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    核のごみ、小泉純一郎の放言はここがおかしい

    「原発は再稼働させれば核のごみが増える。最終処分場が見つからないなら、すぐゼロにした方がいい」。今や「脱原発」の急先鋒となった小泉純一郎元首相。原発は善か悪か。お得意の二元論で物議を醸し、反対派からは拍手喝さいを浴びるが、では小泉さんにお尋ねしたい。行き場を失った核のごみはどう処分すればいいのですか?

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    核のごみの地層処分「安全神話」よりもリスクを語れ!

    藤村陽(神奈川工科大学基礎・教養教育センター教授) 原子力発電の使用済み核燃料には、発電のためにエネルギーを生み出したのと引きかえに大量の放射性物質が蓄積されている。強い放射線が出ているため、遮る厚い金属の壁などがなければ、人間は近づくこともできない。年月とともに使用済み核燃料中の放射性物質の量は減っていくが、それらが人間の生活環境に放出され、多量に摂取されることがあれば健康被害につながる。 使用済み核燃料は、原子力発電に関連して発生する放射性廃棄物の中でも放射能が桁外れに強いため、特に高レベル放射性廃棄物と呼ばれる。半減期が100万年以上の放射性物質も多く含まれており、最終的な処分が大きな問題であったが、その方法が確定されないまま世界各国で原子力発電は進められてしまった。 この問題を簡単に解決する画期的な方法はなく、原子力利用を推進する国際機関では、地下数百メートルに高レベル放射性廃棄物を埋設する「地層処分」ならば、将来、人間の手による管理は不要であるとし、自国で地層処分を実施することが各国の目標となっている。しかし2016年末現在、処分施設の建設地や候補地が決まっているのはフィンランドとスウェーデン、フランスだけで、これらの国でもまだ埋設は始まっていない。「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」で点検作業を行う作業員ら。オレンジ色のふたの下には海外に使用済み燃料の再処理を委託し戻されたガラス固化体が千本以上保管されている=2012年 12月、青森県六ケ所村 日本では、2000年に事業実施主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立され、2002年から処分地選定の公募を始めているが、応募後に取り下げられた2007年の1件を除いて、自治体からの応募は得られていない。こうした状況に対して、2015年5月の閣議決定で、政府が前面に立ち、科学的により適性の高い地域を「科学的有望地」として示し、処分地選定のための調査への協力を自治体に申し入れるとされた。科学的有望地の要件・基準は2016年8月には取りまとめられたが、その示し方や位置づけについて、2016年末現在、議論が続いている。「本音」でなければ信頼は得られない 科学的有望地という表現は、処分地として適性が高い方から特に選ばれた地域のように響くが、実態は、火山や活断層の近傍、隆起・浸食が非常に大きい、地温が非常に高いなど絶対に避けるべき特別な範囲を除いた残り大多数の地域にすぎない。積極的に選ぶべきという意味での有望地は、実際に地下を掘り、処分場を設置する地下環境をよく調べなければわからないのである。 地層処分について、筆者の結論を先に述べると、一般論としては想定されている安全性をもちうるとは考えるが、不確実な要素も多い。不運な事態が重なれば、処分場から漏れた放射性物質によって未来の人類が影響を受けることも、可能性は低いが想定しうる。それ以前の根本的な問題として、これまでの原子力発電の推進のあり方に大きな問題があったのと同様に、安全性を最大限に優先した処分地選定や操業がなされることには懐疑的である。 「地層処分は安全」とだけ強調した広報は、安全性をないがしろにする姿勢である。長期にわたる事業への信頼は、懸念材料を本音で語りながら進めることでこそ得られる。さらに大きな問題として、地層処分事業が始まったとしても、高レベル放射性廃棄物の問題がすぐに解消するわけではない。抱えている問題は多く、将来世代の負担も残る。したがって、地層処分はあくまで消極的な選択であり、このようなかたちでしか高レベル放射性廃棄物の後始末ができないのであれば、処分場が1か所で済むうちに、原子力発電利用の縮小、撤退を目指す必要があり、原子力利用のアキレス腱が解消したかのように推進に拍車をかけることがあってはならない。地震大国ニッポンで地層処分して大丈夫? 高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全性の観点からは、放射線が非常に強い期間は直接人間環境にむき出しにならないこと、埋設後、格納容器が劣化しても、放射性物質が地下水で運ばれて人間環境に大量に放出されないことが求められる。したがって地質環境が安定で、地下水の動きが盛んでない場所が処分地としては適している。 日本は、複数の大陸プレートと海洋プレートがぶつかり合うという、世界でも稀な場所に国土が位置するため、地震や活火山の数が世界の1割を占める地震大国、火山大国である。土地の隆起や浸食が大きい地域もあり、原発利用大国の中で、地質環境の安定性の条件は非常に劣る。降水が多いことから地下水も豊富で、プレートが押し合う力のため地下深くの岩盤にも地下水の水みちとなる亀裂が多く、この点でも有利な条件にはない。処分地が決まっているフィンランドやスウェーデンがバルト楯状地と呼ばれる安定な地質環境にあるのとは対照的である。 地震の発生や火山の噴火には一定のメカニズムがあり、同じ場所で繰り返し起こりやすい。そのため、処分場に大きな影響を与えるような過去の活動の記録があれば、絶対に処分地に選ぶべきでない場所として除外できる。たとえば地震については、震源で生じた断層が地表にまで届き、今後も繰り返し活動する可能性が高いと判断されて「活断層」と認定された付近は、処分地に選定しないことになっている。「活断層を避ければ大丈夫」は通用しなくなった熊本県益城町内で地表に出現した断層。4月16日未明にM7・3の地震を起こしたとみられる=2016年4月 しかし、現に活断層として知られていなかった場所で大きな地震が起きているように、マグニチュード7弱程度の規模の地震では、過去に起きたときには断層が地表まで達していなくても、将来、処分場の深さまで断層が届くように地震が起きる可能性はある。すなわち、処分地に選ぶべきでない場所は過去の記録だけからはわからないし、現時点で認定されている活断層を避けても、処分場が断層直撃を免れるとは言い切れない。 日本では、2000年に高レベル放射性廃棄物を地層処分することを法律で定めた頃から、一般向けに地層処分が広報されるようになり、「わかっている活断層さえ避ければ大丈夫」といった言い方で安全性が強調されてきたが、これこそが福島第一原発事故に至った道である。安全性の確保にベストを尽くす取り組み方をしているという信頼を得るには、不確実な部分があることをきちんと伝えるべきである。 高レベル放射性廃棄物は厚い金属容器に格納して埋設され、周囲には粘土の緩衝材を配置する。これらの人工物(地層処分関係者は「人工バリア」と呼ぶ)は、高レベル放射性廃棄物が埋設後1000年程度の早期に地下水と接触し、放射性物質が漏れることを防ぐ。地質環境の面で有利な条件にない日本では、人工バリアに期待する役割も大きい。 人工バリアはいずれ劣化するが、地下で放射性物質が漏れてもすぐに地表付近に到達するわけではない。これは放射性物質の中には地下水に溶けにくいものもあり、また地下深くの地下水の流れが遅く、さらに地下水中の放射性物質が岩盤にくっついて移動が遅くなるなど、地層処分関係者が「天然バリア」と呼ぶ地下深くの地質環境の働きによる。しかし、高レベル放射性廃棄物の中には、セシウムやヨウ素など地下水に溶けて移動しやすい放射性物質ものもあり、こうしたものが安全性の上で問題となる。また仮に現時点で理想に近い処分地を選べたとしても、将来、地震などによる地質環境の変化によって、天然バリアの適性が低下する恐れもある。地層処分前の作業で大地震が起こったら? 安全性の判断材料である将来の人類の被ばく線量は、放射性物質が処分場からどれだけ漏れ、そのうちのどれだけが地表付近に届き、その地域の住民が生活環境に広がった放射性物質をどれだけ摂取するかといった要因すべてが組み合わさって決まる。これらの要因に影響を与える地質環境などの条件の組み合わせには無数のパターンがあり、現実にそのうちのどれが起きるのかを予測することは不可能である。 地層処分の安全性の説明で、将来の被ばく線量が最大になるのは80万年後で、1年あたり0.000005ミリシーベルト(後述のTRU廃棄物を考慮すれば1万年後に1年あたり0.002ミリシーベルトと言うべき)にすぎず、現在の自然放射線による被ばく(1年あたり約2ミリシーベルト)より何桁も低いといった具合に示されるのは、無数の仮想的な試算の中の標準例の1つにすぎない。悪い条件が重なれば、確率的には低くても、そうした標準例の100倍や1000倍以上の被ばくになることもある。 特に最悪の想定が重なったようなケースとして、地震を起こした断層が処分場を直撃し、埋設された廃棄物が金属容器もろとも破壊され、漏れ出た放射性物質がその断層に沿って非常に速く移動し、放射性物質の濃度が濃い水源を利用する生活環境というような極端な想定では、福島第一原発事故での特定避難勧奨地点にあたる被ばく(1年あたり20ミリシーベルト)に近い値も計算上は出てくる。起こりうる可能性が天文学的に低くても、悪い想定をこのように機械的に重ねた上限のようなものも示しておいたたほうが、長い目で見れば、信頼を得られるように筆者は考えるが、関係者の考え方は分かれるようである。幌延深地層研究センター。エレベーターで地下350メートルへ。 地下300メートルより深くにつくられる処分場は、20年程度の調査のあと、建設から埋設開始まで10年程度はかかる。6~10平方キロメートルの広さに、総延長が200キロメートル以上にも及ぶ坑道を段階的に掘削し、50年ほどかけて廃棄物を埋設し、埋め戻しにも10年程度を要する。こうした工程が、すべてトラブルなく進むとは限らない。岐阜県瑞浪市の日本原子力研究開発機構の地下研究施設では予想外の湧水が続き、当初計画の深さまで立坑を掘ることができていない。筆者は以前に地層処分関係者から、坑道の掘削で湧水が生じても、地下水が運ぶ鉱物などで亀裂はふさがれ、湧水は自然に止まると聞かされていたが、瑞浪の現実はそうではなかった。 このような湧水は、坑道の埋め戻しをすれば掘削前の地下水の流れが遅い状態に戻るとされているが、これだけの規模の坑道をきちんと締め固めてすべて埋め戻すことは、前例のない工程である。きちんとした埋め戻しによって、放射性物質は地下水によって移動しにくくなり、地下が酸素の少ない環境に保たれ、金属容器の腐食を防ぐなどするので、不十分な埋め戻しは天然バリアと人工バリアの機能を低下させかねない。警戒すべきは埋設後だけじゃない 地層処分については埋設後の安全性に関心が集まるが、操業中の地上施設では、放射能が強い高レベル放射性廃棄物を遠隔操作によって格納容器から取り出す工程がある。このような作業中に、大地震などによって施設が大きなダメージを受け、高レベル放射性廃棄物を遠隔操作可能な状態に復旧できないようなことがあれば、施設内部に人間が立ち入れず、修復に手をつけられない事態に陥る。そのことで直接、近隣住民に健康上の影響を及ぼすわけではないが、地域にとっては有難くないものが長期にわたって残されることになってしまう。後戻りはできるのか 地層処分の安全性には、地質環境の安定性、人工バリアと天然バリアの機能など非常に多くの要素が関係し、これらが複雑に絡み合っている。そのため、どれか1つの要素で想定が破れても、それだけで安全性が大きく低下するわけではない。また、ある要素が劣っていても、総合的な性能が優れていることもありえるので、個別の要素ごとに合格基準は設けない。 これまで大多数の地層処分の関係者は、絶対に避けるべき地域以外は、より好ましそうな地域や、より好ましくなさそうな地域について具体的な本音を語ってはいない。一般論として、適切な処分地選定と適切な工学的対策によって、一定の安全基準をクリアする適切な処分場が構築されればよいとしている。各国の地層処分関係者も、ベストの場所を選ぶという発想は不要としている。敦賀原発で行なわれた専門家による断層調査 =2014年6月、福井県敦賀市(矢田幸己撮影) ある候補地が一定の安全基準を満たすということが、100点満点中の何点で、どれだけ余裕のある合格なのか、他の場所と比べてどうなのかは、関係者でも専門分野が異なれば意見が分かれそうである。仮にギリギリ合格レベルであったとしても、反対運動を利することは言わないとばかりに、そうした本音は語られないであろう。このような姿勢では、社会が安全を確信することは難しい。今回の科学的有望地の提示にあたって、高レベル放射性廃棄物の処分地への輸送は海上輸送が好ましく、港湾のある沿岸から20キロメートル以内を「より適性の高い地域」の目安とした点は、良し悪しは別にして、珍しく公けにされた本音であると筆者は受け止めている。 処分地の選定は3段階の調査によって段階的に進められ、地元の意見も聴き、後戻りが可能とされている。筆者が危惧しているのは、処分地選定や操業の段階が進めば進むほど白紙に戻すことが難しくなるため、その途中で、条件が悪い点が見つかっても、総合的に評価すれば一定の安全基準を満たすというかたちで事業が進められてしまい、少しずつ安全性がないがしろにされていくことである。例えば、活断層がないとされていた場所が断層に直撃される可能性は、地下の調査が進めばわかるとされている。このことは必ずわかるとは限らないのだが、仮にわかったとしても、これまでの原子力発電所の立地や稼働の進め方からすると、「活断層ではない」と押し切ってしまう可能性が高いように思えて仕方ない。地層処分は魔法の杖ではない 政府は「高レベル放射性廃棄物の最終処分は、将来世代に負担を先送りしないよう、現世代で取り組むべき問題」として、前面に立って取り組むとしているが、地層処分の処分地が決まっても、将来世代の負担がなくなるわけではない。 高レベル放射性廃棄物は埋設用の金属容器に格納されても、ある程度の強さの放射線が出ているため、一時的に人間が近づくことはできるが、基本的には遠隔操作で埋設される。しかも金属容器を含めて5トン以上もの重量物を地下深くにまで運ぶので、1日に数本程度しか埋設できない。福島第一原発事故以前の原発の稼働体制であれば、日本が約50年かけて貯めてきた高レベル放射性廃棄物を約50年かけて埋設する計算に相当する。すなわち、処分場が決まったからといって、現存する高レベル放射性廃棄物がすぐに消え去るわけではないのである。 そもそも高レベル放射性廃棄物は、放射線がある程度弱くならなければ埋設ができず、原子炉から取り出して50年程度は待たなければならない。これは人工バリアの粘土の緩衝材の機能の確保のため、高レベル放射性廃棄物の放射線で発生する熱がある程度まで小さくなることが必要なためである。したがって、我々がこれから原子力発電で発生させる高レベル放射性廃棄物は、50年以上あとの世代に埋設を頼ることになる。あまり語られない「TRU廃棄物」の危険性 ここまで使用済み核燃料イコール高レベル放射性廃棄物として述べてきたが、フィンランド、スウェーデン、米国などが使用済み核燃料をそのまま高レベル放射性廃棄物として埋設する(直接処分と呼ばれる)のに対して、日本は使用済み核燃料からウランとプルトニウムを化学的に分離する再処理をしたあと、その残りをガラスで固めたガラス固化体を高レベル放射性廃棄物として埋設する。九州電力川内原発で、低レベル放射性廃棄物保管容器の固定状況を調べる作業員=9月27日午後、鹿児島県薩摩川内市(九州電力提供) 再処理の工程では、使用済み核燃料の放射性物質のうち一部は、ガラス固化体にされる高レベル放射性廃液とは別に分離されてしまい、再処理工場で発生する放射性廃棄物(TRU廃棄物と呼ばれ、分類上は低レベル放射性廃棄物)として扱われる。こうした使用済み核燃料に由来するTRU廃棄物は高レベル放射性廃棄物と同様に扱う必要があるため、地層処分の対象となり、ガラス固化体と同じ処分地に埋設される可能性が高い。その中にはヨウ素など地下水中を移動しやすい放射性物質が含まれているため、TRU廃棄物を地層処分した場合の将来の人類の仮想的な被ばく線量の試算の標準例は、ガラス固化体を地層処分した場合の100倍以上大きく、放射性物質が漏れだす時期もかなり早い。しかし、地層処分を進める側の説明では、このことがきちんと示されていないことが多い。 地層処分されるTRU廃棄物には、燃料集合体の末端部や被覆管の断片など強い放射能をもつ部分ばかりを集めた廃棄体がある。これらは埋設時に人間が近づいて作業できる程度にまで放射線を遮れないほど放射線レベルが高く、完全に遠隔操作で埋設される予定である。こうした廃棄体の埋設時にトラブルが生じたときの復旧は、非常に困難を極めることになる。 そもそも再処理はプルトニウムを核燃料として利用するために行うのだが、プルトニウムを含む核燃料(MOX燃料)を既存の原子炉で使うこと(いわゆるプルサーマル)は採算性が低く、実施も進んでいない。そのため使用済みのMOX燃料をさらに再処理する可能性は非常に低く、そのまま直接処分の対象となる可能性が高い。ところが使用済みのMOX燃料は、通常のウラン燃料の使用済み核燃料とは放射性物質の組成が違い、原子炉から取り出して100年程度では埋設が可能になるほどまで発熱が弱まらず、非常に長期にわたって地上保管を続けなければならない。地層処分を選択するのなら、再処理・プルトニウム利用は大きな負担を将来世代に残すことになる。 実は、これまで再処理は、使用済み核燃料を地層処分する直接処分に対して、地下の処分場に必要な面積が小さくできると宣伝されてきた。これは、再処理でプルトニウムを分離するため、ガラス固化体の放射線による発熱量が小さくなるためである。しかし、取り出したプルトニウムを核燃料として利用したあとまでを考えると、再び再処理できない場合、上に述べたように処分場の面積低減以上のデメリットをもつ大変な厄介物になってしまう。将来、どの程度の規模で原子力利用を続けるのかは、現在では不透明であり、下方修正も迫られている。こうした現状を踏まえれば、高レベル放射性廃棄物の地層処分という観点から、再処理やプルトニウム利用の核燃料サイクル政策の進め方も見直すべきである。「費用が足りない」 地層処分に必要な費用は、福島第一原発事故以前の稼働ペースで、日本の50年程度の原子力発電で生じる約4万本のガラス固化体について約3兆円、それらの再処理によって発生するTRU廃棄物のうち地層処分するものについて約8000億円と見積もられている。筆者はNUMO発足当初の頃に、NUMOの技術部門のしかるべき立場にある人物が、きちんとした処分をやるには費用が足りないと主張されていたことが強く記憶に残っている。 処分費用は、発電時に発電量に応じて電力会社から徴収される。当初計画のスケジュールどおりなら、埋設が始まるよりも早く徴収が終わってしまうので、事業を進めながら積立金を運用益で増やしていく前提で徴収額が決められている。当初は複利2%を想定し、20年間で総費用の約半分の額を徴収すれば、その後、何十年もの操業期間を終え、処分場を閉鎖した後、300年程度の簡単なモニタリングまで運用益で賄うという計算になっていた。現在では運用益は低下しており、それに応じて徴収額も改定されてはいるが、徴収終了後、運用益がますます低下し、事業が進むにつれ大幅に費用が足りなくなり、安全性が削られることが強く懸念される。他の方法は本当にないのか 地層処分はうまくいけば、人間の生活環境からある程度遠いところに高レベル放射性廃棄物を隔離できるという面はあるが、地下で何が起きているのかわからないという不安が常につきまとう。遠い将来の人々が、足元に高レベル放射性廃棄物が埋まっていることを知っていたほうがいいのか、知らないほうがいいのかも、関係者の中でさえ意見が分かれる。 地層処分に頼らないで済ますために、科学の力で放射性廃棄物を放射能がない物質に変えられないかと考えたくなるが、そうした研究は何十年も続けられているにもかかわらず、現実的なものにはなっていない。これは、高レベル放射性廃棄物には様々な種類の放射性物質が含まれていて、これらすべてを共通の方法で効率良く放射能がない物質に変えることが難しいためである。仮に可能になったとしても、発生するそばから次から次へと放射能がない物質に変えることは難しいし、高レベル放射性廃棄物のうち一部の物質にしか適用できず、大半は地層処分される。この他の方法として、宇宙への廃棄は、それ自体の良し悪し以前に、頻繁にロケットを打ち上げなければならず、事故のリスクが非常に大きく、途方もなく費用がかかる。他国に埋設をして原子力発電を続けるというのはもっての外であろう。 これに関連して、2016年12月に政府が廃炉の方針を決定した高速増殖炉もんじゅや、引き続き計画されることとなった新たな高速炉の役割として、近年では、プルトニウム増殖よりも高レベル放射性廃棄物の低減が前面に出されているが、これはかなりの誇大広告である。高速炉にできることは、高レベル放射性廃棄物のうちマイナーアクチノイド(原発でウランが中性子によって核分裂せずに、中性子を吸収して生じる)と呼ばれるごく一部の特殊な放射性物質を、高速の中性子によってウランやプルトニウムのように核分裂させることである。上から目線で国民から信頼されるわけがない マイナーアクチノイドはエネルギーの大きい放射線を出すため、発熱も大きく生物への影響も大きいので、マイナーアクチノイドが減ると処分場の面積や有害度と呼ばれるものは減る。しかし、核分裂によって新たに高レベル放射性廃棄物が生み出され、そのうちの一部はマイナーアクチノイドと違って地下水に溶けて移動しやすく、しかも長寿命の放射性物質になるので、地層処分にとっていいことずくめでもない。そもそも1基の高速炉で処理できるマイナーアクチノイドの量はそれほど多くなく、このようなことを実施するには、現状でうまく進んでいない再処理よりも、更に手の込んだ再処理を軌道に乗せることが必要である。つまり高速炉による高レベル放射性廃棄物の低減は絵に描いた餅であり、高速炉開発を継続するための口実にすぎない。フィンランドの放射性廃棄物最終処分場「オンカロ」の内部。地下約450メートルの最深部に使用済み燃料を埋める穴が試験的に掘られていた=2016年4月、オルキルオト島 高レベル放射性廃棄物を地下に埋設するのではなく、地上や浅い地下で保管することは、将来の人間社会がどうなっているのか予測できないため管理の継続に不確実さがあり、またテロや戦争、災害などの脅威にもさらされるとして、原子力利用を推進する立場からは却下されている。しかし、高レベル放射性廃棄物が地表付近にあることがどれだけ危険なのか、具体的に示されているわけではない。 人間がテロや戦争を起こすのならば、そもそも原子力発電所の存在はどう考えるのか。また原子力利用から撤退しても、最後に発生した使用済み核燃料の地層処分まで50年もの時間を必要とする。地層処分をしながら大々的に原子力利用を推進することは、こうした矛盾を抱えている。そうした意味でも地層処分は消極的にしか選べない選択であり、こうした課題に真摯に向き合わなければ、原子力利用の賛否が分かれている現状で、国民的な合意を得るのは難しい。 筆者の経験では、原子力への批判的な意見を聞く度量のある関係者であっても、たいていは「わかっていて反対するのはいいが、よくわかっていないのに反対するのはダメ」という言い方をする。これは裏を返せば「よくわかっていなくても賛成ならOK」ということになる。原子力発電を稼働し、処分事業も進める以上は、社会から信頼を寄せられる姿勢であたってほしいと筆者は願っているが、福島第一原発事故を経験しても、このような上から目線の姿勢でいるならば、国民から信頼されるということについて、真の意味で向き合っているとは言えないであろう。

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    「原発はトイレなきマンション」のいい加減な批判に徹底反論する!

    とこで、まったくの誤りだ。高速増殖原型炉もんじゅ=福井県敦賀市 「もんじゅ」の役割は人類2500年のエネルギーを供給可能とする技術開発と、高レベル廃棄物の削減と保管期間の大幅短縮になる技術の2つがあり、まさに一石二鳥の優れた技術で、既に技術的には十分実用化可能な範囲にある。④は、加速器の中性子ビームで、高レベル廃棄物を無害化するもので、現代の科学技術を持ってすれば、原理的に可能であるが、ビームを発生する装置とその運転コストを考えると、捨てるゴミに大金をつぎ込むことになり、経済性が全くない。 中性子ビームで無害化するには、核融合炉が実用化する100年後くらいまで待っていればよい。核融合炉のブランケット(毛布)として、外周に並べておいて核融合反応で漏れてくる中性子を使えばよいのだ。いずれ人類の知恵が解決する。極めて安定した「ガラス固化体」 なぜ、我が国の使用済燃料の再処理技術の開発に時間がかかったかについて説明する。原子炉の中で燃料が燃えていく間に白金族というプラチナの親戚みたいなものがたくさんできる。それらは不溶解残渣(ざんさ)としてメルターの下の方に沈殿してたまってしまう。メルターは電気を流してガラスを溶かす(メルトさせる)装置である。ここに電気を通すと白金などの金属のほうに電気が流れてしまって、ガラスが均一に溶けない。このことが安定的な運転ができなかった最大の理由である。 フランスの再処理施設についていた不溶解残渣を取り除く沈殿槽を省略してしまったことがつまずきのもとで、気付いた時点で追加すべきであったが、国も地元自治体も「計画通り」の開発を要求したため、産みの苦しみとなってしまった。フランスの場合には、沈殿槽を使って白金を沈殿させ、残りの部分をガラスと混ぜる。ところが、日本ではコストダウンのため、この沈殿槽を省略してしまった。原子力研究開発機構の東海村の小型の研究施設では上手く行っていたのだが、大型化すると不均一になりやすいにもかかわらず、不溶解残渣と高レベル廃棄物の溶液を分離しないで、いっしょに投入するといういささか乱暴な処理装置にしてしまったのだ。 沈殿槽を省略した形で計画書を出し国の認可を得ているので、後になって、やはり沈殿槽を設けたほうがよいとわかって、「日本原燃が沈殿槽を設置させてください」と言っても、地元も国も認めない。オリジナルの「計画どおりにやれ」というわけで、ずっと苦労しながら、試行錯誤を繰り返し、沈殿槽なしで白金も一緒に混ぜながら処理する技術の開発に何年もかかってしまったのである。 次に、ガラス固化体がなぜ良いかについて説明する。鉛ガラスという放射線の遮蔽能力の高いガラスがあるが、これは金属の鉛を高温のガラスに均一に混ぜてできたやや黄色の透明なガラスである。鉛が均一に溶け込んで透明になったガラスなので、放射線の遮蔽能力が高く、放射能が非常に高い施設の窓ガラスに使われている。この鉛ガラスの鉛の代わりに、高レベル廃棄物や不溶解残渣をガラスに溶かし込んで「キャニスター」と呼ばれるステンレスの容器のなかに流入させる。透明なガラスがステンレス容器のなかで固まり、極めて安定した「ガラス固化体」ができる。 フィンランドやスウェーデンでは、使用済み燃料をそのままステンレスや銅のキャスクと呼ばれる容器などに密閉して、地下300m以下の深地層に保管するが、使用済み燃料の被覆管などの腐食が進むと、キャスク内に放射性物質が漏れだし、キャスクも次第に腐食していくので、途中で掘り返せるようにとの要求もついてしまった。ウランの鉱脈レベルにもどるまで10万年かかるので、その間の保管に一抹の懸念があるという主張だ。埋設処分地は「北方領土」が適地 そもそも高レベル廃棄物は、最初は放射能が非常に強いのであるが、再処理して、半減期の長いウランやプルトニウムなどを取り除くと40年で千分の1、150年で1万分の1になる。8百年で10万分の1、 3千年で百万分の1である。いつまでも減らない地球温暖化ガスと違って、どんどん減衰して毒性が低下していくのである。それでも、ウラン鉱石と同じレベルになるのは2万年といったオーダーになるから大変だが、300年ぐらいなら、江戸時代からある老舗もあるので、ガラス固化体もきちんと管理できると思う。空冷であれば、すでに鉄筋コンクリートの建屋のなかで、安全に保管されている。 私は1千分の1になるまでの40年間で、しっかり方向性と地元理解を得るように議論すべきと思う。その議論をしながら、再処理と高速炉の技術を堅持して、埋設処分の技術をしっかり開発するのがよいと思う。 高レベル廃棄物の埋設処分場の候補地の選定も必要である。筆者は、スウェーデンの岩盤研究所ASPO(エスポ)を訪問した。使用済み燃料を収納した大型トレーラーがらせん状のトンネルをぐるぐる回りながら、地下450mまで降りていける。地下には、トンネルが枝分かれしていて、大きなキャスクを岩をくりぬいた穴に差し込んで、岩石と粘土で蓋をする。このための大型のマシンがすでに開発されている。我が国のトンネル技術とロボットなどの遠隔操作技術を以てすれば、今、すぐにでも建設が開始できる。使用済み燃料を入れた容器をトンネルの穴に挿入する作業マシン=スウェーデンの岩盤研究所 日露平和条約を締結したら、北方領土を経済特区とし、長年の運転実績があるロシア型の高速炉を建設する。日本に向けて送電するとともに、高レベル廃棄物の削減と保管期間の短縮を可能としたうえで、高レベル廃棄物の埋設処分場も建設すると良い。六ケ所の再処理施設とも比較的近いし、高速炉の使用済み燃料を処理する第2再処理工場を建設するのも良い。福井県にはシンもんじゅを建設し2つの炉型で、徐々に高速商業炉の稼働を高めていく。 高速炉は我が国の年間電力売り上げ20兆円を2500年にわたって供給できるので、5万兆円(5京円)の価値がある技術開発である。高レベル放射能を減容して、保管期間を大幅低減できる。我が国の骨太の活力ある社会の未来への存続に向けて1兆円や2兆円の投資にガタガタ言うなと言いたい。冷静に考えれば、全て実現可能である。

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    知らなきゃ危ない、どこまでも膨らむ原発コストの「現実」

    それぞれ1年延長するための費用を試算しておく。「中間貯蔵」1年間でこれだけかかる①再処理前の中間貯蔵 プール貯蔵(湿式貯蔵)を1年間行うことに要する費用:年間35億円…概算値として、使用済燃料5000トンに係るプール貯蔵の運転費1395億円を40年で均等で支出するものと仮定すれば、年間35億円(=1395億円÷40年)となる。数値の出所:総合エネルギー調査会原子力部会中間報告(H10.6.11)中の「参考10 貯蔵施設の経済性試算について」) キャスク貯蔵(乾式貯蔵)を1年間行うことに要する費用:年間6億円…概算値として、使用済燃料5000トンに係るキャスク貯蔵の運転費1200億円を5施設、保守的に40年で均等で支出するものと仮定すれば、年間6億円(=1200億円÷5施設÷40年)となる。数値の出所:総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会報告書(H16.1.23)中の資料2〔使用済燃料の中間貯蔵(キャスク貯蔵)費用の内訳〕)②再処理後の中間貯蔵 ガラス固化体の貯蔵を1年間行うことに要する費用:年間96億円…上記の試算の前提とした使用済燃料5000トンと同等のガラス固化体は約6300本と試算されるので、ガラス固化体2880本と同規模の施設は2.5ヶ所必要になると仮定。管理費用のうち「貯蔵費 運転保守費」と「貯蔵費 その他諸経費」の合計1540億円が対象となるので、ガラス固化体約6300本を1年間貯蔵する費用は、年間96億円(=1540億円×2.5施設÷40年)となる。数値の出所:総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会報告書(H16.1.23)中の資料3〔返還高レベル放射性廃棄物管理費用の内訳〕) 以上は、政府資料に基づいて行った一つの試算でしかない。政治や行政はうかうかしていてはいけないが、最終的に必要となる費用を確保するための手段を臨機応変に用意しておくべきである。こうした超長期的視野に立った幅のある政策運営を行うことが、もっとも現実的な『原発ゴミの正しい処し方』となろう。 日本の原子力発電の稼働率は、諸外国に比べて相当に低いと言わざるを得ない。特に震災以降はほぼゼロで推移してきている。ここ10年程度での概ねの推移を見ると、欧米や韓国での稼働率は80~90%台だが、日本は震災前の2003~2010年までを見ても、70%未満でしかない。日本の原子力発電の稼働率を欧米並みに引き上げることで、これまで遅れに遅れてきた再処理や最終処分に係る費用に充てるための原資を捻り出すことを検討していくべきだ。 こうした追加費用の総額は、使用済燃料を再処理するまでの期間や、ガラス固化体の中間貯蔵の期間を、最終的にどの程度にまで見込んでおくかにもよる。原子力発電からの収益をあらかじめ引き当てておくことで凌いでいける水準だと思われる。 いわゆる「トイレなきマンション」説は、政府を急かす材料にはなるだろうが、本質的な危機を招くものにはならない。使用済燃料を再処理する前と後で、それらの貯蔵に係る時間軸をどのように設定するかが鍵となる。

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    小泉元首相「核のごみの地層処分も3・11でウソだとわかった」

     小泉純一郎元首相と産経新聞の長辻象平論説委員が日本のエネルギー政策などをめぐり対談した。「原発ゼロ」を掲げる小泉氏は「原発に頼るより、さまざまな自然エネルギーに頼る社会を実現できるチャンスだ」と述べ、原発をすぐに止めるべきだとの持論を強調した。長辻氏は「完全に原発ゼロではなく、今後は新しく安全な原発を造っていこうという考え方があってもいい」と主張。2人の対談は予想外の方向に着地する。(以下、敬称略)2016年4月、原発やエネルギー問題について対談する小泉純一郎元首相(右)と長辻象平論説委員(寺河内美奈撮影)長辻 エネルギーについて今日、話すことになると思いますが、エネルギーというのはずいぶん不思議な言葉なのですね。というのは、日本語になったことが一度もないのです。小泉 そうかぁ。長辻 実に不思議なんですよ。明治から使われている文献をいろいろ調べてみたのですけど、一度も翻訳されたことがない。小泉 不思議だねえ。長辻 成功していないのですよ。つかみどころがないんですね、この言葉の概念が。小泉 そうかぁ。長辻 熱になったり、力になったりですから。現代のもろもろのエネルギー問題の難しさも、やはり言葉にひとつ端を発しているんじゃないかなと私、ずっと前から思っているんですよ。小泉 それは初耳。長辻 でも、中国はうまく訳しています。漢字しかないから。小泉 何て言いました?長辻 能源(のうげん)。能力の源。小泉 あ、そう!長辻 非常にいい言葉でしょう。小泉 ふ~ん。能力の源ねぇ。長辻 では、本論の原発問題に移って、私から質問していいですか。小泉 いいよ、もちろん。長辻 3・11(東日本大震災)を機に小泉さんの原子力に対する考え方は変わったと思う。さらにその後、フィンランドのオンカロ(使用済み燃料の最終処分場)をごらんになって、日本ではこういう地下処分場を造るのが難しいと。だから即、原発ゼロの方がいいんだよ、ということをおっしゃり始めたんですよね。小泉 うん。長辻 具体的には、どういう部分でそう思われました?2016年4月、「原発ゼロ」社会の実現を訴える小泉純一郎元首相(寺河内美奈撮影)小泉 フィンランドってのは、岩盤でできている国ですよ。その岩盤から下まで約400メートル掘ってね、その下に2キロ四方の広場を作って、そこに原発の廃棄物を埋めるんだけど。そのオンカロもね、(原発)2基分の核の廃棄物しか埋める容量ないんだよ。それでね、400メートル掘って10万年保管するっていうのは、まず日本で探すの、ほとんど不可能と。長辻 と、思われた。小泉 うん。それと同時に、安全、コスト安い、クリーン、全部ウソだと分かった! これが一番。専門家がずっと説明していたのが全部ウソだと分かった。第一ね、あの事故以来5年たった。事故から2013(平成25)年9月まで2基しか動いてなかったが、東京も大阪も停電が起きない。やっていける。5年間ゼロで。長辻 それは、運が良かったということもあるんでしょう。小泉 運が良かったって、現実、できちゃったんだ、5年間。長辻 綱渡りですよ。小泉 やればできた。長辻 政治が方向を示せば、知恵のある人が英知を出してくれる、と小泉さんはおっしゃった。小泉 出てくる。その証明ですよ、この5年間は。ドイツは原発ゼロを宣言したけども、まだ何基か動いてる。日本は実質ゼロでやっていけるということを、証明しちゃってるんだ。長辻 でも6年、7年になると無理かもしれない。小泉 それはね、あなたの議論でいいよ。それ、書いてくれればいいや。一般庶民、一般国民がどう判断するかだから。まさに世界に冠たる自然エネルギーを電源にしてね、経済発展できる姿を見せる。原発に頼るよりも、太陽光、風力、地熱、さまざまな自然エネルギーに頼る社会を実現できるチャンスだ。長辻 でも、ドイツは脱原発ですけれど、中国がすごい勢いで今やろうとしてますよね。小泉 それは非常に、日本にとって懸念があるんですよね。事故起こしたら日本に来るから、放射能が。長辻 来ます。それと、中国大陸だけでなく、世界中に建設しようとしていますからね。小泉 あれは非常に懸念材料ですよね。長辻 中国が、安全性に疑問を抱える原子力プラントを、いろんな所に建設するんだったら、日本がきちっとした技術で造った方が…。小泉 そういう懸念材料は、やんない方がいいね。自然のエネルギーをやればできるんだから。原発に投じた金を、自然エネルギーに向ければ、日本は必ずゼロにできます。そして太陽光、風力、地熱とかね、やっていける。長辻 でも、原発は危険だとおっしゃいましたけれど、日本に実は高温ガス炉という安全性の極めて高い原子炉があるんですよ。平成10年に臨界に達していて、大洗(茨城県)にあるんですけれど、ほとんど存在が知られてない。非常に先進的な原子炉で、一切水を使わないんですよ。小泉 うん。長辻 水が不要なので砂漠の真ん中にも造れます。それから全電源喪失でも、炉心溶融が起きません。普通の原発のように海岸に造る必要はなく、津波の心配もない。過酷事故が起きないので大規模な避難計画も必要ないということで、3・11(東日本大震災)以降、にわかに注目され始めてまして、日本が今、トップ技術を持っている。小泉 うん。長辻 こういう新タイプも含め、完全に原発ゼロではなく、軽水炉にある程度の区切りをつけるとしても、今後は新しく安全なものを造っていこうという考えがあってもいいんじゃないかと。小泉 それは民間が自分のカネでやるなら、どんどんやってもらえばいい。長辻 究極の原子力エネルギーは核融合ですよね。しかし、核融合発電には今のところ技術的に乗り越えられない壁がある。 太陽光や風力などの再生可能エネルギー利用拡大に当たっては、高温超電導技術を電気の貯蔵に使いたいのだけれど超電導の高温化が壁に当たっています。小泉 それは、原発よりは易しいと思いますよ。長辻 どういう理由でですか?小泉 原発を乗り越えた日本人の知恵でね。今までできないことを、ピンチをチャンスに変えてきた。長辻 しかし、再生可能エネルギーは太陽光にしても風力にしても、今の技術では、安定的に使うのが難しいですよ。小泉 そうでもないよ。今アメリカなんかね、高速道路で太陽光発電をやろうと実験が始まった。自動車が走る舗装面を太陽光発電に使おうと。もし日本でこれやったら、高速道路だけで全部電源まかなえちゃうんじゃないか?長辻 あとは安全保障。日本は世界から核の潜在保有国とみられている面があるので、その元になっている原発をなくした場合は安全保障上、不利でないかという考えがありますが、その辺りはどうですか。小泉 それは私は全く違う。核兵器を持って安全かと。私はそうは思わない。原発を造っていれば安全かと。そうは思わない。日本に原発もない、核兵器もないから不安かと。そうは思わないね。原発ゼロにという国民の意見が政治を変える長辻 日米原子力協定の問題がありますよね。2018(平成30)年が更新時期で、核燃料サイクルが動かない、もんじゅが動かない、再稼働も進まないということになってくると、アメリカは「日本は大丈夫か」とみると思う。そこで協定が更新されずにキャンセルされたら、ものすごく重大な影響が日本に及ぶでしょう。小泉 うん。それは日本の方針、ゼロに決めればできますよ。話せばできる。アメリカは理解する。大統領は、日本の首相がそうだと言えば、日本の意向を尊重します。この原子力の問題というのは、カネがかかってしようがないんだよ。長辻 でも、首相のときはそうは思われなかったわけでしょう。小泉 信じてたよ。みんな「これは大丈夫です」「安全です」「コスト安い」って言っていたんだよ。コスト安いなんてよくも…。俺も知っていたらな。ほんと悔しいよ、ウソを信じていたのが。あぁ、過ちだったなと。長辻 しかし、小泉さんの思いは、後継の安倍(晋三首相)さんには伝わっていない。小泉 うん。長辻 参院選がありますね。今の思いをどう政治に生かしていこうと思われているんですか。小泉 そのうち反映されるね、自然に。原発は高くコストがつく、安全じゃない、クリーンでもないというのが。そういう首相が出るよ。そしたらね、推進論者も役人も経済産業省も、ガラっと変わる。長辻 しかし、安倍さんは、そうはならない?小泉 安倍さんでは無理だ。もうここまでいっちゃってるんだから。いま変えられない。変わったらブレだといわれるし。長辻 新しい政治のうねりを、郵政民営化のときのように起こそうというお考えはありますか。小泉 いや、いずれ分かると思うんだ。多数意見だもん。国民がゼロがいいという。だから時間がたてばたつほど、ゼロでやっていけるというのが、分かるから。そうすると、国民の意見が政治を変えていくと思う。長辻 国民的な議論をうねりにするには、参院選の大きな争点にすべきだというふうに…。小泉 民進党とかしないのがおかしいね。電力総連の意向に左右されちゃう。いわゆる利権団体。原発やエネルギー問題について小泉純一郎元首相と対談する、産経新聞の長辻象平論説委員(寺河内美奈撮影)長辻 原子力発電環境整備機構(NUMO)は、発電で生じた高レベル放射性廃棄物を地下深くに埋設する法人ですけれど、ここが全国の市町村に対して手を挙げてくださいと処分地探しの公募を始めたのは2002(平成14)年で、小泉さんが首相のときです。その頃のことは覚えてますか?小泉 いやいや。任せてた。技術的には分からないから。専門家がいいと言ってやっていると。それが3・11でウソだと分かったから今、「過ちを改むるに、はばかることなかれ」といって、やっているんだよ。長辻 その言葉は、将軍の徳川綱吉が好きだったんですよね。小泉 あの綱吉が?長辻 そう。面白いですね。綱吉と一緒なのは、ちょっと微妙ですね(笑)小泉 あれは、生類を憐れもうというのはね、あれは行き過ぎだよ。長辻 生類憐れみの令がなぜ可能だったか分かります? あれはエネルギーの問題なんですよ、実をいうと。あの時代に房総半島の方でイワシの大漁があったんですよ。イワシを犬に与えることで大量の犬を養うことができました。小泉 あ、そうかぁ。長辻 元禄時代は文化としては非常に華やかですよね。あれはイワシのエネルギーなんですね。イワシから魚油が採れるでしょう。それと肥料もです。肥料に使うことで木綿栽培が発達したんですよ。小泉 ふ~ん。長辻 着物が華やかになりました。麻はうまく色が染まらないけど、木綿は非常に染色性がいい。だから草木染で、庶民が草花の色を着られるようになったんですよね。小泉 ふう~ん。長辻 気分も高揚して。それまでは高い菜種油だから夜は寝ないといけなかったんですけど、イワシの油は魚油で安いので…。小泉 あの行灯用の?長辻 そうです。ですから、夜の時間が使えるようになったんです。小泉 へえ~。長辻 江戸時代の元禄文化というのは、イワシエネルギーの世界。だから、エネルギーというのは非常に大事なんですよね。小泉 そりゃそうだよなぁ。だから忠臣蔵の討ち入りさ、大変だったと思うよ。あの暗い中さ、吉良上野介を探すのにね。長辻 おっしゃる通りなんです。なぜ2年近くを赤穂浪士が江戸で生きられたかというと、イワシを食べていたからです。小泉 イワシを…イワシは庶民の魚じゃないの?長辻 赤穂浪士が食べていたイワシはさらに下の干鰯という、肥料にするようなものを食べていたんです。小泉 はあ~。長辻 イワシの豊漁期でなかったら赤穂浪士は飢え死にしていますよね。小泉 そうかあ。綱吉の時代だよな、忠臣蔵。 《後で知ったのだが、小泉さんは、大の忠臣蔵好きだった》長辻 そろそろ、時間ですね。いろいろ、ありがとうございました。小泉 はははは。長辻 小泉さんはもっと怖い人かと思っていましたよ。この本を持ってきたので差し上げます。私が書いたものです。小泉 『元禄いわし侍』か。面白いなぁ。ありがとう。

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    小泉純一郎の「脱原発」発言で、何がどう変わるのか?

