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    革命の島を理解する3つの観点

    なぜアメリカは接近したのか アメリカがキューバに急接近した理由として、オバマ大統領の功績作りという説がある。2016年にアメリカ大統領選挙を控え、民主党も成果を残さなければならない。世界はいま、スターバックスやマクドナルドなど、どの国にも同じ店が並び、食生活を始め、文化のあらゆる面が画一化されてしまっている。2014会計年度末の9月28日当時の段階で、スターバックスは世界65カ国に2万1千店舗を展開していた。アメリカはキューバに接近することで、資本主義の新たなフロンティアを開拓する狙いがあるのだろう。 とは言えキューバ政府は革命以来、外国企業に(土地を含めた)不動産を所有することを認めていない。現地でヨーロッパ企業のホテルやレストランはちらほら見かけたものの、資本率は49%までであって、運営もキューバ政府と共同という形式をとっていた。キューバ政府が講じてきたこれらの政策は、依存を生みやすい交流を排除することで、支配⇔服従の関係から独立して国民経済を守ってきた。キューバ共産主義青年同盟(UJC)による行進  一方、アメリカの力は政府の直接の介入によってではなく民間企業などの進出を通じて他国におよぶ。だからこそ、政府が新たなフロンティアを開拓することで利益を得るのは米国を拠点とする私営企業であって、これはオバマ大統領の功績、ひいては民主党が来年の選挙を有利に運ぶための戦略に繋がると言えよう。 さらには、台頭する中国への抵抗も狙いの一つであると考えられる。キューバを走る車のなかに、フォードやシボレーといったアメリカ製の近代的な車は一台もなかった。あるのは、中国製と韓国製、もしくはヨーロッパの新型車であった。いかに中国の製品が安かろう悪かろうで語られるとはいえ、実際にハバナでの中国製車の氾濫や巨大な中国大使館を見ると、アメリカも安心はできないのだろう。 国際政治学者として著名な高坂正堯氏は、名著『国際政治』のなかで権力闘争の変容についても述べた。つまり、「先の大戦後の権力政治は大きく変わり、それまでの権力闘争の目的は、より大きな領土を獲得することだったが、それはもはや今日の権力闘争の目的ではなく、今日の権力闘争の目的は、同じ政治原理を持つ国を広げることである」。この一節は冷戦下の社会主義諸国と自由主義諸国の対立のさなかに書かれたことであっても、それから半世紀を経た今、多少の状況は変わったが、今回のキューバをめぐる情勢にも当てはまる、普遍的な国際政治の枠組みを捉えた本質である。つまり、かつてに比べ社会主義国の肩身が狭くなったことは否めないが、国際社会を構成する各国家が、いかなる性質の国家であるかということは、国際社会のあり方に影響をおよぼす重要な要因である。 1982年、アメリカはキューバをテロ支援国家に指定し、他国に制裁金を課してまで様々なかたちで経済封鎖をおこなってきた。キューバ経済は困窮し、外国物資を買う資金もなく、目抜き通りを一つ超えれば街はぼろぼろの状態が続いている。キューバ国民の不満が募っていることは想像に難くない。オバマ大統領を中心に展開される米キューバ関係には、今後も注目していきたいところである。自由なき社会主義国 成功した社会主義国のモデルとして、またかつてはアメリカの脅威として、その名を世界に轟かせたカリブに浮かぶ小さな島国。日本でも昨年からキューバ特集が多く組まれ、キューバの魅力として、キューバ国民がどんなに幸せな生活を送っているのか目にした方も少なくないであろう。しかし、海岸に沿って車を走らせると、あることに気がついた。 キューバを愛した文豪家として知られるヘミングウェイは、広大な敷地をもつキューバの邸宅で一つの作品を書き上げた。のちにノーベル文学賞を授賞した『老人と海』である。年老いた漁師のサンチャゴが、カジキマグロを捕りに航海したときのことが描かれている。漁師たちのあくせく働く場面からは、船着場には無数の帆かけ舟がたまっているような情景を想像させられたものだが、どこを見渡しても舟の姿が見当たらない。これは一体どうしたことか。 日本では、社会主義国でありながら幸福度の高い国として紹介されてきたキューバだが、日本でみる報道がすべて事実だと思ってはいけない。社会主義国を取材することはそう簡単なことではないからである。キューバは他国と比較しても取材ビザ(報道関係者が取材を目的として渡航する場合に取得しなければならないビザ)の取得が難しいことで知られている。なぜなら、キューバが社会主義国だからだ。完全なる社会主義国は世界に二カ国あり、一つは北朝鮮で、残りはここキューバである。当然、テレビやラジオ、新聞を含めてキューバのメディアはすべて国営であり、外国の報道機関が取材する際にはキューバのプレスセンターを介して行われる。キューバ政府は自分たちが伝えたいキューバしかみせようとしないし、外国メディアの側も事前に取材したい内容を伝えて、取材する場所をピンポイントで指定されるしくみになっている。さらに、報道機関が現地の人々にインタビューを試みても、彼らは胸の内を話そうとはしない。外国メディア側は確固たる根拠がなければ報道できないので実名入りのインタビューを成功させることが勝負となる一方で、 キューバ人としては、反政府的な内容で報道されてしまうとのちに報復されかねない恐怖心があるのだ。親しくなったキューバ人からこんな話を聞いた。「この国には自由がない。カストロがすべてを操っている。」、と。彼のお兄さんは9年前にアメリカに亡命したという。日本でみる報道がキューバの魅力に限定されるのは、つまりは言論統制の裏返しであることを我々は注意しなければならない。亡命したお兄さんについて語ってくれたキューバ人男性と そんなこともあって、実のところ、毎年2万人のキューバ人が故郷と家族を捨て国外に逃亡していることは日本ではあまり知られていない。この舟数の少なさは、国民の国外逃亡を阻止するためにキューバ政府が舟の所有に規制をかけているためだった。 私は、映画『スカーフェイス』で、米国に亡命したキューバの政治犯トニー・モンタナ役を演じるアル・パチーノを思い出す。映画序盤、米国に政治犯として亡命したはいいが、なかなか入国を認められないトニー。やがて彼はしびれを切らし、自分を取り押さえようとする米国人に社会主義国家キューバの惨状を吐露する場面がある。  「お前はアカか?奴らの下では考える自由も感じる自由もない、まるでヒツジだよ。一日10時間、タダ働きの奉仕労働、ポリが街中に張り込んでて一挙一動を監視している。食い物は3食タコ、耳からタコが出る、クツはソ連製、履くと底が抜けて指が出る…ガマンできるか?なあ、俺はコソ泥なんかじゃねぇ。キューバの政治犯トニー・モンタナだ。カーター大統領の言う人権を認めて貰おうじゃないか!」 これは少々行き過ぎた表現だとしても、キューバの人々の中にはやはり上記の呪詛を裏返しにしたような「自由の国アメリカへのあこがれ」というものがある。キューバで生きるということ そんなキューバ人の国民性を感じた例がもうひとつある。 キューバでは労働者は皆「公務員」という扱いになる。レストランの給支係でさえである。「公務員」と聞くと日本では安定した収入をイメージする人が多いだろう。しかし聞くところによると彼らの給料は配給を含めても一ヶ月と生活出来ない程の微々たるものである。ではどうやって食い繋いでいるのだろうか。ハバナにある配給所 ある日、ステーキを食べにレストランへ行った。焼き加減をミディアムレアと注文し待つことしばし。やがて給支が皿に盛り付けられた巨大な肉をニコニコしながら持ってくる。すると突然、わざとらしい大仰な素振りで「申し訳ありませんお客様!ミディアムレアと注文されていたのに、こちらの手違いでミディアムで肉に火を通してしまいました。こちらはお下げいたします。もうしばしお待ちを。」とこうくる。この下げられた肉が何処へ行くか…読者の皆様にはもうお分かりであると思う。これぞ「キューバ的人情」というやつだ。 私達は社会主義国の国民と聞くと同情の念を持って見てしまうが、それもまた一つの偏見である。どんな状況でも人間は助けあいながらどっこい生きていくのである。葉巻を吹かし、アフロ・キューバンのリズムに耳を傾けながら高層ビルに遮られない雄大な空を眺めることは日本では出来ない。 彼らにも彼らなりの幸せがあるのだ。そこに優劣をつける権利は誰にも無い。関連記事■ 米・キューバの国交正常化交渉が宿す三つの象徴性■ ヒト・モノ・情報はキューバを変えるのか■ 断絶中も裏でつながっていた米国とキューバ

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    米中新冷戦時代の陰謀

    世界には完全な社会主義国家が二つある。ひとつは北朝鮮であり、もうひとつはキューバである。私は先日キューバを訪れる機会を得た。今回はキューバをとりまく情勢とリアルなキューバの姿を伝えたいと思う。

