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    トランプでも金正恩は止められない

    北朝鮮が9日の建国記念日に合わせ、新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する可能性が高まっている。トランプ米大統領は、北朝鮮に対する制裁圧力の強化を国際社会に呼び掛けるが、中露両国の同意を得るのは困難な情勢だ。国際社会はなぜ「狂気の独裁者」を止められないのか。

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    「北朝鮮核施設への先制攻撃」トランプはどこまで本気なのか

    前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授) 9月3日の北朝鮮の水爆実験に対して、米国が受けた衝撃は極めて大きい。言うまでもなく、米本土への北朝鮮の直接攻撃がかなりの現実味を帯びてきたためだ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)に続き、核弾頭に積む水爆まで完成に近づいており、これまで東アジア政策でしかなかった北朝鮮政策は一気に米国自身の安全保障に直結する状況になっている。「核保有国」として北朝鮮を認めるのかどうか、米国としては何らかの大きな対応を一気に迫られる状況になっている。8月11日、ソウル駅でトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が映し出されたニュースの画面を見る男性(AP=共同) トランプ政権の北朝鮮政策のゴールは「北朝鮮の非核化」に他ならない。核を放棄させるため、オバマ前政権の「戦略的忍耐」ではなく、軍事的オプションを常にちらつかせてきた。いわゆる「4月危機」のときに注目された、米韓軍事演習に呼応した空母カール・ビンソンなどの周辺への派遣がこれに当たる。ただ、実際には貿易・経済問題を「取引」材料に北朝鮮に最も影響力がある中国に対して圧力をかけ、北朝鮮を最大限に動かしていくというのが、トランプ流の対中、そして対北朝鮮政策の根本にある。 しかし、4月の米中首脳会談で、トランプ政権から北朝鮮への圧力強化の要請を受けた中国は、北朝鮮に核をあきらめさせるのが難しいことを熟知している。そもそも韓国、日本、そしてその背後にいる米国の緩衝地帯として、北朝鮮は中国にとって地政学的に重要な存在でもある。習近平国家主席にとっては、秋の中国共産党大会を前にできるだけ国内のパワーゲームに集中したいのが本音であり、北朝鮮については抜本的な制裁まで至っていない。むろん、トランプ政権のいらだちも募っている。 また、北朝鮮の核とミサイル開発のペースは速く、ここ半年だけでも米国は北朝鮮側に常に出し抜かれてきた。北朝鮮としては、ミサイルも核弾頭に搭載する水爆もほぼ完成したため、怖いものはない。米国に対して、交渉の席につかせ、何らかの条件と引き換えに無条件に核保有国として認めさせたいというのが北朝鮮の狙いだろう。限定攻撃なら日韓への報復は必至 トランプ政権としては北朝鮮の非核化どころか、核開発の凍結もなかなか難しくなっており、かなりの手詰まり感がある。いま議論されている産業や工業の「血液」となる石油の禁輸がどれだけ可能なのかさえ分からない。他の経済制裁を進めても、どれだけ効果があるのか未知数である。そうしているうちに、既に米本土に到達する核弾頭付きのミサイルも完成してしまうかもしれない。トランプ政権に残された時間は実のところ多くはない。 この手詰まり感の中、外交的な選択肢ではなく、強硬策を主張する声も米国内では目立ちつつある。報復の可能性が極めて低くなるようなことが想定されれば、先制攻撃を決断し、北朝鮮の核施設をたたいていく選択肢もあり得ないわけではない。最高司令官であるトランプ大統領が外交・安全保障政策について全くの素人である分、何らかの思い切った強硬策に出てくる可能性もゼロではない。 ただ、もし限定的な攻撃を行ったならば、北朝鮮から韓国、日本という同盟国への報復はやはり避けられないだろう。戦闘には必ず不確定要素がある。いわゆる「戦場の霧(フォッグ・オブ・ウォー)」である。北朝鮮の報復攻撃を100%抑えることができるかどうかは分からない。もし戦争になれば「米国史上最悪の戦争になる」という指摘もある。記者団に話すマティス米国防長官(左)とダンフォード統合参謀本部議長=9月3日、ワシントン(AP=共同) トランプ政権の安全保障政策は、マティス国防長官やマクマスター国家安全保障担当補佐官、ケリー首席補佐官らの軍人出身者がプロとして支えてきた。上述のようにトランプ氏は外交・安全保障政策の経験はないが、本人もそれを自覚しており、高官たちの意見を比較的そのまま採用してきた。戦闘の現場をよく知っている「外交・安全保障のプロ」たちにとって、報復が考えられる不確実な先制攻撃に踏み込むだけの米国の諜報(ちょうほう)活動がどれだけ整っているかが、今後の大きなポイントとなるであろう。 先制攻撃とともに考えられる米国の対応は、おそらく二つある。一つは何らかの条件を付けた上で北朝鮮の核保有を容認するか黙認するかという選択肢である。そして、もう一つが核保有という現実に即して、同盟国である日本や韓国の核武装を推進し、米国と協力することで北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るという選択肢である。「核容認」で大きく揺らぐ日米安保北朝鮮による6回目の核実験を受け、「0」にリセットされた地球平和監視時計の「最後の核実験からの日数」=9月3日午後、広島市の原爆資料館 北朝鮮の核保有を容認、または黙認するという選択肢については、オバマ前政権で国家安全保障担当補佐官だったスーザン・ライス氏のニューヨーク・タイムズへの寄稿(8月10日)が大きな波紋を広げている。北朝鮮に対する強硬策を取った場合、全面的な戦争が不可避であるため、それよりも北朝鮮の核保有を認めることも視野に入れた方がいいという議論である。同じくオバマ前政権で国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏も同様の指摘をしている。 北朝鮮の核を容認、もしくは黙認する代わりに、日本などの同盟国、あるいは米国に向けた挑発行為の停止、テロリストへの核拡散の徹底した防止などを条件に米国は切り出すのかもしれない。 とはいえ、もし北朝鮮の核を黙認すれば、日本にとっては米国の「核の傘」が極めて弱体化する。「有事にどれだけ日本を助けてくれるのか」という戦後何十年も続いてきた日米安保体制の、そもそもの議論が再び沸騰するのは必至である。それもあって、トランプ政権はライス氏の指摘をことあるごとに否定した。 一方で、「日本や韓国に核を持たせるなどの対抗措置を取った方が賢明」という主張も米国内で安全保障のリアリストらから指摘されるようになっている。核武装やさらなる迎撃システムの強化を通じ、日米韓で北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るというのがその狙いである。 しかし、唯一の被爆国である日本が核を持つという、国論を二分するような選択が本当にできるのかどうか、筆者にはまだ判断がつかない。 9月3日に行われた北朝鮮の「水爆実験」の第一報を筆者は学会報告と調査のために訪れたサンフランシスコで聞いた。この際、筆者が現地の専門家に聞いた限り、北朝鮮の核容認論と日本、韓国の核武装推進論のいずれもあったが、限定攻撃に対する肯定的な意見はほとんどなかった。これをみても、現時点では北朝鮮に核放棄を求めるのは、かなり難しくなっているのが分かる。 北朝鮮の「国家生存の柱」と位置付けられてきた核開発。それがまさに北朝鮮の国家を温存することにもなる。その意味では、北朝鮮の思惑通りに事が進んでいると言えなくもない。

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    トランプが金正恩「斬首作戦」を決断する準備は整った

    が核実験をするからと? 「次の日になって聞きました」(中国東北部の警察官) 中国は通告があったことをアメリカに伝えるとともに、北朝鮮に対し、「核実験を強行すれば中朝国境を長期間にわたって封鎖する」と警告したということです。 「中国は『北朝鮮に核実験を自制するよう求めた』と伝えてきました。さらに『核実験を行った場合には独自制裁に乗り出す』と北朝鮮に通告したとも中国は伝えてきました」(ティラーソン米国務長官、先月27日) 核実験の通告についてはアメリカから日本にも伝えられ、警戒態勢が取られましたが、結局、20日に核実験は行われませんでした。 中国の言う封鎖の対象は陸の国境だけでなく海も含まれていて、食料や生活物資なども含む中国から北朝鮮への物流が全て止まる。最後の賭けだった核実験演説する中国の習近平国家主席=9月3日、中国福建省(共同) 今回の実験の威力は日本防衛省の推計で70キロトンだというから、5月に私が入手した情報と符合する。中国は石油禁輸や国境封鎖など超強硬措置をとるだろう。北朝鮮経済は中国の影響下にある。生活物資の大部分が中国製品だ。それが全面的に遮断されれば餓死者が大量発生することもありうる。また、北朝鮮軍人の軍服、軍靴などもみな中国製だ。中国が国境を封鎖すれば軍も維持が困難になる。なによりも北朝鮮で使われている石油の大部分が中国から輸入したものだ。一部ロシア産もあるが、国連安保理で禁輸が決議されればすべて止まる。それを分かっていながら金正恩は最後の賭けとして核実験を強行した。 9月2日、東京新聞の北京特派員、城内康伸氏が書いた記事は、金正恩が石油禁輸制裁実施を織り込み済みで、それに備えて100万トンの石油備蓄を命じていたことを伝えた。 北朝鮮が今年4月ごろ、原油や石油製品の年間輸入量の半分から3分の2に相当する石油100万トンを備蓄する目標を、金正恩(朝鮮労働党委員長がトップを務める国務委員会で決定した、と北朝鮮関係者が明らかにした。核やミサイル開発に対する国際社会の制裁強化で、石油禁輸や輸入制限が拡大する事態に備えたとみられる。 この関係者によると、政府機関の閣僚専用車など公用車に対し、一カ月当たりのガソリン供給量が制限されているという。関係者は「幹部級の公用車が通勤に使うだけで精いっぱいの状況も起きている」と指摘。不足分は民間業者から調達するという。首都・平壌では4月、給油所の営業停止が突然広がり、深刻なガソリン不足が発生し、価格が急騰。価格上昇はいったん沈静化したが、別の北朝鮮消息筋によると、最近は再び値上がりしているとされ、北朝鮮当局が市場への供給を制限している可能性がある。金正日だったら訪中していた金正恩朝鮮労働党委員長 金正恩は焦っている。彼が優秀な戦略家だと評する向きもいるが、私はそうは思わない。金正日が生きていれば、トランプに軍事挑発をかける前に訪中して中国共産党と表面上の和解をするだろう。金正日は死ぬ直前の2010年から11年にかけて3回も訪中して後継体制への支援を懇願している。米国と中国の両方を敵に回す外交は戦略家がすることではない。 彼の足元も不安定だ。韓国情報関係者によると、労働党中央の幹部や国家保衛省の幹部が頻繁に連絡してきて、自分が韓国に亡命した場合の待遇について真剣に質問するという。夏の水不足のためこの秋を米とトウモロコシの収穫はかなり悪いと予想され、来年春には餓死者が出るのではないかという声が北朝鮮内部から聞こえてくる。 核ミサイル開発と独裁体制維持に必要な外貨を管理している労働党39号室の秘密資金が相当枯渇している。7月の国連制裁で鉱物資源と水産物の輸出が禁止されたため、年間10億ドル程度外貨収入が減少する。このままでは外貨不足により独裁統治が揺らぐかもしれない。そこまで追い詰められたので、金正恩が大陸間弾道ミサイル(ICBM)と核実験という持ち札を全部切って、トランプとの談判を持とうとしてきたと私は見ている。 トランプ大統領は米国本土まで届く核ミサイルを持たせた大統領として歴史に名を残すことは絶対に避けたいはずだ。徹底した対北経済封鎖、それに同調しない中国とロシア企業には2次制裁で国際金融秩序から追放する措置を取るだろう。それでも金正恩は核ミサイルを放棄しないだろうから、軍事行動、すなわち金正恩を除去する「斬首作戦」の準備を進めるはずだ。 米国の軍事圧力は戦争直前まで高まるだろう。金正恩は自分の命を守るため、対米譲歩をする可能性が高い。わが国は米国に対して経済制裁、軍事攻撃準備に全面的に協力しつつ、金正恩が命乞いをしてきたとき、核ミサイル放棄だけでなくすべての拉致被害者の帰国なしには対北圧力を緩めてはならないと全力で働きかけるべきだ。金正恩からすれば核ミサイルは国家戦略問題だが、拉致問題は戦術問題だから、2002年9月のように米国の軍事圧力を交わすために日本のカードを使うこともあり得る。 日本は米国と足並みをそろえて対北圧迫に全力を尽くしながら、最後の交渉で拉致被害者全員帰国を対北要求のデッドラインとして死守しなければならない。いよいよ正念場だ。

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    なぜトランプは「白人至上主義」を政治利用するのか

    中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト) 人権と平等を主張する民主国家のアメリカで、なぜ今さら「白人至上主義」なのかと疑問に思っている日本の読者は多いのではないかと思う。しかし、白人至上主義や人種差別はアメリカ社会に深く根差した意識である。 これも日本人には信じられないことだが、南北戦争後の1865年に設立された暴力的な白人至上主義者の秘密結社「クー・クラックス・クラン」(KKK)が依然として存在し、活動を行っている。KKKは「反黒人」に留まらず「反ユダヤ人」、「反カトリック」を主張しており、今でもこうした白人至上主義者が活動するアメリカ社会の深層に何があるのだろうか。1月16日、米国の公民権運動指導者、故キング牧師の長男キング3世(右)と面会し、握手したトランプ次期米大統領=米ニューヨーク(ゲッティ=共同) 1960年代の公民権運動以降、様々な差別用語は「封印」された。黒人や少数派の権利を擁護し、差別を排除するために、公民権法や投票法が成立し、法的に少数派の人々の権利が擁護されるようになった。それと同時に社会意識を変えるために様々な対応策が講じられてきた。 その一つに「ポリティカル・コレクトネス」という考え方がある。日本語に訳せば「政治的に正しい言葉使い」という意味になる。政治や社会で差別用語を使うと、ポリティカル・コレクトネスに反すると社会的に厳しく糾弾された。 だが、言葉を使わないからと言って差別意識が払拭されるわけではない。あくまで心に思っていること、本音を直接口に出さないということに過ぎない。そうした社会的雰囲気の中で人種的な差別意識や白人至上主義的な意識を持っている人は、長い間、息苦しさを感じていたのだ。 こうした中で、社会的タブーを破ったのが、昨年の大統領選で勝利したドナルド・トランプだった。選挙運動中、トランプは平気でポリティカル・コレクトネスに反する言葉を使った。演説の中で差別用語を意図的に使い、そして「ああ、これはポリティカル・コレクトネスに反する言葉だね」と笑って見せた。 差別用語禁止に不満を抱いていた保守派の人々は喝采した。トランプは社会的タブーを破ることで、一部の保守派の人々の間で人気を博したのである。 さらに今回の大統領選挙で重要な役割を演じたのが「オルト・ライト」と言われる白人至上主義者である。彼らは公然と白人至上主義を主張し、反ユダヤ主義を唱え、ネオ・ナチの極右グループと一体化するグループだ。その代表的論者がスティーブン・バノンで、彼は大統領選でトランプ陣営の選挙責任者に就き、政権発足後は首席戦略官としてホワイトハウス入りしている。根が深い米国の白人至上主義8月11日、米バージニア州シャーロッツビルの大学構内をたいまつを持って行進する白人至上主義者ら(ゲッティ=共同) バノンは、貧しい白人の利益を代弁して排外主義を主張し、ワシントンのエスタブリッシュメントを批判する右派ポピュリズムの論陣を張っていた。共和党主流派に対抗するトランプにとって、バノンの右派ポピュリズムは共和党の大統領候補の地位を獲得するための有力な理論的主柱を与えた。 しかし、シャーロッツビル事件で、事態は大きく転換し、改めて白人至上主義が大きな政治問題となった。南北戦争における南軍のリー将軍の銅像撤去をめぐって、奴隷制度を支持し、南軍の敗北を認めない白人至上主義者と反対派が激突、死者が出る事態となった。 白人至上主義者は反ユダヤ主義者でもあり「ユダヤ人が自分たちにとって代わることは許さない」と叫びながら行進した。そうした状況の中で、トランプは「ネオ・ナチも反ネオ・ナチも両方とも悪い」と発言、それが白人至上主義者やネオ・ナチと反ユダヤ主義を容認するものだと厳しい批判が浴びせられた。 だが、白人至上主義の根はもっと深い。アメリカ社会は矛盾に満ちた社会である。トーマス・ジェファーソン(第3代大統領)は独立宣言で「すべての人には奪うことができない権利がある」と高邁な理念を主張した。だが、建国当初から投票権を認められたのは財産を持つ白人男性だけだった。 女性もネイティブ・アメリカンも、当然ながら奴隷にも市民権は与えられなかった。建国に際してアメリカ経済を支えていた奴隷制を正当化する根拠が必要であった。その根拠になったのは、黒人は「劣等民族」であるという考え方である。その考え方は独立戦争のプロセスでアメリカ国民に広く受け入れられるようになる。また、多くの学者が、科学的に黒人の劣等性を証明する研究成果を発表したほどだ。 それをさらに強化したのが社会的ダーウィン主義である。特に社会学者、ハーバート・スペンサーの影響を受け、適者生存の原理は人種にも適用できると主張された。それが、黒人の隔離政策に具体的に適用された。 さらに南北戦争で奴隷制度は廃止されたが、それに代わって登場したのが人種差別の強化であった。南部は一時政府軍の支配下に置かれたが、南部復興が終わり、政府軍が撤退すると、南部連合の指導者が相次いで復権し、憲法修正で市民権を得た黒人の差別が始まった。 これは南部復古と呼ばれ、南部は南北戦争以前の状況に戻っていく。KKKもそうした流れの中で結成される。南部の白人は、奴隷解放は間違いだったと主張した。それは現在でも色濃く残っている。試金石でつまずいたトランプ トランプ支持者のうち20%以上の人々は「奴隷解放宣言は間違いであった」と答えている。少数であるが、そうした考えを持つ人々が存在するのが、アメリカのもう一つの現実である。 もう一つ付け加えておく必要がある。それは欧米社会における反ユダヤ主義である。その差別意識は、アメリカにおける黒人に対する差別意識とは根が違うが、今でもアメリカ社会に根強く残っている。アメリカ人の私的な場において反ユダヤ的な会話が出てくることは珍しくない。筆者もそうした状況を直接経験している。 そして今回のもう一つの特徴は、白人貧困層のいら立ちと焦燥感がピークに達していたことである。アメリカは「白人社会」である。実際、人口の大半を白人が占めている。だが、白人が最大多数の地位を失うのは時間の問題だ。 たとえば、テキサス州では10代で見れば、すでに白人は少数派に転落している。増え続ける非白人の数に、多くの白人は危機感を抱いている。それに白人貧困層の経済的な没落が非白人に対する反発に拍車をかけ、今回の大統領選挙で一気に表面化した。8月22日、米フェニックスの支持者集会に参加したトランプ大統領(AP=共同) 排外的な「アメリカ・ファースト」のスローガンは、彼らを魅了した。白人貧困層は長い間、政治的に忘れられた存在であったが、その声を拾い上げ、不満を吸収したのがオルト・ライトとトランプであった。 トランプは選挙運動で白人至上主義を利用することができたが、大統領に就任したことで状況は変わった。シャーロッツビル事件でのネオ・ナチを容認するかのごとき発言は、トランプにとって致命的なダメージを与えかねない。 本音と建前は別にして、アメリカの大統領には高い道徳性が求められる。その試金石が人種差別や性差別に対する考え方である。トランプ大統領は、その試金石で大きく躓(つまず)いたことは間違いない。

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    「ようやく本音を言える」トランプで勢いづく米国の白人至上主義

    佐藤美玲(ジャーナリスト) 「バージニアほど美しい場所は、ほかにない」  そう言うアメリカ人に、ときどき出会う。何度か旅をして、確かにそうかもしれない、と私も思う。 ワシントンDC方面からシャーロッツビルへ抜けるルート15沿いには、ワイナリーや果樹園が多く、まさしく「ローリングヒル(緩やかな丘陵)」と呼ぶのがぴったりな風景が続く。花が咲き、馬が駆け、さざめくような美しさだ。 そんな景色に見とれつつ、私は「桜の木の下には死体が眠っている」というフレーズを思い出す。アメリカの南部には、独特の優美さと豊かさがある。その美しさの下に、ドロドロと暗く醜い歴史が横たわる。そして、断固としてその闇を見まいとする空気が、土地と人を覆っている。バージニアに限らず南部を旅すると、いつも私はその激しい対比に胸が重くなる。 8月10日夜、シャーロッツビルにあるバージニア大学のキャンパスに、白人至上主義者が集結。たいまつを掲げ、ナチスのスローガンを連呼して練り歩いた。翌日、抗議に集まった群衆に向かって白人男性の運転する車が激突し、白人女性のヘザー・ハイヤーさんが死亡、多くが重傷を負った。トランプ大統領は、白人至上主義者らを即座に非難せず、抗議に集まった側にも責任があると強調。生中継のカメラの前で激高し、ネオナチにも善人がいる、などの擁護発言を繰り返した。8月15日、米ニューヨークのトランプタワーで記者団に語るトランプ大統領(AP=共同) すべてが異常で異様だった。「起きるべくして起きた」とは言いたくない。ただ、「驚いた」と言うのはナイーブすぎる。特に、トランプの対応は「想定内」だった。 アメリカの選挙では「怠け者で危険な黒人」「不法移民のメキシコ人犯罪者」といったマイノリティーのステレオタイプを悪用して、恐怖をあおって票を集めるのは常套手段である。「アメリカの価値観、自由と富を享受するのに値しない人々がいる」というメッセージは、保守派と白人の共感を呼びやすいからだ。 トランプは「オバマ後」の白人の不安を巧みに操り、偏見に満ちたデマを流し続けた。女性やマイノリティーへの暴言も相次いだが、白人有権者の大半は「それにもかかわらず」もしくは「それだからこそ」と、織り込み済みでトランプに投票したのである。白人至上主義者たちも、「本音を言える」とタブーを排除してくれたトランプを支援した。白人エリートの社会的病巣 彼らは、過去数十年間で最大規模となった集会の場所に、なぜシャーロッツビルを選んだのか? そもそもの目的は、南北戦争で南軍を率いたロバート・E・リー将軍の騎馬像が、人種差別の象徴であることを理由に市の公園から撤去されるという決定に抗議するためだった。トランプの大統領就任で勢いづき、白人の存在感を示したいという思惑もあっただろう。しかし、それ以上にシンボリックな意図があったのではないか、と私は思う。米バージニア州シャーロッツビルの解放公園にあるロバート・E・リー将軍の像 冒頭で「死体が眠っている」と書いたのは、あながち間違いではない。この辺りには、南北戦争の古戦場が無数にあるからだ。 バージニアは南部連合の本拠地で、首都がリッチモンドにあった。今はワシントンDCのベッドタウンとして、ペンタゴンをはじめ重要な国家機能の多くを抱えているから、バージニアを北東部だと勘違いしている人は多いかもしれない。当時は、いわゆる深南部などよりはるかに白人優越意識が強く、奴隷制を堅守する南部の心臓だった。 今も戦闘を再現するイベントが各地で開かれる。私は4年前、シャーロッツビル近くの古戦場で取材したが、軍服など完璧な「コスプレ」姿で野営をし、3日かけて大砲を撃ち合う壮大なイベントだった。南部連合国旗があちこちに翻り、最後は南軍の勝利を祝って解散となった。 また、バージニアはどの州よりも多い、8人の大統領を輩出している。初代ワシントンから5代目まで、アダムズを除いて全員がバージニア出身だ。シャーロッツビルの近くには「建国の父」と呼ばれるジェファーソンと、マディソンの大邸宅がある。2人とも大勢の奴隷を所有していた。 白人至上主義者がたいまつを手に行進したバージニア大学は、ジェファーソンが創立した。公立校ではあるが、裕福な白人家庭の子供が通うステータス・シンボルで、エリートの社交場だ。最近は、非白人の学生や留学生が増えてきた。 バージニア州の人口構成も変わった。特に州北部で、都会志向のリベラルな若者や移民が増えた。2008年の大統領選挙で、1964年以来、民主党候補として初めて、それも黒人のオバマがバージニア州で勝利したことは、激しい差別を体験してきた黒人たちにとりわけ感慨深く受け止められた。 シャーロッツビルも、55歳以上では白人が7割以上を占めるが、18歳未満だと白人と非白人の構成率はほぼ半々になり、一変する。建国以来の「レイシャル・オーダー」(人種の秩序)の崩壊が、実感できる。 ダウンタウンには、古い建物を改装したしゃれたレストランやカフェが並び、夜遅くまでにぎわう。その繁華街が、今回の「車両テロ」の現場となった。 事件後、前述のリー将軍の騎馬像には、急いでカバーがかけられた。愛国心が覆い隠したもの 南部連合の栄光をたたえる記念碑や指導者の像は、全米各地に1000以上あると言われる。バージニアは最多で200を超える。 碑のほとんどは、南北戦争終結から何十年も経過した1910〜1920年代と、1950〜1960年代につくられた。南部でジム・クロウと呼ばれる人種隔離政策が本格化し、黒人に対する投票権の剥奪やリンチがピークに達した時期、そして公民権運動が盛んになった時期だ。白人至上主義の「クー・クラックス・クラン(KKK)」が台頭し、活発化した時期とも重なる。 こういった記念碑などの南部のレガシーは郷土愛や愛国心にすり変えられ、軍人や政治家は美化された。奴隷制、南部の繁栄を支えた黒人の存在は、そこには描かれない。そのせいで、南北戦争は奴隷制と関係がなかった、と信じ込んでいる人は少なくない。だから「人種差別でも暴力でもない、自分たちのヘリテージ(遺産)を守って何が悪い、破壊や撤去は祖先への侮辱だ」という主張になる。 一方、黒人は長年、抑圧のシンボルである記念碑や、州庁舎にはためく南部連合国旗の撤去を訴えてきた。自治体側のかたくなであった態度が変わり始めたのは、2年前だ。 サウスカロライナ州チャールストンで、白人至上主義に傾倒する男が、黒人教会で乱射し、9人を殺害した。容疑者が南部連合国旗と一緒にうつる写真が公開され、激しい抗議を受けて、各地で撤去や見直しが検討された。前述のシャーロッツビルのリー将軍の騎馬像も、その一例だ。 チャールストンでの追悼式、オバマはスピーチの途中で、黒人解放運動の代名詞とも言える賛美歌「アメイジング・グレイス」を口ずさみ、参列者全員が手を携えての唱和へと導いた。理不尽な暴力と厳しい抵抗の歴史の中で培われてきた黒人の魂と、希望に触れた瞬間だった。8月12日、米バージニア州シャーロッツビルで、ヘルメット姿の白人至上主義者ら(手前)と衝突する反対派(上塚真由撮影) トランプは、まだシャーロッツビルを訪れていない。「われわれの美しい像や記念碑が撤去され、すばらしい歴史と文化から切り離されてしまうのは悲しい」というツイートはした。「Our」という単語を使ったが、それは誰のアメリカなのか? 今の大統領には、人種分断の「癒やし」の役割を担う意思はなく、その資格もない。 白人至上主義者たちは「成功」に勢いづいているようにも見える。保守系ニュースサイトでは、事件後、いつ禁止されて買えなくなってしまうかわからないという不安から南部連合国旗の注文が殺到しているという報道もあった。差別を許さない、という対抗デモも、一層激しくなるはずだ。 暗く醜い「闇」から目をそらしてはいけない。そのことにより多くの人が気づいて行動しない限り、悲劇は何度も起きる。

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    トランプは「差別主義者」か

    米南部バージニア州で起きた白人至上主義者と反対派の衝突をめぐり、トランプ大統領の差別容認とも受け取れる対応に混乱が広がっている。当の本人は「私の発言をきちんと伝えなかった」とメディアに責任転嫁したが、差別の意図は本当になかったのか。米国を揺るがすトランプ発言の真意を読み解く。

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    白人至上主義者たちにハメられたトランプの「限界」

    前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授) アメリカ南部バージニア州シャーロッツビルで8月11日から12日にかけて白人至上主義者のデモと反対派の衝突が起こした波紋は、これに対するトランプ大統領の対応の拙さもあって、一向に収束する気配がない。19日にはボストンで「言論の自由」を主張する若者らによる大規模な集会が開かれ、差別主義者との関連が指摘されたため、数千人規模の反対派が抗議するなど、対立はさらに拡大していく可能性もある。8月14日、米ニューヨークのトランプタワー付近で、トランプ大統領を批判するプラカードを掲げ抗議する人(ゲッティ=共同) 白人至上主義者のグループであるクー・クラックス・クラン(KKK)やネオナチはアメリカ社会の暗黒部を象徴するようなグループである。KKKは有色人種を夜に襲い、数々のリンチを繰り返してきた。ネオナチもユダヤ人虐殺を行った「ナチス」から名付けられているのは言うまでもない。 KKKやネオナチというアメリカ社会の中で蛇蝎(だかつ)のように嫌われてきた白人至上主義者グループに対し、その主張に反対する人たちを同列に扱うトランプ大統領の「喧嘩両成敗」という主張は、アメリカ社会では受け入れがたいことである。 トランプ氏もそのことは十分理解しているはずであろう。昨年の選挙戦中、白人至上主義団体のKKKのデューク元最高幹部との関係をきっぱりと否定していた。これは「白人至上主義者」のレッテルを張られたくないために他ならない。 今回の事件については、トランプ大統領の言葉が二転三転した。事件直後の12日の記者会見でトランプ大統領は「憎悪や偏見、暴力を可能な限り強い言葉で非難する」などとあいまいな形で言葉を濁した。白人至上主義者を名指しで非難しなかったという批判が大きくなったため、14日には「人種差別は悪だ」とした上で、KKKやネオナチという名前を挙げ、白人至上主義者などを名指しで非難した。 しかし、翌15日の会見では一転して「白人至上主義者らと反対派の双方に非がある」と「喧嘩両成敗」に至っている。「双方に非がある」と3回目の記者会見で発言は、原稿を読み上げた前日の会見とは異なり、アドリブであった。ただこの発言はあまりにも想定外でケリー首席補佐官ら近くの政権関係者がうつむいてしまった。理解に苦しむ「肩入れ」はなぜ起きたのか ではなぜ、そもそもなぜトランプ氏が白人至上主義者に肩入れしてしまったのだろうか。はっきり言って理解に苦しむところだが、誤解を恐れずに言えば、おそらく「自分がドナルド・トランプであり続ける」ことにこだわったように見えて仕方がない。米ホワイトハウスで、遮光眼鏡などを着用せずに日食を眺めるトランプ大統領=8月21日(ロイター=共同) 「自分がドナルド・トランプであり続ける」とは何か。それは、没落していく白人ブルーカラー層の見えない怒りをすくい上げ、それを体現することに他ならない。政治のアウトサイダーであり続け、既存のエスタブリッシュメントの破壊者でありつづけることだ。昨年の選挙戦でレトリックそのものである。 よく知られているように、執務室に飾ってあるアンドリュー・ジャクソンがトランプ大統領のロールモデルである。農民出身のジャクソンは1829年、貴族出身でない最初の大統領に就任し、大衆の意見を代弁した。腐敗した中央銀行を停止させ、官僚を追い出すために、自分が省庁の主要職を任命する、今の政治任命につながる猟官制度を導入した。大衆に支えられた大胆な改革者ではあったが、その一方でインディアンには徹底的に迫害を加えた。 「敵と味方」という二元論的な見方もトランプ氏そっくりだ。「ジャクソニアン・デモクラシー」は大衆民主主義という脅威に支えられていた。トランプ氏は現在の大衆民主主義を代弁し、「トランピアン・デモクラシー」を実現させるというのが自分の使命と考えているのかもしれない。それが、南北戦争の南軍司令官ロバート・リー将軍の銅像の撤去計画に反対することを名目で集まった人々の声に反応し、これを擁護する発言に出たのかもしれない。 しかし、もしそう考えたのなら、白人至上主義者がトランプ氏をうまくはめてしまった、といったら言い過ぎだろうか。というのも、リー将軍の銅像の撤去計画に反対することを名目で集まったといっても、歴史問題にすり替えた武装集団運動であった側面が強いためである。全米から銃や盾を持って、小さな街に集結すればそれは大きな騒ぎになるのは当たり前である。集まった人たちの中には純粋に南部の歴史を守ろうと考えた人もいたかもしれないし、武装しなかった人もいただろう。しかし、激しい乱闘の多数派の中で目立たず、最初から騒ぎを起こそうと思った連中にとって、格好のPRの機会となってしまった。限界を露呈した「アメリカの理念」 今回のデモをめぐる騒動を一体、誰が喜ぶのだろう。そもそもトランプ氏にとってもどう考えてもマイナスである。詳しくは今後の世論調査の結果を待たないといけないが、今回の白人至上主義者のデモもそれに反対するデモの「双方に非がある」という今回のトランプ氏の発言は今後の支持層の変化を生んでしまうかもしれない。 トランプ政権は政治的分極化(2つのアメリカ化)を象徴するように、リベラル派からは蛇蝎のように嫌われ、保守層からは極めて高い人気を集めている。就任して200日(8月7日)前後の各種世論調査では、トランプ氏の支持率は全体では4割を切ってしまうほど非常に低いが、共和党支持者内のトランプ氏への支持は7割を超えており、その数字は就任直後からほとんど落ちていなかった。ロシアゲート疑惑でもびくともしていない。 しかし、保守層の中の大きな部分を占める「小さな政府」層からも「宗教保守」層からもKKKやネオナチのグループに対する嫌悪感はすさまじく、奇妙なまでに強固だった支持基盤も崩れていく可能性もある。特に、「小さな政府」層については反応が素早く、白人至上主義者擁護ともとれるトランプ氏の発言で、産業界のメンバーなどからなる助言組織のいくつかがすでに廃止に追い込まれており、経済界との溝ができてしまった。米南部バージニア州シャーロッツビルで起きた白人優位主義のグループ(左)と反対派の衝突=8月12日 さらに大きいのが、「差別的な白人至上主義は絶対に容認してはいけない」という反差別や平等主義といったアメリカの理想が今回の事件で大きな曲がり角を迎えてしまっている点である。「反差別」が「白人至上主義」と同列に扱われてしまうきっかけになってしまった。 騒動の渦中に辞任した首席戦略官・上級顧問のバノン氏は、今回の騒動について「(人種などを政治的争点にする)アイデンティティー・ポリティクスには飽き飽きした」と叫んだ。アメリカの理想そのものを相対化する口実を見事に与えてしまったように思える。一方で、バノン氏は、自分が選挙で動員したはずの、デモに参加した白人至上主義者たちを「道化師」とさげすんでいる。何とも冷徹な戦略家である。 いずれにしろ、今回の騒動はトランプ氏の足を引っ張るだけでなく、アメリカの理念の限界も露呈させている。8月22日夜、アリゾナ州フェニックスで行われたトランプ氏の昨年の選挙運動を思わせる形式の支持者だけを前にした演説会では、 「メディアが真意をきちんと伝えなかった」という、いつものメディア批判とともに、 支持者を意識してさらなる分裂をあおるような言葉を連発した。いつもながらのトランプ節にあきれて言葉も出ない。 その意味で今回の「白人至上主義」事件については、今後のアメリカ社会を大きく変えていくようなものになるかもしれない。

