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    中国内に「韓国による朝鮮半島の統一」を求める声

    「北朝鮮は米国に次ぐ、第2の仮想敵だ」「韓国が朝鮮半島を統一した方が中国に有益」──。中国は激しい北朝鮮批判を続けている。もはや「血で塗り固められた友誼」は存在せず、国境をはさんで両軍が対峙。このままでは、米朝より先に、中朝戦争が勃発する可能性も指摘されている。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。* * *「北朝鮮=仮想敵」論をいち早く発表してきたのが、上海の華東師範大学国際冷戦史研究センター主任の沈志華教授だ。沈教授はソ連邦崩壊でロシアが混乱していた1994年、個人資産を投じて、ロシア政府から朝鮮戦争時のスターリンや毛沢東、金日成主席が交わした公電やその後の中朝ソ3か国が取り交わした秘密文書などのコピー数万部を入手し、翻訳や解読を行った。 その研究成果の一部が同大のホームページ上で公開されている。それは今年3月、大連外国語大学で行った講演録で、約2万3000字に及ぶ長大な論文だ。そこには中朝関係の秘話が満載されている。 たとえば、朝鮮戦争後の1958年、中国の義勇軍が北朝鮮から撤退する際、毛沢東は金日成と会談し、「もし、再度戦争するようなことがあれば、中国の東北部を北朝鮮に譲っても良い」と発言した。毛の真意は「戦争で北朝鮮が窮地に陥った際、北朝鮮軍は東北地方を拠点にして戦ってもよい」ということだと教授は語る。(iStock) この言葉を言質として、2001年に訪中した金正日総書記が中国側に「東北部を『視察』したい」と申し出た。中国側は「外国首脳が(東北部に)行くなら、『訪問』であって、『視察』ではない」と異議を唱えたが、金総書記は「父親の金日成が生前『毛沢東主席は東北部を北朝鮮に譲った』と話していた」と反論した。 江沢民指導部はすぐに、中国共産党中央対外連絡部の朱良部長(当時)に調べさせた。「たしかに金親子が毛沢東発言について自分たちに都合の良い部分だけを取ったのだが、事実だったことは間違いない」と教授は明かした。「このような解釈を行う北朝鮮こそ、中国の潜在的な敵だ。北朝鮮は中国の広大な領土を求めるという野心を持ち続けているのだ」と教授は憤る。 また、北朝鮮が中国に敵対的な態度をとるようになったのは1992年8月、中国の最高実力者、トウ小平が金日成の反対を押し切って、中韓の外交関係を樹立してからで、この後、金日成は核兵器開発に着手し、金正日から、いまの金正恩指導部に引き継がれている。なぜ「北朝鮮=潜在敵」なのか「中国の核心的利益の一つは『東北アジア域内の平和的環境であり、中国の経済発展の持続』だが、北朝鮮は核開発に突き進み、域内の平和的環境を崩そうとしているのは明らかだ。もはや、この時点で北朝鮮は『潜在敵』であり、逆に韓国は『潜在的な友人』で、この結果、中朝友好協力相互援助条約は一片の紙屑でしかなくなった」と教授は指摘する。 さらに、教授は「朝鮮半島の統一は中国にとって脅威だろうか」との疑問を呈し、「一般的に中国は米韓による朝鮮半島の統一よりは、北朝鮮が存続し続け、南北朝鮮が対立している現状の維持を望んでいる」との説に反論。韓国は潜在的な友好国なのだから、「韓国が朝鮮半島を統一した方が、中国にとって有益だ」と力説する。「なぜならば、韓国による朝鮮半島の統一によって、韓国と国境を接することになる中国東北部に韓国資本が流入し、東北部の経済発展を促進することになるからだ」と分析している。 このような教授の「北朝鮮=潜在敵」論は、米国の朝鮮半島問題専門家で、ブッシュ政権当時の国家安全保障会議(NSC)アジア部長を務めたビクター・チャ米戦略国際問題研究所(CSIS)担当部長にも支持されている。チャ氏は今年4月25日、米上院アジア太平洋の政策と戦略に関する軍事問題公聴会で次のように証言した。「北朝鮮は1994年から2008年の間に16回のミサイル発射実験および1回の核実験を行った。09年1月からこれ(今年4月25日現在)まで71回のミサイル実験および4回の核実験を実施した」と語り、核開発は近年、急ピッチで進められていると強調。とくに09年以降、北朝鮮は中国などとの話し合いにも応じておらず、「核開発中止に関して話し合いをする気がないことを示している」と断定する。チャ氏は「13年には中国側の窓口役を務めた張成沢氏を処刑して、中国とのパイプを絶った。これは金正恩委員長が中国を敵視している証拠だ」と鋭く指摘している。(iStock) 沈教授も米紙「ニューヨーク・タイムズ」の取材に対して、「もし、北朝鮮が核開発を完了すれば、世界は北朝鮮の独裁者の足下にひれ伏さなければならなくなるだろう。膠着状態が続けば続くほど、北朝鮮に有利になる」と分析。そのうえで、教授は「もし、北京とワシントンの政治的な協力が失敗し、北朝鮮の核開発の野望を封じ込められなければ、米中両国政府は対北朝鮮軍事オプションを前提とした協力体制を敷くべきだ」と強調している。●そうま・まさる/1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)。関連記事■ 麻央さん娘・麗禾ちゃん 明るく振る舞う姿に周囲が心痛める■ 小泉孝太郎、気遣い上手な女性と交際 本人は直撃に認める■ 熱愛発覚の小泉孝太郎 本人直撃時の一問一答を全文掲載■ 旭日旗批判は韓国人にとって先祖の行いを批判・侮辱する行為■ 恋愛、結婚、そして就職も諦め 韓国「七放世代」の悲鳴

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    なぜ中国は「北朝鮮の非核化」に消極的なのか

    して認めろ」という北朝鮮の主張が、現実味を帯びてきた。BRICS首脳会議が閉幕し、記者会見で手を振る中国の習近平国家主席=9月5日、中国福建省アモイ市(共同) 残念なことに、北朝鮮の核・ミサイル開発問題をめぐり、行き詰まりをみせる国際社会がいくら中国に期待を寄せても、中国が「平和的な方法と全関係者による直接対話を通じてのみ解決されるべき」という姿勢を崩すことはない。核実験翌日の9月4日に採択された新興5カ国(BRICS)首脳会議の共同宣言「アモイ宣言」にも、それが示されていた。 中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を米日欧の経済制裁や国際的な圧力では解決できない、と考えている。2016年1月に4回目の核実験を行った直後、北朝鮮の朝鮮中央通信は、イラクとリビアを「国際社会の圧力で自ら核を放棄したために、破滅の運命を避けることができなかった」と批判していた。イラクのフセイン元大統領やリビアのカダフィ大佐の「なれの果て」を知っている北朝鮮の金正恩政権と軍が、米日欧の要求通りに核を放棄したりはしない、ということを中国は承知している。中国はCVID(完全かつ検証可能で後戻りできない核放棄)が「非現実的な目標」であるとみている。 中国は北朝鮮をコントロールできていない。しかし、中国ほど北朝鮮に影響力を及ぼすことができる国がないことも事実である。そのことが、国際社会における中国の外交プレゼンスを高めてきた。したがって、中朝間の対立につながる国連制裁決議など、国際社会による対北朝鮮制裁の枠組みに中国が真摯(しんし)に取り組むはずがない。中国が北朝鮮へ及ぼせる影響力を制限することになれば、また、中国と北朝鮮の「軋轢(あつれき)」が「対立」へ発展すれば、それは中国の国益にならない。 これまで通り、国連などによる多国間アプローチには、中国とロシアによって「抜け道」が作られていくことになるであろう。 とはいえ、「習近平体制下の中国」と「金正恩体制下の北朝鮮」の関係がうまくいっているわけではない(「習近平体制下の中国」と「金正恩体制下の北朝鮮」の2国間関係だけでなく、江沢民系の故徐才厚が牙城としていた旧七大軍区時代の北朝鮮と隣接する旧「瀋陽軍区」・現在の五大戦区に編成された「北部戦区」と、習近平勢力との中国内の利権に絡む政治対立構図が、「習近平体制下の中国」に従わない「金正恩体制下の北朝鮮」の関係構図の根底の一部にあることは、言うまでもない)。中国のメンツをつぶす 北朝鮮の6回目の核実験を受けて、中国政府は、9月4日、北京に駐在する北朝鮮の池在竜(チ・ジェリョン)大使を中国外交部へ呼びつけ、厳重に抗議した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射時には、中国外交部は北朝鮮大使を呼びつけていない。9月3日に北朝鮮が強行した核実験は中国の習近平国家主席のメンツを北朝鮮がつぶした、と世界中で報道させることになり、中国を以前よりも怒らせることになった。 北朝鮮による核実験の一報が世界を駆け巡ったのは、9月3日に中国福建省の厦門(アモイ)で開催されたBRICSビジネスフォーラムの開幕式で、習主席が基調演説を行う3時間ほど前のことであった。BRICSとは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国のことである。今年で9回目を迎えたBRICS首脳会議(9月4~5日)は、2009年以降、加盟国の持ち回りで開催されている。BRICSの枠組みは、域外へ実質的な影響力を及ぼすことができていないものの、「国際関係の民主化の推進」「覇権主義および強権政治への反対」「持続可能な安全保障観」を共に唱える中露協力を中国が米日欧諸国へアピールする舞台となってきた。 しかも、BRICS首脳会議直前、ヒマラヤ山脈の国境地帯ドクラム高原における中国軍の道路建設で長らく対峙(たいじ)していた中印両軍の撤退が合意され、インドのモディ首相のBRICS首脳会議参加が実現したことにより、ホスト国として中国の面目が保たれたばかりであった。BRICS首脳会議に合わせた会談で、握手するインドのモディ首相(左)と中国の習近平国家主席=9月5日、中国福建省アモイ市(新華社=共同) 習主席は、10月18日から開催される中国共産党の第19回党大会を控え、大国外交の成果と自身の権威をアモイから国内外へ向かって発信するはずであった。アモイは、習主席が1985~88年に市党委員会常務委員や副市長を務めた地方市である。2002年に浙江省へ党委員会副書記・省長代行として異動するまで、習主席は福建省で17年も務めた。そのような福建省アモイへゲストを含めて9カ国の首脳を招いていたBRICS国際会議の当日に、金正恩朝鮮労働党委員長は核実験を行ったのである。レッドラインを越えたのか 昨年9月に杭州で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議と今年5月の「一帯一路」国際フォーラムの開催日にミサイルを発射したのに続き、中国がホスト国を務めた重要なBRICS会議開催日に、北朝鮮は核実験をぶつけ、習主席のメンツをまたもやつぶしたのである。  米政府は8月上旬、北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄した場合に「4つのノー(ない)」を約束すると説明していた。「4つのノー(ない)」とは、(1)北朝鮮の体制転換は求めない、(2)金正恩政権の崩壊を目指さない、(3)朝鮮半島を南北に分けている北緯38度線を越えて北へ侵攻しない、(4)朝鮮半島の再統一を急がない、という4つの行為をしないという内容であった。それでも北朝鮮が核実験を強行したということは、「金体制の維持」を約束するだけでは北朝鮮が満足しないということを、また、米国の「レッドライン(越えてはならない一線)」を北朝鮮が越えたことを意味する。G20首脳会合に臨む中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領=2017年7月7日、ドイツ・ハンブルク(代表撮影・共同) しかし、米高官が「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と繰り返すものの、米政府の選択肢が限られていることを中国はわかっている。米国とその同盟国の財政状況を見れば、日英独加などが戦費を出したことで戦争が可能であったイラク戦争のようにはいかない。北朝鮮と全面戦争をしても戦費と復興再建費を積極的に出そうとする国がないのは明らかである。米国の同盟国である日本と韓国は、自国への被害を考え、米朝の軍事衝突に否定的である。米トランプ政権では、アジア政策の実務担当の高官ポストがいまだに埋まっていない。トランプ政権の北朝鮮政策は袋小路に陥っている。 一方、9月3、4日の中露の対応を見る限り、核実験は中国のレッドラインをまだ越えていない。3日の吉林省延辺の朝鮮自治州では、北朝鮮による核実験の激震で建物に亀裂が入るほどの被害があった。中国の環境保護部(「部」は日本の「省」に相当)は、3日の核実験を受けて、北朝鮮に隣接する吉林省などで放射性物質のモニタリングを始めた。翌4日には、環境保護部は、放射性物質による異常が見つかっていないと発表した。北朝鮮による中国国境付近への放射性物質の侵犯、そのレベルこそが、中国のレッドラインではないかとみられている。中国の狙いはココだ 中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を制裁や圧力では解決できないと考えている。また、トランプ政権には北朝鮮問題を処理できないとみている。中国は北朝鮮のミサイル発射の目的を「金体制の存続」と「米日韓からの経済援助を引き出すための恫喝(どうかつ)」にあると見ており、対米攻撃を北朝鮮の核・ミサイル開発の目的とは考えていない。 さらに、北朝鮮問題は、「アジア安全保障の最大関心事」を南シナ海から朝鮮半島に移してくれている。「北朝鮮が米国にとってコントロール困難な問題国」である間、米国にとっての中国は「南シナ海や東シナ海への姿勢を変えさせる対象国」である前に、「北朝鮮情勢をめぐって協力を引き出させる協力国」として位置づけられる。また、「尖閣奪取へのろしを上げた中国」にとって、日本の防衛力が北朝鮮に分散することは悪くない話である。 したがって、中国が北朝鮮を追い詰めることはしないであろう。中国が北朝鮮を追い詰めれば、北朝鮮に対するロシアの影響力だけが強まり、そこに中国のメリットはない。 また、中国が金委員長の首をすげ替えようとすることは当分ないであろう。「ポスト金体制の北朝鮮」が不安定化したり多元化したり米韓の傀儡(かいらい)政権に北朝鮮を握られるよりは、ましてや「反中国体制」が北に誕生するよりは、「金正恩体制の現状維持」のほうが中国にとってはマシだからである。 北朝鮮が7月28日に発射したICBMの移動発車台は中国が「民生用」として提供した「中国産の新型」を北朝鮮が改造した可能性があるとの専門家の指摘が報じられている。北朝鮮の強気な態度の根底には、中国とロシアの影響力があると見るべきではなかろうか。BRICS首脳会議で、記念写真に納まるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=9月4日、中国福建省アモイ市(共同) 「カリスマでもなければ、カリスマが指名した指導者でもない」習主席にとって、安定した米中関係の構築は、中国最高指導者としての威信の確立に必至である。中国は、「北朝鮮をめぐる米中協議」を「アフガン・パキスタン・メカニズム」(4カ国調整グループ)への再開とともに、米中協調外交の政治的ツールとして組み込んでいきたいところであろう。名ばかりの経済制裁 国連安全保障理事会の新たな制裁決議に基づき、中国が8月15日から実施した対北朝鮮禁輸を受けて、中国メディアは、中朝国境に架かる橋の上で海産物を載せて中国側に入ろうとするトラックを拒否した中国側通関の報道を「宣伝」した。しかし、国連などの統計によれば、北朝鮮の約9割強の貿易相手国は中国であり、そのうち約1割が海産物である。その海産物の禁輸を「パフォーマンス以上のレベル」で中国が実際に行っているのであれば、北朝鮮の中国に対する反発はもっと激しいものになっているはずではなかろうか。 9月1日に中国吉林省の長春で開幕された国際展示会では、日本や韓国など110以上の国と地域の企業とともに、北朝鮮からも30社以上が出展していた。そこでは、国連制裁決議で輸出が禁止されているはずの海産物の乾燥ナマコも売られていた。 中国は、「国連や米国に対する協調のパフォーマンス」を内外へ、特に米国へ「宣伝」している。しかし、それが厳密に実施されているかは、疑わしい。 「トランプ米大統領が明確な対北朝鮮外交・安全保障政策をもたないままに、北朝鮮を挑発している」と中国は見ている。米朝両国が「偶発的な衝突」に突入しないように、中国とロシアは、米朝両国を抑制するような中露協調外交を強化していくことを明らかにしている。 ただし、中国はロシアの動きにも注視している。中国の「一帯一路」構想の港湾戦略を据えたベンガル湾沿岸国でロシアが軍事外交を積極的に展開する近年(この点は拙著『米中露パワーシフトと日本』〔勁草書房、2017年〕を参照されたい)、中露の北朝鮮政策は海洋戦略も含んでいる。ロシアとの「競合と協調」のバランスを図りながら、中国は北朝鮮の地政学を「氷のシルクロード(北極海航路)」構想においても位置づけて、「北朝鮮をめぐる対話・協議による大国外交」を主張していくであろう。このままでは、アジア太平洋の秩序形成におけるパワーシフトが、ますます中国優位へと加速してしまうことになる。米国が中国頼みの北朝鮮政策を転換すべき時期にきていると、日本はもっと声を高めていくべきではなかろうか。

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    北の核実験で習近平の怒りも頂点に 血で固めた友誼どうなる

    ンプ大統領の堪忍袋の緒が切れるのだろうか。しかし、堪忍袋の緒が切れるのはトランプ大統領だけではない。中国の習近平主席も同じ思いかもしれない。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏が、友好関係に亀裂が入りかねない中朝関係についてレポートする。* * * トランプ大統領は9月3日、ツイッターに「北朝鮮の言動は引き続き、米国に対し非常に敵対的で危険だ」と非難した。一方、中国外務省も同日、「断固たる反対と強い非難」という声明を発表している。 このように、今回の核実験をめぐり、米朝関係だけでなく、中朝関係、すなわち習近平と金正恩の関係も悪化した。中国による金正恩排除 これまで北朝鮮を擁護してきた中国でも、なりふり構わない北朝鮮の行動や言動に対しては我慢の限界というものがある。金正恩はいまだに中国を訪問していないばかりか、中国を名指ししての批判まで行った。このような指導者を中国はいつまでも放置しないだろう。中国の習近平国家主席=2016年11月19日、リマ(AP=共同) 習近平主席が「現状維持よりも金正恩を排除したほうが得策」と判断した場合、北朝鮮への経済支援を完全に停止するなどして圧力をかけ、金正恩を亡命させて政権を崩壊させるかもしれない。 中国が金正恩排除を実行する可能性があるのは、中国にとって米軍との緩衝地帯としての「朝鮮半島北半分」の地域が必要となるためなのだが、そのためには中国に従順な政権である必要がある。 そもそも中国にとっては、緩衝地帯となる地域の指導者が金正恩である必要はなく、その地域が「朝鮮民主主義人民共和国」である必要もない。中国のコントロール下に置くことができればいいのだ。従って、中国に反発するような政権は必要ない。 ただ、中国にとっての金正恩排除後のリスクは、北朝鮮からの難民の流入である。この問題は非常に厄介だが、金正恩排除後に直ちに中国軍が北朝鮮北部を占領し、中国へ北朝鮮難民が押し寄せるのを防ぐための安全地帯を設ける可能性もある。悪化を続ける中朝関係 中朝関係は「血で固めた友誼」で結ばれていると言われている。これは、朝鮮戦争を通じて血で固められた友情を意味する。この関係を明文化したものが、1961 年 7 月 11 日に締結された「中朝友好協力相互援助条約」といえる。 この条約の第2条では、「いかなる国家からの侵略であってもこれを防止するため、全ての措置を共同でとる」「締約国の一方が戦争状態に陥った場合に、締約相手は全力をあげて、遅滞なく軍事的およびその他の援助を提供する」と規定している。 しかし、このような規定があっても、中国は自動的に軍事支援を行うことはないだろう。中朝はもはや同盟関係とはいえないからだ。また、この条約は20年ごとの自動更新で、前回は2001年に更新されたのだが、2021年に更新されるかどうかは微妙なところだろう。 中朝関係が微妙になっているのは、中国国防省は公式には認めていないものの、今年4月以降に次のような報道があったことからも垣間見える。【中国軍が臨戦態勢に次ぐレベルの「2級戦備態勢」に入り、中朝国境地帯に10万~15万人規模の兵力を展開した】【中国空軍の爆撃機が「高度な警戒態勢」に入った】【中国が国境付近で軍を改編・増強し、核・化学兵器の攻撃に備えて地下壕を整備している】【北朝鮮へ派遣される可能性がある特殊部隊などの訓練や、武装ヘリコプターによる実弾演習を行った】 軍の動向以外にも、中国共産党機関紙「人民日報」系の国際情報紙「環球時報」が今年4月以降、頻繁に北朝鮮への警告と受け取れる内容の記事を掲載している。 しかし、北朝鮮の中国に対する態度は、既に2013年に変化していた。軍や秘密警察の幹部に対し、「中国に幻想を持つな」「有事には中国を敵とみなせ」とする思想教育を進めていたというのだ。(「産経新聞」2013年12月29日) 北朝鮮が友好国である中国を露骨に批判した文書が明らかになるのは異例だが、2015年にも、朝鮮労働党が国連安全保障理事会の制裁に同調する中国の動きを「敵対視策動」と見なして猛反発し、党中央が地方組織の下級幹部向けの講習会で、米国に対抗するための闘争を党員らに指示している。(「時事通信」2016年3月28日)非現実的な南北統一非現実的な南北統一 こうした中国の動きに対して、韓国の文在寅大統領は韓国主導による南北統一を強く主張するだろう。しかし、現在の韓国には統一に必要な費用を捻出する余力がないうえ、南北統一のロードマップすら策定できていない。 これは、朴槿恵大統領が2015年2月16日、大統領府で大統領直属の統一準備委員会を開催して、南北統一のロードマップを策定するよう述べていることからも裏付けられる。 ロードマップを策定するにあたっての障害は、南北統一に必要な費用、すなわち統一コストの問題だろう。統一コストには2400億ドル(約26兆円)という数字もあれば、2兆ドル(約220兆円)という数字もありバラつきが激しい。 これは、北朝鮮が経済統計を発表していないため、韓国銀行(中央銀行)などが北朝鮮の経済指標を推定せざるを得ないことと、インフラの整備や工場の再建などに、どの程度の費用が必要なのか分からないためであろう。 とはいえ、南北統一にはさまざまなシナリオが考えられるが、どのような形にせよ、大量の難民の発生が最大の問題となる。難民の流入を防止するため、韓国では1990年代に、北朝鮮の国民1人ずつに生活補助金を与える場合とそうでない場合を想定したシミュレーションを行ったことがある。 このシミュレーションの結果、生活補助金を与えない場合の年間流入者は140万人、月額10万ウォン(現在のレートで約9800円)で102万人、20万ウォンで80万人となった。 韓国が受け入れ可能な単純労働者は67万人であることから、20万ウォンを援助しても1年で限度を超えることになり、難民の受け入れができないことが改めて証明される結果となった。 一方、韓国政府は1997年7月に詳細な難民対策案を作成している。これは「30日計画」と呼ばれるもので、同計画よると難民流出は1か月間で韓国に10万人、国境を接する中露などに20万人の計30万人を想定し、「国際会議」の構成や日本からの食糧・財政支援などを含めた具体的な対応策を構想している。 いずれにしても、韓国の負担はあまりにも重い。筆者は南北統一に関する事項を管掌する統一部のレポート類を読んでいるが、読めば読むほど南北統一の難しさを感じる。北朝鮮の命運を握る中国 これまで述べてきたように、韓国主導による南北統一は非現実的であるため、金正恩排除後の北朝鮮の命運を握るのは中国ということになる。 米国が武力行使する可能性については、現在の米国はイラクやシリア、アフガニスタンでの戦争で手一杯であるため、トランプ政権は現に戦闘が行われている地域を重視せざるを得ないため現実的ではない。 しかも、米国防総省は、2012年2月1日に公表した「4年ごとの国防政策の見直し」(QDR)で、「同時に発生した2つの地域戦争に対応する二正面作戦の実行を可能にする」という方針を改め、対武装勢力、対テロ作戦を重視した柔軟な国防体制に転換する方針を明らかにしている。 現在は北朝鮮への圧力として、グアムのB-1B戦略爆撃機を韓国上空へ派遣することしか出来ていない。朝鮮半島近海に空母を派遣していないことについては、空母の維持費は年間600億円とも言われており、1隻だけで毎日億単位の予算を消費することになる。このため、朝鮮半島近海だけに配備するわけにはいかないのだ。 結局、米国は北朝鮮に手を出すことができず、中国の動きを黙認せざるを得ない。つまり、金正恩政権の将来は米国ではなく中国に握られているのだ。 そろそろ金正恩は自分の命運を習近平が握っていることを自覚し、中国の意向を考慮した行動を取る必要があろう。これ以上、中国を怒らせることは、長期的に朝鮮半島の不安定化を招くことになる。 金正恩が排除された場合は難民の流入など、日本も他人事ではなくなる。中国や韓国だけでなく、日本も「その時」に備えておく必要があろう。関連記事■ 使える時間は4分のみ 現実に見えた「Jアラートの実力」■ 金日成の健康法は少女からの輸血や少女との入浴など■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ 「日本の刑務所すら夢のような世界」北朝鮮の難民リスクは■ 大谷翔平「風俗店に直筆サイン」騒動で球団が火消しに奔走

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    中国が切った「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米の失敗

    名誉教授、理学博士) 北朝鮮が核実験を強行した。習近平は再び顔に泥を塗られた。それ以上に重要なのは、中国が切った「中朝軍事同盟」カードの重要性を、日米が読み切れなかったことだ。最後のチャンスを逃してしまった事実は大きい。習近平は再び顔に泥 5月14日付けのコラム「習近平の顔に泥!――北朝鮮ミサイル、どの国への挑戦なのか?」に書いたように、中国が建国以来最大のイベントと位置付けていた一帯一路(陸と海の新シルクロード)国際サミット初日の朝、北朝鮮は弾道ミサイルを発射して習近平国家主席の顔に泥を塗った。世界を中国に惹きつけるための晴れの舞台で開会の挨拶をする直前だった。 今回もまた、9月3日から習近平の政治業績地の一つ、福建省のアモイでBRICS(新興5ヵ国)会議を開催する、まさにそのタイミングに合わせて核実験をしたのである。又しても習近平が晴れの舞台として開会の挨拶を準備万端整えていた最中のことだ。 なぜ北朝鮮は必ず習近平の晴れの舞台を狙うのか? それは金正恩委員長が習近平を嫌い、「敵」と位置付けているからである。 習近平の方も朝鮮半島の非核化に逆行する金正恩の核・ミサイル開発に関する暴走を実に苦々しく思っている。二人はおそらく「世界で最も仲が悪い首脳」だろう。金正恩にとって最大の敵がアメリカなら、2番目の、あるいはそれと同等程度の敵は中国なのである。日米2プラス2会合を前に握手する(左から)小野寺防衛相、河野外相、米国のティラーソン国務長官とマティス国防長官=8月17日、ワシントン(ゲッティ=共同) その中国に北朝鮮を説得する力などないが、唯一、中国は強烈なカードを持っていた。 それは「中朝軍事同盟」というカードだ。中国が切っていた「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米 8月15日付のコラム「北の譲歩は中国の中朝軍事同盟に関する威嚇が原因」に書いたように、8月14日、金正恩は「アメリカの動向をしばらく見守る」と述べ、グアム沖への弾道ミサイル発射を一時見送る考えを示した。 その原因は8月10日に中国が北朝鮮に発した警告にある。 くり返しになるが8月10日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は社説として以下の警告を米朝両国に対して表明した。(1)北朝鮮に対する警告:もし北朝鮮がアメリカ領を先制攻撃し、アメリカが報復として北朝鮮を武力攻撃した場合、中国は中立を保つ。(筆者注:中朝軍事同盟は無視する。)(2)アメリカに対する警告:もしアメリカが米韓同盟の下、北朝鮮を先制攻撃すれば、中国は絶対にそれを阻止する。中国は決してその結果描かれる「政治的版図」を座視しない。(3)中国は朝鮮半島の核化には絶対に反対するが、しかし朝鮮半島で戦争が起きることにも同時に反対する。(米韓、朝)どちら側の武力的挑戦にも反対する。この立場において、中国はロシアとの協力を強化する。 この内の(1)と(3)は、北朝鮮にとっては存亡の危機に関わる脅威である。もし北朝鮮がグアムなどのアメリカ領を先制攻撃してアメリカから報復攻撃を受けた場合、中国は北朝鮮側に立たないということであり、その際、ロシアもまた中国と同じ立場を取るということを意味する。 北朝鮮にとって中国は世界で唯一の軍事同盟を結んでいる国なので、中国が「中朝軍事同盟を無視する」と宣言したとなれば、北朝鮮は孤立無援となる。北朝鮮の軍事力など「核とミサイルと暴走」以外は脆弱なものだ。韓国や日本には大きな犠牲を招くだろうが、アメリカと一国で戦えば全滅する。したがって14日、グアム沖合攻撃は延期(実際上放棄)することを表明した。 北朝鮮がミサイル発射を自制するなどという好機は二度とない。しかも核・ミサイル技術がここまで発展した今となっては絶好のチャンスだった。 だから習近平は8月17日、訪中した米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長と人民大会堂で会談した時に異例の厚遇でもてなした。それはアメリカに米韓合同軍事演習を「暫時」やめてほしかったからだ。 中国の主張は「双暫停」(米朝双方が暫定的に軍事的行動を停止する)。 この前提の下で北朝鮮が一時的にミサイル発射を見送ったのだから、アメリカも同様に8月21日から始まる米韓合同軍事演習を一時的に停止してほしかった。そうすれば話し合いのテーブルに着ける。 金正恩が言っていた「アメリカの動向をしばらく見守る」とは、この8月21日から始まる米韓合同軍事演習を指している。もし演習を行なえば、それ相応の報復を覚悟しておけという趣旨のことを金正恩は言っていた。 しかし8月17日にワシントンで開催された日米の「2+2」外交防衛会議後の共同記者会見で日米の外務防衛代表は日米韓の安保協力強化と北朝鮮に対する圧力をかけ続けることで一致したと述べ、その流れの中でダンフォードは「米韓合同軍事演習の実施は、いかなるレベルでも交渉対象になっていない」と述べたのである。 この時点で北朝鮮問題の動向は決まった。 一回だけ米韓合同軍事演習を中止することは出来なかったのか。その後の北朝鮮の爆発的な暴走と日本に与える脅威を考えたら、どちらが賢明な選択であったか、考えてみる必要があるだろう。圧力をかけることは北朝鮮に技術向上の時間的ゆとりを与えるに等しい 9月3日のNHK日曜討論で、「(8月14日に)北朝鮮がグアムへのミサイル発射を抑制したのはなぜだと思うか」という趣旨の質問に対して、河野外務大臣は(正確には記憶していないが)おおむね「おそらくアメリカが強く出たことを気にしたのではないか」という見方を示していて、少なくとも「中国が中朝軍事同盟を持ち出して北朝鮮を威嚇したから」という話は出なかった。 日本は、北朝鮮にとって唯一の軍事同盟国である中国が最後のカードを切ったことを認識していないし、またそれによって北朝鮮が一時、自己抑制的になったのだということも全く読めていない。 日米は高らかに「圧力をかけ続けることが肝要」と言うが、そうだろうか? これまで国連安保理決議による制裁をやり続け、米韓合同軍事演習もやり続けてきたが、北朝鮮は一向にひるんでいない。 ひるんだのは唯一、中国が中朝軍事同盟カードを切った時だけだった。それも、結局米韓合同軍事演習を始めてしまったので、北朝鮮は今後も上記(1)の条件に抵触しない範囲内で「北朝鮮が言うところの報復」に出るだけだろう。その間に北朝鮮が言うところの「訓練」を積み重ねていくだけだ。中国はもう動かないだろう 中国としては10月18日に党大会を控えているので、まず今は何も動かないだろう。来年3月5日に全人代(全国人民代表大会)が始まり、最終日の14日に選挙を行なって「国家主席」と「国務院総理」が選ばれる。その時から二期目の習近平政権に入るわけだが、それまでは大きな行動をしないだろうと推測される。 もちろん中国にはまだ石油の輸出を断つ「断油」というカードがあるが、一部の航空機燃料としての「断油」は早くからしているが、民間生活も含めた「断油」カードを単独で使うことはないものと思う。なぜなら北朝鮮のミサイルの矛先が北京に向くからだ。国連安保理による決議なら、一定程度は国連のせいにすることもできるが、単独では行なわない。アメリカの軍事行動 トランプ大統領の気まぐれツイートは一応無視することとして、マティス国防長官は「軍事行動を排除しない」と述べているようだ。 「排除しない」とか「すべての選択肢はテーブルの上に載っている」と言いながら、結局「犠牲があまりに大きすぎるから…」と言って実行しないのは、北朝鮮をこの上なく勇気づけるだけだ。「どうせ、できないんだ」と舐められてしまう。 言ったからには、そして本当にアメリカの軍事技術が高いなら、核・ミサイル施設のピンポイント攻撃や「斬首作戦」などを実行するしかないだろう。言っておきながら実行しないことほどまずいものはない。北朝鮮を利するばかりだ。休戦協定に違反しているのはアメリカと韓国 忘れてならないのは、アメリカと韓国が朝鮮戦争(1950年~53年)の休戦協定に違反した行動をとっているということだ。このまま続ければ第三次世界大戦になることを恐れたアメリカが休戦すべきと提案したのに、韓国の李承晩大統領が聞き入れず「休戦したくない。韓国一国でも戦いたい」と駄々をこねたので、アメリカはやむを得ず米韓相互防衛条約(米韓軍事同盟)を結んだ。休戦後3ヵ月以内に全ての他国の軍隊は朝鮮半島から撤退するという休戦協定に署名しながら、一方では米軍は永久に韓国から撤退しないという米韓軍事同盟にサインした(詳細は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』第3章「北朝鮮問題と中朝関係の真相」)。 スタートからダブルスタンダードを取ってきたツケが、いま日本を巻き込んだ関係国に襲い掛かっている。 それを正視せず、圧力を強化していくと宣言するアメリカに同調するばかりの日本。それによって日本国民を守れるのか。本当に日本国民の生命安全を優先していると言えるのだろうか? 政治経験の長い安倍首相は、政治経験のないトランプに、事実を正視し、知恵を絞るようアドバイスするくらいの関係でいてほしいと望む。(『Yahoo!ニュース個人』より2017年9月4日分を転載)

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    カネと欲望の習近平「一帯一路」

    「中華民族の復興」を旗印に掲げる中国の習近平国家主席にとって、ユーラシア大陸に広域経済圏をつくる「一帯一路」構想は己の野望を具現化する最大のチャンスだ。反面、カネと欲望にまみれた巨大プロジェクトは、さながら「中華思想の遺伝子」である。懸念材料が尽きないとはいえ、日本はどう立ち向かうべきか。

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    米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 5月14日と15日、中国は初となる「シルクロード経済圏構想」(一帯一路)首脳会議(以下、首脳会議)を北京で開催した。「一帯一路」をテーマに北京で開かれた国際会議の記念撮影で手を振る各国首脳。前列中央右は中国の習近平国家主席、同左はロシアのプーチン大統領=5月15日(共同) 現状、そこには青写真があるだけで「一帯一路」の全体を把握することは難しい。ましてや成功か失敗かなどを議論する段階ではないのは言うまでもない。ただ、この会議ではっきり伝わってきたのは、中国が次の発展のためにも「一帯一路」の成功を不可欠と位置付けていることだ。同時に中国は、この構想を軌道に乗せるためにも国際社会との関わり方を変えていかなければならないという考えに至ったことも感じさせた。 例えば、「一帯一路」首脳会議で基調演説に立った習近平国家主席は「(シルクロードの)開拓事業に使われたものは、戦馬と長槍ではなく、ラクダのキャラバンと善意であり、頼りにしていたのは艦艇と大砲ではなく、宝船と友情だったのである」と平和の重要性を前面に出した。 会議には南シナ海の領有権をめぐって対立するベトナムやフィリピンからもトップが参加し、習氏の憂いを一つ晴らす材料となったのだが、習氏もそれにこたえるように、「他国の内政には干渉せず、社会制度と発展モデルの輸出もしなければ、それを他国に強要することもしない。中国は地政学ゲームのような古いやり方を繰り返すようなことはせず、安定を打ち破る小さなグループを作ることもせず、平和共存の大家族を築き上げる」と懸念の払拭に努めた。 こうした中国の姿勢は随所に見受けられ、首脳会議の前には「独断で進めるつもりはない」と耿爽報道官(5月5日の中国外交部の会見)が言及している。 この首脳会議には、直前になって米国が代表団を送ることが決まり、実際に代表団が参加したのだが、中国の準備は実に4月上旬の「マール・ア・ラーゴ」(トランプ大統領のフロリダ州にある別荘)における米中首脳会談にまでさかのぼる。 この米中首脳会談は、トランプ氏と習氏の個人間のつながりが生まれた会談として位置づけられているが、一方で中国側からの通商面での強い働きかけがあったことでも知られている。 事実、米中両国の合意の中には「双方は今後、一定期間の重点協力分野と努力目標を確定した。そして、二国間投資協定交渉を引き続き推進し、インフラ建設やエネルギーなどの分野での実務協力を模索し展開していく」(『人民網日本語版2017年4月8日』〈中米首脳会談 積極的シグナルを発信〉)とある。しかも、会談後には習氏が「中米貿易が協力を強化するということの前途には、大きな広がりがある。双方はこのチャンスを逃してはならない。中国は米国が『一帯一路』という枠組みに参加することを歓迎する」と語っている。米経済構想との親和性 この「一帯一路」構想が、実は米国にとってそれほど大きなストレスではないことは、この地域において米国が主導して進めてきた経済構想と「一帯一路」が一体化する方向で話し合いが進んできたことからも推測できる。 それがヒラリー・クリントン元国務長官の下で進められてきた「新シルクロード戦略」である。この「新シルクロード戦略」は、そもそもイランとロシアを分断し牽制(けんせい)する意味から生まれたもので、これに対するロシアの構想が「ユーラシア経済連合」である。 興味深いのは、この「ユーラシア経済連合」も「一帯一路」との一体化を進めていることだ。要するに国際政治の視点からみれば、米露の対立の場であったシルクロードが、比較的中間色の強い中国の「一帯一路」に吸収されるという構図が見て取れるということだ。 一帯一路は、従来モデルの経済発展に限界を感じた中国が、外にその活路を見いだしたことにあるが、考えてみれば次の「成長エンジン」として期待される国が集中している地域でもある。 中国がそこに旗を立てれば、行き場を失っているマネーが流れ込むことは予測できる。そして、一旦そうした流れができれば、この一帯の経済発展は中国だけで手当てできる規模ではないことは明らかだろう。 中国がこのところの見せる対外宥和(ゆうわ)に「ウィンウィン(win-win)」が強調されているのは、こうした背景があるからだ。 こうして政治的な壁を取り払いながら、今後は実を取る作業へと向かうことになるのだが、その先頭を走るのは貨物列車と各地のインフラの整備である。 2011年に中国は貨物鉄道の建設を完成させた。現在、浙江省の義烏から11の国29の都市を通ってスペインのマドリードまで、約18日で結んでいる。この貨物鉄道の開通で、いま中国-欧州間には百億ドルに相当する貨物が行き来するまでになっている。 具体的には、中国から工業製品が運ばれ、帰りにマドリードからオリーブオイルとワインを積んで戻る貨物列車だ。小ロットの運搬が可能な貨物列車の運行により、従来は中国との貿易には無縁であった各国の中小業者が貿易に参入するという効果を生んでいる。それにつれ、互いの利益のために税金や通関制度などでの共通化が劇的に進んでいる。 現状はそうした効果が、本線である義烏とマドリード間だけでなく、北はバルト三国のラトビアの首都リガからロンドン、イタリアのミラノ、西はイランのテヘラン、アフガニスタンのマザーリシャリフなどにも広がっていく可能性が指摘されている。カザフスタン・ホルゴスの〝陸の港〟。右は中国用の線路、左はカザフスタン用の線路=6月12日(共同) まだ始まったばかりの一帯一路を評価することは難しい。ただ、これを「失敗する」と決めつけてしまうのはあまりに早計だ。この構想の背後には、多くの利害共有者がいるという事実も見落としてはならないからである。

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    日本の円圏構想をパクった中国の「一帯一路」はどうせ失敗する

    上念司(経済評論家) 中国が主導する一帯一路構想を一言で表現するなら「リスキーな投資」である。中国共産党が口で言うほど簡単ではない。なぜなら、投資した瞬間に不良債権の山になるような政情不安定な国への投資だからである。当然、それがうまくいくかどうか全く保証はない。そもそも、中国の債権問題は最近再びクローズアップされている。なぜなら、上海市場の金利がここのところ急騰しているからだ。 金利の急騰は社債の借り換えにダイレクトに影響する。すでに社債の発行が全体的に低調になり始めている。ロイターは先月次のように報じた。 中国企業は今年1300億ドル、来年には2480億ドルの借り換えが必要になる。しかしトムソン・ロイターの推計によると、今年1─4月の国内の債券発行額は約1320億ドルと、前年同期の7960億ドルに比べ5分の1未満に減った。ドイツ銀行の推計では、中国の債券市場は昨年、前年比32%拡大して9兆3000億ドルに達していたが、情勢が一変。このペースが続けば来年の借り換え分を賄えなくなる。(ロイター 2017.5.9) 金利の急騰は為替操作の副作用である。現在、中国は人民元の暴落を防ぐために巨額の為替介入と厳しい資本取引規制を実施している。人民元を買い支えるためには市場から人民元を吸い上げなければならない。これはすなわち市場の資金不足を意味する。資本取引が自由であれば、不足した国内市場に海外から資金が流入するが、中国の場合はこれを厳しく規制しているため資金は流入しない。むしろ、中国共産党は国内経済がボロボロであることを嫌気した国内資金が海外に逃避することを恐れているのだ。香港島の観光名所に展示されている中国の習近平国家主席のろう人形=6月5日(共同) しかし、国内が資金不足に陥れば、国内のビッグプロジェクトは借り換え困難に陥る。資金難が深刻化すればその事業は頓挫するだろう。しかし、こうしたプロジェクトの多くは政府や地方政府が主導した公共事業である。どの事業が救済され、どの事業が見捨てられるのか。共産党内部の激しい権力闘争が始まりそうな予感だ。 こんな状態にある中国に「一帯一路」を進める余力はあるのだろうか。むしろ、国内経済の問題からエネルギー切れになる可能性の方が高いように思える。実際に、各種プロジェクトの遅れはそれを象徴しているのではないだろうか。新聞報道によれば、インドネシアの高速鉄道が先月ようやく融資に合意したそうだ。 このプロジェクトは2015年に合意したものの、2016年1月の起工式以降まったく進捗(しんちょく)がない状態が続いていた。おそらく当初の約束だった2019年完成という目標は達成されないだろう。一帯一路の重要なプロジェクトであるはずなのに、なぜこれほど遅れたのか。やはり中国国内が「金欠病」に陥っており、進めたくても進められなかったのかもしれない。※注1一帯一路は日本のパクリ そもそも、一帯一路構想とはかつて日本がやっていた「円圏構想」のパクリだ。「円圏構想」とは、「東アジア共同体構想の目的として、アジア共通通貨単位の導入による為替レート安定」を目指すものである。主に大蔵省を中心として1980年代の後半に本気で検討されていたようだ。しかし、この構想には大きな問題がある。早稲田大学教授の若田部昌純氏は次のように指摘している。 これが経済学的にいかに問題かは、通貨バスケット制やドルペッグ制のような広い意味での固定相場制の問題点を考えてみればよい。国際経済学には、安定的な為替相場、国際間の資本移動の自由、および金融政策の自立的な運営の三つが確立しないという「不整合な三角形」と呼ばれる関係がある。この関係のもつ政策的な意味はきわめて大きい。すなわち、固定相場制(安定的な為替相場)を維持しようとすれば、資本移動を規制するか、金融政策の自立性を放棄するしかない。そして、固定相場制というのは投機攻撃にさらされやすいのである。(若田部昌澄『経済学者たちの闘い』東洋経済新報社)会談の席に向かう安倍首相(左)と中国の習近平国家主席=7月8日、ドイツ・ハンブルク 産経新聞の北京支局に9年勤務し、昨年末に帰国した矢板明夫記者によると、中国共産党幹部は総じて元高を歓迎しているという。なぜなら人民元の価値が高い方が外国企業を買収するのに都合が良いと考えているからだそうだ。まさに円圏構想的な発想にとらわれていると言っていいだろう。 私に言わせれば、彼らは基軸通貨というものの本質が全く分かっていない。為替レートを高く維持することと、その通貨の利便性が高いことは必ずしも一致しないからだ。実際に、彼らが頭でっかちに考えているほど、プロジェクトは進んでいない。フィナンシャル・タイムズは次のように報じている。中国商務省のデータによると、一帯一路の沿線国家に対する中国からの直接投資は昨年、前年比で2%減少し、今年は現時点で18%減となっている。沿線53カ国に対する昨年の金融を除く直接投資は総額145億ドルで、対外投資全体のわずか9%だった。しかもこの投資の減少は、中国の対外直接投資が前年と比べて40%も増え、過去最高を更新する状況の中で起きた。中国当局が資本流出を止めるために対外取引の制限に動いたほどだ。(日本経済新聞 2017.5.12) やはり、一帯一路は巨大な不良資産の山を積み上げて終わるかもしれない。かつて、日本が円圏構想でバブル崩壊を迎え、その後長期停滞に陥った歴史が被って見えるのは気のせいだろうか。注1:「インドネシア高速鉄道建設、中国ようやく融資に合意」(朝日新聞デジタル 2017年5月15日)

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    安倍首相の「一帯一路に協力」は早計だったかもしれない

    加谷珪一(経済評論家) 中国が提唱する現代版シルクロード構想「一帯一路」が徐々に動き始めている。5月に北京で初の国際会議が開催され、中国はインフラ投資基金の増額を表明した。安倍政権は一帯一路について、二階俊博幹事長を会議に派遣するなど積極姿勢を見せているが、同じく中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関しては様子見の姿勢を続けている。一帯一路はまだその全体像が見えていないが、現時点における位置付けについて考察してみた。会談を前に握手する自民党の二階幹事長(左)と中国の習近平国家主席=北京の釣魚台迎賓館(共同) まずは、一帯一路とはどのような構想なのか再整理してみよう。一帯一路は、中国の習近平国家主席が2013年に提唱した中国と欧州を結ぶ巨大経済圏構想である。中国から欧州に至る経路は主に2つが想定されており、ひとつは陸路を使って中欧アジアを経由し、欧州に続くルートで、中国ではこれを「一帯」と称している。 もう一つは海路で南シナ海からインド洋を通り、欧州に向かうルートで、こちらは「一路」とよばれている。両者を合わせて一帯一路ということなのだが、当然のことながら、一連の構想は、かつて東洋と西洋を結ぶ重要な交易路であったシルクロードをイメージしたものとなっている。 沿線の国は70カ国に及び、中国は一帯一路に沿って、インフラ投資や貿易を活発化することによって自国経済圏を拡大しようとしている。 中国は似たような構想としてAIIBも提唱している。AIIBは、中国主導の地域開発金融機関で、米国主導で作られたアジア太平洋地域における開発金融機関であるアジア開発銀行に対抗して作られた。アジア各国や欧州各国が参加しているが、日本と米国はガバナンスが不十分といった理由から参加を保留している。 中国がどのように説明しようが、両構想とも中国の覇権を強化するための枠組みであることは間違いないのだが、安倍政権はAIIBに対しては慎重姿勢を示す一方、一帯一路については積極的だ。このスタンスの違いは一帯一路とAIIBの質的な違いをそのまま表しているといってよい。 安倍政権が一帯一路に対して積極的なのは、一帯一路は、インフラ投資の活性化による景気対策という面が大きく、日本企業にとってうま味があるというのが最大の理由と考えられる。 確かにシルクロードという誰もが知る歴史的テーマを前面に押し出した一帯一路構想は、大きな政治的インパクトをもたらすかもしれない。だが、地政学的なリアリズムに徹した場合、一帯一路構想の重要度はAIIBよりも低い。その理由は、海上交通網が整備された現代においては、陸路の輸送力は経済的に見てあまりにも貧弱だからである。 大航海時代以前であれば、ユーラシア大陸における物資の移動は陸路に頼るしかなく、シルクロードはまさに交易の拠点であった。だが近代以降は貿易の中心は海上交通路となり、その図式は今も変わっていない。 中国は現在、世界の工場としてあらゆる工業製品を米国や日本、欧州に輸出しているが、これらの大半はコンテナ船など使って海上輸送される。電子部品など軽量で即納が必要なものは空路で輸送されるケースもあるが割合は少ない。その理由は、船の経済性が突出していることによる。 条件によって輸送コストは異なるので単純な比較は難しいが、筆者が各種データから試算したところでは、1トンの荷物を1000キロ輸送するコストは、船が約1万円 鉄道は1万2千円、トラックは2万5千円、航空機は15万円になる。船は港があればすぐに運用が可能であり、鉄道や道路という長大なインフラを建設する必要がない。トータルすると船による輸送は圧倒的な経済力を持つことになる。アジアの地域開発に変形させた中国 地政学という学問は英国で発達したものだが、そのベースとなっているのは地理学である。地政学の世界では、ユーラシア大陸の中央部には西と東を断絶するエリア(ハートランド)があり、これが各国のパワーバランスを決める大きな要因になっていると考える。このハートランドこそが、中央アジアであり、まさにシルクロードの中枢部ということになる。 中国は西部に行くと高い山や砂漠が連なり環境が厳しくなる。中央アジアも基本的に山岳地帯が多く、ここに道路や鉄道を建設するコストは極めて高い。仮に建設できたとしても、その輸送能力には限界がある。ハートランドが世界のパワーバランスに大きく影響するのは、このエリアを境に東西の移動が極端に難しくなるという根源的な要因が関係しているのだ。 2105年度における中国の貿易総額は4・3兆ドル(約480兆円)と日本のGDPに匹敵する金額だが、このうち18%が欧州向け、14%が北米向け、7%が日本向け、15%が豪州、アフリカ、中南米向けとなっている。これらの貿易の多くは海上輸送となっており、ロシアやインドといった内陸部の国との貿易はごくわずかしない。上海の港に並べられたコンテナ=上海(ロイター) 中国にとっては海洋覇権の方が圧倒的に重要度が高く、そうであるがゆえに、南シナ海や東シナ海における制海権にこだわっている。 一帯一路における海上ルートは、現時点においては、米軍が制海権を握っており、中国は手も足も出ない。陸路の開拓は、経済的にはある程度の効果はあるものの、地政学的な状況を劇的に変化させるほどの力を持つとは考えにくい。結果として一帯一路は、道路や鉄道といったインフラ建設による景気対策という側面が強くなる。 中国経済は、何とか6%台の経済成長を維持しているが、国内のインフラ建設は完全に飽和状態にある。景気対策としてのインフラ投資を、アジアの地域開発という形に変形させたものが、今回の一帯一路ということになる。 案件を受注する日本企業にとってはうま味がある話かもしれないが、基本的には中国企業が潤うためのプロジェクトであることに変わりはない。AIIBに対して慎重であるにもかかわらず、一帯一路については積極的ということでは、中国側に足元を見透かされる可能性がある。中国に対して距離を置くのか、積極的にコミットするのか、もっと包括的な判断が必要だろう。

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    習近平の「一帯一路」に吹く逆風

    通りです。海峡の町、マレーシアマラッカのマラッカ橋 4月10日、ロンドンを発った貨物列車が3週間後に中国の義烏に到着した。海路に比べて約1カ月の時間短縮だった。また4月11日には、ミャンマーのチャウピュー港と昆明を結ぶパイプラインで石油輸送が始まった。同パイプラインを使えば、マラッカ海峡を迂回できる。 二つの出来事は、習近平の「一帯一路」構想が事実を確立しつつあることを示すものだ。習は、東南アジアや中央アジアで年間1500億ドルのインフラ支出を行い、中国のための新たな市場と影響圏を創ることを期待している。5月14日、15日にプーチンやスーチー等、28カ国の首脳を迎えて開催する同構想の祝賀会では、自国のグローバル・リーダーとしての自信を誇示するだろう。 しかし、外見とは裏腹に、習は一帯一路で逆風に直面している。問題の第一は、同構想の優先事項や責任主体に関してだ。各省に加えて数百もの国営企業が同構想について独自の投資計画を持っている上に、政府の支援を受けて多数のプロジェクトが異例の速さで立ち上げられた。しかし、日常的に統括する者がいない。その結果、数千の財政的に覚束ない計画が一帯一路のプロジェクトとして認可されてしまった。 第二に、ユーラシア通商ブロックの創設というその壮大な目的に見合う、十分な数の利益になるプロジェクトは容易に見つからない。例えば、ロンドン=義烏鉄道は、船舶の倍以上の輸送コストがかかり、どの程度成功するかわからない。また、中国は高速鉄道の建設技術の輸出を考えているが、中国が短期間に何千キロもの鉄道を建設できたのは、安い労働力と住民の強制立ち退きが可能だったからで、これは外国では再現できないかもしれない。 既に破綻しかけているプロジェクトもある。カザフスタンの製油所では、稼働能力の6%以上の原油は買えないことが判明した。中国はパキスタンでは投入資金の80%、ミャンマーでは50%、中央アジアでは30%を失うとの試算もある。 第三に、中国の高圧的なやり方や、不穏当な政権にすり寄る手口に対して各地で批判や反対運動が起きている。2011年には、ミャンマーが中国出資の大規模ダムの建設工事を中断し、住民の喝采を受けた。スリランカでも中国資本による港湾建設を巡って論争が続いており、パキスタンでは、中国は「他国の内政不干渉」の金看板を捨て、グワダルと新疆を結ぶ中パ経済回廊の建設を妨害しないよう反対派の政治家たちに訴えた。 諸国は巨大な中国に圧倒されることを恐れている。例えば、中国輸出入銀行の融資だけでキルギスタンの対外債務の3分の1を占める。中国の中では貧しい雲南でさえ経済規模はミャンマーの4倍だ。諸国はこうした中国からの投資を切望すると同時に恐れてもいる。 中国もやり方を変えようとはしている。東南アジアのNGOは、中国企業が現地の批判に耳を傾け始めたと言う。中国の銀行も、より高度な基準の確保を願って、外国の政府系投資ファンドや年金基金等に一帯一路プロジェクトへの融資を呼び掛けている。北京の集まりでは、中国は一帯一路が脅威ではないことを示そうと、他のインフラ・プロジェクトと一帯一路との関連性を強調するだろう。一帯一路の列車は既に発車したが、中国は単に車内サービスの向上に努めているに過ぎない。 「出 典:Economist ‘China faces resistance to a cherished theme of its foreign policy’ (May 4, 2017)」あまりに粗雑すぎる構想 上記解説記事は、「一帯一路」構想の現実をかなり正確に描写していると言って良いでしょう。中国のやり方は、大体こういうものだからです。日本スタンダードからすれば、あまりに粗雑すぎ失敗は避けがたいということとなるでしょう。中国でも、この構想を「10年後には誰も覚えていないでしょう」と冷たく突き放す学者もいます。「中国の対外借款はほぼすべて不良債権となる。これ以上借款を供与すべきではない」と主張する学者もいます。しかし習近平が、自分のイニシアチブで打ち出した構想が失敗するのを座視することも考えられません。習近平時代は少なくともあと5年続きます。 習近平がこの構想を打ち出した最大の狙いは、「中国の特色ある大国外交」を内外、特に国内に示すためでしょう。習近平の新外交は、「鄧小平外交-韜光養晦+中国の特色ある大国外交」で収まってきたと見ることができます。そのためにも新たに付け加わった大国外交を成功させる、少なくとも国内的にそう見られる必要があります。5月14日から開催された「一帯一路」首脳会議は、この意味で重要です。今後も、この方面の努力は続けられるでしょう。 この構想の中国にとって考え得る実際上の経済的効果は、欧州経済との関係を強めることにあると考えられます。ただ、鉄道による陸路の輸送が、経済的に見合うことを早く証明しないと、このプロジェクト自体が、赤字が積み上がり何の意味もないことになります。

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    中国版プラザ合意実現したら投機に走り中国製造業崩壊の危機