    田原総一朗(ジャーナリスト) 小泉純一郎元首相の「脱原発」論が話題を呼んでいる。小泉さんは、今年の8月にフィンランドを訪問してきた。世界初の核廃棄物の最終処理処分場、「オンカロ」を視察するためだ。オンカロとは、フィンランド語で「洞窟」「隠し場所」を意味する。 この「オンカロ」でしていることは何かというと、いわゆる「地層処分」である。原発の使用済み核燃料を10万年の間、地中深く保管し、無害になるまで置いておくのだ。 10万年後、どんな社会になっているのか、誰も想像つかないだろう。いま、僕たちが話をしている言葉さえも通じない可能性がある。そんな遠い未来まで放置するしかない。こんな処理方法しかないゴミを生み出していく原発を、これ以上、続けていっていいのだろうか。そう、小泉さんは考えたのだ。原発は「トイレのないマンション」と、長年、言われてきた。まさに、そのことである。 小泉節は健在だ。あの明快さで「脱原発」を語るのだから、おおいにウケる。原発をなくせばハッピー、という気分にさせられるのだろう。小泉純一郎元首相 だが、大事なことが抜け落ちている、と僕は思う。「こんな処理方法しかないゴミ」である使用済み核燃料は、すでに膨大な量が存在しているのだ。もし原発をやめたとしても、これらの「ゴミ」をどうするのか。小泉さんはその部分を語っていない。ただ「脱原発」を語るのみである。 他にも、語っていないことがある。日本もフィンランドと同じく、「地層処分」を採用する方針を、1976年に決めている。ところが、建設どころか、候補地さえまだ決まっていないのだ。実は、フィンランドは地盤が安定している。一方、日本には火山がたくさんあり、地震の多い国土である。そのような場所で「地層処分」をして、果たして大丈夫なのか。そのような議論さえ、充分に尽くされていないのだ。 小泉さんは、脱原発発言をして、さらに社民党党首と会談までして、自民党を慌てさせている。こうした小泉さんの言動が、自民党の原発に対する態度を、変える可能性があると、実は僕は思っている。 現在、政府の原発に関する行政は、驚くほど縦割りだ。原発を推進してきたのは経済産業省だ。一方、除染については、本来環境省担当なのだが、実質、復興省が行っていると聞く。また、高速増殖炉「もんじゅ」や、放射能の分散を予測する「SPEEDI」は、文部科学省の管轄だ。こんな縦割りで、弊害がないはずがない。 実際、福島第一原発事故の際も、「SPEEDI」が活用されなかったことは周知の事実である。だから、みんなが「木を見て森を見ず」。誰も責任感がないのだ。総合的に日本の原子力政策を考える、省庁を超えた組織が必要なのだ。 安倍内閣は現在、国家安全保障会議の設置を進めている。いわゆる日本版NSCだ。この日本版NSCができれば、官邸の司令塔機能を強化される。つまり、官邸主導で外交や安全保障の問題を迅速・適切に意思決定できるようになるのだ。 僕は、この「原子力版」を作るべきだと思っている。そして、小泉さんの言動が、そのきっかけになるのではないか、と願っているのだ。(田原総一朗公式サイトより2013年11月4日分を転載)

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    2022年までに脱原発のドイツ 珈琲豆店が水力発電の電力販売

    気は、1000を超える電気販売会社から選べる。なかには、風力、バイオマス、太陽光、水力など、再生可能エネルギーだけを販売しているところも。「例えば、ドイツ人なら誰もが知っているチボーというコーヒー豆販売店では100%水力発電で作られたエネルギーを売ってます。日本でいえば、お茶を販売する伊藤園が電力を売り始めたようなものです」(熊谷さん) また、原発を選択する家庭の毎月の電気料金の明細書には、1キロワット時あたりの核廃棄物量が記載されている。こうした意識の高い国民の後押しもあって、メルケル首相は、脱原発の道を突き進んだ。「さらにメルケル首相は、2011年5月から2つの委員会に提言を求めました。ひとつが原子炉安全委員会という原子力のプロ集団。もうひとつが倫理委員会です」(熊谷さん) この倫理委員会のメンバーに原子力のプロはいない。社会学者や哲学者、教会関係者など。そして2か月後、彼らが出した答えは「福島事故によって、原子力発電のリスクは大きすぎることがわかった」というものだった。 一方の原子炉安全委員会の報告は「ドイツの原発は航空機の墜落を除けば、洪水や停電などに対して比較的高い耐久性を持っている」という結論で、倫理委員会とは真逆だった。「メルケル首相は、倫理委員会の提案を優先しました。この委員会の人選は政府ですが、委員会には原子力に反対していた人が多く含まれていました。このため、メルケル首相が最初から脱原発をめざしていたことは明白です。倫理委員会は、首相が考えていた通りの提言を行ったのです」(熊谷さん) とはいえ、国民の生命や財産を守ることが国の第一の意義とすれば、脱原発がもたらすリスクを考慮に入れてもあえて原発を存続させる必要はないと考えたのではないだろうか。関連記事■ 原子力安全委員 最短週10分の会議出席で年収1650万円■ 総選挙控える独 反ユーロ、マルク復活掲げる政党支持の声も■ ギリシャ危機に対処するEU首脳に関するジョークを3つ紹介■ 短期間で脱原発宣言の菅総理 ドイツは10年以上で結論出した■ 「原発の『想定外』は責任逃れのために作った指針」と専門家

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    最近の小泉純一郎氏 白髪増えるも元気で軽口叩いて意気軒昂

    を批判したのは、小泉純一郎・元首相だ。 小泉氏は3月11日、福島・喜多方市内で講演に立った。再生可能エネルギー普及を目指す電力会社が主催し、約1000人が耳を傾けた。約60分間、小泉氏は脱原発の持論を展開した。「原発推進論者は、原発は安全だ、コストが一番安い、クリーンだという。しかし、4年前の事故を見て自分なりに調べるうちに、全部ウソだとわかった! よくこんなウソを政府はいまだにいっているな」 細川護熙氏を擁立した昨年2月の都知事選中に行なわれた講演会では老人ネタのギャグを織り交ぜて会場を沸かしたが、この日はいたって真剣。やはり、軽口をたたけないほどに都知事選大敗が尾を引いているのか……と思いきや、“鉄板ネタ”が飛び出した。小泉純一郎元首相「オンカロ(フィンランドの核廃棄物処理施設)の担当者たちが頭を悩ませているのは、何千年、何万年後に生きる人たちにどうやって危険な場所だと伝えるかということ。言葉の変化は早いですからね。 最近私が理解できない言葉が結構あるんですよ。たとえば『キモい』。キモ(肝)というくらいだから何か大事なことなのかと勘違いしていました(場内笑い)。30年くらい前まで『あの人はキレるね』というと、頭のいい人のことをいったものです。ところが今は怖くて使えません」 石油ショック時のトイレットペーパー不足から日本人の清潔さに話が及ぶと、「外国人は日本の家に入るとき靴を脱いでスリッパを履くことを知っています。日本人はなんてきれい好きかと感心します。ところが、お座敷に入るとスリッパを脱がなくてはいけない。これには外国人も驚かされるそうです(場内笑い)」 としっかり笑いをとり、「『年寄りも大志を抱け』でいきたい」と締めくくった。 今回の講演は昨年5月に設立した自然エネルギー推進会議の活動の一環だ。小泉氏と親交のある経済ジャーナリストの須田慎一郎氏が語る。「小泉さんは首相退任後、経団連の中心企業が出資したシンクタンクを拠点に活動していたが、2013年夏に脱原発に動き出すと関係が切れた。入れ替わるように関係を深めたのが楽天の三木谷浩史氏を中心とする新経連(新経済連盟)。彼らの支援でできたのが自然エネルギー推進会議です。 最近の小泉さんは白髪こそ増えたが元気そのもの。先日も体調を尋ねたら、軽口を叩いて意気軒昂としていました。今後も同会議を拠点に発信を続けていくようです」 ライオンヘアの咆哮はまだまだ止みそうにない。関連記事■ 小泉純一郎氏 11月の福島県知事選に進次郎担ぎ出すプランも■ 小泉元首相が小沢氏と新党結成も 東京五輪時に進次郎首相へ■ 中曽根康弘「私も小泉君もポピュリスト」「変人のまま」■ 都知事選脱原発争点化を批判の読売 東京都の尖閣購入は高評価■ 憶測飛び交う小泉元首相の「脱原発宣言」は財界の総意ありか

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    もんじゅ廃炉と「シン・ゴジラ」

    セージ性の強い作品だ。くしくも、この大ヒットの最中に政府が高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉方針を決めた。エネルギー小国にとって、核燃料サイクルの「夢」はまた遠のくことになる。日本に巣食うリアルゴジラの正体を突き止めれば、課題は自ずとみえてくる。

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    知られざるもんじゅの底力、感情論の廃炉が導く技術立国日本の「死」

    奈良林直(北海道大学大学院特任教授) 9月21日、政府は閣僚会議を開催し、プルトニウムを利用する新たな高速炉開発の計画を年内にまとめる方針を確認した。会議には菅義偉官房長官、松野博一文部科学相、世耕弘成経済産業相らが出席。菅官房長官は「もんじゅについても本年中に廃炉を含めて抜本的見直しを行う」と語った。今後、地元の意向を踏まえながら扱いを最終的に決める方針。同日夜には、松野文科相が福井県で西川一誠知事と面会した。「約1兆円の国費を投じながら20年以上ほとんど運転していない実態を重くみており、もんじゅは事実上、廃炉に向かうことになる」等の報道があるが、「ちょっと待った」と言いたい。原子力関係閣僚会議であいさつする菅官房長官(左から2人目)=9月21日、首相官邸 今回の問題は、もんじゅの運転保守をしている検査について、昨年11月に規制庁から厳しい勧告が出たものであるが、これは人的なマネージメントの問題点を指摘しているのであって、高速増殖原型炉「もんじゅ」の設備とは切り離して考えるべきである。「保守点検が満足にできないから、国家プロジェクトで建設されたもんじゅを廃炉にしろ」というのは、論理的に飛躍している。「方広寺大仏の鐘の銘文「国家安康」の字句が,家康の名を分割しているので、徳川氏を呪詛し「君臣豊楽」の文字が豊臣家の繁栄を祈願している」と難癖をつけて、最後は大阪城を大砲で砲撃し、豊臣家を滅亡に追いやった論理と全く同じである。 松野文科相は「説明不足があった。これからは福井県や敦賀市のみなさんに説明、調整させて頂きたい」と述べたが、地元の福井県の西川知事は「政府の無責任極まりない対応であり、誠に遺憾だ」と批判したとのことであり、我が国で唯一、西川知事が正論で主張されている。経産省は、もんじゅに代わる炉として、燃料を増やせない高速炉で、フランスで計画中の「ASTRID(アストリッド)」への協力を通じ、日仏共同研究を軸にした計画をつくろうとしている。 今後、この方針に沿った技術開発計画が続く見込み。もんじゅと同じ、冷却材にナトリウムを使う原子力機構の実験炉「常陽」(茨城県)の活用も検討するとしているが、フランスの原子炉はタンク型炉といって、大きなナトリウムのタンクに原子炉の炉心や熱交換器、ナトリウムのポンプなどを吊り下ろしている構造で、耐震に弱く、日本では建設できない。国際協力は、単にお金を出せばよいといった安易な協力では、立場が弱くなり、我が国から実験結果などの十分な成果を提示しなけれれば、軽くあしらわれるだけである。「常陽」にもどってしまうと我が国の高速炉開発は、1978年まで戻ってしまう。 規制庁はもんじゅの運営に対してレッドカードの勧告を突きつけたが、これは組織としてしっかりした組織にするようにということで、もんじゅを廃炉にしろとは一言も言っていない。西川一誠知事は「規制委員会のこれまでの助言も親切さが欠けている。運営体制は、JAEAと文科省、規制委の3者が当事者として責任を持つべきだ」と述べられており、地元企業からも、「規制委の対応を「規制委がJAEAの言い分に耳を傾けず、強い権限を背景に一方的に“判決”を言い渡した」と「弁護士不在の裁判」の実態を批判している。 私は、昨年12月12日に第三者としての客観的な立場で、それが本当なのか、自分の目で確認に行って、記事にまとめた。12月12日は土曜日であったが、敦賀に行って、朝から、もんじゅを見学した。格納容器内や開放点検中のAループのセル内にも運良く入れた。ご案内いただいたのは20年前のナトリウム漏えい事故を対応された方で、このようなプラント全体を熟知された方は、もう極くわずかとのこと。引き継がれる「もんじゅ」の技術 格納容器内には、炉心真上の回転プラグ、燃料交換機などが一望できる。中間熱交換器室、循環ポンプ室、セル内には熱応力を逃げるためにタコベントのように曲がりくねって引き回された配管と、それを支持する堅牢なV字型サポートや熱膨張を避けて耐震サポートとなるメカスナッバーやオイルスナッバーなどが取り付けられ、分厚い保温材とラッキングが被された配管は、内部に漏えい検出器の電極や、ナトリウム漏洩の際に生じる気体を吸引して漏えいを検知する系統、ナトリウムが凍結しないように加熱するおびただしい電気ヒータや熱電対などが整然として取り付けられていた。 補助建物内の蒸気発生器(エバポレータと過熱器)も含め、プラント内には塵ひとつ落ちていません。とても20年間経ったプラントとは思えない。世界中の約百基のプラントを見ているが、メンテナンス状況は、運転中の軽水炉と比較して、決して遜色がない。保安規定違反とされた、保安規定対象外の監視カメラ180台も新品に取り換えられていた。中央制御室もガラス越しに見ましたが、中操の人たちは、真剣にプラントの状況を把握して働いていらした。 メーカの技術者で、開発当初から高速炉をやっていた方は、もうほとんど退職するか異動になっている。初期の方々の大部分は引き上げて、もうもんじゅにはおられないのだが、現在も技術を引き継いた、メーカや電力会社からの出向者の方と共に機構の方がおもりをしている。もんじゅは当初、機構と電力の方が各50%ずつで運営されていたが、現在は40%の機構の方と10%強の電力出向者、残りは数年で交代するメーカや、もんじゅを支える地元企業等で運営されている。30年前のもんじゅ建設当時からもんじゅに関わり、プラント全体を熟知された方は、もう極くわずかである。それでも、新人を採用し、2直、5班で、運転を経験させてプラント全体系統を理解させて、それから保全活動に就くようにして人材育成をしている。もんじゅのプラントとしての運営自体は、他の組織を持って代えがたい。 仮に、今から次世代高速炉の設計をして20年後に建設できたとしても、その新鋭設備の運転保守ができなければ、現在と同じことが繰り返されるだけである。新設の高速炉を設計して建設するには、コストも1兆円以上かかる。現在のもんじゅを廃炉にするとナトリウムを使った原子炉なので、おそらく数千億円かかる。つまり、1兆数千億円かかることになり、「現時点で、そんな大金をはたいてまで、高速炉を開発する意味はあるのか」という主張が出て、我が国の高速炉開発がとん挫してしまうことは、ちょっと考えれば、すぐわかることである。有馬委員会が作られて、熱心に活動されたが、具体的な組織のビジョンが描けていなければ、このような結果になることも、また当然である。 さて、では、どうすればよいのか。私は、現在のもんじゅの運転の組織に加えて、機構の高速炉の研究者や管理部門やさらに退職したOBも加えて組織をしっかりし、20年間のもんじゅの事故やトラブル、運転保守の課題を、徹底的に調べ上げ、次の世代の教訓や次世代高速炉の設計上の留意点とすべきだと主張したい。これができなければ、田中委員長の勧告に応えたことにならない。20年後にまた同じことを繰り返すだけだ。 歴史を紐解いてみよう。1995年のナトリウム漏えい事故であるが、これは熱電対という温度センサーを収めたステンレス製の鞘管が、流体の渦で共振して、その振動で折損し、その割れ目からナトリウムが漏えいしたのだ。専門的には、「流体弾性振動によるロックイン現象」と呼ぶ。次いで残念なのは、2010年に再稼働を始めた途端に、燃料を出し入れする大型円筒金具が落下したことだ。円筒内の平板金具が回転すると、吊り上げのための爪が外れてしまう構造上の問題と、5年で交換が必要な回り止めのゴムの劣化が原因であった。事実誤認があるNHK「クローズアップ現代」 NHKがクローズアップ現代で放送していた非常用DGの点検先送りについては、放送内容にいくつかの事実誤認がある。まず、発端は平成22年12月に12気筒のうち1気筒のシリンダーライナに割れが発生し、12気筒全てのシリンダーライナを交換している(この間6か月)。非常用ディーゼルの点検周期は16か月で、ちょうど16か月目がB号機とA号機の点検期間と重なっていて、保安規定上2台同時に点検できないため、C号機の点検ができなくなっていたのだ。この時は、点検期間延長申請を行うか、B号機の前に点検を済ませて置く等の保全計画があれば回避できた。この件は、C号機の簡易点検が問題にはなったが、保安規定違反にはされていない。 また、2015年の7月に非常用ディーゼル発電機のメンタナンス中にシリンダーヘッドを誤って落下させ、シリンダーヘッドに取り付けられた小型の弁(インジケータコック)と潤滑油配管が変形した。これは、法令報告事例で、速やかに、規制庁に届けられた。この件は、点検作業を行っていた業者に対する調達管理について、保安検査で保安規定違反の判定を受け、業者の現場作業に関する品質保証計画書を提出させていたものの、業者の全社的な品質保証計画を提出させていなかったこと、業者の選定に係る基準を定めている「競争参加者資格審査要領」が、「もんじゅ」の保安規定に基づく文書として管理されていなかったことなどにより、品質保証による判定で保安規定違反とされた。「本事象はディーゼル発電機1 台の故障であるが、別の2 台のディーゼル発電機が動作可能であり、直ちに安全上の問題はない。」と原子力規制庁の文書に明記されているが、再発防止策が重要なのは言うまでもない。福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」 さて、多数の未点検設備の保安規定違反は、どうかというと、規制庁時に、点検期間の変更を届出ておらず、ここからがボタンの掛け違いとなっている。それまで軽水炉に要求していた保全プログラムの導入を、規制側(当時は保安院)がもんじゅにも適用することとした。もんじゅは準備期間もなく導入したことから、保全プログラムを使って保守しながら保全プログラム(特に点検計画)を改善しようとしたところ、改善しながら直すということが許されなかった。規制側は保全計画を厳しく遵守することを求め、それができない場合は、保安規定違反とされたのだ。 とくに保安規定違反の根拠がひどいと感じたのは、配管点検である。6万個もの支持構造物があり、全てが外観検査の対象になっており、その多くの目視点検が、保安規定違反にされている。配管の外観点検は、「配管を保温材が施された状態で、視認できる範囲を確認した」というやり方で実施したのであるが、特にナトリウム配管はナトリウム漏えい検出器で常時監視していることから、保温材に凹み等がなければ健全であることを確認できる考え方である。詳しい「もんじゅ」の視察をしていない規制委 配管に見えないところがあるのは自明で、しかも保温材が設置されていて配管を直接見ることができない。そのような配管に外観点検をするというのは、巡視点検程度の状態監視を行うことと考え、保温材の外から視認可能な範囲で目視点検を行うこととして実施したとのことであるが、目視可能範囲の外観点検は、主に人的要因の外力による保温材上の変形を確認するため、(歩廊等から)見える範囲・方向の確認を行ない、高所の配管は配管下から確認するか、歩廊上から配管上側や側面から目視点検(VT)を実施したところ、目視点検一式と書いてあるから、全部を見ること、やっていなければ保安規定違反だと判定された。1万件の未点検箇所は、その後、一旦は解消されているが、また三か月後に規制庁が検査に来て、未点検箇所が数千件となってしまうのである。 このような検査がどのように安全上寄与するかというと、むしろ状態監視に必要な漏洩検知の電極や、ナトリウムの水分との反応生成物を検出するサンプリング配管の機能検査や、炉内点検機器のゴムの劣化などが、より重要と思う。一目で分かる配管構造物の損傷に6万件の書類を作らせることよりも、もっと安全上重要な検査を優先すべきである。この膨大な書類検査によって、本質的な問題点を炙り出す本来の保全プログラムを阻害している。安全文化の検証には、規制庁全体の保全プログラムの実施が最も有効と思う。状態監視保全、傾向監視保全、365日に亘って緻密に実施されるオンラインメンテナンスは欧米では当たりまえのように実施されている。旧態依然とした我が国の検査精度、書類ばかり作成される形式主義の品質保証(QMS)精度は、抜本的に見直すべきと思う。 規制委員会発足後、規制委員は、だれ1人、もんじゅの格納容器や補助建屋内の機器や配管をご視察されていない。そして、レッドカードが出されている。これでは、規制庁の検査プロセスのQMSが必要だと思う。米国原子力規制委員会(NRC)には、NRCを監視する組織があるのに、規制委員会・規制庁には、それが無い。保安規定違反の報告書を第3者組織が、全て、精査すべきと思う。海外の専門機関に依頼しても良いと思う。 数千件の未点検箇所が国際的な規制の考え方で、本当に妥当で、安全上重要なものに関係しているのであろうか。IAEAの規制レビューサービス(IRRS)では、規制委員会の規制が、まだ発展途上である。規制の体系化・ドキュメント化ができていないと指摘されている。2時間かけてもんじゅのセル内を視察したが、太い配管の下をくぐり、ときには膝をついたり、腰を曲げて、ヘルメットが、サポートにぶつかってゴツゴツ音を立てながら移動して現場を確認した。床には塵1つ落ちていなかった。白い手袋も白いままであった。 原子力規制委員会では、今年3月のIRRSの指摘や勧告を受けて、5月30日に「検査制度の見直しに関する検討チーム」の第1回会合を開催し、8月4日の第4回委員会では、検査制度見直しの基本的考え方が示された。さらに8月25日の第5回委員会で、検査制度の見直しに関する中間取りまとめ(案)が審議され、検査制度の方向性がほぼ定まった。ここに重要な方針が示されている。 「規制機関は、事業者の保安活動全般を包括的に監視して、その実態を把握し、事業者が的確に改善点を抽出し、改善活動を安全性の向上に結びつけていることについて評価していく。また、監視・評価の結果、規制基準への適合性が十分確認されていない等、保安活動に不十分な点が見つかった場合は、不適合、違反の是正の実現に留まらず、事業者の保安活動が改善され、より高い安全確保の水準が実現するよう促していく」とあり、国際的にみても、西川知事がおっしゃる、もんじゅに対する優しさ、安全性向上を促す規制が欠けているのである。 30年、40年と時間と国費を投入されて開発されてきたもんじゅ、それを規制委員長の判断だけで、廃炉に追い込むことは、技術立国日本の根幹に係わることで、許されることではない。我が国全体の原子力の専門家と行政や政府が一体となって、もんじゅや核燃料サイクルの未来をしっかり議論すべきである。「文殊の知恵」が今こそ必要とされている。

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    もんじゅ廃炉で誰が一番得をしたか?弱すぎる日本のエネルギー政治

    たのかは不明だが、「政府関係者」と書いてあるのだから、もんじゅの主管官庁である文部科学省系の官僚か、エネルギー政策全体を所掌する経済産業省系の官僚であろう。閣僚や与党幹部とは思えない。福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」 もんじゅは、日本原子力研究開発機構(JAEA)が運営する高速増殖炉で出力28万kW。プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使い、高速の中性子で核分裂を起こし、発電しながら消費した以上のプルトニウムを産み出す。1994年に初めて臨界に達したが、1995年にナトリウム漏洩事故を起こした。以来、運転実績は殆どない。2012年に大量の機器点検漏れが発覚し、2013年5月には原子力規制委員会が事実上の運転禁止を命令。原子力規制委は昨年11月から、運営組織をJAEAから変更するよう文部科学省に求めていた。 私が多くの国会関係者や官庁関係者、マスコミ関係者から聞いたところでは、経産省資源エネルギー庁幹部が「もんじゅ廃炉は決定。フランスが推進する高速炉『アストリッド』計画に乗れば、もんじゅは不要」と各方面で語っているそうだ。こうしたエネ庁幹部の発言が真だとすると、冒頭のような報道が横行するのも仕方ないことかもしれない。ただ、アストリッドには心配な点がある。これは、フランスで2030年以降に開発される予定のタンク型高速炉だが、耐震性に乏しい。地震国の日本で本当に利用できるのかという安全性に係る根拠がしっかりと示される必要がある。そうした技術的裏付けが未だ一切示されていない状況で、十分な検討も準備もなく、資源小国である日本がもんじゅ廃炉などと拙速にエネルギー源の選択肢を自縛して良いものだろうか。 東京の築地市場を新・豊洲市場に移転させるかどうかという話が今、大揉めに揉めていることは周知のこと。新市場の地下に空洞を作って活用すれば、工期短縮ができるし、安く上がるなどという技術的裏付けもなく、単なる思いつきのような案をわずか数カ月で採用して建物・設備を作ってしまった。その結果、東京都庁の計画からは、土壌の安全性確保の視点が抜け落ちてしまった。「アストリッドを採用するので、もんじゅを廃止しても構わない」という経産省の姿勢に、東京都の新豊洲市場への姿勢に近い響きを感じるのは、私だけだろうか。主管官庁の文科省は確たる見解を早期に示すとともに、経産省とともに改めて熟考していくべきだ。基幹インフラの在り方を「空気」で決めてしまう恐怖 ただ、問題はそれだけではない。もんじゅは、高速炉の核燃料サイクルにおける基幹的技術の一つだが、その廃止論は、既に商用化されている軽水炉の核燃料サイクルまでも否定したい人々に対して、根拠無き勇気を再び与えてしまうだろう。そして、現在の原子力発電の主流である軽水炉そのものまでも否定し、非常に乱暴な反原発・反サイクルの空気がまたぞろ醸成されるかもしれない。数名の元首相たちが「原発即ゼロ」を盲目的に唱えているような状況でもある。 だからと言って、エネルギーという一国の経済・生活・文化・安全・環境保全の全てを左右する基幹インフラの在り方を「空気」で決めて良いはずはない。現実を直視しながら、将来も見据えた賢察が切に求められている。今の原子力発電の主流は軽水炉。昨年末のパリ協定で、日本は2030年度に2013年比で温室効果ガスを26%削減すると約束した。そこでは、電源構成の20〜22%を原子力(軽水炉)で賄うことが大前提となっている。福島第一原発事故当時に46基を数えていた国内の商用原子炉のうち、6基の廃炉が決定し、26基について原子力規制委へ『再稼動の申請』がなされている。現在までのところ、川内原発1・2号機、高浜原発3・4号機、伊方原発3号機の計5基が新規制基準に適合するなど原子力規制委の審査に合格している。 「原発がなくても大停電は起こっていない。電力供給の安定は保たれている。だから、原発は電力の安定供給には必要ない!」 ——— 脱原発・反原発を叫ぶ勢力には、こういう論調は歴然とある。だが、それが大きな誤解であることを証明する事態が最近起きた。9月8日正午過ぎ、愛知県西三河方面、岐阜県岐阜、西濃、中濃方面で大規模な停電が起きた。東海地域で発生した落雷により、中部電力の送電網に障害が発生したのだ。落雷の被害を受けたのは幸田碧南線。中部電力の大型石炭火力発電所である碧南火力発電所で発電した電力を東海地域へ供給する役割を担っている27.5万Vの超高圧送電線だ。 幸田碧南線の回線は2つだが、どちらも落雷で機能が損傷。それに伴って碧南火力発電所1〜5号機の総出力410万kWも瞬時に停止した。その影響で中部地方では電力供給力が不足し、需給バランスが崩れて周波数が低下し、大規模な停電が発生した。愛知県内22万世帯、岐阜県内14万世帯の合計36万世帯が約35分間も停電。周波数が低下した影響で、北陸新幹線に信号トラブルが発生し、多くの列車の運行が遅延。落雷による停電は、その後も三重県内などで続いた。停電それ自体は同日中に全て解消したが、電力供給安定面での不安はしばらく拭い切れなかった。電力需給上のリスクに直面しているという事実 震災による福島第一原発事故後、明快な安全上の理由はなく、また、法的な根拠もなく、菅直人首相(当時)の要請だけで停止を強制され、それが今も続く中部電力・浜岡原発電所3〜5号機の計362万kW。加えて、今回の碧南火力発電所410万kWというたった1カ所の石炭火力発電所の停止。これらにより、電力供給力は大きく損なわれ、大停電が発生する危険性が高まったため、他の大手電力会社に大量の応援融通を求めた。不測の事態が起これば電力供給がすぐ綱渡り状態になってしまうことが、現実に起こったのだ。「原発は電力の安定供給には必要ない!」という脱原発・反原発を叫ぶ勢力の主張が大嘘であることが示された。中部電力の碧南火力発電所 9月8日午後2時、全国的な電力需給調整を行う「広域的運営推進機関」は、東京電力パワーグリッド、北陸電力、関西電力、中国電力の4社に対し、同日夜遅くまで3回に分けて数百万kWに及ぶ電力の応援融通を指示した。翌日、碧南火力発電所では全基の運転が再開したので、一応無事な結果となった。この間、中部地方では、運転開始から40年超の「老朽火力発電所」が400万kWにも上り、それらを酷使して安定供給を確保していた。つまりこうした綱渡り状態は、送電網の障害と大型火力発電所の停止が発生すると電力需給に大きな悪影響が生じることを改めて浮き彫りにした。同時に、大型の安定電源でもある原発が停止し続けていることで、電力需給面での脆弱性を招いていることが図らずも明らかになった。 こうした実情は、中部地方だけのことでない。原子力規制委の新規性基準適合性審査の長期化や、地方裁判所の民事訴訟・仮処分決定などによる悪影響で、原発の再稼動はなかなか進んでいない今の日本。一方で、そのために電力需給上のリスクに直面しているという事実を直視していくことが不可欠である。どうであれ、既設の原発(軽水炉)をフルに活用していくことは、現に必須である。 その更なる活用を進め、資源として再利用できるという核燃料の利点を現在の技術水準で実現させる仕組みが「軽水炉サイクル」。これは、軽水炉で利用した使用済燃料をそのまま廃棄するのではなく、①再利用可能な資源(プルトニウムとウラン)と廃棄物に選別する「再処理」を施し、②プルトニウムとウランの混合燃料(MOX燃料)を「再利用」するとともに、③廃棄物だけを安定的な状態にして「最終処分」するという仕組み。海外にも数多くの先行例がある。ロシア、インド、中国が実用化目指す「高速炉サイクル」 軽水炉サイクルの利点は大きく3つある。第一に、ウラン資源の節約である。使用済燃料を再処理してできたMOX燃料に加工して利用するとともに、再処理して取り出された回収ウランを濃縮して低濃縮ウランとして再利用すると、ウラン資源全体として約26%を再利用できることになる。石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料と同様、ウランも限られた資源であり、その点でも軽水炉サイクルには大きな意義がある。 第二に、高レベル放射性廃棄物の減容と安定化だ。使用済燃料を再処理すると、直接処分する場合に比べて、廃棄する体積が1/3〜1/4にまで小さくなる。また、廃棄物に含まれる放射性物質の毒性がより早く低減するので、天然ウランの毒性と同じ程度に減衰するまでの時間が1万年以下と、直接処分に比べて1/10くらいに早くなる。しかも、高レベル放射性廃液を『ガラス固化体』という安定した状態に加工するため、以後長期間に亘って安定的に保管できる。即ち、高レベル放射性廃棄物の最終処分が格段に施されやすくなるわけだ。 第三に、核燃料のリサイクル利用による化石燃料消費量の削減。その分だけCO2排出量を抑制できるので、地球環境保全に寄与できる。 軽水炉サイクルでは、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は未定だが、原子力発電環境整備機構(NUMO)が科学的有望地を近々選定する予定。NUMOは、原発事業に伴って発生する放射性廃棄物の地層処分事業を実施する国内唯一の公的機関。他の軽水炉システムに係る施設・設備は、六ヶ所再処理工場(青森県六ヶ所村)を始めとして、殆どが既に国内に立地している。 高速炉サイクルとは、ウランを高速炉で利用することによって、消費した燃料以上の燃料を生み出すことができるもの。軽水炉でのウラン利用効率は0.6〜1.1%だが、高速炉でのウラン利用効率はその約100倍に高まり、数千年分のエネルギーとして使うことができる。軽水炉サイクルでのウラン資源の寿命は、石油など化石燃料と同等でしかない。使用済燃料に含まれるネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどのマイナーアクチニドと呼ばれる半減期の長い廃棄物を高速炉で再利用・燃焼させることによって、高レベル放射性廃棄物を大幅に低減することができるし、天然ウランの毒性と同じ程度に減衰するまでの時間が約300年と大幅に短縮化できる。その分、環境負荷を低減させる利点が大きい。 こうした数多くのメリットが期待できる次世代技術である高速炉サイクルについて、世界では資源小国のフランスや韓国が研究開発を進めている。ロシアやインド、中国では、より早期の実用化を目指して、既存技術をベースに積極的な技術開発を行っており、2010年代に原型炉・実証炉を建設し、2020年代には商用炉を導入する計画となっている。もんじゅ運転を正常化できなかった本当の要因1995年12月、もんじゅで起きたナトリウム漏れ事故=福井県敦賀市 日本では、原型炉であるもんじゅを1983年に旧動力炉・核燃料開発事業団が開発し始めた。1994年に初めて臨界を達成。世界で唯一のループ型というタイプで耐震性に優れ、西側諸国で現存する唯一の『ナトリウム冷却炉』として、世界中から注目を集めていた。翌1995年には初発電に至ったのだが、年末に二次主冷却系配管からのナトリウム漏洩事故が発生した。この配管に取り付けられていた温度計の鞘管からナトリウムが漏れたのだ。 原因は、温度計の鞘管の形状に係る重電メーカーによる設計ミス。ナトリウム漏洩量は640kgで、このうち410kgは屋内で回収され、残りの230kgは屋外に放出された。もちろん、環境への影響は認められなかった。この過程で、ナトリウムの温度はそれほど上昇しなかったので、ナトリウムを迅速に回収し、適切に処理することは、本来は可能であった。 しかし、当時の規制当局であった旧科学技術庁や原子力安全委員会は、『現場の保全』を指示した。このため、ナトリウム回収と処理に関する所要の対応が遅れに遅れた。しかも、二次系のナトリウム漏れ程度のことを重大事故と決め付けた上に、いわゆる「ビデオ隠し」が二度も起こってしまった。もんじゅ運営を正常に戻す機会が失われたのは、こうした規制当局の後手後手の対応や、マスコミによる煽動といった外的な複合要因による。 その後、旧動燃事業団は別の原子力事業を行う特殊法人と統合され、JAEAへ改組された。JAEAは複数の原子炉を保有することになり、型の異なる新型炉の開発や放射性廃棄物の処理など幅広い研究を手掛けるようになった。その結果、もんじゅはJAEAが擁する数多ある研究部門の一つとして、JAEAの中で埋没した形になってしまった。こうした情勢変化の中で、もんじゅの運営責任の所在も曖昧となり、そんな状況が今にまで至っている。 原子力規制委は昨年11月、JAEAにはもんじゅを運転する能力がないとして、所管する文科省に対して、もんじゅの新たな運営主体を決めるよう勧告をした。これを受けて文科省は、昨年12月から広くヒアリングや現地調査を行った上で、もんじゅの運営主体が備えるべき要件を抽出した報告書を今年5月末に取りまとめた。そうした混沌とした状況の中で、冒頭に紹介したような早計な報道が多発。ぜひとも拙速な結論だけは避け、じっくりと時間をかけて検討すべきである。 ある代議士が先日、「もんじゅを今やめたら、喜ぶのは中国だ。日本の国力低下を手放しに喜ぶに違いない」と語っていた。理解している人には、焦眉の急が呑み込めている。政府は9月21日、原子力関係閣僚会議を開き、もんじゅについて『廃炉を含め抜本的な見直し』を表明した。そこでは、高速炉開発会議という会議を立ち上げ、具体策を年内にまとめていくことが決定された。 しかし、先ずは、将来技術である高速炉サイクルと、既存技術である軽水炉サイクルを混同せず、明確に切り分けて考えることが必要不可欠だ。それができていない今の日本の『エネルギー政治』は、あまりにも弱すぎやしないだろうか。

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    中露に先を越された核燃料サイクル、技術供与が「裏目」に出た日本

    に、ロシアに続き、支那やインドまでもが高速増殖炉の開発に勤しんでいるのが現状だ。原子力に頼らず、国のエネルギーが賄えるならそれはそれで素晴らしい。しかし、現実はどうだろう? 中東情勢は混迷の度合いを深めている。そして、南シナ海、東シナ海において支那海軍が日本のシーレーンを脅かしている。もう少し広い視点でエネルギー問題について考えてみれば、違った結論も見えてきそうな気もする。しかし、これが政府の決断であるなら仕方あるまい。日本は大きなチャンスを棒に振ったかもしれない。  

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    日本に溜まるプルトニウムを消化してくれるトリウム原子炉

