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    電通過労死で消えた「働きたい権利」

    「国難突破解散」と首相自ら銘打った今回の解散劇だが、働き方改革を柱とするアベノミクス「第三の矢」はいまだ道半ばである。電通過労死事件を機に残業規制の議論が進む一方、労働者の「働きたい権利」は主張しづらくなったという指摘もある。労働意欲と生産性向上のバランスを欠く一方的な議論でホントに大丈夫か?

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    マスコミは電通のブラック批判より自らの「仕事バカ」を是正せよ

    大内裕和(中京大学教授) 2017年9月22日、大きな話題となった電通の労基法違反事件の初公判が開かれました。この事件の焦点は、違法を含む長時間労働です。頻発する過労自殺や過労死、うつ病や精神疾患の広がりは、長時間労働が蔓延していることを示しています。大きな社会問題となっている長時間労働を是正するためには、どうしたらよいのでしょうか。電通違法残業事件の初公判を終え、頭を下げる電通の山本敏博社長=9月22日、東京・霞が関の司法記者クラブ 長時間労働は深刻化しています。第一の理由として、グローバル資本主義の進行を挙げることができます。生産拠点の海外移転によって、日本の労働者は、アジアをはじめとする海外の、賃金が低く労働時間が長い労働者との競争にさらされ、賃金の引き下げと労働時間の延長を強いられるようになりました。 グローバル資本主義化にともなう新自由主義改革も、職場の状況を悪化させました。特にアメリカ型の株価至上主義的な経営が広がったことは、日本の企業を大きく変えました。戦後に確立した日本型雇用は、終身雇用と年功序列型賃金を特徴としていました。企業が労働者支配の強い権限を持つ一方で、労働者の安定雇用を保障するという関係が成り立っていたのです。 しかし、株式至上主義的な経営が広がったことによって、経営者にとって株式市場での評価が最大の関心事となりました。経営者は可能な限り労働者の安定雇用を保障していたこれまでの姿勢から、株価を上げるための短期的な企業収益の向上を優先し、コスト削減のための人減らし合理化を断行するようになりました。 第二の理由として、非正規雇用労働者の増加を挙げることができます。非正規雇用労働者の数は近年、急増しています。総務省の『労働力調査』によれば、非正規雇用労働者の数は、1989年の817万人(労働力全体の19・1%)から、2016年には2023万人(労働力全体の37・5%)に増加しています。 非正規雇用労働者の増加にともなって、以前よりも少数となった正規雇用労働者には責任の重い仕事が集中し、仕事量も増加しました。正規雇用労働者の労働の過酷化と長時間労働化が進行しました。 第三の理由として、情報通信技術の発達による社会全体のIT化や情報化の進行が挙げられます。パソコン、携帯電話、スマートフォンなど情報ツールの浸透は、人々の働き方や日常生活の過ごし方を大きく変えました。 新しい情報通信技術は業務処理を迅速化し、労働時間の短縮を実現する可能性をもっています。しかし、現実にはノートパソコン、携帯電話、スマートフォンの普及によって、仕事の時間と個人の時間との境界があいまいとなり、仕事が労働者をどこまでも追いかけてくるようになりました。私生活への仕事の介入が進行したのです。24時間化した経済活動 現在では多くの労働者が、オフィスの外にいても、家庭の中にいても職場とクライアントの両方から、メールや携帯電話、ラインなどで仕事の世界に引き戻されます。職場でさばききれないほどのメールやラインのメッセージを処理した上に、家庭でもメールやラインのメッセージに悩まされます。 また、新しい情報通信技術は仕事やビジネスの加速化、時間ベースの競争の激化をもたらし、経済活動のボーダーレス化や24時間化を促進します。これらは全体でみても一人あたりでみても、仕事量を増やしています。 特に、24時間営業のコンビニエンス・ストアや全国翌日配達の宅配便は、利便性と引き換えに、過剰なサービス競争を生み出し、労働の過酷化と長時間労働を促進しています。そしてこれらの業態は、もう一方で長時間労働を強いられている労働者の生活を支えており、両者は相互依存の関係となっています。 さらに、長時間労働が蔓延しているなかで、マスコミ関係者や医師、教員、警察官などの過酷な働き方が問題となっています。これらの分野の労働者はその労働の特質から、定まった時間内での勤務が難しい状況に置かれているからです。 取材、治療、教育、犯罪捜査などは、突発的な事態が起これば、いかなる状況やどんな時間であっても対応をせまられることが多いでしょう。こうした分野の労働者にとって、長時間労働の是正が困難であることは容易に予想できます。(iStock) しかし、これらの分野の労働者についても、長時間労働の是正は必ず実現しなければならない課題でしょう。長時間労働や過酷な労働は、過労自殺や過労死、うつ病や精神疾患などを多数もたらしています。 また、「共働き」世帯の増加や高齢化の進展は、これまで以上に男性労働者が家事、育児、介護に関わる必要性を高めています。男性労働者の長時間労働が是正できなければ、女性の労働参加や社会参加を妨げたり、仕事と家事、育児、介護の加重負担を女性に課すこととなってしまいます。 それに加えて長時間労働や過酷な労働は、その労働の質を劣化させます。マスコミ関係者や医師、教員、警察官の働き方は、この点からも改善されなければなりません。取材、治療、教育、犯罪捜査は画一的・定型的な業務ではありません。どれも深い思考力や個々の労働者の創意工夫が求められる仕事です。長時間労働や過酷な労働によって十分な思考力や創意工夫が発揮されなければ、それは必ず取材、治療、教育、犯罪捜査の質の低下となってはねかえってきます。マスコミなどの改善が急務 これらの分野の労働者の長時間労働の是正はどうやって行えばよいでしょうか。第一に、それぞれの分野の労働組合や業界が労働時間削減に取り組むことです。戦後長い間、労働組合や業界は賃金上昇と比べると、労働時間削減に熱心に取り組んできませんでした。電通の書類送検について会見する、東京労働局の特別対策班、樋口雄一監督課長(右)ら=4月25日、東京都千代田区(荻窪佳撮影) むしろ、労働時間削減よりもその分のエネルギーを賃金上昇に向けるという傾向が強かったといえます。今後は、労働組合や業界が、長時間労働の是正を最重要の課題として取り組むべきです。 第二に、「自発的な働きすぎ」を見直していくことです。これらの分野の労働では、仕事についての「やりがい」や「面白さ」がよく強調されます。この「やりがい」や「面白さ」が、労働者の「自発的な働きすぎ」を促進している可能性があります。仕事の「やりがい」や「面白さ」が、労働の過酷化に疑問をもつことを困難にし、長時間労働を促進させている面はないかを、労働者自らが点検する必要があるでしょう。 また、仕事における強制や圧力、過剰な仕事量や競争、少なすぎる人員配置など、長時間労働を生み出す雇い主の意向や職場の実態があるにもかかわらず、職場で「やりがい」や「面白さ」が強調されることによって、労働者の「自発的な働きすぎ」=「自己責任」と労働者自身が思わされている構造にも目を向けることが重要です。 第三に、これらの分野の労働者の長時間労働を是正するためには、社会全体の労働時間削減とセットで進めていくことが重要です。なぜなら、マスコミ関係者、医師、教員、警察官の長時間労働を生み出している要因の一つは、彼らの仕事の対象者である取材対象者、患者、子供・保護者、一般市民の多忙化だからです。取材対象者、患者、子供・保護者、一般市民が多忙であれば、それに合わせてマスコミ関係者、医師、教員、警察官の側も厳しいスケジュール調整を強いられます。 マスコミ関係者、医師、教員、警察官のみなさんが、自分たちの働き方を問い直すと同時に、日本社会全体の労働者の働き方を改善していく視点を持つこと、それが将来的には長時間労働の是正につながると思います。

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    ニッポンの企業に蔓延する「働き方改革疲れ」の実態

