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    トランプの石油制裁で一層高まる「第2次朝鮮戦争」の危機

    CBMの発射なら「30%」と述べている。2017年11月、北朝鮮をテロ支援国家に再指定すると表明したアメリカのトランプ大統領(右)=ワシントン(UPI=共同) 米紙ニューヨーク・タイムズは12月1日、著名なニコラス・クリストフ記者の「第2次朝鮮戦争の危機」と題した記事を大きく報じ、戦争の危険性を警告した。クリストフ記者は「大統領と補佐官が戦争に言及するときは、真剣に受け止めるべきだ」と歴史の教訓を引き合いに、軍事攻撃の可能性が高いと分析した。この記事の背景には、米国の大統領や高官、報道官は決して「ウソをつかない」という文化がある。「国民をミスリードしない」モラルが生き続けているからだ。むしろ、トランプ氏のようにウソをつく大統領は珍しい。 だが、米軍の軍事攻撃は国際法上簡単でない。国際法に違反した軍事攻撃はもちろんできない。北朝鮮が「ニューヨーク、ワシントンを攻撃できる」と言い続ければ、自衛のための攻撃との理由づけは可能だが、苦しい説明だ。とすると、北朝鮮の暴発だけが軍事攻撃を可能にする。トランプ大統領は、そのために北朝鮮を追い詰め、挑発している。脳裏には石油供給削減を続ければ、北朝鮮は何らかの軍事行動に出るとの計算があるのである。

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    2018年は米朝和平の動きが本格化か 転機は米大統領中間選挙

    「我々は決して北朝鮮の核保有を受け入れない。北朝鮮に責任を負わせる」──12月15日、国連安全保障理事会の閣僚級会合で米ティラーソン国務長官は北朝鮮の慈成男・国連大使に激しく詰め寄り、互いに非難の応酬が繰り広げられた。 北朝鮮が核実験を強行した2017年9月以降、米朝の緊張感は日に日に高まっている。米国主導の経済制裁で締め上げられた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、いつ“暴発”してもおかしくない状況で、日本にとっても気が気でない状態となっている。2017年12月、国連安保理の閣僚級会合に出席した北朝鮮の慈成男国連大使=ニューヨーク(共同) その一方で米朝は水面下で秘密交渉を続けながら和平の糸口を探っているという情報もある。トランプ政権高官とのパイプを持つ国際政治評論家の板垣英憲氏が語る。「2017年5月にノルウェーで米朝の高官が集まった秘密会合が開かれ、これまで計8回の会合が行なわれたと聞いています。現在も水面下で話し合いは続けられており、2018年中に米朝和平に向けた動きが、今までにないほど本格化する可能性が出てきています」 その転機となり得るのが、2018年11月に行なわれる米中間選挙だという。「今のところ、トランプの支持率が低迷していることもあり、野党・民主党の優勢が伝えられています。大統領再選を狙うトランプにとって、この中間選挙での勝利は絶対に譲れません。 形勢逆転のため、これまで誰も成し遂げられなかった米朝和平の実現に向け“アクション”を起こす可能性は高い。具体的には、7月4日の米国独立記念日前後に訪朝、米朝トップ会談──との情報が浮上しています。実現すれば世界中が驚くビッグイベントになるでしょう」(板垣氏) 世界が注目する“独裁者”の2人が手を取り合うのか、さらなる敵対へと突き進むのか。トランプ氏の“決断”が大きく状況を分ける。関連記事■ 【ジョーク】金正男から金正恩にメール「TDL破壊しないで」■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 一見デタラメな北朝鮮外交にも明確な方針あると佐藤優氏■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画「愛国烈士」■ 金正恩氏がキューバ議長に親書 米朝首脳会談依頼か

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    「エルサレムが首都」トランプの論理

    中東は再び「世界の火薬庫」に逆戻りするのか。トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言し、波紋が広がっている。「世界の常識」を覆す決定に各国は反発を強めるが、なぜこのタイミングだったのか。今後起こり得る中東情勢への影響も踏まえ、トランプの真意を読み解く。

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    「エルサレムの現実」を変えたトランプの論理

    川上泰徳(中東ジャーナリスト) トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定し、米国大使館をエルサレムに移転させることを発表した。パレスチナとアラブ諸国、さらにイスラム世界で反発が広がり、国際的な批判が上がっている。この決定は1995年に米議会が採択したが、歴代の大統領が半年ごとに延期してきたものを、トランプ大統領が23年目にして実施を発表した。トランプ氏の決定はこれまで国連安保理が「平和の障害」として非難し、「無効」としてきたイスラエルの行動を是認するもので、その決定自体が安保理決議違反の可能性が強い。エルサレムをイスラエルの首都だと認め、大使館を移すと発表する トランプ米大統領=2017年12月6日、米ワシントンのホワイトハウス まず、トランプ大統領の発表の論理を考えてみよう。演説の中で「私の発表はイスラエルとパレスチナの間の紛争に対する新たなアプローチの始まりとなる」と語った。1995年に米議会は「エルサレム大使館法」を採択し、エルサレムを首都と認定して、米国大使館を移転させること決めた。トランプ氏は「歴代の大統領は20年以上にわたって、エルサレムの認知を遅らせることが平和につながると信じて、法律の実施を拒否してきた。しかし、イスラエルとパレスチナの間の恒久的な和平の実現につながっていない」という認識を示した。 その上で、「イスラエルが自国の首都を決定することを含む権利を持つ主権国家であり、この事実を認めることは和平の実現にとって必要な条件である」とし、「それは現実を認めることでしかない」とした。 トランプ大統領は「この決定は、われわれが恒久的な和平合意を仲介する強い役割から離脱するということではない。私たちはイスラエルとパレスチナの間の偉大な合意を求めている」と主張する。さらに「米国は、エルサレムでのイスラエルの主権が及ぶ範囲や論争がある境界など、和平の最終地位に関することにはいかなる立場もとらない。それらの問題は当事者にゆだねられる」とする。 トランプ大統領の決定が何を意味するかは、エルサレムをめぐるこれまでの議論を振り返ることで、自(おの)ずと見えてくる。 エルサレムは1947年の国連パレスチナ分割決議では国連管理となっていたが、48年の第1次中東戦争で、エルサレム旧市街を含む東エルサレムはヨルダンが支配し、西エルサレムはイスラエルが支配し、東西に分断された。その後、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが旧市街を含む東エルサレムを、ヨルダン川西岸ともども占領した。1980年にイスラエル議会は東エルサレムを含む「統一エルサレム」はイスラエルの首都とするエルサレム基本法を可決した。今回のトランプ大統領の決定は、このイスラエル議会・政府のエルサレム首都化を認定するものである。 しかし、このイスラエルの動きに対して、国連安全保障理事会は決議478号を賛成14、棄権1(米国)で採択し、「イスラエルの基本法を認定せず、基本法に基づくイスラエル行動はエルサレムの性格と地位を変更しようとするものとして認定しないことを決定する」とした。決議では「武力による領土の獲得は容認できないということを再確認する」として、「占領者であるイスラエルが基本法によって聖地エルサレムの性格と地位を変更することに法的効果はなく、無効であり、直ちに撤廃されなければならない」としている。トランプが和平の実現を語る矛盾 さらに決議では「この(イスラエルの)行動は中東での包括的で、公正で、恒久的な和平の達成に対する深刻な障害となる」としている。決議ではすべての加盟国に対して、「安保理の決定の受け入れ」を求め、さらに「エルサレムに外交使節を置く解明国に聖地からの撤退」を求めた。 この安保理決議を受けて、米国や日本を含むほとんどの国連加盟国はイスラエルが首都宣言をしているエルサレムではなく、テルアビブに大使館を置いてきたのである。トランプ大統領がイスラエルによる東西エルサレムの首都化を「現実」として認定すると発表しても、それを「法的効果はなく、無効」という安保理による決定が変わるわけではない。イスラエルによる東エルサレムの占領から、50年が経過したが、それが「武力による領土の獲得」だという「事実」は変わるわけではなく、トランプ大統領の発表は安保理決議に違反し、米国大使館がエルサレムに移転されれば、それも決議違反ということになる。 安保理決議がイスラエルによる統一エルサレムの首都宣言を「恒久的な和平の達成に対する深刻な障害」と認定したことは、イスラエルが東エルサレムを占領した1967年の第3次中東戦争後に採択された安保理決議242号とつながってくる。 それは中東和平の原則を定めるもので、「国連憲章の原則は公正で恒久的な中東での平和の確立を求めており、次の二つの原則の実施が含まれるべきだ」としている。その二つの原則とは、①イスラエル軍が今般の紛争によって占領した領土からの撤退、②すべての要求または交戦状態を終わらせ、地域のすべての国家の主権と領土の一体性を認め、平和のうちに生存する権利を尊重する。 決議242号は、イスラエルに占領地からの撤退を求め、代わりにアラブ諸国にイスラエルの承認と生存権を認めることとを求めていることから、「土地と平和の交換」として、現在まで米国が仲介者を自任する中東和平の原則として認識されている。占領から13年たっていようとも、占領地の東エルサレムを含む「統一エルサレム」を首都と宣言することが、安保理決議242号が提起する中東和平の原則に反することは明らかである。記念撮影するクシュナー米大統領上級顧問(左)と 河野太郎外相=2017年11月5日、東京都港区 トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認定したことは、「武力による領土の獲得」を認めないとする前提に反するものであり、それを認めれば、決議242号が提起する「土地と平和の交換」の原則は困難にする。トランプ氏が「和平の実現」を語るのは全く矛盾する話なのである。 トランプ大統領の決定に欧州各国も批判し、懸念を表明しているのは、その立場がこれまでの中東和平の枠組みと矛盾し、それを否定するものだからである。その中で、河野太郎外相が「(トランプ氏が)恒久的な和平合意の促進への強固なコミットメントと二国家解決への支持を表明したことは評価する」と語ったのは、全く筋違いの話である。 トランプ大統領はエルサレムがイスラエルの首都だと認定することを「現実を認めることにすぎない」とし、その上で、「エルサレムでのイスラエルの主権が及ぶ範囲や論争がある境界など、和平の最終地位に関することにはいかなる立場もとらない。それらの問題は当事者にゆだねられる」と語る。そのことは、イスラエルが武力によって東エルサレムにユダヤ人入植地を建設し、さらにエルサレムの境界をはるかに超えてヨルダン川西岸に建設した大規模入植地をも「現実」として認めることにつながるだろう。第3次インティファーダは起こるか イスラエルはこの50年間、国連安保理が「紛争によって取得した領土」と認定している東エルサレムとヨルダン岸西岸でユダヤ人入植地を建設し、東エルサレムで20万人、ヨルダン川西岸に40万人の入植者が住んでいる。占領から50年が過ぎ、多くのイスラエル人は東エルサレムの入植地はもちろん、エルサレムの周辺にあるユダヤ人入植地が、占領地であることを忘れている状態である。 さらにイスラエルは今世紀に入って、ヨルダン川西岸とイスラエル本土の間に分離壁を建設した。ただし、ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地は分離壁の内側に入れられ、東エルサレムにあるパレスチナ人が住んでいる地域は分離壁の外に置かれて、エルサレムから切り離され、パレスチナ人をエルサレムから排除しようとしている場所も多い。 このようにイスラエルが武力にものを言わせて、次々と「エルサレムの現実」を変えていることが、「土地と和平の交換」の原則に基づく和平の実現をますます困難にしている。その上で、トランプ大統領が決議478号に反してエルサレムをイスラエルの「永遠の首都」と宣言したイスラエル基本法を認めて、米国大使館をエルサレムへの移転を命じたことは、力による違法を是認し、和平の終わりを意味するのは自明のことである。イスラエル治安部隊の催涙ガスなどの被害を受け、運ばれるパレスチナ人 =2017年12月9日、パレスチナ自治区ベツレヘム エルサレムをめぐる今回のトランプ大統領の決定は、中東に何をもたらすだろうか。 パレスチナ側の反発による第3次インティファーダ(民衆蜂起)の懸念を危惧する声が盛んに出ている。しかし、2002年3月にイスラエルによるヨルダン川西岸への大規模侵攻の時、新聞社のエルサレム特派員として現地にいた私の経験から考えれば、パレスチナ人による第3次インティファーダが起こるとは考えにくい。第2次インティファーダでは、イスラエルの圧倒的な軍事力に対抗するために、ファタハとハマスの武装部門は、イスラエルの民衆を標的にするというテロ戦術をとったが、その結果、イスラエルの大規模な武力行使を許し、パレスチナ社会に決定的な敗北と挫折を残した。 ヨルダン川西岸や東エルサレムの入植者や兵士に対する単発的なテロは起こるかもしれないが、第2次インティファーダのようにファタハとハマスの武装部門が前面にでてテロ戦術をとるとは考えにくい。さらに民衆の怒りが爆発するだけでは「民衆蜂起」にはならない。かといって、1887年12月に始まった第1次インティファーダのような住民による不服従運動のような市民中心の組織的な動きも、現在のファタハとハマスによるそれぞれの強権支配の元で起こるとは考えにくい。トランプとイスラエル右派の親密さ トランプ大統領の決定を受けて危惧される危機は、パレスチナ側の動きから起こるのではなく、むしろイスラエル側から起こると考えるべきであろう。トランプ氏はイスラエルが力で「現実」を変更していくことを認定した。「和平と土地の交換」の原則が崩れた後、トランプ大統領が仲介する「和平」は、イスラエルが力で生み出した「現実」をパレスチナ側に押し付ける形しかないだろう。米国の後ろ盾を得て、イスラエルが大規模な軍事行動に出て、さらにパレスチナの土地を奪うか、パレスチナ人を排除するか、どちらかの可能性を心配すべきだろう。エルサレム旧市街の壁に映し出された米国とイスラエルの国旗 =2017年12月6日 イスラエルでの次の議会選挙は2019年11月までに行われるが、これまでは期限より前に行われてきた。一方、2008年12月以来、イスラエルによる大規模なガザ攻撃が3回あったが、3回ともイスラエル議会選挙の前の1年間に起こっている。イスラエルによる最後の大規模軍事行動は2014年夏のガザ攻撃だった。パレスチナまたはレバノンのヒズボラとの“戦争”を演出して、国内の支持を集めるのはイスラエル政府の常とう手段であり、次の議会選挙に向けて、ネタニヤフ政権がいつ大規模な戦争オプションをとる可能性を考えていなければならない。  特に現ネタニヤフ政権の国防相は、イスラエルで2割を占めるアラブ系市民の排除を唱える発言を繰り返してきた極右政党「わが家イスラエル」のリーバーマン党首である。トランプ氏の人種差別的な主張や政策は、イスラエルの極右政党の主張とも通じるものがある。トランプ大統領は就任前から、イスラエルのネタニヤフ政権と一体化するような言動を繰り返してきた。歴代の米政権はイスラエル支持を表明してきたが、ネタニヤフ氏が率いる右派リクードよりも、和平推進を掲げる労働党政権との親和性が強かった。トランプ大統領のようにイスラエルの右派や極右との親密な姿勢は、これまでの米大統領にはなかった。 トランプ大統領の決定に対して、アラブ世界では反米デモなどはかなり抑制的である。ほとんどのアラブ諸国は若者たちが反乱を起こした2011年の「アラブの春」の後、強権化が進み、民衆による自発的なデモができなくなっている。サウジアラビアの王宮府はトランプ氏の決定を「無責任で正当化できない動き」と批判する声明を出したが、国内メディアに対してはこの問題の扱いを抑制するように指示したという報道も出ている。民衆の抗議デモが抑えられれば代わりに出てくるのは過激派によるテロである。 世界中からシリアやイラクに入って戦闘経験を積んだ「イスラム国」(IS)やアルカイダ系組織の戦闘員は、いま、軍事的に追い詰められて出身国への帰還や第3国へ移動しようとしている。しかし、受け入れ先での市民、住民の協力がなければ、戦士も動くことができない。今回のトランプ氏の決定によってイスラム教徒の間に広がる怒りを追い風として、イラク、シリアからのイスラム過激派の欧米、アラブ世界への帰還や拡散が進むことになり、いずれはテロという形で米国に向かうことになるだろう。

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    トランプ政権内の確執が生んだ唐突な「エルサレム首都」宣言

    ーナリスト) トランプ大統領は12月6日、ホワイトハウスのローズルームで行った演説の中でエルサレムにアメリカ大使館を移すことを決定したと発表した。言い換えれば、エルサレムをイスラエルの首都として承認したのである。 イスラエルは現在、政府と議会、最高裁をエルサレムに置き、実質的にイスラエルの首都として機能を果たしているが、大使館を置いている国は一カ国もない。アメリカは公使館を2カ所置いているが、大使館は他の国と同様にテルアビブに置いている。エルサレム問題はイスラエルとパレスチナの対立の核心の問題の一つであり、エルサレムをイスラエルの首都として承認することは、和平交渉を阻害することになると考えられていた。だが、トランプ大統領は、そうした世界の「常識」を大きく変える決定を行ったのである。 トランプ大統領は大使館移転の決定の理由として、1995年に米議会が可決した「エルサレム大使館移転法」によって、政府は大使館を移し、エルサレムをイスラエルの首都として承認することを求められている点を挙げた。同法はクリントン大統領によって署名されたが、これまで実行に移されることはなかった。2017年5月、エルサレムで演説するトランプ米大統領(左)に拍手を送るイスラエルのネタニヤフ首相(AP=共同) 歴代大統領が大使館移転を延長してきたのは、イスラエルとパレスチナの和平交渉を成功させるために必要だと判断したからである。トランプ大統領は、大使館移転延長にもかかわらず和平交渉は前進を見なかったと批判し、「まったく同じ方式を繰り返すことで異なった結果、あるいは良い結果が出てくると考えるのは愚かなことである」と指摘。そして「この行動(大使館移転)がアメリカの利益とイスラエルとパレスチナの間の和平追求に最も叶うと判断した」と、エルサレムをイスラエルの首都として正式に承認する狙いを説明した。 それにしても、「なぜ」という疑問は残る。そもそもアメリカ大使館をエルサレムに移すというのはトランプ大統領の選挙公約であった。だが、「エルサレム大使館移転法」には移転を猶予するウェイバー条項が含まれており、歴代大統領は6カ月ごとに同条項に基づき移転を猶予する決定を行ってきた。 実はトランプ大統領も6月に移転猶予を認める決定を行っている。テクニカルに考えれば、12月に再度、大使館移転猶予の決定を行うかどうか決めなければならなかった。トランプ大統領にとって、問題はアメリカ大使館をエルサレムに移転するかどうかではなく、いつ移転するかだった。そしてトランプ大統領は移転猶予が切れる12月に移転を決断した。 だが、大使館移転が決定されたのは、発表の直前であった。トランプ大統領の女婿で、トランプ政権で中東政策の責任者に任命されているジャレッド・クシュナー大統領上級顧問は12月3日にブルッキングス研究所で開かれたセミナーで、「大使館をエルサレムに移転するかどうか決まっていない」と語っている。それから3日後、トランプ大統領は大使館移転を決定したことになる。急ぐ必要がなかったエルサレム「首都移転」 要は、決定は緊急性を必要とする問題ではなかったのだ。トランプ大統領は6月に一度移転先送りを決定しており、12月に同様な措置を取っても事態は変わるわけではなかった。一部のメディアは、トランプ大統領の支持基盤であるユダヤ系アメリカ人とエヴァンジェリカル(キリスト教原理主義者)に対する配慮があったと説明している。エヴァンジェリカルは聖書に基づき、神はエルサレムをユダヤ人に与えると考えており、エルサレムをイスラエルの首都として承認することを求めていたからだ。 だが、トランプ大統領の支持基盤にアピールするためという理由だけでは、敢えて今、世界中の反発が予想される決定を行ったのか十分には説明はできない。さらにトランプ大統領はクシュナー氏に「最終的な交渉」の道を探るように指示し、4人で構成される中東チームが結成され、年明けに中東和平の青写真を発表する手はずになっていたという。 この4人とは、クシュナー氏と弁護士のブリーンバルト氏、デビッド・フリードマン駐イスラエル大使、ディナ・パウエル大統領副補佐官である。パウエル氏以外は皆ユダヤ系アメリカ人で、イスラエル支持派である。パウエル氏はエジプト出身で、キリスト教徒だ。4人は精力的に中東の指導者と面談を繰り返し、和平交渉の道筋を探っていた。こうした状況からすれば、中東チームが包括的な和平案を出してから大使館をエルサレムに移す決定を行っても遅くはなかったはずである。エジプトのシシ大統領(右)とクシュナー米大統領上級顧問=2017年8月、カイロ(中東通信提供、AP=共同) トランプ大統領の決定を、いつもの「気まぐれ」と判断するのは単純過ぎるだろう。決断するには、何らかの根拠があったに違いない。トランプ大統領は6月にイスラエルを訪問している。さらに、これまでイスラエルのベンヤミン・ネタニセフ首相とパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス大統領とそれぞれ3回にわたって会談。また、大使館移転発表の数日前にネタニセフ首相と電話会談を行っている。これらを踏まえれば、トランプ大統領の決定を促す何らかの要因があったと考える方が自然である。 トランプ大統領が声明の中で触れているように中東和平交渉は行き詰まっていた。従来のやり方では打開策は見つからない状況にある。そうした状況に一種のショック療法を行ったとの見方もある。ただ、ショック療法は大きなリスクを伴う。中東和平交渉でアメリカは中立的な役割を果たし、「正直な仲介者」と見られてきた。 だが、トランプ大統領の決定は、アメリカはイスラエル側に立つことを意味する。そうしたリスクを敢えて犯してもよいという判断があったのかもしれない。単にトランプ大統領が親イスラエルであるだけでは説明できない。そのカギを握るのが、中東情勢の変化である。パウエル氏辞任表明の衝撃 現在、中東諸国にとって最大の脅威となっているのは、イスラエルではなくイランである。アメリカの雑誌『Commentary』の上席編集者のソーラブ・アーマリ氏は「中東の多くの国はイランに対抗する潜在的な同盟国としてイスラエルに期待している」と、中東情勢の変化を指摘している(同誌、12月6日、「Trump has a capital idea on Jerusalem」)。 中東諸国の中にはイスラエルとの関係を強化する動きが見られる。その代表格がサウジアラビアである。『ニューヨーク・タイムズ』によれば、11月にアバス大統領はサウジアラビアを訪問し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談を行っている。その際、皇太子は和平案を提案している。その中に東エルサレムはパレスチナに返還しないとの項目が含まれていた。 さらにパレスチナ難民の帰国を認めないなど、パレスチナにとって厳しい内容も含まれていた。サウジはこうした厳しい条件をパレスチナに示す見返りに潤沢な経済援助を行う提案をしている。ただ、両国とも、そうした報道を否定している。だが、アーマリ氏は「アラブの主要国にとってイスラエル・パレスチナ和平交渉よりも反イラン同盟の方が重要になっている」と指摘している。 またアッバス大統領は高齢化し、パレスチナ内における影響力も低下している。先の見えない和平交渉をどこかで打開したいとの気持ちもうかがえる。またアメリカ国内でも、パレスチナに対する援助打ち切りの法案が提出されている。アバス大統領は、トランプ大統領の決定に対して「エルサレムをイスラエルの首都として認めるようなアメリカの政策、あるいはアメリカ大使館をエルサレムに移す政策は、平和交渉にとって脅威であり、パレスチナにとっても、アラブにとっても、国際的にも受け入れることはできない」と厳しい口調で批判している。 だが、膠着状況の和平交渉を打開し、前進させるためには、従来のやり方では通用しなくなっていることは明らかである。トランプ大統領の決定が交渉を新しい段階に導くのか、あるいはパレスチナやイスラム教徒から強烈な反発を招き、新たな流血事態につながるのか、まだ判断できない。そもそも、外交政策の動きは表面的には見えないものである。トランプ米大統領(右)とパウエル大統領副補佐官=2017年9月、ホワイトハウス(ロイター=共同) ただ、ひとつだけ気になる事柄を指摘しておく。それは中東チームの唯一の非ユダヤ人であるパウエル氏が辞任を発表していることだ。表面上は、パウエル氏は当初から1年の予定で補佐官の職務に就くと決めていたと報道されているが、トランプ大統領の政策や中東チーム内の政策を巡る確執があったのかもしれない。とすれば、トランプ大統領の行動は熟慮を重ね、中東情勢の微妙な変化を読み取ったものとは言えなくなるかもしれない。

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    「エルサレムが首都」パレスチナを裏切ったトランプの真意

    前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) いったい何が起こったのか、と私も感じた。それくらい、今回のトランプ米大統領の発言には唐突感があった。新たな和平の枠組みがない中で、エルサレムをイスラエルの首都と承認し、大使館移転を行うことは、和平プロセスを根本的に破壊し、中東にもう一つ紛争の種をまくことになるのは必至だ。 しかし、トランプ氏の頭の中を想像するに、それなりの論理があるようだ。本稿ではそれを想像してみたい。 まず、比較的想像しやすいのが、昨年の大統領選挙で自分に投票してくれた人への「利益還元」である。具体的には強固な支持層である共和党のキリスト教保守派向けへの「感謝」のメッセージである。 米調査会社ピュー・リサーチ・センターによると、有権者の全体の26%を占めるキリスト教保守派(福音派、ボーンアゲイン)のうち、2016年にトランプ氏に投票したのは81%と圧倒的である。この数字は12年の78%、08年の74%よりも一段と大きくなっている。 このキリスト教保守層を固めるために、昨年の選挙戦でトランプ氏は副大統領に過去の米国の政治家の中で最も宗教保守的といえるペンス氏を任命した。さらにそれだけでなく、選挙公約として「イスラエルの永遠の首都はエルサレムとする」と何度も強調した。 それではなぜ、キリスト教保守派はイスラエルを大切にするのか。それは、ユダヤ教とキリスト教は同根(「ユダヤ・キリスト教」)であるという意識が強いためだ。「イスラム教に比べれば…」という意識もある。 ここで注意しないといけないのは、ユダヤ教徒ではなく、キリスト教保守層向けという点である。全米の人口の3%程度を占めるといわれるユダヤ系は、16年の大統領選でもそうだったが、常に7割程度が民主党に投票するように、一枚岩ではない。ホロコーストの歴史を経験したユダヤ系は多様性や人権を重視する民主党の方に親和性があるという構造である。だから、穏健派は今回のトランプ発言に一斉に反発している。 日本でもよく引用される米国のユダヤ教の有力利益団体に、米国イスラエル公共問題委員会(AIPAC)のようなイスラエル寄りの強硬派団体がある。トランプ氏の娘婿、クシュナー大統領上級顧問はこのAIPACと強い関係にある。トランプ米大統領(右)と娘のイバンカ大統領補佐官(中央)、娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問=2016年6月、ニューヨーク(ロイター=共同) しかし、強硬派の団体がある一方で、「Jストリート」というリベラル寄りの団体もある。Jストリートはトランプ発言直後に「大きな間違い」という声明を出した。特にリベラル派のユダヤ人にはイスラエルと距離を置こうとする人たちもおり、筆者が数年前に米国の学会に参加した際、急に「全体集会で反イスラエル決議をまとめる」という極めて政治的な動きに直面し、やや面食らった。この決議の中心にあったのが、リベラル派のユダヤ系の大学研究者だった。宣言後に残ったトランプの「矛盾」 そのような中で不思議なのが、今回の発言でイスラエルとパレスチナが共存する「二国家解決」をトランプ氏は崩していない点である。さらに注目したいのが、大使館移転繰り延べ命令に、結局トランプ氏が署名した点である。1995年に議会を通過したエルサレムへの大使館建設法案を延期してきた歴代の大統領を散々批判した後で、トランプ氏は過去の大統領と同じよう対応を選んだ。 この矛盾するトランプ氏の言動をさらに想像してみる。過去25年ほどの間、イスラエルが常に優勢である中、そもそもパレスチナ和平が全く進む可能性が見えない。乱暴だが逆にエルサレムをイスラエルのものと認めて、和平の中立的な仲介役としての米国の立場を捨てようと思ったのではないか。米国が和平から抜ける一方で、パレスチナ和平をイスラエルとパレスチナの間で進めさせた方が現実的な和平になるという「ショック療法」だったかもかもしれない。 「首都承認」発言後、イスラエルのネタニヤフ首相に「あまり公に喜びすぎるな」とトランプ氏が伝えたと言われており、それを見るとショック療法である可能性も確かに見える。ただ、そんな破天荒な治療がどれだけうまくいくかわからない。2017年12月、パレスチナ人の抗議デモで燃やされるトランプ米大統領やイスラエルのネタニヤフ首相の写真=パレスチナ自治区ガザ(ロイター=共同) ただ、今回のトランプ氏の発言は国際社会からの反発は必至であり、すでに多くの混乱が起こりつつある。イスラム国との戦争で力をつけたレバノンのシーア派組織ヒズボラなどがイスラエルへの攻撃に踏み切る可能性もあろう。最近米国との関係が悪化しているトルコの反発なども考えられるだろう。 ここ数年の中東情勢の変化の中で、何と言ってもイランの台頭が大きい。「アラブの春」でアラブ諸国が大いに動揺し、そこにイランが進出している形だ。トランプ氏が今年5月、最初の外遊先としてサウジアラビアを選んだのは偶然ではない。この外遊でイランを敵視することでつながるサウジアラビア、エジプト、イスラエル、米国で「対イラン包囲網」を作ろうという狙いが明確にしている。 サウジアラビア、エジプトはイスラム世界から非難され、トランプ氏の発言を取りあえず強く批判した。トランプ政権に近い両国が「はしごを外された」として、非難の姿勢をどう取るかは難しいところだが、本音の部分では対イランで米国と組む方が得策という考えもあるのかもしれない。 これまでの秩序をぶっ潰す「壊し屋」トランプ氏。この難しい「怪物」とわれわれはうまく付き合っていかなければならないことを今回の発言を通じてさらに痛感した。

