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    日本の技術は負けていないという思考停止

    竹内健(中央大学理工学部教授) 日本の半導体はソニーのイメージセンサー、東芝のフラッシュメモリなど数少ない勝ち組を除いては、総崩れになりました。 特に酷い状態なのがシステムLSI。日立、三菱電機、NECのシステムLSIを主力とする半導体をスピンオフして作られたルネサスエレクトロニクスは業績悪化によって、社内の半数近くもがリストラされる状況に追い込まれました。 東芝でもシステムLSIが不適切会計の舞台になったように、システムLSI事業は不採算だったようで、これからリストラが行われます。 車も電気自動車・自動運転など、コンピュータ化が進んでいます。社会のあらゆる機器に組み込まれる半導体はこれからも重要です。 実際、「アマゾンが半導体製造 米ネット企業の垂直統合戦略」にも書かれているように、サービス事業者であるアマゾンが自社のサービスを差別化するために半導体に参入しているのです。 アップルはiPhoneに搭載される半導体を自社で設計しています。半導体の外販はしていませんが、実はアップルは世界有数の規模の半導体メーカーなのです。 先ほどの記事にも書かれているように、ソフトウエア企業であるグーグル、マイクロソフト、オラクルも半導体に参入しています。 ああ本当に、日本の半導体は勝手に一人でずっこけたんだな、と思いました。 日本の半導体の不振の理由として、円高、新興国企業の台頭、垂直統合から水平分業へのビジネスモデルの転換の遅れ、などが言われています。 これら環境は経営も重要な問題点でしょうが、本当にそれだけなのでしょうか。 もし経営が問題だとしても、他人事のように言っていて良いのか。 同じような文脈で、日本は技術では負けていない、とも言われています。 日本は技術至上主義、技術で上なのは尊いことだ、と思われがちではないでしょうか。 本当に技術で負けてなかったか?と私は思っていますが、もし仮に技術では負けていなかったとしても、なぜ素晴らしい技術を開発した優秀な技術者が、技術開発だけに留まってしまったのか。 もし経営で負けたのならば、優秀な技術者は弱点である経営を助ける仕事になぜ転換しなかったのか。 日本は技術では負けていない、と言った瞬間に、思考が停止してしまって、もう技術者の責任ではない、というニュアンスを感じてしまうのです。 古くはインテル、アップル、マイクロソフトを創業したアンディ・グローブ、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツは技術者から経営者になりましたし、最近でもアマゾンを創業したジェフ・ベゾスも元々は技術者です。 私自身も含めて技術者は、技術という狭い世界に閉じこもっていたことを、反省しなければいけないのではないでしょうか。 もちろん、技術者として優秀な人が、経営に向いているとは限りませんし、優秀な技術者の全てが経営を行うべきでもありません。 求められる技能・特性が全然違いますから。 ただ経営でITをはじめとする技術が重要になっている時代ですから、技術者の中の何人かは、経営の道に進むべきではなかったか。 現在、技術者出身で経営をされている方の多くは、技術関係の課長・部長・事業部長・・・と勤め上げた上で、経営者になっているのではないでしょうか。 つまり、終身雇用の中で「出世した成れの果て」に結果的に経営者になっている。 これで経営者の重責を担え、と言われても本人も困ってしまうでしょう。 経営の専門家として鍛えられ、経営者として評価されて経営者になっていないからです。 そのように技術者が経営者として十分な訓練がされていないのは、企業自体が技術者は専門領域を深堀して欲しい、という人事システムだったから、というのもあるでしょう。 技術者が経営の仕事にかかわるためには、韓国の三星電子のように、技術者としてひと仕事したら、30代半ばには商品企画・マーケティングに異動させ、経営者になるためのキャリアパスを歩ませる、ということも必要でしょう。 大学も反省しなければいけません。手に職をつけさせるために、専門技術だけ教えていれば良かった時代は終わりました。 学部の学生に技術と経営の両方を学ばせるのは当然、難しい。学部・修士課程の間はまずは技術を身に付けるので良いと思います。 そして、就職して企業の実践の場で技術を磨いた後、30代前半くらいで経営を学ぶ再教育の場として、本当は大学が機能しなければいけないのだと思います。 私も留学したアメリカの大学のMBAはまさに、そのようなひと仕事した後の再教育の場となっているのです。 大学の側の勝手な事情と言うと、少子化で大学に入ってくる人の数は減っていくので、市場は縮小します。再教育の場という新しい市場を開拓しないと、大学が生き残ることも難しくなっていくでしょう。 このように、なぜ日本の電機メーカー・半導体が総崩れになったかを総括すると、企業、大学、技術者個人の誰もが反省しなければいけないのではないか。 自分たちは技術力があるから、と過信、油断していなかったか。 創業期のインテルに入社し、1980年代、DRAM事業で日本メーカーに敗北したインテルをCPUメーカーに転換させたアンディ・グローブは名著「Only the Paranoid Survive(インテル戦略転換)」の中で、いかに自分が油断していたか、優柔不断だったか、自分に不都合な現実から目をそらしていたか、を反省しています。 この本はいわゆる「成功本」ではなく、自分の失敗を赤裸々に懺悔する「失敗本」なのです。 世間では名経営者と思われているグローブが、結果的に大成功したのは、自分の功績ではないと語っています。 果敢な戦略転換を実行し、経営危機のインテルを復活に導いたアンディ・グローブでさえも、「パラノイド(病的なほど心配性)でなければ生き残れない」と考えています。 ましてや、我々が油断・過信していたら、ひとたまりも無い。だから負けたのではないか。 日本の電機メーカーは家電や半導体、B2Cからインフラ、車載、B2Bなどに事業を転換させています。 日本は技術力はあったのに、経営者がダメだったから負けたのだ、などと思っていては、同じ失敗を繰り返してしまうのではないでしょうか。 まずは失敗した現実を直視することから。(2016年1月30日「竹内研究室の日記」より転載)

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    挑戦心に火をつける! 米起業家の言葉

    現代のアメリカを代表する起業家たちの言葉は、挑戦心を失いがちな我々の心に火をつけてくれる。それら珠玉の名言を、米起業家たちについての著書を数多く発刊している竹内一正氏に選んでいただいた。 スティーブ・ジョブズ(アップルコンピュータ創業者)「 ハングリーであれ、愚かであれ」「他人の人生を生きてはいけない」 アップルコンピュータを創業し、マッキントッシュ、iPod、iPhone、iPadなど数々の革命的な製品を開発しながら、2011年に惜しまれつつこの世を去ったスティーブ・ジョブズ。数多くの名言があるジョブズだけに一つに絞るのは難しいのですが、ここでは二つ選ばせてもらいました。 まずはあまりにも有名な「ハングリーであれ、愚かであれ」。2005年にスタンフォード大学で行なわれた講演会で発せられたひと言です。 飽食の時代、ハングリーになるのは非常に難しいことですが、誰もが豊かさに慣れてしまっては、イノベーションは生まれません。また、ここでいう「愚か」とは、「当たり前のことを疑うこと」だと私は解釈しています。たとえば「前例がこうだから」「上司からの命令だから」と何も考えないで仕事をこなす姿勢からは、成長は期待できません。 納得できない命令には、「なぜ、それをやるのですか?」と聞き返してみる。時に批判覚悟で「当たり前を疑う」という愚かさこそが、成長の原動力となるのです。 そして、「他人の人生を生きてはいけない」ということもまた、ジョブズの生涯を通じての重要なテーマでした。「会社のために」「上司のために」などという言葉は一見美しいですが、それは誰かの言いなりに仕事をしていることに他なりません。「会社のために」というお題目のもとに倫理観が失われ、その結果起こった企業不祥事も、枚挙にいとまがありません。 ジョブズには、これも有名な「今日が人生最後の日だとしたら、今日やることは本当にやりたいことか」というセリフがあります。ぜひこの問いを胸に、「自分は、自分の人生を生きているのか」としばし立ち止まって、考えてみてほしいと思います。 もう一つだけ、ジョブズについて取り上げておきたいのが「点と点を結ぶ」という言葉。今やっていることに一生懸命取り組んでいれば、そのときは無駄だと思ったことがやがて役に立つことがある、ということです。 有名な例が、ジョブズが大学時代に学んでいたカリグラフィー。当時はなんの役にも立たないと思っていたものが、マッキントッシュの美しいフォントを生み出すことにつながりました。「自分の人生を生き」、目の前のことを一生懸命こなしていれば、やがて点と点が結びついて成功に至る。そのことを体現した生涯でした。スペースX、アマゾンのカリスマ「珠玉の言葉」イーロン・マスク(テスラモーターズ会長/スペースX社CEO)「 真似するのではなく、基本的原理から発想する」 電気自動車「ロードスター」「モデルS」で自動車業界に旋風を巻き起こし、商業用宇宙ロケット「ファルコン9」にて民間企業で初めて国際宇宙ステーションとのドッキングを成功させる……。今や、ジョブズを超える経営者とまで評されるのが、電気自動車メーカー・テスラモーターズ会長であり、ロケットベンチャー企業・スペースX社創業者のイーロン・マスクです。その型破りな発想の原点とも言えるのがこの言葉です。 「学ぶ」という言葉が「まねぶ」から来ているように、他社を真似て商品を開発するのが間違っているわけではありません。ただ、それでは「世の中をあっと言わせるようなもの」を作ることができないのも事実です。 「火星に人類を移住させる」と公言するイーロンは何か物事を考えるに当たり、常にその根本に立ち返って発想します。これは、彼が学生時代、物事の原理原則を考える学問である「物理学」を専攻していたことに由来します。 たとえば、電気自動車のコア技術である「バッテリー」が良い例です。三菱や日産などは大型の専用バッテリーを開発してきました。一方、イーロンは、ノートPCで使う汎用品の小さなリチウムイオン電池を大量に(約七千個も)並べて一つのバッテリーパックとして高性能を実現したのです。まさに、「バッテリーとは何か」という基本的原理に立ち返ったからこそ、出てきた発想でしょう。 また、現在挑戦中ですが、スペースX社では一度飛ばしたロケットの再利用実験を進めています。「一度使ったものを再利用することができれば、ロケットコストは劇的に安くなる」というのは、根本から考えればまさにそのとおりですが、「ロケットは使い捨て」という常識にしがみついた既存の宇宙ロケット企業では踏み出せない大きな壁でもありました。従来の常識を一度忘れて「そもそも」に立ち返ることで、革新的なイノベーションは生まれるのです。 イーロンは南アフリカ出身で、その後アメリカに移住。若い頃は肉体労働などをして稼ぎながら学業を続けた苦労人でもあります。しかし、当時を振り返って、「貧しくてもハッピーであることは、リスクを取る際に非常に大きな助けとなる」と言っているように、常に楽天的であり続けました。根本から考え、楽天的に実行する。真のイノベーションはそこから生まれることを、彼は教えてくれます。ジェフ・ベゾス(アマゾン・ドット・コムCEO)「 顧客のニーズから逆算せよ」 アマゾン創業者であるジェフ・ベゾス。現代のアメリカを代表する起業家ですが、ジョブズやゲイツと彼との間には大きな違いがあります。それは、ジョブズやゲイツには「自分が売りたいもの」があったのに対して、ベゾスにはそれがなく、「ネットを使えば大きく儲けられるのでは?」という発想が原点にあることです。 もちろん、本が好きだからアマゾンを始めたというエピソードは本当でしょうが、一方で根っからの「商売人」でもある。そんな彼の本質をよく表わした言葉がこれです。 実際、アマゾンほど顧客のニーズに忠実な会社はありません。サジェスト機能など次々と新機能を提供したかと思うと、ニーズがなければすぐに引っ込める(ちなみに彼は「小さな一歩を細かく繰り返すほうが多くを学べる」とも言っています)。一方、「いろいろな商品が買いたい」というニーズに応えていった結果、今では本だけではなく家具や雑貨まで扱う総合商店となっている。 特筆すべきは「中古書籍」まで扱っていること。本当に本にこだわりがあるのなら、その売上げを妨げる中古書籍を扱うはずがありません。自らのこだわりを捨て、徹底的に顧客の利便を考える。そこがベゾスのすごみでもあるのです。ビル・ゲイツ、ラリー・ペイジの珠玉の言葉ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)「仕事と莫大な富と、どちらを選ぶと聞かれたら、仕事を選ぶ」 マイクロソフト創業者であり、今や世界一の大富豪でもあるビル・ゲイツ。ただ、彼の本質はどこまでいっても「ソフトオタクのワーカホリック」であると私は思っています。BASICやMS‐DOS、そしてウィンドウズと次々とソフトを開発し、それをバージョンアップしていく。才能のあるチームメンバーとスリリングな仕事をすることに何よりの楽しみを見出していたのがゲイツという人なのです。 そして、この言葉に表われているように、自分がいくら稼ぐかということにはまったく執着しませんでした。マイクロソフトが株式公開したとき、社員の一人が上がる株価チャートをデスクの横に貼りつけて仕事をしていたのを見て一喝したというエピソードからも、彼自身にとって株価(お金)は二の次だったことがわかります。 ゲイツには「1日24時間では処理しきれないほど難問がある。だから、無駄にしている暇はない」という言葉もあります。せっかちでワーカホリックなゲイツと一緒に働くのは大変なことだったと思いますが、それがマイクロソフトの成功の要因だったことは事実です。 「仕事が好き」であることは、絶えざる改善の原点となります。iPodやiPhoneなど、次々に斬新な新製品を出していくジョブズに対し、ゲイツは地道に「ウィンドウズ」のバージョンアップを繰り返しました。 飽きずに改良を続けることができたのはまさに「仕事が好き」だからこそ。性能的に見劣りしていた「ウィンドウズ1・0」をひたすら改良し続け、ネットブラウザーを開発したネットスケープ社などライバルが台頭したと見るや剛腕で叩き潰し、やがてウィンドウズは世界を席巻していくことになるのです。 ちなみにゲイツのもう一つの特徴が「心配性」。「成功は最低の教師だ。優秀な人間をたぶらかして、失敗などあり得ないと思い込ませてしまう」という発言もあるように、常に「いつ失敗するか」を考えながら仕事を進めていました。前述のネットスケープ社の例はまさにそうで、心配の芽は早いうちに潰しておこうというゲイツの心配性の表われです。 そんなゲイツの仕事のスタイルには賛否両論あるでしょう。ただ、「好きな仕事をとことんやる」という当たり前のことでも、突き詰めれば億万長者への道が拓ける。ゲイツの言葉からは、そんなことに気づかされます。ラリー・ペイジ(グーグル創業者・CEO)「イノベーションは小さなグループから起こる」 スタンフォード大学院在学中に出会った友人のセルゲイ・ブリンとともにたった二人で始めたグーグル。今や巨大企業となったグーグルですが、「イノベーションは小さなグループから起こる」という彼のポリシーはまったく変わっていません。 グーグルマップやストリートビューなど多くの斬新な機能は、たった一人、あるいは少人数のプロジェクトからスタートしたものです。本業以外の好きなことに仕事の二割の時間を割いていいという「20%ルール」が、これを促進しているのは言うまでもありません。 人は何かを始める際、どうしても「人が足りない」「モノが足りない」と言いがち。しかし、やる気さえあれば少人数でも、いや、少人数だからこそうまくいくのだということが、この言葉からはわかります。面白いことに、実は同様のことをジョブズやゲイツも言っています。 また、ペイジは根っからのエンジニア気質で、「エンジニアこそ巨大な変化をもたらすことができる」とすら言っています。グーグルの社員への待遇の良さは有名ですが、それもエンジニアの力を信じているからこそでしょう。日本のメーカーが忘れつつある「モノ作りの本質」を思い出させてくれる気がします。

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    日本企業はグローバル化できるのか? 出井伸之氏インタビュー

    殊な金融用語で話していることが殆どだ。しかし株主は機関投資家だけでなく個人投資家も存在するのだから、企業経営や個々の経営判断について一般の投資家にも分かるように伝えることが必要になる。だからIRには、営業やマーケティングの経験があってMBAで財務を勉強し、機関投資家と一般の投資家向けに二通りの話し方が出来る人を配置する必要があると思う。 -(田中)「コミュニケーションの拙さによって日本企業の株価は過小評価されているのか?」 もちろんコミュニケーションやその時々のトレンドの影響もあるだろう。しかし株価や企業価値については別の理由を考える必要がある。Google、FacebookやAmazonのようなインターネット企業が、なぜこんなに大きくなっているのか。例えばコンサルティング会社であれば従業員数の規模などで企業価値がある程度決まってくるが、いわゆるプラットフォーム企業にはそれがない。 プラットフォームは利用するユーザーがどんどんユーザーを広げていってくれるので、よりアップサイドの余地があると判断され、たとえ現在の売上は小さくてもその可能性から株価が上がるからだ。しかし、こういった一番値段がつく場所に日本企業はまだ一社もおらず、古いコングロマリットに値段がついているというのが現実だ。-(安倍)「日本企業はどのようなビジネスモデルを構築するべきか?」 日本企業が今一番やるべきことは、既にあるプラットフォームを真似るのではなく、ユーザーやマーケットに「これはすごい」と思われるものを考え出すことだ。そういった試みはまだ日本から出ていないと思う。それは現在の日本企業でプラットフォーム企業にこれだけ値がついてることの意味を認識している人間が少ないからだろう。 リアルとバーチャルが一緒になって次の時代が来ている今、どういうビジネスモデルが必要か、そこで必要とされるビジネスモデルを新しく概念レベルから作り出すべきだが、そもそも日本の内と外でやっていることが盆踊りとサッカーぐらい違うというのが現状だ。-(安倍)「そのような状況で日本企業は変われるのか?」 非常に難しいが、結局は日本企業の大量生産型、仕様が決まったものを大量に作るというビジネスモデルが人を抱えすぎて、大企業で安定した仕事をしている人たちが多過ぎるのが問題だ。低ROE、低株価、でもみんな幸せ、というモデルもある程度は続くが、グローバルな競争では通用しない。それが変わるにはあと20年はかかると思う。 その中で生き残る企業は超グローバル企業か、コンパクトな企業の二種類だろう。超グローバル企業は、インターネットの外部性や規模のメリットを享受できるし、コンパクトな企業は細かなアジャスト、アダプトが上手く出来る。ただ、古い人間がいる会社では難しいだろう。 ソニーは今60歳が一番上の役員で、みんな54、5になった。その下にいるのは40代で、もう少しすると本当の変化というか全然違う概念が出てくると思う。デジタルネイティブを、大学生の時にインターネットに触れたかどうかという基準で考えると、ちょうど37、8歳が一番上だ。 とにかく企業に限らず今の日本のシステムはものすごく古い。そして変化を内発的に起こす必要がある。現在2020年のオリンピックに注目が集まっており、それまでは暫く今のやり方で生き残ることが出来るだろうが、オリンピック後の2030年を見据えて、どのような経済・社会システムを実現するのかを検討するべきではないか。-(田中)「具体的なアイデアはあるか?」 ここ10年アメリカで講演して一番評判が良かったのが、Fortuneのパネルディスカッションでやった、都市のOSを作る「シティOS」という話だった。実は日本は戦後新幹線でいち早く同期型の社会を作りあげたが、次にやることは都市にOSを作ることだと思う。エネルギーやインフラをスケーラブルなOSとして作って、その上でサービスのような個々のアプリケーションを乗せてみてはどうかという話をしたら、名刺交換の列が出来た。 日本社会の活力を生かすためには、「今日本を作ったらどうなるか」ということを根本的に考え直す必要があると思う。例えば、江戸時代の藩というのは日本の地域コミュニティの文化的な求心力があった思うが、廃県置藩のようなことをやって、どうすれば良いコンパクトシティが実現できるのかを考えることが非常に重要だと思う。【インタビューを終えて:編集長 安倍宏行】 出井氏の視点はグローバルだ。リアルとバーチャルが一緒になり、次の時代のビジネスモデルがダイナミックに生まれている現状を指摘した上で、日本の多くの経営者がそれに気づいていないことに警鐘を鳴らした。全く同意する。残念なことに今成功しているIT・プラットフォーム企業は基本的にアメリカ生まれだ。日本発はない。 そうした中、出井氏は我が国のデジタルネイティブ層に期待をかける。現時点で37、8歳以下の人たちだ。60歳以上の経営者が考えもつかない、新たな概念が生まれる可能性がある、と出井氏は期待する。目先のオリンピックに目を奪われることなく、その先を見通して、グローバル競争に勝ち抜く新たなビジネスモデルを構築する必要がある、という氏の提言を重く受け止めた。

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    起業2カ月でスマホ発売した女性社長「ジョブズになる必要はない!」

    中澤優子(株式会社UPQ CEO・代表取締役)「ものづくり」と無縁でも「成人」できちゃう日本 「ものづくり」とは、全くといっていいほど縁のない家庭で育った。両親は体育教師と英語教師。だからといって、勉強にも学校生活にも一切口を出してくるような親ではなかった。たとえ、リレーの選手に選ばれても、通信簿でオール5を揃えても、ほぼ無関心。裕福な家庭ではないが、貧困で苦しいという思いもしたことはなかった。ただ、塾や予備校に通うことと、保険をかけるような私立受験だけは「費用対効果を考えて必要なら」ときつく言われ、結局、高校は都立一本、大学はセンター受験と国立、私立一校ずつだけ受験した。大学まで進学するのは、疑いもせず「当たり前」だと思っていた。 「ものづくり」と、これまた全くといっていいほど縁の無い学生生活だった。成績は中学までは学内で上から3番にはいつも入っていたと思う。ただ、教師の家庭だからといって、「絵に描いたような学生」ではなかった。小学校、中学校では、意見が合わないと言っては男の子たちと取っ組み合いの喧嘩もしたし、陰口を聞きつけて「女々しい!」と給食の牛乳とスープをその男の子めがけてぶっけかたりもした。理不尽だと思えば先生であっても同じ。テストは意地でも満点を取るが、相手の譲歩や謝罪があるまで授業には一切出席しない。SIMフリースマホ「UPQ Phone」を紹介するUPQの中澤優子社長=2016年2月29日 高校時代は(一応)進学校の中で、金髪に他校の制服。「本当に中澤先生の娘か?」と何度となく嫌味(?)も言われた。一方、いわゆる「女の子たちのグループ」だけは苦手で、「○○ちゃんのリボンかわいいね、○○君ってかっこいいよね、キャー!」みたいな会話に混ざることは極力避けてきた。クラスで一番仲の良い子は?と言われると、今振り返ってみてもペアになれる子はいないと思う。それで悩んだこともそんなに無かった。「永遠に続くわけじゃないし」と。人に媚びることを極端に嫌っていた。 学級委員には決してなれないし向いていないが、体育祭実行委員や文化祭実行委員、応援団長なら自分自身も周りもしっくりくる、と表現すると想像がつくだろうか。そんな学生だった。十人十色のクラスを「ある目標」に向かってまとめ、いろんなメンバーの力を結集し、ゴールする。その「瞬間」しか味わえない魅力があった。いかに「巻き込めるか」。恐怖政治でも、人に媚びるだけでも形式上まとまるかもしれないが、巻き込めない。さて、どうしたらうまくいくか。そういう目線で「友だち」も「先生」も見ていた。  どうだろう。ここまで長く書いても、「ものづくり」を生業にしよう!なんて思う出会いすらない。私は31年前、ものづくりの国・日本で、ものづくり全盛の昭和の時代に生まれ、モデルケースになりそうな日本の家庭・学校で育ったものの、ものづくりに触れることなく「成人」した。好きと言ってくれたひとりのために全力でつくる好きと言ってくれたひとりのために全力でつくる 携帯電話をつくりたいと思い、カシオに入社した2007年。まだそこには、昭和の空気と職人魂があった。就職氷河期を超えて、久しぶりの新入社員の私と15歳以上も離れたおじさんたちに出逢って、ようやく「ものづくり」に触れた。21歳の春。たった10年前のことなのだと思うと、人生の2/3を心底勿体なく思うようになった。 「カシオらしさ」という言葉をカシオ時代よく口にしたし耳にもしたが、どこにも明文化はされていない。しかし、エンジニアも営業も品質管理も商品企画もデザイナーも、何がカシオらしく、何がカシオらしくないのかの意見が合った。「100人のうち、99人に嫌われても、1人が好きといってくれたら、その1人のために全力でカシオらしいものをつくる」。皆、40や50のおじちゃんなのに、キラキラした瞳で毎日「ものづくり」して、自分が関わった商品を自分で買いたいと思い、発売日に購入し、長く愛用していた。 そんな姿も、携帯電話業界を中心に日本の家電業界全体の調子が悪くなってきた途端に見られなくなった。「もう、いい時代は終わってしまった」「厳しい」「本当に今こんなものをつくって売れるのか」。皆の瞳の輝きは失せていた。「ものづくり」をなめるな 今、UPQの動きを知っていただくと、「簡単にものづくりできる時代」がやってきた、と思う方も少なくないだろう。EMS、OEM、ODMと自社では製造を行わないファブレス方式で「誰でも」ものづくりができる、と。一方で「外に丸投げしてるんだから楽なもんだ。人任せのくせに、技術者でもないヤツが、楽してものづくりを語るな」と批判する方もいるとは思う。大変申し訳ないが、両方とも間違っている。 自社に生産現場やエンジニアを抱えていたとしても、いなかったとしても、思いを1つに、目標を1つにものを作り上げることは言葉にできないくらい大変だ。ありふれた企画にダメ出しすらしなくなって、諦めたイエスマンのエンジニアとするものづくりほど悲しいものはない。何も日本メーカーのことだけを言っているのではない。中国の工場の皆は「中国は世界の工場だがアイデアはだめだ。日本のほうがいいね」と言って、自らものづくりの一番楽しい部分を放棄している。そんな相手をいかに「巻き込めるか」。いかに各メンバーの力を引き出して、ものに反映させられるか。つくった自分たちが手に取りたいと思える商品をつくれるか。結局、学生時代と同じことを考えて日々生きている訳だ。2015年8月、SIMフリースマホなど17種24製品を発表した新家電ブランド「UPQ」。UPQではシーズンごとに決めたテーマカラーで幅広いジャンルの家電製品を発表していく 皆の瞳の輝きを取り戻したい。そうすれば、時代や細かいやり方は変わっても、大事な「ものづくりの魅力」を味わい続けることはできるから。私は、こう信じて「ものづくり」で私が誰よりパフォーマンスをあげてできることに全力投球を続けているのだ。私は私、でいい。ひとたびチームになったら、取っ組み合いや給食の牛乳をぶっかけあいになることには間違いないし、むしろWelcomeなのだが、蚊帳の外の人は好き勝手いってくれて構わない。相手にする時間は勿体ない。「ものづくり」の一番の魅力「ものづくり」の一番の魅力 よく「なぜ、クラウドファウンディングをつかわれないんですか?」と聞かれる。答えは単純で、ものづくりの一番の魅力であるワクワク・ドキドキを削がれるからだ。体育祭でも文化祭でも合唱祭でも何かの発表会でもいいが、練習してその成果を精一杯、晴れ舞台でお客さんに見せる。その瞬間の涙が出そうになる感覚、わかるだろうか。 カシオ時代、はじめて担当した携帯機種がソフトバンクへの参入モデル「830CA」だった。関心のない人にすれば、なんの変哲も無い折りたたみのケータイ。今までauケータイを使ってない限り、カシオなんて言われても「ケータイ出してるの?」と言われて然りの反応だった。今だから言えるが830CAはNECのOEMモデルで、開発は非常に苦労した。その830CAがソフトバンクの新製品として発表会を迎えた日も、徹夜明けだった私には、あの日の朝日が今も目に浮かぶ。発表会では孫社長がたった10秒ほどデモ機を手に持ってラインアップの1つとして説明してくれた。その瞬間「あ、これで世に出せたんだ。この瞬間のために頑張ってきてたんだな。そして、ここからがはじまりなんだ」と思いながら、チームメンバー皆の顔が脳裏に浮かんだ。 知恵を絞って企画を出し、全力で開発し、製品として世に出して、使ってもらって良いも悪いもフィードバックを得る。そして、その上でさらなる驚きを詰め込めるように知恵を絞って「次」をつくって世に出す。これが「ものづくり」。プロトタイプやコンセプトだけを見せてしまうなんて、晴れ舞台の魅力を半減させてしまう。お客さんにとっても、つくり手にとっても。いつもものづくりをしていた「ジョブズさん」 全くの無知じゃ話にならないけれど、伝記やビジネス本に興味がないのは本当で、「あのジョブズさんがどんな人か知って何になるの?」と私の人生に必要なら「それなり」に情報は入って来るはず、程度の興味しかない。で、ついに調べなくちゃいけない機会を今回いただいて、映画を2本見てみた。同じ時代のものづくりの世を少なくとも生きていたのに、映画でしか会えなかったのを少し残念に思ったというのが感想だ。ジョブズさんは、きっと、瞳をキラキラさせて、いつもものづくりをしていたおじさんだったのだろうと。 実は今回いただいたテーマが、「日本人がジョブズになれるか」だったのだが、この問い自体、ナンセンスだと思いませんか。ジョブズさんになる必要なんてあるんですか。そんなこと誰が望むんですか。 何より元気のないと言われ続ける日本の「ものづくり」。でも私はUPQを通して日本でも中国でも世界でも「ものづくり」は同じだと痛感している。時代は変わっても「ものづくり」の魅力は変わらない。魅力を味わうために、知恵を絞って、人を巻き込む。私は「ものづくり」に人生を懸けていいと思えたので、これからも没頭し続けていきたい。 蚊帳の外で話してるのもいいですが、この時代に生きてて「ものづくり」やらないんですか?なかざわ・ゆうこ 1984年、東京都生まれ。中央大経済学部卒業後、カシオで携帯電話・スマートフォンの商品企画に従事。退職後の2013年に秋葉原にカフェを開業。15年7月に家具や家電の開発・販売を行うUPQを設立、代表取締役に就任。約2カ月でSIMフリースマホや4Kディスプレーなど17種24製品を発表した。

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    日の丸家電を蝕み続ける呪縛 「技術で勝つ」なんて妄想だ