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    「イランこと」する大統領

    は、中国との温室効果ガスの削減合意、大統領令による移民制度改革の実施など共和党が嫌う政策を連発した。キューバとの国交正常化交渉の開始を表明したのは、挑発の最たるものといえる。 「米国の政策変更が一夜でキューバ社会に変革をもたらすとは期待していない。しかし、関与政策を通じてこそ、キューバ国民が『21世紀』へ動き出す助けになると確信している」 17日、政策変更を表明したオバマ氏はこう述べた。 米国は1982年、共和党のレーガン政権下でキューバをテロ支援国家に指定。キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長(88)、ラウル・カストロ国家評議会議長(83)の兄弟による共産主義体制の人権侵害を問題視し、孤立化を図ってきた。こうした「封じ込め政策」には、キューバでの圧政を逃れて亡命してきたキューバ系の支持があったが、若年層では国交正常化を支持する意見が強くなっている。 また、キューバとの国交正常化で反米色の強いベネズエラやボリビアとの間に楔(くさび)を打ち込むことは、かげりを見せる中南米での米国の影響力を強めることにもなる。中米では中国資本がパナマ運河と競合するニカラグア運河の建設に着工。中国やロシアに「裏庭」を荒らされるのを防ぐため、オバマ氏はキューバへの「関与」を選んだ。長広舌の応酬 オバマ氏によると、61年に断絶した国交の正常化に向けた歴史的な16日の電話協議は、両首脳のこんな応酬で始まった。 オバマ氏「長い時間、話したことをおわびします」3月30日、キューバ・ハバナで、ベネズエラからの訪問団の一員と話をするフィデル・カストロ前国家評議会議長(左)(ロイター=共同) ラウル・カストロ氏「気にしないでください、大統領閣下。あなたはまだ若いから、フィデルの記録を破る機会がありますよ。彼は7時間ぶっ続けで話したことがあるんです」 オバマ氏が15分間の冒頭発言を「長い」と謝罪した後、カストロ氏は30分にわたって話し続けたという。 米国は冷戦期に何度もフィデル・カストロ氏の暗殺を企ててきたが、高齢なカストロ兄弟が退いた後のキューバをにらみ、軟着陸シナリオを描いているとみられる。政治的、経済的な結び付きを強めることで「ポスト・カストロ体制」が極端な反米に動くのを防ぎ、長期的な体制変革を促すというわけだ。 ただ、カストロ氏は電話協議後の20日、国会に当たる人民権力全国会議で「われわれは米国に政治体制の変更を求めてこなかった。米国にもわれわれの政治体制を尊重するように求めていく」と述べ、共産主義体制を堅持する考えを示した。急場しのぎは禍根 オバマ氏の軟着陸シナリオに関し、米国の中南米政策に詳しい米ヘリテージ財団のアナ・キンタナ研究員はキューバの国有企業の8割が軍の管理下にあることを挙げ、「キューバ国民ではなく、体制を軟着陸させるものだ」と批判する。 軍の下で最も利益を上げているのは観光産業だという。国交正常化で米国の旅行客が増えても、軍をはじめカストロ体制の懐が潤うだけというわけだ。 与党がほぼ議席を減らす2期目の中間選挙後、大統領は内政の停滞を上回る得点を、大統領権限で進めやすい外交で上げようとする。オバマ氏も例外ではない。過去十数年で、そこから最も多くの利益を得てきたのは北朝鮮だ。 クリントン政権末期の2000年10月には現職閣僚として初めてマデレーン・オルブライト国務長官(当時)が訪朝し、金正日(キム・ジョンイル)総書記(当時)と会談した。北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだブッシュ政権も融和政策に転じ、08年10月にテロ支援国家の指定を解除。北朝鮮はその間も着々と核・ミサイル開発を進めた。 キューバを出港した北朝鮮籍の貨物船から無申告の戦闘機やミサイル部品などが見つかったのは昨年7月のことだ。オバマ氏が残り2年の任期での実績に焦り、急場しのぎでキューバへのテロ支援国家指定を安易に解除すれば、禍根を残すことになる。(ワシントン支局 加納宏幸)関連記事■ 米・キューバの国交正常化交渉が宿す三つの象徴性■ ヒト・モノ・情報はキューバを変えるのか■ 断絶中も裏でつながっていた米国とキューバ

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    南シナ海で暴挙続けば米中開戦の恐れ

    は激怒している。以下、複数の米情報当局関係者から得た情報だ。 「コロンビア検察当局が今年3月、不審なキューバ行きの中国船を拿捕(だほ)した。積み荷の中に、火薬100トン、信管260万個、ミサイル99発、砲弾3000発以上が隠されていた。オバマ大統領は昨年末、キューバとの国交正常化に向けた交渉開始を決断した。その国交正常化を潰す『中国側の工作活動』との疑いがある」南シナ海のミスチーフ礁で中国が進めている埋め立て作業=2015年2月(フィリピン政府当局者提供・共同) 「米司法省は19日、中国人6人を産業スパイとして起訴した。米連邦大陪審が昨年5月、中国軍のサイバー部隊『61398部隊』所属の5人を起訴、顔写真付きで指名手配して以来のことだ。実は、米国も関係したイスラエルの最新防空システム、弾道弾迎撃ミサイル、無人機の機密技術データも盗まれたとみられている。中国と米国はサイバー世界ですでに戦争状態だ」 そして、驚くなかれ、日本にも危機が迫っている。情報はこう続く。 「米大手セキュリティー会社が先月末、『61398部隊』以上の攻撃力を持つ、中国軍のサイバー部隊『61486部隊』の存在を報告した。彼らは米国だけでなく、日本も狙っている。機密情報の入手のみならず、あらゆる機能のシステムダウンを狙う最強部隊だ」 日本政府は、「昨年だけで、256億件のサイバー攻撃を受けた」という事実を確認している。だが、ある自民党幹部は「61486部隊」の情報を聞いて絶句した。 「日本にはまだ、(防御も含めた)本当のサイバー部隊が整っていない。万が一、2020年東京五輪のような国際的行事の時にシステムダウンさせられたらお手上げだ」 外事警察関係者がいう。 「中国側による、日本への攻撃が確かに激化している。『安倍晋三首相さえいなくなれば、日本はすべて言いなりになる』と、新たな『安倍首相潰し』『安倍政権潰し』の工作が、韓国側や一部メディアとともに、国内外で展開されている。歴史認識や安全保障をめぐる突出した批判もこの一環だ。沖縄での動きが特に激しい」 安倍首相が狙われている。中国は死に物狂いだ。その背景には、安倍首相の4月訪米が大成功し、日米同盟が深化・強化され、現実に動き始めたことがある。中国が世界の政治、文化の中心であり、漢民族は他民族に優越している、そんな「中華思想」に基づいて世界覇権を狙う中国にとって、これに立ちはだかる日米同盟は邪魔なのだ。 安倍首相に申し上げたい。米中両国から「どっちの味方だ」と責められて頭を抱えている、朴槿恵(パク・クネ)大統領率いる韓国などは放っておけばいい。ただ、中国については、微塵(みじん)たりとも油断してはならない。かが・こうえい ジャーナリスト。1957年生まれ。週刊文春、新潮社を経て独立。95年、第1回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム大賞受賞。週刊誌、月刊誌を舞台に幅広く活躍し、数々のスクープで知られている。関連記事■ 米・キューバの国交正常化交渉が宿す三つの象徴性■ ヒト・モノ・情報はキューバを変えるのか■ 断絶中も裏でつながっていた米国とキューバ

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    米国に外交的勝利したキューバ、国交正常化交渉は諸刃の剣