     中国政府は、景気を下支えするために新たな減税策を決定した。減税規模は約6兆円に達し、これに伴い財政赤字が3兆円も拡大するとされる。中国経済の実態はかなり怪しくなっていると見られるが、悲劇的な「チャイナショック」はあり得るのか? 大前研一氏は独自の視点から「中国経済インプロージョン(圧壊=内側に向かっての爆発)の激震に備えるべき」と警鐘を鳴らす。* * * FBI(連邦捜査局)のジェームズ・コミー長官の首を切ったことをきっかけに、ドナルド・トランプ大統領の首もにわかに怪しくなってきた。したがって世界経済もまた乱気流に放り込まれる危険性があるが、それとは切り離した事象として、このところ中国経済の行く手に暗雲が垂れ込めている。 たとえば、中国の景気の先行指標とされる製造業の購買担当者景況指数(PMI)が4月に2016年9月以来7か月ぶりの低水準(50.3)となり、中国経済が下降トレンドに入るという見方が広がった。財務省の浅川雅嗣財務官は「中国経済の減速がグローバル経済にとって引き続き大きなリスクだ」と警戒を強めている。 だが、今後の中国経済はマクロ経済指標の動きとは異なる観点から、大きな影響を受ける可能性が高い。それはアメリカのトランプ大統領が中国の習近平国家主席に4月の首脳会談で突き付けた「三つの要求」だ。 一つ目は、アメリカの対中貿易赤字是正に向けた「100日計画」の取り組みである。これについては中国がアメリカ産牛肉の輸入を解禁したり、アメリカ企業の完全子会社による中国での電子決済サービスを認可したりすることなどで5月に一部合意した。 二つ目は、「為替操作国」(為替相場を不当操作している国)に認定されたくなければ中国元をフロート制(為替レートの決定をマーケットに委ねる制度=変動相場制)にしろ、ということだ。もし、為替操作国に認定されたり、フロート制への移行を強いられたりしたら、中国にとってはパニック以外の何物でもない。だから習主席は貿易問題と後述する北朝鮮問題でアメリカに譲歩し、それを受けてトランプ大統領は中国を為替操作国に認定しないと表明したのである。 そして三つ目は、北朝鮮の核開発をやめさせろ、ということだ。中国は北朝鮮の対外貿易の9割を占めているが、これまでは国連安全保障理事会が全会一致で採択した制裁決議に頬かむりしてきた。だから首脳会談でトランプ大統領は習主席に北朝鮮への影響力を行使して協力するよう要請したのである。実際、中国は北朝鮮が輸出した石炭を送り返したとされる。さらに中国は北朝鮮に対し、核開発をやめなければ原油の供給を止めると通告したと言われる。北朝鮮は原油の9割を中国に依存しているからだ。「中国版プラザ合意」の破壊力 アメリカのメディアによれば、中国は金正恩を殺害して体制を崩壊させる「斬首作戦」は容認できないが、朝鮮半島近海に空母カール・ビンソンとロナルド・レーガンを展開して脅しをかけることや、北朝鮮の核施設をピンポイントで破壊することについては反応しない(中国軍は動かない)とアメリカに告げたという。したがって、アメリカは北朝鮮問題で中国と軍事衝突することはないと判断したようだ。 この三つの要求をトランプ大統領に突き付けられた首脳会談直後の習主席は、まるで「電気ショック」を受けたかのように呆然としていた。しかし、その後、トランプ大統領が議会やメディアに追い込まれ、支持率が低下していく中で、中国が一部の約束を履行している点が数少ない成果になるとして、むしろトランプ大統領のほうが中国になびいてきているように見える。“中国版プラザ合意”の破壊力 トランプ大統領はツイッターで「北朝鮮問題で我々に協力している中国を為替操作国とどうして呼べようか」とコメントした。対中強硬派のピーター・ナバロ国家通商会議(NTC)委員長の影響を受けていた当初の立ち位置から見れば、大幅な後退だ。 それでも米中経済交渉の行方は、中国に大きな影響をもたらす。 かつて日本は日米貿易摩擦でアメリカから、1960年代後半の繊維製品を皮切りに、合板、鉄鋼、カラーテレビをはじめとする家電製品、自動車、半導体などで輸出の自主規制や数量規制および超過関税、農産物(コメ、牛肉、オレンジ、サクランボ)で市場開放を求められた。もし、中国が北朝鮮問題でサボタージュしたら、アメリカはそれと同じやり方で中国に圧力をかけるだろう。二国間協議では、トランプのようなワイルドな大統領でなくてもアメリカの攻撃は執拗だ。日米貿易戦争に匹敵する米中交渉となれば中国経済が大打撃を受けることは間違いない。 一方、為替操作をやめろという要求に中国が応じれば“中国版プラザ合意”となる。 日本は1985年のプラザ合意によって、為替のドル/円レートは1ドル=240円から急激にドル安・円高が進み、1987年末には121円台になってドルの価値は半減した。その後もドル安・円高の流れは止まらず、1994年に100円を突破し、1995年4月には瞬間的に79円台を記録した。固定相場制時代の1ドル=360円から見れば、円の価値は4.5倍になったのである。中国の人民元は2005年までの固定相場制時代は1ドル=8.28元だったので、4.5倍になったら1ドル=2元になってしまう。 日本企業はプラザ合意後の急激なドル安・円高を、イノベーション、生産性向上、コストダウンの努力と生産の海外移転によって乗り越え、「為替耐性」をつけた。たとえば、日本の自動車メーカーは品質とブランド力の向上によって1万3000ドルで売っていた車種を5万ドルで売れるようになったし、今や海外で1800万台を生産するまでになっている。 しかし、中国企業に日本と同じことはできないだろう。もし“中国版プラザ合意”が起きて1ドル=2元(その半分の4元でも)になったら、中国企業の経営者は誰もモノを作る気がなくなり、日本企業のように地道な努力はしないで全員が不動産投機に走ると思う。つまり、製造業が崩壊し、その一方でかつての日本のように国内で不動産バブルが膨らむわけだ。世界的なコスト・プッシュ・インフレ プラザ合意後の日本では不動産が暴騰し、東京都の山手線内側の土地価格でアメリカ全土が買えるという試算も出たほどだった。日本企業は強くなった円でニューヨーク、ロサンゼルス、ハワイなど世界中で不動産を買いまくった。それと同じことが中国発で起きるのだ。世界的なコスト・プッシュ・インフレ しかし、周知の通り、日本のバブルは4年余りであえなくはじけて地価が暴落し、銀行が次々とつぶれて日本経済は「失われた20年」に突入した。中国も同じ轍を踏み、(日本は何とか持ちこたえた)製造業が崩壊しているとなれば、かつての日本以上の惨憺たる状況になるだろう。すなわち中国経済の「インプロージョン」だ。 また、中国の製造業が崩壊したら、世界が困る。なぜなら「世界の工場」と呼ばれている中国に代わる製造基地はどこにもないからだ。 たとえば、広東省だけでも人口は1億人以上で、ベトナムの約9300万人よりも多い。ベトナムやタイの人口では中国全体の製造を代替することは到底できないし、人口約1億6000万人のバングラデシュは輸出する港湾などのインフラが整っていないので、ジャスト・イン・タイムで製造しなければならない商品には対応できない。ミャンマーもインフラが整っていない上、まだ政府の役人に賄賂を渡さないと輸出枠をもらえないというような状況だ。 したがって、中国の製造業が崩壊した場合、中国製品を輸入している国々で物価が高騰し、世界的な「コスト・プッシュ・インフレ」が起きるだろう。とくにアメリカは様々な物を中国から輸入しているので、ウォルマートやコストコなどの棚は空っぽになると思う。 トランプ大統領はアメリカ国内に産業を戻して2500万人の新規雇用を創出するという公約を掲げているが、それは無理だ。アメリカの失業率は5%を下回って完全雇用に近く、人口動態から見ても、メキシコなどから移民を大量に入れない限り不可能なのだ。となると、アメリカは中国に代わる輸入先を見つけるしかないわけだが、前述したように、それもまた不可能だ。 その結果、世界のお金の流れが止まってしまうだろう。そこから先はどうなるのか予想し難いが、世界恐慌を引き起こす可能性も否定できない。 そうした事態を回避する最も簡単な方法は、中国がトランプ大統領の三つ目の要求に応え、何としても北朝鮮の核開発をやめさせることだ。そうすればトランプ大統領は満足して、一つ目と二つ目の要求を取り下げるのではないか。 いずれにしても、日本は米中の動きを注視しながら、中国経済のインプロージョンという激震に備えなければならない。 米中が喧嘩して中国元がフロート制になっても、北朝鮮制裁を徹底して米中が仲良くなって北朝鮮が暴発しても、世界には激震が走る。米中問題はドナルド・トランプと習近平という2人のマッドマンに任せておくわけにはいかないくらい、世界経済に甚大な影響を与えるのだ。関連記事■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 中国が「北朝鮮は自国領」と伏線張っていると櫻井よしこ氏■ 政治・経済で存在感の薄れる日本 「AXJ」と揶揄される■ 北朝鮮が保有する特殊作戦専用ヘリは日本はまったく保有せず■ 櫻井よしこ氏 豊かな鉱物資源持つ北朝鮮を中国が狙うと指摘

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    世界の超大国になりきれない中国

    究所 ワシントン・ポスト紙の5月15日付け社説が、習近平の一帯一路構想は成功するかどうか分からない、中国の勢力圏構築が成功するとすればそれはTPP離脱により米国が自ら譲ったからだ、と述べています。社説の要旨は次の通りです。 一帯一路構想は中国版マーシャル・プランだと言われてきた。5月15日に閉幕した一帯一路国際会議は地政学的効果を狙うものだ。中国はユーラシアにまたがる勢力圏を築き、場合によっては米国を凌駕するような超大国になろうとしている。 この構想により習近平は「中国の夢」を実現するかもしれない。少なくとも既に建設が進行中のパキスタン、ラオス、ミャンマー、インドネシア等途上国で鉄道網や港湾、発電所が建設されていくだろう。しかし、トップダウンで専制的、そして、中国の利益になるプロジェクトばかりを集めるようなやり方では構想の狙いを達成できないだろう。 習近平の構想は、欧州の民主主義国家の復興のために米国が支援したマーシャル・プランとは相違するという点で、失敗する可能性が高い。中国の構想には民主主義や透明性は全くない。中国企業によるインフラ投資により、中国は自国製品の輸出を増大させ、パキスタンのグワダル港などを中国海軍の補給基地にし、また、その過程で中国の一部「エリート」は私腹を肥やすことになるかもしれない。スリランカでは港湾建設等を巡り政治的反発が起きている。 5月14日に習近平が約束した1240億ドルの投資は過剰設備を抱える中国の製鉄、セメント産業の助けになるだろう。建設業界は活性化し、何万という中国人労働者は海外に渡り働くだろう。ほとんどの資金は中国の銀行からの借り入れとなる。鉄道建設が進められているラオスやケニアなどの貧しい国々は将来債務の返済に悩まされるだろう。 周辺国の利益にならないと言っているのではない。電力不足のパキスタンは発電所を必要としている。東南アジアや東アフリカで建設される鉄道網は対中輸出を可能にするだろうが同時に対中輸入の手段にもなる。西側企業も分け前を得たいと考えている。トランプ政権や欧州の代表者は会議で公開入札(コスト削減や汚職防止にもなる)の必要性を説いて回った。 習近平は、自由貿易・投資の旗手のように振舞っている。中国のプロパガンダ機関は一帯一路を「グローバリゼーション2.0」と称している。周辺諸国や西側企業はそれが事実でないことを知っている。しかし、トランプは米国と11の太平洋の国々を結びつけるはずだったTPPから離脱した。そのことは、米国が中国の構想に対する対案を欠いていることを意味する。もし習近平が勢力圏構築に成功すれば、それは米国が自ら譲ったからだということになる。出典:‘China has a plan to become a global superpower. It probably won’t work.’(Washington Post, May 15, 2017)  社説は、「一帯一路(OBOR)」という超大国構想には民主主義や透明性はなく、インフラ建設プロジェクトは旨く行っているとは言えず、構想が成功するかどうかは分からない、としています。現実的な分析でしょう。会議は巨大な外交ショー 中国主催の「一帯一路」国際会議(BRF)は5月14、15日、北京で開催されました。会議にはプーチン、エルドアン、シャリフ、ドゥテルテ等30の政府首脳や国連事務総長、世銀総裁、IMF専務理事等が出席、100カ国以上が参加しました。米国からは、NSCのポッティンガー東アジア部長、それに、ポールソン元財務長官が参加しました。インドは会議をボイコットしましたが、これは、カシミール地方が「中パ経済回廊」と呼ばれる「一帯一路」関連事業の対象地域となっているためと言われています。 習近平は基調講演で中国は関連プロジェクトに1240億ドルを追加融資すると述べる(国営通信によると既に1兆ドルが投資されているという)とともに、構想推進に当たって中国は「古い地政学的な策を弄することはしない」と述べました。各首脳が署名した共同声明は「開放された経済を築き、自由で包含的な貿易を確保し、あらゆる形態の保護主義に反対する」と述べています。また、協力原則として、①平等な立場での協議、②相互利益、③調和と包含、④市場重視、⑤均衡と持続可能性を挙げています。そして、習近平は2019年に第2回会議を開催することを会議閉幕後明らかにしました。 会議は巨大な外交ショーでした。具体的な議論は乏しかったようです。それにもかかわらず増大する中国の国力を世界に印象付けることになりました。この会議は、習近平による秋の党大会への布石の一つとも言われます。共同声明は素晴らしいレトリックを述べていますが、中国中心主義的な思考は一向に変わっていません。協議重視が共同声明の協力原則に掲げられているものの、AIIB(アジアインフラ投資銀行)を含め、多国間主義の手法は十分に取られていません。 一帯一路構想が今後どうなるかは、まだ注意深く見ていく必要があります。関係国の間では債務拡大の懸念も広まっています。尤もな心配です。さらに習近平はジャカルタ・バンドン高速鉄道、中国・ラオス鉄道、アジスアベバ・ジブチ鉄道、ハンガリー・セルビア鉄道の建設を加速化し、グワダル港(パキスタン)、ピレウス港(ギリシャ)を改修した、と述べましたが、プロジェクトの実施は遅れ、スリランカのハンバントタ港については債務の膨張や中国の影響力の増大などで住民の反対運動が起きていると言います。 中国がこの構想を推進する背景には、習近平の国内基盤強化や超大国としての勢力圏の構築という大きな野望があります。しかし、同時に、貯まるカネを国際的にリサイクルしていかねば経済が回らないという経済的必要性も大きいのではないでしょうか。野望と必要性の双方があります。 西側は中国に見合う対応をしていかねばなりません。トランプによるTPP離脱決定は近視眼的な米国第一主義による間違った決定でした。社説が米国は自ら中国に譲ったのも同然である旨述べるのは、全くその通りです。米国抜きの「TPP11」の進展などが強く期待されます。

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    中国・習近平が鳴り物入りで喧伝する「一帯一路」の末路

     中国の習近平国家主席が、香港返還20周年記念式典のため、就任後初めて香港を訪れた。「一帯一路」構想を進めるための行動のひとつと見られているが、この構想は、中国の思惑通りに進むのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏が、中国版の新帝国主義ともいえるこの構想について論じる。* * * 中国が主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の年次総会が6月中旬、韓国で開かれた。AIIBは中国政府の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を金融面で支える組織だが、日本政府は代表を派遣しなかった。 5月に北京で開催された「一帯一路」に関する初の国際フォーラムには「首脳級」として親中派の実力者である自民党の二階俊博幹事長らを派遣していたが、依然として日本側は慎重な姿勢を崩していない。北京で開かれた「一帯一路」をテーマにした初の国際会議で、プレスセンターのモニターに映し出された演説する中国の習近平国家主席の映像(共同) 同フォーラムには120か国以上から29か国の首脳を含む約1500人が参加した。「一帯一路」構想は、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる陸路の「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ海路の「21世紀海上シルクロード」(一路)でインフラ整備や貿易促進、資金の往来などを促進して巨大な経済圏の構築を目指すもので、中国の習近平国家主席が2013年に自ら提唱した鳴り物入りの壮大なプロジェクトだ。 だが、この構想は習主席があたかも現代のアレキサンダー大王かチンギス・ハンを目指すようなものであり、遅れてきた中国版“新帝国主義”にほかならない。 実際、すでに中国は海外の港湾施設などを次々に買収している。たとえば、ギリシャ最大の港でアジア・中東地域から欧州への玄関口にあたる地中海の海運の要衝・ピレウス港は、中国の国営企業で海運最大手の中国遠洋運輸集団(コスコ・グループ)が買収した。 あるいは、パキスタン南西部のグワダル港は、中国が2015年から43年間租借することになり、「中国・パキスタン経済回廊」の重要拠点として中国に陸路でつながる道路や鉄道、電力設備、石油パイプラインなどを整備している。同港は、中国にとってインド洋とアラビア海への“玄関”であり、「一帯一路」構想における一帯(陸)と一路(海)の合流・結節点となる。 また、モルディブでは首都マーレの島と国際空港がある隣の島を結ぶ橋を中国が無償で建設。他の島でも空港や港湾などを無償で造っている。ただし、中国の航空機や艦船が必要な時には使えるという条件付きだ。つまり、ピレウス港やグワダル港、モルディブは中国の“今様植民地”なのだ。習近平はチンギス・ハンになれる? かつて西欧列強は、資源や安価な労働力、市場、軍事的・戦略的要地の獲得などを目的にアフリカやアジアを植民地にしていった。一方、今の中国は、国内の高速道路や高速鉄道、空港、港湾、大都市インフラなどの建設があらかた終わり、鉄鋼・機械メーカーや鉄道車両メーカー、セメント会社、建設会社、デベロッパーなどの“巨大マシン”が破綻しかかっている。 このため、それらの企業を“人馬一体”で海外に持っていくと同時に軍事的・戦略的要地を獲得して勢力範囲を拡大しようとしているのだ。つまり「一帯一路」構想は自国の企業救済と影響力拡大のための新・植民地政策、というのが本質なのである。それは今に始まったことではなく、2015年末に発足したAIIBも同様だ。 では、これから習近平主席はチンギス・ハンほどの権勢を振るうのか? 実際には過去の中国の海外インフラ・プロジェクトでやりきったものはほとんどない。アメリカのラスベガスとロサンゼルスを結ぶ高速鉄道計画ではアメリカのエクスプレスウエスト社が中国鉄道総公司との合弁を解消したし、中国が受注したベネズエラ、メキシコ、インドネシアの高速鉄道計画も軒並み頓挫している。 中国国内の高速鉄道用地は、共産党が人民に貸している土地を取り上げればよいだけなので建設が簡単だ。しかし、海外ではそうはいかない。民間から用地を買収しなければならないので時間がかかるし、そのためにコストも嵩むから黒字化するのは至難の業である。 もともと海外インフラ・プロジェクトはリスクが高く、過去に日本企業が手がけたプロジェクトも、大半が赤字になっている。経験もノウハウもない中国が成功する可能性は非常に低いだろう。 しかも、AIIBに至っては、ようやく5月に初めてインドへの融資を承認したというお粗末な状況だ。報道によれば、世界銀行とともに1億6000万ドルを融資し、アーンドラ・プラデーシュ州の送電・配電システムをグレードアップする無停電電源装置プロジェクトをサポートするそうだが、100兆円の出資金を集めたAIIBの第1号案件としては実にしょぼい。第2回年次総会で開幕を宣言したアジアインフラ投資銀行(AIIB)の金立群総裁=韓国・済州島(河崎真澄撮影) かたや「一帯一路」構想のシルクロード基金は1兆5000億円積み増した上でやっと4兆5000億円だ。AIIBの100兆円に比べれば“誤差”のようなものである。前述した国際フォーラムでも、公正さや透明性に問題があるとして、欧州各国が共同声明への署名を拒否したという体たらくなのである。関連記事■ 松居一代、船越と親しい女性を追いハワイ当局から接近禁止令■ 小林麻央さん 左胸に腫瘤発見時に“生検”を受けなかった■ 習近平構想の新独裁都市 行ってみたらこんなトコだった■ 田村英里子 伝説の「半裸カレンダー」写真リバイバル公開■ 相次ぐ日本人の拘束事件 中国側の言い分とは

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    侵略と人権弾圧の歴史、中国「パンダビジネス」はこんなにエゲつない

    上念司(経済評論家) 1972年のニクソン、田中角栄の電撃訪問でこの国が少しまともになる前まで、中国のやっていたことは今の北朝鮮と変わらない。チベット、ウイグル、南モンゴルを侵略し、国内で度重なる人権弾圧を行い、外国の政治に干渉して核開発までやっていたのだ。 そして1982年までの「パンダ外交」とは、世界中から孤立していた中国が、パンダという希少動物をネタにして、何とか世界に振り向いてもらおうとする外交政策だった。だからこそ、パンダは友好の証として無償譲渡され、文字通り外交的な貸しを作ることで政治利用されていた。 ところが、81年に中国がワシントン条約に加盟したことを契機に、無償譲渡は終わった。現在、中国がやっているのは世界中の動物園に共同研究や繁殖などを目的として有料で貸し出すビジネスだ。報道などにある通り、パンダのレンタル価格は2頭で年に約1億円である。 しかし、それでもパンダ外交そのものは終わっていない。今までは中国が自分のカネでやっていた外交的プロパガンダを、相手のカネでやるように変わっただけである。あえてこれを「新パンダ外交」というなら、中国にとってより都合の良いビジネスであると言えるだろう。 例えば、上野動物園のリーリーとシンシンも貸与された東京都が中国野生動物保護協会と「共同研究」目的で協定を結び、10年間の有料貸し出しを受けているにすぎない。先日赤ちゃんが生まれたことで話題にもなったが、この協定により、パンダの赤ちゃんは「満24カ月」で中国側に返還することになっている。パンダのかわいさに目がくらみ、尖閣諸島に押し寄せる中国公船への対応が甘くなったりはしていないと思いたい。上野動物園のジャイアントパンダのシンシン(公益財団法人東京動物園協会提供) また、2008年には「団団」と「円円」が台湾に貸与されている。翌年1月にこれら2頭が公開されると3日で6万人もの観客が押し寄せる大人気となった。もちろん、中国の隠れたる意図は、台湾統一に向けて、台湾国内の共産党に対する敵対的な世論を緩和させることだ。 当時の台湾メディアはこの件について警戒する論調も見られた。しかし、昨年8月に「団団」と「円円」は12歳の誕生日を迎え、飼育員がデザインした特製ケーキが与えられたと伝えられている。微笑ましいニュースに台湾侵略を企図する中国の悪辣なる意思はカモフラージュされてしまったのだろうか。 マスコミはかわいらしいパンダの赤ちゃんをネタとして扱うだけで、こういうドロドロした背景については何も語らない。パンダも卓球も京劇も雑技団も、共産党が利用するものにはすべて警戒が必要だ。パンダ外交が新パンダ外交に変わり、それがビジネスライクになっても、絶対に警戒の手を緩めてはいけない理由がある。中国の意図を隠蔽するマスコミ マスコミはすぐに「報道しない自由」を発動し、中国の意図を隠蔽してしまう。そもそも、パンダビジネスとは侵略と人権弾圧の歴史の象徴だ。この点を抜きして、パンダを語ることなかれなのだ。 まず、重大な事実を確認しておこう。そもそも、パンダは中国の動物ではない。チベットの動物である。それがいつのまにか中国を象徴する動物にすり替えられてしまった。そのテクニックはこうだ。 かつて、パンダの生息域は現在よりもずっと広かった。しかし、辛亥革命以降、中華民国軍が東チベットを侵略し、多くの中国人が入植してきたことでパンダは乱獲されるようになった。パンダは毛皮を取られたり、食用にされたりしてその数を激減させた。 チベットの支配地域に残ったパンダは虐殺を免れた。なぜならチベット人は仏教徒であり、無益な殺生をしなかったからだ。パンダが生き残った地域は、現在の青海省のほぼ全てと四川省の西半分にあたるエリアにある。パンダの食料である笹はチベット高原の東斜面に多く生息するためだ。そしてこの地域こそが、中華民国の侵略を免れチベットに残った領土だったのだ。中国・四川省成都の施設で、餌を食べる5頭の子パンダ ところが、1950年に悲劇が訪れる。今度は中共軍がやってきた。東チベットのチャムドが侵略され、翌年にはチベットの首都ラサが占領された。そして、1955年にチベットの東半分は青海省と四川省に組み込まれてしまったのだ。中国はチベットから領土を盗み、その地域に生息していたパンダまでも盗んでいったのだ。 現在、世界中で育てられているパンダを見るたびに、人々はそのことを思い出すべきだ。中国による激しい人権弾圧が繰り返されるチベットでは、抗議の焼身自殺が相次いでいる。国際社会はチベットを無視してはならない。 次に、中国が行っているパンダの有料レンタルビジネスの正当性がすでに失われていることについて指摘したい。これは私が勝手に言っているのではなく2016年9月の、世界自然保護基金(WWF)の公式な見解だ。 この見解の中で、WWFはパンダの格付けが「絶滅危惧種(endangered)から危急種(vulnerable)に引き下げられた」ことを朗報として伝えている。国際自然保護連合(IUCN)によれば、2014年までの10年間で中国国内の野生のパンダの頭数は17%増加し1864頭になったそうだ。私が子供のころ、パンダは千頭しかいないと言われてていたが、いつのまにこんなに増えたのだろうか。IUCNの「レッドリスト」にも「Current Population Trend(最近の頭数の傾向) : Increasing(増加中)」との表記があった。 パンダがもはや絶滅危惧種ではなくなった以上、有料でレンタルして共同研究を進める正当性もかなりグラついていると思える。しかし、中国にこのビジネスをやめる気配はない。元々、チベットから盗んできた動物なのに、なんと図々しいことだろう。 元々パンダに罪はない。罪深いのは中国だ。私たちはパンダを見るたびに、その背後にあるドロドロしたものから目を背けてはならないのだ。

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    台湾統一から世界覇権まで「パンダ外交」で膨らむ中国の夢

    や経済利益や広報活動を担っている動物は、なかなかいない。丸くてふわふわ、モコモコ、愛らしいパンダは、中国のソフトパワーの象徴である。 ジャイアントパンダのメンメン(夢夢)とチアオチン(嬌慶)が6月24日、ドイツの首都ベルリン近郊のシェーネフェルト国際空港に、ルフトハンザ航空の特別貨物機で到着した。ベルリン動物園で15年間飼育されることになった2頭のパンダに、毎年約92万ユーロ(約1億1000万円)がドイツ側から中国側に支払われる。空港から動物園まで信号ノンストップで移動したメンメンとチアオチンは、盛大なセレモニーで歓迎され、敷地面積約5500平方メートルの「新居」を準備された。 7月5〜7日にドイツを公式訪問した中国の習近平主席は、ドイツのメルケル首相とともに、ベルリン動物園でのパンダ館開館式に出席した。中独国交樹立45周年を迎えた2017年の「パンダ外交」は、ハンブルクでの20カ国・地域(G20)首脳会合に出席のために習主席が訪れたドイツで、友好ムードの演出を大いに盛り上げるものとなった。6月24日、ベルリンの空港に到着し、輸送用コンテナの中から外を見るパンダ(DPA=共同) 国交正常化45周年を迎えた日本でも、上野動物園でリーリー(力力)とシンシン(真真)の間にメスのパンダが誕生し、祝福ムードが続いている。自民党が東京都議会選挙で大敗した7月2日に、中国海軍の情報収集艦1隻が津軽海峡で日本の領海を侵犯するなど、中国の挑発的なニュースが絶えない。しかし、上野のパンダ誕生については、日本の多くのメディアが和やかに祝意を示している。中国艦船による領海侵入をあまり報道しなかったメディアでも、パンダ誕生については時間や紙面を割いて伝えている。パンダの「威力」は大きい。 パンダ外交の歴史は古い。太平洋戦争の最中、国民党政権が日中戦争にアメリカから協力を得ようと、プロパガンダ(宣伝)の手段としてパンダを贈呈したことに遡(さかのぼ)る。蒋介石夫人の宋美齢がアメリカに贈ったパンダは、1941年12月、日米開戦における負傷兵の第1便とともに、サンフランシスコに到着している。 ただ、中国が「パンダ(と信じられている動物)」を外交に登場させたのは、658年に唐の則天武后(在位690-705年)が日本の斉明天皇に国礼としてつがいのパンダを贈ったことに始まる、という説を報道した中国メディアもある。しかし、これは歴史的に証明されていない。 中華人民共和国建国後、中国がパンダを贈与したり貸与したりすることの意義や狙いは、何だろうか。パンダ外交は大きく3つの時期に分類できる。その変遷によって、パンダ外交の意義や効果は広がってきている。政治家にはできない「親善大使」の影響力 最初の時期(1957-1983年)のパンダは、「友好国としてアピールしたい国」に「親善大使」として贈与された。1957年にピンピン(平平)を贈られたのは、中ソ論争がまだ対立へ発展していなかった時期のソ連であった。65年には北朝鮮にも贈られた。中ソ対立が激化して中国と米国が接近すると、72年以降は、贈与対象国が米日英仏などの西側主要国にも広げられていった。 日中が国交正常化した72年、戦闘機で護衛された旅客機に乗ったランラン(蘭蘭)とカンカン(康康)が、日本への親善大使として贈られてきた。国交を回復したばかりの中国は、「竹のカーテン」で覆われていた。しかし、その不透明な中国のイメージを、愛くるしいランランとカンカンが爆発的なパンダ・フィーバーを日本に巻き起こし、払拭した。パンダは、中国との友好のシンボルとしてアイコン化していった。政治家ではできない影響力と効果であった。 第2の時期(84-2008年)は、パンダ外交が「無料で贈与」から「期間限定で貸与」に切り替えられていったことで、「外貨獲得」と「シンボル」の意味が高められていった。世界自然保護基金(WWF)のロゴ。シンボルにパンダが使われている パンダは、米中接近以前の61年に、世界野生生物基金(WWF)のシンボルマークになっていた。創設メンバーのピーター・スコット卿がデザインしたものだ。86年にWWFは世界自然保護基金に名称を変更するが、パンダは今に至るまで、そのシンボルマークになっている。70年代に生育環境の保護も含めた活動が広がっていった中、中国は81年に野生動物の国際取引を規制するワシントン条約に加盟した。加盟時点では、パンダは比較的規制の緩い「附属書III」に分類されていた。 しかし、84年には、パンダが条約の中で最も規制が厳しい「附属書I」に分類されることになった。パンダが絶滅危機にあることなどを理由に国際間の移動が制限されると、中国は香港や台湾などをのぞき、外国への贈呈をやめて「貸与」することにした。そのため、パンダの贈呈は、82年にやってきたフェイフェイ(飛飛)が最後となった。 貸与に伴い、借用国が支払う「レンタル料」は、パンダの繁殖生態研究費に充てられている。ワシントン条約で保護されているパンダを、政治的に贈呈したり無料で貸したりすることには厳しい制約がある。そこで、中国はパンダ繁殖研究基金を払わせる代わりに、研究のために貸し出しているのである。高額なレンタル料は、パンダの希少性への価値を高めることになり、高額な外貨獲得のみならず、外交交渉での優勢性や機会などの付加価値を中国側にもたらすことになった。パンダの貸与継続交渉を通じて、外交交渉における中国の姿勢を知らしめる機会を中国側に提供することになる。中台統一工作に利用されるパンダ また、中国はワシントン条約が「国際取引の規制」を趣旨としていることを利用して、中国国内だと誇示したい地域に、パンダの贈呈を政治利用している。中国政府は80年代後半から台湾へのパンダ贈呈を何度か試みたものの、台湾側が受け入れを拒み続けていた。2005年に台湾国民党の連戦主席が訪中して60年ぶりの国共トップ会談を実現させたとき、中国が台湾にパンダの贈与を表明した。当時は民進党の陳水扁政権であったため、ワシントン条約を問題視し、パンダの贈呈はすぐにはかなわなかった。しかし、中国に対して積極的な政策を進めた国民党の馬英九政権が08年5月に誕生したことで、同年8月、台湾はパンダの受け入れを決定し、12月には中国が台北市立動物園につがいのパンダを「貸与」した。中国から台湾に贈られたパンダのつがい(共同) このケースでは、中国では「国内移動」の手続きを取り、台湾での手続きでは「国際移動」と解釈できるようにした。また、中国で一般公募されたとする台湾へ貸与したパンダの名前がトアントアン(団団)とユエンユエン(円円)であり、「団円」という中国語が「離れていた家族の再会」を意味することから、中国がパンダ外交を中台の統一工作に利用していることがうかがえよう。この中国のパンダ工作を、06年4月3日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、「トロイの木馬」をもじって「トロイのパンダ」と指摘している。 第3の時期(09年以降-現在)は、リーマン・ショックによる世界金融危機後に、中国がグローバルな経済パワーとしてのプレゼンスを強めた時期でもある。この時期のパンダ外交は、世界中で愛されているパンダのイメージを活用し、国連開発計画(UNDP)などの活動において、中国のプレゼンスを高めている。例えば、16年にUNDPは、世界五大陸の14カ国から17人の「パンダ大使」を選出し、国連の持続可能な17の発展目標を宣伝している。それは、UNDPの活動への理解を深めるだけでなく、中国のイメージアップにも貢献している。 以上、概観してきたように、中国にとってパンダ外交の意義や狙いは、友好のアピールから外貨獲得、台湾統一、イメージ操作まで幅広い戦略や戦術がある。 中国のパンダ外交をめぐり、そのレンタル料が高いという議論が交わされている。しかし、商業的な議論は、経済的効果が黒字であるならば、それをあえて否定することもないだろう。問題は、中国のソフトパワーのアイコンとしての「丸くてふわふわ、モコモコ、愛らしいパンダ」が、中国の膨張主義や地球的課題への対応で、ネガティブな側面をこれからも覆い隠していくのかどうかである。そのことをクリティカルに議論していく必要が、日本国民と日本のジャーナリズムに求められているということだろう。

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    中国のパンダ外交よりもひどい日本の歪んだ「動物格差」

    ライツセンター代表理事) 野生のパンダの数は少し増加し、絶滅危惧種から危急種に引き下げられています。中国はかわいいパンダを保全することのメリットを十分に把握しており、飼育下での繁殖だけでなく、より重要なパンダの生息域の保全も行っています。キーとなる動物の生息域を保全することは他の動物種にとっても恩恵があり、パンダに害を及ぼさない限りにおいて、その生息域では人為的脅威からは守られます。パンダの保護はパンダ自体が増えることが意義深いのではなく、生息域での自然保護が進むという点でこそ意義深いものです。パンダの野生での個体数を増やすことに成功した実績は、中国のイメージを向上させ、評価されるでしょう。 しかし、パンダ外交としてパンダを外交交渉の手段にすることや、海外の動物園に有償レンタルすることは、保全の意味を損なっています。 まず、中国はパンダをレンタルやプレゼントするにあたっては「若い・きれい・健康・活気がある・かわいい」という5つの基準を重視しているそうです。この人間にとって優性な遺伝子選択をしていくことは、パンダの多様性を奪い、種の本来の姿をゆがめていく可能性があります。 パンダの保全に日本の動物園が協力しているのだとする意見も聞かれますが、中国での繁殖技術や飼育環境は日本より優れていますので、遠く離れ生息地とも環境が異なる東京都での生息域外保全は、現状パンダにとって特に必要はなく、純粋に中国は外交カードや商売として、東京都は娯楽の対象や集客集金ツールとして利用しているにすぎません。上野動物園のジャイアントパンダの雌シンシン =5月19日、東京・上野 さらに、国にメリットをもたらす動物種だけを守るという姿勢は、生態系保全とはいえません。自然保護のためにキーとなる動物としては、パンダよりも行動範囲が広いトラのほうが重要だと考えられますが、中国では野生のトラは絶滅に瀕(ひん)しています。一方で中国のトラ牧場には数千~数万頭のトラが、毛皮や骨のためにひどい福祉状態で監禁され飼育されていますが、野生への再導入は行われていません。中国の姿勢は明快です。外交カードとして「使える」動物はその保護の重要性を説きながら保全をし、外交カードにしては「使えない」が死体でお金をもうけられる動物は、保全するのではなく養殖して殺して利用します。 守りたい動物だけ守り、利用したい動物は守らずに利用し尽くすというのは、誤った生態系保全ですし、あからさまな差別の肯定であるといえます。  中国だけを非難するつもりは特にありません。なぜならこれらのゆがんだ動物利用や保全は日本でも一般的であるからです。 かつてほど話題にならないとしても、東京都はかわいくて人寄せに利用できるパンダには多額のお金と労力をつぎ込み続けます。お金を費やすことについては採算がとれる限りにおいては批判されないかもしれません。しかし、パンダのようにお金を稼げる動物の福祉は向上し、そうではない動物の福祉が低下するという動物格差が生じているという点は、大いに問題であるといえます。動物たちの「格差」 上野動物園の飼育環境は国内動物園の中では良い方であると思いますが、それでも一部動物の環境は非常に乏しく、また動物園での飼育に限界のあるホッキョクグマなどの動物は常同行動(異常行動)をし続けています。その他、同じく東京都が養っている動物の多くも、低い福祉環境の中、監禁生活を強いられています。上野動物園のホッキョクグマ=2011年10月 叩く蹴るなど能動的な行為だけが虐待なのではなく、動物がその動物らしい行動を発現できず、動物福祉の5つの自由(飢餓と渇きからの自由。苦痛や傷害または疾病からの自由、恐怖および苦悩からの自由、不快さからの自由、正常な行動ができる自由)が守られていないことも虐待的な飼育です。欧米や南米で批判を受けたり閉鎖したりする動物園の環境を見ると、日本ではトップクラスといえるような環境であったりします。それほど日本の動物園のレベルは大変低く、私たちアニマルライツセンターも海外観光客から日本の動物園がひどすぎるという相談を度々受けています。動物の自由を奪い飼養管理することの責任を重く捉え、動物の福祉改善に必要なお金と労力を費やしてほしいと思います。 また、子どもたちに、本来の行動を取れない環境下に置かれた動物を見せ、あれがクマだよ、ゾウだよ、と教えることは誤った認識を植え付ける行為です。比較的優遇された動物と冷遇された動物が混在していることも精神的悪影響を与えます。パンダや犬や猫のようなかわいい動物は守り、畜産や実験に使われる動物や好みに合わない動物は守らず、ひどい状態のままでよいとすることが、当たり前と感じてはいないでしょうか。明らかな差別行動ですが、その差別に人々は気が付くこともなくなってしまっています。 犬猫の保護以外、日本の動物保護は他国から後れを取っていますが、その理由の一つは幼少期に虐待状態の動物と動物格差を見慣れてしまっているということにあると私たちは分析しています。動物園の役割の中に「教育」を入れるのであれば、動物の生態や行動が観察できる広い環境と本来の行動を発現させるケアを、飼育するすべての動物に等しくとり入れなくてはなりません。人気のある動物以外、動物福祉の5つの自由を担保したケアが保証できないということであれば、動物種、動物の数を思い切って減らしていくべきではないでしょうか。  パンダの赤ちゃんが産まれた上野動物園で、今後パンダたちはまさに「人寄せパンダ」としての見せ物になるという仕事を囲いの中でこなさなくてはなりません。パンダに限らず、人気のある動物の赤ちゃんの出産があれば、動物園はそれを使って集客し、そして一部の人々は週末の娯楽に動物園を選択します。動物の赤ちゃんが生まれるかどうかは、動物園にとっては死活問題なのかもしれません。しかし、一生自由を奪われ狭い囲いの中に閉じ込められ続けることは、それが希少種であろうと、かわいかろうと、個々の動物にとっては悲劇でしかないということに変わりはないということも、認識してほしいと思います。

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    なぜ「パンダフィーバー」は上野動物園でしか起きないのか

    代表する老舗ブランドであることは間違いありません。 だからこそ、「パンダ外交」として日本に贈られた日中国交正常化のシンボル、ランランとカンカンは日本の首都・東京に位置し、日本一有名な老舗動物園「上野」に来たのです。1972年10月28日、上野動物園に到着したカンカン(康康・左)とランラン(蘭蘭) それにしても、当時、ジャイアントパンダ2頭が初来日したときの熱狂ぶりはすさまじく、フィーバー(熱狂的大流行)という言葉はまさに当たっていました。当時10歳だった私の記憶の中にも、45年も前の興奮がいまだに残っています。その背景には、時代というものが多分にあったと思います。 今のように、インターネットがないあの頃は、情報が一極集中する傾向にありました。テレビひとつ取ってみても、BSもCSもネットチャンネルもオンデマンドもなければ、ビデオも普及していないわけです。情報の発信源が少なかったため、みんなが同じ情報を共有し、学校や会社でその情報をお互いに確認し、反復するかのように伝達しあいました。「熱狂」が決定づけたブランドイメージ 当時の情報の一極集中ぶりがよく現れていたのが歌謡曲です。ランラン、カンカンが来日した1972年のレコード売り上げ1位は宮史郎とぴんからトリオの「女のみち」、2位は小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」ですが、当時物心ついていた人なら、どちらの曲も、すぐさまそのメロディーが出てくるのではないでしょうか。 一方、去年のオリコンの年間CD売り上げランキング1位は、AKB48の「翼はいらない」、2位もAKB48で「君はメロディー」ですが、果たして口ずさめる人はどれぐらいいるでしょう。SNSやYoutubeの登場で、国民全員が情報の発信源となりうる今は、情報がありとあらゆる分野で蔓延(まんえん)し、人々は自分の好みの情報をえりすぐっているため、一極集中にはなり得ないのです。 そのような背景も手伝って、日本人特有ともいえる「皆がしていることは自分もしなければならない」的な性質が、パンダフィーバーをさらに加熱させました。日本人は流行を追うのがとても好きなようで、ミシュランガイドの星が1つでも付けば、その店はたちまち大行列ができるのです。 おそらく、今以上に流行に敏感だった高度成長期末期の日本人は、当然のことながら上野に殺到しました。ランラン、カンカンの公開当日、1キロもの行列ができ、約5万6千人がパンダを一目見ようと押しかけました。実際にパンダを見られた人は、わずか3割程度だといわれています。3時間待ちの長蛇の列に断念せざるを得なかったのです。中国から来日したパンダのランラン、カンカンが上野動物園で初公開され、観客が殺到した=1972年11月5日 幸運にもパンダを見ることができた約1万8千人は、パンダの前で立ち止まることは許されず、見られる時間はたった30秒程度でした。その30秒の間、パンダは背を向けていたり、あるいは微動だにしなかったことはザラで、たまたま観客のほうを向いていたり、何かを食べていたりしたら大ラッキーで自慢の種になったのです。 当時は良くも悪くも、世の中に「忖度(そんたく)」がゴロゴロ転がっていた時代で、私は上野動物園の関係者だった父の友人の忖度で閉園後にパンダ舎のバックヤードにこっそりと入れてもらいました。子供心に、もう十分だと思われる程の時間、ランランとカンカンを妹と2人だけで見させてもらったという、今では考えられないような思い出があります。その光景は、セピアカラーながらも、今でも鮮烈に記憶に残っています。その後数日間は、ずっとその話を友達に自慢し、友人たちもその都度、大きなリアクションをしていたのを覚えています。 このような、一般にはなかなか見られないという希少性やチラリズムが、上野のパンダをさらに貴重な存在へと押し上げていきました。パンダ来日決定から公開の間に、「パンダ」と「上野」が合体した強烈なブランドイメージが出来上がってしまったのです。当時小学生だった私の世代、つまり今の50代から上の世代は、今でもそれをずっと引きずり、その思考が自分たちの子供の世代へと受け継がれたのではないでしょうか。フィーバーが植え付けた意外な「言葉」 上野動物園のブランドイメージ同様に、この時期に人々の意識を固定させてしまったのが、「パンダ」という呼び方です。本来、ただパンダと言った場合は先に発見されたレッサーパンダを指していました。そこで、後から発見された白黒の大きな、いわゆるパンダの方はジャイアントパンダという名前にしたわけで、日本では正式和名はあくまでジャイアントパンダです。京都市動物園の特任園長に任命されたレッサーパンダのジャスミン ところが、今、パンダと言ってレッサーパンダを想像する人はまずいないでしょう。実はこれも、当時のマスメディアによる影響が大きいのです。実際、羽田空港に日本航空の特別機でジャイアントパンダが到着した時点では、そのコンテナに「大パンダ」という文字が大きく記されていました。ところが、待ち受ける上野動物園では、横断幕や看板に「パンダ」としか書かれていなかったのです。 既に上野動物園にはレッサーパンダがいたのですが、その元祖パンダをそっちのけにして、ジャイアントパンダをマスコミもこぞって「パンダ」と言い放ちました。その方が、響きもよく覚えやすくインパクトがあったからでしょう。爆発的ブームの中、人々は何のためらいもなく、ジャイアントパンダ=パンダという認識を固定化させ、現在に至っているのです。 1972年のあの熱狂が、「パンダは上野」「ジャイアントパンダはパンダ」という固定観念のようなものを植え付け、今もそれが続いているわけです。 上野に遅れること22年、94年からは和歌山県のアドベンチャーワールドでジャイアントパンダの飼育が始まり、2000、01、03、05、06、08、10、12、14、16年と恐ろしいほどコンスタントに子供が生まれています。パンダ外交は日本のみに行われているわけではなく、旧ソ連、フランス、イギリス、メキシコ、スペイン、ドイツ、アメリカ、韓国、オーストラリアといった国々にもパンダは貸し出されましたが、アドベンチャーワールドの繁殖実績は、中国本土を除けば文句なしに世界一なのです。 もちろん、生まれるたびに報道はされているのですが、誕生したその日限りの報道が多く、上野のような経過報道はほとんどされず、人々の記憶にはあまり残らないというのが現状です。たとえ実績が1位になっても、老舗ブランドには勝てなかったわけです。「2位じゃダメなんでしょうか?」どころの騒ぎではなく、ことパンダに関しては、上野以外は1位になってもダメだったのです。上野のパンダの系譜は、高度成長期末期のあの熱狂を、宿命的に今も引き継いでいるのでしょう。日本に「パンダ」は何頭いる? そして、その上野のパンダでさえも、盛んに報道されているお母さんパンダのシンシンとその赤ちゃんだけが話題に上がり、ニュース映像に映し出されないお父さんパンダの方は、ほとんどの人がその名前さえ知らないのです。よくよく考えてみれば、とても不思議な話ですが、これもマスメディアの影響なのです。 今回、上野のパンダが誕生して以来、2週間以上もの間、赤ちゃんの成育状況は欠かすことなく毎日、テレビのニュースなどで報道されています。でも、少なくとも私の知る限り、雄のリーリーの名前は赤ちゃん誕生のその日しか出てきていません。 また、上野動物園には、ジャイアントパンダよりも生息数が少なく、絶滅の危機にひんしている希少動物がたくさんいますが、それらがメディアで取り上げられることはまれです。たとえ取り上げられても和歌山のジャイアントパンダと同様で、単発的にちょっと報じられる程度にすぎません。 例えば、上野動物園の正門を入ってすぐ右手には、アカガシラカラスバトという鳥がいますが、ほとんどの入場客は、その前を通過せず、まっすぐに行ってしまいます。しかし、この鳥は小笠原諸島だけに生息し、野生個体数は約40羽しかいない日本の天然記念物です。上野動物園では、このアカガシラカラスバトの飼育繁殖に取り組み、成果をあげてきましたが、それを知る人は皆無に近いでしょう。 この差は、あのジャイアントパンダの容姿やしぐさといったパンダ独特のアイドル性も大きな要因だと思いますが、やはり最初のパンダ外交とその報道の強烈なインパクトがいまだに尾を引いているからではないでしょうか。 ところで、今日現在、日本には何頭のジャイアントパンダがいるかご存じでしょうか。正解は9頭ですが、内訳は、上野に赤ちゃんパンダを含めて3頭。和歌山に5頭。神戸の王子動物園に1頭です。ところが1カ月程前までは、12頭もいたということを知る人はほとんどいないでしょう。 2017年6月12日に、上野のパンダ、シンシンが1頭のパンダを産んだことで、日本国内のジャイアントパンダは1頭増えた計算ですが、実はそのちょうど1週間前の6月5日、日本のジャイアントパンダが3頭も減ったのです。和歌山のアドベンチャーワールドで生まれ育ったジャイアントパンダの海浜、陽浜、優浜の3頭が中国・四川省の研究施設へ返還されました。繁殖のため中国に行くジャイアントパンダの「優浜」(左)と「海浜」=4月7日、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールド 実は、現在日本にいるジャイアントパンダは全てレンタル扱いで、たとえ日本の飼育下で子供が生まれても、基本的には性成熟する4歳ぐらいまでに中国に引き渡されることになっているのです。上野のシンシンが産んだ今の赤ちゃんパンダも2年をメドに中国に返されるようです。それを知ると、このパンダフィーバーもなんだか切ない気がします。 田中角栄、周恩来両首相による日中国交正常化の外交として湧き上がったパンダフィーバーは、マスコミによってさらに大きな熱を帯び、今もときどき、その炎を燃え上がらせては切なく消えていくのです。

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    日本人の目をくらます中国の「パンダ外交」

    京・上野動物園のジャイアントパンダが5年ぶりに赤ちゃんを出産し、パンダブームに日本中が沸いた。ただ、中国にとっては、その愛くるしい姿とは裏腹のしたたかな外交ツールでもある。G20首脳会議を前にドイツにも貸与したことが話題になった。中国の「パンダ外交」に隠された思惑とは。

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    双子パンダがすくすく成長、飼育のカギは蜂蜜ペロペロ?

     東京・上野動物園のジャイアントパンダの雄・リーリーと雌・シンシンが2月に交尾をしていたことが判明、5年ぶりの赤ちゃん誕生が期待されている。とはいえ、ジャイアントパンダの繁殖期は短く、雌の受胎が可能な期間がわずか数日しかないこともあり、繁殖は簡単なものではない。実際、この2頭の間には2012年にも赤ちゃんが誕生したが6日後に死んでしまったなどの悲しい過去もある。 そうしたパンダの生態にもかかわらず、約2年に一度のペースでパンダの繁殖に成功しているのが、和歌山県にある「アドベンチャーワールド」だ。こちらでは、昨年2016年9月に産まれたメスの結浜(ユイヒン)を含め、3月現在でなんと8頭ものパンダを飼育している。結浜は、すでに体重も10kgを超え、ふわふわ、ぽてぽてとした仕草が、一般公開でも大人気となっている。父の日の日付入りの氷を贈られた雄のジャイアントパンダ「永明」=6月18日、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールド しかも同施設では、従来難しいとされていた双子の赤ちゃんパンダ、桜浜(オウヒン)・桃浜(トウヒン)を育てることにも成功している(2014年に誕生)。いったいどうやって、双子のパンダをうまく育て上げているのだろうか。キーワードとなるのが「母乳育児」だ。 通常、パンダの母親は一度に1頭の赤ちゃんにしか授乳しない。そのため、双子の場合は、残りの1頭には人工哺乳することになる。しかし、母乳には免疫物質が含まれているため、両方の赤ちゃんに飲んでもらいたいのが飼育員さんの本音。 そこで登場するワザが「赤ちゃんのこっそり入れ替え」。パンダの大好物中の大好物「ハチミツ」を母パンダに与え、母親がそれにペロペロと夢中になっているすきに、授乳中の赤ちゃんを入れ替えてしまうというものだ。なんともおおらかな話だ。 ちなみに、人工哺乳で与えるパンダミルクは、母乳に近い成分を再現したすぐれもの。1歳までは母乳とパンダミルクで育て、その後リンゴとタケノコを離乳食として与え、1歳半で完全に乳離れするそうだ。 ここで掲載したアドベンチャーワールドでのパンダの食事シーンの画像は、動物写真集『動物mg(モグ)図鑑』(松原卓二/写真・文)に収録されているもの。同書を参考に、パンダの知られざる生態に迫ってみてはいかがだろうか。関連記事■ 死亡したパンダの赤ちゃん 学術的資料として冷凍保存になる■ 11頭のパンダ育てた和歌山の動物園 成功の秘密に民間経営も■ パンダ交尾写真を袋とじにすべきか『週刊ポスト』編集部悩む■ 札幌の動物園だけで見られるホッキョクグマ赤ちゃんが公開■ 未だ根強い「母乳信仰」 途上国向けのガイドラインが背景に

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    二階俊博氏と中国との蜜月ぶりで和歌山にパンダが7頭も存在

    氏(76)にとっては関わりのない事情のようだ。5月22日からは観光業界関係者ら約3000人を同行して中国を訪問すると発表し、そのときに「他の政治家ではありえないVIP待遇だろう。習近平・国家主席がホスト役としてでてくるかも」(日中関係筋)と言われるほどだ。そんな二階氏を中国側も万全の態勢で招き入れる予定だという。先の日中関係筋の話だ。会談を前に握手する自民党の二階俊博幹事長(左)と中国の習近平国家主席=5月16日、北京の釣魚台迎賓館(共同)「二階氏はかつて江沢民・元国家主席の石碑を地元・和歌山を皮切りに日本全国に作ろうとしたほどの親中派。上野動物園に2頭しかいないパンダが、和歌山・白浜町のアドベンチャーワールドには7頭いることからも二階氏と中国との蜜月ぶりがわかる。中国は二階氏を自民党だけでなく、日本の“陰の権力者”と見ている」 なぜ、この人物がそれほどの力を持ったのか。 二階氏は和歌山県議を経て1983年に初当選。当時の竹下派に所属していたが、1993年の政変で小沢氏とともに自民党を離れる。その後、小沢氏と袂を分かち、保守党を経て2003年に自民党に復党。小泉内閣で経産大臣、安倍政権の総務会長、麻生内閣では再び経産大臣と常に中枢に座り続けている。自民党中堅議員が語る。「出戻り議員としては非常に珍しいパターンで、率いている二階派は2009年総選挙で本人以外全員落選したが、それでもちゃっかり旧伊吹派の会長に収まっていまも勢力を拡大している。資金力がケタ違いで若手議員の面倒見は抜群にいい」 先の総選挙ではその辣腕ぶりを発揮した。無所属で出馬して自民党議員に勝利した元民主党の山口壮・代議士を“特別会員”として自派閥に入れ、ついには周囲の反対を押し切って入党させるという荒業をやってのけた。 いまだ安倍首相の訪中が実現していない中で、大訪中団を引き連れて習近平氏と握手することになれば、党内に敵なしと思い込んでいる安倍首相の心中も穏やかではないだろう。ただし、それが中国の狙いであることを二階氏はよくご存知のはずだ。関連記事■ 二階俊博氏 3000人同行で中国を訪問発表、15年前は5200人■ 対中外交 強気な安倍氏も本気で構えたら大変との指摘出る■ 外務省分析員が新指導体制下の中国が抱える問題を解説した本■ 細川氏出馬宣言に自民党色の緑ネクタイで臨んだ小泉氏の真意■ 小渕氏ら親中派を結束させ安倍氏の対抗勢力に 中国が画策か

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    中国の「沖縄包囲網」は最終段階に入った

    一見すると、そのような期待感も漂っているが、手放しで喜べる状況にはない。沖縄の現状をつぶさに見ると、中国による沖縄工作が既に始まっているからだ。4月10日、北京の人民大会堂で中国の李克強首相(右)と握手する沖縄県の翁長雄志知事(共同) 昨年12月28日、東京都内のホテルで沖縄県と中国・福建省が「経済交流促進に係る覚書」(MOU)を締結し、福建の自由貿易試験区での規制緩和や手続きの簡素化に向けた協議を進めることなど6項目の取り組みを約束した。締結式には翁長氏や中国の高燕商務次官のほかに、日本国際貿易促進協会(国貿促)の会長、河野洋平元衆院議長も出席した。沖縄県は、県産品や沖縄を中継した国産品の輸出拡大を図る絶好の機会とみている。 さて、辞任した安慶田氏の後任として副知事に就任したのが、沖縄国際大学元学長の経済学者で、県政策参与を務めていた富川盛武氏である。富川氏は、参与時代からさまざまな沖縄経済の発展構想を県のホームページで発信しており、その構想に期待を示す県民も少なくないだろう。 実は、富川氏が示しているプランは、沖縄県が福建省と締結した覚書と同じ路線にある。それが「福建-台湾-沖縄トライアングル経済圏」構想である。沖縄県の経済特区、福建省の自由貿易試験区、台湾の経済特区のトライアングルをつないだ経済圏を構築するものだ。それは、沖縄県産品のみならず、那覇空港をハブと位置付けて日本全国の特産品を福建省に送る「沖縄国際物流ハブ」構想だ。 確かに沖縄は「アジアの玄関口」として物流の中継点に好立地である、という発想は正しい。 しかし、少し立ち止まって考えていただきたい。経済的視点から、沖縄が「アジアの玄関口」であることは、軍事的に見れば「日本侵略の要所」「日本防衛の最前線」でもあるということだ。現に、昨年度の航空自衛隊のスクランブル発進は1168回(前年比295回)と過去最高であり、そのうち、中国機に対する発進が851回(前年比280回)で7割超を占めている。前年比から増加したのはほぼ中国機である。沖縄自民党にすりより始めた中国 そして、ここで忘れてはならない重要なことは、中国は尖閣諸島を福建省の一部と位置付け、天気予報まで行っているということだ。つまり、沖縄県はあろうことか、海と空から尖閣実効支配の既成事実を作ろうとしている中国の、一地域と主張する福建省の経済圏に自ら入り込もうとしているのだ。 中国との経済交流を進める動きは行政だけではない。今年2月3日、那覇市内のホテルで、「沖縄県日中友好協会」の設立を記念した祝賀会が開催され、中国の程永華駐日大使の講演会も行われた。駐日大使の講演があったということは、この組織が中国共産党、中国政府の肝いりということがうかがえる。 この祝賀会には、日中友好協会の丹羽宇一郎会長も参加し、乾杯の音頭をとっている。だが、参加した政治家は翁長氏を応援する「オール沖縄」系ではなく、自民党などの保守系がほとんどだった。中国の一部メディアは、沖縄県日中友好協会が「沖縄県議会議員の提唱によって、官民ともに設立した一般社団」と報じている。その県議会議員とは特別参与に就任した県議会議員を指していると推測されるが、彼もやはり自民党所属議員だ。 沖縄県と福建省の経済的な動きは既に加速度的に進み始めている。県内企業の中国貿易を支援する琉球経済戦略研究会(琉経会、方徳輝会長)は2月23日、中国国際貿易促進委員会の福建省委員会と貿易や投資促進を目指す覚書を交わした。会長の方氏は貿易業のダイレクトチャイナ社長であり、中国現地の会社と連携して県産品を中国に送り込むビジネスを展開している人物である。県と福建省が昨年12月から規制緩和や手続きの簡素化に取り組む中、企業間交流を加速させ、具体的な取引を始めさせる算段だ。中国・福建省の中心都市、廈門(アモイ)の海岸 3月には新たな福建省に進出が決まった企業のニュースも報じられた。沖縄本島南部にある与那原町の合同会社「くに企画」が7月から県産化粧品7商品を福建省のドラッグストアで販売することが決まったというのだ。この実現には県と中国政府の手厚い支援がある。中国では化粧品を輸入する会社は、政府の国家食品薬品監督管理局の許可を得ることが必要である。「くに企画」の商品を輸入するケースでは、「上海尚肌(しょうき)貿易有限公司」が許可を取得し、福建省内のドラッグストア十数店と契約を締結した。 一方、沖縄県のほうでも、くに企画に政府系金融機関の「沖縄振興開発金融公庫」から1000万円の融資が行われたという。くに企画を調べると、2015年10月設立された法人の存在は確認できるが、会社のホームページすら存在しない。その実態は、くに企画によるビジネスというより、中国の会社が沖縄からの仕入れを計画し、くに企画にたまたま白羽の矢が立って、沖縄振興開発金融公庫が融資を行ったようにしか見えないのだ。人民解放軍の軍人が潜伏? 日本では日中国交正常化以来、中国に進出した企業の多くは、人件費の高騰や政策変更などリスクがつきまとい、撤退を始めている。しかし、現在の沖縄では、福建省に進出するといえば誰でももうけさせてもらえるような、上げ膳据え膳のサポート態勢が整いつつある。沖縄では20年以上遅れて、中国と福建省の合作で人為的な中国進出ブームが起きようとしているのだ。 一方、観光客のみならず、さまざまな切り口で沖縄に中国人を呼び込むプロジェクトも進められている。昨年3月、中国で高齢者福祉などを支援する中国老齢事業発展基金会(李宝庫理事長)が、中国への介護技術の普及に向けた「沖縄国際介護先端技術訓練センター」建設のために、本島南部の南城市にある約4300平方メートルの土地を買収したのだ。 沖縄をモデル地域に位置付け、中国からの研修生が日本の介護技術を習得し、中国国内約300都市に設置予定の訓練センターで介護技術普及を図るという。この案件を進めたのも、前述した河野洋平氏が会長を務める国貿促だ。国貿促の担当者は沖縄を選んだ理由に、アジアの中心に位置し国家戦略特区であることを挙げたという。 その訓練センターの事業体として、昨年9月13日、東京都赤坂のアジア開発キャピタル(網屋信介社長)と中国和禾(わか)投資(周嶸、しゅうえい代表)が共同出資を行い、新会社「アジア和禾投資」を設立した。新会社はアジアキャピタルの連結子会社となり、所在地もアジアキャピタルと同じビルとなっている。新会社への出資比率はアジアキャピタルが55%と多いが、社長は中国に多くの人脈を持つ中国和禾投資の周代表が就いている。沖縄に中国人が社長を務める巨大な介護訓練センターが出現するのだ。 もう一つ、気になるプロジェクトがある。航空パイロットの育成を手がけるFSO(玉那覇尚也社長)が中国の海南航空学校と業務提携の覚書を締結し、今年から70人程度の訓練生を受け入れるというのだ。FSOは沖縄県にフライトシミュレーターと実際のフライトを組み合わせた訓練場を、宮古諸島にある下地島空港の活用策として提案しており、県から空港利活用の候補事業者としても選定されている。中国人訓練生の中には人民解放軍の軍人が潜り込んでいる可能性もあり、かなり危険なビジネスである。有事の際、下地島空港で破壊活動や工作活動をされるリスクを招くのではないだろうか。翁長敗北で起こる「最悪のシナリオ」 沖縄は既に、多くの中国人観光客が訪れ、街も変貌してきたが、これら2つの事業が本格化しただけで沖縄のビジネス界も様変わりしてしまう。沖縄は既に中国経済に飲み込まれるレールが敷かれているのだ。米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する集会で演説する沖縄県の翁長雄志知事=3月25日午前、沖縄県名護市 以上、中国による官民一体となった沖縄経済の取り込み工作の実態を確認してきた。このままいけば、沖縄では中国人観光客があふれるだけではなく、「社員が中国人」という会社が多くなり、「私の会社の社長は中国人」というケースも増えていくことになるだろう。そんな中、来年の県知事選で辺野古移設阻止に失敗した翁長氏を自民党系候補が破り、県政奪還に成功しても、新知事も福建省との経済交流推進者にならざるを得ない「最悪のシナリオ」が起こる可能性は大きい。自民党にターゲットを定めたかのような沖縄県日中友好協会の設立はそのための伏線ではないだろうか。そうなれば、沖縄が後戻りすることはもはや不可能になってしまう。 また、尖閣諸島で紛争が起きたとき、中国政府は中国進出企業との取引を停止する制裁を科すだろう。「中国依存度」の高い会社からは、政府や沖縄県に取引再開の交渉を求める声が当然上がってくる。会社が倒産したら、社員の明日の生計が立たなくなるからだ。琉球新報や沖縄タイムスには「政府は無人の尖閣諸島より県民の生活を守れ!」という趣旨の見出しが掲載されるだろう。そこで、中国は紛争の解決策として「尖閣諸島の共同管理」を提案してくることは間違いない。そのとき「沖縄は中国と経済交流してここまで豊かになってきた。中国と戦争して貧しくなるより、尖閣諸島を共同管理、共同開発して豊かな生活をしたほうが良い」という声が上がったら否定するのは極めて困難になってくる。 現代の戦争は軍事衝突だけではない。平時においても戦争は行われている。それは外交戦、経済戦、歴史戦、国際法律戦など、ありとあらゆる手段を使った戦争が行われているのだ。武力戦が始まるときにはほぼ勝負は決まっている。今、東シナ海の真ん中にある沖縄は、その総力戦のまっただ中にある。 沖縄をハブ空港として発展させるビジョンは正しいが、その背後に経済・防衛政策がなければならない。なによりも、沖縄を日本の経済圏の中に断固として組み込み、中国にコントロールされるような隙をつくらないことが必要だ。沖縄防衛は自衛隊だけでは不可能な時代である。手遅れにならないためにも、日本政府は経済や歴史、文化侵略など、あらゆる側面から沖縄防衛計画の策定を急がなければならない。