    産性のジレンマ」と呼んだ現象である。 「効果の経営」を追求するにしても、無尽蔵にムダを許容していては企業経営は成り立たない。ある程度、ムダの範囲を制限してあげる必要があり、それが経営者の役割である。つまり、「効果の経営」とは、より正確に言うのであれば、計画的にムダを許容する経営スタイルといってもいい。日本は世界の家電産業を席巻していない日本は世界の家電産業を席巻していない 今世紀に入ってから、ハイブリッド車のトヨタやホンダが注目される自動車産業とは対照的に日本の家電産業の凋落が激しい。これについて、新興勢力の韓国や台湾が日本の物まねをして価格攻勢を仕掛けてきたので日本は世界市場から撤退を余儀なくされた、という論調の主張が見受けられるが、これは2つの点で間違いである。 ひとつはアジア、特に韓国のサムスン電子やLG電子は家電領域で価格競争を仕掛けてきたという事実はない。彼らはむしろ、欧米で着実にサムスンやLGのブランド力を構築するため、高級、高品質な家電製品を洗濯機、冷蔵庫などいわゆる白物家電からテレビなどの黒物家電に至るまで、フルラインアップで欧米先進諸国に投入し、新興国市場だけでなく、先進国市場でも一流ブランドのイメージを築き上げた。 もうひとつの間違いは、日本は日本人が思うほど、家電製品で世界を席巻してきてはいなかった。具体的に言えば、特に白物家電を欧米諸国に本格的に導入した日本企業は1社もない。アメリカ人やヨーロッパ人にとって、サムスンやLGに総合家電メーカーのブランドイメージを抱くことはあっても、日本のパナソニック、東芝、シャープなどのブランドに総合家電のイメージは現在だけでなく過去から存在していなかった。総合家電メーカーとしての日韓国際競争という意味では、日本はそもそも市場参入をしておらず、不戦敗といってもいい。 これは、日本の家電メーカーが1970~1990年代に主にブラウン管テレビとVHSビデオデッキに集中的に開発資源を投入して、テレビ、ビデオメーカーとして欧米市場に入り込んでいたためである。これはこれで当時の戦略としては間違ってはいなかったのかもしれない。先述の通り、家電には当たりはずれが大きく、大ぶろしきを広げすぎると、計画的なムダの許容の限界を超えてしまっていたかもしれない。当時、ブラウン管カラーテレビやVHSビデオデッキはハイテク商品であり、付加価値も高い。日本は、こうした付加価値の高いハイテク商品に特化することで、高い収益を限定的な領域の技術開発に再投資をして世界で抜きんでた技術を持ち続け、それが日本のハイテク製品の優位性につながっていたといえる。デジタル化で日本の匠の技が簡単に 1990年代まで日本の家電メーカーの利益率は日本の自動車メーカーの平均よりも高かったと一橋大学の延岡健太郎教授は指摘する。転機は2000年前後で今世紀に入って、家電と自動車の利益率は逆転をしたと同教授は指摘している。「日本は技術で勝つ」という呪縛 その最大の要因は、デジタル化である。デジタルテレビやDVD、ブルーレイなど、デジタル技術による黒物家電は基本性能が飛躍的に向上した。そのため、技術による差が消費者の認知できるレベルをはるかに超えてしまった。1982年にCDを開発したソニーはその後、CDよりも高音質のSACDを開発するが、SACDはほとんど普及せず、むしろCDよりも音質の低いMP3オーディオの方が、消費者に受け入れられる結果になっている。現在の家電市場は、技術成果がそのまま製品価値に結びついていないのだ。 さらに、デジタル化は汎用化をもたらし、汎用化は参入障壁の低下をもたらした。デジタル家電の場合、ほとんどの機能が半導体チップによって実現されている。半導体は装置産業であり、規模の経済性が効くので、同じ半導体を大量に作れば作るほどコストは低下する。このように半導体部品を大量生産すれば、自社内で消費する以上の半導体生産を行う企業が出始め、競合他社に自社の部品を供給する外販ビジネスが増加する。 外販ビジネスが増えれば、外部の顧客企業が使いやすいように半導体設計をするようになるので、これまで日本の匠の技がなければ実現できなかったようなことが、半導体の中にブラックボックス状に組み込まれ、顧客企業が簡単にその恩恵を被ることができるという状態が生まれる。こうすると、経験のない企業でも家電産業に簡単に参入することができるようになる。 VHSビデオデッキは長く、日本メーカー以外は複雑なメカデッキを作ることができず、日本の優位性となっていた。しかし、DVDにおいては、デジタル化された部品がだれでも簡単に手に入るため、日本企業が収益化するよりも前にあっという間に中国の新興メーカーなどが低価格機種を出すようになった。日本にはテレビ番組を録画するという文化があるので、ブルーレイやハードディスクのレコーダー製品がメインであるが、北米や中国には録画をするという文化がなく、DVDにしてもブルーレイにしてもプレーヤー(再生専用機)が主力製品であるが、店頭に並ぶ製品に日本製品はない。「日本は技術で勝つ」という呪縛 日本の家電産業の凋落の要因をアジアの諸外国に求めるのは、1960年代に日本がアメリカから物まねだと批判されたのと同じで負け惜しみでしかない。日本は、1980年代後半をピークとした収益のすべてを特定の技術開発につぎ込むという成功体験に縛られている。時はちょうどバブル景気に浮かれていたので、何を作っても高値で売れる、いわば戦略不在でもビジネスが成立してしまう時代であった。今日の日本の家電産業の凋落の直接的な要因はデジタル化による競争環境の変化であるが、より根深い問題として存在しているのは、安易な成功体験しか知らないバブル入社組のメーカー社員が、ここにきて経営層に入り込む時代となっているという不幸が重なっていることだ。家電産業が抱えている問題は簡単だ 多くの家電メーカーの経営層や中間管理職には、いまだに「日本は技術で勝つ」という内製技術至上主義的な妄想がはびこっている。しかし、デジタル化のくだりで述べたように、部品は標準化され、国際的に流通しており、競争環境は彼らが若くして体験した安易な成功の時代とは大きく異なっている。なんでも日本でやるということ自体、そもそも無理な話になっている。 そもそも、家電メーカーとはいえ企業である。企業の目的は優れた技術を生み出すことではない。企業は短期的には収益性を、長期的には戦略的な組織能力を企業内に蓄積していくことであり、技術はその一部に過ぎない。技術さえ良ければいつかはわかってもらえるという妄想から脱却しない限り、日本の家電メーカーの復活はない。家電産業が抱えている問題は簡単だ 日本にいまだに優れた技術があること自体を否定するつもりはないし、技術は新たな製品を実現するために必要なツールである。しかし、メーカーの使命は消費者が高くてもお金を出してほしがるような製品を世の中に出すことであって、技術を売っているわけではない。そこを勘違いしてはいけない。 日本の家電産業は混迷の様相のように見えるが、筆者は実は単純な問題でしかないと考える。つまり、現在、まともな経営ができる経営者が家電メーカーにあまりに少なすぎるということだけが問題なのであり、経営層を優れた、いや、それほど優れていなくてもまともに戦略的判断ができる人材に変えるだけで、日本の家電メーカーは簡単に立ち直るのではないだろうか。 筆者は、4年ほど前からソニーは平井一夫社長の下で経営回復をするだろうと述べてきた。理由は二つである。平井社長はエレクトロニクスのソニー本社ではなく、CBSソニー出身の経営者であり、技術を経営のツールとして冷静に見られる立場にある。CBSソニー出身の社長は故大賀典雄会長と同じである。ソニーがCDやMD、プレイステーションの開発にGOを出した大賀会長は、自身がエンジニアでないからこそ、技術をどう活かすかという目的に着目してヒット商品を生み出してきた。 もうひとつの理由はぶれがないことである。戦術レベルでの軌道修正はあるものの、大きな方針は平井ソニーではぶれていない。スマートフォンやCMOSセンサー、メディカルなどの領域に積極的に投資をしていくというのは、平井社長就任当時の赤字のころから一貫しており、ソニーの研究開発投資は平井社長就任以降着実に伸びている。 新しい特定の分野で一貫した投資を続けているという意味では、パナソニックの津賀一宏社長も同様だ。同社は、中途半端な国際戦略を一時撤収し、家電は国内市場メインで高付加価値路線をとる一方で、BtoBビジネスでは積極的にグローバル市場を狙うという一貫した方針をとっており、早期の黒字化を果たした。 今期の四半期決算の結果を見ると、パナソニック、ソニーという勝ち組と、東芝、シャープという負け組の差がはっきりと見えるが、東芝もシャープも自社の従来の事業と技術に固執しつづけているという共通点がみえる。日本はアジアの家電の頭脳となれ日本はアジアの家電の頭脳となれ シャープの債権を鴻海に任せるか、産業革新機構に任せるかが世の中をにぎわせている。それぞれのプランの是非は、他でも多々述べてきたのでここでは割愛するが、話の中心がアジアへの技術流出をどうするか、という議論をしているのが、日本の経営能力の低さを如実に表している。 冷静に見れば、家電産業の中心は日本を含む、中国、韓国、台湾などの地域である。その中で21世紀の序盤戦では日本は敗退をしている。一方、市場も作り手側の世界もグローバル化しており、前世紀的な国内垂直統合ビジネスは全く通用しない。そんな中で、国内弱者連合をいくらつくっても、諸外国勢に勝てるはずがない。 技術面でも必ずしも日本が強いとは言えなくなってきている。特に生産技術に関しては、台湾や中国が日本よりも高い領域が現れてきている。 しかし、日本にはまだ隠れたアドバンテージがある。まったくゼロベースで新しいものを考え、商品にまとめあげる力はまだまだ日本の方が一日の長がある。日本が着目すべきはアップルのやり方だろう。アップルは、スティーブ・ジョブズが「アップルはソニーになりたい」と言っていた。ソニーにもバブル世代の内製技術至上主義者たちがいまだに跋扈しているが、スティーブ・ジョブズがなりたかったソニーはそうした彼らの考えるソニーではなかった。もしそうであれば、iPhoneやiPadなどの製品の設計・製造を台湾のEMS企業、鴻海に丸投げするなんてことはしなかったであろう。ジョブズの考えたソニーとは、今までに世の中になかったアイデアを実現するというところであり、水平分業が進む今日では、鴻海という外部の能力も活用しながらソニーのようなユニークな製品を出していこう、というのがジョブズの考えるソニーであったはずだ。 ただ、ジョブズ亡き今、アップルが今度は今世紀初めの日本のような状況に近づいている。ジョブズの遺産というべき製品カテゴリーの中での機能・性能進化以外、ここ数年のアップルには新たな驚きがなくなってきており、実際にiPhoneは減産局面に入っているという。 アップルが弱く、いまだ中国、韓国が日本企業ほど新たな商品企画力を獲得していない今こそ、効率の良い生産は、アジアの力を借りつつ、日本は彼らが考えられないゼロから新しい商品カテゴリーを生み出していくこと、いわば今度は日本メーカーが「アップルになる」ということが必要であり、それさえできれば日本の家電産業の復活はそれほど難しいことではない。 繰り返しになるが、多くの日本の家電メーカーには戦略がない。あると思っていたらそれは「戦略ごっこ」でしかない。シャープが鴻海の傘下に入るように、海外の経営能力を持って経営陣改革を行うのも一つの手であろう。もうひとつの手段は、日本の他産業、特に技術至上主義に陥っていないローテク産業から経営者を迎えることであろう。アイリスオーヤマは数年前までプラスチックの三段ボックスのメーカーでしかなかったが、パナソニックによる旧三洋電機社員のリストラの受け皿になって、ユニークな家電事業を展開している。家電産業の中で同質的な弱者連合をくむより、考えるべきは、全く異なる発想ができる企業との組み合わせであろう。 それさえできれば、日本の家電産業の未来は明るいし、それはそう遠い話ではないだろう。

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    日本製品はイケてないと勝手に実感してしまう日本人

    山本一郎(ブロガ―・投資家) ビジネスというものは単体で存在するものではなく、社会や文化、そこで暮らす人たちの価値観から出てきた組織といった、ある意味でその地域、その国家の総体が作り上げるものであろうと思うわけです。 私自身は、年の三分の一ぐらいは海外で時間を過ごしていますが、日本国内で頻繁に起きるであろう議論、例えば「日本から何故優れたイノベーターが出てこないのか」とか、「日本でAppleのような企業はなぜ生まれないか」などといった話が、海外から見るとまったく逆に「日本企業のように組織だって一致団結して仕事をするにはどうしたらよいのか」という相談を受けるケースが多いのです。国内通信大手3社が一斉に発売した新型スマートフォン「iPhone6s」などを手に記念撮影に応じる購入者ら 隣の芝は青いのか、岡目八目の類なのかは状況によって変わりますが、日本企業にはそれぞれの強みがあり、それを活かして利益を上げ、世界市場で戦っていることはそれだけでまずは立派なことです。その上で、より高みにある企業として、AppleやGoogleのような世界的大企業に比べて日本企業の弱さ、脆さ、いけてなさを日本人が勝手に実感しているだけのことなのかもしれません。 例えば、昨年コンテンツ系事業の投資の仕事で欧州に足を向けましたところ、日本では独創的な作品が次々と生まれる土壌があり資金が集まって綺麗なエコシステムが完成していて羨ましいと言われるわけです。日本人からすると、アニメ業界やゲーム業界の人たちの低賃金がクリエイターの疲弊を生み、社会問題になる傍ら、独自のコミュニティが同人系のネットワークを作り上げて切磋琢磨し、コンテンツに磨きをかけていきます。その結果として、構造的に若者の娯楽としての同人、二次制作に人気が集まり、若い人も途絶えることなく制作市場に流入しているという状況にあります。アプリケーション分野では頭一個出ている日本 これが、作画や基本的な作業を海外の事業者に任せるという空洞化は起こしつつも、魅力のある原作やキャラクターの立案などは相変わらず日本の制作の現場が握っている分野があります。もちろん各国のクリエイターもキャッチアップを頑張っているところですがその市場で頑張っている人数が日本は圧倒的に多いので、意外にいまだに競争力があります。そこへ、次世代のVRを含めたCG技術の興隆もあって、新たな制作環境が出てきたとき、日本のお家芸でもあるオタクの関心を強く惹きつけた結果、CG技術の本丸は海外に取られていても、上で転がっていくアプリケーション分野では頭一個そこそこ出ている状態です。 翻って、ハードウェアや仕組み商売としてのAppleは確かに世界に冠たる企業であるわけですが、その上でビジネスを構築し、きっちりアプリケーションで稼いでいるのは日本だという面もあります。また、Appleのハードウェアが売れれば売れるほど、そのハードに部品を提供する日本企業が潤うという図式もあって、一概にAppleのような企業が日本にないからといって、何の受益も日本にないのかというとそれは言いすぎだろうとも感じるのです。 これが、他の国にいきますとそもそもAppleに対して何のサプライヤー契約ももっていない、単純にiPhoneやAndroidが普及しても受益がない、という話になります。スマートフォン普及前は、まだNokiaがあった、Ericssonもあった、情報通信分野でサプライヤーの地位にあった企業が複数ありましたが、これらが存在感を失い始めると、国家単位で税収不足に陥って深刻な経済後退を引き起こしかねないことになります。非常に優れた労働市場や技術者を抱えていながら、仕組み商売が一個コケると経済の厚みのなさが一気に露呈し、アプリケーションもハードウェアも駄目になって、外貨を稼げない状態に陥ってしまうのです。 日本も、決して楽ではありませんが、世界の中で変に「Appleみたいな会社が無いぞ」というような高望みをしない限りは、意外に健闘し、尊敬されている世界であるのもまた事実です。それは、なんだかんだ日本人の柔軟さ、理系人口の多さに依拠していると言えます。先進7カ国の中で問答無用の最下位なのが日本 しかしながら、では今後もそれなりにほどほどの地位でいられるかといわれると、これはまったく安心できない状態だろうと思います。とりわけ、日本経済の生産性の低さは目を覆わんばかりの状態で、主要先進7カ国の中では問答無用の最下位なのが日本です。日本の生産性の動向 2014 年版http://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2014_press.pdf もちろん、これは日本人全体のことであって、補助金漬けの一次産業や財政支援がなければ立ち行かない地方経済にぶら下がっている人口がおおいに生産性の足を引っ張っていることを考える必要があります。それを入れて平均にすると、最下位でも仕方がないところではあるのですが、それでも生産性が低い、労働人口を効率的に経済活動に向かわせられていないという反省はするべきです。 すでに高齢に差し掛かった労働者を「これからは世界市場が大事だから技術と英語力を磨け」と言われても困惑されるだけかもしれません。ただ、もしも日本の生産性をいま一度引き上げ、国際経済で充分な競争力をもてるだけの企業をAppleやGoogleのように持ちえるよう考えていこうとするならば、教育と技術を社会の優先課題に掲げるのは必須となります。 要は、スマートフォンのようなガジェットでは日本はリーダーシップを取れるような企業を生むことはできなかったけど、世界が動く次の技術で相応のポジションを確保するぞと考えるならば、日本社会がしっかりと優先順位を見極めて投資をしていかなければならないだろうということです。 日本全体をどうにか維持していくためのシステム思考もさることながら、少子化の進む日本でどのような教育と技術に絞り込んで、優れた人物を生み出そうとするのか、国民全体の議論として方向付けていくことが大事なのではないかと思います。

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    シャープ支援をめぐる鴻海の“怪”

    片山修(経済ジャーナリスト) 暗雲垂れ込めるといったらいいでしょうか。 シャープの取締役会は、台湾の鴻海精密工業の支援を受け入れることを決定しました。 電機業界初の、外資傘下での再建が始まると報じられ、鴻海の作戦勝ちかと思った矢先、当の鴻海は、シャープが24日に提示した文書を精査するために、契約調印をしばらく見合わせるという声明を発表しました。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、「将来現実化する恐れのある約3500億円の債務リストをシャープから受け取った」といいます。 ようやく決まったかに見えたシャープの支援先ですが、また、見当がつかなくなりました。白紙に戻るのでしょうか。 シャープの支援をめぐっては、鴻海と産業革新機構の間で、ギリギリの攻防戦が繰り広げられてきました。経済産業省や金融機関、業界関係者は固唾を飲んで状況を見守っています。ホンハイ精密工業による支援受け入れが決定したシャープ本社の旗(安元雄太撮影) じつは、シャープの支援をめぐっては、鴻海や産業革新機構、銀行など、当事者間で思惑が錯綜しています。 指摘するまでもなく、銀行は“金融論理”で動きます。したがって、革新機構の日本の技術を守るという“日の丸論理”とが正面衝突したわけです。 私はこれまで、カギを握っているのは、意外にも銀行ではないかということをいい続けてきました。シャープの主要取引銀行は、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行です。みずほは鴻海案、現執行部は革新機構案を推しているといわれてきました。 では、みずほは、どのような思惑があって、鴻海案を推していたのでしょうか。 まず、指摘できるのは、鴻海案のほうが、銀行の痛みが少ないということなんです。 鴻海案は、シャープ支援に7000億円規模を出資するとともに、銀行の優先株2250億円分を買い取るとしました。つまり、銀行に痛みを求めないというわけです。 現に、鴻海会長の郭台銘氏は、「銀行に一銭たりとも損をさせない」と発言しました。 これに対して革新機構案は、3000億円出資する一方、優先株2250億円分は銀行に債務放棄を求めます。すなわち銀行が負担することになっていました。となると、当然、銀行には痛みが伴います。 ただし、話は、そんなに単純ではありません。みずほの思惑は、別にあるとみていいのではないでしょうか。シャープは漂流してしまうのか 鴻海案の場合、鴻海の有利子負債7500億円の一部は、もともと鴻海とつながりの深いみずほなどが貸し出すといわれています。銀行としては、おいしい話です。債権を放棄しなくてもいいうえ、優良融資先を確保できるわけですからね。 さらにさらに、みずほには、その先にも狙いがあると思われます。海外戦略です。すなわち鴻海に通じることで、中国市場への進出をより確かにしたいのではないかということです。 いま、日本の銀行は、生き残りをかけて海外進出を図るなど、海外戦略に注力しています。 例えば、みずほの“Super30戦略”がそれです。海外4地域(米国・欧州・アジアオセアニア・東アジア)から、それぞれ非日系優良企業約30社を選定し、多面的な取引拡充により長期的な関係構築に取り組んでいます。鴻海は、その30社に含まれていたとしても不思議はありません。 もっといえば、みずほの海外戦略の中枢を担うのが、中国市場です。鴻海は台湾企業ですが、親中派といわれています。みずほには鴻海とのつながりを契機に中国市場に入り込もうという考えがあるのではないかとの見方もできます。 シャープは、2016年3月末には、約5000億円という巨額の借金の返済期限が迫っており、会社の存続は綱渡りの状態です。このままだと、債務超過に陥りかねない。この土壇場をどう乗り切るか、シャープがぎりぎりのところに追い込まれていたことも、鴻海案を受け入れた理由といっていいでしょう。 しかし、そもそも債務超過に陥りかねない、ギリギリのところまでシャープが追い込まれたのは、経営陣の責任です。もっといえば、経営の失敗です。だから、産業革新機構は、現経営陣の刷新を提案したのだと思います。ところが、鴻海案では、経営陣の続投が決められていました。果たして続投は正しいのかどうか。 じつは、12年3月、韓国のサムスン電子に対抗するという名目で、シャープと鴻海は資本業務提携をしました。 鴻海は、一株550円で発行済みのシャープ株9.9%を取得する予定でした。ところが、その後、シャープの株価が暴落するや、出資条件の見直しを迫りました。それがトラウマになって、現経営陣は“鴻海不振”をつのらせていました。そこで、今回、シャープ経営陣は、12年の二の舞を防ぐため、鴻海から支援金の内金として1000億円を求めたのです。鴻海は、その支払いに応じるというわけです。 産業革新機構は、今回、経産省の後ろ盾のもと、シャープの白物家電との統合を提案している東芝も含めて、日本の宝である電機産業の技術を守りたい。日本の電機産業の再編、立て直しの“大義”を掲げました。その大義を、結果としてシャープは拒絶しました。 日本の家電産業は、今後、どうなっていくのでしょうか。 というのは、鴻海は、シャープを解体せずに存続させるとしていますが、その具体的な中身は、はっきりと示していません。さらに、今回は、ようやく鴻海支援で決着したと思った矢先の契約延期の発表です。4年前の“業務提携解消”を思い出させます。いったい、どうなっているのでしょうか。どこまで信用していいのか、不安、不信感、疑問が募ります。いったい、こんなことがありなのか。 考えてみれば、“鴻海に決定”は、あくまでシャープの取締役会での決定で、それについて鴻海は、買収の調印を行っていません。結論は、鴻海の契約延期によって宙に浮いた状態です。 企業文化、さらには、バックグラウンドのお国柄の違いがあるなか、シャープと鴻海が組んだ場合に、どこまで相乗効果が発揮できるのか。未知数といわざるを得ません。 シャープ支援は、もう、まったく予断を許さないことになってきました。シャープはこのまま漂流なのでしょうか。

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    シャープは再建の道を誤った

    どうもきな臭いと思ったら、やっぱりきな臭かった。シャープが台湾の鴻海精密工業の買収提案を受け入れた矢先、今度は鴻海側から契約調印をしばらく見送るとの伝達があったという。シャープの再建は本当にうまくいくのか。巨大外資による初の日本の大手電機メーカー買収劇は、早くも暗雲が立ち込めている。

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    シャープを欲しがる台湾の鴻海ってどんな会社?

    (THE PAGEより転載) 経営再建中のシャープは、台湾の鴻海精密工業から出資を受け入れる方向で協議を進めています。両社には見解の相違があり、最終的な合意までには時間がかかるかもしれませんが、日の丸ファンドである産業革新機構による出資の可能性は現時点ではかなり低くなった状況です。鴻海は過去にもシャープ買収を試みたことがあるのですが、鴻海とはどのような会社で、なぜシャープを欲しがるのでしょうか。  同社は、台湾の郭台銘(テリー・ゴウ)氏によって1974年に設立されました。スマホや薄型テレビの生産を受託する「EMS」という分野で世界トップ・クラスの企業です。EMSというのは、最終製品を製造するメーカーから製品の製造などを受託する業態で、鴻海は、アップルのiPhoneの製造を一手に引き受けているほか、ソフトバンクの人型ロボットであるPepperを製造していることでも知られています。 成都や大連など中国の大都市に20万人規模という想像を絶する大きさの工場を次々と建設し、世界をあっと言わせました。2014年12月期の売上高は約15兆円と、日本の大手電機メーカーをはるかに上回ります。また最近では、労働集約型企業からの脱却を目指しており、生産ラインの多くをロボットで自動化する計画をブチ上げています。とにかくすべてにおいてスケールがケタ違いに大きいのが特徴といえるでしょう。実質的には中国企業に近い 鴻海は、本社が台湾にある台湾企業ですが、実質的には中国企業に近い存在です。郭氏は台湾出身ですが、本土にそのルーツを持つ「外省人」であり、中国本土で本格的に事業を展開しているというのがその理由です。台湾・新北市の鴻海精密工業本社 台湾は戦後、中国共産党と国民党との間で内戦となり、敗れた国民党は台湾に避難して中華民国を継続しました。台湾には、国共内戦時に中国から渡ってきた国民党員を中心とする「外省人」と、もともとから台湾にいる「内省人」の対立があります。台湾では長く国民党による独裁が続いたので、政財界の要職は外省人で占められ、内省人は冷遇されていました。 このため内省人は起業家として身を立てる人が多く、IT企業の創業者には内省人をよく見かけます。しかし、郭氏は、外省人家庭の出身で、そのルーツは中国本土にあります。当初、国民党と共産党は敵対していましたが、その後、台湾独立を目指す民進党が勢力を伸ばすようになってからは両党の距離が近くなりました。これによって、台湾から中国に渡って事業を拡大する外省人の実業家が増えていったのですが、郭氏もその一人です。 鴻海は製造受託のメーカーとしては圧倒的な規模ですが独自ブランド「FOXCONN」はあまり有名ではありません。またアップルは、家庭用テレビなど家電分野への進出を計画しているという噂があり、もし実現すれば大型の液晶パネルを押さえていることは非常に有利に働きます。鴻海がシャープを欲しがるのは、このあたりに理由があるのかもしれません。(The Capital Tribune Japan)

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    台湾の軍門に下ったシャープ 鴻海との「信義」は守られるか

    北沢栄(ジャーナリスト) 僕は以前からシャープは台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業に決めるに違いないと考えていた。鴻海のスキームは、シャープの液晶事業の技術をグループ内で生かし、再建のための投資を惜しみなくやるということ。液晶の分離など「解体」を視野に入れた産業革新機構のスキームとは、最初から非常に差があった。 2012年、鴻海がシャープ本体に出資する契約を結びながら破棄した経緯がありシャープの鴻海に対する不信感はいまも根強かったと思う。しかし今回、鴻海が契約違反した場合の違約金として1千億円をボーンと出した。「もう真剣に今回はやるぞ。もう約束違反しない」と誠意を見せ、現ナマまで出した。資金繰りに困るシャープは、もう相手が決まらないとやばいのは分かっているから条件を呑んだ。記者団に取り囲まれながら車に乗り込むシャープの高橋興三社長=2月25日午後、東京都港区(三尾郁恵撮影) 鴻海は、シャープの主力取引銀行の三菱東京UFJ銀行とみずほ銀行に対し、1500億円の債務を株式に振り替え、保有する優先株2千億円を実質放棄させ、最大3500億円の金融支援をするという。革新機構ではこうはいかない。大体、革新機構がすることには、なぜ民間の話に国民の税金使うのかという批判と説明責任がつきまとう。 鴻海の買収が成功したもう一つの大きな理由は、鴻海がシャープの現経営陣の退任を求めなかったことだ。革新機構は「経営陣総入れ替えしますよ」「シャープは失敗したから国が面倒みます」って、これでは駄目だと思った。革新機構は官民ファンドといっても実質は国策ファンド。出資の9割は国つまり税金であり、無茶な資金は出せないものの、初めから経営陣交代という話では普通はまず乗ってこない。 結局、革新機構のスキームの狙いというのはシャープの救済ではない。家電全体、特に東芝の救済。沈む日本の家電産業を強くするには、企業再編のためのひとつのツールというか、足がかりにシャープを使う。シャープの技術を生かして、ソニーのいいとこも使って、切り取ってジグゾーパズルじゃないけど組み立てようというのが革新機構の案。不正会計事件を起こした東芝の救済が大きな動機になっている。東芝は内外に従業員が20万人もいる、シャープとは桁違いに大きく歴史ある企業だからだ。 ただ、技術的に優れるシャープは、時に「一本足打法」で勝利してきた。サムスン、LGのような韓国資本に一気に形勢逆転されてはしまったが。鴻海にとって優秀な技術者の流出を考えると買収は早い方がいい。違約金1千億円を出せる企業はなかなかない。意外と知られていないが、鴻海は電子機器を活用した工作機械が強い。鴻海で従業員自殺が相次いだ件を調べたときに知ったが、その頃から日本の工作機械を買って研究していたようだ。高度の工作機械は日本やドイツが強いが、汎用の中国向けなどは世界トップクラス。シャープのブランドも生きるだろう。 鴻海との信義は守られるのだろうか。買収されることを選んだシャープに不安は残る。当面、違約金という形の保証はあるものの、それは金という形での約束でしかない。シャープを必要とし現経営陣に任せるとした鴻海が、その先実際にどうやっていくのかは見えてこない。(聞き手・iRONNA編集部、溝川好男)きたざわ・さかえ 1942年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。共同通信社経済部、ニューヨーク特派員などを経て、フリーのジャーナリスト。

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    シャープに残された道は少ない ホンハイ救済は最善策か?

    中西享(経済ジャーナリスト) 官民ファンドで日本企業の再編・統合を推進する役割の産業革新機構の志賀俊之会長兼CEOは、19日に日本記者クラブで講演し、「日本の産業はプレーヤーの数が多すぎて過当競争を起こしている。その結果、日本の企業のROE(自己資本利益率)が欧米に比べて低い。グローバルな競争に勝って行くためには、企業の外から新しい技術を持ってくるオープンイノベーションが必要だ。(技術開発が)自前主義の日本企業は、このままでは地盤沈下してしまう。外から新しい技術を導入して、新陳代謝を図らなければならない。具体的には企業再編、ベンチャー企業の活用、M&Aにより日本にはない海外の経営資源の活用などが求められる」と述べた。健康体のうちに決断を志賀俊之(しが・としゆき)1976年に日産自動車入社、99年に日産がルノーと提携した時に最高執行責任者(COO)に就任したカルロス・ゴーンの下で「日産リバイバルプラン」を立案、実行した。05年にCOOに就任、13年に副会長。15年6月から産業革新機構の会長。62歳。和歌山県出身(日本記者クラブ提供) 産業革新機構は官民ファンド(約2兆円)を活用して成長性、革新性のある産業の再編・統合を促進するために09年に創設された。15年間の時限立法に基づいており、2024年で役目が終わる。これまでの投資実績は96社で、そのうち75社がベンチャーへの投資。過去の例では、ソニーモバイルディスプレイ、東芝ディスプレイ、日立ディスプレイズの3社のディスプレイ事業を統合して産業革新機構が2000億円出資して11年に設立したジャパンディスプレイや、三菱電機、日立製作所、NECの半導体部門が統合して産業革新機構が筆頭株主になって11年に設立したルネサスエレクトロニクスなどがある。 日産自動車の再建を指揮した経験がある志賀会長は「日本企業は業績に余裕のある健康体な時こそ、統合を進めるべきだ」と強調する。「不採算だが創業以来の事業だからやめられない、統合すると従業員を切らなければならないからできないなど、日本の経営者に取って事業統合はハードルが高いのは十分理解できる。しかし、『経営者の心の岩盤』を打破してでもやる必要がある」と訴える。 業界の再編・統合というと、いまでも経済産業省が主導して過剰な精製設備を抱える石油化学業界などの行政指導が行われているが、産業革新機構が求められているのは、大企業より小粒の成長力のある事業について、資金を出して効率化を進めようというもの。「口も出すが資金も提供する」というファンドで、日本がこれまで得意としてきたモノづくりの発展につながるような分野への投資が多い。シャープ支援は革新機構がベストの案 志賀会長は日産のCEO時代にフォークリフト業界8位だった日産フォークリフトと同9位だった日立建機のフォークリフト事業を統合させた経験がある。その後さらにTCMなどとも統合させて、結果的には業界3位のグローバル競争力のある企業を誕生させることができた。もし統合せずに8位のままでいたら、利益の出ない熾烈な競争を繰り返すだけに終わっていただろうという。 日本の企業の場合、再編・統合するのは業績が悪くなり救済的に行われるケースが多い。健康体の時に不採算部門を売却したり統合を行おうとすると「業績が悪くない時にどうしてそのようなことをするのか」といった反対論が必ず起こる。しかし、志賀会長は「日本の経営者としてはやりずらいが、不採算部門が長年、放置されているようなことがあれば統合、売却して事業を新しいものに組み換えていかなければならない。欧米ではこうしたオープンイノベーションをルール化してやろうとしている」と指摘する。シャープ支援は革新機構がベストの案 台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業か産業革新機構のどちらを選ぶか、支援先の企業探しが大詰めに来ているシャープへの支援については「3000億円の支援資金を出す案に上乗せすることはしない。これがベストの案で、株主、従業員の皆さんにとって良い案になっている。あとは開催されるシャープの臨時取締役会での判断を待つしかない。天命を待つ気分だ」と話した。10年足らずでコモディティ化した液晶テレビ(iStock) シャープの支援をめぐっては、鴻海の郭台銘会長が1月に来日、総額7000億円規模の支援案を提示して優先的に交渉しようとしている。現時点では鴻海案を中心に協議が続けられているようだが、20日にはシャープの取締役会で両案を比較検討し、24日にも取締役会を予定しており、月内にはどちらの案を選ぶか決まる。 志賀会長は「2つの案はコンセプトが全く違う。鴻海の案はシャープ全体の事業を再生させようというものだが、革新機構の案は液晶の事業を切り出しジャパンディスプレイ(JDI)の液晶事業と統合させようというものだ。今回の件でシャープの技術流出を止めるような要請を受けたことはなく、そういうことは全く考えていない」と述べた。 液晶の分野については「これからはあらゆる分野に液晶が使われるようになり、特に中小型の分野には大いに期待している。中国に液晶の工場ができるから、日本は液晶では負けるといわれているが、守りに入っては駄目でグローバル競争に勝つために再編を行って行かなければならない」とした。日本の自動車業界も例外ではない日本の自動車業界も例外ではない 自動車業界で見ると、国別では日本のシェアは29%で断トツ、米国とドイツはそれぞれ16%で、日本はまだ競争力を維持できている。しかし、日本には完成車メーカーが8社もあり、部品会社に至っては年商数千億円の中堅・中小企業が数え切れないほどある。 志賀会長は「これまでは自動車メーカーの生産現場、部品メーカー、研究開発が一体となって努力した『現場力』があったからやってこられた。しかし、これからは電気や水素で車が動き、自動運転が登場してハンドルから手を離しても運転できる時代になろうとし、インターネットが常時、車と接続して車を販売するビジネスモデルも変わってきている」と時代の大きな変化を指摘する。 モルガンスタンレーの予測によると、いまの車はエンジン、トランスミッションなどがあってハードが90%、ソフトは10%の割合だが、20年にはハード部門はモーター、バッテリーなど電動系だけになり、その上にソフトが乗るようになる。そうなると、ハードの比率は40%、ソフトが60%とソフトの比率がハードを上回るとみている。ライバルは、テスラになり、グーグルが自動運転の車の試験をはじめ、アップルが極秘の自動運転車プロジェクトをやるなど、ITの大手が進出してきている。 ドイツの老舗のタイヤメーカー、コンチネンタルという会社は、いち早く自動制御技術の開発を手掛け、シーメンスの自動車電子部品部門などを買収するなどして、特に足回りの自動運転技術を進めてきた。「100回ものM&Aを繰り返して、いまではコンチネンタルの技術なくしては自動運転の車はできないほどに成長した」(志賀会長)という。 日本ではトヨタ自動車が1200億円投資して人工知能(AI)の会社を作ると発表するなど、IT分野との連携が目立ってきている。グーグル、アップルは企業買収を繰り返して電光石火でモノづくりの会社を取り込むオープンイノベーションを行ってきている。 志賀会長は「いまの段階ではこうしたIT企業が競争力ある自動運転ができる車を作れるとは思えないが、ソフトメーカーはハードのことを勉強しており、日本の自動車メーカーが将来とも勝ち続けることができるかどうか大きな危機感がある」と自動車業界の先行きを心配する。 一方で、日本メーカーの大半が依然として技術は自前主義のままだ。モノづくりで生き残りを目指す日本企業としては自前主義にこだわっていては「ゆでガエル」になってしまい、気付いた時には世界の趨勢から完全に取り残されてしまう恐れがある。なかにし・とおる 1948年岡山県生まれ。1972年共同通信社に入社、経済分野を取材し編集委員などを経て2010年に退職し、現在は経済ジャーナリスト。

