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    トランプの石油制裁で一層高まる「第2次朝鮮戦争」の危機

    重村智計(早稲田大名誉教授) 国連安全保障理事会は12月22日、北朝鮮の石油製品輸入を年50万バレル(約7万トン)に削減する制裁を可決した。制裁案をまとめた米国は、朝鮮人民軍の崩壊を意図している。それを知りながら中露両国は同意した。2018年の朝鮮半島は、軍事衝突からクーデターなどの危機が高まる。その回避には日朝首脳会談の実現しかない。 北朝鮮の石油製品輸入量は16年が約70万トンだった。大半は戦闘機用のジェット燃料(灯油)や戦車用の軽油だ。それが7万トンに削減されれば、軍は演習や作戦を展開できない。戦争しない自衛隊でさえ、年150万トンの石油を消費することを考えれば、あまりにも少ない。2017年12月22日、北朝鮮に対する制裁決議を採択した国連安保理の会合で、制裁に賛成の挙手をする米国のヘイリー国連大使(手前右、AP=共同) 輸入原油は約50万トンだが、中国の大慶油田から出る質の悪い原油なので、軍事用の軽質油は最大25万トンしか生産できない。輸入製品と合わせた30万トンの軍用石油では、朝鮮人民軍は維持できない。戦車は動かず、戦闘機も飛べず、やがて軍は戦闘能力を失う。軍の崩壊は体制崩壊につながる。 北朝鮮は、なおミサイル発射と核実験をする計画だが、制裁で石油供給が底をつけば朝鮮人民軍は崩壊へ向かう。安保理決議は、北朝鮮がミサイル発射や核実験をすれば、原油を含む「petroleum(石油)」をさらに削減するとの制裁を明記したからだ。 では、次に何が起きるのか。可能性が四つある。「北朝鮮の譲歩」「クーデター」「北朝鮮の暴発」「米軍の核施設限定攻撃」である。 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、国連安保理制裁の圧力に屈し、核やミサイルの実験を止めて譲歩する可能性はまずない。石油の供給が激減すれば、「このままでわが国は大丈夫か」との思いが軍内部に広がる。中国は北朝鮮軍部のクーデターや米軍の核施設攻撃などに備え、難民受け入れ施設を建設している、と報じられた。指導者1人の奇妙な写真 党機関紙、労働新聞は12月18日、故金正日(ジョンイル)総書記の命日(17日)に、金委員長が金総書記と金日成(イルソン)主席の遺体が安置される錦繍山(クムスサン)宮殿を参拝した写真を、一面に大きく掲載した。奇妙なのは、指導者1人の参拝写真だった。例年であれば高官や軍人を後ろに引き連れていたはずだ。 どうも、多くの高官が交代した事実を見せたくなかったようだ。10月の党中央委総会で多くの高官が姿を消した。新任人事は発表されたが、前任の高官たちがどうなったかは伝えられなかった。しかも、首脳部に登用されたのはまったく無名の人物だったのである。金正日総書記の逝去6周年に当たる2017年12月17日、金日成主席と金総書記の遺体が安置されている平壌の錦繍山太陽宮殿を訪問した金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信=朝鮮通信) この人事の変動を国民にまだ知らせたくない事情がある、と中国では分析している。この事実から北朝鮮国内の不安定さを感じている。人事の若返りに老幹部は不満だ。軍部でも、軍を抑える力のある老幹部が姿を消している。2018年の北朝鮮内部は石油制裁により一層不安定になるだろう。 北朝鮮兵士が11月に板門店から韓国に亡命した。彼が「自由にあこがれて」亡命したというのはウソである。命をかけて逃げたのだから、「命の危険」があったと考えるべきだ。逮捕されるか、処刑される危険があったのだ。韓国の音楽をひそかに聴いてビデオを見ていたのか、直属上官がクーデター計画に加わった、などの不祥事があったのだろう。「命の危険」を語らない亡命はウソである。韓国の情報機関はこの危険を隠している。 金委員長は2018年に「核保有国宣言」を行う。これにトランプ大統領は激しく反発するだろう。なお「核実験」と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を行う意向も示しており、そうなれば石油供給はさらに減少する。 軍部の核開発継続の意向はなお強く、指導者もそれを抑えられない。ただ、2018年前半の実験はかなり難しい。2月の平昌冬季五輪前のミサイル発射は、いくら「人工衛星の打ち上げ」と強弁しても、世界の非難を集める。北朝鮮は冬季五輪に参加せざるをえない事情もあるからだ。3月から4月に入ると、大規模な米韓合同軍事演習が展開されるが、演習中に実験すれば攻撃されるかもしれないと北朝鮮は恐れる。著名ジャーナリストの「警告」 そうなると、北朝鮮が核とミサイル実験に踏み切れるのは5月以降とみられる。2018年後半からはトランプ大統領による軍事攻撃の危険が高まる。これを阻止するためには日朝首脳会談を模索する、それが02年の小泉純一郎・金正日会談の教訓である。 米国のティラーソン国務長官は、12月初めに「北朝鮮との前提条件なしの対話」を呼びかけたが、3日後に発言を修正した。何があったのか。ティラーソン長官は12月15日、国連安保理の閣僚級会合後の記者会見で、「大統領の方針は明確だ。軍の準備は整っている」と、北朝鮮攻撃の可能性を強調した。 マティス国防長官は同日、「北朝鮮のICBMはまだ米国の脅威ではない」と、軍事攻撃に否定的な態度を示した。軍事攻撃に踏み切りたくない立場だ。 国務長官と国防長官の発言から浮かび上がるのは「トランプ大統領が本気で軍事攻撃を考えている」との示唆だ。トランプ大統領と会談したグラム上院議員は、北朝鮮が核実験をすれば「軍事攻撃の可能性は70%」、ICBMの発射なら「30%」と述べている。2017年11月、北朝鮮をテロ支援国家に再指定すると表明したアメリカのトランプ大統領(右)=ワシントン(UPI=共同) 米紙ニューヨーク・タイムズは12月1日、著名なニコラス・クリストフ記者の「第2次朝鮮戦争の危機」と題した記事を大きく報じ、戦争の危険性を警告した。クリストフ記者は「大統領と補佐官が戦争に言及するときは、真剣に受け止めるべきだ」と歴史の教訓を引き合いに、軍事攻撃の可能性が高いと分析した。この記事の背景には、米国の大統領や高官、報道官は決して「ウソをつかない」という文化がある。「国民をミスリードしない」モラルが生き続けているからだ。むしろ、トランプ氏のようにウソをつく大統領は珍しい。 だが、米軍の軍事攻撃は国際法上簡単でない。国際法に違反した軍事攻撃はもちろんできない。北朝鮮が「ニューヨーク、ワシントンを攻撃できる」と言い続ければ、自衛のための攻撃との理由づけは可能だが、苦しい説明だ。とすると、北朝鮮の暴発だけが軍事攻撃を可能にする。トランプ大統領は、そのために北朝鮮を追い詰め、挑発している。脳裏には石油供給削減を続ければ、北朝鮮は何らかの軍事行動に出るとの計算があるのである。

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    2018年は米朝和平の動きが本格化か 転機は米大統領中間選挙

    「我々は決して北朝鮮の核保有を受け入れない。北朝鮮に責任を負わせる」──12月15日、国連安全保障理事会の閣僚級会合で米ティラーソン国務長官は北朝鮮の慈成男・国連大使に激しく詰め寄り、互いに非難の応酬が繰り広げられた。 北朝鮮が核実験を強行した2017年9月以降、米朝の緊張感は日に日に高まっている。米国主導の経済制裁で締め上げられた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、いつ“暴発”してもおかしくない状況で、日本にとっても気が気でない状態となっている。2017年12月、国連安保理の閣僚級会合に出席した北朝鮮の慈成男国連大使=ニューヨーク(共同) その一方で米朝は水面下で秘密交渉を続けながら和平の糸口を探っているという情報もある。トランプ政権高官とのパイプを持つ国際政治評論家の板垣英憲氏が語る。「2017年5月にノルウェーで米朝の高官が集まった秘密会合が開かれ、これまで計8回の会合が行なわれたと聞いています。現在も水面下で話し合いは続けられており、2018年中に米朝和平に向けた動きが、今までにないほど本格化する可能性が出てきています」 その転機となり得るのが、2018年11月に行なわれる米中間選挙だという。「今のところ、トランプの支持率が低迷していることもあり、野党・民主党の優勢が伝えられています。大統領再選を狙うトランプにとって、この中間選挙での勝利は絶対に譲れません。 形勢逆転のため、これまで誰も成し遂げられなかった米朝和平の実現に向け“アクション”を起こす可能性は高い。具体的には、7月4日の米国独立記念日前後に訪朝、米朝トップ会談──との情報が浮上しています。実現すれば世界中が驚くビッグイベントになるでしょう」(板垣氏) 世界が注目する“独裁者”の2人が手を取り合うのか、さらなる敵対へと突き進むのか。トランプ氏の“決断”が大きく状況を分ける。関連記事■ 【ジョーク】金正男から金正恩にメール「TDL破壊しないで」■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 一見デタラメな北朝鮮外交にも明確な方針あると佐藤優氏■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画「愛国烈士」■ 金正恩氏がキューバ議長に親書 米朝首脳会談依頼か

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    北朝鮮、謎の漂流船の正体

    日本海沿岸で北朝鮮木造船の漂流や漂着が相次いでいる。海上保安庁によると、2017年に確認された木造船は99件(12月25日現在)に上り、統計を取り始めた過去5年で最多となった。先行き不透明な朝鮮半島情勢下で、なぜ急増したのか。謎の漂流船、その正体を読み解く。

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    海の利権を握った金正恩が日本に仕掛ける「漂流船工作」

    と説いた。 朝鮮問題の報道や解説は、昔から「間違った空気」や「誤ったステレオタイプ」に支配された。「北朝鮮は地上の楽園」で「朴正煕(パク・チョンヒ)は残虐な独裁者」だった。金日成(キム・イルソン)主席や金正日(ジョンイル)総書記を「残虐な独裁者」とは言わなかった。「北は日本人を拉致していない」とのステレオタイプも一般的だったのである。 北朝鮮漁船が日本海岸に漂着し、漁船員が夜中に民家の戸をたたいた。転覆漁船や死体が毎日のように漂着している。船体には北朝鮮軍所属のナンバーが書かれていた。理解できない事態に、逃亡説や工作船説まで不気味な解説やステレオタイプが生まれている。 海が荒れ、天候も厳しい冬場に、みすぼらしい小さな木造船で漁に出るのは、日本人の常識では死に場所を求めた「戦艦大和」と同じだ。なぜ死を覚悟してまで漁に出るのか、理解に苦しむ。工作船や不審船と思うのも当然だ。 それは、北朝鮮海軍が漁業などの「海の利権」を握ってきた、という北朝鮮国内のシステムを知らないからだ。内部事情を知らずに、講談のように「誤ったステレオタイプ」を語る「専門家」が多すぎる。 北朝鮮では、陸上の利権は陸軍が握ってきた。鉄鉱石や石炭、一部の金鉱山も陸軍の利権だった。軍の利権システムを知っていれば、漁船の漂着はある程度理解できるだろう。それに加え「収穫ノルマ」制がある。ノルマを達成するために漁に出ざるをえないのである。 北朝鮮の漁船はかつて近海でしか操業できなかった。船は小さいし、海軍の許可が出ない。漁船燃料の石油は戦略物資で、軍が握っていたから勝手に出港できない。逃亡を恐れたから多量の石油は供給されなかったのである。 4年前から事情が変わった。金正恩(ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、漁業を食糧難解決と外貨稼ぎのために奨励した。海軍が独占していた漁業権の一部が党や政府の部局に移管されたのである。指導者は、軍から利権を奪い、資金を経済部門に振り向けたいと考えていた。それは、軍と指導者、党と政府の葛藤を生み、漁獲量の達成競争につながった。小型の漁船が多数建造されていった。平安南道に新たに建設された順川ナマズ養殖工場を視察する、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(右)。日時は不明。朝鮮中央通信が2017年11月28日報じた(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 漂着した漁船に、軍所属のナンバーが書かれていたのは、海軍の所属か認可を受けた漁船を意味する。軍所属でなければ、党や政府機関から操業許可を得た船ということになる。魚はタダだから中国に輸出すれば、膨大な利益が得られる。登録機関に賄賂を送り、認可を得る業者も増えた。取り調べを受けた船長や漁船員は? 北朝鮮では、毎年初めに認可を受けた漁船ごとの収穫目標を提出する。上部機関はさらに上乗せして、漁獲目標を指導機関に約束する。毎年ノルマは増えていくからたまらない。 ノルマを達成し、中国への輸出で外貨をかせぐために、日本の排他的経済水域内の漁場を荒らした。冬の荒れる日本海に乗り出した漁船の多くは、ノルマを達成できない部局所属の漁船だろう。その結果、多くの漁船が転覆し船員は命を失った。 ノルマを達成できなければ、賄賂を握らせるしかない。北海道の松前小島から電気製品や発電機、石油をなぜ盗んだのか。北朝鮮に持ち帰れば、闇市場で高額で売れるからだ。ドアノブや鍵も闇市で高く売れる。その資金を賄賂として担当部局の上官に渡せば、ノルマは達成されたことになるからだ。 北朝鮮では、日本で一般に手に入る工具や建築資材は貴重品だ。1990年代の終わりごろでも、原子力発電所建設の現場ではドライバーやペンチなどの工具は貴重品で厳しく管理されていたとの証言がある。この状態は70年代から続いている。2017年12月、函館港内で海保の巡視船が曳航している北朝鮮の木造船。赤い旗を振る木造船の乗組員(松本健吾撮影) 取り調べを受けた船長や漁船員はどうなるのか。北朝鮮漁船員の取り調べは、海上保安庁や法務省入国管理局、警察、公安の担当者が行う。この際、北朝鮮の生活や漁業システム、販売経路、収入などについて詳細に聞く。 北朝鮮に帰ると、秘密警察の厳しい取り調べが待っている。北朝鮮事情を日本の警察・公安当局に話すのは機密漏えいだ。何よりも「日本のスパイにされたのではないか」と疑われる。多くの漁船員は何らかの処罰を受けるだろう。収容所に送られるかもしれない。それを逃れるには賄賂が欠かせない。 また、漁船には必ず秘密警察の手先が乗り込んでいる。北朝鮮では、10人前後の組織や職場でも必ず秘密警察の関係者がひそかにもぐり込んでいる。誰だかわからないように。漁船も例外ではない。逃亡や脱北、亡命を恐れるからだ。 今回漂着した漁船は工作船ではない。ただ、秘密警察の関係者は乗船していると考えるべきだろう。日本政府が単なる漂流民として、簡単に北朝鮮に送還すれば、いずれ漂流漁船を装った工作が展開される可能性は否定できない。 海保や入管、政府当局は外交問題を避けるために「人道的対応」を理由に早期の強制送還で処理したいと考えた節がある。しかし、北朝鮮内部で何が起きているか、情報を入手するためには「詳細な聞き取り」と調査が欠かせない。特に、勝手に島に上陸し建物を壊し、盗みを働くのは明らかな主権侵害で犯罪である。詳細な取り調べのうえで、法律に従った処置を取るのが筋だ。朝鮮総連とつながる政治関係者の「政治決着」の動きは封じるべきだろう。

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    日本上陸を狙う北朝鮮「漁業決死隊」の正体

    山田吉彦(東海大教授、国家基本問題研究所理事) 連日のように北朝鮮船と思われる小型の木造漁船が、日本海沿岸に漂着している。その数は、過去最高の86隻となった。日本海沿岸部には、平成26年~平成28年の3年間で、176隻の小型木造漁船が漂着している。しかし、昨年までと今年の大きな違いは、生存者の数である。過去三年間で5人の生存者しかおらず、昨年は生存者が0であったのに対し、今年は42人が生存している。漂着した漁船の構造から推測すると、波の高さが3メートルにもなると転覆もしくは漂流の危険がある。エンジンルームに海水が浸入したならば、航行不能になるだろう。晩秋から冬にかけての日本海は、北西風の影響で、波高3メートルを超える日も多く、出漁中に事故にあった漁師が、生きて日本まで流れ着くのは奇跡に近い。今年の漂流者の中には、漁が目的ではなく、日本へ漂着することが目的である者が含まれていると考える。 特に、青森県佐井村に漂着した漁船の中からは、普段漁師が漁船に持ち込むことがない靴底がつるつるの革靴や英文が書かれたジャケットなどが11月28日に発見されている。このことから、日本に漂着した後、上陸する目的であったと考えられる。すでに工作員が侵入している可能性も考慮しなければならないのだ。北海道松前町沖に浮かぶ北朝鮮船。前方のプレートに 「朝鮮人民軍第854軍部隊」との表記があった=2017年11月29日(共同通信社機から) また、同日、北海道松前町の沖に浮かぶ無人島「松前小島」に10人の乗組員を乗せた漁船が漂着した。この船は、舵(かじ)の不調により1カ月ほど漂着したというが、乗員は、ほぼ健康体であった。船には「朝鮮人民軍第854軍部隊」と書かれた表示番が付けられ、船員は軍籍を示す船員手帳を所持していた。北朝鮮においては、漁師と軍人の境が曖昧なのかもしれないが、何らかの形で北朝鮮軍が関与していることは確実のようだ。 しかも、島内の漁師小屋に侵入し、発電機や家電製品を奪い船内に積み込んでいた。舵が壊れた船が、自力で本国へ帰還することなどできようもないだろう。燃料が残っていたとも考えにくい。乗員の内、三人は窃盗の容疑で北海道警に逮捕されているが、逮捕時に激しく抵抗する映像が報道されている。屈強な北朝鮮人が、日本の領土を侵していたのだ。詳細な取り調べが望まれる。 11月28日、能登半島沖に二隻の漁船は漂流していた。海上保安庁により、合わせて21人の乗組員が救助され、北朝鮮の船に引き渡されている。北朝鮮の小型漁船の影には、指示をする母船が控えているのである。松前小島の事例も母船が待機していた可能性がある。北朝鮮の国家ぐるみの密漁であり、さらに、覚せい剤取引や工作員の侵入を想定した警備が必要である。母船クラスを拿捕せよ 能登半島の漁師が撮影した映像や目撃証言から推測すると、大和堆(やまとたい)へ侵入している木造漁船は、約300隻、鋼船が50隻程度と考えられる。その内、80隻以上が漂流するのである。帰還できない船は、3割ほどに上るのだ。北朝鮮漁民にとって日本の管轄海域である大和堆への出漁は、命がけである。北朝鮮では、冬場の荒れた海への出漁を「冬季漁業戦闘」と位置づけ、漁師の出漁を半ば強制しているのである。軍部が漁師に課している目標は、国民1人あたり1日300グラムを賄える量といわれている。11月24日の朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」には、「党の水産政策を決死の覚悟で貫徹し、黄金の海の全盛期を切り開こう」と漁民を危険な海に送り出すプロパガンダを実践している。抵抗しながら警察官らに連行される北朝鮮船の乗員(中央) =2017年12月9日、北海道函館市 しかし、船上に干されたイカの量から推定すると、漁獲高は一隻あたり10万円相当にも満たないようだ。燃料代にもならないだろう。危険でかつ採算が捕れない漁を行うのは、軍が関与しているためと考えられる。漁民の大半は、金正恩氏の命令一下、漁業決死隊となっているのである。しかし、漁民の漂流を利用し、日本への漂着をもくろんでいるのであれば許しがたい。 大和堆は、わが国の排他的経済水域(EEZ)内にあるため、日本政府の許可なく漁を行うことはできない。北朝鮮漁船の行為は、密漁である。水産庁は今年6月から7月にかけて漁業取締船を派遣し、二か月間で、延べ約1500隻をEEZから排除した。しかし、7月には、北朝鮮漁船が漁業取締船に小銃の銃口を向ける事件が起こり、水産庁による取り締まりの限界が感じられた。この時期、海上保安庁は巡視船を派遣し、本格的な警戒に乗りだし、12月中旬までに木造船延べ約1400隻、鋼船延べ約500隻を警告や放水銃を使いEEZ外に追い出している。しかし、排除するだけでは、抜本的な対策にはなっていない。巡視船や取締船の姿が見えなくなると北朝鮮漁船は、すぐに大和堆に舞い戻り、不法操業を続けるのである。日本の国内法に従い、拿捕、逮捕も視野に入れなければ、北朝鮮船による密漁は無くならないのである。母船クラスを数隻拿捕すれば、小型木造漁船は、霧散することだろう。  今年、頻発している北朝鮮漁船の漂流の目的としては、朝鮮半島有事の際に、船を使っての日本への脱出ルートを確認していた可能性がある。今年の漂着成功事例から、数千人規模の北朝鮮脱出民が漁船にのり、日本列島に押し寄せることだろう。 まずは、海上保安庁が中心となり、日本の管轄海域への侵入や密漁を許さない体制を作りである。さらに、無人離島の管理体制を強化する必要がある。しかし、海上保安庁の装備、陣容には限界がある。海保のダイナミックな規模拡大と合わせ、漁民や海運事業者の協力を仰ぎ、情報連携を密にして警戒態勢を構築することが望まれる。無人島に遠隔監視のための監視カメラやレーダーを設置することも有効だろう。また、武装集団の侵入にも備え、自衛隊との連携も確認しなければならない。 再び、拉致被害のような悲劇を起こしてはならない。北朝鮮に対しては、ありとあらゆる事態に備えた、万全な対応を準備しなければならない。

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    押し寄せる北朝鮮漂着船、尖閣をめぐる米中合意が「元凶」だった

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト) 北朝鮮からの漂着船は11月に28件、12月は41件にのぼっている。もとより日本海の日本の排他的経済水域である大和堆(やまとたい)で北朝鮮の漁船が違法操業を繰り返している事は、周知の事実だった。従って、その漁船群の一部が日本に漂着する可能性は確かにある。 しかし、今年の漂着数は例年になく多く、しかも大和堆での違法操業が止んだ11月下旬以降も増加の一途をたどっている。また、漂着船の一部に北朝鮮軍所属を示す証拠があり、さらに12月9日に北朝鮮の船員3人が日本の無人島で窃盗した容疑で逮捕されるに及んで、単なる漂着ではなく意図的な侵略の疑いが浮上してきた。 そもそも北朝鮮や中国などの漁船は軍などの国家機関の指揮下にあり有事には海上民兵として戦闘に参加することを義務付けられている。そうした漁船群が日本の水域で違法操業をしている事自体、すでに明白な侵略なのである。北朝鮮船から積載物を運び出す捜査員ら=2017年12月、北海道函館市 ここで思い起こされるのは、2014年9月から12月にかけて小笠原・伊豆諸島周辺の日本の排他的経済水域で中国の漁船群が繰り広げた大規模なサンゴ密漁事件であろう。密漁とは言うけれど200隻以上の漁船が公然と日本のサンゴを略奪していた。 違法操業をする漁船の数があまりに多かったため、海上保安庁は全体として対処できず密漁事件として一隻一隻を調べて船員を逮捕していく他なかったのである。10月末には警視庁が機動隊員ら28人を小笠原諸島に派遣した。中国漁民の上陸に備えての派遣であった。もし派遣を怠っていれば、大量の中国の海上民兵に島が占領される危険があったのである。 この時期になぜ、かくも大量の漁船が押し寄せたのか、訝(いぶか)る声は当然あった。安倍政権の対中姿勢に中国が不満を募らせている証だと言ったような論調もあった。11月7日、岸田文雄外相(当時)と中国の王毅外相が会談し、尖閣諸島の領有権について日中は「異なる見解を有していると認識」している点で合意した。つまり中国の尖閣領有権の主張を日本は否定しなかったのである。 しかし、続く11月10日の日中首脳会談で安倍総理は習近平主席に譲歩を示さなかった。習近平の仏頂面が話題になったのはこの時である。この会談後、サンゴ密漁船は減り始め17日には58隻になった。21日に海上保安庁はようやく一斉摘発に乗り出し、12月にはサンゴ密漁船を一掃するに至ったのである。 こうして見ると中国は日本への政治的圧力の道具として漁船群を派遣したかに思われよう。だが、サンゴはほぼ取り尽されていた。従って11月に密漁船が減り始めたのは、習近平の指示ではなくサンゴが採れなくなったためと見た方がいいだろう。 つまり、習近平は漁船群の派遣を指示したかもしれないが、撤収の指示はしていなかった。日本への圧力と同時に漁民の利益も考慮に入れた一石二鳥の戦略であったろう。これは今回の北朝鮮の漁船群到来にも当てはまる。日本「侵略」を助長する米中軍事合意 北朝鮮の漁船が日本の排他的経済水域で違法操業をするようになったのは、北朝鮮が近海の漁業権を中国に売り渡してしまったためである。北朝鮮の漁民が北朝鮮当局の指示や承認なしに日本列島に接近出来るわけはないから、北朝鮮が漁民の利益を考えて派遣している側面は否定できない。 だが、その漁場が日本の排他的経済水域であるのを知って派遣している以上、これが日本への政治的圧力として作用することも当然認識しているわけである。さらには大量の漁船群の中に工作船を紛れ込ませ、日本への上陸侵入を画策するのは北朝鮮の工作機関としては当然の行為であろう。 とはいえ、工作員が上陸するしないにかかわらず、北朝鮮当局が日本の排他的経済水域での違法操業をさせている時点で既に侵略なのであることは、さきに述べた通りである。侵略に対しては自衛としての軍事対応が国際法上認められている。日本には自衛隊という自衛のための軍事組織が存在している。ならばなぜ、自衛隊が出動しないのか。 日本では海上警備は一義的に海上保安庁が担当している。しかし、上記2例については、海上保安庁は明らかに対応不能であった。海上保安庁が対応できない以上、自衛隊が対処するしかないのは明白である。 そもそも事は尖閣における漁船衝突事件にさかのぼる。2010年9月に尖閣諸島の日本領海内で中国の漁船が海上保安庁の巡視船2隻に体当たりし、対する海上保安庁はこの漁船を捕獲し乗組員を拘束した。尖閣諸島沖で巡視船「みずき」に衝突する中国漁船=2010年9月 逆ギレした中国政府は北京、上海などで反日暴動を惹(ひ)き起こし在留邦人を恐怖に陥れたばかりか、日本人社員4人を人質に取った。さらに日本へのレアアースの輸出を停止し、日本に謝罪と賠償を求めた。 ここで米国政府が「尖閣諸島は日米安保条約の発動対象」と明言したため、事はようやく収まったのである。つまり中国が尖閣諸島を占領した場合、米軍は中国を攻撃すると宣言し中国が慌てて矛を収めたのだ。 だが、米国としても中国と戦争を望んでおらず、そこで米中間で尖閣諸島での軍事行動を双方が控える旨の合意がなされた。つまり中国が尖閣に軍隊を派遣しない限り、日米も自衛隊や米軍を出動させないという約束である。 戦争を回避するための合意だが、逆に解釈すると中国が海洋警察や海上民兵を軍隊でないと主張して派遣すれば、日本は自衛隊を出動させられないのである。中国はこれに味を占めて海洋警察を毎日のように派遣し、しまいに漁船群が押し掛けるに至り北朝鮮も同調したわけだ。 端的にいえば、米中のこの合意が、かえって中国や北朝鮮の対日侵略を助長させているともいえよう。日本としては米国に働きかけて、この合意を破棄させ日米中における新たな安全保障の枠組みを構築すべきであろう。

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    北朝鮮木造船の漂着に隠された一触即発の火種

    置する松前小島沖で国籍不明の木造船が漂流しているのを発見」との連絡があったからだ。 総監部では当初、北朝鮮工作船の可能性も否定できないと身構えたが、急行した哨戒機P−3Cから伝送された写真を分析して、「エンジントラブルなどで漂流する漁船」と判断し、緊張は収まった。 しかし、この「漂流する漁船」は、数日後にはメディアで大きく取り上げられることになる。海保による立入検査で、「朝鮮人民軍第854部隊」と書かれた標識が船体に付けられたことが分かると、メディアやネット上で「工作船」疑惑が持ち上がった。 騒動は北海道警察が乗員3名を松前小島の待避小屋から家電などを盗んだ疑いで逮捕したことで幕引きとなったが、その背景について政府が説明することはなかった。警察官らに囲まれて連行される北朝鮮船の乗員(中央)=2017年12月9日、北海道函館市(共同通信) この騒動について、東京・市ヶ谷で北朝鮮情勢を分析する防衛省関係者は、「北朝鮮の木造船が続々と漂着する理由を紐解いていくと、弾道ミサイルよりも危険な火種が存在することが見えてくる」と明かす。 防衛省関係者は、北朝鮮木造船の漂着が増加した理由として、「金正恩の指示による漁業活動の強化と西高東低の気圧配置」の二つが挙げられるという。 一つ目の理由は、金正恩(キム・ジョンウン)が政権を引き継いだ翌年の2013年12月に、朝鮮人民軍創設以来はじめてとなる「人民軍水産部門熱誠者会議」を開催して模範労働者を表彰したことに見出せる。 これ以降、金正恩は毎年元旦に発表する「新年の辞」の中で、漁業強化を指導している。 二つ目の理由である冬型の気圧配置とは、大陸に発生した高気圧(シベリア寒気団)の影響で日本海に強い西寄りの風が吹くことをいう。この荒れた日本海で整備不良の北朝鮮漁船は容易に遭難し、運が悪ければ転覆、運が良ければ日本まで流れ着くことになる。 今年に入り発見された北朝鮮の漂着船は、海保のデータがあるここ4年間で最多の64隻(12月10日現在)となっている。例年、冬型の気圧配置が始まる10月末頃から遭難した船が約1カ月かけて漂着するため、2月までは引き続きこのペースで漂着する可能性があるという。弾道ミサイルよりも危険な火種とは これまでの説明で分かるとおり、日本海で操業する北朝鮮漁船は従来も存在したが、特に今年は「漁労強化」の指示により操業隻数が増加したため、これに比例して何らかのトラブルに見舞われて日本に流れ着いた船も多くなったということだ。松前町で発見された木造船の乗員も、「9月に清津(チョンジン)を出港して日本海でイカ漁をしていたが、約1カ月前にエンジンが故障して漂流した」と供述している。北海道松前町沖に浮かぶ北朝鮮船。プレートに「朝鮮人民軍第854軍部隊」との表記があった=2017年11月27日(共同) しかし、この説明では、木造船が「工作船」ではないという根拠としては希薄だといわざるを得ない。防衛省関係者は、「北朝鮮の漁船の多くは形式上、朝鮮人民軍に所属し、これまで漂着した漁船の多くに軍部隊番号が記載されていた」と付け加える。   実際に北朝鮮の公式メディアは、金正恩が昨年11月に、「人民軍5月27日水産事業所」と「人民軍1月8日水産事業所」を現地指導したことを伝えている。ここからはっきりと見て取れるのは、軍が漁業を行なっているという事実だ。 人民軍に所属するからといって、それが必ずしも戦闘や諜報工作に供される訳ではない。人民軍は漁業もすれば炭鉱や工場も運営するという、“巨大企業”の側面も有している。 では、本題となる北朝鮮漁船の漂着という現象の背後にある、「弾道ミサイルよりも危険な火種」に話を移そう。 北朝鮮の漁船が主に操業している海域は、日本海中央の大和堆と呼ばれるエリアで、ここは暖流と寒流が交わる日本有数の豊かな漁場だ。だが、このエリアは漁業関係者の間で、「竹島」を巡る“熱い海”としても知られている。 1999年に発効した日韓漁業協定では、日韓双方が領有権を主張する竹島を“存在しないもの”として中間線を設定し、その周辺海域を「暫定水域」と定め、日韓両国がそれぞれのルールに従い漁業活動を行うこととした。その一方で、日本と北朝鮮の間には、1997年から93年まで結ばれていた民間漁業協定で中間線を基準とするEEZが確認されていたが、この協定は現在失効している。 日本海中央の大和堆は日本と韓国、北朝鮮の漁業権益が複雑に交差していることが分かるだろう。日韓間には暫定水域が存在しているが、日朝間にはそのような緩衝地帯は存在しない。そればかりか、両国の排他的経済水域(EEZ)は漁場である大和堆付近で重なっている。韓国が取り締まり緩和を要請? 海保は今年8月までに、日本のEEZ内で不法操業する北朝鮮漁船に対して、巡視船の放水銃を使用するなどして800隻以上を退去させたと発表した。そして、この過程で巡視船が北朝鮮漁船から小銃を向けられたことも報じられた。海保は具体的な海域を明らかにしていないが、漁業関係者などの証言から、日朝が衝突した海域は大和堆周辺であることが明らかになっている。 海保による対策は対処療法に過ぎないが、日中間の係争地となっている尖閣諸島と異なり、北朝鮮は日本に対抗するだけの海軍力や海上警察力を有していない。このため、海保が海域警備を続ける限りは、北朝鮮による不法操業を抑えることができるだろう。 このような中、ある海保関係者は、「韓国政府が実務レベルで、北朝鮮漁船の取締りを緩和するよう非公式に要請してきた」と憤慨する。韓国政府の意図はどこにあるのか。 今年5月に就任した文在寅大統領はいわずと知れた対北朝鮮融和派の人物で、文政権を誕生させた韓国世論もこの姿勢を概ね支持している。韓国政府が「取締りの緩和」を求めた理由には、この韓国世論が背景にあるという。北朝鮮の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射を受け、韓国・ソウルで開かれた国家安全保障会議(NSC)で発言する文在寅大統領=2017年11月29日(聯合=共同) 韓国政府実務レベルの懸念は、日本が北朝鮮漁船に対する取締りを強化すれば、北朝鮮にシンパシーを抱く韓国マスコミや世論の“反日”姿勢が強まり、韓国政府は日本と対北朝鮮問題で協調することが難しくなるということだ。緊迫化する朝鮮半島情勢を鑑みれば、韓国政府の立場も理解できなくもない。 そして、この韓国側の懸念こそが、先に防衛省関係者が述べた、「弾道ミサイルよりも危険な火種」の正体だ。普段は意識することが少ない漁業問題は、実はナショナリズムに結びつきやすい性質を持っている。捕鯨問題やEEZ・大陸棚問題等から分かる通り、問題が文化や領土・資源に直結するため、一度噴出すれば政府は世論を抑えることが困難になる。 北朝鮮による弾道ミサイルの脅威が高まり、アメリカによる北朝鮮攻撃も非現実的な話でなくなった時に起こった「工作船」疑惑に、政府はだんまりを決め込んでいる。それは、火種に息を吹きかけて炎にしないための判断だろうが、その判断は果たして正しいのだろうか。朝鮮半島をめぐる危険水位が最高潮に達した現在、正確な情報とそこから導出される見通しを国民に伝えることが政府の責務ではないのか。

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    金正恩の本当の狙いは何だったのか 2017年北朝鮮情勢を振り返る

    7年の「今年の漢字」は「北」だった。理由の筆頭に挙がったのは、たび重なるミサイル発射や核実験といった北朝鮮の動向だ。北海道上空を飛び越える軌道でミサイルが発射され、Jアラート(全国瞬時警報システム)のサイレンが鳴り響いたのも今年だった。年末に発表された内閣府による「外交に関する世論調査」では、北朝鮮への関心事項のトップが「ミサイル問題」(83.0%)となり、「日本人拉致問題」(78.3%)を上回った。拉致問題よりミサイル問題への関心度の方が高くなったのは、日本と北朝鮮の関係が調査項目に入った2000年以降で初めてである。1月に就任したトランプ米大統領は金正恩国務委員長を「ちびロケットマン」と呼んで挑発し、金正恩委員長はトランプ大統領を「老いぼれ」とあざけった。森清範貫主によって揮毫された2017年の今年の漢字「北」=2017年12月12日午後、京都市東山区の清水寺(寺口純平撮影) 今までなら一笑に付されていたであろう「米国による先制攻撃」も、トランプ氏ならばあるかもしれないと繰り返し心配された。12月になってからも「金正日国防委員長の命日である17日に開戦」だとか、「クリスマス休暇で在韓米軍の家族が帰った時があぶない」などという説がとなえられたほどだ。 国連安全保障理事会が採択した制裁決議の本数を見ても、北朝鮮をめぐる危機が昨年から急速に深刻化していることを読み取れる。北朝鮮が初めて核実験を行った2006年からの10年間に4本だった制裁決議が、昨年は2本、今年は4本となった。この2年間で、それ以前の10年間の1.5倍というペースである。 北朝鮮をめぐる危機が深まった2017年という年が暮れる前に、この1年を振り返っておきたい。 1月20日に就任したトランプ米大統領は、事前の予想を覆して北朝鮮の核・ミサイル問題を重視する姿勢を見せた。北朝鮮の核問題に対応してきた過去25年間の歴代政権が取ってきた政策をすべて失敗だったと決め付け、軍事行動を意味する「すべての選択肢」を強調する強い姿勢だった。実際の政権としては、強い圧力をかけることで北朝鮮を交渉の場に引き出すことを主軸とし、そのために軍事力を見せつけるというのが基本方針だ。しかし、大統領自身がしばしば軍事力行使をにおわせる不規則発言(ツイート)を繰り返した。北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返したことに加え、トランプ氏のこうした姿勢が危機感を増幅させた面は否定しがたい。「3・18革命」と「7・4革命」 北朝鮮では今年、「3・18革命」と「7・4革命」という言葉がけん伝された。 3月18日には金正恩委員長の指導の下でミサイルの新型エンジンの燃焼試験に成功したとされる(「3・18革命」)。そして、7月4日には初の大陸間弾道ミサイル(ICBM)である「火星14」のロフテッド軌道での発射を成功させた(「7・4革命」)。この日は米国の独立記念日であり、金正恩委員長はICBM発射を米国への「贈り物」と称した。金正恩委員長はこの際、「今後も大小の『贈り物』を頻繁に贈ろう」と語った。その言葉通り、7月28日に「火星14」を再びロフテッド軌道で発射した。北朝鮮が7月28日に発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」。朝鮮中央通信が配信した(朝鮮通信=共同) 8月29日と9月15日には北海道上空を通過させて中距離弾道ミサイル「火星12」を発射した。この時には、高い角度に打ち上げて飛距離を抑えるロフテッド軌道ではなく、飛距離を伸ばす通常の軌道での発射だった。さらに11月29日には米国本土に届く飛距離を持つICBM「火星15」をロフテッド軌道で発射した。この間の9月3日には、広島型原爆の約10倍という威力の核実験(6回目)を強行している。 11月の「火星15」発射について、日米韓では弾頭部の大気圏再突入技術に依然として問題を抱えている可能性が指摘されたが、北朝鮮は「大成功」だったと規定。「(経済建設と核開発を同時に進めるという)並進路線を忠実に支えてきた偉大で英雄的な朝鮮人民が獲得した高価な勝利である」と宣言された。 注目すべきは、この勝利宣言が「朝鮮民主主義人民共和国政府声明」という形式だったことだ。「政府声明」は、金正恩委員長自らの言葉や声明に次ぐ重みを持っている。そして、昨年来の核・ミサイル開発加速の起点と言える2016年1月6日に行われた4回目の核実験を受けて「核抑止力を質量ともに絶えず強化していくだろう」と宣言したのも「政府声明」だった。 北朝鮮は2016年1月の核実験後、「核抑止力の強化」をうたった政府声明を実践するかのように核・ミサイルの開発を急いできた。そして、2017年11月の「火星15」発射でICBMが「完成」したとされ、政府声明によって「(金正恩委員長が)ついに国家核武力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現されたと矜持高く宣布」したことが明らかにされた。北朝鮮は経済や外交に重心を移し始めた 二つの「政府声明」はセットであると考えることができる。2016年1月の「政府声明」で自ら宣言した核・ミサイル開発が到達点に至ったとの自己評価を翌年11月の「政府声明」で行ったということだ。 実際には、弾頭部の大気圏再突入などの技術的課題が残っているだろう。とはいえ、北朝鮮自身が核抑止力を確保したと国家レベルで宣言したことは、政治的判断として一つの区切りにしたことを意味する。今後は、経済を立て直すための外交攻勢を仕掛けてくる可能性もありそうだ。9月3日、朝鮮中央テレビで水爆実験に関する重大報道を伝えるアナウンサー(共同) 北朝鮮の核・ミサイル開発が由々しき問題であることは間違いないが、日本では危機感が実態以上に伝えられることの多かった一年でもあった。戦争の危機説が騒がれた4月の状況が好例だろう。トランプ大統領が空母「カールビンソン」を朝鮮半島近海に派遣すると語り、日本では米国による先制攻撃の可能性が声高に語られた。 だが、北朝鮮側はいたって平静だった。4月11日には国会にあたる最高人民会議が事前予告通りに開催され、金日成主席生誕105周年だった15日には平壌で閲兵式(軍事パレード)が行われた。どちらの行事にも金正恩委員長が出席している。金正恩委員長が雲隠れせず予定通りの日に予定通りの場所に現れたということは、米国からの攻撃は無いと読んでいたことになる。 最高人民会議では19年ぶりに外交委員会が復活した。最高人民会議を前後して幹部たちが金正恩委員長の代わりに行った演説は、北朝鮮のレトリックとしては普段の攻撃性を自制したものであった。しかし、そのような動きはインパクトが少ないばかりか理解しづらい。さらに、北朝鮮は非論理的で暴走しているという思い込みにも合致しないためか、日本では大きく報道されなかった。 9月3日の核実験に際しては、党政治局常務委員会が実施を決定したとされた。金正恩氏を筆頭にした政治局常務委員会は序列5位までの最高幹部が名を連ねる組織だが、実際に開催されたのは初めてとみられる。『労働新聞』はこの時の会議について、核実験だけでなく経済問題も討議されたことを示唆した。経済や外交の担当者を含む委員会での決定という形式を取ったことも、軍事以外も重視する色合いを出そうとした可能性がある。 経済や外交に重心を移そうとする動きは、10月7日に開かれた朝鮮労働党中央委員会第7期第2回全員会議で行われた大規模な人事からも読み取れた。政治局構成員の4分の1程度、各分野の実務を担う党中央委副委員長の半数弱、党中央軍事委員会委員の3分の1程度が交代したと推測される規模だ。韓国をじらしている金正恩政権 米朝間の緊張が高まっているにもかかわらず、軍人の登用はほとんどなく、むしろ経済や外交の実務家が引き上げられた。その内容からは、核抑止力の確保に自信を持ったことを受けて、経済建設と核開発を同時に進めるという金正恩政権の公式方針である「並進路線」の中で経済建設に重点を移そうとしている様子が見受けられた。なお、金正恩委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏はこの時、中央委員から政治局候補委員に昇格した。長老格の金己男(キム・ギナム)党宣伝扇動部長や崔泰福(チェ・テボク)最高人民会議議長は円満に引退している。 実際に9月下旬からは金正恩委員長の動静報道が軍部隊への視察ではなく経済関連の活動ばかりとなった。ロシアへ外務省北米局長を派遣したり、国連事務次長を平壌に招いたりといった外交的な動きが見られるようにもなっている。 一方、金正恩委員長は2017年元日の「新年の辞」で「北南関係の改善」を訴え、10年前に金正日国防委員長と盧武鉉大統領との間で署名された南北共同宣言(「10・4宣言」)に言及したが、南北関係に大きな動きはなかった。 韓国では北朝鮮との融和路線を志向する進歩派の文在寅政権が誕生したが、北朝鮮の核・ミサイル開発が急速に進展する中では日米の圧力路線に同調するしかないという韓国側の事情があろう。ただ、北朝鮮は過去にも韓国の政権が南北対話を望む場合にはむしろ、最初は相手をじらすという戦術を取ってきた。南北関係改善を望む文在寅政権のスタンスは一貫して維持されると考えられるため、南北関係は今後、金正恩政権の判断次第で動きうるだろう。 核・ミサイル実験とともに耳目を集めたのは、2月13日に発生した金正男氏殺害事件であろう。金正恩委員長の異母兄である金正男氏がマレーシアのクアラルンプール国際空港で殺害された。犯行には猛毒の神経剤「VX」が使われた。金正男氏殺害で北朝鮮籍の男を逮捕を報じる韓国国内の各新聞一面(手前は朝鮮日報の一面)=2017年2月20日、韓国・ソウル(納冨康撮影) マレーシア当局の捜査によって北朝鮮の情報機関による犯行である可能性が強いと判断されたが、北朝鮮側はいっさいの協力を拒否した。実行犯のベトナム人女性とインドネシア人女性はマレーシア当局に逮捕され、裁判が進められている。この事件によって、それまで親密な関係を保ってきた北朝鮮と東南アジア諸国との関係は冷却化し、東南アジアでの北朝鮮イメージは悪化した。 なお、金正男氏は「キム・チョル」名義の北朝鮮旅券を持って海外に滞在していたことから、北朝鮮では「キム・チョル事件」と呼ばれ、事件への関与は全面否定されている。「核武力完成」を宣言した金正恩の2018年は? トランプ大統領は、この事件を根拠に北朝鮮をテロ支援国に再指定した。もともとは1987年11月の大韓航空機爆破事件を受けて1988年1月に指定され、2007年2月の六カ国協議での合意を受けて2008年10月に指定解除されていたものである。 北朝鮮国内では、2013年12月の張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長の処刑以来、側近幹部への粛清はやや落ち着いたように見えていたが、最近は引き締めの動きが再び伝えられる。 2017年11月20日には韓国の情報機関・国家情報院が、党組織指導部による朝鮮人民軍総政治局への思想点検の結果として黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長や金元弘(キム・ウォンホン)第1副局長らが処罰されたと韓国国会に報告した。黄炳瑞氏は権力序列で5位以内に入っていた最高幹部の一人である。ただし、北朝鮮では処罰として農場などに送られた幹部が一定期間の後に復権することも珍しくない。「革命化教育」と呼ばれるものだ。 経済制裁によって北朝鮮の態度を変化させることはできていないが、同国の経済に少なからぬ影響が出てきていることは、各種声明や『労働新聞』などによる反発ぶりからも想像に難くない。11月頃からは、十分な燃料を持たぬまま木造漁船が沖に出て日本の沿岸に漂着するという事件も多発した。11月13日には板門店の共同警備区域(JSA)で北朝鮮軍人が韓国に亡命する事件も発生している。韓国に亡命する脱北者数自体は昨年より減少傾向にあるため、象徴的な事件だけをもって北朝鮮社会全体の変化を語ることはできないものの、年末には金正恩委員長指導のもと約5年ぶりに「党細胞委員長大会」が開催され、国内の引き締めが図られた。北朝鮮の労働新聞が8日掲載した、朝鮮労働党中央委員会総会で報告を行う金正恩党委員長の写真 =2017年10月7日(コリアメディア提供・共同) 金正恩委員長は毎年、元日に「新年の辞」という演説を行う。軍事から経済、外交までを包括した内容で、いわば北朝鮮版の施政方針演説である。「核武力完成」を宣言した金正恩委員長が何を語るのかは、2018年の北朝鮮情勢を占う大事な材料になる。 いそざき・あつひと 1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て2015年から現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。さわだ・かつみ 1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