    安全性が高く発電出力を調整できるトリウム原子炉(溶融塩炉)を 実用化することができれば、軽水炉や自然エネルギー発電の補完にもなる。  原子力は発電時に二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーだが、放射性廃棄物が発生する。一般に意識されることはほとんどないが、国内の使用済み核燃料(※b)の保管場所は、もうすぐ満杯となる。使用済み核燃料は、まず発電所の冷却プールに置かれるが、その容量は日本全体で約2万トン。現在、日本の使用済み核燃料の量は約1万4000トンだ。今後、毎年約1000トン発生する。抱え切れない分は六ヶ所再処理工場にある冷却プールに保管される。これは容量が3000トン。昨年、東京電力が中心となって青森県むつ市に「中間貯蔵施設」の建設を始めた。これも容量は3000トン。早晩、溢れることは目に見えている。 安定的に電力を供給し、かつ温暖化対策も実施することを踏まえれば原子力は続けてかまわない。むろん安全を確保した上で、だ。その場合でも、このような使用済み核燃料の問題を考えていなければ、いずれにせよ数年以内に原子力政策は行き詰まる。この使用済み核燃料の問題は、特にそこに含まれるプルトニウム(※a)をどうするかが最重要課題である。周辺国から核兵器への転用を警戒されるからだ。  本来─今後もそうだが─、プルトニウムは貴重な人工の核分裂性物質であり、エネルギーに転換することが目的だ。自然界に大量に存在するが、そのままでは燃えないウラン238が中性子を吸収してプルトニウムが生まれ、エネルギー資源を増大させることができる。これが50年前に見た高速増殖炉(※c)の夢だ。かつての夢はよいとして、われわれが考えなければならないのは、今、そしてこれからのことだ。 プルトニウムを利用するには高速増殖炉が性能面でもっとも優れるとして開発を進めてきたが、40年以上の歳月と1兆円以上の資金を投じてきたにもかかわらず、事実上、進んでいない。この7月15日に高木義明文科相が「もんじゅ、開発中止も含めて検討」と発言したという。もんじゅについてはそれでよいかもしれないが、そこで使うために蓄積されてきたプルトニウムが消えてくれるわけではない。原子炉級とはいえ、プルトニウムである。わが国が保有する約200トンは、国際原子力機関の定める有意量の2万5000倍だ。日本が核武装を行いうるとは思わないが、諸外国が好意的に見てくれるわけではない。もんじゅの開発中止─すなわちプルトニウム消費先の喪失─は、直ちに周辺諸国の警戒感を引き起こすことにもなる。プルトニウムを化学反応で消すことはできない。それができるのは核反応だけだ。プルトニウムを消すトリウムプルトニウムを消すトリウム 近年、“トリウム”(※d)という言葉が注目を浴びるようになってきている。それは、トリウムがこのプルトニウムを消しつつ、電力を生み出す鍵であるためだ。トリウムは、天然の元素で核燃料になる。ウランよりも軽いため、原子炉で燃やしても重いプルトニウムになることはほとんどない。高レベル放射性廃棄物の主因となる長寿命の超ウラン元素の発生量も少ない。ただ、ウランと異なりトリウムだけでは燃えない。そのため着火材が必要だが、それがプルトニウムだ。トリウムとウランの廃棄物の違い(出所:筆者提供)※a【プルトニウム】 原子番号といえば「スイヘイリーベ、ボクノフネ…」と思い出しますが、この原子番号で自然のなかにあるもののなかで一番大きなものが、ウランです。ウランは92番。ウランの原子核には92個の陽子があるという意味です。ちなみに、原子核は陽子と、中性子でできています。元素のなかには、陽子の数が同じで中性子の数が異なる同位体というものがあります。つまり、重さが違うことになります。 例えば、ウランには核分裂しやすい235(陽子92、中性子143)とそうではない238(92、146)がありますが、ウラン235は自然界には0・7%ほどしか存在しません。これを濃縮して3~5%にして、ウラン238と一緒に核燃料として、原子炉のなかで使用します。 ウラン235に中性子を当てると、核分裂が起きて中性子が新たに2~3個飛び出します。このときに熱が発せられて、この熱で水を蒸気に変えてタービンを回して発電を行うという具合です。ただ、核分裂によって飛び出したままの中性子ではスピードが速すぎて核分裂を制御しにくいので、減速させる必要があります。それに使われるのが、「軽水(普通の水)」や重水、黒鉛です。減速させずに核分裂させることもできます。高速増殖炉「もんじゅ」などです。原子炉では1個の中性子で核分裂させ、残りの中性子でウラン238を核分裂できるプルトニウム239に変えていきます。発生するすべての中性子でどんどん核分裂をさせることもあります。これが原子爆弾です。原爆ではウラン235をほぼ100%使います。 プルトニウム239はウラン235と同じく核分裂を起こします。ですので、プルサーマルでない普通のウラン燃料を使う軽水炉でも、運転の後期には実は発電の3割程度はプルトニウムの核分裂がエネルギーを生み出しています。 このように、プルトニウムを作り出すことは、天然ウランの大半を占める核分裂をしないウラン238から核分裂をする新たな燃料を生み出すことを意味するのです。 ただ、このようにエネルギー源になるプルトニウムを蓄積することがなぜ、世界から不安視されるかといえば、ウランのように濃縮する必要がなく、プルトニウムのほうが臨界に必要な量(濃縮ウラン25キロ、プルトニウム8キロ)、つまりは原爆にするためにより少ない量で作ることができるからです。※b【使用済み核燃料】 使用済み核燃料は、燃料として再利用できるウランやプルトニウムと、燃料には使えない核分裂生成物などを含んでいます。後者は放射性廃棄物と言われます。放射能の強さによって、高レベルと低レベルに分けられます。 放射性廃棄物は安定な地層へ埋設処分されます。放射性物質の性質ごとに、環境への漏出を抑制するために、埋められる深さが変ります。低レベル廃棄物のなかでも比較的放射能レベルの高い原子炉の構造物などは「余裕深度処分」という 地下50~100メートルに処分されます。また、高レベル廃棄物については、 「地層処分」 といって、地下300メートルより深い地層中に処分されます。※c【高速増殖炉】 高速増殖炉というのは、実は読んで字のごとくのことを意味しているのです。高速とは、先ほど、中性子がウラン235や238に当たるスピードを減速するといいましたが、これを減速させないことを意味します。中性子のスピードを減速せずにどうするかといえば、それによって、より多くのプルトニウムを作り出すことが狙いです。 この高速増殖炉では、プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を使いますが、発電に使用した以上のプルトニウム、約1・2倍を新たに作り出すことができるという話になっています。 ただ、高速増殖炉「もんじゅ」は停止したままですし、もんじゅは、実用化に向けては2番目の「原型炉」といわれるもので、このあと2025年に実証炉、さらには2050年に商業ベースという行程です。道のりは険しいのが実情です。※d【トリウム】 トリウムは、古くから原子力燃料として知られていました。昭和30年に作られた『原子力基本法』にも、「核燃料物質とは、ウラン、トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質」とあります。アメリカでは1960年代にトリウムを使うための実証炉まで作られました。 それが、なぜ今現在、トリウムの原子炉が一つもないかといえば、まさに時代のせいと言えます。第二次世界大戦後の冷戦時代、米ソは核兵器の増産に励みました。前述の通りウランはプルトニウムを生み出しますが、トリウムはプルトニウムを生み出さないのです。また、ウランと異なり、トリウムはそれ自身では核分裂性の同位体を持ちません。当時としては、新たなエネルギー源を生み出すウランのほうを選ぶというのは、自然な選択だったのかもしれません。そうするうちに、ウラン型の原子炉がコスト競争力をつけていき、トリウムを使った原子炉はマイナーの道を辿ることになったのです。  プルトニウムは行き先がない。トリウムも同様で、レアアースを採掘する際に放射性のゴミとして生まれる。世界中ですでに15万トンほど溜まっている。今後も毎年1万トン以上、好むと好まざるとにかかわらず発生する。昨年の補正予算1000億円の計上直後、住友商事が米モリコープと、双日が豪州ライナスと提携したが、ともにトリウム含有率の大きなレアアース鉱山だ。むろん副産物トリウムの行き先は決まっていない。ライナスはレアアースの精錬工場をマレーシアに建設しようとしているが、マレーシアでは大規模な反対運動が起こっている。トリウムをプルトニウムとともに燃やす道を与えれば、地上のレアアース採掘時の環境汚染対策を合理的に施すことができるようになる。 プルトニウムは、ウランとともに高速増殖炉で燃やす以外にも軽水炉で燃やすプルサーマルがあり、さらにトリウムとともに軽水炉で燃やすこともできる。今、世界で注目をされているのはトリウムとともに“溶融塩炉”で燃やす方法だ。トリウムとウランの廃棄物の違い(出所:筆者提供) その理由は、同じ原子力であっても、発生する放射性廃棄物の低減や経済性の向上が期待できるためだ。高速増殖炉では、高速中性子を用いるため、超ウラン元素の生成量は多くないが、プルサーマルでは超ウラン元素の生成量が多い。高速増殖炉の実用化までのつなぎとしてプルサーマルを用いるよりも、燃料調達や運用が確立しているのだから、軽水炉はウラン燃料に特化すればよい。プルトニウムをトリウムの着火材として消費するオプションを提示することで、高速増殖炉の実用化のめどが立たないなか、核兵器転用に対する諸外国の懸念も払拭できる。 ウランの需給は、福島原発事故が起こってもなお、逼迫している。天然ウランに含まれるウラン235が、唯一の天然の火種だからだ。トリウムの利用は─今後もウラン軽水炉を使うのであれば─、ウランの安定確保にも貢献する。さらに溶融塩炉であれば、安全性を飛躍的に向上できる。(第2回へ続く)かめい・たかし 立命館大学衣笠総合研究機構・研究員。1970年大阪生まれ。94年京都大学工学部原子核工学科卒業後、99年同大学院工学研究科博士課程認定退学、工学博士。99年天理大学非常勤講師、02年ロームなどを経て11年より現職。著書に『核なき世界を生きる~トリウム原子力と国際社会~』(高等研選書)、『平和のエネルギー トリウム原子力 ガンダムは“トリウム”の夢を見るか?』(雅粒社)ほか

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    進むも戻るも地獄、「もんじゅ廃炉」なら日本の原子力政策は?

    (THE PAGEより転載) 運転停止中の高速増殖炉「もんじゅ」について、政府内部で廃炉を含めた検討を行っているとの報道が出ています。菅官房長官は報道を否定していますが、もんじゅについては今後の見通しがまったく立っていないというのも事実です。もしもんじゅが廃炉となった場合、日本の原子力政策は根底から見直しを迫られることになります。 もんじゅが原子力政策のカギになっている理由は、日本では「核燃料サイクル」の確立を原子力政策の基本に据えているからです。 原発はウランを燃料にして発電していますが、使用済みの燃料をどう扱うのかは国によって異なっています。米国は危険が伴う再処理は行わず、そのまま廃棄するというワンスルー方式を採用しています。一方、日本では使用済み燃料を工場で化学的に処理し、その中からプルトニウムを抽出して燃料として再利用する方式を採用しました。使用済み燃料を加工してそこから再び燃料を取り出す一連の仕組みを核燃料サイクルと呼びます。 プルトニウムを有効に利用するためのカギとなる原子炉が高速増殖炉であり、核燃料サイクルの確立は、もんじゅがうまく稼働できるのかにかかっているわけです。 核燃料サイクルは、燃料からさらに燃料を生み出せる夢のようなシステムなのですが、これを実現するためには超えなければならない技術的なカベがたくさんあります。放射能レベルの高い使用済み燃料を安全に再処理する工場や、高速増殖炉を大量に建設しなければなりません。プルトニウムは猛毒ですからその取り扱いには細心の注意が必要となりますし、核兵器への転用も簡単ですからテロ対策を強化する必要も出てきます。増殖炉原型炉「もんじゅ」=9月21日、福井県敦賀市 高速増殖炉の原型炉である「もんじゅ」は、技術的難易度が極めて高く、相次ぐトラブルで運転停止に追い込まれています。また、青森県六ヶ所村に建設中の核燃料再処理施設もうまくいっておらず、何度も操業が延期になっています。使用済み燃料の再処理後に発生する高レベル廃棄物の最終処分場もまだ決まっていません。 もんじゅは現在、日本原子力研究開発機構が運営していますが、原子力規制委員会は、もんじゅの運営主体の変更を求めています。仮に再稼働を目指す場合でも、4000億円から5000億円の追加費用が必要になるとの試算もあり、進むも地獄、戻るも地獄といった状況です。 原発事故以来、日本では再稼働か停止かという単純な二元論ばかりが目立ちますが、同じ原発推進であっても、核燃料サイクルを実施するのとしないのとでは、そのメリットやデメリットの両面において天と地ほどの違いがあります。核燃料サイクルの是非を抜きに原子力問題を語ることはできません。脱原発に向けて舵を切るべきなのか、再稼働はするが核燃料サイクルの確立は断念するのか、従来通りすべての計画を推進するのかという3つの選択肢から、議論を行う必要があるでしょう。(The Capital Tribune Japan)

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    第3次オイルショックに現実味 重視すべきは核燃料サイクルだ

    働しているのが未だに川内の二基だけであり、高浜原子力がもう少しで稼働すると思いますが、まだまだ日本のエネルギーの大部分を担うだけの再稼働はめども立っていません。もし震災前と同じ原子力による発電量が4割あれば、通常の電力は原子力だけで賄えます。現在の日本の原子力発電の能力から言えば十分にそれを賄えるだけのものがあります。 ただ、原子力規制委員会が邪魔をしてそれをさせていないのが現状です。その委員長の田中俊一氏は原子力研究機構(原研)時代から代々木系労組の強い影響を受けていたと言われています。つまり、社会党系の労働組合で要は左巻きなのです。政府が原研の影響を受けさせたくないために別に動力炉核燃料開発事業団を作ってそこにやらせたために、もんじゅの開発からはずされ恨みを持っていると思われます。 ただ三条委員会という強力な委員会で政府も介入できない特権を持っています。田母神閣下曰く、「原子炉が暴走したらというが、暴走しているのは原子力規制委員会だ!」。もしこれが人権擁護法などが成立し、人権委員会が三条委員会になったら考えるだけでも恐ろしいことになります。 電力会社の再稼働申請にも誤字が見つかるとすべてが不備として突っ返され、電力会社の担当者の大部分が本来の原子力発電所の安全とは全く関係の文字の校正で人力と時間を取られています。例えば、長さが3センチというとそれを計った定規がメートル原器で保障されたものかの証明書作りからしなければならないという嫌がらせとしか思えないものです。 旧原研が赤い左翼組合に牛耳られていたために、政府が嫌い自分の立場を不当なものにしたと思っている節が随所に見られます。核燃料サイクルは国家の安全保障上特に重要な事案であり、左翼系の労組が力を持っているところに託せるはずもありません。  数百ページの書類も誤字がひとつでもあれば、不備として突き返すようなことをしていては、本来の電力の安定供給と原子力の現場での安全確認におろそかになるのです。そういう状況の中でもし中東不安が表面化し、石油や天然ガスが入らなくなった場合、日本はいったいどうなるのかとどれだけの人が危惧しているのでしょう。 テレビ朝日の玉川という記者は、地球の気候変動が激しくこれは膨大な化石燃料によるものだとしながらも、自然エネルギーで賄うという趣旨の発言を今朝の番組でしていました。家庭の電気はそれで賄えるかもしれませんが、産業用は不可能だということがまだわからないのでしょうか?東京に行くと地上と地下を縦横無尽に電車が走っています。これらを自然エネルギーで安定的に動かすことができるのでしょうか。 高層ビルにたくさんのオフィスがあり、そこの電気や空調やエレベーターの電気はどうやって安定的に供給するのでしょうか。工場でベルトコンベアーを動かすエネルギーが太陽光発電でまかなえると本気で思っているのでしょうか。 すぐに点検を終えた原子炉から再稼働し、電力供給度合を原子力にシフトしないと第三次の石油ショックが起こったら、今の日本経済はいっぺんにマヒし、せっかく順調な日本経済もいっぺんに吹っ飛び、そのしわ寄せは私たち国民を直撃するのが想像できないのでしょうか? 今ある施設を有効に活用しながら、将来の問題を考えていくのがバランスのとれた方法論だと思うのですが、中東問題と日本のエネルギー供給は全く別物と考えている人の考えを聞いてみたいものです。(2016年01月05日「井上政典のブログ」より転載)

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    再処理特権はパワーゲーム、「井の中の蛙」たちは歴史を学べ

    【WEDGE REPORT】金子熊夫(外交評論家・エネルギー戦略研究会会長) 日本国内で原発再稼働や核燃料サイクル(六ヶ所再処理工場、もんじゅ問題等)をめぐる議論が沸騰している一方、国際社会では、新興国における原発問題、とりわけ再処理や濃縮問題が重要なテーマとして関心を集めている。 周知のように、使用済み核燃料の再処理(及びそこから出てくるプルトニウム管理)とウラン濃縮は核兵器製造に繋がりやすい機微な技術であるので、二国間原子力協定で特別に厳しく規制されている。さらに、国際原子力機関(IAEA)の査察や「原子力供給国グループ」(NSG)の輸出規制の対象にもなっている。そして、その結果、諸々の複雑な国際・外交問題が生じており、各国とも対応に苦慮している。 従来日本では、こうした核拡散をめぐる原子力外交上の問題が一般市民の関心を惹くことはなかったが、これからの日本国内の原子力政策や原発輸出、原子力技術協力問題等を考える上で必要な知識であるので、この機会に原子力外交の歴史的背景やその仕組み、問題点などをごく簡単に概説してみたい。動力炉核燃料開発事業団もんじゅ発電所(産経新聞社ヘリより)米国の核不拡散政策の大転換 原発の世界的普及に伴う核拡散問題に最も神経質なのは核兵器(原爆)を最初に開発した米国である。第二次世界大戦後米国は、アイゼンハワー大統領の「Atoms for Peace(平和のための原子力)」(1953年)構想の下、日本を含む世界各国に原子力平和利用を熱心に勧奨し、積極的に技術支援を行ってきた。 ところが、20年後の1973年に突発した第一次石油危機をきっかけに、各国で原子力発電所の建設が急増し、また、新しく原子力を導入する国が次々に出現したため、核の拡散、すなわち核物質や技術の軍事転用の危険を懸念し始めた。「核兵器の不拡散に関する条約」(核不拡散条約=NPT)は1970年に発効していたが、当時同条約に加盟しない国も多かったので万全とは言えなかった。 そのような折も折、NPT非加盟のインドが、1960年代にカナダから輸入した研究用の小型重水炉の使用済燃料からプルトニウムを抽出し、それを使って核実験を行った(1974年)。重水は米国が供与したもので、米加両国は大きな衝撃を受けた。インドはNPT非加盟国であり、しかも核実験は「平和目的」であると主張したので、必ずしも国際法違反を犯したわけではなく、それだけに対応が難しかった。ちょうどそのころ発足したばかりの先進国首脳会議(サミット)参加国は急遽ロンドンに集まって対策を協議した。日本を含む7カ国によるこのロンドン・グループこそ現在の「原子力供給国グループ」(NSG)の前身で、その主目的は機微な原子力機器、資材、技術の輸出規制であった。 こうした状況の中で、若き日に海軍士官として原子力潜水艦の設計に携わった経験を持つジミー・カーター氏(民主党)が1977年1月に米国大統領に就任した。就任するや否や彼は、従来の原子力政策の大転換を断行した。すなわち、米国内の民生用原発の使用済み燃料の再処理と高速増殖炉の開発の中止を決定すると同時に、返す刀で、世界各国に対し再処理、プルトニウム利用等の禁止を含む厳格な核不拡散政策を適用すると発表したのである。日米が激突した再処理交渉と原子力協定改正交渉日米が激突した再処理交渉と原子力協定改正交渉 そして、この新政策の適用第1号として槍玉に挙がったのが、当時操業開始直前にあった日本の東海再処理施設(六ヶ所工場の約10分の1の規模)であった。かくして1977年夏、同施設の運転、英仏再処理委託、プルトニウム利用等を含む日本の核燃料サイクル計画をめぐって日米が真正面から激突した。日本国内では「国難来る!」の危機感が溢れ、マスコミも「日米原子力戦争」と一斉に書き立てた。 東京で行われた日米交渉では、日本側は、宇野宗佑・科学技術庁長官兼原子力委員長(その後外相、首相を歴任)を中心に、官民一体のオールジャパン体制で徹底抗戦した。当時外務省の対米交渉担当者だった筆者らは、米国を説得し再処理権を獲得するために連日連夜、文字通り骨身を削る苦労をした。その結果、東海再処理施設については、なんとか運転開始を認められたものの、「2年間限り99トンまで」という厳しい条件付きであった。期間の制限はその後小刻みに数回にわたって延長されたが、その都度延長交渉は困難を伴った。動力炉・核燃料開発事業団(動燃)東海事業所の再処理工場=1993年1月、茨城県東海村 結局日米交渉は断続的に10年の長きに及んだ。途中で1981年に米側の政権交代で、原子力推進派のロナルド・レーガン氏(共和党)が大統領になったため、以後の日米交渉は比較的スムーズに行くようになった。そこで、再処理問題を含む本格的な日米原子力協定の改正交渉に移行し、両国の行政府同士の交渉は事務的に順調に進んだ。しかし、米議会には民主党を中心に強固な核不拡散論者や反原発論者がかなりいて、様々な“難癖”をつけたので、最後まで気を緩めることはできなかった。 このような様々な紆余曲折を経て、1988年に発効した新日米原子力協定(2018年まで30年間有効)では、日本は再処理、濃縮(20%以下)、第三国移転について「長期包括的承認」を与えられることになった。それ以前の「ケースバイケースでの承認」ではなく、一定の条件下で一括して事前承認するという方式を確立した結果、日本の原子力平和利用活動は安定した法的基盤におかれることとなったわけである。ちなみに、このような形で再処理、プルトニウム利用などを行うことができる権利は、核兵器国(米露英仏中の5カ国)を除くと、日本とユーラトム(欧州原子力共同体)加盟のドイツ、イタリア等だけに認められた非常に貴重な権利である。 このような歴史的経緯から見ても、日本は1日も早く六ケ所再処理工場を稼働させ、もんじゅ、プルサーマル(MOX燃料)などの核燃料サイクル活動を軌道に乗せる必要がある。さもなければ、現行日米原子力協定が期限満了となる2018年以後に不安定要因を抱えることになるだろう(この問題は別の機会に詳しく論ずる予定)。インドの対米粘り腰交渉インドの対米粘り腰交渉 ところで、日本以外でも、米国との間で困難な再処理交渉を経験した、あるいは経験しつつある国が2つある。いずれもアジアのインドと韓国である。 NPT非加盟のインドは、アジアでは最も早くから原子力研究開発に着手し、現在世界有数の高い原子力技術を有する国であるが、前述のように、1974年の核実験以来各国の制裁措置により、国際原子力市場から締め出された状態が長く続いていた。インドの西海岸にあるタラプール原発には、1960年代末に米国から輸入された軽水炉2基があるが、米国は、NPTに加盟せずに核実験を強行したインドとは原子力関係を断絶。タラプールの取り換え燃料の供給を拒否し、同炉の使用済み燃料の再処理も認めなかった。1998年のインドの第2回核実験で、日本はじめ各国は対印制裁措置を一段と強化した。 しかし21世紀になって国際政治状況が大きく変わり、ブッシュ(息子)政権時代に劇的に発表された米印原子力合意が難産の後に成立。「原子力供給国グループ」(NSG)の承認を得て、米印原子力協定締結が実現した(2009)。その過程で、インドは、数年に及ぶ実にしぶとい対米交渉の結果、事実上再処理権を米国に認めさせることに成功した。行き詰まる韓米再処理交渉日本を羨む韓国 他方、世界第5位、アジアで第2位の原発大国である韓国は、現行の韓米原子力協定を改正してぜひ日本のように再処理権を獲得したいと、朴槿恵大統領以下必死に対米交渉を行っているが、北朝鮮との関係もあり、米国政府は頑として応じない。米国としては、もし韓国に認めると他の新興国にも認めなければならなくなり、歯止めが効かなくなることを懸念しているわけだ。ちなみに、現行の韓米原子力協定は旧日米協定と同タイプで、再処理については「ケースバイケースでの承認」を必要としている。 同協定は本年3月で切れたので、暫定的に2年間延長して交渉を継続しているが、見通しは非常に暗い。韓国側は、同じ同盟国なのに日本だけを優遇し、韓国を「二流国」扱いしていると憤懣やるかたない状況だ。こうした韓国問題については次の拙稿で詳しく解説してあるので、関心のある方は是非参照されたい。「韓国が羨む『再処理特権』 六ヶ所の稼働を急げ」イラン核問題をめぐる交渉の行方イラン核問題をめぐる交渉の行方 もう一つの問題国は、いうまでもなくイランだ。周知のように、イランの場合は、再処理よりもウラン濃縮が問題となっている。現在遠心分離工場が2カ所で稼働中で、すでに原爆数発分の高濃縮ウランを持っているとされる。イラン側は、「ウラン濃縮は平和目的である。昨年から稼働中のブシェール原発(ロシア製軽水炉)の燃料のほか、今後さらに原発を増設する計画なので大量に必要だ」と主張し、濃縮活動自体をやめる気配はない。軽水炉用なら3~4%の微濃縮で十分なはず。核兵器開発の疑惑は一向に晴れない。 とはいえ、現状のままでは西側諸国による経済制裁で苦しいため、昨年夏誕生した穏健派のロウハニ新政権は、交渉による解決に踏み切った。オバマ米政権も、現在の中東情勢下での軍事的解決(つまり米イラン戦争)は危険が大きすぎるので、外交交渉による解決の道を選んだ。もし戦争になれば、イランがホルムズ海峡を封鎖するのは必至で、そうなれば日本も石油輸入が途絶し、大変なことになるだろう。 かくして昨年秋、スイスのジュネーヴで、イランと6カ国(米英仏露中プラス独)が協議をした結果、問題解決のための「第一段階の措置」について合意が成立。今後6カ月かけて本格合意を目指して交渉が続けられているが、果たして今後どうなるか、予断できない。なお、イランも、韓国同様、日本が米国から再処理、濃縮権を認められていることを不公平だと批判している。ベトナムやトルコの再処理問題日本はどう対応するか? 韓国やイラン以外にも、新興国の中には、将来自国で(または第3国に委託して)濃縮や再処理をしたい、そのための権利を確保しておきたいという国がある。例えば、日本がすでに締結した日ベトナム原子力協定(2012年に発効済み)や、昨年夏署名済みの日トルコ原子力協定(今国会に提出中)では、将来日本の事前同意が得られれば再処理できるという形になっている。 実は、まさにこの点が現在日本の国会で問題視されており、自民党・公明党のほか、民主党、日本維新の会など野党でも一部の議員が反対ないし難色を示している。これらの議員たちは、最初から再処理を禁止する条項を協定に入れておくべきだと主張している。このような批判に応えて、岸田外務大臣は「日本は再処理をトルコに認めることは考えてない」との国会答弁を行っている。 しかし、再処理技術のイノベーションにより将来核拡散に繋がらない方法での再処理が可能となることも考えられ、さらに、日本でも言われているように、再処理によって使用済み燃料を減容し最終処分がしやすくなるという利点もありうるので、現時点でアプリオリに再処理禁止を協定で明記しておくのは得策ではなく、必要でもない。いずれにせよ、ベトナムやトルコが仮に再処理を希望するとしても、それは20、30年先のことで、将来諸々の状況や要因を考慮して合理的に判断するべきものである。 他方、アラブ首長国連邦(UAE)のように最初から自前の再処理、濃縮を断念している国もある。米国は、UAE方式をゴールド・スタンダード(モデル協定)にしたい意向で、日UAE協定(今国会で審議中)もこの方式を踏襲している。再処理をめぐる不平等性再処理をめぐる不平等性 当然のことながら、新興国にもそれぞれの事情や計画があるから一律に論ずることはできない。UAEのように自発的に再処理・濃縮の権利を放棄する場合は問題ないが、相手国がその権利を熱望するときに、供給国の政策として一方的に再処理禁止を押し付けるのは必ずしも賢明ではないと思われる。現時点であまり厳しい規制をかけると、新興国は日本や米国を避け、もっと規制の「甘い」国(ロシア、中国など)との原子力協力に走る惧れが多分にあるが、それは、単にビジネスチャンスを失うというだけでなく、核不拡散のための国際秩序維持というより高い視点からみて決して望ましいことではない。 いずれにせよ、このように国によって差別が付き、不公平が生ずる根源的な原因は、核不拡散条約(NPT)で明記されている「原子力平和利用の権利」(第4条)の中身が曖昧なためである。すなわち、「本条約は、全ての締約国の原子力の平和利用のための権利に影響を及ぼすものではなく、全ての締約国は、原子力の平和的利用のため、設備、資材及び情報の交換を容易にすることを約束し、その交換に参加する権利を有する」とあるが、実態としてこの条約ができた1960年代には、各国の関心事は原子炉(主に軽水炉)による発電の技術であった。再処理・濃縮の技術は米露など一握りの先進国しか持っていなかった。しかし、その後原子力発電が進み、現在ではいくつかの先進国(日本を含む)がこの技術を持っており、新興国の中でも、将来大規模な原子力発電を計画している国の場合、再処理の権利を確保しておきたいと考えるのは自然だろう。核燃料サイクル機構の高速増殖炉「もんじゅ」 元々NPTには「核兵器を持ってもよい国」(5大国)と「核兵器を持ってはいけない国」(5大国以外のすべての国)の差別があり、本質的に不平等条約と言われる所以であるが、それに加えて、NPT加盟の新興国や開発途上国の間には、「もう一つの差別」を指摘する声が強い。すなわち「再処理をしてもよい国」(5大国のほか日本や一部のユーラトム加盟国)と「再処理をしてはいけない国」の差別で、これに対する不満は年々大きくなってきている。日本の原子力外交に求められるもの 日本は、1970~80年代に必死に対米交渉をした結果、非核兵器国ながら再処理、濃縮の権利を獲得した、いわば既得権者、特権階級である。それだけに、韓国やイラン、北朝鮮だけでなく、多くの国から羨ましがられ、あるいは問題視されている。だから、自らの既得権に胡坐をかいて、安閑としていると、どこで足を掬われるかわからない。 これまで長い間日本は、米欧の先進国との原子力関係では、原子力資材・技術の輸入国として、もっぱら「規制される側」の立場で対応してきたが、今後は新興国との関係において、供給国(輸出国)として「規制する側」の立場で判断しなければならなくなっているわけだ。まさに発想の転換が必要になっているのである。 そうした2つの立場の違いをよく弁えて、適切かつ能動的に対応しなければならないが、そのためには、再処理・濃縮問題や原子力協定問題を単なる技術問題やエネルギー問題としてではなく、より広い外交的、戦略的な観点からしっかり考える姿勢が平素から必要なのである。これを筆者は、外務省の初代原子力課長としての長年の経験から「原子力外交」と呼んでいるのであるが、国会や論壇においても、是非そのような広い視野と高い視点で徹底的に議論してもらいたいと強く願っている。*関連記事:「日本は原発を輸出すべき 本質を歪める『5つの論点』」

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    日本が核兵器6000発分のプルトニウム保持を許されている理由

    る点検漏れなどにより、事実上、頓挫している「核燃料サイクル」。しかし、2014年4月に策定された国のエネルギー基本計画でも、その方針は堅持されている。日本の原子力政策を複雑にしているのは、1955年に端を発する日米原子力協定だった。共同通信社編集委員の太田昌克氏が、日本の原子力政策の根底にある同協定についてレポートする。* * * 一般にはあまり知られていないが、日本の原子力政策は黎明期から一貫して「盟主」米国の庇護のもとにある。 日本が主権を回復した1950年代、第五福竜丸の被曝事件による反核・反米感情の増幅を怖れ「原子力の平和利用」をアピールしたい米国と、エネルギー資源を求める日本の利害が一致。1955年に米国が日本に研究炉と濃縮ウランを供与する「日米原子力協力協定」が結ばれた。 この頃から日本の原子力政策は、使用済み核燃料を再処理し、取り出したプルトニウムとウランを再利用する「核燃料サイクル」を根幹としてきた。プルトニウムは核兵器に転用できる。そのため、1968年、民間に原発事業の門戸を開く目的で日米協定を改定した際、日本が米国産の核燃料を原発で燃やし、その後に出る使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを生成するには「米国の同意が必要」と定められた。これ以降、日本の原子力政策の根幹部分で「生殺与奪の権」を米国が握るようになった。 1974年、インドが「平和的核爆発」と称して核実験を行ったことで、「原子力平和利用」の死角を痛感した米国は、以後、核不拡散政策を大幅に強化し、民間レベルでの再処理事業に否定的態度を取り始める。この米国の新方針は、茨城県東海村に建設した再処理工場を稼働させようとしていた日本の政策と真正面からぶつかった。 こうした経緯を踏まえ、日本は1980年代に日米協定の改定交渉を進め、対米自立を図る。その結果、1988年発効の現在の日米原子力協定では日本に「包括的事前同意」が付与され、再処理のつど米国の同意を得る必要はなくなった。 しかし、したたかな米国は「拒否権」を決して手放さなかった。日本が核兵器不拡散条約(NPT)を脱退もしくは日米同盟を破棄すれば、即座に日本の再処理事業を止められるルールを協定に盛り込んだのだ。 非核保有国で唯一、日本だけが商業規模の再処理を行っている。そんな「特権」を米国が認めたのは、日本を従順な同盟国、いわゆる“あんぱい”とみなしているからだ。米国の「核の傘」に自国の安全保障を委ねる日本が盟主に逆らい、プルトニウムを転用して核武装するはずがない米国はそう判断しつつも、万が一に備え、拒否権を保持することで予防線を張った。 現在、47.8トンに達する日本のプルトニウムは核兵器6000発分に相当し、それは米国にとって核不拡散・セキュリティー上の重大な問題だ。それゆえ、日本の原子力政策に対する盟主の統制と干渉は続く。 1988年発効の日米原子力協定は有効期間が30年。2018年7月以降は、いずれかの国が事前に通告することで終了できるが、日米とも現状維持を望んでいる。盟主による日本の原子力政策の統制は当面続くだろう。関連記事■ 六ヶ所村のエンジニア 「脱原発宣言で20年の苦労が水の泡」■ 米軍機が日本で事故起こしたら米は警視総監の立ち入り拒否可■ 短期間で脱原発宣言の菅総理 ドイツは10年以上で結論出した■ 「日本人は原発を正しく怖がれていない」保守論客が左翼批判■ 原子力安全委員 最短週10分の会議出席で年収1650万円

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    中国人民解放軍内部文書「日本は2000発の核弾頭製造可能」

     7月の参議院議員選挙で、非改選を合わせて自民党を含む改憲勢力が3分の2を占めたことで、中国は安倍政権の憲法改正の動きに警戒を強めている。 そんななか、ジャーナリストの相馬勝氏は「日本では右翼勢力が台頭しており、近い将来、核武装に踏み切るのではないか」などと予測する中国人民解放軍の内部文書を入手した。* * * 中国人民解放軍の内部文書は「日本の核武装に警戒せよ、世界平和に大きな影響」と題し、人民解放軍機関紙「解放軍報」を発行する解放軍報社傘下の軍の内部部門である「国防参考」が出版。「国防参考」は軍の幹部を対象に、軍事情勢を中心にした中国内外の重要なニュースや時事解説、解放軍中枢からの重要指示などを伝達するものだ。 中国の傅聡軍縮大使が昨年10月の国連総会で、日本の「核武装論」を非難している。今回の参院選の結果を受けて、中国が日本の核武装論をテコに再び対日批判を強めることが予想されるが、その動きは、この「国防参考」の内容からある程度、予測できるだろう。内部文書の主要部分は、以下の通りだ。 日本では原子力発電所の稼働によって、核兵器を製造するための原料であるウランやプルトニウムといった核物質を豊富に保有している。同時に、核兵器を持たない国のなかでは唯一、ウランの濃縮や使用済み燃料の再処理によるプルトニウムの製造技術といった、核兵器に転用可能な核物質を製造する一連の技術も保有する。それゆえ、日本は「2000発の核弾頭を製造できる」とし、それも「短期間で」と付け加えている。 さらに、文書は日本の核兵器製造をめぐる歴史的経緯や政治・経済動向、科学的な裏付け、日本の核武装正当化のための国際関係や領土問題に加え、日本の核武装を阻止するための中国の対応についても詳しく解説している。●そうま・まさる/1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館刊)など著書多 数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)。関連記事■ 北朝鮮核ミサイルに対抗するには日韓核武装も選択肢と専門家■ 中国軍 全長9600kmに及ぶ秘密地下核兵器貯蔵基地を建設中か■ 小林よしのり氏 日本こそ「核武装やむなし」を言える国である■ 中国軍 5000キロの地下トンネルに3000発の核弾頭隠匿か■ 南北統一で「韓国は核保有国になれる」書き込みネットに氾濫

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    高速増殖炉は「シンもんじゅ」を目指せ! 核燃サイクルは国の生命線

    たところだ。それでも存続し得たのは、もんじゅが高速増殖炉の実用化を目指すための原子炉であるからだ。 エネルギー資源に乏しい日本にとって、燃やした以上のプルトニウムを生み出す高速増殖炉は「夢の原子炉」とされ、そのための燃料生産に関わる再処理工場などとともに、核燃料サイクルの中核施設に位置づけられている。 国の長期のエネルギー安全保障に不可欠の存在として、無為徒食のまま温存されてきた。もんじゅを開発した旧動力炉・核燃料開発事業団と後身の原子力機構に、甘えと傲慢の構造があったことは否めない。これを放置した旧科学技術庁と文科省の責任も厳しく問われるべきである。原因の解明を怠れば、同根の失敗の繰り返しにつながろう。真の原子力文化を育てよ もんじゅの存続を求める声もあるが、それには規制委の新規制基準をクリアすることが必要だ。大改修にはおそらく数千億円の巨費を要する。ようやく再稼働にこぎつけても運転の40年制限が目の前では意味がない。 核燃料サイクルを軌道に乗せるためにも、もんじゅの廃炉は避けられない。問題は「ポストもんじゅ」をどうするかだ。もんじゅは不要でも高速増殖炉と核燃料サイクルは必要不可欠である。今はウラン価格が安定し、油価も下がっているが、この状態が将来も続くと見るのは早計だ。核燃料サイクルによるウランの長期利用の実現が賢明な策である。 もんじゅより一段高い実証炉レベルの高速増殖炉建設を目指す道がある。それに応える技術者はいないのか。もんじゅが建設された80年代に比べ、素材もシミュレーション技術も隔世の進歩を遂げている。高速増殖炉の真価を発揮する新たな「シンもんじゅ」の開発を期待したい。 フランスが2030年ごろの稼働を目指す高速炉・ASTRIDの共同開発も選択肢の一つであろう。ナトリウムを使う高速増殖炉の開発は難しいという批判があるが、それは当たらない。ロシアでは高い稼働率で運転している。 もんじゅの今後についての議論には、国際的課題としての視点が必要だ。2年後に日米原子力協定の更新時期が迫っている。非核保有国の日本が、原発の使用済み燃料を再処理し、高速増殖炉などで使うプルトニウムを取り出せるのは、この協定があるためだ。 もんじゅの廃止を、核燃料サイクルからの撤退準備と米国が受け止めれば、日本のエネルギー政策の将来は根底から揺らぐ。廃炉だけが前面に出がちな議論は、極めて無防備で稚拙である。国内での議論の進め方にも問題が多く、気になるところだ。 もんじゅの地元の福井県や敦賀市は、蚊帳の外に近い状況に置かれている。建設時点から、多大な協力を惜しまなかった地元の人々を軽視するような対応では、真の原子力文化は育たない。

