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    北朝鮮を核保有国として認めるべきか

    世間はすっかり解散風になびいているが、核実験とミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威は何も変わっていない。トランプ米大統領は「完全に破壊する以外の選択はない」と強く警告。わが国でも長年タブーとされた核武装論に言及する動きもみられ、議論はさらに広がりつつある。もはや北朝鮮の核保有を認めざるを得ないのか。

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    米国が「北朝鮮の核保有」を容認すれば、日本はこうなる

    村野将(岡崎研究所研究員) 2017年7月、北朝鮮は4日と28日に相次いで新型の移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の発射実験を実施した。発射は通常よりも高い放物線を描くロフテッド軌道で行われたものの、その高度はそれぞれ2500キロ、3500キロ以上にまで達し、通常弾道軌道に換算すると1万キロ近い飛行が可能であることが明らかとなった。これは平壌から約1万1000キロ離れたワシントンDCを目前に捉える距離である。そして9月3日には、6度目となる核実験に踏み切り、ICBM搭載用の水爆実験に完全に成功したと宣言した。北朝鮮の労働新聞が7月29日掲載した、「火星14」発射の命令書にサインする金正恩朝鮮労働党委員長の写真(共同) 既に米国防情報局(DIA)は、2018年内にも北朝鮮が核搭載可能なICBMを実戦配備すると見積もっているといわれ、米国内では「非核化のための努力はもはや時間切れであり、北朝鮮の核保有を認めざるをえない」との声も聞かれる。その一方で、北朝鮮のICBMは米国にとっての「ゲーム・チェンジャー」であり、日韓への紛争拡大リスクを負ってでも、先制的な軍事行動に出るとの見方も根強い。対外政策決定論の名著『決定の本質』で知られるハーバード大学のグレアム・アリソン教授は、こうした緊迫した政策のやり取りを「キューバ危機をスローモーションで見ているようだ」と表現している。 だが、ここで言う「北朝鮮の核保有を認める」とは何を意味するのだろうか。そもそも、米本土に到達する北朝鮮のICBMは日本にどのような影響をもたらすのだろうか。ここでその意味を一度冷静に、客観的事実に基づいて考えてみよう。 昨今の北朝鮮による長距離ミサイル実験に際しては「日本は既に多くの中距離ミサイルの射程内に置かれてきたのだから、北朝鮮が米国向けのミサイルを開発したところで今更大騒ぎする必要はない」との意見が散見される。この指摘は半分正しく、半分間違っている。確かに、北朝鮮は1990年代前半から射程1300キロ程度とされる準中距離弾道ミサイル(MRBM)「ノドン」の実戦配備を開始しており、現在では約200基(移動発射台の数は50両以下)のノドンが日本を射程に収めている。これに核弾頭を搭載できるかどうかについてはさまざまな評価があるが、既に2015年版の防衛白書が「核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も排除できず…」との表現を用いていることからすると、少なくとも防衛省は北朝鮮の核ミサイルを念頭に防衛政策を組み立てていると考えるのが自然であろう。 他方で、米国を標的とする長距離ミサイルは日本の安全保障にとって無関係なわけではない。むしろ、日本にとって米本土の安全は、米国から提供される「核の傘」を含む拡大抑止の信頼性と密接に関係している。冷戦期にソ連と対峙(たいじ)していた米国が「パリを守るために、ニューヨークを犠牲にする覚悟があるか」というジレンマに直面したのと同じように、北朝鮮が非脆弱なICBMを保有した場合、米国の大統領は「東京を守るために、サンフランシスコを犠牲する覚悟があるか」という状況を前に、アジア地域への介入や日韓が攻撃を受けた場合の報復を躊躇(ちゅうちょ)する恐れがある。したがって、米本土の安全を高めておくことは、拡大抑止の信頼性を維持しておくためにも決定的に重要なのである。 極東から米本土に向けて発射されるICBMの最短飛行経路は、日本のはるか北からアラスカに向かうコースをたどるため、現在の技術ではこれを日本周辺から迎撃することはできない。だが既に米本土は、アラスカ州のフォートグリーリー基地とカリフォルニア州のバンデンバーグ基地に配備されている地上配備型迎撃システム(GMD)・迎撃ミサイル(GBI)と、一部の高高度防衛ミサイル(THAAD)によって守られている。GBIは5月30日にICBMを想定した迎撃実験に成功しており、2017年末までに44基の配備を完了する予定である。そのため、北朝鮮が数発の限定的なICBM能力を獲得した程度では、米本土のミサイル防衛網を突破することは容易ではなく、「ゲーム・チェンジャー」にはなり得ない。 しかし将来的に、火星14、もしくはより残存性・即応性の高い移動式ICBMが量産化され、実戦配備に移行した場合には、北朝鮮が一定の対米抑止力を確立し、名実ともに「ゲーム・チェンジャー」となる可能性も否定できないのだ。この段階に至っても、北朝鮮の核・ミサイル能力は、冷戦期の米ソのような相互確証破壊を達成するには遠く及ばない。しかしながら、それが米国の主要都市を1つでも確実に攻撃できるとすれば、米国は「巻き込まれる」ことを恐れて日本の防衛を諦め、われわれは「見捨てられて」しまうのではないかという「同盟の切り離し(デカップリング)」を引き起こしてしまう恐れがある。 さらに言えば、北朝鮮がICBMによって米国からの報復を抑止できるとの自信を背景に、制裁解除や経済援助、在韓米軍の撤退、あるいは朝鮮半島有事における在日米軍の来援阻止といった要求をのませるため、核を用いた恫喝(どうかつ)に及ぶことも考えられる。この恫喝相手は何も米国である必要はない。むしろ、在韓米軍の撤退や有事における在日米軍の支援を諦めさせたいのなら、今度は日本や韓国を核やミサイルで脅し「米軍のせいで、われわれが巻き込まれる」という国内世論の不安をかき立てることで、日米韓をデカップリング(非連動)させようという計算が働く可能性は十分考えられる。 すなわち、われわれは「米国が同盟国に巻き込まれることを恐れ、核の傘の提供を躊躇すること」への対処だけではなく、「日本が米韓に巻き込まれることを恐れ、朝鮮半島で生じる事態への支援を躊躇すること」への懸念に対しても同時に向き合わなければならない「二重のデカップリング」の問題に直面しているのである。2つのリスクが対立する「核容認」論 さて、ここで「北朝鮮の核容認」論とは何を意味するかという論点に立ち返ってみよう。米国で議論されつつある「核容認」論とは、何も北朝鮮を核拡散防止条約(NPT)の米露英仏中5カ国と同等の核保有国として認めるという話ではない。現在議論されているのは、北朝鮮が核ICBMを保有していることを前提に、それを使わせないよう抑止しつつ、状況改善のための交渉をするかどうかという点だ。 一方、これに反対する立場は、北朝鮮の核を前提としての交渉が、核の脅しに屈し、米国が交渉の場に引きずり出されたことになるため到底容認できないし、また金正恩朝鮮労働党委員長を伝統的な方法で抑止し続けられる保証もないというものである。そして経済制裁などの圧力の効果がなければ、究極的には軍事行動による強制武装解除も辞さない構えをとる。前者はゲーツ元国防長官やスーザン・ライス元国家安全保障担当大統領補佐官の立場、後者は現政権のマクマスター国家安全保障担当補佐官らの立場である。 つまり第一の問いは、これから長期にわたって北朝鮮の核と共存し、それを抑止し続けることのリスクと、短期決戦の軍事行動に伴うリスクのどちらを取るかという問題とも言い換えられる。ただ、この判断は極めて難しい。ライス氏が言うように、米国はこれまでにもソ連や中国のICBMと共存し、その使用を抑止し続けてきた。われわれもまた同様に、この十数年を多数のノドンを有する北朝鮮と向き合ってきた。 しかし、時間はわれわれに味方していない場合もある。「第1次朝鮮半島核危機」と呼ばれた1994年にも、寧辺の核施設に対する先制攻撃が検討されたが、大規模な被害が及ぶことを懸念した韓国政府の意向などをくみ、結局攻撃は行われなかった。だがそれから25年近くが経過した現在の戦略環境は、核・ミサイル脅威が顕在化したことによって劇的に悪化している。どのみち一定の被害は避けられないのならば、軍事行動は状況がさらに悪化する前-すなわち、北朝鮮がICBMの量産・配備に入る前でなければならないのかもしれない。 時間が状況を悪化させるとすれば、その緩和のためにも、ひとまず何らかの交渉が必要という考えはどうだろう。例えば、ゲーツ氏は「まずは北の体制は保障する。その上で核を放棄させることはできなくても、ICBM開発と実験を停止させ、ミサイルの射程を短いものに制限することは可能かもしれない」と述べている。 だが、日本はこの提案に乗るべきではない。既に北朝鮮はロフテッド軌道ではあるが、2度のICBM実験を行っている。もちろんミサイルと再突入体の完成度を高めるなら、通常弾道軌道によるフルレンジ(全射程)の実射実験をするのが望ましいが、それがなくともICBMは技術的にほぼ完成していると見るべきだろう。よって、今更実験を凍結することはさしたる意味を持たない。またミサイル実験を停止しても、「人工衛星打ち上げのロケット発射」などと言って、新型のエンジンテストなどをしてくる可能性もある。 ミサイルの射程制限については二つの問題がある。第一に、既にマティス国防長官やティラーソン国務長官は、北朝鮮を体制転換する意図がないことを繰り返し明言している。その判断が政策的に正しいかどうかはさておき、米国の長官級が体制を保障するとしているにもかかわらず、金委員長が核・ICBM実験を続けてさせているのは、言葉による体制保障を信用していないからだろう。そうであれば、物理的抑止力=体制保障の証しとしてのICBMを手放すことは考えにくい。米中両政府の「外交・安全保障対話」に先立ち、中国側と面会した米国のティラーソン国務長官(左端)とマティス国防長官(左から2人目)=6月21日、ワシントン(ロイター=共同) もう一つの問題は、対米ICBMを制限しても、日本の安全保障環境は核付きのノドンによって一方的に悪化したまま、状況が固定化されることである。もちろん、日本はノドンを自力で相殺(オフセット)する手段を持っていない。 それならば、冷戦を戦い抜いた先人たちの知恵を借りてみるのはどうだろうか。1970年代、「SS-20」に代表されるソ連の中距離核戦力(INF)が欧州に配備されたとき、西ドイツのシュミット首相は、「米国はハンブルクを守るためにニューヨークを犠牲にする覚悟がない」としてデカップリングの危険を訴えた。米=北大西洋条約機構(NATO)はこの問題を解消すべく、欧州に米国のINF(「パーシングII」と地上配備型核巡航ミサイル)を配備することによって、西独を含むNATO諸国への拡大抑止を再保証しつつ、ソ連を核軍縮・軍備管理交渉のテーブルに着かせるための圧力をかけるという「二重決定」方針を導入した。これにより、1987年には米ソ間で射程500~5500キロの地上発射型ミサイルシステムを全廃するというINF条約が締結されたのである。 米国の核持ち込みによって同盟国とのデカップリングを防ぎ、相手が持つ同等の核兵器をオフセットするという発想は、NATO型の核共有(nuclear sharing)にも当てはまる。核共有とは、NATO加盟国の一部に米国が管理する戦術核を平時から前方配備しておき、危機・有事が発生した場合には事前に策定した共同作戦計画に基づいて、米国が戦術核を供与、同盟国の核・非核両用機(DCA)がそれを搭載して核攻撃を行うというメカニズムである。米=NATO間では現在でも、200発程度とされる戦術核の配備と、その協議枠組みとしての核計画部会が継続されている。 折しも、自民党の石破茂元地方創生担当相は、非核三原則のうち「持ち込ませず」を緩和し、米国による核持ち込みの意義を検討すべきとの提案をしている他、最近ではメディアなどでも核共有の必要性を主張する声も聞かれるようになっている。 では、米国による核持ち込みやNATO型の核共有モデルをいまの日本に適用させた場合、地域の拡大抑止構造にどのような影響を与えるかを検討してみたい。考えられる唯一のオプション ここで前提としなければならないのは、現在の米国が保有する核戦力態勢である。米国の核態勢は、いわゆる「核の三本柱」(ICBM・SLBM・戦略爆撃機)に、グローバルに展開可能なDCAを加えた各種運搬手段と、戦略・戦術核兵器の組み合わせによって構成されている。これらのうち、米本土に配備されるICBM「ミニットマン3」は言うまでもなく、第二撃能力としての秘匿性を重視するオハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)がその位置を意図的に露呈することは考えにくいため、これらは前方展開を前提とする核共有・核持ち込みのいずれのモデルにも適さない。4月26日、米カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地で行われたICBM「ミニットマン3」の発射実験(米空軍提供・共同) 同様に、地下貫通型(バンカーバスター)の強力な戦略核(B61-11)を運搬可能なB2ステルス爆撃機はその航続距離と配備数20機という希少性から、また射程2500キロを超えるAGM-86B空中発射型核巡航ミサイル(ALCM)を運搬可能なB52長距離戦略爆撃機は、その利点である防空圏外からのスタンドオフ攻撃能力を犠牲にし、駐機中を先制攻撃されるリスクを負ってまで、在日米軍基地に常時前方展開することは想定しづらい。さらに、艦載機に搭載される戦術核や艦船に搭載する核トマホーク(TLAM-N)はいずれも既に退役・解体されている。そのため、かつて言われていたような、核搭載艦船による日本の領海通過や寄港という形での「核持ち込み」は今日では起こりえない。 残る手段は、かつてNATOが「二重決定」に用いたINFの前方配備であるが、皮肉なことに、米国は今現在でもINF条約の順守を継続しているため、ノドンをオフセットできる射程500~5500キロ以下の地上配備型ミサイルシステムを保有していないのだ。 したがって、現在考えられる唯一のオプションは、DCAと戦術核爆弾(B61-3/4)の前方展開という組み合わせに限られる。こうした前提で日本が米国との核共有を行うとすれば、2010年から始まった日米拡大抑止協議を格上げし、共同核作戦計画を策定。その上で在日米軍基地のいずれかに米軍が管理するB61用の備蓄シェルターを設け、それを有事の際に日本に提供するよう要請し、最終的には航空自衛隊のF-2戦闘機(将来的にはF-35A)に搭載して、総理大臣が核攻撃を命じるという形式が想像できる。 しかし、現在の核態勢下で実現できるオプションを具体化してみると、NATO型の核共有は、政治・軍事両面のハードルが著しく高いと言わざるをえない。言うまでもなく、戦術核を常時国内に備蓄することに対しては、極めて大きな政治的反発が予想される。また、米国の核報復が期待できず、自らそのトリガー(引き金)に手をかける必要があるという論理であっても、NPTとの整合性を保つ上で、最終的な戦術核引き渡しの決定権は米国が握っている。また、日本から飛び立つDCAが北朝鮮上空に達するには早くても1時間以上かかるため、弾道ミサイル発射の兆候を察知した段階で、即時的な武装解除を目的とした核攻撃を行うにはDCAは意味をなさない。加えて、DCA搭載用のB61-3/4はバンカーバスター能力がなく、地下化された北朝鮮の重要施設を破壊することも難しいため、軍事的合理性にも乏しい。 他方、軍事アセットを標的とする対兵力攻撃(カウンターフォース)ではなく、平壌に報復する対価値攻撃(カウンターバリュー・ターゲティング)を目的とするのであれば、「戦術核」とされるB61-3であっても出力調整により最大170キロトン(広島型原爆の約13倍)の威力を発揮できる。しかしその場合には、唯一の被爆国である日本の政治指導者が、自衛隊に対して民間人の大量殺戮(さつりく)を意味する報復を命じる覚悟を問われることになる。 もちろん、NATOの核共有が現在でも維持されているのと同様、戦術核の前方配備が米国のコミットメントを高める一助となることは事実であろう。しかし北朝鮮側から見れば、緊迫した情勢下における戦術核展開は先制核攻撃の準備と映りかねない。何より、近代化された空軍を持たない北朝鮮は、出撃後のDCAを迎撃するのが困難なことから、地上に置かれているDCAとB61を先制攻撃で無力化することのメリットが大きい。当然、B61の備蓄シェルターの破壊に用いられるのは核ミサイルであろう。これは抑止論で言う「脆弱(ぜいじゃく)性の窓」と呼ばれる問題であり、「危機における安定性(crisis stability)」を著しく悪化させる危険性がある。 本来こうした形での先制攻撃の誘因は、前方配備の戦術核がある種の「トリップワイヤ(仕掛け線)」としての役割を果たすことにより、米国の戦略核報復を促すため、高次の抑止構造が機能していれば、トータルな抑止計算の上では抑制されるはずである。しかし、北朝鮮が少数のICBMによって、米国からの報復を抑止できると「誤認」した場合には、上記のような形で限定核戦争の戦端が開かれる可能性も否定できないのである。こうしたDCAの脆弱性と危機における安定性に起因する問題は、核共有を行わずとも、日本や韓国に米軍のDCAと戦術核を前方配備するケースでも起こりうることに留意する必要がある。日本が今すべき具体的努力 もともと日本では、核戦略や拡大抑止をめぐる議論それ自体が限られてきた。また、そうした議論があったとしても、その大半は現実の核態勢や運用上の前提を踏まえていない場合がほとんどである。もっとも、同盟国からの要請として、米国に核兵器の運用態勢の変更や、新たな兵器システムの開発を求めること、例としては、INF条約脱退や、残存性の高い移動式中距離弾道ミサイル(IRBM、「パーシング3」?)、TLAM-Nの再開発・再配備なども考えられる。しかし、それらの要求は在欧戦術核のように軍事的意義を失った兵器を政治的理由から維持し続けるよりもハードルが高い。そうした要求をするにしても、拡大抑止の受益国として、前提となる米国の核政策やその運用態勢を理解していなければ、抽象的な不安を伝達するにとどまり、問題の具体的解決策を議論していく説得力を欠いてしまうことになるだろう。 結局のところ、北朝鮮の核・ミサイル脅威に屈することなく、日米韓のデカップリングを避けるには、どのような努力が必要なのだろうか。 月並みではあるが、やはり必須となるのは、日米韓三カ国によるミサイル防衛体制の強化である。米国は北朝鮮のICBM脅威の高まりを黙って見過ごしているわけではない。現在米国内では、本土防衛能力のさらなる強化を訴える声が高まりつつあり、議会では共和党のダン・サリバン上院議員(アラスカ州選出)が主導する形で、GBIの配備数を最終的に100基まで増強することなどをうたった超党派法案が提出され、その内容は少なからず2018会計年度の国防権限法や現在策定が進められている政策指針「弾道ミサイル防衛の見直し」(BMDR)に反映されるものとみられている。 日本では、現有のイージス艦4隻に加え、2隻が新たに弾道ミサイル防衛(BMD)能力を付与するための改修を受けている他、「SM3ブロック1B/2A」「PAC3MSE」といった新型・能力向上型迎撃ミサイルを調達する予定である。そして平成30年度概算要求では、地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」を中心とした新規装備の取得を目指している。イージス・アショアは、BMD専用のSM3のみならず、弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機といった多様な経空脅威に対処可能な艦対空ミサイルSM6も運用可能であり、柔軟性が高い。 また、現在配備されているSM3ブロック1Aよりも倍近い迎撃範囲を持つとされるSM3ブロック2Aと合わせれば、2基で日本のほぼ全域を常時カバーすることが可能であり、日本周辺に張り付けたきりになっているイージス艦の負担を軽減することも期待できる。ただし、イージス・アショアの国内配備は早くとも2023年頃とみられるため、一刻も早いミサイル防衛体制の多層強化のためには、韓国でそうしたように、在日米軍へのTHAAD配備を同時に要請すべきであろう。 その韓国では、在韓米軍へのTHAAD導入が前倒しされた他、「KAMD」と呼ばれる韓国独自のミサイル防衛の構築が進められている。ところが、韓国のミサイル防衛に用いられるセンサーや在韓米軍のTHAADに付属するAN/TPY-2レーダーは、ハワイのミサイル防衛管制施設(C2BMC)を含めた地域のBMDネットワークとは連接されていないといわれている。これは韓国が日米のBMD体制に取り込まれることを嫌う中国の懸念を反映した「忖度(そんたく)」によるものとされるが、ミサイル防衛は各種センサーがネットワーク化されてこそ、弾道ミサイルの正確な追尾や効率的な迎撃が可能となる。ならば、中国の懸念を逆手にとり、「中国が北朝鮮問題に真剣に対処してこなかったことにより生じた、やむを得ない措置」として、日米韓のセンサー・ネットワーク連携を明示的に行うことで、それを中国に圧力をかけるレバレッジ(てこ)とすることも考えられるだろう。9月7日、韓国南部、星州に搬入されたTHAADのミサイル発射台(韓国共同取材団撮影、聯合=共同) 第二には、拡大抑止にかかる共同演習や、核の先制使用を含む作戦計画の共有・策定が挙げられる。核使用を伴う米軍の作戦は、太平洋軍などの戦闘軍司令部ではなく、戦略軍がその指揮権を持つとともに主要な計画立案を行っている。そこで日米拡大抑止協議の内容を新ガイドラインで定められた共同計画策定作業と連関させ、グレーゾーンから核使用を含む高次のエスカレーションラダー(段階的な軍事衝突規模の拡大)を切れ目のない形で構築し、核オプションのより具体的な形での保証を促すべきである。 またそれらの計画を基に、在日・在韓米軍、太平洋軍、戦略軍などを交えた日米共同演習を繰り返し、実戦上の課題を常に点検・共有しておくことが望まれる。この中では、危機時におけるDCAの前方展開リスク、グアムにおけるDCAや戦略爆撃機、SSBNの展開頻度を高めることの軍事的・政治的効用、さらにはICBMやSLBMをリアクションタイムの短い移動式ミサイルに対する即時的な武装解除手段として適切なタイミングで使用する必要性などについても、個別の作戦計画に照らして検証すべきである。稚拙な対韓感情論に振り回される日本 第三は、非核の長距離即時攻撃手段(CPGS)としての極超音速飛行体の開発に関する技術協力・共同開発である。先にICBMやSLBMを即時武装解除の手段として使用する可能性に言及したのは、長射程の即時攻撃を行いうる手段が、現時点では核搭載の弾道ミサイル以外に存在しないからである。しかし、それらに搭載される核弾頭の威力や標的国以外に発射を誤認される危険性から、柔軟な運用が難しいのも事実である。そこで米国が研究開発してきた各種CPGSプログラムを技術支援する形で、同種の兵器の共同研究開発を検討することが望まれる。 第四は、B52から発射するAGM-86B空中発射巡航ミサイルの後継となる、新型長距離巡航ミサイル(LRSO)の開発継続を後押しすることである。TLAM-Nの退役とDCAの脆弱性を考慮すると、射程2500キロを超え、核出力を5〜150キロトンまで調整可能なAGM-86Bは、通常戦力と戦略核のエスカレーションラダーを埋める重要な役割を持つが、運用開始から35年以上がたち老朽化が進んでおり、2030年には退役を予定している。 今後開発される新型爆撃機B21のステルス性をもってすれば、敵の防空網に侵入して攻撃することが可能であるから、これを更新する必要はないとの声も聞かれる。だが、防空システムの高度化、とりわけステルス機を探知する「カウンター・ステルス技術」の発展をかんがみると、いまだ開発されていないB21に過度に依存するのはリスクが高い。まして中国を想定した接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力次第では、既にDCAが直面しているように、危機や有事の際にステルス機を前方展開させるのが一時的に難しくなるケースも考えられる。したがって、B21の運用を想定した場合でも、グアム以東から2500キロ超のALCMを発射できるオプションを確保しておく意義は大きい。日本は拡大抑止の受益国としてその必要性を訴え、LRSOの開発を確実にしておく必要がある。 最後に挙げるのは、国民に対して日米韓協力の重要性理解に努めることである。今日においても、日本は朝鮮半島有事において決定的に重要な後方支援基盤であり、朝鮮半島と日本は一体化された戦域としてつながっている。だが、北朝鮮による核・ミサイルを通じた日本への恫喝は、この地政戦略的リンクを切り離しかねない。一般的な世論感覚からして、日米同盟が地域に果たす戦略的機能の重要性にかんがみれば、日本が核の脅しを受けたとしても、それに屈することなく対米協力を続けることはおおむね支持されるように思われる。 しかし、日本の世論は韓国のこととなるとその戦略的重要性を忘れ、稚拙な感情論に振り回される傾向がある。国内世論に見え隠れする韓国軽視は、北朝鮮が米韓支援を断念するよう日本を恫喝してきた際に、その脅しを受け入れかねない潜在的リスクになる恐れがある。だが、朝鮮半島の将来像が日本の安全保障にとり極めて大きな影響を及ぼすことにかんがみれば、何としても関与を継続する必要がある。そのために、日本は米国だけでなく韓国とも緊密な連携を模索し続けるべきである。 加えて、韓国が保有する独自の対北打撃力とその政策(先制攻撃システム「キルチェーン」、KMPR、米韓ミサイル指針など)に対する理解と情報共有も必要である。米韓が北朝鮮のミサイルをどこまで制圧できるかは、われわれのミサイル防衛能力はもちろん、将来敵基地攻撃能力を整備していく際の計算にも大きな影響を与えるからだ。 日本の敵基地攻撃能力については、その前提となる財政状況や防衛予算の趨勢(すうせい)からみても、弾道ミサイル発射を探知する早期警戒衛星やターゲティングのための情報・監視・偵察(ISR)などの手段をすべて独自調達し、完全自己完結型の攻撃能力を持つことは現実的ではない。同様に、相手の都市部を標的とした大量報復(懲罰的抑止)ベースの攻撃能力は、最終的に核保有に進まざるをえないことを踏まえると、これも選択肢にはなりにくい。したがって、日本が敵基地攻撃能力を保有する場合には、相手から飛来するミサイルの数をなるべく減らし、ミサイル防衛の迎撃効率を向上させるという損害限定(拒否的抑止)ベースの攻撃能力を米(韓)のISR協力の下で追求するのが最も現実的であろう。島嶼防衛用「高速滑空弾」(防衛省ホームページから) 具体的な攻撃手段は複数あるが、注目されるのは平成30年度の防衛省概算要求に要素技術研究対象として提示されている「島嶼(とうしょ)防衛用高速滑空弾」である。資料によれば、これはあくまで「島嶼間」の長距離射撃を目的とするものであるが、その原理は米国がCPGSプログラムで開発していた「(極)超音速滑空体」そのものであり、打ち上げに用いるブースター次第では、INF並みの射程を持つ即時攻撃システムとして移動目標を短時間で無力化する手段となりうる。米国がINF条約にとどまり続けるのであれば、INF再開発と前方配備を促すよりも、米国との技術協力を経て、移動式かつ十分な射程を備えた非核の即時攻撃システムを日本が自ら保有するというオプションも検討する価値があるのではないだろうか。

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    北朝鮮脅威、日本に必要なのは「核武装」のタブーなき言論空間

    は日本の核武装から論じよう。日本は、独自の核抑止力確保に向けて動き出すべきである。それは、直接的には北朝鮮による核の脅威に、アメリカに頼り切らずに対応するためだが、すでに多数の核ミサイルを実戦配備している中国をにらんだものでもある。北京市内の北朝鮮大使館前で警備する武装警察隊員 =9月3日(共同) 中国は、日本の核武装がいよいよ現実化してきたと認識すれば、その動きをもたらした「震源」である北朝鮮・金正恩体制を崩壊させることで、流れを止めようとしてくるかもしれない。すなわち中国経由で、北朝鮮の脅威を除去することにもつながりうる。 日本が核武装するか否かは、日本国民の意思次第である(これが高いハードルであることは言うまでもない)。さまざまな外的障害の存在を指摘し、核武装の不可を説く声もあるが、結論ありきで、事実認識が不足したものも多い。 外的障害としてよく挙げられるのが、日本が核拡散防止条約(NPT)を脱退し核武装に動くと、国際社会からさまざまな制裁を科され経済が破綻してしまう、ウランの供給なども止められ、原子力産業が立ちいかなくなるという主張である。  これは、NPTに加入せず核武装を進めたインドの例に照らし、当を得ていない。 2008年9月、国際原子力機関(IAEA)理事会は、NPTが「核兵器国」と規定する米露英仏中に加え、インドを例外的に核保有国と認める決定を、圧倒的多数で行っている。 それ以前、2005年7月にインドのシン首相とブッシュ米大統領の間で、インドがNPTに非加入のままでも、米国は民生用の原子力協力に向けた努力を行う旨が合意がされていた。そのブッシュ政権が各国に働きかけてのインド例外化決定であった。日本も賛成票を投じている。  中国は当初、「国際的な核不拡散体制にとり大きな打撃」と反対したが、衆寡敵(しゅうかてき)せずと見るや、パキスタンも例外扱いすべきとの主張で対抗したが、北朝鮮などへの核拡散(実務はカーン博士が担う)の過去を問われ、パキスタン例外化案は却下された。  すなわちここにおいて、「責任感ある(responsible)国」の核保有には制裁を科さないという国際的な流れができたといえる。「経済制裁」という障害はない 大多数の国々にとって、日本の経済的存在感はインドよりはるかに大きい。インドは例外化するが、日本には包括的な制裁を科すといった展開はまずあり得ないだろう。日本核武装に「経済制裁」という障害はない。  なお、IAEA理事会のインド例外化決定と前後して、原子力供給国グループ(NSG)もインドとの「民生用原子力協力」について合意に達している。ウランの供給などを認めたもので、日本が核武装すればウランを止められる云々(うんぬん)もやはり杞憂(きゆう)と言えよう。  この合意もアメリカが主導している。要するに、事前に米国と擦り合わせができていれば特に問題は生じないということである。 米印間の核問題交渉に長く携わったストローブ・タルボット元国務副長官は、「核関連物資の輸出管理に関してインドは、二つのNPT上の核兵器国、ロシアと中国より、よい成績を残していた。ロシアはイランが、中国はパキスタンがそれぞれ危険なテクノロジーを獲得するのを助けていた」と述懐している。 日本が中露以上に無責任に振る舞うと考える国はまずないだろう。インドと同等以上に厳格に核管理すると見なされるはずだ。 以上、核武装に伴って制裁を課されるという議論が、日本のような「責任感ある国」の場合根拠がないことを示してきた。独自核抑止力に向けた議論を大いに喚起し、具体的動きを起こしていかねばならない。北朝鮮の核実験について記者団の取材に応じる安倍晋三首相 =9月3日、首相官邸 もっとも、「核武装を口にすると政治家は即死する」(首相返り咲きの前の、あるシンポジウムでの安倍晋三氏発言)という状況にほとんど変化はない。いま即座に、政治家に核武装を唱えよと要求するのは酷であろう。 まずは民間において、核に関するタブーなき言論空間が打ち立てられなければならない。 その間、政権に求めたいのは、何よりも通常戦力による策源地(敵基地)攻撃力の整備に乗り出すことである。この地点までは十分に機は熟しており、踏み出さない言い訳は成り立たない。憲法9条の範囲内という、半世紀にわたって確立された政府見解もある。問われるのは政権の意志のみである。