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    中国に7000万人 LGBT向けビジネスが活発化

     中国で「LGBT」と呼ばれる性的少数者=L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)が7000万人に達していることが明らかになった。 これはイギリスの人口を上回る規模で、その年間消費額も4700億ドル(約53兆円)と推計されているが、中国ではLGBTを蔑視する傾向が強いことから、海外での挙式に関心を示しており、潜在的に大きな市場として海外の旅行業界などが開拓に乗り出している。米タイム誌などが報じた。香港のLGBTの権利保護を訴える団体が開いた集会 中国の同性愛者向け出会い系アプリ「Blued」の最高経営責任者(CEO)・耿楽氏によると、Bluedは世界で最大級の同性愛者向けアプリでユーザー数は1500万人にのぼる。 彼ら(彼女ら)は社会的なステータスが高い層が多く、平均月収は約1万元(約16万円)と全国の労働者の平均月収の5倍にも達しており、可処分所得が高くブランドモノを好む傾向が強いという。 これは大半のLGBTに子供がいないことが大きな原因だとみられる。 欧州や米国に次いで世界3位のLGBT人口を抱える中国が大きな市場として観光業者の関心を集めている。これは日本のみならず、欧米諸国も同じで、中国のLGBTを自国に取り込もうと躍起になっているというほどだ。 これは、中国内でのLGBTにはまだ市民権が与えられていないことも大きな原因だ。 中国では同性愛行為者が罪に問われた時代が長く続いていた。それが、違法ではなくなったのは1997年で、LGBTがタブー視されていない香港が同年7月、中国に返還されたためだとみられる。 その後、2001年からLGBTは精神疾患リストからも外されたが、一般的にはまだまだ認められていない。 ネット上では、同性愛者が「ハワイで結婚式を挙げた」などという書き込みに対して嫌悪感を表明する意見も少なくない。 日本でも同じような傾向はみられるが、中国の場合はこれまで一人っ子政策が適用されていたことから、「子供がいないのは罪悪」という感情がより強く、「一人っ子の男性の場合は『偽装結婚』をして、子供を作ってから、安心して同性愛にのめり込むという傾向が中国では強い」(香港紙「リンゴ日報」)とも報じられている。関連記事■ 同性愛者がなぜ必ずクラスに1人いるのかという謎に迫った本■ 米の性調査 同性愛者比率は60年前からほぼ変わっていない■ 中国大都市圏で同性愛エイズ患者拡大 一人っ子政策の影響も■ 聖火リレーに同性愛者象徴旗持つ男が乱入しプーチン怒り心頭■ 中国・周恩来元首相に同性愛説広まるも国内では反発の声

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    米国混乱の隙に覇権を狙う中国は必ず滅ぼされる

    宮崎正弘(評論家) 《徳間書店『米国混乱の隙に覇権を狙う中国は必ず滅ぼされる』より》 第45代アメリカ大統領にドナルド・トランプが就任した。 そして2017年2月27日、トランプ大統領は「次年度予算で国防費を10%増加させる」とした。10%増は6兆円、これだけでも日本の防衛費のトータルより大きい。主眼は対中国である。 後世の歴史家は「これにより米中は対決時代に入った」と書くだろう。トランプ米大統領(左)の出迎えを受ける安倍首相 =2月10日、ワシントンのホワイトハウス(ロイター=共同) トランプの当選直後にニューヨークへ飛んで西側指導者として真っ先に会見した安倍晋三首相は、2017年2月10日にも訪米し、ワシントンで日米首脳会談を終えるや、「冬のホワイトハウス」と呼ばれるトランプの豪華別荘に招待され、ゴルフに興じた。 まさに異例の厚遇、破格の待遇で、アメリカのマスコミは辛辣(しんらつ)に「安保をアメリカに依存する以上、日本にはほかの選択肢はない」と皮肉ったが、一方で中国の習近平(しゆうきんぺい)国家主席に対して、トランプは一通の書簡を送っただけである。これは「破格の冷遇」だ。 中国に一歩ひるんだ姿勢だったオバマ前政権とは完全に異なるスタイルであり、この日本厚遇、中国冷遇がトランプの外交を鮮(あざ)やかに象徴している。フロリダにおける日米共同声明直後、トランプ大統領と安倍首相が夕食を愉しんでいるタイミングを狙って北朝鮮はミサイル実験を行った。背後で中国が仕組んだのではないかとする邪推も生んだ。 そして、2月13日にはマレーシアで北朝鮮の金正男(キムジヨンナム)が刺客に暗殺された。 日本にとって現実の軍事的脅威は北朝鮮の核とVXガス。そして中国の軍事力である。朝鮮半島、東シナ海、南シナ海でアメリカはどう動くのか、その最終的な政策決定のキーパーソンは次の3人である。 ジェームズ・マティス国防長官、スティーブ・バノン大統領上級顧問、もう1人はピーター・ナヴァロ国家通商会議代表だ。 トランプは指名の折、マティスを「マッドドッグ」と言った。これは「狂犬」と訳すより「暴れん坊」という意味である。マティスはどの軍人よりも読書家であり、マキャベリから『孫子』まで愛読し、蔵書が7000冊ともいわれている。独身である。マティスが政権発足後、真っ先に日本にやってきたのも、東アジアへの軍事的脅威に本腰を入れるという合図である。 マティスはアフガニスタン、イラク戦争で実際に軍事作戦の指揮を執り、適切な指揮、果敢な判断、その勇気によって軍人の多くから尊敬を集めてきた。彼の持論はその体験から生み出されたもので、「当面の敵はIS(イスラム国)である。このIS殲滅(せんめつ)のためにはロシアとの協力関係が必要である」というものだ。まさにマキャベリズムを地でいっている。 議会、とりわけ共和党主流派は、ロシアを敵として位置づけているため、マティスは議会証言では「ロシアが基本的に敵であることに変わりはない」と発言している。頑迷にロシアを敵視するジョン・マケイン上院議員らを得心させるための公聴会用の発言である。本心を語らなかったのは、国務長官に指名されたレックス・ティラーソンも同じだ。親ロ派の姿勢を鋭く衝かれるや、彼は「当面、ロシアが敵であることに変わりはない」として、むしろ議会人を安心させることに重点を置いた発言を繰り返した。 トランプ大統領は「ウォール・ストリート・ジャーナル」(2017年1月13日付、電子版)とのインタビューで、中国とロシアに対して、通商や外交面での「譲歩」を促している。ただし、ロシアに対しては「当面、制裁は解除しない」としてプーチンからの信号待ちという状態である。アメリカの主要敵は中国? 一方、中国への姿勢は一貫して強硬である。トランプは同インタビューに対し、「もし通商や外交面での譲歩に応じない場合は、中国に対しては『一つの中国』というアメリカの外交基本さえ含めた協議を始める」と発言した。中国はただちに反論し、陸報道官は「一つの中国政策は交渉の余地がない議題であり、中国外交の核心である」と述べた。 ただしトランプはその後、「45%の関税」に関しては「検討を始める」と大幅に過去の発言を後退させ、「中国は為替操作国である」という認定問題に関しても「ただちに認定する」とは言わなくなった。  中国はまだ様子見で弱々しい反応しか見せていない。「もしアメリカ軍が出てくるなら対抗する」と人民日報系のタブロイド紙「環球時報」に書かせている程度である。トランプの対中強硬姿勢が、どれほど本気なのかを見極めようとしているのである。航行する中国の空母「遼寧」(共同) 南シナ海に関して中国は、2016年12月にアメリカ海軍の無人潜水艇を捕獲したが、すぐ返却するなど、現場の暴走も目立つ。そのうえ、2017年1月には空母「遼寧」に台湾をぐるりと一周させ、軍事的威嚇(いかく)を強めた。 南シナ海でアメリカが軍事行動に出るとは想定しにくいものの、「暴言老人」と「暴れん坊」がこれからのアメリカを牽引するのだ。 2017年2月初旬、筆者がロスアンゼルス空港の書店で「TIME」を見たら、表紙はスティーブ・バノン大統領上級顧問だった。 大統領上級顧問ふぜいが「TIME」の表紙になることは異例中の異例である。つまり左翼ジャーナリズムが、トランプ攻撃の代理標的にバノンを選んだということでもある。このバノンが言っているのだ。「向こう5年か、10年以内にアメリカと中国は南シナ海で戦争となるだろう」と。バノンがすでにホワイトハウスで辣腕(らつわん)をふるい始めたことに留意しておきたい。 トランプがCIA(中央情報局)長官に指名したマイク・ポンペオも対ロシア強硬派だ。マティス国防長官もどちらかといえばロシア=主要敵論に与(くみ)している。ペンタゴンもジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長(海兵隊出身)、ポール・セルバ副議長(空軍出身)ら制服組のトップは「現実に存在する強敵はロシアで、ISではない」と反論している。国防総省を統括するマティスに対して共和党主流派が強く推薦する副長官以下の人事に露骨に反対しており、ナンバー2以下のペンタゴン人事が進んでいない。 直後に、ロシアのある戦略家が「プラウダ」(英語版)に寄稿してこう言っている。「アメリカは主要敵を読み違えた。アメリカの主要敵は中国であり、いまこそロシアを味方に引き入れたほうがよいだろう」北朝鮮の暴走に対する米中の思惑 2017年2月、北朝鮮がアメリカに届くICBM(大陸間弾道ミサイル)の実験を行ったことは、これまでの米朝関係を変えた。 トランプは北のICBMに関して「そうはさせない」とツイッターでメッセージを発信している。ならば「そうはさせない」という具体的中身は何か? 選択肢は三つのシナリオが考えられる。 第1は、ICBMを単なる北のブラフと認識する態度を続ける。 第2は、北がアメリカと直接対話をしたいための信号であるという外交の駆け引きに対応する。 第3は、前者二つの選択肢を無視して、実際にアメリカが予防的先制攻撃をする。 つまり北朝鮮の核施設を空爆で破壊して、脅威をとりのぞくという軍事的選択である。アメリカの対北朝鮮攻撃は、おそらく潜水艦からのSLBM(弾道ミサイル)発射が主力となるだろう。4月15日、北朝鮮の軍事パレードで公開された 新型ICBM用の可能性がある発射管付き車両(共同) 実際にこれまでも、北朝鮮の核施設攻撃オプションはペンタゴンで何回か立案された。だが、ときのクリントン政権は土壇場で回避し、オバマ政権ではタブー視された。 ところが北朝鮮が六者会合を無視し、中国の政治的圧力を避け、ついに今回、ICBMのレベルまで達すると、予防的先制攻撃の選択肢が、アメリカ内で公然と論じられるようになった。「フォーリン・アフェアーズ」でも論究されるとなると、ペンタゴンでもシナリオが存在しているに違いない。 トランプならやりかねない、というのが国際政治の現場感覚だろう。 しかし先制攻撃というシナリオを前にして、アメリカが直面する三つの難題がある。 第1は、中国がどう動くか。これまでに、「中国が北朝鮮を抑制し、影響力を行使すれば、やめさせることができた。なのに、しなかった」(トランプ)。 もちろん中国もこの北朝鮮の核こそが、対米交渉の有効なカードである以上、へたな使い方はしないだろう。 第2に、韓国がいかなる反応をするか、つまり北朝鮮攻撃作戦遂行後、米韓関係は緊密化するか、対決となってしまうのか、である。現実に朴槿恵(パククネ)政権は弾劾(だんがい)の淵に立たされ、命運が尽きようとしているが、次期韓国政権は親北派の勝利が予測されている。火に油を注ぐ結果が明らかな現状で、アメリカは軽率な行動はとれそうにないように見える。 第3は、「全面戦争」への発展をアメリカは考えていないという前提から発生する諸問題だ。つまり攻撃後の北朝鮮の報復は必ず行われ、韓国へ侵攻するだろう。そのときに在韓米軍はどこまで耐えるか。北朝鮮からソウルは距離的に近く、また地下トンネルが無数に掘られている。メトロポリタン・ソウルという人口密集地(1400万人)が人質となるが、その犠牲を恐れずにアメリカが先制攻撃を行えるかどうか。 1981年、イラクのオシラク原子炉をイスラエル空軍機が破壊した。アメリカ軍の秘密の協力があった。2007年、シリアの核施設をイスラエル空軍機が破壊した。むろん、背後ではアメリカ軍の協力があった。しかしイランの核施設はイスラエル側に破壊能力があるのに、できなかった。 北朝鮮の核施設の正確な場所を把握していないかぎり、作戦の成功もまた難しくなる。こう考えてくると、残されるのは、北朝鮮を交渉の場に引きずり出し、中国にも圧力行使を期待しての「核の凍結」という選択肢がもっとも現実的なことになる。急速に悪化するアメリカ人の中国観 オバマ政権後期からアメリカは着実に、しかし慎重に対中国政策を変更している。直接の動機は中国軍の南シナ海での軍事行動だった。「航行の自由」作戦、フィリピンとの安保条約改訂、米空母のベトナム寄港、オーストラリアのダーウィンへの海兵隊駐留、そして台湾への梃子(てこ)入れと沖縄米軍基地の拡充を急いできた。 日本はこの動きをじっと見てきたのではない。周辺国を説得し、プロジェクトを持ち込み、船舶や潜水艦技術などもフィリピン、ベトナムに供与した。 日本の内閣府による2016年11月の「外交に関する世論調査」でも、中国に「親しみを感じない」と答えた日本人は圧倒的に多く80・5%となった。中国に対する親近感は、比較可能な1978年の調査から40年弱で完全に逆転しており、日本人の国民感情の冷え込みは顕著である。 ならば、アメリカ人の中国観はどう変貌したか。 レーガンの反共路線時代は、アメリカにとって主要敵はソ連であり、ブッシュ時代にゴルバチョフが登場して東西冷戦が終結すると、ソ連がたちまちにして崩壊し、新生ロシアとアメリカは急速に仲良くなった。 ロシアはアメリカの敵ではなくなった。アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは「以後の世界は自由経済でまとまる」と楽天的予測を著書『歴史の終わり』のなかで展開し、日本でもベストセラーとなった。ソ連は瓦解したが、軍拡著しい中国が新たにアメリカの仮想敵となった。歴史は終わらなかった。フクヤマの予測は外れた。米ワシントンの歓迎式典に出席するオバマ大統領(右)と中国の習近平国家主席=2015年9月25日(ロイター) ブッシュ、クリントン、ブッシュ・ジュニア、オバマの歴代政権は中国との直接的な対決を極力回避し、融和的で微温的な姿勢で対中外交に取り組んだ。とりわけ中国の代理人とまで酷評されたキッシンジャーがG2(米中二極体制)を提唱し、これを受けたアメリカの政治学者ブレジンスキーなどは米中関係は蜜月、今後も「新しい大国関係」となり、均衡を取りながら世界を主導すると倒錯した議論を展開した。 だが、そのような甘い中国観は南シナ海における軍拡、その侵略的行為であるサンゴ礁埋め立て、軍事基地建設、滑走路建設などに見られるように直接的にアメリカにとっての脅威となり、その結果、アメリカの対中姿勢はがらりと変わる。 日本のメディアはあまり報道しないが、米中関係は急速冷凍のように冷え冷えとしているのである。 トランプの中国認識は強硬論一色である。その側近らのなかにも中国に甘い人間はいない。大統領選挙中、トランプは次のように繰り返した。 「2000年、クリントン政権の後期にアメリカは中国のWTO(世界貿易機構)加盟を認めた。農業から通信機器、自動車から航空機までアメリカの製品は中国市場へのアクセスが増えるため、この取引はアメリカに裨益(ひえき)するとクリントン大統領は言ったが、実際には中国との貿易アクセスのお陰で、アメリカは50万の工場を閉じた。クリントンの言ったことはすべて嘘だった」 トランプは中国に対して強い語彙を選びながら、以下のように続ける。 「中国との通商の失敗が代表するようにワシントンの政治家がやったことはアメリカ経済の失敗につながった。中国との交渉で必要なのはタフな交渉力とリーダーシップである。ウォール街の権益のみならずアメリカの労働者、製造者の利益を護るために力強い交渉を中国とやり直すべきである」  トランプの中国論は抽象論とはいえ、わかりやすい批判である。単純に中国を仮想敵として置き換えることによって労働者、一般納税者へ訴えるパワーがある。 トランプは南シナ海の中国の軍事力拡大にいらだち、極東ならびに南シナ海でのアメリカ軍のプレゼンスを明確に拡充せよと言っているのであり、オバマのように優柔不断ではなく、南シナ海における中国軍の横暴には断固として対抗措置を講じると宣言している。こうした背景を照覧すれば、アメリカと中国の対決が本格化することは間違いないだろう。

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    米中戦争、トランプならやりかねない

    中、トランプ就任後初の米中首脳会談が実現した。対北緊密協力で「米中蜜月」をアピールするも、トランプの中国認識は強硬論一色である。南シナ海や経済摩擦などをめぐり、急速に冷え込む米中関係は今後どうなっていくのか。トランプ政権の思惑と習近平に迫る危機を読み解く。

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    トランプ政権が警戒する中国の野放図な野心

    宮崎正弘(評論家) 《徳間書店『米国混乱の隙に覇権を狙う中国は必ず滅ぼされる』より》 トランプ大統領のぶれない中国批判の源泉は、ピーター・ナヴァロの『米中もし戦わば』(赤根洋子訳、文藝春秋)のなかに潜んでいた。 トランプのツイッターメッセージの原典はこれかと思うほどである。 オバマ前大統領は軍事的知識に乏しく戦略的判断が不得手だったため、誰にそそのかされたのか、「敵と味方を取り違え」てばかりいた。イスラエルを敵対視し、イランと復交し、そのうえでロシアを敵視した。ハッカー攻撃の犯人だと証拠を挙げずに断定し、在米のロシア人外交官35人を追放した。プーチンはこの措置に報復せず「次期政権の出方を待つ」と余裕を見せた。 フランスの戦略思想家レイモン・アロンに有名な箴言(しんげん)がある。「正義が統治する社会を定義するより、状況を不適切と非難することは易しい」就任後初の施政方針演説をするトランプ米大統領=2月28日、ワシントン(ロイター=共同) トランプは「ツイッター大統領」(「ワシントンポスト」が名付けた)と呼ばれ、記者会見を滅多に開かず、逐一のメッセージを自らが書き込むツイッターで政策のヒントを繰り出してきた。既存のメディアを無視するやり方にアメリカのジャーナリズムはあわてた。政治に必要な即効性の武器がネット社会では変革していた。トランプは時代を先取りした。 そしてトランプは、「オバマやヒラリーに比べたらプーチンのほうが賢い。馬が合いそうだ」と強烈なメッセージを発信した。 トランプの中国に対する強硬姿勢には変化がなかった。 対中問題でタフな発言の数々をフォローすると、トランプの情報と分析の源泉はナヴァロに行き着くのである。 ナヴァロは前掲書において、まず、中国の軍事戦略を緻密に検証して、「中国は、ソ連とはまったく異なるタイプの軍事的競合国である」「このままでは、アメリカは中国に(少なくともアジア地域で)『降参』と言わざるを得なくなるかもしれない」という危機感を表明する。 最大の脅威とは核戦力や、ミサイルの数や、艦船、空母の員数や能力ではなく、ハッカー攻撃力である。「平和にとっては不都合なことに、中国ほどアグレッシブにサイバー戦争能力の増強を図ってきた国はない。また、平和で貿易の盛んな時代にあって、中国ほど積極的にサイバー戦争能力(の少なくとも一部)を展開してきた国も他にない」(ナヴァロ前掲書) ロシアのハッカー能力より中国がサイバー攻撃で勝っているのに、オバマはなぜロシアだけを問題にしたのかが問題だと示唆している。 中国にはアルバイトを含めて200万人のサイバー部隊がいる。「最も悪名高いサイバー部隊はおそらく、上海・浦東地区にある一二階建てのビルを拠点とするAPT1部隊だろう。APTとはアドバンスド・パーシステント・スレット(高度で執拗な脅威)の略語で、コンピュータ・ネットワークを長期間攻撃することを意味する(中略)。中国人ハッカー達がこうした産業戦線で盗もうとしているのは、大小の外国企業の設計図や研究・開発の成果、特許製法といったおきまりのものだけではない。彼等は電子メールから契約リスト、検査結果、価格設定情報、組合規約に至るまでありとあらゆるものを傍受している」 そのうえ中国のサイバー部隊には第3の戦線が存在している事実を、ナヴァロは指摘している。「配電網、浄水場、航空管制、地下鉄システム、電気通信など、敵国の重要なインフラへの攻撃である。これには、民衆を混乱させるとともに経済を壊滅させるという二つの目的がある」(以上、ナヴァロ前掲書) ともかくアメリカは「中国製品を買うたびに中国の軍事力増強に手を貸している」というあたり、まるでトランプのツイッターから放たれたメッセージと読める。いったい何をしでかすかわからないのが中国人の特性であり、信頼関係、友情などという人間社会の最低限度のモラルはいつでも破棄される。GDPのごまかしとか、外貨準備の偽装など、中国人にとっては日常茶飯の身の処し方からすれば歯牙にもかけない些細な行為でしかない。 これらの所論がトランプのツイッターのメッセージと重なる。消された「通州事件」 中国は「あったこと」を「なかった」と言うが、「なかったこと」は「あった」と言う癖がある。 前者の典型例が1989年6月4日の天安門広場での学生虐殺である。事件後、一切の報道はなくなり、映像は絶対にテレビ画面には出てこなくなった。したがって、若い世代の中国人は「天安門事件」を知らない。中年以上の世代には「あれは外国の諜報機関が仕組んだ和平演変(えんぺん)」だとして、外国の陰謀だったと教唆している。 後者の典型は幻のフィクション「南京大虐殺」なるものだ。同時に必死で「なかった」ことにしたいのが、中国の殺人部隊が居留日本人を虐殺した「通州事件」である。 中国兵に惨殺された邦人は257人。その通州事件で犠牲となった多くの日本人たちの非命をたどったノンフィクション、血涙の作品が加藤康男氏の『慟哭の通州』(飛鳥新社)である。 かの「南京大虐殺」とかいう架空の事件は、中国がでっちあげた嘘放送の類いだった。このことはすでに120%証明されたにもかかわらず、前述したように、ユネスコはこれについての資料を世界記憶遺産に登録しようという中国の申請を認めてしまった。ブルガリア共産党出身のボコバが主導した。日本が貶(おとし)められているのに日本政府も外務省も対策が遅れた。しかし後日、日本は少なからず報復した。ボコバが狙った国連事務総長の座という選挙運動に協力しなかった。ユネスコへの拠出金を支払わない挙に出て、すっかり国連があわてた。日本の拠出金がないとユネスコはにっちもさっちもいかない。 でっちあげはともかく、現実に起きた日本人大虐殺の「通州事件」は、ようやくにして「アーカイブ」が民間人の手で設立され、歴史教科書にも一部だけだが掲載され、各地で研究と講演会が連続開催され、ユネスコの世界記憶遺産への登録申請が行われる。 しかし事件から長い歳月が流れ、いったいどれほどの日本人が、この事件の真相を知っているのだろうか。まして日本政府は、この事件を忘却の彼方へと自虐的に追いやり、戦後、問題として取り上げ、中国に抗議して賠償を請求することは一度もなかった。複眼で通州事件を見ると、これが盧溝橋事件直後に起きたという時系列的なポイントが重要になる。なぜ北京郊外に日本兵がいたかは説明するまでもない。居留外国人の安全を護るための今日でいうPKOであり、断じて「侵略」ではなかった。 そもそも日本は対外的に侵略戦争を行ったことは一度もない。 歴史教科書とメディアの偏向にすっかり洗脳されて、日本の戦争が「侵略戦争」だと信じている人がいる。それも依然として夥しい数にのぼる。歴史学会の知の荒廃は凄まじく、外国の代理人が暗躍する世界に堕した。左翼史家、左翼作家がはびこり、嘘の歴史解釈がいまも拡大再生産されている。それが「歴史探偵」とか「歴史学者」を名乗るのだから、惨状の深刻さがわかる。 抜本的に謙虚に歴史を見つめなおすと、何が見えてくるか。 日本は神武天皇の肇ちよう国こくから対外的に一度も侵略した戦争はない。秀吉の朝鮮出兵も、台湾への出兵も歴史的経緯をよく注意してみれば、侵略ではない。朝鮮合邦は致し方なく、渋々行った結果であり、満洲の建国は五族共栄の理念によった。大東亜戦争は米欧に仕掛けられて、致し方なく、立ち上がった。 戦争の真実はどこにあるのか? 田中英道氏の『日本の戦争 何が真実なのか』(育鵬社・扶桑社)は古代から近・現代までの日本の対外戦争史をたどり、これまでの左翼史観の誤謬(ごびゆう)を正し、徹頭徹尾、防衛的専守防衛に徹していた真実を描きつくした。中国で「兵」と「匪賊」は同義語 白村江から「刀伊(とい)の入寇」。そして元寇、秀吉の朝鮮出兵。薩英戦争、下関戦争はイギリスの侵略に対して立ち上がり、実際には日本の勝ちであった。なぜ教科書では負けたことになっているのか? 日清・日露は左翼的傾向の強い司馬遼太郎でも防衛戦争であることは認めている。第一次世界大戦への参加は日英同盟の結果であり、第二次世界大戦は欧米の理不尽な侵略にやむにやまれず立ち上がった、その精神には崇高さがあった。 キリスト教が布教されると植民地化されるということを、信長も秀吉も宣教師の言い分ややり方を見て、よく理解していた。 キリシタンバテレンにそまった大友藩などでは神社仏閣を破壊し、異教徒の女性を拉致して外国へ売った。バテレンたちは、やがて侵略に備える下準備、その工作のために派遣されてきたスパイでもあった。織田信長も秀吉も、そうした認識ができていた。したがって朝鮮を助けるために進出しても、「侵略をしない」というのは「刀伊の入寇」「元寇」で明らかである。 賠償を求めたり、土地を奪ったり、攻めて支配したりするということは一切しなかった。対馬から向こうへ追い返したら、それ以上は何もしない。西洋人が戦争に勝ったときのように、相手に対して多額の賠償を要求し、さらに占領して搾取しようとするということはなかった。植民地化し、略奪・収奪して利益を得るといった西洋の方法はとらなかったのである。こうした日本人の態度は、西洋的な侵略とは異なる。 第一次世界大戦中、マルタに送られた日本軍は日英同盟によって艦船の護衛にあたる任務についた。ドイツのUボートの潜水艦攻撃を受け、59人の日本軍人が犠牲となった。その慰霊碑はマルタのイギリス海軍墓地の中央部にある。日英同盟の結果、介入せざるをえなかったからだ。ドイツが濡れ手に粟でつかんでいた山東半島から南太平洋の島々を、日本軍は次々と落としていった。 「アジアにおけるドイツの権益を合法的に奪った。これを単なる漁夫の利だという人もいるが、日清・日露戦争を利用してドイツがアジア周辺で占領していったものを日本が粉砕した」(田中前掲書)だけの話である。 さて「通州事件」により、日本は朝野をあげて「暴支鷹懲(ぼうしようちよう)」の合唱になった。 一気に国論がまとまったため、結果的に泥沼の戦争に巻き込まれてしまった。つまり、日本を戦争に引きずりこむために計画された陰謀の一環だった。加藤康男氏がその書で結論したように、通州の虐殺には「冀き東とう防共自治政府保安部隊」と国民党との密約が存在していた。彼らはもっと大規模な同時多発テロを準備していた。 中国の「兵」の定義に留意しておく必要がある。 加藤氏は次のように言う。 「中国では『兵』と『匪賊』の差がほとんどないのが実情だった。満洲まで含めれば『匪賊』に『緑林(りよくりん)』(盗賊、馬賊)が加わる。兵が脱走して匪賊・馬賊となり、匪賊、馬賊が帰順して兵となるのが日常化していると考えればよい」(前掲書) まさにいまもそうではないのか。経済統計の嘘を公然と発表し国内外の投資家を欺(あざむ)きながら、高官がやっていることは資産の海外移転だ。どこに兵と匪賊の区別があるのか。 通州事件前夜、あまりに悪い治安状況があり、重税が課せられた北シナでは、自治政府が結成され、河北省のリーダーが段汝耕(いんじよこう)だった。ほかにも宋哲元(そうてつげん)らがいた。彼らは「親日派」とされ、うっかり日本軍は段汝耕らを信じたが、地下で蒋介石とつながっていたのだ。 そして実際の虐殺では、シナの正規軍は日本の保安部隊と自治政府の保安部隊を襲い、数時間の戦闘となるのだが、そのあとで起きた民間人の虐殺は、匪賊系、つまり蒋介石の別働隊である「藍衣社」系列の殺人部隊が行ったのである。不都合な真実は消してしまう 殺戮の舞台となった通州は歴史的に由緒が深い場所である。安禄山(あんろくざん)の乱は、この地から発祥した。 明治4(1871)年、台湾で日本人虐殺が起きたとき、北京へ談判に出かけた大久保利通は「台湾は化外(けがい)の地」と清朝から言質を得た。その帰路、大久保は通州に滞在した記録がある。 「明代以降、通州は北京に次いで繁栄した大都市だった。運河による交易で行きかう人と銀が、通州城内を活気づかせていた」(加藤前掲書)。 大久保は通州で一詩を詠む。「和(わ)なり忽(たちま)ち下る通州の水 閑(かん)に蓬窓(ほうそう:よしずの下がった船の窓)に臥して 夢自(おのず)から平(たいら)かなり」 通州の虐殺事件で、奇跡的に助かった妊婦2人の証言や生き残った新聞記者の実録は、当時から新聞でも報道されていた。 これまでの通州事件の証言、資料にはなかった新しい資料が近年になって出てきた。北京への留学生だった河野通弘は目撃者から貴重な談話を集めて記録をつくり、1995年になって手記を残した。当日、彼は北京にいて通州方面に爆撃によるのか、黒煙の上がるのを見て飛び上がった。 彼が気がかりだったのは、「拓殖大学の先輩にあたる中山正敏を訪ねて東京からやってきたばかりの亀井実の安否だった」。河野は「大使館の要請で通州へ救援と通訳に駆り出される」ことになった。 通州で見た残虐な地獄。河野通弘は克明にメモをとった。同級生だった亀井は非命に斃(たお)れていた。  憲兵隊の荒牧中尉も記録を残していた。 「事件当時の通州憲兵隊長は安部起吉憲兵少佐だったが、事件から一年が経過した昭和十三年八月、新たに荒牧純介憲兵中尉が赴任して来た」。この荒牧が、安部が作成した事件調書を筆写しており、終戦後まで長く保存し、昭和56年に私家版の『痛々しい通州虐殺事変』を残していた。憲兵隊の原本が存在しないため、この荒巻私家版が真実を物語ることになる。 また加藤氏は、この事件を外国人特派員がいかに報じていたかを探し当てた。フレデリック・ウィリアムズが『中国の戦争宣伝の内幕』を書いていた。これは近年、田中秀雄氏が翻訳した(芙蓉書房出版)。ウィリアムズは「古代から近代までを見渡して最悪の集団屠殺として歴史に記録されるだろう」「最も暗黒なる町の名として(通州は)何世紀のあとも記されることだろう」と書き残した。 そして直近になって復刻されたのが実際の目撃者、佐々木テンの独白録である。 これは自由社からブックレットとなった(『通州事件 目撃者の証言』藤岡信勝編著)。 佐々木テンは、中国人と結婚していたので「目撃」する側にいた。彼女は目の前で陵辱され虐殺されてゆく邦人女性たちの業、その非命をまぶたに焼きつけていた。その手記が発見され、日本を震撼させた極悪非道、残酷無比な通州事件の全貌が明らかとなった。 このことから現代を類推してみると、中国は進出した日本企業をいずれ人質化することは明らかではないだろうか。投資してもらったカネを返済する考え方は脳裏にはない。いずれすべてを奪うという野心が潜在していないのか。 筆者は2回、通州事件現場を取材している。 最初は15年ほど前で、まだ虐殺現場の旅籠(はたご)が残り、西海子公園の離れには慰霊塔もあった。軍の跡地らしき建物や、駅舎、南門が残っていた。イスラムの貧民街があった。 数年前に行くと、旅籠はビジネスホテルに改築されていた。南門と駅舎が残っていたが、あとは「ここが現場だったのではないか」と推測できる陰気な場所が残っていたくらいだ。直近に現場を取材した加藤氏によれば、通州事件の痕跡はきれいさっぱりと消され、旅籠跡には高層ホテルが新築され、あたりはマンションが建ち並んでいた。 通州を北京の「通州区」として合併させ、副都心とするために土地を地ならしする工事が進んでいる由。事件の痕跡をきれいさっぱり消し去れというわけだ。 中国のお家芸、不都合な真実は消してしまうことである。現代版「農村から都市へ」が生む悲劇 「農村から都市へ」(毛沢東)は武装ゲリラ作戦の基本方針だった。 それがいまでは中国の都市集中がもたらす国土の荒廃、農地の砂漠化と地方の過疎化というあべこべの現実が露呈した。歴史のアイロニーである。 EU統合の眼目はヒト、カネ、モノが自由に動きまわるという国境なき世界であり、EU加盟国の大半が加盟した「シェンゲン協定」は移動の自由を掲げた。 だが、実際に起こったのは難民の移動の自由というアイロニーだった。 アルメニアは人口が300万人とされたが、じつは250万人に減っていた。出稼ぎに外国へ出たからだ。ジョージア(旧グルジア)も同様で、450万国民のうち40万人が国を捨て外国へ去った。この両国の出稼ぎ先は旧宗主国ロシア、お隣のトルコ、ギリシャなどである。 バルカン半島の付け根にあるギリシャは度重なる債務危機によって、ATMからユーロを引き出そうにも1日60ユーロに制限された。ジョージアやアルメニアへの仕送りが途絶えた。マケドニアからの出稼ぎも周辺諸国に散った。アルバニアは600万人のうち45万人ほどがイギリスやドイツへ、コソボはせっかく独立したのに農家は空屋だらけ、どっとイギリスやフランス、ドイツへ出稼ぎに出た。ポーランドからは100万人がイギリスへ渡った。移住である。このことが原因の一つとなってイギリスはEU脱退を決めた。ルーマニアからも、ブルガリアからも。つまり「農村から都市」へ、田舎から都市へ、農業から産業地区へとEUのなかで、大移動が起きた。 同じ事態が中国で先だって起きていた。全人口約13億8000万のうち農村人口8億5000万人とされたが、現在の中国の都市化は51%となった。 冷戦終結直後、ニューヨークのタクシーに乗ると、「先週ユーゴから来た。道がわからないので教えてくれ」というドライバーが多かった。その前までは韓国人のタクシー運転手が目立った。 このパターンは工業化を急いだ折の日本でもあった。農村の過疎化は、都市部への集中を生み、産業のある企業城下町はたちまち人口が増えた。農村は荒廃し、村々は過疎化という難題、つまりコミュニティ崩壊という予期しなかった文明の報復に襲われる。 中国で起こったことはその巨大版だったのである。 農村から近隣の村々へ、出稼ぎへ出た。近郊のマンションが建ちはじめ、そのうち地方都市にも建築ブームが興り、建設現場に人手が不足した。賃金、現金収入に引かれて、農家の若者がどっと都市部へ出稼ぎに出た。 地方都市は交通のアクセスが悪く、輸出産業は沿岸部に集中する。若い女工、3K現場の人手不足を補うために、人集め業者が田舎の奥深くへ入ってリクルートする。こうして地方農村から近郊の農村へ。近郊の農村からは地方都市へ。地方都市からは給与の高い沿岸部へと、カネを求めて人々は移動しつづけた。 日本やEU諸国の人々の移動とは、決定的に異なるポイントが中国にあった。それは「都市戸籍」と「農村戸籍」という、確固たる戸籍制度である。日本のような住民票という制度は、中国にはない。戸籍の変更は特例以外認められない。移動した先でその都市の戸籍がないと医療も受けられず、子供は学校にも行けない。 結果、中国でいかなる悲劇が起こったか? 農村には子供と老人しかいない。農村の荒廃が激甚である。戸籍を取得できない地方出身者は北京で、上海で、広州で、天津で、大連で、ありとあらゆる大都市に固まって暮らし、子供たちは学校へやれないから(地方戸籍だから)、田舎へ帰して学校へ通わせる。中国人がカネしか崇拝しないワケ 農村人口8億5000万人の中国で、「都市化率が51%」とは、つまり、13億の人口の6億5000万が都市に住んでいるということだ。これはすなわち、農村から2億人が消えたことになる。日本の2倍の人口が農業を捨てると、自給自足はおぼつかなくなり、中国は食料輸入国に転落した。いま同じことがEU諸国と旧ソ連圏で繰り返され、農村の過疎化は農地の砂漠化を招来し、いずれ国土の荒廃をもたらすことになるだろう。 日本の常識は中国の非常識であり、日本人と中国人は180度異なる。 中国の統治者が用いてきた「偽り」と「騙しのテクニック」(これを中国では「厚黒学」と呼ぶ)を集大成させて統治しているから当面は維持可能である。いまの中国人がカネしか崇拝しないのは、カネ以外なにひとつ信頼できるものがないからである。中国人の心に「反日」と日本への強いあこがれが同居する奇々怪々ぶりが日本人には到底理解できない。 2012年に中国各地で起きたあの「反日デモ」は、公安がネットでデモ参加者を募り、抗議スタイルを指導した、当局のやらせだった。そのネットがいまでは中国共産党の最大の脅威となって、外国へのハッカー攻撃を仕掛ける一方で、国内のネットを監視し、政府批判をすぐさま削除するのが当局なのだ。笑い話だが、共産党は権力を維持するために、ネット対策に必死なのである。 陳破空氏の『常識ではあり得ない中国の裏側』(ビジネス社)には次のようなブラックユーモアが並ぶ。「気持ちは反米、骨の髄は親米」(望むのは「中国夢」ではなく「アメリカンドリーム」)。「官製反日と『肺を交換するための日本旅行』」(憧れの国に対する異常な愛情)。「国の政策はコメント削除と軍事演習だけ」(マイノリティ共産党をあざ笑うネットの民たち)。「国を愛する人々が国を滅ぼす」(「不買」「デモ」「吊し上げ」の次に来る「革命」)。「私の最大の欠点は清廉であることだ」(誇り高き共産党高官たちのカネと権力「名言集」)。「実は民主化を後戻りさせた『国父』孫文」(国民党、共産党双方が神格化した男の真実) 中国共産党のネット対策は熾烈、かつ本格的である。 政府を批判するネット記事は即座に削除する。ものの1秒もかからない。共産党をつねに正しいとコメントする「やらせ組」は一つのメッセージを書き込むと「8円もらえる」仕組みを完成させた。これを「五毛幇」という(同書では「五毛党」になっている。1元= 16 円の半分が五毛)。 これらのネットゲリラは「『愛国』の旗を振りかざし、自分たちは『政治的に正しい』と思いこんでいる。彼らはプロのネット集団である。(中略)中国共産党は総力を挙げて五毛党の拡大を図ろうとしている。2015年、共青団中央は1050万人の『青年ネット文明志願者』を」公募した。ボランティアとして、政府批判の書き込みを削除し、政府を礼讃するコメントを書き込む輩である。そのうえ中国の謀略は対外的にもネット上で進んでいる。   近年では、台湾の独立運動や香港の雨傘革命をなした民主派のホームページやネット議論に大々的に参入し、ネット議論をかき乱し、混乱させた。ハッカー技術でセキュリティガードの固い壁を突破し、自由陣営のネットに割り込んで世論をねじ曲げ誤導しようというわけだった。 ところが、彼らが突破した台湾独立運動のネット論壇は、じつは中国共産党が設置したものだった。つまり国内のガス抜きも、自らが仕掛けたファイアーウォールで自作自演しているわけである。だから中国はややこしい。腹黒いのである。結局、「中国共産党がやっているのはネット削除と軍事演習だけ」(陳破空前掲書)。

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    次の狙いは北朝鮮との秘密交渉か、トランプ流外交で糸口探る

    る選択肢を検討中と述べるなど軍事的緊張の激化に拍車が掛かった。最近の弾道ミサイル発射実験に関しても「中国の望みをないがいしろにした」と金委員長への批判を強めた。 しかしトランプ氏はその後のブルームバーグ・ニュースとのインタビューで「適切な状況の下で金委員長と会えれば光栄に思う」と条件付きながら金氏との直接会談の可能性に言及。直前のCBSテレビでも「彼は相当頭の切れるヤツだ。非常に若いのに権力を掌握することができたからだ」などと金委員長を持ち上げて見せた。 だが、この発言の直後のFOXニュースとのインタビューでは「彼は扇動的で恐ろしい。世界の脅威だ」と非難し、上げたり下げたりの発言を繰り返した。トランプ氏のこうした発言の真意は不明だが、北朝鮮側がこのメッセージの解釈をめぐって困惑しているのは間違いない。 トランプ氏は元々、金委員長との直接会談を排除していない。選挙期間中から「話すことのどこが悪いのか。何の問題もない。ハンバーガーでも食いながら話せば良い」などと述べており、会談自体については一貫性がないわけではない。 トランプ・ウオッチャーの1人は大統領の一連の発言について「硬軟のタマを投げて、追い詰められている北朝鮮を困惑、混乱させることが目的。北にとって見れば、シリアを攻撃したように何をやるか分からない“予見不能”な人物の発言だけに余計不気味だ」と指摘する。トランプの狙いは「秘密交渉」 トランプ氏の次の狙いはズバリ、北朝鮮との秘密交渉だろう。軍事的な手段は勇ましいだけで、危険が大きすぎる。仮に米側が巡航ミサイルや空爆などで先制攻撃をしたとしても、核関連施設や弾道ミサイル発射基地、指揮管制センターなどすべての施設を破壊するのは不可能。ましてや地下深くにある施設が多い。金委員長個人の“除去”もうまくいく保証はない。不確定要素だらけなのだ。 その結果、報復能力が相当残り、ソウルは無論のこと、それこそ北朝鮮が恫喝するように東京が火の海になりかねない。報復攻撃を招かなくても、限定的な先制攻撃は核開発を数年遅らせる効果しかあるまい。この点は国防総省が冷徹に分析しており、トランプ氏も日韓の同盟国の意向を無視して軍事行動には踏み切れないだろう。 だからこそ、トランプ氏はあれほど非難をしてきた中国におべっかまで使い、北朝鮮へ圧力を掛けさせようと、いわば“下請け”に出さざるを得なかった。しかし中国がうまく北朝鮮を抑えられるのか見通しが付かないうえ、対中貿易交渉で中国側に主導権を握られる恐れが強く、その代償は大きいと言わざるを得ない。トランプ米大統領が主催した夕食会に出席した中国の習近平国家主席夫妻=米フロリダ州パームビーチ、4月6日(ロイター) トランプ政権の当面の北朝鮮政策は軍事、経済両面で、北朝鮮に対し圧倒的に圧力を掛け、金委員長を交渉のテーブルに就かせ、核兵器開発を放棄させることにある。しかしその前に、交渉入りに向けた環境を整えることが不可欠。そのためには、水面下での秘密交渉が絶対に必要なのだ。 トランプ氏は少人数の側近による手法を好む。秘密交渉はそのアプローチにも合致する。トランプ氏の外交問題の師でもあるキッシンジャー元国務長官がニクソン政権の補佐官(国家安全保障担当)にあった時、電撃的な中国との国交樹立に秘密交渉を仕掛けたのは歴史的な事実だ。 またトランプ氏が尊敬するレーガン元大統領が敵対するイランに当時のマクファーレン補佐官(同)を派遣し、レバノンで拘束されていた米国人人質を解放するために秘密交渉を行ったということもあった。この工作では、マクファーレン補佐官がイラン側に拘束され、国外追放されるというおまけまでついた。 こうした例に学び、中国の北朝鮮に対する緩慢な圧力に業を煮やしたトランプ氏が側近に北との秘密交渉を容認することは十分考えられる。行われるとすれば、恐らくは欧州のどこかになるだろう。その時、日本政府に通告があるのかどうか。米中国交樹立の“ニクソン・ショック”では、日本側に通告されたのは、正式発表の3分前だった。

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    トランプが手を結ぶ トウ小平ファミリーの「大富豪」

    だ。ジャーナリストの相馬勝氏がリポートする。* * * この“密会”のホストは同ホテルのオーナーで、中国有数の保険会社「安邦保険」グループ会長の呉小暉。中国の「改革開放の祖」トウ小平の孫娘の夫でもある。主賓はジャレッド・クシュナー。ドナルド・トランプ大統領の娘婿で、トランプ政権の大統領上級顧問。大統領選からわずか1週間後のことだった。当選祝いの乾杯は1本2千ドル(約22万円)以上もするボルドーワインが何本も惜しげもなく空けられた。中国・深セン市内の公園にある故鄧小平氏の肖像が描かれたスローガン=2月9日(共同) 呉小暉は謎多き人物だ。メディアの取材に応じたことは1回もなく、その経歴もほとんど知られていない。彼の名前が知られるようになったのは2014年、安邦保険グループがウォルドーフ・アストリアを買収したことからだ。 ウォルドーフはアメリカを代表する世界的に著名なホテルであり、ニューヨークを訪れる歴代の米大統領のほか、日本の天皇陛下や首相ら各国の要人が宿泊する高い格式を誇る。 それが、当時はまだ創業して10年しか経っていない中国の保険会社が買収したことで大きなニュースとなった。 ことに相手は中国企業だけに、盗聴装置などを取り付けられたら安全保障上の脅威にもなりうるということで、オバマ大統領は定宿リストからウォルドーフを外したほどだ。 その安邦保険グループの総帥、呉は1966年10月生まれで現在50歳の若さ。故郷の温州市平陽県政府の工商局職員という末端の役人としてキャリアをスタートさせた後、これまでに3回結婚している。 2人目の妻は浙江省の副省長や杭州市市長を務めた人物の娘だ。1990年代、役所を辞めて、温州で起業した呉は自動車リースや販売などのビジネスで大きな成功をおさめた。彼の会社は地元の大企業である上海自動車グループのなかで、最大の販売成績を残したのだ。それほど車を売ることができたのは、省政府などの地元の役所や企業に大きな影響力をもつ義父のおかげだったことは想像に難くない。 しかし、呉は間もなく2人目の妻と別れ、2003年、3回目の結婚をした。その相手がトウ小平の孫娘だった。彼女はトウ小平の二女、トウ楠・元中国科学技術省次官の長女。彼女の同僚の紹介で呉と知り合いゴールインした。これで、呉は高級幹部子弟(太子党)グループの一員となった。米海軍基地が見渡せるホテル米海軍基地が見渡せるホテル 結婚の翌年、呉は太子党の人脈を生かして、中国建国当時の軍最高幹部で、外相や副首相も歴任した陳毅元帥の息子の陳小魯とともに、安邦保険を創設。安邦はこの10年ほどで飛躍的に成長した。太子党のコネクションを利用し中国政府の強力な支援を得て、3500万人もの顧客を獲得したからだ。2012年12月、中国共産党総書記に就任後、広東省深セン市を訪れ、鄧小平氏の像に献花する習近平氏(新華社=共同) 安邦は中国では私営企業ながら、時として中国政府の息がかかった“公営企業”と言われるが、まさに政府の意を受けて、海外でのビジネス展開を急拡大している。19億5千万ドル(約2400億円)でウォルドーフを買収したのもその一環だ。 米国内では昨年10月、サンディエゴにある高級ホテル「ホテル・デル・コロナド」の買収に成功したかにみえたが、米外国投資委員会によって「待った」をかけられた。ホテルは米海軍基地と隣接し、しかも海軍の特殊部隊「シールズ」の本部が置かれているからだ。「米国の国家安全保障上の脅威になりうる」との判断だが、これはウォルドーフ買収の際の懸念と同じだ。 その呉とジャレッド・クシュナーが知り合ったのはいつごろか。米紙ニューヨーク・タイムズによると、呉がウォルドーフを買収した翌年の2015年ごろで、同年6月まで4年間、ニューヨーク州金融サービス局長を務めていたベンジャミン・M・ロウスキーの紹介だったとされる。 ロウスキーは局長を辞めたのち、金融コンサルタントとして活動。顧客の一人が米中堅生保「フィデリティ・アンド・ギャランティ・ライフ」の買収を手がけていた呉だった。呉はいったん同社の買収で合意したと発表したものの、その後、州金融サービス局の命令で、安邦の株主などの詳細な経営情報の開示を求められ、買収は現在、暗礁に乗り上げている状態だ。 呉はデッドロック状態を打開しようとロウスキーに接触。逆に、ロウスキーから彼の顧客の一人であるクシュナーの存在を知らされた。なぜならば、クシュナーも大きなビジネス案件を抱えており、資金を提供してくれる支援者が必要だったからだ。 当時のクシュナーはニューヨーク・マンハッタンの5番街に位置する41階建て「5番街666ビル」の再開発計画を構想していた。666ビルはクシュナーが2006年に18億ドルもの巨費を投じて買収。ニューヨークではロックフェラーセンターに隣接する最高級物件。買収額は当時のニューヨーク史上最高値で、以前の持ち主の買収額の3倍だった。 クシュナーはこの買収劇で、ニューヨークのビジネス界における有望な若手実業家として一躍名前を知られる。そのころ社交界で知り合ったのが、いまの妻のイバンカ・トランプだった。言わずと知れたトランプ大統領の娘だ。中国資本との不透明な関係中国資本との不透明な関係 クシュナーはもともと、司法関係に進みたかったらしい。ハーバード大で美術を学び、卒業後、ニューヨーク大でMBA(経営学修士)と法学修士を修得。ニューヨーク州検察官事務所でインターンをしていたが、そのころ、祖父の代からの不動産会社を経営していた父チャールズが脱税で逮捕、2年間の懲役刑で投獄。長男のクシュナーが「クシュナー不動産」の会長職を引き継ぐことになった。 クシュナーは父が釈放されてからも会長職を継続。本来ならば、司法の道に入るはずだったクシュナーには天賦の経営の才能があったようで、これまでの10年間で1200件ものプロジェクトを手がけ70億ドルの売り上げを上げたという。 しかし、その内実はというと、「火の車」らしい。同紙によると、負債額は38億ドルに達している。苦境のクシュナーに救済の手を差し伸べたのが呉なのだ。呉にとっても米大統領の娘婿やそのファミリーに食い込む、またとないチャンスだ。ビジネスでも、マンハッタンの中心部の最高級物件への投資だけに悪い話ではない。 11月16日の密会は、クシュナーがホワイトハウス入りした後の算段を話し合う場だった。そこには父親のチャールズらもいた。その1週間後の23日、同じ場所で、呉はチャールズらとランチをともにした。その後、呉は喜色満面の笑みを浮かべて、チャールズらを見送り、「皆さんは愛すべき人物だ」と独り言を口にした。交渉は上首尾だったことをうかがわせるエピソードだが、クシュナー不動産が呉の手に落ちた瞬間だったかもしれない。ドナルド・トランプ氏(右)と娘イバンカさん(中央)、ジャレッド・クシュナー氏=2016年6月、ニューヨーク(ロイター=共同) いや、すでにクシュナーの手がけているビジネスには多くの中国資本が参画していることで知られている。クシュナーは昨年11月、ニュージャージー州ジャージーシティで、トランププラザに隣接する高層の高級マンションを完成させたが、建設費用の2億ドルの4分の1に当たる5千万ドルは中国資本であると伝えられる。とはいえ、クシュナー不動産では出資先を明らかにしていない。中国資本との不透明な関係だ。トランプ─馬─習近平トランプ─馬─習近平 クシュナーは新たなビジネスとして、医療や不動産検索のIT機器の開発に乗り出しているが、新事業に出資しているのが中国電子商取引最大手アリババ集団の馬雲会長である。馬の投資額は1830万ドルといわれる。1月9日、ニューヨークのトランプタワーで会談後、握手するアリババグループの馬雲会長(右)とトランプ氏(ロイター=共同) 馬といえば、今年1月、ニューヨークで、大統領就任前のトランプと会談した。彼は「中国には3億人以上の中間所得層と海外商品への旺盛な需要がある」などと語り、米国製の衣料品などを中国で売り込み、5年間でアメリカ国民100万人の雇用を創出する「BABA」計画について話し合ったという。トランプは会談後、馬と一緒に記者団の前に現れており、話し合いに満足した様子だった。 その馬は習近平と極めて親しい間柄である。習近平が浙江省トップ時代、民間企業育成のために地元の優良企業に補助金を出す制度を設け、その第1号がアリババだった。 当時の同社は経営規模が小さかったので、省政府からの補助金の話を聞いた馬は「なぜ、ウチのような会社に…」と習に漏らしたところ、「あなたが経営しているからだ」と習は笑顔を見せた。いまも習の外遊には経済代表団の一員として馬が随行することが多い。北京の外交筋は「トランプ馬会議も中国側の深謀遠慮とみてとれる」と指摘する。 トランプは新たな政策提言機関として「大統領戦略・政策フォーラム」を設立。その議長は運用資産3千億ドルを超す世界有数の米大手投資会社「ブラックストーングループ」の会長兼最高経営責任者であるシュワルツマンだ。 米大手投資会社であるリーマン・ブラザーズを辞めたシュワルツマンがブラックストーンを興す際、同社の株式の9.37%に当たる30億ドルを出資したのが、中国の政府系投資会社「中国資本有限公司」だった。ブラックストーンには多額の中国マネーが流れ込んでいるのだ。 このためか、今年1月中旬、ダボス会議に出席した習近平は多忙なスケジュールの合間を縫って、シュワルツマンらと昼食をともにしたほどだ。シュワルツマンはまさにトランプと習近平を結ぶチャイナコネクションの重要人物なのだ。 さらに、トランプ自身もクシュナーに劣らず、チャイナマネーに手を染めている。トランプの持ち株会社の株の3割に当たる約9億5千万ドル分は中国の4大国有銀行のひとつ中国銀行を中心とする中国資本が有しているという。ニューヨークのトランプタワーの最大のテナントの一つも中国最大の民間銀行、中国工商銀行なのである。 強面のトランプだが、トランプ帝国には膨大な額のチャイナマネーが流れ込んでいる。紅い中国金脈がトランプ政権を蝕む日も遠くないかもしれない。【PROFILE】そうま・まさる/1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)。関連記事■ 陰謀論研究、トランプ当選の背後にフリーメイソン?■ 本田圭佑モノマネのじゅんいちダビットソンが勧めるビール■ 大前研一氏 「トランプ政権は遠からず崩壊する」の根拠■ 中国でトランプ氏支持者急増!? 現地ファンクラブ管理人を直撃■ トランプ氏所有の大邸宅 126部屋あり1泊1000ドルで宿泊可