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    朝鮮半島有事で押し寄せる難民27万人がもたらす影響

     北朝鮮のミサイル、核に警戒が強まっているが、有事にそれらよりも破壊力を持つかもしれない脅威が、「難民」だ。東京新聞論説兼編集委員の半田滋氏が警鐘を鳴らす。 * * * 朝鮮半島有事が起きた場合、日本にどれほどの難民が押し寄せるのか。北朝鮮が核開発を名目に核拡散防止条約(NPT)からの脱退を表明した一九九三年、防衛庁(現防衛省)で密かにシミュレーションが行われた。「K半島事態対処計画」。朝鮮半島有事を想定し、自衛隊がなすべきことを示した指針だ。「指定前秘密」の赤い判が押されたこの秘密文書は、その後の法改正などを反映して修正され、現在も防衛省統合幕僚監部に引き継がれている。 自衛隊が対処すべき項目として情勢緊迫から紛争発生までに必要な邦人救出、弾道ミサイル対処、米軍支援など十二項目が並ぶ。「難民対策」の項目をみると、単純な軍事攻撃以上の脅威となることがわかる。シリア難民が欧州に逃れ、各国のEU離脱の動きにまで発展しているのをみても明らかだ。「K半島事態対処計画」は、戦火を逃れ、避難する目的の一般難民について、戦後世界軍事資料をもとに「(人口に対する発生割合を)紛争開始直後に約一%、紛争収拾までに約一〇%に達する」と見込み、紛争発生直後に発生する難民を韓国で約四十五万人、また北朝鮮で約二十四万人と試算、海と陸地から周辺国に流出するとしている。◆武装難民が紛れ込む このうち日本には韓国から約二十二万人、北朝鮮からは約五万人の合計約二十七万人が押し寄せ、九州北部や山陰地方沿岸部から上陸すると見込んでいる。秋田県由利本荘市の「本荘マリーナ」付近に漂着し係留された木造船=2017年11月24日午前9時38分(共同通信) 一義的には警察が対処するものの、警察で対応可能なのは難民約三万五千人にすぎず、これを超える大量難民については自衛隊による対処を想定する。 九州、沖縄を担当する陸上自衛隊西部方面隊(総監部・熊本市)をモデルに試算すると、隊員一人につき、難民十人を管理する前提で管理可能な難民は約一万人にとどまり、残る四方面隊からの増援が必要になると結論づけている。武装難民にどう対応できるか 陸上自衛隊挙げての総力戦にならざるを得ないというのだ。一例として第四師団(福岡県春日市)が三千人の難民を任された場合が示されている。駐屯地に隣接した訓練場に仮設の難民収容所をつくり、六人用テントを三百張建て、簡易トイレを三十個設置する。隊員六百人を配置し、第十六普通科連隊長(一等陸佐)が指揮をとるとしている。離島防衛を想定した上陸訓練で、銃を構える陸上自衛隊普通科連隊の隊員=2017年11月12日、静岡県の沼津海浜訓練場(酒巻俊介撮影) 軍隊は三割の兵士を失ったら戦闘能力を失うというのが軍事の常識とされる。仮設収容所に駆り出される隊員六百人は普通科連隊の五割に相当し、指揮官の連隊長が「所長」を務めるようでは、部隊は機能不全に陥ってしまう。 さらに問題を複雑にするのは難民に混じって武装難民が紛れ込む可能性があるという点だ。日本での不法行為、テロ行為を目的として難民に紛れ込んで潜入する武装難民は、武器や爆発物の使用、人質の獲得などの犯罪行為に走る。「K半島事態対処計画」に組織名は記載されていないが、「わが国在住の自国民」や「わが国の国内勢力」と呼応して暴動を起こすこともあるとしている。その結果、日本の安全保障に重大な影響を及ぼす恐れがある場合は「治安出動も考慮する」とある。 陸上自衛隊の多くの部隊が難民対処に駆り出されている最中で治安出動が下令されるのである。この段階になると、テロやゲリラの危険も高まっている。 陸上自衛隊の現員は十四万人弱にすぎない。武装難民やテロ、ゲリラに対処するとすれば、当面の危険はない一般難民にまで手がまわらないと考えるのが自然だろう。【PROFILE】はんだ・しげる/1955年栃木県生まれ。東京新聞論説兼編集委員、獨協大学非常勤講師、法政大学兼任講師。1992年より防衛庁取材を担当。『自衛隊vs.北朝鮮』(新潮新書)、『日本は戦争をするのか』(岩波新書)、『零戦パイロットからの遺言』(講談社刊)ほか著書多数。関連記事■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ 北朝鮮のミサイルを自衛隊は撃ち落とすことができるのか■ 北朝鮮の難民の多くは中韓へ 日本は「偽装亡命機」に注意■ 日本は北朝鮮の特殊部隊やテロリストの上陸を阻止できるのか■ 金正恩体制転覆のため われわれ日本人ができること

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    韓国はなぜ、北朝鮮問題で米国の足ばかり引っ張るのか

    者の住む京都の清水寺では、毎年恒例の行事「今年の漢字」の発表があった。今年は「北」である。 どうやら北朝鮮の脅威・危機が、主な理由らしい。今年の日本人にとって、「北」の問題がいかに重大だったか、を示して余りある。 そのことに異を立てるつもりはない。けれども「北」ばかりでよいのか。へそ曲がりな筆者はニュースを見て、いささか疑問を禁じ得なかった。 考察の端緒(いとぐち)として、今年の動向を整理してみよう。いうまでもなく最も危機が高まったのは、9月の米朝間の応酬だった。その直接の発端は、8月下旬の米韓合同軍事演習の前後あたりまで、さかのぼることができる。(iStock) 8月21日にはじまった合同軍事演習は、その月末まで続いた。その間、北朝鮮がメディアを動員して演習を非難しつづけたのは通例のことながら、実際の行動にも出ている。 同月26日に日本海に向け短距離弾道弾3発を、その三日後にも、日本上空を通過して太平洋に着弾する弾道弾を発射した。国連安保理はこれに対し、同じ29日、弾道弾を発射した北朝鮮を非難する議長声明を採択する。 にもかかわらず、北朝鮮はわずかその数日後に、6回目の核実験を強行した。しかも「ICBMに搭載する水爆の実験に成功」したと発表したから、国際社会は騒然となったのである。 核実験の翌日、9月4日に国連安保理は緊急会合を開いた。そのおよそ一週間後の11日、安保理は全会一致で北朝鮮に対する制裁決議を採択する。一週間かかったのは、厳重な制裁を主張する日米と、制裁に慎重な姿勢をくずさない中露との溝が埋まらなかったためであり、けっきょく前者が譲歩して、全会一致の決議にこぎつけた。 北朝鮮の挑発は、その後もやまない。数日経った15日、北朝鮮はふたたび弾道弾を発射した。このミサイルは北海道上空を通過し、「襟裳岬東約2,200kmの太平洋上に着弾」したといい、その性能の向上、とりもなおさず脅威の増大を印象づけたものである。 国連安保理は同日、ただちに緊急会合を開いて非難声明を出した。だが北朝鮮は動じず、18日に外務省報道官が談話を発表、アメリカが主導する対北朝鮮制裁に協調する国々を批判する。 9月19日のトランプ大統領の国連演説は、それを受けておこなわれた。このまま事態の悪化がつづけば、「北朝鮮を完全に破壊するほか選択肢はない」と宣言したのである。「完全に破壊」というかつてない文言での警告だった。 それに北朝鮮が強く反撥、激烈な威嚇の応酬となり、危機は最高潮に達す。しかし中国の制裁も強まったこともあって、北朝鮮はひとまず鳴りを潜めた。韓国の蠢動 あらためてミサイルを発射したのは、2ヵ月半経った11月29日未明である。ミサイルは技術を格段に向上させたものだった。物資の窮乏という苦境に遭いながらも、北朝鮮の強硬な姿勢は変わっていない。 危機は深刻化の一途である。そうしたなか、北朝鮮と米国・そして中国の姿勢は、およそはっきりして見えやすい。いずれも日本人に納得できるわけではないものの、それぞれの立場で、ひとまず一貫しているからである。 むしろ見えづらいのは、韓国である。韓国はアメリカの同盟国であり、米韓同盟の一翼を担っている。在韓米軍と韓国軍は協力して北朝鮮に対抗してきた。今後もそうするだろう。その意味では、アメリカとの安保条約を有する日本と立場はかわらない。しかし現実は、どうだろうか。 米韓合同軍事演習のおよそ一週間前、8月15日に文在寅韓国大統領は、「朝鮮半島での軍事活動は大韓民国だけが決めることができる」と表明した。これは米軍単独の行動、とりわけ北朝鮮に対する単独攻撃はさせない、という意味であって、事実上アメリカの動きを制約することにつながる。(iStock) 9月14日、文大統領はCNNとのインタビューで、「戦術核兵器再配備に賛成しない」と述べた。核実験を強行した北朝鮮に対する国連安保理の制裁決議から、まもなくのことである。 在韓米軍は1991年12月の南北非核化共同宣言で、戦術核を撤収していた。北朝鮮の核の脅威に対抗すべく、その「再配備」を求める声が国内、とりわけ野党からあがっており、それを抑えるのが、文大統領のねらいである。しかしこれも、アメリカの軍事活動を制約する側面を有することはまちがいない。 さらに韓国は、9月19日のトランプ大統領の国連演説に強く反撥した北朝鮮に対し、その二日後の21日、9億円にのぼる人道支援を正式に表明した。同日、文大統領はあわせて自らわざわざ、北朝鮮に平昌冬季五輪の参加を呼びかけている。こうした言動には、日米両政府もさすがにいい顔をしなかったと伝えられた。 以上の事例だけでも、いかに韓国の動き方が怪しいかがわかる。日米の側につくのか離れるのか、迷走しているかに見えるし、もっと下世話な言い方をすれば、同盟国のアメリカの足を引っ張る挙動ばかりであった。 然り。謎は韓国にこそある。日米がこのような国と提携していけるのか、日米韓の連携など幻想ではないのか。そうも思えてくる。南北分断の歴史的意味 歴史からみると、そもそも韓国という国家の存在が、通例ではない。中国・大陸の勢力と隣接しない朝鮮半島の政権が存在するのは、実に史上、三国時代以来の事態である。とくに19世紀以降、近代になってからは初、ほとんど実験的な事態といってよい。 しかもそれは、すでに還暦を過ごした。近現代史において最長であって、あるいは最も安定した体制だといえなくもない。 その安定はもちろん、対峙する南北の政権、およびそれぞれを支持する大陸側と海洋側の勢力均衡によってきた。逆にいえば、最近の危機は、その均衡が揺らいだところに醸成されている。中国の大国化、換言すればアメリカの相対的な弱体化、およびそれに呼応するかのような北朝鮮の核・ミサイル開発が、その主因にほかならない。 こうした半島政権と大陸・海洋との関係を、あらためて歴史からみなおしてみよう。朝鮮王朝時代には、大陸側には「事大」、海洋側とは「交隣」という関係をとりむすんでいた。事大とは「大国に事(つか)える」こと、陸続きの中国への朝貢関係をいい、交隣は「隣国と交わる」こと、海を隔てた日本との交際をいう。 こう並べると、まったく別個の応対だったようにもみえるかもしれない。手続きは確かにそうである。しかし主体たる朝鮮王朝の意識・立場は、唯一無二だった。信奉する朱子学の華夷意識に裏づけられた「小中華」意識がそれである。 朝鮮王朝は軍事的には弱体であった。朱子学は文を尊び武を卑しむから、これもイデオロギーに合致した体制である。 また何より中華の尊重が優先したから、それを体現する中国王朝にも、恭順な態度を示さなくてはならない。大陸には軍事的にもかなわないので、適切な対処である。それと同時に、中華を尊び慕うあまり、自らも中華に近づこうとする自意識になり、「東方礼義の国」を自任した。 だとすれば、「隣国と交わる」交隣は、自らがミニ「中華」である以上、その交わり方がいかなるものであれ、相手を「夷」と蔑むものとならざるをえない。朝鮮王朝は日本や西洋など、海を隔てた国々と対等な交際をおこなった。けれどもその根柢には、濃厚な侮蔑が横たわっている。「小中華」意識のなせるわざであった。 同じことは、元来が「夷」だった満洲人の清朝に対してもいえる。清朝は中華王朝の明朝を後継し、しかも軍事力で優位にあったため、朝鮮王朝は「事大」の関係を続けた。しかし心底では、清朝を「中華」と認めていない。いわば面従腹背だったのである。 半島の政権はこのように同一の歴史的なメンタリティ・性格を有しながら、地政学的に大陸向けと海洋向けとの、相反する関係をもっていた。そうした相反性が近代の国際政治を通じて、南北の分断に至ったわけである。北朝鮮と韓国は「一卵性双生児」 つまり北朝鮮とは、大陸と関係の深い「事大」的な政権であり、朝鮮戦争で中国義勇軍によって支えられたのは、それを象徴する史実であった。他方、韓国は「交隣」の海洋側についた政権であり、米軍に支えられ、なおかつ大陸とは隔たって「事大」を払拭できる位置にある。いわば北朝鮮は「事大」を現代化した国家、韓国は「交隣」を現代化した国家なのである。 北朝鮮は現在、中国にしたがわず独自路線をつきすすんでいる。「事大」国家であるはずの政権が、その歴史に背を向け大陸に歯向かうので、「暴走」になってしまう。 韓国もその点は同じ。「交隣」国家であるはずの政権が、その歴史に背いて「反日」「反米」を隠そうとしないので、「迷走」に陥っている。 朝鮮半島の政権は、元来「小中華」だった。北の中国・大陸に対して面従腹背、南の日米・海洋に対しては対等蔑視という歴史を持っているから、「暴走」も「迷走」もかれらの立場からすれば、ごく自然なビヘイビアなのであろう。韓国と北朝鮮はこうしてみると、むしろ朝鮮王朝以来の「小中華」にもとづく世界観と行動様式を共有する一卵性双生児といえるかもしれない。(iStock) 半島を南北に分かった地政学的・国際的枠組みは、ともかく安定的に機能、推移してきた。にもかかわらず、「事大」政権の北朝鮮は、中国の意向を顧慮せず、アメリカとの対等交渉という「交隣」をめざし、「交隣」政権の韓国は、アメリカの意向に背いて、経済的に依存する中国に「事大」せざるをえなくなっている。こうしたパラドクスが、東アジアの不安定をもたらしているともいえようか。しかし同時に、そうした運動律も歴史に根ざしたものであるため、南北政権の動きがなかなか収束しないのであろう。 韓国の文政権はそんななか、北朝鮮との対話・融和につとめている。その動きは日米から疑われ、金正恩政権から相手にされず、いまのところ「迷走」にしかみえない。 しかしそもそもが一卵性双生児の南北である。かつて文大統領が記し、またおそらく今も望んでいるように、南北が一体となる可能性も皆無とはいえない。 南北政権はすでに、米中のいずれに対しても、一定の距離を取っている。両者が一体となれば、韓国でも取り沙汰される朝鮮半島の中立化が、現実のものになりかねない。しかも北が核を放棄するとは思えないから、韓国が事実上、北の「核の傘」に入ってしまう事態もありうる。 果たしてそうなったとき、一衣帯水・列島に住む日本人はいかに行動すればよいのか。そこまで考えなくてはならない時世になってきたようである。

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    朝鮮民族で団結し、統一国家を作る夢が韓国内で加速

     北朝鮮が事実上の核保有国となりつつある。不可解なのはそれでも韓国が“平時”のままだということだ。長年に亘る北の脅威に韓国人が麻痺しているということもあるが、それだけではない。背景には韓国世論の激変と、秘めた野望がある。拓殖大学教授の呉善花氏が警鐘を鳴らす。* * * いよいよ朝鮮半島情勢が危険水域に達しつつある。トランプ大統領は米韓合同軍事演習を大規模化させるなど、かつてない圧力をかけて北朝鮮に核開発・ミサイル開発を断念させようとしている。 しかし、その一方で韓国は、米韓合同軍事演習に参加しつつも、北朝鮮へ800万ドル(約8億9000万円)相当の食糧支援を表明するなど、対北圧力を高めようと共同歩調を取る日米を呆れさせた。圧力よりも融和路線が文在寅大統領の本音だ。気をつけなくてはならないのは、それが文大統領だけの考えではなく、多くの韓国人が共有する考えだという点だ。「北は平等で清貧」 まず、そもそもなぜ北朝鮮が核開発に固執するのかについて触れておきたい。北朝鮮の労働新聞が9月16日掲載した、中距離弾道ミサイル「火星12」の発射訓練を視察し、笑顔を見せる金正恩朝鮮労働党委員長の写真(コリアメディア提供・共同) 金正恩が決して核開発を諦めない理由は朝鮮戦争の時点まで遡る。重要なことは、1950年に勃発した朝鮮戦争は、北朝鮮対韓国の戦争ではなく、中国・北朝鮮連合軍とアメリカを中心とする国連軍との戦争で、韓国は国連軍の一部に過ぎなかった、ということである。1953年に休戦となったが、休戦協定は上記両者間に結ばれたのであり、当然ながら韓国は協定の署名者ではない。核・ミサイル問題で、北朝鮮が韓国からの話し合い要請には決して応じようとはせず、アメリカとしか応じないと言い続けているのはそのためだ。 休戦協定では、新たな武器・核兵器・ミサイルの持ち込みが禁じられた。だがアメリカも北朝鮮も新たな武器を導入し、アメリカは核兵器・ミサイルをも持ち込んだ。両者とも休戦協定を侵したのである。こうした状況下で北朝鮮は、1994年以降たびたび「休戦協定に束縛されない」と表明し、2009年5月には、「もはや休戦協定に効力はないとみなす」と表明している。つまり、武力行使の再開はいつでも可能、ということになる。親北派が後退しない理由 アメリカは北朝鮮が核開発を止めれば、武力侵攻しないし現体制を認めると中国経由で伝えている。だが、金正恩はそんな言葉を信じはしない。核を持たなければ、これまで消された独裁者と同様にやられると思っている。したがって、北朝鮮はアメリカと平和条約を締結して朝鮮戦争終結が実現されるまでは絶対に核開発を止めない。 皮肉なことに、その北朝鮮とかつて干戈(かんか)を交えた韓国はいまや圧倒的に親北派が強くなり、圧力を強めようという意見は少数派だ。ターニングポイントは金大中政権(1998─2003年)だった。2000年の南北首脳会談以降、韓国では対北融和政策がとられて国民の北朝鮮イメージは一変し、国内に親北ムードが高まった。続く左派の盧武鉉政権下で、国民の親北傾向はいっそうのこと強くなっていった。 その後、保守政権の李明博、朴槿恵政権は一定の対北強硬姿勢に転じたが、北朝鮮はそれに対抗するかのように軍事挑発を多発させていった。そのため、国内では対北融和姿勢への再転換を是とする声が高まり、親北派勢力が後退することはなかった。文在寅政権に米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備撤回を求め、スローガンを叫ぶ反対派住民ら=韓国・星州 この背景には、若い世代の台頭により、朝鮮戦争で北から攻められた記憶が国全体として薄れていることがある。左派政権以降の教科書では北朝鮮史評価の傾向が強く、若者たちの大半は「同じ民族なのだから北朝鮮が韓国にミサイルを撃ち込むことはない」と信じるようになっている。さらには、北朝鮮に対していいイメージを抱いている者が少なくない。「ヘル朝鮮」と呼ばれるほど若者の失業率が高止まりし、財閥をはじめとする一部特権階級に富が集中する韓国に比べれば、むしろ北朝鮮は平等で清貧だという理解なのだ。 実際、最近の世論調査でも親北派の伸張は顕著だ。調査会社、韓国ギャラップの調査(9月5日~7日)によると、アメリカによる対北先制攻撃について、「反対」が59%、「賛成」が33%だった。一方、北朝鮮が韓国に戦争を仕掛ける可能性については、「ない」が58%、「ある」が37%だった。核を保有した統一朝鮮核を保有した統一朝鮮 トランプ大統領、安倍晋三首相は、文在寅大統領が対北800万ドル支援を表明した直後の3か国首脳会談で、「北朝鮮への圧力を損ないかねない行動は避ける必要がある」と苦言を呈した。だが、文大統領は意に介していない。なぜなら、彼が本当に気にしているのは韓国国内の世論だからだ。 いま、文在寅政権は韓国内で反発を受けている。大統領選のときに主張していた「対北融和」、「THAAD配備中止」は、最終的にアメリカからの要請を受け入れる形で変更を余儀なくされた。熱烈な文在寅支持派、つまり強固な親北派が期待していた開城工業団地の再稼働や金剛山観光の再開は思うように進まず、またTHAADも北朝鮮のミサイル発射が頻発して受け入れざるを得なくなった。 同盟国アメリカからの強い要請を文在寅氏は一応聞かざるを得ないが、これ以上、“譲歩”すれば支持者たちが離反する怖れがある。もちろん文大統領自身、本音は北朝鮮との融和にあるわけだから、北朝鮮にエールを送ることでその意志に変わりのないことを示そうとするのだ。この意志は、平昌オリンピックへの参加を北朝鮮に強く訴えかけたことにも滲み出ている。2017年7月、夏休みで韓国・平昌を訪れ、五輪関連施設を視察する文在寅大統領(右から2人目、大統領府提供・聯合=共同) 文大統領は、任期中に南北統一への道筋をつけたいと考えている。まずは、かつての左派政権時代のように文化的・経済的交流を拡大し、すでに南北で合意している第一段階としての「一国二制度による統一」を目指して南北共通市場を形成していくこれが文大統領の描くシナリオだ。「一国二制度による統一」は左派だけではなく、保守派も一致しての国家方針である。 韓国の考えは、南北共通市場の形成や外国資本の参入によって、北朝鮮がそれなりに豊かになり、少なくとも人民が貧困に喘ぐことがなくなれば、統一に向けての韓国の負担は大きく軽減される、というものだ。実際、現在の北朝鮮は国内の「資本主義化」をかなり推し進めており、経済特区への外国資本の参加を公募している。やっぱり核を持ちたい こうした道が開かれるかどうかは、アメリカが「核放棄」の主張から退き、核を保有する北朝鮮の現体制を容認するかどうかにかかっている。文大統領は「核放棄」ではなく「核凍結」を求めている。核開発を一時的にストップすればそれでよいという姿勢だ。しかしこれはポーズにすぎない。文大統領がそう考えているように、現在の韓国社会は「ここまで北の核開発が進んだのであれば、もはや認めるしかない」という方向性を強くしている。他の諸国にもそうした声があるし、アメリカ国内ですらそう発言する要人も少なくない。2017年11月、訪韓したトランプ米大統領(中央左)と韓国の文在寅大統領(共同) さらに踏み込んで言えば、韓国も核を持ちたいのだ。韓国ギャラップの調査では、核保有に「賛成」は60%で、「反対」は35%だった。  そもそも韓国の歴代政権は1972年以降、極秘裏に核開発を続けてきた。しかし2004年にIAEA(国際原子力機関)の調査で、2000年に金大中政権下でウラン濃縮を進めていたことが発覚し、中止せざるを得なくなったのである。韓国にとって核武装は悲願なのだ。南北統一がなれば、「北の核は自分たち朝鮮民族のものになる」のである。 韓米両国は「韓国が独自に戦時作戦統制権を行使できる条件が整えば、それを韓国に移譲すること」に合意している。朴槿恵政権下ではその時期を2020年としたが、文大統領は早期移譲を求めている。移譲となれば在韓米軍の撤退は時間の問題だ。アメリカでも在韓米軍撤退論者は少なくない。北朝鮮は米軍撤退を統一の第一条件としている。 リーマン・ショック以降、とくに現在、アメリカ、イギリスをはじめ、多くの諸国で国際主義から国家第一主義へ転換しようとする流れが加速度を増している。朝鮮民族で団結し、統一国家を作るという夢は、かつてないほど韓国内で共感を得やすくなっている。 韓国が描く統一朝鮮への道は、このままでは核保有朝鮮国への道となり、いっそう強固な反日大国出現への道となる。日本はそうした流れをはっきり見据え、北朝鮮問題に対処しなくてはならない。●オ・ソンファ/1956年韓国済州島生まれ。東京外国語大学大学院修士課程修了。現在、拓殖大学国際学部教授。著書に『超・反日 北朝鮮化する韓国』(PHP研究所)、『赤い韓国 危機を招く半島の真実』(産経新聞出版、共著)などがある。関連記事■ 北朝鮮のミサイル発射兆候 信頼できるのは“Aアラート”?■ もし米朝戦わば 北朝鮮軍には実際どれだけ攻撃力があるのか■ 文在寅政権 慰安婦記念日まで制定、合意白紙宣言の可能性も■ 中国内「北朝鮮が核放棄見返りに毎年6兆円要求」報道の思惑■ 徴用工設置をはじめ、憎悪拡大再生産する韓国の動き

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    国防力増強に余念がない韓国、垣間見える焦り

    がら、政権草創期を安全運転でこなしていくのでないか」というのが当初の筆者の見立てだった。政権発足後に北朝鮮の核・ミサイル開発が一層進展し、朝鮮半島情勢が緊張の度を増していることに加え、文在寅大統領が選挙戦を通じて、支持母体の進歩系だけでなく、保守、中道をも含めた幅広い層の支持を受け当選したからである。選挙前、「私のような人間が本当の保守だ(本年1月15日朝鮮日報によるインタビュー)」と発言するなど、文大統領は前回2012年の選挙において僅差で敗れたが故に、保守層の支持を盤石にするためのアピールに必死であった。就任演説において「国民すべての大統領を目指す」、「保守と進歩の葛藤は終わらなければならない」といった国民統合を重視する発言が散見された。 文大統領は「盧武鉉政権の大統領府秘書室長」という肩書きから「左派系」、「親北」だと見られがちだ。だからこそ同大統領は、こうした前評判とは一線を画し、まずは日米韓の連携を基調とする現実路線を選択すると予測したのだが、最近の韓国外交を見ると、こうした筆者の見通しは甘かったようだ。 今年9月15日の火星12号発射から11月29日の火星15号発射まで、北朝鮮による新たな挑発行動はなかった。その間、韓国外交はTHAAD配備問題による中国との関係悪化を改善させる大きな動きを見せた。10月30日、康京和外交部長官は国会での与党議員の質問に答える形で、(1)これ以上THAADを配備しない、(2)日米のミサイル防衛網に参加しない、(3)日本との安保協力は軍事同盟にならない、という「3つのNO」と呼ばれる立場を明らかにした。2017年10月、韓国国防省の行事に出席したマティス米国防長官。右は宋永武国防相=ソウル(共同) さらに、11月3日には、文在寅大統領がシンガポールメディアのCNAとのインタビューの中で、「日本との安保協力は軍事同盟とならない」と明言し、北朝鮮への対処を理由に「日本が軍事大国化することを懸念する」と発言している。その後、11月20日付の読売新聞が「日本版トマホーク開発」につき報じると、韓国メディアは敏感に反応し、これを批判的に報道した。最近では中央日報が5回に分け「浮上する自衛隊」と題した特集記事を組むなど、韓国メディアの論調は大統領発言に呼応するかのように日本の防衛力強化に対する警戒感を見せ始めた。 「米国に頼っている」、進歩派の不満 そもそも、文在寅政権の外交安全保障政策に関する考え方は、保守政治が選好する現実主義(リアリズム)の対立軸としての理想主義(リベラリズム)ではない。すでに多くの専門家が指摘しているように、現在の大統領側近は、周辺国からの力による干渉をはねのけて韓国の独立を守り、最終的には「韓国主導で南北統一を果たさなければならない」と本気で信じている民族主義者の集まりだ。彼らはその目的を達成するために「強力な軍事力を兼ね備えることが不可欠」と考える。 文在寅大統領は本年7月18日に軍高官を集めた昼食会の席上、「北との対話を追求しているが、圧倒的な国防力に基づかないと意味がない」として、現在GDP比2.4%水準の国防予算を任期中に2.9%に増額する考えを明らかにした。予算増額分を北の核・ミサイルへの対処能力向上に集中投資し、米国からの戦時作戦統制権の早期移管も目標としている。また、文大統領は8月28日に行われた国防部による業務報告の席上、「これまで莫大な国防費を投入したにもかかわらず、我々が北朝鮮の軍事力に対抗できず、ただ韓米連合防衛能力に頼っているようで残念だ」と軍を批判した。 韓国軍の歴史は、「北朝鮮の軍事力に単独の軍事力では対応できない」という前提の下、圧倒的な軍事力を持つ米国との同盟関係を基盤に、米国から最新装備品を導入しつつ、自国の防衛産業基盤を確立して自軍の戦力増強に努めてきた。この過程の中で、進歩陣営は「長年の軍事政権支配による軍の腐敗に端を発する装備品導入に絡む不正問題は旧態依然として存在し、米国の軍事力に依存してばかりか、高い装備品を買わされてばかりで国防費が無駄に使われている」と考え、米国と同盟重視の保守勢力に対する不満が常に存在している。 現在、韓国軍は北の核とミサイルを無力化する手段として、3軸体系と呼ばれる(1)キル・チェーン、(2)韓国型ミサイル防衛(KAMD)、(3)大量反撃報復(KMPR)戦略からなる軍事力構築を急ピッチで進めている。3軸体系の基本的な概念は、仮に北朝鮮が長距離射程砲や弾道ミサイルを韓国に対して発射する兆候があれば、速やかに発射地点を探知し打撃する。発射を防げなかった場合は、迎撃ミサイルで対応し、攻撃を受けたとしても被害を最小限に留め、北に対し大規模な報復を行う能力を保有する、というものだ。これら一連の軍事力を持つことによって、北朝鮮の攻撃を抑止することが韓国の最大目標なのである。2017年11月、歓迎式典に臨むトランプ米大統領(左)と韓国の文在寅大統領(共同) しかし、昨年の北朝鮮による一連の軍事挑発は、韓国軍にとって従来の戦略の根幹を揺るがす衝撃となったに違いない。北朝鮮は年初に核実験(4回目)と地球観測衛星を積んだロケットと称する飛翔体発射を実施した。3月以降は中距離弾道ミサイルを中心に、様々な種類のミサイルを発射させただけでなく、従来型の長射程砲や短距離ロケット砲などの大規模演習を行った。8月末には潜水艦からのSLBM発射にも成功し、9月には5回目となる核実験まで実行した。  我が国においては、日本列島のほぼすべてが射程に入る準中距離ミサイル・ノドンや改良型スカッドの発射に注目が集まった。しかし、韓国側から見れば、弾道ミサイルだけでなく、従来からの脅威であった長射程砲の射程が伸びたことも大きな意味を持つ。北朝鮮が「火の海にする」と何度も脅迫してきたソウルと首都圏地域だけでなく、陸・海・空軍の本部がある鶏龍市や在韓米軍基地のある平沢市や烏山市にも十分脅威を与えるようになったからだ。また、当初のキル・チェーン・システムは、北の攻撃が地上から行われることを想定していたが、今後はSLBMの登場により、これまで手薄だった対潜哨戒能力の向上も叫ばれるようになっている。こうした状況が、2016年の日韓軍事情報保護協定(GSOMIA)締結に際し、韓国側が「対潜哨戒能力を持つ日本からの情報獲得は軍事的に有益だ」と判断するに至った要因の一つだとされている。防衛費を劇的に増加させることの難しさ 以上のような背景もあり、韓国軍の戦力増強については追い風が吹いているようだ。北のミサイル攻撃探知能力については、米国からすでに導入が決まっている無人偵察機「グローバルホーク」に加え、12月5日付の東亜日報は、韓国軍が情報収集機E-8Cジョイントスターズ4機を2022年までに導入する方針を固めたと報じた。現在は保有していない偵察衛星についても、2021年から23年の間に5機打ち上げる予定である。陸上装備では南北境界の最前線に配置されているとされる北の長距離砲を探知するための新しいレーダーを独自開発し、来年から実戦配備されるという。これまでに何度も自国領空への侵入を許してきた北朝鮮の小型無人機に対しては、探知・攻撃が可能な新型レーダーや対空砲などの開発に注力している。2017年12月、米韓両軍の共同訓練に参加し韓国西部の米軍群山空軍基地に着陸する米軍のF35ステルス戦闘機(聯合=共同) 北朝鮮に対する攻撃能力に関しては、韓国の弾道ミサイルの射程が2012年に最大800kmにまで延長することに米韓両国が合意しているが、更に、11月7日に行われた米韓首脳会談において、弾道ミサイルの弾頭重量制限を完全に解除することで合意した。これによりミサイルの破壊力が増し、KMTRの面でも能力を大幅に向上させることになる。将来的には、現在開発中のより精密な誘導攻撃が可能な「戦術地対地弾道ミサイル(KTSSM)」がバンカーバスターのような機能を果たすことが期待されている。また、航空戦力では、昨年10月に、約500キロ離れた上空から首都平壌の重要施設を攻撃可能な長距離空対地ミサイル「タウルス」90発の追加導入が決定している。さらに、敵の重要施設を攻撃するため自爆型無人機を導入する計画もあるという。 ミサイル防衛では、現在導入を進めているPAC-3と昨年から配備が始まった中距離地対空ミサイル(M-SAM)「天弓」に加え、長距離地対空ミサイル(L-SAM)を現在開発している。韓国国会では一部議員からSM-3(艦載弾道弾迎撃ミサイル)導入を求める声が上がっているが、韓国海軍はその導入には消極的な反応を示している。また、一時期、北の長射程砲から韓国軍の指揮機能とKAMD施設を防護するためイスラエルの対空防衛システム「アイアン・ドーム」の導入に関心を示したこともあったが、軍事的効能の面から最終的には採用されず、代わりに韓国独自の「アイアン・ドーム」型防衛システムを開発中である。 以上のように、韓国軍が現在開発中や導入段階にある装備品の一部を紹介したが、北朝鮮の脅威に対処するために、陸海空それぞれの軍事力が増強されているという事実は明らかだ。こうした増強だけにとどまらず、北のSLBM搭載型潜水艦の脅威に対抗するため、原子力潜水艦の建造や対潜哨戒機部隊の大幅な拡充を求める声が与野党政治家や専門家の間で依然として存在する。しかし、これらの装備を導入するには莫大な国防予算を必要とする点が導入推進の動きを封じている状況だ。韓国も日本と同様に、少子高齢化社会を迎え、増大する社会保障費によって財政的に厳しい状況である。同じような境遇にある我が国が、限られた財源の中で防衛費を劇的に増加させることがいかに難しいか、韓国政府はよくわかっているはずである。根拠のない対日懸念の裏には、自らの軍事力を増強させるという並々ならぬ意欲と、北朝鮮への対処を理由に周辺国が軍事力を増強させることへの韓国の焦りが垣間見える。

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    安倍、トランプ「密約」の裏側

    「対話のための対話では意味がない」。日米首脳会談に臨んだ安倍首相は、対北朝鮮圧力の強化で米国と一致したことを強調し、トランプ大統領も「戦略的忍耐の時代は終わった」と表明した。両首脳の蜜月を世界にアピールしたとはいえ、水面下では「密約」も交わされたとされる。その裏側を読む。

