケートでは、安倍政権に対する政策評価の中で最高評価を受けた項目は「金融緩和」だった。われわれが民主党デフレ脱却議連として再三提言したとおり、民主党政権でこの政策を実現していれば、わが国経済の回復はより早かった。この間に失われた国富は少なく見積もっても10兆円以上の莫大な損失となるだろう。慚愧に堪えない。 では、国会で今の野党が政府に対して行っている批判は、全部まとはずれなのだろうか。そうとはとても言えないのだから物事は複雑である。 今、景気がいいというのは半分本当で半分ウソなのだ。確かに従来からの景気動向指数で測れば明らかに景気はよい。雇用も堅調。しかしこれは主に製造業中心に生産する側である企業の好不況をとらえた指標だ。サービス業の動きはこうした指標ではとらえきれない。そしてまた製造業は、のちほど述べるが国内で空前の「消費不況」がおきていても、輸出によって大幅な利益を生むことができる。だから企業の生産が順調であることだけ見て、「日本経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は良好」などと政府がうそぶいている余裕はない。 ここで目を転じて、個人消費を見てみたい。実は2014年4月からこのかた厳しい「消費不況」が続いている。もちろんその原因は、その月から行われた消費税の5%から8%への引き上げである。 消費税は、本来、消費に対するペナルティである。消費税は最終的に消費者が負担するものである以上、その最大の悪影響は消費者がこうむることになる。だから消費税再増税はとめなければならないし、同時に消費へのてこ入れが絶対に必要となるというのが私の結論だ。空前の「消費不況」の実態空前の「消費不況」の実態 私が、消費税再増税に反対する第一の理由は、2年前の消費増税がすでにサラリーマン・消費者のふところを直撃し、賃金が目減りしてしまったことだ。 まず、今、日本を覆っている「消費不況」がどのようなものであるかを述べよう。今、特に自動車、住宅、家電などの耐久消費財が国内で売れなくなってしまった。 105円出して買えていたものが増税で108円出さなければならなくなった。その一方で、われわれの給料はどうなったのだろうか。いい例を挙げよう。昨年2015年の春闘で、日産自動車は大手製造業最高の賃上げを記録した。そのベースアップ(基本給の賃上げ分)を含む1人当たり平均賃金改定額は1万1千円、年収増加率は3・6%。しかしベースアップ分だけなら、月5千円であり、2%を切る。他にも物価上昇が起きている中で、これでは消費増税分すらまかなえない。大手最高の賃上げでもこういう状況だ。日本中のサラリーマンの給料が実質的に目減りをしてしまったのだ。これが「消費不況」の原因だ。 データで見てみよう。増税から一年半以上たった昨年10~12月期の実質GDPは前期比0.4%減。個人消費が同0.8%減で年額換算額304兆円。これは消費税引き上げ直後の14年4~6月期の305兆円をも下回ってしまった。 もっと細かく「消費者が使うお金(個人消費支出)」をみる。総務省「家計調査」をみてみよう。(表参照)この統計は、全国約9000世帯を対象に、家計簿と同じように購入した品目、値段を詳細に記入させ、毎月集めて集計したものだ。増税から一年半以上たっても消費税引き上げ直後の“反動減”の時期に当たる4月95.5、5月92.5とほとんど変わらない。特に2015年11月は91.8と増税後最悪を更新した。グラフを見ていただければ、L字型となっていて、数値が底ばい状態であることが判るだろう。これは反動減などではなく、構造的な減少だとしか考えられない。 今、国会では来年度予算が審議されている。霞が関によるマスコミや政治家への根回しもさかんだ。最近のはやりの言い回しは「消費増税からもうすでに二年たっているので、反動減の影響は終わった」とするものだ。また、最近の個人の消費の弱さは、経済財政担当相によれば「記録的な暖冬が原因で、景気の先行きは緩やかに回復する。」としている。「暖冬だから冬物衣料などの季節商品がうれない」というのだ。 騙されてはいけない。彼らは国内の消費に大きな変化が起きているのを覆い隠そうとしているのだ。前に書いたとおり、私も旧経済企画庁出身でエコノミストの末席に連なっていたのだが、昔から天候不順を景気が悪い理由にするときはほとんどがこじつけだった。今回も決して例外ではない。それとも政府は消費税増税後一年半もずっと気候不順だったとでもいうのだろうか。 こうした弱い消費の動きは、来年4月の消費税再増税を織り込んでいるのかもしれない。重ねての消費税引き上げは、わが国消費者を奈落の底に叩き落とすことになりかねない。ここでは論じないが軽減税率は低所得者対策になるどころか、高所得者優遇であることはすでに明らかになってきている。われわれが地元活動の途中で吉野家によって、牛丼並盛380円を注文してもそれは消費税10%、その一方で100グラム数千円する高級牛肉は軽減税率の対象となって税率が低いというのは本末転倒、極めて不公平ではないか。 だからこそ私はいち早く『軽減税率の導入を前提にした消費税再増税には絶対に反対』であると、与党が反発する中でも唱えているのだ。景気条項:自公政権の増税判断のミス景気条項:自公政権の増税判断のミス 自民公明政権、財務省や一部の学者は2014年4月の消費税8%への引きあげ前に『消費増税は景気に悪影響がない。一時的な反動減はあってもすぐ元に戻る。なぜなら増税で社会保障が安定化するので消費を下ざさえする非ケインズ効果が働くから。』としていた。この非ケインズ効果とは、われわれの常識とは正反対に、財政削減や増税が景気にプラスの影響を与えるとする現象である。ただし、過去のほんの一時期に北欧の小国でそういう現象が起きたことは確かだが、本当に日本でそういう効果がおきる可能性があるのかどうかは極めて疑問だ。実際に、当の財務省官僚に「今後の日本で非ケインズ効果がでると思いますか?」と党内の部門会議などでたずねても、「そうだ」という明快な返事がもどってきたことはない。彼らも保身に巧みなので、表の場ではしっぽをつかまれないようにしていて、目の届かないところで自分で考える力のない政治家たちに盛んに振り付けていたことは明らかだ。 私は6年前の私自身の参議院選挙でも、菅直人総理が、なんら党内手続なしにいきなり「消費税の増税が必要です。」と発言し、増税に前のめりになる中、「景気が悪い状況での消費税増税は経済に大ダメージを与える」と反対を明言した。暑い夏の選挙戦の中で有権者に訴えかけたときから、私の考えはまったく変わらない。給料が伸びない中での増税は悪であることは現在のヨーロッパの例を見るまでもない。 消費増税法には成立当時、通称「景気(判断)条項」があった。これは民主党政権時、党内の法案審議のなかで、「デフレ不況から脱却していない今はまだ消費増税をすべきではない」と考えたわれわれが、当時の前原誠司政調会長に直接申し入れるなどして採用させたものだ。 その内容は、「一年間の名目経済成長率で3%程度かつ実質経済成長率で2%程度の経済成長を目指し経済運営を行う」ことと、消費増税を決定する前に「経済状況などを総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」ものだ。つまり、景気がよくないと判断される場合には、増税を見送るという仕組みだった。 この数値目標は、名目成長が実質成長を上回るという形にもなっている。つまり、デフレ脱却が増税の前提となっていた。実は、われわれが党内で提案したときには、この経済成長率を満たすことを「条件」にはじめて増税できるとするきわめて拘束力が強いものだった。その後、当時の政府・執行部の反対で、「条件」ではなく、「努力目標」になってしまったが、この「景気条項」が本来の趣旨に沿ってその当時の政権担当者によって運用されれば、デフレ不況下での増税は避けることができたはずだった。このことは、その後2014年11月18日に行われた安倍総理の解散表明記者会見で「社会保障・税一体改革法では、経済状況を見て消費税引き上げの是非を判断するとされています。今回はこの『景気判断条項』に基づいて、延期の判断をいたしました。」としていることでも判る。増税を停止することができる法的効力を持つことから、マスコミからは「増税派への時限爆弾」と言われたこともあるが、まさにその名称通りの働きを前回果たしたことになる。 この自公民三党協議でも、現在の私の消費税再増税凍結の提案に対してと同様に与党からの反発が厳しかった。「法律で時の政権の判断を縛るべきではない」というのが自民党側からの反論だった。しかしそれは建前であり、「経済の状況がどうであろうと増税をしたい」というのが本音だったのだろう。残念だがわれわれの力が及ばなかったことはお詫びするしかない。しかし2013年秋、そして2014年秋、総理官邸にエコノミスト、学者、団体関連の代表などが集められて行われた、増税の賛否をヒアリングする「消費増税点検会合」が開かれたのも、この「景気条項」の縛りがあったからである。 ノーベル経済学賞学者であるクルーグマンもこう指摘している。彼は、2014年11月、マスコミによるインタビューに答えて「私としては『インフレ率が2%程度に達してから引き上げる』といった条件付きの延期の方が望ましいと考えるが、そうした可能性がないことも理解している」と述べた。彼が述べたこの「条件」こそが、まさにわれわれが提案した「景気条項」の本来の姿である。 しかし、2015年3月31日、税制改正法が可決成立し、われわれが心血を注いだ「景気条項」は廃止されてしまった。それにしても安倍総理はなぜ「景気条項」を霞が関の要求に屈して唯々諾々と削除してしまったのだろうか。「景気条項」があったからこそ、霞ヶ関に対して交渉力を維持できたのではなかったか。『いつでも増税を止められるんだぞ。』という脅しがなければ相手に言うことを聞かせることができなくなるはずだ。今、野党側からは、まさに野党5党の共闘によって、政府与党に対して『景気条項』の復活要求をすべきだ。復活すれば今の消費不況では消費再増税は中止するしかなくなる。これに応じなければ自公民三党合意を与党が破棄したことが再度明らかになる。民主党は三党合意が守られないのだから、晴れて堂々と増税に反対できることになる。 なお、「消費増税を決定したのは民主党」と宣伝なさる与党びいきの方がいるが、2012年6月15日の自公民三党協議合意文書「税関係協議結果」をご覧いただければ、増税は「その時の政権が判断すること」と明記してある。つまり前回の消費増税は「自公政権が引き上げの判断を下した」ということだ。実際に安倍総理も2015年2月5日の参議院予算委員会での私の質問に対して、「今回の消費税の引上げでございますが、もちろん、最終的には私の判断で引上げを行ったところでございますが、(以下略)」と答えている。財源は「自然増収」でまかなえる財源は「自然増収」でまかなえる 皆さん方の中には、消費税再増税をしなくて一体、国の財源は大丈夫なのかと心配される方もいるだろう。安心していただきたい。日本経済の中で調子のいい分野がある。それは企業、会社である。そこからの納税は極めて順調である。 2年前の消費増税はサラリーマンの懐を直撃した。これは先にも述べたように、消費税が最終的には消費者が負担する税だからである。一方で企業にはサラリーマンと比較すればダメージは小さかった。それどころか、金融緩和の副産物である円安ドル高はわが国企業に大きな円安メリットをもたらした。一時は1ドルが80円を切るほどの円高が、120円となった。実に5割も円安になったのである。これで輸出ができる企業、海外に子会社があるような大企業は好調となった。例を挙げれば自動車産業だ。2015年度上半期は、自動車産業大手が相次ぎ最高益を記録した。景気が回復しつつある北米市場が好調であることと同時に円安効果も影響があった。トヨタの2016年3月期の連結営業利益は過去最高の2兆8千億円となる見通しだ。少し以前の試算になるがSMBC日興証券の予測によれば東証一部上場企業の今年度経常利益は28.9兆円。これは史上最高益を昨年度に続き更新することになる。実際には、世界経済の混乱の影響が出るだろうが、国内の消費の動きに比べれば、ほぼ史上最高益に近い状態にある法人企業分野は経済的に恵まれていると表現して問題はないだろう。 だからまず財源は、「好景気の企業からの法人税」などの税収を中心とした、いわゆる「自然増収」を頼りにすべきである。安倍総理がよく「10兆円国債の新規発行額を減らした」と発言するが、この約半分が消費増税分、のこり半分が自然増収分だと考えられる。法人税は基本的に赤字企業は納税しない。景気回復に伴う大手企業の業績回復で法人税収は経済成長率をはるかに超えて大幅に増加するのだ。 実際に、政府の試算によると、これまで消費税率を10%にすることが赤字半減の大前提だったが、円安、株高、大手企業の業績回復で法人税収は大幅に増加する見込みとなることから、いわゆるプライマリーバランス(財政の基礎的収支)は消費増税延期でも赤字半減が達成可能だという。もちろん中国経済の急減速、新興国経済の不振は今後、わが国の輸出に影をおとすことだろう。世界の景気が回復しないことは政府の責任ではないが、わが国のGDPにしめる比率が約17%である輸出をはるかに超え約56%を占める生活者の消費が消費増税で打撃を受けている今、政府とるべき経済政策の第一は、まず消費税再増税をとめるアナウンスではないだろうか。逆走する経済政策 金融緩和は成功したが、消費増税が今の「消費不況」の原因となっていることを述べた。ここからは公平の観点から現政権の政策は誤りであり、政策を転換して消費不況対策として「国民のための金融緩和」を行わなければならないことを述べたい。 ここまで説明してきたように、「企業は調子がいいが、消費者のふところ具合が問題」というのが今のわが国の経済だ。こういう状況でとるべき政策はただ一つ、「所得の再分配」だ。つまり企業から法人税、社長や役員のみなさんから所得税としておさめていただいた税金を、教育、子育て、社会保障といったわれわれサラリーマン・消費者にとって役に立つ分野に活かすことが、景気回復の手段としても絶対に必要となる。 しかしアベノミクスの欠陥は体系だった所得再分配政策がないことだ。私を含めて何回も国会質疑で取り上げているはずだが、政府は所得再分配にはかなり否定的だ。 それらしい政策も最近少し見られるようになったが、残念ながらすべてが付け焼き刃だ。 現政権は法人実効税率を現行の32.11%(標準税率)から2%強引き下げて20%台とすることを決めた。「法人税20%台は世界標準だ。世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します。」と胸をはられても、一方で、われわれ消費者に対しては消費税増税というのでは困る。しかし、それが実際の政府与党の方針だ。これはどう考えてもサラリーマン・消費者にとっては不公平なやり方だ。改めなければならない。消費税再増税をとめることはその第一歩ともなる。同時に「所得再分配政策」(教育・子育てや給付金、賃上げや低所得者層への直接補助など)が必須だ。 もう一つの財源は国債発行だ。「国民のための金融緩和」を実現しなければならない。日銀のいわゆる「マイナス金利」政策や、国債金利がマイナスになったことなどを財政破綻などとかんちがいしている人も多い。しかし、実際は、「国がほとんど金利をつけなくても借金できるようになった」わけである。日本経済が異常な状態であることにはかわりないが、起きた現象でいうならば、いくら高い金利をつけても国債が売れなくなってしまう状態である財政破綻とはまったく正反対のことだ。日本経済の根本的欠陥は、実は企業が、能力増強などの設備投資も従業員への賃上げもせずお金をただ貯蓄に回していることなのだ。いわゆる内部留保がどんどん貯まる現象がこれの結果だ。このままだと国内で誰もカネを使わないので、政府は国債を発行して銀行を通じてカネを吸い上げ、景気対策などで民間のかわりにカネを使って、国内の需要を下支えしている。政府が財政赤字になったのはその結果。企業が積極的にカネを使わないという構造があるかぎり、政府が国債を発行しないと、日本経済自体の回転自体が止まってしまう。例えば、企業が銀行に預金しても、貸出先がなければ利息が付かなくなってしまう。 今起きていることは、世界経済の混乱によるリスク回避先として円が買われていること、つまり国債が投資家から大人気になっているという意味だ。その結果、国債がマイナス金利となった。ここは日本政府としてはありがたく国債を新たに発行し、これまでどおり日銀に市場から買い上げてもらって長期間保有してもらうのがトレンドにのった対処法だ。日銀が持っている間に償還期限を迎えた国債は、政府から日銀に元本が支払われる。日銀はいくら利益をあげても法人税は取られない。そのかわり、日銀は広い意味で政府の一員なので最終的には政府が日銀に支払ったカネはその95%が国庫納付金という形で政府にもどってくるから心配はいらない。これが今採るべき政策、「国民のための金融緩和」だ。 長期国債の金利はわが国史上初めてマイナスとなった。もし政府がマーケットのシグナルを重視するならば今、借金しなくていつするのか。市場は「どうか国債を発行してカネを借りてくれ」と切実なメッセージを発しているのだ。まさに国からすれば絶好の借りどきだ。そこでこの際、十数兆円の単位で超長期国債(仮称で教育・生活扶助国債とする)を発行して特に低所得者の子弟を意識した教育の基金としてはどうか。子どもの教育は社会的意義も大きく、また利回りが8〜15%とされる。このチャンスに格差是正の資金を調達するのだ。長期金利の指標となる利付10年国債が、史上初めてマイナスになり、一時マイナス0.025パーセントに低下。日経平均株価も終値の下げ幅は今年最大となった=2月9日、東京都中央区 繰り返すがこれは国内でお金を借り入れて事業を拡大しようとする企業がないことから起きている異常な状態であることは確かだ。しかし、これは将来の展望が開けず景気が悪いことから起きている。この状況で財政危機への対応を優先する人は政策の順番がおかしい。 今の日本に必要な経済対策はなにか。まずは日銀による追加緩和。次に、三党合意を無視して削除された景気条項を復活させ、それにもとづいて消費税再増税をとめること。さらには家庭の消費不況対策を最優先し、教育・子育てや給付金の形で低所得者層への所得再分配をめざす、10兆円以上の国債の新規発行を伴う経済対策だ。先に述べたように、国債の増発を伴わない形での経済対策は、今の状況ではナンセンスだ。 今年1月の総額3.3兆円の補正予算は、2014年度から消費税の8%引き上げにあわせて支給されていた子育て世帯への給付金をスクラップ財源とすることによって編成された。なぜこんなことをするのだろうか。 今、日本の子どもの6人に1人が相対的に貧困とされ、そのうちひとり親家庭の貧困率は50.8%と先進国で最も高い。日本の母子家庭の問題は特異だ。他の先進国の母子家庭は福祉の対象になっており無職というのが典型的だが、わが国ではほとんどのお母さんが働いている。それにもかかわらず貧困状態にあるのは彼女たちが非正規、低賃金で働かざるをえないからだ。わが国が先進国であるのならばこうした状態の解消にはぜひ力を入れなければならない。また、困窮家庭の学童に給食費や学用品費を補助する「就学援助」を利用した小中学生は約150万人で過去最高レベルだ。しかしその国の予算はわずかに年間8億円。こうした子どもの貧困対策にも更に予算を投入すべきではないか。 その一方で、低所得年金受給者へ3万円を給付することを決めた政府与党。低所得年金受給者に対する給付を頭ごなしに否定するつもりはまったくない。が、なぜ子育て世帯はその犠牲にならなければならないのか。すべての政策の財源をスクラップアンドビルドで求めようとすることは「ペイアズユーゴー原則」といって霞が関の悪しき習慣だ。確かに投票率でいえば子育て世帯より高齢者の方が高い。が、政治家の決断がそんなことに左右されていいのか。新規国債を発行して両方とも給付するという選択肢を検討すべきではなかったか。 国債発行をともなう補正予算を組んで、こういう人々のために使うことができる。発行した国債は、現在の「異次元の金融緩和」政策を日銀が続けている限り、市場から日銀が買い切りオペとして買い入れることになる。 低所得層こそお金に欠乏しており、需要を作り出すという面での景気対策としての効き目も大きくなる。また、「企業が高い利益を上げているのに、なぜ国内で設備投資が出ないのか」とよく議論されているが、国内需要がこれだけ弱ければ国内で設備投資が行われる(=国内の工場のラインを増強する)わけがない。低所得者層への給付は、それ自体が社会的に善であると同時に、まわりまわって日本全体の景気をよくするための最初の手段であるべきだ。財政再建への早道とは財政再建への早道とは では、財政再建をどうするのか?国の財政再建を考える上で、有害な議論は、財政を家計に例えることだ。あなたのお宅にはお札を刷ってくれる銀行はないだろう。しかし、国には発券銀行である中央銀行があり、金融政策が行える。これは本質的なちがいだ。 クルーグマンも緊縮財政を批判するコラムでこう書いている。「(ギリシャ危機によって)本当にユーロがダメになったら、その墓碑にはこう記されるべきだ。『国の負債を個人の負債になぞらえるというひどいたとえによって死去』と。」家庭では節約が有効だが、国の経済全体としては、合成の誤謬という問題があり節約は解決策にならない。だからこそ財政・金融政策で介入するというマクロ経済のマネジメントが必要となっている。 ではどうするのか。これは簡単なことで、難しい最新の経済理論は必要ない。「景気が十分立ち上がるまで、財政も金融も引き締めないこと」の一言につきる。1997年の橋本増税も、2000年の日銀によるゼロ金利解除も、2006年の量的緩和終了も、2014年の消費増税もすべてが早すぎる政策の引締めであり、防げたことだった。金融政策決定会合を受けて、記者会見する日銀の黒田東彦総裁=3月15日、東京都中央区 私も財務省の官僚に、『増税は絶対ダメだといってるんじゃない。景気がよくなってから、つまり豚は太らせてから喰えといっているんだ。』といつも言っている。それでもまったく反応はないのだが、彼らは経済成長しても税収は増えないと本気で考えているのだろうか。 増税しても景気が悪くならないなどという夢物語に基づく財政再建計画ではなく、具体的にここまで述べた最近の世界の金融やわが国の経済情勢をふまえた戦略を作る必要がある。そしてそうした戦略はこれまでみてきたとおり霞が関からは出てくるはずがない。だからこそ、消費税再増税回避にあわせて、財政再建戦略を見直し、信頼するに足る戦略を策定することが必要だ。これまで1997年の橋本増税の時代から20年間繰り返されてきた増税のみによって財政再建を実現しようとする試みは失敗の連続であったことを認め、かつてわれわれ民主党デフレ脱却議連が行った提言にあるような経済成長を優先する財政再建戦略に切り替えることが必要だ。  増税しなくても大丈夫だと書いた。増税回避をしても国債の信認は損なわれないのか、金利は上昇しないのか、疑問に思う方も多いだろう。 前回の2014年の例をみてみよう。増税の判断時期がせまるにつれて、霞が関の息がかかった人々が「消費増税は国際公約。延期なら国債の信認が失われ、長期金利が上昇し、さらなる円安も」などと発言しはじめた。ところがときに増税延期の観測が流れ、ときに予定通り実施の噂が出ても、国債や為替市場はまったく反応しなかった。本当に国債市場が増税延期をマイナス要因として受けとめていたならば、市場は報道に一喜一憂したはずであったにもかかわらずである。逆に、増税延期の立場にたつ内閣官房参与の本田悦朗静岡県立大学教授は、10月に入って欧米で接触した約70社の機関投資家の7割弱は、消費増税を延期しても国債の信認に問題はないとの見方だったと発言していた。本田氏によれば残りの2割程度について、増税を延期する場合の国債の信認に関し「自分は心配しないが、他の市場関係者の見方が心配」とのことだったという。もちろん増税延期が決定されても国債価格は暴落しなかった。消費増税は国際公約だと主張していた人々が、今に至ってもこういう現象に対してきちんとした説明責任を果たしたという話は聞かない。この件に関してはやはり増税に反対したわれわれの議論が正しかったということだろう。その後も順調に国債金利は低下(=国債価格が上昇)し、現在、長期国債の金利がマイナスになっている。今も、増税延期の噂が出ているが、金利は上昇などしていない。つまり杞憂に終わったわけである。「国民のための金融緩和」を実現しよう! 数々の世論調査の結果をみても、野党は「国民のための金融緩和」つまり「金融緩和プラス所得再分配」というスタンスをとらなければ与党には歯が立たないだろう。とはいっても一般の理解は、「金融緩和政策=金持ち優遇」というくらいのものでしかない。これは的外れの理解だ。なぜか。資産家でもなく不労所得がなく、働く以外に収入を得るすべのないわれわれにとっては、金利を引き下げることによって景気を刺激する金融緩和には大きなメリットがある。かりに金利が高くなったとしても、それはすでに銀行預金をもっている人にとっては受け取る利息が増えてメリットがあるだろうが、一文無しの人間にはメリットはない。むしろ景気が悪化することによって、働いている会社の売上げや収益が落ち、受け取る毎月の給料も下がるだけだろう。金融緩和政策が欧米では労働者陣営の政策であることもこうした性質が原因だ。 今、民主党を中心とした野党再編の真っ最中だ。私も民主党神奈川県連の代表として少しでも有権者の皆さんに期待していただけるように力を入れている。そこで新党に対して提案だが、昨年、コービンという新たな党首が選ばれた英国労働党が、スティグリッツとピケティをブレーンにすると発表した。新党もこれにならって、御用学者などではなくクルーグマン、スティグリッツなど海外の経済学者を招いてアベノミクスなどものともしない経済財政戦略を作ってはどうだろうか? 新しい野党第一党の党首は、自分自身のプリンシプル、思想を持っていなければならない。霞が関の言いたいことをオウム返しにするような人間では絶対ダメだ。そしてそうした人の考え方に国民の間に共鳴現象が起きてはじめて野党は再生できるのではないかと思う。その最初の一歩となる政策が、「消費税再増税はとめよう!『サラリーマンへの不公平税制』をなくそう!」ということだと私は信じてやまない。