    常見陽平(千葉商科大学国際教養学部専任講師) 読者の皆さんに問いかけたい。「働き方改革」で疲れていないだろうか。日本をサービス残業大国にしないためにも「働き方改革疲れ」は正直に口にすべきだ。 この春、『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)を発表した。わが国において残業が減らない理由として、雇用システムの問題や、仕事の絶対量、「神対応」に代表されるサービスレベルの問題を取り上げ、これらの普遍的・根本的な問題に切り込まない限り、非妥協的に立ち向かったところで「働き方改革」は「改善」程度にしかならないこと、そこに踏み込まずにいるならば長時間労働を規制しようともかえってサービス残業を誘発してしまうのではないかと警鐘を鳴らした。 おかげさまで、新聞、雑誌を合わせ20近くの媒体で書評や著者インタビューが掲載された。講演の依頼も殺到している。手応えありだ。みんなが「働き方改革」に疑問を持っていることを肌で感じるからである。特に、大手企業の人事責任者が集まる勉強会などはそうだ。参加企業の中には、働き方改革の成功事例としてメディアで紹介される企業もいる。メディアで成功事例として紹介される企業も、ここでは社内の問題を語り出す。現場には浸透したとも、納得感を得ているとも言い難く、かえって疲弊感が広がっている様子などが伝えられるのだ。まさに「働き方改革疲れ」そのものである。 もっとも、その実は「採用氷河期」において、より良い労働環境を整えないと採用ができないことにも起因している。さらには、この取り組みをIR(投資家向け広報)、CSR(企業の社会的責任)、PRに生かそうという魂胆もみえみえだ。人材ビジネス企業やIT企業などの場合は、自社の事例化という側面もある。特にIT企業の場合は、優秀なエンジニア獲得のために条件を良くせざるを得ないという側面もある。このような点を読み解かなくては「働き方改革」の深層は理解することができない。 「働き方改革」の盛り上がりは、電通違法残業事件の衝撃による部分が大きいことは間違いないだろう。若手社員が自殺に至っただけでなく、これまでも過労死・過労自殺事件が起きているほか、長時間労働が慢性化し、労働局から何度も是正指導を受けていたにもかかわらず、電通は改善の努力を怠った。そして書類送検され、立件に至った。もちろん、電通で起きてしまったことは許される問題ではない。ただ、同社に急激な改革を求めることもまた「働き方改革疲れ」を誘発しないか。7月27日、労働環境改革基本計画を発表する電通の山本敏博社長=東京都中央区 すでに電通は改革を進めている。2016年10月半ばには、時間外労働の上限を月70時間から月65時間に引き下げる方針を固めるとともに、同月24日から午後10時以降を全館消灯とした。11月に当時の石井直社長ら役員8人で構成される労働環境改革本部が設置され、業務内容と仕事のやり方の点検が行われたのを皮切りに、改善策が次々と発表された。従業員の行動規範とされてきた「鬼十則」の従業員向け手帳からの削除をはじめ、増員や人員配置の見直し、有給取得の義務付けなどがそれである。「改革成功企業」への欺瞞 今年1月には、過労自殺した高橋まつりさんの母、幸美さんが記者会見し、電通に対して過労死や過労自殺の再発防止に向け、遺族への謝罪、慰謝料などの支払い、再発防止措置などを盛り込んだ合意書を結んだことを明らかにした。再発防止措置は長時間労働・深夜労働の改革、健康管理体制の強化、18項目に及ぶものである。運用においては社内研修に遺族や代理人が参加するほか、年に1回、再発防止措置の実施状況を遺族に報告するなどの措置を取っているのは画期的だといえる。 7月27日、電通は記者会見を開き、労働環境改善に向けた基本計画を発表した。主な柱は次のようなものである。1.従業員1人あたりの年間総労働時間を14年度の実績2252時間から、2019年度には1800時間に約2割削減する。2.達成のために、人員の増強、業務の削減、IT投資の強化、自動化の推進などに取り組む。3.休暇の連続取得日数の増加を行う他、週休3日制導入や給与制度の見直しを検討する。 労働環境改善に向けた、電通の「本気度」が伝わる高い目標だといえる。電通違法残業事件の初公判後、会見を終えた高橋幸美さん。手にする写真は、アメリカ旅行で撮影された娘のまつりさん=9月22日(飯田英男撮影) ただ、これらの取り組みは、プロセスと結果をみなくては評価することができない。率直に難易度の高い目標である。この高い目標に立ち向かうがゆえに、現場が疲弊してしまったり、サービス残業を助長しないようにしなくてはならない。まず、労働者が死なない職場、倒れない職場にすることは急務だが、この改革によって現場が疲弊してしまうなら本末転倒である。 もう一つ注目したい点は、電通が具体的に人材、ITに投資するということだ。70億円とも報じられる予算を投じて改革を行うのである。もし、電通の改革で成果が出たとしても、この点には注目しなくてはならない。働き方改革は常に痛みを伴う。創意工夫だけでは限界がある。このように人材やITに投資せず、創意工夫だけでなんとかなるわけではない。 「働き方改革」は、来月投開票の解散総選挙でも論点になりそうだ。ただ、これらの改革が国民丸投げプラン、人材ビジネス企業やIT企業への利益誘導の側面が垣間見られる現実も直視しなくてはならない。すでにビジネス雑誌などでは「働き方改革成功企業」なるものが欺瞞(ぎまん)に満ちていないかという疑問が渦巻いている。 電通の目標や取り組み事項は立派だが、プロセスと結果を見なくては評価できない。うがった見方をするならば、社員手帳から「鬼十則」を削除したにもかかわらず、相変わらず気合と根性の改革にも見える。「人が死ぬ会社」からは即刻変化するべきだが、電通を起点に「働き方改革疲れ」が広がらないことを祈っている。

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    電通裁判は安倍政権「働き方改革」のみせしめに過ぎない

    嶋﨑量(弁護士) 昨年9月末に労災認定が出た電通の新人女性社員の過労自死事件は、社会に大きな衝撃を与えた。当初政府が掲げていた「働き方改革」における長時間労働是正策の狙いは、もっぱら労働生産性向上など経済対策の一環としての提起ばかりであり、長時間労働是正について論じる際に本来中核に据えられるべき、命や健康の問題は脇に追いやられていた。 しかし、これを一変させたのが電通過労自死事件であった。「働き方改革」、とりわけ長時間労働に関しては、電通事件によってその意味合いが大きく変化したといえる。政府も電通事件のインパクトは無視できず、これまで経済対策としての長時間労働是正、例えば、少子化対策や女性活躍といった側面ばかりが強調されていたが、それに加えて命や健康に着目した対策が重視されるようになった。 過労死・過労自死を生むような働き方、働かされ方がこれまでにない大きな政治課題として世間の関心を呼び起こし、結果、労働基準法改正において、罰則付きの時間外労働の上限規制の導入が急ピッチで議論され、政府主導によって上限規制を含む法案要綱が諮問・答申されるに至った。電通の本社ビル=2016年12月28日、東京都港区(共同) また、政府が2年以上前に法案を提出したまま、あまり注目されずに棚ざらしとなっていた、いわゆる「残業代ゼロ法案」(高度プロフェッショナル制度導入と企画業務型裁量労働制の拡大)への社会の関心が徐々に高まっている。近時、労働組合のナショナルセンターである連合が、残業代ゼロ法案を容認したのかという問題が広く報じられ注目されたが、電通事件によって長時間労働は労働者の生命や健康の問題であることが再認識されたといって間違いないだろう。 このように電通事件は、過労死・過労自死問題のいわば象徴として、政府、財界のみならず、労働側の取り組みを含め、長時間労働の問題に関する対応について大きな影響を与えた。そんな中で、労働基準法違反により、法人としての電通自体が刑事罰を科されるという事態に至ったのである。統計上1%未満の極めてまれなケース そもそも、労働基準法には数多く刑事罰を定める規定があり、理論的には刑事罰を科しうる違反は日常的に起きている。しかし、実際に労働基準監督署が捜査をして、刑事罰が科される案件はそのうちのごく一部である。しかも、刑事罰が科されるケースであっても、一般的には刑事事件の「略式手続き」が選択されるケースが圧倒的多数である。 この「略式手続き」は、簡易裁判所が取り扱う軽微な刑事事件の場合、検察官の請求により、被疑者(本件では法人である電通)が同意している場合に限り行われるものだ。報道によれば、今回の電通事件でも検察官は通例通り略式手続きを選択しており、電通もこれに同意したはずだ。被疑者にとって、事実関係を認めている限り、略式手続きを拒否するメリットはないからだ。 しかしながら、本件では簡易裁判所が、略式手続きでの審理が「相当でない」として、正式な裁判が実施されることになったのだ。こういった事態は、司法統計上1%にも満たない、極めてまれなケースだ。 裁判所が簡易な略式手続きにより進めることを「相当でない」と判断した理由は、この電通事件が社会に与えた強い影響、大きな社会的注目を考慮したとしか考えられない。違法残業事件の初公判で東京簡裁に入る電通の山本敏博社長(左端)。起訴内容を認めた=22日(共同) そもそも、略式手続きであっても、正式な刑事罰が科されること、そして科される刑事罰の重みは全く変わらない。結果的に有罪判決になり、被告人には前科がつくからだ。ただ、事件が与えた社会的な影響力を抜きに、起訴されている事案の刑事罰の重さから考えれば、むしろ正式裁判されることが異常事態といえよう。 しかし、略式手続きではその過程が公開されることなく書面で進行してしまうので、公開の法廷で審理されない。公開の法廷で行われる場合、席数に限度があるとはいえ、誰もが希望すれば裁判手続きを傍聴することが可能となる。これが裁判の本体の在り方だが、略式手続きの場合、事件自体が人目に触れる機会は限られてしまい、社会的な注目に答えるためにはふさわしくない。 分かりやすい例で言えば、テレビや新聞などで報道される刑事裁判の様子(人物画などで描かれるもの)は、全て公開の法廷で行われている正式審理された刑事事件だ。被告人の様子や事件に対する反省の言葉がきちんと報道されるのは、公開裁判で審理されたからに他ならない。裁判所の画期的な判断 電通事件においても、ここで問われている刑事罰の中身などは、検察官が法廷で朗読する起訴状や、冒頭陳述でも明らかになる。出頭した電通の社長自らが、大きな社会的注目を集め、経営トップとして公開の法廷で証言をする機会が与えられたのは、電通に対して改めてこの事件を風化させず、真摯(しんし)に企業体質を含めた再発防止を問いかけるという、重大な意味がある。 裁判所は、これまで電通事件が社会に与えた強烈なインパクトを考慮して、刑事手続きの場面でも略式手続きではなく、広く世間に開かれた公開の法廷で審理し、判決を言い渡すべきと判断したと考えられる。一言で言えば、電通事件の社会的なインパクトをきちんとくみ取った、画期的な判断といえるだろう。 また、電通事件について考える上で重要なのは、残念ながらこれが過労死・過労自死で命が奪われるケースの氷山の一角に過ぎないということだ。2014年6月20日に過労死等防止対策推進法が成立したものの、過労死・過労自死は一向になくなっていない。電通違法残業事件の初公判後、会見の冒頭で頭を下げる電通の山本敏博社長=22日午後、東京都(飯田英男撮影) 日本を代表する大企業で、過労自死が繰り返されてしまったことなどから、大きな社会的注目を集めた電通事件であるが、本件以外にも数多くの過労自死が存在するのは厳然たる事実だ。実際に脳心臓疾患・自死を合わせると、平成28年度も約200件の労災認定がなされており、証拠がなく申請や認定されなかったものの実際は認定されるべきであったケースは膨大に存在する。 だからこそ、電通には、なぜ長時間労働による過労自死が起きてしまったのか、長時間労働を本当に防ぐためには何が必要か、労働時間記録を徹底するにはどうするべきか、パワハラ対策などを含む自殺予防措置はどうするべきか、企業風土を含めた働かせ方への反省、クライアントとの関係など、さまざまな視点から今回の事件と真摯に向き合ってもらいたい。 日本を代表する大企業が引き起こした過労自死事件について、被告人として電通が真摯に労務管理の在り方、労働者の働かせ方を見つめ直し、改善をする姿を世間に伝えることは、過労死・過労自死根絶に向けて、社会を変える大きな原動力になるはずだ。正式裁判を選択した裁判所は、この点を期待したのだろうし、私もこれを願ってやまない。