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    トランプは北朝鮮の核放棄など本気で考えていない

    の総選挙の結果は、「東京発」の米情報機関の予測通り、安倍政権が圧勝した。彼らの報告は「安倍自民党が、北朝鮮の核・ミサイル危機を訴え、国難突破を有権者にアピールしたことが功を奏している」と分析した。 確かに自民党は「国際社会の圧力強化を主導し、北朝鮮に核・ミサイル開発の完全な放棄を迫る」と訴えた。これに対して立憲民主党は「北朝鮮を対話のテーブルに着かせるため、国際社会と連携して圧力を強める」と、あくまで対話の実現に力点を置いていた。実は自民党が掲げる「圧力」とは、同盟国アメリカが究極の局面では先制攻撃に踏み切るかもしれないことを暗黙の前提にしている。国連決議や経済制裁を専ら想定して、「圧力」を強めるとする立憲民主党の主張とは、その内実が大きく異なっている。 外科手術的空爆やサイバー攻撃を含めた「あらゆる選択肢」を用意しておくことが北朝鮮に核・ミサイルを放棄させるために欠かせないと安倍政権は考えている。だが、トランプ政権がひとたび先制攻撃に踏み切れば、北朝鮮が大がかりな反撃に打って出て、日本や韓国に甚大な被害が出る懸念がある。トランプ大統領と軍人出身の政権幹部が先制攻撃の可能性をどこまで真剣に検討しているのか。朝鮮半島の有事を見据えて、6日に東京で行われる安倍・トランプ会談はいつになく重要なものとなる。トランプの東アジア戦略はどこにある トランプ大統領はどのような思想をよりどころに対東アジア戦略の舵を定めていくのか。それは「アメリカ・ファースト」主義に他ならない。アメリカの国益をすべてに優先させ、自らの強固な支持基盤である貧しい白人層の利益を守り抜いていく。それゆえ、「アメリカ・ファースト」主義を掲げる政権のイデオローグ、スティーブン・バノン前首席戦略官は「対中経済戦争こそ最優先課題であり、北のことなど座興にすぎない」と言い切ったのである。 北朝鮮が北米大陸に届くICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発・実験さえ凍結することを約束すればいい―。「アメリカ・ファースト」の思想は、対北政策にも顔をのぞかせるかもしれない。そうなれば、日本だけが北の中距離ミサイルの射程に収まって取り残されてしまう。安倍首相は、6日の日米首脳会談で、かかる事態だけは何としても避けなければならない。 緊密な同盟国同士であっても、それぞれの利害がぴたりと一致することなどありえない。それだけに日本側は、対トランプ会談で機先を制し、攻勢に出るべきだろう。アメリカ政府は、2008年に北朝鮮を「テロ支援国家」のリストから外してしまった。「テロ支援国家」のくびきを解かれた金正恩政権は、クアラルンプールで金正男氏暗殺に手を染め、イランとひそかに新鋭ミサイルを共同開発し、ヒズボラとハマスに武器を売却している。指定解除がいかなる結果をもたらしたか、その誤りを米側にはっきりと伝えるべきだろう。2017年9月、ニューヨークでトランプ大統領の発言に対する北朝鮮の立場を表明する李容浩外相(共同) いまや北朝鮮は、6千人規模のサイバー戦士を擁して、サイバー攻撃能力を急速に高めている。それを裏付けるように、バングラデシュの中央銀行にサイバー攻撃を仕掛け、8000万ドルを奪っている。マシンガンを持った覆面の銀行強盗などいまや過去の風景になりつつある。こうした事態が繰り返されれば、国連安保理の制裁決議や米中の独自制裁も効力を減じてしまう。北朝鮮は核・ミサイルの開発資金をさらにサイバー空間から調達することになるだろう。 安倍首相は、あらゆる機会を捉えてトランプ大統領にひざ詰めで談判し、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定させ、サイバー攻撃へ備えを日米連携で一層強化するべきだ。アメリカのトランプ政権は、東アジアの戦略地図を根底から塗り替え、ソウルと東京を火の海にしかねない先制攻撃より前に、多くのなすべきことがあることを真摯(しんし)に説いてもらいたい。

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    安倍総理の「やってる感」に愛想を尽かした拉致家族のホンネ

    義があることである。しかし残念ながらアメリカ政府は、拉致問題にほとんど関心がない。アメリカにとっての北朝鮮問題とは核であり、ミサイル問題なのだ。 小泉純一郎政権で拉致問題を金正日総書記に認めさせた客観的背景に、当時のブッシュ政権の「ならず者国家」指定などがあり、北朝鮮が「7・1経済改革」で国内的苦境を打開したいとの狙いがあったことは明らかである。その国際的条件を背景に置いても、拉致問題はあくまでも日本政府独自の課題だったことを忘れてはならない。言葉を換えればアメリカ政府が日本政府の肩代わりで拉致問題を解決することはないのである。安倍政権の「やってる感」で問題が解決しないことは、この5年の歴史がすでに冷厳なる回答を出している。早紀江さんに口止め? 第三に、安倍首相をはじめとする政府関係者よりも、帰国した拉致被害者や被害者家族の方が、理論としてではなく、当事者としての切実な皮膚感覚で現状と今後を恐れていることを知らなければならない。 それは拉致問題解決への協力をトランプ大統領に依頼することで、日本政府としての独自の課題が後継に押しやられてしまい、結局は「拉致問題が終わりにさせられてしまう」という深い危惧である。 おそらく首相や関係者は、帰国した拉致被害者や被害者家族がそんな思いでいることをつゆ知らずだろう。9月17日に開かれた「救う会」などが主催した国民大集会では「今年中に全拉致被害者の救出を!」が目標として設定された。この集会には安倍首相も出席している。その「今年中」もあと2カ月を切った。14年5月の日朝ストックホルム合意に意味はないとの意見があるものの、政府は破棄しないとしている。 02年9月の「日朝平壌宣言」からストックホルム合意まで12年。この合意を破棄すればもはや日朝間の交渉は10年単位で動かないことが容易に理解できる。家族会代表の飯塚繁雄さん(右から3人目)、横田早紀江さん(同4人目)らと面会する安倍晋三首相(同2人目)=2017年9月28日、首相官邸 第四に、今度のトランプ大統領と拉致被害者家族が面会することが決まってから、驚いたことがある。10月19日に行われた「横田早紀江さんを囲む祈りの会」でのことだ。早紀江さんが「トランプさんに会ったら戦争はしないでくださいと言おうかな」と話すと、「それは政治的発言だから語るべきではない。想い出だけを話せばいい」と関係者がアドバイスしたことだ。 第二次朝鮮戦争になれば、北朝鮮の攻撃により韓国だけでなく日本にも被害が生じる可能性が高い。作家の佐藤優さんによれば、日米政府は戦争が起きたときのシミュレーションを行っており、北朝鮮もふくめ少なくとも100万人の犠牲者がでるという(『文藝春秋』17年11月号)。北朝鮮にはおそらく拉致被害者がどこかで暮らしているだろう。横田めぐみさんの娘のウンギョンさんとその一人娘も平壌にいる。そうした生命の危険をさらす戦争を起こしてほしくないとの気持ちは、政治的発言ではなく、「人間の根本倫理」(渡辺一夫)である。拉致問題を政治利用して北朝鮮の崩壊を望んできた者たちこそ、「宙返り」した論理にとらわれている。 第五に、ではどうすれば拉致問題を解決できるのかという根本問題がある。それはストックホルム合意に基づいて、すでに完成していると見られる北朝鮮による報告書を受け取り、厳しい検証作業に入ることだ。警察庁の専門家による現地調査なども必要だろう。北朝鮮は受け入れるという。日本政府は水面下の交渉で、北朝鮮側が拉致被害者の「5人生存、8人死亡」とする2002年の立場を変えていないことから、報告書の受け取りを拒否している。だが重要なことは事実の確認である。北朝鮮がこれまでのように杜撰な調査報告をするなら、徹底して検証、批判すればいい。 ある被害者家族は「私たちが知りたいのは事実です。運動のための運動をしているのではありません」と語る。外務省は日本人妻や残留日本人問題などの人道課題をまず進めることで、拉致問題に風穴を開けたいとしていた時期がある。それを受け入れなかったのが官邸である。被害者家族はこんな本音を私に語った。「政府は拉致問題にいつまでも曖昧な対応をするだけで、本音では解決したくないのではないでしょうか」

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    なぜトランプは金正恩を「ロケットマン」と呼び続けるのか

    、2017年9月19日にアメリカ大統領であるドナルド・トランプは、就任後初めての国連総会での演説で、北朝鮮の最高指導者である金正恩を「ロケットマン」と呼び、「アメリカと同盟国を守ることを迫られれば北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はない」と恫喝した。 それに対して、北朝鮮の最高指導者である金正恩は21日に声明を発表し、トランプの演説を批判して「トランプが何を考えていたとしても、それ以上の結果を目の当たりにすることになるだろう。アメリカの老いぼれ狂人を必ず、必ず、火で制するだろう」と応酬。北朝鮮の外務大臣である李容浩も、23日に国連総会でトランプを「誇大妄想と自画自賛を重ねる精神異常者」と呼び、「アメリカ全土への我が国によるロケット攻撃が避けられなくなる」と恫喝した。 フルシチョフに比べれば穏やかとはいえ、国連総会を舞台に米朝がお互いに口汚く相手を罵って恫喝したことで、実際に戦争になるのではないかと危惧した向きも多かろう。もちろん、その可能性がゼロとは言わない。しかし、まず、北朝鮮はなぜアメリカを恫喝しているのかを理解する必要があろう。 北朝鮮がアメリカを口汚く罵って恫喝することは今までも珍しくなかった。なぜ北朝鮮がアメリカに恫喝のメッセージを送るのかは抑止論のゲームによって説明できる。北朝鮮の核兵器とミサイル開発の目的が、アメリカに対する抑止力を持つためであったことは、もはや議論の余地はないだろう。援助やそのための対話を求める瀬戸際外交であるならば、アメリカを攻撃するぞと恫喝する行動を説明できないからである。恫喝されれば援助を送るアメリカではないだろう。では、抑止論のゲームから北朝鮮がなぜアメリカに対して恫喝するのかを説明しよう。北の米に対する抑止ゲーム 抑止論のゲームは、展開型ゲームによって説明される。視覚的にはゲームツリーが最も分かりやすいであろう。北朝鮮のアメリカに対する「抑止ゲーム」を描いたゲームツリーの図を見てもらいたい。この「抑止ゲーム」の結果は、北朝鮮とっての「現状維持」、「宥和(ゆうわ)・降伏」、「戦争」の3つがあり得る。アメリカが「攻撃の自制」を選択すれば、「現状維持」になる。アメリカが「攻撃の実行」を選択し、北朝鮮が「反撃の放棄」を選択すれば、北朝鮮の「宥和・降伏」になる。アメリカが「攻撃の実行」を選択し、北朝鮮が「反撃の実行」を選択すれば、「戦争」になる。北朝鮮にとって、「現状維持」が最も平和な状態であり、最良の結果である。そして、アメリカからの攻撃に対して「宥和・降伏」することは国家が消滅する可能性もあり、最悪の結果である。「戦争」は、その中間の結果である。北朝鮮のアメリカに対する「抑止ゲーム」を描いたゲームツリー アメリカにとっては、北朝鮮が「宥和・降伏」することが最良の結果であり、北朝鮮と「戦争」になることが最悪の結果である。「現状維持」は、その中間の結果である。となると、北朝鮮とアメリカの両者にとって、「現状維持」が最良の結果であることになる。そのために、北朝鮮は、アメリカに「攻撃の自制」を選択させて、「現状維持」の結果をもたらすようにしようとする。それは、アメリカが「攻撃の実行」を選択すれば、北朝鮮が必ず「反撃の実行」を選択して「戦争」になることをアメリカに認知させることである。もしアメリカが「攻撃の実行」を選択しても、もしかしたら北朝鮮が「反撃の放棄」を選択するかも知れないとアメリカが認知すれば、アメリカが「攻撃の実行」を選択する可能性が出てくるからである。 そのために、多くの人々の直感とは異なるであろうが、「抑止ゲーム」で分かることは、北朝鮮は「やられたら必ずやりかえす」とアメリカに恫喝のメッセージを送り、実際にやりかえせる能力を持っていることを核実験やミサイル実験で示しておくほうが、最も平和な状態を維持できるということになる。反対に、北朝鮮が平和で友好的なメッセージをアメリカに送れば、アメリカが「攻撃の実行」を選択する可能性が高まり、「宥和・降伏」や「戦争」といった「現状維持」よりも悪い結果を北朝鮮にもたらすことになる。だから、「抑止ゲーム」では、北朝鮮は、最善の選択として、核実験やミサイル実験を繰り返し、恫喝のメッセージをアメリカに送り続けるはずである。 実際の北朝鮮も、そのために恫喝のメッセージをアメリカに送っているのである。同じことが、アメリカにも言えるであろう。奇妙な話であるが、「抑止ゲーム」では、米朝がお互いに口汚く罵って恫喝している方が、戦争が起こる可能性が低くなることになるのである。(文中敬称略)

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    「在韓米軍撤収」これが習近平を黙らせるトランプの隠し球だ!

    李英和(関西大学教授) このところ北朝鮮の金正恩政権はすっかり鳴りを潜める。9月15日に中距離弾道ミサイルを試射してからは音なしの構えだ。 北の核ミサイル開発は、アメリカ本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成まであとひと息。向こう半年から一年間で「頂上」に登り詰める。その数歩手前で、金正恩は足踏みする。 巷(ちまた)では、北朝鮮の次なるICBMの発射実験は、去る10月10日の朝鮮労働党創建記念日、あるいは10月18日の中国共産党大会開催日が有力視された。ところが、大方の予想に反して撃たなかった。筆者の知るところでは、撃ちたくても「撃てなかった」。俗な言い方をすれば「ビビった」のだ。 技術的に何か問題が起きたからではない。朝鮮半島近海への米空母戦団の派遣や爆撃機の演習を恐れたのでもない。また、共産党大会の開催を前にした中国に脅されたわけでもなさそうだ。 金正恩が怖じ気づいた理由はただ一つ。11月3日から始まるトランプのアジア歴訪、より正確には11月8日の米中首脳会談にある。そこで北朝鮮の命運が決まることを鋭敏に感じ取った。これが金正恩にミサイル発射を自制させた。北朝鮮の労働新聞が掲載した、弾道ミサイル「火星12」の発射訓練を視察し、笑顔の金正恩委員長の写真(コリアメディア提供・共同) 今回のトランプ訪中の目的は二つ。北朝鮮問題と貿易問題の「解決」だ。時間的な切迫の度合いから言えば、前者が最優先の課題となる。知財権などの複雑な貿易問題は後回しにしてもかまわない。むしろ、貿易問題は北朝鮮問題で中国と直談判する際の有力な取引材料の一つだ。 首脳会談の前にミサイルを発射してトランプを刺激するのは、いくら何でも冒険が過ぎる。同時に、北朝鮮問題と貿易問題でトランプに強く圧迫される習近平の立場をさらに弱めることになる。 金正恩は固唾(かたず)をのんで米中首脳会談を見守るしかない。したがって、トランプ訪中が終わるまでは、ICBMの発射実験を控えることになるだろう。会談の成り行き次第で、金正恩が実験に込める政治的メッセージを変えることになるからだ。いずれ崩壊する金正恩政権 そんな米中首脳会談では何が決まるのか、大胆に予測してみよう。トランプは習近平に北朝鮮の非核化を前提条件として「二者択一」を強く迫る気配が濃厚だ。一つは、北朝鮮に対する原油と食糧の禁輸を含む経済制裁のさらなる強化。端的に言えば、事実上の「経済封鎖」だ。もう一つはアメリカによる予防的な先制攻撃。中国が前者を拒むのなら、後者を容認もしくは黙認させる仕掛けだ。 米中両国は表面上「北朝鮮の政権交代を目指さない」と言う。だが、二者択一のどちらに転んでも、結果的に金正恩政権は崩壊に行き着く。 経済封鎖となれば、主役は中国が担うが、日韓両国も一役買うことになる。先制攻撃の場合には、日韓両国は否応なしに協力することになる。そのための事前の調律作業が訪中に先立つ日韓両国訪問だ。 習近平は上記した二者択一のどちらでも選べる。とはいえ、長大な国境線を接する中国の裏庭での戦乱を黙って見守るのは難しい。金正恩政権に援軍を送ったり、あるいは逆に米軍と共同して金正恩掃討作戦を敢行したりするのは至難の業だ。そうなら、経済封鎖をのむしかなくなる。新たな最高指導部メンバーを紹介し、拍手する習近平総書記=2017年10月 その場合、問題となるのは、金正恩政権を除去した後に生まれる北朝鮮の新しい政治地図だ。中国は、韓国が北朝鮮を吸収するのはともかく、北朝鮮領内に米軍基地が展開する事態だけは何としても避けたい。中国軍が「金正恩後」の北朝鮮に進駐するのは無理でも、中国軍と気脈を通じた北朝鮮軍を中軸とする「親中政権」を樹立したいところだ。 今回の米中首脳会談では、トランプが習近平に貿易問題での譲歩だけでなく、安全保障面で十分な「安心」を与えることが必要になる。現実的な「落としどころ」は次の二点だろう。 一つは、経済封鎖であれ先制攻撃であれ、米韓両軍が北朝鮮領内に兵を進めないという約束。今の韓国左派政権はその気が毛頭ないので、トランプ政権の決断次第だ。この点では、トランプには習近平を安心させられる「隠し球」がある。近い将来での在韓米軍撤収がそれだ。今回、この「密約」が成立する公算が大だ。 要するに、北朝鮮だけでなく、朝鮮半島全体を米中両国の「緩衝地帯」とするなる新たな北東アジアの政治地図と経済環境の出現である。 日韓両国にとって、この金正恩後の北東アジアの将来構想が吉と出るか兇と出るかは未知数である。だが、金正恩にとって「大凶」であるのは疑いない。金正恩は、ICBM完成の頂上を目前にして、険しい絶壁に直面する。だが結局は、中途で下山する勇気はなく、遭難の危険を覚悟して無謀な登頂を試みるしか道はなさそうだ。金正恩の対中「極秘命令」 経済封鎖となれば早晩、北朝鮮は経済的に窒息する。最近になって韓国政府が警告するように、大勢の北朝鮮住民がその犠牲になる恐れが色濃い。90年代中盤に続く大飢饉の再発だ。 2度目の大飢饉を金正恩政権が果たして乗り越えられるかどうか、大いに疑問である。だが、北朝鮮は、前回の大飢饉では国民の10人に1人を飢え死にさせながら、独裁体制を維持して核ミサイル開発を進めた「成功体験」に浸る。 それに加えて、金正恩は習近平による経済制裁や軍事的圧迫の脅しにまったく動じない。この点については、韓国の駐中国大使による興味深い証言がある。今年9月に起きた6回目の北朝鮮核実験直前の話だ。 中国政府は「北朝鮮の核実験を阻止した。今後もできないだろう」と米韓両国に自信満々に語っていた(2017年10月17日、朝鮮日報「北朝鮮危機:『核実験阻止する』と自信見せていた中国」)。おそらく北朝鮮に「制裁強化」の脅しをかけたのだろう。ところが、金正恩はそんな習近平をあざ笑い、過去最大規模の「水爆実験」で応じた。 金正恩が習近平を恐れないのには明快な理由がある。一般には知られていないが、金正恩は昨年3月に朝鮮人民軍の戦略軍司令部に驚くべき命令を下した。「北京に核ミサイルの照準を合わせろ」というものだ。極秘命令とはいえ、筆者の耳に入るくらいだから、習近平がそれを知らないはずがない。半ば公然たる中国への挑戦状である。弾道ミサイル「火星12」を見る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(手前)。朝鮮中央通信が5月に配信した(朝鮮通信=共同) 金正恩の愛用句に「日本は百年の敵、中国は千年の敵」というのがある。歴史上、中国は朝鮮半島で「宗主国」として振る舞い続けてきた。それに対する民族的反感が表出したものである。その中国を北朝鮮の核ミサイルが射程に収めた。だが、北朝鮮と中国は表面上、「同盟国」の関係だ。その首都である北京に核攻撃の「自動発射態勢」を取るのは尋常でない。 ともあれ、核ミサイルの「民族の宝剣」を手にした金正恩は、習近平だけが相手なら「ビビらない」。習近平も金正恩を相手にうかつに手出しできない。金正恩は今般の中国共産党大会に祝電を送ったが、中身は素っ気ないものだった。「恭順の意」を表したものでは決してない。米中首脳会談を意識した危機管理次元での形式的で戦術的な「祝意」に過ぎない。金正恩が恐れるのは、まだ「宝剣」の圏外にあるアメリカだけだ。そのトランプが今、尻込みする習近平の背中を押して経済封鎖に追い込もうとしている。 米中首脳会談の結果を見極めれば、金正恩は乾坤一擲(けんこんいってき)、年内中に再びICBMの発射実験を強行することになるだろう。

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    拉致解決を「トランプ任せ」にして恥ずかしくないのか

    り難民の仕分けの問題まで言及したのは、いかに政府中枢でこの問題が深刻に捉えられているかの象徴である。北朝鮮の状況は切迫しており、すでに高官クラスで脱北する人が相次いでいる。今後何らかの政変、例えば金正恩朝鮮労働党委員長の暗殺が起きたとき、秩序が崩壊して各方向に難民が続出するはずだ。「北の難民上陸」そのとき日本は 陸続きではない日本に来る難民はそれほど多くないだろうが、北朝鮮の人口は2千数百万であり、拉致被害者はもちろん、在日朝鮮人の帰還(北送)運動でかつて北朝鮮に行った9万3千人とその家族がいる。それらの人の多くは日本を目指すだろうといわれており、数万人くらいは船に乗ってやってくると覚悟しておく必要がある。例えば、2万人でも日本海側の各県平均で1000人以上である。さらにその中には日本に関係のない一般の北朝鮮人や、場合によっては難民を偽装した中国朝鮮族が来る可能性もある。 やってきた人の中には麻生副総理が指摘した武装難民がいるかもしれない。北朝鮮の漁船の中には多数の海軍の水産事業所の船がある。この船が難民船になる場合、小銃程度の武器を持ってきても不思議ではない。日本側がどう対応するか分からないし、いざとなったら海に捨てればよいのだからだ。しかも、このようなケースの場合、銃を撃ちながら港に入ってくるなどということはあり得ない。隠し持っていていざというときに出すだろう。その武装解除は誰がやるのか。 また、病気を持った人が乗っている場合もある。処置をしても保険加入者ではない。しかし死にそうな人がいたら放置しておくことはできない。治療にかかった費用を誰が払うのだろう。感染症に罹患(りかん)していればそれが日本国民にうつる可能性もある。防疫も極めて重要である。 以上は本当に想定されることの一部のそのまた一部である。このような状況になったとき、言うまでもなく対応するのは日本政府であり、日本人である。外国に任せることは物理的にも不可能だ。欧州の各国も大量の難民を受け入れているし、メキシコとの境に壁を作ると公約したトランプ大統領の米国ですら年間数万の移民を受け入れているのだから。トランプ米大統領(左端)と面会した横田早紀江さん(前列右から3人目)ら北朝鮮による拉致被害者家族会のメンバー=2017年11月6日、東京・元赤坂の迎賓館(ロイター=共同) 一方、難民が出てくるような状況は悪いことばかりではない。北朝鮮の内部の秩序が崩壊すれば拉致被害者を救出する機会が訪れるからだ。そもそも100人以上いるはずの拉致被害者を、北朝鮮当局との話し合いで最初から帰国させることなど絶対に不可能である。混乱の中、それらの人がどこにいて、どうしているかの情報が入ってくる可能性がある。うまくいけば船に乗って帰ってくる可能性もある。助けに行けるところまで自力で来てくれるかもしれない。「放置国家」と自ら認めるか ただし、このようなとき法律を守っていたら救出はできない。自衛隊は邦人保護に外国に行く場合、相手国の承認を必要とすることになっている。このままであれば行けないのだ。しかし、危険な状況になるかもしれないときに、行けるのは自衛隊だけである。そしてやらなければ見捨てることになるのだ。2016年12月、陸上自衛隊相馬原演習場で行われた、海外の邦人保護を想定した訓練では、不快な音を出して相手をひるませる機器も使用された 認定か未認定かに関わりなく、拉致被害者家族に対して「あなたの家族は拉致されていますが法律上助けることはできません。死んでいくのを待つしかありません」と面と向かって言えるのなら言えばよい。それは法治国家ではなく「放置国家」であると自ら認めたことになるが、できるかのような幻想を抱かせるよりは誠実であるといえるだろう。 今回の総選挙で与党は大勝した。野党第一党になった立憲民主党はリベラル色が強いが、枝野幸男代表は何だかんだ言っても東日本大震災当時の官房長官である。非常事態に対処した経験はあるのだ。当時でも少なくとも菅直人首相よりはまともに見えた。そして日米関係はとにもかくにも良いのである。ある意味条件はそろっているように見える。 あとは自分でどこまでできるかであり、逆に言えば、これだけ条件がそろっても自分でやらなければ何もできないのである。安倍首相は北朝鮮の予想される事態に対処するための解散だと言った。それならば選挙に勝った以上、しっかりと対処しなければならないはずである。 本来トランプ大統領に拉致被害者家族を会わせるというのは恥ずかしいことだ。「拉致被害者の救出は日本がやります。米国も協力してください」と言うべきである。 映画『シン・ゴジラ』の中で首相補佐官役の竹野内豊だったか、「戦後は続くよ、どこまでも」と言っていた。戦後体制とは米国の庇護の下、保護国に甘んじることである。しかし、もう戦後は続かない。自ら政治の責任で現在の矛盾を断ち切り、国家としての整合性を確立できるか、安倍政権の真価が問われている。 いや、本当に問われているのは私たち日本国民一人ひとりの真価なのかもしれないのだが。

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    米が北の核容認で「圧力」主張の安倍首相ハシゴ外されるか

    国を、守り抜く。〉──安倍晋三・首相はそんな勇ましい選挙スローガンを掲げ、テレビCMを流し続けた。 北朝鮮の核開発と弾道ミサイル危機が深まる中、こと安全保障の面では安倍政権の下で米国は日本を守ってくれるはずだと期待している人が多いはずだ。 安倍首相は世界の指導者のなかでもとくにドナルド・トランプ米大統領と「ケミストリーが合う」と宣伝されており、日米同盟をバックに国連総会で強硬姿勢で北朝鮮の核ミサイル開発を中止に追い込むべきだと訴えた。トランプ大統領も、「北朝鮮はこれまで世界が見たこともないような炎と怒りを見ることになる」と警告し、米軍は「斬首作戦」を用意するなど、日米が結束して北に備えているように見える。安倍晋三首相(左)との会談を前に栄誉礼を受けるトランプ米大統領=2017年11月6日午前、東京・元赤坂の迎賓館(松本健吾撮影) だが、1年以内にその軍事同盟が幻になるかも知れない。米紙ワシントン・ポストは、米国の国防情報局(DIA)が〈北朝鮮がICBMに搭載可能な小型核弾頭の生産に成功した〉との機密分析報告書をまとめ、北は米本土に到達するICBMの実戦配備に必要な大気圏再突入技術を2018年末までに獲得する可能性があると報じている(今年8月8日付電子版)。 外務省国際情報局の主任分析官を務めた作家・外交評論家の佐藤優氏は、実戦配備の前に米朝が日本の頭越しに妥協をはかると指摘する。「トランプ大統領は武力攻撃に言及しているが、米軍が北を空爆しても核施設を全部破壊することは難しい。北の反撃で事実上の第2次朝鮮戦争が始まれば100万人規模の死者が予想され、韓国にいる20万人と推定される米国人にも多くの犠牲者が出る。従ってその前に米朝の交渉が行なわれるはずです。 しかし、北朝鮮は核廃棄や弾道ミサイルの放棄には絶対に応じないでしょう。そこで、米国は北朝鮮に自国の生命線である米本土に到達するICBMを持たせないかわりに、核弾頭と日本全土が射程に入る中距離弾道ミサイルの保有までは容認する可能性が高い」 米朝が核保有容認で合意すれば、国連で「必要なのは対話ではない。圧力なのです」と言い切った安倍首相は、米国から完全にハシゴを外されることになる。 もちろん、日本は米国の「核の傘」で守られ、日米安保条約では、北が日本を攻撃した場合、米国は反撃することになっている。ただし、佐藤氏は「それもどこまで実行されるかクエスチョンが残る」と見ている。 安倍政権は憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使する安保法制を成立させ、自衛隊が「米艦防護」の任務を実施している。そこまで米国に尽くしても、米国が日本を見捨てる日が近づいているのだ。関連記事■ 自民党幹部「最大の功労者は小池・前原、自民に迎えたい」■ 路チュー議員・門博文氏 選挙戦中に後援会幹部逮捕の騒動■ 小池百合子都知事 「弱者イメージ」崩れ、アンチ増やす■ 金正恩の妹と横田めぐみさんの娘「学校も職場も同じ」説の真偽■ 北朝鮮を牽制する米軍の訓練 使い古された手法で効果はない

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    トランプの外交予定からわかること

    ア諸国を訪問する予定であることは、地域で何が起こるかを、ツイートや噂話などよりもよく示してくれる。 北朝鮮との戦争の可能性は恐ろしい。しかし、習近平との会談に赴く大統領が核攻撃の雲の中を飛んでいくことはない。習近平は北朝鮮に圧力をかけるとの約束を訪問前に実施するだろうか。習近平がそうする可能性は大きい。 解任の噂の絶えないティラーソン国務長官についてはどうか。彼は、トランプ訪中の準備をしている。その彼が今、首になることは考え難い。 混乱した大統領府をフォローするうえで、難しい問題は大統領周辺の蔭口から実際の政策を分別することである。トランプは、「気まぐれ」で動いているようだ。司法長官セッションズを公に侮辱したが、引き続き一緒に働いている。上院院内総務マコーネルに腹を立て、民主党のシューマーとの良い関係をみせたが、数週間後には共和党の機嫌を取っている。 このホワイトハウス・ハリケーンの中心にいるのがティラーソンとマティス国防長官である。二人の同盟は安定しているように見える。ヘイリー国連大使をティラーソンの後任にするとの噂は絶えないし、それは今後ありうるが、ティラーソンが中国訪問と北朝鮮への外交戦略を指揮している今はない。会談を前に握手するティラーソン米国務長官(左)と河野外相=2017年11月5日、東京都 外遊が外交政策を説明する。トランプは最初の外遊でサウジを訪問し、壮麗な歓迎を好んだ。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子を改革者として評価し、サウジとUAEがカタールに圧力をかけた時には、サウジ側に立った。ティラーソンはこの紛争は調停されるべきだと主張し、トランプをイライラさせた。しかし今月、トランプはティラーソンの見方に近づき、サルマン国王とカタールの首長に電話し、紛争を解決する時だと述べた。努力は失敗に終わったが、さらなる努力がありうる。トランプはまだサウジ支持であるが、ティラーソンとマティスがこの問題で共同戦線を取っている。 ただティラーソンは最近、国務省の伝統的政策分野、難民政策を大統領府のステファン・ミラーに譲り、ミラーは受け入れ上限を4万5千人という最近の最低に定めた。 我々はトランプの扇動的なツイートより、彼が何をするか、彼がどこに行くかを見て、わかることがある。北朝鮮を攻撃しようとしている大統領は中国への11月の訪問を予定はしない。出典:David Ignatius ‘Want a clue to Trump’s policy? Look at his schedule’ (Washington Post, September 28, 2017)トランプが訪中して達成すべきこととは イグネイシャスはワシントンの内部状況に詳しい人であり、いつも傾聴に値する論説を書いています。 この論説は、トランプ大統領が11月に北京、東京などを訪問予定であることから、米国と北朝鮮との戦争はしばらくないと推定しています。これは正しいでしょう。ただ、平和的な関係を作るのには、2か国の合意がいりますが、戦争は1か国だけで始められます。したがって、この論説は、北朝鮮から攻撃を仕掛けることはないとの前提で書かれています。これも正しいでしょう。専用機に乗り込むトランプ米大統領=2017年11月3日、米メリーランド州(ロイター=共同) 米国と北朝鮮の戦力は、巨人と小人の違いがあり、米国が本気で攻撃すれば北朝鮮はひとたまりもありません。金正恩は、米国の攻撃を抑止するために核とミサイルを開発しているのであって、北朝鮮から仕掛けることはあり得ないと思われます。北朝鮮の暴発を言う人もいますが、そんなことは考え難いです。 問題は、米国が北朝鮮の挑発的行動をどれほど我慢できるかです。北朝鮮は米国の攻撃を招くことはない範囲内で、挑発行為を引き続き行うと思われますが、米国の反応を読み間違える危険があります。国内事情があるのかと思われますが、危険な火遊びはしない方がよいでしょう。 第2次朝鮮戦争になると、ソウルは火の海になり、日本にも戦火が及ぶ危険があります。米韓の軍事的オプションのあり方については、全面戦争に至らない諸段階があり得ます。注意深く考えていく必要があります。 トランプ大統領は訪中に際し、北朝鮮問題について深く突っ込んだ話をし、米中間で何らかの合意を達成することを目指すべきでしょう。米韓軍は38度線を越えて北朝鮮には行かないとか、将来の朝鮮半島をどうするか、統一するかまたは二国家継続にするか、中国軍が北朝鮮北部に進駐することを難民対策上認めるかなど、米中間で話し合うべき問題はたくさんあります。 この問題は外交的に解決すべく努力すべきです。米中間での了解を作る外交が最も重要です。外交の重点は、無意味になることが明らかな米朝対話に置かれるべきではありません。 ロシアについては、プーチンは問題があるところに絡み、ロシアの影響力を強めることを狙う性向があり、ロシアを本件に絡ませることには注意深くあるべきと考えます。北朝鮮の米局長がロシア外務省で何を話したのかわかりませんが、ロシアは北朝鮮の立場に理解を示したように報じられています。

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    「南北統一」が薄れゆく韓国の対北朝鮮最終シナリオ

    池恩平氏(元アサン研究所研究員)インタビュー聞き手 山本みずき 北朝鮮の脅威が高まるいま、「南北統一」や対北戦略について韓国ではどのような議論がなされているのか。韓国軍合同参謀本部に在籍した経歴を持つ、韓国を代表するシンクタンク「アサン研究所」の元研究員、池恩平(ジ・ウンピョン)氏にiRONNAの山本みずき特別編集長が聞いた。 山本 これまで韓国は、どの政権も「南北統一」を目標に据えてきたと思いますが、現在では具体的にどのようなシナリオが想定されているのでしょうか。また、統一が実現した場合、北朝鮮の脅威はなくなると考えているのでしょうか。 池 統一が実現すれば北朝鮮の脅威がなくなるというより、「どのようにして北朝鮮の脅威を取り除いて統一を図るか」が問いとして正しいでしょう。これについては、三つのシナリオが考えられています。一つ目は、西ドイツが東ドイツに対して行ったような、吸収併合による統一です。これは、韓国の若い世代が南北統一について思い描く代表的なシナリオでもある。一方で、これは北朝鮮にとって当然に拒否すべき選択肢となっている。北朝鮮の体制が崩壊しないかぎり、このような統一は実現しないからです。 二つ目は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が理念に掲げている「対話による統一」です。韓国と北朝鮮が相互に統一の条件について平和的に話し合い、段階的に通商を増やして合意に至るというもの。でも、これについても北朝鮮は難色を示しています。結果的に、北朝鮮の体制を崩壊させる可能性があるからです。南北交流を通じて韓国の物資が北朝鮮で流通すれば、生活様式に変化をきたし、人々はもはや金正恩の統治する体制を望まなくなるでしょう。そのため、「対話による統一」も平壌からは歓迎されない。 最後に考えられるのは、「武力による統一」です。最も過激な反面、手っ取り早い選択肢に思えますが、そもそもこれでは北朝鮮の脅威を取り除けるかどうかすら怪しい。というのも、軍事行動に伴う混乱に乗じて、北朝鮮の保有する大量破壊兵器が暴力的な非国家主体に流出する可能性があるからです。このように、シナリオは存在していても、現実にはどのように統一がなされるべきかについて、意見は統一されていないのです。池恩平氏(左)と山本みずき氏=2017年8月、韓国・ソウル市内 山本 仮に朝鮮半島が韓国主導で統一されれば、韓国にとって経済的な負担をもたらすのではないでしょうか。それでもなお、韓国人が南北統一を望む背景には、民族的紐帯の他に何らかの合理的な理由があるのでしょうか。 池 指摘してくれたとおり、南北統一は韓国にとって大きな経済的負荷となるでしょう。ドイツ再統一の場合もそうでした。旧東ドイツ地域は旧西ドイツ地域と比べて経済的に遅れていた。そして、今でも経済的に困窮している。ドイツ人は東西格差の是正のために多額の税金を払ってきたし、まして北朝鮮はかつての東ドイツより遥かに未発達です。 実際のところ、韓国の若い世代は南北統一に反対しています。彼らは北朝鮮の人々とのあいだに民族的紐帯を見出していないし、統一はドイツのように新税の創設を伴う。そして、これを負担するのは専ら若い世代です。ただし、韓国は日本と同様に高齢化社会であるため、南北統一は若年層の増加によってライフサイクルを引き延ばすというアドバンテージもあります。 すなわち、選択肢は「統一して税を負担し、高齢化を緩和する」か、「統一をせず、税も負担せず、高齢化の緩和を断念する」となります。いずれにしても、若い世代は南北統一に対して否定的です。ただ、私の祖父の世代になると、北朝鮮に家族や友人が住んでいる者もおり、未だに統一を望む考えが根強い。この世代がいなくなってしまうと、北朝鮮との間に民族的紐帯を見出す韓国人は減少し、南北統一の願望も薄れていくでしょう。北の核の脅威にどう対峙するか 山本 文在寅政権は、それまで9年間続いた対北強行姿勢の保守政権とはちがい、大統領選期間中から北朝鮮との対話路線を打ち出した親北的・進歩的政権と位置づけられています。文在寅大統領が対話の道を切り拓くことに熱心なのはなぜでしょうか。また、このような外交政策についてどのように分析していますか。 池 文在寅政権の考えでは、北朝鮮はアメリカに自らの存在を脅かされていると認識しています。だからこそ、文在寅政権は平壌に対し、韓国にそのような意志はないということを伝えようとしているのです。現に、文在寅大統領は「朝鮮半島を二度と戦場にしてはならない」という趣旨の発言を繰り返しています。 ですが、戦争をする意志がないことを韓国の大統領が強調することは、かえって北朝鮮の好戦的態度を招きかねない。韓国が北朝鮮に対して戦争をする意志がない旨を伝えることで、翻って北朝鮮が「こちらから先に攻撃しても構わないのではないか」と考える可能性があるからです。だから、「われわれは平和を欲しているが、同時に戦争にも備えている」ということこそが、文在寅大統領の伝えるべきメッセージではないでしょうか。武力による「統一」に懸念を示す池恩平氏=2017年8月、韓国・ソウル市内(川畑希望撮影) 山本 では、韓国は北朝鮮の脅威に対してどのような軍事的態勢で臨んでいるのでしょうか。 池 軍事的態勢について語る際には、レベルを三つに分けて考える必要がある。「核の脅威」、「通常兵力の脅威」、「北朝鮮の体制崩壊」、これらに対して韓国がどのような態勢にあるかを、順を追って説明します。 まず、「核の脅威」に対する態勢は充分とは言えません。韓国が単独で核の脅威に対応することは難しいと考えられているからです。核の脅威に対してとるべき措置は、今のところ二つ挙げられます。一つ目は、(例えばイスラエルがイラクやシリアに対して行ったように)核施設を発見した時点で先制攻撃を行い、核開発能力を無力化することです。 ただし、これについては、韓国に自力で核施設を探索できるほどの衛星技術やインテリジェンス能力が備わっていないという問題点がある。二つ目はミサイル防衛ですが、残念ながら韓国のミサイル防衛態勢は発展途上にあります。例えば、イスラエルは高高度、中高度、低高度のいずれにおいてもミサイルの迎撃が可能ですが、韓国の場合、PAC-3のようなパトリオット・ミサイルは低高度での迎撃しかできない。だから、北朝鮮の『核の脅威』に対する韓国の対応能力は、目下のところ不完全だと言えます。 次に、「通常兵力の脅威」については、韓国はこれを防御する能力を有しています。過去7年間、韓国軍は北朝鮮の通常兵力による攻撃に備えるように訓練されてきました。そして、われわれは北朝鮮軍による攻撃を阻止するための作戦計画を複数用意しています。 最後の「北朝鮮の体制崩壊」についてですが、韓国は北朝鮮の体制を崩壊させるという状態までは展望できていないのです。なぜなら、韓国軍は基本的に朝鮮半島の南半分を防御することを主旨に創設された軍隊であって、38度線を北上して北朝鮮の領域を攻略するための軍隊ではないからです。「統一朝鮮」は日米と同盟を結ぶべき 山本 北朝鮮は中国やロシアと、アメリカの同盟諸国とのあいだの緩衝地帯(バッファーゾーン)だと考えられてきましたが、統一朝鮮が誕生してこの緩衝地帯が消失すると、中露から反発を買うのではないでしょうか。また、日米韓と中露のあいだに緩衝地帯が存在しない状況下でも、統一朝鮮とその周辺地域の情勢は安定すると思いますか。 池 だからこそ、統一朝鮮はアメリカや日本と同盟を結ぶべきだと考えています。統一朝鮮が誕生すれば、われわれは北朝鮮の脅威には晒されなくなりますが、遥かに大きな中露の脅威に直面することとなります。だから、勢力均衡を維持するためには、アメリカや日本との同盟関係を築かなければならない。このとき、在韓米軍の存在は必ず中露にとって悩ましい問題として顕現するはずです。ゆえに、統一朝鮮は中露に対して一層洗練された外交を展開しなければならなくなるでしょう。 山本 統一朝鮮において、在韓米軍が38度線を越えて駐留する可能性もあるのでしょうか。 池 まさしくそこが問題なのです。38度線を越えて在韓米軍が駐留すれば、中露はこれまで以上に警戒を強めるでしょう。韓国と北朝鮮の軍事境界線がある「板門店」を訪れた山本みずき氏=2017年8月(川畑希望撮影) 山本 そうすると、統一朝鮮は大陸国家との協調を築くことが難しくなりそうですね。北朝鮮は中露から資源を輸入している地域ですが、通商の分野で問題は生じないのでしょうか。 池 韓国はシーレーンを活用した国であり、世界で5番目にエネルギーを消費する国です。石油、天然ガス、テクノロジーなどは全て海を通って韓国に送られてきます。陸上輸送は、海上輸送と比べて一度に運搬できる資源の量が圧倒的に少ない。ですから、海路の確保が重要となります。通商においても、統一朝鮮は大陸国家ではなく海洋国家との協力関係を構築するべきでしょう。 インタビューを終えて 歴史認識の観点から日韓関係をみると、両者の溝は深まるばかりだが、安全保障においては、好むと好まざるとにかかわらず、地理的な近隣性からも、両国の運命は不可分に結びついてきた。中国やロシアという軍事大国に囲まれ、また北朝鮮の危険な挑発の連続にさらされているという、日韓が置かれている地理的な条件は、これまで大きく変わることはなかった。 現時点では北朝鮮がつくりだす脅威は著しく緊張の度合いを高めており、韓国にとって日本との安全保障協力が必要だという認識はよりいっそう切実なものとなっている。また、日本の安全にとって、朝鮮半島の平和と安定が切り離すことができないという認識もこれまで繰り返し語られてきた。韓国では歴史問題をめぐって感情的な世論が日本との関係を悪化させているが、一方では今回のインタビューに見られるように、安全保障上の観点から日本との協力を求めるリアリズムもしばしば聞こえてくる。 韓国においてわが国との協力に可能性を見出す、池氏の提唱するリアリズムは日本にとっても比較的受け入れやすいのではないか。池氏が指摘するように、朝鮮半島は、勢力均衡を必要とする地域である。この地政学的に機敏な地域の一角を占めることとなった韓国において、はたしてリアリズムは確固たる位置を占めることができるのか。もしもそれが確かな存在となっていったならば、従来とは異なる日韓関係の新しい可能性が開けてくるかもしれない。(山本みずき) 池恩平(ジ・ウンピョン) 韓国を代表するシンクタンク「アサン研究所」元研究員。これまでに米ワシントンの有力シンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」でも研究に従事。韓国軍合同参謀本部に在籍中、統合作戦に関する企画立案や装備調達に関するイスラエル国防軍との調整業務に携わった。