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    日銀は失敗を認めるべき 決断求められる安倍首相

    場機能を破壊するマイナス金利の二本立ての金融政策が、精査されることなく延々と継続される可能性は高い。アベノミクスの結果を直視するアベノミクスの結果を直視する 昨今の安倍政権の立場は、経済問題は日銀に任せておくという、一見日銀を信頼しているように見えて、実は責任をすべて日銀に追わせようとする、逃げの姿勢である。財政出動の余力がなく、面倒な規制緩和への意欲を失っているからだ。そして経済ペースの低迷の原因を、中国経済や原油市場など外部要因に押し付けている。 いま必要なのは、政府が3年間のアベノミクスの結果を真摯に直視し、過ちを認めて経済政策を転換させることである。具体的には、日銀の迷走を止めること、財政政策に知恵を絞ること、そして規制緩和へのエンジンを再開することだ。民間では、金融機関がマイナス金利の時代に見合った新しい融資手法を開発することも必要である。 日銀に関しては、インフレ目標を長期的な目途に戻し、その数値や期限に関する固定的な概念を放棄して、金融政策の自由度を取り戻す必要がある。それを黒田総裁に強く要請出来るのは、アベノミクスの責任者でありかつ日銀総裁を任命した責任者でもある安倍首相以外にいない。日銀のマイナス金利がスタート。黒田総裁の異次元緩和策は三度目の正直となるか 株式市場や為替市場は一時的に動揺するだろうが、現行政策を続けたとしてもいずれ市場は大きな衝撃に見舞われる可能性が高い。それは、アベノミクスが当初から胚胎していた必然の代償でもある。傷は早いうちに治療した方が賢明だ。 また、財政赤字削減が急務の日本に財政政策発動の余力は小さいが、既存国債を超低金利の超長期や永久債などに借換えしたり、GDP連動利子の永久国債発行で成長分野へのファイナンスを支援したりすることは出来るだろう。先進国の財政問題の本質とは、新興国と違って元本のGDP比ではなく、歳出に占める利払い費用の割合であるからだ。民間金融にも必要な逆転の発想 GDP連動利子の永久国債とは、株式に似たいわば成功報酬型の債券であり、民間金融機関の融資にもその方法は応用可能である。足許は厳しい環境にあるが将来性の見込める企業に対し、当初はゼロ金利を適用し、業績向上に応じて配当型の金利を支払ってもらうことを融資条件とすればよい。成長資金供給体制として、必要があれば政府がその元本の一部を保証するような手法も検討し得るだろう。 マイナス金利の世界は、まさに鏡の国の世界であり、民間金融にも逆転の発想が必要になる。こうしたアイデアを現実化するのは容易ではないが、現状批判ばかりでは何も生まれないのも事実であろう。転換期に直面しているのは、アベノミクスだけではない。

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    安倍内閣には「経済が、結果を出す」

    相の金銭授受疑惑の発覚が象徴しています。 安倍内閣の功績としてはTPP妥結は評価したいところですが、アベノミクスが長い目でみれば駄目でした。異次元の金融緩和で円安誘導し、株価があがって、為替で大企業が未曾有の利益をあげた。それで宴となりました。 そこまでは良かったのですが、その擬似好景気によって、ほんとうの課題であった産業構造の転換が遅れる結果になったように感じます。しかもお題目としては切れ味がよくない「一億総活躍」を唱えたのですが、でてきた政策はがっかりするものが多かったのではないでしょうか。2月12日の日経平均株価は終値が1年4カ月ぶりに1万5000円を割り、円高も進んだ=東京都港区 アべノミクス第二弾も、総花で、これといった経済政策の目玉がないままに、中国経済の減速、原油安が引き金となり、株価の下落、さらに円安から円高へと流れが変わりました。アベノミクス効果は足元から揺らいできています。運もツキも尽きたの一言ではないでしょうか。 つい最近、不要な書籍を処分しようとしていたら、高橋洋一氏の「アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる」がありました。今からすれば、まるでブラック・ジョークです。 日本の経済停滞は「デフレが原因だ」とう風説がメディアを支配し、経済停滞という原因とデフレという結果を混同した話がまことしやかに広がっていた頃の一冊でしょうか。その頃は、異を唱えると「それはデフレ容認だ」とまるで魔女狩りのような状況になっていました。 高橋氏にかぎらず、リフレ派の人たちは、日本経済大躍進とならかったのは、消費税をあげたからだということのようですが、本当にそうなんでしょうか。俄には信じられないことです。残念ながら、経済に関しては、昨年秋の予感どおり、いやそれよりも思わしくない展開になってきたようです。 安保法制は数の論理で成立しても、経済はそうはいきません。ほんとうの力量が問われてきます。さて起死回生の手を打てるのか、なすすべもなく経済が減速し、内閣が失速するのか、安倍内閣に残されている時間の余裕は少ないのではないかと思います。  安倍内閣は残念ながらもうすぐ失速しそう いずれにしても、安定していることが最大の取り得だった安倍内閣ですが、足元の経済が思わしくなくなれば、自然、やがて支持率も下がってくるでしょう。自民党が掲げた「経済で、結果を出す」どころか安倍内閣の寿命は「経済が、結果をだす」ことになりそうです。 ただ、自民党は小選挙区制で党内にリーダーが育ってくるメカニズムを失い、頼みの野党も、いつまでも過去の時代のパラダイムから抜け出せず、混迷したままで、安倍内閣に代わる政権リーダーが見当たらないために、安倍内閣の黄昏状態が長く続くのかもしれません。それはそれでも、次世代のリーダーなり、新しい改革の芽が生まれ、育ってくる状況ができればいいことです。 ただ、実体経済を変えるのは政治ではなく、民間の知恵や努力です。政治ができるのは、そんな民間の知恵や努力を引き出すためのビジョンを示すことや、日本が世界経済のなかで勝ち残るための戦略を示すことではないでしょうか。 もはや政治や官僚で経済が動く時代ではなく、ビジネスも、政治で左右されるというのはよほどの大企業か、利権ビジネスぐらいなものです。それぞれが、やるべきことをやる、チャレンジするものが報いられるという時代の空気が広がっていくのがいいと感じます。(2016年01月22日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)

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    結局よく分からない…いきなり不評の「1億総活躍相」って何?

    安倍首相が自民党総裁に無投票で再選された9月24日の記者会見において、出てきたものです。安倍首相は「アベノミクスは第2ステージに移った」として、「ニッポン一億総活躍プラン」というものを提唱しました。現在490兆円である名目GDPを600兆円にするという目標も、同じタイミングで発表されたものです。拉致問題解決の重責も担う加藤1億総活躍相 安倍首相は「誰もが家庭で、職場で、地域で、もっと活躍できる社会を作る」と述べています。このキャッチフレーズを実現するための担当大臣が1億総活躍相ということになると考えられます。 しかし、今のところこの大臣がどのような仕事をするのかはっきりしたことは分かっていません。野党は、何をする大臣なのか分からないと批判していますが、なんと身内からも疑問の声が出ています。石破地方創生相は「最近になって突如登場した概念だ」とし、国民の中に戸惑いの声があるのではないかと語っています。また、二階総務会長は「あんな大臣」とまで言ってしまいました。講演会の場での発言ですから、多少、ジョークのような意味合いがあったと思われますが、何をするのか分からないという疑問が与党内にも存在していると露呈してしまった格好です。 1億総活躍相に就任した加藤勝信氏は「多岐にわたる政策を総動員する」としていますので、大臣本人も十分に範囲を絞り切れていないようです。ただ、重点項目として、子育て支援や高齢化対策を掲げたほか、安倍首相が記者会見で述べた社会保障の問題や、GDP600兆円の実現にも言及していますので、想定している政策は幅広いと考えられます。13日には、誰もが活躍できる社会づくりについて有識者が話し合う「国民会議」を今月中に開催すると発表しました。社会保障政策や経済政策については、明確に担当官庁が決まっていますから、やはり子育て支援や高齢化対策などが担当業務となる可能性が高いでしょう。 そうなってくると、やはり気になるのが、地方創生相や女性活躍相との重複です。両大臣が担当する業務とはかなりの部分で重複する可能性が高く、このあたりをどう切り分けるのかが課題となりそうです。ちなみに女性活躍相は加藤氏が兼務していますから、担当大臣という意味ではあまり混乱はないかもしれません。ただ組織が二重になってしまうと、調整に時間がかかり政策実行のスピードが落ちる、二重に予算配分が行われムダが発生するといったリスクもあります。(The Capital Tribune Japan)

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    「一億総活躍」私は同じことを言っちゃって、実現させました!

     第3次安倍政権が発足しましたが、総理が掲げた「一億総活躍」という言葉を巡って議論があるようです。 「一億総活躍」の担当大臣を任命するほど気合いが入っているわけですが、一方、野党は当然ながら批判しています。野党の批判内容は、「中身がない」「そもそも一億総活躍っていったい何を指しているのか」などです。私も中身についてはこれからと思っていますし、今は批判の対象になるのはしかたないと思います。 自民党の二階俊博・総務会長さえも別の大臣を前に「あんな大臣にならなくて良かった」と言っていますし、同じく石破茂・地方創生担当大臣も「国民には、なんのことでございましょうかという戸惑いが全くないとは思わない」という発言をしているほどです。 要は、誰もが「なんだかよく分からないよね」と思っているということでしょう。中田宏さん 野党議員からは「なにか戦前を思い出させるような全体主義的なキャッチコピーだ」という批判が出てるそうですが、何でもかんでも揚げ足取りで批判する野党の態度はいただけないなと思います。 この「一億総活躍」は私は言わんとすることは分かりますし、これから何をするかが大事です。 私は横浜市長になった平成14年(2002年)、施政方針演説で「民の力が存分に発揮される都市・横浜を創る」と謳いました。 ここでいう「民の力」とは、「個人」であり、「市民」「国民」を指します。また、「NPO」や「自治会・町内会」さらには株式会社や有限会社などの「会社組織」も民と考えています。 これらの民が存分に力を発揮することが出来る社会を作ることを方針として掲げたのです。 「民の力が存分に発揮される」とだけ聞いたら、何を言っているかわからないと批判されるとと思います。そこで続けて、「民」に該当する人や団体の目標実現のための活力ある社会を作るための「具体的な仕組み」について、さまざまな場面で例を挙げて細かく説明しました。 例えば、「公共」施設管理の民営化・民間委託や、NPOなどへの門戸開放、そして市民個人にも「公共」にいろいろ参加してもらうことなどで、これらの実現のための仕組みや基盤づくり、また雇用のチャンスを増やすための施策展開を実行しました。 「一億総活躍」は、私が横浜市で掲げた方針とほぼ同じ中身だと理解しています。 そしてそのためには「一億」にチャンスあふれる社会にしないとダメでしょう。 しかし、国が働く場や起業のチャンス、教育でのいろいろな学びや学問などさまざまなことを広げる、作り出すことは不可能です。 やるべきことは、国はいつも苦手ですが、しっかりと規制を緩和をして、例えば民間ビジネスを始めやすくする、学校をもっと自由に作れるようにするなど、民間自らが知恵を絞ってアクションを起こせるような社会を作ることが不可欠です。 新しく打ち出した現段階で批判されるのはしかたないでしょう。 逆にトップである総理大臣だからこそ、閣僚・内閣・行政組織を通じて各方面にチャンスを作るための仕組み作りを実現してほしいと思います。もし実現できなければ「一億総活躍」は空虚な言葉だった、結局中身はなかったとまた批判の対象になってしまうでしょう。※中田宏ホームページ「ブログ」.2015.10.12より転載

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    一億総活躍ならぬ「一億総カツアゲ」社会に私たちは生きている

    されている。自分だけが再チャンレジに成功しているのである。追いつめられる暮らし それだけではない。「アベノミクス」の恩恵などとは無縁の、圧倒的多数の人々の暮らしはじわじわと追いつめられている。第二次安倍政権になってから、貯蓄ゼロ世帯は前年比5ポイント増で31%と過去最悪の数値に(2013年「家計の金融行動に関する世論調査」)。また、15年7月に発表された国民生活基礎調査によると、「生活が苦しい」と感じている世帯はやはり過去最高の62・4%。86年の調査開始からもっとも高い数字だという。世帯ごとの平均所得も約529万円と前年比で8万円以上ダウン。特に苦しいと感じているのは「子どものいる世帯」で67・4%。高齢者世帯も58・8%が「苦しい」と回答している。 また、今年11月には厚労省が、非正規雇用率がとうとう4割に達したことを発表。学生や主婦のパートなど「選んで」非正規をしているのだから問題ない、という意見もあるだろうが、非正社員のうち、生活を支える主な収入が「自分自身の収入」という人は48%。そんな非正規の増加を裏付けるように、第二次安倍政権以降、年収200万円以下のワーキングプアは100万人増え、1100万人となった。 つまり、第二次安倍政権以降、貧困はより深刻化しているのである。「希望出生率1・8」「介護離職ゼロ」。 安倍首相はそんな勇ましい言葉も掲げる。しかし、20代、30代の非正規男性のうち、配偶者がいる割合は正社員の半分以下。非正規の年収は平均168万円。そもそも経済的に安定していないと結婚も出産も考えられないだろう。一方の正社員も長時間労働に忙殺され、「子育てなど考えられない」という声もよく耳にする。また、現在10万人にも及ぶ介護離職者をゼロにすると言いながらも、具体的な方策は何も示されていない。それどころか、今年の4月には過去最大の介護報酬引き下げを断行。介護職員不足が問題となった。 冒頭の文章では、障害者や難病を抱える人にも活躍を、と述べているが、11月、厚労省は障害福祉サービスの利用者負担を拡大する方針を発表。現在、93パーセントの人が無料で利用できているサービスが有料となる見通しだ。 一方で難病者に対しては、昨年「難病の患者に対する医療等に関する法律」(「難病対策新法」と呼ばれる)が成立した。これによって、医療費助成の対象となる疾患が56から300まで拡大され、それ自体は一歩前進と言えるものの、問題点も残った。今まで人口呼吸器などをつけている人の自己負担額はゼロだったのに対し、有料となったのだ。 「息をするだけでお金をとらないでください」 全国の人工呼吸器装着者たちや家族がそう声を上げている。「もはや貧困ビジネス」奨学金に非難 一方、若者に対してはどうか。大学生の52・5%が利用している奨学金(多くが有利子)が「もはや貧困ビジネス」と非難を受けるようになって久しいが、10月、財務省は国立大学の授業料を40万円上げる方針を発表した。これが実現すると、現在年間53万円の授業料が93万円にもなる。現在、大学生の2人に一人は卒業時点で数百万円の借金を背負っているという恐ろしい状況だが(私が会った学生の中には、1000万円を超える人も2人いた)、更に若者は借金漬けになるだろう。昨年5月、政府の有識者会議で経済同友会の前原金一氏が、奨学金の返済を滞納している若者に、防衛省や消防庁、警察庁でインターンさせたらどうか、と話して「経済的徴兵制?」「奨学金で勧誘って、アメリカの国防総省と同じじゃん!」と大きな話題となったわけだが、既に笑い話では済まされないレベルになっている。安保関連法も成立したし。 さて、安倍政権は以前から「女性の活躍」も大いに打ち出しているわけだが、こちらの事情はどうか。これについては、やはり「女性の活躍とか言いながら派遣法を改悪した時点でアウト」という意見が圧倒的に多い。なぜなら、非正規雇用の7割を占めるのは女性だからだ。「そもそも私たちの働く基盤を崩しておいて『女性の活躍』って何?」「活躍したくたって、不安定雇用じゃできるはずがない」。そんな女性たちの叫びは、安倍首相にはまったく届いていないようだ。 一方で、防衛省は「女性活躍推進」の一環として航空自衛隊の戦闘機パイロットに女性自衛官を起用していくという。そういうのが「活躍」なんだとさ・・・。おそらく、多くの女性が求めているのはそんな極端な話じゃなくて、普通に安心して働けたり子育てできたりすることなんだと思うけれど、圧倒的にセンスがどうかしてるのだ。 さて、高齢者に対してはどうなのか。同原稿では「生涯現役」「意欲ある高齢者に多様な就労機会を提供」などと「老体に鞭打つ」ようなハードな要求が続く上、「介護なしで豊かな老後を送れるよう」など、「本人だって好きで要介護だったり寝たきりじゃないんだけど」と思わず呟きたくなるような無神経な言葉が続くのだが、こちらは思い切り切り捨てるつもりだ。なんといっても、2015年度の社会保障予算は3900億円も削減。年金や医療、介護にかかわる予算がどんどん削減されているのだ。一方で、日本政府は3600億円かけてオスプレイ17機を購入するのだという。国民の生活なんかより、軍事の方が大切☆翻訳すればそういうことだろう。 ここまで見てきてわかるように、「一億総活躍」を掲げる第三次安倍政権は、若者にも高齢者にも女性にも男性にも、難病を抱えた人にも障害がある人にも猛烈に冷たいことがおわかり頂けたと思う。「一億総活躍じゃなくて、一億総カツアゲ!」 最近、芸人のおしどりマコ・ケンさんと話していた時に2人は言った。ホントにその通りだ。 ということで、消費税も増税するし、マイナンバーとかでいろいろ管理されてるし、一億総カツアゲの社会に私たちは生きているようである。

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    「一億総活躍社会」と笑うなかれ

    安倍首相が新たに掲げた「一億総活躍」というフレーズに、多くの人が首をかしげただろう。「希望を生み出す強い経済」だの、「夢をつむぐ子育て支援」だの、結局何がやりたいのかさっぱり分からない…。そんな声もよく耳にする。ネーミングセンスはともかく、決して政策の中身まで笑うことなかれ。

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    「一億総活躍社会」安倍政権に破壊のエネルギーはあるか

    なったのか総括がない中で、屋上屋を架す形で出てきたからでもあるでしょう。日本経済の雰囲気が変わった アベノミクスによって日本経済の雰囲気が変わったことは事実です。国際社会の日本を見る目も、長年の不決断に対してあきれを通り越して無関心というところから、何だか日本経済が熱いらしいというところまで戻しました。新興国経済の冷え込みによって日本のような安定した市場が再評価される気運もあります。 しかし、デフレ脱却が道半ばである中、景気が息切れしてきてしまいました。石油価格の下落など誰にも見通せなかった要素もあるのだから、政策を微修正しながら継続していく他ないでしょう。問題は、第三の矢と言われていた成長戦略が遅々として進んでいないことです。規制改革は政権の一丁目一番地と言っていたのに、どうしてしまったのでしょうか。過去30年間の議論を通じて、農業や医療や労働の分野においてやらなければならない規制改革テーマは出そろっています。 農業でいけば、農業への株式会社の農地取得を自由化して、新しい資本や技術や担い手を市場に参入させることです。農業政策は、GHQの農地改革以来の自作農家族経営主義から転換しなければなりません。農業の主流は、資本と技術と組織に基づく会社が担っていくことになります。 医療でいけば、公的保険の適用範囲を最適化して、混合診療を大幅に認めることです。そうすることで初めて、医療財政を破たんさせずに国民皆保険を守り、同時に新しい医療市場を作っていけるのです。医療政策は、すべての国民が受ける医療の結果の平等を目指すのではなく、国民としてのナショナル・ミニマムを守ることに眼目が移ります。 人口が減少局面入った超高齢化社会の日本はすでに借金漬けです。我々は撤退戦を戦っているのです。撤退戦を戦う中で、国民にとって最も大切な本丸を守るために改革が必要なのです。農業政策であれば一定の食料自給率と国土の保全が本丸であり、医療政策であれば、国民皆保険を守ることでしょう。 日本が迫られている選択肢は甘いものではありません。それを実現する政権には強い意志が必要です。現在の日本政治は、官邸一強と言われています。一億総活躍社会をぶち上げた官邸の狙いが、自民党や霞が関の抵抗勢力を押さえつけ、改革を一気に進めることであってほしいと思います。どうでしょう、希望は失っていませんが、期待が急速に萎んでいく今日この頃です。

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    「一億総活躍」で何が悪い? レッテル貼りで国民を煽る民主党の愚