    子(ジェトロ・アジア経済研究所)短期的利益と中長期的リスク 昨年12月17日に、米国のオバマ大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長は、ほぼ同時にそれぞれの国のテレビ演説で、両国が国交正常化交渉を開始することを発表した。そして年が明けた今年1月21日に、第1回目の交渉がハバナで行われた。本報告では、両国関係の歴史的背景、なぜ今の時期にこの動きが可能になったか、そして今後の展望について概観する。キューバと米国の関係の歴史的経緯 1961年1月、大統領に就任したばかりのケネディが、キューバとの断交を宣言して54年が過ぎた。キューバは米国フロリダ半島からわずか140kmの近さに位置する。キューバの首都ハバナからマイアミへ向かうチャーター便は、ハバナを離陸後15分で、フロリダ半島南端のキー・ウェストの上空を通過、マイアミに到着するのはわずか35分後である。 1959年のキューバ革命の前はまだプロペラ機の時代だが、当時もフロリダとキューバは空路で結ばれており、キューバは米国人にとって、日帰りもできる観光地であった。フェリーで自家用車ごとキューバを訪問する米国人観光客も多かった。現在、米国へ移民あるいは一時滞在するキューバ国民、およびキューバに住む外国人しか利用できないチャーター便は、オバマ大統領になってから便数が激増し、ほぼ毎時間発着している。キューバ人と、米国へ移民したキューバ系の人々にとっては、キューバと米国はすでに互いに相当近い存在でもある。首脳会談で握手するオバマ米大統領(右)とキューバのカストロ国家評議会議長。両国首脳の会談は59年ぶり =4月11日、パナマ市(ロイター=共同) キューバは1902年に米国の占領状態でスペインからの独立を達成した。米国大使の意向がキューバの大統領の意思決定を左右するといわれるほど、米国の影響は強かった。キューバ革命は、1930年代からキューバの政治運動の一大潮流であった民族主義、すなわち「米国からの独立・自立」を旗印に国民の支持を集めた。しかし同時に、これほど地理的に近く、文化的な影響も強い米国は、すでにキューバ人の血肉の中に入り込んでいるようにも思われる。キューバ人が今もあれほど革命前の米国車を大切にし、なけなしのお金をつぎ込み、ぴかぴかに磨いて走らせているのは、彼らの米国への愛着や憧れの象徴である。つまり、キューバ人の米国観はアンビバレントな、愛憎半ばする複雑なものなのだ。 キューバの対外政策にも、そのアンビバレンスが感じられる。革命が成功したのは1959年1月であるが、フィデル・カストロはその最初の外遊先に米国を選び、わずか3カ月後の同年4月に米国各地を訪問している。彼は米国政府に、共同でラテンアメリカの開発に取り組もうと呼びかけたが、アイゼンハワー大統領は理由をつけて彼に会おうともしなかった。カストロはハーバード大学を訪問した際、高校生のときにハーバードへの入学を志望して不合格だったことを、後にケネディ大統領の補佐官になる同大学政治学部長マクジョージ・バンディに告白している(バンディはその場で、不合格の決定を取り消すので、ぜひ今から入学してくださいと返答した)。流暢な英語で、全米各地の記者会見で質問に答えるフィデルには、後年の反米主義者の片鱗も見られない。 カストロは革命の目的に社会的公正を掲げており、革命成功後すぐに農地改革を発表した。キューバには米国企業が大農園を所有しており、これらの農園が農地改革の対象になったため、企業は米国政府に農地改革をやめさせるよう、圧力をかけた。しかしカストロは革命前の伝統的政治家の歴代大統領たちと異なり、信念を曲げておとなしく米国の言うことを聞くような若者ではなかった。 キューバ南岸の瀟洒な都市シエンフエゴスの郊外には、当時から米国企業の石油精製施設が立ち並び、キューバの石油製品の供給を独占していた。米国政府は農地改革への報復として、これらの米系石油会社に、キューバでの石油精製をやめるよう命令した。エネルギー供給を断たれたキューバは、やむなくソ連への接近を決断するのである。 ちなみにカストロが実施した農地改革は、所有農地の上限を約27ヘクタールに制限するもので、大農園には打撃であるが、たとえば米国自身が第二次世界大戦後に日本や日本の旧植民地で実施した農地改革に比べれば、ずっと穏健なものであった。にもかかわらず、米国政府はこの改革を「共産主義的」と決めつけ、結果としてキューバをソ連陣営へ追いやったのである。ソ連崩壊後のキューバ・米国関係ソ連崩壊後のキューバ・米国関係 冷戦期、ソ連は米国にこれほど近いキューバの地政学的価値を評価し、第三世界向け援助の半分をキューバ一国へ送るほど優遇した。キューバは、ソ連陣営に参加した社会主義国がソ連通貨ルーブル建てで域内貿易を行うコメコン体制に組み込まれ、ソ連・東欧をはじめとした社会主義国に砂糖を輸出し、工業製品や食料、消費者物資をそれらの国々から輸入するようになった。キューバの貿易額の7割がソ連、東欧を含めると8割がコメコン諸国との貿易であった。ソ連崩壊後、キューバは突然これらの国々との関係を失い、革命後最悪の経済危機に突入した。 米国はこの時期、キューバ革命はこの危機の中で早晩崩壊するだろうと見ていた。1992年のトリセリ法は、対キューバ経済制裁強化法であるが、これは革命体制の崩壊を早めることが目的だった。しかしキューバは持ちこたえ、その4年後に制定されたヘルムズ=バートン法(経済制裁全面解除を大統領の手から連邦議会の手に移した)によっても、体制を突き崩すことはできなかった。オバマ大統領が今回の発表で、米国の対キューバ政策は効果がない、と明言したのは、この経緯を踏まえている。ハバナで国交正常化交渉を開始した米国(左側)とキューバの代表団(共同) 1998年に、ローマ法王ヨハネ=パウロ二世(当時)が、革命後初めてキューバを訪問した。法王は「キューバは世界に、世界はキューバに門戸を開くべきだ」と演説し、米国の経済制裁については人道に反する、と非難した。連邦議会は、法王の批判に応え、食料・医薬品・医療材料の人道物資に限り、キューバへの輸出を認める法案を提出して、2001年に可決された。以来米国は、食料の83パーセントを輸入に頼るキューバの主要な食糧供給国となり、小麦、大豆、冷凍鶏肉などを輸出して、現在キューバの輸入相手国第4位にまで上昇している。 オバマ大統領は、就任直後の2009年に、キューバ系米国市民の多くが求めていた、キューバの親族訪問と親族送金の制限を撤廃した。年に何度キューバの親族を訪問してもよいし、滞在期間にも上限がなくなった。親族への外貨送金も制限がなくなった。年間10億ドルとも20億ドルともいわれる親族送金は、年にもよるがキューバの観光業やニッケル産業など、主要産業一つが稼ぎ出す外貨に匹敵する。危機的なキューバ経済を陰から支えているのである。 しかしオバマ大統領は、周囲の期待にもかかわらず、それ以上の対キューバ政策見直しは行わないままであった。その大きな理由は、キューバ革命後すぐに、革命に反対して亡命してきた保守系キューバ系市民の政治力である。革命後、所有していた資産を失い、あるいは革命前のバティスタ軍事独裁政権を支持していたために、キューバから米国に亡命した人々は、革命前のキューバ社会の上層・中上層に属していた。さらに米国が当時キューバからの亡命者に奨学金や雇用支援など、米国社会に定着するためのさまざまな支援を行ったため、キューバ系は短期間で米国社会に足場を築いていった。 これら初期の亡命者グループはカストロ政権に対する反感を持ち続け、米国の連邦政府に圧力をかけて、米国の対キューバ政策を通じてキューバ革命体制を打倒しようとしてきた。ソ連崩壊後、西側諸国対東側諸国という対立構造はなくなり、またキューバに対するソ連の軍事援助も停止したため、キューバが米国の安全保障上の脅威ではなくなった。しかしこの国際環境の変化が、敵対的な対キューバ政策を変えることがないよう、この亡命キューバ人の保守派は常に圧力をかけてきたのである。彼らはキューバから近いフロリダ州にとくに多く、現在もマリオ・ディアス=バラルト下院議員や、マルコ・ルビオ上院議員などを中央政界へ送り込んでいる。彼らはオバマ大統領の対キューバ政策変更にも、強硬に反対してきた。国交正常化交渉以降の動き国交正常化交渉以降の動き 2014年12月17日の国交正常化交渉発表は、オバマ大統領とラウル・カストロ国家評議会議長の両方がほぼ同時にそれぞれの国のテレビで発表する、という形を取った。オバマ大統領はその席で、キューバに対する敵対的な政策は54年間機能しておらず、むしろ関与によりキューバの民主化を促すべき、と、政策の変更について説明した。他方ラウル・カストロは、正常化交渉よりも、それに先立って実現した「5人の英雄」(スパイ容疑で米国で収監されていたキューバ人5名を、キューバではこう呼んできた)のうちまだ収監されていた3名が釈放されたことに詳しく時間を割き、また「両国は交渉の対話にあたり、互いの違いを尊重すべき」と述べ、国交正常化の目的がキューバの民主化や人権改善を促進することである、というオバマ大統領に対して釘を刺した。 ラウルはさらに3日後、キューバの国会に当たる全国人民権力議会の通常会期中に演説し、「オバマの公正な決定に国民ともども感謝」しつつも、経済・通商および金融封鎖(制裁のことをキューバは封鎖と呼ぶ)の解除が両国関係の改善の肝として残っていること、大統領がその権限の許す限り封鎖の緩和に動くよう求めた。