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    「電通ブラック批判」急先鋒の朝日新聞がブーメランで沈黙

    社内でも疑問の声があがった。本誌が入手した朝日労組が実施した組合員アンケートの回答には、〈電通以上のブラック企業だ〉〈電通問題を胸を張って追及できなくなった〉〈本来であれば会社が率先して外部公表する内容の事案だ〉といった辛辣な言葉が並んでいる。 朝日は報道が遅れたことについて、「是正勧告について社内で検討し、10日付朝刊の掲載に至りました」(広報部)とした上で、「弊社は現在、ワーク・ライフ・バランスの推進を重要な経営課題として掲げ、時短に取り組んでおり、今回、長時間労働について是正勧告を受けたことを重く受け止めています。再発防止に努めるとともに、引き続き、時短を一層推進していきます」(同前)と回答した。 これを“天ツバ”と言う。関連記事■ ABCマートを送検した労働Gメン ブラック企業の摘発は進むか■ AIの発達によって日本でもBIが必要になるのか■ ヤマト運輸役員「サービス残業の黙認は会社にとってリスク」■ ブラック企業、非正規雇用等 労働問題をエヴァから語る本■ “派遣の規制” 審議したのは現場の声代弁せぬ経営者や学者ら

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    電通より長時間労働もある医療界 患者の感謝が心の支え

     過重労働が社会問題としてたびたび取り上げられているが、政府が唱える「働き方改革」が、働く人にとって有益なものとなっている気配はない。それどころか、経済界からの意見に押されて、強く規制することをためらう内容になっている。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、これから、どんな働き方を目指すべきなのかについて考察する。* * * 2015年のクリスマス、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が女子寮4階から飛び降り自殺した。彼女は、月100時間以上の残業を日常的に行なっていたことが問題となった。 生前のツイッターから過酷な働きぶりがうかがえる。自殺の2か月前には「体が震えるよ……しぬ」、1か月前には「がんばれると思ってたのに予想外に早くつぶれてしまって自己嫌悪だな」などと投稿していた。 東京大学卒の頑張り屋。深夜帰宅が続き、「睡眠時間2時間」という日もあった。高橋さんの自殺は過重労働のためだったと労災認定された。電通は夜10時に消灯し、深夜の残業を防止。しかし、カフェで仕事をしたり、早朝出勤したりするなど長時間労働の実態は変わっていないという指摘もある。 それにしても、1か月100時間以上の残業時間というのは尋常ではない。医療界はもっとひどい。20代の勤務医の労働時間は、平均週55時間。これに、当直や待機の時間が週12時間加わる。これを1か月に換算すると120時間を超える時間外労働をしていることになる。こんな「ブラック」な状況下で、日本の医師は患者さんの命を預かっている。それでも、何とか続けられているのは、医師としての使命感や、自分が成長するプロセスを実感できるからだろう。患者さんが元気になり、「ありがとう」と感謝されることも、心の支えになっている。 諏訪中央病院に医師が集まるのは、地方の中小病院なのに100名の医師がいて、他院より余裕が少しあるためかもしれない。高橋まつりさんのツイッターで長時間労働以上に気になるのは、上司から言われた言葉の数々だ。「君の残業時間の20時間は、会社にとって無駄」「今の業務量でつらいのはキャパがなさ過ぎる」働きすぎるとどうなるか? 新入社員の彼女の仕事ぶりは未熟なことが多かったのかもしれないが、もっと長い目で彼女を見て、仕事の一部でも評価してあげていたら、こんなことにはならなかったのではないだろうか。 いや、すでにそのレベルは超えてしまっているのかもしれない。どんなに優秀な人でも、やる気のある人でも、十分に眠れない、休めない、自分の仕事に意味を見出せないという状況下では、遅かれ早かれ擦り切れてしまう。 イギリスの医学雑誌「ランセット」に一昨年、興味深い研究論文が発表された。脳卒中になったことがない約52万9000人を、平均7.2年経過を追った結果、働く時間が長いほど脳卒中の危険性が高くなることがわかった。週55時間以上働く人は、週35~40時間働く人に比べて、脳卒中のリスクは1.33倍に増える。高血圧や糖尿病、食習慣だけではなく、労働時間も脳卒中を引き起こす要因になっているということだ。 日本の法定労働時間は、原則1日8時間、週40時間と決められている。法定労働時間を超える場合は、36協定で残業時間の上限を「月45時間、年360時間以内」と規定されているが、罰則付きのぎりぎりの特例として「月平均60時間、年720時間」という規定も設けられた。 長時間働くことは、脳卒中やうつ病、過労死など、健康に害を及ぼすリスクがあることを、もっと重く受け止める必要がある。 国をあげて働き方改革が議論されているが、雇用者側に立った「働かせ改革」ではなく、働く人の健康や生き方を大切にするような「生き方改革」を進めていってもらいたい。●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『遊行を生きる』『検査なんか嫌いだ』関連記事■ 音楽家が原発労働者を訪ね歩いて知られざる現実を記したルポ■ 福島原発作業員 平均約12時間拘束で日当は2~4万円■ 高齢化が進み生活保護受給者が増えたドヤ街の現状を描いた本■ 戦時徴用は強制労働は嘘 1000名の募集に7000人殺到していた■ 44の職業に就く女性の給与明細・残業時間・長短を紹介した書

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    ブラックバイトは若者の甘えなのか

    ブラック企業が社会問題化する一方、大学生を中心に広がるブラックバイトも深刻化している。無理な勤務を強要される学生への被害が注目されがちだが、企業側も気づかぬうちにブラックバイトの片棒を担ぐことになりかねない。本当に「たかがバイト」、「辞めればいい」では済まされないのか。

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    いまどきの学生はなぜ「ブラックバイト」にハマってしまうのか

    点、バイトは店長や他の店員、客に承認してもらえる上、お金だってもらえる。社会勉強だってできる。これはブラック企業とも共通する特徴だが、モチベーション管理に長けていて、そのためのノウハウも蓄積され、学生は安い給料で「松田店長のアツさに惚れました。死ぬ気でやるっす!」「大学より学ぶことがいっぱいっす!」などと、踊らされてしまうのだ。 このように、中長期の問題、マクロな問題と、短期的に解決できる問題、さらには身も蓋もない話など、切り分けて考えなくてはならないのである。学生と企業の損得話こそ大切だ 中長期の対策の他に、まずできることから始めたい。そのためには、学生と企業の損得話こそ大切だと私は考える。 企業はブラックバイト状態を続けていることの損失を意識してもらいたい。そこで、疲れた従業員の顔、バイトを酷使する状況、ボロボロの舞台裏などがブランドイメージを下げていることを意識しなくてはならない。 また、学生に対してもワークルールのリテラシーを高めるための取り組みや、そもそもバイトしなくても良いようなマネーのリテラシーを教えることが大切だ。 千葉商科大学国際教養学部では、キャリア教育プログラムの中で今年の1年生からブラックバイトの対策講座を開いている。土屋トカチ監督の『ブラックバイトに負けない!』という映画の上映会も行った。さらには、得するマネー講座も行った。 この問題は、多様な視点で論じなくてはならない。意外に身も蓋もない話が大事なのだ。

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    残業代不払い、長時間勤務……ブラックバイトはなくなるか

    ス]山本莉会 (プレスラボ)過酷すぎたすき家の「ワンオペ」「レジ誤差は自腹」というアルバイト先も 「ブラック企業」という言葉はすでに一般的になって久しいが、昨今話題となっているのが「ブラックバイト」。残業代の不払いや違法な長時間勤務など、労働法規に反しているアルバイトに対してつけられた名称だ。NAVERまとめにまとめられた、「学生を潰す『ブラックバイト』の厳しく過酷な実態」は20万回以上閲覧されている。 その一つとしてネット上でさかんに議論されているのが「すき家」のワンオペ業務だ。飲食店の業務と言えばおおまかに「接客」「厨房」の2種類に分けられ、それぞれ「レジ業務」「テーブルセッティング」「皿洗い」「ゴミ出し」などの細かな業務があるが、その全てを来店客の少ない深夜などの時間帯に一人でまかなうというもの。現在、第三者委員会からの提言によりワンオペは廃止されたが、その過酷さは想像に難くない。 ほかにもブラックバイトの例としては、「休憩時間を与えない」「罰金制度を設ける」「厳しいノルマがある」「学生の試験期間中でも休みを与えない」などが挙げられる。「ブラックバイト」というネーミングは、2013年に中京大学の大内裕和教授が提唱したものであるが、ネットではかなり以前から「ブラックな働き方」について意見が投じられてきた。 例えば2ちゃんねるの「ブラック企業就職偏差値ランキング」は1999年から設けられており、さまざまな企業のブラックな一面を提言し続けてきた。また、ブログや掲示板などでは、一労働者たちが実際に直面したブラックな労働環境を書き込むことで情報交換がなされ、「ブラックバイトがある」という事実が認識されるようにもなった。例えば2ちゃんねるの「ブラックだと思った職場・バイト先」という2012年のスレッドでは、実際にブラックバイトで働いたことがあるという人が 「レジ誤差は自腹」 「年末は、一ヶ月ほどまるまる休みがなかったし、 正月は元旦しか休みがなかった。」 などの書き込みをしている。 昨今、ブラックの実態が昔より明らかになりつつあるが、労働者の意識の変化だけでなく、一般の方がネットで声をあげて違和感を共有したことも一つのきっかけになったのではないだろうか。違和感を放置すると搾取される?違和感を放置すると搾取される?まずは現場の意識改革を 筆者自身、これまでに「飲食店」「ライブスタッフ」「配送」「飛び込み営業」「イベントコンパニオン」「電池工場」「テレフォンオペレーター」「家庭教師」などさまざまなアルバイトをし、その後会社員としてアルバイト雇用の方に指示を出す側も経験した。ブラックバイトは是正すべきだと思うが、簡単に変わらない現状も多い。 例えば「飲食店」のアルバイト。筆者が働いていた飲食店は学生街に位置していたため、年末や歓送迎会時期は休憩なしが当たり前。「ライブスタッフ」のアルバイトでは、アンコールでライブが延長した場合の残業代は支払われなかった。いずれも「そんなバイト先辞めれば済むこと」かもしれないが、また新しくバイト先を探し直すには手間と時間もかかる。また、地方に住んでいた筆者にとっては好条件でアルバイトを募集している企業を探すのも一苦労だった。その上「辞めるのは次の人が見つかってから」と言われることも多く、ズルズルと働き続けてしまったこともあった。 雇用する側としては、社員に任せるには人件費がかかる業務はできるだけアルバイトへ回したいところ。競合との価格競争がある業種では、そのしわ寄せがアルバイトへ行ってしまうこともあるだろう。今回の「すき家」ほどの事例まではいかないものの、繁忙期などは一時的にアルバイトへ甘えてしまうこともあるのではないだろうか。忙しすぎる現場の場合、労働法規に反しているという意識すらなかったというケースも考えられる。 また、労働法に反していなくても「ブラック」と言われることも多い。先に挙げた2ちゃんねるスレッドでは 「社員がどうというより派遣同士のいじめがひどい。」 「上司で上から目線全開の奴が必ずいた」 というコメントもあった。筆者にとって、上司が上から目線でも特に何も感じないが、人によってはブラックだと感じるようだ。 労働法に反していた場合はすぐに改めることが必須だが、そのためには現場が「何が不法雇用にあたるか」を認識する必要がある。また、人によってブラックの基準が違うということも、ブラックバイト問題を難しくしている一因のような気もする。まずは自分がアルバイトとして働くなら、この職場環境は良いかを考えることがブラックバイトを減らす一つの方法になるのではないだろうか。