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    家電業界で社長の偏差値が高い企業はどこか

    山本隆三(常葉大学経営学部教授)ソニー42、シャープ36、パナソニック54… シャープの業績が低迷している。株主総会も大荒れになり、高橋社長への退陣要求が出されるほどだった。5年前には1000円を超えていた株価が8割以上も下がり、おまけに減資となれば株主が不満を持つのも無理はない。 ほんの数年前まで「世界の亀山モデル」ともて囃された液晶テレビも、吉永小百合が宣伝をしていた太陽光パネルも見る影もない。私もシャープの少しとんがったパソコンが好きで、ワイド液晶のノートパソコンとか、小柄のモバイルを愛用していたが、そのパソコンもいつの間にか市場から消えた。 日本の家電メーカーは、リーマンショックの影響を受け一時、業績が低迷したが、大半の企業は業績が回復している。シャープの何が問題だったのだろうか。シャープほどの落ち込みではないが、ソニーも長く業績が低迷している。シャープとソニーの経営陣の能力に問題があるのだろうか。 社長の偏差値 受験の時には、偏差値がよく利用される。平均が50になるように得点を調整し、全体のなかで自分の位置を知ることができる指標だ。この偏差値を経営指標に利用すれば、経営者の能力をある程度測ることができる。自社が不調でも、業界全体も不調であれば、業界のなかでの位置、偏差値は悪くないはずだ。偏差値が低ければ、それは業界のなかで自社の経営があまりうまくいっていないことを意味する。 もちろん、前経営陣から引き継いだ負の遺産があれば、それは現経営陣の責任ではない。しかし、前経営陣が残した資産もあるかもしれないので、現時点の業績は社長に代表されるいまの経営陣の責任と考えることにする。ここでは、最新(2015年3月末)の連結決算資料と有価証券報告書を基に、家電業界と言われる、シャープ、ソニー、パナソニック、日立、三菱電機、NEC、富士通を対象に各社の偏差値を計算する。 対象とするのは、次の5分野だ。収益性、財務の安定性、資金繰り、将来への布石、ステークーホルダー(従業員と株主)との関係だ。結果からは、ソニーとシャープが見劣りすることが分かる。分析の最後に、ソニーとシャープの偏差値が低迷している理由と今後の戦略を考えてみたい。 なお、利用したデータは2014年度のものであり、また取り上げた指標も限定されたものだ。分析の方法によっては、偏差値が変動することには留意戴ければと思う。収益性は?収益性 収益性を測る指標としては、売上高利益率が使われることもあるが、ここでは総資産営業利益率を指標とする。企業にとって最も重要なのは、いくらの資金を利用し、いくら儲けるかだ。少ない資金で大きな利益を出せるのであれば、収益性の高い企業に違いない。 加えて、売上が増加することも将来の収益確保には重要と考える。いま資産を効率良く利用し利益を出していても、売上が落ちており先細り状態になれば、やがて会社は行き詰まる。対前年度での売上の伸びの比率も参考として示した。 総資産利益率は図-1、売上の伸びは図-2に示されている。シャープ、ソニーは収益性に見劣りがする。加えて、後ほどみるようにソニーの営業利益は金融部門に依存しており、金融の利益がなければ、営業利益の段階でソニーは赤字であることから、ソニーの製造部門の収益力は他社との比較で大きく見劣りする。収益性の偏差値は表-1の通りだ。財務の安定性 黒字倒産という言葉があるように、儲かっていても売掛金ばかりで現金収入がなければ会社は行き詰まる。1年以内に返済すべき資金など、1年以内に必要な資金、流動負債を賄うための、現預金などの1年以内に現金化可能な流動資産がどの程度あるかを測る流動比率で企業の財務的な安定度を測る。流動比率は流動資産を流動負債で割ったものだ。現金収入がある設備投資型産業では100%を割っていることがあるが、普通の会社では当然100%以上でなければ、経営は安定しない。流動比率は図-3に示されている。 さらに、借入金の比率が高いと経営は不安定になる。原則として自己資本比率は高いほうが望ましい。「原則として」としたのは、株主が要求する資本コストが借入金の資本コストを大きく上回るようであれば、自己資本に関して高い収益率が必要とされるので、資本コストの低い借入金を利用するほうが良いことがあるからだ。図-4の自己資本比率は、総資産のうち返済が必要とされない自己資本がどの程度あるか示す比率だ。 ここでも、表-2の通り、シャープとソニーの偏差値は低い。資金繰りは?資金繰り 借入金の返済に行き詰まるようになれば、企業の存続が脅かされる。借入金の金利を支払うことが可能か測る指標は、インタレストカバレッジだ。営業利益に受け取り配当金と受け取り利息を加えたものが、支払い利息の何倍あるかみる指標だ。 この数字が1を割っていると、金利の支払いを行う資金がないということを意味しており、どこからか資金を手当しない限り経営は行き詰まる。融資を受けようとしても、インタレストカバレッジが低い企業に融資を行う銀行は限られるという問題があり、通常の融資を受けることが難しい状況に企業は直面することになる。図-5の通り、シャープ、ソニーの数字は悪く、表-3に示された偏差値も低い。将来への布石は十分か 製造業では、製造設備の更新を続けなければ、やがて設備が老朽化し競争力を失う。設備を更新し、業容を拡大するためには設備の減価償却額以上の投資があることが望ましい。償却額と投資額の内訳を記載している企業については、その数字を利用したが、不詳の企業については固定資産の減価償却額と固定資産購入額を比較した。ソニーと日立については、金融関係の投資については除外して計算を行った。 結果は図-6の通りだ。偏差値は表-4に示されている。従業員と株主の満足度 企業の利害関係者のうち大切と思われる従業員と株主との関係を取り上げる。従業員にとっては、雇用の維持と給与が大切だろう。当該企業の平均給与と連結ベースの従業員数の推移を図-7及び図-8に示し、指標として取り上げた。偏差値は表-5に示した。さらに、株主にとって大切と思われる株価上昇率を取り上げた。26年度と27年度の3月最終週の終値を比較し、上昇率を計算し図-9に示した。偏差値は表-6の通りだ。偏差値が低迷するソニーとシャープ偏差値が低迷するソニーとシャープ 家電7社の収益性(ROA)、安定性(自己資本比率)、資金繰り(インタレストカバレッジ)、先行投資、給与水準、株価上昇率に関する偏差値を図-10に示した。平均値は表-7に示されている。シャープは全ての面で劣っている。ソニーは、株価上昇率と給与水準は高いものの、経営に関する指標は見劣りし、偏差値は低い。シャープとソニーの業績はなぜ低迷しているのだろうか。ゆっくりと衰退するソニー 90年代までソニーは世界で最も革新的な企業の一社だった。ソニーの経営は、どのあたりからおかしくなったのだろうか。2004年に当時の会長兼CEOの出井伸之が、「ビジネスウィーク」誌により世界のワースト経営者の一人に選ばれたあたりからだろう。その後、韓国サムスンに収益力で圧倒的な差をつけられ、世界のブランド評価でもサムスンに逆転されるようになった。 出井の後を継いだハワード・ストリンガー時代もソニーの収益は低迷し、いまもその状態は続いている。ソニーの総資産営業利益率を、全社と金融部門を除く部門について計算した数字を図-11に示した。営業利益の段階で金融を除く部門は過去6年のうち4年赤字を出している。出井以降の経営者の責任は明らかと言ってもいいだろう。 ソニーのセグメント別の営業利益額の推移を図-12に示したが、着実に営業黒字を出しているのは、金融、映画、音楽部門であり、製品・デバイス部門は赤字と黒字を行ったり来たりしている。この理由の一つは、ブランド力を維持する努力を怠ったからだろう。 例えば、ソニーのパソコンは、かつてはブランドだった。しかし、ソニーが他社製品と差がない安価なパソコンを手掛けるようになるとブランド力は急速に失われた。ブランドが失われ価格で勝負することが必要になるコモディティ商品になったのであれば、部門売却などの戦略が必要だ。IBMは10年以上前にパソコン部門を中国Lenovoに売却したが、ソニーがパソコンの製造部門を売却したのは昨年のことだ。他の商品でもソニーのブランド力は落ちているが、有効な戦略は打てていないように見える。 製品で利益を出せない状況が長く続いているにもかかわらず、ソニーが大きな行き詰まりを見せないのは、過去の蓄積による資産と着実に利益を出す金融部門があるからだ。しかし、製品部門は依然として立ち直りの気配はない。期待されているデバイス部門も、黒字化したのは最近のことだ。使用資本に対する利益率は、長期に亘って極端に低い状況が続いている。製品から手を引き、金融だけの企業になったほうが良いと言えるほどの低迷振りだ。 ソニーの全社及び金融以外の部門についての自己資本比率を図-13に示した。波を描きながら低下が続いている。体力が徐々に奪われているのだ。増資などにより4400億円を調達することが発表されているが、製品部門の収益力改善が行われなければ、総資本が水膨れするだけで、体力の低下は止まらない。ブランド力をどう再構築するのか、デバイス部門に加え、部品以外の製品部門の収益力をどう回復するかが重要になる。急速に業績が悪化したシャープ急速に業績が悪化したシャープ シャープの業績悪化の原因は、はっきりしている。手がけている液晶パネル、液晶テレビ、太陽光パネルの主要3商品全てが、価格で勝負するしかないコモディティ商品だからだ。液晶も太陽光パネルも中国メーカーの製品より性能は上だろう。しかし、その性能の差を正当化する価格を得ることは、コモディティ商品では難しい。シャープの悲劇はコモディティ商品が主力であることだ。3商品の売上高の推移は図-14の通りだ。 さらに、シャープには市場の問題がある。シャープの売上が最も多い市場は、いまや中国なのだ。価格で競争するしかない中国市場の売上が日本市場を上回るようになっている。図-15の通りだ。コモディティ商品を価格競争が厳しい市場で販売するとなると、利益を出すのは容易ではない。 シャープは、今後家庭用太陽光パネル販売などに力を入れるとしているが、立ち直りは容易ではないと思われる。太陽光パネルを売るための金融的な手法の開発など、コモディティ商品を販売するための工夫が必要になる。さらに、コモディティではない、ユニークな商品の開発も待たれる。家電でも英国ダイソンのように、会社設立20年でブランドを確立した企業もある。日本企業にもできるはずだ。やまもと・りゅうぞう 常葉大学経営学部教授。住友商事地球環境部長等を経て現職。経済産業省地球温暖化対策技術普及等推進事業審査委員会、東京商工会議所エネルギー・環境委員会委員などを務めている。近著に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム)。

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    シャープ買収の鴻海こそが支那共産党と戦っている

    上念司(経済評論家) シャープが鴻海に買収された。浅薄な陰謀論を語る人たちが、「軍事にも転用できる技術が支那に盗まれる!」と大騒ぎしているようだ。まったくおめでたいとしか言いようがない。商売の世界がそれほど単純だったら楽でいいが、現実はまったく違う。シャープの携帯情報端末PDAザウルス=2002年6月25日 私はシャープ製品を愛用してきた。初めて買ったウィンドウズPCはメビウスだったし、液晶テレビもアクオスを愛用していた。さらに、今のスマホの技術を先取り(?)していたザウルスにも相当なお金をつぎ込んだ。彼らの描く未来の大きな絵を信じて。 しかし、私の期待はことごとく裏切られた。新しい製品をぶち上げるときのコンセプトは素晴らしい。しかし、それが毎回と言っていいほど長続きしない。だからこそ、客はシャープを見放した。 結論から言えば、今回の鴻海による買収はシャープの自業自得である。そこにたまたま鴻海が現れた。それが現実だ。日本の家電メーカーはかつて優秀だったかもしれない。しかし、創業者が一線を退き、サラリーマン経営者が跋扈するようになって何かが変わってしまった。 そもそも、戦後世界を席巻した日本の家電メーカーは、当時はみんなベンチャー企業だった。しかし、会社の経営が安定し、サラリーマン経営者が台頭すると、日本の家電メーカーの既得権の上に胡坐をかくようになった。彼らはリスクを取らない安全運転に終始する。さらに、不幸にしてこの時期に政府、日銀の失政によるデフレが重なってしまった。その結果、日本の家電メーカーの凋落は顕著になった。 例えば、アメリカのアイロボット社が作ったお掃除ロボット「ルンバ」。なぜこの製品は最初に日本のメーカーから発売されなかったのか?パナソニックでは、とっくの昔に試作品が作られていたそうだ。ところが、「掃除ロボットが仏壇にぶつかり、ろうそくが倒れ、火事になる」とか、「階段から落下し、下にいる人にあたる」とか、「よちよち歩きの赤ちゃんの歩行を邪魔し転倒させる」といった小役人的な発想でこの企画は潰されてしまった。(※1) 1980年代にウォークマンで世界を席巻したソニーが、どうしてiPodのような製品を作れなかったのだろうか? 当時の経営者にネットがわかる人が一人もいなかったからだ。(※2)そして、ソニーはいま保険でしか利益を上げられない金融会社に成り下がった。※1 http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/120211/wec12021118000001-n1.htm※2http://nikkan-spa.jp/933086高学歴社員により去勢された家電メーカー どの家電メーカーも、創業者が持っていたダイナミズムは、高学歴社員たちによって去勢されてしまった。彼らは保身のために安全運転を繰り返す。しかし、それは危険を避けているようで、却ってリスクを増大させる愚かな行為だった。シャープが経営不振に陥った理由もまさにこれである。だからこそ、私は今回の鴻海への身売りは自業自得であると考える。 確かにシャープは大量の特許を出願している。企業別国際特許出願件数でみるとそのランキングは以下のように推移していた。2009年 997件 10位2010年 1287件 8位2011年 1757件 4位2012年 2002件 3位2013年 1839件 6位2014年 1227件 14位 しかし、シャープの経営不振が顕在化したのは2008年度決算からだ。2009年、2010年は何とか会計を工夫して黒字を出したが、結局そのツケは2011年に顕在化した。次のグラフをご覧いただければ事実を確認できるだろう。http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/317968/051800003/?SS=expand-career&FD=2638409 これだけの特許を出願していながら、何一つヒット商品を出せなかった会社。それがシャープなのである。いったい何のための特許だったのか?経営が下手くそだと言われても文句は言えまい。実際に、台湾のある電機メーカーの関係者に聞いてみたところ、次のような辛辣な答えが返ってきた。シャープ本社を訪れ、報道陣の取材に応じる鴻海精密工業の郭台銘会長 =2月5日午後、大阪市阿倍野区のシャープ本社(彦野公太朗撮影) 「シャープの液晶パネル技術が世界トップなんて20年前。今は見るべきものがない。辛うじてLTPSがあるが、それも技術トレンドから外れた。鴻海の金を使って、必死に追いつけるかどうかという状態。故に鴻海にとってもシャープの液晶事業はベストパートナーじゃない。ベストはLGD、Samsung D。しかし彼らは鴻海と組む必要がない」 製品化できない、あるいは製品化しても大して売れなかった特許にいったい何の価値があるのだろうか? しかし、それでも鴻海のトップである郭台銘氏は7000億円もの買値を付けた。陰謀論者たちは「この金額は支那共産党がシャープの技術を盗むためにつけた値段だ」という。まったく商売が分かっていない。 例えば、一般人とガソリンスタンドのオーナーがガソリンの先物取引を行う場合には決定的な違いがある。一般人は必ず反対売買によって決済するしかない。だから、価格が値上がりすることに賭けて買い建玉をしたとき、予想に反して値下がりしたら損失覚悟で決済売りをせざるを得ない。これに対して、ガソリンスタンドのオーナーは買ったガソリンを現物で受け取る(現受け)ことができる。指定の場所にタンクローリーで乗り付けて、買った分だけガソリンを受け取り、自身の店で売ればよい。市場価格は即座にガソリンの小売価格に反映するわけではないので、こうすることで損失をカバーすることができるのだ。鴻海が7000億円もの買値をつけた理由 鴻海はまさにガソリンスタンドのオーナーの立場にいる。日経新聞の報道によれば(※3)、鴻海は、アップルのiPhoneのような完成品の組み立て自体で利益を出しておらず、むしろ現在の鴻海の稼ぎ額となっているDELLやHPのPCのように、優良顧客の有力製品における設計、製造、アフターサービスなどを丸抱えすることによって利益を生みだしている。シャープを取り込むことで、例えばこれまで鴻海が苦手にしていた白物家電(冷蔵庫、洗濯機など)にも丸抱えサービスを広げることができるようになる。これは大きなチャンスだ。だからこそ、これだけの値段を付けることが正当化されるわけだ。 もちろん、陰謀論者はそれでも疑うことを辞めないだろう。確かに支那の地方政府と鴻海は一見仲がいいように見える。やっぱり技術を支那共産党に横流しするのではないか? しかし、よく考えてみてほしい。台湾人は支那から見れば外国人だ。仲良くしてくれるのは鴻海がオイシイ利権であるうちの話でしかない。工場が拡張して、不動産価値などが上がっているときは蜜月かもしれないが、撤退が始まれば手のひらを返される。 鴻海は2013年2月にフォックスコン(鴻海精密工業のブランド名)の新規採用凍結と新規投資の延期などを発表した。すると、翌年の2014年の4月から5月にかけてフォックスコン深セン工場で連続自殺事件が発生した。これをきっかけに支那国内で鴻海に対する大々的なネガティブキャンペーンが展開されたのは記憶に新しい。 その後、鴻海(フォックスコン)は支那で工場拡張をほとんどしていない。むしろ、撤退を加速し拠点をインドに移している。昨年はその動きが加速し何度もニュースになった。何を隠そう、支那の企業は鴻海にとってライバルなのだ。 支那共産党は儲かりそうな事業をパクり、巨額設備投資を行って価格競争を仕掛けてくる。その結果、鉄鋼、太陽光パネルなどは過剰生産による大幅な価格の低下を招いた。鴻海はむしろパクられる側にある。先ほど紹介した日経新聞の記事によれば中小型ディスプレイの分野で、支那共産党の後押しを受けるパクり企業が誕生し、激しい価格競争を仕掛けてきた。だからこそ、この難局を打破し、市場の主導権を握り続けるにはシャープが必要だったのだ。 商売の世界は単純ではない。目まぐるしく市場環境が変化するエレクトロニクスの分野においてはなおさらだ。単純な陰謀論は確かに分かりやすい。しかし、それは実情をまったく無視した妄想である。そんなものに付き合っていても一円も儲からない。商売の世界は厳しいのだ。※3http://www.nikkei.com/article/DGXMZO97636290U6A220C1000000/

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    シャープと東芝 社長交代なしで本当に改革できるのか

     「構造改革を全力でやり切ることが社長の責任」――。経営再建の途上で崖っぷちに立たされているシャープの高橋興三社長と東芝の室町正志社長は、それぞれ2月4日に開いた2015年度第3四半期決算発表の席上で、今後の進退について似たような発言をした。 シャープ支援を巡っては、これまで国が出資する官民ファンドの産業革新機構と、iPhoneをはじめ電子機器製造を請け負う台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が激しい「買収争奪戦」を繰り広げてきたことは当サイトでも度々報じてきた。 その結果、革新機構側のおよそ倍にあたる約6500億円もの出資額を提示した鴻海側になびく格好となった。「シャープに多額のカネを注ぎ込んできた主力銀行にとっては背に腹はかえられない。海外への技術流出懸念よりも目の前にぶら下がる大金のほうが大事だった」と、業界関係者は見る。シャープの高橋興三社長=2月4日、東京都港区(宮川浩和撮影) シャープの経営陣にとっても、鴻海案のほうが魅力的だったことは確かだ。高橋社長は会見で、「単に資金だけの問題ではない」としたうえで、支援に名乗りを挙げた両社に4つの要望を出してきたことを明かした。 その中身は技術の海外流出を防ぐ点、事業カンパニーごとに分解せずシャープのDNAを残すことのほか、「生産拠点を含めて従業員の雇用の最大化を維持すること」が掲げられた。つまり、高橋社長以下、役員の首も繋がったままという契約条件が盛り込まれた可能性もある。経営陣の一斉退陣を求めていたとされる革新機構とは真逆の“温情提案”だ。 そんな裏交渉もあってか、高橋社長は経営続行にむしろ意欲的なコメントを残した。「(支援先との)契約後に辞めるつもりですか、ということなら『ノー』です。(経営不振を招いた)大きな責任を感じていますが、シャープが将来に向かって存続し、世の中のためになることを考えている。そこまで決めたので、あとは勝手にやってくださいという立場にはなく、単純に放り出すつもりはありません」 一方、不正会計問題に端を発し、2016年3月期の最終損益が過去最悪となる7100億円の大赤字に転落する見通しの東芝。財務の健全性を示す自己資本比率は3月末に2.6%まで落ち込む見込みで、いつ経営破綻してもおかしくない「危険水域」に入っている。 室町社長は決算会見で医療機器子会社(東芝メディカルシステムズ)の株式売却や家電・パソコン事業の他社統合を急ぐことを明言し、さらなる人員削減も辞さない構えだ。自らも月額報酬90%返上を継続するほか、執行役の月額報酬の減額幅も最大40%にするなど、痛みを伴う構造改革に理解を求めた。 だが、自身の出処進退については明言を避けた。昨年9月、緊急登板で社長に就任した際、「任期は1年なのか2年なのか、今はお答えする段階ではない。ただ、3年ということは、おそらくない。危機を乗り越えたら後進に譲る」と話していたが、今回の決算会見では「2016年度のV字回復を目指し、全力で力を結集させていきたい。それが私の責務」と述べた。 もちろん、シャープと同様に事業の切り売りだけ果たして業績回復軌道に乗せないまま退けば、単なる“敗戦処理”の経営者で終わってしまう。だが、東芝の場合は旧態依然の企業風土を踏襲するかのような不可解な人事制度も残ったままだ。 同社は“新生東芝”を築くために相談役制度の廃止を決めているが、元社長で現・日本郵政社長の西室泰三氏と日本商工会議所前会頭の岡村正氏が相談役を退任する代わりに、新たに設ける「名誉顧問」に就任するという。 室町社長は、「名誉顧問には、会社の経営とは一線を画し、社外の活動で東芝の存在感の維持向上を図ってほしい」と述べたものの、2人には専用の執務室や送迎車がつくという。さらに、公表はされなかったが顧問報酬も支払われる可能性が高い。 経済誌『月刊BOSS』編集委員の関慎夫氏も、この決定には首をひねる。「西室氏は危機的状況に陥った古巣の東芝で、引責する意思を固めていた会長の室町氏を慰留して社長に推したといわれています。しかし、いつまでも社内人事に介入して自分の“居場所”を確保することは、今後の東芝にとってガバナンス(企業統治)強化には繋がらないはずです。 ただでさえ会社側が不正会計を主導したとされる旧社長ら5人を訴えている中、現経営陣が相変わらず“長老”たちに配慮する人事を続けていたら、社内外に示しがつかないと思います」 室町社長自身は外部で構成する指名委員会(委員長/小林喜光・三菱ケミカルホールディングス会長)の“信任投票”によって続投や交代が決められることになっているが、1月に実施した際も、その結果については「非公表」だった。 さて、シャープの高橋社長も東芝の室町社長も、このまま“引き際”をズルズルと先延ばししていくつもりなのか。「2人とも経営をめちゃくちゃにした戦犯ではないうえ、火中の栗を拾う役回りをしているので、いつまでも社長の地位に恋々としがみつきたいとは思っていないはず。シャープの経営陣も鴻海傘下になれば、いつ経営体制継続の約束を反故にされても不思議はありません。 しかし、社員の給与カットやリストラを次々と断行している中、少なくとも現状で自身の引き際をはっきり示して不退転の決意で経営再建に挑む姿を見せるべきだと思います」 名門電機メーカー2社が陥った経営危機。そもそも会社の看板を守れなければ生え抜きの後継社長にバトンを渡すことさえ叶わなくなる。関連記事■ シャープ 会長・社長の同時退任は反体制派の“悲願”だった■ 日立の統合相手は東芝が「案外しっくりいく」と大前研一氏■ 東芝社長を外部から招聘案に「何も知らない人は無理」の懸念■ 夏ボーナス ソニーは意外な大幅増、シャープと東芝は大幅減■ 東芝が旧経営陣に3億円賠償訴訟 堀江氏は336億円請求された

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    台湾・鴻海がシャープの丸ごと買収まで画策している理由とは

     経営再建中のシャープが、ついに“まな板の鯉”状態に追い込まれた。主力事業ながら赤字垂れ流しの元凶となっていた液晶パネル事業の切り離し(分社)を決断。そのうえで、テレビ向けの大型液晶部門を台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に、スマホ向けの中小型液晶を官民ファンドの産業革新機構にそれぞれ売却する交渉が進められている模様だ。 この先シャープが生き残れるかどうかは、まだ予断を許さない状況だが、もはや経営陣をはじめ、シャープ自身に当事者能力はない――とする見方が一般的だ。 「これまで銀行からの借り入れや公募増資、人員・資産のリストラを繰り返し、首の皮一枚で何とか経営破綻を免れてきたが、2015年9月の中間決算でも251億円の営業赤字に沈み、手元資金はカツカツに。来年3月には借金など5000億円にのぼる返済期限が訪れるため、この先の再建プランは銀行団に委ねるしかない」(経済誌記者) 液晶部門の売却先に関しても、産業革新機構が名乗りを上げたことで経済産業省など国の意向も無視できなくなった。同機構傘下には日立製作所、ソニー、東芝の液晶事業を統合させた国策メーカーのジャパンディスプレイがあり、そこにシャープを加えることで“日の丸液晶”の世界シェアを高めたい狙いがある。 しかし、ここにきてホンハイがシャープ本体にまで出資の幅や額を広げ、会社を丸ごと買収する案を画策しているとの憶測も出ている。エース経済研究所アナリストの安田秀樹氏がいう。 「確かに今のシャープは時価総額が4000億円程度で、2000億円もあれば会社の過半を買えてしまうほど株価が下がっています。 また、ホンハイのような中国メーカーは技術力よりも量産力を武器にしているため、シャープの持つ巨大な堺工場や亀山工場を取り込めれば、液晶パネルの製造からテレビの組み立てまで一貫生産できるようになります。そうしたメリットを考えると、ホンハイにとって2000億円は安い買い物といえます。 あとは国が液晶技術の将来性をどう捉えているかにかかっています。シャープが得意とする液晶パネル技術の『IGZO(イグゾー)』は、スマホでの採用が進む有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルとの相性が良く、数々の特許を握っています。その優れた技術を中国や韓国などに流出させていいのかという懸念もあります」シャープが試作した、4K映像を高画質のまま見られる「IGZO」のパネル=2014年11月11日、大阪市 仮にホンハイによる会社買収を跳ね除け、ジャパンディスプレイがシャープの中小型液晶技術を手中にできたとしても、次なる障壁が立ちはだかる。ジャパンディスプレイとシャープの液晶パネルシェアを合わせると世界で3割超を握ることになり、中国などで独占禁止法に抵触する恐れがあるのだ。「特に中国の独禁法の判定は外部からクリアになっていないため、申請が通るかどうかは予測不可能。かつてパナソニックと三洋電機が統合した際も、車載用のニッケル水素電池などで難航した」(前出の経済誌記者) もちろん、中国にも有力なパネルメーカーはあるため、法の根拠を開示しないのをいいことに、日本メーカーが排除される可能性は否定できない。 いずれにせよ、これ以上シャープの再建に時間をかける余裕は残されていない。年度内には国や銀行団も交え、液晶売却の方向性が決まる予定だ。残る白物家電の分野も東芝との統合が囁かれるなど、シャープの単独ブランドは次々と消えていくことになるだろう。 本社内ではオフィスの電気やエレベーターの間引き稼働や、各部署で購読していた新聞や雑誌が打ち切られているとの報道も出ており、いよいよ会社存続に切羽詰まった状況がうかがえる。 前出の安田アナリストは、「不採算分野をうまく切り離し、他社との協業も“技術を売って生き残る”という商売ができればシャープのブランドも残せるはず」と指摘するが、果たして……。関連記事■ シャープのブランド名「転売するしか価値はない」と台湾識者■ サムスン 長年の仇敵もいまや日本企業にとっては運命共同体■ シャープの弱点 マーケティングでなく商品そのものと大前氏■ 米国製軍用ジープを丸パクリした中国製軍用ジープの写真公開■ シャープ増資の裏で苦渋の決断 業績上方修正も再生は道半ば

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    「コラボ力」で急成長するUSJと「夢の世界」を守るTDL

    新井庸志(マーケティングコンサルタント)  好調のエンタテインメント業界の中でも特に好調なUSJ。USJはなぜ躍進を続けられるのだろうか。そして、好調はなぜ加速しているのだろうか。 エンタテインメント業界の市場規模は拡大し続けている。特に、ここ2012年から2014年の3年間の伸びは顕著で約1000億円も拡大し、2014年の市場規模はは約6000億円に達した(経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」調べ)。特筆すべきは、その内容だ。入場料の値上げをしても好調が続いているのだ。業界第一位の東京ディズニーリゾート(以下「TDR」。運営:オリエンタルランド)は3年連続で入場料を値上げしている。業界第二位のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下「USJ」運営:ユー・エス・ジェイ)に至っては7年連続で入場料を値上げしての結果だ。世の中的には節約ムードが続く中、エンタテインメント業界は好調そのものと言えるのだ。「巻き込む力」が集客力を高める USJの成長を語る上で欠かせない要素がある。それは「巻き込む力」を最大限活用してきたことだ。その最たる例は「コンテンツ」と言える。USJは多くのコンテンツホルダーを巻き込むことで、集客力を高め、成長スピードを上げてきた。 USJのコンセプトは「世界最高を、お届けしたい」である。2001年開園当初のUSJはハリウッド映画の世界にこだわった。出だしこそ好調だったが、時間とともに、その魅力は薄くなってしまった。魅力が薄くなるとともに、別の問題も重なり、USJの業績は次第に悪化。その結果、経営だけでなく、コンテンツのあり方まで見直されることとなったのだ。 現在のUSJは、魅力があれば、ハリウッド映画の世界にこだわり過ぎず、他のコンテンツともコラボレーションするようにシフトした。人気ゲームの「バイオハザード」「モンスターハンター」、人気アニメの「ワンピース」「進撃の巨人」、人気キャラクターの「ハローキティ」、そしてUSJ人気を不動のものとした映画「ハリー・ポッター」。次から次へと人気コンテンツとのコラボレーションを打ち出してきた。USJのイベント「ユニバーサル・クールジャパン」で、「進撃の巨人」のエリアに再現された巨人が格闘する場面 2016年1月、私は「ドラゴンクエスト」誕生30周年記念発表会に参加する機会があったのだが、そこではゲーム発売計画などとともに、USJにおけるアトラクション計画も発表された。会場には多くのテレビ、新聞、雑誌などのメディアが取材に訪れており、ドラゴンクエストとともにUSJにもスポットが当たった形だ。 多くのコンテンツを巻き込み、コラボレーションをすることで受けられるメリットは大きい。USJだけでなく、コンテンツ側からも、情報が自主的に発信されることで、盛り上がりはさらに加速していく。多くのコンテンツとコラボレーションしていけばいくほど、USJの魅力も高まっていく仕組みになっているのだ。 「ホテル」との関係性においても、「巻き込む力」の活用が感じられる。USJ周辺にも、大阪中心部にも、パートナーに認定されているホテルは多くあるが、USJ自社ではホテルを経営していない。例えば、エンタテインメント業界トップの東京ディズニーリゾート(以下、TDR)。TDRの周辺にも提携ホテルはある。ただ、TDRの場合、自社運営のホテルがもっともパークに近く、人気である。東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ、ディズニーアンバサダーホテル、ディズニーランドホテルなど、ホテル事業の売上は約610億円(2015年3月期)。全売上高約4662億円(2015年3月期)に占める割合を見ても重要なことがわかる。TDRにとって、ホテルとは収益を生み出すための重要な柱である。その一方、USJにとって、ホテルとは、より多くのお客さんがUSJに来やすくなるための仕掛けの一つという位置づけなのだ。夢の世界を守るTDLとコラボを積極的に行うUSJ TDRが「夢の世界」を徹底的に守ろうと、コンテンツもホテルも自社で囲い込む戦略をとることに対して、USJは多くの協力者を巻き込み、彼ら自身にも自主的に発信してもらうことによって、魅力を高めようとしてきたのだ。 このように「巻き込む力」を活用した手法が成功しやすいのは時代の流れでもある。2015年に公開された「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」。このプロモーションでは、アート引越センター(アートコーポレーション)、Schick(シック・ジャパン)、セキスイハイム(積水化学工業)、南海電鉄、そごう・西武など数多くの企業とのコラボレーションが実施された。また、2014年に大ヒットを巻き起こした「妖怪ウォッチ」も映画、テレビ、玩具、企業タイアップなど多面的なプロモーション展開を行ったことで一大ブームにまで発展した。「スター・ウォーズ」「妖怪ウォッチ」とも、多くのコンテンツやメディアを巻き込むことで、大ヒットにつながったと言えるのだ。 「巻き込む力」が重要でも、いきなり大きな仕掛けをすることは難しい。USJは、その時々で、目標を明確に定め、実現可能なプロモーションを企画し、仕掛け続け、成功させ続けてきた。かつて、倒産しかけ、マイナスからのスタートとなったUSJには、人気コンテンツをアトラクションに出来る予算もなかった。したがって、まず最初に、コストのかからないプロモーションが考えられた。ハロウィン・ホラー・ナイトというゾンビイベントを実施したり、ジェットコースターを改良し、後ろ向きに走らせたりした。それらが成功すると、一つ、また一つと新たな企画を考え、徐々に人気コンテンツを誘致してきたのだ。 現在の大人気アトラクションである「ハリー・ポッター」を誘致すれば、多くの来場者が見込めることは、USJの中の人のみならず、誰もが思いつくアイデアである。もちろん、USJでも、かなり昔から考えられていたと言う。しかし、それはいきなり出来ることではない。小さな成功を重ね続け、一つ一つ階段を上がらなければ、総工費約450億円の「ハリー・ポッター」アトラクションの完成など夢物語だったのだ。このように、USJが成長し続けている裏には、単に魅力あるコンテンツがあるだけでなく、着実な経営戦略があるのだ。あらい・やすし マーケティングコンサルタント。大手広告会社にて国際的なエレクトロニクス企業のアカウントを統括し、アジアパシフィック地区のディレクターを経験。数々の競合コンペによるアカウント獲得により、最高賞を含む社内表彰多数受賞。約15年の勤務後、外資系メディア企業にて広報関連のコンサルティングサービス業務のマネージャーに就任。2007年株式会社ホワイトナイトを設立。