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    米国の「アジア蔑視」が北朝鮮に核保有の大義名分を与えた

    重村智計(早稲田大名誉教授) 北朝鮮の核問題を解決できなかった米国の高官や、研究者たちが的外れと思える「宥和(ゆうわ)策」を述べている。発言者の多くが米外交の「戦犯」たちで、自分の責任を感じていないから困る。オバマ政権のスーザン・ライス前国連大使、ブッシュ政権のクリストファー・ヒル元国務次官補などだ。心の底に、アジアや朝鮮人に対する蔑視意識(オリエンタリズム)があるようだ。9月7日、ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領(ゲッティ=共同) 米紙ニューヨーク・タイムズ(国際版)は5日、「北朝鮮の本心はミステリー」との記事を一面に掲載した。書いたのは著名な国際記者のデービッド・サンガー氏と、トモコ・リッチ東京支局長だ。サンガー記者とは筆者がワシントン特派員時代に話をかわしたことがあるが、優秀な特ダネ記者である。 この記事によると、米国は「金正恩の本心」を計りかね、多くの主張や論議が起きているというのだ。北朝鮮は「米国の敵対政策」を非難するだけで何も要求していない。今更なにを寝ぼけたことを、と思うのだが「北朝鮮の核容認論」が生まれるワシントンの空気は十分感じられた。 背景にはライス氏のニューヨーク・タイムズ紙(8月10日)への寄稿がある。ライス氏は「北朝鮮に軍事力を行使すべきではない」と強調し「米国は北の核を容認できる」と述べた。この主張は、日韓両国が「北の核に耐えられない」事実を全く理解していない。また、中国が東アジアで自分以外の核保有国を決して認めない現実をわかっていない。寄稿の目的はトランプ大統領の軍事攻撃発言への批判だったようで、実際、大統領の強硬発言の連続が「緊張を高めている」と批判した。これも朝鮮人の言語文化と歴史を理解していない判断だ。 トランプ大統領の一連の発言は、北朝鮮の言語文化を相手にするにはピッタリだ。北朝鮮は「日米は断固たる対応に直面する」「制裁に加担した(日本の)罪に決着をつける」など、過激な表現を高官や公式の報道機関が平気で使用する。過剰表現は北朝鮮での「日常生活」なのだ。それに対し、「軍事攻撃も選択肢」と語るのは、戦術としては正しいやり返しである。北東アジアの文化を理解していないライス氏 ライス氏は、この北東アジアの文化を理解していない。ライス氏の寄稿とニューヨーク・タイムズの記事はかなり的外れと私には思える。「北の核容認論」は北朝鮮の歴史と文化を理解せず、アジアの現実もわからない米国人特有のアジア観である。「アジアがどうなろうと関係ない。あの人たちはおかしな人たちだから」との蔑視感情が根底にある。国連本部で握手する潘基文国連事務総長とスーザン・ライス米国連大使=2009年1月26日、米ニューヨーク(UPI=共同) オリエンタリズムは、故エドワード・サイード・コロンビア大教授が、欧米人のイスラムやアジアへの根深い蔑視感情をえぐり出した「書籍」のタイトルだが、欧米人の「アジア、イスラム蔑視」を意味する用語として使われている。サイード教授は、パレスチナ移民の息子で世界的な言語学者だった。 なぜ北朝鮮は核開発を始め、金正恩朝鮮労働党委員長は核とミサイル実験を急ぐのか。話は冷戦崩壊前後に戻る。東欧社会主義国が崩壊する中で、旧ソ連は韓国との国交正常化を決めた。怒った北朝鮮は、新型兵器の開発を通告した。 金日成主席と金正日総書記は北朝鮮が崩壊し、金ファミリーが指導者として追放される事態を最も恐れた。当時の軍事用石油は60万トンしかなく、戦争能力はない。米韓が軍事攻撃すれば、たちまち崩壊する。それを阻止する手だてとして核兵器保有に行き着いた。核開発にはミサイル開発が不可欠だ。 金総書記は一時「米朝合意」で核放棄を覚悟したが、軍の反発で方針を変更した。2001年頃といわれる。核とミサイルを持たないと崩壊させられるとの戦略と「信念」で指導者と軍幹部は一致した。だから、祖父と父、軍幹部が決定した方針を金正恩委員長は自らの一存で放棄できない。 これは儒教社会の北朝鮮では誰も疑わない価値観である。ライス前大使らは、北朝鮮が儒教文化の国家である事実を理解できていない。北朝鮮は対話や条件提示で核実験を止める文化でも体制でもない、とわかっていない。金正恩委員長は核とミサイルが完成するまで実験を放棄できないのだ。 儒教国家では「正統性」と「大義名分」が最大の価値観である。米国が核保有を認めれば、北朝鮮は国際社会から正統性を得たことになる。北朝鮮では核で譲歩することはないという空気が広がっている。北朝鮮国民は、金委員長は国際社会から正統性を認められた偉大な指導者と受け止める。「北の核容認論」の本当の危険性 ライス氏の主張やニューヨーク・タイムズの記事は、米国がいかに北朝鮮の歴史と文化、外交戦略、思考パターンに無知であるかを物語る。また、金正恩委員長や北朝鮮幹部が何を考えているかについての情報もなく、確認もしていない。 北朝鮮中枢は、以前からひそかに「核兵器を完成して米国と交渉する」との戦略を語っている。金正恩委員長は核開発を中断するわけにはいかないのだ。だから核の完成を急いでいる。それでも、しばらく時間がかかるだろう。核とミサイルの実験はなお続く。 核兵器が完成しても交渉で譲歩する保証はない。核兵器を手にした軍部は実験中止や核放棄に簡単に応じないだろう。金委員長と軍部の対立が高まる。もし応じなければ、米中が協力して「崩壊作戦」に乗り出し、北朝鮮の米中対立誘導戦略が破綻しまう。 「北の核容認論」の本当の危険性にライス氏は気がついていない。北朝鮮が核保有を認められれば、韓国と日本でも核保有を求める声が高まる。日本と韓国が核を持てば、台湾、ベトナム、インドネシアへと、アジアは「核拡散の時代」を迎える。その危険さを米国の「北の核容認論」は理解できていない。その背後に、アジアでの核拡散は構わないとのアジア蔑視意識が見え隠れする。 ただ、現実的には無理な話だが、「北朝鮮の核保有容認」が「日韓台の核保有容認論」につながるものなら、戦略的に理解できないわけではない。中国が最も恐れるのは、韓国や日本の核保有である。米国が「中国が北朝鮮の核保有を黙認するなら、日本と韓国、台湾の核保有を認める」といえば、中国は対応せざるを得なくなる。中国内モンゴル自治区で行われた中国人民解放軍建軍90周年記念閲兵式に出席する習近平国家主席=2017年7月30日(共同) 多くの人は、中国はなぜ北朝鮮の核開発を黙認するのか、との疑問を抱く。それは、中朝関係が2000年にもおよび、中国は朝鮮人の扱いを誰よりも知っていると考えているからだ。 中国要人はひそかに「北朝鮮はいつでもつぶせる」と言う。石油供給を全面中止すれば、北朝鮮の軍隊は崩壊に直面し、指導者追放劇が期待される。それでもダメなら国境を全面封鎖すれば北朝鮮は崩壊に向かう。ただ、今はその時期ではないと判断しているようだ。

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    日本の「核武装論」が最大抑止力

    樫山幸夫 (産經新聞前論説委員長) 北朝鮮建国記念日の9月9日、ミサイル発射など”ありがたくない引き出物”はなかった。しかし、まだ油断はできない。 金正恩があらたな挑発に出るのか、トランプ大統領の堪忍袋の緒が切れて軍事攻撃に踏み切るのかーー。北朝鮮の核危機は、一触即発の状態がなお続く。暴挙を押さえる手立てがない苦しい中、“劇薬”として、米国内で、日本や韓国の核武装論が台頭している。日本国内でも、自民党の石破茂元幹事長が、米軍の核の国内配備について議論すべきだという考えを示し、この問題に一石を投じた。わが国が核兵器を保有すれば、北朝鮮だけでなく、その“兄貴分”の中国も大きな衝撃を受けるだろう。 中国は、北朝鮮に核を放棄させるための説得役として期待されながら、のらりくらりとして、各国の反発を買ってきたが、「日本が核武装」となると、その怖さに、本腰を入れて北朝鮮に圧力をかけるかもしれない。 9月3日の産経新聞に興味深い記事が掲載された。黒瀬悦成ワシントン支局長の署名入りの記事は、米国内で、北朝鮮に核開発を断念させることは不可能という見方が強くなっていることに言及。その前提で、日韓の核武装を容認し、それによって北朝鮮の核に対抗するーという議論が勢いを増しつつあると伝えている。民主党系のシンクタンク「ブルッキングス研究所」の研究員による、「日韓の核武装を認め局地的な衝突も辞さない構えで、北朝鮮を封じ込める」との主張、米国の別な軍事専門家の「日本が自前の核兵器を持てば、すべての民主国家は安全になる。強い日本は中国の膨張を阻止する」という積極的な日本核武装支持論も紹介している。 自民党憲法改正推進本部の執行役員会に臨む石破茂氏=8月1日、東京(斎藤良雄撮影) 反面、米外交界の長老、キッシンジャー元国務長官のように、北朝鮮の核脅威が深刻になれば、日韓だけでなく、ベトナムなど、核兵器で自らを守ろうとする動きが活発化するーーという「核ドミノ」への警戒感が存在することにも触れている。 一方、石破幹事長の発言は、今月6日、民放テレビの番組で飛び出した。「米国の“核の傘”で守ってもらうといいながら、日本国内には(核兵器を)置かないというのは正しいのか」と現状に疑問を投げかけ、「持たず、作らず、持ち込ませず、議論せず、ということでいいのか」とも述べ、非核三原則の見直しに言及した。 石破発言は、日本が自前で核開発を進めるという趣旨ではないが、国是としてきた三原則に疑念を呈した発言であり、波紋を呼んだ。案の定、管義偉官房長官は記者会見で「これまで(三原則の)見直しの議論はしておらず、これからもすることは考えていない」と明確に否定した。「日本核武装」を最も恐れる国「日本核武装」が台頭するのは、これが初めてではない。 少し古い話だが、北朝鮮が枠組み合意を破棄して核開発を再開した直後の2003年1月、米紙ワシントン・ポストに、「ジャパン・カード」という見出しで、「日本の核武装が北朝鮮への対抗手段」というコラムが掲載された。筆者は保守派の論客、チャールズ・クラウトハマー氏だった。コラムは「米国が北朝鮮への武力行使に消極的である理由のひとつは報復を恐れているため」と指摘。 「北朝鮮を外交的、経済的に孤立させようという手段も、韓国、中国が協力するかわからない状況では、効果を期待できない」と、当時のブッシュ政権(共和党、子)の政策を批判した。そのうえで、「こういう苦しい状況の中では、日本に自ら核武装させるか、米の核ミサイルを日本に提供して北朝鮮と、それを支援する中国に対抗させることこそ、唯一の有効なカードになり得る」と主張した。 この議論が日本国内にどの程度の影響を与えたかは明らかではないが、その後、2006年には、日米の政府間で、表沙汰にこそされなかったが、議論されている。しかも、そのときは、第1次政権を担っていた安倍晋三首相が、コンドリーザ・ライス米国務長官(当時)に直接、提起したという。 ブッシュ政権2期目で国務長官を務めたライス氏の回顧録によると、2006年10月に訪日、官邸を表敬した時のこと。 安倍首相は「日本が核開発に手をつけるという選択肢は絶対にあり得ない」としながらも、「それを望む声も多いのは事実だし、しかも、その声は次第に大きくなっている」と日本国内の空気を伝えたという。安倍晋三首相との会談に臨むコンドリーザ・ライス米国務長官=2006年10月19日、首相官邸 回想録の中でのやりとりはそれだけで、ライス長官がどう答えたのかなどは明らかではないが、ライス女史は、「日本でそういう声があがることは意味がある。北の核開発を野放しにすれば大変なことになると中国も思い知るだろう」とコメントしている(『ライス回顧録』集英社)。 そう、中国なのだ、日本の核武装論をもっとも気にするのは。中国が戦後ずっと恐れてきたのは、最近こそあまり口にしなくなったが、“日本軍国主義”の、復活だ。日本からみれば、軍国主義復活など、とんだ取り越し苦労だが、実のところ、「強い日本」を中国はもっとも恐れている。 かつて、日中国交正常化前、中国が日米安保条約に必ずしも反対しなかったのは、この条約が存在することによって、日本が防衛費を抑制、軍事大国になることを防ぐことができると考えたからだ。“ビンのふた論”である。習近平の肝を冷やしてやる 北朝鮮の核開発が深刻化した当初の1990年代はじめごろから、中国が、北朝鮮への影響力を行使して説得することへの期待感は強かった。その際の“殺し文句”として「核開発を続ければ、日本も核武装する。そうなったら、われわれにとって大きな脅威になる。それを避けるためにも中止しろ」というのが有効ではないかと考えられていた。 中国が実際にそういう言葉を使って説得をしたかはわからないが、いずれにしても、国連の制裁に従わずに、密かに支援し続けてきた中国のいうことに、北朝鮮が耳を貸すはずがなかった。今回、日米で再び日本の核武装論、核持ち込み論が展開されはじめたのだから、この機会を逃さず、議論を本格化すべきだろう。 石破発言に対する管官房長官の発言は冷淡そのものだったが、政府の立場としては当然だ。“無役”の石破氏は立場が違う。ここは石破氏同様、自民党内で議論を活性化させるべきだ。第1次安倍内閣時代、安倍首相とライス米国務長官が日本の核武装論議を交わした、ちょうど同じ時期、自民党政調会長だった故中川昭一氏が、非核三原則の見直し論をぶち上げ、論議を呼んだ。非核三原則のもとで、核を持たずに北朝鮮の核開発に対して、どういう対抗措置をとることができるのか考えなければならないーというのが発言の趣旨だったが、日本国内の一部政治家や反核団体から激しい非難を浴びた。北朝鮮のミサイル発射について記者会見する菅義偉官房長官=8月29日、首相官邸(斎藤良雄撮影) 石破氏が今回、「議論もせず、ということでいいのか」と疑問を投げかけたのは、まさに、経緯があるからだろう。 核に関する議論は、ある種タブー視されている。それだけに、石破発言に対して自民党内でもさまざまな議論があるようだ。中川発言の時のように、ごうごうたる非難の声が出るかもしれない。 しかし、北朝鮮の核・ミサイルに日本国民が脅威を感じ、中国は強大な軍事力を背景に、南シナ海、東シナ海で暴虐の限りを尽くしている。そうした状況を考えれば、この時期に、議論を展開するのは、国民の理解を得やすいだろう。批判があったとしても、そういう議論が正しいことを国民に対して訴えかけ、説得すべきだ。そもそも、核武装論を展開することと、実際に核を持つこととは全く別の問題なのだ。 日本政府は、非核三原則の手前、議論するには躊躇がある。党主導で大いにアドバルーンをあげ、賛否を含めて国民の間に議論を広げるべきだろう。 米国内ではいま、在韓米軍への戦術核再配備に関する議論が展開されている。日韓両国での活発な議論によって、今度こそ日本は真剣だと思わせ、金正恩だけでなく、中国の習近平指導部の肝を冷やしてやるのも一興だろう。

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    北朝鮮は草を食べても核開発」プーチンも苦悩する旧ソ連の大誤算

    名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授) 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)用の水爆実験を実施した後、ロシアのプーチン大統領は「北朝鮮は安全を約束されたとの感触を得ない限り、草を食べてでも兵器開発を続けるだろう」と述べ、北朝鮮への制裁強化は「無益で効果がない」と一蹴した。 確かに、北朝鮮は飢餓に見舞われ「苦難の行軍」と呼ばれた1990年代後半でも核・ミサイル開発にまい進し、国民への配慮は皆無だった。これまでに計6回の核実験を実施し、「金王朝」の悲願である「核保有国入り」を事実上達成しつつある。 「草を食べても…」というプーチン大統領の奇妙な比喩(ひゆ)は本質を突いている。ただ、北の核・ミサイル開発をここまで進展させた旧ソ連・ロシアの責任も小さくない。戦後、核兵器の拡散に反対してきたソ連・ロシアは、自らの誤算で北朝鮮を核保有国にしてしまったところがある。6月15日、モスクワで、報道陣に話をするプーチン大統領 北朝鮮「創業者」の金日成主席が核保有を意識したのは、朝鮮戦争中にマッカーサー連合国軍総司令官が北朝鮮への核使用を提言したことが契機だったとされる。朝鮮戦争で米軍と3年間戦い抜いた金主席は、米国の侵略阻止には核保有が必要と考え、社会主義同盟国のソ連に技術支援を求めた。 そして北朝鮮は1956年、ソ連との間で原子力開発に関する合意を結んだ。合意に沿って、北朝鮮は核技術者を旧ソ連の研究施設に派遣。小規模の実験用原子炉が寧辺(ニョンビョン)に建設された。ソ連は原子力技術提供に際し、あくまで平和利用に限定するよう要求した。一方でソ連は、北朝鮮の技術力は低く、開発したところで核兵器製造には至らないと軽視していたという。 北朝鮮はソ連の要請で、核拡散防止条約(NPT)に加盟する一方、秘密裏に核開発を継続し、80年代には寧辺に新たな核施設が建設された。さらに北朝鮮は1964年に初の核実験に成功した中国に対しても、技術支援を要請したが、中国は拒否したとされる。60~80年代の中ソ対立下、ソ連は北朝鮮を中国に接近させないため、一定の技術支援を提供していた。 そもそも北朝鮮が核保有にまい進する契機になったのは、1991年のソ連邦崩壊だった。最大の後ろ盾だったソ連の解体で、北朝鮮は安全保障の切り札として核・ミサイルを保有することが不可欠と判断し、開発を強化した。94年には、これを察知したクリントン米政権が寧辺の核施設攻撃を計画し、一触即発の危機を招いたこともある。 このころ、北朝鮮外交官は冷戦終結で失業したロシアやウクライナの核・ミサイル技術者を高い給与で一本釣りし、北朝鮮に招いた。北朝鮮のミサイルシステムは、旧ソ連のスカッドミサイルを軸にしており、旧ソ連の技術が開発に貢献した。ロシア外務省は、「ロシア国籍の技術者は現在、北朝鮮には一人もいない」としているが、筆者の得ている情報では、一部のロシア人は北朝鮮の女性と結婚し、国籍も変えているという。広がる北朝鮮の核保有容認論 そして北朝鮮はソ連を崩壊させたエリツィン元ロシア大統領を「社会主義の敵」と糾弾し、関係を事実上断絶した。プーチン政権発足後、金正日総書記はロシアとの関係を再開するが、ロシアはソ連時代のように石油や食糧の無償援助はできない。今日でも、朝露間の貿易額は中朝間の1~2%程度にすぎず、ロシアでは到底中国の肩代わりはできない。ロシア経済自体が中国経済の12%まで縮小してしまった。 2代目の金正日総書記は核・ミサイル開発を強化した反面、米国や韓国、日本との対話も念頭に置き、一定の落とし所が想定できた。しかし、3代目の金正恩委員長は核・ミサイル開発を急速に進めており、対話の糸口が見られない。一種の暴走状態にあることが、危機を一段と拡大させている。金委員長は、大量破壊兵器のなかったイラクやリビアの反米政権が力で倒されたことを熟知しており、同じ運命をたどらないことを誓っている。北朝鮮の故金日成主席と故金正日総書記のモザイク画の前を行き交う車=8月、平壌(共同) 北朝鮮の大量破壊兵器保有に反対する点では、米露は一致し、冷戦終結後、連携して北朝鮮に核開発中止を求めたり、6カ国協議で協力したりしたこともあった。しかし、旧ソ連は金王朝の生みの親であり、北朝鮮がどのような国かは米国以上に理解している。 米カーネギー財団モスクワセンターのドミトリー・トレーニン所長は「朝鮮半島の非核化はもはや現実的ではない。この際、北朝鮮を核保有国として認めるべきだ。そうすれば、交渉は失敗しても破滅は免れる」とし、北朝鮮をインド、パキスタンのように核保有国として容認するよう求めた。 ロシアではこうした現実論者が増えているが、米国でも北朝鮮の核容認論を主張する専門家も出ている。日米韓にとって、北朝鮮の核保有容認は受け入れがたいが、北朝鮮は米国がそれを認めない限り交渉に応じないだろう。 プーチン政権は以前、北朝鮮問題で米国と連携することもあったが、米露関係が極度に悪化した現在は、世界的に反米外交を展開し、北朝鮮問題でも米国の外交を妨害している。日米韓対ロシアという構図の中、双方の求愛を受ける中国がどちらに付くかが焦点となりそうだ。ただ、筆者自身は、中国はロシアに接近するそぶりをしながら、実質的には日中韓と連携していくのではないかと考えている。

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    核実験によって権威付けを図る金正恩氏

    礒﨑敦仁 (慶應義塾大学准教授) 澤田克己 (毎日新聞記者、前ソウル支局長)  核実験に関する北朝鮮の発表にも、金正日国防委員長と金正恩国務委員長のスタイルの違いが表れているのだろうか。あるいは核開発が進展してきたことで、金正恩時代の北朝鮮は自信を深めているのかもしれない。北朝鮮がこれまで6回にわたって行った核実験についてまとめてみると、そんな印象を受ける。平壌の金日成広場で行われた軍事パレードを観閲する金正恩氏(右から3人目)と金正日総書記(右端)=2010年10月10日(新華社=共同) 金正日時代に行われた2006年と09年の2回と、それ以降では『労働新聞』での核実験の報じ方などに大きな違いが見られるのである。金正日時代には核実験の成果を誇りつつも、最高指導者が実施を指示したことや、米国への敵対的な言質が特筆されてはいなかった。ところが金正恩時代になると、『労働新聞』での報じ方が全般的に派手なものとなる。同時に、米国の「対北朝鮮敵視政策」への対応であることが明確にされるようになった。そして2016年以降は、金正恩氏の命令書への署名に基づいて実施されたという報じ方が出てきた。金正恩氏の命令書というのは、新型ミサイルなどでも出てくる小道具となった。 北朝鮮の発表からは、核実験の回数を重ねることによって「自主権と生存権確保のためだ」という理論化が進んだことがうかがえる。ただ、やはり最高指導者の違いという要素は無視できない。金正恩氏が自らを前面に押し出すのは、核実験によって自らの権威付けを図ろうという意図もありそうだ。 6回目となる今回の核実験では、実施直前に金正恩氏が参加する朝鮮労働党政治局常務委員会で国際情勢に対する分析や評価を行い、そのうえで大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用水爆の実験をするかの討議が行われたと発表された。そのうえで金正恩氏が命令書に署名したのだという。この点は、正当な手続きを踏んでいることをアピールしようとする金正恩氏の特性を反映したものである可能性がある。ある北朝鮮の外交官によれば、常務委員5人が会同している写真が公開されることは異例だが、党・国家の重要決定であることを示しているという。 9月3日に行われた6回目の核実験について、包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)の発表した地震波の規模はマグニチュード6.1。防衛省はこれを基に、爆発規模(TNT火薬換算)を160キロトンと推定した。広島に投下された原爆の10倍超で、北朝鮮の主張通り水爆だった可能性が強まっている。6回の核実験を振り返る 『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社、2017年1月)に収録した過去の核実験に関する表を補完するため、第1回から今回までの核実験についてまとめた。本稿では各回について北朝鮮側がどのように発表したかも付記したので、上記のような金正日時代と金正恩時代の違いを読み取ることができる。北朝鮮が核・ミサイル開発を続ける動機や北朝鮮の現状、正当な手続きを踏んでいると強調する金正恩氏のスタイルなどについては同書を参照していただきたい。(北朝鮮の核・ミサイル開発については同書第9章「核ミサイルの照準はどこか」、金正恩政権の手続き重視については同書第6章「体制が揺るがない理由」の小項目「金日成・金正日主義の登場」など)北朝鮮の平安北道新義州市にある楽元機械連合企業所を視察する金正日総書記=2005年2月15日(朝鮮通信=共同) 地震波の規模はCTBTOの発表値、爆発規模は防衛省の推定である。なお、核実験によって引き起こされる地震の規模を示すマグニチュードの計算式は各国で微妙に異なるため、日本や韓国、中国、米国の発表は食い違うことが多い。第1回核実験日時:2006年10月9日地震波規模(マグニチュード):4.1推定爆発規模:0.5~1キロトン直前の情勢:7月5日にテポドン2発射。安保理は15日に非難決議。事前の予告:北朝鮮外務省が10月3日に声明「安全性が保証された核実験を行う」中国への事前通報:20分前他国への事前通報:なし実施後の北朝鮮発表:朝鮮労働党創建記念日(10月10日)前日に実施された。翌日の『労働新聞』は3面に核実験実施を伝える記事を掲載したが、見出しに「核実験」という言葉はなく、単に「朝鮮中央通信社報道」というだけ。内容も、核実験の成功を簡潔に伝えるだけの250字に満たない短い記事だった。1面トップには党創建記念日を祝う社説が大きく掲げられ、下段には金日成主席や金正日国防委員長の翌年の誕生日を祝う準備委員会がスリランカで結成されたという記事などが掲載された。実験のポイント:初めての核実験。それまで強硬姿勢を取っていた米ブッシュ政権が、核実験を契機に対話に前向きな姿勢を見せるようになった。北朝鮮にとっては瀬戸際政策の典型的な成功例だったといえる。金正恩体制下で初めての核実験第2回核実験日時:2009年5月25日地震波規模(マグニチュード):4.52推定爆発規模:2~3キロトン直前の情勢:4月5日にテポドン2改良型発射。安保理は13日に議長声明で非難。事前の予告:北朝鮮外務省が4月29日に声明「核再実験や大陸間弾道ミサイルの発射実験を含めた自衛的措置を講じる」中国への事前通報:30分前他国への事前通報:米国に通報実施後の北朝鮮発表:翌日の『労働新聞』は1面に「朝鮮中央通信報道 再度の地下核実験を成功裏に実施」という見出しで報じた。ただ、トップ記事の扱いではなく、掲載位置は1面の下半分。写真はなく、分量も300字超にすぎなかった。記事は「われわれの科学者、技術者等の要求に従って、共和国(注:北朝鮮)の自衛的核抑止力を百方に強化するための措置の一環」として核実験を行ったという内容で、最高指導者である金正日国防委員長の指示であるとか、米国への言及はない。この日の1面トップは、金正日氏が軍人たちによる芸術公演を観賞したというものだった。実験のポイント:「人工衛星」発射に対する強い不満表明とともに核実験が強行された。4月14日には六カ国協議からの離脱が表明されていた。2008年8月に金正日氏が病に倒れ、金正恩氏が後継者として内定した後の出来事でもある。平壌の万寿台の丘に並ぶ金日成主席と金正日総書記の銅像前で、記念撮影する新郎新婦ら=2014年10月28日第3回核実験日時:2013年2月12日地震波規模(マグニチュード):4.9推定爆発規模:6~7キロトン直前の情勢: 2012年12月12日にテポドン2発射。安保理は13年1月22日に制裁決議2087。事前の予告:北朝鮮外務省が1月23日に声明。「核抑止力を含む自衛的な軍事力を拡大、強化する物理的対応を取る」中国への事前通報:前夜他国への事前通報:米国、ロシアに通報実施後の北朝鮮発表:翌日の『労働新聞』で初めて1面トップで報じた。「共和国の合法的な平和的衛星発射権利を乱暴に侵害した米国の暴虐非道な敵対行為に対処し、国の安全と自主権を守護するための実際的対応措置の一環」という内容。核実験実施を知らせる記事本文の分量は第1回、第2回と大差ないが、その下に「国家の安全と自主権を守護するための正々堂々たる実際的な対応措置」という大見出しを掲げて、「今回の核実験は、わが祖国の強大な国力の誇示であると同時に、どのような制裁や圧力も恐れないというわが軍隊と人民の鉄の胆力と肝っ玉の一大誇示である」などという解説記事を掲載した。実験のポイント:金正恩体制下で初めての核実験。2012年4月の憲法改正で「核保有国」であることを誇示した金正恩氏は、核実験後の2013年3月の朝鮮労働党中央委員会全員会議で「経済建設と核武力」開発を同時に進めるという「並進路線」を打ち出した。規格化した核弾頭の初実験第4回核実験日時:2016年1月6日地震波規模(マグニチュード):4.85推定爆発規模:6~7キロトン直前の情勢: 2015年12月21日にSLBMを発射したとみられるが、安保理は特別な反応せず。事前の予告:予告声明はないが、2015年12月10日に金正恩氏が平川革命事績地を現地指導した際に「水爆」保有に言及。中国への事前通報:なし他国への事前通報:なし実施後の北朝鮮発表:翌日の『労働新聞』は1面トップに「朝鮮労働党中央委員会 初の水爆実験を行うことに対する歴史的な命令を下達」という大見出しを掲げた。1面の半分ほどを占めるのは、命令書に署名する金正恩氏の写真。記事は大きめの活字で200字ほどの短いものがあるだけだ。記事の内容も実験そのものより、金正恩氏が党を代表して水爆実験を命じたという点に力点が置かれている。1面にはこの他、実験実施を命じて署名した金正恩氏の直筆命令書2枚の写真が配された。2面には「主体朝鮮の初の水爆実験完全成功」という政府声明が大きく掲載され、3面と4面で水爆に関する解説や「快挙」を喜ぶ国内の反応などを伝えた。政府声明は実験について「米国を主とする敵対勢力どもの日増しに増える核の脅威と狡猾さから国の自主権と民族の生存権を徹底して守護し、朝鮮半島の平和と地域の安全を頼もしく担保するための自衛的措置」だと主張した。実験のポイント:北朝鮮は水爆実験と発表したが、規模が小さかったことなどから本当に水爆だったのか疑問視された。都内の家電量販店のテレビでは5回目の北朝鮮の核実験を伝えるニュースが映っていた=2016年9月9日、東京都(三尾郁恵撮影)第5回核実験日時:2016年9月9日地震波規模(マグニチュード):5.1推定爆発規模:11~12キロトン直前の情勢:2016年に入り、スカッド、ノドン、SLBMなどを連続発射。安保理は報道声明で非難。事前の予告:予告声明はないが、金正恩氏が弾頭部分の大気圏再突入の模擬実験を視察し、「核弾頭爆発実験」を断行すると言及(3月15日公表)。中国への事前通報:?他国への事前通報:なし実施後の北朝鮮発表:建国記念日(9月9日)に実施された。翌日の『労働新聞』1面トップは、建国記念日の関連行事を伝えた。核実験は1面最下段に「朝鮮民主主義人民共和国核兵器研究所声明」として報じられた。声明は「核弾頭の威力判定のための核爆発実験を断行した」というもので、「堂々たる核保有国としてのわが共和国の戦略的地位を否定しつつ、われわれの国家の自主的権利行使を悪辣に侵害する米国をはじめとする敵対勢力どもの脅威と制裁騒動に対する実質的対応措置の一環」だと主張した。紙面は全体として建国記念日に力点が置かれている。3面下部にも関連記事はあるが、核実験を外国メディアも報道したことの紹介と軍と国民が実験成功を喜んだという程度。どの記事にも写真は使われておらず、声明にも金正恩氏の名前は出てこない。実験のポイント:「戦略弾道ロケットに装着できるように標準化、規格化した核弾頭」の製造能力を獲得したとアピールした初の核実験。それまでほぼ3年に1回のペースで強行されてきた核実験が「初の水爆実験」からわずか8カ月での実施だった。6回目核実験の詳細第6回核実験日時:2017年9月3日地震波規模(マグニチュード):6.1推定爆発規模:160キロトン直前の情勢:7月に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を2回発射。安保理は制裁決議2017を8月5日に採択。北朝鮮は8日、中距離弾道ミサイル「火星12」4発をグアム島周辺海域に向けて発射する計画を検討していると発表。29日に北海道襟裳岬上空を通過する軌道で火星12を太平洋に向けて発射。安保理は議長声明で非難。事前の予告:朝鮮中央通信が当日朝、新たに製作したICBMの弾頭に装着する水爆を金正恩国務委員長が視察したと報道。中国への事前通報:?他国への事前通報:?9月6日、北朝鮮・平壌市内の沿道で、花束を振りながら核実験に関わった科学者らの乗ったバスを出迎える市民(朝鮮通信=共同)実施後の北朝鮮発表:翌日の『労働新聞』が、1面トップで金正恩氏が異例の党常務委員会を主宰して命令を下したことを報じた。会議で発言したり、命令書に署名したりしているのであろう金正恩氏の姿や、金正恩氏を含めた5人の常務委員が円卓を囲んでいる写真など6枚の写真が使われた。さらに1面下段に「大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用水爆実験を成功裏に断行した」という核兵器研究所の声明を掲載した。声明は「ICBM搭載用水爆の実験の完全な成功は、われわれの主体的な核爆弾が高度に精密化されただけでなく、核弾頭の動作の信頼性がしっかり保証され、われわれの核兵器の設計および製作技術が核爆弾の威力を攻撃対象と目的によって任意に調整できる高い水準に到達したことを明白に示し、国家核戦力完成の完結段階の目標を達成する上で非常に意義のある契機となる」と述べたが、米国には言及しなかった。実験のポイント:北朝鮮に対してこれまでにない強硬姿勢を見せるトランプ政権下で初の核実験。米国が軍事的措置を取れないと判断したものと考えられる。