    岩田温(政治学者) 第3次安倍改造内閣が10月7日に発足した。加藤勝信氏が就任した「1億総活躍相」が、俄かに注目されることになった。確かに、聞いたことのない、変わった名前の大臣だから、注目が集まる理由は理解できる。多くがこの名前に批判的だった。だが、この名前にヒステリックなほど過剰に否定的に反応するのは、おかしくないだろうか。  民主党の蓮舫代表代行 批判の声は様々あるが、代表的な批判を引用しておこう。 「政治の役割は、一人一人の力を発揮させるため壁を取り除くことだ。国が号令を掛けるのは違和感を覚える」 (民主党 岡田克也代表 10月18日) 「戦前を思い出すような全体主義的なキャッチコピーだ」、「前回公約に掲げた『女性の活躍』に結果が出ず上書きした。女性をばかにしている」(民主党 蓮舫副代表) 「個人を国家に従属させる動きを露骨にしている」(2015年10月9日『赤旗』) 確かに、「1億総活躍相」が重みのあって素晴らしい名称だとは思わないが、そこまで批判されるべき名称なのだろうか。  一番痛烈な批判は「戦前を思い出すような全体主義的なキャッチコピー」という蓮舫氏の批判だろうが、これは全くの的外れな批判だろう。 共産党が政府の政策を「個人を国家に従属させる動き」などと批判していることは、笑止千万というよりほかない。共産主義体制とは、まさに、個人の自由を蹂躙し、共産党の「指導」という名の下で、個人を国家、共産党の下に従属させる体制ではないか。自分たちが掲げる、その極端な隷従体制を棚に上げ、まるで自分たちが自由を尊重する政党であるかのように振る舞うのは、国民を欺く詭弁というものであろう。 仮に、全体主義というならば、一人一人が、このような活躍をしろという、各自の自由が抑圧され、国家の意志が押し付けられる状態が生み出されているはずだが、勿論、政府がそういう危険な状況を目指しているわけではない。各自の生き方にまで国家が不当に干渉してくるのは、無用なパターナリズムだといってよいが、この「一億総活躍」とは、そこまでパターナリスティックなものではないだろう。中身を見ずにレッテル貼りする民主党中身を見ずにレッテル貼りする民主党 首相官邸のサイトを調べてみると、「一億総活躍社会」とは、次のように説明されていた。 我が国の構造的な問題である少子高齢化に真正面から挑み、「希望を生み出す強い経済」、「夢を紡ぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」の「新三本の矢」の実現を目的とする「一億総活躍社会」。 国家が国民一人一人の生き方に干渉するなどということは微塵も感じさせない表現だ。 我が国の少子高齢化は、深刻な問題だ。この問題に対策を講ずるのは政府の責務と言ってよいだろう。 一つずつ検討してみても、当たり前のことを当たり前だといっているように思えない。 「希望を生み出す強い経済」。 これは、多くの人が期待していることではないだろうか。日本経済が崩壊して欲しいなどと望む人は、余程変わった人ではないだろうか。 「夢を紡ぐ子育て支援」。 これも何がいけないのだろうか。子育て支援の充実に関して、民主党は反対だというのだろうか。 「安心につながる社会保障」。 誰もが否定できない類の政策ではないだろうか。社会保障を破壊せよという主張は、あまりに極端だ。 要するに、目標とされている「一億総活躍社会」とは、全ての国民が、それぞれの個性に応じて活躍出来る環境を整備しようというだけの話であって、全体主義的な政策とはいえない。むしろ、これらは政治の基本であり、これを全体主義的だというならば、政治の役割を放棄していると批判されても仕方あるまい。 実際問題として、民主党は、これらの個別の政策に全て反対なのだろうか。 そうではないだろう。 中身に関しては全く触れることなく、「名称」に関して「全体主義的だ」というレッテルを貼り、国民を煽っているだけだろう。 安全保障法案を「戦争法案」と呼んだときも同じなのだが、内容について一切言及しないで、思いつきの印象論で、ただ反対の声をあげるだけなのだ。これでは、責任ある野党とはいえない。 そもそも、「一億総活躍社会」について、岡田代表は、当初、次のように述べていた。 「民主党の綱領には『すべての人に居場所と出番のある社会をつくる』とある。これのぱくりみたいな感じだ。本当にやって下さいねということだ。」(10月7日) 仮に蓮舫氏がいうように、「一億総活躍社会」を目指すことが全体主義的だということならば、岡田代表が「一億総活躍社会」を民主党の「ぱくり」だといってるのだから、ご自身も全体主義的な主張をしていたということになる。 だが、私は、民主党が掲げた「すべての人に居場所と出番のある社会をつくる」という言葉を見ても、全体主義的だとは思わない。政治の基本だと思う。むしろ、こうしたまっとうな目標を掲げながら、民主党政権は、殆ど成果を上げられなかったことを残念に思う。 中身を精査しないで、印象だけで、レッテル貼りする無責任な非難の繰り返しでは、国民の支持は得られない。民主党は、真剣に国民の支持を得るべく政策研究に取り組むべきだ。無責任な非難を繰り返す万年野党の道を歩むべきではなかろう。

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    なぜ「高度成長」の考察が重要なのか

    換・太平洋ベルト地帯構築のための規制緩和などによって実現を目指すものだった。この三つの要素が、今日のアベノミクスの「三本の矢」、すなわち大胆な金融緩和、機動的な財政政策、成長戦略と相似しているのは明瞭だろう。 このような特質をもった池田内閣の経済政策をブレーンとして支えたのが、下村治だった。彼の経済思想を簡単にいうと、経済成長が人間のもっている可能性を発揮できるようになる前提条件だというものだった。また経済成長は緩やかな消費者物価の上昇を伴い、それは人間の価値自体が上昇することでもある、という独自の物価観にも裏付けられていた。 このような下村の経済成長論を安倍首相は共有している。2013年4月19日に行った「成長戦略スピーチ」の中で、下村の成長政策を「普遍的な価値」を持っているものとし、自らの成長戦略も同じく働く人たちの潜在的な能力を十分に開花させる政策である、ことを述べている(同スピーチの意義については、若田部昌澄早稲田大学教授の御教示による)。 またアベノミクスはデフレ脱却をして緩やかなインフレ(2%の物価水準)を目標にしている。このとき雇用は最大化されているだろうから、その意味では下村と同じようにインフレは人間の価値を向上させる、と安倍首相は確信していることになろう。 (2)の高度成長の経験、特に池田政権の経済政策がいまどのように役立つであろうか。すでに指摘したように、アベノミクスの三本の矢と池田政権の経済政策の3つの要素は各々照応している。ところで高度成長期に、この池田版「三本の矢」がなぜ必要だったのだろうか? ひとつはデフレ圧力に抗するため、もうひとつは経済格差の解消のためだ。 当時の日本経済は旺盛な生産力がある一方で、有効需要が不足していた状況を指す。売れない財やサービスが潜在的に多いことが、日本経済にデフレ圧力となっていた。これを解消するには、国民の所得を増加するように財政政策と金融政策を拡大することが必要だった。このことは今日の日本のデフレからの脱却が必要である理由とまったく同じだ。 経済格差の解消にも経済成長が必要条件であることが、高度成長の経験からもわかる。高度成長期の日本経済は「二重構造」にあった。例えば、農村には膨大な「余剰」労働力が存在していた。経済成長を実現することで、農村から多くの若者たちが都市に移動し、そこで職を得て、家庭を持ち、年々増える所得によって潤沢な消費社会を構築していった。また経済成長によって、衰退化していた生産部門から成長産業への労働者の移動もわりとスムーズに行われた。この経済格差の解消に経済成長が必要である、という高度成長の経験は重要である。 日本には現在、2400万人程度の「貧困層」が存在する。欧米では富裕層への富の集中が経済格差の根本原因だが、日本では経済格差とは貧困問題のことである。そして日本の貧困問題の原因は、景気の悪化(現実の経済成長率が低いこと)にある。経済が低迷することで、失業やまた非正規雇用が激増した。この流れを断ち切るためには、安定した経済成長が必要である。 高度成長の終焉の経験も、また今日的な意義をもつ。田中角栄は池田の経済政策の真逆を行った。田中の主張した日本列島改造論は、お金の動きを都市から地方に、そして若者から老人に移動させることで、社会の固定化につながり、成長率の鈍化を招いた(参照:増田悦佐『高度経済成長は復活できる』文春新書)。 もちろん経済成長が問題解決のすべてではない。しかしより高い経済成長が実現できれば、人々の可能性を発揮できる機会はより豊かだ。高度成長が始まって60年の節目にその教訓は得ておきたい。

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    2014年の日本経済を振り返る ~アベノミクスを取り巻く諸問題

    しつつもあり、克服しつつもないかのように思える。ここで「2014年の日本経済を振り返る」 と題して、アベノミクスを取り巻く諸問題を論点整理し翌年の日本経済を展望することで、アベノミクスが2015年に解決すべき課題が見えてくるように思う。いわば日本経済の「見える化」である。僭越ながら本稿をその一助として捧げたい。諸兄の賢明な議論を誘発できたなら、本稿の役目は果たしたと考えたい。(1)上期停滞するも下期上昇基調に転じた日経平均株価日経平均資料室:日次・月次・年次データ - 日経平均プロフィルhttp://indexes.nikkei.co.jp/nkave/archives/data 1月6日(月)約239円安の15,908円で引けた日経平均株価は、昨年末の過熱感を調整し、その後もアベノミクスに対して懐疑感を示すかのように停滞を続けたが、下期に上昇基調に転じ、2014年は1万8千円台を窺う水準で終われそうである。株価自体がアベノミクスの目標にならないのは当然としても、それがアベノミクスに対する市場の評価であると受け取っても間違いではあるまい。株価上昇は、個人投資家に直接の恩恵があるばかりでなく、銀行・証券・投信・生損保・公的年金・年金基金・事業法人など株式を投資有価証券勘定に組み込む機関投資家の財務状況を改善させることで、誰にも間接的な恩恵があるものである。また「起業大国 No.1の実現」を掲げるアベノミクスに対し東証を始めとする日本取引所グループが起業教育イベント『JPX起業体験プログラム2014』を開催するなど力強くアジャストする姿勢を見せているのは心強い。2015年は、株式市場のそうした機能が改めて評価される年になるのではないか。持続的な好循環が生まれるかどうか。来年も注視すべき指標となるだろう。1万8000円台にまで回復した日経平均株価を示すボード=12月8日午前、東京都中央区(2)円安進行が止まらない為替レートUSドル/円の為替レートの推移 ? 世界経済のネタ帳http://ecodb.net/exchange/usd_jpy.html 2011年10月頃の76円/ドルを円高のピークとして揉み合い期と加速期を繰り返しながらも円安進行が2014年も一貫して継続している事実は否定しようがない。為替レートは2014年8月まで揉み合った後、一気に円安を加速させ12月は120円前後の狭いレンジで揉み合っている。為替レート変動の要因は非常に多岐に渡るものであるが、2011年10月以降の円安トレンドに原発再稼働遅れに起因する燃料費増大が大きなウエイトを占めていると考えられる。その微変動には多くの市場参加者が関わっているといえど、大きなトレンドを決するのは輸出業者・輸入業者の実需売買なのである。政府・日銀とも為替レートを直接的に操作するのは不可能であり、また政策目標にも掲げてはいない。しかし、その変動が何に起因するのか、その変動が日本経済にどんな影響を及ぼしているかが極めて重要なテーマである事に違いはない。円安はアベノミクスの功罪ではなく、円安がアベノミクスの追い風か逆風かという視点が重要だと指摘しているつもりだ。吉野家が12月9日に牛丼値上げを発表したことで消費者も円安の弊害に気づきつつあるだろうと思うが、多くの原材料を輸入に頼る日本にとって円安が福音である訳がない。オイルショック克服後の日本は長く円高基調が続いただけに円高の弊害ばかりが過度に宣伝され、消費者は円高=悪と刷り込まれてしまっていたようである。原油急落を奇貨として外為市場は踊り場局面に入ったかのように見えるが、翌年はどうなるか。論壇のその評価は錯綜しているかにも見えるが、より仔細な分析を続けなければなるまい。円安進行に関する筆者の見解は本稿末尾に補稿【「今般の円安進行は日銀の金融緩和政策に因る」は間違いだ!」】として掲載させていただく。1ドル=121円台まで下落した円相場を表示するモニター=12月5日夜、東京都港区(3)拡大一方の貿易赤字に歯止めはかかったか時事ドットコム:【図解・経済】貿易収支の推移(最新)http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_trade-balance オイルショック克服後の日本はリーマン・ショックなどの一時的影響を除いて、ほぼ一貫して貿易収支は黒字であった。ところが東日本大震災・福島原発事故を契機に一転して貿易赤字に転落し、しかも赤字額が単調に増加し続けた。これまた原発再稼働遅れに起因する燃料輸入増が大きく影響している。一方、財務省12月25日報道発表用資料・平 成2 6年1 1月分貿易統計によると前年同月比で輸出増・輸入減が示され輸出入均衡には遠く及ばないものの単調な赤字額増大には歯止めがかかったかにも見える。それが一時的なものか長期的な趨勢となるか翌年も注視せざるを得ない。経常収支は黒字だといった論調で貿易赤字を軽視している向きもあるようだが、筆者は同意できない。それは日本の貿易構造の非対称性を見落としているのではないか。筆者は貿易赤字→円安進行→(始めに戻る)のスパイラル現象の発生を強く疑っている。それについては稿を改めて詳しく論じてみたい。(4)消費税率が5%から8%に~その影響は? 4月1日から消費税率が5%から8%に増税されたことは改めて指摘するまでもなかろう。消費税増税を機に主に中小小売業者に便乗値上げの動きがあったかのように喧伝されているがそうではない。それは増税前の円安進行に起因する原材料価格高騰の消費者価格への転嫁と捉えるべきである。くだけていえば赤字に泣いていた中小業者が消費税増税を好機にようやく立ち直りのチャンスを掴んだということなのである。また増税以前の住宅・自動車に代表される高額消費財の駆け込み需要の反動で、増税後はその分個人消費が落ち込んだが、それは当然のことであって、ただちに消費税増税の悪影響とは捉えられない。いずれにせよ消費税増税の悪影響ばかりが過度に喧伝される一方で貿易赤字・円安の弊害が軽視されている現状は奇怪千万。消費税増税実施の成否に議論の余地があるといえど、視野狭窄は許されない。なお今回の増税の評価に関しては筆者はまだ時間がかかると考えている。拙速に成否を論じる意義も感じない。(5)逆オイルショック!?原油急落の影響は?「逆オイルショック」が再来?シェールオイルがもたらすエネルギー情勢の激変http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41687?page=1 2014/07頃まで2011福島原発事故を契機とした世界的な反原発感情盛り上がりの影響による需要増を主因として原油価格は100ドル/バレルを超える高値圏を推移していた。ところがここに来て(12/28現在)、WTI原油先物は55ドル/バレルまで急落(暴落というべきか)しているのである。消費者への還元が無い、または遅いといった声も聞かれるがそうではない。オイルショックを教訓とした日本は3ヶ月前後の備蓄体制を完備した上に、安定供給を重視した長期相対取引化、調達ルートの多様化などの施策を実施しているので逆オイルショックであってもその反映にはタイムラグが生じるのである。それゆえにサウジアラビア・アラブ首長国連邦などが日本の輸入相手国上位に定着している訳だ。ここでは急落の背景はあえて論じないが、必ずしも一時的要因とも言い切れないことは指摘しておく。直近に見られる貿易赤字の縮小、円安進行の停滞といった現象に原油急落が影響している可能性が大である。もしこれが一時的でないなら、翌年は原油急落の影響がより広範囲に観測されると思われる。それは日本経済にとって福音であるに違いないが、その背景も考え合わせればそうともいえまい。もし中東動乱が日本の輸入相手国にまで再燃・波及すれば日本とて無事では済まないからだ。ここでも国内問題だけに囚われず、国際情勢に広く眼を向けなければならない。12月16日に翌1月の中東歴訪を表明した安部首相もそうした問題意識をお持ちなのではなかろうか。首相、来年1月に中東歴訪へ 「地球儀俯瞰外交」再開 ? 産経ニュースhttp://www.sankei.com/politics/news/141216/plt1412160058-n1.html(6)完全失業率・有効求人倍率の改善と裏腹に低下する実質賃金時事ドットコム:【図解・経済】最近の完全失業率と有効求人倍率http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_jobless-rate「実質賃金」が16カ月連続で減少、前年比2.8%減 - 10月 | マイナビニュースhttp://news.mynavi.jp/news/2014/12/02/179/ 「良いニュースと悪いニュースがあります」といったジョークを連想する。労働市場の需給は概ね改善傾向と捉えられるのに対し、名目賃金はわずかに上昇しつつも実質賃金は下落しているというのである。この現象をどう理解すべきか。筆者はただちに説明する準備はないが、労使間になんらかのミスマッチが生じていると考える。例えば使が求める技能と労が提供できる技能が合っていないといったことである。バスケットボールに例えれば、コーチはセンターが欲しいのに入部希望者はガードばかりといった話だ。政労使それぞれにミスマッチを解消する努力が求められているように思われる。時が解決する問題ではあるまい。有識者による詳細な分析が待たれる。アベノミクスの本格浮揚を妨げる問題となりかねないからだ。(7)期待はずれのGDP成長率2014(平成26)年7-9月期・2次速報(2014(平成26)年12月8日公表) http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/gaiyou/pdf/main_1.pdf 内閣府が12月8日に公表した四半期別GDP速報(2014(平成26)年7-9月期・2次速報)は、我々を失望させる数値であった。いや11月17日の1次速報でもそうであった。特に目立つのが民間住宅の落ち込みである。これが消費税増税に前後する需要先食いの反動現象で説明できるのかどうか直ちに判断することはできない。また民間在庫品増加も大きなマイナス値を示している。これは消費税増税前の駆け込み需要効果を本格的景気回復と見誤った生産者の判断ミスによる過剰生産として説明可能とも思えるが、これも直ちにそうだと断言する準備がない。アベノミクスの観光立国政策による訪日外客が余剰在庫を購入してくれれば話は旨すぎるが、なんともいえない。いずれにせよ期待はずれのGDP成長率を消費税増税の失敗に結びつける議論は余りにも短絡的であり、為にする為の議論に思えてならない。たかが3%の増税率よりも、はるかに大きなレンジで動いている為替レートの存在を見落としてはならない。化石資源・鉱物資源・食料品といった国内産品で代替不可能な必須原材料を海外からの輸入に頼る日本経済の根本的構造をいまさら指摘しなければならないのだろうか。逆に言えばアベノミクスがフォーカスすべき課題は、日本の貿易構造の構造改革ではあるまいか。国内産品で代替不可能とは書いたが、本当にそうだろうか。所与の条件と決めつけず、大胆にメスを入れる取組が必要であることをGDP成長率が示唆しているのではなかろうか。なんにせよ、それみたことかと囃し立てるだけなら猿にでもできることだ。また多くのエコノミストが、このGDP成長率を予想も説明もできなかったことは付記せざるを得ない。もっとも人様を論うつもりは全くない。それだけ日本経済は複雑怪奇で難解だと改めて認識する他ないというまでだ。2014年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値の発表を受けて記者会見する甘利明経済再生担当相。消費増税について「再増税によって景気が失速し、デフレに戻ってはいけない」と述べ、慎重な姿勢を示した=2014年11月17日(蔵賢斗撮影)(8)消費税増税先送りとアベノミクス解散 ここでの消費税増税先送りとは、11月17日のGDP1次速報を受けた安部首相の消費税率10%への引き上げを18カ月延期するという判断のことである。消費税増税先送りに関しては、先立って賛成論・反対論の論議が喧しいものがあったが、ここでは委細に触れない。また本稿ではその是非を論じるつもりもない。とにもかくにも、かくして安部首相は国民の信を問うべく衆議院解散に及んだ。安部首相の真意を詮索する向きもあろうが、本稿ではそれに与する意義を認めない。ここで指摘しておきたいのは、アベノミクスに対峙すべき野党が日本経済に対する問題意識を何ら示すことができなかったということだけだ。対案を提出するどころか、アベノミクスに瑣末な批判を加えるだけで精一杯ではなかったか。打ち出の小槌じゃあるまいし、経済政策というものは「一振りすれば、ほらご覧のとおり」とは参らぬ。また選挙対策で取ってつけたような思いつきで国民に迎合すべきものでもない。解散になってから慌てふためくとは余りにも情けなさすぎる。少々筆が過ぎただろうか。(9)第47回衆院選と第3次安倍内閣発足~有権者はどう審判したのか【安倍首相会見(上)】「この道をぶれることなく進む」(1/3ページ) - 産経ニュースhttp://www.sankei.com/politics/news/141215/plt1412150228-n1.html かくして第47回衆議院議員総選挙は、大きな変動もなく自民党公明党連立政権が引き続き政権運営を担う結果を導いた。庶民には恩恵が無いという不満感を否定できないまでも、そうはいっても安倍政権に託すしかあるまいといったところが国民の総意ではなかっただろうか。その低投票率は、選挙戦の有り様が有権者の期待に応えられなかったという事実を意味しているようにも感じられる。しかしそれは「国民が主体者意識を持つ契機になれば良いが」と密かに考えていた筆者の期待が失望に終わったことも意味する。国民の意識革命なくしてアベノミクスの成功は覚束ないと考えるからである。ともあれ今回の選挙結果は、ごく一部の近隣諸国を例外として海外からは日本の有権者は判断を誤らなかったと一定の評価を得たもののように思える。とはいえ、やはり第三次安倍内閣が乗り出す海は決して平穏な内海ではない。ともあれ安部首相が決意を新たに経済政策のかじ取りに意欲と自信を示してくれたのは喜ばしい。(10)2015年度予算編成本格化第3次安倍内閣発足 2015年度予算編成本格化 医療・介護の歳出抑制は必至 | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnlinehttps://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/50976/Default.aspx 選挙を挟んだ関係で、例年なら年内に目処がつく翌年度の予算編成作業が越年することとなった。本稿では日本地下鉄協会が掲載した記事を示すに留める。平成27年度予算編成の基本方針(案)http://www.jametro.or.jp/upload/country/pxyUaBIlZcQD.pdf補稿「今般の円安進行は日銀の金融緩和政策に因る」は間違いだ!企業や家計にとって朗報の原油安を円安で打ち消す日銀の愚策|野口悠紀雄 緊急連載・アベノミクス最後の博打|ダイヤモンド・オンラインhttp://diamond.jp/articles/-/64286  これなどは、その主張自体は健全に見えるが隠された前提に間違いがある、演繹における非形式的誤謬の典型である。隠された前提が「今般の円安進行は日銀の金融緩和政策に因る」である。野口氏に限らず、今般の円安進行が日銀の金融緩和政策に因るものと思い込んでいる論者が少なくないようである。 アベノミクスはデフレ基調脱却を課題の一つに掲げ、日銀はアベノミクスに協力的姿勢を取っている。この基本認識に輸入デフレ論(安価な輸入品によってデフレが起こる)を組み合わせれば、「輸入インフレによってデフレ基調脱却は可能なので日銀は円安誘導を図っている」といった命題を抽出可能なように思える。また安倍政権も当初は円安の進行を歓迎すべき事態だと認識していた節があり、それが間違った命題を図らずも裏打ちしてしまったといえる。 しかし日銀は輸入デフレ論に与する認識はなんら示していないのである。2%の「物価安定の目標」と「量的・質的金融緩和」 :日本銀行 Bank of Japanhttp://www.boj.or.jp/mopo/outline/qqe.htm/ 日銀は円高にするとも円安にするとも言明したことはないし、金融緩和政策によって円安になるとも円安にするとも宣言したこともない。日銀が言明しているのは、2%の物価安定目標を達成する為の手段として金融緩和政策を実施するということだけである。 では今般の円安進行は何に起因するのか。それは外為市場における実需円買い・実需円売りのバランスが実需円売り優勢(一方的な実需売り増大基調)に変わったことに起因するのである。日銀の金融緩和政策が間接的に為替レートの短期的微変動に関わっていないとまではいえないが、だからといって日銀によって円安が進行したとは到底評することはできない。 特集 貿易赤字が拡大中!!! その原因と影響は?? | 三井住友信託銀行株式会社http://www.smtb.jp/personal/saving/foreign/feature/201403.html 銀行さんだけに外貨預金がオススメという話に展開されているが、グラフで示されているように、東日本大震災・福島原発事故を契機に’11年下期辺りから輸出金額が伸び悩む反面、輸入金額が単調増加基調にあり、それゆえ貿易赤字も単調に増大し続けているのが現実なのだ。USドル/円の為替レートの推移 ? 世界経済のネタ帳http://ecodb.net/exchange/usd_jpy.html第3次安倍内閣が発足。記念撮影に臨む安倍晋三首相(前列中央)ら=12月24日夜、首相官邸 2012年10月頃から明白に円安が進行している。一般に輸出企業は、ドル建ての輸出商品販売代金から円建ての費用原資を捻出しなければならないので、ドル売り円買いの経済主体となり、すなわち円高圧力要因となる。逆に輸入企業は、円建ての商品販売代金からドル建ての輸入原材料代金を捻出しなければならないので、円売りドル買いの経済主体となり、すなわち円安圧力要因となるのだ。  なお財務省貿易統計が物流基準で税関が計上するものであるのに対し、為替レートは資金の流れに基づく外為取引の結果変動する値であり、さらに一般に貿易会社は為替リスクをヘッジする為に為替予約といった取引や通貨オプション・通貨スワップといったデリバティブ取引を絡ませることがほとんどで、貿易収支の動きと為替レートの動きには当然にしてタイムラグが生じることは理解されたい。 ちなみに輸出企業の代表格がトヨタ自動車で、輸入企業の代表格が東京電力である。輸出企業と輸入企業は為替レートに関しては利害が反対で、輸出企業が円高局面で悲鳴をあげる一方で円安局面では沈黙を守り、輸入企業が円高局面で沈黙を守り円安局面では悲鳴をあげるという具合に、その言動も正反対の関係にある。 以上、論じたように「今般の円安進行は日銀の金融緩和政策に因る」という命題は誤りであり、誤った命題から議論を発展させても誤った結論にしかならない。