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    〝四面「核」歌〟状態の日本が生き残る道

    戦の終結とともに、米国とソ連はそれぞれが保有する核兵器の数を削減してきた。しかし、その一方で北朝鮮や中国は核戦力を増強し、脅威を増している。日本を取り囲むこれらの核保有国の具体的な脅威とは。日本がとるべき戦略とは。核戦略・安全保障の専門家3人に語ってもらった。編集部(以下、――)北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まっています。今年に入っても2月、3月と続けて弾道ミサイルを発射していますが、狙いは何でしょうか。また、その技術はどれくらい進化しているのでしょうか。日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター 主任研究員の戸崎洋史氏神保:北朝鮮は、自らの核抑止力を技術的に証明することに躍起になっています。かつては核開発を進めることを通じて米国との直接交渉を目指していましたが、現在は核兵器の実戦配備を通じて事実上の核兵器国としての承認を欲している状況です。核弾頭の小型化、ミサイル実験の多種化、弾頭の大気圏再突入技術の誇示など、全てこのロジックに沿っています。小泉:核爆発装置があるという段階から、実際に戦略として核を使用できる段階まで進んできているということですね。ただ、北朝鮮は面積としてはかなり小さな国で、先制攻撃を受けた場合に核兵器が生き残る能力にはかなり疑問があると思いますが、いかがでしょうか。先制攻撃から生き残ってミサイルを発射できてもミサイル防衛もすり抜ける必要があるわけですし。戸崎:確かに、他の核保有国と比べると開発は初期段階ですが、恐らく自らが世間一般の常識の枠を超えた「非合理的」な存在として見られていることを知っていて、初期段階ながらも、何をするか分からない、核兵器をいつ使うか分からないという恐怖心を他国に抱かせようとしている側面もあるのではないでしょうか。さまざまな計算の上での行動だと思います。小泉:非合理性の合理的な利用、もしくは戦略的曖昧性といったところですね。神保:北朝鮮は抑止力について3層の戦略を考えていると思います。1層目は、韓国の都市部や米軍基地に対する通常戦力による奇襲能力や核兵器の打撃力を誇示して、米韓同盟にくさびを打ち込むこと。2層目は、日本の都市や在日米軍に対するミサイル攻撃能力の確保。過去10年程度進めてきた中距離弾道ミサイル・ノドンの連続発射実験、移動式発射台の運用、ミサイルの固体燃料化などは、ミサイル防衛を難しくさせています。 そして3層目は、米国に対して長距離弾道ミサイル・テポドン2改良型や開発中のKN−08などの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を本土に打ち込める能力を示し、米国と同盟国を切り離し(デカップリング)、拡大核抑止の信用性を揺るがすこと。これらが彼らの戦略だと思います。北朝鮮が攻撃対象にしやすいのは日本戸崎:その中で、特に危険なのは日本でしょうね。北朝鮮にとって、朝鮮半島統一という将来的な目的のためには、韓国に核戦力で壊滅的な被害を与えることは望ましくないことから、最も実際の攻撃対象としやすいのは日本でしょう。また、日本を威嚇して朝鮮半島事態への関与から手を引かせれば、米国による韓国防衛コミットメントの遂行も難しくなります。その意味でも、日本は3カ国の中で一番適当なターゲットだと思います。小泉:国力やテクノロジー面で劣勢な国は、必ずその制約の中で何かしらの軍事戦略を考えるものです。そういった意味では、北朝鮮も必ず相手の隙をつく作戦を考えてくると思われますので、侮れないですね。  北朝鮮が戦略的曖昧性を最大限に発揮する中で、米国は韓国との合同軍事演習で朝鮮半島上空に爆撃機を飛ばすなど、その程度の能力では核抑止は確立していないと北朝鮮に知らせる行動を繰り返し起こしています。これはイタチごっこのような気がしますが、どこかで均衡して交渉に向かうことはできるのでしょうか。日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター 主任研究員の戸崎洋史氏戸崎:難しい問題ですね。互いに相手の能力や意図を十分に認識しているつもりが、実際にはそうではない部分も少なくないと思います。北朝鮮が核を持ち、増強しようとする目的をどう捉えるかによっても変わってくるでしょうね。現体制の維持という防御的な目的であれば、交渉での解決を目指せるかもしれませんが、核を背景にした挑発などによって攻撃的な目的の達成を狙っている場合は、抑止など強い圧力をかけないと北朝鮮はチャンスだと判断しかねません。 しかも、北朝鮮の狙いも、自らの核戦力の強化とともに変わる可能性があり、その動きを絶えず慎重に把握していないと間違った政策判断を下すことになりかねません。――トランプ大統領は就任前に、北朝鮮への対応は中国に任せておけばいいという放任的な発言もしていました。小泉:トランプ大統領の選挙中の発言は正直あてにならないと思います。選挙戦中の発言とその後の行動が合致していないことが多々あります。選挙戦中は北朝鮮なんてどうでもいいと言っていましたが、現実的に彼が米国の安全保障戦略を仕切る立場においては、そうは言っていられないでしょう。神保:大統領選挙期間中のトランプ大統領に明確な北朝鮮政策があったとは思えません。しかし今年2月のマティス国防長官の韓国・日本訪問や、日米首脳会談の際のミサイル実験への対応、3月に実施されている最大規模の米韓合同軍事演習を通じて、トランプ政権が北朝鮮への軍事的警戒を強めていることは明確になりました。オバマ政権の「戦略的忍耐」が失敗したという認識のもとに、現在はマクファーランド大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)の下で北朝鮮政策の見直しが行われているとも伝えられています。  しかし、対北朝鮮政策が大幅に変更されることは考え難いと思います。北朝鮮の影に隠れた中国の核戦力――北朝鮮に関する報道の影に隠れて表に出ない中国の核戦力も日本にとって脅威となるのでしょうか。戸崎:中国は、核弾頭を250~300発、米国に届くICBMを少なくとも50基以上、日本を対象にできる中距離ミサイルを数百基保有していると言われています。ただし、中国の核戦力における透明性は低く、保有する核弾頭数も運搬手段の種類・数も公表していません。運搬手段については、海(潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM))、陸(弾道・巡航ミサイル)、空(爆撃機)と多様化しています。 さらに、米ロ間では、中距離ミサイルを全廃する中距離核戦力(INF)全廃条約を締結していますが、中国はその締約国ではなく、この中距離ミサイルも保有しています。このように、核運搬手段の多様性という点においては、他の核兵器保有国を上回っている状況です。 核戦略に関して、中国は一貫して「最小限抑止」、「先行不使用」、「非核兵器国には核兵器を使わない(消極的安全保証)」、という3点を主張してきましたが、核戦力が拡大していく中で変化する可能性も指摘されています。最近では、1基の弾道ミサイルに数発の核弾頭を載せたMIRV化ICBMを配備したという話もありますが、これは先制攻撃に有効な兵器のため、先行不使用政策を本当に今後も継続するのかという懸念が生じています。 日本にとっては核・通常両用の中距離ミサイルが脅威ですが、核を後ろ盾にしつつ、通常戦力を積極的に活用する戦略をとってくるのではないかと思います。核戦力と通常戦力の双方への対応も考えなければいけないという点で、北朝鮮以上に対応が難しいと思います。小泉:中国は、北朝鮮やロシアと違って通常戦力をどんどん近代化させているので、核に頼らなければならない場面は逆に減っていくと思います。日本にとって中国の核が問題になるとすれば、尖閣諸島などで米国のコミットメントが後退した場合に、通常戦力ではなんとか中国に対応できたとしても、核を使用されることになれば何もできなくなるというシナリオでしょう。 ただし、トランプ大統領は尖閣諸島においても日米安保条約を適用すると明言しました。その意味では、トランプ政権に変わったことで日本が中国の核を今まで以上に気にする必要が出てきたということはないと思います。中国の核開発と米ロ核軍縮の行方は?――中国の核弾頭数が明らかにされていないことを踏まえると、中国が数年後に米国やロシア並に多くの核弾頭を持つこともあり得るのでしょうか。小泉:それはさすがに難しいでしょうね。米国の分析にもありますが、中国で生産できる核分裂物質の数から考えると、そこまで多くの核弾頭を作れないと思います。戸崎:もし仮に、核弾頭数を大幅に増やすことができるとしても、どこまで増やすのかは、中国がどのような核戦略を目指すのかによっても変わってくると思います。米ロと同数程度の核弾頭を持つことで、米ロに並ぶ大国としての地位を築きたいと考えるのであれば、米ロの核弾頭数に並ぶまで数を増やすことを考えるかもしれません。 一方、米国に相当程度のダメージを与えられる能力を持つことで中国の目標達成に十分だと考えるのであれば、そこまで核弾頭数を増やす必要はないと考えるでしょう。神保:冷戦期の米ソ間の「戦略的安定性」を中国は異なる文脈で追求していくと思います。かつて米ソは数万発の核兵器を保有し、互いに第二撃能力を保持することを通じて、確実に報復が可能な「相互確証破壊」を基礎に据えて、相互抑止を模索しました。 しかし中国は自らの核心的利益を保護するために、米軍の介入を阻止する通常戦力を重視し、核戦力はその延長に位置付けられています。中国にとって重要なのは米国に対する限定的な確証報復(米本土の都市部を確実に攻撃すること)であり、米国と同じレベルの核戦力(パリティ)は目指さないと思います。したがって米中・中ロの間で核弾頭数では非対称の「戦略的安定性」をつくることができるかが、大きなポイントになります。――中国が核開発を進める一方で米国とロシアは2国間で核軍縮を進めてきましたが、この構図は続いていくのでしょうか。トランプ大統領は核戦力を増強する姿勢を見せ始めています。未来工学研究所客員研究員の小泉悠氏 小泉:米ロ間では18年までに戦略核弾頭(長射程で破壊能力の高い核兵器)の数を1550発まで削減する新戦略兵器削減条約(新START)という条約を結んでいます。ここまでは減らせるかもしれませんが、さらに1000発まで減らすことはできないでしょう。ロシアは中国を恐れているため、米国との2国間でのさらなる軍縮は避けたいと考えているからです。 そして、核軍縮に中国を巻き込めないのであれば中距離ミサイルを持てるようにすべきだというのがロシアの主張です。先日、ニュースでも報じられていましたが、とうとうロシアが米国とのINF全廃条約を破ったことは、その主張の強い表れだと思います。 米国にとっては、中国から飛んでくる核弾頭はせいぜい100発程度でしょうが、ロシアの場合は距離が近く、もっと多くの核弾頭が中国から飛んでくる可能性があります。保有する核弾頭数を1000発程度まで減らすと、ロシアは米国の1000発に加え、中国の数百発を気にしなくてはならなくなるため、新STARTを超えたさらなる削減はのまないでしょう。日本にとってのロシアの脅威とは?――ロシアの核戦略の中には、日本を核攻撃する計画もあるのでしょうか。小泉:ロシアの参謀本部の中には日本を核攻撃するオプションも用意してあるのでしょうが、標的は自衛隊の基地というより米軍基地でしょう。日ロ間の軍事的な対立レベルは低いので、日本を攻撃する優先度はそこまで高くないと思います。 ロシアが本当に核戦力を使うのは、日本と通常戦力で戦って劣勢になりそうな場合でしょうが、そのシナリオ自体が考えにくいです。今ヨーロッパでロシアと緊張が高まっているのは、ソ連崩壊後、ロシアの勢力圏だと思っていた地域が西側に取り込まれそうになっているからです。――昨年の日ロ首脳会談では北方領土問題が話題になりましたが、より重要なのは、平和条約締結によりロシアの危険度を下げることなのでしょうか。小泉:日本にとってのロシアの危険度はそこまで高くはないものの、日ロ間でずっとわだかまりが続くことは戦略的に望ましくないため、それを取り除こうとはしていますね。一番の原因は相互不信だと思います。結局日本は米国の同盟国であり、そんな国に領土を譲り渡すのは心配だ、ということをロシアは繰り返し言っています。慶應義塾大学総合政策学部准教授の神保謙氏神保:過去数年間の航空自衛隊のスクランブル数は、冷戦期の最も多い時期に匹敵します。中国機への対応が急速に増えたことに加え、ロシア機も過去3年ほど活発な活動を続けています。 日本は新しい防衛大綱のもとで力点を中国と接する南西にシフトしたいのですが、北方から離れられない状態であり、ロシアが自衛隊の構造改革を遅らせているともいえます。日本は中国とロシアの二正面で防衛態勢を維持する余裕はないので、ロシアとできるだけ信頼関係を深めて中国に注力できる状態にしていく必要があります。さらに外交戦略まで踏み込むと、日本は中ロ分断を進める必要があるでしょう。戸崎:中ロを分断するという意味においては、日本は基本的価値、あるいは国際秩序などよりは、もっと「利益」の側面に焦点を当てる方が良いと思います。神保:その通りだと思いますね。ヨーロッパから見たロシアとアジアから見たロシアは違い、アジアにとっては機会主義的な見方ができると思います。小泉:ロシアは、アジア太平洋にはそんなに不満を抱いているわけではなく、むしろ期待を持っています。ヨーロッパの国々と付き合ってもそこまで高度成長を望めないので、アジアに入っていくというポジティブな姿勢でいます。これまでは中国という非常に大きなパートナーがいましたが、その次に日本とどんな関係が結べるかというのがロシアの関心だと思います。その時に日本がロシアをうまく引き付けることで北方の脅威を軽減し、南西側の脅威に専念できるようにすることが、安保上の重要な方策でしょう。日本が生き残るための具体的な戦略とは?――北朝鮮、中国、ロシアという核保有国に取り囲まれる中、日本が生き残るための具体的な戦略について教えてください。神保:核戦略は単純なものではなく、それぞれの国、地域の特色に応じた戦略が重要で、日本はそれに適合した形での抑止戦略を丁寧に作り上げていく必要があります。その前提として、米国のアジアにおける地域的な核戦略が明確に定義されている必要があります。具体的には、米国が北朝鮮や中国の戦力構成に対してカスタマイズした兵器体系と宣言政策を明示していることです。 日本については、海上配備型迎撃ミサイルのSM−3ブロック2Aの配備計画を着実に遂行し、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)との二段構えのミサイル防衛態勢を構築するとともに、早期警戒、破壊措置命令が運用レベルで維持できるように整えておくことが重要だと思います。それでも穴があるようであれば、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)を導入してさらに多層的な迎撃態勢を整えていく必要があるでしょう。韓国の米軍烏山基地に到着した最新鋭迎撃システム「THAAD」の関連装備=3月6日夜(在韓米軍提供・共同)小泉:日本独自の敵基地攻撃能力も視野に入るのでしょうか。神保:実際の運用は難しいのではないかと思います。日本を射程におく北朝鮮のノドンについて言えば、発射までに要する時間が短い上に、抗堪化(敵の攻撃の中で生残り,その機能を維持できるようにすること)・秘匿化が進み、移動式発射車両を利用するとなると、これらの策源地を確実に攻撃できる能力を持つことは至難の技です。 そう考えると、日本にとっての有効な資源配分の在り方は、確実なミサイル防衛配備と拡大核抑止の信頼性の担保の2点セットであり続けるのではないかと思います。戸崎:おっしゃるとおりですね。ただ、北朝鮮による日本への核攻撃に対して、もし米国、韓国による防衛が間に合わないという状況になったときには、日本として敵基地攻撃をせざるを得ないような状況に追い込まれるかもしれません。 また、米韓が自国だけでなく日本の防衛も目的として敵のミサイルや指揮命令系統を攻撃するという梃子(てこ)、のようなものを常に与えておく必要があると思います。日本単独で24時間体制の監視・攻撃を行うことはほぼ不可能なので、米韓との協力体制を強化しておくことがいずれにしても不可欠です。米国が日本に期待すること――仮に日本がTHAADを配備したとすると、中国からの大きな反発を生むことになるのでしょうか。神保:韓国のTHAAD配備とは少し意味合いが違うと思います。中国が最も気にしているのは、新たに前方配備されたレーダーにより、核能力をはじめ中国の軍事情報が収集されてしまうことです。日本は、THAADの運用に必要なXバンドレーダーを既に地上に配備しているので、韓国のTHAAD配備と同じ目線で反発するということはないと思います。 ただ、一般論として新しい兵器体系が日本に入ることに対しての反対は間違いなくあるでしょう。戸崎:韓国がこれまでミサイル防衛に慎重だったのは中国との関係に留意していたからですが、その韓国が16年に入ってTHAAD導入を決定したこと自体に中国は強い不快感を抱いています。さらに、それが日米韓のミサイル防衛を通じた連携を強める可能性があるということも、反発を強める一因になっていると思われます。――米国が日本に対して、新たな役割として期待していることはありますでしょうか。神保:自らの防衛や地域間協力の責任をもっと担ってほしいという考え方はオバマ政権以前から継続してあると思います。 中国のA2/AD能力(遠方で米軍の部隊を撃破し、中国軍の作戦地域に進出させないようにする能力)拡大により、米国の前方展開のコストは飛躍的に増えています。その中で同盟国として期待されるのは、やはり抗堪性の高い形での駐留能力、つまりは米国がプレゼンスを確保できる環境を整備することだと思います。 そうすると、日本のミサイル防衛も首都防衛だけでなく、在日米軍基地防衛の在り方を考える必要がありますし、敵の攻撃に耐え得るような地下施設やコンクリートの厚い滑走路の建設、修復能力の強化、場合によっては、嘉手納、岩国、三沢などの米軍基地が攻撃されたときに他の航空基地や民間空港が使える体制を整える必要があるでしょう。 トランプ政権になって、米軍の駐留経費負担の問題も議論されます。労務費や光熱費といった使途もいいのですが、日米が協力して在日米軍基地の抗堪性の強化に投資するとすれば、非常にピントの合った議論ができるのではないかと思います。現代の戦略環境に沿った形で同盟を位置づけるためにお金を使うことが重要だと思います。

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    金正男暗殺に揺れる中国 「人類史上最悪バブル」につける薬はあるか

    金正男(キム・ジョンナム)暗殺事件は、いまだ世界の大きな関心を集めている。そこで注目されているのが、中国の出方である。北朝鮮の核実験による国連安全保障理事会の制裁強化をうけて、中国は北朝鮮からの石炭輸入を年内一杯禁止する処分を行った。これに対して北朝鮮は反発している。北朝鮮への各国の経済制裁が本当に実効性を持つならば、同国の経済失速はさらに鮮明になるだろう。他方で、東アジアの経済や安全保障のリスクを考える上で、中国経済の動向も大きな関心事であることは疑いない。高層マンションの建設ラッシュに沸く中国安徽省合肥市。不動産開発投資は15年に比べ大きく伸びた=2016年10月(共同) 中国経済は潜在的なリスクを抱えたまま、現時点では「安定」した状態にある。2016年の実質経済成長率も、6%台と国家目標の範囲内に落ちついた。もちろんGDP統計の真偽をめぐる議論は今も識者の間で沸騰中だ。ただ経済成長率が高いか低いか、その正確な数値は度外視しても、中国経済が短期的なリスクに直面していることは明白である。そのリスク自体、短期的には中国政府の財政と金融双方の政策スタンスに大きく関わっている。 2014年夏に筆者は人民日報の国際版である『環球時報』に、中国の「バブル」についての“楽観的”な見通しを書いた。バブルの破裂、つまり不動産価格の急激な破たんからの経済の大失速は当面にないだろう、という見立てである。この“楽観的”な見通しがうけたのか、中国当局の意見を代理する人民日報の国際版にかなり大きく採用された。 その後、AIIBへの参加についても寄稿するように要請があったが、日本は参加すべきではない、という原稿を書いた。ただしこれは中国の国策に背いたようで(笑)、現時点でその原稿がどうなったのか、一切音沙汰がなくなっている。筆者としてはとんだムダ働きであった。だが、かの国の報道姿勢の一端を知ったのはいい経験である。閑話休題。 ところでその論説ではバブル破裂を回避するためには、積極的な経済政策を行うべきだと指摘した。特に金融緩和政策を行うべきだというのが趣旨であった。そして財政政策(公的部門主導の不動産投資の過熱)はその中身こそが、中国のバブルを生み出しているので、抑制していくべきだ、という主張だった。日本の経験からいえば、90年代初めのバブル崩壊とその後の経済失速は、金融の超緊縮とその後の維持に原因があったことを教訓としている。 だが、中国の経済政策は筆者の親身な(?)アドバイスとは真逆の方向に傾斜していった。 一つは財政政策の拡大である。これについては中国当局が、エコカー減税(自動車取得税を10%から5%へ引き下げ。現行は今年度末まで“減税”延長、税率は7%に)、公共事業の増加で対応した。これらは日本でも、リーマンショック後の対応策として政府がとったものと同じである。エコカー減税も規模は縮小しているが継続中であり、また公共事業も継続中である。問題はこの公共事業の中身である。「人類史上未曾有の土地バブル」 さきほど中国のバブルは「公的部門主導の不動産投資の過熱」がその実体だと書いた。中国のGDP統計をみてみると、先進国と比較して、投資に過度に傾斜している。その主因は、冒頭に書いたように不動産投資が内実である。この不動産投資は、地方政府とその関連企業、ディベロッパーが連携して行っているケースが大半だ。みかけは「民間」にみえても、実際は地方政府の「公共事業」的色彩のものが大半である。つまり公共事業という形で、地方政府を主体にした不動産価格のコントロールを行っている。だが、そのコントロールは「人類史上未曽有の土地バブル」という異常事態を生んでしまい、事実上失敗している。北京にある中国人民銀行本店(ロイター) 公共事業の非効率性は日本でもそうだが、中国でも顕著である。しばしば話題になるように、地方都市にある高級マンションやオフイスビルの入居率が極端に低い。いわば「空き家」を投資目的のためだけに転売して、それで利ざやを稼いでいるのだ。これは日本のバブル期でもしばしばみられた「土地転がし」という手法と一緒である。 ただ、中国の場合はそれを公的部門が事実上仕切っていることに問題がある。これは土地の価値を究極的には政府・地方政府が暗黙のうちに保証しているという人々の予想が裏づけになっている。さらに中国では本格的に時価会計制度が採用されていないために、不良資産の判定に甘いことも、政府・地方政府による暗黙の保証を制度的に支持することになっている。 現状でも地方都市の住宅の過剰在庫(空き家率)は高止まりのままである。純粋な居住用の需要には結びついてはいないが、他方で投機目的のための住宅ころがしは、地方都市を中心に健在なのである。これが中国不動産バブルの真因=官製バブルである。 他方で、金融政策は国内の経済対策には利用されていない。中国の為替レートを一定に保つため、元の価値をコントロールすることに利用されているからだ。例えば、アメリカの金融政策が利上げスタンスを強化すると予想されると、米中の(予想)金利差が拡大する。そうすると海外投資家などは人民元を売却してドルをより多く保有するだろう。より低い中国の金利で資金を運用するよりも、より高い金利のドルで資金を運用する方が得だからだ。中国はこの元安の傾向を防ぐために市場に介入する。やがて訪れる中国版「失われた20年」 中国が保有する外貨準備はドル(米国債)が中心である。したがってドルを売って人民元を買う。そうすると必然的に外貨準備残高は減少する。実際に中国の外貨準備は3兆ドルを割り込み減少傾向は緩むことはない。他方で元安圧力は依然として継続している。外貨準備残高の減少は、これは短期金利の上昇圧力にもなっている。政策金利こそ据え置きの構えだが、市場での短期金利への圧力は高い。北京のマンション建設現場(共同) 消費や投資にかかわる中期から長期金利は、短期金利によって決まるので、この上昇圧力は民間消費と民間投資を低迷させる要因になる。この民間需要の不足分を埋めるために、先ほどのバブル誘発型の公共事業に依存しているのがいまの中国経済のありようである。バブルを維持するためにバブルを生み出し続けることが国家的必然なのだ。このバブルは逃げ切ることができるのか。つまりソフトランディングが可能なのだろうか。 筆者はこの点についてきわめて懐疑的である。いまの中国経済はざっくりいえば、過去のソ連経済と似ている。ソ連経済は消費を抑制した、投資中心の経済であった。しかし投資の中身といえば軍事支出という「非効率な公共事業」であった。アフガニスタン戦争や核開発競争の過熱化、旧ソ連の軍産複合体の権益などで、この非効率的な軍事支出によってソ連経済の経済成長は抑制されていたのである。 中国も軍拡に傾斜しているが、それに加えてバブル維持のためのムダな公共事業を拡大している。中国の消費はそのため抑制されている。このような歪んだ経済構造は、旧ソ連の場合では維持が不可能であった。中国はどうだろうか。成長が抑制されることで、やがて「中所得国の罠」に陥るのではないか。いや、もう陥っているのではないか。バブルのつけは、やがて中国版「失われた20年」につながるかもしれない。

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    トランプ大統領から始まる中国大乱

    トランプ政権がいよいよ始動する。米国が一国主義へと舵を切り、世界の覇権を狙う中国だが、トランプは中国と対峙関係にある国と立て続けに接触し、中国を苛立たせている。トランプ大統領の誕生によってアジア情勢は大きく変わることは間違いない。そして、その行方を左右する「主役」は間違いなく日本である。

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    トランプはなぜ「ひとつの中国」という絶対的タブーを破ったのか

    石平(評論家) 黄文雄(評論家)《『「トランプ大統領」から始まる中国大乱』より》トランプが台湾総統との異例の電話会談をした意味黄 2016年11月17日、安倍首相とトランプ次期アメリカ大統領がニューヨークのトランプタワーで初会談を行いました。トランプは他国の首脳から早期の会談要請が殺到するなか、安倍首相との会談を最優先させたといいます。 しかも自宅に招くという厚遇ぶりで、日本を重視している姿勢を見せました。当然ながら、大統領選挙のときに見せた暴言も日本批判もなく、会談後に安倍首相が「信頼できる指導者だと確信した」、トランプが「素晴らしい友好関係を始めることができてうれしい」と述べるなど、会談が有意義であったことを強調しています。会談前に握手を交わす安倍首相とトランプ次期米大統領。奥は娘のイバンカ氏と夫のジャレッド・クシュナー氏=11月17日、ニューヨークのトランプタワー(内閣広報室提供)石 安倍首相の素早い動きには、中国も驚いたと思います。安倍首相は、トランプの当選が確定した日の翌朝すぐに電話で祝意を伝えました。おそらく中国はそれに焦ったのでしょう、11月9日、CCTV(中国中央電視台)は習近平主席がトランプと電話会談したというニュースを流しました。ところが、トランプ側から「していない」と否定されてしまいました。安倍首相が電話会談した以上、習近平も会談したことにしないと、大国の指導者としてのメンツが潰れると思ったのでしょう。 14日になって実際に電話会談をしたようですが、いずれにせよ、赤っ恥をかかされたかたちになりました。黄 さらに12月2日(アメリカ時間)には、トランプは台湾の蔡英文総統と電話会談しました。これは1979年のアメリカと台湾の断交以来初めてのことです。しかも、自身のツイッターで「台湾総統が今日、私に、大統領選勝利に祝意を表したいと電話をくれた。ありがとう!」と書き込みました。「ThePresident of Taiwan」と、あたかも独立国家の元首のように扱っていたのです。 当然、台湾では大きく報じられ、トランプへの期待が非常に大きくなっています。安倍・トランプ会談について、中国共産党の機関紙である「人民日報」の国際版「環球時報」は「朝貢だ」と書きましたが、蔡英文との電話会談については王毅外相が「台湾側のくだらない小細工だ」と嫌味を言いました。これは中国のパニック状態を象徴しているのではないかと思います。 石 中国はかなり衝撃を受けたのではないでしょうか。なにしろトランプは、数十年来の絶対的タブーを破ったのですから。 即座に不快感を表明し、アメリカにも抗議したといいますが、アメリカ政府になのか共和党になのか、どこに抗議したのかはよくわかりません。しかも、王毅外相は台湾を批判していますが、トランプのことは批判していません。トランプと衝突するのを避けたのでしょう。あくまで台湾が仕掛けたものだというスタンスです。黄 しかし、トランプはかなり中国を意識した行動をしていると思います。「自由時報」(2016年12月3日付)によれば、当日はシンガポールのリー・シェンロン首相、フィリピンのドゥテルテ大統領、アフガニスタンのガーニ大統領とも会談していますが、ツイッターには蔡英文のことしか掲載されていないそうです。これは意図的にやっていることでしょう。中国の反応を見ているとしか思えません。トランプと蔡英文の電話会談石 トランプが蔡英文と電話会談したことは、中国政府からだけでなく、アメリカの多くのマスコミからも批判されたようですね。オバマ政権も、すぐに国家安全保障会議(NSC)の報道官に「ひとつの中国」という原則を堅持すると強調させました。黄 トランプはそれを受けて、ツイッターで「アメリカは台湾に数十億ドルの武器を売っているのに、お祝いの言葉すら受け取るべきではないというのは、興味深いことだ」と述べています。 さらに12月4日(アメリカ時間)には、「中国は米企業の競争を困難にする通貨の切り下げや、中国向けの米国製品に重い課税をしていいかと尋ねたか」「南シナ海の真ん中に巨大な軍事施設を建設していいかと尋ねたか。私はそうは思わない!」(「産経新聞」2016年12月5日付)など、南シナ海や通商問題に関する中国批判をツイートしました(117ページ写真参照)。一部は大統領選挙で主張していたことと同じ内容ではありますが、「習近平嫌いでプーチン大好き」なトランプらしい、正直な本音が出ています。 よく知られているように、アメリカでは政権が変わると、ホワイトハウスのスタッフから政治任用されている上級官僚までがごっそり入れ替わります。トランプ政権になると、台湾に対する意識が、オバマ政権とはかなり変わってくるのではないかと期待しています。記者を指さすトランプ氏=1月11日、米ニューヨーク旧来メディアとリベラルの没落石 それにしても、台湾はれっきとした民主主義国家なのに、いざとなると民主主義を標榜するアメリカメディアが、台湾よりも独裁政権の中国に同調するというのは異常です。日本の場合と同様、やはり左翼メディアは偽善だとしか思えません。黄 まあ、あれだけトランプ批判を繰り広げても、大統領選挙の勝利を阻止できなかったのですから、影響力はだいぶ低下していると思いますよ。日本の左翼メディアも、たとえばシールズ(SEALDs)のような学生たちによる左翼運動を持ち上げていましたが、総選挙にしても東京都知事選挙にしても、シールズが支持する政党や支持者は勝てなかった。 若者の代表のように言われていましたが、その若者は自民党に投票する率のほうが大きかったというのですから、左翼メディアも左翼運動もしぼんでいくばかりでしょう。石 何しろ、言うことがコロコロ変わりますからね。安倍・トランプ会談に対して、民進党はなんだかんだとイチャモンばかりつけていました。安住淳代表代行は「朝貢外交」だなどと貶(おと)しめていましたが、これは先ほどの「環球時報」とまったく同じ論調です。 中国共産党の場合は、安倍首相の対米外交に先を越されたことへの悔しさからの悪態ですが、民進党の場合は結局、首相の外交的得点が気に食わないだけでしょう。国も党も違いますが、根性の卑(いや)しさは同じではないでしょうか。 蓮舫(れんほう)代表にしても、トランプの大統領選挙中の発言を問題視して、安倍首相に「なぜ信頼できたのか」などと問いただしていましたが、その理論なら、民進党はトランプが発言を撤回しないかぎり、同盟国の大統領との信頼関係をつくらないつもりなのですかね。 批判のための批判という感じしかしない。もしも安倍首相がトランプに会わずに、他国の首脳に先を越されていたら、「なぜもっと早くアプローチしなかったのか!」と言っていたに違いない。黄 蓮舫代表は、相手を批判するなら自身の二重国籍問題をもっときちんと説明してからでないと、なんとも説得力がないですよ。自分を「生まれたときから日本人」と言ったかと思うと、別のところでは「華僑(かきよう)の一員」「在日中国人」などと発言したりして、発言が一貫していません。 発言が一貫しないのと、自分に甘くて他人に厳しいというところからすると、日本人や台湾人というより、きわめて中国人によく似た性格ですね。彼女は自身の国籍問題にからんで、「ひとつの中国論」を持ち出したので台湾でも批判が高まりました。過去の発言もあわせて考えると、中国共産党のエージェントではないかと疑いたくなってしまいます。米左翼の反差別は一種のファシズム石 2016年の新語・流行語大賞のベスト10に「保育園落ちた日本死ね」がランクインして、民進党の山尾志桜里(しおり)議員が笑顔で授賞式に出ていたことが批判されていましたが、どうも民進党の議員は国益という視点が薄いように感じるのです。 だいたい、国会議員が「日本死ね」などという言葉を流行語に選んでもらって、それをうれしがるという感覚がわかりません。黄 世界の流れを見ると、トランプのアメリカだけではなく、イギリスも、あるいは他のヨーロッパで起こっていることからも、まず大きな特徴として、「国益」を中心として考える国が多くなってきているということですね。 トランプは「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」を掲げ、不法移民を排除すると述べて支持を得ました。 たしかに、ヒューマニズムとか人権というものは大切です。しかし、それが過剰になると国益や国民の利益を圧迫することにもつながります。移民問題などもそうですね。自国民の職が奪われるからと移民受け入れに反対すれば、差別主義者のレッテルを貼られてしまう。差別的な言動をしないことを「ポリティカル・コレクトネス」と言いますが、行きすぎた風潮にうんざりした人たちが、イギリスのブレグジットやアメリカのトランプを後押ししたのだと思います。 しかし、旧来の左翼メディアが消えていくと同時に、国益を無視してポリティカル・コレクトネスに走った政党も消えていく運命にあると思います。左翼メディアに支えられてきた面がありますから。 いずれにせよ、いまの世界では建前よりも本音で語ることのほうが支持を得られるので、そうした姿勢が主流となりつつあるようです。石 そのとおりだと思います。オバマ政権は、一定の不法移民に対して3年間の強制退去の免除と就労許可を与えましたが、これに対する不満も大きいのだと思います。 アメリカのリベラルの反差別は一種のファシズムになっていると思います。アメリカの政治家がマイノリティに対して、少しでも不用意な発言をすれば、叩かれて政治生命を失うことになってしまう。 アメリカのリベラルがあれほどトランプを嫌うのも、彼の過激な発言が、リベラルな世界観、価値観を完全に破壊するものだからです。だから差別発言扱いしますが、賛同する人も多かった。要するに「本音」で語ることは、リベラルな価値観に対しての一種の反乱なのです。しかも、彼はそれで成功してしまった。 日本のマスコミもアメリカのメディアとまったく同じ論調でした。一貫して、トランプを過激発言のとんでもない泡沫(ほうまつ)候補扱いしてきましたが、それも自分たちの価値観が絶対なものではないという現実を受け入れたくないからです。だから、選挙結果を突きつけられて、パニックになってしまった。いまでも「あんなのがアメリカの大統領になるとは信じられない」と言い続けていますね。 アメリカの旧来メディアの崩壊は、日本の左翼メディアにも伝播(でんぱ)していくと思います。たとえば、蓮舫代表の二重国籍問題でも、左翼メディアは「多くの先進国が二重国籍を認めている。だから日本も認めるべきだ」「多文化共生主義が世界の流れだ」などと書きましたが、多民族国家のアメリカがそれを否定する方向へ向かったのですから、もうそんなことは言えなくなるでしょう。日本のリベラルメディアにとっても、トランプ大統領の出現はトドメの一撃になると思います。 私は国際政治の面からトランプ大統領の政策を危惧していますが、日本のマスコミや左翼はむしろ悲鳴を上げているのが現状です。 だいたいアメリカのリベラルはおかしいですよ。選挙結果に不満だからデモをするというのは、民主主義の否定そのものです。リベラルが民主主義を否定してどうするのでしょう。もっとも、リベラルの本当の正体は、もともとそういうものなのかもしれませんが。ネトウヨが世界を変えるネトウヨが世界を変える黄 アメリカや日本も、新聞やテレビといったメディアはリベラルが強いですよね。もっとも、アメリカでは新聞やテレビを信用する割合が2割程度なのに対して、日本では7割を超えていますから、日本のほうが重病でしょう。 ちなみに台湾のメディアはほとんどが国民党系か中国資本なのですね。台湾独自資本のメディアというのは、自由時報と三立電視と民間全民電視公司(民視)くらいしかない。3つしかないから「三民自」(サンドイッチを意味する「三明治(サンミンツウ)」と同音)と言われています。 ですから、台湾ではメディアの信頼度は1%程度しかないと言われています。しかし、メディアというのは既得権なのです。だから絶対に手放したくないし、それに対抗する勢力には敵対してきます。 ヒラリーは、メディアとウォールストリートという2大既得権益層とズブズブだと批判されていたわけですが、そういった既得権益層も崩壊していく予兆なのでしょう。当選後初めて記者会見するトランプ次期米大統領=1月11日、ニューヨークのトランプタワー石 アメリカの新聞やテレビ局などの主要メディアでは、57社がクリントン支持で、トランプ支持を打ち出したのは2、3社しかありませんでしたが、トランプはSNSやインターネットを駆使して、相手の批判をうまく利用していました。そこにも勝因があったと思いますね。 アメリカの国民がそれほどメディアを信用していないなら、むしろメディアにこぞって叩かれたほうが、目立つし、逆に国民からは信用されることになる、ということになりますね。 自分の主張や反論はインターネットに載せて、どちらが正しいか有権者に判断してもらえばいいのですから。 私もツイッターをやっていますが、中国批判よりも、日本の左翼を批判したツイートのほうが反響があるのです。ツイッターを始めたのは2013年からですが、2014年にフォロワーが3万人に達したと思ったら、その2年後の2016年12月にはなんと24万人を突破しました。 日本のなかに、左翼の言動がおかしいと感じている人はかなりいると思いますし、やはり国益中心、自国中心に考えるというのが世界の潮流となりつつあることは感じていますもっとも、ツイッター上で、私のことをネトウヨと呼ぶ人も少なくありません。しかし、彼らの感覚からすると、「暴言」を吐くトランプこそネトウヨですよね。世界一のネトウヨが大統領になったともいえるでしょう。黄 日本での左翼言論人の支配の時代というのは、もうそろそろ終わろうとしていると思います。まだ終わってはいないけれど、終わるのは確実。だから最後のあがきとして、一生懸命、あちこちに銃口を向けているのではないかという気がするのです。石 イギリスにしても、EU離脱を問う国民投票では、事前の世論調査と結果がまったく異なりました。まともに答える人がいなかったのではないでしょうか。これも既存メディアの終焉を意味していると思いますね。 リベラルは、メディアを通じて人々を支配してきましたが、このトランプの当選をきっかけに、世界各地で彼らの支配が終わるとすれば、日本の健全化にとっても非常にプラスです。トランプ大統領は日本の大チャンストランプ大統領の誕生は日本の大チャンス石 トランプ大統領の出現には、そうしたリベラルの絶対的価値観の破綻と、左翼メディアの支配の終わりといういい面もありますが、やはりかつてのモンロー主義に戻り、内向きになってアジアへの関与を減少させていった場合、日本の安全保障が大変な危機にさらされることになる可能性も十分にある。この点は第1章で述べたとおりです。 しかし別の面からすれば、アメリカがもしアジアへの関与を減少させていくならば、それは占領政策が終わったということでもあります。 アメリカの対日占領政策は、日本が再びアジアの強国になれないようにすることでした。だから平和憲法を押しつけた。沖縄にアメリカ軍基地があるのも、ある意味では、日本の軍事力強化を押さえ込む目的もあったのかもしれません。 しかし、アメリカがアジアに対する関与をやめるならば、日本を押さえつけておく必要性もなくなります。日本が平和憲法を改正して再軍備や核武装を進めても、アメリカは与(あずか)り知らないということになる。そういう意味では、トランプ大統領の誕生で、日本は完全に戦後体制から脱出するチャンスになるという期待もあります。黄さんはいかがですか?黄 トランプはモンロー主義というよりも、レーガンの時代に戻ろうとしているのかもしれませんね。大型減税や金融規制の緩和などを掲げていて、レーガノミクスに近い。「偉大なアメリカの復活」というスローガンは、冷戦をアメリカの勝利に導いたレーガン時代を指しているのではないかと思います。 そして日本にとっても、いまがいちばんいいチャンスだと思っています。世界は反グローバリズムのなかで、列強の時代に戻りつつあります。そのような時代には、やはり世界の調整役(バランサー)が必要だと思うのです。 いま先進国のなかで、グローバリズム推進派のトップと見なされているのはドイツのメルケル首相でしょう。一方で、トランプはもっとも保護主義派となるでしょう。日本はその調整役となるいい位置にいます。 また、2017年のドイツの総選挙でもしもメルケルが負ければ、安倍首相は西側自由主義諸国の政界で最長老となります。長期安定政権ですから、世界の首脳も相談しやすいのです。 そうした追い風を味方につけて、日本の戦後を終わらせられれば、明治維新の志士と並ぶ人物になれます。石 アメリカに締結させられた不平等条約への不満が明治維新につながったわけですからね。そして日清(にっしん)、日露(にちろ)という2つの戦争に勝利したことで、1911年に不平等条約を改正することができました。 アメリカに憲法を押しつけられ、在日アメリカ軍基地や日米地位協定といった「属国的」なものを受け入れざるをえない立場から脱するためにも、再び明治維新のような大事業が必要だということなのですね。台湾の総統執務室でトランプ次期米大統領と電話協議する蔡英文総統(中央)=昨年12月(総統府提供)黄 そうです。しかもそれは日本だけではなく、アジアのための明治維新です。 私は蔡英文総統にも期待はしていますが、そこまでのことはできないでしょう。ですから、日本と台湾が手を握り、あるいはASEANと手を握って、日本がリーダーシップをとって、アジアを再興していく。世界が列強の時代の19世紀に戻るのであれば、その延長線上として、日本がアジアの盟主になるしかありません。うまくやれば安倍首相が米国をリードする石 中国もそれを恐れているのかもしれません。だから、安倍首相がトランプと電話会談をした直後、習近平も「電話会談した」と嘘をつかなくてはならなかった。 トランプは政治も外交も素人ですから、おそらく今後、安倍首相が日米同盟の重要性や、アジア太平洋地域におけるアメリカの重要性をレクチャーすることになるのではないかと思います。安倍首相は世界のトップの中でも、海外の首脳ともっとも多く会っているキーパーソンですから。 うまくやれば、安倍首相がアメリカをリードするかたちになる。トランプからアジア外交の軸になってほしいと頼まれる可能性もあります。そして、これを機会にして日本が憲法改正と国防体制の強化を行えば、アメリカにとって日本は頼りにしなければいけない存在となります。日米同盟に新しい変化が起こるわけです。 トランプ大統領当選の直後の11月10日に、インドのモディ首相が来日し、日印原子力協定に署名しましたが、中国を警戒した安全保障協力についても話し合っています。 アメリカの影響力が落ちることになれば、多くのアジア諸国は日本に期待してくると思うのですが、どうでしょうか。黄 台湾、フィリピンなどはもちろんそうですね。韓国だけが少し違うのですが、アジアの多くの国が日本に目を向けて期待しています。アメリカ大統領選挙の直後にモディ首相の来日日程が組まれていたというのも、そのタイミングで日印の結束を中国に見せておくためでしょう。 日本は技術力を持っていますし、私は核技術にしてもイスラエルより上だと見ています。 ただ、日本では核アレルギーがありますから、核武装というのはなかなか難しいでしょう。しかし、目下、世界では核を上まわる兵器技術や核防衛システムの開発が進められています。非核兵器であれば日本も配備可能でしょう。 日本の国防予算はGDPの1%程度で5兆円を突破したくらいです。GDPの2~3%まで予算を組んでようやく世界の「普通の国」レベルなのです。仮に日本が10兆円規模の防衛予算を組めば、そうした兵器に十分な開発費をあてられますし、日本であれば開発できると思います。それこそが平和貢献です。 そうして日本が積極的にアメリカと相互補完しながら、トランプ大統領に対して、アジアはわれわれに任せろ! と言えばいいのですよ。石 トランプ政権が、アジアは面倒だからということで、少し手を引いていくときに、トランプ政権と話をつけることが日本にとってチャンスとなるでしょう。アメリカが手を引く分は、日本が分担するということにして、日本とアメリカがアジアで対等な立場で共同責任を持てばいい。 日米同盟に関するトランプのいちばんの文句は、アメリカだけが責任を持ち、日本は何も責任を持たないということです。「日本タダ乗り論」ですね。 だから、日本もアメリカと同じようにアジアの安全保障に責任を持つということになれば、逆に日米同盟も強化されて、日本の立場も強くなります。 そういう意味では、日米同盟再構築のひとつのチャンスにもなる。もちろん日本は憲法改正を急がなければならないし、国防体制もつくり直さなければいけません。 トランプ大統領の誕生によって、その必要性がますます高まったということなのですね。こうした世界状況は、国内の憲法改正論議にとっても追い風になるはずです。安倍首相は、この歴史的機会を最大限に活用すべきです。 そうすれば、安全保障上のピンチをチャンスに変えることができる。日本は普通の国と同様の自主憲法を持ち、普通の国防体制を持ち、アメリカと共同責任でアジアの平和を守る。まさしく戦後体制からの脱却であり、真の独立です。戦後体制からの脱却が完了する日本の「戦後体制からの脱却」が完了する黄 オバマ政権では、安倍首相の靖國(やすくに)神社参拝に対して、アメリカ政府は「失望した」などと口を出してきましたが、そういうことも言わなくなってくるでしょうね。石 もともとアメリカは、首相の靖國参拝に文句は言ってこなかった。しかし日韓関係が悪くなっていたために、これ以上の亀裂(きれつ)が生じるとアメリカがやりにくくなるので、オバマ政権は行ってほしくなかったということを表明しただけですよね。 アメリカは中韓が批判するような、靖國神社が「軍国主義の象徴」だとか「A級戦犯が祀(まつ)られているから」という理由で反対したわけではないですね。これまでも反対してこなかったですし。参拝を終えた「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の議員ら。中央は尾辻秀久会長=2016年10月18日午前、靖国神社黄 ただ、アメリカが「失望した」と言ったせいで、日本の左翼を勢いづけてしまった。普段はアメリカを嫌っているくせに、「同盟国のアメリカすら反対している」「世界も反対している」といった論調がマスコミに躍りました。 おそらく次に安倍首相が靖國参拝した場合、左翼連中は「アメリカも反対した靖國参拝を強行した」などと叩いてくるはずです。  そういうときに、トランプ大統領に「アメリカは反対していない。国のために命を捧(ささ)げた者に哀悼(あいとう)の意を表するのは当然のことだ」と言ってもらわないと、建前ではあっても、「対等な日米関係」は元の位置に戻らないと思うのです。石 なるほど、たしかに左翼を黙らせる必要はありますね。ある意味では、政治というのは時期を見て素早く行動する必要があります。安倍政権はそれができる。おそらく安倍政権もトランプの当選を予測していなかったと思います。外務省は完全に予測を外したとも言われています。 しかし、トランプが当選したら、電光石火でどの世界指導者より早く直接会談まで実現できた。安倍首相には実力も運も備わっていると思います。トランプ大統領の誕生により、国内的には左翼の崩壊、メディアの信用失墜ということが起こりました。これはすべて安倍政権にとっては追い風です。 それでもうひとつの大きな追い風が、アメリカがアジアにおけるプレゼンスを少しずつ引いていくなら、それは当然、日本の安全保障の問題となり、日本の憲法改正の道を開くことにもなります。 外交の情勢も日本に有利になりつつあります。フィリピンのドゥテルテ大統領はオバマ政権に対してはきわめて敵対的でした。トランプ大統領が決定したところで、関係を回復しようと言い出しましたが、まだ、どうなるかわかりませんね。 しかし、来日時の態度が示しているように、ドゥテルテ大統領は日本に対しては最初から信頼している。インドも当然ながら、中国よりもずっと日本を信用している。 ロシアのプーチン大統領にしても、ある意味で信頼しているのは、中国よりも日本であり、安倍政権です。中国とロシアというのは、長い歴史のなかでお互い不信の塊なんですね。 だから、日本がアメリカ同様に国際的な責任が持てるような国になれば、アジアの安全保障、あるいはアジアの経済秩序の新しい軸になってほしいと思う国も多いと思うのです。アメリカもそのような日本を頼りにしてくると思います。黄 私も、安倍首相のインドのモディ首相やロシアのプーチン大統領との関係性は、他のどの国よりも突出していると思います。そして、これにアメリカのトランプ大統領が加わる。トランプはプーチンを英雄視していますから、日米露の関係強化は十分可能だと思います。 しかも、中国は伝統的に「遠交近攻」の国ですから、どうしてもいつかは隣国のロシア、インドとぶつからざるをえない。それは歴史が物語っています。中印露の「三国志演義」が繰り広げられるなかで、日米露印が提携すれば、中国を包囲することができるのです。日本中心の大東亜共栄圏が復活石 こう考えると、トランプ大統領の誕生は、安倍首相が脱却を悲願としていたアメリカの束縛や戦後体制、戦後リベラルが流してきた自虐史観といったものを、一気に吹き飛ばしてしまうことになる可能性がありますね。 トランプはまず4年間、2021年1月までの任期がある。安倍政権は自民党総裁の任期延長で2022年までの任期が可能となる。だから、安倍首相は今後数年、自らの考えるビジョンをどんどん追っていけばいいのです。日本を中心とした大東亜共栄圏が復活する黄 そういう意味では、いま、日本は安倍政権で本当によかった。これが民進党と日本共産党の連合政権だったらと思うと、ゾッとします。日本にとっても世界にとっても、これから大変な時代になるでしょうが、幸い、安倍政権には先見性と行動力と運があるようです。また明るい見通しが出てきます。石 逆に、このチャンスをもし掴(つか)まなければ、日本はいつまでも一人前の国家になれないでしょう。 もしかすると、これは、アメリカによって潰された大東亜共栄圏を、アメリカの衰退によって日本が復活させるという歴史の必然なのかもしれません。黄 20世紀の戦後の人類の対立の軸は、私有財産制か公有財産制かという対立、つまり自由主義か社会主義かという対立でした。そして、社会主義は「国家死滅」を理念にしていますから、コスモポリタン的な考え方が強い。つまり、社会主義そのものがグローバリズムとの類似性や親和性が高いと思うのです。だから、現代中国もグローバリズムをすんなり受け入れられたのです。ただし、民主主義や表現の自由といった思想面はまだ拒否したままですが。 そしていま、保護主義による巻き返しが起こるなかで、文化対文明の対立がひとつの大きな軸として起こってくると思います。 文化というのはユニークなものです。国、民族、地域によってそれぞれユニークな文化が存在しています。それに対して、文明というのはより普遍的なものです。世界に押し広げていこうというものが文明です。 今後、普遍的な文明とユニークな文化が対立していくのだと思います。たとえば、習近平は「中華民族の偉大なる復興」を「中国の夢」としています。これは中華文明の栄光を取り戻そうと夢見ているわけですね。決して中国人の文化を世界に紹介したいというものではない。だから、世界と対立せざるをえないのです。 そして、日本には文化としてのソフトパワーがある。たとえば、台湾からは、高齢者と赤ちゃんも数に入れて、年間で8人に1人くらいが日本に観光にきている計算になります。 毎年何回も日本に遊びにくる台湾人母親に、東南アジアなら日本の1回の旅行費用で4、5回行けるのに、なぜ何回も日本に来るのかと聞くと、彼女は、教育面から考えると、自分の国より経済発展をしていない途上国に子どもを連れていきたくないと言っていました。 そして台湾より進んでいる国は、アジアでは日本しかないわけです。台湾人が世界でいちばん住みたい国というのは日本です。2番目はカナダ。日本がトップである理由は、四季折々の景色があり、何度来ても飽きることがないということだけではありません。社会が安定していて環境衛生も清潔、しかも思いやりがあってマナーもいい。人のことも疑わなくていい。要するに、安心できる社会だからです。そういう国こそがいちばん魅力的なのです。 石 中国がいくら頑張っても、やはり日本のソフトパワーには絶対にかなわない。日本には安心安全な社会があり、アニメやゲームなど世界最強のソフトがあります。世界が憧(あこが)れるソフトパワーがあります。 古代ローマ時代、ヨーロッパの人々はローマ人になることが夢でした。それは誰もがローマ帝国の文明に憧れたからです。しかし、現在の中国に憧れる人は世界中どこを見てもいません。中国人自身が自国から逃げようとしているのですから。 そして戦後が終わり、世界も根本的に変わろうとしています。高いポテンシャルを持つ日本は、このチャンスを逃すべきではありません。トランプ大統領の誕生をきっかけとして、日本はアジアや世界のリーダーとして頼られる存在になる大きな可能性があるのです。

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    中国、習近平をパニック状態に陥らせるトランプの思惑

    石平(評論家) 黄文雄(評論家)はじめに《『「トランプ大統領」から始まる中国大乱』より》 いま、世界では大きな変革が起こっている。 2016年6月にはイギリスの国民投票でEU離脱が決まり、11月のアメリカ大統領選では一貫して泡沫(ほうまつ)候補扱いだったドナルド・トランプが選ばれた。「まさか」という事態が立て続けに起こったのだ。 そして当初、トランプ大統領の誕生を歓迎していたのは中国だった。トランプは大統領選期間中、一貫して、日本をはじめとする同盟国に対して駐留アメリカ軍の費用増を求め、TPP(環太平洋連携協定)からの離脱を宣言し、「アメリカ・ファースト」というモンロー主義的な内向き政策を打ち出してきたからだ。もちろん中国に対しても、「アメリカ人の職を奪っている」と批判し、為替操作国に認定すると主張していた。ドナルド・トランプ次期米大統領 中国としては自国への制裁措置には警戒しつつも、「暴言王」トランプが大統領になればアメリカは国内が混乱し、国力低下を招くだろう、他国に干渉する余裕も気力もなくなり、日米同盟は弱体化、アジアでのプレゼンスも落ちていく──そんな読みがあったと思われる。 実際、中国共産党機関紙である人民日報系の「環球時報」は11月17日、「トランプ現象は米国が世界を支配する時代が終わったことを意味している」「われわれは米国が多くの領域で指導者の役割を放棄する現実を受け入れ、『ポスト覇権』時代に新たな世界秩序をどう構築するのか準備しなければならない」とする程亜文・上海外国語大学教授の寄稿を掲載した(「産経ニュース」2016年11月19日付)。  これまで習近平(しゅうきんぺい)国家主席は、つねにアメリカに対して「新型大国関係」(アメリカと中国が対等な立場で世界のことを決めていく関係)を主張してきたが、オバマ政権はまともに取り合わなかった。だが前記の寄稿文は、アメリカが一国主義へと舵(かじ)を切り、世界への関心を失い、国力低下を招くならば、新型大国関係どころか、中国は世界の覇権国になることも可能だとほのめかしている。同様の分析は、中国国内のみならず日本でも見られた。 しかし、トランプ次期大統領は11月17日、世界の指導者のなかで、同盟国である日本の安倍晋三首相を最初の会談相手に選んだ。秋の党大会がカギ そして12月2日には、それまでの慣例を破って台湾の蔡英文(さいえいぶん)総統との電話会談を行い、そのことをわざわざ自身のツイッターで発表した。しかも「台湾総統」という表現を用い、一国の元首としての扱いをしていた。 当然ながら、これに対する中国の反発は大きかったが、トランプは意に介さず、そのあとからツイッター上で中国批判を展開しはじめた。中国が抱いていた当初の期待は、大きく裏切られたかたちとなった。おそらく中国政府はパニック状態に陥ったことだろう。 もちろん、これらの2、3の出来事をもって、トランプ次期大統領が中国の覇権主義を打ち砕こうとしているとか、アジアの平和に積極的に関与するつもりだなどと、軽々に判断するのは誤りである。 しかし、トランプが中国と対峙(たいじ)関係にある国と立て続けに接触し、中国を苛(いら)立だたせているのも事実だ。日本としてはこれをどう活用していくかという戦略が重要となってくる。会談を前に握手を交わす安倍首相(左)と中国の習近平国家主席 =2016年9月5日、中国・杭州 本書は、トランプ大統領の誕生がもたらすアジア秩序や中国情勢の大変化から、日中・米中関係の今後まで、徹底的に論じ合ったものである。 2017年にはオランダ、フランス、ドイツで次の政治リーダーを決める選挙がある。イギリスのEU離脱やトランプ現象に見られる「反グローバリズム」の流れがさらに加速するのかどうかの分かれ道となる。そして、それはグローバリズムの波に乗って急成長してきた中国にどのような影響を与えるのか。  加えて同年秋には中国で5年に一度の党大会が開催される。ここで習近平は権力の完全掌握に成功するのか。あるいは「ポスト習近平」の存在が浮かび上がってくるのか。 そうした点も、われわれ2人は縦横無尽に述べ合っている。先が見えない世界情勢のなか、これからアジアや日本、中国に訪れるであろう大きな潮流変化と、日本が進むべき道を考えるうえで、本書が一助となれば幸いである。

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    東シナ海は「世界の火薬庫」 日中軍事衝突は現実に起こり得るのか