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    “生命の記念碑”としての広島

    ヴィターリー・ポルトニコフ(政治分析家、ニュースキャスター)初めての広島と新たなる戦禍の現代へのメッセージ 私は2015年11月14日、初めて広島の地を訪れた。 広島を訪れる旅行者のほとんどが最初に足を運ぶのは、平和記念資料館と平和記念公園ではないだろうか。平和記念資料館は、1945年8月6日に広島で起こった出来事を強く想起させるものであるからだ。 大量殺戮の記録を留める世界のあらゆる記念館と同様に、平和記念資料館は「永遠」であり、なぜ、人類は、あらゆる大惨事、原爆による惨劇からさえも、何の教訓を導き出そうとしないのかと常に私達に問いかけている。 広島の悲劇から70年が経過した。しかし、戦争は、今日もクラウゼヴィッツ(※1)の言うところの「戦争とは他の手段をもってする政治の継続」である。今日も、核兵器ではない「通常の」、しかし最新鋭の兵器による空爆で「核兵器規模の損失」を与えるべきかどうかとの議論がやむことはない。 今日、ウクライナで、再び、幾つもの都市が破壊され、人々が家族を失い、多くの血が流されるようになった。私は広島の悲劇を今までとはまったく異なった視線で見るようになったのである。屈託なく平和な世の中で生きる者の視線ではなく、常に戦火と隣り合わせ、新たなる戦禍の予兆の中で生きる者としての視点でである。広島を見ても悔い改めない世界 だからこそ、平和資料館を訪れてから、私の疑問は日増しに大きくなるばかりなのである。広島のような悲劇が起こってしまった後になっても、何故、人類は悔い改めることができないのであろうか、何故、今日も武力による侵略行為は日常的に起こっているのだろうか? もちろん、広島に居るときだけ、このようなことを考えるのではない。しかし、悲劇の地・広島では、このような考えは、特に切実なものとなる。 平和資料館の記帳アルバムの写真を見る限り、メッセージを寄せた著名な政治家たち、つまり、国際社会で意思決定を行った人々、または現在も行っている人々は、皆、この悲劇を悼む顔をしている。ここで私は再び思う。原爆により一つの都市が壊滅した事実に思いを馳せるとき、血の通った人なら誰でも感じるであろう深い悼み、個人のレベルでの悲しみは、なぜ、戦争を断じて回避するという、集団としての意志へと結実していかないのだろうかと。しかも、今日、戦争はもう中世の剣での戦いや20世紀の戦闘機の空中戦や戦車戦ではなく、あらゆる人を一瞬にして殺害するような容赦ない死刑宣告と化しているのである。 しかし世界は、いつものごとく、言い訳のようなことを言い始めている。 「世界を滅亡させることができるものこそが、世界を救うのである。武器として使うためのものではなく、抑止力の為のものなのだ」という考えだ。私たちは、皆、「私たちが住んでいるのは決して死刑囚の監房などではない。『この世を唯一、絶滅から救うことができるのは、良識ではなく原子爆弾である』とする世界に生きているのだ」という希望のようなものの中に生き続けている。実に奇妙な世界である。1945年8月6日の原爆投下の後、一体、世界はどのような姿になることができたのであろうか?核による破壊の後も生をあきらめなかった広島核による破壊の後も生をあきらめなかった広島 今日の広島の姿は非常に重要である。広島は、文字通り、すべてが破壊された廃墟の灰の中から、住民の絶望の中から、再び出現した街である。もし、これが広島でなかったら、灰と化した空間が再び人々が生活を営む街となることはなかったのではないか。単に、跡地として、巨大な記念公園として、悲劇の記憶を留め、未来に警鐘を鳴らし続けていたのかもしれない。しかし、日本での出来事だったからこそ、そうはならなかった。 もし、日本の民衆の底力を感じたいと思うのであったら、東京の高層ビル群や京都の古寺を見てまわるよりも、広島に行くべきである。生きとし生けるものが死滅し、再び生命を取り戻すことは不可能だと誰もが考えていたこの街に足を運ばなくてはならない。 人は、原子爆弾が投下された場所に、再び街を築こうとするのだろうか? 自分たちの街が、国内外で最も快適な街の一つと言われるようになるまで諦めずに死力を尽くすだろうか? 自分の街がこれからも存在し続けるために、もう二度と広島の街を目にすることがなくなってしまった近しい人々の記憶のために、この街に住み続けることができるのだろうか? 人々にとって、本当の意味で悲劇の記憶を留めるものとはなんであろうか? 平和資料館? 平和公園? 記念碑? それとも、人類史上、最も恐ろしい傷を受けながらも立ち上がった街そのものであろうか?その答えは明らかである。そう、広島の街そのものだ。 大切なのは、今日の広島が特別に際立った街という訳ではないということ。公園、通り、建物、渋滞 … 通りは急ぎ足の歩行者で溢れ、若者たちはカフェで時を過ごしている … 広島は、ごく普通の日本の街なのである。広島は、復興し、不死鳥のように蘇ったと言われるが、それは正しくない。広島は、再び、新しく生まれたのである。 原爆投下によって街は跡形もなく消滅し、あの日から、計り知ることのできない被爆の恐ろしさは今日までも連綿と続いている。広島は、スターリングラード(※2)やドレスデン(※3)とは決定的に違うのである。戦禍で瓦礫の山となった街には、新たに建物をつくり、道路を建設することもできる。では、原爆で焼け野原となった広島に住むことはできるのだろうか? 1945年8月の時点では、この問いに対する答えはなかった。いや、当時は、広島は永遠に灰のままであり、人々は「死の地」としての広島を忌避し続けるだろうと考えられていた。 しかし、まったく逆の展開となった。広島は、新しい生命を得て、真新しい人生をスタートさせた。死の淵から生還した重病人のように、この世界に新たな彩りと輝きを見出すようになったのである。いかなる破壊からも再生は可能であるということ広島の意味 - いかなる破壊からも再生は可能であるということ 私は、普通の日本の中高生や大学生にとっては何がこの街の魅力なのだろうと考えた。修学旅行の生徒たちは平和公園を訪れ、原爆の悲劇を学ぶ … その後、彼らはどこで過ごすのだろう? マツダミュージアムにでも行くのだろうか? クルマが好きな人であれば、ヨーロッパやアメリカやアジアの街を訪れるように、マツダの車を見に広島に行くこともあるだろうから。同じように、美術館に行くこともあるだろうし、単に街を散歩してウィンドーショッピングをすることもあるだろう。ごくありふれた日常を過ごすということだ。 このような日常は、パリでも、ロンドンでも、北京でも、ニューヨークでも、東京でも、あらゆる世界の街で過ごすことができる。ただ、世界の人々にとっては、広島は原爆の悲劇の象徴なのである。 ただ、それは広島の街を散歩していたり、マツダの車にハマっていたり、市の中心部のカフェでコーヒーを飲んでいたりする人にはまったく関係のないことだ。人々は、いつも原爆や犠牲者のことを考えている訳ではないからだ。普通、人は自分の日常の色々な事について考えているものである。 ここにこそ広島の最も大きな秘密と広島が私たちに示してくれる教訓がある。今日も広島では、生命が躍動しているというところに! 日本の人々にとっては、このような広島の姿は、当たり前のこととなっている。人は、死よりも生の方に早く慣れてしまう習性をもっている。だからこそ、日本の人々にとっては、平和公園と平和資料館は、広島の街の中心であり、原爆の思い出こそが、この街の歴史的な存在意義であるかのように感じられるのかもしれない。 実際のところ、世界で多くの人が原爆投下の前から広島と長崎を知っていた。けれど、今日では、ヒロシマという言葉は、単なる街の名前ではなくなっている。 しかし、この近代的で魅力に溢れた街・広島を初めて訪れた人々にとって、ここで日々営まれているごく普通の生活こそ最も強く心を揺り動かされるものである。そして、広島の市井の人々の日常の姿は、広島を訪れる者にとって何よりも力強い希望となる。この希望は、世界のすべての人々のものであると同時に、今、戦禍と隣り合わせる私たち一人一人に向けて贈られた希望でもあるのである。 人類は原爆の悲劇から教訓を得ることはできなかった。毎年のように、次々と新しい国が核保有国の一員に加わろうとしている。今日も、世界を支配しているのは法と秩序ではなく、暴力である。しかし、それでも死の灰の中から立ち上がった街は、自らの存在で、生命の大いなる力を、世界に証明しつづけているのである。(※1)^ 「戦争論」プロイセン軍の将校としてナポレオン戦争に参加したクラウゼヴィッツが戦争と軍事戦略に関して記した著(※2)^ 第二次大戦中の独ソ戦で、スターリンの名を冠した都市で繰りひろげられた枢軸軍とソビエト赤軍の戦いは熾烈を極め、街は瓦礫と化した。死者は枢軸側が約85万人、ソビエト側が約120万人、計200万人前後とされている。(※3)^ ナチス・ドイツ降伏前の 1945年2月、英米軍による爆撃で、市全域の85%が破壊、犠牲者の数は、約2万5000人とも13万5000人とも言われている。ヴィターリー・ポルトニコフ  Vitaly PORTNIKOV 政治分析家、ニュースキャスター、「ラジオ・スヴァボーダ」論説委員。1990年モスクワ大学ジャーナリスト学部卒業 1989-1995年 「独立新聞」論説委員(モスクワ)、2010-2012年ウクライナのテレビ局「ТВі」編集長、2013年11月よりEspresso TVでメインキャスターを務める。ウクライナ、ロシア、ベラルーシ、ポーランド、イスラエルの大手メディアに定期的に評論を寄稿。

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    広島を訪れて初めてわかる 核軍縮を阻む「核兵器の非人道性」への無理解

    (THE PAGEより転載) オバマ米大統領の広島訪問が正式決定されました。5月末に伊勢志摩で開かれるG7サミット閉幕後に被爆地である広島を訪れます。オバマ大統領は2009年4月にチェコのプラハで「核なき世界」の実現を訴えました。しかしそれ以降、核軍縮はけっして進んだとはいえません。核軍縮の歩みが遅いのは、安全保障的な観点もありますが、それ以外にも大きな要素があると元外交官で国連軍縮大使を務めた美根慶樹氏は指摘します。それは何なのか。美根氏に寄稿してもらいました。「毒ガス」や「地雷」は禁止条約ができたが 核兵器(以下単に「核」)の廃絶がなかなか実現しないのは、現在の国際情勢下では核の抑止力が必要で完全に手放すわけにはいかないと考えられていることもさることながら、「核の非人道性に対する理解が十分でない」からだと思います。こう言うと、「いや、核が非人道的であることは明らかであり、理解されている」という反論が出てくるかもしれませんが、どういうことか以下に説明していきましょう。 兵器は本来非人道的ですが、一部の兵器はあまりにひどい結果をもたらすので19世紀の終わりころから使用を禁止しようとする動きが起こり、国連では、「非人道性」とは何かを研究するとともに、一定の兵器を禁止する条約が作られてきました。 その結果、「非人道性」とは、「過度に」あるいは「無差別に」人を殺傷することだということが明確になってきました。 核については、さらに「多数の市民を殺傷する」という問題があります。 そして、具体的には、毒ガスや対人地雷は条約ですでに禁止されていますが、核を禁止する条約はできていません。 核不拡散条約(NPT)や国連では、核の「廃絶」や「使用禁止」について議論をしていますが、核保有国と非保有国との間の考えの相違はまだ大きく、「核の使用禁止」が成立するのは「核の廃絶」と同じくらい困難なようです。国際的な同意が得られていない「非人道性」 そこで、数年前からまず「核の非人道性」を確立しようとする運動が国際的に展開されてきました。この問題については1996年、国際司法裁判所は「核の使用は原則として国際人道法に反する」という判断をしましたが、これは「勧告」であり、各国に対して拘束力はありませんでした。 新たに展開されている運動は、核の廃絶が実現するまでの間、中間的な方策として「核の非人道性」について各国の合意を形成しようとするものです。 しかしこの運動においても、核は抑止力のために必要だという考えが影響を及ぼしており、「核の非人道性」は国際的なコンセンサスとして確立するに至っていません。 日本はこの運動に参加する一方、世界の指導者に対し被爆地を訪問し、被爆の実態をじかに感じ取ってもらうことを勧めています。「核の非人道性」を確立する国際運動は、いわば、「言葉で」目的を達成しようとしているのに対し、被爆地訪問は「体験により」核の非人道性を会得するものであり、4月に広島で開催されたG7外相会合は非常に効果的でした。被爆地を訪れた外国要人の「驚き」被爆地を訪れた外国要人の「驚き」 特筆すべきは、「核の非人道性」は言葉では分かっていたようでも、被爆地で体験することはそれと大きく違っていることが分かったことです。ケリー米国務長官は率直に驚いたと表明しました。原爆ドームを訪れ、松井一実市長から説明を聞くケリー米国務長官(右から2人目)と各国の外相ら=4月11日午後、広島市 わたくしは軍縮大使であった関係上、広島や長崎で欧米諸国の人と一緒に被爆状況を展示している資料館を訪問したことがあり、彼らが想像を絶する強い衝撃を受けたのをこの目で見ました。ある人は、訪問が終わると、どんなにひどく叱責されるか、おびえるまなざしでわたくしを見ていました。 「核の非人道性」は理屈や頭では分かっているつもりでも、実はその理解は浅いのです。その恐ろしさが言葉だけでなく、体で本当に分かってくると、核に対しての取り組みがより真剣になるのではないでしょうか。「核の非人道性」を知って取り組むのと、理解しないで取り組むのでは「核の廃絶」を推進する力も違ってきます。核爆発の実態を正しく知ることは核問題に取り組むのに絶対的に必要なことなのです。 被爆地を訪問すると謝罪を求められると危惧する意見を始め、さまざまな消極的意見を克服してオバマ大統領が被爆地、広島を訪問することを決意されたことは、核軍縮にとっても、日米関係にとっても、さらには世界の平和にとっても言葉では言い尽くせない意義があると思います。 今回実現しなかった長崎訪問も積極的に検討されることを希望しつつ、広島訪問がつつがなく完了することを願っています。■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。

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    電力自由化のウソに騙されるな

    2016年4月から電力小売りの全面自由化が始まる。異業種参入によるセット料金のメニューも続々と登場し、どのプランが一番お得なのか、家庭向け電力をめぐる「戦国時代」の到来に話題も尽きない。我が家の電気代は本当に安くなるのか。電力自由化のホントとウソをしっかり見極めよう。

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    電話とは違いますが孫正義さん、 本当に電気を安く売ってくれますか?

    いる人の大多数は変えることにより、料金が下がるメリットがあると期待してのことだろう。 ガス会社などのエネルギー企業はむろんのこと、ソフトバンクなども電力事業に参入する意向を示している。新規事業者が参入し競争が激化すれば料金は下がると考えられるが、電気は普通の商品とは違い、コストが事業者により異なるために、競争があっても料金が下がるとは限らない。90年から自由化を進めた英国では、停電の可能性、料金上昇という問題が出てきており、日本でも自由化により料金が下がるかどうか不透明なところもある。多くの人が期待するように電気料金は下がるのだろうか。電力会社を選べるのは、今は企業などだけ 一般家庭への供給は、住んでいる場所により北海道電力から沖縄電力までの地域の電力会社10社により行われている。電力会社を選ぶことができない家庭などと異なり電力消費量が多い工場、商業施設などの需要家は電力供給を行う電力会社を選択することができる。地域電力会社に加え新電力と呼ばれる電気事業者からも電気を購入することが可能だ。新電力は、特定の規模がある需要にのみ応えるので特定規模電気事業者が正式な名称だ。 地域電力会社からではなく新電力からも電気を買える自由化と呼ばれる制度は、2000年3月に特別高圧と呼ばれる2万kW以上の契約量を持つ大規模工場、商業施設等の需要家向けに導入された。全需要量に占める比率は26%程度だ。その後、04年に500kW以上の需要家、05年に小規模工場等を対象とした高圧と呼ばれる契約量50kW以上の需要家にまで自由化の範囲は拡大された。電気の需要量で言えば約60%は自由化されている。電力会社を選べない需要家は、需要量の5%程度を占める小規模商店などと35%を占める家庭だけになっている。家庭用供給には新規参入者が続々 2年後に家庭用も自由化される見通しとなったことから、新規事業者が続々と名乗りを上げている。経産省の特定規模電気事業者のリストには6月30日現在で270社の新電力が登録されている。7月1日から既に自由化されている高圧の需要家向けに電力供給を開始することを発表したソフトバンク系列のSBパワーの名前もある。 登録企業のなかには、日産自動車、三井物産、大和ハウスなどの大企業の名前もあるが、本社の住所の記載があるだけで、電話番号もホームページの記載もない企業も目立つ。ざっと見たところ、半分以上の企業は住所の記載しかなく、とりあえず登録を行っているだけのようだ。 ワタミエコロジーのように再生可能エネルギーによる電気の販売を示唆する名前を付けている企業も多くある。また、楽天エナジーは、省エネ設備の導入などによりエネルギーコストを下げる一方、宿泊設備には無料の広告などを行うとし、楽天の他のサービスとの組み合わせの提案を行っている。家庭用が自由化されれば、ソフトバンク、ワタミなども既存のサービスと組み合わせ新規の顧客獲得に乗り出すことになるのだろう。 需要家にとって選択肢が増えるのは良いことだ。例えば、再生可能エネルギーで作られた電気を使いたいという需要家は満足感を得られることになる。しかし、大部分の需要家にとっては、やはり価格が供給会社選択のカギだろう。電気料金は下がるのだろうか。NTTに独占されていた電話の料金が自由化により下がったことから、電気料金も自由化により下がるとの解説もある。本当だろうか。電話と電気の違い 技術進歩と投資の意思決定電話と電気の違い 技術進歩と投資の意思決定 通信の技術進歩は著しい。20年前にはネットをするには通常電話回線を利用するしかなかった。欧州の古いホテルなどでは電話線が壁に直結されており、ネットをすることは不可能だった。20年前、携帯電話を持っている人はまれだった。また、電話機も大きくとてもポケットに入れられる大きさでも重さでもなかった。 電話料金が下がったのは、競争に加え、技術が飛躍的に進んだことが大きいだろう。制度の変更より技術進歩が寄与した面が大きいかもしれない。電気でも技術進歩はある。しかし、燃料を燃やして蒸気を作りタービンを回し発電する、あるいは水を高所から落としタービンを回し発電する基本原理は変わらない。火力発電用ボイラーの効率は少しずつ良くなっているが、電話回線が光に変わり、通信速度が数百倍変わったような劇的な変化はない。 電話と電気には、もっと大きな違いがある。投資の意思決定だ。ともに装置産業だが、操業コストに大きな違いがある。電話は設備を一旦作れば、コストは確定する。収入も利用者数と料金から計算できる。同業他社の設備のコストも大きく変わることはない筈だ。同じようなコスト構造で競争するから、料金も同じようなレベルになる筈だ。コストも収入も予測できる。難しい投資の意思決定ではない。 電気のコストは、発電源を何にするかで大きく異なる。水力発電、原子力発電では設備投資額が大きくなるが、操業の費用は殆どかからない。火力発電では、設備投資額は相対的に低いが、燃料を何にするかで発電コストは大きく異なる。今だと、燃料代だけで、1kW時当たり石炭で3~4円、石油で15~16円、天然ガスで10~11円程度必要だろう。 地域電力会社のように多種の設備を保有していれば、燃料のリスクを分散することが可能だ。しかし、新規に事業を開始する新電力が、需要量が不透明ななかで競争力のある電源を持つことができるだろうか。将来も価格競争力のある燃料は石炭のように思えるが、石炭は二酸化炭素の排出量が多く、地球温暖化の観点から将来利用に制限がかかるリスクがある。石油、天然ガスを燃料にすると競争力の観点で問題がありそうだ。発電開始時点で競争力がなければ、顧客を獲得できず、倒産だ。 電気が電話と違うのは、コストの予想ができないことだ。これは、企業の意思決定においては決定的な違いになり、発電設備への投資を極めて難しくする。このために、自由化を進めた英国、米国の州は、発電設備の減少に伴う供給量の減少に頭を悩ますことになった。英国も米国も電力自由化については試行錯誤 90年に自由化を開始した英国では老朽化した発電設備の建て替えが行われないために、昨年政府が容量市場を導入することを決めた(『電力自由化で「新たな総括原価主義が必要に? 温暖化対策進める英国のジレンマ』)。発電設備を建設すれば、発電量に関係なく一定の金額が支払われる制度だ。余剰設備、供給余力を確保するための制度だ。 なぜ発電設備の建て替え、新設が行われなくなったのだろうか。一つは自由化により将来の電力価格が不透明になったためだ。設備を作っても電気が売れるか、その価格はいくらかわからなければ、投資は出来ない。自社のコストが他社と比べて競争力があるかも将来の化石燃料の価格次第だから分からない。 もう一つ問題がある。再生可能エネルギーの導入政策によっては、風力、太陽光などからの発電は、市場の外で優先的購入が行われるかもしれない。再エネが優先されれば、自社設備の稼働率は低下し、収入が減ることになる。売値も、コストも、稼働率も不明では、あまりにリスクが多すぎて投資することは難しい。 米国では1935年から規制料金による地域独占が認められてきたが、73年のオイルショックを契機に脱石油の動きが生じ、78年の再エネ導入、96年の送電線解放につながり、ニューハンプシャー州、カリフォルニア州などが自由化に踏み切った。しかし、2000年から01年にかけカリフォルニア州において供給不足による停電、料金高騰が発生したために、多くの州が自由化を中断した。図の米国地図に自由化を行った州、中断した州、規制を続けている州が示されている。 自由化が成功しているといわれる北東部のPJM(ペンシルバニア、ニュージャージ、メリーランド州などの地域)では、電力供給の安定化のために小売り事業者は常に供給量の15%の予備設備を確保しておくことが求められるが、段々予備設備の確保が難しくなってきていると報道されている。 自由化すると、不確実性の多い電力事業では設備への投資が減少する可能性が高いが、日本ではどうなるだろうか。新電力の設備量は地域電力会社の1%新電力の設備量は地域電力会社の1% 既に自由化されている特定規模需要5441億kW時(13年度)のうち、新電力の供給量は227億kW時、シェアは4.17%だ。今年4月に電力供給を行っていた新電力は59社だ。しかし、発電設備を保有している新電力は9社しかない。設備量は合計で232万kW。北海道から沖縄までの地域電力会社10社が保有する設備量、2億932万kWの約1%に過ぎない。 新電力の設備のうち最大の発電設備は大阪ガスの泉北天然ガス火力、能力は111万kWあり、新電力全部の設備能力の約半分だ。次に大きいのは大王製紙の52万kW、さらに王子製紙の27万kWだが、ともに自社工場向けの供給が主体で、外部には殆ど販売していない。結局、新電力の設備のうち供給に使われている設備は150万kWしかない。 新電力が供給している電気は、大半が自社設備ではなく、地域電力を含めた他社の発電設備から購入したものだ。家庭用需要が自由化されれば、新しい発電設備を作る企業はでてくるのだろうか。先述の発電設備向け投資の意思決定が他の設備投資と異なり難しいこと、また欧米で起こっていることをみると、新規の発電設備への投資を期待することは難しい。自由化されても、設備が増えなければ、競争は期待できず、値下げが実現される可能性も薄い。 新規に供給を行う事業者は、値下げを行うことはできるのだろうか。ソフトバンクは電気を安く供給できるのか 孫正義氏は、脱原発のために再エネを進めていると公言しているが、その一方かつて電力会社の買収も考えたが、収益が出ないビジネスでは株主の納得を得られないから諦めたとも言っている。利益がでない事業には関心がないということだろう。今太陽光発電を中心に再エネに熱心なのは、固定価格買い取り制度により収益が確定するうま味のある事業だからなのだろう。 家庭向けが自由化された際には電話との組み合わせで電気も販売する意向との報道もある。しかし、電話と異なり電気料金を、例えば長期契約を前提に値引くことは難しい。電話のコストは一定だが、電気のコストは変動するからだ。原子力、再エネなど燃料代が不要な電源であれば投資を行った段階で将来のコストを予測可能だが、再エネの電源はいつも発電できるわけではない。火力発電の燃料は、通常1年以上の長期契約で購入されることはない。電気料金を長期に予測することはできないということだ。どんな割引サービスができるのだろうか。 孫は、時々停電する質の悪い電気でも安ければよいという需要家もいるだろうと言っている。月に数百円から数千円節約できれば、冷蔵庫が止まっても、盛り上がっているテレビドラマが中断してもよいという需要家はいるのだろうか。電話回線を増やすと、通話が集中すると携帯が通じなくなることがある。電気も電話と同じで良いと考えているのだろうか。 電気は電話とは、設備投資の意思決定もコスト構造も違う。競争が激しくなっても、料金は下がらない可能性がある。少なくとも、公共性の高い事業を行うのに相応しい理念を持った企業が新規事業者として参加することにより、良い選択肢が増えることを期待したい。

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    電気料金はまだまだ下がる 本当の電力自由化はこれからだ

    高橋洋一(嘉悦大学教授) 4月からの電力小売り自由化が秒読み段階になってきた。自由化に向けて新規事業者が現状よりも安い電気料金を打ち出しているが、それでも東電より数%安い程度である。 まだ、アメリカや韓国などと比べて2倍程度と高いが、自由化の第一歩としてはまずまずだろう。今後、電力料金をさらに引き下げるには何が必要であろうか。 ここで、電力の自由化をおさらいしておこう。電力事業は、発電事業、送配電事業、小売電気事業の三つから成り立っている。既存電力会社はこの3事業をすべて行い、地域独占になっている。電力の自由化は、発電事業と小売電気事業に新規参入を認めるものである。 発電事業には製鉄・製紙メーカーなどがLNG、石炭火力発電などで新規参入し、小売電気事業にはガス会社、通信会社、住宅メーカーなどの多様な業者が新規参入する。なお、送配電事業では地域独占は残る。関東でいえば、送配電事業は東電の独占である。 話はやや脱線するが、我が家では太陽光発電をしている。太陽光発電の設備を屋上に設置しただけであるが、そのとき素朴な期待があった。何かというと、「もし停電しても、太陽光発電していれば、ウチだけは電力が使える」というものだ。 太陽光発電の仕組みは、屋上で太陽光で「発電」して、それを既存の電線で「送電」する。日中ではウチの発電量がウチの消費量を上回るので、その分が「送電」される。夜中はウチの発電量はないので、ウチの消費量はもっぱら電力会社からの「送電」に依存している。毎月、電力会社に支払う電気料金は、電力会社から「送電」される分か、電力会社へ「送電」するものを引いた残りである。 いうなれば、ウチも小さな「発電会社」ともいえる。だから、停電しても日中のウチの消費量くらいはまかなえるし、余った分は蓄電しておけば、夜もなんとかなるだろうと考えたわけだ。 ところが、太陽光メーカーの意見はつれなかった。 「そういう仕組みになっていません。停電したら、太陽光で発電しても家では使えません」自由化のメリットは「配送電」にかかっている 納得いかなかったので、いろいろと技術的なことを含めて聞いた。メーカーのいいたいことは、そうした個人の事情を考慮すると(端的にいえば、「異物」が入ると)、電力の「品質」が下がるのでやめてくれ、そうした要望を受けるには「送電線」がネックになってしまうということらしい(興味のある方は「系統連系」とかをネットで調べればいい)。それでも、「ウチで発電してウチで使うには問題無いはず」と食い下がると、やっと停電時に一つのコンセントだけ使えるとなった。それ以上は話し合う時間の無駄使いなので、それで妥協した。 ほかの人からも似たような話を聞いた。その方は、農業をやっていて小規模の水車がたくさんあるので、そこで小さな水力発電をして、地域に電力を配れないかという話だ。 いい話だと思っていたら、最終的にはできるらしいのだが、いろいろと細かな規制が多く、人のやる気をそいでしまう。結局、停電時には使えないようになってしまったようだ。 「発電」は比較的簡単である。問題は、それを「送電」するところだ。電力自由化でも、「送配電」は地域独占になっていて、そこが電力自由化でメリットが出るか出ないかの大きなポイントであると筆者は考えている。 要するに、発電事業や小売電気事業に新規参入の事業者があっても、送配電事業者との連携がうまくいかないと、自由化のメリットはうまく発揮できない。 はっきりいえば、送配電を握っているところが意地悪をすれば、発電会社も小売電気会社も困ってしまって、自由化の果実はなくなる。 とりわけ、送配電事業者が、自社の送配電網を使い、発電所から各消費者に電気を送ることを託送供給というが、このシステムがうまく機能しないと不味い。 具体的には、新規参入する小売電気事業者と送配電事業者を結ぶ基幹システムが顧客情報や料金計算などを瞬時にやりとりする必要がある。 この点において、実はあまり知られていないが、このシステムで開発が遅れている。これでは、消費者が電気の購入先を切り替える際に不可欠な基幹システムがうまくワークせず、十分な競争が行われない可能性がある。ひょっとすると4月の電力小売り自由化にシステム開発が間に合わない可能性すらある。となると、はっきり言えば、これは競争以前の問題である。 筆者はかつて郵政民営化を手がけて、そのシステム開発のプロジェクトマネージャーをやった経験がある。筆者の場合、郵政民営化の制度設計や法案作成も兼務していたので、その進捗状況をコントロールできたので、システム開発を最適な期間で行うことができた。システム開発が間に合わないときには、郵政民営化のスケジュール自体も変更した。 ところが、今回の電力自由化では、システム開発のプロジェクトマネージャーも誰だかわからず、電力自由化のスケジュールがまず頭ごなしに与えられて、それに異議を挟むことも許されずにシステム開発しているようにみえる。システム開発は超専門的な分野なので、こうした構図は残念ながら随所でよく見られるものだ。 東電にとって、新規参入業者を利するだけの託送供給の基幹システムをうまく作るインセンティブはない。システムの立場からみれば、いままで自社内のクローズド・システムだったのを、他社も使うオープン・システムに変えるようなものだろう。むしろ表だっていわないが、そこそこ文句を言われない程度のシステムを作り、それが多少障害になっても構わない、くらいにしか思わないだろう。 電力自由化で、「送配電」について新規参入者にとってシステムをいかに使い勝手のいいものにするか、規制当局のイニシアティブが必要になるとは皮肉なモノだが、それが競争環境整備の第一歩である。

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    だまされてはいけない!荻原流 賢い電気の選び方

    荻原博子(経済ジャーナリスト)電気も賢く選ぶ時代に 4月の電力自由化を前に、多くの会社に様々な動きが出てきています。 主に注目されるのは、ガス会社の動き、ソフトバンクなど通信会社の動きに加えて、電力自由化に本業のサービスを絡めて多様なサービスを打ち出している会社の動きの3パターン。 この中で最も積極的なのは、ガス会社。なぜなら、来年4月には電力の小売りの自由化同様、ガスも小売りが自由化されるからです。 ガス会社は、最も大きな東京ガスといえども東京電力に比べると資本力は弱い。ですから、電力の自由化がスタートする今年のうちに打って出て電力会社の牙城を切り崩しておかないと、来年にはガスの自由化で逆に攻め込まれ、シェアをとられてしまう可能性があるからです。ですから、ガスの小売りが自由化されるまでの1年に電力の市場に攻勢をかけ、顧客の囲い込みをする戦略を全社員に徹底し、一般家庭への電話攻勢なども激しくなっています。電力業界は電気・ガスのセット割引がガス業界よりも1年遅れる たとえば、首都圏で東京電力と激烈な競争に打って出た東京ガスは「ずっともプラン」でガスと電気と各種サービスをセットにして、料金が1割前後安くなるメニューを出しています。これも今後の東京電力の出方次第では、料金のさらなる値下げがあるかもしれません。セットでおトクなサービスで続々参入 ガス会社vs電力会社の戦いと平行して注目されているのが、通信vs電力の戦い。ソフトバンクは、すでに2000年にスタートした大口顧客向けの電力の自由化に新電力として新規参入して太陽光発電などにも積極的で、電力会社としての実績を積み重ねています。このソフトバンクが、4月1日より「ソフトバンクでんき」の提供を開始します。サービスの目玉は「おうち割」。電気とスマホ、ネットをソフトバンクでんきにすると、スマホ代が最大月2300円割引されるというもの。さらに、「おうちレスキュー」という水まわりのトラブルや鍵の紛失、ガラスなどのヒビ割れに対してすぐに駆けつけて無料で対処してくれるサービスも、2年間利用できるようにします。 加えて、ガス、通信以外の事業者の参入も相次いでいます。 東急電鉄では、ケーブルテレビとのセット割や電気代をTOKYU CARD払いにすると最大1%のカードポイントがたまり、東急百貨店や系列のスーパーなどで使えるサービスをスタート。将来的には、東急電鉄の定期券などもおトクに買えるなど、東急沿線の生活者の囲い込みに乗り出します。 旅行大手のHISは、旅行と電気のセット商品を販売。ENEOSでは、ENEOSでんきの支払いをENEOSカードですると、ガソリン、軽油、灯油代が1リットルあたり1円引きになるなどサービスを開始。ローソンも三菱商事と一緒に立ち上げた「まちエネ」で、同社のPontaカードと連携させて得点を付加していく方針。JALも、「enesys」ブランドでサービスを提供する洸陽電機と提携し、利用者を対象にマイレージが貯まるサービスをスタート。そのほか、ビックカメラ、リクルートグループなど、異業種からの参入は枚挙にいとまがありません。個別の商品を買うのとは仕組みが違う個別の商品を買うのとは仕組みが違う 電力の自由化で、山のように電力会社ができることで、小さな会社と契約すると、経営破綻したら電気が来なくなって停電で大変なことになるのではないかと思う方もおられるでしょう。 ただ電気の場合は、通常の商品と違って契約した会社から直接電気が送られてくるわけではありません。発電所でつくられた電気は、すべて既存の送電線を通して送られてくるので、その時点で、原発でつくった電気も太陽光でつくった電気もすべて混ざり合ってご家庭に届けられます。イメージでいえば、各発電所でつくられた電気がいったん大きなプールに集められ、そこから水道水のように送電線を通して蛇口のある各ご家庭に届けられると思えばいいでしょう。ですから、契約している会社が小さなところであっても、プールの水が枯渇しなければ電力は供給されます。 電力自由化にあたっては、今まで使われていたメーターは、スマートメーターという新しいタイプのメーターに順次かえられていきます。従来の電気メーターは、電力会社から月に1回検針の人が来て調べていきますが、スマートメーターは通信機能を備えた電気メーターで、使用状況が30分ごとに検針されて自動送信されるため、ライフスタイルにあった電力メニューを選ぶことができます。 4月以降は、電力会社を換える人を優先して、最終的には全戸にスマートメーターが着く予定です。設置料金は原則無料です。ただし、メーター取り替えに伴う工事に費用がかかるケースもあります。詐欺には気をつけて 電力自由化で、すべてのご家庭の電力が安くなるのかといえば、そうとばかりは言えません。電力使用量が少ないご家庭の場合には、電力会社を変えることでかえって電気代が上がってしまうケースも予想されます。なぜなら、現行の電気料金は3段階になっていて、電力使用量が少ないご家庭ほど電気代が安くなるようになっているからです。たとえば、150kWh/月だと、電力会社を変えたら高くなるというケースがかなりあるでしょう。 ただし、平均的な家庭の電力(290kWh/月)で見ると、電力会社を変えたほうが料金が安くなるケースが圧倒的に多くなります。 4月近くになると、インターネットなどでも電力の比較サイトがかなり充実してくると思いますから、こうしたものを駆使して安い電気を買うとおトクかもしれません。 ただし、注意しなくてはいけないこともあります。電力会社によっては、契約したら一定期間は解約できない縛りを入れていて解約すると高いペナルティーをとられるケースがあります。 また、新しく始まる制度なので、これを利用して新たな詐欺が出てくる可能性があります。たとえばスマートメーターは基本的には無料で設置されますが、スマートメーターを設置するので設置料金を負担してほしいとか、安く電気を供給するので前払いして欲しいなどと言ってお金をだまし取る手口なども考えられます。 ちなみに、4月になっても何もしなければ、今のままの電力会社で今のままの電気を使うことになります。自分でアクションを起こさなくては、何かが変わるというわけではありません。ですから、あせらずじっくり比較検討しながら選んでもいいのだということを覚えておきましょう。

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    イヤでも買わされる「ワタミ」の電気 居酒屋と相乗効果はあるか?

    業として週刊誌に取り上げられた「ワタミ」についての話が聞こえてくることもあった。そのワタミが再生可能エネルギーに進出している。昨年の秋田での風力発電事業に続き最近では北海道のメガソーラー(大規模太陽光発電)に参画した。 企業として環境問題を考え再生可能エネルギーに取り組むのは悪いことではない。しかし、再生可能エネルギーと何の関係もない居酒屋を中核事業とする企業が風力発電、太陽光発電に乗り出すのは何故だろうか。イメージをよくするためだろうか。ただ、必ずしもそうは見ていない人もいる。「ブラックソーラー」と揶揄する人もいるようだ。居酒屋チェーン「和民」の看板(宮川浩和撮影) 「ワタミ」のホームページでは、地球温暖化問題に取り組むために二酸化炭素を08年比20年度50%削減(売上当たり)することを目標としており、そのためにメガソーラーに進出したとある。対象が年と年度で合ってないのはご愛嬌としても、太陽光発電事業を行えば、自社の二酸化炭素排出量が減少する計算でいいのだろうか。ワタミが使う電気を北海道に設置する太陽光発電で賄うわけではないので、素直には受け取れない説明だ。まず経営学の観点からワタミの再生可能エネルギー事業を考えてみよう。「シナジー」を考える企業の多角化理論 かつて多くの先進国で多角化ブームがあった。要は、異業種への参入だが、ブームになったビジネス、あるいはその時点で儲かりそうな事業に手を出すということだ。日本でも、バブル期には多くの企業が本業とは関係のない新規事業に手を出した。例えば、一時通信販売事業も多くの企業でブームになった。カタログを印刷して配れば良いだけの簡単な事業に思えたのだろう。実際にはどの事業にも儲けのノウハウがあり、門外漢が真似をしても簡単にはうまくいかない。 本業の調子が悪くなってくると、少し調子がよさそうな事業に手を出すのは分からなくはない。しかし、経営学のテキストでは「シナジー」がない分野への多角化は避けるべきと教えている。シナジーを日本語で説明すると「相乗効果」になるが、実際には相乗効果を生む共通点を指すと考えたほうが近いだろう。企業には様々なシナジーがある。 例えば、製造・技術のシナジー。自動車会社がフォークリフトも製造しているのはその分かり易い例だ。販売・営業のシナジーもある。高級宝飾品を扱っている企業が高級時計も扱うのは販売のシナジーだろう。操業のシナジーもある。多くの鉄道会社がバス事業も行っているのはその例だ。自社の事業と保有するノウハウを考え、その上でシナジーがある分野に進出することが重要と経営学では教えている。闇雲な多角化は失敗するケースの方が圧倒的に多い。その反省から一時は「選択」と「集中」という言葉が事業を推進する際によく使われた。二酸化炭素削減は本業の現場で行うのが筋二酸化炭素削減は本業の現場で行うのが筋 居酒屋チェーンのノウハウは何だろうか。おいしくて安い料理を早く提供する、料理を各チェーン店に配送する、接客の方法、店舗開発の方法などが考えられるが太陽光発電事業とのシナジーは思いつかない。では、何故太陽光発電事業を行うのだろうか。ワタミに限らずソフトバンクなどにも同じことが言える。何のシナジーもない事業に進出するのは何故だろうか。 環境のため、二酸化炭素を削減するためというが、そうであれば、発電事業はエネルギー関係の企業に任せればよい。自社で異分野の事業を行う必要はない。ワタミグループの必要とする電力の16%「相当」を風力と太陽光発電で賄うことになるというが、場所も営業時間帯も違う自社が使用するはずもない電気を作る発電事業で二酸化炭素が削減されたと主張するのには無理があると思う。その理屈でいけば、どんな企業でも再生可能エネルギーによる発電を行えば、自社の二酸化炭素排出量を削減できる。 二酸化炭素削減は本業の現場で行うのが筋だ。店舗の電球をLEDに変える。空調設備の効率を上げる。調理器具を電気にする。宅配の車を天然ガス自動車にする。現場で二酸化炭素を削減する方法は多くあり、それは自社でなければできないことだから、まずそれに注力するのが大事だ。ワタミは本業では二酸化炭素削減の余地はもうないのだろうか。 では、なぜ発電事業なのか。答えは簡単だ。確実に儲かるからだ。再生可能エネルギーからの発電については、国の固定価格買い取り制度のおかげで事業用の太陽光発電設備からの電気は20年間の購入が保証されている。一度設備を作ってしまえば間違いなく収入がある。 異業種からの参入は、固定価格買い取り制度を日本に先駆け導入した欧州でもあった。ドイツ、イタリアなどでは新たに太陽光発電事業を始める企業が相次いだ。設備さえ作れば、収入は国が20年の長きに亘り保証してくれる。確実な投資と言われる国債購入よりも利益率が高く、収入が確実なおいしい事業だ。再生可能エネルギー利権に群がる人たち 昨年の7月1日から開始された日本の固定価格買い取り制度では、非住宅用太陽光設備(10kW以上)からの発電の今年度の買い取り価格は1kWh当たり37.8円だ。ワタミの太陽光発電設備は15,000kWだから、この買い取り価格になるはずだが、ワタミの発表では42円だった。ここにカラクリがある。固定価格買い取り制度では、原則申請し認可を受けた時点の買い取り価格が適用される。昨年度の買い取り価格は42円だった。ワタミは昨年度認可を受けた設備をこれから建設するということだ。竣工時期は来年の11月だ。認可を受けてから完成まで少なくとも2年近くの時間がかかっている。 ここに再生可能エネルギー利権が生まれる余地がある。買い取り価格は毎年下がっていく。前年度までの買い取り価格で認可を受けた案件を保有している事業者は、太陽光発電事業を検討している第三者に案件を売却すれば、儲けることができる。設備を今年度申請する事業者が得られる買い取り価格は37.8円だが、昨年度認可を受けた事業者から案件を買えば、42円受け取れる。 このため、昨年度末申請ラッシュがあった。とにかく認可だけ受けようとする事業者がいたのだ。固定価格買い取り制度開始前の事業用太陽光発電設備は累計でも90万kWしかなかった。昨年7月の制度開始から申請が殺到した。その結果昨年度末、即ち今年3月末時点で認可済みの非住宅用太陽光案件は累計1868.1万kWにも達した。一挙に既設の20倍だ。一方、そのうち設置済みのものは70.6万kWしかない。工事に時間がかかるにせよ全体の5%にも届かない数字だ。中にはとりあえず高い買い取り価格で認可だけ受けようとした事業者がいたということだろう。 再生可能エネルギー利権だが、この買い取り価格を負担しているのは電気の消費者だ。事業者は制度を利用し、より大きい利益を得ることができるが、負担するのは消費者だ。負担額は地域により少し差があるが、平均すると今年度は1kWh当たり0.4円の見込みだ。その金額のなかに高い前年度価格を利用した事業者の利益額も含まれている。数量と価格で買い取り量削減を目指す欧州数量と価格で買い取り量削減を目指す欧州 太陽光発電事業を開始する企業の多さに手を焼いた欧州では、参入を減らすために政策の見直しが行われた。イタリアは事業用太陽光発電設備からの買い取り数量に上限値を設けた。ドイツは買い取り価格を削減し、毎月減額する制度を採り入れた。今年の7月1日現在の買い取り価格は表の通りだ。買い取り価格は家庭用で日本の約半分、事業者用では日本の3分の1だ。これでも太陽光発電設備の設置は続いている。 ドイツの家庭用の電気料金は1kWh当たり28.50ユーロセント、産業用は15.10ユーロセントだ。固定価格買い取り制度に基づき電気を売却するよりも自分で使用するほうが有利だ。ただ、お日さま任せの太陽光発電では電気が必要な時にいつも発電できるとは限らない。蓄電装置がないと無理だ。ドイツ政府は今年5月から太陽光発電設備を設置する家庭で蓄電池を導入する場合には補助金を出す制度を導入した。不安定な電源からの電気が増えると送電線網に負担も掛かる。送電線の整備費用も必要だ。それを避けるためにはできるだけ自分で使って欲しいということだ。ワタミの電気は必ず買わされる 二酸化炭素削減のために再生可能エネルギーによる発電事業に参入したというのであれば、消費者に負担がかからない今年度の料金適用の案件に仕立てればよい。儲けるために事業に乗り出したのであれば、素直にそういうほうがきれいだ。あまり理屈の通らないようなことは言わないほうがよい。 固定価格買い取り制度の問題は、消費者は事業者を選択できないことだ。ワタミが嫌いでワタミの居酒屋に行かない人も、北海道に住んでいれば否応なくワタミの太陽光発電からの電気を受け取らざるを得ない。当然その買い取り価格も負担させられる。いま、電力自由化が政治の場で議論されている。大口需要家向けには自由化されている電力小売りを家庭向けまで全て自由化し、消費者が電力会社を選択できるようにしようという改革だ。 例えば、再生可能エネルギーが好きな消費者は、太陽光、風力などだけで発電を行う電力会社から電気を購入できるようになる。しかし、固定価格買い取り制度は自由化とは相いれない制度だ。自由化されても、消費者は固定価格買い取り制度に基づき20年間は電気を買わざるを得ない。自由化されてもワタミを断る選択肢はないのだ。 企業が高い収益をあげる事業に取り組むことは当たり前だ。しかし、「君子財を愛す。これを取るに道あり」との言葉がある。自民党国会議員のワタミ創業者には民主党時代に作られた事業者に有利な制度を利用することの是非を考えて欲しかった。ワタミにはシナジーがないエネルギー分野ではなく、本業の分野で消費者に役立つこと、環境を改善する活動を進めて欲しい。それは、数多くあるはずだ。

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    電力会社の“3%ルール”が障壁 太陽光や風力などは使い辛い

    ければなりません。逆に、多く供給しすぎた場合は、その電力は無料で電力会社に取られてしまいます。 再生エネルギーに注目が集まっていますが、 こうした規制がそのままでは、 太陽光や風力など、自然条件によって発電量が変動するエネルギーは使いづらいのが現状です。 電力の小売り自由化がスタートして10年以上が経過し、現在では総販売電力量の6割以上が自由化されているとはいえ、自由化対象の電力需要にPPSが占める割合はわずか3%台に留まっています。高い託送料金や電力会社に支払うペナルティなどは、電力小売り自由化と引き替えに作られた障壁なのです。 福島第一原発事故以降、電力業界が抱えてきた問題が明らかになりました。今後の電力業界には、サービスを充実させるための競争に向けた仕組みづくりが求められます。 電力会社やPPSが納得できるルールの下で競争し、顧客にもっと選択肢を与えるべき。少なくとも、消費電力をリアルタイムで把握するなど、自分が利用している電力について多くの情報を知ることで、電気の使い方が工夫され、省エネ、節電に結びつくことが理想ではないでしょうか。関連記事■ 発電所保有企業幹部「電力会社から電気買うのはバカらしい」■ 事実上発電ゼロの日本原電 利益93億円で平均給与は637万円■ 千代田区コンビニ 東電電気料金値上げで月の電気代5万円増加■ 電力足りている夏「わしは夏前から指摘した」と小林よしのり■ 関電 15%の節電が必要とされるも単純換算で余力はまだある

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    東電の口利きで電気料金格安になると大企業の関係者証言

     東京電力は4月1日から契約電力50キロワット以上の企業を対象に、平均17%に及ぶ一斉値上げを発表した。しかし、解せないのは、電気料金値上げで最も大きな打撃を受けるはずの大企業が、東電の値上げについて批判せずダンマリを決めこんでいることだ。経団連のトップである米倉弘昌・会長に至っては、「今の段階では(値上げは)やむをえない」と容認の姿勢まで見せてしまっている。 そこには秘密がある。1990年代の電力自由化によって、大口事業者向けは「自由化部門」とされ、電気料金は電力会社と顧客企業との相対契約となった。問題は、東電と各企業との契約である。その内容はまったく公にされていないが、東電と“親密な関係”にある大手企業だけが優遇され、電気料金も格安になっているというのである。 大手企業は一般家庭の30~40%程度の料金で電気を使用しているとの試算もある。 東電と企業との“特殊事情”で値引きされるケースもあるという。 米倉経団連会長は東電の経営問題について、「経営陣の経営態度が悪かったのではなく、大災害が原因」だとし、原発事故の補償については「国が全額賠償負担すべき」との考えを貫いている。 露骨な東電擁護だが、その裏には米倉氏が会長を務める住友化学と東電の間の“特殊事情”があると見られている。住友化学関係者が明かす。「化学業界は電力を大量に使うので、東電とは浅からぬ付き合いがある。東電は電力業界の中心にいるので、管内でなくともその影響力は及ぶ。ウチの場合、岡山県倉敷市にある主力工場の電気料金は、東電さんの計らいでうんと安くしてもらえている」 岡山県倉敷市は中国電力の管内だが、電力業界の“盟主”である東電の口利きで、電気料金を安くしてもらっているというのだ。 この疑問を住友化学にぶつけると、次のような回答があった。「個別な契約なので詳細についてはお答えできない。岡山プラントは中国電力から電気を購入しており、東電の口添えという事実はない。千葉工場は大半の電力を自家発電で賄っているが、賄いきれない時間、時期は東電から調達している。大口契約の割引は受けているが、特別安いかどうかは判断できない」(コーポレートコミュニケーション部) 東電にも同じ問いをぶつけた。すると、中国電力に対する「口利き」を否定した上で「東京電力と関係が深いという理由で電気料金に特別な便宜をはかるという事実はまったくありません」(総務部広報グループ)と回答した。また、東電管内における住友化学との契約についても尋ねたが、「個別の契約内容については回答を控える」として詳細を明かさなかった。 しかし、ある経団連関係者はこっそり打ち明ける。「米倉氏は2004年に経団連副会長に就任したが、当時の経団連は前評議員会議長だった那須翔氏や旧経団連元会長の平岩外四氏ら東電出身者の威光がまだまだ強く、いろいろ世話になったといっていた。もともと東電は常に経団連のなかで中枢的な地位を占めてきた。経団連に加盟している大企業と東電の間には、多かれ少なかれ“特殊事情”がある。東電批判が聞かれないのも当然だ」 東電は経団連のライフラインを握ることで、実質的に日本経済を牛耳ってきたのである。関連記事■ 東電6000億円過大見積り「大した問題ではない」と大前研一氏■ 東電と個別契約の大企業 電気料金は家庭の30~40%の指摘■ カタール企業に発電させれば日本の電気料金は激安にと大前氏■ 夜間新料金発表の東電 すでにもっと安い夜間料金制度あった■ 15%の節電には2000Wh減が目標 ひと夏で2640円の節約に

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    ソフトバンク電力小売参入、電力自由化のメリット・デメリットは?