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    USJ「復活劇」にみた逆転の発想

    大阪のテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の快進撃が止まらない。昨年10月の入場者数は単月としては過去最高を記録し、初めて東京ディズニーランド(TDL)を超えたという。長らく低迷が続いたUSJはなぜ「V字回復」できたのか。復活劇の裏には逆転の発想があった。

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    ディズニーと真逆を行くUSJの価格戦略

    木曽崇(国際カジノ研究所所長) ここの所、ユニバーサルスタジオジャパン(以下、USJ)の業績が良いようです。以下、昨年11月の産経新聞による報道。USJ10月動員「TDL超えた」独自試算分析で“勝利宣言” ハロウィーンイベント好調でhttp://www.sankei.com/west/news/151102/wst1511020088-n1.html テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ、大阪市此花区)の運営会社ユー・エス・ジェイは2日、10月の入場者数が約175万人に達し、単月として開業以来最高を記録したと発表した。入場者が自由に仮装し、パーク内にゾンビが大量に出現するハロウィーンのイベントが好調だった。記者会見した運営会社、ユー・エス・ジェイの森岡毅(つよし)執行役員は「われわれの分析では東京ディズニーランド(TDL)を抜き、10月は国内のテーマパークで最も人を集めたと考えている」と述べた。 ライバルの入場者数を勝手に試算して勝手に「勝利宣言」を行うというのも非常に微妙なニュースではありますが、USJが上り調子なのに対してディズニーの業績が減速気味であるというのはハロウィンだけの一過性のものではありません。2015年の上半期(4〜9月)の実績値として両園から発表されている入場者数においても、ディズニーが前年同期比でマイナスに落ち込む一方で、USJは過去最高を更新しています。長らく国内テーマパークとして「独り勝ち」状態と言われ続けてきたディズニーを、完全にUSJが追い上げている状況であります。東京ディズニーランドで開かれた成人式で、新成人たちを祝福して回るミッキーマウス なぜUSJがこれ程までに好調なのかに関しては様々な角度から分析が可能であり、当然ながら最大の成功要因となるのは大ヒット映画「ハリーポッター」をテーマとした園内エリア「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリーポッター」など、園内コンテンツ戦略の成功にあることは間違いありません。一方、ディズニーが入場客数で前年度割れをしている主たる要因としてしばしば挙げられるのが、昨年4月に行った入場料金の値上げであります。以下、入場料金の引き上げを報じた当時のニュースからの転載。東京ディズニーランド入場料値上げ発表 全種類は4年ぶり、「1デー」は500円高い6900円にhttp://www.sankei.com/economy/news/150129/ecn1501290035-n1.html オリエンタルランドは29日、東京ディズニーランド(千葉県浦安市)、東京ディズニーシー(同)の入場料を4月1日から値上げすると発表した。現在大人6400円で1日自由に使える「1デーパスポート」を6900円と、500円引き上げる。年間パスポートなど、すべての入場チケット価格も引き上げる。 ただ実は、現在のディズニーは2017年に予定されている大ヒット映画「アナと雪の女王」の新テーマゾーンを含む大型リニューアル準備の真っ只中にあります。新規のコンテンツ投入のない本年度は、そもそも入場者数の落ち込みがある程度予測されていたのが実情であって、逆にいえば今年4月に行われた入場料値上げはその予想される入場客数の落ち込みを一人あたり売上高を引き上げる形で補完するものとなったのが実態。切り札は「エクスプレス・パス」 事実、現在ディズニーより発表されている最新の業績予想では、前期比で3.1%減少した入場者数を、3.7%増加した「一人あたり売上高」が補完する形で総売上が微増するという展開となっています。以下、東京ディズニーリゾートの運営元であるオリエンタルランドの財務情報からの転載。業績予想―オリエンタルランドhttp://www.olc.co.jp/ir/anticipation.html 2015年度入園者数は、初期需要が特に高かった「ワンス・アポン・ア・タイム」や「アナとエルサのフローズンファンタジー」が、2年目となることによって減少すると見込んでいますが、チケット価格改定などによるチケット収入の増加により、ゲスト1人当たり売上高が増加し、増収となる見込みです。 そのようなディズニーの価格戦略と好対照となるのがUSJによる「エクスプレス・パス」の存在です。エクスプレス・パスとは、園内で有料販売の行われている優先パスポートのことで、このパスポートを所有する者は順番待ちをする一般客を追い越す形で各アトラクションに優先搭乗が可能となります。このエクスプレス・パスは登場当初から「不公平だ」「儲け主義だ」などとの批判が一部から出ている一方で非常に人気が高く、一日あたりの発売数が制限されていることから昨年11月に転売防止策が講じられるまで、オンライン等で高値での売買が為されるなど問題化していた程でありました。 また、このエクスプレス・パスの価格戦略上の最大の特徴となるのが、予測される入場客数に合わせてパスポート価格も変動する点。例えば、園内7つのアトラクションで優先搭乗が可能となる「パス7」においては、その日の需要に合わせて6600円から9800円の間で価格変動するものとされています(2016年1月24日現在)。 先に挙げたディズニーの価格戦略は、予測される入場客数の落ち込みを入場料の上乗せで補完するという関係にありましたが、逆にUSJは予想される需要超過期を逆手にとって、そこから増収を狙うという真逆の戦略をとっていると言えます。「全てのお客様を平等に」の理念を守りながら全体値上げの中から「薄く広く」増収を狙うディズニーと、「不平等だ」との誹りを受けながらも一部顧客の優遇から増収を狙うUSJ。これら価格戦略の違いは経営理念そのものの差から来るものと言えそうですが、少なくとも間近の経営状況を比較する限り、業績面では今の所USJに軍配が上がりそうです。

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    なぜUSJは毎年入場料の値上げができるのか

    鈴木貴博(経営コンサルタント、百年コンサルティング代表) ユニバーサル・スタジオ・ジャパン (USJ)が絶好調だ。年間の入場者数は2014年度に1270万人とこの5年で1.5倍に増え、2015年10月には過去最高の175万人と単月で初めて入場者数で東京ディズニーランドを抜いた。 私は過去に2度、テーマパークビジネスの戦略コンサルティングに携わったことがあるのでわかるのだが、テーマパーク経営にとって最も重要なことは来場者が年々増えていく構造を作ることだ。 失敗するテーマパークは開業初年度に近隣客がどっと訪れるのだが、初年度の来場人数が最高記録で、その後、年々来場者が減ることになる。一度来た客がリピートしない。遠方の顧客を引き付ける魅力がないというふたつの失敗が重なると来場客は減少し、テーマパーク経営はじり貧になる。安定的にリピート客が確保できて、かつ遠方から新規の顧客を呼べることがテーマパーク経営には重要なのだ。 実はUSJの場合、開業当初はぱっとしなかった。2001年の開業初年度に珍しさもあって1102万人の集客をしたが、翌年には764万人と来場者はがくんと落ちた。運営会社のユー・エス・ジェイも当時の経営課題は金融機関からの巨額な借入金をどう圧縮するかとか、新規採用を抑えるなどどう費用削減を図るかとか、後ろ向きの課題が多かった。年間最多入場者数を更新したことを祝うハローキティなどのキャラクターや入場者ら =2015年2月20日、大阪市此花区のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(南雲都撮影) そのUSJが伸びたのは上場を廃止してゴールドマンサックスの傘下に入った2010年以降だ。経営基盤が安定したことでこの年以降、パークのアトラクションへの追加投資が加速する。 USJにはもともとジョーズ、ウォーターワールド、ターミネーター、バックドラフト、バック・トゥ・ザ・フューチャーなど人気のあるアトラクションが豊富にあるのだが、そこからアトラクションの入替えが加速する。 それまでピーターパンのネバーランドがあった場所にジュラシック・パークが完成し、魔天楼のそびえるニューヨークエリアにはアメージング・スパイダーマンが登場する。2012年にはユニバーサル・ワンダーランドとして、スヌーピー、セサミストリート、ハローキティらUSJの人気キャラクターの住む街を集約させる。極めつけは2014年のハリー・ポッターで、USJの中にできた別のテーマパークと呼ばれるほどの完成度の街を作り上げた。 結果として地元関西の消費者はリピーターとしてUSJに還流するようになり、日本全国、そしてインバウンドで日本を訪れる来日観光客が新規客としてコンスタントに流入するようになる。来園者の流れが変わったことで2009年度に800万人だった来園者数は、2014年度に1270万人と膨れ上がったのである。なぜUSJは絶好調なのにさらに値上げするのか?  USJのビジネスモデルで特筆すべきは、よくも悪くもプライシング戦略の巧妙さだろう。 基準になるのが1デイ・スタジオ・パス。毎年のように値上げされると揶揄されるこのパスが現在は税込で7400円。ちなみにこの2月から200円値上がりしてこの価格だ。しかもものすごい数の来場者数のおかげでこのパスだけではなかなか目当てのアトラクションには乗ることができない。 その際に、ふたつ選択肢がある。 ひとつは待ち時間を格段に短縮できるロイヤル・スタジオ・パスを22620円で購入すること。このパスならエクスプレス・パスの短い待ち行列に並べるし、大混雑で入場すら難しいハリー・ポッターエリアの入場確約券もついている。これは中国から爆買いにやってきた富裕層などにはぴったりのチケットだ。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「The Wizarding World of Hally Potter」=大阪市此花区のユニバーサル・スタジオ・ジャパン もうひとつの選択肢は年間パスの購入。実はUSJは年間パスが実に安い。GW、お盆、クリスマスなど何か所かの入場除外日を含む年間パスであれば19800円で購入できる。これなら3回行けば元がとれる。東京ディズニーリゾートの場合は年間パスポートが2パークで86000円、ディズニーランドかシーのどちらか片方だけのパスポートが59000円だから、いかにUSJの年間パスが安いかがわかる。 これはつまり、地元の人は年間パスを買って、混んでいない日やすいている時間帯を狙って何度も来てくださいという方向へ顧客を誘導しているのだ。 結局、地元の客はリピーター化するし、一生に一度のつもりでやってくるインバウンドの外国人顧客は高額のチケットを買ってくれる。このプライシング戦略が経営の玄人筋からは絶賛され、一般市民からは非難の声があがる火種にもなっている。 なぜUSJは絶好調なのにさらに値上げしているのか? これはディズニーランドでも同じ傾向がみられるが、根本の部分にはUSJやTDLがロイヤリティーを支払うアメリカの提携元が本国のロイヤリティーを要求する方々がドル建てで利益計画を考えているということがある。 円安の場合になると、ユニバーサルやディズニーのようなアメリカ企業から見ればロイヤリティー単価を上げていかないとドル建てで見た収益は減少してしまう。ある意味でUSJの価格が上がるのと、iPadなどのアップル製品の価格が年々上がるのは、根本に「仕入れ値がドル建てだから」という事情があるのだ。 しかしその説明は「生活弱者はパークに来るなというのか!」という批判に対する解決策にはならないだろう。今のところUSJがこの問題にどう向き合うのかは今後の課題だ。 ただこの問題、アメリカのディズニー本社はかなり前にある明確な回答を打ち出している。パークに行けない子どもたちのためにアメリカ国内にたくさんのディズニーストアが作られたのだ。アメリカのディズニーストアのぬいぐるみやシャツはパークのお土産よりも安く売られている。 それも買えない子どもたちもいる。ならばウォルマートに行けばディズニーキャラクターのTシャツが手に入る。作りは悪くても価格はさらに安い。ケーブルテレビでディズニーアニメも見ることができる。つまり貧富の差が大きいアメリカで、ディズニーはどの所得階層の子どもにも選べる商品やサービスを供給する努力をしているということなのだ。

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    絶好調のUSJ ハリポタ体験は確かに楽しかったと大前研一氏

     「レジャー白書2014」(日本生産本部)によれば、2013年の余暇市場は11年ぶりに前年を上回った。理由は国内旅行が好調だったこと、遊園地・テーマパークが過去最大の売上を記録したことが寄与している。テーマパークといえばディズニーランドしか成功しないと言われていた日本の常識を打ち破り、急成長しているテーマパークのひとつ、大阪市の「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」の魅力について大前研一氏が解説する。* * * 大阪市のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」が絶好調だ。映画『ハリー・ポッター』の世界を再現した新エリア「ウィザーディング・ワールド・オブ・ザ・ハリー・ポッター」が人気を集め、8月の入場者数は例年より雨の日が多かったにもかかわらず133万人に達し、単月として過去最高を記録したのである。 USJの年間入場者数は開業した2001年度の1102万人をピークに800万人前後で推移していたが、2012年度は975万人、2013年度は1050万人と復調。USJは「ハリポタ効果」によって2014年度に開業年度を上回ることを目指している。USJにある「ハリー・ポッター」のエリアで人気が高いノンアルコール飲料「バタービール」 百聞は一見に如かず。私も8月にUSJを訪れてハリポタを体験してきた。USJの年間売上高の半分ほどに匹敵する約450億円もの巨費を投じたハリポタは、たしかに面白かった。USJのアトラクションはすべて経験しているが、最新の映像テクノロジーと乗り物を組み合わせたハリポタの進化はケタ違いだった。 USJは、しばらくはハリポタ一発で集客できると思うが、長く好調を持続するためには、やはり新たな出し物が必要となる。USJの運営会社ユー・エス・ジェイはハリポタ効果を追い風に、2015年度にも東京証券取引所第1部への株式再上場を検討しているという。その場合、時価総額は4000億~5000億円になると言われているので、ゴールドマン・サックスなどの投資グループは10年間で4~5倍儲ける勘定になる。 さらに時価発行すれば、ハリポタ投資を回収できるだけでなく、新たなテーマ施設の構築も可能になる。 私が訪れた時は大人気アニメ『ワンピース』のプレミアショーを開催中(9月30日まで)だったが、そういう人気のあるアニメやゲーム、ユニバーサル・ピクチャーズのヒット映画などを取り込んだアトラクションやショーを投入していけば、まだまだ新規来場者もリピーターも増やせるだろう。関連記事■ 福島原発に災害派遣されたのと同じ74式戦車を間近で見られる■ ハリポタ特需に沸くUSJ 第2パークとカジノで外国人誘致へ■ 人気再燃のハリー・ポッター コスプレや聖地巡礼も依然盛ん■ 世界で唯一地上に展示された巨大潜水艦! その操舵室を公開■ USJのハリポタエリア 確実に入場・待ち時間短縮のチケット

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    クールジャパン 誰かから「クール」と呼ばれる分にはいい

     ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)で、1月15日から6月26日までの期間限定で、日本の漫画やゲームなどのアトラクションを集めた「ユニバーサル・クール・ジャパン」がスタート。昨年に続いての開催で、今年は歌手・きゃりーぱみゅぱみゅのアトラクションも登場した。 「ユニバーサル・クール・ジャパン」では、アニメやゲームなど、日本が生み出し、世界的にも評価の高いエンターテインメントの世界観をUSJが現実のものへと再現。日本が誇るエンターテインメント・ブランドを世界に発信し、日本の魅力を再発見するイベントと位置づける。 『きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド』は、VR対応ゴーグルを装着してジェットコースターに乗り、きゃりーぱみゅぱみゅの“KAWAII”世界観を 360度楽しめるというアトラクション。「XRライド」とは、VRを超越し、重力感覚などテーマパークならではの刺激とシンクロさせた「超体感ライド」だ。ユニバーサル・クールジャパン2016「モンスターハンター・ザ・リアル」のリオレウス=大阪市此花区 USJといえば、ハリウッドのイメージが強いが、今回の企画では『進撃の巨人・ザ・リアル4-D』『エヴァンゲリオン・ザ・リアル 4-D: 2.0』『モンスターハンター・ザ・リアル』『バイオハザード・ザ・エスケープ 2』など、日本発のコンテンツを元にしたものも登場。 1月14日に行われたプレスプレビューには、 9か国34 媒体の海外メディアも取材に来た。園内には海外からの客も多く、きゃりーぱみゅぱみゅのアトラクションで配られたゴーグル装着手順には英語のほか中国語などの対応もみられた。またクルーの一人は「韓国語を勉強中」だと明かしていた。 このように、民間が「クールジャパン」を実践する動きを見せるほか、政府も積極的に取り組んでいる。経済産業省はHPにて「政府では、クールジャパンの推進として関係府省連携のもと『日本の魅力』を海外に発信しています。経済産業省でも、コンテンツ・ファッション・デザイン・観光サービスなどを中心に海外で人気の高い商材を国内外に発信していきます」としたうえで、クールジャパン関連の詳細を記した資料を公開中だ。 この「クールジャパン」が盛り上がりを見せているが、コラムニスト・小田嶋隆さんは冷静な分析を行う。 「個人的に『クールジャパン』という言葉は、キャッチフレーズとしては、悪いとは思いません。ただし、『身内で言う分には』という注釈つきです。むしろ、この言葉はこちらからアピールする分には逆効果ではないでしょうか。 『クール』という言葉には、『アピールしない』という意味も含まれています。クールだよねと言われるには、『自分から売り込んではいけない』というのも一つの条件でしょう。『クールジャパン』と言ってしまうことがクールでないのですね。 ただし、考え方自体は正しいと思うので、言葉自体は日本をアピールするキャッチコピーを別の言い方で作ればいい。マーベラス(素晴らしい・驚きの)ジャパンとか、トリフィック(すごい)ジャパンはどうでしょうか。マーベラスとかトリフィックであれば、自分で言うことの自画自賛感のようなものが薄れる。とにかく『クール』を自分で言うのは『クール』ではなく、自縄自縛になってしまいます」  冒頭で登場したUSJは「クールジャパン」のイベントを行う意義をこう語る。 「これまでは日本が生み出した世界的に高評価を受けるコンテンツが、海外の企業やクリエイターの手によって再発信されるケースが多くみられましたが、USJならではのクリエイティブアイデアと、技術力、再現力の高さによって、『日本から』魅力を再発信していきたいと考え、今回の企画を練りました」(広報担当者) また、前出・小田嶋氏は民間が自発的にやることはさておき、政府が主導すべきものなのかという疑問を持っている。そしてクールジャパン成功への心の持ちようについて語る。 「海外の人が日本人っていいよね、と思うのであれば、それは謙虚だったり、控え目だったり、出過ぎた真似をしない奥ゆかしさにあるのではないでしょうか。それなのに『クール』を政府が主導するのはカッコ悪いかな。 これって国民性の話でもあるんですよ。『オレってイケてるだろ!』とアピールすることが似合うしカッコいい国ってのもあります。日本の場合は恥ずかしそうに控えているけど、隠れた魅力があるよね、と言ってもらえるようになるようなことをやっていけばいいのでしょうか。もちろん、『クール』は誰かから言われる分には構わないですけどね」 民間が独自に取り組んでいることがクールと評価されるのは良いが、政府がそれを声高に「クールでしょ!」と言うことは「日本人っぽくない」と小田嶋氏は考えているようだ。関連記事■ 安倍政権の成長戦略 クールジャパンの急先鋒きゃりーに期待■ クールジャパン銘柄の任天堂&バンダイナムコに株価上昇期待■ 「ポセイドンジャパン」「さくらジャパン」「隼ジャパン」は何?■ きゃりーぱみゅぱみゅ 人気アニメキャラのおとぼけしぐさを披露■ CMギャラ安い武井咲と剛力彩芽は「CM界のコスパ女優」評

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    任天堂とUSJのコラボでついにマリオ登場? なぜこのタイミングか

    (THE PAGEより転載) 任天堂は、大阪のテーマパークであるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)とテーマパークにおける共同展開について基本合意に達したと明らかにしました。同社の人気キャラクターである「マリオ」を使ったアトラクションが登場する可能性が高まっています。 任天堂の君島社長がこの合意について明らかにしたのは、2日に行われた決算発表の場です。君島氏は詳細を明らかにしませんでしたが、大阪のUSJに任天堂のキャラクターを使ったアトラクションが登場する計画であることはほぼ間違いないようです。同社は、従来のスタンスを変更し、自社キャラクターの外部展開について積極的に取り組む方針を明らかにしていました。戦略が大きく変わったことや、人気テーマパークであるUSJへの展開であることなどを考えると「マリオ」が登場する可能性が高いのではないかと業界関係者は見ています。任天堂のゲームソフト「スーパーマリオブラザーズ」の主人公「マリオ」(同社提供)なぜこのタイミングで? 任天堂は、スマホの台頭によって、主力のWiiUとニンテンドー3DSの販売不振に苦しみました。2014年3月期は、売上高が当初予想の9200億円から一気に40%減の5700億円まで落ち込み、営業損益は460億円の赤字となっています。岩田前社長は海外部門を中心にコスト削減を進め、15年3月期の決算は何とか黒字を確保しましたが、岩田氏は激務が影響したのか15年7月に亡くなってしまいます。急きょ、管理部門出身の君島氏が社長に就任し、新体制の構築に腐心してきました。ようやく新体制が落ち着きを見せ始め、攻めの展開として打ち出されたのが今回のUSJとの提携です。 もっとも、テーマパークとの提携そのものについては以前から交渉が進められていました。昨年5月には、米国でテーマパークを運営し、日本のUSJにもライセンスを供与しているNBCユニバーサルおよびその事業部門であるユニバーサル・パークス&リゾーツとアトラクションを共同開発することで合意しています。その後、USJをNBCユニバーサルの親会社であるコムキャストが買収したため、USJとも同様の提携を行う運びとなったわけです。 任天堂はハードメーカーとしての色彩が強く、ハードの強みが失われてしまうと全社的な競争力も低下してしまう可能性があります。同社は新しい展開の一つとしてスマホ向けのアプリ「Miitomo(ミートモ)」を昨年10月に発表していますが、今後の中核事業として位置付けたいのは、やはり現在開発中の次世代ゲーム機NXでしょう。スマホ向けアプリの開発やキャラクターの外部展開は、最終的には同社のハードウェア・プラットフォームを強化する役割を担うことになりそうです。(The Capital Tribune Japan)

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    経済スパイ天国 日本が盗まれる

    日本が官民ともに営業秘密侵害に対し如何に無防備であったかを示したのが、新日鉄住金と韓国ポスコの事件だ。日本企業の弱点と言われながら、なかなか手がつけられなかった経済スパイ問題。日本では7月にやっと不正競争防止法が改正され、遅すぎた対策の端緒についたばかりだ。

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    孤軍奮闘の新日鉄 経済スパイ対策はまだ甘い

    玉井克哉(東京大学先端科学技術研究センター教授) 7月、不正競争防止法が改正された。しかし営業秘密の流出を防止するための実効性という観点から見ると、日本はまだまだ不十分と言わざるを得ない。テロ対策に迫るレベルまで進化している、米国並みの対策を整えることが必要だ。日本が官民ともに如何に無防備であったかを示したのが、新日鉄住金と韓国ポスコの事件だった。FBIは現役の人民解放軍軍人5人を指名手配し、ホームページに公開している(FBI)懐柔された秘密保持者たち 事件は3年以上にわたって継続し、9月30日に和解に到達した。和解内容について、公表されているのはポスコが300億円の和解金を支払うことだけであるが、将来のライセンス料や販売地域の制限についても合意していると見られる。知的財産権をめぐる訴訟としては最大規模の賠償額であり、ほぼ完勝に近い結末である。 問題になっていたのは、方向性電磁鋼板というものの製造方法である。これは送電時の電力ロスを低減させる特殊な鋼材であり、かつては、旧新日本製鉄とそのライセンス先のみが、実用的規模で生産していた。そこにポスコが挑戦し、かなりのシェアを得ていたわけである。しかし、それが実は旧新日鉄の営業秘密を窃取することによって築いた、不法な立場だったことが明らかになったわけである。 今回の訴訟で明るみに出たのは、虎の子ともいうべき営業秘密を盗み出す手口が、極めて洗練されたものだったということである。新日鉄住金は、社長すら立ち入れない区域を設けて、対象技術を厳重に管理していた。また、一連のプロセスを複数の別々の工程に分けて、一つだけでは製造できないようにしていた。だが、その区域に出入りする資格を持つキーパーソンをポスコは割り出し、巧妙に自社の手先として養成していた。また、一つの工程について技術を盗んだ段階で次の工程のキーパーソンを引き込ませるという手法で、最終製品にまで到達したといわれている。 実は、今回の事件と酷似する事例が、米国にもある。被害に遭ったのは化学メーカーのEIデュポンであり、営業秘密を窃取したのは、韓国のコーロン社だった。対象は、世界でただ2社しか製造することのできなかった、アラミド繊維の製造方法だった。 その事件でも、デュポン社の従業員を引き込み、会社の資料を持ち出させるなどして営業秘密を盗み出したあと、一つの工程が終わると次の段階を知る別の技術者を引き込むという手法は共通していた。今年の4月末に、コーロン社が3億5000万㌦を支払う和解が成立している。新日鉄住金に見る 情報流出への日米の対応差新日鉄住金に見る 情報流出への日米の対応差 もっとも、事件は似ていても、日本と米国では、それに臨む官民のあり方が大きく違っている。 旧新日鉄は、世界の競争相手がどこもマネのできなかった製造技術にポスコが短時間で追いついたことをいぶかしく思っていたが、決め手となる証拠を入手することができなかった。実情が判明したのは、韓国にとって民族の誇りともいうべきポスコの製造技術を社員自らが中国企業に売り渡すというスキャンダルの副産物だった。 起訴された被告人が、自分が窃取した営業秘密はポスコのものではなく旧新日鉄のものだったと公開の法廷で陳述したために、旧新日鉄が事件の全体像を知るところとなったのである。 韓国の司法当局が熱心に捜査・起訴をしなければ、事件は永遠に発覚することなく終わったであろう。 これに対し、米国のデュポン社は、自社の営業秘密が漏洩しているとの疑いを持つやいなや、FBIに通報している。デュポン社が提起した民事訴訟と並行して米国司法当局による刑事手続も進んでおり、今年4月末、法人としてのコーロン社は、罰金の支払いで当局との和解に達している。 しかも、営業秘密窃取を主導したコーロン社の元従業員はそれとは別に起訴されており、仮に有罪になれば、25年ないし30年という、極めて重い実刑を科される可能性がある。 米国と韓国の間には犯罪人引渡条約があるので、経営幹部にまで上り詰めた元従業員は、いまだに、枕を高くして眠れないはずである。 実はこの点に、日米の違いが集約的に表れている。米国が営業秘密漏えい摘発に注力する理由米国が営業秘密漏えい摘発に注力する理由 米国議会は、1996年に「経済スパイ法」を制定し、営業秘密の窃取を連邦犯罪として扱うことにした。それまでは営業秘密の扱いは各州に任されていたが、連邦犯罪として、FBIの捜査対象に加えたわけである。 その後20年近くの間、公表された事例だけでも、デュポンやダウ・ケミカルなどの化学産業、GMやフォードのような自動車産業、モトローラやマイクロソフト、テキサス・インスツルメンツといったIT産業、ブリストル・マイヤーズ スクイブやGEヘルスケアのようなヘルスケア産業、コカ・コーラやグッドイヤーのような消費財製造業、さらにはゴールドマン・サックスのような金融業に至るまで、数多くの一流企業が被害に遭っている。全米での被害額は1年間で130億㌦を優に超えるとの推計もある。 こうしたことが早くから意識されている米国では、捜査当局は営業秘密侵害罪の摘発に、極めて熱心である。 2年にわたって覆面捜査官を潜入させ、会社の本物の技術者を「おとり」に使って取引をもちかけ、現金の受け渡し現場に捜査官が乱入して外国企業の幹部を逮捕したという、映画顔負けのケースもある。 また、8年にわたって営業秘密を外国企業に売り渡していた従業員を取り調べ、全面的な協力を約束させた上、新たなダミーの取引を持ちかけさせて外国企業の幹部を米国におびき寄せ、空港で逮捕するといったケースもある。司法省やFBIの責任者は、営業秘密の漏洩を防止するのが「テロ対策に次ぐ課題」だと繰り返し述べている。 米国の当局が営業秘密侵害の取り締まりに熱心なことについては、二つの理由がある。 一つは、営業秘密の漏洩を許しておくと、イノベーションへの投資意欲を殺ぎ、不正な企業に競争力を持たせることになって、市場の機能を損なうからである。特に外国に漏洩した場合は、米国の雇用が失われ、外国企業が競争力を持つこととなるから、事態は深刻である。もう一つの理由は、営業秘密の相当部分が、安全保障と直結するからである。米国で摘発される営業秘密侵害の多くが、中国を流出先とする事件である。 たとえば、戦闘機の機体に使われる炭素繊維複合材料をみだりに中国に輸出すれば武器輸出管理法などで重罪となるが、それの製造方法が漏れてしまったのでは、結果は同じである。今日では、安全保障にとって重要な製品の多くが、民間企業の手で製造される。外国のスパイも、軍隊だけでなく、民間企業を標的にしているわけである。 それを象徴するのが、昨年5月に、米国司法当局が、中国人民解放軍の現役軍人5人を起訴したことである。サイバー部隊に属する5人は、FBIのサイトで、顔写真入りで指名手配された。もちろん彼らが米国の法廷に出頭するはずはないが、捜査対象の広がりを示す、象徴的な意味はあった。今年9月に習近平国家主席が訪米したときも、オバマ大統領は、サイバー攻撃の中止を正面から要求したとされる。軍による執拗なサイバー攻撃を問題視していることが、そこにも表れている。我が国の営業秘密保守に残る課題我が国の営業秘密保守に残る課題 わが国は、営業秘密を刑事罰の対象にすることに、かつては極めて不熱心だった。刑事罰が法定されたのは2003年のことであり、それも実効的なものにはほど遠かった。新日鐵住金の事件が民事訴訟のみで終始したのも、元従業員による秘密漏洩のほとんどが刑事罰規定を導入する前に行われたことによる。しかし、米国や韓国に比して遅れていたわが国の法制度も、今年7月の不正競争防止法改正によって、飛躍的に強化された。取り締まりのための法律に関しては、米国の経済スパイ法と、もはやあまり遜色はない。 今後の課題としては、更に関係法令を整え、実行面を強化することが挙げられる。米国では、おとり捜査が広く認められるなど、営業秘密侵害は、麻薬犯罪並みに扱われる。窃取を共謀しただけで、実行に着手しなくとも、犯罪になる。司法取引の対象にもなる。営業秘密侵害罪は、普通の刑事犯と違い、自白はまったく期待できないから、おとり捜査や司法取引を法改正で加え、捜査手法を転換することも必要であろう。何より、わが国の当局にFBI並みの働きを期待するには、組織・人員・予算の面でも、同程度のテコ入れが必要だろう。 和解でかなりの部分を取り返したとはいえ、新日鉄住金の被った損害は、一千億円を軽く超えると推計されている。ポスコから中国に流れた秘密が元に戻ることもない。それによって、どれほどの雇用が日本から失われたか、それによって年間でどれだけの人が迷惑をし、人生を狂わされたか。関連しているものを考えていくと計り知れない。第二、第三の新日鉄が出ないよう、関係者の努力が待たれている。