17日の演説と同様、「わが国の独立と自立が侵されることがないような、双務的な形で、対等な関係を保って」交渉が行われることを望むと述べた。その直後に「当該国の国内管轄権に属する事項に介入することがないよう」と述べ、米国の民主化要求に予防線を張っている。「国家の独立や民主主義、政治体制や国際関係について、キューバと米国の両政府の間には大きな違いがあり」、その違いを相互に尊重することを米国に求めている。そのうえで、これらの条件が守られれば、どのようなテーマについても対話が可能だ、としている。つまり米国が相手国の国内政治のありように干渉する姿勢を改め、キューバの体制を尊重する態度を見せれば、どんな内容でも議論できる、ということである。これは米国の外交姿勢とは相容れない。 このすれ違いは今年1月21日にハバナで開催された第1回正常化交渉の席で、さらに鮮明になった。米国はキューバの反体制派への支持を表明し、キューバ政府が人権状況を改善するように求めた。米国のジェイコブソン代表は、ハバナ滞在中に反体制派との朝食会を計画したが、キューバ政府から止められた。キューバ側のビダル代表は、「この少人数のグループは、キューバ社会を代表しているわけではなく、またキューバ国民の利益を代表してもいない」と述べ、人権問題の改善や民主化を正面から求めてくる米国の働きかけをさえぎった[注1]。また人権問題については、昨年起こった、米ミズーリ州ファーガソンの白人警官による黒人少年射殺事件を挙げて、米国は他国の人権問題を云々するより、自国のそれを何とかすべきではないか、と反論した。 民主化や人権問題の解決を米国が持ち出せば、キューバ側は国交正常化の条件に経済制裁の全面解除を要求した。キューバ政府はここで、米国にとっては実現が非常に難しい経済制裁全面解除という高いハードルを設けたわけで、国交正常化実現のためには大変厳しい条件である。オバマ大統領は、国交正常化を単独で決定する権限が法的に保障されているが、対キューバ経済制裁の全面解除のためには、1996年に成立したヘルムズ=バートン法により、連邦議会の承認が必要となっている。ヘルムズ=バートン法は経済制裁解除の条件として、キューバが複数政党制を認め、自由な選挙を実施する準備が整ったことを確認することと、カストロ兄弟が政治権力から退くことを挙げており、どちらもキューバの現政府には受け入れがたい条件である。それでもこれらの条件は、連邦議会が達成できたと主観的に判断して承認すれば乗り越えることはできるかもしれない。 問題は、現在の連邦議会は上下院とも共和党が多数を占め、オバマ大統領の今回のキューバ政策転換についても、厳しく批判していることである。たとえばオバマ大統領がラウル・カストロ議長と共に、国交正常化交渉開始を発表した12月17日、その日のうちに、フロリダ州に次いでキューバ系が多く住む東部ニュージャージー州の州議会上院は、オバマの決定を批判する声明を発表した。まずキューバ政府の人権侵害、キューバ国内の経済的な困難に対するカストロ兄弟の責任を追及し、また革命体制が米国に脅威となっていると主張して、キューバに収監されていた米国人アラン・グロス[注2]と3名のキューバ人スパイを交換したのは愚かな選択だった、と批判した。 フロリダ州選出のキューバ系上院議員のマルコ・ルビオは発表から3週間が経過した今年1月7日付けで、オバマ大統領に公開書簡を送り、キューバの人権状況に懸念があること、とくに発表の後で十数名の反体制派がデモをしたという理由で逮捕されていると指摘、人権状況の改善はみられないと批判した。正常化交渉の結果、両国に大使館が設置されることになった場合、彼が所属する外交委員会で駐キューバ大使の任命に反対すると言明した。 これら共和党の保守派、とくにキューバ革命に反対して米国へ亡命したキューバ系の議員たちの反対にもかかわらず、オバマ大統領は今後もキューバとの対話を進めるだろうと考える。最大の理由は近年の米国世論およびキューバ系米国人コミュニティの世論の変化である。 1990年代以降、キューバから米国へは毎年3~4万人が移民してきている。これら新世代のキューバ系は革命後に生まれた世代で、革命を人生の一部として成長した。彼らは初期の亡命世代のように革命を打倒したいという望みはなく、むしろ国に残した家族に制限なく会ったり、彼らに自由に送金したりすることを望んでいる。国交正常化や経済制裁の解除にも賛成する。革命直後に移民してきた世代が高齢化する一方で、これら新世代は年々数が増えているのである。 たとえばフロリダ国際大学キューバ研究所が2014年2~5月にマイアミのデイド郡に住むキューバ系米国人に対して実施した調査[注3]によれば、68パーセントが国交正常化に賛成、52パーセントが経済制裁の継続に反対している。これが18歳から29歳の若年層に限れば、国交正常化に90パーセントが賛成、経済制裁の継続には62パーセントが反対となる。ただし国際テロ支援国リストにキューバが含まれていること(キューバ以外の国は現在、イラン、スーダン、シリアのみ)については、63パーセントが賛成しており、これは世代にかかわらずほとんど一定である。 さらにオバマ大統領の発表直後に、キューバ系だけでなく米国民全体に対して行われたABCニューズとワシントンポストの共同世論調査[注4]によれば、64パーセントの国民が国交正常化に賛成し、68パーセントが経済制裁の終了に賛成し、74パーセントがキューバ渡航禁止措置の解除に賛成した。1998年の同様の調査では国交正常化に賛成したのは38パーセント、経済制裁解除に賛成したのは35パーセントだったので、関係改善に賛成する人が16年間で大幅に増加したことになる。 つまりオバマ大統領は、これらのキューバ系および米国全体の世論の変化に対応して、今回の政策変更を発表したとも考えられる。オバマは1月20日、正常化交渉の前日に行われた一般教書演説で、連邦議会に対キューバ経済制裁の見直しを呼びかけた。経済制裁解除を議会に求め、国交正常化からさらに大きく一歩踏み込んだ。この積極姿勢の背後には、世論の後押しがあるのである。共和党の保守派議員もそれぞれ自身の選挙区の動向には気を配らなければならないので、今後も関係改善に賛成する国民が増えていけば、彼らの意見も変化する可能性がある。 また2014年には、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席が相次いでキューバを公式訪問している。冷戦は終結したが、新たに米国と覇権を競いそうな大国が出現し、彼らが友好国キューバに接近しつつある現在、米国の政策転換は、新大国に対する牽制ともとれる。中間選挙が終わって1カ月後の電撃的な発表であった12月の国交正常化交渉開始発表は、もちろんオバマ大統領が選挙結果に責任を持たなくて済むようになったことが大きいが、時代の変化に即し、国際関係の変化に対応したものと考えられる。今後の展望今後の展望 1月15日に、オバマ大統領はキューバに親族がいない米国市民がキューバに送金する場合の上限額を、3カ月ごと500ドルから2000ドルへ引き上げた。さらにキューバ系市民を含む米国市民が米国へキューバ産品を持ち帰ることも、400ドルまでの上限つきで許可すると発表した。キューバ産品のうちキューバ産葉巻やラム酒などのアルコール類は100ドルまでとなっている。文化・学術交流や人道支援など、以前から例外として認められてきた12分類のキューバ渡航のケースについて、米財務省の許可は必要ないとした。財務省の許可申請にはこれまで手続きに数ヶ月かかっていたので、交換留学や宗教関係者や援助関係者のキューバ渡航などが、容易に実現できることになった。この発表に対して、早速共和党議員からは、キューバ政府が12月以来人権問題や民主化問題について何も進展をみせていないのに、米国政府だけが一方的に緩和策を発表していくのはいかがなものか、と批判が出たが、大統領は前述した世論の支持を背景に、反対派の声は意に介さず前進しようとしているようにみえる。 オバマ大統領の決断により、米国・キューバの関係はかなり変わることが期待される。経済制裁は前述したように、共和党が多数を占める連邦議会で承認される可能性は低い。オバマ大統領は自分が一人で決められる部分について、対キューバ政策を変えていくだろう。すなわち、国交正常化を何らかのレベルで実現すること、テロ支援国家リストからキューバを外すこと、そして経済制裁の部分的解除にあたるが、キューバに親族や姻族がいない米国市民にもキューバ渡航を認め、(渡航に伴い必要になる)キューバ国内でのドル支出を認めること、それに関連して米国銀行のキューバとの(一部)取引を認めること、革命初期から途絶している両国間の郵便サービスや定期航路を再開すること、などが考えられる。 一点目の国交正常化については、キューバが1回目の交渉で述べたように経済制裁全面解除を条件にすると、完全な正常化は難しい。米国側はとりあえず、大使館設置を実行目標にすると述べている。二点目のテロ支援国家問題は、1982年、キューバがアフリカのアンゴラに出兵し、民族主義左翼政権に加担してアパルトヘイトを実施していた南アフリカと戦い、中米のニカラグアやカリブ海のグレナダの左翼政権に軍事支援を行っていた、つまり「革命輸出」を行っていたことから、米国務省がテロ支援国家リストにキューバを含めたことに始まる。