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    「米国の手先」日本も標的? エルサレム問題でイスラム国が復活する

    和田大樹(外交・安全保障研究者、清和大講師) 米国のトランプ大統領が12月6日、エルサレムをイスラエルの首都と容認し、数年以内に最大都市テルアビブから米国大使館を移転させるという前代未聞の方針を明らかにした。トランプ氏は大統領選の時から、エルサレムに移動させることを公約としてきたが、今回の決定の背景には、国内のキリスト教福音派など自らの支持層の期待に応える狙いがあるとみられる。 当然のことながら、この決定に対してはパレスチナをはじめ、サウジアラビアやヨルダン、エジプト、マレーシアなどイスラム圏諸国に加え、欧州や国連などから既に非難や懸念の声が続出しており、今後の中東情勢の先行きが不安視されている。特に、今年10月中旬にはパレスチナ自治政府の主流派ファタハとガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが、10年に及ぶ分裂に終止符を打つための和解案に署名するなど、中東和平へ明るい兆しが見え始めていた時期だけに、両者からは怒りとともに悲嘆の声さえも聞こえる。2017年12月6日、米ホワイトハウスでエルサレムをイスラエルの首都と認定すると発表したトランプ大統領(UPI=共同) しかし、今回の決定が与える影響は、米国とアラブ諸国を中心とする国家間関係だけで収まる気配はなく、国際的なテロ情勢にも一定の影響を与える可能性がある。ここでは、米国によるエルサレム首都容認が今日の国際テロ情勢に与える影響と、それによる日本権益へのリスクについて危機管理の視点から考えてみたい。 米国によるエルサレム首都容認に各国から懸念の声が高まる今日、2014年以降猛威を振るってきた過激派組織「イスラム国」(IS)は、シリアとイラクで領域支配をほぼ完全に喪失した。一般世論では、9・11以降のアルカーイダに続き、ISの時代も終わったとの風潮が流れている感があるが、現実はそう易しいものではない。 まず、多くのIS戦闘員は殺害、もしくは拘束されたものの、依然として逃亡を続ける戦闘員がいる。こういった戦闘員は支配領域を失ったとしても、内戦や戦闘が続くシリアやイラクでテロ組織としての活動をひそかに継続し、組織として復活できる機会を狙うことになるだろう。 また、既に母国や第三国に移動した戦闘員もいるが、帰還者による母国でのテロの脅威に加え、ISとしての信念を持ち続ける戦闘員らが周辺諸国や他地域に移動し、再度、模擬国家構築を目的とする戦闘を開始することが懸念される。既にフィリピン南部のミンダナオ島マラウィやリビア中部のシルトはそれに近い状況にあったといえるが、第三国へ移動した戦闘員たちはその機会をうかがいながら、ひそかに活動を続けることになるだろう。動き出すIS残党とアルカーイダ さらに、ISによる領域支配の時代が終わったとしても、そのイデオロギーやブランドの影響を受けた個々人による、いわゆるローンウルフ(一匹狼)型のようなテロが終わる気配は全く見えない。近年、ISによるプロパガンダ活動は衰退の一途をたどっているが、ISの戦闘員や支持者らは、ISの求心力を保つためにも短期的にはその活動を継続するだろう。イラク北部モスル南方にある監獄で座る過激派組織「イスラム国」(IS)のメンバーとみられる男ら=2017年7月(AP=共同) 一方、1988年にウサマ・ビンラーディン(2011年5月に死亡)が創設した国際テロ組織アルカーイダは、9・11以降米軍主導の対テロ掃討作戦で多くの幹部を失い、組織として弱体化したことは事実であるが、内部における権力闘争など紆余(うよ)曲折はあるものの、今日においても、アラビア半島のアルカーイダ(AQAP)やアルシャバーブ(ソマリア)、インド亜大陸のアルカーイダ(AQIS)、イスラム・マグレブ諸国のアルカーイダ(AQIM)など、アルカーイダ指導者のアイマン・ザワヒリ容疑者に忠誠を誓う組織が中東・アフリカ、南アジアなどで活動している。 ISの前身組織がイラクのアルカーイダ組織(AQI)で、ISとアルカーイダは手段・方法などで違いは見られるものの、初期のイスラム時代への回帰という目標をグローバルなレベルで掲げるサラフィスト(イスラム厳格派)グループで、今日でも依然としてその意思を強く持っている以上、彼らのグローバル・ジハード運動は今後も続くと判断せざるを得ない。そして、その攻撃能力は諸国家の軍事力に及ばないことは言うまでもないが、米国を中心とする欧米諸国やその同盟国、中東の権威主義的・世俗的な政府を攻撃する意思に変化は見られないことから、われわれは安全保障・危機管理の観点からそれにどう対処していくかを継続して考える必要があろう。 トランプ氏による決定後、早速ISやアルカーイダなどジハーディスト(聖戦主義者)グループは強く非難する声明を出している。それらをまとめると、まず、アルカーイダ系ではその本体であるアルカーイダ・セントラル(AQC)が、イスラム教徒に対して「米国とその同盟国の権益を攻撃せよ」と呼び掛け、その系統グループであるAQIMやAQAPもトランプ氏の決定を非難し、全世界のイスラム教徒に対して、資金的・軍事的支援をするなどしてパレスチナ解放のために連帯するよう訴えた。 また、アルカーイダ系とされるハヤート・タハリール・シャーム(HTS)、インド北部カシミール地方やガザ地区を拠点とするジハーディストグループからも同様の声明が発信された。一方、アルカーイダと対立関係にあるISの支持団体(支持者)からも、米国の決定を非難する声明が次々に出ており、中には欧米諸国での単独的な攻撃を呼び掛けたりするものもある。さらには、エジプトを拠点とするムスリム同胞団系のハサム運動やアフガニスタンの反政府勢力タリバンからも同様の声明が出ている。「声明」からわかる三つのポイント 本稿執筆時点でトランプ氏の宣言から3日が過ぎるが、上記からも世界各地のジハーディストたちが強く反発していることが分かる。そしてそれらの声明から、現時点で分かることが三つある。 まず一つ目は、アルカーイダ関連の組織による非難声明が多いということだ。AQCやAQIM、AQAP、HTS、アルシャバーブなど、中枢とその関連組織の非難声明が2日間という短い期間に一斉に発信されたことは、今まで見られなかった現象だ。なぜアルカーイダ系グループの発信が目立つかというと、それは簡単に説明すれば、アルカーイダはISよりエルサレムを重要視するということに尽きるが、領域支配を継続してきたISが崩壊したというタイミングも戦略的にはあったのかもしれない。特に、近年何か大きな出来事があっても、AQCがここまで早く明確な声明を出すのは珍しい。 二つ目は、ISのプロパガンダ活動の顕著な衰退である。今回のトランプ氏による決定は、ジハーディストたちにとっては自らの主義・主張の正当性をアピールするチャンスであるはずだが、IS関連の声明は以前に比べると目立たない。特に、支持者でなくISの公式メディアからの発信が執筆時点で見られないことからは、ISの顕著な衰退というものを想像させる。 しかし、上でも触れたように、ISが弱体化したからといって、ジハーディストによるテロの脅威が衰退するわけではない。それは別問題と考えるべきで、それが三つ目である。2017年12月11日、ニューヨークで起きた爆発で、現場付近を封鎖する警察と消防(ロイター=共同) 昨今、テロ対策研究の世界では、ISの弱体化に伴い、ISとアルカーイダの関係の行方を模索する動きが顕著にみられる。その中では、ISとアルカーイダの対立の継続の他に、両者の共闘、接近、もしくは合併などの議論が行われており、今後のテロ情勢の動向を不安視する声が聞かれる。その行方を予想することは難しい。しかし、今回のトランプ氏の決定は、少なくとも「米国・イスラエルvsアラブ」という図式を明らかに緊張化させることとなった。個人的にもトランプ氏の判断には反対の姿勢であるが、今回の決定による中東の不安定化は、繰り返しになるが、アルカーイダやISにとっては自らの存在をアピールするチャンスになっており、ひいては両者を共闘、もしくは接近というものを助長する要因にならないかが懸念される。 では、今後の情勢はわれわれ日本人にどのような影響を与えるのだろうか。遠い中東地域の出来事であるから、日本人が直接の影響を受けることはないのだろうか。答えは「NO!」だ。「日本標的」の口実を与えるな 表1(筆者作成)は、過去20年間で日本人がジハーディストによるテロの被害を受けた事件をまとめたものである。これを見るだけで日本人が断続的にテロの被害に遭っていることが分かる。そしてその多くは、「巻き込まれた」テロ事件であるが、「日本人だから殺害対象となった」事件もあることを忘れてはならない。この年表の中では、2004年10月のイラク日本人青年殺害事件と15年1月のシリア日本人男性殺害事件がそれに当てはまる。周知の通り、これらの事件で被害に遭われたのは、香田証生さん(当時24)、後藤健二さん(当時47)、湯川遥菜さん(当時42)であるが、現在でも同様のリスクは存在し、今後も日本人が殺害対象として狙われる可能性も決して排除できない。 04年10月と15年1月の事件で共通しているのは、テロリストが米国と協調関係にある日本を非難していること、そして何よりテロリストは国際政治の流れをよくウォッチングしているということだ。日本は歴史的に中東諸国と戦争をしたことがなく、中東における日本のイメージは一般的には非常に良い。しかし、このようなジハーディストたちは、国際情勢、国際政治の流れを独自に解釈し、「日本は米国の同盟国であり、欧米の手先だ」と判断することはよくあり、日本も決して彼らの標的の外ではないのである。 われわれは過去の教訓を決して忘れてはいけない。過去の事例からは、以上のようなリスクがあることを十分に認識する必要がある。現在のところ、今回のトランプ氏の決定に対して多くの国や国際機関から非難の声が集まっているが、日本政府は明確な非難を避けている。最も、日本の国益を考えるとそうならざるを得ないだろうが、それはISやアルカーイダなどのジハーディストグループに、日本を標的とするという口実を与えることになる恐れがある。2017年9月、会談を前に握手する安倍首相(左)とイスラエルのネタニヤフ首相=米ニューヨークの国連本部(代表撮影・共同) 今回のトランプ氏の決定は、特にアルカーイダにとっては最もセンシティブな問題で、彼らの怒りを最も買う出来事といえるだろう。2015年以降、故ビンラーディン容疑者の息子であるハムザ・ビンラーディンの存在が顕著になっている。昨今もハムザは、イスラエルと米国を攻撃せよというメッセージを発信しており、今後の国際テロ情勢の先行きが不安視される。現在のところ、ジハーディスト情勢で何か大きな動きがあるわけではない、しかし、われわれ日本は過去の教訓から以上のようなリスクがあることを十分に認識し、今後の情勢を危機管理的な視点から注視していく必要がある。

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    窮地トランプ大統領を「応援団」は救えるのか?

    びつけて注視していく必要があるということです。うんの・もとお 明治大学政治経済学部教授、心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    三大宗教の聖地 エルサレムで触れたイスラエル人の日常生活

     イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区への侵攻を行う昨今。ニュースでは多数の死者が出ていることが報道されており、この国への注目は日に日に高まっている。日本人には物騒な印象のイスラエルだが、実際に訪れてみると、人々は働き、物を買い、食べて飲んで祈り、世界の街で見てきたものと変わらない人々の生活があった。 筆者が滞在した街は、ユダヤ、イスラム、キリスト教徒の聖地があるエルサレムだ。観光地としても人気があり、各宗教の巡礼者をはじめ、多くの旅行者がこの街を訪れている。?城壁に囲まれた旧市街には、石造りの細い路地が続き、数多くの史跡が立ち並んでいた。建物は石造りで、中世の町並みをそのままに保存している。 高低差の激しい土地に建設されたからか、街を歩く時は常に、坂道や階段を登ったり降りたりする必要がある。この町並みの中をイスラエル料理のファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)でもつまみながら散歩したりすると、別の時代に迷い込んだようで楽しい。イスラエル、エルサレムのバザール(iStock) 街はユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒ごとに居住区が決められており、ユダヤ・キリスト教徒の居住区は比較的きれいに保たれている。イスラム教徒の居住区はゴミがまばらに落ちている印象があるが、賑やかで雑多な商店が立ち並んでおり、他の居住区に比べると人々も活気に満ちている。 旧市街の城壁を出て新市街に出ると、国立のイスラエル博物館周辺の広い公園では、家族連れがBBQをしており和やかな空気が流れていた。新市街の目抜き通りでは、軍服姿の若者の姿が目立つ。イスラエルでは一部の例外を除き、男女共に18歳から兵役が義務づけられている。 街で見かけた兵士の一人は、警備任務の休憩中か、サボり中なのかは分からなかったが、サブマシンガンを肩にかけたままアイスクリームを口にしていたり、ブティックの買い物袋を下げた兵隊も見かけた。初めて見たサブマシンガンは重く冷たく感じたが、地元の人は気にするそぶりもなかったので、エルサレムでは日常的な風景なのだろう。 国民の安全な生活を守るため、イスラエルでは徹底した治安管理が行われている。まず、大きなショッピングモールに入るには、荷物のチェックが必要だ。空港のセキュリティチェックと同様、ゲートをくぐり、荷物はX線で中身を確認される。出国するときも、バッグの底まで荷物を調べられ、パンツ一丁になるまでボディチェックを行われた。 厳しい治安管理のためか夜間の一人歩きも、地区によっては問題ない。新市街にはデートに使いたくなるような洒落たレストランもあるし、クラブや、酒場だって当然ある。若い人がそのような場所で笑い、楽しんでいるのは、他の世界の大都市と変わらぬ風景だ。 筆者がエルサレムで滞在した宿は、迫害を逃れたキリストがローマ軍に捕まったとされる“オリーブの丘”を登った先にあった。イブラヒムというおじいさんが自宅を開放している宿で、食事付きで料金も安いため、日本人のバックパッカーから人気のある宿だ。この宿がある地区はイスラム教徒が多く、住んでいるのは主にアラブ人だ。路上で遊ぶ子供がいきなり… 宿に滞在して数日が経った時、事件が起こった。路上で遊んでいる子供の前を通りがかった時「ハーイ!」と挨拶をされたのだが、続けざまにツバを吐きかけられたのだ。ツバはこちらに届くことはなく、筆者は自転車に乗っていたため、その場は走りすぎたが、一瞬、何が起きたのか分からなくなった。こちらはただ通り過ぎただけなのだ、何も悪いことはしていない。 夜、宿に帰って、ボランティアで長期滞在しているタイ人の女性に話をしたところ、彼女も石入りの雪玉を投げつけられたと聞いた。この時も特に理由はなかったそうだ。その雪玉は彼女の額に当たり、流血したそうだが、周辺住民との衝突を避け、泣き寝入りしたと聞いた。 言葉が通じない中ではお互いのバックグラウンドが分からず、相手をアイコン化して捉えてしまいがちで、誤解が生まれやすい。イスラエルは経済協力開発機構(OECD)の調査で、相対的貧困率(大多数よりも貧しい「相対的貧困者」の全人口に占める比率)が高いとされた国のひとつだ。 見た目が彼らとは違い、イスラエルでは目立ちがちな私たちアジア人は、海外に旅行できる裕福な人種として、子供たちの嫉妬を買ったのかもしれない。この出来事を通して、少しやるせない気分になったが、もちろん、エルサレムのアラブ人の子供が、そのようなことをする子供だらけなわけではないことを追記しておく。 ストリートアートのスター、バンクシーのウォールアートを見にパレスチナ自治区に足を踏み入れた時も、そこには変わらない人々の暮らしがあった。パンを作る人、タクシーの運転手をする人、お土産を売る人、カフェでコーヒーを飲む人。小銃を持った警備兵がいる以外は物騒な気配は微塵もないと感じた。イスラエルは旅行者にとって大変魅力的な土地である。かの国の人々に平和が戻り、また訪問できる日が来ることを、筆者は願ってやまない。(文・鈴木雅矩)関連記事■ モサドの強みは世界を敵に回してでも生き残る国是と佐藤優氏■ 落合信彦氏 イランのミサイル2万発がイスラエルの射程圏内■ 「不倫」表す隠語 オランダでは「こっそり猫を盗む旅に出た」■ 落合信彦 イランの核開発はイスラム世界の覇権握るためと指摘■ タスキ掛けした鞄の紐で胸が強調 「パイスラ」を下から撮影

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    エルサレムを首都に「選挙公約守る男」を誇示するトランプ

    佐々木伸 (星槎大学客員教授) トランプ米大統領は6日、パレスチナ人とユダヤ人の係争の聖地エルサレムをイスラエルの首都と認め、米大使館を同地に移転させる方針を発表した。パレスチナなどアラブ各国はもとより欧州からも一斉に反発する声が上がっており、イスラム世界で反米デモの嵐が起きる懸念が強い。 トランプ大統領は発表で、この決定が「現実を認める以外の何ものでもない。これがやるべき正しいことであり、実施されなければならない」と言明した。しかし、70年も続いてきた米国の政策転換は衝撃的だ。まずはこれがどれほど重大で深刻なことなのかを確認する必要があるだろう。 エルサレムの旧市街地には、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地が集中する。ユダヤ教では、古代エルサレム神殿の外壁である「嘆きの壁」、イスラム教徒では預言者ムハンマドが昇天したという「岩のドーム」とアルアクサ・モスクがある。(iStock) イスラエルは1967年の第3次中東戦争で占領・併合した東エルサレムを含め、エルサレムを「不可分の永遠の首都」と主張してきた。しかしパレスチナ側は東エルサレムを将来の独立国家の首都と位置付け、エルサレムがどちらに帰属するかは中東和平交渉の中で、最も困難かつ微妙な問題とされてきた。 このため、各国はエルサレムではなく、商都テルアビブに大使館を置き、エルサレム問題との関わりをあえて回避してきた。これは米国も同様だが、ユダヤ系米国人の影響力が強い米議会は95年、エルサレムをイスラエルの首都とし、大使館移転を政府に求める法律を可決した。 しかし、中東和平の中立的な調停者を演出してきた歴代大統領は外交・安全保障上の理由からとして、半年ごとにこの移転の実施を延期してきた。トランプ氏は昨年の選挙の公約の1つとして、大使館のエルサレム移転を掲げたが、今年6月に一度移転を延期し、12月4日が2度目の延期期限だった。 米メディアなどによると、トランプ氏が6月に延期したのは、中東和平交渉への影響や、反米感情の高まりなどを懸念する政権内部の意見を考慮したからだ。しかし、大統領は延期せざるを得なかったことに我慢がならなかったようで、ホワイトハウスではこの数ヶ月間、移転決定に向けて集中的な検討が行われてきた、という。 つまるところ、トランプ氏は「選挙公約を守る男」であることを断固示したかったということだろう。同氏は既存のエスタブリッシュメントやエリートの意見を嫌い、「米第一主義」に見られるように、“外交的な常識”にとらわれないことを実証してきたが、今回もそうしたトランプ流のやり方で、「歴代大統領とは違う」というところを誇示する意図があるのは間違いない。 トランプ大統領の側近らによると、大統領はエルサレムが単に、歴史的にイスラエルの首都であるという現実を認めているにすぎず、中東和平交渉への関与など他の政策は今後もなんら変わるところがない、という。しかも、実際に移転するまでには、3年から4年必要で、テルアビブに大使館を置いている現状には当面変化がない、としている。大統領は娘婿のクシュナー上級顧問を和平交渉の中心に据えている。イスラム教徒のレッドライン しかし、こうした理屈は大統領の決定を正当化しているだけで、長年続く歴史的な紛争の実態を無視した無謀な論理と言わざるをえない。オバマ政権下で中央情報局(CIA)長官を務めたジョン・ブレナン氏は米紙に対し「無謀かつ外交政策の大失敗」と批判し、中東における米国の権益を向こう何年にも渡って損ない、地域を不安定なものにするだろう、と警告した。 トランプ大統領がどのような理屈づけをしようが、米国がイスラエル寄りに大きく踏み出し、中東和平の中立的な調停者としての立場を放棄したというのは確かなことだ。トルコのエルドアン大統領が「エルサレムをイスラエルの首都と認めるのはイスラム教徒にとってのレッドライン」と言明しているように、中東和平交渉が破綻する恐れが強い。 トランプ大統領の決定が伝えられると、世界各国から非難の声が上がった。パレスチナ自治政府は無論のこと、アラブ各国はじめ英仏独など欧州諸国からも米国に対する批判が集中した。2017年12月、ヨルダン川西岸ラマラでトランプ米大統領の写真を手に抗議するパレスチナ人ら(AP=共同) ただし、アラブの大国であるサウジアラビアやエジプトは表面的には米国の方針に懸念を表明しても、パレスチナを支援する行動は取らない公算が強い。特にサウジのサルマン国王体制はトランプ政権との関係を一段と深めており、最大の関心はパレスチナ問題ではなく、イランの影響力拡大阻止にあるからだ。 とは言っても、「反米行動に火が付けば、パレスチナだけではなく、イスラム諸国全体に反米デモの嵐が吹き荒れるかもしれない。米国は1人の大統領の自己満足のために、退っ引きならない窮地に立たされかねない」(ベイルート筋)という指摘もある。 過去にも、2012年には預言者ムハンマドを侮辱した映像が米国で制作されたことにイスラム教徒が反発して反米デモが各地に波及。また米軍兵士が聖典コーランを焼却したことが明るみに出て、その時にも反米デモが起きた。パレスチナでは、6日から3日間を「怒りの日」と名付け、すでに不穏な空気が渦巻いている。暴力の連鎖が起きる懸念がある。 イスラエルの米大使館には1000人を超える外交官がいるが、国務省はテロなどに巻き込まれないよう、エルサレム旧市街地やヨルダン川西岸への立ち入りを禁じた。また中東各国の大使館などに対しても過激派の攻撃などに備え厳戒するよう指示を出した。 米国の決定で中東情勢が悪化する恐れから6日の日経平均も大きく下がった。エルサレム問題は世界に暗雲を投げ掛けようとしている。ささき・しん星槎大学客員教授。共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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    なぜトランプは金正恩を「ロケットマン」と呼び続けるのか

    の一般討論演説を行うトランプ米大統領=2017年9月19日(ロイター) さて、2017年9月19日にアメリカ大統領であるドナルド・トランプは、就任後初めての国連総会での演説で、北朝鮮の最高指導者である金正恩を「ロケットマン」と呼び、「アメリカと同盟国を守ることを迫られれば北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はない」と恫喝した。 それに対して、北朝鮮の最高指導者である金正恩は21日に声明を発表し、トランプの演説を批判して「トランプが何を考えていたとしても、それ以上の結果を目の当たりにすることになるだろう。アメリカの老いぼれ狂人を必ず、必ず、火で制するだろう」と応酬。北朝鮮の外務大臣である李容浩も、23日に国連総会でトランプを「誇大妄想と自画自賛を重ねる精神異常者」と呼び、「アメリカ全土への我が国によるロケット攻撃が避けられなくなる」と恫喝した。 フルシチョフに比べれば穏やかとはいえ、国連総会を舞台に米朝がお互いに口汚く相手を罵って恫喝したことで、実際に戦争になるのではないかと危惧した向きも多かろう。もちろん、その可能性がゼロとは言わない。しかし、まず、北朝鮮はなぜアメリカを恫喝しているのかを理解する必要があろう。 北朝鮮がアメリカを口汚く罵って恫喝することは今までも珍しくなかった。なぜ北朝鮮がアメリカに恫喝のメッセージを送るのかは抑止論のゲームによって説明できる。北朝鮮の核兵器とミサイル開発の目的が、アメリカに対する抑止力を持つためであったことは、もはや議論の余地はないだろう。援助やそのための対話を求める瀬戸際外交であるならば、アメリカを攻撃するぞと恫喝する行動を説明できないからである。恫喝されれば援助を送るアメリカではないだろう。では、抑止論のゲームから北朝鮮がなぜアメリカに対して恫喝するのかを説明しよう。北の米に対する抑止ゲーム 抑止論のゲームは、展開型ゲームによって説明される。視覚的にはゲームツリーが最も分かりやすいであろう。北朝鮮のアメリカに対する「抑止ゲーム」を描いたゲームツリーの図を見てもらいたい。この「抑止ゲーム」の結果は、北朝鮮とっての「現状維持」、「宥和(ゆうわ)・降伏」、「戦争」の3つがあり得る。アメリカが「攻撃の自制」を選択すれば、「現状維持」になる。アメリカが「攻撃の実行」を選択し、北朝鮮が「反撃の放棄」を選択すれば、北朝鮮の「宥和・降伏」になる。アメリカが「攻撃の実行」を選択し、北朝鮮が「反撃の実行」を選択すれば、「戦争」になる。北朝鮮にとって、「現状維持」が最も平和な状態であり、最良の結果である。そして、アメリカからの攻撃に対して「宥和・降伏」することは国家が消滅する可能性もあり、最悪の結果である。「戦争」は、その中間の結果である。北朝鮮のアメリカに対する「抑止ゲーム」を描いたゲームツリー アメリカにとっては、北朝鮮が「宥和・降伏」することが最良の結果であり、北朝鮮と「戦争」になることが最悪の結果である。「現状維持」は、その中間の結果である。となると、北朝鮮とアメリカの両者にとって、「現状維持」が最良の結果であることになる。そのために、北朝鮮は、アメリカに「攻撃の自制」を選択させて、「現状維持」の結果をもたらすようにしようとする。それは、アメリカが「攻撃の実行」を選択すれば、北朝鮮が必ず「反撃の実行」を選択して「戦争」になることをアメリカに認知させることである。もしアメリカが「攻撃の実行」を選択しても、もしかしたら北朝鮮が「反撃の放棄」を選択するかも知れないとアメリカが認知すれば、アメリカが「攻撃の実行」を選択する可能性が出てくるからである。 そのために、多くの人々の直感とは異なるであろうが、「抑止ゲーム」で分かることは、北朝鮮は「やられたら必ずやりかえす」とアメリカに恫喝のメッセージを送り、実際にやりかえせる能力を持っていることを核実験やミサイル実験で示しておくほうが、最も平和な状態を維持できるということになる。反対に、北朝鮮が平和で友好的なメッセージをアメリカに送れば、アメリカが「攻撃の実行」を選択する可能性が高まり、「宥和・降伏」や「戦争」といった「現状維持」よりも悪い結果を北朝鮮にもたらすことになる。だから、「抑止ゲーム」では、北朝鮮は、最善の選択として、核実験やミサイル実験を繰り返し、恫喝のメッセージをアメリカに送り続けるはずである。 実際の北朝鮮も、そのために恫喝のメッセージをアメリカに送っているのである。同じことが、アメリカにも言えるであろう。奇妙な話であるが、「抑止ゲーム」では、米朝がお互いに口汚く罵って恫喝している方が、戦争が起こる可能性が低くなることになるのである。(文中敬称略)

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    米が北の核容認で「圧力」主張の安倍首相ハシゴ外されるか