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    安倍長期政権で株価3万円へ

    万5000円を目指す」と河合氏。宮沢喜一内閣が発足した1991年11月の水準にまで戻ることになる。 アベノミクス相場が事実上スタートした2012年11月、8000円台だった日経平均が「2倍になる」と断言し、的中させたのが武者リサーチ代表の武者陵司氏だ。当時ここまで大胆な予測をした人はほとんどいなかった。その武者氏は「日本は世界で一番輝く市場となる。為替は1ドル=125円前後で安定し、日経平均は15年中に2万4000~2万5000円まで上昇するだろう」と予測する。 「円安の恩恵で企業業績は改善され、海外から送金される所得収支も大きく増える。原油安で大幅な貿易赤字も減少する。そして企業にたまっていた円安のプラス効果が、賃金の上昇や設備投資に反映されてくるだろう」と武者氏。 安倍政権のリーダーシップが強まることで「“第3の矢”の成長長戦略の効果も出てくる。デフレの時代が完全に終わり、新しい成長の時代に入る」とし、「日経平均は2、3年後に3万円を目指す」と明言する。 日経平均が1989年末に3万8915円の史上最高値をつけてから25年。株式市場もかつての活況を取り戻せるか。

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    デフレ脱却のための特効薬はない

    そもそもアベノミクスとは何なのか? アベノミクスとは 1.量的緩和 2.財政出動 3.成長戦略 という3つの柱を基本に、「適宜適切な政策を打つ」というデフレ脱却を目的とした「総合的な経済政策の総称」であり、何か特別な政策があるわけではないし、特効薬のようなものではない。まぁ、簡単に説明すれば、インフルエンザにかかった時処方される「総合感冒薬」のようなものであり、特効薬の「タミフル」はないという話である。アベノミクスという言葉ばかりが先行し、イメージが膨らみすぎているのは問題といえよう。 唯一、アベノミクスが従来の政策と違うのは、1の量的緩和であり、大規模な量的緩和により通貨を増やし、結果的に通貨安に持ち込み、製造業などの国際競争力を大きく引き上げていることにあるのだと思われる。また、通貨増刷効果により、株式などの資産価格が上がるとともに、円安による効果で、円換算での企業の海外資産や海外売り上げが上昇し、企業のバランスシート改善が起きていることにあるのだと思う。 2.の財政出動に関しては、小泉構造改革、民主党の公共事業叩きなどにより、弱体化しまともに更新されてこなかった日本のインフラを見直し、震災などの教訓も糧として、少子高齢化と地震大国に合わせた新たな設計図に基づくインフラ計画を作るというものであるが、オリンピック特需や建設労働者等の人の問題もあり、なかなか前に進んでいないのが現状であると思われる。しかし、だからあきらめるわけにもいかず、人の育成を含め中長期的対応が必要となる大切な柱だと思われる。 そして、3、の成長戦略であるが、ウーマノミクス(女性の活用)や特区制度など規制改革、TPPやコーポレートガバナンス(企業統治)強化など企業改革が含まれるが、経済政策として正しく機能するかは不透明である。国が民間企業にどこまで関与すべきなのか?そして、規制を緩和することで本当に景気が改善されるのかは不透明である。まぁ、良くも悪くも聞こえの良いお題目を並べているようにしか見えないし、それはそれでよいのだと思われる。逆に政府の押し付けは民間の自由なビジネスを阻害し、それが結果的にマイナスになる場合も多いのが事実だからである。 では、「日本を救うのはアベノミクスしかない」という与えられたテーマの主題に入りたい。先述したようにアベノミクスとは「デフレ脱却」を目的にした総合的な経済政策の総称である。これに正解も間違いも存在しない。 唯一、議論が分かれるとすれば「デフレ」は善か悪かという話になる。デフレというのはモノの値段が継続して下がり続ける状態を言う。消費者から見れば、こんなにありがたいものはないが、結果的にこれは経済規模を引き下げるだけでなく、売価の低下は流通業者を苦しめ、生産者にしわ寄せがいき、結果的にそこにかかわる労働者に負担が行くことになる。いわゆるデフレスパイラルといわれるものである。ここで気を付けたいのは、消費者は単なる消費者ではなく労働者でもあるという事である。 それに対して、適正なインフレは経済規模を拡大させ、デフレの反対で所得などの上昇にも寄与する。モノの値段は上がるが賃金も上がる状態である。これは拡大を前提とした資本主義経済では正しい選択であるといえる。問題があるとすれば、価格の上昇と賃金のアップの間に時間差があることと、それが適正に賃金に反映されるかということになる。この点に関しては「政労使交渉」や税制上の優遇などで対応しているが、さらなる努力が必要であるといえるのだろう。 「日本を救うのはアベノミクスしかない」という事であるがアベノミクスを批判する主張の多くは、単なる印象論であったり、非経済学的な非論理的主張ばかりである。そして、まともな具体的対案を見たことがない。今回の選挙でも同様である。対案がないのであれば「アベノミクスしかない」といえるのだろう。

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    ただちに成長政策を総動員せよ

    田村秀男(産経新聞編集委員) 安倍晋三首相は消費税率の再引き上げを先送りし、「アベノミクス」を衆院総選挙の争点に据えて勝利した。民主党など野党に対案がなかったためばかりではない。アベノミクスによる恩恵が中小企業や地方に行き渡っていないし、家計収入が実質減になっている状況下にもかかわらず、有権者の圧倒的多数は依然として、アベノミクスによる経済の再生に強い希望を抱いているからだ。安倍首相は2015年、総選挙勝利で強大化させたポリティカル・キャピタル(政治資本)を生かし、アベノミクスをまき直し、ただちに大胆な景気浮揚策を打つべきだ。 アベノミクスに今後残された時間的ゆとりはさほど長くない。消費税増税による景気破壊は、1997年4月、そして2014年4月の増税と2度も繰り返された。その教訓から、首相は来年10月に予定されていた再増税の1年半延期を決断したが、17年4月の消費税率10%実施は不可避だ。首相はこの決断に先立ち、側近の本田悦朗内閣参与(静岡県立大教授)を通じて米ウォール街など外国の投資ファンドの反応を探らせた。「延期は1度だけなら問題はないが、2度、3度となるようだと、市場は日本売りに転じる可能性がある」と首相に進言した。 あと2年余りで再増税待ったなしだ。首相はそれまでに増税に十分堪えうるだけの、力強い成長軌道に日本経済を乗せ、15年デフレから完全に抜け出さなければならない。通常の策では無理だろう。 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は10月末に異次元緩和追加に踏み切った。安倍首相周辺では、「黒田さんが首相に消費税増税しても大丈夫と言ってミスリードしたことへのおわび。日銀にはさらなる追加策を期待できる」と受け止めた。市場は沸き立ったが、株高による実体経済へのかさ上げ効果は限られる。日銀がおカネを刷って、金融市場に流し込んで円安・株高に誘導し、景気をよくするという手法は有効には違いないが、米国ほど大きくはない。過去のデータから試算すると、株価が2倍に上がった場合、米国では実質成長率が15%程度増えてきたが、日本は5%程度の上昇にとどまっている。 消費税率8%の重圧はこれから来年にかけてかかり続ける。挽回策は賃上げである。そこで生きるのが、安倍首相のポリティカル・キャピタルのはずで、首相は経済界や連合への賃上げを前にも増して強く求めるだろう。 グラフを見よう。法人企業統計によると、14年7~9月期に製造業は中小企業の収益が好転したが、従業員給与は依然として前年比マイナスだ。非製造業となると、大手、中小企業とも収益の改善基調がかなり弱まっている。非製造業は内需型であり、実質賃金の減少を最も受けやすい。輸出型の大企業の多い製造業大手の収益は円安とともに急回復するだろうが、産業界全体に賃上げムードが広がる情勢とは言いがたい。 4月の消費税増税は年間8.1兆円の負担を全家計に押し付けて、経済をマイナス成長に暗転させた。安倍首相はこの際、増税で打撃を受けた中低所得者向けに思い切った所得税減税、または増税分の負担軽減策をとるべきではないか。規模は5兆円なら、13、14年度の税収増による余剰収入で難なく賄える。首相は法人に対する法定実効税率(国税・地方税合計の税率)引き下げを重視するが、痛んでいるのは需要側、つまり家計である。 安倍晋三首相はさらに、1ドル=120円時代を日本企業の国内回帰に生かす政策を取るべきだ。輸出で日本と激しく競合する韓国は、朴槿恵(パク・クネ)大統領が円安批判を口にするほどだから、打撃の大きさはかなりのもので、裏返すとソニーやシャープなどが韓国サムスンに巻き返す機会が到来した。中国の人民元に対しても、円は2012年12月に比べて、2年間で50%以上も下落した。しかも、中国経済も鉄道貨物輸送量という「モノ」で計れば、14年全体を通して実質マイナス成長である。中国での生産・投資に見切りを付けて、本国に戻る動機は十分ある。 10兆円規模の大型補正予算も必要だ。その前提となるのは、東日本大震災復興、国土強靱(きょうじん)化、地方創生を合わせて着実に達成する中長期の公共投資計画である。それを、アベノミクス第3の矢である「成長戦略」の規制緩和や戦略特区、地方創生プログラムに組み合わせればよい。さらに、戦略特区に海外から国内に回帰する企業を迎え入れる。国内志向企業にこそ税を優遇すべきだ。 総選挙での圧勝の意義は、安倍首相がアベノミクスを妨害する勢力を排して思う存分、スピーディーに成長政策を総動員できることなのだ。

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    再始動アベノミクスは日本を救えるか

    え込んで、安倍総理は総選挙に打って出た。しかし、「所得を増やしてくれ」というのが国民の切実な思い。「アベノミクス第二ラウンド」はこれから真価が試される。

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    選挙後、家計はますます火の車に

    非を問う必要などありません。 しいていうなら、経済状況がどんどん悪化している中で、約2年続けてきた「アベノミクス」を、このまま続けても良いのかどうかということなのでしょう。 4~6月期に続いて7~9月期もGDPがマイナスになりました。GDPが2カ月連続でマイナスということは、景気後退(リセッション)に入ったということで、海外からは「日本の景気は急速に悪化している」と見られています。そのせいで、円が売られ、ここにきて円安が急激に進んでいます。 「アベノミクス」では、“円安政策”を掲げ、円安で輸出を増やして経済を潤すと言っていましたが、結果は、輸出が伸びず、輸入コストが上がるという惨憺たる状況になってしまいました。円安でも、儲けのトリクルダウンは起きなかった 円安になると、輸出が伸びると言われていましたが、自動車工業会公表の4輪車の輸出台数を対前年比で見ると、1月マイナス4・9%、2月マイナス6%、3月マイナス0・6%、4月マイナス5・4%、5月マイナス9・6%、6月マイナス4%と惨憺たる状況。7月はかろうじてプラスになりましたが、それでも0・1%。さらに8月マイナス8・6%、9月マイナス3・3%。つまり、昨年は100台売れていた4輪車が、今年は円安が進んだにも関わらず95台に減ってしまったということ。確かに、トヨタなど輸出大手は100万円だった車が円安で120円で売れるので、為替で大儲けしています。けれど下請け企業は、輸出される車の台数が減っているのですから、仕事が減っているということ。儲かるどころか、値上がりした原材料を使わなくてはならないので、苦しくなっている。つまり、輸出大手が儲かれば、儲けが下請けに滴り落ちて行くというトリクルダウン理論は、完全に破綻しているということです。 家計に迫る、円安の津波  こうした中で、実質賃金は15カ月連続で下がっています。 なぜ、企業が賃金を上げられないのかと言えば、前述の4輪車の輸出を見てもわかるように、一部の大手企業は儲かっていても、下請けや中小・零細企業は、原材料の値上がりと消費税がアップする中で、肝心の仕事は増えず、利益がどんどん減ってしまっている状況だからです。 今、日本で働いている人の約7割は、中小・零細企業に勤めています。この人たちの給料が上がらないのですから、一部の儲かっている大手企業にお勤めの方達の給料が上がったとしても、全体的には上がらないということになってしまいます。さらに、働いている人の4割は非正規社員なので、ここには給料を上げるというインセンティブも働きません。 一方で、円安と消費税率8%への引き上げによる物価高は、この先もまだまだ続きそうです。 ここ1カ月の間に、10円以上の円安になっています。つまり、輸入品の原価が1割以上上がっているということです。今、このレートで海外にオーダーしている商品が、船便で日本に届いてスーパーの店頭に並ぶのは1~2カ月先ですから、来年の正月に、皆さんは、また一段と価格が上がったという実感を持つのでしょう。そうなると、当然ながらモノを買わないという行動に出ざるを得ないので、デフレ脱却などは、絵空事となるでしょう。100万人雇用の中身は“非正規社員”! 2年前の衆議院選のマニフェストで、いの一番に掲げていた「デフレ・円高からの脱却を最優先に、名目3%の経済成長を達成します」という公約は見事にどこかに消え去り、今回の政権公約で大看板として掲げているのが、「2年間で雇用が100万人も増えた」という実績(?)です。 確かにデータを見ると、安倍政権下で雇用は100万人以上増えています。ただ、その中身は、非正規が増えているということで、正社員は減っています。実際に、2013年1月と2014年9月を比べると、正社員は約10万人減っていて、非正規が大幅に増えています。しかも、この非正規の過半数はシニア世代と主婦世代。シニア世代は、年金が不安なので定年退職後も引き続き働こうという人が多く、主婦世代は、給料が上がらず家計が苦しく、子どもの教育費負担が大きいのでやむをえずパートで働き始めたということでしょう。しかも、「女性が輝く」とはほど遠い、生活のためにこなす仕事に就いています。 そういう意味では、これを「アベノミクスの成果」と言われても、戸惑います。 しかも、それ以上に不安に思うのは、政府は、「アベノミクス」以外の重要案件を、まったく争点にしない構えでいること。たとえば、国民にとって重要な憲法改正については、膨大なマニフェストの一番末尾に、言訳程度に6行でチョロっと書かれているだけ。秘密保護法や集団的自衛権については、言葉すらも出てきていません。 税金の無駄遣いとしか思えない選挙で、こうしたものにまで「国民の信を得た」などと言われては、たまらない気がします。

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    増税先送り この程度で金利「暴騰」ですか?

    経済の常識 VS 政策の非常識原田 泰 (早稲田大学政治経済学部教授・東京財団上席研究員) 消費税増税は2017年4月まで先送りされた。増税しないと金利が暴騰して大変なことになると言われていたが、確かに暴騰した。図に見るように、10年物長期国債指標銘柄の金利は、増税がそのまま実施されるだろうと思われていた2014年11月10日の0.454%から先送りが完全に明らかになった17日には0.470%と0.016%ポイント「暴騰」した。金利0.016%ポイント上昇の謎を解く なぜ0.016%ポイントしか上昇しなかったのか。ある国の財政赤字がなぜ金利を上昇させるかと言えば、長期的に財政状況が悪化すれば国債の償還能力が疑われ、そのリスクを考慮した金利でなければ、資金を集めることができなくなるからである。すると、短期的な財政赤字よりも、長期的な財政状況が金利に影響を与えるはずである。長期的な財政状況はどの指標で判断できるかと言えば、政府債務をGDPで割ったものが適当な指標になるだろう。ここで政府債務は名目値であるから、GDPも当然名目値である。 消費税再増税の先送りで、政府債務対GDP比率がどれだけ悪化するだろうか。以下の数字は、消費税率を除いては、現実の数字とそう異ならない概算値である。現在、政府債務は1000兆円、GDPは500兆円であるとする。 まず、消費税を8%から10%に2%ポイント上げる場合の税収増加額は、消費税1%がGDPの0.5%分の増収をもたらすのでGDP1%分、5兆円の増収となる。しかし、消費税を上げると景気が悪くなるので、景気が悪くならないようにとGDP0.5%分2.5兆円の公共事業の積み増しが行われる(これまでの経験でそう言える)。すると、消費税増税で政府債務の改善は、2.5兆円にしかならない。 さらに、消費税増税でGDPが減少する効果がある。5兆円の増税は、GDPを5兆円低下させると見るのが穏当な予測であろう。ただし、2.5兆円分の公共事業の積み増しがあるので、GDPが2.5兆円増加すると考えることができる(増加しないという説もあるが、ここでは増加するとしておく)。すると、GDPは差し引き2.5兆円低下する。 GDPが低下することで、税収も減少する。どれだけ減少するかについては、大きく減少するという説とGDPの低下率と同じだけ減少するという説がある。ここでは、後者の説にしたがって、無視できるとしておこう。すなわち、財政状況の改善は2.5兆円である。 以上の議論をまとめる。消費税を2%ポイント上げた場合の政府債務対GDP比率は、分子、分母とも2.5兆円減る。比率は(1000兆円-2.5兆円)÷(500兆円-2.5兆円)で200.5%と上昇する。 話がこんがらがって分かりにくいので表にすると、以下のようになる。 消費税を上げなければ、分子の債務は減らないが、分母のGDPも減らないので、比率は200%と変わらない。 消費税を上げた方が、この比率が上がるというのは意外な結果だが計算は合っている。これに対して、消費税増税がGDPを減らす効果はそれほど大きくはないという反論があるだろう。そこで、消費税増税のGDPを減らす効果が、私の想定の半分だとすれば、GDPは1.25兆円しか減らないことになる。分子が2.5兆円減って、分母が1.25兆円減るので、比率は(1000兆円-2.5兆円)÷(500兆円-1.25兆円)で200%のままである。 さらに、消費税増税でGDPが減る効果は一時的だが、税収増の効果は永久だという反論があるだろう。分子が2.5兆円ずつ減っていくから、2年たてば分子は(1000兆円-2.5兆円×2)となる。一方、分母はそのままなので、比率は995兆円÷497.5兆円で、200%に戻り、3年目以降は低下していく。しかし、11月17日の自民党の決定では、1年半後には8%を10%に引き上げるとしているので、消費税を上げても下げても、比率にはたいして変化がない。 消費税増税を延期しても、金利がほとんど動かなかったのは、長期の財政状況を示す指標にほとんど変化がないことが予想されるからで、これは理屈に合っている。これで金利「暴騰」の謎は解けた。根本問題を考えて欲しい 消費税増税を延期したら大変なことになると言っていた人々の予測は外れた。不思議なのは、外れても外れても同じ人が同じことを言い続けていることだ。 さらに私が分からないのは、政府債務の対GDP比が200%以上になっても、日本の長期金利が上がらず、レベルとして0.5%前後でしかないことである。外した人が特に経済学者の場合には特に、当たらない予測よりも、この根本問題を解くことに精力を傾けていただきたい。学者はエコノミストより予測用のデータにアクセスすることが不便なのだから、そうすることが理屈にかなっていると私は思う。原田 泰(はらだ・ゆたか)1950年東京生まれ。東京大学農学部卒。経済企画庁国民生活調査課長、財務省財務総合政策研究所次長などを経て現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮社)など著書多数。

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    アベノミクスの進むべき道

    見事に機能した。だが、今年4月の消費増税でその効果は打ち消された。日本経済再生の「切り札」ともいえるアベノミクスの成否は、民間需要を喚起する成長戦略「第3の矢」の真価にかかっている。試練を迎えたアベノミクスが進むべき道を考える。

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    アベノミクスの光と影

    矢嶋康次(ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミスト) アベノミクスは期待に働きかける政策である。第一の矢、第二の矢、第三の矢を相次いで放ち、デフレマインドに覆われていた日本を見事に変えた。 しかし、アベノミクスが発動し2年がたち、その政策の光だけでなく影の部分もクローズアップされるようになってきた。 どんな政策でも光と影、別の言い方をすれば効果と副作用は存在する。アベノミクスの光としては、金融市場の劇的な変化(株高、円安)、企業収益の拡大、名目賃金の上昇、雇用の改善などがあげられる。特に雇用は雇用者数が100万人増え、経団連集計による大手企業春闘の賃上げ上昇率も16年ぶりに2.62%増となっている。4.1%だった失業率は「完全雇用」に近い3.6%まで低下し、有効求人倍率は22年ぶりの水準に達し人手不足が叫ばれる程である。 一方影の部分としては、賃金上昇を上回る物価上昇、格差の拡大、見えなくなった財政悪化と市場規律の喪失などがあげられるのではないか。 黒田日銀による第一の矢は見事に機能した。しかし、アベノミクスがこの先成功を収めるためには、第三の矢(成長戦略)をどう動かすのか、さらには財政再建に実効力のある道筋をどうつけるのか、アベノミクスの影の部分にどう対応するのかがポイントとなる。 筆者は、アベノミクスは来年終わり頃には、その是非を問われるべきだと思っていた。是非を問うまでに時間が必要なのは、成長戦略は時間がかかるからである。ただしである。この2年間、第三の矢はまったく進んでいない。このままでいい訳はない。 役所や業界団体などの反対が強い労働、医療、介護といった、いわゆる「岩盤規制」分野で規制緩和が進んでいない。成長戦略が経済成長に寄与してきていない。 この国会でも、女性活躍推進法や国家戦略特区改正案、労働者派遣法改正案など安倍政権の目玉政策とも言える重要法案が審議されていた。解散によりこれらは廃案に追い込まれる。 来年は安倍政権が誕生して3年である。衆参であれだけの力を持ちながら規制緩和などを進められなければ「時間がかかる」との言い訳など到底できないはず。来年は白黒がつく年だ。 今後アベノミクスでは影の部分にどう対応するのかをきちんと議論してほしい。 影の部分は日本の企業などの構造変化に政策が追いついていない部分があるように感じている。 アベノミクスで大きな誤算は、「円安でも輸出が伸びない」ということがあったはずだ。 日本の企業は20年、円高と戦ってきた。多くのメーカーは海外生産を大規模に実施し、また輸入業者は円高のメリットを享受してきた。日本の企業は円高に対応しきっている。 急激に円安に振れたことで輸入業者の方などからは、悲鳴の声をお聞きする。為替が20-30%も円安に振れ原材料コストが上昇している。消費税の引き上げもあり価格転嫁を消費者にはすべてできない、採算割れだとの話だ。 日本経済全体でみれば円安はプラスに寄与する。しかし、これだけ多くの人が円安による物価上昇への懸念を声高に叫ぶのは、円安ピッチが早いとことや、円安メリットが従来に比して少なくデメリットが大きいからだ。 円安による物価上昇という影の部分をできるだけ少なくするには、二つのことが重要となる。一つはインバウンドをいかにパワフルにするのか。年間1000万人を超えた外国人旅行者を2020年の東京オリンピックまでに2000万人にすると政府は計画している。そのスピードをさらに上げることだ。外国人旅行者の消費が国内に落ちる。またそうなれば日本で体験した文化や食べ物やサービスやファッションなどなど、多くのサービス品の輸出が可能になってくる。円安で海外からの旅行のメリット感を使い旅行者を増やし、日本に満足してもらいそれらを輸出する流れを作れば円安のメリットをさらに拡大できる。さらには外国企業の誘致も重要だ。法人税引き下げを突破口に外国企業が日本で活躍できる場の創設を急がなければならない。 逆に円安のデメリットを少しでも消し去るには、政府がエネルギーの中長期のポリシーミックスを早期に提示する必要がある。民間は計画が決まっていればそれに向けて、最適と考え得る経営を行う。自民党は原発再稼動を行うなら、いつまでに行い、いつまでにどのレベルにするのかを示し実現しなければならない。将来的な原発、再生エネルギーなどのウェートを示さなければならない。今回の公約でも来年夏にはとしているが、そんな先延ばしはもうありえない。 日米の金融政策の方向感は真逆になっている。円安スピードが速ければ介入という手段も検討される可能性もあるが、日本の構造問題には構造改革で対応するのが王道である。 影の部分でもう一つ対応が急がれるのが格差の問題だ。金利ゼロの世界の中で資産を保有できる個人が大きなキャピタルゲインをあげ、資産をもてない家計との格差は拡大するばかりだ。都市部と地方部の格差も深刻である。アベノミクスで雇用環境がよくなったことで地方出身者は高校、大学卒業後は東京などの都市部に職を求めて移動する。 アベノミクスがうまくいけばいくほど、都市部と地方部の格差が生じるジレンマを抱えている。 さらに影として深刻なのが、財政再建の危機感がなくなっていることだろう。本来であれば財政ファイナンスととられかねない状況になっていれば、金利上昇という姿が生じるはず。しかし、日銀が大量に国債を保有し国債市場はある意味官製相場になっており、健全な市場の反応すら現れない。財政ファイナンスかどうかを判断するのは、国民であり投資家である。政府は最低でも国際公約としている「2015年度のプライマリーバランスの赤字半減」を達成しなければならない。また選挙に突入し、軽減税率の導入やその他歳出拡大は起こるだろう。黒字達成を約束している2020年度に向け、今まで先送りされ続けている社会保障改革に対して痛みを伴う改革を断行しなければならない。 いずれにせよ選挙に向かった。この選挙が安倍首相による安倍首相のための選挙だったとのちのち言われないためにも、選挙で立ち止まっている間にアベノミクスの影の部分に対してどう対応するかを決め、選挙後、遅れている成長戦略や先送りされている財政再建をスピード感もって進めなければならない。