    回線とセットで電力を割引購入するといったようなやり方が考えられます。大量の電力を安く使いたい人、自然エネルギーの電気だけを使いたい人など、参入事業者が増えてくれば、多様化するニーズにきめ細かく対応することも可能となります。 しかし電力を自由化すればあらゆる問題が一気に解決すると考えるのは早計です。電気料金が自由化されるということは、電気料金が大幅に値上がりすることもあり得るということを意味しています。日本は原発が停止した影響でエネルギーの輸入が増えているというイメージがありますが、実際はそうではありません。エネルギーの輸入金額が増大したのは、ほとんどがエネルギーの市場価格上昇が原因であり、輸入量はそれほど増えていないのです。将来、さらにエネルギー価格が上昇するような事態になれば、当然、電力会社は利益を確保するために容赦なく値上げを実施するでしょう。また自分が利用していた電力会社の経営が苦しくなり、電力事業を維持できなくなるという事態もあり得るわけです。さらにいえば、十分な数の事業者を確保できないまま無理に自由化を実施すると、トラブルが発生することも考えられます。米国では電力の自由化が以前から進められてきましたが、2000年にはカリフォルニア州で大規模な停電事故が発生しています。 しかしながら、地域独占にあぐらをかいていた電力業界に風穴が開くこと自体はよいことです。ソフトバンクのような事業者が多数参加し、十分な供給能力が確保されることが望まれます。また利用者も、自由化すれば無条件に料金が下がると考えるのではなく、選択肢が増えるということが自由化の本質的なメリットであることをよく理解しておく必要があるでしょう。(大和田 崇/The Capital Tribune Japan編集長)

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    「核のごみ」から目を背ける日本人

    いま日本には原発から出る「核のごみ」がどれだけあるのかご存じだろうか。福島原発事故以降、原発再稼働をめぐる議論は活発だが、既に生じた核のごみをどう処分するのか、この議論が決定的に欠けている感は否めない。日本人よ、もうこれ以上核のごみから目を背けてはならない。

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    核のごみの地下処分、一番のリスクは地下水

    原発のごみ、日本に埋める場所ありますか?2.地下環境とその機能(THE PAGEより転載) 日本科学未来館で2015年1月17日に行われた、サイエンティスト・トーク「原発のごみ、日本に埋める場所ありますか? ― 高レベル放射性廃棄物の地層処分」の全文書き起こしをお届けします。 日本ではこれまで原発を使用してきたことで核のごみである高レベル放射性廃棄物が大量に生まれていますが、その処分の手段を未だ持ち得ていません。本イベントでは地質学者の吉田英一氏を講師にお招きし、日本独自の地質現象を踏まえて、地層処分が可能な場所が日本にあるのかを科学的に見ていきます。 第2部は「地下環境とその機能」です。動画はページ内のプレイヤーでご覧いただけます(32分45秒~45分35秒)吉田:はい。で、先ほど出てきたウラン鉱床なんですけど、細かいこと言ってもあれなので、だいたい大きさは実はこれが2キロ×2キロぐらいの、そういう大きさで、堆積岩の中にできています。そして、今から約2000万年前のものなので、先ほどのオクロ天然原子炉っていう20億年のものに比べると、ずっとずっと若いですが、それでも2000万年前という、それくらいのものが形成されて、現在もそこに残っているという状態があります。 あと、そこからどういったものが得られるかと、またこのスライドのあとにお見せしますが、そういうものと併せて実際の日本の地下環境がどうなっているかっていうのの研究も、近くの瑞浪超深地層研究所っていうところでも行われています。ここでは地表から地下500メーターぐらいのところまで穴を掘って、そこで例えばどういう割れ目とか、どういう岩石がどういうふうになっているかというような研究がなされているということです。 ここで、じゃあ、そういったもので言える地下と、地下っていうのは何か、地下環境とは何かというと、基本は岩石、鉱物と地下水のみです。で、岩石はいろいろ皆さん安山岩、花崗岩とか、いろいろ昔聞いたことがあると思うんですけど、基本3つしかないです。火成岩、変成岩、堆積岩ね。これですね。そして地下は地下水が流れますので、その水みちとして、水が流れるのはどこかっていうと断層と割れ目と、微細な空隙と。こういう岩石の周辺にある微細な空隙ということですね。これらを調べることによって、どれくらいこの周辺、あるいはこういったところに元素が吸着するかとか、そういったことを知ることができると。 ちなみにそれを実際のものとして写真で見せると、例えば断層。これは花崗岩の中にできた断層なんですが、皆さんは断層というイメージ、どういったように持っておられるかっていうのはあると思うんですけど、断層っていうとぱかっと開くわけではなくて、断層っていうのはすりつぶしますので、ここに入ってるのはこういう粘土鉱物、粘土状のすりつぶされたようなものが詰まります。一方、割れ目っていうのは、逆に言うとこちらのほうがぱかっと割れる状態のものがありますので、こういうところに割れ目があって、それが開いたりしていると。  ちなみにこれ、地下の800メートルから採取した実際の割れ目と周辺の岩石、これは花崗岩なんですけど、これをお見せしますが。さらにその周辺の部分を岩石のマトリクス、基質というんですが、そこにも微細な空隙があります。こういったところにも地下水は入り込んでいるということです。 そこを、例えば割れ目においては、じゃあ、その割れ目の周辺はどうなっているかというと、これは水が流れる割れ目なんですが、そこを見ると岩石の周辺からこういう、なんて言いましょう。のこぎり状の鉱物、結晶が成長しています。ただ、これが全て開口しているかというとそうではなくて、中にはシーリングされているものもちゃんとあります。こういった開口している、していないっていうのが、どれぐらいの割合であるのかっていうのもちゃんと調べる必要があると。 そういったものを先ほどの瑞浪の超深地層研究所では実際の坑道を逐一、もうつぶさに見て、で、全ての割れ目を引っ張り出して、そこからどれくらいの割れ目が広がっているかとか、そういった研究もなされています。 その成果ですけど、最近やっと分かってきたのは、透水性割れ目っていうのは、水を通す割れ目っていうのは約1割ぐらいだと。これ花崗岩の事例ですが、そういったことが分かってきました。こういうのは実際、この目的のために研究しないとそういう成果っていうのは得られないと。実際地下に、鉱床も何もないところに穴を掘って、それだけのお金をつぎ込んでやるっていうのは、今回初めてやられてきているということですね。ただ、この割れ目の1割ぐらいだっていうのは、実はほかの研究事例でも得られてはいるんですけど、今まではそれを具体的に提示したことはなかったということですけど、こういうのが初めて地下研究の事例からも分かってきているということです。地下水とともに流れて拡散することが一番怖い地下水とともに流れて拡散することが一番怖い じゃあ、実際そういう割れ目の周辺からどういう物質、元素の移動が起こっているのかというものですけど、これは割れ目の周辺にこういう、おそらく皆さんも石材とかで見たことあると思うんですが、こういう染みになったようなもの。ここが割れ目があるんです。これは、ここから元素が岩石の基質のほうに移動しているっていうことが分かったもので、そこの部分の岩石の状態も、こういうふうに色が変わったりしています。 で、ここの部分を割れ目からどういうふうに元素が移動しているか、特に先ほどもお話をしました、ウランっていうものに着目してみると、割れ目から岩石の中に入るに従ってウランの濃度が高くなって、一番ウランが濃集しているのはこの赤い部分の先端の部分なんですね。岩崎:先生、ちょっといいですか。ここに今、割れ目があって、さっき縦に割れ目が出ていましたよね。吉田:ああ、そうですね。ちょっとこれを。岩崎:で、ここ、さっき、前の写真で縦に割れ目があって、左右に色が変わった部分があって、ここで地下水が。吉田:そうです。ここを地下水が流れていって、こっちからも浸透して。岩崎:こう、浸透していっているという。皆さん、図、分かるでしょうかね。吉田:なんでこんなことをやっているかっていうと、将来、もし、放射性元素が溶けた地下水が岩石の中を流れるとなると、こういう割れ目を通るはずです。この割れ目を通りつつ、周辺にどれくらい拡散してって、この周辺がどれくらい放射性元素を吸着してくれるのかっていうことを知っておく必要がある。あるいは、もしこれを吸着する力がないんであれば、それは、やっぱりここを通る放射性元素がより遠くまで流れていってしまうことになると。 その辺の割合、量、それを働き、機能と私は言っているんですが、吸着量っていうのを岩石ごとにちゃんと認識しておく必要があるだろうと。それは最初の岩崎さんの質問じゃないですけど、果たして日本で処分することが可能なのかどうかということの、いわゆる1つの科学的データ、裏付けにもなる。 で、もしこういう吸着量がないんであれば、なかなかそれは地下では処分できないよねと。でも吸着ができるんであれば、それは岩石もそれだけのバリア機能っていうのをちゃんと持っているんだよねっていうことが理解できるということですね。 そういう意味で、これで見ると、この先端の部分では、先ほどの鉄酸化物、赤茶色い鉱物なんですけど、そういったところにウランが濃集している箇所というのが見受けられるということですね。そういう現象っていうのが、ちゃんと岩石の中にもありますので、もしこういうところをウランが流れてって、地下水とともに流れてって、広がった場合には、こういった酸化物とかがあれば、こういうところに吸着されることになると。 じゃあ、地下の中って酸素がないのに酸化物ってあるのかっていうことなんですけど、これらを放射性元素が流れる前に、もし放射性元素が流れるとなると、先ほど言っていた鉄のオーバーパックっていうのは溶けているはずですね。で、オーバーパックが溶けてどこを流れるかっていうと、オーバーパックもここを最初に流れているはずなので、そうするとこの流れている周辺には、鉄の酸化物も広がっている可能性があります。となると、鉄の酸化物が広がったあとに、地下水に溶け込んだウランとか放射性元素が流れることになりますので、こういった天然の事例は鉄酸化物があっても、それは吸着材として働くということを示してくれているということです。 で、同じように堆積岩の中、これは先ほどの示したウラン鉱床の話ですが、これも白い部分、これが実は岩石の、これは堆積岩ですけど、白い部分の中にウランが濃集しています。どういったところにウランが濃集しているかっていうと、皆さんも知っていると思うんですけど、黒雲母っていう鉱物、黒い、薄く割れる鉱物の中にウランっていうのはより、あるいは放射性元素っていうのは、より吸着しやすいっていうことが分かってきています。 この黒雲母とかいう鉱物は岩石には非常に、普遍的に入るような鉱物です。今、回している岩石試料の黒い部分、そういったところが鉱物です。そういう意味でも、こういう鉱物があるから2000万年間もウランが堆積岩の中に保持されてきているっていうことが言えるということになります。 もう1つの、今度は地下水の話ですが、地下水は、じゃあ、地下は地下水として動くだろうということですけど、確かに地下水は動くんですが、実は地下水は最終的には海面のレベルに向かって地上から、いわゆる山の高いところから流れてくることになります。例えば2点間の部分を調べると、勾配が高ければ高いほど、角度があればあるほど地下水って流れやすくなりますね。ところが海面をゼロメーターで、基準で考えた場合に、それよりも深いところに地下坑道を造れば、地下水の流れっていうのは基本的に非常に遅くなることになります。ちょうどお風呂の中に入ってるような状態ですね。 そういう地下水の流れの動きを利用して、実は今、瀬戸内海の海底下には液体ガス、LPGっていう、例えばガスコンロで使うコンロのカートリッジですね。あれにはしゃかしゃかと振るとその液体が入ってますが、それを地下の岩盤の中、花崗岩の中にそのまま保存しようという仕組みがあります。この深さは海底下、瀬戸内海の海底下200メーターぐらいなんです。この上は瀬戸内海ですね。 で、岩盤の中に、大きさとしては400メーターで、高さが25メーターとか、40メーターというものですけど、これ、掘削途中のものですが、こういう状態。で、この周辺はコンクリートを若干吹き付けていますが、基本は花崗岩っていう岩盤の中に、地下水のある岩盤の中に気圧を高めることによって気体を液体にして保存すると、そういう仕組みがあります。 これも要は地下だから水が動きやすいから駄目だということではなくて、地下の海底下、あるいは地下の深いところであれば、水があっても、その水の流れっていうのは非常に遅くなって、その圧力でもっていろいろなものが保存できるような状態っていう働きっていいますか、物理的な状態も作れるということですね。実際、放射性廃棄物は個体でそこに廃棄体を入れますので液体とかいう状態ではありませんので、そういう地下には物性っていいますか、それが備わっているという事例として、ちょっとお知らせしました。 最後に皆さんがちょっと関心のあるところと思いますが、じゃあ、その処分の環境、場所はあるのかということについてお話をしようと思いますけど。岩崎:はい。まずここまでで地下ってどういうところなのって、地下ってどういう機能が持っているのって、お話があったんですが、ちょっとあれですね。結構多くの内容が、ばっと詰め込まれていたので理解がなかなか追いつかないところもあるかもしれませんが、一番怖いのが地下水に触れて、それが地下水とともに流れて拡散していってしまうということが、地下のリスクとしてあって、ただ、流れる道にある岩石の種類とか、岩石の機能というものがあって、吸着する岩石の機能と、吸着したままそれを拡散させないようにしているというところもあるので、その岩石がどういう種類だとどういう性質を持っているか。それを日本の岩石で見ていくということが非常に重要だというお話だったかと思います。 で、いよいよ、では日本で処分場を選ぶとしたらどういう条件が必要なのかというところにお話を移していきましょう。■ 『処分場選定にどういう条件が必要か』につづく

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    核のごみ、処分場選定にどういう条件が必要か

    原発のごみ、日本に埋める場所ありますか?3.処分場の選定条件は?(THE PAGEより転載) 日本科学未来館で2015年1月17日に行われた、サイエンティスト・トーク「原発のごみ、日本に埋める場所ありますか? ― 高レベル放射性廃棄物の地層処分」の全文書き起こしをお届けします。 日本ではこれまで原発を使用してきたことで核のごみである高レベル放射性廃棄物が大量に生まれていますが、その処分の手段を未だ持ち得ていません。本イベントでは地質学者の吉田英一氏を講師にお招きし、日本独自の地質現象を踏まえて、地層処分が可能な場所が日本にあるのかを科学的に見ていきます。 第3部は「処分場の選定条件は?」です。動画はページ内のプレイヤーでご覧いただけます(45分35秒~1時間10分30秒)吉田:はい。それで、この長期的な安定な場所。じゃあ、地下の状態は分かったよと。それはバリア機能もあるかもしれないと。でも、それ自体がひっくり返ったり断層で壊れたり、あるいは火山が噴いたりしたらどうすんの、それ自体が隆起したらどうするの、それも、もう皆さん、あるいは私自身も含めて、そこもちゃんと把握しておく必要のある部分でしょうと。 そういうのを現在、ここにちょっと書いてありますが、日本列島と地質環境の長期安定性という形で書いてありますが、実はこの、今、地質図を見せていますが、こういう、あ、引っくり返してもらったほうがいいかもしれないですね。マップ、データをまとめたものが日本の地質学会から出されています。これは一般の方も購入することができます。 これは何かっていうと、日本の実際の地質状態がどういったものなのかっていうのをまとめたものっていうか、できるだけ分かりやすく、現在の最新の知見等に基づいてまとめたものです。日本はご存じのように、プレートが沈み込んで、こういうフィリピン海プレートとか、あるいは日本海プレート、そういったものがこちらのユーラシアプレートの下に沈み込んでいる。 で、それこそ今日も神戸の地震のちょうど20年の節目っていいますか、日に当たりますが、例えば福島の地震なんかも基本的にはこういうプレートの運動によるものっていうことが分かっているということなんですけど、そういった現象から、日本の実際の状態、例えば地層処分に影響を及ぼすものは何かということを考えたときに、地質、活断層、隆起沈降、火山活動と、そういったものの状態を把握しておく必要があると。 それが、例えば地層処分であれば地層が古いほうがいいでしょうと。あるいは活断層であれば、それはサイトにはないと。で、隆起速度はもちろん遅いほうがいいと。10万年後に地表に出てきてもらっては困りますので。そして火山活動もやっぱりないほうがいいと。そういった状況のものが、いわゆる日本に存在するかどうかということですよね。 それを、そういう観点から見たときに、例えば日本列島の地質であればこういうふうに、ちょっと色がパッチ状に表せていますが、どこにどういう地層が、古い地層があるのかっていうのはちゃんと分かっています。で、これはもう日本の地質調査、明治時代から地質調査の積み上げで分かってきていますので、そこにはやっぱり200万年前よりも古い地層っていうのが、どういうところに分布しているかというのも分かる。日本も意外と古い地層はあって、一番古いのでは4億年とか、そういった地層もあります。 そういう地層がやっぱりどれくらいの広がりで、どういうふうにあるのかっていうのが分かっていますので、それらが次の、例えば今度は隆起しているか、してないか。で、これも隆起量のマップっていうのが、現在の測地で、データで、まだ完全にデータがそろいきれてないところもありますが、かなり分かってきていると。 それを見たときに、例えば10万年間で30メートル以下のところで示すと、これくらいあるんですが、10万年、基本的には300メートルっていうふうに言っていますので、もっと500メートル、800メートルっていうふうに深くすれば、さらに隆起しても可能な場所っていうのは広がることになります。 あるいは活断層があるかないかということですね。今、活断層もいろいろな観点で注目を得ていますが、どこでもここでも全て活断層があるっていうことではなくて、その偏りがあるということですね。 先ほども言いましたが、プレートはこちらとこちらから押されていますし、そのときにこういう例えば活断層の、いわゆる分布の形態とか、そういったものがどういうふうに配列しているかとか、そういった傾向も分かってきています。もちろんこれが全ての日本の地表にある、あるいは確認できている活断層ではないというふうにも言えます。それはある場所がもし選定された場合に、さらに詳細な調査を行うというのは、もちろん重要なことになります。 そして、地温勾配とか火山フロントということなんですけど、これは何かっていうと、日本の火山列島の配置っていうのも、実は偏りがあります。これはどうしてかっていうと、こちらからプレートが沈み込みますので、実はそのプレートの沈み込みに従って、ある地域、ある線から日本海側でしか火山っていうのは発生しないということも分かっています。この線上の配列のこの部分のところを火山フロントというふうに言っています。ちょうどフロントガラスのようなフロントになっているという意味ですね。 このフロントに応じて、実は赤い、あるいは黄緑とかいうところは、地温が高いところです。地温っていうのは地面の温度ですね。これは温泉地域とも一致していると。で、東北日本とかにいい温泉場所とか、そういったものが多いのは、こういう地下の状態によるというものです。 こちらが実は火山を、地温の低いところと火山をクローズアップしたものですが、基本、もし15キロっていうと、どれくらいは排除しないといけないかっていうと、この円がちょうど直径15キロになります。こういうところはやっぱり選べられないということですね。ただ、青いところは地温の低いところなので、そういう地域はもちろん火山があるところは地温が高いので、白いところになりますが、そうでないところは青い、地温の低いところだということになります。 で、そういう意味では、これらの知見を踏まえた上で科学的に選定するっていうことは可能であろうと。これはより安定、より地温の低いところって、そういう意味で、それが最終的にベストかどうかっていうのは、またその地域に行って調査・研究をする必要があると。ということで、そういう意味では日本の状態は地質が古いとか、活断層がないとか、火山活動がないとか、そういう隆起速度が速い地域ではないというような知見も踏まえて、重要なことは日本の地質は不均一だということです。どこもかしこも同じように火山が噴くわけではなくて、火山が噴くところは決まっていて、それは過去500万年間とか、そういったオーダーで、もう予測する、予測というよりは調べられているということですね。 あるいは地温とか、あるいは地質の分布とか、そういったことも分かっているので、そういった認識を経た上で、やっぱり日本の場所でどういうところが最初に言った地層処分場も踏まえた上で、広さも踏まえた上で適切な場所と言えるのかっていうことのサイト選定はできるだろうと。「処分できない」という知見に出会ったことがない「処分できない」という知見に出会ったことがない ちょっとまとめますが、地層処分っていうのは、最初にお話ししましたが、オクロの天然原子炉、アフリカのガボン共和国のことも含めて、実際は自然に学んだ方法だと。で、地下の状態もバリア機能っていうのは一応存在しそうだと。あと、日本の地質環境も不均一性があるので、その生い立ちはちゃんと理解しうる状況にあるということで、そういう意味では日本の地下環境に合致した選定は可能であろうと。 逆に言うと、最初に私は、だから、日本で地層処分ができうるのかっていうことの疑問に立って、今ももちろんやっていますが、やる中で、これは処分できないなっていう知見に出会ったことが、今までは正直言ってありません。 それはもちろん活断層とか、火山の場所は駄目ですよ。あそこはできません。あんなところに入れるっていうんであれば、それは絶対反対します。ただ、そうでない場所を選定した残りの場所で、もし適切にやる、まあ技術もあります。地下に、海底下に液体を保存する技術もわれわれはある。 あと、今からだと例えばリニアもそうですが、80%、90%トンネルであるというような状態のリニアを造る技術もあると。そういう技術と併せた上での選定と実施っていうのは、今の私の認識においては可能かなというふうには考えます。ただし、それが将来においてもどうかっていうことは、常に技術としては追っていく必要はあるだろうというふうには思います。ちょっとオーバーしてしまいましたが。岩崎:はい。ありがとうございます。吉田先生は日本の地質環境の評価研究に関しては第一人者でいらっしゃいますので、その最新の知見も示しながら、今日は皆さまにお話をいただいたんですが、結構専門的なお話の部分も入ってきたり、それが結構たくさんの内容が紹介されたので、なかなか、まだちょっとそこのところがよく分からなかったなっていう部分もあるかと思います。 残り時間が少なくなってしまったんですが、まずは今、お話しいただいた内容の中で先生に質問したいことを、会場の中でどなたか聞きたい方いらしたら挙手でお願いしたいと思うんですけれども、いかがでしょうか。今、お2人挙がっていますので、じゃあ、先に、はい。ごめんなさい。時間が短いので手短かにお願いいたします。A:貴重な講演ありがとうございます。とても分かりやすかったです。先ほど割れ目の地層とかが、なんて言えばいいのかな。割れ目とか、あと断層とかの、流れてる地点や、そこについても、そこの周辺の地層の特性についてもしっかりと研究していかなくてはいけないとおっしゃっておりましたが、それを確かめる方法というのはどのようにすればいいのでしょうか。岩石はエックス線とかそういうものは基本的に通さないと聞いたんで。吉田:地下の状態を調べるっていうのは、まずボーリングっていって穴を掘りますよね。そうそうそう。それで出会った割れ目とか、そういうのが分かるので、そういったものの特性を調べつつ、この岩体、まあ地層には、どういう割れ目があるか。どういうふうにしてできて、それがどういうふうになってるかっていうのが、だいたい分かるということですね。 ただ、最終的に細かいことを調べるためには、やっぱりそこに、穴、穴っていうか、実際の地下を掘って。そうですね。そういうのを段階的に調査することによって、その地域の地層とか岩体を調べることができるということです。A:ありがとうございます。岩崎:ありがとうございました。ではもう一方、手を挙げていたのでお願いいたします。B:すいません。2つございます。1つは先ほどの直前のスライドで火山から15キロ以内は駄目だとおっしゃってましたけども、例えば活断層とか、地震とかいうのがよく起こると考えられるようなところがありますね。そこもやっぱり避けるべきじゃないでしょうか。吉田:はい、はい。B:それが第1点ですけども。吉田:はい。まず断層からどれくらい避けるべきか、特に活断層からどれくらい避けるべきかっていうことについてはおっしゃるとおりで、活断層によって岩石が動いたことによって、岩石が壊れている範囲っていうのがだいたい分かりますので、その地域は避けると。 今、ただ、断層は全ての断層が同じ性質かっていうと、それは違いますので、一概には言えないんですが、基本、だいたい断層の長さの100分の1ぐらいのところ、100分の1。断層の長さの100分の1。例えば10キロだと100メーターぐらいですね。それくらいの範囲が壊れているので、そういった地質調査の結果も分かっていますので、そういうところは避けるっていうふうに考えているということですね。 それと、もう1つはなんでしたっけ。あ、地震動ですね。B:地震が起こりそうな場所ですね。吉田:で、地震動については、揺れに関しては、地下のほうがより揺れは減衰といいますか、少なくなります。というか、最終的には全部埋め戻します。ですので、埋め戻した状態っていうのは、あるパックの状態になりますので、極端な話、全部を詰めた状態でいくら揺らしても壊れませんよね、中身はね。 地表にあるものは、いわゆる空間として空いているので、どうしても地上にあるものは壊れてしまいますが、地下に全部パッケージとしてなっているものは、周辺が揺れても、それはそのままとして残るということです。B:直下型地震で、過去最大のものがきても大丈夫だということですね。吉田:直下型地震で、例えば、もう処分場が分断されるというような状態になったときに、じゃあ、それがどれくらいの、処分場をどういうふうに横断するか、そのときに1回の、例えば断層でもって、もしそういう最悪なケースが起こったとして、ですよね。 さっき言っていた2キロ四方の処分場が切れる範囲とか、そういったものを計算したりすることはできますので、ただ、それであっても、極端なことを言うと、さっき言っていた2万本とか、そういったものが全てが壊れるわけではないので、線上に切ったとこで、例えば数十本とか、そういったものが切れたとしても、壊れたとしても、ガラス状になっていますので、それがすぐ溶けるっていうことはあり得ません。 要するにまずはガラスがどういうふうに溶けるかっていうことが重要になってきますので、そのガラスの溶解速度っていうんですけど、溶ける速さに基本的には制限されるということになります。B:すいません。2番目の話が今出ましたんですけど、処分場の広さですね。それは現在もうすでに発生をしておる、2万5,000本分に対して2キロ四方。吉田:2万5,000本分より若干。そのときの計算は、今も原子力発電所は今、止まっていますので、福島の稼働、福島が起こる前は、原子力発電はだいたい二十数%から30%がやっていましたよね。で、それがずっと継続するという考えのもとで、2030年とかそれくらいまでのときの広さとして考えていますので、この2キロ×3キロ四方はですね。B:じゃあ2万5,000本よりも少し多いということですね。吉田:であればもうちょっと狭くなる。そうですね、だいたい4万本ぐらいを想定したときの広さだっていうふうに今、認識していますが、そうであってもそんなに、じゃあ2キロ×3キロが、いきなり500メーター×500メーターになるかっていうと、そういうことはないと思いますので、およそだいたいこれくらいの広さが必要だというふうにはなると思います。B:分かりました、ありがとうございました。岩崎:ありがとうございます。ここでせっかくなので、ニコニコ生放送を視聴の皆さんから寄せられたコメントの中からもいくつか質問を先生にしてもらいたいと思うんですが。お願いします。未来館スタッフ:はい。ニコニコ生放送から任意でコメントをお寄せいただきまして、ありがとうございます。質問は特に大きなものは来ていないんですけれども、いくつかコメントが来ておりますのでそれをご紹介したいと思います。まず、やっぱり安全な管理場所というのはやっぱり地上で、建物内で見えるところにあって、見えたところで保管したほうが安心じゃないのかというご意見が複数寄せられておりました。 それから、1万年後というようなタイムスケールで考えると、国が存在しないというようなレベルの未来なので、そういう将来世代に対してわれわれが何かの行為をするということは許されるかというご意見。 それからやはり掘り出してしまうと危険ですよねと、温泉というのはやっぱりまだそのときもあるだろうから、そういう業者がぶち抜くっていうことが起きるとどうなるんだというようなことで、そこのところは今、お答えいただけますでしょうかね。誰かが掘ってぶち抜いたらどうなるのかっていうところですね。吉田:今おっしゃられた部分で、例えば温泉だけでなくて資源はそうですよね。今、鉱山っていうのは日本で非常に稼働は少ないですが、石炭とか、石油は若干、新潟とかあっちのほうにありますけど、昔、鉱山として稼働していたところ、あるいはその周辺、あるいはそういった可能性のあるところは、やっぱりこれも排除されることになると思います。要は、それだけの資源を将来の世代が活用する可能性は当然あるわけなので、それは今、知る限りの地質学的な情報に基づいてたぶん除外される。 あと温泉もそうですが、温泉自体の出るところは先ほど言ったように地温勾配の高いところなので、地温勾配っていうのは100メーター地下に行ったときに何度上昇するかっていうところです。で、実際、温泉が出るようなところは、地下だいたい100メーターで5度も10度も上がりますので、そうすると300メートル以上になると、そこで作業する人たちはほとんどサウナの状態の中で作業するっていうようなことにもなりかねませんので、そういう場所はおのずと排除されることになるということで、温泉に関してもその可能性は低いんではないかというふうに考えます。 もう1点はなんでしたっけ。地上に置くか、地下に置くかっていうことですよね。これはよく、いろんなところでもご意見をいただきます。ここから先は私の本当に個人的な意見ですが、1万年後に今の日本っていうか今の世代、社会自体がどうなっているか私には予測はできませんので、一方で私は地質学者ですけど、地下は1万年後も今の状態であり続けるとは言うことはできます。 なので、私は地上か地下かって言われたら、将来世代の社会像が見えない地上よりは、予測のできる地下に処分することのほうが安全、安心だというふうに思います。ここはもう完全な私自身の個人的な意見なので、それについては個人的に議論していただければというふうには思います。未来館スタッフ:はい、以上です。ありがとうございます。岩崎:はい、ありがとうございます。今、社会の話とか、それから未来世代の責任といった倫理の話とかっていう論点もどんどん入ってきたんですが、このあと希望者の方には残っていただいて、もっと幅広い視点で地層処分っていうのを考え、意見を交換するという場を設けておりますので、お時間があるという方はさらに残って自分の思いを伝えたり人の意見を聞いたりということで、ぜひご参加ください。 どうしても今日のお話の中でまだ聞いておきたいことがあるっていう方、いらっしゃいますか。もし個別に先生に聞きたいということであれば、そのディスカッションが終わったあとで、少しでしたら先生にもお時間を取っていただけると思うので、そのときにもお聞きください。それでは、ここまででニコニコ生放送の配信とイベント本編を終了とさせていただきます、本日はサイエンティスト・トーク「原発のごみ、日本に埋める場所ありますか?」にご参加いただき……。 失礼いたしました。私、1つ重要なものを飛ばしてしまいました。終わったあとにお聞きするっていうお話をしておりましたね。ごめんなさい、終わりかけたところでもう一度戻してしまうんですが、始めに聞きました質問、「原発のごみ、日本の地下に埋めることはできると思いますか?」。お話を聞いたあとであらためてお聞きするとして、どうなるかっていうのをちょっと見ていきたいと思います。 まず会場の皆さんにお聞きします。最初と同じ3択です。あると思う、ないと思う、分からない。よろしいでしょうか、皆さんもう答えは決まりましたでしょうか。では、お聞きいたします。できると思う方。11。ありがとうございます。できないと思う方、ありがとうございます。7。では、分からないという方、ありがとうございます。12、はい、ありがとうございます。 最初に採ったときはできると思うが7、できないと思うが13、分からないが12でした。今数えたところ、ちょっと人数の変動あると思うんですが、できると思うが11、できないと思うが7、分からないが12ということで、まだまだ分からないという方がたくさんいらっしゃるので、その分からないでいる理由なんかもこのあとのディスカッションのときにぜひお聞きできればと思っております。 ちなみに、ニコニコ生放送を視聴の皆さまの結果はいかがだったでしょうか。未来館スタッフ:はい。ニコ生のほうは、思うが48%、思わないが35%、分からないが18%ということで、約半分が思うという感じになっております。岩崎:はい、ありがとうございます。視聴者の皆さんだと、結構最初と比べて数値が変わっているなんていう傾向もありましたね。では、分からないというお答えになった方もぜひこのあと引き続き議論にご参加いただいて、分からない気持ちなんていうのを皆さんと一緒に明らかにしながら、地層処分というのを幅広い視点で見つめていきたいと思います。 それでは、以上をもちましてサイエンティスト・トーク「原発のごみ、日本に埋める場所ありますか?」を終了とさせていただきます。ニコニコ生放送をご視聴の皆さま、どうもありがとうございました。そして、会場にお越しの皆さまもどうもありがとうございました。吉田先生に拍手をお願いいたします。

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    核のごみ、なぜ地下に埋めるのか?