    邱海涛(ジャーナリスト)《徳間書店『中国大動乱の結末』より》 南シナ海問題では、2016年7月、仲裁裁判所がフィリピンの提訴に対して、「中国が主張する領有権は認めない」という裁定を出した。 中国の地方都市ではいくつか小規模の対米抗議デモがあったものの、まもなく取り締まりによって姿を消した。おもしろいことに、翌日になってアメリカ、日本、中国の株市場では株価がいっせいに大きく値上がりした。 フィリピンが仲裁裁判所に提訴したのは2013年1月で、同裁判所は2015年10月に本格審理入りすることを決めた。そのときから中国が悪戦苦闘を強いられることになった。 中国政府は最初から不利な結果が出るだろうと予測していたため、あの手この手でフィリピン側の提訴を阻止しようとした。南シナ海に人工島を造成、中国の実効支配が進む 中国はWTOなどの経済分野での国際訴訟については、一応、対応する姿勢を見せているが、人権や領土などをめぐる国際裁判への提訴には、いっさい応じない立場をとっている。基本的に中国は国際裁判所を欧米の傀儡だと決めつけており、まったく信頼していないからだ。 そのため、フィリピンを原告とする南シナ海紛争の国際裁判について、中国は「4つのしない」を貫いてきた。すなわち、「裁判に応じない、相手の提訴を認めない、判決の結果を受け入れない、判決の処罰に従わない」という外交姿勢である。 だから、中国側は裁定が出る前から「裁定は紙くず」だと宣言していた。中国は国連安全保障理事会の常任理事国であり、国際裁判所が判決文1枚で巨大な特権を持つ常任理事国の勝敗を決めるなどということは、中国にとってとても考えられない不面目なことなのである。 加えて、中国が国際裁判を拒否するのは、次のような懸念があるからである。まず、フィリピンが主張している島の領有権の範囲は、南シナ海の約3分の1にもおよんでいるので、南シナ海の全体を支配しようとしている中国にとって当然、受け入れられない。 また、中国はファイアリー・クロス礁、スビ礁、ミスチーフ礁などに莫大な投資をして7つの人工島を建設しているが、裁定に従うならば、そのうちのいくつかの島をフィリピンに返さなければならない。 南シナ海問題は、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイなど、7~8カ国が権利を主張している複雑さがあり、フィリピンが勝訴すれば、フィリピンの真似をする国が現れる恐れがある。これを中国は非常に警戒しており、そのために仲裁裁判所自体を否定しているのである。ASEANの切り崩しに動く中国 中国は紛争の解決案について当事国としか交渉しないと主張し、アメリカの介入を批判・阻止してきた。それはルールの制定や交渉の主導権がアメリカ側に渡ることを心配しているからである。一方、当事国側はアメリカが中国に働きかけ、公正平等な秩序をつくってもらおうとアメリカの介入を強く希望している。 たしかに、仲裁裁判所が下した裁定に強制力はないが、判決が出た以上、やはり中国に常にマイナスのイメージがつきまとう。国際舞台でのリーダシップをとりにくくなるし、欧米からは「仲裁裁判所の裁定を守れ」と要求される。実際、2016年9月のG20において、オバマ大統領は習近平主席との米中首脳会談で仲裁裁判所の裁定受諾を迫ったとされる。中国・杭州で開かれたG20サミッ=2016年9月ASEANの切り崩しに動く中国 こうした懸念から、中国はこれまでも、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国が南シナ海問題で一致団結することを恐れ、切り崩し工作を進めてきた。 実際、関係各国は対策がばらばらで、必ずしも思惑が一致しているわけではない。カンボジア、ラオス、ミャンマーのような親中派と、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどの反中派、そしてシンガポールやタイなどの中間派に分かれている。さらに、反中派の国でも中国とは緊密な経済関係にあり、徹底的に対抗することには躊躇があり、常に態度が変わったりしている。 そのうえ、自国も南シナ海で埋め立てや空港建設、施設軍事化を進めているので、立場が曖昧だ。 こうした背景が、アメリカの対中外交を弱めている一因だといわれてきた。2015年11月4日にマレーシアのクアラルンプール近郊でASEAN拡大国防相会議が開かれたが、南シナ海問題をめぐって混乱し、共同宣言の採択には至らなかった。続いて11月23日にASEAN首脳会議が開かれ、議長声明を発表した。南シナ海問題に関し「軍事プレゼンスの強化やさらなる軍事拠点化の可能性について、複数の首脳が示した懸念を共有する」と明記したものの、紛争場所を特定せず曖昧な表現にとどまっていた。 2016年2月17日にアメリカ・カリフォルニア州パームスプリングス近郊で開かれたアメリカとASEANの首脳会議では、南シナ海情勢を念頭に「航行と飛行の自由」「紛争の平和的解決」などを盛り込んだ共同声明が発表されたが、相変わらず紛争場所は特定しなかった。中国を援護するカンボジアの狙い 2016年7月12日に仲裁裁判所の裁定が出た直後ですら、ASEANは南シナ海での中国の主権を否定した仲裁裁判所の判断を支持する内容の共同声明採択を断念している(7月13日)。議長国ラオスが「コンセンサスが得られなかった」と加盟各国に通知した。カンボジアなど親中派の加盟国が反対したためと見られる。 さらに、7月25日にはASEAN外相会議が開かれたが、ようやくまとめられた共同声明ではやはり仲裁裁判所の裁定のことは触れられず、当事国同士の話し合いによる解決が望ましいという文言が盛り込まれることになった。このニュースが中国国内に報じられると、世論は外交上の大勝利だと沸き上がった。仲裁裁判所の裁定について触れられなければ、国際世論の圧力が和らぐからだ。 当事国同士の話し合いというのは、中国以外の当事国が消極的だった。彼らはアメリカかASEANに調停に入ってほしいと思っていた。交渉で中国に強く出られることを警戒していたからだ。 しかし、中国は、それを頑なに拒否してきた。中国側の理由としては、「関係のない第三者が入ると、問題がより複雑化する恐れがある」ということだが、アメリカ在住のある中国問題専門家は、「それは建前で、実際には、中国は経済援助も含めて当事国の弱みを握っており、対策に長じているため、個別交渉のほうが圧倒的に有利だからだ」と語った。中国を援護するカンボジアの狙い しかも、ASEANでは「全会一致」の原則がとられており、1カ国でも反対なら共同声明は発表できないことになっている。2016年7月のASEAN外相会議では、カンボジアが中国に不利な内容が盛り込まれることに強く反対したため、各加盟国は妥協案を探るしかなかった。 このことについて、「産経新聞」(2016年7月25日付)はこう分析する。 「カンボジアは、過去に採択した声明文までも引っ込め、中国に配慮するよう迫った。背景には、30年以上にわたりカンボジアの実権を握ってきたフン・セン首相が、軍事的にも経済的も中国へ依存を深めざるをえない事情が指摘される。国内でも強権体質が強まり、2018年の総選挙を控え政治対立が激化している。南シナ海問題では、ASEAN内部でも、親中のカンボジアなどと、フィリピンやベトナムなど対中強硬派が対立している」カンボジアの親中姿勢 中国のほうでは、カンボジアをどう評価しているのか。「人民日報」傘下の「環球時報」(2016年7月27日付)には、「世間ではフン・セン首相の夫人の先祖が中国人(海南島出身の林氏家族)であることは言い伝えられているが、それは事実だ。ある日、内閣会議が開かれているところ、フン・セン首相は突然、翌日が中国の旧正月にあたるのを思い出して急いで会議を終わらせ、家に帰って夫人の傍で正月料理の準備を手伝った。家ではかかあ天下であることを披露している」という記事が掲載された。 カンボジアの親中姿勢は、中国がカンボジアへ巨額の援助をしているからではないか、という問いに対して、記事は、カンボジアに対する援助は日本が長い間トッブを占めており、20年間で総計30億ドルの援助があった。にもかかわらず、フン・セン首相が中国を支持してきたのは、絆が強いためだと述べる。アメリカもTPP加盟をカンボジアに持ちかけて誘惑したが、それでも功を奏することができなかった。西側と比べて中国の経済援助は無償で、カンボジアは中国人民に感謝しているという。カンボジアのフン・セン首相=10月7日、首都プノンペン そのため、フン・セン首相はカンボジア在住の華僑たちと良好な関係を持ち、いままで禁止されていた中国語の使用を広げるようにした。華僑たちも積極的にカンボジアの経済建設に力を捧げている。 記事は最後にフン・セン首相の性格に触れ、彼は恩返しを知る男だと評価した。ちなみに、カンボジアはいま中国で「柬鉄(かんてつ)」と呼ばれている。「柬」はカンボジア国名の略称で、「鉄」は永遠の友達の意味である。 記事は中国の無償援助がカンボジアに感謝されていると書いているが、筆者はやや疑問である。かつて中国はベトナムに大量の軍事的、経済的援助を行ったが、現在では敵対関係にある。 問題の本質は、カンボジアの外交戦略にあり、宿敵のベトナムに対抗するために中国の力を必要としているからだ。言い換えれば、中国とカンボジアが互いに利用し合っているわけだ。 カンボジアと中国は国境を接していないから、国境紛争で悩まされることがない。それに対して、ベトナムは隣国であるため、長い間、紛争が繰り返されてきた。カンボジアに言わせれば、現在のベトナムの国土の多くはカンボジアから略奪したものだという。アメリカが中国に譲歩 フン・セン首相はもともとベトナムへ亡命した過去もあり、1978年のベトナムによるカンボジア侵攻により樹立したベトナム寄りの政権で外務大臣になった人物である。また、政権を取る際にもベトナムの支援があったとされている。だが、首相に就いてからは、傀儡政権にならないようにずっとベトナムを警戒している。南シナ海問題で対中強硬派のフィリピンやベトナムと対立しているのもそのためである。 東南アジアにおいてベトナムは、もっとも実力のある国である。だから、フン・セン首相は小国カンボジアの安全のために軍事的にも経済的にも中国に依存しなければならないのだ。 2016年10月13日付の「ロイター」の報道によると、習近平主席は同日、カンボジアを訪問し、高速鉄道建設やシェムリアップ州での空港建設などに対する中国の投資を促進させることを約束したうえで、中国政府が約8900万ドルの債務を免除することも表明した。また、融資合意など合わせて31件の合意が成立し、カンボジア首相側近は「合意や約束の数という点で歴史的」と述べた。中国は1400万ドルの軍事支援も約束したという。「中国は国際秩序と規則に挑戦するつもりはない」 2016年7月25日、アメリカと中国の間で2つの会談が行われた。いずれの会談も非常に興味深く、日本のメディアも報道していたが、なぜか大事な内容を書き漏らしたり、あるいは事実を隠したりしていた。 まず、1つめの会談を見てみよう。ラオスのビエンチャンで開催中のASEAN外相会議に出席したアメリカのケリー国務長官は25日、中国の王毅外相と会談した。南シナ海をめぐる仲裁裁判所の判決後、初めての米中外相の会談であったが、ケリー長官が中国の主権主張を退けた仲裁裁判所の裁定を遵守するよう要求したのに対して、王外相は裁定を拒否する中国の立場をあらためて伝え、南シナ海問題へのアメリカの介入を牽制した。 日本のメディアが伝えたのは、ここくらいまでだった。しかし、大事な内容が報じられなかった。中国メディアの「新華網」(2016年7月26日付)は、会談の中身をこう伝えた。 「ケリー国務長官は中国とASEANが関連の共同声明を発表したことを歓迎し、米国側は南中国海の仲裁結果に対し立場を持たず、中国・フィリピンによる二国間対話の再開を支持し、仲裁案というページを速やかにめくり、南中国海情勢の温度を下げさせるべきだとの見方を示した」 中国にとって都合のいい表現が織り込まれてはいるが、ポイントは「米国側は南中国海の仲裁結果に対して立場を持たない」というケリー国務長官の意思表明である。これは作り話ではなく、事実である。アメリカが中国に譲歩したと見られる。 2つめの会談は、習近平国家主席とライス大統領補佐官の間で行われた。7月25日、習近平国家主席は訪中したライス大統領補佐官と会い、「互いに核心的利益を尊重しなければならない」と述べ、南シナ海問題で譲歩しない立場をあらためて表明した。一方で、「中国は国際秩序と規則に挑戦する意図はなく覇権は求めない」と強調した。 ここのポイントは、「中国は国際秩序と規則に挑戦する意図がない」という習近平の意思表明である。外交上の策略であるかもしれないが、いままで習近平はどんな場合でも、このような言葉を一度も口にしたことがない。言い換えれば、「中国はアメリカをはじめとする国際秩序と規則に挑戦する意図がない」という意思表明であり、中国も一歩下がったと解することもできよう。 仲裁裁判所の裁定が出てから、米中関係はさらなる緊張が高まることもなく、逆に歩み寄りそうな言動が見られた。全面対決はアメリカの国益に背くことになるからであり、また、オバマ政権の終わりが近づき、アメリカ人の関心は南シナ海ではなく大統領選挙に注がれている。こんなときに戦争を発動することは考えられない。 加えて、仲裁裁判所の裁定はアメリカにとっても不利な影響が広がる恐れがある。今回の裁定は国際法上の「島」の要件を厳格化した。裁定は、島で人間集団が安定した共同体(コミュニティ)を維持できることや、外部に依存しないで経済的生活が保てることなどを要件として示した。 ただし、この基準を敷衍(ふえん)していけば、アメリカにとっても厄介なことになるかもしれない。中国メディアは専門家の話を引用して、「アメリカには『島』と呼ばれる領地が多くあるが、この基準で認定すれば島とは呼ばれなくなり、ただの岩礁にすぎないことになるケースが出てくる」と報道している。東京都小笠原村の沖ノ鳥島=2005年4月 日本にしても、すでに国内で議論されているように、日本最南端の沖ノ鳥島の法的地位が揺らぎ、EEZ(排他的経済水域)の設定などが難しくなるだろう。だから、アメリカは、南シナ海の仲裁結果について立場を持たないと言って、曖昧な態度を示したのである。 中国にもいくつか譲歩の姿勢があった。外電には、仲裁裁判所の裁定が出る前日に、中国は南シナ海のウッディ(永興)島に配備された地対空ミサイル「紅旗(HQ)9」を本土に移動させたという報道があった。 また、中国とASEAN外相会議の共同声明では、関係国がこれから無人の島、礁、浅瀬などでの入植をいっさいしない義務が定められた。もちろん、これは主に中国を制約するものだ。むしろ危ないのは日中の衝突 次の章で詳しく触れるが、南シナ海が紛争・戦争状態になることでもっとも困るのは、中国である。海上輸送が封じられると、中国経済は計り知れない損失をこうむるからだ。そのため、仲裁裁判所の裁定以降、中国は南シナ海で目立った活動はしていない。 その裏で、アメリカをはじめとする欧米世論への対策、ASEANの切り崩しなどを静かに進めているのである。G20首脳会合で中国の習近平国家主席(右)と 握手する安倍首相=2016年9月4日、中国・杭州むしろ危ないのは日中の衝突 2016年8月に入ってから、東シナ海では日本と中国の関係が急変し、日本のマスコミが頻繁に「中国船侵入事件」を報道するようになった。「産経新聞」(2016年8月9日付)は次のように伝えた。 「中国の公船が尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海への侵入を繰り返していることに対し、北京の日本大使館の伊藤康一公使は8日『現場の緊張をさらに高める一方的な行動』として、中国外務省に抗議した。日本大使館が明らかにした。中国の公船と漁船が尖閣諸島周辺の接続水域や領海での航行を活発化させた5日以降、北京の日本大使館から中国側への抗議は4日連続」 2012年9月、日本政府は尖閣諸島(中国名は釣魚島)を国有化した。中国側は再三にわたって日本政府にこの「誤った」決定を撤回するよう求めた。そして、日本側が「島に上陸しない」「島の開発はしない」「海洋調査は行わない」という3つのことを守れば、中国は日本の国有化を黙認してもいいという秘密交渉が行われていたとも囁かれた。 実際、日本はこの「3つのしない」に対しては、そのとおり実行している。一方で、中国政府は月に十数回も監視船、海警船および監視用の飛行機まで繰り出して、国土保全の意志がいかに堅いかを国内に示してきた。 しかし、2016年8月からはかなり違った展開となった。それは、これまで日中双方にあった暗黙の了解が破られたことを意味する。 まず、船の量だ。中国が尖閣諸島の周辺海域に漁船約230隻を集結させた。これは過去の最大規模の集結より2倍も多い数であった。加えて、日本領とされる水域にまで入ってきたのである。これまでは中国漁船が入ったことはあるが、監視船などの公船が入ったのは初めてだという。 なぜ、中国は、日本に対して急に強硬な態度をとるようになったのだろうか。 日中両国のマスコミには、それを分析した記事が多い。安倍晋三政権が右翼思想の稲田朋美氏を防衛相に起用することへの反発との説もあれば、公船によるパトロールの常態化を強化し、世界の目を南シナ海の紛争から東シナ海に逸らす狙いだという説もある。日中戦争はいつでも起こりうる 筆者は、南シナ海問題でアメリカに追随する日本に対する報復措置という面が強いと考えている。中国では、日本は部外者だという認識であり、それだけに余計な口をはさんで中国の邪魔をする日本を憎む気持ちが強い。 中国政府は、仲裁裁判所の裁定について、「一部に事態をかき乱そうとする者がいた」と強く主張している。2016年7月25日、岸田文雄外務大臣と中国の王毅外相が会談を行った際、王毅は「これ以上介入を続ければ、別の意図があると証明することになる」などと高圧的な態度を見せたという。中国政府の日本に対するいらだちは、日本人が思う以上に強い。南シナ海の南沙諸島で訓練する中国人民解放軍の海軍兵士日中戦争はいつでも起こりうる 中国の国際問題専門家(シンクタンク)は、中国のアジア政策を「穏北、保東、争南」という言葉で説明している。以下、それぞれの説明である。 ・穏北:北とは朝鮮半島を指し、バランスをとりながら韓国と北朝鮮との外交を展開する。「穏」は安定化を図るの意である。 ・保東:東とは釣魚島(尖閣諸島)と台湾を指し、それを奪回することが目標である。「保」は取り返すの意である。 ・争南:南とは南シナ海を指し、国益を確保しながらも、ASEAN諸国にも利益を残す。「争」は交渉するの意である。 中国最高指導部は、外交政策を調整しながらアジア各国や地域との関係を維持している。上層部の詳しい情報は知らないが、前記のシンクタンクの考え方はかなり反映されていると思われる。 1つの裏づけがある。中国外務省はいま、多くの場で南シナ海を「共同家園」(皆の家)と呼ぶようになった。たとえば、2016年3月8日に第12期全国人民代表大会第4回会議が開かれ、王毅外相が記者団の質問に答えたとき、彼は、「南シナ海は中国と周辺諸国の『共同家園』だ」と語った。 一方、東シナ海や釣魚島について「共同家園」という言葉が使われることはない。これからも使わないだろう。なぜなら、取り戻さなければならないからだ。 こうした中国の対外政策の違いからすると、紛争や戦争が起こる可能性があるのは南シナ海よりも、むしろ東シナ海をめぐる日中間のほうだと考えられる。 香港・台湾の軍事専門家には、次のような中国の戦略シナリオを描く人が多い。 尖閣諸島所有権紛争でアメリカを介入させないように、中国はまず海上武装警察という準軍事力を使うだろう。海上武装警察の海警船には銃器・火砲などの武器が装備されているので、戦闘力が結構ある。このままでは日本に勝ち目がない 中国側はしつこく挑発し続けるが、第一砲は撃たない。そして日本側から攻撃を受けたら、ただちに全面的に反撃に出る。もし、日本の海上自衛隊が出動したら、中国の正規軍も登場する。中国はあくまで「応戦」という形をとるから、アメリカが出にくくなる。 戦いは一進一退すると思われるが、日本政府が尖閣諸島の領有権について双方が係争中であることを認めれば、中国は撤退していく。領有権交渉の余地が出てくれば、第1戦の目的は達成される。これで将来、島を取り戻す正当な理由ができるからである。いつかアメリカと日本の軍事同盟の関係がゆるみ、隙間ができるのを待って、この理由をもって島を奪回することができる。 日本メディアのなかにも、中国軍事専門家たちの作戦シナリオの実効性を認める見方がいくつかある。日本のあるメディアは、次のように指摘する。 現在、海上警備では日中間のパワーバランスが崩れはじめている。1000トン級以上の船艇の数が日本の倍にまでになるなど、中国の優位性がかなり目立つようになってきた。 2016年1月1日現在、海上保安庁は合計454隻の船艇を保有している。2013年前後には海上保安庁が保有している1000トン級以上の船艇は中国より多かったが、中国が急速に保有数を拡大して逆転した。2014年は日本54隻に対して中国82隻、2015年は日本62隻に対して中国111隻と、驚くべき伸張ぶりを見せた。 2016年以降は、その開きがさらに大きくなると予測される。このままでは日本に勝ち目がなくなることは明らかであろう。訓練のため南シナ海を航行する中国初の空母「遼寧」(右中央)=1月2日 しかし中国の官製サイトには、海上警備では日本の実力のほうが中国をはるかに超えていると紹介する記事もある。そのきっかけは、2016年8月11日に尖閣沖で中国漁船がギリシャ船籍の貨物船と衝突し、海に転落した漁船の乗組員6人が日本の海上保安庁の巡視船によって救助されたという事件だった。 中国公船の救助対応が遅かったため、中国のインターネットでは「肝心なときにどこへ行った」など、海警局を批判する書き込みが相次いだ。中国官製サイトはこの件についての記事を発表したが、それによると、海での上空パトロールや海難救助について中国と日本ではかなりの差がある、ということだった。 中国では海上警備や漁業保護にあたっては、海監、漁政、海事、税関、公安、国境警備隊など複数の管理部門がそれぞれ行っているが、職権の範囲が曖昧なために、公務執行上、多くの支障が生じている。職責不明で放任のままということである。2013年にはこれらの部門を1つに統合するという中央政府の決定がなされたが、いまだにばらばらで1つになっていない。 要するに、命令系統や設備などがまちまちで、実力は想像以上に乏しいということであった。中国の軍事専門家の分析 一方、中国の軍事専門家たちは、米中衝突よりも日中での紛争・戦争の確率がかなり高いと見ている。いつでも不測の事態が起こる恐れがある、としている。 その理由として、日中間では、米中のような危機管理連絡メカニズムが1つもできていないということである。日中間では海空連絡メカニズムの構築について数年にわたって協議されているが、いまだに合意には至っていない。その裏には、相互不信のために日中首脳会談がほとんど行われていないという重大な事情があげられよう。海上自衛隊が東シナ海で撮影したルーヤンII級 ミサイル駆逐艦=12月24日(防衛省提供) 2016年8月15日付の「産経新聞」は、中国の海洋戦略を研究するアメリカ官民の複数の専門家の見解を紹介した。それによると、2016年8月に中国が見せた動きは、尖閣の奪取にとどまらず、東シナ海全体への覇権を目指す野心的目標への新展開だと見ている点で、ほぼ一致しているという。 「中国の最近の尖閣海域での動きは明らかに日本を威圧する作戦の新たなエスカレーションであり、日本を領土問題での2国間協議に引き出すことが当面の狙いだろう」 アメリカ海軍大学の中国海洋研究所のピーター・ダットン所長はこう述べたうえで、「米国の当面の役割は軍事衝突を抑止することだ」という表現で、現在の尖閣情勢が軍事衝突に発展する危険性が高いことを示唆した。 日中の軍事的な衝突の可能性は、ますます現実味を帯びてきているといえるだろう。

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    習近平の権力闘争、経済停滞 中国の混乱が止まらない

    邱海涛(ジャーナリスト)はじめに《徳間書店『中国大動乱の結末』より》 ここ数年、日本では中国の報道について、かなり悲観的なものが目立つようになってきた。経済の落ち込み、南シナ海をめぐるオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の裁定、国内の権力闘争など、さまざまな問題が取り沙汰されている。 一方で、「AIIB(アジアインフラ投資銀行)の加盟国が100カ国まで増えそうだ。中国が世界経済を制する」という報道もあれば、「AIIBはうまくいっていない。確実に失敗する」というものもある。その時々や立場によって、かなり論調が異なるものも多い。はたしてどちらが正しいのか。 筆者の実感では、日本の中国報道については、そのとおりであるものもあれば、現地の実情からしてかなり誇張されているものもある。 逆に、中国ではあまりネガティブな報道はされない。報道規制で報じられないようなニュースもある。とくに官製報道は、中国の国民もそれほど信用していない。米大統領選後の11日、北京の人民大会堂で、孫文の生誕150周年の式典で講演する習近平国家主席。 たしかに、中国は大きな転換点を迎えようとしている。さまざまな矛盾が顕在化し、混乱もあちこちで起こっている。それだけに情報が入り乱れるのも無理からぬ話なのだろう。 本書は、筆者が目にしている中国の国内事情、国内メディアや香港メディアの報道、日本のニュースなどとも照らし合わせながら、中国の現状を分析し、今後を予測したものである。 さまざまな中国報道でも、内外で一致しているのが中国経済の落ち込みについてである。国内は経済の減速がますます目立つようになり、輸出入も低下の一途をたどっている。とくに輸出の落ち込みは深刻で、中国の税関当局が2016年10月13日に発表した9月の貿易統計は前年同月比の10%減で、6カ月連続で前年を下まわった。 中国政府もこれ以上の経済停滞を避けるべく、さまざまな手を打っている。国内では「城鎮化」という農民政策、対外的には「新シルクロード構想」(一帯一路)やAIIB、あるいは高速鉄道の海外輸出など積極策に出ている。2015年にはインドネシアの高速鉄道建設において、中国が日本に競り勝って受注した。ただし、この高速鉄道については、うまくいっていないという報道が日本でさかんに出ている。 はたして、これらの経済政策は、今後、うまくいくのだろうか。今後の中国経済に明るい展望があるのか否か。 また、2016年6月には仲裁裁判所が、中国が主張する南シナ海の領有権について「歴史的根拠なし」という裁定を出したが、これによって中国はどこまで追いつめられているのか。しかも、仲裁裁判所に提訴したフィリピンでは、ドゥテルテ新大統領が選ばれてから急速に中国への接近が進んでいる。このようなきわめて流動的な国際情勢は、どう見るべきであろうか。中国はアメリカとの衝突を想定しているのか。加えて東シナ海では日本に対して何をしようとしているのか。 さらに混沌としているのが中国国内の権力闘争である。反腐敗運動をてこに、習近平主席はかなりの領域で権力を掌握したと思われるが、2017年秋の中国共産党第19回全国代表大会(党大会)に向けて、はたして思いどおりに改革が実施できるのだろうか。政局が逆転する可能性はないのだろうか。 本書では、こうした複雑かつ情報が錯綜しがちな問題について、中国国内で入手した情報も交えながら論評を加えている。 筆者は仕事の関係で、長年、日中の間を行き来し、両国の国柄から民族性、政治、社会制度などの違いについては、よく知っているつもりである。それだけに、日本人が中国の何に関心があるのかということも理解しており、それを誇張なく正確に伝えることができるとも自負している。 本書が読者の中国理解、現状把握、そして未来分析に役立てば本望である。 2016年10月中旬 邱海涛

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    実は身近にいた中国共産党スパイ

    月刊『Voice』最新号に掲載された。執筆した作家、拳骨拓史氏によれば、日本国内には現在、5万人もの中国共産党員が滞在し、工作活動を展開しているという。わが国に根を広げる中国共産党の情報網。隣のスパイにくれぐれもご用心を。

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    中国の独裁体制崩壊を見据えた習近平の野望

    丹羽宇一郎(公益社団法人日本中国友好協会会長)「両刃の剣」の留学生 習近平は「欧米の風俗、価値観に感化された人びとが指導層に増えてくると、中国本来の美点が失われる。留学生を早期に戻すといったコントロールが必要だ」と言ったとされる。 もともとアメリカなど、人権意識の高い国々に多くの留学生を送り込むのは、中国の指導者層にとって「両刃の剣」の側面がある。米大統領選後の11日、北京の人民大会堂で、孫文の生誕150周年の式典で講演する習近平国家主席(ロイター) 先端技術などを学び、中国に導入するためには必須となる海外留学だが、中国社会の異質ぶりに気づいて帰国しなくなるケースも少なからずある。技術の蓄積のためにはある程度、目をつぶっていたのだろうが、すでに許容範囲を超えてしまったのかもしれない。 国民の基本的人権を抑圧する国家は、長い目でみれば必ず衰退していく。恐怖政治を強いた独裁国家がいずれ滅んでしまうことは、歴史が証明している。世界に受け入れられないというだけでなく、優秀な人材が母国から流出してしまうからである。中国に戻りたがらない留学生が少なからずいるという現実に、その兆候が表れている。 留学経験のある優秀な科学研究者が、中国の技術力底上げのカギを握ることは間違いない。たんに処遇を手厚くするだけではなく、個人の自由をある程度認めなければ、簡単には中国に戻ってくれなくなる。 そのことは指導部も、十分にわかっているだろう。実際、若い世代のリーダーほど国民の声をもっと尊重しなければいけないという思いは強い。ということは、民主化は中国の未来にとって必須の課題ということだ。留学生をはじめとする人材確保という問題がきっかけとなって、中国は徐々に新しい方向へ変わっていくのは必然の流れだろう。少数民族や人権活動を弾圧少数民族や人権活動を弾圧 中国ではチベット族、ウイグル族などの反政府・分離独立運動が続いており、これに対して中国当局はアメとムチを基本としながらの弾圧政策をとっている。 チベット自治区では抑圧的な統治に対する僧侶らのデモが以前から繰り返され、抗議の焼身自殺による死者は2009年以降で120人を超えている。ウイグル族への圧政は苛烈を極め、頻繁に起こる自爆テロや暴動に対する当局の弾圧と鎮圧が続いている。 習近平政権発足後は、反スパイ法や国家安全法、反テロ法などを次々と施行し、記者や人権活動家への圧力を強め、言論・報道統制も厳しくなった。2015年7月には、公安当局が北京、上海、広州など中国各地で、人権派弁護士や人権活動家ら100人以上を拘束したほか、メディアや非政府組織(NGO)に対する規制も強化されている。 中国ではかたちのうえでは三権分立をとっていても、実態としては裁判所に司法権はなく、中国共産党の政法委員会が実質的に判決を下す。「審議する者は裁かず、裁くものは審議せず」という言葉が不文律として定着している。 アムネスティ・インターナショナルによれば、2015年には、世界で少なくとも1634人の死刑が執行され、前年比で五割以上増えた。中国では死刑に関する情報が公開されていないため、この数字には含まれていないが、アムネスティは「世界で最も死刑執行が多い国は依然として中国」と指摘し、2015年には数千人が処刑されたと推定している。 アメリカなどの欧米諸国は国連人権理事会で、習近平体制下での人権活動家の拘束、インターネット利用の制限、少数民族への弾圧などを指摘して、「集会、結社、宗教、表現の自由」などを抑圧する政策をとっていると中国を非難している。 国内の反体制派とその家族、友人らに対する拘束、監禁、拷問などの人権侵害の指摘について、中国側はそのたびに否定しているが、国内に急速に民主主義的な価値観が広がることを警戒していることは確かだろう。 あるいは香港では、トップの行政長官選挙(2017年実施)で、中国政府が自由な立候補を阻はばむ選挙制度を決めたことに対する大規模な民主化要求運動が2014年9月に起こった。警察の催涙スプレーに民主派のデモ隊が雨傘を開いて対抗したことから、「雨傘革命」と呼ばれた。 歩み寄りの姿勢を見せない中国政府を欧米諸国は批判したが、民主派への妥協は中国本土の反政府運動や分離独立運動に飛び火しかねない。今後も時が来るまで政府が決定を撤回することはないだろう。従来の民主主義国は教訓にならない従来の民主主義国は教訓にならない 人権問題も含めて中国が民主化、あるいは民主主義体制に移らないかぎり、中国の存在は国際社会の脅威となる、そんな指摘を少なからず耳にする。 現在の中国について、元北京市長で中国の最高指導部たる中央政治局常務委員の王岐山とは、互いの立場を離れて一対一で議論したことがある。私が「現在の中国は日本を含む先進国の資本主義や民主主義を学ぶべきだ」と話したところ、王岐山は「それはちょっと違う」と異論を唱えて、おおよそ次のように語った。「民主主義的資本主義体制にある先進国の教訓は、中国にはそのまま教訓にならない。中国はこれだけの巨大な人口を抱えている。いままでの資本主義社会は、せいぜい数億人の規模にすぎない。そういう国の資本主義、民主主義体制と、14億人の民主主義体制はまったく違う。経済の規模、深さ、あらゆる意味で同じことをやって統治ができるとは思えない。この巨大な国を、雇用から環境問題まで、すべての面にわたって多数決の民主主義で統治することができるだろうか」 アメリカやユーロ圏の人口は3億人、日本は1.2億人。それに対して人口14億人、92%の漢民族と55の少数民族を抱え、日本の25倍以上の国土を持っている中国で、どうすれば自由と民主主義を実現できるのか、という問いである。アメリカや日本の例は、参考にはなっても教科書にはならないという。私は、彼の意見に一定の説得力があることを認める。 たとえば、全人代(全国人民代表大会)に所属する3000人の議員が、いかにして日本やアメリカのように熟議を尽くして審議していくのか。全員が議論して多数決で決めることなど、とうてい無理だ。ある程度、民主的な手続きを飛ばした独裁的な決定がなければ、何も決まらないだろう。習近平国家主席が大型画面に映し出された全人代=北京の人民大会堂(共同) 国家の統一が担保されなければ、その国の発展も繁栄も安定もない。そう考えると、現在の経済力の下での国家体制を考えるかぎり、中国という巨大な国家を統治するには、共産党の一党独裁以外の選択肢は考えられないのではないか。 もちろん、言論弾圧や人権侵害は厳しく批判されてしかるべきである。しかし、欧米と同じ民主主義体制では14億人の民を統治することはきわめて難しいというのが、長年のあいだ中国とつき合ってきた私の実感でもある。にわ・ういちろ 公益社団法人日本中国友好協会会長 1939年、愛知県生まれ。前・中華人民共和国駐箚特命全権大使。名古屋大学法学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。98年に社長に就任すると、翌99年には約4,000億円の不良資産を一括処理しながらも、翌年度の決算で同社の史上最高益を計上し、世間を瞠目させた。2004年、会長就任。内閣府経済財政諮問会議議員、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任ののち、10年、民間出身では初の駐中国大使に就任。12年の退官後も、その歯に衣着せぬ発言は賛否両論を巻き起こす。現在、早稲田大学特命教授、伊東忠商事名誉理事。著書に、『中国の大問題』(PHP新書)など。関連記事■ 丹羽宇一郎が語る、人類と地球の大問題■ なぜ中国はいつまでも近代国家になれないのか?■ 中国が仕掛けるオンナの「歴史戦」に断固対抗せよ

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    日米同盟の分断を目論む中国の挑発を止めろ!

    鈴木馨祐(衆院議員) 中国海軍とロシア海軍の艦艇が、我が国の尖閣諸島の接続水域に侵入したということです。領海内ではないとはいえ、極めて憂慮すべき事態であり、厳重な警戒が必要です。これは当然のことながら偶然やミスではなく、意図的な行動と考えなければなりません。米軍機への中国軍機の異常接近なども発生していたことを考えれば、考えられる背景としては次のようなものかと思われます。南シナ海の西沙諸島付近の海域で実弾演習する中国海軍=7月8日(共同) まず第一に、アメリカにおいて大統領選挙の構図が固まる中で、またいわゆる「トランプ現象」で明確となったアメリカ国民の間で強まりつつある孤立主義的傾向というトレンドの中で、アメリカのアジアへのコミットメント、日米同盟へのコミットメントを試す動きというものです。 中国にとっても、ロシアにとっても、アメリカが東アジアで軍事的な影響力を維持することは、非常に邪魔なことです。アメリカとそのアジアにおける最大の同盟国日本の関係を揺さぶり、またアメリカの地域における影響力を長期的に低下させることが、中国、ロシアにとっては最も望ましいシナリオです。 その一番のテストケースが尖閣諸島であり、またおそらく台湾海峡の問題ということになります。中国とロシアが連携しているのか否かはわかりませんが、少なくとも中ロ両国が、「共通の利害」を持っているということは客観的に見て妥当な分析だと思われます。 そして、第二に、南シナ海については「航行の自由」などの観点から、伊勢志摩サミットでも大きな議題となり、その他の国際会議でも議論され、国際社会全体として、問題認識を共有してきているますが、一方で東シナ海の問題がその陰に隠れてしまって国際社会での問題認識の共有ということでは一歩遅れを取ってしまっているという点があるのではないかと思われます。挑発をエスカレートさせる中露 国際法的には南シナ海以上に東シナ海の状況のほうが明確で、日本の中間線の主張に100%理があるが故に、そして実効支配を日本がしているが故に、日本は国際社会で問題が存在していないという立場を取り続けています。実際、日本政府として国際社会に対しても、南シナ海の問題に言及することのほうが多いかもしれません。 その結果として、私も最近いくつかの国の高官・トップリーダーと話す機会がありましたが、日本以外の国においては、南シナ海の問題のほうが東シナ海の問題よりもはるかに認識されていて、「東シナ海については、日本もあまり一生懸命主張していないので問題が深刻ではないのだろう」といった誤解が生じてしまっている現実があります。その間隙をついて、中国やロシアが今回の行動を起こした可能性が高いと思われます。 このような背景で引き起こされた今回の事案ですから、おそらくこれから、中国やロシアはさらに挑発行為をエスカレートさせていく可能性が高いと言わざるを得ません。 中国の艦艇が領海内に侵入する、あるいは民間人が尖閣に上陸するといった挑発行為が今後起こる可能性が高まっているという認識の下で、日本としても、あらゆる可能性に対応できるよう、自衛隊・米軍の警戒レベルを上げ万一の時の対応ができる体制を作っておくというハード面、万一の場合に対応できる法的整備と世論形成、トップリーダーの覚悟といったソフト面、その両面での備えを強化することが必要です。 「太平の眠りを覚ます蒸気船」ではありませんが、米国の動向も世界的に注目される中で、国際社会との連携強化とともに、われわれ日本人が日本の国を海外の侵略的行動から護るということを真剣に考えるきっかけにせねばならないくらい深刻な事態、それが今回の中国海軍の艦艇の初の尖閣諸島接続水域侵入事案なのではないでしょうか。(鈴木馨祐公式ブログ 2016年6月9日分を転載)

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    仲裁裁判所判決を「紙くず」 無法中国への最大の反撃

    櫻井よしこ(ジャーナリスト)国際法を巡る闘い中国、完全敗北(7月13日付産経新聞1面) 国際法を守る陣営と国際法を破る陣営との闘いが始まった。オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の判決が斬り出して見せた現実である。同裁判所は七月十二日、南シナ海での中国の無法な主張や行動について、中国の主張をほぼ全面的に退ける裁定を下した。 当初から中国にとって不利な判決になろうことはある程度、予測されていたが、仲裁裁判所は現在できうる限り最大限に踏み込んだ判決を示し、中国が独自に設定し、領有を主張してきた「九段線」について、「法的根拠なし」と断じたのである。 これにより、中国が南シナ海の全域にわたってその領有を主張する根拠はすべて崩れ去った。中国の完全なる敗北である。 フィリピンが仲裁裁判所に仲裁申し立てを行ったのは、二〇一三年一月だった。国際海洋法裁判所や国際司法裁判所と異なり、仲裁裁判所は相手方の当事国が提訴に応じなくとも手続きを進めることができる。中国は、これに反発した。 「当事国同士の協議で解決すべき」「仲裁裁判所にこの問題を扱う権利はない」と主張して、彼らは昨年十一月の口頭弁論にも参加しなかった。一方、フィリピン側は中国の活動に関して十五の申し立てを行い、一万ページにもわたる資料を提出して裁定に臨んだ。 裁定は、前述のように中国側の言い分をすべて退けるものだった。内容を要約すると、以下のとおりだ。 ①中国の主張する「九段線」に国際法上の根拠なし ②中国が埋め立てた人工島は「島」ではなく「岩」であり、排他的経済水域や大陸棚の権利は主張できない ③スプラトリー諸島には国際法上の「島」は存在せず、岩にどのような構築物を建設しても領海や領空は生じない ④中国の埋め立てや中国船による漁業が、周辺海域の生態系を破壊している ⑤中国船がフィリピンの石油探索や漁業を不法に妨害している ⑥仲裁手続きが始まっているのに、なおも大規模な埋め立てや造成を行ったことを非難する 内容を見る限り、裁定はハーグ仲裁裁判所の固い決意を示している。それは国際社会は徹頭徹尾、互いに法に従い、法に基づく秩序によって治められるべきとする考えだ。中国のような“大国”が、国際法遵守という二十一世紀の人類のあるべき原理原則を破壊しようとしていることに対する警戒心、さらに憤りさえも垣間見せるものだ。中国は暴言吐いて猛反発中国は暴言吐いて猛反発 仲裁裁判で中国が一方的に造成した建造物等の取り壊しを求めなかったことに対し、一部からは「踏み込みが足りない」との指摘もあるが、取り壊しの指示に関しては仲裁裁判所の範疇を超えるものであろう。判決内容は、むしろ驚くほど踏み込んだものであり、裁判所はできうる限りの十分な裁定を下したと言うべきだ。 仲裁裁判所の裁定に異議を唱えることは許されておらず、これが最終決定であることも考えれば、裁定がいかに重大かつ決定的な意味を有することか、そのことの深刻さを一番よく理解しているのが中国であろう。 彼らは、当初から仲裁裁判による解決を拒絶しており、当然のことながら、この判決にも激しく反発している。中国外務省は十二日、「法的拘束力のない判決を受け入れることはない」 「中国の権利を著しく侵害した」とする声明を発表、中国政府も「南シナ海における活動は二千年以上の歴史がある」と主張した。 習近平国家主席も同日、EUのトゥスク大統領との会談で「裁定に基づくいかなる主張や行動も受け入れない」と述べた。中国政府は一体となって絵に描いたような横暴、法の理念を覆す発言を繰り返す。 七月十三日付の朝日新聞にコメントを寄せた北京大学国際関係学院の帰泳濤副教授は〈裁判で争う問題ではない〉と題し、次のように述べている。〈中国には、領土問題について歴史的に欧米主導の国際法体系から「被害を受けた」という潜在意識がある。中国は近代史の中で領土や権利を失ってきたが、いずれの場合にも条約があり、「合法的」とされてきた。既存の国際法が形成される過程で、中国の意見はほとんど反映されなかった〉 中国の強硬姿勢の背景にある思想が凝縮されているではないか。つまり現在の国際社会で遵守すべき国際法は、先んじて先進国となった欧米に有利な内容であり、後発の中国には不利なものだから受け入れないというのだ。 だが、中国は国連海洋法条約(UNCLOS)を批准した。批准したからにはそのルールを守らなければならないというのが、私たちの原理原則である。批准によるメリットを受けながら、一方で自国に不利な部分のみ無視する勝手は許されない。中国はそうした西側陣営の基本的価値に真っ向から挑戦しているのである。“無法者国家”そのもの“無法者国家”そのもの2010年10月、中国で拘束されていた社員が解放されたゼネコン「フジタ」の本社には多くの報道陣が集まった(松本健吾撮影) 中国との価値観の闘い、国際法を守る側と破る側との究極の対立は、しかしいまに始まったことではない。これまでも中国は、“無法者国家”の振る舞いを見せてきた。それが明らかになったのが二〇一〇年だった。 いまさら指摘するまでもなく、中国はWTO加盟国である。加盟国として中国は、海外からの投資をはじめ、多くのメリットを享受してきた。 にもかかわらず、中国は為替操作や鋼管にかけていた反ダンピング関税など、ルールを無視したWTO違反を繰り返している。 そうしたなかで二〇一〇年、尖閣沖中国漁船衝突事件のあと、中国は在中日本企業・フジタの職員を拘束しただけに留まらず、レアアースの禁輸を発動した。尖閣諸島は自国領だと主張する中国漁船が、海保の巡視船に体当たりで突っ込んできたうえ、船長を拘束した日本政府に抗議するために、事件とは無関係の企業社員を拘束し、加えて中国が独占しているレアアースの禁輸を宣言したのである。明らかなWTO違反である。 その時その時で、国際法など容易に破り捨てるのが中国である。事実、同件はのちに明確なWTO違反が確定している。 中国の利己主義は国際法違反の行為を生むだけではない。歴史の解釈にも同様の現象が生じている。中国が近現代において欧米先進国から被害を受けた、という被害者意識を強く抱いていることは、先述の北京大学帰副教授のコメントが示すとおりである。 中国は自身を被害者だと言い募るが、自身が加害者であることには口を噤んでいる。 チベットもウイグルも、もともと中国の一部などではなかった。それを力ずくで奪ったのが中国共産党である。もともとの民族の主張を尊重すべきだというのであれば、中国はチベットとウイグルの人々が有していた国土を放棄すべきであろう。 また、南モンゴル(現在の内蒙古自治区)は米英ソ三国のヤルタ会談で中国に属すると決められた。南モンゴル出身の楊海英静岡大学教授は、このヤルタ協定こそ、南モンゴル人の悲劇の元凶だと語る。仮に、中国が先んじて先進国となった国々のルールに異議申し立てをするのであれば、現在の内蒙古自治区の独立をも了承すべきだろう。 中国はしかし、そのようなことは決してしない。彼らは自国に都合の良いところだけをつまみ食いするように利用するだけである。「判決は紙屑」の横暴「判決は紙屑」の横暴 中国は文明国でもあり、文化大国でもある。私はそのような中国への尊敬も抱いている。しかし、共産党支配の中国の「法の支配」を否定する非常識は断固受け入れられない。 胡錦濤政権時代、外交の責任者だった戴秉国は、判決が出る直前の七月五日、アメリカのワシントンで行われた米国カーネギー国際平和財団と中国人民大学重陽金融研究院主催の南中国海問題対話の開幕式で講演を行った。 そこで「仲裁裁判所の判決は重大なものではない、ただの紙屑だ」と述べた。裁定後の七月十三日には中国の外務次官も同様の発言をしたが、戴秉国の講演は全体にわたって驚くべき暴言、虚言の連続である。中国外務省は戴演説の全文をホームページに掲載した。つまり、戴氏の暴言は中国政府の主張そのものだということだ。一部を引こう。〈南沙諸島の中国復帰は、(第二次世界大)戦後の国際秩序と領土の取り決めの一部であり、国連憲章など国際法によって守られている。 その後フィリピンやベトナムは中国の南沙諸島の一部の島や礁を不法に武力侵略・占領した。国際法に基づき、中国は自己保存権と自衛権を完全に有し、こうした島や礁を取り戻す能力もある。 だが中国は地域の平和・安定維持の観点から、長年高度の自制を保ち、交渉による平和的解決を探り続けてきた〉〈フィリピンが中国との南中国海紛争について一方的に仲裁を申し立てたことは、南中国海における関係国の行動宣言や、中国側との一連の二国間合意、および国連海洋法条約の規定に背き、始めから不法だ。 仲裁裁判所が近く示す裁定は紙くずに過ぎない。中国がこのような仲裁を受け入れず、いわゆる裁定を認めず、執行しないのは、国際法に基づき自らの権利を守ることであり、国連海洋法条約の完全性と権威を守ることでもある〉〈近代以降、中国は西側列強にさんざん虐げられてきた。これは中国人の記憶に新しい。中国が領土主権の問題における命運をしっかりと自らの手に握り、いかなる第三者の解決案も断じて受け入れないのはこのためだ。当面の急務は、いかなる挑発的行動も取らないようフィリピンを厳しく制約することだ〉〈中米は世界最大の発展途上国および最大の先進国として、世界経済の発展、国際平和・安全の維持などの面で一層の共同責任を担っている。中米は共に知恵と先見性に富む偉大な民族だ。共通利益の観点から、相互尊重を堅持し、率直で誠意ある意志疎通を行ないさえすれば、双方は溝を適切に管理・コントロールし、協力のチャンスを見出すことが必ずできる〉(人民網日本語版、二〇一六年七月七日付記事より) 驚くべきことに、「仲裁を受け入れないことこそが国連海洋法条約を守る態度である」と述べているばかりか、「いざとなれば力尽くで島や礁を奪い返すだけの力はあるのだ」と誇示しているのである。 さらに西側に虐げられてきたとする被害者、後進国としての主張と、米国と並ぶ大国になったという二つの立場を使い分けながら、〈中国の平和的台頭及び覇権争いをしない戦略的意図を明確に認識〉するようアメリカに要求している。中国の身勝手なダブルスタンダードが鮮明に読み取れる。戴秉国とヒラリーの蜜月戴秉国とヒラリーの蜜月2009年7月、米ワシントンで「戦略・経済対話」を終えた中国の戴秉国国務委員(左)とクリントン国務長官(ロイター) この発言が、戴秉国という人物のものであることは大いに注目すべきだろう。戴秉国は、キッシンジャー時代からアメリカの政治家たちの心を掴んできた人物だ。 キッシンジャーはヒラリー・クリントンが国務長官になった際、戴秉国は〈中国政府高官の中で、最も開放的で魅力的な人物の一人〉とわざわざ申し送りをした、と彼女の著作(原題『Hard Choices』、翻訳版は『困難な選択』日本経済新聞出版)に綴られている。 本書に描かれた戴秉国とヒラリーの関係は、これ以上ないほどに親密である。ヒラリーと各国とのかかわりが一章ずつ記されているなかで、日本については「アジア」とまとめられた章のなかでわずかに触れられたのみである。対して、中国については「中国」 「北京」と二章割かれており、その中心人物が戴秉国である。〈私と戴秉国は即座に意気投合し、その後何年にもわたって多くを語り合った。彼は時折、米国がアジアでやる何もかもがいかに間違っているかを、皮肉たっぷりに、しかしつねに笑みを浮かべながら懇々と説いた〉〈まだ出会ってすぐのころ、彼(注・戴秉国)はまだ生後間もない女の子の小さな写真を取り出して、「私たちはこの子のために、こうしているのですよ」と言った。その思いに私は共感した。(中略)この情熱の共有が二人の揺るぎない絆の中心にあった〉 国務長官まで務めたアメリカの政治家、それも大統領候補として最も有力視されている人物が、中国の政治家に対してこれほど入れ込んで、はたして大丈夫か。そう思わせる表現の連続だ。戴秉国との面会時の写真を口絵に掲載するほどの惚れ込みようなのである。 ヒラリーにここまで信頼を抱かせる「開放的で魅力的」な人物が、国際法に基づく裁定を「紙屑」と呼んで憚らないこのギャップを、私たちはどう考えるべきだろうか。「中国はもとよりそのような国だ」と言うだけで終わりにはできない。 中国はアメリカの政治状況を見ているのだろう。レームダック化したオバマ大統領はもとより、大統領選のさなかでアメリカが活発に動くことができない現状で、中国が強く出たとしてもアメリカは実行力を伴う行動には出られまい──。そう睨んでいるのではないか。 いまはむしろ強く出て押し込んでおき、新政権ができたら対話に応じてほんのわずかな譲歩の姿勢を示す。そうして「話の分からない中国ではない」と印象づけ、責任ある大国としての姿勢を強調し、米側の新政権に「中国の譲歩を引き出した」とのお土産を渡す算段ではないだろうか。中国が考える「次の手」中国が考える「次の手」 むろん、その譲歩は、南シナ海一帯をわがものとする中国にとってはもはや痛くも痒くもない程度のものに留まるであろう。現在の言動は、その効果をより大きく見せるための布石と見えなくもない。そう考えれば、現在の習近平政権の常軌を逸した強い反発も、戦略的な計算ゆえであると推察できる。 中国の横暴さに慣れてしまった私たちは、ともすれば「またやっている」「恥も外聞もない」と一蹴してしまいがちだ。なかには、「中国の暴言は中国の焦りだ」と見る人もいる。中国が焦るのは当然としても、その先に日本もアメリカもアジア諸国も何をすべきかを考えなければならない。中国が焦っているとして、こちら側が優位にあるなどと安心するのではなく、中国の長期的・戦略的思考に備えなければならない。 情勢は、実は中国の思惑どおりに事が進むほど甘くはない。中国の南シナ海支配は外交問題だけではなく、内政や共産党内の権力闘争にも大きくかかわってくるからだ。仲裁裁判所の判決を「紙屑」とまで一蹴しておきながら、それを受けて習近平政権が退いたとなれば、習近平政権、ひいては共産党支配の正統性にかかわる問題となる。 南シナ海の問題は、国際世論と国内世論のゼロサムゲームになってしまっているのである。強く出て国内世論の支持を得れば得るほど、国際世論からの信頼を失う。中国自身が始めたこのゲームは、自らを縛ることにも繋がっている。 中国が南シナ海支配を目に見えて活発化し、行動に移し始めた二〇一四年早春以降、国際会議の場では中国への非難が相次いだ。顕著なのは毎年、五月末から六月頭にかけてシンガポールで行われるIISSアジア安全保障会議(通称・シャングリラ会合)である。 二〇一四年の第十三回会合では安倍晋三総理が基調講演を行い、中国の動きを次のように牽制した。〈世界が待ち望んでいるのは、わたしたちの海と、その空が、ルールと、法と、確立した紛争手続きの支配する場となることです〉〈南シナ海においては、ASEANと中国の間で、真に実効ある行動規範ができるよう、それも、速やかにできるよう、期待してやみません。 日本と中国の間には、二〇〇七年、私が総理を務めていたとき、当時の温家宝・中国首相との間で成立した合意があります。日中両国で不測の事態を防ぐため、海、空に、連絡メカニズムをつくるという約束でした。 残念ながら、これが、実地の運用に結びついていません〉 このように中国を名指しで批判し、法の支配に基づくアジア地域の繁栄を、と説いた安倍演説は、各国の安全保障担当者からスタンディングオベーションを以て迎えられる画期的なものだった。 これに対し、中国の王冠中人民解放軍副総参謀長は用意してきた原稿を脇に置いて、安倍総理と、同じく中国を牽制したヘーゲル米国防長官を「中国を敵視している」 「覇権主義と威嚇の言葉に満ちた非建設的な内容」 「(日本の)冷酷なファシスト的、軍事的侵略の復活を許さない」と猛烈に批判した。 さらには中国のやり方は平和的であり、周辺国と「ウィンウィン」の関係を保っていると断言。「南シナ海は二千年前から中国のものであり、現在の国際法が遡及できるものではない」と述べた。 王氏の演説はあまりに非論理的な内容で失笑を買ったものの、以来、中国は南シナ海について「二千年前からの領有権」をずっと主張し続けて今日に至る。米国が怠った初期対応米国が怠った初期対応 二〇一五年の会合では、中国の孫建国人民解放軍副参謀長が「武力では平和を実現できず、強権では安全を保証できない。ウィンウィンの関係が大事。中国は積極的に国際的な責任と義務を履行し、世界と地域の安全・安定の維持のなかで建設的な力を発揮している」と述べている。 さらに、シンガポールのリー・シェンロン首相に講演をさせる「代理戦争」を展開し、リー首相はなぜか歴史問題で日本を批判。過去を乗り越える必要があるとしたうえで、「米国と中国のどちらかの味方につくかを選びたいと思う国はない」としながらも、南シナ海問題は日本やアメリカなど第三国が介入するよりも、中国とASEANの「当事国が解決すべき」とアメリカよりも中国の思惑に沿った講演を行った。 そして今年のシャングリラ会合では、アシュトン・カーター米国防長官が〈中国がいまの行動を続けるなら、中国は孤立した万里の長城を築いて終わるだろう〉と厳しい言葉で中国を批判したうえ、公演中に「principle(原理・原則)を重んじよ」と三十七回も述べたのである。 これに対し中国側は前年同様、孫建国氏が登壇し、「南シナ海の問題は完全に解決されている」 「ウィンウィンだ」 「フィリピンの主張は国際法違反である」などと述べたうえ、アメリカを名指しはしないながらも「某国が南シナ海で『航行の自由作戦』を展開し、中国に圧力をかけている」などと述べた。 こうした中国の強気の姿勢とは裏腹に、今年はASEANの小国を含めて一国たりとも中国の味方をする国がなかった。ASEAN諸国はアメリカ側に付くとは明言しなかったけれども、開かれた海、つまり「航行の自由」こそが大切だと述べたのである。 それにしてもなぜ、アメリカは国際社会の常識である「航行の自由」をあえて声高に叫ばなければならない状態に至るまで、南シナ海における中国の一方的な暴挙を許してきたのか。 二〇一三年九月、オバマ大統領がシリアへの軍事的不介入を決めて「アメリカは世界の警察官ではない」と宣言したことを契機として、中国は南シナ海での埋め立て、軍事基地の建設を活発化させた。ロシアもすばやく動き、シリア問題で巧みにリーダーシップをとった。この時、アメリカを軸に保たれてきた冷戦後秩序に異変が生じ始めた。パックス・アメリカーナの崩壊の始まりだったと言えるだろう。日本が先頭に立つべし日本が先頭に立つべし オバマ大統領の軍事的不介入政策を奇貨として、中国が南シナ海をわが物とする主張や行動を見せ始めたにもかかわらず、アメリカは初期対応を怠ったのである。南シナ海の南沙諸島で警備する中国人民解放軍の海軍兵士=1月(新華社=共同) 中国の埋め立て、軍事施設の建設がどうにも止まらない、もはや後戻りさせることなどできないことが明白になって、二〇一五年六月、オバマ大統領は初めて南シナ海の実情を、映像を通じて公表することを許した。世界は南シナ海がどのように中国の海と化しつつあるかを見せつけられて驚愕した。 アメリカは「航行の自由作戦」を展開すると宣言した。しかし米軍がスプラトリー諸島周辺にイージス艦・ラッセンを派遣したのは、それから五カ月も過ぎた昨年十月末だった。 米国は三カ月に一度、米艦船や航空機を南シナ海に派遣すると発表し、今年一月にはパラセル諸島にイージス駆逐艦カーティス・ウィルバー、五月に再びスプラトリー諸島周辺に米海軍のイージス駆逐艦ウィリアム・P・ローレンスを派遣した。七月には、空母ロナルド・レーガンが警戒監視活動を行った。 三カ月に一度の監視活動で、中国を抑止できるとは思えない。ただその一方で、アメリカは直接的な衝突を避けながら、中国を第一列島線内の行動に制限すべくオフショア・コントロール戦略を取っている。 これに対し、高い潜水艦技術を有する日本が協力できる部分は大きいのではないか。日本にはアメリカの基本戦略を支える行動と決断が求められるが、その第一は、軍事的提携のために警察力による南シナ海の秩序維持のための監視体制を支えることである。 二〇〇六年に作られた枠組みとして、「アジア海賊対策地域協力協定」がある。同枠組みはASEAN諸国に日米、韓国、オーストラリアなども加わった多国間の協力システムである。こうした枠組みをより強化する先頭に日本が立つのがよい。 日本はすでにコーストガード(沿岸警備)の分野では、フィリピンやベトナムに航空機の派遣や巡視船の無償供与など、多大な貢献を行っている。同じことは東シナ海でも同じことは東シナ海でも もう一点、日本が最も警戒しなければならないのが東シナ海である。南シナ海で起きることは、必ず東シナ海でも起きる。現に中国は、尖閣諸島の久場島周辺に海軍のミサイル駆逐艦を入れてきた。鹿児島の口永良部島では、同様のミサイル搭載のフリゲート艦が領海に侵入した。 軍艦が日本の接続水域や領海にまで入ってくるようになったことは、中国の対日戦略が新しい、より緊迫した局面に入ったということである。 南シナ海では警察力を主軸とする監視体制を強化するとともに、東シナ海も含めたアジアの海を守るために海保と自衛隊の協力、他国との共同パトロール体制も推進しなければならない。 なぜこのような防衛努力を日本がしなければならないか、なぜ日本が指導力を発揮しなければならないかは、アメリカをはじめとする国際社会が、かつてないほど孤立主義に向かっていることを見れば明らかである。 オバマ大統領の「アメリカは世界の警察官ではない」という宣言とシリアに対する軍事介入否定、それに続く南シナ海での中国に対する軍事介入の否定は、アメリカの孤立主義を際立たせる。こうしたアメリカの内向き志向は、トランプ氏によってさらに強調されつつある。 国際社会を広く眺めれば、アメリカのみならずEUからの離脱を決めたイギリスをはじめ、自国中心主義、孤立主義の連鎖が起こり始めている。 イギリスのEU離脱に追随するかのような動きが、マリーヌ・ルペン党首率いるフランス極右政党「国民戦線」をはじめ、オーストリア、ドイツ、ポーランド、チェコ、スロバキア、オランダなど多数の欧州諸国で見て取れる。 EUを離脱したイギリスの存在感が失われれば、英米を中心とするNATOの枠組みにも影響を及ぼすだろう。その時、ほくそ笑むのはクリミア併合などの動きに見て取れるように、「法を重んじない側」のロシアである。中国に“反撃”せよ! 日本は昨年夏に安保法制を通過させたが、国際情勢を見れば、それに続いて憲法改正を急ぐ必要がある。これからの国際社会では、警察力、軍事力の双方で多国間の協力システムが作られていくだろう。日本だけが「ここから先はできません」と憲法を理由に動かないわけにはいかない国際情勢が出現するだろう。何にもまして、東シナ海が危機に見舞われるとき、多国間の枠組みによって守られるのは日本である。米大統領選の結果を受け、トランプ氏について発言する安倍晋三首相=11月9日午後、首相官邸(斎藤良雄撮影) こうした軍事協力の枠組みを構築しながら、日本は二十一世紀の国際社会の価値観も、自信を持って提唱するのがよい。「法の支配のもとの繁栄」を謳いあげ、国際法に基づく国際秩序を守ることこそが二十一世紀の世界にとって何よりも重要だとの理念を、日本が先頭に立って説くのである。 これこそが、中国の覇権を支える「三戦」(心理戦、世論戦、法律戦)を逆手に取った、中国が最も苦手とする最大の“反撃”となるに違いない。さくらい・よしこ ベトナム生まれ。米ハワイ大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務、日本テレビ・ニュースキャスター等を経て、現在はフリージャーナリストとして活躍。『エイズ犯罪血友病患者の悲劇』(中央公論社)で大宅壮一ノンフィクション賞受賞、『日本の危機』(新潮社)など一連の言論活動で菊池寛賞を受賞。近著に『日本の敵』(新潮社)、『戦後七〇年 国家の岐路―論戦2015』(新潮社)など。

