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    米軍事作戦に怯える金正恩「ハッタリ外交」

    金正恩の暴走が止まらない。半島危機の真っただ中、北朝鮮は弾道ミサイルを発射した。国連安保理は緊急会合を開き、北朝鮮のさらなる挑発阻止への具体的協議に入った。圧倒的戦力差の米軍事作戦に怯え、もはや核開発しか生きる道のなくなった独裁国家の「ハッタリ外交」はいつまで続くのか。

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    トランプに怯える金正恩の秘策は「日朝首脳会談」の再現だ!

    西岡力(麗澤大学客員教授、モラロジー研究所室長)  今月14日、北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。その日は、中国が威信をかけた「一帯一路」サミットの開幕日でもあった。 こうした金正恩の挑発的な「瀬戸際外交」に今後、変化が訪れることはあるのか。それが編集部から与えられたテーマだ。具体的には、対話による外交努力、米朝首脳会談などが実現するかという問いだった。私の答えは基本的にはノーだ。ただし、日朝首脳会談の可能性はあるとみている。 理由は2つある。第1は、金正恩政権の権力構造だ。端的に言うと金正恩独裁政権を支える労働党組織指導部が対外感覚をほとんど持たない国内向け組織だからだ。新型の中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験に立ち会う金正恩氏(共同) 第2は、金正恩政権の対外矛盾は交渉で解決できるものではないからだ。金正恩政権と米国トランプ政権の間に妥協の余地がほぼない根本的矛盾が存在し、その上、中朝関係が最悪で中国共産党は米朝の対立で金正恩をかばわないだろう。ただし、金正恩が米国の軍事圧力をかわすために日本の安倍政権に接近する可能性はある。 一つずつ検討する。まず、金正恩政権の権力構造だ。20歳代の若者だった金正恩が父の死後、独裁者の地位に昇り、曲がりなりにも政権を維持し続けられた秘訣(ひけつ)は、金正日が作り上げた個人独裁システムが精緻で強固だったからだ。その核心的な部署が党組織指導部だった。 金正日は1970年代初めに金日成から後継指名を受けた後、党組織書記となった。朝鮮語では書記は「ピソ(秘書)」であり、金日成は金正日のことを組織ピソ同志と呼んでいた。金正日は自分が掌握した党組織指導部を大幅に増強し、自分が一番信頼する大学の同窓などを幹部として呼び寄せた。 まず、組織指導部に検閲班をつくり、党、政府、軍、対南工作機関などに同班を派遣して、金日成に忠誠を尽くしてきた年長幹部らを「成果がない」としてつるし上げて、今後は全ての決定を組織ピソである金正日の承認の下で行うことを誓わせた。全ての情報と決済書類は金正日を通じてのみ金日成に上がるというシステムが築かれた。 金正日の手足となった組織指導部が、国内の全ての機関の幹部、また、全人民を監視統制するようになった。北朝鮮の全ての人民は毎週1回、金正日の指令を忠実に実行したかどうかを自己批判、相互批判する「生活総和」に出席することが義務となった。その生活総和は各組織にいる組織ピソの指導を受ける。そのトップに金正日が君臨するというシステムだった。全ての機関の幹部人事も組織指導部が管轄した。 金正日は同部が絶大な権力を持つことになることをよく知っていて、同部には部長をおかず、数人の第1副部長と副部長らが分担して業務を行い、お互いを牽制(けんせい)し合わせ、金正日が組織ピソ兼組織指導部長として全体を統括した。また、組織指導部幹部らには党中央副部長以上の職位は与えず、また、外交や対南工作にも関与させなかった。彼らは国内だけにいて、海外に送ることもしなかった。一言で言ってまったく国際感覚がない組織だ。 その組織指導部が金正日の死後、金正恩を取り囲み事実上、金正恩政権の最高権力機関となっている。張成沢処刑も彼らが主導したし、金正恩を支えたもう一つの支柱だった金元弘国家保衛部長をも今年初めに解任した。彼らは金正日の立てた国家戦略を盲目的に守ることしか考えていないから、いくら米国が圧力をかけても核ミサイル開発を止めるという決断はしないだろう。金正日が生きていれば…金正日総書記の肖像画に黙とうする幹部ら。左端は金正恩氏=1月17日、平壌(共同) 金正日が生きていれば組織指導部に国内監視を任せながらも、対外関係では大胆に決断をすることも可能だった。しかし、金正恩はそのような能力を持っていないと思われる。すでに国内で米国まで届く核ミサイルは完成している、米国本土を攻撃できると公言、宣伝しているので、外交的にずるく立ち回って時間稼ぎをするため核ミサイル開発を中断することができなくなっている。それをすれば、米国の圧力に敗北した弱い指導者だと国内で思われ、人民統制が困難になる。組織指導部は人民統制を最重視するので、その意味で外交的解決は不可能に近い。 金正日が生きていれば 第2の、金正恩政権の対外矛盾は交渉で解決できるものではないという理由を検討する。4月に朝鮮戦争が始まるのではないかと多くのメディアが報じたのは、トランプ政権がこれまでの米国政権の対北政策を間違いだったと断じたためだった。 トランプ大統領と政権高官らはオバマ政権の「戦略的忍耐政策」は間違っていた。こちらが忍耐している間に、北朝鮮は米本土に届く核ミサイルを持つ直前に至った。トランプ政権はそれを絶対に許さない。そのため、軍事行動を含む全ての手段をテーブルの上に置く、と繰り返し述べた。 米国にとってのレッドラインは、独裁者金正恩が米本土を核攻撃できる能力を持つことだと明言された。米国は強力な核兵器体系を保有しており、当然、北朝鮮を核攻撃する力を持っている。その米国も自国の安全のためには北朝鮮のような狂気の独裁国家が自国を核攻撃する能力を持たせないと宣言しているのだ。 ひるがえってわが国はどうか。すでに北朝鮮は1993年に日本のほぼ全土を射程に入れたノドンミサイルの実験発射を富山沖に向けて行ったが、当時の宮沢内閣はその事実を非公開にして、危機を見ないふりした。それを米国のウォールストリート・ジャーナルは「日本はお得意のダチョウのポーズをとっている。そのような国になぜ米国が核の傘をさしかけなければならないのか」という趣旨の記事が出た。 わが国にとって北朝鮮が米本土を核攻撃できる能力を持ったら、核の傘は機能しなくなる危険が高まる。その意味では、核攻撃は絶対に許してはならないが、一方で独自に核抑止力を整備する議論もすべきだと私は思っている。 一方、金正恩は先述の通り核ミサイル開発を止められない。したがって、今年秋にかけて米朝の矛盾は極限まで高まるだろう。その場合、拉致問題を核と切り離して先行協議できるというメッセージを日本が送り続ければ、米国の軍事圧力をかわすため日本を利用としようとした2002年9月の日朝首脳会談の再現があり得るかもしれないと、息を呑む思いで状況の推移を見守っている。

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    「口先攻撃戦略」金正恩が震え上がったトランプのあるセリフ

    重村智計(早稲田大学名誉教授) 北朝鮮が5月14日に新型ミサイルを発射した。同じ日に、中国の習近平国家主席が世界に呼びかけた経済圏構想「一帯一路」の国際会議が北京で開かれた。ミサイルは中国の威信を汚した。南北首脳会談に積極的な韓国の文在寅大統領もメンツを潰された。北朝鮮は、中韓の指導者をコケにする強気を示したように見える。一方、ミサイル発射に合わせ、米元国連大使と北朝鮮外務省局長の非公式接触も行われたという。弱気に揺れる指導者の悩みが浮き彫りになった。 トランプ米大統領は、北朝鮮指導者の扱いを熟知している。得意の「誇大表現」で「核施設を限定攻撃する」と思わせ、金正恩委員長を追い詰めた。米韓の情報機関は、金委員長が野外で行われる式典に姿を見せるのは、暗殺を心配する金委員長の「影武者」との情報をひそかにリークし、「弱気な指導者」を演出している。 北朝鮮は、「ソウルを火の海にする」などの過激な表現で、周辺大国を不安に追い込み、譲歩を得る手口を得意とする。ところが、トランプ氏がその「口先攻撃戦略」のお株を奪い取ってしまった。「北朝鮮は米国の安全保障にとって喫緊の課題だ」と強調し、金委員長を弱気にさせ、核実験を見送らせたのである。 トランプ氏は、習氏に「核実験をすれば、必ず限定攻撃する」と北朝鮮に伝えるよう求めたという。北朝鮮が中国に「4月20日に核実験を行う」と伝えた、との報道がある。中国は「トランプ氏は核実験施設を限定攻撃する」と強く警告した。4月29日、米ペンシルベニア州出行われた支持者向け集会で登壇したトランプ米大統領(ロイター=共同) 核実験は見送られたが、これでは金委員長の軍へのメンツは丸つぶれだ。4月15日の金日成主席の生誕105周年と、25日の朝鮮人民軍85周年の記念すべき日の前に、核実験もミサイル実験もできず、「トランプと習近平に脅された弱気の指導者」とみられてしまう。指導者に対する軍の信頼が揺らぎ、威信が傷ついた。 だからこそ、軍は指導者に新型ミサイルの実験を求めた。ミサイル発射は4度も失敗していた。北朝鮮では、担当者同士が横の連絡を取るのは禁止だ。軍は、米中首脳会談の内容や韓国大統領の対話策はもとより、米朝接触などの日程を知らされていないため、外交当局の弱腰に反発し妨害する。この平壌のポリティクス(政治)がわからないと、北朝鮮の行動は理解できない。 トランプ氏の「金委員長弱気作戦」の始まりは、2月の日米首脳会談であった。安倍晋三首相は、トランプ氏に北朝鮮がいかに小さな国であるかを説明した。北朝鮮は世界最低の「石油最貧国」で、年間の石油輸入量はわずか50万トンだ。安倍首相は、石油供給を止めれば軍隊は崩壊すると述べ、「対北石油禁輸」戦略に中国を巻き込む必要を強調した。トランプ氏は米中首脳会談で習氏に「対北石油禁輸」を求めた。 信じられないだろうが、北朝鮮の国家予算は公式レートで計算するとわずか80億円、韓国銀行の推計でも約8000億円しかない。消え去るのは国家か威信か…正恩氏のジレンマ 安倍首相は、北朝鮮に言及する際には「軍事オプションを排除しない」との立場を表明するのが効果的だ、とトランプ氏に説いた。トランプ氏をはじめ、米政府高官が「全てのオプションはテーブルの上にある」と述べるのは、安倍首相のアドバイスのおかげだ。 4月の米中首脳会談の前後に、トランプ氏は2度も安倍首相に電話し、中国への「対北石油禁輸」要請を確認した。米中首脳会談の晩さん会の最中、トランプ氏はシリアへのミサイル攻撃を行った。この作戦が平壌を震え上がらせた。 さらに安倍首相は4月27日にモスクワでプーチン露大統領と会談し、拉致問題と北朝鮮問題も話し合った。首相は、プーチン氏にトランプ氏との電話会談を説得して実現させ、日米中露の「北朝鮮包囲網」を作り上げた。 その後、トランプ氏は「北朝鮮は国家の安全保障に差し迫った課題で、外交上の最優先課題」と繰り返しながら、4月27日には「戦争になる可能性はある」と過激な表現を使った。北朝鮮も「破局的結果も覚悟すべき」「先制核攻撃」などの「言葉の戦争」を展開したが、トランプ氏にはかなわない。 北朝鮮の「過激な言葉」を分析なしに報じると、その「弱気」を読み違える。北朝鮮は「敵が挑発するなら」や「中国が制裁強化すれば」などの「留保表現」を忘れない。「米国に限定攻撃させたくない」との思いが痛いほど伝わる。5月14日、ソウル駅のテレビ画面で流れた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の資料映像(AP=共同) 日本や米国、韓国では、米国が「核施設限定攻撃」をしたら北朝鮮の報復攻撃でソウルは壊滅的な打撃を受ける、だから米国は限定攻撃できないと言う。この分析は日米韓側の事情だけの判断で、戦略的分析とはいえない。北朝鮮側の「弱点」を計算に入れていないからだ。 北朝鮮は、核施設などを限定攻撃されても報復反撃はできないだろう。反撃して、全面戦争にはしたくない。全面戦争を継続できる石油がないからだ。 戦争なら北朝鮮は消滅する。だが、報復攻撃しなければ、指導者の権威と威信は失われる。金委員長のジレンマは深い。米国の限定攻撃に反撃しなければ、国内で「弱気」を批判される。米国の脅しに恐れをなしたと噂されれば、指導者の正当性と権威は失われる。 軍部は金委員長に「核実験継続」を迫る。「米国ごときは怖くない」との姿勢を示すためにも、核実験せざるを得ない。核兵器をミサイルへの搭載が可能になるほど小型化するには、なお実験が必要だ。必ず核実験をするだろう。そうなると中国は、石油禁輸に踏み切らざるを得なくなる。 それでも核とミサイルの実験が止まらなければ、トランプ大統領は「独自の対応」に踏み切ると明言する。北朝鮮は、核兵器の小型化と大陸間弾道ミサイル(ICBM)完成について、「最終段階」と明言する。この言葉には、完成すれば米朝交渉をするとの「戦略」が込められている。「もう少しで終わるから…。軍には逆らえないから…」理解してほしい、との指導者の弱気がにじむ。

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    金正恩がひた隠しにする「朝鮮人民軍」の致命的弱点

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト) 4月8日、米太平洋軍のハリス司令官は空母カール・ビンソンの北上を命じた。こうした命令が公開される事自体が極めて異例なことで、米国が北朝鮮に圧力を掛けるための作戦である。 1週間以内に北朝鮮近海に到達することは、ほぼ確実と見られていたが、まさに1週間後の15日、カール・ビンソンがインドネシアのスンダ海峡を通過したと公表された。北上せよとの命令が公表されていたにもかかわらず、この空母は逆に南下し1週間、南シナ海に留まっていた。なぜ直ちに北上しなかったのか? その疑問は4日後に解けた。 19日、米国のペンス副大統領は横須賀に停泊している米空母ロナルド・レーガンの艦上で演説し、北朝鮮を牽制した後、「空母レーガンの復帰は間近だ」と演説を締めくくった。レーガンは昨年11月に横須賀で定期修理に入っていた。期間は約半年とされていたから4月中に定期修理を終え実任務に復帰するわけだが、カール・ビンソンが南シナ海で待っていたのは他でもない、この空母レーガンの復帰だったのだ。米空母「ロナルド・レーガン」艦上でスピーチするペンス米副大統領 =4月19日、横須賀基地(古厩正樹撮影) 先のiRONNAへの寄稿「大都市を一夜で壊滅できる『世界最強』米空母カール・ビンソンの実力」で米空母の凄さを解説したが、基本的に米国の正規空母は、爆薬約2000トンと戦闘攻撃機「FA18ホーネット」50機前後を搭載している。そして戦闘攻撃機を3分に1機の時間間隔で発着艦させられる。 1機が2トンの爆弾を搭載するとすれば、60時間、敵地の爆撃を間断なく継続できる計算になろう。空母が2隻あれば、交代して爆撃を継続でき、日本で爆弾と燃料の補給を受けられるから、半永久的に爆撃を継続できるわけである。 第2次大戦において日本の都市の多くは米軍による空襲を受けた。民間の被害は甚大であったが、実は軍事活動は壊滅していなかった。空襲警報により、防空壕に避難し、空襲が去った後、軍事活動は再開されたからである。 中東におけるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に対する空爆も同様であり、空爆の間は避難し、その後活動を再開するため、IS軍を空爆だけで壊滅するのは難しいのが実情だ。だが、同時に上記2例はいずれも、空爆の間、軍事活動が一時停止することを示していよう。となれば空爆が間断なく続いた場合、軍事活動は半永久的に停止せざるを得ないわけだ。空母2隻体制で爆撃された場合、北朝鮮は反撃の機会すら与えられず、ただひたすら防空壕の中で空爆に耐えているしかないのである。 北朝鮮の金正恩委員長は今年の新年の辞で「ICBM(大陸間弾道ミサイル)試射の最終段階にある」旨を述べた。また1月8日には北朝鮮外交部の声明で、ICBMは「最高首脳部が決心する任意の時刻に任意の場所から発射されるだろう」と述べたが、現時点まで発射された形跡がない。 北朝鮮は2012年に人工衛星の打ち上げに成功しており、ICBMの基本的な技術は持っているはずだが、まだ実験すらしていない。つまり米国に届く長距離ミサイルが実戦配備されるには、今後数年を要すると見られる。北朝鮮の潜水艦は全くの無力 米軍基地のあるグアム島を射程に入れた中距離弾道弾ムスダンは実戦配備されていると見られるが、昨年10月に試射され失敗に終わっている。ムスダンは中国製と見られることから、発射に際しては中国の許可が必要となるはずである。 つまり、安全装置を解除するためには暗証番号を入力する必要があり、その番号はその都度、中国に聞かなければならない。正しい番号が入力されずに発射されれば、発射は失敗に終わる仕組みである。 これは4月16日、29日に発射された弾道弾も同様であり、いずれも中国の許可を得ずに発射を強行して失敗に終わったと見られる。 もちろん、北朝鮮製の弾道弾もあるにはある。例えば3月6日に4発発射され秋田沖に着弾した「スカッドER」は北朝鮮製である。また日本を射程に入れる「ノドン」も北朝鮮製であり、発射に中国の許可を必要としない。5月14日に発射した中距離弾道弾「火星12号」も同様である。 しかし、これらのミサイルは旧式の液体燃料型であり、発射に際してはその都度、数時間かけて燃料注入をしなければならない。つまり発射の予兆を探知されやすく、米軍による攻撃の格好のターゲットになろう。また、壊滅しそこなったとしても日米韓の分厚いミサイル防衛システムに阻まれることは必定である。 そして懸念が広がっている核爆弾の開発状況については、昨年9月に5回目の核実験に成功し、4月以降、6回目の実験を実施するのは確実と見られている。だが、弾道弾に搭載できるように小型化、軽量化するには、まだ数年を要するであろう。ミサイルの発射実験に立ち会う金正恩氏(中央)の写真=(共同) また、北朝鮮の海軍は排水量1700トンのロメオ級潜水艦を20隻程度保有しているが、これは旧ソ連製であり実力としては第2次世界大戦当時の標準的能力しか有していない。現在3500トン級の戦略潜水艦を建造中であるが、まだ完成には程遠い。日米の対潜水艦能力は世界最高水準にあり、これに対して北朝鮮の潜水艦は全く無力であろう。 戦闘機については、北朝鮮はロシア製のミグ23、29を合わせて数十機保有している。しかし、ミグ23は第3世代型の旧式機であり第4世代型のFA18や我が国のF15に太刀打ちできる代物ではない。 ミグ29は第4世代型であるが、パイロットの年間飛行時間が20時間程度と日米の150時間以上と比べて極端に少なく、格闘戦は不可能だ。しかも山口県の岩国の米軍基地には第5世代型のF35が配備されており、ミグ29を一瞬にして壊滅できる実力を誇っている。 北朝鮮の陸軍はT72やT62といった旧ソ連製戦車を多数保有しているが、やはり世代的に古く米国のM1戦車の敵ではない。自走砲として注目されているのが300ミリ多連装ロケット砲だが、制空権を維持できない状態では戦車同様、米軍の戦闘攻撃機の餌食になるしかないであろう。 北朝鮮の特殊部隊は10~20万人いるとされ、北朝鮮軍の中では唯一危惧されるべき存在であるが、これを管理している国家保衛省の上級幹部が最近多数解任されており、有事に際してどれほど動けるのかは不明である。

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    北朝鮮の暴発を恐れたトランプの真意

    海野素央 (明治大学教授、心理学博士) 今回のテーマは「米朝危機、窮鼠猫を噛むか」です。ドナルド・トランプ米大統領は米通信社ブルームバーグとのインタビューの中で、すべての選択肢の中に米朝会談が含まれていることを示唆しました。「適切な条件下であれば」と加えながらも、なぜこのタイミングでトランプ大統領は会談の可能性に言及したのでしょうか。会談を持ち出した意図はどこにあるのでしょうか。本稿では、同大統領の北朝鮮問題における言動の変化の理由について考えてみます。 トランプ大統領の北朝鮮に対する言動に変化が起きました。原子力空母「カール・ビンソン」を中心とした空母打撃群及び原子力潜水艦「ミシガン」の派遣により「力」を見せつけ、軍事行使の可能性をちらつかせてきた同大統領ですが、突然キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長に感情移入をしたのです。「父親が亡くなって政権を引き継いだ時、26か27歳だった。特に将軍といったとてもタフな相手とやりとりしている。すごく若くして権力を継承できた。大勢の人々が権力を取り上げようとしたはずだ」と言うのです。その上で、キム委員長を「賢い人物」と評し、「適切な状況下で会うことは光栄だ」と持ち上げたのです。 一言で言えば、米朝危機においてトランプ大統領は「窮鼠猫を噛む」状況を回避しようとしています。追い詰められて逃げ場を失った北朝鮮が、必死に逆襲するという最悪のシナリオを避けるメッセージを送ったわけです。英語では「追い詰められたシカは危険な敵になる(A stag at bay is a dangerous foe.)」と言いますが、ネズミであれシカであれ北朝鮮が反撃すれば韓国及び日本に甚大な被害をもたらすことは明白です。 前回の記事「トランプループの罠にはまった習近平」で説明しましたように、トランプ大統領はループの罠をキム委員長にも仕掛けています。今回のトランプ大統領の発言には、「意表」を突いた言動をとり軍事的圧力をかけて「イライラ」させる段階から、同委員長をなだめすかして一旦「安心」させる段階に移行する意図があることが読み取れます。 周知の通り、過去に現職の米大統領と朝鮮労働党委員長による首脳会談は開催されていません。歴史的なレガシー(政治的功績)を残す欲求が強くしかも予測不可能なトランプ大統領が、今後米朝会談をもちかける可能性がまったくないとは言い切れません。 環太平洋経済連携協定(TPP)離脱に見ることができるように、トランプ大統領は多国間よりも2国間による交渉を好む傾向があるからです。中国主導の従来型の6カ国協議よりも、米朝による2カ国で核・ミサイル開発放棄の意思表明とキム体制保証の取引を直接行うという選択肢を選ぶ可能性は否定できません。 しかも、トランプ大統領にはエジプトのシシ大統領、トルコのエルドアン大統領及びフィリピンのドゥテルテ大統領といった人権軽視の専制主義的リーダーに好感を抱く傾向があるからです。キム委員長にはこれらの政治指導者と類似点が存在します。仲介役として重要な日本 ただ、ワシントンで下院外交委員会に所属するメンバーにインタビューを行うと、次のように語っていました。 「トランプがキム・ジョンウンと会談を行う可能性はかなり低いです。彼(キム氏)の名声を高めてしまうからです。トランプはそのようなことはしません。会談は最後のカードです」 トランプ政権は上下両院議員を集めて対北朝鮮政策について説明を行っています。この下院議員は軍事行動の可能性について以下のように述べました。 「私はトランプ政権が軍事行動をとる方向に徐々に近づいているという印象を持っています」 同議員の外交・安全保障問題担当のスタッフは、トランプ政権がオバマ政権の「戦略的忍耐は終わった」と繰り返し主張している点に関して、次のように指摘していました。 「トランプ政権の北朝鮮に対するアプローチは、対話と経済制裁を柱とする戦略的忍耐と中味は同じです。トランプ政権は自分たちの北朝鮮に対する政策を戦略的忍耐と呼びたくないのです」 日本は米国と中国の狭間でどのような役割を果たして存在感を示すことができるのでしょうか。2003年8月第1回目の6カ国協議が開催されて以来、日本は中国に主導権を奪われてきました。6カ国協議が停滞している間に、北朝鮮は核・ミサイルの技術を進歩させたというのが一般的な見方です。しかもトランプ政権が中国の北朝鮮に対する影響力に依存しているので、南シナ海における軍事拠点化の問題解決の糸口は一向に見つからないのです。 米議会の動きにも注目です。上院軍事委員会のリンゼー・グラム議員(共和党・サウスカロライナ州)は東アジアに甚大な被害が出ても、米国本土を守るために北朝鮮に対する先制攻撃を行う必要性を主張しました。上で紹介した下院議員は、インタビューの中でグラム上院議員のこの発言を「無謀だ」と非難しましたが、米国本土優先論が米議会及び世論で支配的になることは日本にとって決して好ましいことではありません。 中国がイニシアチブをとる6カ国協議の早期再開ではなく、米朝2国間によるトランプ・キム会談の実現に向けて平和的解決を目指す日本が仲介役となり、両国に働きかけることが極めて重要です。

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    米中戦争、トランプならやりかねない

    北朝鮮攻撃が現実味を増す中、トランプ就任後初の米中首脳会談が実現した。対北緊密協力で「米中蜜月」をアピールするも、トランプの中国認識は強硬論一色である。南シナ海や経済摩擦などをめぐり、急速に冷え込む米中関係は今後どうなっていくのか。トランプ政権の思惑と習近平に迫る危機を読み解く。

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    次の狙いは北朝鮮との秘密交渉か、トランプ流外交で糸口探る

    佐々木伸 (星槎大学客員教授) 米空母艦隊の展開など北朝鮮情勢の緊張が続く中、トランプ大統領は軍事行動も辞さないという強硬姿勢を見せる一方で、金正恩朝鮮労働党委員長との対話の可能性を示唆するなど相手を翻弄する”トランプ流外交術”をいかんなく発揮している。硬軟取り混ぜたこうした発言は一部に、トランプ氏が北朝鮮に秘密交渉を仕掛ける布石ではないかとの観測を呼んでいる。 トランプ氏の北朝鮮に関する発言は6回目の核実験の動きが浮上したころから急増した。4月24日には国連安保理メンバーの国連大使らをホワイトハウスに招いて北朝鮮に強力な追加制裁を科すよう求めたと思うと、核施設などへの先制攻撃についても「そのうち分かる」と軍事力行使を否定しなかった。トランプ大統領=4月20日、ホワイトハウス(ロイター) さらに同氏は月末になって北朝鮮と「大きな紛争」が起きる事態もありうると警告し、「外交的な解決を望むが、非常に難しい」と発言。ホワイトハウスの側近らもあらゆる選択肢を検討中と述べるなど軍事的緊張の激化に拍車が掛かった。最近の弾道ミサイル発射実験に関しても「中国の望みをないがいしろにした」と金委員長への批判を強めた。 しかしトランプ氏はその後のブルームバーグ・ニュースとのインタビューで「適切な状況の下で金委員長と会えれば光栄に思う」と条件付きながら金氏との直接会談の可能性に言及。直前のCBSテレビでも「彼は相当頭の切れるヤツだ。非常に若いのに権力を掌握することができたからだ」などと金委員長を持ち上げて見せた。 だが、この発言の直後のFOXニュースとのインタビューでは「彼は扇動的で恐ろしい。世界の脅威だ」と非難し、上げたり下げたりの発言を繰り返した。トランプ氏のこうした発言の真意は不明だが、北朝鮮側がこのメッセージの解釈をめぐって困惑しているのは間違いない。 トランプ氏は元々、金委員長との直接会談を排除していない。選挙期間中から「話すことのどこが悪いのか。何の問題もない。ハンバーガーでも食いながら話せば良い」などと述べており、会談自体については一貫性がないわけではない。 トランプ・ウオッチャーの1人は大統領の一連の発言について「硬軟のタマを投げて、追い詰められている北朝鮮を困惑、混乱させることが目的。北にとって見れば、シリアを攻撃したように何をやるか分からない“予見不能”な人物の発言だけに余計不気味だ」と指摘する。トランプの狙いは「秘密交渉」 トランプ氏の次の狙いはズバリ、北朝鮮との秘密交渉だろう。軍事的な手段は勇ましいだけで、危険が大きすぎる。仮に米側が巡航ミサイルや空爆などで先制攻撃をしたとしても、核関連施設や弾道ミサイル発射基地、指揮管制センターなどすべての施設を破壊するのは不可能。ましてや地下深くにある施設が多い。金委員長個人の“除去”もうまくいく保証はない。不確定要素だらけなのだ。 その結果、報復能力が相当残り、ソウルは無論のこと、それこそ北朝鮮が恫喝するように東京が火の海になりかねない。報復攻撃を招かなくても、限定的な先制攻撃は核開発を数年遅らせる効果しかあるまい。この点は国防総省が冷徹に分析しており、トランプ氏も日韓の同盟国の意向を無視して軍事行動には踏み切れないだろう。 だからこそ、トランプ氏はあれほど非難をしてきた中国におべっかまで使い、北朝鮮へ圧力を掛けさせようと、いわば“下請け”に出さざるを得なかった。しかし中国がうまく北朝鮮を抑えられるのか見通しが付かないうえ、対中貿易交渉で中国側に主導権を握られる恐れが強く、その代償は大きいと言わざるを得ない。トランプ米大統領が主催した夕食会に出席した中国の習近平国家主席夫妻=米フロリダ州パームビーチ、4月6日(ロイター) トランプ政権の当面の北朝鮮政策は軍事、経済両面で、北朝鮮に対し圧倒的に圧力を掛け、金委員長を交渉のテーブルに就かせ、核兵器開発を放棄させることにある。しかしその前に、交渉入りに向けた環境を整えることが不可欠。そのためには、水面下での秘密交渉が絶対に必要なのだ。 トランプ氏は少人数の側近による手法を好む。秘密交渉はそのアプローチにも合致する。トランプ氏の外交問題の師でもあるキッシンジャー元国務長官がニクソン政権の補佐官(国家安全保障担当)にあった時、電撃的な中国との国交樹立に秘密交渉を仕掛けたのは歴史的な事実だ。 またトランプ氏が尊敬するレーガン元大統領が敵対するイランに当時のマクファーレン補佐官(同)を派遣し、レバノンで拘束されていた米国人人質を解放するために秘密交渉を行ったということもあった。この工作では、マクファーレン補佐官がイラン側に拘束され、国外追放されるというおまけまでついた。 こうした例に学び、中国の北朝鮮に対する緩慢な圧力に業を煮やしたトランプ氏が側近に北との秘密交渉を容認することは十分考えられる。行われるとすれば、恐らくは欧州のどこかになるだろう。その時、日本政府に通告があるのかどうか。米中国交樹立の“ニクソン・ショック”では、日本側に通告されたのは、正式発表の3分前だった。

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    トランプが日本の「戦後」に終止符を打つ

    潮匡人(評論家) これで、ようやく「戦後」が終わる。そう感じさせたアメリカ合衆国大統領選挙であった。それにしてもマスコミ報道は酷い。2015年からトランプを「暴言王」の「泡沫(候補)」と扱い続け、開票当日までクリントンと決め打ちした。 結果が出ると、自らの不明を恥じることもなく、「驚くべき番狂わせ」「土壇場の大逆転」などと報じた。なんのことはない。マスコミの勝手な思い込みではないか。象徴的な一例を挙げよう。2016年11月13日放送の「サンデーモーニング」(TBS系)で岸井成格コメンテーターがこう語った。「トランプにだけはなってもらいたくないという、いい意味での良識が、思い込みが強くて、『隠れトランプ』を見逃したというところが大きかった」 右の「良識」は「常識」とも聞こえたが、どちらにしても、おかしい。日本語としても、コメントとしても……。 しかも右は、米メディアへの批判ないし分析だった。自己批判の脈絡ではなかった。いまなお彼らは〝失敗の本質〞に気づいていない。報道機関たるべき放送局が言論機関に成り果て、真実でも、事実ですらない独善を、自分たちの勝手な思い込みや主義主張を垂れ流してきたことに……。トランプ氏を支持する人々=3月4日、米フロリダ州(ゲッティ=共同) 彼らだけではない。各局みな、自分たちの不明を棚に上げ、いまもアメリカ大統領への揶揄誹謗を続けている。 ちなみに「誰もが予想外だった」(NHK)わけではない。投開票を目前にした2016年11月8日発売の『夕刊フジ』一面は「隠れ支持者500万人」の見出しを大書していた。 当該記事でコメントしたのは私。2015年から「トランプ」と言い続けてきた実績から起用されたのであろう。 だが、多くのメディアは耳を貸さなかった。私を侮蔑嘲笑した「識者」も多い。みな口を拭い、連日のように地上波各局でトランプ政権を語っている。当選の可能性はおろか、「トランプ旋風が吹く」との予測すらできなかった「識者」を、なぜかメディアは起用し続ける。『そして誰もマスコミを信じなくなった』――前著のタイトルは、米大統領選を巡る日米のマスコミ報道に見事なまでに当てはまろう。 余談ながら、土方細秩子(ジャーナリスト)によると、インドで開発されたAI(人工知能)の「MogIA」が、トランプ当選を予測していたらしい。過去にインドでの選挙や米大統領選挙の結果も正しく予測したという(『ハフィントンポスト』)。 デジタル時代の予測や分析は、AIの十八番でもあろう。そして誰もがAIを信じるようになった――。笑い話ではない。仮想現実の世界でもない。これは、いまリアルな世界で起きている現実だ。日米同盟は「正しくない」 以上のマスコミ批判は一部、日本政府にも当てはまる。平成28年(2016年)11月10日付『産経新聞』朝刊一面コラム「トランプ大統領で、いいじゃないか」(乾正人・東京本社編集局長)を借りよう。《日本の外務省はまたも下手を打った。先月から今月にかけて話を聞いた高官や有力OBの誰一人として「トランプ大統領」を予測していなかった。某高官などは「接戦ですらない」とまで断言していた。外務省の楽観的な見通しも後押ししたであろう9月の安倍晋三首相とクリントン候補との会談は、失策としか言いようがない》『産経』コラムは、こうも説く。《トランプ流の「在日米軍の駐留経費を全部出せ」といったむき出しの本音には、日本も本音で向き合えばいいのである。/大統領になったらそんなむちゃな要求はしないだろう、という幻想は捨てなければならない。いよいよ米軍が撤退する、となれば、自衛隊の装備を大増強すればいい。その際は自前の空母保有も選択肢となり、内需拡大も期待できる。沖縄の基地問題だって解決に向かうかもしれない》「トランプにだけはなってもらいたくない」と思い込むTVコメンテーターと「トランプ大統領で、いいじゃないか」と構える新聞人。いずれが本物のジャーナリストなのか。すでに結果は出ている。自称「良識」派らが振りまく「幻想は捨てねばならない」。 佐藤伸行著『ドナルド・トランプ 戯画化するアメリカと世界の悪夢』(文春新書)も、こう警鐘を鳴らす。《トランプにとっては、今も昔も安全保障は「ビジネスの種」なのである。日本に米軍駐留経費を払わせることは、「政治家トランプ」の数少ない政策の中で珍しく一貫している。/万が一、トランプが大統領になった場合、翻意を促すことは至難であろう》 私もそう思う。トランプは政治家ではなく経営者(ビジネスマン)である。だから日米同盟を、「普遍的な価値の共有」(日本政府)ではなく、あたかも貸借対照表(バランスシート)を眺めるように考える。正邪善悪ではなく、利害得失で判断する。だから「フェアでない」(不公平)と非難してきた。 英語の「フェア(fair)」は「公平」とも「公正」とも訳せる。定評ある『リーダーズ英和辞典』(研究社)は「正しい」の訳語を最初に載せている。トランプのいう「フェア(公平)でない」は、「公正でない」「正しくない」「不正」「不当」とも訳し得る。トランプ自身の含意はどうあれ、米国民は後者の意識を共有するかもしれない。それは日本の安全保障にとって重大なリスクとなる。私はそう警鐘を鳴らしてきた。 念のために言えば、日米同盟が米国にとって「フェアでない」のは、日本が集団的自衛権を行使しないからである。正確に言えば、平和安全法制の下でも「存立危機事態」でしか(限定)行使しないからである。にもかかわらず、日本のマスコミはNHK以下「集団的自衛権の行使を可能とする安保法制」と報じ、トランプに「暴言王」のレッテルを貼ってきた。いまなお自分たちが何を間違ったのか、気づいていない。日本もリスクとコストの負担を マスコミが報じるとおり「日米関係に最も影響を与えそうなのが在日米軍の駐留経費問題」なら(2016年11月10日付『朝日新聞』朝刊)――もし単にそれだけの話なら――、日本が全額負担すればいい。たしかに「日本の米軍駐留経費の負担率は74.5%で、ドイツの32.6%、韓国の4.0%と比べてもかなり高い」(同前)。北朝鮮によるミサイルを発射を受けて、記者発表に臨む安倍晋三首相(左)とトランプ米大統領=2月11日、米フロリダ州パームビーチの「マールアラーゴ」(代表撮影) だが、そう政府やマスコミが合唱するとき、日本と違い、ドイツや韓国が集団的自衛権を行使でき、実際に武力行使を伴う集団安全保障措置にも参加してきた事実を忘れている。他方、日本は「小切手外交」「卑怯な商人国家」と揶揄批判されてきた。 あえて自虐的に言えば、全額負担の残りは25.5%。その程度のカネで解決できるなら、日米同盟の見通しは明るい。今後も「小切手外交」と言われ続けることを甘受するなら……。 しかしトランプ候補が、アメリカの同盟国に求めてきたのは「応分の負担」である。防衛費の対GDP比で言えば2%以上。ならば現状の倍額となる。悲しいかな、そうした危機感が政府にもマスコミにも乏しい。 増大する防衛費を何に使うべきか。駐留経費増に充てるのはもったいない。間違いなくトランプ政権は国際秩序への関与を低下させていく。結果、日本周辺にも「力の空白」が生まれ、抑止力は低下する。そのとき何が起きるか。『カエルの楽園』(百田尚樹著、新潮社)が現実になり、日本は地獄と化す。 自衛隊は「矛」を持たず、高価な「盾」ばかり保有している。いまこそ「打撃力」(攻撃力)の保有に踏み出すべきだ。「空母保有の選択肢」(前出『産経』)も真剣に検討すべきである。かねて私が訴えてきた「日本版海兵隊の創設」も決断すべきときではないだろうか。 これまで日米同盟は「矛」の役割を、すなわち「打撃力の使用」を、すべて米軍に担わせてきた。そのリスクとコストを押しつけてきたと言ってもよい。とうてい「正しい」同盟とは言えない。 トランプ政権に求められて駐留費を払い、防衛費を増やすなら、「属国」との誹りを免れない。わが国が本来やるべきだった「正しい」政策を実現実行する。そのとき初めてフェア」な日米関係が生まれ、日本の「戦後」が終わる。  これまで「戦後」と呼べたのは、あれから戦争が起きなかったからでもある。「戦後の終わり」は、新たな戦争の到来ともなり得る。われわれは、そうした覚悟で今回の結果を受け止め、将来を見据えねばならない。関連記事■ 北朝鮮の暴走は第二次朝鮮戦争の前触れだ■ 放送法論争、国民は怒っている■ トランプが大統領になっても日本は日本だ