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    消せない「8%」の負の衝撃

    田村秀男(産経新聞編集委員) あれよと言う間に衆院が解散され、総選挙が始まる。最大の争点はアベノミクスだ。打ち出されて2年近くになるアベノミクスの成果と問題点を検証してみよう。 まずグラフを見てほしい。平成24年10~12月期以降の日経平均株価と実質国内総生産(GDP)の伸び率、勤労者実質収入の伸び率の推移を追っている。実質とは、名目値から物価の上昇率を差し引いた正味の分だ。 アベノミクスが本格的に始動した25年初め以来、最も目覚ましい成果を挙げたのは株価である。株価は上昇を続けた後、今年前半の停滞を経て再び上向いている。「第1の矢」である異次元金融緩和によって日銀がおカネを大量発行すると外国為替市場で円の価値が下がる。円安は輸出企業や多国籍化した大企業の収益をかさ上げする一方で、ドルに換算した日本株に割安感をもたらす。こうして日本株売買の7割前後を占めるニューヨーク・ウォール街などの海外投資家を引き寄せ、国内投資家が呼応する。 読者の多くはここで疑問を持つだろう。確かに株高は投資家にとっては喜ばしいが、私たちが生活する実体経済をどれだけよくするのか、と。とりわけ、金融資産をため込むだけのゆとりのない一般の勤労者にとっては株式投資どころではない。 リーマン・ショック当時のGDPと株価をそれぞれ100として、株価が100上がった場合の実質GDPがどれだけ上昇してきたか、日米の最近の2年間について筆者が試算してみると、米国は15前後で推移し、日本は3~7の幅で動いている。米国はリーマン後、連邦準備制度理事会(FRB)がおカネの発行量を6年間で4倍以上増やして、株価を上昇させて景気を回復軌道に乗せた。 日本の株高による景気押し上げ効果は米国に比べてかなり見劣りするものの、それなりに効き目がある。日銀がおカネを刷って、金融市場に流し込んで円安・株高に誘導し、景気をよくするという手法は弱いとはいえ、有効には違いないようだ。 この好循環は今年1~3月でぷっつり途絶えた。GDPの改善基調は消費税率8%になった4月で暗転してしまったが、その前に勤労者家計の実質収入は減り続けていた。 実質収入の増加率は昨年10~12月からマイナスに転じ、消費税増税後は下落に加速がかかった。GDP成長率は、実質収入のあとを追うようにぽきんと腰折れし、7~9月期でさらに悪化した。収入が減れば、消費を切り詰める。家計消費が6割を占めるGDPが萎縮する。 実質収入が減ったのは、物価上昇に賃上げが追いつかなかったためだ。インフレ目標2%を掲げる日銀は円安に誘導して輸入物価を押し上げ、消費者物価上昇率を1%台のプラスに押し上げた。企業の方はしばらくの間、景気の先行きを見極めるまでは賃上げには慎重になるので、物価上昇分だけ実質賃金が下がる。そこに消費税率引き上げ分が物価に転嫁されたので、実質賃金が急下降した。金融緩和を柱とするアベノミクスで消費は確かに上向いたが、航空機で言えば巡航速度に入る前に増税で逆噴射させたために失速してしまったのだ。民主党など野党は「アベノミクスの失敗」を騒ぎ立てるが、民主党政権が主導した「3党合意」による消費税増税が元凶だと素直に認めるべきだ。 肝心の安倍首相も判断ミスを犯した。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は楽観的過ぎた。黒田氏は昨年10月初めの増税決断の際、異次元緩和をすれば消費税増税による悪影響を相殺できると首相に進言したのだ。 そこで安倍首相が来年10月に予定されていた消費税再増税を先送りしたのは当然だが、それでアベノミクスが息を吹き返すわけではない。消費税率8%が引き起こした家計への圧迫は今後も続く。安倍首相は引き続き、企業に賃上げを求めると言明しているが、国内需要に不安がある中では、おいそれとは実現しそうにない。 日銀のほうは10月末に異次元緩和の追加策に踏み切った。新規発行額の2倍近い国債を市場から購入すると同時に株価指数に連動する上場投資信託の買い上げ規模をこれまでの3倍にする。市場は沸き立ち円安・株高が進行しているが、それによる実体経済押し上げ効果に限度があるのは、上述した通りだ。 筆者が知る限り、アベノミクスに代わる現実的な脱デフレ策はない。総選挙を通じて、安倍政権と与党はアベノミクスのまき直し策を明示し、野党側も建設的な対案をぶつけるべきなのだ。

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    円安はアベノミクスに不可避

    月15日付同紙にて、円安は、日本にとってメリットもデメリットもあるが、デメリットに気をとられ過ぎて、アベノミクスの柱である円安政策を放棄して、アベノミクスを損なうべきではない、と指摘しています。 すなわち、弱い円は、安倍総理のリフレ政策の重要な柱である。大規模な金融緩和の推進は、円をドルに対して26%下落させ、輸入価格が上昇し、消費者物価を日銀の2%のインフレターゲットに向けて押し上げるのに役立った。しかし、弱い円は、日本にとって、もはや、良いことだけではないかもしれない。 それには、いくつかの理由がある。一つは、48基の原発全てが停止した結果、はるかに多くの、石油、LNGを輸入するようになり、弱い円が、貿易収支を悪化させている。対外投資からの多くの収益があるが、最近では、拡大する貿易赤字を相殺するには十分ではない。 もう一つの理由は、日本はもはや輸出経済ではない点である。日本の輸出は、GDPの15%に過ぎない。 安倍総理は、明らかに、弱い円の利点について再考している。6年ぶりに1ドル110円台に下落した時、安倍総理は、円の下落には良い面と悪い面があると述べた。黒田日銀総裁は、釈明のため、国会に招致された。政府と日銀の亀裂の徴候は、アベノミクスへの信認を弱めかねない。もう一段の量的・質的緩和をためらうようなことがあれば、インフレ期待の定着に失敗し、リフレ政策全体が挫折し得る。 弱い円はメリットだけではないという安倍総理の認識は正しいが、今ふらつくことは、災厄である。持続的な物価上昇は、アベノミクスの中心眼目である。デフレに戻ることは、それを全て捨て去ることになる。好むと好まざるとに関わらず、弱い円は、アベノミクスの一部である、と述べています。出典:David Pilling, ‘A weak yen is no panacea but Shinzo Abe needs it all the same’(Financial Times, October 15, 2014)* * * アベノミクスについては、近隣窮乏化政策である、通貨操作である、といった批判もありますが、円安それ自体を目的としているというよりは、金融緩和が主眼であり、円安はその結果として起こっていると捉える方が正確でしょう。最近は、ピリングが言うように、円安のデメリットが指摘されています。円安によって輸出数量が伸び、国内生産が増加し、経済の拡大に貢献することが期待されていたにもかかわらず、円安でも輸出数量が伸びず、期待された経済効果が見られず、他方、円安で輸入物価が上昇し、購買力の低下につながっている、という指摘です。円安にもかかわらず、何故輸出が伸びないかについては、一例として、以前は輸出を引っ張っていた電気セクターが国内の生産能力を大幅に減らすとともに、輸出の中心である自動車同様、生産拠点を大幅に海外に移転し、国内の供給体制が制約されていることがあります。 以前のように円安が輸出増をもたらすためには、製造業が設備投資を増やし、生産能力を増やしたり、輸出の新しい担い手が出てきたりする必要があります。これこそが、アベノミクスの第3の矢である構造改革の課題です。他方、円安は輸入物価高をもたらし、給与が増えない限り、実質所得減をもたらすのは当然であり、安倍政権は賃上げを重視しています。 つまり、アベノミクスには円安のデメリット対策が含まれているのであって、円安のメリットがデメリットを上回るよう、これらの対策が着実に実施されることが期待されます。ただ、円安のデメリットへの対策の中でも、構造的要因に対しては、長期的な対策とならざるを得ません。しかし、LNGや石油の輸入増と円安が相まって物価上昇をもたらしている点は、原発を再稼働すれば回避し得ることです。アベノミクスの成否は、原発の迅速な再稼働が出来るかどうかにもかかっていると言ってよいでしょう。

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    アベノミクスの終わり」解散で社会保障改革待ったなし

     アベノミクスは、消費税10%への再引き上げを見送ったという点では財政再建の面からも、デフレ脱却で力強い経済成長の道筋を示すという面からも失敗に終わりつつあると考えてなんら問題ないでしょう。 いろんな意味で、できることは全部やったのが安倍政権であり、日本人にとっては打った博打が外れてオケラ街道を歩くことになった現実を受け入れざるを得ません。それでも前を向いて改革を安倍政権に託すか、改めて非自民の力量に期待して再度の政権交代を目指すか、「どちらが悪くないか」という異常に消極的な選択を有権者は迫られることになります。 巷では、アベノミクスがどうのこうのというより、ごく単純にリセッション、景気循環における不況に陥っているのではないかという見方も出てくるようになりました。ただ、低成長を長らく続けてきた日本は、悪い意味で不況慣れしており、苦しいデフレ環境下で慎ましく暮らす方法に長けてしまったとも言えます。 各種インジケーターとしてはあまり楽観視できる状況になく、公示前の調査においても景気問題や生活の不安が断然トップの状況での解散でして、増税見送りで野田政権からの三党合意後の是非を問う形になっております。 それでもなお現状では各選挙区においては与党やや優勢は変わらないのですが、非常に揺らぎが大きいように感じている次第です。今回の選挙においては、本当の意味で太い争点の芯が見えていません。解散の理由も消費税増税が延期といっても国民に争点としてははっきりとは伝わらない。前回のような民主党政権に対する懲罰もなければ躍進できそうな政策に対する期待感もない中で、無党派層が拡大しているというよりはどこに投票しても打開策が見出せそうにないという非常にたそがれた選挙戦に突入しつつあるからです。 今回は安倍政権特有の「投げ出し」でないことを期待するほかないわけですが、選挙に勝った後で、本格的に景気が後退→消費税引き上げ再延期からの社会保障制度の破綻が起きるとシャレにならないぐらいに日本全国夕張化する可能性もあるので、正直いろんなものを考え直す必要があるのではないでしょうか。 この前、都議のおときたさんが面白いレビューを書いておられたので、真のダークツーリズムにご関心のある方はぜひご一読ください。「燃えるゴミ」が燃やせない町・夕張に、暗い日本の未来をみた 本来問うべき争点というのは消費税増税そのものではなく、また消費税が財政再建にどう資するかでもなく、100兆円を超えて膨れ上がった社会保障費の抜本的な見直しと、年100万人を切るであろう新生児をいかに増やすかです。下手をすると、このまま日本の国力が衰退し、社会保障制度が破綻するぞということになると、それこそ「子供をもうけることが最大の社会保障」という時代に戻りかねません。敗戦もそうでしたが、そういう壁にいちいち強く頭をぶつけないと我が国は自らの変革を促すことはできないのでしょうか。 おそらくは、国力の衰退を国民が認識し、受け入れる準備をする選挙になるのかもしれません。それは、もうこれ以上老人を支えることのできなくなった社会が、無理に無理を重ねていままでやってきて、言い逃れのように「経済成長すれば財政はいずれ均衡する」と念仏のように唱え続けて現実逃避し、埋まるはずのない大きな穴を放置した結果が現在の体たらくであるとも言えます。老人は票田であることに違いはないけれど、同時に回収の見込みのない老人に医療費を突っ込んで長生きをさせても、生産性がない以上は社会にとって負担にしかならないという現代の姥捨て山問題待ったなしの情勢であることはまじめに議論しても良いと思うのです。 解散自体に大義名分があるとはとてもいえないけど、今回もまた日本の将来を占う本当に大事な選挙になるかもしれないです、が、与党がああで、対抗するべき野党もああというのは日本人にとって最大の不幸といえるのではないでしょうか。 もちろん、政治家各氏が本当に意欲のない無能だとはとても思えません。それだけ、我が国の現状で解決するべき問題が山積していることの証左だろうと感じます。社会保障費、本当にどうするんでしょう。このテーマについては、財源問題とセットで各党各政治家の意見をじっくり聞いて、一人の有権者としてきちんと判断していきたいと思います。

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    専業主婦をやっててもいいですか?

    成長戦略の一環として女性の労働力を積極的に活用する「ウーマノミクス」の議論が動き出した。安倍晋三首相は専業主婦を優遇する所得税の「配偶者控除の見直し」を指示。女性の社会進出を後押しする一方で、専業主婦にとっては「逆風」となる。総理、もう専業主婦をやってはダメなんですか?

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    総理、さらなる増税は無理です。

    日銀が追加の金融緩和を行ない、確かに株価は上がった。だが、所得は伸びず、4月の消費増税が国民生活を直撃している。とても来年10月に消費税率を10%に上げる環境にはない。安倍総理のブレーンからも延期論が出始めた。

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    なぜ日本のリベラルはリフレ政策が嫌いなのか

    原田 泰 (早稲田大学政治経済学部教授・東京財団上席研究員) 日本のリベラルはアベノミクスの第1の矢、大胆な金融緩和、リフレ政策が嫌いらしい。リベラルが、機密保護法や集団的自衛権に反対するのは、そのイデオロギーから言って当然だろうが、なぜリフレ政策に反対するのだろうか。 リフレ政策のお蔭で経済が拡大している。雇用が良くなっている。増えているのは非正規ばかりと言われていたが、正規の雇用も拡大している。雇用情勢が良くなっているのは大都市だけのことではない。有効求人倍率はどの都道府県でも上昇している。 人手不足のおかげで、これまで安い人件費で猛烈に人を使っていた企業も、考え直さざるを得ない状況になっている。そもそもブラック企業と評判の立った企業に人が集まらなくなっている。経済の好転は自殺者も減らす 自殺者も減っている。景気が良くなれば自殺者も減るとは常識的な判断だが、これは厳密な実証分析でも支持されている。失業や倒産は当然、経済的困窮を通して自殺率を高める。さらに、精神的・肉体的疾病のリスクを高めることによっても自殺率を高める。 澤田康幸・上田路子・松林哲也『自殺のない社会へ』(有斐閣、2013年)は、著者自身と多くの実証研究を駆使して、経済と自殺の関係を明らかにしている。失業率と自殺の相関関係は、日本の場合、他のOECD諸国に比べても大きく、男性の就業年齢層(35-64歳)では、特に失業率が自殺率を高める。40-50歳代男性の職業別自殺率を見ると、無業者、無業者のうちの失業者において特に高くなっている。国際データ、県別データでの分析によっても、失業率や個人の自己破産率が、男性、特に40-59歳の男性の自殺率の上昇をもたらしているという。  図は、自殺者数と失業率の関係を示したものだ。自殺者数には警察庁と厚生労働省と2つの統計がある。どちらもほぼ同じ動きをしているのでより直近の数字が分かる警察庁の数字を使っている(図の2014年の数字は、直近時点までの合計値または平均値)。図から、失業率が上がると自殺者が増加し、失業率が下がると自殺者が減少するという関係が明白である(人口が減少しているのだから人口当たりの自殺者数、すなわち自殺率にすべきだ、また、高齢者の自殺率が高いので高齢化で調整した自殺率を使うべきだという批判があるかもしれないが、そうしてもグラフの形は変わらない。厳密な分析は前掲の澤田他著がある)。 特に、98年の金融危機による大不況によって一挙に上昇し、それまで2万人程度だった自殺者が3万人に跳ね上がったことが印象的である。もちろん、経済情勢が悪くなってから自殺に追い込まれるまで時間がかかるようであり、原因は経済的問題ばかりではない。しかし、それでも3万人の自殺者が1万人減るという効果がある。自殺をする人々のすべてをどうしたら救えるかはよく分からないが、経済が良くなれば自殺者の3分の1の人は救うことができるのだ。経済が良くなることの恩恵は大きい。雇用拡大は格差を縮小させる リフレは格差も縮小させる。1990年代の前半まで、日本では若者の格差がほとんどなかったのに、90年代末以降、若者の格差が拡大するようになった。そうなったのは、正社員になれた若者とフリーターのままの若者の所得格差が大きかったからだ。正社員同士の格差より、正社員とフリーターの格差の方が大きいから、正社員になれない若者の比率が高まれば、所得格差は拡大する。 若者が正社員とフリーターに分化した最も大きな理由は、80年代は景気が良くて、90年代以降は景気が悪かったからだ。景気が良ければ、より高い比率の若者が正社員になれ、悪ければ、より低い比率の若者しか正社員になれないし、若年失業者も増える。ところが、2009年のデータでは格差が縮小している。小泉政権下で、不十分ながらもリフレ政策-2001年から06年まで続いた量的緩和政策-が行われて景気が良く、若者の就職状況が良かったことの恩恵が09年でも続いていたからだ。すなわち、景気回復が格差を縮小させたのである(原田泰『日本を救ったリフレ派経済学(仮題)』日本経済新聞社、2014年11月刊行予定、図1-7参照)。安倍政権下の本格的なリフレ政策なら、さらに若者の雇用が改善し、若者の格差が縮小するだろう。若者の格差は、持ち越される。20代で安定した仕事に就けた若者とそうではなかった若者の格差は30代になっても続く。不安定な仕事にしか就けなかった若者は年金も少ないので、格差は高齢者になっても続く。リフレ政策は、すべての年代での格差を縮小することができる。リフレ政策の恩恵 リフレ政策はあらゆる雇用を拡大させる。ブラック企業を減少させる。自殺者も減らす。格差も縮小させる。これらは、リベラルと言われる人々の望むものだと私は思う(私はリベラルではないが、私も望んでいるものだ)。少なくとも、アメリカでリベラルと言われる人々-プリンストン大学のポール・クルーグマン教授(同教授のニューヨークタイムズの連載コラムのタイトルは「リベラルの良心」である)やコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授など-は、雇用拡大のために金融を緩和せよと論じている。ところが、日本のリベラルは金融緩和に反対である。 なぜ、そうなのだろうか。考えられる第1は、リベラルではない安倍政権になって、リフレ政策が成功したら嫌だから反対しているという答えである。しかし、うまくいったらどうするのか。そもそも、民主党というリベラル派の政権ができたのだから、その時にリフレ政策を行っていれば良かった。誰がやっても、リフレ政策は効果があって、雇用情勢は改善する。もちろん、リーマンショック後まもなくだから、すぐには良くならなかったかもしれないが、何もしないよりはずっと良かったはずだ。 第2は、成功したら、自分たちが攻撃している問題が少なくなって攻撃のネタに困るという答えである。しかし、これにも成功したらどうするのかという問題がある。第3は、今はうまくいったように見えても将来はもっと悪くなると考えているからだという答えである。将来もっと悪くなるというのは、ハイパーインフレになるということだろうが、アベノミクスの大胆な金融緩和には消費者物価で2%という上限がついている。もっと悪いことが起きなかったらどうするのか。 社会党は、資本主義ではうまくいかない、社会主義にしなければダメだと言い続けて、壊滅状態になった。私は、雇用拡大、ブラック企業・自殺者減少、格差縮小に賛成なので、それに賛同してくれる人たちが減らない方が良いと思っている。リフレの政策の成功で、リベラル派が壊滅状態になるのではないかと、他人事ながら心配である。 ただし、朝日新聞(2014年8月25日)のアベノミクスを批判した社説では、リフレ政策への批判がなく、アベノミクスは、市場経済重視の姿勢であるかのようで、実は、賃金を上げろ、投資を増やせ、女性を活用しろと、企業が自ら決めるべきことに介入しているからダメだという批判になっている。反市場主義派が、市場主義派の論理を使ってアベノミクスを批判している。私は、市場主義派のエコノミストなので、市場主義派の論理をより広範な人々が使ってくれることは嬉しい。

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    消費増税よりも「ネオ・アベノミクス

    2020年の東京オリンピックまでは日本経済も活気に満ち、拡大していくだろう。しかし、問題はそのあとだ。人口減少による地方の疲弊、高齢化による社会保障費の増大、財政の危機的な悪化など、難問が日本を襲う。どうする安倍総理。