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    トランプが人種差別で「どっちもどっち論」を繰り返したのはなぜか

    トンやジェファソンなど奴隷所有者であった歴代大統領をも断罪すべきなのかと問題提起を行っているのです。アメリカの歴史にとって、建国の父である人物と、国の解体を目論んだ将軍を同列に比較することは暴論でしょう。ただ、安易な歴史糾弾論に違和感がある有権者は多いし、これはより幅広い穏健な保守層までを取り込める論点ではあります。 少々乱暴であることは承知の上で、日本の歴史に置き換えてみると分かりやすいかもしれません。例えば、維新の元勲の筆頭であった西郷隆盛は、現在の価値観で捉えれば征韓論を唱えた植民地主義者であり、西南戦争で政府への反乱を主導しました。自害せずに、時の政府に捕らえられたならば、当然、国家反逆の罪に問われたであろう、罪人です。けれど、日本人の大半は上野の西郷さんの銅像を引き倒そうとは夢にも思わないでしょう。西郷さんの存在に多面性があるように、歴史には多面性があるのが普通だから。それを現代の一つの価値観に基づいて裁くことはいつだって論争的なのです。 混同された論点の第三は、法と秩序を維持することの責任という点。行政府の最高責任者として、大統領が法と秩序の守り手であるのは事実です。しかも、トランプ氏は保守層の支持を得るために、不法移民対策にせよ、テロ対策にせよ、法と秩序を前面に出した選挙戦を戦って大統領職を得ました。それは、ニクソンやレーガンなどの歴代の共和党出身の大統領が共通して採用してきた戦略でもあります。 特に、ニクソン大統領はベトナム反戦運動が激しくなり、一部で暴徒化していた60年代後半にあって、(多くは左派の)デモ隊と、サイレント・マジョリティー(≒穏健で物静かな多数派)を区分けすることに成功しました。ニクソン大統領については、ウォーターゲート事件を受けて辞任した不人気な大統領というイメージが強いですが、少なくとも法と秩序を前面に出す政治戦略は大成功し、同氏は圧倒的な人気で再選されたことを忘れてはいけません。 ただ、シャーロッツビルの事件において、法と秩序をめぐる同様の構造が成立しないのは、法と秩序を壊している側が極右の差別主義者であったということです。法に反して暴力を振るっている側に同情して、法と秩序論を主張しても全く説得力がありません。トランプ氏は、反差別のカウンター・デモ隊の側にも暴力があったことを強調してその構造を作ろうと試みましたが、無理筋だったというべきでしょう。今後の米政治の流れ今後の米政治の流れ トランプ政権への批判がこれまでになく高まっている中で、今後の政治の流れを予想することは困難です。上述したように、共和党内の支持が底堅いことを考えると、直ちに政権基盤がグラつくことはないと思います。バノン氏の解任を受けて、トランプ政権の基本方針が変わるともあまり思えません。現政権は、バノン氏のような特定の人物によって左右されてきたというよりは、大統領個人のキャラクターとその信ずるところによって規定されている部分が大きいからです。また、トランプ政権のような「アウトサイダー」政権において、政権発足後しばらくの期間、陣取り合戦的な政権内の権力闘争が激しく、政権運営が安定しないということも、過去なかったことではありません。 もちろん、トランプ政権における幹部人事の遅滞や、政権内部の勢力争いが極端にひどいという点で大方の識者は一致をみています。また、諸政策を実現する上では、政権のコア支持層を超えたより幅広い支持を獲得する必要があります。医療保険改革法案の失敗を受けて夏休みに突入した政権が、休暇明けにいったいどのような戦略をもって政策推進に臨むのか。米ニューヨークのトランプタワーのロビーで、トランプ大統領が語る姿を見るケリー大統領首席補佐官(左)=8月15日(AP=共同) 大方の予想は、減税法案を早期に出してくるというものです。共和党の諸派が合意でき、国民に対して訴求力がある政策だからです。ただ、医療保険政策と同様に減税政策の肝も細部に宿るもの。新たにトランプ政権の司令塔となったケリー首席補佐官の手腕が問われるところです。 とはいえ、今般の人種差別をめぐる論点がなくなるわけではありません。トランプ氏が意図された混同論を続ける限り、事態は改善しないでしょう。現在の差別主義者に対しては絶対的な論調で非難するべきです。それは、大統領の道義的リーダーシップの一環であり、曖昧さを紛れ込ませる必要のないものです。 シャーロッツビルを離れ、一部の反差別団体によって南軍関連の公共物を、法的手続きを経ずに引き倒す動きも広がっています。法的には器物損壊と言わざるを得ない行動が「反差別無罪」の雰囲気の中で正当化されている現実があります。白人至上主義のデモの参加者を、ソーシャルメディアを通じて特定し、個人情報を公共空間に晒したり、所属先の責任を追及したりする動きも広がっています。集会への参加を指摘された者が職場をクビになった事案もあれば、差別主義者を指弾する人民裁判的な動きの中で、単なる人違いの事案も発生しています。 トランプ氏がどっちもどっち論を採用した根底には、このような動きに対する感情的な反発があるのでしょう。それは、正義や進歩と同時に秩序を重んじる保守層に典型的な反応であり、一概に批判されるべきものではありません。ただし、差別主義者に対する拒絶を明確にして初めて、国民の大層は聞く耳を持つというもの。歴史認識や、法と秩序の論点を提起したいのであれば、現在の問題としての差別の問題をゆるがせにすることは許されないのです。(ブログ「山猫日記」より2017年8月22日分を転載)

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    解任されたバノンがトランプの敵になる可能性

    問=ワシントン(ロイター=共同) 確かにバノン氏の言動には多々問題点がありました。リベラル派の雑誌「アメリカン・プロスペクト」とのインタビュー記事もその一つです。同誌に自らアプローチをしたバノン氏は、記事の中で北朝鮮の核・ミサイル開発問題に触れ、「軍事的解決はない」と断言したのです。この発言は、トランプ大統領の例の「北朝鮮は米国に対して脅迫を止めなければ、世界がこれまでに見たこともないような炎と激怒に直面するだろう」というメッセージと相反するものです。しかも、その効果を弱めてしまいます。 北朝鮮問題に対する軍事攻撃を全面否定するバノン氏のこの発言は、トランプ政権の本音を金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に送ってしまった点で致命的であるかもしれません。米メディアは、政権内でレックス・ティラーソン国務長官とジェームズ・マティス国防長官が「いい警察官と悪い警察官」の役割分担を行い、北朝鮮に対して「ソフトとハード」ないし「同情と脅迫」の混合したメッセージを発信していると分析しています。仮にそうであるならば、バノン氏の発言は両長官の役割分担の戦略の効果を下げ、北朝鮮に対して予測可能な状態にしてしまったのです。トランプ氏が関係を維持したい一族 それに加えて、ホワイトハウスが情報漏洩に神経質になっている時に、国家安全保障問題の担当でないバノン氏がメディアにリークしたとも解釈ができます。この点においても、同氏の発言はかなり問題があります。 対中国強硬派のバノン氏には、リベラル派のメディアを利用してホワイトハウスのクシュナー氏及びコーン氏等の穏健派に圧力をかける狙いがあったのでしょう。ただ、北朝鮮問題に関してあたかも自分が米軍最高司令官のような発言をして、トランプ大統領の逆鱗に触れたことは容易に想像できます。 バノン氏は解任されると、早速会長を務めていた極右サイト「ブライトバート・ニュース」に戻りました。「トランプのパトロンの正体」で紹介しましたが、同氏はヘッジファンドで財をなしたロバート・マーサー氏と娘のレベッカ氏と関係を密にしています。マーサー一族はブライトバート・ニュースに1000万ドル(約10億9000万円)、トランプ陣営には1350万ドル(約14億7000万円)の資金提供を行っています。当然ですが、トランプ大統領はマーサー一族との関係を切りたくないでしょう。大統領首席戦略官を解任されたバノン氏 そこで、トランプ大統領はマーサー一族からの支持を維持するために政策の取引を行う可能性が高いです。例えば、すべての政策を穏健化路線に切り替えるのではなく、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定離脱」は反グローバリズムのシンボルとして残します。 バノン氏には、行政国家の解体、反移民政策の遂行及び保護主義の実現等のやり残した仕事があります。ホワイトハウスを出てアウトサイダーになっても、穏健派路線に舵を切るホワイトハウスの幹部にとって、同氏が政策遂行の上で障害になることは変わりません。トランプ大統領は、同氏の敵意と憎悪をホワイトハウスの穏健派ではなく、「フェイク(偽)ニュース」に向かわせるために何らかの策を講じるでしょう。うんの・もとお 明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    差別を拡大するトランプ、差別を嫌悪したケネディ

    況は極めて深刻に映るようである。作家の落合信彦氏は米国の先行きについて警戒感を隠さない。* * * アメリカの大統領は、世界の未来を見据え、自由や民主主義の精神を守る覚悟が必要だ。それがアメリカのリーダーの「器」というものである。「雇用を守る」とばかり繰り返すトランプは、アフリカのどこかの独裁国家の大統領くらいの器しかない。 その小さな器では、アメリカ国内をもまとめることができない。トランプは、アメリカを真っ二つにしてしまった。「富裕層vs貧困層」「白人vsヒスパニック・黒人」……。とくに差別を煽ったことは罪深い。「メキシコ移民はレイプ犯」発言に代表される人種差別。さらに女性たちや、障害を持つ人々への差別。 この偏狭な男の発言は、アメリカ全体の空気も偏狭にしてしまった。日本ではあまり報じられていないが、トランプが大統領選に勝利してから、アメリカ各地で差別的な行動が激化しているのだ。ボストン郊外の大学では、「TRUMP」と書かれた旗を掲げたピックアップトラックに乗った2人の男が侵入して、黒人学生が住んでいる寮に向かって罵声を飛ばし、さらに唾を吐きかけた。 ユタ州では、ヒスパニック系の高校生が白人生徒から「不法入国者!」「メキシコに帰れ!」「メキシコにタダで帰れるから喜べ!」などと嫌がらせを受けた。さらに、アメリカのあちこちのトイレでは、「Whites Only(白人専用)」などという落書きが増えた。 トランプの存在が、アメリカ社会を分断したのだ。 実は、ジョン・F・ケネディが大統領に就任した当時も、アメリカは2つに割れていた。「I Have a Dream.」で有名なキング牧師のリンカーン記念館演説の3年前にあたる1960年。黒人差別は酷い状況であり、アメリカ社会は「白人vs黒人」で一触即発の状態だった。 そんな中、キング牧師が座り込んで解放運動をしていたことを機に逮捕される。選挙中でニクソンと戦っていたケネディは、二者択一を迫られた。 良心に従い、キング牧師の逮捕を不当だとして介入し白人票を失うリスクを負うか。それとも何もせずに票を固めるか。 ニクソンはこの問題についてノー・コメントを貫いたが、ケネディは迷わなかった。まず遊説先のシカゴからキング牧師の妻コレッタ・キングに電話し、できる限りのことをすると約束した。そして翌日、弟のロバート(ボビー)・ケネディに、キング牧師を有罪にした判事に電話させ、すぐ釈放するよう説得したのだ。キング牧師は、即日釈放された。このことは、黒人たちの心を大いに動かした。 ボビーもまた、黒人差別をなくそうと強く主張した。1968年の大統領予備選の間、ボビーが各地を回ると、多くの黒人支持者が彼と握手しようと殺到した。ケネディ兄弟は、白人はもちろん、黒人たちから愛され、慕われていた。 ケネディ兄弟は、アメリカを1つにしようとしたのだ。彼らは、それまでアメリカを暗く覆っていた「差別」という厚い雲を、吹き飛ばしつつあった。 しかし、1963年と1968年の2つの悲劇的な暗殺事件が、彼らの理想を道半ばで終わらせてしまったのだ。 翻ってトランプは、差別をなくすどころか再生産し、アメリカ社会の亀裂をどんどん広げようとしている。2017年は「この年から、憎しみと差別の歴史が再び始まった」と記憶されることになるかもしれない。関連記事■ ジョン・F・ケネディ 核戦争危機から世界救った水面下交渉■ 暗殺から50年 ケネディ大統領の関連本が続々と新刊ラッシュ■ 落合信彦氏「JFK暗殺なければ弟ロバートは今も生きていた」■ 米の低レベル高校生、殺人事件が日常の街等をリポートした本■ 落合信彦氏 米大統領選で最高の名勝負はケネディvsニクソン

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    トランプは北朝鮮のグアム攻撃が「絶対にない」ことを知っている

    重村智計(早稲田大学名誉教授) ドナルド・トランプ米大統領は、なかなかの役者だ。北朝鮮の扱い方を知っている。北朝鮮を、米国と国際政治の最優先課題にしたからだ。追い詰められた金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は8月14日に、「米国の動向をもう少し見守る」と言わざるを得なくなった。これを受け、トランプ氏は16日に「金正恩は賢明な判断をした」と述べ、事態が収束した。脅しと落としどころを心得た“不動産業者”トランプ氏の勝利だ。米朝の指導者は戦争するつもりはなかった。北朝鮮の石油保有量は世界最少の50万トン。これでは戦争できないとわかっている。国家予算も国内総生産(GDP)も世界最少だ。トランプ大統領がツイッターで北朝鮮に警告を発するニュースを伝える街頭ビジョン=8月12日、東京都千代田区(宮川浩和撮影) トランプ氏は、北朝鮮がグアム攻撃できないと知りながら「(攻撃すれば)北朝鮮に惨事が起きる」と口撃した。世界のメディアが彼の発言を報じ、偶発衝突を危惧した。マスコミ操作は大成功だ。北朝鮮の指導者はなぜか発言を控えた。首脳同士の「舌戦」から手を引いたのだ。世界最大国家の指導者が小国の国家指導者をからかい、ニュースを独占している。 北朝鮮の言語文化は最初に「かます」。開口一番相手を「どつく」。優位に立つために威圧表現を使う。これはトランプ氏が使う手法でもある。 日本人は初対面や交渉の相手に「お手柔らかに」と、へりくだった姿勢を示す。北朝鮮の日常生活ではダメだ。「俺が誰だかわかっているのか」と言わないと甘く見られる。 北朝鮮の発言にだまされまい。朝鮮半島には言いたいことを120%表現する言語文化がある。それに対抗するには、同じ「激震」のメッセージを送るしかない。日本は腹の中を60%しか言わない文化だから北朝鮮に負ける。トランプ氏は、自制を求める声に「まだ激しさが足りなかったかも」と述べたが、正しい表現だ。 北朝鮮は「ソウルを火の海に」という言葉を何度も使った。それに対抗した米指導者はトランプ氏が初めてだ。北朝鮮の過激表現には「米国が挑発すれば」との前提条件がつく。だから「火の海」にならない。国連安保理「制裁決議」の抜け穴 金委員長も「わが国に手出しすれば」と述べた上で、「米国も無事ではない」と断言した。それはそうだろう。前提条件を読めば当たり前の発言だ。北朝鮮外務省は「米国がわれわれへの軍事的冒険に手をつけるなら」と前置きした上で、「正義の行動で応じる」と語った。朝鮮人民軍戦略軍司令官も「グアム島包囲射撃計画案を慎重に検討」と発言した。あくまで「案を慎重に検討」と言うだけで、「攻撃を検討」とは言わない。北朝鮮の弾道ミサイル発射を報じる街頭テレビに映った、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=7月4日、東京・有楽町 北朝鮮の「米国への恐怖」がこの表現からよくわかる。ならば、なぜ過激表現を繰り返すのか。金正恩体制維持のためであって、米国と対話するためではない。対話を望むなら、もっと柔軟な表現をするからだ。 トランプ氏は、金委員長を「米国への最大の脅威」と印象付け、支持率引き上げに利用した。反トランプの米紙ニューヨーク・タイムズも「若く気まぐれな核付き独裁者」と、金委員長批判の見出しを一面に掲げた。「トランプ作戦」の勝利だ。 トランプ氏は8月10日に、国連安全保障理事会での北朝鮮制裁決議について「(効果は)それほど期待できない」と冷めた理解を述べた。安保理は8月5日に「北朝鮮の石炭、鉄鉱石など輸出の全面禁止」を決議した。これを受けて、メディアでは「北の石炭、鉄全面禁輸」と報じられた。だが、この見出しでは「輸入全面禁止」と誤解される。 「輸出」と「輸入」では何が違うのか。「輸出」は北朝鮮だけが責任を負うもので、中国とロシアは全く責任を問われない。禁止されているのは北朝鮮の「輸出」であって、各国の「輸入」ではない。中国とロシアには「輸入」してもいいと解釈できる余地を残した。 交渉関係者によると、米国は制裁決議に「輸入全面禁止」と「石油禁輸」を盛り込みたかったが、中ロは応じない。仕方なく「輸出全面禁止」で折り合いをつけた。今回の安保理決議には、次回は「輸入全面禁止」を盛り込む、との米国の意向が強くにじみ出ている。15日から中国政府は、北朝鮮産石炭や水産物の輸入全面禁止に踏み切った。ロシアとの立場の違いを示したとされるが、なお「抜け道」が憂慮されている。それでも金正恩のメンツは丸つぶれ たとえ、北朝鮮の石炭や鉄鉱石が中国とロシア国内に存在しても、「輸入全面禁止」ではないから安保理決議違反ではない。解釈次第では、前回の決議が容認した「北朝鮮の国民が生活必需品」を購入するための輸入なら、認められるかもしれないのだ。 北朝鮮は安保理決議を無視しているので、いまさら「輸出全面禁止」決議に従わないだろう。支援国の中国とロシアに迷惑はかからない。北朝鮮の国連外交官は「中国とロシアの輸入は全面禁止になりませんでした。われわれの勝利です」と本国に報告したことだろう。 中国とロシアは北朝鮮のために単独で「拒否権」を使うつもりはない。中国とロシアは共に拒否権を行使すると、国際社会から「北朝鮮の味方」と非難され孤立する。安保理が決議違反に対して弱い声明しか出せないなら、安保理の権威と信用は崩壊する。その責任は、中国とロシアが負わされることになる。米国は、中ロ両国のこの微妙な立場を巧みに批判し、説得したといわれる。 ただ、今回の「輸出全面禁止」決議は、金委員長のメンツと軍部の権威を相当に傷つけた。北朝鮮指導部は、ミサイル発射しても米国や国連は手が出せない、と豪語していた。それが「輸出全面禁止」の上、トランプ氏にまでボロクソに言われ、もはやメンツ丸つぶれだ。クウェートは制裁決議に従い、北朝鮮労働者の入国を禁止した。クウェートは北朝鮮の中東工作の拠点だ。5月18日に撮影された、北朝鮮・豊渓里にある核実験場の衛星写真。丸で囲った部分に、新たに建設が始まったとみられる建物が写っている(デジタルグローブ/38ノース提供・ゲッティ=共同) 北朝鮮の鉱物資源の輸出が減少し、労働輸出にストップがかかれば指導者のメンツは確実に損なわれる。儒教文化の北朝鮮では「体面(メンツ)」の喪失は指導者に痛手だ。軍部はこのトランプ戦略に対抗するために、地下核実験を強く求めている。

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    北朝鮮ICBM技術「流出の黒幕」はウクライナではなく中国だった?

    米国? 先日のNHKニュースで大同大学の澤岡昭名誉学長がこう述べている。「これは非常に古いエンジンでアメリカのアポロ計画の時代1960年代に開発が始まって、アメリカが月へ行った頃に完成したと言われています」 澤岡氏の言を俟(ま)たずとも、旧ソ連が米国の科学技術を盗み取っていたのは軍事技術者の間では有名な話で、米国が1970年代、戦闘機F15イーグルを開発すると、それに対抗してソ連はミグ29とスホイ27を開発したが、形状はF15にそっくりである。 つまり、ソ連が米国のエンジン技術を盗み、ウクライナに製造させていたのがRD250系であって、技術の提供元をしつこく探れば、結局米国という事にもなる。一歩間違えばブーメランにもなりかねないリスクを米国は冒しているわけである。 ウクライナから闇の市場を通って北朝鮮にたどり着いたと言われているが、このエンジンの製造をウクライナは2000年代初頭に停止しており、10年以上も闇の市場を漂っていたとは考えられない。 しかもウクライナは、製品をすべてロシアに納入しているから、ロシアから北朝鮮に流出したと言うが、現在の両国の経済状況から見てロシアに、無料で技術供与をする余裕はなく、また北朝鮮に金を払う余裕もないであろう。 むしろ、ここで関与が疑われるのは中国であろう。中国にはまだ北朝鮮を支援するだけの経済的余裕がある。しかも1998年に中国はウクライナから空母を購入して、後に「遼寧」として就航させている。 2000年前後において、ロシアの軍縮によってウクライナの兵器産業はひっ迫しており、経済成長を始めた中国は新しい顧客として優遇されていた。ウクライナが中国にRD250系を二束三文で売り払ったとしても不思議はない。 もちろんウクライナの主張のようにすべてがロシアに納入されているとすれば、ロシアから中国が買った可能性もある。いずれにしてもRD250系は旧式であるから欧米としても特に問題視しなかったであろう。エンジン流出源について記者会見に臨んだウクライナ宇宙庁のラドチェンコ長官代行=2017年8月15日、キエフ 中国としては当初、非軍事の宇宙ロケットの開発に転用する計画だったであろうが、やがて北朝鮮が核実験に成功するに及び、新しい利用法を発案した。つまり北朝鮮のミサイル開発の支援に利用するのである。 北朝鮮が核ミサイルを独自開発してしまえば、そのミサイルが中国に向かう可能性をはらんでいる。中国が全面的に支援して北朝鮮のミサイル開発自体をコントロールすれば、中国製のGPSを組み込むことにより、その可能性を排除できるのである。 今回、米国がブーメランのリスクを冒してまで、同盟国ウクライナを苦境に追い込んだのは興味深い。トランプ政権はロシアとの接近を図っているが、その最大の障害はロシアとウクライナの対立であり、ウクライナの譲歩があれば、米露接近は可能になる。 一方、米露接近を最も警戒しているのが中国であり、ロシアを中国側に引き込み中朝露と日米韓の対立の構図を演出している。だが、この対立の構図は安定したものではなく、むしろ不安定で危険である。なぜならそれは世界大戦を指向しているからである。

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    米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 5月14日と15日、中国は初となる「シルクロード経済圏構想」(一帯一路)首脳会議(以下、首脳会議)を北京で開催した。「一帯一路」をテーマに北京で開かれた国際会議の記念撮影で手を振る各国首脳。前列中央右は中国の習近平国家主席、同左はロシアのプーチン大統領=5月15日(共同) 現状、そこには青写真があるだけで「一帯一路」の全体を把握することは難しい。ましてや成功か失敗かなどを議論する段階ではないのは言うまでもない。ただ、この会議ではっきり伝わってきたのは、中国が次の発展のためにも「一帯一路」の成功を不可欠と位置付けていることだ。同時に中国は、この構想を軌道に乗せるためにも国際社会との関わり方を変えていかなければならないという考えに至ったことも感じさせた。 例えば、「一帯一路」首脳会議で基調演説に立った習近平国家主席は「(シルクロードの)開拓事業に使われたものは、戦馬と長槍ではなく、ラクダのキャラバンと善意であり、頼りにしていたのは艦艇と大砲ではなく、宝船と友情だったのである」と平和の重要性を前面に出した。 会議には南シナ海の領有権をめぐって対立するベトナムやフィリピンからもトップが参加し、習氏の憂いを一つ晴らす材料となったのだが、習氏もそれにこたえるように、「他国の内政には干渉せず、社会制度と発展モデルの輸出もしなければ、それを他国に強要することもしない。中国は地政学ゲームのような古いやり方を繰り返すようなことはせず、安定を打ち破る小さなグループを作ることもせず、平和共存の大家族を築き上げる」と懸念の払拭に努めた。 こうした中国の姿勢は随所に見受けられ、首脳会議の前には「独断で進めるつもりはない」と耿爽報道官(5月5日の中国外交部の会見)が言及している。 この首脳会議には、直前になって米国が代表団を送ることが決まり、実際に代表団が参加したのだが、中国の準備は実に4月上旬の「マール・ア・ラーゴ」(トランプ大統領のフロリダ州にある別荘)における米中首脳会談にまでさかのぼる。 この米中首脳会談は、トランプ氏と習氏の個人間のつながりが生まれた会談として位置づけられているが、一方で中国側からの通商面での強い働きかけがあったことでも知られている。 事実、米中両国の合意の中には「双方は今後、一定期間の重点協力分野と努力目標を確定した。そして、二国間投資協定交渉を引き続き推進し、インフラ建設やエネルギーなどの分野での実務協力を模索し展開していく」(『人民網日本語版2017年4月8日』〈中米首脳会談 積極的シグナルを発信〉)とある。しかも、会談後には習氏が「中米貿易が協力を強化するということの前途には、大きな広がりがある。双方はこのチャンスを逃してはならない。中国は米国が『一帯一路』という枠組みに参加することを歓迎する」と語っている。米経済構想との親和性 この「一帯一路」構想が、実は米国にとってそれほど大きなストレスではないことは、この地域において米国が主導して進めてきた経済構想と「一帯一路」が一体化する方向で話し合いが進んできたことからも推測できる。 それがヒラリー・クリントン元国務長官の下で進められてきた「新シルクロード戦略」である。この「新シルクロード戦略」は、そもそもイランとロシアを分断し牽制(けんせい)する意味から生まれたもので、これに対するロシアの構想が「ユーラシア経済連合」である。 興味深いのは、この「ユーラシア経済連合」も「一帯一路」との一体化を進めていることだ。要するに国際政治の視点からみれば、米露の対立の場であったシルクロードが、比較的中間色の強い中国の「一帯一路」に吸収されるという構図が見て取れるということだ。 一帯一路は、従来モデルの経済発展に限界を感じた中国が、外にその活路を見いだしたことにあるが、考えてみれば次の「成長エンジン」として期待される国が集中している地域でもある。 中国がそこに旗を立てれば、行き場を失っているマネーが流れ込むことは予測できる。そして、一旦そうした流れができれば、この一帯の経済発展は中国だけで手当てできる規模ではないことは明らかだろう。 中国がこのところの見せる対外宥和(ゆうわ)に「ウィンウィン(win-win)」が強調されているのは、こうした背景があるからだ。 こうして政治的な壁を取り払いながら、今後は実を取る作業へと向かうことになるのだが、その先頭を走るのは貨物列車と各地のインフラの整備である。 2011年に中国は貨物鉄道の建設を完成させた。現在、浙江省の義烏から11の国29の都市を通ってスペインのマドリードまで、約18日で結んでいる。この貨物鉄道の開通で、いま中国-欧州間には百億ドルに相当する貨物が行き来するまでになっている。 具体的には、中国から工業製品が運ばれ、帰りにマドリードからオリーブオイルとワインを積んで戻る貨物列車だ。小ロットの運搬が可能な貨物列車の運行により、従来は中国との貿易には無縁であった各国の中小業者が貿易に参入するという効果を生んでいる。それにつれ、互いの利益のために税金や通関制度などでの共通化が劇的に進んでいる。 現状はそうした効果が、本線である義烏とマドリード間だけでなく、北はバルト三国のラトビアの首都リガからロンドン、イタリアのミラノ、西はイランのテヘラン、アフガニスタンのマザーリシャリフなどにも広がっていく可能性が指摘されている。カザフスタン・ホルゴスの〝陸の港〟。右は中国用の線路、左はカザフスタン用の線路=6月12日(共同) まだ始まったばかりの一帯一路を評価することは難しい。ただ、これを「失敗する」と決めつけてしまうのはあまりに早計だ。この構想の背後には、多くの利害共有者がいるという事実も見落としてはならないからである。

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    北朝鮮ICBM、それでもトランプには最後の「制裁カード」がある

    西岡力(麗澤大学客員教授、「救う会」全国協議会会長) 北朝鮮がついに大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を強行した。今年の新年の辞で金正恩がその準備ができていると豪語したとき、トランプ米大統領(当時は当選人)は「そんなことは起きない」とSNSに書いたが、起きてしまった。金正恩は米国の独立記念日への「贈り物」だったとうそぶき、米国連大使は武力攻撃もありうると発言するなど米朝の緊張は高まっている。 トランプ大統領はオバマ政権の対北政策である「戦略的忍耐」は間違っている、と繰り返し表明している。「戦略的忍耐」とは、北朝鮮は経済的困窮と国際的孤立で困難に直面しているから、核開発放棄を宣言するまで放っておけば、必ず助けを求めてくるという楽観的見通しに立つ、問題先送り政策だった。ところが、オバマ政権の10年間で、北朝鮮の核ミサイル開発は格段の進歩を見せ、数年以内に米国本土に届く核ミサイルを保有するところまできてしまった。 トランプ政権はすべての手段をテーブルの上に置き、まず北朝鮮の9割の貿易相手国である中国に経済制裁を強めさせて、圧力を加えるという政策をとっている。中国は本当に北朝鮮に圧力を加えているのか。トランプ大統領は7月5日、「中国と北朝鮮との間の貿易は第1四半期に約40%増加した。米国は中国と手を組んできたが、こんなものか。でもわれわれは試してみるしかなかった」とSNSに投稿した。別荘の中庭で中国の習近平国家主席(右)と歩くトランプ米大統領=4月7日、米フロリダ州 私はここで「試してみるしかなかった」という部分に注目する。今年4月、米韓軍事演習の実施、米国空母が2隻、朝鮮近海に出動するなどを受けて、米国が北朝鮮への爆撃を行うのではないかという予測が、日本の一部専門家やマスコミの中で沸騰した。そのとき、私は「まだ早い、米国はまだ試していないことがある、それを試してみてダメだったら軍事攻撃が浮上する」とコメントしていた。 それでは何を「試す」のか。中国と国際社会に対して強度の経済制裁を実施させる。具体的には北朝鮮の統治資金を徹底的に締め付けることと、石油の対北輸出を止めさせることだと考えていたが、7月になっても北朝鮮は音を上げず、ついにICBMの発射を行った。 しかし、トランプにはまだ、試してみるべきカードが残っている。それは北朝鮮と取引をしている第3国企業と銀行に対して、ドル取引を停止するといういわゆる「セカンダリー・サンクション(2次制裁)」だ。ICBMの発射の直前にその一部はすでに発動されていた。水面下の中朝取引 米政府は6月29日、北朝鮮の核、ミサイル開発を支援した中国企業「Dalian Global Unity Shipping Co」と2人の中国人および、北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に関与した中国の銀行1行、丹東銀行(Bank of Dandong)に対して米国との取引停止、ドル取引停止という制裁をかけた。丹東銀行は北朝鮮が米金融システムにアクセスするための入り口の役割を果たしてきたと米財務省は指摘している。同行顧客のドル口座は取引の17%が北朝鮮に関連したものだったという。ムニューシン財務長官は調査を続けており、追加制裁を行う可能性もあるとした。 私は5月に米国軍に近い情報関係者から、中国と北朝鮮の関係について次の話を聞いていた。 「これまで25年間の中朝関係はやらせ詐欺であり、①北朝鮮が軍事挑発を行う②中国も加わって国際制裁が決議される③中国がわれわれも対北制裁していると明言する④北朝鮮が中国を批判⑤中国が国際社会に対北制裁をよくやっているとアピールする、という循環が繰り返された。しかし、水面下での中朝取引は続き、事実上、中国は北朝鮮の核ミサイル開発を助けてきた。われわれは、もはやそれにはだまされない。数年前から北朝鮮と取引をしている中国企業を徹底的に調査してきた。その調査結果の一部が、C4ADSという米国のシンクタンクが昨年8月に公表した報告書(※注1)に載っている。アルミニウムパイプを風呂桶として対北輸出している企業などがある。まず、ここまで分かっているということを教えるために代表的な10社を選んでリストを作った。その10社のリストをあなたにもあげますよ」 6月21日にワシントンDCで開かれた米中安保対話では、そのことが議題になったという。米紙「ウォールストリート・ジャーナル」によると、米政府は中国に2次制裁候補として調査が終わっている代表的な10社のリストを渡したという。中国銀行、ニューヨーク支店の外観=2011年10月 私が5月に上記関係者からもらった10社のリストと、安保対話で中国に渡されたリストが同じものかどうか確認できていない。 すでに、ウォールストリート・ジャーナルは4月25日付の社説で中国4大商業銀行の一つ、中国銀行(Bank of China)への二次制裁をかけよと主張した。「国連の専門家パネルによれば、昨年、中国銀行のシンガポール支店が北朝鮮の事業体の決済に605回関与している。中国政府はこの国連リポートの発表を阻止したが、内容はメディアにリークされた」「(中国銀行への二次制裁は)トランプ氏の真剣さに関する最小限のテスト」だと書いている。 中国銀行は、資産規模2・5兆ドルで世界4位だ。米シティバンクの2倍、三菱東京UFJ銀行の1・5倍の超巨大銀行であり、昔の東京銀行のように国際金融市場で中国を代表する銀行だ。その銀行が、ドル取引ができなくなることは国際金融秩序と米中経済関係に多大な影響を与えるだろう。しかし、軍事行動に比べれば少なくとも人命被害は出ない。これすらできなければトランプも結局、戦略的忍耐と同じことをしていると批判されるだろう。(※注1)報告書名は「In China’s Shadow Exposing North Korean Overseas Networks」。