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    韓国人は今も「南北統一」を望んでいるのか

    最近、妙に大人しくなった北朝鮮だが、「火薬庫」と化した朝鮮半島情勢に変化の兆しはない。対話か圧力かで揺れる国際社会は解決の糸口すら見いだせず、米朝の緊張関係は長引くばかりである。では、この現状を韓国はどう受け止めているのか。iRONNAの韓国リポート第二弾は「南北統一」。韓国社会の底流を読む。

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    なぜ韓国は北朝鮮と事を構えたがらないのか

    一色正春(元海上保安官) 国際社会の批判をものともせず核実験やミサイル発射を繰り返す北朝鮮。それに対して恫喝(どうかつ)を繰り返すだけで阻止できないアメリカ、裏で北朝鮮を援助しながら高みの見物を決め込む中国とロシア。緊張が高まる朝鮮半島において、一方の当事者である韓国は北朝鮮に対して何ら有効な対抗策をとっていません。 そればかりか、第三者である日本に対して、解決済みの慰安婦や徴用工問題を蒸し返し、虚偽の像を建てるだけではなく、その像を乗せたバスを走らせるなど病的な反日行為を繰り返しています。最近はアメリカの圧力などにより、さすがに危機意識を持つようになったのか、反日姿勢が若干トーンダウンした感はありますが、その基本的な姿勢は変わっていません。 韓国は昭和25年の朝鮮戦争のときと同じように、有事になれば日本の後方支援をあてにしなければならないのですが、自国が安全保障上かなり危機的な状況に陥っている現状においても、日本に対して連携を深めるどころか、あえて敵に回すような行動をとる様は我々日本人には理解し難いところです。しかし、これには彼らなりの理由があると思われるので、それについて考えてみることにします。南北の軍事境界線がある韓国・板門店を視察する宋永武国防相、 マティス米国防長官ら=2017年10月27日(共同) まず、大韓民国にとっての朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を一言でいえば敵です。大韓民国憲法第3条において「大韓民国の領土は、韓半島およびその附属島嶼(とうしょ)とする」とうたっている以上、韓半島の北半分に居住する住民もまた大韓民国国民であり、そこを統治している北朝鮮は韓国にとって憲法上、自国の領土を不法に占拠する反国家団体ということになります。 つまり、韓国政府には、北朝鮮の圧政よる人権弾圧や飢えなどに苦しむ自国民を救うために北朝鮮政府を打倒する義務が道義的だけではなく法的にもあるのです。  実際に朝鮮戦争を経験した軍人大統領が国を治めていたころは、多くの国民が「北朝鮮や共産主義は敵である」と認識していましたが、政権が軍事独裁から民主化されると人権擁護の名のもと、国家保安法の見直し運動が活発になるなど政府の強権的なスパイ取り締まりが批判されるようになりました。 金大中政権のときには対北強硬派の牙城であった国家安全企画部が国家情報院に改編縮小されたりするなど、韓国ではだんだんと対北朝鮮強硬路線が緩和されてきました。一方の北朝鮮は一貫して日米韓を敵性国家とみなし続け、韓国だけではなく日本に対しては拉致という卑劣な手段で攻撃を行い、アメリカに対抗するため核と弾道ミサイルの開発を着々と進め現在に至っています。 つまり指導者の代替わりがあっても一貫して自国主導での半島統一を目標に軍備増強に励んでいた北朝鮮に対して、韓国は金泳三、金大中、盧武鉉の3人の大統領が親北政策を続けた結果、いつの間にか北朝鮮は打ち倒すべき敵性国家から共存共栄する対象になってしまったのです。 韓国の国民も自国が一応の民主化を果たし、経済的には経済協力開発機構(OECD)に加盟して先進国を名乗るようになって現状に満足するようになったのか、北朝鮮の貧困が明らかになるにつれ、東西ドイツが統合したときの西ドイツのように、自らは経済的負担を負いたくないという心理から、口先では統一を唱えるも実際には統一そのものを忌避して現状維持を望む人が多くなりました。 それどころか、長年の北朝鮮の工作や親北教育が浸透した結果、朝鮮戦争で韓国が北朝鮮と戦ったことを知らない若者が増えるだけではなく、欧州における東西冷戦終結や中国の改革開放路線の影響を受け「共産主義の脅威は去った」と多くの韓国国民は油断してしまいました。そして反共思想が下火になる一方で、同一民族に対する同胞意識が事あるごとに強調され北朝鮮にシンパシーを感じる人が多くなり、北朝鮮と現在も戦争中(休戦中)であることを忘れたのか、北朝鮮を脅威と感じる人が少なくなりました。 その結果が、対北強硬姿勢を打ち出した朴槿恵大統領がクーデターのような形で罷免逮捕され、その後継に親北派の文在寅氏が大統領に選出されるという現象です。とはいえ、さすがにここまで北朝鮮が挑発してくると、対外的に韓国政府としても何らかの対応を取らねばならないような状況になってきたのですが、文大統領は、いまだに北朝鮮との対立姿勢を明確にしていません。反日は北の脅威を隠すため? 国内的にも、いくら親北派が増えたとはいえ、対話ありきでいつまでも北朝鮮に対して強硬的な態度をとろうとしない現政権に疑問を持つ国民は少なくなくありません。 政府に対する批判の声が上がりそうになってきたので、困ったときの日本頼みと「日韓合意の見直し」や「徴用工の個人請求権」に関して大統領自身が発言するなど「愛国反日運動」を政府主導で盛り上げて北朝鮮の脅威から国民の目をそらそうとしているのが、一連の反日運動の本質ではないでしょうか。 北朝鮮に対して抗議や示威的な行動をとれば、相手が反撃をしてくるので本格的な武力衝突が起こりかねませんが、日本には何をしても「遺憾の意」を表明するのが関の山ですからノーリスクであり、何よりも日本をたたくことに関しては全国民が一致するので、やらない理由が見つかりません。 つまり韓国は自己保身のため、本当に奪還しなければいけない朝鮮半島の北半分の領土と、そこに抑留され苦しんでいる同胞を放っておいて、現実から逃避するためにありもしなかったでっち上げた話をもとに日本にからんできているのです。 その証拠に韓国の政治家や芸能人の大半は何ら危険のない竹島に上陸しても、生命の危険がある38度線には行きません。戦争をしたことのない日本に対して根拠のない謝罪や賠償を求めても、突然侵略されて、あれほど多くの罪もない自国民が殺された朝鮮戦争に関しては何も言いません。 虚偽の映画を作ってありもしなかった強制連行を理由に日本を非難しても、日本以上に多い北朝鮮に強制的に拉致された被害者を取り戻そうとはしません。このように何をしても反撃してこない日本に対しては傍若無人に振る舞う韓国も、やられたらやり返してくる北朝鮮に対しては弱腰で何もできないのです。朝鮮戦争の激戦地跡を視察する金正日書記(左から2人目)=1997年4月  実際に戦争をしたことのない日本に対して根拠のない謝罪や賠償を求めても、突然侵略されて、あれほど多くの罪もない自国民が殺された朝鮮戦争に関しては何も言いません。虚偽の映画を作ってありもしなかった強制連行を理由に日本を非難しても、日本以上に多い北朝鮮に今なお抑留されている拉致被害者を取り戻そうとはしません。このように何をしても反撃してこない日本に対しては傍若無人に振る舞う韓国も、やられたらやり返してくる北朝鮮に対しては弱腰で何もできないのです。 韓国は北方限界線(NLL)付近で偶発的に起こったと思われる小規模な戦闘や、自国の領土に攻め入られたときは反撃していますが、「ラングーン事件」や「大韓航空機爆破事件」に代表される大規模テロに対しては、多くの国民を殺されても目に見える反撃をしていません。 記憶に新しいところでは2010年に、自国の海軍艦艇が北朝鮮に撃沈され何十名もの将兵が殺されたときも、自国が北朝鮮との武力衝突に巻き込まれることを嫌ったアメリカの圧力があったのかもしれませんが、何もしませんでした。 これらの事例を見れば、いかに韓国が北朝鮮と事を構えたくないと思っているかということがわかります。朝鮮戦争を忘れたのか? 日本も人のことを言えた義理ではありませんが、これだけ北朝鮮が核やミサイル実験を繰り返しているのですから、インドが核武装したときのパキスタンのように韓国も核武装してもおかしくないのです。マスコミや野党の一部、最近では政府内にもアメリカの核の再配備など自国の核武装を求める声が出ていますが、肝心の大統領府は全面的にそれを否定しています。 もし同じ民族に対して核を使うはずがないというような根拠のないナイーブな幻想を抱いているとしたら、大間抜けとしか言いようがありません。朝鮮戦争で何百万人の自国民が彼らに殺され、今なおどれだけの家族が引き裂かれたままになっているのか忘れてしまったのでしょうか。ソウルで韓国の母親と対面する北朝鮮の男性=2001年2月  結局、彼らは口先では「我が民族」「我が同胞」などと綺麗(きれい)ごとを言っていますが、自己の繁栄を維持したいがために、北で抑圧されている二千数百万人の同胞を見殺しにしているのです。本来、彼らが救わねばならないのは静かな余生を送っているはずの自称従軍慰安婦や元徴用工ではなく、今も北で抑圧されている「我が民族」「我が同胞」なのです。 その事実に直面したくない政府、マスコミが国民の目線を日本に向けて憎しみをあおり、保守派と呼ばれる勢力が一部の人を除いて北朝鮮との衝突を避けたいため、それに同調するだけでなく、保守派と敵対する親北勢力も日韓離反工作のために同調する訳ですから、国を挙げての反日運動となるのです。 一般国民の多くも、あえて危険な北朝鮮と敵対するより、援助はしても攻撃はしてこない日本を一方的に叩く方が楽で適度に愛国心を満たしてくれるので、大勢に従っているのが現状です。要するに日本は朝鮮民族同士の内紛の出汁(だし)に使われているのです。 こんな人たちに日本がいつまでも付き合う必要はないのですが、日本としては安全保障上、韓国が北朝鮮ひいては中共との防波堤であった方が都合が良いのもまた現実です。そのためには、日本が北朝鮮よりも怖いと思わせるとともに、真の敵が北朝鮮であることを分からせ、今までのような謝罪や援助を一切止めて韓国の自立心を育てなければなりません。 そして、韓国の「日本に対して何をしても、日本が我々を見捨てることはない」というような甘えた考えも改めてもらう必要があります。元寇に匹敵する脅威 韓国は日本が北朝鮮と手を組むことはあり得ないと高をくくっているようですが、日本には北朝鮮シンパが多いことや、最近の韓国の度を越した反日行為にうんざりしている国民がかなり増えてきていること、北朝鮮に対するアメリカの腰の引けた態度などを勘案すれば、拉致問題さえ解決すれば日朝間に国交が樹立され、朝鮮半島有事の際に日本が韓国側に立たないことも十分あり得ます。 そういうことも含めて、日本がいつまでも韓国に友好的な態度をとる保証はないことを、彼らに認識させることが外務省の役割であり、友好ありきの外交姿勢を改める必要があります。 さらに外交政策の転換に合わせて防衛政策も見直す必要があります。早急にやるべきは、在韓邦人の速やかな撤退作戦の立案訓練、対馬(つしま)海峡に38度線が下りてくることを想定した部隊配置などの朝鮮有事への備えです。いま日本は「白村江(はくすきのえ)の戦い」「元寇(げんこう)」「大東亜戦争」に匹敵する国土侵略の危機が迫っていることを自覚せねばなりません。 当然、北朝鮮だけではなく中共による侵略への備えも怠ってはならないことは言うまでもありません。中長期的にはアメリカ頼みの主体性のない国防姿勢を改め「自分の国は自分で守る」という、ごく当たり前のことを憲法改正を含めて実践する必要がありますが、70年以上さぼってきたツケは重く、かなりの困難が予想されます。しかし、それは我が国が今後も独立国として生き残っていくためには避けて通れない道です。あまり期待してはいけませんが、そうやって日本の本気度を見せれば韓国も事態の深刻さを理解して日本に対する態度を改めるかもしれません。会談前に韓国の文在寅大統領(右)と握手する安倍首相 =2017年9月7日、ウラジオストク(共同) 日韓が国交を結んでから韓国は日本に対してやりたい放題、日本がひたすらそれに耐えるという関係でしたが、近年、多くの日本国民は歴史の真実を知るとともに、それにうんざりしてきています。夫婦関係も長年我慢してきた妻が夫の定年を機に離婚を切り出す熟年離婚のように、我慢を重ねてきた方が切れてしまえば、あっけなく終わってしまいます。 日本と韓国との関係も、そうならないように正すべきところは、たとえ一時的に波風が立とうとも直言し、突き放すところはきちんと突き放すべきなのです。 いつまでも韓国が一方的に日本に対して好き放題やり、日本がそれに耐えるというような不適切な関係を続けていくことは日韓両国にとって良いことではありません。 わが国は明治以来、朝鮮半島を自国の防波堤にすべく、日清日露の大戦を戦って多くの血を流しました。日韓併合後は多額の資金を投入するなど大変な苦労を重ねましたが、その結果はどうなったでしょうか。これらのことを踏まえた上で、いま一度朝鮮半島との付き合い方を考え直す必要があるのではないでしょうか。

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    【徹底比較】韓国と北朝鮮の陸海空戦力はこんなにも違った!

    ならともかく軍事的には意味をなさない。軍隊の実力は、仮想敵との対比で測られる。ならば韓国軍の仮想敵は北朝鮮軍なのであり、韓国の実力は北朝鮮軍との対比によって明らかになるはずである。 韓国軍と北朝鮮軍は南北軍事境界線、通称38度線を挟んで対峙(たいじ)している。北朝鮮の総兵力約119万人のうち陸軍が102万人、韓国の63万人のうち陸軍は約50万人を占めていることから明らかなように、両軍は陸上戦に最重点を置いている。 陸上戦において最も有効な兵器は戦車であり、北朝鮮は約3500両を有し、対する韓国は約2400両である。ちなみに日本の陸上自衛隊の兵力は約15万人、戦車約300両であるから、南北両国の陸上戦にかける意気込みが計られよう。 北朝鮮が兵力、戦車数ともに韓国を凌駕(りょうが)しているが、韓国側は兵器の質の高さによって量の劣勢を補っていると考えられる。もちろん韓国には米軍基地があり、有事となれば米軍が補充されるわけであるが、補充されるまでの間は韓国軍が持ちこたえなければならないのである。 このことは戦車の内訳からも裏付けられる。北朝鮮で主力をなしている戦車は1960年代に旧ソ連で開発されたT62であるが、韓国の主力戦車K1は、韓国の国産で1988年に配備が開始されている。つまり韓国の方が新型なのである。 だがここで、賢明な読者は疑問を抱くだろう。「確かに1960年代に開発されたT62は旧式という他ないが、1988年配備のK1も既に30年近くたっておりもはや新式とはいえないではないか? 2000年以降に新式を開発していないのはいかなる訳か?」 この疑問は実は問題の本質を突いている。日本は韓国がK1配備を開始した2年後の1990年に90式戦車を配備し始め、2010年には10式戦車を配備し始めた。定期的に新型を開発して国産技術の維持向上に努めているわけだ。訓練中のK2戦車(韓国陸軍ホームページより) 実は韓国も2011年にはK2戦車の配備を始める計画だった。ところが現在に至ってもK2戦車は完成していない。技術的な問題を克服するのにまだ時間を要すると思われる。そしてこの開発の遅れは韓国にとって致命的なのである。北朝鮮が手にする「切り札」 韓国のK1戦車の主砲の口径は105ミリである。北朝鮮のT62戦車の主砲の口径は115ミリである。主砲の射程と威力は口径に比例するから、口径の小さな戦車が勝てる公算は極めて低い。端的に言えば、K1は後発であるにもかかわらずT62にかなわないのである。 1980年代以降、世界的に主力戦車の主砲の口径は120ミリが主流となっており、日本の90式戦車の主砲の口径も120ミリであるが、韓国は当時、それだけの技術水準に達していなかったのである。 そこで1990年代に韓国はK1の車体はそのままにして、主砲だけ120ミリに置き換えたK1A1戦車を開発した。だが、主砲だけ大きくなってしまった結果、かえって使い勝手が悪くなり性能は全体として劣化した。 つまり1990年代において、韓国は北朝鮮に戦車戦で勝てる自信が持てなかったのである。もちろん戦争は戦車だけで勝敗が決まるものではない。特に現代戦においては航空戦力が決定的な役割を演じているのは周知の事実だ。 韓国は1980年代から米国製戦闘機F16を導入していた。北朝鮮空軍の主力は現在においても1960年代に旧ソ連で開発されたミグ21である。この戦闘機は旧ソ連の誇る傑作機ではあるが、1980年代においては完全に旧式である。 1970年代における旧ソ連の新式であるミグ23も導入されているが、F16の敵ではないことが1982年のレバノン紛争で立証されてしまっている。1980年代における旧ソ連の新式であるミグ29も導入されているが、機数が少なく主力をなすに至っていない。 1990年代において、韓国の航空戦力は北朝鮮の航空戦力を圧倒していると言ってよく、それは現在でも同様である。2010年代の現在、米国の第4世代型の最優秀機といわれたF15戦闘機の韓国版F15Kを配備しており、第5世代型のF35も導入の予定である。 したがって、仮に北朝鮮軍がT62戦車を先頭に韓国に侵入したとしても、韓国の航空戦力によって撃退が可能である。意外なことに陸軍重視であるはずの韓国陸軍は北朝鮮の陸軍にかなわず、空軍によって辛うじて守られているのである。 航空戦力における韓国の優位を強調したが、実は航空戦力の中には弾道ミサイルも含まれる。北朝鮮が弾道ミサイルの実験を繰り返して技術の向上は否定すべくもないが、韓国も優秀な弾道ミサイルを開発しており、北朝鮮のほぼ全域を射程に収めている。2017年9月4日早朝に実施された韓国軍の弾道ミサイル発射訓練(韓国国防省提供・共同) しかし、弾道ミサイルの威力は弾頭の種類によって決まり、通常弾頭と核弾頭では威力に圧倒的な差がある。北朝鮮が核ミサイルを完成しつつある現在において、韓国も核弾頭を必要としているのは間違いない。 韓国海軍は北朝鮮が保有していないイージス艦を保有している。イージス艦はミサイル防衛のために有効な艦種であるが、韓国海軍は技術の蓄積が未熟であり、有効に機能しているとは言い難い。今後の改良が待たれる。

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    中国内に「韓国による朝鮮半島の統一」を求める声

    北朝鮮は米国に次ぐ、第2の仮想敵だ」「韓国が朝鮮半島を統一した方が中国に有益」──。中国は激しい北朝鮮批判を続けている。もはや「血で塗り固められた友誼」は存在せず、国境をはさんで両軍が対峙。このままでは、米朝より先に、中朝戦争が勃発する可能性も指摘されている。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。* * *「北朝鮮=仮想敵」論をいち早く発表してきたのが、上海の華東師範大学国際冷戦史研究センター主任の沈志華教授だ。沈教授はソ連邦崩壊でロシアが混乱していた1994年、個人資産を投じて、ロシア政府から朝鮮戦争時のスターリンや毛沢東、金日成主席が交わした公電やその後の中朝ソ3か国が取り交わした秘密文書などのコピー数万部を入手し、翻訳や解読を行った。 その研究成果の一部が同大のホームページ上で公開されている。それは今年3月、大連外国語大学で行った講演録で、約2万3000字に及ぶ長大な論文だ。そこには中朝関係の秘話が満載されている。 たとえば、朝鮮戦争後の1958年、中国の義勇軍が北朝鮮から撤退する際、毛沢東は金日成と会談し、「もし、再度戦争するようなことがあれば、中国の東北部を北朝鮮に譲っても良い」と発言した。毛の真意は「戦争で北朝鮮が窮地に陥った際、北朝鮮軍は東北地方を拠点にして戦ってもよい」ということだと教授は語る。(iStock) この言葉を言質として、2001年に訪中した金正日総書記が中国側に「東北部を『視察』したい」と申し出た。中国側は「外国首脳が(東北部に)行くなら、『訪問』であって、『視察』ではない」と異議を唱えたが、金総書記は「父親の金日成が生前『毛沢東主席は東北部を北朝鮮に譲った』と話していた」と反論した。 江沢民指導部はすぐに、中国共産党中央対外連絡部の朱良部長(当時)に調べさせた。「たしかに金親子が毛沢東発言について自分たちに都合の良い部分だけを取ったのだが、事実だったことは間違いない」と教授は明かした。「このような解釈を行う北朝鮮こそ、中国の潜在的な敵だ。北朝鮮は中国の広大な領土を求めるという野心を持ち続けているのだ」と教授は憤る。 また、北朝鮮が中国に敵対的な態度をとるようになったのは1992年8月、中国の最高実力者、トウ小平が金日成の反対を押し切って、中韓の外交関係を樹立してからで、この後、金日成は核兵器開発に着手し、金正日から、いまの金正恩指導部に引き継がれている。なぜ「北朝鮮=潜在敵」なのか「中国の核心的利益の一つは『東北アジア域内の平和的環境であり、中国の経済発展の持続』だが、北朝鮮は核開発に突き進み、域内の平和的環境を崩そうとしているのは明らかだ。もはや、この時点で北朝鮮は『潜在敵』であり、逆に韓国は『潜在的な友人』で、この結果、中朝友好協力相互援助条約は一片の紙屑でしかなくなった」と教授は指摘する。 さらに、教授は「朝鮮半島の統一は中国にとって脅威だろうか」との疑問を呈し、「一般的に中国は米韓による朝鮮半島の統一よりは、北朝鮮が存続し続け、南北朝鮮が対立している現状の維持を望んでいる」との説に反論。韓国は潜在的な友好国なのだから、「韓国が朝鮮半島を統一した方が、中国にとって有益だ」と力説する。「なぜならば、韓国による朝鮮半島の統一によって、韓国と国境を接することになる中国東北部に韓国資本が流入し、東北部の経済発展を促進することになるからだ」と分析している。 このような教授の「北朝鮮=潜在敵」論は、米国の朝鮮半島問題専門家で、ブッシュ政権当時の国家安全保障会議(NSC)アジア部長を務めたビクター・チャ米戦略国際問題研究所(CSIS)担当部長にも支持されている。チャ氏は今年4月25日、米上院アジア太平洋の政策と戦略に関する軍事問題公聴会で次のように証言した。「北朝鮮は1994年から2008年の間に16回のミサイル発射実験および1回の核実験を行った。09年1月からこれ(今年4月25日現在)まで71回のミサイル実験および4回の核実験を実施した」と語り、核開発は近年、急ピッチで進められていると強調。とくに09年以降、北朝鮮は中国などとの話し合いにも応じておらず、「核開発中止に関して話し合いをする気がないことを示している」と断定する。チャ氏は「13年には中国側の窓口役を務めた張成沢氏を処刑して、中国とのパイプを絶った。これは金正恩委員長が中国を敵視している証拠だ」と鋭く指摘している。(iStock) 沈教授も米紙「ニューヨーク・タイムズ」の取材に対して、「もし、北朝鮮が核開発を完了すれば、世界は北朝鮮の独裁者の足下にひれ伏さなければならなくなるだろう。膠着状態が続けば続くほど、北朝鮮に有利になる」と分析。そのうえで、教授は「もし、北京とワシントンの政治的な協力が失敗し、北朝鮮の核開発の野望を封じ込められなければ、米中両国政府は対北朝鮮軍事オプションを前提とした協力体制を敷くべきだ」と強調している。●そうま・まさる/1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)。関連記事■ 麻央さん娘・麗禾ちゃん 明るく振る舞う姿に周囲が心痛める■ 小泉孝太郎、気遣い上手な女性と交際 本人は直撃に認める■ 熱愛発覚の小泉孝太郎 本人直撃時の一問一答を全文掲載■ 旭日旗批判は韓国人にとって先祖の行いを批判・侮辱する行為■ 恋愛、結婚、そして就職も諦め 韓国「七放世代」の悲鳴

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    冷戦期と逆転した北朝鮮の脅威への日韓温度差

    澤田克己(毎日新聞記者、前ソウル支局長) 日本上空を飛び越す北朝鮮の弾道ミサイル発射は日本にとって大きな脅威だが、その感覚を他国と完全に共有するのは難しい。韓国メディアで見聞きする論評のうちのある一言は、そのことを実感させる。韓国のネットでは「日本は騒ぎ過ぎだ」という声が多いというけれど、メディアに出てくる人々がそんなことを言うわけではない。「日本の上空を通過したのだから日本人が大騒ぎするのは当然だ。もし韓国の上空だったら我々だって大変な脅威を感じるはずだ」と言うのである。日本の対応に理解を示しているのだが、どこか他人事という響きは否めない。北朝鮮の軍事パレードに登場した、新型ICBM用の可能性がある片側8輪の発射管付き車両=2017年4月、平壌(共同) そもそも韓国は以前から北朝鮮の脅威にさらされているから、脅威のレベルが特段上がったとは言えない。あるいは、韓国人は北朝鮮の脅威に「慣れてしまっているから」という説明もされる。どちらも間違っているわけではないが、それよりも冷戦終結後の四半世紀の間に起きた変化の影響が大きいと思われる。 一方で最近は、過去最大規模の核実験を受けて韓国でも危機感が急上昇していると報道する日本メディアもあるようだ。しかし、これも実態はあやしい。広島型原爆の10倍以上という爆発規模は韓国でも驚きを持って迎えられ、在韓米軍への戦術核再配備や独自核武装を声高に語る保守系政治家や保守系メディアが出ていることは事実だ。ただ、実際には韓国ではこれまでも同様の主張が繰り返されてきたし、世論調査の数字を見れば核実験で脅威認識が高まったとは言えないのである。 9月の核実験直後に韓国ギャラップ社が実施した世論調査がある。韓国の独自核武装論に「賛成」という人が60%を占め、「反対」35%を大きく上回ったというものだ。これだけ見ると、今回の核実験で韓国でも危機意識が高まったのかと感じる人もいるだろう。 だが実際には、この結果はこれまでの調査と変わらない。同社は発表資料に過去3回の核実験直後に行った調査結果を付しているのだが、それを見ると13年2月(3回目の核実験直後)が64%、16年1月(4回目)54%、9月(5回目)58%。今回を含め、ずっと6割前後である。 米ランド研究所が90年代後半に韓国で実施した「もし北朝鮮が核武装したら韓国も独自核武装すべきか」と聞いた世論調査を見ると、核武装に賛成が96年9月調査では91.2%、99年2月調査で82.3%だった。北朝鮮の核開発を巡る状況が当時とはまったく異なるので同列に並べることは難しいが、長期トレンドで見れば韓国における核保有論は減少しているとさえ言える。韓国における戦争の脅威 貿易依存度の高い経済を持つ韓国には国際的孤立を甘受してまで核開発を進めるメリットはなく、核保有論に現実味はない。在韓米軍への戦術核再配備にしても実現可能性の点では同じだ。既に戦略核で十分な抑止力を持つ米軍が管理や警備に莫大なコストとリスクをかけて、韓国に戦術核を持ち込む意味はないからだ。韓国世論の反応は、北朝鮮が核兵器を持つなら対抗しなければという程度の軽い考えでしかない。残念なことだが、唯一の被爆国である日本と他国では核兵器に関する感覚はまったく違う。韓国も「その他の国」の一つなのだ。(iStock) 今回の韓国ギャラップ社の調査で興味深いのは、むしろ北朝鮮に対する脅威認識の長期的低下を如実に示す設問である。 調査では「北朝鮮が実際に戦争を起こす可能性」について聞いている。「大いにある」と答えた人は13%、「ある程度ある」が24%で、両方を合計した「ある」は37%。これに対して「まったくない」22%、「別にない」36%で、「ない」の合計は58%だった。 「ある」37%と「ない」58%。これだけを見ると判断に迷うかもしれない。ただ過去の調査と並べると、変化を見て取れる。同社の発表資料には92年以降に行った9回の調査結果が並んでいる。 「ない」58%というのは、今までで最も多かった金大中政権末期の2002年と同じだった。「ある」37%も、02年の33%に次いで低かった。6回目の核実験直後でも、南北首脳会談後の融和ムードが強かった時と同じ程度にしか戦争の脅威を感じていないということになる。 冷戦終結直後だった92年の調査では「ある」が69%、「ない」24%だったから、四半世紀前と比べたら完全に逆転した。 背景にあるのは、冷戦終結を境に韓国と北朝鮮の国力差が如実に見えてきたことだ。 韓国と北朝鮮は朝鮮戦争休戦(53年)後に体制間競争を繰り広げてきた。ソ連や中国から大規模な支援を受けた北朝鮮の方が戦後復興は順調に進め、世界最貧国レベルだった韓国経済に差を付けた。日米から資金と技術を導入した韓国が追い上げ始めるのは60年代後半になってからで、南北の経済力が逆転したのは70年代半ばのことだ。 冷戦期には、北朝鮮の武装ゲリラが韓国に浸透して青瓦台襲撃を図った事件(68年)や外遊中の全斗煥・韓国大統領暗殺を狙ったラングーン爆弾テロ事件(83年)、ソウル五輪妨害を狙った大韓航空機爆破事件(87年)などが続いた。北朝鮮の脅威はまさに身近なものだったと言える。明暗を分けた南北 ところが韓国は「漢江の奇跡」と呼ばれる驚異的な経済成長を遂げ、冷戦終結と時期が重なったソウル五輪を契機に旧東側諸国との関係を一気に改善させた。北朝鮮の後ろ盾だったソ連(90年)、中国(92年)との国交樹立はそのハイライトだ。韓国はその後も経済成長を続け、いまや世界10位前後の経済力を持つ。国際社会での地位も、主要20カ国(G20)の一角に食い込むまでになった。(iStock) 北朝鮮の境遇はまったく違う。韓国との国交樹立に踏み切った中ソ両国との関係が90年代に冷え込んで孤立の度を深めた。なによりソ連や東欧社会主義国の体制が次々と崩壊する中で、自らの体制生き残りを最優先せざるをえない状況に追い込まれた。頼みの綱だった社会主義圏からの援助を失った上、90年代半ばには天候不順にも見舞われて数十万の餓死者を出すほどの食糧危機に見舞われた。その中で体制生き残りのため必死に続けてきたのが核・ミサイル開発だ。もはや韓国と正面から競争する余力など残っていない。 冷戦期の韓国では北朝鮮の実情を知らせるようなニュースは統制され、人々が持っている北朝鮮イメージは反共教育で教え込まれた「強くて憎むべき敵」だった。前述のように80年代にも大型テロが続いたから、そのイメージには現実味があっただろう。ところが、冷戦終結後に知るようになった北朝鮮の実情は違った。韓国の人々は、それまで抱いていたイメージとは正反対ともいえる「貧しい北朝鮮」像を眼前に突き出された。それを見た韓国の人々が「体制間競争に勝負がついた」と考えるのは当然だ。だからこそ金大中政権(98〜2003年)の太陽政策が受け入れられたのだろう。そして、韓国人の脅威認識はさらに薄れていった。 脅威認識の逆転は、冷戦終結をはさんだ時間軸だけで起きたのではない。日本と韓国の脅威認識もこの四半世紀の間に逆転した。 私はソウルで韓国語を学んでいた1989年に夜間防空訓練に出くわした。韓国では当時、北朝鮮からの攻撃に備えた避難訓練が毎月あり、その一環として夜間訓練が行われることがあった。 夜間訓練では灯火管制が行われる。すべての明かりが消された暗い町でサイレンが鳴り響く。音を正確に覚えているわけではないが、Jアラートのサイレンと同じような感じだったように思う。高台にあった下宿の窓を開けて外を見た私は、心細くなった。時間にしたら10分か15分だったはずなのだが、時間の流れはとても遅かった。韓国と逆のコースをたどる日本 ソウル五輪を成功させた後ではあったが、冷戦末期の韓国社会にはまだ北朝鮮を脅威だととらえる感覚が強く残っていた。だから、92年になっても世論調査で「北朝鮮が実際に戦争を起こす可能性がある」と考える人が7割に上っていたのだ。一方で日本では70年代のように北朝鮮を「地上の楽園」だとたたえる意識こそ影を潜めていたものの、身近な脅威だとする感覚まではなかった。平和を当然のものとする日本社会で育った20代前半の私には、韓国との感覚の違いは鮮烈だった。(iStock) 韓国での夜間訓練は90年が最後となった。前述のように、北朝鮮を脅威と見る感覚はその後どんどん薄れていった。 冷戦期に脅威認識が薄かった日本は、まったく逆のコースをたどった。93年には日本に到達しうるノドン・ミサイルの発射実験が日本海で行われ、北朝鮮の脅威が認識され始めた。それでも93〜94年の第1次核危機の時に日本が抱いた危機感は、現在とはまったく異なる。北朝鮮の核・ミサイル能力はまだまだ未熟で、日本が巻き込まれるなどとは想像しなかったからだろう。 そうした空気を決定的に変えたのは、98年にテポドン・ミサイルが日本上空を初めて通過したことだ。北朝鮮を脅威と見る視点はさらに、2002年の日朝首脳会談で北朝鮮が日本人拉致を認め、その直後に新たな核開発疑惑が発覚したことで強まった。北朝鮮はその後、核実験やミサイル発射を繰り返すようになり、日本にとって現実の脅威だと認識されるに至っている。 こうして見ると、過去四半世紀の間に日本と韓国の脅威認識はまるで反対になったことが分かる。北朝鮮との歴史的関係や地理的条件の違いを考えれば、日本と韓国の間に温度差があることは当然だ。それでも北朝鮮情勢を巡る現在の局面では日韓が協力する以外の選択肢がないのだから、日韓の温度差を正面から認識しておく必要がある。その上で、問題解決のために協力する方策について考えなければいけない。そうしなければ、北朝鮮を利するだけなのだから。さわだ・かつみ 毎日新聞記者、前ソウル支局長。1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

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    文政権の対北融和政策に韓国人「北を利するだけで利点なし」

    考えた。彼らの怒りが文在寅大統領の出現を後押ししたと考えられるからだ。 大統領選中は、保守勢力から「北朝鮮シンパ」と激しく糾弾され続けてきた文氏だが、蓋を開けてみれば大統領就任後の支持率は81.6%(5月15~19日、韓国リアルメーター調査)と歴代政権で最高を記録している。 本誌の街頭インタビューでも、「庶民派大統領の誕生を心から嬉しく思う」(60代女性)、「文大統領なら弱者のための政治をしてくれるだろう」(70代男性)、「クリーンなイメージのとおり、腐敗した政治勢力を一掃してくれるのではないか」(50代男性)と新政権に期待する声が多数を占めた。 ただし、少し深掘りして話を聞くと「文大統領を応援はするが、信用はしていない」(60代男性)、「文大統領の政治は韓国をより悪くするかもしれない」(30代女性)という本音が聞こえ始めた。中でも目立ったのが、北朝鮮を巡る安全保障と外交政策を不安視する声だ。 ソウル市鍾路区のパゴダ公園付近で炊き出しの列に並んでいた70代男性は、「文大統領には頑張ってもらいたい」とエールを送りつつ、対北宥和政策についてこう苦言を呈した。「韓国が北朝鮮に接近し米国と距離を置くのは極めて危険。文大統領は中国の顔色を窺いTHAAD配備の見直しを視野に入れているが、とんでもないことです」 本誌取材中も、北は2度に亘り弾道ミサイルを発射。朝鮮戦争を体験した世代は、差し迫る北の脅威に警戒感を隠せない様子だった。 一方で、対北宥和政策による韓国経済のさらなる疲弊を懸念する人々もいた。「私は文氏には投票しませんでした。韓国の経済状況を考えれば、北を支援する余裕などないはず」(60代女性・タクシードライバー) 文大統領の対北宥和政策が、かつて金大中・盧武鉉両大統領が行った“太陽政策”と同様に「北を利するだけでメリットがない」と考える韓国国民は少なくないようだった。関連記事■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ「北にそっくり」■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画【1/2】「根拠のないデマ」■ 韓国人「私が日本人なら安倍首相を頼もしく感じるだろう」■ 伊勢志摩サミットを逃せば日韓関係に当面修復のチャンスなし■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画「鏡のない国のパク」

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    北朝鮮を核保有国として認めるべきか

    世間はすっかり解散風になびいているが、核実験とミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威は何も変わっていない。トランプ米大統領は「完全に破壊する以外の選択はない」と強く警告。わが国でも長年タブーとされた核武装論に言及する動きもみられ、議論はさらに広がりつつある。もはや北朝鮮の核保有を認めざるを得ないのか。

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    米国が「北朝鮮の核保有」を容認すれば、日本はこうなる