ソ連崩壊以来、キューバの海外での軍事的な活動はほぼ完全に停止しており、キューバ政府は過去20年間、テロ支援国から自国を外すよう、米国政府に求めてきた。 今回の国交正常化交渉は、象徴的な意味では小国キューバの外交的な勝利である。キューバ革命の民族主義と平等主義に反対して圧力をかけてきた超大国米国の断交と経済制裁に半世紀以上耐え、米国政府がその政策を引っ込めることに同意しつつあるわけであるから、実際に米国と戦火を交えて勝利したベトナムほどでないにせよ、大きな勝利であると評価できよう。 また歴史的に、キューバは米国からの武力侵攻を常に恐れてきた。米国の経済的な締め付けと同時に、軍事的な脅威がキューバをソ連に走らせた。その意味では、今回の関係改善が成功すれば、キューバにとって米国の脅威が低下することを期待できる。1月26日にフィデル・カストロは5カ月ぶりに共産党機関紙『グランマ』に不定期連載している『フィデルの省察』を掲載したが、そのなかで今回の正常化交渉にほとんど触れていないものの、最後の段落で「平和を守ることがすべての人々にとっての義務である」「米国とであれ、ラテンアメリカのどの国とであれ、平和的解決によって、国際慣習に即した合意に達するべき」と述べている。敵対的関係でも、平和的な話し合いによる解決を望む、とフィデルが言明する裏には、米国の軍事的脅威をこの機会に減らすことがキューバ革命体制の今後の生き残りにも必要だと考えているようにも読める。とくにカストロ兄弟が高齢になっている今(フィデル88歳、ラウル83歳)、彼らが生きている間に米国の武力侵攻の可能性を減らしておけば、彼らの死後、革命体制の存続がより保証されると考えたのではないかと思われる。 他方経済的には、もし米国人観光客のキューバ渡航が認められれば、観光収入が大幅に増加するだろう。現在キューバに来る300万人近い観光客のうち、3分の1にあたる100万人はカナダからの観光客である。米国人観光客がキューバに合法的に来られるようになるとすれば、少なくともカナダから来ている数くらいは米国からも来るだろう。米国からの訪問者数は、キューバ側の統計によれば10万人足らず(2013年)だが、これが10倍に増えれば、観光収入に大きなプラスとなる。 キューバは現在、2001年からベネズエラとの間にキューバ人医師とベネズエラ原油のバーター貿易を行っており、優遇価格でベネズエラ原油を輸入できている。しかし2013年にベネズエラ側でこの協定を推進していたチャベス大統領が死去し、その後もベネズエラ経済が悪化の一途をたどっているため、このキューバにとって有利な協定がいつまで続くかが不透明になっている。今回の国交正常化交渉開始のための水面下での交渉は、チャベス大統領が死去してすぐ後に始まったと報道されているが、これはキューバ側の危機感の表れである。ベネズエラに大きく依存した現在の経済を立て直すために、米国との関係改善に動いた可能性がある。 しかし、ラウルが繰り返し言明しているように、キューバ政府は米国政府に対し、「違いを認め合う」「対等な立場で交渉を」という表現で、キューバの国内問題に介入しないよう求めている。キューバ政府にとっての至上命題は、革命体制の存続である。冒頭で述べたように、キューバ国民の日常の社会の中に、米国文化や米国からの情報はほとんど血肉となって共存している。これほど近くにある米国なので、それはある意味当然のことだが、両国関係が深まって、米国からの文化的・社会的影響が深まれば、ちょうど東欧で起こったように、下からの変革が体制の不安定化につながる可能性がある。キューバ政府はそれをよくわかっていて、繰り返し米国政府に釘を刺し、米国が近づきすぎないよう、適度な距離を保っておきたい、というのが本音ではないかと思われる。つまり近づきたいが、近づきすぎると危険、という難しい舵取りを迫られるという意味で、諸刃の剣なのである。 キューバ政府にとって、今回の政策転換が諸刃の剣になる可能性があるもう一つの理由は、両国の移民問題に変化が生じることである。冷戦期に制定されたキューバ調整法などにより、キューバ人が米国に移住する際には他国よりも優遇された条件が適用される。たとえば米国の陸地に足を着いた移民希望者は、米国査証を持っていなくても米国入国が認められ(普通は強制送還である)、永住権(2年)や米国籍(5年)取得に必要な滞在期間も短い。政治亡命とみなされるからである。国交正常化が実現すると、この優遇政策は廃止されるといわれている。 キューバ経済は、既得権者の抵抗もあり、中央集権的な性格からなかなか抜け出せないでいる。大学を出ても、平均月収が18ドルの公的部門労働者の雇用はあまり魅力的ではない。キューバの若者の夢は、自分の将来に展望が持てないキューバにとどまってがんばるよりも、米国に移住することなのである。自分の夢を米国移住に賭けられるのは、上記のキューバ人に有利な移住制度が米国に存在することが大きい。国交正常化が実現して優遇政策がなくなれば、米国への移民は他国民と同じ程度に難しくなる。 革命体制に不満を持つ層は若年層に多いとされており、米国へ移民するのも若い世代が中心である。移住が難しくなってキューバにとどまらざるを得なくなった若い市民の体制への不満が高まる可能性がある。このいわゆる不満分子の国外移住による「ガス抜き」を重視するなら、キューバ政府にとって、国交正常化は実はしないほうが得策だということになる。同じことは、経済制裁にもいえる。キューバ政府は、とくにフィデル・カストロが引退するまでは、経済危機を米国の経済制裁のせいにしてきた。経済制裁がなくなれば、経済の不振を米国のせいにするのは難しくなる。したがって経済制裁も、ある意味であったほうが便利、という存在である可能性もある。 米国はキューバ革命にとって長年の仮想敵国であり、同時に普通のキューバ人にとっては、愛憎半ばする存在でもある。ある意味では米国は常に、キューバにとっての「大本命」であった。冷戦中はその本命は交響曲の重低音パートのように、キューバ外交や革命の構成要件に大きな影を落とし、主旋律はソ連だが、その底部に常に米国の音が響いているような感じだった。さらに文化的にはキューバ社会の血肉として、切っても切れない存在だったのだが、その米国がついに対外関係の主旋律に飛び込んできて、名実共に最も重要な隣国になったとき、キューバ革命体制をどのように作り上げるかが問われている。 オバマ大統領の任期はあと2年だが、その間にどこまで関係が改善するか、またこれも公式に任期をあと3年に区切ったラウル・カストロ国家評議会議長が、その間にどこまで改革を実施し、対米関係に向き合うか。カストロ兄弟の年齢問題も含め、不透明な部分も残るが、ラウル・カストロが繰り返し、今回の交渉以前から述べているのは、政府同士が「対等な交渉」「相手国の体制の違いを尊重する」ということである。他方米国政府は、キューバ政府よりも「政府に抑圧された」キューバ国民の政治・経済活動の自由を促進しようとしている。このままでは平行線であるが、今後も交渉は続くはずであり、どこかで両国が折り合えるかを注視していきたい。脚注1. 米国政府の代表団は、キューバ政府の反対にもかかわらず、1月23日に反体制派を朝食会に招いた(UPI http://www.upi.com/Top_News/World-News/2015/01/23/US-delegation-meets-with-Cuban-dissidents-in-Havana/2981422029783/ )。キューバ政府は不同意は表明したが、米国代表団の活動は制限せず、今回は両国間の価値観の相違を許容したといえる。2.  アラン・グロス(Alan Gross)は2009年にキューバのユダヤ人協会に衛星通信機器を無償供与したが、この行為がスパイ行為であるとみなされ、キューバで収監されていた。米国で同じようにスパイ容疑で逮捕・拘禁されていた5名のキューバ人問題と共に、両国間の関係改善の障害になっていたが、国交正常化交渉に先立ち、グロスとキューバ人たちを同時に釈放することで障害を取り除いたのである。3.  https://cri.fiu.edu/.../cuba-poll/2014-fiu-cuba-poll.pdf4. http://abcnews.go.com/blogs/politics/2014/12/poll-finds-broad-public-support-for-open-relations-with-cuba/(ジェトロ・アジア経済研究所 キューバ情勢レポート「キューバと米国の国交正常化交渉をめぐって」(http://www.ide.go.jp/Japanese/Research/Region/Latin/Radar/Cuba/201502.html)2015年2月、より転載)やまおか・かなこ 日本貿易振興機構・アジア経済研究所 地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ主任研究員。専門分野はラテンアメリカ研究(キューバ)、国際関係、政治学。早大法卒。シカゴ大大学院国際関係学科修士課程修了後、89年に入所。94年より2年間キューバ共産党中央委員会付属アジア・オセアニア研究所客員研究員としてハバナ駐在経験を持つ。11年7月より現職。関連記事■ 米・キューバの国交正常化交渉が宿す三つの象徴性■ ヒト・モノ・情報はキューバを変えるのか■ 断絶中も裏でつながっていた米国とキューバ