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    トランプでも金正恩は止められない

    北朝鮮が9日の建国記念日に合わせ、新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する可能性が高まっている。トランプ米大統領は、北朝鮮に対する制裁圧力の強化を国際社会に呼び掛けるが、中露両国の同意を得るのは困難な情勢だ。国際社会はなぜ「狂気の独裁者」を止められないのか。

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    北朝鮮核施設への先制攻撃」トランプはどこまで本気なのか

    前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授) 9月3日の北朝鮮の水爆実験に対して、米国が受けた衝撃は極めて大きい。言うまでもなく、米本土への北朝鮮の直接攻撃がかなりの現実味を帯びてきたためだ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)に続き、核弾頭に積む水爆まで完成に近づいており、これまで東アジア政策でしかなかった北朝鮮政策は一気に米国自身の安全保障に直結する状況になっている。「核保有国」として北朝鮮を認めるのかどうか、米国としては何らかの大きな対応を一気に迫られる状況になっている。8月11日、ソウル駅でトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が映し出されたニュースの画面を見る男性(AP=共同) トランプ政権の北朝鮮政策のゴールは「北朝鮮の非核化」に他ならない。核を放棄させるため、オバマ前政権の「戦略的忍耐」ではなく、軍事的オプションを常にちらつかせてきた。いわゆる「4月危機」のときに注目された、米韓軍事演習に呼応した空母カール・ビンソンなどの周辺への派遣がこれに当たる。ただ、実際には貿易・経済問題を「取引」材料に北朝鮮に最も影響力がある中国に対して圧力をかけ、北朝鮮を最大限に動かしていくというのが、トランプ流の対中、そして対北朝鮮政策の根本にある。 しかし、4月の米中首脳会談で、トランプ政権から北朝鮮への圧力強化の要請を受けた中国は、北朝鮮に核をあきらめさせるのが難しいことを熟知している。そもそも韓国、日本、そしてその背後にいる米国の緩衝地帯として、北朝鮮は中国にとって地政学的に重要な存在でもある。習近平国家主席にとっては、秋の中国共産党大会を前にできるだけ国内のパワーゲームに集中したいのが本音であり、北朝鮮については抜本的な制裁まで至っていない。むろん、トランプ政権のいらだちも募っている。 また、北朝鮮の核とミサイル開発のペースは速く、ここ半年だけでも米国は北朝鮮側に常に出し抜かれてきた。北朝鮮としては、ミサイルも核弾頭に搭載する水爆もほぼ完成したため、怖いものはない。米国に対して、交渉の席につかせ、何らかの条件と引き換えに無条件に核保有国として認めさせたいというのが北朝鮮の狙いだろう。限定攻撃なら日韓への報復は必至 トランプ政権としては北朝鮮の非核化どころか、核開発の凍結もなかなか難しくなっており、かなりの手詰まり感がある。いま議論されている産業や工業の「血液」となる石油の禁輸がどれだけ可能なのかさえ分からない。他の経済制裁を進めても、どれだけ効果があるのか未知数である。そうしているうちに、既に米本土に到達する核弾頭付きのミサイルも完成してしまうかもしれない。トランプ政権に残された時間は実のところ多くはない。 この手詰まり感の中、外交的な選択肢ではなく、強硬策を主張する声も米国内では目立ちつつある。報復の可能性が極めて低くなるようなことが想定されれば、先制攻撃を決断し、北朝鮮の核施設をたたいていく選択肢もあり得ないわけではない。最高司令官であるトランプ大統領が外交・安全保障政策について全くの素人である分、何らかの思い切った強硬策に出てくる可能性もゼロではない。 ただ、もし限定的な攻撃を行ったならば、北朝鮮から韓国、日本という同盟国への報復はやはり避けられないだろう。戦闘には必ず不確定要素がある。いわゆる「戦場の霧(フォッグ・オブ・ウォー)」である。北朝鮮の報復攻撃を100%抑えることができるかどうかは分からない。もし戦争になれば「米国史上最悪の戦争になる」という指摘もある。記者団に話すマティス米国防長官(左)とダンフォード統合参謀本部議長=9月3日、ワシントン(AP=共同) トランプ政権の安全保障政策は、マティス国防長官やマクマスター国家安全保障担当補佐官、ケリー首席補佐官らの軍人出身者がプロとして支えてきた。上述のようにトランプ氏は外交・安全保障政策の経験はないが、本人もそれを自覚しており、高官たちの意見を比較的そのまま採用してきた。戦闘の現場をよく知っている「外交・安全保障のプロ」たちにとって、報復が考えられる不確実な先制攻撃に踏み込むだけの米国の諜報(ちょうほう)活動がどれだけ整っているかが、今後の大きなポイントとなるであろう。 先制攻撃とともに考えられる米国の対応は、おそらく二つある。一つは何らかの条件を付けた上で北朝鮮の核保有を容認するか黙認するかという選択肢である。そして、もう一つが核保有という現実に即して、同盟国である日本や韓国の核武装を推進し、米国と協力することで北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るという選択肢である。「核容認」で大きく揺らぐ日米安保北朝鮮による6回目の核実験を受け、「0」にリセットされた地球平和監視時計の「最後の核実験からの日数」=9月3日午後、広島市の原爆資料館 北朝鮮の核保有を容認、または黙認するという選択肢については、オバマ前政権で国家安全保障担当補佐官だったスーザン・ライス氏のニューヨーク・タイムズへの寄稿(8月10日)が大きな波紋を広げている。北朝鮮に対する強硬策を取った場合、全面的な戦争が不可避であるため、それよりも北朝鮮の核保有を認めることも視野に入れた方がいいという議論である。同じくオバマ前政権で国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏も同様の指摘をしている。 北朝鮮の核を容認、もしくは黙認する代わりに、日本などの同盟国、あるいは米国に向けた挑発行為の停止、テロリストへの核拡散の徹底した防止などを条件に米国は切り出すのかもしれない。 とはいえ、もし北朝鮮の核を黙認すれば、日本にとっては米国の「核の傘」が極めて弱体化する。「有事にどれだけ日本を助けてくれるのか」という戦後何十年も続いてきた日米安保体制の、そもそもの議論が再び沸騰するのは必至である。それもあって、トランプ政権はライス氏の指摘をことあるごとに否定した。 一方で、「日本や韓国に核を持たせるなどの対抗措置を取った方が賢明」という主張も米国内で安全保障のリアリストらから指摘されるようになっている。核武装やさらなる迎撃システムの強化を通じ、日米韓で北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るというのがその狙いである。 しかし、唯一の被爆国である日本が核を持つという、国論を二分するような選択が本当にできるのかどうか、筆者にはまだ判断がつかない。 9月3日に行われた北朝鮮の「水爆実験」の第一報を筆者は学会報告と調査のために訪れたサンフランシスコで聞いた。この際、筆者が現地の専門家に聞いた限り、北朝鮮の核容認論と日本、韓国の核武装推進論のいずれもあったが、限定攻撃に対する肯定的な意見はほとんどなかった。これをみても、現時点では北朝鮮に核放棄を求めるのは、かなり難しくなっているのが分かる。 北朝鮮の「国家生存の柱」と位置付けられてきた核開発。それがまさに北朝鮮の国家を温存することにもなる。その意味では、北朝鮮の思惑通りに事が進んでいると言えなくもない。

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    なぜ中国は「北朝鮮の非核化」に消極的なのか

    三船恵美(駒澤大法学部教授) 「核保有国として認めろ」という北朝鮮の主張が、現実味を帯びてきた。BRICS首脳会議が閉幕し、記者会見で手を振る中国の習近平国家主席=9月5日、中国福建省アモイ市(共同) 残念なことに、北朝鮮の核・ミサイル開発問題をめぐり、行き詰まりをみせる国際社会がいくら中国に期待を寄せても、中国が「平和的な方法と全関係者による直接対話を通じてのみ解決されるべき」という姿勢を崩すことはない。核実験翌日の9月4日に採択された新興5カ国(BRICS)首脳会議の共同宣言「アモイ宣言」にも、それが示されていた。 中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を米日欧の経済制裁や国際的な圧力では解決できない、と考えている。2016年1月に4回目の核実験を行った直後、北朝鮮の朝鮮中央通信は、イラクとリビアを「国際社会の圧力で自ら核を放棄したために、破滅の運命を避けることができなかった」と批判していた。イラクのフセイン元大統領やリビアのカダフィ大佐の「なれの果て」を知っている北朝鮮の金正恩政権と軍が、米日欧の要求通りに核を放棄したりはしない、ということを中国は承知している。中国はCVID(完全かつ検証可能で後戻りできない核放棄)が「非現実的な目標」であるとみている。 中国は北朝鮮をコントロールできていない。しかし、中国ほど北朝鮮に影響力を及ぼすことができる国がないことも事実である。そのことが、国際社会における中国の外交プレゼンスを高めてきた。したがって、中朝間の対立につながる国連制裁決議など、国際社会による対北朝鮮制裁の枠組みに中国が真摯(しんし)に取り組むはずがない。中国が北朝鮮へ及ぼせる影響力を制限することになれば、また、中国と北朝鮮の「軋轢(あつれき)」が「対立」へ発展すれば、それは中国の国益にならない。 これまで通り、国連などによる多国間アプローチには、中国とロシアによって「抜け道」が作られていくことになるであろう。 とはいえ、「習近平体制下の中国」と「金正恩体制下の北朝鮮」の関係がうまくいっているわけではない(「習近平体制下の中国」と「金正恩体制下の北朝鮮」の2国間関係だけでなく、江沢民系の故徐才厚が牙城としていた旧七大軍区時代の北朝鮮と隣接する旧「瀋陽軍区」・現在の五大戦区に編成された「北部戦区」と、習近平勢力との中国内の利権に絡む政治対立構図が、「習近平体制下の中国」に従わない「金正恩体制下の北朝鮮」の関係構図の根底の一部にあることは、言うまでもない)。中国のメンツをつぶす 北朝鮮の6回目の核実験を受けて、中国政府は、9月4日、北京に駐在する北朝鮮の池在竜(チ・ジェリョン)大使を中国外交部へ呼びつけ、厳重に抗議した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射時には、中国外交部は北朝鮮大使を呼びつけていない。9月3日に北朝鮮が強行した核実験は中国の習近平国家主席のメンツを北朝鮮がつぶした、と世界中で報道させることになり、中国を以前よりも怒らせることになった。 北朝鮮による核実験の一報が世界を駆け巡ったのは、9月3日に中国福建省の厦門(アモイ)で開催されたBRICSビジネスフォーラムの開幕式で、習主席が基調演説を行う3時間ほど前のことであった。BRICSとは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国のことである。今年で9回目を迎えたBRICS首脳会議(9月4~5日)は、2009年以降、加盟国の持ち回りで開催されている。BRICSの枠組みは、域外へ実質的な影響力を及ぼすことができていないものの、「国際関係の民主化の推進」「覇権主義および強権政治への反対」「持続可能な安全保障観」を共に唱える中露協力を中国が米日欧諸国へアピールする舞台となってきた。 しかも、BRICS首脳会議直前、ヒマラヤ山脈の国境地帯ドクラム高原における中国軍の道路建設で長らく対峙(たいじ)していた中印両軍の撤退が合意され、インドのモディ首相のBRICS首脳会議参加が実現したことにより、ホスト国として中国の面目が保たれたばかりであった。BRICS首脳会議に合わせた会談で、握手するインドのモディ首相(左)と中国の習近平国家主席=9月5日、中国福建省アモイ市(新華社=共同) 習主席は、10月18日から開催される中国共産党の第19回党大会を控え、大国外交の成果と自身の権威をアモイから国内外へ向かって発信するはずであった。アモイは、習主席が1985~88年に市党委員会常務委員や副市長を務めた地方市である。2002年に浙江省へ党委員会副書記・省長代行として異動するまで、習主席は福建省で17年も務めた。そのような福建省アモイへゲストを含めて9カ国の首脳を招いていたBRICS国際会議の当日に、金正恩朝鮮労働党委員長は核実験を行ったのである。レッドラインを越えたのか 昨年9月に杭州で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議と今年5月の「一帯一路」国際フォーラムの開催日にミサイルを発射したのに続き、中国がホスト国を務めた重要なBRICS会議開催日に、北朝鮮は核実験をぶつけ、習主席のメンツをまたもやつぶしたのである。  米政府は8月上旬、北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄した場合に「4つのノー(ない)」を約束すると説明していた。「4つのノー(ない)」とは、(1)北朝鮮の体制転換は求めない、(2)金正恩政権の崩壊を目指さない、(3)朝鮮半島を南北に分けている北緯38度線を越えて北へ侵攻しない、(4)朝鮮半島の再統一を急がない、という4つの行為をしないという内容であった。それでも北朝鮮が核実験を強行したということは、「金体制の維持」を約束するだけでは北朝鮮が満足しないということを、また、米国の「レッドライン(越えてはならない一線)」を北朝鮮が越えたことを意味する。G20首脳会合に臨む中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領=2017年7月7日、ドイツ・ハンブルク(代表撮影・共同) しかし、米高官が「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と繰り返すものの、米政府の選択肢が限られていることを中国はわかっている。米国とその同盟国の財政状況を見れば、日英独加などが戦費を出したことで戦争が可能であったイラク戦争のようにはいかない。北朝鮮と全面戦争をしても戦費と復興再建費を積極的に出そうとする国がないのは明らかである。米国の同盟国である日本と韓国は、自国への被害を考え、米朝の軍事衝突に否定的である。米トランプ政権では、アジア政策の実務担当の高官ポストがいまだに埋まっていない。トランプ政権の北朝鮮政策は袋小路に陥っている。 一方、9月3、4日の中露の対応を見る限り、核実験は中国のレッドラインをまだ越えていない。3日の吉林省延辺の朝鮮自治州では、北朝鮮による核実験の激震で建物に亀裂が入るほどの被害があった。中国の環境保護部(「部」は日本の「省」に相当)は、3日の核実験を受けて、北朝鮮に隣接する吉林省などで放射性物質のモニタリングを始めた。翌4日には、環境保護部は、放射性物質による異常が見つかっていないと発表した。北朝鮮による中国国境付近への放射性物質の侵犯、そのレベルこそが、中国のレッドラインではないかとみられている。中国の狙いはココだ 中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を制裁や圧力では解決できないと考えている。また、トランプ政権には北朝鮮問題を処理できないとみている。中国は北朝鮮のミサイル発射の目的を「金体制の存続」と「米日韓からの経済援助を引き出すための恫喝(どうかつ)」にあると見ており、対米攻撃を北朝鮮の核・ミサイル開発の目的とは考えていない。 さらに、北朝鮮問題は、「アジア安全保障の最大関心事」を南シナ海から朝鮮半島に移してくれている。「北朝鮮が米国にとってコントロール困難な問題国」である間、米国にとっての中国は「南シナ海や東シナ海への姿勢を変えさせる対象国」である前に、「北朝鮮情勢をめぐって協力を引き出させる協力国」として位置づけられる。また、「尖閣奪取へのろしを上げた中国」にとって、日本の防衛力が北朝鮮に分散することは悪くない話である。 したがって、中国が北朝鮮を追い詰めることはしないであろう。中国が北朝鮮を追い詰めれば、北朝鮮に対するロシアの影響力だけが強まり、そこに中国のメリットはない。 また、中国が金委員長の首をすげ替えようとすることは当分ないであろう。「ポスト金体制の北朝鮮」が不安定化したり多元化したり米韓の傀儡(かいらい)政権に北朝鮮を握られるよりは、ましてや「反中国体制」が北に誕生するよりは、「金正恩体制の現状維持」のほうが中国にとってはマシだからである。 北朝鮮が7月28日に発射したICBMの移動発車台は中国が「民生用」として提供した「中国産の新型」を北朝鮮が改造した可能性があるとの専門家の指摘が報じられている。北朝鮮の強気な態度の根底には、中国とロシアの影響力があると見るべきではなかろうか。BRICS首脳会議で、記念写真に納まるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=9月4日、中国福建省アモイ市(共同) 「カリスマでもなければ、カリスマが指名した指導者でもない」習主席にとって、安定した米中関係の構築は、中国最高指導者としての威信の確立に必至である。中国は、「北朝鮮をめぐる米中協議」を「アフガン・パキスタン・メカニズム」(4カ国調整グループ)への再開とともに、米中協調外交の政治的ツールとして組み込んでいきたいところであろう。名ばかりの経済制裁 国連安全保障理事会の新たな制裁決議に基づき、中国が8月15日から実施した対北朝鮮禁輸を受けて、中国メディアは、中朝国境に架かる橋の上で海産物を載せて中国側に入ろうとするトラックを拒否した中国側通関の報道を「宣伝」した。しかし、国連などの統計によれば、北朝鮮の約9割強の貿易相手国は中国であり、そのうち約1割が海産物である。その海産物の禁輸を「パフォーマンス以上のレベル」で中国が実際に行っているのであれば、北朝鮮の中国に対する反発はもっと激しいものになっているはずではなかろうか。 9月1日に中国吉林省の長春で開幕された国際展示会では、日本や韓国など110以上の国と地域の企業とともに、北朝鮮からも30社以上が出展していた。そこでは、国連制裁決議で輸出が禁止されているはずの海産物の乾燥ナマコも売られていた。 中国は、「国連や米国に対する協調のパフォーマンス」を内外へ、特に米国へ「宣伝」している。しかし、それが厳密に実施されているかは、疑わしい。 「トランプ米大統領が明確な対北朝鮮外交・安全保障政策をもたないままに、北朝鮮を挑発している」と中国は見ている。米朝両国が「偶発的な衝突」に突入しないように、中国とロシアは、米朝両国を抑制するような中露協調外交を強化していくことを明らかにしている。 ただし、中国はロシアの動きにも注視している。中国の「一帯一路」構想の港湾戦略を据えたベンガル湾沿岸国でロシアが軍事外交を積極的に展開する近年(この点は拙著『米中露パワーシフトと日本』〔勁草書房、2017年〕を参照されたい)、中露の北朝鮮政策は海洋戦略も含んでいる。ロシアとの「競合と協調」のバランスを図りながら、中国は北朝鮮の地政学を「氷のシルクロード(北極海航路)」構想においても位置づけて、「北朝鮮をめぐる対話・協議による大国外交」を主張していくであろう。このままでは、アジア太平洋の秩序形成におけるパワーシフトが、ますます中国優位へと加速してしまうことになる。米国が中国頼みの北朝鮮政策を転換すべき時期にきていると、日本はもっと声を高めていくべきではなかろうか。

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    トランプに戦争の選択肢はない 「北朝鮮核保有国」の現実を直視せよ

    柳澤協二(元防衛省幹部、国際地政学研究所理事長) 北朝鮮が6度目の核実験をした。しかも今度は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭に載せる水爆だという。私は率直に言って、このことに驚かなかった。それは北朝鮮の既定路線であって、やるかやらないかではなく、いつやるかという問題だと思っていたからだ。北朝鮮はアメリカと対等になるために、アメリカ本土を脅かす核ミサイルを持たなければならないと思っている。目的は戦争ではない。戦争になれば負けることは分かりきっている。アメリカと対等な立場で交渉できるようにするためだ。 あえて「今なぜか」と言えば、北朝鮮経済の生命線である石油の禁輸という制裁に中国が同調しないという「読み」があったからであり、あるいは石油禁輸が不可避とすれば、それを発動されないうちに核を完成させようという狙いがあったのだろう。 深刻なのは、アメリカの圧力外交が効果をあげていないことが明らかになったことだ。中国が石油を止めないとすると、体制を脅かす「決め手」になるような制裁はない。そうすると、実力で核を排除する以外にない。少なくとも、空母を浮かべ、B1爆撃機を見せる程度ではなく、戦争すれすれの脅しをしなければならない。8月8日、米ニュージャージー州のゴルフ施設で北朝鮮情勢について話すトランプ大統領(ロイター=共同) それでも、北朝鮮が核を放棄することはあり得ないと誰もが知っている。つまり、武力で威嚇するやり方では、核開発は止まらないということが明らかになったのだ。 制裁や威嚇で止まらなければ、物理的に核を排除するしかない。そのためには、政権を排除することが最も確実だ。それは「大量破壊兵器を隠し持っていた」と決めつけてイラクのサダム・フセインを打倒したときと同じ論理である。 今回は、結果的に大量破壊兵器が見つからなかったイラクよりも、はるかに大義名分がある。そして、北朝鮮に武力行使した場合、水爆を積んだICBMが完成する前にやらなければ、核の反撃にあうかもしれない。アメリカにとっても「やるなら今だ」という計算が成り立つ。韓国は、自分の同意なしに戦争することに反対だと明確に述べている。中国には、戦争になれば北朝鮮に加勢するという論調もある。さて、日本はどうするのだろう。 1960年に改定された日米安保条約の交換公文では、日本の基地からの直接出撃は事前協議の対象となる。ベトナム戦争の時のように「米軍機が飛び立ったのは通常の移動であって、その時点で北朝鮮の核施設を爆撃する予定はなかったと承知している」という話では済まない。日本の基地への反撃があり得るからだ。 だが私は、実際にはそのシナリオはないだろうと思っている。戦争は、早期に目的を達成して終結する見通しと、戦争終結後に訪れる状況が戦争前よりも良くなっているという展望がなければ始められないからだ。 核開発を止められず、戦争のシナリオがないとすると、選択肢は「交渉」しか残っていない。交渉の条件は、北朝鮮が主張する「核保有国であること」を認めるか、少なくとも「棚上げ」することにならざるを得ない。交渉に移行する最大の障害は、米国内と日韓両国の世論だ。トランプは、自らの強硬路線の失敗を認めることになるのだから、どうやって「名誉ある転進」のように見せるかに腐心することになる。日本がもっと心配するべきこととは? そのシナリオは、おそらく「自分は戦うつもりだったが、韓国や日本といった同盟国がやめてくれと懇願するので仕方なく交渉を選んだ」と言えるような、もう一段高い危機的状況を作り出すことだと考える。 そして、もう一つの「おそらく」を言えば、日本の官邸もそのことに気づき始めている。だから、そこではきっとうまい「芝居」がうたれるに違いない。安倍政権の支持も劇的に回復するかもしれない。 下手な芝居をすれば、本当に戦争になってしまうかもしれない。だから、ぜひうまくやってもらわなければならないのだが、核保有を前提とした交渉をどうやって正当化するのか、依然として難しい課題があることは間違いない。 日本人が考えなければならないことは、したいこととできることは違う、という現実を直視することだ。北朝鮮に核を放棄させたいのなら、金正恩体制を倒すしかない。それは、アメリカにはできるが、その過程でどれだけの被害を受けるのか、その覚悟がなければ「できないこと」なのだ。 脅威とは、能力と意志の掛け算だ。北朝鮮の能力を止められないなら、その能力を使う意志をなくさなければならない。北朝鮮の意志は、一貫してアメリカを向いてきた。そもそも、米朝の対立は1950年の朝鮮戦争にさかのぼる。戦争は3年後に休戦を迎えたが、まだ終わったわけではない。両国は今も戦争当事者であり続けている。戦争当事者の一方に向かって、「敵と対等になるための核を持つな」と言っても通じない。 それゆえ、核放棄というハードルを外し、まずは南進統一の野望を捨てさせる。それならアメリカも北朝鮮を攻撃しない、という平和条約によって両者の戦争を終わらせることから始めなければならないのだろう。現に両者の激しい言葉の応酬にもかかわらず、事態はそこに向かって進んでいる。それは両国の政治リーダーの思惑を超えた、問題の構造に内在する論理的帰結だ。 そこで、日本がもっと心配しなければならないのは、北朝鮮の核を現実として認めることによる「核不拡散レジーム」の空洞化だ。だが、少なくともそれは、戦争の理由にはならない。それが許せないのなら、インド、パキスタン、イスラエルも許せない。そうではなく、北朝鮮が自国の脅威だから許せないというのであれば、日本も核を持つという論理になりかねない。「核兵器禁止条約」制定交渉で、空席となっていた日本政府代表の席=7月7日、ニューヨークの国連本部(共同) しかし、その脅威は日本を攻撃する意志をなくすことで脅威ではなくなる。インド、パキスタン、イスラエルの核が脅威ではない理由もそこにある。その上で、唯一の戦争被爆国という、カネで買っても得られない正当性を背景に、核の不当性を訴えていく。日本が「できること」は、そういうことではないのか。核をなくすという「したいこと」を、「できること」をもって実現するには、時間がかかるのである。

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    「核戦争の共通認識」がない北朝鮮に米国が取るべき道は対話しかない