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    「核とミサイルの罠」金正恩を追い詰める父の亡霊と内なる敵

    求めていると伝えられているだけに、金委員長は大きなジレンマに直面している。核実験に踏み切れば、中国とアメリカから大きな制裁を受ける。核実験ができなければ、米中を恐れる弱気の指導者と国内で陰口をたたかれ、権威が失墜する。 それを避けるために、「核兵器の完成」「ミサイルの完成」を宣言し、「核とミサイルの実験をしない」交渉に乗り出すとの戦略が、平壌から流されたこともあった。戦略への期待が急速に失われている。

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    ロシア疑惑、トランプはいつまで持つか

    米連邦捜査局(FBI)長官の解任に始まったトランプ大統領の「ロシア疑惑」に注目が集まっている。最大の焦点は、トランプ氏の言動が弾劾訴追の対象となる「司法妨害」に当たるかどうかだが、次々と浮上するロシアとの深すぎる絆に憶測も広がる。追い詰められたトランプ政権。その命運やいかに。

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    ロシアゲート4つの疑惑、渦中のトランプが強気でいられる意外な事実

    分、それだけ米国も世界も、失うものが少なくない。その中で最も大きいのは、「世界を牽引(けんいん)するアメリカの大統領」という威信なのかもしれない。

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    トランプとロシア新興財閥の「深すぎる闇」はどこまで解明できるか

    困難とみられる。ホワイトハウスの執務室で、プーチン大統領と電話会談するトランプ米大統領=1月28日、アメリカ(UPI=共同) むしろ、モラー特別検察官の捜査では、トランプ大統領とロシア新興財閥のドロドロした利権コネクションが浮き彫りにされ、それが決定打になる可能性がある。米国のメディアもこの部分の調査報道を行っているが、トランプ大統領のロシア関与は想像以上で、ロシア新興財閥がトランプ王国の資金源だった実態が判明しつつある。 米誌「ベテランズ・トゥデー」(2017年1月21日付)によると、トランプ大統領がモスクワに来るようになったのはゴルバチョフ時代の1989年で、ソ連指導部からモスクワとサンクトペテルブルクへのホテル建設を依頼された。エリツィン時代には、エリツィン後継の噂もあった実力者、レベジ安保会議書記(2002年にヘリコプター事故で死亡)と関係を深め、先行投資したこともある。しかし、ロシアの新興財閥は自国のホテル建設に関心がなく、むしろ米国にトランプ大統領が保有する不動産に積極投資し、実勢価格の何倍もの価格で購入するお得意様だったという。 トランプ大統領は2000年代初頭、アトランティックシティーのカジノ・ビジネスが破綻し、一時破産するが、その後トランプタワーの住居を高値で購入し、トランプ大統領を救ったのが、ロシアの企業や財閥だったという。トランプ大統領の子息、トランプ・ジュニア氏は「ロシア人は不釣り合いな価格でわれわれの資産を購入してくれた」と述べていた。 トランプ大統領は特に、プーチン政権と関係の深い新興財閥のアラス・アガラロフ、イルガム・ラギモフ、トフィク・アリフォフといった人物とディール(取引)を重ね、2013年にはアガラロフ氏の招待で、ミス・ユニバース・モスクワ大会を主催するため訪露。その際、高級ホテルで売春婦と不適切な関係を持ち、ロシア側に監視された-と元英情報機関幹部が報告書で告発した。 今後の捜査でロシア資金が選挙運動に使われていたことが判明すれば、政治資金規正法にも抵触する。トランプ大統領とロシア新興財閥の「闇の関係」の解剖が、今後のロシアゲート捜査の注目点になりつつある。

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    コミー証言は肩透かし? ロシア疑惑はトランプ辞任の引き金にならない

    ないと党派で評価が大きく分かれている。無党派では、支持は21%、不支持は36%であり、これが標準的なアメリカ人の評価といえる。  また、6月7日に『ワシントン・ポスト』とABCの共同世論調査の結果も発表された。調査はコミー氏の公聴会前(実施日は6月2日から4日)に行われたものである。調査では「トランプは2016年の大統領選挙にロシアが介入した可能性に関する捜査に協力していると思うか、あるいは捜査を妨害していると思うか」との問いに対して、全体の56%がトランプ氏は捜査妨害を行っていると答えている。政党別の支持者でみると、民主党支持者の87%、無党派の58%、共和党支持者の17%がトランプ氏の捜査妨害を肯定した。公聴会で証言するコミー前FBI長官=2017年6月 このようにトランプ大統領に対する信頼は大きく低下している。ただ、共和党支持者のトランプ支持が依然高いことも注目すべきである。トランプ大統領が強気の姿勢を取っているのは、こうした背景があるのかもしれない。  さらに、6月8日に行われたロイターの世論調査では、トランプ大統領支持が38%、不支持が58%であった。ギャロップの調査(6月8日)でも、同様に不支持率は58%、支持率は37%と、ロイター調査とほぼ同じ結果であった。ギャロップ調査では、3月28日に不支持率が大統領就任後最低の59%を記録したが、今回の調査結果はそれに続くものであった。政権発足後、4カ月余りで不支持率が60%というのは異常といっていい数字である。トランプの弾劾訴追はほぼ不可能 多くの国民の気持ちはトランプ大統領から離れつつある。政策面でも目立った成果は上がっていない。加えて、ホワイトハウス内の抗争や、ガバナンスの空洞化も起こっている。 では、トランプ弾劾は現実のものになる可能性はあるのだろうか。現状で考える限り、その可能性は低い。まず共和党と保守派のトランプ支持に揺るぎがみられないからだ。トム・コットン上院議員は「今回の出来事がトランプ辞任の引き金になることはない」と、共和党内の雰囲気を代弁している。ホワイトハウスへのパレードで、声援に応えるトランプ米大統領とメラニア夫人=2017年1月 保守派のジャーナリスト、レベッカ・バーグ女史も「コミー証言は共和党議員のトランプ支持が大きく変わる転換点になるとは思えない」と書いている。先の世論調査でも、共和党支持派の大多数がトランプを支持する結果だった。 さらに下院、上院ともに共和党が多数派を占めている。大統領を弾劾するには、下院の半数の支持を得て大統領を追訴する必要がある。それを受けて、最高裁首席判事を裁判官とする弾劾裁判が上院で開かれ、その3分の2の支持を得て弾劾が成立する。 ゆえに、下院で弾劾決議をする可能性は限りなくゼロに近い。仮にトランプ大統領が弾劾裁判に掛けられても、上院議員の3分の2が賛成することはまずないだろう。民主党やリベラル派がいかに大きな声を上げても、現実的にトランプ大統領を弾劾することは、ほぼ不可能な情勢と言わざるを得ない。 では、何も変化はないのだろうか。ポイントは2つある。トランプ大統領が政策面で大きな失敗をすることだ。その可能性はないわけではない。それが支持率をさらに低下させ、来年に中間選挙を控える共和党議員の中から、トランプ大統領の下では戦えないと考え始めた時、流れが変わるかもしれない。 さらに、コミー事件が拡大し、ロシアとの関係が安全保障問題を引き起こす事態になれば、共和党議員も考え直さざるを得ないだろう。中間選挙は平時であっても与党に不利である。不人気な大統領を要する選挙では、風の向きによっては、共和党は下院で過半数を失う可能性がないわけではない。それがトランプの強気を崩す潮目になる可能性は十分ある。

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    セッションズ司法長官の声色から分かること

    出す戦略が必要です。うんの・もとお 明治大学教授、心理学博士。明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    トランプ弾劾はいかに? 過去に2回、不倫で訴追も

    樫山幸夫 (産經新聞前論説委員長) トランプ米大統領をめぐる一連の疑惑、“ロシアゲート”は、コミー米FBI(連邦捜査局)前長官の議会証言が、序盤のクライマックスだった。大統領が捜査に圧力をかけようとした形跡が色濃くにじんでいた。検察官は、トランプ氏自身も捜査対象に加えたとも伝えられている。一方、議会を含め米国内では、大統領を弾劾すべきだという強硬論が台頭してきている。トップをクビにする弾劾裁判―。有罪無罪もさることながら、その手続きが始まるだけで、米国の政治、社会が混乱するのは避けられない。米上院情報特別委員会の公聴会で証言するコミー前FBI長官=6月8日、ワシントン(ロイター=共同) 米国独立以来240年、実際に議会で弾劾裁判が行われたことは、これまで2回ある。いずれも「無罪」評決だったものの、大統領の政治的基盤を損ない、権威を大きく失墜させた。 トランプ氏について、弾劾の可能性を現時点で予測するのは早計だが、過去における「大統領の犯罪」を振り返りながら、今後の見通しを展望してみたい。 最初の弾劾裁判は南北戦争の直後1868年まで遡る。日本では明治維新の年だ。 第17代、アンドリュー・ジョンソン大統領は、有名なアブラハム・リンカーンの暗殺を受けて1865年4月に副大統領から昇格した。民主党員の上院議員でありながら、共和党のリンカーンからナンバー2に起用されたのは、南部と北部、民主、共和両党の和解を実現するにうってつけの人物とみられたからだ。 ジョンソン大統領は前任者の遺志を継ぎ、南北融和に心血を注いだが、南部への遺恨を捨てない議会共和党急進派は、これを苦々しく眺めていた。 1868年2月、ジョンソン追い落としのまたとないチャンスが訪れた。大統領は、当時の陸軍長官(今の国防長官)を、機密情報を自らの政敵に流していたのではないかという疑念から罷免した。 しかし、反大統領勢力は、前年に制定された政府高官の任免に関する法律に抵触するとしてこれを攻撃した。任命だけでなく、罷免にも議会の同意が必要なのに、大統領はそれをしなかったというのが理由だった。  大統領は、陸軍長官任命は、法律制定前のリンカーン時代であり、適用されないなどと反論したが、反大統領派は追及の手を緩めなかった。弾劾訴追するかどうかは下院で審議されるが、共和党が多数を占めていたことから訴追が決まった。  10日後、上院で史上初めての弾劾裁判が開始された。当時の定数54のうち、共和党は弾劾成立に必要な3分の2を超える42議席を確保していた。弾劾成立はだれの目にも明らかに映った。 ところが、起訴事実にあたる弾劾条項11項目の一つについての投票は、賛成35、反対19、3分の2を欠くことわずか一票という際どい結果で、否決されてしまった。クリントン氏のセックス・スキャンダル 権力争いによって大統領を追放することを潔しとしない共和党議員7人が党幹部の圧力をはねつけ、勇気ある造反を企てた結果だった。  10日後に行われた他の2項目の採決でも、賛成、反対同じ顔ぶれ、やはり一票差での否決だった。残りの条項については、もはや採決は見送られた。 こうして、ジョンソン大統領は劇的に弾劾を免れた。 米憲政史上初の弾劾裁判は、政争の色彩が強かった。戦争直後においては、革命騒ぎなど、多くの国で政治、経済、社会の混乱がみられたことは歴史を紐解けば明らかだろう。 それから時を経ること130年。1998年の弾劾裁判は趣が大いに異なっていた。“太平の世”とはいえ、あろうことか、大統領のセックス・スキャンダルが発端だった。 この不名誉な大統領はご存じ、ビル・クリントン氏。1993年から2001年まで在任した。今の若い人には、昨年の大統領選で惜敗したヒラリー・クリントン女史の夫君といったほうがわかりやすいかもしれない。沖縄サミットの開幕を控え、平和の礎前で演説するクリントン米大統領。右は稲嶺恵一知事=2000年7月21日、沖縄県糸満市 クリントン氏の弾劾裁判自体、1998年から翌年にかけてだから、知らない人、記憶が薄れてきている人も少なくないだろう。 筆者は当時ワシントン特派員として、この弾劾裁判、その訴因となったスキャンダルを最初から最後まで取材した。長い記者生活のなかでも忘れられない事件のひとつだ。 クリントン氏のスキャンダルというのはこうだ。 氏は、家庭を持つ身でありながら、就任前から多くの女性と浮名を流していた。ホワイトハウス入りしたのちは、何と、娘といっていい27歳も年下のホワイトハウスのインターン生と密かな関係をもった。それだけなら、道義的にはともかく、罪に問われることはない。しかし、前職、アーカンソー州知事時代のセクハラ事件で訴えられた裁判で、クリントン氏は、インターン生との関係を否定する証言をしてしまった。 このインターン生は、友人に大統領との関係を告白、その会話のテープが、州知事時代の土地取引疑惑などクリントン大統領の一連のスキャンダルを捜査していた当時の特別検察官の手に渡った。 特別検察官は、大統領に偽証の疑いありとして、本格的な捜査に乗り出した。1998年1月のことだ。 覚えている方も多いだろう。世界を驚愕させ、そして多くの人が眉をひそめたあの騒ぎを。 メディアが大統領とインターン生との具体的な“行為”の内容まで報じるに及んで、記事を新聞に掲載する側としては、表現、用語が低俗にわたらないよう、随分と苦労を強いられた。なぜ失職を免れたのか 大統領自身を含む関係者の大陪審への喚問、特別検察官の議会証言、捜査報告書の公表など、一年近くにわたった熱狂の末、下院本会議は98年12月、弾劾訴追を可決した。 訴追条項は、セクハラ事件で大統領が連邦大陪審で行った証言での偽証と、隠ぺい工作など証拠隠滅―だった。 弾劾裁判は翌99年1月から上院で始まり、翌2月12日に投票が行われた。 筆者は採決当日、議場に陣取って見守っていたが、事前の票読みで、いずれの条項も過半数を獲得できないだろうと予測されていたにもかかわらず、議場が異様な緊張感につつまれていたのをおぼえている。 採決は予想通り、いずれも、3分の2はおろか過半数にも届かず、大統領は「無罪」の評決を受けた。 この事件はスキャンダルが発端であり、それだけがことさら大々的に報じられたためか、日本でも、クリントン大統領は不倫によって弾劾裁判にかけられたと思っている人が少なくないだろう。しかし、そうではなく、司法妨害という深刻な犯罪で訴追されたことを理解する必要がある。 それにしても、証拠、証言などから有罪は濃厚だったにもかかわらず、なぜクリントン氏は失職を免れたのか。 当時、米上院民主党の長老だったロバート・バード議員の言葉が含蓄に富んでいる。「大統領の行為は、重大犯罪という弾劾の要件を満たすが、国の団結を守るために無罪評決に賛成した」―。その後に襲ってくる政治的、社会的混乱を防ぎ、国民の間に生じた対立を解消しようという政治的な判断で投票したという告白だ。反対票を投じた多くの議員も同様の認識ではなかったか。 クリントン氏は、こうした破廉恥な行為を暴露されたにもかかわらず、その後も高い支持率を誇った不思議な大統領だった。退陣後の2012年の調査でも「好感を持っている」という市民は6割を超えていたというから驚く。 ところで、弾劾といえば、1970年代に米国を揺るがせたウォーターゲート事件におけるニクソン大統領のケースを無視するわけにはいかない。佐藤栄作首相(右)と会談するニクソン米元副大統領 =1966(昭和41)年8月12日、首相官邸  1968年の選挙で当選した共和党のニクソン氏は72年に圧倒的な強さで再選された。しかし、この選挙中、陣営のスタッフが民主党選対本部に侵入する事件を起こし、その隠ぺいに大統領自ら関与したとして、下院司法委員会で弾劾決議がなされた。 ニクソン氏はその時点で辞職、弾劾裁判が行われることはなかったが、クリントン氏の弾劾裁判の際、共和党による遺恨晴らしだーなどとささやかれたこともある。トランプ弾劾という”政治ショー” さて、今回のトランプ大統領のケースに話を戻そう。 “ロシアゲート”を捜査しているミュラー特別検察官(元FBI長官)が、大統領も捜査対象としているーというニュースは今月15日、ワシントン・ポスト紙が報じた。 上院情報委員会でのコミー証言によると、大統領は、ロシアとの不適切な接触のために解任されたフリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の捜査に関して、「放っておいてくれ」と迫ったという。コミー氏は「大統領の指示と受け止めた」と証言している。フリン前大統領補佐官(ロイター=共同) コミー氏によると、大統領は他にも捜査への介入めいた言辞を弄したという。 ミュラー検察官は、大統領選挙でロシアの不正な干渉はなかったか、ロシアとトランプ陣営との癒着、不適切な接触がなかったかなどロシアゲート全般を捜査しているが、当面は、大統領のこれらの言動を捜査の核心に据えているという。 しかし、捜査の行く手は険しい。 トランプ氏側は、コミー証言によって「捜査妨害などなかったことがむしろ明らかになった」(共和党全国委員会)と強気の姿勢を見せている。 言葉のニュアンスは微妙であり、その場にいた者にしかわからない。しかもトランプ氏は“人払い”したうえで口を開いている。コミー氏の感じ方だけでは、大統領の捜査妨害を立証するのは容易ではないと指摘する専門家は少なくない。  「大統領の犯罪」が立証されても、現職にある間は刑事訴追されないから、それに代わる代償、制裁措置が弾劾だ。 すでに米議会は、民主党のベテラン、ブラッド・シャーマン下院議員(カリフォルニア州)が、捜査介入を具体的な理由として、他の議員にも弾劾へ同調するよう呼び掛けている。アル・グリーン議員(民主党、テキサス州)ら一部に賛成する動きがみられる。 これまで米国で、政府高官らのスキャンダルを捜査する目的で特別検察官が任命されたケースは16回。捜査に要した期間は平均で1100日を超えるという。 ミュラー検察官の捜査は始まったばかりであり、まさに「千里の道の一歩」だ。今後長い間にわたって、紆余曲折をたどることになろう。  仮に立証にたどり着いたとしても、上下両院いずれも共和党が多数を占める中で、下院での訴追決定、上院での有罪評決は現時点では、かなり困難といわざるを得ない。 トランプ弾劾といっても、政治ショーとしては面白いかもしれないが、実現へのハードルは高い。

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    落合信彦氏「トランプはFBIに追われ大統領職を放り出す」

    そう指摘するのはジャーナリストの落合信彦氏である。* * * こんな状況でも、日本の安全保障はまだ「アメリカ頼み」なのか。トランプが大統領職を放り投げる可能性が、いよいよ高まってきた。任期途中での辞任の可能性は本連載で昨年から指摘していた通りだが、事態はより深刻になっている。 5月9日、全米のテレビで「FBI長官、解任」の速報が流れた。その時、当のFBI長官ジェイムズ・コミーは出張でワシントンから離れ、西海岸のロサンゼルスにいた。ふとテレビを見たコミーは、「面白いイタズラだな」と呟いた。しかし直後、FBI本部に解任通知が届いていることを聞き、「イタズラ」ではないことを知らされる。米ワシントンのフーバービルにある連邦捜査局(FBI)本部 アメリカのメディアは、コミーが慌てて空港に駆けつけて専用機に乗り込み、ワシントンに向けて離陸する様子をライヴで報じた。そうするほどに、異例の事態なのだ。 1973年、ウォーターゲート事件の渦中にあったニクソンは、捜査を担当していた特別検察官たちを突如解任した。“土曜日の夜の虐殺”事件だ。 5月の突然のコミー解任で、ホワイトハウス前に集まった市民は「これは“火曜日の夜の虐殺”だ!」と叫び、トランプを批判した。トランプが、周辺へのFBIの捜査を妨害したのではないかと見られるからだ。 FBI長官の任期は10年。政権交代の影響を受けず中立な捜査ができるよう、長期に設定されている。任期途中で解任されるのは超異例である。「理由は単純だ。良い仕事をしていなかったからだ」 トランプは解任理由を聞かれ、そう語った。これこそ大統領お得意の「フェイク」だ。数多くの大統領を見てきた経験から言えば、トランプは限りなく「クロ」に近い。哲学内、歴史も知らない “ロシアゲート疑惑”は、驚くほどの広がりを見せている。トランプの娘婿のジャレッド・クシュナーは、2016年12月の政権移行のタイミングで、欧米の制裁対象になっているロシア政府系銀行の頭取と面会していた。ロシア駐米大使が面会を仲介したとされる。 大統領選でトランプの選対本部長を務めていたポール・マナフォートはウクライナの親ロシア派から75万ドルものカネを受け取った疑惑が取り沙汰されている。 大統領補佐官だったマイケル・フリンは駐米ロシア大使との近い関係が批判されて辞任に追い込まれたが、その後、ロシア系企業から5万ドル以上を受け取っていたことが明らかになった。 司法長官のジェフ・セッションズも大統領選挙中にロシア側と接触していたことが発覚した。 FBIは、これらを中心としたロシアのアメリカ大統領選への関与を洗っていた。その捜査の手が周辺へ迫り、焦ったトランプがコミーを解任したと見るのが自然だ。トランプの大きな勘違い しかし、トランプは大きな勘違いをしている。FBIは、長官ひとりのクビを切られたくらいで諦める組織ではない。むしろ本気でトランプを追い詰めようとするのではないか。 司法省は早くも、“ロシアゲート”を本格的に捜査するため、コミーの前任だったロバート・ムラーを「特別検察官」に任命した。フリンを辞めさせ、大統領上級顧問のスティーブン・バノンを国家安全保障会議の幹部会議から外すなど、側近を次々に飛ばしているトランプ。捜査が迫れば、今度は自ら職を放り投げて逃げ出すのが関の山だろう。 5月上旬には、トランプ本人がロシア外相のセルゲイ・ラブロフと非公開会談している様子を写した写真が公になった。その写真は表に出ないはずだった。ホワイトハウスの大統領執務室で、トランプはラブロフと笑顔で握手していた。アメリカはロシアに制裁を科しているはずなのに、ロシア側をにこやかに迎えている写真が出ることはあってはならないことだった。 大統領も側近たちも、ロシアとベッタリなのである。ロシア疑惑だけではない。最近のトランプは暴走を加速させている。政権発足から100日の節目を迎えた4月末には、ペンシルベニア州で集会を開いた。そこでトランプは「私の100日を語る前に、メディアの100日を採点してみよう」と語り出し、大統領批判を続ける記者たちを「非常に不誠実だ」と切り捨てた。 北朝鮮問題への対応も支離滅裂だった。「核開発を許さない」と言って空母カール・ビンソンを派遣したのに、1か月も経たないうちに「適切な環境下なら金正恩と会う」と言い出した。新聞は訳知り顔で「硬軟織り交ぜた対応で金正恩を揺さぶっている」と書いていたが、単にブレているだけだ。あの大統領には何の戦略もなく、ただ思いつきで喋っているだけなのだ。 日本人は、いざとなったらアメリカが北朝鮮をぶっ潰して守ってくれると思い込んでいるようだが、トランプは日本を守る気などまったくない。そもそも、東アジアの安全保障にコミットするつもりもないだろう。だから、「金正恩と会う」とか、「金正恩をアメリカに招待する」などと言えるのだ。 本連載の前号でも指摘したが、トランプの外交・安全保障政策には、まったく一貫性がない。娘のイヴァンカが「アサドは化学兵器で子供を殺している。アサドを攻撃すべきだ」と言えば、シリアを空爆する。軍が「北朝鮮に空母を派遣すべき」と言えば、カール・ビンソンを出す。 哲学がなく、歴史も知らないから、軍や側近の言うがままに操られているのだ。関連記事■ 元テレ朝・龍円愛梨氏 資金不足で選挙事務所借りられず■ 都民ファースト幹事長 野田ゴレンジャーとショーパブ会合■ 「SOD女子社員」シリーズ 本当に社員なのか?■ オバマ前大統領の超セレブ引退生活 金遣い荒い妻の意向も■ 無実の男性を痴漢にデッチあげた「中国人女性」の行状

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    コミー元長官の堂々たる公聴会は「さすがFBI」の一言

     臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、FBI前長官のコミー氏の公聴会について。* * * 先週、米議会公聴会でコミー前連邦捜査局(FBI)長官がロシア疑惑について証言した。公聴会を生中継した放送局は10局、日中とはいえ全米での視聴者は約1650万人という。 退任したばかりのFBI長官が証言する姿など、滅多に見られるものではない。日本で言えば、さしずめ警視庁長官や警察庁長官が証言するようなものだ。メディアの評価は期待通りだったというが、そもそもコミー氏は証言することをどう思っていたのだろう。米議会で証言する連邦捜査局(FBI)のコミー長官=5月3日(AP=共同) 公聴会に現れたコミー氏は、ダークな黒いスーツにえんじ色のネクタイを締めていた。見るからに重厚感があって落ち着いた印象。これは、黒は心理的な強さや重さを感じさせる色であり、えんじ色は大人らしさ、成熟をイメージさせるとともにクールさや理知的、大胆さを感じさせる色の効果でもある。 同じ赤系のネクタイでも、トランプ大統領や日本の失言大臣たちが好んで締める鮮やかな赤のネクタイとは印象がまるで違って見える。 席に着くやカメラのフラッシュが無数にたかれた。だがコミー氏はまるで動じる様子がない。表情ひとつ変えず、あごを上げ正面だけを見据えていた。宣誓を終えると、静かに座って椅子を何度か引き、袖口を直し、証言しやすい態勢を整えた。深く椅子に座り、背筋を伸ばす。堂々としたものだ。 質問する議員が変わる度に、その方向にまっすぐ身体を向け、背筋を伸ばして座る。時には椅子をずらし、机上のマイクの位置まで直す。落ち着いていなければ、ここまで気を使うことはできない。そしてこの動きは、きちんと耳を傾け、向き合って質問に答えますよという相手へのメッセージでもある。 コミー氏の仕草でよく見られたのは、机や膝の上で組まれた手の動きだ。親指を上げて手を組んだり、親指をこすり合わせたりしていた。組んだ手の親指を立てるのは、自分の考えや説明に自信があるからだといわれる。自分の感覚や主張には自信を持っていたが、少なからず公聴会の場で発言することにストレスを感じていたのだろう。親指をこすり合わせていたのは、そのストレスから心を静めよう、なだめようとしたからだ。 感情に合わせて動いたのは眉。「突然、解任された」と話した時は、額や眉間にシワが寄って、八の字のように眉が下がり、いまにも泣きだしそうな表情になった。「いつ解任されても仕方がない立場」と言いつつも、仕事に信念を持ち、残り6年の任期を全うする気でいたコミー氏には、我慢ならなかったであろう。FBIの真実はこれだ 二転三転する解任理由に混乱し懸念したと述べた途端、左眉が下がり右眉だけが上り、わずかに左肩をすくめた。この仕草は、理由に納得できないだけでなく、大統領への皮肉や批判を表しているように見て取れる。自分やFBIをありもしない嘘で貶めたと淡々とした口調で述べたが、その視線は鋭く前を見据えていた。この時感じた怒りは、かなりのものだったに違いない。 そして国民に対して「FBIは正直で、FBIは強く、FBIは常に独立性を保つ」とあごをわずかに上げて、これがFBIの真実だと強調した。大統領の発言を捜査打ち切りの指示と思ったという証言も重要だったし、会話をメモしたという証言も衝撃的だったが、それ以上にコミー長官は、公の場でFBIの名誉挽回をしたかったのかもしれない。 冒頭証言を終え、チェアマンが「ディレクターコミー(コミー長官)」と呼んだ瞬間、反射的に背筋を伸ばし姿勢を正したのも、FBIのトップに立っていた誇りがあったからだと思う。 反面、トランプ大統領には懐疑的だったと見える。メモを残した理由を「大統領の性格から、嘘をつくかも」と述べると、肩を下げ、眉も頬や口角も下がった情けなさそうな表情を見せた。自分の上司が、それもトップが嘘つきと確信した時のやるせなさや情けなさは、なんとも言い難い。それが一国の大統領だったのだから、その失望たるや相当のものだろう。 そんな大統領に求められたという忠誠には、「ロイヤルティー」という言葉を述べながら一瞬、両手の指を2本ずつ上げてクイクイッと曲げた。欧米でよく見る「いわゆる」という意味の仕草だ。忠誠を求められたことに疑問や反発を感じ、忖度する気にはならなかったと思われる。 ところが証言の最中は、言葉と相反する仕草や矛盾する表情は、まるで見受けられない。公聴会が行われた約2時間40分の間、用意された水を飲んだのは1~2度だけ。質問者が変わろうとも、どのような質問を受けても、姿勢も変わらず、身体が揺れることさえなかった。一瞬、戸惑ったり、言葉に詰まったり、感情がわずかに垣間見えた場面はあったが、コミー氏のボディランゲージには動揺や不安が一切表れなかったのだ。 それどころか、「大統領に忠誠を求められた際は、自分は動きもせず、口も開かず、表情も変えず、ぎこちない沈黙が続いた」と証言し、フリン前大統領補佐官の件については、大統領が執務室で他の人を人払いした時の状況や、その場にいたセッションズ司法長官の様子について、細かに証言したのだ。他人のボディランゲージを読み、それによって臨機応変に対応を変えている。さすがである。 FBIの長官までやった人物ならそれぐらい当然なのかもしれないが、訓練されている人間はやっぱり違うなあ。関連記事■ 【ジョーク】ヒラリー・クリントン氏が大統領目指すのはなぜ?■ 激ヤセのクリントン氏 1回数千万円の講演料で年収10億以上■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画【1/2】「根拠のないデマ」■ 【ジョーク】イラン大統領「オバマ無能」への対立候補の反応■ ヘーゲル米国防長官 訪韓時の朴大統領の日本批判に苛立った

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    米軍事作戦に怯える金正恩「ハッタリ外交」

    金正恩の暴走が止まらない。半島危機の真っただ中、北朝鮮は弾道ミサイルを発射した。国連安保理は緊急会合を開き、北朝鮮のさらなる挑発阻止への具体的協議に入った。圧倒的戦力差の米軍事作戦に怯え、もはや核開発しか生きる道のなくなった独裁国家の「ハッタリ外交」はいつまで続くのか。

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    トランプに怯える金正恩の秘策は「日朝首脳会談」の再現だ!