    村野将(岡崎研究所研究員) 2017年7月、北朝鮮は4日と28日に相次いで新型の移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の発射実験を実施した。発射は通常よりも高い放物線を描くロフテッド軌道で行われたものの、その高度はそれぞれ2500キロ、3500キロ以上にまで達し、通常弾道軌道に換算すると1万キロ近い飛行が可能であることが明らかとなった。これは平壌から約1万1000キロ離れたワシントンDCを目前に捉える距離である。そして9月3日には、6度目となる核実験に踏み切り、ICBM搭載用の水爆実験に完全に成功したと宣言した。北朝鮮の労働新聞が7月29日掲載した、「火星14」発射の命令書にサインする金正恩朝鮮労働党委員長の写真(共同) 既に米国防情報局(DIA)は、2018年内にも北朝鮮が核搭載可能なICBMを実戦配備すると見積もっているといわれ、米国内では「非核化のための努力はもはや時間切れであり、北朝鮮の核保有を認めざるをえない」との声も聞かれる。その一方で、北朝鮮のICBMは米国にとっての「ゲーム・チェンジャー」であり、日韓への紛争拡大リスクを負ってでも、先制的な軍事行動に出るとの見方も根強い。対外政策決定論の名著『決定の本質』で知られるハーバード大学のグレアム・アリソン教授は、こうした緊迫した政策のやり取りを「キューバ危機をスローモーションで見ているようだ」と表現している。 だが、ここで言う「北朝鮮の核保有を認める」とは何を意味するのだろうか。そもそも、米本土に到達する北朝鮮のICBMは日本にどのような影響をもたらすのだろうか。ここでその意味を一度冷静に、客観的事実に基づいて考えてみよう。 昨今の北朝鮮による長距離ミサイル実験に際しては「日本は既に多くの中距離ミサイルの射程内に置かれてきたのだから、北朝鮮が米国向けのミサイルを開発したところで今更大騒ぎする必要はない」との意見が散見される。この指摘は半分正しく、半分間違っている。確かに、北朝鮮は1990年代前半から射程1300キロ程度とされる準中距離弾道ミサイル(MRBM)「ノドン」の実戦配備を開始しており、現在では約200基(移動発射台の数は50両以下)のノドンが日本を射程に収めている。これに核弾頭を搭載できるかどうかについてはさまざまな評価があるが、既に2015年版の防衛白書が「核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も排除できず…」との表現を用いていることからすると、少なくとも防衛省は北朝鮮の核ミサイルを念頭に防衛政策を組み立てていると考えるのが自然であろう。 他方で、米国を標的とする長距離ミサイルは日本の安全保障にとって無関係なわけではない。むしろ、日本にとって米本土の安全は、米国から提供される「核の傘」を含む拡大抑止の信頼性と密接に関係している。冷戦期にソ連と対峙(たいじ)していた米国が「パリを守るために、ニューヨークを犠牲にする覚悟があるか」というジレンマに直面したのと同じように、北朝鮮が非脆弱なICBMを保有した場合、米国の大統領は「東京を守るために、サンフランシスコを犠牲する覚悟があるか」という状況を前に、アジア地域への介入や日韓が攻撃を受けた場合の報復を躊躇(ちゅうちょ)する恐れがある。したがって、米本土の安全を高めておくことは、拡大抑止の信頼性を維持しておくためにも決定的に重要なのである。 極東から米本土に向けて発射されるICBMの最短飛行経路は、日本のはるか北からアラスカに向かうコースをたどるため、現在の技術ではこれを日本周辺から迎撃することはできない。だが既に米本土は、アラスカ州のフォートグリーリー基地とカリフォルニア州のバンデンバーグ基地に配備されている地上配備型迎撃システム(GMD)・迎撃ミサイル(GBI)と、一部の高高度防衛ミサイル(THAAD)によって守られている。GBIは5月30日にICBMを想定した迎撃実験に成功しており、2017年末までに44基の配備を完了する予定である。そのため、北朝鮮が数発の限定的なICBM能力を獲得した程度では、米本土のミサイル防衛網を突破することは容易ではなく、「ゲーム・チェンジャー」にはなり得ない。 しかし将来的に、火星14、もしくはより残存性・即応性の高い移動式ICBMが量産化され、実戦配備に移行した場合には、北朝鮮が一定の対米抑止力を確立し、名実ともに「ゲーム・チェンジャー」となる可能性も否定できないのだ。この段階に至っても、北朝鮮の核・ミサイル能力は、冷戦期の米ソのような相互確証破壊を達成するには遠く及ばない。しかしながら、それが米国の主要都市を1つでも確実に攻撃できるとすれば、米国は「巻き込まれる」ことを恐れて日本の防衛を諦め、われわれは「見捨てられて」しまうのではないかという「同盟の切り離し(デカップリング)」を引き起こしてしまう恐れがある。 さらに言えば、北朝鮮がICBMによって米国からの報復を抑止できるとの自信を背景に、制裁解除や経済援助、在韓米軍の撤退、あるいは朝鮮半島有事における在日米軍の来援阻止といった要求をのませるため、核を用いた恫喝(どうかつ)に及ぶことも考えられる。この恫喝相手は何も米国である必要はない。むしろ、在韓米軍の撤退や有事における在日米軍の支援を諦めさせたいのなら、今度は日本や韓国を核やミサイルで脅し「米軍のせいで、われわれが巻き込まれる」という国内世論の不安をかき立てることで、日米韓をデカップリング(非連動)させようという計算が働く可能性は十分考えられる。 すなわち、われわれは「米国が同盟国に巻き込まれることを恐れ、核の傘の提供を躊躇すること」への対処だけではなく、「日本が米韓に巻き込まれることを恐れ、朝鮮半島で生じる事態への支援を躊躇すること」への懸念に対しても同時に向き合わなければならない「二重のデカップリング」の問題に直面しているのである。2つのリスクが対立する「核容認」論 さて、ここで「北朝鮮の核容認」論とは何を意味するかという論点に立ち返ってみよう。米国で議論されつつある「核容認」論とは、何も北朝鮮を核拡散防止条約(NPT)の米露英仏中5カ国と同等の核保有国として認めるという話ではない。現在議論されているのは、北朝鮮が核ICBMを保有していることを前提に、それを使わせないよう抑止しつつ、状況改善のための交渉をするかどうかという点だ。 一方、これに反対する立場は、北朝鮮の核を前提としての交渉が、核の脅しに屈し、米国が交渉の場に引きずり出されたことになるため到底容認できないし、また金正恩朝鮮労働党委員長を伝統的な方法で抑止し続けられる保証もないというものである。そして経済制裁などの圧力の効果がなければ、究極的には軍事行動による強制武装解除も辞さない構えをとる。前者はゲーツ元国防長官やスーザン・ライス元国家安全保障担当大統領補佐官の立場、後者は現政権のマクマスター国家安全保障担当補佐官らの立場である。 つまり第一の問いは、これから長期にわたって北朝鮮の核と共存し、それを抑止し続けることのリスクと、短期決戦の軍事行動に伴うリスクのどちらを取るかという問題とも言い換えられる。ただ、この判断は極めて難しい。ライス氏が言うように、米国はこれまでにもソ連や中国のICBMと共存し、その使用を抑止し続けてきた。われわれもまた同様に、この十数年を多数のノドンを有する北朝鮮と向き合ってきた。 しかし、時間はわれわれに味方していない場合もある。「第1次朝鮮半島核危機」と呼ばれた1994年にも、寧辺の核施設に対する先制攻撃が検討されたが、大規模な被害が及ぶことを懸念した韓国政府の意向などをくみ、結局攻撃は行われなかった。だがそれから25年近くが経過した現在の戦略環境は、核・ミサイル脅威が顕在化したことによって劇的に悪化している。どのみち一定の被害は避けられないのならば、軍事行動は状況がさらに悪化する前-すなわち、北朝鮮がICBMの量産・配備に入る前でなければならないのかもしれない。 時間が状況を悪化させるとすれば、その緩和のためにも、ひとまず何らかの交渉が必要という考えはどうだろう。例えば、ゲーツ氏は「まずは北の体制は保障する。その上で核を放棄させることはできなくても、ICBM開発と実験を停止させ、ミサイルの射程を短いものに制限することは可能かもしれない」と述べている。 だが、日本はこの提案に乗るべきではない。既に北朝鮮はロフテッド軌道ではあるが、2度のICBM実験を行っている。もちろんミサイルと再突入体の完成度を高めるなら、通常弾道軌道によるフルレンジ(全射程)の実射実験をするのが望ましいが、それがなくともICBMは技術的にほぼ完成していると見るべきだろう。よって、今更実験を凍結することはさしたる意味を持たない。またミサイル実験を停止しても、「人工衛星打ち上げのロケット発射」などと言って、新型のエンジンテストなどをしてくる可能性もある。 ミサイルの射程制限については二つの問題がある。第一に、既にマティス国防長官やティラーソン国務長官は、北朝鮮を体制転換する意図がないことを繰り返し明言している。その判断が政策的に正しいかどうかはさておき、米国の長官級が体制を保障するとしているにもかかわらず、金委員長が核・ICBM実験を続けてさせているのは、言葉による体制保障を信用していないからだろう。そうであれば、物理的抑止力=体制保障の証しとしてのICBMを手放すことは考えにくい。米中両政府の「外交・安全保障対話」に先立ち、中国側と面会した米国のティラーソン国務長官(左端)とマティス国防長官(左から2人目)=6月21日、ワシントン(ロイター=共同) もう一つの問題は、対米ICBMを制限しても、日本の安全保障環境は核付きのノドンによって一方的に悪化したまま、状況が固定化されることである。もちろん、日本はノドンを自力で相殺(オフセット)する手段を持っていない。 それならば、冷戦を戦い抜いた先人たちの知恵を借りてみるのはどうだろうか。1970年代、「SS-20」に代表されるソ連の中距離核戦力(INF)が欧州に配備されたとき、西ドイツのシュミット首相は、「米国はハンブルクを守るためにニューヨークを犠牲にする覚悟がない」としてデカップリングの危険を訴えた。米=北大西洋条約機構(NATO)はこの問題を解消すべく、欧州に米国のINF(「パーシングII」と地上配備型核巡航ミサイル)を配備することによって、西独を含むNATO諸国への拡大抑止を再保証しつつ、ソ連を核軍縮・軍備管理交渉のテーブルに着かせるための圧力をかけるという「二重決定」方針を導入した。これにより、1987年には米ソ間で射程500~5500キロの地上発射型ミサイルシステムを全廃するというINF条約が締結されたのである。 米国の核持ち込みによって同盟国とのデカップリングを防ぎ、相手が持つ同等の核兵器をオフセットするという発想は、NATO型の核共有(nuclear sharing)にも当てはまる。核共有とは、NATO加盟国の一部に米国が管理する戦術核を平時から前方配備しておき、危機・有事が発生した場合には事前に策定した共同作戦計画に基づいて、米国が戦術核を供与、同盟国の核・非核両用機(DCA)がそれを搭載して核攻撃を行うというメカニズムである。米=NATO間では現在でも、200発程度とされる戦術核の配備と、その協議枠組みとしての核計画部会が継続されている。 折しも、自民党の石破茂元地方創生担当相は、非核三原則のうち「持ち込ませず」を緩和し、米国による核持ち込みの意義を検討すべきとの提案をしている他、最近ではメディアなどでも核共有の必要性を主張する声も聞かれるようになっている。 では、米国による核持ち込みやNATO型の核共有モデルをいまの日本に適用させた場合、地域の拡大抑止構造にどのような影響を与えるかを検討してみたい。考えられる唯一のオプション ここで前提としなければならないのは、現在の米国が保有する核戦力態勢である。米国の核態勢は、いわゆる「核の三本柱」(ICBM・SLBM・戦略爆撃機)に、グローバルに展開可能なDCAを加えた各種運搬手段と、戦略・戦術核兵器の組み合わせによって構成されている。これらのうち、米本土に配備されるICBM「ミニットマン3」は言うまでもなく、第二撃能力としての秘匿性を重視するオハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)がその位置を意図的に露呈することは考えにくいため、これらは前方展開を前提とする核共有・核持ち込みのいずれのモデルにも適さない。4月26日、米カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地で行われたICBM「ミニットマン3」の発射実験(米空軍提供・共同) 同様に、地下貫通型(バンカーバスター)の強力な戦略核(B61-11)を運搬可能なB2ステルス爆撃機はその航続距離と配備数20機という希少性から、また射程2500キロを超えるAGM-86B空中発射型核巡航ミサイル(ALCM)を運搬可能なB52長距離戦略爆撃機は、その利点である防空圏外からのスタンドオフ攻撃能力を犠牲にし、駐機中を先制攻撃されるリスクを負ってまで、在日米軍基地に常時前方展開することは想定しづらい。さらに、艦載機に搭載される戦術核や艦船に搭載する核トマホーク(TLAM-N)はいずれも既に退役・解体されている。そのため、かつて言われていたような、核搭載艦船による日本の領海通過や寄港という形での「核持ち込み」は今日では起こりえない。 残る手段は、かつてNATOが「二重決定」に用いたINFの前方配備であるが、皮肉なことに、米国は今現在でもINF条約の順守を継続しているため、ノドンをオフセットできる射程500~5500キロ以下の地上配備型ミサイルシステムを保有していないのだ。 したがって、現在考えられる唯一のオプションは、DCAと戦術核爆弾(B61-3/4)の前方展開という組み合わせに限られる。こうした前提で日本が米国との核共有を行うとすれば、2010年から始まった日米拡大抑止協議を格上げし、共同核作戦計画を策定。その上で在日米軍基地のいずれかに米軍が管理するB61用の備蓄シェルターを設け、それを有事の際に日本に提供するよう要請し、最終的には航空自衛隊のF-2戦闘機(将来的にはF-35A)に搭載して、総理大臣が核攻撃を命じるという形式が想像できる。 しかし、現在の核態勢下で実現できるオプションを具体化してみると、NATO型の核共有は、政治・軍事両面のハードルが著しく高いと言わざるをえない。言うまでもなく、戦術核を常時国内に備蓄することに対しては、極めて大きな政治的反発が予想される。また、米国の核報復が期待できず、自らそのトリガー(引き金)に手をかける必要があるという論理であっても、NPTとの整合性を保つ上で、最終的な戦術核引き渡しの決定権は米国が握っている。また、日本から飛び立つDCAが北朝鮮上空に達するには早くても1時間以上かかるため、弾道ミサイル発射の兆候を察知した段階で、即時的な武装解除を目的とした核攻撃を行うにはDCAは意味をなさない。加えて、DCA搭載用のB61-3/4はバンカーバスター能力がなく、地下化された北朝鮮の重要施設を破壊することも難しいため、軍事的合理性にも乏しい。 他方、軍事アセットを標的とする対兵力攻撃(カウンターフォース)ではなく、平壌に報復する対価値攻撃(カウンターバリュー・ターゲティング)を目的とするのであれば、「戦術核」とされるB61-3であっても出力調整により最大170キロトン(広島型原爆の約13倍)の威力を発揮できる。しかしその場合には、唯一の被爆国である日本の政治指導者が、自衛隊に対して民間人の大量殺戮(さつりく)を意味する報復を命じる覚悟を問われることになる。 もちろん、NATOの核共有が現在でも維持されているのと同様、戦術核の前方配備が米国のコミットメントを高める一助となることは事実であろう。しかし北朝鮮側から見れば、緊迫した情勢下における戦術核展開は先制核攻撃の準備と映りかねない。何より、近代化された空軍を持たない北朝鮮は、出撃後のDCAを迎撃するのが困難なことから、地上に置かれているDCAとB61を先制攻撃で無力化することのメリットが大きい。当然、B61の備蓄シェルターの破壊に用いられるのは核ミサイルであろう。これは抑止論で言う「脆弱(ぜいじゃく)性の窓」と呼ばれる問題であり、「危機における安定性(crisis stability)」を著しく悪化させる危険性がある。 本来こうした形での先制攻撃の誘因は、前方配備の戦術核がある種の「トリップワイヤ(仕掛け線)」としての役割を果たすことにより、米国の戦略核報復を促すため、高次の抑止構造が機能していれば、トータルな抑止計算の上では抑制されるはずである。しかし、北朝鮮が少数のICBMによって、米国からの報復を抑止できると「誤認」した場合には、上記のような形で限定核戦争の戦端が開かれる可能性も否定できないのである。こうしたDCAの脆弱性と危機における安定性に起因する問題は、核共有を行わずとも、日本や韓国に米軍のDCAと戦術核を前方配備するケースでも起こりうることに留意する必要がある。日本が今すべき具体的努力 もともと日本では、核戦略や拡大抑止をめぐる議論それ自体が限られてきた。また、そうした議論があったとしても、その大半は現実の核態勢や運用上の前提を踏まえていない場合がほとんどである。もっとも、同盟国からの要請として、米国に核兵器の運用態勢の変更や、新たな兵器システムの開発を求めること、例としては、INF条約脱退や、残存性の高い移動式中距離弾道ミサイル(IRBM、「パーシング3」?)、TLAM-Nの再開発・再配備なども考えられる。しかし、それらの要求は在欧戦術核のように軍事的意義を失った兵器を政治的理由から維持し続けるよりもハードルが高い。そうした要求をするにしても、拡大抑止の受益国として、前提となる米国の核政策やその運用態勢を理解していなければ、抽象的な不安を伝達するにとどまり、問題の具体的解決策を議論していく説得力を欠いてしまうことになるだろう。 結局のところ、北朝鮮の核・ミサイル脅威に屈することなく、日米韓のデカップリングを避けるには、どのような努力が必要なのだろうか。 月並みではあるが、やはり必須となるのは、日米韓三カ国によるミサイル防衛体制の強化である。米国は北朝鮮のICBM脅威の高まりを黙って見過ごしているわけではない。現在米国内では、本土防衛能力のさらなる強化を訴える声が高まりつつあり、議会では共和党のダン・サリバン上院議員(アラスカ州選出)が主導する形で、GBIの配備数を最終的に100基まで増強することなどをうたった超党派法案が提出され、その内容は少なからず2018会計年度の国防権限法や現在策定が進められている政策指針「弾道ミサイル防衛の見直し」(BMDR)に反映されるものとみられている。 日本では、現有のイージス艦4隻に加え、2隻が新たに弾道ミサイル防衛(BMD)能力を付与するための改修を受けている他、「SM3ブロック1B/2A」「PAC3MSE」といった新型・能力向上型迎撃ミサイルを調達する予定である。そして平成30年度概算要求では、地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」を中心とした新規装備の取得を目指している。イージス・アショアは、BMD専用のSM3のみならず、弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機といった多様な経空脅威に対処可能な艦対空ミサイルSM6も運用可能であり、柔軟性が高い。 また、現在配備されているSM3ブロック1Aよりも倍近い迎撃範囲を持つとされるSM3ブロック2Aと合わせれば、2基で日本のほぼ全域を常時カバーすることが可能であり、日本周辺に張り付けたきりになっているイージス艦の負担を軽減することも期待できる。ただし、イージス・アショアの国内配備は早くとも2023年頃とみられるため、一刻も早いミサイル防衛体制の多層強化のためには、韓国でそうしたように、在日米軍へのTHAAD配備を同時に要請すべきであろう。 その韓国では、在韓米軍へのTHAAD導入が前倒しされた他、「KAMD」と呼ばれる韓国独自のミサイル防衛の構築が進められている。ところが、韓国のミサイル防衛に用いられるセンサーや在韓米軍のTHAADに付属するAN/TPY-2レーダーは、ハワイのミサイル防衛管制施設(C2BMC)を含めた地域のBMDネットワークとは連接されていないといわれている。これは韓国が日米のBMD体制に取り込まれることを嫌う中国の懸念を反映した「忖度(そんたく)」によるものとされるが、ミサイル防衛は各種センサーがネットワーク化されてこそ、弾道ミサイルの正確な追尾や効率的な迎撃が可能となる。ならば、中国の懸念を逆手にとり、「中国が北朝鮮問題に真剣に対処してこなかったことにより生じた、やむを得ない措置」として、日米韓のセンサー・ネットワーク連携を明示的に行うことで、それを中国に圧力をかけるレバレッジ(てこ)とすることも考えられるだろう。9月7日、韓国南部、星州に搬入されたTHAADのミサイル発射台(韓国共同取材団撮影、聯合=共同) 第二には、拡大抑止にかかる共同演習や、核の先制使用を含む作戦計画の共有・策定が挙げられる。核使用を伴う米軍の作戦は、太平洋軍などの戦闘軍司令部ではなく、戦略軍がその指揮権を持つとともに主要な計画立案を行っている。そこで日米拡大抑止協議の内容を新ガイドラインで定められた共同計画策定作業と連関させ、グレーゾーンから核使用を含む高次のエスカレーションラダー(段階的な軍事衝突規模の拡大)を切れ目のない形で構築し、核オプションのより具体的な形での保証を促すべきである。 またそれらの計画を基に、在日・在韓米軍、太平洋軍、戦略軍などを交えた日米共同演習を繰り返し、実戦上の課題を常に点検・共有しておくことが望まれる。この中では、危機時におけるDCAの前方展開リスク、グアムにおけるDCAや戦略爆撃機、SSBNの展開頻度を高めることの軍事的・政治的効用、さらにはICBMやSLBMをリアクションタイムの短い移動式ミサイルに対する即時的な武装解除手段として適切なタイミングで使用する必要性などについても、個別の作戦計画に照らして検証すべきである。稚拙な対韓感情論に振り回される日本 第三は、非核の長距離即時攻撃手段(CPGS)としての極超音速飛行体の開発に関する技術協力・共同開発である。先にICBMやSLBMを即時武装解除の手段として使用する可能性に言及したのは、長射程の即時攻撃を行いうる手段が、現時点では核搭載の弾道ミサイル以外に存在しないからである。しかし、それらに搭載される核弾頭の威力や標的国以外に発射を誤認される危険性から、柔軟な運用が難しいのも事実である。そこで米国が研究開発してきた各種CPGSプログラムを技術支援する形で、同種の兵器の共同研究開発を検討することが望まれる。 第四は、B52から発射するAGM-86B空中発射巡航ミサイルの後継となる、新型長距離巡航ミサイル(LRSO)の開発継続を後押しすることである。TLAM-Nの退役とDCAの脆弱性を考慮すると、射程2500キロを超え、核出力を5〜150キロトンまで調整可能なAGM-86Bは、通常戦力と戦略核のエスカレーションラダーを埋める重要な役割を持つが、運用開始から35年以上がたち老朽化が進んでおり、2030年には退役を予定している。 今後開発される新型爆撃機B21のステルス性をもってすれば、敵の防空網に侵入して攻撃することが可能であるから、これを更新する必要はないとの声も聞かれる。だが、防空システムの高度化、とりわけステルス機を探知する「カウンター・ステルス技術」の発展をかんがみると、いまだ開発されていないB21に過度に依存するのはリスクが高い。まして中国を想定した接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力次第では、既にDCAが直面しているように、危機や有事の際にステルス機を前方展開させるのが一時的に難しくなるケースも考えられる。したがって、B21の運用を想定した場合でも、グアム以東から2500キロ超のALCMを発射できるオプションを確保しておく意義は大きい。日本は拡大抑止の受益国としてその必要性を訴え、LRSOの開発を確実にしておく必要がある。 最後に挙げるのは、国民に対して日米韓協力の重要性理解に努めることである。今日においても、日本は朝鮮半島有事において決定的に重要な後方支援基盤であり、朝鮮半島と日本は一体化された戦域としてつながっている。だが、北朝鮮による核・ミサイルを通じた日本への恫喝は、この地政戦略的リンクを切り離しかねない。一般的な世論感覚からして、日米同盟が地域に果たす戦略的機能の重要性にかんがみれば、日本が核の脅しを受けたとしても、それに屈することなく対米協力を続けることはおおむね支持されるように思われる。 しかし、日本の世論は韓国のこととなるとその戦略的重要性を忘れ、稚拙な感情論に振り回される傾向がある。国内世論に見え隠れする韓国軽視は、北朝鮮が米韓支援を断念するよう日本を恫喝してきた際に、その脅しを受け入れかねない潜在的リスクになる恐れがある。だが、朝鮮半島の将来像が日本の安全保障にとり極めて大きな影響を及ぼすことにかんがみれば、何としても関与を継続する必要がある。そのために、日本は米国だけでなく韓国とも緊密な連携を模索し続けるべきである。 加えて、韓国が保有する独自の対北打撃力とその政策(先制攻撃システム「キルチェーン」、KMPR、米韓ミサイル指針など)に対する理解と情報共有も必要である。米韓が北朝鮮のミサイルをどこまで制圧できるかは、われわれのミサイル防衛能力はもちろん、将来敵基地攻撃能力を整備していく際の計算にも大きな影響を与えるからだ。 日本の敵基地攻撃能力については、その前提となる財政状況や防衛予算の趨勢(すうせい)からみても、弾道ミサイル発射を探知する早期警戒衛星やターゲティングのための情報・監視・偵察(ISR)などの手段をすべて独自調達し、完全自己完結型の攻撃能力を持つことは現実的ではない。同様に、相手の都市部を標的とした大量報復(懲罰的抑止)ベースの攻撃能力は、最終的に核保有に進まざるをえないことを踏まえると、これも選択肢にはなりにくい。したがって、日本が敵基地攻撃能力を保有する場合には、相手から飛来するミサイルの数をなるべく減らし、ミサイル防衛の迎撃効率を向上させるという損害限定(拒否的抑止)ベースの攻撃能力を米(韓)のISR協力の下で追求するのが最も現実的であろう。島嶼防衛用「高速滑空弾」(防衛省ホームページから) 具体的な攻撃手段は複数あるが、注目されるのは平成30年度の防衛省概算要求に要素技術研究対象として提示されている「島嶼(とうしょ)防衛用高速滑空弾」である。資料によれば、これはあくまで「島嶼間」の長距離射撃を目的とするものであるが、その原理は米国がCPGSプログラムで開発していた「(極)超音速滑空体」そのものであり、打ち上げに用いるブースター次第では、INF並みの射程を持つ即時攻撃システムとして移動目標を短時間で無力化する手段となりうる。米国がINF条約にとどまり続けるのであれば、INF再開発と前方配備を促すよりも、米国との技術協力を経て、移動式かつ十分な射程を備えた非核の即時攻撃システムを日本が自ら保有するというオプションも検討する価値があるのではないだろうか。

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    北朝鮮脅威、日本に必要なのは「核武装」のタブーなき言論空間

    は日本の核武装から論じよう。日本は、独自の核抑止力確保に向けて動き出すべきである。それは、直接的には北朝鮮による核の脅威に、アメリカに頼り切らずに対応するためだが、すでに多数の核ミサイルを実戦配備している中国をにらんだものでもある。北京市内の北朝鮮大使館前で警備する武装警察隊員 =9月3日(共同) 中国は、日本の核武装がいよいよ現実化してきたと認識すれば、その動きをもたらした「震源」である北朝鮮・金正恩体制を崩壊させることで、流れを止めようとしてくるかもしれない。すなわち中国経由で、北朝鮮の脅威を除去することにもつながりうる。 日本が核武装するか否かは、日本国民の意思次第である(これが高いハードルであることは言うまでもない)。さまざまな外的障害の存在を指摘し、核武装の不可を説く声もあるが、結論ありきで、事実認識が不足したものも多い。 外的障害としてよく挙げられるのが、日本が核拡散防止条約(NPT)を脱退し核武装に動くと、国際社会からさまざまな制裁を科され経済が破綻してしまう、ウランの供給なども止められ、原子力産業が立ちいかなくなるという主張である。  これは、NPTに加入せず核武装を進めたインドの例に照らし、当を得ていない。 2008年9月、国際原子力機関(IAEA)理事会は、NPTが「核兵器国」と規定する米露英仏中に加え、インドを例外的に核保有国と認める決定を、圧倒的多数で行っている。 それ以前、2005年7月にインドのシン首相とブッシュ米大統領の間で、インドがNPTに非加入のままでも、米国は民生用の原子力協力に向けた努力を行う旨が合意がされていた。そのブッシュ政権が各国に働きかけてのインド例外化決定であった。日本も賛成票を投じている。  中国は当初、「国際的な核不拡散体制にとり大きな打撃」と反対したが、衆寡敵(しゅうかてき)せずと見るや、パキスタンも例外扱いすべきとの主張で対抗したが、北朝鮮などへの核拡散(実務はカーン博士が担う)の過去を問われ、パキスタン例外化案は却下された。  すなわちここにおいて、「責任感ある(responsible)国」の核保有には制裁を科さないという国際的な流れができたといえる。「経済制裁」という障害はない 大多数の国々にとって、日本の経済的存在感はインドよりはるかに大きい。インドは例外化するが、日本には包括的な制裁を科すといった展開はまずあり得ないだろう。日本核武装に「経済制裁」という障害はない。  なお、IAEA理事会のインド例外化決定と前後して、原子力供給国グループ(NSG)もインドとの「民生用原子力協力」について合意に達している。ウランの供給などを認めたもので、日本が核武装すればウランを止められる云々(うんぬん)もやはり杞憂(きゆう)と言えよう。  この合意もアメリカが主導している。要するに、事前に米国と擦り合わせができていれば特に問題は生じないということである。 米印間の核問題交渉に長く携わったストローブ・タルボット元国務副長官は、「核関連物資の輸出管理に関してインドは、二つのNPT上の核兵器国、ロシアと中国より、よい成績を残していた。ロシアはイランが、中国はパキスタンがそれぞれ危険なテクノロジーを獲得するのを助けていた」と述懐している。 日本が中露以上に無責任に振る舞うと考える国はまずないだろう。インドと同等以上に厳格に核管理すると見なされるはずだ。 以上、核武装に伴って制裁を課されるという議論が、日本のような「責任感ある国」の場合根拠がないことを示してきた。独自核抑止力に向けた議論を大いに喚起し、具体的動きを起こしていかねばならない。北朝鮮の核実験について記者団の取材に応じる安倍晋三首相 =9月3日、首相官邸 もっとも、「核武装を口にすると政治家は即死する」(首相返り咲きの前の、あるシンポジウムでの安倍晋三氏発言)という状況にほとんど変化はない。いま即座に、政治家に核武装を唱えよと要求するのは酷であろう。 まずは民間において、核に関するタブーなき言論空間が打ち立てられなければならない。 その間、政権に求めたいのは、何よりも通常戦力による策源地(敵基地)攻撃力の整備に乗り出すことである。この地点までは十分に機は熟しており、踏み出さない言い訳は成り立たない。憲法9条の範囲内という、半世紀にわたって確立された政府見解もある。問われるのは政権の意志のみである。

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    米国の「アジア蔑視」が北朝鮮に核保有の大義名分を与えた

    重村智計(早稲田大名誉教授) 北朝鮮の核問題を解決できなかった米国の高官や、研究者たちが的外れと思える「宥和(ゆうわ)策」を述べている。発言者の多くが米外交の「戦犯」たちで、自分の責任を感じていないから困る。オバマ政権のスーザン・ライス前国連大使、ブッシュ政権のクリストファー・ヒル元国務次官補などだ。心の底に、アジアや朝鮮人に対する蔑視意識(オリエンタリズム)があるようだ。9月7日、ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領(ゲッティ=共同) 米紙ニューヨーク・タイムズ(国際版)は5日、「北朝鮮の本心はミステリー」との記事を一面に掲載した。書いたのは著名な国際記者のデービッド・サンガー氏と、トモコ・リッチ東京支局長だ。サンガー記者とは筆者がワシントン特派員時代に話をかわしたことがあるが、優秀な特ダネ記者である。 この記事によると、米国は「金正恩の本心」を計りかね、多くの主張や論議が起きているというのだ。北朝鮮は「米国の敵対政策」を非難するだけで何も要求していない。今更なにを寝ぼけたことを、と思うのだが「北朝鮮の核容認論」が生まれるワシントンの空気は十分感じられた。 背景にはライス氏のニューヨーク・タイムズ紙(8月10日)への寄稿がある。ライス氏は「北朝鮮に軍事力を行使すべきではない」と強調し「米国は北の核を容認できる」と述べた。この主張は、日韓両国が「北の核に耐えられない」事実を全く理解していない。また、中国が東アジアで自分以外の核保有国を決して認めない現実をわかっていない。寄稿の目的はトランプ大統領の軍事攻撃発言への批判だったようで、実際、大統領の強硬発言の連続が「緊張を高めている」と批判した。これも朝鮮人の言語文化と歴史を理解していない判断だ。 トランプ大統領の一連の発言は、北朝鮮の言語文化を相手にするにはピッタリだ。北朝鮮は「日米は断固たる対応に直面する」「制裁に加担した(日本の)罪に決着をつける」など、過激な表現を高官や公式の報道機関が平気で使用する。過剰表現は北朝鮮での「日常生活」なのだ。それに対し、「軍事攻撃も選択肢」と語るのは、戦術としては正しいやり返しである。北東アジアの文化を理解していないライス氏 ライス氏は、この北東アジアの文化を理解していない。ライス氏の寄稿とニューヨーク・タイムズの記事はかなり的外れと私には思える。「北の核容認論」は北朝鮮の歴史と文化を理解せず、アジアの現実もわからない米国人特有のアジア観である。「アジアがどうなろうと関係ない。あの人たちはおかしな人たちだから」との蔑視感情が根底にある。国連本部で握手する潘基文国連事務総長とスーザン・ライス米国連大使=2009年1月26日、米ニューヨーク(UPI=共同) オリエンタリズムは、故エドワード・サイード・コロンビア大教授が、欧米人のイスラムやアジアへの根深い蔑視感情をえぐり出した「書籍」のタイトルだが、欧米人の「アジア、イスラム蔑視」を意味する用語として使われている。サイード教授は、パレスチナ移民の息子で世界的な言語学者だった。 なぜ北朝鮮は核開発を始め、金正恩朝鮮労働党委員長は核とミサイル実験を急ぐのか。話は冷戦崩壊前後に戻る。東欧社会主義国が崩壊する中で、旧ソ連は韓国との国交正常化を決めた。怒った北朝鮮は、新型兵器の開発を通告した。 金日成主席と金正日総書記は北朝鮮が崩壊し、金ファミリーが指導者として追放される事態を最も恐れた。当時の軍事用石油は60万トンしかなく、戦争能力はない。米韓が軍事攻撃すれば、たちまち崩壊する。それを阻止する手だてとして核兵器保有に行き着いた。核開発にはミサイル開発が不可欠だ。 金総書記は一時「米朝合意」で核放棄を覚悟したが、軍の反発で方針を変更した。2001年頃といわれる。核とミサイルを持たないと崩壊させられるとの戦略と「信念」で指導者と軍幹部は一致した。だから、祖父と父、軍幹部が決定した方針を金正恩委員長は自らの一存で放棄できない。 これは儒教社会の北朝鮮では誰も疑わない価値観である。ライス前大使らは、北朝鮮が儒教文化の国家である事実を理解できていない。北朝鮮は対話や条件提示で核実験を止める文化でも体制でもない、とわかっていない。金正恩委員長は核とミサイルが完成するまで実験を放棄できないのだ。 儒教国家では「正統性」と「大義名分」が最大の価値観である。米国が核保有を認めれば、北朝鮮は国際社会から正統性を得たことになる。北朝鮮では核で譲歩することはないという空気が広がっている。北朝鮮国民は、金委員長は国際社会から正統性を認められた偉大な指導者と受け止める。「北の核容認論」の本当の危険性 ライス氏の主張やニューヨーク・タイムズの記事は、米国がいかに北朝鮮の歴史と文化、外交戦略、思考パターンに無知であるかを物語る。また、金正恩委員長や北朝鮮幹部が何を考えているかについての情報もなく、確認もしていない。 北朝鮮中枢は、以前からひそかに「核兵器を完成して米国と交渉する」との戦略を語っている。金正恩委員長は核開発を中断するわけにはいかないのだ。だから核の完成を急いでいる。それでも、しばらく時間がかかるだろう。核とミサイルの実験はなお続く。 核兵器が完成しても交渉で譲歩する保証はない。核兵器を手にした軍部は実験中止や核放棄に簡単に応じないだろう。金委員長と軍部の対立が高まる。もし応じなければ、米中が協力して「崩壊作戦」に乗り出し、北朝鮮の米中対立誘導戦略が破綻しまう。 「北の核容認論」の本当の危険性にライス氏は気がついていない。北朝鮮が核保有を認められれば、韓国と日本でも核保有を求める声が高まる。日本と韓国が核を持てば、台湾、ベトナム、インドネシアへと、アジアは「核拡散の時代」を迎える。その危険さを米国の「北の核容認論」は理解できていない。その背後に、アジアでの核拡散は構わないとのアジア蔑視意識が見え隠れする。 ただ、現実的には無理な話だが、「北朝鮮の核保有容認」が「日韓台の核保有容認論」につながるものなら、戦略的に理解できないわけではない。中国が最も恐れるのは、韓国や日本の核保有である。米国が「中国が北朝鮮の核保有を黙認するなら、日本と韓国、台湾の核保有を認める」といえば、中国は対応せざるを得なくなる。中国内モンゴル自治区で行われた中国人民解放軍建軍90周年記念閲兵式に出席する習近平国家主席=2017年7月30日(共同) 多くの人は、中国はなぜ北朝鮮の核開発を黙認するのか、との疑問を抱く。それは、中朝関係が2000年にもおよび、中国は朝鮮人の扱いを誰よりも知っていると考えているからだ。 中国要人はひそかに「北朝鮮はいつでもつぶせる」と言う。石油供給を全面中止すれば、北朝鮮の軍隊は崩壊に直面し、指導者追放劇が期待される。それでもダメなら国境を全面封鎖すれば北朝鮮は崩壊に向かう。ただ、今はその時期ではないと判断しているようだ。

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    北朝鮮は草を食べても核開発」プーチンも苦悩する旧ソ連の大誤算

    名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授) 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)用の水爆実験を実施した後、ロシアのプーチン大統領は「北朝鮮は安全を約束されたとの感触を得ない限り、草を食べてでも兵器開発を続けるだろう」と述べ、北朝鮮への制裁強化は「無益で効果がない」と一蹴した。 確かに、北朝鮮は飢餓に見舞われ「苦難の行軍」と呼ばれた1990年代後半でも核・ミサイル開発にまい進し、国民への配慮は皆無だった。これまでに計6回の核実験を実施し、「金王朝」の悲願である「核保有国入り」を事実上達成しつつある。 「草を食べても…」というプーチン大統領の奇妙な比喩(ひゆ)は本質を突いている。ただ、北の核・ミサイル開発をここまで進展させた旧ソ連・ロシアの責任も小さくない。戦後、核兵器の拡散に反対してきたソ連・ロシアは、自らの誤算で北朝鮮を核保有国にしてしまったところがある。6月15日、モスクワで、報道陣に話をするプーチン大統領 北朝鮮「創業者」の金日成主席が核保有を意識したのは、朝鮮戦争中にマッカーサー連合国軍総司令官が北朝鮮への核使用を提言したことが契機だったとされる。朝鮮戦争で米軍と3年間戦い抜いた金主席は、米国の侵略阻止には核保有が必要と考え、社会主義同盟国のソ連に技術支援を求めた。 そして北朝鮮は1956年、ソ連との間で原子力開発に関する合意を結んだ。合意に沿って、北朝鮮は核技術者を旧ソ連の研究施設に派遣。小規模の実験用原子炉が寧辺(ニョンビョン)に建設された。ソ連は原子力技術提供に際し、あくまで平和利用に限定するよう要求した。一方でソ連は、北朝鮮の技術力は低く、開発したところで核兵器製造には至らないと軽視していたという。 北朝鮮はソ連の要請で、核拡散防止条約(NPT)に加盟する一方、秘密裏に核開発を継続し、80年代には寧辺に新たな核施設が建設された。さらに北朝鮮は1964年に初の核実験に成功した中国に対しても、技術支援を要請したが、中国は拒否したとされる。60~80年代の中ソ対立下、ソ連は北朝鮮を中国に接近させないため、一定の技術支援を提供していた。 そもそも北朝鮮が核保有にまい進する契機になったのは、1991年のソ連邦崩壊だった。最大の後ろ盾だったソ連の解体で、北朝鮮は安全保障の切り札として核・ミサイルを保有することが不可欠と判断し、開発を強化した。94年には、これを察知したクリントン米政権が寧辺の核施設攻撃を計画し、一触即発の危機を招いたこともある。 このころ、北朝鮮外交官は冷戦終結で失業したロシアやウクライナの核・ミサイル技術者を高い給与で一本釣りし、北朝鮮に招いた。北朝鮮のミサイルシステムは、旧ソ連のスカッドミサイルを軸にしており、旧ソ連の技術が開発に貢献した。ロシア外務省は、「ロシア国籍の技術者は現在、北朝鮮には一人もいない」としているが、筆者の得ている情報では、一部のロシア人は北朝鮮の女性と結婚し、国籍も変えているという。広がる北朝鮮の核保有容認論 そして北朝鮮はソ連を崩壊させたエリツィン元ロシア大統領を「社会主義の敵」と糾弾し、関係を事実上断絶した。プーチン政権発足後、金正日総書記はロシアとの関係を再開するが、ロシアはソ連時代のように石油や食糧の無償援助はできない。今日でも、朝露間の貿易額は中朝間の1~2%程度にすぎず、ロシアでは到底中国の肩代わりはできない。ロシア経済自体が中国経済の12%まで縮小してしまった。 2代目の金正日総書記は核・ミサイル開発を強化した反面、米国や韓国、日本との対話も念頭に置き、一定の落とし所が想定できた。しかし、3代目の金正恩委員長は核・ミサイル開発を急速に進めており、対話の糸口が見られない。一種の暴走状態にあることが、危機を一段と拡大させている。金委員長は、大量破壊兵器のなかったイラクやリビアの反米政権が力で倒されたことを熟知しており、同じ運命をたどらないことを誓っている。北朝鮮の故金日成主席と故金正日総書記のモザイク画の前を行き交う車=8月、平壌(共同) 北朝鮮の大量破壊兵器保有に反対する点では、米露は一致し、冷戦終結後、連携して北朝鮮に核開発中止を求めたり、6カ国協議で協力したりしたこともあった。しかし、旧ソ連は金王朝の生みの親であり、北朝鮮がどのような国かは米国以上に理解している。 米カーネギー財団モスクワセンターのドミトリー・トレーニン所長は「朝鮮半島の非核化はもはや現実的ではない。この際、北朝鮮を核保有国として認めるべきだ。そうすれば、交渉は失敗しても破滅は免れる」とし、北朝鮮をインド、パキスタンのように核保有国として容認するよう求めた。 ロシアではこうした現実論者が増えているが、米国でも北朝鮮の核容認論を主張する専門家も出ている。日米韓にとって、北朝鮮の核保有容認は受け入れがたいが、北朝鮮は米国がそれを認めない限り交渉に応じないだろう。 プーチン政権は以前、北朝鮮問題で米国と連携することもあったが、米露関係が極度に悪化した現在は、世界的に反米外交を展開し、北朝鮮問題でも米国の外交を妨害している。日米韓対ロシアという構図の中、双方の求愛を受ける中国がどちらに付くかが焦点となりそうだ。ただ、筆者自身は、中国はロシアに接近するそぶりをしながら、実質的には日中韓と連携していくのではないかと考えている。