    中岡望(東洋英和女学院大学大学院客員教授) 北朝鮮の核兵器と大陸間弾道弾の開発で朝鮮半島の緊張が高まっている。北朝鮮は挑発的で過激な発言を繰り返し、トランプ大統領も激しい言葉で応じている。アメリカは北朝鮮に対する経済政策強化を進めることで北朝鮮に核兵器開発を断念するよう圧力をかけ続けている。 しかし、誰も経済制裁の強化で北朝鮮が核兵器開発を断念するとは思っていないのではないだろうか。最悪の場合、事態はさらに悪化する可能性もある。こうした時こそ単に軍事的な分析だけでなく、冷静な判断が必要となるだろう。 戦争は誰のメリットにもならない。北朝鮮とアメリカの軍事力、経済力の格差は歴然で、どう転んでも北朝鮮に勝ち目はない。「螳螂(とうろう)の斧」である。その激しい口調とは裏腹に、北朝鮮にはアメリカを攻撃する能力も意味も存在しない。過剰に北朝鮮の脅威を強調するのは賢明な対応とはいえない。 実際に軍事衝突が始まれば、北朝鮮が目指す体制維持は難しくなるだろう。韓国と中国にも戦火は拡大するかもしれないし、北朝鮮の体制崩壊で中国と韓国に大量の難民が押しかけてくるのも間違いない。日本にも影響は及ぶだろう。またアメリカにとっても何のメリットもない。「核クラブ」による核兵器の独占を維持できたとしても、その代価はあまりにも大きい。北朝鮮の水爆実験の成功を報じる街頭テレビ=3日、東京都(佐藤徳昭撮影) では、なぜ北朝鮮は強引に核兵器の開発を進め、アメリカを挑発し続けるのだろうか。北朝鮮は非合理的な判断をする可能性はあるのだろうか。そこまでのリスクを冒して、北朝鮮は何を得ようとしているのだろうか。狙いは単純である。すべては「体制維持」にある。「核保有国」として認知されることで、それを実現しようとしているのである。 さらにアメリカを直接交渉の場に引き出したいのである。もうひとつ加えれば、経済制裁は効果がないことを示そうとしているのだろう。しかし、アメリカは北朝鮮を「核保有国」として容認することはできないし、直接交渉する準備もできていない。 まず指摘しておかなければならないのは、朝鮮戦争はまだ終わっていないということである。現在は休戦状態だ。アメリカは朝鮮戦争が始まったときから現在に至るまで北朝鮮に対する制裁を続けている。両国の間には正式な外交チャンネルが存在していない。「ニューヨーク・チャンネル」と呼ばれる国連を舞台にする細いチャンネルがあったが、オバマ政権の最後の年にそのチャンネルも閉ざされている。両国はお互いの真意を知る機会さえ持つことができない状況が続いている。 一番怖いのは、対話のない中でお互いの意思を誤解し、計算間違いを犯すことだ。アメリカも北朝鮮に関する明確な情報を持っていない。誤解と計算違いのリスクは北朝鮮だけでなく、アメリカにもある。北朝鮮を非核化するために必要なこと 冷戦の時でさえ米ソの間に外交チャンネルは存在し、お互いの意思を確認し合うことができた。また「相互確証破壊」という共通した考えを持ち、核戦争ではどちらの国も勝利を収めることはできないという共通認識が存在した。だが、北朝鮮とアメリカの間には、共通認識は何も存在しない状況にある。 北朝鮮の挑発的な発言は今に始まったことではない。それに対してアメリカは比較的自制的な対応を取ってきた。オバマ政権は「戦略的忍耐(strategic patience)」を取り、直接的にコミットすることを避けてきた。付け加えれば、オバマ政権は成功はしなかったが核軍縮を目指してきた。 だが、トランプ大統領はそうした自制心を投げ捨て、極めて厳しい対応を取り始める。核開発予算の増額も求めている。北朝鮮に対しては「すべてのオプションはテーブルの上にある」と、「対話」と同時に「軍事的攻撃」も選択肢にあると発言している。 3日、トランプ大統領は記者団に「北朝鮮を攻撃する計画はあるのか」と聞かれ、「検討する(We’ll see)」と答えている。こうしたメッセージが北朝鮮にどう伝わり、どう受け止められているか分からないが、北朝鮮に大きな脅威を与えていることは間違いないだろう。記者団に対応するドナルド・トランプ米大統領=10日、米ニュージャージー州(AP=共同) さらに混迷を深めているのは、トランプ政権内で明確な北朝鮮政策がみられないことだ。トランプ大統領とは違い、ティラーソン国務長官やマティス国防長官は対話の重要性を訴えている。9月3日のNBCニュースは、ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮ウオッチサイト「38North」が8月に「もしアメリカが北朝鮮に対する敵対政策と核の脅威を止めるなら、核兵器とミサイル開発を中止する準備がある」と分析していると伝えている。だが、トランプ政権はそうした兆候や分析を無視している。 スタンフォード大学教授のエイミー・ゼガート氏は、『アトランティック』誌に寄稿した記事(How not to Threaten North Korea)で「アメリカの北朝鮮政策は失敗し続けている。トランプ政権になって対立のリスクは劇的に高まった」と指摘している。その中で注目されるのは、トランプ大統領は自らの情緒的な発言でアメリカに対する「信頼性」を損なっていると指摘していることだ。「外交政策では、言葉は安っぽいものではない。危険性を孕(はら)むものである」とも書いている。危機的な状況の時こそ、冷静な発言と判断が必要となる。 北朝鮮問題を解決できるのはアメリカだけである。北朝鮮の対米不信は根深い。声高に制裁強化を主張するだけでは問題解決にはならない。また歴史的に見て、経済制裁が成功した例はない。北朝鮮に対する「太陽政策」も「北風政策」もあまり効果はなかった。太陽政策は単に北朝鮮に時間を与えただけではないかとの批判もある。しかし、北風政策は間違いなく危機を深刻なものにするだろう。 目標は明確である。朝鮮半島の非核化である。そのために必要なことは、経済制裁強化ではなく、まずアメリカが北朝鮮との間に対話のチャンネルを構築する努力を行うことであり、高官レベルでの直接対話の可能性を探ることである。それによって初めて信頼関係を取り戻せるのだ。

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    北朝鮮が「アメリカ本土に届くミサイル」にこだわる理由

     7月28日、日本時間の午後11時42分頃、北朝鮮の内陸部・舞坪里(ムピョンリ)から弾道ミサイルが発射された。このミサイルは、約45分間飛行して、北海道・奥尻島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと推定されている。朝鮮中央通信によると、高度は3724.9km、水平距離は998kmで、過去最高の高度と飛行時間を記録。7月4日に発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星14号』の改良版ではないかといわれている。金正恩朝鮮労働党委員長は「米本土全域がわれわれの射程圏内にあるということがはっきりと立証された」と誇らしげだったという。 北朝鮮はなぜここまで、“アメリカ本土に届くミサイル”にこだわるのだろうか。 オバマ時代の対北朝鮮政策は「戦略的忍耐」と呼ばれ、「北朝鮮が非核化に向けた措置を取らない限り、対話に一切応じない」というものだったが、北朝鮮はそれを無視し、オバマ時代に4回も核実験を行い、核兵器の性能を大幅に向上させてきた。だが今年1月、トランプ大統領政権に変わったことで、事態は大きく変化する。 金沢工業大学虎ノ門大学院教授で、34年間、海上自衛隊の海将などを務めてきた伊藤俊幸さんが、こう解説する。「トランプ政権が北朝鮮に対して出した対話の条件は、“核の完全放棄”です。さらに、北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す挑発行為をエスカレートさせた場合、あらゆる措置をとると厳しく警告。軍事行動が含まれることも示唆しています」 実際にアメリカは、北朝鮮への影響力が強い中国に対し、北朝鮮への圧力強化を指示している。しかし、中国はそれに応える結果をなかなか出さない。そんな中国に対してアメリカは、米中の銀行取引を禁じるなど、この6月から経済制裁をかけ始めている。「そうした中、北朝鮮は、“自分たちにも核ミサイルをアメリカまで飛ばす軍事力があるとわかれば、アメリカは自分たちと対等に話をするはず”と考え、そのアピールのために、頻繁にミサイルを飛ばしているのです。言うなれば、北朝鮮が欲しいのは“核”による抑止力です。これがあれば、アメリカをはじめとするロシアや中国などの大国と対等になれると思い込んでいるのです。しかし、北朝鮮の核保有に、アメリカは強く強く反対しています」(伊藤さん)関連記事■ 北朝鮮核ミサイルに対抗するには日韓核武装も選択肢と専門家■ 北がミサイル発射、日本EEZに落下か…深夜に■ ノドン、ムスダン、テポドン… 金正恩のミサイルの実力■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 金正日死去で北朝鮮に暴動発生・米国の武力介入の可能性指摘

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    北の核実験で習近平の怒りも頂点に 血で固めた友誼どうなる

     北朝鮮が9月3日、6度目の核実験を行った。とうとうトランプ大統領の堪忍袋の緒が切れるのだろうか。しかし、堪忍袋の緒が切れるのはトランプ大統領だけではない。中国の習近平主席も同じ思いかもしれない。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏が、友好関係に亀裂が入りかねない中朝関係についてレポートする。* * * トランプ大統領は9月3日、ツイッターに「北朝鮮の言動は引き続き、米国に対し非常に敵対的で危険だ」と非難した。一方、中国外務省も同日、「断固たる反対と強い非難」という声明を発表している。 このように、今回の核実験をめぐり、米朝関係だけでなく、中朝関係、すなわち習近平と金正恩の関係も悪化した。中国による金正恩排除 これまで北朝鮮を擁護してきた中国でも、なりふり構わない北朝鮮の行動や言動に対しては我慢の限界というものがある。金正恩はいまだに中国を訪問していないばかりか、中国を名指ししての批判まで行った。このような指導者を中国はいつまでも放置しないだろう。中国の習近平国家主席=2016年11月19日、リマ(AP=共同) 習近平主席が「現状維持よりも金正恩を排除したほうが得策」と判断した場合、北朝鮮への経済支援を完全に停止するなどして圧力をかけ、金正恩を亡命させて政権を崩壊させるかもしれない。 中国が金正恩排除を実行する可能性があるのは、中国にとって米軍との緩衝地帯としての「朝鮮半島北半分」の地域が必要となるためなのだが、そのためには中国に従順な政権である必要がある。 そもそも中国にとっては、緩衝地帯となる地域の指導者が金正恩である必要はなく、その地域が「朝鮮民主主義人民共和国」である必要もない。中国のコントロール下に置くことができればいいのだ。従って、中国に反発するような政権は必要ない。 ただ、中国にとっての金正恩排除後のリスクは、北朝鮮からの難民の流入である。この問題は非常に厄介だが、金正恩排除後に直ちに中国軍が北朝鮮北部を占領し、中国へ北朝鮮難民が押し寄せるのを防ぐための安全地帯を設ける可能性もある。悪化を続ける中朝関係 中朝関係は「血で固めた友誼」で結ばれていると言われている。これは、朝鮮戦争を通じて血で固められた友情を意味する。この関係を明文化したものが、1961 年 7 月 11 日に締結された「中朝友好協力相互援助条約」といえる。 この条約の第2条では、「いかなる国家からの侵略であってもこれを防止するため、全ての措置を共同でとる」「締約国の一方が戦争状態に陥った場合に、締約相手は全力をあげて、遅滞なく軍事的およびその他の援助を提供する」と規定している。 しかし、このような規定があっても、中国は自動的に軍事支援を行うことはないだろう。中朝はもはや同盟関係とはいえないからだ。また、この条約は20年ごとの自動更新で、前回は2001年に更新されたのだが、2021年に更新されるかどうかは微妙なところだろう。 中朝関係が微妙になっているのは、中国国防省は公式には認めていないものの、今年4月以降に次のような報道があったことからも垣間見える。【中国軍が臨戦態勢に次ぐレベルの「2級戦備態勢」に入り、中朝国境地帯に10万~15万人規模の兵力を展開した】【中国空軍の爆撃機が「高度な警戒態勢」に入った】【中国が国境付近で軍を改編・増強し、核・化学兵器の攻撃に備えて地下壕を整備している】【北朝鮮へ派遣される可能性がある特殊部隊などの訓練や、武装ヘリコプターによる実弾演習を行った】 軍の動向以外にも、中国共産党機関紙「人民日報」系の国際情報紙「環球時報」が今年4月以降、頻繁に北朝鮮への警告と受け取れる内容の記事を掲載している。 しかし、北朝鮮の中国に対する態度は、既に2013年に変化していた。軍や秘密警察の幹部に対し、「中国に幻想を持つな」「有事には中国を敵とみなせ」とする思想教育を進めていたというのだ。(「産経新聞」2013年12月29日) 北朝鮮が友好国である中国を露骨に批判した文書が明らかになるのは異例だが、2015年にも、朝鮮労働党が国連安全保障理事会の制裁に同調する中国の動きを「敵対視策動」と見なして猛反発し、党中央が地方組織の下級幹部向けの講習会で、米国に対抗するための闘争を党員らに指示している。(「時事通信」2016年3月28日)非現実的な南北統一非現実的な南北統一 こうした中国の動きに対して、韓国の文在寅大統領は韓国主導による南北統一を強く主張するだろう。しかし、現在の韓国には統一に必要な費用を捻出する余力がないうえ、南北統一のロードマップすら策定できていない。 これは、朴槿恵大統領が2015年2月16日、大統領府で大統領直属の統一準備委員会を開催して、南北統一のロードマップを策定するよう述べていることからも裏付けられる。 ロードマップを策定するにあたっての障害は、南北統一に必要な費用、すなわち統一コストの問題だろう。統一コストには2400億ドル(約26兆円)という数字もあれば、2兆ドル(約220兆円)という数字もありバラつきが激しい。 これは、北朝鮮が経済統計を発表していないため、韓国銀行(中央銀行)などが北朝鮮の経済指標を推定せざるを得ないことと、インフラの整備や工場の再建などに、どの程度の費用が必要なのか分からないためであろう。 とはいえ、南北統一にはさまざまなシナリオが考えられるが、どのような形にせよ、大量の難民の発生が最大の問題となる。難民の流入を防止するため、韓国では1990年代に、北朝鮮の国民1人ずつに生活補助金を与える場合とそうでない場合を想定したシミュレーションを行ったことがある。 このシミュレーションの結果、生活補助金を与えない場合の年間流入者は140万人、月額10万ウォン(現在のレートで約9800円)で102万人、20万ウォンで80万人となった。 韓国が受け入れ可能な単純労働者は67万人であることから、20万ウォンを援助しても1年で限度を超えることになり、難民の受け入れができないことが改めて証明される結果となった。 一方、韓国政府は1997年7月に詳細な難民対策案を作成している。これは「30日計画」と呼ばれるもので、同計画よると難民流出は1か月間で韓国に10万人、国境を接する中露などに20万人の計30万人を想定し、「国際会議」の構成や日本からの食糧・財政支援などを含めた具体的な対応策を構想している。 いずれにしても、韓国の負担はあまりにも重い。筆者は南北統一に関する事項を管掌する統一部のレポート類を読んでいるが、読めば読むほど南北統一の難しさを感じる。北朝鮮の命運を握る中国 これまで述べてきたように、韓国主導による南北統一は非現実的であるため、金正恩排除後の北朝鮮の命運を握るのは中国ということになる。 米国が武力行使する可能性については、現在の米国はイラクやシリア、アフガニスタンでの戦争で手一杯であるため、トランプ政権は現に戦闘が行われている地域を重視せざるを得ないため現実的ではない。 しかも、米国防総省は、2012年2月1日に公表した「4年ごとの国防政策の見直し」(QDR)で、「同時に発生した2つの地域戦争に対応する二正面作戦の実行を可能にする」という方針を改め、対武装勢力、対テロ作戦を重視した柔軟な国防体制に転換する方針を明らかにしている。 現在は北朝鮮への圧力として、グアムのB-1B戦略爆撃機を韓国上空へ派遣することしか出来ていない。朝鮮半島近海に空母を派遣していないことについては、空母の維持費は年間600億円とも言われており、1隻だけで毎日億単位の予算を消費することになる。このため、朝鮮半島近海だけに配備するわけにはいかないのだ。 結局、米国は北朝鮮に手を出すことができず、中国の動きを黙認せざるを得ない。つまり、金正恩政権の将来は米国ではなく中国に握られているのだ。 そろそろ金正恩は自分の命運を習近平が握っていることを自覚し、中国の意向を考慮した行動を取る必要があろう。これ以上、中国を怒らせることは、長期的に朝鮮半島の不安定化を招くことになる。 金正恩が排除された場合は難民の流入など、日本も他人事ではなくなる。中国や韓国だけでなく、日本も「その時」に備えておく必要があろう。関連記事■ 使える時間は4分のみ 現実に見えた「Jアラートの実力」■ 金日成の健康法は少女からの輸血や少女との入浴など■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ 「日本の刑務所すら夢のような世界」北朝鮮の難民リスクは■ 大谷翔平「風俗店に直筆サイン」騒動で球団が火消しに奔走

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    「電磁パルス攻撃」が次の一手? 核実験も疑わしい北朝鮮に騙されるな

    原田武夫(元外交官・原田武夫国際戦略情報研究所代表取締役) 9月3日、北朝鮮を震源地とする大きな揺れが観測された。これを受けて北朝鮮は「水爆実験に成功した」と主張し、国際社会全体に衝撃を与えた。北朝鮮は先日も弾道ミサイルを太平洋上に向けて発射し、北海道をまたいでわが国に対して深刻な恐怖を与えたばかりだ。北朝鮮核実験のニュースを報じる街頭モニター=9月3日、東京都千代田区(佐藤徳昭撮影) しかもそれだけではない。今後、北朝鮮は一般には聞きなれない「電磁パルス攻撃」なるものまで仕掛けて来ると言われている。「次の一手」として北朝鮮が一体どのタイミングで何をしでかしてくるのかに注目が集まっているのである。 私は2005年春まで外務省にキャリア外交官として勤務し、最後は北東アジア課で北朝鮮班長を務めていた。わが国の対北朝鮮外交の最前線にいたわけであるが、そこで積んだ経験、さらにはその後、外務省を自主退職して以降、さまざまな方面から収集した情報をベースに「私たち日本人はいま何を考え、そしてこれから何をすれば良いのか」について書いてみたいと思う。 最初に考えなければならないのはそもそも北朝鮮の「主張」が真実なのかという点である。 「弾道ミサイルが発射されたのは本当であり、また巨大な揺れを感じた以上、水爆実験が行われたことも真実のはず。これ以上何を疑う必要があるのか」 読者はきっとそう考えるに違いない。しかし、プロの「北朝鮮のウォッチャー」の視点からすると最初にこの点こそ真正面から疑ってみる必要がある。それはなぜか。 例えば、今回の「水爆実験成功」なる北朝鮮の主張を取り上げてみよう。実は核不拡散の専門家の見地からいうと、まだ本当に「水爆実験」であったかどうかは分からないというのが正直なところなのだ。 なぜなら、非常に簡単にいうとこうした核実験が行われたことを確認するためには、下記の3つの要件が必ず必要だからである。①巨大な揺れが世界中に設置されている「包括的核実験禁止条約(CTBT)」事務局公認の地震計(わが国では長野県・松代に設置されている)で均(ひと)しく観測される必要がある。②核実験を行った時のみに観測することができる特定の放射性物質(キセノン等)を空気中で実際に採取することができる。③ 中立的な専門家が当該国の現地を実際に訪問し、確認すること しかし、北朝鮮がこれまで「核実験」として主張してきた例を見ると、①~③まで全ての条件がそろったことは一度もないのである。③については北朝鮮という閉鎖的な国柄から考えて、当然、現地査察は認められないとしても、②も毎回観測できているわけではないのだ。そして、①も実のところ、専門家たちの間では「核実験が行われたと考えるのに十分な揺れ」が全ての観測地点で観測されているわけではない。核実験に加えミサイルも それでも米国やわが国をはじめとする各国は、どういうわけか「北朝鮮が核実験を行ったこと」を認め、そのことを前提に議論してしまっているのである。むろん、弾道ミサイルの開発が北朝鮮において順調に進んでいることは確かなのだから、悠長なことを言うべきではないという意見もあるはずだ。だが、その肝心の「弾道ミサイル」開発についても、ここに来て「どうやらウクライナからミサイルエンジンを輸入しているらしい」という分析を米インテリジェンス機関が公開したばかりなのである。 つまり、北朝鮮は完全に自分自身で弾道ミサイルを開発し、それに「核弾頭」を載せて威嚇しているわけでは決してないのである。そもそも弾道ミサイルについては、どこか外部の勢力からの支援を受けて開発しているに過ぎず、また「核弾頭」は存在するかどうかさえ分からず、その大前提としての「核実験」についてすら、本当に行われているのかどうか、全く定かではないというのが実態なのだ。 だが、米国をはじめとする関係諸国はすでに「北朝鮮がいよいよ米領グアムに対して弾道ミサイルを発射すること」を前提に動き出している。先日まで「北朝鮮はよく自制をしてきている」として対話の用意があることすら示唆していたトランプ米政権も、どういうわけか軍人たちを筆頭とする「主戦論」に転換し、下手すれば「第二次朝鮮戦争」にまで発展しかねない軍事的衝突を今や遅しと待ち構えている可能性がある。演説するトランプ米大統領=8月22日、アリゾナ州フェニックス(AP=共同) しかも、わが国はそうした中で北朝鮮が隣国であるにもかかわらず、主体的な動きをすることができず、明らかにもがいているのである。事実、わが国の上空をまたいでいった先日の弾道ミサイルに対して、事前及びその飛行中にわが国は何もすることができなかった。もはや「国民の生命と財産」と言う意味での「国益」は政府であっても守れないことが露呈しているというのが実態なのである。 しかし、そうした状況の中であっても驚き、慄(おのの)いてはならないというのが私の考えである。むしろ、北朝鮮をめぐる現下の情勢において、ある意味では、わが国が明らかに「当事者能力」を失っているからこそ、冷静に今の状況を見つめる必要がある。そうして、グローバル社会の背後にうごめく、日本古来から伝えられる妖怪「鵺(ぬえ)」のような不可思議なものが、この出来事を通じて一体何を実現しようとしているのかをはっきりと見いだすべきなのである。東アジア秩序の大転換 なぜならば、今回の北朝鮮をめぐる一連の「出来事」はあまりにも「できすぎたストーリー」だからだ。事実、突然「テロ」に遭って亡くなった金正男から始まり、ここに至るまでの北朝鮮をめぐる一連の展開は話ができすぎている。北朝鮮の金正日総書記の長男、金正男氏=2007年3月18日マカオ市内(清水満撮影)  その金正男が実のところ、ある段階まで「今後、北朝鮮の金正恩体制が事実上崩壊した際、暫定大統領として自由選挙を取り仕切る役割を果たすべき人物」として、マカオで米国と華僑・客家集団の取り決めに基づき「温存」されていたことは、グローバルなインテリジェンスの世界では「常識」だった。ところがある時、何者かによってこのシナリオは完全に破棄され、少なくとも表舞台から金正男は姿を消したのであった。 このような展開を前に各国の情報機関でも動揺が走っているように見受けられる。なぜならば、より上位の意思決定によって明らかにこの「シナリオ」は放棄され、そこからやおら、北朝鮮の金正恩体制による暴走が露呈し始めたからである。そして現体制は明らかに「自滅」に向かっている。 このままいけば、弾道ミサイルはグアムに向けて発射され、それに対して怒り狂うトランプ米政権は一気にミサイル攻撃を北朝鮮に対して仕掛け、その軍事力を極めて短時間で「無能力化」するのは目に見ている。「裸の王様」となった金正恩に統治能力はもはやないに等しいが、問題はその時「彼の身に何が起こるのか」なのである。 万が一、金正恩が「命を落とす」といったケースが自然な形で起きてしまった場合、なし崩し的に北朝鮮における体制転換が生じ、これが韓国をも含む朝鮮半島全体の再編を促し、ついには周辺諸国をも含む、いわば「環日本海秩序」とでもいうべきものをリニューアルする流れが一気に始まる可能性がある。 国際社会のより上部に位置しながらその歩みの連続として「世界史」を動かしている「鵺(ぬえ)」は今、いよいよ決断し、動かし始めたと考えるべきだと私は分析している。 そして何よりも問題なのは、「加計問題」など国内問題に相も変わらず揺れている安倍政権が、果たしてこうした極めてハイレベルな国際社会の最上部における決断に対して、応分の貢献が主体的な形でできるか否かなのである。広い意味で言えば「2019年に主要20カ国・地域首脳会議(G20)の議長国をわが国にする」という決定は、そのための機会として与えられたものであることを私たちは忘れてはならないのだ。 そして、その先においてわが国が憲法でうたう「国際社会における名誉ある地位を占める」ことができるかどうかは、今この瞬間から始まっている「グレート・ゲーム(政治的駆け引き)」において、私たち日本人一人ひとりがいかなる自覚をもって、どのように動くのかにかかっているのである。そのことを決して忘れてはならない。

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    北朝鮮核実験、揺らぐ世界秩序

    北朝鮮が6度目の核実験を強行した。国営放送を通じた声明では「水爆実験の成功」を主張し、強硬姿勢を貫く米国を射程圏に入れた核ミサイル開発が最終段階にあることをアピールした。国際社会の反発を無視して暴挙を繰り返す北朝鮮。対話か圧力か、それとも軍事オプションか。揺らぐ世界秩序の今を読み解く。

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    トランプが金正恩「斬首作戦」を決断する準備は整った

    が報じた8月29日に行われた中距離弾道ミサイル発射訓練を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。 9月3日、北朝鮮が6回目の核実験を強行した。私はその前日に次のような情報を入手していた。 「金正恩が7月か8月に人民軍に『米国を最大限圧迫せよ。核実験もせよ。ミサイルももっと発射せよ。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も射て。SLBMを搭載できる大型潜水艦(原潜ではない。まだ原潜作る技術はない)を作れ。100発同時に撃てば米国も迎撃できない。米国を軍事的に徹底的に圧迫して交渉に引き出せ』と指示した。金正恩は、経済力では韓国に追いつくことはもはや不可能で、同じアジアの共産国であるベトナムにも追いつけないので米国と談判するしかないと考えている。北朝鮮を核保有国と認めさせ、平和協定を結び米軍を撤退させることを目指している」 その情報を聞いた翌日に核実験があった。そして、韓国国防部によると近く大陸間弾道ミサイルの発射実験があるかもしれない。もしそれが現実化すればまさに情報通りのことが起きていることになる。 実は、私は5月に「4月下旬に1回核実験を準備した。100キロトンクラスのこれまでにない威力の実験で、小型化された核弾頭の実験だ。これに成功すれば弾頭の小型化は完成する。実験の数日前に中国に通報したところ、国境を封鎖すると脅されて金正恩の妹、金与正が中国は金正恩政権を倒そうとしているとアドバイスしたので金正恩は実験を延期した」という情報を得ていた。 TBSが5月12日、私が入手した情報とほぼ同じ内容を中国側での取材の結果として報じていた。 北朝鮮は4月18日、2日後の20日に核実験を行うと中国に対して通告していたことが外交筋への取材で分かりました。…通告を受けて北朝鮮と国境を接する中国東北部では、警察が核実験による揺れや被害に備え、徹夜の態勢を敷いたと言います。Q.(先月)19日の夜に待機するよう言われた? 「そういう指示はありました」(中国東北部の警察官)Q.北朝鮮が核実験をするからと? 「次の日になって聞きました」(中国東北部の警察官) 中国は通告があったことをアメリカに伝えるとともに、北朝鮮に対し、「核実験を強行すれば中朝国境を長期間にわたって封鎖する」と警告したということです。 「中国は『北朝鮮に核実験を自制するよう求めた』と伝えてきました。さらに『核実験を行った場合には独自制裁に乗り出す』と北朝鮮に通告したとも中国は伝えてきました」(ティラーソン米国務長官、先月27日) 核実験の通告についてはアメリカから日本にも伝えられ、警戒態勢が取られましたが、結局、20日に核実験は行われませんでした。 中国の言う封鎖の対象は陸の国境だけでなく海も含まれていて、食料や生活物資なども含む中国から北朝鮮への物流が全て止まる。最後の賭けだった核実験演説する中国の習近平国家主席=9月3日、中国福建省(共同) 今回の実験の威力は日本防衛省の推計で70キロトンだというから、5月に私が入手した情報と符合する。中国は石油禁輸や国境封鎖など超強硬措置をとるだろう。北朝鮮経済は中国の影響下にある。生活物資の大部分が中国製品だ。それが全面的に遮断されれば餓死者が大量発生することもありうる。また、北朝鮮軍人の軍服、軍靴などもみな中国製だ。中国が国境を封鎖すれば軍も維持が困難になる。なによりも北朝鮮で使われている石油の大部分が中国から輸入したものだ。一部ロシア産もあるが、国連安保理で禁輸が決議されればすべて止まる。それを分かっていながら金正恩は最後の賭けとして核実験を強行した。 9月2日、東京新聞の北京特派員、城内康伸氏が書いた記事は、金正恩が石油禁輸制裁実施を織り込み済みで、それに備えて100万トンの石油備蓄を命じていたことを伝えた。 北朝鮮が今年4月ごろ、原油や石油製品の年間輸入量の半分から3分の2に相当する石油100万トンを備蓄する目標を、金正恩(朝鮮労働党委員長がトップを務める国務委員会で決定した、と北朝鮮関係者が明らかにした。核やミサイル開発に対する国際社会の制裁強化で、石油禁輸や輸入制限が拡大する事態に備えたとみられる。 この関係者によると、政府機関の閣僚専用車など公用車に対し、一カ月当たりのガソリン供給量が制限されているという。関係者は「幹部級の公用車が通勤に使うだけで精いっぱいの状況も起きている」と指摘。不足分は民間業者から調達するという。首都・平壌では4月、給油所の営業停止が突然広がり、深刻なガソリン不足が発生し、価格が急騰。価格上昇はいったん沈静化したが、別の北朝鮮消息筋によると、最近は再び値上がりしているとされ、北朝鮮当局が市場への供給を制限している可能性がある。金正日だったら訪中していた金正恩朝鮮労働党委員長 金正恩は焦っている。彼が優秀な戦略家だと評する向きもいるが、私はそうは思わない。金正日が生きていれば、トランプに軍事挑発をかける前に訪中して中国共産党と表面上の和解をするだろう。金正日は死ぬ直前の2010年から11年にかけて3回も訪中して後継体制への支援を懇願している。米国と中国の両方を敵に回す外交は戦略家がすることではない。 彼の足元も不安定だ。韓国情報関係者によると、労働党中央の幹部や国家保衛省の幹部が頻繁に連絡してきて、自分が韓国に亡命した場合の待遇について真剣に質問するという。夏の水不足のためこの秋を米とトウモロコシの収穫はかなり悪いと予想され、来年春には餓死者が出るのではないかという声が北朝鮮内部から聞こえてくる。 核ミサイル開発と独裁体制維持に必要な外貨を管理している労働党39号室の秘密資金が相当枯渇している。7月の国連制裁で鉱物資源と水産物の輸出が禁止されたため、年間10億ドル程度外貨収入が減少する。このままでは外貨不足により独裁統治が揺らぐかもしれない。そこまで追い詰められたので、金正恩が大陸間弾道ミサイル(ICBM)と核実験という持ち札を全部切って、トランプとの談判を持とうとしてきたと私は見ている。 トランプ大統領は米国本土まで届く核ミサイルを持たせた大統領として歴史に名を残すことは絶対に避けたいはずだ。徹底した対北経済封鎖、それに同調しない中国とロシア企業には2次制裁で国際金融秩序から追放する措置を取るだろう。それでも金正恩は核ミサイルを放棄しないだろうから、軍事行動、すなわち金正恩を除去する「斬首作戦」の準備を進めるはずだ。 米国の軍事圧力は戦争直前まで高まるだろう。金正恩は自分の命を守るため、対米譲歩をする可能性が高い。わが国は米国に対して経済制裁、軍事攻撃準備に全面的に協力しつつ、金正恩が命乞いをしてきたとき、核ミサイル放棄だけでなくすべての拉致被害者の帰国なしには対北圧力を緩めてはならないと全力で働きかけるべきだ。金正恩からすれば核ミサイルは国家戦略問題だが、拉致問題は戦術問題だから、2002年9月のように米国の軍事圧力を交わすために日本のカードを使うこともあり得る。 日本は米国と足並みをそろえて対北圧迫に全力を尽くしながら、最後の交渉で拉致被害者全員帰国を対北要求のデッドラインとして死守しなければならない。いよいよ正念場だ。