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    「反トランプ」のプロパガンダ? ハリウッド映画に隠されたメッセージ

    てきた。これからは、さらに多くが語られる。そこで本稿では、トランプとハリウッド、映画という観点から、アメリカの政治と社会の変化、日米関係の今後について検討してみたい。民主主義と映画は、年の離れた兄弟だからである。どちらもイメージを操作し、大衆の支持を必要とし、ストーリーがなくてはならない。映画ほどアメリカ的な文化形態はない。 アメリカ政治と映画といえば、まず想起されるのがロナルド・レーガン大統領であろう。ハリウッドからホワイトハウスに至った、いまのところ唯一の「銀幕の大統領」である。トランプとレーガンの類似性を語る声も少なくない。 2人とも、その政治手腕を疑問視され、強い批判や嫌悪にさらされながら、メディアを巧みに活用してきた。そもそも、「アメリカを再び偉大にしよう」という、選挙戦でのトランプのキャッチフレーズは、1980年の大統領選挙でのレーガンのそれを借用したものである。ロナルド・レーガン元米大統領(AP) さらにいえば、レーガンは史上初の離婚歴のある大統領だったが、トランプはその記録を更新した(レーガンの離婚歴は1回、トランプはいまのところ2回)。また、レーガンが就任時に69歳と史上最高齢の大統領だったが、ここでもトランプは70歳と記録を更新した。また、2人とも共和党の大統領だが、かつて民主党員だったことがある(トランプは政党所属をたびたび変更してきた)。 もちろん、比較を通じて、何事にも共通点と相違点が指摘できる。要は重点の置き方である。だが、筆者は2人のあいだにより大きな相違点を感じている。 まず、たしかにレーガンは政治家として過小評価されてきたが、大統領就任に先立って1967~75年にカリフォルニア州知事を2期8年務めている。当時、すでにカリフォルニアは全米最大の1900万人の人口を擁し、もし独立国なら経済規模では世界6位に位置していた。つまり、イタリアやスペインの経済規模を凌ぐのである。同じ州知事経験者でも、ジョージア州知事を一期務めただけのジミー・カーターとは違った。もちろん、いっさい行政経験をもたないトランプとも大違いである。 また、レーガンは共産主義や「大きな政府」といった抽象概念を攻撃したし、政敵カーターの政策を厳しく批判した。だが、彼が特定の個人を攻撃することはほとんどなかった。「おまえはクビだ!」とは、テレビのリアリティ番組(事前に台本や演出のない、素人が登場する番組)でのトランプの決め科白だが、レーガンは滅多に激昂することはなく、閣僚をはじめとする部下を解任することにも至って消極的だった。人びとの憎しみを煽る政治スタイルでは、同じ共和党でもトランプはレーガンよりもリチャード・ニクソンにはるかに似ている。 さらに、レーガンを当選に導いたのは、カリフォルニアをはじめとするサンベルトであった。軍需産業やエンターテインメント産業、ハイテク企業で、この地域は活況を呈していた。マサチューセッツからイリノイにかけてのラストベルト(錆び付いた工業地帯)から、人口も経済もサンベルトに移行していた。他方、トランプを勝利に誘ったのは、このラストベルトで取り残された白人労働者層の焦りと怒りであった。 レーガンは保守的なイデオローグと思われたが、大統領に当選すると、実務型のジェームズ・ベーカーを大統領首席補佐官に据えた。そのため、レーガンのホワイトハウスでは、実務派とイデオロギー派の「内戦」が続いた。前者が主導権を握れたのは、ナンシー・レーガン夫人の尽力によるところが大きい。彼女はイデオロギーではなく、夫の成功にしか関心がなかったからである。 トランプも、共和党主流派からラインス・プリーバスを首席補佐官に起用している。だが同時に、保守派のスティーブン・バノンが上級顧問に迎えられている。トランプのホワイトハウスには、はたしてナンシーのような存在がいるであろうか。政治に「介入」するハリウッド ただ、本稿の関心からすると、レーガンとトランプには顕著な共通点がある。それは、ハリウッドの主流派を敵に回している点である。レーガンの大統領選挙では、フランク・シナトラやディーン・マーティン、ボブ・ドール、チャールトン・ヘストン、そして、ジェームズ・スチュアートら錚々たるセレブたちが応援に駆けつけた。 だが、ハリウッドの主流派、とくに若手たちははるかにリベラルであり、かつて「赤狩り」に協力したレーガンを嫌っていた。だからこそ、彼の元に馳せ参じたセレブたちは皆、旧世代に属する大物たちだったのである。レーガンの政敵たちは彼を「元俳優」と揶揄したが、この「元俳優」に最も冷淡な産業界は、ほかならぬハリウッドであった。 トランプは不動産で財を成し、テレビで知名度を上げたが、映画とも縁が深い。たとえば、ロバート・ゼメキス監督『バック・トゥ・ザ・フューチャー PARTⅡ』(1989年)で、タイムスリップのために歴史が歪み、荒廃した街を、ビフ・タネンという強欲な大富豪が支配している。これはトランプがモデルである。さらに、この映画では、ビフの支援を受けて、リチャード・ニクソンが1985年にも5期目の大統領を務めている。ベトナム戦争も続いている。80年代のトランプやニクソンへの否定的なイメージがうかがえよう。クリス・コロンバス監督『ホーム・アローン2』(1992年)に、トランプがカメオ出演していることも、いまではよく知られている。こちらはニューヨークの経済的成功のアイコンであろう。 2016年の大統領選挙でも、トランプを支持するハリウッドのセレブはいた。たとえば、ジョン・ヴォイトやスティーブン・ボールドウィンがそうである。だが、より多くの、そして、より著名なハリウッド・セレブたちは、トランプに批判的であり続けた。ウォルフガング・ペーターゼン監督『エアフォース・ワン』(1997年)に登場する大統領を好きだと、トランプが語ると、主演したハリソン・フォードは「彼が大統領(プレジデント)? 見習い(レジデント)かと思った」と皮肉った。ハリソン・フォードさん(AP) バラク・オバマを支持してきたリベラル派のジョージ・クルーニーも、トランプを「外国人嫌いのファシスト」と痛罵した。ロバート・デニーロに至っては、「あいつの顔を殴ってやりたい」とすら公言した。トランプの大統領当選後も、ゴールデングローブ賞の授賞式で、メリル・ストリープが彼を暗に批判し、トランプは得意のツイッターで「ハリウッドで最も過大評価されている一人」と、彼女に反撃した。 ハリウッドが政治に「介入」しようとするのは、いまに始まったことではない。古くは、多くの映画人がフランクリン・ローズヴェルト大統領に期待し、ローズヴェルトを美化する映画を製作した。また、1964年には、スタンリー・キューブリック監督『博士の異常な愛情』とシドニー・ルメット監督『未知への飛行』が、共に偶発核戦争の危険を描いている。共和党の大統領候補だったバリー・ゴールドウォーターが、米ソ核戦争も辞さないほどのタカ派と目されたからである(ちなみに、当時高校生だったヒラリー・クリントンは、熱心にゴールドウォーターを応援していた)。2004年にも、マイケル・ムーアが『華氏911』を監督して、ジョージ・W・ブッシュ大統領の再選を阻止しようとした。「一つのアメリカ」というメッセージ 最近のハリウッド映画からも、反トランプ的なメッセージを容易に読み取れよう。 クエンティン・タランティーノがそうである。彼は2012年の大統領選挙の折にも、『ジャンゴ 繋がれざる者』を手掛けていた。南北戦争の前に、自由黒人が早撃ちの達人になり、ミシシッピーのプランテーション農場で奴隷として酷使されている妻を救いに行く物語である。共和党保守派が議会で多数を占めるなかで、苦悩するオバマ大統領へのエールであろう。 そのタランティーノが、2015年には『ヘイトフル・エイト』を発表した。今度は、南北戦争後のワイオミングの山中が舞台である。ここで黒人の賞金稼ぎや南軍の元将軍、保安官と犯罪者ら、ワケありの8人が疑心暗鬼のなかで一夜を過ごす。やがて、血で血を洗う殺し合いが展開するが、最後には黒人と白人との和解が示唆されている。しかも、黒人の賞金稼ぎは、エイブラハム・リンカーン大統領と文通していたそうで、(真偽のほどは明らかではないが)大統領からの手紙を持ち歩いている。白人のアメリカでも黒人のアメリカでもない「一つのアメリカ」、「イエス、ウィ・キャン!」というオバマのメッセージである。 ウォルト・ディズニーによるリッチ・ムーア監督『ズートピア』(2016年)は、文明化した肉食動物と草食動物の共存する世界を描いている。主人公の少女はウサギ初の警察官になる。しかし、ズートピアにもさまざまな偏見が渦巻いており、主人公はそれに立ち向かう。これも「一つのアメリカ」、多様性の尊重、差別の克服というわかりやすいメッセージを発しており、とくに、向上心旺盛な主人公は、女性初の大統領をめざしたヒラリー・クリントンを連想させよう。 多様性という意味では、性的マイノリティー、それもゲイ以外をテーマにした映画が、数多く登場するようになった。トム・フーパー監督『リリーのすべて』(2015年)は、20世紀初頭に世界で初めて性転換手術(男性から女性)を受けて亡くなったリリー・エルベの物語である。若手の実力派エディ・レッドメインが主役を力演している。 トッド・ヘインズ監督『キャロル』(同)は、1950年代のニューヨークを舞台に、上流階級の人妻キャロルとその若い恋人テレーズの愛憎を描いている。主役のキャロルを、ケイト・ブランシェットがこれも堂々と演じている。冒頭で、レストラン地下の排水溝からカメラの視線が浮上してくる。当時の同性愛者が「クローゼット(押し入れ)」と呼ばれたように、身を潜めていなければならなかった事情を、シンボリックに示していよう。 ジョージ・クルーニー製作・主演『マネーモンスター』(2016年)は、人気のテレビ番組「マネーモンスター」が舞台である。クルーニー演じる司会者は、ある企業の株を使った資金運用方法を紹介した。それを信じた若者は全財産を失い、拳銃を持ってスタジオに乗り込み、司会者を人質にとって、無責任な情報操作を糾弾する。じつは、その背後には、件の企業の違法行為が隠されていた。これなどは間違いなく、トランプの体現するマネーゲーム、彼を有名にしたリアリティー番組への痛烈な批判である。 選挙中に、トランプはメキシコとの国境に壁を築くと豪語し、人気を博した。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『ボーダーライン』(2015年、原題はスペイン語で「殺し屋」)は、アリゾナとメキシコの国境線(ボーダーライン)をめぐる凄惨なドラマである。メキシコの麻薬密売組織を撲滅するため、連邦捜査局(FBI)と国防総省が協力して、国境線を越えて麻薬王とその家族までを暗殺する。もちろん、違法行為である。こうなると、ボーダーラインを越えて危険を輸出しているのが誰なのか、わからなくなってくる。トランプ大統領 マイケル・ムーアも、トランプ的なものに一矢を報いている。『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(2015年)である。これをドキュメンタリーと呼べるかどうかは微妙だが、ムーアがヨーロッパ各国を歴訪し、そこでの教育制度や労使関係、女性の社会進出など、アメリカにない優れた制度を「侵略」して持ち帰ろうという話である。ちなみに、ムーアはバーニー・サンダースの熱心な支持者であった。 そして、ローランド・エメリッヒ監督『インディペンデンス・デイ:リサージェンス』(2016年)である。1996年の宇宙人の侵略から20年が経ち、彼らが再びやって来た。しかも、はるかに大規模で。筆者は観る前から予想していたのだが、この映画のなかのアメリカ合衆国大統領はエリザベス・ランフォードという白人女性である。彼女は有能で献身的なのだが、重大な判断ミスを重ね、宇宙人の侵略に対処できない。そして、国防長官らと共にシェルター内で宇宙人に殺害されてしまう。 そこで、20年前の英雄、トーマス・ホイットモア元大統領が再び命懸けで宇宙人に戦いを挑む。女性大統領への期待と不安である。女性大統領の挫折のあとに20年前の大統領が登場するとすれば、ヒラリーを支えるのはビル・クリントンだとも解釈できよう。また、前作で宇宙人のテレパシーを受けたため20年間昏睡状態にあった科学者と、その助手とのあいだの同性愛関係が、今回は明示されている(エメリッヒ監督はゲイで、1969年にニューヨークで起こったゲイの抗議暴動を描いた『ストーンウォール』も手掛けている)。さらに、今回は米軍と全面協力して宇宙人と立ち向かうのは中国なのである。そもそも、アメリカ映画にとって、中国はすでに巨大な市場であり資金源である。 このように、最近の多くのハリウッド映画が、反トランプ的なメッセージを発出している。否、こうした多様性の拡大への反発が、トランプ大統領を誕生させたと見るべきであろう。トランプにとっての「薔薇の蕾」とは 残念ながら、ハリウッド映画は日米関係については多くを語ってくれない。いや、その沈黙こそが雄弁に何かを物語っているのであろう。 そこで、日本の最近の大ヒット作、庵野秀明総監督『シン・ゴジラ』(2016年)について一言しておこう。周知のように、この作品では、天然災害や原子力発電所の事故を象徴するゴジラに対処するに当たって、日本の政治的リーダーシップの欠如や官僚機構の弊害が詳細に描かれている。これまでのゴジラ作品にはない魅力である。「シン・ゴジラ」のワンシーン だが、だからこそいっそう目立つのは、そのあまりにも皮相な日米関係の描写であった。日本の首相はアメリカ大統領に電話で唯々諾々とするばかりで、アメリカ政府は石原さとみ演じる日系の若い女性1人を大統領特使として東京に送り込み、あれこれと指図しようとする。つまり、日本政府の対米追随とアメリカの傲慢、身勝手が、これでもかというほど誇張されている。本多猪四郎監督『ゴジラ』(1954年)が1人のアメリカ人も登場させずに、アメリカによる原子爆弾投下や核実験を無言によって雄弁に批判したのとは、大きな懸隔がある。 トランプ政権下の日米関係がどうなっていくかはまったく予断を許さないが、日本政府の対米従属を嘆き、アメリカの傲慢、身勝手にため息をつくのではなく、われわれは何を求め、何をなすべきかという主体的な問いと取り組みが必要であることは間違いない。 さて、トランプ大統領のお気に入りの映画は、オーソン・ウェルズ監督・主演『市民ケーン』(1941年)だという。さもありなん、と筆者は思う。主人公のチャールズ・ケーンは莫大な遺産を相続し、自己顕示欲の塊となって、自分の経営する新聞を使って世論を誘導することも辞さない。彼は一部の者に熱狂的に崇拝されながら、多くの人びとに独裁者、民衆の敵と唾棄されてきた。そして、巨万の富を投じてフロリダに造った「ザナドゥー」という豪邸で孤独に死んでいく。離婚歴もあり、知事選に出馬した際は、現職の知事に向かって、自分が当選すれば特別検察官を起用して汚職の罪で逮捕してやると威嚇する。何から何までトランプそっくりなのである。 このケーンが死に際に残した謎の言葉が、「薔薇の蕾」であった。新聞記者がこの謎の言葉の意味を明らかにしようと、物語は進む。ついに件の記者は謎を突き止められない。ケーンは愛する母親と一緒に暮らしていた少年時代に、雪橇で遊ぶのが楽しみだった。その雪橇に付いていたマークこそ、「薔薇の蕾」だったのである。 これから少なくとも4年間、アメリカも日本も、そして世界も、トランプにとっての「薔薇の蕾」とは何なのかを探し続けることになる。むらた・こうじ 同志社大学法学部教授。1964年、兵庫県生まれ。同志社大学法学部卒業。98年、神戸大学博士(政治学)。99年、『大統領の挫折』(有斐閣、1998年)でサントリー学芸賞、2000年、『戦後日本外交史』(共著、有斐閣、1999年)で吉田茂賞を受賞。13年4月から16年3月まで同志社大学学長を歴任し、現職。著書に『レーガン』(中公新書、2011年)など。関連記事■ トランプ政権誕生で「戦後」が終わる■ 「暴言王」トランプ氏の英語はなぜ米国人の心を捉えたのか?■ トランプによって消されるオバマ外交と政治

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    トランプ氏孫娘が習主席に中国民謡披露 選曲巡り憶測も

     米中首脳会談が行われた米フロリダ州パームビーチのトランプ米大統領の別荘で、トランプ氏の孫娘、アラベラちゃん(5つ)が中国の習近平国家主席夫妻を前に、中国の民謡を披露したり、漢詩を中国語でそらんじて見せたりした。これについて、ネット上では「『中国の歌姫』と呼ばれた習近平の妻、彭麗媛さんの前で、歌を披露するとはすごい度胸。さすがにトランプの孫だ」などと話題になっている。 また、歌った民謡が「茉莉花(ジャスミン)」だったことは、2010年以降に中東・アフリカで広まった民主化運動「ジャスミン革命」を連想させた。そのため、「中国の民主化を意識した、トランプ大統領らの政治的な意図が隠されていたのでは……」との憶測も出るなど、対北朝鮮問題などで不調に終わったとされる米中首脳会談について、中国のネットユーザーの間では「トランプ陰謀説」がささやかれている。 アラベラちゃんはトランプ氏の娘、イバンカさんの長女で、生後16カ月から中国語を習っている。イバンカさんは今年2月の春節(旧正月)期間中、わざわざアラベラちゃんと一緒に中国大使館を訪問して、崔天凱中国大使や大使館員を前に中国語の歌を披露するなどして「新年」を祝っている。トランプ米大統領の長女、イバンカさんと孫娘のアラベラちゃん(左下) また、今回の首脳会談でも、折角、中国の最高指導者が訪れるとあって、再びアラベラちゃんが登場し、硬い雰囲気を和らげる狙いがあったとみられる。 このため、アラベラちゃんが習夫妻の前で民謡を歌ったほか唐詩を暗唱した様子は中国メディアが好意的に取り上げ、米中首脳の友好ムードに一役買ったとして大きな話題を呼んだ。 ところがネット上では、民謡「茉莉花」は彭麗媛夫人のレパートリーでもあることから、「この選曲は大胆すぎる」との声もが上がっているほか、「ジャスミン革命」が激化した当時、中国共産党が波及を恐れてこの歌の歌唱を規制したともいわれており、「米国の謀略か?」との声も出ている。 習氏が2015年、英国を訪問した際、公式晩餐会で1989年ものの高級ワインが出され、「民主化を求める学生が武力弾圧された1989年の天安門事件を思い起こさせるよう仕組まれた謀略」との声も出た。外交関連で中国が絡んだ場合、さまざまな政治的な憶測が乱れ飛ぶようだ。関連記事■ 中国のネットで「南鳥島も古来より中国領土」との意見出る■ サザエさんは元出版社勤務でタラちゃんは女の子説あり■ 米国製軍用ジープを丸パクリした中国製軍用ジープの写真公開■ 韓国版2ちゃんねる 「中国依存は是か非か」で熱い論争展開■ いま中国人に「アツい」スポットは静岡 “聖地巡礼”もする

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    トランプ大統領は北朝鮮を攻撃するのか?

    小谷哲男(日本国際問題研究所 主任研究員) 北朝鮮情勢が緊迫度を増している。米東部時間の4月13日夜、米NBCニュースが、トランプ政権内が、北朝鮮が6度目の核実験を実施する兆候がみられれば、「先制攻撃」を行う準備をしていると伝えた。朝鮮半島近海に呼び戻されている空母打撃群に加えて、トマホーク対地攻撃巡航ミサイルを搭載した駆逐艦が朝鮮半島近海に配備され、グアムでも戦略爆撃機が待機中という内容だが、ホワイトハウスはこのNBCの報道を否定した。米国の攻撃に対しては徹底抗戦する姿勢 4月11日に開幕した北朝鮮の最高人民会議では、核開発の推進などに関する法整備が議題に上がらず、20年ぶりに外交委員会を設置するなど、外交を強化する姿勢を見せている。他方、北朝鮮は、シリア空爆に関する声明で、自らの核開発による自衛力の強化が「正当」だったことが証明されたとし、米国の攻撃に対しては徹底抗戦する姿勢を維持している。 北朝鮮分析サイト「38ノース」によれば、北朝鮮北東部の豊渓里の核実験場ではすでに実験の準備が整っており、故金日成主席の生誕105周年である4月15日の午前にも実験を行うとの情報もある。4月25日は朝鮮人民軍創建85周年で、今後もミサイル実験など挑発が続くことが予想される。 では、トランプ政権は、本当に北朝鮮に軍事力を行使するのだろうか。まず、トランプ大統領が北朝鮮問題を安全保障上の最優先課題の1つと考えていることは間違いない。オバマ前大統領からの引き継ぎを受けた際、最初の案件が北朝鮮問題で、トランプ大統領はこの時に状況の深刻さに気づいたと言われている。このため、当初情報機関によるブリーフィングを受けることに難色を示していたが、少なくとも北朝鮮情勢については聞く耳を持つようになったらしい。 次に、トランプ政権は発足後に北朝鮮政策の見直しを行い、20年以上にわたる北朝鮮の非核化は「失敗」したと結論づけ、非核化の意思を示さない限り対話に応じないというオバマ政権時代の「戦略的忍耐」も終わったとしている。政策見直しの中で、長距離弾道ミサイルの発射実験をレッドラインとみなしていると一部報道されたが、公式な方針となっているかどうかは不明だ。政権内部からは、軍事的手段はあくまで最後の手段で、まずは中国に本気で北朝鮮を止めさせることが最優先で、そのために早期の米中首脳会談に応じたという声も聞こえる。 他方、米太平洋軍では、北朝鮮攻撃のシミュレーションが繰り返され、その準備が着々と進められているという。その中には、ミサイル等による外科手術的な空爆だけではなく、サイバー攻撃や、特殊部隊による作戦も含まれているようだ。ただ、「斬首」作戦が含まれているかどうかは今のところ確証がない。レッドラインがレッドカーペットに トランプ大統領はツイッターで「中国が行動しなければ、同盟国と行動する」とつぶやいている。このため、少なくとも日韓との事前協議なしに単独行動を行う可能性は低い。だが、米側が事前協議で日韓の同意を求めるのか、あるいは同意なしでも攻撃を行うのかどうかは不明だ。中国の習近平国家主席との首脳会談で話すトランプ米大統領=4月7日、米パームビーチ(AP=共同) 最大の問題は、米軍が北朝鮮を攻撃した場合、北朝鮮が米軍基地のある日韓に対して報復する可能性が非常に高いことだ。このため、日韓としては米軍による北朝鮮への先制攻撃を支持することに慎重にならざるを得ない。 1994年にクリントン政権が北朝鮮空爆を検討した際、米軍は90日間で米軍5万2000人、韓国軍49万人が死亡、民間人の死者も100万人を超え(そのうち在韓米国人8-10万人)、被害総額は1兆ドルと推定したため、大統領は空爆を決断することができなかった。当時の韓国政府も空爆に反対した。 なお、当時の日本は55年体制崩壊後の政治の混乱のまっただ中にあり、米軍から補給、機雷掃海、情報収集、護衛、船舶検査など1900項目に及ぶ協力依頼が来ても、集団的自衛権の行使に当たるため応じられず、米側を失望させた。レッドラインがレッドカーペットに 北朝鮮が日韓に対する報復能力を持つため、米国は北朝鮮に対して何度レッドラインを設定しても、結局は軍事的手段を行使できなかった。このため、専門家の間では、レッドラインが“レッドカーペット”になったと自虐的に言われている。トランプ政権にとっても、北朝鮮に対してレッドラインを設定するのは容易なことではない。北朝鮮は自らの報復能力にますます自信を深め、米軍の攻撃を抑止できると考えて、核ミサイル開発を強行しているのだ。 トランプ政権による北朝鮮政策の見直しは完了したと伝えられているが、その中身は不明だ。おそらく、北朝鮮が米本土を核攻撃できる能力の保有を阻止することが柱の1つだろう。そのために軍事力の行使も辞さない構えを見せながら、中国への働きかけと、北朝鮮への圧力を強めているのだろう。しかし、中国がかつてほど北朝鮮に大きな政治的影響力を持っていない可能性は高く、また中国企業を対象とした経済制裁を行ったとしても、その効力が現れるには時間がかかる。米国単独の外科手術的な軍事力の行使を検討するだけでは不十分 他方、北朝鮮の戦略目標もこの20年で変化した。当初、北朝鮮は核兵器開発を放棄するのと引き換えに、体制の保障と経済支援を求めてきた。しかし、今の北朝鮮は、国際社会に自らを核保有国であることを認めさせた上で、米国との一種の核軍備管理交渉を目指していると考えられる。それによって北朝鮮は生き残ろうとしているのであり、米国を交渉に引きずり出すためには、米本土を核攻撃できる能力を持つことは不可欠なのだ。 トランプ政権は「力による平和」を掲げる。それはオバマ政権には欠けていたことだったし、オバマ政権が軍事力の行使に慎重でありすぎたことが、今日の安全保障環境を悪化させたとするトランプ政権の認識もある程度正しい。しかし、トランプ政権には安全保障に関する全体的な戦略が描けていない。仮に、戦略もなく、軍事力の行使を脅しのために使っても、これまでのレッドカーペットをさらに長くするだけだ。一方、事態の打開のために北朝鮮に対して空爆を行えば、大きな被害と混乱を北東アジアにもたらすだろう。米国単独の外科手術的な軍事力の行使を検討するだけでは不十分 北朝鮮の非核化を実現するためには、米国単独の外科手術的な軍事力の行使を検討するだけでは不十分だ。まずは、日米韓が北朝鮮を核保有国として認めないことを確認し、その上で、金正恩体制を維持するのか取り除くのかという戦略目標を検討しなければならない。さらに、実践可能なレッドラインを設定し、北朝鮮がレッドラインを越えた場合に備えた共同作戦計画も必要だ。もちろん、北朝鮮による報復への備えに加えて、紛争後の構想、非戦闘員の避難、難民対策など、この20年の宿題も早急にこなさなくてはならない。 北朝鮮以外のどの国も現状維持を望んでおり、北朝鮮に対する本格的な武力行使など考えたくもないだろう。混乱する韓国の国内情勢と、日韓関係の現状では日米韓の連携が難しいことは明らかだ。しかし、これこそが北朝鮮の望んでいる環境だ。日米韓が一体となって北朝鮮の非核化のためにリスクを取る覚悟を示さない限り、中国の協力を引き出し、北朝鮮に核開発を放棄させることはできない。

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    トランプの狙いは空爆ではなく、金正恩「統治資金」の全面凍結だった

    下の内部情報を聞いた。1. 金正恩は中国と交渉するつもりはない。潜在的な敵国と考えている。2. 早くアメリカ本土まで届く核ミサイルを完成させよと、金正恩が命令した。そのため、昨年から今年にかけて繰り返しミサイル実験をしているが7割から8割は失敗した。それでも少しづつ技術開発は進んでいる。3. 金正恩は4月15日の前に核実験の準備は完了せよと命じた。それは完了している。弾道化した核兵器の実験だ。これまでの実験に比してかなり爆発力が大きい。100メガトンクラスだ。これが成功すれば弾頭は完成する。4. 米国と交渉をしたいと、密使を送って、「米国の要求をのむ」と伝えている。しかし、米国は「言葉ではなく行動を示せ」と返事して交渉に応じていない。5. 金正恩の狙いは、最初に米国と交渉することだ。米国に核保有国として認めさせた上で、経済制裁を解除させることを考えている。6. それがうまくいった後、日本と交渉し小泉首相が金正日に約束した100億ドルを得る。そして、大規模な外資を誘致することを狙っている。 一方、米国内にも北朝鮮との「取引」を提案するリベラル派の意見が出てきた。外交問題の専門誌『フォーリン・アフェアーズ』の発行元である「外交評議会」のリチャード・ハース会長は3月17日付け論文で北朝鮮との取引しかないと主張した。「ミサイル防衛は不完全であり、抑止は不確実だ」、軍事攻撃は多大な報復を受ける韓国政府が反対する、残された選択は「取引」しかない。平壌で高層住宅団地の竣工式に出席した金正恩朝鮮労働党委員長(中央)=4月13日(ロイター) 北朝鮮に対して核ミサイル開発の「凍結」と核物質の不拡散、それを検証するための国際査察の受け入れを求める。彼らがその条件を受け入れすなら、米国は制裁を緩和し、人権問題を棚投げして平和条約を結ぶ、というものだ。 上記の金正恩の狙いに合致する内容だ。このような融和論が出るから、金正恩は勇気を得るのだろう。 日本にとってこの取引は最悪だ。米国まで届く核ミサイル開発は凍結されるが日本を射程に入れた核ミサイルは完成しているので安全保障上、重大な危機となる。その上、拉致問題を棚上げにして米国が制裁緩和と平和条約締結に踏み切れば、核問題での国際圧力をてこに拉致問題の先行解決を目指すという安倍政権と私たち家族会・救う会の救出戦略がほぼ不可能になる。 ただし、金正恩は今、米国まで届く核ミサイルを完成させるために必死の努力をしている。あと1回核実験をすれば弾頭は完成する。大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイルも完成間近だ。まず、それを完成させてから米国との「取引」に臨むことが彼らの当面の目標だろう。韓国を占領する奇襲南侵作戦 金正恩にとって米国まで届く核ミサイル保有は、単なる取引の材料ではない。祖父金日成が立てた対南赤化戦略の支柱なのだ。したがって、ハース会長が言うような「核ミサイル開発の凍結」を金正恩が約束したとしたら、それは詐欺だ。金正日がそうしたように、口では約束をして制裁解除や支援を得ながら、隠れて開発を続けるだろう。 私がそのように確信するに至ったのは次の経験があるからだ。1998年北朝鮮がテポドン1を発射したとき、私は当時韓国の空軍大学教授だった李チョルス氏に会いに行った。彼は1996年ミグ19に乗って韓国に亡命した元北朝鮮人民軍のパイロットだ。私は李元大尉に北朝鮮軍の戦略の中で核ミサイルはどの様な位置づけをされているのかと質問した。すると彼は私の顔をじろじろと見つめながら「あなたは本当に北朝鮮問題の専門家ですか。なぜ、このような基礎的なことを尋ねるのですか」と言いながら次のように語った。 「自分たち北朝鮮軍人は士官学校に入ったときから現在まで、ずっと同じことを教わってきた。1950年に始まった第1次朝鮮戦争で勝てなかったのは在日米軍基地のせいだ。あのとき、奇襲攻撃は成功したが、在日米軍基地からの空爆と武器弾薬の補給、米軍精鋭部隊の派兵などのために半島全域の占領ができなかった。第2次朝鮮戦争で勝って半島全体を併呑するためには米本土から援軍がくるまで、1週間程度韓国内の韓国軍と米軍の基地だけでなく、在日米軍基地を使用不可能にすることが肝要だ。そのために、射程の長いミサイルを実戦配備している。また、人民軍偵察局や党の工作員による韓国と日本の基地へのテロ攻撃も準備している」 彼はすでに1992年金正日が命じて北朝鮮人民軍は対南奇襲作戦計画を完成させていると話した。李元大尉の亡命の翌年、1997年に労働党幹部の黄長燁氏が亡命した。黄長燁氏がその作戦計画について次のように詳しく証言している。北朝鮮の3月7日付労働新聞が掲載した、4発の弾道ミサイル同時発射の写真(共同) 1991年12月に最高司令官となった金正日は人民軍作戦組に1週間で韓国を占領する奇襲南侵作戦を立てよと命じ、よく92年にそれが完成した。金正日は作戦実行を金日成に提案したが、経済再建が先だと斥けられた。当時まだ核ミサイルが完成していなかったことも金日成を躊躇させた理由の一つと考えられる。 作戦の中身は、概略以下の通りだ。北朝鮮は石油も食糧も十分備蓄できていないから、韓国を併呑する戦争は短期決戦しかない。1週間で釜山まで占領する。まず、韓国内の米韓軍の主要基地を長距離砲、ロケット砲、スカッドミサイルなどで攻撃し、同時にレーダーに捕まりにくい木造のAN2機、潜水艦・潜水艇、トンネルを使って特殊部隊を韓国に侵入させて韓国内の基地を襲う。在日米軍基地にもミサイルと特殊部隊による直接攻撃をかける。 それと同時に、米国にこれは民族内部の問題であって米軍を介入させるなと、また、日本に在日米軍基地から米軍の朝鮮半島への出撃を認めるな、それをするなら核ミサイル攻撃をするぞと脅すというのだ。韓国内に構築した地下組織を使い大規模な反米、反日暴動を起こしながら核ミサイルで脅せば、米国と日本の国民がなぜ、反米、反日の韓国のために自分たちが核攻撃の危険にさらされなければならないかと脅迫に応じる可能性があると彼らは見ている。中国にちらつかせる劇薬 金日成は1970年代、工作員を集めて「祖国統一問題は米国との戦いである。米国は2度の世界戦争に参戦しながら、1発も本土攻撃を受けていない。もし、われわれが1発でも撃ち込めば、彼らは慌てふためいて手を挙げるに決まっている」と教示している。国民の被害に弱い民主国家の弱点を突こうという一種のテロ戦略だ。首脳会談に向かう「エアフォースワン」の機内で、中国への不満をぶちまけたトランプ氏=4月6日(ロイター) トランプ政権は韓国とその周辺海域で大規模な軍事演習を行ない、空母艦隊を北朝鮮近海に送るなど、いまのところ「取引」ではなく、圧力をかけることを選択している。先制攻撃、特に特殊部隊による金正恩暗殺作戦を実行するのではないかと、ここ数日、日本のマスコミを賑わしている。しかし、すぐに軍事攻撃はしないだろう。中国に対して制裁の徹底的強化を求めるという非軍事的手段がまだ残っているからだ。 核ミサイル関連部品、素材を中国が国連制裁を破って秘密に提供しているという情報が多くある。米国の情報機関はそのことについて具体的に調べてきた。それを止めさせることと、核ミサイル開発と金正恩の政権維持に欠かせない外貨を止めることが当面の目標だ。 北朝鮮は金正日時代に労働党39号室を作って、政府が主導する社会主義計画経済の外に金正日が自由に使える「統治資金」を管理した。80年代から90年代にかけて朝鮮総連が送った多額の外貨がその資金源となった。武器や麻薬販売資金、人民から毎年上納させる「忠誠の証し資金」(国内の住民には砂金などで上納させ、海外勤務者には外貨を求める)などで集められた外貨をスイスなどの銀行の隠し口座で管理していた。ブッシュ政権がそのことに気づき、金融制裁をかけたので、彼らは口座の多くを中国に移したといわれている。 今回、トランプ政権は中国の外為専門銀行である中国銀行など10以上の金融機関に対して米国と取引を出来なくする制裁を準備していると聞く。それが発動されれば、中国銀行は外為業務が出来なくなり、事実上、倒産するとさえ言われている劇薬だ。その劇薬をちらつかせながら、トランプは習近平に圧力をかけている。まずはその結果をみることが、トランプ政権の当面の考えだろう。  