    〈この国を、守り抜く。〉──安倍晋三・首相はそんな勇ましい選挙スローガンを掲げ、テレビCMを流し続けた。 北朝鮮の核開発と弾道ミサイル危機が深まる中、こと安全保障の面では安倍政権の下で米国は日本を守ってくれるはずだと期待している人が多いはずだ。 安倍首相は世界の指導者のなかでもとくにドナルド・トランプ米大統領と「ケミストリーが合う」と宣伝されており、日米同盟をバックに国連総会で強硬姿勢で北朝鮮の核ミサイル開発を中止に追い込むべきだと訴えた。トランプ大統領も、「北朝鮮はこれまで世界が見たこともないような炎と怒りを見ることになる」と警告し、米軍は「斬首作戦」を用意するなど、日米が結束して北に備えているように見える。安倍晋三首相(左)との会談を前に栄誉礼を受けるトランプ米大統領=2017年11月6日午前、東京・元赤坂の迎賓館(松本健吾撮影) だが、1年以内にその軍事同盟が幻になるかも知れない。米紙ワシントン・ポストは、米国の国防情報局(DIA)が〈北朝鮮がICBMに搭載可能な小型核弾頭の生産に成功した〉との機密分析報告書をまとめ、北は米本土に到達するICBMの実戦配備に必要な大気圏再突入技術を2018年末までに獲得する可能性があると報じている(今年8月8日付電子版)。 外務省国際情報局の主任分析官を務めた作家・外交評論家の佐藤優氏は、実戦配備の前に米朝が日本の頭越しに妥協をはかると指摘する。「トランプ大統領は武力攻撃に言及しているが、米軍が北を空爆しても核施設を全部破壊することは難しい。北の反撃で事実上の第2次朝鮮戦争が始まれば100万人規模の死者が予想され、韓国にいる20万人と推定される米国人にも多くの犠牲者が出る。従ってその前に米朝の交渉が行なわれるはずです。 しかし、北朝鮮は核廃棄や弾道ミサイルの放棄には絶対に応じないでしょう。そこで、米国は北朝鮮に自国の生命線である米本土に到達するICBMを持たせないかわりに、核弾頭と日本全土が射程に入る中距離弾道ミサイルの保有までは容認する可能性が高い」 米朝が核保有容認で合意すれば、国連で「必要なのは対話ではない。圧力なのです」と言い切った安倍首相は、米国から完全にハシゴを外されることになる。 もちろん、日本は米国の「核の傘」で守られ、日米安保条約では、北が日本を攻撃した場合、米国は反撃することになっている。ただし、佐藤氏は「それもどこまで実行されるかクエスチョンが残る」と見ている。 安倍政権は憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使する安保法制を成立させ、自衛隊が「米艦防護」の任務を実施している。そこまで米国に尽くしても、米国が日本を見捨てる日が近づいているのだ。関連記事■ 自民党幹部「最大の功労者は小池・前原、自民に迎えたい」■ 路チュー議員・門博文氏 選挙戦中に後援会幹部逮捕の騒動■ 小池百合子都知事 「弱者イメージ」崩れ、アンチ増やす■ 金正恩の妹と横田めぐみさんの娘「学校も職場も同じ」説の真偽■ 北朝鮮を牽制する米軍の訓練 使い古された手法で効果はない

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    トランプの外交予定からわかること

    岡崎研究所 9月28日付のワシントンポスト紙に、同紙コラムニストのイグネイシャスが「トランプの政策への手がかりが欲しい?彼の予定を見よ」と題する論説を寄せています。論説の要旨は、次の通りです。 トランプ大統領が中国他アジア諸国を訪問する予定であることは、地域で何が起こるかを、ツイートや噂話などよりもよく示してくれる。 北朝鮮との戦争の可能性は恐ろしい。しかし、習近平との会談に赴く大統領が核攻撃の雲の中を飛んでいくことはない。習近平は北朝鮮に圧力をかけるとの約束を訪問前に実施するだろうか。習近平がそうする可能性は大きい。 解任の噂の絶えないティラーソン国務長官についてはどうか。彼は、トランプ訪中の準備をしている。その彼が今、首になることは考え難い。 混乱した大統領府をフォローするうえで、難しい問題は大統領周辺の蔭口から実際の政策を分別することである。トランプは、「気まぐれ」で動いているようだ。司法長官セッションズを公に侮辱したが、引き続き一緒に働いている。上院院内総務マコーネルに腹を立て、民主党のシューマーとの良い関係をみせたが、数週間後には共和党の機嫌を取っている。 このホワイトハウス・ハリケーンの中心にいるのがティラーソンとマティス国防長官である。二人の同盟は安定しているように見える。ヘイリー国連大使をティラーソンの後任にするとの噂は絶えないし、それは今後ありうるが、ティラーソンが中国訪問と北朝鮮への外交戦略を指揮している今はない。会談を前に握手するティラーソン米国務長官(左)と河野外相=2017年11月5日、東京都 外遊が外交政策を説明する。トランプは最初の外遊でサウジを訪問し、壮麗な歓迎を好んだ。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子を改革者として評価し、サウジとUAEがカタールに圧力をかけた時には、サウジ側に立った。ティラーソンはこの紛争は調停されるべきだと主張し、トランプをイライラさせた。しかし今月、トランプはティラーソンの見方に近づき、サルマン国王とカタールの首長に電話し、紛争を解決する時だと述べた。努力は失敗に終わったが、さらなる努力がありうる。トランプはまだサウジ支持であるが、ティラーソンとマティスがこの問題で共同戦線を取っている。 ただティラーソンは最近、国務省の伝統的政策分野、難民政策を大統領府のステファン・ミラーに譲り、ミラーは受け入れ上限を4万5千人という最近の最低に定めた。 我々はトランプの扇動的なツイートより、彼が何をするか、彼がどこに行くかを見て、わかることがある。北朝鮮を攻撃しようとしている大統領は中国への11月の訪問を予定はしない。出典:David Ignatius ‘Want a clue to Trump’s policy? Look at his schedule’ (Washington Post, September 28, 2017)トランプが訪中して達成すべきこととは イグネイシャスはワシントンの内部状況に詳しい人であり、いつも傾聴に値する論説を書いています。 この論説は、トランプ大統領が11月に北京、東京などを訪問予定であることから、米国と北朝鮮との戦争はしばらくないと推定しています。これは正しいでしょう。ただ、平和的な関係を作るのには、2か国の合意がいりますが、戦争は1か国だけで始められます。したがって、この論説は、北朝鮮から攻撃を仕掛けることはないとの前提で書かれています。これも正しいでしょう。専用機に乗り込むトランプ米大統領=2017年11月3日、米メリーランド州(ロイター=共同) 米国と北朝鮮の戦力は、巨人と小人の違いがあり、米国が本気で攻撃すれば北朝鮮はひとたまりもありません。金正恩は、米国の攻撃を抑止するために核とミサイルを開発しているのであって、北朝鮮から仕掛けることはあり得ないと思われます。北朝鮮の暴発を言う人もいますが、そんなことは考え難いです。 問題は、米国が北朝鮮の挑発的行動をどれほど我慢できるかです。北朝鮮は米国の攻撃を招くことはない範囲内で、挑発行為を引き続き行うと思われますが、米国の反応を読み間違える危険があります。国内事情があるのかと思われますが、危険な火遊びはしない方がよいでしょう。 第2次朝鮮戦争になると、ソウルは火の海になり、日本にも戦火が及ぶ危険があります。米韓の軍事的オプションのあり方については、全面戦争に至らない諸段階があり得ます。注意深く考えていく必要があります。 トランプ大統領は訪中に際し、北朝鮮問題について深く突っ込んだ話をし、米中間で何らかの合意を達成することを目指すべきでしょう。米韓軍は38度線を越えて北朝鮮には行かないとか、将来の朝鮮半島をどうするか、統一するかまたは二国家継続にするか、中国軍が北朝鮮北部に進駐することを難民対策上認めるかなど、米中間で話し合うべき問題はたくさんあります。 この問題は外交的に解決すべく努力すべきです。米中間での了解を作る外交が最も重要です。外交の重点は、無意味になることが明らかな米朝対話に置かれるべきではありません。 ロシアについては、プーチンは問題があるところに絡み、ロシアの影響力を強めることを狙う性向があり、ロシアを本件に絡ませることには注意深くあるべきと考えます。北朝鮮の米局長がロシア外務省で何を話したのかわかりませんが、ロシアは北朝鮮の立場に理解を示したように報じられています。

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    アメリカの銃社会は腐っている

    アメリカは腐っている」。米ラスベガスで起きた銃乱射事件について、ビートたけしがテレビ番組で米国の銃社会をこう揶揄した。日本人的な感覚で言えば、たけしのコメントは納得できるが、これほどの惨劇が起きてもトランプ大統領はいまだ銃規制について言及していない。なぜ銃規制論議は進まないのか。

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    「究極の自由国家」アメリカが抜け出せない銃社会の病理

    中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト) アメリカは銃社会である。アメリカ全体での銃保有数は2億6500万丁に達しており、その結果、銃による犯罪が多発している。銃犯罪の統計を取っている団体「ガン・バイオレンス」の調査によれば、今年1月から10月4日までに銃による事件の発生は4万6828件となっている。 その中で4人以上が負傷あるいは殺害された銃乱射件数は273件に及ぶ。その中には10月1日に起こったラスベガスの乱射事件も含まれている。死亡者数は1万1720人。この数字には、毎年2万件を超える銃による自殺者の数は含まれていない。 ラスベガスの乱射事件はアメリカ史上最悪の事件であった。死者の数は58人と推定され、その数は過去最多である。過去において2番目に多い犠牲者を出したのは2016年6月12日に起きたフロリダ州オーランドでの乱射事件で、犠牲者の数は49人であった。3番目が2007年4月16日のヴァージニア州ブラックスバーグの乱射事件で、死者は32人。これに次ぐのが2012年12月14日のコネチカット州ニュータウンの乱射事件で、死者の数は27人にのぼっている。 銃乱射事件は近年増える傾向にあり、上記の大量殺戮事件以外にも、2016年7月7日のテキサス州ダラスで起こった乱射事件で5人の警察官が殺害されるなど、アメリカでは日常的に起きているといっても過言ではない。米西部ラスベガスで、銃乱射事件の犠牲者を悼む女性ら=3日(共同) そして銃乱射事件が起こるたびに、アメリカでは銃規制を巡る議論が起こっている。だが、銃保有を禁止するという議論はほとんど出てこないのが現状だ。リベラル派は銃規制強化を主張し、保守派が規制強化に反対する。ただ、リベラル派も銃の全面規制を主張するわけではないのだ。 もちろん、ラスベガスの乱射事件後にも議論が起こった。民主党といったリベラル派は銃規制の強化を求める声を挙げた。だが、保守派や共和党、トランプ政権の反応は極めて鈍い。事件後、トランプ大統領は犠牲者に哀悼の意を表したが、銃規制に関して一言も言及しなかった。 ホワイトハウスのサンダース報道官も「銃政策に関する議論が起こると思うが、現在、議論を行う時ではない」と、銃規制強化の議論を始めることさえ「時期尚早」であると消極的な姿勢を示した。また、共和党のマコーネル上院院内総務も「今は国民が喪に服し祈る時だ」と、銃規制強化に言及することはなかった。 それどころか、共和党のジョン・コーンイン上院議員は「ラスベガスの銃乱射事件を政治化するのは胸糞が悪い」と、銃規制強化を主張するリベラル派を批判している。左派でも銃保有の禁止は主張しない 一方、民主党のクリス・マーフィー上院議員は議会が銃規制強化に関する法案成立を怠っていると批判する声明を発表。議会は早急に対応すべきだと訴え、自らは銃購入者の経歴調査を強化する法案を提出すると語っている。民主党の指導者であるナンシー・ペロシ下院議員もポール・ライアン下院議長に対して経歴調査を強化する法案の採決を行い、同時に銃に関連する犯罪を抑制するために特別委員会を設置するように要求した。米ラスベガス銃乱射事件の犠牲者を悼み、ホワイトハウスで黙とうするトランプ大統領夫妻(手前左)とペンス副大統領夫妻=2日、ワシントン(ロイター=共同) ところが、アメリカ議会では現在、まったく逆の法案が審議されている。それはサイレンサー(銃の消音装置)購入の規制緩和を求める法案である。同法案は民主党が反対し、共和党が賛成している。 銃保有が禁止されている日本から見れば、アメリカで行われている議論は理解しにくい。先に指摘したように、リベラル派は銃規制強化を求めることはあっても、銃保有を禁止すべきだとは主張していないことだ。その背景を理解するには、アメリカ人の銃に対する意識を理解する必要がある。 世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が実施したアメリカ国民の銃に対する意識調査結果(2017年6月)の結果によると、何らかの形で銃を保有していると答えた比率は42%に達している。また、今まで一度も銃を持ったことはないという回答は55%であった。そして銃保有者の66%が複数の銃を保有していると回答。29%が5丁以上の銃を保有している。 さらに注目されるのは、銃保有の理由である。銃保有者の74%が「自由を守る」ために必要だと答えている。中でも特徴的なのは、白人男性の48%が銃を保有していると答えているのに対して、非白人男性では24%に過ぎないということだ。非白人女性ではわずか16%に過ぎない。地域で見れば、南部での銃保有比率は高い。南部では、父親が息子に銃の撃ち方を教えるのは日常的なことだという。 銃保有の理由では、自己防御が67%で最も多く、狩りが38%、スポーツ射撃が30%、銃収集が13%。要は、銃保有者の大多数は自分を守るために銃が必要だと考えているのである。さらに銃保有者の38%が自宅で常に銃弾を装填し、すぐに取り出せる場所に置いていると答えている。銃保有権利は憲法で保障されている さらに興味深い事実は、銃保有者の19%が、銃規制に反対する全米ライフル協会のメンバーであることだ。同協会の会員数は500万人に達している。同協会は潤沢な資金を背景に、銃規制強化を阻止するために強力な議会工作をしている団体である。同時に共和党やトランプ大統領の最大の政治献金団体でもある。共和党が銃規制に消極的な態度を取る理由の一つが、同協会とのつながりにある。 そもそも、アメリカ人にとって銃保有は歴史的にも特別な意味を持っている。1791年に成立した憲法修正条項(1条から10条)は「権利章典」と呼ばれ、アメリカ民主主義の基本になっている。修正第1条では信教・言論・出版・集会の自由と国民の請願権を規定している。 実は修正第2条は「武器保有権利」について規定している。そこには「規律ある民兵団は自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し、携帯する権利は侵してはならない」(米大使館訳)と書かれている。要するに民間人が銃を携帯する権利を保障しているのである。もしリベラル派が銃保有の禁止を求めるならば、この条項を修正する必要がある。 今まで数多くの銃規制法が成立しているが、その多くはテクニカルな規制にとどまっているのも、修正第2条が存在するからである。1993年にレーガン大統領暗殺未遂の際、ブレイデフィ報道官が銃弾を浴びて半身不随になった事件が起こった。それを契機に「ブレイデフィ法」が成立した。 同法で規制されたのは銃を販売する際の身元調査の実施と重犯罪者、精神病者、麻薬中毒者、未成年に対する銃販売だけであり、銃保有そのものの規制ではなかった。また憲法による規定以外に、各州は独自の銃規制を行っている。 たとえば、マサチューセッツ州では銃を保有するためには許可書が必要であり、ニューヨーク市やワシントンDCでは銃保有を禁止する動きもみられる。ただ、最高裁は2008年に無許可で銃保有、携帯を禁止す法律の合法性を巡る係争であるワシントンDC対ヘラー裁判で、修正第2条は有効であり、ワシントンDCの法律は憲法違反であるとの判断を下している。トーマス・ジェファーソン像(iStock) そして、アメリカの銃保有問題を理解するには、修正第2条の持つ意味をよく知る必要がある。独立宣言を書いたトーマス・ジェファーソンは「自由人は武器の使用を制限されるべきではない」と主張している。自由を守る=銃保有 また、独立戦争当時、各州はそれぞれ法律で個人の銃所有の権利を認めていた。建国の父たちは、「政治的な自由(liberty)」を守るために銃所有の権利を認めるべきだと考えていた。最初に憲法を批准したニューハンプシャー州は、批准の条件として「議会は市民が実際に反乱を起こさない限り、武装解除してはならない」と主張している。建国当初、国民に「自由を守る=個人の銃保有」という概念が刷り込まれたのである。 修正第2条が制定されたのは、アメリカがまだ国家として十分に確立していない時代であり、西部劇にみられるように領土を拡大する過程で武器保有は不可欠であった。だが、近代国家になった後も、修正第2条の見直しは行われなかった。むしろ各州で様々な規制の試みが行われたが、上述のように最高裁は修正第2条の有効性を認める判決を出している。 そしてその後、銃規制の問題は一種のイデオロギー問題へと変わっていく。銃規制に反対する保守的な団体や共和党は、銃規制は修正第2条に反する個人の権利を侵害するもので、眼前の銃による犠牲者の姿よりも、修正第2条を守り、個人の自由を擁護すべきだと主張するようになる。ホワイトハウスで声明を発表するトランプ米大統領=2日(ロイター=共同) 保守派は銃規制問題を憲法問題にすり替えるようになり、銃規制の強化を主張するリベラル派も修正第2条に踏み込んだ議論を避ける傾向がある。その結果、銃規制といっても銃保有の際の購入者のチェックなどテクニカルな議論で終わってしまっているのが現状だ。だが、銃購入者の身元調査さえ十分に実現していない。2013年に広範な身元調査を義務付ける法案が議会に提出されたが、成立しなかった。 2014年にオバマ大統領は「世論が議会に銃政策の変更を求めない限り、何も変わらないだろう」と語っている。銃乱射事件が起こると銃規制を求める声は強くなるが、やがて忘れられる。そうしたことが繰り返されているだけで、抜本的な問題解決は進まないのが現実である。アメリカでは銃問題は単に犯罪の問題ではなく、政治問題であり、憲法問題であり、自由の問題なのである。

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    アメリカには銃規制を阻む最強の「ラスボス」がいた

    前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) ラスベガスでアメリカ史上最悪の銃撃事件が起こった。極めて凄惨な事件であり、ホテルから連射する犯人の残忍なシーンは正視に耐えない。この事件の背景には何があるのだろうか。改めてアメリカ社会における銃の意味を考えてみたい。 アメリカで現在利用が可能な銃の数は、アルコール・たばこ・火器爆発物取締局(ATF)の推計によると、2009年のデータで推定3億1000万丁以上となっている。しかし、アメリカ国内での銃の生産数は特にこの10年間で伸びているため、銃火器の数は3億2000万人の人口以上とみられている。 このように銃の生産量は驚きの伸びを記録している。ピストル(自動拳銃)、リボルバー(回転式拳銃)、ショットガン(散弾銃)、ライフル(小銃)、その他を合わせた数は2007年ごろまでは400万丁を超えることは多くなかったが、その後、右肩上がりで伸びており、2013年には1000万丁を超えた。2014、15両年はやや減ったものの、900万丁以上で高止まりしている。 そしてこれだけ生産されるということは需要があるからだ。すでに銃が多くあるアメリカ社会の中では規制を待つよりも自分で自衛する方が得策と考えるためだ。それもあって、2012年1月のコネチカット州のサンデーフック小学校や2016年6月のフロリダ州オーランドなどでの乱射事件の後は銃の販売は一気に増える。 おそらく今回のラスベガス事件を受けて、銃販売数は急伸していくであろう。銃は比較的小さめの銃火器店で販売されることもあるが、近年では総合型の大型小売チェーンでの販売も目立っている。最大手であるウォルマートはアメリカ、そして世界最大の銃火器小売店となっている。クリスマスプレゼントを購入する感覚で、ウォルマートでライフルを買うというケースも数多い。銃乱射事件の現場に供えられた花束の前で祈る女性ら=10月3日、米ネバダ州ラスベガス ウォルマートは対面販売しか基本的には行っていないが、ウォルマートの通販サイト上で銃の価格をみることができる。安いものなら30ドル程度のライフルがあり、旧モデルの割引価格なども確認できる。 日本社会では一般では狩猟用を持った人たちが特別に銃火器使用の免許を与えられているくらいである。これだけを比較しても、日本とは大きく異なるのは言うまでもない。 では、なぜ銃が増え続けるのか。日本では「全米ライフル協会が強いから」と指摘されることが多いが、それだけが原因ではない。その理由は、大きく分けて三つ考えられる。背景にある「自衛」の意識 まず、第一の理由が、「どうしても銃を持たないといけない」と感じる必然性がある地域がアメリカには存在することである。そもそもアメリカは日本の25倍である。人口は1億2000万人の日本の2・6倍と考えると、極めて広い。想像すればわかるように、都市部を除けば、警備会社や警察などを呼んですぐ来てくれるようなことはなかなか難しい。 そのため、どうしても自衛しなくてはならないという意識が開拓の時代から続いてきた。協力して自衛する「ネイバーフッドウォッチ」といったものを含めて、銃は欠かせない。 この自衛については合理的である部分は確かにある。しかし、私がどうしても「ゆがんでいる」と感じてしまうのは、長年作り上げられてきた銃をめぐる文化である。これが二つ目の銃が増え続ける理由である。(iStock) 少し訓練させた後、父親が息子を野生動物の狩りに連れ出す「男の生き方を教える」といったマッチョ的な文化が、南部や中西部など保守的な地域では根付いている。女性も行うケースもあるが、父と子や、男同士が連れだってワイルドに野生動物を仕留めるのがこの文化のしきたりである。 また、保守的な地域の政治文化とリベラルな政治文化とは大きく異なるのがアメリカである。リベラルな地区の人々の間では銃を規制する声が強く、そもそもそんな銃文化が根付いていない。 筆者はかつてワシントンやその郊外に8年弱住んでいた。都市部であるため、そもそも野生動物がいない。また、全米でも最もリベラルな地域であるため、このマッチョな銃文化は映画と小説の世界のものであった。 ただ、最後に住んだ郊外のアパートで、その文化の一端を知ることになった。アパートはちょっとした小さな森と隣接していた。森にはとても愛らしい瞳の小鹿がたまに現れた。その姿をみるために、毎朝、妻と森を散歩するのが楽しみだった。鹿は臆病なのでこちらが近づくと逃げてしまう。そのため、双眼鏡をいつも持参していた。 だが、ある日、アパートの玄関先で、管理人たちの3人組(男だった)が「鹿がいるらしいぜ」と笑っていたのを耳にした。「仕留めよう」「あした俺はライフルを持ってくる」「俺は弓」と喜びながら話しているのを聞き、背筋が凍る気がするのと怒りがこみ上げた。「そんなことするんじゃない」と強い口調で話しかけたが、両手の掌を上に向けて興ざめのポーズをとった。 次の日以来、小さな森に小鹿は出なくなってしまった。楽しかった散歩も耐えられなくなり、翌月に引っ越しを決めた。 マッチョ的文化には格好をつけるような部分も含まれる。日本の高校生が突っ張るのと同じ感覚で、自分を大きくさせるのに必要な小道具が銃である。そんな文化は個人的には耐えられない。ただ、それが拡大再生産的に大きくなっているのも事実だ。お墨付きを与える米憲法 その銃文化にお墨付きを与えているのが、銃が増えている第3でかつ最大の理由といえる合衆国憲法である。日本でもよく知られるようになったが、銃の保有の法的権利は憲法修正第2条の「武装権」に由来する。 修正第2条は具体的には「規律ある民兵は自由な国家の安全保障にとって必要であるため、国民が武器を保持する権利は侵してはならない」と示しており、個人が「規律ある民兵(a well-regulated militia)」にあたるかどうかはアメリカ国内で様々な議論がある。しかし、この条項が、銃所有の普及を提唱する人々の法的根拠となっているのは間違いない。 そもそも憲法修正第1条から10条は「権利の章典」として「表現の自由」などとともに人々の市民的自由、つまり基本的な人権を守るために最初の議会がスタート時に入れたものである。 なぜそれが「銃を持って立ち上がる権利」が基本的人権なのか。法解釈にもよるが、独裁政権からの革命権であるためだ。イギリスから血を流して独立した自分たちの歴史を踏まえて、「隷属からの自由」を徹底的に守ろうとする建国当時の政治文化を象徴している。 ただ、現代の私たちの目には、「革命を認める権利」はあまりにもアナクロ(時代錯誤)だ。「銃を持って立ち上がる権利」は「銃社会アメリカ」を象徴する権利として映ってしまう。(iStock) 一方で、銃規制反対派にとっては憲法上、保護されているという自由を行使する権利そのものである。この修正第2条があるため、アメリカの銃が抜本的に減るような気配は全く見えない。 また、本格的な規制は「人権侵害」ということになってしまうため、この条項の修正という大きな労力が必要であるが、上述の1の自衛権もあって、憲法改正はまず不可能に近い。それもあってリベラル派が主張してきた規制も、殺傷能力が高いマシンガンの性能を弱めることや、銃購入希望者の病歴を確認するようなものに限られる。 修正第2条という「ラスボス」は、今後もさらに大きな銃犯罪を生んでしまうのかもしれない、といったら、リベラル寄りすぎるだろうか。

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    オバマでも屈したアメリカ銃規制の高すぎる壁

    図があるかないかによる。拙著『メディアとテロリズム』(新潮新書)と『テロとインテリジェンス~覇権国家アメリカのジレンマ』(慶応義塾大学出版会)でも示したように、国際的なテロリズム研究や、テロ対策の文脈において、「テロリズムとは政治的目的・意図をもって爆破や銃撃事件を起こしたり、人質事件を起こしたりすることによって、世界から注目を集め、メディア報道を通じて自分たちの政治的な主張やメッセージを世界に宣伝することで、一国の政策を変更させたり、社会に不安や混乱を発生させることを目的とした暴力行為である」と定義することができる。 この事件が「テロリズム」とされるためには、イスラム過激派、白人至上主義、反グローバリズム、民族解放、極左ゲリラ、環境問題や動物愛護といったシングル・イシュー型など、この犯行には政治的目的・意図が必要となる。容疑者が自殺した以上、容疑者に対して直接的にその犯行の目的や意図を聴取することはできない。捜査によって容疑者の中にこうした政治的目的があることを示す証拠が出てこなければ、「テロリズム」とはみなされない。(iStock) 現在の報道で明らかになっている情報には、容疑者はカジノ、ギャンブルが好きで多額の賭けを繰り返していたこと、多額の借金を抱えていたギャンブル依存症の人物であったことが挙げられる。また、ホテルの一室には23丁のライフルなどの銃器のほか、自宅にも他に19丁の銃、爆発物、大量の弾薬を所持していたことが明らかになっている。また容疑者の父親は、有名な銀行強盗事件の実行犯であり服役していたことも判明している。 こうした情報から分析できることは、容疑者はこのような事件を起こすほどの心神喪失状態にあったか、または多額の借金の返済に困り、自暴自棄になって自殺するのに大量の人を道連れにしようとした、ということである。現在、こうした高齢者による自暴自棄犯罪や、自暴自棄型の自殺が目立つようになったが、そこにあるのは社会への恨みを晴らすために他者を巻き込む心情と自己顕示欲である。犯罪対策や危機管理のためには、今後、こうした容疑者のプロファイリングが重要となる。本格的な銃規制にはつながらない もうひとつの論点となるのが、米国における銃規制の問題である。米国は州によって多少の制度面の差があるものの、銃を持つ権利、自由が認められている銃社会である。イデオロギー的には、銃を持つ自由や権利を主張することはリバタリアン(自由主義者)の特徴であり、銃を持つ権利を規制する銃規制の立場はコミュニタリアン(共同体主義者)の特徴である。こうしたイデオロギー上の問題だけでなく、米国内で繰り返される銃犯罪に対する被害を目にして心情的に銃規制に賛成する国民も多い。 オバマ前大統領は繰り返される悲劇に対して、銃規制を政策化するための動きを見せたが、全米ライフル協会などの反対もあり実現しなかった。今回も、細かい銃の種類や性能について、その購入や保持に関する規制の議論は発生するものの、本格的な銃規制に向けた制度改革には結びつかない可能性が高い。米国には、銃を持つ権利・自由を保持しながら、銃犯罪が発生しないような社会をつくる犯罪対策、危機管理の構築が求められている。銃保有者の登録に関するデータベース管理や行動監視の強化など、具体的な施策の強化が必要である。 今回の銃乱射事件は「テロリズム」ではなかったが、この大量殺傷をもたらした手法は、十分にテロリズムに応用可能なものである。実際に現在のテロ対策の警備では、スポーツ競技の会場や、コンサート会場では手荷物検査が強化されているが、ホテルなどの宿泊施設では手荷物検査は実施されていない。これは米国でも、日本でも状況は同じである。野外コンサート会場で手荷物検査が実施されていても、今回の事件のように隣接するホテルの32階から銃を乱射されれば、大量の死傷者が発生することは警備の専門家から見れば自明の理であったが、これまでその対策は実施されなかった。 日本においても、例えば東京の迎賓館に外国の要人が来賓として滞在しているときには、その迎賓館をライフル等で射撃が可能な近辺の高層ビルには警備のために警察による規制が入る。こうした迎賓館のようなハードターゲットだけではなく、今後は、こうしたコンサート会場やスポーツ施設など屋根のない野外会場などソフトターゲットにも、近辺のビルなどに警備が必要となる可能性がある。米西部ラスベガスの銃乱射事件で、スティーブン・パドック容疑者が割ったとみられるホテル「マンダレイベイ」の窓=10月3日(共同) 2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、日本のテロ対策に新しい課題が突き付けられたといえるだろう。