    西岡力(麗澤大学客員教授、モラロジー研究所室長)  今月14日、北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。その日は、中国が威信をかけた「一帯一路」サミットの開幕日でもあった。 こうした金正恩の挑発的な「瀬戸際外交」に今後、変化が訪れることはあるのか。それが編集部から与えられたテーマだ。具体的には、対話による外交努力、米朝首脳会談などが実現するかという問いだった。私の答えは基本的にはノーだ。ただし、日朝首脳会談の可能性はあるとみている。 理由は2つある。第1は、金正恩政権の権力構造だ。端的に言うと金正恩独裁政権を支える労働党組織指導部が対外感覚をほとんど持たない国内向け組織だからだ。新型の中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験に立ち会う金正恩氏(共同) 第2は、金正恩政権の対外矛盾は交渉で解決できるものではないからだ。金正恩政権と米国トランプ政権の間に妥協の余地がほぼない根本的矛盾が存在し、その上、中朝関係が最悪で中国共産党は米朝の対立で金正恩をかばわないだろう。ただし、金正恩が米国の軍事圧力をかわすために日本の安倍政権に接近する可能性はある。 一つずつ検討する。まず、金正恩政権の権力構造だ。20歳代の若者だった金正恩が父の死後、独裁者の地位に昇り、曲がりなりにも政権を維持し続けられた秘訣(ひけつ)は、金正日が作り上げた個人独裁システムが精緻で強固だったからだ。その核心的な部署が党組織指導部だった。 金正日は1970年代初めに金日成から後継指名を受けた後、党組織書記となった。朝鮮語では書記は「ピソ(秘書)」であり、金日成は金正日のことを組織ピソ同志と呼んでいた。金正日は自分が掌握した党組織指導部を大幅に増強し、自分が一番信頼する大学の同窓などを幹部として呼び寄せた。 まず、組織指導部に検閲班をつくり、党、政府、軍、対南工作機関などに同班を派遣して、金日成に忠誠を尽くしてきた年長幹部らを「成果がない」としてつるし上げて、今後は全ての決定を組織ピソである金正日の承認の下で行うことを誓わせた。全ての情報と決済書類は金正日を通じてのみ金日成に上がるというシステムが築かれた。 金正日の手足となった組織指導部が、国内の全ての機関の幹部、また、全人民を監視統制するようになった。北朝鮮の全ての人民は毎週1回、金正日の指令を忠実に実行したかどうかを自己批判、相互批判する「生活総和」に出席することが義務となった。その生活総和は各組織にいる組織ピソの指導を受ける。そのトップに金正日が君臨するというシステムだった。全ての機関の幹部人事も組織指導部が管轄した。 金正日は同部が絶大な権力を持つことになることをよく知っていて、同部には部長をおかず、数人の第1副部長と副部長らが分担して業務を行い、お互いを牽制(けんせい)し合わせ、金正日が組織ピソ兼組織指導部長として全体を統括した。また、組織指導部幹部らには党中央副部長以上の職位は与えず、また、外交や対南工作にも関与させなかった。彼らは国内だけにいて、海外に送ることもしなかった。一言で言ってまったく国際感覚がない組織だ。 その組織指導部が金正日の死後、金正恩を取り囲み事実上、金正恩政権の最高権力機関となっている。張成沢処刑も彼らが主導したし、金正恩を支えたもう一つの支柱だった金元弘国家保衛部長をも今年初めに解任した。彼らは金正日の立てた国家戦略を盲目的に守ることしか考えていないから、いくら米国が圧力をかけても核ミサイル開発を止めるという決断はしないだろう。金正日が生きていれば…金正日総書記の肖像画に黙とうする幹部ら。左端は金正恩氏=1月17日、平壌(共同) 金正日が生きていれば組織指導部に国内監視を任せながらも、対外関係では大胆に決断をすることも可能だった。しかし、金正恩はそのような能力を持っていないと思われる。すでに国内で米国まで届く核ミサイルは完成している、米国本土を攻撃できると公言、宣伝しているので、外交的にずるく立ち回って時間稼ぎをするため核ミサイル開発を中断することができなくなっている。それをすれば、米国の圧力に敗北した弱い指導者だと国内で思われ、人民統制が困難になる。組織指導部は人民統制を最重視するので、その意味で外交的解決は不可能に近い。 金正日が生きていれば 第2の、金正恩政権の対外矛盾は交渉で解決できるものではないという理由を検討する。4月に朝鮮戦争が始まるのではないかと多くのメディアが報じたのは、トランプ政権がこれまでの米国政権の対北政策を間違いだったと断じたためだった。 トランプ大統領と政権高官らはオバマ政権の「戦略的忍耐政策」は間違っていた。こちらが忍耐している間に、北朝鮮は米本土に届く核ミサイルを持つ直前に至った。トランプ政権はそれを絶対に許さない。そのため、軍事行動を含む全ての手段をテーブルの上に置く、と繰り返し述べた。 米国にとってのレッドラインは、独裁者金正恩が米本土を核攻撃できる能力を持つことだと明言された。米国は強力な核兵器体系を保有しており、当然、北朝鮮を核攻撃する力を持っている。その米国も自国の安全のためには北朝鮮のような狂気の独裁国家が自国を核攻撃する能力を持たせないと宣言しているのだ。 ひるがえってわが国はどうか。すでに北朝鮮は1993年に日本のほぼ全土を射程に入れたノドンミサイルの実験発射を富山沖に向けて行ったが、当時の宮沢内閣はその事実を非公開にして、危機を見ないふりした。それを米国のウォールストリート・ジャーナルは「日本はお得意のダチョウのポーズをとっている。そのような国になぜ米国が核の傘をさしかけなければならないのか」という趣旨の記事が出た。 わが国にとって北朝鮮が米本土を核攻撃できる能力を持ったら、核の傘は機能しなくなる危険が高まる。その意味では、核攻撃は絶対に許してはならないが、一方で独自に核抑止力を整備する議論もすべきだと私は思っている。 一方、金正恩は先述の通り核ミサイル開発を止められない。したがって、今年秋にかけて米朝の矛盾は極限まで高まるだろう。その場合、拉致問題を核と切り離して先行協議できるというメッセージを日本が送り続ければ、米国の軍事圧力をかわすため日本を利用としようとした2002年9月の日朝首脳会談の再現があり得るかもしれないと、息を呑む思いで状況の推移を見守っている。

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    「口先攻撃戦略」金正恩が震え上がったトランプのあるセリフ

    重村智計(早稲田大学名誉教授) 北朝鮮が5月14日に新型ミサイルを発射した。同じ日に、中国の習近平国家主席が世界に呼びかけた経済圏構想「一帯一路」の国際会議が北京で開かれた。ミサイルは中国の威信を汚した。南北首脳会談に積極的な韓国の文在寅大統領もメンツを潰された。北朝鮮は、中韓の指導者をコケにする強気を示したように見える。一方、ミサイル発射に合わせ、米元国連大使と北朝鮮外務省局長の非公式接触も行われたという。弱気に揺れる指導者の悩みが浮き彫りになった。 トランプ米大統領は、北朝鮮指導者の扱いを熟知している。得意の「誇大表現」で「核施設を限定攻撃する」と思わせ、金正恩委員長を追い詰めた。米韓の情報機関は、金委員長が野外で行われる式典に姿を見せるのは、暗殺を心配する金委員長の「影武者」との情報をひそかにリークし、「弱気な指導者」を演出している。 北朝鮮は、「ソウルを火の海にする」などの過激な表現で、周辺大国を不安に追い込み、譲歩を得る手口を得意とする。ところが、トランプ氏がその「口先攻撃戦略」のお株を奪い取ってしまった。「北朝鮮は米国の安全保障にとって喫緊の課題だ」と強調し、金委員長を弱気にさせ、核実験を見送らせたのである。 トランプ氏は、習氏に「核実験をすれば、必ず限定攻撃する」と北朝鮮に伝えるよう求めたという。北朝鮮が中国に「4月20日に核実験を行う」と伝えた、との報道がある。中国は「トランプ氏は核実験施設を限定攻撃する」と強く警告した。4月29日、米ペンシルベニア州出行われた支持者向け集会で登壇したトランプ米大統領(ロイター=共同) 核実験は見送られたが、これでは金委員長の軍へのメンツは丸つぶれだ。4月15日の金日成主席の生誕105周年と、25日の朝鮮人民軍85周年の記念すべき日の前に、核実験もミサイル実験もできず、「トランプと習近平に脅された弱気の指導者」とみられてしまう。指導者に対する軍の信頼が揺らぎ、威信が傷ついた。 だからこそ、軍は指導者に新型ミサイルの実験を求めた。ミサイル発射は4度も失敗していた。北朝鮮では、担当者同士が横の連絡を取るのは禁止だ。軍は、米中首脳会談の内容や韓国大統領の対話策はもとより、米朝接触などの日程を知らされていないため、外交当局の弱腰に反発し妨害する。この平壌のポリティクス(政治)がわからないと、北朝鮮の行動は理解できない。 トランプ氏の「金委員長弱気作戦」の始まりは、2月の日米首脳会談であった。安倍晋三首相は、トランプ氏に北朝鮮がいかに小さな国であるかを説明した。北朝鮮は世界最低の「石油最貧国」で、年間の石油輸入量はわずか50万トンだ。安倍首相は、石油供給を止めれば軍隊は崩壊すると述べ、「対北石油禁輸」戦略に中国を巻き込む必要を強調した。トランプ氏は米中首脳会談で習氏に「対北石油禁輸」を求めた。 信じられないだろうが、北朝鮮の国家予算は公式レートで計算するとわずか80億円、韓国銀行の推計でも約8000億円しかない。消え去るのは国家か威信か…正恩氏のジレンマ 安倍首相は、北朝鮮に言及する際には「軍事オプションを排除しない」との立場を表明するのが効果的だ、とトランプ氏に説いた。トランプ氏をはじめ、米政府高官が「全てのオプションはテーブルの上にある」と述べるのは、安倍首相のアドバイスのおかげだ。 4月の米中首脳会談の前後に、トランプ氏は2度も安倍首相に電話し、中国への「対北石油禁輸」要請を確認した。米中首脳会談の晩さん会の最中、トランプ氏はシリアへのミサイル攻撃を行った。この作戦が平壌を震え上がらせた。 さらに安倍首相は4月27日にモスクワでプーチン露大統領と会談し、拉致問題と北朝鮮問題も話し合った。首相は、プーチン氏にトランプ氏との電話会談を説得して実現させ、日米中露の「北朝鮮包囲網」を作り上げた。 その後、トランプ氏は「北朝鮮は国家の安全保障に差し迫った課題で、外交上の最優先課題」と繰り返しながら、4月27日には「戦争になる可能性はある」と過激な表現を使った。北朝鮮も「破局的結果も覚悟すべき」「先制核攻撃」などの「言葉の戦争」を展開したが、トランプ氏にはかなわない。 北朝鮮の「過激な言葉」を分析なしに報じると、その「弱気」を読み違える。北朝鮮は「敵が挑発するなら」や「中国が制裁強化すれば」などの「留保表現」を忘れない。「米国に限定攻撃させたくない」との思いが痛いほど伝わる。5月14日、ソウル駅のテレビ画面で流れた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の資料映像(AP=共同) 日本や米国、韓国では、米国が「核施設限定攻撃」をしたら北朝鮮の報復攻撃でソウルは壊滅的な打撃を受ける、だから米国は限定攻撃できないと言う。この分析は日米韓側の事情だけの判断で、戦略的分析とはいえない。北朝鮮側の「弱点」を計算に入れていないからだ。 北朝鮮は、核施設などを限定攻撃されても報復反撃はできないだろう。反撃して、全面戦争にはしたくない。全面戦争を継続できる石油がないからだ。 戦争なら北朝鮮は消滅する。だが、報復攻撃しなければ、指導者の権威と威信は失われる。金委員長のジレンマは深い。米国の限定攻撃に反撃しなければ、国内で「弱気」を批判される。米国の脅しに恐れをなしたと噂されれば、指導者の正当性と権威は失われる。 軍部は金委員長に「核実験継続」を迫る。「米国ごときは怖くない」との姿勢を示すためにも、核実験せざるを得ない。核兵器をミサイルへの搭載が可能になるほど小型化するには、なお実験が必要だ。必ず核実験をするだろう。そうなると中国は、石油禁輸に踏み切らざるを得なくなる。 それでも核とミサイルの実験が止まらなければ、トランプ大統領は「独自の対応」に踏み切ると明言する。北朝鮮は、核兵器の小型化と大陸間弾道ミサイル(ICBM)完成について、「最終段階」と明言する。この言葉には、完成すれば米朝交渉をするとの「戦略」が込められている。「もう少しで終わるから…。軍には逆らえないから…」理解してほしい、との指導者の弱気がにじむ。

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    金正恩がひた隠しにする「朝鮮人民軍」の致命的弱点

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト) 4月8日、米太平洋軍のハリス司令官は空母カール・ビンソンの北上を命じた。こうした命令が公開される事自体が極めて異例なことで、米国が北朝鮮に圧力を掛けるための作戦である。 1週間以内に北朝鮮近海に到達することは、ほぼ確実と見られていたが、まさに1週間後の15日、カール・ビンソンがインドネシアのスンダ海峡を通過したと公表された。北上せよとの命令が公表されていたにもかかわらず、この空母は逆に南下し1週間、南シナ海に留まっていた。なぜ直ちに北上しなかったのか? その疑問は4日後に解けた。 19日、米国のペンス副大統領は横須賀に停泊している米空母ロナルド・レーガンの艦上で演説し、北朝鮮を牽制した後、「空母レーガンの復帰は間近だ」と演説を締めくくった。レーガンは昨年11月に横須賀で定期修理に入っていた。期間は約半年とされていたから4月中に定期修理を終え実任務に復帰するわけだが、カール・ビンソンが南シナ海で待っていたのは他でもない、この空母レーガンの復帰だったのだ。米空母「ロナルド・レーガン」艦上でスピーチするペンス米副大統領 =4月19日、横須賀基地(古厩正樹撮影) 先のiRONNAへの寄稿「大都市を一夜で壊滅できる『世界最強』米空母カール・ビンソンの実力」で米空母の凄さを解説したが、基本的に米国の正規空母は、爆薬約2000トンと戦闘攻撃機「FA18ホーネット」50機前後を搭載している。そして戦闘攻撃機を3分に1機の時間間隔で発着艦させられる。 1機が2トンの爆弾を搭載するとすれば、60時間、敵地の爆撃を間断なく継続できる計算になろう。空母が2隻あれば、交代して爆撃を継続でき、日本で爆弾と燃料の補給を受けられるから、半永久的に爆撃を継続できるわけである。 第2次大戦において日本の都市の多くは米軍による空襲を受けた。民間の被害は甚大であったが、実は軍事活動は壊滅していなかった。空襲警報により、防空壕に避難し、空襲が去った後、軍事活動は再開されたからである。 中東におけるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に対する空爆も同様であり、空爆の間は避難し、その後活動を再開するため、IS軍を空爆だけで壊滅するのは難しいのが実情だ。だが、同時に上記2例はいずれも、空爆の間、軍事活動が一時停止することを示していよう。となれば空爆が間断なく続いた場合、軍事活動は半永久的に停止せざるを得ないわけだ。空母2隻体制で爆撃された場合、北朝鮮は反撃の機会すら与えられず、ただひたすら防空壕の中で空爆に耐えているしかないのである。 北朝鮮の金正恩委員長は今年の新年の辞で「ICBM(大陸間弾道ミサイル)試射の最終段階にある」旨を述べた。また1月8日には北朝鮮外交部の声明で、ICBMは「最高首脳部が決心する任意の時刻に任意の場所から発射されるだろう」と述べたが、現時点まで発射された形跡がない。 北朝鮮は2012年に人工衛星の打ち上げに成功しており、ICBMの基本的な技術は持っているはずだが、まだ実験すらしていない。つまり米国に届く長距離ミサイルが実戦配備されるには、今後数年を要すると見られる。北朝鮮の潜水艦は全くの無力 米軍基地のあるグアム島を射程に入れた中距離弾道弾ムスダンは実戦配備されていると見られるが、昨年10月に試射され失敗に終わっている。ムスダンは中国製と見られることから、発射に際しては中国の許可が必要となるはずである。 つまり、安全装置を解除するためには暗証番号を入力する必要があり、その番号はその都度、中国に聞かなければならない。正しい番号が入力されずに発射されれば、発射は失敗に終わる仕組みである。 これは4月16日、29日に発射された弾道弾も同様であり、いずれも中国の許可を得ずに発射を強行して失敗に終わったと見られる。 もちろん、北朝鮮製の弾道弾もあるにはある。例えば3月6日に4発発射され秋田沖に着弾した「スカッドER」は北朝鮮製である。また日本を射程に入れる「ノドン」も北朝鮮製であり、発射に中国の許可を必要としない。5月14日に発射した中距離弾道弾「火星12号」も同様である。 しかし、これらのミサイルは旧式の液体燃料型であり、発射に際してはその都度、数時間かけて燃料注入をしなければならない。つまり発射の予兆を探知されやすく、米軍による攻撃の格好のターゲットになろう。また、壊滅しそこなったとしても日米韓の分厚いミサイル防衛システムに阻まれることは必定である。 そして懸念が広がっている核爆弾の開発状況については、昨年9月に5回目の核実験に成功し、4月以降、6回目の実験を実施するのは確実と見られている。だが、弾道弾に搭載できるように小型化、軽量化するには、まだ数年を要するであろう。ミサイルの発射実験に立ち会う金正恩氏(中央)の写真=(共同) また、北朝鮮の海軍は排水量1700トンのロメオ級潜水艦を20隻程度保有しているが、これは旧ソ連製であり実力としては第2次世界大戦当時の標準的能力しか有していない。現在3500トン級の戦略潜水艦を建造中であるが、まだ完成には程遠い。日米の対潜水艦能力は世界最高水準にあり、これに対して北朝鮮の潜水艦は全く無力であろう。 戦闘機については、北朝鮮はロシア製のミグ23、29を合わせて数十機保有している。しかし、ミグ23は第3世代型の旧式機であり第4世代型のFA18や我が国のF15に太刀打ちできる代物ではない。 ミグ29は第4世代型であるが、パイロットの年間飛行時間が20時間程度と日米の150時間以上と比べて極端に少なく、格闘戦は不可能だ。しかも山口県の岩国の米軍基地には第5世代型のF35が配備されており、ミグ29を一瞬にして壊滅できる実力を誇っている。 北朝鮮の陸軍はT72やT62といった旧ソ連製戦車を多数保有しているが、やはり世代的に古く米国のM1戦車の敵ではない。自走砲として注目されているのが300ミリ多連装ロケット砲だが、制空権を維持できない状態では戦車同様、米軍の戦闘攻撃機の餌食になるしかないであろう。 北朝鮮の特殊部隊は10~20万人いるとされ、北朝鮮軍の中では唯一危惧されるべき存在であるが、これを管理している国家保衛省の上級幹部が最近多数解任されており、有事に際してどれほど動けるのかは不明である。

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    北朝鮮の暴発を恐れたトランプの真意

    海野素央 (明治大学教授、心理学博士) 今回のテーマは「米朝危機、窮鼠猫を噛むか」です。ドナルド・トランプ米大統領は米通信社ブルームバーグとのインタビューの中で、すべての選択肢の中に米朝会談が含まれていることを示唆しました。「適切な条件下であれば」と加えながらも、なぜこのタイミングでトランプ大統領は会談の可能性に言及したのでしょうか。会談を持ち出した意図はどこにあるのでしょうか。本稿では、同大統領の北朝鮮問題における言動の変化の理由について考えてみます。 トランプ大統領の北朝鮮に対する言動に変化が起きました。原子力空母「カール・ビンソン」を中心とした空母打撃群及び原子力潜水艦「ミシガン」の派遣により「力」を見せつけ、軍事行使の可能性をちらつかせてきた同大統領ですが、突然キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長に感情移入をしたのです。「父親が亡くなって政権を引き継いだ時、26か27歳だった。特に将軍といったとてもタフな相手とやりとりしている。すごく若くして権力を継承できた。大勢の人々が権力を取り上げようとしたはずだ」と言うのです。その上で、キム委員長を「賢い人物」と評し、「適切な状況下で会うことは光栄だ」と持ち上げたのです。 一言で言えば、米朝危機においてトランプ大統領は「窮鼠猫を噛む」状況を回避しようとしています。追い詰められて逃げ場を失った北朝鮮が、必死に逆襲するという最悪のシナリオを避けるメッセージを送ったわけです。英語では「追い詰められたシカは危険な敵になる(A stag at bay is a dangerous foe.)」と言いますが、ネズミであれシカであれ北朝鮮が反撃すれば韓国及び日本に甚大な被害をもたらすことは明白です。 前回の記事「トランプループの罠にはまった習近平」で説明しましたように、トランプ大統領はループの罠をキム委員長にも仕掛けています。今回のトランプ大統領の発言には、「意表」を突いた言動をとり軍事的圧力をかけて「イライラ」させる段階から、同委員長をなだめすかして一旦「安心」させる段階に移行する意図があることが読み取れます。 周知の通り、過去に現職の米大統領と朝鮮労働党委員長による首脳会談は開催されていません。歴史的なレガシー(政治的功績)を残す欲求が強くしかも予測不可能なトランプ大統領が、今後米朝会談をもちかける可能性がまったくないとは言い切れません。 環太平洋経済連携協定(TPP)離脱に見ることができるように、トランプ大統領は多国間よりも2国間による交渉を好む傾向があるからです。中国主導の従来型の6カ国協議よりも、米朝による2カ国で核・ミサイル開発放棄の意思表明とキム体制保証の取引を直接行うという選択肢を選ぶ可能性は否定できません。 しかも、トランプ大統領にはエジプトのシシ大統領、トルコのエルドアン大統領及びフィリピンのドゥテルテ大統領といった人権軽視の専制主義的リーダーに好感を抱く傾向があるからです。キム委員長にはこれらの政治指導者と類似点が存在します。仲介役として重要な日本 ただ、ワシントンで下院外交委員会に所属するメンバーにインタビューを行うと、次のように語っていました。 「トランプがキム・ジョンウンと会談を行う可能性はかなり低いです。彼(キム氏)の名声を高めてしまうからです。トランプはそのようなことはしません。会談は最後のカードです」 トランプ政権は上下両院議員を集めて対北朝鮮政策について説明を行っています。この下院議員は軍事行動の可能性について以下のように述べました。 「私はトランプ政権が軍事行動をとる方向に徐々に近づいているという印象を持っています」 同議員の外交・安全保障問題担当のスタッフは、トランプ政権がオバマ政権の「戦略的忍耐は終わった」と繰り返し主張している点に関して、次のように指摘していました。 「トランプ政権の北朝鮮に対するアプローチは、対話と経済制裁を柱とする戦略的忍耐と中味は同じです。トランプ政権は自分たちの北朝鮮に対する政策を戦略的忍耐と呼びたくないのです」 日本は米国と中国の狭間でどのような役割を果たして存在感を示すことができるのでしょうか。2003年8月第1回目の6カ国協議が開催されて以来、日本は中国に主導権を奪われてきました。6カ国協議が停滞している間に、北朝鮮は核・ミサイルの技術を進歩させたというのが一般的な見方です。しかもトランプ政権が中国の北朝鮮に対する影響力に依存しているので、南シナ海における軍事拠点化の問題解決の糸口は一向に見つからないのです。 米議会の動きにも注目です。上院軍事委員会のリンゼー・グラム議員(共和党・サウスカロライナ州)は東アジアに甚大な被害が出ても、米国本土を守るために北朝鮮に対する先制攻撃を行う必要性を主張しました。上で紹介した下院議員は、インタビューの中でグラム上院議員のこの発言を「無謀だ」と非難しましたが、米国本土優先論が米議会及び世論で支配的になることは日本にとって決して好ましいことではありません。 中国がイニシアチブをとる6カ国協議の早期再開ではなく、米朝2国間によるトランプ・キム会談の実現に向けて平和的解決を目指す日本が仲介役となり、両国に働きかけることが極めて重要です。

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    米中戦争、トランプならやりかねない

    北朝鮮攻撃が現実味を増す中、トランプ就任後初の米中首脳会談が実現した。対北緊密協力で「米中蜜月」をアピールするも、トランプの中国認識は強硬論一色である。南シナ海や経済摩擦などをめぐり、急速に冷え込む米中関係は今後どうなっていくのか。トランプ政権の思惑と習近平に迫る危機を読み解く。

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    次の狙いは北朝鮮との秘密交渉か、トランプ流外交で糸口探る

    佐々木伸 (星槎大学客員教授) 米空母艦隊の展開など北朝鮮情勢の緊張が続く中、トランプ大統領は軍事行動も辞さないという強硬姿勢を見せる一方で、金正恩朝鮮労働党委員長との対話の可能性を示唆するなど相手を翻弄する”トランプ流外交術”をいかんなく発揮している。硬軟取り混ぜたこうした発言は一部に、トランプ氏が北朝鮮に秘密交渉を仕掛ける布石ではないかとの観測を呼んでいる。 トランプ氏の北朝鮮に関する発言は6回目の核実験の動きが浮上したころから急増した。4月24日には国連安保理メンバーの国連大使らをホワイトハウスに招いて北朝鮮に強力な追加制裁を科すよう求めたと思うと、核施設などへの先制攻撃についても「そのうち分かる」と軍事力行使を否定しなかった。トランプ大統領=4月20日、ホワイトハウス(ロイター) さらに同氏は月末になって北朝鮮と「大きな紛争」が起きる事態もありうると警告し、「外交的な解決を望むが、非常に難しい」と発言。ホワイトハウスの側近らもあらゆる選択肢を検討中と述べるなど軍事的緊張の激化に拍車が掛かった。最近の弾道ミサイル発射実験に関しても「中国の望みをないがいしろにした」と金委員長への批判を強めた。 しかしトランプ氏はその後のブルームバーグ・ニュースとのインタビューで「適切な状況の下で金委員長と会えれば光栄に思う」と条件付きながら金氏との直接会談の可能性に言及。直前のCBSテレビでも「彼は相当頭の切れるヤツだ。非常に若いのに権力を掌握することができたからだ」などと金委員長を持ち上げて見せた。 だが、この発言の直後のFOXニュースとのインタビューでは「彼は扇動的で恐ろしい。世界の脅威だ」と非難し、上げたり下げたりの発言を繰り返した。トランプ氏のこうした発言の真意は不明だが、北朝鮮側がこのメッセージの解釈をめぐって困惑しているのは間違いない。 トランプ氏は元々、金委員長との直接会談を排除していない。選挙期間中から「話すことのどこが悪いのか。何の問題もない。ハンバーガーでも食いながら話せば良い」などと述べており、会談自体については一貫性がないわけではない。 トランプ・ウオッチャーの1人は大統領の一連の発言について「硬軟のタマを投げて、追い詰められている北朝鮮を困惑、混乱させることが目的。北にとって見れば、シリアを攻撃したように何をやるか分からない“予見不能”な人物の発言だけに余計不気味だ」と指摘する。トランプの狙いは「秘密交渉」 トランプ氏の次の狙いはズバリ、北朝鮮との秘密交渉だろう。軍事的な手段は勇ましいだけで、危険が大きすぎる。仮に米側が巡航ミサイルや空爆などで先制攻撃をしたとしても、核関連施設や弾道ミサイル発射基地、指揮管制センターなどすべての施設を破壊するのは不可能。ましてや地下深くにある施設が多い。金委員長個人の“除去”もうまくいく保証はない。不確定要素だらけなのだ。 その結果、報復能力が相当残り、ソウルは無論のこと、それこそ北朝鮮が恫喝するように東京が火の海になりかねない。報復攻撃を招かなくても、限定的な先制攻撃は核開発を数年遅らせる効果しかあるまい。この点は国防総省が冷徹に分析しており、トランプ氏も日韓の同盟国の意向を無視して軍事行動には踏み切れないだろう。 だからこそ、トランプ氏はあれほど非難をしてきた中国におべっかまで使い、北朝鮮へ圧力を掛けさせようと、いわば“下請け”に出さざるを得なかった。しかし中国がうまく北朝鮮を抑えられるのか見通しが付かないうえ、対中貿易交渉で中国側に主導権を握られる恐れが強く、その代償は大きいと言わざるを得ない。トランプ米大統領が主催した夕食会に出席した中国の習近平国家主席夫妻=米フロリダ州パームビーチ、4月6日(ロイター) トランプ政権の当面の北朝鮮政策は軍事、経済両面で、北朝鮮に対し圧倒的に圧力を掛け、金委員長を交渉のテーブルに就かせ、核兵器開発を放棄させることにある。しかしその前に、交渉入りに向けた環境を整えることが不可欠。そのためには、水面下での秘密交渉が絶対に必要なのだ。 トランプ氏は少人数の側近による手法を好む。秘密交渉はそのアプローチにも合致する。トランプ氏の外交問題の師でもあるキッシンジャー元国務長官がニクソン政権の補佐官(国家安全保障担当)にあった時、電撃的な中国との国交樹立に秘密交渉を仕掛けたのは歴史的な事実だ。 またトランプ氏が尊敬するレーガン元大統領が敵対するイランに当時のマクファーレン補佐官(同)を派遣し、レバノンで拘束されていた米国人人質を解放するために秘密交渉を行ったということもあった。この工作では、マクファーレン補佐官がイラン側に拘束され、国外追放されるというおまけまでついた。 こうした例に学び、中国の北朝鮮に対する緩慢な圧力に業を煮やしたトランプ氏が側近に北との秘密交渉を容認することは十分考えられる。行われるとすれば、恐らくは欧州のどこかになるだろう。その時、日本政府に通告があるのかどうか。米中国交樹立の“ニクソン・ショック”では、日本側に通告されたのは、正式発表の3分前だった。