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    ブラックバイトを辞められないと悩む若者は「単なる根性無しのバカ」

    渡辺龍太(フリーニュースディレクター) ブラックバイトユニオンという団体が、飲食チェーン「しゃぶしゃぶ温野菜」に対して、団体交渉を申し入れたというニュースが出ていました。 その理由は、4ヶ月も1日も休みなく働き、大学の単位も全て落とした大学生のアルバイトの若者を支援するためだそうです。 このニュースを読んだ時、『大学生にもなって、どうしようもなバカがいるもんだな。』とだけ思いました。画像はイメージです怪しい人と縁を切れなかったのは自己責任 世の中には、ヤクザまがいの怪しい人がたくさんいます。 例えば、新宿などを歩いていても、変な宗教の勧誘があったり、ぼったくりバーに誘われたり様々です。 でも、そんな怪しい人からの誘いも、まともな大学生となれば、自分の身を守るために、普通はついていきません。 どんなに熱心に勧誘されても、勇気を出して無視するのが当たり前です。 しゃぶしゃぶ温野菜って会社も、まともな大人が見れば、ヤクザ顔負けのおかしな企業です。 アルバイトに対して、4ヶ月も休みなしで働かせたり、やめるなら数千万円の損害賠償だと脅していたそうです。 単なる飲食店のバイトに、数千万円の請求ですよ!!! 本物のヤクザだって、そんなバカみたいな脅しをしないんじゃないでしょうか。 そんな恫喝行為は、労働問題というより、間違いなく犯罪です。お人好しなんて慰めないで叱ってやれ! 時間のある人は、この動画も見てください。 こんな恫喝を行う人を、平然と雇っている会社とは、まともではありません。 判断力を持った大人なら、一刻も早く手を切るのが当たり前だと、誰もが考えるでしょう。 しかし、この大学生といえば・・・? ブラックバイトユニオンの青木耕太郎氏によると、 「男性は責任感が強く、非常に優しい性格。男性のミスのせいで店長がクビになる(のちに虚偽と判明)と聞いて、申し訳ないと考えたことがあった」 と、思っていたそうです。 こんな風に、ヤクザまがいの人物相手に『申し訳ない』思いながら、大学の単位を全て落としたなんて、単なる世間知らずのバカだとしか思えません。 この青年に対しては、『可哀想だったね〜。』と慰めるより、『何て勇気を出して、会社と縁を切らなかったんだ!』と、キチっと叱ってあげるのが一番の様な気がします。 推測ですが、こういう明らかにオカシナ人とも縁を切れない若者がいるというのは、甘やかしすぎる子育てにあるんではないでしょうか。 幼稚園の時から、喧嘩をすれば大人が仲裁に入り・・・。 ちょっと、子供に道を聞くていどの事をする男性がいれば、『変質者かもしれない!』と大人が大騒ぎ・・・。 そうやって育てられたら、世の中に悪い人がいても、誰かが大騒ぎして退治してくれるとだけ思って生きて行く人間が出来上がってしまう様な気がします。 本当に必要なのは、自分の頭で考えて『怪しい!』と感じる人とは関わらない事だけです。 このバイトのケースで言えば、一方的にでも良いので、出勤しなければ良かっただけだと思います。 それが分からない若者にとっては、ブラックバイトユニオンの様な存在は、『自分の頭で考える』というチャンスを、また一つ奪っていくだけの存在の様に、私には見えてしまいました。(渡辺龍太のブログ 2015年9月15日分を転載)わたなべ・りゅうた 1984年大阪生まれ。高校を卒業後に渡米。映像制作や台本構成などを学ぶ。その後、帰国しNHKや民放で、海外向けの英語放送から国内向け 放送 まで、様々なニュース番組の制作に関わる。現在はそれらに加え、ネットニュース、書籍、有名タレントのメルマガやブログの企画プロデュースなどを 行い、商業メディアのマーケティングや売り上げと日々格闘している。また、ブログが各種サイトに転載され、ブログランキングで上位に入っている。放送作家として培った会話力・雑談力アップの秘訣を紹介するブログ「会話アップ」を運営。

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    過剰な学生の戦力化がブラックバイトを助長する

    担当生徒は一気に増えて9人に。シフトは当然増え、週5日にまでなっていた。ブラックバイト問題について「ブラック企業被害対策弁護団」が開いたシンポジウムで話す筆者=2015年11月14日、仙台市 この教室では、生徒が体調などを理由として急にコマ(授業)に来られないことがあると、もともと別の生徒が受ける予定のコマで一緒に授業を受けさせるか、新しくコマを設定することになる。このため、週によっては週6日勤務することもあった。週に6日もの勤務。しかも、生徒の事情に合わせて生活リズムを変更しなければならない。4月になると新しく大勢の生徒が入会し、彼の担当はさらに増え、高校生2人、中学生11人になった。 大学との兼ね合いが難しくなったため、Aさんは「生徒が多すぎます。辞めたいです」と室長に願い出た。すると室長は説教を始めた。「お前はここで辞めていいのか」「お前がいてよかったと生徒に惜しまれるくらいになってから辞めろ」「いまのお前はマイナスばかりのままだ」「このままでは辞めさせない」。結局Aさんは、自分はあまり仕事ができるほうではないと負い目を感じており、「辞めるのは無理なのだ」と思い込んでしまった。体調崩すまで働かされる過酷さ 室長はそれ以降も厳しい言葉を投げかけた。「こちらが給料を払って、お前は社会勉強できるんだ」「バカ」「なんでこれやんなかったんだ」「おまえは本当に生徒の成績をあげるつもりがあるのか」。彼は言われたことを真面目に受け止め、「怒られたまま辞めるのは逃げていく感じで嫌だ。負けちゃいけない」と思ったという。 一方、授業については、1コマ90分で1500円が支払われるものの、授業前後の業務については、勤務報告書に記入した場合には、最低賃金水準の「事務給」が支払われた。そうした最低賃金の「事務給」は労基法違反の15分単位での計算だった。 彼の睡眠時間は、徐々に短くなっていった。塾の仕事を終え、家に帰ると22時半ごろ。大学の課題を片付けなくてはならず、23時くらいから勉強を始める。そして、Aさんはこの生活を続けるうちに、体調を崩してしまったのである。 この事例では、Aさんが「学生」であることから、理不尽な労働が次々に要求されても「自分が悪い」と思い込まされていることがわかる。もっとひどいのは、次に見る高校生のケースである。高校生は、とりわけ「安く、従順な」労働力として扱われがちだ。ブラックバイトは高校生すらも、搾取の対象としている。 九州に在住の高校3年生の女性は、近所のスーパーでアルバイトをしている。当初は週2日勤務のはずが、どんどん店長によってシフトを増やされ、労働相談の時点では月~金までの週5回勤務になってしまった。彼女は、吹奏楽に所属しているが、そのアルバイトのために、いつも最初の15分しか参加できず、ほとんど練習ができなくなった。それでも耐えて働いてきていたが、3年生の夏休み前になって、受験勉強が本格的に始まるタイミングでアルバイトを辞めることにした。 だが、店長に何度退職を伝えようとしても、話をそらされる、「今時間が無い」と言われて、話をさせてもらえなかった。さらに、思い切って退職を告げると「辞めるのは無責任だ」などと店長から叱責され、それ以上強く言えなかったという。一方で、母親からも「ちゃんと店長に面と向かって話をして辞めないと非常識だからダメ」と言われていた。 この事例では、高校生が職場の上下関係から不本意なシフトを決められて悩んでいても、周囲からはむしろ「トラブルを起こしている」「勝手に辞めようとしている」とみなされている。このように、本来は労働問題であるはずが、「高校生」の場合にはむしろ「指導されるべき対象」「何かいい加減なことをしてトラブルになっている」と一方的に見なされがちなのだ。そうした目線が、ますます「ブラックバイト」を助長している。 次のような事例もある。 関東地方のある高校一年生は、近所のコンビニに応募したにもかかわらず、遠くの店舗に勤務を命じられた。シフトも店舗が一方的に決める状態だった。彼は応募した店舗に戻れないかと店長に直談判したが、店長からは「当面戻れない」と言われたため、辞めようと店長に電話で伝えると、今度は「ペナルティで3000円払え」と要求された。実際に後日給料を受け取りに行ったところ、制服のクリーニング代3000円と3か月以内に辞めたペナルティとして給料が10%減額されていた。 さらに、その場で店長とマネージャーとバイト店員の3人に囲まれて、「お前が悪いんだ」というようなことを口々に言われた。店長は「殴るぞ」と言って本当に殴ろうとしたが、アルバイトが止めに入った。この時起こったことを「親には言うな」と言われ、口外しないことの誓約書まで書かされた。店長はこの誓約書を監視カメラに向けて「証拠は監視カメラに撮ったからな!」などと叫んでいたという。19世紀イギリスでは平均寿命低下 高校生にも部活や勉強、交友関係などの私生活が存在する。それなのに、シフトを会社が一方的に決めてしまっては、自分の生活設計をすることができなくなってしまう。かつてのアルバイトは学業や遊興の傍らの「小遣い稼ぎ」のはずであった。ところが、今日の学生アルバイトは、「お前にも責任がある」と過剰に彼らを駆り立てている。実際に、コンビニや飲食店では常に人手不足で、高校生や大学生が店の「中心的戦力」としてあてこまれている場合が多いのだ。 だが、「中心的戦力」として扱われる一方で、彼らの待遇はほとんどが最低賃金近くの賃金しかもらえない。場合によっては「研修期間だ」とか「仕事が遅い」だとかと理由をつけられて違法に低い賃金で働かされる。その上、一方的に販売ノルマを課されることも状態になっている。おでんを一日100個買わされたり、クリスマスケーキやうな重を10個も買わされてしまった高校生もいた。 それにしても、高校生からの相談で際立つのは「人権侵害」のひどさである。先の例のほかにも、「店長が家の住所がわかっていてやめられない」、「家に押しかけてきて、親に迷惑かけたくない」といった高校生からの悲痛な声が多数寄せられる。高校生は安く、貴重な戦力として重宝されている一方で、「一人の労働者」とはみなされず、人権すら蹂躙される傾向がある。 先日発表された厚生労働省の調査でも、多くの大学生・高校生のアルバイトで違法行為やシフトの一方的決定が横行している実態が示された。本稿で指摘した事例は氷山の一角に過ぎない。 19世紀のイギリスでは賃金の安い子供を深夜・長時間労働に従事させた結果、平均寿命が短縮し、人口が減少していった。人手不足が深刻な中ではあるが、今日の大学生・高校生の過剰な戦力化は、彼らの学業の機会や余裕を持った人間的な成長の機会を奪うことにもつながりかねない。 学生に対する、上下関係を利用したブラック企業の搾取は、日本の将来を奪うことにもなりかねないのである。