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    史上最悪の銃撃犯は“ギャンブラー”謎の素顔

    佐々木伸(星槎大学客員教授) 米西部ネバダ州ラスベガスで59人が死亡、約530人が負傷する米史上最悪の銃撃事件が発生した。容疑者は白人のスティーブン・パドック(64)で、犯行後に自殺しているのが見つかった。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出したが、連邦捜査局(FBI)は関連を否定、動機は不明だ。犯人の素顔に迫った。 犯行現場になったのは、ギャンブル都市ラスベガスの目抜き通り「ストリップ」に近接したコンサート会場だ。パドックは1日午後10時過ぎ、会場を見下ろす高級ホテル「マンダレイ・ベイ・リゾート・アンド・カジノ」32階の宿泊部屋からコンサート会場で行われていたカントリーミュージックの音楽祭にライフルを乱射した。 会場には当時、2万人を超える観客がいたが、次々に凶弾に倒れていった。警察がパドックの潜んでいた部屋に突入した午前零時前には、すでにパドックは自殺していた。部屋からは銃火器17丁が見つかった。パドックは部屋の窓ガラスをハンマーで割り、ここから銃撃した。使用した銃はAK47自動ライフル。 捜査当局は当初、共犯者として同居していたと見られる62歳のガールフレンドM・Dの行方を追っていた。しかし、その後、彼女は国外に出国していたことが分かり、事件とは直接関係ないとされている。地元警察によると、M・Dは現在、東京に滞在しているようだ、という。米ラスベガスでともされた銃乱射事件の犠牲者を追悼するキャンドル=10月2日(ゲッティ=共同) 犯行後、間もなくIS系の「マナーク通信」が「ISの戦士が実行した。戦士は数ヶ月前にイスラム教に改宗した」との犯行声明を出した。ISはその後も新たな声明を出し、戦士が指導者バグダディの「十字軍の連合国を狙えという呼び掛けに応じた」と再び主張した。 ISはテロ事件と関わりがなくても、自分たちの犯行とするケースもあるが、今回は短時間のうちに執拗に犯行を主張しており、犯人との関係に相当自信を持っているのかもしれない。フィリピンで6月、カジノでの乱射、放火で、37人が死亡した事件が発生した時も、ISは犯人をISの戦士として犯行声明を出している。この事件はギャンブルの借金が犯行の動機だった。 ラスベガスの事件の前、米国で最大の銃撃事件は昨年6月、フロリダ州オーランドのナイトクラブで起きた49人殺害事件だった。この時はISの過激思想が引き金になった「一匹オオカミ型テロ」だったが、今回の事件の被害者はそれをはるかに上回る史上最悪のテロとなった。犯人は「引きこもり男」? 問題は動機だ。その解明は今後の捜査に任せなければならないが、ギャンブルによる借金やトラブルが原因なのか、それともISの過激思想に共鳴した犯行なのか、全く不明だ。ワシントン・ポストなど米メディアの報道からは、引退して余生を「ギャンブラー」として過ごす「引きこもり男」の素顔が浮かび上がってくる。 パドックはここ数年、ラスベガスから北東約130キロのところにある町メスキートにM・Dと一緒に住んでいた。子供はいない。住んでいた地区は引退した人々のコミュニティーだが、近所づきあいはほとんどなく、静かで、よそよそしく、引きこもりの印象だった、という。 パドックは2013年にこの住宅を購入したが、州内の他の場所にも住宅を所有していた。M・Dはパドックのことを「プロのギャンブラー」として近所に紹介しており、ラスベガスを訪れてはポーカーなどのギャンブルをし、時にはカントリーミュージックのコンサートに行くなど引退生活を楽しんでいるかのようだった。 フロリダに住んでいるパドックの弟の話として伝えられるところによると、パドックは金持ちで、ギャンブルにはたびたび、数万ドルを賭けていた。「25万ドル儲けた」と言ってきたこともあった、という。5日前には、パドックはフロリダを襲ったハリケーンの被害を心配してメールしてきた。 パドックはフロリダで会計士や不動産屋として稼ぎ、1985年から3年間、軍事産業のロッキード・マーティンに勤務したこともある。その後、テキサスやカリフォルニアなどを転々とし、ネバダ州に移った。弟によると、精神疾患もなく、また宗教や政治団体とも関わりがなかった。なぜこんな事件を起こしたのか全く理解できない、としている。米ラスベガス銃乱射事件のパドック容疑者が銃を乱射後、自殺したホテルの部屋の様子(UPI=共同) パドックは航空機のパイロットの免許も持っており、自家用機2機を保有、アラスカでの狩猟免許を取得している、と報じられている。ただ、父親はパドックが小さい頃、銀行強盗容疑でFBIから指名手配を受けていた。 パドックは少々変人のような面も持っていたが、史上最悪の銃撃テロを起こすような人物像とはかけ離れている。何が彼をテロに駆り立てたのか、米国の銃社会故の犯行なのか。東京に滞在しているとされるM・Dが何らかのカギを握っている可能性もある。何よりも早急な動機の解明が求められるところだ。ささき・しん 星槎大学客員教授、共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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    テロという暴力に対抗するにはエロスの力が必要

     多発するテロなど、昨今は暴力があふれている時代になってしまった。これに対応しうる手段はないのか。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏が指摘する。* * * 世界中でテロ事件が勃発している。ここ数か月間に発生したものだけでも、その件数と死傷者の多さに驚く。 米国フロリダ州オーランドのナイトクラブで、男が銃を乱射。50人が犠牲となった。イラクの首都バグダッドでは、少なくとも2か所の自爆攻撃により200人以上が亡くなった。 トルコのイスタンブールでは空港で銃撃と3件の自爆テロが同日発生した。アフガニスタンでも自爆テロがあり、少なくとも80人が死亡した。 フランスのニースでは、男がトラックを暴走させ、パリ祭を祝う人々を次々とはねた。84人が亡くなったが、うち10人が子どもだったという。 バングラデシュのダッカでは、武装グループがレストランを襲撃し、日本人7人を含む20人の命を奪った。犠牲になった7人の日本人は、バングラデシュ発展のため国際貢献に尽力していた。許せない! あまりにも悲しい。ダッカ市内のテロ現場近くで、市民が供えた多くの花束の前で犠牲者の冥福を祈る政党関係者ら=2016年7月7日(岩田智雄撮影) 犯行グループには、政治家の子弟や外国に留学経験もある恵まれた若者たちがいることがわかった。日本の大学で教えていた男もいた。 貧しさから生まれた犯行というのとはちょっと違う。豊かであり、高等教育を受けている者たちがなぜ、このような暴力に突き進むのだろうか。20世紀の精神医学の巨匠フロイトは、こんなふうに言っている。「人間がすぐに戦火を交えてしまうのが、破壊衝動のなせる業だとしたら、その反対の衝動、つまりエロスを呼び覚ませばいいことになります。だから、人と人の間の感情と心の絆をつくりあげるものは、すべて戦争を阻むはず」(『ヒトはなぜ戦争をするのか』花風社)。愛と絆がキーポイント。愛する相手にむき出しの性的な欲望を向けるような愛も大切だ。もう一つの感情の絆は一体感や帰属意識によって生み出される。 人間のなかには、死へと向かう破壊欲求と、生きようとする生存欲求が内在する。タナトス(死への欲求)とエロス(生への欲求)の二つといわれる。 この相反する欲求は、互いに絡み合って、人間をより複雑な生きものにしている。長い歴史のなかでぼくたち人間は、破壊衝動や暴力に偏り過ぎないように、スポーツやゲーム、法律や風習、文化など、さまざまな仕掛けで自分たちを守ってきた。 だが、今世紀、資本主義の行き詰まりによって均衡が崩れ、またもや人間の暴力性が暴れだしているように感じる。フロイトのいうように、暴力に対抗していくには、人間の基本の部分にあるエロスの力が必要なのだろう。●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。関連記事■ 消費や海外旅行せぬ「さとり世代」の61名と本音で語った本■ 子供の頃の虐待経験が寿命を短くする デューク大研究で判明■ 暴力団組員にとって「法の下の平等」は絵空事と溝口敦氏分析■ 日本で初めて公安捜査官の戦いを実名で描くノンフィクション■ 戦争を経験した老人が社会に不満を持ち立ち上がる村上龍新作

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    「北朝鮮核施設への先制攻撃」トランプはどこまで本気なのか

    前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授) 9月3日の北朝鮮の水爆実験に対して、米国が受けた衝撃は極めて大きい。言うまでもなく、米本土への北朝鮮の直接攻撃がかなりの現実味を帯びてきたためだ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)に続き、核弾頭に積む水爆まで完成に近づいており、これまで東アジア政策でしかなかった北朝鮮政策は一気に米国自身の安全保障に直結する状況になっている。「核保有国」として北朝鮮を認めるのかどうか、米国としては何らかの大きな対応を一気に迫られる状況になっている。8月11日、ソウル駅でトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が映し出されたニュースの画面を見る男性(AP=共同) トランプ政権の北朝鮮政策のゴールは「北朝鮮の非核化」に他ならない。核を放棄させるため、オバマ前政権の「戦略的忍耐」ではなく、軍事的オプションを常にちらつかせてきた。いわゆる「4月危機」のときに注目された、米韓軍事演習に呼応した空母カール・ビンソンなどの周辺への派遣がこれに当たる。ただ、実際には貿易・経済問題を「取引」材料に北朝鮮に最も影響力がある中国に対して圧力をかけ、北朝鮮を最大限に動かしていくというのが、トランプ流の対中、そして対北朝鮮政策の根本にある。 しかし、4月の米中首脳会談で、トランプ政権から北朝鮮への圧力強化の要請を受けた中国は、北朝鮮に核をあきらめさせるのが難しいことを熟知している。そもそも韓国、日本、そしてその背後にいる米国の緩衝地帯として、北朝鮮は中国にとって地政学的に重要な存在でもある。習近平国家主席にとっては、秋の中国共産党大会を前にできるだけ国内のパワーゲームに集中したいのが本音であり、北朝鮮については抜本的な制裁まで至っていない。むろん、トランプ政権のいらだちも募っている。 また、北朝鮮の核とミサイル開発のペースは速く、ここ半年だけでも米国は北朝鮮側に常に出し抜かれてきた。北朝鮮としては、ミサイルも核弾頭に搭載する水爆もほぼ完成したため、怖いものはない。米国に対して、交渉の席につかせ、何らかの条件と引き換えに無条件に核保有国として認めさせたいというのが北朝鮮の狙いだろう。限定攻撃なら日韓への報復は必至 トランプ政権としては北朝鮮の非核化どころか、核開発の凍結もなかなか難しくなっており、かなりの手詰まり感がある。いま議論されている産業や工業の「血液」となる石油の禁輸がどれだけ可能なのかさえ分からない。他の経済制裁を進めても、どれだけ効果があるのか未知数である。そうしているうちに、既に米本土に到達する核弾頭付きのミサイルも完成してしまうかもしれない。トランプ政権に残された時間は実のところ多くはない。 この手詰まり感の中、外交的な選択肢ではなく、強硬策を主張する声も米国内では目立ちつつある。報復の可能性が極めて低くなるようなことが想定されれば、先制攻撃を決断し、北朝鮮の核施設をたたいていく選択肢もあり得ないわけではない。最高司令官であるトランプ大統領が外交・安全保障政策について全くの素人である分、何らかの思い切った強硬策に出てくる可能性もゼロではない。 ただ、もし限定的な攻撃を行ったならば、北朝鮮から韓国、日本という同盟国への報復はやはり避けられないだろう。戦闘には必ず不確定要素がある。いわゆる「戦場の霧(フォッグ・オブ・ウォー)」である。北朝鮮の報復攻撃を100%抑えることができるかどうかは分からない。もし戦争になれば「米国史上最悪の戦争になる」という指摘もある。記者団に話すマティス米国防長官(左)とダンフォード統合参謀本部議長=9月3日、ワシントン(AP=共同) トランプ政権の安全保障政策は、マティス国防長官やマクマスター国家安全保障担当補佐官、ケリー首席補佐官らの軍人出身者がプロとして支えてきた。上述のようにトランプ氏は外交・安全保障政策の経験はないが、本人もそれを自覚しており、高官たちの意見を比較的そのまま採用してきた。戦闘の現場をよく知っている「外交・安全保障のプロ」たちにとって、報復が考えられる不確実な先制攻撃に踏み込むだけの米国の諜報(ちょうほう)活動がどれだけ整っているかが、今後の大きなポイントとなるであろう。 先制攻撃とともに考えられる米国の対応は、おそらく二つある。一つは何らかの条件を付けた上で北朝鮮の核保有を容認するか黙認するかという選択肢である。そして、もう一つが核保有という現実に即して、同盟国である日本や韓国の核武装を推進し、米国と協力することで北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るという選択肢である。「核容認」で大きく揺らぐ日米安保北朝鮮による6回目の核実験を受け、「0」にリセットされた地球平和監視時計の「最後の核実験からの日数」=9月3日午後、広島市の原爆資料館 北朝鮮の核保有を容認、または黙認するという選択肢については、オバマ前政権で国家安全保障担当補佐官だったスーザン・ライス氏のニューヨーク・タイムズへの寄稿(8月10日)が大きな波紋を広げている。北朝鮮に対する強硬策を取った場合、全面的な戦争が不可避であるため、それよりも北朝鮮の核保有を認めることも視野に入れた方がいいという議論である。同じくオバマ前政権で国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏も同様の指摘をしている。 北朝鮮の核を容認、もしくは黙認する代わりに、日本などの同盟国、あるいは米国に向けた挑発行為の停止、テロリストへの核拡散の徹底した防止などを条件に米国は切り出すのかもしれない。 とはいえ、もし北朝鮮の核を黙認すれば、日本にとっては米国の「核の傘」が極めて弱体化する。「有事にどれだけ日本を助けてくれるのか」という戦後何十年も続いてきた日米安保体制の、そもそもの議論が再び沸騰するのは必至である。それもあって、トランプ政権はライス氏の指摘をことあるごとに否定した。 一方で、「日本や韓国に核を持たせるなどの対抗措置を取った方が賢明」という主張も米国内で安全保障のリアリストらから指摘されるようになっている。核武装やさらなる迎撃システムの強化を通じ、日米韓で北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るというのがその狙いである。 しかし、唯一の被爆国である日本が核を持つという、国論を二分するような選択が本当にできるのかどうか、筆者にはまだ判断がつかない。 9月3日に行われた北朝鮮の「水爆実験」の第一報を筆者は学会報告と調査のために訪れたサンフランシスコで聞いた。この際、筆者が現地の専門家に聞いた限り、北朝鮮の核容認論と日本、韓国の核武装推進論のいずれもあったが、限定攻撃に対する肯定的な意見はほとんどなかった。これをみても、現時点では北朝鮮に核放棄を求めるのは、かなり難しくなっているのが分かる。 北朝鮮の「国家生存の柱」と位置付けられてきた核開発。それがまさに北朝鮮の国家を温存することにもなる。その意味では、北朝鮮の思惑通りに事が進んでいると言えなくもない。

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    トランプでも金正恩は止められない

    北朝鮮が9日の建国記念日に合わせ、新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する可能性が高まっている。トランプ米大統領は、北朝鮮に対する制裁圧力の強化を国際社会に呼び掛けるが、中露両国の同意を得るのは困難な情勢だ。国際社会はなぜ「狂気の独裁者」を止められないのか。

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    トランプが金正恩「斬首作戦」を決断する準備は整った

    が核実験をするからと? 「次の日になって聞きました」(中国東北部の警察官) 中国は通告があったことをアメリカに伝えるとともに、北朝鮮に対し、「核実験を強行すれば中朝国境を長期間にわたって封鎖する」と警告したということです。 「中国は『北朝鮮に核実験を自制するよう求めた』と伝えてきました。さらに『核実験を行った場合には独自制裁に乗り出す』と北朝鮮に通告したとも中国は伝えてきました」(ティラーソン米国務長官、先月27日) 核実験の通告についてはアメリカから日本にも伝えられ、警戒態勢が取られましたが、結局、20日に核実験は行われませんでした。 中国の言う封鎖の対象は陸の国境だけでなく海も含まれていて、食料や生活物資なども含む中国から北朝鮮への物流が全て止まる。最後の賭けだった核実験演説する中国の習近平国家主席=9月3日、中国福建省(共同) 今回の実験の威力は日本防衛省の推計で70キロトンだというから、5月に私が入手した情報と符合する。中国は石油禁輸や国境封鎖など超強硬措置をとるだろう。北朝鮮経済は中国の影響下にある。生活物資の大部分が中国製品だ。それが全面的に遮断されれば餓死者が大量発生することもありうる。また、北朝鮮軍人の軍服、軍靴などもみな中国製だ。中国が国境を封鎖すれば軍も維持が困難になる。なによりも北朝鮮で使われている石油の大部分が中国から輸入したものだ。一部ロシア産もあるが、国連安保理で禁輸が決議されればすべて止まる。それを分かっていながら金正恩は最後の賭けとして核実験を強行した。 9月2日、東京新聞の北京特派員、城内康伸氏が書いた記事は、金正恩が石油禁輸制裁実施を織り込み済みで、それに備えて100万トンの石油備蓄を命じていたことを伝えた。 北朝鮮が今年4月ごろ、原油や石油製品の年間輸入量の半分から3分の2に相当する石油100万トンを備蓄する目標を、金正恩(朝鮮労働党委員長がトップを務める国務委員会で決定した、と北朝鮮関係者が明らかにした。核やミサイル開発に対する国際社会の制裁強化で、石油禁輸や輸入制限が拡大する事態に備えたとみられる。 この関係者によると、政府機関の閣僚専用車など公用車に対し、一カ月当たりのガソリン供給量が制限されているという。関係者は「幹部級の公用車が通勤に使うだけで精いっぱいの状況も起きている」と指摘。不足分は民間業者から調達するという。首都・平壌では4月、給油所の営業停止が突然広がり、深刻なガソリン不足が発生し、価格が急騰。価格上昇はいったん沈静化したが、別の北朝鮮消息筋によると、最近は再び値上がりしているとされ、北朝鮮当局が市場への供給を制限している可能性がある。金正日だったら訪中していた金正恩朝鮮労働党委員長 金正恩は焦っている。彼が優秀な戦略家だと評する向きもいるが、私はそうは思わない。金正日が生きていれば、トランプに軍事挑発をかける前に訪中して中国共産党と表面上の和解をするだろう。金正日は死ぬ直前の2010年から11年にかけて3回も訪中して後継体制への支援を懇願している。米国と中国の両方を敵に回す外交は戦略家がすることではない。 彼の足元も不安定だ。韓国情報関係者によると、労働党中央の幹部や国家保衛省の幹部が頻繁に連絡してきて、自分が韓国に亡命した場合の待遇について真剣に質問するという。夏の水不足のためこの秋を米とトウモロコシの収穫はかなり悪いと予想され、来年春には餓死者が出るのではないかという声が北朝鮮内部から聞こえてくる。 核ミサイル開発と独裁体制維持に必要な外貨を管理している労働党39号室の秘密資金が相当枯渇している。7月の国連制裁で鉱物資源と水産物の輸出が禁止されたため、年間10億ドル程度外貨収入が減少する。このままでは外貨不足により独裁統治が揺らぐかもしれない。そこまで追い詰められたので、金正恩が大陸間弾道ミサイル(ICBM)と核実験という持ち札を全部切って、トランプとの談判を持とうとしてきたと私は見ている。 トランプ大統領は米国本土まで届く核ミサイルを持たせた大統領として歴史に名を残すことは絶対に避けたいはずだ。徹底した対北経済封鎖、それに同調しない中国とロシア企業には2次制裁で国際金融秩序から追放する措置を取るだろう。それでも金正恩は核ミサイルを放棄しないだろうから、軍事行動、すなわち金正恩を除去する「斬首作戦」の準備を進めるはずだ。 米国の軍事圧力は戦争直前まで高まるだろう。金正恩は自分の命を守るため、対米譲歩をする可能性が高い。わが国は米国に対して経済制裁、軍事攻撃準備に全面的に協力しつつ、金正恩が命乞いをしてきたとき、核ミサイル放棄だけでなくすべての拉致被害者の帰国なしには対北圧力を緩めてはならないと全力で働きかけるべきだ。金正恩からすれば核ミサイルは国家戦略問題だが、拉致問題は戦術問題だから、2002年9月のように米国の軍事圧力を交わすために日本のカードを使うこともあり得る。 日本は米国と足並みをそろえて対北圧迫に全力を尽くしながら、最後の交渉で拉致被害者全員帰国を対北要求のデッドラインとして死守しなければならない。いよいよ正念場だ。

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    なぜトランプは「白人至上主義」を政治利用するのか

    中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト) 人権と平等を主張する民主国家のアメリカで、なぜ今さら「白人至上主義」なのかと疑問に思っている日本の読者は多いのではないかと思う。しかし、白人至上主義や人種差別はアメリカ社会に深く根差した意識である。 これも日本人には信じられないことだが、南北戦争後の1865年に設立された暴力的な白人至上主義者の秘密結社「クー・クラックス・クラン」(KKK)が依然として存在し、活動を行っている。KKKは「反黒人」に留まらず「反ユダヤ人」、「反カトリック」を主張しており、今でもこうした白人至上主義者が活動するアメリカ社会の深層に何があるのだろうか。1月16日、米国の公民権運動指導者、故キング牧師の長男キング3世(右)と面会し、握手したトランプ次期米大統領=米ニューヨーク(ゲッティ=共同) 1960年代の公民権運動以降、様々な差別用語は「封印」された。黒人や少数派の権利を擁護し、差別を排除するために、公民権法や投票法が成立し、法的に少数派の人々の権利が擁護されるようになった。それと同時に社会意識を変えるために様々な対応策が講じられてきた。 その一つに「ポリティカル・コレクトネス」という考え方がある。日本語に訳せば「政治的に正しい言葉使い」という意味になる。政治や社会で差別用語を使うと、ポリティカル・コレクトネスに反すると社会的に厳しく糾弾された。 だが、言葉を使わないからと言って差別意識が払拭されるわけではない。あくまで心に思っていること、本音を直接口に出さないということに過ぎない。そうした社会的雰囲気の中で人種的な差別意識や白人至上主義的な意識を持っている人は、長い間、息苦しさを感じていたのだ。 こうした中で、社会的タブーを破ったのが、昨年の大統領選で勝利したドナルド・トランプだった。選挙運動中、トランプは平気でポリティカル・コレクトネスに反する言葉を使った。演説の中で差別用語を意図的に使い、そして「ああ、これはポリティカル・コレクトネスに反する言葉だね」と笑って見せた。 差別用語禁止に不満を抱いていた保守派の人々は喝采した。トランプは社会的タブーを破ることで、一部の保守派の人々の間で人気を博したのである。 さらに今回の大統領選挙で重要な役割を演じたのが「オルト・ライト」と言われる白人至上主義者である。彼らは公然と白人至上主義を主張し、反ユダヤ主義を唱え、ネオ・ナチの極右グループと一体化するグループだ。その代表的論者がスティーブン・バノンで、彼は大統領選でトランプ陣営の選挙責任者に就き、政権発足後は首席戦略官としてホワイトハウス入りしている。根が深い米国の白人至上主義8月11日、米バージニア州シャーロッツビルの大学構内をたいまつを持って行進する白人至上主義者ら(ゲッティ=共同) バノンは、貧しい白人の利益を代弁して排外主義を主張し、ワシントンのエスタブリッシュメントを批判する右派ポピュリズムの論陣を張っていた。共和党主流派に対抗するトランプにとって、バノンの右派ポピュリズムは共和党の大統領候補の地位を獲得するための有力な理論的主柱を与えた。 しかし、シャーロッツビル事件で、事態は大きく転換し、改めて白人至上主義が大きな政治問題となった。南北戦争における南軍のリー将軍の銅像撤去をめぐって、奴隷制度を支持し、南軍の敗北を認めない白人至上主義者と反対派が激突、死者が出る事態となった。 白人至上主義者は反ユダヤ主義者でもあり「ユダヤ人が自分たちにとって代わることは許さない」と叫びながら行進した。そうした状況の中で、トランプは「ネオ・ナチも反ネオ・ナチも両方とも悪い」と発言、それが白人至上主義者やネオ・ナチと反ユダヤ主義を容認するものだと厳しい批判が浴びせられた。 だが、白人至上主義の根はもっと深い。アメリカ社会は矛盾に満ちた社会である。トーマス・ジェファーソン(第3代大統領)は独立宣言で「すべての人には奪うことができない権利がある」と高邁な理念を主張した。だが、建国当初から投票権を認められたのは財産を持つ白人男性だけだった。 女性もネイティブ・アメリカンも、当然ながら奴隷にも市民権は与えられなかった。建国に際してアメリカ経済を支えていた奴隷制を正当化する根拠が必要であった。その根拠になったのは、黒人は「劣等民族」であるという考え方である。その考え方は独立戦争のプロセスでアメリカ国民に広く受け入れられるようになる。また、多くの学者が、科学的に黒人の劣等性を証明する研究成果を発表したほどだ。 それをさらに強化したのが社会的ダーウィン主義である。特に社会学者、ハーバート・スペンサーの影響を受け、適者生存の原理は人種にも適用できると主張された。それが、黒人の隔離政策に具体的に適用された。 さらに南北戦争で奴隷制度は廃止されたが、それに代わって登場したのが人種差別の強化であった。南部は一時政府軍の支配下に置かれたが、南部復興が終わり、政府軍が撤退すると、南部連合の指導者が相次いで復権し、憲法修正で市民権を得た黒人の差別が始まった。 これは南部復古と呼ばれ、南部は南北戦争以前の状況に戻っていく。KKKもそうした流れの中で結成される。南部の白人は、奴隷解放は間違いだったと主張した。それは現在でも色濃く残っている。試金石でつまずいたトランプ トランプ支持者のうち20%以上の人々は「奴隷解放宣言は間違いであった」と答えている。少数であるが、そうした考えを持つ人々が存在するのが、アメリカのもう一つの現実である。 もう一つ付け加えておく必要がある。それは欧米社会における反ユダヤ主義である。その差別意識は、アメリカにおける黒人に対する差別意識とは根が違うが、今でもアメリカ社会に根強く残っている。アメリカ人の私的な場において反ユダヤ的な会話が出てくることは珍しくない。筆者もそうした状況を直接経験している。 そして今回のもう一つの特徴は、白人貧困層のいら立ちと焦燥感がピークに達していたことである。アメリカは「白人社会」である。実際、人口の大半を白人が占めている。だが、白人が最大多数の地位を失うのは時間の問題だ。 たとえば、テキサス州では10代で見れば、すでに白人は少数派に転落している。増え続ける非白人の数に、多くの白人は危機感を抱いている。それに白人貧困層の経済的な没落が非白人に対する反発に拍車をかけ、今回の大統領選挙で一気に表面化した。8月22日、米フェニックスの支持者集会に参加したトランプ大統領(AP=共同) 排外的な「アメリカ・ファースト」のスローガンは、彼らを魅了した。白人貧困層は長い間、政治的に忘れられた存在であったが、その声を拾い上げ、不満を吸収したのがオルト・ライトとトランプであった。 トランプは選挙運動で白人至上主義を利用することができたが、大統領に就任したことで状況は変わった。シャーロッツビル事件でのネオ・ナチを容認するかのごとき発言は、トランプにとって致命的なダメージを与えかねない。 本音と建前は別にして、アメリカの大統領には高い道徳性が求められる。その試金石が人種差別や性差別に対する考え方である。トランプ大統領は、その試金石で大きく躓(つまず)いたことは間違いない。

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    「ようやく本音を言える」トランプで勢いづく米国の白人至上主義