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    北朝鮮空爆「Xデー」の裏側を読む

    米軍による北朝鮮空爆は有り得るのか。緊迫を増す朝鮮半島情勢。4月15日は故金日成主席の生誕105周年に当たり、6度目となる核実験への懸念も広がる。「ワシントンの戦略的忍耐は終わった」。単独攻撃を示唆したトランプの本気度、そして秒読み段階に入った「Xデー」の裏側を読む。

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    【独占スクープ】安倍首相は「金正恩包囲網」をトランプに助言した

    重村智計(早稲田大学名誉教授) ドナルド・トランプ米大統領は、「アメリカ・ファースト政策」を捨てた。「アメリカ・ファースト」は、米国の「孤立主義」を意味する言葉だ。大西洋横断飛行に成功したチャールズ・リンドバーグらが「アメリカ・ファースト委員会」を設立し、欧州やアジアでの参戦反対を訴えた。彼らは日本の真珠湾攻撃で尊敬と人生を失った。 トランプ大統領は、シリアへの巡航ミサイル攻撃と北朝鮮の核開発阻止で「孤立主義」を捨て、「干渉主義(国際主義)」に舵を切った。習近平主席に、北朝鮮の核開発阻止への協力を約束させた手腕はなかなかのものだ。 トランプ大統領は米中首脳会談の前後に安倍晋三首相と電話会談し、対北朝鮮政策について協議した。二人は、北朝鮮を核放棄に追い詰めるため「対北石油全面禁輸」が効果的と合意し、習主席に協力を求めた。米フロリダ州パームビーチの高級別荘「マールアラーゴ」で中国の習近平国家主席(左)を歓迎するトランプ米大統領=4月6日(ロイター=共同) 北朝鮮はアジアで最も石油のない国である。この問題の重要さに多くの人は気がついていない。北朝鮮の年間の石油輸入量は、最大でも70万トンである。この90%は中国が供給している。日本の自衛隊が年間消費する石油は年間150万トンに達する。その半分以下では全面戦争はできない。 石油の全面禁輸に踏み切れば、北朝鮮の軍隊は崩壊する。戦車は走らないし、戦闘機は飛ばないし、海軍艦艇も動かない。北朝鮮は軍隊が支える国家である。石油が切れれば、体制は崩壊に向かう。 だが米国と中国のメディアは、12日の米中首脳電話会談で「北朝鮮が核実験とミサイル実験に踏み切れば、中国は石油禁輸を実行する」意向を習主席が伝えたと報じた。画期的な政策転換だ。 トランプ大統領は「中国が問題を解決すれば最高だが、ダメなら中国抜きで問題を解決する」と明らかにしていた。このため、航空母艦や巡航ミサイルを発射する海軍艦艇を朝鮮半島周辺に配備した。 中国は、米中首脳会談の内容をすでに金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に伝えた。北朝鮮はどう出るか。北朝鮮は、4月15日の金日成主席生誕105周年のお祝いムードに満ちている。この祭典に彩りを添えるには、「打ち上げ花火」のミサイル発射と、「仕掛け花火」の核実験は不可欠だ。米国と中国の圧力に屈して、実験を中止すれば指導者の権威と正統性が疑われる。金委員長は最大のジレンマに直面している。実はかなり弱気な北朝鮮の対応 米国は核施設とミサイル施設への限定攻撃について、「北朝鮮は米国に届く核とミサイルを保有している、と明言した」から、「米国への重大な脅威だ」と説明するだろう。しかも攻撃は潜水艦や空母などの艦船から行われ、在韓米軍基地や在日米軍基地は使わない。とすると、北朝鮮は韓国を攻撃する法的理由に欠ける。 金委員長が核実験に踏み切っても、トランプ大統領は限定攻撃できないと判断すれば、ミサイルと核の実験が行われる。どう判断するのか。米国が核施設を単独攻撃すれば、在韓米軍基地や在日米軍基地への報復が予想され、被害を無視できないとの指摘がある。その可能性は否定できない。ただ、70万トン程度の石油では全面戦争はできない。 北朝鮮が最も恐れるのは全面戦争だ。もし在韓米軍基地や在日米軍基地を報復攻撃すれば、米国は全面的攻撃を行う。限定攻撃の際には、北朝鮮の連絡網や指揮伝達の回線やコンピューターも使用不能になる。反撃は簡単でない。 ティラーソン米国務長官は、12日にロシアを訪問しプーチン大統領とも会見したが、露首脳は北朝鮮への米国の限定軍事攻撃に、反対の立場を明らかにしなかった。習主席も電話会談で「平和的な解決」を求めたが、「軍事攻撃反対」とは言わなかった。習主席に近い人民大学国際関係学院の時殷弘教授が、昨年9月に「米国が核施設だけの攻撃で、金委員長に影響がなければ中国は黙認する」と述べたと、台湾の中国時報が伝えていた。金委員長に対する中国の冷たい雰囲気が反映されている。金委員長は習近平主席に何度も招待状を送ったが、全く返事がない。 「石油禁輸」は、安倍首相がトランプ大統領に強くアドバイスした戦略である。安倍首相は、北朝鮮への効果的な制裁策を聞かれ、「中国の対北石油全面禁輸」を伝えた。2月10日、ワシントンのホワイトハウスでトランプ米大統領(左)の出迎えを受ける安倍首相(ロイター=共同) 実は、北朝鮮の対応はかなり弱気だ。米国のシリア攻撃直後には、外務省スポークスマン談話で米国を激しく非難し、「核武力強化は正しかった」と述べた。ところがその後は沈黙を守り、4月11日に10カ月ぶりに開かれた最高人民会議でも、米国非難はもとより日米韓三国に言及すらしなかった。米単独攻撃阻止へ追い込まれる金正恩 金日成主席生誕105周年の祝典を宣伝するため、北朝鮮は海外のテレビメディアと通信社を平壌に招いた。金委員長が、13日に行われた平壌目抜き通りの建設完成式典に登場し、海外のテレビ局に平穏な姿を報道させた。この式典で、朴奉珠(パク・ポンジュ)首相が脈絡のない演説で「(この建設完成は)何百発の核爆発よりも効果がある」と述べた。この言葉に、今回は核実験をしない北朝鮮の立場を米中に伝えたのではないかとの観測が出ている。高層住宅団地の竣工式に到着した金正恩朝鮮労働党委員長(右)=4月13日、平壌(AP=共同) 米国は単独攻撃の前に、在韓米軍兵士の家族を帰国させる必要がある。米国民の犠牲を避けるためだ。その動きがない限り、攻撃はない。 韓国もまたトランプ戦略に驚愕している。5月の大統領選で、当選確実と言われた左派の文在寅氏の支持率が急落し、中道左派の安哲秀氏に追いつかれている。文氏の陣営は混乱し政策の変更を行ったが、当選の見通しは一時より後退した。 トランプ大統領は朝鮮半島の危機を演出しながら、韓国の大統領代行とは電話会談もしない。韓国では「米大統領と話し合えない大統領は役に立たない」との空気が広がっている。 北朝鮮はどうするのか。米単独攻撃を阻止できる方策は、南北対話と米朝対話、日朝交渉しかない。米国の軍事攻撃が高まると、北朝鮮は過去にも対話戦略に切り替えた。今回も南北対話や米朝対話を模索するだろうが、韓国は次期大統領次第だ。米国は応じない。残るは日本だ。小泉純一郎首相との日朝首脳会談も、米大統領が「軍事攻撃を排除しない」と明言したから、実現した。 北朝鮮は、今年になって秘密警察の国家保衛省に対日担当の要員を増員し、新たな部局を設置した。これまでは2、3人しかいなかったのに、20人前後に拡大したという。かつての日朝首脳会談も、国家保衛省の担当だった。北朝鮮はトランプ大統領の単独軍事行動を避けるために、日朝首脳会談を模索せざるを得なくなる。

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    トランプが「北朝鮮攻撃命令」を出すタイミングはここしかない!

    兵頭二十八(軍学者) 「ちょっとばかり核武装した国がもし米国を核兵器で脅迫すれば、米国はその政体を転覆させる」――という現代国際政治史上の前例、教訓が今、創られつつある。おそらく西太平洋地域での核拡散を歓迎できない、われわれ日本人及び全世界の多くの人々にとって朗報になることは間違いないであろう。だが、それは米国が決して油断することなく、北朝鮮に対する「だらだら攻撃」(後ほど詳述)を遂行できれば、とも付言しておきたい。 一つ気掛かりなのは、トランプ米大統領が「いま北朝鮮を崩壊させておくことの意義」をどこまで理解しているかどうかである。彼は中東人の考え方はある程度呑み込んでいるものの、儒教圏(中国共産党および朝鮮半島)のことはサッパリ分かっていない。そこからは、もう一つの疑問も生じる。トランプ政権内には、金正恩体制を打倒するための巧妙な策を考えてきた人物など一人もいやしないのではないか――もしそうだとすれば、そもそも朝鮮半島への関心などゼロに近かったトランプ氏にとって、北朝鮮への「攻撃命令」を出す前にその胸中に迷いが生じても当然であろう。エアフォースワンから降りるトランプ大統領=2017年4月13日、フロリダ州(AP) かれこれ総合的に判断すると、私は米軍がすぐには北朝鮮に攻撃を仕掛けない、いや仕掛けられないだろうと疑っている(この論考を書き上げた4月14日時点での判断である)。きっかけがなければ「攻撃」できない米国 朝鮮戦争の休戦以降、歴代の米国政権は、北朝鮮をどうすることもできなかった。それには立派な理由があった。北朝鮮は、第三者を納得させられるような理由なしに米国人を狙って殺害する「国家後援テロ」を実行していないからである。したがって、米国から見た北朝鮮は、革命後のイランや核武装後のパキスタンよりも、米国側からの攻撃(コマンドー作戦やキラー・ドローン空爆をも含む)を仕掛け難い対象だったと言える。特殊な有人偵察機(SR-71など)を使った強行領空侵犯ぐらいが、せいぜい軍事的にできることの限界であった。 米指導層はホメイニ革命後のイランを甚(はなは)だしく憎む。その憎しみの強さは対北朝鮮の比ではない。それでも米政府は、イランに思い切った軍事攻撃を仕掛けることはできない。なぜなら、米側からの戦争開始を国際慣習法的に正当化できるような「きっかけ」をイランが一貫して与えてくれないからだ。 1979年のテヘラン米大使館占領事件は、いかにも米国の上下を憤慨させた大事件であった。けれども、人質とされた米国籍の大使館員たちは結局、1人も殺されずに解放された。だから、事件発生直後の即決リアクションとしてならばともかく、事件発生から数十日も経過してしまった後では「開戦」の大義名分を掲げにくくなった(ただ、米国民のフラストレーションは、宥和主義者、ジミー・カーターを大統領選挙で大惨敗させてホワイトハウスから逐い出すことに焦点を結ぶ)。 2003年に米国がイラク全土を占領する作戦を発起した時のジョージ・W・ブッシュ大統領による決断材料の一つには、湾岸戦争で敗退したサダム・フセインが、その私的復讐として父親であるブッシュ元大統領個人を暗殺しようとしたプロット(筋書き)の認定があったと推量される。米指導層の要人を意図的に殺害しようとする露骨な反米テロ国家に対しては、米政府および連邦議会として、いかなる容赦をする必要がなかったのである。 それならば、リビアのカダフィ政権は、なぜ2011年に転覆させられてしまったのか。北朝鮮政府はこれについての根本的な「勘違い」をしているようである。カダフィ政権は、北朝鮮が核武装努力の表向きの論拠としているように、米ソ冷戦末期に核武装を諦めてしまったがゆえに、米国によって倒されたわけではない。  2011年の米オバマ政権にとって、アラブ世界の非民主的体制はすべて気に入らない存在だったのである。その気に入らない政権が、国内動乱で崩壊しそうな兆しが見えたときに、その動乱の火焔にガソリンを注ぎかけてやる外交は、オバマ政権にとっては「安全・安価・有利」で、しかも「快楽」そのものだったのである。 同年に、やはり権力の座から引きずり降ろされたエジプトのムバラク政権もそうである。彼の場合もまた、米民主党政権内の「快感原則」が優先された。ホスニ・ムバラク大統領は、イラクのサダム・フセインのように大量破壊兵器の研究を命じたりなどしていない。逆に、イスラムテロ組織を弾圧することにかけては「有能」だった。オバマ時代の空母派遣と今回の類似 されども、オバマ政権にとっては、ムバラク政権は単に「非民主的」であり、彼の追放劇を見ることはこの上もない愉悦だったのである。 皮肉にも、現在のエジプト政権(2013年に宗教原理主義のモスレム同胞団政権をクーデターで打倒した軍事政権)が続けている、「国内反政府集団」に対する取り締まり、たとえば大量無期限留置や闇処刑などはムバラク時代と「人権無視度」において特段の隔たりはない。 しかし、「IS(イスラム国)」が世界を撹乱するようになって以後の米政権にとって、今のエジプトは黙認できる政体に評価が変わった。彼らが自国内のISやアルカイダ系の運動を弾圧することで、米国民を間接的に守っていると思えるからである(ただ、シナイ半島でイスラエルを困らせている点については今後大きな問題になるだろう)。オバマ時代の空母派遣と今回の類似 2010年のオバマ政権は、北朝鮮を「まだ放置しておいてよい国」と判断している。  回顧しよう。第1期オバマ政権の2年目にあたる2010年11月23日、北朝鮮軍が突如、韓国の延坪島を砲撃した。このときオバマ大統領は、朝鮮半島に米海軍の空母艦隊を向かわせる姿勢を「演出」したものの、何の攻撃も命じなかった。グアム島所在の戦略爆撃機の動きと同様、ただ西側のテレビのニュースショーに映像ネタを供給しただけだった。最初から「戦争する気などなかった」のである。 だが、オバマ氏にはその「余裕」が許された。彼の下には、北朝鮮が数年以内に「核弾頭付きICBM」を持つことなどは到底できやしないと確信に足り得るだけの情報が集まっていたからである。つまり「核兵器で米国を脅せるようになった北朝鮮の処分」という難題は、次の誰かの政権に先送りしてもよかったのである。 だが、トランプ氏には、問題の先送りが難しい。いくらなんでも、あと8年もあれば、初歩的な北朝鮮製のICBMが1基か数基ぐらいできたとしても不思議ではない。その弾頭はおそらく低出力(せいぜい数十キロトン)のできそこないの強化原爆で、上昇中にロケットが折れたり、大気圏再突入時に弾頭が燃え尽きたり、不発に終わったり、狙った大都市から大きく外れる蓋然性も高いだろう。トランプタワーを張り込む報道陣=2017年1月14日  メガトン級でないキロトン級のICBMが現代の大都市域を数十キロメートルも外れれば、与える損害はあっけないほどに小さくなる(だから1950年代の米戦略空軍は、メガトン級の水爆を重さ2トン未満に軽量小型化できる技術的見通しが得られるまでは、ICBMの配備など無意義であるとして当初開発を閑却していた)。しかし、想定リスクとしては、ニューヨーク市中心部に「トランプ・タワー」を構える米大統領が、無視を決め込むレベルではなくなっているのである。 もし、マンハッタンの上空1千メートルか、それ以下の高度で1発でも原爆が爆発すれば、トランプ大統領は、自身の本拠地であるマンハッタンをむざむざ人の住めない街にさせてしまった責任者として、米国史に汚名を刻んでしまうのである。 北朝鮮は、出力がメガトン級ながら重さ2トン未満の水爆を持ってはいない。そのような実験も当分できないだろう。核武装国であるインドやパキスタン、イスラエルですら、そんな高性能の水爆を開発できないのである。 個人的には、北朝鮮は広島、長崎級の実用原爆すらもまだ保有してはおらず、核分裂爆発実験は2006年10月に装置型を一度成功させたきりで、後の「地下実験」はすべてフィズル(過早破裂による不完爆)におわっているか、硝酸アンモニウム肥料爆薬を地下坑道で発破したフェイク(偽装地震波発生)であろうと見ている。しかし、本稿ではあえて流布されている宣伝や憶測に付き合うことにする。 北朝鮮が、出力数キロトンの原爆弾頭を、なんとか全重1トンに抑え、それを載せてかろうじてニューヨークまで届く多段式の弾道ミサイルの先端に、搭載できたものと仮定しよう(これは仮定の上に仮定を重ねた、技術相場値の上でほとんど考え難い想定であることはなおも強調しておく)。 実験試射であれ、実戦攻撃であれ、まず、その大型の弾道ミサイルを垂直に立てて発射しなければならない。ここで北朝鮮は、解決不可能な難問に直面してしまう。 トランプの「つぶやき」の真意は? トランプの「つぶやき」の真意は? トランプ氏は大統領に正式就任する直前の2017年1月3日に自身のツイッター上に「北朝鮮はさきごろ、米本土に到達できるひとつの核兵器の開発の最終段階だと声明した。そうはさせんよ(It won't happen!)」と書き込んだことがあるのを思い出してみよう。 あの時点で、軍事専門家の誰かがトランプ氏に「ICBMは中距離弾道弾とは違って巨大であり、おいそれと移動などはさせられない。そんなものが露天発射台に据えられようとした時点でわが偵察衛星は探知ができる。あなたが即座に空襲を命じれば、発射準備が整う前に確実に米軍からのミサイル空襲で爆破できる」とレクチャーをしたのではないかと、私は思っている。 すでに北朝鮮政府は「米国を核攻撃する」と何度も口先で脅している。いまさらそれは取り消せまい。そのあとで、たとえ試射用であろうとも、ICBMなどを発射台に据えたなら、米国はそれを即座に先制空爆して発射台ごと破壊してもいい事態が生じたと考えるだろう。そう、米有権者が完全に納得できる「開戦理由」である。ましてトランプ政権ならば、決行は確実だ。朝鮮中央テレビが放映した金正恩朝鮮労働党委員長の映像(共同) したがって北朝鮮は、露天発射方式ではない方式をなんとか工夫しない限り、米国を攻撃できるICBMを手にする日は永遠にやって来ない。 それならば「鉄道機動式」とすれば、どうであろうか。ロシアのような広大な国ならば、それは合理的オプションとしても足り得る。だが、北朝鮮のような狭い国で、既存線路の保線すらまままらなくなっている経済失敗国家であると、既存のレールをミサイル移動用に利用するにしても、新規に専用線を建設するにしても、その作業を米国の偵察衛星から隠すことはできない。 そうなると、残されている現実的な方法は、ICBMを最初から垂直に立てたままで、鉄道軌条の上をゆっくりと水平に移動させられるような、天井の非常に高い「横穴トンネル基地」を新たに整備して、山岳中の「垂直坑」からそのミサイルを奇襲的に発射するやり方以外にない。この大規模な大深度地下工事を米国家偵察局(NRO)のマルチスペクトラム偵察衛星(地下構造物までも見分けることができる)から隠して進めることも、おそらくは難しいだろう。 北朝鮮からニューヨーク市に届かせるのに必要な弾道弾の飛距離は、ロシアのICBM以上だ。ロシアよりも遅れた技術しか持っていない北朝鮮に、ICBMの全システムをロシアのように都合よくコンパクトにまとめることはできない。なかんずく、ICBMの全段を工場で組み立て終えて、燃料が入った状態で横に寝かせることなど北朝鮮には不可能なのである。 高さ30メートルか、それ以上もある縦長楕円形の横穴トンネルと、軌条と縦坑と台車の組み合わせでICBMを地下空間から発射できるようになるまでに、北朝鮮の土工能力ではまず「2年は必要」だろう。しかし、縦坑が一つだけでは最初から位置固定の硬化地下サイロと同じで、米軍が先制攻撃して潰してしまうことはたやすい。 垂直坑の生残性を高めるために、縦坑を複数化するとなれば、北朝鮮の工事能力では4年かかるかもしれない。(硬化地下サイロを複数設ける場合も同じ。米ソのICBM用の強化コンクリートサイロは、1基の工期が2年以上かかったとされている)巡航ミサイルが重宝されるのは理由がある これはトランプ氏にとっては朗報である。もし、トランプ氏が「2期目」を諦めるつもりならば、2010年のオバマ氏と同じ判断も可能だ。すなわち「空母艦隊は派遣してみせるが、北朝鮮空爆は命令しない」という結論である。 だが、もしトランプ氏が2期目も狙うのならば、そして歴史に汚名を残したくなければ、今のうちに「禍根」は断っておかねばならない。8年間も傍観すれば、地下発射施設が複数整備されてしまう恐れがあると、誰でも考えられるだろう。その間には、イランやその他の危ない国も、核武装に近づくかもしれない。ボヤボヤしている暇などないはずである。 では、具体的にはどんな方法があるだろうか。まず、ホワイトハウスの立場になって考えてみると、「空母からの空襲」はできるだけ避けたいオプションである。なぜなら、海面のロケーションがあまりにも悪すぎるからである。 黄海から作戦を決行すれば、中共領の大連海軍工廠や旅順軍港の目と鼻の先に米機動艦隊があちこちに航行することになる。中共は、漁船団の「海上民兵」を含めたあらゆる手段でそれに対して各種の妨害を加えるにきまっているだろう。さもないと中共中央が中共軍から激しく詰め寄られてしまうからだ。 ホワイトハウスは、攻撃が開始される前から中共との予期せぬトラブルに対応せねばならなくなる。そこから先の「詰め将棋の手」を考えるどころではなくなってしまうだろう。 日本海側から作戦する場合も、同じだ。そこはウラジオストック軍港から指呼の間である。おちぶれたりとはいえどもロシア海軍が、黙って傍観するわけがあろうか。黒海やバルト海で最近繰り返しているNATO艦艇へのイヤガラセを何倍にも強化したような、空・海からの妨害行動に出てくるであろう。 だからトランプ政権としては、対北朝鮮作戦に空母を使う気なんて最初から全くないだろうとわたしは考えている。対北鮮の有事において米空母艦隊に何か役目があるとすれば、それは真の攻撃軸から敵の目を逸らしておくための「囮(おとり)」、すなわち「陽動/陽攻」用としてだけだろう。しからば、派手な煙幕ではない主力の攻撃手段とは何なのか?巡航ミサイルが重宝される理由 中共やロシアからいっさい邪魔をされずに、北朝鮮の核施設とICBM発射台を奇襲的に破壊してしまえる手段としては、まず「潜水艦から発射する巡航ミサイル」に指を屈するのが穏当だ。ステルス爆撃機の「B-2」や、ステルス戦闘機「F-22」に空爆させるというオプションは、万が一にもその有人機が墜落したり、乗員が北朝鮮の捕虜になるというリスクが、政権1年目のトランプ氏としては、ほとんど受け入れ難いため、空母からの有人機による爆撃と同様に、選ばれることはないであろうとわたしは考える。 ところで、既往の戦例にかんがみれば、巡航ミサイルでは、敵の要人を爆殺することはまずできない。だからこれまで、アフリカや中東では、「巡航ミサイルは決着性にとぼしい兵器だ」と思われてきた。問題をなにも解決しないで、ただ、米政権が自己宣伝して自己満足するだけの道具なのだ――と。 実際、直近のシリアでも、シリア政府軍の航空機とその掩体壕等は正確に59発のトマホークで破壊されたけれども、基地機能そのものはじきに復活した模様である。あきらかに、巡航ミサイルだけでは、戦争は決着してはくれない。米軍の巡航ミサイル「トマホーク」(ロイター) しかし、トランプ政権がひとたび巡航ミサイルによる北鮮攻撃に踏み切れば、おそらく「金正恩体制は崩壊する」と、わたしは予言することができる。すなわち、こと、相手が北朝鮮である場合に関してのみ、米国の「巡航ミサイル主義」は、とても正しい。それがいずれ立証されるであろうと思う。 その理由を説明しよう。対地攻撃用の非核弾頭の巡航ミサイル「トマホーク」は、北朝鮮の核関連施設とICBM射場施設を、ほぼ2日のうちにすべて機能停止させるであろう。(第一波の攻撃終了後、日の出後の偵察衛星写真によって破壊状況を判定して、念を入れて第二波攻撃を加える必要がある。よって1日では片付かぬ) しかし、それがうまくいっても、北朝鮮軍が機能停止するわけではまったくない。その結果、どうなるか。米軍と北朝鮮軍は、緩慢な戦闘を再開することになる。(朝鮮戦争は法的にはまだ終わっていない休戦状態であるので、あくまで「開戦」ではなく「戦闘再開」だ) といっても、血みどろなものではない。北朝鮮の砲弾は米軍基地には届かないし、米兵も1人も死なない。彼我の実力差をよく知る北朝鮮指導部は、韓国内の米軍基地を地対地ミサイルで攻撃することも自粛するはずである。首都平壌が空爆されない限りは……。「だらだら交戦」の大先輩はイスラエル 北朝鮮の工作員みたいな者たちがあちこちで叫んでいるような、38度線沿いの北朝鮮軍砲兵部隊による大規模な京城市街砲撃は起きない。なぜなら、そんなマネをすれば、韓国空軍機による平壌爆撃に米国がGOサインを出すと、平壌は知っているからである。 今日の空軍機が運搬できる爆弾の重量は1回につき数トン。それに対して、射程の長い大砲やロケット弾の充填炸薬は、数十キログラムでしかない。破壊力でも射程でも、比較にはならないのだ。 念のため注記しておこう。「北朝鮮空軍」なるものはとっくに存在していない。燃料が無く、パイロットの訓練ができず、したがって空軍機による空襲をしたくてもできないので、北朝鮮はやむをえない選択として、大砲やロケット弾や地対地ミサイルにばかり頼っている次第だ。現代の軍隊が、燃料油が無いのに「南進」などできないことも、いまさら説明するまでもないだろうと思う。短距離弾道弾や、中距離弾道弾は、平壌政府が終戦交渉の切り札として、山の中の横穴トンネルに、最後まで温存しようとするだろう。もちろん、「核爆弾」もだ。 ところで、シリアとは違って、北朝鮮内にはロシア兵などの余計な邪魔者は存在しない。だから米軍は、巡航ミサイルで「目標A」群を破壊したなら、翌日は「目標B」群、その翌日は「目標C」群……と、誰にも気兼ねをすることなく延々と、巡航ミサイルによる攻撃を継続することができる。北朝鮮国内には、政治犯を強制労働させながら衰弱死に追い込んでいる収容所がたくさんある。米軍が巡航ミサイルでそれら施設の看守棟をひとつひとつ破壊すれば、内外に対して、これが「人道戦争」であることを明快に宣伝できるだろう。 この、遠くの海からひたすら巡航ミサイルだけを撃ちかける「だらだら攻撃」が続く状態が、最大の打撃を与える対象は、じつは中共なのである。米朝が変則的ながらも常時の交戦状態となれば、黄海~渤海を利用して通航する商船、なかんずく天津港の物流機能は、戦時国際法の要請とぶつかり、大制約を受けざるを得ない。 大連工廠の目の前にも常時、米海軍の北鮮沿岸ブロケイド艦隊(それは空母は含まないが海上自衛隊が封鎖活動を支援する可能性は高い)が蟠踞(ばんきょ)することになる。もちろん、シナ漁民の誰もそこで漁労などできはしない。これは中共に対する米国からの「経済制裁」にも等しい大圧力だろう。 トランプ氏は大統領選挙中から、中共の対米貿易政策を非難してきた。中共貿易がこのようにして打撃を被ることについて、トランプ氏は少しも同情しないどころか、それを愉快だと思える理由がある。 米国と北朝鮮が交戦を再開することで、自動的に、中共から米国への輸出は半減する。東シナ海は「戦場の後方海域」となるので、世界の船員組合は「だらだら交戦」が終わるまで、同海域への乗務を拒否するはずである。トランプ氏の初志は、はらかずもこうして貫徹されるわけだ。 こうなってはいよいよ中共も、金王朝の「転覆工作」を始動させるしかないだろう。それが、米国と北朝鮮との戦争を、意外にもスピーディに「決着」させることになるであろう。かくして、北朝鮮の核施設と核兵備に対して米軍が巡航ミサイルを発射することが、「金王朝終焉」への最短シナリオとなるのである。「だらだら交戦」術の大先輩はイスラエル 日本ではまったく報道されないので誰も知らないが、イスラエルは、周辺地のゲリラであるヒズボラおよびハマスと「365日いつも戦争」の状態にある。ヒズボラがイランから地対地ロケットなどを受領すれば、即座にイスラエル空軍機は越境空襲を仕掛け、それを爆砕しているのだ。多くはそれは、シリア領土内である。トランプ大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー氏ならば、こうしたイスラエルの「政策」には、詳しいだろうと思われる。トランプ氏は、適当なアドバイザーをすでに抱えているわけである。 空母艦隊は、作戦期間が半年を越えるような「だらだら攻撃」には向いていない。艦隊を数日間、特定海面で遊弋させておくだけでも、べらぼうな経費が飛んでしまうものだからだ。対北朝鮮の「だらだら攻撃」の主役は、潜水艦と、駆逐艦などの水上艦艇から発射される巡航ミサイルである。残る最後の問題は、「いつ?」だけである。米海軍のバージニア級原子力潜水艦 わたしが『ニッカンペキスポ』とひそかに仇名している中共の英文政治宣伝サイト『Global Times』に4月11日、中共軍による北鮮核施設に対する空爆をチラつかせるテキストが掲載され、それは数時間後に忽然とウェブサイトから削除されたという。これは北京として、米軍が北朝鮮の核施設を空爆することについて半ば事前承認していることを強く示唆しているのだろう。 北朝鮮が、次の核実験、もしくは次の長距離ミサイル発射を試みるときが、トランプ政権が決断するときであろう。

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    大都市を一夜で壊滅できる「世界最強」米空母カール・ビンソンの実力

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト)  米国によるシリア攻撃の2日後の4月8日、米太平洋軍司令官のハリス提督は、原子力空母カール・ビンソンを中心とする艦隊、すなわち「第1空母打撃群」を北上して北朝鮮近海に航行するように命じた。中東で戦争が始まったのに米空母が北東アジアに向かう、この一見矛盾した行動に世界は驚いた。 米軍が中東に集中すれば、その隙を狙って北朝鮮が軍事行動を過激化させる懸念に基づく米国の戦略的行動であるが、この行動は改めて世界の軍事専門家に問いを投げ掛けた。現代においても、航空母艦とはそれほど軍事的脅威となる存在なのか、と。 この問いは、もっともであろう。シリア攻撃では巡航ミサイル「トマホーク」を米駆逐艦2隻から59発発射した。中東や中央アジアでの戦闘で活躍しているのは無人機である。もはや空母や戦闘機の時代ではないのではないか、との考えもある。 だが、その一方で、中国は「空母造り」に余念がない。空母遼寧は既に運用を開始し、それに続く2番艦、3番艦も建造中である。空母遼寧について、米国防総省はかねてから見解を示している。「米軍のニミッツ級原子力空母の持つ遠距離の戦力投射能力を持つことはできない」。そして、このわずかな文言にこそ、現代における「空母の意義」が凝縮されていると言っていいだろう。米空母カールビンソンと偵察救助ヘリCH-46 =2001年10月24日、アラビア海(ロイター) 空母カール・ビンソンは1982年に就役したが、同型の空母は米海軍に10隻ある。一番最初に建造されたのが空母ニミッツであり、1975年就役、従ってそれ以後の同型艦をニミッツ級と呼ぶ。カール・ビンソンはニミッツ級の3番艦である。 ニミッツ級は排水量約10万トン、全長約330m、速度30ノット、艦載機約71機である。遼寧は排水量6万7500トン、全長305m、速力20ノット、艦載機67機(計画)である。またニミッツ級は原子力であるため、通常動力の遼寧に較べて速度が速いだけでなく、航続距離がはるかに長い。 空母は正式には航空母艦と言われることから明らかなように、航空機が発着できるのが特徴であり、艦載機が命である。ニミッツ級は戦闘攻撃機「FA18」を約45機搭載しており、3分間に1機の間隔で発艦させられる。 遼寧の67機とはあくまで計画であって、現段階では艦載機の「J15」そのものが開発段階、しかもパイロットは訓練段階であり、実際に67機を運用しているわけではない。米国の見解では、そうした運用を実現できたとしても、ニミッツ級の戦力投射能力には到底及ばないと言うのである。 また、戦訓の一つに「戦力の逐次投入は禁物」とある。その典型的な戦例は大東亜戦争におけるガダルカナル島の戦いである。日本の陸軍は海軍の要請で太平洋のガダルカナル島に当初、900人の部隊を上陸させたが、米軍の反撃ですぐに全滅した。そこで5千人もの部隊を上陸させたが、これまた壊滅した。それもそのはずである。旧日本海軍は当初、「米兵は2千人」と報告していたが、実際には1万人を超える米兵が陣地を築いて待ち構えていたからである。米空母の進化と弱点 戦力の逐次投入が戒められるのは、投入される戦力が小規模であればこのように待ち構えられて各個撃破されてしまうからである。それを避けるためには敵情の把握、すなわち情報活動が必要だが、現代においては偵察衛星の発達によってかなり正確な把握が可能になった。 しかし、いかに情報が正確であろうと、適切な戦力を適時、的確な場所に運搬できなければ敵に勝利できない。すなわち、いかに大量の戦力をいかに短時間に敵の中枢部に投入できるか、これこそが戦力投射能力の本質である。米海軍の原子力空母カール・ビンソンの甲板に並ぶ艦載機 =3月15日、韓国・釜山(共同) ニミッツ級空母カール・ビンソンは、航行距離にして1200キロを一日で海上移動し、500キロ先の敵に3日間で2千トンの弾薬を投入する能力がある。昭和20年3月の東京大空襲で投下された爆弾が一晩で3千トンであり、その時の犠牲者は約10万人である。精密誘導能力が格段に向上した現在、2千トンの弾薬は、一大都市はもちろん、敵の軍事要塞を壊滅させるのに十分であろう。 ちなみに東京大空襲の爆撃機は「B29」300機であるが、これはサイパン島の飛行場から飛来した。B29は長航続距離を誇る重爆撃機であるが、それでも米本土から日本に直接飛んで来ることはできなかった。つまり南太平洋のサイパン島に飛行場を造らなければ、日本の空爆は不可能であった。 当時、サイパン島をはじめとする南洋諸島は日本領であり、米軍がここを占領したのは昭和19年7月。つまり、米軍はサイパン島に到達するのに開戦以来、2年半の月日を費やしている。もちろん、当時の米国にも空母はあり、現に東京初空襲は昭和17年4月に空母から発進した爆撃機によって行われている。 だが、この爆撃は極めて限定的であり、日本の警戒の目を盗んで行われた「奇襲」であって、壊滅的な打撃を与えるのは不可能だった。つまり、当時の米海軍は東アジアに対する戦力投射能力を持っていなかったのである。 カール・ビンソンは北朝鮮周辺に向かうと堂々と宣言して航行しているが、もし大戦初期に米空母がこんなことをしていたら、日本の航空戦力と潜水艦によって海の藻屑と化すことは間違いなかった。カール・ビンソンがなぜそうならないかといえば、周りを巡洋艦、駆逐艦、潜水艦で固めているからであり、北朝鮮のミサイル攻撃や魚雷攻撃をも撥(は)ね退ける能力を有しているからである。 つまり、空母はいかに優秀でも1隻では、身を守ることはできない。したがって、「空母打撃群」という艦隊で行動することになる。空母の戦力投射能力とは、空母そのものの能力に加えて偵察衛星の情報収集力さらにはそれを伝達する通信網、艦載機や、その他の艦艇の性能を掛けあわせて得られるものであり、そのいずれかがゼロである場合、答えは「ゼロ」となるのである。

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    北朝鮮の信念「38度線の南にあるソウルや釜山は領土の一部」