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    北朝鮮情勢、カギは日本の核武装を許さない中国の「レッドライン」

    重村智計(早稲田大名誉教授) 北朝鮮は、核弾頭と米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)が完成するまで、核とミサイル実験を止めない。3日の「水爆実験成功」発表はその意思表示だ。米国のトランプ大統領は、軍事攻撃か核容認かの選択を迫られる。核の兵器化事業を指導する金正恩朝鮮労働党委員長。日時は不明。朝鮮中央通信が9月3日報じた(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 日本の専門家は「米韓軍事演習が契機」(日経)「米の軍事行動ないと判断」(読売)「安保理制裁路線は限界」(毎日)「レッドライン探っている」(朝日)などのコメントを寄せた。これらの分析はやや的外れではないかと私には思える。判断の根拠や証拠を示さず、主観的な感想だけで取材と確認の痕跡もない。 対話を求める多くの論者は、北朝鮮が核開発を中止する気は全くないこれまでの経過を忘れている。軍事的圧力を強めようが外交的圧力を強めようが、最終的には交渉しなければ解決しない事実を知らないのだろうか。北朝鮮の指導者は、米国に届く核とミサイルの完成なしには体制も自身も崩壊するとの強い「信念」を持っている、との認識も欠いている。 「水爆実験」後の中国とロシアの対応はこれまでとかなり異なる。「潮目が変わった」ように見える。中国政府は「断固とした反対と強烈な非難を表明」した。過去にない強烈な不快感をにじませた。 ロシアのプーチン大統領は新興5カ国(BRICS)首脳会議出席のために中国に滞在していたが、安倍晋三首相との電話会談に応じた。習近平国家主席を差し置いて、他国での日露首脳会談は中国には失礼な行動である。2人は「強力な対応」で同意した。強力な対応とは、北朝鮮への石油禁輸である。 一方で、中露首脳は共同で「対話による解決」を強調した。それでも「何がなんでも対話優先」の北朝鮮擁護の意向は弱く、「軍事攻撃しなければ米国に協力する」とのニュアンスに変わっている。中国もロシアもややサジを投げた格好だ。 国連安全保障理事会や日米韓三国は、北朝鮮への経済制裁を実施してきた。ぜいたく品の輸出禁止や、高官や企業への制裁を実行したが、北朝鮮が本当に困る制裁ではなかった。企業名と個人名を変更すれば制裁逃れができたように、抜け道がいくらでも可能だったからだ。北朝鮮の「最も嫌がる作戦」 日露戦争の名参謀、秋山真之は外交や軍事戦略の極意について「相手が最も嫌がる作戦の実行だ」と述べた。北朝鮮が最も嫌がる対応は、石油の全面禁輸と米国の軍事攻撃である。北朝鮮は石油が一滴も出ない。しかも、年間の石油の確保量は世界最低である。軍用石油の保有も世界最低だ。北朝鮮は昨年約27万4千トンの石油製品を中国から輸入した(読売新聞、9月4日朝刊)。中国はひそかに、通関統計には公表されない原油を数十万トン供給していると報じられる。中国以外では、ロシアや中東、東南アジアから数万トン規模の石油を輸入している。 それでも、軍事用に使用できる石油は最大で50万トン程度しかない。自衛隊の約3分の1だ。石油製品と原油が全面ストップすると北朝鮮は軍隊を維持できない。通常兵器による戦争と戦闘は不可能になる。中国は、この状況を十分に理解していたから北朝鮮に毎年50万トンの原油を送り続けた。だが、この原油から軍事用の石油製品は最大でも20万トンしか生産できない。中国は重質分が多く質の悪い原油しか供給しなかったからである。北朝鮮に輸出する原油を積んだ貨物列車=4月、中国遼寧省丹東市(共同) 歴史の教訓に学ぶなら、北朝鮮は明らかに崩壊の道に突き進んでいる。歴史の流れに逆行する国家はやがて滅びるからだ。旧ソ連は、市場経済を拒否し核大国として人権と自由を抑圧し、崩壊した。北朝鮮は、中国とロシアの黙認を背景に核開発を継続できた。しかし、中露が許せる「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えれば、黙認も終わる。 中国はなぜ北朝鮮への石油禁輸に反対したのか。石油を全面禁輸すれば北朝鮮の軍隊は崩壊する。戦車は動かないし、戦闘機も飛べない。軍の崩壊はすなわち北朝鮮の体制崩壊を意味する。それは望んでいないから、石油禁輸に反対してきたわけである。だが、米国に届く核弾頭とミサイルが完成すれば、トランプ大統領は北朝鮮を軍事攻撃するかもしれない。そうなれば、北朝鮮が崩壊し朝鮮半島は統一され、中国の東アジアへの影響力は失われる。 軍事攻撃がなければ、北朝鮮の核保有は既成事実となる。次に起きるのは日本や韓国、台湾、ベトナムなどの核開発だ。米国が容認するかもしれない。むろん、中国にとっては最大の悪夢である。米中の「レッドライン」はこれだ とすると、中国にとってのレッドラインは、北朝鮮が米国に届く核ミサイルを完成する直前になる。これは、トランプ政権とも共有できるレッドラインだ。あるいは、米国が日本や韓国の核武装を認める時期がレッドラインになる。 安倍首相とトランプ大統領は、国連安保理で「対北石油全面禁輸」の制裁決議を採択させようとしている。中国とロシアは簡単には賛成しないかもしれない。その場合にはどうするのか。米ロ首脳とそれぞれ電話会談後、取材に応じる安倍首相=9月3日深夜、首相公邸 選択肢は、①北朝鮮への石油タンカーの全面入港禁止②中露以外の国の石油輸出禁止③中露は核実験とミサイル実験のたびに石油供給を減らす④世界の船舶の北朝鮮入港禁止⑤北朝鮮との貿易の全面禁止⑥北朝鮮の国連傘下機関からの除名⑦北朝鮮の国連加盟資格停止⑧国連からの除名-など本格的な制裁はなお多く残されている。 米国の軍事行動も、小規模なものから大規模なものまで、多くのオプションがある。そのオプションが既に提出されているとトランプ大統領は明らかにした。 軍事オプションは、①中朝石油パイプラインの破壊②北朝鮮に向かう全タンカーの海上での阻止-などの小規模行動から、③核実験場破壊④ミサイル発射台破壊⑤核施設破壊-などの限定攻撃まで、数百もの細かい攻撃目標がリストアップされる。米国は、北朝鮮が韓国に報復攻撃しにくい口実と攻撃目標を設定するはずだ。軍事オプションには、在韓米軍兵士の家族や米民間人の韓国からの退去が不可欠だ。報復攻撃による米国民の犠牲を恐れるからだ。それがない限り、北朝鮮の核とミサイルの実験は続く。

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    北朝鮮危機で漁夫の利を狙うロシアはどう動くか

    小泉悠(軍事アナリスト、未来工学研究所特別研究員) 9月3日、北朝鮮は6回目の核実験に踏み切った。わが国の防衛省によるとその爆発威力は70キロトン(工業用のTNT火薬7万トン分)と推定されており、過去5回の核実験に比べて格段に威力が大きい。北朝鮮自身はこれを水爆実験であると称しているが、実際にその可能性が排除できなくなってきた。 このような中で、北朝鮮の隣国であり友好国でもあるロシア側の立場とはいかなるものであろうか。本稿ではこの点について考えてみたい。 北朝鮮に対するロシアの立場は、原則的には中国と似たものである。すなわち、北朝鮮で体制崩壊が発生し、米国の同盟国である韓国の主導で朝鮮半島が統一される事態は緩衝地帯維持の立場から阻止しなければならない。したがって、両国は北朝鮮に対する米国の強硬姿勢を牽制(けんせい)する姿勢を度々見せてきた。その一方、北朝鮮が長距離弾道ミサイルと核兵器によって核保有国となることは、東アジアにおける米国の軍事プレゼンスを一層確固たるものとし、自国周辺にミサイル防衛システムが配備される事態を招く。この意味では、中露にとって望ましい状況とは、核を持たない北朝鮮の体制が存続することであるといえよう。 ただ、そこには温度差も存在してきた。ロシアにしてみれば北朝鮮は政治経済中枢である欧州部から数千キロも離れた場所にあり、陸上国境は22キロを接しているにすぎない。東北部で1400キロもの国境を接する中国とは、北朝鮮問題に関する切迫性は全く異なる。経済的に見ても、北朝鮮との深いつながりを有する中国とは異なり、北朝鮮の貿易総額に占めるロシアのシェアは3%にすぎない。ただし、中国から北朝鮮に輸出されている原油の一部はロシア産ともいわれ、こうしたシャドー経済を含めると実際の経済的利害関係はもう少し大きい可能性がある。BRICS首脳会議で、記念写真に納まるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=4日、中国福建省アモイ市(共同) 軍事的には、ロシアはバイカル湖よりも東には大陸間弾道ミサイル(ICBM)部隊を配備しておらず、オホーツク海から発射される潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も北回りのコースを取ることから、東アジアにおいて米軍のミサイル防衛システムが増加してもロシアの核抑止力が直ちに脅かされることはない。ロシアがさらに「北寄り」になったワケ それゆえに、北朝鮮問題に関するロシアの立場は米中の陰に隠れることが多く、「忘れられたプレーヤー」とまで言われてきた。 しかし、ロシアの態度は常に不変というわけでもない。例えば、北朝鮮が2006年に初の核実験を行った際、ロシアはこれを厳しく非難し、北朝鮮に対する武器禁輸措置に踏み切った。また、日本が米国とともに進めているミサイル防衛システムの開発についても、北朝鮮のミサイル脅威を考えればある程度は仕方ないとして、欧州へのミサイル防衛システム配備とはやや異なるトーンで接してきたことも注目される。 これに対して昨今の朝鮮半島を巡る軍事的危機に際しては、ロシアは以前よりも北朝鮮寄りの立場を示している。例えば、今年7月に北朝鮮がICBM「火星14号」を2回連続で発射した際には、同ミサイルが2800キロ(1回目)および3700キロ(2回目)という超高高度に達したことから、実際の最大射程は6700~1万キロ程度に達するであろうと周辺諸国は推測した。これに対して、ロシアは自国の弾道ミサイル防衛システムの観測結果としてこれよりもずっと低い数値を発表し、北朝鮮のミサイルはICBMではないと主張。この「結果」と称するものを国連代表部に配布させ、北朝鮮非難のプレス向け決議の発出を阻止するという挙に出た。8月17日、ロシア・ウラジオストク港に入港する北朝鮮の貨客船「万景峰」(共同) また、ロシアは2013年ごろから日米のミサイル防衛協力にも懐疑的な姿勢を示すようになり、2015年版「国家安全保障戦略」では欧州だけでなくアジア太平洋のミサイル防衛を戦略的安定性の既存要因に初めて含めた。最近ではプーチン大統領が北方領土における軍事力強化を、朝鮮半島における米の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)への対抗措置と位置付けたり、ロシア外務省が日本の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」導入を非難するなど、かつてとは大きく態度を変えてきている。 このようなロシアの姿勢変化は、主に次のような要因によって説明されよう。 第1に、ウクライナ危機などをめぐって対米関係が極度に悪化した結果、ロシアは世界の各地で米国の対外政策を妨害しようと試みるようになった。第2に、北朝鮮の核・ミサイル能力の向上によってこれまでは比較的ローカルな問題であった北朝鮮問題がグローバル化し、ここにおいてロシアの存在感を示すことへの誘因が強まった。そして第3に、西側との関係が悪化することでロシアの対外政策における中国の比重が高まり、中国と安全保障上の歩調を合わせること(あるいはそのように振る舞うこと)の必要性が高まった。特に今年春ごろの時点では、米国のトランプ政権が米中接近によって北朝鮮問題の解決を図ったこともあってロシアが置き去りにされる懸念を抱いていた節もあり、対中協調が一層必要とされたのだと思われる。ロシアは「機会主義的プレーヤー」 総じて言えば、ロシアの抱えるグローバルな問題と北朝鮮問題のグローバル化が相互に共振した結果が現在の状況につながっているといえよう。そして、これを少し違った言い方で表現するならば、ロシアは朝鮮半島問題に死活的な利害関係を有しているわけではなく、北朝鮮に決定的な影響力を及ぼせるプレーヤーでもない、ということになる。どちらかといえば、朝鮮半島問題の緊迫化を利用して自国の利益を最大化すべく機会主義的に振る舞っているとみた方がよいだろう。8月5日、国連安全保障理事会で北朝鮮に対する新たな制裁決議を採択後、握手するロシアのネベンジャ国連大使(右)と米国のヘイリー国連大使=米ニューヨーク(共同) では、このような背景の下で、ロシアは今後、どのような態度に出てくるだろうか。中国と同様、ロシアとしても北朝鮮の核保有を容認したわけではなく、今年8月には中露を含めた国連安全保障委員会の全会一致で北朝鮮に対する制裁強化が決定されている。その一方、中露は北朝鮮のミサイル実験凍結と引き換えに米韓軍事演習も行わないとの「ダブル凍結」提案を行っているほか、ロシアは北朝鮮の核・ミサイル実験を非難しつつも制裁や軍事的圧力では北朝鮮を止めることはできないとの姿勢も打ち出している。当面、ロシアはやや北朝鮮寄りに修正した従来の姿勢を維持する可能性が高いといえよう。 気になるのは、ここにきて米国でにわかに盛り上がっている北朝鮮の核容認論をロシアがどう取り扱うかであるが、おそらくここでもロシアの姿勢は現在の延長線上にとどまるだろう。例えば、北朝鮮の核や長距離ミサイルを破棄ではなく凍結させる代わりに、東アジアにおける米軍のプレゼンス縮小やミサイル防衛システム配備の撤回など、北朝鮮の体制保証の名目でロシアに有利な取引条件を提案してくることが考えられる。 つまり、朝鮮半島問題に関するロシアの利害や影響力が極端に増加する見込みが小さい以上、今後ともロシアは「機会主義的プレーヤー」としての存在にとどまるだろう。ただ、機会主義的であるなりにロシアの存在感が高まっていることもまた事実であり、日米としてこの古くて新しいプレーヤーを北朝鮮問題にどう組み込むかを再考することが求められよう。

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    北ミサイル発射 それでも日米が「断固抗議」で済ませる理由

    北朝鮮の中距離弾道ミサイルが北海道上空を通過し、太平洋上に落下。産経新聞は号外を発行し配布した=8月29日、東京都千代田区(納冨康撮影) 北朝鮮が8月29日午前5時58分頃、太平洋に向けて弾道ミサイル1発を発射した。弾道ミサイルは日本上空を通過して2700kmを飛行、北海道襟裳岬の東方約1180kmに落下した。北朝鮮のミサイルが日本列島を飛び越えたのは、南西諸島を除き、2009年4月に人工衛星打ち上げと称して長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の改良型を発射して以来である。 もはや“挑発行為”では済まされない北朝鮮の度重なるミサイル発射──。それでも米国は軍事行動を起こさず対話路線を重視するのか。そして、いつミサイルが着弾するか分からない日本は、いつまで米国追従を続けるのか。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏が緊急レポートする。* * * 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む長距離ミサイルを開発する理由は、北朝鮮が米国の脅威を感じているからだ。このため、北朝鮮の外交の主軸は米国となっている。 日本や韓国は米国に追従するだけであるため、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」で日本や韓国を非難はしても、あまり重視していない。北朝鮮が最も警戒しているのは、日本と韓国に駐留する米軍とグアムや米国本土から増援される部隊であり、自衛隊や韓国軍は二の次となる。 北朝鮮の対米外交の最終目標は、米国との平和協定の締結にある。つまり、1953年の朝鮮戦争の「休戦」を「終戦」に持ち込むのだ。「終戦」となり平和協定が締結されれば、北朝鮮の“独裁政権”を米国が事実上容認したことになり政権は今後も維持される。 しかし、その前に米国の脅威となるICBMや核兵器をどうするのか、という大きな問題がある。この問題が解決されないかぎり、朝鮮戦争は「終戦」にはできない。そこで登場するのが、弾道ミサイルを使っての「脅し」なのである。脅しで米朝対話を要求 国連の安全保障理事会は8月5日、北朝鮮が7月に実施した2回のICBM発射を受けて、新たな制裁決議を全会一致で採択した。しかし、今回の弾道ミサイル発射は、あえて太平洋に向けて発射することにより、国連安保理決議を無視し、さらに経済制裁をも無視する余裕があることを改めて強調したものといえる。 太平洋への発射は、最近の日本海へ落下させる実験よりも米国を強く刺激することができる。太平洋に落下させた意図には、ミサイルの開発が着々と進んでいることを米国にアピールする狙いもあったのだろう。外交カードとしての核 これまでの米朝関係を振り返ると、北朝鮮が強硬姿勢に出る時は、米朝直接対話を要求するときであった。この手法は「瀬戸際政策」とも呼ばれている。「瀬戸際政策」は北朝鮮が1993年にNPT(核拡散防止条約)からの脱退を表明したところから始まる。いまや使い古された手法だが、結果的に米国の譲歩を勝ち取り、経済支援を受けるなどの勝利を収めてきたことは事実だ。北朝鮮が米領グアム沖に弾道ミサイルの発射を検討中と表明したことに対応するドナルド・トランプ米大統領=8月10日、米ニュージャージー州(AP=共同) 今回の弾道ミサイル発射も核実験とともに対話の実現を目指したものであろう。つまり、米国を対話のテーブルに着かせるためのカードというわけである。「圧力」しかかけられない米国 北朝鮮に軍事攻撃を加えようにも、現在の米国はイラクやシリア、アフガニスタンでの戦争で手一杯である。2018会計年度で戦費として約7兆1000億円を計上しているほどだ。 このような状態で北朝鮮との「二正面戦争」を遂行することは不可能に近く、トランプ大統領としては現に戦闘が行われている地域を重視せざるを得ないため、たまに強硬な発言をしていても、北朝鮮だけに対応する余裕はない。このため北朝鮮は「後回し」となるだろう。 北朝鮮はこうした米国の苦しい事情を見透かしている。いまが米国に対する圧力のかけどころだと判断したのかもしれない。 今後、弾道ミサイルの発射が続き、たとえ北朝鮮に対する警告の意味であっても、米国が北朝鮮近海や核関連施設などへミサイルを発射することは現実的ではない。北朝鮮が反撃する可能性がゼロではないためだ。戦争はタダではできない トランプ大統領が愛用しているツイッターでの「言葉の攻撃」にかかる費用はタダ同然なのだが、現実的な問題として、米国は世界最大の債務国であり国家予算は国債に依存しているため、北朝鮮に武力行使するための費用、すなわち戦費をどのように確保するのかという問題がある。 米国防総省が今年5月23日に発表した2018会計年度の国防予算案は、本予算約5745億ドル(約64兆2千億円)にイラクやシリア、アフガニスタンなどでの戦費約646億ドル(約7兆1000億円)を加えた約6391億ドルとなっている。(日本の2017年度の一般会計予算は97兆4547億円、防衛費は5兆1251億円)戦争が国庫を食いつぶす 戦費の負担は景気にも影響する。2010年9月、オバマ米大統領が米軍のイラクでの戦闘任務の終結を宣言したが、7年5か月に及ぶ戦いにより、7000億ドル(約77兆円)にのぼる戦費が米国経済への重荷となり、リーマン・ショックの伏線となった。国連総会の一般討論で演説するオバマ米大統領=2016年9月20日、米ニューヨーク(ロイター=共同) 戦争により軍需産業が潤うなどの経済効果はあるが、返す当てのない大量の国債の発行が長期的に経済に与える影響は少なくない。 北朝鮮への武力行使に必要となる戦費は、クリントン政権が北朝鮮攻撃を検討した際の推計が1000億ドル(現在のレートで約11兆円)であった。攻撃を検討した1994年当時とは違い、巡航ミサイルや誘導爆弾が大量に使用されることになるため、大規模な地上戦が行われることはないだろうが、高価な兵器を大量に使用することになるため高額な戦費になるのは間違いない。 北朝鮮軍が相手なら、米軍が現在保有している兵器の「在庫処分」で済むという見方もあるが、それは一時的なものであり、後々「在庫処分」した分の穴埋めをするために新たに兵器を購入しなければいけない。日本に着弾した場合 今回のミサイルは日本列島を飛び越えたが、もし、日本へ着弾したらどうなるのだろうか。安倍晋三首相は8月29日、「北朝鮮のミサイル発射直後から動きを完全に把握していた。万全な対策を取ってきた」「これまでにない深刻かつ重大な脅威。(北朝鮮に)断固たる抗議を行った」と述べている。 弾道ミサイルが発射されるたびに繰り返される、何の実効性もない「断固たる抗議」はともかく、「万全な対策」とはどのような対策なのだろうか。 おそらく、人工衛星を使って防災無線から地方自治体に瞬時に伝達する「Jアラート」と、内閣官房から緊急情報が流れる「Em-Net(エムネット)」が正常に作動し、自治体での被害状況の確認が円滑に行われたことを指しているのだろう。 今回は何の被害もなかったが、もし弾頭が着弾した場合はどう対応するのだろうか。日本への着弾が予想される場合は、自衛隊法に基づく破壊措置を実施することになるが、その後の自衛隊の対応に問題が残る。つまり、「防衛出動」や「防衛出動待機命令」を発するかどうかである。 防衛出動には国会の承認が求められるため、よほどの事態に発展しないかぎり、野党が反対することは目に見えている。本当の「宣戦布告」か?あいまいな「宣戦布告」 北朝鮮が事前に「宣戦布告」した後の攻撃なら別だが、北朝鮮は米国を非難する際に「宣戦布告」という表現をこれまで乱発してきたため、本当の「宣戦布告」なのか北朝鮮側に確認する必要がある。 もちろん、複数の弾道ミサイルが日本列島に着弾した場合は、事実上の「宣戦布告」となる。しかし、1発だった場合は「発射実験の失敗」の可能性を排除することが出来ないため、本当の攻撃なのかどうかを確認するという滑稽な形を取ることになる。 戦争は、ある日突然起きるわけではない。対話が行き詰まるなど何らかの前兆がある。現在の北朝鮮情勢の緊迫度は、米朝関係の歴史を振り返るとそれほど高いものではない。しかし、複数の弾道ミサイルが日本に着弾するという事態になってしまった場合、米軍はどのように動くのだろうか。 米国に対して「宣戦布告」が明確に行われれば、米軍は北朝鮮攻撃へと動くだろうが、北朝鮮は「宣戦布告」する前に大規模な奇襲攻撃を仕掛けるだろう。 とはいえ、弾道ミサイルで奇襲を仕掛けるにしても、1990年代に製造された日本を攻撃する「ノドン」や、もっと前に製造された韓国を攻撃する「スカッド」は老朽化をはじめており、正常に飛ぶのかどうかも怪しい。 最新の弾道ミサイル以外は老朽化した兵器しか持たない北朝鮮軍には、いまも昔も大規模な奇襲攻撃しか勝ち目がない。あとは特殊部隊を用いた破壊工作に頼るほかない。 北朝鮮は、米国本土まで届くICBMを配備したとしても、米国、日本、韓国に戦争を仕掛けることはないと筆者は考えている。戦争を行なうとなれば、少なくとも在日米軍と在韓米軍の北朝鮮に対する攻撃手段を短時間で全て破壊するだけでなく、グアムや米国本土の航空基地も破壊しなければならないからだ。 北朝鮮の弾道ミサイル発射と核実験はセットで行われる傾向があるため、6回目の核実験もまもなく行われるだろうが、日本が行えることは「断固たる抗議」と効果が疑問な経済制裁しかない。 このような事を繰り返しているうちに、今回のように日本列島を弾道ミサイルが飛び越えるという事態になってしまった。敵基地攻撃能力の保有に本格的に着手すれば、野党などから猛反発を受けるだろうが、そろそろ実効性のある対応策を検討すべきではなかろうか。関連記事■ 使える時間は4分のみ 現実に見えた「Jアラートの実力」■ 「日本の刑務所すら夢のような世界」北朝鮮の難民リスクは■ 金正恩が核兵器と弾道ミサイルの開発を止めることはない理由■ 北朝鮮のミサイルの脅威から日本は自国を守れるか?■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖

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    金正恩が核兵器と弾道ミサイルの開発を止めることはない理由

     北朝鮮がグアム島周辺に弾道ミサイルの発射を計画していることで、アメリカと一触即発の緊迫状態が続いている。グアム当局は核兵器による攻撃も想定した緊急ガイドラインを発表するなど、いまや北朝鮮の核保有は現実的な脅威として受け止められている。 北朝鮮の核開発の進捗状況や威力、日本への影響などどれほど深刻なのか。『北朝鮮恐るべき特殊機関』などの著書がある朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏がレポートする。* * * 韓国国防省は7月5日、北朝鮮北東部の豊渓里(プンゲリ)の核実験場の状況について、「2番、3番坑道はいつでも核実験が可能な状態を維持している」「爆発力を拡大させた核実験で、核弾頭の能力を試す可能性がある」と明らかにしている。 北朝鮮は昨年の9月9日の建国記念日に5回目の核実験を実施していることから、今年の建国記念日に6回目の核実験を行う可能性もある。 北朝鮮は核実験の回数を重ねるたびに核爆発の威力を高めてきた。2006年10月の初回は1キロトン未満と推定されたが、2016年9月の5回目は広島や長崎に投下された原爆と同程度の最大20キロトンと推定されている。 米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」は2017年3月10日、核実験場で坑道の掘削が続いており、地形などから昨年9月に実施された5回目の10倍以上の威力を持つ核実験も可能で、6回目の核実験を行う場合、最大282キロトン規模になる可能性があるとの分析を発表している。北朝鮮の核実験の危険性 北朝鮮はこれまで全ての地下核実験を豊渓里(プンゲリ)で行っているが、このような狭い地域における地下核実験には大きな危険が伴う。地下核実験では実験の規模にもよるが、通常、地下核実験では一辺が50~60kmの砂漠で行われる。その理由は、核爆発によって破壊された地下水脈を通じて放射能が拡散することを防ぐためだ。 米国はネバダ砂漠、中国はタクラマカン砂漠、インドはタール砂漠、パキスタンはシン砂漠、旧ソ連は砂漠がないため広大な平原で地下核実験を行っている。ネバダ砂漠の核実験場は日本の鳥取県全域に相当し、旧ソ連・カザフスタンのセミパラチンスク核実験場の面積は四国とほぼ同じである。つまり地下核実験は砂漠などの広大な場所が必要になるのだ。核実験場が確保できない そのため、北朝鮮は過去に、金日成政権が旧ソ連・ブレジネフ時代(1964~1982年)の末期に旧ソ連共産党指導部に対し「核兵器を開発したあかつきには、その実験場としてソ連の地下核実験場を使用させてほしい」と非公式に要請したことがある。(「産経新聞」1993年3月20日)北朝鮮の特別調査委員会の庁舎玄関に掲げられた、金日成主席と金正日総書記を描いた絵画=2014年10月29日(桜井紀雄撮影) 金日成政権がブレジネフ政権に場所借りの要請をした時期は、1970年代末から1980年代初めで、希望した実験場はセミパラチンスクの可能性がある。 ブレジネフ政権が当時、北朝鮮の核実験場使用の申し入れにどう対応したかは明らかになっていない。しかし、このような北朝鮮の動きは、北朝鮮には核実験に適した場所がないことを北朝鮮(金日成)が認識していたことを示している。 豊渓里周辺は岩盤となっているため安全という見解があるが、度重なる実験により岩盤に亀裂ができている可能性もある。朝鮮半島は豊かな地下水脈が流れており、最終的に少量の放射性物質が日本海へ流出しないという保証はどこにもない。地下核実験でも起きる放射能汚染 北朝鮮が過去5回行った地下核実験では、放射能漏れは起きていないようだ。 大気圏に放射性物質が放出された場合は、日本海を飛行する米空軍のWC-135大気収集機と、集塵ポッドを搭載した航空自衛隊のT-4 練習機で放射性粒子を収集することができる。この結果、これまでは放射性物質は観測されていない。 だが、1960年代に遡ると、米国、旧ソ連、中国、フランスは地下核実験で放射能漏れを起こしており、同様の事態が北朝鮮で起こらないとはいえない。 米国は1960年代に行った地下核実験で放射能漏れを何度も起こしている。放出された放射能の規模は大気圏内実験並みであったという。その後、放射能の封じ込めの技術の進歩により、放射能漏れはほぼなくなった。 旧ソ連は1965年に行ったセミパラチンスクでの地下核実験で、爆発によって山が吹き飛ばされ、その時の「死の灰」は風下のセミパラチンスク市に大量に降り注いだだけでなく、微量ではあるが5日後に日本でも検出された。日本への影響も核実験によるウイグル人の被害の実態調査を訴えるイリハムさん=2012年 6月 22日、広島県庁(浜田英一郎撮影) 中国が新疆ウイグル自治区のロプノールで核実験を行った際には、実験に使われた山中のトンネルの一部が吹き飛ぶ事故が発生しており、大気圏に放射性物質が放出された。放射性物質を帯びた雲は4000km離れた日本上空に達したという。 フランスは1960年2月13日以降、当時フランス領だったアルジェリアのサハラ砂漠で核実験を実施しており、6年間で13回行われた地下核実験のうち12回の実験で放射性物質が大気圏に放出された。 北朝鮮の地下核実験における放射能の封じ込めの技術がどの程度なのか分からないが、実験を行うたびに規模が拡大していることから危険性は高まっているといっていいだろう。 北朝鮮は1回目の地下核実験の前に、実験場がある豊渓里周辺の住民に強制移住を命じている。この措置は地下核実験後、放射能が漏れる可能性に備えたものとみられるが、詳細は不明だ。日本への影響 北朝鮮が2016年1月6日の4度目の地下核実験に成功したと発表したのを受け、日本の原子力規制庁は全国約300か所のモニタリングポストの測定結果を公表し、いずれも放射線量に変化がなかったことを明らかにした。 しかし、放射能の封じ込めが不完全だった場合、日本には25~50時間後に影響が出る可能性があるという見解と、日本で健康へ影響を及ぼすことは考えにくいという見解がある。どちらの見解が正しいのか分からないが、最悪の場合、旧ソ連や中国のような山やトンネルが吹き飛ぶような深刻な事態が発生し、大量の放射性物質が放出されるかもしれない。1950年代から核開発を開始 北朝鮮は2005年に核保有を公式に宣言しているが、開発には半世紀以上の時間をかけている。 1950年代から旧ソ連の支援を受けて核開発を進めてきた。1956年に旧ソ連の核研究所の創設に加わる協定を結び、モスクワ郊外にあるドブナ合同原子核研究所をはじめとする東欧諸国で技術者を研修させ、核の専門家を養成するなど核関連技術の蓄積を始めた。なぜ核開発を続けるのか 採掘可能量が約400万トンの良質なウラン鉱山を持っている北朝鮮は、1959年に旧ソ連と原子力協力協定を締結し、1965年に旧ソ連から研究実験用原子炉1基(熱出力2000kW)を導入し、寧辺(ヨンビョン)に原子力研究所を設立し、同研究所を中心に原子力技術の研究開発を進めた。 1970年代に入ると、核燃料の精錬、変換、加工技術などを集中的に研究するなど、自国の技術で研究用原子炉の出力拡張に成功した。 1980年代には寧辺原子力研究所の敷地を拡張し、電気出力5MW級の黒鉛原子炉を建設し、1986年に稼動させた。また、出力50MW級黒鉛減速炉、核燃料製造工場及び核再処理工場等の核関連施設の建設を本格化させた。その後、米朝枠組み合意(1994年)で核開発凍結に合意するまでに、核兵器の原料となるプルトニウムの抽出に成功したとされる。 そして2006年、豊渓里での初の地下核実験を行い、世界で8か国目の実施国となった。北朝鮮・豊渓里にある核実験場と見られる建物、5月18日撮影(デジタルグローブ/38ノース提供・ゲッティ=共同)核兵器の開発を続ける理由 北朝鮮は長い歳月をかけて核開発を行ってきた。核兵器の開発は金正恩が暴走しているのではなく、米国の脅威を感じた金日成と金正日の「遺訓」を守ってきた結果ともいえる。 北朝鮮は米国と敵対している。その米国は広島と長崎に原爆を投下した。世界で唯一、核兵器を使用した国である。米国と敵対している国の指導者にとっては、核兵器を本当に使用してしまう米国を信用することは出来ないだろう。 もっとも、米国は北朝鮮に対して核兵器の使用を検討したことがある(1968年のプエブロ号事件など)。このため、金日成が米国の核兵器に脅威を感じたのも無理はない。金日成が経済の停滞や食糧不足にもかかわらず核兵器の開発を推し進めた目的と、中国の毛沢東が大量の餓死者を出しながらも核兵器の開発を推し進めた目的には共通点がある。 したがって、北朝鮮は米国の軍事的脅威がなくなるまで、制裁が強化されようとも、核兵器の開発とそれを運搬する手段である弾道ミサイルの開発を止めることはない。むしろ、制裁が厳しくなればなるほど開発を急ぐだろう。関連記事■ 金日成の健康法は少女からの輸血や少女との入浴など■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ 激太り目立つ金正恩に欧州から医師招く「特別医療体制」■ 中国 ウェブからプーさん遮断し「北朝鮮よりひどい」の声■ 金正男氏暗殺事件 北朝鮮に引き渡された遺体の行方