    佐藤美玲(ジャーナリスト) 「バージニアほど美しい場所は、ほかにない」  そう言うアメリカ人に、ときどき出会う。何度か旅をして、確かにそうかもしれない、と私も思う。 ワシントンDC方面からシャーロッツビルへ抜けるルート15沿いには、ワイナリーや果樹園が多く、まさしく「ローリングヒル(緩やかな丘陵)」と呼ぶのがぴったりな風景が続く。花が咲き、馬が駆け、さざめくような美しさだ。 そんな景色に見とれつつ、私は「桜の木の下には死体が眠っている」というフレーズを思い出す。アメリカの南部には、独特の優美さと豊かさがある。その美しさの下に、ドロドロと暗く醜い歴史が横たわる。そして、断固としてその闇を見まいとする空気が、土地と人を覆っている。バージニアに限らず南部を旅すると、いつも私はその激しい対比に胸が重くなる。 8月10日夜、シャーロッツビルにあるバージニア大学のキャンパスに、白人至上主義者が集結。たいまつを掲げ、ナチスのスローガンを連呼して練り歩いた。翌日、抗議に集まった群衆に向かって白人男性の運転する車が激突し、白人女性のヘザー・ハイヤーさんが死亡、多くが重傷を負った。トランプ大統領は、白人至上主義者らを即座に非難せず、抗議に集まった側にも責任があると強調。生中継のカメラの前で激高し、ネオナチにも善人がいる、などの擁護発言を繰り返した。8月15日、米ニューヨークのトランプタワーで記者団に語るトランプ大統領(AP=共同) すべてが異常で異様だった。「起きるべくして起きた」とは言いたくない。ただ、「驚いた」と言うのはナイーブすぎる。特に、トランプの対応は「想定内」だった。 アメリカの選挙では「怠け者で危険な黒人」「不法移民のメキシコ人犯罪者」といったマイノリティーのステレオタイプを悪用して、恐怖をあおって票を集めるのは常套手段である。「アメリカの価値観、自由と富を享受するのに値しない人々がいる」というメッセージは、保守派と白人の共感を呼びやすいからだ。 トランプは「オバマ後」の白人の不安を巧みに操り、偏見に満ちたデマを流し続けた。女性やマイノリティーへの暴言も相次いだが、白人有権者の大半は「それにもかかわらず」もしくは「それだからこそ」と、織り込み済みでトランプに投票したのである。白人至上主義者たちも、「本音を言える」とタブーを排除してくれたトランプを支援した。白人エリートの社会的病巣 彼らは、過去数十年間で最大規模となった集会の場所に、なぜシャーロッツビルを選んだのか? そもそもの目的は、南北戦争で南軍を率いたロバート・E・リー将軍の騎馬像が、人種差別の象徴であることを理由に市の公園から撤去されるという決定に抗議するためだった。トランプの大統領就任で勢いづき、白人の存在感を示したいという思惑もあっただろう。しかし、それ以上にシンボリックな意図があったのではないか、と私は思う。米バージニア州シャーロッツビルの解放公園にあるロバート・E・リー将軍の像 冒頭で「死体が眠っている」と書いたのは、あながち間違いではない。この辺りには、南北戦争の古戦場が無数にあるからだ。 バージニアは南部連合の本拠地で、首都がリッチモンドにあった。今はワシントンDCのベッドタウンとして、ペンタゴンをはじめ重要な国家機能の多くを抱えているから、バージニアを北東部だと勘違いしている人は多いかもしれない。当時は、いわゆる深南部などよりはるかに白人優越意識が強く、奴隷制を堅守する南部の心臓だった。 今も戦闘を再現するイベントが各地で開かれる。私は4年前、シャーロッツビル近くの古戦場で取材したが、軍服など完璧な「コスプレ」姿で野営をし、3日かけて大砲を撃ち合う壮大なイベントだった。南部連合国旗があちこちに翻り、最後は南軍の勝利を祝って解散となった。 また、バージニアはどの州よりも多い、8人の大統領を輩出している。初代ワシントンから5代目まで、アダムズを除いて全員がバージニア出身だ。シャーロッツビルの近くには「建国の父」と呼ばれるジェファーソンと、マディソンの大邸宅がある。2人とも大勢の奴隷を所有していた。 白人至上主義者がたいまつを手に行進したバージニア大学は、ジェファーソンが創立した。公立校ではあるが、裕福な白人家庭の子供が通うステータス・シンボルで、エリートの社交場だ。最近は、非白人の学生や留学生が増えてきた。 バージニア州の人口構成も変わった。特に州北部で、都会志向のリベラルな若者や移民が増えた。2008年の大統領選挙で、1964年以来、民主党候補として初めて、それも黒人のオバマがバージニア州で勝利したことは、激しい差別を体験してきた黒人たちにとりわけ感慨深く受け止められた。 シャーロッツビルも、55歳以上では白人が7割以上を占めるが、18歳未満だと白人と非白人の構成率はほぼ半々になり、一変する。建国以来の「レイシャル・オーダー」(人種の秩序)の崩壊が、実感できる。 ダウンタウンには、古い建物を改装したしゃれたレストランやカフェが並び、夜遅くまでにぎわう。その繁華街が、今回の「車両テロ」の現場となった。 事件後、前述のリー将軍の騎馬像には、急いでカバーがかけられた。愛国心が覆い隠したもの 南部連合の栄光をたたえる記念碑や指導者の像は、全米各地に1000以上あると言われる。バージニアは最多で200を超える。 碑のほとんどは、南北戦争終結から何十年も経過した1910〜1920年代と、1950〜1960年代につくられた。南部でジム・クロウと呼ばれる人種隔離政策が本格化し、黒人に対する投票権の剥奪やリンチがピークに達した時期、そして公民権運動が盛んになった時期だ。白人至上主義の「クー・クラックス・クラン(KKK)」が台頭し、活発化した時期とも重なる。 こういった記念碑などの南部のレガシーは郷土愛や愛国心にすり変えられ、軍人や政治家は美化された。奴隷制、南部の繁栄を支えた黒人の存在は、そこには描かれない。そのせいで、南北戦争は奴隷制と関係がなかった、と信じ込んでいる人は少なくない。だから「人種差別でも暴力でもない、自分たちのヘリテージ(遺産)を守って何が悪い、破壊や撤去は祖先への侮辱だ」という主張になる。 一方、黒人は長年、抑圧のシンボルである記念碑や、州庁舎にはためく南部連合国旗の撤去を訴えてきた。自治体側のかたくなであった態度が変わり始めたのは、2年前だ。 サウスカロライナ州チャールストンで、白人至上主義に傾倒する男が、黒人教会で乱射し、9人を殺害した。容疑者が南部連合国旗と一緒にうつる写真が公開され、激しい抗議を受けて、各地で撤去や見直しが検討された。前述のシャーロッツビルのリー将軍の騎馬像も、その一例だ。 チャールストンでの追悼式、オバマはスピーチの途中で、黒人解放運動の代名詞とも言える賛美歌「アメイジング・グレイス」を口ずさみ、参列者全員が手を携えての唱和へと導いた。理不尽な暴力と厳しい抵抗の歴史の中で培われてきた黒人の魂と、希望に触れた瞬間だった。8月12日、米バージニア州シャーロッツビルで、ヘルメット姿の白人至上主義者ら(手前)と衝突する反対派(上塚真由撮影) トランプは、まだシャーロッツビルを訪れていない。「われわれの美しい像や記念碑が撤去され、すばらしい歴史と文化から切り離されてしまうのは悲しい」というツイートはした。「Our」という単語を使ったが、それは誰のアメリカなのか? 今の大統領には、人種分断の「癒やし」の役割を担う意思はなく、その資格もない。 白人至上主義者たちは「成功」に勢いづいているようにも見える。保守系ニュースサイトでは、事件後、いつ禁止されて買えなくなってしまうかわからないという不安から南部連合国旗の注文が殺到しているという報道もあった。差別を許さない、という対抗デモも、一層激しくなるはずだ。 暗く醜い「闇」から目をそらしてはいけない。そのことにより多くの人が気づいて行動しない限り、悲劇は何度も起きる。

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    トランプは「差別主義者」か

    米南部バージニア州で起きた白人至上主義者と反対派の衝突をめぐり、トランプ大統領の差別容認とも受け取れる対応に混乱が広がっている。当の本人は「私の発言をきちんと伝えなかった」とメディアに責任転嫁したが、差別の意図は本当になかったのか。米国を揺るがすトランプ発言の真意を読み解く。

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    白人至上主義者たちにハメられたトランプの「限界」

    前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授) アメリカ南部バージニア州シャーロッツビルで8月11日から12日にかけて白人至上主義者のデモと反対派の衝突が起こした波紋は、これに対するトランプ大統領の対応の拙さもあって、一向に収束する気配がない。19日にはボストンで「言論の自由」を主張する若者らによる大規模な集会が開かれ、差別主義者との関連が指摘されたため、数千人規模の反対派が抗議するなど、対立はさらに拡大していく可能性もある。8月14日、米ニューヨークのトランプタワー付近で、トランプ大統領を批判するプラカードを掲げ抗議する人(ゲッティ=共同) 白人至上主義者のグループであるクー・クラックス・クラン(KKK)やネオナチはアメリカ社会の暗黒部を象徴するようなグループである。KKKは有色人種を夜に襲い、数々のリンチを繰り返してきた。ネオナチもユダヤ人虐殺を行った「ナチス」から名付けられているのは言うまでもない。 KKKやネオナチというアメリカ社会の中で蛇蝎(だかつ)のように嫌われてきた白人至上主義者グループに対し、その主張に反対する人たちを同列に扱うトランプ大統領の「喧嘩両成敗」という主張は、アメリカ社会では受け入れがたいことである。 トランプ氏もそのことは十分理解しているはずであろう。昨年の選挙戦中、白人至上主義団体のKKKのデューク元最高幹部との関係をきっぱりと否定していた。これは「白人至上主義者」のレッテルを張られたくないために他ならない。 今回の事件については、トランプ大統領の言葉が二転三転した。事件直後の12日の記者会見でトランプ大統領は「憎悪や偏見、暴力を可能な限り強い言葉で非難する」などとあいまいな形で言葉を濁した。白人至上主義者を名指しで非難しなかったという批判が大きくなったため、14日には「人種差別は悪だ」とした上で、KKKやネオナチという名前を挙げ、白人至上主義者などを名指しで非難した。 しかし、翌15日の会見では一転して「白人至上主義者らと反対派の双方に非がある」と「喧嘩両成敗」に至っている。「双方に非がある」と3回目の記者会見で発言は、原稿を読み上げた前日の会見とは異なり、アドリブであった。ただこの発言はあまりにも想定外でケリー首席補佐官ら近くの政権関係者がうつむいてしまった。理解に苦しむ「肩入れ」はなぜ起きたのか ではなぜ、そもそもなぜトランプ氏が白人至上主義者に肩入れしてしまったのだろうか。はっきり言って理解に苦しむところだが、誤解を恐れずに言えば、おそらく「自分がドナルド・トランプであり続ける」ことにこだわったように見えて仕方がない。米ホワイトハウスで、遮光眼鏡などを着用せずに日食を眺めるトランプ大統領=8月21日(ロイター=共同) 「自分がドナルド・トランプであり続ける」とは何か。それは、没落していく白人ブルーカラー層の見えない怒りをすくい上げ、それを体現することに他ならない。政治のアウトサイダーであり続け、既存のエスタブリッシュメントの破壊者でありつづけることだ。昨年の選挙戦でレトリックそのものである。 よく知られているように、執務室に飾ってあるアンドリュー・ジャクソンがトランプ大統領のロールモデルである。農民出身のジャクソンは1829年、貴族出身でない最初の大統領に就任し、大衆の意見を代弁した。腐敗した中央銀行を停止させ、官僚を追い出すために、自分が省庁の主要職を任命する、今の政治任命につながる猟官制度を導入した。大衆に支えられた大胆な改革者ではあったが、その一方でインディアンには徹底的に迫害を加えた。 「敵と味方」という二元論的な見方もトランプ氏そっくりだ。「ジャクソニアン・デモクラシー」は大衆民主主義という脅威に支えられていた。トランプ氏は現在の大衆民主主義を代弁し、「トランピアン・デモクラシー」を実現させるというのが自分の使命と考えているのかもしれない。それが、南北戦争の南軍司令官ロバート・リー将軍の銅像の撤去計画に反対することを名目で集まった人々の声に反応し、これを擁護する発言に出たのかもしれない。 しかし、もしそう考えたのなら、白人至上主義者がトランプ氏をうまくはめてしまった、といったら言い過ぎだろうか。というのも、リー将軍の銅像の撤去計画に反対することを名目で集まったといっても、歴史問題にすり替えた武装集団運動であった側面が強いためである。全米から銃や盾を持って、小さな街に集結すればそれは大きな騒ぎになるのは当たり前である。集まった人たちの中には純粋に南部の歴史を守ろうと考えた人もいたかもしれないし、武装しなかった人もいただろう。しかし、激しい乱闘の多数派の中で目立たず、最初から騒ぎを起こそうと思った連中にとって、格好のPRの機会となってしまった。限界を露呈した「アメリカの理念」 今回のデモをめぐる騒動を一体、誰が喜ぶのだろう。そもそもトランプ氏にとってもどう考えてもマイナスである。詳しくは今後の世論調査の結果を待たないといけないが、今回の白人至上主義者のデモもそれに反対するデモの「双方に非がある」という今回のトランプ氏の発言は今後の支持層の変化を生んでしまうかもしれない。 トランプ政権は政治的分極化(2つのアメリカ化)を象徴するように、リベラル派からは蛇蝎のように嫌われ、保守層からは極めて高い人気を集めている。就任して200日(8月7日)前後の各種世論調査では、トランプ氏の支持率は全体では4割を切ってしまうほど非常に低いが、共和党支持者内のトランプ氏への支持は7割を超えており、その数字は就任直後からほとんど落ちていなかった。ロシアゲート疑惑でもびくともしていない。 しかし、保守層の中の大きな部分を占める「小さな政府」層からも「宗教保守」層からもKKKやネオナチのグループに対する嫌悪感はすさまじく、奇妙なまでに強固だった支持基盤も崩れていく可能性もある。特に、「小さな政府」層については反応が素早く、白人至上主義者擁護ともとれるトランプ氏の発言で、産業界のメンバーなどからなる助言組織のいくつかがすでに廃止に追い込まれており、経済界との溝ができてしまった。米南部バージニア州シャーロッツビルで起きた白人優位主義のグループ(左)と反対派の衝突=8月12日 さらに大きいのが、「差別的な白人至上主義は絶対に容認してはいけない」という反差別や平等主義といったアメリカの理想が今回の事件で大きな曲がり角を迎えてしまっている点である。「反差別」が「白人至上主義」と同列に扱われてしまうきっかけになってしまった。 騒動の渦中に辞任した首席戦略官・上級顧問のバノン氏は、今回の騒動について「(人種などを政治的争点にする)アイデンティティー・ポリティクスには飽き飽きした」と叫んだ。アメリカの理想そのものを相対化する口実を見事に与えてしまったように思える。一方で、バノン氏は、自分が選挙で動員したはずの、デモに参加した白人至上主義者たちを「道化師」とさげすんでいる。何とも冷徹な戦略家である。 いずれにしろ、今回の騒動はトランプ氏の足を引っ張るだけでなく、アメリカの理念の限界も露呈させている。8月22日夜、アリゾナ州フェニックスで行われたトランプ氏の昨年の選挙運動を思わせる形式の支持者だけを前にした演説会では、 「メディアが真意をきちんと伝えなかった」という、いつものメディア批判とともに、 支持者を意識してさらなる分裂をあおるような言葉を連発した。いつもながらのトランプ節にあきれて言葉も出ない。 その意味で今回の「白人至上主義」事件については、今後のアメリカ社会を大きく変えていくようなものになるかもしれない。

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    トランプが人種差別で「どっちもどっち論」を繰り返したのはなぜか

    トンやジェファソンなど奴隷所有者であった歴代大統領をも断罪すべきなのかと問題提起を行っているのです。アメリカの歴史にとって、建国の父である人物と、国の解体を目論んだ将軍を同列に比較することは暴論でしょう。ただ、安易な歴史糾弾論に違和感がある有権者は多いし、これはより幅広い穏健な保守層までを取り込める論点ではあります。 少々乱暴であることは承知の上で、日本の歴史に置き換えてみると分かりやすいかもしれません。例えば、維新の元勲の筆頭であった西郷隆盛は、現在の価値観で捉えれば征韓論を唱えた植民地主義者であり、西南戦争で政府への反乱を主導しました。自害せずに、時の政府に捕らえられたならば、当然、国家反逆の罪に問われたであろう、罪人です。けれど、日本人の大半は上野の西郷さんの銅像を引き倒そうとは夢にも思わないでしょう。西郷さんの存在に多面性があるように、歴史には多面性があるのが普通だから。それを現代の一つの価値観に基づいて裁くことはいつだって論争的なのです。 混同された論点の第三は、法と秩序を維持することの責任という点。行政府の最高責任者として、大統領が法と秩序の守り手であるのは事実です。しかも、トランプ氏は保守層の支持を得るために、不法移民対策にせよ、テロ対策にせよ、法と秩序を前面に出した選挙戦を戦って大統領職を得ました。それは、ニクソンやレーガンなどの歴代の共和党出身の大統領が共通して採用してきた戦略でもあります。 特に、ニクソン大統領はベトナム反戦運動が激しくなり、一部で暴徒化していた60年代後半にあって、(多くは左派の)デモ隊と、サイレント・マジョリティー(≒穏健で物静かな多数派)を区分けすることに成功しました。ニクソン大統領については、ウォーターゲート事件を受けて辞任した不人気な大統領というイメージが強いですが、少なくとも法と秩序を前面に出す政治戦略は大成功し、同氏は圧倒的な人気で再選されたことを忘れてはいけません。 ただ、シャーロッツビルの事件において、法と秩序をめぐる同様の構造が成立しないのは、法と秩序を壊している側が極右の差別主義者であったということです。法に反して暴力を振るっている側に同情して、法と秩序論を主張しても全く説得力がありません。トランプ氏は、反差別のカウンター・デモ隊の側にも暴力があったことを強調してその構造を作ろうと試みましたが、無理筋だったというべきでしょう。今後の米政治の流れ今後の米政治の流れ トランプ政権への批判がこれまでになく高まっている中で、今後の政治の流れを予想することは困難です。上述したように、共和党内の支持が底堅いことを考えると、直ちに政権基盤がグラつくことはないと思います。バノン氏の解任を受けて、トランプ政権の基本方針が変わるともあまり思えません。現政権は、バノン氏のような特定の人物によって左右されてきたというよりは、大統領個人のキャラクターとその信ずるところによって規定されている部分が大きいからです。また、トランプ政権のような「アウトサイダー」政権において、政権発足後しばらくの期間、陣取り合戦的な政権内の権力闘争が激しく、政権運営が安定しないということも、過去なかったことではありません。 もちろん、トランプ政権における幹部人事の遅滞や、政権内部の勢力争いが極端にひどいという点で大方の識者は一致をみています。また、諸政策を実現する上では、政権のコア支持層を超えたより幅広い支持を獲得する必要があります。医療保険改革法案の失敗を受けて夏休みに突入した政権が、休暇明けにいったいどのような戦略をもって政策推進に臨むのか。米ニューヨークのトランプタワーのロビーで、トランプ大統領が語る姿を見るケリー大統領首席補佐官(左)=8月15日(AP=共同) 大方の予想は、減税法案を早期に出してくるというものです。共和党の諸派が合意でき、国民に対して訴求力がある政策だからです。ただ、医療保険政策と同様に減税政策の肝も細部に宿るもの。新たにトランプ政権の司令塔となったケリー首席補佐官の手腕が問われるところです。 とはいえ、今般の人種差別をめぐる論点がなくなるわけではありません。トランプ氏が意図された混同論を続ける限り、事態は改善しないでしょう。現在の差別主義者に対しては絶対的な論調で非難するべきです。それは、大統領の道義的リーダーシップの一環であり、曖昧さを紛れ込ませる必要のないものです。 シャーロッツビルを離れ、一部の反差別団体によって南軍関連の公共物を、法的手続きを経ずに引き倒す動きも広がっています。法的には器物損壊と言わざるを得ない行動が「反差別無罪」の雰囲気の中で正当化されている現実があります。白人至上主義のデモの参加者を、ソーシャルメディアを通じて特定し、個人情報を公共空間に晒したり、所属先の責任を追及したりする動きも広がっています。集会への参加を指摘された者が職場をクビになった事案もあれば、差別主義者を指弾する人民裁判的な動きの中で、単なる人違いの事案も発生しています。 トランプ氏がどっちもどっち論を採用した根底には、このような動きに対する感情的な反発があるのでしょう。それは、正義や進歩と同時に秩序を重んじる保守層に典型的な反応であり、一概に批判されるべきものではありません。ただし、差別主義者に対する拒絶を明確にして初めて、国民の大層は聞く耳を持つというもの。歴史認識や、法と秩序の論点を提起したいのであれば、現在の問題としての差別の問題をゆるがせにすることは許されないのです。(ブログ「山猫日記」より2017年8月22日分を転載)

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    解任されたバノンがトランプの敵になる可能性

    問=ワシントン(ロイター=共同) 確かにバノン氏の言動には多々問題点がありました。リベラル派の雑誌「アメリカン・プロスペクト」とのインタビュー記事もその一つです。同誌に自らアプローチをしたバノン氏は、記事の中で北朝鮮の核・ミサイル開発問題に触れ、「軍事的解決はない」と断言したのです。この発言は、トランプ大統領の例の「北朝鮮は米国に対して脅迫を止めなければ、世界がこれまでに見たこともないような炎と激怒に直面するだろう」というメッセージと相反するものです。しかも、その効果を弱めてしまいます。 北朝鮮問題に対する軍事攻撃を全面否定するバノン氏のこの発言は、トランプ政権の本音を金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に送ってしまった点で致命的であるかもしれません。米メディアは、政権内でレックス・ティラーソン国務長官とジェームズ・マティス国防長官が「いい警察官と悪い警察官」の役割分担を行い、北朝鮮に対して「ソフトとハード」ないし「同情と脅迫」の混合したメッセージを発信していると分析しています。仮にそうであるならば、バノン氏の発言は両長官の役割分担の戦略の効果を下げ、北朝鮮に対して予測可能な状態にしてしまったのです。トランプ氏が関係を維持したい一族 それに加えて、ホワイトハウスが情報漏洩に神経質になっている時に、国家安全保障問題の担当でないバノン氏がメディアにリークしたとも解釈ができます。この点においても、同氏の発言はかなり問題があります。 対中国強硬派のバノン氏には、リベラル派のメディアを利用してホワイトハウスのクシュナー氏及びコーン氏等の穏健派に圧力をかける狙いがあったのでしょう。ただ、北朝鮮問題に関してあたかも自分が米軍最高司令官のような発言をして、トランプ大統領の逆鱗に触れたことは容易に想像できます。 バノン氏は解任されると、早速会長を務めていた極右サイト「ブライトバート・ニュース」に戻りました。「トランプのパトロンの正体」で紹介しましたが、同氏はヘッジファンドで財をなしたロバート・マーサー氏と娘のレベッカ氏と関係を密にしています。マーサー一族はブライトバート・ニュースに1000万ドル(約10億9000万円)、トランプ陣営には1350万ドル(約14億7000万円)の資金提供を行っています。当然ですが、トランプ大統領はマーサー一族との関係を切りたくないでしょう。大統領首席戦略官を解任されたバノン氏 そこで、トランプ大統領はマーサー一族からの支持を維持するために政策の取引を行う可能性が高いです。例えば、すべての政策を穏健化路線に切り替えるのではなく、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定離脱」は反グローバリズムのシンボルとして残します。 バノン氏には、行政国家の解体、反移民政策の遂行及び保護主義の実現等のやり残した仕事があります。ホワイトハウスを出てアウトサイダーになっても、穏健派路線に舵を切るホワイトハウスの幹部にとって、同氏が政策遂行の上で障害になることは変わりません。トランプ大統領は、同氏の敵意と憎悪をホワイトハウスの穏健派ではなく、「フェイク(偽)ニュース」に向かわせるために何らかの策を講じるでしょう。うんの・もとお 明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    差別を拡大するトランプ、差別を嫌悪したケネディ

    況は極めて深刻に映るようである。作家の落合信彦氏は米国の先行きについて警戒感を隠さない。* * * アメリカの大統領は、世界の未来を見据え、自由や民主主義の精神を守る覚悟が必要だ。それがアメリカのリーダーの「器」というものである。「雇用を守る」とばかり繰り返すトランプは、アフリカのどこかの独裁国家の大統領くらいの器しかない。 その小さな器では、アメリカ国内をもまとめることができない。トランプは、アメリカを真っ二つにしてしまった。「富裕層vs貧困層」「白人vsヒスパニック・黒人」……。とくに差別を煽ったことは罪深い。「メキシコ移民はレイプ犯」発言に代表される人種差別。さらに女性たちや、障害を持つ人々への差別。 この偏狭な男の発言は、アメリカ全体の空気も偏狭にしてしまった。日本ではあまり報じられていないが、トランプが大統領選に勝利してから、アメリカ各地で差別的な行動が激化しているのだ。ボストン郊外の大学では、「TRUMP」と書かれた旗を掲げたピックアップトラックに乗った2人の男が侵入して、黒人学生が住んでいる寮に向かって罵声を飛ばし、さらに唾を吐きかけた。 ユタ州では、ヒスパニック系の高校生が白人生徒から「不法入国者!」「メキシコに帰れ!」「メキシコにタダで帰れるから喜べ!」などと嫌がらせを受けた。さらに、アメリカのあちこちのトイレでは、「Whites Only(白人専用)」などという落書きが増えた。 トランプの存在が、アメリカ社会を分断したのだ。 実は、ジョン・F・ケネディが大統領に就任した当時も、アメリカは2つに割れていた。「I Have a Dream.」で有名なキング牧師のリンカーン記念館演説の3年前にあたる1960年。黒人差別は酷い状況であり、アメリカ社会は「白人vs黒人」で一触即発の状態だった。 そんな中、キング牧師が座り込んで解放運動をしていたことを機に逮捕される。選挙中でニクソンと戦っていたケネディは、二者択一を迫られた。 良心に従い、キング牧師の逮捕を不当だとして介入し白人票を失うリスクを負うか。それとも何もせずに票を固めるか。 ニクソンはこの問題についてノー・コメントを貫いたが、ケネディは迷わなかった。まず遊説先のシカゴからキング牧師の妻コレッタ・キングに電話し、できる限りのことをすると約束した。そして翌日、弟のロバート(ボビー)・ケネディに、キング牧師を有罪にした判事に電話させ、すぐ釈放するよう説得したのだ。キング牧師は、即日釈放された。このことは、黒人たちの心を大いに動かした。 ボビーもまた、黒人差別をなくそうと強く主張した。1968年の大統領予備選の間、ボビーが各地を回ると、多くの黒人支持者が彼と握手しようと殺到した。ケネディ兄弟は、白人はもちろん、黒人たちから愛され、慕われていた。 ケネディ兄弟は、アメリカを1つにしようとしたのだ。彼らは、それまでアメリカを暗く覆っていた「差別」という厚い雲を、吹き飛ばしつつあった。 しかし、1963年と1968年の2つの悲劇的な暗殺事件が、彼らの理想を道半ばで終わらせてしまったのだ。 翻ってトランプは、差別をなくすどころか再生産し、アメリカ社会の亀裂をどんどん広げようとしている。2017年は「この年から、憎しみと差別の歴史が再び始まった」と記憶されることになるかもしれない。関連記事■ ジョン・F・ケネディ 核戦争危機から世界救った水面下交渉■ 暗殺から50年 ケネディ大統領の関連本が続々と新刊ラッシュ■ 落合信彦氏「JFK暗殺なければ弟ロバートは今も生きていた」■ 米の低レベル高校生、殺人事件が日常の街等をリポートした本■ 落合信彦氏 米大統領選で最高の名勝負はケネディvsニクソン

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    トランプは北朝鮮のグアム攻撃が「絶対にない」ことを知っている