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    第2のキューバ危機回避 米の深謀遠慮

    藤井厳喜(国際政治学者) 米・キューバの国交正常化が急速に進んでいる。米国によるテロ支援指定国家が解除されれば、キューバはすぐにでも駐米キューバ大使を任命する意向である。2014年末、米国とキューバは国交正常化交渉の開始で合意したが、オバマ米大統領とキューバのカストロ国家評議会議長とが4月10日、パナマで会談して以来、交渉は急速に進展した。アメリカ国内では、キューバからの亡命者を中心に国交正常化に反対する声もあるが、キューバとの関係改善に関しては、これを単に左派オバマ政権の軟弱外交と片づけるわけにはいかない。今回の国交正常化の背後には、アメリカの国益を踏まえた深慮遠謀が存在しているようだ。 第1に指摘したいのは、この国交正常化により、アメリカは第2のキューバ・ミサイル危機を回避したという点だ。昨年7月、習近平はキューバを訪問し、それ以来、両国は、中国の最新鋭のミサイル駆逐艦をキューバに常駐させる方向で準備を進めていた。キューバは2012年以来、中国海軍艦艇の派遣を依頼していたのである。米中両国間では、まさに新冷戦とも呼ぶべき緊張状態が生まれつつあるが、中国とすれば、アメリカの最も近くにある反米国家キューバに、ミサイル駆逐艦を常駐させるというのは、非常に大きな戦略的優位となるはずであった。ところが米中関係の進展に合わせ、キューバはこの一旦は合意した中国海軍艦艇のキューバ常駐を撤回した事が、5月下旬になって明らかになったのだ。謂わば、オバマ政権は第2のキューバ・ミサイル危機を事前に回避したのだ。第一次キューバ・ミサイル危機とは言うまでもなく1962年10月、ソ連がキューバに核ミサイルを持ち込もうとした時に生じた米ソ核戦争勃発の危機であった。 アメリカ側の第2の狙いは、タックスヘイブン潰しである。アメリカはブッシュ・ジュニア政権以来、2つの目的の為にタックスヘイブン潰しを進めてきた。第1は、テロ資金を根絶する為である。テロの資金はアングラマネーであり、アングラマネーを根絶やしにする為にはタックスヘイブンを徹底して規制する必要がある。第2は、米国のみならず、先進国も途上国も悩んでいる税収不足の解消である。多国籍企業や一部の富裕層はタックスヘイブンを巧みに利用する事により、納税を回避してきた。極端な節税ないしは脱税である。先進国各国はOECDやG20の枠組みを生かしながら、こういった租税回避の動きを大胆に規制してきた。特に2008年のリーマンショック以降は、タックスヘイブンにおける巨額資金が世界の金融システムそのものを不安定化させる事もあり、その規制はあまりマスコミの表面に現れる事はなかったが、大胆に進展してきていた。 代表的なタックスヘイブンとしてはスイスや英国のシティがあげられるが、このシティと連動してタックスヘイブンとしての機能を大胆に発揮してきたのがカリブ海に散在する英国海外領と旧英国領の独立国である。そしてこのカリブ海のタックスヘイブン・ネットワークの地理的中心に存在するのが、キューバであった。キューバキューバ・ミサイル危機以来、かたくなに反米の砦を崩そうとしなかった。周辺のカリブ海諸国や英国海外領土と連動しながら、キューバは事実上、カリブ海タックスヘイブン・ネットワークの中心的役割を果たしていたのである。 更に、この役割と表裏一体の関係にあるが、キューバは中南米の麻薬や覚せい剤がアメリカに流入する際の中継地点としても極めて重要であった。アメリカ側からすれば、キューバに対する経済制裁を解除する代わりに、タックスヘイブンとしての役割と麻薬中継基地としての役割を同時に放棄させる。これがアメリカの本音である。 キューバ側も長年の経済制裁によって、国内経済は疲弊の極に達している。1950年代産のアメリカ製自動車が未だに走り回っている。近年、ベネズエラのチャベス大統領が元気であった頃は、同じ反米の同盟国という事で石油供給の支援も受けていたが、最早、それも不可能になった。国内は極端なモノ不足に陥っている。ベネズエラから支援を受ける以前、米ソ冷戦時代においては勿論、ソ連がキューバを支えていた。キューバは砂糖を輸出する代わりに、ソ連から貴重な石油を安価に輸入する事ができた。ソ連としては冷戦の最前線の基地であるキューバを経済的に支えていたのである。しかしソ連が崩壊してから、既に24年も経った。最後の反米同盟の盟友であったベネズエラのチャベス大統領も他界した。狡猾な中国外交にキューバの安全保障を頼り切る事はできないし、当の中国経済がバブル崩壊しつつある事は誰の目にも明らかである。革命の指導者フィデル・カストロも、その弟であるラウル・カストロ国家評議会議長も、中国の支援に頼る事は危険すぎると判断し、長年の感情的な確執を乗り越えて、アメリカと国交正常化する道を決断したのであろう。 民主党のオバマ大統領は、国交正常化を行なうには、適切なパートナーである。米共和党内では、亡命キューバ人勢力がかなりの影響力を保持しており、共和党政権下では国交正常化はかなり難しくならざるを得ない。オバマ政権在任中に国交正常化を決断したのは、キューバの指導者にとっても極めて合理的な判断であったろう。 米国の保守派内ではキューバとの国交正常化に反対する者も多いが、長期的に見れば両国間の国交正常化はアメリカの国益にも資するところが大であろう。オバマ政権にとっても数少ない外交上のレガシーとなるはずである。 ちなみに、昭和天皇陛下が薨去された折、フィデル・カストロ国家評議会議長(当時)は、日本大使館を弔問に訪れた。キューバ国は半旗を長期間に渡って掲げ、哀悼の意を表した。フィデル・カストロは共産主義者である前に民族主義者である。キューバ問題をイデオロギー的な視点のみで見ることは間違っている。関連記事■ 米・キューバの国交正常化交渉が宿す三つの象徴性■ ヒト・モノ・情報はキューバを変えるのか■ 断絶中も裏でつながっていた米国とキューバ

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    米・キューバ、国交正常化は何をもたらすか

    キューバ危機」から半世紀をへて動き出した米国とキューバの国交正常化交渉。しかし、政策転換により変革を促したい米国に対し、キューバは社会主義体制の維持を貫こうとする。両国対立の歴史に終止符は打たれるのか。そして国際社会への影響は。

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    オバマが外交攻勢を開始 中南米で影響力を競う米中

    ズエラへの融資がどう使われるか、目を光らせ始めたと言われる。 そうした中南米に対し、オバマは、(1)キューバとの国交正常化、(2)移民制度改革、(3)麻薬取締りのトーンダウンを打ち出し、米国に対する中南米の不満の緩和に努め始めた。今月26日には、ワシントンでカリブ海諸国エネルギー・サミットも開催され、ベネズエラからの援助に代わる、多国間融資、技術支援、民間投資を推進しようとしている。 米国は中南米で失地を回復できるだろうか。4月にパナマで開かれる米州首脳会議が試金石になるだろう。オバマは民主主義と人権問題を議題にしたい意向だが、今の中南米はそれに反対するつもりはないようだ。 米中両国は、中南米で影響力を競っている。左寄りの政権にとって中国が提供する融資、投資、奨学金、そして内政不干渉の姿勢は魅力的だ。他方、米国の魅力は、共通の価値、そして世界最大の市場と最先端技術を提供してくれることにある。 中国が、中南米で向かうところ敵なしだった10年が過ぎ、今、米国は競争を始めた、と報じています。出典:Economist‘Bello : The dragon and the gringo – Latin America’s shifting geopolitics’(January 17-23, 2015, p.42)http://www.economist.com/news/americas/21639549-latin-americas-shifting-geopolitics-dragon-and-gringo 一方で、中国と中南米諸国の関係に問題が出てきており、他方で、米国と中南米との関係に改善の兆しがみられることを適切に指摘しています。ベネズエラ・パラグアナ半島の石油施設 中国は、農産物や石油を含む資源確保、そのための巨額の借款供与や投資をして、経済面を中心に中南米との関係強化を目指してきました。今年1月8‐9日には、中国・ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体フォーラム(CELAC・反米のベネズエラが主導し、中南米33か国が加盟する地域機構)の閣僚級会合が北京で開催されました。習近平は、その会議で、インフラ整備や資源開発などに2019年までに350億ドルの借款を約束し、2020年から10年間に2500億ドルを投資する意向もあると述べました。貿易についても、上記記事にあるように、今の2570億ドルを2019年までに倍増したいと述べました。中国は、従来の路線を引き続きとっています。 しかし、石油価格が半減したなかで、ベネズエラは経済が大きな困難に直面し、対外債務についてデフォルトを起こしそうになっています。中国のベネズエラに対する債権の額については、約500億ドルと言われていますが、これがデフォルトになると大変です。ベネズエラのマドュロ大統領の1月訪中で、どういう話が行われたか、詳細は不明ですが、中国は緊急融資にすんなり応じなかったようです。 他方、米国は、キューバとの国交正常化に踏み切りました。オバマのレガシー作りなどと言われていますが、外交は相手がいる話で、キューバ側にも国交正常化に踏み出す事情が必要です。キューバは、ベネズエラからの石油の支援で経済が維持されていましたが、これが思うように行われなくなったことが対米関係の調整にキューバを向かわせた一因ではないかと思われます。 石油価格の下落は、中南米における地政学的状況に大きなインパクトを与えてきています。 石油価格の下落で、ベネズエラは厳しい状況にあり、中国にとってはエネルギー利権を安価に入手する機会になり得ます。中国の対ベネズエラ政策は今後、その方向で展開されるでしょう。すなわち、利権の獲得と支援をセットにしたものになってくる可能性があります。 日本企業も原油価格が低い今、中南米に限らず、より一般的に、エネルギー利権、LNG価格の長期契約での有利な取引を探求できればよいと考えます。関連記事■ 「世界の警察官」を放棄 不安抱え続ける同盟国■ アメリカを巻き込んだコミンテルンの東アジア戦略■ 移民「毎年20万人」受け入れ構想の怪しさ