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    トランプが日本の「戦後」に終止符を打つ

    潮匡人(評論家) これで、ようやく「戦後」が終わる。そう感じさせたアメリカ合衆国大統領選挙であった。それにしてもマスコミ報道は酷い。2015年からトランプを「暴言王」の「泡沫(候補)」と扱い続け、開票当日までクリントンと決め打ちした。 結果が出ると、自らの不明を恥じることもなく、「驚くべき番狂わせ」「土壇場の大逆転」などと報じた。なんのことはない。マスコミの勝手な思い込みではないか。象徴的な一例を挙げよう。2016年11月13日放送の「サンデーモーニング」(TBS系)で岸井成格コメンテーターがこう語った。「トランプにだけはなってもらいたくないという、いい意味での良識が、思い込みが強くて、『隠れトランプ』を見逃したというところが大きかった」 右の「良識」は「常識」とも聞こえたが、どちらにしても、おかしい。日本語としても、コメントとしても……。 しかも右は、米メディアへの批判ないし分析だった。自己批判の脈絡ではなかった。いまなお彼らは〝失敗の本質〞に気づいていない。報道機関たるべき放送局が言論機関に成り果て、真実でも、事実ですらない独善を、自分たちの勝手な思い込みや主義主張を垂れ流してきたことに……。トランプ氏を支持する人々=3月4日、米フロリダ州(ゲッティ=共同) 彼らだけではない。各局みな、自分たちの不明を棚に上げ、いまもアメリカ大統領への揶揄誹謗を続けている。 ちなみに「誰もが予想外だった」(NHK)わけではない。投開票を目前にした2016年11月8日発売の『夕刊フジ』一面は「隠れ支持者500万人」の見出しを大書していた。 当該記事でコメントしたのは私。2015年から「トランプ」と言い続けてきた実績から起用されたのであろう。 だが、多くのメディアは耳を貸さなかった。私を侮蔑嘲笑した「識者」も多い。みな口を拭い、連日のように地上波各局でトランプ政権を語っている。当選の可能性はおろか、「トランプ旋風が吹く」との予測すらできなかった「識者」を、なぜかメディアは起用し続ける。『そして誰もマスコミを信じなくなった』――前著のタイトルは、米大統領選を巡る日米のマスコミ報道に見事なまでに当てはまろう。 余談ながら、土方細秩子(ジャーナリスト)によると、インドで開発されたAI(人工知能)の「MogIA」が、トランプ当選を予測していたらしい。過去にインドでの選挙や米大統領選挙の結果も正しく予測したという(『ハフィントンポスト』)。 デジタル時代の予測や分析は、AIの十八番でもあろう。そして誰もがAIを信じるようになった――。笑い話ではない。仮想現実の世界でもない。これは、いまリアルな世界で起きている現実だ。日米同盟は「正しくない」 以上のマスコミ批判は一部、日本政府にも当てはまる。平成28年(2016年)11月10日付『産経新聞』朝刊一面コラム「トランプ大統領で、いいじゃないか」(乾正人・東京本社編集局長)を借りよう。《日本の外務省はまたも下手を打った。先月から今月にかけて話を聞いた高官や有力OBの誰一人として「トランプ大統領」を予測していなかった。某高官などは「接戦ですらない」とまで断言していた。外務省の楽観的な見通しも後押ししたであろう9月の安倍晋三首相とクリントン候補との会談は、失策としか言いようがない》『産経』コラムは、こうも説く。《トランプ流の「在日米軍の駐留経費を全部出せ」といったむき出しの本音には、日本も本音で向き合えばいいのである。/大統領になったらそんなむちゃな要求はしないだろう、という幻想は捨てなければならない。いよいよ米軍が撤退する、となれば、自衛隊の装備を大増強すればいい。その際は自前の空母保有も選択肢となり、内需拡大も期待できる。沖縄の基地問題だって解決に向かうかもしれない》「トランプにだけはなってもらいたくない」と思い込むTVコメンテーターと「トランプ大統領で、いいじゃないか」と構える新聞人。いずれが本物のジャーナリストなのか。すでに結果は出ている。自称「良識」派らが振りまく「幻想は捨てねばならない」。 佐藤伸行著『ドナルド・トランプ 戯画化するアメリカと世界の悪夢』(文春新書)も、こう警鐘を鳴らす。《トランプにとっては、今も昔も安全保障は「ビジネスの種」なのである。日本に米軍駐留経費を払わせることは、「政治家トランプ」の数少ない政策の中で珍しく一貫している。/万が一、トランプが大統領になった場合、翻意を促すことは至難であろう》 私もそう思う。トランプは政治家ではなく経営者(ビジネスマン)である。だから日米同盟を、「普遍的な価値の共有」(日本政府)ではなく、あたかも貸借対照表(バランスシート)を眺めるように考える。正邪善悪ではなく、利害得失で判断する。だから「フェアでない」(不公平)と非難してきた。 英語の「フェア(fair)」は「公平」とも「公正」とも訳せる。定評ある『リーダーズ英和辞典』(研究社)は「正しい」の訳語を最初に載せている。トランプのいう「フェア(公平)でない」は、「公正でない」「正しくない」「不正」「不当」とも訳し得る。トランプ自身の含意はどうあれ、米国民は後者の意識を共有するかもしれない。それは日本の安全保障にとって重大なリスクとなる。私はそう警鐘を鳴らしてきた。 念のために言えば、日米同盟が米国にとって「フェアでない」のは、日本が集団的自衛権を行使しないからである。正確に言えば、平和安全法制の下でも「存立危機事態」でしか(限定)行使しないからである。にもかかわらず、日本のマスコミはNHK以下「集団的自衛権の行使を可能とする安保法制」と報じ、トランプに「暴言王」のレッテルを貼ってきた。いまなお自分たちが何を間違ったのか、気づいていない。日本もリスクとコストの負担を マスコミが報じるとおり「日米関係に最も影響を与えそうなのが在日米軍の駐留経費問題」なら(2016年11月10日付『朝日新聞』朝刊)――もし単にそれだけの話なら――、日本が全額負担すればいい。たしかに「日本の米軍駐留経費の負担率は74.5%で、ドイツの32.6%、韓国の4.0%と比べてもかなり高い」(同前)。北朝鮮によるミサイルを発射を受けて、記者発表に臨む安倍晋三首相(左)とトランプ米大統領=2月11日、米フロリダ州パームビーチの「マールアラーゴ」(代表撮影) だが、そう政府やマスコミが合唱するとき、日本と違い、ドイツや韓国が集団的自衛権を行使でき、実際に武力行使を伴う集団安全保障措置にも参加してきた事実を忘れている。他方、日本は「小切手外交」「卑怯な商人国家」と揶揄批判されてきた。 あえて自虐的に言えば、全額負担の残りは25.5%。その程度のカネで解決できるなら、日米同盟の見通しは明るい。今後も「小切手外交」と言われ続けることを甘受するなら……。 しかしトランプ候補が、アメリカの同盟国に求めてきたのは「応分の負担」である。防衛費の対GDP比で言えば2%以上。ならば現状の倍額となる。悲しいかな、そうした危機感が政府にもマスコミにも乏しい。 増大する防衛費を何に使うべきか。駐留経費増に充てるのはもったいない。間違いなくトランプ政権は国際秩序への関与を低下させていく。結果、日本周辺にも「力の空白」が生まれ、抑止力は低下する。そのとき何が起きるか。『カエルの楽園』(百田尚樹著、新潮社)が現実になり、日本は地獄と化す。 自衛隊は「矛」を持たず、高価な「盾」ばかり保有している。いまこそ「打撃力」(攻撃力)の保有に踏み出すべきだ。「空母保有の選択肢」(前出『産経』)も真剣に検討すべきである。かねて私が訴えてきた「日本版海兵隊の創設」も決断すべきときではないだろうか。 これまで日米同盟は「矛」の役割を、すなわち「打撃力の使用」を、すべて米軍に担わせてきた。そのリスクとコストを押しつけてきたと言ってもよい。とうてい「正しい」同盟とは言えない。 トランプ政権に求められて駐留費を払い、防衛費を増やすなら、「属国」との誹りを免れない。わが国が本来やるべきだった「正しい」政策を実現実行する。そのとき初めてフェア」な日米関係が生まれ、日本の「戦後」が終わる。  これまで「戦後」と呼べたのは、あれから戦争が起きなかったからでもある。「戦後の終わり」は、新たな戦争の到来ともなり得る。われわれは、そうした覚悟で今回の結果を受け止め、将来を見据えねばならない。関連記事■ 北朝鮮の暴走は第二次朝鮮戦争の前触れだ■ 放送法論争、国民は怒っている■ トランプが大統領になっても日本は日本だ

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    「反トランプ」のプロパガンダ? ハリウッド映画に隠されたメッセージ

    てきた。これからは、さらに多くが語られる。そこで本稿では、トランプとハリウッド、映画という観点から、アメリカの政治と社会の変化、日米関係の今後について検討してみたい。民主主義と映画は、年の離れた兄弟だからである。どちらもイメージを操作し、大衆の支持を必要とし、ストーリーがなくてはならない。映画ほどアメリカ的な文化形態はない。 アメリカ政治と映画といえば、まず想起されるのがロナルド・レーガン大統領であろう。ハリウッドからホワイトハウスに至った、いまのところ唯一の「銀幕の大統領」である。トランプとレーガンの類似性を語る声も少なくない。 2人とも、その政治手腕を疑問視され、強い批判や嫌悪にさらされながら、メディアを巧みに活用してきた。そもそも、「アメリカを再び偉大にしよう」という、選挙戦でのトランプのキャッチフレーズは、1980年の大統領選挙でのレーガンのそれを借用したものである。ロナルド・レーガン元米大統領(AP) さらにいえば、レーガンは史上初の離婚歴のある大統領だったが、トランプはその記録を更新した(レーガンの離婚歴は1回、トランプはいまのところ2回)。また、レーガンが就任時に69歳と史上最高齢の大統領だったが、ここでもトランプは70歳と記録を更新した。また、2人とも共和党の大統領だが、かつて民主党員だったことがある(トランプは政党所属をたびたび変更してきた)。 もちろん、比較を通じて、何事にも共通点と相違点が指摘できる。要は重点の置き方である。だが、筆者は2人のあいだにより大きな相違点を感じている。 まず、たしかにレーガンは政治家として過小評価されてきたが、大統領就任に先立って1967~75年にカリフォルニア州知事を2期8年務めている。当時、すでにカリフォルニアは全米最大の1900万人の人口を擁し、もし独立国なら経済規模では世界6位に位置していた。つまり、イタリアやスペインの経済規模を凌ぐのである。同じ州知事経験者でも、ジョージア州知事を一期務めただけのジミー・カーターとは違った。もちろん、いっさい行政経験をもたないトランプとも大違いである。 また、レーガンは共産主義や「大きな政府」といった抽象概念を攻撃したし、政敵カーターの政策を厳しく批判した。だが、彼が特定の個人を攻撃することはほとんどなかった。「おまえはクビだ!」とは、テレビのリアリティ番組(事前に台本や演出のない、素人が登場する番組)でのトランプの決め科白だが、レーガンは滅多に激昂することはなく、閣僚をはじめとする部下を解任することにも至って消極的だった。人びとの憎しみを煽る政治スタイルでは、同じ共和党でもトランプはレーガンよりもリチャード・ニクソンにはるかに似ている。 さらに、レーガンを当選に導いたのは、カリフォルニアをはじめとするサンベルトであった。軍需産業やエンターテインメント産業、ハイテク企業で、この地域は活況を呈していた。マサチューセッツからイリノイにかけてのラストベルト(錆び付いた工業地帯)から、人口も経済もサンベルトに移行していた。他方、トランプを勝利に誘ったのは、このラストベルトで取り残された白人労働者層の焦りと怒りであった。 レーガンは保守的なイデオローグと思われたが、大統領に当選すると、実務型のジェームズ・ベーカーを大統領首席補佐官に据えた。そのため、レーガンのホワイトハウスでは、実務派とイデオロギー派の「内戦」が続いた。前者が主導権を握れたのは、ナンシー・レーガン夫人の尽力によるところが大きい。彼女はイデオロギーではなく、夫の成功にしか関心がなかったからである。 トランプも、共和党主流派からラインス・プリーバスを首席補佐官に起用している。だが同時に、保守派のスティーブン・バノンが上級顧問に迎えられている。トランプのホワイトハウスには、はたしてナンシーのような存在がいるであろうか。政治に「介入」するハリウッド ただ、本稿の関心からすると、レーガンとトランプには顕著な共通点がある。それは、ハリウッドの主流派を敵に回している点である。レーガンの大統領選挙では、フランク・シナトラやディーン・マーティン、ボブ・ドール、チャールトン・ヘストン、そして、ジェームズ・スチュアートら錚々たるセレブたちが応援に駆けつけた。 だが、ハリウッドの主流派、とくに若手たちははるかにリベラルであり、かつて「赤狩り」に協力したレーガンを嫌っていた。だからこそ、彼の元に馳せ参じたセレブたちは皆、旧世代に属する大物たちだったのである。レーガンの政敵たちは彼を「元俳優」と揶揄したが、この「元俳優」に最も冷淡な産業界は、ほかならぬハリウッドであった。 トランプは不動産で財を成し、テレビで知名度を上げたが、映画とも縁が深い。たとえば、ロバート・ゼメキス監督『バック・トゥ・ザ・フューチャー PARTⅡ』(1989年)で、タイムスリップのために歴史が歪み、荒廃した街を、ビフ・タネンという強欲な大富豪が支配している。これはトランプがモデルである。さらに、この映画では、ビフの支援を受けて、リチャード・ニクソンが1985年にも5期目の大統領を務めている。ベトナム戦争も続いている。80年代のトランプやニクソンへの否定的なイメージがうかがえよう。クリス・コロンバス監督『ホーム・アローン2』(1992年)に、トランプがカメオ出演していることも、いまではよく知られている。こちらはニューヨークの経済的成功のアイコンであろう。 2016年の大統領選挙でも、トランプを支持するハリウッドのセレブはいた。たとえば、ジョン・ヴォイトやスティーブン・ボールドウィンがそうである。だが、より多くの、そして、より著名なハリウッド・セレブたちは、トランプに批判的であり続けた。ウォルフガング・ペーターゼン監督『エアフォース・ワン』(1997年)に登場する大統領を好きだと、トランプが語ると、主演したハリソン・フォードは「彼が大統領(プレジデント)? 見習い(レジデント)かと思った」と皮肉った。ハリソン・フォードさん(AP) バラク・オバマを支持してきたリベラル派のジョージ・クルーニーも、トランプを「外国人嫌いのファシスト」と痛罵した。ロバート・デニーロに至っては、「あいつの顔を殴ってやりたい」とすら公言した。トランプの大統領当選後も、ゴールデングローブ賞の授賞式で、メリル・ストリープが彼を暗に批判し、トランプは得意のツイッターで「ハリウッドで最も過大評価されている一人」と、彼女に反撃した。 ハリウッドが政治に「介入」しようとするのは、いまに始まったことではない。古くは、多くの映画人がフランクリン・ローズヴェルト大統領に期待し、ローズヴェルトを美化する映画を製作した。また、1964年には、スタンリー・キューブリック監督『博士の異常な愛情』とシドニー・ルメット監督『未知への飛行』が、共に偶発核戦争の危険を描いている。共和党の大統領候補だったバリー・ゴールドウォーターが、米ソ核戦争も辞さないほどのタカ派と目されたからである(ちなみに、当時高校生だったヒラリー・クリントンは、熱心にゴールドウォーターを応援していた)。2004年にも、マイケル・ムーアが『華氏911』を監督して、ジョージ・W・ブッシュ大統領の再選を阻止しようとした。「一つのアメリカ」というメッセージ 最近のハリウッド映画からも、反トランプ的なメッセージを容易に読み取れよう。 クエンティン・タランティーノがそうである。彼は2012年の大統領選挙の折にも、『ジャンゴ 繋がれざる者』を手掛けていた。南北戦争の前に、自由黒人が早撃ちの達人になり、ミシシッピーのプランテーション農場で奴隷として酷使されている妻を救いに行く物語である。共和党保守派が議会で多数を占めるなかで、苦悩するオバマ大統領へのエールであろう。 そのタランティーノが、2015年には『ヘイトフル・エイト』を発表した。今度は、南北戦争後のワイオミングの山中が舞台である。ここで黒人の賞金稼ぎや南軍の元将軍、保安官と犯罪者ら、ワケありの8人が疑心暗鬼のなかで一夜を過ごす。やがて、血で血を洗う殺し合いが展開するが、最後には黒人と白人との和解が示唆されている。しかも、黒人の賞金稼ぎは、エイブラハム・リンカーン大統領と文通していたそうで、(真偽のほどは明らかではないが)大統領からの手紙を持ち歩いている。白人のアメリカでも黒人のアメリカでもない「一つのアメリカ」、「イエス、ウィ・キャン!」というオバマのメッセージである。 ウォルト・ディズニーによるリッチ・ムーア監督『ズートピア』(2016年)は、文明化した肉食動物と草食動物の共存する世界を描いている。主人公の少女はウサギ初の警察官になる。しかし、ズートピアにもさまざまな偏見が渦巻いており、主人公はそれに立ち向かう。これも「一つのアメリカ」、多様性の尊重、差別の克服というわかりやすいメッセージを発しており、とくに、向上心旺盛な主人公は、女性初の大統領をめざしたヒラリー・クリントンを連想させよう。 多様性という意味では、性的マイノリティー、それもゲイ以外をテーマにした映画が、数多く登場するようになった。トム・フーパー監督『リリーのすべて』(2015年)は、20世紀初頭に世界で初めて性転換手術(男性から女性)を受けて亡くなったリリー・エルベの物語である。若手の実力派エディ・レッドメインが主役を力演している。 トッド・ヘインズ監督『キャロル』(同)は、1950年代のニューヨークを舞台に、上流階級の人妻キャロルとその若い恋人テレーズの愛憎を描いている。主役のキャロルを、ケイト・ブランシェットがこれも堂々と演じている。冒頭で、レストラン地下の排水溝からカメラの視線が浮上してくる。当時の同性愛者が「クローゼット(押し入れ)」と呼ばれたように、身を潜めていなければならなかった事情を、シンボリックに示していよう。 ジョージ・クルーニー製作・主演『マネーモンスター』(2016年)は、人気のテレビ番組「マネーモンスター」が舞台である。クルーニー演じる司会者は、ある企業の株を使った資金運用方法を紹介した。それを信じた若者は全財産を失い、拳銃を持ってスタジオに乗り込み、司会者を人質にとって、無責任な情報操作を糾弾する。じつは、その背後には、件の企業の違法行為が隠されていた。これなどは間違いなく、トランプの体現するマネーゲーム、彼を有名にしたリアリティー番組への痛烈な批判である。 選挙中に、トランプはメキシコとの国境に壁を築くと豪語し、人気を博した。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『ボーダーライン』(2015年、原題はスペイン語で「殺し屋」)は、アリゾナとメキシコの国境線(ボーダーライン)をめぐる凄惨なドラマである。メキシコの麻薬密売組織を撲滅するため、連邦捜査局(FBI)と国防総省が協力して、国境線を越えて麻薬王とその家族までを暗殺する。もちろん、違法行為である。こうなると、ボーダーラインを越えて危険を輸出しているのが誰なのか、わからなくなってくる。トランプ大統領 マイケル・ムーアも、トランプ的なものに一矢を報いている。『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(2015年)である。これをドキュメンタリーと呼べるかどうかは微妙だが、ムーアがヨーロッパ各国を歴訪し、そこでの教育制度や労使関係、女性の社会進出など、アメリカにない優れた制度を「侵略」して持ち帰ろうという話である。ちなみに、ムーアはバーニー・サンダースの熱心な支持者であった。 そして、ローランド・エメリッヒ監督『インディペンデンス・デイ:リサージェンス』(2016年)である。1996年の宇宙人の侵略から20年が経ち、彼らが再びやって来た。しかも、はるかに大規模で。筆者は観る前から予想していたのだが、この映画のなかのアメリカ合衆国大統領はエリザベス・ランフォードという白人女性である。彼女は有能で献身的なのだが、重大な判断ミスを重ね、宇宙人の侵略に対処できない。そして、国防長官らと共にシェルター内で宇宙人に殺害されてしまう。 そこで、20年前の英雄、トーマス・ホイットモア元大統領が再び命懸けで宇宙人に戦いを挑む。女性大統領への期待と不安である。女性大統領の挫折のあとに20年前の大統領が登場するとすれば、ヒラリーを支えるのはビル・クリントンだとも解釈できよう。また、前作で宇宙人のテレパシーを受けたため20年間昏睡状態にあった科学者と、その助手とのあいだの同性愛関係が、今回は明示されている(エメリッヒ監督はゲイで、1969年にニューヨークで起こったゲイの抗議暴動を描いた『ストーンウォール』も手掛けている)。さらに、今回は米軍と全面協力して宇宙人と立ち向かうのは中国なのである。そもそも、アメリカ映画にとって、中国はすでに巨大な市場であり資金源である。 このように、最近の多くのハリウッド映画が、反トランプ的なメッセージを発出している。否、こうした多様性の拡大への反発が、トランプ大統領を誕生させたと見るべきであろう。トランプにとっての「薔薇の蕾」とは 残念ながら、ハリウッド映画は日米関係については多くを語ってくれない。いや、その沈黙こそが雄弁に何かを物語っているのであろう。 そこで、日本の最近の大ヒット作、庵野秀明総監督『シン・ゴジラ』(2016年)について一言しておこう。周知のように、この作品では、天然災害や原子力発電所の事故を象徴するゴジラに対処するに当たって、日本の政治的リーダーシップの欠如や官僚機構の弊害が詳細に描かれている。これまでのゴジラ作品にはない魅力である。「シン・ゴジラ」のワンシーン だが、だからこそいっそう目立つのは、そのあまりにも皮相な日米関係の描写であった。日本の首相はアメリカ大統領に電話で唯々諾々とするばかりで、アメリカ政府は石原さとみ演じる日系の若い女性1人を大統領特使として東京に送り込み、あれこれと指図しようとする。つまり、日本政府の対米追随とアメリカの傲慢、身勝手が、これでもかというほど誇張されている。本多猪四郎監督『ゴジラ』(1954年)が1人のアメリカ人も登場させずに、アメリカによる原子爆弾投下や核実験を無言によって雄弁に批判したのとは、大きな懸隔がある。 トランプ政権下の日米関係がどうなっていくかはまったく予断を許さないが、日本政府の対米従属を嘆き、アメリカの傲慢、身勝手にため息をつくのではなく、われわれは何を求め、何をなすべきかという主体的な問いと取り組みが必要であることは間違いない。 さて、トランプ大統領のお気に入りの映画は、オーソン・ウェルズ監督・主演『市民ケーン』(1941年)だという。さもありなん、と筆者は思う。主人公のチャールズ・ケーンは莫大な遺産を相続し、自己顕示欲の塊となって、自分の経営する新聞を使って世論を誘導することも辞さない。彼は一部の者に熱狂的に崇拝されながら、多くの人びとに独裁者、民衆の敵と唾棄されてきた。そして、巨万の富を投じてフロリダに造った「ザナドゥー」という豪邸で孤独に死んでいく。離婚歴もあり、知事選に出馬した際は、現職の知事に向かって、自分が当選すれば特別検察官を起用して汚職の罪で逮捕してやると威嚇する。何から何までトランプそっくりなのである。 このケーンが死に際に残した謎の言葉が、「薔薇の蕾」であった。新聞記者がこの謎の言葉の意味を明らかにしようと、物語は進む。ついに件の記者は謎を突き止められない。ケーンは愛する母親と一緒に暮らしていた少年時代に、雪橇で遊ぶのが楽しみだった。その雪橇に付いていたマークこそ、「薔薇の蕾」だったのである。 これから少なくとも4年間、アメリカも日本も、そして世界も、トランプにとっての「薔薇の蕾」とは何なのかを探し続けることになる。むらた・こうじ 同志社大学法学部教授。1964年、兵庫県生まれ。同志社大学法学部卒業。98年、神戸大学博士(政治学)。99年、『大統領の挫折』(有斐閣、1998年)でサントリー学芸賞、2000年、『戦後日本外交史』(共著、有斐閣、1999年)で吉田茂賞を受賞。13年4月から16年3月まで同志社大学学長を歴任し、現職。著書に『レーガン』(中公新書、2011年)など。関連記事■ トランプ政権誕生で「戦後」が終わる■ 「暴言王」トランプ氏の英語はなぜ米国人の心を捉えたのか?■ トランプによって消されるオバマ外交と政治

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    トランプ氏孫娘が習主席に中国民謡披露 選曲巡り憶測も

     米中首脳会談が行われた米フロリダ州パームビーチのトランプ米大統領の別荘で、トランプ氏の孫娘、アラベラちゃん(5つ)が中国の習近平国家主席夫妻を前に、中国の民謡を披露したり、漢詩を中国語でそらんじて見せたりした。これについて、ネット上では「『中国の歌姫』と呼ばれた習近平の妻、彭麗媛さんの前で、歌を披露するとはすごい度胸。さすがにトランプの孫だ」などと話題になっている。 また、歌った民謡が「茉莉花(ジャスミン)」だったことは、2010年以降に中東・アフリカで広まった民主化運動「ジャスミン革命」を連想させた。そのため、「中国の民主化を意識した、トランプ大統領らの政治的な意図が隠されていたのでは……」との憶測も出るなど、対北朝鮮問題などで不調に終わったとされる米中首脳会談について、中国のネットユーザーの間では「トランプ陰謀説」がささやかれている。 アラベラちゃんはトランプ氏の娘、イバンカさんの長女で、生後16カ月から中国語を習っている。イバンカさんは今年2月の春節(旧正月)期間中、わざわざアラベラちゃんと一緒に中国大使館を訪問して、崔天凱中国大使や大使館員を前に中国語の歌を披露するなどして「新年」を祝っている。トランプ米大統領の長女、イバンカさんと孫娘のアラベラちゃん(左下) また、今回の首脳会談でも、折角、中国の最高指導者が訪れるとあって、再びアラベラちゃんが登場し、硬い雰囲気を和らげる狙いがあったとみられる。 このため、アラベラちゃんが習夫妻の前で民謡を歌ったほか唐詩を暗唱した様子は中国メディアが好意的に取り上げ、米中首脳の友好ムードに一役買ったとして大きな話題を呼んだ。 ところがネット上では、民謡「茉莉花」は彭麗媛夫人のレパートリーでもあることから、「この選曲は大胆すぎる」との声もが上がっているほか、「ジャスミン革命」が激化した当時、中国共産党が波及を恐れてこの歌の歌唱を規制したともいわれており、「米国の謀略か?」との声も出ている。 習氏が2015年、英国を訪問した際、公式晩餐会で1989年ものの高級ワインが出され、「民主化を求める学生が武力弾圧された1989年の天安門事件を思い起こさせるよう仕組まれた謀略」との声も出た。外交関連で中国が絡んだ場合、さまざまな政治的な憶測が乱れ飛ぶようだ。関連記事■ 中国のネットで「南鳥島も古来より中国領土」との意見出る■ サザエさんは元出版社勤務でタラちゃんは女の子説あり■ 米国製軍用ジープを丸パクリした中国製軍用ジープの写真公開■ 韓国版2ちゃんねる 「中国依存は是か非か」で熱い論争展開■ いま中国人に「アツい」スポットは静岡 “聖地巡礼”もする

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    トランプ大統領は北朝鮮を攻撃するのか?

    小谷哲男(日本国際問題研究所 主任研究員) 北朝鮮情勢が緊迫度を増している。米東部時間の4月13日夜、米NBCニュースが、トランプ政権内が、北朝鮮が6度目の核実験を実施する兆候がみられれば、「先制攻撃」を行う準備をしていると伝えた。朝鮮半島近海に呼び戻されている空母打撃群に加えて、トマホーク対地攻撃巡航ミサイルを搭載した駆逐艦が朝鮮半島近海に配備され、グアムでも戦略爆撃機が待機中という内容だが、ホワイトハウスはこのNBCの報道を否定した。米国の攻撃に対しては徹底抗戦する姿勢 4月11日に開幕した北朝鮮の最高人民会議では、核開発の推進などに関する法整備が議題に上がらず、20年ぶりに外交委員会を設置するなど、外交を強化する姿勢を見せている。他方、北朝鮮は、シリア空爆に関する声明で、自らの核開発による自衛力の強化が「正当」だったことが証明されたとし、米国の攻撃に対しては徹底抗戦する姿勢を維持している。 北朝鮮分析サイト「38ノース」によれば、北朝鮮北東部の豊渓里の核実験場ではすでに実験の準備が整っており、故金日成主席の生誕105周年である4月15日の午前にも実験を行うとの情報もある。4月25日は朝鮮人民軍創建85周年で、今後もミサイル実験など挑発が続くことが予想される。 では、トランプ政権は、本当に北朝鮮に軍事力を行使するのだろうか。まず、トランプ大統領が北朝鮮問題を安全保障上の最優先課題の1つと考えていることは間違いない。オバマ前大統領からの引き継ぎを受けた際、最初の案件が北朝鮮問題で、トランプ大統領はこの時に状況の深刻さに気づいたと言われている。このため、当初情報機関によるブリーフィングを受けることに難色を示していたが、少なくとも北朝鮮情勢については聞く耳を持つようになったらしい。 次に、トランプ政権は発足後に北朝鮮政策の見直しを行い、20年以上にわたる北朝鮮の非核化は「失敗」したと結論づけ、非核化の意思を示さない限り対話に応じないというオバマ政権時代の「戦略的忍耐」も終わったとしている。政策見直しの中で、長距離弾道ミサイルの発射実験をレッドラインとみなしていると一部報道されたが、公式な方針となっているかどうかは不明だ。政権内部からは、軍事的手段はあくまで最後の手段で、まずは中国に本気で北朝鮮を止めさせることが最優先で、そのために早期の米中首脳会談に応じたという声も聞こえる。 他方、米太平洋軍では、北朝鮮攻撃のシミュレーションが繰り返され、その準備が着々と進められているという。その中には、ミサイル等による外科手術的な空爆だけではなく、サイバー攻撃や、特殊部隊による作戦も含まれているようだ。ただ、「斬首」作戦が含まれているかどうかは今のところ確証がない。レッドラインがレッドカーペットに トランプ大統領はツイッターで「中国が行動しなければ、同盟国と行動する」とつぶやいている。このため、少なくとも日韓との事前協議なしに単独行動を行う可能性は低い。だが、米側が事前協議で日韓の同意を求めるのか、あるいは同意なしでも攻撃を行うのかどうかは不明だ。中国の習近平国家主席との首脳会談で話すトランプ米大統領=4月7日、米パームビーチ(AP=共同) 最大の問題は、米軍が北朝鮮を攻撃した場合、北朝鮮が米軍基地のある日韓に対して報復する可能性が非常に高いことだ。このため、日韓としては米軍による北朝鮮への先制攻撃を支持することに慎重にならざるを得ない。 1994年にクリントン政権が北朝鮮空爆を検討した際、米軍は90日間で米軍5万2000人、韓国軍49万人が死亡、民間人の死者も100万人を超え(そのうち在韓米国人8-10万人)、被害総額は1兆ドルと推定したため、大統領は空爆を決断することができなかった。当時の韓国政府も空爆に反対した。 なお、当時の日本は55年体制崩壊後の政治の混乱のまっただ中にあり、米軍から補給、機雷掃海、情報収集、護衛、船舶検査など1900項目に及ぶ協力依頼が来ても、集団的自衛権の行使に当たるため応じられず、米側を失望させた。レッドラインがレッドカーペットに 北朝鮮が日韓に対する報復能力を持つため、米国は北朝鮮に対して何度レッドラインを設定しても、結局は軍事的手段を行使できなかった。このため、専門家の間では、レッドラインが“レッドカーペット”になったと自虐的に言われている。トランプ政権にとっても、北朝鮮に対してレッドラインを設定するのは容易なことではない。北朝鮮は自らの報復能力にますます自信を深め、米軍の攻撃を抑止できると考えて、核ミサイル開発を強行しているのだ。 トランプ政権による北朝鮮政策の見直しは完了したと伝えられているが、その中身は不明だ。おそらく、北朝鮮が米本土を核攻撃できる能力の保有を阻止することが柱の1つだろう。そのために軍事力の行使も辞さない構えを見せながら、中国への働きかけと、北朝鮮への圧力を強めているのだろう。しかし、中国がかつてほど北朝鮮に大きな政治的影響力を持っていない可能性は高く、また中国企業を対象とした経済制裁を行ったとしても、その効力が現れるには時間がかかる。米国単独の外科手術的な軍事力の行使を検討するだけでは不十分 他方、北朝鮮の戦略目標もこの20年で変化した。当初、北朝鮮は核兵器開発を放棄するのと引き換えに、体制の保障と経済支援を求めてきた。しかし、今の北朝鮮は、国際社会に自らを核保有国であることを認めさせた上で、米国との一種の核軍備管理交渉を目指していると考えられる。それによって北朝鮮は生き残ろうとしているのであり、米国を交渉に引きずり出すためには、米本土を核攻撃できる能力を持つことは不可欠なのだ。 トランプ政権は「力による平和」を掲げる。それはオバマ政権には欠けていたことだったし、オバマ政権が軍事力の行使に慎重でありすぎたことが、今日の安全保障環境を悪化させたとするトランプ政権の認識もある程度正しい。しかし、トランプ政権には安全保障に関する全体的な戦略が描けていない。仮に、戦略もなく、軍事力の行使を脅しのために使っても、これまでのレッドカーペットをさらに長くするだけだ。一方、事態の打開のために北朝鮮に対して空爆を行えば、大きな被害と混乱を北東アジアにもたらすだろう。米国単独の外科手術的な軍事力の行使を検討するだけでは不十分 北朝鮮の非核化を実現するためには、米国単独の外科手術的な軍事力の行使を検討するだけでは不十分だ。まずは、日米韓が北朝鮮を核保有国として認めないことを確認し、その上で、金正恩体制を維持するのか取り除くのかという戦略目標を検討しなければならない。さらに、実践可能なレッドラインを設定し、北朝鮮がレッドラインを越えた場合に備えた共同作戦計画も必要だ。もちろん、北朝鮮による報復への備えに加えて、紛争後の構想、非戦闘員の避難、難民対策など、この20年の宿題も早急にこなさなくてはならない。 北朝鮮以外のどの国も現状維持を望んでおり、北朝鮮に対する本格的な武力行使など考えたくもないだろう。混乱する韓国の国内情勢と、日韓関係の現状では日米韓の連携が難しいことは明らかだ。しかし、これこそが北朝鮮の望んでいる環境だ。日米韓が一体となって北朝鮮の非核化のためにリスクを取る覚悟を示さない限り、中国の協力を引き出し、北朝鮮に核開発を放棄させることはできない。

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    トランプの狙いは空爆ではなく、金正恩「統治資金」の全面凍結だった