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    【現地レポート】人民解放軍と習近平、軋轢の深層

    矢板明夫(産経新聞中国総局記者)軍の暴走が招いた“敗北” オランダ・ハーグにある仲裁裁判所は七月十二日、南シナ海を巡る中国の主張を全面的に否定する判断を出した。習近平政権は、外交上で大きな“敗北”を喫したといえる。中国が実効支配する南シナ海・パラセル(中国名・西沙)諸島のウッディー(永興)島=2015年10月(共同) この結果を招いたのは、中国海軍が強引に同海域に進出し、フィリピンやベトナムといったほかの国が領有権を主張する離島で、軍事拠点建設などを始めたことがきっかけだった。中国外交は後手となり、フィリピンが提出した仲裁裁判に対応できなかった。軍の暴走によって中国の国益が損なわれた構図といえる。 あるベテラン外交関係者は、こう証言する。「情報を共有せず、勝手なことばかりをする軍に対し、外交交渉の厳しい矢面に立たされる外交官たちは大きな不満をもっているが、文句が言える雰囲気ではない」 二〇一二年秋に発足した中国の習近平政権は、三十万人軍縮や軍の組織再編を実施するなど、軍の掌握に力を入れてきた。しかし、軍組織はバラバラとなって結束力が低下し、現場から指導部への不満も高まり、各部署は勝手な行動をすることが多くなったという。「改革は決して成功したといえない」と断言する軍関係者もいる。 南シナ海に限らず、最近は、東シナ海でも中国軍の艦船による尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖の接続水域への侵入や、中国軍機が空自機に攻撃動作を仕掛けるなど、日本に対する挑発も頻発している。これらの行動は、必ずしも軍中央から指示を受けていないという見方もある。利権拡大を目指す中国軍の現場を、中央がコントロールできなくなりつつあるようだ。四人の上将が揃い踏み 中国海軍は七月五日から十一日にかけて、南シナ海の西沙(英語名・パラセル)諸島付近の海域で大規模な実弾演習を実施した。仲裁裁判所が南シナ海をめぐる問題の裁定を示す十二日の前に、軍事力を誇示するとともに同海域への実効支配を国内外にアピールする狙いがあったといわれる。 演習には南シナ海の防衛を担当する南海艦隊のほか、ロシアや朝鮮半島方面を担当する北海艦隊、さらに日本や台湾方面を担当する東海艦隊からも複数の主力艦が参加し、計百隻以上の軍艦に数十機の航空機とミサイル部隊が、赤と青のチームに分かれる形で対抗演習を展開した。 赤は中国人民解放軍、青は米軍を想定しており、赤チームが守る海域に青チームが侵入を試みたが、空、海上、水面下でさまざまな打撃を加えられ、最後は赤チームが完勝するというシナリオだ。 国営中央テレビ(CCTV)記者は、昨年十二月に配備されたばかりの最新型のミサイル駆逐艦で、赤チームの指揮艦となった合肥艦に同乗。ミサイルや魚雷などを発射する場面を撮影したほか、同艦内に設けられた赤チームの司令部の内部の様子も伝えた。 司令部のなかには、海軍司令官の呉勝利氏、海軍政治委員の苗華氏、軍事委員会連合参謀部副参謀長の王冠中氏、南部戦区司令官の王教成氏の四人の上将が揃い踏み、海図を前にして相談しながら命令を出す様子がテレビの画面に映し出された。 中国軍の最高階級は元帥で、その次は大将だが、この二つの階級は日中戦争と国共内戦に参加した軍指導者、計二十人にだけ授与された。すでに全員が物故しているから、現在の実質的最高階級は上将だ。 日本メディアは、中国軍の「上将」を「大将」と訳す場合が多い。現役上将は約三十人いるが、軍組織各部署のトップやナンバー2などの要職を占めている。 中国の軍関係者は、「通常の軍事演習の最高指揮官は現場責任者の少将か中将が務める。上将が参加するのは極めて異例だ。しかも、四人もの上将が同時に第一線に出てくることはこれまでありえなかったことだ」と話した。 中国メディアは、四人の上将が肩を並べて陣頭指揮をとることを大きく伝え、党中央と軍本部が今回の演習を重要視している証拠だと強調した。 しかし、「船頭多くして船山に登る」という言葉があるように、四人もの軍首脳が同時に演習を指揮することに対し、軍関係者の間では「現場を困惑させるだけ」といった冷ややかな意見が聞かれた。「習近平政権による軍改革後の混乱ぶりを象徴している」と指摘する声もあった。騒然となった海軍人事騒然となった海軍人事 習政権は昨年末から今年はじめにかけて実施した軍改革で、長年、伝統がある軍中枢部門を構成する「四総部」と呼ばれた総参謀部、総政治部、総後勤部、総装備部を解体し、その機能を「連合参謀部」 「政治工作部」 「訓練管理部」 「国防動員部」など十五の部局に分散した。軍権を細かくわけることで、軍トップである習氏が全面掌握を進めたい狙いがあるといわれる。(AP) しかし、この改革の評判はよくなかった。「会社でいえば、四人の部長を全員解任して、社長が直接十五人の課長に指示を出すシステムになったようなもので、全体像が見えるのは社長一人だけとなり、現場は大混乱している」といった声が聞かれた。「演習に複数の上将が参加したのは、各部門の代表がいないと組織を動かせなくなった事情があるからだ」と軍事に詳しい中国人ジャーナリストは説明した。 昨年までなら、このような演習は南海艦隊の司令官が陣頭指揮をとり、北京にある海軍司令部を通じて各部署との調整を行えばよかったが、組織機能が細かく分散してしまったため、そうしたことがしにくくなったという。 四人の上将のなかで最年長は、海軍司令官の呉勝利氏だ。習近平氏と同じく、元党高級幹部を父親にもつ太子党の一人として知られる。今年で七十歳、すでに定年を過ぎているが、習氏には信用して任せられる人材がほかにいないため、何度も引退時期を延期した経緯がある。 副参謀長の王冠中氏は北京の中央軍事委員会本部との調整役で、南部戦区司令官の王教成氏は海南島などにある陸、空軍基地との調整役を務めた。しかし、四上将のうち海軍政治委員の苗華氏の役割については「分からない」と首を傾げる人が多く、さまざまな憶測がある。 共産党の軍隊は、司令官と政治委員のツートップ制を採用している。司令官は軍事訓練など、政治委員は人事や思想教育などを担当する。苗氏が演習に参加したことは、会社の人事部長が営業の現場に出てきたようなもので、違和感を覚えた人が多い。 苗氏は福建省に駐屯する陸軍三十一集団軍の出身で、若い時に同省に勤務した習近平氏と交流があったため、ここ数年、最高指導者の側近としてにわかに出世した。海軍の経験が全くないにもかかわらず、海軍政治委員に任命されたため、人事が発表されたときに一時騒然となり、大きな反発も起きたという。 苗氏は赴任してから一年半が過ぎたが、いまだに部下から警戒されており、海軍内で浮いた存在だといわれる。今回の演習は自ら希望して参加したというが、その目的について「自分自身の露出度を増やして存在感を示すほか、習氏の目付役としてほかの将軍たちを監視する役割があるのではないか」と囁かれている。  このような憶測があることは、組織として異常。習近平氏がいまだに多くの軍幹部を信用しておらず、軍幹部たちもまた習氏に対して大きな不信感を抱いていることが窺える。夜眠れない軍幹部夜眠れない軍幹部  南シナ海における軍事演習が行われていた最中の七月九日、中国軍の士気に大きく影響を与えるニュースが流れた。国営新華社通信などが、「元空軍政治委員の田修思上将が重大な規律違反の疑いで党の規律部門に拘束された」と報じたのだ。 習指導部が発足してから、軍内で実施された反腐敗キャンペーンのなかで、軍制服組トップの党中央軍事委副主席だった徐才厚氏と郭伯雄氏に続き、田氏は三人目。香港紙によれば、田氏は七月五日早朝、妻と一緒に北京市内の自宅から連行された。別の都市に出張していた田氏の秘書も、同じ日に拘束されたという。 田氏は一九八〇年代、連隊長として中国とベトナムとの国境武力紛争に参加したことがあり、中国軍のなかで数少ない実戦を経験した将軍である。成都軍区政治委員を経て、二〇一五年夏まで空軍政治委員を約三年間、務めた。引退後は、全国人民代表大会(国会)で外事委員会副主任を務めていた。 徐才厚氏と郭伯雄氏が失脚したあと、それぞれの元部下ら数百人が連座する形で粛清されたが、田氏が拘束されたことで今後、その周辺者や関係者のなかにも逮捕、または職を追われる人が多くいると見られる。「元成都軍区と空軍のなかに、夜眠れなくなった幹部が急増した」といった話が聞かれた。「虎もハエも叩く」と宣言する習近平政権が主導する反腐敗キャンペーンは、二〇一四年に徐才厚氏、二〇一五年に郭伯雄氏、二〇一六年に田修思氏と毎年一人ずつ「軍のなかの大虎」として上将を摘発した。このことに大きな不満をもつ軍幹部は多い。 ある幹部は、「まとめて摘発するならまだいいが、一人ずつやることで現場に恐怖を植え付けようとしている。このままでは、誰も安心して仕事できない」と語った。 田氏が失脚した表の理由は、現役時代の巨額な贈収賄などの汚職にあったとされるが、本当の理由は習氏主導の軍区改革に反対したことだといわれる。田氏はほかの軍長老と連携して、自らの出身である成都軍区の撤廃に最後まで抵抗した。それが、習氏の逆鱗に触れたとされている。習近平の「マージャン改革」 中国人民解放軍は、二〇一五年まで計七つの軍区があった。習指導部は今年二月、済南と成都の両軍区を廃止し、北京を中部、瀋陽を北部、蘭州を西部、南京を東部、広州を南部にして、名称も軍区から戦区に変更した。 ところが、この変更について「各司令部の配置バランスが極めて悪い」と首を傾げる軍事専門家がいる。七軍区は小平時代に定着した区分けで、各方面に起こりうる戦争や軍事衝突を想定し、その性質、規模などを考量したうえで対応する軍種を配置、それぞれの軍区には違う使命があった。しかし、これを五つにしたことで、チベットやインド方面を担当する司令部がなくなり、東沿海部の防衛も手薄になった。「中国地図の形と仮想敵を一切無視して、強引に東、西、南、北、中の五つに分けた。語呂合わせとして良いかもしれないが、それ以外に七つを五つにする意味がわからない」といった不満の声が、軍の現場から聞こえた。マージャン牌には東西南北中があることから、今回の戦区再編を「マージャン改革」と揶揄する声もある。 軍関係者によれば、習氏は当初、戦区を五つにしたのは、瀋陽軍区と蘭州軍区を廃止したかったためだという。瀋陽軍区は徐才厚氏、蘭州軍区は郭伯雄氏の出身軍区だった。習指導部は、胡錦濤時代を支えたこの二人の実力者を排除し、その勢いで二人の出身軍区も廃止して、二人の影響力を軍内から一掃することを狙ったのだ。 しかし、現在の軍指導部内には瀋陽、蘭州両軍区の出身者が多くおり、反対が強く、同時に両軍区の戦略的位置が極めて重要であるため、激しい攻防の末、当初の構想になかった成都と済南の両軍区が廃止されたという。司令官を“国替え”司令官を“国替え” これに対し、成都軍区出身の田氏らが猛反発した。方針が決まってからも決定を覆そうとして、ほかの軍長老と連携して活動をしたことが問題視されたという。汚職よりも、習氏に逆らったことが失脚の本当の原因といわれている。田氏の拘束はほかの幹部に対し、「中央の指示に従え」という見せしめ効果を狙った側面もある。 また、習指導部が任命した新しい戦区の司令官もサプライズ人事だった。五人の司令官のうちに四人もAからB、BからC、CからAといった形で“国替え”させたのである。「上官とその部隊を強引に切り離すことが狙いで、現場を信用していない表れだ」と指摘する声がある。 ある元軍幹部は、現在の軍内の上将クラスのほとんどが郭、徐両氏に登用された幹部で、習氏は彼らを信用していないが、ほかに使える人材が手元にいないため、「このような形で使うしかない」と説明した。しかし、「こんな無茶苦茶な人事をすれば、現場の志気が低下するに違いない」とも指摘した。リストラされた将兵たち 昨年末頃から、「このままでは解放軍は共産党の軍隊でなくなり、習家軍(習近平個人の軍隊)になってしまう」と危惧する声が軍長老の間で聞こえ始めた。軍内でいまでも大きな影響力を持つ江沢民元国家主席も軍長老たちと同じ意見だ、との情報もある。 二〇一五年九月三日に行われた抗日戦争勝利七十周年の軍事パレードの際に、習主席が「三十万人の軍縮」を突然発表したことに対しても、軍内で大きな不満が噴出したという。 軍縮案は習氏とその側近だけで決めており、軍現場への事前の根回しが不十分だったため、多くの高級将校はテレビ中継で初めて知ったという。「自分たちも削減対象なのか」と疑心暗鬼に陥り、部下から聞かれても何も答えられないなど、現場は大混乱したという。 習氏が軍事パレード演説のなかで軍縮を発表したのは、世界中に高まる「中国脅威論」を払拭する目的のほか、自身が「平和を愛する指導者」をアピールする狙いもあった。情報が事前に外国メディアに漏れないように、極秘扱いにしたという。 削減される三十万人の中身について、習氏に近いとされる元陸軍少将の徐光裕氏が中国メディアに対し、各軍区の陸軍を中心に二十万人の将兵のほか、医療、通信、芸術、宣伝工作団など計十万人を加えると説明した。国営新華社通信が配信した解説記事では、三十万人の人件費は年間約六百億元(約一兆二千億円)で、浮いた金は兵器・装備の一層のハイテク化に使われると説明したが、リストラされた将兵たちの処遇には言及していない。軍の暴走を黙認する習近平 削減対象となる高齢の陸軍将校らの再就職は難しい。それだけではなく、中国では近年、復員軍人に対する社会保障も不十分で、地元政府の財源不足のため復員軍人手当を支給しない事態も各地で起こり、元軍人による抗議デモが頻発している。「政府は私たちの面倒を見てくれるのか」といった軍現場での不安の声が多いという。(ロイター) 軍掌握を狙った習近平氏による強引な軍改革がさまざまなハレーションを起こし、組織の機能不全をもたらして指導部への不満を募らせた。最近になって、それが外国への挑発行為にも繋がったという。 軍改革実施後、南シナ海で中国海軍の艦船がフィリピンやベトナムの領海などに侵入し、これらの国の軍艦と対峙することが増えている。六月上旬には、中国が領有権を主張し、インドの実効支配下にあるインド北東部アルナチャルプラデシュ州にも二つの中隊(約三百人)の中国軍兵士が侵入した。数時間後に中国国内に戻ったが、インド軍が一時、戦闘準備態勢に入るなど緊張が高まった。 ほぼ同じ時期の六月九日には、中国の軍艦がロシアの軍艦とともに尖閣諸島沖の接続水域に侵入した。これらの挑発行動について、中国国防省は国内外のメディアの問い合わせに対し、「関連する報道を注視している。中国の主権範囲内での行動なので問題はない」といった趣旨のコメントを発表した。 軍に詳しい中国人ジャーナリストは、「国防省のコメントにわざわざ『報道を注視している』という文言が入っていることは、国防省が承知した計画的な軍事行動ではないという意味だ」と指摘し、「いずれも現場の判断のはずだ」と主張した。軍の暴走を黙認する習近平 いま、南シナ海問題が国際社会の焦点となったことで、担当する南海艦隊や南部戦区が注目され、最新兵器も予算も優先的に配分されることに対し、ほかの部隊の間で不満が高まっている。こうしたことから、自らの存在感を示すために勝手に挑発的な行動をとったといわれる。  軍現場による度重なる他国への挑発行為は、「中華民族の偉大なる復興を」といった民族主義を煽るスローガンを掲げる習政権の政権方針と一致していることから習政権は黙認する側面があり、そうした風潮が軍の強硬姿勢をますます助長する結果となった。 南シナ海問題をめぐる仲裁裁判所の判決で中国が全面敗北となったことを受け、軍内の強硬主張はますます台頭し、今後、さらなる挑発行為に出る可能性もある。尖閣問題などをめぐり、日本は中国外務省との交渉だけではなく、軍改革で統率がとれなくなりつつある軍の暴走にもしっかりと備える必要がある。

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    総力大特集 中国は本気だ!

    南シナ海を巡る仲裁裁判所で完全敗北を喫した中国。しかし、反省の色は全くない。判決を「紙くず」と呼んではばからないその横暴の裏で進める習近平の“次の手”とは。

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    習近平の現代版「国盗りゲーム」が長続きしない理由

    言われればそれよりも資金を投入し、自分の色に染め、俺のBホテルのほうがもっと良いと自慢します。彼らは中国人社会の中で自慢し、多くの人が「Bさんのほうが凄い」と言わしめる為に金を使い、影響力を使い、人を買い、力づくの勝負をします。 ホテルの話題だけではありません。1986年にバンクーバーという「新開地を発見した」香港人はリーカーシンをはじめ香港主要デベロッパーがこぞって上陸するきっかけをつくり、激しい不動産開発競争を繰り広げました。では彼らの生み出したコンドミニアム群はどの程度の評判か、といえば今一つローカル受けしないのであります。理由は様々で、出来が悪いという基本的な問題からアフターサービスが良くないなどでありますが、カナダ人と「価値観のコミュニケーション」が通じ合わないところが最大の問題点ではないかと思います。 これはアジア人と欧米人という仕切りよりも中華系のビジネスに対する姿勢の問題ではないかと思います。中華系にとってビジネスとはマネー、マネー、またマネーであって良い仕事をするとか、新たに価値を生み出すといった「面倒な」ことはせずに模倣でもなんでもよいので目立てばよい、という発想は少なからずとも私には強烈な印象として残っています。シャープを欲しがった鴻海のテリーゴウCEOの目的はシャープの商品開発能力だった点においてなるほど、中華的思想だな、と思ってしまいます。 南シナ海の人工島問題についてハーグ仲裁裁判所が国際法違反であると断じました。報道にあるように中国の完敗であります。もともと海洋進出のために尖閣をはじめ、太平洋に抜けるルートを模索し続ける中で力関係で圧倒できるフィリピンやベトナムが関与する南シナ海に力づくの勝負をかけました。米シンクタンク「戦略国際問題研究所」が公表した中国が南シナ海で埋め立てを進めるスービ礁の写真 習近平国家主席はその独裁化を進めるため、国内では粛清を進め、海外ではAIIBなどを通じて世界への影響力を駆使し続けました。巨大国家と巨額マネーというあたかもクジラが小魚を追うがごとく戦法で「俺のほうにすり寄らなければ様々な影響が及ぶ」と脅し続けました。アメリカ企業もネット企業が中国内で自由にビジネスができないなどの弊害が出ていました。 中国の南シナ海進出の理由づけはどう逆立ちしても論理的ではなく、国際法に乗っ取れば完敗することはわかっていたはずです。現代において世界大戦をしていた頃のような領土の奪い合いをする非常識観はどこから来るのか、といえば根本的な中華思想による拡大主義もありますが、過去10数年の世界における中国の立場を中国政府が過大評価したような気もします。 ビジネスを成長させるには何が大事か、といえば従業員に幸せを、という経営者は多いと思います。中華系の企業においてビジネスの目的は金儲けをして、自分が人から「凄い!」と言われることであります。では中国という国家運営において何が最も大事か、といえば民を幸せにすることを置いて他に何を優先するでしょうか?大きな曲がり角にきた中国 ところが今の中国の体制は現代版国盗りゲームで習近平氏がいったん勝ち抜いたように見えます。「見える」というのは長く続かないのは目に見えているからです。強固な体制は反体制派を余計勢いづかせることになります。反体制派はそのチャンスを虎視眈々と狙っていることでしょう。その習体制は綻びが目立ち始めました。習近平国家主席 中国の鉄道会社、中国南車は北車と合併し、世界最大の鉄道会社となり、海外進出を図ったもののインドネシア、メキシコ、アメリカと大どんでん返しが続き、鉄道輸出事業は完全に行き詰ってしましました。そのすべては着工前の段階で頓挫していますが、理由は中国スタイルの押し付けそのものであります。 AIIBを含め、英国との関係強化でEU圏へのビジネス拡大戦略を狙った中国ですが、同国のEU離脱問題で今後の道筋は全く描けない状態となりました。ホトケのオバマ大統領を怒らせたのも習近平国家主席との意見の相違からでありました。多くのアフリカ諸国は中国からの金融支援を嬉しく思ったものの中国人労働者が大挙して押し寄せ、中国からの製品を押し付け、多くのアフリカ諸国ではギスギスした関係となっています。 私は「栄枯盛衰」という言葉を時々使わせていただいています。中国については今世紀初めごろから世界の工場としての認知度が高まり、WTOが2005年にクォータ制度(輸入数量割当制度)を撤廃したころから世界の貿易が中国を中心に栄えます。また08年には北京オリンピック、10年には上海万博で世界の目が中国の様々なところにも向けられます。08年のリーマンショックの直後には56兆円規模の緊急経済対策を打ち出し、世界の中の評価はステップアップしました。反対に当時、日本は海外からJapan Passing、Japan Nothingと揶揄されていました。 個人的には10年ごろが中国のピークだった気がします。何年か前にオリンピック10年後説というのをこのブログで紹介させていただきました。オリンピックから10年前後経つとその開催国は非常に大きなトラブルに巻き込まれるというものです。日本(石油ショック)、韓国(IMF援助)、ソ連(崩壊)、ギリシャ(国家危機)などであります。中国が大きな曲がり角に来ていることは疑いの余地がありません。中国政府が声高々に反発する声はむなしく空に響くだけでしょうか?(ブログ「外から見る日本、見られる日本人」より2016年7月13日分を転載)

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    中国が尖閣諸島の侵略的攻勢強める狙い 米海軍大所長解説

     尖閣諸島周辺に、姿を現す中国漁船に国防関係者が警戒心を募らせている。漁民を装った中国の武装民兵が包囲しているからだ。この状況を、アメリカはどう見ているのか。産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が、アメリカの専門家が分析する「中国の狙い」をリポートする。 * * * 尖閣諸島(沖縄県石垣市)に対する中国の侵略的な攻勢が急に強まってきた。今年8月初旬から、「中国海警」の武装艦艇十数隻が尖閣周囲の日本領海にこれまでにない頻度で侵入を始めた。数百隻の民兵「漁船」団が同様に迫っている。従来の攻勢からの大規模なエスカレーションである。東シナ海上空から臨む尖閣諸島 中国のこの新攻勢の意図はなにか。日本はどう対応すべきか。 これら課題への見解を、アメリカ側で中国の海洋戦略や軍事動向、対外政策を一貫して追う官民の専門家たちに尋ねた。ワシントンでのこの一連のインタビューで明確になったのは、いまの尖閣事態を切迫した危機と見る認識だった。日本の反応とは決定的に温度の異なる深刻な懸念でもあった。 本来、日本が考えるべき尖閣問題をアメリカ側に問うのは、アメリカが同盟国として尖閣防衛の誓約を言明していることに加え、中国の近年の海洋進出全体に対処してきた当事国だからである。 元国防総省日本部長で現在は民間安保研究機関「グローバル戦略変容研究所」所長であるポール・ジアラ氏は中国の新攻勢を「新しいタイプの戦争手段」と呼んだ。 「中国海警艦艇と民兵『漁船』を組み合わせた攻勢はいかにも最近の中国らしい異色で挑発的な攻め方だ。日本が対処に苦しむ不正規、非対称の戦法だと言える。『漁船』が実は軍の指揮下にある民兵で、武装して尖閣上陸の能力を持つことへの認識が日本側では不足している」 ジアラ氏は中国側の最終目標は尖閣占拠であり、現在の新攻勢はその目標に向けての演習や日本側の出方の探査だろうとも述べた。米海軍大学中国海洋研究所のピーター・ダットン所長は、中国の当面の狙いは「日本を領土問題での二国間協議に引き出すことだろう」と語った。日本が圧力に屈して二国間協議に応じれば、それだけで中国側の大きな勝利となる。日本政府は「尖閣は日本固有の領土であり、領土紛争は存在しない」との立場を保っているからだ。 ダットン氏は「アメリカのいまの役割は軍事衝突を抑止することだ」とも述べた。いまの尖閣事態が日中の軍事衝突をも生む危険を懸念する発言だった。同海軍大学教授で中国海洋研究所の研究員トシ・ヨシハラ氏は「中国はまず日本側の尖閣の施政権を突き崩そうとしている」という。 中国は尖閣の日本領海にいつでも入れることを誇示して恒常的な存在を確立することで日本の施政権の空洞化を図る。その間、尖閣上陸が可能な軍事能力を築きながら日本の出方をうかがっている、というのだ。 日本の施政権は尖閣防衛の上で極めて重要である。日米安保条約はアメリカが「日本の施政の下にある領域」を守ることを規定している。だからオバマ政権は尖閣諸島も日米安保条約の適用範囲だと言明したのだ。その施政権が崩れれば、アメリカの防衛誓約も揺らいでしまう。 以上、ジアラ、ダットン、ヨシハラ三氏は中国が究極には軍事力の行使をも辞さずに尖閣奪取を目指す一方、日本やアメリカの反応を事前の揺さぶりで探っていると見る点で共通していた。 ※SAPIO2016年11月号関連記事■ 中国「尖閣諸島を奪取しても、米は経済制裁まで」と想定か■ 中国の軍拡事情を産経新聞論説委員・古森義久氏が分析した本■ 中国 尖閣に異議唱えたのは石油埋蔵指摘された1970年代から■ 【中国人のジョーク】尖閣でTwitterやFB開かなければ中国領■ 尖閣問題 日本はアメリカからすでに見捨てられている

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    相互不信を高めるアメリカと中国、3つの脆弱性とリスク

    【世界潮流を読む 岡崎研究所論評集】岡崎研究所 中国の国際協調派の代表格である北京大学国際研究学院院長王緝が、China US focusに9月19日付けで掲載された論説で、米中関係の本質と難しさを指摘しています。論旨、次の通り。3つの脆弱性とリスクiStock 中米関係は徐々に成熟しているが、依然として脆弱であり、戦略的判断ミスのリスクを孕んでいる。脆弱性とリスクは三点にまとめられる。 1)経済や貿易、文化、グローバルガバナンス面では相互協力は深化。だが、アジア太平洋地域の安全保障面では、戦略的競争が高まっている。 2)メディアは、戦略的な競争の側面をポジティブなニュースよりも多く取り上げ、ソーシャルメディアが普及したことにより、大衆の関心を高めている。 3)多くの中国人にとって、米国は最大の戦略的脅威であり、容易に米国も中国を同様に脅威と見なしていると考えてしまう。中国の台頭は米国が世界で直面している大きな挑戦のうちの一つに過ぎない。長期的には、米国が中国を最大の戦略的脅威とみなすことを防止することが中国の対米政策の目標となるべきである。 中米関係は「新常態」に入った。競争と協力の双方が同時に大きくなり、国内要因が外交に大きな影響を与えるようになった状態である。しかし、だからと言って、中米関係が「量的変化から質的変化へと変わった」、「負のスパイラルに入った」などと結論づけるのは間違っている。 多くの分野において、中米は同じルールを堅持している。だが、新常態においては、原則やルールをめぐる争いが中米対立の焦点となり始めている。政治面において、中国は「国際関係の民主化」を支持している。それは国際システムの中での国レベルでの民主化である。一方米国は「リベラル国際秩序」を支持し、「世界の民主化」を推し進めている。これは個人の自由と権利に関するものであり、両者は異なる考え方である。 経済面において、米国は国有企業の制限、労働基準の向上、情報の自由化、環境の保護、知的財産権の保護などの国際ルールの強化を目指している。しかし、国有企業の制限など一部のルールは中国にとって受け入れられないものである。米国がやろうとしているのは、中国の国内および対外経済政策を統制し、米国のみが得をするルールを作り守ろうとしていることである。両国の経済モデルの不一致はかつてよりも大きな障害となっている。 国際安全保障面において、中国の人たちは南シナ海を「先祖伝来の自分の海」だと考えている。南シナ海は中国の主権、領土保全に直結する問題だと考えている。それに対して米国は南シナ海が国際的な海であり、国際法に基づく航行の自由があると主張する。地政学的な闘争が論争の背後に隠れている。サイバーに関しても両国の焦点はずれている。 新常態においては何がなされるべきなのだろうか。筆者(王)はかつて2012年にリバソールとの共著で“中米戦略的不信”に関する報告書を執筆している。その中で、政府、シンクタンク、市民社会が対話をし、相互疑念を緩和すべきだと論じた。しかし、4年経った今日、互いに対する疑念や不信は緩和されるどころかより増幅され、深刻になっている。戦略的相互不信の増大は中米関係の新常態に埋め込まれているようである。 2012年の報告において、相互不信を緩和する手段が有効でない場合でも、両国の指導者は、相手の長期的な意図に関する深い不信の下で、それでもなお、協力を最大化し、緊張と対立を最小化しなければならないと結論した。新常態において、両国は自らの国民に対して、対立を回避し、協力を追求するという戦略的な意図を明らかにすることに努めなければならない。それは両国政府が幾度となく互いに確認したことであり、混乱した世論の干渉を抑え、国内の政治的な合意を形成することにつながる。 キッシンジャーは『中国』という本の中で、中米両国が「共進化(co-evolution)」の関係を築くべきだと提案している。筆者は、「共進化」は「平和的な競争」をも意味していると考える。どちらがより国内問題を上手く処理し、国民を満足させられるかというのが最も意味のある競争である。出典:Wang Jisi,‘China-U.S. Relations Have Entered A “New Normal”’(China US focus, September 19, 2016)http://www.chinausfocus.com/foreign-policy/china-u-s-relations-have-entered-a-new-normal/中国側とのすりあわせ バランスのとれた意見であると言えるでしょう。しかし、何をなすべきかについては弱いと言わざるを得ません。「自らの国民に対して、対立を回避し、協力を追求するという戦略的な意図を明らかにすることに努めなければならない」と言っているだけです。最後はキッシンジャーのco-evolution に逃げ込んでいます。そして「どちらがより国内問題を上手く処理し、国民を満足させられるかというのが最も意味のある競争である」ということで締めくくっています。これが、中国の国際協調派の限界でしょう。中国側とのすりあわせ 米中の戦略的対立が、ますますルール作りに集約されているという判断は正しいです。現状は、それぞれが自分の意見の言いっ放しで終わっています。中国は、どこをどう変えたいと思っているのか整理して、国際社会に自分の考えを問う必要があります。中国自体が未整理の部分も多くあります。例えば国有企業について、国有企業改革はほとんど進んでおらず、むしろ大型合併を進め、寡占化が進んでいます。それは「市場に資源配分の決定的役割を与える」という党の決定との整合性の面で疑問符がつきます。国際社会としては、具体的事項についてすりあわせを行うことで、中国の真意を探ることが不可欠になりました。 習近平は、ようやく人民解放軍をほぼ掌握できたようです。対日関係を含む対外関係は、少しは落ち着いてくるでしょう。来秋の中国共産党の党大会後には、中国側との「すりあわせ」ももっと意味のあるものとなるでしょう。

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    中国の空母を飛躍させる?「電磁カタパルト」は米中関係を変えるのか

    【チャイナ・ウォッチャーの視点】小原凡司 (東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官) 中国や韓国が、海上自衛隊の「いずも」を、空母だと警戒しているという。「いずも」は、2015年3月25日に就役した、ヘリコプター搭載護衛艦だ。さらに、日本が、「いずも」を護衛艦だと呼称していることを、欺瞞だと非難しているとも聞く。 中国では、「護衛艦」という言葉は、フリゲートの意味で用いられる。その他に、空母、駆逐艦といった区分があり、一般的な海軍艦艇の区分と同様である。一方で、日本の防衛省では、駆逐艦やフリゲートといった区別はしない。簡単に言えば、戦闘艦艇は全て「護衛艦」に分類される。ここには、言葉の用法による誤解もあるかもしれない。多機能艦「いずも」各機能は限定的 「いずも」は、基準排水量が19,500トン、14機のヘリコプターを搭載可能で、5機を同時運用できる。個艦防御能力を抑え、ヘリコプター運用能力を集中的に高めているということから言えば、「いずも」はヘリコプター空母だと言える。しかし、実のところ、ヘリコプター空母という言葉に明確な定義はないのだ。海上自衛隊護衛艦「いずも」 「いずも」は、戦闘機及び爆撃機を運用できず、正規空母ではない。それよりも、一定規模の陸上兵力の輸送及び揚陸支援が可能であることから、強襲揚陸艦の性格に近い。さらに海上自衛隊は、「いずも」に指揮艦としての機能も持たせている。 これが、「いずも」が多機能艦とも呼ばれる所以であるが、同艦の各機能は限定的だ。海兵隊を展開するための米海軍の強襲揚陸艦は、40,000トン以上の大きさである。さらに、艦隊の指揮を執る第7艦隊旗艦ブルー・リッジ等の艦艇は、指揮通信情報機能だけで20,000トン以上の大きさを必要としている。「いずも」は非常に大きな艦であるが、それでも、こうした機能を全て詰め込もうとすれば、とても容量が足りないのだ。 「いずも」は、飛行甲板の耐熱化等、若干の改修を加えれば、F-35戦闘機の運用が可能であると言われる。確かに、垂直離着陸ができるF-35は、「いずも」艦上で飛行作業を行うことはできる。 しかし、垂直離着陸は大量の燃料を消費する。離着陸に燃料を使うということは、航空機の行動半径が小さくなるということだ。近接空中戦闘(これも大量の燃料を消費する)の可能性を考慮すれば、艦隊の上空から離れることも難しいかもしれない。 しかし、日本が他国に攻撃を仕掛ける意図がない以上、海上自衛隊に他国領土を空爆する能力は必要ない。艦隊のエア・カバーさえできれば良いのだ。中国の空母「遼寧」の問題点中国の空母「遼寧」の問題点 一方の中国の空母はどうだろうか? 中国メディアは、米国における報道を引用し、中国が保有する艦上戦闘機J-15は、空母「遼寧」から発進させる場合、搭載できる武器の重量が2トンであり、陸上基地から離陸する場合の12トンよりも極めて少ないと報じた。陸上から運用する時の約6分の1しか、ミサイル等を搭載できないということだ。中国初の空母「遼寧」=2012年10月14日、青島(AP) これは、離陸重量の制限によるものである。離陸距離が十分に取れれば、離陸のための加速が十分にできる。離陸速度を上げられれば揚力が増し、機体が重くても離陸できるという訳だ。しかし、問題は、巨大な空母であっても、陸上飛行場の滑走路のような飛行甲板の長さを確保できないことである。 「遼寧」には、さらに艦載機の問題もある。中国が、ロシアの戦闘機をベースに開発した艦載機のエンジン出力が不足しているのではないかと思われる。エンジン出力が不足しているために、飛行甲板上で、十分な加速が得られないのだ。 前出の記事によると、中国は当初、遼寧に搭載するため、ロシアからSu-33を購入する予定であった。しかし、中国がロシアのSu-27を違法にコピー生産していることを知り、ロシアがSu-33の売却を拒否したとされる。 そのため、中国は艦載機としてJ-15を開発せざるを得なくなった。J-15は、外観はSu-33に酷似しているが、電子装置やエンジンなどは中国の自国開発だとされる。 「遼寧」は、元々、ソ連海軍のために建造された重航空巡洋艦「ワリヤーグ」である。因みに、ソ連が「ワリヤーグ」を、空母ではなく重航空巡洋艦に分類したのは、ボスポラス海峡・ダーダネルス海峡の空母通峡禁止を定めたモントール条約に対する政治的処置である。空母に分類したのでは、黒海から地中海に入れなくなってしまうからだ。 ソ連海軍が、搭載武器の搭載量を6分の1に制限されるような設計をしたとは考えにくい。中国が空母として修復した「遼寧」の艦載機が搭載武器を制限されるのは、「遼寧」の速力及び航空機の性能に問題があると考えるのが妥当だろう。中国が開発に成功か 「電磁カタパルト」とは中国が開発に成功か「電磁カタパルト」とは 発艦重量を上げようとすれば、発艦速度を上げなければならない。この問題を解決するのがカタパルトだ。カタパルトは、艦載機を拘束して高速で移動し、艦載機に発艦可能な速度を与えるものである。 米海軍の空母は、蒸気カタパルトを装備している。米海軍の空母は原子力を動力としているため、原子炉から十分な蒸気を得ることが出来る。しかし、蒸気タービンを動力とする艦艇では、余分にカタパルト用の蒸気を発生させる必要があるために、蒸気カタパルトを後から装備すると、空母の速力が落ちる可能性もある。 こうした状況を考慮すれば、ただでさえ本来の出力が出せないであろう「遼寧」は、蒸気カタパルトを装備するとは考えにくい。 実際、中国が考えているのは、蒸気カタパルトではなさそうである。中国が電磁カタパルトの開発を行っていることは既に知られていたが、100メートルあまりの長さを持つ試験用電磁カタパルトの写真が公開された。 電磁カタパルトは、原理的にはリニア・モーターカーと同様で、磁場の力で物体を移動させる。蒸気カタパルトのように蒸気用の複雑な配管が必要ではない上、速度のコントロールができ、離陸滑走距離を短縮できる可能性もある。 また、2015年3月には、中国海軍動力・電気工学専門家の馬偉明少将が、「中国のカタパルト発艦技術には完全に問題がなく、実践もスムーズに進められており、実用化の自信を深めている。中国が把握している技術はすでに米国に遅れておらず、より先進的なほどだ」と述べた。 電磁カタパルトが装備されれば、中国空母艦載機の作戦半径と搭載弾薬量が大幅に拡大されることになる。現在は米国のみが保有する、半径1000キロメートル以上の空爆可能な作戦範囲を世界中の地域に展開する能力を、中国も保有する可能性があるのだ。 実は、日本ではあまり認識されていないが、米国が主張する「航行の自由」は軍事的な意味合いが強い。米国は、空母艦載機の作戦半径が陸上の目標をカバーするまで、空母戦闘群を陸岸に近づけなければならない。その位置まで自由に航行できなければならないのだ。 中国が実際に空母を運用できるようになり、米空母戦闘群の中国への接近を実力で阻止できる自信を持てば、米国とともに「航行の自由」を主張するようになるかもしれない。米中関係はどのような局面を迎えるか米中関係はどのような局面を迎えるか 中国は複数の空母を建造中であるが、電磁カタパルトを装備するかどうかは明らかにしていない。前出の馬少将も、国産空母が電磁式カタパルトを使用するかという記者の質問に対して、「どのような案を採用するかは、軍高官が決めることだ」と、明言を避けている。 いずれにしても、中国が、米国同様に軍事力を世界中に投射する能力をつけつつあることは事実である。米国は、中国の軍事力増強を注視している。しかし、現段階では、中国との軍事的対立を避ける努力をしている。 2015年4月10日には、米軍と中国軍が直接連絡を取り合うテレビ電話が開通し、米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長と中国人民解放軍の房峰輝総参謀長が、同電話を使った初めての会談を行った。 軍事力を強化する中国に対して、当面の間、米国は衝突を避ける努力を続けるだろう。中国側も、米国との軍事衝突を避け、協力を呼び掛けている。 実は、「いずも」就役に関する中国メディアの報道は、2013年8月6日の進水式に関する報道に比較して、極めて穏やかである。現在は、日本も刺激したくないのだ。 しかし、中国の軍事力がさらに増強され、米国が、自国の安全を脅かす可能性があると認識した時には、米中関係は新たな局面を迎えるかも知れない。中国の空母の出来が、米国の認識を変える可能性があるのだ。

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    中国海上民兵 自衛隊が手を出さぬうちに尖閣武装占拠も

     尖閣諸島周辺に、姿を現す中国漁船に国防関係者が警戒心を募らせている。そこには軍事訓練を積んだ海上民兵が乗船しているのだ。国防問題に精通するジャーナリスト・織田重明氏が、「海上民兵」の正体に迫った。 * * * 8月5日に尖閣諸島周辺の接続水域に現れた200~300隻にも上る中国漁船。その後、5日間にわたってこの海域にとどまり操業を続ける様子を、警戒にあたった海上保安庁の航空機がしっかりと映像に捉えていた。沖縄県の尖閣諸島周辺海域の領海警備で、中国公船(左)と並走する海上保安庁の巡視船(同庁提供、撮影日:2013年7月24日) 尖閣の海は、もはや一触即発の状況といっても過言ではない。現場からはさらに驚くべき動きが伝えられた。 「尖閣諸島周辺海域に押しかけた中国漁船に多数の海上民兵が乗船していたというのです。その数は100人を下らない。多くは漁船の船長として、乗組員である一般の漁民らを指揮していたと見られています」(海上保安庁幹部) そもそも海上民兵とは、漁民や民間の船会社の船員などのうち、軍事的な訓練を施され、必要に応じて漁船などで軍の支援活動をする者たちをいう。漁業繁忙期には漁にいそしみ、漁閑期には国防を担うことで日当を政府からもらう、パートタイムの軍人というべきか。民兵(Min Bing)の略である、MBのワッペンや記章が付いた軍服を着て活動する。 海上民兵が乗り込む漁船には、「北斗」と呼ばれる中国独自のGPSが設置されている。タブレット付きの最新式のもので、中国海軍の艦船や海警局の公船と文字情報のやりとりもできる。 公安関係者によると、漁船に乗り、海上民兵としての活動に従事すると、政府から日当や燃料費の補助も支給される。尖閣諸島に最も近い浙江省からでも20時間以上かかるため、燃料代はバカにならないが、日当と燃料代あわせて年間に数十万元もの支給を政府から受け取れるというわけだ。 「海上民兵としての活動に参加すれば、勲章をもらうことができ、本業である漁業で違法操業をしても取締当局からお目こぼしをもらえるという。 遠隔地への出発にあたっては、軍や政府が壮行会を堂々と開くそうで、8月上旬に大挙して尖閣諸島周辺に駆けつけた漁船の出発時期にあたる7月末には常万全国防部長が浙江省の海上民兵の部隊を訪れ激励していた」 常万全氏は、中国の国防大臣を務める高級軍人である。中国軍の海上民兵への期待のほどが窺える。 問題は海上民兵が軍人ではないということだ。自動小銃や連装機関銃などで武装した海上民兵が攻撃をしかけてきた場合、海保の対応能力を上回る事態とみなされ、自衛隊は海上警備行動として武器を使用することが認められている。 「ただし、それは相手の能力や事態に応じて合理的に必要と判断される限度において、との制約がかけられています。いわゆる警察比例の原則というものですが、軍人ではなく民間人と位置づけられる民兵には手出ししにくい。中国側はこれを熟知しており、自衛隊が指をくわえて見ているうちに尖閣諸島の武装占拠などの挙に出ることも十分に想定される」(防衛省関係者) 相手の盲点を把握し、ゲリラ的に勝利を勝ち取るのは人民解放軍が得意とするところ。海上民兵はまさにその先兵役なのである。※SAPIO2016年11月号関連記事■ 尖閣問題で中国“漁民”を釈放すべきではなかったと李登輝氏■ 尖閣に侵入する中国漁民は武器を操る「海上民兵」だ■ 【中国人のジョーク】尖閣でTwitterやFB開かなければ中国領■ 漁船衝突の前に中国は270隻の大船団を尖閣に送り込んでいた■ 尖閣諸島を襲う中国漁船に乗船する「海上民兵」の正体

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    日本軍「残虐行為」はどう創作されたか? 中国に洗脳された日本人