     昨年12月、朝鮮人民軍の特殊作戦大隊が韓国大統領府「青瓦台」を標的とする大規模襲撃訓練を行った。訓練を報じた北朝鮮メディアは「青瓦台を火の海にし、南朝鮮傀儡どもを殲滅する」と気炎を上げたが、朝鮮半島情勢に精通する拓殖大学大学院特任教授・武貞秀士氏が、北朝鮮が抱く半島統一の野望について解説する。* * *南北軍事境界線がある板門店 北朝鮮が核を手放す可能性は皆無に近い。北にとって「38度線の南にあるソウルや釜山は共和国(北朝鮮)の領土の一部」であり、そこを「侵略主義者の米国とソウルの傀儡政権が不法に占拠している」というのが彼らの信念なのである。 そして、北朝鮮は在韓米軍の縮小・撤退の動向を窺いながら時間稼ぎをして核放棄の圧力を凌ぎ、ミサイルの射程延長、弾頭の小型化、軽量化を進めてきた。 この時、北朝鮮の追い風となるのが、韓国内で勢力を拡大する対北融和派だ。朴槿恵大統領を弾劾に追い込んだ韓国国民は、既得権益を独占する保守層に強い怒りを抱いている。また、現在の韓国では2代続いた保守政権の反動で「次は北朝鮮と話し合いたい」と考える融和的な国民が増えている。 加えて、北朝鮮の影響が強い労働組合と教職員組合の懐柔策が効を奏し、韓国内では北朝鮮への対決姿勢が薄まっている。言わば、「精神的な武装解除」が進んでいるのだ。 しかも、次期大統領の有力候補である最大野党「共に民主党」前代表の文在寅氏や城南市長の李在明氏はいずれも対北融和派であり、同じ民族同士の話し合いによる平和統一が可能と考える。前国連事務総長の潘基文氏でさえ対話優先論をとっている。 対北融和派は、「米韓が軍事力をチラつかせるから北朝鮮はやむを得ず軍事力で対抗する」という発想のため、まず韓国側から脅威を与える軍事力を取り下げるべきだと主張するだろう。精神面に加えて現実的にも在韓米軍の高高度防衛ミサイル配備反対運動が勢いを増しており、北朝鮮の対南攻勢が勢いを増す結果となっている。●たけさだ・ひでし/1949年兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、防衛省防衛研究所(旧・防衛庁防衛研修所)に教官として36年間勤務。その間、韓国延世大学に語学留学。米・スタンフォード大学、ジョージワシントン大学客員研究員、韓国中央大学国際関係学部客員教授を歴任。2011年、防衛研究所統括研究官を最後に防衛省を退職。その後、韓国延世大学国際学部教授等を経て現職。主著に『東アジア動乱』(角川学芸出版刊)、『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所刊)、『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』(PHP研究所刊)などがある。関連記事■ 北朝鮮の悲願 朝鮮半島統一が叶う日■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 韓国軍 安全第一と兵士気配り優先による平和ボケで弱体化■ 延坪島砲撃事件 北朝鮮難民の日本への不法流入を専門家懸念■ 拉致命じられ日本に潜入した韓国秘密工作隊の悲劇を描いた本

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    落合信彦氏が指摘 今後日本に牙を剥く「2つの核保有国」

     アメリカのトランプ新大統領の言動に世界が注目している。安倍首相も2月中旬、日米首脳会談を行い、新大統領との信頼関係構築を図ったが、過激な発言を繰り返すトランプ氏がリーダーとなったアメリカはいったいどこへ向かうのか? 作家の落合信彦氏が解説する。* * * 近著『そして、アメリカは消える』で指摘したように、あの国は50年以上かけて少しずつ劣化してきた。しかし、ここに来て劣化のスピードが急激に加速している。世論調査によれば、トランプの「入国禁止」大統領令を支持するアメリカ国民は49%もいる。残念ながら、アメリカ人も劣化してしまったのだ。 リーダーを見ればその国の国民のレヴェルもわかる。また、リーダーが劣化すれば、国民も劣化する。かつてケネディが大統領だった頃、アメリカは国家も国民も輝いていた。あの素晴らしい国は、いまや大きく変容してしまったのだ。 アメリカが劣化して世界の平和にコミットしなくなったことで、今年は全地球的に戦争勃発の危機に見舞われることになるだろう。 たとえばイランとサウジアラビアが火種になる可能性がある。シーア派国家のイランとイスラム教スンニ派の大国サウジアラビアは一触即発の状態だ。2016年1月には、サウジ政府がシーア派の指導者47名を「テロに関与した容疑」で処刑した。それにイスラム教シーア派指導者ニムル師も含まれていたことから、両国は国交を断絶。現在もさや当てを続けている。 もしこの2国が戦争になれば、プーティンがイランのことを支えるだろう。一方、これまでサウジアラビアを支えてきたアメリカは傍観を決め込むはずだ。なぜならアメリカ国内でシェールガスが産出されるようになり、アメリカにとってサウジアラビアが「原油の防衛線」ではなくなったからだ。また、トルコも戦争の震源地になる可能性がある。大統領のエルドアンは独裁色を強めていて、何をしでかすかわからない。 何と言っても日本にとって脅威なのは、北朝鮮だ。金正恩は日米首脳会談の真っ最中に弾道ミサイルをぶっ放し、挑発してきた。日本はそれに対し、「断じて容認できない」とお決まりのフレーズで声明を出しただけだった。 北朝鮮は、潜水艦発射型のミサイルを地上から発射するタイプに改造した新型弾道ミサイルであり、実験に成功したと主張している。発射準備に時間がかかる液体燃料ではなく固体燃料が使われたとも指摘されている。本当なら、発射の兆候がつかみにくくなり日本の安全保障にとって極めて深刻な事態だ。 他の国なら、隣国から何発も弾道ミサイルが発射され、目の前の海に撃ち込まれていたら、すぐ戦争になる。ここまでされて何もしないのは、日本くらいのものだ。日本は「ケンカ」を恐がっているから舐められて、北朝鮮の挑発がエスカレートするのである。 金正恩は異母兄の金正男を暗殺し、暴走を加速させている。アメリカが世界平和にコミットしないとなれば、金正恩にとっては大チャンスだ。習近平が金正恩をバックアップし、極東で戦争が始まる可能性もある。その時、日本は“2つの核保有国”と戦わなければならないのだ。アメリカの劣化により、世界はジャングル化した。日本人は、その中でどう生き抜いていくか、考えていかなければならないのである。関連記事■ 米の低レベル高校生、殺人事件が日常の街等をリポートした本■ 【ジョーク】ビンラディンとカダフィが金正日を飲みに誘った■ アメリカの原爆投下に戦争責任はないのかを真正面から問う本■ ディズニーランド アニメがメインコンセプトではないのだ■ トランプ氏取材した落合信彦氏「会話する価値なかった」

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    韓国を揺るがしたルサンチマン 不気味な「恨」が世界にもうずまく

    も、今回の米大統領選挙絡みである。 白人であることが罪である、という「ホワイト・ギルト」という概念がアメリカに吹き荒れている、と教えてくれたのは評論家の江崎道朗氏だった。インディアン虐殺や黒人差別の米国の長い歴史が白人に自己否定心理を生んできたのは分かるが、「ホワイト・ギルト」がオバマ政権を生み出した心理的大本(おおもと)にあるとの説明を受け、私は多少とも驚いた。トランプ氏は歪みを正せるか この流れに抵抗すると差別主義者のレッテルを貼られ、社会の表舞台から引きずり下ろされる。米社会のルサンチマンの病もそこまで来ている。「ポリティカル・コレクトネス」が物差しとして使われる。一言でも正しさを裏切るようなことを言ってはならない。“天にましますわれらの父よ”とお祈りしてはいけない。なぜか。男性だと決めつけているから、というのだ。 あっ、そうだったのか、これならルサンチマンまみれの一方的な韓国の感情論をアメリカ社会が受け入れる素地はあるのだと分かった。両国ともに病理学的である。 20世紀前半まで、人種差別は公然の政治タームだった。白人キリスト教文明の世界に後ろめたさの感情が出てくるのはアウシュビッツ発覚以後である。それでも戦後、アジア人やアフリカ人への差別に気を配る風はなかった。80年代以後になって、ローマ法王が非キリスト教徒の虐待に謝罪したり、クリントン大統領がハワイ武力弾圧を謝ったり、イギリス政府がケニア人に謝罪したり、戦勝国の謝罪があちこちで見られるようになった。トランプ氏は歪みを正せるか これが私には何とも薄気味悪い現象に見える。植民地支配や原爆投下は決して謝罪しないので、これ自体が欧米世界の新型の「共同謀議」のようにも見える。日本政府に、にわかに強いられ出した侵略謝罪や慰安婦謝罪もおおよそ世界的なこの新しい流れに沿ったものと思われるが、現代の、まだよく見えない政治現象である。 各大陸の混血の歴史が示すように、白人は性の犯罪を犯してきた。旧日本軍の慰安婦制度は犯罪を避けるためのものであったが、白人文明は自分たちが占領地でやってきた犯罪を旧日本軍もしていないはずはないという固い思い込みに囚(とら)われている。 韓国がこのルサンチマンに取り入り、反日運動に利用した。少女像が増えこそすれ、なくならないのは、「世界の韓国化」が前提になっているからである。それは人間の卑小化、他への責任転嫁、自己弁解、他者を恨み、自己を問責しない甘えのことである。2月28日、米上下両院合同会議で就任後初の施政方針演説に臨むトランプ大統領=ワシントン(AP=共同) トランプ氏の登場は、多少ともアメリカ国内のルサンチマンの精神的歪(ゆが)みを減らし、アメリカ人を正常化することに役立つだろう。オバマ大統領が許した「アメリカの韓国化」がどう克服されていくか、期待をこめて見守りたい。 

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    日本は「魔人」トランプとこう戦え

    第45代米大統領に就任したトランプ氏が早くも牙をむいた。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の離脱表明に加え、自動車市場をめぐり日本にも批判の矛先を向けた。徹底した保護主義を貫くトランプ流。日本にとっては厄介な存在だが、超大国に突如として現れた「魔人」と戦う術がないわけではない。

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    待ち受ける米国ファーストの災禍 トランプ流の何が危険なのか

    ランプ大統領が共和党をどこまでまとめ切れるのか、民主党がどこまで腹をくくって対抗できるのかで、今後のアメリカ政治の状況が変わってこよう。ポピュリズム色に彩られた大統領就任演説ポピュリズム色に彩られた大統領就任演説 そうした意味で、トランプ大統領がどのような政治を目指しているのか、見ておく必要がある。その手掛かりとなるのが「大統領就任演説」である。例年、大統領は議会に対して「一般教書(State of Union)」演説を行い、1年間の施政方針を示す。最初の年は「大統領就任演説」がこれに代わることになる。と、同時に「大統領就任演説」は4年間の統治の基本姿勢を示すものでもある。就任演説を行うドナルド・トランプ大統領=2017年1月20日(ロイター) トランプ大統領の就任演説は17分で、語数にすれば約1300語と、それほど長いものではなかった。通常、大統領の演説はホワイトハウスのスタッフであるスピーチライターが草稿を書き、大統領の側近がチェックし、最終的に大統領が承認する形で作成される。だが、今回はトランプ大統領が自ら原稿を書き上げたと伝えられている。トランプ陣営の広報担当者は「詳細な政策について話すのではなく、“哲学的なドキュメント”になるだろう」と話していた。確かに、トランプ大統領の就任演説では具体的な政策論はなく、基本的な理念を訴える内容になっていた。ただ、批判的な人は、「選挙運動中に行われた発言をまとめただけで、何の目新しいものもない」と切り捨てていた。 では、トランプ大統領は就任演説で何を語り、私たちは、そこから何を読み取ることができるのだろうか。結論的に言えば、極めて「ポピュリスト」的な内容であった。演説の最初の部分で、「今回の政権移行は単に政府の移行にとどまらず、ワシントンから国民への権力の移行である」と指摘している。従来の政治はワシントンの一部のエリートによって行われ、多くの国民は恩恵に浴していなかったと、既得権を享受する政治家を批判している。「ワシントンは繁栄したが、人々はその富を共有することはできなかった」とも語っている。 これは言い換えれば、ポピュリズムの最も典型的な主張である。ポピュリズムは「エスタブリッシュメント対反エスタブリッシュメント」という構図で主張される。エスタブリッシュメントとはワシントンのエリート、すなわち政治家であり、官僚であり、弁護士であり、企業のロビイストである。反エスタブリッシュメントは、トランプ大統領が言うところの「忘れられた人々」である。すなわち、今回の大統領選挙運動に即していえば、トランプ候補の最大の支持者となった白人労働者階層である。トランプ候補は、そうした人々に対して、演説の中で「アメリカはあなたたちの国だ」と訴えている。そして、「現在、すべての人があなたたちに耳を傾けている」、「再び忘れ去られることはない」と続ける。  そして、今までの政府の政策を批判する。「何十年にもわたって、アメリカアメリカの産業を犠牲にして海外の産業を豊かにしてきた」、「海外の軍隊に補助金を与え、国内の軍事力の枯渇を許してきた」、「企業は閉鎖され、海外に逃れ、その結果、何百万という労働者が取り残された」と現状を批判し、今後の政策の方針として「貿易、税制、移民、外交に関するすべての決定はアメリカの労働者と家族に恩恵をもたらすように行われる」と語っている。具体的には、雇用を海外から取り戻すこと、道路や橋梁など国内のインフラを整備することなどを指摘し、「アメリカ製品を購入し、アメリカ人を雇う」のがルールになると、極めて保護貿易的な政策を主張している。外交政策に関しても「それぞれの国が自国の利益を最優先する権利がある」として、従来の国際協調路線からの離脱を示唆している。 こうした政策を実現するためには、国家に対する愛国心と忠誠心が必要であると説く。さらに軍事力の強化の必要性を説き、「アメリカ人が団結すれば、誰もアメリカを止めることはできない」と語っている。既存秩序に挑戦、国内の分裂と国際的孤立化も既存秩序に挑戦、国内の分裂と国際的孤立化も “哲学的なドキュメント”かどうかは別にして、極めて情緒的な内容である。ワシントン批判は、その対象になるのは民主党議員だけでなく、共和党議員も例外ではないだろう。トランプ大統領は選挙運動期間中に「アメリカ人との契約」と題する政策綱領を発表し、議員の任期制の導入、ロビー活動の禁止を重要課題に掲げている。これも非エスタブリッシュメントの喝采を受ける内容である。トランプ大統領はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉、あるいは離脱を主張している。だが、NAFTAを批准したのは共和党であり、TPPを推進しているのは共和党を支持する経済界である。米ワシントンでの「女性の大行進」。参加者らはトランプ大統領に抗議し、前日に大統領就任パレードが行われたペンシルベニア通りを埋め尽くした=1月20日 新自由主義に基づく国際主義は、共和党の基本政策であり、経済界の望むところである。とすれば、共和党は反国際主義、反自由貿易主義というトランプ政権の主張をどこまで受け入れることができるのだろうか。富裕層の減税は共和党の政策と一致するが、巨額のインフラ投資は共和党の望むところではない。巨額のインフラ投資を支持しているのは民主党である。 ただ、その民主党もトランプ大統領の“正統性”に疑義を訴えており、基本的に反トランプである。政策を取り上げて論議すれば、さらにトランプ政権と民主党、共和党の亀裂は明らかになってこよう。既にアメリカ政治の両極化、分断は深刻な問題となっている。トランプ政権は、その分断をさらに拡大する可能性がある。 国際的にも同様な危険性が見られる。戦後、アメリカを中心に自由貿易体制、安全保障体制が構築されてきた。トランプ大統領は、「アメリカ第一主義」を唱え、そうした既存の秩序に挑戦しようとしている。アメリカが世界の指導者でありえたのは、強力な経済力と軍事力を背景に、国内市場を開放し、積極的に国際的公共財を提唱してきたからである。トランプ政権の内向き政策は、そうした道徳的指導者としてのアメリカの優位性を放棄することを意味する。 既にヨーロッパの指導者は厳しい批判を始めている。トランプ大統領は「アメリカ第一主義」に基づく、どのような世界秩序を想定しているのであろうか。就任演説で「各国は自国の利益を最優先する権利がある」と述べているが、歴史が教えていることは、国内利益と国際利益の調和である。リバイアサン的な国際秩序は、混乱だけでなく、災禍ももたらすことになるかもしれない。

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    金正恩の北朝鮮にそっくり? 側近重視のトランプ政権は必ず道を誤る

    めて穏当な発言を行った。トランプ政権において日本側が特に関心をもっているのは、貿易問題を別にすれば、アメリカの対中国政策と日米同盟に対するスタンスである。それに対してティラーソン氏は、南シナ海における中国の海洋進出に懸念を表明すると同時に、尖閣諸島には日米安保が適用されるとした従来の考えを踏襲すると発言した。 一方、マティス氏は日米同盟には直接ふれなかったものの、同盟関係の重要性を尊重すると述べた。日本外交の基軸である日米同盟については、選挙期間中にトランプ氏から見直しについて言及されていただけに、日本側にはこれらの発言に一応の安堵感が生まれた。 ティラーソン氏はエクソンモービルの最高経営責任者(CEO)であった時代に築いたロシアとの近すぎる関係が懸念され、公職の経験も全くない。しかし、それを除けば大企業経営者として、その指導力と組織運営について高い評価を得ている。マティス氏は、アメリカの軍関係者からは「軍神」とあがめられる存在であり、その実績と戦争についての哲学と考察について最高水準の人物であるとされる。したがって、本来ならこうした国務長官と国防長官からなる外交の二本柱の発言から、トランプ政権の外交・安全保障政策について、ある程度の見通しは立つはずであり、安堵してもいいはずだった。 しかし、20日の就任演説でそれは大きな落胆に変わった。演説でトランプ氏は、選挙戦のように常軌を逸した発言をするのではなく、現実的な状況を踏まえた上で、壮麗な言葉で理想を語るのかと思われた。だが17分弱の演説では「アメリカ・ファースト」を繰り返し、今のアメリカがいかに外国からダメージを与えられているかを説き、自分こそがアメリカを強くする指導者であると語った。そして選挙期間中のキャッチフレーズである“Make America great again!”で締めくくった。就任式で演説するトランプ米新大統領=20日、ワシントン(AP=共同) 本来、就任演説とは選挙演説と一線を画し明るく前向きの姿勢を示すものだが、最初から最後まで、暗く、ネガティブに、そして怒りに満ちた選挙演説と変わらない就任演説だった。もちろんそこには、アメリカがこれまで戦後長く掲げてきた「民主主義」や「自由」「人権」などといった言葉はなく、「アメリカ」だけが躍った。 つまり、選挙中のトランプ氏のスタンスは、大統領のトランプ氏と何ら変わらないということである。トランプ政権はまさしく「トランプ氏自身の政権」であるということを認識しておかなければならない。政権側にとって使い勝手がいい「二層構造」 これまで、アメリカの政策について分析し言及する場合には、大統領、議会、圧力団体、世論、シンクタンクなど様々な要因を絡めて何らかの結論を出したり、見通しを示したりするのが常だった。そしてその見通しがはずれたとしても、大体は想定の範囲内に収まった。それは他の主要な先進国でも同様である。 しかしトランプ政権においては、「金正恩の北朝鮮」「プーチンのロシア」において、それぞれの国の政策を予想するような色彩を帯びてきた。つまり、指導者が何を考えて何をしようとしているのか、当人の頭と心の中を読むことが極めて重要性をもつようになったということである。だからこそ、トランプ政権は不確実性をもち、外部からの予測が難しくなったことを意味する。 もちろんアメリカは北朝鮮やロシアと政治機構は違うし、アメリカ社会の成熟度も高い。北朝鮮やロシアとは違って、より豊富で質の高い情報も報道されている。上下両院でトランプ氏の共和党が過半数を占めているといっても、党内は必ずしも一枚岩ではない。しかしトランプ氏の頭と胸の内は当人以外わからない。その意味での不確実性は北朝鮮やロシアに近いものがある。 アメリカの閣僚は、議院内閣制の日本のように大臣=ministerではなく、長官=secretaryである。わかりやすく言えば、アメリカの大統領は行政府で図抜けて権力をもち、長官はそれに従う存在だということである。その上で、トランプ氏はこれまでの大統領の中で、最も自分中心の指導者である。もちろん、実際にトランプ氏に会った安倍首相が言うように「人の話を聞く人だ」という側面もあるが、基本的に「自分」の考えを極めて大事にする。したがって、そんな中での国務長官のティラーソン氏や国防長官のマティス氏の裁量は限定的である。 さらに、アメリカの政権内の二層制を思い出しておく必要もある。それは閣僚と、一般に「補佐官」という名称で知られるホワイトハウス・スタッフとの関係である。そして補佐官たちは閣僚と同様か、時に閣僚以上に力をもつ。またこの役職は議会で承認を得る必要もないし、政策について証言することもない。したがって、外部からみれば政策の状況はみえにくい一方で、政権側にとっては使い勝手がいい。 外交・安全保障を担うポストでいえば、国家安全保障担当補佐官がそれにあたり、トランプ政権においてはマイケル・フリン氏がその任にあたる。同氏はオバマ政権で国防情報局長に就任したものの、わずか2年で退任。そこから反オバマ派に転じ、多くの安全保障関連の主流派の専門家たちがトランプ氏に背を向ける中で、いち早くトランプ支持を打ち出した。今回、国家安全保障担当補佐官の座を射止めたもの、その功績からである。 ところが、国防長官のマティス氏が多くの軍人から最高の敬意をもって迎えられたのに対して、フリン氏の人物像には疑問符をつける声が少なからずある。オバマ政権を2年で退任を余儀なくされたのも、不穏当な発言を繰り返したからである。ニクソン政権の再来で恐れる中国との「間違った取引」 ならばマティス氏が政権で主導権を握りそうなものだが、ここはトランプ政権である。前述したように、自分中心のトランプ氏は、自分に近い人物の声を重視する。米大統領ならず世の権力とは基本的にそのようなものだが、トランプ氏のこれまでの行動を見てみるとその傾向が非常に強い。 したがってこの政権においては、先ごろ上席顧問として加わった娘婿のジェレッド・クシュナー氏が実質的なナンバーツーとなり、副大統領のマイク・ペンス氏、首席補佐官のラインス・プリーバス氏、戦略担当官兼上級顧問のスティーブ・バノン氏のトロイカが、その次に位置する存在になると推測される。閣僚人事に関する書類に署名するトランプ米大統領(前列左端)=20日、ワシントンの連邦議会議事堂(ロイター=共同) そんな身内・側近政治だから、外交・安全保障も、結局のところ以前から近しい関係を打ち立てていたフリン氏になるのではないかとも思われるのである。だとすると、日本は国務・国防長官が言及した「同盟重視」という前提で楽観することはできない(フリン氏は昨年来日した際に、日米同盟には肯定的だったと言われるが)。そしてニクソン政権が行ったようなホワイトハウスにおける側近政治ということになれば、国務省・国防総省主体のそれよりも、その方針は非常に見えづらくなる。 さらに就任9日前の1月11日にトランプ氏が行った記者会見での発言にも注目しておく必要がある。この席でトランプ氏はメディア批判を行い、また自らの事業の運営を息子たちに任せて、自らは今後かかわらないことを述べた(それについては説明が不十分で、利益相反の懸念はまだ残ると指摘された)。 ただそれ以外は、メキシコとの間の壁建設や雇用、産業・貿易問題が中心で、外交や安全保障について多少ふれたものの、それを正面から語ることはなかった。そしてそれは1月20日の就任演説でも同様であった。ということは、トランプ氏の関心は世界全体をにらんだ外交・安全保障戦略ではなく、アメリカが直接的に関係するシリアやIS(イスラム国)など一部の地域や分野に限られ、対外的な関心は基本的に通商問題なのではないかということである。 さらに言えば、筆者がかねてから、トランプ氏を「ボトムライン大統領」(損得勘定の大統領)だとして懸念しているように、例えば貿易問題で中国から一定の果実を得ることができれば、アジアの大きな波乱要因になっている中国に対する安全保障問題には関心が薄くなるのではないか、そして「間違った」取引をするのではないかということである。 これらは全て推測である。しかし「トランプのアメリカ」においては、「金正恩の北朝鮮」「プーチンのロシア」と同じように、推測で推し量るしかない。それこそが2017年の世界における「トランプのアメリカ」のもつ大きな不確実性なのである。

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    「トランプ後の世界」はこうなる! 米国発金融危機のリスクシナリオ

    を提供しつつその市場規模が加速度的に拡大してきた背景がありました。 トランプ政権の誕生を今般受けて、アメリカを中心として世界各国で採用されてきた低金利政策の行方が混沌としてきていることは債券市場にとってとてもネガティヴな事象として受け止められてきています。 今年に入ってから急激にドル安に転じ始めているのは、トランプ政権誕生が近づくにつれて米国でのインフレを懸念する動きが台頭してきているからだと言って間違い無いと思います。 経済学的には、表面上の金利差ではなくインフレ格差で通貨価値は決定されていきます。今後の米国の物価が他国以上に上昇すると見ているからこそドル安が進展してきているということだと筆者は考えます。 低迷する物価状況が常態化していくという「ニューノーマル」という言葉が昨年まで流行っていましたが、今後は物価が大きく上昇するという「インフレ」への懸念がトランプ政権下で醸成されてくることはトランプ氏の発言を見ていても驚くことではありません。悪いインフレの到来減税で税収が落ち込み、債券金利が上昇 トランプ政権が唱えている金融財政政策の根幹は所謂「上げ潮」路線です。米国の財政が健全化政策から拡大政策への歩みだしたという話になります。 端的に言えば、返済能力を度外視して借りれるうちにより多く借りておこうというのが今回の財政拡大政策の特徴と言えます。財政膨張政策と言っていいかもしれません。 民主党のクリントン候補は増税によって米国の債務返済能力を確かなものにしつつ、借りれる範囲の中で現状の債務を維持していこうという極めてまっとうな意図を大統領選挙中に表明していました。増税を行う間は緩和的金融政策を中央銀行が行い、増税に伴う景気後退リスクを抑えていこうという戦略でした。ドルの価値が増税で担保されるため持続的に海外の資金を引き付けやすいという利点がありました。しかし一方で増税という国民に痛みをもたらすものでもあり不人気な政策でありました。 一方で、トランプ新大統領は大幅減税で景気浮揚を行い、その後で経済拡大の中で自然と国庫が潤うことを期待するという政策を志向しています。このことを日本では「上げ潮」政策と言います。 国民にとって増税という痛みもなく、しかも景気浮揚が可能で税収の自然増も期待できる一方で、景気浮揚があくまで期待値にすぎないので実際に景気が浮揚しないというリスクがあります。その場合は国家債務だけが拡大してしまい、将来の増税を人々が予想してしまうために、将来に備えて貯蓄が増えて消費が低迷し有効需要がさらに低迷するという危険性も有しています。CIAでの演説後、同本部を出発する トランプ大統領=1月 21日悪いインフレの到来 経済学部の大学生が真っ先に学ぶ言葉に「乗数効果」という言葉があります。景気浮揚策の持つ効用がどれほど高いのかということが問われる数値のことを指します。 これが高ければ高いほど財政拡大策の景気浮揚効果があるわけですが、需要が満たされていたり、供給に問題がある場合はこの数値は低いものとなります。選挙前からこの乗数効果がどうも低そうだということが市場では問題視されてきていました。 というのは、どんなに減税されても一人一人が車を2台、3台も必要とするわけではないし、一人はどう頑張っても1日24時間しかないわけなので働き口がたくさん供給されても2つも3つも職を持てないということです。 米経済は既に潜在成長力を全て出し切っている状況で失業率も4%台となっており完全雇用を実現している水準といっても過言ではない状況です。無理に景気を拡大していくような状況ではないといっても良いのです。経済需要という水が既に満杯のバケツにさらに水を注ぐように、景気浮揚のための折角のお金が無駄に使われてしまい、ただただ、インフレを高進させるだけになるのではないかということが懸念されています。 上記の観点から、米連邦準備制度理事会(FRB)の理事の中には今般の上げ潮路線に異論を唱える理事も多く出てきており、また、イエレンFRB議長をトランプ候補は従前敵視する発言をしてきたため、乗数効果が低い財政膨張策への疑問から任期終了前のイエレン議長辞任の可能性もなきにしもあらずです。政権と中銀の考え方の不一致というこのことだけでもデリバティブ市場債券市場を大きく揺るがすことになりますが、さらに懸念があるのは、財源の裏付けがない大幅減税に言及していることです。インフレは不動産価格の上昇に繋がらない まず、個人の所得税率について、最大38%である累進課税を最大33%にまで減税しつつ、定額控除の拡大や加えて、相続税の廃止を主張しています。このほか、所得税率区分を減らすことによる税還付制度の簡素化や、連邦遺産税の撤廃を挙げています。更には法人税を35%から15%へ引き下げると公約しています。 投資運用会社が成功報酬として受け取る「キャリードインタレスト」向け税制優遇措置の撤廃や米企業が海外に滞留させている利益への一時課税などもカウンターで提案しているものの、これらの税制改革を行なった場合、当然のことながら減収がイメージされています。その額は今後10年間で4兆ドル以上という巨額の連邦政府減収が予想されており、当然、このことは米国債の格下げを想起させることにつながり債券金利の上昇となっていくことが想定されます。ロンドン中心部のトラファルガー広場に集まった トランプ大統領への抗議者ら=1月21日 この物価の上昇や債券金利の上昇の影響を考える上で先行しているのがイギリス金融市場の動きです。長期金利が大幅にあがっていく場合、BREXIT(英国の欧州連合離脱)後のイギリスの国債金利の推移がいい例ですが、イギリスの場合では先ずBREXITで自国通貨ポンドが大幅に下落し、このことで更に輸入物価があがっていき、これまでの金融緩和政策の維持が不可能となり、続く債券市場のパニック的な債券売りで株式市場が揺らぎかねないという流れでもって大きな不確実性が生まれつつあります。株式市場の揺らぎの前には実際に英金利の上昇に伴うロンドン不動産価格の低迷がその事象を示しています。 トランプ政権下での物価上昇に伴う今後のドル通貨の下落は、トランプ氏の保護貿易主義とも合致しているために政権の後押しをもって加速していくことになりましょう。このドル通貨の下落は輸入物価上昇を通じて更に物価を押し上げていき低金利政策の大幅な変更を伴いつつニューヨークなどの米国不動産価格の大幅下落につながっていくことを意味しています。大幅金融緩和で成り立ってきた高位推移してきた不動産価格が、決不動産価格の上昇してインフレ=不動産価格の上昇に繋がっていないのが現状の英国の状況であり今後は米国の不動産市況であると言えます。 低金利政策下での活発な不動産市況あってこその拡大する不動産ローン市況であり、その低金利政策や不動産ローン市場に多くを依拠するのがデリバティブ市場の4割程度を占めるドル市場であり、米国金融機関であり、また、株式市況の安定推移である以上、物価をめぐるパラダイムシフトは米金融市場の本質である債券市場を大きく揺るがしひいては国際金融市場に大きな市場変動を呼ぶ恐れがあると思料します。 個々の人々の生活の基盤である不動産や住宅市場に大きな波紋が起きるならば、そこから生まれるストレスを発散させるためにも外交で強気にでていくトランプ政権の姿が予想されます。米国不動産市況の悪化がデリバティブ市場の揺らぎを通じて世界中に金融不安を拡散していくことと相まって、米国発での対外摩擦の増加という不均衡の拡大、ポジティブフィードバックこそ、トランプ政権下での確度の高いリスクシナリオであると筆者は考えています。

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    トランプ大統領就任演説で何を悟るべきなのか

    渡瀬裕哉(早稲田大学招聘研究員) トランプの大統領就任式の演説が終わりました。日本でも演説内容について評論が行われていますが、正直言って読むに耐えかねるものが多くて、ほとんどサラサラと目を通しただけの状況となっています。米ワシントンの連邦議会議事堂で会合を終え、ミッチ・マコネル共和党上院院内総務(右から2人目)らと歩くドナルド・トランプ氏=2016年11月10日(AP) この就任演説の内容を正しく理解すること、現在の米国内部及び共和党内部での権力闘争の状況を伺い知ることができます。今回はトランプの大統領就任演説を通じて、それらの状況を概観していきたいと思います。共和党保守派が標榜する価値観の勝利を宣言した演説 トランプ政権の反ワシントンの姿勢は、米国における伝統的なパトリオティズムの発露に過ぎません。建国の歴史から連なる反ワシントン、反連邦政府の姿勢は米国共和党にとってはスタンダードな考え方です。 そして、米国共和党、特に共和党保守派はこの考え方を強く支持しています。 トランプは合衆国への忠誠、つまり自由主義と保守主義という米国の規範を規範を共有することによって、米国民は共通の理念の下に団結(分断を乗り越える)というイデオロギーを表明しました。 これはポリティカル・コレクトネスによって人種・性別・所得・学歴などで人間を分類する思考法を持つリベラルに対する強烈なアンチテーゼを示したことになります。(リベラル派それを多様性と呼んでいます) 民主党と共和党では何によって国民の一体性を取り戻すのか、という基本認識にズレがあり、この演説は共和党保守派が標榜する米国民を統合する価値観の勝利を宣言する演説であると捉えるべきでしょう。 このような分析はトランプ特有のものではなくて共和党保守派は常に主張してきたことであり、同演説はトランプ政権内での共和党保守派の力の強さを示すものだと言えるでしょう。ワシントンのリベラルなエスタブリッシュメントとの戦い トランプは民主党や共和党主流派などのリベラルな傾向がある人々と決定的に対立しています。これらの人々が集うワシントンは腐敗の象徴とみなされており、トランプはそれらの人々が雇うロビイストをワシントンから一掃する形で権力闘争を行っています。 そして、今回の大統領選挙結果はメルセル財団らのドナー、ヘリテージ財団の政策、ティーパーティーらの選挙力を背景とした共和党保守派のエスタブリッシュメントへの勝利であり、その戦いに決着をつけるという決意表明が反ワシントン演説の本質です。 つまり、現在実行中の政治闘争の方針を示していることになります。共和党内部でリベラルな主流派の排除という権力構造の変化は閣僚人事にも反映されており、今後の政策の方向性が極めて保守的なものになっていくことを示しています。 ちなみに、日本の外交面のカウンターパートの基本は上記のエスタブリッシュメントに紐づいた人々であり、昨年の8月に共和党系でもあるにも関わらず、ヒラリー支持を打ち出して全面排除されている状況です。トランプ政権は共和党保守派の政権である共和党保守派内で衰退するリバタリアン陣営 今回の演説の一部で保護主義的な発言も見られましたが、それらはトランプ政権内の共和党保守派内での権力構造の変化も表しています。 共和党保守派内では完全な自由主義を標榜するリバタリアンの勢力が資金面・政策面で大きな力を持ってきました。具体的にはコーク財団を中心とする勢力であり、共和党の大統領候補者や連邦議員は同財団の影響力を強く受けてきました。3日、米ワシントンで新議会が開会、下院議長に共和党のライアン氏が再選され祝福する同党議員ら(UPI=共同) 日本人でも多少関心がある人ならコーク財団の名称と影響力を知っていますが、実は今回の大統領選挙ではコーク財団はトランプの支援を行っておらず、同財団の系列下の関係者などからトランプに人材が流れる状態が発生しています。 コーク財団の影響力の低下は避けがたい状態となっており、共和党議会内部のパワーバランスもトランプに有利に働く可能性が高まっています。また、同財団自体も政治活動を縮小する再編を志向しており、今後は研究活動などに重点を移行する動きが出ています。 この演説内容は政権内の共和党保守派内での権力闘争の結果として、リバタリアンの影響力が低下していることを裏付けるものとなっています。日本人から見ると何が重要なのか分からないかもしれないですが、米国政治の動向を具体的に考える上で重要な変化です。トランプ政権は共和党保守派の政権である 今回のトランプ大統領の就任演説は、長年米国で主流を占めてきたリベラル勢力(共和党・民主党含)の排除、共和党保守派内部におけるリバタリアンの影響力低下を示すものとなりました。 極めて政治闘争的な意味合いを前面に押し出した戦闘的な演説だったと思います。イデオロギー的な抽象的な意味ではなく、具体的な政治闘争が伴う保守革命が確実に進んでいるということです。 人材面でも大きな変化が発生しつつあり、従来までの人脈のガラガラポンが起きていくことになるでしょう。仮に若くて実力がある人々にとっては政治的なチャンスが訪れている状況です。 米国大統領の演説とは、誰がその政権を作ったのか、という選挙のプロセスが色濃く表れるものであり、それらを理解した上で政策の予測と具体的な対策を考えることが必要となります。少なくとも共和党保守派の考え方についてほぼ無理解・偏見が溢れている日本の現状を変えることが必要です。 トランプ政権を創り上げた人々は共和党保守派であり、それらの人々を軽視してきた日本外交は危機的な状況に立たされていくことになるでしょう。 表面的な文言の意味を探る訓詁学のような分析は意味がありません。トランプが述べているように実行の時代です。就任演説について論評するだけの学者は不要であり、受け身ではなく自らが生き残るために誰に何をどのようにアプローチするべきかを考える実務家の時代が来たと言えます。

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    「最もいい加減な人種」と非難、トランプ氏とメディアの対立激化