    下の内部情報を聞いた。1. 金正恩は中国と交渉するつもりはない。潜在的な敵国と考えている。2. 早くアメリカ本土まで届く核ミサイルを完成させよと、金正恩が命令した。そのため、昨年から今年にかけて繰り返しミサイル実験をしているが7割から8割は失敗した。それでも少しづつ技術開発は進んでいる。3. 金正恩は4月15日の前に核実験の準備は完了せよと命じた。それは完了している。弾道化した核兵器の実験だ。これまでの実験に比してかなり爆発力が大きい。100メガトンクラスだ。これが成功すれば弾頭は完成する。4. 米国と交渉をしたいと、密使を送って、「米国の要求をのむ」と伝えている。しかし、米国は「言葉ではなく行動を示せ」と返事して交渉に応じていない。5. 金正恩の狙いは、最初に米国と交渉することだ。米国に核保有国として認めさせた上で、経済制裁を解除させることを考えている。6. それがうまくいった後、日本と交渉し小泉首相が金正日に約束した100億ドルを得る。そして、大規模な外資を誘致することを狙っている。 一方、米国内にも北朝鮮との「取引」を提案するリベラル派の意見が出てきた。外交問題の専門誌『フォーリン・アフェアーズ』の発行元である「外交評議会」のリチャード・ハース会長は3月17日付け論文で北朝鮮との取引しかないと主張した。「ミサイル防衛は不完全であり、抑止は不確実だ」、軍事攻撃は多大な報復を受ける韓国政府が反対する、残された選択は「取引」しかない。平壌で高層住宅団地の竣工式に出席した金正恩朝鮮労働党委員長(中央)=4月13日(ロイター) 北朝鮮に対して核ミサイル開発の「凍結」と核物質の不拡散、それを検証するための国際査察の受け入れを求める。彼らがその条件を受け入れすなら、米国は制裁を緩和し、人権問題を棚投げして平和条約を結ぶ、というものだ。 上記の金正恩の狙いに合致する内容だ。このような融和論が出るから、金正恩は勇気を得るのだろう。 日本にとってこの取引は最悪だ。米国まで届く核ミサイル開発は凍結されるが日本を射程に入れた核ミサイルは完成しているので安全保障上、重大な危機となる。その上、拉致問題を棚上げにして米国が制裁緩和と平和条約締結に踏み切れば、核問題での国際圧力をてこに拉致問題の先行解決を目指すという安倍政権と私たち家族会・救う会の救出戦略がほぼ不可能になる。 ただし、金正恩は今、米国まで届く核ミサイルを完成させるために必死の努力をしている。あと1回核実験をすれば弾頭は完成する。大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイルも完成間近だ。まず、それを完成させてから米国との「取引」に臨むことが彼らの当面の目標だろう。韓国を占領する奇襲南侵作戦 金正恩にとって米国まで届く核ミサイル保有は、単なる取引の材料ではない。祖父金日成が立てた対南赤化戦略の支柱なのだ。したがって、ハース会長が言うような「核ミサイル開発の凍結」を金正恩が約束したとしたら、それは詐欺だ。金正日がそうしたように、口では約束をして制裁解除や支援を得ながら、隠れて開発を続けるだろう。 私がそのように確信するに至ったのは次の経験があるからだ。1998年北朝鮮がテポドン1を発射したとき、私は当時韓国の空軍大学教授だった李チョルス氏に会いに行った。彼は1996年ミグ19に乗って韓国に亡命した元北朝鮮人民軍のパイロットだ。私は李元大尉に北朝鮮軍の戦略の中で核ミサイルはどの様な位置づけをされているのかと質問した。すると彼は私の顔をじろじろと見つめながら「あなたは本当に北朝鮮問題の専門家ですか。なぜ、このような基礎的なことを尋ねるのですか」と言いながら次のように語った。 「自分たち北朝鮮軍人は士官学校に入ったときから現在まで、ずっと同じことを教わってきた。1950年に始まった第1次朝鮮戦争で勝てなかったのは在日米軍基地のせいだ。あのとき、奇襲攻撃は成功したが、在日米軍基地からの空爆と武器弾薬の補給、米軍精鋭部隊の派兵などのために半島全域の占領ができなかった。第2次朝鮮戦争で勝って半島全体を併呑するためには米本土から援軍がくるまで、1週間程度韓国内の韓国軍と米軍の基地だけでなく、在日米軍基地を使用不可能にすることが肝要だ。そのために、射程の長いミサイルを実戦配備している。また、人民軍偵察局や党の工作員による韓国と日本の基地へのテロ攻撃も準備している」 彼はすでに1992年金正日が命じて北朝鮮人民軍は対南奇襲作戦計画を完成させていると話した。李元大尉の亡命の翌年、1997年に労働党幹部の黄長燁氏が亡命した。黄長燁氏がその作戦計画について次のように詳しく証言している。北朝鮮の3月7日付労働新聞が掲載した、4発の弾道ミサイル同時発射の写真(共同) 1991年12月に最高司令官となった金正日は人民軍作戦組に1週間で韓国を占領する奇襲南侵作戦を立てよと命じ、よく92年にそれが完成した。金正日は作戦実行を金日成に提案したが、経済再建が先だと斥けられた。当時まだ核ミサイルが完成していなかったことも金日成を躊躇させた理由の一つと考えられる。 作戦の中身は、概略以下の通りだ。北朝鮮は石油も食糧も十分備蓄できていないから、韓国を併呑する戦争は短期決戦しかない。1週間で釜山まで占領する。まず、韓国内の米韓軍の主要基地を長距離砲、ロケット砲、スカッドミサイルなどで攻撃し、同時にレーダーに捕まりにくい木造のAN2機、潜水艦・潜水艇、トンネルを使って特殊部隊を韓国に侵入させて韓国内の基地を襲う。在日米軍基地にもミサイルと特殊部隊による直接攻撃をかける。 それと同時に、米国にこれは民族内部の問題であって米軍を介入させるなと、また、日本に在日米軍基地から米軍の朝鮮半島への出撃を認めるな、それをするなら核ミサイル攻撃をするぞと脅すというのだ。韓国内に構築した地下組織を使い大規模な反米、反日暴動を起こしながら核ミサイルで脅せば、米国と日本の国民がなぜ、反米、反日の韓国のために自分たちが核攻撃の危険にさらされなければならないかと脅迫に応じる可能性があると彼らは見ている。中国にちらつかせる劇薬 金日成は1970年代、工作員を集めて「祖国統一問題は米国との戦いである。米国は2度の世界戦争に参戦しながら、1発も本土攻撃を受けていない。もし、われわれが1発でも撃ち込めば、彼らは慌てふためいて手を挙げるに決まっている」と教示している。国民の被害に弱い民主国家の弱点を突こうという一種のテロ戦略だ。首脳会談に向かう「エアフォースワン」の機内で、中国への不満をぶちまけたトランプ氏=4月6日(ロイター) トランプ政権は韓国とその周辺海域で大規模な軍事演習を行ない、空母艦隊を北朝鮮近海に送るなど、いまのところ「取引」ではなく、圧力をかけることを選択している。先制攻撃、特に特殊部隊による金正恩暗殺作戦を実行するのではないかと、ここ数日、日本のマスコミを賑わしている。しかし、すぐに軍事攻撃はしないだろう。中国に対して制裁の徹底的強化を求めるという非軍事的手段がまだ残っているからだ。 核ミサイル関連部品、素材を中国が国連制裁を破って秘密に提供しているという情報が多くある。米国の情報機関はそのことについて具体的に調べてきた。それを止めさせることと、核ミサイル開発と金正恩の政権維持に欠かせない外貨を止めることが当面の目標だ。 北朝鮮は金正日時代に労働党39号室を作って、政府が主導する社会主義計画経済の外に金正日が自由に使える「統治資金」を管理した。80年代から90年代にかけて朝鮮総連が送った多額の外貨がその資金源となった。武器や麻薬販売資金、人民から毎年上納させる「忠誠の証し資金」(国内の住民には砂金などで上納させ、海外勤務者には外貨を求める)などで集められた外貨をスイスなどの銀行の隠し口座で管理していた。ブッシュ政権がそのことに気づき、金融制裁をかけたので、彼らは口座の多くを中国に移したといわれている。 今回、トランプ政権は中国の外為専門銀行である中国銀行など10以上の金融機関に対して米国と取引を出来なくする制裁を準備していると聞く。それが発動されれば、中国銀行は外為業務が出来なくなり、事実上、倒産するとさえ言われている劇薬だ。その劇薬をちらつかせながら、トランプは習近平に圧力をかけている。まずはその結果をみることが、トランプ政権の当面の考えだろう。  

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    北朝鮮空爆「Xデー」の裏側を読む

    米軍による北朝鮮空爆は有り得るのか。緊迫を増す朝鮮半島情勢。4月15日は故金日成主席の生誕105周年に当たり、6度目となる核実験への懸念も広がる。「ワシントンの戦略的忍耐は終わった」。単独攻撃を示唆したトランプの本気度、そして秒読み段階に入った「Xデー」の裏側を読む。

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    【独占スクープ】安倍首相は「金正恩包囲網」をトランプに助言した

    重村智計(早稲田大学名誉教授) ドナルド・トランプ米大統領は、「アメリカ・ファースト政策」を捨てた。「アメリカ・ファースト」は、米国の「孤立主義」を意味する言葉だ。大西洋横断飛行に成功したチャールズ・リンドバーグらが「アメリカ・ファースト委員会」を設立し、欧州やアジアでの参戦反対を訴えた。彼らは日本の真珠湾攻撃で尊敬と人生を失った。 トランプ大統領は、シリアへの巡航ミサイル攻撃と北朝鮮の核開発阻止で「孤立主義」を捨て、「干渉主義(国際主義)」に舵を切った。習近平主席に、北朝鮮の核開発阻止への協力を約束させた手腕はなかなかのものだ。 トランプ大統領は米中首脳会談の前後に安倍晋三首相と電話会談し、対北朝鮮政策について協議した。二人は、北朝鮮を核放棄に追い詰めるため「対北石油全面禁輸」が効果的と合意し、習主席に協力を求めた。米フロリダ州パームビーチの高級別荘「マールアラーゴ」で中国の習近平国家主席(左)を歓迎するトランプ米大統領=4月6日(ロイター=共同) 北朝鮮はアジアで最も石油のない国である。この問題の重要さに多くの人は気がついていない。北朝鮮の年間の石油輸入量は、最大でも70万トンである。この90%は中国が供給している。日本の自衛隊が年間消費する石油は年間150万トンに達する。その半分以下では全面戦争はできない。 石油の全面禁輸に踏み切れば、北朝鮮の軍隊は崩壊する。戦車は走らないし、戦闘機は飛ばないし、海軍艦艇も動かない。北朝鮮は軍隊が支える国家である。石油が切れれば、体制は崩壊に向かう。 だが米国と中国のメディアは、12日の米中首脳電話会談で「北朝鮮が核実験とミサイル実験に踏み切れば、中国は石油禁輸を実行する」意向を習主席が伝えたと報じた。画期的な政策転換だ。 トランプ大統領は「中国が問題を解決すれば最高だが、ダメなら中国抜きで問題を解決する」と明らかにしていた。このため、航空母艦や巡航ミサイルを発射する海軍艦艇を朝鮮半島周辺に配備した。 中国は、米中首脳会談の内容をすでに金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に伝えた。北朝鮮はどう出るか。北朝鮮は、4月15日の金日成主席生誕105周年のお祝いムードに満ちている。この祭典に彩りを添えるには、「打ち上げ花火」のミサイル発射と、「仕掛け花火」の核実験は不可欠だ。米国と中国の圧力に屈して、実験を中止すれば指導者の権威と正統性が疑われる。金委員長は最大のジレンマに直面している。実はかなり弱気な北朝鮮の対応 米国は核施設とミサイル施設への限定攻撃について、「北朝鮮は米国に届く核とミサイルを保有している、と明言した」から、「米国への重大な脅威だ」と説明するだろう。しかも攻撃は潜水艦や空母などの艦船から行われ、在韓米軍基地や在日米軍基地は使わない。とすると、北朝鮮は韓国を攻撃する法的理由に欠ける。 金委員長が核実験に踏み切っても、トランプ大統領は限定攻撃できないと判断すれば、ミサイルと核の実験が行われる。どう判断するのか。米国が核施設を単独攻撃すれば、在韓米軍基地や在日米軍基地への報復が予想され、被害を無視できないとの指摘がある。その可能性は否定できない。ただ、70万トン程度の石油では全面戦争はできない。 北朝鮮が最も恐れるのは全面戦争だ。もし在韓米軍基地や在日米軍基地を報復攻撃すれば、米国は全面的攻撃を行う。限定攻撃の際には、北朝鮮の連絡網や指揮伝達の回線やコンピューターも使用不能になる。反撃は簡単でない。 ティラーソン米国務長官は、12日にロシアを訪問しプーチン大統領とも会見したが、露首脳は北朝鮮への米国の限定軍事攻撃に、反対の立場を明らかにしなかった。習主席も電話会談で「平和的な解決」を求めたが、「軍事攻撃反対」とは言わなかった。習主席に近い人民大学国際関係学院の時殷弘教授が、昨年9月に「米国が核施設だけの攻撃で、金委員長に影響がなければ中国は黙認する」と述べたと、台湾の中国時報が伝えていた。金委員長に対する中国の冷たい雰囲気が反映されている。金委員長は習近平主席に何度も招待状を送ったが、全く返事がない。 「石油禁輸」は、安倍首相がトランプ大統領に強くアドバイスした戦略である。安倍首相は、北朝鮮への効果的な制裁策を聞かれ、「中国の対北石油全面禁輸」を伝えた。2月10日、ワシントンのホワイトハウスでトランプ米大統領(左)の出迎えを受ける安倍首相(ロイター=共同) 実は、北朝鮮の対応はかなり弱気だ。米国のシリア攻撃直後には、外務省スポークスマン談話で米国を激しく非難し、「核武力強化は正しかった」と述べた。ところがその後は沈黙を守り、4月11日に10カ月ぶりに開かれた最高人民会議でも、米国非難はもとより日米韓三国に言及すらしなかった。米単独攻撃阻止へ追い込まれる金正恩 金日成主席生誕105周年の祝典を宣伝するため、北朝鮮は海外のテレビメディアと通信社を平壌に招いた。金委員長が、13日に行われた平壌目抜き通りの建設完成式典に登場し、海外のテレビ局に平穏な姿を報道させた。この式典で、朴奉珠(パク・ポンジュ)首相が脈絡のない演説で「(この建設完成は)何百発の核爆発よりも効果がある」と述べた。この言葉に、今回は核実験をしない北朝鮮の立場を米中に伝えたのではないかとの観測が出ている。高層住宅団地の竣工式に到着した金正恩朝鮮労働党委員長(右)=4月13日、平壌(AP=共同) 米国は単独攻撃の前に、在韓米軍兵士の家族を帰国させる必要がある。米国民の犠牲を避けるためだ。その動きがない限り、攻撃はない。 韓国もまたトランプ戦略に驚愕している。5月の大統領選で、当選確実と言われた左派の文在寅氏の支持率が急落し、中道左派の安哲秀氏に追いつかれている。文氏の陣営は混乱し政策の変更を行ったが、当選の見通しは一時より後退した。 トランプ大統領は朝鮮半島の危機を演出しながら、韓国の大統領代行とは電話会談もしない。韓国では「米大統領と話し合えない大統領は役に立たない」との空気が広がっている。 北朝鮮はどうするのか。米単独攻撃を阻止できる方策は、南北対話と米朝対話、日朝交渉しかない。米国の軍事攻撃が高まると、北朝鮮は過去にも対話戦略に切り替えた。今回も南北対話や米朝対話を模索するだろうが、韓国は次期大統領次第だ。米国は応じない。残るは日本だ。小泉純一郎首相との日朝首脳会談も、米大統領が「軍事攻撃を排除しない」と明言したから、実現した。 北朝鮮は、今年になって秘密警察の国家保衛省に対日担当の要員を増員し、新たな部局を設置した。これまでは2、3人しかいなかったのに、20人前後に拡大したという。かつての日朝首脳会談も、国家保衛省の担当だった。北朝鮮はトランプ大統領の単独軍事行動を避けるために、日朝首脳会談を模索せざるを得なくなる。

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    トランプが「北朝鮮攻撃命令」を出すタイミングはここしかない!

    兵頭二十八(軍学者) 「ちょっとばかり核武装した国がもし米国を核兵器で脅迫すれば、米国はその政体を転覆させる」――という現代国際政治史上の前例、教訓が今、創られつつある。おそらく西太平洋地域での核拡散を歓迎できない、われわれ日本人及び全世界の多くの人々にとって朗報になることは間違いないであろう。だが、それは米国が決して油断することなく、北朝鮮に対する「だらだら攻撃」(後ほど詳述)を遂行できれば、とも付言しておきたい。 一つ気掛かりなのは、トランプ米大統領が「いま北朝鮮を崩壊させておくことの意義」をどこまで理解しているかどうかである。彼は中東人の考え方はある程度呑み込んでいるものの、儒教圏(中国共産党および朝鮮半島)のことはサッパリ分かっていない。そこからは、もう一つの疑問も生じる。トランプ政権内には、金正恩体制を打倒するための巧妙な策を考えてきた人物など一人もいやしないのではないか――もしそうだとすれば、そもそも朝鮮半島への関心などゼロに近かったトランプ氏にとって、北朝鮮への「攻撃命令」を出す前にその胸中に迷いが生じても当然であろう。エアフォースワンから降りるトランプ大統領=2017年4月13日、フロリダ州(AP) かれこれ総合的に判断すると、私は米軍がすぐには北朝鮮に攻撃を仕掛けない、いや仕掛けられないだろうと疑っている(この論考を書き上げた4月14日時点での判断である)。きっかけがなければ「攻撃」できない米国 朝鮮戦争の休戦以降、歴代の米国政権は、北朝鮮をどうすることもできなかった。それには立派な理由があった。北朝鮮は、第三者を納得させられるような理由なしに米国人を狙って殺害する「国家後援テロ」を実行していないからである。したがって、米国から見た北朝鮮は、革命後のイランや核武装後のパキスタンよりも、米国側からの攻撃(コマンドー作戦やキラー・ドローン空爆をも含む)を仕掛け難い対象だったと言える。特殊な有人偵察機(SR-71など)を使った強行領空侵犯ぐらいが、せいぜい軍事的にできることの限界であった。 米指導層はホメイニ革命後のイランを甚(はなは)だしく憎む。その憎しみの強さは対北朝鮮の比ではない。それでも米政府は、イランに思い切った軍事攻撃を仕掛けることはできない。なぜなら、米側からの戦争開始を国際慣習法的に正当化できるような「きっかけ」をイランが一貫して与えてくれないからだ。 1979年のテヘラン米大使館占領事件は、いかにも米国の上下を憤慨させた大事件であった。けれども、人質とされた米国籍の大使館員たちは結局、1人も殺されずに解放された。だから、事件発生直後の即決リアクションとしてならばともかく、事件発生から数十日も経過してしまった後では「開戦」の大義名分を掲げにくくなった(ただ、米国民のフラストレーションは、宥和主義者、ジミー・カーターを大統領選挙で大惨敗させてホワイトハウスから逐い出すことに焦点を結ぶ)。 2003年に米国がイラク全土を占領する作戦を発起した時のジョージ・W・ブッシュ大統領による決断材料の一つには、湾岸戦争で敗退したサダム・フセインが、その私的復讐として父親であるブッシュ元大統領個人を暗殺しようとしたプロット(筋書き)の認定があったと推量される。米指導層の要人を意図的に殺害しようとする露骨な反米テロ国家に対しては、米政府および連邦議会として、いかなる容赦をする必要がなかったのである。 それならば、リビアのカダフィ政権は、なぜ2011年に転覆させられてしまったのか。北朝鮮政府はこれについての根本的な「勘違い」をしているようである。カダフィ政権は、北朝鮮が核武装努力の表向きの論拠としているように、米ソ冷戦末期に核武装を諦めてしまったがゆえに、米国によって倒されたわけではない。  2011年の米オバマ政権にとって、アラブ世界の非民主的体制はすべて気に入らない存在だったのである。その気に入らない政権が、国内動乱で崩壊しそうな兆しが見えたときに、その動乱の火焔にガソリンを注ぎかけてやる外交は、オバマ政権にとっては「安全・安価・有利」で、しかも「快楽」そのものだったのである。 同年に、やはり権力の座から引きずり降ろされたエジプトのムバラク政権もそうである。彼の場合もまた、米民主党政権内の「快感原則」が優先された。ホスニ・ムバラク大統領は、イラクのサダム・フセインのように大量破壊兵器の研究を命じたりなどしていない。逆に、イスラムテロ組織を弾圧することにかけては「有能」だった。オバマ時代の空母派遣と今回の類似 されども、オバマ政権にとっては、ムバラク政権は単に「非民主的」であり、彼の追放劇を見ることはこの上もない愉悦だったのである。 皮肉にも、現在のエジプト政権(2013年に宗教原理主義のモスレム同胞団政権をクーデターで打倒した軍事政権)が続けている、「国内反政府集団」に対する取り締まり、たとえば大量無期限留置や闇処刑などはムバラク時代と「人権無視度」において特段の隔たりはない。 しかし、「IS(イスラム国)」が世界を撹乱するようになって以後の米政権にとって、今のエジプトは黙認できる政体に評価が変わった。彼らが自国内のISやアルカイダ系の運動を弾圧することで、米国民を間接的に守っていると思えるからである(ただ、シナイ半島でイスラエルを困らせている点については今後大きな問題になるだろう)。オバマ時代の空母派遣と今回の類似 2010年のオバマ政権は、北朝鮮を「まだ放置しておいてよい国」と判断している。  回顧しよう。第1期オバマ政権の2年目にあたる2010年11月23日、北朝鮮軍が突如、韓国の延坪島を砲撃した。このときオバマ大統領は、朝鮮半島に米海軍の空母艦隊を向かわせる姿勢を「演出」したものの、何の攻撃も命じなかった。グアム島所在の戦略爆撃機の動きと同様、ただ西側のテレビのニュースショーに映像ネタを供給しただけだった。最初から「戦争する気などなかった」のである。 だが、オバマ氏にはその「余裕」が許された。彼の下には、北朝鮮が数年以内に「核弾頭付きICBM」を持つことなどは到底できやしないと確信に足り得るだけの情報が集まっていたからである。つまり「核兵器で米国を脅せるようになった北朝鮮の処分」という難題は、次の誰かの政権に先送りしてもよかったのである。 だが、トランプ氏には、問題の先送りが難しい。いくらなんでも、あと8年もあれば、初歩的な北朝鮮製のICBMが1基か数基ぐらいできたとしても不思議ではない。その弾頭はおそらく低出力(せいぜい数十キロトン)のできそこないの強化原爆で、上昇中にロケットが折れたり、大気圏再突入時に弾頭が燃え尽きたり、不発に終わったり、狙った大都市から大きく外れる蓋然性も高いだろう。トランプタワーを張り込む報道陣=2017年1月14日  メガトン級でないキロトン級のICBMが現代の大都市域を数十キロメートルも外れれば、与える損害はあっけないほどに小さくなる(だから1950年代の米戦略空軍は、メガトン級の水爆を重さ2トン未満に軽量小型化できる技術的見通しが得られるまでは、ICBMの配備など無意義であるとして当初開発を閑却していた)。しかし、想定リスクとしては、ニューヨーク市中心部に「トランプ・タワー」を構える米大統領が、無視を決め込むレベルではなくなっているのである。 もし、マンハッタンの上空1千メートルか、それ以下の高度で1発でも原爆が爆発すれば、トランプ大統領は、自身の本拠地であるマンハッタンをむざむざ人の住めない街にさせてしまった責任者として、米国史に汚名を刻んでしまうのである。 北朝鮮は、出力がメガトン級ながら重さ2トン未満の水爆を持ってはいない。そのような実験も当分できないだろう。核武装国であるインドやパキスタン、イスラエルですら、そんな高性能の水爆を開発できないのである。 個人的には、北朝鮮は広島、長崎級の実用原爆すらもまだ保有してはおらず、核分裂爆発実験は2006年10月に装置型を一度成功させたきりで、後の「地下実験」はすべてフィズル(過早破裂による不完爆)におわっているか、硝酸アンモニウム肥料爆薬を地下坑道で発破したフェイク(偽装地震波発生)であろうと見ている。しかし、本稿ではあえて流布されている宣伝や憶測に付き合うことにする。 北朝鮮が、出力数キロトンの原爆弾頭を、なんとか全重1トンに抑え、それを載せてかろうじてニューヨークまで届く多段式の弾道ミサイルの先端に、搭載できたものと仮定しよう(これは仮定の上に仮定を重ねた、技術相場値の上でほとんど考え難い想定であることはなおも強調しておく)。 実験試射であれ、実戦攻撃であれ、まず、その大型の弾道ミサイルを垂直に立てて発射しなければならない。ここで北朝鮮は、解決不可能な難問に直面してしまう。 トランプの「つぶやき」の真意は? トランプの「つぶやき」の真意は? トランプ氏は大統領に正式就任する直前の2017年1月3日に自身のツイッター上に「北朝鮮はさきごろ、米本土に到達できるひとつの核兵器の開発の最終段階だと声明した。そうはさせんよ(It won't happen!)」と書き込んだことがあるのを思い出してみよう。 あの時点で、軍事専門家の誰かがトランプ氏に「ICBMは中距離弾道弾とは違って巨大であり、おいそれと移動などはさせられない。そんなものが露天発射台に据えられようとした時点でわが偵察衛星は探知ができる。あなたが即座に空襲を命じれば、発射準備が整う前に確実に米軍からのミサイル空襲で爆破できる」とレクチャーをしたのではないかと、私は思っている。 すでに北朝鮮政府は「米国を核攻撃する」と何度も口先で脅している。いまさらそれは取り消せまい。そのあとで、たとえ試射用であろうとも、ICBMなどを発射台に据えたなら、米国はそれを即座に先制空爆して発射台ごと破壊してもいい事態が生じたと考えるだろう。そう、米有権者が完全に納得できる「開戦理由」である。ましてトランプ政権ならば、決行は確実だ。朝鮮中央テレビが放映した金正恩朝鮮労働党委員長の映像(共同) したがって北朝鮮は、露天発射方式ではない方式をなんとか工夫しない限り、米国を攻撃できるICBMを手にする日は永遠にやって来ない。 それならば「鉄道機動式」とすれば、どうであろうか。ロシアのような広大な国ならば、それは合理的オプションとしても足り得る。だが、北朝鮮のような狭い国で、既存線路の保線すらまままらなくなっている経済失敗国家であると、既存のレールをミサイル移動用に利用するにしても、新規に専用線を建設するにしても、その作業を米国の偵察衛星から隠すことはできない。 そうなると、残されている現実的な方法は、ICBMを最初から垂直に立てたままで、鉄道軌条の上をゆっくりと水平に移動させられるような、天井の非常に高い「横穴トンネル基地」を新たに整備して、山岳中の「垂直坑」からそのミサイルを奇襲的に発射するやり方以外にない。この大規模な大深度地下工事を米国家偵察局(NRO)のマルチスペクトラム偵察衛星(地下構造物までも見分けることができる)から隠して進めることも、おそらくは難しいだろう。 北朝鮮からニューヨーク市に届かせるのに必要な弾道弾の飛距離は、ロシアのICBM以上だ。ロシアよりも遅れた技術しか持っていない北朝鮮に、ICBMの全システムをロシアのように都合よくコンパクトにまとめることはできない。なかんずく、ICBMの全段を工場で組み立て終えて、燃料が入った状態で横に寝かせることなど北朝鮮には不可能なのである。 高さ30メートルか、それ以上もある縦長楕円形の横穴トンネルと、軌条と縦坑と台車の組み合わせでICBMを地下空間から発射できるようになるまでに、北朝鮮の土工能力ではまず「2年は必要」だろう。しかし、縦坑が一つだけでは最初から位置固定の硬化地下サイロと同じで、米軍が先制攻撃して潰してしまうことはたやすい。 垂直坑の生残性を高めるために、縦坑を複数化するとなれば、北朝鮮の工事能力では4年かかるかもしれない。(硬化地下サイロを複数設ける場合も同じ。米ソのICBM用の強化コンクリートサイロは、1基の工期が2年以上かかったとされている)巡航ミサイルが重宝されるのは理由がある これはトランプ氏にとっては朗報である。もし、トランプ氏が「2期目」を諦めるつもりならば、2010年のオバマ氏と同じ判断も可能だ。すなわち「空母艦隊は派遣してみせるが、北朝鮮空爆は命令しない」という結論である。 だが、もしトランプ氏が2期目も狙うのならば、そして歴史に汚名を残したくなければ、今のうちに「禍根」は断っておかねばならない。8年間も傍観すれば、地下発射施設が複数整備されてしまう恐れがあると、誰でも考えられるだろう。その間には、イランやその他の危ない国も、核武装に近づくかもしれない。ボヤボヤしている暇などないはずである。 では、具体的にはどんな方法があるだろうか。まず、ホワイトハウスの立場になって考えてみると、「空母からの空襲」はできるだけ避けたいオプションである。なぜなら、海面のロケーションがあまりにも悪すぎるからである。 黄海から作戦を決行すれば、中共領の大連海軍工廠や旅順軍港の目と鼻の先に米機動艦隊があちこちに航行することになる。中共は、漁船団の「海上民兵」を含めたあらゆる手段でそれに対して各種の妨害を加えるにきまっているだろう。さもないと中共中央が中共軍から激しく詰め寄られてしまうからだ。 ホワイトハウスは、攻撃が開始される前から中共との予期せぬトラブルに対応せねばならなくなる。そこから先の「詰め将棋の手」を考えるどころではなくなってしまうだろう。 日本海側から作戦する場合も、同じだ。そこはウラジオストック軍港から指呼の間である。おちぶれたりとはいえどもロシア海軍が、黙って傍観するわけがあろうか。黒海やバルト海で最近繰り返しているNATO艦艇へのイヤガラセを何倍にも強化したような、空・海からの妨害行動に出てくるであろう。 だからトランプ政権としては、対北朝鮮作戦に空母を使う気なんて最初から全くないだろうとわたしは考えている。対北鮮の有事において米空母艦隊に何か役目があるとすれば、それは真の攻撃軸から敵の目を逸らしておくための「囮(おとり)」、すなわち「陽動/陽攻」用としてだけだろう。しからば、派手な煙幕ではない主力の攻撃手段とは何なのか?巡航ミサイルが重宝される理由 中共やロシアからいっさい邪魔をされずに、北朝鮮の核施設とICBM発射台を奇襲的に破壊してしまえる手段としては、まず「潜水艦から発射する巡航ミサイル」に指を屈するのが穏当だ。ステルス爆撃機の「B-2」や、ステルス戦闘機「F-22」に空爆させるというオプションは、万が一にもその有人機が墜落したり、乗員が北朝鮮の捕虜になるというリスクが、政権1年目のトランプ氏としては、ほとんど受け入れ難いため、空母からの有人機による爆撃と同様に、選ばれることはないであろうとわたしは考える。 ところで、既往の戦例にかんがみれば、巡航ミサイルでは、敵の要人を爆殺することはまずできない。だからこれまで、アフリカや中東では、「巡航ミサイルは決着性にとぼしい兵器だ」と思われてきた。問題をなにも解決しないで、ただ、米政権が自己宣伝して自己満足するだけの道具なのだ――と。 実際、直近のシリアでも、シリア政府軍の航空機とその掩体壕等は正確に59発のトマホークで破壊されたけれども、基地機能そのものはじきに復活した模様である。あきらかに、巡航ミサイルだけでは、戦争は決着してはくれない。米軍の巡航ミサイル「トマホーク」(ロイター) しかし、トランプ政権がひとたび巡航ミサイルによる北鮮攻撃に踏み切れば、おそらく「金正恩体制は崩壊する」と、わたしは予言することができる。すなわち、こと、相手が北朝鮮である場合に関してのみ、米国の「巡航ミサイル主義」は、とても正しい。それがいずれ立証されるであろうと思う。 その理由を説明しよう。対地攻撃用の非核弾頭の巡航ミサイル「トマホーク」は、北朝鮮の核関連施設とICBM射場施設を、ほぼ2日のうちにすべて機能停止させるであろう。(第一波の攻撃終了後、日の出後の偵察衛星写真によって破壊状況を判定して、念を入れて第二波攻撃を加える必要がある。よって1日では片付かぬ) しかし、それがうまくいっても、北朝鮮軍が機能停止するわけではまったくない。その結果、どうなるか。米軍と北朝鮮軍は、緩慢な戦闘を再開することになる。(朝鮮戦争は法的にはまだ終わっていない休戦状態であるので、あくまで「開戦」ではなく「戦闘再開」だ) といっても、血みどろなものではない。北朝鮮の砲弾は米軍基地には届かないし、米兵も1人も死なない。彼我の実力差をよく知る北朝鮮指導部は、韓国内の米軍基地を地対地ミサイルで攻撃することも自粛するはずである。首都平壌が空爆されない限りは……。「だらだら交戦」の大先輩はイスラエル 北朝鮮の工作員みたいな者たちがあちこちで叫んでいるような、38度線沿いの北朝鮮軍砲兵部隊による大規模な京城市街砲撃は起きない。なぜなら、そんなマネをすれば、韓国空軍機による平壌爆撃に米国がGOサインを出すと、平壌は知っているからである。 今日の空軍機が運搬できる爆弾の重量は1回につき数トン。それに対して、射程の長い大砲やロケット弾の充填炸薬は、数十キログラムでしかない。破壊力でも射程でも、比較にはならないのだ。 念のため注記しておこう。「北朝鮮空軍」なるものはとっくに存在していない。燃料が無く、パイロットの訓練ができず、したがって空軍機による空襲をしたくてもできないので、北朝鮮はやむをえない選択として、大砲やロケット弾や地対地ミサイルにばかり頼っている次第だ。現代の軍隊が、燃料油が無いのに「南進」などできないことも、いまさら説明するまでもないだろうと思う。短距離弾道弾や、中距離弾道弾は、平壌政府が終戦交渉の切り札として、山の中の横穴トンネルに、最後まで温存しようとするだろう。もちろん、「核爆弾」もだ。 ところで、シリアとは違って、北朝鮮内にはロシア兵などの余計な邪魔者は存在しない。だから米軍は、巡航ミサイルで「目標A」群を破壊したなら、翌日は「目標B」群、その翌日は「目標C」群……と、誰にも気兼ねをすることなく延々と、巡航ミサイルによる攻撃を継続することができる。北朝鮮国内には、政治犯を強制労働させながら衰弱死に追い込んでいる収容所がたくさんある。米軍が巡航ミサイルでそれら施設の看守棟をひとつひとつ破壊すれば、内外に対して、これが「人道戦争」であることを明快に宣伝できるだろう。 この、遠くの海からひたすら巡航ミサイルだけを撃ちかける「だらだら攻撃」が続く状態が、最大の打撃を与える対象は、じつは中共なのである。米朝が変則的ながらも常時の交戦状態となれば、黄海~渤海を利用して通航する商船、なかんずく天津港の物流機能は、戦時国際法の要請とぶつかり、大制約を受けざるを得ない。 大連工廠の目の前にも常時、米海軍の北鮮沿岸ブロケイド艦隊(それは空母は含まないが海上自衛隊が封鎖活動を支援する可能性は高い)が蟠踞(ばんきょ)することになる。もちろん、シナ漁民の誰もそこで漁労などできはしない。これは中共に対する米国からの「経済制裁」にも等しい大圧力だろう。 トランプ氏は大統領選挙中から、中共の対米貿易政策を非難してきた。中共貿易がこのようにして打撃を被ることについて、トランプ氏は少しも同情しないどころか、それを愉快だと思える理由がある。 米国と北朝鮮が交戦を再開することで、自動的に、中共から米国への輸出は半減する。東シナ海は「戦場の後方海域」となるので、世界の船員組合は「だらだら交戦」が終わるまで、同海域への乗務を拒否するはずである。トランプ氏の初志は、はらかずもこうして貫徹されるわけだ。 こうなってはいよいよ中共も、金王朝の「転覆工作」を始動させるしかないだろう。それが、米国と北朝鮮との戦争を、意外にもスピーディに「決着」させることになるであろう。かくして、北朝鮮の核施設と核兵備に対して米軍が巡航ミサイルを発射することが、「金王朝終焉」への最短シナリオとなるのである。「だらだら交戦」術の大先輩はイスラエル 日本ではまったく報道されないので誰も知らないが、イスラエルは、周辺地のゲリラであるヒズボラおよびハマスと「365日いつも戦争」の状態にある。ヒズボラがイランから地対地ロケットなどを受領すれば、即座にイスラエル空軍機は越境空襲を仕掛け、それを爆砕しているのだ。多くはそれは、シリア領土内である。トランプ大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー氏ならば、こうしたイスラエルの「政策」には、詳しいだろうと思われる。トランプ氏は、適当なアドバイザーをすでに抱えているわけである。 空母艦隊は、作戦期間が半年を越えるような「だらだら攻撃」には向いていない。艦隊を数日間、特定海面で遊弋させておくだけでも、べらぼうな経費が飛んでしまうものだからだ。対北朝鮮の「だらだら攻撃」の主役は、潜水艦と、駆逐艦などの水上艦艇から発射される巡航ミサイルである。残る最後の問題は、「いつ?」だけである。米海軍のバージニア級原子力潜水艦 わたしが『ニッカンペキスポ』とひそかに仇名している中共の英文政治宣伝サイト『Global Times』に4月11日、中共軍による北鮮核施設に対する空爆をチラつかせるテキストが掲載され、それは数時間後に忽然とウェブサイトから削除されたという。これは北京として、米軍が北朝鮮の核施設を空爆することについて半ば事前承認していることを強く示唆しているのだろう。 北朝鮮が、次の核実験、もしくは次の長距離ミサイル発射を試みるときが、トランプ政権が決断するときであろう。