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    日本の「核武装論」が最大抑止力

    樫山幸夫 (産經新聞前論説委員長) 北朝鮮建国記念日の9月9日、ミサイル発射など”ありがたくない引き出物”はなかった。しかし、まだ油断はできない。 金正恩があらたな挑発に出るのか、トランプ大統領の堪忍袋の緒が切れて軍事攻撃に踏み切るのかーー。北朝鮮の核危機は、一触即発の状態がなお続く。暴挙を押さえる手立てがない苦しい中、“劇薬”として、米国内で、日本や韓国の核武装論が台頭している。日本国内でも、自民党の石破茂元幹事長が、米軍の核の国内配備について議論すべきだという考えを示し、この問題に一石を投じた。わが国が核兵器を保有すれば、北朝鮮だけでなく、その“兄貴分”の中国も大きな衝撃を受けるだろう。 中国は、北朝鮮に核を放棄させるための説得役として期待されながら、のらりくらりとして、各国の反発を買ってきたが、「日本が核武装」となると、その怖さに、本腰を入れて北朝鮮に圧力をかけるかもしれない。 9月3日の産経新聞に興味深い記事が掲載された。黒瀬悦成ワシントン支局長の署名入りの記事は、米国内で、北朝鮮に核開発を断念させることは不可能という見方が強くなっていることに言及。その前提で、日韓の核武装を容認し、それによって北朝鮮の核に対抗するーという議論が勢いを増しつつあると伝えている。民主党系のシンクタンク「ブルッキングス研究所」の研究員による、「日韓の核武装を認め局地的な衝突も辞さない構えで、北朝鮮を封じ込める」との主張、米国の別な軍事専門家の「日本が自前の核兵器を持てば、すべての民主国家は安全になる。強い日本は中国の膨張を阻止する」という積極的な日本核武装支持論も紹介している。 自民党憲法改正推進本部の執行役員会に臨む石破茂氏=8月1日、東京(斎藤良雄撮影) 反面、米外交界の長老、キッシンジャー元国務長官のように、北朝鮮の核脅威が深刻になれば、日韓だけでなく、ベトナムなど、核兵器で自らを守ろうとする動きが活発化するーーという「核ドミノ」への警戒感が存在することにも触れている。 一方、石破幹事長の発言は、今月6日、民放テレビの番組で飛び出した。「米国の“核の傘”で守ってもらうといいながら、日本国内には(核兵器を)置かないというのは正しいのか」と現状に疑問を投げかけ、「持たず、作らず、持ち込ませず、議論せず、ということでいいのか」とも述べ、非核三原則の見直しに言及した。 石破発言は、日本が自前で核開発を進めるという趣旨ではないが、国是としてきた三原則に疑念を呈した発言であり、波紋を呼んだ。案の定、管義偉官房長官は記者会見で「これまで(三原則の)見直しの議論はしておらず、これからもすることは考えていない」と明確に否定した。「日本核武装」を最も恐れる国「日本核武装」が台頭するのは、これが初めてではない。 少し古い話だが、北朝鮮が枠組み合意を破棄して核開発を再開した直後の2003年1月、米紙ワシントン・ポストに、「ジャパン・カード」という見出しで、「日本の核武装が北朝鮮への対抗手段」というコラムが掲載された。筆者は保守派の論客、チャールズ・クラウトハマー氏だった。コラムは「米国が北朝鮮への武力行使に消極的である理由のひとつは報復を恐れているため」と指摘。 「北朝鮮を外交的、経済的に孤立させようという手段も、韓国、中国が協力するかわからない状況では、効果を期待できない」と、当時のブッシュ政権(共和党、子)の政策を批判した。そのうえで、「こういう苦しい状況の中では、日本に自ら核武装させるか、米の核ミサイルを日本に提供して北朝鮮と、それを支援する中国に対抗させることこそ、唯一の有効なカードになり得る」と主張した。 この議論が日本国内にどの程度の影響を与えたかは明らかではないが、その後、2006年には、日米の政府間で、表沙汰にこそされなかったが、議論されている。しかも、そのときは、第1次政権を担っていた安倍晋三首相が、コンドリーザ・ライス米国務長官(当時)に直接、提起したという。 ブッシュ政権2期目で国務長官を務めたライス氏の回顧録によると、2006年10月に訪日、官邸を表敬した時のこと。 安倍首相は「日本が核開発に手をつけるという選択肢は絶対にあり得ない」としながらも、「それを望む声も多いのは事実だし、しかも、その声は次第に大きくなっている」と日本国内の空気を伝えたという。安倍晋三首相との会談に臨むコンドリーザ・ライス米国務長官=2006年10月19日、首相官邸 回想録の中でのやりとりはそれだけで、ライス長官がどう答えたのかなどは明らかではないが、ライス女史は、「日本でそういう声があがることは意味がある。北の核開発を野放しにすれば大変なことになると中国も思い知るだろう」とコメントしている(『ライス回顧録』集英社)。 そう、中国なのだ、日本の核武装論をもっとも気にするのは。中国が戦後ずっと恐れてきたのは、最近こそあまり口にしなくなったが、“日本軍国主義”の、復活だ。日本からみれば、軍国主義復活など、とんだ取り越し苦労だが、実のところ、「強い日本」を中国はもっとも恐れている。 かつて、日中国交正常化前、中国が日米安保条約に必ずしも反対しなかったのは、この条約が存在することによって、日本が防衛費を抑制、軍事大国になることを防ぐことができると考えたからだ。“ビンのふた論”である。習近平の肝を冷やしてやる 北朝鮮の核開発が深刻化した当初の1990年代はじめごろから、中国が、北朝鮮への影響力を行使して説得することへの期待感は強かった。その際の“殺し文句”として「核開発を続ければ、日本も核武装する。そうなったら、われわれにとって大きな脅威になる。それを避けるためにも中止しろ」というのが有効ではないかと考えられていた。 中国が実際にそういう言葉を使って説得をしたかはわからないが、いずれにしても、国連の制裁に従わずに、密かに支援し続けてきた中国のいうことに、北朝鮮が耳を貸すはずがなかった。今回、日米で再び日本の核武装論、核持ち込み論が展開されはじめたのだから、この機会を逃さず、議論を本格化すべきだろう。 石破発言に対する管官房長官の発言は冷淡そのものだったが、政府の立場としては当然だ。“無役”の石破氏は立場が違う。ここは石破氏同様、自民党内で議論を活性化させるべきだ。第1次安倍内閣時代、安倍首相とライス米国務長官が日本の核武装論議を交わした、ちょうど同じ時期、自民党政調会長だった故中川昭一氏が、非核三原則の見直し論をぶち上げ、論議を呼んだ。非核三原則のもとで、核を持たずに北朝鮮の核開発に対して、どういう対抗措置をとることができるのか考えなければならないーというのが発言の趣旨だったが、日本国内の一部政治家や反核団体から激しい非難を浴びた。北朝鮮のミサイル発射について記者会見する菅義偉官房長官=8月29日、首相官邸(斎藤良雄撮影) 石破氏が今回、「議論もせず、ということでいいのか」と疑問を投げかけたのは、まさに、経緯があるからだろう。 核に関する議論は、ある種タブー視されている。それだけに、石破発言に対して自民党内でもさまざまな議論があるようだ。中川発言の時のように、ごうごうたる非難の声が出るかもしれない。 しかし、北朝鮮の核・ミサイルに日本国民が脅威を感じ、中国は強大な軍事力を背景に、南シナ海、東シナ海で暴虐の限りを尽くしている。そうした状況を考えれば、この時期に、議論を展開するのは、国民の理解を得やすいだろう。批判があったとしても、そういう議論が正しいことを国民に対して訴えかけ、説得すべきだ。そもそも、核武装論を展開することと、実際に核を持つこととは全く別の問題なのだ。 日本政府は、非核三原則の手前、議論するには躊躇がある。党主導で大いにアドバルーンをあげ、賛否を含めて国民の間に議論を広げるべきだろう。 米国内ではいま、在韓米軍への戦術核再配備に関する議論が展開されている。日韓両国での活発な議論によって、今度こそ日本は真剣だと思わせ、金正恩だけでなく、中国の習近平指導部の肝を冷やしてやるのも一興だろう。

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    核実験によって権威付けを図る金正恩氏

    礒﨑敦仁 (慶應義塾大学准教授) 澤田克己 (毎日新聞記者、前ソウル支局長)  核実験に関する北朝鮮の発表にも、金正日国防委員長と金正恩国務委員長のスタイルの違いが表れているのだろうか。あるいは核開発が進展してきたことで、金正恩時代の北朝鮮は自信を深めているのかもしれない。北朝鮮がこれまで6回にわたって行った核実験についてまとめてみると、そんな印象を受ける。平壌の金日成広場で行われた軍事パレードを観閲する金正恩氏(右から3人目)と金正日総書記(右端)=2010年10月10日(新華社=共同) 金正日時代に行われた2006年と09年の2回と、それ以降では『労働新聞』での核実験の報じ方などに大きな違いが見られるのである。金正日時代には核実験の成果を誇りつつも、最高指導者が実施を指示したことや、米国への敵対的な言質が特筆されてはいなかった。ところが金正恩時代になると、『労働新聞』での報じ方が全般的に派手なものとなる。同時に、米国の「対北朝鮮敵視政策」への対応であることが明確にされるようになった。そして2016年以降は、金正恩氏の命令書への署名に基づいて実施されたという報じ方が出てきた。金正恩氏の命令書というのは、新型ミサイルなどでも出てくる小道具となった。 北朝鮮の発表からは、核実験の回数を重ねることによって「自主権と生存権確保のためだ」という理論化が進んだことがうかがえる。ただ、やはり最高指導者の違いという要素は無視できない。金正恩氏が自らを前面に押し出すのは、核実験によって自らの権威付けを図ろうという意図もありそうだ。 6回目となる今回の核実験では、実施直前に金正恩氏が参加する朝鮮労働党政治局常務委員会で国際情勢に対する分析や評価を行い、そのうえで大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用水爆の実験をするかの討議が行われたと発表された。そのうえで金正恩氏が命令書に署名したのだという。この点は、正当な手続きを踏んでいることをアピールしようとする金正恩氏の特性を反映したものである可能性がある。ある北朝鮮の外交官によれば、常務委員5人が会同している写真が公開されることは異例だが、党・国家の重要決定であることを示しているという。 9月3日に行われた6回目の核実験について、包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)の発表した地震波の規模はマグニチュード6.1。防衛省はこれを基に、爆発規模(TNT火薬換算)を160キロトンと推定した。広島に投下された原爆の10倍超で、北朝鮮の主張通り水爆だった可能性が強まっている。6回の核実験を振り返る 『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社、2017年1月)に収録した過去の核実験に関する表を補完するため、第1回から今回までの核実験についてまとめた。本稿では各回について北朝鮮側がどのように発表したかも付記したので、上記のような金正日時代と金正恩時代の違いを読み取ることができる。北朝鮮が核・ミサイル開発を続ける動機や北朝鮮の現状、正当な手続きを踏んでいると強調する金正恩氏のスタイルなどについては同書を参照していただきたい。(北朝鮮の核・ミサイル開発については同書第9章「核ミサイルの照準はどこか」、金正恩政権の手続き重視については同書第6章「体制が揺るがない理由」の小項目「金日成・金正日主義の登場」など)北朝鮮の平安北道新義州市にある楽元機械連合企業所を視察する金正日総書記=2005年2月15日(朝鮮通信=共同) 地震波の規模はCTBTOの発表値、爆発規模は防衛省の推定である。なお、核実験によって引き起こされる地震の規模を示すマグニチュードの計算式は各国で微妙に異なるため、日本や韓国、中国、米国の発表は食い違うことが多い。第1回核実験日時:2006年10月9日地震波規模(マグニチュード):4.1推定爆発規模:0.5~1キロトン直前の情勢:7月5日にテポドン2発射。安保理は15日に非難決議。事前の予告:北朝鮮外務省が10月3日に声明「安全性が保証された核実験を行う」中国への事前通報:20分前他国への事前通報:なし実施後の北朝鮮発表:朝鮮労働党創建記念日(10月10日)前日に実施された。翌日の『労働新聞』は3面に核実験実施を伝える記事を掲載したが、見出しに「核実験」という言葉はなく、単に「朝鮮中央通信社報道」というだけ。内容も、核実験の成功を簡潔に伝えるだけの250字に満たない短い記事だった。1面トップには党創建記念日を祝う社説が大きく掲げられ、下段には金日成主席や金正日国防委員長の翌年の誕生日を祝う準備委員会がスリランカで結成されたという記事などが掲載された。実験のポイント:初めての核実験。それまで強硬姿勢を取っていた米ブッシュ政権が、核実験を契機に対話に前向きな姿勢を見せるようになった。北朝鮮にとっては瀬戸際政策の典型的な成功例だったといえる。金正恩体制下で初めての核実験第2回核実験日時:2009年5月25日地震波規模(マグニチュード):4.52推定爆発規模:2~3キロトン直前の情勢:4月5日にテポドン2改良型発射。安保理は13日に議長声明で非難。事前の予告:北朝鮮外務省が4月29日に声明「核再実験や大陸間弾道ミサイルの発射実験を含めた自衛的措置を講じる」中国への事前通報:30分前他国への事前通報:米国に通報実施後の北朝鮮発表:翌日の『労働新聞』は1面に「朝鮮中央通信報道 再度の地下核実験を成功裏に実施」という見出しで報じた。ただ、トップ記事の扱いではなく、掲載位置は1面の下半分。写真はなく、分量も300字超にすぎなかった。記事は「われわれの科学者、技術者等の要求に従って、共和国(注:北朝鮮)の自衛的核抑止力を百方に強化するための措置の一環」として核実験を行ったという内容で、最高指導者である金正日国防委員長の指示であるとか、米国への言及はない。この日の1面トップは、金正日氏が軍人たちによる芸術公演を観賞したというものだった。実験のポイント:「人工衛星」発射に対する強い不満表明とともに核実験が強行された。4月14日には六カ国協議からの離脱が表明されていた。2008年8月に金正日氏が病に倒れ、金正恩氏が後継者として内定した後の出来事でもある。平壌の万寿台の丘に並ぶ金日成主席と金正日総書記の銅像前で、記念撮影する新郎新婦ら=2014年10月28日第3回核実験日時:2013年2月12日地震波規模(マグニチュード):4.9推定爆発規模:6~7キロトン直前の情勢: 2012年12月12日にテポドン2発射。安保理は13年1月22日に制裁決議2087。事前の予告:北朝鮮外務省が1月23日に声明。「核抑止力を含む自衛的な軍事力を拡大、強化する物理的対応を取る」中国への事前通報:前夜他国への事前通報:米国、ロシアに通報実施後の北朝鮮発表:翌日の『労働新聞』で初めて1面トップで報じた。「共和国の合法的な平和的衛星発射権利を乱暴に侵害した米国の暴虐非道な敵対行為に対処し、国の安全と自主権を守護するための実際的対応措置の一環」という内容。核実験実施を知らせる記事本文の分量は第1回、第2回と大差ないが、その下に「国家の安全と自主権を守護するための正々堂々たる実際的な対応措置」という大見出しを掲げて、「今回の核実験は、わが祖国の強大な国力の誇示であると同時に、どのような制裁や圧力も恐れないというわが軍隊と人民の鉄の胆力と肝っ玉の一大誇示である」などという解説記事を掲載した。実験のポイント:金正恩体制下で初めての核実験。2012年4月の憲法改正で「核保有国」であることを誇示した金正恩氏は、核実験後の2013年3月の朝鮮労働党中央委員会全員会議で「経済建設と核武力」開発を同時に進めるという「並進路線」を打ち出した。規格化した核弾頭の初実験第4回核実験日時:2016年1月6日地震波規模(マグニチュード):4.85推定爆発規模:6~7キロトン直前の情勢: 2015年12月21日にSLBMを発射したとみられるが、安保理は特別な反応せず。事前の予告:予告声明はないが、2015年12月10日に金正恩氏が平川革命事績地を現地指導した際に「水爆」保有に言及。中国への事前通報:なし他国への事前通報:なし実施後の北朝鮮発表:翌日の『労働新聞』は1面トップに「朝鮮労働党中央委員会 初の水爆実験を行うことに対する歴史的な命令を下達」という大見出しを掲げた。1面の半分ほどを占めるのは、命令書に署名する金正恩氏の写真。記事は大きめの活字で200字ほどの短いものがあるだけだ。記事の内容も実験そのものより、金正恩氏が党を代表して水爆実験を命じたという点に力点が置かれている。1面にはこの他、実験実施を命じて署名した金正恩氏の直筆命令書2枚の写真が配された。2面には「主体朝鮮の初の水爆実験完全成功」という政府声明が大きく掲載され、3面と4面で水爆に関する解説や「快挙」を喜ぶ国内の反応などを伝えた。政府声明は実験について「米国を主とする敵対勢力どもの日増しに増える核の脅威と狡猾さから国の自主権と民族の生存権を徹底して守護し、朝鮮半島の平和と地域の安全を頼もしく担保するための自衛的措置」だと主張した。実験のポイント:北朝鮮は水爆実験と発表したが、規模が小さかったことなどから本当に水爆だったのか疑問視された。都内の家電量販店のテレビでは5回目の北朝鮮の核実験を伝えるニュースが映っていた=2016年9月9日、東京都(三尾郁恵撮影)第5回核実験日時:2016年9月9日地震波規模(マグニチュード):5.1推定爆発規模:11~12キロトン直前の情勢:2016年に入り、スカッド、ノドン、SLBMなどを連続発射。安保理は報道声明で非難。事前の予告:予告声明はないが、金正恩氏が弾頭部分の大気圏再突入の模擬実験を視察し、「核弾頭爆発実験」を断行すると言及(3月15日公表)。中国への事前通報:?他国への事前通報:なし実施後の北朝鮮発表:建国記念日(9月9日)に実施された。翌日の『労働新聞』1面トップは、建国記念日の関連行事を伝えた。核実験は1面最下段に「朝鮮民主主義人民共和国核兵器研究所声明」として報じられた。声明は「核弾頭の威力判定のための核爆発実験を断行した」というもので、「堂々たる核保有国としてのわが共和国の戦略的地位を否定しつつ、われわれの国家の自主的権利行使を悪辣に侵害する米国をはじめとする敵対勢力どもの脅威と制裁騒動に対する実質的対応措置の一環」だと主張した。紙面は全体として建国記念日に力点が置かれている。3面下部にも関連記事はあるが、核実験を外国メディアも報道したことの紹介と軍と国民が実験成功を喜んだという程度。どの記事にも写真は使われておらず、声明にも金正恩氏の名前は出てこない。実験のポイント:「戦略弾道ロケットに装着できるように標準化、規格化した核弾頭」の製造能力を獲得したとアピールした初の核実験。それまでほぼ3年に1回のペースで強行されてきた核実験が「初の水爆実験」からわずか8カ月での実施だった。6回目核実験の詳細第6回核実験日時:2017年9月3日地震波規模(マグニチュード):6.1推定爆発規模:160キロトン直前の情勢:7月に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を2回発射。安保理は制裁決議2017を8月5日に採択。北朝鮮は8日、中距離弾道ミサイル「火星12」4発をグアム島周辺海域に向けて発射する計画を検討していると発表。29日に北海道襟裳岬上空を通過する軌道で火星12を太平洋に向けて発射。安保理は議長声明で非難。事前の予告:朝鮮中央通信が当日朝、新たに製作したICBMの弾頭に装着する水爆を金正恩国務委員長が視察したと報道。中国への事前通報:?他国への事前通報:?9月6日、北朝鮮・平壌市内の沿道で、花束を振りながら核実験に関わった科学者らの乗ったバスを出迎える市民(朝鮮通信=共同)実施後の北朝鮮発表:翌日の『労働新聞』が、1面トップで金正恩氏が異例の党常務委員会を主宰して命令を下したことを報じた。会議で発言したり、命令書に署名したりしているのであろう金正恩氏の姿や、金正恩氏を含めた5人の常務委員が円卓を囲んでいる写真など6枚の写真が使われた。さらに1面下段に「大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用水爆実験を成功裏に断行した」という核兵器研究所の声明を掲載した。声明は「ICBM搭載用水爆の実験の完全な成功は、われわれの主体的な核爆弾が高度に精密化されただけでなく、核弾頭の動作の信頼性がしっかり保証され、われわれの核兵器の設計および製作技術が核爆弾の威力を攻撃対象と目的によって任意に調整できる高い水準に到達したことを明白に示し、国家核戦力完成の完結段階の目標を達成する上で非常に意義のある契機となる」と述べたが、米国には言及しなかった。実験のポイント:北朝鮮に対してこれまでにない強硬姿勢を見せるトランプ政権下で初の核実験。米国が軍事的措置を取れないと判断したものと考えられる。

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    北朝鮮核施設への先制攻撃」トランプはどこまで本気なのか

    前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授) 9月3日の北朝鮮の水爆実験に対して、米国が受けた衝撃は極めて大きい。言うまでもなく、米本土への北朝鮮の直接攻撃がかなりの現実味を帯びてきたためだ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)に続き、核弾頭に積む水爆まで完成に近づいており、これまで東アジア政策でしかなかった北朝鮮政策は一気に米国自身の安全保障に直結する状況になっている。「核保有国」として北朝鮮を認めるのかどうか、米国としては何らかの大きな対応を一気に迫られる状況になっている。8月11日、ソウル駅でトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が映し出されたニュースの画面を見る男性(AP=共同) トランプ政権の北朝鮮政策のゴールは「北朝鮮の非核化」に他ならない。核を放棄させるため、オバマ前政権の「戦略的忍耐」ではなく、軍事的オプションを常にちらつかせてきた。いわゆる「4月危機」のときに注目された、米韓軍事演習に呼応した空母カール・ビンソンなどの周辺への派遣がこれに当たる。ただ、実際には貿易・経済問題を「取引」材料に北朝鮮に最も影響力がある中国に対して圧力をかけ、北朝鮮を最大限に動かしていくというのが、トランプ流の対中、そして対北朝鮮政策の根本にある。 しかし、4月の米中首脳会談で、トランプ政権から北朝鮮への圧力強化の要請を受けた中国は、北朝鮮に核をあきらめさせるのが難しいことを熟知している。そもそも韓国、日本、そしてその背後にいる米国の緩衝地帯として、北朝鮮は中国にとって地政学的に重要な存在でもある。習近平国家主席にとっては、秋の中国共産党大会を前にできるだけ国内のパワーゲームに集中したいのが本音であり、北朝鮮については抜本的な制裁まで至っていない。むろん、トランプ政権のいらだちも募っている。 また、北朝鮮の核とミサイル開発のペースは速く、ここ半年だけでも米国は北朝鮮側に常に出し抜かれてきた。北朝鮮としては、ミサイルも核弾頭に搭載する水爆もほぼ完成したため、怖いものはない。米国に対して、交渉の席につかせ、何らかの条件と引き換えに無条件に核保有国として認めさせたいというのが北朝鮮の狙いだろう。限定攻撃なら日韓への報復は必至 トランプ政権としては北朝鮮の非核化どころか、核開発の凍結もなかなか難しくなっており、かなりの手詰まり感がある。いま議論されている産業や工業の「血液」となる石油の禁輸がどれだけ可能なのかさえ分からない。他の経済制裁を進めても、どれだけ効果があるのか未知数である。そうしているうちに、既に米本土に到達する核弾頭付きのミサイルも完成してしまうかもしれない。トランプ政権に残された時間は実のところ多くはない。 この手詰まり感の中、外交的な選択肢ではなく、強硬策を主張する声も米国内では目立ちつつある。報復の可能性が極めて低くなるようなことが想定されれば、先制攻撃を決断し、北朝鮮の核施設をたたいていく選択肢もあり得ないわけではない。最高司令官であるトランプ大統領が外交・安全保障政策について全くの素人である分、何らかの思い切った強硬策に出てくる可能性もゼロではない。 ただ、もし限定的な攻撃を行ったならば、北朝鮮から韓国、日本という同盟国への報復はやはり避けられないだろう。戦闘には必ず不確定要素がある。いわゆる「戦場の霧(フォッグ・オブ・ウォー)」である。北朝鮮の報復攻撃を100%抑えることができるかどうかは分からない。もし戦争になれば「米国史上最悪の戦争になる」という指摘もある。記者団に話すマティス米国防長官(左)とダンフォード統合参謀本部議長=9月3日、ワシントン(AP=共同) トランプ政権の安全保障政策は、マティス国防長官やマクマスター国家安全保障担当補佐官、ケリー首席補佐官らの軍人出身者がプロとして支えてきた。上述のようにトランプ氏は外交・安全保障政策の経験はないが、本人もそれを自覚しており、高官たちの意見を比較的そのまま採用してきた。戦闘の現場をよく知っている「外交・安全保障のプロ」たちにとって、報復が考えられる不確実な先制攻撃に踏み込むだけの米国の諜報(ちょうほう)活動がどれだけ整っているかが、今後の大きなポイントとなるであろう。 先制攻撃とともに考えられる米国の対応は、おそらく二つある。一つは何らかの条件を付けた上で北朝鮮の核保有を容認するか黙認するかという選択肢である。そして、もう一つが核保有という現実に即して、同盟国である日本や韓国の核武装を推進し、米国と協力することで北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るという選択肢である。「核容認」で大きく揺らぐ日米安保北朝鮮による6回目の核実験を受け、「0」にリセットされた地球平和監視時計の「最後の核実験からの日数」=9月3日午後、広島市の原爆資料館 北朝鮮の核保有を容認、または黙認するという選択肢については、オバマ前政権で国家安全保障担当補佐官だったスーザン・ライス氏のニューヨーク・タイムズへの寄稿(8月10日)が大きな波紋を広げている。北朝鮮に対する強硬策を取った場合、全面的な戦争が不可避であるため、それよりも北朝鮮の核保有を認めることも視野に入れた方がいいという議論である。同じくオバマ前政権で国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏も同様の指摘をしている。 北朝鮮の核を容認、もしくは黙認する代わりに、日本などの同盟国、あるいは米国に向けた挑発行為の停止、テロリストへの核拡散の徹底した防止などを条件に米国は切り出すのかもしれない。 とはいえ、もし北朝鮮の核を黙認すれば、日本にとっては米国の「核の傘」が極めて弱体化する。「有事にどれだけ日本を助けてくれるのか」という戦後何十年も続いてきた日米安保体制の、そもそもの議論が再び沸騰するのは必至である。それもあって、トランプ政権はライス氏の指摘をことあるごとに否定した。 一方で、「日本や韓国に核を持たせるなどの対抗措置を取った方が賢明」という主張も米国内で安全保障のリアリストらから指摘されるようになっている。核武装やさらなる迎撃システムの強化を通じ、日米韓で北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るというのがその狙いである。 しかし、唯一の被爆国である日本が核を持つという、国論を二分するような選択が本当にできるのかどうか、筆者にはまだ判断がつかない。 9月3日に行われた北朝鮮の「水爆実験」の第一報を筆者は学会報告と調査のために訪れたサンフランシスコで聞いた。この際、筆者が現地の専門家に聞いた限り、北朝鮮の核容認論と日本、韓国の核武装推進論のいずれもあったが、限定攻撃に対する肯定的な意見はほとんどなかった。これをみても、現時点では北朝鮮に核放棄を求めるのは、かなり難しくなっているのが分かる。 北朝鮮の「国家生存の柱」と位置付けられてきた核開発。それがまさに北朝鮮の国家を温存することにもなる。その意味では、北朝鮮の思惑通りに事が進んでいると言えなくもない。

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    トランプでも金正恩は止められない

    北朝鮮が9日の建国記念日に合わせ、新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する可能性が高まっている。トランプ米大統領は、北朝鮮に対する制裁圧力の強化を国際社会に呼び掛けるが、中露両国の同意を得るのは困難な情勢だ。国際社会はなぜ「狂気の独裁者」を止められないのか。

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    なぜ中国は「北朝鮮の非核化」に消極的なのか

    三船恵美(駒澤大法学部教授) 「核保有国として認めろ」という北朝鮮の主張が、現実味を帯びてきた。BRICS首脳会議が閉幕し、記者会見で手を振る中国の習近平国家主席=9月5日、中国福建省アモイ市(共同) 残念なことに、北朝鮮の核・ミサイル開発問題をめぐり、行き詰まりをみせる国際社会がいくら中国に期待を寄せても、中国が「平和的な方法と全関係者による直接対話を通じてのみ解決されるべき」という姿勢を崩すことはない。核実験翌日の9月4日に採択された新興5カ国(BRICS)首脳会議の共同宣言「アモイ宣言」にも、それが示されていた。 中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を米日欧の経済制裁や国際的な圧力では解決できない、と考えている。2016年1月に4回目の核実験を行った直後、北朝鮮の朝鮮中央通信は、イラクとリビアを「国際社会の圧力で自ら核を放棄したために、破滅の運命を避けることができなかった」と批判していた。イラクのフセイン元大統領やリビアのカダフィ大佐の「なれの果て」を知っている北朝鮮の金正恩政権と軍が、米日欧の要求通りに核を放棄したりはしない、ということを中国は承知している。中国はCVID(完全かつ検証可能で後戻りできない核放棄)が「非現実的な目標」であるとみている。 中国は北朝鮮をコントロールできていない。しかし、中国ほど北朝鮮に影響力を及ぼすことができる国がないことも事実である。そのことが、国際社会における中国の外交プレゼンスを高めてきた。したがって、中朝間の対立につながる国連制裁決議など、国際社会による対北朝鮮制裁の枠組みに中国が真摯(しんし)に取り組むはずがない。中国が北朝鮮へ及ぼせる影響力を制限することになれば、また、中国と北朝鮮の「軋轢(あつれき)」が「対立」へ発展すれば、それは中国の国益にならない。 これまで通り、国連などによる多国間アプローチには、中国とロシアによって「抜け道」が作られていくことになるであろう。 とはいえ、「習近平体制下の中国」と「金正恩体制下の北朝鮮」の関係がうまくいっているわけではない(「習近平体制下の中国」と「金正恩体制下の北朝鮮」の2国間関係だけでなく、江沢民系の故徐才厚が牙城としていた旧七大軍区時代の北朝鮮と隣接する旧「瀋陽軍区」・現在の五大戦区に編成された「北部戦区」と、習近平勢力との中国内の利権に絡む政治対立構図が、「習近平体制下の中国」に従わない「金正恩体制下の北朝鮮」の関係構図の根底の一部にあることは、言うまでもない)。中国のメンツをつぶす 北朝鮮の6回目の核実験を受けて、中国政府は、9月4日、北京に駐在する北朝鮮の池在竜(チ・ジェリョン)大使を中国外交部へ呼びつけ、厳重に抗議した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射時には、中国外交部は北朝鮮大使を呼びつけていない。9月3日に北朝鮮が強行した核実験は中国の習近平国家主席のメンツを北朝鮮がつぶした、と世界中で報道させることになり、中国を以前よりも怒らせることになった。 北朝鮮による核実験の一報が世界を駆け巡ったのは、9月3日に中国福建省の厦門(アモイ)で開催されたBRICSビジネスフォーラムの開幕式で、習主席が基調演説を行う3時間ほど前のことであった。BRICSとは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国のことである。今年で9回目を迎えたBRICS首脳会議(9月4~5日)は、2009年以降、加盟国の持ち回りで開催されている。BRICSの枠組みは、域外へ実質的な影響力を及ぼすことができていないものの、「国際関係の民主化の推進」「覇権主義および強権政治への反対」「持続可能な安全保障観」を共に唱える中露協力を中国が米日欧諸国へアピールする舞台となってきた。 しかも、BRICS首脳会議直前、ヒマラヤ山脈の国境地帯ドクラム高原における中国軍の道路建設で長らく対峙(たいじ)していた中印両軍の撤退が合意され、インドのモディ首相のBRICS首脳会議参加が実現したことにより、ホスト国として中国の面目が保たれたばかりであった。BRICS首脳会議に合わせた会談で、握手するインドのモディ首相(左)と中国の習近平国家主席=9月5日、中国福建省アモイ市(新華社=共同) 習主席は、10月18日から開催される中国共産党の第19回党大会を控え、大国外交の成果と自身の権威をアモイから国内外へ向かって発信するはずであった。アモイは、習主席が1985~88年に市党委員会常務委員や副市長を務めた地方市である。2002年に浙江省へ党委員会副書記・省長代行として異動するまで、習主席は福建省で17年も務めた。そのような福建省アモイへゲストを含めて9カ国の首脳を招いていたBRICS国際会議の当日に、金正恩朝鮮労働党委員長は核実験を行ったのである。レッドラインを越えたのか 昨年9月に杭州で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議と今年5月の「一帯一路」国際フォーラムの開催日にミサイルを発射したのに続き、中国がホスト国を務めた重要なBRICS会議開催日に、北朝鮮は核実験をぶつけ、習主席のメンツをまたもやつぶしたのである。  米政府は8月上旬、北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄した場合に「4つのノー(ない)」を約束すると説明していた。「4つのノー(ない)」とは、(1)北朝鮮の体制転換は求めない、(2)金正恩政権の崩壊を目指さない、(3)朝鮮半島を南北に分けている北緯38度線を越えて北へ侵攻しない、(4)朝鮮半島の再統一を急がない、という4つの行為をしないという内容であった。それでも北朝鮮が核実験を強行したということは、「金体制の維持」を約束するだけでは北朝鮮が満足しないということを、また、米国の「レッドライン(越えてはならない一線)」を北朝鮮が越えたことを意味する。G20首脳会合に臨む中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領=2017年7月7日、ドイツ・ハンブルク(代表撮影・共同) しかし、米高官が「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と繰り返すものの、米政府の選択肢が限られていることを中国はわかっている。米国とその同盟国の財政状況を見れば、日英独加などが戦費を出したことで戦争が可能であったイラク戦争のようにはいかない。北朝鮮と全面戦争をしても戦費と復興再建費を積極的に出そうとする国がないのは明らかである。米国の同盟国である日本と韓国は、自国への被害を考え、米朝の軍事衝突に否定的である。米トランプ政権では、アジア政策の実務担当の高官ポストがいまだに埋まっていない。トランプ政権の北朝鮮政策は袋小路に陥っている。 一方、9月3、4日の中露の対応を見る限り、核実験は中国のレッドラインをまだ越えていない。3日の吉林省延辺の朝鮮自治州では、北朝鮮による核実験の激震で建物に亀裂が入るほどの被害があった。中国の環境保護部(「部」は日本の「省」に相当)は、3日の核実験を受けて、北朝鮮に隣接する吉林省などで放射性物質のモニタリングを始めた。翌4日には、環境保護部は、放射性物質による異常が見つかっていないと発表した。北朝鮮による中国国境付近への放射性物質の侵犯、そのレベルこそが、中国のレッドラインではないかとみられている。中国の狙いはココだ 中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を制裁や圧力では解決できないと考えている。また、トランプ政権には北朝鮮問題を処理できないとみている。中国は北朝鮮のミサイル発射の目的を「金体制の存続」と「米日韓からの経済援助を引き出すための恫喝(どうかつ)」にあると見ており、対米攻撃を北朝鮮の核・ミサイル開発の目的とは考えていない。 さらに、北朝鮮問題は、「アジア安全保障の最大関心事」を南シナ海から朝鮮半島に移してくれている。「北朝鮮が米国にとってコントロール困難な問題国」である間、米国にとっての中国は「南シナ海や東シナ海への姿勢を変えさせる対象国」である前に、「北朝鮮情勢をめぐって協力を引き出させる協力国」として位置づけられる。また、「尖閣奪取へのろしを上げた中国」にとって、日本の防衛力が北朝鮮に分散することは悪くない話である。 したがって、中国が北朝鮮を追い詰めることはしないであろう。中国が北朝鮮を追い詰めれば、北朝鮮に対するロシアの影響力だけが強まり、そこに中国のメリットはない。 また、中国が金委員長の首をすげ替えようとすることは当分ないであろう。「ポスト金体制の北朝鮮」が不安定化したり多元化したり米韓の傀儡(かいらい)政権に北朝鮮を握られるよりは、ましてや「反中国体制」が北に誕生するよりは、「金正恩体制の現状維持」のほうが中国にとってはマシだからである。 北朝鮮が7月28日に発射したICBMの移動発車台は中国が「民生用」として提供した「中国産の新型」を北朝鮮が改造した可能性があるとの専門家の指摘が報じられている。北朝鮮の強気な態度の根底には、中国とロシアの影響力があると見るべきではなかろうか。BRICS首脳会議で、記念写真に納まるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=9月4日、中国福建省アモイ市(共同) 「カリスマでもなければ、カリスマが指名した指導者でもない」習主席にとって、安定した米中関係の構築は、中国最高指導者としての威信の確立に必至である。中国は、「北朝鮮をめぐる米中協議」を「アフガン・パキスタン・メカニズム」(4カ国調整グループ)への再開とともに、米中協調外交の政治的ツールとして組み込んでいきたいところであろう。名ばかりの経済制裁 国連安全保障理事会の新たな制裁決議に基づき、中国が8月15日から実施した対北朝鮮禁輸を受けて、中国メディアは、中朝国境に架かる橋の上で海産物を載せて中国側に入ろうとするトラックを拒否した中国側通関の報道を「宣伝」した。しかし、国連などの統計によれば、北朝鮮の約9割強の貿易相手国は中国であり、そのうち約1割が海産物である。その海産物の禁輸を「パフォーマンス以上のレベル」で中国が実際に行っているのであれば、北朝鮮の中国に対する反発はもっと激しいものになっているはずではなかろうか。 9月1日に中国吉林省の長春で開幕された国際展示会では、日本や韓国など110以上の国と地域の企業とともに、北朝鮮からも30社以上が出展していた。そこでは、国連制裁決議で輸出が禁止されているはずの海産物の乾燥ナマコも売られていた。 中国は、「国連や米国に対する協調のパフォーマンス」を内外へ、特に米国へ「宣伝」している。しかし、それが厳密に実施されているかは、疑わしい。 「トランプ米大統領が明確な対北朝鮮外交・安全保障政策をもたないままに、北朝鮮を挑発している」と中国は見ている。米朝両国が「偶発的な衝突」に突入しないように、中国とロシアは、米朝両国を抑制するような中露協調外交を強化していくことを明らかにしている。 ただし、中国はロシアの動きにも注視している。中国の「一帯一路」構想の港湾戦略を据えたベンガル湾沿岸国でロシアが軍事外交を積極的に展開する近年(この点は拙著『米中露パワーシフトと日本』〔勁草書房、2017年〕を参照されたい)、中露の北朝鮮政策は海洋戦略も含んでいる。ロシアとの「競合と協調」のバランスを図りながら、中国は北朝鮮の地政学を「氷のシルクロード(北極海航路)」構想においても位置づけて、「北朝鮮をめぐる対話・協議による大国外交」を主張していくであろう。このままでは、アジア太平洋の秩序形成におけるパワーシフトが、ますます中国優位へと加速してしまうことになる。米国が中国頼みの北朝鮮政策を転換すべき時期にきていると、日本はもっと声を高めていくべきではなかろうか。

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    「核戦争の共通認識」がない北朝鮮に米国が取るべき道は対話しかない