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    隙だらけの日本企業 情報漏えい許さぬ具体的戦術

     [喧嘩の作法]久慈直登(日本知的財産協会専務理事) 自社の情報が流出しないようにしっかりと防衛することはビジネスの基本である。 日本企業は日本社会がそうであるように盗みにくる相手に対してはいささかガードが甘い。人を信用し性善説にたち、徳をもって感化するのは人間社会の理想ではあるが、産業競争は結果としての勝ち負けでそれまでのプロセスが評価されるため、理想だけではすまない。隙だらけの日本企業 不正競争防止法は情報窃盗全般について規制している。例えばアクセス権限がないのに会社の重要情報をコピーし、私用のPCに送信するだけでも違法としている。海外に持ち出すと罰則を重くするような法改正も検討されている。しかし欧米では情報窃盗が非親告罪になっており、捜査当局が動いて捕まえたらすぐに公訴が可能なのに対し、日本では親告罪である。ということは企業自身が情報窃盗を自分で発見できるレベルで対策しなければならない。 外部から盗みにくることへの対策が最重要だが、日本企業内部から不用意な流出を防ぐことが先である。盗みに来られる前に自分が隙だらけでは話にならない。日本企業は新興国企業から狙われている……(提供・アフロ) 退職者や転職者は、新しい仕事についたときに前職での会社の秘密情報と自分自身の持つ使える知識との区分けができていないことが多い。その場合、新興国企業に転職すると前職で得た情報を使って仕事をする。新興国企業の特許出願に表示される日本人発明者の名前を調べると前職のときとほぼ同じ内容の発明が多く見つかる。 特許出願では発明者の名前は神聖なので表示されてしまうのである。退職者に対し、日本企業が自社の秘密情報を守るにはどうすればいいか。それは退職時にその人がキャリアの中で接してきた会社の具体的な情報の項目を全て示し、それらは企業の秘密情報なので使えないと説明することである。退職者が重要な立場の技術者であればあるほど、本人のためにも間違いのないようにしてあげなければいけない。 現役の日本人社員から意図的な漏えいが起きるのは、例えば金銭的なストレス、昇進や評価への不満、技術への強すぎる自負、組織内での孤立などがある場合に外部から誘われたときである。誘う手口は心理を巧妙についたものであることが海外の裁判例などで分かる。社員の不満は人事管理で把握すれば事前にある程度解消できる。しかし秘密情報防衛のためには、社員への誘いが現実に世界中で起きており、その手口がどのようなものかを認識させ注意させることが役に立つ。これは企業の重要情報にアクセスできる社員全員が対象になる。 日本特許出願による技術情報の開示も注意が必要である。特許は独占権と引き換えに公開される制度であるが、日本でのみ公開ということではなく全世界に向けての公開になる。公開により技術情報は出願しなかった国で自由に使われ、さらに出願しなかった国でのビジネスを奪われることにつながる。 1件の出願の背景に数千万円の研究開発投資があることを考えるとこれは気前が良すぎる。発明が生まれたら何でも出願すればいいということは全くない。市場の商品をいくら分析しても分からないような材料成分や加工方法などは、出願により全世界に教えてしまう結果になるし、逆に他社の商品を分析しても侵害しているかどうか分からないので権利行使もできない。 そこで出願内容をどう構成するか、また出願国を後で指定して新興国企業の進出をどう阻止するか、業種や競争の状況、グローバル企業や中小企業、それぞれに応じた様々な戦略がある。新興国企業が日本企業を狙っていることは事実である。日本企業は秘密情報を防衛する強い意志をもち、まずは自らの隙をなくすことである。

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    法改正しても穴だらけ 日本の知的財産はまだまだ盗まれる

    冨宅恵(弁護士)流出の危機にさらされる技術情報 企業活動において事業上有用な情報は、技術情報と営業情報に大別することができる。そして、技術情報、営業情報のいずれもが、事業者が競業者との差別化を図り、事業を安定的に継続する上で源泉となるものであり、情報を保有する事業者としては法律による保護を強く求めるところである。 事業上有用な情報を保護する法律としては特許法が存在するが、特許法の保護対象として営業情報は含まれず技術情報に限定されている上に、全ての技術情報が保護されるわけではなく、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの(特許法において「発明」と定義されるもの)に限定されている。 事業活動においては、上記した発明に該当しない技術情報が多数存在し、それらの情報が事業上有用なものとして活用されているところであり、特許法によって保護される発明と同様に法的保護が求められている。 また、特許登録においては発明の公開が伴うこととの関係で、企業は、特許登録が可能な全ての技術情報を特許登録しているわけではなく、中核的な情報、開発の方向性を決定づける基礎的な情報等については戦略的に秘匿化するという選択を行っている。このような公開を伴う権利化を選択するのか、敢えて戦略的に秘匿化の方法を選択するかという「オープン・クローズ戦略」は、企業が国内外において競争力を維持する上で非常に重要になっており、秘匿化された技術情報の法的保護が強く求められる理由となっている。 他方で、秘匿化された技術情報は、退職者、技術提携先、海外技術者、サイバー空間等を介して、常に流出の危機にさらされており、近年においては、韓国製鉄メーカーポスコによる新日鐵住金の高性能鋼板に関する製法技術の不正取得・不正使用、韓国電機メーカーによる東芝のNAND型フラッシュメモリーに関する技術の不正取得・使用といったクロスボーダー型の大型技術流出事件が発生し、秘匿化された技術情報の法的保護の重要性が改めて認識されているところである。 さらに、技術情報だけではなく顧客情報、需要動向等の営業情報も競争力を維持する上で不可欠な情報であるが、これらの情報は、前記したとおり特許法によって保護されることはない。しかし、ベネッセコーポレーションのように、業務提携先によって大量の顧客情報が流出され、事業継続が危険にさらされるという事件を受けて、営業情報の法的保護の必要性についても再認識されているところである。不正競争防止法で保護される「営業秘密」とは不正競争防止法で保護される「営業秘密」とは 事業上有用な情報のうち特許法の保護対象足りえない技術情報、特許法の保護対象であっても戦略的に秘匿化した技術情報、そもそも特許法の保護対象になることのない営業情報については、不正競争防止法による保護の余地がある。 そもそも不正競争防止法は、その名のとおり、事業者間の公正な競争を確保し国民経済の発展に寄与することを目的とする法律であるが、独占禁止法のように法の執行が行政機関に委ねられておらず、不正競争行為の被害者である事業者に差止請求権及び損害賠償請求権を付与することにより、当該事業者の自助努力によって法目的を達成するという制度を採用している。 この結果、不正競争防止法には事業者の利益を保護する機能が伴うことになり、近年においては、むしろ特定の事業者の利益を保護する法律としての機能が強調され、知的財産法の一つとして理解されるにいたっている。 また、不正競争防止法は、差止請求、損害賠償請求といった民事的救済のみならず、不正競争行為を行った者については10年以下の懲役、最高3000万円の罰金、行為者が帰属する企業については、従業者が行った一定の不正競争行為につき最高10億円の罰金を含む罰則規定が設けられており、不正競争防止法によって保護される技術情報あるいは営業情報を不正に取得、使用等を行った場合には行為者、その者が帰属する企業のいずれに対しても重い刑事罰が加えられることになっている。 ところで、不正競争防止法によって保護される事業上有用な情報は「営業秘密」と定義され、同法においては、「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」と規定されている。すなわち、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、(1)秘密管理性及び(2)非公知性を備えた情報のみが不正競争防止法によって保護されることになる。 近時の裁判例において、非公知性が認められたものの秘密管理性が否定されたものは存在するが、秘密管理性が肯定されているにもかかわらず非公知性が否定されたものは存在しない。このことから、裁判において「営業秘密」との認定を得るにあたり秘密管理性の主張・立証が非常に重要であることが理解できる。 さらに、裁判において、秘密管理性の要件を認定してもらうにあたり、営業秘密にアクセスできる者が制限されているか、営業秘密に対するアクセス制限が加えられているか、あるいは秘密であることの表示がされているか、就業規則又は契約により秘密保持義務が課されているかという事実関係が非常に重要になる。 なお、裁判所における秘密管理性の要件の認定が厳格に過ぎるという意見が多く寄せられているところであり、経済産業省において秘密管理性の要件を緩和する指針(当該指針は、行政権の一機関である経済産業省の考えを示すものであり、司法権を司る裁判所がこれに拘束されるものではない)が出されている。何が不正競争行為にあたるのか しかし、秘密管理性の要件は、営業秘密に関する不正競争行為該当性の分水嶺となる要件であり、不正競争防止法においては前記したとおり刑罰規定が存在し、刑罰が科されるか否かの判断においても秘密管理性の要件該当性が問題となることを考慮した場合、秘密管理性の要件を野放図に拡大させると、刑罰規定の明確性を損なうことになるため問題であると考えている。 仮に、秘密管理性の要件を緩和するという考え方を採用した場合には、他の要件において犯罪行為に該当するか否かのメルクマールを追加し、予測困難な処罰対象の拡大を防止する必要があるが、前記した秘密管理性の要件と非公知性の要件との相対関係を前提とする限り、営業秘密に該当する事業上有用な情報に限定を加える方法により、これを防止せざるを得ないと考えている。 しかし、営業秘密に該当する事業上有用な情報に限定を加えた場合、不正競争防止法の保護対象が硬直化し、不正競争防止法の特許法補完機能を大きく減退させるという結果を招来しかねない。 筆者としては、事業者の意識改革により裁判所が求める水準の秘密管理体制を構築することは困難ではないと考えており、事業上有用な情報に限定を加えて不正競争防止法の特許法補完機能を減退させるのではなく、秘密管理性の要件の認定基準を維持した上で営業秘密に対する事業者の意識改革を積極的に行っていくことでこれをクリアーしていくべきと考えている。何が不正競争行為にあたるのか 不正競争防止法が定める営業秘密に関する不正競争行為の類型は、まず、保有者から情報を取得するにあたり、不正取得したものか、契約、雇用関係等に基づき正当に取得したものかで区別されている。 そして、情報の入手が不正である場合、情報を取得する行為、使用する行為、開示する行為のいずれもが不正競争行為とされ、不正取得であることを知って(知らないことに重過失がある場合も含む)、不正取得者から情報を取得する行為、使用する行為、開示する行為のいずれについても不正競争行為とされている。他方、情報が不正取得されたものであるということにつき重過失なく知らない場合については、情報を取得した後に不正取得された情報であることを知って使用、開示する行為がいずれも不正競争行為とされている。 情報の入手そのものは契約、雇用関係等に基づき行われている場合については、自らの利益を図る目的あるいは情報保有者を害する目的で情報を使用、開示する行為が不正競争行為とされ、正当な情報取得者が上記した目的で情報を開示したことを知って(知らないことに重過失がある場合も含む。)情報を取得する行為、使用する行為、開示する行為のいずれについても不正競争行為とされている。他方、正当な情報取得者が前記した目的で情報を開示したことにつき重過失なく知らない場合については、情報を取得した後にこれを知って使用、開示する行為がいずれも不正競争行為とされている。 以上に示した不正競争行為を図で示すと以下のとおりとなる。度重なる法改正で重い刑罰に度重なる法改正で重い刑罰に 平成2年の改正により営業秘密の民事上の保護規定が設けられ、営業秘密に関する不正競争行為を行った者に対する差止請求、損害賠償請求が認められた。また、平成15年改正により営業秘密侵害罪が設けられ、最高懲役3年、罰金300万円の刑罰が科されることになった。 その後の営業秘密に関する不正競争防止法の改正は、実体法的には、平成27年改正において差止請求権の除斥期間(権利行使が可能な期間)が伸長されたことを除き、専ら刑事罰の重罰化、処罰範囲の拡大化が行われ、手続法的には、民事・刑事ともに公開で行われる裁判において秘密管理性が損なわれることがないことへの手続的な制度の導入、不正競争行為の立証容易化に関する制度、損害額の推定制度の導入に関するものである。 なお、刑事罰の重罰化、処罰範囲の拡大化の概要を示すと以下のとおりである。 平成17年には最高懲役5年、罰金500万円に引上げられ、平成18年には最高懲役10年、罰金1000万円に引上げられ、平成27年には罰金刑が2000万円(海外での取得については3000万円)に引上げられた。 また、平成17年改正においては営業秘密侵害罪等により営業秘密を取得した者が帰属する法人に対する両罰規定が設けられ、法人に対して最高1億5000万円の罰金が科されるようになり、罰金刑の最高額が平成18年改正により3億円、平成27年改正により5億円(海外での取得については10億円)に引上げられた。 さらに、処罰の対象となる不正競争行為の範囲の拡大については、平成17年改正において、退職者による営業秘密の漏洩、二次取得者による使用・開示、国外犯に対する処罰が加えられ、平成21年改正において任務違背による営業秘密の取得が処罰対象に加えられ、平成27年改正においては三次取得者以降の者による使用・開示、営業秘密侵害品の譲渡・輸出入、未遂犯が処罰対象に加えられ、国外犯の処罰範囲が拡大された。 以上のとおり、営業秘密に関する刑事処罰については、平成17年以降数次にわたり改正が行われ、現在においては他の刑罰と比較しても決して軽いと評価することができない程度に重い刑罰が科される上に、処罰範囲も広範囲に及んでいる。 近年、営業秘密漏洩に関する検挙件数の増加にともない、金銭や財物の窃取、詐取、強取、横領のみならず情報を対象とした同様の行為も刑事罰の対象になるとの認識が広まりつつあるものの、営業秘密を対象とした刑事罰の存在に関する周知としては、個人的に不十分であると感じている。 営業秘密の保護を行っていくためには、不正競争防止法の規定をより多くの者に周知していく必要があるが、不正競争防止法が定める営業秘密に関する不正競争行為の概念そのものが複雑である上に、刑事罰の対象となる行為に関する規程も非常に難解なものとなっている。 このような複雑、難解な不正競争防止法の規定の内容を周知させていく過程で、経済産業省等の行政機関に委ねるだけでなく、知財に携わる弁護士の努力が求められるところであり、本稿を作成するにあたり自身の責任を改めて自覚した次第である。

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    元サムスンSDI常務が語る 新日鉄はこうして韓国ポスコにやられた

    となる。この場合の固有な対処法としては、図3に示すように、技術者の処遇、技術者の居場所がなくならない企業経営、技術者のモチベーションが下がらない技術経営であり、人材の管理と活用が重要になる。知財に対する報奨システムもその1つである。

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    産業スパイで韓国特許庁のデタラメ結論 国ぐるみの技術窃取

     韓国企業が急速に技術力をつけた背景には、日本企業から技術を入手していたことがある。東芝のNAND型フラッシュメモリーに関する機密情報が2008年に日本人技術者(東芝の提携会社、サンディスクの元社員)によって不正に持ち出され、転職先の韓国SKハイニックスに流出した事件はその象徴だ。 3月13日に不正競争防止法違反(営業秘密開示)で警視庁に逮捕された技術者は容疑を全面的に認めているが、韓国の報道は〈東芝の提訴、優位に立つ韓国企業へのけん制か〉、〈日本の電子メーカーの業績悪化がまるで韓国企業が日本企業の技術を不法に取得したためだと言わんばかりの報道も見られる〉(朝鮮日報日本語版3月14日)と盗人猛々しい。 韓国側の非常識な反応はそれだけではない。2012年4月、新日本製鉄(現・新日鉄住金)は高性能鋼板である方向性電磁鋼板の製造技術について不正取得があったとして、韓国の鉄鋼最大手ポスコに約1000億円の賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。 流出はポスコの元社員が中国の宝鋼集団に技術を売った産業スパイ事件の裁判で「(技術は)新日鉄から入手したもの」と証言したため発覚した。 だがポスコは韓国の特許庁に特許無効を求め、その特許庁が「新日鉄の技術は一般的なもので特許侵害には当たらない」というとんでもない結論を出した。国ぐるみの技術窃取と言わざるを得ない。 これまで日本企業は産業スパイに対して無防備すぎた。セキュリティ対策に詳しいKPMGビジネスアドバイザリー・田口篤氏はこう解説する。「内部関係者による故意の情報流出はバブル崩壊後に急増しました。日本企業はこれまで社員性善説に立って情報流出の対策を取っていませんでした。一方、欧米は社員性悪説のもと、リスク管理を徹底しています。バブル崩壊後、年功序列と終身雇用が前提の日本型経営から、徐々に欧米型経営へとシフトしてきましたが、社員性善説はそのまま残った。その結果、対策が後手に回ったのです」 しかし、状況は改善されつつある。現在は情報へのアクセス記録(入室記録やPC操作記録)を残したり、機密情報を扱う際には2人以上で業務を行なったりと、リスク管理は飛躍的に高まっている。関連記事■ 韓国が強制徴用した日本企業299社選定 麻生セメントの名も■ 韓国政府 財閥の意向を優先し過ぎニート問題助長させている■ 特許権侵害に莫大な賠償命令で韓国パクリ商法に限界が到来か■ サムスンに引き抜かれた人材を日本企業の幹部「裏切り者だ」■ 韓国に賠償請求された新日鉄住金 ヤクザみかじめ料と同じ

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    滞日中国人留学生 大使館に集められ情報工作命じられる例も

     日本企業を狙う中国の産業スパイ活動はますます活発かつ巧妙になっている。何度も機密情報が流出してきたにもかかわらず日本側の備えはまだまだ足りない。ジャーナリスト 向坂公輔氏が中国による産業スパイ活動についてリポートする。* * * 日本を狙った中国の産業スパイ活動の一端を担わされているのが8万人以上いる中国人留学生とされる。中国の諜報活動研究を専門とする『月刊中国』主幹の鳴霞(メイカ)氏が語る。「多くの中国人留学生は真面目に勉強する志を持って日本に来ています。しかし、特に国費留学生の場合はたとえ本人が望んでいなくても、いつの間にか中国の情報工作に組み込まれてしまっているケースがあるのです」 中国の情報機関では、本国で訓練を受けたプロの工作員を「基本同志」と呼び、諜報活動の中での協力者を「運用同志」と呼ぶ。留学生は「運用同志」となることを求められるという。ロンドンの中国大使館 「日本の主な大学では中国からの留学生や研究員が情報交換する集まりがあります。それ自体は何の問題もないのですが、彼らは定期的に中国大使館に集められます。 国費留学生は政府から学費や生活費を出してもらっていますから、そこで研究分野などについて報告する。その中で大使館側が、産学連携を進める研究室に所属する学生などに『より詳しい内容を提出するように』と指示を出すケースがあります」(鳴霞氏) 大学と企業が連携して進める最先端の研究内容は中国側が喉から手が出るほど欲しい情報だ。「博士課程に在籍する留学生に、『所属する研究室の教授のパソコンから論文原稿を持ち出すように』といった指示が出る。留学生側はあくまで大使館への活動報告の範囲と考えているが、それが同じ分野を研究する中国の大学や企業へ流れてしまう」(在中国ジャーナリスト)といった懸念を持つ専門家は多い。 昨年4月には防衛省情報本部の女性事務官が部外秘の資料を持ち出そうとしていたことが発覚し、調査の結果中国人留学生と接触していたことが判明した。こうした例から類推できるように、表向きは留学生の身分で情報のプロが入ってくるケースもある。 2007年にデンソーに勤める中国人エンジニアが13万件にも及ぶ機密設計情報を不正に持ち出していた事件では、当該エンジニアは中国国営の軍事関連会社に勤務した後、留学生として来日して大学を卒業し、デンソーに入社していた。「2012年に工作機械大手のヤマザキマザックで中国人社員が工作機械用図面情報約2万点を不正に持ち出した事件でも、逮捕(不正競争防止法違反)された社員は日本の大学を卒業していた。 最初からスパイ目的で送り込まれている者もいるし、日本企業が中国人社員を幹部候補生として扱わず昇進が遅れたことなどに不満を募らせた結果、社の利益に背いて情報を持ち出そうと考えるケースも少なくない。日本人の管理職が『彼は真面目だ』と判断しても、それとは別次元の力を働かせる勢力がいるのです」(鳴霞氏)関連記事■ ハーバード大の日本人留学生数 韓国人の1/8、中国人の1/7■ ネットに登場の「中国人クズ番付」など中国の民意に迫った本■ 日中間の不和の理由は「似た者同士との錯覚」があるから■ 中国の反日是非論争で「ホンダのバイクはすごい」の冷静意見■ 中国の台湾政策責任者 大陸留学生に台湾人との恋愛勧め物議

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    バカ高い携帯料金は本当に安くなるのか

    安倍晋三首相が携帯電話料金の見直しを指示した。家計に直結する値下げ議論は早くも熱を帯びているが、携帯各社は難色を示す。バカ高い日本の携帯料金はホントに安くなるのか。「看板倒れ」に終わらせない実のある議論は実現できるか。

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    矛盾だらけの携帯料金引き下げ議論 ユーザーは取り残されるだけ

    石川温(ケータイ/スマホジャーナリスト) 安倍首相が9月11日の経済財政諮問会議で「家計における通信料金の負担が増している」という指摘をしたことで、携帯電話料金を引き下げようという議論が進行している。 年内に結論を出そうと総務省主催の「タスクフォース」が動いているのだが、「矛盾だらけの議論でよくわからない」(KDDI・田中孝司社長)と業界からは戸惑いの声が続出。消費者としては「スマホの料金が安くなる」と歓迎したいところだが、一筋縄では行かなそうだ。携帯電話の料金引き下げ策を議論する有識者会議の初会合=10月19日午前、東京都千代田区 総務省のタスクフォースでは「ライトユーザー向けプランの設置」「MVNO(格安スマホ)の促進」「端末価格と通信料金の分離」が議論の中心となっている。 ライトユーザー向けプランに関しては「スマホをあまり使っていないユーザー向けの料金プランがないに等しい。各キャリアは1GBや1.5GBのプランを作るべき」(高市早苗総務相)としている。 実際、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクでは2GBからしか契約できない。 しかし、ソフトバンクのサブブランドであるワイモバイルではいまでも1GBから契約が可能だ。すでにライトユーザーはワイモバイルを選べば何ら問題ない。 また、MMD研究所の調べによれば、実際、月間に1GB未満しか使っていないユーザーは、1割程度しかいないという。 つまり、仮にタスクフォースの議論の末、大手3キャリアで1GBのプランができたところで、恩恵を受けられるのは1割程度のユーザーでしかないのだ。  ここ最近、格安スマホが盛り上がりを見せ、ようやく一般にも認知されてきた。大手キャリアに比べて、半額から3分の1程度に通信料金を抑えられると好評だ。 しかし、タスクフォースでは「MVNO(格安スマホ)を促進する」という目標をかかげているが、一方で、大手3キャリアが通信料金の値下げを実施すれば、格安スマホとの料金差は縮まり、一気に格安スマホの人気が下火になる可能性がある。 結局は「iPhoneが使えて、全国にショップ網も充実して、いざという時のサポートも強い」という大手キャリアにユーザーが留まり続ける恐れが出てきてしまうのだ。 MVNO会社の幹部は「総務省の議論で格安スマホに注目が集まるのは嬉しいが、大手キャリアに値下げされるのは困るのも事実」と困惑気味だ。長期ユーザーを優遇すれば競争が起きない 「端末価格と通信料金の分離」では、「頻繁にキャリアを乗り換えたり、端末を買い替えたりするユーザーが割引の恩恵を受けているのはおかしい。長期ユーザーが不公平だ」という議題となっている。 このため、長期ユーザーを優遇すべきとキャリアに押し付けそうな雰囲気があるのだ。 確かに優遇策が少ないと感じているユーザーも多いだろう。 実際、NTTドコモであれば、現在は数百円の割引に過ぎず、もっと長期利用の優遇をしてもいいのではないかと思われる。  ただ、本来であれば、3キャリア間でユーザーを奪いあおうと争いが起き、料金競争に発展すれば、ユーザーとしても歓迎なはずだ。 しかし、長期ユーザーを優遇してしまえば、ユーザーが同じキャリアを長く使い続けようという判断になり、結果として、競争が起きないという可能性も出てくる。 総務省がやるべきなのは、3キャリアでの競争を促進させることであって、ユーザーをキャリアにとどまらせて競争を止めることではないはずだ。  そもそも、総務省は、日本の通信市場に競争環境を持ち込もうと、周波数を新規に割り当て、2007年にイー・モバイルという4社目のキャリアを作ったはずだ。 しかし、イー・モバイルは、iPhone用の周波数が欲しいソフトバンクに買収され、日本は再び3社体制となってしまった。 これがアメリカであれば、スプリントを傘下に収めた孫正義社長が、当時アメリカで第4位だったT-Mobileをさらに買収しようとしたものの、「競争環境が阻害される」として、米規制当局からの認可が得られなかったことがある。 日本でも、ソフトバンクによるイー・モバイルを買収を阻止できるような仕組みを総務省が作ってたら、もう少し、日本の通信市場は3キャリア横並びではない、しっかりとした競争環境が実現できていたと思われる。 つまり、総務省の失策がこのような「大手3キャリアの寡占状態」を招いてしまったと言えるのだ。 総務省では2007年にも「モバイルビジネス研究会」をいう議論の場を設け、端末価格と通信料金の分離をキャリアに求めたが、結局は市場が混乱し、ユーザーにわかりにくい料金体系ができてしまった苦い経験がある。  NTTドコモ・加藤薫社長は「タスクフォースの結論を待たないことには何も検討できない」と語る。 結論を受けて、各キャリアで新しい料金体系などが投入される可能性があるが、総務省の意向を受けて、さらにわかりにくい料金体系になるか、あまりユーザーに恩恵のない肩透かしな内容になりそうだ。

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    夏野剛の提言 イノベーションと競争なくば携帯料金を下げよ

    夏野剛(慶應義塾大学 政策・メディア研究科特別招聘教授) 突然官邸から降ってきた携帯電話料金の値下げ要請に携帯電話会社のみならず総務省も慌てている。この議論により、寡占市場になり競争忌避の傾向が見られる通信業界と、業界の変化のスピードについて行けない総務省の通信行政の問題があぶり出されることになったので本稿ではそれを解説したい。 総務省が携帯電話業界に大規模に介入するのは初めてではない。2007年、スマートフォンが市場に出る前、総務省は「モバイルビジネス研究会」を設置し、携帯電話会社の販売モデルの見直しを求めた。同年12月には総務大臣が各社の社長に口頭でインセンティブや実質端末値引きをやめるように指導、これに従う形で2008年4月から各社「横並びで」端末をほぼ定価で販売することになった。同時に割賦販売が導入され、その後通信料金はさらにわかりにくくなる。しかも同年7月からソフトバンクがiPhone 3Gを販売開始するが、ソフトバンクとアップルの間の取り決めで端末価格は安売りされることになり、いわゆるガラケーは5万円近くするのに、最新のiPhoneは3万円前後という不可思議な状態が出現することになる。総務省はスマホの普及を予測していなかったためスマホの安売り販売を放置、その後スマホは値引き販売が常態化し再び以前の状態に逆戻りすることになる。ソフトバンクモバイルが国内販売する「iPhone 3G」の発売当日には1500人以上が行列を作った=2008年7月11日午前7時、東京・表参道(緑川真実撮影) そもそもなぜ総務省がビジネスモデルに介入したかというと、(1)通信料金に端末料金が転嫁されることで消費者にとっても料金が分かりにくくなると同時に買い換え期間によっては不公平が生じる、(2)端末安売りをするキャリアがメーカーに対して圧倒的に強い立場になり、メーカーの自主性が損なわれ、メーカーの国際競争力が落ちた、(3)国際的に見て携帯電話業界は水平分業が普通であり、日本のキャリアを中心とする垂直統合モデルは是正すべき、といった理由である。しかし、この頃世界では水平分業モデルからスマホによる垂直統合モデルへの大転換が起こり始めたときであり、皮肉にも総務省がベンチマークとしたノキアやモトローラといった通信メーカーが凋落し始めることになる。総務省およびモバイルビジネス研究会のメンバーは完全に市場を見誤ったと言える。 なぜ総務省はそんな行動をとったのか。そもそも官僚がビジネスモデルを議論できるわけがないし、モバイルビジネス研究会のメンバーも大学教授やアナリストばかりで、経営経験のある人はいない。そんないわば苦手な領域になぜ踏み込んでいったのか。 ここに総務省の焦りを強く感じる。そもそも総務省(旧郵政省)は永らく通信業界の発展を主導してきたという自負があった。固定電話の時代には電電公社ならびにNTTの一挙手一頭足をすべて把握し業界を指導してきた。変調するのは携帯電話の台頭だ。90年代に固定電話会社から分離された携帯電話事業は行政も経営者も市場が爆発するとは想像し得なかった。し得なかったが故に、行政はあまり介入しなかった。固定電話時代と同じように標準化や3Gといったネットワークに関する行政は活発だったが、データ通信やiモードのような付加価値サービスにはまったくついて行けず、総務省の主導なく業界が大きく発展する。もちろんその間いろいろな形で介入しようとしたが奏功しなかった中で、2007年になってようやく無理やりビジネスモデルに介入することになる。いわば主導権をとれなかった官僚の焦りとも見える。8年前と重なる光景…潮流見極められない総務省 今回の値下げ要請も8年前の光景と重なる。総務省は、90年代に固定から携帯という業界のパワーシフトについて行けなかったごとく、今回は全世界的なスマホへのシフトという潮流を見極められず、スマホ普及による通信業界の地殻変動を主導するどころか、後手後手に回ってしまった。その点で行政としてなすべき事を探し続けていたと思う。そこで行き着いたのが「料金値下げ」とみれば説明がつく。 が、実態は大きく異なる。今回のもっとも大きな特徴は官邸からの動きであったという点だ。通常、総理が個別業界の事に言及することは珍しい。実際、総理発言の直後は総務大臣も総務省も対応が混乱していた。当然通信業界も困惑していた。 官邸の論理はマクロ的な観点を起点としている。家計所得に占める通信料金の比率が高いこと、通信各社の利益額が大きすぎることという明らかな事実を突きつけた。これに対して目立った反論はおろか、同情の声はほとんどない。多くの国民が総理の言うことに同意しているように見えるし、産業界からも目立った官邸批判はない。これには背景がある。 一つは「イノベーション」だ。2000年代の携帯電話会社は輝いていた。日本のインターネットの発展はケータイから始まったと言っても過言ではないほど、携帯電話会社がネット界の中心に存在した。毎年のようにイノベーションが起こり、あっと驚くような機能が次々実現されていった。その当時のドコモは1兆円以上の利益を上げることもあったが、儲けすぎ批判も大きな声にならなかった。まさに現在のアップルやグーグルのように、次々にイノベーションを生み出す会社に対する値下げ要求は大勢とならない。ところがスマホ時代になり、通信事業者からの大きなイノベーションはほとんど起きなくなった。通信会社はイノベーションを生み出す会社からいろんなサービスを売る販売会社的な役割に変質していく。 もう一点は「競争」である。ソフトバンクが参入した2006年から熾烈な料金競争が行われていた。シェアの小さいソフトバンクが大攻勢を仕掛け、それを受ける形で他の通信会社が料金を引き下げる。さらにスマホシフトで通信会社間のサービスの違いがなくなると競争するポイントは料金だけになる。 しかしソフトバンクが国内市場でシェアを上げ3社のシェア差が縮まったところで、スプリント買収が起こる。スプリントを買収したソフトバンクは戦略を転換、国内の利益をなるべく確保しアメリカを主戦場とする方向へ。料金競争は納まり、付加サービスの押し売り合戦が始まる。結果、3社とも大きな利益を恒常的に出せるようになり、それを国内での再投資にあまり向けず、海外に資本投下するか、内部に貯め込むという戦略になってしまった。まさに適度な心地よい寡占市場となってしまったのだ。 大きな利益を上げていても競争が激しく、またイノベーションを起こし続けている自動車業界は非難されないように、企業として大事なことは利益の追求と社会との共存である。今回の料金値下げ騒動は、競争を忌避し、イノベーションも主導しないにも関わらず巨額の利益を上げ続ける携帯電話各社に痛烈なメッセージとなった。ここに目をつけた官邸はさすがとしかいいようがない。最も冷や汗をかいているのは監督官庁の総務省であろうが…。

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    バカ高い携帯料金をいますぐ安くする方法

    荻原博子(経済ジャーナリスト) 9月の経済財政諮問会議で、安倍首相が、携帯電話の料金が高いので見直しを通信業界に求めました。この突然の発言に、安保関連法案で下げた支持率を、個人が頻繁に使う携帯電話の料金を下げることで回復しようとしたのではないかというような指摘もありました。 政府としては、携帯電話料金を下げることで家計に余裕を持たせ、そのぶん消費を活発化させたい狙いがあるとのことですが、これで消費は活性化するのでしょうか。 給料が上がらない中で物価が上がり、増税で家計は苦しくなっています。ですから、携帯電話料金を下げたぶんは消費にはまわらず、貯蓄や借金返済に使われることでしょう。そうなると、値段を下げたぶんデフレを促進することになるので、インフレにしたい日銀の思惑に、政府が水を指すという、皮肉な結果になりそうです。 ただ、どんな思惑があるにせよ、庶民にとっては、携帯電話代が下がることはうれしいことです。 実際、デフレでモノの価格が下がり続けているのに、携帯電話の料金だけは上がり続けています。総務省によれば、固定電話の料金は、平成19年には平均3万5640円でしたが徐々に減って平成25年には平均2万9354円になっています。いっぽう、携帯電話の料金は、平成19年に平均7万3992円だったのに平成25年には平均8万3099円と年間1万円以上も増加しています。(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc255340.html) ですから、少しでも早く下げて欲しいものです。 値下げについては、年内には安くする方向性が示される可能性があります。検討されているのは、従来型の携帯に比べて料金が高いスマートフォンに、使い方によって様々な料金プランを導入すること。また、大手3社よりも安い格安スマホを普及させること。さらには、端末の価格と通信料金を分離させることで料金体系をわかりやすく、利用者が選びやすくすることなどが話し合われていくこと。 端末を買い替えた時に、2年間は解約すると高い解約料を取られる「2年縛り」なども、見直される可能性があります。今ある携帯でも、実は安くできる人が多い今ある携帯でも、実は安くできる人が多い 電話料金は、現段階でも、安くする方法がいろいろとあります。 まず、ガラケーと呼ばれる従来型の携帯電話では、様々な「おトクプラン」が出ているので、自分に合ったプランにすれば、かなり料金を下げることができます。 ただ、あまりにプランがたくさんありすぎて複雑なために、面倒なのでそのままにしているという人も多いのではないでしょうか。そういう人は、プロに見直してもらいましょう。 プロに見直してもらうといっても、費用がかかるわけではありません。加入している携帯電話会社のサービスセンターに電話し、オペーレーターに電話番号と名前を言って相談すれば、どんなプランにすれば安くなるかを教えてくれます。それも、具体的に、「○○さんの場合には、△△プランに変更すると×××円ほど安くなります」と教えてくれます。 その説明に納得したら、教えてくれたオペーレーターに、「では、そのプラン変更してください」と言えば、その場で手続きしてくれます。 スマートフォンを使っているという方は、“格安スマホ(スマートフォン)”に替えれば、料金は2分の1から3分の1になります。通常のスマホは月額6000円前後というケースが多いですが、“格安スマホ”だと2000円前後というケースが多いからです。 “格安スマホ”と聞くと、料金が安いのでつながりにくかったり使えるエリアが狭いのではないかと思いがちですが、そうではありません。なぜなら、格安スマホの会社が使っているネットワークは、NTTドコモなどの大手の通信回線を使用しているからです。こうした回線が使える仮想移動体通信事業者(MVNO)のサービスを使っているので、使えるエリアは大手と同じ。自前の設備を持たないぶん、月々の使用料が、大手スマホより安くなっているというわけです。  “格安スマホ”は、契約する容量の上限によって月額料金が違います。月にスマホで何本も映画を見るというなら別ですが、ちょっとした動画をちょくちょく見るくらいなら、月額2000円前後の契約でも充分にこと足りるでしょう。しかも、データ通信に特化したプランなら、月額500円程度でメールし放題というものも出てきています。メールし放題では、通信手段はメールしか使えないのかといえば、そんなことはありません。質は落ちるかもしれませんが、スカイプやLINEでも会話することはできます。ですから、子どもに持たせるなら、これで条文でしょう。 ちなみに、これをちょっとグレードアップさせて、月額1000円ほど支払うと、数本の映画が外出先で見られる2・1GBの契約もあります。 営業で、メールも電話もガンガンに使うという人なら、このメールし放題のスマホとガラケーの2台持ちにすれば、通話もメールもし放題で、大手スマホよりも料金は安くなります。たとえば、ドコモのガラケー「カケホーダイ」と激安スマホのメールし放題の2台も持ちなら、3000円未満で、料金を心配せずに、安心して心ゆくまで電話もメールもできます。 現状でも、通信費はかなり安くできますが、さらに、政府が音頭をとって料金を下げていくというのですから、お手並み拝見といったところでしょう。