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    大都市を一夜で壊滅できる「世界最強」米空母カール・ビンソンの実力

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト)  米国によるシリア攻撃の2日後の4月8日、米太平洋軍司令官のハリス提督は、原子力空母カール・ビンソンを中心とする艦隊、すなわち「第1空母打撃群」を北上して北朝鮮近海に航行するように命じた。中東で戦争が始まったのに米空母が北東アジアに向かう、この一見矛盾した行動に世界は驚いた。 米軍が中東に集中すれば、その隙を狙って北朝鮮が軍事行動を過激化させる懸念に基づく米国の戦略的行動であるが、この行動は改めて世界の軍事専門家に問いを投げ掛けた。現代においても、航空母艦とはそれほど軍事的脅威となる存在なのか、と。 この問いは、もっともであろう。シリア攻撃では巡航ミサイル「トマホーク」を米駆逐艦2隻から59発発射した。中東や中央アジアでの戦闘で活躍しているのは無人機である。もはや空母や戦闘機の時代ではないのではないか、との考えもある。 だが、その一方で、中国は「空母造り」に余念がない。空母遼寧は既に運用を開始し、それに続く2番艦、3番艦も建造中である。空母遼寧について、米国防総省はかねてから見解を示している。「米軍のニミッツ級原子力空母の持つ遠距離の戦力投射能力を持つことはできない」。そして、このわずかな文言にこそ、現代における「空母の意義」が凝縮されていると言っていいだろう。米空母カールビンソンと偵察救助ヘリCH-46 =2001年10月24日、アラビア海(ロイター) 空母カール・ビンソンは1982年に就役したが、同型の空母は米海軍に10隻ある。一番最初に建造されたのが空母ニミッツであり、1975年就役、従ってそれ以後の同型艦をニミッツ級と呼ぶ。カール・ビンソンはニミッツ級の3番艦である。 ニミッツ級は排水量約10万トン、全長約330m、速度30ノット、艦載機約71機である。遼寧は排水量6万7500トン、全長305m、速力20ノット、艦載機67機(計画)である。またニミッツ級は原子力であるため、通常動力の遼寧に較べて速度が速いだけでなく、航続距離がはるかに長い。 空母は正式には航空母艦と言われることから明らかなように、航空機が発着できるのが特徴であり、艦載機が命である。ニミッツ級は戦闘攻撃機「FA18」を約45機搭載しており、3分間に1機の間隔で発艦させられる。 遼寧の67機とはあくまで計画であって、現段階では艦載機の「J15」そのものが開発段階、しかもパイロットは訓練段階であり、実際に67機を運用しているわけではない。米国の見解では、そうした運用を実現できたとしても、ニミッツ級の戦力投射能力には到底及ばないと言うのである。 また、戦訓の一つに「戦力の逐次投入は禁物」とある。その典型的な戦例は大東亜戦争におけるガダルカナル島の戦いである。日本の陸軍は海軍の要請で太平洋のガダルカナル島に当初、900人の部隊を上陸させたが、米軍の反撃ですぐに全滅した。そこで5千人もの部隊を上陸させたが、これまた壊滅した。それもそのはずである。旧日本海軍は当初、「米兵は2千人」と報告していたが、実際には1万人を超える米兵が陣地を築いて待ち構えていたからである。米空母の進化と弱点 戦力の逐次投入が戒められるのは、投入される戦力が小規模であればこのように待ち構えられて各個撃破されてしまうからである。それを避けるためには敵情の把握、すなわち情報活動が必要だが、現代においては偵察衛星の発達によってかなり正確な把握が可能になった。 しかし、いかに情報が正確であろうと、適切な戦力を適時、的確な場所に運搬できなければ敵に勝利できない。すなわち、いかに大量の戦力をいかに短時間に敵の中枢部に投入できるか、これこそが戦力投射能力の本質である。米海軍の原子力空母カール・ビンソンの甲板に並ぶ艦載機 =3月15日、韓国・釜山(共同) ニミッツ級空母カール・ビンソンは、航行距離にして1200キロを一日で海上移動し、500キロ先の敵に3日間で2千トンの弾薬を投入する能力がある。昭和20年3月の東京大空襲で投下された爆弾が一晩で3千トンであり、その時の犠牲者は約10万人である。精密誘導能力が格段に向上した現在、2千トンの弾薬は、一大都市はもちろん、敵の軍事要塞を壊滅させるのに十分であろう。 ちなみに東京大空襲の爆撃機は「B29」300機であるが、これはサイパン島の飛行場から飛来した。B29は長航続距離を誇る重爆撃機であるが、それでも米本土から日本に直接飛んで来ることはできなかった。つまり南太平洋のサイパン島に飛行場を造らなければ、日本の空爆は不可能であった。 当時、サイパン島をはじめとする南洋諸島は日本領であり、米軍がここを占領したのは昭和19年7月。つまり、米軍はサイパン島に到達するのに開戦以来、2年半の月日を費やしている。もちろん、当時の米国にも空母はあり、現に東京初空襲は昭和17年4月に空母から発進した爆撃機によって行われている。 だが、この爆撃は極めて限定的であり、日本の警戒の目を盗んで行われた「奇襲」であって、壊滅的な打撃を与えるのは不可能だった。つまり、当時の米海軍は東アジアに対する戦力投射能力を持っていなかったのである。 カール・ビンソンは北朝鮮周辺に向かうと堂々と宣言して航行しているが、もし大戦初期に米空母がこんなことをしていたら、日本の航空戦力と潜水艦によって海の藻屑と化すことは間違いなかった。カール・ビンソンがなぜそうならないかといえば、周りを巡洋艦、駆逐艦、潜水艦で固めているからであり、北朝鮮のミサイル攻撃や魚雷攻撃をも撥(は)ね退ける能力を有しているからである。 つまり、空母はいかに優秀でも1隻では、身を守ることはできない。したがって、「空母打撃群」という艦隊で行動することになる。空母の戦力投射能力とは、空母そのものの能力に加えて偵察衛星の情報収集力さらにはそれを伝達する通信網、艦載機や、その他の艦艇の性能を掛けあわせて得られるものであり、そのいずれかがゼロである場合、答えは「ゼロ」となるのである。

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    落合信彦氏が指摘 今後日本に牙を剥く「2つの核保有国」

     アメリカのトランプ新大統領の言動に世界が注目している。安倍首相も2月中旬、日米首脳会談を行い、新大統領との信頼関係構築を図ったが、過激な発言を繰り返すトランプ氏がリーダーとなったアメリカはいったいどこへ向かうのか? 作家の落合信彦氏が解説する。* * * 近著『そして、アメリカは消える』で指摘したように、あの国は50年以上かけて少しずつ劣化してきた。しかし、ここに来て劣化のスピードが急激に加速している。世論調査によれば、トランプの「入国禁止」大統領令を支持するアメリカ国民は49%もいる。残念ながら、アメリカ人も劣化してしまったのだ。 リーダーを見ればその国の国民のレヴェルもわかる。また、リーダーが劣化すれば、国民も劣化する。かつてケネディが大統領だった頃、アメリカは国家も国民も輝いていた。あの素晴らしい国は、いまや大きく変容してしまったのだ。 アメリカが劣化して世界の平和にコミットしなくなったことで、今年は全地球的に戦争勃発の危機に見舞われることになるだろう。 たとえばイランとサウジアラビアが火種になる可能性がある。シーア派国家のイランとイスラム教スンニ派の大国サウジアラビアは一触即発の状態だ。2016年1月には、サウジ政府がシーア派の指導者47名を「テロに関与した容疑」で処刑した。それにイスラム教シーア派指導者ニムル師も含まれていたことから、両国は国交を断絶。現在もさや当てを続けている。 もしこの2国が戦争になれば、プーティンがイランのことを支えるだろう。一方、これまでサウジアラビアを支えてきたアメリカは傍観を決め込むはずだ。なぜならアメリカ国内でシェールガスが産出されるようになり、アメリカにとってサウジアラビアが「原油の防衛線」ではなくなったからだ。また、トルコも戦争の震源地になる可能性がある。大統領のエルドアンは独裁色を強めていて、何をしでかすかわからない。 何と言っても日本にとって脅威なのは、北朝鮮だ。金正恩は日米首脳会談の真っ最中に弾道ミサイルをぶっ放し、挑発してきた。日本はそれに対し、「断じて容認できない」とお決まりのフレーズで声明を出しただけだった。 北朝鮮は、潜水艦発射型のミサイルを地上から発射するタイプに改造した新型弾道ミサイルであり、実験に成功したと主張している。発射準備に時間がかかる液体燃料ではなく固体燃料が使われたとも指摘されている。本当なら、発射の兆候がつかみにくくなり日本の安全保障にとって極めて深刻な事態だ。 他の国なら、隣国から何発も弾道ミサイルが発射され、目の前の海に撃ち込まれていたら、すぐ戦争になる。ここまでされて何もしないのは、日本くらいのものだ。日本は「ケンカ」を恐がっているから舐められて、北朝鮮の挑発がエスカレートするのである。 金正恩は異母兄の金正男を暗殺し、暴走を加速させている。アメリカが世界平和にコミットしないとなれば、金正恩にとっては大チャンスだ。習近平が金正恩をバックアップし、極東で戦争が始まる可能性もある。その時、日本は“2つの核保有国”と戦わなければならないのだ。アメリカの劣化により、世界はジャングル化した。日本人は、その中でどう生き抜いていくか、考えていかなければならないのである。関連記事■ 米の低レベル高校生、殺人事件が日常の街等をリポートした本■ 【ジョーク】ビンラディンとカダフィが金正日を飲みに誘った■ アメリカの原爆投下に戦争責任はないのかを真正面から問う本■ ディズニーランド アニメがメインコンセプトではないのだ■ トランプ氏取材した落合信彦氏「会話する価値なかった」

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    北朝鮮の信念「38度線の南にあるソウルや釜山は領土の一部」

     昨年12月、朝鮮人民軍の特殊作戦大隊が韓国大統領府「青瓦台」を標的とする大規模襲撃訓練を行った。訓練を報じた北朝鮮メディアは「青瓦台を火の海にし、南朝鮮傀儡どもを殲滅する」と気炎を上げたが、朝鮮半島情勢に精通する拓殖大学大学院特任教授・武貞秀士氏が、北朝鮮が抱く半島統一の野望について解説する。* * *南北軍事境界線がある板門店 北朝鮮が核を手放す可能性は皆無に近い。北にとって「38度線の南にあるソウルや釜山は共和国(北朝鮮)の領土の一部」であり、そこを「侵略主義者の米国とソウルの傀儡政権が不法に占拠している」というのが彼らの信念なのである。 そして、北朝鮮は在韓米軍の縮小・撤退の動向を窺いながら時間稼ぎをして核放棄の圧力を凌ぎ、ミサイルの射程延長、弾頭の小型化、軽量化を進めてきた。 この時、北朝鮮の追い風となるのが、韓国内で勢力を拡大する対北融和派だ。朴槿恵大統領を弾劾に追い込んだ韓国国民は、既得権益を独占する保守層に強い怒りを抱いている。また、現在の韓国では2代続いた保守政権の反動で「次は北朝鮮と話し合いたい」と考える融和的な国民が増えている。 加えて、北朝鮮の影響が強い労働組合と教職員組合の懐柔策が効を奏し、韓国内では北朝鮮への対決姿勢が薄まっている。言わば、「精神的な武装解除」が進んでいるのだ。 しかも、次期大統領の有力候補である最大野党「共に民主党」前代表の文在寅氏や城南市長の李在明氏はいずれも対北融和派であり、同じ民族同士の話し合いによる平和統一が可能と考える。前国連事務総長の潘基文氏でさえ対話優先論をとっている。 対北融和派は、「米韓が軍事力をチラつかせるから北朝鮮はやむを得ず軍事力で対抗する」という発想のため、まず韓国側から脅威を与える軍事力を取り下げるべきだと主張するだろう。精神面に加えて現実的にも在韓米軍の高高度防衛ミサイル配備反対運動が勢いを増しており、北朝鮮の対南攻勢が勢いを増す結果となっている。●たけさだ・ひでし/1949年兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、防衛省防衛研究所(旧・防衛庁防衛研修所)に教官として36年間勤務。その間、韓国延世大学に語学留学。米・スタンフォード大学、ジョージワシントン大学客員研究員、韓国中央大学国際関係学部客員教授を歴任。2011年、防衛研究所統括研究官を最後に防衛省を退職。その後、韓国延世大学国際学部教授等を経て現職。主著に『東アジア動乱』(角川学芸出版刊)、『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所刊)、『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』(PHP研究所刊)などがある。関連記事■ 北朝鮮の悲願 朝鮮半島統一が叶う日■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 韓国軍 安全第一と兵士気配り優先による平和ボケで弱体化■ 延坪島砲撃事件 北朝鮮難民の日本への不法流入を専門家懸念■ 拉致命じられ日本に潜入した韓国秘密工作隊の悲劇を描いた本

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    韓国を揺るがしたルサンチマン 不気味な「恨」が世界にもうずまく

    も、今回の米大統領選挙絡みである。 白人であることが罪である、という「ホワイト・ギルト」という概念がアメリカに吹き荒れている、と教えてくれたのは評論家の江崎道朗氏だった。インディアン虐殺や黒人差別の米国の長い歴史が白人に自己否定心理を生んできたのは分かるが、「ホワイト・ギルト」がオバマ政権を生み出した心理的大本(おおもと)にあるとの説明を受け、私は多少とも驚いた。トランプ氏は歪みを正せるか この流れに抵抗すると差別主義者のレッテルを貼られ、社会の表舞台から引きずり下ろされる。米社会のルサンチマンの病もそこまで来ている。「ポリティカル・コレクトネス」が物差しとして使われる。一言でも正しさを裏切るようなことを言ってはならない。“天にましますわれらの父よ”とお祈りしてはいけない。なぜか。男性だと決めつけているから、というのだ。 あっ、そうだったのか、これならルサンチマンまみれの一方的な韓国の感情論をアメリカ社会が受け入れる素地はあるのだと分かった。両国ともに病理学的である。 20世紀前半まで、人種差別は公然の政治タームだった。白人キリスト教文明の世界に後ろめたさの感情が出てくるのはアウシュビッツ発覚以後である。それでも戦後、アジア人やアフリカ人への差別に気を配る風はなかった。80年代以後になって、ローマ法王が非キリスト教徒の虐待に謝罪したり、クリントン大統領がハワイ武力弾圧を謝ったり、イギリス政府がケニア人に謝罪したり、戦勝国の謝罪があちこちで見られるようになった。トランプ氏は歪みを正せるか これが私には何とも薄気味悪い現象に見える。植民地支配や原爆投下は決して謝罪しないので、これ自体が欧米世界の新型の「共同謀議」のようにも見える。日本政府に、にわかに強いられ出した侵略謝罪や慰安婦謝罪もおおよそ世界的なこの新しい流れに沿ったものと思われるが、現代の、まだよく見えない政治現象である。 各大陸の混血の歴史が示すように、白人は性の犯罪を犯してきた。旧日本軍の慰安婦制度は犯罪を避けるためのものであったが、白人文明は自分たちが占領地でやってきた犯罪を旧日本軍もしていないはずはないという固い思い込みに囚(とら)われている。 韓国がこのルサンチマンに取り入り、反日運動に利用した。少女像が増えこそすれ、なくならないのは、「世界の韓国化」が前提になっているからである。それは人間の卑小化、他への責任転嫁、自己弁解、他者を恨み、自己を問責しない甘えのことである。2月28日、米上下両院合同会議で就任後初の施政方針演説に臨むトランプ大統領=ワシントン(AP=共同) トランプ氏の登場は、多少ともアメリカ国内のルサンチマンの精神的歪(ゆが)みを減らし、アメリカ人を正常化することに役立つだろう。オバマ大統領が許した「アメリカの韓国化」がどう克服されていくか、期待をこめて見守りたい。 

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    日本は「魔人」トランプとこう戦え

    第45代米大統領に就任したトランプ氏が早くも牙をむいた。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の離脱表明に加え、自動車市場をめぐり日本にも批判の矛先を向けた。徹底した保護主義を貫くトランプ流。日本にとっては厄介な存在だが、超大国に突如として現れた「魔人」と戦う術がないわけではない。

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    待ち受ける米国ファーストの災禍 トランプ流の何が危険なのか

    ランプ大統領が共和党をどこまでまとめ切れるのか、民主党がどこまで腹をくくって対抗できるのかで、今後のアメリカ政治の状況が変わってこよう。ポピュリズム色に彩られた大統領就任演説ポピュリズム色に彩られた大統領就任演説 そうした意味で、トランプ大統領がどのような政治を目指しているのか、見ておく必要がある。その手掛かりとなるのが「大統領就任演説」である。例年、大統領は議会に対して「一般教書(State of Union)」演説を行い、1年間の施政方針を示す。最初の年は「大統領就任演説」がこれに代わることになる。と、同時に「大統領就任演説」は4年間の統治の基本姿勢を示すものでもある。就任演説を行うドナルド・トランプ大統領=2017年1月20日(ロイター) トランプ大統領の就任演説は17分で、語数にすれば約1300語と、それほど長いものではなかった。通常、大統領の演説はホワイトハウスのスタッフであるスピーチライターが草稿を書き、大統領の側近がチェックし、最終的に大統領が承認する形で作成される。だが、今回はトランプ大統領が自ら原稿を書き上げたと伝えられている。トランプ陣営の広報担当者は「詳細な政策について話すのではなく、“哲学的なドキュメント”になるだろう」と話していた。確かに、トランプ大統領の就任演説では具体的な政策論はなく、基本的な理念を訴える内容になっていた。ただ、批判的な人は、「選挙運動中に行われた発言をまとめただけで、何の目新しいものもない」と切り捨てていた。 では、トランプ大統領は就任演説で何を語り、私たちは、そこから何を読み取ることができるのだろうか。結論的に言えば、極めて「ポピュリスト」的な内容であった。演説の最初の部分で、「今回の政権移行は単に政府の移行にとどまらず、ワシントンから国民への権力の移行である」と指摘している。従来の政治はワシントンの一部のエリートによって行われ、多くの国民は恩恵に浴していなかったと、既得権を享受する政治家を批判している。「ワシントンは繁栄したが、人々はその富を共有することはできなかった」とも語っている。 これは言い換えれば、ポピュリズムの最も典型的な主張である。ポピュリズムは「エスタブリッシュメント対反エスタブリッシュメント」という構図で主張される。エスタブリッシュメントとはワシントンのエリート、すなわち政治家であり、官僚であり、弁護士であり、企業のロビイストである。反エスタブリッシュメントは、トランプ大統領が言うところの「忘れられた人々」である。すなわち、今回の大統領選挙運動に即していえば、トランプ候補の最大の支持者となった白人労働者階層である。トランプ候補は、そうした人々に対して、演説の中で「アメリカはあなたたちの国だ」と訴えている。そして、「現在、すべての人があなたたちに耳を傾けている」、「再び忘れ去られることはない」と続ける。  そして、今までの政府の政策を批判する。「何十年にもわたって、アメリカアメリカの産業を犠牲にして海外の産業を豊かにしてきた」、「海外の軍隊に補助金を与え、国内の軍事力の枯渇を許してきた」、「企業は閉鎖され、海外に逃れ、その結果、何百万という労働者が取り残された」と現状を批判し、今後の政策の方針として「貿易、税制、移民、外交に関するすべての決定はアメリカの労働者と家族に恩恵をもたらすように行われる」と語っている。具体的には、雇用を海外から取り戻すこと、道路や橋梁など国内のインフラを整備することなどを指摘し、「アメリカ製品を購入し、アメリカ人を雇う」のがルールになると、極めて保護貿易的な政策を主張している。外交政策に関しても「それぞれの国が自国の利益を最優先する権利がある」として、従来の国際協調路線からの離脱を示唆している。 こうした政策を実現するためには、国家に対する愛国心と忠誠心が必要であると説く。さらに軍事力の強化の必要性を説き、「アメリカ人が団結すれば、誰もアメリカを止めることはできない」と語っている。既存秩序に挑戦、国内の分裂と国際的孤立化も既存秩序に挑戦、国内の分裂と国際的孤立化も “哲学的なドキュメント”かどうかは別にして、極めて情緒的な内容である。ワシントン批判は、その対象になるのは民主党議員だけでなく、共和党議員も例外ではないだろう。トランプ大統領は選挙運動期間中に「アメリカ人との契約」と題する政策綱領を発表し、議員の任期制の導入、ロビー活動の禁止を重要課題に掲げている。これも非エスタブリッシュメントの喝采を受ける内容である。トランプ大統領はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉、あるいは離脱を主張している。だが、NAFTAを批准したのは共和党であり、TPPを推進しているのは共和党を支持する経済界である。米ワシントンでの「女性の大行進」。参加者らはトランプ大統領に抗議し、前日に大統領就任パレードが行われたペンシルベニア通りを埋め尽くした=1月20日 新自由主義に基づく国際主義は、共和党の基本政策であり、経済界の望むところである。とすれば、共和党は反国際主義、反自由貿易主義というトランプ政権の主張をどこまで受け入れることができるのだろうか。富裕層の減税は共和党の政策と一致するが、巨額のインフラ投資は共和党の望むところではない。巨額のインフラ投資を支持しているのは民主党である。 ただ、その民主党もトランプ大統領の“正統性”に疑義を訴えており、基本的に反トランプである。政策を取り上げて論議すれば、さらにトランプ政権と民主党、共和党の亀裂は明らかになってこよう。既にアメリカ政治の両極化、分断は深刻な問題となっている。トランプ政権は、その分断をさらに拡大する可能性がある。 国際的にも同様な危険性が見られる。戦後、アメリカを中心に自由貿易体制、安全保障体制が構築されてきた。トランプ大統領は、「アメリカ第一主義」を唱え、そうした既存の秩序に挑戦しようとしている。アメリカが世界の指導者でありえたのは、強力な経済力と軍事力を背景に、国内市場を開放し、積極的に国際的公共財を提唱してきたからである。トランプ政権の内向き政策は、そうした道徳的指導者としてのアメリカの優位性を放棄することを意味する。 既にヨーロッパの指導者は厳しい批判を始めている。トランプ大統領は「アメリカ第一主義」に基づく、どのような世界秩序を想定しているのであろうか。就任演説で「各国は自国の利益を最優先する権利がある」と述べているが、歴史が教えていることは、国内利益と国際利益の調和である。リバイアサン的な国際秩序は、混乱だけでなく、災禍ももたらすことになるかもしれない。

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    金正恩の北朝鮮にそっくり? 側近重視のトランプ政権は必ず道を誤る

    めて穏当な発言を行った。トランプ政権において日本側が特に関心をもっているのは、貿易問題を別にすれば、アメリカの対中国政策と日米同盟に対するスタンスである。それに対してティラーソン氏は、南シナ海における中国の海洋進出に懸念を表明すると同時に、尖閣諸島には日米安保が適用されるとした従来の考えを踏襲すると発言した。 一方、マティス氏は日米同盟には直接ふれなかったものの、同盟関係の重要性を尊重すると述べた。日本外交の基軸である日米同盟については、選挙期間中にトランプ氏から見直しについて言及されていただけに、日本側にはこれらの発言に一応の安堵感が生まれた。 ティラーソン氏はエクソンモービルの最高経営責任者(CEO)であった時代に築いたロシアとの近すぎる関係が懸念され、公職の経験も全くない。しかし、それを除けば大企業経営者として、その指導力と組織運営について高い評価を得ている。マティス氏は、アメリカの軍関係者からは「軍神」とあがめられる存在であり、その実績と戦争についての哲学と考察について最高水準の人物であるとされる。したがって、本来ならこうした国務長官と国防長官からなる外交の二本柱の発言から、トランプ政権の外交・安全保障政策について、ある程度の見通しは立つはずであり、安堵してもいいはずだった。 しかし、20日の就任演説でそれは大きな落胆に変わった。演説でトランプ氏は、選挙戦のように常軌を逸した発言をするのではなく、現実的な状況を踏まえた上で、壮麗な言葉で理想を語るのかと思われた。だが17分弱の演説では「アメリカ・ファースト」を繰り返し、今のアメリカがいかに外国からダメージを与えられているかを説き、自分こそがアメリカを強くする指導者であると語った。そして選挙期間中のキャッチフレーズである“Make America great again!”で締めくくった。就任式で演説するトランプ米新大統領=20日、ワシントン(AP=共同) 本来、就任演説とは選挙演説と一線を画し明るく前向きの姿勢を示すものだが、最初から最後まで、暗く、ネガティブに、そして怒りに満ちた選挙演説と変わらない就任演説だった。もちろんそこには、アメリカがこれまで戦後長く掲げてきた「民主主義」や「自由」「人権」などといった言葉はなく、「アメリカ」だけが躍った。 つまり、選挙中のトランプ氏のスタンスは、大統領のトランプ氏と何ら変わらないということである。トランプ政権はまさしく「トランプ氏自身の政権」であるということを認識しておかなければならない。政権側にとって使い勝手がいい「二層構造」 これまで、アメリカの政策について分析し言及する場合には、大統領、議会、圧力団体、世論、シンクタンクなど様々な要因を絡めて何らかの結論を出したり、見通しを示したりするのが常だった。そしてその見通しがはずれたとしても、大体は想定の範囲内に収まった。それは他の主要な先進国でも同様である。 しかしトランプ政権においては、「金正恩の北朝鮮」「プーチンのロシア」において、それぞれの国の政策を予想するような色彩を帯びてきた。つまり、指導者が何を考えて何をしようとしているのか、当人の頭と心の中を読むことが極めて重要性をもつようになったということである。だからこそ、トランプ政権は不確実性をもち、外部からの予測が難しくなったことを意味する。 もちろんアメリカは北朝鮮やロシアと政治機構は違うし、アメリカ社会の成熟度も高い。北朝鮮やロシアとは違って、より豊富で質の高い情報も報道されている。上下両院でトランプ氏の共和党が過半数を占めているといっても、党内は必ずしも一枚岩ではない。しかしトランプ氏の頭と胸の内は当人以外わからない。その意味での不確実性は北朝鮮やロシアに近いものがある。 アメリカの閣僚は、議院内閣制の日本のように大臣=ministerではなく、長官=secretaryである。わかりやすく言えば、アメリカの大統領は行政府で図抜けて権力をもち、長官はそれに従う存在だということである。その上で、トランプ氏はこれまでの大統領の中で、最も自分中心の指導者である。もちろん、実際にトランプ氏に会った安倍首相が言うように「人の話を聞く人だ」という側面もあるが、基本的に「自分」の考えを極めて大事にする。したがって、そんな中での国務長官のティラーソン氏や国防長官のマティス氏の裁量は限定的である。 さらに、アメリカの政権内の二層制を思い出しておく必要もある。それは閣僚と、一般に「補佐官」という名称で知られるホワイトハウス・スタッフとの関係である。そして補佐官たちは閣僚と同様か、時に閣僚以上に力をもつ。またこの役職は議会で承認を得る必要もないし、政策について証言することもない。したがって、外部からみれば政策の状況はみえにくい一方で、政権側にとっては使い勝手がいい。 外交・安全保障を担うポストでいえば、国家安全保障担当補佐官がそれにあたり、トランプ政権においてはマイケル・フリン氏がその任にあたる。同氏はオバマ政権で国防情報局長に就任したものの、わずか2年で退任。そこから反オバマ派に転じ、多くの安全保障関連の主流派の専門家たちがトランプ氏に背を向ける中で、いち早くトランプ支持を打ち出した。今回、国家安全保障担当補佐官の座を射止めたもの、その功績からである。 ところが、国防長官のマティス氏が多くの軍人から最高の敬意をもって迎えられたのに対して、フリン氏の人物像には疑問符をつける声が少なからずある。オバマ政権を2年で退任を余儀なくされたのも、不穏当な発言を繰り返したからである。ニクソン政権の再来で恐れる中国との「間違った取引」 ならばマティス氏が政権で主導権を握りそうなものだが、ここはトランプ政権である。前述したように、自分中心のトランプ氏は、自分に近い人物の声を重視する。米大統領ならず世の権力とは基本的にそのようなものだが、トランプ氏のこれまでの行動を見てみるとその傾向が非常に強い。 したがってこの政権においては、先ごろ上席顧問として加わった娘婿のジェレッド・クシュナー氏が実質的なナンバーツーとなり、副大統領のマイク・ペンス氏、首席補佐官のラインス・プリーバス氏、戦略担当官兼上級顧問のスティーブ・バノン氏のトロイカが、その次に位置する存在になると推測される。閣僚人事に関する書類に署名するトランプ米大統領(前列左端)=20日、ワシントンの連邦議会議事堂(ロイター=共同) そんな身内・側近政治だから、外交・安全保障も、結局のところ以前から近しい関係を打ち立てていたフリン氏になるのではないかとも思われるのである。だとすると、日本は国務・国防長官が言及した「同盟重視」という前提で楽観することはできない(フリン氏は昨年来日した際に、日米同盟には肯定的だったと言われるが)。そしてニクソン政権が行ったようなホワイトハウスにおける側近政治ということになれば、国務省・国防総省主体のそれよりも、その方針は非常に見えづらくなる。 さらに就任9日前の1月11日にトランプ氏が行った記者会見での発言にも注目しておく必要がある。この席でトランプ氏はメディア批判を行い、また自らの事業の運営を息子たちに任せて、自らは今後かかわらないことを述べた(それについては説明が不十分で、利益相反の懸念はまだ残ると指摘された)。 ただそれ以外は、メキシコとの間の壁建設や雇用、産業・貿易問題が中心で、外交や安全保障について多少ふれたものの、それを正面から語ることはなかった。そしてそれは1月20日の就任演説でも同様であった。ということは、トランプ氏の関心は世界全体をにらんだ外交・安全保障戦略ではなく、アメリカが直接的に関係するシリアやIS(イスラム国)など一部の地域や分野に限られ、対外的な関心は基本的に通商問題なのではないかということである。 さらに言えば、筆者がかねてから、トランプ氏を「ボトムライン大統領」(損得勘定の大統領)だとして懸念しているように、例えば貿易問題で中国から一定の果実を得ることができれば、アジアの大きな波乱要因になっている中国に対する安全保障問題には関心が薄くなるのではないか、そして「間違った」取引をするのではないかということである。 これらは全て推測である。しかし「トランプのアメリカ」においては、「金正恩の北朝鮮」「プーチンのロシア」と同じように、推測で推し量るしかない。それこそが2017年の世界における「トランプのアメリカ」のもつ大きな不確実性なのである。