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    アベノミクス「第二の矢」でデフレ不況を打ち抜け

    )――戦略的な財政政策こそが「最先端」の学説である周回遅れの正統派経済学 本稿は、財政政策、いわゆるアベノミクス「第二の矢」の重要性をあらためて論ずるものである。 筆者はこの主張を、「デフレ脱却のためには、財政政策が不可欠である」という趣旨にて、デフレが深刻化したリーマン・ショック以降、さまざまなデータに基づく客観的な理論実証結果を踏まえつつ、繰り返し主張し続けてきた。そうした研究、言論活動の延長として現在、第二次安倍内閣にて防災減災「ニューディール」を担当する内閣官房参与を仰せつかっている。 「ニューディール」とは、1929年に起こった世界大恐慌下で、ルーズベルト大統領が断行したケインズ理論の考え方に沿った「公共投資」を主軸とする経済政策である。当方がいま、「ニューディール」の言葉を冠した担当参与を仰せつかっているという事実は、「公共投資を主軸としたデフレ脱却策」の重要性が政治的に認識されたことを意味している。 ただし、日本の多くの方々は、「財政政策による経済対策なんて――昭和時代でもあるまいし、何を古くさい」と感じているのではないかと思う。 実際、筆者が主張する「財政政策・必要論」は、国会やメディア上でしばしば取り上げられてきたが、そのなかで、藤井は財政出動をすればそれで景気が良くなると主張しているにすぎず、かつその主張は「一世代前のもの」にすぎない、という趣旨で政治家、エコノミストに「揶揄」されることは少なくない。客観性を重んじるべきはずの学界ですら、「主流派経済学者」たちによって、公共投資の有効性は低いと繰り返し主張され続けている。 こうした状況のなか、「公共投資が日本を救う」というような筆者の主張は、「トンデモ論」として扱われることが一般的となりつつある。 しかし、こうした一般のメディアそして主流派経済学者たちの認識は、何重もの意味で間違っている。 そもそも、筆者も含めた多くの財政政策・必要論者は、景気対策では財政出動をやりさえすればよいなどと考えていない。デフレ不況下では国内の需要が少なく、かつ人びとの投資や消費が伸びないがゆえに、政府支出の拡大をせざるをえないと考えているにすぎない。したがって、デフレが「本当に」脱却できたのなら、財政の拡大は(少なくとも景気対策という意味においては)必要ない、というのが筆者らの平均的な見解だ。 ただし何よりも重要な誤りは、「財政政策・必要論は、一世代前の説だ」という説それ自体がすでに「一世代前」の説だ、という点にある。たしかにリーマン・ショックまでは、財政政策や公共投資の不要論は日本のみならず、世界の経済学者のあいだでも広く共有されていた。しかし、リーマン・ショックによって世界各国がデフレに陥ったあとは、多くの経済学者が前言を翻し、筆者と同様の「財政政策・必要論」を主張し始めている。 たとえば、ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツは、2010年の『Real Time Economics』誌上にて、リーマン・ショック以後アメリカの景気が改善しない「最大の問題」は、財政の「規模が小さすぎること」だと主張している。2013年6月に来日した折には安倍総理と会談し、「金融緩和のみならず、政府の拡張的な財政政策を連携させるべきであり、とくに長期的な成長の基礎(教育、技術、研究、インフラ強化)や社会問題の解決のために政府支出を拡大すべきだ」と総理に進言した旨が報道されている。 あるいは、同じくノーベル経済学賞を取ったクルーグマンは、2013年1月『ニューヨーク・タイムズ』紙上にて、安倍総理が断行したアベノミクスの「第二の矢」として決定した10兆円超の財政出動を高く評価しつつ、「長期不況からの脱却が非常に困難であることは確かであるが、それは主として、為政者に大胆な政策の必要性を理解させるのが難しいからだ」と述べている。まさに、国会で財政政策や公共投資の必要論を主張する筆者等を「揶揄」するような発言を繰り返す政治家たちこそが、「長期不況からの脱却」を妨げている諸悪の根源だと指摘しているのである。 しかもクルーグマンは同コラムにて、そうした政治家や経済学界の多くの学者たちが信じ込んでいる経済学を、「悪しき正統派経済学」と断じている。そして「世界の先進各国の経済政策は麻痺したままだ。これは皆、正統派経済学のくだらない思い込みのせいなのだ」と述べ、そんな悪しき正統派経済学と「決別」することこそが、デフレ脱却において必要なのだと論じている。 こうしたリーマン・ショック以後の米国経済学界を中心とした劇的な変化を受け、経済学者スキデルスキーは『なにがケインズを復活させたのか?』(日本経済新聞出版社)という書籍を取りまとめ、いままさに、その本が全世界の多数の経済学者たちに読み込まれている。実際米国では、こうした経済学者たちのケインズ政策への「転向」を受けて、景気対策としての公共投資が大きく注目されており、オバマ大統領はリーマン・ショック後、72兆円という、昨年度のアベノミクスの「第二の矢」のじつに「7倍」もの水準の超大型財政政策を断行した。それ以後も、年始の一般教書演説で、「毎年、インフラの老朽化対策や高速鉄道整備等のための公共投資の拡大を通して、雇用拡大、景気浮揚をめざす」と主張し続けている。 つまり――「景気対策として財政政策、公共投資を」という説こそが、デフレ不況が世界的に蔓延した今日においては「最先端」の説であり、わが国で幅を利かせる「悪しき正統派経済学」者たちが主張する「財政政策、公共投資なんて一世代古い」という説こそが、「周回遅れの一世代古い」考え方なのである。公共投資削減がデフレ不況を深刻化させた 以上、財政政策、公共投資の有効性を論ずる議論を紹介したが、これらは客観データでももちろん裏付けられている。 たとえばそれは、リーマン・ショックによって不況に陥った国のいずれが早く回復したのかについての国際比較分析からも、明らかにされている。この分析では、金融政策の程度(マネタリーベースの拡大率)や「公共投資額の拡大率」に加えて、産業構造や貿易状態、財政状態などの28個のマクロ指標と、OECD加盟の34の先進諸国のデータを用いて分析されている。 結果、「名目GDP、実質GDPと失業率」の3尺度すべてと統計的に意味のある関係をもっていたのは、28指標中、ただ1つ「公共投資額の拡大率」のみであった。図1は、そのなかの1つ、名目GDPの回復率と公共投資の拡大(変化)率との関係を示したグラフである。ご覧のように、公共投資を大きく拡大した国ほどGDPの回復率が高いことを示している。つまりリーマン・ショック後、いち早く公共投資の拡大を図った国がいち早くショックから立ち直り、その政治決断ができなかった国はショックから立ち直ることに失敗する傾向が明確に存在していたのである。 一方、わが国において公共投資は効果をもっていたのか。この点について、筆者らはバブル崩壊後の景気に対する公共投資の効果を分析した。 この景気に影響を及ぼす変数には多様なものが考えられる。そこではとくに、日本のマクロ経済に大きな影響を及ぼす政府系の建設投資額(以下、公共投資額と呼称)と総輸出額の2変数に着目し、これらが景気動向(名目GDPとデフレータ=物価)にどのように影響を及ぼしたのかを統計分析した。 その結果、図2、図3に示したような「関係式」(一般に、回帰式といわれる)が導かれたが、これらが示しているのは、「1兆円の公共投資が、2.43兆~4.55兆円の名目GDPの拡大と、0.002~0.008のデフレータの改善につながっている」ということであった。そしてこれらの「効果」は、「総輸出の拡大」に伴う効果よりも、格段に大きなものである。 ここで重要なのは、この「関係式」を用いると、図2、図3に示したように、実際の名目GDPやデフレータ(物価)の変動をほとんど綺麗に再現できる点である。つまり、「1兆円の公共投資が2兆~4兆円程度のGDPと0.002~0.008のデフレータの改善につながる」という数値は、それなりに高い再現性をもつ一定の信頼性のある数値と解釈できる。 これらの結果は、91年以降のバブル崩壊後の日本において公共投資は、物価下落というデフレ化を止め、名目GDPを改善させる巨大な景気浮揚効果を持ち続けていることを明確に示している。つまり、90年代前半ならびに、小渕政権下で行なった大型の公共投資の拡大がなければ、デフレはより一層深刻化し、物価も名目GDPもさらに下落していたこと、そして橋本政権、小泉政権以降に行なった公共投資の過激な削減が、日本のデフレ不況を深刻化させていたことが示されたのである。 クルーグマンは、先に紹介した『ニューヨーク・タイムズ』のコラムで、「(バブル崩壊後の日本で)公的事業への多額の支出が行なわれたが、政府は、負債増大への懸念から、順調な回復が確立する『前』に引き返してしまった。そしてその結果、1990年代の後半にはデフレが定着してしまった」と論じていたが、上記の分析は、このクルーグマンの指摘を実証的に裏付けるものである。「下駄」を履かされている実質GDP ところで、少々専門的な議論となるが、きわめて重要な論点であるので、1つ付記しておきたい。前記のように筆者は、デフレ脱却効果を「実質」GDPよりも「名目」GDPを重視して分析しているが、これはそもそも、実質GDPとは、名目GDPをデフレータの変化率(物価変動率)で除したうえで得られる「加工指標」だからである。したがって、ある政策を行なった場合、名目GDPとデフレータを「悪化」させても、デフレータに対する悪影響のほうが強い場合、見かけ上、実質GDPは「改善」するというきわめてトリッキーな効果が得られる。この「加工指標ゆえのトリッキーな特徴」ゆえに、デフレ下では、実質GDPのみに基づいて政策判断を行なうことは正当化しえないのである。 図4をじっくりご覧いただきたい。名目GDPはデフレに突入した1998年以降、途端に伸びなくなったものの、実質GDPは相変わらず伸び続けている(!)。これは、デフレになれば物価が下がり、それによって「下駄」が履かされていくからである。だから、この図からも明らかなように、実質GDPでは、デフレになったのかどうかが判別できず、デフレ脱却のための政策を実質GDP「のみ」で判断しては、日本経済をとんでもない方向に導くことにもなりかねない(ただしいうまでもなく、非デフレ下では、実質での評価は必須である)。 ところで、そうした「トリッキーな効果」は実際に観測されている。たとえば、デフレに突入した1998年以降、金融政策の規模を意味するMB(マネタリーベース)は、名目GDPとデフレータの双方に対して、(じつに驚くべきことにリフレ派が主張する方向とは真逆の)「マイナス相関」をもっていた。ところが、名目GDPとのマイナス相関の程度よりも、デフレータに対するマイナスの程度のほうが大きかったため、「見かけ上」MBの増加によって実質GDPが増えているように「見える」結果となった。しかし、これをして、「MBの拡大にデフレ脱却効果あり!」と主張することはできぬことは、愚か者でもないかぎり誰もが理解できるだろう。そもそもリフレ理論は、MB拡大が物価に影響を及ぼし、結果として消費・投資、そしてGDPの拡大を促すと主張するものであり、それ以前に、物価「低下」をもたらしたものにデフレ脱却効果があるといえぬのは、言葉の定義からして明白だ。 筆者はこの論点も含め、Voice誌上の「ついに暴かれたエコノミストの『虚偽』」(2014年5月号)にて、リフレ派論者が自説を正当化するために持ち出しているデータの多くが、科学的に正当化できない虚偽的主張だということを、実証的に「告発」し、反論を募集した。その後、本誌上も含めていくつかの反論を目にしたものの、残念ながら、当方の告発に対する有効な反論は文字どおり皆無であった(しかも、それらの反論の大半は事前に公表した想定反論に沿ったものであった)。紙面の都合上、それら反論の検証の詳細は当方の公表資料(たとえば、『統計的「裁判」としてのデータサイエンス』〔行動計量学会〕、『「政治のウソ」を暴くデータ・サイエンス』〔新日本経済新聞〕ならびに、それらで引用した諸文献を参照されたい。いずれも、藤井聡のホームページよりアクセス可能である)に譲るが、ここではその資料(データサイエンスについての学術原稿)のなかで述べた言葉をそのまま掲載する。すなわち、「リフレ論が『偽』であると申し立てた当方の『統計的裁判』において、もしも、データサイエンスを知悉した見識ある裁判長が存在するとすれば、少なくとも現状ではリフレ論の『有罪』は確定した状況にあるといって差し支えない」。「問題はこれからの第二の矢だ」 最後に、第二次安倍内閣が発足し、アベノミクスを展開した2013年のデータに着目し、財政政策の効果を確認してみよう。 2013年の名目GDPは、+0.9%、「4.6兆円」の成長を遂げているが、それが何によってもたらされたのかを確認したところ、「4.3兆円」が、財政政策によるものであることがGDP統計より明らかとなっている。 つまり、アベノミクスによって株や為替が大きく改善したものの、「実体経済」の景気回復のほとんど9割以上が「第二の矢」、財政政策によってもたらされていたのが実態だったのである(「第一の矢」は円安をもたらしたが、原発停止のあおりを受けて石油・ガスの輸入量が大幅に増えたことによって、貿易収支がかえって悪化した。これによって、株価増進による資産効果等が結果的に相殺され、「第一の矢」の景気浮揚効果は、2013年では残念ながら明確には検出されなかった)。 以上、いかがだろうか。国際比較データ、日本のバブル崩壊後のマクロデータ、そして昨年のアベノミクス効果データを見ても、いずれも「財政政策がデフレ脱却効果を強くもつ」ことを示している。 もちろん、財政政策を考えるのなら、日本の国益にかなう項目により効果的な支出を考えることが重要であり、したがって「戦略的な財政政策」が不可欠だ。たとえば、国会のデフレ脱却委員会にて参考人として当方が主張したのは、「防災・強靭化・老朽化対策」、「インフラ投資」、「研究・教育投資」、「民間投資を誘発するための投資・補助金」、「中小企業支援」などである。こうした主張は、スティグリッツ教授が安倍総理に「長期的な成長の基礎(教育、技術、研究、インフラ強化)」に投資すべきだと進言した内容に、奇しくも一致している。 デフレ脱却を確実なものにするために「第二の矢」を打ち抜くのなら、成長戦略を見据えたより効果的な財政出動が求められていることは論をまたない。折しも、岩田規久男日銀副総裁(6月3日『ロイター』参照)が主張したように「第三の矢の規制緩和にはデフレ促進の効果がある」ことが懸念されている以上、こうした戦略的な財政政策はいま、日本のデフレ脱却のために是が非でも求められている。 そしていま、デフレ脱却が進んでいるとはいえ、いまだ勤労者世帯の収入は下がり続け(消費税増税前で駆け込み需要があった3月でもマイナス3.3%、増税後の4月はじつにマイナス7.1%であった)、2013年のデフレータ(物価)は前年比マイナス0.6%の「デフレ」水準であった。非正規も含めた有効求人倍率は1を超えたものの、正社員の有効求人倍率は5月時点で0.67と1からは程遠い状況である。しかもこの状況下で、日本は消費税増税を行ない、補正予算額も昨年度から今年度にかけて4.5兆円規模で縮小されている。 スティグリッツ教授が「アベノミクスの第一の矢は成功したが、問題はこれからの第二の矢だ」と今年のダボス会議で発言したように、「第一の矢」である金融政策が果敢に進められているなか、この「第二の矢」をデフレ脱却が確実なものとなるまで果敢に打ち抜いていくことの必要不可欠性の吟味が、日本経済の最重要課題である。 何といっても、「第二の矢」は「第一の矢」と異なり、毎年毎年の是々非々の政治決断が必要なのだ。それができなければ――増税の影響も相まって、日本が再び、本格的なデフレ不況のどん底へと叩き落とされてしまうリスクは避けえない、と筆者は心の底から強く、科学的かつ冷静に懸念しているのである。藤井 聡(ふじい・さとし) 京都大学教授・内閣官房参与1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科修了後、同助教授、東京工業大学教授などを経て、現職。専門は国土計画論、公共政策論、土木工学。社会的ジレンマ研究にて、日本学術振興会賞など受賞多数。近著に、『巨大地震【メガクエイク】Ⅹデー』(光文社)がなどある。

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    アベノミクス「第一の矢」でデフレ不況を打ち抜け

    せる。これを使わない手はない、とリフレ派の経済学は過去20年以上にわたって主張してきたのだが、それがアベノミクスの第一の矢として、やっと採用されたわけだ。 以上の主張は、イデオロギーとは何の関係もない。日本の現状においてそうであると、事実に基づいて主張しているだけである。イデオロギーがあるとすれば、日本人のほとんどは他人に雇われているのだから、景気がよくて雇用状況がよいほうがよいに決まっているでしょう、というだけである。人を雇っている社長の立場で考えても、モノが売れなくて倒産するより、人手不足で倒産するというのが事実だとして、人手不足倒産のほうがマシだと思う。モノが売れなくて倒産するときには従業員の面倒を見なくてはならないが、人手不足倒産ならその手間が要らない。 日本の金融学者は日本銀行(黒田東彦総裁、岩田規久男副総裁が就任する以前の日銀である)の影響を受け、財政学者は財務省の影響を受けているから、金融学者は金融政策に効果はなく、財政学者は財政政策に効果がないというのだという説もあるが、普通に分析すると、金融政策には効果があり、財政政策の効果は小さいという結果になる。 関西大学の本多佑三教授は、その日本経済学会会長就任講演で、(古い日本銀行と金融学者の主流は)これまで、金利がゼロに張り付いてしまえば金融政策にできることは何もなく、量的緩和は効果がないと主張してきたが、「こうした主張は、なんら客観的な証拠のない主張である。……客観的なデータは、日銀が採用した量的緩和政策が、株価の変動を通じて生産に影響を与えた」と論じている(本多佑三「非伝統的金融政策の効果:日本の場合」『現代経済学の潮流2014』東洋経済新報社)。 もっとも、2001年から06年3月まで行なわれた量的緩和政策に効果がない、という論文はあるのだが、それは量的緩和政策がなされて間もなく書かれた論文で、2002年または04年までのデータを用いたものである。その後、データが追加されたのだから、データを追加して論文を書き直すべきだと思うのだが、誰もそんなことはしていない。日本の科学の恥だとかいって大騒ぎになっているSTAP細胞の場合には、多くの学者が再現を試み、検証実験をしようとしているのだから、立派なものである。経済学の現状を見れば、STAP細胞で誰も死ぬ必要なんかなかった。 財政政策については、経済学者が普通に分析すると効果が小さいという結果になる。これは、飯田泰之「第六章 財政政策は有効か」(岩田規久男・浜田宏一・原田泰編著『リフレが日本経済を復活させる』中央経済社、2013年)、中里透「デフレ脱却と財政健全化」(原田泰・齊藤誠編著『徹底分析 アベノミクス』中央経済社、2014年)などの論文に基づく私の判断である。藤井聡教授の3つの論点 以上が私の主張だが、京都大学の藤井聡教授は、「金融政策には効果があり、財政政策の効果は小さい」という私の主張は統計的に否定されるという(藤井聡「『第二の矢』でデフレ不況を打ち抜け」本誌本年9月号)。 藤井教授の論点は3つある。第一は、アメリカのクルーグマン、スティグリッツなど、ノーベル経済学賞受賞者を含む高名な学者が、財政政策の効果が大きいと主張していることである。 第二は、金融政策の効果を示した実証分析が、実質GDPに対する効果を示したものであって、名目GDPに対する効果を示したものではない、という批判である。 第三は、リーマン・ショック後のOECD(経済協力開発機構)諸国の国際比較分析から、名目GDP、実質GDP、失業率に対して効果をもっていたのは、金融政策や産業構造や貿易状態や財政状態などではなく、公共投資のみであったというご自身の分析による批判である(前岡健一郎、神田佑亮、中野剛志、久米功一、藤井聡「国民経済の強靭性と産業、財政金融政策の関連性についての実証研究」2014年5月、14-J-027、経済産業研究所)。 まず、第一の論点であるが、私は、近年の日本において、信頼できる実証研究によれば、財政政策の効果は小さいと主張しているだけで、いついかなる時代と国でも効果が小さいと主張しているわけではない。また、まったく効果がないと主張しているわけでもない。公共事業をすると、政府が直接、建設工事を発注し、それがGDPに計上されるわけだから、その時点では、GDPを増やす効果はあるだろう。東日本大震災の復興工事として行なわれている防潮堤や高台移転の工事は、その時点ではGDPに計上される。 しかし、防潮堤によって港が守られ、人びとがそこでこれまで以上に活発な漁業を営むとか、より多くの人が高台に移り住むというようなことにならなければ、工事が終わったあとにはむしろGDPが減少してしまう要因になる、と主張しているのである。 日本の高度成長時代、道路、鉄道、橋をつくれば、工場が来て、働く場所が増える。より多くの人が、これまでよりも高い収入を得られるのだから、GDPは継続的に増えていく。公共投資の効果は大きかっただろう。 昨年の冬に私の勤務する大学と海外大学との交流プログラムで、3週間ほどアメリカに滞在したのだが、道路の悪さにあらためて驚いた。雪を溶かすために塩を撒くので道路の傷みが激しい。穴が開いていて危険でもあるし、車がスピードを出すことができない場所も多い。通勤時間が無駄になるし、物流の効率も低下する。道路の穴を埋める公共事業は間違いなく大きな効果があるだろう。歩道の白線も見えないところが多い。日本ほどでなくてもよいから、見えるようにしてほしい。 また、ミシガン州とカナダとのあいだの橋が足りず、交通渋滞が起きていた。アメリカ政府が橋の建設費を負担しようとしないので、カナダの民間企業が有料の橋を建設し、利益を上げているという話を聞いた。民間企業がインフラをつくって儲かるほどインフラが足りないらしい。クルーグマン、スティグリッツほどの人がいっていることだから、公共投資に効果があるというのは、アメリカについてはまったく正しいのだろう。 なお、藤井教授は、GDP=消費+民間投資+公共投資+純輸出という式から、2013年の名目GDP増加のほとんどが公共投資の増加によると計算しているが、公共投資を増やしたことによって、他の項目が減少する可能性については何ら考慮していない。しかし、公共投資を増やせば、建設資材や建設労働者を取り合って民間の建設投資(民間投資の一部である)を削減するなどの効果がある。これについては、本誌本年6月号でも書いたので繰り返さない。 第二は、金融政策の効果を示した実証分析が、実質GDPに対する効果を示したものであって、物価や名目GDPに対する効果を示したものではない、という批判である。これは「経済的に効果があるとは何か」という意味論的な議論になるかもしれないのだが、常識で考えれば、ある政策をして物価が上がるだけなら、そんな政策はするな、という人が大部分なのではないだろうか。金融政策にしろ財政政策にしろ、その政策がたんに物価を上げるのではなく、生産や雇用を拡大するからこそ価値があるのではないか。 藤井教授は、実質GDPの生産において、名目GDPを物価で割って実質GDPを求めるので、物価が下がると実質GDPが増加するのはトリッキーであると書いておられる。金融政策の効果が物価を下げて実質GDPを増加させることであるといいたいようであるが(そこまでは書いていない)、実質GDPはそのようなものではない。 もちろん、名目GDPを物価で割って実質GDPを算出しているのは事実だが、それは便宜のためにしているのである。本来の実質GDPは物価に変化がなかったら、すべての財とサービスの生産がどうなっているのかを計算するものである。したがって、すべての財・サービスの生産量と価格がわかれば、実質GDPは、すべての財・サービスの生産量に、ある基準年、たとえば2010年の物価を掛けて合計したものになる。物価が下がっても上がっても、同じ財は同じ基準年の価格と計算するわけである。 したがって、物価が下がったから実質GDPが増えているように見えるというトリッキーなことなど起こらない。名目GDPを物価で割って実質GDPを計算しているのは、すべての財・サービスの生産量と価格を知ることが困難だという便宜の問題でしかない。こう計算しても、あるべき実質GDPとほとんど変わらない結果が得られるのでそうしているだけである。 もちろん、金融政策に効果があるのは、期待物価上昇率を上げ、実質利子率を下げることなどを通して、円を下落させ、株価を上昇させ、設備投資を拡大させるなどのことが起きて、生産を増大させるからであるから、当然、最終的には景気がよくなって現実の物価も上がる。しかし、2001年から06年までの量的金融緩和政策では、物価が上がる前に金融緩和政策をやめてしまったので、金融政策が現実に物価を上げる効果は検証されないようである。 だが、2013年4月からの黒田緩和では、物価が上がるまで緩和を続けるとしているので、金融緩和政策が期待物価上昇率を上げるだけでなく、現実に物価を上げることを検証できるだろう(金融政策が期待物価上昇率を引き上げることとその実証については、本誌本年6月号、また「予想物価上昇率とマネタリーベースの関係は明らか」『WEB RONZA』2014年4月28日で書いたので繰り返さない)。 金融政策と現実の物価上昇率または名目GDP上昇率との関係が希薄になるのは、日本の1990年代後半から2010年代までである。世界的にみれば、金融政策と物価の関係は密接である。図1は、1990年から2012年までの、OECD加盟国での、マネーストック(M2)上昇率と消費者物価上昇率の関係を示したものである。図から明らかなように、マネーを伸ばした国ほど物価上昇率が高いという関係がある。この関係は、トルコ、ポーランド、メキシコのような、年に10%を超すようなインフレ国を除いても保たれる。 第三の論点は、リーマン・ショック後のOECD加盟の34カ国の名目GDP、実質GDP、失業率を回復させる効果をもっていたのは公共投資のみであった、という藤井教授の分析による批判である。 不況に対して、ある政策が、そこから脱却させる効果があったかどうかという分析は、じつは難しい。なぜなら、不況だから政策を発動するわけで、GDPが減少し、失業率が上昇するときに、財政支出や金融政策の手段であるマネタリーベースを増やすわけである。すると、政策を発動したから不況になった、という統計的関係が出てきかねない。 藤井教授の周到な分析では、このような失敗はもちろんない。本誌9月号の藤井論文では、RIETI論文の結果に基づき、縦軸にリーマン・ショック後の名目GDP回復率、横軸に公共投資の変化率を示すと、各国を表す点が右上がりに並ぶという図が掲載されている(本誌9月号藤井論文、図1)。すなわち、公共投資を増やした国ほど、名目GDPの回復率が高いという結果になるという。 図2は、その図を転載し、それぞれの点がどの国を示すかを、特徴的な点について書き入れたものである。なお、藤井氏は公共投資変化率と書いておられるが、グラフは公共投資変化の数値が入っていたので、ここでも公共投資変化を用いた。どちらの数値を用いても以下に述べる結果に変わりはない。名目GDPの回復率とはリーマン・ショック以前のピーク時、リーマン・ショック後の一番底のGDP、2012年7―9月期(論文執筆時での最新のデータ)という三つの時点でのGDPを比べて、現在のGDPが過去のピーク時から比べてどれだけ回復したか、という指標である。この指標だと、最初のリーマン・ショックの影響が小さいと回復率が大きくなる。これが政策変数の効果を見るのに適切な変数であるのか、疑問も生じる。最初のショックがほとんどなかったイスラエルとポーランドの回復率がきわめて大きくなり、変数を定義できず、欠損値となる。 なお、この図のデータのみならず、藤井教授には、経済産業研究所論文のバックデータをすべて提供していただいた。実験しても再現できないとか、データを加工したとか、さまざまなスキャンダルが科学界で問題となっているとき、寛大にも批判者である私に、多大な時間をかけて作成されたデータを提供するという、学術的に誠実な態度で対応されたことに心から感謝し、また敬服する。この事実を読者の皆さま、ひいては自然科学、社会科学、人文科学を研究しているすべての方々にもお知らせしたい。 図で右上がりの関係を生み出しているのは、左下にあるアイルランドとギリシャ、右上にあるトルコ、オーストラリア、チリ、韓国、メキシコなどである。 アイルランドは金融産業の比重が高く、それがサブプライムローン証券などに多額の投資をしていた。銀行が危機になったので、政府が救済に動かざるをえなくなり、財政赤字が拡大した。ギリシャは政府自体の借金が多すぎた。いずれも財政赤字が大きくなりすぎて、公共投資を拡大するどころではなかった。要するに、公共事業を減らしたからリーマン・ショックからの回復が遅かったのではなく、リーマン・ショックの影響が大きかったから公共事業ができなかったという逆の因果関係を示すものではないだろうか。ギリシャとアイルランドを除外すると、統計的関係は失われてしまう。 右上にあるトルコ、オーストラリア、チリ、韓国、メキシコは、いずれも金融財政両面から景気刺激をしていた。韓国は、ウォン安の影響も大きい。ウォン安が韓国電機産業の躍進、日本電機産業の凋落の一因となったのは間違いない(日本企業の経営ミスがあったことを否定しているわけではない)。オーストラリア以外は途上国に近く、そもそもトレンドの成長率が高く、したがって、GDPの回復力が高かったのではないだろうか。 また、トルコとメキシコはインフレ率が高く、当然に名目GDPのトレンド成長率も高く、その回復率も大きくなる。インフレ率が高いので、名目の公共投資の伸び率のトレンドも高い。そうでないと、実質の公共投資は減少してしまう。つまり、インフレ率が高いがゆえに、名目GDPも名目公共投資の伸び率も高いという関係を示しているだけかもしれない。図から、トルコ、チリ、韓国、メキシコを除くと、統計的関係はまったくなくなってしまう。 OECD加盟国を選んだのは、先進工業国のなかで比較したということだろうが、OECDは実際には多様な国を含んでいる。これらの国名を見て、公共投資をしたからGDPの回復が早かったと見るか、それとも、これまでに述べた事情によってGDPの回復が早かった(あるいは、遅かった)と考えるかである。私には、逆の因果関係を示すものか、同質的でない国が入っていることによって生まれた統計的関係に思える。政策を比較したことにならない 藤井教授の3つの論点に対する反論をまとめよう。第一の論点への答えは、公共投資をおそらく削りすぎているアメリカでは公共投資の効果があっても、日本では小さいということである。第二の答えは、金融政策に意味があるのは、物価を上げるからではなく、生産と雇用を拡大するからであるということである。第三に、リーマン・ショック後の状況を国際的に比較すると、公共投資を拡大した国ほどGDPの回復が大きかったという教授の分析結果は、金融危機の影響が大きかった国は財政赤字が拡大して公共投資を拡大できなかったという関係を示していたのではないか、ということである。すなわち、得られた統計的関係から、そのような因果関係は主張できないということである。また、OECD加盟国には先進工業国とは言い難い国も含まれているので、OECD加盟国で国際比較をしても、必ずしも同質の国で政策を比較したことにはならないことにも注意が必要である。原田 泰(はらだ・ゆたか) 早稲田大学政治経済学部教授1950年、東京都生まれ。1974年、東京大学農学部卒。経済企画庁、財務省、大和総研などを経て、現在早稲田大学政治経済学部教授。東京財団上席研究員を兼務。著書に、『日本国の原則』(日本経済新聞社/第29回石橋湛山賞受賞)、『TPPでさらに強くなる日本』(PHP研究所/東京財団との共著)ほか多数。