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    日本の携帯代は高いから引き下げ検討の前にするべき行政指導

    永江一石(コンサルタント) 安保法案を通してからの安倍さんとか自民党幹部の発言がなんかおかしい。ひと言で言うと調子こいてる。福山雅治氏の結婚で菅義偉官房長官「子供産んで、国家に貢献して」 なに、このギャグにならない戦前みたいなカチンとくる言い方!! 子供は国家のために生むんじゃない。 「福山雅治様には毎年たくさんの税金をお納め頂きまして、本当にありがとうございます。お二人のお子様が幸せになる時代を築けるように、我々一同額に汗かいて頑張ります」くらいのことがなぜいえんのか。勘違いしてんじゃないのか。 近いことを安倍首相も安倍首相が指示した「携帯料金引き下げ」、総務省の検討チームが10月19日発足 高市大臣は「あくまで現段階での私案」とした上で、タスクフォースでの議論の叩き台として三つの検討事項を挙げた。(1)ライトユーザーも想定して料金の選択肢を増やす、(2)端末の値引き競争から通信料金やサービス内容を軸にした競争に転換させる、(3)MVNO(仮想移動体通信事業者)による料金低廉化や多様化を後押しして競争を促す--である。 あのですね。キャリアにたいしていいたいことは山ほどあるが、私企業の経済活動について政府が口を出すのは本当におかしいと思います。SIMロック解除を義務付けたって下がってないじゃん。本来、政府は規制緩和をしてコストを下げるように持って行くのが筋でしょう。具体的には技術基準適合証明(技適)の簡素化を最初にやるべき。 iPhone 6s Plusはグローバル版なので、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、日本、マレーシア、オーストラリア、シンガポール、韓国、メキシコ、ロシア、マレーシア、台湾、ブラジル、コロンビア、南アフリカ、UAE、コスタリカの技適が最初から付いている。ということは他の国は技適制度がない? Nexus 6はヨーロッパ、日本、インド、米国の技適がついてた。こういうグローバル版の大メーカーのは価格も高い。ちなみにXperiaは海外版のSIMフリーモデルは日本の技適を取っていません(少なくともズルトラは 注:Z2以降は取っているらしいです)。 現在の携帯電話の技適は、個人が不法に改造して出力を上げたりしないようにするためだが、そもそもいまのスマホを個人でいじって出力上げるのはほぼ不可能でしょ。中見たら分かるけどアッセンブリ形式で部品交換できないです。だったらダンプの違法無線の取り締まりをもっとやってほしい。たまにやってるけど本当に幹線道路沿いはひどい。違法出力の機器類積んでるだけで罰則になるようにすればいい。免許持ってないと買えないようにするとか。 海外からの観光客が年間2000万人を超えようとする今、そちらは技適の例外とされている。ほとんどの観光客がスマホを持ち込んで、それでトラブルが起きてないんだから、技適なんて本当にいるのかな的な。現状だと100台輸入するのに技適取得に60万円くらいかかるらしいから、100台程度輸入して合法のやり方で販売はコスト的に無理でしょう。手続きを簡略化するとか、指定国で技適が通ってる機種の並行輸入はOKにするとか、ここの規制緩和だけで機器名は安くなると思うし、政府がやることってそういうことじゃないの?本当に携帯代を安くするために一番効く方法 端末費用と通信費用を安くするだけなら、格安スマホに格安SIMいれて通話はLINEなどのメッセンジャーアプリで行えば相当に安くできます。 できないって人は要するにリテラシーが低いからなんです(または調べるのも面倒くさいか)。スマホの調子がちょっと悪ければ何も調べないで販売店に持って行くとか、自宅にWi-Fiがないからとアップデートのたびに持ち込むとか・・販売店の人件費がリテラシーの低い人たちのために使われているわけですね。 こういうフルサービスを求める人たちは、ある程度高くてもしかたないでしょう。飲食だってフルサービスを求めるなら高くなるが、ドリンクバーなら150円でいいのと同じです。回転寿司で店員さんに茶を入れてくれとかいう客はいないはずだ。自分なんて販売店には解約のときしか行ったことないし、だいたい本当に技術的なことに答えられる店員さんなんていないと思う。販売店に行かなくて自分でやれる人から見たら、このコストをどうして自分が負担するのかちょっと腑に落ちない。 通話料とか安くして、販売店のサービスを有料化するというのもあると思います。これなら公平。車だって整備点検費用は取るでしょう。なにもかも無料というのがおかしいです。 しかしながら、もう1点。政府がすぐにできることがあります。携帯代といっても、端末費用と通話料と通信コストだけが携帯代じゃないんです。いや、自分とか詳しい人はこれだけしか払ってないけど、リテラシーの低い人たちはそのほかに総額では相当のお金を払っています。こんなビジネスが許されるのか。ドコモの電子雑誌読み放題「dマガジン」の8割は利用しないのにお金を払っている休眠ユーザ 自分がSIMフリーのスマホを買って、キャリアとMNPしないのはこれも大きい。正直ウザい。昔からの商法なんだけど、どのキャリアも新規契約の時には「同時にこのサービスを契約すると初期手数料が無料ですよ」とか「このサービスを3つ契約すると値引きしますよ」とか、押しつけてくる。iPhone 5まではSoftBankで買っていたのだが、機種変更の時でさえ、このサービスとこのサービスを契約して頂かないと機種変更受けられないんですと言われた記憶がある。SoftBankとauはほとんどが代理店だからこの傾向なのかと思っていたらdocomoも同じなのか。 「サービスは月額契約だけど、明日以降すぐに解約して構わないんです」とかいうが、実際にサービスを解約するにはけっこうハードルが高い。どうやって解約するのか懇切丁寧に教えてくれるわけではないからだ。サービスセンターに電話したりするものと、アプリから解約するものがあり、たどり着くのが非常に分かりづらいものもある。ソーシャルでこの話をしたところ「年老いた母親の支払い明細を見たら使ってないサービスが山のようにあって支払いが大変なことになっていた」と言う人もいた。情報弱者は搾取される時代なのです。 確かに契約時に「1ヶ月以内に解約したらお金はかかりません」と説明はしているので違法ではない。しかし、その意味がわからないレベルの人たちも世の中には大勢いるのだ。実際クックパッドの例を見ると物凄いことが分かるクックパッドを分析してたら有料会員数に異変。利用もしないユーザを店頭アフィリエイトで大量に獲得していたのか。 クックパッドもキャリアの店頭でのインストール活動をやっていたが、削減した瞬間に純増数が激減した。いままでどれだけキャリアの店頭で勧誘していたのか的な・・・ たとえばクックパッドであれば「月額400円のコンテンツにユーザが加入すれば、1000円端末販売料金を値引きしますよ」みたいなプロモーション手法が行われているものと想定される。(この場合クックパッドは広告代理店に1会員あたり2000円くらい払うのが相場) 単純に1ヶ月で解約されるとクックパッドは大損なのだが、このモデルは退会忘れをするユーザが多く、プロモーションを仕掛ける企業からすると継続率(LTV)が高い。そのため月額料金の○○倍を支払っても採算があうのだ。 リテラシーが低い人の解約忘れを狙っての勧誘は、契約上は問題はないかもしれないが、社会通念上はあまり芳しくないと自分は思う。まずはこうした行為を禁止することで、使っていない費用をずっと支払わされている人たちのコストを下げるのが先ではないかと思う。その人たちにとってはこれだけで「携帯代が安くなる」のである。日本の携帯代は高いのか 自分はいままで、アメリカ、タイ、パラオ、インドネシア、台湾などいろんな国でその国のSIMカードを購入して使用したことがあるが、一番高いのはパラオです。なんと1GBの3Gデータ通信をするためには75US$もかかります。これは衛星回線を使うためです。アメリカでは1ヶ月2GBくらいのデータ通信使って話し放題だと80ドルくらいはするはずなので日本よりずっと高い。アジアは基本的に旅行者用のプリペイドSIMは1週間で1000円くらいでデータ通信も使えますけど、速度が・・・3Gがやっと都市圏でつながる程度でまだ2GとかGSMなんです。安くて当たり前。 2年前のだけど世界の電話料がどれくらいか分かるから読んでおいたほうがいいよ。面白いし。 もちろん日本のキャリアは儲かってるのでその分、携帯利用料金を下げて欲しいというのは分かりますドコモが4年ぶりに好転、ソフトバンクは米国事業を再建へ–携帯キャリア3社の決算を読み解く 業績回復の主因の1つは、「dマーケット」をはじめとしたスマートライフ事業の売上拡大である。実際、スマートライフ事業は営業利益が前年同期比3.6倍の230億円に達しているほか、新たに立ち上げた「dグルメ」が開始から約1カ月で28万契約を突破し、「dマガジン」に続く新しい柱へと育ちつつある。さらに、7月27日には「dアニメストア」が200万会員を突破。1人当たりの利用料も前年同期比3割増の1200円に達しており、月額制サービスの好調ぶりが、伸びを支えているといえるだろう。 しかしそれを支えているのが上記の「解約忘れを狙った押しつけ商法」であり、まずはここを規制して、使ってない場合はアラームを出すようにさせるとか、解約手続きを一元化して分かりやすくする。契約時に値引きと抱き合わせにしない、などの規制をすれば、だいぶん変わってくるものと思います。 私的には毎月のコストを下げる代わりに、サポート費用を有料化するプランを設定して欲しいです。年間サポートなしならいくら。3回までならいくらみたいな。そういう料金設定をするキャリアにMNPしてもよいです。 海外には必ずもっていくSIMカッター。いまのSIMは最初から切り目が入っていてどのサイズにも折れるのが多いが、もしものためにこれを用意しておけばどのサイズにもカットできます。ズルトラにいれていたIIJのマイクロSIMはこれでナノSIMにカットしてNexus 6に入れました。(ブログ「More Access! More Fun!」より2015年9月30日分を転載)

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    「モバイルによる我が国創生」格安SIMは本命ではない

    川手恭輔(コンセプトデザイン・サイエンティスト) 総務省は、昨年の10月31日に「モバイル創生プラン」を公表した。次の3点を挙げて、モバイルが「我が国創生の切り札の一つ」だとした。 (1)現在、スマートフォンなど携帯電話は国民生活に必要不可欠なサービスとなるまでに普及。 (2)今後、スマートフォンのみならず、ウェアラブル端末、M2M、IoTなど、モバイルは経済社会活動全体に広く浸透。 (3)そのため、もっと自由に、もっと身近で、もっと速く、もっと便利に、モバイルを利用できる環境整備が重要。 市場支配的事業者への規制の一部緩和による多様な業種とのコラボレーション、新事業の創出のための環境整備が必要だとし、可能なものからスピード感を持って実行して「国民負担(通信費)軽減」と「モバイルによる我が国創生」とを目指すという。「モバイルによる我が国創生」とは、②に書かれているように、モノのインターネット(IoT)によって、これまでになかった価値を人々に提供する産業を創出することを意味している。 しかし、これまでのモバイル通信サービスは、携帯電話やスマートフォンを使って、動画や音楽やゲームなどのデータ量が非常に大きいコンテンツを利用したり、人と人とが頻繁にコミュニケーションすることを前提にして、内容(プラン)とその価格が決められてきた。通信するデータ量が小さく、そのスピードも遅くて構わない場合が多いモノのインターネットに、それを適用することには無理がある。 日本では、このモノのインターネットのためのモバイル通信サービスへの対応が遅れている。このままでは、グローバルなスマホエコノミーで存在感を失ってしまった日本の製造業が、ここでも大きく遅れをとってしまう。携帯電話料金の値下げに向けた政府の動き携帯電話料金の値下げに向けた政府の動き 今年9月の経済財政諮問会議における携帯電話の料金に関する安倍首相の発言を受けて、利用者の負担を減らす方策を話し合うための、大学教授ら有識者による総務省主催の最初の会議が10月19日に、そして「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」という名称になって26日に第2回目が開催された。 菅義偉官房長官が「大手3社が似たような料金設定をしているのは、国民から見ても問題だ」(産経ニュースhttp://www.sankei.com/politics/news/151019/plt1510190010-n1.html)という記者会見でコメントした。この認識にたち、携帯キャリアのネットワークを借りて格安SIMを提供する。 MVNO(仮想移動通信事業者)の自由度を拡大するなどして、市場競争を活性化させることが狙いのようだ。そこでは「加入者管理機能のアンバンドル」という課題が議論されることになるだろう。 「加入者管理機能のアンバンドル」とは、SIMの発行機能と、HLR/HSSという、携帯電話番号、端末の所在地、契約状況といった顧客情報を管理するデータベースとの2つを、MVNOに開放することを指している。現在、携帯キャリアがこの部分を開放していないため、MVNOは携帯キャリアのシステムに頼らざるを得ないところがある。MVNOがHLR/HSSを運用可能になると、MVNOが独自のSIMを発行して複数の携帯キャリアのネットワークを利用したり、独自の音声通話割引サービスを提供したりすることなどの自由度が拡大する。 今年の5月29日に、安倍首相を議長とする「第6回産業競争力会議課題別会合」が首相官邸で開催された。そこでの「AI・ビッグデータによる産業・就業構造の変革について」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai6/gijiyoushi.pdf)という議題に関連して、楽天の三木谷浩史会長兼社長が次のような意見を述べた。 〈SIMを開放すると、参入がどんどん進み通信料金が安くなる。それに加えて、単に携帯電話だけではなくて全ての機器がSIMを持つことになっていくと思うが、そのときにSIMの発行を多くの業者ができるようになっていないと、柔軟でクリエイティブなサービスの提供ができないということになる。日本がIT分野、AIやIoTで勝つためには、SIMをいかに開放していくかということがポイントになる〉(〈〉内引用、以下同) 〈これまでにパソコン、携帯電話、 今後は自動車、家電へと、どんどんとグーグルのOSが入って、徐々に支配権をとられていく中で、日本は、最も開放された通信環境ネットワークを提供することでイノベーティブなサービスを生み出す環境を作っていく必要があると思う〉開放に向けて一歩リードするフランス開放に向けて一歩リードするフランス 三木谷社長が示した資料(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai6/siryou7-1.pdf)によると、フランスでは加入者管理機能を得たMVNOの参入によって、参入前は年率2.9~7.2%の低下であった携帯電話大手4社の平均客単価が、参入後は11.7~12.7%低下するようになったという。すでに日本でもMVNOである日本通信が、2011年と 2014年にNTTドコモに対して、2015年にはソフトバンクに対して、自社のHLR/HSSとの相互接続を申し入れているが進展はないようだ。三木谷社長は、アンバンドルの促進には行政の関与が重要だと述べた。 NTTドコモでMVNOとの折衝を行う企画調整室 室長 脇本祐史氏は、昨年12月のITmediaのインタビュー(http://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1412/22/news043.html)で次のように話している。 〈HLR/HSSを開放してほしいという話がありますが、日本において本当に必要なのかは疑問もあります。欧州だと、異なるキャリアを結んでいくという考えがありますが、それはカバーエリアや速度が大きく違うからで、キャリアをチェンジするためにMVNO側がHLR/HSSを持つという話があります〉 〈一方で、日本の場合は大手3社のエリアカバー率はほぼ同じなので、そこを交代するためのHLR/HSSはあまり必要ではありません。中には、独自のSIMカードを発行するためとおっしゃる方もいますが、それは本当にHLR/HSSを持たないとダメなのか。やりたいことがもっと明確にならないと、HLR/HSSを出す、出さないが決められません〉 携帯キャリアにとってみれば、フランスのように平均客単価の急速な下落を招くような事態はさけたいのは当然だ。開発負担や投資リスクを負わずに、MVNOが携帯キャリアと同等のサービス展開ができることは不公平だと主張している。MVNOの加入者を把握できなくなることによって、予期せぬトラフィック増加に対応しきれずに全体の品質劣化を招いたり、緊急時の重要通信の確保や電話番号の効率的な運用が困難になるなどの意見にも一理あるだろう。 しかし、携帯キャリアが最も恐れていることは、MVNOに加入者管理機能を開放することによって、自社のネットワークがダムパイプ(土管)化してしまうことだ。MVNO事業を始めたグーグルなどの海外巨大プレイヤーの参入が格段と容易となることによって、携帯キャリアの収益が圧迫されることが目に見えている。モノのインターネットの通信は金にならないモノのインターネットの通信は金にならない MVNOがNTTドコモに支払う、Xi(LTE)サービスの2014年度の接続料(レイヤー2)は、10Mbpsという帯域について月額94万5059円だ。それを超えると、1.0Mbpsごとに9万4505円増加する。この料金は、総務省のガイドラインに従って毎年見直されており、2008年度は10Mbpsで月額1267万円だったので、6年で92.5%もの値下げが行われたことになる。もちろん、スマホ向けの格安SIMを提供するMVNOにとっては、10Mbpsという帯域ではビジネスにならない。その数倍、数十倍の帯域を調達して、多くの顧客を獲得しなければならない。 それに対しIoT端末は、通信するデータ量が小さく、そのスピードも遅くて構わないケースが多い。また、通信の時間をうまく分散できれば、それほどの帯域は必要ない。 例えば、128kbpsの低速で、1回の通信で50文字(半角)のテキストデータ、例えばGPSによる位置情報などをクラウドに送信するIoT端末を考えてみる。単純に10Mbpsを128kbpsで割れば、同時に78台のIoT端末が128kbpsで接続可能だ。128kbpsで50文字(400ビット)を送信する時間は1/320秒なので、1秒を320台で分割すれば合計25000台のIoT端末が通信することができる。さらに乱暴な計算を続けると、それぞれの端末が1分間に1回の頻度で通信する必要があるケースであれば、10Mbpsの帯域で150万台のIoT端末に通信サービスが提供できることになる。 MVNOは携帯キャリアから通信を帯域という単位で調達するが、SIMのエンドユーザーには、例えば「月に5Gバイトまでの通信ができるサービスが2000円」というようにデータ量で販売する。5Gバイトを超えると通信ができなくなるのではなく速度が非常に遅くなる。しかし、MVNOがどのくらいの帯域を調達して、どれだけのSIMを販売しているかは明らかになっていないので、5Gバイトまでの高速データ通信が保障されている訳ではない。効率よく帯域を使って、価格と品質のバランスをとることがMVNOの格安SIMビジネスのポイントになる。そこに価格以外の付加価値は見えない。 上のような(乱暴な計算の)例の場合、100万円程度で調達した通信を150万台のIoT端末向けに販売するならば、その調達価格は1台あたり月額1円にも満たない。MVNO事業には通信交換機や課金・認証などの初期投資だけでも数億円かかる設備を保有し、さらに運用や保守も自社で行う必要がある。これまでのMVNOの形態では、モノのインターネットのためのモバイル通信サービスを提供することは難しい。アップルの独自SIMの脅威アップルの独自SIMの脅威米国アップル社のApple SIMのページより 昨年10月にアップルがApple SIMが付属したiPadを米国で発売した。ユーザーは購入後に、メニューから通信キャリアとデータプランを選ぶことができる。またAT&Tを選択したとき以外は、後で他の通信キャリアへの変更ができる。例えば、通常はSprintのデータプランを利用し、海外に出かけるときにはローミングサービスのGigSkyを追加して、その短期型のデータプランを購入することができる。 SIMカードには、あらかじめ一つの携帯キャリアを利用するための、電話番号やIMSIという識別番号などの通信プロファイルが書き込まれている。このプロファイルを後から書き換えることができる、エンベデッドSIM(eSIM)と呼ばれる技術が携帯電話の業界団体で検討されてきた。これは主にSIMカードをあらかじめ組み込んでおく必要のあるIoT端末での利用を想定したものだ。 小型化や部品点数の削減、そして防水性や耐久性のために、IoT端末には、スマートフォンのようなSIMカード用のスロット(差し込み口)を省いてSIM機能を組み込みたい。 しかし、通信プロファイルが書き込まれたSIMカードを、利用者や仕向地ごとに複数の携帯キャリアから仕入れて製品に組み込んでいたのでは、生産の効率が非常に悪くなる。eSIMは、製品に組み込まれたSIMカードに登録されている通信プロファイルを、無線通信によって遠隔で書き換えて、携帯キャリアを変更することができるようになっている。 SIMカードの通信プロファイルを遠隔で書き換えるには、サブスクリプション・マネージャー(SM)と呼ばれるシステムが必要になる。SMは、複数の携帯キャリアの通信プロファイルを管理し、指定された通信キャリアの通信プロファイルを無線通信によってSIMカードにダウンロードし、その通信プロファイルを有効にする。通信プロファイルを遠隔で書き換えるためには、無線でSMと接続する必要があるので、eSIMには少なくとも一つの通信キャリアのプロファイルが書き込まれている必要がある。 Apple SIMの技術や仕組みについては明らかにされておらず、アップルはこの分野で独自のしくみの特許をいくつか申請しているので断定することはできないが、Apple SIMがeSIMと同様のものだとすると、最初に接続する通信キャリアのSMを利用しているのか、アップルがSMを持っているのかが気になるところだ。もし後者であるとすると、通信プロファイルを作成するための情報を携帯キャリアがアップルに提供していることになるが、現時点で携帯キャリアがそこまで妥協しているとは考えにくい。AT&Tだけを特別扱いしていることから、AT&Tから提供されたeSIMを使い、AT&TのSMに接続しているのかもしれない。 アップルがこの領域にさらに踏み込もうとしているのは明らかだ。グーグルのProject FiというMVNO事業も(日本のMVNOの定義とは異なると思われるが)、すでにスプリントとT-モバイルの2つの携帯キャリアの回線を切り替える仕組みを持っている。携帯キャリアの恐れるネットワークのダムパイプ(土管)化は、すでにじわじわと始まっている。モノのインターネットのためのMVNOが必要だモノのインターネットのためのMVNOが必要だ モノのインターネットは、M2Mと呼ばれる分野が先行している。M2Mとは「Machine to Machine」の略で、モノとモノがネットワークに繋がり、人を介さずに情報交換を行い、自動的に制御を行う仕組みを指している。これはテレメタリング(このネットワークはインターネットに限定されない)と呼ばれ、物流やエネルギー、リモート監視・計測などの産業分野ですでに実用化されている概念と同じだが、特に無線通信やクラウドなどのインフラの発達によって、そのユースケースが拡大し、IoT/M2Mなどと表現されるようになった。 今後は、そのユースケースがさらに拡大し、一般消費者が購入するスマートフォン以外の製品(モノ)もインターネットにつながり、クラウド上のサービスと連携することによって、人々に新しい価値を提供するようになるだろう。しかし、そのためのモバイル通信サービスはまだない。それは技術的な障害があるからではない。 携帯キャリアがMVNOに提供する回線には、データ通信と音声通話の2つの系統があり、それぞれ加入者管理機能の意味合いが違う。加入者管理機能のアンバンドルを訴えるMVNOは、モノのインターネットの推進にも必要だとしているが、アンバンドルによってモノのインターネットがどうなるのかについては説明されていない。金にならないモノのインターネットの通信については、あまり本気ではなく、スマートフォン向けの格安SIM事業のことしか考えていないように思える。 高い技術力を持った日本の製造業が、スマホエコノミーにおいては、一般消費者向けの最終製品ではなく、その部品を供給するという立場に甘んじている。モノのインターネットの時代に、人々に新しい価値を提供するモノ(製品)をつくるために、「モバイル創生プラン」で示された「もっと自由に、もっと身近で、もっと速く、もっと便利に、モバイルを利用できる環境整備」が急務ではないか。かわて・きょうすけ コンセプトデザイン・サイエンティスト。1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

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    東芝「不適切会計」の情と理 国益のため配慮せずに襟を正せ

     もはや本件東芝での騒ぎは改めて状況解説するまでもないほど有名になってしまったが、今年4月に発覚した「不適切会計」から4ヶ月遅れての決算発表、過去の決算修正を経て室町正志会長の新社長就任という流れで一件落着したように見える。 新聞やビジネス誌もこの大口不正の極みともいえる東芝の不正について、人事の機微から組織の論理まで、あらゆる角度からメスを入れ、またオリンパス、日興証券からライブドア事件にいたる各種類例との比較に余念がない。 東芝という企業体自体が持つ奇異さというのは、1987年の東芝機械ココム違反事件に遡る。日本ではもちろん著名な名門企業である一方、海外では原子力発電の類のビッグプラントビジネスの一角であるにもかかわらず安全保障の世界での評判が地に堕ちている理由は「TOSHIBA」というブランドが冷戦時代からの大口のやらかしの歴史と不幸な紐付けをもたれてきたことによる。 30年の時を経てなお東芝という組織が何をやる存在なのか分からないとまで言うつもりはない。ただ、当時の通産省から冷戦の象徴でもあったココム(対共産圏輸出調整委員会)のタラリゴ議長の逸話まで振り返ると、東芝に限らず組織の安定が慣性(惰性とも言う)を強く持つ社風がそのまま昭和の面影を掲げて現代にタイムスリップしているようにも感じる。社業を発展させた功労者に対する配慮から当局に対する過剰な迎合にいたるまで、今回の不適切会計と構造があまりにも一緒なのだ。 東芝も、過去にずっと申し送りされてきた決算作業を続けてきただけであるから、誰に責任があるかどころか、それが問題となって修正に追い込まれ歴代トップの責任追及の具になってしまうなど考えたこともなかっただろう。実際、事件化した当初は、すでに新聞各紙が配慮しながらも不適切な決算処理についての報道が始まっているにもかかわらず、東芝の面々の当事者意識はとても薄いものであった。「それが問題である」という認識が乏しいのだから仕方ないのだが、刑事事件に発展し逮捕者まで出したオリンパス事件と比べて東芝が第三者委員会で「監査法人への隠蔽の意図を認定している」ことが明るみに出てもなおチャレンジの名の下に繰り返し事実上の粉飾を実施していた咎はどう判断されるべきなのか。 海外に目を向けると、文字通り粉飾決算の塊であったエンロン事件と比べても、仕組みの巧拙や規模の大小はともあれ簿外債務の隠蔽や架空売上の付け替えを実施し、監査法人の目をどうかいくぐるか組織ぐるみで不適切会計を行ってきたという点では等しい。本来であれば、東芝は厳しい市場からの再定義や総括を経て刑事事件化や解体に向かうことも可能性としては少なからずあった。2015年3月期決算に関する記者会見を行う東芝の室町正志会長兼社長=2015年9月7日午後、東京都港区 表向きは、決算修正とトップの刷新をもって東芝事件の幕引きがされてしまっている以上、さらに論難するのも野暮とは思う。一方で、そういう不祥事を弁えず、しかるべき公正な議論を経て正面から事件を捉え、一定の処置を粛々と断行することができなかったというのは、本来襟を正すべき当局の配慮によるものなのか、あるいは敗北だと表現されるものなのか微妙な線だとも言える。本来であれば、不適切会計などと言いよどみ、この問題を起こした名門企業のブランドに配慮をするよりは、粉飾であるときちんと指摘し、第三者委員会でも認定された隠蔽の意図の存在を前面に出して、厳正な対処を日本社会全体の問題として実施することのほうが望ましい処置であったようにも思う。仮にも、日本が規制緩和や構造改革を行い、事前の行政による統制から事後の法的救済を拡充していくという世界的なスタンダードに沿った改革をしていくのであれば、返り血を浴びようとも市場関係者や国民がある程度納得しうる公平な処分を行ってしかるべきだと考えるからである。 ライブドアやオリンパスが刑事事件化する一方、日興証券や今回の東芝がメディアぐるみで腫れ物扱いとなり温存されるというのは、もちろん組織に従事している社員や株主にとってみれば救済なのかもしれないが、ある種の法の下の平等からすると日本の市場が当局やメディアによる配慮によって歪められる危険性もまた存在する。その結果として、市場の透明性は損なわれ、世界的な市場間競争からさらに日本の市場は劣化していると判断されて、最終的に国民の損害となって国益を損なうことになるのだ。 東芝の粉飾額2,248億円は、規模で見てもオリンパス事件の二倍であるだけでなく、その処理において厳正な処置が行われなかったことは、今後の大きな課題となるだろう。それは、東芝単体の問題というよりも今後同様の問題が起きたときに東芝側のように配慮をされる組織なのか、オリンパス側のように海外メディアからも袋叩きに遭って摘発まで至るものなのかの分かれ道が、市場関係者だけでなく国民の間でも視認できてしまうようになるわけだ。 「大きければ救われるのか」といわれる事件は日本にも海外にもたくさんある。大きい組織には存続する理由があり、失われたときの社会全体へのダメージもまた大きいからだ。しかし、西武グループやダイエーのように、本格的に衰退の局面に入り抵抗力が弱まったところで摘発され解体ショーが行われるというのは現代におけるパンとサーカスに等しい。実力も存在感もある組織だからこそ、しかるべきコンプライアンスを果たさなかったとききちんとした処罰が行われなければ同じような事件は次々と起きるだろう。 問題を温存して徐々に解決したほうが、きちんと告発して襟を正すよりもコストが安いと考える仕組みだけは作ってはならないのではないだろうか。

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    VWディーゼル排ガス問題 マツダの「不正ない」公式声明を検証する