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    中国が切った「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米の失敗

    遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士) 北朝鮮が核実験を強行した。習近平は再び顔に泥を塗られた。それ以上に重要なのは、中国が切った「中朝軍事同盟」カードの重要性を、日米が読み切れなかったことだ。最後のチャンスを逃してしまった事実は大きい。習近平は再び顔に泥 5月14日付けのコラム「習近平の顔に泥!――北朝鮮ミサイル、どの国への挑戦なのか?」に書いたように、中国が建国以来最大のイベントと位置付けていた一帯一路(陸と海の新シルクロード)国際サミット初日の朝、北朝鮮は弾道ミサイルを発射して習近平国家主席の顔に泥を塗った。世界を中国に惹きつけるための晴れの舞台で開会の挨拶をする直前だった。 今回もまた、9月3日から習近平の政治業績地の一つ、福建省のアモイでBRICS(新興5ヵ国)会議を開催する、まさにそのタイミングに合わせて核実験をしたのである。又しても習近平が晴れの舞台として開会の挨拶を準備万端整えていた最中のことだ。 なぜ北朝鮮は必ず習近平の晴れの舞台を狙うのか? それは金正恩委員長が習近平を嫌い、「敵」と位置付けているからである。 習近平の方も朝鮮半島の非核化に逆行する金正恩の核・ミサイル開発に関する暴走を実に苦々しく思っている。二人はおそらく「世界で最も仲が悪い首脳」だろう。金正恩にとって最大の敵がアメリカなら、2番目の、あるいはそれと同等程度の敵は中国なのである。日米2プラス2会合を前に握手する(左から)小野寺防衛相、河野外相、米国のティラーソン国務長官とマティス国防長官=8月17日、ワシントン(ゲッティ=共同) その中国に北朝鮮を説得する力などないが、唯一、中国は強烈なカードを持っていた。 それは「中朝軍事同盟」というカードだ。中国が切っていた「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米 8月15日付のコラム「北の譲歩は中国の中朝軍事同盟に関する威嚇が原因」に書いたように、8月14日、金正恩は「アメリカの動向をしばらく見守る」と述べ、グアム沖への弾道ミサイル発射を一時見送る考えを示した。 その原因は8月10日に中国が北朝鮮に発した警告にある。 くり返しになるが8月10日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は社説として以下の警告を米朝両国に対して表明した。(1)北朝鮮に対する警告:もし北朝鮮がアメリカ領を先制攻撃し、アメリカが報復として北朝鮮を武力攻撃した場合、中国は中立を保つ。(筆者注:中朝軍事同盟は無視する。)(2)アメリカに対する警告:もしアメリカが米韓同盟の下、北朝鮮を先制攻撃すれば、中国は絶対にそれを阻止する。中国は決してその結果描かれる「政治的版図」を座視しない。(3)中国は朝鮮半島の核化には絶対に反対するが、しかし朝鮮半島で戦争が起きることにも同時に反対する。(米韓、朝)どちら側の武力的挑戦にも反対する。この立場において、中国はロシアとの協力を強化する。 この内の(1)と(3)は、北朝鮮にとっては存亡の危機に関わる脅威である。もし北朝鮮がグアムなどのアメリカ領を先制攻撃してアメリカから報復攻撃を受けた場合、中国は北朝鮮側に立たないということであり、その際、ロシアもまた中国と同じ立場を取るということを意味する。 北朝鮮にとって中国は世界で唯一の軍事同盟を結んでいる国なので、中国が「中朝軍事同盟を無視する」と宣言したとなれば、北朝鮮は孤立無援となる。北朝鮮の軍事力など「核とミサイルと暴走」以外は脆弱なものだ。韓国や日本には大きな犠牲を招くだろうが、アメリカと一国で戦えば全滅する。したがって14日、グアム沖合攻撃は延期(実際上放棄)することを表明した。 北朝鮮がミサイル発射を自制するなどという好機は二度とない。しかも核・ミサイル技術がここまで発展した今となっては絶好のチャンスだった。 だから習近平は8月17日、訪中した米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長と人民大会堂で会談した時に異例の厚遇でもてなした。それはアメリカに米韓合同軍事演習を「暫時」やめてほしかったからだ。 中国の主張は「双暫停」(米朝双方が暫定的に軍事的行動を停止する)。 この前提の下で北朝鮮が一時的にミサイル発射を見送ったのだから、アメリカも同様に8月21日から始まる米韓合同軍事演習を一時的に停止してほしかった。そうすれば話し合いのテーブルに着ける。 金正恩が言っていた「アメリカの動向をしばらく見守る」とは、この8月21日から始まる米韓合同軍事演習を指している。もし演習を行なえば、それ相応の報復を覚悟しておけという趣旨のことを金正恩は言っていた。 しかし8月17日にワシントンで開催された日米の「2+2」外交防衛会議後の共同記者会見で日米の外務防衛代表は日米韓の安保協力強化と北朝鮮に対する圧力をかけ続けることで一致したと述べ、その流れの中でダンフォードは「米韓合同軍事演習の実施は、いかなるレベルでも交渉対象になっていない」と述べたのである。 この時点で北朝鮮問題の動向は決まった。 一回だけ米韓合同軍事演習を中止することは出来なかったのか。その後の北朝鮮の爆発的な暴走と日本に与える脅威を考えたら、どちらが賢明な選択であったか、考えてみる必要があるだろう。圧力をかけることは北朝鮮に技術向上の時間的ゆとりを与えるに等しい 9月3日のNHK日曜討論で、「(8月14日に)北朝鮮がグアムへのミサイル発射を抑制したのはなぜだと思うか」という趣旨の質問に対して、河野外務大臣は(正確には記憶していないが)おおむね「おそらくアメリカが強く出たことを気にしたのではないか」という見方を示していて、少なくとも「中国が中朝軍事同盟を持ち出して北朝鮮を威嚇したから」という話は出なかった。 日本は、北朝鮮にとって唯一の軍事同盟国である中国が最後のカードを切ったことを認識していないし、またそれによって北朝鮮が一時、自己抑制的になったのだということも全く読めていない。 日米は高らかに「圧力をかけ続けることが肝要」と言うが、そうだろうか? これまで国連安保理決議による制裁をやり続け、米韓合同軍事演習もやり続けてきたが、北朝鮮は一向にひるんでいない。 ひるんだのは唯一、中国が中朝軍事同盟カードを切った時だけだった。それも、結局米韓合同軍事演習を始めてしまったので、北朝鮮は今後も上記(1)の条件に抵触しない範囲内で「北朝鮮が言うところの報復」に出るだけだろう。その間に北朝鮮が言うところの「訓練」を積み重ねていくだけだ。中国はもう動かないだろう 中国としては10月18日に党大会を控えているので、まず今は何も動かないだろう。来年3月5日に全人代(全国人民代表大会)が始まり、最終日の14日に選挙を行なって「国家主席」と「国務院総理」が選ばれる。その時から二期目の習近平政権に入るわけだが、それまでは大きな行動をしないだろうと推測される。 もちろん中国にはまだ石油の輸出を断つ「断油」というカードがあるが、一部の航空機燃料としての「断油」は早くからしているが、民間生活も含めた「断油」カードを単独で使うことはないものと思う。なぜなら北朝鮮のミサイルの矛先が北京に向くからだ。国連安保理による決議なら、一定程度は国連のせいにすることもできるが、単独では行なわない。アメリカの軍事行動 トランプ大統領の気まぐれツイートは一応無視することとして、マティス国防長官は「軍事行動を排除しない」と述べているようだ。 「排除しない」とか「すべての選択肢はテーブルの上に載っている」と言いながら、結局「犠牲があまりに大きすぎるから…」と言って実行しないのは、北朝鮮をこの上なく勇気づけるだけだ。「どうせ、できないんだ」と舐められてしまう。 言ったからには、そして本当にアメリカの軍事技術が高いなら、核・ミサイル施設のピンポイント攻撃や「斬首作戦」などを実行するしかないだろう。言っておきながら実行しないことほどまずいものはない。北朝鮮を利するばかりだ。休戦協定に違反しているのはアメリカと韓国 忘れてならないのは、アメリカと韓国が朝鮮戦争(1950年~53年)の休戦協定に違反した行動をとっているということだ。このまま続ければ第三次世界大戦になることを恐れたアメリカが休戦すべきと提案したのに、韓国の李承晩大統領が聞き入れず「休戦したくない。韓国一国でも戦いたい」と駄々をこねたので、アメリカはやむを得ず米韓相互防衛条約(米韓軍事同盟)を結んだ。休戦後3ヵ月以内に全ての他国の軍隊は朝鮮半島から撤退するという休戦協定に署名しながら、一方では米軍は永久に韓国から撤退しないという米韓軍事同盟にサインした(詳細は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』第3章「北朝鮮問題と中朝関係の真相」)。 スタートからダブルスタンダードを取ってきたツケが、いま日本を巻き込んだ関係国に襲い掛かっている。 それを正視せず、圧力を強化していくと宣言するアメリカに同調するばかりの日本。それによって日本国民を守れるのか。本当に日本国民の生命安全を優先していると言えるのだろうか? 政治経験の長い安倍首相は、政治経験のないトランプに、事実を正視し、知恵を絞るようアドバイスするくらいの関係でいてほしいと望む。(『Yahoo!ニュース個人』より2017年9月4日分を転載)

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    北朝鮮危機、日本経済のリスクはこうやれば回避できる

    金融政策が不透明化したことも大きい。今年に入り、世界経済の撹乱(かくらん)は一息ついていたが、最近の北朝鮮の核・ミサイル問題によって一気に不透明感を増している。 先月末の日本の領土上空を通過した北朝鮮のミサイル発射、そしてその後の核実験で、日本の株価は下落、そして為替レートは円高に振れた。円高は、企業の収益構造をふたつの経路から悪化させる。ひとつは、輸出にとって不利に作用する。また企業のバランスシートをみると資産にある外貨建て資産の価値を低下させ、他方で負債側にある円資産の価値を上昇させる。そのため企業のバランスシートが悪化して、設備投資や働く人たちへの報酬に悪影響を及ぼす。株価の低下ももちろん企業の資産価値を低下させることで同じ影響を及ぼすだろう。9月3日、ソウル駅で北朝鮮の核実験を報じるテレビ(共同) ただし、前回の連載でも書いたが、現時点ではまだ「北朝鮮リスク」が日本経済に破滅的な影響を及ぼすほどではない。現時点で株式、為替など資産市場の不安定化は、ある程度は予想の範囲内でもあり、しばらくすればリスク発生前の水準に戻る可能性が大きい。ただしこれはあくまで楽観的な予測であり、実際には「北朝鮮リスク」がどうなるか、中長期的にみていく必要がある。 この原稿を書いている段階でも、韓国国防省は北朝鮮がさらなるミサイル発射を準備していると、韓国の国会で報告している。実際にミサイル発射が繰り返され、半島情勢が危機感を深めていけば、「北朝鮮リスク」による経済危機の可能性も高まっていく。アベノミクスの財政政策は緊縮そのもの 「北朝鮮リスク」そのものは、もちろん北朝鮮の軍事的意図をその根源にして発生しているものだ。つまり「北朝鮮リスク」を抑制ないし、払拭(ふっしょく)するには、外交的・軍事的なカードしかない。 日本が経済面でできる「北朝鮮リスク」への備えはなんだろうか。それは冒頭にも書いたが、金融政策と財政政策を経済刺激に向けてて協調させることに尽きる。だが、現状では、財政政策が事実上の緊縮スタンスのままで、この協調を破綻させてしまうだろう。それは「北朝鮮リスク」に対して日本経済を脆弱(ぜいじゃく)なものにしかねない。 財政政策の緊縮スタンスは深刻である。アベノミクス初年度である2013年度だけ、予算規模(補正含む)が約106兆円であった。2014年が101兆円、2015年が100兆円を下回り、2016年は約100兆円で推移した。初年度だけ拡大で、あとは一貫して抑制気味なのは明らかである。そして、2017年度は当初予算規模で97兆4千億円であり、いまだ補正予算の声を聞くことは少ない。 しかも、2014年度以降の予算規模において注意すべきポイントとして、消費税のマイナスの影響を勘案しておかなくてはいけない。ざっと消費税の税収を年度ごとに8兆円とすれば、上記の予算規模からこの数字を引き算する必要がある。そうなると例えば、2014年度は実際には93兆円であり、アベノミクス初年度に比べてなんと約13兆円も緊縮財政に大きく振れたことになる。もし今年度の当初予算に同じやり方を適用すれば90兆円台を割り込んでしまう。大緊縮財政になってしまうだろう。3月27日、参院本会議で、平成29年度予算が成立し一礼する安倍晋三首相(右)ら閣僚(斎藤良雄撮影) 「北朝鮮リスク」が顕在化している状況でこのような大緊縮財政を採用するのは、強い言葉でいえば狂気の沙汰である。至急、大規模な補正予算を策定する必要があるだろう。例えば、アベノミクス初年度をひとつの目標とするならば、消費増税の影響を含めた実質の予算規模との差は、約17兆円である。これだけの規模の補正予算をすれば、「北朝鮮リスク」の中で、経済を安定化させる最低限の守りができる。もちろん積極財政の資金源は、国債発行で賄う。一例としては、教育国債を発行すれば、それを日銀が買いオペすればいいだろう。もちろん公共事業(できれば多年度のインフラ投資が望ましい)、減税、あるいは防衛費の増額などでも積極的な財政の必要は大きい。 このような積極的な財政政策と金融政策の協調が行われない場合は、「北朝鮮リスク」の影響をもろにかぶってしまうだろう。言い換えると、日本経済にとっての真の「北朝鮮リスク」とは、自らの緊縮政策のことなのである。

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    北朝鮮ミサイル、日本は迎撃できるか

    北朝鮮が日本上空を通過する弾道ミサイルを発射した。朝鮮中央通信は「太平洋における軍事作戦の第一歩」とした上で、「日本が慌てふためく作戦」とも伝えた。安倍首相は「発射直後は動きは完全に把握していた」と強調したが、そもそもわが国のミサイル防衛能力はどれほどなのか。迎撃可能性の有無を検証する。

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    「戦時放送を流す安倍政権も怖い」北朝鮮危機で注目した謎のつぶやき

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)北朝鮮がミサイルを発射したことを伝えるJアラートの画面=8月29日午前6時24分、東京都港区 北朝鮮がミサイルを発射し、全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて「国民保護に関する情報」が流されたときに、私はちょうど文化放送「おはよう寺ちゃん 活動中」の本番中だった。番組開始して2、3分後には、スタジオの中にスタッフの方が緊張した顔で入ってこられ、メーンパーソナリティーの寺島尚正アナウンサーに、Jアラートの本文が記された用紙が手渡された。われわれはそれから1時間近く、北朝鮮のミサイルについての警報と、また政府の対応、そしてこれからの経済・社会に対する影響について放送させていただいた。 ミサイル発射による避難を呼びかける政府の警報が流れる中、それを伝える側として現場にいたことは、実に緊張した時間であった。もちろん避難を呼びかけられた地域にお住まいだった方々の不安はそれどころではなかったと思う。また日本や世界の多くの人たちが、この日本の上空を通過するミサイル発射の「無法」に心を痛めたことであろう。 私は、寺島さんやスタッフの誠実で、また緊張感のある仕事に感銘を受けるとともに、ジャーナリズムと災害警報、しかも天災ではなく他国によるミサイル発射という人災との関係にも深く思うところがあった。 Jアラートでは、北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県という極めて広範囲に対して、ミサイル発射に関しての避難勧告が出された。内容も「頑丈な建物や地下に避難してください」というものであった。ラジオでもコメントしたのだが、おそらく「頑丈な建物」や「地下」などが周囲になく、どうしていいのかわからなかった方々も多かったろう。 政府では事前にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などで、ミサイルが墜落してくる場合の避難の仕方として、頑丈な建物や地下がない場合で、屋外にいるときは物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守ること、さらに屋内では窓から離れるか窓のない部屋に移動するように説明していた。しかし、その広報活動は必ずしも周知徹底されていたわけではなく、また今回のJアラートでも避難の仕方について、少なくとも窓から離れるなどの付加的な指示を明記すべきであったと思う。あえて注目したい金子勝氏のツイート 不幸中の幸いで、ミサイルによる国民への直接の被害は発生しなかった。今後は、ミサイル発射に対しての避難のあり方について、国民的な議論を行う必要があるだろう。もちろん北朝鮮に対する抗議を強めること、そして国際社会と連携して北朝鮮にこれ以上の暴挙を行わないように、さまざまな手段を講じる必要がある。個人的には、危機を過剰にあおることがないことを、政府や政治家だけではなく、言論に責任をもつ識者やマスコミにも賢慮を求めたい。危機や恐怖をあおることで、議論があさっての方向にいってしまえば、むしろ北朝鮮の狙いのひとつである、日本国内の世論分断や混乱とも合致してしまう不幸な展開になる。 もちろん多様な意見があるのは当然である。ただ同じ経済学者であることで、あえて注目したいのだが、慶応大経済学部の金子勝教授による以下の意見には賛同しかねる。テレビは「国民保護に関する情報」と称して北海道から関東甲信越まで「頑丈な建物に避難せよ」と、まるで戦時中の「空襲警報」を一斉に流す。北朝鮮も怖いが、「戦時放送」を流す安倍政権も怖い。出典:金子勝教授の公式ツイッター 「空襲警報」や「戦時放送」というのは、金子教授の独特レトリックでもあり、また彼の現状認識を反映しているのかもしれない。その表現については特に賛成も反対もない。だが、なんで警報を流す「安倍政権が怖い」のだろうか。 警報には余計な価値判断は一切含まれていない事実のみを伝えるものだ。問題があるとしたら、先ほど指摘したように、避難の対処法など説明が不足していたことを挙げることができる。私見では、正体不明の「恐怖」をつぶやくよりも、Jアラートが問題をはらむものならば具体的な批判を展開すべきではないだろうか。ただ、金子教授のつぶやきは現在も多くの議論を招いていて、その意味では多様な意見をぶつけあう場になっている貢献はあるかもしれない。市場が記憶する「北朝鮮リスク」 経済学の観点から、番組でも言及したのは「北朝鮮リスク」を反映した株式市場や為替レートなどへの影響である。実は、ミサイル発射の当日は、民間団体「放送法遵守を求める視聴者の会」を新たな体制で立ち上げた初日でもあった。この会の目的や活動については、リンク先を見ていただきたい。その会合で、作家の百田尚樹氏や評論家の上念司氏、米カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバート氏、ジャーナリストの福島香織氏らと、今後の北朝鮮問題やミサイル発射に伴う影響についても話す機会があった。私は経済学の観点から、「北朝鮮リスク」が、当面は株価に不安定な影響を与え、また為替レートも円高に振れるのではないかと意見を述べた(注)。 ここでは特に為替レートの動向についてのみ簡単にコメントをしておきたい。ミサイル発射を受けて、日経平均株価は下げ、また為替レートは円高に振れた。市場関係者はしばしば「リスクオフ」(リスク回避)をすると円や円資産(日本国債など)を購入するためだという。しかし、そもそも北朝鮮のリスクは、今回日本が最も大きくなるではないか、と誰でも思うことだろう。実際にこのリスクオフ仮説は、いささか根拠に乏しい。日経平均を示す株価ボード。北朝鮮のミサイル発射を受け、約4カ月ぶりの安値を付けた=8月29日、東京都中央区(松本健吾撮影) ひとつのあり得る仮説としては、日本の政策当局が過去、甚大な災害にあたって事実上の金融引き締め、そして増税にシフトした経験をもとにマーケットが判断しているからだ、というものがある。もちろん現在の日本銀行は、量的・質的金融緩和を継続中である。だが、直近では、東日本大震災に際して、民主党政権は野党であった自民党とともに、被災の状況もまだわからない中で、増税の相談を真っ先にしたことがあった。そして当時の日銀には、金融緩和姿勢をとる気配はなく、そのため急激に円高・デフレが進行したのである。実はこの事実上の金融引き締めスタンスは、阪神・淡路大震災のときにも観測される出来事であった。このような記憶が、日本の市場取引者の中で共有されている可能性はあるだろう。 ただ、現在の日銀の金融政策のスタンスは緩和姿勢を維持している。また、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策のスタンスは利上げを伺うなど「引き締め」スタンスである。そのため一時的には、円高ドル安に振れても、次第にミサイル発射前の為替レートの水準(円安トレンドの維持)に戻る可能性が大きいだろう。もっとも北朝鮮リスクが深刻化していけば、この日銀の金融緩和姿勢で基本的に決まる中長期の為替レート理論は、見直しを迫られることにはなる。 現状の日本経済は、ようやく長い停滞の時期を抜けつつある。今回の北朝鮮リスクの顕在化は、日本の経済復興にとっても無視できない障害となるだろう。その意味でも、過剰な不安を抱くことなく、冷静で具体的な議論をしていかなくてはいけない。(注)議論の詳細は上記HPで購入できるオーディオブックを参照にしていただきたい。

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    北朝鮮ミサイル、日本の「迎撃成功率90%」でも守りは万全じゃない

    自衛隊出身と知っている彼が私共々、自衛隊全体を褒めるきっかけとなったのは、他でもない。 8月10日に北朝鮮が「中距離弾道弾『火星12号』を島根、広島、高知3県上空を通過させ、米軍基地のあるグアム島沖に着弾させる計画を検討中」と発表し、それを受けて自衛隊が迎撃ミサイルPAC3を3県に配備したからである。 国民の期待を代表しているようなお褒めの言葉はうれしい限りなのだが、実情を知る身としては誤解を放置しておくわけにはいかない。 「実は万全とは言えないのですよ。確かにこの3県に落ちて来るなら、迎撃できます。しかし、ここに撃つと言って、欺いてよそに撃つことだってあり得るわけです。そうなったら全く対処できません」 今回、まさに期せずしてそうなった。北朝鮮はグアム島沖に撃つと言って、実際には8月29日、襟裳岬東方の太平洋上に撃ち込んだ。自衛隊としては情報収集以外、何の対処も出来なかった。しかし、だからといって「自衛隊は大したものだ」という国民の期待が「自衛隊は役に立たない」という失望に一変するとすれば、それは国民の無知と身勝手としか言いようがない。 迎撃ミサイル部隊は全国に6個部隊しかなく、もともと主要地域しか防衛できない。全国くまなく防衛せよと言うなら、この10倍必要なのだが、そんな予算も人員もない。国会で審議すらしていないから、国会議員の怠慢だが、そんな議員を選んだのは他ならぬ国民自身なのである。 そもそも迎撃ミサイル「PAC3」とは、PAC2の後継である。PAC2が航空機の迎撃を主要目的としているのに対して、PAC3は迎撃の対象を弾道ミサイルに広げている。米国製であり日本で実戦配備が始まったのが2007年。迎撃の成功率は90%超とされている。米軍横田基地内でPAC3機動展開訓練に取り組む航空自衛隊=2017年8月29日、東京都福生市(川口良介撮影) ただ、同年に米国では高高度迎撃ミサイル「THAAD」が完成しており、翌2008年から米国で実戦配備が始まっている。PAC3は低高度で迎撃するのに対しTHAADは高高度で迎撃する。 ご存じの通り弾道ミサイルは放物線を描いて落下する。THAADは放物線の頂点付近の中間段階の高高度で迎撃するのに対して、PAC3は落下予定地に近い終末段階の低高度で迎撃するわけである。 2009年4月に北朝鮮は弾道ミサイル「テポドン2号改良型」を発射し、東北地方上空を通過させ太平洋上に落下させた。今回の軌道に近いが、北朝鮮は人工衛星の打ち上げと称し事前に軌道を予告していた。危機の本質を知らない日本国民 自衛隊はPAC3を東北地方に配備したが、その時、公表した対処方針がいけなかった。「日本の領土に落下する様であれば迎撃するが、米国に向かって飛んで行く場合は迎撃しない」。これに米国が激怒したことは言うまでもない。4月5日に発射された際には、米軍は一切その情報を日本に伝達しなかった。日米の信頼関係が損なわれ、日米同盟は情報通信上、崩壊したのである。 実はこの対処方針を公表したのには、二つの理由があった。一つは、米国に向かう弾道ミサイルを日本が迎撃するのは、日本が米国を守る行為であり日本の集団的自衛権の行使に他ならない。2009年当時、日本の集団的自衛権の行使は憲法上禁止されているとの政府見解がなされており、憲法上、こうした対処方針にならざるを得なかったのである。 この点については2014年に安倍総理が、集団的自衛権の行使が一部可能になるように政府見解を改め、翌年には平和安全法制が制定されたおかげで今般、小野寺防衛相は国会で、グアム島の米軍基地を攻撃する北朝鮮の弾道ミサイルを法的には迎撃可能とする見解を示せた。 これは大きな進歩だと言っていい。トランプ大統領が「日本を100%守る」と明言できたのも、この新見解があればこそであり、グアム島の住民も「米軍だけでなく日本もグアム島を守ってくれる」と喜んだと言うから、日米の信頼関係の維持に明確に貢献したのである。 だが、もう一つの理由は、現在に至っても解決されていない。実の所、日本のPAC3は米国に向かう弾道ミサイルを迎撃する能力がないのである。 先に説明したようにPAC3は終末段階において低高度で迎撃するミサイルであり、日本を飛び越えて米国に向かう北朝鮮の弾道ミサイルは、日本上空では中間段階つまり大気圏外の高高度を飛行するため、日本のPAC3では迎撃できないのである。 ちなみに海上自衛隊のイージス艦に装備されている迎撃ミサイル「SM3」は日本に着弾する弾道ミサイルを中間段階である日本海で迎撃するためのものである。つまり、2009年当時は法的にも物理的にも不可能であった迎撃が現在、少なくとも法的には可能になっただけで、物理的には相変わらず不可能なのである。小野寺防衛相の見解はリップサービスに過ぎない訳だが、そうであれば当然、トランプ大統領の発言もまたリップサービスなのである。海上自衛隊のイージス艦「ちょうかい」(海自提供) トランプ大統領の本音は、むしろ5月26日の日米首脳会談で安倍総理に言ったとされる、「米軍が北朝鮮を攻撃した場合、日本は軍事的に何ができると言うのか?」といういらだちに満ちた発言にあるとみてよい。 北朝鮮が7月28日に発射したICBM「火星14号」にしろ、今回の中距離弾道ミサイル「火星12号」にしろ、完成すれば米国領を射程に入れる事は確実だ。完成は来年以降と見られるが、完成すれば米国市民の大量殺戮を避けるために、米国は北朝鮮の核兵器を承認して米軍を極東から撤退させる他なくなる。 もし、この事態を避けたければ、年内か来年の早い時期に北朝鮮を米軍が攻撃する以外に選択肢はない。要するに米国は進むか、退くかの二者択一を迫られており、それは日本の対応次第なのだ。 だが、日本国民はいまだにその事に気が付いていない。そこに今回の危機の本質がある。