    【WEDGE REPORT】佐々木伸(星槎大学客員教授) ホワイトハウス入りしたばかりのトランプ米大統領は就任式に集まった聴衆の人数などをめぐって激しいメディア非難を繰り広げ、双方の不信は極限まで高まってきた。対立の大きな要因は「批判に衝動的に反応する」(アナリスト)トランプ氏の人格にあり、メディア側も対応に苦慮している。「大きな代償を支払うことになる」 米紙などによると、トランプ氏が今回、メディアに激怒したのは大統領就任式の翌日(21日)の朝だった。テレビをつけてネットワークのニュースを見たところ、就任式に集まった聴衆が前任者のオバマ氏の就任式と比べて格段に少なかったと報じられた上、ガラガラの就任式会場の1つが映し出された。 トランプ氏は怒りを抱えたまま、バージニア州ラングレーにある中央情報局(CIA)本部を訪問、任務の最中に殉職した職員を称える記念碑を背景に幹部職員約300人を前に15分程度のスピーチを行った。この日までトランプ氏はCIAなど情報機関が同氏のモスクワでのわいせつスキャンダルを漏らしたと非難し、両者の緊張が続いていた。 CIA訪問は本来ならこうした緊張を緩和して情報活動を鼓舞する機会のはずだったが、トランプ氏がCIAの活動に触れたのはほんの一瞬。同氏は大半をメディアへの不満、就任式の人数が不当に低く報じられたこと、さらには政治的支持層や自分の知的レベルの高さなどに終始、自己顕示欲をあらわにした。 トランプ氏は「就任式の聴衆は150万人はいたように見えた。メディアは嘘つきだ」と指摘。「私はメディアとやり合っている。彼らは地球上で最もいい加減な人種だ」と述べ「連中は大きな代償を支払うだろう」と恫喝した。トランプ大統領とメラニア夫人(右) 殉職者の碑はCIAの中で最も敬われる場所。そうした“神聖な”碑を背景にしてCIAと関係のない話をしたことに前長官のブレナン氏は「見下げた自己顕示欲だ。恥を知れ」と怒りの声明を発表した。 トランプ氏はわいせつスキャンダルを漏らしたのが前長官と思い込んでいるフシがあり、先週には「彼は偽ニュースの漏洩源」と罵っていた。しかしある職員は「大統領は単に情報機関との関係を強めるために来たと言えば良かったのに、ほとんどは就任式の聴衆の人数の話だった。場違いなスピーチだった」と語っている。 トランプ氏は就任式の聴衆人数について、側近らにメディアに反撃しろとどやしつけたと伝えられているが、この日、CIAからホワイトハウスに戻ったスパイサー大統領報道官はこうしたボスの怒りを記者団にぶつけた。報道官はトランプ大統領の就任式はこれまでで最も聴衆が多かったと反発。 その証拠として、就任式が行われた20日のワシントンの地下鉄の乗降客を持ち出し、2013年のオバマ大統領再選の際の式典では31万7000人だったのに対し、今回は42万人だったと主張。しかし、地下鉄当局によると、実際にはオバマ氏の時は78万人で、今回の57万人よりも多かった。自己愛性人格障害? スパイサー氏は「メディアは大統領の責任を問う話を報じているが、メディアにも同様に責任を取らせる」と捨て台詞を残して、一切の質問を受け付けずに5分で会見を打ち切るというまさに異常事態になった。自己愛性人格障害? こうしたトランプ氏のメディア不信は選挙期間中からのものだが、当選後最初の記者会見(11日)では、わいせつスキャンダルの内容を報じたニュースサイト「バズフィード」を罵倒したのは無論のこと、そうしたスキャンダルが出回っていると伝えたCNN記者にも質問をさせなかった。トランプ米新大統領の就任式会場に詰めかけた大勢の人たち=1月20日、ワシントン トランプ氏は記者会見を開いて記者とやり取りをするのを嫌悪しており、その代わり、ツイッターで一方的に“トランプ砲”を発信するのを好んでいる。米自動車産業やトヨタがメキシコに工場を建設することなどに直接文句を付け、女優のメリル・ストリープさんの弱者軽視の批判にもすぐに反撃した。 それも早朝からツイートしており、「ほとんど寝ていないのではないか」(米専門家)と思われるほど。こうした自分への批判や悪口が気になり、言われると衝動的に反応していることに、一部には「自己愛性人格障害」の兆候とのうわさもささやかれている。この症状はナルシストに多いことでも知られる。 米国では、新政権発足後、100日間はメディアも政権批判は控えて見守るという習わしがあるが、トランプ政権に限ってはそれは当てはまらないようだ。それどころかメディアとの対立がさらに激化すれば、トランプ大統領が何を考え、何をやろうとしているのかが国民の目から遠くなってしまう恐れがある。 オバマ氏は退任会見で「私は称賛されるのを求めない。権力者を批判するのはメディアの仕事だ」と述べた。トランプ氏にこうした大人の対応を期待するのは最初から無理なのかもしれない。

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    韓国が騒げば騒ぐほど、トランプの眼中に入ってくる「慰安婦像」

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) トランプ大統領の政策にとって韓国が占める位置はどのようなものだろうか。そこから、現在の日韓で大きな関心を集めている慰安婦像問題を考えていきたい。1月21日、トランプ米大統領就任を伝えるテレビニュースが流れる大阪市内の大型モニター トランプ政権にとって韓国は、経済的側面と安全保障のふたつが主要な関心事だろう。「米国第一主義」を就任演説でも強調し、また米国民の雇用の最大化を主軸にしていることは、トランプ氏が以前から公約で明言してきたことで目新しいことはない。 また就任演説直後に、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の合意からの離脱を表明し、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を要求した。TPPもNAFTAも多国間の自由貿易圏を生み出すための国際的な枠組みである。この両協定に対して、トランプ大統領が否定的であることから、保護貿易主義を米国がそのまま採用すると考える意見もあるが、それは即断すぎる。むしろ二国間の交渉によって、自国に有利な形での「自由貿易」路線を継続するのが主眼だろう。 このような通商・貿易政策の戦略は、米国が1980年代から90年代前半にかけて、特に日本を中心に適用してきたものを想起させる。例えば、当時の米国の歴代政権は、日本の「構造問題」を指摘し、その解決を政治的な権力を多様に駆使して実行を迫った。 規制緩和や民営化路線を強行すれば、日米の貿易問題が解消すると米国の当局者は理解していた。米国の貿易赤字は、いわば日本の「構造問題」によって米国の産業・企業が日本で「条件を同じくして」競争できないために発生していると考えたのである。 さらに為替レートの強制的な調整も実行を迫られていた。円安ドル高がこれまた米国の貿易赤字をもたらしているとして、円高ドル安路線への政治的転換を迫った。米国はこれを他国にも迫り、それがいわゆる「プラザ合意」として各国協調でのドル安(他国通貨高)政策に結実した。 このような米国の日本への「構造問題」解決圧力と、また強制的な円高政策は、日本に米国からの積極的な政治的圧力がなくなった後でも深刻な弊害をもたらした。つまり日本の停滞の主因は「構造問題」であるという誤解の蔓延、さらに“円高シンドローム”という事実上のデフレ政策の採用である。 後者はわかりやすくいえば、円高を続けるということは、市場に出回るマネーの通貨量が少ないので、マネーの価値が(モノやサービスに対して)高まることになるからである。マネーの価値の高まり、すなわちデフレは人の価値よりも超えてしまい、失業や自殺者数の増加に結び付いた。いわば、80年代から続く米国の政治的呪縛と、それが事実上解けた後でも日本の政策当局の構造問題やデフレ政策への妄執によって「失われた20年」という大停滞が続いた。韓国で巻き起こる「構造改革」ブーム 実は韓国はすでにこの「失われた20年」の罠にどっぷりと浸かっていると筆者は判断している。すでに米国と韓国の間では、米韓自由貿易協定(FTA)が締結されているため、韓国の政治・経済界そしてメディアで、韓国の経済的低迷は、例えば財閥系企業がグローバル化に不適合な旧体質にあるという、かつての日本のような批判が主流になっている。いわば韓国版の「構造改革」ブームとでもいえる現象が起きているのだ。 これはまさに米国との通商交渉のひとつの帰結とみてもおかしくないだろう。確かに規制緩和などが必要な領域があるだろう。しかし本連載の第1回でも指摘したように、現在の韓国経済の問題は持続的な総需要不足であり、その解決は構造改革ではまったくない。「失われた20年」の日本と同様に、積極的な金融政策と財政政策による総需要不足を解消するしかないのである。 だが、韓国の経済界や言論界で、このような当たり前な総需要刺激政策を唱える論者、特に金融政策の転換を主張する人は皆無である。「リフレ派なき韓国経済」といっていい。またこのことが、金融政策を事実上デフレスタンス(=ウォン高)のまま放任することにつながり、「ウォン高シンドローム」によって経済の低迷はより確実なものになるだろう。 確かに財政政策の拡大の余地があるが、日本が90年代に積極的な財政政策を行っても停滞から脱出できなかったように、財政と金融の両方の政策が協調性をもって大きく緩和に転じない限り、財政政策はムダ打ちになる可能性が大きい。それはますます通常の景気刺激政策への失望を招き、より韓国を構造問題主義に傾斜させていき、自国を停滞の罠に陥らせるだろう。 ところでトランプ政権が米韓FTAの再交渉を提起する可能性を、韓国内でも懸念しているようだ。ただし、米国のいわゆる貿易赤字にしめる韓国の位置はそれほど重要ではない。筆者の現在の見通しでは、FTA再交渉の緊急性は高くないと判断している。 いま、トランプ政権が問題視しているのは、最大の貿易相手国の中国である。トランプ政権は中国との通商・貿易交渉で強気の交渉-国内各経済部門の規制緩和、対外資本投資の自由化など-を展開する可能性が大きい。もしこの対中交渉が決裂し、米国が報復的な高関税政策を中国に適用した場合、中国の輸出産業に中間財を供給している韓国の産業がダメージを負うことがあるかもしれない。むしろ韓国にはそちらの懸念の方が大きいだろう。「慰安婦像」で決定的になる政治停滞 もっとも韓国経済からみれば、すでにFTA交渉で植え付けられた「構造問題主義」が蔓延してしまったほうがよほど深刻のはずだが。さらに為替レートの動向については、従来からの「為替操作国」への認定を、トランプ政権は強く意識する可能性が大きい。そのために過去に実行されていた疑念のある為替介入は事実上封印されるだろう。またデフレスタンスの韓国銀行(韓国の中央銀行)の政策スタンスの変更はないだろうから、筆者のかねてからの予測通りに、そのまま韓国が日本型の長期停滞に自ら入り込む可能性が高い。 安全保障については、これも米国の対中国・対北朝鮮政策によって韓国の位置付けが大きく左右されるに違いない。その延長で、慰安婦像の設置問題も考える必要がある。 筆者の見解では、今回の慰安婦像設置は、明らかに日韓合意に反するものである。その非は完全に韓国側にある。と同時に、この慰安婦像問題も含めて、韓国の親北朝鮮勢力の政治的な動きと連動していることを見逃してはいけない。韓国・釜山の日本総領事館前への慰安婦像設置に対抗して、一時帰国した長嶺安政駐韓大使(合成写真) 現在のところ、朴大統領の弾劾が決定し、その後に大統領選挙が行われれば、韓国で北朝鮮・中国寄りの政権ができる可能性が大きい。これはトランプ政権にとって座視できるものではない。さまざまな政治的ルートで、もし親北・親中の新政権に揺さぶりや圧力を明示的にかけるだろう。 筆者の私見では、それで韓国が米国と関係を悪化させることはできないと見ている。なぜなら米国は韓国の域内の軍事的プレゼンスを支える動機付けを、トランプ政権になっても維持すると考えられても、中国が米国の代替になるとはまったく考えられないからだ。中国は韓国に対して、貢物や服従を要求すれども、その恩恵付きの庇護には無関心であるという、何千年にもわたる両地域の歴史がそれを裏付けているからだ。 韓国は経済面で米国に必要以上に隷従しているし、また安全保障上でも米国の存在抜きでは、国家の存立さえも事実上危うい。特に安全保障面では、トランプ政権は日本と韓国が外交的摩擦を過度に起こすことにやがて神経質になるだろう。 そのとき慰安婦像問題は、トランプ政権にとって無視できない位置におかれる。外交的にもまた政治的にも、ボールは韓国側にあることは、米国だけでなく、海外の良識すべてが判断することになるだろう。日本はこの状況をよく考慮に入れて、いまから対応すればいい。仮に新政権が慰安婦像を再び政治利用すれば、そのとき韓国の政治的な停滞もまた決定的になるに違いない。そこまで愚かでないことを望む。

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    安倍首相はトランプ氏の完全なるしもべだと大前研一氏

    報告するというのだからもはや完全な僕(しもべ)である。 しかし、そういう姿勢は、前回も述べたように、アメリカべったりの土下座外交、朝貢外交であり、中曽根首相とレーガン大統領の時のような「日米イコールパートナー」とは全く違う。いくら戦後歴代4位の在職日数となり、プーチン大統領との北方領土交渉やオバマ大統領とのハワイ・真珠湾訪問などで「戦後政治の総決算」「私の世代で戦後を終わらせる」と大言壮語しても、中身は相手の言いなりで、日本にとってのメリットが見当たらないのだ。関連記事■ 安倍首相 オバマ氏会談後「遠くから来たのに冷たい」と愚痴■ 安倍首相よ、「広島」と「真珠湾」の等価交換でいいのか?■ 安倍首相が寿司業界と親密な関係 業界団体の名誉顧問に就任■ トランプ氏 ウマが合うプーチン氏&安倍氏の系譜に連なる■ SAPIO人気連載・業田良家氏4コマ「例え話国会」

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    露専門家によるトランプ“解剖”

    ニコライ・シェフチェンコ(ロシアNOW) ドナルド・トランプ氏の第45代アメリカ大統領就任式を前に、ロシアの専門家たちが改めてトランプとは何者かを理解しようとし、米国の内政および露米関係への影響を占った。 トランプとは何者か、そしてこの現象が露米関係をどう変えるのか?この問題はロシアの専門家たちを悩ましており、彼らは、同氏の奔放なツィターでの呟きやスキャンダラスな発言の霧を透かして、氏の素顔を見極めようと試みてきた。 ロシアのアメリカ専門家たちは、米国市民に劣らず就任式を待ち構えているが、式目前の1月18日に彼らは、モスクワの国際討論会「バルダイ会議」に集まり、議論を展開した。就任式で宣誓を終え、歓声に応えるトランプ米新大統領 =1月20日、ワシントントランプって何? ロシアの専門家らの関心を引く主な問題は、トランプとは何者かではなく、米国の政治構造の発展の文脈においてトランプとは何であるか、そしてこの現象が外交政策にどのように反映するか、という点にある。「トランプは歴史的必然性か、それとも歴史の破綻か」。モスクワ国際関係大学国際政治プロセス講座のイワン・サフランチュク准教授はこう問題を提起した。 米国におけるトランプの反対者たちとは異なり、ロシアの専門家らは次のような見方に傾いている。つまり、トランプが勝利したのは、ヒラリー・クリントン陣営の選挙戦略の誤りのためではなく、クレムリンが米大統領選に介入した結果でもない。トランプ勝利は、同氏がアメリカ社会の構造的な変動を捉えることができたためだ、と。 「トランプ氏は、アメリカ国民に対し、米国は敗北を喫しつつある、と言ってのけた人物だ」。こう言うのは、バルダイ会議のプログラムディレクターを務めるアンドレイ・スシェンツォフ・モスクワ国際関係大学教授。 スシェンツォフ教授の見解では、こういう強力で並々でない発言をするには、この候補者には「尋常でない勇気」が必要だったはずだという。 トランプ氏には、米国の支配層にとって具合の悪い問題を提起する能力がある、ということだが、これは、氏が別のエリート層の代表者であることで説明される――。こう考えるのはアンドレイ・ベズルコフ氏。氏はかつて米国から追放されたロシアのエージェントで、現在は露石油最大手「ロスネフチ」の社長顧問を務めている。経済大国としてのアメリカの再生こそがトランプ氏の主要なメッセージだ、と氏は考える。露米関係回復の困難さトランプ政権の顔ぶれと対露関係 将来の露米関係に及ぼすトランプ氏の影響は、米国の内政問題に劣らず専門家らを悩ませている。 「トランプ氏は、他のケースなら決してホワイトハウス入りしなかったような“スーパーヒーローチーム”を創るかもしれない。それは、高いキャリアを持ち、何よりも結果を出すことを目指し、これ以前には政治的野心を持たなかった、そんな人たちだ」。スシェンツォフ教授はこう言う。 露米関係を回復させるという課題が実際のところどれだけ実現困難かについては、専門家らは慎重な意見を述べる。モスクワの大統領府で記者会見したプーチン大統領=1月17日 「トランプ氏は、ロシアとプーチン大統領に対してひたすら好意的だったレトリックから、プラグマティックで現実的なそれに移行するだろう。このことを理解する必要がある」。マクシム・スチコフ氏は言う。氏はロシア国際問題委員会の専門家だ。 トランプ氏のレトリックは変化すると予想されるわけだが、これには落ち着いて対応する必要がある。なぜなら露米関係の複雑からして変化は避け難いからだと、同氏は述べる。 「肝心なのは、露米首脳間の良好な個人的関係を築くことにこだわらないことだ。似たようなことを我々はすでに、友人ボリスと友人ビル、友人ジョージと友人ウラジーミル、友人ドミトリーと友人バラクの間で経験してきている。これは、一定期間蜜月の幻想を作り出すが、その後で危機が生じて、露米関係を嘆かわしい状態に陥れる」。こう同氏は結んだ。 9日序盤のモスクワ証券取引所では、主要指標の一つであるMICEX指数は1.44%安の1939.66、ドル建てRTS指数は1.5%安の958.33まで下落した。ロシアの証券会社「ブロケルクレジットセルヴィス」がロシアNOWにこれを伝えた。 ところが、昼にかけて指標は回復し、その後1.5~1.7%高の2000まで上昇した。これはトランプ氏の勝利が伝わった後の世界の市場の反応とは逆である。専門家によれば、アメリカの外交政策が変わって不安定化するのではないかと世界の投資家が恐れたものの、ロシア的には制裁緩和の可能性を意味したのだという。最初の反応 ロシアの投資家の行動には時間差の影響があった。「ロシアの市場が始まったのは、原油、金、ドル、アメリカの株価指数先物の回復を背景に選挙結果が伝えられた後」と、ロシアのFX会社「テレトレード」の上級アナリスト、アレクサンドル・エゴロフ氏は説明する。そのために、ロシアの指標とルーブルの反応は大きくならなかった。投資家は高リスクから「安全な避難所」へ  国際的な投資家の最初の反応は、トランプ氏が選挙戦で示していた複数の公約から、多くの点でネガティブなものとなった。「トランプ氏がアメリカ大統領に選ばれたということは、金融市場の不確実性、それも長期的な不確実性の始まりを意味した」と、FX会社「eトロ」のパーヴェル・サラス・ロシア・CIS統括は話す。トランプ氏の行動は予測困難であることから、投資家はリスクの高い資産から「安全な避難所」へと移り、具体性を待っているという。 トランプ氏の経済公約およびいくつかの発言では、中国との貿易を制限していくことが示されていると、ロシアの大手証券会社「フィナム」の金融アナリストであるティムール・ニグマトゥッリン氏は話す。これ以外にも、欧州連合(EU)との自由貿易圏の創設に関する協議が止まるリスクもあるという。このような取り組みは、短期的にも世界経済の冷え込みを招きかねない。 「世界経済はここ10年で貿易障壁を低め、競争を高めて成長してきたことを考えると、アメリカ政府のこのような取り組みは逆行になる」と、ロシアの証券会社「オトクルィチエ・ブロケル」市場分析部の専門家、ドミトリー・ダニリン氏は話す。 長期的な見通し 中国、EUとは異なり、ロシアにとってトランプ氏の当選は、むしろプラスの変化を意味すると、専門家らは考える。ウクライナ情勢を受けて発動された経済制裁の緩和または解除は、ロシア経済に影響をおよぼす可能性があると、ロシアの投資会社「フリーダム・ファイナンス」取引部のイーゴリ・クリュシュネフ部長は考える。ロシアにより柔軟なトランプ氏は、経済制裁を延長しない可能性があり、早期解除に寄与する可能性もあるという。 「経済制裁の解除、または部分的、段階的な解除は、今後の可能性の一つ。ただ、今のところ、このシナリオの実現について話すのは時期尚早。解除の条件は近い将来、実施されそうにない」と、エゴロフ氏は慎重な見方をする。ニグマトゥッリン氏によれば、トランプ氏は選挙戦で、ロシア政府との対話を確立する必要性について何度も話していたという。 エゴロフ氏によると、いずれにしても、トランプ氏が候補者として発言した内容は、大統領としての具体的な動きとは異なるという。「一つ明らかなことがある。2017年は世界経済にとって変化の年になる。イギリスのEU離脱の問題があり、アメリカの政治の影響を受ける」とエゴロフ氏。(ロシアNOW  2017年1月20日分を転載)

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    トランプ大統領就任で世界が驚く米朝の劇的接近実現も

     トランプ次期大統領の米国ならば北朝鮮との劇的な接近があり得る、と元外交官で前衆議院議員の村上政俊氏は読む。鍵は「事大主義」と「中国」だ。* * * 筆者が夏頃から当選を予測していたトランプは、選挙期間中に金正恩と直接会談する用意があると表明した(*1)。それに対し、北朝鮮側も対外宣伝ウェブサイト「朝鮮の今日」を通じてトランプを「長期的な視点を持っている」と肯定的に評した。これは、トランプ政権が発足すれば北朝鮮が熱望する米朝直接対話が実現するのではという期待の表れだった。韓国・ソウル駅のテレビモニターに映し出されている北朝鮮の金正恩委員長(左)とトランプ米大統領=2016年11月(AP)【*1 2016年5月、ロイターとのインタビューで、北朝鮮の核開発を止めるため、金正恩と「話をしたい」と述べた】 今後、世界が驚くような米朝の劇的な接近が実現する可能性がある。「米朝同盟」の成立だ。それには次の二つのシナリオが考えられる。 まずは“中国大崩壊”だ。朝鮮戦争当時、「抗美援朝」(米国に抗い朝鮮を援助する)というプロパガンダ・スローガンの下、鴨緑江を越えて朝鮮半島に侵入した人民解放軍は毛沢東の長男・毛岸英の戦死など多大な犠牲を払った。「血の友誼」と称される中朝同盟の基本は現在に至るまで不変で、日本を始め国際社会が経済制裁をいくら強化しても現在の北朝鮮の独裁体制が崩壊しないのは、中国が原油や食糧といった戦略物資を供給し続けて裏から支えているからだ。 ところがその中国自身が今や崩壊寸前だ。 中国に宥和的だったオバマの退場で国際的な更なる孤立が必至な上に、不動産バブルが弾ければ経済も行き詰まる他ない。中国がもう北朝鮮を支えられないとなれば北朝鮮はすぐさま次の後ろ盾を求めて蠢き出すだろう。 朝鮮半島には事大主義(*2)のDNAが埋め込まれている。日清戦争に至るまでの李氏朝鮮は、内部で日本寄りの開化派と清国寄りの事大党が激しく争い、清国が敗北した後はロシアに事大の先を鞍替えした。その姿は、中国から北朝鮮への圧力を期待して習近平に擦り寄ったものの、中国には北朝鮮を見放すつもりがないと知るや米韓同盟重視に戻った韓国の外交姿勢に引き写されている。【*2 強い者に追随して自己保身を図る態度や傾向のこと。特に朝鮮半島史では、朝鮮王朝の対中国従属政策をいう】 大崩壊まで至らずとも、中国が北朝鮮を支えられなくなれば、北朝鮮が新たな事大の相手先として米国に急接近する可能性は高い。(文中敬称略)【PROFILE】むらかみ・まさとし/1983年大阪市生まれ。東京大学法学部卒。2008年4月外務省入省後、北京大学、ロンドン大学に留学し中国情勢分析などに携わる。2012年12月~2014年11月衆議院議員。現在、同志社大学嘱託講師、皇學館大学非常勤講師、桜美林大学客員研究員を務める。著書に『最後は孤立して自壊する中国 2017年習近平の中国』(石平氏との共著、ワック刊)がある。関連記事■ 櫻井よしこ氏 中国は北朝鮮完全支配の野望失ってないと指摘■ 中国が「北朝鮮は自国領」と伏線張っていると櫻井よしこ氏■ 北朝鮮人民は「傲慢で横柄、生意気」だからと中国人が嫌い■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 櫻井よしこ氏 豊かな鉱物資源持つ北朝鮮を中国が狙うと指摘

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    トランプ大統領から始まる中国大乱

    トランプ政権がいよいよ始動する。米国が一国主義へと舵を切り、世界の覇権を狙う中国だが、トランプは中国と対峙関係にある国と立て続けに接触し、中国を苛立たせている。トランプ大統領の誕生によってアジア情勢は大きく変わることは間違いない。そして、その行方を左右する「主役」は間違いなく日本である。

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    トランプはなぜ「ひとつの中国」という絶対的タブーを破ったのか