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    欠勤1回につき罰金3万円! これは本当に払わないといけないの?

    佐々木亮 (弁護士・ブラック企業被害対策弁護団代表)給与より罰金額の方が高い給与明細書(首都圏青年ユニオン神部紅委員長提供) 先日、首都圏青年ユニオンの委員長の神部さんとブラックバイト対策の講義をする企画がありまして、その際に神部さんから寄せられた一つの事例を紹介します。 ※講義の模様は末尾に動画を載せますので、興味のある方はどうぞ。実際の給与明細書 まず、画像をご覧下さい。 これはあるポスティング会社でアルバイトをしていた方の給与明細書です。 注目点を拡大します。 さて、分かりますでしょうか? 注目すべき点を赤で囲みました。 そうです。 この会社は、無断欠勤1回につき、3万円を罰金としているのです。無断欠勤1回につき3万円の罰金?! この給与明細書によると、2回無断欠勤をしたとして、6万円の罰金が科せられているということになります。 ちなみに、この事案では、アルバイトの人は病気になったので休むことを上司に言ったのですが、伝達ミスで社長に伝わらなかったことで、無断欠勤とされているということのようです。 もっとも、もしも実際に無断欠勤していたとすると、1回につき3万円を支払う義務が労働者に発生するのでしょうか? ちなみに、このアルバイトの方は、時給1000円、日給7000円ということのようです。 果たして、時間にして30時間分、日給にして4日分以上の罰金を支払う義務があるのでしょうか・・・。 結論から言うと、この罰金は払う必要はありません。 そもそも、1回欠勤すれば欠勤控除というものがなされます。 要するに、働いていないので賃金が発生しない、というものです。 これを超えて、労働者が使用者に金銭を支払う合理性は全くありません。 ちなみに、懲戒を定めている企業では、減給の制裁というものを設けている場合があります。 この場合でも、「その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」(労基法91条)と定められていますので、そもそもお金を払わせるということ自体想定されていない上に、時間にして30時間分、日給にして4日分以上の罰金を支払う義務なぞ、もとよりあり得ないということになります。横行する「罰金」制度ブラック企業、ブラックバイトに横行する「罰金」制度 ところが、いわゆるブラック企業やブラックバイトと言われる企業においては、この「罰金制度」が横行しています。 遅刻1回で5000円とか、欠勤1回で1万円などがよく見る罰金制度です。 しかし、こうしたものは基本的に無効であると考えて差し支えないでしょう。 何も分からないと、「自分が遅刻したのが悪いから・・・」「欠勤して店長に迷惑をかけたのだし・・」などの心境から、つい払ってしまうようです。 働く側も、知識という武器を持つ必要があります(※無料でいろいろ勉強できるものをまとめているので興味のある方は下記記事をご覧下さい。)・「ブラックバイト」について無料で学べるものをまとめてみた なお、この企業では、この労働者に対し、2万8000円の請求をしているそうです。 つまり、「給与32000円-罰金60000円=-28000円」ということのようです。 給料を払わない上、さらに金も払えというわけです。 馬鹿も休み休み言え、という感じですね。 この企業の求人は、こういうものでした。  ちょっと見にくいですが、  「ユニークな手当がいっぱいです!」  「各種手当充実!」  と書いてあります。  たしかに、こんな馬鹿げた罰金制度はユニークではありますが、こんなものを充実させてもらっては困りますね。罰金制度のある会社はブラック企業と思え  このような罰金制度のある会社は、高確率でブラック企業と言っても過言ではありません。  もし勤務先にこのような制度があるならば、罰金を取られる前に労働組合や弁護士、労働相談をやっているNPOなどに相談することをお勧めします。相談先・首都圏青年ユニオン・ブラックバイトユニオン・NPO法人POSSE・ブラック企業被害対策弁護団・日本労働弁護団など講義の動画NO MORE 賃金泥棒プロジェクト:ブラックバイトにダマされないために1NO MORE 賃金泥棒プロジェクト:ブラックバイトにダマされないために2NO MORE 賃金泥棒プロジェクト:ブラックバイトにダマされないために3(※2016年3月22日 Yahoo!ニュース個人「弁護士 佐々木亮の労働ニュース」より転載)

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    親の貧困と高騰する学費が生んだ「ブラックバイト」