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    もし北朝鮮が多弾頭化に成功すれば、日本の迎撃可能性は「0%」

    松竹伸幸(ジャーナリスト、編集者) 8月29日の朝、筆者が目覚めたときはすでに北朝鮮のミサイルが日本上空を越え、北海道の東側海域に落下したという情報が流れていた。その後、現在まで1日で得た情報を通じて感じることを1つのキーワードにすると、「当事者性」ということになろうか。 びっくりしたのは、早い段階で「ミサイルは上空で3つに分離した可能性がある」とされていたことだ。これによって、日本の「当事者性」は格段に高まった。 北朝鮮のミサイルというと、この間、飛距離が大きな話題になってきた。米本土まで到達するかどうかが焦点だった。そうなると、米国が北朝鮮ミサイル問題の最大の「当事者」になるからだ。今回、そういう点での技術的進歩はなかったわけで、米国防総省のマニング報道官は「北米には脅威にはならない」(米国時間28日朝)と述べたという。米本土に届くようなものではなかったので、冷静に受けとめているように見える。 だが、上空で分離したというのが「多弾頭化」への前進を意味するなら、日本にとっては重大な問題である。いうまでもなく、弾道ミサイルを迎撃するのは、それが1発だとしても至難の業である。複数が同時に発射されるだけで、迎撃はほとんど不可能になるといわれている。多弾頭化が成功し、上空に来てから分離されるとなると、対処しようがなくなるわけである。配備している地対空誘導弾パトリオット(PAC3)などの信頼性がなくなるという事態に日本は直面しているということだ。防衛省に配備されているPAC3=8月29日、東京都新宿区(桐原正道撮影) ところが、安倍晋三首相の談話が問題にするのは、ミサイルが日本の上空を飛び越えたことだけだ。もっとも懸念すべき多弾頭化には何もふれていない(菅義偉官房長官の記者会見では言及していた)。国民に恐怖感を植え付けるためには、「頭の上を飛んだぞ」というのが効果的という程度のことなのだろうか。多弾頭化の問題に関心がないとすると、当事者意識が希薄でないかと心配になるほどだ。Jアラートが混乱を招く 一方、日本政府は、国民に当事者意識を植え付けることについては、かなり真剣になったようである。話題になっている全国瞬時警報システム(Jアラート)の問題である。 安倍首相は、談話で「ミサイル発射直後からミサイルの動きを完全に把握して」いたことを明らかにした。北朝鮮が関係国の目をグアム方面にくぎ付けにしようとしたなかで、その陽動作戦に惑わされず、かつ早い段階で日本に落下しないことも分かっていたということで、日本にそこまでの情報力があったのは大事だったと思う。 しかし、今回の問題を通じて議論の必要性が明らかになったのは、日本にミサイルが落下しないことが明白なのに、どこまで国民を巻き込むのかということだ。ミサイルの発射が午前5時58分で、Jアラートが12道県に伝えられ、新幹線などが運転を見合わせたのが6時2分、太平洋に落下したのが同12分とされる。そして、北海道のえりも町教育委員会が児童に自宅待機を要請したのは、落下したあとの6時20分ということだ。日本政府は、日本に落下しないと分かっていたのに(だから破壊を命令しなかった)、いろいろな措置がとられるのを黙って見ていたわけである。北朝鮮のミサイル発射の影響で、JR北海道では各方面への列車に遅れと運休が発生した=8月29日、JR札幌駅(高橋茂夫撮影) 未完成のミサイルが日本上空を通過するわけだから、たとえ日本領土に向けたものでなくても、破片の落下など万が一の心配があることは分かる。しかし、オオカミ少年の寓話(ぐうわ)にあるとおり、常に国民を巻き込んでいては、いざというときに冷静な行動がとれなくなる。慌てふためく日本国民を見て、日本上空を通過させるのが効果的と、北朝鮮が判断しても困る。 Jアラートの発動は、政府がミサイルの破壊を命令するとき(日本に向かうミサイルだと判断したとき)など、限定的なものにすべきではないだろうか。北朝鮮によるミサイル発射が今後も頻繁にくり返されることが予想されるだけに、余計にそう感じる。迎撃システムは必要か? また、日本政府は、日本が衛星を打ちあげる際、たとえ北朝鮮の上空を通過しない場合でも通告することによって、北朝鮮にも同様の通告を促すべきではないか。6月はじめに日本が測位衛星を打ちあげた際、北朝鮮外務省は「日本は、われわれが何を打ちあげようと、そしてそれが日本の領空を通過しようと、何も批判できなくなった」と主張したそうだ。そんな口実を許すようであってはならない。 最後に、地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」の問題である。今回のミサイル発射を受けて、導入の必要性に向けた議論が加速されるだろう。しかし、「ちょっと待て」と言いたい。 冒頭に書いたように、今回のミサイル発射は、多弾頭化の実験だった可能性がある。今回がそうでなくても、ミサイルを効果的なものにしようとすれば、どの国であれ多弾頭化に行き着くことは当然である。ところが、イージス・アショアは、多弾頭のミサイルに対しては無力なのである。2017年5月に行われた北朝鮮の中距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験(朝鮮通信=共同) 北朝鮮の核ミサイル問題は外交努力抜きに解決できないのは明白だ。ただ、一方で「どうせ撃ち落とせないのだから外交を」という立場では、外交努力を強める方向に単純には働かないように思う。撃ち落とせないことが前提になってしまうと、「じゃあミサイル基地をたたくべきだ」という世論に向かうことと背中合わせになるからである。 いま大事なことは、多弾頭化によって、このままでは日本の迎撃システムは役に立たないと自覚することである。そして、迎撃システムを開発している米国に対して、多弾頭化に対応したシステムの開発を強く求め、「対応すれば購入する」という立場を貫くことではないか。米本土と異なり、日本はミサイル被害の「当事者」になり得るだけに、役に立たないものは買えないと明確に主張するのは、あまりにも当然の対応ではないだろうか。

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    日本はこのまま「北朝鮮の核ミサイル完成」を待つのか

    門田隆将(ノンフィクション作家) 本日早朝、北朝鮮の中距離弾道ミサイルが、警告されていた島根、広島、高知の上空ではなく、北海道上空を通過し、太平洋上に落下した。小野寺五典防衛相は、「中距離弾道ミサイル『火星12』の可能性がある」と記者団に述べた。 これまで、北朝鮮が予告の上で「人工衛星である」と称して発射した飛行体が日本列島を通過したことはあったが、ついに弾道ミサイルが「予告なし」で列島を通り越していったのである。 北海道をはじめ全国各地で、Jアラートと連動したサイレンが鳴り響き、携帯電話やスマートフォン等で「エリアメール」が鳴動した。テレビ画面も一斉に緊急画面に切り替えられた。 「私たちは、このまま北朝鮮の“核ミサイルの完成”を待ちますか?」――私は、そんなことを思いながら、一連の動きを見ていた。北朝鮮のミサイル発射について取材を受ける安倍晋三首相=29日(宮川浩和撮影) 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」した私たち日本人にとって、北朝鮮の弾道ミサイルは、本来「あり得ないこと」である。 憲法前文で謳うこの理想は、人類の夢である。だが、「夢」は「夢」であり、「現実」ではない。世界の諸国民が「平和を愛する人々である」という前提がいかに「おめでたい」かは、小学生にでもわかる。 だが、私は、「日本人はこのまま北朝鮮の“核ミサイルの完成”を待ち、座して“死”を待つのだろうか」と本当に思う。当欄でも、私は長くこう書いてきた。「北朝鮮が核弾頭の小型化と起爆装置の開発を果たすまでが、日本人が生存できるリミットである」と。 多くの研究者が、「もはや北朝鮮は核弾頭の小型化を実現している」という中、あとは「起爆装置の開発」ができているかどうか、である。 言うまでもなく「核弾頭の小型化と起爆装置の開発」の成功は、「核ミサイルの完成」を表わす。その瞬間から、日本人は、「いつ、理不尽に、自分の命が失われるかわからない状況下に立つ」ことになる。すでに日本の「5都市」が攻撃対象 日本人は忘れやすいのであらためて記すと、北朝鮮はすでに、2013年4月、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」に〈わが国に対する敵対政策は日本の滅亡を招く〉という記事を掲載(4月10日付)している。 その中で、〈日本は我々の報復対象から逃れることはできない〉とし、攻撃対象として〈東京、大阪、横浜、名古屋、京都〉の「5都市」を挙げている。 記事はかなり詳細で、これらの5都市が日本の人口の「3分の1」近くを占めていることを理由に、〈われわれは、日本の戦争持続力を一気に壊滅させることができる。日本列島のすべてをわれわれは戦場とするだろう〉と主張していた。 この「宣言」は核ミサイルを前提にしている。そして今、いよいよその完成が「間近」となったのである。北朝鮮の労働新聞が7月29日に掲載した「火星14」発射の写真=(共同) 私は、テレビで評論家の話を聞きながら、「なぜ、ここまで危機感がないのか」と思う。まだ「起爆装置の開発ができていない」今だからこそ、日本は「生存」できている。なにも起こらないで欲しい、と思っても、もはやそんな悠長なことを言っていられる場合ではない。 もし、北朝鮮が「すべての開発」を終了させたら、日本はどうするのだろうか。そんなことをなぜ議論しないのだろうか。そして、今回のミサイルを「なぜ、撃ち落さなかったのか」、それは、ひょっとして「撃ち落せなかったのか」、それとも完全にミサイルの航跡を把握しながら「撃ち落す必要はない」と判断したのか、そして、もしそうなら、なぜそう判断したのだろうか。議論すべきことは数多くある。 なかでも日本が今、議論すべきは、アメリカに「北朝鮮の無力化」をどう果たしてもらうか、ということではないだろうか。その具体策をどうするか、それを政府に先んじてマスコミは議論していかなければならない。 加計問題で、ファクトに基づかない一方的で煽情的な報道をつづけた日本のマスコミ。「国民の生命と財産を守る」ということに対するマスコミの意識の低さと危機感の欠如に、私は、ただ溜息が出るだけである。(「門田隆将オフィシャルサイト」より2017年8月29日分を転載)

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    北朝鮮の核ミサイル落下で熱線、爆風、放射線への対処法

    北朝鮮の核ミサイルが日本のミサイル防衛網を突破し、日本列島で爆発した時、我々がとるべき行動とは何か。元自衛官で『ミサイルの科学』の著者・かのよしのり氏が核爆発から生き残るための方法を伝える。 * * * 核ミサイルが飛んできた時、個人ができることは政府が提供するJアラート(全国瞬時警報システム)が作動してからの数分間と爆発後の行動で、最善を尽くすことだけだ。そこで適切な行動を取れるかどうかで、生存率には雲泥の差が出る。北朝鮮のミサイル発射で作動した全国瞬時警報システム(Jアラート)の画面=8月29日、東京都千代田区の産經新聞東京本社 そもそも核ミサイルの被害は、爆弾の爆発力と爆心地からの距離によって大きく違う。たとえば、外務省がまとめた「核兵器使用の多方面における影響に関する調査研究」(平成25年)によれば、広島に落ちた16KT級(TNT火薬相当)原爆に近い20KT級の空中爆発(都市の数百m上空での爆発)では、1km以内の建物はほぼ全壊、インフラもほぼ壊滅状態で、車両もほぼすべて走行不能になると想定されている。 核爆弾が爆発すると、巨大な火の玉(火球)ができる。このとき熱線と爆風、放射線が放出される。ピカッと光った瞬間、光と同時にやってくるのが熱線だ。20KT級の核爆弾なら熱線は約1.5秒持続する。爆心地から数百m以内なら瞬時に蒸発し即死、1.5km程度までが黒焦げとなり約6~8割が死亡する。2km程度までは火膨れ(ひどい火傷)、2.8km程度までは日焼けのように肌が赤くなる。広島では3.5km離れていても素肌は火傷になった。熱線は、光った後では逃げられるものではないから、爆心地から近ければ諦めるしかない。ただし、運よく物陰などにいた場合は、爆心地から近くても助かることがある。 熱線の後、風速数百m/sの爆風がおおよそ10秒後までに吹く。都市の場合、爆風によって破壊されたガラス片が、爆心地から1km以内なら弾丸と同じスピードで飛んできて人を殺傷する。その場の状況によってガラス片から体を防御することが必要だ。放射線が弱まる速度 爆発が起こると、熱せられた空気が上空に巻き上げられ、上昇気流が発生する。すると地表の空気が希薄になりそれを補うように周囲から風が吹き込む。爆風はまず爆心地から吹き、そのあと逆方向からの「吹き戻しの風」が吹くため、2方向からガラス片が飛んでくることを覚えておこう。◆概ね24時間で放射線は弱まる 熱線、爆風の次に考えなければならないのは放射線だ。爆発で一次放射線と二次放射線が生じる。前者は核爆発の反応が起きているときに出る放射線で、放出される時間は火球が見える時間とほぼ同じ(20KT級なら1.5秒程度。爆発力による)。後者は核爆弾の材料が蒸発した後、冷えて灰のような細かい固体になって降ってくるものや、爆風で巻き上げられたほこりなどが、一次放射線の影響を受けて放射能を持ったもの。いわゆる「死の灰」だ。 一次放射線から生き残るために特に何かを考える必要はない。地下や建物内で熱線や爆風から生き残ることができれば、一次放射線からも逃れたことになるからだ。むしろ心配しなければならないのは二次放射線のほうだ。 放射能は時間に比例して弱まる。それは放射性物質の種類によってさまざまだが、おおまかにいうと、時間経過が7倍になれば放射能は10分の1になる。爆発7分後の放射能は1分後の10分の1、さらに7倍の49分後には100分の1になる。核爆弾の規模にもよるが、概ね24時間も屋内に退避していれば、かなりの程度、放射能は弱まり、注意すれば外出できるようになるだろう。 つまり、生死を分けるのは最初の数時間なのだ。●かの・よしのり/昭和25年生まれ。自衛隊霞ヶ浦航空学校出身。北部方面隊勤務後、武器補給処技術課研究班勤務。平成16年退官。『ミサイルの科学』(サイエンス・アイ新書)など著書多数。関連記事■ 朝鮮半島有事で押し寄せる難民27万人がもたらす影響■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ ノドン、ムスダン、テポドン… 金正恩のミサイルの実力■ 北朝鮮のミサイルを自衛隊は撃ち落とすことができるのか■ 愛子さま「激やせからの15キロ増」に周囲は心配の声

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    北朝鮮のミサイルを自衛隊は撃ち落とすことができるのか

    ーダーや海上のイージス艦などが得た情報とを総合して、コンピューターが自動的にミサイル軌道を計算する。北朝鮮の弾道ミサイル発射に備え、陸上自衛隊出雲駐屯地に配備されたPAC3=8月12日、島根県出雲市(門井聡撮影) 弾道ミサイルの飛翔経路は、発射後に上昇する「ブースト段階」、大気圏外に出て弾道飛行する「ミッドコース段階」、大気圏再突入後に着弾するまでの「ターミナル段階」の3つに区分される。日本のBMDシステムは、ミッドコース段階で海上自衛隊のイージス艦に搭載したSM3が、高度100km以上の大気圏外で迎撃する「高層迎撃」と、それを撃ち漏らした場合に「ターミナル段階」において、航空自衛隊のPAC3が上空15km付近に飛来した時点で迎え撃つ「低層迎撃」の2段構えとなっている。 米韓軍の情報によれば、北朝鮮は日本を射程に収める「ノドン」を200~300基、韓国向けの「スカッド」を600基(このうち日本攻撃が可能なスカッドERは多くて100基と推定)、北朝鮮は保有している。これらのミサイルを一度に発射する「飽和攻撃」に対処できるのかという議論があるが、その際重要になるのは発射機の台数であり、米韓軍によればノドン用は40台、スカッド用は50台という(スカッドER用は不明)。 日本向けの発射機は最大50台と推測される。常時使用可能なのは保有数の3分の1という原則(残り3分の2は予備と整備)に従えば、常時使用可能な発射機は15台ほどとなる。海上自衛隊のイージス艦1隻が「SM3で同時に迎撃可能なのは2基」という“神話”が横行しているが、実際に操作可能なミサイル数は軍事機密であり、公表されていない。 そうしたSM3を搭載した日米両軍のイージス艦は、日本海に常時数隻遊弋(ゆうよく)しており、現在の北朝鮮の能力による「飽和攻撃」に対しては、ほぼ全てを撃ち落とすことができると考えられるが、撃ち漏らしたノドンが着弾する可能性は否定できない。●解説・文/惠谷治関連記事■ 米韓VS北朝鮮戦争勃発で日本はどうなる?のシミュレーション■ 海上自衛隊 今後10年以内にイージス艦をさらに2隻建造方針■ ミサイル防衛 北の核弾頭迎撃可能確率は50%以下との予測も■ 北朝鮮がミサイル50発を一斉射撃したら日本は防げるのか■ 日中潜水艦比較 攻撃力は互角、探知能力・静粛性は日本が上

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    北朝鮮グアム攻撃「8月危機」の現実味

    北朝鮮の最高指導者、金正恩が米領グアムへのミサイル発射計画を突如ぶち上げ、米朝間の緊張が再び高まっている。米韓合同軍事演習を念頭に置いた威嚇との見方が支配的だが、強硬姿勢を貫くトランプ米大統領との駆け引きは続く。朝鮮半島有事は起こり得るのか。「8月危機」の現実味やいかに。

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    トランプは北朝鮮のグアム攻撃が「絶対にない」ことを知っている

    重村智計(早稲田大学名誉教授) ドナルド・トランプ米大統領は、なかなかの役者だ。北朝鮮の扱い方を知っている。北朝鮮を、米国と国際政治の最優先課題にしたからだ。追い詰められた金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は8月14日に、「米国の動向をもう少し見守る」と言わざるを得なくなった。これを受け、トランプ氏は16日に「金正恩は賢明な判断をした」と述べ、事態が収束した。脅しと落としどころを心得た“不動産業者”トランプ氏の勝利だ。米朝の指導者は戦争するつもりはなかった。北朝鮮の石油保有量は世界最少の50万トン。これでは戦争できないとわかっている。国家予算も国内総生産(GDP)も世界最少だ。トランプ大統領がツイッターで北朝鮮に警告を発するニュースを伝える街頭ビジョン=8月12日、東京都千代田区(宮川浩和撮影) トランプ氏は、北朝鮮がグアム攻撃できないと知りながら「(攻撃すれば)北朝鮮に惨事が起きる」と口撃した。世界のメディアが彼の発言を報じ、偶発衝突を危惧した。マスコミ操作は大成功だ。北朝鮮の指導者はなぜか発言を控えた。首脳同士の「舌戦」から手を引いたのだ。世界最大国家の指導者が小国の国家指導者をからかい、ニュースを独占している。 北朝鮮の言語文化は最初に「かます」。開口一番相手を「どつく」。優位に立つために威圧表現を使う。これはトランプ氏が使う手法でもある。 日本人は初対面や交渉の相手に「お手柔らかに」と、へりくだった姿勢を示す。北朝鮮の日常生活ではダメだ。「俺が誰だかわかっているのか」と言わないと甘く見られる。 北朝鮮の発言にだまされまい。朝鮮半島には言いたいことを120%表現する言語文化がある。それに対抗するには、同じ「激震」のメッセージを送るしかない。日本は腹の中を60%しか言わない文化だから北朝鮮に負ける。トランプ氏は、自制を求める声に「まだ激しさが足りなかったかも」と述べたが、正しい表現だ。 北朝鮮は「ソウルを火の海に」という言葉を何度も使った。それに対抗した米指導者はトランプ氏が初めてだ。北朝鮮の過激表現には「米国が挑発すれば」との前提条件がつく。だから「火の海」にならない。国連安保理「制裁決議」の抜け穴 金委員長も「わが国に手出しすれば」と述べた上で、「米国も無事ではない」と断言した。それはそうだろう。前提条件を読めば当たり前の発言だ。北朝鮮外務省は「米国がわれわれへの軍事的冒険に手をつけるなら」と前置きした上で、「正義の行動で応じる」と語った。朝鮮人民軍戦略軍司令官も「グアム島包囲射撃計画案を慎重に検討」と発言した。あくまで「案を慎重に検討」と言うだけで、「攻撃を検討」とは言わない。北朝鮮の弾道ミサイル発射を報じる街頭テレビに映った、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=7月4日、東京・有楽町 北朝鮮の「米国への恐怖」がこの表現からよくわかる。ならば、なぜ過激表現を繰り返すのか。金正恩体制維持のためであって、米国と対話するためではない。対話を望むなら、もっと柔軟な表現をするからだ。 トランプ氏は、金委員長を「米国への最大の脅威」と印象付け、支持率引き上げに利用した。反トランプの米紙ニューヨーク・タイムズも「若く気まぐれな核付き独裁者」と、金委員長批判の見出しを一面に掲げた。「トランプ作戦」の勝利だ。 トランプ氏は8月10日に、国連安全保障理事会での北朝鮮制裁決議について「(効果は)それほど期待できない」と冷めた理解を述べた。安保理は8月5日に「北朝鮮の石炭、鉄鉱石など輸出の全面禁止」を決議した。これを受けて、メディアでは「北の石炭、鉄全面禁輸」と報じられた。だが、この見出しでは「輸入全面禁止」と誤解される。 「輸出」と「輸入」では何が違うのか。「輸出」は北朝鮮だけが責任を負うもので、中国とロシアは全く責任を問われない。禁止されているのは北朝鮮の「輸出」であって、各国の「輸入」ではない。中国とロシアには「輸入」してもいいと解釈できる余地を残した。 交渉関係者によると、米国は制裁決議に「輸入全面禁止」と「石油禁輸」を盛り込みたかったが、中ロは応じない。仕方なく「輸出全面禁止」で折り合いをつけた。今回の安保理決議には、次回は「輸入全面禁止」を盛り込む、との米国の意向が強くにじみ出ている。15日から中国政府は、北朝鮮産石炭や水産物の輸入全面禁止に踏み切った。ロシアとの立場の違いを示したとされるが、なお「抜け道」が憂慮されている。それでも金正恩のメンツは丸つぶれ たとえ、北朝鮮の石炭や鉄鉱石が中国とロシア国内に存在しても、「輸入全面禁止」ではないから安保理決議違反ではない。解釈次第では、前回の決議が容認した「北朝鮮の国民が生活必需品」を購入するための輸入なら、認められるかもしれないのだ。 北朝鮮は安保理決議を無視しているので、いまさら「輸出全面禁止」決議に従わないだろう。支援国の中国とロシアに迷惑はかからない。北朝鮮の国連外交官は「中国とロシアの輸入は全面禁止になりませんでした。われわれの勝利です」と本国に報告したことだろう。 中国とロシアは北朝鮮のために単独で「拒否権」を使うつもりはない。中国とロシアは共に拒否権を行使すると、国際社会から「北朝鮮の味方」と非難され孤立する。安保理が決議違反に対して弱い声明しか出せないなら、安保理の権威と信用は崩壊する。その責任は、中国とロシアが負わされることになる。米国は、中ロ両国のこの微妙な立場を巧みに批判し、説得したといわれる。 ただ、今回の「輸出全面禁止」決議は、金委員長のメンツと軍部の権威を相当に傷つけた。北朝鮮指導部は、ミサイル発射しても米国や国連は手が出せない、と豪語していた。それが「輸出全面禁止」の上、トランプ氏にまでボロクソに言われ、もはやメンツ丸つぶれだ。クウェートは制裁決議に従い、北朝鮮労働者の入国を禁止した。クウェートは北朝鮮の中東工作の拠点だ。5月18日に撮影された、北朝鮮・豊渓里にある核実験場の衛星写真。丸で囲った部分に、新たに建設が始まったとみられる建物が写っている(デジタルグローブ/38ノース提供・ゲッティ=共同) 北朝鮮の鉱物資源の輸出が減少し、労働輸出にストップがかかれば指導者のメンツは確実に損なわれる。儒教文化の北朝鮮では「体面(メンツ)」の喪失は指導者に痛手だ。軍部はこのトランプ戦略に対抗するために、地下核実験を強く求めている。

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    北朝鮮のグアム攻撃に右往左往する小野寺防衛相の方が危なっかしい

    柳澤協二(元防衛省幹部、国際地政学研究所理事長) 北朝鮮がグアム周辺へのミサイル着弾計画を公表し、トランプ大統領が核攻撃による報復をにおわせるような発言をしたことで、危機感が一気に盛り上がった。その中で、一番右往左往したのが他ならぬ日本だった。 北朝鮮が予告したミサイル飛翔経路に当たる島根、広島、高知と愛媛の各県では、自衛隊が迎撃ミサイルPAC-3を展開し、ミサイル落下に備えた警報・避難の訓練が計画されている。テレビのワイドショーでは、日本上空を飛ぶ無数の民航機を地図上にプロットして、航空機にミサイルが衝突する危険を訴えていた。 物事の本質を見ない者は、危機にうろたえ、意味のない行動に走る。ミサイルは、日本上空の宇宙空間を超えてグアムに向かう。その段階では、すでに数百キロの高度にあるミサイルが、高度1万メートル以下を飛ぶ民航機と衝突することはない。 軍用機と民航機の衝突や、軍艦と民間船舶の衝突は枚挙にいとまがない一方、宇宙を飛ぶ無数の人工的物体が落下してくるのは現実の危険ではあるが、それは今回のミサイルに限ったことではない。 仮に失敗して日本に落下するとしても、北朝鮮からグアムまで3700キロ飛ぶミサイルが島根から高知までの200キロの間に落ちる確率は、単純計算でも200÷3400=5・4%だ。しかもそれは、ミサイルが途中で故障する確率を100%と仮定したときの確率である。仮に、一段目が成功して日本に届く出力を発揮し、2段目が失敗して日本を超えない範囲に落ちるような故障をする可能性を考えれば、限りなくゼロに近い。つまり日本は、限りなくゼロに近い危険を想定して膨大なエネルギーを費やしている。 落ちてくるのが心配なら、大気圏への再突入で大半が焼失するミサイルの残骸よりも、発射地点の近傍に落下することが確実なPAC-3の胴体のほうが心配だ。島根駐屯地から撃てば日本海の海岸近くに、広島市内の海田駐屯地から撃てば広島市内に、松山駐屯地から撃てば瀬戸内海に、高知駐屯地から撃てば高知市近傍に、PAC-3の胴体が落ちてくる。陸上自衛隊松山駐屯地に配備されたPACー3=2017年8月12日、松山市 おまけに、PAC-3は、自分をめがけて落ちてくる弾頭を迎撃すべく設計されているので、配備された駐屯地の位置が実際のミサイルの経路から外れていれば迎撃できない。また、大気の抵抗を受けるために落下経路を計算できない物体に迎撃ミサイルを命中させることは、多分、できないと言う方が正しい。こうして、PAC-3による迎撃によって、落下物から身を守りたいという目的とは正反対の行動をとることになる。これを右往左往と言わずして何が右往左往か。 その右往左往の極みが、小野寺五典防衛大臣が国会で、グアムへのミサイル発射について存立危機事態を認定してミサイルを集団的自衛権によって迎撃する可能性に言及したことだ。テレビのワイドショーが危機を煽るのは無知だから仕方がないとしても、国家理性を体現すべき国会の場でこうした議論が大真面目に行われるに至っては、それこそ国の存立が危うい。おかしな集団的自衛権の議論 北朝鮮が言う通りグアムの周辺30~40キロの公海上にミサイルが着弾したとすれば、それは、当然にアメリカの自衛権行使を正当化することにはならない。アメリカへの威嚇ではあっても、アメリカへの武力攻撃であるとは言えないからである。 万一、狙いがそれてグアムに着弾したとしても、実弾頭ではなくダミーであるはずだから、それだけで北朝鮮の武力攻撃を認定するには無理がある。こうした行為が繰り返されるようであれば、それは、新たな形態の武力攻撃と言えなくもないが、例えば日本の領域に侵入した外国の軍用機が爆弾を落とさずに部品を落としていった場合にそれを武力攻撃と認定できるか、という問いと同じだ。 こうしたミサイル発射は、他国領域に被害をもたらす無法な行動であり、それ自体も国連安保理決議によって禁止されている違法な行為であるが、武力攻撃の意図がなく、外形上も武力攻撃と認める理由が乏しければ、自衛権は発生しない。国際法は、相手が国際法に違反したことをもって自衛権の発動を認めていない。イラク戦争で、サダム・フセインは国連安保理決議に違反していたが、それはアメリカの武力行使を容認しないというのが安保理構成国の多数意見だった。 アメリカが自衛権を主張して反撃することも十分考えられるが、その場合、アメリカもダミーの弾頭を積んだミサイルを撃ち込むのだろうか。そうなれば、まるで子供の喧嘩だ。意味を持つ行動をとるなら実弾頭で攻撃するしかないが、それは報復としてもやりすぎの批判を免れない。つまり、アメリカの対応はかなり難しい計算が求められる。北朝鮮も、そのギリギリの線を狙った嫌がらせをしている、というのが問題の本質だ。 そのような客観的条件のもとで、日本が集団的自衛権を行使する議論がどうして出てくるのだろうか。小野寺大臣によれば、それは、グアムが攻撃されて機能を失えば、日本を守るための抑止力が減殺するから、日本の存立を危うくする可能性がある、という論理だ。だが、この論理は、何か変だ。衆院安全保障委員会の閉会中審査で、特別防衛観察の結果などを報告する小野寺五典防衛相=2017年8月(斎藤良雄撮影) 第一に、グアムが破壊されるのは、ミサイルが日本を超えて正常に飛翔する場合である。日本海にいる日本のイージス艦は、ミサイルの最高高度近くで迎撃する。グアムに向かうミサイルの最高高度はイージス艦の迎撃ミサイルの迎撃可能高度を上回っている。ゆえに、日本がこのミサイルを打ち落とすことは物理的に不可能なので、集団的自衛権行使を論じる意味がない。右往左往するだけの日本 第二に、こちらのほうがより本質的な論点であるが、抑止とは、攻撃を仕掛ければさらに大きな力で反撃をするという意志と能力を示すことによって、攻撃の意志を封じ込め、戦争をさせないようにすることだ。グアムのアメリカ軍は、まさしくそのような役割りを果たしている。 だから、恐怖にかられた北朝鮮が攻撃することはあり得ないことではない。一方、グアムへの攻撃を防ぐために日本が集団的自衛権で、ミサイルでも潜水艦でも、これを迎撃するとすれば、それは国家意志による武力行使であり、戦争にほかならない。 ということは、「戦争させない力である抑止力を守るために武力に訴える」すなわち「戦争を防ぐために戦争する」ということであるから、論理的に矛盾している。仮にグアムが攻撃されるとすれば、それはアメリカの抑止が破たんしたということであって、そこに守るべき「抑止力」は存在しない。グアムのアンダーセン空軍基地。グアムは太平洋地域の戦略拠点の一つで、基地には戦略爆撃機も配備されている。 そこにあるのは報復力であって、すでに戦争が始まった以上、目的が抑止から戦勝に変わっている。言い換えれば、抑止力とは、戦争に勝つ力と同じことであり、そうであればこそ、相手に「勝てない」という計算を余儀なくさせて戦争を防ぐ力になり得る。 ところが、多くの日本人は、「アメリカの抑止力さえあれば戦争にならない」という勘違いをしている。アメリカの抑止力とは、抑止が破たんして戦争になることを覚悟したうえで、戦争になれば必ず勝つ力のことであって、「戦争をしない力」ではないのだ。抑止力を論じるには、戦争を覚悟することが前提となる。それが、抑止のパラドクスにほかならない。その前提への理解がないから、日本は、国家理性さえも右往左往することになる。 第三に、仮に日本がグアムに向かうミサイルを迎撃したとすれば、そして、グアムを破壊する北朝鮮の意志がゆるぎないものだとすれば、北朝鮮がとるべき道は、グアムの破壊を阻害する日本の能力をまず破壊することを優先せざるを得なくなる。言い換えれば、グアムへの攻撃を阻止することは、日本に戦争を引き寄せるという意味がある。だから、アメリカの報復力を守ることは日本の安全を守ることと両立しないのだ。 日本に問われているのは、一発二発のミサイルを覚悟してもアメリカの抑止力=報復力を守るのか、それとも、グアムにミサイルが飛んでも日本にミサイルが飛んでこないことを優先するのか、という究極の選択だ。いずれかの覚悟をしなければ、日本は、いつまでたっても自分が何をしているかさえわからない状態で右往左往を繰り返すことになるだろう。

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    北朝鮮ICBM技術「流出の黒幕」はウクライナではなく中国だった?