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    ついに暴かれた公共事業の効果

    田大学政治経済学部教授)日本のGDPは公共投資が減っても増加しているケインズ政策の前提が崩れている アベノミクスの第二の矢、機動的な財政政策の効果は小さい、と議論することには反発があるようだ(本誌2014年5月号、藤井聡「ついに暴かれたエコノミストの『虚偽』」)。しかし、それが事実である以上、そう主張するしかない。 なぜ事実であると考えることができるのか、を説明する前に、アベノミクスの第一と第三の矢についても簡単に書いておきたい。これらについては、本誌2013年5月号「TPP交渉参加で甦る日本」、2014年3月号「法人税減税とTPPで復活する日本」でも書いたことだが、その後の進展もあるので、追加的に説明したいことがある。 第一の矢、大胆な金融緩和については、そうすることが確実になって以来、雇用、生産、消費、すべての経済指標が好転し、消費者物価上昇率も1%を超えてデフレ脱却が確実になっているのだから、効果のあることは明らかである。 株が上がって一部の金持ちが得をしているだけだという批判があったが、4月1日に発表された日銀短観でも、中小非製造業の業況判断(「良い」-「悪い」)が、22年ぶりにプラスとなった。公共事業拡大の恩恵を受けている建設業、砂利採取業を除いて平均を取ってもプラスになっている。これは戦後最長の景気回復となった小泉内閣下の景気回復でもなかった(だから、実感なき景気回復といわれた)。金融緩和の効果が中小企業にまで波及しているということである。 第三の矢については、成長戦略が規制緩和、貿易・投資の自由化、雇用の促進なら効果があるが、特定の産業に補助金を付けてもうまくはいかない、と私は書いた。規制緩和は重要であるが、なかなか大きな効果があるものを見出すのは難しい。女性の活用、TPP、法人税減税などは大きな効果があると私は考えているが、政府もその方向に向かって進んでいくようである。 第二の矢、機動的な財政政策については効果が小さいと書いた。その後の進展を見ると、私の正しさがさらに明らかになっている。それは、建設工事費が上がっていることである。 ケインズは、失業者がいるのだったら、穴を掘ってまた埋めるような仕事でも、失業させておくよりマシだといった。賛成はしないが、一理はある。失業者にただお金を配って生活できるようにするより、そうしたほうがよいかもしれない(もちろん、有益な公共事業をすればなおさらよい)。 しかし、建設工事費や建設労働者の賃金が上がっているということは、その分野ではもはや資材や人は余っていないということである。ケインズ政策を行なう前提が崩れている。 なぜ公共事業の効果は小さいのか 建設工事費が上昇しているということは、私が考えていた以上に効果が小さくなっているということだ。では、なぜ私は公共事業の効果が小さいと述べてきたのか。その理由は以下のとおりである。 まず第一に、公共事業をするとは、建設国債を出して建設投資をするということだから、それをしない場合より金利が上がって、民間の投資を押しのけてしまうからである。これはクラウディング・アウトといわれるものである。 第二に、金利が上がれば資本が流入して円高になる。円が上がれば輸出が減少して、公共事業の刺激効果を減殺するからである。これはマンデル=フレミング・モデルといわれるものの結果である。なお、クラウディング・アウト、マンデル=フレミング・モデルの意味するところは、「公共投資で景気を刺激したいのなら、同時に金融を緩和しなければ効果はない、もしくは減殺される」ということである。 第三に、効果の小さい公共事業をすればそれだけ将来は貧しくなるということだから、消費が減る。東日本大震災の復興工事で巨大な防潮堤や高台の団地を造成しているが、そこに住む人はいないという状況が生まれるだろう。いくら災害から守っても、守られるべき人がいなければ無駄な投資ということになる。 第四に、国の借金が増えれば将来には増税が必要になるわけだから、そのためにいま貯蓄して将来の増税に備えるので消費が減る。この説明に対して多くの読者は、そんなことは非現実的だと思われるだろうが、年金や高齢になったときの医療費、介護費などについて考えれば、それほど非現実的でもない。国の借金が巨額になれば、国家は将来の社会保障支出を賄えないので、自分で準備するしかない、すなわち、貯蓄するしかないと思っている方は多いだろう。 第五は、すでに述べた公共事業が民間の建設投資を押し出してしまう効果である。建設クラウディング・アウトと呼ぶことにしよう。日本には、東日本復興、福島原発事故の処理、東京オリンピックという、しなければならない建設工事がある。被災地域の生活を取り戻すためには、住宅と漁港や水産加工所などの再建が何よりも必要だ。福島原発から放射能が漏れないようにするためには、地下水が流れ込まないように周りを遮水壁で囲まなければならない。核燃料を取り除くためには巨大なクレーンをつくらなければならない。東京オリンピックのためには斬新なデザインの新国立競技場、その他の会場、交通インフラの追加的な建設をしなければならない。要するに、巨大な建設事業をしなければならない。 しかし不要不急の工事をすれば単価が上がって、他の必要な建設工事の妨げになる。第二の矢の財政拡大政策は再考すべきときである。東京赤坂の高級マンションで上下水道に必要なパイプを通す穴が開いていなかった事故、沖ノ鳥島に桟橋をつくる工事で死者が出た事故、これらは日本の建設業の人材が払底していることを示唆するものである。政府は、公共事業を削減するより外国人労働力によって公共事業をしようと考えているらしい。自国民の雇用をつくるためなら多少の非効率にも意味があるが、他国人のためにそうする必要はないと私は思う。 政府支出で雇用をつくるなら、できるかぎり特定の支出に偏らないほうが望ましい。特定の支出に傾けば、供給のボトルネックが生まれて価格が上昇し、雇用拡大効果を阻害する。 ついでながら、私がいつも不思議に思っていることがある。公共事業の好きなエコノミストは立場的に右派である方が多い。右派なら公共事業より防衛費増額に力を入れるべきではないか。防衛備品の製造は広範な産業を潤し、自衛官であれば希望者も多い。ボトルネックを気にすることなく、景気刺激効果を得られるはずだ。公共事業に国費を投ずれば、防衛費の増額が難しくなる。他の不況要因を除外して考えるべき 以上述べた、公共事業の景気刺激効果を削減する理由は、いずれも理論的な可能性である。ただし、最後の理由は、価格上昇によって、すでにそれが事実であることが実証されている。他の理論的な可能性が事実であるか否かは、実証的な方法によって決着をつけなければならない。 しかし、そうすることはかなり複雑な仕事になる。景気が良くなったのが、公共事業をしたことによってかどうかを判断しなければならないのだが、海外の景気が良くなって輸出が増えて景気が良くなることもあるし、なぜか技術革新によって画期的な新製品が多数登場し、景気が良くなることもありうる。そのような公共事業と関係のない要因を取り除いて、公共事業を増やすとどれだけGDPが増えるのかを検証しなければならない。 また、金利が上がって民間の投資を押しのけるとか、金利が上がれば円高になって輸出が減少するとかいう因果の連鎖が必ずしも現実に見えるわけではない。円高で輸出が減れば所得が減って、金利は上昇しない。だから、金利が上がらないことはマンデル=フレミング・モデルが間違っていることの証明にはならない。 さらに難しい問題がある。財政金融政策が発動されるのは不況だからである。すると不況期に公共事業を増加させ、中央銀行が直接コントロールできるお金、マネタリーベースを増大させることになる。ただ単純にデータだけを見ると、公共事業やマネタリーベースが増えているのにGDPが低下している、ということになりかねない。ここでも他の不況要因を除外して、純粋に財政金融政策の効果を見ないといけない。 こういう複雑な事情を考慮しなければならないときには、マクロ計量モデル、時系列モデルという2つの方法がよく使われる。動学的確率一般均衡モデルという方法もあるのだが、それによる財政金融政策の効果を簡単に日本語で紹介した論文はないようである。 マクロ計量モデルによる近年の結果では、1兆円の公共事業をするとほぼ1兆円のGDPが増えるという結果になる。GDPとは民間と政府のすべての支出を足したものだから、政府支出を増やせばそのぶんだけGDPが増えるという結果である。公共事業の額の何倍GDPが増えるかという数字を乗数というが、これは乗数が1ということである。乗数というほどの効果はないことになる。 さらに、これは公共事業を拡大するとともに金融政策も発動した結果であり、金融政策を発動しない場合には乗数は1以下になってしまう。 時系列モデルでも、最近の分析では、金融政策の効果はあるが、財政政策の効果はない、または小さいという結果になる(以上の判断は、原田泰・増島稔「第8章 金融の量的緩和はどの経路で経済を改善したのか」吉川洋編集『デフレ経済と金融政策』所収、慶應義塾大学出版会、2009年、飯田泰之「第6章 財政政策は有効か」岩田規久男・浜田宏一・原田泰編著『リフレが日本経済を復活させる』所収、中央経済社、2013年、中里透「デフレ脱却と財政健全化」原田泰・齊藤誠編著『検証:アベノミクス(仮題)』所収、中央経済社、2014年近刊によるさまざまな論文の紹介に基づく)。公共投資が増えてもGDPは増えていない 以上、ここまで本誌で26行かけてモデルの実証結果について書いたことは、専門家が面倒なことをして得た結果だから信用してくれ、といっているだけである。これでは本誌の読者には納得いただけないだろう。また、もし、財政政策や金融政策に本当に効果があるのなら、それほど面倒なことをしなくても効果のあることを示唆することはできるはずだという議論はありうる。 そこで、以上述べたことをグラフによって示したい。 図1は、1980年から95年までの実質GDP、実質公共投資(公的固定資本形成)、マネタリーベースを示したものである。図で明らかなことは、順調に伸びてきたGDPが90年代以降、停滞していることである。マネタリーベースはGDPの停滞に先立ち、伸びが鈍っている。ここから、マネタリーベースの停滞がGDP停滞の原因かもしれないと示唆される。一方、公共事業は1987年にはGDPを引き上げたと見えないこともないが、その後、伸びが停滞しているにもかかわらずGDPは伸びている。さらに、91年後半から公共事業が増加しているにもかかわらずGDPは増加していない。  図2は、1996年から2014年までのデータを示したものである。2001年から06年までマネタリーベースが増大するにしたがってGDPが増えている。ただし、2006年からマネタリーベースが減少しているにもかかわらず、GDPが減少するのはそれから2年たってからである。2年のラグは長すぎるから、マネタリーベースとGDPの関係はこの期間では強くないともいえる。しかし、アベノミクスが始まってからは、マネタリーベースの伸びがGDPの伸びをもたらしたように見える。 公共投資はグラフの期間中、ほぼ継続的に低下しているなかで、GDPは何とか伸びている。しかし、1998年のGDPの低下と公共事業の低下は連動している。また、アベノミクスが始まってからでは、公共事業の拡大と景気回復は連動している。 以上のように、グラフを見たところでは、マネタリーベースがGDPと連動している期間が、公共投資がGDPと連動している期間よりも長い。このことが、厳密な実証分析によって、金融政策は効果があるが、財政政策の効果は小さいという結論になる理由であろう。 ちなみに公共投資とGDPの関係を相関係数という統計的尺度(1であれば完全に連動し、ゼロであれば関係がなく、マイナス1であれば完全に逆に連動している)で見ると、1980~95年では0.849、1996~2013年ではマイナス0.886となる。相関係数がマイナスであるとは、公共投資を減少させるとGDPは増大する関係があるということである。これは図2を見れば当然の結果であろう。公共投資が減ってもGDPは増えているからである。 一方、マネタリーベースとGDPの相関係数は、1980~95年では0.991、1996~2013年では0.766となる。これは関係があるということである。2006年にも相関関係は見られる 以上の説明では、私は物価と財政金融政策の関係は重視していない。その理由は、1つは与えられた紙幅の制約だが、財政金融政策が重要なのは、それによって物価が上がることではなくて、実質GDPが上昇することであるからだ。財政金融政策が物価を上げるだけなら、そんな政策を発動する必要はない。 1990年代以降の政策論争で物価を上げることが課題となったのは、デフレがGDPを押し下げていることで、その克服が重要目標となったからである。その結果、財政金融政策で物価を上げ、それによって実質GDPが上がるかどうかが問題となった。しかし、金融政策の効果は、物価だけでなく、為替レートや資産価格等、多くの経路を辿って実質GDPに影響を与えるものである。そのような因果の連鎖を縷々書き連ねることには、本誌はふさわしい媒体ではないだろう(これに関心のある方は前述の原田などの論文を読んでいただきたい)。要するに、物価は中間目標で、実質GDPと雇用の拡大が最終目標である。財政金融政策に効果があるかは、実質GDPを引き上げるかどうかで判断すべきである。 しかし、1つだけ指摘しておきたい。図3は市場関係者の予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率と呼ばれるもの)とマネタリーベースを示したものである。予想インフレ率とマネタリーベースのグラフだけを見て、「予想インフレ率とマネタリーベースは2009年以降では関係があっても、それ以前では関係がないではないか」という議論がある。しかし、2006年のマネタリーベースの縮小とともに、予想物価上昇率も低下している。それを示すのが、マネタリーベースと予想インフレ率の関係を示す関係式を推計して、それから得られる予想インフレ率をプロットした線である。これによれば、マネタリーベースの縮小が予想インフレ率を引き下げたことは明らかである。 ちなみに、予想インフレ率とマネタリーベースの相関係数は、2004年から08年8月(リーマン・ショック直前まで)では、0.627となる。図から3カ月のラグがあるようなので、そのラグを付けると0.801と高くなる。 ただし、リーマン・ショックのときのインフレ率の低下はマネタリーベースでは説明できない。要するに、予想インフレ率とマネタリーベースは関係があるが、その関係式はリーマン・ショックの前と後とでは変わってしまったということである。しかし、日本の実質輸出が月次で見て4割も激減するなど、あれだけの大きな出来事があれば変わってしまうのは仕方がないではないか。ゴーストタウンより社会保障と防衛費を 財政政策が実質GDPを引き上げない、またはその効果は小さいと考えられる5つの理由を挙げた。たしかに、高度成長期には公共事業の効果は大きかっただろう。道路や鉄道をつくれば、工場が来て、仕事ができる。人びとはそこで働くのだから、所得が増える。ところが、その後、公共事業をしても人が来ないようになってしまった。典型的なのは、震災対応の公共事業である。阪神・淡路大震災で壊滅的な被害を受けた長田区に過大な商業施設をつくったが、テナントが入らずゴーストタウンになっている。神戸でもゴーストタウンになるなら、被害を受けた東北の町々もそうなるだろう。本当に効果的な震災復興策を考えなければならない(詳しくは、原田泰『震災復興 欺瞞の構図』新潮社、2012年を参照されたい)。 1980年代以降のデータを虚心に見ても、財政政策の効果が小さくなっているのは明らかであり、金融政策だけでも、景気は刺激されるとわかった。であるなら、景気対策は金融政策を中心に考え、財政政策は税収の制約を考慮して、長期的に必要な支出に振り向けることが肝心である。日本は、社会保障支出の拡大だけでなく、防衛費の増大も必要になる可能性が高い。ゴーストタウンをつくる余裕はない。原田 泰(はらだ・ゆたか) 早稲田大学政治経済学部教授1950年、東京都生まれ。1974年、東京大学農学部卒。経済企画庁、財務省、大和総研などを経て、現在早稲田大学政治経済学部教授。東京財団上席研究員を兼務。著書に、『日本国の原則』(日本経済新聞社/第29回石橋湛山賞受賞)、『TPPでさらに強くなる日本』(PHP研究所/東京財団との共著)ほか多数。

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    アベノ不況 正規社員1か月で17万人減少し求人倍率は0.68倍

    規の子は非正規」の循環で広がる格差 ・定年後65歳までの期間 再就職目指すなら非正規勤務に利点も ・アベノミクス 非正規社員の賃上げ実現が景気回復の鍵と識者 ・森永卓郎氏 格差拡大で「年収100万円時代」の到来を予想