    池田直渡(モータージャーナル)2015年2月、マツダはディーゼル専用車「CX-3」を発売開始。「SKYACTIV-D1.5」を搭載している(ロイター/アフロ) マツダは9月29日、「マツダの排出ガス規制への適合対応について」というステートメントを発表し、ディーゼルエンジンについての不正がないことを宣言した。 今回のフォルクスワーゲンのディーゼルエンジン不正プログラム事件に際し、日本のユーザーがもっとも不安に思っていたのは、乗用車として国内で最も大きなシェアを持つマツダのディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」は大丈夫なのかという事だろう。ユーザーにしてみれば、不安を感じるのは当然だ。 今回はそのマツダのシステムについて検証してみたいと思う。【写真】「排ガス対策・静か・高回転」 常識を覆したマツダのディーゼルフォルクスワーゲンの不正とは? まずはフォルクスワーゲンの問題のおさらいからだ。フォルクスワーゲンは昨年までの欧州の排ガス規制「ユーロ5」に準拠してつくられていたディーゼルエンジン車を、ユーロ5より遥かに厳しい北米の規制「Tier2 Bin5」に適合させるため、テスト時のみ稼働するプログラムを用いて不正にパスしていた。これは確定事項だ。VW排ガス不正問題ではウィンターコルンCEOが引責辞任。ドイツ当局が刑事捜査を始める事態にまで発展した(2015年4月資料写真) (ロイター/アフロ) またドイツのドブリント運輸相が明らかにした所によれば、ドイツ国内でも、同社の1.6リッターと2.0リッターのディーゼルエンジンを搭載する約280万台が同様の不正プログラムを搭載していたという。これについてはワーゲンがすでに認めている。 前述の様にユーロ5はNOx(窒素酸化物)に対してそれほど厳しい規制ではないので、ユーロ5適合エンジンに不正プログラムを使う必要があったとは考えにくい。現時点で、筆者は「ユーロ6」準拠の新しいエンジンをリリースする際、厳しくなった規制をクリアさせるためにTier2 Bin5の時と同じ手口で不正プログラムを使ったのではないかと考えている。 ドイツで行われた不正のメカニズムと対象エンジンについては、依然詳細が発表されていない。だが、同社のドイツ国内の販売台数は年間約120万台程度。さらにEU全体のディーゼル比率は約半分と言われている点から見ると、280万台という台数はおおよそ5年分に相当する。もちろんこの数値は概算である上、この中で特定エンジンだけが不正をしていたならば計算は違ってくる。 フォルクスワーゲンは2009年から、ディーゼルエンジンを旧世代のユーロ5準拠のEA189型からユーロ6準拠の新世代EA288型に移行しており、台数で見ると上記の計算方法で推定されるEA288型のボリュームはドブリント運輸相がアナウンスした280万台とおおよそ合致するのである。 さて、この不正プログラムが何をやっていたかと言えば、おそらく、燃料噴射量とタイミングの操作、EGR(排気ガス再循環)量の操作、NOx吸蔵触媒の予熱の組み合わせだろう。ソフトウエアだけでNOxを減らそうとすればできる事はそれしかない。 では、なぜその制御を通常運転時にやらなかったかと言えば、以下の問題が発生するからだ。出力の低下。CO2の増加。NOx吸蔵触媒の早期劣化。出力の低下はドライバビリティを低下させる。CO2の増加はユーザーの課税額に直結する(ゆえにEUでは燃費と同等にこのCO2排出量は売れ行きを左右する)。またNOx吸蔵触媒の劣化は加熱回数に依存するので、寿命が短くなりランニングコストを増大させる。 これが現時点で考えられるフォルクスワーゲンのディーゼル不正のあらましだ。「後処理」ではなく燃焼時にNOxを減らすマツダのクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」。後処理ではなく、燃焼段階でNOx低減を目指した ようやく本題のマツダSKYACTIV-Dの検証に入る。SKYACTIV-Dは非常に変わったコンセプトのディーゼルエンジンである。ディーゼルの排ガスを考える時、基本になるのはNOxとPM(粒状物質)だ。ややこしいことにこのNOxとPMはトレードオフの関係にある。 NOxが減る条件は以下の3点になる。(1)圧縮比を下げる(2)ゆっくり燃焼させる(3)低温で燃焼させる NOxとPMはトレードオフなのでこの場合、PMが増える。しかし燃焼後排出されたガスを後処理で浄化しようとする時、PMはフィルターで濾しとることが比較的簡単なため処理がしやすいのだ。だからマツダは燃焼時のNOx低減に目標を絞って、NOxを元から退治するためのシステムを構築したのである。 それは別の側面から見れば、高価なプラチナを使うNOx吸蔵触媒やユーザーが尿素水を補給する手間をかけなくてはならない尿素SCR装置を使わないことで、コストと保守労力の低減を図ることにも繋がる。 そのために、マツダはエンジンの圧縮比をディーゼルエンジンの常識を破るほど低くし、EGRによって不活性ガスである排気ガスを吸気に混ぜて燃焼温度を下げた。圧縮比を下げたためパワーは落ちるが、同時にエンジン各部の強度も従来ほど必要なくなったため、エンジンのアルミブロック化や部品の軽量化が可能になり、全体として軽量なエンジンに仕上げることもできた。エンジンのパワーダウンには目をつぶる 圧縮比に焦点を絞れば、エンジンパワーを諦められないフォルクスワーゲンと、ある程度パワーに目をつぶってもNOxの根源的退治を狙ったマツダという構図になる。これはエンジン設計思想の違いである。もちろんフォルクスワーゲンが触媒などの後処理装置でNOxをきちんと処理できれば、それは単なる思想の違いに過ぎなかったのだが、少なくとも結果を見る限りそうはならなかった。 さて、世界中の排ガス規制のどれであれ、不正な手段でパスしようと思えばできないことではない。仮にマツダが、燃焼そのものでNOxを処理し切れず、違法ソフトを使って不正な結果を出そうとした時、何ができるだろうか? 燃焼速度を遅くしようと思えば、EGR量を増やすか噴射タイミングを遅くすればいい。燃焼温度を下げようと思えばEGR量を増やせばいい。パワーダウンを受け入れればできないことはないが、そこで不正をするくらいなら圧縮比を下げてパワーで不利な設計をしている意味がない。もう一つ燃料を濃くすれば燃焼温度は下がるが燃費が悪化し、PMが大変なことになる。 要するに、後処理装置を持たないマツダのディーゼルエンジンでは、NOx吸蔵触媒の加温と尿素SCRの噴射量を増やすという最も簡単で効果がある方法が使えない。構造上、不正がしにくいシステムなのだ。北米で発売を延期した「SKYACTIV-D」 さて、ここで一度話が変わる。マツダはSKYACTIV-Dを北米で売っていない。これについては北米マツダからステートメントがでているので翻訳した全文を掲載する。2014年1月にマツダが出したステートメント。北米への「SKYACTIV-D」導入の延期について説明している“マツダ、SKYACTIV-Dクリーンディーゼルの北米導入を延期カリフォルニア州アーバイン発 (2014年1月8日) ―マツダ・ノースアメリカンオペレーションズ(Mazda North American Operations)は、2014年春に北米へ投入すると発表していたSKYACTIV-D(スカイアクティブ-D)クリーンディーゼルエンジンの導入タイミングについて、さらに延期することを本日発表した。NOx後処理技術なしで排ガス規制適合の見通しは得られているが、マツダらしい走りの性能や燃費を両立するためには、更なる開発が必要と判断したためである。北米導入の時期、技術スペック、燃費等の詳細情報は今後導入が近づいた時期に発表する。カリフォルニア州アーバインに本社を置くマツダ・ノースアメリカンオペレーションズは約700の販社を通じて、米国およびメキシコでマツダブランド車両の販売、マーケティング、部品及びカスタマーサービスの提供をサポート。メキシコでのオペレーションはメキシコシティにある マツダモトールデメヒコがサポートしている。” つまり、十分なパワー&燃費とNOx基準のクリアが両立できていないので発売を見送ると言っている。不正をする気があれば何も発売を延期する必要はないと思われる。 ちなみに、この事件が発覚して以降、Tier2 Bin5の規制について、あちこちで絶対数値のみが取り上げられているが、Tier2 Bin5の本当の厳しさはその数値ではなく、むしろエンジンの運転状況をより厳しくした場合の排ガス数値を求められる点だ。例えば、エンジンが冷えている状態からの急加速などは、NOxをコントロールするのが難しいし、新車時だけでなくクルマのライフタイムでの環境対策を図るため12万マイル(約20万キロ)走行後の数値で測定される。ユーロ5はそういう運転モードが緩かったのである。 「NOxについて後処理なし規制適合をさせる見通しは立っているが、走りの性能や燃費を犠牲にし過ぎないためには、更なる開発が必要だ」というマツダのステートメントからは、世界で最も圧縮比の低いディーゼルエンジンというアプローチによって、パワーを我慢してNOxを制御したエンジンを、さらにパワーダウンさせるわけにはいかないという苦しさが見えてくる。 筆者はプログラムを解析したわけでもないし、その能力もない。ただ、こうした設計思想の違いや、北米での発売延期という事実をつなぎ合わせる限り、マツダのディーゼルに不正ソフトが使われているとは考えにくいと思っている。

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    ガバナンスだけでは防げない 「権力闘争」が企業を滅ぼす

    安倍宏行(Japan In-depth 編集長) コーポレートガバナンスの徹底、と簡単に言うが、それができるなら誰も苦労はしない。だからこそのコーポレートガバナンスなのだが、何故か、その重要性を十分わかっているだろうに、とんでもない不祥事を引き起こしてしまう企業が後を絶たない。これは一体なぜなのか?実力以上の“無理”な背伸び オリンパス損失隠し事件、東芝不正会計事件、そして今回のフォルクスワーゲン(VW)不正ソフト事件だ。どれも常識では考えられない不正が平然と行われていたことに愕然とする。何故、それを止められなかったのか。そもそもコーポレートガバナンスを効かせていれば止められるものなのか? 企業の暴走の原因を考えていた私の頭の中にまず浮かんだのは、過大な経営目標の設定、もしくは部下への目標達成の過剰な圧力だった。東芝のケースを見てみよう。東芝の西田厚聡氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏の歴代3社長は、2008年から「チャレンジ」と称して過剰な業績改善を各事業部門に要求した。この数値目標は、必達が義務付けられた至上命題であり、各事業部門に重くのしかかった。この過大な目標こそ、各部門が不正経理に手を染める引き金となった。 もしコーポレートガバナンスが効いていれば、このような不正経理は行われなかっただろうか。東芝はいち早く「委員会設置会社」に移行し、企業統治の優等生とみられていた。監査委員会のメンバーは、久保誠(委員長)、島岡聖也、島内憲(社外)、斎藤聖美(社外)、谷野作太郎(社外)の5人で、社外取締役3名に対して、専任の監査委員会室スタッフがサポートしていた。しかし、そもそも委員長が内部の人間である。経営トップの指示で不適切な会計処理がなされたとして、それを知りながら委員長が通した監査報告書に社外の委員が異を唱えることは極めて難しい。つまり、監査システムが正常に機能していなかったことになる。  こうして不正経理はまかり通った。社長の指示が引き金になったことは明白であり、その裏には、なんとしてでも利益を出したい、という“無理”な目標があった。企業のトップが実力以上に背伸びをし、過大な経営目標を設定することに、不正の根があるのではないだろうか。ドイツ北部ウォルフスブルクにあるフォルクスワーゲンの本社=2015年9月23日(ゲッティ=共同) 一方、VW問題はどうだろう? 2010年、VWのCEO兼取締役会長ウィンターコルン氏は、2018年までに販売台数を1千万台に引き上げ、世界一になる目標を掲げた。この数字が曲者だった。VWが1980年代にアメリカ市場から撤退している。その隙にライバルトヨタ自動車は北米市場での販売を伸ばし、遂に2008年はGMを抜いて世界トップに立った。 そのトヨタはHV(ハイブリッド)車で先行、エコカー分野で他の追随を許さなかった。そこでVWが頼ったのがディーゼルエンジン車だった。かつてのディーゼルエンジンは技術革新により、排ガスをクリーン化することに成功、振動も抑えられ、全く別物と言っていいくらい生まれ変わった。このクリーンディーゼルは、もともとの特徴である低速域での高トルクによるきびきびした走りと、ガソリンより安い軽油を燃料とするエコノミーさを前面に打ち出し、トヨタを蹴散すための戦略車と位置付けられた。ここにもトップの実力以上の目標設定があった。 しかし、クリーンディーゼルでも厳しいアメリカの排ガス基準をクリアすることは出来ないとわかっていた。そこで、あたかも基準をクリアしているかに見せかけるため、テストの時だけ作動する“不正ソフト”の採用に手を染めたのだ。すべてはアメリカでトヨタに勝つためだったといえよう。屋台骨を揺るがした社内抗争 一方で、経営者の過大な目標設定が企業の不正行為の引き金になるわけではないとの見方もある。経営者なのだから目標設定は会社の実力より上に設定するのが当たり前だとする考え方だ。確かに、企業として右肩上がりの成長を目指すのは当然であり、損失は最小限に、利益は最大化しようとするのは経営者の義務であろう。だからといって、すべての企業がその目標達成のために不正に手を染めるかといったらそうではないだろう。では、一体何が不正の引き金になったのか、という疑問が湧く。 その問いの答えは、ずばり「権力闘争」ではないだろうか。東芝のケースでは、社長経験者である西田厚聡氏と佐々木則夫氏の対立があった。2013年2月の社長交代記者会見でそれは顕在化した。お互いの確執から、各事業部門に無理な業績改善を要求するようになった可能性が高い。佐々木氏を後継に選んだ西田氏だったが、その後西田氏は佐々木氏の経営手腕を批判する側に回った。西田氏の批判を跳ね返すために、佐々木氏は是が非でも実績を上げ続けねばならなかったと思われる。そうした社内の対立や確執が、不正会計に拍車をかけた側面は否定できない。 VWも同様な見方が出来る。20年以上にわたって君臨してきた最高実力者、フェルディナント・ピエヒ監査役会長(VWの基礎を築いたフェルディナント・ポルシェ氏の孫。1993年~2002年会長、2015年4月辞任した)、とマルティン・ビンターコルン取締役会長との確執はつとに有名だ。 ピエヒ氏はアメリカにおける販売不振を批判していたといい、続投を目指していたビンターコルン社長にとっては目の上のタンコブだっただろう。彼を追い落とすためには北米市場における業績を盤石なものにしておかねばならない。そうした社内抗争の果てに、クリーンディーゼルに過度に依存していったと思われる。 筆者がかつて勤務していた日産自動車にも「権力闘争」の歴史がある。1970年代後半の、塩路一郎自動車総連会長(1972年就任)と石原俊社長(1977年就任)の確執がそれだ。日産中興の祖、川又克二会長(当時)と蜜月関係にあった塩路氏は権勢を誇り、経営に過度に関与、役員人事にまで口を出していたといわれている。石原氏はこれに反発、海外事業の積極展開に乗り出した。英国工場の建設は先見の明があったというべきだが、スペインの自動車メーカー、モトールイベリカの買収など、矢継ぎ早に海外展開を進め、後々経営上大きな負担となっていく。 当時の日産はライバルトヨタの後塵を拝しており、海外に活路を求めたともいえるが、労働組合のドン、塩路氏との確執がそれに拍車をかけたと思われる。急激な海外事業展開による財務負担だけが、日産の当時の経営不振の原因ではないが、その一因になったことは間違いない。ここにも社内の「権力闘争」が経営の屋台骨を揺るがした一例を見ることが出来る。暴走した経営者を止める手立てはない コーポレートガバナンスの徹底、と言うのはたやすいが、いざ社内の権力者の間で闘争が始まった時、ガバナンスは全く効かない例を見てきた。どんな企業統治の仕組みもオールマイティではない。結局、経営は人が行うものであり、その人が一度暴走すれば、それを止める手立てはない。適度なライバル関係なら経営のスパイスにもなろうが、過度な確執から来る「権力闘争」が、結果として企業を破滅に導く例をこれからも私たちは目にするだろう。 幾らコーポレートガバナンスを叫んでも、組織や規則だけで経営陣の暴走を防ぐことは出来ない。結局は経営者の資質次第であり、自らの判断を絶えずチェックしてくれる社外取締役の存在などが必要なのだろう。しかし、口に苦い良薬を自ら飲む経営者がどれだけいるかと考えるとそれもまた簡単なことではないような気がするのだ。

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    企業統治の“優等生”東芝はなぜ機能不全に陥ったのか

    片山修(経済ジャーナリスト)入っていなかった魂 近年、大企業の不祥事はあとを絶たない。2011年の大王製紙の巨額不正借り入れ、オリンパスの粉飾決算、13年のJR北海道のレール検査データ改竄などに加え、今年に入って判明した東洋ゴム工業の免震偽装、東芝の不適切会計、独フォルクスワーゲンの燃費規制逃れなどは、記憶に新しい。 とりわけ東芝は、08年4月から14年12月にかけて計1562億円の利益過大計上が明らかになった。減損処理を含めた過年度利益の減額修正は、2248億円にのぼった。これを受けて、歴代三社長、取締役、常務執行役ら10人が辞任に追い込まれた。 東芝は、9月の臨時株主総会を経て、社長を室町正志氏、取締役11人のうち7人を社外取締役とする新体制が発足した。これをもって、問題は一応の決着を見た形だが、この事件は、日本企業のガバナンス体制の不備を改めて浮き彫りにした。 東芝は、98年、日本企業では早期に執行役員制度を導入したほか、99年社内カンパニー制導入、00年指名委員会、報酬委員会設置、01年社外取締役3人体制に移行など、日本の企業統治改革をリードしてきた。これまで、いわばコーポレート・ガバナンス体制の“優等生”だった。 ところが、その東芝で問題が発生した。東芝の定時株主総会の会場に向かう株主=2015年9月25日、東京都墨田区の両国国技館 5月に設置された第三者委員会は、調査報告書において、問題の原因を以下のように分析している。 直接的には、経営トップらの関与を含めた組織的な関与、当期利益至上主義と目標必達のプレッシャー、上司の意向に逆らうことができないという企業風土、経営者における適切な会計処理に向けての意識または知識の欠如、監査法人などの外部からは発見しにくい方法で行われていたことなどである。 間接的には、各カンパニーの経理部や内部監査部門、経営者、財務部・経営監査部などコーポレート各部門、取締役会、監査委員会などによる内部統制が機能していなかった。また、会計監査人による監査、業務評価制度、人事ローテーション、内部通報制度などに問題があったと指摘する。 すなわち、監視、監督する部門や制度は整えられていたにもかかわらず、トップの意向や企業風土によって、それらが適切に機能していなかったと見ることができる。いわゆる魂が入っていなかった。バブル崩壊で弱体化した日本的経営 日本企業は、バブル経済崩壊以前は、日本的経営に基づいたガバナンスを行ってきた。 企業間の株の持ち合いにより、株主は長期安定的だった。「物言わぬ株主」である。企業の健全性や収益性は、メインバンクの審査部が実質的に「監視」した。 また、日本企業は、終身雇用、年功序列、企業別組合など日本的雇用慣行をもち、経営者を社内から輩出してきた。社内で認められなければ経営者には選ばれないという意味で、従業員や組合が経営者を「監視」してきた。 高度経済成長期、多くの業界で事業は拡大し、収益は伸びた。この間、株主や従業員らステークホルダーは経営に満足していた。そして、経営トップの責任が問われるような厳しい経営判断は、ほとんど必要なかった。 ところが、91年のバブル経済崩壊をきっかけとして、状況は一変した。企業や金融機関は保有株の売却を進め、株の持ち合いは解消した。不良債権問題から、メインバンクの「監視」の体制はおぼつかなくなった。終身雇用の廃止や、年功序列に代わる成果主義の導入など、日本的雇用システムは崩壊し、従業員や組合による「監視」も薄れた。 日本的経営に基づいたガバナンスは弱体化した。結果、アングロサクソン型ガバナンスの導入が目指された。 アングロサクソン型ガバナンスの特徴は、「株主主権」のもと、外部取締役や監査役の導入など、厳格な監視体制をとることだ。経営の透明性の確保、四半期ごとの業績開示などが求められるようになった。 ソニーは、執行役員制を日本で初めて導入したことで知られる。グローバルにビジネスを展開する企業は、海外資本を呼び込むためにも、アングロサクソン型ガバナンスの制度を積極的に導入した。東芝もまた、先に記した通り、執行役員制度の導入や各委員会の設置などを先駆的に行ってきた。日本企業に求められるガバナンス ただし、アングロサクソン型ガバナンスの効果は、欧米においても、エンロン事件をはじめとする優良企業の不祥事によって万能ではないことが指摘されている。 ソニーのその後のマネジメントの混迷や業績の長期低迷、東芝の不適切会計問題を見るに、制度を整えても、運用に問題があれば、ガバナンスは機能しないといえる。 では、日本企業は、いかにしてガバナンスを機能させるべきなのか。 アングロサクソン型ガバナンスを参考に、取締役会や監査委員会など、経営を監視、監督する社内外のシステムを整備することは、引き続き必要である。加えて、それを運用するうえで求められるのが、企業風土である。 前にも触れた通り、東芝の第三者委員会調査報告書は、「上司の意向に逆らうことができないという企業風土」を指摘した。すなわち、かりに制度が整えられていても、「上意下達」の企業風土では、トップの意向次第でガバナンスが正常に機能しなくなる。したがって、異なる主張を排除せず、活発な議論がなされる企業風土づくりが求められる。 東芝が、企業風土を変えるとすれば、危機意識の高まっている現在が絶好のタイミングである。ただし、東芝生え抜きの室町正志氏が社長を務める体制下において、企業風土を変革することは、容易ではないだろう。 組織の末端まで危機感が行き渡らない限り、企業風土の改革が難しいのは間違いない。

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    東芝とVW、繰り返される「失敗の本質」

    東芝とフォルクスワーゲン(VW)、日本とドイツを代表する名門企業で長年にわたる不正が発覚した。日本政府の成長戦略の目玉として導入が進む企業統治だが、企業の暴走はなぜガバナンスだけでは止まらないのか。名門企業で繰り返される「失敗の本質」を深掘りする。

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    VW問題で信頼性が揺れ出した“メイド・イン・ジャーマニー”

    長谷川良(ウィーン在住ジャーナリスト) 欧州連合(EU)の経済大国・ドイツが大きな試練を受けている。輸出大国ドイツを支えているのは自動車メーカーだ。その大手フォルクスワーゲン(VW)がディーゼル車の排ガス規制を恣意的に操作していたとして、糾弾されている。同不正問題で同社の株は急落し、同社はまさに存続の危機に直面している。 VW社は25日、監視役会で今回の不正問題で引責辞任を表明したマルティン・ウィンターコルン社長の後任にポルシェ部門責任者のマティアス・ミューラー氏を最高経営責任者(CEO)に起用し、抜本的な再建に取り組む予定だ。2015年10月6日、ドイツ北部ウォルフスブルクにあるフォルクスワーゲンの工場に出入りする従業員ら(共同) VWが22日発表したところによると、米当局に指摘されたディーゼル車の排ガス不正操作に関連し、世界で約1100万台の大規模なリコール、それに関連した賠償問題が生じるという。その為、同社は65億ユーロの引当金を計上するという。その額はVWの昨年の純利益の6割に相当する。 VW社だけではない。「ドイツ自動車専門誌アウト・ビルト(電子版)は24日、米NPOが行った実走検査の結果、独BMWのディーゼル車「X3」の排ガスから、欧州の基準値の11倍超の窒素酸化物(NOx)が検出された」(時事通信)という。不正排気ガス問題はドイツの全自動車メーカーに及ぶ様相を深めてきているのだ。 興味深いことは、VWの排気ガス不正規制が表面化する数日前、BMW社のハラルト・クリューガー社長が15日、フランクフルト国際自動車ショーで新車のプレゼンテーション中、突然、意識不明となり病院に運ばれるという出来事が起きていることだ。 当方は、マイクを手に新製品を説明していたBMW社長が突然、スローモーションのごとく倒れたのをビデオで見たが、そのシーンが目に焼き付いていて忘れられない。昨年12月に社長に就任した若いクリューガー社長(49)が倒れるなんてことは予想できないから、BMWのスタンドを取り巻いていた自動車ファンはビックリした 倒れた社長はその直後、自力で立ち上がろうとしたが出来ず、関係者が助けて直ぐに病院に運ばれた。そのシーンは今から考えると、世界に誇るドイツの自動車メーカーの近未来を象徴的に表した出来事のようでもあった。 ギリシャの財政危機をようやく切り抜けた直後、北アフリカ・中東諸国から難民が殺到、そしてドイツ産業のシンボル、VW社が会社の存続を問われる危機に直面している。  敬虔なドイツ国民ならば、「我々はこの一連の出来事の意味を真剣に考えるべきだ」というだろう。火山の噴火爆発もその前にその兆候が観測される。同じように、人間が織りなすさまざまな出来事も慎重に観察していくならば、それが表面化する前に、必ずその前兆がキャッチできるものだ。前兆の段階で対応できない場合、大きな出来事、不祥事が具体的に生じてしまう。 戦後70年目を迎え、ドイツは文字通り欧州の指導国家となった。メルケル独首相は「世界で最も影響力のある女性」に選出された。そのドイツの主要産業界、自動車メーカーが不正問題で危機に直面し、製造分野で世界に誇ってきた“メイド・イン・ジャーマニー”の信頼性が揺れ出した。 メルケル首相はVWの今回の不正ガス規制問題について「徹底的な解明」を要求している。今回の問題がドイツの国運が傾いてきた前兆ではないことを祈るばかりだ。(公式ブログ「ウィーン発 『コンフィデンシャル』」より2015年9月27日分より転載)

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    東芝事件で改めて問われる 社外取締役という新たな「天下り先」

    まい、社外取締役としての機能を発揮できなかったという。4人のうち2人が外交官出身で、残りが大学教授と企業経営者だったが、企業会計に精通している社外取締役はいなかった。 東京証券取引所が6月に発表した数字によると、上場企業で社外取締役を導入する企業が数年前から増え始め、一部上場企業では1735社が導入、全体に占める比率も過去最高の92%に達している。このうち社外取締役1人が660社、2人が682社、3人が393社と複数入れている企業も多い。比率が大幅にアップしたのは、企業統治の強化に向けて5月に施行された改正会社法や6月から適用が始まった東証のコーポレートガバナンス・コード(企業統治原則)などが影響しているとみられる。社外取締役という新たな「天下り」先 しかし、選任された社外取締役の多くが企業会計に詳しくなく、経営トップとの「お仲間」、重要な取引先であったりすることが多く、真の独立性を確保した『ご意見番』には程遠い存在だ。特に最近は東証などから社外取締役の導入をうるさく求められているため、企業側はてっとり早く、安易に社外取締役を見つけようとしている。 この結果、「天下り」先が減ってきている中央官庁のキャリア官僚にとっては、社外取締役への就任は格好の「天下り」先になっている。企業にとってみれば中央官庁の局長・審議官以上経験者が社外取締役で入れば、対外的にも箔が付くことになる。 就任した官僚OBは月に1-2回程度の取締役会に出席し、黙って座っているだけで、年収1000万円以上の収入になるから笑いが止まらない。しかも社外取締役のため、大きな責任を取らされることもない。中央官庁の事務次官を退任後に複数の大手上場企業の社外取締役に就任したある官僚OBは、「責任の重い企業トップになるよりは社外取締役の方が気楽でよい」と話しており、この程度の認識では社外取締役としての監視役を期待するほうが無理だろう。 これではコーポレートガバナンス強化の目的で導入された社外取締役制度は形骸化する。取締役会であれこれ疑問点を追及すると、社外取締役を事実上選任する権限のある経営陣からにらまれて、社外取締役として再任されない恐れがある。結果的には形式的な取締役会で事後報告だけで終了してしまう。「疑う」ことが出発点 2011年に発覚したオリンパスのケースは経営トップによる「ごまかし」だった、15年初めに明らかになった東洋ゴム工業の免震装置データ改ざん事件は繰り返しデータを改ざんしてきていた。現場当事者が意図的に不都合なことを隠ぺいしようとすると、部外者がその内容を見つけるのは難しいとされるが、公表されるデータだけでも子細にみるとどこかおかしい点を発見できるケースがある。 同様のことは欧米でも起きている。欧米で普及しているガバナンス制度をすぐに日本に導入したからといって、企業の不正が減るという保証はどこにもない。01年に発覚した米国のエンロンの巨額不正事件では、社外取締役の人数だけそろえていても、不正を見抜ける人材がいなければ、「お飾り」でしかないことを証明した。 当局はいまの社外取締役制度の問題点には気づいているようで、東芝事件を受けて何らかの対応策を打ち出そうとしている。まずは、社外取締役、監査役の独立性、能力を点検して、その人物が本当に企業の「監視役」になり得る人材かどうか洗いなおす必要がある。大学教授、官僚OBなどを肩書だけで選任しているようでは、その企業はコーポレートガバナンスを順守する意思がないとみられても仕方ないだろう。 経済産業省は、東芝問題を深刻に受け止め、監視する立場にある社外取締役の監督機能を強化するため、会社法の新たな運用指針を発表した。指針では、社外取締役の役割は「会社業務の監督」と明示し、内部通報の窓口や、不祥事が明らかになった際の内部調査の指示をすることなどを例示し、コーポレートガバナンス(企業統治)を向上させるための社外取締役の成すべき具体的な行動を示した。 この指針では、社外取締役に対して、業務を執行する経営陣から独立した立場で、会社業務をチェックするよう促している。この指針に沿って企業が実行していけば、社外取締役の権限は大幅に強化され、社内的には「眠れる存在」から「怖い存在」に変わるかもしれない。そうなれば、文字通り「ご意見番」としての存在意義が生まれることになる。 企業組織、人物を信用しないことを前提とした「企業性悪説」を採用するのはじくじたるものがあるが、ここまで根深い問題になってしまった以上は、見方を180度転換して対応せざるを得ない。日本企業の信頼回復のためには、「まずは疑う」ことから出発することになる。

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    VW問題 不振の北米市場の改善急ぎ技術開発より不正選んだ

     米環境保護局(EPA)の調査で発覚した、独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車不正行為。その背景には、トヨタに追いつき追い越せで販売台数世界一になることを至上命題にしてきたプレッシャーがあったとされる。 今でこそ世界最大の自動車市場は中国になったが、北米市場を抜きにして世界の覇権は狙えない。 2014年の米国の自動車市場シェア(マークラインズ集計)は、トップのGMが18.3%、2位のフォードが14.7%で、トヨタは3位に食い込んでシェア14.3%だが、VW社のシェアは2.3%に過ぎず、大きく水をあけられている。苦戦の理由について、日刊自動車新聞の斎藤匡取締役はこう語る。「米国ではVWのイメージはあまりよくないのです。1970年代にラビット(ゴルフ)、1980年代にはアウディの不具合が相次いで発覚し、悪いイメージが定着してしまった。さらに、VWが得意とする中小型の分野では日本車がライバルとして立ちはだかったため、伸び悩んだのです」VWは北米市場の不振に苦しんでいた VW社にとって、ブランドイメージを回復することが急務だったのだ。自動車産業を専門とするアナリストは、ブランドイメージ向上の切り札として準備されたのが、ディーゼル車だったという。「トヨタにはプリウスなどの低燃費なハイブリッド車があり、北米市場ではブランドイメージが高い。それに対抗するために、低燃費なディーゼル車を安い価格で投入せざるをえなかったと考えられます」 1997年に世界初のハイブリッドカーとして登場したプリウスは、北米にエコカーの時代をもたらした。ジュリア・ロバーツやレオナルド・ディカプリオなどハリウッドセレブがアカデミー賞の授賞式会場に乗り付けて話題をさらったこともある。 プリウスに環境性能ではかなわないものの、ディーゼル車は一般のガソリン車に比べて燃費がいいうえ、2割ほどCO2排出が少ない。VW社は世界一という悲願達成のため、“環境にいい”ディーゼル車を北米市場で売ろうとした。 しかし、問題はCO2ではなく公道走行時に排出される有害なNOx(窒素酸化物)だった。米国の世界一厳しい排ガス規制のなかでもNOxの規制はとくに厳しい。規制値は日欧より厳しく、しかも19万km走行後も規制値をクリアしなければならないという過酷な条件がある。 欧州で売れている自動車の2台に1台はディーゼル車で、米国でも実力で排ガス規制をクリアできれば、ディーゼルにも勝算はあったかもしれない。しかし、VW社は規制をクリアするためにカネと時間をかけて技術開発するという道を選ばず、不正に走ってしまったのだ。関連記事■ 【東京モーターショー】三菱の次世代エコカーとミニスカ美女■ VW不正でディーゼル激震 世界共通の排ガス測定基準が必要だ■ 一度新車を買うとはまる「マツダ地獄」 最近は値引きも渋く■ VWが不正に手染めた背景 販売台数世界一達成のプレッシャー■ 若者の車離れが続けば日本の車文化消えると森永氏指摘

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    東芝問題に見る『御社の寿命』 緊急・著者対談!!