    中岡望(東洋英和女学院大学大学院客員教授) 北朝鮮の核兵器と大陸間弾道弾の開発で朝鮮半島の緊張が高まっている。北朝鮮は挑発的で過激な発言を繰り返し、トランプ大統領も激しい言葉で応じている。アメリカは北朝鮮に対する経済政策強化を進めることで北朝鮮に核兵器開発を断念するよう圧力をかけ続けている。 しかし、誰も経済制裁の強化で北朝鮮が核兵器開発を断念するとは思っていないのではないだろうか。最悪の場合、事態はさらに悪化する可能性もある。こうした時こそ単に軍事的な分析だけでなく、冷静な判断が必要となるだろう。 戦争は誰のメリットにもならない。北朝鮮とアメリカの軍事力、経済力の格差は歴然で、どう転んでも北朝鮮に勝ち目はない。「螳螂(とうろう)の斧」である。その激しい口調とは裏腹に、北朝鮮にはアメリカを攻撃する能力も意味も存在しない。過剰に北朝鮮の脅威を強調するのは賢明な対応とはいえない。 実際に軍事衝突が始まれば、北朝鮮が目指す体制維持は難しくなるだろう。韓国と中国にも戦火は拡大するかもしれないし、北朝鮮の体制崩壊で中国と韓国に大量の難民が押しかけてくるのも間違いない。日本にも影響は及ぶだろう。またアメリカにとっても何のメリットもない。「核クラブ」による核兵器の独占を維持できたとしても、その代価はあまりにも大きい。北朝鮮の水爆実験の成功を報じる街頭テレビ=3日、東京都(佐藤徳昭撮影) では、なぜ北朝鮮は強引に核兵器の開発を進め、アメリカを挑発し続けるのだろうか。北朝鮮は非合理的な判断をする可能性はあるのだろうか。そこまでのリスクを冒して、北朝鮮は何を得ようとしているのだろうか。狙いは単純である。すべては「体制維持」にある。「核保有国」として認知されることで、それを実現しようとしているのである。 さらにアメリカを直接交渉の場に引き出したいのである。もうひとつ加えれば、経済制裁は効果がないことを示そうとしているのだろう。しかし、アメリカは北朝鮮を「核保有国」として容認することはできないし、直接交渉する準備もできていない。 まず指摘しておかなければならないのは、朝鮮戦争はまだ終わっていないということである。現在は休戦状態だ。アメリカは朝鮮戦争が始まったときから現在に至るまで北朝鮮に対する制裁を続けている。両国の間には正式な外交チャンネルが存在していない。「ニューヨーク・チャンネル」と呼ばれる国連を舞台にする細いチャンネルがあったが、オバマ政権の最後の年にそのチャンネルも閉ざされている。両国はお互いの真意を知る機会さえ持つことができない状況が続いている。 一番怖いのは、対話のない中でお互いの意思を誤解し、計算間違いを犯すことだ。アメリカも北朝鮮に関する明確な情報を持っていない。誤解と計算違いのリスクは北朝鮮だけでなく、アメリカにもある。北朝鮮を非核化するために必要なこと 冷戦の時でさえ米ソの間に外交チャンネルは存在し、お互いの意思を確認し合うことができた。また「相互確証破壊」という共通した考えを持ち、核戦争ではどちらの国も勝利を収めることはできないという共通認識が存在した。だが、北朝鮮とアメリカの間には、共通認識は何も存在しない状況にある。 北朝鮮の挑発的な発言は今に始まったことではない。それに対してアメリカは比較的自制的な対応を取ってきた。オバマ政権は「戦略的忍耐(strategic patience)」を取り、直接的にコミットすることを避けてきた。付け加えれば、オバマ政権は成功はしなかったが核軍縮を目指してきた。 だが、トランプ大統領はそうした自制心を投げ捨て、極めて厳しい対応を取り始める。核開発予算の増額も求めている。北朝鮮に対しては「すべてのオプションはテーブルの上にある」と、「対話」と同時に「軍事的攻撃」も選択肢にあると発言している。 3日、トランプ大統領は記者団に「北朝鮮を攻撃する計画はあるのか」と聞かれ、「検討する(We’ll see)」と答えている。こうしたメッセージが北朝鮮にどう伝わり、どう受け止められているか分からないが、北朝鮮に大きな脅威を与えていることは間違いないだろう。記者団に対応するドナルド・トランプ米大統領=10日、米ニュージャージー州(AP=共同) さらに混迷を深めているのは、トランプ政権内で明確な北朝鮮政策がみられないことだ。トランプ大統領とは違い、ティラーソン国務長官やマティス国防長官は対話の重要性を訴えている。9月3日のNBCニュースは、ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮ウオッチサイト「38North」が8月に「もしアメリカが北朝鮮に対する敵対政策と核の脅威を止めるなら、核兵器とミサイル開発を中止する準備がある」と分析していると伝えている。だが、トランプ政権はそうした兆候や分析を無視している。 スタンフォード大学教授のエイミー・ゼガート氏は、『アトランティック』誌に寄稿した記事(How not to Threaten North Korea)で「アメリカの北朝鮮政策は失敗し続けている。トランプ政権になって対立のリスクは劇的に高まった」と指摘している。その中で注目されるのは、トランプ大統領は自らの情緒的な発言でアメリカに対する「信頼性」を損なっていると指摘していることだ。「外交政策では、言葉は安っぽいものではない。危険性を孕(はら)むものである」とも書いている。危機的な状況の時こそ、冷静な発言と判断が必要となる。 北朝鮮問題を解決できるのはアメリカだけである。北朝鮮の対米不信は根深い。声高に制裁強化を主張するだけでは問題解決にはならない。また歴史的に見て、経済制裁が成功した例はない。北朝鮮に対する「太陽政策」も「北風政策」もあまり効果はなかった。太陽政策は単に北朝鮮に時間を与えただけではないかとの批判もある。しかし、北風政策は間違いなく危機を深刻なものにするだろう。 目標は明確である。朝鮮半島の非核化である。そのために必要なことは、経済制裁強化ではなく、まずアメリカが北朝鮮との間に対話のチャンネルを構築する努力を行うことであり、高官レベルでの直接対話の可能性を探ることである。それによって初めて信頼関係を取り戻せるのだ。

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    トランプに戦争の選択肢はない 「北朝鮮核保有国」の現実を直視せよ

    柳澤協二(元防衛省幹部、国際地政学研究所理事長) 北朝鮮が6度目の核実験をした。しかも今度は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭に載せる水爆だという。私は率直に言って、このことに驚かなかった。それは北朝鮮の既定路線であって、やるかやらないかではなく、いつやるかという問題だと思っていたからだ。北朝鮮はアメリカと対等になるために、アメリカ本土を脅かす核ミサイルを持たなければならないと思っている。目的は戦争ではない。戦争になれば負けることは分かりきっている。アメリカと対等な立場で交渉できるようにするためだ。 あえて「今なぜか」と言えば、北朝鮮経済の生命線である石油の禁輸という制裁に中国が同調しないという「読み」があったからであり、あるいは石油禁輸が不可避とすれば、それを発動されないうちに核を完成させようという狙いがあったのだろう。 深刻なのは、アメリカの圧力外交が効果をあげていないことが明らかになったことだ。中国が石油を止めないとすると、体制を脅かす「決め手」になるような制裁はない。そうすると、実力で核を排除する以外にない。少なくとも、空母を浮かべ、B1爆撃機を見せる程度ではなく、戦争すれすれの脅しをしなければならない。8月8日、米ニュージャージー州のゴルフ施設で北朝鮮情勢について話すトランプ大統領(ロイター=共同) それでも、北朝鮮が核を放棄することはあり得ないと誰もが知っている。つまり、武力で威嚇するやり方では、核開発は止まらないということが明らかになったのだ。 制裁や威嚇で止まらなければ、物理的に核を排除するしかない。そのためには、政権を排除することが最も確実だ。それは「大量破壊兵器を隠し持っていた」と決めつけてイラクのサダム・フセインを打倒したときと同じ論理である。 今回は、結果的に大量破壊兵器が見つからなかったイラクよりも、はるかに大義名分がある。そして、北朝鮮に武力行使した場合、水爆を積んだICBMが完成する前にやらなければ、核の反撃にあうかもしれない。アメリカにとっても「やるなら今だ」という計算が成り立つ。韓国は、自分の同意なしに戦争することに反対だと明確に述べている。中国には、戦争になれば北朝鮮に加勢するという論調もある。さて、日本はどうするのだろう。 1960年に改定された日米安保条約の交換公文では、日本の基地からの直接出撃は事前協議の対象となる。ベトナム戦争の時のように「米軍機が飛び立ったのは通常の移動であって、その時点で北朝鮮の核施設を爆撃する予定はなかったと承知している」という話では済まない。日本の基地への反撃があり得るからだ。 だが私は、実際にはそのシナリオはないだろうと思っている。戦争は、早期に目的を達成して終結する見通しと、戦争終結後に訪れる状況が戦争前よりも良くなっているという展望がなければ始められないからだ。 核開発を止められず、戦争のシナリオがないとすると、選択肢は「交渉」しか残っていない。交渉の条件は、北朝鮮が主張する「核保有国であること」を認めるか、少なくとも「棚上げ」することにならざるを得ない。交渉に移行する最大の障害は、米国内と日韓両国の世論だ。トランプは、自らの強硬路線の失敗を認めることになるのだから、どうやって「名誉ある転進」のように見せるかに腐心することになる。日本がもっと心配するべきこととは? そのシナリオは、おそらく「自分は戦うつもりだったが、韓国や日本といった同盟国がやめてくれと懇願するので仕方なく交渉を選んだ」と言えるような、もう一段高い危機的状況を作り出すことだと考える。 そして、もう一つの「おそらく」を言えば、日本の官邸もそのことに気づき始めている。だから、そこではきっとうまい「芝居」がうたれるに違いない。安倍政権の支持も劇的に回復するかもしれない。 下手な芝居をすれば、本当に戦争になってしまうかもしれない。だから、ぜひうまくやってもらわなければならないのだが、核保有を前提とした交渉をどうやって正当化するのか、依然として難しい課題があることは間違いない。 日本人が考えなければならないことは、したいこととできることは違う、という現実を直視することだ。北朝鮮に核を放棄させたいのなら、金正恩体制を倒すしかない。それは、アメリカにはできるが、その過程でどれだけの被害を受けるのか、その覚悟がなければ「できないこと」なのだ。 脅威とは、能力と意志の掛け算だ。北朝鮮の能力を止められないなら、その能力を使う意志をなくさなければならない。北朝鮮の意志は、一貫してアメリカを向いてきた。そもそも、米朝の対立は1950年の朝鮮戦争にさかのぼる。戦争は3年後に休戦を迎えたが、まだ終わったわけではない。両国は今も戦争当事者であり続けている。戦争当事者の一方に向かって、「敵と対等になるための核を持つな」と言っても通じない。 それゆえ、核放棄というハードルを外し、まずは南進統一の野望を捨てさせる。それならアメリカも北朝鮮を攻撃しない、という平和条約によって両者の戦争を終わらせることから始めなければならないのだろう。現に両者の激しい言葉の応酬にもかかわらず、事態はそこに向かって進んでいる。それは両国の政治リーダーの思惑を超えた、問題の構造に内在する論理的帰結だ。 そこで、日本がもっと心配しなければならないのは、北朝鮮の核を現実として認めることによる「核不拡散レジーム」の空洞化だ。だが、少なくともそれは、戦争の理由にはならない。それが許せないのなら、インド、パキスタン、イスラエルも許せない。そうではなく、北朝鮮が自国の脅威だから許せないというのであれば、日本も核を持つという論理になりかねない。「核兵器禁止条約」制定交渉で、空席となっていた日本政府代表の席=7月7日、ニューヨークの国連本部(共同) しかし、その脅威は日本を攻撃する意志をなくすことで脅威ではなくなる。インド、パキスタン、イスラエルの核が脅威ではない理由もそこにある。その上で、唯一の戦争被爆国という、カネで買っても得られない正当性を背景に、核の不当性を訴えていく。日本が「できること」は、そういうことではないのか。核をなくすという「したいこと」を、「できること」をもって実現するには、時間がかかるのである。

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    北朝鮮が「アメリカ本土に届くミサイル」にこだわる理由

     7月28日、日本時間の午後11時42分頃、北朝鮮の内陸部・舞坪里(ムピョンリ)から弾道ミサイルが発射された。このミサイルは、約45分間飛行して、北海道・奥尻島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと推定されている。朝鮮中央通信によると、高度は3724.9km、水平距離は998kmで、過去最高の高度と飛行時間を記録。7月4日に発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星14号』の改良版ではないかといわれている。金正恩朝鮮労働党委員長は「米本土全域がわれわれの射程圏内にあるということがはっきりと立証された」と誇らしげだったという。 北朝鮮はなぜここまで、“アメリカ本土に届くミサイル”にこだわるのだろうか。 オバマ時代の対北朝鮮政策は「戦略的忍耐」と呼ばれ、「北朝鮮が非核化に向けた措置を取らない限り、対話に一切応じない」というものだったが、北朝鮮はそれを無視し、オバマ時代に4回も核実験を行い、核兵器の性能を大幅に向上させてきた。だが今年1月、トランプ大統領政権に変わったことで、事態は大きく変化する。 金沢工業大学虎ノ門大学院教授で、34年間、海上自衛隊の海将などを務めてきた伊藤俊幸さんが、こう解説する。「トランプ政権が北朝鮮に対して出した対話の条件は、“核の完全放棄”です。さらに、北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す挑発行為をエスカレートさせた場合、あらゆる措置をとると厳しく警告。軍事行動が含まれることも示唆しています」 実際にアメリカは、北朝鮮への影響力が強い中国に対し、北朝鮮への圧力強化を指示している。しかし、中国はそれに応える結果をなかなか出さない。そんな中国に対してアメリカは、米中の銀行取引を禁じるなど、この6月から経済制裁をかけ始めている。「そうした中、北朝鮮は、“自分たちにも核ミサイルをアメリカまで飛ばす軍事力があるとわかれば、アメリカは自分たちと対等に話をするはず”と考え、そのアピールのために、頻繁にミサイルを飛ばしているのです。言うなれば、北朝鮮が欲しいのは“核”による抑止力です。これがあれば、アメリカをはじめとするロシアや中国などの大国と対等になれると思い込んでいるのです。しかし、北朝鮮の核保有に、アメリカは強く強く反対しています」(伊藤さん)関連記事■ 北朝鮮核ミサイルに対抗するには日韓核武装も選択肢と専門家■ 北がミサイル発射、日本EEZに落下か…深夜に■ ノドン、ムスダン、テポドン… 金正恩のミサイルの実力■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 金正日死去で北朝鮮に暴動発生・米国の武力介入の可能性指摘

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    北の核実験で習近平の怒りも頂点に 血で固めた友誼どうなる

     北朝鮮が9月3日、6度目の核実験を行った。とうとうトランプ大統領の堪忍袋の緒が切れるのだろうか。しかし、堪忍袋の緒が切れるのはトランプ大統領だけではない。中国の習近平主席も同じ思いかもしれない。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏が、友好関係に亀裂が入りかねない中朝関係についてレポートする。* * * トランプ大統領は9月3日、ツイッターに「北朝鮮の言動は引き続き、米国に対し非常に敵対的で危険だ」と非難した。一方、中国外務省も同日、「断固たる反対と強い非難」という声明を発表している。 このように、今回の核実験をめぐり、米朝関係だけでなく、中朝関係、すなわち習近平と金正恩の関係も悪化した。中国による金正恩排除 これまで北朝鮮を擁護してきた中国でも、なりふり構わない北朝鮮の行動や言動に対しては我慢の限界というものがある。金正恩はいまだに中国を訪問していないばかりか、中国を名指ししての批判まで行った。このような指導者を中国はいつまでも放置しないだろう。中国の習近平国家主席=2016年11月19日、リマ(AP=共同) 習近平主席が「現状維持よりも金正恩を排除したほうが得策」と判断した場合、北朝鮮への経済支援を完全に停止するなどして圧力をかけ、金正恩を亡命させて政権を崩壊させるかもしれない。 中国が金正恩排除を実行する可能性があるのは、中国にとって米軍との緩衝地帯としての「朝鮮半島北半分」の地域が必要となるためなのだが、そのためには中国に従順な政権である必要がある。 そもそも中国にとっては、緩衝地帯となる地域の指導者が金正恩である必要はなく、その地域が「朝鮮民主主義人民共和国」である必要もない。中国のコントロール下に置くことができればいいのだ。従って、中国に反発するような政権は必要ない。 ただ、中国にとっての金正恩排除後のリスクは、北朝鮮からの難民の流入である。この問題は非常に厄介だが、金正恩排除後に直ちに中国軍が北朝鮮北部を占領し、中国へ北朝鮮難民が押し寄せるのを防ぐための安全地帯を設ける可能性もある。悪化を続ける中朝関係 中朝関係は「血で固めた友誼」で結ばれていると言われている。これは、朝鮮戦争を通じて血で固められた友情を意味する。この関係を明文化したものが、1961 年 7 月 11 日に締結された「中朝友好協力相互援助条約」といえる。 この条約の第2条では、「いかなる国家からの侵略であってもこれを防止するため、全ての措置を共同でとる」「締約国の一方が戦争状態に陥った場合に、締約相手は全力をあげて、遅滞なく軍事的およびその他の援助を提供する」と規定している。 しかし、このような規定があっても、中国は自動的に軍事支援を行うことはないだろう。中朝はもはや同盟関係とはいえないからだ。また、この条約は20年ごとの自動更新で、前回は2001年に更新されたのだが、2021年に更新されるかどうかは微妙なところだろう。 中朝関係が微妙になっているのは、中国国防省は公式には認めていないものの、今年4月以降に次のような報道があったことからも垣間見える。【中国軍が臨戦態勢に次ぐレベルの「2級戦備態勢」に入り、中朝国境地帯に10万~15万人規模の兵力を展開した】【中国空軍の爆撃機が「高度な警戒態勢」に入った】【中国が国境付近で軍を改編・増強し、核・化学兵器の攻撃に備えて地下壕を整備している】【北朝鮮へ派遣される可能性がある特殊部隊などの訓練や、武装ヘリコプターによる実弾演習を行った】 軍の動向以外にも、中国共産党機関紙「人民日報」系の国際情報紙「環球時報」が今年4月以降、頻繁に北朝鮮への警告と受け取れる内容の記事を掲載している。 しかし、北朝鮮の中国に対する態度は、既に2013年に変化していた。軍や秘密警察の幹部に対し、「中国に幻想を持つな」「有事には中国を敵とみなせ」とする思想教育を進めていたというのだ。(「産経新聞」2013年12月29日) 北朝鮮が友好国である中国を露骨に批判した文書が明らかになるのは異例だが、2015年にも、朝鮮労働党が国連安全保障理事会の制裁に同調する中国の動きを「敵対視策動」と見なして猛反発し、党中央が地方組織の下級幹部向けの講習会で、米国に対抗するための闘争を党員らに指示している。(「時事通信」2016年3月28日)非現実的な南北統一非現実的な南北統一 こうした中国の動きに対して、韓国の文在寅大統領は韓国主導による南北統一を強く主張するだろう。しかし、現在の韓国には統一に必要な費用を捻出する余力がないうえ、南北統一のロードマップすら策定できていない。 これは、朴槿恵大統領が2015年2月16日、大統領府で大統領直属の統一準備委員会を開催して、南北統一のロードマップを策定するよう述べていることからも裏付けられる。 ロードマップを策定するにあたっての障害は、南北統一に必要な費用、すなわち統一コストの問題だろう。統一コストには2400億ドル(約26兆円)という数字もあれば、2兆ドル(約220兆円)という数字もありバラつきが激しい。 これは、北朝鮮が経済統計を発表していないため、韓国銀行(中央銀行)などが北朝鮮の経済指標を推定せざるを得ないことと、インフラの整備や工場の再建などに、どの程度の費用が必要なのか分からないためであろう。 とはいえ、南北統一にはさまざまなシナリオが考えられるが、どのような形にせよ、大量の難民の発生が最大の問題となる。難民の流入を防止するため、韓国では1990年代に、北朝鮮の国民1人ずつに生活補助金を与える場合とそうでない場合を想定したシミュレーションを行ったことがある。 このシミュレーションの結果、生活補助金を与えない場合の年間流入者は140万人、月額10万ウォン(現在のレートで約9800円)で102万人、20万ウォンで80万人となった。 韓国が受け入れ可能な単純労働者は67万人であることから、20万ウォンを援助しても1年で限度を超えることになり、難民の受け入れができないことが改めて証明される結果となった。 一方、韓国政府は1997年7月に詳細な難民対策案を作成している。これは「30日計画」と呼ばれるもので、同計画よると難民流出は1か月間で韓国に10万人、国境を接する中露などに20万人の計30万人を想定し、「国際会議」の構成や日本からの食糧・財政支援などを含めた具体的な対応策を構想している。 いずれにしても、韓国の負担はあまりにも重い。筆者は南北統一に関する事項を管掌する統一部のレポート類を読んでいるが、読めば読むほど南北統一の難しさを感じる。北朝鮮の命運を握る中国 これまで述べてきたように、韓国主導による南北統一は非現実的であるため、金正恩排除後の北朝鮮の命運を握るのは中国ということになる。 米国が武力行使する可能性については、現在の米国はイラクやシリア、アフガニスタンでの戦争で手一杯であるため、トランプ政権は現に戦闘が行われている地域を重視せざるを得ないため現実的ではない。 しかも、米国防総省は、2012年2月1日に公表した「4年ごとの国防政策の見直し」(QDR)で、「同時に発生した2つの地域戦争に対応する二正面作戦の実行を可能にする」という方針を改め、対武装勢力、対テロ作戦を重視した柔軟な国防体制に転換する方針を明らかにしている。 現在は北朝鮮への圧力として、グアムのB-1B戦略爆撃機を韓国上空へ派遣することしか出来ていない。朝鮮半島近海に空母を派遣していないことについては、空母の維持費は年間600億円とも言われており、1隻だけで毎日億単位の予算を消費することになる。このため、朝鮮半島近海だけに配備するわけにはいかないのだ。 結局、米国は北朝鮮に手を出すことができず、中国の動きを黙認せざるを得ない。つまり、金正恩政権の将来は米国ではなく中国に握られているのだ。 そろそろ金正恩は自分の命運を習近平が握っていることを自覚し、中国の意向を考慮した行動を取る必要があろう。これ以上、中国を怒らせることは、長期的に朝鮮半島の不安定化を招くことになる。 金正恩が排除された場合は難民の流入など、日本も他人事ではなくなる。中国や韓国だけでなく、日本も「その時」に備えておく必要があろう。関連記事■ 使える時間は4分のみ 現実に見えた「Jアラートの実力」■ 金日成の健康法は少女からの輸血や少女との入浴など■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ 「日本の刑務所すら夢のような世界」北朝鮮の難民リスクは■ 大谷翔平「風俗店に直筆サイン」騒動で球団が火消しに奔走

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    「電磁パルス攻撃」が次の一手? 核実験も疑わしい北朝鮮に騙されるな

    原田武夫(元外交官・原田武夫国際戦略情報研究所代表取締役) 9月3日、北朝鮮を震源地とする大きな揺れが観測された。これを受けて北朝鮮は「水爆実験に成功した」と主張し、国際社会全体に衝撃を与えた。北朝鮮は先日も弾道ミサイルを太平洋上に向けて発射し、北海道をまたいでわが国に対して深刻な恐怖を与えたばかりだ。北朝鮮核実験のニュースを報じる街頭モニター=9月3日、東京都千代田区(佐藤徳昭撮影) しかもそれだけではない。今後、北朝鮮は一般には聞きなれない「電磁パルス攻撃」なるものまで仕掛けて来ると言われている。「次の一手」として北朝鮮が一体どのタイミングで何をしでかしてくるのかに注目が集まっているのである。 私は2005年春まで外務省にキャリア外交官として勤務し、最後は北東アジア課で北朝鮮班長を務めていた。わが国の対北朝鮮外交の最前線にいたわけであるが、そこで積んだ経験、さらにはその後、外務省を自主退職して以降、さまざまな方面から収集した情報をベースに「私たち日本人はいま何を考え、そしてこれから何をすれば良いのか」について書いてみたいと思う。 最初に考えなければならないのはそもそも北朝鮮の「主張」が真実なのかという点である。 「弾道ミサイルが発射されたのは本当であり、また巨大な揺れを感じた以上、水爆実験が行われたことも真実のはず。これ以上何を疑う必要があるのか」 読者はきっとそう考えるに違いない。しかし、プロの「北朝鮮のウォッチャー」の視点からすると最初にこの点こそ真正面から疑ってみる必要がある。それはなぜか。 例えば、今回の「水爆実験成功」なる北朝鮮の主張を取り上げてみよう。実は核不拡散の専門家の見地からいうと、まだ本当に「水爆実験」であったかどうかは分からないというのが正直なところなのだ。 なぜなら、非常に簡単にいうとこうした核実験が行われたことを確認するためには、下記の3つの要件が必ず必要だからである。①巨大な揺れが世界中に設置されている「包括的核実験禁止条約(CTBT)」事務局公認の地震計(わが国では長野県・松代に設置されている)で均(ひと)しく観測される必要がある。②核実験を行った時のみに観測することができる特定の放射性物質(キセノン等)を空気中で実際に採取することができる。③ 中立的な専門家が当該国の現地を実際に訪問し、確認すること しかし、北朝鮮がこれまで「核実験」として主張してきた例を見ると、①~③まで全ての条件がそろったことは一度もないのである。③については北朝鮮という閉鎖的な国柄から考えて、当然、現地査察は認められないとしても、②も毎回観測できているわけではないのだ。そして、①も実のところ、専門家たちの間では「核実験が行われたと考えるのに十分な揺れ」が全ての観測地点で観測されているわけではない。核実験に加えミサイルも それでも米国やわが国をはじめとする各国は、どういうわけか「北朝鮮が核実験を行ったこと」を認め、そのことを前提に議論してしまっているのである。むろん、弾道ミサイルの開発が北朝鮮において順調に進んでいることは確かなのだから、悠長なことを言うべきではないという意見もあるはずだ。だが、その肝心の「弾道ミサイル」開発についても、ここに来て「どうやらウクライナからミサイルエンジンを輸入しているらしい」という分析を米インテリジェンス機関が公開したばかりなのである。 つまり、北朝鮮は完全に自分自身で弾道ミサイルを開発し、それに「核弾頭」を載せて威嚇しているわけでは決してないのである。そもそも弾道ミサイルについては、どこか外部の勢力からの支援を受けて開発しているに過ぎず、また「核弾頭」は存在するかどうかさえ分からず、その大前提としての「核実験」についてすら、本当に行われているのかどうか、全く定かではないというのが実態なのだ。 だが、米国をはじめとする関係諸国はすでに「北朝鮮がいよいよ米領グアムに対して弾道ミサイルを発射すること」を前提に動き出している。先日まで「北朝鮮はよく自制をしてきている」として対話の用意があることすら示唆していたトランプ米政権も、どういうわけか軍人たちを筆頭とする「主戦論」に転換し、下手すれば「第二次朝鮮戦争」にまで発展しかねない軍事的衝突を今や遅しと待ち構えている可能性がある。演説するトランプ米大統領=8月22日、アリゾナ州フェニックス(AP=共同) しかも、わが国はそうした中で北朝鮮が隣国であるにもかかわらず、主体的な動きをすることができず、明らかにもがいているのである。事実、わが国の上空をまたいでいった先日の弾道ミサイルに対して、事前及びその飛行中にわが国は何もすることができなかった。もはや「国民の生命と財産」と言う意味での「国益」は政府であっても守れないことが露呈しているというのが実態なのである。 しかし、そうした状況の中であっても驚き、慄(おのの)いてはならないというのが私の考えである。むしろ、北朝鮮をめぐる現下の情勢において、ある意味では、わが国が明らかに「当事者能力」を失っているからこそ、冷静に今の状況を見つめる必要がある。そうして、グローバル社会の背後にうごめく、日本古来から伝えられる妖怪「鵺(ぬえ)」のような不可思議なものが、この出来事を通じて一体何を実現しようとしているのかをはっきりと見いだすべきなのである。東アジア秩序の大転換 なぜならば、今回の北朝鮮をめぐる一連の「出来事」はあまりにも「できすぎたストーリー」だからだ。事実、突然「テロ」に遭って亡くなった金正男から始まり、ここに至るまでの北朝鮮をめぐる一連の展開は話ができすぎている。北朝鮮の金正日総書記の長男、金正男氏=2007年3月18日マカオ市内(清水満撮影)  その金正男が実のところ、ある段階まで「今後、北朝鮮の金正恩体制が事実上崩壊した際、暫定大統領として自由選挙を取り仕切る役割を果たすべき人物」として、マカオで米国と華僑・客家集団の取り決めに基づき「温存」されていたことは、グローバルなインテリジェンスの世界では「常識」だった。ところがある時、何者かによってこのシナリオは完全に破棄され、少なくとも表舞台から金正男は姿を消したのであった。 このような展開を前に各国の情報機関でも動揺が走っているように見受けられる。なぜならば、より上位の意思決定によって明らかにこの「シナリオ」は放棄され、そこからやおら、北朝鮮の金正恩体制による暴走が露呈し始めたからである。そして現体制は明らかに「自滅」に向かっている。 このままいけば、弾道ミサイルはグアムに向けて発射され、それに対して怒り狂うトランプ米政権は一気にミサイル攻撃を北朝鮮に対して仕掛け、その軍事力を極めて短時間で「無能力化」するのは目に見ている。「裸の王様」となった金正恩に統治能力はもはやないに等しいが、問題はその時「彼の身に何が起こるのか」なのである。 万が一、金正恩が「命を落とす」といったケースが自然な形で起きてしまった場合、なし崩し的に北朝鮮における体制転換が生じ、これが韓国をも含む朝鮮半島全体の再編を促し、ついには周辺諸国をも含む、いわば「環日本海秩序」とでもいうべきものをリニューアルする流れが一気に始まる可能性がある。 国際社会のより上部に位置しながらその歩みの連続として「世界史」を動かしている「鵺(ぬえ)」は今、いよいよ決断し、動かし始めたと考えるべきだと私は分析している。 そして何よりも問題なのは、「加計問題」など国内問題に相も変わらず揺れている安倍政権が、果たしてこうした極めてハイレベルな国際社会の最上部における決断に対して、応分の貢献が主体的な形でできるか否かなのである。広い意味で言えば「2019年に主要20カ国・地域首脳会議(G20)の議長国をわが国にする」という決定は、そのための機会として与えられたものであることを私たちは忘れてはならないのだ。 そして、その先においてわが国が憲法でうたう「国際社会における名誉ある地位を占める」ことができるかどうかは、今この瞬間から始まっている「グレート・ゲーム(政治的駆け引き)」において、私たち日本人一人ひとりがいかなる自覚をもって、どのように動くのかにかかっているのである。そのことを決して忘れてはならない。

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    北朝鮮核実験、揺らぐ世界秩序

    北朝鮮が6度目の核実験を強行した。国営放送を通じた声明では「水爆実験の成功」を主張し、強硬姿勢を貫く米国を射程圏に入れた核ミサイル開発が最終段階にあることをアピールした。国際社会の反発を無視して暴挙を繰り返す北朝鮮。対話か圧力か、それとも軍事オプションか。揺らぐ世界秩序の今を読み解く。

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    トランプが金正恩「斬首作戦」を決断する準備は整った

    が報じた8月29日に行われた中距離弾道ミサイル発射訓練を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。 9月3日、北朝鮮が6回目の核実験を強行した。私はその前日に次のような情報を入手していた。 「金正恩が7月か8月に人民軍に『米国を最大限圧迫せよ。核実験もせよ。ミサイルももっと発射せよ。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も射て。SLBMを搭載できる大型潜水艦(原潜ではない。まだ原潜作る技術はない)を作れ。100発同時に撃てば米国も迎撃できない。米国を軍事的に徹底的に圧迫して交渉に引き出せ』と指示した。金正恩は、経済力では韓国に追いつくことはもはや不可能で、同じアジアの共産国であるベトナムにも追いつけないので米国と談判するしかないと考えている。北朝鮮を核保有国と認めさせ、平和協定を結び米軍を撤退させることを目指している」 その情報を聞いた翌日に核実験があった。そして、韓国国防部によると近く大陸間弾道ミサイルの発射実験があるかもしれない。もしそれが現実化すればまさに情報通りのことが起きていることになる。 実は、私は5月に「4月下旬に1回核実験を準備した。100キロトンクラスのこれまでにない威力の実験で、小型化された核弾頭の実験だ。これに成功すれば弾頭の小型化は完成する。実験の数日前に中国に通報したところ、国境を封鎖すると脅されて金正恩の妹、金与正が中国は金正恩政権を倒そうとしているとアドバイスしたので金正恩は実験を延期した」という情報を得ていた。 TBSが5月12日、私が入手した情報とほぼ同じ内容を中国側での取材の結果として報じていた。 北朝鮮は4月18日、2日後の20日に核実験を行うと中国に対して通告していたことが外交筋への取材で分かりました。…通告を受けて北朝鮮と国境を接する中国東北部では、警察が核実験による揺れや被害に備え、徹夜の態勢を敷いたと言います。Q.(先月)19日の夜に待機するよう言われた? 「そういう指示はありました」(中国東北部の警察官)Q.北朝鮮が核実験をするからと? 「次の日になって聞きました」(中国東北部の警察官) 中国は通告があったことをアメリカに伝えるとともに、北朝鮮に対し、「核実験を強行すれば中朝国境を長期間にわたって封鎖する」と警告したということです。 「中国は『北朝鮮に核実験を自制するよう求めた』と伝えてきました。さらに『核実験を行った場合には独自制裁に乗り出す』と北朝鮮に通告したとも中国は伝えてきました」(ティラーソン米国務長官、先月27日) 核実験の通告についてはアメリカから日本にも伝えられ、警戒態勢が取られましたが、結局、20日に核実験は行われませんでした。 中国の言う封鎖の対象は陸の国境だけでなく海も含まれていて、食料や生活物資なども含む中国から北朝鮮への物流が全て止まる。最後の賭けだった核実験演説する中国の習近平国家主席=9月3日、中国福建省(共同) 今回の実験の威力は日本防衛省の推計で70キロトンだというから、5月に私が入手した情報と符合する。中国は石油禁輸や国境封鎖など超強硬措置をとるだろう。北朝鮮経済は中国の影響下にある。生活物資の大部分が中国製品だ。それが全面的に遮断されれば餓死者が大量発生することもありうる。また、北朝鮮軍人の軍服、軍靴などもみな中国製だ。中国が国境を封鎖すれば軍も維持が困難になる。なによりも北朝鮮で使われている石油の大部分が中国から輸入したものだ。一部ロシア産もあるが、国連安保理で禁輸が決議されればすべて止まる。それを分かっていながら金正恩は最後の賭けとして核実験を強行した。 9月2日、東京新聞の北京特派員、城内康伸氏が書いた記事は、金正恩が石油禁輸制裁実施を織り込み済みで、それに備えて100万トンの石油備蓄を命じていたことを伝えた。 北朝鮮が今年4月ごろ、原油や石油製品の年間輸入量の半分から3分の2に相当する石油100万トンを備蓄する目標を、金正恩(朝鮮労働党委員長がトップを務める国務委員会で決定した、と北朝鮮関係者が明らかにした。核やミサイル開発に対する国際社会の制裁強化で、石油禁輸や輸入制限が拡大する事態に備えたとみられる。 この関係者によると、政府機関の閣僚専用車など公用車に対し、一カ月当たりのガソリン供給量が制限されているという。関係者は「幹部級の公用車が通勤に使うだけで精いっぱいの状況も起きている」と指摘。不足分は民間業者から調達するという。首都・平壌では4月、給油所の営業停止が突然広がり、深刻なガソリン不足が発生し、価格が急騰。価格上昇はいったん沈静化したが、別の北朝鮮消息筋によると、最近は再び値上がりしているとされ、北朝鮮当局が市場への供給を制限している可能性がある。金正日だったら訪中していた金正恩朝鮮労働党委員長 金正恩は焦っている。彼が優秀な戦略家だと評する向きもいるが、私はそうは思わない。金正日が生きていれば、トランプに軍事挑発をかける前に訪中して中国共産党と表面上の和解をするだろう。金正日は死ぬ直前の2010年から11年にかけて3回も訪中して後継体制への支援を懇願している。米国と中国の両方を敵に回す外交は戦略家がすることではない。 彼の足元も不安定だ。韓国情報関係者によると、労働党中央の幹部や国家保衛省の幹部が頻繁に連絡してきて、自分が韓国に亡命した場合の待遇について真剣に質問するという。夏の水不足のためこの秋を米とトウモロコシの収穫はかなり悪いと予想され、来年春には餓死者が出るのではないかという声が北朝鮮内部から聞こえてくる。 核ミサイル開発と独裁体制維持に必要な外貨を管理している労働党39号室の秘密資金が相当枯渇している。7月の国連制裁で鉱物資源と水産物の輸出が禁止されたため、年間10億ドル程度外貨収入が減少する。このままでは外貨不足により独裁統治が揺らぐかもしれない。そこまで追い詰められたので、金正恩が大陸間弾道ミサイル(ICBM)と核実験という持ち札を全部切って、トランプとの談判を持とうとしてきたと私は見ている。 トランプ大統領は米国本土まで届く核ミサイルを持たせた大統領として歴史に名を残すことは絶対に避けたいはずだ。徹底した対北経済封鎖、それに同調しない中国とロシア企業には2次制裁で国際金融秩序から追放する措置を取るだろう。それでも金正恩は核ミサイルを放棄しないだろうから、軍事行動、すなわち金正恩を除去する「斬首作戦」の準備を進めるはずだ。 米国の軍事圧力は戦争直前まで高まるだろう。金正恩は自分の命を守るため、対米譲歩をする可能性が高い。わが国は米国に対して経済制裁、軍事攻撃準備に全面的に協力しつつ、金正恩が命乞いをしてきたとき、核ミサイル放棄だけでなくすべての拉致被害者の帰国なしには対北圧力を緩めてはならないと全力で働きかけるべきだ。金正恩からすれば核ミサイルは国家戦略問題だが、拉致問題は戦術問題だから、2002年9月のように米国の軍事圧力を交わすために日本のカードを使うこともあり得る。 日本は米国と足並みをそろえて対北圧迫に全力を尽くしながら、最後の交渉で拉致被害者全員帰国を対北要求のデッドラインとして死守しなければならない。いよいよ正念場だ。

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    北朝鮮情勢、カギは日本の核武装を許さない中国の「レッドライン」

    重村智計(早稲田大名誉教授) 北朝鮮は、核弾頭と米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)が完成するまで、核とミサイル実験を止めない。3日の「水爆実験成功」発表はその意思表示だ。米国のトランプ大統領は、軍事攻撃か核容認かの選択を迫られる。核の兵器化事業を指導する金正恩朝鮮労働党委員長。日時は不明。朝鮮中央通信が9月3日報じた(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 日本の専門家は「米韓軍事演習が契機」(日経)「米の軍事行動ないと判断」(読売)「安保理制裁路線は限界」(毎日)「レッドライン探っている」(朝日)などのコメントを寄せた。これらの分析はやや的外れではないかと私には思える。判断の根拠や証拠を示さず、主観的な感想だけで取材と確認の痕跡もない。 対話を求める多くの論者は、北朝鮮が核開発を中止する気は全くないこれまでの経過を忘れている。軍事的圧力を強めようが外交的圧力を強めようが、最終的には交渉しなければ解決しない事実を知らないのだろうか。北朝鮮の指導者は、米国に届く核とミサイルの完成なしには体制も自身も崩壊するとの強い「信念」を持っている、との認識も欠いている。 「水爆実験」後の中国とロシアの対応はこれまでとかなり異なる。「潮目が変わった」ように見える。中国政府は「断固とした反対と強烈な非難を表明」した。過去にない強烈な不快感をにじませた。 ロシアのプーチン大統領は新興5カ国(BRICS)首脳会議出席のために中国に滞在していたが、安倍晋三首相との電話会談に応じた。習近平国家主席を差し置いて、他国での日露首脳会談は中国には失礼な行動である。2人は「強力な対応」で同意した。強力な対応とは、北朝鮮への石油禁輸である。 一方で、中露首脳は共同で「対話による解決」を強調した。それでも「何がなんでも対話優先」の北朝鮮擁護の意向は弱く、「軍事攻撃しなければ米国に協力する」とのニュアンスに変わっている。中国もロシアもややサジを投げた格好だ。 国連安全保障理事会や日米韓三国は、北朝鮮への経済制裁を実施してきた。ぜいたく品の輸出禁止や、高官や企業への制裁を実行したが、北朝鮮が本当に困る制裁ではなかった。企業名と個人名を変更すれば制裁逃れができたように、抜け道がいくらでも可能だったからだ。北朝鮮の「最も嫌がる作戦」 日露戦争の名参謀、秋山真之は外交や軍事戦略の極意について「相手が最も嫌がる作戦の実行だ」と述べた。北朝鮮が最も嫌がる対応は、石油の全面禁輸と米国の軍事攻撃である。北朝鮮は石油が一滴も出ない。しかも、年間の石油の確保量は世界最低である。軍用石油の保有も世界最低だ。北朝鮮は昨年約27万4千トンの石油製品を中国から輸入した(読売新聞、9月4日朝刊)。中国はひそかに、通関統計には公表されない原油を数十万トン供給していると報じられる。中国以外では、ロシアや中東、東南アジアから数万トン規模の石油を輸入している。 それでも、軍事用に使用できる石油は最大で50万トン程度しかない。自衛隊の約3分の1だ。石油製品と原油が全面ストップすると北朝鮮は軍隊を維持できない。通常兵器による戦争と戦闘は不可能になる。中国は、この状況を十分に理解していたから北朝鮮に毎年50万トンの原油を送り続けた。だが、この原油から軍事用の石油製品は最大でも20万トンしか生産できない。中国は重質分が多く質の悪い原油しか供給しなかったからである。北朝鮮に輸出する原油を積んだ貨物列車=4月、中国遼寧省丹東市(共同) 歴史の教訓に学ぶなら、北朝鮮は明らかに崩壊の道に突き進んでいる。歴史の流れに逆行する国家はやがて滅びるからだ。旧ソ連は、市場経済を拒否し核大国として人権と自由を抑圧し、崩壊した。北朝鮮は、中国とロシアの黙認を背景に核開発を継続できた。しかし、中露が許せる「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えれば、黙認も終わる。 中国はなぜ北朝鮮への石油禁輸に反対したのか。石油を全面禁輸すれば北朝鮮の軍隊は崩壊する。戦車は動かないし、戦闘機も飛べない。軍の崩壊はすなわち北朝鮮の体制崩壊を意味する。それは望んでいないから、石油禁輸に反対してきたわけである。だが、米国に届く核弾頭とミサイルが完成すれば、トランプ大統領は北朝鮮を軍事攻撃するかもしれない。そうなれば、北朝鮮が崩壊し朝鮮半島は統一され、中国の東アジアへの影響力は失われる。 軍事攻撃がなければ、北朝鮮の核保有は既成事実となる。次に起きるのは日本や韓国、台湾、ベトナムなどの核開発だ。米国が容認するかもしれない。むろん、中国にとっては最大の悪夢である。米中の「レッドライン」はこれだ とすると、中国にとってのレッドラインは、北朝鮮が米国に届く核ミサイルを完成する直前になる。これは、トランプ政権とも共有できるレッドラインだ。あるいは、米国が日本や韓国の核武装を認める時期がレッドラインになる。 安倍首相とトランプ大統領は、国連安保理で「対北石油全面禁輸」の制裁決議を採択させようとしている。中国とロシアは簡単には賛成しないかもしれない。その場合にはどうするのか。米ロ首脳とそれぞれ電話会談後、取材に応じる安倍首相=9月3日深夜、首相公邸 選択肢は、①北朝鮮への石油タンカーの全面入港禁止②中露以外の国の石油輸出禁止③中露は核実験とミサイル実験のたびに石油供給を減らす④世界の船舶の北朝鮮入港禁止⑤北朝鮮との貿易の全面禁止⑥北朝鮮の国連傘下機関からの除名⑦北朝鮮の国連加盟資格停止⑧国連からの除名-など本格的な制裁はなお多く残されている。 米国の軍事行動も、小規模なものから大規模なものまで、多くのオプションがある。そのオプションが既に提出されているとトランプ大統領は明らかにした。 軍事オプションは、①中朝石油パイプラインの破壊②北朝鮮に向かう全タンカーの海上での阻止-などの小規模行動から、③核実験場破壊④ミサイル発射台破壊⑤核施設破壊-などの限定攻撃まで、数百もの細かい攻撃目標がリストアップされる。米国は、北朝鮮が韓国に報復攻撃しにくい口実と攻撃目標を設定するはずだ。軍事オプションには、在韓米軍兵士の家族や米民間人の韓国からの退去が不可欠だ。報復攻撃による米国民の犠牲を恐れるからだ。それがない限り、北朝鮮の核とミサイルの実験は続く。