    原発のごみ、日本に埋める場所ありますか?1.なぜ地下に埋めるのか(THE PAGEより転載) 日本科学未来館で2015年1月17日に行われた、サイエンティスト・トーク「原発のごみ、日本に埋める場所ありますか? ― 高レベル放射性廃棄物の地層処分」の全文書き起こしをお届けします。 日本ではこれまで原発を使用してきたことで核のごみである高レベル放射性廃棄物が大量に生まれていますが、その処分の手段を未だ持ち得ていません。本イベントでは地質学者の吉田英一氏を講師にお招きし、日本独自の地質現象を踏まえて、地層処分が可能な場所が日本にあるのかを科学的に見ていきます。 第1部は「なぜ地下に埋めるのか?」です。動画はページ内のプレイヤーでご覧いただけます(0分0秒~32分45秒)岩崎:それではこれより、サイエンティスト・トーク「原発のごみ、日本に埋める場所ありますか? ―高レベル放射性廃棄物の地層処分」を進めてまいります。本日は日本科学未来館、そしてこのイベントにようこそお越しくださいました。それから、ニコニコ生放送の中継をご覧の皆さまも、ご視聴ありがとうございます。今日、これから司会進行を務めます、当館の科学コミュニケーターをしております、岩崎と申します。皆さま、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございます。 今日、講師としてお招きしている先生をご紹介いたします。名古屋大学教授で、地質学者でいらっしゃる、吉田英一先生でいらっしゃいます。皆さま、拍手でお迎えください。先生、よろしくお願いします。先生、じゃあ自己紹介をお願いいたします。吉田:今、紹介にありました吉田といいます。名古屋大学で地質学を専攻といいますか、専門にしております。ここに書いてあるような状況ですが、もう大学からすでに25年ほどこの地層処分に関連するような研究をずっとやってきています。そのなれそめといいますか、そういったものもこのあとちょっと簡単に紹介できたらと思っておりますが。 今日は、タイトルは非常に堅苦しいことではありますけど、できるだけ皆さんに分かりやすくお話ししたいということと、もう1つは、私は別に推進派でも反対派でもなくてっていいますか、皆さんを今日、説得するために来ているとか、そういうものでもまったくありませんので、できるだけその辺は客観的に皆さんとコミュニケーションできて、で、逆に言うと何が分かって、何が分からないのかが皆さんと共有できれば、皆さんと私のあしたからの研究の題材にも反映できますので、その辺は率直に1時間プラス、議論の時間もありまして1時間半ほどありますが、お付き合いいただければと思っています。よろしくお願いします。岩崎:先生、ありがとうございました。それでは本日の内容をお示しいたします。本日3つのテーマに分かれておりまして、まず最初に「高レベル放射性廃棄物と地層処分」ということで、なぜ地下に埋めるのかというお話をしていただきます。その後、「地下環境とその機能」。地下っていったいどんなところなの、っていうのがありますので、地下の岩石の放射性元素の吸着や保持といった、地下が持つ機能についてお話しいただきます。そして最後に、「日本には、長期的に安定な地下環境はあるのか?」ということで、ご存じのとおり日本は地震が多く、火山も多いという地質学的な状況がある中で処分場の選定をするための条件としては、いったいどんなことが挙がるのかというところをお話しいただきます。 で、お話に入る前なんですが、今、皆さん、お話を聞く前の現時点で率直にどのように思っているのかというのをアンケートでお聞きしたいと思っています。こちらにあります。「原発のごみ、日本の地下に埋めることができると思いますか?」。これに対して、今、どのようにお考えかというのを、これから3択で手を挙げてお答えいただきたいと思います。できると思う。できないと思う。今の時点では分からない。この3つのうちのどれかに手を挙げてください。 お考えはまとまったでしょうか。では、聞いてきますね。できると思う方。ちょっと数えさせていただきます。ありがとうございます。7名、いらっしゃいます。ありがとうございます。では、できないと思う方。ありがとうございます。13。はい。ありがとうございます。今の時点で7名と13名いらっしゃいました。では、分からないという方。一番多いでしょうか。ありがとうございます。12、はい。ありがとうございます。ということで、会場で聞いたところ、あ、ごめんなさい。進んでしまいましたね。はい。 できると思う方が7名、できないと思う方が13名、分からないとお答えになった方が12名いらっしゃいました。ちなみに、同じ質問今、ニコニコ生中継の皆さまにも聞いているんですが、結果って出ていますか。教えていただいてもいいですか。未来館スタッフ:はい、こちらからレポートいたします。思うが24%。岩崎:24%。未来館スタッフ:はい。思わないが47%、分からないが29%と。だいたい3割が分からないと。5割弱、思わないと。思う方は4分の1というぐらいという感じですね。岩崎:はい。ありがとうございます。という結果が出ていましたが、のちほど話を聞いていただいたあとで、また同じ質問を皆さまに聞いてみたいと思います。 それではいよいよお話に入ります。まず、一番初めの「高レベル放射性廃棄物と地層処分 なぜ地下に埋めるのか?」というところで先生にバトンタッチをしてお話をいただきます。先生、よろしくお願いいたします。吉田:はい。では、話のほうに入りたいと思います。私も、大学で大学院生とか学生にその授業をしていますので、話としてはどちらかというと、あちこち飛んだり、横道にそれたりはするんですが、今日は時間も限られていますので、できるだけそういうことのないように努力したいと思います。 あと、ここにタイトルをいただきましたが、「日本に埋める場所ありますか?」ということなんですけど、なぜ私がその地層処分のことを25年もっていうか、大学院のときに、名古屋大学で地質学をやって、それでこちらのほうの研究に移ったかっていうことなんですけど。ちょうど私が大学院のときにあった事件が、チェルノブイリの事故でした。その事故のときに、結局そのチェルノブイリは石棺といいますかふたをして、今はそれが地上にずっと残っているという状態で、結局その周辺、半径30キロぐらいでしょうかね、そこは未だに住めないとか、そういう状況が今も続いているのではあるんですけど。そのときに、やはり、すでに放射性廃棄物っていうのはあって、それをどうするのかっていうような研究、あるいはその議論っていうのはもうすでにされていました。 で、そのときの私の恩師といいますか、先生が、「君、吉田くんね、地質学をやる、なんのためにやるんだろう、よく考えたほうがいいよ」っていうことを、そのときに薫陶をいただいたっていうのを今でも覚えてますが、正直言って私のモチベーションはそこにあります。今、岩崎さんからもちょっとありましたが、日本で地層処分をする。本当にできるんだろうかっていうのを自分で知りたいというのが正直に、そのときから今もこの研究をやっているモチベーションになっています。 で、極端なことを言うと、私はたまたま地質学をやっていましたが、要は自分でやっぱり判断したい、あるいは自分で何が分かればそれが理解できたと言えるのか、あるいは何が分からないことが問題なんだろうかということを、やっぱり知りたい。あるいはそれを研究して、できれば分かっていることは論文とかそういったものを著して、そして皆さんと共有化していきたい。それがもう1つのモチベーションになっているということです。 そういう中で今日、話の中身は、全てをお話しすることはできませんが、これまでの研究の内容とか、日本の地層、地質ってどうなっているのかとか、自分がこの25年間、30年間ぐらいかけて分かってきた部分。あるいは私だけではないですけど、私の同僚や共同研究者ともやってきて、分かってきたことをベースにお話をします。なので、それでもし、分からない部分もあるかもしれませんが、そういった部分は質問の時間とかそういうときにお話、あるいは聞いていただければと思います。岩崎:今日、終了後に10分ほど質疑応答の時間を設けていますので、分からないことがありましたら、ぜひそのときにお聞きください。ではお願いいたします。地層処分はどういう仕組みなのか地層処分はどういう仕組みなのか吉田:はい。ありがとうございます。で、それで早速じゃあ、中身に入りますが、先ほど岩崎さんからもちょっとご紹介ありましたけど、地層処分というのはどういう仕組みなのかということですが、ここにありますように、まずはガラス固化体、これが一番のその、放射性廃棄物に当たるものです。 で、ガラスの中に放射性、いわゆる核燃料ですね。使用済み核燃料の中から、もう使えない放射性物質、元素、例えば、放射性元素は何を今、発熱の原料に使っているかというとウランです。皆さん、ウランっていうのは聞いたことがあると思うんですね。で、ウランをこの原子力発電所で核分裂させたときの熱を使って、水蒸気を作って、それでもってタービンを回して、電気を起こしていくと。 で、核分裂をさせますので、あとでもちょっと話をしますが、ウランが分裂するともう、ウランではなくなるので。で、要は廃棄物になってしまうわけですが、核燃料の中に使われているウランが、全て100%分裂するわけではありません。分裂するウランと、分裂しないウランというのがあります。その辺もあとで、簡単にですが仕組みはお話しします。 その分裂したウランを取り出す。それが実は六カ所村っていう青森県の再処理工場でおこなわれていることですね。そこで再処理して取り出す。取り出すときは核燃料を、硝酸溶液に溶かし込まして、その溶液の中で、要らない、使えない放射性元素をガラス、このホウケイ酸ガラスというものと混ぜ込んで、そしてガラス化します。それが高レベル放射性廃棄物です。 実は今、ここにそのホウケイ酸ガラスを持ってきてます。これはもちろん放射性元素が含まれてないものですね。で、これを溶かします。溶かしたものに先ほどの放射性元素を混ぜ込んで、そして冷やして固めるというものです。非常に固いもので、だいたい数百度で溶けるんですが、皆さんにお回ししますので、どんなものかちょっと見ていただければと思うんですけど。 で、これは、シリカをベースに。ガラスですので、シリカがベースになった物質ですね。ですので、地下にそれをそのまま持っていって、持っていくこともできますし、要するにそれが冷えて固まれば、それがすぐに溶け出すとかいうこともあり得ないっていうか、ないというものですね。 で、それを、このキャニスターという容器の中に入れといて、さらにそれをこの鉄の容器、これ、オーバーパックといいます。で、オーバーパックの中に入れたものを、さらに地下に持っていって、こういう縦穴、今、これ縦穴ですけど、横穴にするか縦穴にするかまたその都度考えないといけないですが、これは一応、縦穴方式といわれるものの中で、ここにガラス固化体、そして金属の、鉄製のオーバーパックがあって、そして周りをさらにベントナイトっていう粘土鉱物なんですが、それで覆ったものが300メートルよりも深い場所に埋設処分されるという、こういう仕組みが地層処分というふうにいわれるものです。 ちなみに、なぜガラスを使うのかとか、なぜ金属、鉄を使うのかとか、なぜ粘土、いわゆるベントナイトを使うのかっていう、これも実は理由があります。ガラスは先ほども言いましたが、まずは地下水っていうか、水に溶けにくいという性質ですね。で、地下水は、皆さん温泉に行ったりすることもあると思いますので分かると思いますけど、ガラスはアルカリ性、pH12とかそれ以上になると非常に溶けやすくなります。ですが、地下の水は、地下水は基本的にはせいぜい高くてもpH10。pHって皆さんご存じですよね。オレンジジュースだとpH3ぐらいとか。酢だとpH、それぐらいですね。3もいかないかな。酢だと3点いくつとか、それぐらいかもしれませんが、そういう、酸、アルカリっていうものですね。 地下水は、だいたいそのpHがだいたい10から4とか、それくらいなので、それで温泉に入って気持ちがいいというのがあるんですけど、そういう状態では基本的にはガラスは溶けない。溶けにくいので、そうするとそこの中に閉じ込められている放射性元素も溶け出さないということですね。 で、あと、金属を使う理由は何かというと、ここから放射線が出ますのでそれを遮蔽するっていう役割もありますが、ここのガラス固化体に入っている放射性元素っていうのは、還元状態だと溶けにくいという性質があります。還元というのはどういう状態かっていうと、酸素がない状態ですね。地下は基本的に酸素がない。ありませんよね。 で、ちょっと、少し分かりにくいかもしれませんが、例えば、金魚鉢で金魚が口を開けて水面にこう、ぷかぷかやっているっていう状態は、水の中の酸素が消費されてしまって、その量が少なくなったので口を開けてぱくぱくしている。そういう状態が還元状態に近い状態になっているということですね。 で、そういう地下水の状態では、ここの中に入っている元素は非常に溶けにくいっていう性質もありますので、で、さらにそれを鉄で覆うっていうことは、鉄は酸素を消費します。つまり酸化するんですよね。「さびる」ということです。さびるという状態の意味は、もし万が一、酸素が入ってきた水がここにやってきても、その地下水の中の酸素を食って自分がさびることによって回りを還元しますので、そういう性質もあって、オーバーパックという鉄を日本では選んでるわけです。 さらに周りをベントナイトっていう粘土鉱物をなぜ使うかというと、粘土鉱物はいろいろな元素を吸着してくれる働きがあります。吸着剤としてよく使われると。そういう仕組みも活用して、それぞれの人工的な素材、もともとは天然の素材を利用しているんですが、そういったものをいくつも組み合わせて、地下に処分するという仕組みを取っていると。 これを、ここに書いている多重のバリアのシステムというふうな、ちょっと専門的なんですけど、なぜ多重のバリアなのかっていうのを、ガラスだけではなくて、オーバーパックもベントナイトも、そして地下は距離的に隔離されていると。で、さらに周辺には岩石、つまり鉱物があると。で、それらがまた、その放射性元素を吸着してくれたりするという役割を持ってくれますので、そういったもので多重バリアシステムというふうにいっているということですね。 こちらのものを人工的に閉じ込めることを、人工バリアというふうによくいいます。で、こっちのものは天然の岩石、鉱物ですので、これを天然のバリアということで天然バリアというような言い方をしているわけなんですが、こういった複合システムで放射性元素を外に漏らさないようにしましょうというのが基本的な考え方です。 それはどうしてかというと、先ほど岩崎さんの話にもありましたが、この放射性元素は、だいたい数万年ぐらい寿命を持っているので、その数万年間、人間界からやっぱり隔離しなきゃいけないというのが基本的なコンセプトになっていますので。 ただ、その数万年後、私たちがいるかどうか分かりませんよね。で、実際後ろを見ると、というか過去を見れば、二万数千年前にネアンデルタール人は、滅びているっていうそういう事実もありますが、将来の世代に対してそういった負担をできるだけ軽減しようというようなこともありで、地下に処分してしまって、もし、もしですよ、地上の社会、環境、国がどうなっているかも分かりませんが、人類がどうなっているかっていうのもありますけど、とか、地表環境が変わっても、地下環境が維持してくれるだろうというのが基本的な考えになっています。 そのときに、私がやっている研究は何かというと、こちらですね。これらはじゃあ、果たして数千年、数万年も持つのかという、こう、考え方がどうしても出てきちゃいますが、そういう情報はなかなか得にくいです。金属が数千年も持つかどうかっていう実験を私たちなかなかできません。そういったものを、あとでちょっと類似現象ってことでお話はしますが、こっちも、こっちは、数千年、数万年あったのか、持っていたのかというのは、実は岩石はそういう調査ができます。 どうしてかというと、岩石鉱物の中に化石が入っているとか、あるいは年代測定をすることによって、この岩石がどれくらい古いものであったのかということを知ることができるので、そういう観点ではこちらはある時間を入れることができるということですね。ただ、これがどれくらいのバリア機能を持っているかっていうのは、これをやっぱり調べないといけない。実際の地下の状態を含めて調べる必要があるので、そちらのほうを私は研究としていろいろやってきているということです。 最初、ちょっとイントロなので長く時間を取りましたが、これをベースにして、基本的には地質環境、地層処分というのは、これらが数十万年、数万年も持つとは今のところ考えにくいので、最終的にはこの地下環境の、いわゆる地質岩石に、隔離機能を持たせる、こういうバリア機能を活用した方法であるというふうに考えればいいと思います。 その際の、もう1つ重要な最初の初期情報とした場合、どれくらいの処分場の広さが必要なのかということですね。今、先ほど1万7,000トンぐらいの廃棄体があって、それをガラス固化体換算にしたときに、2万5,000本相当のガラス固化体が出てきます。それを地下300メートルよりも深いところにもし全て埋設したとした場合にはどれくらいの施設の、広さの施設が要るかというと、だいたい2、3キロ四方の広がりが必要だということになります。ですので、極端に言うと何十キロ掛ける何十キロとか、そういう広さのものが必要ではないと。 で、2、3キロ施設とあと、地上の施設も廃棄物を入れたりするような搬入の施設ということで、だいたい1平方から2平方キロメートル。だから数百キロメートルくらいのあれで、意外と地味なたぶん、施設。なんて言うんでしょうね。原子力発電所でなんて言いますか、原子力の、いわゆる原子炉があるとか、そういったようなものではないということですね。 こういったものを地下坑道だとか、実際、これは300メートルよりも深い場所に埋設されるということですね。ここに線上になっているのが処分坑道というふうに言われるものです。で、実際はこういう縦置き。で、ここがだからさっき言っていたガラス固化体、ベントナイト、そういったものがこういう形で埋設されると。で、周辺には緩衝材が入れられる。粘土鉱物が入れられるということですね。 それで、金属がどれくらい持つかという知見がなんかで得られないかというので、いわゆる考古学的な資料を活用した研究も得られています。これは何かというと、ローマ時代に鉄くぎが、ローマ軍とかが入ってきたときに奪われないように、実は地下に埋設した事例があります。これ、スコットランドで見つかったんですが。そのときに、得られた鉄くぎがどれくらい腐食しているかと。 で、実はこれは2000年前っていう時間も分かっていますので、その2000年前から今までどれくらいが腐食したかっていうのを調べることによって、その腐食速度が分かると。実際に2000年間かけるような実験っていうのは大学でもできないので、こういったものを活用して、さっき言っていたオーバーパックがどれくらいで溶けるのかっていうのが、換算できるというのですね。 これ、実際2000年前のそのローマ、このくぎです。ここで発見されたくぎなんですけど。私も調査に加わって、そして地元の学芸員の人から譲ってもらったんですが。こういったものからどれくらいの腐食量があるかと。ただ、これが1万年も10万年も持つかというと、なかなかそれは厳しいものはあります。なので、そういったものの知見と併せて地層処分のバリア機能というのを把握しようとしているというところです。20億年前から存在していた天然原子炉20億年前から存在していた天然原子炉 そういった中で、地層処分以外の方法ってじゃあ、ないのかということもやっぱり、知識として知っとく必要があると思うんですね。これは1960年代からかなり検討されてきていまして、例えば海洋底に処分する。あるいは南極だとかグリーンランドの氷の中に処分する。あるいは、宇宙に処分する。こういった議論っていうのはされてきています。ただ、宇宙なんかでは、これも私の大学院のときの現象であったんですけど、1986年にこのチャレンジャー号というのが飛んでいる最中にばんと爆発しちゃってもう、飛び散っちゃった。もし、こういったものに廃棄体が入っていると、もう大気圏といいますか、大気中にばらまいてしまうことになりますし、1回上げるのに相当なコストもありますので、そういった意味でかなり厳しいと。 あるいはほかのものについても、基本的には、南極は誰の国の土地でもありませんし、海洋も公海条約、あるいは現在は海洋底の堆積物からいろいろなレアアースだとか、そういう元素なんかも得られています。そういう有用性なんかも含めると、やっぱりある1つの国の廃棄物をそこに処分するというのはちょっと違うだろうということを、その国際原子力機関とかいろんなところで議論された上で、基本的には現在は、自分の国の廃棄物は、自分の国で処分しましょうということになっているということです。 で、そういう中で、地球科学的な取り組みについては、ちょっと英語ですいませんけど、お見せしたかったのは、この「The geology of nuclear waste disposal」。これ、geologyっていうのは地質っていう意味です。nuclearっていうのは放射性廃棄物、の処分っていう意味ですね。これは『Nature』っていう雑誌に1984年、もうだいぶ前ですが、もう30年も前ですね。そのときにいろいろな国際的な地球科学的研究者が集まって議論したのは、海溝、いわゆるプレートが沈み込む海溝に処分すれば、そのまま海溝の、プレートの中に乗っていって、地球の内部に運び込まれるだろうという、そういうアイデアを出したことがあります。 これは、ある意味では非常に地球科学的には真剣に考えていて、一番地球上で安心で、長期に関してもいい方法っていう、当時考えられたわけなんですけど、現在は海溝から、皆さんもまた聞いているかもしれませんが、いろいろな生命体、生命っていうか、生物新種、あるいはさっき出た資源に相当するようなものも出てきているっていうようなこともありで、その辺の有用性とかも考えると、なかなか難しいものもありますし、またここに処分したことを確認する、安全性とかいう意味で確認するって、なかなか難しいものもありで、で、また先ほどの、海溝っていうとだいたい、いわゆる経済海里とか、そういう200海里とかの制限もあり、そういう意味ではなかなか難しいものがあると。 ただ、その中で彼らがもう少し言っているのは、ちょっとここにも「Natural Analogies」って言っていますけど、自然の現象にもっと学ぶべきでしょうと。で、その自然の考え方、そういったものをもう少し地層処分にも応用させるべきではないかということを、きちっと言っています。 で、実は、もともと地層処分っていうもの自体が自然から学んだ方法であるということなんですね。どうしてかっていうとここにありますけど、天然原子炉というのがあります。これは天然の環境下で原子炉反応、つまり臨界反応が起こったということなんですね。 それはどこなのかっていうと、アフリカのガボン共和国にあるウラン鉱床の中、ウラン鉱山の中で発見されたんですけど、どういうことかっていうと、ここに黒い焼け跡のようなものがあります。これは今は地表に出ていますが、ウラン鉱山として開発される前は、地下400メートルぐらいのところに位置していました。で、ここのところにあったウラン鉱床、ウランの濃集部分のところが、今から20億年前に実際の現在の原子炉と同じ核分裂反応を天然の状態で起こしていたんですね。 それを1970年代に、このウラン鉱山とか、そういったものを研究してた国際原子力機関が見つけまして、で、これはここにもしそういう原子炉反応があった場合に、ここから漏れ出た、あるいはここで精製された核分裂、先ほど言っていた放射性廃棄物に相当する元素が、もしここに残っているんであれば、20億年間ずっとここに閉じ込められたっていうことになりますので、もしそういう、ここではガラス固化体もベントライトも何もないですね。ただ、それが残っているっていうんであれば、まさに天然が行った地層処分現象に近いよねっていうことで、天然の類似現象っていうことで「ナチュラル・アナログ」っていう言葉が使われているということです。 これがじゃあ、なんで、天然原子炉っていうか、そういう反応が起こったかっていうふうに分かったかっていうと、ここから実はプルトニウムが見つかったんですね。現在プルトニウムは原子炉の中でしかできません。それはどうしてかっていうと、簡単に言いますが、ウランっていうのは235っていうのと238っていう、この2つの同位体っていう元素の違うものがあります。核分裂に使われるものはこの235っていうものです。これが分裂すると中性子が出て、これがこっちに吸収されます。吸収されるとこれはウランの239ですが、1個足しますので。 で、239っていうのは、これはウランではなくて、これがプルトニウムになるということです。これは今の原子炉の、原子力発電所の中の反応としてわれわれが活用しているものですが、それが実際20億年も前の地下環境で行われたということですね。で、ここで実際プルトニウムも見つかっているし、ほかの、これが、ウラン235が分裂したあとにできたものも、一応ここで確認されているということで、これが天然の類似現象だということですね。それに学んで実際の地層処分というのも可能ではないかということで、1970年代から地下処分っていうものを本気で考え始めたということです。 そういう事例は日本でも、そういうっていうのは天然原子炉っていう意味ではないんですが、日本ではもっと若い地層の中にウラン鉱床っていうのがあるところが分かっています。それは岐阜県の土岐市から瑞浪市にかけてのところなんですが、そこの部分でも、じゃあ、どういう地下の状態の鉱物のところにウランが濃集しているかっていうことを、もし調べられれば、将来、地層処分した場合に、あるいは万が一漏れていた場合にどういう鉱物がそういうバリア機能として働いてくれるかっていうことも分かるだろうという形で研究がされています。そういったものもある種の類似研究なので、ナチュラル・アナログ研究というふうに言っていると。あとでそれがどこに濃集しているかっていうのもお見せしたいと思います。 で、こういう、いわゆる地層処分っていうのは、私は1つの人工鉱床を造るに等しいっていうふうに思っていまして、日本でどういうレベルの、どういう濃度の鉱床が残っているかっていうことがある程度見えれば、その状態をこの地層処分場にも応用して、そして逆に言うと、日本の地下環境の保持能力を超えないような地層処分場(つまり人工鉱床)っていうのを造るっていうことも可能ではないかっていうふうには思っています。もし、そのためにはただし、この天然の鉱床、あるいは実際の状態としてどういうところに放射性元素が濃集しているかとか、そういったことをきちっと調べておく必要があるというふうに考えています。 なので、これは逆に言うと、日本の地下環境には日本の地下環境に合った地層処分の仕方っていうのがあるだろうというふうにも思っています。それは実際の日本の天然鉱床とか、そういう元素が濃集しているような状態から学び取って、こちらに応用してやる必要があるだろうというふうにも考えています。 これまで地層処分について、なぜ地層処分なのかとか、そういったことも含めて今お話をしましたが、次にその地下環境とその機能。実際じゃあ、岩石の中にそういう放射性元素を吸着する力がどれぐらいあるのかということについてお話ししようと思いますが、いいですか。何か。岩崎:今のテーマの1については皆さんお分かりいただけたでしょうか。地下に埋めるっていうのが、臭いものにはふたをしろという発想で、人間界から遠ざけようという、そういう単純な発想ではなくて、地下のその現象について、天然で似たような類似現象があって、それに倣って、それに学んで行うというふうな、まず、発想もとがあるということで今、お話をいただきました。 先ほど地層処分の基礎の話で、還元という言葉が出てきたり、地下水というキーワードが出てきたと思うので、次には地下って、じゃあ、どういうところで、どういう機能を持っているのかっていうのを具体的にお話をいただきたいと思いますが、皆さまよろしいでしょうか。ではお願いいたします。■ 『一番のリスクは地下水』につづく

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    「核のごみ」最終処分 原発に恩恵受けた現世代が政治的意思を示せ

    うこととする、という考え方である。現世代の責任か、未来世代に先送りするのか 昨年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画や総合資源エネルギー調査会放射性廃棄物WGなどでは、可逆性や回収可能性を担保しつつ地層処分を進めること、国が科学的に適性の高い地域を示すこと等が盛り込まれた。前者は、将来新しい技術が開発されたら、施設の閉鎖前であれば安全性を確認した上で、ガラス固化体を回収し、別の処分方法をトライする選択肢を未来世代に残すという考え方だ。最終処分関係閣僚会議で挨拶する菅義偉官房長官(右から2人目)=5月22日、首相官邸(酒巻俊介撮影) この考え方は一見もっともらしく感じるかもしれない。学術会議も、合意形成に至るまでは一定期間、暫定保管を行うことにしたらどうかという提言を行っている。これも未来世代への配慮という趣旨だ。しかし、筆者は、本当にそれでいいのか?という強い疑念を持っている。こうした「未来世代への配慮」は、実は「現世代の怠慢」の同義語になりかねない。 そもそも一旦処分作業をし始めれば、新たな技術開発に誰がどの程度の規模で投資を行うインセンティブを持つのか。暫定保管を最初から織り込んでしまえば、その保管期間が終了するまでの間の世代が、どうして政治的に難しい処分地選定を一生懸命やると考えることが可能なのか? そもそも暫定保管を決めた世代が、そうした政治的な困難を乗り越えることを諦めたがゆえに、「暫定保管」という概念に甘えただけではないのか。 そうした点を考慮して、国際的には回収可能性を認めることには相当慎重な意見が多い。上記の諸機関での検討に当たっては、こうした批判を未来世代から受ける可能性を十分に議論したのだろうか、疑問である(そもそも、メディアは「学術会議」をアカデミア全体の代表組織のように報道することが多いが、専門的な学術的検討を行う場=学会ではなく、政治的・社会的存在としては、ある種のアドボカシー団体のように機能する場合もあることに留意する必要がある)。適地選定プロセスの加速化が必要 もう一つの「科学的に有望な地域」を国が選定して示すという点についてだが、これは数年前に高知県の東洋町が調査対象として名乗り出た際、地元で政治的に大きな問題となり、最終的にその当時の町長が選挙で破れるということがあったことを受けて、これまでの自治体の主体性に配慮した「公募方式」では、政治的リスクが大きすぎて物事が前に進まないという反省に立った方針転換だ。 ただ、科学的有望地は、実際には1億年は動いていない地層は日本には多くあり、火山や活断層も避けることは段階的調査を行う中で可能となるため、相当の幅広い範囲になることが見込まれる。実際には、そこから絞り込んでいくことが求められるわけだが、そのプロセスにおいてはやはり公募方式でもあった政治的リスクが生じることは避けえない。 結局、原子力発電による電気によって恩恵を被ってきた現世代が、腰を据えて最終処分地選定に向けてのプロセスを断固として進めるのだという強い政治的意思が、政権及び政権与党に必要とされるのである。地層処分についての正しい知識の説明、科学的な情報の頒布など基礎情報を、これまで以上に国民に伝える努力を行うとともに、処分地選定プロセスを一歩一歩進めていくことが重要だ。適地選定までには、3段階の法定調査(概要、精密、詳細実証)を経る必要があり(20年程度)、そのうえ操業開始までの施設建設にはさらに10年程度は見込まれている。それゆえ、明日明後日の問題ではないにせよ、これまで後回しにしてきたこのプロセスを加速的に進めること、これは待ったなしである。

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    原子炉より「超安全」な核のごみ処分場が決まらない理由

    武田邦彦(中部大特任教授) 「核廃棄物の最終処分は安全か?」という答えは「安全」。それもかなり安全で、日本列島に住んでいる一般人が地下に格納した核廃棄物からの放射線で被曝する可能性はほとんどない。まして地上で現実に「動いている=核分裂している」原発と比較するとまったく問題になることではない。 原発が危険なものであることは、2011年に起こった福島第一原子力発電所の爆発事故でよく分かった。爆発によって日本列島や近海に放出された放射性物質の量は日本政府発表で約100京ベクレルで、もしこの放射性物質が日本人の頭の上にそのまま降ってきたら、日本民族が絶滅する量である。 なぜ、原発は危険なのか? それは単に放射性物質を大量に保有しているということだけではなく、「原子炉内に大量に存在する放射性物質が一気に周辺にまき散らされることがある」から危険なのだ。 第一に、原子炉内に存在する放射性物質は「核分裂中」なので、短寿命核種が多く放射線は極めて強く発熱も膨大だ。 第二に、「核分裂反応をしているか、ちょっと前まで核分裂をしていた」から原子炉内には膨大な熱があり、爆発したり、メルトダウンしたり、さらには水蒸気爆発をするからだ。 仮に、原子炉を止めて数10年を経過した原子炉は爆発しない。すでに短寿命核種は崩壊して強い放射線を失っており、分裂せず熱も発生しないからだ。 では「原子炉」と「核廃棄物の最終処分」を比較してみよう。第一に、原子炉は「熱い=核分裂中か直後」であり、処分場は「冷たい」。第二に、原子炉は爆発する力があるが、処分場には無い。第三に、原子炉は地表にあるので地震やテロなどで打撃を受けるが、処分場は地下なので揺れが少ないところに格納できる。そして第四に、事故が起こって放射性物質が漏れると、原子炉はそのまま住民が被曝するが、処分場は地上に住む人には影響がない。 だから、現在は日本列島に30基ほどの運転可能な原子炉があるが、たとえそれが1基でも処分場とは比較にならないほど危険である。仮に「地表にある原発を運転することが日本にとって安全」なら、地下に格納された処分場は「超安全」であり、何の問題も無い。 日本は火山国で地震も多いので地下の埋設に不安を持つ人がいるが、地下の浅いところを除けば地層は安定している。 しかし、日本ではこれまで原発を1963年から動かしてすでに50年以上にもなるのに、まだ原発から出る核廃棄物を格納するところも決まっていないという異常な事態が続いているのは、「技術上の安全の問題」ではなく、「別の社会的要因」による。 一言でこの「社会的要因」を言えば「政府の信頼性がない」と言うことに尽きる。この場合の政府は日本政府自体と原子力の専門家、電力会社などの全体で、失った信頼性は「長年の言質と政策」にある。あまりにも当然の結果だが、当事者はまだ気がついていないか、気がついていてもどうしたら良いか分からないということだ。新潟県中越沖地震の影響で火災が発生、煙が上がる東京電力柏崎刈羽原子力発電所=2007年7月16日(第9管区海上保安本部提供) 新潟の柏崎刈羽原発が地震で破壊され場内で黒煙を上げる火災が発生しているのに地元になにも連絡しないで「安全です」というとか、高速増殖炉「もんじゅ」で燃料棒を引き上げられないという事故が起こったにもかかわらず「事故ではない」と強弁して、結果的に自殺者を2名出したりする。 こんなことが続けば国民が原子力に対する不信感が増大するのは当然なのに、個別の担当者は日本全体の長期的な原子力の信頼性を失うより、目の前の事故をいかにして小さく見せるかに全力を注ぐということをやり続けた。 電力会社は原子力で収益を上げたいと思うので、研究開発費を年間5000億円ほど国庫から応援を受け、電源三法で地元への資金を供給し、政治家、原子力専門家などにいろいろな名目で支払うお金は1000億円にも上ると噂されている。事実がどうかというより日本人の多くがお金の点でも不信感を持っていること問題である。 2006年には「原子力発電所は安全と言えない(残余のリスクがあるという表現)」という文書が政府部内に回り、同時に国民には「絶対に安全」という説明をした。さらに福島原発事故のあとは法令の被曝限度が1年1ミリシーベルトと決まっているにもかかわらず、政府とメディアでそれを隠すということを行った。 政策やお金のためには国民にウソをつくという体質が固定し、それに乗じて理不尽で非合理的な論拠を掲げる原発反対派の専門家や思想家、政治運動の力が強くなり、どうにもならなくなったというのが実情である。 筆者は「原子力反対派」の執拗で激しく、どうにもならない攻撃に大きな被害を受けた一人であるが、それは反対派側の問題ではなく、推進側のウソが原因していると認識している。 そして、日本国民が原子力政策に不審を抱いていることが、危険な原子炉ではなく、より安全な核廃棄物の処分場にでるのは、「正当化の原理」が働いているからである。 人間社会で行われることは「実利=損害」(正当化の原理)で決まる。原発は電気を安く供給してくれるという実利があるから、危険性は我慢しようということになるが、処分場は損害だけあって実利がない。そして処分場は電気も何も生じないので、実利としては「お金の供与」だけになり、それでは大義名分を失って社会の合意を得られないからである。 まず、核廃棄物処分場の問題は「不誠実」の問題であることを認め、すでにある使用済み核燃料を次世代に引き継がない誠意を示すことだろう。

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    田原総一朗が考える「どうする? ニッポンの核のごみ」

    とは、とにかく核のごみをこれからどうするんだということをまず検討しなきゃ。たとえば、2030年の電力エネルギーの比率をどうするんだって経済産業省が試算したけど、再生可能エネルギーの比率を多くしようと決めたのは結局、経産省でしょ。でも、さっき言った核燃料サイクルの肝心なところは文部科学省の管轄だよね。日本の原子力政策のいま一番の問題はね、繰り返しになるけど、やはり総合戦略がないことなんだ。(聞き手 iRONNA編集長、白岩賢太)

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    これ以上の電力料金アップは避けたい ドイツの脱原発はマジック

    中西享(経済ジャーナリスト)東日本大震災以降、原子力発電所が1基も稼働しなくなるなど、日本のエネルギー事情が厳しくなる中で、2030年に向けての望ましい電源構成案(エネルギーミックス)をまとめた坂根正弘・総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会委員長(コマツ相談役)にインタビューし、日本の取るべき立場を聞いた。総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会委員長の坂根正弘・コマツ相談役Q:エネルギーミックスをまとめるに当たっての基本的な考え方はA:3・11の東日本大震災以降、エネルギー情勢が一層窮屈になってきた。電源構成となる原子力発電のランニングコストは低いが、事故が起きた場合には社会的ダメージは大きな費用が発生する。再生エネルギーの風力はまさに風任せ、太陽光は日中しか発電できない。水力や地熱は発電までに10年以上の年月が掛かることもあり、バイオマスは小規模なものは地元で原料を賄えるが、大きくなると燃料を輸入しなければならない。化石燃料はCO2を多く出すなど、それぞれ一長一短がある。結局、これを、安全性(S)と三つのE(安定供給、経済効率性、環境適合)の「S+3E」の視点で、いかにバランスをとることでしか答えが出せない。その前提となる経済成長率は政府目標の年率1.7%にすることにした。エネルギーミックスは3年に1回は検討を加えることになっているから、成長率が変わればその時に見直せばよい。Q:電力コストが上がることが心配されている。コストについてどのような議論があったのかA:電源構成のバランスからみて、原発はどれくらい必要かという中で20~22%という数字になった。いまある原発に原発の寿命が40年という説を踏襲すればよいという考えの人がいるが、そうすると原発比率は15%程度にしかならず、足りない。これを再生エネルギーで埋めようとすると、1%当たり年間2180億円余分にかかるので合計で1兆数千億円の負担増になる。CO2は増やしたくないので、一番の「逃げ道」はコストになる。委員の中には「コストはいくら掛かってもよい」という人がいるが、これ以上、電力コストが上がったら国民の省エネ意欲がそがれる。省エネについてはエネルギーミックスの外数として、70年代の石油危機の後と同じレベルのチャレンジングな目標を前提にしている。最も大事な省エネが進まなくなると、CO2が増えてコストも上がるという最悪のパターンになる恐れがある。【図1】2013年度と30年度の電力コストの比較 (出所)資源エネルギー庁 大震災以降、家庭用電力料金は2割上がり、産業用はドイツと並んで一番高くなり、産業界から悲鳴が上がっている。電力コストが過度に高くなれば、海外に工場を作った方がいいとなって、国内の設備投資意欲をそぐ。そうすると、省エネ技術も進歩しない。電力コストは省エネと密接に絡んでいるので、少なくとも現状以上の電力コストアップは抑えたい。Q:日本は既にかなり省エネをやってきたが、さらなる省エネは可能かA:コマツの石川県にある工場は、電力7割減、生産効率2割向上で、電力購入費を生産量当たり9割減らすことができた。40年以上たった古い工場でも問題ないと考えていたが、東日本大震災の後に見直したら、工場を一から建て直した方がはるかにいいことが分かった。省エネは国全体でもまだまだできる余地がある。そのためには白紙からの省エネ投資をさせる気持ちにさせなければならない。この時に電力コストをこれ以上上げたら省エネの意欲が起こらなくなると私が言ったら、「再生エネルギーもあるし国民は電力コスト上昇を受け入れますよ」という意見があった。ではドイツの例を見てほしい。ドイツ国民は再生エネルギーの利用を促進するために、最初は電力料金の値上げを受け入れたが、料金が高くなりすぎたため、料金値上げに大反対が起きている。日本では一般国民よりも産業界の方が問題で、委員の方に「電力コストは逃げられない問題だ」と理解してもらうのが難儀だった。Q:原発のコストをどうみるかA:福島原発のような事故は二度と起こしてはならないし、もう一度起こると、それこそコスト比較の問題ではなくなる。原発は一度事故が起きるとものすごく大きなお金がかかるので、「原発は安くない」と言う人もいるが、この一時コストを含めて発電する電力量当たりのコストはそれほど大きくはない。心理的には高くつくように思えるが、単純に数字の比較だけなら再生エネルギーを増やす方が高くつく。いま再生エネルギー買い取り制度(FIT)で認められているものだけでも、すべて実行されると1年で3兆円近い出費になる。Q:原発の「安全神話」が蘇ろうとしているがA:原発を再稼働させるときに、「100%安全」でないと地元住民は納得しないという人もいるが、どれだけ安全でも「絶対安全」はあり得ない。「絶対安全」という「安全神話」が蘇ってきているのはおかしい。日本では100%かゼロかという議論が多過ぎる。現時点で最良のものを選択し、より良い技術が出てきたら改良するからリスクをとって稼働する、という考え方がないと、これからも新しい技術や知恵が出ても、今のもので安全といったではないかとなってしまう。Q:ドイツが再生エネルギーで成功したといわれているがA:ドイツは現在9基の原発を動かしているが、2022~23年を脱原発の期限にしている。ドイツは再生エネルギーで成功したといわれているが、マジックがある。北部では風力発電などを盛んにしているが、一方で自動車など電気を多く使う産業は南部に集積している。北部で発電した電気を4つの送電網で南部に送ろうとしたが、送電ルートになる周辺住民の反対でひとつもできてない。このため、どうなっているかといえば、北部で発電した電力を隣国チェコに売り、代わりにチェコがCO2の多く出る石炭火力や原発で発電した安い電気を南部の工業地帯に送っている。ドイツは見た目は再生エネルギーを多く利用してCO2排出量を抑えているように見えるが、実際にはチェコが代わりに排出している面もある。ドイツの再生エネルギー政策は形骸化しているが、なお再生エネルギーを増やそうとするのは、そうしないと選挙に勝てないからだとも言われている。【図2】電力構成(総発電電力量12780億kwh)【図3】電力構成(総発電電力量10650億kwh)(出所)資源エネルギー庁石炭火力の新規計画について環境相が「ノー」を突きつけたが…?Q:石炭火力の新規計画について望月義夫環境大臣が「ノー」を突きつけたがA:原発の停止以降、全国に小規模の石炭火力発電がどんどん作られようとしている。最新技術を使った石炭火力への投資ならCO2排出量が少ないから良いが、一般の人が電力自由化を当て込んで作ろうとしている石炭火力はCO2を増やすことになる。私には個別事例の評価はできないが、全体論として環境大臣の指摘はもっともだと思う。Q:政府は30年度の温暖化ガス排出量を13年比で26%削減する目標を決定し、今年の12月にパリで開かれる国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に提出するがA:26%という数字は、省エネ期待によるものが大きいが、この数字は1次エネルギーでみた場合で、電力でみると35%の削減になる。これは国際的にみても恥ずかしい数字ではない。これまで日本はCOPなどの国際会議の場でも「まず削減率の数字ありき」で目標を出してきたが、同じ過ちを繰り返してはならない。民主党政権下の2009年、鳩山由紀夫元首相は「2020年までに温暖化ガス排出量を1990年比で25%削減」という国際的な公約を掲げた。東日本大震災の前で原発の拡大というカードが残されており、政府は原発比率を50%とするエネルギー基本計画を打ち出したが、今やこの前提は非現実的なものとなった。今回は年末のCOP会議の前に数字を積み上げたことを踏まえて温暖化ガスの削減目標が出せたのはよかった。 年末の会議もこれまでのCOP議論と同じように、悪いのはこれまで成長のために温暖化ガスを排出してきた先進国だから、先進国は途上国に対して環境対策に必要なカネを出せということになるのではないか。国際会議ではCO2削減目標などをめぐって先進国と途上国の間でもめるので、先進国と途上国は断ち切って議論すべきだ。途上国とは、先進国との2国間で排出量の削減を相互にオフセットできるCDM(クリーン開発メカニズム)スキームをより効果的に見直しを進めることで世界のCO2削減ができる。 コマツが2009年にインドネシアの代理店と石炭鉱山のお客と、鉱山の埋め戻しをした跡地にジャトロファを植林し、それを原料にバイオディーゼルを使えるプロジェクトを立ち上げた。鉱山で稼働する100台のダンプにバイオディーゼルを使用しCO2を減らすことが目的だが、これをCDMで認めてくれるように国連に申請しようとしたところ「今回のスキームが経済的に合うというのであれば、通常の営業活動で行えばよい」と言われた。国連の言い分は「経済的に持ち出しになるようなスキームなら、CDMとして認める」というもので、あきらめざるを得なかった。日本の環境技術を使って世界のCO2が削減でき、さらに経済的にも合うのであれば良いこと尽くめではないかと思うのだが、国連の言い分は「経済的に持ち出しになるようなスキームでなければCDMとして認められない」というおかしな理屈だ。仮に、このようなスキームが認められなくても、日本の技術を使って2国間同士でやればいいと、経団連を通じて主張してきた。日本はインドネシアなど既に十数カ国と2国間クレジット制度に関する二国間文書に署名している。日本こそそういった世界のCO2を削減する具体的活動に重点を置くべきである。Q:削減排出量を比較する際の基準となる年を何時にするかによって変わってくるが【図4】温室効果ガス排出実績の国際比較(2012年)(出所)資源エネルギー庁A:基準年の話の前に、日本は欧州連合(EU)と競うようにして削減目標を決めてきたが、これも繰り返してはならない。大小様々な経済規模の28カ国からなるEUと日本1国が同じ土俵で議論するのは間違っている。ベンチマークは国とすべきだ。 基準年については、EUは東西ドイツの統合があった1990年で比較すると有利だから、いまだに90年比較を持ち出したがる。京都議定書の第一約束期間が2012年に終わって13年からは第二期間に入ったのだから、これからは直近の実績データをもとに、13年をベースに削減目標をつくるべきだろう。13年は大震災後で日本の排出量が多くなった時だから、これを発射台(比較年次)にすると日本にとっては有利になる。だが、これは日本が削減数字をごまかそうとしているのではない。GDP当たりや、1人当たりのCO2排出量の少なさでは、原発中心のフランスは別格として、日本のレベルは米国よりは圧倒的に優れており、同じく世界最高水準にあるドイツにも決して劣ってはいないのだから、堂々としていればよい。日本の交渉団には国際会議の舞台でほかの国をギャフンと言わせるくらいの説得力をもって交渉してほしい。さかね・まさひろ 1941年生まれ。島根県出身。63年に小松製作所に入社、01年に社長、07年に会長を経て、13年6月から相談役。10年から14年まで経団連副会長、14年まで経団連の環境安全員会の委員長を務め、エネルギー、環境問題に詳しい。14年から総合資源エネルギー調査会会長。なかにし・とおる 経済ジャーナリスト。1948年岡山県生まれ。1972年共同通信社に入社、経済分野を取材し編集委員などを経て2010年に退職し、現在は経済ジャーナリスト。