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    女性政治犯にも暴力、「政権に従え」強要…キューバ刑務所の現実

     米国との国交正常化交渉に乗り出したキューバ政府は、米政府の要求に応じて1月までに政治犯53人を釈放した。女性専用刑務所に収容されていた政治犯2人が産経新聞の取材に応じ獄中体験を証言した。フィデル・カストロ前国家評議会議長を尊敬するよう強要されたり、反抗的な態度を見せると暴力を振るわれたりしたという。(キューバ北西部グアダオ 黒沢潤、写真も)「兄は独裁者、弟は虐待者だ」ヤシの木に囲まれたハバナ郊外の女性刑務所。女性政治犯への暴力も横行していた 首都ハバナから車で西に約40分。熱帯植物が多く、湿気でじめじめした土地に女性専用刑務所があった。背の高いヤシの木や有刺鉄線、白壁などに囲まれた刑務所の入り口では、刑務所職員が眼光鋭く往来者を見つめていた。 「フィデルは独裁者、弟のラウル(国家評議会議長)は女性虐待者だ」。国交正常化交渉開始を前にした昨年12月に釈放され、現在ハバナ市内に住むソニア・ガロさん(39)はカストロ兄弟をこう非難した後、刑務所内での日々を苦渋の表情で語り始めた。 「刑務所職員から『カストロ政権に従え、フィデル氏を愛せ』と何度も言われた」 反抗的な態度を見せると、長さ50センチほどの棒で頭や肩、膝を激しく殴打されたという。時折、狭く、真っ暗闇の独房にも閉じ込められた。「真夏でも寒く、毛布もろくに与えられなかった」 ガロさんは2012年春、ハバナ市内の路上で無許可で人権擁護デモをしたとして逮捕された。その際に右足を、4~5メートルの至近距離から銃で撃たれた。味わった恐怖は、今もよみがえるという。涙と怒り「獄中の同胞は焼身自殺」「キューバに自由を」と書かれた自宅の壁の前に立つアイデ・ガヤルドさん(右)と夫 1月8日に釈放されたアイデ・ガヤルドさん(51)も、刑務所でのつらい日々を忘れることはない。 政治犯は一般の凶悪犯らと共同生活を強いられた。職員が凶悪犯に、政治犯へのけんかを吹きかけることもあったという。 「職員はその後、無視を決め込んだ。カストロ政権は、政治犯であっても通常の犯罪者と同様、キューバ社会を攻撃するやからとしてしか見ていない」 職員に盾突くと、洗顔や体ふき用の日常水を3日間も与えられなかった。「女性の職員も、全く同情してくれなかった」と振り返る。 意図的かどうかは不明だが、与えられた飲み水にカエルの死骸が2つ入っていたこともあった。「(のどが渇いたため)やむなく飲んだ。その後、腹をこわした」と顔をしかめた。 ガヤルドさんは昨年5月、反政府デモをしたとして投獄された。長い獄中生活で鬱病にならないようにさせるためとみられる薬の服用を拒み、両手を背後で縛られたこともあったという。 「精神に異常をきたした獄中の同胞が今月初め、焼身自殺を図ったという話を聞いた」 そう話すと目にうっすら涙を浮かべ、こぶしを握り締めた。関連記事■ 国連人権決議は金正恩氏への「核爆弾」である■  「イスラム国」は空爆国が育てた■ アメリカを巻き込んだコミンテルンの東アジア戦略

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    断絶中も裏でつながっていた米国とキューバ

    作家、元外務省主任分析官) 2014年12月17日、米国のオバマ大統領はホワイトハウスで演説し、近くキューバとの関係正常化を行うと発表した。 オバマ大統領が17日に発表したキューバに対する融和・関与政策への転換は、キューバへのヒトやモノ、カネ、情報の流入を拡大することにより個人や市民社会を支援し、社会主義体制の内部からの変革を促すことを狙ったものだ。だが、共和党からは反発の声があがり、次期大統領選にも影響するとみられる。 「米国は中国やベトナムとも国交を回復した。キューバとも新たな章を設けるときだ」 オバマ大統領はホワイトハウスで発表した声明の中で、東西冷戦終結後、なお存続する共産党一党支配の国家を引き合いに、こう指摘した。 根底には、米国の規制措置による孤立化政策は、民主化をはじめ変革をもたらすに至らず、「失敗だった」(ホワイトハウス高官)との認識がある。そこで、関係改善と制裁・規制緩和を通じ「国民と市民社会に力を与える」ことに、重点を移した。産経ニュース、2014年12月18日ハバナ勤務の米国務省職員 外交を断絶すると、「利益代表国」を指定する。外交がなくなった国と連絡を取る必要が生じた場合は、利益代表国を通じて行う。大東亜戦争中、米国における日本の利益代表国はスペインで、日本における米国の利益代表国はスイスだった。 1980年代末、ソ連とイスラエルは外交関係を断絶していた。ソ連におけるイスラエルの利益代表国はオランダだった。オランダ大使館には、オランダ人外交官のパスポートを持ってイスラエルの外務省と秘密組織「ナティブ」(ヘブライ語で「道」の意味。ソ連・東欧からユダヤ人を秘密裏に出国させるための機関)の代表者が赴任していた。表面上、対立しているように見える国でも、裏では交渉のチャンネルを作っているという事例は多い。 キューバに関しても、これがあてはまる。キューバにおける米国の利益代表国はスイスだ。ハバナのスイス大使館には100人以上の米政府職員(主に国務省)が勤務しているという。この話を筆者が初めて聞かされたのは、85年に外務省に入省し、情報調査局情報課で研修生をしていたときだ。先輩の課長補佐が、キューバ勤務から戻ったばかりで、「アメリカとキューバの関係は、外から見ているほど、悪くはないよ」と言って、スイス大使館の話を聞かせてくれた。外交の実態とはこういうことかと筆者は興奮した。 89年11月にベルリンの壁が崩れ東西冷戦が終焉(しゅうえん)し、91年12月に崩壊した。キューバはソ連と軍事的につながっていたから米国の脅威だった。裏返して言うならば、外国の核の傘に入っていないキューバは、社会主義を掲げていても、米国にとって脅威ではない。しかし、米国の歴代大統領がキューバとの正常化に踏み込めなかったのは、フロリダに集中して居住するキューバからの移民が、社会主義政権に対する強硬策を主張する強力なロビー活動を展開していたからだ。オバマ大統領は、キューバ移民を敵に回しても、キューバとの関係正常化を選択した。その動機は、歴史に名前を残すことだと思う。 今回の米・キューバ関係正常化には、バチカン(カトリック教会)が大きな影響力を行使したようだ。<米政府高官によると今回、両国政府はローマ法王とカナダ政府の仲介で2013年6月から秘密裏に接触を続けてきたという>(12月18日、産経ニュース) 米国とバチカンのインテリジェンス協力は、キューバだけでなく、中国、中東でも積極的に行われている。世界宗教が外交に与える影響が可視化された事例としても本件は興味深い。