    大内裕和(中京大学教授) 2013年6月頃に、学生であることを尊重しないアルバイトのことをブラックバイトと名づけた。 ブラックバイトの私の定義は次のようなものである。「学生であることを尊重しないアルバイトのこと。フリーターの増加や非正規雇用労働の基幹化が進むなかで登場した。低賃金であるにもかかわらず、正規雇用労働者並みの義務やノルマを課されたり、学生生活に支障をきたすほどの重労働を強いられることが多い」 ブラックバイトが登場した社会的背景は、第一に正規雇用労働者の減少と非正規雇用労働者の急増による非正規雇用労働の基幹労働化である。1990年代以降、非正規雇用労働者の数が急増したのに対して、正規雇用労働者の数は減少しており、全体の労働者数に占める非正規雇用労働者の割合は、1990年の20.2%から2014年には37.4%へと2倍近く上昇した(総務局統計局「労働力調査」)。記者会見する労働組合「ブラックバイトユニオン」のメンバー=2015年9月10日午後、厚労省 非正規雇用労働者数の急増と正規雇用労働者の減少は、職場における非正規雇用労働者の位置づけを変えることになった。非正規雇用は従来は主として、基幹労働を担う正規雇用を、補助する労働を行っていた。しかし、非正規雇用の急増と正規雇用の減少は、これまで正規雇用が行っていた責任の重い基幹労働を、非正規雇用が担わざるを得ない状況を生み出した。 従来の学生アルバイトが職場を休んだり、辞めたりすることが容易で、学校生活との両立が比較的簡単であったのは、その多くが職場の補助労働を担っていたからであった。しかし、責任の重い基幹労働を担うようになってからは、休むことや辞めることが容易ではなく、学生生活との両立はとても困難となった。ブラックバイトが蔓延(まんえん)するようになったのは、こうした職場における学生アルバイトの位置づけの変化が影響している。高騰する大学の授業料 第二に、学費の高騰と親の貧困化である。1960年代後半には、年間わずか1万2000円であった国立大学の授業料は、2015年度の標準額で53万5800円、初年度納付金は81万7800円にも達している。私立大学の授業料の平均は86万72円であり、初年度納付金は131万2526円とさらに高くなる(文部科学省調査、2015年)。 1970年代~90年代にかけて大学授業料が年々引き上げられたにもかかわらず、そのことが大きな社会問題とならなかったのは、終身雇用と年功序列型賃金を特徴とする日本型雇用の広がりによって、「子どもが大学生になる頃に親の賃金が上がる」ことが、子どもを大学に通わせる家庭においては多数派であったからである。しかし、1990年代後半をピークに労働者の賃金や世帯年収は下がり続けており、「子どもが大学生になる頃に親の賃金が上がる」という構造は、すでに大きく崩れている。 親の貧困化は子どものアルバイトを余儀なくさせる。大学生はともかく、高校生のアルバイトは高校の「アルバイト禁止」方針もあって、以前はかなり抑制されていた。しかし、高校生のアルバイトは現在、都市部を中心に広く行われるようになっている。 アルバイトをする理由も大きく変わった。かつては自分の趣味や欲しい物を買うためにアルバイトをすることが多かったが、近年は進学や家計補助に必要なお金を稼ぐためのものとなっている。大学や専門学校の入学金を親が支払うことができないため、それをアルバイトで貯めなければならない高校生は増加している。さらに、底辺校においてはシングルマザーや失業・低賃金の家庭が多く、そこでは高校生のアルバイトは広い意味での家計補助となっている。高校生が働かなければ、家族全体の生活が立ち行かなくなる状況も、徐々に広がっているのだ。 大学生のアルバイトも同様の変化が進んでいる。1980年代~1990年代の経済状態が良かった頃の大学生のアルバイトは、主として趣味やサークル、旅行など「自分の自由に使えるお金を稼ぐ」ためのものであった。だからこそ、大学が「レジャーランド」と呼ばれたのである。しかし、現在では自動車免許取得、就活の交通費、教科書代など、アルバイトが「大学生活を続けるために必要なお金を稼ぐ」ためのものへと移行している。私は現在の大学を「ワーキングプアランド」と呼んでいる(大内裕和『ブラックバイトに騙されるな!』集英社、2016年7月5日発売予定)。 「好きで働いている」というよりも「働かなければならない」状態が、高校生と大学生に広がっている。これではアルバイトの職場で不当な処遇を受けても、簡単には辞めることができない。背景にあるのは親の貧困化 今後はどうすればよいか。第一に、ブラックバイトを社会問題として認識することが重要である。ブラックバイトという言葉は以前よりは広がっているものの、多くの高校生・大学生アルバイトが、自分のアルバイトの労働環境が不当であるということに気がついていない。また、気がついたとしても、職場の改善をあきらめてしまう場合が大半となっている。 ブラックバイトによって高校生や大学生が十分に学べないことは、将来の労働力の担い手の質を低下させ、日本経済に甚大な悪影響を与える。これを個別の企業やアルバイトの問題として捉えるのではなく、日本社会全体の問題として考えることが重要である。責任が比較的軽かった以前のアルバイトを想定して、「たかがアルバイト」と考えてしまうことは、事態の深刻さを捉えそこなうことになるだろう。ブラックバイトに苦しむ高校生や大学生を助け、支援する方法を真剣に考える必要がある。 第二に、政府や地方自治体はブラックバイトが蔓延(まんえん)している状況を放置することなく、雇用主に対しては労働法の順守を求めること、労働者として働く高校生と大学生に対しては労働法の教育を普及させることである。 たとえば、授業のコマ以外は給料が支払われない「コマ給」が問題となった塾業界に対して、厚生労働省は2015年に適正に賃金を支払うよう要請を行った。このことにより、コマ給システムの変更や未払い賃金の解消など、事態の改善が一定程度進んでいる。 また、全国で初めてブラックバイト専門の被害対策弁護団として結成された「ブラックバイト対策弁護団あいち」は、ブラックバイトの労働相談に応じるだけでなく、高校や大学からの依頼を受けて、労働法の解説を含むブラックバイトの出前講義を行っている。こうした試みが全国で行われることが重要であるし、将来的には高校における労働法教育の必修化や大学における科目の設置など、正式なカリキュラムのなかに位置づけられることが望ましい。 第三に、給付型奨学金制度の導入をはじめとする奨学金制度の改善と、大学・短大・専門学校の授業料引き下げが求められる。ブラックバイトの広がる背景には、親の貧困化による学生の経済状況の悪化がある。貸与型で有利子が中心となっている現在の日本学生支援機構の奨学金は、学生アルバイトを抑制する機能を十分には果たしていない。大学・短大・専門学校の授業料の高さは、親の所得が低下するなか、学生が多くのアルバイトをしなくてはならない重大な要因の一つとなっている。 給付型奨学金制度の導入など奨学金制度全体を改善し、教育への公的予算増額による大学・短大・専門学校の授業料引き下げを行うことが、今後の重要な課題だろう。

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    すき家のワンオペを批判するなら牛丼にも深夜料金を払うべきだ!

    5日付配信)。すき家のワンオペ率は0.2% 私がその記事を読んで感じたのは、特定の負の側面を強調したブラック企業批判は、そろそろやめにすべきではないかということだ。 まず、私が違和感を持ったのは、今回の市民団体の調査でワンオペが2店舗あったのを発見した話を、まるで鬼の首を取ったかのようにアピールしていたことだ。 すき家がホームページで公開しているIR情報によると、全国にすき家は約2000店舗ある。そのうちの2店なのだから、数学的に冷静に考えると、ワンオペ率は僅か0.1%である。もちろん、「0」が望ましい姿であるが、この0.1%という数字に対しても「まだワンオペをやっているのか?」と上から目線で責めるのは、少々言葉がきついのではないだろうかということだ。 7月末にすき家が公表した第三者委員会のレポートでは、当時のワンオペ率までは記載されていなかったが、文章による説明では すき家においては、予測売上額に応じて投入可能な労働時間が決定されるため、売上が小さいと見込まれる時間帯は必然的に一人勤務体制(ワンオペ)となる (平成26年7月31日 第三者委員会報告書)すき家においては、予測売上額に応じて投入可能な労働時間が決定されるため、売上が小さいと見込まれる時間帯は必然的に一人勤務体制(ワンオペ)となる (平成26年7月31日 第三者委員会報告書) ということであったので、そこから考えると、多くの店舗でワンオペが行われていたことが推測される。そうであるならば、今回全店を調査したわけではないにせよ、全国2000店もあるうち、ワンオペが2店舗しか見つからなかったというのは、むしろ、会社の改善への取り組み姿勢を評価すべき場面なのではないだろうか。 それに、会社側は、ワンオペを指摘された2店舗についても、ワンオペはしていないはずと反論している。急な欠勤や有給休暇の取得などで、結果的にワンオペになってしまったという可能性もある。確率的には起こりうることであろう。 半月とか1ヶ月観察して、多くの日にワンオペが行われていたならば、確かに指摘をすべきである。だが、市民団体が行った調査は、1日だけとのことだ。それで、その日にたまたま1人しかいなかったからワンオペと決め付けてしまうのは、断定的すぎるのではないだろうかと私は思ったのだ。店員に外国人がいるのはいけないこと?店員に外国人がいるのはいけないこと? また、市民団体の指摘には、店舗には外国人が目立つという内容もあった。 ほとんど日本語が話せない人が2人ペアというのは問題であるが、それ以外の状況において、何が問題なのだろうか。 日本人だって、欧米に留学したら現地のレストランなどでアルバイトをすることは珍しくない。日本人の英語やフランス語もネイティブほど流暢ではないであろう。つまり、お互い様ということである。 確かに、外国人の店員の方が注文を聞き返したり、ゆっくり注文内容を伝えたりしたりしなければならない場面もあろう。1泊5万円もする高級ホテルでそれは困るが、街中の飲食店では、許容してあげるくらいの気持ちは必要なのではないだろうか。自分が逆の立場だったときのことを想像してみれば分かるはずだ。 それに、外国人の店員の方には、母国を離れて日本に来て、大変な仕事をしてくれているということに感謝しなければならないと私は思う。「外国人だからダメだ」と批判するのは、むしろ彼ら彼女らに対して失礼に当たるのではないだろうか。 私は、すき家にワンオペやその他の待遇を含め、これ以上の改善を求めるのならば、私たち消費者が「1円でも安く」という態度を変えなければならないと思っている。 皆様にお尋ねしたいが、深夜に、すき家に牛丼を食べに行って、昼間より値段が高かったことはあるだろうか。私はそのような経験はない。 深夜にタクシーに乗れば割増運賃になるし、ロイヤルホストやリンガーハットなどファミレス系のチェーン店でも深夜割増料金を設定している場合が多い。 その根拠は、人件費である。労働基準法では深夜割増賃金として、午後10時から午前5時の労働に対し、25%以上の割増賃金の支払を要求している。深夜に店を開けるということは、それだけで人件費が大幅にアップするということなのだ。 にもかかわらず、すき家は(他の牛丼チェーン店も同様)、深夜でも通常の時間帯と同じ料金でメニューを提供してきた。これは、立派な経営努力と言えるのではないだろうか。 市民団体が、0.1%でも許さないという姿勢でワンオペを責めるならば、消費者サイドに対しても、「牛丼に深夜料金を払いましょうキャンペーン」を並行して行うべきである。消費者が安いものを求めすぎるから、2人配置するだけの人件費を確保できないという側面もあるのだ。 すき家は上場企業であるから財務諸表も見ることができるが、売上高純利益率は数%台で推移しており(2014年3月期はわずか0.2%)、人件費をケチって経営者や株主が暴利を得ているわけでは決してないことも確認できる。そのような収益状況の中、難しい経営の舵取りをして、深夜料金も設定せず、ワンオペを解消しようとしているのだから、すき家の努力は評価すべきものなのではないだろうか。 私たちにとっても、ワンコイン程度の料金で24時間いつでも食事ができるというのは大変素晴らしいことである。ブラック企業批判の風潮に流されて、何となくすき家を責めるのではなく、会社の経営努力の姿勢や、私たちがいかに恩恵をうけているかという側面も、再考すべきではないだろうか。《参考記事》■緊迫感漂う天丼屋。パワハラ店長では決して良い店は作れない理由 榊 裕葵http://sharescafe.net/41024581-20140926.html■女子高生のバイトの時給は、なぜパート主婦より安いのか? 榊 裕葵http://sharescafe.net/40790237-20140912.html■サラリーマンも長期稼動するための秘訣を山本昌投手に学ぼう 榊 裕葵http://sharescafe.net/40740710-20140909.html■“myamya”の眼鏡が1本5万円でも次々に売れる理由 榊 裕葵http://sharescafe.net/41144431-20141003.html■ワタミが「社員は家族」というならば、後藤真希さんのように振舞えるのか? 榊 裕葵http://sharescafe.net/40391924-20140818.html

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    ブラックバイトの見分け方 面接で何をどう訊くべきなのか

    頭に入れておいてください。関連記事■ ブラックパートの見極め方 「若い従業員しかいない」など注意■ ブラック企業、非正規雇用等 労働問題をエヴァから語る本■ パートの時給が軒並みアップ 外食産業の新規出店増加が要因■ 主婦を悩ますブラックパート サービス残業や出勤日不明など■ ABCマートを送検した労働Gメン ブラック企業の摘発は進むか