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    福島から何を学んだのか 当事者意識欠く再稼働議論を憂う

     8月11日、川内原発が再稼働された。約2年ぶりの再稼働である。 原発のコスト、安全性についてはここでは論じない。専門家でも意見が分かれる問題だ。おそらく、誰も本当のところがわからないのだろう。私のような素人が、したり顔で解説しても意味がない。 再稼働反対派、および多くのメディアは「十分な避難計画と避難訓練がない」ことを問題視している。そして政府に対して、再稼働の中止を求めている。 確かに、もっともらしい意見に聞こえる。ただ、これでいいのだろうか。 政府が十分な避難計画を立て、避難訓練の機会を提供すれば、原発災害への備えは十分なのだろうか。そもそも、十分な避難計画や避難訓練とは何だろうか。 私はこのような議論を聞いていて、当事者意識が欠けていると感じる。それは実際に原発事故が起こった場合、政府が出来ることには限界があるからだ。これこそ福島の教訓だと思う。 例えば、福島では、事故発生後、相当時間が経つまで、誰も正確な状況を掴めなかった。政府はとりあえず、原発から20キロ圏内に避難指示、30キロ圏内に屋内退避指示を出したが、この判断は不適切だった。 もっとも汚染された地区の一つに、原発30キロ圏外の飯舘村が含まれる。汚染は原発からの距離より、事故当時の風向きや天候が影響するからだ。結果論だが、政府の指示に従わず、独自の判断で避難した人が被曝を避けたことになる。結局、誰も被害を予想できなかった。 結果的に政府の対応は不適切だった。ただ、これは政府が意図的にやったわけでも、怠慢だったわけでもない。原発事故後の現地の状況は流動的で、現場から遠く離れた霞ヶ関や県庁の人には原理的に分からないのだ。 私が福島で活動して感じるのは、現地の人はマスコミが報じるほど、政府を信頼していないし、あてにもしていない。誰もが「実力がある人」を頼ろうとし、結果的にはそれが正しいことが多い。相馬市の立谷秀清市長 例えば震災直後、南相馬市の医療機関の経営者の中には、隣町の相馬市の立谷秀清市長にサポートを依頼した人が少なくなかった。 立谷氏は実力がある政治家だが、同時に臨床医・病院経営者でもある。政府や県庁の役人よりも、現場の問題点を把握していた。 例えば、政府からの支援が公立病院や避難所に偏る中、取り残された民間の医療機関・介護機関を重点的にケアした。この中には、立谷氏自身が経営する病院・介護施設も含まれる(そもそも相馬市の大病院は立谷市長が責任者を務める公立病院と、彼が理事長を務める民間病院しかない)。 相馬地方で津波被害を受けた地域は、基本的に国道6号線の海側にある。この地域に住んでいるのは、主に漁業・農業・観光業の関係者だ。行政機関、学校、病院などは、国道6号より山側に位置し、津波被害を受けていない。震災後、国道6号や平行に走る高速道路が津波を食い止める防波堤の役割を果たしたためだ。江戸時代初期にこの地方を襲った慶長・元和の大津波からの復興のとき、ときの当主相馬義胤が山側、つまり現在の国道6号の山側への移転を推奨したと言われている。 このため、震災直後、多くの医療機関や介護施設は通常通り営業した。ところが津波被害などで出勤できない職員がいたため、業務は困難を極めた。立谷氏はこのことを熟知しており、ボランティアでやってきた医師を、このような施設に配置した。現地を知り尽くした立谷氏ならではの対応だ。『相馬市老健施設体験記』岩本修一(都立墨東病院麻酔科後期研修医)http://medg.jp/mt/?p=1326 立谷氏の活躍はこれだけではない。震災当時に立谷氏が下した指示の中には「棺桶と空き部屋の確保」だった。3月12日の朝までには旧知のネットワークを使い、確保出来たという。 立谷氏は「この地域は山と海に囲まれて平地が狭い。空き家も多くない。双葉郡からの避難者、特に看護師などの復興に必要な専門家を受け入れるための住居を確保する必要があった」と言う。 私たちが東日本大震災以降、相馬市内での活動の拠点としている「星槎寮」も、立谷市長が空室となっていたアパートを確保したものだ。東日本大震災以降、坪倉正治医師をはじめ、現地で活動を続けている医師の多くが、ここを住処、あるいは活動の拠点としている。『相馬の星槎寮』細田満和子(星槎大学副学長)http://medg.jp/mt/?p=1978 これが原発災害後の被災地の実情である。結局、原発事故が起こったら、地元の人が頑張るしかない。 物資の補給、自衛隊などの派遣、さらに復興予算措置など、政府の対策が比較的画一的であることと対照的に、現地では「あの寝たきりのお婆さんを避難させるべきか」、「いつ、どこから、どのようなルートで避難させるべきか」など、きめ細かい対応が求められるからだ。それが出来るのは、現地に精通した人々だけだ。 相馬市の場合、それは立谷市長がリードする相馬市役所だった。ではなぜ、このような人材がでてきたのだろう。それは、この地域の歴史と深く関わっている。 立谷という姓は、福島県浜通りと宮城県南部に多い。ルーツは相馬郡立谷村だという。そして、その祖は桓武平氏の流れを汲む千葉氏に仕えたという。千葉氏は、常胤(1118-1201)の時代に躍進する。石橋山の合戦で敗れ、安房に逃れた源頼朝に加勢し、鎌倉幕府の大御家人となったからだ。 その後、常胤(1118-1201年)の次男である師常(1139-1205)は、現在の千葉県松戸から我孫子にかけての相馬御厨(荘園)を相続し、相馬氏と称した。1323年、一族の相続争いに敗れた相馬重胤が一族郎党を引き連れ、源頼朝から領有を許されていた陸奥国行方郡(現在の相馬地方)に入った。これが陸奥相馬氏である。この頃、立谷一族も相馬地方に入っている。そして、約800年かけて相馬の土地に根付いた。 立谷家をルーツとする人々の集まりを紹介する「立谷ファミリー」のホームページによると、「江戸時代、立谷家のご先祖様は、廻船問屋を営んでいました。立谷するが分業して、『材木』『米』『雑貨』『海産物』およびその他の物資を江戸時代初期から、立谷一族が結束して商いをしていました。」という。立谷市長の実家は、相馬市原釜地区で醸造業を営んでおり、典型的な「立谷ファミリー」だ。「立谷ファミリー」http://blog.livedoor.jp/tachiyafamily/ 廻船問屋は物資とともに情報を流通する。上意下達では生き残れず、独自で判断することが尊重される。まさに、震災後の立谷市長の行動と被ってくる。 話が随分と脇道にそれた。では、川内原発の再稼働はどうすればいいのだろうか。政府が再稼働を希望する理由はわかる。多くの知識人が反対するのも理解できる。 このような状況で、私が重視すべきだと思うのは、地元の意向だ。少子高齢化が進む多くの地方都市の将来は暗い。原発を再稼働することで、地元経済を活性化したいと願う人がいるのは自然なことだ。 ただ、福島第一原発の経験から、原発はときに事故を起こすことが明らかだ。最新式の原発でも、その可能性はゼロにはならないだろう。東京電力福島第1原発事故で、福島県浪江町から避難した人らが暮らす仮設住宅=7月6日、福島市 では、一旦、事故が起こったときに、どうやったら被害を最小限にし、いち早く復興できるのだろうか。それは地域力に依存する。つまり、地域の人材に依存する。 その象徴が相馬市だ。原発事故被害にあった浜通り地方の中で、復興は圧倒的に速い。例えば、飯舘村の北に位置する玉野地区は高度に汚染されたが、住民は避難することなく震災前の暮らしを続けている。放射線による健康被害はなく、地元産業も復旧しつつある。政府の意向に従い、一斉に避難した地域とは対照的だ。結局、避難の是非は総合的トレードオフの判断だ。それは、当事者がすべきだし、当事者しかできない。 そのためには、判断力がある人材の存在が不可欠だ。立谷市長は「地元の生き残りは人材育成にかかっている」と言う。 つまり、原発再稼働を認めるか否かは、不慮の事故に対応できる人材を確保できるかにかかっている。そのためには教育に投資せねばならない。実は、人材育成は原発事故対策に有用なだけではない。地域再生にも結びつく。川内原発の再稼働は、このような視点も加えて議論すればどうだろうか。 もう一度、繰り返す。原発再稼働のリスクをどうヘッジするか、さらにそのリスクに対して支払われる補助金を如何に活用するか。それは原発が設置されている地元住民が考えることだ。果たして川内原発の周辺では、どのような議論がなされたのだろう。我々は彼らの議論を待ち、その判断を最優先すべきではなかろうか。

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    日本は絶対に原発を放棄するな

    伴う各原発の停止によって、震災前は約6割だった火力発電への依存度は、震災後約9割にまで急増した。資源エネルギー庁の「エネルギー白書2014」によれば、原発分の電力量を火力発電で代替していると仮定した場合、海外に流出する燃料費は2013年度で約3.6兆円になる。2013年度の原油、液化天然ガス(LNG)、石炭などの鉱物性燃料の輸入額は約27兆円で、震災前の2010年と比べ、約10兆円、率にして約6割の増加となる。 原発が停止していることにより、各電力会社は再三にわたって電気料金を値上げし、それが家計や中小企業の懐を圧迫している。また、原発停止の影響によって2011年に貿易収支は31年ぶりの赤字に転落し、2012年にはその赤字幅が拡大、さらに2013年には過去最大となる約11.5兆円の貿易赤字を記録した。震災前の2010年と比べると18.1兆円の貿易収支の悪化となった。石油火力発電所の約8割は運転開始からすでに30年以上経っており、火力発電は現在綱渡りの状態が続いている。老朽化した火力発電所を無理矢理稼働させていることによる大気汚染も深刻な状況だ。 日本は原油の約8割、LNGの約3割を中東地域に依存しており、そのほとんどがホルムズ海峡を通過して日本にやってくる。中東情勢が依然として不安定ななか、もし同海峡で偶発的な衝突が起きたら、日本は生命線を断たれたも同然となる。備蓄が6ヵ月分あるなどと悠長なことを言っている場合ではないだろう。 次に、安全保障の観点から。2014年3月にオランダ・ハーグで核安全保障サミットが開かれた。同サミットでは、日米韓の3ヵ国首脳会談にばかり注目が集まったが、サミットでは日本が数百キロにのぼるプルトニウムと高濃縮ウランをアメリカに返還するという合意もなされた。この返還の背景には、核兵器に転用できるプルトニウムなどの物質がテロリストに盗まれる懸念が世界中で高まっていることが挙げられよう。 だが、私は返還理由はそれだけではないと考える。原発再稼働が遅々として進まない日本が大量のプルトニウムを保有することにより、「日本は核保有を企図しているのではないか」という疑いの目を世界から向けられる可能性がある。現に中国は日本が大量のプルトニウムを保有していることに敏感に反応していた。返還の主な目的には、そういった疑念を振り払う意図があったのではなかろうか。 原子力の平和利用を目指し、「核燃料サイクル」政策を掲げる日本は、核を保有する五大国(国連常任理事国)以外では唯一、核兵器に転用可能なプルトニウムや高濃縮ウランの保有を日米原子力協定によって正式に認められている。日本のプルトニウムや高濃縮ウランの保有は、使用済み核燃料を再処理して利用する「核燃料サイクル」政策の実施が前提となっているため、原発が再稼働されないと保有しているプルトニウムを使用することができず、「日本は核保有を企図しているのではないか」という疑いの目を向けられるだけとなる。そのため、脱原発へ拙速に舵を切ると、日本が五大国以外で唯一認められているプルトニウムや高濃縮ウランの保有を見直される可能性がある。 高純度のプルトニウムが8キロ程度あれば核爆弾がひとつ製造できるとされている。内閣府によれば、日本が2014年末時点で国内外で保有するプルトニウムは47.8トンである。単純計算すると日本が保有するプルトニウムは核爆弾およそ6000発分に匹敵する。 核安全保障サミットで日本のプルトニウムや高濃縮ウランがアメリカに返還されることが発表されると、中国の工業情報化相は早速「歓迎」の声明を出した。このことから、中国が日本のプルトニウム保有を懸念していることは明白である。またそれは、日本の「核武装」を警戒していることからきているだろう。とするならば、日本が原発政策を維持し、プルトニウムや高濃縮ウランを保有し続けることが日本の核抑止力を高めることに直結するのだ。 日米原子力協定の有効期間は30年で、次の満期は2018年に迎える。日本が原発を放棄するという決断をした場合、日米原子力協定で認められているプルトニウム保有という特別な権利と、中国への核抑止力の保持という大きなカードを同時に失うことになる。日本は絶対に原発を放棄してはならない。 既述したように、日本は原油の約8割を中東に頼っており、そのほとんどがホルムズ海峡を通過する。ホルムズ海峡通過後はマラッカ海峡を通って日本にやってくるが、超長期的に見た場合、この輸入ルートもリスクとなり得る。 中国人民解放軍は国防方針として、九州を起点に沖縄、台湾、フィリピン、マレーシアに至るラインを第一列島線とし、伊豆諸島を起点に、小笠原、サイパン、パプアニューギニアに至るラインを第二列島線として、それら地域の制海権確保を目論んでいる。日本の原油輸入は、マラッカ海峡通過後、中国が勝手に指定している第一列島線を通るため、この地域で中国の海上覇権が確立すると、日本の存立を脅かす事態になる。そんな時に、現在と同じように電力の約9割を火力発電で賄っていたら、中国は日本の生殺与奪の権を握ったも同然となる。中国が日本のシーレーンを封鎖し、化石燃料の輸入をストップさせれば、まさに戦前のABCD包囲陣の二の舞といえる状況になる。「備蓄が6ヵ月分ある」などと呑気なことを言っている場合ではないだろう。 2013年4月、共同通信は中国が発表した国防白書に、核兵器を相手より先に使用しないとする“核の先制不使用”が“明記されていない”ことを報じた。これは、中国が場合によっては核の先制使用すら辞さないという態度を暗に示したとも言えるだろう。 中国は1964年の東京オリンピックに参加せず、また、それを隠れ蓑にして五輪開催中に核実験をし、核保有を開始した国である。中国共産党による一党独裁が未だに続き、少数民族への弾圧もやめる気配がない。日本やアメリカと価値観を共有する国ではけっしてない。そういう国が近くにあり、かつその国が核を大量に保有している以上、核武装ができない日本は原発の維持によって核の抑止力を高めていくしかない。 もし万が一、経済面で原発が必要なくなったとしても、安全保障面(特に核抑止力の観点)を考えれば原発は半永久的に日本に必要だ。 加えて、その時の空気によって拙速に「原発ゼロ」へと舵を切ることの恐さや、「原発ゼロ」を決めた場合、原発の廃炉作業にあたる次世代の人材はちゃんと育つのか、大学で若者は原子力を専攻しなくなるのではないか、といった懸念も拭えない。 以上のことから、現実的、合理的に考えて原発を手放すことは得策ではなく、また、核抑止力の観点から見れば、例え1基だけでもいいから日本は原発を半永久的に保持しておくべきである。政府には現実に即した原発政策を期待したい。

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    原発再稼働、今でしょ!

     結論から言おう。再生可能エネルギーでは電力の安定供給は覚束ない。しかも、再生可能エネルギーと呼ばれる発電方法のうち、少なくとも風力、太陽光は、現在の技術水準からみると決してクリーンエネルギーではない。 同じCO2フリーとされる電源でも、原子力と再エネでは、温暖化ガス削減への貢献度が全く異なる。原子力を減らして、風力・太陽光に置き換えようとすれば、二酸化炭素の排出量は増えていく。もちろん、風力と太陽光を使った発電が直接二酸化炭素を排出するわけではない。しかし、電力ネットワークの中に、風任せ、天気任せの気まぐれな電源が入り込み、その割合が大きくなると必ず火力発電への依存の割合が増えていく。なぜなら、空が曇ったからといって人々が節電をしてくれることはないからだ。川内原子力発電所の案内板=8月10日午後、鹿児島県薩摩川内市 電気は貯められない。だから、人々が電気を沢山使うタイミングに合わせて発電量を調整しなければならない。もし、人々がたくさん電気を使いすぎて、発電量を上回ってしまった場合、その地域全体が停電してしまう。各電力会社は電力需要を予測しながら、使用電力が容量をオーバーしないように発電量をコントロールしている。気温が上がってエアコンの使用が増え、電力消費が急増し始めた時に、中央指令室から各発電所に命令が飛ぶわけだ。 さて、ここで風力と太陽光発電に話を戻そう。中央指令室は風と太陽に命令して今すぐ発電を開始させることは可能だろうか。もちろん、そんなことは無理だ。「風まかせ」、「お天道様まかせ」なら、人間の都合など関係なくなってしまう。必要な時に必要な電力を得られない風力や太陽光による発電所は、電力の安定供給という観点で考えて極めて厄介な存在なのだ。 では、風力と太陽光の「気まぐれ」をバックアップする態勢を整備すれば問題は解決するだろうか。例えば、風が止んだり、空が曇ったりしているとき、火力発電のオン/オフを切り替えることでバックアップすることを考えてみよう。中央指令室は天気予報に従って、火力発電所に発電を指令する。こうすれば確かに風力と太陽光の弱点を補えるはずだ。 しかし、現実は甘くない。このやり方をこそが、風力と太陽光によって温室効果ガスの排出量が増える仕組みである。風力と太陽光を使えば使うほど、バックアップ用の火力発電に対する依存度は上がっていく。発電システム全体で見ると温室効果ガスの排出は減ることはない。風力や太陽光が環境に優しいなどというのは幻想である。イメージでエネルギーを語る人に、こういった「木を見て森を見ず」の人が多いのは嘆かわしいことである。 風力発電によって全電源の15%を賄っているスペインでも問題山積だ。スペインでは天候の変化などにより1時間のうちに再生可能エネルギーによる発電量が最大1万3000MWから150MWまで振れることがあるそうだ。先ほど説明した通り、1万3000MWが150MWに急降下したら、その差の1万2850MWを他の電源で即座に補わなければならない。電気は貯めることができないので、この大きな変動に対してバックアップのための火力発電所の運用が必要となる。無理やりにでも供給と需要の規模を合わせないと電圧変動や停電の恐れがあり、人々の社会生活が危険に晒されることになる。 2013年12月初旬はスペイン上空を高気圧が覆ったために風がほとんど吹かず、風力発電は全く動かなかった。そのため、電気代が高騰し1 MWh当たり112ユーロになった。ところが、クリスマスごろなると急に風が吹いてきたため、電気代は1 MWh当たり5.42~9.18ユーロ前後まで下落した。その価格差には約10倍程度の開きがある。これで安定供給と呼べるだろうか? このように、あらゆる可能性を考慮しても、再生エネルギーの推進とは火力発電への依存とほぼ同義である。「再生エネルギーの推進」と言うと聞こえはいいが、経済効率も悪いし、環境にも良くない。そんなバカげた政策を大真面目に取り組んでいるのが現在の日本のエネルギー政策なのだ。 火力発電に大幅に依存している状況には様々な問題点がある。1つ目はエネルギー安全保障上の問題点だ。 最悪の事態を想定してみよう。日本が石油や天然ガスの供給源として依存している中東地域には様々な地政学リスクが存在している。現在イスラム国の問題、シリア内戦の問題、アルカイダの問題、イランの核開発の問題など数え上げればキリがない。 しかも、石油や天然ガスを運ぶタンカーが通過する南シナ海や東シナ海においては、支那海軍と周辺諸国の紛争リスクが絶えない。中東で紛争が起こらなくても、この地域が緊張状態になればすぐに石油や天然ガスの供給に影響が出てしまう。エネルギー供給がなければ経済成長どころか、日常生活すらまともに送ることはできない。 2つ目の問題は国民負担だ。福島第一原発の事故から1年足らずで日本の原発はほぼ停止した。例外的に稼働していた大飯原発が2013年の9月から定期点検に入り、再稼働できないままである。つい最近まで日本で稼働している原子炉はゼロだった。 再生可能エネルギーによる発電量は極めて小さい。そんな中で原発を止めてしまったということは、必然的に日本は火力発電によって電力を賄わざるを得ない状態に追い込まれている。火力発電の構成比は約65%から約85%に増加している。その結果、LNG、石油、石炭などの燃料代が3.7兆円増加してしまった。しかも、エネルギー価格は乱高下している。最終的にこの増加分は利用者が負担しなければならない。出典:経済産業省原子力小委員会http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denkijigyou/genshiryoku/pdf/008_s02_00.pdf 電気代の高騰は消費税の増税と同じく、私たちの財布の中から無理やりお金を奪っていく。そのお金は産油国に届けられる。もし、原発が稼働したとしたら、この3.7兆円は別の目的に支出することができた。これが3つ目の問題だ。 さらに言うなら、原発停止がむしろ再生エネルギーの実用化を妨げている。なぜなら、もし原発が再稼働していれば、3.7兆円分の予算は様々な目的で支出することができた。大半は電気代を下げることに使われたとしても、その一部を再生エネルギーの実用化に向けた研究費として支出するという選択もある。 現在、全く使い物にならない風力や太陽光による発電だが、長期的に研究開発を進めるための資金として浮いた燃料代を使ってみてはどうだろう。電力会社直接出資して、再生エネルギー専門の投資会社を作り、民間で知恵を出す人のスタートアップを支援するといった方法も考えられる。再生エネルギーの推進と産業振興、そして投資リスクの分散や民間から大量のアイデアを集めて絞り込むといった一石三鳥、四鳥の効果が見込めるのではないだろうか。 では、最後に原発の最大のリスクである放射能について触れておきたい。私はこの問題について誰よりも語る権利を持っている。なぜなら、私は「ヒバクシャ」だからである。 まだ私が母の胎内にいた1968年、私の母は大量の死の灰をかぶった。体内に取り込んだセシウム137は約100ベクレル。放射能で汚染された胎内で育った私は、翌1969年に生まれた。もちろん、赤ん坊だった私の周りにも大量の放射性物質が降り注ぎ、それを大量に摂取している。放射性物質のフォールアウトは私が小学校5年生になるまで止むことはなかった。 1963年から1980年まで支那共産党は公式には46回、実際には50回以上にわたる核実験を続けてきた。この時に大量の放射性物質を含む塵が大気中に巻き上げられ、偏西風に乗って日本に振ってきた。当時、この件で反核運動の活動家たちが毛沢東に抗議したという話は聞いたことがない。リンク先のグラフをご覧いただきたい。これは日本国内で観測されたストロンチウム90のフォールアウトを表したグラフだ。 1963年から1980年までに生まれた日本人は例外なく私と同じ「ヒバクシャ」である。ストロンチウム90のフォールアウトだけで比較すれば、その汚染の程度は福島第一原発の事故とは比較にならないぐらい深刻なものだった。もし、「原発事故でガンが増える」という話が正しいなら、それ以上に大量の放射線を浴びた私と同年代の日本人は相当なガン発生リスクに晒されていることになる。ならば祖父の世代にくらべてさぞかしガンによる死亡率が高いはずだ。 しかし、ここに不都合な真実がある。40代日本人のガンによる死亡率は激減している。あれほど放射能が含まれた死の灰を浴びたにも関わらず、10万人当たりの死亡者数は祖父の世代のほぼ3分の1なってしまった。なぜ、そんなことが起こるのか? 実は我々が考えている以上に人間は放射能に強いのだ。 放射線を大量に浴びることによって、人間の細胞の中にあるDNAに傷がつく。もし、この傷が修復されなければその細胞はガンになる。しかし、人間の体にはDNAの傷を修復する能力が備わっている。つまり、放射線によってDNA傷がつくスピードより、その傷を修復するスピードの方が遅ければガンが発生し、その反対の場合はガンが発生しない。私と同世代の日本人が自らの肉体を人体実験に供して証明したことは、今回の原発事故の何倍もの放射線を浴びても、人間の体はそれを十分に修復する能力があるということだ。 これらの事実を総合すると、原発は世間で喧伝されるほど危険なものではなく、あらゆる可能性を想定してもそのコストは限定的だ。しかも、エネルギー源の分散という点で、エネルギー安全保障上のメリットもある。 いま電力会社の発電容量はほぼ限界に達し、老朽化したポンコツの火力発電所を無理やり動かして何とか乗り切っている。しかも、これら老朽火力を止められないため、定期点検を延期して回し続けるという危険な状態が続いているのだ。夏のピーク時に故障が頻発すれば、たちまち停電などの問題が発生する。そうならないための分散投資、それがエネルギーミックスなのだ。 何も原発で100%電力を賄う必要はない。水力、火力、原子力、その他の発電方式も含めてエネルギーのベストミックスを進めていけばいいのだ。そもそも、脱原発を前提としたエネルギー源のポートフォリオは、単に火力発電への依存を強めることに他ならない。しかし、それでは化石燃料への過度の依存を作りだすだけであり、エネルギー安全保障の観点からは大いに問題がある。 そういう意味で今回の川内原発の再稼働の意義は大きい。やっと日本のエネルギー政策の正常化に向けた動きが始まった。今後の展開に期待したい。

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    【今、敢えて言っておきます】原発の正しい「やめさせ方」

    目を向けましょうか。福島原発事故を受け、ドイツが脱原発を決めた、という事実があります。ドイツは「再生エネルギー大国」とも言われています。その一方、お隣のフランスは原発大国です。実はこの2つの国を足すと、電源構成は日本と同様になるのですね。私はこの前ドイツを訪問し、連邦政府5ヶ所、州政府2ヶ所、産業団体1ヶ所、消費者団体1ヶ所、太陽光発電事業者1ヶ所と計10ヶ所を調査してきました。ドイツの公式見解は「原子力ゼロで再エネ80%」となっていますが、これを基に「だから日本も再エネで!」と言うのであれば、フランスにも行って現状を見るべきです。 再エネ大国になろうとするドイツの横には原発大国のフランスがあります。ドイツだって、フランスの原発で作った電気を輸入しています。なんでここまでドイツとフランスが違うかというと、両国人の「不安」に対する考え方の違いがあります。 ドイツ人は「今日は原子力が安全だった。明日も多分安全だ。でも、100年後の今日、事故が起こるかもしれない」と考える。一方、フランス人はそうは思わない。同じヨーロッパ人でも、再エネ・原発に関して考え方が違い過ぎます。アメリカのマサチューセッツ工科大学のリチャード・レスター教授は、私との対談で「まず、かなりの数の原子炉を再稼働させること、それから福島第1原発の除染・廃炉作業の推進、三つ目として原子力を技術的には競争力を持たせよ」と答えています。 その一方、ドイツでは「再エネは素晴らしい」と言う。もうね、考え方は国によって違うんですよ。ドイツがいい、とかフランスがいいとかではなく、日本は、日本のことは「自分で決めろ」ということなんです。日本には日本独自の事情があり、簡単に外国のマネをするワケにもいかない。本当に自分達で考えなくてはいけない。 ドイツに行っても世界のエネルギー事情は分かりません。隣にフランスがあるから。両方を見て、初めて参考になります。その真ん中にいるのがアメリカとイギリスです。日本も、2011年3月10日までは両国と同様に「真ん中」でした。 韓国は原発推進に舵を切りましたが、その理由は日本と同様に韓国内で資源が採れないからです。ただし、日本よりももっと深刻なのは、北朝鮮と地続きなので、安全保障の問題がある点です。とにかく、エネルギーを自給しなくてはまずいのです。日本は資源がないから太平洋戦争突入したわけで、そういったエネルギー重視せざるを得ない事情も忘れてはいけません。あれは70年前という遠い昔のことだと思ってはいけません。 日本には2000年の歴史があるなか、70年というのは、全体から考えれば、ほんのちょっとの話です。そう考えると、70年しか平和が続いていない状態ともいえ、むしろ70年も続いたのは奇跡でしかありません。いつ資源をめぐってバトルが始まるか分からないんですよ……。アメリカみたいな遠いところからシェールガスを買います--みたいなおめでたいことを言っている場合ではありません。「合理的なやめ方」を考えるべき「合理的なやめ方」を考えるべき だからこそ、原発を使うことも仕方ないかな、という議論が生まれるのですね。原発の危険が分かるからこそ、カネをかけて安全対策を作り、より安全性に考慮した高いレベルの新基準を作るべきなんです。でも、原発が稼働していないので、拠出するカネがないのです。廃炉の費用がかかるとはいえ、原発で安い電気を作っておけば、40年くらいで廃炉にしても利益は出るんです。 私は、こういう風に、合理的なやめ方を考えるべきだと思います。進むのも、退くのも合理的でなくてはいけません。闇雲に、原発の比率50%にする、とかいうのもやり過ぎです。震災後の0%もやり過ぎです。 当面は25%~30%くらいが妥当なんじゃないですかね。CO2を出さず、安定したエネルギーを提供できるのは核燃料以外にはないんですよ。いや、身も蓋もないですが、再エネに期待するのは無理ですよ……。原子力の代替になれるのは石炭ですが、CO2が出ます。CO2除去のための技術を作る必要がありますが、それはまだできていない。 そして、再エネを本気でやりたいのなら、蓄電池が必要になります。今も蓄電池はありますが、バカ高いので実用化できない。それが実用化できるぐらいまでの技術開発ができるのであれば、その時こそ原子力も石炭もいらなくなります。22世紀とかまでにはできるかもしれませんが、政治も行政もそこまで考えている余裕はないですよね。今のことに必死ですから。絶対に落ちない飛行機はない 原子力やめるのはいいんですよ。でもね、原子力発電所って停まっていても危ないものですよ。使用済み燃料は冷やさなくてはいけないからです。そして、冷やすためには電気が必要です。処理をするにしても、核のゴミが冷えるまでには30年から50年はかかります。放射能が漏れない強固な容器を用いてもそれだけの時間がかかる。そう考えると、処理するための費用を稼ぐためにも原子力発電所は動かさなくては仕方ない。動いていても動いていなくても、原発を放置するのは危険なこと。再度言いますが、福島の事故はあくまでも「大津波」にやられてしまったものです。今、停止中の原発に大津波が襲っても危ないことに違いはありません。 原発反対にしても、“不自由がない国”だから反対運動が活発化するのですよ。消費税増税反対デモといっても、官邸前に何万人も来るわけではない。数パーセント増税しても、「まっ、そこまで苦しくはならないかな……」と思うからこそ、デモに参加しないのです。 政府は原発に関し、様々な情報を発信してきましたが、目立つものではありませんでした。私は官僚だったので、当然政府が発表した内容は知っていましたが、一般の人は関心がなかったと思います。何かが発生すると関心はようやく高まります。高速バスで事故が発生し、そこで過酷な労働の実態が浮き彫りになり、収益のために運転手が休めないことが明らかになった。でも、その事故が起きるまで、長距離バス業界がブラックだとは誰も思ってなかったんです。 全部が全部きれいにはできないんです。どこか適当なところで収めておこうよ、という考えにはいけないのでしょうかね? 絶対に落ちない飛行機はありませんし、絶対に安全な車も薬もない。パソコンだって、突然データが飛んだりすることがないとは限らない。それは、「しょうがない」とどこかで思っているから許せるところがある。 パソコンやスマホの場合は「多分壊れないんじゃないの」と思いつつ、実際に壊れたらおそらくあたふたするからこそ、その前に機種変更をしておく。“どうにかなる”前の機種変更なんですよ。原発の場合は、その日がいつ来るか分からない。40年なのか? 60年なのか? それはいつなのか分からないので、40年ではなく、せめて10年に1回は入念に点検しておきましょう、ということが重要だと私は思います。「再生エネルギー」は役に立つのか 何ヶ月も停電が続いたら「原発やめろ」なんて誰も言わないか? いや、その前提はおかしいですね。日本の電力会社は、国民に多大な犠牲を払う「停電」の状態を続かせるようなことはメンツにかけてもやらない。絶対に電力を供給させますよ。 その時に再生エネルギーが役に立つかといえば、私は疑問を抱きます。太陽光パネルはいかなる場所に置こうが、夜の発電はできません。風力発電はバカでかいので、置き場所にも困難を伴います。私も風力発電所に何度も行ったことがありますが、それはそれで怖いんですよね……。なんか妙な音波が出ていると言いますか……。近くに行くと二度と近寄りたくなくなるんですよ。風車が強風で倒れてしまったり、ショートして火事を起こしたりもしますし、風力発電は案外恐ろしいですよ。 それなのに、1本あたり、原発、石炭の1千~1万分の1しか発電できないんですよ。しかも不安定なのでアテにならない。国際機関であるIEAが発表しているWorld Energy Outlookを見ると、1973年に再エネの割合は0.1%でした。2012年にはそれが1.1%に増えました。でも、電力の使用量は2倍以上になっているから、絶対量でいえば、それほど増えていない。結局、火力、石炭、天然ガスが圧倒的なんです。脱原発とか再エネを増やそうというのは、費用対効果が悪すぎます。電気代金は安ければ安いほど、産業にも生活にも良い効果をもたらします。 震災前と比べたら、4人家族の場合は1ヶ月2割ぐらい上がっているのでは? 一人暮らしでしたら1.5割ぐらいでしょうか。ガスで風呂を沸かすにしてもガスをつけるには電力が必要。脱原発も重要ですが、それが生活を苦しくするのであれば、もしかしたら再考も必要なのではないでしょうか。関連記事■ 【今、敢えて言っておきます】片山さつき氏が生活保護を語る■ 復興で被災地の子供の心境変化 ゲーセンより道路整備求める■ 朝日「吉田調書報道」真っ先に疑った作家が改めて報道を検証■ 元原子炉設計者の大前研一氏「原発対応組織を官邸に置くべき」■ 自己責任論、原発、雇用 ネットの二項対立の発生背景と帰着点

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    税金ゼロの地方創生 原発正常化で『年間100億円』効果の地域も

    月20日分を転載)いしかわ・かずお 東大工卒、1989年通産省(現経済産業省)入省。各般の経済政策、エネルギー政策、産業政策、消費者政策に携わり、2007年退官。11年9月から現職。他に日本介護ベンチャー協会顧問など。福岡県生まれ。

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    世界の核事情はどう変わったか 核を「保有」しない日本の覚悟

    5カ国に過ぎない。1945年7月、ニューメキシコ州アラモードの砂漠に上がった最初の核爆発の火の玉(米エネルギー省提供) 過去70年、スウェーデン、西ドイツ、日本などは核保有国になろうと思えばなれたかもしれない国々である。それぞれに事情は違うが、潜在的技術はあっても、それを使わないと意思決定したのである。日本は『非核三原則』という建て前を打ち立てた。なかでも“核を保有しない”と決めたのである。この決意は、首の皮一枚ほどのものかも知れない。しかし、それがあるとないとでは大きな違いなのである。 広島・長崎から70年。 その節目の今年、湯川秀樹博士や朝永振一郎博士らも参加して1957年に立ち上げられたパグオッシュ会議が日本で開催される。パグオッシュ会議に止まらず、日本人が世界に向けて、核拡散防止そして核兵器廃絶のための、新たな価値観を創出し発信していくべき節目ではないだろうか。 識者の創造力に政治的実行力を備えたあらたな枠組みが必要だと思う。参考資料1)https://www.whitehouse.gov/issues/foreign-policy/iran-deal2)http://www.gepr.org/ja/contents/20130128-01/3)http://www.gepr.org/ja/contents/20130128-02/

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    もう太陽光には騙されない

    2030(平成42)年の「エネルギーミックス(電源構成比)」の議論が佳境を迎えつつある。ところが、その前提となる電力需要の総量に疑義が示されている。つじつま合わせのために、「深掘り」される太陽光などの再エネと省エネが要注意だ。

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    高すぎる「省エネ比率」40% 前提がおかしい再エネ論争

     [エネルギー問題を考える]京都議定書と鳩山目標の失敗の二の舞か杉山大志(IPCC第5次評価第3部会報告書 統括執筆責任者) 政府が検討中のエネルギーミックスに於いて、「原子力比率」や「再エネ比率」の議論の前提となる「省エネ比率」は40%に上り、過大に試算されている。このままでは、再エネを上回る国民負担が新たに発生しかねない。「省エネ比率」を今一度精査し、大幅に見直すべきだ。 政府長期エネルギー需給見通し小委員会(以下、小委)は、3月10日の第四回会合で、2030年の再エネ導入量についての試算を示した。報道によれば、再エネ比率(=電力需要に対する再エネの比率)は21%程度になるとされた。今後、この再エネ比率と、そして原子力比率について、いわゆるエネルギーミックスの検討が本格化する。 だが、この検討の前提となる電力需要の見通しが、過大な省エネを見込んでおり、それが大きな国民負担に帰結するであろうことは、あまり知られていない。 小委では、2月23日の第三回会合で、省エネ対策後の試算として2030年に9360億kWhという電力需要を示している。これは2012年の9670億kWhから、年率△0.2%の減少である。 これは経済成長率を1.7%とするという小委の前提と全く相容れない。なぜなら、電力需要の伸び率は、経済成長率を上回るのが普通だからだ。これはエネルギー経済学の常識でもある。RITE(地球環境産業技術研究機構)・秋元圭吾氏も指摘しているように(リンク先のスライド14参照)日本でも、電力需要の経済成長に対する弾性値は、1990年~2000年の10年間は1.1、2000年~2010年では1.0だった。 小委は、今後、省エネを推進することで、電力需要を年率△0.2%で減らすことが出来るとしている。だがこの想定は安易に過ぎる。なぜなら、過去にも省エネは推進されたが、それにも関わらず、電力需要の伸び率は経済成長率を上回ってきたからだ。 例えば、いまLEDが脚光を浴びている。確かにLEDはよい技術であり、普及を図るべきである。だが、だからといって国全体の電力需要が減ると見るのは早計である。過去にも、エアコンやテレビなどの効率は急激に向上したが、それにも拘わらず、電力需要の伸び率は経済成長率を上回ってきた、というのが実態であった。効率は向上しても、大型化したり、普及台数が増えたり、使用頻度が増えたり、あるいは通信用のサーバーなど、全く新しい機器が登場してきたからだ。(画像:istock) ここ数年でこそ、リーマンショックや大震災後の節電があり、電力需要は停滞気味に推移した。だがそれらが全て終わった2012年を起点として、かつ今後は経済成長をすると想定する以上、徹底した省エネ努力をしたとしても、その結果として、電力需要の経済成長に対する弾性値は1に近くなるはずである(詳しくはこちら)。 だが小委は、これよりも遥かに深掘りをした省エネを想定している。その「深掘りの程度」を、エネルギーミックスでの原子力・再エネ比率と比較して規模感を掴むために、「省エネ比率」と名付けて、計算してみよう(下表、上図)。 電力需要の経済成長に対する弾性値を、1990年~2010年と同じ1.0と措くと、電力需要の伸び率は経済成長率と同じ1.7%となる(「経済成長整合ケース」)。このとき2030年の電力需要は1兆3100億KWhとなる(この電力需要を「ありえない」という意見もあるかもしれないが、それは、暗黙裏に経済成長をしないと前提しているためである。論理的に考えるならば、経済成長するならば電力需要は増える。なお低成長のケースは後で考察する)。これと「小委員会試算ケース」の9360億kWhとの差分は3740億kWhに上る。つまり小委員会試算ケースの「省エネ比率」は40%にも達する*。これは再エネ比率・原子力比率として議論されている数字を凌駕する規模である。 では、このような大規模な省エネの深掘りは、どの程度のコストを招くのだろうか。「省エネは光熱費が浮くので、投資は回収できる。コスト増にはならない」という意見もある。確かにそのような省エネもあるだろう。だがそれは「経済成長整合ケース」で既に多くが織り込まれていると見るべきである。同ケースで用いた1.0という電力需要の弾性値は、多大な省エネ努力があったにも関わらず過去に観察されてきた数値だからだ。もしも40%というような巨大な規模で、更に省エネを深掘りするならば、コストは必ず跳ね上がる。再エネ並みか、それ以上に高くなるとみてよいだろう。 これは、小委の列挙している政策を見ても想像がつく。例えば、住宅の断熱改修は極めて高コストである。これは中上委員が第三回の小委席上で詳しく説明した通りであるし、国立環境研究所の資料(P19を参照)でも、住宅の断熱改修は太陽光発電以上にコストが高いことを明記している。*3740億kWh /9360億kWh=40%として算出した。 40%という省エネ比率を目指して、太陽光発電よりも高価な対策を実施するとなると、そのコストが莫大になることが懸念される。慶応大学野村浩二氏は、電力価格が倍増し、2030年までに累積で100兆円の国民負担になる可能性を示唆している(日経新聞経済教室、3月19日)。そうではなく、もっと安く上がるはずだとするならば、小委は、40%の省エネ比率が、どのようなコストで実現できるのか、分り易く示す責任がある。 このような計算への反論として、「経済成長率が1.7%というのは掛け声に過ぎず、実際には1.0%ぐらいになるのではないか」「経済がサービス化すれば、経済成長率が1.7%でも、電力需要の伸び率は1.0%ぐらいではないか」といった意見もあろう。だが電力需要の伸び率が仮に1.0%であるとしても、2030年の電力需要は1兆1157億kWhとなる。先程と同じ計算をすれば、小委員会試算の省エネ比率は24%となる。数字はやや小さくなるが、問題が巨大であることには変わりがない。経済成長を全くしないとか、産業が空洞化するというなら話は別になるが、それは小委で想定している経済の姿ではないだろう。 さて実際には、巨額なコストが発生する以前に、大規模な省エネは実施段階で頓挫すると思われる。国民の負担が大きいことが明らかになるにつれて、政策への支持がなくなっていくと予想されるからである。 以下、想像を巡らせてシミュレーションをしてみよう。省エネ比率がこのまま見直されなければ、経済が成長するにつれて、電力需要は伸びて、やがてCO2目標が達成できないことが明らかになる。すると、CO2を抑制するために、何等かの政策が導入される。だが何年か経つと、そのコストが膨大なことが判明して見直される。そのようなことが繰り返されるのではないか。 このような予言をするのは、それがまさに再エネのFIT制度で起きているからである。省エネの文脈では、例えば、排出量取引制度が導入されるかもしれない。だが、やがてそれが電力価格高騰を引き起こすことがはっきりしてくると、制度が見直されて、結局のところ、CO2の削減に結びつかないものになるだろう(なお、欧州の排出量取引制度では、排出権価格は暴落して、CO2の削減に繋がっていない)。 あるいは、省エネ補助金が増大するが、これも、先の住宅省エネ改修の例で見たように、負担が大きい割にCO2削減の効果が限られることがやがて明白になり、予算が削減されて、行き詰まるだろう。結局、混乱をもたらした挙げ句、CO2は減らず、予算は無駄遣いされることになる。 では小委は、なぜこのような、無理な省エネ見通しをしようとするのか? それは、CO2の総量を抑え込んだ絵を無理やりに描こうとするためである。実はこれは初めてのことでもない。京都議定書目標達成計画でも、特に家庭・業務部門を中心に、過大な省エネ見通しがあり、失敗した。国として数値目標を達成できたのは、リーマンショックがあったり、CDMで排出権を購入する等で、帳尻が合っただけのことだ(詳しくはこちら)。しかし、今後も同じような帳尻合わせが出来るという保障は全く無い。小委は過去の失敗に学ぶべきだが、そうしないで、また同じことをしようとしている。 これには政治的な意図も絡んでいる。政治は将来のコストと引き替えに目先の得点を増やしたがるものである。だから、仮に長きにわたりエネルギー政策を損なうことになることが分かっていても、CO2目標を無理に深掘りしようという動機は強い。だが、これは単に国内政治的な得点稼ぎであって、国益にも地球環境益にもならない。「野心的な数値目標を言わないと国際的に孤立して国益を損なう」というのは嘘である。 かつて鳩山首相は25%削減を宣言したが、それで良いことは何も無かった。これを石原環境大臣が3.8%削減*という控えめな数字に修正したが、それで日本が国際的に孤立したわけでもない。また「数値目標を深掘りしないと地球環境が破壊される」というのも間違いである: 地球温暖化には一定のリスクはあるが、かなり誇張されている(「温暖化の悪影響は本当か? 危機感煽るIPCCの環境影響評価 不十分な科学的根拠」参照)。 もちろん、CO2は減らしたほうがよいが、それは長期的・世界的に見ての話であって、2030年の日本のCO2に直結はしない。2030年の日本について言えば、新しい技術を生み出すほうが、よほど価値がある。 振り返ってみれば、政治的に膨れあがった過大な再エネ目標が、FIT制度を招き、今日の混乱をもたらした。いま、省エネについても、同じ事が起きようとしている。今後のエネルギーミックスの議論においては、「原子力」「再エネ」に注目するだけではなく、「省エネ比率」についても精査し、抜本的に見直すべきである。*http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/dai27/gijiyousi.pdf http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2003D_Q3A121C1PP8000/ など参照参考リンク本稿で使用した政府資料については:長期エネルギー需給見通し小委員会(第三回 2月27日、第四回 3月10日)本稿を裏付けるデータについて詳しくは、下記およびそのリンクを参照されたい:過大な省エネ見通しはこう見直すべし-政府長期エネルギー需給見通し小委員会で提示された省エネ見通しの改善提案 すぎやま・たいし  IPCC第5次評価第3部会報告書 統括執筆責任者 1991年東京大学理学部物理学科卒業。93年東京大学大学院工学研究科物理工学修士了、(一財)電力中央研究所入所。国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員、国際学術会議科学執行委員、京都議定書CDM理事会パネル委員、産業構造審議会専門委員、IPCC第四次評価第三部会及び統合報告書主著者を経て、現職。(一財)電力中央研究所上席研究員。関連記事■ 太陽光買い取り「29円」でも高すぎる■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ 再生可能エネルギー接続保留は誰のせい? 国会の責任を問う■ なぜ再エネは接続保留に至ったのか   