    り》トランプが台湾総統との異例の電話会談をした意味黄 2016年11月17日、安倍首相とトランプ次期アメリカ大統領がニューヨークのトランプタワーで初会談を行いました。トランプは他国の首脳から早期の会談要請が殺到するなか、安倍首相との会談を最優先させたといいます。 しかも自宅に招くという厚遇ぶりで、日本を重視している姿勢を見せました。当然ながら、大統領選挙のときに見せた暴言も日本批判もなく、会談後に安倍首相が「信頼できる指導者だと確信した」、トランプが「素晴らしい友好関係を始めることができてうれしい」と述べるなど、会談が有意義であったことを強調しています。会談前に握手を交わす安倍首相とトランプ次期米大統領。奥は娘のイバンカ氏と夫のジャレッド・クシュナー氏=11月17日、ニューヨークのトランプタワー(内閣広報室提供)石 安倍首相の素早い動きには、中国も驚いたと思います。安倍首相は、トランプの当選が確定した日の翌朝すぐに電話で祝意を伝えました。おそらく中国はそれに焦ったのでしょう、11月9日、CCTV(中国中央電視台)は習近平主席がトランプと電話会談したというニュースを流しました。ところが、トランプ側から「していない」と否定されてしまいました。安倍首相が電話会談した以上、習近平も会談したことにしないと、大国の指導者としてのメンツが潰れると思ったのでしょう。 14日になって実際に電話会談をしたようですが、いずれにせよ、赤っ恥をかかされたかたちになりました。黄 さらに12月2日(アメリカ時間)には、トランプは台湾の蔡英文総統と電話会談しました。これは1979年のアメリカと台湾の断交以来初めてのことです。しかも、自身のツイッターで「台湾総統が今日、私に、大統領選勝利に祝意を表したいと電話をくれた。ありがとう!」と書き込みました。「ThePresident of Taiwan」と、あたかも独立国家の元首のように扱っていたのです。 当然、台湾では大きく報じられ、トランプへの期待が非常に大きくなっています。安倍・トランプ会談について、中国共産党の機関紙である「人民日報」の国際版「環球時報」は「朝貢だ」と書きましたが、蔡英文との電話会談については王毅外相が「台湾側のくだらない小細工だ」と嫌味を言いました。これは中国のパニック状態を象徴しているのではないかと思います。 石 中国はかなり衝撃を受けたのではないでしょうか。なにしろトランプは、数十年来の絶対的タブーを破ったのですから。 即座に不快感を表明し、アメリカにも抗議したといいますが、アメリカ政府になのか共和党になのか、どこに抗議したのかはよくわかりません。しかも、王毅外相は台湾を批判していますが、トランプのことは批判していません。トランプと衝突するのを避けたのでしょう。あくまで台湾が仕掛けたものだというスタンスです。黄 しかし、トランプはかなり中国を意識した行動をしていると思います。「自由時報」(2016年12月3日付)によれば、当日はシンガポールのリー・シェンロン首相、フィリピンのドゥテルテ大統領、アフガニスタンのガーニ大統領とも会談していますが、ツイッターには蔡英文のことしか掲載されていないそうです。これは意図的にやっていることでしょう。中国の反応を見ているとしか思えません。トランプと蔡英文の電話会談石 トランプが蔡英文と電話会談したことは、中国政府からだけでなく、アメリカの多くのマスコミからも批判されたようですね。オバマ政権も、すぐに国家安全保障会議(NSC)の報道官に「ひとつの中国」という原則を堅持すると強調させました。黄 トランプはそれを受けて、ツイッターで「アメリカは台湾に数十億ドルの武器を売っているのに、お祝いの言葉すら受け取るべきではないというのは、興味深いことだ」と述べています。 さらに12月4日(アメリカ時間)には、「中国は米企業の競争を困難にする通貨の切り下げや、中国向けの米国製品に重い課税をしていいかと尋ねたか」「南シナ海の真ん中に巨大な軍事施設を建設していいかと尋ねたか。私はそうは思わない!」(「産経新聞」2016年12月5日付)など、南シナ海や通商問題に関する中国批判をツイートしました(117ページ写真参照)。一部は大統領選挙で主張していたことと同じ内容ではありますが、「習近平嫌いでプーチン大好き」なトランプらしい、正直な本音が出ています。 よく知られているように、アメリカでは政権が変わると、ホワイトハウスのスタッフから政治任用されている上級官僚までがごっそり入れ替わります。トランプ政権になると、台湾に対する意識が、オバマ政権とはかなり変わってくるのではないかと期待しています。記者を指さすトランプ氏=1月11日、米ニューヨーク旧来メディアとリベラルの没落石 それにしても、台湾はれっきとした民主主義国家なのに、いざとなると民主主義を標榜するアメリカメディアが、台湾よりも独裁政権の中国に同調するというのは異常です。日本の場合と同様、やはり左翼メディアは偽善だとしか思えません。黄 まあ、あれだけトランプ批判を繰り広げても、大統領選挙の勝利を阻止できなかったのですから、影響力はだいぶ低下していると思いますよ。日本の左翼メディアも、たとえばシールズ(SEALDs)のような学生たちによる左翼運動を持ち上げていましたが、総選挙にしても東京都知事選挙にしても、シールズが支持する政党や支持者は勝てなかった。 若者の代表のように言われていましたが、その若者は自民党に投票する率のほうが大きかったというのですから、左翼メディアも左翼運動もしぼんでいくばかりでしょう。石 何しろ、言うことがコロコロ変わりますからね。安倍・トランプ会談に対して、民進党はなんだかんだとイチャモンばかりつけていました。安住淳代表代行は「朝貢外交」だなどと貶(おと)しめていましたが、これは先ほどの「環球時報」とまったく同じ論調です。 中国共産党の場合は、安倍首相の対米外交に先を越されたことへの悔しさからの悪態ですが、民進党の場合は結局、首相の外交的得点が気に食わないだけでしょう。国も党も違いますが、根性の卑(いや)しさは同じではないでしょうか。 蓮舫(れんほう)代表にしても、トランプの大統領選挙中の発言を問題視して、安倍首相に「なぜ信頼できたのか」などと問いただしていましたが、その理論なら、民進党はトランプが発言を撤回しないかぎり、同盟国の大統領との信頼関係をつくらないつもりなのですかね。 批判のための批判という感じしかしない。もしも安倍首相がトランプに会わずに、他国の首脳に先を越されていたら、「なぜもっと早くアプローチしなかったのか!」と言っていたに違いない。黄 蓮舫代表は、相手を批判するなら自身の二重国籍問題をもっときちんと説明してからでないと、なんとも説得力がないですよ。自分を「生まれたときから日本人」と言ったかと思うと、別のところでは「華僑(かきよう)の一員」「在日中国人」などと発言したりして、発言が一貫していません。 発言が一貫しないのと、自分に甘くて他人に厳しいというところからすると、日本人や台湾人というより、きわめて中国人によく似た性格ですね。彼女は自身の国籍問題にからんで、「ひとつの中国論」を持ち出したので台湾でも批判が高まりました。過去の発言もあわせて考えると、中国共産党のエージェントではないかと疑いたくなってしまいます。米左翼の反差別は一種のファシズム石 2016年の新語・流行語大賞のベスト10に「保育園落ちた日本死ね」がランクインして、民進党の山尾志桜里(しおり)議員が笑顔で授賞式に出ていたことが批判されていましたが、どうも民進党の議員は国益という視点が薄いように感じるのです。 だいたい、国会議員が「日本死ね」などという言葉を流行語に選んでもらって、それをうれしがるという感覚がわかりません。黄 世界の流れを見ると、トランプのアメリカだけではなく、イギリスも、あるいは他のヨーロッパで起こっていることからも、まず大きな特徴として、「国益」を中心として考える国が多くなってきているということですね。 トランプは「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」を掲げ、不法移民を排除すると述べて支持を得ました。 たしかに、ヒューマニズムとか人権というものは大切です。しかし、それが過剰になると国益や国民の利益を圧迫することにもつながります。移民問題などもそうですね。自国民の職が奪われるからと移民受け入れに反対すれば、差別主義者のレッテルを貼られてしまう。差別的な言動をしないことを「ポリティカル・コレクトネス」と言いますが、行きすぎた風潮にうんざりした人たちが、イギリスのブレグジットやアメリカのトランプを後押ししたのだと思います。 しかし、旧来の左翼メディアが消えていくと同時に、国益を無視してポリティカル・コレクトネスに走った政党も消えていく運命にあると思います。左翼メディアに支えられてきた面がありますから。 いずれにせよ、いまの世界では建前よりも本音で語ることのほうが支持を得られるので、そうした姿勢が主流となりつつあるようです。石 そのとおりだと思います。オバマ政権は、一定の不法移民に対して3年間の強制退去の免除と就労許可を与えましたが、これに対する不満も大きいのだと思います。 アメリカのリベラルの反差別は一種のファシズムになっていると思います。アメリカの政治家がマイノリティに対して、少しでも不用意な発言をすれば、叩かれて政治生命を失うことになってしまう。 アメリカのリベラルがあれほどトランプを嫌うのも、彼の過激な発言が、リベラルな世界観、価値観を完全に破壊するものだからです。だから差別発言扱いしますが、賛同する人も多かった。要するに「本音」で語ることは、リベラルな価値観に対しての一種の反乱なのです。しかも、彼はそれで成功してしまった。 日本のマスコミもアメリカのメディアとまったく同じ論調でした。一貫して、トランプを過激発言のとんでもない泡沫(ほうまつ)候補扱いしてきましたが、それも自分たちの価値観が絶対なものではないという現実を受け入れたくないからです。だから、選挙結果を突きつけられて、パニックになってしまった。いまでも「あんなのがアメリカの大統領になるとは信じられない」と言い続けていますね。 アメリカの旧来メディアの崩壊は、日本の左翼メディアにも伝播(でんぱ)していくと思います。たとえば、蓮舫代表の二重国籍問題でも、左翼メディアは「多くの先進国が二重国籍を認めている。だから日本も認めるべきだ」「多文化共生主義が世界の流れだ」などと書きましたが、多民族国家のアメリカがそれを否定する方向へ向かったのですから、もうそんなことは言えなくなるでしょう。日本のリベラルメディアにとっても、トランプ大統領の出現はトドメの一撃になると思います。 私は国際政治の面からトランプ大統領の政策を危惧していますが、日本のマスコミや左翼はむしろ悲鳴を上げているのが現状です。 だいたいアメリカのリベラルはおかしいですよ。選挙結果に不満だからデモをするというのは、民主主義の否定そのものです。リベラルが民主主義を否定してどうするのでしょう。もっとも、リベラルの本当の正体は、もともとそういうものなのかもしれませんが。ネトウヨが世界を変えるネトウヨが世界を変える黄 アメリカや日本も、新聞やテレビといったメディアはリベラルが強いですよね。もっとも、アメリカでは新聞やテレビを信用する割合が2割程度なのに対して、日本では7割を超えていますから、日本のほうが重病でしょう。 ちなみに台湾のメディアはほとんどが国民党系か中国資本なのですね。台湾独自資本のメディアというのは、自由時報と三立電視と民間全民電視公司(民視)くらいしかない。3つしかないから「三民自」(サンドイッチを意味する「三明治(サンミンツウ)」と同音)と言われています。 ですから、台湾ではメディアの信頼度は1%程度しかないと言われています。しかし、メディアというのは既得権なのです。だから絶対に手放したくないし、それに対抗する勢力には敵対してきます。 ヒラリーは、メディアとウォールストリートという2大既得権益層とズブズブだと批判されていたわけですが、そういった既得権益層も崩壊していく予兆なのでしょう。当選後初めて記者会見するトランプ次期米大統領=1月11日、ニューヨークのトランプタワー石 アメリカの新聞やテレビ局などの主要メディアでは、57社がクリントン支持で、トランプ支持を打ち出したのは2、3社しかありませんでしたが、トランプはSNSやインターネットを駆使して、相手の批判をうまく利用していました。そこにも勝因があったと思いますね。 アメリカの国民がそれほどメディアを信用していないなら、むしろメディアにこぞって叩かれたほうが、目立つし、逆に国民からは信用されることになる、ということになりますね。 自分の主張や反論はインターネットに載せて、どちらが正しいか有権者に判断してもらえばいいのですから。 私もツイッターをやっていますが、中国批判よりも、日本の左翼を批判したツイートのほうが反響があるのです。ツイッターを始めたのは2013年からですが、2014年にフォロワーが3万人に達したと思ったら、その2年後の2016年12月にはなんと24万人を突破しました。 日本のなかに、左翼の言動がおかしいと感じている人はかなりいると思いますし、やはり国益中心、自国中心に考えるというのが世界の潮流となりつつあることは感じていますもっとも、ツイッター上で、私のことをネトウヨと呼ぶ人も少なくありません。しかし、彼らの感覚からすると、「暴言」を吐くトランプこそネトウヨですよね。世界一のネトウヨが大統領になったともいえるでしょう。黄 日本での左翼言論人の支配の時代というのは、もうそろそろ終わろうとしていると思います。まだ終わってはいないけれど、終わるのは確実。だから最後のあがきとして、一生懸命、あちこちに銃口を向けているのではないかという気がするのです。石 イギリスにしても、EU離脱を問う国民投票では、事前の世論調査と結果がまったく異なりました。まともに答える人がいなかったのではないでしょうか。これも既存メディアの終焉を意味していると思いますね。 リベラルは、メディアを通じて人々を支配してきましたが、このトランプの当選をきっかけに、世界各地で彼らの支配が終わるとすれば、日本の健全化にとっても非常にプラスです。トランプ大統領は日本の大チャンストランプ大統領の誕生は日本の大チャンス石 トランプ大統領の出現には、そうしたリベラルの絶対的価値観の破綻と、左翼メディアの支配の終わりといういい面もありますが、やはりかつてのモンロー主義に戻り、内向きになってアジアへの関与を減少させていった場合、日本の安全保障が大変な危機にさらされることになる可能性も十分にある。この点は第1章で述べたとおりです。 しかし別の面からすれば、アメリカがもしアジアへの関与を減少させていくならば、それは占領政策が終わったということでもあります。 アメリカの対日占領政策は、日本が再びアジアの強国になれないようにすることでした。だから平和憲法を押しつけた。沖縄にアメリカ軍基地があるのも、ある意味では、日本の軍事力強化を押さえ込む目的もあったのかもしれません。 しかし、アメリカがアジアに対する関与をやめるならば、日本を押さえつけておく必要性もなくなります。日本が平和憲法を改正して再軍備や核武装を進めても、アメリカは与(あずか)り知らないということになる。そういう意味では、トランプ大統領の誕生で、日本は完全に戦後体制から脱出するチャンスになるという期待もあります。黄さんはいかがですか?黄 トランプはモンロー主義というよりも、レーガンの時代に戻ろうとしているのかもしれませんね。大型減税や金融規制の緩和などを掲げていて、レーガノミクスに近い。「偉大なアメリカの復活」というスローガンは、冷戦をアメリカの勝利に導いたレーガン時代を指しているのではないかと思います。 そして日本にとっても、いまがいちばんいいチャンスだと思っています。世界は反グローバリズムのなかで、列強の時代に戻りつつあります。そのような時代には、やはり世界の調整役(バランサー)が必要だと思うのです。 いま先進国のなかで、グローバリズム推進派のトップと見なされているのはドイツのメルケル首相でしょう。一方で、トランプはもっとも保護主義派となるでしょう。日本はその調整役となるいい位置にいます。 また、2017年のドイツの総選挙でもしもメルケルが負ければ、安倍首相は西側自由主義諸国の政界で最長老となります。長期安定政権ですから、世界の首脳も相談しやすいのです。 そうした追い風を味方につけて、日本の戦後を終わらせられれば、明治維新の志士と並ぶ人物になれます。石 アメリカに締結させられた不平等条約への不満が明治維新につながったわけですからね。そして日清(にっしん)、日露(にちろ)という2つの戦争に勝利したことで、1911年に不平等条約を改正することができました。 アメリカに憲法を押しつけられ、在日アメリカ軍基地や日米地位協定といった「属国的」なものを受け入れざるをえない立場から脱するためにも、再び明治維新のような大事業が必要だということなのですね。台湾の総統執務室でトランプ次期米大統領と電話協議する蔡英文総統(中央)=昨年12月(総統府提供)黄 そうです。しかもそれは日本だけではなく、アジアのための明治維新です。 私は蔡英文総統にも期待はしていますが、そこまでのことはできないでしょう。ですから、日本と台湾が手を握り、あるいはASEANと手を握って、日本がリーダーシップをとって、アジアを再興していく。世界が列強の時代の19世紀に戻るのであれば、その延長線上として、日本がアジアの盟主になるしかありません。うまくやれば安倍首相が米国をリードする石 中国もそれを恐れているのかもしれません。だから、安倍首相がトランプと電話会談をした直後、習近平も「電話会談した」と嘘をつかなくてはならなかった。 トランプは政治も外交も素人ですから、おそらく今後、安倍首相が日米同盟の重要性や、アジア太平洋地域におけるアメリカの重要性をレクチャーすることになるのではないかと思います。安倍首相は世界のトップの中でも、海外の首脳ともっとも多く会っているキーパーソンですから。 うまくやれば、安倍首相がアメリカをリードするかたちになる。トランプからアジア外交の軸になってほしいと頼まれる可能性もあります。そして、これを機会にして日本が憲法改正と国防体制の強化を行えば、アメリカにとって日本は頼りにしなければいけない存在となります。日米同盟に新しい変化が起こるわけです。 トランプ大統領当選の直後の11月10日に、インドのモディ首相が来日し、日印原子力協定に署名しましたが、中国を警戒した安全保障協力についても話し合っています。 アメリカの影響力が落ちることになれば、多くのアジア諸国は日本に期待してくると思うのですが、どうでしょうか。黄 台湾、フィリピンなどはもちろんそうですね。韓国だけが少し違うのですが、アジアの多くの国が日本に目を向けて期待しています。アメリカ大統領選挙の直後にモディ首相の来日日程が組まれていたというのも、そのタイミングで日印の結束を中国に見せておくためでしょう。 日本は技術力を持っていますし、私は核技術にしてもイスラエルより上だと見ています。 ただ、日本では核アレルギーがありますから、核武装というのはなかなか難しいでしょう。しかし、目下、世界では核を上まわる兵器技術や核防衛システムの開発が進められています。非核兵器であれば日本も配備可能でしょう。 日本の国防予算はGDPの1%程度で5兆円を突破したくらいです。GDPの2~3%まで予算を組んでようやく世界の「普通の国」レベルなのです。仮に日本が10兆円規模の防衛予算を組めば、そうした兵器に十分な開発費をあてられますし、日本であれば開発できると思います。それこそが平和貢献です。 そうして日本が積極的にアメリカと相互補完しながら、トランプ大統領に対して、アジアはわれわれに任せろ! と言えばいいのですよ。石 トランプ政権が、アジアは面倒だからということで、少し手を引いていくときに、トランプ政権と話をつけることが日本にとってチャンスとなるでしょう。アメリカが手を引く分は、日本が分担するということにして、日本とアメリカがアジアで対等な立場で共同責任を持てばいい。 日米同盟に関するトランプのいちばんの文句は、アメリカだけが責任を持ち、日本は何も責任を持たないということです。「日本タダ乗り論」ですね。 だから、日本もアメリカと同じようにアジアの安全保障に責任を持つということになれば、逆に日米同盟も強化されて、日本の立場も強くなります。 そういう意味では、日米同盟再構築のひとつのチャンスにもなる。もちろん日本は憲法改正を急がなければならないし、国防体制もつくり直さなければいけません。 トランプ大統領の誕生によって、その必要性がますます高まったということなのですね。こうした世界状況は、国内の憲法改正論議にとっても追い風になるはずです。安倍首相は、この歴史的機会を最大限に活用すべきです。 そうすれば、安全保障上のピンチをチャンスに変えることができる。日本は普通の国と同様の自主憲法を持ち、普通の国防体制を持ち、アメリカと共同責任でアジアの平和を守る。まさしく戦後体制からの脱却であり、真の独立です。戦後体制からの脱却が完了する日本の「戦後体制からの脱却」が完了する黄 オバマ政権では、安倍首相の靖國(やすくに)神社参拝に対して、アメリカ政府は「失望した」などと口を出してきましたが、そういうことも言わなくなってくるでしょうね。石 もともとアメリカは、首相の靖國参拝に文句は言ってこなかった。しかし日韓関係が悪くなっていたために、これ以上の亀裂(きれつ)が生じるとアメリカがやりにくくなるので、オバマ政権は行ってほしくなかったということを表明しただけですよね。 アメリカは中韓が批判するような、靖國神社が「軍国主義の象徴」だとか「A級戦犯が祀(まつ)られているから」という理由で反対したわけではないですね。これまでも反対してこなかったですし。参拝を終えた「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の議員ら。中央は尾辻秀久会長=2016年10月18日午前、靖国神社黄 ただ、アメリカが「失望した」と言ったせいで、日本の左翼を勢いづけてしまった。普段はアメリカを嫌っているくせに、「同盟国のアメリカすら反対している」「世界も反対している」といった論調がマスコミに躍りました。 おそらく次に安倍首相が靖國参拝した場合、左翼連中は「アメリカも反対した靖國参拝を強行した」などと叩いてくるはずです。  そういうときに、トランプ大統領に「アメリカは反対していない。国のために命を捧(ささ)げた者に哀悼(あいとう)の意を表するのは当然のことだ」と言ってもらわないと、建前ではあっても、「対等な日米関係」は元の位置に戻らないと思うのです。石 なるほど、たしかに左翼を黙らせる必要はありますね。ある意味では、政治というのは時期を見て素早く行動する必要があります。安倍政権はそれができる。おそらく安倍政権もトランプの当選を予測していなかったと思います。外務省は完全に予測を外したとも言われています。 しかし、トランプが当選したら、電光石火でどの世界指導者より早く直接会談まで実現できた。安倍首相には実力も運も備わっていると思います。トランプ大統領の誕生により、国内的には左翼の崩壊、メディアの信用失墜ということが起こりました。これはすべて安倍政権にとっては追い風です。 それでもうひとつの大きな追い風が、アメリカがアジアにおけるプレゼンスを少しずつ引いていくなら、それは当然、日本の安全保障の問題となり、日本の憲法改正の道を開くことにもなります。 外交の情勢も日本に有利になりつつあります。フィリピンのドゥテルテ大統領はオバマ政権に対してはきわめて敵対的でした。トランプ大統領が決定したところで、関係を回復しようと言い出しましたが、まだ、どうなるかわかりませんね。 しかし、来日時の態度が示しているように、ドゥテルテ大統領は日本に対しては最初から信頼している。インドも当然ながら、中国よりもずっと日本を信用している。 ロシアのプーチン大統領にしても、ある意味で信頼しているのは、中国よりも日本であり、安倍政権です。中国とロシアというのは、長い歴史のなかでお互い不信の塊なんですね。 だから、日本がアメリカ同様に国際的な責任が持てるような国になれば、アジアの安全保障、あるいはアジアの経済秩序の新しい軸になってほしいと思う国も多いと思うのです。アメリカもそのような日本を頼りにしてくると思います。黄 私も、安倍首相のインドのモディ首相やロシアのプーチン大統領との関係性は、他のどの国よりも突出していると思います。そして、これにアメリカのトランプ大統領が加わる。トランプはプーチンを英雄視していますから、日米露の関係強化は十分可能だと思います。 しかも、中国は伝統的に「遠交近攻」の国ですから、どうしてもいつかは隣国のロシア、インドとぶつからざるをえない。それは歴史が物語っています。中印露の「三国志演義」が繰り広げられるなかで、日米露印が提携すれば、中国を包囲することができるのです。日本中心の大東亜共栄圏が復活石 こう考えると、トランプ大統領の誕生は、安倍首相が脱却を悲願としていたアメリカの束縛や戦後体制、戦後リベラルが流してきた自虐史観といったものを、一気に吹き飛ばしてしまうことになる可能性がありますね。 トランプはまず4年間、2021年1月までの任期がある。安倍政権は自民党総裁の任期延長で2022年までの任期が可能となる。だから、安倍首相は今後数年、自らの考えるビジョンをどんどん追っていけばいいのです。日本を中心とした大東亜共栄圏が復活する黄 そういう意味では、いま、日本は安倍政権で本当によかった。これが民進党と日本共産党の連合政権だったらと思うと、ゾッとします。日本にとっても世界にとっても、これから大変な時代になるでしょうが、幸い、安倍政権には先見性と行動力と運があるようです。また明るい見通しが出てきます。石 逆に、このチャンスをもし掴(つか)まなければ、日本はいつまでも一人前の国家になれないでしょう。 もしかすると、これは、アメリカによって潰された大東亜共栄圏を、アメリカの衰退によって日本が復活させるという歴史の必然なのかもしれません。黄 20世紀の戦後の人類の対立の軸は、私有財産制か公有財産制かという対立、つまり自由主義か社会主義かという対立でした。そして、社会主義は「国家死滅」を理念にしていますから、コスモポリタン的な考え方が強い。つまり、社会主義そのものがグローバリズムとの類似性や親和性が高いと思うのです。だから、現代中国もグローバリズムをすんなり受け入れられたのです。ただし、民主主義や表現の自由といった思想面はまだ拒否したままですが。 そしていま、保護主義による巻き返しが起こるなかで、文化対文明の対立がひとつの大きな軸として起こってくると思います。 文化というのはユニークなものです。国、民族、地域によってそれぞれユニークな文化が存在しています。それに対して、文明というのはより普遍的なものです。世界に押し広げていこうというものが文明です。 今後、普遍的な文明とユニークな文化が対立していくのだと思います。たとえば、習近平は「中華民族の偉大なる復興」を「中国の夢」としています。これは中華文明の栄光を取り戻そうと夢見ているわけですね。決して中国人の文化を世界に紹介したいというものではない。だから、世界と対立せざるをえないのです。 そして、日本には文化としてのソフトパワーがある。たとえば、台湾からは、高齢者と赤ちゃんも数に入れて、年間で8人に1人くらいが日本に観光にきている計算になります。 毎年何回も日本に遊びにくる台湾人母親に、東南アジアなら日本の1回の旅行費用で4、5回行けるのに、なぜ何回も日本に来るのかと聞くと、彼女は、教育面から考えると、自分の国より経済発展をしていない途上国に子どもを連れていきたくないと言っていました。 そして台湾より進んでいる国は、アジアでは日本しかないわけです。台湾人が世界でいちばん住みたい国というのは日本です。2番目はカナダ。日本がトップである理由は、四季折々の景色があり、何度来ても飽きることがないということだけではありません。社会が安定していて環境衛生も清潔、しかも思いやりがあってマナーもいい。人のことも疑わなくていい。要するに、安心できる社会だからです。そういう国こそがいちばん魅力的なのです。 石 中国がいくら頑張っても、やはり日本のソフトパワーには絶対にかなわない。日本には安心安全な社会があり、アニメやゲームなど世界最強のソフトがあります。世界が憧(あこが)れるソフトパワーがあります。 古代ローマ時代、ヨーロッパの人々はローマ人になることが夢でした。それは誰もがローマ帝国の文明に憧れたからです。しかし、現在の中国に憧れる人は世界中どこを見てもいません。中国人自身が自国から逃げようとしているのですから。 そして戦後が終わり、世界も根本的に変わろうとしています。高いポテンシャルを持つ日本は、このチャンスを逃すべきではありません。トランプ大統領の誕生をきっかけとして、日本はアジアや世界のリーダーとして頼られる存在になる大きな可能性があるのです。

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    トランプは中国とどう戦うのか?

    【世界潮流を読む 岡崎研究所論評集】岡崎研究所 米Center for the National Interestのカジアニス国防研究部長が、11月20日付 Washington Times紙掲載の論説にて、トランプ次期政権は、中国を米国や同盟国にとっての最大の脅威と認識し、明確な競争相手と位置付けるべきである、と述べています。論旨、次の通りです。iStock トランプ次期大統領は、就任当日から、冷戦終結以来見られなかった多くの危険や落とし穴に直面するであろうが、米国の国益や同盟国のみならず、我々の経済に対しても明確かつ重大な脅威となるものは、中国の台頭である。 たった数年のうちに、中国は日本を東シナ海における危機寸前まで追いやり、今は台湾の民主主義に圧力をかけ、南シナ海に島を建設することで年間5兆ドル以上を生む海上貿易と海洋への開かれたアクセスを脅かしている。 こうした中国へのオバマの対応はアジアへの「ピボット」あるいは「リバランス」であった。米国の軍事力が歳出強制削減の影響を受けたことも相まって、ピボットは、偉大な外交政策の標語として、単にアジアにおける中国の支配速度を緩めただけのものとして、歴史に記されることになるであろう。 トランプ大統領とそのチームは、嫌がらせを続ける中国を確実に監視し、アジア太平洋地域で中国の影響圏を変更しようとするいかなる思惑をも抑止するための大戦略を構築しなければならない。 例えば、トーンを変えることは、出発点としては、最も簡単かつ効果が高い。まず米国は、中国が「責任ある利害関係者」になるとか、「平和的台頭」をして欲しいといった願望を込めた概念を取り払わなければならない。中国には、米国によって築かれたいかなる国際システムにも加わろうとする意思はない上、彼らはすでに台頭している。トランプ政権は、中国は競争相手であると宣言し、利害が重なるときにだけ協力すべきである。必要なときに相手を呼び出すことは恐ろしいことではない。 よりタフな対話からより強い行動が生まれうる。トランプの安全保障チームは、中国が単に我々の同盟国を追いつめたり、米国の重要な国益を脅かしたりできなくするための軍事戦略の構築を始める必要がある。それは、アジア太平洋は中国の覇権の及ぶ場所でないと確信させる明確なメッセージとなるだろう。 貿易もトランプの対中政策の一部でなくてはならない。もしTPPが本当に死んだのだとすれば、二国間協定を通じて、米国のアジアへの関与と我々の経済的繁栄を確かなものにする必要がある。多くの国が、米国の経済的関与の強化を歓迎するであろうし、それこそが各国の経済が中国に縛られているわけではないと知らせる最良の方法となる。 このような簡単なステップから始めて、トランプ大統領は、従来の対中政策の間違いを正し、何十年にも渡って米国が直面することになる外交政策上の最大の課題に向き合う広範な戦略を打ち出すことができる。出典:Harry J. Kazianis,‘The greatest challenge to Trump’(Washington Times, November 20, 2016)http://www.washingtontimes.com/news/2016/nov/20/donald-trumps-greatest-challenge-will-be-china/ 今日の世界は不安定要素に満ちているが、中でも米国の利益と米同盟国の利益にとって、明確かつ実際的な脅威は中国の台頭から来ている、としてトランプ政権にとっての中国への対処の重要性を指摘した論評です。アジア太平洋において主導権を握ろうとする中国への対応策を早急に打ち出すべし、とする筆者の指摘は時宜を得た的確なものです。リバランスリバランス オバマ政権の「リバランス」政策は方向としては妥当なものでしたが、実体としては、さしたる具体性のないものでした。トランプ自身は中国については、為替操作国には45%の関税を課すべしとの発言をしてきましたが、中国に対し如何なる政策を展開するかについて総括的に述べたことがなく、不透明なままです。ただし、トランプがTPPについて、就任直後にも離脱する考えである、と述べた点については、中国は内心これを歓迎しているに違いありません。トランプ氏(AP) もともと米国の「リバランス」政策のひとつの柱になるのがTPPの締結であると一般的に受け止められていたことを考えれば、トランプがTPP締結について翻意する可能性を含め、早急に対中政策全般を策定することが期待されていることは言うまでもありません。 本論評が、対中政策策定にあたり、トランプが考慮すべき点として挙げている諸点は、いずれももっともだと言えます。ただし、上記の諸点のうち、TPPにかわる二国間協定なるものの実現性については詳らかにしません。「米国を再び偉大にする」というスローガンとTPPの関連性についてトランプ自身が「学習する」のに当分時間を要しそうです。

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    中国、習近平をパニック状態に陥らせるトランプの思惑

    世界では大きな変革が起こっている。 2016年6月にはイギリスの国民投票でEU離脱が決まり、11月のアメリカ大統領選では一貫して泡沫(ほうまつ)候補扱いだったドナルド・トランプが選ばれた。「まさか」という事態が立て続けに起こったのだ。 そして当初、トランプ大統領の誕生を歓迎していたのは中国だった。トランプは大統領選期間中、一貫して、日本をはじめとする同盟国に対して駐留アメリカ軍の費用増を求め、TPP(環太平洋連携協定)からの離脱を宣言し、「アメリカ・ファースト」というモンロー主義的な内向き政策を打ち出してきたからだ。もちろん中国に対しても、「アメリカ人の職を奪っている」と批判し、為替操作国に認定すると主張していた。ドナルド・トランプ次期米大統領 中国としては自国への制裁措置には警戒しつつも、「暴言王」トランプが大統領になればアメリカは国内が混乱し、国力低下を招くだろう、他国に干渉する余裕も気力もなくなり、日米同盟は弱体化、アジアでのプレゼンスも落ちていく──そんな読みがあったと思われる。 実際、中国共産党機関紙である人民日報系の「環球時報」は11月17日、「トランプ現象は米国が世界を支配する時代が終わったことを意味している」「われわれは米国が多くの領域で指導者の役割を放棄する現実を受け入れ、『ポスト覇権』時代に新たな世界秩序をどう構築するのか準備しなければならない」とする程亜文・上海外国語大学教授の寄稿を掲載した(「産経ニュース」2016年11月19日付)。  これまで習近平(しゅうきんぺい)国家主席は、つねにアメリカに対して「新型大国関係」(アメリカと中国が対等な立場で世界のことを決めていく関係)を主張してきたが、オバマ政権はまともに取り合わなかった。だが前記の寄稿文は、アメリカが一国主義へと舵(かじ)を切り、世界への関心を失い、国力低下を招くならば、新型大国関係どころか、中国は世界の覇権国になることも可能だとほのめかしている。同様の分析は、中国国内のみならず日本でも見られた。 しかし、トランプ次期大統領は11月17日、世界の指導者のなかで、同盟国である日本の安倍晋三首相を最初の会談相手に選んだ。秋の党大会がカギ そして12月2日には、それまでの慣例を破って台湾の蔡英文(さいえいぶん)総統との電話会談を行い、そのことをわざわざ自身のツイッターで発表した。しかも「台湾総統」という表現を用い、一国の元首としての扱いをしていた。 当然ながら、これに対する中国の反発は大きかったが、トランプは意に介さず、そのあとからツイッター上で中国批判を展開しはじめた。中国が抱いていた当初の期待は、大きく裏切られたかたちとなった。おそらく中国政府はパニック状態に陥ったことだろう。 もちろん、これらの2、3の出来事をもって、トランプ次期大統領が中国の覇権主義を打ち砕こうとしているとか、アジアの平和に積極的に関与するつもりだなどと、軽々に判断するのは誤りである。 しかし、トランプが中国と対峙(たいじ)関係にある国と立て続けに接触し、中国を苛(いら)立だたせているのも事実だ。日本としてはこれをどう活用していくかという戦略が重要となってくる。会談を前に握手を交わす安倍首相(左)と中国の習近平国家主席 =2016年9月5日、中国・杭州 本書は、トランプ大統領の誕生がもたらすアジア秩序や中国情勢の大変化から、日中・米中関係の今後まで、徹底的に論じ合ったものである。 2017年にはオランダ、フランス、ドイツで次の政治リーダーを決める選挙がある。イギリスのEU離脱やトランプ現象に見られる「反グローバリズム」の流れがさらに加速するのかどうかの分かれ道となる。そして、それはグローバリズムの波に乗って急成長してきた中国にどのような影響を与えるのか。  加えて同年秋には中国で5年に一度の党大会が開催される。ここで習近平は権力の完全掌握に成功するのか。あるいは「ポスト習近平」の存在が浮かび上がってくるのか。 そうした点も、われわれ2人は縦横無尽に述べ合っている。先が見えない世界情勢のなか、これからアジアや日本、中国に訪れるであろう大きな潮流変化と、日本が進むべき道を考えるうえで、本書が一助となれば幸いである。

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    米中貿易戦争なら米国の圧勝、日本には漁夫の利

    【前向きに読み解く経済の裏側】塚崎公義 (久留米大学商学部教授) トランプ次期大統領候補の就任が近づいて来ました。具体的な政策は出揃っていませんが、選挙中の発言等からは、中国に対して高率な関税を課す可能性は比較的高いと言われています。そうなれば、中国が報復関税を課すことになり、米中の貿易戦争に発展しかねません。そうなった時に何が起きるのか、頭の体操をしてみましょう。米国の対中輸入額は輸出額の約4倍(iStock) 米国の対中輸入額は、対中輸出額の約4倍あります。ということは、米国の対中輸入制限と中国の対米輸入関税が同時に課された場合、単純に考えて、中国の受ける打撃の方が4倍大きいということを意味しています。中国のGDPは米国よりも小さいので、打撃額のGDPで比べれば、その差は更に大きくなります。 金額だけではありません。中国の対米輸出品が労働集約型製品で、米国の対中輸出品が技術集約型製品だ、という点も両者の打撃の大きさに影響します。 まず、米国の中国からの輸入品について考えてみましょう。米国は、別の国から輸入することもできますし、米国内でも生産することができます。現在米国が中国から輸入しているのは、「安いから」という理由だけなので、関税がかかれば対中輸入は激減し、他国からの輸入と国内生産が増えるでしょう。国内生産が増える分は、米国内の雇用を増やします。「米国の人件費は高いので、中国から輸入されている物を米国内で作るはずがない」、と考える人もいるでしょうが、途上国で労働集約的に作るか米国内で機械を使って作るかの比較なので、中国と米国の生産コストの差は賃金格差ほど大きくはないのです。 一方で、米国の対中輸入関税が中国に与える打撃は大きなものとなります。労働集約型製品の輸出が大きく落ち込むと、中国人労働者が大量に失業することになるからです。 次に、中国の米国からの輸入品について考えてみましょう。中国が米国から輸入しているのは、「単に安いから」ではなく、国内では生産できないから、という理由が主です。国内で生産できるならば、賃金が安い中国国内で生産した方が得なのに、米国から輸入しているのは、国内で生産できないからなのです。 従って、中国が対米輸入関税を課したとしても、中国の輸入が減って国内生産が増えるわけではありません。日本や欧州からの輸入が増えるだけです。中国としては、自国製品に関税をかけた米国に対する報復として関税を課すことで、米国に打撃を与えることはできますが、それにより自国が利益を得るわけではないのです。米国の雇用は対中輸入関税で増えるのに、中国の雇用は対米輸入関税でも増えないのです。政治的なダメージも中国の方が遥かに大政治的なダメージも中国の方が遥かに大 米国の対中輸入関税によって利益を得るのは、当然ですが対中輸入の増加によって損失を被って来た人々です。それはつまり、トランプ元大統領候補の支持層であった「没落しつつある白人労働者」たちです。つまり、トランプ大統領は、対中輸入関税を課すことで、自らの支持者の期待に応えることができ、二期目に向けて支持基盤を固めることができるのです。 中国にとっては、対米輸入関税を課しても国内生産が増えないので、メリットはありません。一方で、対米輸出が激減することの政治的なダメージは相当大きなものとなりかねません。現在、中国では、過去の過剰投資に起因する過剰生産能力を削減してゆく必要が唱えられているにもかかわらず、過剰能力削減に伴う失業の増加懸念や地方政府の抵抗等々により、削減が進んでいません。そうした中で、対米輸出が激減して生産能力が一層過剰になることで、いよいよ設備削減が避けられなくなり、様々な摩擦が発生し、現在すでに熾烈である国内の権力闘争が一層激しくなる可能性も高いでしょう。米国企業の中国子会社は困るが、米国が困るわけに非ず 中国に子会社を設立して安価な労働力を雇って物を作り、米国に輸出している米国企業は多数あります。米国が対中輸入関税を課すと、そうした企業が困ると考える読者は多いでしょう。それは誤りではありませんが、米国企業の中国子会社は中国企業ですので、本当に困るのは中国企業とその従業員です。米国の親会社が中国子会社から受け取る配当金は減りますが、米国経済への打撃はそれだけです。グローバル展開をしている巨大企業は発言力が強いので、あたかも米系中国企業の打撃は米国経済への打撃であるように聞こえるかもしれませんが、そんなことはないのです。 一方で、米国の親会社は世界展開をしているかもしれず、同グループのベトナム子会社からの輸入に切り替えるかもしれませんし、親会社の国内工場での生産に切り替えるかもしれません。それならば、親会社への打撃は限定的です。その間に、国内工場の雇用が増えて米国人が雇用されることになれば、米国経済全体としては大きなメリットだと言えるでしょう。中国が報復として米国債を売却する可能性は皆無中国が報復として米国債を売却する可能性は皆無 米国サイドには、「米国が対中輸入関税を課したら、報復として中国が保有する米国債を売却するかもしれない」という懸念があるとも聞きます。しかし、それはあり得ません。そんなことをしたら、米国より中国の方が大きな打撃を被るからです。 まず、中国政府が保有する米国の長期国債を売却して米銀に預金するだけなら、米国は何も困りません。長期国債が値下がりして米国の長期金利が一時的に上昇するでしょうが、その分だけ「米国人投資家が値下がりした長期国債を購入して高い利回りを享受する」「FRB(米国の中央銀行)が短期国債を売却して長期国債を購入する」「米国政府が長期国債の発行額を減らして短期国債を借り換えることにする」というだけのことです。 現在の長期金利が米国の投資家や政府や中央銀行が概ね妥当だと考える水準にあるのだとすれば、中国政府の売却により一時的に上昇したとしても、しばらくすれば元の水準に戻るのです。結果として、安値で長期国債を売却した中国政府が損をした、というだけの結果に終わるでしょう。 では、中国政府が米国債を売却して、売却代金のドルを人民元に替えて本国に持ち帰ってしまったら、どうでしょう? それこそ中国政府の「オウンゴール」でしょう。巨額のドル売り人民元買いの注文が中国政府から出されるため、猛烈なドル安人民元高となり、中国製品の輸出競争力は一気に弱まるでしょう。 ただでさえ、関税を課されて競争力を削がれている中国製品が、猛烈な人民元高に見舞われたら、中国の輸出は壊滅的な被害を受けることになります。そう考えれば、中国政府が対米報復のために米国債を売却することなど、あり得ないのです。対中関税により米国の外交上のメリットも対中関税により米国の外交上のメリットも 対中関税を課すことで、米国は世界に向けて「米国の利益のためなら、今までの政権が採らなかった手段も躊躇なく採用する」というメッセージを発することができます。それにより、対米ダンピング輸出をしている外国企業に対してはもちろんのこと、輸入関税が高かったり為替レートが割安だったりする国の政府に対しても、「是正しないと次は貴国が関税の対象になるよ」という脅しになります。 さらに、「米国政府は何をしでかすか予測不能」と各国の首脳が考えれば、反米的な政権が少し親米的な姿勢に変化するかも知れません。日本も、「在日米軍の費用は全額負担しないと、米軍が撤退してしまうかも」という恐怖心から、費用負担に応じるかも知れません。 実際に対中関税を課する前にも、「関税を課すかもしれない」というアナウンスは、中国向けの大きな抑止力となり得ます。「仮に中国が尖閣諸島に攻め込んだら、軍隊で反撃する以前に対中輸入を禁止する」と予め宣言しておけば、中国が尖閣諸島に攻め込むことはないでしょう。 さらに大胆に頭の体操をするとすれば、仮に米国が台湾と国交を樹立したとしても、中国が採り得る手段は限定されるでしょう。中国が本気で米台国交樹立を阻止しようとしたら、「国交樹立を認めないなら、高率の対中輸入関税を課す」と言えば良いからです。米中貿易戦争は、日本にとって「漁父の利」を得るチャンス米中貿易戦争は、日本にとって「漁父の利」を得るチャンス 米国と中国が相互に高率の関税を課し合うとすれば、日本にとっては絶好のチャンスです。中国が米国から輸入していた物、米国が中国から輸入していた物の一部が、日本からの輸入に切り替わる可能性が高いからです。 米国の対中国輸入が減り、中国の景気が悪化し、日本から中国への輸出が減る、と心配する人もいるでしょうが、心配ご無用です。米国が中国以外の途上国から輸入することになれば、その国の景気が拡大し、対日輸入が増えるはずだからです。米大統領選直後の北京で、トランプ氏の当選を報じる中国紙=2016年11月10日(AP) 仮に米国の保護主義がこうじて、対中輸入関税に留まらず、対日輸入関税が課されることになったとすると、話は厄介ですが、それでもなお、被害は限定的なものに留まる可能性が高いと言えそうです。 日本は、何十年も前から激しい日米貿易摩擦の洗礼を受け続けて来たため、免疫も耐性もできています。米国での現地生産も大々的に行なわれています。従って、初めて米国からの貿易摩擦の洗礼を受ける中国とは、受ける打撃の大きさが異なるわけです。 そもそも米国の対日貿易摩擦は激しくならない、という論者もいます。いまや多くの州に日系企業の工場があり、多くの米国人が雇用されています。そうした州から選出されている国会議員は、日本企業と仲良くやりたいので日米貿易摩擦を好まない、という傾向にあるというわけです。 さらに言えば、トランプ円安のおかげで輸出企業は巨額のドル高メリットを享受していますから、多少の関税が課せられたとしても、気にならない(関税の分だけドル建て輸出価格を引き下げても、円建て輸出価格はトランプ円安前と同水準かもしれない)というわけです。

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    トランプ本訳者が語る「トランプ氏の意外な一面」とは?