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    米・キューバの国交正常化交渉が宿す三つの象徴性

     米国とキューバの国交正常化交渉が始まり、注目を集めている。カリブ海の小国と米国との関係は、直接に世界に与える影響は必ずしも大きくはないのだが、この問題にはさまざまな象徴性が投影されている。実は、この象徴性を理解することで、この問題を超えた世界と米国の趨勢を理解する一助となるのだ。 最初の象徴性は、冷戦の残滓が解体されるという意味においてである。冷戦が終結してから25年が経とうとしている今日にあって、反共のレトリックで語られる米国の対キューバ政策はいかにも時代遅れの感があった。米国は、中国やベトナムなどの共産主義国とも国交があるし、権威主義や人権侵害という観点からキューバより劣悪な環境にある国とも国交がある。米国にとってキューバが特別なのは、自らの裏庭で共産革命を通じた反米国家が誕生し、ソ連やベネズエラなどの他の反米国家がそれを利用してきたというところにある。 特に、1962年のキューバ危機は、冷戦がもっとも熱戦に近づいた瞬間として米国人に記憶されており、自らの安全保障と直結するのだ。長らく米国の保守派には、他の共産主義国は許せてもキューバは別だという発想があった。オバマ大統領は、イラク戦争の大義に反対して注目を浴び、大統領職を射止めたわけであり、保守派の時代遅れの脅威認識を幕引きする役者としては適任であろう。米国にとってキューバは、目障りではあっても、もはや実質的な脅威ではないのだから、政治決断さえしてしまえば国交回復も粛々と進むはずである。 二つ目の象徴性は、米国内の人口構成の変化である。キューバ系をはじめとするヒスパニックの人口割合は上昇を続けており、現在では黒人を抜いた最大のマイノリティーとなった。高い出生率を背景に、将来的には白人の割合を抜く可能性すら指摘されており、足元でも選挙への影響力は大きい。 これまでのヒスパニック層は、人口構成に占める割合に比して、政治的影響力は限定的であった。その理由のひとつに、民主・共和両党に政治的支持が分割されてきたことがある。黒人であれば、その大多数が民主党支持であるのと異なり、ヒスパニック層は、経済的観点からは民主党支持に流れることが多くても、敬虔なカトリック教徒が多く、共和党の社会的保守の主張に共感する層も多かったからである。しかし、このバランスが崩れ、次第に民主党支持に傾きつつあるというのが現状であり、民主・共和双方が支持を取り込もうと躍起になっているのだ。 かつて、キューバ系アメリカ人の多くは、キューバからの亡命者が多く、カストロ政権が支配するキューバへの強硬策を支持していたが、潮目は変わったようである。米国の経済制裁は、カストロ政権を倒すことに効果はなく、むしろ、一般的なキューバ国民を苦しめているだけであった。冷戦が崩壊して、キューバと米国以外の国々との経済的交流も活発化してきており、キューバ系アメリカ人の間には、この流れに乗り遅れるなという発想も生じている。このような世論の変化が今般の政策変更を後押ししたことは間違いない。 三つ目の象徴性は、今回の政策変更が典型的なレガシー・ビルディングであることである。オバマ政権は、二期目の中間選挙を終えた今、選挙のプレッシャーにさらされていない。このような時期には、政権の偉業=レガシーとなるような政策に取り組む例が多いのである。それまでの政治的現実から解放され、異なる論理や優先順位で政策判断を行う道が開けるからだ。上下両院を共和党に支配され、オバマ政権が内政において大きな成果を上げられる可能性は少ないので、大統領の権限が強い外交分野に注目が集まることになる。 この種のレガシー・ビルディングには良い部分もあるのだが、米国の同盟国である日本にとっては要注意でもある。それまでの政策の常識とは異なる判断が行われる可能性があるからだ。例えば、対中国や対北朝鮮で、米国の政策がガラッと変わってしまうこともあり得る。オバマ政権は、米国の外交政策における東アジア重視を掲げる割に、実際には掛け声倒れの感があるので、それほど可能性が高いとは思わないが、大統領が北朝鮮との国交正常化に舵を切る可能性も否定はできない。実際、キューバやイランに対してはこれまでとずいぶん違う方向に向かっている。 変化の可能性がもっとも高いのは、対中国政策であろう。米国の冷戦後の対中国政策は腰が定まっておらず、その時々で大きく揺れ動いてきた。安全保障分野では、中国を脅威とみなす一方で、米国企業は中国市場でのシェア獲得にしのぎを削っており、米政府もそれを後押ししてきた。オバマ政権が残りの任期中に、この分野で大きな政策変更を行う可能性は否定できない。 米国の対キューバ政策の変更が日本に与える影響は大きくないが、米国が政策を急旋回する可能性は日本にとって他人事ではないのである。関連記事■ アメリカを巻き込んだコミンテルンの東アジア戦略■ 中華人民共和国は最後の「盗賊王朝」だ■ ナショナリズムという「病」

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    ヒト・モノ・情報はキューバを変えるのか

    伸行(産経新聞ワシントン支局長) 米フロリダ州マイアミから、フロリダ海峡を隔ててわずか約150キロのキューバ。青い海、降り注ぐ日の光、市民の陽気な笑顔…。首都ハバナにあるスペイン風コロニアル様式の建物が立ち並ぶ旧市街のたたずまいや、名物の1950年代の「アメ車」、そして、この国をこよなく愛した文豪アーネスト・ヘミングウェーが残した足跡も手伝い、そこが社会主義国であることを、つい忘れてしまいそうになる。ヘミングウェーの邸宅、フィンカ・ビヒア そうした「明るい社会主義国」といったイメージも、ハバナ市内の湾岸部にある米国利益代表部の周辺へ行くと一変する。フロリダ海峡を望むビルの前には、米国へ渡航しようとビザ(査証)を求める市民に混じり、反体制人権団体などの面々が米政府当局者と接触するため、たむろしている。彼らの出入りを、キューバの情報・治安当局者が常時、監視し目を光らせていることは言うまでもない。 関係者によると、米政府当局者との接触を妨害される者もいるという。反政府デモに参加するなどして、投獄される市民も後を絶たない。 反体制人権団体のひとつ「エスタド・デ・サッツ」のアントニオ・ロディレス代表は、産経新聞に次のように語っている。 「キューバには表現の自由がなく、集会の自由もない。その権利は憲法上、認められてはいるが、権利の行使には『条件』が付く。人々は言葉を発することができるが、社会主義の思想に従って発しなければならない。人々は集会を開くこともできるが、社会主義の倫理に従う必要がある」 米政府はキューバ政府との国交正常化交渉で、人権改善を求め、利益代表部を格上げする形で大使館を再開し、市民の大使館への自由なアクセスも認めるよう要求している。これは前述したような実態があるからにほかならない。 キューバ政府にすれば、経済発展を促すうえで、米政府による経済制裁とテロ支援国家指定の解除が、喉から手が出るほど欲しい。国交正常化の狙いも、この一点に集約されるとみていい。国交正常化へ向け動き出したことは、経済面で依存してきたベネズエラが経済難に陥ったことへの反動でもあり、伏線としての新たな活路を模索しているのだ。 キューバの昨年の国内総生産(GDP)の伸び率は1・3%。政府は当初、2・4~2・5%と予測していたが、大きな貿易相手国であるベネズエラの経済危機が影響したという。 そうした状況下で、仮に米国による経済制裁とテロ支援国家指定が解除されれば、2国間の経済効果のみならず、日本など外国からの投資を促し、輸出入も増えると期待している。 これに対し、オバマ米政権はキューバにヒト、モノ、情報を流入させることで民主的な価値観を注入し、社会主義体制に“風穴”を開けるという青写真を描いている。 こうした米側の狙いを、キューバは百も承知している。キューバ外務省顧問のカルロス・アルスガライ氏の言葉を借りれば、「象(米国)はいつでも草(キューバ)を踏みつぶす。米国は人権などの民主主義を、どの国にも植え付けようとする。しかし、どうするかはわれわれ自身が決めることで、圧力は駄目だ」という警戒感と反発となって表れる。 キューバ政府は、あくまで「社会主義を維持する」と言明している。目指す基本的な方向性は社会主義を維持、発展させるために、市場原理を導入し経済の対外開放を進めるという、中国とベトナムが歩んだ道と同じだといっていいだろう。そのうえに「キューバ独自のスタイル」を見いだそうと、模索しているようだ。 とどのつまり、キューバが経済的に、何より政治的に、国家統制の手綱をどこまで緩めるのかという、さじ加減の問題になる。 キューバ政府は国交正常化交渉の開始に際し、米側の要求に応じ50人以上の政治犯を釈放している。こうした措置を今後も、米側との何らかの「交換材料」として、小出しにしていく可能性はあるものの、人権や言論などの統制を緩めるつもりは、今のところないようだ。 オバマ大統領も「幻想は抱いていない」としている。ただ、国交正常化は、長い時間をかけ徐々に、一定の政治変革をもたらすだろうという期待がある。当面の問題としても、オバマ大統領は共和党から「国交正常化は、キューバを利するだけだ」という批判を浴びており、交渉の中で人権改善を主張せざるを得ない。 オバマ大統領は、国交正常化に「前のめり」の姿勢だという。それは(1)大統領としての政治的な遺産づくり(2)米国の「裏庭」である中南米で、ロシアと中国の関与が増大していることへの対抗(3)中南米における反米感情の緩和―などに主眼を置いているためだ。 そこで焦点は、米国とキューバの双方が人権問題でいかなる妥協点を見いだすのか、に移っているのだが、オバマ大統領が「成果」を急ぐ余りに譲歩しすぎれば、批判の火の手はさらに燃えさかる。関連記事■ 不動産バブル崩壊でも人民元が増長する秘密■ アメリカを巻き込んだコミンテルンの東アジア戦略■ 移民政策の本当の怖さ