    重村智計(早稲田大学名誉教授) ドナルド・トランプ米大統領は、なかなかの役者だ。北朝鮮の扱い方を知っている。北朝鮮を、米国と国際政治の最優先課題にしたからだ。追い詰められた金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は8月14日に、「米国の動向をもう少し見守る」と言わざるを得なくなった。これを受け、トランプ氏は16日に「金正恩は賢明な判断をした」と述べ、事態が収束した。脅しと落としどころを心得た“不動産業者”トランプ氏の勝利だ。米朝の指導者は戦争するつもりはなかった。北朝鮮の石油保有量は世界最少の50万トン。これでは戦争できないとわかっている。国家予算も国内総生産(GDP)も世界最少だ。トランプ大統領がツイッターで北朝鮮に警告を発するニュースを伝える街頭ビジョン=8月12日、東京都千代田区(宮川浩和撮影) トランプ氏は、北朝鮮がグアム攻撃できないと知りながら「(攻撃すれば)北朝鮮に惨事が起きる」と口撃した。世界のメディアが彼の発言を報じ、偶発衝突を危惧した。マスコミ操作は大成功だ。北朝鮮の指導者はなぜか発言を控えた。首脳同士の「舌戦」から手を引いたのだ。世界最大国家の指導者が小国の国家指導者をからかい、ニュースを独占している。 北朝鮮の言語文化は最初に「かます」。開口一番相手を「どつく」。優位に立つために威圧表現を使う。これはトランプ氏が使う手法でもある。 日本人は初対面や交渉の相手に「お手柔らかに」と、へりくだった姿勢を示す。北朝鮮の日常生活ではダメだ。「俺が誰だかわかっているのか」と言わないと甘く見られる。 北朝鮮の発言にだまされまい。朝鮮半島には言いたいことを120%表現する言語文化がある。それに対抗するには、同じ「激震」のメッセージを送るしかない。日本は腹の中を60%しか言わない文化だから北朝鮮に負ける。トランプ氏は、自制を求める声に「まだ激しさが足りなかったかも」と述べたが、正しい表現だ。 北朝鮮は「ソウルを火の海に」という言葉を何度も使った。それに対抗した米指導者はトランプ氏が初めてだ。北朝鮮の過激表現には「米国が挑発すれば」との前提条件がつく。だから「火の海」にならない。国連安保理「制裁決議」の抜け穴 金委員長も「わが国に手出しすれば」と述べた上で、「米国も無事ではない」と断言した。それはそうだろう。前提条件を読めば当たり前の発言だ。北朝鮮外務省は「米国がわれわれへの軍事的冒険に手をつけるなら」と前置きした上で、「正義の行動で応じる」と語った。朝鮮人民軍戦略軍司令官も「グアム島包囲射撃計画案を慎重に検討」と発言した。あくまで「案を慎重に検討」と言うだけで、「攻撃を検討」とは言わない。北朝鮮の弾道ミサイル発射を報じる街頭テレビに映った、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=7月4日、東京・有楽町 北朝鮮の「米国への恐怖」がこの表現からよくわかる。ならば、なぜ過激表現を繰り返すのか。金正恩体制維持のためであって、米国と対話するためではない。対話を望むなら、もっと柔軟な表現をするからだ。 トランプ氏は、金委員長を「米国への最大の脅威」と印象付け、支持率引き上げに利用した。反トランプの米紙ニューヨーク・タイムズも「若く気まぐれな核付き独裁者」と、金委員長批判の見出しを一面に掲げた。「トランプ作戦」の勝利だ。 トランプ氏は8月10日に、国連安全保障理事会での北朝鮮制裁決議について「(効果は)それほど期待できない」と冷めた理解を述べた。安保理は8月5日に「北朝鮮の石炭、鉄鉱石など輸出の全面禁止」を決議した。これを受けて、メディアでは「北の石炭、鉄全面禁輸」と報じられた。だが、この見出しでは「輸入全面禁止」と誤解される。 「輸出」と「輸入」では何が違うのか。「輸出」は北朝鮮だけが責任を負うもので、中国とロシアは全く責任を問われない。禁止されているのは北朝鮮の「輸出」であって、各国の「輸入」ではない。中国とロシアには「輸入」してもいいと解釈できる余地を残した。 交渉関係者によると、米国は制裁決議に「輸入全面禁止」と「石油禁輸」を盛り込みたかったが、中ロは応じない。仕方なく「輸出全面禁止」で折り合いをつけた。今回の安保理決議には、次回は「輸入全面禁止」を盛り込む、との米国の意向が強くにじみ出ている。15日から中国政府は、北朝鮮産石炭や水産物の輸入全面禁止に踏み切った。ロシアとの立場の違いを示したとされるが、なお「抜け道」が憂慮されている。それでも金正恩のメンツは丸つぶれ たとえ、北朝鮮の石炭や鉄鉱石が中国とロシア国内に存在しても、「輸入全面禁止」ではないから安保理決議違反ではない。解釈次第では、前回の決議が容認した「北朝鮮の国民が生活必需品」を購入するための輸入なら、認められるかもしれないのだ。 北朝鮮は安保理決議を無視しているので、いまさら「輸出全面禁止」決議に従わないだろう。支援国の中国とロシアに迷惑はかからない。北朝鮮の国連外交官は「中国とロシアの輸入は全面禁止になりませんでした。われわれの勝利です」と本国に報告したことだろう。 中国とロシアは北朝鮮のために単独で「拒否権」を使うつもりはない。中国とロシアは共に拒否権を行使すると、国際社会から「北朝鮮の味方」と非難され孤立する。安保理が決議違反に対して弱い声明しか出せないなら、安保理の権威と信用は崩壊する。その責任は、中国とロシアが負わされることになる。米国は、中ロ両国のこの微妙な立場を巧みに批判し、説得したといわれる。 ただ、今回の「輸出全面禁止」決議は、金委員長のメンツと軍部の権威を相当に傷つけた。北朝鮮指導部は、ミサイル発射しても米国や国連は手が出せない、と豪語していた。それが「輸出全面禁止」の上、トランプ氏にまでボロクソに言われ、もはやメンツ丸つぶれだ。クウェートは制裁決議に従い、北朝鮮労働者の入国を禁止した。クウェートは北朝鮮の中東工作の拠点だ。5月18日に撮影された、北朝鮮・豊渓里にある核実験場の衛星写真。丸で囲った部分に、新たに建設が始まったとみられる建物が写っている(デジタルグローブ/38ノース提供・ゲッティ=共同) 北朝鮮の鉱物資源の輸出が減少し、労働輸出にストップがかかれば指導者のメンツは確実に損なわれる。儒教文化の北朝鮮では「体面(メンツ)」の喪失は指導者に痛手だ。軍部はこのトランプ戦略に対抗するために、地下核実験を強く求めている。

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    北朝鮮ICBM技術「流出の黒幕」はウクライナではなく中国だった?

    米国? 先日のNHKニュースで大同大学の澤岡昭名誉学長がこう述べている。「これは非常に古いエンジンでアメリカのアポロ計画の時代1960年代に開発が始まって、アメリカが月へ行った頃に完成したと言われています」 澤岡氏の言を俟(ま)たずとも、旧ソ連が米国の科学技術を盗み取っていたのは軍事技術者の間では有名な話で、米国が1970年代、戦闘機F15イーグルを開発すると、それに対抗してソ連はミグ29とスホイ27を開発したが、形状はF15にそっくりである。 つまり、ソ連が米国のエンジン技術を盗み、ウクライナに製造させていたのがRD250系であって、技術の提供元をしつこく探れば、結局米国という事にもなる。一歩間違えばブーメランにもなりかねないリスクを米国は冒しているわけである。 ウクライナから闇の市場を通って北朝鮮にたどり着いたと言われているが、このエンジンの製造をウクライナは2000年代初頭に停止しており、10年以上も闇の市場を漂っていたとは考えられない。 しかもウクライナは、製品をすべてロシアに納入しているから、ロシアから北朝鮮に流出したと言うが、現在の両国の経済状況から見てロシアに、無料で技術供与をする余裕はなく、また北朝鮮に金を払う余裕もないであろう。 むしろ、ここで関与が疑われるのは中国であろう。中国にはまだ北朝鮮を支援するだけの経済的余裕がある。しかも1998年に中国はウクライナから空母を購入して、後に「遼寧」として就航させている。 2000年前後において、ロシアの軍縮によってウクライナの兵器産業はひっ迫しており、経済成長を始めた中国は新しい顧客として優遇されていた。ウクライナが中国にRD250系を二束三文で売り払ったとしても不思議はない。 もちろんウクライナの主張のようにすべてがロシアに納入されているとすれば、ロシアから中国が買った可能性もある。いずれにしてもRD250系は旧式であるから欧米としても特に問題視しなかったであろう。エンジン流出源について記者会見に臨んだウクライナ宇宙庁のラドチェンコ長官代行=2017年8月15日、キエフ 中国としては当初、非軍事の宇宙ロケットの開発に転用する計画だったであろうが、やがて北朝鮮が核実験に成功するに及び、新しい利用法を発案した。つまり北朝鮮のミサイル開発の支援に利用するのである。 北朝鮮が核ミサイルを独自開発してしまえば、そのミサイルが中国に向かう可能性をはらんでいる。中国が全面的に支援して北朝鮮のミサイル開発自体をコントロールすれば、中国製のGPSを組み込むことにより、その可能性を排除できるのである。 今回、米国がブーメランのリスクを冒してまで、同盟国ウクライナを苦境に追い込んだのは興味深い。トランプ政権はロシアとの接近を図っているが、その最大の障害はロシアとウクライナの対立であり、ウクライナの譲歩があれば、米露接近は可能になる。 一方、米露接近を最も警戒しているのが中国であり、ロシアを中国側に引き込み中朝露と日米韓の対立の構図を演出している。だが、この対立の構図は安定したものではなく、むしろ不安定で危険である。なぜならそれは世界大戦を指向しているからである。

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    米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 5月14日と15日、中国は初となる「シルクロード経済圏構想」(一帯一路)首脳会議(以下、首脳会議)を北京で開催した。「一帯一路」をテーマに北京で開かれた国際会議の記念撮影で手を振る各国首脳。前列中央右は中国の習近平国家主席、同左はロシアのプーチン大統領=5月15日(共同) 現状、そこには青写真があるだけで「一帯一路」の全体を把握することは難しい。ましてや成功か失敗かなどを議論する段階ではないのは言うまでもない。ただ、この会議ではっきり伝わってきたのは、中国が次の発展のためにも「一帯一路」の成功を不可欠と位置付けていることだ。同時に中国は、この構想を軌道に乗せるためにも国際社会との関わり方を変えていかなければならないという考えに至ったことも感じさせた。 例えば、「一帯一路」首脳会議で基調演説に立った習近平国家主席は「(シルクロードの)開拓事業に使われたものは、戦馬と長槍ではなく、ラクダのキャラバンと善意であり、頼りにしていたのは艦艇と大砲ではなく、宝船と友情だったのである」と平和の重要性を前面に出した。 会議には南シナ海の領有権をめぐって対立するベトナムやフィリピンからもトップが参加し、習氏の憂いを一つ晴らす材料となったのだが、習氏もそれにこたえるように、「他国の内政には干渉せず、社会制度と発展モデルの輸出もしなければ、それを他国に強要することもしない。中国は地政学ゲームのような古いやり方を繰り返すようなことはせず、安定を打ち破る小さなグループを作ることもせず、平和共存の大家族を築き上げる」と懸念の払拭に努めた。 こうした中国の姿勢は随所に見受けられ、首脳会議の前には「独断で進めるつもりはない」と耿爽報道官(5月5日の中国外交部の会見)が言及している。 この首脳会議には、直前になって米国が代表団を送ることが決まり、実際に代表団が参加したのだが、中国の準備は実に4月上旬の「マール・ア・ラーゴ」(トランプ大統領のフロリダ州にある別荘)における米中首脳会談にまでさかのぼる。 この米中首脳会談は、トランプ氏と習氏の個人間のつながりが生まれた会談として位置づけられているが、一方で中国側からの通商面での強い働きかけがあったことでも知られている。 事実、米中両国の合意の中には「双方は今後、一定期間の重点協力分野と努力目標を確定した。そして、二国間投資協定交渉を引き続き推進し、インフラ建設やエネルギーなどの分野での実務協力を模索し展開していく」(『人民網日本語版2017年4月8日』〈中米首脳会談 積極的シグナルを発信〉)とある。しかも、会談後には習氏が「中米貿易が協力を強化するということの前途には、大きな広がりがある。双方はこのチャンスを逃してはならない。中国は米国が『一帯一路』という枠組みに参加することを歓迎する」と語っている。米経済構想との親和性 この「一帯一路」構想が、実は米国にとってそれほど大きなストレスではないことは、この地域において米国が主導して進めてきた経済構想と「一帯一路」が一体化する方向で話し合いが進んできたことからも推測できる。 それがヒラリー・クリントン元国務長官の下で進められてきた「新シルクロード戦略」である。この「新シルクロード戦略」は、そもそもイランとロシアを分断し牽制(けんせい)する意味から生まれたもので、これに対するロシアの構想が「ユーラシア経済連合」である。 興味深いのは、この「ユーラシア経済連合」も「一帯一路」との一体化を進めていることだ。要するに国際政治の視点からみれば、米露の対立の場であったシルクロードが、比較的中間色の強い中国の「一帯一路」に吸収されるという構図が見て取れるということだ。 一帯一路は、従来モデルの経済発展に限界を感じた中国が、外にその活路を見いだしたことにあるが、考えてみれば次の「成長エンジン」として期待される国が集中している地域でもある。 中国がそこに旗を立てれば、行き場を失っているマネーが流れ込むことは予測できる。そして、一旦そうした流れができれば、この一帯の経済発展は中国だけで手当てできる規模ではないことは明らかだろう。 中国がこのところの見せる対外宥和(ゆうわ)に「ウィンウィン(win-win)」が強調されているのは、こうした背景があるからだ。 こうして政治的な壁を取り払いながら、今後は実を取る作業へと向かうことになるのだが、その先頭を走るのは貨物列車と各地のインフラの整備である。 2011年に中国は貨物鉄道の建設を完成させた。現在、浙江省の義烏から11の国29の都市を通ってスペインのマドリードまで、約18日で結んでいる。この貨物鉄道の開通で、いま中国-欧州間には百億ドルに相当する貨物が行き来するまでになっている。 具体的には、中国から工業製品が運ばれ、帰りにマドリードからオリーブオイルとワインを積んで戻る貨物列車だ。小ロットの運搬が可能な貨物列車の運行により、従来は中国との貿易には無縁であった各国の中小業者が貿易に参入するという効果を生んでいる。それにつれ、互いの利益のために税金や通関制度などでの共通化が劇的に進んでいる。 現状はそうした効果が、本線である義烏とマドリード間だけでなく、北はバルト三国のラトビアの首都リガからロンドン、イタリアのミラノ、西はイランのテヘラン、アフガニスタンのマザーリシャリフなどにも広がっていく可能性が指摘されている。カザフスタン・ホルゴスの〝陸の港〟。右は中国用の線路、左はカザフスタン用の線路=6月12日(共同) まだ始まったばかりの一帯一路を評価することは難しい。ただ、これを「失敗する」と決めつけてしまうのはあまりに早計だ。この構想の背後には、多くの利害共有者がいるという事実も見落としてはならないからである。

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    北朝鮮ICBM、それでもトランプには最後の「制裁カード」がある

    西岡力(麗澤大学客員教授、「救う会」全国協議会会長) 北朝鮮がついに大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を強行した。今年の新年の辞で金正恩がその準備ができていると豪語したとき、トランプ米大統領(当時は当選人)は「そんなことは起きない」とSNSに書いたが、起きてしまった。金正恩は米国の独立記念日への「贈り物」だったとうそぶき、米国連大使は武力攻撃もありうると発言するなど米朝の緊張は高まっている。 トランプ大統領はオバマ政権の対北政策である「戦略的忍耐」は間違っている、と繰り返し表明している。「戦略的忍耐」とは、北朝鮮は経済的困窮と国際的孤立で困難に直面しているから、核開発放棄を宣言するまで放っておけば、必ず助けを求めてくるという楽観的見通しに立つ、問題先送り政策だった。ところが、オバマ政権の10年間で、北朝鮮の核ミサイル開発は格段の進歩を見せ、数年以内に米国本土に届く核ミサイルを保有するところまできてしまった。 トランプ政権はすべての手段をテーブルの上に置き、まず北朝鮮の9割の貿易相手国である中国に経済制裁を強めさせて、圧力を加えるという政策をとっている。中国は本当に北朝鮮に圧力を加えているのか。トランプ大統領は7月5日、「中国と北朝鮮との間の貿易は第1四半期に約40%増加した。米国は中国と手を組んできたが、こんなものか。でもわれわれは試してみるしかなかった」とSNSに投稿した。別荘の中庭で中国の習近平国家主席(右)と歩くトランプ米大統領=4月7日、米フロリダ州 私はここで「試してみるしかなかった」という部分に注目する。今年4月、米韓軍事演習の実施、米国空母が2隻、朝鮮近海に出動するなどを受けて、米国が北朝鮮への爆撃を行うのではないかという予測が、日本の一部専門家やマスコミの中で沸騰した。そのとき、私は「まだ早い、米国はまだ試していないことがある、それを試してみてダメだったら軍事攻撃が浮上する」とコメントしていた。 それでは何を「試す」のか。中国と国際社会に対して強度の経済制裁を実施させる。具体的には北朝鮮の統治資金を徹底的に締め付けることと、石油の対北輸出を止めさせることだと考えていたが、7月になっても北朝鮮は音を上げず、ついにICBMの発射を行った。 しかし、トランプにはまだ、試してみるべきカードが残っている。それは北朝鮮と取引をしている第3国企業と銀行に対して、ドル取引を停止するといういわゆる「セカンダリー・サンクション(2次制裁)」だ。ICBMの発射の直前にその一部はすでに発動されていた。水面下の中朝取引 米政府は6月29日、北朝鮮の核、ミサイル開発を支援した中国企業「Dalian Global Unity Shipping Co」と2人の中国人および、北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に関与した中国の銀行1行、丹東銀行(Bank of Dandong)に対して米国との取引停止、ドル取引停止という制裁をかけた。丹東銀行は北朝鮮が米金融システムにアクセスするための入り口の役割を果たしてきたと米財務省は指摘している。同行顧客のドル口座は取引の17%が北朝鮮に関連したものだったという。ムニューシン財務長官は調査を続けており、追加制裁を行う可能性もあるとした。 私は5月に米国軍に近い情報関係者から、中国と北朝鮮の関係について次の話を聞いていた。 「これまで25年間の中朝関係はやらせ詐欺であり、①北朝鮮が軍事挑発を行う②中国も加わって国際制裁が決議される③中国がわれわれも対北制裁していると明言する④北朝鮮が中国を批判⑤中国が国際社会に対北制裁をよくやっているとアピールする、という循環が繰り返された。しかし、水面下での中朝取引は続き、事実上、中国は北朝鮮の核ミサイル開発を助けてきた。われわれは、もはやそれにはだまされない。数年前から北朝鮮と取引をしている中国企業を徹底的に調査してきた。その調査結果の一部が、C4ADSという米国のシンクタンクが昨年8月に公表した報告書(※注1)に載っている。アルミニウムパイプを風呂桶として対北輸出している企業などがある。まず、ここまで分かっているということを教えるために代表的な10社を選んでリストを作った。その10社のリストをあなたにもあげますよ」 6月21日にワシントンDCで開かれた米中安保対話では、そのことが議題になったという。米紙「ウォールストリート・ジャーナル」によると、米政府は中国に2次制裁候補として調査が終わっている代表的な10社のリストを渡したという。中国銀行、ニューヨーク支店の外観=2011年10月 私が5月に上記関係者からもらった10社のリストと、安保対話で中国に渡されたリストが同じものかどうか確認できていない。 すでに、ウォールストリート・ジャーナルは4月25日付の社説で中国4大商業銀行の一つ、中国銀行(Bank of China)への二次制裁をかけよと主張した。「国連の専門家パネルによれば、昨年、中国銀行のシンガポール支店が北朝鮮の事業体の決済に605回関与している。中国政府はこの国連リポートの発表を阻止したが、内容はメディアにリークされた」「(中国銀行への二次制裁は)トランプ氏の真剣さに関する最小限のテスト」だと書いている。 中国銀行は、資産規模2・5兆ドルで世界4位だ。米シティバンクの2倍、三菱東京UFJ銀行の1・5倍の超巨大銀行であり、昔の東京銀行のように国際金融市場で中国を代表する銀行だ。その銀行が、ドル取引ができなくなることは国際金融秩序と米中経済関係に多大な影響を与えるだろう。しかし、軍事行動に比べれば少なくとも人命被害は出ない。これすらできなければトランプも結局、戦略的忍耐と同じことをしていると批判されるだろう。(※注1)報告書名は「In China’s Shadow Exposing North Korean Overseas Networks」。

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    「核とミサイルの罠」金正恩を追い詰める父の亡霊と内なる敵

    求めていると伝えられているだけに、金委員長は大きなジレンマに直面している。核実験に踏み切れば、中国とアメリカから大きな制裁を受ける。核実験ができなければ、米中を恐れる弱気の指導者と国内で陰口をたたかれ、権威が失墜する。 それを避けるために、「核兵器の完成」「ミサイルの完成」を宣言し、「核とミサイルの実験をしない」交渉に乗り出すとの戦略が、平壌から流されたこともあった。戦略への期待が急速に失われている。

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    ロシアゲート4つの疑惑、渦中のトランプが強気でいられる意外な事実

    分、それだけ米国も世界も、失うものが少なくない。その中で最も大きいのは、「世界を牽引(けんいん)するアメリカの大統領」という威信なのかもしれない。

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    ロシア疑惑、トランプはいつまで持つか

    米連邦捜査局(FBI)長官の解任に始まったトランプ大統領の「ロシア疑惑」に注目が集まっている。最大の焦点は、トランプ氏の言動が弾劾訴追の対象となる「司法妨害」に当たるかどうかだが、次々と浮上するロシアとの深すぎる絆に憶測も広がる。追い詰められたトランプ政権。その命運やいかに。

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    トランプとロシア新興財閥の「深すぎる闇」はどこまで解明できるか

    困難とみられる。ホワイトハウスの執務室で、プーチン大統領と電話会談するトランプ米大統領=1月28日、アメリカ(UPI=共同) むしろ、モラー特別検察官の捜査では、トランプ大統領とロシア新興財閥のドロドロした利権コネクションが浮き彫りにされ、それが決定打になる可能性がある。米国のメディアもこの部分の調査報道を行っているが、トランプ大統領のロシア関与は想像以上で、ロシア新興財閥がトランプ王国の資金源だった実態が判明しつつある。 米誌「ベテランズ・トゥデー」(2017年1月21日付)によると、トランプ大統領がモスクワに来るようになったのはゴルバチョフ時代の1989年で、ソ連指導部からモスクワとサンクトペテルブルクへのホテル建設を依頼された。エリツィン時代には、エリツィン後継の噂もあった実力者、レベジ安保会議書記(2002年にヘリコプター事故で死亡)と関係を深め、先行投資したこともある。しかし、ロシアの新興財閥は自国のホテル建設に関心がなく、むしろ米国にトランプ大統領が保有する不動産に積極投資し、実勢価格の何倍もの価格で購入するお得意様だったという。 トランプ大統領は2000年代初頭、アトランティックシティーのカジノ・ビジネスが破綻し、一時破産するが、その後トランプタワーの住居を高値で購入し、トランプ大統領を救ったのが、ロシアの企業や財閥だったという。トランプ大統領の子息、トランプ・ジュニア氏は「ロシア人は不釣り合いな価格でわれわれの資産を購入してくれた」と述べていた。 トランプ大統領は特に、プーチン政権と関係の深い新興財閥のアラス・アガラロフ、イルガム・ラギモフ、トフィク・アリフォフといった人物とディール(取引)を重ね、2013年にはアガラロフ氏の招待で、ミス・ユニバース・モスクワ大会を主催するため訪露。その際、高級ホテルで売春婦と不適切な関係を持ち、ロシア側に監視された-と元英情報機関幹部が報告書で告発した。 今後の捜査でロシア資金が選挙運動に使われていたことが判明すれば、政治資金規正法にも抵触する。トランプ大統領とロシア新興財閥の「闇の関係」の解剖が、今後のロシアゲート捜査の注目点になりつつある。

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    コミー証言は肩透かし? ロシア疑惑はトランプ辞任の引き金にならない

    ないと党派で評価が大きく分かれている。無党派では、支持は21%、不支持は36%であり、これが標準的なアメリカ人の評価といえる。  また、6月7日に『ワシントン・ポスト』とABCの共同世論調査の結果も発表された。調査はコミー氏の公聴会前(実施日は6月2日から4日)に行われたものである。調査では「トランプは2016年の大統領選挙にロシアが介入した可能性に関する捜査に協力していると思うか、あるいは捜査を妨害していると思うか」との問いに対して、全体の56%がトランプ氏は捜査妨害を行っていると答えている。政党別の支持者でみると、民主党支持者の87%、無党派の58%、共和党支持者の17%がトランプ氏の捜査妨害を肯定した。公聴会で証言するコミー前FBI長官=2017年6月 このようにトランプ大統領に対する信頼は大きく低下している。ただ、共和党支持者のトランプ支持が依然高いことも注目すべきである。トランプ大統領が強気の姿勢を取っているのは、こうした背景があるのかもしれない。  さらに、6月8日に行われたロイターの世論調査では、トランプ大統領支持が38%、不支持が58%であった。ギャロップの調査(6月8日)でも、同様に不支持率は58%、支持率は37%と、ロイター調査とほぼ同じ結果であった。ギャロップ調査では、3月28日に不支持率が大統領就任後最低の59%を記録したが、今回の調査結果はそれに続くものであった。政権発足後、4カ月余りで不支持率が60%というのは異常といっていい数字である。トランプの弾劾訴追はほぼ不可能 多くの国民の気持ちはトランプ大統領から離れつつある。政策面でも目立った成果は上がっていない。加えて、ホワイトハウス内の抗争や、ガバナンスの空洞化も起こっている。 では、トランプ弾劾は現実のものになる可能性はあるのだろうか。現状で考える限り、その可能性は低い。まず共和党と保守派のトランプ支持に揺るぎがみられないからだ。トム・コットン上院議員は「今回の出来事がトランプ辞任の引き金になることはない」と、共和党内の雰囲気を代弁している。ホワイトハウスへのパレードで、声援に応えるトランプ米大統領とメラニア夫人=2017年1月 保守派のジャーナリスト、レベッカ・バーグ女史も「コミー証言は共和党議員のトランプ支持が大きく変わる転換点になるとは思えない」と書いている。先の世論調査でも、共和党支持派の大多数がトランプを支持する結果だった。 さらに下院、上院ともに共和党が多数派を占めている。大統領を弾劾するには、下院の半数の支持を得て大統領を追訴する必要がある。それを受けて、最高裁首席判事を裁判官とする弾劾裁判が上院で開かれ、その3分の2の支持を得て弾劾が成立する。 ゆえに、下院で弾劾決議をする可能性は限りなくゼロに近い。仮にトランプ大統領が弾劾裁判に掛けられても、上院議員の3分の2が賛成することはまずないだろう。民主党やリベラル派がいかに大きな声を上げても、現実的にトランプ大統領を弾劾することは、ほぼ不可能な情勢と言わざるを得ない。 では、何も変化はないのだろうか。ポイントは2つある。トランプ大統領が政策面で大きな失敗をすることだ。その可能性はないわけではない。それが支持率をさらに低下させ、来年に中間選挙を控える共和党議員の中から、トランプ大統領の下では戦えないと考え始めた時、流れが変わるかもしれない。 さらに、コミー事件が拡大し、ロシアとの関係が安全保障問題を引き起こす事態になれば、共和党議員も考え直さざるを得ないだろう。中間選挙は平時であっても与党に不利である。不人気な大統領を要する選挙では、風の向きによっては、共和党は下院で過半数を失う可能性がないわけではない。それがトランプの強気を崩す潮目になる可能性は十分ある。

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    セッションズ司法長官の声色から分かること

    出す戦略が必要です。うんの・もとお 明治大学教授、心理学博士。明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    トランプ弾劾はいかに? 過去に2回、不倫で訴追も