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    「トランプ後の世界」はこうなる! 米国発金融危機のリスクシナリオ

    を提供しつつその市場規模が加速度的に拡大してきた背景がありました。 トランプ政権の誕生を今般受けて、アメリカを中心として世界各国で採用されてきた低金利政策の行方が混沌としてきていることは債券市場にとってとてもネガティヴな事象として受け止められてきています。 今年に入ってから急激にドル安に転じ始めているのは、トランプ政権誕生が近づくにつれて米国でのインフレを懸念する動きが台頭してきているからだと言って間違い無いと思います。 経済学的には、表面上の金利差ではなくインフレ格差で通貨価値は決定されていきます。今後の米国の物価が他国以上に上昇すると見ているからこそドル安が進展してきているということだと筆者は考えます。 低迷する物価状況が常態化していくという「ニューノーマル」という言葉が昨年まで流行っていましたが、今後は物価が大きく上昇するという「インフレ」への懸念がトランプ政権下で醸成されてくることはトランプ氏の発言を見ていても驚くことではありません。悪いインフレの到来減税で税収が落ち込み、債券金利が上昇 トランプ政権が唱えている金融財政政策の根幹は所謂「上げ潮」路線です。米国の財政が健全化政策から拡大政策への歩みだしたという話になります。 端的に言えば、返済能力を度外視して借りれるうちにより多く借りておこうというのが今回の財政拡大政策の特徴と言えます。財政膨張政策と言っていいかもしれません。 民主党のクリントン候補は増税によって米国の債務返済能力を確かなものにしつつ、借りれる範囲の中で現状の債務を維持していこうという極めてまっとうな意図を大統領選挙中に表明していました。増税を行う間は緩和的金融政策を中央銀行が行い、増税に伴う景気後退リスクを抑えていこうという戦略でした。ドルの価値が増税で担保されるため持続的に海外の資金を引き付けやすいという利点がありました。しかし一方で増税という国民に痛みをもたらすものでもあり不人気な政策でありました。 一方で、トランプ新大統領は大幅減税で景気浮揚を行い、その後で経済拡大の中で自然と国庫が潤うことを期待するという政策を志向しています。このことを日本では「上げ潮」政策と言います。 国民にとって増税という痛みもなく、しかも景気浮揚が可能で税収の自然増も期待できる一方で、景気浮揚があくまで期待値にすぎないので実際に景気が浮揚しないというリスクがあります。その場合は国家債務だけが拡大してしまい、将来の増税を人々が予想してしまうために、将来に備えて貯蓄が増えて消費が低迷し有効需要がさらに低迷するという危険性も有しています。CIAでの演説後、同本部を出発する トランプ大統領=1月 21日悪いインフレの到来 経済学部の大学生が真っ先に学ぶ言葉に「乗数効果」という言葉があります。景気浮揚策の持つ効用がどれほど高いのかということが問われる数値のことを指します。 これが高ければ高いほど財政拡大策の景気浮揚効果があるわけですが、需要が満たされていたり、供給に問題がある場合はこの数値は低いものとなります。選挙前からこの乗数効果がどうも低そうだということが市場では問題視されてきていました。 というのは、どんなに減税されても一人一人が車を2台、3台も必要とするわけではないし、一人はどう頑張っても1日24時間しかないわけなので働き口がたくさん供給されても2つも3つも職を持てないということです。 米経済は既に潜在成長力を全て出し切っている状況で失業率も4%台となっており完全雇用を実現している水準といっても過言ではない状況です。無理に景気を拡大していくような状況ではないといっても良いのです。経済需要という水が既に満杯のバケツにさらに水を注ぐように、景気浮揚のための折角のお金が無駄に使われてしまい、ただただ、インフレを高進させるだけになるのではないかということが懸念されています。 上記の観点から、米連邦準備制度理事会(FRB)の理事の中には今般の上げ潮路線に異論を唱える理事も多く出てきており、また、イエレンFRB議長をトランプ候補は従前敵視する発言をしてきたため、乗数効果が低い財政膨張策への疑問から任期終了前のイエレン議長辞任の可能性もなきにしもあらずです。政権と中銀の考え方の不一致というこのことだけでもデリバティブ市場債券市場を大きく揺るがすことになりますが、さらに懸念があるのは、財源の裏付けがない大幅減税に言及していることです。インフレは不動産価格の上昇に繋がらない まず、個人の所得税率について、最大38%である累進課税を最大33%にまで減税しつつ、定額控除の拡大や加えて、相続税の廃止を主張しています。このほか、所得税率区分を減らすことによる税還付制度の簡素化や、連邦遺産税の撤廃を挙げています。更には法人税を35%から15%へ引き下げると公約しています。 投資運用会社が成功報酬として受け取る「キャリードインタレスト」向け税制優遇措置の撤廃や米企業が海外に滞留させている利益への一時課税などもカウンターで提案しているものの、これらの税制改革を行なった場合、当然のことながら減収がイメージされています。その額は今後10年間で4兆ドル以上という巨額の連邦政府減収が予想されており、当然、このことは米国債の格下げを想起させることにつながり債券金利の上昇となっていくことが想定されます。ロンドン中心部のトラファルガー広場に集まった トランプ大統領への抗議者ら=1月21日 この物価の上昇や債券金利の上昇の影響を考える上で先行しているのがイギリス金融市場の動きです。長期金利が大幅にあがっていく場合、BREXIT(英国の欧州連合離脱)後のイギリスの国債金利の推移がいい例ですが、イギリスの場合では先ずBREXITで自国通貨ポンドが大幅に下落し、このことで更に輸入物価があがっていき、これまでの金融緩和政策の維持が不可能となり、続く債券市場のパニック的な債券売りで株式市場が揺らぎかねないという流れでもって大きな不確実性が生まれつつあります。株式市場の揺らぎの前には実際に英金利の上昇に伴うロンドン不動産価格の低迷がその事象を示しています。 トランプ政権下での物価上昇に伴う今後のドル通貨の下落は、トランプ氏の保護貿易主義とも合致しているために政権の後押しをもって加速していくことになりましょう。このドル通貨の下落は輸入物価上昇を通じて更に物価を押し上げていき低金利政策の大幅な変更を伴いつつニューヨークなどの米国不動産価格の大幅下落につながっていくことを意味しています。大幅金融緩和で成り立ってきた高位推移してきた不動産価格が、決不動産価格の上昇してインフレ=不動産価格の上昇に繋がっていないのが現状の英国の状況であり今後は米国の不動産市況であると言えます。 低金利政策下での活発な不動産市況あってこその拡大する不動産ローン市況であり、その低金利政策や不動産ローン市場に多くを依拠するのがデリバティブ市場の4割程度を占めるドル市場であり、米国金融機関であり、また、株式市況の安定推移である以上、物価をめぐるパラダイムシフトは米金融市場の本質である債券市場を大きく揺るがしひいては国際金融市場に大きな市場変動を呼ぶ恐れがあると思料します。 個々の人々の生活の基盤である不動産や住宅市場に大きな波紋が起きるならば、そこから生まれるストレスを発散させるためにも外交で強気にでていくトランプ政権の姿が予想されます。米国不動産市況の悪化がデリバティブ市場の揺らぎを通じて世界中に金融不安を拡散していくことと相まって、米国発での対外摩擦の増加という不均衡の拡大、ポジティブフィードバックこそ、トランプ政権下での確度の高いリスクシナリオであると筆者は考えています。

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    トランプ大統領就任演説で何を悟るべきなのか

    渡瀬裕哉(早稲田大学招聘研究員) トランプの大統領就任式の演説が終わりました。日本でも演説内容について評論が行われていますが、正直言って読むに耐えかねるものが多くて、ほとんどサラサラと目を通しただけの状況となっています。米ワシントンの連邦議会議事堂で会合を終え、ミッチ・マコネル共和党上院院内総務(右から2人目)らと歩くドナルド・トランプ氏=2016年11月10日(AP) この就任演説の内容を正しく理解すること、現在の米国内部及び共和党内部での権力闘争の状況を伺い知ることができます。今回はトランプの大統領就任演説を通じて、それらの状況を概観していきたいと思います。共和党保守派が標榜する価値観の勝利を宣言した演説 トランプ政権の反ワシントンの姿勢は、米国における伝統的なパトリオティズムの発露に過ぎません。建国の歴史から連なる反ワシントン、反連邦政府の姿勢は米国共和党にとってはスタンダードな考え方です。 そして、米国共和党、特に共和党保守派はこの考え方を強く支持しています。 トランプは合衆国への忠誠、つまり自由主義と保守主義という米国の規範を規範を共有することによって、米国民は共通の理念の下に団結(分断を乗り越える)というイデオロギーを表明しました。 これはポリティカル・コレクトネスによって人種・性別・所得・学歴などで人間を分類する思考法を持つリベラルに対する強烈なアンチテーゼを示したことになります。(リベラル派それを多様性と呼んでいます) 民主党と共和党では何によって国民の一体性を取り戻すのか、という基本認識にズレがあり、この演説は共和党保守派が標榜する米国民を統合する価値観の勝利を宣言する演説であると捉えるべきでしょう。 このような分析はトランプ特有のものではなくて共和党保守派は常に主張してきたことであり、同演説はトランプ政権内での共和党保守派の力の強さを示すものだと言えるでしょう。ワシントンのリベラルなエスタブリッシュメントとの戦い トランプは民主党や共和党主流派などのリベラルな傾向がある人々と決定的に対立しています。これらの人々が集うワシントンは腐敗の象徴とみなされており、トランプはそれらの人々が雇うロビイストをワシントンから一掃する形で権力闘争を行っています。 そして、今回の大統領選挙結果はメルセル財団らのドナー、ヘリテージ財団の政策、ティーパーティーらの選挙力を背景とした共和党保守派のエスタブリッシュメントへの勝利であり、その戦いに決着をつけるという決意表明が反ワシントン演説の本質です。 つまり、現在実行中の政治闘争の方針を示していることになります。共和党内部でリベラルな主流派の排除という権力構造の変化は閣僚人事にも反映されており、今後の政策の方向性が極めて保守的なものになっていくことを示しています。 ちなみに、日本の外交面のカウンターパートの基本は上記のエスタブリッシュメントに紐づいた人々であり、昨年の8月に共和党系でもあるにも関わらず、ヒラリー支持を打ち出して全面排除されている状況です。トランプ政権は共和党保守派の政権である共和党保守派内で衰退するリバタリアン陣営 今回の演説の一部で保護主義的な発言も見られましたが、それらはトランプ政権内の共和党保守派内での権力構造の変化も表しています。 共和党保守派内では完全な自由主義を標榜するリバタリアンの勢力が資金面・政策面で大きな力を持ってきました。具体的にはコーク財団を中心とする勢力であり、共和党の大統領候補者や連邦議員は同財団の影響力を強く受けてきました。3日、米ワシントンで新議会が開会、下院議長に共和党のライアン氏が再選され祝福する同党議員ら(UPI=共同) 日本人でも多少関心がある人ならコーク財団の名称と影響力を知っていますが、実は今回の大統領選挙ではコーク財団はトランプの支援を行っておらず、同財団の系列下の関係者などからトランプに人材が流れる状態が発生しています。 コーク財団の影響力の低下は避けがたい状態となっており、共和党議会内部のパワーバランスもトランプに有利に働く可能性が高まっています。また、同財団自体も政治活動を縮小する再編を志向しており、今後は研究活動などに重点を移行する動きが出ています。 この演説内容は政権内の共和党保守派内での権力闘争の結果として、リバタリアンの影響力が低下していることを裏付けるものとなっています。日本人から見ると何が重要なのか分からないかもしれないですが、米国政治の動向を具体的に考える上で重要な変化です。トランプ政権は共和党保守派の政権である 今回のトランプ大統領の就任演説は、長年米国で主流を占めてきたリベラル勢力(共和党・民主党含)の排除、共和党保守派内部におけるリバタリアンの影響力低下を示すものとなりました。 極めて政治闘争的な意味合いを前面に押し出した戦闘的な演説だったと思います。イデオロギー的な抽象的な意味ではなく、具体的な政治闘争が伴う保守革命が確実に進んでいるということです。 人材面でも大きな変化が発生しつつあり、従来までの人脈のガラガラポンが起きていくことになるでしょう。仮に若くて実力がある人々にとっては政治的なチャンスが訪れている状況です。 米国大統領の演説とは、誰がその政権を作ったのか、という選挙のプロセスが色濃く表れるものであり、それらを理解した上で政策の予測と具体的な対策を考えることが必要となります。少なくとも共和党保守派の考え方についてほぼ無理解・偏見が溢れている日本の現状を変えることが必要です。 トランプ政権を創り上げた人々は共和党保守派であり、それらの人々を軽視してきた日本外交は危機的な状況に立たされていくことになるでしょう。 表面的な文言の意味を探る訓詁学のような分析は意味がありません。トランプが述べているように実行の時代です。就任演説について論評するだけの学者は不要であり、受け身ではなく自らが生き残るために誰に何をどのようにアプローチするべきかを考える実務家の時代が来たと言えます。

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    韓国が騒げば騒ぐほど、トランプの眼中に入ってくる「慰安婦像」

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) トランプ大統領の政策にとって韓国が占める位置はどのようなものだろうか。そこから、現在の日韓で大きな関心を集めている慰安婦像問題を考えていきたい。1月21日、トランプ米大統領就任を伝えるテレビニュースが流れる大阪市内の大型モニター トランプ政権にとって韓国は、経済的側面と安全保障のふたつが主要な関心事だろう。「米国第一主義」を就任演説でも強調し、また米国民の雇用の最大化を主軸にしていることは、トランプ氏が以前から公約で明言してきたことで目新しいことはない。 また就任演説直後に、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の合意からの離脱を表明し、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を要求した。TPPもNAFTAも多国間の自由貿易圏を生み出すための国際的な枠組みである。この両協定に対して、トランプ大統領が否定的であることから、保護貿易主義を米国がそのまま採用すると考える意見もあるが、それは即断すぎる。むしろ二国間の交渉によって、自国に有利な形での「自由貿易」路線を継続するのが主眼だろう。 このような通商・貿易政策の戦略は、米国が1980年代から90年代前半にかけて、特に日本を中心に適用してきたものを想起させる。例えば、当時の米国の歴代政権は、日本の「構造問題」を指摘し、その解決を政治的な権力を多様に駆使して実行を迫った。 規制緩和や民営化路線を強行すれば、日米の貿易問題が解消すると米国の当局者は理解していた。米国の貿易赤字は、いわば日本の「構造問題」によって米国の産業・企業が日本で「条件を同じくして」競争できないために発生していると考えたのである。 さらに為替レートの強制的な調整も実行を迫られていた。円安ドル高がこれまた米国の貿易赤字をもたらしているとして、円高ドル安路線への政治的転換を迫った。米国はこれを他国にも迫り、それがいわゆる「プラザ合意」として各国協調でのドル安(他国通貨高)政策に結実した。 このような米国の日本への「構造問題」解決圧力と、また強制的な円高政策は、日本に米国からの積極的な政治的圧力がなくなった後でも深刻な弊害をもたらした。つまり日本の停滞の主因は「構造問題」であるという誤解の蔓延、さらに“円高シンドローム”という事実上のデフレ政策の採用である。 後者はわかりやすくいえば、円高を続けるということは、市場に出回るマネーの通貨量が少ないので、マネーの価値が(モノやサービスに対して)高まることになるからである。マネーの価値の高まり、すなわちデフレは人の価値よりも超えてしまい、失業や自殺者数の増加に結び付いた。いわば、80年代から続く米国の政治的呪縛と、それが事実上解けた後でも日本の政策当局の構造問題やデフレ政策への妄執によって「失われた20年」という大停滞が続いた。韓国で巻き起こる「構造改革」ブーム 実は韓国はすでにこの「失われた20年」の罠にどっぷりと浸かっていると筆者は判断している。すでに米国と韓国の間では、米韓自由貿易協定(FTA)が締結されているため、韓国の政治・経済界そしてメディアで、韓国の経済的低迷は、例えば財閥系企業がグローバル化に不適合な旧体質にあるという、かつての日本のような批判が主流になっている。いわば韓国版の「構造改革」ブームとでもいえる現象が起きているのだ。 これはまさに米国との通商交渉のひとつの帰結とみてもおかしくないだろう。確かに規制緩和などが必要な領域があるだろう。しかし本連載の第1回でも指摘したように、現在の韓国経済の問題は持続的な総需要不足であり、その解決は構造改革ではまったくない。「失われた20年」の日本と同様に、積極的な金融政策と財政政策による総需要不足を解消するしかないのである。 だが、韓国の経済界や言論界で、このような当たり前な総需要刺激政策を唱える論者、特に金融政策の転換を主張する人は皆無である。「リフレ派なき韓国経済」といっていい。またこのことが、金融政策を事実上デフレスタンス(=ウォン高)のまま放任することにつながり、「ウォン高シンドローム」によって経済の低迷はより確実なものになるだろう。 確かに財政政策の拡大の余地があるが、日本が90年代に積極的な財政政策を行っても停滞から脱出できなかったように、財政と金融の両方の政策が協調性をもって大きく緩和に転じない限り、財政政策はムダ打ちになる可能性が大きい。それはますます通常の景気刺激政策への失望を招き、より韓国を構造問題主義に傾斜させていき、自国を停滞の罠に陥らせるだろう。 ところでトランプ政権が米韓FTAの再交渉を提起する可能性を、韓国内でも懸念しているようだ。ただし、米国のいわゆる貿易赤字にしめる韓国の位置はそれほど重要ではない。筆者の現在の見通しでは、FTA再交渉の緊急性は高くないと判断している。 いま、トランプ政権が問題視しているのは、最大の貿易相手国の中国である。トランプ政権は中国との通商・貿易交渉で強気の交渉-国内各経済部門の規制緩和、対外資本投資の自由化など-を展開する可能性が大きい。もしこの対中交渉が決裂し、米国が報復的な高関税政策を中国に適用した場合、中国の輸出産業に中間財を供給している韓国の産業がダメージを負うことがあるかもしれない。むしろ韓国にはそちらの懸念の方が大きいだろう。「慰安婦像」で決定的になる政治停滞 もっとも韓国経済からみれば、すでにFTA交渉で植え付けられた「構造問題主義」が蔓延してしまったほうがよほど深刻のはずだが。さらに為替レートの動向については、従来からの「為替操作国」への認定を、トランプ政権は強く意識する可能性が大きい。そのために過去に実行されていた疑念のある為替介入は事実上封印されるだろう。またデフレスタンスの韓国銀行(韓国の中央銀行)の政策スタンスの変更はないだろうから、筆者のかねてからの予測通りに、そのまま韓国が日本型の長期停滞に自ら入り込む可能性が高い。 安全保障については、これも米国の対中国・対北朝鮮政策によって韓国の位置付けが大きく左右されるに違いない。その延長で、慰安婦像の設置問題も考える必要がある。 筆者の見解では、今回の慰安婦像設置は、明らかに日韓合意に反するものである。その非は完全に韓国側にある。と同時に、この慰安婦像問題も含めて、韓国の親北朝鮮勢力の政治的な動きと連動していることを見逃してはいけない。韓国・釜山の日本総領事館前への慰安婦像設置に対抗して、一時帰国した長嶺安政駐韓大使(合成写真) 現在のところ、朴大統領の弾劾が決定し、その後に大統領選挙が行われれば、韓国で北朝鮮・中国寄りの政権ができる可能性が大きい。これはトランプ政権にとって座視できるものではない。さまざまな政治的ルートで、もし親北・親中の新政権に揺さぶりや圧力を明示的にかけるだろう。 筆者の私見では、それで韓国が米国と関係を悪化させることはできないと見ている。なぜなら米国は韓国の域内の軍事的プレゼンスを支える動機付けを、トランプ政権になっても維持すると考えられても、中国が米国の代替になるとはまったく考えられないからだ。中国は韓国に対して、貢物や服従を要求すれども、その恩恵付きの庇護には無関心であるという、何千年にもわたる両地域の歴史がそれを裏付けているからだ。 韓国は経済面で米国に必要以上に隷従しているし、また安全保障上でも米国の存在抜きでは、国家の存立さえも事実上危うい。特に安全保障面では、トランプ政権は日本と韓国が外交的摩擦を過度に起こすことにやがて神経質になるだろう。 そのとき慰安婦像問題は、トランプ政権にとって無視できない位置におかれる。外交的にもまた政治的にも、ボールは韓国側にあることは、米国だけでなく、海外の良識すべてが判断することになるだろう。日本はこの状況をよく考慮に入れて、いまから対応すればいい。仮に新政権が慰安婦像を再び政治利用すれば、そのとき韓国の政治的な停滞もまた決定的になるに違いない。そこまで愚かでないことを望む。

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    「最もいい加減な人種」と非難、トランプ氏とメディアの対立激化

    【WEDGE REPORT】佐々木伸(星槎大学客員教授) ホワイトハウス入りしたばかりのトランプ米大統領は就任式に集まった聴衆の人数などをめぐって激しいメディア非難を繰り広げ、双方の不信は極限まで高まってきた。対立の大きな要因は「批判に衝動的に反応する」(アナリスト)トランプ氏の人格にあり、メディア側も対応に苦慮している。「大きな代償を支払うことになる」 米紙などによると、トランプ氏が今回、メディアに激怒したのは大統領就任式の翌日(21日)の朝だった。テレビをつけてネットワークのニュースを見たところ、就任式に集まった聴衆が前任者のオバマ氏の就任式と比べて格段に少なかったと報じられた上、ガラガラの就任式会場の1つが映し出された。 トランプ氏は怒りを抱えたまま、バージニア州ラングレーにある中央情報局(CIA)本部を訪問、任務の最中に殉職した職員を称える記念碑を背景に幹部職員約300人を前に15分程度のスピーチを行った。この日までトランプ氏はCIAなど情報機関が同氏のモスクワでのわいせつスキャンダルを漏らしたと非難し、両者の緊張が続いていた。 CIA訪問は本来ならこうした緊張を緩和して情報活動を鼓舞する機会のはずだったが、トランプ氏がCIAの活動に触れたのはほんの一瞬。同氏は大半をメディアへの不満、就任式の人数が不当に低く報じられたこと、さらには政治的支持層や自分の知的レベルの高さなどに終始、自己顕示欲をあらわにした。 トランプ氏は「就任式の聴衆は150万人はいたように見えた。メディアは嘘つきだ」と指摘。「私はメディアとやり合っている。彼らは地球上で最もいい加減な人種だ」と述べ「連中は大きな代償を支払うだろう」と恫喝した。トランプ大統領とメラニア夫人(右) 殉職者の碑はCIAの中で最も敬われる場所。そうした“神聖な”碑を背景にしてCIAと関係のない話をしたことに前長官のブレナン氏は「見下げた自己顕示欲だ。恥を知れ」と怒りの声明を発表した。 トランプ氏はわいせつスキャンダルを漏らしたのが前長官と思い込んでいるフシがあり、先週には「彼は偽ニュースの漏洩源」と罵っていた。しかしある職員は「大統領は単に情報機関との関係を強めるために来たと言えば良かったのに、ほとんどは就任式の聴衆の人数の話だった。場違いなスピーチだった」と語っている。 トランプ氏は就任式の聴衆人数について、側近らにメディアに反撃しろとどやしつけたと伝えられているが、この日、CIAからホワイトハウスに戻ったスパイサー大統領報道官はこうしたボスの怒りを記者団にぶつけた。報道官はトランプ大統領の就任式はこれまでで最も聴衆が多かったと反発。 その証拠として、就任式が行われた20日のワシントンの地下鉄の乗降客を持ち出し、2013年のオバマ大統領再選の際の式典では31万7000人だったのに対し、今回は42万人だったと主張。しかし、地下鉄当局によると、実際にはオバマ氏の時は78万人で、今回の57万人よりも多かった。自己愛性人格障害? スパイサー氏は「メディアは大統領の責任を問う話を報じているが、メディアにも同様に責任を取らせる」と捨て台詞を残して、一切の質問を受け付けずに5分で会見を打ち切るというまさに異常事態になった。自己愛性人格障害? こうしたトランプ氏のメディア不信は選挙期間中からのものだが、当選後最初の記者会見(11日)では、わいせつスキャンダルの内容を報じたニュースサイト「バズフィード」を罵倒したのは無論のこと、そうしたスキャンダルが出回っていると伝えたCNN記者にも質問をさせなかった。トランプ米新大統領の就任式会場に詰めかけた大勢の人たち=1月20日、ワシントン トランプ氏は記者会見を開いて記者とやり取りをするのを嫌悪しており、その代わり、ツイッターで一方的に“トランプ砲”を発信するのを好んでいる。米自動車産業やトヨタがメキシコに工場を建設することなどに直接文句を付け、女優のメリル・ストリープさんの弱者軽視の批判にもすぐに反撃した。 それも早朝からツイートしており、「ほとんど寝ていないのではないか」(米専門家)と思われるほど。こうした自分への批判や悪口が気になり、言われると衝動的に反応していることに、一部には「自己愛性人格障害」の兆候とのうわさもささやかれている。この症状はナルシストに多いことでも知られる。 米国では、新政権発足後、100日間はメディアも政権批判は控えて見守るという習わしがあるが、トランプ政権に限ってはそれは当てはまらないようだ。それどころかメディアとの対立がさらに激化すれば、トランプ大統領が何を考え、何をやろうとしているのかが国民の目から遠くなってしまう恐れがある。 オバマ氏は退任会見で「私は称賛されるのを求めない。権力者を批判するのはメディアの仕事だ」と述べた。トランプ氏にこうした大人の対応を期待するのは最初から無理なのかもしれない。

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    露専門家によるトランプ“解剖”

    ニコライ・シェフチェンコ(ロシアNOW) ドナルド・トランプ氏の第45代アメリカ大統領就任式を前に、ロシアの専門家たちが改めてトランプとは何者かを理解しようとし、米国の内政および露米関係への影響を占った。 トランプとは何者か、そしてこの現象が露米関係をどう変えるのか?この問題はロシアの専門家たちを悩ましており、彼らは、同氏の奔放なツィターでの呟きやスキャンダラスな発言の霧を透かして、氏の素顔を見極めようと試みてきた。 ロシアのアメリカ専門家たちは、米国市民に劣らず就任式を待ち構えているが、式目前の1月18日に彼らは、モスクワの国際討論会「バルダイ会議」に集まり、議論を展開した。就任式で宣誓を終え、歓声に応えるトランプ米新大統領 =1月20日、ワシントントランプって何? ロシアの専門家らの関心を引く主な問題は、トランプとは何者かではなく、米国の政治構造の発展の文脈においてトランプとは何であるか、そしてこの現象が外交政策にどのように反映するか、という点にある。「トランプは歴史的必然性か、それとも歴史の破綻か」。モスクワ国際関係大学国際政治プロセス講座のイワン・サフランチュク准教授はこう問題を提起した。 米国におけるトランプの反対者たちとは異なり、ロシアの専門家らは次のような見方に傾いている。つまり、トランプが勝利したのは、ヒラリー・クリントン陣営の選挙戦略の誤りのためではなく、クレムリンが米大統領選に介入した結果でもない。トランプ勝利は、同氏がアメリカ社会の構造的な変動を捉えることができたためだ、と。 「トランプ氏は、アメリカ国民に対し、米国は敗北を喫しつつある、と言ってのけた人物だ」。こう言うのは、バルダイ会議のプログラムディレクターを務めるアンドレイ・スシェンツォフ・モスクワ国際関係大学教授。 スシェンツォフ教授の見解では、こういう強力で並々でない発言をするには、この候補者には「尋常でない勇気」が必要だったはずだという。 トランプ氏には、米国の支配層にとって具合の悪い問題を提起する能力がある、ということだが、これは、氏が別のエリート層の代表者であることで説明される――。こう考えるのはアンドレイ・ベズルコフ氏。氏はかつて米国から追放されたロシアのエージェントで、現在は露石油最大手「ロスネフチ」の社長顧問を務めている。経済大国としてのアメリカの再生こそがトランプ氏の主要なメッセージだ、と氏は考える。露米関係回復の困難さトランプ政権の顔ぶれと対露関係 将来の露米関係に及ぼすトランプ氏の影響は、米国の内政問題に劣らず専門家らを悩ませている。 「トランプ氏は、他のケースなら決してホワイトハウス入りしなかったような“スーパーヒーローチーム”を創るかもしれない。それは、高いキャリアを持ち、何よりも結果を出すことを目指し、これ以前には政治的野心を持たなかった、そんな人たちだ」。スシェンツォフ教授はこう言う。 露米関係を回復させるという課題が実際のところどれだけ実現困難かについては、専門家らは慎重な意見を述べる。モスクワの大統領府で記者会見したプーチン大統領=1月17日 「トランプ氏は、ロシアとプーチン大統領に対してひたすら好意的だったレトリックから、プラグマティックで現実的なそれに移行するだろう。このことを理解する必要がある」。マクシム・スチコフ氏は言う。氏はロシア国際問題委員会の専門家だ。 トランプ氏のレトリックは変化すると予想されるわけだが、これには落ち着いて対応する必要がある。なぜなら露米関係の複雑からして変化は避け難いからだと、同氏は述べる。 「肝心なのは、露米首脳間の良好な個人的関係を築くことにこだわらないことだ。似たようなことを我々はすでに、友人ボリスと友人ビル、友人ジョージと友人ウラジーミル、友人ドミトリーと友人バラクの間で経験してきている。これは、一定期間蜜月の幻想を作り出すが、その後で危機が生じて、露米関係を嘆かわしい状態に陥れる」。こう同氏は結んだ。 9日序盤のモスクワ証券取引所では、主要指標の一つであるMICEX指数は1.44%安の1939.66、ドル建てRTS指数は1.5%安の958.33まで下落した。ロシアの証券会社「ブロケルクレジットセルヴィス」がロシアNOWにこれを伝えた。 ところが、昼にかけて指標は回復し、その後1.5~1.7%高の2000まで上昇した。これはトランプ氏の勝利が伝わった後の世界の市場の反応とは逆である。専門家によれば、アメリカの外交政策が変わって不安定化するのではないかと世界の投資家が恐れたものの、ロシア的には制裁緩和の可能性を意味したのだという。最初の反応 ロシアの投資家の行動には時間差の影響があった。「ロシアの市場が始まったのは、原油、金、ドル、アメリカの株価指数先物の回復を背景に選挙結果が伝えられた後」と、ロシアのFX会社「テレトレード」の上級アナリスト、アレクサンドル・エゴロフ氏は説明する。そのために、ロシアの指標とルーブルの反応は大きくならなかった。投資家は高リスクから「安全な避難所」へ  国際的な投資家の最初の反応は、トランプ氏が選挙戦で示していた複数の公約から、多くの点でネガティブなものとなった。「トランプ氏がアメリカ大統領に選ばれたということは、金融市場の不確実性、それも長期的な不確実性の始まりを意味した」と、FX会社「eトロ」のパーヴェル・サラス・ロシア・CIS統括は話す。トランプ氏の行動は予測困難であることから、投資家はリスクの高い資産から「安全な避難所」へと移り、具体性を待っているという。 トランプ氏の経済公約およびいくつかの発言では、中国との貿易を制限していくことが示されていると、ロシアの大手証券会社「フィナム」の金融アナリストであるティムール・ニグマトゥッリン氏は話す。これ以外にも、欧州連合(EU)との自由貿易圏の創設に関する協議が止まるリスクもあるという。このような取り組みは、短期的にも世界経済の冷え込みを招きかねない。 「世界経済はここ10年で貿易障壁を低め、競争を高めて成長してきたことを考えると、アメリカ政府のこのような取り組みは逆行になる」と、ロシアの証券会社「オトクルィチエ・ブロケル」市場分析部の専門家、ドミトリー・ダニリン氏は話す。 長期的な見通し 中国、EUとは異なり、ロシアにとってトランプ氏の当選は、むしろプラスの変化を意味すると、専門家らは考える。ウクライナ情勢を受けて発動された経済制裁の緩和または解除は、ロシア経済に影響をおよぼす可能性があると、ロシアの投資会社「フリーダム・ファイナンス」取引部のイーゴリ・クリュシュネフ部長は考える。ロシアにより柔軟なトランプ氏は、経済制裁を延長しない可能性があり、早期解除に寄与する可能性もあるという。 「経済制裁の解除、または部分的、段階的な解除は、今後の可能性の一つ。ただ、今のところ、このシナリオの実現について話すのは時期尚早。解除の条件は近い将来、実施されそうにない」と、エゴロフ氏は慎重な見方をする。ニグマトゥッリン氏によれば、トランプ氏は選挙戦で、ロシア政府との対話を確立する必要性について何度も話していたという。 エゴロフ氏によると、いずれにしても、トランプ氏が候補者として発言した内容は、大統領としての具体的な動きとは異なるという。「一つ明らかなことがある。2017年は世界経済にとって変化の年になる。イギリスのEU離脱の問題があり、アメリカの政治の影響を受ける」とエゴロフ氏。(ロシアNOW  2017年1月20日分を転載)