    月谷真紀(翻訳家)実は典型的なエリートビジネスマン? 2016年のアメリカ合衆国大統領選挙は、大方の予想を覆す逆転劇で共和党のドナルド・トランプ氏が、民主党のヒラリー・クリントン氏を破り、次期大統領に決まった。2016年11月現在、世界中の関心がトランプ氏の一挙一動に集まっていると言っても過言ではない。 そこで今回、トランプ氏の著書『トランプ思考』の訳者である月谷真紀氏に、ニュースが伝えない、型破りな男の「意外な一面」について、お話をうかがった。日本のメディアが報じないトランプの「別の顔」 約1年半前の2015年6月、ドナルド・トランプは2016年大統領選挙への出馬を表明した。当初は泡沫候補と見られていたが、予備選挙が始まってみればあれよあれよという勢いで多数の州を制す予想外の快進撃。共和党の有力候補に大きく水をあけ、指名をものにしてしまった。大手メディアからは大統領には不適格な人物であるとして次々と批判の声が上がった。ところがトランプの勢いは止まらない。過去の醜聞が暴露されたり、同じ共和党内の有力政治家から反旗を翻されたりとピンチに陥りながらも、対抗馬で民主党のベテラン政治家、ヒラリー・クリントンと五分五分の戦いを繰り広げてみせた。 そして2016年11月9日、大統領選の結果はまさかのトランプ当選。接戦とはいえ最後はやはりクリントンだろうと予想していた世界中を驚かせた。 しかし、不法移民を閉め出すために「メキシコとの国境に壁を作る」など物議をかもしたトランプの極端な発言の数々が、実は冷静な計算に基づくものだったという意見がある。2016年4月27日に放映されたNHKの「クローズアップ現代」では、トランプ陣営の選挙参謀を務めていたサム・ナンバーグ氏が「ターゲットとする層の有権者から票を獲得するために、大衆受けのいい不法移民問題を選び、強硬姿勢をとってみせている」「集会で過激な演説をして反応をテストした」などと明かすコメントを紹介した。トランプを間近に見ていた元側近の目には、メディアから伝わる自己顕示欲の強いビッグマウスという人物像とは異なる姿が映っていた。そんな別の顔がかいま見られるのがこの『トランプ思考』である。ワシントンで開かれた夕食会で講演するトランプ氏=1月17日(AP=共同) 『トランプ思考』は、ドナルド・トランプが自身のウェブサイトのために書いた記事を中心に49篇をまとめたエッセイ集である。ブログもあれば、ニュースレターの記事として書かれたものもあり、そのため語り口も長さも気軽に読める。特に社会に出る前後の若者を対象として意識しているようで、ビジネスについてのノウハウではなく物の考え方、取り組む姿勢を小気味よく提示している。若者だけでなく幅広い年代の読者にも面白く読んでいただけると思う。「奇跡の復活劇」の裏にあった大胆かつ緻密な思考 本人も何度か触れているが、トランプは不動産開発事業者として成功した後、不況の影響で資金繰りに苦しみ財政問題を抱えた。世間からは「もう終わった人」と見なされたほどだったが復活をとげ、ゴルフコースの開発やホテル事業などにも進出。個人的にもラジオやテレビ番組に出演し、なかでもリアリティ番組『アプレンティス』は大ヒットするという精力的な活躍ぶりである。ミスユニバースやミスアメリカ大会をプロデュースする団体に関わったり、プロレス団体のオーナーであるヴィンス・マクマホンと親交があるなど、派手な話題も多い。 それだけに人一倍大きなエネルギーとエゴの持ち主で、本書の中にも自画自賛めいたエピソードがところどころで披露されるのだが、ビジネスに対する姿勢は意外にも堅実である。スピードとハードワークの信奉者という点は彼らしいが、信用と評判を築き上げることの大切さを訴え、地道な下準備をおろそかにするなと説いている。ただし頭の悪い働き方をしても何のメリットもないと釘を刺し、自分のエネルギーの流れ(勢い)との付き合い方を伝授するところはやはりトランプらしい。シビアな実業家と「道化」との二面性シビアな実業家と「道化」との二面性 トランプは実業家の二代目に生まれ、名門大学の大学院を卒業している。在学中は父親から偉人の名言をしたためた手紙が毎週送られてくるという、『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』を地で行くようなオーソドックスなエリート教育を受けた。本書のエッセイにはトランプのインテリらしい面がところどころで顔を出している。本業である不動産ビジネスについては、細部へのこだわり、勉強熱心さ、必要とあらばみずから現場に赴いて建築素材選びもするハードワーカーぶりが語られる。そして特に若者に向けて書かれたビジネスマンとしての心得には、生き馬の目を抜くビジネスの世界を生き抜いてきたシビアな考え方があらわれている。 その一方で、プロレスのショーで乱闘めいたことをやってみせたり、自虐的なテレビCMに出演したり、コントで自分自身をパロディ化した人物を演じたりと、世間のイメージどおりの側面もエピソードとして出てくる。 このギャップに読者は首をかしげるかもしれない。しかしこれらの派手で道化じみた行動が、大衆にトランプの顔と名前を浸透させ、ドナルド・トランプという強烈なブランドを作り上げた。今後は「米国民すべて」に対するパフォーマンスに注目 『トランプ思考』では、メディアで誇張気味に伝えられる露悪的で派手な人物とは別人のようなトランプの一面をうかがい知ることができる。別の媒体、別のオーディエンスに対して発信するメッセージは、選挙運動で見せていた顔と異なることがおわかりいただけるだろう。 トランプは選挙戦では現状に不満を持つ層にアピールする戦法をとり、彼らに受ける発言や主張で支持者を拡大し勝利を手にした。大統領就任後、トランプのオーディエンスは「票を狙えそうな層の有権者」ではなくアメリカの全国民となる。今後どのようにパフォーマンスを変えていくのか、国の舵取りに果たして彼のビジネスマンとしての才覚が活かせるのか。本書に手がかりを探しながらトランプ政権の行方を見守りたい。 関連記事■ トランプ氏成功の秘密は「朝型」にあった!?■ アメリカンジョークで学ぶ 英語と英会話■ 伝説のプログラマーが教える「緩急をつける」時間術

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    トランプ氏に勝利をもたらした「説明力」

    アだが、その舌鋒は厳しく、その後も激しいトランプ批判を繰り返した。ニューヨーク・タイムズだけでなく、アメリカの主力メディアがトランプ批判に向けて雪崩を打ち、世界中のメディアがトランプ氏の言葉を、こぞって取り上げ、眉をひそめた。 メディアへの説明力という切り口でみれば、トランプ氏の言動は完全に失敗だと考えてよいだろう。しかし、既存メディアの人々への波及力が衰え、SNSなどの様々なルートで、トランプの言動が直接届く時代に入ったこともあり、従来のメディア論の常識を超えた反応が有権者から出てくることになった。政治のプロに徹したクリントン候補政治のプロに徹したクリントン候補 一方の民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン氏の「説明力」はどうだろう。 10月9日のテレビ討論会で、「米国の分断を修復する大統領になれるか」と問われたクリントン氏はこう答えている(10月12日付『日本経済新聞』)。「私はこれまで生涯を通じ、子どもや家族を支えるためにできることをしようとしてきた。トランプ氏は30年間の私の公職時代についてよく話すが、私はそれにとても誇りを持っている。民主党員、共和党員、無党派、国中のすべての皆さん。私に1票を投じなくとも、私はあなたがたの大統領になりたい」敗北を認めたヒラリー・クリントン前国務長官。左は夫で元大統領のビル・クリントン氏 良く考え抜かれたスマートな言葉だ。こうした発言なら少なくとも主力メディアに叩かれることはない。 こうした説明力はクリントン氏の言動のすべてに貫かれている。テレビ出演や演説の際のファッションから、話し方、笑顔の作り方まで、すべてが計算し尽くされている印象だ。 一流のスピーチライターやアドバイザーが多数集い、彼らによってクリントン氏の一挙手一投足に至るまで磨きがかけられ、クリントン氏自身が、それを完璧に演じきろうとしてことがうかがえる。有権者が「プロ」の言葉を選ばなかった理由 しかし、今回の米大統領選の最大のテーマが何であったか、今一度、振り返ってみる必要があるだろう。 それは、米社会の「分断」だ。 米では一部のグローバルエリートが巨額の富を得る一方で、大勢の人々の生活は困窮、希望のある未来を描けなくなっている。たとえば、「移民に職を奪われた」との懸念が多くの人に共有されるなど、既存のエリートによる政治や社会統治システムに強い疑念が向けられている。そうした人々にとって、既存の有力メディアも不信の対象でしかない。いや、見向きもされず、記事が読まれることすらないのかも知れない。 そんな背景を考えたとき、米国の分断の修復に向けたクリントン氏の言葉は、既存のエリートに不信を抱く米国の有権者の心を捉えることができたのだろうか。答えは「ノー」だろう。 米国のエリートたちの英知を集約したかのようなクリントン氏のいかにも政治の「プロ」に徹した言動そのものが、多くの人々の不信感を深めることになってしまったのではないか。「そんなクリントン氏を大統領に選んでも、既存のエリートが統治するアメリカは、そのままで何も変化しない」――多くのアメリカの有権者が、そう感じたのではないか。お笑い番組のようなショーアップお笑い番組のようなショーアップ では、トランプ氏はどうだろう。同じテレビ討論会で、雑談テープが流出、女性蔑視発言と問題になった点について、こう答えている。「(ヒラリー・クリントン氏の夫である)ビル・クリントン氏を見てみればいい。過去の政治史で見られないほど女性を虐待している」 元大統領のビル・クリントン氏の不適切な女性関係を思い起こすと、思わず苦笑いしてしまう。 トランプ氏の語り口を映像でみると、まるでお笑い番組のようにショーアップされている。数々の舌禍や失言すらも居酒屋でビール片手に、本音で語りかけてくる愉快なおじさんのように感じさせてしまう側面がある。少なくとも、既存のエリートが作り上げた「嘘くさく、希望のない世界」に別の風を呼び込んでくれそうな期待を、多くのアメリカの有権者が抱いたのではないか。問われるトランプ氏の説明力 トランプ氏の大統領選の勝利を受けて、一週間ほど、大方の懸念をよそに米株式市場は活況を呈した。 そして今、次期大統領となったトランプ氏は、過去の言動の修正に入っている。 11月13日放映の米CBSテレビのインタビューで、過去の暴言について「穏やかで上品にできればよかった。もっと政策重視ならよかったかもしれない」(11月15日付『日経新聞』)と反省の意向を示し、大統領首席補佐官には共和党主流派からも信頼の厚いプリーバス党全国委員長の起用を発表した。 実際にトランプ政権のチームが編成され、議会との対話が始まれば、きっと政治のプロである共和党の有力者の力が増し、案外、普通の共和党の大統領になるのではないか。そして、大幅減税や大胆な公共投資など、トランプ氏の主張のうち、「市場に好ましい」要素だけが実現するのではないか――。 市場を動かすグローバルエリート投資家たちは、こう受け止めているかに思える。 本当にトランプ政権は、そのように運営されるのだろうか。そうしたこれまでの政権と変わらない運営は、既存のエリート統治の破壊を望むトランプ氏に投票した多くの有権者の期待を裏切るものなのではないのか。 トランプ氏は、自らの説明力で高めた有権者の期待への答えを、これから迫られることになる。今後のトランプ氏の説明力に大いに注目していきたい。 おの・のぶかつ 嘉悦大学教授・ビジネス創造学部長、博士(経営管理)。1965年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。共同通信社で記者として財務省、金融庁、経済産業省、大手銀行、航空業界などを担当、日本銀行キャップ、経済部次長を歴任。著書に『黒田日銀 最後の賭け』(文春新書)、『JAL 虚構の再生』(講談社文庫)、『企業復活』(講談社)、小野一起のペンネームで小説『マネー喰い』(文春文庫)などがある。関連記事■ トランプ本訳者が語る「トランプ氏の意外な一面」とは?■ トランプ氏成功の秘密は「朝型」にあった!?■ 危機対応のプロが教える、修羅場で問われる4つの説明力

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    トランプ勝利をポピュリズムの象徴とみる誤り

    著者 河野素山 世論調査上の劣勢やいわゆる有識者達の非難にもめげずに、トランプ次期大統領が歴史的な勝利によって誕生する。トランプ氏を大衆迎合主義、ポピュリズムの象徴として否定的にとらえる人々が多い。しかし、彼はそもそも他人に迎合するような性格とは見受けられないし、富が一部に集中する傾向を増していき1%の富者が富の半分を支配するまでに至った世界において、大衆のための政治を行うのは正しいことである。 選挙戦は、不人気候補者間における非難合戦となり、一見すると政策論争は少なかった。しかし、実はその非難合戦自体が、この四半世紀間におけるPC(ポリティカル・コレクトネス)運動、弱者是正(アファーマティブ・アクション)運動、グローバリズムの流れと、これらに対する地域主義、公平さ、言論の自由、法の支配をもとにした反作用との間で生じたものであって、根本的な価値対立を表した最大の政策論争であった。トランプ氏の勝利は後者らの勝利にほかならない。マイアミ・デード大学で行われた集会で聴衆にウインクする民主党大統領候補のヒラリー・クリントン前国務長官=10月11日、フロリダ州マイアミ ヒラリー・クリントン候補は、平成7年の国連世界女性会議における名演説を経て、男女平等運動やPC運動の体現者となった。PC運動は、狭義では差別的用語を廃絶する運動にすぎないが、その用語ポリティカル・コレクトネス(Politically Correct)が評価形態をとっていることにも表れているように、実際には用語是正だけではなく人々の差別的意識や社会における差別的現状まで是正しようとする運動であって、弱者の社会的優遇を正義とする弱者是正運動と結びついている。そして、PC運動の延伸的性質からして、そこでいう弱者は国内にとどまることがなく、国外における弱者救済にまで結びつき、難民受け入れや不法移民への寛容、国外に対する同質的なPC政策の押し付けを経てグローバリズムとも結びつくこととなった。 ヒラリーを核とするPC運動は、米国初の黒人大統領であるオバマ大統領の誕生に象徴される輝かしい成果と社会変革を成し遂げてきたが、反面において多くの腐敗と抑圧、不正義の温床となった。PC運動は、共通の価値観を広げようとする性質を有するがゆえに、言論の自由や多様な価値観に対する抑圧となりつつあるし、弱者是正運動は、実質的公平さを根拠に一部を優遇するものであって形式的公平さからの逸脱となるが、どの程度の逸脱が公平かについて共通認識はなく、逆に形式的不公平の蔓延が共通かつ透明性のある価値判断を喪失させ、一部の特権階級を生み出しかねない。実際、PC運動と根流においてつながるグローバリズムは、一部の企業に膨大な利益をもたらす一方で、国内における中間層の没落を招いていた。 さらには、PC運動は、正義を根拠に法を犯したベトナム反戦運動の影響下にある世代において再び法を犯す根拠ともなりうるのであって、法の支配すら危うくしつつある状態だった。ヒラリーを核としていた民主党全国委員会などの協力者達は、予備選を通じて多くの選挙不正を冒したし、本選においても不正な工作に手を染めた疑いがある。ヒラリー自体、クリントン財団への献金や多額な講演料を受けていた一方、国務長官時代には便宜供与を行っていたし、私的サーバーを通じて国家機密漏洩すら行っていた疑いがある。彼女の夫ビル・クリントン元大統領による恩赦事例に照らしても、ヒラリーには大統領就任後さらなる便宜供与が一部から期待されていたことであろう。PC運動に異議を唱えたトランプのみ 米国における白人中間層は、四半世紀を通じたPC運動による意識改革を迫られ、弱者是正の標的となり、グローバリズムの犠牲者となってきた。そもそも、将来的に少数者になることが確実視されている白人を、弱者是正を理由に形式的に不公平に取り扱い続けることが現在においても実質的に公平なのかはもはや疑問というべきであるし、経済的現状をみても彼らの中には経済的弱者として保護されるべき者が多い。また、国家元首である大統領がグローバリズムに染まって国家や国民の利益を第一としないこと自体おかしなことであろう。 米国は、今一度形式的公平に立ち返るなり、条件の平等性(レベル・プレイング・フィールド)のあり方について根本的な議論をするなりして、公平さと法の支配を取り戻すべきである。 今回の選挙においてグローバリズムや弱者保護のあり方はもともと論点であったろうが、PC運動自体に異議を唱えたのは、様々な暴言として非難を受けたトランプ氏のみであった。しかし、既存の政治家の枠を超えた彼のPC運動に対する問題提起は正しいものであるし、ヒラリーを含む既存政治家の腐敗を追及するなど体を張って挑戦し続ける彼の態度は、信念に基づくものとして多くの疲弊した米国民の支持を受けた。他の候補よりも多くの支持を受けたのは当然の結果であった。トランプ次期米大統領 大統領選の結果を受けてニューヨークやカリフォルニア州では抗議集会が開かれ、国外に脱出すると言ったり、カリフォルニア州を独立させようという人たちまでいるが、トランプ氏は差別助長を訴えているわけではない。米国は人種からして多様な国であり、差は現にあるものであって、公平さのあり方は状況によって変わりうるものである。また、不法移民に対処するのは国家として当然のことであるし、国民の福祉を充実させるためには難民や移民の受け入れに限界が生じる。勝利宣言の内容やニューディール的な政策への言及をみても、トランプ氏が国民全体を第一として非差別的に中間層を救済する施策を目指していることは明らかなように思われる。また、イスラムとの関係でいえば、表面上の軋轢を離れて根源的に考察すれば、PC運動とイスラム的価値観との対立がこれまでの軋轢を生んでいたのであって、むしろヒラリーよりもトランプ氏の方が多様性をもとにした融和につながりやすいとも言い得る。 PC運動などを巡る今回の対立は、すでに一定程度PCな世界で育ったミレニアム世代には実感のわかないものであったに違いない。ヒラリーは彼女の運動が成果をあげたがゆえに時代遅れとなっていたのであって、選挙不正や違法行為に手をそめるまでもなく女性大統領はいずれ誕生するであろう。 また当選後の抗議運動は、12月19日の選挙人投票日での逆転を目指したヒラリー支持者達が核となり、これに不法移民やその家族による抗議やミレニアム世代の同情が加わったものと思われるが、うちミレニアム世代については、今まで育った価値観からの離脱に対する彼らの戸惑いを示すものにすぎず、どのような価値観に向かっているのかを明示することによって落ち着きを取り戻すことが可能だろう。 トランプ氏は、20年以上前から大統領選への出馬を噂される存在ではあったが、政界では異邦人であって課題は多く、既存政治家達の壁もあるだろう。しかし、就任前から米国内の雇用確保において成果をあげる一方で、台湾の蔡総統との電話会談を行うなど、型破りな手法は健在である。足枷を全く受けていないトランプ新大統領による斬新な政策が楽しみである。

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    プーチンとトランプが惹かれ合う理由

    著者 aoki fumiya 11月9日、アメリカ合衆国大統領選挙にて、共和党候補のドナルド・トランプ氏が当確した。「色物候補」として目されていた男が、アメリカという世界随一の超大国の指揮を執る。早くも国内外からは未来への不安と、彼に対する嫌悪の感情を伝えるメディアの動きが喧しくなってきた。 メキシコ国境にバリケードを築く、イスラム教徒は入国禁止とする…といった現大統領、バラク・オバマ氏なら考えられないような、演説のたびに吐き散らされる暴言。実業家としての放埓さと「力強いアメリカ」を希求する彼に支持を向ける国民は予想を遥かに超える数で存在していた。また、トランプが掲げる「アメリカ主義」、つまりアメリカという超大国がこれ以上他国に口を出し疲弊を被るのはもうごめんだ、それよりも国内の治世に目を向けよう、という一種の不干渉体制に好感を持っている人々は決してステレロタイプな「無教養で流されやすい貧困層」などではない。 トランプ勝利に喜色満面な人物の筆頭が、現在のロシア連邦を牛耳る「皇帝」ウラジミール・プーチン氏だという。トランプ米次期大統領(左)とプーチン露大統領「力」の信奉者 2013年、内戦真っ只中の中東、シリアでは、独裁体制を敷くアサド政権に対しての国際的な風当たりが日に日に高まっていた。ただ、シリアと軍事的、政治的に深いパイプを持つ(シリア西部の港湾都市・タルトゥースには内戦以前からロシア海軍が駐留)。プーチンは一貫してアサド政権を擁護、アメリカを含めた西側諸国との亀裂は深まるばかりだった。 当時、国務長官であったヒラリー・クリントンはオバマ大統領に幾度となく「シリア内の反体制派組織へ、本腰を入れた援助を向けるべきだ」と進言していたという。しかしオバマはそれを頑なに拒み続けた。まるで中東では何もしたくない、と言わんばかりの態度だった。その間に、シリア北東部のラッカ、さらにはイラクをまたいだ地域に過激派組織イスラム国(IS)が勃興、混乱は世界的に広がっていく。プーチンにとってこれは好機だった。西側の不干渉路線を眼光鋭い「熊」が見過ごす訳がなかった。手始めに、東欧のウクライナにおける騒乱に乗じ、クリミア半島を電撃的に自国へ編入して見せた。 ソビエト連邦崩壊以降、初となる国境線の変更が、武力により公然と断行されたのだ。1994年の国際合意は、何の意味も成さなかった(ブダペスト覚書。米、英、露、ウクライナ四カ国によるウクライナの領土保全を文書で確約、旧ソ連時代に残置されたウクライナ領内の核兵器を西側の経費負担で処分する代わり、クリミア半島はウクライナ領として侵してはならない旨明記)。 さらに、特殊部隊を差し向けられたウクライナ東部地域において、「ノヴォロシア連邦」が独立を宣言、政府軍との苛烈な戦闘は未だ継続中である。 プーチンの思惑通りか、アメリカが主導するロシアへの対抗策は経済制裁のみとなり、軍事介入は無かった。そして、先のシリアにおいてはアメリカのIS対応のもたつきを尻目に2015年に、ロシア空軍による本格的な空爆が開始される。 これによる多数の民間人の死者は数え切れないが、それでもISはじめ、ヌスラフロント(アル=カーイダ系の反政府武装組織)といった国際的なテロ組織の脅威が騒がれる中、ロシア介入に賛同する声も多く聞かれる。トランプ候補も、以上のようなユーラシア大陸におけるプーチンの影響力拡大路線に賛辞を送っている。

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    なぜ木村太郎だけが「トランプ勝利」を的中できたのか

    な発言をしたトランプが、なぜヒラリーに勝利したのかを考えると、トランプはヒラリーに勝ったというより、アメリカの大手メディアに勝ったということなんです。逆に言えば最大の敗者は大手メディアだったんですね。 ジャーナリストの一人として、大統領選を報道するアメリカ大手メディアの姿勢にとても驚かされました。一番のいい例は、30年前に飛行機の中でトランプに体を触られたと公表した女性がいましたけど、これをニューヨーク・タイムズが1面トップ級の扱いで報じたことでしょう。米大手紙の大統領選報道について語る木村太郎氏 このニュースを見てやっぱりトランプは女に手がはやいんだなと思ったけど、翌日にはイギリスで「その飛行機におれは乗っていた」という人が名乗り出ていたんです。その男性はむしろ言い寄っていたのは女性の方だったと証言し、その内容がイギリスのタブロイド紙「デイリー・メール」に掲載されたんです。 デイリー・メールは記事にしたけど、このニュースはアメリカのネットメディアなんかにはもうその日に出まくっていた。これをアメリカの大手新聞は一切報じない。この女性問題についてはもう一人証言者がいて、女性はトランプが飛行機の座席のひじ掛けを上げて迫ってきたって言っていたけど、ひじ掛けは上がらないタイプだったと。 要は、ニューヨーク・タイムズは何も裏を取ることもなく、単なる反トランプ側の言う真偽不明なことを平気で1面トップ級で掲載したんです。そして誤報になっているにもかかわらず、訂正のような記事も出さなかったということです。これはもうクオリティペーパーとしてありえない。 メディアに支持する政党や候補がいて、社論があるのは当然です。大手メディアの大半はヒラリー支持を明確にしていました。ただ、これは日本のメディアも同じですけど、論評はそれでいい、でも一般記事まで傾いてウソをつくようになった。ニューヨーク・タイムズの例はほんの一例で、本当にここまでやるのかという記事がやたら多かった。 ワシントン・ポストについてはアマゾンのオーナー、ジェフ・ベゾスが買収したんですけど、アマゾンはいろんな意味でグローバリゼーションの旗頭なんです。トランプの主張はそれを否定しているんです。それで、ベゾスがトランプを潰せと号令をかけて、20人の取材チームつくってトランプのスキャンダル探しをずっとやらせていた。 もうアメリカの大手新聞はジャーナリズムというより、資本の論理が入ってきているんです。ジャーナリズムの信念というより、資本の論理が思いっきりはたらいて、これはテレビもそうですよ、とても危なくなってきていると感じましたね。「トランプ優勢」を言えない米大手メディア ワシントン・ポストのトランプのスキャンダル探しはジャーナリズムとしてアリですけど、いい加減なゴシップを裏も取らずに報じるのは間違っている。ワシントン・ポストのホワイトハウスのキャップなんて、ウィキリークスがばらしたけど、民主党のヒラリー選対の報道係にメール送ったのを暴露されたんです。 そのキャップはトランプのスキャンダル記事についてヒラリー側に「明日の一面トップで出ます、きっと気に入ってもらえると思います、これからもよろしくお願いします」なんて内容をメールで伝えているんです。敵対陣営のネタを記事が掲載される前に言うなんてタブーですよ。 ニューヨーク・タイムズも似たようなことをウィキリークスに暴露されて、テレビも同じようなものです。CNNはトランプにインタビューする前に、民主党の全国委員会にメールを出して、「看板キャスターがインタビューするからトランプを追い込むような質問を集めろ」ってね。これはちょっとひどいなと思いますよ。トランプ氏 大手メディアがこぞって今回の大統領選挙の結果を間違えたのかという点については、目の前を通っているトランプ支持者を自分たちで見えなくさせてしまったんです。あまりのヒラリー支持に凝り固まって、それが行き過ぎた。 何がなんでもトランプが嫌だという思いが強すぎて、たとえ世論調査の結果でも社内でトランプ優勢なんて言えないような雰囲気にまでなっていたようですね。メディアとして死んでいたということです。 メディアが政治的立ち位置を鮮明にするのはいいけど、フェアにやらないといけない。アメリカは今回、あまりに不公平だった印象が強い。こうした大手メディアの信用できない実態を国民は知っていたし、トランプもそこを逆手に取ったんでしょうね。 トランプは大手メディアを敵に回したことで得をしたんです。集会をやると必ずトランプがやることがあって、大手メディアの記者席がある方を指さして「後ろに並んでいるウソつきどもちょっと来い」なんて言って、僕もいましたけど、聴衆が一斉に後ろを向くんですよ。そしてブーイングが起きて、大いに盛り上がる。 トランプは政治経験もなく、スタッフの数も選挙資金もヒラリーの10分の1しかなかった。だけど、選挙参謀がネットメディアの経営者であまりに優秀だったんです。日本もそうなりつつあるけど、結局アメリカもネットメディアの勢いがものすごくて、トランプはきっちりネットメディアのすごいヤツを使っていた。 アメリカに「ブライトバート・ニュース」というニュースサイトがあります。そこの会長がスティーブン・バノンっていいますけど、その人が8月以降、トランプ陣営の総責任者を務めはじめて、それから猛烈にトランプは勢いづいていったんです。クオリティーペーパーは「地に落ちた」 結局、大手メディアは本当のことを報じない、でもネットメディアは本当のことを報じるというイメージが米国民に浸透しているんです。日本よりもとっくにネットメディアがそれなりに信用される土台ができている中でトランプが出現し、それをフルに活用したということなんです。 ずいぶん前の話ですが、「ドラッジ・レポート」というニュースサイトは、保守系なんですけど、ビル・クリントン元大統領とモニカ・ルインスキーの不倫問題を最初にすっぱ抜いたサイトなんです。 僕も毎朝ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズの見出しぐらいは見ますけど、見出しだけで中身がわかるから読まない。大手メディアのネットサイトはつまらないんです。逆にネットメディアは大手メディアのアンチテーゼで評価されている。ネットメディアは見出しからおもしろいし、真実を伝えているから読みますよ。「米大手紙は崇拝から軽蔑に変わった」と語る木村太郎氏 今回の大統領選のスタート時から、ずっとネットメディアを見ていて、それでトランプが勝つだろうと思った根拠の一助になっていますね。トランプの女性問題もそうですが、大手メディアがいい加減に報じたことの裏側情報を必ずネットメディアが出して、その真偽を証明するんです。 ならば、ネットメディアの方が新聞読者より多くなるし、影響力が出る。そこをトランプ陣営はよくわかっていて、選挙戦を展開したから、どれだけヒラリーの支持が見せかけだけなのかわかっていたんでしょうね。 ネットメディアは建前がない。知る権利に応えるとかではなくて、言いたいことをすぐに言おうみたいな。偏っていても、偏って何が悪いんだと。そういうことが言えるメディアなので、それが切磋琢磨していくと、優秀なやつが出てくるんです。 そしてその中から優れたジャーナリズムというか、報道が生まれてくる。アメリカのクオリティペーパーはもう地に落ちた。僕自身もかつて崇拝していたけど、今回の選挙で追いかけて見ていて失望したし、むしろ軽蔑しましたね。 トランプを当選させた最大の功労者は先ほど触れたバノンです。トランプ就任後の人事で、首席補佐官と同列の地位につくようです。反トランプから人種差別主義者だとか批判の声は大きいですが、今後はバノンが社長のブライトバート・ニュースを見ないとトランプ政権の真の方向性がわからない時代になるかもしれない。大手メディアがホワイトハウスのマスコミの中枢から疎外される可能性も十分にありえると思いますよ。(聞き手、iRONNA編集部 津田大資) きむら・たろう 昭和13年、米国生まれ。慶応大法学部卒。NHKの海外特派員やキャスターを経て63年、フリーに転身。現在、フジテレビ系「Mr.サンデー」などでコメンテーターを務めている。

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    トランプ叩きで墓穴を掘った既存メディアの「不都合な真実」

     そして、現在、反トランプデモなどが行われており、それを必死に報じている人たちがいるようだが、それはアメリカ人の一部でしかなく、アメリカ人であるかもわからないのである。強制送還される可能性が高い不法移民がトランプ批判を繰り広げるのは当然であるとも言えるわけだ。また、民主主義にとって、主権者である国民が政治を選ぶ選挙が最も大切であり、デモや暴動により選挙が否定されることなどあってはならない。 これは日本にも言えることだ。そして、集団的自衛権反対や反安倍デモを好意的に捉えていたり、支援している人たちとトランプ批判を繰り広げている人たちがかぶると思うのは私だけではないだろう。お困りだから騒ぐのであり、騒いでいるのはお困りだからなのである。

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    「隠れトランプ」はどこに潜んでいたのか

    「世紀の番狂わせ」と言われた米大統領選をめぐり、米大手メディアによる事前の世論調査がことごとく外れたことに衝撃が広がった。とりわけ注目されたのが「隠れトランプ票」の存在である。「トランプ憎し」の極端なスタンスで報じ続けたメディア不信の表れとの指摘もあるが、なぜ既存メディアは票読みを誤ったのか。

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    大統領選で日本を覆いつくした米メディアのソフトパワー

    渡瀬裕哉(早稲田大学招聘研究員) 米国の大統領選挙に関して日本人は当然投票権を持っているわけではありません。しかし、多くの人が米国大統領選挙に関心を持っていたことも事実です。そして、大半の人がヒラリー勝利を確信していたものと思います。 実際にはヒラリー勝利は「米国メディアがそう報じたこと」以外はほとんど無根拠な予測でしかなく、トランプ氏がヒラリーを破ったことで皆が幻想を見せられていたことが分かりました。このことについて筆者は散々論じてきたので今回は割愛します。興味ある人はこちらまで。(なぜ有識者は「トランプ当選」を外し続けたのか?) 今回、筆者が伝えたいことは、巨大なメディアを有している国のソフトパワーについてです。 ソフトパワーは元々ジョセフ・ナイ(クリントン大統領時代のブレーン・知日派)によって提唱された通貨、文化、その他諸々多様な要素を含む国力の新しい概念でした。そして、この概念はグローバル社会におけるハードパワー(軍事力)に匹敵する力として様々な批判を浴びながらも定着したものになっていると思います。 今回、米国大統領選挙に関する日本の様子を見ていて、筆者が感じたことは「この国は簡単に米国のプロパガンダにやられる、ソフトパワーとしては三流国なのだ」ということです。 日本のメディアは米国の報道を垂れ流し続けて何の疑問もなく、そして国内からもほとんど報道内容がおかしいという検証もなされないわけです。ヒラリー万歳報道に散々騙された挙句、更に米国メディアの「かくれトランプ支持者」なる言い訳報道を何の検証もなく鵜呑みにしているわけです。オレオレ詐欺が無くならないわけだとしみじみします。 まさに文化的・メディア的な植民地状態を露呈した有り様であり、米国のメディアが持つ影響力は日本にとって非常に脅威だと感じました。米国エスタブリッシュメントの代弁者 さらに、単純に日本のメディアが米国メディアの丸写しであるというだけでなく、そこに登場する有識者の大半も米国エスタブリッシュメントの代弁者に善意によって自然となってしまう構造があります。ハーバード大学 それらの有識者とされる人々は官僚・学者・メディアの人間ですが、彼らは米国滞在中に大学・メディア・役人などの極めてリベラルな人たちと接触する機会を多く持つことになります。 そして、日本人は米国政治における基礎的な政治教育を受けることないので、先方のエリート大学などに留学して教育を受けてすっかりリベラルに染め上げられてしまいます。更に、ハーバードをはじめとした米国のエリート大学の中でエスタブリッシュメントとの人間関係が出来上がります。なぜ米国民の半数は屈しなかったか 彼らが米国の友人に聞いたとか、米国でヒアリングしたとか、という際に接触しているのは、リベラルなエスタブリッシュメントばかりなので情報にバイアスがかかります。 そのため、これらの人々が日本のメディアに出て解説を行うことでメディアの偏りが一層加速する形になります。これは陰謀説というよりも、人間ってそういうものだよね、っていう話だと思ってください。彼らが悪いというよりも構造上仕方がないことなのです。 こうして米国エスタブリッシュメントの無自覚な代弁者が出来上がっていくものなのです。筆者は一方に偏り過ぎた情報のみが真実として日本に入ってくることには強い疑問を感じます。 米国のように優れた大学などの教育機関を有していると、世界各国から人材を受け入れてネットワークを作ることができるという「ソフトパワー戦略の見本」を示してくれているとも言えますが…なぜ米国民の半数は屈しなかったか 私たちのような外人(日本人)がすっかりヒラリー大統領だと思い込まされていたにも関わらず、米国では何故半数の人々がヒラリーを拒絶するような不屈の精神を発揮できたのでしょうか。 それは共和党系のグラスルーツ(草の根団体)による政治教育の結果です。米国共和党系の保守派グラスルーツは長年のCNNを筆頭とした偏向報道に対して非常に深い懸念を抱いています。そのため、大手メディアは常に民主党に偏向していることを自らの支持者に伝えているため、もはや米国共和党支持者にとっては米国メディアの偏向報道は慣れっこ&スルーになっているわけです。 更に、どのテレビ番組が放映時間の何分間で偏向報道を行ったのか、を計測して発表するような非営利団体まで存在しており、大手メディアは国民側からも常に監視されています。もはや権力と化したメディアは国民に根差したグラスルーツに監視される存在になっているのです。日本もメディア報道に振り回されないリテラシーを また、共和党側からはリベラルに偏重する米国の大学への信頼も地に落ちているため、その代替機関として政府から独立した民間シンクタンクが発達しています。これらの組織は自由主義の立場(米国のリベラル=大きな政府の反対)から独自の提言・レポートを生産しており、共和党支持者はシンクタンクからの情報を信頼しています。 上記の通り、米国内ではメディア・大学・政府を牛耳るエスタブリッシュメントに対抗するソフトパワーが準備されており、 米国民はそれらの情報を摂取しているため、多少メディアが煽ったところで簡単に騙されにくい構造ができあがっています。メディア報道に振り回されないリテラシーを 日本は独自のメディア情報網が非常に脆弱であり、米国における情報収集能力でも上記の有り様という状況になっています。そのため、一朝一夕で日本独自の情報発信組織を作ることは困難です。 そこで、一般的なメディアなどに対する免疫をつけることから始めるべきでしょう。 筆者は特に今回のヒラリー勝利の誤情報を国会議員ですら信じ込んでいた人も多かったことを懸念しています。このような貧弱なソフトパワー・脆弱な国家のままでは簡単に外国にひっくり返されるのが関の山だからです。今回、ヒラリーが必ず勝つと思っていた国会議員の人たちはリテラシーが低すぎて外交に携わって頂くのが心配で仕方がありません。 そのため、初歩としては、日本国内のメディア・大学などのリベラル偏向に対する米国流のグラスルーツの対抗措置を参考にして、日本版のリテラシーを高める試みを実践していくことが望まれます。そうすることで、外国メディアに対するリテラシーを高めることは自然とできるようになってくるでしょう。 米国エスタブリッシュメントが有する圧倒的なソフトパワーを見せつけられたこと、それが今回の大統領選挙における日本人としての最大の収穫だったと感じています。(ブログ「切捨御免!ワタセユウヤの一刀両断!」より2016年11月14日分を転載)

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    トランプ負けの世論調査はなぜ外れたか―を想像する