    樫山幸夫 (産經新聞前論説委員長) トランプ米大統領をめぐる一連の疑惑、“ロシアゲート”は、コミー米FBI(連邦捜査局)前長官の議会証言が、序盤のクライマックスだった。大統領が捜査に圧力をかけようとした形跡が色濃くにじんでいた。検察官は、トランプ氏自身も捜査対象に加えたとも伝えられている。一方、議会を含め米国内では、大統領を弾劾すべきだという強硬論が台頭してきている。トップをクビにする弾劾裁判―。有罪無罪もさることながら、その手続きが始まるだけで、米国の政治、社会が混乱するのは避けられない。米上院情報特別委員会の公聴会で証言するコミー前FBI長官=6月8日、ワシントン(ロイター=共同) 米国独立以来240年、実際に議会で弾劾裁判が行われたことは、これまで2回ある。いずれも「無罪」評決だったものの、大統領の政治的基盤を損ない、権威を大きく失墜させた。 トランプ氏について、弾劾の可能性を現時点で予測するのは早計だが、過去における「大統領の犯罪」を振り返りながら、今後の見通しを展望してみたい。 最初の弾劾裁判は南北戦争の直後1868年まで遡る。日本では明治維新の年だ。 第17代、アンドリュー・ジョンソン大統領は、有名なアブラハム・リンカーンの暗殺を受けて1865年4月に副大統領から昇格した。民主党員の上院議員でありながら、共和党のリンカーンからナンバー2に起用されたのは、南部と北部、民主、共和両党の和解を実現するにうってつけの人物とみられたからだ。 ジョンソン大統領は前任者の遺志を継ぎ、南北融和に心血を注いだが、南部への遺恨を捨てない議会共和党急進派は、これを苦々しく眺めていた。 1868年2月、ジョンソン追い落としのまたとないチャンスが訪れた。大統領は、当時の陸軍長官(今の国防長官)を、機密情報を自らの政敵に流していたのではないかという疑念から罷免した。 しかし、反大統領勢力は、前年に制定された政府高官の任免に関する法律に抵触するとしてこれを攻撃した。任命だけでなく、罷免にも議会の同意が必要なのに、大統領はそれをしなかったというのが理由だった。  大統領は、陸軍長官任命は、法律制定前のリンカーン時代であり、適用されないなどと反論したが、反大統領派は追及の手を緩めなかった。弾劾訴追するかどうかは下院で審議されるが、共和党が多数を占めていたことから訴追が決まった。  10日後、上院で史上初めての弾劾裁判が開始された。当時の定数54のうち、共和党は弾劾成立に必要な3分の2を超える42議席を確保していた。弾劾成立はだれの目にも明らかに映った。 ところが、起訴事実にあたる弾劾条項11項目の一つについての投票は、賛成35、反対19、3分の2を欠くことわずか一票という際どい結果で、否決されてしまった。クリントン氏のセックス・スキャンダル 権力争いによって大統領を追放することを潔しとしない共和党議員7人が党幹部の圧力をはねつけ、勇気ある造反を企てた結果だった。  10日後に行われた他の2項目の採決でも、賛成、反対同じ顔ぶれ、やはり一票差での否決だった。残りの条項については、もはや採決は見送られた。 こうして、ジョンソン大統領は劇的に弾劾を免れた。 米憲政史上初の弾劾裁判は、政争の色彩が強かった。戦争直後においては、革命騒ぎなど、多くの国で政治、経済、社会の混乱がみられたことは歴史を紐解けば明らかだろう。 それから時を経ること130年。1998年の弾劾裁判は趣が大いに異なっていた。“太平の世”とはいえ、あろうことか、大統領のセックス・スキャンダルが発端だった。 この不名誉な大統領はご存じ、ビル・クリントン氏。1993年から2001年まで在任した。今の若い人には、昨年の大統領選で惜敗したヒラリー・クリントン女史の夫君といったほうがわかりやすいかもしれない。沖縄サミットの開幕を控え、平和の礎前で演説するクリントン米大統領。右は稲嶺恵一知事=2000年7月21日、沖縄県糸満市 クリントン氏の弾劾裁判自体、1998年から翌年にかけてだから、知らない人、記憶が薄れてきている人も少なくないだろう。 筆者は当時ワシントン特派員として、この弾劾裁判、その訴因となったスキャンダルを最初から最後まで取材した。長い記者生活のなかでも忘れられない事件のひとつだ。 クリントン氏のスキャンダルというのはこうだ。 氏は、家庭を持つ身でありながら、就任前から多くの女性と浮名を流していた。ホワイトハウス入りしたのちは、何と、娘といっていい27歳も年下のホワイトハウスのインターン生と密かな関係をもった。それだけなら、道義的にはともかく、罪に問われることはない。しかし、前職、アーカンソー州知事時代のセクハラ事件で訴えられた裁判で、クリントン氏は、インターン生との関係を否定する証言をしてしまった。 このインターン生は、友人に大統領との関係を告白、その会話のテープが、州知事時代の土地取引疑惑などクリントン大統領の一連のスキャンダルを捜査していた当時の特別検察官の手に渡った。 特別検察官は、大統領に偽証の疑いありとして、本格的な捜査に乗り出した。1998年1月のことだ。 覚えている方も多いだろう。世界を驚愕させ、そして多くの人が眉をひそめたあの騒ぎを。 メディアが大統領とインターン生との具体的な“行為”の内容まで報じるに及んで、記事を新聞に掲載する側としては、表現、用語が低俗にわたらないよう、随分と苦労を強いられた。なぜ失職を免れたのか 大統領自身を含む関係者の大陪審への喚問、特別検察官の議会証言、捜査報告書の公表など、一年近くにわたった熱狂の末、下院本会議は98年12月、弾劾訴追を可決した。 訴追条項は、セクハラ事件で大統領が連邦大陪審で行った証言での偽証と、隠ぺい工作など証拠隠滅―だった。 弾劾裁判は翌99年1月から上院で始まり、翌2月12日に投票が行われた。 筆者は採決当日、議場に陣取って見守っていたが、事前の票読みで、いずれの条項も過半数を獲得できないだろうと予測されていたにもかかわらず、議場が異様な緊張感につつまれていたのをおぼえている。 採決は予想通り、いずれも、3分の2はおろか過半数にも届かず、大統領は「無罪」の評決を受けた。 この事件はスキャンダルが発端であり、それだけがことさら大々的に報じられたためか、日本でも、クリントン大統領は不倫によって弾劾裁判にかけられたと思っている人が少なくないだろう。しかし、そうではなく、司法妨害という深刻な犯罪で訴追されたことを理解する必要がある。 それにしても、証拠、証言などから有罪は濃厚だったにもかかわらず、なぜクリントン氏は失職を免れたのか。 当時、米上院民主党の長老だったロバート・バード議員の言葉が含蓄に富んでいる。「大統領の行為は、重大犯罪という弾劾の要件を満たすが、国の団結を守るために無罪評決に賛成した」―。その後に襲ってくる政治的、社会的混乱を防ぎ、国民の間に生じた対立を解消しようという政治的な判断で投票したという告白だ。反対票を投じた多くの議員も同様の認識ではなかったか。 クリントン氏は、こうした破廉恥な行為を暴露されたにもかかわらず、その後も高い支持率を誇った不思議な大統領だった。退陣後の2012年の調査でも「好感を持っている」という市民は6割を超えていたというから驚く。 ところで、弾劾といえば、1970年代に米国を揺るがせたウォーターゲート事件におけるニクソン大統領のケースを無視するわけにはいかない。佐藤栄作首相(右)と会談するニクソン米元副大統領 =1966(昭和41)年8月12日、首相官邸  1968年の選挙で当選した共和党のニクソン氏は72年に圧倒的な強さで再選された。しかし、この選挙中、陣営のスタッフが民主党選対本部に侵入する事件を起こし、その隠ぺいに大統領自ら関与したとして、下院司法委員会で弾劾決議がなされた。 ニクソン氏はその時点で辞職、弾劾裁判が行われることはなかったが、クリントン氏の弾劾裁判の際、共和党による遺恨晴らしだーなどとささやかれたこともある。トランプ弾劾という”政治ショー” さて、今回のトランプ大統領のケースに話を戻そう。 “ロシアゲート”を捜査しているミュラー特別検察官(元FBI長官)が、大統領も捜査対象としているーというニュースは今月15日、ワシントン・ポスト紙が報じた。 上院情報委員会でのコミー証言によると、大統領は、ロシアとの不適切な接触のために解任されたフリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の捜査に関して、「放っておいてくれ」と迫ったという。コミー氏は「大統領の指示と受け止めた」と証言している。フリン前大統領補佐官(ロイター=共同) コミー氏によると、大統領は他にも捜査への介入めいた言辞を弄したという。 ミュラー検察官は、大統領選挙でロシアの不正な干渉はなかったか、ロシアとトランプ陣営との癒着、不適切な接触がなかったかなどロシアゲート全般を捜査しているが、当面は、大統領のこれらの言動を捜査の核心に据えているという。 しかし、捜査の行く手は険しい。 トランプ氏側は、コミー証言によって「捜査妨害などなかったことがむしろ明らかになった」(共和党全国委員会)と強気の姿勢を見せている。 言葉のニュアンスは微妙であり、その場にいた者にしかわからない。しかもトランプ氏は“人払い”したうえで口を開いている。コミー氏の感じ方だけでは、大統領の捜査妨害を立証するのは容易ではないと指摘する専門家は少なくない。  「大統領の犯罪」が立証されても、現職にある間は刑事訴追されないから、それに代わる代償、制裁措置が弾劾だ。 すでに米議会は、民主党のベテラン、ブラッド・シャーマン下院議員(カリフォルニア州)が、捜査介入を具体的な理由として、他の議員にも弾劾へ同調するよう呼び掛けている。アル・グリーン議員(民主党、テキサス州)ら一部に賛成する動きがみられる。 これまで米国で、政府高官らのスキャンダルを捜査する目的で特別検察官が任命されたケースは16回。捜査に要した期間は平均で1100日を超えるという。 ミュラー検察官の捜査は始まったばかりであり、まさに「千里の道の一歩」だ。今後長い間にわたって、紆余曲折をたどることになろう。  仮に立証にたどり着いたとしても、上下両院いずれも共和党が多数を占める中で、下院での訴追決定、上院での有罪評決は現時点では、かなり困難といわざるを得ない。 トランプ弾劾といっても、政治ショーとしては面白いかもしれないが、実現へのハードルは高い。

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    落合信彦氏「トランプはFBIに追われ大統領職を放り出す」

    そう指摘するのはジャーナリストの落合信彦氏である。* * * こんな状況でも、日本の安全保障はまだ「アメリカ頼み」なのか。トランプが大統領職を放り投げる可能性が、いよいよ高まってきた。任期途中での辞任の可能性は本連載で昨年から指摘していた通りだが、事態はより深刻になっている。 5月9日、全米のテレビで「FBI長官、解任」の速報が流れた。その時、当のFBI長官ジェイムズ・コミーは出張でワシントンから離れ、西海岸のロサンゼルスにいた。ふとテレビを見たコミーは、「面白いイタズラだな」と呟いた。しかし直後、FBI本部に解任通知が届いていることを聞き、「イタズラ」ではないことを知らされる。米ワシントンのフーバービルにある連邦捜査局(FBI)本部 アメリカのメディアは、コミーが慌てて空港に駆けつけて専用機に乗り込み、ワシントンに向けて離陸する様子をライヴで報じた。そうするほどに、異例の事態なのだ。 1973年、ウォーターゲート事件の渦中にあったニクソンは、捜査を担当していた特別検察官たちを突如解任した。“土曜日の夜の虐殺”事件だ。 5月の突然のコミー解任で、ホワイトハウス前に集まった市民は「これは“火曜日の夜の虐殺”だ!」と叫び、トランプを批判した。トランプが、周辺へのFBIの捜査を妨害したのではないかと見られるからだ。 FBI長官の任期は10年。政権交代の影響を受けず中立な捜査ができるよう、長期に設定されている。任期途中で解任されるのは超異例である。「理由は単純だ。良い仕事をしていなかったからだ」 トランプは解任理由を聞かれ、そう語った。これこそ大統領お得意の「フェイク」だ。数多くの大統領を見てきた経験から言えば、トランプは限りなく「クロ」に近い。哲学内、歴史も知らない “ロシアゲート疑惑”は、驚くほどの広がりを見せている。トランプの娘婿のジャレッド・クシュナーは、2016年12月の政権移行のタイミングで、欧米の制裁対象になっているロシア政府系銀行の頭取と面会していた。ロシア駐米大使が面会を仲介したとされる。 大統領選でトランプの選対本部長を務めていたポール・マナフォートはウクライナの親ロシア派から75万ドルものカネを受け取った疑惑が取り沙汰されている。 大統領補佐官だったマイケル・フリンは駐米ロシア大使との近い関係が批判されて辞任に追い込まれたが、その後、ロシア系企業から5万ドル以上を受け取っていたことが明らかになった。 司法長官のジェフ・セッションズも大統領選挙中にロシア側と接触していたことが発覚した。 FBIは、これらを中心としたロシアのアメリカ大統領選への関与を洗っていた。その捜査の手が周辺へ迫り、焦ったトランプがコミーを解任したと見るのが自然だ。トランプの大きな勘違い しかし、トランプは大きな勘違いをしている。FBIは、長官ひとりのクビを切られたくらいで諦める組織ではない。むしろ本気でトランプを追い詰めようとするのではないか。 司法省は早くも、“ロシアゲート”を本格的に捜査するため、コミーの前任だったロバート・ムラーを「特別検察官」に任命した。フリンを辞めさせ、大統領上級顧問のスティーブン・バノンを国家安全保障会議の幹部会議から外すなど、側近を次々に飛ばしているトランプ。捜査が迫れば、今度は自ら職を放り投げて逃げ出すのが関の山だろう。 5月上旬には、トランプ本人がロシア外相のセルゲイ・ラブロフと非公開会談している様子を写した写真が公になった。その写真は表に出ないはずだった。ホワイトハウスの大統領執務室で、トランプはラブロフと笑顔で握手していた。アメリカはロシアに制裁を科しているはずなのに、ロシア側をにこやかに迎えている写真が出ることはあってはならないことだった。 大統領も側近たちも、ロシアとベッタリなのである。ロシア疑惑だけではない。最近のトランプは暴走を加速させている。政権発足から100日の節目を迎えた4月末には、ペンシルベニア州で集会を開いた。そこでトランプは「私の100日を語る前に、メディアの100日を採点してみよう」と語り出し、大統領批判を続ける記者たちを「非常に不誠実だ」と切り捨てた。 北朝鮮問題への対応も支離滅裂だった。「核開発を許さない」と言って空母カール・ビンソンを派遣したのに、1か月も経たないうちに「適切な環境下なら金正恩と会う」と言い出した。新聞は訳知り顔で「硬軟織り交ぜた対応で金正恩を揺さぶっている」と書いていたが、単にブレているだけだ。あの大統領には何の戦略もなく、ただ思いつきで喋っているだけなのだ。 日本人は、いざとなったらアメリカが北朝鮮をぶっ潰して守ってくれると思い込んでいるようだが、トランプは日本を守る気などまったくない。そもそも、東アジアの安全保障にコミットするつもりもないだろう。だから、「金正恩と会う」とか、「金正恩をアメリカに招待する」などと言えるのだ。 本連載の前号でも指摘したが、トランプの外交・安全保障政策には、まったく一貫性がない。娘のイヴァンカが「アサドは化学兵器で子供を殺している。アサドを攻撃すべきだ」と言えば、シリアを空爆する。軍が「北朝鮮に空母を派遣すべき」と言えば、カール・ビンソンを出す。 哲学がなく、歴史も知らないから、軍や側近の言うがままに操られているのだ。関連記事■ 元テレ朝・龍円愛梨氏 資金不足で選挙事務所借りられず■ 都民ファースト幹事長 野田ゴレンジャーとショーパブ会合■ 「SOD女子社員」シリーズ 本当に社員なのか?■ オバマ前大統領の超セレブ引退生活 金遣い荒い妻の意向も■ 無実の男性を痴漢にデッチあげた「中国人女性」の行状

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    コミー元長官の堂々たる公聴会は「さすがFBI」の一言

     臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、FBI前長官のコミー氏の公聴会について。* * * 先週、米議会公聴会でコミー前連邦捜査局(FBI)長官がロシア疑惑について証言した。公聴会を生中継した放送局は10局、日中とはいえ全米での視聴者は約1650万人という。 退任したばかりのFBI長官が証言する姿など、滅多に見られるものではない。日本で言えば、さしずめ警視庁長官や警察庁長官が証言するようなものだ。メディアの評価は期待通りだったというが、そもそもコミー氏は証言することをどう思っていたのだろう。米議会で証言する連邦捜査局(FBI)のコミー長官=5月3日(AP=共同) 公聴会に現れたコミー氏は、ダークな黒いスーツにえんじ色のネクタイを締めていた。見るからに重厚感があって落ち着いた印象。これは、黒は心理的な強さや重さを感じさせる色であり、えんじ色は大人らしさ、成熟をイメージさせるとともにクールさや理知的、大胆さを感じさせる色の効果でもある。 同じ赤系のネクタイでも、トランプ大統領や日本の失言大臣たちが好んで締める鮮やかな赤のネクタイとは印象がまるで違って見える。 席に着くやカメラのフラッシュが無数にたかれた。だがコミー氏はまるで動じる様子がない。表情ひとつ変えず、あごを上げ正面だけを見据えていた。宣誓を終えると、静かに座って椅子を何度か引き、袖口を直し、証言しやすい態勢を整えた。深く椅子に座り、背筋を伸ばす。堂々としたものだ。 質問する議員が変わる度に、その方向にまっすぐ身体を向け、背筋を伸ばして座る。時には椅子をずらし、机上のマイクの位置まで直す。落ち着いていなければ、ここまで気を使うことはできない。そしてこの動きは、きちんと耳を傾け、向き合って質問に答えますよという相手へのメッセージでもある。 コミー氏の仕草でよく見られたのは、机や膝の上で組まれた手の動きだ。親指を上げて手を組んだり、親指をこすり合わせたりしていた。組んだ手の親指を立てるのは、自分の考えや説明に自信があるからだといわれる。自分の感覚や主張には自信を持っていたが、少なからず公聴会の場で発言することにストレスを感じていたのだろう。親指をこすり合わせていたのは、そのストレスから心を静めよう、なだめようとしたからだ。 感情に合わせて動いたのは眉。「突然、解任された」と話した時は、額や眉間にシワが寄って、八の字のように眉が下がり、いまにも泣きだしそうな表情になった。「いつ解任されても仕方がない立場」と言いつつも、仕事に信念を持ち、残り6年の任期を全うする気でいたコミー氏には、我慢ならなかったであろう。FBIの真実はこれだ 二転三転する解任理由に混乱し懸念したと述べた途端、左眉が下がり右眉だけが上り、わずかに左肩をすくめた。この仕草は、理由に納得できないだけでなく、大統領への皮肉や批判を表しているように見て取れる。自分やFBIをありもしない嘘で貶めたと淡々とした口調で述べたが、その視線は鋭く前を見据えていた。この時感じた怒りは、かなりのものだったに違いない。 そして国民に対して「FBIは正直で、FBIは強く、FBIは常に独立性を保つ」とあごをわずかに上げて、これがFBIの真実だと強調した。大統領の発言を捜査打ち切りの指示と思ったという証言も重要だったし、会話をメモしたという証言も衝撃的だったが、それ以上にコミー長官は、公の場でFBIの名誉挽回をしたかったのかもしれない。 冒頭証言を終え、チェアマンが「ディレクターコミー(コミー長官)」と呼んだ瞬間、反射的に背筋を伸ばし姿勢を正したのも、FBIのトップに立っていた誇りがあったからだと思う。 反面、トランプ大統領には懐疑的だったと見える。メモを残した理由を「大統領の性格から、嘘をつくかも」と述べると、肩を下げ、眉も頬や口角も下がった情けなさそうな表情を見せた。自分の上司が、それもトップが嘘つきと確信した時のやるせなさや情けなさは、なんとも言い難い。それが一国の大統領だったのだから、その失望たるや相当のものだろう。 そんな大統領に求められたという忠誠には、「ロイヤルティー」という言葉を述べながら一瞬、両手の指を2本ずつ上げてクイクイッと曲げた。欧米でよく見る「いわゆる」という意味の仕草だ。忠誠を求められたことに疑問や反発を感じ、忖度する気にはならなかったと思われる。 ところが証言の最中は、言葉と相反する仕草や矛盾する表情は、まるで見受けられない。公聴会が行われた約2時間40分の間、用意された水を飲んだのは1~2度だけ。質問者が変わろうとも、どのような質問を受けても、姿勢も変わらず、身体が揺れることさえなかった。一瞬、戸惑ったり、言葉に詰まったり、感情がわずかに垣間見えた場面はあったが、コミー氏のボディランゲージには動揺や不安が一切表れなかったのだ。 それどころか、「大統領に忠誠を求められた際は、自分は動きもせず、口も開かず、表情も変えず、ぎこちない沈黙が続いた」と証言し、フリン前大統領補佐官の件については、大統領が執務室で他の人を人払いした時の状況や、その場にいたセッションズ司法長官の様子について、細かに証言したのだ。他人のボディランゲージを読み、それによって臨機応変に対応を変えている。さすがである。 FBIの長官までやった人物ならそれぐらい当然なのかもしれないが、訓練されている人間はやっぱり違うなあ。関連記事■ 【ジョーク】ヒラリー・クリントン氏が大統領目指すのはなぜ?■ 激ヤセのクリントン氏 1回数千万円の講演料で年収10億以上■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画【1/2】「根拠のないデマ」■ 【ジョーク】イラン大統領「オバマ無能」への対立候補の反応■ ヘーゲル米国防長官 訪韓時の朴大統領の日本批判に苛立った

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    米軍事作戦に怯える金正恩「ハッタリ外交」

    金正恩の暴走が止まらない。半島危機の真っただ中、北朝鮮は弾道ミサイルを発射した。国連安保理は緊急会合を開き、北朝鮮のさらなる挑発阻止への具体的協議に入った。圧倒的戦力差の米軍事作戦に怯え、もはや核開発しか生きる道のなくなった独裁国家の「ハッタリ外交」はいつまで続くのか。

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    トランプに怯える金正恩の秘策は「日朝首脳会談」の再現だ!

    西岡力(麗澤大学客員教授、モラロジー研究所室長)  今月14日、北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。その日は、中国が威信をかけた「一帯一路」サミットの開幕日でもあった。 こうした金正恩の挑発的な「瀬戸際外交」に今後、変化が訪れることはあるのか。それが編集部から与えられたテーマだ。具体的には、対話による外交努力、米朝首脳会談などが実現するかという問いだった。私の答えは基本的にはノーだ。ただし、日朝首脳会談の可能性はあるとみている。 理由は2つある。第1は、金正恩政権の権力構造だ。端的に言うと金正恩独裁政権を支える労働党組織指導部が対外感覚をほとんど持たない国内向け組織だからだ。新型の中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験に立ち会う金正恩氏(共同) 第2は、金正恩政権の対外矛盾は交渉で解決できるものではないからだ。金正恩政権と米国トランプ政権の間に妥協の余地がほぼない根本的矛盾が存在し、その上、中朝関係が最悪で中国共産党は米朝の対立で金正恩をかばわないだろう。ただし、金正恩が米国の軍事圧力をかわすために日本の安倍政権に接近する可能性はある。 一つずつ検討する。まず、金正恩政権の権力構造だ。20歳代の若者だった金正恩が父の死後、独裁者の地位に昇り、曲がりなりにも政権を維持し続けられた秘訣(ひけつ)は、金正日が作り上げた個人独裁システムが精緻で強固だったからだ。その核心的な部署が党組織指導部だった。 金正日は1970年代初めに金日成から後継指名を受けた後、党組織書記となった。朝鮮語では書記は「ピソ(秘書)」であり、金日成は金正日のことを組織ピソ同志と呼んでいた。金正日は自分が掌握した党組織指導部を大幅に増強し、自分が一番信頼する大学の同窓などを幹部として呼び寄せた。 まず、組織指導部に検閲班をつくり、党、政府、軍、対南工作機関などに同班を派遣して、金日成に忠誠を尽くしてきた年長幹部らを「成果がない」としてつるし上げて、今後は全ての決定を組織ピソである金正日の承認の下で行うことを誓わせた。全ての情報と決済書類は金正日を通じてのみ金日成に上がるというシステムが築かれた。 金正日の手足となった組織指導部が、国内の全ての機関の幹部、また、全人民を監視統制するようになった。北朝鮮の全ての人民は毎週1回、金正日の指令を忠実に実行したかどうかを自己批判、相互批判する「生活総和」に出席することが義務となった。その生活総和は各組織にいる組織ピソの指導を受ける。そのトップに金正日が君臨するというシステムだった。全ての機関の幹部人事も組織指導部が管轄した。 金正日は同部が絶大な権力を持つことになることをよく知っていて、同部には部長をおかず、数人の第1副部長と副部長らが分担して業務を行い、お互いを牽制(けんせい)し合わせ、金正日が組織ピソ兼組織指導部長として全体を統括した。また、組織指導部幹部らには党中央副部長以上の職位は与えず、また、外交や対南工作にも関与させなかった。彼らは国内だけにいて、海外に送ることもしなかった。一言で言ってまったく国際感覚がない組織だ。 その組織指導部が金正日の死後、金正恩を取り囲み事実上、金正恩政権の最高権力機関となっている。張成沢処刑も彼らが主導したし、金正恩を支えたもう一つの支柱だった金元弘国家保衛部長をも今年初めに解任した。彼らは金正日の立てた国家戦略を盲目的に守ることしか考えていないから、いくら米国が圧力をかけても核ミサイル開発を止めるという決断はしないだろう。金正日が生きていれば…金正日総書記の肖像画に黙とうする幹部ら。左端は金正恩氏=1月17日、平壌(共同) 金正日が生きていれば組織指導部に国内監視を任せながらも、対外関係では大胆に決断をすることも可能だった。しかし、金正恩はそのような能力を持っていないと思われる。すでに国内で米国まで届く核ミサイルは完成している、米国本土を攻撃できると公言、宣伝しているので、外交的にずるく立ち回って時間稼ぎをするため核ミサイル開発を中断することができなくなっている。それをすれば、米国の圧力に敗北した弱い指導者だと国内で思われ、人民統制が困難になる。組織指導部は人民統制を最重視するので、その意味で外交的解決は不可能に近い。 金正日が生きていれば 第2の、金正恩政権の対外矛盾は交渉で解決できるものではないという理由を検討する。4月に朝鮮戦争が始まるのではないかと多くのメディアが報じたのは、トランプ政権がこれまでの米国政権の対北政策を間違いだったと断じたためだった。 トランプ大統領と政権高官らはオバマ政権の「戦略的忍耐政策」は間違っていた。こちらが忍耐している間に、北朝鮮は米本土に届く核ミサイルを持つ直前に至った。トランプ政権はそれを絶対に許さない。そのため、軍事行動を含む全ての手段をテーブルの上に置く、と繰り返し述べた。 米国にとってのレッドラインは、独裁者金正恩が米本土を核攻撃できる能力を持つことだと明言された。米国は強力な核兵器体系を保有しており、当然、北朝鮮を核攻撃する力を持っている。その米国も自国の安全のためには北朝鮮のような狂気の独裁国家が自国を核攻撃する能力を持たせないと宣言しているのだ。 ひるがえってわが国はどうか。すでに北朝鮮は1993年に日本のほぼ全土を射程に入れたノドンミサイルの実験発射を富山沖に向けて行ったが、当時の宮沢内閣はその事実を非公開にして、危機を見ないふりした。それを米国のウォールストリート・ジャーナルは「日本はお得意のダチョウのポーズをとっている。そのような国になぜ米国が核の傘をさしかけなければならないのか」という趣旨の記事が出た。 わが国にとって北朝鮮が米本土を核攻撃できる能力を持ったら、核の傘は機能しなくなる危険が高まる。その意味では、核攻撃は絶対に許してはならないが、一方で独自に核抑止力を整備する議論もすべきだと私は思っている。 一方、金正恩は先述の通り核ミサイル開発を止められない。したがって、今年秋にかけて米朝の矛盾は極限まで高まるだろう。その場合、拉致問題を核と切り離して先行協議できるというメッセージを日本が送り続ければ、米国の軍事圧力をかわすため日本を利用としようとした2002年9月の日朝首脳会談の再現があり得るかもしれないと、息を呑む思いで状況の推移を見守っている。

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    「口先攻撃戦略」金正恩が震え上がったトランプのあるセリフ