    別冊正論26号「『南京』斬り」(日工ムック) より田辺敏雄(昭和史研究家)「中国の旅」で集団ヒステリーに わが国をめぐって中国が喧伝する「歴史問題」をつきつめれば、日本軍による残虐行為、残虐事件の存否と程度の問題に帰着すると思う。となれば、これらを乗り越えないかぎり問題の好転は期待できない。 中国における残虐行為は二つの経路でわれわれ国民にとどいた。一つは朝日新聞を筆頭とするメディアによる現地ルポであり、一つは終戦後、中国に囚われた日本人いわゆる中国戦犯の「証言」であった。昭和四十年代後半、両経路による日本軍断罪が同時にはじまった。朝日の本多勝一記者による「中国の旅」と「天皇の軍隊」である。著者自ら中国の言いなりの内容を検証もせず書いたことを認めた『中国の旅』 昭和四十六年八月から十二月まで、朝日は本多記者の「中国の旅」を約四十日間にわたって連載。「アサヒグラフ」「週刊朝日」「朝日ジャーナル」など手持ちの媒体も総動員して、日本軍断罪の一大キャンペーンを開始したのである。いずれも読んでいて気持が悪くなったという人もいるほど、日本軍および民間人が行った残虐非道な行為であふれかえっていた。 連載は平頂山(へいちようざん)事件にはじまり、万人坑(まんにんこう)、南京事件、三光政策とつづいた。このルポは日本側の裏づけ取材がなく、中国の説明を鵜呑みにしたものにもかかわらず、いずれも事実とされ高校用歴史教科書(一部は中学校用も)、百科事典に採用された。 連載は単行本、文庫本となり、さらに『中国の旅』の写真版という『中国の日本軍』(創樹社)が出版された。人骨累々の写真が教育に有効として『中国の日本軍』を「必読文献」に推薦した高校用教科書もある。連載に触発されたのだろう、メディアは競うように中国に出かけては日本軍の悪行を聞き出して報じた。 山本七平は「『中国の旅』がまき起こした集団ヒステリー状態は、満州事変直前の『中村震太郎事件』や日華事変直前の『通州事件』の報道がまき起した状態と非常によく似ているのである」とし、日本人の受けた衝撃の大きさを記している(『日本はなぜ敗れるのか』 角川書店)。「中国の旅」連載とほぼ同時期、月刊誌「現代の眼」に「天皇の軍隊」と題した取材報告が連載された。著者名は熊沢京次郎とあるが、筆者は本多勝一と長沼節夫(時事通信記者)である。連載は同名の単行本(現代評論社)となり、後に二人の実名をもって朝日文庫に加えられた。発行当初は話題になったが現在では「悪書」の一言で片づけられる『天皇の軍隊』 内容はといえば、中国山東省に駐留した第五十九師団による数々の残虐事件、残虐行為を「日本兵の証言」をもって糾弾したものである。軍紀は死語同然、やりたい放題の日本兵の姿があった。討伐作戦とは「女あさりにカッパライ」、女と見れば強姦は日常茶飯事、あげくに異様な手段での殺害も珍しくない。男の方は拷問、菜切り庖丁で胸から腹まで断ち割るといった凄まじさである。『中国の旅』に加えて『天皇の軍隊』を読めば、国民はかつての日本軍に嫌悪感をつのらせ、同師団にとどまらず日本軍全体が同様であったと考えるだろう。ところが「日本兵の証言」というのが曲者で、登場人物を調べたところ予想どおり、残虐行為の証言者はことごとく中国戦犯だったのである。「中国戦犯」と「洗脳」について「中国戦犯」と「洗脳」について 六十万人といわれるソ連抑留者のうち九百六十九人が選別されて中国に送られ、撫順(ぶじゆん)戦犯管理所という名の監獄に収容された。昭和二十五年七月のことであった。引き渡しはスターリンと毛沢東の合意という見方がある。 一方、中国山西省では日本降伏後も国民党系の閻(えん)錫山(しやくざん)軍と共産八路(はちろ)軍とが戦闘状態にあった。閻は「日本人居留民を帰国させる」などの条件で、日本軍(第一軍)に残留を要請、受け入れた日本軍は閻とともに八路軍と戦うことになった。結果は八路軍の勝利に終わり日本軍は投降、第一軍関係者ら百四十人が太原(たいげん)戦犯管理所に収容された。撫順組と太原組を合わせた千百九人が中国戦犯といわれる人たちである。 軍関係では師団長四人(いずれも中将)、内訳は藤田茂師団長以下二百六十人という最多の第五十九師団、佐々眞之助師団長以下二百人の三十九師団、ほかに鈴木啓久(ひらく)第百十七師団長、岸川健一第六十三師団長(抑留中死亡)であった。文官の方は満州国高官・古海忠之らが含まれた。 六年後の中国共産党の軍事法廷で、軍上層部を中心に四十五人が有罪(有期の禁固刑)となり、残る約千人は起訴免除となって昭和三十一年に帰国した。したがって、ソ連の分と合わせれば十年以上も捕虜の身となった人が大部分だったのである。 この六年の間に彼らは洗脳されたのではないかと帰国当時から言われた。帰国時の発言と中国に書き残した手記を集めた『三光』(カッパブックス、昭和三十二)の出版が影響したものと思われる。描かれた行為が異様なほど残忍だったからである。 撫順戦犯管理所に日本語通訳として勤務、日本人の指導・監督にあたった金源所長は、総括とも呼べる日本兵の残虐ぶりを次のように記している。「あるひどい者は、吸血鬼のように、中国人を撲殺した後、その肝と脳味噌を食べたのである。このような人間性の一かけらもないような野獣のごとき実例は、枚挙にいとまがない」と。 彼らは帰国後に「中帰連」 (中国帰還者連絡会)を組織し、初代会長に藤田茂第五十九師団長が就任した。藤田は「自筆供述書」の最後に「私は私に斯かる罪行を犯さしめたる裕(ひろ)仁(ひと)に対し、心よりの憎恨と斗争を宣言するものであります」と書いている。呼び捨てにされた「裕仁」は昭和天皇のことである。 心理学が専門の小田晋・元帝塚山学院大学教授は、洗脳について以下のように説明している。 〈広い意味での「洗脳」は、他人の意思を屈従変更させるための精神操作の手法をいいます。つまり、宗教的、政治的、商業的(販売の手段としてのコマーシャル)、犯罪的な手法を総称して「洗脳」といいます。(略)狭い意味での「洗脳」は、旧共産圏の秘密警察や特務機関が捕虜または政治犯を告白させたり転向させたりするためにもちいた手段を指します。〉(「歴史と教育」平成十五年三月号) 「中国側は洗脳なんて言葉の存在も知らないと否定する」(小田氏)が、「洗脳」は中国の造語である。「ブレイン・ウォッシング」は洗脳の英訳であり、洗脳の技術を中国が保有していたことに間違いなかろう。米ジャーナリストのエドワード・ハンター著『洗脳 中共の心理戦争を解剖する』(法政大学出版局、昭和二十八)は、このことを含め、説得力のある説明が実例をもって示されている。収容所の思想改造過程とは…収容所の思想改造過程とは… 撫順戦犯管理所に収容された日本人は三カ月後の昭和二十五年十月、朝鮮戦争の激化に伴いハルビンと呼蘭の両収容所に移動、前者は佐官級以上、後者は尉官級以下が入所した。そして六カ月後、少尉以下六百六十九人が撫順に復帰し、残りは二十八年十月までハルビンにとどまった。〝日本人を使った中国の宣伝書〟であった『三光』。中帰連自らが新編や完全版も出している 呼蘭収容所で思想改造のための基礎づくりが進行していた。思想改造は「坦(たん)白(ぱい)(自白)」を促す前の過程である。尉官以下七百余人の思想改造教育にあたった呉浩然によると、まず学習を望んだ八十余人で六つの学習組を作り、国友俊太郎、大河原孝一、小山一郎ら六人を学習組長に選び先行教育を行ったという。六人はソ連時代、捕虜の上に君臨したアクチーブ(積極活動分子)で、撫順でも思想改造の推進役となった。 一方、ハルビンに残った組からも尉官十四人が選ばれ、先行教育が行われた。彼らの大部分もまたアクチーブであり、帰国後は「中帰連」で中心的役割を担ったのである。 まず学習。教材はレーニンの『帝国主義論』や日本共産党編纂の資料などが選ばれた。狙いは階級闘争理論の習得で「その基本精神をのみこんでから、実際と結び付けて討論」するのだという。討論は週一回、当初の議題は朝鮮戦争関連が多かったようだ。学習者たちは「資本主義帝国主義の反動的本質をある程度認識し始め」ると、なかの一人は討論中「日本の社会は、資本主義から帝国主義社会に到達したので、国外にむけての拡張となり、中国に対する侵略戦争を引き起こした。この歴史発展の過程は、レーニンの本と同じだ」と述べたという。 もどった撫順戦犯管理所は収容棟が七棟、尉官以下を収容する棟は十五程度の小部屋からなり、十七人が一組になって収容された。呼蘭で先行学習した八十人を意識的に各部屋に配置したと呉浩然は書く。以下、学習、坦白、認罪と進むが、重要と思われる事項に触れておきたい。 ①強調された「二つの態度と二つの道」 「罪を認めれば寛大な処置が受けられ、罪を認めなければ厳しい処置を受けなければならない」と絶えず強調された。同時に、罪の大小で処分が決まるのではなく、「罪行は重くとも完全に共産主義思想になった者は許す。罪行は軽微でも、思想を改造できない者は重く処分する」と強調されつづけた。 恐ろしい論法と思う。身に覚えのないことでも、取り調べる側が「事実」だという心証を持つなり、あるいは何らかの意図を持てば「自白」を引き出すことが可能だからである。死刑になるかもしれない恐怖、故国へ帰りたいという熱望、これらを背景に「二つの態度と二つの道」が使い分けられれば、どのような結果を生むかおおよその見当はつく。 ②「自白」中心の取り調べ 取り調べにあたって、検察側が具体的な犯罪事実を提示することはなく、ほとんどが「自白」といってよい。有罪者の一人、横山光彦・元ハルビン高等法院次長の記述からもうかがえる(『望郷』 サイマル出版会)。〈「お調べがついているでしょうから、それをお示しください。そうすれば私も思い出せることもあるでしょう」というのだが検察員は聞き入れない。「中国は、お前が自らの記憶に基づいて述べることを要求する。誠実な態度であれば思い出せるはずである。今日は監房へ帰れ」となんべん言われたことか〉 ③下を落としてから上位者へ 取り調べは階級の低い方を先に、上位者は後からが原則であった。下位者の「罪行」を得ることによって、上位者の「罪行」を追及しやすくなるからである。相互批判と誘導「告白」で総崩れ相互批判と誘導「告白」で総崩れ 星野幸作軍曹(六十三師団独立歩兵第八十七大隊)の記録が残る。軍曹は同大隊の戦友会によくでていたというが、私が参加したときは体調不良とのことで会えなかった。 呼蘭収容所の生活は不潔の一言で「水の不便と南京虫には泣かされ」、皮膚病に手を焼いたという。これといった取り調べもなく、退屈な日々を手製の麻雀などで過ごす。撫順にもどって嬉しかったのは一年ぶりの風呂だった(以降、入浴は週一度)。最初のうちは高粱(コーリヤン)と粟、二年目頃より米の飯が与えられた。ソ連時代のように「空腹を抱えて」といったことはなく、腹一杯食べられたのは嬉しいことだったと記している。かわら生産など軽作業(佐官級以上は免除)と学習をしながら過ごしていく。現在も建物が保存、一般公開されて反日プロパガンダの舞台になっている旧「撫順戦犯管理所」 二年余が経過したある日、全員が屋外に集められた。壇上に上がった所長から、中国人民を何人殺し、どんな被害を与えたのか、「即ち、『焼く』『殺す』『犯す』等々を何処でどうして行ったか」を書いて出すよう指示がでた。「やっぱりくるときがきた」と思ったものの、所長の態度から深刻に考えなかったという。 昭和二十八年九月中旬、再び全員が集められ所長が壇上に立った。いやな予感がしたという。「中国人民は君達のような帝国主義思想の持ち主は絶対に許さない。(略)中国人民は君達を招待したのではい。勝手に中国に乱入したのだ。そして我々の同胞を殺し、極悪非道の犯行を平気でやってきた。(略)その重大な犯罪を中国人民は許すと思うか。お前達を殺すも生かすも中国人民の権利であり、自由意志である」。 話し終わった所長の顔は真っ赤だったと星野軍曹は記している。先々を思うと目の前が真っ暗になる。無言のまま部屋にもどると集会が開かれ「民生委員」が選出される。そこで、「認罪運動」を秘めた学習方法が提唱されたというのである。ソ連抑留と違って、見たこと聞いたことなど「事実の晒しあい」で、いつ自分が槍玉にあがるかわからないため命の縮まる思いをしたという。「学習」「討論」「認罪」の繰り返し、これが自分の運命を決する問題と知りながらも、その心境をどう表したらいいか「言葉さえ見つからない」と書いている。数カ月後、再び「供述書」の提出を命ぜられ、紙切れ一枚残さず提出した。 二十九年四月、抑留者にとって忘れられない日が訪れた。その日の所長は「今日の私が閻魔様に見えるか、それとも仏様に見えるかは、君たち自身が決めること」だといい、真面目に学習し思想改造している者には仏様に見えるはずだと話す。 また、認罪とは素直に自分の罪行を認め、「焼く」「殺す」「犯す」の重大犯行を具体的に書き出すことだというのである。そして、真面目に学習したという数人が壇上に立ち、みずからの「犯行」を告白した。 初めに立ったのは宮崎弘中尉(三十九師団二百三十二連隊、機関銃中隊長)。ハルビンで先行教育をうけた十四人の一人でアクチーブであった。宮崎は全身を震わせ、涙とともに自らの残虐行為を告白する。内容は、部落襲撃のとき、老人子供を銃剣で刺殺、逃げ遅れた妊婦を裸にして皆の前で刺殺したというのであった。 呉浩然は、認罪態度のよい宮崎弘に「全所の戦犯の前で、認罪・告白・摘発の模範的発表をさせた」とし、「身をもって説く典型的な発言は、強烈な影響力があり、その他の戦犯認罪にしっかりした推進作用を引き起こした」と書いている。 この告白は他の日本人にとって衝撃であった。宮崎の告白は機関銃中隊長のできる所業ではないという醒めた見方もあったが、大勢は一気に「認罪」へと向かったのである。二カ月後、「徹底した綿密な工作によって」、尉官級以下四千余件の摘発資料、上司や他者の罪行一万四千余項目を摘発したと呉は記している。 こうして上官や他者の犯罪資料をも獲得し、個人の認罪から「グループ認罪」へと進めていった。二十九年五月頃のことである。グループ認罪は同じ部隊の者十余人一組となって行う。各自が順に「坦白」を行い、「自己批判」と「相互批判」を通じて共通の「認罪」に到達させるものであった。こうしてグループに共有された罪行をもって佐官、将官級に認罪を迫るのである。 この過程を富永正三中尉(二百三十二連隊第十中隊長、元中帰連会長)は次のように説明している。 仲間から「まだ隠している」「殺される被害者の無念の思いがわかっていない」等の声があがり、食事もノドを通らぬ状況も出、自殺者まででた。「この深刻な命がけの自己批判と相互批判の学習が数か月」つづき、将官、佐官の場合はさらに長くつづいたという。そして「内容が検察官の資料と一致し、改悛の情が認められてやっとパスする」のだといい、この命がけの学習を経て「鬼から人間に立ち帰った」と強調する。こうして告白したものを「ウソ」とは何事かと言うのである。「自筆供述書」「手記」の内実「自筆供述書」「手記」の内実 こうした経過の後、彼らが残した「証言」を三分類するとわかりやすいかもしれない。 第一は、検察官による取り調べの末に書いた「自筆供述書」である。供述書は中国と折り合いのいい新聞社や学者らを通して散発的に日本で紹介されてきた。 平成十年四月、有罪となった四十五人分の「自筆供述書」を、中帰連とつながりの深い報道写真家・新井利男が中国から入手、朝日新聞社と共同通信社に持ち込んだ。新井の目論見どおりだったろう、朝日を含めた四十五紙が報じ、十七紙が一面トップ扱いの報道だったという。 この時点における生存者はわずか四人と朝日は報じている。わけても、すでに他界していた鈴木啓久中将の供述書に、「慰安婦強制連行」の記述があったため注目を集めた。 そして十六年経過した平成二十六年七月、中国中央公文書館はネット上に四十五人全員の「自筆供述書」を全ページ写真版で公開した。さらに二十七年八月、金子安次(五十九師団機関銃中隊、伍長)ら三十一人の供述書(一部)を公表した。 三十一人は女性を見ると見境なく強姦、輪姦し、多くの兵士が彼女らを殺害する残忍さだ。この供述書公開は韓国との共闘が視野にあってのことだろう。また世界記憶遺産登録の狙いもあるだろう、八百余人分、百二十冊、二万六千㌻の『供述書選集』を発行すると中国メディアは報じた。撫順戦犯管理所で有罪とされた日本軍将兵45人の「供述書」について、3面にわたり大々的に報じる平成10年4月5日付朝日新聞。共同通信も「供述書」の内容をそのまま報じ、地方紙などに大きな影響を与えた 二番目は「手記」である。手記は取り調べが終了し、判決を待つ間に「有志」が書いたとされ、昭和三十一年に十五人の手記を編んだ『三光』が発行された。三光とは殺光、焼光、奪光(搶光)を指す中国語で、「殺しつくし、焼きつくし、奪いつくす」の意である。「生体解剖」「細菌作戦」「毒ガス攻撃」「労工狩り」などあらゆる犯罪行為を当事者として語っていた。編者の神吉(かんき)晴夫は想像を絶する行為だと言い、「いくら戦争といっても、私たちの同胞が、こんなことまではたしてできるのだろうか。しかし、残念ながらこれが事実なのです」と書き、疑う様子はない。 だが、書名となった手記「三光」からして、部下が読めば「作り話」とわかるように書いた小田二郎少佐の苦心作なのである。「問題の手記『三光』の隠されたシグナル」(月刊「正論」平成十年十一月号)に報告してある。 時をおいた昭和五十七年、中帰連は現状を「急激な右傾の道をたどる情勢」と認識、自らの手で『新編三光 第一集』(カッパブックス)を発行した。前回の『三光』と同様、十五人の手記を掲載したもので、銃剣で妊婦の腹を裂く「胎児」、農民の生き胆を取り出して食う「群鬼」など、相変わらずのものであった。本多勝一が「まえがき」を書き、作家の野間宏は「胎児」を信じ込み、井上ひさしも「日本民族を鍛え直す研(と)石(いし)である」とする推薦文を寄せている。 この年は「教科書誤報問題」が起こり、文部省の教科書検定の是非などをめぐって騒がしかった。前後して吉田清治の『私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行』、ベストセラーとなった森村誠一の『悪魔の飽食』も発行され、この後も手記集の出版はつづいた。 帰国後の「証言」と同調する学者帰国後の「証言」と同調する学者 三番目は帰国後の「証言」である。平成元年八月、NHKは「撫順・太原戦犯管理所 1062人の手記」を放送した。中帰連の知名度は一気にあがり、取材やら学校からの講演依頼やらが舞い込んだ。「アサヒグラフ」も取材のうえ「いま戦争を問い直す」とした特集を組んだが、相変わらず彼らの言を鵜のみにし、裏づけをとった様子は見えない。 中帰連は「反戦平和部」を強化、番組に出演した小島隆男中尉(五十九師団機関銃中隊長)が部長に就任、とくにマスコミの取材に積極的に応じる一方、出版活動も強化していった。中帰連はメディアの有力な情報源の地位を確立したのである。 小島中尉は自ら範を示そうとしたのか、後述の「八千人強制連行」、七三一部隊「コレラ作戦」などを積極的に証言する。また、中国に出かけては聴衆の前で強制連行を告白・謝罪する。それを朝日新聞が写真入りで「元機関銃中隊長、しょく罪、告白の行脚」(平成五年七月十五日付)などと大きく報じた。中帰連が組織された当初は、抑留中の補償を日本政府に求めるなど経済問題が中心であったが、この時点では「日本の右傾化を阻止する」ため、天皇の戦争責任追及を含めた政治活動へと変質していたのである。 四十五人の供述書が朝日と共同通信社に持ち込まれたことは既述したが、月刊誌「世界」に三人の師団長を含む八人の供述書が公開された。藤原彰・元一橋大学名誉教授が冒頭「史料の意義について 『三光政策』の実態」とした解説を加えている。藤原教授といえば、南京事件による犠牲者二十万人以上を主張した大虐殺派の大御所であった。 まず供述内容について「本人が事実をすべて認めているだけでなく、その内容がきわめて詳細でかつ正確なのである」と総括。日本側の「戦闘詳報」などの史料と照合しても明らかだとも言い、手放しの傾倒ぶりである。そして、抗日根拠地に対する燼滅(じんめつ)掃討作戦、遮断壕の構築、無人地帯などをあげて「三光政策そのもの」だとし、さらに「慰安所の設置と『慰安婦』の強制連行などが、軍による組織的行為として行われていたことも明らかにされている」など、供述書を全面肯定した。 これらは『侵略の証言』(岩波書店、平成十一)になった。藤原は解説「『三光政策』の実態」を書いているが、「史料の意義について」という表題は消え、おかしなことに右に引用した部分がことごとく消えているのである。批判の前に「うまくない」とでも思ったのだろう。中帰連は「すべて事実だ」とし、少なくない学者が藤原同様の見方をしている。 となれば、多くの虚偽例を示すことこそが、藤原らの主張が見当違いだと言うために必要であろう。以下、「中国の旅」の検証結果と中国戦犯証言の信憑性について略記する。「中国の旅」の検証結果は…「中国の旅」の検証結果は… 連載で最初に報じられた「平頂山事件」は昭和七年九月、撫順炭鉱が襲撃されたことに端を発した日本軍による住民殺害事件である。中国のいう犠牲者三千人が、検証抜きで教科書、百科事典などに載った。だが、資料、証言はことごとく六百人前後を示している。事件は軍の蛮行で非難は免れない。ただし、中国の報告書『平頂山大屠殺惨案始末』は創作部分が多く信頼性は低い。「平頂山事件」が捏造であることを田辺氏が検証し、著書としてまとめた『追跡 平頂山事件』(図書出版社、昭和63) 「万人坑」とは、主に満州の日本経営の鉱山や大規模な工事現場で、労働者にろくな食事も与えず過酷な労働を強要、ケガや病気などで使いものにならなくなると、生きながらも捨てた「ヒト捨て場」だと説明されている。犠牲者二十五万―三十万人の撫順炭鉱、一万七千人の南満鉱業が取りあげられた。後者は人骨発掘現場に記念館が建つ。 本多はアウシュビッツ収容所を見たことはなく、「だからこの万人坑のような恐ろしい光景は、生涯で初めてであった」とし、その衝撃は「脳裏に終生消えることのないであろう擦痕を残した」と書いている。 中国は大同炭鉱、豊満ダムなど二十カ所近く、人骨の展示館を開設している。だがこれらは中国のでっち上げである。証明はそれほど難しくない。「万人坑」と検索のうえ、大量の写真を集めたサイトを見てほしい。もしこのでっち上げが事実とされたら、日本の異議など世界は相手にしなくなるだろう。「南京事件」については、「百人斬り競争」を蒸し返し、「三十万人大虐殺」を流布したとだけ記しておく。田辺氏㊥の質問に「慰安婦狩りなどなかった」ときっぱり否定した炭江秀郎㊨、森友衛㊧の両副官=平成10年10月「三光政策」について、本多は「南京大虐殺」は市民や捕虜多数を無差別に殺害したが、それでも「軍の最高方針による計画的虐殺ではなかった」とし、八路軍の活躍が目立ちはじめた昭和十五年頃から「三光作戦」としての皆殺し、「三光政策」としての計画的虐殺が本格化したというのである。根拠のあやふやなこの解釈が幅を利かした。 だが、「三光作戦」という作戦名はもちろん、「三光」という言葉さえ前線の日本兵は聞いたことがないのである。ただ、「三光政策の村」として取りあげられた「潘家峪(はんかよく)」の出来事は存在する。例によって死者数など違いは大きいが、現場にいた下士官(複数)から話は聞き取ってある。慰安婦強制連行と人肉食のデタラメ慰安婦強制連行と人肉食のデタラメ  中国は鈴木啓久中将の強制連行を認める供述を「決め球」としているようだ。中将は帰国後、『中北支における剿共(そうきょう)戦の実態と教訓』『第百十七師団長の回想』という長文の手記を残している。この二編は供述書の検証に貴重な資料となる。「強制連行」は二カ所でてくるが、ほぼ同一内容なので第二十七歩兵団長時代(少将)の方を紹介しよう。「私は各所(豊潤、砂河鎮其の他二、三)に慰安所を設置することを命令し、中国人民婦女を誘拐して慰安婦となしたのであります。其の婦女の数は約六〇名であります」 二十七歩兵団は支那駐屯歩兵一―三連隊を主力に構成された。第一連隊の戦友会会長・内海通勝は「軍が慰安婦狩りなどやるわけがないよ」といって戦友会ともども調査に協力してくれた。当時、鈴木少将の副官であった炭江秀郎は、慰安婦狩りを行ったとする冀(き)東(とう)作戦の作戦命令すべてに目を通してきたとし、「歩兵団長の意向を受けて作戦命令を起案、裁可を得る。副官の側印がなければ作戦命令は出せない。だから、慰安婦狩りが事実なら知らないわけがない」と否定する。「冀」は河北省の別称である。炭江の次に副官をつとめた森友衛も「その事実はない」と否定し、他の十九人も結論は同じであった。 鈴木中将は「謹厳実直」「古武士風」であったと森副官は形容し、酒、タバコとは無縁、夜の食事前に謡をうたうのが常だったという。また、習字や読書で過ごすことが多かったと炭江は百十七師団史『大黄河』に思い出を寄せている。撫順戦犯管理所で撮影されたとみられる鈴木啓久中将 中将は会津若松出身、義和団事件(北清事変)で連合国から賞賛された柴五郎中佐(後に大将)と同県人であり私淑していたようだ。二編の手記に慰安婦記述はない。 平成二十七年八月、中国国家档案局は特集「慰安婦 日本軍性奴隷文書選」をネット上に公開した。その一つに文献テレフィルム「『慰安婦』 日本軍の性奴隷」と題した十五分ほどの動画がある。英語のナレーションと字幕がついているから、アメリカなど英語圏で流すのが目的だろう。ここに「強制連行の証人」二人が登場する。鈴木中将と絵鳩毅軍曹(五十九師団独立歩兵四十四大隊)で、中将は供述書、絵鳩は本人の録画証言である。絵鳩は語る。 「それは捕虜の中の一名の女性が、ある下士官の慰安婦に連れていた。それが索格荘の駐在が長くなって、食べ物に若干苦しむようになったとき、彼はその女性を殺害しその肉を食べ、自分で食べたばかりでなく中隊に、今日は大隊本部から肉がわたったから(と)ごまかして、それを中隊の全兵隊に食べさせたという噂をききました」 この証言は、噂話を聞いたものだが字幕に訳されていない。中国はこうした尉官、下士官級の証言を丹念に記録していて、絵鳩証言は他の七人とともに最近公開された。「ある下士官」というのは榎本正代曹長(旧姓新井、同師団百十大隊)である。 この話は『天皇の軍隊』(朝日文庫)と『私たちは中国でなにをしたか』(中帰連編、新風書房)の双方にでてくる。榎本は『天皇の軍隊』の主要な証言者で、強姦など当たり前、満期除隊になる兵士の土産話にと農夫を捕まえ「野菜包丁で胸から腹まで絶ち割って見せた」といった猟奇的告白が目立つ。証言の真偽は両者の記述の違いから与太話と見当がつく。およそ、実体験では起こりえない相違があるからである。 ―終戦も近い昭和二十年四月の秀嶺作戦中、伊藤誠少尉の率いる第二中隊はある山村に宿営する。宿営三日目、指揮班長の榎本曹長は誰にともなく「今日はもう肉類が全然なくなっちゃったんでどうするかなあ」というと、伊藤少尉は「そうだなあ、オイ、ひとつやっちゃうか」と榎本をのぞき込むようにいう。少尉は宿営中の部落から娘を連れてきた。少尉が後ろから娘を「突き飛ばすのと、曹長の短剣が娘の胸を刺すのと、ほとんど同時だった」と本多勝一は書く。二人は短時間で処理できる太ももを切り取り、スライスして油で炒めると全隊員七十人に配った―以上が『天皇の軍隊』の記述である。人民日報ネット版の絵鳩毅軍曹の記事を2015年8月15日に転載した香港・蘋果(りんご)日報系ニュースサイト。「1956年に中国が釈放した日本戦犯の絵鳩毅は、2013(平成25)年に訪ねた中国の研究員に対し『山東である下士官が一人の少女を無理やり自分の慰安婦にし、後に殺してその肉を食べた。大隊本部から肉が支給されたと言って中隊の全員に食べさせた』と語った」などとある。 後者になると話が違ってくる。まず、娘は榎本が二日前から慰み者に連れていたのだが、何とか処置しなければと思っていた。「このまま殺してはつまらない」と思い娘を裸にして強姦、包丁で刺し殺すと手早く肉を切り取る。それを動物の肉のように見せかけて盛り上げ、指揮班を通じて全員に配る。兵隊は人間の肉とも知らず久しぶりの配給に喜び、携行していた油で揚げたり焼いたりして食べた―というのである。 伊藤中隊長の姿が、後者にはでてこない。二人で密かに殺害、料理をしたというのにである。短剣と包丁の違い、娘についての違いも明らかだから説明は省く。大体、中隊長が隊員の副食をつくるなど、軍隊経験者なら信じやしない。 念のため百十大隊の隊員にあたった。秀嶺作戦に参加した工兵の萩原広松は「娘を食ったなどとんでもない。『天皇の軍隊』など誰も信用していない。自分たちが一番よく知っている」と歯切れよく話す。伊藤中隊に所属したことのある第三中隊小隊長・都筑健一は「無辜の人間を食用にすることは如何に隠密裡に処理しても必ずわかります」とし、噂にも人肉食の話は聞いていないという。 ばかばかしい話と一笑に付してはいけない。ある著名な精神科医は「信じ難い残酷さだ」としながらもこの話を信じてしまい、日本人の「罪の意識」を感じる能力の乏しさを嘆く例もみられるのである。米欧人が信じないわけがない。創作「労工狩り」「うさぎ狩り」創作「労工狩り」「うさぎ狩り」 平成五年五月、NHKは行方不明だった「外務省報告書」発見とトップニュースで報じた。つづく八月十四日、NHKスペシャル「幻の外務省報告書─中国人強制連行の記録」を放送し、同名の本を出版している。いわゆる「河野談話」が八月四日で、新聞もテレビも「慰安婦強制連行」であふれた時期である。国民はまたかと思ったことだろう。もっともこの報告書は知られていたもので、例えば『草の墓標─中国人強制連行の記録』(新日本出版社、昭和三十九)などで取り上げられていた。 昭和十七年十一月、東條内閣は国内の労働力不足を補うため中国人労働者の移入方針を閣議決定した。これにより「約三万九千人が日本国内に連行され、炭鉱などで過酷な労働を強いられるなど約六千八百人が死亡、連行の際に強制半強制という事実が浮かび上がった」という。歴史教科書の「四万人強制連行」はこうした記述に基づいたものである。『中国人強制連行』(西成田豊、東京大学出版会)はこの報告書を含め多角的に言及した分厚な研究書である。まず、強制連行の証言者として大木仲治、大野貞美、榎本正代(前出)の三人が登場し、「労工狩り」「うさぎ狩り」などと呼ぶ日本軍の悪逆な作戦が語られる。この「労工狩り作戦」は労働力調達のほかに目的があったとし、「作戦展開地区を無人地帯に近い状態につくりあげ」ることによって、抗戦主力である華北民衆の力を根こそぎ奪うことだったと著者は断定する。「無人地帯」は三光政策の一環で、「中国人皆殺し作戦」だと主張する日本人学者もいる。三人の証言は多くの本に引用される。だが、三人が中国戦犯であった事実を書かない本があり、この書もその例にもれない。私の知るかぎり「うさぎ狩り作戦」の証言者は十四人を数えるが、ことごとく中国戦犯であった。 大野貞美曹長(六十三師団)の証言を見ると、昭和十七年十月頃、北支部隊の一万人以上が山東省の一角に集まって包囲網を作り、部落に放火し「十八才から四十五才ぐらいまでの男という男を」全部ひっくくったのだという。 ところがである。「私は中隊にいて実際作戦に参加していなかったが」と大野は証言しているにもかかわらず、肝心のこの部分が引用されてないのである。「うさぎ狩り作戦」が事実かどうか、小島隆男中尉(五十九師団独歩四十四大隊、機関銃中隊長)の「八千人強制連行」が創作と証明された例をあげれば、あとは見当がつく。「私はね、この強制連行では実際に中隊長として山東省で作戦をやったんです。この作戦では八千名の方を捕まえたんです」とし、意の向くまま虫けらのように捕らえては殺したと証言する。秋田放送「風の叫び─中国人強制連行のいま」の一コマで、平成六年一月末に日本テレビ系列で全国放送された。NHK「〝戦犯〟たちの告白 撫順・太原戦犯管理所1062人の手記」(平成元年8月15日放送)で「日本軍の悪事」をかたる小島隆男中尉。NHKもこうした話を事実であるかのように垂れ流した 小島によれば、「うさぎ狩り作戦」は総勢数万、一個中隊が四㌔横隊になり、直径三十二㌔の包囲網を作る。機関銃や大砲を撃って包囲を縮め、各隊の進み具合を調整するために飛行機を飛ばす根こそぎ作戦という。 これに反発したのは四十四大隊の戦友会である。会長の千葉信一中尉(第四中隊長)は小島と盛岡予備士官学校の同期で戦後も行き来があったが、そのような命令を受けたことも作戦に参加したこともないと明言する。千葉が小島と連絡をとり、小島側三人と千葉側七人が面談した。小島側から大河原孝一(元中帰連副会長)、千葉側からは小島が中隊長であった全期間部下だった内田行男軍曹も同席した。「八千人の強制連行が中隊長のときとあるが、そのようなことを私は知らないが」と千葉が問うと、小島は「それは四十四大隊のときではなく、第十二軍予備隊付きのときである」とアッサリ証言を翻す。「それではウソではないか」と糺(ただ)すが答えはない。「八十人の間違いではないか」と言う千葉に対して、八千人は第十二軍が流したものだと小島は説明した。 八千人という数は、おそらく第三次魯東作戦(昭和十七年末)の戦果「遺棄死体千百八十三、俘虜八千六百七十五」(防衛庁戦史室、『北支の治安戦2』)から得た知識だと推測するが、これは武器を持つ兵と兵との戦いであった。包囲作戦は日本軍がよく使った戦法で、証言者が農民狩りに作り替えたのだろうと思う。 大木仲治軍曹については、抑留中に「労工狩り」と題した手記を書き、手記集『三光』に収められた。このため引用される頻度が高い。昭和十七年の博西作戦で、大木軍曹が所属する池田第三中隊長の「土百姓(どんびやくしよう)どもを一人も残さず全部捕まえる」の怒号のもと百五十人の農民を、大隊で二千人を捕らえ日本や満州に送った―というのである。 大木証言に対して、同じ千葉県出身で同年兵の染谷鷹治は「我々は承知しているからいいが、一般人が読めば真実と受け取ります。正すべきです」と調査に協力してくれた。染谷は平成二十六年八月放送のNHKスペシャル「いつまでも夢を」に出演、シベリア抑留で苦労を共にした作曲家、吉田正の想い出を語っている。染谷は中国送りを免れ帰国した。「強制連行や万人坑問題は、華北や『満州国』に関して論じられることが多いが、華中にも視野を広げることが求められている」(杉原達『中国人強制連行』 岩波新書)とあるように、強制連行は万人坑と結びつけられる危険性が大きい。中国は満州への強制連行数を三百万人とも四百万人とも言っている。「三光政策」と城野宏の〝詐話〟「三光政策」と城野宏の〝詐話〟 「中国の旅」が報じた三光政策(作戦)は歴史教科書に早速反映された。〈中国共産党の指導する軍民の抵抗に悩まされた日本軍は、一九四〇~一九四三年にかけて、華北の抗日根拠地に対する攻撃のなかで、「焼きつくし、殺しつくし、奪いつくす」いわゆる「三光作戦」をおこなった〉(実教出版「高校日本史」)に見られるように、内容は本多解釈と瓜二つである。「三光」は中国語なのだから、日本軍が「三光作戦」という名称を使うわけがないくらい誰にでもわかる。それに、同作戦に参加したはずの華北駐留の将兵に確かめたが、三光作戦という作戦名を誰一人として知らなかった。その場にいた将兵の知らない作戦が後の世代に教えられるのは異常である。 念のために記しておこう。一九三一(昭和六)年十一月、江西省と福建省の境、瑞金に毛沢東を主席とする中華ソビエト政府が成立、敵対する蒋介石軍はソビエト地区を数次にわたって攻撃する。形勢不利となった共産軍は瑞金を脱出、「長征」がはじまる。この攻撃を指して共産党は「三光政策」と非難した。 ほかにも例がある。アメリカに亡命した中国社会科学院政治学研究所の厳家其と夫人の共著『中国文化大革命』に、林彪(りんぴよう)一味は「意見を異にする幹部に対して、『三光政策』(殺しつくし、焼きつくし、奪いつくす政策)に近い中傷迫害を実行した」とする記述がある。要するに、三光政策とは相手を非難するための用語であって、それを真に受ける日本の学者らがおかしいのである。 城野(じようの)宏は終戦後も山西省に残留した「太原組」の一人で、帰国がもっとも遅かったために「最後の戦犯」といわれた。城野は証言する。戦犯管理所で日本から面会に訪れた妻子と面会する城野宏中尉 昭和十五年、北京で開かれた北支那方面軍の兵団長会議で決定された晋西北作戦の記録に、敵地区に侵入したさい食料は輸送か焼却、家屋も破壊または焼却、また人を残すななどと記してあったとし、「男は見つけしだい殺す。命令には女は殺せとは書いてないが、これはわざわざ書くまでもないというだけのこと」で、慰みものに使ったあとは殺してしまうのが普通だった―というのである。  そして具体的な残虐行為の証言に移る。一例をあげると、独立混成第三旅団のある部隊が山西省楼煩鎮(ろうはんちん)で酷いことをしたと話す。 ―ある民家に踏みこむと妊娠中の若妻がいた。裸にして椅子に縛りつける。好奇心にかられた一人が陰部に唐辛子を突っこむ。女は痛さに泣き叫ぶ。ある下士官が腹の中はどうなっているかとばかり「銃剣を陰部にさしこんで、下から徐々に裂いていったんですな」とその場面を説明。そして、腹から胎児を取り出すとしばらく観察し「〝あっ汚い〟とばかりに庭の石にたたきつけて殺してしまったというんです」―というのである。目撃したものか伝聞なのかはっきりしない。 この「証言」は月刊誌「潮」に「日本人と三光作戦」として掲載され、加筆の上『日本人は中国でなにをしたか』(潮出版社、昭和四十七)と題し出版された。単行本『中国の旅』と同時期で、内容は城野証言で占められている。 この話、多くの人が信じたことだろう。城野の肩書きが高級軍人を思わせる「山西野戦軍副司令官」であり、東京帝大法学部(政治学科)の卒業者だからだ。だが、「副司令官」は正規の日本軍の階級とは無縁である。終戦後、日本軍に山西残留を要請した閻錫山が見返りに三階級特進などを提示した結果、あらたにできた職位、階級だからである。 城野は昭和十三年十二月、東京目黒の輜重(しちょう)(輸送)兵第一連隊入隊、幹部候補生となって十五年十一月少尉に任官、十六年一月、山西省運上の輜重兵三十七連隊に転任する。最終階級は陸軍中尉であった。この間、運上特務機関(政治班長)、第一軍参謀部(政治課)ほかに勤務している。 となれば、階級と時期から彼が証言する昭和十五年の北京における兵団長会議の資料を見る機会はありえない。独立混成第三旅団の戦友会(福島)に出席するなどして、楼煩鎮での残虐行為を当地に駐留経験のある下士官などに確かめたところ、「聞いたことはない」「ありえない話だ」など反発の声があがった。戦犯法廷に立つ城野中尉。中国当局が2014年7月明らかにした自筆供述書によると、昭和18年から4度にわたり1500人の機動兵力を派遣して食料15万㌧、鉄20万㌧を日本軍のものとした。21~24年には閻錫山の反共作戦に加わり、人民解放軍に2千数百人の損害を与えるなどしたとあるだけで、「三光作戦」など一言も触れていない 公表された自筆供述書は百二十枚の長文で読むのも一苦労だが、前半が戦中の、後半が山西省残留後の記録である。問題の前半を見ると、三光作戦はもとより「三光」という言葉がどこにもない。自ら最前線で戦った記録もなければ、強制連行や残虐行為の記述もないのである。すると城野の「罪行」とは何なのだろう。それは保安隊の組織化に力を入れたことであり、地下組織の活動を鎮圧するために住民戸籍簿をつくったことなどである。要するに、最前線の戦闘とは関係ないのである。城野証言には首をひねらざるをえない。 最後のページに「自分の敵は裕仁等の戦争販売人であり」、吉田茂売国政府を打倒、美帝を追い出し、中国やソ連の道を歩むべしとある。三光作戦と鈴木中将の「ためらい」三光作戦と鈴木中将の「ためらい」 鈴木中将は二編の手記のほか、母校の仙台陸軍幼年学校の会報「山紫に水清き」のインタビューに昭和五十四年六月応じた。「どんな裁判だったのですか」の質問に、「軍事裁判で一審だけですからな。(略)そして、ありもしないことを住民がなんだかんだと言いますからね〝鈴木部隊が、ここにこういう風に入って来た〟と住民がいうので〝そんな所に私の兵隊を配置したことはありませんよ〟といったって〝住民のいうことに間違いはない〟と言うんだから(略)罪を犯した本人が居らなければ、そこにおった司令官が罪にされるのは当然だと思って〝ああ、そうですか〟って」と発言している。 鈴木啓久中将が帰国後に防衛庁戦史室(当時)の依頼で書いた回顧録「中北支における剿共戦の実態と教訓」 三個連隊を率いて河北省東部と中部の警備に当たった第二十七歩兵団長時代の二年三カ月間が、鈴木中将のもっとも苦労した時代であった。蒋介石軍の大部分は重慶にあったが、傍系軍は多く徹底抗日を叫ぶ。日本軍が彼らを駆逐するとかならずそこには共産軍が進出したという。 密偵などから敵集結の報を受けて出動してもほとんどが空振りに終わる。中将の表現である「空撃」が手記に頻繁に顔を出す。戦闘の実態はゲリラ戦であって、相手が知悉(ちしつ)した土地での闘いに翻弄される日本軍の様が詳細に記述されている。 南京、河南省を含む在中五年間で、唯一の成功例が魯家峪(ろかよく)の闘いであったと書いている。その戦果は「約三百殲滅(せんめつ)」。「魯家峪で殲滅したような成果を挙げたのは全く例外」で、ほかはほとんど空撃であったと説明している。供述書を見ると「魯家峪部落付近の山地に避難せる中国人民の農民二三五名を、中にも妊婦の腹を割り等の野蛮なる方法を用いて惨殺し、(略)尚且つ婦女の強姦百名にも達したのであります」とある。帰国した鈴木中将の歓迎会の様子 この作戦に参加した数人から話を聞きとっている。部落付近は荒涼とした地帯で、日本軍がしばしば伏撃に遭い、ときには大打撃をこうむる。追尾してこの付近にくると足跡を見失う不思議な所とされていた。ここに秘匿陣地のあることがわかり討伐が行われる。 洞窟内に逃げこんで頑強に抵抗する八路軍との戦いであった。後にわかったことだが、洞窟内には機関銃、地雷はもちろん山砲、迫撃砲まで備えていたという。鈴木中将は「逮捕者中、八路軍兵士は捕虜として後送せしめ、他は釈放することを命じて成功を賞して戦斗司令所に帰った」と手記に書いている。 NHKのETV特集「日本人 中国抑留の日々」(平成十一年十二月七日)は、未公開フィルムとして昭和三十一年六月に開かれた軍事法廷の模様を報じた。大物戦犯がぞくぞく登場、自らの罪状を「告白」し謝罪する。「鈴木啓久中将はいわゆる三光作戦を中心になって指揮した将軍です」と断定するナレーションにつづいて中将の告白場面に移る。一部を再現すると、「申しあげますれば、母の所にあった赤ん坊をもぎとって、地べたに叩きつける(と)、妊婦の腹を裂く(と)、生き埋づめを果たす、その上に芝草をかけて焼き殺す。あるいは、銃剣、機関銃あらゆる武器を以って、一時にして、(略)千二百八十余名という大勢の平和人民を三光政策の犠牲としたのであります」 「申しあげますれば」と言ったまま一瞬、中将は間を置く。躊躇しているように見える。さらにナレーションは、「三光作戦が徹底して行われたのは、かつての満州と中国の境界線付近でした」として「無人地帯」をあげる。無人地帯を「住民抹殺作戦」というのである。 結論だけ記すと、日本側の呼称「無住地帯」は部落に敵が紛れこみ、武器など物資の保管場所になるのを防ぐために取った住民の強制移住策である。でなければ、中将が記すように二十日間の猶予を与え、運べるかぎりのものを持って立ち退くよう命じるわけがない。以降いかなる理由があっても帰住は認めないとし、家屋は焼却した。だが、追い払っても追い払っても舞いもどる住民が少なくなかったという。鈴木中将は「之等の処置を中国は『三光政策』と呼んだ」と記しているだけである。強いられた偽証「コレラ作戦」強いられた偽証「コレラ作戦」 各人の「認罪」がおおむね終った後、「グループ認罪」へと移る。グループ全員が認めた事件がまったくの虚偽と証明されたら、多数の証言は何を物語るのだろうか。 ―昭和十八年九月、五十九師団独歩四十四大隊が駐留する山東省の臨清(りんせい)一帯は連日の雨つづきであった。八路軍に手を焼く日本軍は絶好のチャンスと捉え、「衛河(えいが)」と呼ぶ幅数十㍍の運河を決壊させ、農民を根こそぎ抹殺しようと企てた。これに先立ち、日本軍はコレラ菌を付近一帯に散布した。狙いどおりコレラが流行すると大部隊を動員し「コレラ作戦」を開始した。村に行ってはコレラ患者を追いたて、コレラが発生していない村に患者を追い込む作戦である。そうすればコレラが蔓延し農民を根こそぎ絶やせるからであった。衛河決壊作戦とコレラ作戦の結果、犠牲者は二万人とも二十万人ともいう膨大な数に上った― 以上は『三光』所収の難波博少尉の「手記」と『天皇の軍隊』が描く事件の骨格である。数人の部下とともに、哀願する農民の目の前でみずから円(えん)匙(ぴ)(小型シャベル)をもって堤防を決壊させたと証言するのは小島隆男少尉(機関銃小隊長)で、「八千人強制連行」を証言した小島中尉と同一人物である。この出来事の証言者として、少なくとも十四人が供述書に書き残している。 この話はでっち上げである。衛河が決壊したのは事実で、コレラ発生も事実である。だが、決壊は増水による自然決壊で、それどころか日本軍は決壊を防ごうと奮闘したのである。この年はコレラが大流行、山東省各地から満州に向かった労働者を通して、撫順や他地区に飛び火した。 矢崎賢三見習士官(歩兵砲中隊)の供述書で、大隊長から決壊命令を受けたと書かれた蓮尾又一第二中隊長は「全く噴飯もので天地神明に誓って『ノー』である。そのような話は聞いたこともない。命令を受けたことは絶対にない」と否定、同じように名指しされた中村隆次第五中隊長も「とんでもない嘘で笑止千万である」とし、望楼付近の水漏れを発見したため兵士が防ごうとしたのだという。日本軍が衛河を決壊させたなどとする偽証を「噴飯ものだ。そんな命令はなかった」と証言する蓮尾又一第2中隊長(右から2人目)ら独歩44大隊のOB。左端は田辺氏=平成10年4月 決壊を防ごうとしたことは、小島少尉の部下である金子安次(兵長)が『天皇の軍隊』ではからずも証言しているのである。金子ら二十人は望楼の周囲に掘った壕を補強するため、土嚢(どのう)を作り、飯も食わずにフンドシ一つで作業をする。三時間の後、「川が切れたぞ」という日本兵の叫び声を聞き、「やっぱりカーブに当たるところがやられたんだな」と金子の脇でだれかが言ったというのである。だが、機関銃隊員の金子は大隊長の命令で「破壊活動に参加し、円匙で五十㌢堤防を切り崩した」と書き、「コレラ菌を散布せよとの命令を受けた」とも供述書に書いている。 小島の長年の部下で、「八千人強制連行」に関わる両者会談に同席した内田行男軍曹(前出)は、『天皇の軍隊』の小島証言に対し「なぜ、そんな証言をするのか」と電話で抗議した経験を持つ。話が全然違うからだという。「いくらなんでもそんなことやりませんよ」と同様に否定するのは、同じ中国戦犯だった新村隆一兵長(大隊本部)である。何度か会って直接話を聞いた。このほか作り話とする根拠は数多くある。 だが、小島中尉は「私たちは七三一部隊とも協力しました。コレラ菌を対象地域にまきました」と茨城県つくば市で講演するなど、とどまることがなかった。その要旨が『証言・731部隊の真相』(ハル・ゴールド、廣済堂出版)に取り上げられ、世界に拡散していくのである。虚偽を逆手に歴史イメージ回復を虚偽を逆手に歴史イメージ回復を 南京事件に簡単に触れると、中国戦犯の関係者は三人と思われる。 佐々木到一旅団長(十六師団)は昭和三十年獄死、認罪を拒否したのか供述書の類は残っていないようだ。太田寿男少佐については平成二年十二月、〈「南京虐殺」の供述書入手 「十五万体処理」克明に〉と毎日新聞が一面トップで報じたが、見つかった梶谷健郎軍曹の日記により供述書の信頼性は崩壊した。 もう一人は東口義一一等兵で秦郁彦論考「『撫順戦犯裁判』認罪書の読みかた」にでてくる。東口は難民区で六百人殺害と「上官罪行検挙書」に書いたが、佐々木旅団長を「告発」する材料だったようだと秦は推測している。 事実とかけ離れた残虐行為がわれわれ日本人の歴史イメージを決定づけたばかりでなく、世界にまで拡散し浸透している。さらに、中国と韓国の攻勢に事態は深刻度を増す。中国との人口比を考えれば、将来の日本人の安全にとって由々しい問題と思う。この窮地を脱出するために、究明された事実を内外に発信すべしとよくいわれる。 では、具体的にどうする。 以前から考えていたことを記しておきたい。 まず、メディアを通して知ったであろう日本軍の残虐イメージは、虚偽あるいは極端に誇大化されたものかもしれないと、米欧人に疑問を起こさせるわかりやすい事実の提示からはじめる。イメージ回復作戦である。その先陣となりうる打ってつけの材料がある。万人坑である。 なぜ中国が大々的にとりあげ、日本を非難しないのか不思議に思っていた。理由があるはずである。 まず、主だった展示館と内部の人骨を写真と動画に撮り、それらが「真っ赤なウソ」であることの説明をつけ、ネット上に乗せる。視覚に訴えるだけにわかりやすくインパクトもある。米欧人に理解するための証明も可能である。中国では古代からの戦争、そして国共内戦でも大量殺戮・餓死が繰り返され、そのたびに人棄て穴が形成された。それを日本軍民の仕業に仕立てるなどしている。写真は大同炭鉱の万人坑記念館 その上で南京問題等を加えるのがいいのではないか。「五万七千四百十八人」の殺害を目撃した魯甦証言、また「二千八百七十三人」がいつのまにか「二万八千七百三十人」に増えた上新河の殺害、むろん崇善堂の十一万余体の処理も加える。『THE RAPE OF NANKING』に掲載された女性の陰部に棒を突き刺した写真を、通州事件と関連づければ説得力があるだろうし、慰安婦連行写真も候補になる。 これらの組み合わせ方一つで、中国の主張に疑問を持ち、虚偽を見抜く人もでるはずだ。希望的と思わぬでもないが、真面目にそう考えている。 万人坑を事実とする日本人学者(ほとんど大虐殺派)、また炭鉱職員の抗議に対し、中国の代弁をしただけだから「抗議をするのであれば、中国側に直接やって」と言い放った本多勝一、それに口先だけで行動しない朝日新聞に対して、改めて責任を問う契機にもなるのではないか。  たなべ・としお 昭和十三年東京生まれ。東京理科大学中退。会社勤務を経て五十一年に企業の業務改善を進める経営コンサルタントとして独立。一方で支那事変などでの日本軍をめぐる「残虐行為」記述・報道に疑問を抱き、独自に調査を始める。特に中帰連の「証言」宣伝については、該当する部隊などの生存者を一人一人尋ねては真正証言を集め、デタラメであることを実証し続けた。著書に『「朝日」に貶められた現代史―万人坑は中国の作り話だ』(全貌社)、『追跡 平頂山事件 満洲撫順虐殺事件』(図書出版社)、『検証 旧日本軍の「悪行」 歪められた歴史像を見直す』(自由社)。平成十七年からネット上に「脱・洗脳史講座」を開設し、中共による反日洗脳工作や日本での同調組織・人物の実態を究明し、逐一そのプロパガンダを検証し、虚偽であることを実証している。

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    国連も一蹴した中国の政治宣伝 自民党が明らかにした南京の捏造

    常の戦場以上でも以下でもなかった」とする『南京問題小委員会の調査検証の総括』を発表した。 同議連は、中国側が主張する〝大虐殺〟などなかった根拠として、「第百会期国際連盟理事会(一九三八年一月二十六日―二月二日)の議事録」などの一次資料に当たった。 その結果として、①日本軍による南京陥落直後の昭和十三(一九三八)年、当時の国際連盟で中国の顧維鈞代表が「日本軍による二万人の虐殺と数千の女性に対する暴行があった」と報告し、国際連盟に「行動を要求」したが、「日本非難決議」として採択されなかった②南京戦の総司令官、松井石根大将は、残虐行為を阻止しようとする義務を怠ったとして東京裁判で死刑判決を受けたが、「平和に対する罪」「人道に対する罪」の訴因は無罪だった―ことなどを挙げた。 記者会見にはAP、AFP、ロイターなど海外のメディアを含む、内外の三十数社が出席し、この問題に対する関心の高さをうかがわせた。 朝日新聞は、その「調査検証の総括」を同八月二十三日付『南京事件議論再燃』の記事で、〝日本側の主張〟として、南京問題小委の調査結果を引いた上、「日本 虐殺否定の動き活発化」「中国『犠牲30万』見直し論争も」と小見出しを付け〝両論併記〟で報じた。 いかにもバランスを取っているようだが、当時の中国の顧代表の国際連盟での演説を、「中国の政治宣伝の原点」としたことには触れていない。実は、それこそが最も重要であり、現在に至る、この問題での中国の対日非難プロパガンダの始まりだったのである。 調査検証に際し、我々は中国側が〝南京大虐殺〟があったと主張する昭和十二(一九三七)年十二月十三日から翌十三年二月までの公文書を重要な一次資料と判断して、入手に努めた。その一つが前述した「第百会期国際連盟理事会(一九三八年一月二十六日―二月二日)の議事録」である。 それを見ると、一九三八年二月二日正午から開催された第六回会合(非公開会議、次いで公開会議)において、中華民国の顧(こ)代表は、確かに「南京で二万人の虐殺と数千人の女性への暴行」があったと演説し、国際連盟の「行動を要求」している。デマ援用で日本非難宣伝を開始デマ援用で日本非難宣伝を開始 当時、日本はすでに国際連盟を脱退しており、〝反日的なムード〟に支配されていたと思われる。それにもかかわらず、国際連盟は、「行動要求」について、一九三七年十月六日の南京・広東に対する「日本軍の空爆を非難する案」のようには採択をしなかったのである。 しかも、国際連盟議事録にある「二万人虐殺」は、蒋介石軍からの報告ではなく、アメリカ人のベイツ教授やフィッチ牧師の伝聞を記事にした米ニューヨーク・タイムズなどの新聞報道に基づくものだった。ベイツ教授もフィッチ牧師も、単なる公平な「第三者」ではなかったのである。 フィッチ牧師は、反日活動をしていた朝鮮人の金九を自宅に匿った前歴のある人物であり、ベイツ教授は、中華民国政府の顧問だった。 蒋介石軍の将兵は、一九三八年一月になると、南京城内安全区から脱出して蒋介石に南京城陥落に関した軍事報告をしている。その時点で、「戦時国際法違反」を実証できる報告を蒋介石が受けていたならば、顧維鈞(いきん)代表は、国際連盟での演説に取り入れていたであろう。だが、そうした事実を確認できなかったために、「デマ」に基づく新聞記事を援用せざるを得なかったのだ。 この「二万人」という数字は、東京裁判での「二十万人」や中華人民共和国が主張している公式見解の「三十万人」とはケタが違うことが分かるだろう。民国時代の一番、事実を正確に把握していたであろう時に出した主張が「二万人の虐殺」なのである。繰り返すが、それすら、国際連盟で「否定」された。この議事録は、中国側の主張を覆す上で、「白眉」の資料と言っていい。 南京陥落直後から、中国国民党は、約三百回もの記者会見を行ったが、その中で一度も、「南京虐殺があった」とは言っていない。 この国際連盟議事録はまさに、そのことを裏付けることができる決定的な資料である。国際連盟の会議の場で、顧代表が〝南京虐殺〟を訴えて、無視されたことを、中華民国は再度、記者会見で訴えられなかったのである。 ここで当時、この問題を討議した国際連盟の動きを詳しく振り返ってみたい。 中国の顧代表が演説をした国際連盟理事会の第六回会合は、一九三八年二月二日水曜日正午から、本部のあるスイスのジュネーブで開催されている。だが、その理事会の前の一月三十一日に、一つの重要な会議が開かれていた。決議案の草案を検討した「四国(英、仏、蘇、支)会議」がそれである。 我々が発見した、昭和十三年二月十八日付外務省機密文書「第百回国際連盟理事会に於ける日支問題討議の経緯」の「四国会談に於ける決議案作成事情」によると、「…顧(代表)が第一に提出したる対日制裁の点は英仏の拒絶に依り(略)」とある。つまり、中国側が、決議案に対日制裁を盛り込むことを求めたのに対し、英仏がこれを拒否したのである。 当時、日本は、国際連盟を脱退していたが、第百会期国際連盟理事会終了後、約二週間で理事会の内容は翻訳され、当時の広田弘毅外相に報告されていた。だが、この文書は機密扱いとされ、いまだに公開されていない。狡猾な中国を批判した理事国狡猾な中国を批判した理事国 そして、中国の主張が決議案に盛り込まれないまま二月二日の理事会が開かれた。出席したのは、ベルギー、ボリビア、イギリス、中華民国、フランス、イランなど十五カ国。議題は四〇一三、中華民国政府によるアピール・議事運営手続きの問題である。顧維鈞中華民国代表の対日行動要求が無視された国際連盟本部。現在は国際連合のジュネーブ事務局になっている 議事録を見ると、理事会前の四国会議で、決議案の草案がすでに固まっており、それをめぐって各国の代表が不満や異議を唱えていることが分かる。◇ 議長 「―議事手続きについて何か意見がありますか?」 ポーランド代表 「私は決議案の投票を棄権すること、その際に棄権の理由を説明することを提案しなければなりません」 ペルー代表 「私もまた、私の投票について公開で説明することを提案します」 中国代表 「…この議事手続きの問題は公開の会議ではなく、非公開の場で話し合うようお願いします(略)」 ペルー代表 「全世界の報道陣がこの問題に寄せている注目度のことを考えた場合、議事手続きの問題は公開セッションで議論されるべきだと思います。(略)中華民国代表を含む理事会の諸メンバーによって起草された提案の知らせを、私は数日前に受けました(略)」 エクアドル代表 「報道されているステートメントについて、理事会のどのメンバーも賛成していないと私は思います」 ペルー代表 「…理事会は予備草案を検討するために、数日前に会合することもできたはずですが、そうではなくて、私たちは間際になっていくつかの点で曖昧な、またいくつかの点でそれに内在する不明瞭さの故に気がかりなところが残る草案を与えられました。昨日、私たちが文言のすべての明細については合意に達しなかったことを、理事会は知っています。それらの理由から、遺憾ながら、私はこうした態度を取らねばなりません」 中国代表 「…私は決議の作成者の一人として引用される名誉に値しません。決議は意見の交換の結果で、理事会による決定の基礎としてできあがるものです。私は討議に参加しました(略)」◇ そして、英仏の反対で修正された決議案が議長によって報告された。◇ 議長 「本議題に関して作成した決議案の文言は次のとおりです」 『本理事会は、極東における情勢を考慮し遺憾ながら、中国における敵対行為は継続し、本理事会の前回会合の時よりも激化したと認め、政治的また経済的復興期にある中華民国政府の努力と成果に鑑(かんが)みれば、この状況悪化を一層残念と認め、総会は、一九三七年十月六日付決議により、中国に対する道徳的支援を表明し、国際連盟加盟国が中国の抵抗力を弱体化し、またそれにより現在の紛争にあってその困難を増幅する効果をもつ、いかなる行動も慎み、またどのようにして諸国が個別に中国に支援を提供できるかを検討すべきであることを勧告したことを想起し、上記決議の文言に対してもっとも深甚な注意を払うことを国際連盟に求め、この状況に特別の関心を有する理事会に出席する諸国が、他の同様の関心をもつ諸国と協議して、極東における紛争の公正な解決に寄与するさらなる措置の可能性を調査する機会を失わないと信じる』◇ この決議案が提案された後、ポーランド代表は「私は評決を棄権することを提案します」とし、ペルー代表は「決議案を作成した国が、決議案作成にあたり、他国の日常的な参加もなく、日々の意見の交換も行わなかったという事実にあります。参加や意見交換は、決議の正確な範囲を理解するための欠かせない前提条件です。(略)私は私が言及した手続き上の理由により、棄権する意思を表明いたします」として、棄権した。 一方、フランス代表は、決議案作成に参加したことを自ら明らかにして「フランス政府の考えや憂慮を誠実に反映して、弾力的なものとなっています」と述べ、決議案に賛成している。演説で連盟の対日行動を要求演説で連盟の対日行動を要求 そして、決議案はポーランドとペルーの二国が棄権し、採択されるのだが、その前に、中国の顧代表の問題の演説が行われた。当時の外務省が広田外相に送った報告書には「日本の侵略の事実、日本軍の暴行、第三国の権益侵害、等を述べ連盟の行動を要求する趣旨の演説を為せり」とある。 顧演説の内容は次のとおりである。◇ 議長、私が皆様の前で決議案についての中国政府の見解を表明する前に、国際連盟理事会がこの状況にあって為し得ること、また私どもがぜひ希望することに関して、この数カ月間に発生した変化(註・日本軍の南京攻略)の状況を私が皆様に説明することをお認めいただけると私は信じます。 日本軍航空隊は、世界各国一致の非難を無視して無防備都市の無差別爆撃を継続し、中国市民の大量虐殺を行っています。(略)しかもその大部分は婦女子です。また、軍規厳正を常に誇りとしていた日本軍が占領した地域での残虐かつ野蛮な行為は、戦争に巻き込まれた人々の苦しみと困難を増幅し、良識と人間性の感覚に衝撃を与えました(註・ここまでは中華民国政府としての見解)。 その多くの例が中立的な目撃者によって報道され、外国の新聞に公表されていますので、その証拠をここで示す必要もほとんどありません。 説明としては、ニューヨーク・タイムズ紙の特派員の描写を引用すれば十分でしょう。これは日本軍が南京を占領下の同市で起きた恐怖の光景で、一九三七年十二月二十日にロンドンのタイムズ紙に報道されたものです。記者は言葉少なくこう述べています。「大略奪、婦女暴行、市民虐殺、住居強制立ち退き、捕虜の大量処刑、頑健者には焼き印」 日本軍が南京と杭州で犯した残虐行為につき、アメリカの大学教授や宣教師たちの報告に基づいた信頼のおける記事がもうひとつ。一九三八年一月二十八日付のデイリーテレグラフ紙とモーニングポスト紙にも掲載されています。反日プロパガンダの〝原点〟たるデマの国連演説をした顧維鈞。このような人物が台湾逃亡後の国民党政権でも要職に就き、1957年から10年間も国際司法裁の判事を務めた 日本軍が南京で虐殺した中国市民の数は二万人と推定され、また若い娘を含む何千という女性が陵辱されました。(略)日本陸海軍およびその他いくつかの英米両国の船舶への砲撃、駐南京米国大使館館員への襲撃、それにいくつかの欧米諸国の国旗に対する侮辱などが挙げられます。これらの事件は「暴行、謝罪また暴行」という日本の政策に見られる欧米諸国への軽視であるばかりでなく、極東における欧米諸国の重要な権益の存在そのものを巻き込んだ重大な問題であります。 これは「中立国の権利および利益の尊重」を保障するという日本の宣伝の重要性に対して、世界の眼を荒々しくかつ苦悩を持って開かせることになりました。蒋介石日記に凄まじい自軍の暴虐蒋介石日記に凄まじい自軍の暴虐 演説にあるニューヨーク・タイムズなどの「大略奪、婦女暴行、市民虐殺…」について、歴史議連の総括では、国民党軍の軍紀の乱れを記述した蒋介石の日記を引用した。 それは「抗戦の果てに東南の豊かな地域が敗残兵の略奪場と化してしまった。戦争前には思いもよらなかった事態だ。(略)敗れたときの計画を先に立てるべきだった。撤兵時の略奪強姦など軍紀逸脱の凄(すさま)まじさにつき、世の軍事家が呼称を考えるよう望むのみだ」と自軍兵士の犯罪を嘆いているのである。 演説ではまた、諸外国の同情を引く為に、パネイ号、レディバード号とアリソン領事殴打事件まで持ち出したが、この三事件を分析することで、逆に〝南京大虐殺〟は虚構だったことを証明することになった。 歴史議連の総括によれば「ニューヨーク・タイムズとロンドン・タイムズの一九三七年十二月と一九三八年一月の記事を検証すると、一九三七年十二月は両紙ともパネイ号(米)の撃沈とレディバード号(英)が攻撃された記事が最大のニュースである。ニューヨーク・タイムズでは、その関連記事を同十三日から三十日まで連続十八日間報道。ロンドン・タイムズでも同十三日から三十一日まで四日間の休刊以外、連続十五日間報道していた」。両紙とも、市民が〝大虐殺〟されたなど、記者が確認した記事として報道していない。 また、「第百会期国際連盟理事会」が開催された一九三八年一月二十六日―二月二日までの間、ニューヨーク・タイムズとロンドン・タイムズの重大ニュースは、一月二十六日のアリソン領事殴打事件である。この期間は、戦後〝南京大虐殺〟が実行されていたと喧伝されている時期と重複している。 アリソン殴打事件とは、事件調査に日本軍憲兵と同行してきたアリソン氏が、日本軍中隊長の制止を無視して、無理に家屋内に進入しようとしたため、憲兵隊伍長にアリソン氏と同行のアメリカ人一人が殴打された事件である。日本軍の陳謝に対して、アリソン氏も「検察官的不遜な態度と領事としての立場を逸脱していたこと」を詫びている。 このアリソン事件は、ニューヨーク・タイズムが、一月二十八日―三十日まで三日連続で、ロンドンータイムズでも一月二十八日、二十九日(三十日休刊)、三十一日と同じく三日間報道していた。現在、中国が「ホロコーストと比肩される南京大虐殺が実行されていた」と喧伝している期間内に、「約一週間もの間、ロンドン、上海、マニラのラジオニュースで大々的に報道された(略)」のがアリソン殴打事件だった。この事実は、一九三八年一月二十六日以降、一週間、アリソン殴打事件を上回る強姦、殺人事件がなかったことを示す。 顧代表の政治宣伝は尚も続く。極めつきは「田中上奏文」である。「田中上奏文」とは、南京で出版された『時事月報』に漢文で初めて掲載され、英文パンフレットとなって世界に広がった。日本政府は当初から偽書と断じ、現在では世界でも本物と見る者はいない。偽書まで持ち出し欧州を恫喝 偽書「田中上奏文」を引用した顧代表の演説に戻る。◇「日本による中国の軍事占領の強化とその地域の拡大は、その支配征服という悪意ある政策を明らかにしています。(略)これは中国の征服、アジアの支配および最終的には世界の支配を目指したプログラムの概要を記載した田中上奏文に明らかになっています。(略)田中上奏文は、中国に対する日本の継続的侵略行為のみならず、日本軍が中国における第三国の外国公館、外国の財産、および民間人に加える用意周到な攻撃を理解するに必要な背景になっています。(略)中国は、規約第十条、第十一条および第十七条に基づき連盟に提訴しました。連盟の忠実かつ献身的な加盟国として自国の領土の保全および政治的独立に対する外部からの侵略に対する保障を求める権利を十分に有します。満洲国をめぐる連盟の介入に常任理事国だった日本は反発し、昭和8年2月の特別総会で脱退演説をする松岡洋右全権代表。5年後、反日的なムードの中でも顧維鈞のデマと姑息な工作は理事国に見抜かれていた この三カ条は、それだけで侵略国を抑制し、侵略の犠牲となった国を支援するための広範囲の行動を認めています。中国政府は、そのため、この義務を遂行するために必要な措置を取ることを理事会に対し、要請します(註・中国は演説のここで、連盟の「行動を要求」。また一九三七年九月二十八日と十月六日の日本非難決議は効力がないとして、再度連盟「行動を要求」している)。 連盟に対する信頼を回復しその権威を取り戻すような効果的な措置をとることが義務でもあり機会でもあることを、中国政府は心から信じます。極東における破廉恥な侵略に対処するにあたり、断固とした建設的な政策を採用することは、世界の平和愛好国家の何億人という人々の承認と支持を受けるでしょう」◇ そして、顧代表は、日本製商品の世界的なボイコットを組織的に実行することを求め、最後まで、日本を制裁することは、「世界的な重要性」とか、「欧州の平和の要因」などと述べて、「日本の対中侵略が野放しに放置されているかぎり、欧州の平和も危機に瀕し、欧州全体の和解も実現が難しくなります」と恫喝まがいの弁説をふるい、連盟の行動を求めて終了したのである(連盟議事録の翻訳は衆議院翻訳センター)。 ちなみに、この議事録は『ドイツ外交官の見た南京事件』(石田勇治編集・翻訳、大月書店、平成十三年)でも要約され、紹介されている。しかし、「二万人の虐殺」と「何千人もの女性が辱めを受けた」という中国側の主張は掲載されているのに、顧代表が国際連盟に行動を要求した最重要部分を「以下、略」として削除しているのだ。このため、議事録の資料価値を低くみる研究者がいるが、それは最重要部分が明らかにされていなかったからなのである。見せかけ見抜いた当時の外務省見せかけ見抜いた当時の外務省 中国の顧代表の演説は、理事会での決議案採択前に行われた。だが、中国は理事会の前に行われた「四国会議」にも参加しており、英仏の反対で「日本への制裁」が拒絶されたことも十分に承知しての会議で日本非難決議が通らないことを承知していたのにも拘わらず、顧代表が執拗に国際連盟の「行動を要求」していたのである。 これは中国による「政治宣伝」にほかならない。中国の〝南京大虐殺〟の政治宣伝の原点が、顧代表の国際連盟の演説にあり、まさにここからすべてがスタートしていたと見ることができるのだ。 こうした中国側の狙いについては、昭和十三年二月十八日付外務省機密文書「第百回国際連盟理事会に於ける日支問題討議の経緯」でも触れられている。 その分析の中では、「二月一日午後零時半ヨリ秘密会議ニ於テ一月三十一日ノ四国会談ニテ作成セル決議案ヲ上程シニ時迄審議セルガ、波乱ハ理事会外ニ於テ少数大国ノミガ勝手ニ協議シテ其ノ結果ヲ理事会二押付ケントスルガ如キ方法ニハ同意シ得ズトノ趣旨ニテ棄権ノ旨ヲ述べ披露、『エクワドル』モ本件ヲ理事会以外ニテ審議シ来レル手続ニ関シテ異議ヲ唱へ政府ニ請訓ノ要アル旨ヲ述ベタル為手続問題ニ付種々論議アリ結局一先ヅ散会シテ此等代表ニ請訓ノ余裕ヲ与フルコトト為リタリ」と理事会が紛糾したことがまず報告されている。 その上で、中国側の演説について、「今次理事会ノ決議ハ国民政府支援ノ方針ヲ維持シヌ極東ニ特殊ノ利害関係ヲ有スル諸国間ニ於テ紛争ヲ解決スル機会ヲ検討スルコトヲ期待シテ紛争解決ニ付国民政府ヲ見離サザル『ジェスチュア』ヲ示シタルハ注意ニ値スルモ大体ニ於テ昨年十月総会決議ノ範囲ヲ得出テズ、右決議中特殊利害関係アル国家卜云ヘルハ米国ヲ引入レントスル為ナルベク、今後共所謂特殊利害関係国間ニ於テ連盟二依リ又八九国条約ニ基キテ極東問題ヲ協議セントスル建前ハ崩サザルモノト認メラル」としているのだ。 つまり、当時の外務省は、顧代表の「日本非難演説」を「ジェスチュア」と見抜き、注意を喚起していたのだ。また、中国がアメリカを引き込む狙いがあった点も分析していた。つまり当時の外務省は、これが、中国の政治宣伝であることを把握していたのである。国民党も共産党も変わらぬデマ体質 ただ、肝心の「南京で二万人の虐殺」という数字が報告されていない。もしこの時点で、中国が主張した「二万人」を日本側が論破していれば、今日の〝南京大虐殺〟論争などなかったであろう。自民党歴史議連・南京問題小委員会の調査検証総括として「大虐殺」が捏造であることを発表する委員長の戸井田徹衆院議員=平成19年6月19日 これまで〝南京大虐殺〟の政治宣伝は、英マンチェスター・ガーディアン紙記者、ティンパーリーによる『戦争とは何か=中国における日本軍の暴虐』(一九三八年七月、中国語に翻訳)が原点とされてきた。その中では、政治宣伝としての虐殺数は「四万人」となっていた。今回、歴史議連の総括で〝南京大虐殺〟の原点が「二万人」と判明したことは、中国の政治謀略を解明する上で、決定的な意味がある。 中国の政治謀略は、政権が国民党から共産党に代わっても本質は何ら変わることがなかった。 この点について、歴史議連は総括の中で、「国民政府政治部は陳誠を部長に、周恩来を副部長とし、その下に四つの庁を置いて抗日宣伝、情報収集等を行っていた。『戦争とは何か』は、一九三八年七月、中国語に訳され、郭沫若が序文を書き、抗日宣伝の教材として頒布された」と明らかにした。 南京戦当時、抗日宣伝をしていた周恩来と郭沫若は戦後、中国共産党政府の首相と副首相に就任しているのだ。これを見ても、中国の政治謀略の一体性が分かるではないか。 この国際連盟の議事録の問題は、平成十九年二月二十一日の衆院内閣委員会で取り上げられ、自民党の戸井田徹議員の質問に対し、外務省は、「(当時)中国代表の顧維鈞という人物が、南京における旧日本軍兵士による殺害や略奪行為について言及した(略)。一方、決議においては明示的な言及はなかった」と明確に答弁しているのだ。不可解な調査検証時の外務省不可解な調査検証時の外務省 しかし、そこに至るまでの歴史議連・南京問題小委員会の調査に対し、外務省は〝資料隠し〟とも言える不可解な行動に終始した。 戸井田議員が今年二月九日、南京問題小委員長に就任した直後、外務省に対し、南京戦前後の国際連盟決議および議事録の提出を求めたが、同省は戸井田議員が質問に立った同月二十一日の衆院内閣委員会までに、〝読める状態〟での資料提出をしなかった。このため、戸井田議員は内閣府を通じて、「第百会期国際連盟理事会」議事録の原文を入手したのである。 しかも、中国が主張する「南京での虐殺と暴行」が決議に採択されたか否かについて、戸井田議員が外務省に問い合わせたところ、担当者は、「私の一存では答えられない」の一点張り。戸井田議員が再度「二十一日の内閣委員会で質問するから答えられるようにしておいてください」と申し入れると、ようやく観念したのか、同日の午前四時半になって和文タイプで打った旧字の「決議文」がファクスで送られてきた。彼らはいったいどこの国の公務員なのだろうか。 さらに、戸井田議員が「旧字の決議文」だけでなく、口語文に翻訳された全文の提出を求めたところ、外務省は「これだけしかありません」と回答している。ところが、再び、内閣府に問い合わせてみると、「第百会期国際連盟理事会」の議事録を翻訳した当時の外交文書が出てきたのである。これでは、「外務省を信用しろ」という方が無理であろう。 「歴史議連」の南京問題の調査は、さまざまな角度から検証を試みた結果、「南京攻略戦は、通常の戦場以上でも以下でもない、と判断するに至った」と総括したのである。 この総括文書の反響は、常識的に判断できるところに説得力があった。 それは、「世田谷区よりも狭いところに、朝日新聞一社だけでも約八十人(毎日は約七十人)の取材班が出入りしていたとなると、電信柱一―二本が倒れても気が付く取材精度を維持していたと推察される。(略)戦後、新聞労連の活動を熱心にしていた朝日と毎日の数人以外、南京で〝虐殺〟があったと語ったものはいない」との記述だけでも、「やっぱりなかったんだよね」と言ってくれた方もいる。 平成十九年六月十九日の歴史議連記者発表の挨拶で、当時会長だった中山成彬元文部科学相は「嘘と欺瞞が世界を席巻することになれば、近代国家の宝である自由と民主主義にとって危機的状況になる(略)。いま米国、カナダなどで作られている南京に関係した政治宣伝映画を見過ごすことはできない」と指摘した。 さらに「明治五年、横浜に停泊中のアメリカに向かう奴隷船マリア・ルーズ号の船長を裁判にかけ、監禁されていた中国人苦力二百三十人を解放して、中国に送り返した」ことなどを実例に示して、十九年当時に米下院で審議中だった慰安婦に関する日本非難決議案に苦言を呈した。繰り返される過ち断ち切るために繰り返される過ち断ち切るために 私は不思議に思ったことがある。南京問題小委員会の勉強会で、戸井田小委員長が次々と提示してくれた資料の中に、東京裁判の判決で日本軍が「南京で二十万人の虐殺(松井総司令官個人の判決では十万人)」をしたという数字を根底から覆す「スクープ記事」の存在だ。衆議院予算委員会で「南京」など反日プロパガンダが教科書や入試に実害を与えている事例を示しながら、是正を訴える西川氏=平成25年4月10日 例えば〈〝南京虐殺〟数の積算根拠は、「『南京事件』後四カ月間に十一万二千二百六十六人の遺体を処理したという崇善堂の埋葬記録を検察側が加算した結果である。しかし、南京事件後四カ月間、崇善堂が活動していなかった事は、昭和六十年八月十日付産経新聞が報道した阿羅健一氏のスクープ記事で証明されている〉と総括文書に記載されていたのである。 ところが、この「スクープ記事」は〝南京大虐殺〟否定派の著書で、それまでほとんど紹介されたことがなかった。それぞれの立場で検証し、明らかになったことは、互いにフェアに認め合い、積み上げて行くことが大切だと思う。 歴史議連の総括は、一次資料を中心に、戸井田衆院議員が、阿羅健一氏、佐藤和男氏、水間政憲氏の協力によって客観的にまとめられたものである。 現在、北東アジアの政治情勢は、「南京戦」以前に戻りつつある感がする。 さらに、共産党政権の中国は、反日宣伝を一層強化し、南京攻略戦から七十年後の平成十九年には、アメリカ下院本会議「従軍慰安婦非難決議」を実現させ、二十七年には国連のユネスコをも籠絡し「南京大虐殺文書」を世界記憶遺産に登録させた。 それゆえ「南京戦」を詳細に調査検証することは、非常に重要なことである。 繰り返される過ちを、断ち切るためにも。(平成十九年十一月発行「別冊正論8」掲載のものを若干加筆した)にしかわ・きょうこ 昭和二十年東京都生れ。昭和四十三年早稲田大学教育学部卒業。翌年結婚と同時に熊本県津奈木町に移る。平成八年自民党熊本県連女性部長となり、十二年の比例九州ブロック初当選以来衆院議員を四期務める。三期目は郵政法案造反者の対立候補として地盤のない福岡十区でミカン箱に立って街頭演説を続け勝利した頑張り屋。厚生労働副大臣、文部科学副大臣、党政調副会長などを歴任。党「日本の前途と歴史教育を考える会」事務局長だった十九年六月に同会南京問題小委員会が調査総括を発表。戦後歪められた日本の歴史や伝統を見直す活動を続け、過度の男女共同参画や夫婦別姓などに反対し、日本の「良き家庭」堅持に努める。二十六年衆院選で敗退したが、九州を中心に憲法改正論の普及など政治活動を続け、歴史や伝統の啓発を続ける。夫の裕氏は津奈木町長。