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    ユニクロだけではない「恫喝訴訟」

    IL032.html 問題の書籍は『ユニクロ帝国の光と影』であるが、同書が出版されたのはユニクロが「ブラック企業ではないか」と世間から疑いをかけられる以前の話である。 今回裁判所で認定された長時間労働などの「事実」は、指摘しようとすると、同社から巨額の賠償金を訴えられる恐怖から、メディアで黙殺されてきたのだろう。 実は、私もユニクロの柳井社長から直接「通告書」を送り付けられてきた経験がある。ユニクロからの「通告書」 昨年2月27日付で株式会社ファーストリテイリングと株式会社ユニクロから配達記録郵便が突然、私のもとに送られてきた。私が昨年10月に上梓した『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)の内容が、彼らへの名誉棄損に当たるという。 通告人会社らを典型的な「ブラック企業」であると摘示して非難しておられます。 この書籍において貴殿が提示されている「衣料品販売X社」なるものが通告人会社らを指すものであることは、(略)明らかです。 しかしながら、貴殿が記述する通告人会社らの研修や店舗の就労環境に関する事実は、現実に相違し、虚偽であるというべきです。 通告人会社らに対する虚偽の事実の摘示や違法な論評などを二度となされませんよう警告申し上げます。 同書では「衣料品販売大手X社」の事例を挙げ、相談者の証言などをもとに過酷な労働環境の実態を伝えている。ただ、断っておきたいのは、私は個別の企業を告発するために同書を著したわけではない。具体的な事例を通じて、若年労働問題を分析し、その問題の解決策を探るのが目的だった。 それにもかかわらず、ファーストリテイリング・ユニクロの柳井会長は6名もの弁護団の名を連ねて、私に「通告書」を送付してきたのである。背景にある「圧迫体質」 こうした「やり口」の背景には「ブラック企業」とも呼ばれる企業の社内風土が強く関係しているように見える。社員を圧迫するのと同じように、社外からの批判を力で封じ込めようというのだ。ユニクロを取材した『週刊東洋経済』の記事は、同社の体質を非常によく表している。 外国語に堪能で、海外にかかわる仕事をしたいとユニクロを志望したBさんは、入社してみて外からのイメージとのギャップに愕然とした。「入社直後、 来店したSVに開口一番、『あいさつがなってない』と大声で怒鳴りつけられた。店舗裏の休憩室に入るときは必ず直立不動で『失礼します』と大きな声であいさつするなど、異様な感じがした」。 部下への指導の行き過ぎも、跡を絶たない。08年に名古屋高裁は、ユニクロで店長代行として勤務していた原告が、店長から顔面に頭突きされるなど暴行を受けたうえ、本部の管理部長からも「ぶち殺そうか、おまえ」と言われた件の違法性を認め、1000万円近い損害額を認めた。 本誌が入手した同社の社内資料によれば、昨年2月と3月にも部下への「辞めれば、死ねば」「バカ、死ね、使えない奴」といった暴言による懲戒処分が複数下されている。ユニクロ 疲弊する職場(東洋経済ONLINE、2013年3月12日) 記事を読む限り、圧迫による労務管理があることは明らかだ。 そして、このような社員に対する「圧迫」や見せしめによる社内統治が、社外の人間にも及んでいるのではないか。私という「個人」を徹底的に攻撃することで、自社に逆らう者が徹底的な攻撃対象になるということを社内外に知らしめ、社内から協力者を出させず、他の外部の批判者が現れることをも抑止しようというのであろう。『ユニクロ帝国の光と影』著者は言論へ圧力を懸念 雑誌『POSSE』21号に掲載された著者・横田氏のインタビューによれば、ユニクロ側は、裁判所での弁護士の対応もおざなりで、裁判官の質問にまともに対応しないなど、「投げやり」に見えたという。最初から裁判に勝つことが目的なのではなく、「脅す」ことに目的があったものと見られる。『POSSE』21号 だが、これによる萎縮効果は絶大なものだっただろう。フリーのライター個人が訴えられれば、いくら文藝春秋のような大手メディアが弁護士料を負担するとしても、資料収集、裁判出廷など膨大な事務量が降りかかる。また、高額訴訟そのもののプレッシャーは精神的な負担ともなるという。言論弾圧の手段としての「スラップ訴訟」 実は、こうした大企業による、言論弾圧を目的とした「高額訴訟」は「スラップ訴訟」と呼ばれ、世界的にも問題になっている。 英語のStrategic Lawsuit Against Public Participationの略語で、直訳すると「市民参加を妨害するための戦略的民事訴訟」となる。SLAP(平手打ち)という同じ発音の動詞とかけて、アメリカでデンバー大学の社会学者・ペネロピ・キャナンと、法学者・ジョージ・プリングが1980年代に考案・提唱し、広がった法概念だ。 問題が広がった結果、一部法規制の対象ともなっているのである。日本では二〇〇〇年代に表面化し始め、「恫喝訴訟」や「口封じ訴訟」とされているが、法的に規制されていないために、ブラックな企業の格好の「言論弾圧の手段」となってしまっている。ユニクロだけではない「スラップ訴訟」 実際、「恫喝訴訟」を活用しようとする企業はユニクロだけではない。 私はワタミからも「通告書」を送り付けられている。元会長の渡邉美樹氏の参議院選挙出馬がとりざたされているさなかであった。 被通知人は株式会社文藝春秋と共謀の上、週刊誌「週刊文春」5月23日号34項誌上において参院選「キワモノ候補」一覧との大見出しのもとに「暴力団組長元愛人からブラック企業会長まで」の中見出しを付し、さらに「労災認定された社員の自殺」の小見出しを付した文中において「ワタミは長時間労働で鬱病になって辞める社員が多い、ワタミは日本を犠牲にして利益を上げている代表企業」等と虚構の事実を適示し、もって通知人会社の名誉信用を棄損したものである。また、被通知人の著書並びに講演等においても同様に虚構の事実を摘示することにより、通知人会社の名誉信用を毀損したものである。 よって本書到達後5日以内に、上記週刊誌記事記載内容の根拠を示すとともに謝罪文を提出され度く通告します。方一不履行の場合は法的措置に及ぶ所存につき申し添えます。 一方で、ワタミは出版元である文芸春秋にも通告書を送付している。その内容は、前段はほぼ同じ内容だが、最後の二行が異なる。 よって、本書到着後5日以内に記事の正統性について貴意を得たく通告します。 明らかに、私に対するものよりもトーンが緩い。「キワモノ」との大見出しを作ったのは文藝春秋であり、私のインタビューを編集したのも文藝春秋である。が、私には謝罪と「訴訟の恫喝」を、文春には丁寧に「貴意」を得るための手紙を送っている。 ちなみに、ユニクロに至っては、出版元の文藝春秋には何の書面も送らず、私にだけ「通告」を行っている。 こうした高額訴訟による恫喝のやり口は、消費者金融で問題となった武富士(被害者を救済していた弁護士を訴えた)や、クリスタルグループ(偽装請負で問題となった)など枚挙にいとまがない。 社会的な批判にさらされる企業の「武器」になっているわけだ。ジャーナリストは勇気をもって 私にとっても大企業・ユニクロからのスラップ訴訟の脅しは非常に恐ろしいものだった。 ただ、私の場合には、これまでブラック企業と闘ってきた弁護士たちの支えがあったことが大きかった。 すでに武富士からのスラップ訴訟に勝訴し、逆に賠償金を勝ち取った経験のある仙台の新里宏二弁護士が親身に相談に乗ってくれた。 そして、これが「ブラック企業被害対策弁護団」の結成のきっかけともなった。その後、同弁護団は佐々木亮弁護士が団長を務め、新里弁護士は副団長に就任している。現在の登録弁護士は全国で300名以上を数える。 「脅し」のつもりが、逆にブラック企業を批判する側を、勢いづかせてしまったわけだ。 大企業からの脅しは、だれにとっても怖いことだ。しかし、ジャーナリストたちには、事実に立ち向かう勇気を持って立ち向かってほしい。ユニクロからの恫喝、スラップ訴訟の実態については下記が詳しい。『ブラック企業ビジネス』(朝日新書)(Yahoo!ニュース個人『ブラック企業と労働問題を考察する』より)関連記事■ 特許は個人から企業へ 議論が進む職務発明 ■ なぜ日本のリベラルはリフレ政策が嫌いなのか■ 検証・繰り返される食品問題/中国食品事故の対応策

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    「ユニクロ」的なものの限界と挑戦

    が労働争議その他で揉めた件を記事にした媒体を名誉毀損で訴える話があり、最高裁までいったのに勝てずに「ブラック企業・ユニクロ」としてお墨付きがついてしまう、という事件がありました。 その後、ユニクロも企業姿勢を転換し、さすがの柳井正社長も外向けの物言いがかなりマイルドになったように感じます。企業の社会的責任、というと堅苦しいですが、ビジネスで利益を上げることが企業の使命とはいえ、そこで働いているのは国民であり、国民の働き方を規定する法律を遵守する姿勢がなければフェアな競争とは言えず、結局は風評を落としてビジネスに悪影響が出るしっぺ返しを喰らう、というシステムができているわけであります。ユニクロ・柳井正会長はモノの言い方を考えないのかhttp://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20130425-00024570/ユニクロ敗訴で裁判所公認のブラック企業にhttp://dmm-news.com/article/903603/ 日本ではユニクロもいろいろ考えて軌道修正を図っているのだなあと感心していたら、最近になって、弁護士で人権問題に極めて造詣の深い伊藤和子女史が率いるヒューマンライツナウという団体が潜入調査でユニクロの中国での下請工場の凄まじい実態を暴露。もちろん、これはユニクロを運営するファーストリテイリングの下請けでの話であり、そのまま直接ファーストリテイリングの蟹工船ぶりが問題だというわけではありませんが、伊藤女史の記事では真正面から「海外下請け工場はブラックボックスでよいのか」を問うておられます。ユニクロ: 潜入調査で明らかになった中国・下請け工場の過酷な労働環境http://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20150113-00042192/ 慎みのある消費者であれば、いかに「良いものを安く」が理想であるとしても、それがどうして実現できるのかに思いを致せば何らかのカラクリがあることは想像に難くありません。テクノロジーの進歩が激しくなり、IoTだ、ビッグデータだと言っている割に、足元の生産においてはいまなおこのような問題が見えないところで放置されているという現実をどう考えるのかは、読者それぞれに委ねられているのでありましょう。 また、ユニクロを率いるファーストリテイリングだけを悪者にしても始まらないことであって、何かうまく落としどころを考えられるような方法はないのだろうかと思案してしまいます。その抑圧が国境を越え、下請け構造の中に埋もれているとき、どのようにして私たちは問題を見つけ出し改善することができるのでしょうか。関連記事■ 困難な外国人の大量受け入れ■ なぜ日本のリベラルはリフレ政策が嫌いなのか■ 働き盛りの介護離職 日本経済の根幹揺るがす