    一證券の破綻に遭遇し、「会社がつぶれる時というのは本当に一瞬なんだ」と痛感した「原体験」があります。企業経営者が世の中の大きな動きを見通す力や、今後どんな製品やサービスに世の中のニーズがあるのかを鋭敏に感じ取る力がないと、企業はすぐにだめになると思います。こうした問題意識が藤森さんと一致して、一緒に本を書こうという思いに至りました。東芝の不正会計問題 プロの目利きは何を見逃したのか? 三木 全くの偶然ですが、出版直後のタイミングで、東芝の不正会計問題が大きく取りざたされています。東芝には社外取締役、監査法人、メーンバンクといったそれこそ「目利き」のプロがいたのに、結果として見逃してしまいました。みき・てつお 1958年生まれ。東京学芸大学卒業。中央公論新社特別編集部長。繊研新聞記者を経てフリーライターに。2000年に中央公論新社入社。06年から「婦人公論」編集長を務め、現職。藤森 東芝問題との関連でいえば、この本に書いたことが、ほとんど当てはまっていると思います。結局、経営者次第で、企業はあのようなワナに落ちてしまうのです。3代の社長に対して、みんな「イエス」としか言えなかった社内の「空気感」。これは本書で書いた、「危ない会社の危ない社長」「危ない会社の危ない経理部長」のストーリーに通じる部分です。中小企業で社長から「君に任せたよ」と言われた経理部長が、赤字決算を言い出せずに暴走するのと同じ構図です。まさに、今回の東芝の3代の社長時代に、同じような負の連鎖反応を起こしているわけです。 どんな巨大企業であっても、一人でもそうした経営者が出てしまうと、あのようになってしまう。「企業は人だ」とよく言いますが、まさにそれを体現しているのが東芝問題であり、この本に多く出てくるような町の中小企業の問題となんら構図は変わりません。 中村 私も藤森さんと同じ意見です。本書で紹介した事例は中小企業の話が多いのですが、それが大企業の東芝にも見事にあてはまってしまうことばかりなのは、私も驚きです。結局、中小企業であっても大企業であっても、コーポレートガバナンス(企業統治)の本質は同じということです。東芝だっておそらく、これが自分たちの話でなかったら、「どこかの軽率な経営者が愚かな行為を行った」と認識していたはずです。 それなのに、140年の歴史を持ち、「老舗」ともいうべき企業の社長が3代にわたっておかしなことをしていたわけです。正しくない業績で株価をつくり、投資家からお金を集め、今になって「あれは不適切なやり方で、数字が全く違っていました」というのでは、経営者の資質が問われても抗弁できないでしょう。東芝が手形サイトの引き伸ばしを求めた理由東芝が手形サイトの引き伸ばしを求めた理由三木 結局、東芝の問題は「目利き力」の問題なのでしょうか? それともガバナンスの問題なのでしょうか?藤森 実は、私たちの間では、東芝は時々変わった動きをする会社だな、と認識していました。なぜなら、グループ子会社が急に支払いのサイト(期間)を伸ばすことを求めて来るなど、東芝ほどの会社ではおよそ考えられない不可解な動きをすることがこれまでもあったからです。 今後の検証が必要でしょうが、もしかしたらそうしたことを許す雰囲気が、今回の事案に関係していたのかもしれません。「よもや東芝ほどの会社には当てはまらないだろう」という考え方は是正しないといけないと思います。中村 藤森さんが指摘されたように、「エクセレントカンパニーだから間違わない」という考え方は、おそらくもうどこの企業にも通用しない。日本の社会には大きな会社はきちんとしているはずだという「大企業神話」みたいなものがありますが、どんな企業でも起こりうるということを念頭におきながら、監査法人なり、社外取締役は対応しないといけないと思います。すべて最初から「性善説」に立つことはもうやめた方がよいのでしょう。三木 企業会計についてアメリカの場合はどうなのでしょうか。日本のような粉飾はあるのでしょうか?藤森 アメリカでもエンロンなど巨大企業の紛飾がありましたが、発覚後に違いがあります。アメリカは粉飾がばれると大きなペナルティを受けます。日本は今まで逮捕者が出た事案はわずかですが、アメリカでは逮捕はもちろん、巨額の課徴金や財産没収があるなど、有罪になった時のリスクが高いのが特徴です。損害賠償も大きくなるので、抑止力にはなりますが、それでもやる経営者はやってしまう。三木 会社で仮にこのような問題に気付いている人がいたとして、そういう人の意見は、企業のガバナンスに反映されるのでしょうか。会社のやっていることが「おかしい」とおもっても、誰もブレーキを踏めないということはありませんか。まさに「御社の寿命」に出てくる社長と経理部長の話なのですが。東芝以外に不正はないのか? 性悪説に立ったときのコスト藤森 これはまさに日本の企業風土です。粉飾もそうですし、パワハラとかセクハラなども内部通報制度をつくったところであまり機能していない。結局、声を上げた人が損をする風潮です。今回の東芝も当局への内部通報があったとされますが、実際にはそうしたことを躊躇するような風潮がまだあります。ですから、いま日本の企業の中で粉飾をなくそうとしても、今の仕組みではなくならないかもしれない。ここで東芝は社外取締役を過半数にすると言っていますが、果たしてそれだけで効果があるかどうかは疑問です。 一方で、マーケットの信任という問題があります。東芝クラスの企業が粉飾まがいの決算をしていたとなると、他の会社もやっているかもしれない。性善説で見ていたものを性悪説で見ないといけないとなると、莫大なコストがかかる。上場している3000社以上の企業がウソをついているかもしれないという前提で投資家がチェックしようとしたら、コストがかかり、株など買わなくなる。だから、粉飾は関係者を逮捕して全部つかまえればいいという問題ではなく、これは別に議論が必要でしょう。三木 「御社の寿命」が出て意外な反応などありましたでしょうか?中村 老舗企業を紹介した部分をよく読んでおられる方が多かったのが印象的でした。人によって「この会社はおもしろい」と反応する企業が違っているのも興味深かったです。帝国データバンクのOBの「角さん」の倒産取材の様子についても書きましたが、実際の取材の現場の雰囲気を紹介できたのはよかったです。なかむら・ひろゆき 1967年生まれ。慶應義塾大学卒業。読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員。福島支局、立川支局、経済部、政治部、ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスクを経て2014年より現職。藤森 老舗が生き残る秘訣がわかったという意見が多かったのは確かに驚きでした。たとえば「虎屋」はみんなよく名前を知っている企業ですが、こうした企業が長年にわたって生き残るヒントがわかってよかったと読者が感想を寄せてくださったのは新鮮でした。三木 老舗が長く続く理由として、変化に柔軟に対応してきた様子が本書でも示されていますが、これはある種、会社全体の「目利き力」とも言えるのではないでしょうか?藤森 老舗がなぜ老舗になれたのかを振り返ると、経営者のバトンリレー、すなわち社長交代が得意だったということができます。そういう意味でいうと、東芝は140年の歴史を持つ老舗です。しかしながらここ3代にわたって、社長交代が失敗しているわけです。 東芝という会社のつまずきが今だとすると、社長交代、事業承継がうまくいっていないのがその原因といえます。 もう一つ重要なのが、番頭の存在です。老舗会社には番頭さんがいます。番頭と副社長で何が違うのかといえば、副社長は社長に耳の痛いことはいえない。番頭はおそらく会社でいえば、総務部長ぐらいの存在でしょうが、「社長、これはやばいよ、これは謝った方がいいよ」といった意見具申ができるかどうかが問われます。東芝でこうしたけん制が利いていたのかどうか。アクセルを踏むのは誰でもできる。重要なのはやめようとブレーキを踏める社長・役員がいるか、もしくはやめろといえる番頭がいたかどうか。東芝については全部ノーですね。中村 東芝の歴代3社長も、ガバナンスの利いたグローバル経営を標榜していたはずです。しかし内実は「3日で120億円」みたいな、全く違うことをやっていた。このギャップは何なのか。ここにこの問題の本質というか、東芝の闇を感じるのは私だけではないと思います。三木 東芝の件が最近の大きなニュースになりましたので、これまで注目してきましたが、それ以外で企業について最近気になることはありますか?藤森 ユニークなアイデアやサービスを展開して急成長した企業はダメになるのも早かったりしますが、その理由は社長の自制が利かなかったから、という事例はこれまで山のようにあります。こうした企業はサービスに対する「目利き力」はあったにもかかわらず、店舗を急拡大したり、従業員を育てられなかったりして結局だめになる。 私は会社の社長を務める人物には、いくつかとても大事な資質が必要だと思っています。一つはもうかるモノやサービスを見つける力。そしてそれを成長させるには、人材を育てるとともに、自分自身もしっかりしないといけない。番頭をつけるとか、近くに自分の考え以外のことを言ってくれる組織を設けたりしないとだめになる。急成長した企業が失敗するのはその点をおろそかにするからです。逆に経営がうまくゆく秘訣も多くありますが、変われること、人を育てられることがその柱といえます。中村 やはり、「目利き力」に加えて究極的に経営者の資質が問われると思います。経営者は企業が成長して絶好調な時でも、おごってはいけない。おごると判断を誤ります。長く続いている会社は社長交代をうまくやっているという藤森さんのご指摘は全くその通りで、人を育てて、うまく事業を継承してゆくということも経営者に欠かすことのできない条件だと思います。

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    なぜ日本人はiPhoneを買いたがるのか

    米アップルの最新型スマートフォン「iPhone6s」がいよいよ発売される。今や年に1度の「お祭り」になった新型iPhoneの発売だが、世界シェアでは日本を除き、いまだ韓国サムスン電子の後塵を拝している。なぜ日本人だけがiPhoneを買いたがり、こんなにも有り難がるのか。

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    スマホ苦戦のサムスン 社名外した日本市場で生き残る条件は

     韓国サムスン電子の凋落が止まらない。7月7日に暫定発表した2015年4~6月期決算では、売上高は前年同期比8.3%減の48兆ウォン(約5兆2000億円)、営業利益も同4.0%減の約6兆9000億ウォン(約7500億円)と、減収減益の見通しだ。 業績低迷の最大の要因は、利益の半分以上を稼ぐスマートフォン販売の不振だ。 日本でも知られるスマホブランド「ギャラクシー」は、米アップルの「iPhone」と激しくシェアを争った末、2014年の世界シェアは24.5%で前年の31%より大きく比率を落とした。しかも、日本でのシェアは5%未満と振るわない。 今年4月に発売した最新機種の『ギャラクシーS6』と『S6エッジ』は、デザイン性を高めた曲面ディスプレイに加え、1600万画素のカメラや独自の決済システム(サムスンペイ)を搭載するなど、従来モデルの仕様から大幅に刷新した製品。サムスンにとっては乾坤一擲を賭す製品といえる。 ギャラクシーがここまで苦戦しているのはなぜか。モバイル研究家で青森公立大学経営経済学部准教授の木暮祐一氏が分析する。「サムスンのスマホ戦略は多機能・高価格帯を狙ってきましたが、その分野は成熟市場の先進国ではiPhoneに完全に押される一方、今後もスマホ需要が伸びそうな新興国では、中国の小米(シャオミ)や台湾のASUS(エイスース)といった中低価格メーカーに市場を独占されています。 日本で売れないのもiPhoneが独り勝ちしていることが大きいのですが、日韓関係の冷え込みもあって、意識的に避けられている印象があります」 そうした事情を勘案してか、日本発売のS6とエッジの本体には「SAMSUNG(サムスン)」の社名表記をしておらず、CMやパンフレットでも社名よりギャラクシーブランドを前面に押し出す戦略に変えている。それだけ危機感を持っていることの表れだ。 業界関係者からは、「S6の売れ行きは上々で底は打った」との声も聞こえてくるが、この先、ギャラクシーは日本市場でさらに存在感を高め、生き残っていくことができるのか。「これまでサムスンはアップルを意識し過ぎる余り、早々と発売した腕時計型のウェアラブル端末も、サムスン製のスマホがないとペアリングできないようにするなど顧客の囲い込みを仕掛けましたが、アップルほどのブランド力向上には繋がりませんでした。 しかし、iPhoneシェアが圧倒的に高い日本市場で戦うためには、アンドロイドOSを搭載した他の端末メーカーとうまく連携をして部材の相互供給をするなどしていかない限り、利益アップは狙えないでしょう」(前出・木暮氏) 今年4月より日本のモバイル事業トップ(サムスン電子ジャパン代表取締役COO)には、過去NECに長く在籍していた堤浩幸氏が就き、営業活動を強化している。人材の引き抜きや入れ替えが激しいことで知られるサムスン。堤氏にのしかかるプレッシャーも相当なものと推察される。 経済ジャーナリストの片山修氏がいう。「韓国のサムスン本社では、病床にあるカリスマ会長の李健熙(イ・ゴンヒ)会長に代わり、長男の在鎔(ジェヨン)副会長が実質的に経営の実権を握っています。 在鎔氏はマーケティング担当役員を更迭して自らS6の開発に口を出すなど、徐々にリーダーシップを発揮しています。これまでのように大きな利益を確保し続けることは難しいでしょうが、当面はスマホ事業の再建が在鎔氏に課せられた重要なテーマといえます」 さて、サムスンは新型ギャラクシーを引っ提げ、日本を含めた世界シェアをどこまで盛り返すことができるか。巨大サムスン帝国の未来と後継者の手腕を占う意味でも注目だ。関連記事■ ギャラクシー・ショック サムスン業績不振で韓国経済ピンチ■ サムスン追い詰める中国企業 CEOは「赤いジョブズ」の異名■ サムスン 長年の仇敵もいまや日本企業にとっては運命共同体■ 韓国企業が仕方なく始めた独自のイメージ戦略の結果は散々に■ サムスン株価下落 スマホに傾注の事業形態の危うさ浮き彫り

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    Appleの売上も大きく依存 いつまでiPhone人気は続くのか

    佐藤仁(情報通信総合研究所 副主任研究員) Appleは2015年7月21日に2015年Q3(4~6月期)の業績発表を行った。売上高は前年同期比32.5%増の496億500万ドル、純利益は37.8%増の107億ドルだった。Appleの売上の63%を占めるのはiPhone Appleの売上高496億500万ドルのうち、313億6,800万ドルがiPhoneで、Appleの売上高全体の63%を占めた。2015年Q2(1~3月期)は69.4%、2015年Q1(2014年10~12月期)は68.6%とさらに高かった。Q2には中国の旧正月シーズンでのセール、Q1は世界的なクリスマスのセールがあったから、その時期に比べると売上全体に占めるシェアは若干減少しているものの、前年同期は52.8%だったので、Appleの売上がiPhoneに大きく依拠している。製品別での出荷台数、売上高および売上高に占めるシェア(Apple決算資料を元に作成)中国での売上高が大きく増加:前年同期比112%増 Appleでの売上高496億500万ドルのうち、中華圏(中国、台湾、香港)での売上が132億3,000万ドルで、Apple全体のうち26.7%を占めている。2015年Q2(1~3月期)は中華圏の旧正月セールでApple全体の売上のうち29%が中華圏と大きかった。中華圏での売上は前年同期には62億2,700万ドルだったので、1年で2倍以上に増加している。 中国ではiPhoneが大人気だ。Appleがブランドとしての地位を確立しており、iPhoneを使っていることがステータスのようになっている。見栄を張りたがる中国人の多くは、通信料金は安いプランに入っていても、人の目につくスマートフォンはブランド品のiPhoneを所持したがる。それでもiPhoneは中国でも高価だから、購入できない人も多く、そのような人々はXiaomi(小米)やLenovo、Huaweiといった地場メーカーや韓国サムスンのスマートフォンを購入している。地域別での売上高とシェアの推移(Apple決算資料を元に作成)いつまでiPhoneの人気は続くのか? 2015年1~3月期にスマートフォン製造の世界主要8社が稼いだ営業利益166億5,200万ドルのうち、約92%をAppleが占めたと、カナダの投資銀行カナコード・ジェニュイティの調査で明らかになった。2位のサムスンの15%を大きく引き離し、スマートフォンメーカーではAppleの「独り勝ち」である。北京のアップルストアの大型スクリーンに映し出されたiPhone 6のCM=2014年10月30日 いつまでiPhoneの人気は続くのだろうか。スマートフォンは基本的にどれでも同じである。iPhoneでしか出来ない機能やサービスは多くない。世界中で多くの人が利用しているアプリは、SNSやメッセンジャー、ゲームや動画などAndroidのスマートフォンでも同じである。またカメラや電池の持ちなど製品自身の機能ではiPhoneよりも優れているスマートフォンも世界中には多数存在している。 iPhoneが国内外で人気があるのは、通信事業者が「2年縛りの契約」などとセットで販売していることから、AppleだけでなくNTTドコモやソフトバンクといった通信事業者もiPhone販売に注力してくれることから、ユーザーから見るとiPhoneが一番お得に見えるからであり、そのようにしてiPhoneは普及していった。 かつて携帯電話(フィーチャーフォン)が隆盛だった頃にはフィンランドのNokiaが圧倒的な売上とシェアを誇っており、それに米国のモトローラが続いていた。10年前には誰もAppleからiPhoneが登場して市場を席巻していることは想像もできなかった。 Appleは現在は絶好調な業績だが、いつまでもiPhoneの好調が続かないことは理解しているだろう。Appleの資金にゆとりがあるうちに次の製品への種まきが必要である。それが「Apple Watch」だろう。「Apple Watch」の出荷台数と売上高の公開は今期はなかったものの、売上高の「その他製品」から、平均単価が500ドルとして約200~300万台の出荷台数と類推するアナリストが多い。「Apple Watch」がiPhoneと並ぶ収益の柱になるには、もう少し時間がかかりそうだ。(『Yahoo!ニュース個人』より2015年7月22日分を転載)

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    アップル参入で市場拡大の電気自動車 日本車は勝ち抜けるか

     日本で次世代エコカーの主役候補といえば、水素をエネルギー源とする燃料電池車(FCV)ばかりが注目されているが、世界の自動車市場を見渡すと、EVやPHVといった電気自動車の普及促進が優先されている。 7月22日に発表された総合マーケティング会社・富士経済の調査でも、EVとPHVの世界販売台数は現状(2014年)でそれぞれ19万台、12万台と少ないものの、2035年予測では463万台(2014年比で24.4倍)、611万台(同50.9倍)と大幅な市場拡大を見込む。 電気自動車がこれほど期待される理由は何か。富士経済は次のように分析している。〈欧州やカリフォルニアなどのエリアにおいて、充電インフラの増加やこれに伴うサービスの充実以外にもEVの価値を認識するユーザーが着実に増加した。 欧州などでは、航続距離の延伸、EVならではの技術やサービスがさらに充実することで、リピート需要に加えて新規ユーザーを取り込み、市場は大幅に増加すると予想される〉 また、主要国では補助金政策の下支えや、CO2排出量の環境規制がより厳しくなることを見越して、大手自動車メーカーが電気自動車の車種拡充を予定していることなどを挙げている。 GM、フォード、VW、BMW……、電気自動車開発に力を入れる大手メーカーは数多いが、最近では米アップルがEV参入を計画し、クライスラーから幹部を引き抜いたり、BMWとの協業が囁かれたりするなど、競争環境は業界の垣根を越え出した。 自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がいう。 「昔だったらエネルギー効率の高いエンジンやハイブリッド開発などは、大手メーカーが1000人以上の人海戦術をしなければ出来なかったものが、いまはクルマづくりの設計技術が超速に進歩したために10人、20人のチームで完成させられる。だから専業メーカーでなくても立派なビジネスとして成立し得る時代なのです」 日本に進出している電気自動車メーカーの米テスラモーターズも、元はIT起業家のイーロン・マスク氏によって2004年から本格的に事業拡大をした、いわば後発組である。 翻って、日本の自動車メーカーはどうか。電気自動車開発に積極的なのは、残念ながら日産自動車1社といっても過言ではない。「i-MiEV」で先鞭をつけた三菱自動車をはじめ、トヨタやホンダも基礎技術は持っているものの、新車開発には活かし切れていないのが現状だ。「結局、国を挙げて燃料電池車の普及促進が図られているために、メーカーもなかなか電気自動車との両睨みができない。補給インフラの整備や走行コストを考えれば、燃料電池車の前に電気自動車を普及させたほうが、よほど現実味があるのに……」(業界関係者) だが、裏を返せば2010年の発売以来、約17万台(5月現在)の世界販売台数でジワジワと知名度を上げる日産の「リーフ」が、今後、国内外のEV市場で牽引役となれるチャンスが広がっている。 しかも、これまで電気自動車のネックと言われ続けてきた航続距離の問題も解消されつつある。日産は今年後半にマイナーチェンジするリーフで、航続距離を228km→300kmに延ばすことに成功した模様だ。 「EVで遠出をすると、常にバッテリーの残量が気になるうえ、エアコンなどを利かせているとカタログで謡われている距離は走れない。私も過去に電気自動車を試乗して神奈川の箱根や小田原方面に出掛けたのですが、充電スポットがないところで航続残が数キロと表示されて冷や汗もののドライブになりました」(前出・井元氏) 日産のカルロス・ゴーン社長もEVの航続距離は近い将来に400kmまで延ばせると明言しており、それが実現すればガソリン車と遜色のないロングドライブが可能になる。 残る課題は、現在1万4000基ある充電インフラの増設や、さらなる低コスト走行の推進、そして「電気自動車だからこそ味わえる運転感覚の魅力訴求」(井元氏)が不可欠だ。 「先の先」といわれる燃料電池車の普及を見据えるあまり、気が付けばアップルなど“EV外車”に日本の自動車市場が占有されていた――なんてことが起こらなければいいが。関連記事■ 【東京モーターショー】日産新型EVに華添えるグラマラス美女■ 【東京モーターショー】軽の威信かけるスズキとPテール美女■ 美人コンパニオンが告白 「好きなのは“かっこカワイイ車”」■ 世界最大の自動車大国・中国 国家をあげて電気自動車開発へ■ 電気自動車サミット 太陽光発電で電気自動車を充電する人も

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    時計も音楽もiPhoneのため Apple独占に穴を空ける蟻は出るか?

    川手恭輔(コンセプトデザイン・サイエンティスト) 故スティーブ・ジョブズの言葉は数多く紹介されているが、2001年にiPodを発表した時にジョブズが言った次のフレーズが特に印象的だった。 "a part of everyone's life"ipodのプレゼンをするSteve Jobs(Getty Images) AppleがなぜiPodで音楽の市場に挑戦するのか、それは音楽が「人々の人生の一部だから」だという文脈だった。人々は皆(ジョブズも)、音楽が大好きだという意味もあるが、それ以上にAppleという企業が挑戦する価値があるほど「大きな市場」だということだ。 iPodは音楽を楽しむという人々の基本的なニーズに着目し、それまでになかった新しい体験を提供した。 次に、ジョブズは「電話機を再発明する」と言ってiPhoneを発表した。人々はいままで持っていた携帯電話を捨てて、代わりにiPhoneを購入した。しかし人々は電話機としての価値ではなく、ジョブズの本当の狙いであった「インターネットに繋がったコンピューターを持ち歩くことによって得られる体験」の価値に気づき、それは人々の生活になくてはならないものになった。そして、それはiPhoneにアプリやサービスを提供する企業にとっても大きな魅力となり、それらの企業がさらにiPhoneの価値を向上させるという奇跡ともいえる循環を生んだ。 Apple Watchは人々の生活を変える? 時は流れて、Appleは時計を発売した。これはすでにジョブズの残した仕業ではないだろう。今年の2/10に米国で開催されたTechnology and Internet Conferenceでティム・クックは次のように言った(Mac Rumorsの英文を著者が翻訳)。 "We want to change the way you live your life." (Appleは人々の生活を変えたいのだ。) He also pointed out the feature that pings people when they've been sitting for too long, which he sees in use on a daily basis at Apple. During meetings, he says, towards the end of the hour, people will begin standing up as their Apple Watch alerts them to do so. "A lot of doctors believe sitting is the new cancer," he said. "Arguably, activity is good for all of us." Cook says that he is "super excited" about third-party apps that are being developed for the Apple Watch.  (長時間座り続けていると、それを知らせてくれる機能がある。それは、Appleの社内で日常的にみられる光景だ。会議で終わりの時間が近づくと、みなApple Watchのアラームに促されて立ち上がる。多くの医者が座っていることは癌の原因になると信じている。動くことは間違いなく、誰にとっても良いことだ。そして、Apple Watchのためにサードパーティが開発しているアプリに「非常に興奮している」と続けた。) "sitting is the new canser(座っていることは新しい癌だ)”というフレーズは英語圏でも話題になったが、この意訳でいいようだ。 いかにもクックらしい論理的な考え方だが、(私は)事例に説得力を感じることができず、興奮することはなかった。 6月にWWDC(World Wide Developer Conference)という、Appleの開発者向けのイベントが開催された。例年は冒頭で、事業や前年に発売された新製品の好調さをアピールすることが多いので、今年はApple Watchの販売の状況が発表されるのではないかと思っていたが、噂されていた新しい音楽ストリーミング配信サービスの発表の前に「順調だ」と一言触れただけだった。あまり売れていないのかと勘ぐりたくなるが、どうやらそれは違うようだ。アナリストによるApple Watchの販売予測はまちまちだが、発売から2ヶ月で279万本だったというロイターの報道からすると、今年は1,000万台は越えることになるだろう。 (下の)グラフは、Appleの製品の最近の四半期ごとの販売台数の推移を表したものだ。Appleは10月から12月までを第1四半期としており、その時期のクリスマス商戦に合わせて新製品の投入をするために、他の四半期に比べて売り上げが突出する傾向がある。Apple Press Releaseより作成(単位千台) Appleの驚異的な成長のきっかけとなり、その一時代を築いたiPodは、「音楽」というソフトウェアとしてその機能をiPhoneに吸収されてしまった。iPodという製品は、今年からApple TVなどと共に「その他」に分類されるようになり、単独での数量の発表はされなくなった。 どうやらAppleでは、年間1,000万台程度の販売がない製品は事業として認められていないようだ。そうであるならば、初年度から1,000万台以上の数字が見込まれているApple Watchは、Appleにとって十分に事業としての価値があることになる。そしてその数字は、iPodやiPhoneの立ち上がりに比べると脅威的なものだ。すべてはiPhoneのためにすべてはiPhoneのために しかし、それは裏を返すとApple Watchが、iPodやiPhoneのような、そのときの人々の理解を超え、技術やインフラが後から追いつくというような革新的な製品でないことを示しているように思う。Appleブランドの新しい製品に、発表される前から市場の期待が盛り上がり、心待ちにしていた多くの人々が発売と同時に飛びつく。 それはiPadと同様に、これまでになかったものではなく、これまでにもあったが、誰もビジネスとして大きく成長させることができなかったものを、Appleが先進的な技術と卓越したデザイン力によって再定義したものだ。 製品の顧客価値を論じているのではなく、Appleの製品戦略が大きく変わったと感じるのだ。それは、いまやその売り上げ規模が、GoogleやAmazonやMicrosoftなどの名だたるIT企業の2倍以上となったAppleが、その地位をさらに磐石なものにしようとするしたたかな戦略だ。 円グラフは、 2014年と 2015年のそれぞれ第1四半期の売り上げに占める製品の割合を示したものだ。iPhone6/6+の大成功によって、2015年の第1四半期の売り上げは驚異的な数字を記録した。しかしiPhone以外の売り上げの総和をみると、2014年の251億ドルから2015年は234億ドルと逆に減ってしまっている。2015年の第1四半期の売り上げは、ほぼ7割がiPhoneによるものになった。Apple Press Releaseより作成(単位百万ドル) ジョブズといえども、このiPhoneに匹敵するような大成功をもたらす革新的な製品を、また「発明」することは容易なことではなかっただろう。クックが、スマートフォンの市場を拡大して、iPhoneのシェアをさらに増やすことを最も優先すべきだと考えるのは自然なことだ。iPhoneで得られる経験価値をさらに向上させ、iPhoneでなければならない理由をつくる。 WWDCで発表されて大きな話題を呼んだ定額の音楽ストリーミング配信サービス(Apple Music)も、その戦略の一環だと考えることができる。グラフから分かるように、App StoreやiTunes Storeなどで販売される音楽やアプリなどの売り上げは全体の1割にも満たない。しかし、それらのサービスなくしてはiPhoneのビジネスが成り立たないことは明白だ。Apple Musicから得られる利益も、Appleにとって重要なものではないだろう。元々、Appleとしては利益を度外視しているのではないかと思われるほどの、競合他社に圧倒的な差をつけるための価格設定を狙っていたようだ。 iTunes Storeからの音楽ダウンロード販売は、ここ数年は頭打ちになっていた。売り上げの数字はともかく、iPhoneの重要なコンテンツである「音楽」を、Appleがコントロールできない他社のストリーミングサービスなどに持って行かれることは大きな問題だった。そして1年前に、ヘッドホンやスピーカーのメーカーであり音楽ストリーミング配信サービスも行っているBeats(Beats ElectronicsとBeats Music)を買収し、その創業者であったDr.DreとJimmy Iovineという人材を手に入れた。 後出しジャンケンというと聞こえは悪いが、発表されたサービスの内容を見る限りApple Musicは非常に緻密に考えられている。iPhoneというハードウェアのビジネスで稼ぐことができるAppleに対して、音楽配信サービスそのものから利益をあげなければならない競合は非常に厳しい戦いを強いられることになる。 Apple MusicはAndroidのスマートフォン向けのアプリも提供されるようだが、iPhoneと同じ機能が提供されたとしても、その体験は大きく異なるように思う。Apple Musicは「iPhoneでなければならない理由」の一つになるだろう。 Apple Watchも、そのような視点からAppleにおける、その戦略的な位置づけを考えることができるのではないだろうか。Apple Watchを購入すると「iPhoneでなければならない理由」ができ、その顧客はAndroidへの乗り換えを躊躇する。Apple MusicやApple Watchが、少しずつ人々の生活を変えればいい。それによってiPhoneが、さらに人々の生活になくてはならないものになっていく。持続的イノベーションへの転換 言うまでもなくティム・クックは非常に有能な経営者であり、最高デザイン責任者(CDO)というAppleの新しい役職に就任した上級副社長のジョナサン・アイブも稀にみる優秀なデザイナーだ。二人ともどんな企業においてもすばらしい力を発揮できるだろう。しかし、Appleが次の破壊的なイノベーションを起こすことはできないように思う。 いや、すでに攻める側から攻められる立場に立ったアップルの経営陣や投資家にとっては、不確実で大きなリスクのある破壊的なイノベーションの取り組みは必要でないのかもしれない。ジョブズがまき散らした種のうち、芽を出して大きく育った木に水や肥料を与えて、毎年できるだけ多くのリンゴを収穫するほうが安全で確実だ。 ジョブズもそのために最適なティム・クックを後継者に指名したのだろう。自分のようなことは自分にしかできないという彼の自尊心がそうさせたのかもしれない。ティム・クックを指名した時点で、Appleではインクリメンタル(持続的)なイノベーションのための最適化が始まった。 クックが、iPhoneのシェアをさらに増やすことを最も優先すべきだと考えるのは経営者として自然なことだ。しかし、そこに破壊的イノベーションを仕掛ける挑戦者がでてくる。間もなく、スマートフォンだけが常時インターネットに繋がっているという状況も終わるだろう。挑戦者は、クックのようなしがらみを持たず、大成功しなければならないというプレッシャーもない。まずは蟻の穴をあければいい。かわて・きょうすけ コンセプトデザイン・サイエンティスト。1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

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    林信行が考える 日本人がアップルを好きな理由

    林信行(ITジャーナリスト) 日本は他の国々と違ってAndroidよりもiPhoneの人気が高い。このことからよく日本人はiPhone好き、アップル好きと言われる。その理由は色々あると思う。 最も美しい答えは、iPodやiPhone、Macなどのアップル製品のシンプルで洗練されたデザインが、審美眼に優れた日本のユーザーに受け入れられているから、と言うもの。 筆者もある程度は、この答えを信じたい。加飾を嫌い、余計な要素を徹底的に排除しつつ、質を磨きあげたアップル社のミニマリスティックなものづくりの姿勢。そこから生み出された製品の美しさは、本来、誰よりも日本人にアピールするものだと思う。 今や世界的ブランドとなったMUJI(無印良品)などが描く「用の美」とも通じるところが多い。 しかし、現代の日本のマス(大衆)がそうした感性を備えているとは思わない。KDDIはiPhone登場前から、美しいデザインにこだわった携帯電話をいくつも出してきたが、出荷台数は醜悪な機能詰め込み型より常に1桁ほど少ない。多くの人々は携帯電話を美しさよりも、機能の量や価格の安さで選んでいる。 そんな現代日本で、iPhone人気に真っ先に火がついたのは、電車で言えば東急の東横線沿線や、駅で言えば表参道駅などクリエイターやファッションリーダー系が多いエリアからだ。嗅覚が鋭く、文化的影響力を持つトレンドセッターが、好んでiPhoneを利用したことが、多くのフォロワーを生み、iPhoneをマスへと押し広げる推進力となった。 これに関してはスターバックスコーヒーなどの「場」も重要な役割を果たしていそうだ。トレンドセッターが、こうした公共の場でiPhoneやMacBook Airを使ったことが、iPhoneだけでなくMacBook Airのイメージアップや売り上げにも貢献したはずだ。 さらに「価格」という要因も関わってくる。iPhoneは海外では高価なスマートフォンとしてアップルが盗難防止機能を搭載するまでは盗難される率も高かった。しかし、日本では真っ先にiPhoneの販売に着手したソフトバンクが、販売2年目から実質価格0円も含めた戦略的な価格付けを開始した。その後、iPhoneの取り扱いを始めたKDDIやNTTドコモも、必然的にそれに追随せざるを得ない状況になった。 このためiPhoneは「美しい」、「機能や性能のバランスがいい」という2つの特徴に加え、日本に限り「値段も安い」という3拍子が揃った。 これに加えてAndroidよりも面白いアプリがたくさんあることがテレビなどでも紹介されたり、ミニマルなものづくりなだけに、カバーなどをつけて簡単に自分好みに装飾できる魅力がファッション雑誌などで広がったり、周辺機器やアクセサリーが充実していることがIT系の媒体で広がったりと言った形で人気は加速していった。 こうしてある程度まで人気が広がった後は収穫逓増の原理が働く。周りがみんなiPhoneを持っているのだから、何かトラブルがあったり充電ケーブルを忘れた時でも、学校や職場で利用者が多いiPhoneを選んでおけば、すぐに助けが得られる(おまけにiPhoneを選んだ方が値段も安い)。 現在では、女子高生の間で何らかの理由によりiPhone以外のスマートフォンを持っていると同情されるという話も一時、インターネットで話題になった。米アップルが発表した新型スマートフォン「iPhone 6s」(手前)=2015年9月9日、米サンフランシスコ(共同) iPhoneなら見た目もよく、機能(特にカメラ機能)が優れ、値段も安く、周りのみんなが持っていて、それでいて皆と同じにならないようにカバーなどのアクセサリーで個性を出すこともできる。こうした状況下では、よほど特殊な理由やこだわりがある人でもない限り、あえて他の端末を選ぶ人は少ない。 ただ、こうしてiPhoneが普及してきたことによって、多くの人々がアップルが目指す「質の良さ」がどういうものかを感覚として身につけ、評価するようになった面もある。これがiPhoneだけでなく、MacBook Airに代表される、その他のアップル製品の人気にも寄与したし、英ダイソン社の扇風機や掃除機といった商品の人気の高まりにも貢献したのではないかと思う。 日本の家電製品はというと、かつてはアップルにも影響を与えたソニーの製品が、優れたデザインで世界を魅了していた。しかし、お膝下の日本では90年代以降、こうした製品の売られる場所が大量の商品在庫と安値販売を目玉にした家電量販店に変わり、製品が赤や黄色のドギツイ色の値札や強すぎる蛍光灯の光の下で陳列され、外観よりも製品に貼られた商品説明に書き込まれるスペックの(質ではなく)量で競うようになってから、まっとうな良いものづくりができなくなってしまった。 アップルのものづくりにはこうした日本的なコンテクストは関係なく、商品の人気を武器に「販売したいならば」と売り場での展示方法までアップル流に変えてくる。こうした企業としての姿勢や、実際の展示の美しさもアップル人気の一因となっているはずだ。 このようにアップル人気の理由はさまざまな要因が複雑に絡み合っていて、どれか1つに集約するのは難しいが、あえて一つにまとめるとしたら「真摯に良いものをつくり、売るときにもベストを尽くす」ーーこの製造業の基本中の基本をごまかさずに正面から貫いていることではないか。 そして、そんなアップルがこの日本で何故人気なのかと言えば、他の日本のメーカーが、90年代の変な合理化のせいで、まっとうなものづくりができなくなってしまっているからではないだろうか。iPhoneを好む一方で、日本メーカーの復権を心待ちにしている人も少なくないと思う。