    【WEDGE REPORT】『情報参謀』(講談社)の筆者が米大統領選を分析小口日出彦 米大統領選の帰趨が定まった11月10日(木)の朝、Wedge編集部から「なぜ米国の大手報道機関などによる事前予想がことごとく外れたのか原因を論評できないか」との打診をいただいた。 答えは「残念ながらわからない」。 私は、ごく普通の日本の人々よりは少し強い興味を持って米大統領選を眺めていたが、しょせん“眺めていた”に過ぎず、手元には世論調査の手法や推移、事前予想報道を遡る記録もないので判断する材料がない。なにより、日本に居たのでは「リアルな気配」を感じることもできなかった。 しかしながら、「世論調査に基づく予想がことごとく外れた」のは事実のようだ(ニューヨークタイムズが投票日当日朝にトランプ勝利80%と発表して大騒ぎになったことは除く)。 この事実について、私の想像を述べておく。ノールカロライナ州でのトランプ氏勝利を速報するCNN(GettyImages)世論調査回答者が「調査にスレた」のではないか 世論調査に基づく得票予測が成り立つには、「調査回答者がまともに答えている」という前提がある。「まとも」というのは「正直に」とか「まじめに」、と言葉をかえてもよいが、とにかく「私はA候補とB候補ならAに投票する」という意思をまともに回答してくれるという暗黙の前提である。 私は、この前提が大きく崩れているのではないか――と疑う。というのは、「世論調査的な聞き取り」に、多くの一般の人々がスレ切ってしまう――という状況の変化が近年非常に加速したと、容易に想像できるからだ。 買い物に行く、レストランを予約する、旅行に行く、といった当たり前の行動をするたびに「いかがでしたか?」質すアンケートが、電子メールやSNSメッセージで続々と着信する。うっかりしていると著名な場所に入っただけで「XXさんがYYにチェックインしました」というメッセージが本人の意思と関係なくSNS上に発信され、友人知人に「Like(いいね)!」をクリックしてくれと勝手に求める。 米国はこうしたマーケティング行為上の個人情報の扱いは、日本に比べたらずっとオープン(情報利用に関する許諾=パーミッションの幅が広い)である。消費財の購買者リストなどは堂々と流通しているし、政治分野でも政党支持者のリストがかなり整備され流通している。 そうした社会的土壌は、地域や教会、学校などのコミュニティ活動(米国っぽい活動)を活性化するのに寄与してきたのだと思う。しかし、かつて集会や電話を通じて呼びかけられた情宣活動が、ネットの時代になって大量かつ高頻度で繰り返されるようになったら「うっとおしい」と疎んじられる傾向がイヤでも強まるだろう。オバマ大統領の初当選の頃には目新しい情宣経路と評価されたツイッターも、いまでは当たり前の(もしかすると使い古された)道具というイメージが主流だろう。 こうした感覚の変化をもたらしたのは、当然のことながらスマートフォンやタブレットなどのデバイスが広く一般に出回ったことだ。そしてデバイスが浸透していく過程で、人々は「マーケティング」にさらされた。そのさらされ具合は、新聞、ラジオ、テレビといったこれまでのどの情報経路よりも強力で直接的な印象を与えたと思う。 調査にスレた人々は、「問いかけ」にまともに答えなくなっていく。あまり深く考えることなく無難な答えを選んだり、遊び半分に本心と違うことを答えたり、極端に悪評選択肢ばかりを選んでみたり……あるいは最初から「ジャンク」として回答そのものを拒否したり。選挙世論調査もそうした行動の中に巻き込まれ、信用できる調査結果から遠ざかっているのではないか――と私は疑う。「政治への嫌気感」が結果を大きく左右する時代 「政治への嫌気感」が結果を大きく左右する時代  今回の米大統領選が、終盤に来てとてつもない激戦、それも政策論争ではなく互いに泥を投げつけ合う文字通りの泥仕合になったことも世論調査による予想を難しくしたと思われる。 片や女性差別発言、片や電子メールの不適切利用による犯罪疑惑。こうしたことが争点となったとき、まずごく当たり前の有権者が抱く感覚は「政治への嫌気感」だろう。政治への嫌気感とは、合理的であろうと感情的であろうと、どこかの政党あるいは候補者にシンパシーを抱いていた有権者でさえ「どっちでもいい……」と飽きれてしまう感覚である。『情報参謀』(講談社) この感覚は一票でも多い得票を目指す政党や候補者の側からすると極めてやっかいだ。表面上、支援者のように見えて、実際の投票行動は気まぐれになる危険が増すからだ。どうせなら離反されるなら、むしろ徹底的に嫌われてしまう方が対処しやすいくらいだ。 トランプ vs クリントンの大統領選は、当初から乱戦模様だったが、その乱戦が嫌気感を醸成していったことは想像に難くない。この嫌気感が強くて大きいとき、有権者は、世論調査にまともに回答することもイヤになる。そして往々にして「少なくとも世の中の流れのママにはさせないぞ」という反感が投票行動の動機となったりする。この場合「世の中の流れ」には「メディアから発表される世論調査の動向」も含まれるので、世論調査の結果そのものが反対の行動を促す原因になったりするのではないか――と想像するのである。 ひとつ私がよく知っている事象を述べるなら、ここで想像したことは決してヨソゴトではない。 国政に関する日本の世論調査を長い期間で分析すると、ここ数年は「選挙の直前に無党派層が大きく減少する」傾向が顕著に表れている。平時は「支持政党特になし」と回答している人々が、選挙が近づくと急に支持政党を分明にするように態度を変えるのである。しかもその支持成分の推移を細かく追いかけていくと、「先週は共産党支持だったが今週は自民党支持に変わったとしか考えられない」ような極端で短期的な変化が繰り返される動態が読み取れる。 私はこのように揺れ動く人々を「気まぐれ層」と名付けているが、その動きは決して無視できない。気まぐれ層は、おおむね有権者の2割程度居る。気まぐれ層の4分の1程度がなにかのきっかけで投票日に同じ傾向の投票行動をすると、その投票を受けた政党ないし有権者は勝つ。衆院選の全国の小選挙区で同じような現象が起これば「政権の交代」が起こる。これが「風が吹く」という現象である。 風が吹くときに政治の行方を左右しているのは、普段から政治に関心を持ってイデオロギーや政策の支持不支持を決めている有権者ではない。選挙直前になにかのきっかけで「気まぐれに」行動した有権者――ということになる。それでいいのか? 今年6月の英国のEU離脱の国民投票、そして11月の米大統領選挙に、このような「風が吹いた」現象があるとすれば、世論調査はあまり正しい結果をもたらさなかったのも無理もなかったのかもしれない。 ではどうすれば……。あまり嬉しい感じはないのだが、おそらく検索エンジンやSNSプラットホームのトラフィックを分析することが最もよく世論を表象するのではないかと思う。平時における政治事象への関心の高さ低さから、選挙戦の支持の趨勢まで、よーく見渡せるビッグデータはそこにある。が、表に出てくることはないのだろうなあ――と嘆息。

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    トランプ勝率「2%」と読んだ米大手メディアの傲慢と怠慢

    始めていた。現場で身をもって体験した。ワシントン・ポストなどが並ぶ米国の新聞自動販売機 さて翻って、アメリカ大統領選だ。巷ではアメリカ主要メディアが何故予測を大きく外したのか、その原因を探る、と言った記事が溢れている。なにせ日本でおなじみ、クオリティペーパーのニューヨーク・タイムズは選挙終盤(10月末)にヒラリー勝利の確率は92%、ワシントン・ポストに至っては98%などと打った。そもそも選挙で「勝率」を予測する習慣は日本にはないが、どんな根拠でこの予測をたたき出したのか大いに興味がある。大方、世論調査の数字から予測したのだろうが、それだけでは正確な予測は出来ないと思うのだが。 日本の選挙情勢取材について紹介すると、小生はテレビ記者だったからテレビのケースだが(新聞も大体同じ)、まずはキー局の記者は激戦区(注目選挙区)に飛び、ローカル局の記者とペアで各候補者の選挙対策本部を取材する。そして各候補者の市区町村別の予想得票数を予測し、本社に持ち帰って過去のデータと突っつき合わせ、コンピューターで最終当確を判定するのである。いわゆる「判定会議」は投開票日の3日前くらいまで数回開かれ、確度を高めていく。 テレビ局の選挙特番は大体夜8時開始だが、その瞬間に各局当確人数と顔ぶれが出るのはそうした取材の裏打ちがあってのことだ。その後開票が進むにしたがって、出口調査の結果も加味し、激戦区の投票状況を見極めながら、他局に先駆けて一秒でも早く当確を打つことを至上命題とするのだ。米主要メディアだって一ローカルペーパー 業界で言う「誤打ち」、つまり当確を出したにもかかわらずその後それを取り消すことは、その局の恥となる。後々監督官庁である総務省に顛末を説明しなければならないからだ。いずれにしてもそれほど選挙取材というものは各メディア総力戦で臨むものである。 さて、米主要メディアはどこまで選挙区情勢を取材したのだろうか。そもそもニューヨーク・タイムズとかワシントン・ポストなどといっても東海岸の一ローカルペーパー(地方紙)に過ぎない。アメリカは広大だ。各州で圧倒的に読まれているのは地方紙だけだ。 ニューヨーク・タイムズの記者が足を使って、激戦州をくまなく取材しただろうか。マンパワーから見て不可能なのではないか。もしそうした地道な取材をしていたなら、こんな恥ずかしい予測外し=誤打ちは起こり得なかったと思うのだが。単に世論調査の数字だけから予測を行ったとしたらメディアとして怠慢としかいいようがない。 次に考えるべきは、主要メディアは最初からバイアスがかかっている、ということだ。彼らの「ヒラリー押し」は当然すぎるほど当然だ。なにせほとんどが民主党寄りなのだ。最初からヒラリーありきで紙面が構成されている。アメリカで取材しているものなら全員知っている事だが。アメリカの新聞は、選挙終盤にEndorsement(エンドースメント)といってどの候補者を支持するか、紙面で旗幟鮮明にするくらいである。 編集部内で編集長が、かつてのテレビ朝日の「椿事件」よろしく、「トランプを落とすために全力を尽くせ!」と言ったかどうかは知る由もないが、少なくともトランプを礼賛する記事を積極的に乗せなかったことは間違いない。批判記事はふんだんに載せたが。新たな報道手法を生み出すチャンス 実際、面白いくらい失言、暴言を繰り返すトランプは恰好の餌食となった感がある。新聞しかり、テレビしかり、だ。そうした米主要メディアのバイアスが予測を見誤らせたのは間違いないだろう。さすがに数字の操作はしていないと思うが、ヒラリー優勢の世論調査を最初から信じ込んでいた、もしくは優先的に紙面に載せたことはあるだろう。 「隠れトランプ支持者」がこんなに多いとは思わなかった、という言い訳も聞こえてくる。英語では Silent/Closet/Hidden/Shy Trump Voters とかいうそうだが、公に口に出さずともトランプに託した人がこれだけいたという事実は厳然としてそこに存在している。 既存のワシントンD.C.の政治家の腐敗に対する不信と怒り、中産階級の間に溜まったオバマ政権の経済政策に対する不満を何故すくい取ることが出来なかったのか。エリート記者たちの「思い込み」や「驕り」がジャーナリストとしての眼を曇らせたのではないか。最初から結論ありきで最後まで世論を正しく知る努力を怠った結果が、米主要メディアの「誤打ち」につながったといえよう。 選挙後も彼らはトランプ叩きに余念がないように見える。曰く、政権移行が不調だ、うんぬんかんぬん。しかし、少なくても日本メディアはそれらをただ単に右から左に報道しているだけではなく、トランプ政権に入るであろうホワイトハウス高官候補や閣僚候補をいち早く取材し、日米同盟がより強固になるための提言などを報道することが求めれている。 最後に米主要メディアに言いたい。これだけ技術が進歩している今、ビッグデータをAI(人工知能)で処理することで、はるかに精度が高い予測を行うことが可能になっているはずだ。それはより正確な選挙予測に繋がる。今回の「誤打ち」問題は、新たな報道手法を生み出すチャンスでもあろう。そして、それは日本の既存メディアにも言えることだ。それが出来ないなら、新たなウェブメディアがその役を担うべきだろう。

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    報道の敗北、トランプの勝利 「世論調査」はなぜ外れた

    克洋(JX通信社 代表取締役) 下馬評ではヒラリー・クリントン氏(民主党)有利との見方が圧倒的だったアメリカ大統領選で、ドナルド・トランプ氏(共和党)が「逆転」勝利を収めた。事前に州毎の選挙人獲得予想を明らかにしたアメリカの主要メディアは10社以上あったが、その殆どがヒラリー氏勝利を予想していた。接戦を予想していた社でもヒラリー氏が10人前後リード、離れていた社では100人近い選挙人数の差を予想する社すらあった。2回連続「ほぼ完全的中」のネイト・シルバー氏が大敗北 中でも目を引いたのは、過去の大統領選で驚異的な的中率が注目されてきた「ファイブサーティエイト」のネイト・シルバー氏の予想だ。 ネイト・シルバー氏は、現職のオバマ大統領がミット・ロムニー候補(共和党)に勝利した2012年の前回大統領選で、全選挙区の勝者を的中させた。その前の、オバマ氏とジョン・マケイン候補(共和党)が争った2008年大統領選でも、1州を除き勝者を的中させたことで注目を浴びた。その後彼が開設したWebメディア「ファイブサーティエイト」の名前は、まさにその大統領選の選挙人の総数「538人」に因んだものだ。 そのファイブサーティエイトの最終の予測では、70人近い差でヒラリー氏が勝利するとしていた。そして、同サイトが開票前最後に公開した「ヒラリー氏が勝利する確率」は実に71.4%に達した。対するトランプ氏はわずか28.6%だった。 シルバー氏の予想手法の基本は、過去の世論調査のデータとその正確性の差異から情勢を確率論的に分析するものだ。それが今回大きく外れる結果となった背景には、後述する元の調査データの「不正確さ」に加え、それに影響された個別の州での情勢の読み誤りの積み重ねがあると見られる。 アメリカの大統領選挙は、全国世論調査では数ポイント差の僅差でも、(一部の州を除き)州毎に1票でも上回った候補がその州の選挙人を総取りする方式(winner takes all)だけに、州ごとのミスの蓄積が大きな誤差につながってしまう。トランプ陣営すら負けを覚悟?出口調査も外れ多く トランプ陣営すら負けを覚悟? ちなみに、今回外れたのは上記のような事前の世論調査だけではない。期日前投票や当日投票の出口調査でも、主要メディアの調査では「ヒラリー氏が大統領にふさわしい」とする回答が最多となるなど、開票状況と食い違う内容がかなり目立った。 それがために、最初の州の投票締め切り直後には、トランプ陣営の上級顧問が取材に対して「奇跡」でも起こらない限り逆転は無理、と話すなど、トランプ陣営ですら勝利は厳しいと見ていた節がある。ある全米ネットワークの選挙特番のキャスターは「(トランプ氏が)自ら不正の温床と呼んでいたシステムの上で、トランプ氏は勝利を収めつつある」との趣旨のコメントをした。 こうした現象が示す意味は「データに忠実であればあるほど、情勢を読み誤りやすかった」ということだ。シルバー氏をはじめとする専門家の予想の大半が完全に外れた背景には、いわゆる「隠れトランプ支持者」の存在が調査結果を歪ませる影響を与えた、とする分析が多い。つまり、調査会社の調査に対して「私はトランプ支持者です」と答えることを躊躇する有権者が、結果に大きな歪みを与えるほど多く存在したのではないか、とする仮説だ。トランプ氏は「ポリティカル・コレクトネス」(政治的公正さ)を無視した過激な課題提起を行い、それがためにKKKなどに代表される人種差別的主張をする勢力の支持すら得てきた。トランプ氏を支持すると名乗ることが、社会的にレイシストだと誤解されると恐れた「隠れトランプ支持」の有権者がかなりの数存在したのではないか、という見立てだ。 加えて、フロリダ州などでは、トランプ氏側のネガティブキャンペーンや投票日間際のFBIのヒラリー氏に対するメール問題捜査に関する動きの結果、本来ヒラリー氏に入ったはずの票がリバタリアン党や緑の党の独立系候補に流れ、最終的に僅差でトランプ氏が勝つ結果を産んだという指摘もある。 結果として、いわゆるポリティカル・コレクトネスを無視した候補やその支持者には、ポリティカル・コレクトネスを前提に「建前」を聞くかのような従来の世論調査が通用しない、という新たな課題を突きつけられたのかもしれない。 これは、既存の報道機関や世論調査を担う専門家にとって、非常に深刻な問題だ。リスク排除のための調査が逆にリスクにリスク排除のための調査が逆にリスクに そもそも、選挙情勢を探る世論調査とは、不透明感や不確実性を排除するために行われるものだ。つまり、その調査の結果導き出された「全うな予測」がこうも外れるということは、調査が不確実性を抑えるどころか逆に増やすことになる。不確実性即ちリスクを値踏みし、あるいは払拭するためにやっている調査が、逆に疑心暗鬼を生じパニックを誘う原因を作ったわけで、私たちを含む世論調査の担い手には重大な課題が突きつけられている。 実際、昨日までNYダウ平均株価や日経平均株価など、世界の株式市場は「ヒラリー有利」を織り込んで安定ないし上昇していたが、きょうになって「トランプ氏勝利」のリスクが一気に可視化されると瞬く間に「パニック売り」の様相となった。日本時間きょう午前中のうちに、日経平均先物は瞬く間に800円以上値下がりし、メキシコペソは米ドルに対して過去20年で最大の下落を記録した。夕刻になり、株安はアジアから欧州にも波及し「トランプ・ショック」が広がっている。 ただ、こうした世論調査をめぐる問題自体は、実は突然降って湧いた問題ではない。昨年2015年にイギリスで行われた総選挙で注目され始めた問題だ。 元々、2015年イギリス総選挙では、当時のデービッド・キャメロン保守党政権とエド・ミリバンド氏率いる野党・労働党がいずれも過半数を取れない「ハング・パーラメント」の状態になる、との見立てが世論調査機関や報道機関の「相場観」だった。ところが、蓋を開けてみるとキャメロン保守党が大勝しただけでなく、大きな躍進が「危険視」されていた極右のUKIP(英国独立党)が1議席の獲得にとどまるなど「過去70年で最悪」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)と評されるほどの外れ方だった。 イギリスの世論調査機関や報道機関にとってこの傷跡はまだ生々しく、今年6月のBrexit(ブレグジット:英国のEU離脱問題)を問う国民投票に際しては、各社が調査手法の課題を徹底的に洗い出し、改善を図ったとされる。しかし、それでも6月23日の投票日前日までの調査で「残留派がやや有利」とする相場観に反し、結果は「離脱多数」となった。 今回のアメリカ大統領選がBrexitと同じようにならないか、という心配はアメリカでも事前に議論されてはいたが、専門家はアメリカで長く、多く積み重ねられた世論調査の実績など様々な理由を総動員して「イギリスとは違う」とする見立てを説明する向きが目立った。今回、図らずもこの「外れ世論調査」問題がイギリス以外でも発現する問題だということを、衝撃的な結果をもって突きつけられたわけだ。 「社会調査」としての世論調査の限界をどう克服するか、これからのトランプ政権の行方と合わせて、重要な課題が浮かび上がってきた。(「Yahoo!ニュース個人」より2016年11月9日分を転載)

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    トランプ大統領で合衆国「内陸」と「沿岸」の分断が進む

    【大前研一氏が米国の今後を分析】 アメリカ大統領選挙の事前予想のほとんどは、苦戦はしても結局、ヒラリー・クリントン氏が勝利するだろうというものだった。ところが、接戦をものにしたのはドナルド・トランプ氏だった。この結果によって米国で進む「分断」について、経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。 * * * アメリカ大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利し、「トランプ・ショック」が世界に走った。イギリスのEU離脱(ブレグジット)に続いてアメリカも「内向き」「保護主義」になり、「反グローバリズムに突き進む」という報道が相次いでいる。米ニューヨークで9日、大統領選で当選が決まり演説するトランプ氏(ロイター) たしかに、トランプ氏が掲げている「アメリカ第一主義」(America First=アメリカの利益最優先)は、19世紀前半のモンロー主義の時代から繰り返されてきたアメリカ孤立主義の“伝統”だ。 そしてトランプ氏は、その伝統的な白人保守層が優勢な内陸部のエリア、いわば“内陸合衆国(United States of Inland)”の支持を得て、様々な人種・民族で構成されているリベラルな東海岸と西海岸のエリア、いわば“沿岸合衆国(United States of Coastal)”を牙城とする民主党のヒラリー・クリントン氏に勝利した。 しかし、アメリカの人口動態を見れば、この先、黒人、ヒスパニック、中国系、インド系、旧ソ連・東欧系などの人口が増えて白人の人口は減る一方だから、おそらく今回の大統領選は“内陸合衆国”が“沿岸合衆国”に勝てる最後のチャンスだった。アメリカが抱えている最大の問題 この“内陸合衆国”と“沿岸合衆国”の分断こそ、今のアメリカが抱えている最大の問題である。“内陸合衆国”は、ラストベルト(Rust Belt=さびついた工業地帯/中西部から北東部にかけての製造業が廃れた地帯)をはじめとするロッキー山脈以東の南部を含む農業や重工業などの古い産業が中心の地域で、平均年収は約5万ドルだ。 一方の“沿岸合衆国”は、東海岸のボストンやニューヨークの金融業が世界をリードし、西海岸のサンフランシスコ・ベイエリアやシアトルなどにICT産業が集積しているため、平均年収は約15万ドルに達している。つまり、今回の大統領選挙は“5万ドル対15万ドル”の戦いだったとも言える。 そういう構図の中で、トランプ氏は衰退した古き良き“内陸合衆国”の現状に不平・不満を募らせて変化を求めている「中流・白人・男性」にフォーカスし、「不法移民の強制送還」「メキシコ国境に壁を建設」「イスラム教徒の入国禁止」「TPP(環太平洋経済連携協定)の破棄」といったエクスクルーシブ(exclusive=排他的)な公約を打ち出した。 本来、政治家というものは1票でも多くの票が欲しいから、多種多様な意見を取り込んでインクルーシブ(inclusive=包括的)になるものだ。ところが、トランプ氏は政治家ではないので、エクスクルーシブな主張を徹底的に展開し、その訴求力によってインクルーシブな政治家の典型であるヒラリー氏を打ち破ることができたのである。 とはいえ、総得票数ではヒラリー氏がトランプ氏を上回っていた。2000年の大統領選挙で当選した共和党のジョージ・W・ブッシュ元大統領より総得票数が多かった民主党のアル・ゴア氏の時と同じである。ということは、結局ヒラリー氏は選挙戦術を誤ったのである。

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    「世論調査」の信頼を失墜させた米メディアのトランプ批判

    長谷川良(ウィーン在住ジャーナリスト) 米大統領選の結果は非常にドラマチックなものだった。英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票(今年6月23日)の結果を凌ぐほど、サプライズな結果だった。トランプ氏の勝利を予測したメディアは少なく、大多数の欧米の主要メディアはクリントン氏の勝利を信じていた。残念ながら、当方もトランプ氏の勝利は「想定外」と受け取ってきた一人だ。トランプ氏  米大統領選後、「世論調査」一般に対する風当たりが急速に高まってきた。当然の反応だろう。「世論調査」をバッシングする前に、なぜ「世論調査」がその精確性を失っていったのかを少し考えてみた。  「世論調査」の場合、過去の選挙データ、有権者の地域、職種、年齢、所得、学歴等のデータをもとに、最近の世論の動きを予測していく。その「世論調査」は多少の誤差が生じたとしても大きな間違いはない、と受け取られてきた。  「世論調査」は社会の動向を知るうえで不可欠な手段と受け取られ、メディア機関も率先して独自の「世論調査」を実施して、世間のトレンドをいち早く分析し、報道してきた。文字通り、「世論調査」は黄金時代を迎えていた。それが英国のEU離脱を問う「世論調査」ごろから風向きが変わり、米大統領選の結果は「世論調査」への死刑宣告が下されたような状況に陥っているのだ。  「世論調査」の方法は本来、科学的だ。決してサイコロを転がして予測するわけではない。統計学上の知識と社会学的分析を駆使し、社会の動向を解明していく。そのプロセスに大きな問題はないはずだ。  しかし、最新の動向を分析しようとすれば、過去のデータのほか、直接情報を収集しなければならない。過去のビック・データではもはや社会の変化を正確には予測できなくなってきたからだ。そこに落とし穴が控えているわけだ。  時代は迅速に変化する。短期間に情報を入手し、それを解析しなければならない。どうしてもミスが出やすい。ゴミ・データの処置も必要だ。しかし、それらのミスは努力すればクリアできる課題だ。問題は、その新しい情報を提供する側に見られ出したことだ。今後は性悪説に基づく「世論調査」が必要? 「世論調査」は、人間は正直に答えるという「性善説」に基づいている。その情報提供者が何らかの理由から恣意的にうそ情報を語るケースは考えていない。うそ情報に対する「世論調査」側の対応は十分ではないのだ。もちろん、標本調査による誤差(標本誤差)を計算に入れるが、うそ情報による誤差が大きくなれば、その「世論調査」の信頼性は土台から大きく揺れる。 考えてみてほしい。「世論調査」(標本調査)で人が皆うそを答えた場合、「世論調査」はその瞬間、存続できない。「人が皆、正直に答えた」という前提がなくして「世論調査」は成り立たないからだ。換言すれば、「世論調査」は過去のデータを分析、それに基づく予測は可能だが、新しい変化、動向を予測することは難しくなる。そして多くの人が「世論調査」に期待しているのは本来、後者だ。 今回の米大統領選では「隠れトランプ票」といわれる支持者がいた。世間から激しいバッシングを受けるトランプ氏を支持すると答えられない有権者が多数存在していたという。悪評価の高いトランプ氏を支持すると表立っていえば、自身が誤解される恐れがあるからだ。一種の自己防衛だ。 その責任はトランプ氏だけではなく、同氏をバッシングしたメディア側にもあることは明らかだ。メディアが特定人物、候補者を支援する一方、その対抗者、候補者を容赦なく批判する。だから、「隠れトランプ票」のような現象が出てくるわけだ。それは同時に、「世論調査」の精確性、信頼性を傷つける。トランプ氏優勢の速報に沸く支持者 特定な候補者を支援するあまり、どうしてもデータを正しく解説できなくなる。中立性、客観性に問題が生じる。ましてや、メディアが誘導質問し、恣意的に操作した場合、世論調査は元共産政権下の旧ソ連・東欧の国家官製メディアになってしまう。「世論調査」の客体選択で無作為抽出ではなく、有意抽出の場合、その危険性はもちろん拡大する。   残念ながら、情報時代の今日、正直に答える代わりににうそ情報を提供し、自身のプライバシーを守ろうとする人が増えてきている。皮肉なことだが、情報社会が過度に発展すれば、情報を隠蔽しようとする動きが同時に高まってくるのだ。「世論調査」は冬の時代を迎えてきた。人はうそをつく存在だ。これからは人間性悪説に基く「世論調査」を開発していかなければならなくなるわけだ。《上記の内容は、当方の一方的な「世論調査」に関する悲観的な見通しを述べただけに過ぎない》(長谷川良公式ブログ 2016月11月12日分を転載)

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    トランプ勝利を予測していた高須院長「日本が偉大になる!」

    クリニックの高須克弥院長が世の中の様々な話題に提言するシリーズ企画「かっちゃんに訊け!!」。今回は、アメリカ大統領選に勝利した、共和党のドナルド・トランプ氏についてお話をうかがいました。 * * *──アメリカの大統領選で、共和党のドナルド・トランプ候補が勝利しましたね。高須:僕が予想していた通りだよ! 正しいことしか言わない人だし、敵を作ってでもしっかり発言して、行動する人だから。自国のことを思っているアメリカ国民なら絶対にトランプさんに期待するはずだよね。──今回の大統領選は、ヒラリー・クリントン氏のほうが優勢だと伝えられていたところで、徐々にトランプ氏が追い上げてきて、最後の最後で抜き去ったという展開でした。高須:確かに選挙戦そのものは、かなり混迷していたと思う。政策論よりも足の引っ張り合いだったからね。でも、そんななかでもトランプさんは、現状を否定して、アメリカを変えるということはしっかりアピールしていた。嘘ばっかりで媚びている政治家とは違う。敵が増えてもいいから、本音をぶつける。そういう姿に惹かれる人は多いんだよ。 トランプさんは、選挙戦では問題発言もあって、汚い言葉を使っていても、選挙で勝った途端に紳士になったでしょ。本当に信用できるね。その辺の政治家だったら、当選した途端に本性を現して、どんどん悪人になっていくもんだよ。アメリカ国民は、そこをしっかり見極めることができた。素晴らしい選挙だったね。──院長は、この連載でも4月の時点でトランプ支持を表明していましたね。「トランプは日本にとって最高の大統領」とも評していました。高須:そう。トランプさんは確かに親日派ではない。日米同盟の見直しも求めている。でも、だからこそ、日本にとってはメリットがある。だって、今まではアメリカの傘の下にいたわけだ。いわば隷属していたようなものだよ。でも、トランプさんは、日本を突き放そうとしている。それはつまりアメリカと対等な関係になるっていうこと。やっと日本はアメリカから独立できるんだよ。会談前、トランプ次期米大統領と握手を交わす安倍首相 =11月17日、ニューヨーク(内閣広報室提供・共同)──日本から米軍を撤退するとも発言していました。高須:いいことだと思うよ。日本がアメリカのパシリではなくなるということだからね。日本人としては単純に嬉しいことだよ。それにトランプさんはそれを望んでいるんだからね。単なる属国がほしいのではなく、より強力な仲間がほしいということだよ。まあ、日本もやっと言いたいことが言えるようになるわけで、そうなったら今と力関係が逆転する可能性だってある。アメリカが日本の顔色をうかがってくるかもしれない。 トランプさんは「Make America Great Again!」ってスローガンを掲げていたけど、むしろ「日本が再び偉大になる!」というチャンスなのかもね。──トランプ氏は自由貿易がアメリカ人の雇用を奪っているという考え方で、TPPの破棄を宣言していました。高須:アメリカのTPP離脱は間違いないだろうから、仕切り直しにするべきだと思う。日本も含めて、これから新たな枠組みを作り上げていけばいいんだよ。今までだったらアメリカの言いなりだったけど、トランプさんが相手なら日本も言いたいことを言えるんだから、今よりももっといい条件で仕切り直せるんじゃないかな。──国際社会における日本の立ち位置も変化しそうですね。高須:やっぱり今まではずっと敗戦国のままだったけど、やっとここで脱皮ができるんだからね。もう謝り続ける必要もないと思うよ。堂々と胸を張って、前を向いて日本としての主張ができるようになる。素晴らしいことだね。 * * * 見事トランプ勝利という予想を的中させた高須院長。今後もその慧眼で日本の未来を予測し続けていただきたいです!【プロフィール】高須克弥(たかすかつや):1945年愛知県生まれ。医学博士。昭和大学医学部卒業、同大学院医学研究科博士課程修了。大学院在学中から海外へ(イタリアやドイツ)研修に行き、最新の美容外科技術を学ぶ。脂肪吸引手術をはじめ、世界の最新美容外科技術を日本に数多く紹介。昭和大学医学部形成外科学客員教授。医療法人社団福祉会高須病院理事長。高須クリニック院長。人脈は芸能界、財界、政界と多岐にわたり幅広い。金色有功章、紺綬褒章を受章。『ブスの壁』(新潮社、西原理恵子との共著)、『その健康法では「早死に」する!』(扶桑社)、『筋と義理を通せば人生はうまくいく』(宝島社)など。■ ディズニーランド アニメがメインコンセプトではないのだ■ 米のピザ配達員の人件費が安いのはチップ支払う習慣あるため■ 業田良家氏選出 アメリカの医療・医療保険制度問題告発の書■ 元外交官が「米国にとってネットは言論操作の場所」と説く書■ 米の低レベル高校生、殺人事件が日常の街等をリポートした本

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    ヒラリー・クリントンはなぜ「ガラスの天井」を破れなかったのか

    支持者に向かって「最も高いところにあり、最も硬いガラスの天井を破ることができなかった」と語り掛けた。アメリカで最初の女性大統領の誕生という夢はあっけなく破れた。得票総数ではドナルド・トランプ候補を上回ったものの、選挙人の数では大きく水をあけられての敗北であった。米大統領選の敗北を認めたヒラリー・クリントン氏=11月9日、米ニューヨーク(AP) アメリカでは、女性が投票権や中絶権、社会や職場で男性と同等の権利を獲得するためにどれだけ戦ってきたかを知っている。女性の戦いの歴史は迫害の歴史であり、投獄の歴史であり、流血の歴史だった。女性たちは戦いを通してさまざまな女性の権利を獲得してきた。そうした歴史の中から戦後、フェミニスト(女性解放)運動が始まった。フェミニスト運動に関わった60代、70代の女性にとって初の女性大統領の誕生は、運動の最終的な目的のひとつであった。クリントン候補こそ、その夢を実現する理想の女性であった。 だが選挙をつぶさに観察してきた筆者が感じたのは、女性大統領が誕生するかもしれないという熱狂ではなく、女性の間にある妙に冷めた雰囲気であった。むしろ女性が女性の大統領を選ぶべきだという“女性カード”論は影を潜めていた。クリントン候補が“女性カード”を使うことに批判的な声の方が多かった。むしろ反発を招いたと言った方が正確だろう。逆に女性を性の対象としてはばからないドナルド・トランプ候補が女性の支持を得て当選したのである。 高卒以下の労働者階級の白人女性だけでなく、大卒の白人女性も、また本来なら民主党支持者であるラテン系の女性もクリントン候補には投票しなかった。ラテン系女性の28%はトランプ候補に投票している。2008年の大統領選挙で初の黒人大統領誕生の原動力となったミレニアム世代の若者の姿はそこにはなかった。 オバマ候補を支えた若者や女性たちは“オバマ連合”と呼ばれ、多くの人がボランティアで選挙運動に参加し、小口の政治献金をし、演説会場では熱狂した。だが、クリントン候補の演説会場には、そうした熱狂は感じられなかった。オバマ候補を支援したミレニアム世代の54%がクリントン候補に投票したが、オバマ候補が獲得した60%を大きく下回った。神話にすぎなかった「女性カード」神話にすぎなかった「女性カード」 クリントン候補は、ビル・クリントン元大統領のファーストレディーから上院議員になり、さらにオバマ政権の国務長官と華麗なキャリアを持ち、十分に大統領の資格を備えていた。国務長官時代の4年間に112カ国を歴訪している。北京で開かれた世界女性会議では女性の権利のために戦う姿勢を世界に見せた。家庭も子供も手に入れた。手に入れていないのは大統領の職だけであった。ダーツの的になったクリントン氏(左)とトランプ氏。イスラエルの首都エルサレムで、海外に居住する共和党員が催したイベントに登場した(ロイター) しかし同時にファーストレディー時代から絶え間なく批判され、保守、リベラルを問わず多くの“ヒラリー嫌い”がいた。常に称賛と批判が相半ばしていた。今回の大統領選挙では国務長官時代のベンガジ事件での責任、私的電子メールを使っての公務と機密漏洩疑惑、金融機関から高額の謝礼をもらっての講演、クリントン基金の金銭問題などで批判され、彼女の「正直さ」と「信頼性」が問われ続けた。  ではクリントン候補の敗北は「ガラスの天井」が理由だったのか。アメリカでの女性を取り巻く環境は大きく変わっている。まだ深刻な性差別が残っているが、女性の社会的な活動の場は確実に増えている。2014年の『フォーブス』誌の調査では、大手企業500社の中で女性CEO(最高経営責任者)がいる企業は24社であった。米議会の両院の議員総数535議員のうち女性議員は104名(約20%)である。この数字が多いのか少ないのかはそれぞれの判断によるが、決して少ない数ではない。企業の中間管理職ははるかに多いだろう。企業社会では既に「ガラスの天井」は随分高くなっているのである。 大統領選挙で「女性対男性」は焦点にはならなかった。“女性カード”にまったく効果はなかったと言ってもよい。むしろ現実には逆効果にさえなった。ジャーナリストのペグ・タイヤは「そもそも女性票というものは存在しない」と指摘する。女性だから、男性だからといって投票行動が異なるわけではないというわけである。女性だから女性候補に投票すると考えるのは“神話”なのである。アメリカの女性有権者の多くは“ジェンダー”ではなく、“党派”や“宗教”により忠実なのである。すべての女性が女性を大統領に選ぶことを重要だと思っていないのである。白人女性の53%が女性蔑視論者とみられるトランプ候補に投票している。「変革」を求めたアメリカ「変革」を求めたアメリカ 今回の選挙の争点は「エスタブリッシュメント」対「忘れられた人々」であった。トランプ候補を支持したのは高卒以下の労働者であった。民主党の大統領予備選挙でサンダース候補を支持したのは巨額の学生ローンを抱え、アメリカンドリームを夢見ることさえできなくなった若者たちであった。いずれも格差の急激な拡大の犠牲者であり、ワシントンのエリートに忘れ去られた存在であった。米ニューヨークで、大統領選の結果の速報を聞いて落胆するクリントン氏の支持者ら=11月8日(ロイター) アウトサイダーであるトランプ候補は既得権を壊し、既存の秩序を“変革”すると主張したのに対し、インサイダーであるクリントン候補は既得権を擁護し、社会を変革するのではなく、“進化”させると主張した。この時点で、勝負あったのかもしれない。  もうひとつの要因はアメリカ社会の保守化かもしれない。政治的に不適切な発言(英語で“ポリティカル・インコレクトネス”という)をしたとき、従来だったら、政治生命や社会生命を絶たれるのが普通であった。女性を蔑視する発言も同様である。だが、トランプ候補にとって致命傷にはならなかった。政治的不適切発言は逆に喝采を浴び、女性蔑視発言に対しても保守派のキリスト教指導者は「ロッカールームでの男の発言だ」と容認する発言を行っている。  最初に引用したように、クリントン候補は「ガラスの天井」を破れなかったと発言しているが、「ガラスの天井」ゆえに大統領選挙で敗北したわけではないと考えるほうが現実に近いのではないだろうか。いつとは予想できないが、そんな遠くないうちに、アメリカで女性大統領が誕生することは間違いない。

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    ヒラリーを心底嫌ったアメリカの本音

    敗北したヒラリー・クリントン氏の言葉が印象的だった。彼女は紛れもなく超大国の最高指導者に最も近づいたアメリカ人女性だったが、その天井は高く、あまりに硬かった。米国初の女性大統領が幻に終わったのはなぜか。米国社会に底流するホンネを読み解く。