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    ユニクロはなぜブラックと批判されるのか

    ユニクロ下請け工場で繰り広げられる劣悪な労働実態を告発し、話題を呼んだ。日本でも過酷な労働を強いる「ブラック企業」と批判され続けるユニクロ。なぜユニクロばかり槍玉に挙げられるのか。

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    まさに地獄! 潜入調査で見たユニクロ下請け工場の実態

    1.ユニクロ中国工場への潜入調査 香港を拠点とするNGO・SACOM(Students & Scholars Against Corporate Misbehaviour)は、東京に本拠を置く国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)、中国の労働問題に取り組むLabour Action China(中国労働透視)との共同調査プロジェクトの一環として、2014年7月から11月にかけて、日本のブランド「ユニクロ」の下請け・素材工場への潜入調査を含む、事実調査を行った。 調査対象となったのは、ユニクロの下請企業のDongguang Luenthai Garment Co. Ltd(以下Luenthai)の工場と素材提供先であるPacific Textiles Holding Ltd(以下Pacific)の工場であり、いずれの工場でも、労働法規への明らかな違反や労働者に対する極めて過酷な労働環境の実態が明らかとなった。 SACOMは調査報告書を今年1月に世界に向けて公表、日本でも大きな話題となった。2.調査の結果明らかになった過酷な労働環境 SACOM調査で明らかになった問題点は以下のとおりである。 1)長時間労働と低い基本給 Pacific および Luenthai は基本給をそれぞれ月額1550人民元及び1310人民元としているが、これは最低賃金であり、平均的賃金レベルよりはるかに少なく、時間外労働によって生活賃金を稼ぐことが常態化している。そして、両工場の時間外労働数は驚くほど長い。時間外労働時間数は、 Pacificで月平均134時間、Luenthaiで月平均112時間の時間外労働と推計されている。中国労働法では36時間を超える時間外労働は認められておらず、明らかな法律違反である。 2)リスクが高く安全でない労働環境排水が作業現場全体にあふれている(SACOM提供) いずれの工場の労働環境も、大変劣悪・危険であり、労働者の健康と安全に深刻なリスクをもたらしている。 例えば、Pacific工場では排水が作業現場の床全体にあふれている。床が滑りやすいことにより、転倒し、身体不随になるような労働災害を引き起こす可能性があるし、機械の漏電のリスクも高い。2014年7月には機械からの漏電で労働者が死亡しているとの報告もあったという。 さらに、深刻なのは、工場内の異常な高温である。工場の夏季の室内気温は約38℃にまで達しているが、エアコンはない。そのため、男性の多くは上半身裸で作業をし、女性も汗だくだという。聞き取り調査に答えた労働者は「あまりの暑さに夏には失神するものもいる」、状況は「まるで地獄だ」と話した。染料部門では、染料タンクは運転時に非常に高温になるため、室温は38-42℃にまで達し、作業員は100-135℃となる染料タンクのそばに立って、タンクから重い生地を取り出さなければならないが、囲いやゲートはなく、労働災害による怪我のリスクが増加している。 さらに、染物部門では異臭を伴う有害な化学物質が使用され、労働者は強い臭気のなかで作業を余儀なくされている。化学薬品は無造作に工場内に置かれ、換気の設備はなく、健康被害を防ぐための措置も講じられていない。工場側は労働者にマスク、グローブ、専用スーツなどの防護キットを必要に応じて提供すると言うが、染色作業場の室温は40度という高温に達するため、これを使用することは事実上不可能である。化学物質への曝露による労働者への健康影響が深刻に懸念される。 3)厳しい管理方法と処罰システム Pacificでは、労働者を処罰するため、58種類の規則が制定されており、そのうち41の規則は罰金制度を含んでいるという。罰金制度は労働者と商品の質をコントロールする方法として頻繁に使われる。たとえば、編物のフロアでは、製品の品質を管理維持するために、数々の罰金が用いられており、商品に品質上の欠陥が見つかったり、編み機によごれがあったりした場合は、その労働者に一日の生産ノルマを達成した際に出される割増金から罰金が差し引かれるという。Luenthaiでも、罰金制度は罰として利用されている。 しかし、中国の労働契約法上、このような処罰は認められていない。 4)労働者の意見が反映されない 2つの調査対象となった工場には、労働者が、労働条件におけるさまざまな問題に関して要請したり、苦情を申し立てることができるような機関やメカニズムが何ら準備されていない。Pacificでは、組合の委員長は管理部門の人間が兼任しており、Luenthaiにおいては、工場レベルにおいて労働組合は存在しない。しかし、いずれも労働者が声をあげる場となり得てはいない。3.改善の勧告 以上の調査結果を踏まえ、SACOMおよびHRNは、製造業者および(株)ファーストリテイリングに対し、以下のことを求めた。 製造業者2社に対する勧告:・中国労働法に基づき、最低でも週に1日以上の休日を労働者に与え、月の時間外労働時間数を36時間以内におさめること・労働者の健康及び安全に関して、適切な訓練、保護、及び健康診断を提供すること・中国労働法の規定に従い残業代を支払うこと・労働者の尊厳を守るため、経営方式を変革すること・労働者が定期的に休憩を取ることができるようにすること・製造工程で用いられる有害な化学物質から労働者の健康を守るため、必要なすべての対策を講じ、その対策と実施状況を公表すること (株)ファーストリテイリングに対する勧告:・製造業者に対して適切な援助をし、労働環境の改善を促すこと・同社の企業社会責任ポリシーを遵守すること・製造業者が直接・民主的な労働代表を選任することができるようサポートすること・製品の製造業者に関する情報を開示することで透明性を維持すること問われる社会的責任4.問われるグローバル企業の社会的責任上半身はだかで織物工程の問題を直しているあいだも、労働者は汗をかいている。(SACOM提供) 経済のグローバル化のなかで、欧米や日本企業が人件費の安い海外に製造拠点を移し、アジアが生産工場となる動きが進んでいる。こうしたなか、海外の労働現場で児童労働、過酷な搾取的労働が発覚する事例も後を絶たない。特にファストファッションの低価格競争が激化した縫製産業では、2013年のバングラデシュの「ラナプラザビル崩落事件」が象徴する通り、海外下請け工場での過酷な労働が問題となっている。 下請け企業を使ってビジネスをしている企業は、下請けを通じて利益を得ているのであり、下請け工場の人権問題に負の影響が起きた場合、何ら責任を負わないとはいえない。「CSRと人権」が叫ばれているが、自社、そして下請け労働者の人権・特に労働法規の遵守は企業の人権に関わる義務の最も重いものである。 今回のユニクロの調査結果は、日本企業の海外進出に伴う生産拠点で人権侵害が起きることに警鐘を鳴らす結果となった。これはファーストリテイリングの企業活動の結果発生した人権侵害事例であり、「下請けの問題」として無視することは許されない。 国連の人権理事会が2011年に採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」 によれば、企業には、サプライチェーンにさかのぼって人権侵害に関し相当の注意義務を負うという「デュー・ディリジェンス義務」が課され、さらに、「企業は、負の影響を引き起こしたこと、または負の影響を助長したことが明らかになる場合、正当なプロセスを通じてその是正の途を備えるか、それに協力」することが求められている。 ファーストリテイリングには、国連の指導原則に従って適正な解決を期待したい。5.ファーストリテイリングの今後の対応に注目 1月15日、ファーストリテイリングは、SACOM調査報告書で指摘された問題のいくつかが事実であることを認め、改善を進めるとの方針を公表した。 さらにNGO側の申し入れを受けて、1月19日、ファーストリテイリングとSACOM、HRNの協議が、来日中のSACOM代表者の参加のもと、東京で実施された。 そこでNGO側は、1) 事実関係の確定、2) 原因の分析(現地工場のモニタリング体制の不備)、3)原因分析を踏まえた改善策や体制の改革、4) そしてその実施というすべてのプロセスにおける透明性の確保を求めるとともに、再発防止のための実効的なモニタリング・システムの確立実施を求めた。 NGO側は、今回の事態を受けて、ファーストリテイリング社が2工場に行う調査結果を公表するよう求めた。また、ファーストリテイリング社が、中国におけるすべての生産拠点に対する調査も実施するとしている点は評価できるが、その結果についても公表してほしい、そして中国における生産拠点すべてを公開してほしいと要請した。また、第三者機関による査察は、監査法人等への委託ではなく、NGOによるモニタリングを認めるよう求めている。 さらにこうした劣悪な労働環境の根本原因が、ファーストリテイリング側の発注価格の低さや厳格な納期要求等に基づく構造的な問題なのか否かを分析し、そうであれば取引のあり方そのものを見直し、安全で人間らしい労働環境を保障しうるだけの適正価格でのオーダーをすることも求めた。 日本を拠点とするグローバル企業の生産拠点での人権侵害が問われた本件について、ファーストリテイリングが、他の企業に範を示す改善を実現できるか否か、その行方をウォッチし、ダイアログを重ねていきたい。関連記事■ 有期雇用で若者の生活安定を■ 「一生ハケン」は社会の時限爆弾? ■ なぜ日本のリベラルはリフレ政策が嫌いなのか