    重村智計(早稲田大学名誉教授) 北朝鮮が5月14日に新型ミサイルを発射した。同じ日に、中国の習近平国家主席が世界に呼びかけた経済圏構想「一帯一路」の国際会議が北京で開かれた。ミサイルは中国の威信を汚した。南北首脳会談に積極的な韓国の文在寅大統領もメンツを潰された。北朝鮮は、中韓の指導者をコケにする強気を示したように見える。一方、ミサイル発射に合わせ、米元国連大使と北朝鮮外務省局長の非公式接触も行われたという。弱気に揺れる指導者の悩みが浮き彫りになった。 トランプ米大統領は、北朝鮮指導者の扱いを熟知している。得意の「誇大表現」で「核施設を限定攻撃する」と思わせ、金正恩委員長を追い詰めた。米韓の情報機関は、金委員長が野外で行われる式典に姿を見せるのは、暗殺を心配する金委員長の「影武者」との情報をひそかにリークし、「弱気な指導者」を演出している。 北朝鮮は、「ソウルを火の海にする」などの過激な表現で、周辺大国を不安に追い込み、譲歩を得る手口を得意とする。ところが、トランプ氏がその「口先攻撃戦略」のお株を奪い取ってしまった。「北朝鮮は米国の安全保障にとって喫緊の課題だ」と強調し、金委員長を弱気にさせ、核実験を見送らせたのである。 トランプ氏は、習氏に「核実験をすれば、必ず限定攻撃する」と北朝鮮に伝えるよう求めたという。北朝鮮が中国に「4月20日に核実験を行う」と伝えた、との報道がある。中国は「トランプ氏は核実験施設を限定攻撃する」と強く警告した。4月29日、米ペンシルベニア州出行われた支持者向け集会で登壇したトランプ米大統領(ロイター=共同) 核実験は見送られたが、これでは金委員長の軍へのメンツは丸つぶれだ。4月15日の金日成主席の生誕105周年と、25日の朝鮮人民軍85周年の記念すべき日の前に、核実験もミサイル実験もできず、「トランプと習近平に脅された弱気の指導者」とみられてしまう。指導者に対する軍の信頼が揺らぎ、威信が傷ついた。 だからこそ、軍は指導者に新型ミサイルの実験を求めた。ミサイル発射は4度も失敗していた。北朝鮮では、担当者同士が横の連絡を取るのは禁止だ。軍は、米中首脳会談の内容や韓国大統領の対話策はもとより、米朝接触などの日程を知らされていないため、外交当局の弱腰に反発し妨害する。この平壌のポリティクス(政治)がわからないと、北朝鮮の行動は理解できない。 トランプ氏の「金委員長弱気作戦」の始まりは、2月の日米首脳会談であった。安倍晋三首相は、トランプ氏に北朝鮮がいかに小さな国であるかを説明した。北朝鮮は世界最低の「石油最貧国」で、年間の石油輸入量はわずか50万トンだ。安倍首相は、石油供給を止めれば軍隊は崩壊すると述べ、「対北石油禁輸」戦略に中国を巻き込む必要を強調した。トランプ氏は米中首脳会談で習氏に「対北石油禁輸」を求めた。 信じられないだろうが、北朝鮮の国家予算は公式レートで計算するとわずか80億円、韓国銀行の推計でも約8000億円しかない。消え去るのは国家か威信か…正恩氏のジレンマ 安倍首相は、北朝鮮に言及する際には「軍事オプションを排除しない」との立場を表明するのが効果的だ、とトランプ氏に説いた。トランプ氏をはじめ、米政府高官が「全てのオプションはテーブルの上にある」と述べるのは、安倍首相のアドバイスのおかげだ。 4月の米中首脳会談の前後に、トランプ氏は2度も安倍首相に電話し、中国への「対北石油禁輸」要請を確認した。米中首脳会談の晩さん会の最中、トランプ氏はシリアへのミサイル攻撃を行った。この作戦が平壌を震え上がらせた。 さらに安倍首相は4月27日にモスクワでプーチン露大統領と会談し、拉致問題と北朝鮮問題も話し合った。首相は、プーチン氏にトランプ氏との電話会談を説得して実現させ、日米中露の「北朝鮮包囲網」を作り上げた。 その後、トランプ氏は「北朝鮮は国家の安全保障に差し迫った課題で、外交上の最優先課題」と繰り返しながら、4月27日には「戦争になる可能性はある」と過激な表現を使った。北朝鮮も「破局的結果も覚悟すべき」「先制核攻撃」などの「言葉の戦争」を展開したが、トランプ氏にはかなわない。 北朝鮮の「過激な言葉」を分析なしに報じると、その「弱気」を読み違える。北朝鮮は「敵が挑発するなら」や「中国が制裁強化すれば」などの「留保表現」を忘れない。「米国に限定攻撃させたくない」との思いが痛いほど伝わる。5月14日、ソウル駅のテレビ画面で流れた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の資料映像(AP=共同) 日本や米国、韓国では、米国が「核施設限定攻撃」をしたら北朝鮮の報復攻撃でソウルは壊滅的な打撃を受ける、だから米国は限定攻撃できないと言う。この分析は日米韓側の事情だけの判断で、戦略的分析とはいえない。北朝鮮側の「弱点」を計算に入れていないからだ。 北朝鮮は、核施設などを限定攻撃されても報復反撃はできないだろう。反撃して、全面戦争にはしたくない。全面戦争を継続できる石油がないからだ。 戦争なら北朝鮮は消滅する。だが、報復攻撃しなければ、指導者の権威と威信は失われる。金委員長のジレンマは深い。米国の限定攻撃に反撃しなければ、国内で「弱気」を批判される。米国の脅しに恐れをなしたと噂されれば、指導者の正当性と権威は失われる。 軍部は金委員長に「核実験継続」を迫る。「米国ごときは怖くない」との姿勢を示すためにも、核実験せざるを得ない。核兵器をミサイルへの搭載が可能になるほど小型化するには、なお実験が必要だ。必ず核実験をするだろう。そうなると中国は、石油禁輸に踏み切らざるを得なくなる。 それでも核とミサイルの実験が止まらなければ、トランプ大統領は「独自の対応」に踏み切ると明言する。北朝鮮は、核兵器の小型化と大陸間弾道ミサイル(ICBM)完成について、「最終段階」と明言する。この言葉には、完成すれば米朝交渉をするとの「戦略」が込められている。「もう少しで終わるから…。軍には逆らえないから…」理解してほしい、との指導者の弱気がにじむ。

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    金正恩がひた隠しにする「朝鮮人民軍」の致命的弱点

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト) 4月8日、米太平洋軍のハリス司令官は空母カール・ビンソンの北上を命じた。こうした命令が公開される事自体が極めて異例なことで、米国が北朝鮮に圧力を掛けるための作戦である。 1週間以内に北朝鮮近海に到達することは、ほぼ確実と見られていたが、まさに1週間後の15日、カール・ビンソンがインドネシアのスンダ海峡を通過したと公表された。北上せよとの命令が公表されていたにもかかわらず、この空母は逆に南下し1週間、南シナ海に留まっていた。なぜ直ちに北上しなかったのか? その疑問は4日後に解けた。 19日、米国のペンス副大統領は横須賀に停泊している米空母ロナルド・レーガンの艦上で演説し、北朝鮮を牽制した後、「空母レーガンの復帰は間近だ」と演説を締めくくった。レーガンは昨年11月に横須賀で定期修理に入っていた。期間は約半年とされていたから4月中に定期修理を終え実任務に復帰するわけだが、カール・ビンソンが南シナ海で待っていたのは他でもない、この空母レーガンの復帰だったのだ。米空母「ロナルド・レーガン」艦上でスピーチするペンス米副大統領 =4月19日、横須賀基地(古厩正樹撮影) 先のiRONNAへの寄稿「大都市を一夜で壊滅できる『世界最強』米空母カール・ビンソンの実力」で米空母の凄さを解説したが、基本的に米国の正規空母は、爆薬約2000トンと戦闘攻撃機「FA18ホーネット」50機前後を搭載している。そして戦闘攻撃機を3分に1機の時間間隔で発着艦させられる。 1機が2トンの爆弾を搭載するとすれば、60時間、敵地の爆撃を間断なく継続できる計算になろう。空母が2隻あれば、交代して爆撃を継続でき、日本で爆弾と燃料の補給を受けられるから、半永久的に爆撃を継続できるわけである。 第2次大戦において日本の都市の多くは米軍による空襲を受けた。民間の被害は甚大であったが、実は軍事活動は壊滅していなかった。空襲警報により、防空壕に避難し、空襲が去った後、軍事活動は再開されたからである。 中東におけるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に対する空爆も同様であり、空爆の間は避難し、その後活動を再開するため、IS軍を空爆だけで壊滅するのは難しいのが実情だ。だが、同時に上記2例はいずれも、空爆の間、軍事活動が一時停止することを示していよう。となれば空爆が間断なく続いた場合、軍事活動は半永久的に停止せざるを得ないわけだ。空母2隻体制で爆撃された場合、北朝鮮は反撃の機会すら与えられず、ただひたすら防空壕の中で空爆に耐えているしかないのである。 北朝鮮の金正恩委員長は今年の新年の辞で「ICBM(大陸間弾道ミサイル)試射の最終段階にある」旨を述べた。また1月8日には北朝鮮外交部の声明で、ICBMは「最高首脳部が決心する任意の時刻に任意の場所から発射されるだろう」と述べたが、現時点まで発射された形跡がない。 北朝鮮は2012年に人工衛星の打ち上げに成功しており、ICBMの基本的な技術は持っているはずだが、まだ実験すらしていない。つまり米国に届く長距離ミサイルが実戦配備されるには、今後数年を要すると見られる。北朝鮮の潜水艦は全くの無力 米軍基地のあるグアム島を射程に入れた中距離弾道弾ムスダンは実戦配備されていると見られるが、昨年10月に試射され失敗に終わっている。ムスダンは中国製と見られることから、発射に際しては中国の許可が必要となるはずである。 つまり、安全装置を解除するためには暗証番号を入力する必要があり、その番号はその都度、中国に聞かなければならない。正しい番号が入力されずに発射されれば、発射は失敗に終わる仕組みである。 これは4月16日、29日に発射された弾道弾も同様であり、いずれも中国の許可を得ずに発射を強行して失敗に終わったと見られる。 もちろん、北朝鮮製の弾道弾もあるにはある。例えば3月6日に4発発射され秋田沖に着弾した「スカッドER」は北朝鮮製である。また日本を射程に入れる「ノドン」も北朝鮮製であり、発射に中国の許可を必要としない。5月14日に発射した中距離弾道弾「火星12号」も同様である。 しかし、これらのミサイルは旧式の液体燃料型であり、発射に際してはその都度、数時間かけて燃料注入をしなければならない。つまり発射の予兆を探知されやすく、米軍による攻撃の格好のターゲットになろう。また、壊滅しそこなったとしても日米韓の分厚いミサイル防衛システムに阻まれることは必定である。 そして懸念が広がっている核爆弾の開発状況については、昨年9月に5回目の核実験に成功し、4月以降、6回目の実験を実施するのは確実と見られている。だが、弾道弾に搭載できるように小型化、軽量化するには、まだ数年を要するであろう。ミサイルの発射実験に立ち会う金正恩氏(中央)の写真=(共同) また、北朝鮮の海軍は排水量1700トンのロメオ級潜水艦を20隻程度保有しているが、これは旧ソ連製であり実力としては第2次世界大戦当時の標準的能力しか有していない。現在3500トン級の戦略潜水艦を建造中であるが、まだ完成には程遠い。日米の対潜水艦能力は世界最高水準にあり、これに対して北朝鮮の潜水艦は全く無力であろう。 戦闘機については、北朝鮮はロシア製のミグ23、29を合わせて数十機保有している。しかし、ミグ23は第3世代型の旧式機であり第4世代型のFA18や我が国のF15に太刀打ちできる代物ではない。 ミグ29は第4世代型であるが、パイロットの年間飛行時間が20時間程度と日米の150時間以上と比べて極端に少なく、格闘戦は不可能だ。しかも山口県の岩国の米軍基地には第5世代型のF35が配備されており、ミグ29を一瞬にして壊滅できる実力を誇っている。 北朝鮮の陸軍はT72やT62といった旧ソ連製戦車を多数保有しているが、やはり世代的に古く米国のM1戦車の敵ではない。自走砲として注目されているのが300ミリ多連装ロケット砲だが、制空権を維持できない状態では戦車同様、米軍の戦闘攻撃機の餌食になるしかないであろう。 北朝鮮の特殊部隊は10~20万人いるとされ、北朝鮮軍の中では唯一危惧されるべき存在であるが、これを管理している国家保衛省の上級幹部が最近多数解任されており、有事に際してどれほど動けるのかは不明である。

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    北朝鮮の暴発を恐れたトランプの真意

    海野素央 (明治大学教授、心理学博士) 今回のテーマは「米朝危機、窮鼠猫を噛むか」です。ドナルド・トランプ米大統領は米通信社ブルームバーグとのインタビューの中で、すべての選択肢の中に米朝会談が含まれていることを示唆しました。「適切な条件下であれば」と加えながらも、なぜこのタイミングでトランプ大統領は会談の可能性に言及したのでしょうか。会談を持ち出した意図はどこにあるのでしょうか。本稿では、同大統領の北朝鮮問題における言動の変化の理由について考えてみます。 トランプ大統領の北朝鮮に対する言動に変化が起きました。原子力空母「カール・ビンソン」を中心とした空母打撃群及び原子力潜水艦「ミシガン」の派遣により「力」を見せつけ、軍事行使の可能性をちらつかせてきた同大統領ですが、突然キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長に感情移入をしたのです。「父親が亡くなって政権を引き継いだ時、26か27歳だった。特に将軍といったとてもタフな相手とやりとりしている。すごく若くして権力を継承できた。大勢の人々が権力を取り上げようとしたはずだ」と言うのです。その上で、キム委員長を「賢い人物」と評し、「適切な状況下で会うことは光栄だ」と持ち上げたのです。 一言で言えば、米朝危機においてトランプ大統領は「窮鼠猫を噛む」状況を回避しようとしています。追い詰められて逃げ場を失った北朝鮮が、必死に逆襲するという最悪のシナリオを避けるメッセージを送ったわけです。英語では「追い詰められたシカは危険な敵になる(A stag at bay is a dangerous foe.)」と言いますが、ネズミであれシカであれ北朝鮮が反撃すれば韓国及び日本に甚大な被害をもたらすことは明白です。 前回の記事「トランプループの罠にはまった習近平」で説明しましたように、トランプ大統領はループの罠をキム委員長にも仕掛けています。今回のトランプ大統領の発言には、「意表」を突いた言動をとり軍事的圧力をかけて「イライラ」させる段階から、同委員長をなだめすかして一旦「安心」させる段階に移行する意図があることが読み取れます。 周知の通り、過去に現職の米大統領と朝鮮労働党委員長による首脳会談は開催されていません。歴史的なレガシー(政治的功績)を残す欲求が強くしかも予測不可能なトランプ大統領が、今後米朝会談をもちかける可能性がまったくないとは言い切れません。 環太平洋経済連携協定(TPP)離脱に見ることができるように、トランプ大統領は多国間よりも2国間による交渉を好む傾向があるからです。中国主導の従来型の6カ国協議よりも、米朝による2カ国で核・ミサイル開発放棄の意思表明とキム体制保証の取引を直接行うという選択肢を選ぶ可能性は否定できません。 しかも、トランプ大統領にはエジプトのシシ大統領、トルコのエルドアン大統領及びフィリピンのドゥテルテ大統領といった人権軽視の専制主義的リーダーに好感を抱く傾向があるからです。キム委員長にはこれらの政治指導者と類似点が存在します。仲介役として重要な日本 ただ、ワシントンで下院外交委員会に所属するメンバーにインタビューを行うと、次のように語っていました。 「トランプがキム・ジョンウンと会談を行う可能性はかなり低いです。彼(キム氏)の名声を高めてしまうからです。トランプはそのようなことはしません。会談は最後のカードです」 トランプ政権は上下両院議員を集めて対北朝鮮政策について説明を行っています。この下院議員は軍事行動の可能性について以下のように述べました。 「私はトランプ政権が軍事行動をとる方向に徐々に近づいているという印象を持っています」 同議員の外交・安全保障問題担当のスタッフは、トランプ政権がオバマ政権の「戦略的忍耐は終わった」と繰り返し主張している点に関して、次のように指摘していました。 「トランプ政権の北朝鮮に対するアプローチは、対話と経済制裁を柱とする戦略的忍耐と中味は同じです。トランプ政権は自分たちの北朝鮮に対する政策を戦略的忍耐と呼びたくないのです」 日本は米国と中国の狭間でどのような役割を果たして存在感を示すことができるのでしょうか。2003年8月第1回目の6カ国協議が開催されて以来、日本は中国に主導権を奪われてきました。6カ国協議が停滞している間に、北朝鮮は核・ミサイルの技術を進歩させたというのが一般的な見方です。しかもトランプ政権が中国の北朝鮮に対する影響力に依存しているので、南シナ海における軍事拠点化の問題解決の糸口は一向に見つからないのです。 米議会の動きにも注目です。上院軍事委員会のリンゼー・グラム議員(共和党・サウスカロライナ州)は東アジアに甚大な被害が出ても、米国本土を守るために北朝鮮に対する先制攻撃を行う必要性を主張しました。上で紹介した下院議員は、インタビューの中でグラム上院議員のこの発言を「無謀だ」と非難しましたが、米国本土優先論が米議会及び世論で支配的になることは日本にとって決して好ましいことではありません。 中国がイニシアチブをとる6カ国協議の早期再開ではなく、米朝2国間によるトランプ・キム会談の実現に向けて平和的解決を目指す日本が仲介役となり、両国に働きかけることが極めて重要です。

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    米中戦争、トランプならやりかねない

    北朝鮮攻撃が現実味を増す中、トランプ就任後初の米中首脳会談が実現した。対北緊密協力で「米中蜜月」をアピールするも、トランプの中国認識は強硬論一色である。南シナ海や経済摩擦などをめぐり、急速に冷え込む米中関係は今後どうなっていくのか。トランプ政権の思惑と習近平に迫る危機を読み解く。

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    次の狙いは北朝鮮との秘密交渉か、トランプ流外交で糸口探る

    佐々木伸 (星槎大学客員教授) 米空母艦隊の展開など北朝鮮情勢の緊張が続く中、トランプ大統領は軍事行動も辞さないという強硬姿勢を見せる一方で、金正恩朝鮮労働党委員長との対話の可能性を示唆するなど相手を翻弄する”トランプ流外交術”をいかんなく発揮している。硬軟取り混ぜたこうした発言は一部に、トランプ氏が北朝鮮に秘密交渉を仕掛ける布石ではないかとの観測を呼んでいる。 トランプ氏の北朝鮮に関する発言は6回目の核実験の動きが浮上したころから急増した。4月24日には国連安保理メンバーの国連大使らをホワイトハウスに招いて北朝鮮に強力な追加制裁を科すよう求めたと思うと、核施設などへの先制攻撃についても「そのうち分かる」と軍事力行使を否定しなかった。トランプ大統領=4月20日、ホワイトハウス(ロイター) さらに同氏は月末になって北朝鮮と「大きな紛争」が起きる事態もありうると警告し、「外交的な解決を望むが、非常に難しい」と発言。ホワイトハウスの側近らもあらゆる選択肢を検討中と述べるなど軍事的緊張の激化に拍車が掛かった。最近の弾道ミサイル発射実験に関しても「中国の望みをないがいしろにした」と金委員長への批判を強めた。 しかしトランプ氏はその後のブルームバーグ・ニュースとのインタビューで「適切な状況の下で金委員長と会えれば光栄に思う」と条件付きながら金氏との直接会談の可能性に言及。直前のCBSテレビでも「彼は相当頭の切れるヤツだ。非常に若いのに権力を掌握することができたからだ」などと金委員長を持ち上げて見せた。 だが、この発言の直後のFOXニュースとのインタビューでは「彼は扇動的で恐ろしい。世界の脅威だ」と非難し、上げたり下げたりの発言を繰り返した。トランプ氏のこうした発言の真意は不明だが、北朝鮮側がこのメッセージの解釈をめぐって困惑しているのは間違いない。 トランプ氏は元々、金委員長との直接会談を排除していない。選挙期間中から「話すことのどこが悪いのか。何の問題もない。ハンバーガーでも食いながら話せば良い」などと述べており、会談自体については一貫性がないわけではない。 トランプ・ウオッチャーの1人は大統領の一連の発言について「硬軟のタマを投げて、追い詰められている北朝鮮を困惑、混乱させることが目的。北にとって見れば、シリアを攻撃したように何をやるか分からない“予見不能”な人物の発言だけに余計不気味だ」と指摘する。トランプの狙いは「秘密交渉」 トランプ氏の次の狙いはズバリ、北朝鮮との秘密交渉だろう。軍事的な手段は勇ましいだけで、危険が大きすぎる。仮に米側が巡航ミサイルや空爆などで先制攻撃をしたとしても、核関連施設や弾道ミサイル発射基地、指揮管制センターなどすべての施設を破壊するのは不可能。ましてや地下深くにある施設が多い。金委員長個人の“除去”もうまくいく保証はない。不確定要素だらけなのだ。 その結果、報復能力が相当残り、ソウルは無論のこと、それこそ北朝鮮が恫喝するように東京が火の海になりかねない。報復攻撃を招かなくても、限定的な先制攻撃は核開発を数年遅らせる効果しかあるまい。この点は国防総省が冷徹に分析しており、トランプ氏も日韓の同盟国の意向を無視して軍事行動には踏み切れないだろう。 だからこそ、トランプ氏はあれほど非難をしてきた中国におべっかまで使い、北朝鮮へ圧力を掛けさせようと、いわば“下請け”に出さざるを得なかった。しかし中国がうまく北朝鮮を抑えられるのか見通しが付かないうえ、対中貿易交渉で中国側に主導権を握られる恐れが強く、その代償は大きいと言わざるを得ない。トランプ米大統領が主催した夕食会に出席した中国の習近平国家主席夫妻=米フロリダ州パームビーチ、4月6日(ロイター) トランプ政権の当面の北朝鮮政策は軍事、経済両面で、北朝鮮に対し圧倒的に圧力を掛け、金委員長を交渉のテーブルに就かせ、核兵器開発を放棄させることにある。しかしその前に、交渉入りに向けた環境を整えることが不可欠。そのためには、水面下での秘密交渉が絶対に必要なのだ。 トランプ氏は少人数の側近による手法を好む。秘密交渉はそのアプローチにも合致する。トランプ氏の外交問題の師でもあるキッシンジャー元国務長官がニクソン政権の補佐官(国家安全保障担当)にあった時、電撃的な中国との国交樹立に秘密交渉を仕掛けたのは歴史的な事実だ。 またトランプ氏が尊敬するレーガン元大統領が敵対するイランに当時のマクファーレン補佐官(同)を派遣し、レバノンで拘束されていた米国人人質を解放するために秘密交渉を行ったということもあった。この工作では、マクファーレン補佐官がイラン側に拘束され、国外追放されるというおまけまでついた。 こうした例に学び、中国の北朝鮮に対する緩慢な圧力に業を煮やしたトランプ氏が側近に北との秘密交渉を容認することは十分考えられる。行われるとすれば、恐らくは欧州のどこかになるだろう。その時、日本政府に通告があるのかどうか。米中国交樹立の“ニクソン・ショック”では、日本側に通告されたのは、正式発表の3分前だった。

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    トランプが日本の「戦後」に終止符を打つ

    潮匡人(評論家) これで、ようやく「戦後」が終わる。そう感じさせたアメリカ合衆国大統領選挙であった。それにしてもマスコミ報道は酷い。2015年からトランプを「暴言王」の「泡沫(候補)」と扱い続け、開票当日までクリントンと決め打ちした。 結果が出ると、自らの不明を恥じることもなく、「驚くべき番狂わせ」「土壇場の大逆転」などと報じた。なんのことはない。マスコミの勝手な思い込みではないか。象徴的な一例を挙げよう。2016年11月13日放送の「サンデーモーニング」(TBS系)で岸井成格コメンテーターがこう語った。「トランプにだけはなってもらいたくないという、いい意味での良識が、思い込みが強くて、『隠れトランプ』を見逃したというところが大きかった」 右の「良識」は「常識」とも聞こえたが、どちらにしても、おかしい。日本語としても、コメントとしても……。 しかも右は、米メディアへの批判ないし分析だった。自己批判の脈絡ではなかった。いまなお彼らは〝失敗の本質〞に気づいていない。報道機関たるべき放送局が言論機関に成り果て、真実でも、事実ですらない独善を、自分たちの勝手な思い込みや主義主張を垂れ流してきたことに……。トランプ氏を支持する人々=3月4日、米フロリダ州(ゲッティ=共同) 彼らだけではない。各局みな、自分たちの不明を棚に上げ、いまもアメリカ大統領への揶揄誹謗を続けている。 ちなみに「誰もが予想外だった」(NHK)わけではない。投開票を目前にした2016年11月8日発売の『夕刊フジ』一面は「隠れ支持者500万人」の見出しを大書していた。 当該記事でコメントしたのは私。2015年から「トランプ」と言い続けてきた実績から起用されたのであろう。 だが、多くのメディアは耳を貸さなかった。私を侮蔑嘲笑した「識者」も多い。みな口を拭い、連日のように地上波各局でトランプ政権を語っている。当選の可能性はおろか、「トランプ旋風が吹く」との予測すらできなかった「識者」を、なぜかメディアは起用し続ける。『そして誰もマスコミを信じなくなった』――前著のタイトルは、米大統領選を巡る日米のマスコミ報道に見事なまでに当てはまろう。 余談ながら、土方細秩子(ジャーナリスト)によると、インドで開発されたAI(人工知能)の「MogIA」が、トランプ当選を予測していたらしい。過去にインドでの選挙や米大統領選挙の結果も正しく予測したという(『ハフィントンポスト』)。 デジタル時代の予測や分析は、AIの十八番でもあろう。そして誰もがAIを信じるようになった――。笑い話ではない。仮想現実の世界でもない。これは、いまリアルな世界で起きている現実だ。日米同盟は「正しくない」 以上のマスコミ批判は一部、日本政府にも当てはまる。平成28年(2016年)11月10日付『産経新聞』朝刊一面コラム「トランプ大統領で、いいじゃないか」(乾正人・東京本社編集局長)を借りよう。《日本の外務省はまたも下手を打った。先月から今月にかけて話を聞いた高官や有力OBの誰一人として「トランプ大統領」を予測していなかった。某高官などは「接戦ですらない」とまで断言していた。外務省の楽観的な見通しも後押ししたであろう9月の安倍晋三首相とクリントン候補との会談は、失策としか言いようがない》『産経』コラムは、こうも説く。《トランプ流の「在日米軍の駐留経費を全部出せ」といったむき出しの本音には、日本も本音で向き合えばいいのである。/大統領になったらそんなむちゃな要求はしないだろう、という幻想は捨てなければならない。いよいよ米軍が撤退する、となれば、自衛隊の装備を大増強すればいい。その際は自前の空母保有も選択肢となり、内需拡大も期待できる。沖縄の基地問題だって解決に向かうかもしれない》「トランプにだけはなってもらいたくない」と思い込むTVコメンテーターと「トランプ大統領で、いいじゃないか」と構える新聞人。いずれが本物のジャーナリストなのか。すでに結果は出ている。自称「良識」派らが振りまく「幻想は捨てねばならない」。 佐藤伸行著『ドナルド・トランプ 戯画化するアメリカと世界の悪夢』(文春新書)も、こう警鐘を鳴らす。《トランプにとっては、今も昔も安全保障は「ビジネスの種」なのである。日本に米軍駐留経費を払わせることは、「政治家トランプ」の数少ない政策の中で珍しく一貫している。/万が一、トランプが大統領になった場合、翻意を促すことは至難であろう》 私もそう思う。トランプは政治家ではなく経営者(ビジネスマン)である。だから日米同盟を、「普遍的な価値の共有」(日本政府)ではなく、あたかも貸借対照表(バランスシート)を眺めるように考える。正邪善悪ではなく、利害得失で判断する。だから「フェアでない」(不公平)と非難してきた。 英語の「フェア(fair)」は「公平」とも「公正」とも訳せる。定評ある『リーダーズ英和辞典』(研究社)は「正しい」の訳語を最初に載せている。トランプのいう「フェア(公平)でない」は、「公正でない」「正しくない」「不正」「不当」とも訳し得る。トランプ自身の含意はどうあれ、米国民は後者の意識を共有するかもしれない。それは日本の安全保障にとって重大なリスクとなる。私はそう警鐘を鳴らしてきた。 念のために言えば、日米同盟が米国にとって「フェアでない」のは、日本が集団的自衛権を行使しないからである。正確に言えば、平和安全法制の下でも「存立危機事態」でしか(限定)行使しないからである。にもかかわらず、日本のマスコミはNHK以下「集団的自衛権の行使を可能とする安保法制」と報じ、トランプに「暴言王」のレッテルを貼ってきた。いまなお自分たちが何を間違ったのか、気づいていない。日本もリスクとコストの負担を マスコミが報じるとおり「日米関係に最も影響を与えそうなのが在日米軍の駐留経費問題」なら(2016年11月10日付『朝日新聞』朝刊)――もし単にそれだけの話なら――、日本が全額負担すればいい。たしかに「日本の米軍駐留経費の負担率は74.5%で、ドイツの32.6%、韓国の4.0%と比べてもかなり高い」(同前)。北朝鮮によるミサイルを発射を受けて、記者発表に臨む安倍晋三首相(左)とトランプ米大統領=2月11日、米フロリダ州パームビーチの「マールアラーゴ」(代表撮影) だが、そう政府やマスコミが合唱するとき、日本と違い、ドイツや韓国が集団的自衛権を行使でき、実際に武力行使を伴う集団安全保障措置にも参加してきた事実を忘れている。他方、日本は「小切手外交」「卑怯な商人国家」と揶揄批判されてきた。 あえて自虐的に言えば、全額負担の残りは25.5%。その程度のカネで解決できるなら、日米同盟の見通しは明るい。今後も「小切手外交」と言われ続けることを甘受するなら……。 しかしトランプ候補が、アメリカの同盟国に求めてきたのは「応分の負担」である。防衛費の対GDP比で言えば2%以上。ならば現状の倍額となる。悲しいかな、そうした危機感が政府にもマスコミにも乏しい。 増大する防衛費を何に使うべきか。駐留経費増に充てるのはもったいない。間違いなくトランプ政権は国際秩序への関与を低下させていく。結果、日本周辺にも「力の空白」が生まれ、抑止力は低下する。そのとき何が起きるか。『カエルの楽園』(百田尚樹著、新潮社)が現実になり、日本は地獄と化す。 自衛隊は「矛」を持たず、高価な「盾」ばかり保有している。いまこそ「打撃力」(攻撃力)の保有に踏み出すべきだ。「空母保有の選択肢」(前出『産経』)も真剣に検討すべきである。かねて私が訴えてきた「日本版海兵隊の創設」も決断すべきときではないだろうか。 これまで日米同盟は「矛」の役割を、すなわち「打撃力の使用」を、すべて米軍に担わせてきた。そのリスクとコストを押しつけてきたと言ってもよい。とうてい「正しい」同盟とは言えない。 トランプ政権に求められて駐留費を払い、防衛費を増やすなら、「属国」との誹りを免れない。わが国が本来やるべきだった「正しい」政策を実現実行する。そのとき初めてフェア」な日米関係が生まれ、日本の「戦後」が終わる。  これまで「戦後」と呼べたのは、あれから戦争が起きなかったからでもある。「戦後の終わり」は、新たな戦争の到来ともなり得る。われわれは、そうした覚悟で今回の結果を受け止め、将来を見据えねばならない。関連記事■ 北朝鮮の暴走は第二次朝鮮戦争の前触れだ■ 放送法論争、国民は怒っている■ トランプが大統領になっても日本は日本だ