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    大虐殺は「中華のファンタジー」  娘と見続けた南京の虚像と現実

    。南京はあなたを待っています。成田空港と関西空港からは二時間半ほど。あっという間に着きます。 南京は中国の大都市の中でも美しい街の一つで、歴史的にも由緒ある街です。 市の真ん中には、「玄武湖」という美しい湖があり、あの雄大な「長江(ちようこう)」も流れています。湖の周囲にはウェスティンホテルなどのラグジュアリーホテルが立ち並び、滞在型の観光が楽しめます。「明孝陵(みんこうりよう)」という世界文化遺産もあります。ここには、あの明王朝をつくった朱(しゆ)元璋(げんしよう)と皇后が眠っています。孔子を祀る「夫子廟(ふうしびよう)」という昔の学問所もあります。廟は合格祈願に訪れる若者でいつもにぎわっています。また、その周辺一帯は繁華街で、川魚をメインにした南京料理も楽しめます。 でも圧巻は、やはり「南京大虐殺記念館」(中国名・侵華(チンホア)日軍(リーチユン)南京(ナンチン)大屠殺(ダートウーシヤー)遇難(ユイーナン)同胞(トンパオ)紀念館(チーニエンクアン)」)でしょう。ここには、大虐殺の被害者の遺骨や元日本兵から寄贈された資料、パネルなどが展示され、日本軍が起こした惨劇を目の当たりにすることができます。 ここもまた世界遺産で、二〇一五年十月にユネスコにより世界記憶遺産として登録された素晴らしい「テーマパーク」です》 もし、私が旅行社の社員なら、このような日本発の南京観光ツアーを企画するだろう。「百聞は一見にしかず」というが、日本で文献や資料にあたり、「南京大虐殺は幻だ」と言ってもみても、なんの効果もないからだ。なぜなら、南京大虐殺は歴史認識問題ではなく政治問題だからだ。日本軍攻略で敗残国民党軍が街を破壊し尽くした南京にも、今や中心地の新街口周辺には摩天楼が林立する 政治問題であるなら、いまさら論争する必要はなく、単にその現場を見ればいいだけだ。娘の留学先だったナンチン これまで私は何度も南京に行っている。ただ、記念館に足を運んだのは一度だけで、その時は家内を連れて、当時、南京で暮らしていた娘に案内してもらった。 二〇〇六(平成十八)年の初夏、南京の中心街、新街口(シンチエコウ)から記念館までタクシーに乗った。タクシーに乗り込む前から、娘は「日本語を使わないほうがいい」と、家内と私に釘を刺した。 中国では二〇〇五年に最初の大規模な反日デモが起こっていて、南京はとくに反日感情が強いと言われていた。当時、娘はジョンズ・ホプキンス南京センター(中国名・中美文化研究中心=ジョンズホプキンス大学SAIS大学院が南京大学と提携して開設した中国研究所)に留学していて、すでに何度か記念館に行っていた。 南京に留学した当初、「大学の中はいいけど、街に出たら日本人とわからないようにしている」と言っていたので心配していた。しかし、その心配はいらなかった。というのは、娘はいっさい日本語を使わなかったからだ。南京大学と提携して開設しジョンズ・ホプキンス南京センターには英語圏からの留学生も多い ジョンズホプキンス南京センターは、アメリカからの留学生と地元の中国人学生が半々で、一緒に中国経済、文化、歴史について学ぶ。一九八七年に設立されており、アメリカの大学のアジアでの提携プラグラムとしては、もっとも古いものの一つだ。 アジアでの進出先として、最初は日本を考えたというが、日本の大学から断られ、南京大学になったという。南京大学(ナンチンターシュエ)は、中国では、北京大学、清華大学、中国科学技術大学、復旦大学に次ぐ五番手の大学だ。 娘のルームメートは南京大学の職員の一人娘で、日本への留学経験があり日本語も話せた。それで、ただ一人の日本人留学生である娘のルームメイトになったが、二人は常に英語か中国語で話していた。ほかのアメリカ人留学生も同じだった。中国語で話していれば、娘は中国人に見られる。また、英語で話していれば、今度はアジア系アメリカ人に見られる。 中国人はとくにアメリカ人には弱い。これは、アジア人ならみな持っている抜きがたい白人コンプレックスで、中国に行くたびに私は、「この点だけは日本人と同じだ」と思ってきた。 たとえば、留学中のアメリカ人学生は街に出ると、中国語ができても英語で通す。そうすると、買い物でも飲食でも中国人はじつに親切に応対してくれる。彼らが中国語を使うのは、なにかトラブルが起こった時だけだ。そうすると、中国人は「中国語が話せるのか」と驚き、それ以上文句を言わなくなる。日本で常識の捏造写真を堂々展示日本で常識の捏造写真を堂々展示 記念館のチケット売り場で、娘は英語でチケットを買った。そうして、中に入っていきなり目についたのが、「犠牲者30万人」の掲示だった。これには、正直驚いた。 記念館は二〇〇七年に大幅リニューアルされているので、ここからの記述は現在とは異なっているかもしれないが、資料館に入ると、まずガラス張りの「万人坑」遺祉の遺骨の展示があった。これは、大虐殺で殺された人々の遺骨ということだが、全部レプリカだった。そして、延々と日本軍の残虐行為や抗日戦争に関するパネルと資料の展示が続いていた。 日本人なら誰もが知っている〝捏造写真〟も堂々と飾られていた。百人斬りの展示もあった。そういう展示を見ながら、娘は英語で「ウソばっかりでしょ」と言った。私は、気分が沈み、返す言葉も失っていた。建物の外側だけでなく内部にも「これでもか」と「300000」の数字が迫りくる=「南京大虐殺記念館」 記念館には、大勢の観光客にまじって、近所の小学生の一団が、教師に連れられて見学に来ていた。展示物の前で、教師が子供たちに何か説明している。 それで、娘に何を言っているのか聞くと、「あなたたちのおじいさん、おばあさんの中には、このように日本軍に殺された人もいますと言っている」と言う。さらに、見学者が記帳するノートに何か書いていたので、あとからそれを見ると、「日本人は鬼だ」「日本人は皆殺しにせよ」と書いてあると娘が教えてくれた。「こんなのもう見慣れているから、驚かない」と、娘は続けたが、私はますます落ち込んだ。 その後、資料館を出て広場に出ると、先ほどの小学生たちが、お弁当を食べたり記念写真を撮ったりしてはしゃいでいた。遠足といえばそれまでだが、少なくともワシントンDCにある米国国立ホロコースト記念博物館では、こんな光景は見たことがなかった。「大虐殺」「靖國」絡めた朝日 南京大虐殺記念館が建てられたのは、一九八五(昭和六十)年の夏である。それまで、南京市がある江蘇省の小中学生たちは、春の清明節(日本のお盆にあたる)に、国民党との内戦で死亡した共産党員を祀る「烈士霊園」を訪れていたという。 つまり、あの戦争が終わって四十年間、南京大虐殺という歴史認識問題は、日中間には存在しなかったのである。毛沢東は「共産党が国民党に勝てたのは日本軍のおかげ」と言っていたし、彼の記録を読む限り南京大虐殺に関する記述は一行もない。 八五年の夏といえば、私がまず思い出すのは、御巣鷹山に墜落して死者五百二十人を出した日航機事故である。当時、私は週刊誌の編集部にいて、この事故の取材に忙殺されていたので、南京に記念館ができたことなどまったく知らなかった。 これを知らせてくれたのは朝日新聞で、しかも朝日新聞は、突如として総理大臣の靖國神社参拝を批判する論陣を張った。それまで、日本の首相は計五十八回も参拝しているというのに、なぜかこの年から靖國参拝は問題化し、南京大虐殺と併せて日中間の歴史認識問題になってしまった。 ついでに書くと、従軍慰安婦問題にしても平成四(一九九二)年に朝日新聞が捏造記事を書くまでは存在しなかった。つまり、歴史認識問題というのは、ほぼ日本側がつくり出したもので、それに乗って対日批判、反日政策を取る中国・韓国に「歴史の誤解だ」と反論しても意味がない。 私は四十年ほどメディアの仕事をしてきたが、自国民をこれほどまでに貶(おとし)め、しかも捏造を平気で行う大メディアがある国を知らない。これをやるから、外国メディアも興味津々で取り上げる。プロパガンダに踊らされる欧米プロパガンダに踊らされる欧米 私は、日本にいる欧米メディアの記者の何人かと親交があるので、彼らがどのような経緯で日本の記事を書くのか知っている。簡単な話、彼らは日本語があまり得意でない。そこで日英バイリンガルの日本人アシスタントを使い、日本の報道をリサーチさせる。 そうして、その中でいかにも日本的、東洋的なトピックで本国の編集者や読者に受けそうな部分を強調して伝える。要するに、日本の報道をコピーするわけで、これをやると論調まで同じになることが多い。 日中、日韓の歴史認識問題は、こうした記者たちの格好のテキストになる。欧米にとって日本は異質の国であり、「日本異質論」は欧米読者が好むからだ。しかも、問題は時代錯誤の「大虐殺」「靖國」「慰安婦」である。日本女性を妻にしたり恋人にしたりしていない限り、彼らの日本史理解は浅薄だ。 そのため、南京大虐殺は史実の検証などされずに、ナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)と同じ扱いにされ、英語でそのまま「Nanjing Massacre」(南京大虐殺)となる。靖國神社は一般の欧米人に「Yasukuni」と言ってもわからないうえ、神社などに興味はないから「war shrine」(戦争神社)となる。従軍慰安婦も同じで、これは単純に「sex slave」(セックス奴隷)と書かれる。 このような英語で表現されると、日本のイメージは抜きがたく悪化する。日本軍は戦争神社にお参りし、戦地ではセックス奴隷を使い、住民を虐殺したということになってしまう。日本の研究で捏造と実証されている多くの写真が堂々と展示される館内。若者や家族連れが見入っている=同 いったんこうしたイメージができてしまうと、もはやひっくり返すことは難しい。ただ、記者なら、私が次のようなことを言えば耳を傾ける。「当時、日本軍は中国の目ぼしい都市のほとんどを占領した。それなのに、なぜ南京でだけで虐殺を行ったのか、誰も合理的に説明できないし、ナチスのような記録も残っていない」「当時、南京には海外メディアの人間も多くいた。その誰もが虐殺の目撃記事を書いていない。南京陥落を伝えたNYタイムズの記者も書いていない。また、陥落と同時に日本人記者も百人以上入ったが、戦後、誰も虐殺を証言していない」「中国政府は虐殺で三十万人が殺されたと言っている。しかし、当時の南京市の人口は二十万人ほどだ」先入観で事実歪曲した米映画 欧米人の南京に対するイメージが、いかに単純かということを、さらに書き留めておきたい。 私が南京虐殺記念館に行った翌年の二〇〇七年は、「大虐殺七十周年」にあたった。日本軍が南京に入城したのは昭和十二(一九三七)年十二月十三日。それから約一カ月間にわたって虐殺が繰り返されたことになっている。ならば、この壮絶な〝史実〟をドキュメンタリー映画にしようと、あるアメリカ人が考えた。その人間は、AOLのテッド・レオンシス副会長。彼がスポンサーになり、昔の資料や証人を当たり、史実を忠実に再構成するというのだ。 この報道を最初に耳にした時、これはもしかしたら、本当のことが描かれるかもしれないと、私は思った。しかし、レオンシス氏がこの映画を思いついたのはアイリス・チャンの自殺を知ったからだと聞いて、自分の考えが間違っていることがわかった。アイリス・チャンの『レイプ・オブ・南京』を下敷きにしているのは明白だからだ。 実際、日本軍が進駐した南京市内に安全区を設立して、住民を虐殺から保護したという欧米人たち、とくにドイツ人のジョン・ラーべを〝中国のシンドラー〟と位置づけていた。つまり、ユダヤ人をホロコーストから救ったオスカー・シンドラーが、南京にもいたというわけだ。 実は、この映画を制作することになったハリウッドのパープルマウンテン・プロダクションは、二〇〇六年の春、ロケ隊を組んで南京を訪れた。南京には虐殺記念館の他に、虐殺を記録する記念碑がいくつも建っている。南京大学は、当時、安全区になっていて、避難民が何千人も収容されていた。そして、ここでも虐殺が行われたとされ、記念碑が建っている。 そんなこともあり、娘は英語と日本語、中国語ができるということで、ロケ隊のアシスタントとして駆り出された。   娘によると、ロケ隊は、当時の日本の資料(雑誌や新聞など)を持ってきて、「この記事の内容は?」「この写真は?」と聞いてきたという。 そこで、娘は正確に訳して伝えたが、「そんなはずはない」と取り合ってもらえなかったという。彼らが持ってきたのは、たとえば、ほかの中国戦線で撮られた写真のキャプションを捏造して南京大虐殺の写真としているというような、日本人なら〝やらせ〟とわかるものばかりだったという。「企画書の導入部に〝日本軍は二十万人以上を虐殺して、何万人もの中国女性をレイプしました〟とあったので、本当に嫌な気分になった」と、娘は言ってきた。 ロケ隊が帰った後、娘は、ルームメートの中国人学生と、南京大虐殺記念館の訪問記と意見を、南京のタウン誌『城市指南』に寄稿し、素直な感想を述べて、日中友好を訴えた。 映画『南京(NANKING)』は、二〇〇七年一月にアメリカのサンダンス映画祭(インディーズ映画の世界最大の映画祭)で初上映された。その後、中国全土でも封切られた。しかし、大した反響を呼ばなかった。まだ現代中国人監督の方が柔軟まだ現代中国人監督の方が柔軟 この話にはまだ続きがある。 平成十九(二〇〇七)年九月、友人の国際政治学者の藤井巌喜(げんき)氏が、こう言ってきた。「チャンネル桜の水島総社長が、映画『南京』を見て憤っている。それで、『向こうがそうならこっちは〝南京大虐殺は幻だ〟という映画をつくろう』と言っている。そのために、南京関連の一次資料を徹底的に当たりたいという。ついては、娘さんにアメリカに行ってもらえないか?」「アメリカのどこに?」「米国国立公文書館(ナショナルアーカイブス)だ」 米国国立公文書館(新館)はメリーランド州カレッジパークにある。ここには、アメリカの歴史・政治などに関するあらゆる資料が保存されている。東京裁判や南京に関連する資料も、実はすべてここにそろっている。 娘にこの話をすると、バイト代をくれるなら行くというので話は決まった。こうして〇七年十月、娘はカレッジパークに行き、モーテルに泊まりながら毎日、米国国立公文書館に通った。そうして、資料フィルムの概要が書かれたインデックスカードを一枚一枚検索し、松井石根、マギー牧師など、関連人物のカードを片っ端から探し出し、そのカードに記載されているフィルムのコピーを下請け業者に発注した。 帰国後、娘が言うには、資料の量は膨大で、最初はいつ終わるかわからないと思ったという。娘は、この作業を一週間以上繰り返し、ほぼすべての資料のコピーを日本に持ち帰った。しかし、この映画はまだ制作されていない。 ところで、南京大虐殺は、その後も映画になったり、テレビ向けのドキュメンタリーになったりしている。最近では、二〇一五年十二月に、江蘇省ラジオ・テレビ総局が製作したドキュメンタリー『外国人から見た南京大虐殺』が、中国中央テレビ(CCTV)と江蘇衛星テレビで放映された。映画「南京!南京!」を制作した陸川監督 これは、中国政府が十二月十三日を「南京大虐殺犠牲者の国家哀悼日」にしてしまい、中国全土で式典が開かれるようになったこと、世界記憶遺産になったことを記念してつくられたもので、中国政府のプロパガンダである。だから、見る意味はない。 見る意味があるとしたら、二〇〇九年に封切られた映画『南京!南京!』(City of Life and Death)である。これは、中国の第六世代、陸(ルー)川(チユアン)監督の作品でドキュメンタリーではないが、はるかに史実に忠実で、真実が描かれている。 モノクロ映画で、南京戦が日本兵の視点から描かれていて、そこには日本兵の人間としての苦悩も中国側の葛藤も織り込まれている。陸川監督は、この映画の制作にあたり「日本軍兵士の日記など資料を徹底的に読んだ」と語っているが、ステレオタイプのアメリカ人より中国人の若手・中堅のほうが、より柔軟に歴史をとらえているのだから、本当に皮肉だ。外に出れば、より強く日本を意識外に出れば、より強く日本を意識 実は私の娘は、幼稚園から高校まで日本のインターナショナルスクールに通ったため、一度も日本の学校教育を受けていない。高校卒業後はアメリカ東部メーン州のべイツカレッジに進学し、その後、ジョンズホプキンズ大学のSAIS大学院で学んだ。そして、前記したように約二年を南京ですごしたので、この間、友人知己によく聞かれたことがある。「それでは日本人として育たないのではないか?」 これに対する私の答えは、こうだ。「日本の中で日本人だけに囲まれて育つより、よほど日本人らしい日本人になる。それは外側から日本と日本人を見られるからだ」「東は東、西は西」(East is East, West is West)という有名な言葉を残した『ジャングル・ブック』の作者、作家ラドヤード・キップリングは、こういう言葉も残している。「イングランドしか知らない人に、イングランドの何がわかるか」 キップリングはインド生まれの英国人だった。それゆえに、もっとも英国人らしい英国人となり、英国のことをこよなく愛した。 一般的に、インターのような国際学校に通うと、日本人としてのアイデンティティーは希薄になると思われがちだ。しかし実際は逆で、インターに通ったり、海外留学をしたりしたほうが、日本人としてのアイデンティティーは強化される。 とはいえ、日本の学校教育を受けないのだから、日本の歴史や伝統文化に関して学ぶ機会は少ない。とくに歴史は、親が教えなければならない。 私が学校で学んだ歴史は、ただの詰め込み式の暗記教育だった。極論すれば、たとえば「いい国つくろう鎌倉幕府」というように、年時とイベントをセットで暗記するだけ。しかも、たいていは明治で終わってしまった。三学期はテストが多くて現代まで行かない。行ってもせいぜい昭和の初めぐらい終わっていたので、あの戦争から現代までの事がすっぽりと抜け落ちている。 それで私は、自分が受けた歴史教育の反省もあって、娘には、とくに現代史を中心に教えた。そのなかに「日中戦争」も「南京大虐殺」もあったのはいうまでもない。また、現代史ということは、家族が歩んだ歴史でもある。家族の歴史こそが、日本の現代史だからだ。 小さいころから私が娘に言ってきたのは、私の父と母が、あの戦争のとき何をしていたかである。 戦争の悲劇に国境はなし戦争の悲劇に国境はなし 私の父は昭和十九(一九四四)年、十九歳で招集され、北支那(きたしな)派遣軍第五十九師団に配属され満洲で戦った。そして、終戦時、侵攻してきたソ連軍に捕まり、シベリアに輸送されることになった。ところが、発疹チフスに罹(かか)り、チチハルで輸送列車から放り出された。その後、満人に助けられて新京(長春)まで下り、その後、復員船に乗って帰還した。 「もしあのとき、発疹チフスに罹らなかったら、シベリアへ行って死んでいただろう」と、父はよく言っていた。 また、私の母は昭和二十年五月二十九日の横浜大空襲の時、当時暮らしていた南区通町の家から近所の防空壕に逃げた。このとき、火の手が迫っていたので大岡川に逃げた家族もあったが、B29の次に来たP51の機銃掃射でみな死んだという。 「あとから行ってみると、川が真っ赤に染まっていた。あのとき川に逃げたら、私も死んでいた」 と、母はよく言っていた。  だから私は、娘にこう言った。「おじいちゃんもおばあちゃんも、いま生きているのは偶然だよ。おじいちゃんとおばあちゃんが生きていなければパパも生まれなかったし、お前もいないんだよ」  娘はジョンズホプキンス南京センターを修了した後、アメリカ人の親友と満洲の旅に出た。 私がいつかは行こうと思っていて行けなかったハルピン、チチハルに行き、満洲を一周して帰ってきた。長春では旧満鉄の大和ホテルに泊まり、瀋陽や大連の日本軍の史跡を訪ね歩いた。  このとき娘は、私の父が書いた小説を手にしていた。私の父は作家で、満洲での体験を『日本工作人』(現代社、昭和三十三=第三十九、四十回直木賞候補作)という長編小説に書き残している。 「死ぬまでにもう一度、満洲を見たい」と言っていたが、五十八歳の若さで心筋梗塞で逝ってしまった。  今日まで、娘も私も、多くの中国人と付き合ってきた。とくに娘が南京にいた時は、ルームメートの両親によくしてもらった。彼らは私たち夫婦と同年代で、聞いてみると両親は戦争中相当苦労したと言う。また、戦後も「大躍進」「文化大革命」と苦労続きだったと言う。 ただ、日本に対しては何の恨みも持っていなかった。北京政府と、一般の中国人との間には大きな温度差があることを私は知った。 それでも、時として、中国人と戦争の話になることがある。私は極力そういう話題を避けているが、たまたま向こうが同年輩で、酒が入ると「じつは、私の叔父は杭州で日本軍に殺された」というようなことを言われることがある。そう言われると戸惑うが、それならと私も父の話をすると、不思議と話は収まる。 国家や政治という大きな枠組みを離れれば、結局は、日本人も中国人も、歴史の流れに翻弄されて生きてきたのである。反日で「中華帝国復興」狙う習近平反日で「中華帝国復興」狙う習近平 二〇〇七年七月、娘は再び南京に行った。 南京大学とジョンズホプキンス大学の提携が二十周年を迎え、記念式典が開かれることになったからだ。 来賓にはアメリカからヘンリー・キッシンジャー元国務長官が招かれた。この式典は、南京市長から共産党幹部まで、南京市の有力者がすべて出席し、彼のスピーチに盛大な拍手を送った。 キッシンジャー氏は、日本より中国が好きで、とくに周恩来を高く評価していた。米中国交樹立の立役者だから、中国にとっては大恩人である。だから、彼が市内を移動するときは厳重警備態勢が敷かれた。新街口の道路の両側には公安がずらっと並び、道路は封鎖された。キッシンジャー氏の南京訪問は、翌日の新聞もテレビニュースもトップ扱いだったという。見学の小学生はニセモノ展示を信じ込まされて熱心にメモを取る。シナ数千年の愚民政策は今も続く そうした厳戒態勢の中、式典後、彼のクルマが向った先は宴会場。そこには、ジョンズホプキンス南京センターの卒業生が出迎え、南京料理が並び、名物の餃子が山盛りになっていた。 そうした様子を見ていた娘は「こんなに中国とアメリカが仲良くなったら、日本は困る」と思ったという。それで、アメリカ人学生にそれを伝えると、こう言われた。「実は、キッシンジャーは中国は好きだけど、中華料理は嫌いだ。見ろよ、餃子をひとつも食べていないだろ」 一時あれだけ接近した米中は、いまは対立姿勢を取るようになった。 習近平は「中国の夢」を唱え、二〇四九年、つまり中華人民共和国の建国百年までに民族の偉大なる復興を成し遂げようとしている。アヘン戦争で英国に負け、列強の半植民地となり、日本に侵略されて戦い続けた一九四九(昭和二十四)年までを「屈辱の百年」、その後の百年は「復興の百年」と定義している。 このように定義するのは勝手だが、「復興の百年」に反日政策を使うのは、迷惑このうえない。汚濁と混沌の現実汚濁と混沌の現実 いまの私は、中国に対する興味をすっかり失っている。娘が中国にいた頃までは、プライベートや取材で度々行ったが、ここ四年はまったく行っていない。 なぜなら、「この国では人間らしい生活はできない」と結論したからだ。空気、水、油、この三つが徹底的に汚染されているのだから、とてもではないが、まともに暮らせない。最近、北京のPM2・5汚染が大きく報道されるようになったが、もう何年も前から冬の北京はマスクなしに歩けなかった。こうしたことは拙著の『「中国の夢」は100年たっても実現しない』(PHP研究所、平成二十六)に書いたので、興味のある方は是非読んでいただきたい。 汚染と言えば、南京でも進んでいる。南京市の北西側を悠久の大河・長江が流れている。この長江の風景は、たとえば、李白が七言絶句「黄鶴樓送孟浩然之廣陵」(黄鶴楼(こうかくろう)にて孟(もう)浩然(こうねん)の広陵に之(い)くを送る)で描いた「孤帆遠影碧空盡 唯見長江天際流」(孤帆(こはん)の遠影碧空(へきくう)に尽き 唯(ただ)見る長江の天際(てんさい)に流るるを)になっていない。「遠ざかる帆影はやがて碧空の彼方に消え、そこには、長江の碧水と碧空が溶け込んだ世界がある」などと思って行ってみると、完全に裏切られる。 長江には「南京長江大橋」という、一九六八年に完成した道路と鉄道が両方通る橋としては当時世界一の長さを誇った橋が架かっている。観光スポットで展望塔もあるので行ってみたが、長江の水は「碧水」ではなかった。赤茶けた土色で、よく見ると、表面にはゴミなどの浮遊物が山のように浮いていた。まさに、長江は巨大すぎるドブ川と化していた。 長江大橋は、北岸にある浦口区(プーコウチユ)と南岸の南京城側にある下関区(シアクアンチユ)とを結んでいる。この下関には、南京陥落時、かなり大規模な停車場と波止場があり、ここで「中国兵の処刑が行われ、その遺体は長江に流された」という。それが本当なら、長江は真っ赤に染まっただろう。 ところで、この長江大橋は、中国一の「自殺スポット」としても有名だ。一九六八年の完成から現在まで、なんと約二千人がここから長江に飛び込んで死んでいる。中国人にとって長江は母なる大河で、母の元に帰ろうと身を投げるのだという。  自殺者の多くは若い農民工(農村出身の労働者)で、都市に出て懸命に働いても将来が開けず、絶望すると、長江大橋にふらりとやってくる。そして、身を投げる。まさに、経済成長、経済成長だけで拡大してきた中国の〝負の側面〟である。虐殺記念館は幻想のテーマパーク これからも、南京大虐殺に対する歴史認識問題は、日中間でもめ続けるだろう。いくら論争しても埒(らち)が明かないだろう。それなら、いっそのこと沈黙してしまえばいいと私は思っている。政治問題なのだから、相手を言い負かしてもけっして解決しない。 それに、これに火を点けたのは、元を正せば日本側である。洗脳でなければ幼稚な正義感なのか、それに染まったメディアのせいで、私たちは背負いきれない重荷を背負わされてしまった。 しかも、日本政府の公式な立場も最悪である。「日本軍による民間人(非戦闘員)の殺害または略奪行為があったことは否定できない。しかし、その人数はわからない」「孤帆の遠影碧空に尽き…」は今やファンタジー。空は汚れ河は濁り、人々は絶望して濁流に身を投げる…それが中華の現実 これでは、曖昧すぎてどうしていいかわからない。 否定するか肯定するか、それとも沈黙するかの三通りのどれかに絞るべきだった。「殺害または略奪行為があったことは否定できない」では、あったと認めたのと同じである。 つまり、いまさらこれをひっくり返せない。 たとえば、英国は植民地支配時代にあらゆる搾取、略奪を繰り返した。しかし、彼らはそれを認めず、けっして謝らなかった。だから、時を経てそれを問題にする国はなくなってしまった。 要するに、歴史は常に書き換えられることができる。中国の王朝の歴史を見れば、勝者になった者は必ず自分に都合のいい見方で歴史を書き換えてきた。現在の北京も同じである。彼らは日本に勝ったわけでもないのに、勝ったとして「抗日戦争勝利記念式典」を毎年行っている。 ただし、この問題が解決する時は必ずやってくる。それは、何十年、何百年先になるかわからないが、人類がタイムマシンを発明した時だ。タイムマシンに乗って、一九三七年の南京を訪れれば、そこで何があったかは誰の目にも明らかになる。 そうなると、南京虐殺記念館は、実はテーマパークで、ディズニーランドと同じような〝ファンタジーの世界〟であることがわかるだろう。 それで、最後にこう言いたい。《さあ、南京に行こう! 行って世界記憶遺産として登録された素晴らしいテーマパーク「南京大虐殺記念館」を見てみよう!成田空港と関西空港からたった二時間半で着きますよ》やまだ・じゅん 昭和二十七年横浜市生まれ。立教大学卒業後の五十一年光文社入社。週刊誌『女性自身』や新書「カッパブックス」の編集部を経て平成十四年「光文社ペーパーバックス」初代編集長。二十二年から独立し編集プロデューサーも務める。経済・ビジネス分野の取材・執筆の一方、近年は日本の近現代史について、歪曲を排した事実の発掘に心血を注ぐ。主な著書に『出版大崩壊 電子書籍の罠』『資産フライト「増税日本」から脱出する方法』『円安亡国 ドルで見る日本経済の真実』(いずれも文春新書)、『永久円安 頭のいい投資家の資産運用法』(ビジネス社)、『本当は怖いソーシャルメディア』(小学館新書)などのほか、『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP研究所)、『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)など。父親は作家の津田信。

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    メディア報道は、もう少し両論併記できないか?

    でいただけなのか?もちろん、全部ウソとは思わないのですが…私には、少し疑問に感じる部分があるのです。中国で出版された「南京大虐殺辞典」第1巻(新華社=共同) 有名なのが「南京大虐殺」の話。こちらのデータを見てください。◆広島原爆投下による死亡者数→297,684名(H27原爆死没者名簿登録) ◆長崎原爆投下による死亡者数→168,767名(H27原爆死没者名簿登録) ◆太平洋戦争全体でのアメリカ合衆国民間人死亡者数→1,704名  (英タイムズ・アトラス『第二次世界大戦歴史地図 コンパクト版』/2001年発行)  これは正式に発行されている資料のデータをハンドルネーム「お節介オヤジ」さんが送ってくれたものです。広島における原爆投下による「民間人」の大量虐殺。この犠牲者の数が30万人近かったことから、東京裁判において、アメリカが数値を改ざんして「南京での大虐殺というストーリー」をでっち上げたことはあまりに有名です。日本が「最低のクソ国家」というストーリーを作り上げたアメリカ 『人類に対する罪』という名目で、終戦後に戦勝国たちの手で一方的な裁判(東京裁判)を始めるわけですが、東京大空襲でも10万人の女性や子供を焼き尽くしたアメリカは、それまで全くニュースにすらなったことのなかった南京大虐殺という話を作り上げました。ご丁寧に、日本の朝日新聞はそれをでかでかと宣伝して、売り上げを伸ばすことに成功しました。 1937年12月。南京を日本軍が占領しました。その直前に公式に行われた南京政府の手による人口調査が20万人。日本軍の占領直後…1か月後に行われた人口調査の結果が25万人。 戦争中なので、何らかの犯罪行為はあった可能性がは否定しません。全く物的証拠もないですが、そこは戦争中ですしね。しかし、30万人はないわ。いまだに朝日新聞が必死になって宣伝した「南京大虐殺」を信じている人の脳ってどうなっているのか逆に興味がある。 アメリカは戦争に勝ったことをいいことに、日本を「最低のクソ国家」だというストーリーを作り上げました。クソ国家だったから我々は大量虐殺をしてもよかったのだ、と。自分たちの戦争犯罪をごまかす為に。ま、パフォーマンスです。偉そうに言ってますけど、我々メディアもよくやる手口なんですけど。 私は、第2次世界大戦におけるアメリカの「民間人の大量虐殺行為」は許されるべきではない「非人道的行為」だと思っています。私は「一人の日本人」としてアメリカの大統領が来るのであれば、それは「謝罪」はしなくていいけれど、「間違いは認めるべき」だと考えていました。民間人の大量虐殺は戦争犯罪だ。アメリカは間違いなく、戦争における大犯罪者だと思うのです。 補足しますが、私は、日本の総理も真珠湾に行くべきだと思っています。そして「宣戦布告もせずに不意打ちで基地を破壊した行為」を間違いだったと認めるべきだと考えています。こちらも「謝罪」は必要ないと思っています。でも両者ともに、ナァナァにせずに「認めるべきは認めるべき」だと考えていました。 何か違う、と思う点があるなら…誰か『論理的』に「物証」とともに反論してもらえるかな?出来るなら。 今回の広島訪問。癒された人々もいるのでしょう。それは悪くはなかったと思いますし、その救いはきっと必要だったのでしょう。でも、冷静に冷たくてもジャッジする必要もあると思うのです。 本当に評価するだけでいいのか? あんなレームダックにナァナァにされただけの訪問を、そんなべた褒めだけでいいのか? 頼むからメディアにいる正常な人間は、もうちょっとだけでいいので深く掘り下げる報道もしてくれ。突き放さなくていい。両論の併記をお願いしたいのです。(2016年05月29日 長谷川豊公式ブログ「本気論 本音論」より転載)

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    中国のチベット人虐殺こそ世界記憶遺産に登録せよ!

    む必要があるのか?」という疑問しかもっていません。 そもそも、日本との戦争でほとんど戦ってすらいない中国共産党が、いったい何様のつもりでしょうか。一党独裁政権が日本を指さして「反ファシズム」と叫ぶのは悪い冗談でしかありませんが、軍事パレードへの参加は諸外国に対して、「おまえたちはどちら側に付くのだ」と迫る「踏み絵」でもありました。2015年9月、「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」の記念行事で閲兵する中国の習近平国家主席(ロイター=共同) 今回の軍事パレードを見ていて思わず笑ってしまった「笑点」が、二つあります。一つ目は、式典冒頭で人民解放軍が「抗日の狼煙を上げろ」「日本を東方に駆逐せよ」と合唱していたことです。おそらく、戦時中に自力で日本に勝てなかったことが、中国人にとっては、よほどのトラウマになっているのでしょう。 もう一つの「笑点」は、この軍の合唱を報じた中央電視台(CCTV)の映像です。この映像には、第2次大戦中に撮影された、プラカードを持ってデモ行進をする中国の人びとの古い映像が挿入されたのですが、映像の途中で「服従 領軸訓示(指導者の訓示に従おう)」と書かれたプラカードの前に、共産党最大の仇敵だった国民党のリーダー、蒋介石の顔を描いた別のプラカードが掲げられていたのです。 つまりこれは、「蒋介石の訓示に従おう」という映像です。何度も見直しましたが、間違いありません。歴史をまったく知らないのか、あるいはかなり深刻な健忘症を患っているのかはわかりませんが、これでよく日本に対して「正しい歴史認識」を迫れるものです。 「胸に手を当てて自問せよ」という有り難いお言葉は、熨斗を付けてお返し致します。ユネスコへの対応が遅れた外務省にも落ち度 ところで、今回の軍事パレードの参加者のなかに、その場にいるべきではない出席者が3名いました。ユネスコ(国連教育科学文化機関)のイリナ・ボコバ事務局長と、潘基文国連事務総長、そして韓国の朴槿惠大統領です。 国際平和と人類の福祉促進をめざすはずのユネスコのトップが、いったい何の理由があって軍事パレードに参加したのでしょうか。じつは、女性初のユネスコ事務局長として知られるブルガリア出身のボコバ事務局長は、ブルガリア共産党機関紙の編集長を父にもち、自身もモスクワの大学を出たバリバリの親共産主義の人物です。 今回の軍事パレードの直後、ユネスコはPRCが申請した「南京大虐殺文書」を世界記憶遺産に登録するという決断を下しました。しかしその手続きの詳細はおろか、登録された資料の中身さえ明らかにされていないなど、すべてが不透明なままです。PRCから裏金でももらっているのではないかと、誰もが疑いたくなります。日本人は「性善説」の妄想から目覚めるべき 一方で、土壇場になるまでユネスコへの申請を問題視しなかった日本政府にも大きな落ち度があります。古森義久氏も指摘していますが、外務省はこの問題にタイムリーな対応をとらず、また、ユネスコという国連機関の特殊性や世界記憶遺産の登録システムの特徴を十分に把握していなかったのです。 ユネスコの内情に詳しいある関係者は「日本側はボコバ氏が自分たちと同じ価値観を持つと思って働きかけていたが、それは間違いだった」(『産経新聞』2015年10月11日)などと、信じ難いまでの「お人好しぶり」を晒しています。つまり政府も国民も、国際機関というだけで、ユネスコ側の判断や発言すべてを頭から信用し、疑わなかったのです。これはじつにナイーブで恥ずかしい姿だといわざるをえません。 さすがの日本政府も今回の事態に対しては怒り、ユネスコ分担金の拠出停止をも検討するといっていますが、これについてPRCは「日本がユネスコを脅迫した」と非難しました。まったく、「どの口がいっているんだ」といいたいところですが、率直にいって、拠出を完全停止する必要はありません。分担金をゼロにすると発言権を失うからです。ユネスコに対する2014年度分の国別分担金は、1位のアメリカが22%。日本は2位で10・834%を占めています。ところが偉そうなPRCは6位、比率では日本の約半分の5・14%にすぎません(『産経新聞』2015年10月14日)。日本はPRCと同じ金額だけ拠出すればいいのです。日本人は「性善説」の妄想から目覚めるべき 今回の軍事パレードには、潘基文国連事務総長も参加しました。この人も相変わらず自分が置かれた立場を理解しているとは思えませんでした。潘氏の参加に対して菅義偉官房長官は「国連は中立であるべき」「きわめて残念」と批判しましたが、これに対し潘氏はCCTVのインタビューで「一部に、国連事務総長や国連組織が中立であるという誤解があるようだ」と反論しました。 潘氏は、韓国での人気も高く、次期大統領候補とも噂されているので、ある意味、近い将来の日韓関係が思いやられます。しかし、この潘氏の主張は「正しい」といわざるをえません。なぜなら、国連は設立当初から、けっして中立な機関ではないからです。 国連はそもそも、第2次世界大戦のあと、「戦勝国」が中心となってつくり上げた機関であり、日本やドイツを引き続き「敵」と見なす「敵国条項」を今日までその憲章に残しているような偏った組織です。それにもかかわらず、戦後の日本人は、国際機関というだけですべてが公平・平等だと勝手に思い込み、盲目的に国連を崇め奉り、深く信仰してきたのです。 英語の“United Nations”を普通に和訳したら、「連合国」です。「国際」を意味する単語は無い。「国際連合」という名称は意図的な誤訳でしょう。ちなみに「世界記憶遺産」という翻訳もおかしい。“Memories of the World” のなかに「遺産」なんて単語はありません。 キッシンジャー元米国務長官は以前、「中国は伝統的に世界的な視野をもち、日本は部族的な視野しかもっていない」と指摘しましたが、残念ながら、それも「正しい」といえます。国際社会全体がじつはルールなき「性悪説」に支配されている現実から見れば、何でも「性善説」的な思い込みで他者に接する日本人に比べ、他者を信頼せず、横柄でずる賢く立ち回るPRCのほうが「世界的な視野」をもっているといえるからです。それほど、国際社会なるものの現実は厳しいのです。 話は少しそれますが、『森のくまさん』という有名な童謡があります。これはもともとアメリカの歌ですが、日本語に訳され、多くの子どもに歌われています。ところが、じつはアメリカの原曲と日本語の歌詞はかなり異なっていることを、多くの日本人が知りません。「公平不偏」の国連事務総長 日本語の歌詞では、森のなかで熊に遭遇した女性に対し、熊は「お逃げなさい」とやさしく諭してくれます。しかし熊はその後、彼女が落としたらしいイヤリングを拾い、それを返すためそのあとを追いかけるのです。しかしアメリカの原曲は、熊が森のなかで遭遇した人間に向かって、「おまえ、銃を持ってなさそうだなあ。だったら逃げたほうがいいんじゃないのか?」という警告を発した上で、しつこく追いかけ回すという内容です。 日本人はそんな厳しい内容の歌を、底なしの「性善説」に改変してしまうのですが、このような平和的なメンタリティこそが、国連を公正中立と信じる勝手な「思い込み」や、憲法前文にあるように「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」して、自分たちの命の安全まで委ねようと「決意」し、「憲法9条が戦後の日本を守った」という危うい妄想を信じてしまう原因でしょう。この辺りも日本人は、早急に目覚める必要があります。「公平不偏」の国連事務総長 国連では、潘氏の事務総長就任後に、韓国人の登用が急増しましたが、そのほとんどが「コネ登用」だといわれています。一方で、激変した職場の雰囲気に嫌気が差して、退職する他国の国連職員が続出したそうです。潘基文国連事務総長(AP=共同) また、今回の軍事パレードには、「ダルフールの虐殺」を行なった戦争犯罪人として国際刑事裁判所(ICC)から国際指名手配されているスーダンのオマル・バシル大統領も出席していました。習近平はバシル大統領をして、「中国人民の古くからの友人だ」として熱烈歓迎、潘事務総長もこのバシル大統領と一緒になり、核弾頭を搭載して日本の大都市に狙いを定めている長距離ミサイル部隊の行進観覧を大いに楽しみました。しかし、以前国連加盟国に対して、このバシル氏の逮捕状執行に向けた手続きを取るように要請したのは、何を隠そう潘事務総長自身なのです。さすがは、「公平不偏」の国連事務総長というべきでしょうか。 ただ私は、潘基文国連事務総長や、前述したユネスコのイリナ・ボコバ事務局長らには、心から「感謝」したいとさえ思っています。なぜなら、今回の一連の問題で、日本人の多くが、ようやく馬鹿馬鹿しい国連信仰から目覚め、国際機関の看板がいかに胡散くさいものであるかに気付き始めたのですから。 日本政府も、片山さつき参院議員がまず抗議の声を上げ、その後に菅官房長官が厳しい口調でユネスコや潘事務総長を非難しましたが、それを見て、「あ、日本もちゃんと反論するようになったのか」と意外に思いました。これまではつねにやられっ放しだったのに、それにやっと気付いたのだなと思い、嬉しくなりました。中国とアメリカの「踏み絵」を踏んだ韓国 今回の軍事パレードに参加した各国首脳のなかで、ロシアのプーチン大統領を除いてとくに目立ったのが、韓国の朴槿惠大統領でした。しかし韓国は朝鮮戦争の際、突如、北朝鮮軍側に付いて参戦した100万人ものPRCの義勇軍によって、甚大な被害を受けたはずです。中韓のユネスコへの申請は「諸刃の剣」 朴大統領本人の言葉を借りれば、「加害者と被害者の関係は一千年経っても変わらない」はずですが、PRCから受けた被害は、珍しく水に流したのでしょうか。 韓国は「日本に勝利した仲間」というPRCの虚言に目が眩み、もはや冷静な判断がつかなくなっています。大日本帝国の一員として共に戦った民族によって戦後に建国された韓国が、日本と真正面から戦ったことすらないPRCと一緒になって「日本に勝った」と連呼しているという、じつに滑稽な姿を世界に晒したのです。 朴大統領に対して憐みすら感じるもう一つの問題は、自身の行為がPRCに利用されているだけという現実に気付いていない点です。PRCは日本を攻撃する仲間を増やしたいのと同時に、自分たちの手先となって動く国がほしい。韓国を完璧な「操り人形」にしたいのです。ですから、PRCは朴大統領の軍事パレード参加にそうとうこだわり、また、参加に向けた早期の返事がなかったことに対してかなり焦っていたらしい形跡があります。 今回の軍事パレード参加について、アメリカ政府は朴大統領に自制を求めたのですが、朴氏はそれに耳を貸さないまま飛び出し、自らPRCに忠誠を誓うという「踏み絵」を踏んでしまいました。朴大統領は、慰安婦問題と南京事件を世界に広めるという点で、いまやPRCと共闘しているつもりなのでしょう。しかしPRCは韓国をたんなる「手駒」だとしか見ていません。 ユネスコはPRCが登録を求めた2件のうち、慰安婦問題の登録を見送り、南京事件の文書だけを登録しました。次回は中韓で共同申請するという「エサ」に食いつけば、あと2年は韓国をアゴで使えます。朴大統領は習近平の思惑に嵌まってしまったのかもしれませんね。 このような朴大統領の外交姿勢に対し、アメリカ国内では、韓国のあまりの親中ぶりを警戒する声が上がっています。このまずい状況にようやく気付いたのか、朴大統領は今年10月に訪米して、16日には米韓首脳会談を行なったものの、オバマ大統領からは「中国が国際規範に反する行動を取ったときは、アメリカと行動を共にしろ」と対中関係での米韓の連携強化を迫られてしまい、こちらでも「踏み絵」を踏まされることになりました。 ちなみに、希望した米議会演説は設定されず、公式晩餐会も開かれないなど、歓迎ムードはまったくありませんでした。右に左にあたふたする事大主義も、ここまで来ると滑稽さを通り越して、悲哀すら感じます。中韓のユネスコへの申請は「諸刃の剣」 一方、論理的な側面から見てみますと、今回のユネスコによる南京大虐殺文書の採択と慰安婦問題の不採択は、じつは中韓両国にとって「諸刃の剣」になりうるということに気付きます。 PRCの主張によると、いわゆる「南京大虐殺」というのは、大昔の戦争の最中、1カ所で限られた時間内に行なわれた事件とされていて、一応の被害者も「南京にあった女子供を含む民間人30万人」と限定されています。しかしこういった大虐殺と見なされる事例は、ほかにも似た事件があり、南京大虐殺とPRCがいっているような事件は「ワン・オブ・ゼム」でしかありません。習近平に呆れたオバマがついに軍艦派遣 そもそも南京大虐殺は、1937年12月に起きたはずですが、国民政府を率いた蒋介石は終戦までこの件で日本を1度も非難したことはなく、またアメリカ政府が日本の戦争犯罪を徹底的に叩くつもりで全力を尽くして調査した「IWGレポート」でさえ、資料がいっさい発見できなかった根拠薄弱なものです。評論家の石平さんはPRCに住んでいた当時、南京大虐殺の話など聞いたことがなく、教科書にも載っていなかったそうです。 事実認定できる証拠がこれだけ乏しい事件が登録されるのであれば、数千万人単位の死者を出した「大躍進政策」や「文化大革命」、あるいは現在も進行中のウイグル人、チベット人虐殺こそ、はるかに世界記憶遺産に登録される価値があります。いずれ問題提起する人も現れるでしょう。つまり、歴史問題でユネスコを利用した今回のPRCの戦略は、自らにとってはいつか「やぶ蛇」となって返ってくる可能性があるわけです。 一方で、慰安婦問題はまったく別です。慰安婦のような戦場売春婦は今日までのすべての戦争に存在します。慰安婦を世界記憶遺産登録に採択すると、対象となる被害者は世界人口の半分を占めるすべての女性となるだけでなく、貧富の差や格差の問題にまで飛び火してしまう可能性があります。いくらユネスコといえどもこれを採択することはできなかったのだと思います。PRCの提出した根拠資料がいい加減だったこともあるのでしょうが。 一方、今回ユネスコが慰安婦問題を不採択とした事実を日本が利用することも考えられます。今後海外のどこかで慰安婦像を建てる動きが出れば、「ユネスコも拒否したではないか」との議論を展開できるからです。 つまり、南京大虐殺や慰安婦問題のユネスコへの申請は、中韓にとって良いことばかりではなく、自らの首を絞めることにも繋がりかねないわけです。 10月の朴大統領の訪米中に、在米ベトナム人権団体が、ベトナム戦争時の韓国軍によるベトナム女性への性暴行への謝罪を朴大統領に要求した件はまさに象徴的です。 これからの日本は、こうしたPRCと韓国にとって不都合な状況を、戦略的にうまく利用して戦っていくべきです。ロビイストも積極的に使いましょう。習近平に呆れたオバマがついに軍艦派遣 去る9月22日、習近平はアメリカを訪問しましたが、同時期に訪米していたカトリック教会の最高指導者であるローマ法王への歓迎ムードに溢れたアメリカ国内では、驚くほど注目されませんでした。2015年9月、米ホワイトハウスの公式夕食会で乾杯するオバマ米大統領(右)と中国の習近平国家主席(AP=共同) さらに米国防総省は、習近平一行がシアトルに到着したその日に、「9月15日に中国軍機がアメリカの偵察機に異常接近した」という、1週間以上前に黄海上空で発生した事件の発表を行ないました。わざわざ習近平訪問のタイミングにこの種の発表を行なったことからも、アメリカがいかにPRCを警戒しているかがわかります。 かつてあれほどの親中ぶりをアピールしていたオバマ政権も、いまやPRCに信頼を置いていません。その大きな理由は、PRCによるサイバー攻撃と、南シナ海における覇権拡大の動きです。全世界的には「大成功」だった反日軍事パレード 今回の米中両政府は、互いにサイバー攻撃を容認せず、閣僚クラスの対話メカニズムを構築することで合意しましたが、自らも「被害者だ」と開き直る習近平に対して、オバマ大統領は珍しく、「問題は実行するかどうかだ。場合によっては経済制裁も辞さない」と強く迫っています。じつは、現在米中間で繰り広げられているサイバー戦争の実態は凄まじいものがあり、PRCもまた、アメリカから仕掛けられる情報戦争を極度に恐れています。なぜなら、アメリカとの情報戦争に敗北すれば、共産党政府が必死に隠しているあらゆる「秘部」が公になってしまい、人民の猛烈な怒りに火がついて、共産党による一党独裁体制の崩壊すら招きかねないからです。 また、人工島の埋め立てと戦闘機用滑走路を急ピッチで建設している南シナ海の問題では、米中はまったく合意に至ることができず、アメリカの深刻な懸念表明に対し、習近平は「南シナ海島嶼は中国古来の領土であり、中国は合法、正当な海洋権益をもっている」と強気の姿勢を崩しませんでした。さすがにオバマ大統領も呆れ返ったらしく、ついに軍艦派遣を決断しました。 ロイター通信は10月27日、米国防当局者の話として、横須賀基地に配備しているイージス駆逐艦「ラッセン」を南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島で中国が建設している人工島の12カイリ(約22キロ)内に派遣したと報じています。米軍が2015年5月に公表した、南沙諸島のミスチーフ礁の画像(ロイター=共同) ちなみに、今回の訪米で面白かったのは、シアトルで財界人らが参加した習近平歓迎のための歓迎晩餐会のメニューです。まず、前菜のサラダには大根が使われたのですが、その英語表記は「ラディッシュ」ではなくて「DAIKON」、続く主菜で出された「ワサビ入り」のマッシュドポテトには「WASABI」と記載されていました。また、ベジタリアン用のメニューには「EDAMAME(枝豆)」の記載もあり、極めつきは、習近平に出されたワインが1本1500円程度の「超お手頃価格」の品であった、ということです。 到着早々シアトルのボーイング社で旅客機300機を爆買いした「国賓」に出すべきメニューにしては質素に感じられますが、あるいはこんな「辛口メニュー」も、PRCに対する日米初の「集団的自衛権行使」であったとしたら、ワサビとウィットが効いた、なかなかのメッセージであったといえるでしょう。全世界的には「大成功」だった反日軍事パレード もちろん、習近平もコワモテばかりではいけないことは百も承知です。訪米後の9月27日、軍事パレードで手なずけておいた潘基文国連事務総長と共同主催した「ジェンダーの平等と女性の地位向上」のためのサミットにおいて、「中国指導部は女性の権利を尊重している」と強調しました。アメリカ国内の女性に向けたイメージ戦略のつもりだったのでしょうが、これを聞いてひっくり返った人も多かったに違いありません。 なぜならPRCでは、今年3月8日の国際女性デーを前に、公共交通機関でのセクハラ抗議イベントを計画していた5人の女性活動家を当局が拘束するという事件が起こっており、また、2010年のノーベル平和賞受賞者で、現在投獄中の民主活動家・劉暁波氏の妻も、今日まで5年間、自宅軟禁状態にあるからです。善良な日本人に国際機関の胡散くささを気付かせた 習近平の国連での発言に対して噛みついたのは、自らもフェミニストであるヒラリー・クリントンでした。次期大統領選を控え、共和党候補の不動産王ドナルド・トランプ氏に対する牽制もあるのでしょうが、彼女は自身のツイッターで、「女性の権利を主張する人たちを迫害しながら、国連で女性の権利のための会議を主催する?この恥知らず!」と、習近平を強烈に批判したのです。 今年4月の米議会演説において、安倍総理は、「女性の人権が侵されない世の中を実現しなくてはいけません」と女性の権利向上に言及し、スタンディング・オベーションを受けました。安倍総理を意識した習近平の試みは失敗しましたが、そもそも訪米自体が大失敗だったというべきでしょう。アメリカはもはや、自らの言行不一致を恥とも感じない「二重人格」と、軍事面での「好戦性」、法律の運用や経済における「不透明さ」を解決できないPRCを信用できないのです。約束の履行さえ期待できない国家と、TPPのような国際協定を結べるはずがなく、「人民元」の国際通貨化もありえません。 今後のさらなる市場開放を求めていく上で、アメリカはPRCの社会を民主化したいと願っていますが、それは中国共産党による一党独裁体制の崩壊に直結しますから、彼らには受け容れられないでしょう。 PRCのように、公にできない「袖の下の怪しい関係」で物事を推進する国は、透明性を最も嫌います。しかし、透明性を確保しないかぎり、PRCが本当の意味での先進国の仲間入りを果たし、また日米をはじめとする諸外国から本物の信頼を得ることはありません。  反日軍事パレードと習近平の訪米は、PRCの「二重人格」と「好戦性」、および「不透明さ」を世界にアピールし、善良な日本人に国際機関の胡散くささを気付かせたのみならず、親中一辺倒だったあのオバマ大統領に、人工島への軍艦派遣を決断させたという点で、全世界的に見れば「大成功」だったといえるでしょう。関連記事■ 韓国は日本のストーカーだ!■ 韓国人こそ歴史を学べ!■ [日韓「歴史戦争」]日本がサンドバッグ状態を脱するとき

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    記憶遺産に「南京虐殺」?ヘタ外交はどうすればよいか!

    る国宝「東寺百合文書」の登録が決定し、喜ばしい限りです。しかし今回、問題になっているのは、ユネスコが中国が申請していた「南京大虐殺文書」の登録をも認めたことです。 そもそも南京大虐殺についてはその人数も諸説紛々ありますが、中国の申請内容である30万人以上は事実ではありません。当時の南京の人口は最大で約20万人で、仮に「全員」としても30万人はありえません。この一点でも、間違った数字の申請をユネスコがやすやすと認めるのは大問題と言わざるを得ません。「南京大虐殺記念館」を訪れる人たち(共同) ユネスコそのものですが、予算分担率と順位は、1位のアメリカ22%に次いで日本は11%・2位です。金額は分担金と任意拠出金を合わせて4494万8000ドル(日本円で54億円)にもなりユネスコに大変貢献しているわけです。こうした予算でユネスコは職員約2200人を雇用し運営しているのです。 今回、ユネスコに対する日本の措置を見直すべきという意見が出ていますが、私は賛成です。ユネスコはそもそも政治的な場ではないと前提にされつつも中国は明らかに政治利用して歴史的根拠が不明なものを申請しました。これをユネスコがやすやすと認めるのであれば、政治の場として活用してよいとユネスコ自体が認めるようなものです。 アメリカの分担率は22%だと前述しましたが、実はここ2年、アメリカは拠出を見合わせています。理由は、パレスチナがユネスコに加入したことにアメリカは反対をしているからで、極めて政治的な理由でアメリカは分担金・拠出金の支払いを停止しています。 日本もユネスコのあり方に問題提起をするために、そして南京大虐殺のように事実でない申請は認めさせないためにも、拠出金支払いを見合わせることには賛成です。すでに自民党の二階総務会長や菅官房長官も同様に言及しています。ただ今回も教訓とすべきは、こうした事案の結果が出てから事後に分担金をやめるのではなく、起こる前に見合わせておくべきだったということではないでしょうか。事の後で分担金を見合わせるぞ・止めるぞというのは圧力としては弱いですし、しかも一国の官房長官まで言及してしまうと、今度は本当に見合わせなければそのことそのものが今後のマイナスになってきてしまいます。 横浜市長時代、国から羽田空港の再整備に協力を求められ、横浜市は6年間かけて計100億円の無利子貸付けを行いました。しかし貸付けが始まると横浜市が条件にしていた羽田空港の「国際化」について国は明言しなくなり、単なる「再拡張」だと言い出したことがあります。 横浜市は約束を違えるのであればお金を出せないとして、予定していた年度の24億5千万円の貸付けを実際に停止させました。その後、政権が変わったこともあり羽田空港は国際化路線に戻り、今の羽田があります。 このように結果に実を結ぶためには、先に見合わせるなどより効果的な方法やタイミングがあるはずです。国内と国際問題でも、根本的な違いはないでしょう。日本の国際政治の立ち振舞いとして支払い停止に賛成ですし、そもそもユネスコへの供出金54億円は全て国民の税金です。国はしっかりと主張してください。(2015年10月14日「中田宏公式ブログ」より転載)