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    北朝鮮危機で漁夫の利を狙うロシアはどう動くか

    小泉悠(軍事アナリスト、未来工学研究所特別研究員) 9月3日、北朝鮮は6回目の核実験に踏み切った。わが国の防衛省によるとその爆発威力は70キロトン(工業用のTNT火薬7万トン分)と推定されており、過去5回の核実験に比べて格段に威力が大きい。北朝鮮自身はこれを水爆実験であると称しているが、実際にその可能性が排除できなくなってきた。 このような中で、北朝鮮の隣国であり友好国でもあるロシア側の立場とはいかなるものであろうか。本稿ではこの点について考えてみたい。 北朝鮮に対するロシアの立場は、原則的には中国と似たものである。すなわち、北朝鮮で体制崩壊が発生し、米国の同盟国である韓国の主導で朝鮮半島が統一される事態は緩衝地帯維持の立場から阻止しなければならない。したがって、両国は北朝鮮に対する米国の強硬姿勢を牽制(けんせい)する姿勢を度々見せてきた。その一方、北朝鮮が長距離弾道ミサイルと核兵器によって核保有国となることは、東アジアにおける米国の軍事プレゼンスを一層確固たるものとし、自国周辺にミサイル防衛システムが配備される事態を招く。この意味では、中露にとって望ましい状況とは、核を持たない北朝鮮の体制が存続することであるといえよう。 ただ、そこには温度差も存在してきた。ロシアにしてみれば北朝鮮は政治経済中枢である欧州部から数千キロも離れた場所にあり、陸上国境は22キロを接しているにすぎない。東北部で1400キロもの国境を接する中国とは、北朝鮮問題に関する切迫性は全く異なる。経済的に見ても、北朝鮮との深いつながりを有する中国とは異なり、北朝鮮の貿易総額に占めるロシアのシェアは3%にすぎない。ただし、中国から北朝鮮に輸出されている原油の一部はロシア産ともいわれ、こうしたシャドー経済を含めると実際の経済的利害関係はもう少し大きい可能性がある。BRICS首脳会議で、記念写真に納まるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=4日、中国福建省アモイ市(共同) 軍事的には、ロシアはバイカル湖よりも東には大陸間弾道ミサイル(ICBM)部隊を配備しておらず、オホーツク海から発射される潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も北回りのコースを取ることから、東アジアにおいて米軍のミサイル防衛システムが増加してもロシアの核抑止力が直ちに脅かされることはない。ロシアがさらに「北寄り」になったワケ それゆえに、北朝鮮問題に関するロシアの立場は米中の陰に隠れることが多く、「忘れられたプレーヤー」とまで言われてきた。 しかし、ロシアの態度は常に不変というわけでもない。例えば、北朝鮮が2006年に初の核実験を行った際、ロシアはこれを厳しく非難し、北朝鮮に対する武器禁輸措置に踏み切った。また、日本が米国とともに進めているミサイル防衛システムの開発についても、北朝鮮のミサイル脅威を考えればある程度は仕方ないとして、欧州へのミサイル防衛システム配備とはやや異なるトーンで接してきたことも注目される。 これに対して昨今の朝鮮半島を巡る軍事的危機に際しては、ロシアは以前よりも北朝鮮寄りの立場を示している。例えば、今年7月に北朝鮮がICBM「火星14号」を2回連続で発射した際には、同ミサイルが2800キロ(1回目)および3700キロ(2回目)という超高高度に達したことから、実際の最大射程は6700~1万キロ程度に達するであろうと周辺諸国は推測した。これに対して、ロシアは自国の弾道ミサイル防衛システムの観測結果としてこれよりもずっと低い数値を発表し、北朝鮮のミサイルはICBMではないと主張。この「結果」と称するものを国連代表部に配布させ、北朝鮮非難のプレス向け決議の発出を阻止するという挙に出た。8月17日、ロシア・ウラジオストク港に入港する北朝鮮の貨客船「万景峰」(共同) また、ロシアは2013年ごろから日米のミサイル防衛協力にも懐疑的な姿勢を示すようになり、2015年版「国家安全保障戦略」では欧州だけでなくアジア太平洋のミサイル防衛を戦略的安定性の既存要因に初めて含めた。最近ではプーチン大統領が北方領土における軍事力強化を、朝鮮半島における米の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)への対抗措置と位置付けたり、ロシア外務省が日本の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」導入を非難するなど、かつてとは大きく態度を変えてきている。 このようなロシアの姿勢変化は、主に次のような要因によって説明されよう。 第1に、ウクライナ危機などをめぐって対米関係が極度に悪化した結果、ロシアは世界の各地で米国の対外政策を妨害しようと試みるようになった。第2に、北朝鮮の核・ミサイル能力の向上によってこれまでは比較的ローカルな問題であった北朝鮮問題がグローバル化し、ここにおいてロシアの存在感を示すことへの誘因が強まった。そして第3に、西側との関係が悪化することでロシアの対外政策における中国の比重が高まり、中国と安全保障上の歩調を合わせること(あるいはそのように振る舞うこと)の必要性が高まった。特に今年春ごろの時点では、米国のトランプ政権が米中接近によって北朝鮮問題の解決を図ったこともあってロシアが置き去りにされる懸念を抱いていた節もあり、対中協調が一層必要とされたのだと思われる。ロシアは「機会主義的プレーヤー」 総じて言えば、ロシアの抱えるグローバルな問題と北朝鮮問題のグローバル化が相互に共振した結果が現在の状況につながっているといえよう。そして、これを少し違った言い方で表現するならば、ロシアは朝鮮半島問題に死活的な利害関係を有しているわけではなく、北朝鮮に決定的な影響力を及ぼせるプレーヤーでもない、ということになる。どちらかといえば、朝鮮半島問題の緊迫化を利用して自国の利益を最大化すべく機会主義的に振る舞っているとみた方がよいだろう。8月5日、国連安全保障理事会で北朝鮮に対する新たな制裁決議を採択後、握手するロシアのネベンジャ国連大使(右)と米国のヘイリー国連大使=米ニューヨーク(共同) では、このような背景の下で、ロシアは今後、どのような態度に出てくるだろうか。中国と同様、ロシアとしても北朝鮮の核保有を容認したわけではなく、今年8月には中露を含めた国連安全保障委員会の全会一致で北朝鮮に対する制裁強化が決定されている。その一方、中露は北朝鮮のミサイル実験凍結と引き換えに米韓軍事演習も行わないとの「ダブル凍結」提案を行っているほか、ロシアは北朝鮮の核・ミサイル実験を非難しつつも制裁や軍事的圧力では北朝鮮を止めることはできないとの姿勢も打ち出している。当面、ロシアはやや北朝鮮寄りに修正した従来の姿勢を維持する可能性が高いといえよう。 気になるのは、ここにきて米国でにわかに盛り上がっている北朝鮮の核容認論をロシアがどう取り扱うかであるが、おそらくここでもロシアの姿勢は現在の延長線上にとどまるだろう。例えば、北朝鮮の核や長距離ミサイルを破棄ではなく凍結させる代わりに、東アジアにおける米軍のプレゼンス縮小やミサイル防衛システム配備の撤回など、北朝鮮の体制保証の名目でロシアに有利な取引条件を提案してくることが考えられる。 つまり、朝鮮半島問題に関するロシアの利害や影響力が極端に増加する見込みが小さい以上、今後ともロシアは「機会主義的プレーヤー」としての存在にとどまるだろう。ただ、機会主義的であるなりにロシアの存在感が高まっていることもまた事実であり、日米としてこの古くて新しいプレーヤーを北朝鮮問題にどう組み込むかを再考することが求められよう。

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    北ミサイル発射 それでも日米が「断固抗議」で済ませる理由

    北朝鮮の中距離弾道ミサイルが北海道上空を通過し、太平洋上に落下。産経新聞は号外を発行し配布した=8月29日、東京都千代田区(納冨康撮影) 北朝鮮が8月29日午前5時58分頃、太平洋に向けて弾道ミサイル1発を発射した。弾道ミサイルは日本上空を通過して2700kmを飛行、北海道襟裳岬の東方約1180kmに落下した。北朝鮮のミサイルが日本列島を飛び越えたのは、南西諸島を除き、2009年4月に人工衛星打ち上げと称して長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の改良型を発射して以来である。 もはや“挑発行為”では済まされない北朝鮮の度重なるミサイル発射──。それでも米国は軍事行動を起こさず対話路線を重視するのか。そして、いつミサイルが着弾するか分からない日本は、いつまで米国追従を続けるのか。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏が緊急レポートする。* * * 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む長距離ミサイルを開発する理由は、北朝鮮が米国の脅威を感じているからだ。このため、北朝鮮の外交の主軸は米国となっている。 日本や韓国は米国に追従するだけであるため、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」で日本や韓国を非難はしても、あまり重視していない。北朝鮮が最も警戒しているのは、日本と韓国に駐留する米軍とグアムや米国本土から増援される部隊であり、自衛隊や韓国軍は二の次となる。 北朝鮮の対米外交の最終目標は、米国との平和協定の締結にある。つまり、1953年の朝鮮戦争の「休戦」を「終戦」に持ち込むのだ。「終戦」となり平和協定が締結されれば、北朝鮮の“独裁政権”を米国が事実上容認したことになり政権は今後も維持される。 しかし、その前に米国の脅威となるICBMや核兵器をどうするのか、という大きな問題がある。この問題が解決されないかぎり、朝鮮戦争は「終戦」にはできない。そこで登場するのが、弾道ミサイルを使っての「脅し」なのである。脅しで米朝対話を要求 国連の安全保障理事会は8月5日、北朝鮮が7月に実施した2回のICBM発射を受けて、新たな制裁決議を全会一致で採択した。しかし、今回の弾道ミサイル発射は、あえて太平洋に向けて発射することにより、国連安保理決議を無視し、さらに経済制裁をも無視する余裕があることを改めて強調したものといえる。 太平洋への発射は、最近の日本海へ落下させる実験よりも米国を強く刺激することができる。太平洋に落下させた意図には、ミサイルの開発が着々と進んでいることを米国にアピールする狙いもあったのだろう。外交カードとしての核 これまでの米朝関係を振り返ると、北朝鮮が強硬姿勢に出る時は、米朝直接対話を要求するときであった。この手法は「瀬戸際政策」とも呼ばれている。「瀬戸際政策」は北朝鮮が1993年にNPT(核拡散防止条約)からの脱退を表明したところから始まる。いまや使い古された手法だが、結果的に米国の譲歩を勝ち取り、経済支援を受けるなどの勝利を収めてきたことは事実だ。北朝鮮が米領グアム沖に弾道ミサイルの発射を検討中と表明したことに対応するドナルド・トランプ米大統領=8月10日、米ニュージャージー州(AP=共同) 今回の弾道ミサイル発射も核実験とともに対話の実現を目指したものであろう。つまり、米国を対話のテーブルに着かせるためのカードというわけである。「圧力」しかかけられない米国 北朝鮮に軍事攻撃を加えようにも、現在の米国はイラクやシリア、アフガニスタンでの戦争で手一杯である。2018会計年度で戦費として約7兆1000億円を計上しているほどだ。 このような状態で北朝鮮との「二正面戦争」を遂行することは不可能に近く、トランプ大統領としては現に戦闘が行われている地域を重視せざるを得ないため、たまに強硬な発言をしていても、北朝鮮だけに対応する余裕はない。このため北朝鮮は「後回し」となるだろう。 北朝鮮はこうした米国の苦しい事情を見透かしている。いまが米国に対する圧力のかけどころだと判断したのかもしれない。 今後、弾道ミサイルの発射が続き、たとえ北朝鮮に対する警告の意味であっても、米国が北朝鮮近海や核関連施設などへミサイルを発射することは現実的ではない。北朝鮮が反撃する可能性がゼロではないためだ。戦争はタダではできない トランプ大統領が愛用しているツイッターでの「言葉の攻撃」にかかる費用はタダ同然なのだが、現実的な問題として、米国は世界最大の債務国であり国家予算は国債に依存しているため、北朝鮮に武力行使するための費用、すなわち戦費をどのように確保するのかという問題がある。 米国防総省が今年5月23日に発表した2018会計年度の国防予算案は、本予算約5745億ドル(約64兆2千億円)にイラクやシリア、アフガニスタンなどでの戦費約646億ドル(約7兆1000億円)を加えた約6391億ドルとなっている。(日本の2017年度の一般会計予算は97兆4547億円、防衛費は5兆1251億円)戦争が国庫を食いつぶす 戦費の負担は景気にも影響する。2010年9月、オバマ米大統領が米軍のイラクでの戦闘任務の終結を宣言したが、7年5か月に及ぶ戦いにより、7000億ドル(約77兆円)にのぼる戦費が米国経済への重荷となり、リーマン・ショックの伏線となった。国連総会の一般討論で演説するオバマ米大統領=2016年9月20日、米ニューヨーク(ロイター=共同) 戦争により軍需産業が潤うなどの経済効果はあるが、返す当てのない大量の国債の発行が長期的に経済に与える影響は少なくない。 北朝鮮への武力行使に必要となる戦費は、クリントン政権が北朝鮮攻撃を検討した際の推計が1000億ドル(現在のレートで約11兆円)であった。攻撃を検討した1994年当時とは違い、巡航ミサイルや誘導爆弾が大量に使用されることになるため、大規模な地上戦が行われることはないだろうが、高価な兵器を大量に使用することになるため高額な戦費になるのは間違いない。 北朝鮮軍が相手なら、米軍が現在保有している兵器の「在庫処分」で済むという見方もあるが、それは一時的なものであり、後々「在庫処分」した分の穴埋めをするために新たに兵器を購入しなければいけない。日本に着弾した場合 今回のミサイルは日本列島を飛び越えたが、もし、日本へ着弾したらどうなるのだろうか。安倍晋三首相は8月29日、「北朝鮮のミサイル発射直後から動きを完全に把握していた。万全な対策を取ってきた」「これまでにない深刻かつ重大な脅威。(北朝鮮に)断固たる抗議を行った」と述べている。 弾道ミサイルが発射されるたびに繰り返される、何の実効性もない「断固たる抗議」はともかく、「万全な対策」とはどのような対策なのだろうか。 おそらく、人工衛星を使って防災無線から地方自治体に瞬時に伝達する「Jアラート」と、内閣官房から緊急情報が流れる「Em-Net(エムネット)」が正常に作動し、自治体での被害状況の確認が円滑に行われたことを指しているのだろう。 今回は何の被害もなかったが、もし弾頭が着弾した場合はどう対応するのだろうか。日本への着弾が予想される場合は、自衛隊法に基づく破壊措置を実施することになるが、その後の自衛隊の対応に問題が残る。つまり、「防衛出動」や「防衛出動待機命令」を発するかどうかである。 防衛出動には国会の承認が求められるため、よほどの事態に発展しないかぎり、野党が反対することは目に見えている。本当の「宣戦布告」か?あいまいな「宣戦布告」 北朝鮮が事前に「宣戦布告」した後の攻撃なら別だが、北朝鮮は米国を非難する際に「宣戦布告」という表現をこれまで乱発してきたため、本当の「宣戦布告」なのか北朝鮮側に確認する必要がある。 もちろん、複数の弾道ミサイルが日本列島に着弾した場合は、事実上の「宣戦布告」となる。しかし、1発だった場合は「発射実験の失敗」の可能性を排除することが出来ないため、本当の攻撃なのかどうかを確認するという滑稽な形を取ることになる。 戦争は、ある日突然起きるわけではない。対話が行き詰まるなど何らかの前兆がある。現在の北朝鮮情勢の緊迫度は、米朝関係の歴史を振り返るとそれほど高いものではない。しかし、複数の弾道ミサイルが日本に着弾するという事態になってしまった場合、米軍はどのように動くのだろうか。 米国に対して「宣戦布告」が明確に行われれば、米軍は北朝鮮攻撃へと動くだろうが、北朝鮮は「宣戦布告」する前に大規模な奇襲攻撃を仕掛けるだろう。 とはいえ、弾道ミサイルで奇襲を仕掛けるにしても、1990年代に製造された日本を攻撃する「ノドン」や、もっと前に製造された韓国を攻撃する「スカッド」は老朽化をはじめており、正常に飛ぶのかどうかも怪しい。 最新の弾道ミサイル以外は老朽化した兵器しか持たない北朝鮮軍には、いまも昔も大規模な奇襲攻撃しか勝ち目がない。あとは特殊部隊を用いた破壊工作に頼るほかない。 北朝鮮は、米国本土まで届くICBMを配備したとしても、米国、日本、韓国に戦争を仕掛けることはないと筆者は考えている。戦争を行なうとなれば、少なくとも在日米軍と在韓米軍の北朝鮮に対する攻撃手段を短時間で全て破壊するだけでなく、グアムや米国本土の航空基地も破壊しなければならないからだ。 北朝鮮の弾道ミサイル発射と核実験はセットで行われる傾向があるため、6回目の核実験もまもなく行われるだろうが、日本が行えることは「断固たる抗議」と効果が疑問な経済制裁しかない。 このような事を繰り返しているうちに、今回のように日本列島を弾道ミサイルが飛び越えるという事態になってしまった。敵基地攻撃能力の保有に本格的に着手すれば、野党などから猛反発を受けるだろうが、そろそろ実効性のある対応策を検討すべきではなかろうか。関連記事■ 使える時間は4分のみ 現実に見えた「Jアラートの実力」■ 「日本の刑務所すら夢のような世界」北朝鮮の難民リスクは■ 金正恩が核兵器と弾道ミサイルの開発を止めることはない理由■ 北朝鮮のミサイルの脅威から日本は自国を守れるか?■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖

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    金正恩が核兵器と弾道ミサイルの開発を止めることはない理由

     北朝鮮がグアム島周辺に弾道ミサイルの発射を計画していることで、アメリカと一触即発の緊迫状態が続いている。グアム当局は核兵器による攻撃も想定した緊急ガイドラインを発表するなど、いまや北朝鮮の核保有は現実的な脅威として受け止められている。 北朝鮮の核開発の進捗状況や威力、日本への影響などどれほど深刻なのか。『北朝鮮恐るべき特殊機関』などの著書がある朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏がレポートする。* * * 韓国国防省は7月5日、北朝鮮北東部の豊渓里(プンゲリ)の核実験場の状況について、「2番、3番坑道はいつでも核実験が可能な状態を維持している」「爆発力を拡大させた核実験で、核弾頭の能力を試す可能性がある」と明らかにしている。 北朝鮮は昨年の9月9日の建国記念日に5回目の核実験を実施していることから、今年の建国記念日に6回目の核実験を行う可能性もある。 北朝鮮は核実験の回数を重ねるたびに核爆発の威力を高めてきた。2006年10月の初回は1キロトン未満と推定されたが、2016年9月の5回目は広島や長崎に投下された原爆と同程度の最大20キロトンと推定されている。 米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」は2017年3月10日、核実験場で坑道の掘削が続いており、地形などから昨年9月に実施された5回目の10倍以上の威力を持つ核実験も可能で、6回目の核実験を行う場合、最大282キロトン規模になる可能性があるとの分析を発表している。北朝鮮の核実験の危険性 北朝鮮はこれまで全ての地下核実験を豊渓里(プンゲリ)で行っているが、このような狭い地域における地下核実験には大きな危険が伴う。地下核実験では実験の規模にもよるが、通常、地下核実験では一辺が50~60kmの砂漠で行われる。その理由は、核爆発によって破壊された地下水脈を通じて放射能が拡散することを防ぐためだ。 米国はネバダ砂漠、中国はタクラマカン砂漠、インドはタール砂漠、パキスタンはシン砂漠、旧ソ連は砂漠がないため広大な平原で地下核実験を行っている。ネバダ砂漠の核実験場は日本の鳥取県全域に相当し、旧ソ連・カザフスタンのセミパラチンスク核実験場の面積は四国とほぼ同じである。つまり地下核実験は砂漠などの広大な場所が必要になるのだ。核実験場が確保できない そのため、北朝鮮は過去に、金日成政権が旧ソ連・ブレジネフ時代(1964~1982年)の末期に旧ソ連共産党指導部に対し「核兵器を開発したあかつきには、その実験場としてソ連の地下核実験場を使用させてほしい」と非公式に要請したことがある。(「産経新聞」1993年3月20日)北朝鮮の特別調査委員会の庁舎玄関に掲げられた、金日成主席と金正日総書記を描いた絵画=2014年10月29日(桜井紀雄撮影) 金日成政権がブレジネフ政権に場所借りの要請をした時期は、1970年代末から1980年代初めで、希望した実験場はセミパラチンスクの可能性がある。 ブレジネフ政権が当時、北朝鮮の核実験場使用の申し入れにどう対応したかは明らかになっていない。しかし、このような北朝鮮の動きは、北朝鮮には核実験に適した場所がないことを北朝鮮(金日成)が認識していたことを示している。 豊渓里周辺は岩盤となっているため安全という見解があるが、度重なる実験により岩盤に亀裂ができている可能性もある。朝鮮半島は豊かな地下水脈が流れており、最終的に少量の放射性物質が日本海へ流出しないという保証はどこにもない。地下核実験でも起きる放射能汚染 北朝鮮が過去5回行った地下核実験では、放射能漏れは起きていないようだ。 大気圏に放射性物質が放出された場合は、日本海を飛行する米空軍のWC-135大気収集機と、集塵ポッドを搭載した航空自衛隊のT-4 練習機で放射性粒子を収集することができる。この結果、これまでは放射性物質は観測されていない。 だが、1960年代に遡ると、米国、旧ソ連、中国、フランスは地下核実験で放射能漏れを起こしており、同様の事態が北朝鮮で起こらないとはいえない。 米国は1960年代に行った地下核実験で放射能漏れを何度も起こしている。放出された放射能の規模は大気圏内実験並みであったという。その後、放射能の封じ込めの技術の進歩により、放射能漏れはほぼなくなった。 旧ソ連は1965年に行ったセミパラチンスクでの地下核実験で、爆発によって山が吹き飛ばされ、その時の「死の灰」は風下のセミパラチンスク市に大量に降り注いだだけでなく、微量ではあるが5日後に日本でも検出された。日本への影響も核実験によるウイグル人の被害の実態調査を訴えるイリハムさん=2012年 6月 22日、広島県庁(浜田英一郎撮影) 中国が新疆ウイグル自治区のロプノールで核実験を行った際には、実験に使われた山中のトンネルの一部が吹き飛ぶ事故が発生しており、大気圏に放射性物質が放出された。放射性物質を帯びた雲は4000km離れた日本上空に達したという。 フランスは1960年2月13日以降、当時フランス領だったアルジェリアのサハラ砂漠で核実験を実施しており、6年間で13回行われた地下核実験のうち12回の実験で放射性物質が大気圏に放出された。 北朝鮮の地下核実験における放射能の封じ込めの技術がどの程度なのか分からないが、実験を行うたびに規模が拡大していることから危険性は高まっているといっていいだろう。 北朝鮮は1回目の地下核実験の前に、実験場がある豊渓里周辺の住民に強制移住を命じている。この措置は地下核実験後、放射能が漏れる可能性に備えたものとみられるが、詳細は不明だ。日本への影響 北朝鮮が2016年1月6日の4度目の地下核実験に成功したと発表したのを受け、日本の原子力規制庁は全国約300か所のモニタリングポストの測定結果を公表し、いずれも放射線量に変化がなかったことを明らかにした。 しかし、放射能の封じ込めが不完全だった場合、日本には25~50時間後に影響が出る可能性があるという見解と、日本で健康へ影響を及ぼすことは考えにくいという見解がある。どちらの見解が正しいのか分からないが、最悪の場合、旧ソ連や中国のような山やトンネルが吹き飛ぶような深刻な事態が発生し、大量の放射性物質が放出されるかもしれない。1950年代から核開発を開始 北朝鮮は2005年に核保有を公式に宣言しているが、開発には半世紀以上の時間をかけている。 1950年代から旧ソ連の支援を受けて核開発を進めてきた。1956年に旧ソ連の核研究所の創設に加わる協定を結び、モスクワ郊外にあるドブナ合同原子核研究所をはじめとする東欧諸国で技術者を研修させ、核の専門家を養成するなど核関連技術の蓄積を始めた。なぜ核開発を続けるのか 採掘可能量が約400万トンの良質なウラン鉱山を持っている北朝鮮は、1959年に旧ソ連と原子力協力協定を締結し、1965年に旧ソ連から研究実験用原子炉1基(熱出力2000kW)を導入し、寧辺(ヨンビョン)に原子力研究所を設立し、同研究所を中心に原子力技術の研究開発を進めた。 1970年代に入ると、核燃料の精錬、変換、加工技術などを集中的に研究するなど、自国の技術で研究用原子炉の出力拡張に成功した。 1980年代には寧辺原子力研究所の敷地を拡張し、電気出力5MW級の黒鉛原子炉を建設し、1986年に稼動させた。また、出力50MW級黒鉛減速炉、核燃料製造工場及び核再処理工場等の核関連施設の建設を本格化させた。その後、米朝枠組み合意(1994年)で核開発凍結に合意するまでに、核兵器の原料となるプルトニウムの抽出に成功したとされる。 そして2006年、豊渓里での初の地下核実験を行い、世界で8か国目の実施国となった。北朝鮮・豊渓里にある核実験場と見られる建物、5月18日撮影(デジタルグローブ/38ノース提供・ゲッティ=共同)核兵器の開発を続ける理由 北朝鮮は長い歳月をかけて核開発を行ってきた。核兵器の開発は金正恩が暴走しているのではなく、米国の脅威を感じた金日成と金正日の「遺訓」を守ってきた結果ともいえる。 北朝鮮は米国と敵対している。その米国は広島と長崎に原爆を投下した。世界で唯一、核兵器を使用した国である。米国と敵対している国の指導者にとっては、核兵器を本当に使用してしまう米国を信用することは出来ないだろう。 もっとも、米国は北朝鮮に対して核兵器の使用を検討したことがある(1968年のプエブロ号事件など)。このため、金日成が米国の核兵器に脅威を感じたのも無理はない。金日成が経済の停滞や食糧不足にもかかわらず核兵器の開発を推し進めた目的と、中国の毛沢東が大量の餓死者を出しながらも核兵器の開発を推し進めた目的には共通点がある。 したがって、北朝鮮は米国の軍事的脅威がなくなるまで、制裁が強化されようとも、核兵器の開発とそれを運搬する手段である弾道ミサイルの開発を止めることはない。むしろ、制裁が厳しくなればなるほど開発を急ぐだろう。関連記事■ 金日成の健康法は少女からの輸血や少女との入浴など■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ 激太り目立つ金正恩に欧州から医師招く「特別医療体制」■ 中国 ウェブからプーさん遮断し「北朝鮮よりひどい」の声■ 金正男氏暗殺事件 北朝鮮に引き渡された遺体の行方

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    中国が切った「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米の失敗

    遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士) 北朝鮮が核実験を強行した。習近平は再び顔に泥を塗られた。それ以上に重要なのは、中国が切った「中朝軍事同盟」カードの重要性を、日米が読み切れなかったことだ。最後のチャンスを逃してしまった事実は大きい。習近平は再び顔に泥 5月14日付けのコラム「習近平の顔に泥!――北朝鮮ミサイル、どの国への挑戦なのか?」に書いたように、中国が建国以来最大のイベントと位置付けていた一帯一路(陸と海の新シルクロード)国際サミット初日の朝、北朝鮮は弾道ミサイルを発射して習近平国家主席の顔に泥を塗った。世界を中国に惹きつけるための晴れの舞台で開会の挨拶をする直前だった。 今回もまた、9月3日から習近平の政治業績地の一つ、福建省のアモイでBRICS(新興5ヵ国)会議を開催する、まさにそのタイミングに合わせて核実験をしたのである。又しても習近平が晴れの舞台として開会の挨拶を準備万端整えていた最中のことだ。 なぜ北朝鮮は必ず習近平の晴れの舞台を狙うのか? それは金正恩委員長が習近平を嫌い、「敵」と位置付けているからである。 習近平の方も朝鮮半島の非核化に逆行する金正恩の核・ミサイル開発に関する暴走を実に苦々しく思っている。二人はおそらく「世界で最も仲が悪い首脳」だろう。金正恩にとって最大の敵がアメリカなら、2番目の、あるいはそれと同等程度の敵は中国なのである。日米2プラス2会合を前に握手する(左から)小野寺防衛相、河野外相、米国のティラーソン国務長官とマティス国防長官=8月17日、ワシントン(ゲッティ=共同) その中国に北朝鮮を説得する力などないが、唯一、中国は強烈なカードを持っていた。 それは「中朝軍事同盟」というカードだ。中国が切っていた「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米 8月15日付のコラム「北の譲歩は中国の中朝軍事同盟に関する威嚇が原因」に書いたように、8月14日、金正恩は「アメリカの動向をしばらく見守る」と述べ、グアム沖への弾道ミサイル発射を一時見送る考えを示した。 その原因は8月10日に中国が北朝鮮に発した警告にある。 くり返しになるが8月10日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は社説として以下の警告を米朝両国に対して表明した。(1)北朝鮮に対する警告:もし北朝鮮がアメリカ領を先制攻撃し、アメリカが報復として北朝鮮を武力攻撃した場合、中国は中立を保つ。(筆者注:中朝軍事同盟は無視する。)(2)アメリカに対する警告:もしアメリカが米韓同盟の下、北朝鮮を先制攻撃すれば、中国は絶対にそれを阻止する。中国は決してその結果描かれる「政治的版図」を座視しない。(3)中国は朝鮮半島の核化には絶対に反対するが、しかし朝鮮半島で戦争が起きることにも同時に反対する。(米韓、朝)どちら側の武力的挑戦にも反対する。この立場において、中国はロシアとの協力を強化する。 この内の(1)と(3)は、北朝鮮にとっては存亡の危機に関わる脅威である。もし北朝鮮がグアムなどのアメリカ領を先制攻撃してアメリカから報復攻撃を受けた場合、中国は北朝鮮側に立たないということであり、その際、ロシアもまた中国と同じ立場を取るということを意味する。 北朝鮮にとって中国は世界で唯一の軍事同盟を結んでいる国なので、中国が「中朝軍事同盟を無視する」と宣言したとなれば、北朝鮮は孤立無援となる。北朝鮮の軍事力など「核とミサイルと暴走」以外は脆弱なものだ。韓国や日本には大きな犠牲を招くだろうが、アメリカと一国で戦えば全滅する。したがって14日、グアム沖合攻撃は延期(実際上放棄)することを表明した。 北朝鮮がミサイル発射を自制するなどという好機は二度とない。しかも核・ミサイル技術がここまで発展した今となっては絶好のチャンスだった。 だから習近平は8月17日、訪中した米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長と人民大会堂で会談した時に異例の厚遇でもてなした。それはアメリカに米韓合同軍事演習を「暫時」やめてほしかったからだ。 中国の主張は「双暫停」(米朝双方が暫定的に軍事的行動を停止する)。 この前提の下で北朝鮮が一時的にミサイル発射を見送ったのだから、アメリカも同様に8月21日から始まる米韓合同軍事演習を一時的に停止してほしかった。そうすれば話し合いのテーブルに着ける。 金正恩が言っていた「アメリカの動向をしばらく見守る」とは、この8月21日から始まる米韓合同軍事演習を指している。もし演習を行なえば、それ相応の報復を覚悟しておけという趣旨のことを金正恩は言っていた。 しかし8月17日にワシントンで開催された日米の「2+2」外交防衛会議後の共同記者会見で日米の外務防衛代表は日米韓の安保協力強化と北朝鮮に対する圧力をかけ続けることで一致したと述べ、その流れの中でダンフォードは「米韓合同軍事演習の実施は、いかなるレベルでも交渉対象になっていない」と述べたのである。 この時点で北朝鮮問題の動向は決まった。 一回だけ米韓合同軍事演習を中止することは出来なかったのか。その後の北朝鮮の爆発的な暴走と日本に与える脅威を考えたら、どちらが賢明な選択であったか、考えてみる必要があるだろう。圧力をかけることは北朝鮮に技術向上の時間的ゆとりを与えるに等しい 9月3日のNHK日曜討論で、「(8月14日に)北朝鮮がグアムへのミサイル発射を抑制したのはなぜだと思うか」という趣旨の質問に対して、河野外務大臣は(正確には記憶していないが)おおむね「おそらくアメリカが強く出たことを気にしたのではないか」という見方を示していて、少なくとも「中国が中朝軍事同盟を持ち出して北朝鮮を威嚇したから」という話は出なかった。 日本は、北朝鮮にとって唯一の軍事同盟国である中国が最後のカードを切ったことを認識していないし、またそれによって北朝鮮が一時、自己抑制的になったのだということも全く読めていない。 日米は高らかに「圧力をかけ続けることが肝要」と言うが、そうだろうか? これまで国連安保理決議による制裁をやり続け、米韓合同軍事演習もやり続けてきたが、北朝鮮は一向にひるんでいない。 ひるんだのは唯一、中国が中朝軍事同盟カードを切った時だけだった。それも、結局米韓合同軍事演習を始めてしまったので、北朝鮮は今後も上記(1)の条件に抵触しない範囲内で「北朝鮮が言うところの報復」に出るだけだろう。その間に北朝鮮が言うところの「訓練」を積み重ねていくだけだ。中国はもう動かないだろう 中国としては10月18日に党大会を控えているので、まず今は何も動かないだろう。来年3月5日に全人代(全国人民代表大会)が始まり、最終日の14日に選挙を行なって「国家主席」と「国務院総理」が選ばれる。その時から二期目の習近平政権に入るわけだが、それまでは大きな行動をしないだろうと推測される。 もちろん中国にはまだ石油の輸出を断つ「断油」というカードがあるが、一部の航空機燃料としての「断油」は早くからしているが、民間生活も含めた「断油」カードを単独で使うことはないものと思う。なぜなら北朝鮮のミサイルの矛先が北京に向くからだ。国連安保理による決議なら、一定程度は国連のせいにすることもできるが、単独では行なわない。アメリカの軍事行動 トランプ大統領の気まぐれツイートは一応無視することとして、マティス国防長官は「軍事行動を排除しない」と述べているようだ。 「排除しない」とか「すべての選択肢はテーブルの上に載っている」と言いながら、結局「犠牲があまりに大きすぎるから…」と言って実行しないのは、北朝鮮をこの上なく勇気づけるだけだ。「どうせ、できないんだ」と舐められてしまう。 言ったからには、そして本当にアメリカの軍事技術が高いなら、核・ミサイル施設のピンポイント攻撃や「斬首作戦」などを実行するしかないだろう。言っておきながら実行しないことほどまずいものはない。北朝鮮を利するばかりだ。休戦協定に違反しているのはアメリカと韓国 忘れてならないのは、アメリカと韓国が朝鮮戦争(1950年~53年)の休戦協定に違反した行動をとっているということだ。このまま続ければ第三次世界大戦になることを恐れたアメリカが休戦すべきと提案したのに、韓国の李承晩大統領が聞き入れず「休戦したくない。韓国一国でも戦いたい」と駄々をこねたので、アメリカはやむを得ず米韓相互防衛条約(米韓軍事同盟)を結んだ。休戦後3ヵ月以内に全ての他国の軍隊は朝鮮半島から撤退するという休戦協定に署名しながら、一方では米軍は永久に韓国から撤退しないという米韓軍事同盟にサインした(詳細は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』第3章「北朝鮮問題と中朝関係の真相」)。 スタートからダブルスタンダードを取ってきたツケが、いま日本を巻き込んだ関係国に襲い掛かっている。 それを正視せず、圧力を強化していくと宣言するアメリカに同調するばかりの日本。それによって日本国民を守れるのか。本当に日本国民の生命安全を優先していると言えるのだろうか? 政治経験の長い安倍首相は、政治経験のないトランプに、事実を正視し、知恵を絞るようアドバイスするくらいの関係でいてほしいと望む。(『Yahoo!ニュース個人』より2017年9月4日分を転載)

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    北朝鮮危機、日本経済のリスクはこうやれば回避できる

    金融政策が不透明化したことも大きい。今年に入り、世界経済の撹乱(かくらん)は一息ついていたが、最近の北朝鮮の核・ミサイル問題によって一気に不透明感を増している。 先月末の日本の領土上空を通過した北朝鮮のミサイル発射、そしてその後の核実験で、日本の株価は下落、そして為替レートは円高に振れた。円高は、企業の収益構造をふたつの経路から悪化させる。ひとつは、輸出にとって不利に作用する。また企業のバランスシートをみると資産にある外貨建て資産の価値を低下させ、他方で負債側にある円資産の価値を上昇させる。そのため企業のバランスシートが悪化して、設備投資や働く人たちへの報酬に悪影響を及ぼす。株価の低下ももちろん企業の資産価値を低下させることで同じ影響を及ぼすだろう。9月3日、ソウル駅で北朝鮮の核実験を報じるテレビ(共同) ただし、前回の連載でも書いたが、現時点ではまだ「北朝鮮リスク」が日本経済に破滅的な影響を及ぼすほどではない。現時点で株式、為替など資産市場の不安定化は、ある程度は予想の範囲内でもあり、しばらくすればリスク発生前の水準に戻る可能性が大きい。ただしこれはあくまで楽観的な予測であり、実際には「北朝鮮リスク」がどうなるか、中長期的にみていく必要がある。 この原稿を書いている段階でも、韓国国防省は北朝鮮がさらなるミサイル発射を準備していると、韓国の国会で報告している。実際にミサイル発射が繰り返され、半島情勢が危機感を深めていけば、「北朝鮮リスク」による経済危機の可能性も高まっていく。アベノミクスの財政政策は緊縮そのもの 「北朝鮮リスク」そのものは、もちろん北朝鮮の軍事的意図をその根源にして発生しているものだ。つまり「北朝鮮リスク」を抑制ないし、払拭(ふっしょく)するには、外交的・軍事的なカードしかない。 日本が経済面でできる「北朝鮮リスク」への備えはなんだろうか。それは冒頭にも書いたが、金融政策と財政政策を経済刺激に向けてて協調させることに尽きる。だが、現状では、財政政策が事実上の緊縮スタンスのままで、この協調を破綻させてしまうだろう。それは「北朝鮮リスク」に対して日本経済を脆弱(ぜいじゃく)なものにしかねない。 財政政策の緊縮スタンスは深刻である。アベノミクス初年度である2013年度だけ、予算規模(補正含む)が約106兆円であった。2014年が101兆円、2015年が100兆円を下回り、2016年は約100兆円で推移した。初年度だけ拡大で、あとは一貫して抑制気味なのは明らかである。そして、2017年度は当初予算規模で97兆4千億円であり、いまだ補正予算の声を聞くことは少ない。 しかも、2014年度以降の予算規模において注意すべきポイントとして、消費税のマイナスの影響を勘案しておかなくてはいけない。ざっと消費税の税収を年度ごとに8兆円とすれば、上記の予算規模からこの数字を引き算する必要がある。そうなると例えば、2014年度は実際には93兆円であり、アベノミクス初年度に比べてなんと約13兆円も緊縮財政に大きく振れたことになる。もし今年度の当初予算に同じやり方を適用すれば90兆円台を割り込んでしまう。大緊縮財政になってしまうだろう。3月27日、参院本会議で、平成29年度予算が成立し一礼する安倍晋三首相(右)ら閣僚(斎藤良雄撮影) 「北朝鮮リスク」が顕在化している状況でこのような大緊縮財政を採用するのは、強い言葉でいえば狂気の沙汰である。至急、大規模な補正予算を策定する必要があるだろう。例えば、アベノミクス初年度をひとつの目標とするならば、消費増税の影響を含めた実質の予算規模との差は、約17兆円である。これだけの規模の補正予算をすれば、「北朝鮮リスク」の中で、経済を安定化させる最低限の守りができる。もちろん積極財政の資金源は、国債発行で賄う。一例としては、教育国債を発行すれば、それを日銀が買いオペすればいいだろう。もちろん公共事業(できれば多年度のインフラ投資が望ましい)、減税、あるいは防衛費の増額などでも積極的な財政の必要は大きい。 このような積極的な財政政策と金融政策の協調が行われない場合は、「北朝鮮リスク」の影響をもろにかぶってしまうだろう。言い換えると、日本経済にとっての真の「北朝鮮リスク」とは、自らの緊縮政策のことなのである。