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    バランスの取れたエネ政策のための4つの視点

    堀 義人(グロービス経営大学院学長) 2011年8月5日に孫正義氏と筆者(堀義人)とが、日本のエネルギー政策に関して「トコトン議論」を実施した。日本は、エネルギー問題が引き金となり第二次世界大戦に参戦した歴史がある。その重要な議題でもあったので、多くの人がインターネットを通して観戦した。 日本のエネルギー自給率は4%(2006年)、原子力エネルギーを国産エネルギーとして換算した場合でも19%と、主要先進国の中では最も低い水準にある。食糧自給率40%と比較しても著しく低い。そのエネルギーを一部の地域に依存する地政学的リスクを、日本は抱えている。 それらのリスクを最小化するエネルギー安全保障の基本は「多様性」である。第二次世界大戦への参戦、そして敗戦の教訓を活かすためにも、資源の輸入元とエネルギー源は、多様化させておく必要がある。 多様性を確保するためには、中長期を見据えた骨太なエネルギー政策が不可欠となる。更にエネルギー自給率を引き上げるためにも、CO2の排出を削減するためにも、再生可能エネルギーとともに原子力エネルギーの比率を増やすことが求められている。 事実、政府は民主党政権時代の2010年6月に、従来の3E(エネルギーの安定供給確保/Energy security、温暖化対策の強化/Environment、効率的な供給/Efficiency)に、エネルギーを基軸とした経済成長の実現と産業構造改革を追加した、『エネルギー基本計画(第2次改定)』を閣議決定した。この計画では2030年に向けた具体的な数値目標として、原子力発電の割合を53%に高めることも示されていた。 しかしながら、2011年3月11日の東日本大震災による福島第1原発の事故以降、民主党政権のエネルギー政策は迷走した。政府内で客観的かつ中長期的視点による政策論議が十分に行われないまま、エネルギー基本計画を白紙に戻したこと、さらに原子力発電所の再稼働におけるストレス・テストを巡る閣内での政策決定が混乱したことはあまりにも短絡的、情緒的であり、政治のあり方として疑問だ。 もちろん、今回の様な原発事故を二度と起こしてはならない。悲しみ、苦しみを乗り越え、猛省し、厳しい現実を直視した上で、感情的に反・脱原発と叫ぶのではなく、冷静に日本のエネルギー政策全体に立ち戻って論じる必要がある。中長期のエネルギー政策は4つの視点で総合的に検討を 2012年12月に、民主党から自由民主党への再政権交代が起こり、第二次安倍内閣が発足した。総理は就任早々に震災後の民主党の掲げた「原発ゼロ政策」を破棄する姿勢を明確にした。このことによって、落ち着いた環境でエネルギー政策を議論できる環境を整えることができたことは、わが国の将来を考える上で非常に重要な決断であったと言える。 2014年4月、震災後初めてとなる「第四次エネルギー基本計画」が閣議決定された。国民の安定した生活と経済・産業を維持するために、無責任な「原発依存度ゼロ」の姿勢から脱却した。とても評価したい。中長期の視野に立ったエネルギー政策が求められている。 エネルギー政策を考える上で重要なのは以下、4つの視点だ。三菱電機が開発した、水素ガスで冷却する大型発電機 1)エネルギー安全保障 資源の輸入元とエネルギー源の多様化、自給率の向上などを考慮に入れ、石油、ガス、石炭などの化石燃料と、原子力、さらには、水力・風力・太陽光・地熱などの再生可能エネルギーのベスト・ミックスを検討する必要がある。 2)環境・命への影響 各種電源の発電量当たりの温室効果ガス排出量、さらには、発電電力量当たりの死亡者数などによる、「環境と人命への優しさ」を考慮に入れる必要がある。これまでの化石燃料に頼ったエネルギー政策ではCO2の排出による地球温暖化の問題や石炭の燃焼時に生じる粉じんの問題などの深刻な課題がある。原子力と再生可能エネルギーがその点では最も優位である。 3)実現性/安定性/経済性 実現性(必要な設置面積)、安定性(気候条件による出力変動)、経済性(電気料金・設備利用率・バックアップ火力発電のコスト、廃炉コスト、廃棄物処理費用)などを考慮に入れる必要がある。太陽光、風力などの再生可能エネルギーは、問題点(コスト、安定性、CO2排出、面積=実現性)が山積していることは事実であり、ドイツの事例を鑑みても原子力発電の代替となるベースロード電源にはなりえない。その点を考慮してエネルギー政策を立案する必要がある。 4)枯渇リスクと持続性(50年・100年先のエネルギーを) 世界人口は2050年には92億人に達すると予測されており、化石燃料枯渇後は、再生可能エネルギーと高速増殖炉・核融合を含めた原子力エネルギーしか残らないことを考慮に入れ、長期的視野に立った技術開発が必要となる。 上記4つの視点を考えると、先ず実現性・代替可能性を十分に確認してから、(原子力を含めた)エネルギー政策を再度冷静になって構築する必要性があろう。多様化・自給率向上・クリーン化の為の技術開発を進めよ 安定したエネルギー供給のためには、資源の輸入元とエネルギー源の多様化、自給率の向上が必要となる。そのためにも、さらなる技術革新を行うことが重要である。 1) メタンハイドレードの開発・石炭火力のクリーン化を 日本近海に埋蔵されているメタンハイドレードの開発技術、クリーンコールテクノロジー開発、コンバインドサイクル火力発電システムなどへの投資。 2)再生可能エネルギーは補助金ではなくて、研究開発促進を 経済性を高めるためのエネルギー転換率の向上、設備利用率の向上などへの研究開発投資。再生可能エネルギーの補助金のうち90%以上が、設置や運営に投下されるのは、技術革新という観点では、疑問が残る。補助金ではなくて、是非研究開発への投資に重点を。 3)次世代の原子力エネルギーの開発を 高レベル放射性廃棄物の処分問題の解決、次世代原子力発電(高速増殖炉などの第4世代原子力システム・進行波炉・核融合炉など)、原子力燃料サイクルの早期実現のために、技術開発とともに政治力の発揮を期待したい。 4)水素や電池への投資 燃料電池への研究開発投資、化石燃料以外から水素や合成燃料を生産する方法(またはプロセス)の確立。大規模定置型を含む蓄電池の普及に向けた技術開発・標準化の推進。 5)スマートグリッドを実現するインフラ整備 スマートグリッドによるピークシフトでの電力設備の有効活用と需要家の省エネルギー促進、家庭部門におけるエネルギー見える化促進のためのスマートメーターの普及、全国で電力融通ができるインフラ整備(送電網の整備と電源周波数の統一化)も期待したい。「エネルギー規制庁」の発足によるバランスのあるエネルギー政策と規制を エネルギーは、基本的に全て地球を汚すものなのだ。太陽光発電は、山を掘削し、農耕可能地を使い、広範な地域から緑を奪う。風力発電は、低周波音を出し、鳥を犠牲にし、山や海の生態系を壊すのだ。火力発電は、CO2を排出し、空気を汚す。原子力発電は放射能の不安を考えねばならないし、核廃棄物の最終処分場が必要になる。それらの良し悪しを基に、地球環境に優しく、安定性が高い循環型のエネルギー政策を選択し、実現する必要がある。 バランスのあるエネルギー政策を実現するためには、「原子力規制庁」というように1つのエネルギーのみを規制するのではなくて、全てのエネルギー利用を安全・地球環境保護の観点から公正・適切な規制を行う「エネルギー規制庁」のような体制が必要であろう。 どんな車であっても安全性を高めるために、アクセルとブレーキを持たせ、排ガスなどを規制し、目的地へと到達させなければならない。1つのエネルギーだけにブレーキを持たせ、他のエネルギーにはアクセルのみがあるのでは、その車は暴走し続けるだろう。その結果、緑が減り、山や海の生態系が壊れ、空気が汚染され続ける可能性があるのだ。 原子力規制に特化しない「エネルギー規制庁」として、地球環境全般に何が良いのかを、総合的に判断し、政策を推し進めつつ、必要な規制をすべきであろう。原発再稼働の審査を迅速化せよ 原子力規制委員会は、鹿児島県川内原発に続き、福井県の高浜原発についても、「新しい規制基準に適合している」とする審査書を決定した(2015年2月)。つまり、規制庁によるOKが出たわけだ。2012年9月の原子力規制委員会の発足から2年以上経過している。審査には数万ページにも及ぶ書類が必要で、現場には相当な負担がかかっているが、本当にそんなに必要なのだろうか?簡素化そしてスピードアップが求められる。九州電力川内原発。左から1号機、2号機=鹿児島県薩摩川内市 しかも、OKが出てからも、再稼働は遅々として進んでいない。厳しい審査基準を超えた原発については速やかな再稼働を進める必要がある。そのためには、反対派が全国から押し寄せようとも、マスコミが意味不明な扇動的な報道を行おうとも、冷静に総合的に判断できる環境を整えることが重要だ。また判断に必要な避難計画の策定などについては、政府による自治体への積極的な支援が必要だ。 原発全停止による国富流出が年間4兆円程度である。消費税2%もの国富が海外に流出しているのだ。電気代の高騰に伴う実態経済への影響も懸念される。当然、その分CO2の排出が増えている。 また、日本には原発技術を有する世界トップ4のうち、3社がある。東芝、日立、三菱重工である。中国が原発をこれから5年間で3倍に増やす計画がある中で、周辺諸国をはじめとする世界の原発の安定を守る役割を果たしていく必要がある。原発を放棄することは、将来的に原子力発電技術や安全管理を担う人材を失うことにつながる懸念がある。 さらに、停止状態にある原発が稼働している原発と比べて安全な状態にあるかといえば、そうではない。そこに燃料がある限り、リスクは同等に存在する。だからこそ、原発の再稼働に必要以上の時間と労力を割いて、再稼働を遅らせる必要はない。原発の再稼働の審査の迅速化を強く求めたい。官民一体となったエネルギー外交の強化を 現状の日本において化石燃料の確保は生命線である。産油国からの輸送についてペルシャ湾ルートの使用が多くを占めるなかでは、ISILなどの過激派の活動領域が仮に拡大してしまうことにより、供給ルートが途絶え、日本のエネルギーが枯渇してしまうようなことがあっては、国家として一大事である。 資源小国である日本は、政府・民間(事業者)が一体となった、正にオールジャパンの体制を構築しながら、戦略的なエネルギー外交を展開することが必要不可欠である。今まさに、新興国・アジア諸国を中心とした旺盛なエネルギー消費により、各国間ではエネルギー確保という国益と国益がぶつかり合う、厳しい権益争いが繰り広げられているのだ。 資源確保の際には、政府開発援助(ODA)や国際協力銀行などの政策スキームと外交ルート(チャネル)を最大限に活用して、エネルギー生産国との二国間関係の強化、エネルギー供給源の多様化、エネルギー輸送路などの安全確保、国際機関との連携の強化による国際協調の促進などを図ることが求められる。 このように、エネルギー政策は環境政策、科学技術政策、安全保障や外交政策のみならず、日本の経済成長戦略とも密接に関連する。また、エネルギー政策は国民生活や経済活動に大きな影響を及ぼすことから、国民の理解と支持が不可欠となる。したがって、政府による積極的な情報公開、政策対話、意見聴取を図ることが求められる。 何よりも重要なことは、僕ら国民の一人ひとりが、エネルギー問題を自分の頭で考えて、理解して、発信することである。そうでないと、世論が「怖いから止めよう」という安易な方向に流れて行ってしまう。日本は、エネルギー問題が引き金となり第二次世界大戦に参戦した歴史がある。それだけ重要な議題でもあるので、国民一人ひとりが真剣に考える必要がある。(「堀義人の100の行動」「GLOBIS知見録」より転載) ほり・よしと グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー。京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。関連記事■ 太陽光買い取り「29円」でも高すぎる■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ 再生可能エネルギー接続保留は誰のせい? 国会の責任を問う■ なぜ再エネは接続保留に至ったのか

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    問われるエネルギーの「ベストミックス」 火力依存、いびつな電源構成

    。その比率を示す「電源構成」の検討が本格化している。電力は暮らしや産業を支える基盤であり、電源構成はエネルギーの将来像や安全保障も左右する重要な問題だ。とくに東日本大震災前まで電源の約3割を占めていた原発をどのように位置付けるのかが焦点だ。一方で温室効果ガスの排出削減に向け、再生可能エネルギーの導入拡大も欠かせない。現実的な議論を通じ、日本の未来にふさわしい電源の最適構成(ベストミックス)を導き出すことが問われている。焦点の原発、現実的な議論必要に 「日本のエネルギー安全保障をめぐる環境は、依然として非常に厳しい」 電源構成を検討する経済産業省の有識者会議が今年1月末に開いた初会合。出席した委員からは日本を取り巻くエネルギーの現状に対し、強い危機感が相次いで示された。 東日本大震災に伴う福島第1原発事故を受けて全国の原発が相次いで停止し、日本では一昨年9月から稼働する原発がゼロの異常事態が続いている。原発の代替電源として火力がフル稼働しており、石油や天然ガスなどの化石燃料の輸入が急増している。 これら火力が電源全体に占める割合は、震災前の62%から震災後に88%と急上昇した。これは第1次石油危機時を上回る水準だ。シェールガスにも対応させる東京電力の川崎火力発電所(川崎市) イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の動きもあり、中東情勢の緊迫度は増している。そして日本の原油輸入の中東依存度は8割超に達する。資源小国の日本は極めて高いリスクを抱え込んでいる。 政府や電力会社は、将来にわたって必要な電力を安定的に供給しなければならない。そのための政府のエネルギー政策や、電力会社の投資計画などを決める際の目安となるのが電源構成だ。火力と原発、再生可能エネルギーの3つの電源を組み合わせて設定する。 最適な電源構成には「S(安全)+3E(経済性・環境性・エネルギー安全保障)」を考える必要がある。これらをバランス良く組み合わせることが求められている。 その観点でみると、現在の日本の電源構成がいかにいびつなものかが浮かび上がる。電力会社は震災後に燃料購入費が急増。増加分は年間3.7兆円にのぼり、相次いで電気料金の値上げに踏み切った。全国平均の料金は震災前に比べて家庭用で2割、産業用では3割も値上がりしている。 原発停止の長期化で北海道電力が昨年、追加値上げしたのに続き、関西電力も再値上げを申請中だ。原発の再稼働が遅れれば、他社も追加値上げを打ち出す恐れがあり、料金引き上げの連鎖は消費の下押し圧力になりかねない。 原発の稼働停止は環境にも影響を与え、火力比率の上昇で温室効果ガスの排出量も増えている。 政府は2030年時点の原発比率を「15~25%」とする方向で検討中だ。原発は「40年運転」が原則とされ、これを厳格に適用すると国内に48基ある原発は、30年時点で18基にまで減少し、原発比率は15%となる。 ただ、これでは30年以降も原発は減り続け、40年代にゼロになる。これを防ぐためには古い原発の運転延長に加え、新増設を含めた電源確保が欠かせない。 安全性を高めた原発を開発し、世界に提供することは原発事故を引き起こした日本の責務でもある。そのためには25%の原発比率を目指すべきだ。 日本エネルギー経済研究所は30年の電源構成を複数想定し、日本経済に対する影響を試算した。それによると「原発0%、再生エネ35%、火力65%」の場合に比べ、「原発30%、再生エネ20%、火力50%」は、国内総生産(GDP)が10兆円多かった。火力向けの燃料輸入が減り、料金上昇が抑えられるためだ。 そして同研究所では、原発と再生エネが25%ずつ、火力が50%の電源構成が「経済や環境への影響などを総合的に考えると、最も望ましい」(柳沢明研究主幹)としている。 原発に対する世論は依然として厳しい。だが、日本の将来にとって、原発の活用を含めたベストミックスの設定は不可欠だ。政府は原発の必要性を国民に説明することから逃げず、正面から議論に取り組まなければならない。再生エネ拡大、制度再設計が急務 政府は電源構成に占める再生エネ比率を2030年に20%以上に高める方針だ。だが、再生エネは発電コストが高く、送電網への接続容量も増強する必要がある。導入拡大には課題も多い。 太陽光などの再生エネを20年間にわたって電力会社が買い取り、電気料金に上乗せする制度は約3年前に導入された。だが、高値での買い取りを決めたことで申請が殺到。九州など5電力は受電調整ができなくなり、大規模停電の恐れがあるとして買い取りを一時保留する事態となった。 このため政府は1月、電力供給が需要を上回る恐れが生じた場合、太陽光の発電業者に対し、出力抑制を強制できる新ルールを制定した。また、政府は送電網の増強工事などの費用について、発電業者が負担する仕組みなども検討中だ。再生エネ導入には制度設計の見直しが急務だ。 さらに太陽光が9割を占める再生エネの普及動向を改善し、地熱などの利用を拡大したい考えだ。ただ、地熱や風力などは太陽光に比べて環境規制や地権者の同意などの問題も残る。どこまで普及が進むかは不透明だ。 環境負荷が小さい再生エネに対する期待は大きい。しかし、出力が安定しない太陽光などは安定電源にはなり得ない。その利用拡大には他の電源を組み合わせて上手な活用を考える必要がある。関連記事■ 太陽光買い取り「29円」でも高すぎる■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ 再生可能エネルギー接続保留は誰のせい? 国会の責任を問う■ なぜ再エネは接続保留に至ったのか

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    原子力を国家戦略の柱に据えよ

    澤昭裕(経団連21世紀政策研究所研究主幹) エネルギー政策は国家戦略である。国家共同体の完成形に近い欧州連合(EU)でさえ、エネルギー政策については各国とも権限は移譲していない。再生可能エネルギーに力を入れている面ばかり強調されるが、ガスの市場統合や原発の新設など、エネルギー安全保障の確保に向けた戦略的な投資も続いている。幼稚な議論に陥っていないか ロシアは天然ガスや原子力技術の輸出をテコとして、旧東欧諸国への政治的影響力を行使している。中国は資源開発・調達力を武器に他の途上国の意思を左右してきたうえに、最近ではロシアに倣って原子力産業を国家的に育成し、成長のために電力を必要とする有力途上国にアクセスしようと試みている。米国は、シェールガスの恩恵をフルに活用し、エネルギーの対外依存度を低下させて外交的な自由度を確保する戦略をとっていることは明らかだ。 主要な先進国がエネルギーを国家と国民の生存と繁栄の糧と考えている。そして、軍事、政治、経済の諸側面で自国の影響力と存在感を維持すべく、どのようなエネルギー技術やシステムに投資していくかに知恵を絞っているのだ。 振り返って、日本のエネルギー政策をめぐる議論の実情はどうか。福島第1原発事故によるショックから覚めやらず、太陽光や風力といったいわゆる「クリーン」なエネルギーに夢を託すといっただけの幼稚な議論に陥っていないか。そのような問題意識しかない中では、原発が何パーセントになろうが、再エネが何パーセントになろうが、諸外国から見れば、日本は先進国の仲間からとうとう落ちこぼれてしまったな、という印象しか持たないだろう。国際貢献と技術の温存 今の安倍晋三政権の歴史的使命は、長く続いたデフレの真っ最中に、東日本大震災によって大きな打撃を受けた日本経済の活力を取り戻すとともに、日本の技術力や経済力、国家経営力に国民全体が自信と誇りを取り戻すことにある。なかんずく、原子力は技術自体の複雑性や先端性から戦略的重要性を持っており、原子力をエネルギー戦略にどう組み込み、安倍政権の政治的課題とどう結びつけていくかが問われているのだ。福島県飯舘村の太陽光発電施設。経済産業省は太陽光発電の買い取り価格を3年連続で引き下げた そのための戦略はこうだ。日本は原子力の平和利用の成功国として、原子力技術を軍事から徹底的に切り離した形で開発普及を促進し、それを人類全体の発展と社会的安定に結びつけていくことを大きな政策目標として掲げる。 それを具体的に実践する方策として、福島第1原発の事故の経験を、原子炉の新たな設計や運転技術に反映するという前向きな形で消化し、その新たな技術力に裏付けられた原子力発電システムを世界に普及させることに注力する。これによって、人類共通の危機である気候変動に対して、再エネと手を携えて挑み、電力に恵まれずに困っている十数億の民を抱える国々の経済発展と国民生活の安定に協力することができる。 このように国際貢献の面では胸を張りつつ、他方では原子力技術を温存することによって、日本の宿命的なエネルギー資源の欠如を補うことも実現できる。ドイツが再エネを進めている理由の一つは褐炭資源の温存にあることを見習わなければならない。どの国でも、自国のエネルギー自給率は国力そのものの尺度なのだ。リスクに立ちすくむな もちろん国内戦略にとっても原子力は最重要要素の一つだ。安倍政権で最も重要な政策であるアベノミクスは、経常収支の黒字が縮小している傾向が続けば、財政赤字とあいまって市場の信頼を失いかねない。野田佳彦政権時に大飯原発再稼働を決めた翌日、液化天然ガス(LNG)のスポット輸入価格が急落した。市場も産ガス国も日本のエネルギー政策の動きを注視しているのだ。 化石燃料費増や再エネ賦課金による電気料金の続騰は、中小企業も直撃している。このままでは地方創生も夢で終わってしまうだろう。原発の再稼働はマクロ経済や成長戦略と表裏一体なのである。 また、福島第1原発事故の収束や地域の復興には財源が必要だ。さらに再エネを含む戦略的なエネルギー技術開発投資にも資金が要る。原発再稼働で生まれる経済的価値は、直接的あるいは間接的にこうした財源を生み出すのだ。 これらの戦略を遂行するためには、国内の原子力技術や施設や人材を最大限動員することが必要である。また、将来においても原子力は日本にとって国家戦略としての価値を有する技術だという共通認識も必要だ。再稼働一つできないままでは、技術や人材は腐っていく。安全性の確保はもちろんだが「ゼロリスクはない」ということに立ちすくんではならない。 国家戦略の立案・遂行の責任者である政治家や官僚、そして最高リーダーとしての安倍首相には、現在のエネルギーミックスの議論をエネルギー政策の内部に閉じた議論に矮小(わいしょう)化するのではなく、国の生存と繁栄という観点から適切な結論を導きだしてもらいたい。 さわ・あきひろ 一橋大学経済学部卒。1981年通商産業省(現経済産業省)入省。87年米プリンストン大学で行政学修士取得。経産省産業技術環境局環境政策課長、資源エネルギー庁資源燃料部政策課長、東京大学先端科学技術研究センター教授などを経て現職。NPO法人国際環境経済研究所所長も務める。著書に『精神論ぬきの電力入門』など多数。大阪府出身。57歳。関連記事■ 太陽光買い取り「29円」でも高すぎる■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ 再生可能エネルギー接続保留は誰のせい? 国会の責任を問う■ なぜ再エネは接続保留に至ったのか

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    再エネ・省エネこそ冷静に 混迷のエネルギーミックス

    Wedge編集部 政権が避けてきた将来の「エネルギーミックス」がまもなく提示される。つじつま合わせのために、「深掘り」される再エネと省エネが要注意だ。 1月末、経済産業省の有識者会合で、2030年段階における日本の電源構成(エネルギーミックス)の検討がようやく始まった。舞台は、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会に置かれた「長期エネルギー需給見通し小委員会」。分科会の坂根正弘会長(コマツ相談役)が小委の委員長も兼任し、熱心に議論を進めている。 本来、このエネルギーミックスは、14年4月に閣議決定したエネルギー基本計画の段階で明示されるはずだった。ネックになったのはもちろん原子力だ。自民党は、政権奪取時に掲げた「規制委が安全と判断した原発については再稼働」という表現を超えるスタンスを示すことはずっと避けている。選挙に際して「政治的リソースを原発には割かない」という判断があった。 そのため基本計画における原発の書きぶりは、「重要なベースロード電源」だが、その依存度は「可能な限り低減」、ただし「確保していく規模を見極める」と、なんともわかりにくい。しかし、この曖昧戦略もいよいよ終わりにせざるを得ない。今年11月に、2020年以降のCO2削減の国際的枠組みを決めるCOP21(第21回気候変動枠組み条約締約国会合)があり、6月のサミットで、安倍首相が日本のCO2削減目標を示すとみられているからだ。そうすると5月までにはエネルギーミックスを決めなければならない。 「統一地方選後の4月下旬には小委が選択肢の形で示すだろうから、経産省の原案は3月末から4月初めには提示されるのではないか」(関係者) 有識者の間で共有されているエネルギーミックスの相場観は、「原子力が15~25%、再生可能エネルギーが20~30%で、原子力より再エネが多い」というものである。 震災前の原子力依存度は発電ベースで約3割だった。これより低減させるから25%以下。現存する原発に40年運転規制を厳格にあてはめれば、30年段階で全て稼働させても15%。だから15~25%なのだが、20なり25という数字を示せば、それはとりもなおさず原発を新たに造ること=リプレース(新増設)を意味するから、政治家としては世論の反発が怖い。世論を納得させるためには、再エネをそれ以上に充実させている構えが必要というのが、この相場観の意味するところだ。 再エネについては、民主党政権が10年6月に定めたひとつ前の基本計画が発射台になっている。この計画では、鳩山由紀夫首相が09年9月の国連演説で唐突に発表した「90年比25%減」という野心的すぎるCO2削減目標を満たすために、CO2を出さないゼロ・エミッション電源である原発と再エネについて、それぞれ50%、20%と高い目標値を掲げた。このときよりも強い再エネ推進姿勢を示すために、今回「再エネ30%」という数字が取り沙汰されているのである。再エネ30%の非効率性と非現実性 再エネは現在、固定価格買取制度(FIT)という、発電事業者の収益を事前に確定させる超優遇制度で導入が進められている。そのコストはすべて電力消費者に賦課金としてツケ回しされているのだが、FITで再エネ30%を達成しようとすると膨大な賦課金になってしまうのだ。 電力中央研究所の朝野賢司主任研究員の試算によれば、新エネルギー小委で示された現行の導入ペースをずっと継続すると、2030年段階で再エネ比率は約30%となり、年間賦課金は4.1兆円に達するという。震災前の年間電気料金の総額が約15兆円だから、その約3割にあたる。震災後、原発停止などによって電力価格が約3割上昇し、関西電力などの電力会社が強く批判されているが、再エネだけでその域に達してしまうということになる。 実は再エネ20%でもなかなかの負担感である。同じ試算によると、FITを今年度で廃止したとしても、すでに認定された設備がすべて運転開始すればそれだけで再エネ比率は約20%、年間賦課金は2.6兆円にも及ぶ。 では再エネ20%は容易に達成できる目標なのかというとそれも違う。再エネの大半を占める大規模太陽光設備(メガソーラー)を運用の事業者をヒアリングすると、「高い買取価格のときに、認定だけ取ったブローカーなど、事業運営能力のない事業者が多く、現在の認定容量の半分も運転開始には至らないだろう。経産省は悪質事業者を排除し、制約が出てきている電力系統を空けるべき」と口を揃える。 しかも、慶應義塾大学の野村浩二准教授の実証研究によると、FITは競争を阻害し、高い買取価格の設定によって、事業者は世界標準よりも高い太陽光パネルを輸入することに甘んじ、事業に対する習熟効果もほとんど見られていないという。消費者は無駄に高い電気を買わされているのだ。 FITは再エネ推進の立場に立っても有害無益な制度になっている。「焦らずに、パネル価格が下がりきったところで、公共工事として入札で大量に買い上げれば圧倒的に安く導入できる」(野村准教授)。少なくとも、21世紀政策研究所の澤昭裕研究主幹の言う「ドイツなどが行っている、買取価格を卸価格に連動させるプレミアム型への移行や自力直接販売、入札導入など、再エネの市場統合」を急ぐべきだ。 また、再エネは20%を超えてくると導入すること自体が困難になってくることも真剣に検討すべきだ。経産省が小委に3月10日に示した資料によれば、年間でもっとも電力需要が少ない5月の晴れの日を想定した、電力系統への接続可能量を考慮すると再エネは20%程度しか入れられない。これを超えると、系統からの遮断や、系統増強への投資が必要になるため、消費者負担は途端に大きくなる。 また、再エネの大半が太陽光と風力という不安定な電源であることにも注意が必要だ。埋め合わせは、すぐに出力を上げることのできる火力発電が行うのだが、「バックアップ火力の稼働率は低くなるので、事業者にとってみれば投資効率が悪い。日本は20年をメドに電力自由化を進めるとしている。自由化された電力会社はそんな電源への投資は避ける。ドイツでは実際に火力発電の稼働率低下と投資抑制が起きている」(NPO法人・社会保障経済研究所の石川和男代表)。 「大量の余剰電源があったスペインや、連系線で隣国と電力をやりとりできるドイツといった恵まれた国でも、再エネが20%を超えると様々な問題が起きた。日本は今からリスクに対応しておくべき」と澤昭裕氏は言う。「再エネ30%」の非効率性と非現実性を直視すべきである。省エネ「深掘り」の危険性省エネ「深掘り」の危険性 再エネよりさらに問題が大きいと思われるのは省エネだ。 再エネの比率を高く見せるには、分母となる電力需要の総量が小さければよい。最終的な安倍首相の掲げるCO2目標を野心的に見せるためにも、基準となる電力需要は小さければ小さいほど楽だ。こういった思考から、とまでは言わないが、小委においても「まずは省エネをできるだけ深掘りしてからエネルギーミックスを考える」というプロセスが当然のように受け止められている。 地球環境産業技術研究機構の秋元圭吾グループリーダーによると、「そもそも基準になっている30年の電力需要想定が、前提に置かれている年1.7%の経済成長率に比べて低すぎる。GDPが1単位成長したときに電力需要がどれだけ伸びるかを示す弾性値を計算すると0.5。震災直後のような異常事態を除いた、過去の平常時の弾性値は1程度だ」。これは、右のグラフ上の赤の実線の傾きが、非常に小さいことに表れている。資源少国の日本が電力需要を低めに想定するのは、エネルギー安全保障の観点からも危険だ。 さらに慶應大学の野村准教授によると、この基準となる電力需要想定に、省エネ対策を最大限積み上げた「省エネ対策後」と呼ばれる需要想定が、経済への影響が大きすぎるのだという。 「『省エネ対策後』として想定されている省エネを市場経済のなかで実現しようとすると、2~3倍程度では済まない電力価格の高騰を必要とする。これにはイタリアという実例がある。イタリアは99年から13年にかけて電力価格が名目で3倍、実質で2.3倍まで上昇したが、これは、一定の仮定を置いて計算すると、年率0.15%ほどのGDP低下要因になっている。日本経済の将来見通しに適用すると、30年の断面では2.2%ほどのGDP下落となり、それまでに失う所得の総額は100兆円に近いものとなる。これは到底耐えられる水準ではない」 以上の内容をまとめると、エネルギーミックス検討のミソはこうなる。・つじつまを合わせるためにやりたくなる省エネの深掘りは、経済への影響が大きいのでやってはならない・再エネは20%を超えると、電力消費者の負担も電力系統にかかる負荷も途端に大きくなる。30%などという野心的な目標は掲げるべきではない・再エネ20%でも十分再エネ推進であり、その政策手段は、無駄だらけのFITであってはならない(FITは極力早期に廃止すべき) このような「不都合な真実」から逃げた、格好だけのエネルギーミックスで将来に禍根を残してはならない。関連記事■ 太陽光買い取り「29円」でも高すぎる■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ 再生可能エネルギー接続保留は誰のせい? 国会の責任を問う■ なぜ再エネは接続保留に至ったのか   

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    まだドイツは原発稼働中 「一国再エネ主義」は不可能だ

    澤昭裕(国際環境経済研究所長) 将来の電源構成(エネルギーミックス)の議論において、再生可能エネルギーの導入量は、水力を含めて20%程度にとどめておくべきである。技術的、経済的に看過し難い問題があるからだ。厄介な余剰電力、不安定性 その理由の第1は、「一国再エネ主義」は不可能だからだ。特に、風力や太陽光といったお天気まかせの発電設備で生まれる電気は、往々にして需要を上回る余剰電力を発生させる。余剰電力は系統運用を乱す厄介者だ。 ドイツでは、自国内の送電線建設計画が住民の反対などで進捗(しんちょく)していないため、北欧や東欧各国に余剰電力を「捨てて」いる。これができるのもドイツが隣国と送電線で連系されているからである。 すでにドイツの国内発電量の4分の1を超える部分が再エネによるものとなっており、これ以上の拡大は難しいということで、ノルウェーとの送電線敷設計画に期待をかけている。しかし、欧州全体の系統運用を司(つかさど)る機関やドイツの隣国の間では、流入する余剰電力に頭を痛めており、ドイツ自国内での処理を促している。 第2に、不安定な再エネを増やすほど、その発電量変動を吸収するための調整電源が必要になってくる。ドイツでは、再エネ発電量が増えるにしたがって、天然ガスや石炭火力の稼働率が落ちて採算性が悪化したため、電力会社が撤退の意向を示し始めている。しかし、本当に撤退されてしまうと、例えば風が吹かないときに風力発電の穴を埋める電源がなくなってしまい、停電の危機が訪れる。 こうした問題を解決するため、ドイツ政府は、大手電力会社に勝手に火力から撤退させないよう法的に規制したり、電源維持で生じる損失を補助金で埋めるといった措置まで取り始めているのだ。 さらに、調整電源で生き残っているのは最も安い褐炭火力だ。しかし、この電源はCO2を大量に出すことから、ドイツでは再エネをこれだけ増やしたにもかかわらず、CO2は増加した年もある。9基の原発が稼働中のドイツ 第3に経済的負担の増加だ。ドイツもスペインも固定価格買取制度を導入して再エネを増やしたが、特に太陽光には高すぎる買取価格を設定したために投資が集中し、電気料金は大きく上昇。今や産業界や消費者からもコスト無視の再エネ導入に厳しい批判が寄せられ、両国とも固定価格買取制度を廃止しており、市場での競争に晒(さら)す仕組みに変更した。 ドイツは「脱原発」を決めたことばかりが強調されるが、実はまだ9基も原発が稼働中だ。これ以上電気料金が上昇すれば、日米との産業競争力格差が広がることを懸念しているからだ。ドイツ企業が払っている再エネ賦課金は、米国企業が払っている電気料金全額に等しいといわれる。メルケル首相が、訪日時に日本も脱原発に転向するよう働きかけたと報道されたが、こうした自国の産業競争力の低下懸念が背景にあるのだ。 欧州の一国は日本で言えば「県」であり、それを国全体のモデルとするのは非合理的だ。 欧州全体を日本のモデルとすればよい。その意味では再エネ導入をドイツやスペインを例に考えるべきではない。欧州全体での発電量割合は震災前の日本とほとんど同じであり、その構成を見習うべきだ。また、エネルギー政策は各国の経済戦略と密接に関係している。日本も、より経済性向上やコスト最小化を意識すべきだ。廃止すべき固定価格買取制度 その観点から次の3つの施策が急がれる。第1に原発再稼働、第2に固定価格買取制度の即刻廃止と再エネの市場統合化だ。特に今の固定価格買取制度のまま再エネ導入を漫然と進めていけば、総費用は80兆円以上にもなる(電力中央研究所試算)とされている。 第3に、固定価格買取制度によってこれまで再エネ事業者に過剰に移転された電力ユーザー(産業、消費者)の富の再移転である。高額の買取価格で想定されていた設備費と実際に調達した設備費の差分は、再エネ事業者の棚ぼた利益であり、この利益に逆賦課金を課して、それを財源に国際競争に晒されている産業界への減免措置を拡大したり、低所得者層への交付金に充てる。 スペインでは、買取価格の低下を遡及(そきゅう)適用して国民負担の増加を抑制しようという荒療治を始めているが、それほど再エネにかかる費用の増加は深刻なのである。 また、再エネ導入がもともと「脱原発」ではなくCO2削減を目的としていることから、固定価格買取制度によるCO2削減費用と省エネ強化などで行うCO2削減費用との差分(前者の方が数十倍以上だと考えられる)の量を、地球温暖化対策税収から産業界に対して補助金を出すか、税そのものの減免を行うことも有力な経済負担軽減案だ。 日本は再エネ導入比率が低いから心配に及ばないという主張もある。しかし私は欧州の有識者から頂いた忠告に学びたい。「再エネ導入は時間をかけて、量的制御を厳しくコスト重視で行うべし」さわ・あきひろ 一橋大経卒。昭和56年通産省(現経産省)入省、環境政策課長、資源エネルギー庁資源 燃料部政策課長などを経て退官。東大先端科学技術研究センター教授などを歴任し、平成23年から国際環境経済研究所長。大阪府出身。澤昭裕詳細ページ関連記事■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ シェールガスで原発は不要と煽った反原発団体の“まやかし”■ 固定価格買取制度は最初から破綻が見えていた