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    消費税引き上げよりも「ネオ・アベノミクス

    政の危機的な悪化など、難問が日本を襲う。どうする安倍総理。 「大状況」的改革に踏み出せ  アベノミクスはいま、新しい段階へと進化することが求められている。政権発足から1年半強、安倍内閣は厳しい環境のなかで総じて国民の期待に応える、充実した経済政策を実施してきた。当面、考えられる範囲でやるべきことには、概ね手が付けられつつある。つまり「小状況」的には、評価できる成果を挙げている。しかし、日本が抱える問題の深刻さと世界経済のダイナミックな変化を考えると、改革はまだまだ不十分だ。当面考えられる小状況的政策を超えた、「大状況」的改革に踏み出すことが求められる。  ここ数カ月、内閣支持率はじわじわと低下してきた。直接的な要因として、集団的自衛権など安全保障政策への評価が指摘されている。しかし、そうした状況だからこそ、一層先鋭で尖った経済改革に向かう必要がある。国民に対し、攻めの政策姿勢を示すことが求められるのだ。6月末の『ロンドン・エコノミスト』誌は、今年6月に閣議決定された成長戦略第二弾をきわめて高く評価する、異例ともいえる記事を掲載した。そこでは、安倍総理は三本の矢ではなく「千本の太い針」を打ち込んだと、経済改革の姿勢を評価している。一方で、長期投資を専門とする海外ファンドからは、成長戦略の改革姿勢に対し依然として厳しい声も聞かれる。最近になって政府が「地方創生本部(仮称)」の準備室を立ち上げたことを捉え、来年の統一地方選挙を意識してばらまき型の古い自民党体質が復活するのではないか、との懸念も聞かれる。  以下では、まず6月に決定された新しい「成長戦略」について評価し、当面の経済運営のシナリオを検討する。そのうえで、「大状況的」改革をめざす新しいアベノミクスつまり「ネオ・アベノミクス」として、三つの改革を提言する。これは、ここまで改革が遅れてきた分野に三本の杭を打ち込むことを意味している。長期政権が期待される安倍内閣だからこそ、やらねばならない課題なのだ。安倍内閣が有する政治的資源=ポリティカル・キャピタルを、今後何に振り向けるのか、いかに使うのか、が問われている。 消費税引き上げに反対する理由  具体的な政策論に入る前に、アベノミクスによって日本経済の局面が大きく転換しつつあることを確認しておこう。リーマン・ショック後、日本経済は需要落ち込みが激しく、また民主党政権でのマクロ経済運営のつまずきもあって、長く経済停滞を続けてきた。しかし需要の不足を示す需給ギャップ率は、今年1―3月期にはほぼゼロになったと考えられる。具体的に内閣府の推計では0.3%となった(ただし4―6月期は消費増税によって2.2%に拡大)。  経済停滞のもう一つの象徴として、国民生活にも直結する失業率の高さが指摘されてきた。欧米諸国に比べれば低いものの、失業率はピーク時で5.5%となっていた。通常失業率には、摩擦的に生じる失業などのため、これ以下の水準には下がらないというレベルがある。いわゆる「完全雇用失業率」、「構造的失業率」である。日本の場合、完全雇用失業率は3.5%前後と考えられてきたが、今年5月の失業率はすでに3.5%にまで低下した。  むしろ、しばしば議論されているように、日本経済のなかで人手不足問題が深刻化している。「有効求人倍率」は、昨年11月に1を超え、経済全体で見ていわゆる人余りから人手不足の状況になった。現在はさらに高まって、1.10(6月)となっている。愛知県や東京都は1.5を超えている。これは、リーマン・ショック後の2009年8月に0.42であったことを考えると隔世の感がある。  デフレ解消にはまだ少し時間がかかるだろう。しかし、主としてアベノミクスの第一の矢(大胆な金融緩和)と第二の矢(機動的な財政政策)の前半部分が奏功し、需要不足の解消と失業の解消はほぼ達成されたことは確かだ。この状況を認識したうえで、今後の経済運営を考えねばならない。 ここで一点言及しなければならないのは、消費税の引き上げ問題だ。筆者は以前から、消費税の引き上げに反対してきた。抜本的な社会保障改革を行ない、歳出をコントロールしないかぎり、消費税をいくら引き上げても財政再建には貢献しない。経済への悪影響が残るだけだ。現実に4―6月期のGDP成長率は、マイナス6.8%と大幅なものになった。  あくまで筆者自身の印象だが、安倍総理や菅官房長官は、デフレ克服を最優先と考えており、消費税引き上げは本意ではないのではないか。しかし民主党政権下で、今年4月と来年10月の二度の消費税引き上げはすでに決定され、内外に告知されている。これを変えるには新たな法律を作成し、国会を通過させねばならない。結果的に大きなポリティカル・キャピタル(政治的資源)を使うことになる。安倍政権には、こうした民主党政権の負の遺産を包含できるような、新しいアベノミクスが求められているのだ。 「ローカル・アベノミクス」への期待と不安  これまで安倍内閣は、何とか順調に経済運営してきたが、ここにきて新たな問題に直面している。アベノミクスで景気全体に浮揚感が出ているなかで、地域への波及が見られないという不満の声が、政治的に強調されるようになった。また7月の滋賀県知事選挙など、地方選挙で自民党の敗北が続いたこと、来年春に統一地方選挙が控えていることも大きく関係している。もう一つのきっかけは、民間の組織である日本創成会議が、2040年には1800ある地方自治体のうち約900が存立の危機に直面する、というショッキングな議論を提示したことだ。  じつは今回の成長戦略決定の最終段階で、与党の要請で報告書のなかに「ローカル・アベノミクス」という造語が書き込まれた。国会議員の多くは地方から選出されており、あらためて地方重視が確認された格好だ。現実に政府は7月25日に、地方創生のための本部(正式には「まち・ひと・しごと創生本部」)の設立準備室を設けた。70名体制という大きな準備室だ。秋の臨時国会でも、このための法律を成立させることが、一つの中心になるといわれている。  たしかに、地方の経済は疲弊している。しかし、もしもたんに中央政府から地方への資金配分を増やすといった政策、つまり従来型の「ばらまき」政策をとったなら、財政負担を増やすのみで真の地方創生はありえない。なにより重要なのは、地方自身が問題の深刻さを強く認識し、さらなる自己改革を進めることだ。  経済活性化のためには規制改革によって民間活力を引き出すことが必要になる。こうした規制を見ると、じつは地方自治体自身が行なっているケースが少なくないのだ。  たとえば、建築許可や開発の認可など、ほとんどが地方に委ねられている。都市計画など市町村対応が硬直的なせいで開発が進まない事例は、きわめて多い。いま話題の保育園も、同様だ。保育園に関しては、国自身はむしろこれまで自由化を進めてきた。もともと1963年の通達によって保育の主体は自治体と社会福祉法人に限定されていたものを、2000年には株式会社も可能なように改めた。しかし多くの自治体では、その後も独自の要綱・規則などによって株式会社の排除を続けている。地方で保育産業が発達する可能性を、地方自身が摘んでいるのだ。  地方活性化のために、地方自らが危機感をもって身を切る覚悟で臨もうとしている代表例として、国家戦略特区に指定された養父市(兵庫県)が挙げられる。農業を活性化するに当たって、新たな担い手の呼び込みが必要だが、農地の取引についてはこれまで農業委員会が大きな権限を有してきた。地方活性化の観点でこれを円滑に進めるため、その機能を市役所に移すという(特区法に基づく)決断を、今回養父市は行なった。これは、休耕地の減少や地方経済の再生に向けた大きな決断といえる。  地方創生の重点は、地方自治体の規制改革や、あとで述べるコンセッション(インフラ運営権の売却)など、地方の自己改革を促すものでなければならない。 3つのマクロ・シナリオ  以上のような要素を踏まえて当面のマクロ経済運営を考えると、次のような3つのシナリオが浮かんでくる。  まず前提として、来年10月の消費増税は次善の策として避けられないと考える。繰り返しいうが、増税の先行は経済政策として決して適切なものではない。本来なら増税の前に、歳入庁設置による徴収の徹底などを行なうべきだ。しかし一度路線が敷かれたこの政策を覆すには大きな労力を費やし、政治的リスクを負わねばならなくなる。つまり経済政策の問題ではなく、ポリティカル・キャピタル配分の選択の問題として、本意ではないがやらざるをえない政治環境にあるといえる。ただその際、経済はそうとうのマイナスの影響を受けることを覚悟しなければならない。   その下で、次のようなシナリオが考えられる。  第一は、もっともありうるシナリオで、かつもっとも悪いシナリオだ。具体的に、増税によるマイナス効果を打ち消そうと、かなり大規模な補正予算を組むことが考えられる。現実に霞が関全体が、すでに補正予算ありきで動き始めている。ここに、先の地方創生のムードが重なり、旧来型のばらまき政策になってしまうことが懸念されるのだ。結果的にこれは、増税で歳入を増やし、補正予算で歳出を増やし、大きな政府・非効率な行政をつくる。  第二は、規制改革を「1丁目1番地」とするような成長戦略を、さらに強化することだ。この政策は長期の期待成長率を高め、消費増税によるマイナス効果をある程度打ち消すだろう。ただしこれらは、サプライサイド政策であることから、プラス効果が出るまでには一定の時間を要することになる。  そこで考えられるのが、一層の金融緩和を進めることだ――これが第三のシナリオである。これまで黒田日銀は一定の成果を挙げており、その手腕は評価されてよい。同時に黒田総裁がしばしば指摘するように、経済成長を高める一層の改革政策を、政府は進める必要がある。このことは裏を返せば、政府が改革政策を進めれば日銀も次の一手を打つ用意がある、ということでもあろう。  明らかなようにまずめざすべきは、第一のシナリオ(増税プラス大きな補正予算)を避けることだ。そして、成長促進のための一層の経済改革を基本としながら、必要に応じて日銀の協力を仰ぐことである。第二のシナリオと第三のシナリオの巧みな組み合わせ――いま求められるのは、そうした意味での新しい段階のアベノミクス、「ネオ・アベノミクス」である。 「ネオ・アベノミクス」とは?  すでに述べたように、6月末に公表された成長戦略第二弾は、『エコノミスト』誌などで高い評価を受けた。その背景には、安倍総理が政策の方向を国際的な場で明らかにし、その公約を実行に移しつつあるという姿が見えやすい形で示された、という点が挙げられる。  具体的に今年1月末、安倍総理は世界の経済リーダーたちが集まるダボス会議に基調講演者として招かれ、そこでいくつかの公約を明らかにした。国家戦略特区による岩盤規制の突破、法人税率の引き下げ、GPIF(公的年金基金)の改革などだ。そして今回の成長戦略では、岩盤規制への取り組みにまだまだ不十分な点はあるものの、概ね公約した項目が織り込まれたのである。  もちろんこれらは、政策の方向が示された段階であり、制度設計の詳細は今後の課題だ。120ページに及ぶ成長戦略のレポートは、いわゆる霞が関文学を駆使して作成されており、今後の詳細な制度設計で改革的になることも、また内容のないものになることもありうる。今回示された政策の方向をしっかりとした成果にすることこそ、改革の最優先課題だ。  そのうえで安倍総理には、経済活性化に向けた次の大きな公約を掲げてもらいたい。筆者は、次の三政策が必要と考える。これらは、三つの部門に「杭」を打ち込むことであり、大いなる抵抗が予想される。しかしそのためにこそ、先に議論したポリティカル・キャピタルを駆使してもらいたいのだ。  第一は、新たなエネルギー政策の展開だ。  いまの内閣は、良くも悪くも経済産業省の影響力が非常に強い内閣だ。総理を支えるスタッフに経済産業省の関係者が重用されている。こうした人びとはここまで、総理を支えてよく貢献していると思う。この点は、前向きに評価されてよい。しかし一方で、経済産業省の利害に直結するような重要問題には、どうしても腰が引ける傾向がある。その典型が、エネルギー政策だ。今回、発電と送電の分離と小売り自由化などそれなりの政策を決めた。こうした電力改革はじつに半世紀ぶりのことであり評価できる面もある。ただし、その実施が完成するのは数年後に先送りされている。とくに発電と送電を分離して電力会社を解体することには強い抵抗があり、本当に実施されるのか、法的分離も含めどの程度分離が徹底されるのか、いまだ不透明だ。  現政権の日本再生本部は、これまで農林水産省や厚生労働省に関連する既得権益に切り込み、一定の成果を挙げている。しかし、たとえば農業という産業は生産額5兆円、GDPの約1%である。それに対しエネルギーは、電力産業だけでも20兆円規模といわれている。さらに経済産業省の「エネルギービジネス戦略研究会」の報告によれば、省エネルギー、新エネルギー分野における「新たなエネルギー産業」の世界市場規模は、2020年に86兆円と、自動車産業の6割近い規模になるとされている。エネルギー関連の産業は、まさに巨大な成長部門なのだ。  しかし、過去の推移を見ると、日本のエネルギー予算約1兆円のうち、4割以上が原子力に使われてきた。これに対し再生エネルギーの予算は7~8%に留まっていた。そこに大震災による原発事故が起きたのだ。長期的にみて、原発依存からの脱却は避けて通れない。この間アメリカでは、いわゆるシェールガス革命によって化石燃料の価格優位性が高まり、再生エネルギー開発へのインセンティブは大幅に低下した。今後再生エネルギーの開発は日本と欧州の争いであり、その意味で日本の相対的優位性は高まった。これを機に、日本はより本格的に再生エネルギーへのシフトを図るべきだ。  エネルギーに関しては、当面の原発再稼働ばかりが議論される。しかし、以前よくいわれた「日本経済の六重苦」の中心として、エネルギーコスト高が指摘されてきた。まず、原発を含む過去のエネルギー政策全体の「検証」を行なうべきだ。そのうえで、再生エネルギーに重点を置きそこにITを活用した新たなエネルギー改革を、ネオ・アベノミクスの中核に据えるべきである。 資本をリサイクルせよ  ネオ・アベノミクスの第二は、「資本のリサイクル」だ。資本のリサイクルという言葉は、オーストラリアなどでは頻繁に用いられている概念だ。具体的にいうと、いま存在しているインフラを民間に活用させ、それによって得られる資金で新たなインフラ形成などを進めることだ。民間に活用させる方法としてはまず民営化が考えられる。インフラに関しては、運営権の売却(コンセッション)も有力な手法となっている。  じつは今回の成長戦略のなかにも、これに関する重要な政策が含まれている。コンセッションについては昨年の成長戦略で「10年間で2兆~3兆円」という数値目標が示されたが、今回それを「3年で2兆~3兆円」と大きく前進させたのだ。現実に仙台空港や関西空港など、コンセッションの具体的なプロジェクトが動き始めている。地方創生を本気で考えるなら、まず各自治体の資本リサイクルを行なうべきだ。  このような資本のリサイクルは、第一義的には官業の民間開放であり、まさに「成長戦略」となる。しかし日本では、それ以上の意味がある。それは、株式など資産市場を一気に活性化させる点だ。株価時価総額の大きな企業を見ると、興味深いことに気付く。多数のベンチャー企業が生まれるアメリカは例外として、主要国で株価総額の大きい企業の多くは、かつて政府が関与していた企業だ。たとえば、イギリスではブリティッシュ・ペトロリアムや英国航空がその典型である。日本でも、トヨタを別格とすれば、NTTやNTTドコモなど、かつての国有企業だ。じつはソフトバンクにも、旧国鉄の一部(日本テレコム)が含まれている。公的部門が有する資産はかくも大きく、それゆえ資本リサイクルが資産市場にもたらす影響はきわめて大きいものがある。  そんななか当面の具体的プロジェクトとして、大阪市の水道事業コンセッションと地下鉄の民営化が注目される。しかし、議会の反対は強いという。浜松市も、水道事業のコンセッションを検討している。こうしたプロジェクトを実現することができれば、企業の成長戦略と資産市場の活性化の双方に大きく貢献するだろう。  これとの関連で残念なのは、もっとも大きな資本を有する東京都が動かないことだ。東京都は、じつに巨額の優良不動産を所有している。海外の投資家から見れば、東京は宝の山だという。しかし、これら優良な不動産を、公的部門が取り込んで非効率に運用し、そこに天下りなどの利権が発生している。仙台空港と同様、羽田空港のコンセッションも真剣に検討されてよい。東京の地下鉄や水道をコンセッションにかければ、金融市場も一気に活性化する。東京を真の国際金融センターにする一つの近道は、都や国がもっている優良な資産(所有権や運営権)を、民間に売却し有効に使わせることである。そうすれば、2020年のオリンピック・パラリンピックの景色も、一気に変わることになるだろう。 残る難問は社会保障改革  新たな段階の経済政策「ネオ・アベノミクス」を語るとき、どうしても避けて通れないのが、社会保障改革だ。現行制度の下、社会保障関係費は毎年1兆円のペースで増加している。いまのままの制度を続けたら、消費税率をたとえ30%以上にしても財政健全化ができないことが、専門家の試算によっても明らかになっている。安倍政権は、ここまでのところもっぱらデフレ克服、成長力強化に注力し、社会保障改革がそれほど大きな話題になることはなかった。この優先順位、つまり経済成長を優先させるという手順は正しい。そんななか、7月17日に新たに設置された「社会保障制度改革推進会議」が初会合を開き、社会保障の改革論議がスタートした。しかし正直なところ、重要問題であるにもかかわらず、非常に「静かなスタート」という印象だ。  現状の社会保障論議のベースは、民主党政権下でのものを引き継いでおり、これまでのところ本格的な改革には至っていない。そこで昨年末に決定されたのが、「社会保障改革プログラム法」である。これは、いわば社会保障改革の行程表にあたる。そのなかに、改革を議論するための有識者会議の設置が規定されている。それが今回、初会合を開いたのだ。  前政権で設けられた社会保障制度改革国民会議で決められた点、たとえば医療に関し70~74歳の自己負担を現行1割から2割に増やす、などは当然に実施されねばならない。しかし問題の深刻さを考えると、とてもそれで十分とはいえない。新しい社会保障制度改革推進会議では、年金支給開始年齢を大幅に引き上げることや、一定以上の所得のある高齢者に対し年金を支払わないといった抜本改革が求められる。若い世代の社会保障を拡充することも、重要だ。  しかし、こうした改革には、大きな反対があるだろう。したがって、改革を進めるには、従来とは異なる強力な推進力が必要だ。たとえば総理官邸で新しい組織をつくるとか、新しい担当大臣を置くとか、強い専門家機関を設置するとか、「Something New」が必要なのだ。思い切って、この面で特区を活用する方法も考えられてよい。しかし今回の議論の進め方は、従来の路線の延長であり、会議のメンバーも大きな入れ替えは見られていない。この推進会議は、医療・社会福祉の既得権益を打破するような尖った改革論議をし、目立った存在になることができるのか? 推進会議の議論はきわめて重要であるにもかかわらず、これがメディアへの露出度もさほど高くなく「静かに始まった」背景には、こうした懸念があるのだろう。 2020年という好機を活かせ  ここまで一定の成果を挙げてきたアベノミクスには、いま「大状況的」変化を生み出せるような、新しい段階への進化が求められている。本稿の最後に指摘したいのは、それでもいま日本は2020年のオリンピック・パラリンピック開催を控え、大きなチャンスを迎えているという点だ。ちょうど50年前に、東京オリンピックが開催された。これまでの五輪に関する経済実証研究からも明らかなように、五輪開催によって経済は活性化の大きなチャンスを迎える。これは施設工事などによる直接的な効果を超えて、五輪という特別なイベントを契機に国内改革の面で思い切った政策が進めやすくなる、ということを意味している。  たとえば日本では、公共目的のための土地収用法がありながら、これが政治的配慮からほとんど使えない状況が続いてきた。しかし50年前のオリンピック時に道路のために初めてこれが適用された。結果的に、いまの環状7号線ができた。1950年から2006年までの五輪開催国について実証分析したアメリカの研究事例でも、多数の訪問客を受け入れる開催国は、五輪をきっかけに多くの国内改革を進めたことが明らかにされている。50年前の日本でも、五輪をきっかけに新しいライフ・スタイル、ビジネスモデルそしてテクノロジーが発達したことが知られている(竹中平蔵編著『日本経済2020年という大チャンス!』〈アスコム、2014年〉を参照)。  しかし、こうしたチャンスは、決して天から降ってくるものではない。このチャンスを活かすという、強い決意と計画が要る。現状で五輪組織委員会はできているが、これはあくまで五輪というイベントを推進する組織だ。これに併せて日本の経済社会をどう改革するかを議論する、全政府的な組織が必要になろう。現状ではまだ、2020年のチャンスを活かす体制が整っているとはいえない。加えて上に述べたように、思い切ったスケールの大きい三つの改革が必要なのだ。『エコノミスト』誌はアベノミクスを「千本の針を打ち込んだ」と評価したが、そこに留まらず次の一手として、いま「三本の杭」を打ち込むことが期待される。  まずエネルギー政策の見直しに関しては、ここまで安倍政権を支えてきた経済産業省に杭を打ち込むことを意味する。資産のリサイクルに関しては、資産を非効率に抱え込む東京など地方自治体と、関連する省庁(国土交通省や財務省)に杭を打ち込むことになる。そして社会保障改革は、いうまでもなく厚生労働省への杭だ。  ある会議で小泉進次郎大臣政務官(内閣府)は、「2020年までの日本経済はそれなりの熱気で運営されるだろう。しかし2020年を過ぎると、見たくない現実がすべて見えてくる」と述べた。見たくない現実――人口減少による集落の消滅、財政の危機的な悪化、介護難民の増加、貧困の拡大、経済の活力の一層の低下、などだ。だからこそ、2020年までのこのチャンスを活かして、思い切った経済活性化を断行しなければならない。そのためにいま、三本の杭を打ち込まなければならないのだ。長期政権が期待できる安倍内閣だからこそ、やらねばならない改革だ。今回の内閣改造は、それを実現するための体制づくりとなっているか。そうでなければ、三本の「杭」は後世の「悔い」になる。 竹中平蔵(たけなかへいぞう) 慶應義塾大学教授 1951年、和歌山県生まれ。73年、一橋大学経済学部卒。2001年、経済財政担当大臣に就任。以後、金融担当大臣、総務大臣などを歴任する。13年、安倍政権で産業競争力会議有識者委員に就任。博士(経済学)。著書に『竹中流「世界人」のススメ』(PHPビジネス新書)ほか多数。

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    安倍政権は大本営発表をやめよ

    しょうか。 先の衆院選で安倍自民党は、デフレ脱却を第一の公約として掲げて大勝しました。その看板政策がアベノミクス3本の矢だったわけですが、第一の矢(大胆な金融緩和)によって一見目覚ましい成果を見せはしたものの、第二の矢(機動的な財政出動)と第三の矢(規制緩和による成長戦略)とは、その成果を見せないままに早くも折れようとしています(もっとも第三の矢については初めから賛成できかねますが)。 アベノミクスは、第一と第二とがパッケージとして機能してこそ、景気刺激の力を発揮します。ところが財務省発の財政健全化というデマゴギーと、財政政策担当者やその周りに群がる経済学者・エコノミストたちの公共事業アレルギーとが立ち塞がることで、このパッケージの実現もまた瀕死の状態にあります。今年度の補正予算は税収減を理由に、前年度よりも確実に減らされるか編成されないでしょう。事実、甘利大臣は、先の記者会見で、補正予算の編成の必要があるかと問われて、ノーテンキにも「その必要性を感じているわけではない」と答えています。これでは何をかいわんやです。デフレ脱却のための政府の手持ちの駒はこれでほぼ尽きました。 政権が自らの維持延命を図るために事実を隠蔽して都合のよい解釈によって意地を張り続けることはよくあることです。しかしそれは結局国民の支持を失い、自分の首を絞めることにつながります。もし今年末に増税が決定されれば安倍総理は確実にレイムダックと化するでしょう。代わる有力な政権が期待できない状態ですから、倒閣を喜ぶわけにもいきません。安倍政権は、ずるずると負け戦を続けて国民に多大な犠牲を強いたあのときの教訓を活かし、ただちに大本営発表をやめて「新ニューディール政策(とくに大規模公共投資や賃金雇用対策)」を打つべきです。小浜逸郎(こはま・いつお) 批評家、国士舘大学客員教授1947年、横浜市生まれ。横浜国立大学工学部卒業。2001年より連続講座「人間学アカデミー」を主宰。家族論、教育論、思想、哲学など幅広く批評活動を展開。著書に、『日本の七大思想家』(幻冬舎新書)、『なぜ人を殺してはいけないのか』(PHP文庫)など多数。