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト) 北朝鮮の弾道弾技術の進展が目覚ましい。大陸間弾道弾(ICBM)の実験に先月2度成功して、まさに国際社会は大騒ぎになったが、無理もない。一昨年には北朝鮮にICBMなど10年早いと見られていたからだ。 ところが昨年、ICBMのエンジンの噴射実験に成功し、今年、発射に成功した。もちろん、技術的に問題は残されており、実戦配備は来年以降と見られるが、ひとたび配備されれば、金正恩の気まぐれ一つで、米国のどこに向けても発射され得るわけである。 つまり、昨年から今年にかけて北朝鮮のICBM技術は突然、進展した。当然、技術の提供元があると考えられる。そこで米国の研究者がそれは「ウクライナだ」と言い出した。ウクライナは旧ソ連時代にはソ連の支配下にあってICBMなどの兵器を製造し、ソ連軍に納品していた。 ソ連が崩壊しウクライナが独立した後も、主要産業は兵器産業で、主にロシア軍に納入していた。ところが、ウクライナの民主化に伴いロシアと対立し始め、ロシアに兵器を売れなくなってしまっている。 そこで、兵器技術が闇市場に流れ、最終的に北朝鮮の手に渡ったというのが、米国の見立てである。ウクライナと対立するロシアは、これに同調してウクライナを非難し、ウクライナはとんでもない言い掛かりだと反論するに至った。 米国の研究では北朝鮮のICBMのエンジンはウクライナで製造されたエンジンRD250系に類似するという。これだけ聞くとRD250系はあたかも最新の技術で製造されたエンジンのように思われようが、実は1970年代の旧式である。北朝鮮の労働新聞が7月29日掲載した「火星14」発射の写真(共同) 冒頭で北朝鮮のICBM技術の、特にここ2年間の進展の目覚ましさを強調したが、それはこれまでの進展の遅さと対比しての話であって、現在の北朝鮮ICBMが世界的なレベルで最新というわけではない。 特に注目すべきは、北朝鮮のICBMが液体燃料を使用している点である。弾道弾の燃料には液体燃料と固体燃料の2種類があるが、液体燃料は保管が難しく、発射前に数時間かけて注入しなければならない。 固体燃料は入れっ放しにして、いつでも発射できるから、世界的に新式の弾道弾はすべて固体燃料である。北朝鮮でも潜水艦発射型弾道弾(SLBM)は固体燃料を用いているから、固体燃料がないわけではないのに、最新のICBMが旧式の液体燃料を用いているのはいかなるわけか。 これは、北朝鮮がエンジン技術を自主開発していない事を意味する。つまり他国から与えられた技術を鵜呑みにしているため、SLBMの固体燃料をICBMに応用することができないのであろう。 そこで技術の提供元はウクライナだと米国が言い出したわけだが、その技術は50年も前の技術であって、50年間にさまざまな国に流出した技術である。どこをどう通って北朝鮮にたどり着いたかは、慎重に検討すべきであって、ウクライナだけが非難されるべきではない。 50年間にさまざまな国に流出したと書いたが、一体どこから流出したのか。ウクライナが発明したわけではない。ソ連でもない。液体燃料型エンジンを完成させたのは他ならぬ米国である。技術提供元は結局米国? 先日のNHKニュースで大同大学の澤岡昭名誉学長がこう述べている。「これは非常に古いエンジンでアメリカのアポロ計画の時代1960年代に開発が始まって、アメリカが月へ行った頃に完成したと言われています」 澤岡氏の言を俟(ま)たずとも、旧ソ連が米国の科学技術を盗み取っていたのは軍事技術者の間では有名な話で、米国が1970年代、戦闘機F15イーグルを開発すると、それに対抗してソ連はミグ29とスホイ27を開発したが、形状はF15にそっくりである。 つまり、ソ連が米国のエンジン技術を盗み、ウクライナに製造させていたのがRD250系であって、技術の提供元をしつこく探れば、結局米国という事にもなる。一歩間違えばブーメランにもなりかねないリスクを米国は冒しているわけである。 ウクライナから闇の市場を通って北朝鮮にたどり着いたと言われているが、このエンジンの製造をウクライナは2000年代初頭に停止しており、10年以上も闇の市場を漂っていたとは考えられない。 しかもウクライナは、製品をすべてロシアに納入しているから、ロシアから北朝鮮に流出したと言うが、現在の両国の経済状況から見てロシアに、無料で技術供与をする余裕はなく、また北朝鮮に金を払う余裕もないであろう。 むしろ、ここで関与が疑われるのは中国であろう。中国にはまだ北朝鮮を支援するだけの経済的余裕がある。しかも1998年に中国はウクライナから空母を購入して、後に「遼寧」として就航させている。 2000年前後において、ロシアの軍縮によってウクライナの兵器産業はひっ迫しており、経済成長を始めた中国は新しい顧客として優遇されていた。ウクライナが中国にRD250系を二束三文で売り払ったとしても不思議はない。 もちろんウクライナの主張のようにすべてがロシアに納入されているとすれば、ロシアから中国が買った可能性もある。いずれにしてもRD250系は旧式であるから欧米としても特に問題視しなかったであろう。エンジン流出源について記者会見に臨んだウクライナ宇宙庁のラドチェンコ長官代行=2017年8月15日、キエフ 中国としては当初、非軍事の宇宙ロケットの開発に転用する計画だったであろうが、やがて北朝鮮が核実験に成功するに及び、新しい利用法を発案した。つまり北朝鮮のミサイル開発の支援に利用するのである。 北朝鮮が核ミサイルを独自開発してしまえば、そのミサイルが中国に向かう可能性をはらんでいる。中国が全面的に支援して北朝鮮のミサイル開発自体をコントロールすれば、中国製のGPSを組み込むことにより、その可能性を排除できるのである。 今回、米国がブーメランのリスクを冒してまで、同盟国ウクライナを苦境に追い込んだのは興味深い。トランプ政権はロシアとの接近を図っているが、その最大の障害はロシアとウクライナの対立であり、ウクライナの譲歩があれば、米露接近は可能になる。 一方、米露接近を最も警戒しているのが中国であり、ロシアを中国側に引き込み中朝露と日米韓の対立の構図を演出している。だが、この対立の構図は安定したものではなく、むしろ不安定で危険である。なぜならそれは世界大戦を指向しているからである。

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    金正恩が核兵器と弾道ミサイルの開発を止めることはない理由

     北朝鮮がグアム島周辺に弾道ミサイルの発射を計画していることで、アメリカと一触即発の緊迫状態が続いている。グアム当局は核兵器による攻撃も想定した緊急ガイドラインを発表するなど、いまや北朝鮮の核保有は現実的な脅威として受け止められている。 北朝鮮の核開発の進捗状況や威力、日本への影響などどれほど深刻なのか。『北朝鮮恐るべき特殊機関』などの著書がある朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏がレポートする。 * * * 韓国国防省は7月5日、北朝鮮北東部の豊渓里(プンゲリ)の核実験場の状況について、「2番、3番坑道はいつでも核実験が可能な状態を維持している」「爆発力を拡大させた核実験で、核弾頭の能力を試す可能性がある」と明らかにしている。北朝鮮が5回目の核実験 2016年8月27日に撮影された北朝鮮・豊渓里の核実験場の衛星写真 (エアバス・ディフェンス・アンド・スペース/38ノース提供・聯合=共同) 北朝鮮は昨年の9月9日の建国記念日に5回目の核実験を実施していることから、今年の建国記念日に6回目の核実験を行う可能性もある。 北朝鮮は核実験の回数を重ねるたびに核爆発の威力を高めてきた。2006年10月の初回は1キロトン未満と推定されたが、2016年9月の5回目は広島や長崎に投下された原爆と同程度の最大20キロトンと推定されている。 米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」は2017年3月10日、核実験場で坑道の掘削が続いており、地形などから昨年9月に実施された5回目の10倍以上の威力を持つ核実験も可能で、6回目の核実験を行う場合、最大282キロトン規模になる可能性があるとの分析を発表している。◆北朝鮮の核実験の危険性 北朝鮮はこれまで全ての地下核実験を豊渓里(プンゲリ)で行っているが、このような狭い地域における地下核実験には大きな危険が伴う。地下核実験では実験の規模にもよるが、通常、地下核実験では一辺が50~60kmの砂漠で行われる。その理由は、核爆発によって破壊された地下水脈を通じて放射能が拡散することを防ぐためだ。汚染水が流出する可能性 米国はネバダ砂漠、中国はタクラマカン砂漠、インドはタール砂漠、パキスタンはシン砂漠、旧ソ連は砂漠がないため広大な平原で地下核実験を行っている。ネバダ砂漠の核実験場は日本の鳥取県全域に相当し、旧ソ連・カザフスタンのセミパラチンスク核実験場の面積は四国とほぼ同じである。つまり地下核実験は砂漠などの広大な場所が必要になるのだ。5月14日、新型の中距離弾道ミサイル「火星14」の発射実験成功を喜ぶ北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮通信=共同).jpeg そのため、北朝鮮は過去に、金日成政権が旧ソ連・ブレジネフ時代(1964~1982年)の末期に旧ソ連共産党指導部に対し「核兵器を開発したあかつきには、その実験場としてソ連の地下核実験場を使用させてほしい」と非公式に要請したことがある。(「産経新聞」1993年3月20日) 金日成政権がブレジネフ政権に場所借りの要請をした時期は、1970年代末から1980年代初めで、希望した実験場はセミパラチンスクの可能性がある。 ブレジネフ政権が当時、北朝鮮の核実験場使用の申し入れにどう対応したかは明らかになっていない。しかし、このような北朝鮮の動きは、北朝鮮には核実験に適した場所がないことを北朝鮮(金日成)が認識していたことを示している。 豊渓里周辺は岩盤となっているため安全という見解があるが、度重なる実験により岩盤に亀裂ができている可能性もある。朝鮮半島は豊かな地下水脈が流れており、最終的に少量の放射性物質が日本海へ流出しないという保証はどこにもない。◆地下核実験でも起きる放射能汚染 北朝鮮が過去5回行った地下核実験では、放射能漏れは起きていないようだ。 大気圏に放射性物質が放出された場合は、日本海を飛行する米空軍のWC-135大気収集機と、集塵ポッドを搭載した航空自衛隊のT-4 練習機で放射性粒子を収集することができる。この結果、これまでは放射性物質は観測されていない。 だが、1960年代に遡ると、米国、旧ソ連、中国、フランスは地下核実験で放射能漏れを起こしており、同様の事態が北朝鮮で起こらないとはいえない。  米国は1960年代に行った地下核実験で放射能漏れを何度も起こしている。放出された放射能の規模は大気圏内実験並みであったという。その後、放射能の封じ込めの技術の進歩により、放射能漏れはほぼなくなった。各国で起こっている汚染 旧ソ連は1965年に行ったセミパラチンスクでの地下核実験で、爆発によって山が吹き飛ばされ、その時の「死の灰」は風下のセミパラチンスク市に大量に降り注いだだけでなく、微量ではあるが5日後に日本でも検出された。 中国が新疆ウイグル自治区のロプノールで核実験を行った際には、実験に使われた山中のトンネルの一部が吹き飛ぶ事故が発生しており、大気圏に放射性物質が放出された。放射性物質を帯びた雲は4000km離れた日本上空に達したという。 フランスは1960年2月13日以降、当時フランス領だったアルジェリアのサハラ砂漠で核実験を実施しており、6年間で13回行われた地下核実験のうち12回の実験で放射性物質が大気圏に放出された。 北朝鮮の地下核実験における放射能の封じ込めの技術がどの程度なのか分からないが、実験を行うたびに規模が拡大していることから危険性は高まっているといっていいだろう。北朝鮮が7月28日に行った大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」型の第2回試射(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 北朝鮮は1回目の地下核実験の前に、実験場がある豊渓里周辺の住民に強制移住を命じている。この措置は地下核実験後、放射能が漏れる可能性に備えたものとみられるが、詳細は不明だ。◆日本への影響 北朝鮮が2016年1月6日の4度目の地下核実験に成功したと発表したのを受け、日本の原子力規制庁は全国約300か所のモニタリングポストの測定結果を公表し、いずれも放射線量に変化がなかったことを明らかにした。 しかし、放射能の封じ込めが不完全だった場合、日本には25~50時間後に影響が出る可能性があるという見解と、日本で健康へ影響を及ぼすことは考えにくいという見解がある。どちらの見解が正しいのか分からないが、最悪の場合、旧ソ連や中国のような山やトンネルが吹き飛ぶような深刻な事態が発生し、大量の放射性物質が放出されるかもしれない。◆1950年代から核開発を開始 北朝鮮は2005年に核保有を公式に宣言しているが、開発には半世紀以上の時間をかけている。 1950年代から旧ソ連の支援を受けて核開発を進めてきた。1956年に旧ソ連の核研究所の創設に加わる協定を結び、モスクワ郊外にあるドブナ合同原子核研究所をはじめとする東欧諸国で技術者を研修させ、核の専門家を養成するなど核関連技術の蓄積を始めた。核開発までの道のり 採掘可能量が約400万トンの良質なウラン鉱山を持っている北朝鮮は、1959年に旧ソ連と原子力協力協定を締結し、1965年に旧ソ連から研究実験用原子炉1基(熱出力2000kW)を導入し、寧辺(ヨンビョン)に原子力研究所を設立し、同研究所を中心に原子力技術の研究開発を進めた。7月4日、「火星14」の試射を視察する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(右から2人目)。朝鮮中央通信が配信した(朝鮮通信=共同) 1970年代に入ると、核燃料の精錬、変換、加工技術などを集中的に研究するなど、自国の技術で研究用原子炉の出力拡張に成功した。 1980年代には寧辺原子力研究所の敷地を拡張し、電気出力5MW級の黒鉛原子炉を建設し、1986年に稼動させた。また、出力50MW級黒鉛減速炉、核燃料製造工場及び核再処理工場等の核関連施設の建設を本格化させた。その後、米朝枠組み合意(1994年)で核開発凍結に合意するまでに、核兵器の原料となるプルトニウムの抽出に成功したとされる。 そして2006年、豊渓里での初の地下核実験を行い、世界で8か国目の実施国となった。◆核兵器の開発を続ける理由 北朝鮮は長い歳月をかけて核開発を行ってきた。核兵器の開発は金正恩が暴走しているのではなく、米国の脅威を感じた金日成と金正日の「遺訓」を守ってきた結果ともいえる。 北朝鮮は米国と敵対している。その米国は広島と長崎に原爆を投下した。世界で唯一、核兵器を使用した国である。米国と敵対している国の指導者にとっては、核兵器を本当に使用してしまう米国を信用することは出来ないだろう。 もっとも、米国は北朝鮮に対して核兵器の使用を検討したことがある(1968年のプエブロ号事件など)。このため、金日成が米国の核兵器に脅威を感じたのも無理はない。金日成が経済の停滞や食糧不足にもかかわらず核兵器の開発を推し進めた目的と、中国の毛沢東が大量の餓死者を出しながらも核兵器の開発を推し進めた目的には共通点がある。 したがって、北朝鮮は米国の軍事的脅威がなくなるまで、制裁が強化されようとも、核兵器の開発とそれを運搬する手段である弾道ミサイルの開発を止めることはない。むしろ、制裁が厳しくなればなるほど開発を急ぐだろう。関連記事■ 金日成の健康法は少女からの輸血や少女との入浴など■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ 激太り目立つ金正恩に欧州から医師招く「特別医療体制」■ 中国 ウェブからプーさん遮断し「北朝鮮よりひどい」の声■ 金正男氏暗殺事件 北朝鮮に引き渡された遺体の行方

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    北朝鮮はレッドラインを越えたのか

    小谷哲男 (日本国際問題研究所 主任研究員)  7月28日深夜、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14号」を打ち上げた。北朝鮮の発表によれば、発射は通常より高くミサイルを打ち上げるロフテッド軌道で行われ、約3700キロメートルの高度まで上昇し、およそ45分間飛行した後、日本海に着水した。通常の軌道で撃っていれば、射程距離は1万キロに達するとみられ、ロサンゼルスやシカゴが標的に入る可能性がある。なお、ICBMは射程距離5500キロ以上の弾道ミサイルのことをいう。記者団に応対するトランプ米大統領(中央)とマクマスター大統領補佐官(左)、ペンス副大統領(右)=8月10日、米ニュージャージー州(ロイター=共同) 米国のトランプ大統領は、8月1日にグラム上院議員との会話の中で、北朝鮮がICBMの開発を続けるなら「戦争」になると伝えたと報じられている。トランプ大統領は、就任前に「北朝鮮がICBMを持つことはない」とツイートし、ICBM保有が武力行使につながるレッドラインであることをほのめかしていた。しかし、政権発足後に北朝鮮政策の見直しを行った際には、レッドラインを明確にしなかった。今回の発言は、ICBMの保有がやはりレッドラインである可能性を示唆している。 しかし、トランプ政権内からは別の声も聞こえてくる。トランプ政権はこの春に朝鮮半島に2隻の空母を派遣するなど、北朝鮮への軍事圧力を強めたが、軍を統制するマティス国防長官は北朝鮮への軍事攻撃は「壊滅的な結果」をもたらすと慎重な姿勢を見せた。外交を司るティラーソン国務長官は、北朝鮮の政権転覆は目指さないとし、対話を重視する構えだ。他方、CIAのポンペオ長官は政権転覆の可能性を否定していない。ペンス副大統領は対話の可能性を否定する。おそらく、トランプ政権内で対北政策の方向性が定まっていないのだろう。 北朝鮮は北緯38度線の軍事境界線沿いに1万両を超える大砲や多連装ロケット砲などを配備しており、米国が北朝鮮に軍事攻撃を行えば、これらの重火器でソウルを「火の海」にすることができる。北朝鮮が持つ抑止力は、弾道ミサイルよりもこれらの重火器である。仮に北朝鮮がこれらを使えば、何十万人あるいは何百万人という単位の犠牲者が出ると想定されている。当面は経済制裁のみか… 加えて、射程数百キロの短距離弾道ミサイル「スカッド」や射程1500キロ以上の準中距離弾道ミサイル「ノドン」で、韓国南部の米軍基地や在日米軍基地、さらには東京などの大都市の攻撃も可能だ。北朝鮮がこれらのミサイルに生物・化学兵器を搭載すれば、核弾頭でなくても大きな被害を生むことができる。2015年10月、平壌での軍事パレードに姿を見せた北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ノドン」(共同) 北朝鮮のICBM能力はまだ実戦配備できる段階までは達しておらず、米国本土が直接核の脅威にさらされているわけではない。しかし、仮に北朝鮮が対米核攻撃能力を完成させるのを阻止するために予防攻撃を行うとしても、北朝鮮が日韓に大きな損害を与えることができるため、米軍がすぐに北朝鮮に対して軍事行動を起こすことはないだろう。当面は、北朝鮮への経済制裁をさらに強化するしかないと見られる。 レッドラインがあるとすれば、北朝鮮がICBMを実戦配備し、対米核攻撃が可能になる時だろう。では、それはいつになるだろうか。 北朝鮮は7月28日のICBM試射を行う数日前から、同国西部でICBMのテストをする動きを見せており、朝鮮戦争休戦64周年にあたる27日に発射するのではないかと米国などが警戒していた。しかし、実際には北部の中朝国境付近から、しかもこれまでのように朝ではなく深夜に発射し、どこからでも、そしていつでも奇襲攻撃できる能力を誇示した。 北朝鮮は、米国の独立記念日である7月4日に初めてICBMの試射を行ったが、その際も「火星14号」をロフテッド軌道で打ち上げており、約2800キロまで上昇、およそ40分間飛行した後、日本海に着水している。通常軌道で発射されていた場合、アラスカやハワイが射程に入ったと考えられていた。わずか3週間ほどの間に、「火星14号」の射程が相当伸びたことがわかる。 核弾頭の小型化へ 北朝鮮は、今年の3月18日にICBM用とみられるロケットエンジンのテストを行った。このエンジンがICBM開発の大きな進展につながった。北朝鮮が5月に試射した中距離弾道ミサイル「火星12号」も、ICBMである「火星14号」も、この時にテストしたエンジンの改良型を搭載していると考えられるからだ。北朝鮮が、ニューヨークやワシントンを射程に収めるICBMを試射するのは時間の問題だろう。北朝鮮が弾道ミサイル発射 中距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験=5月14日(朝鮮通信=共同) しかし、いくらミサイルの射程距離が伸びても、ミサイルに搭載できるように核弾頭を小型化し、さらにその弾頭が宇宙空間から大気圏への再突入時の摩擦熱に耐えられるようにしなくては、戦略兵器としては使えない。 北朝鮮が核弾頭の小型化に成功しているかどうかについては、専門家の間でも意見が分かれる。ただし、中国など他国の例をみても、4回から5回の核実験で小型化に成功しており、すでに5回の核実験をした北朝鮮が核弾頭の小型化に成功している可能性は高い。北朝鮮は6回目の核実験の準備もしており、さらなる小型化を追求するだろう。 再突入については、28日のICBMの試射では、NHKが捕らえた映像で再突入体が大気圏内で燃え尽きているように見えるため、失敗した可能性がある。しかし、北朝鮮は、今後もミサイルの試射を続ける中で、再突入技術を完成させるだろう。また、ICBMより射程距離の短いミサイルについては、弾頭の小型化と再突入の技術水準がICBMよりも低いため、すでに核弾頭を搭載して実戦配備されている可能性も否定できない。 北朝鮮の核ミサイル能力については、過剰評価するべきではないが、過小評価もするべきではない。しかし、再三にわたる国際社会からの警告と制裁にもかかわらず、北朝鮮は失敗を恐れることなくミサイル開発を続けている。対米核攻撃能力の保有は間近とみるべきだ。 金正恩・朝鮮労働党委員長の外見や言動から、北朝鮮が暴走しているようにみえるが、そうではない。打撃手段の多様化と残存性の向上を図る北朝鮮の行動は、核抑止の理論からは理にかなっている。迎撃が困難になる可能性も 北朝鮮は今後も核ミサイル実験を繰り返し、ミサイルに搭載する弾頭の数を複数にする多弾頭化(MIRV)と、潜水艦から弾道ミサイル(SLBM)を発射する技術の完成を目指すだろう。MIRV化にはさらなる核弾頭の小型化が必要だが、成功すれば少ないミサイルで多くの目標を攻撃することができるようになり、米国が配備するTHAADなどのミサイル防衛システムによる迎撃もより困難にする。THAADを視察する稲田朋美・防衛相(左から3人目)=1月13日、米グアム(米軍マリアナ統合司令部提供・共同) SLBMについては、北朝鮮の潜水艦技術が発展途上のため、開発には10年単位の年数が必要だろう。ただし、SLBMを発射するために使われるコールドローンチと呼ばれる技術は、ガスによる圧力でミサイルを射出した後にエンジンを点火するもので、ミサイルを地下のサイロから発射するためにも応用できるため、たとえばすでに1万2000キロの射程距離があるとみられる「テポドン2号」のような固定式の発射台に備え付けられるミサイルが、敵からの攻撃に脆弱である問題を改善することができる。 では、北朝鮮がレッドラインを越えたとき、トランプ大統領は本当に北朝鮮を攻撃するだろうか。トランプ大統領は予測不可能であることを強みとしており、多数の被害が想定されても軍事攻撃という選択肢を選ぶ可能性は否定できない。しかし、米国は、ロシアや中国など対米核攻撃能力を持つ国々と共存してきた。1960年代に中国が核ミサイル開発を始めた時、米国では中国に対する予防攻撃が繰り返し議論されたが、中国が対米核攻撃能力を保有するようになると、対中攻撃論はなりを潜めた。 北朝鮮が対米核攻撃能力を保有したからといって、北朝鮮がいきなり米国を攻撃するわけではない。北朝鮮の核ミサイル開発は、生き残りのためであり、体制保証と経済制裁解除のための外交カードである。北朝鮮は、信頼性の高い核攻撃能力を保有すれば、米国との対話モードに入るだろう。米国としても、軍事攻撃より、北朝鮮との核軍備管理交渉を目指す可能性の方が高い。 北朝鮮有事に備えて、ミサイル防衛の強化や敵基地反撃能力の導入、国民保護・邦人保護、難民対策など、日本が取り組むべき課題は多い。だが、一方で、北朝鮮は米国と日韓の分断を狙っており、米朝が日韓の頭ごなしに取引をする可能性にも備えておく必要がある。米朝関係が安定すれば、逆説的に北朝鮮が日韓に対して挑発や威嚇を増してくると考えられるからだ。仮に米国が北朝鮮との核軍備管理を目指すとしても、その中で日本の安全が考慮されないことがないよう、トランプ政権との真剣な対話を行う必要がある。

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    北朝鮮のミサイルの脅威から日本は自国を守れるか?

     日本海を挟んだだけの隣国である日本にとって、北朝鮮のミサイルは、やはり脅威の対象だ。それぞれの飛距離を比べてみると、『スカッドER』と『ノドン』は、すでに日本に到達可能。ノドンに至っては、日本全土がほぼ射程域に入る可能性がある。北朝鮮で発射された場合、日本へは約10分で到達すると予測されている。 1998年に初めて日本を越えたと話題になった『テポドン1号』は、飛行距離が1500km以上といわれ、日本上空を通過して太平洋に落下した。 北朝鮮の軍事兵器に詳しい軍事評論家の岡部いさくさんはこう語る。 「テポドンは人工衛星として打ち上げられましたが、実際は弾道ミサイルでした。わかりやすく言うと、ノドンミサイルの上にスカッド1つをのせた2段式。2つのミサイルを組み合わせたので、その分、遠くまで飛びました。 その後も持っているミサイルを組み合わせたりして、改良を重ね、テポドン2まで開発していますが、これは人工衛星を飛ばすような大きな発射場が必要なので、上空から見たら丸見え。空爆されやすく、実戦には不向きでした」 現在、北朝鮮が開発に力を注いでいる弾道ミサイルは、液体燃料を使用する『火星』シリーズと、固体燃料を使用する『北極星』シリーズの2つ。北朝鮮の労働新聞が5月22日掲載した、新型中距離弾道ミサイル「北極星2」の実戦配備に向けた「最終発射実験」に立ち会う金正恩朝鮮労働党委員長(中央)の写真(共同)「これまで北朝鮮が開発してきた液体燃料を使用するミサイルは発射までに30~90分かかります。 一方、固体燃料のミサイルは発射まで約5分といわれ、すぐに発射できます。それに液体燃料に比べて保管も利き、小さいため、潜水艦からも発射できます。潜水艦なら海に潜ってしまえば、上空からの追跡を逃れやすい。わざわざ大陸間を横断できるミサイルを作らなくても、近くの海上から攻撃をしかけることが可能となります」元自衛官が語る脅威 世界のミサイル保有国では、現在、固体燃料が主流のため、北朝鮮もその技術を持っている可能性が高い。それもあって、軍事兵器の専門家たちは、北朝鮮の『北極星』シリーズを危険視している。 34年間海上自衛隊の海将などを務めてきた伊藤俊幸さんはこう言う。 「少し前まで旧ソ連軍のミサイルを改良していたはずが、もう固体燃料のミサイルを飛ばしてきた。北朝鮮の開発スピードが速くなっているのが気になります」 では、ミサイルが飛んで来た場合、日本は自国を守れるのだろうか。海上自衛隊に所属していた経験を持つ伊藤さんは、次のように説明する。 「現在、日本の上空は、日本海で待機する海上自衛隊のイージス艦と航空自衛隊の警戒管制レーダーが常に探知しています。弾道ミサイルが発射されると、瞬時にレーダーで追跡を開始。大気圏外で照準を定め撃ち落とすシステムになっています。その成功率は80%以上、イージス艦が2隻あれば確実といわれています」北朝鮮が米領グアム沖へのミサイル攻撃計画を表明したのを受け、陸上自衛隊高知駐屯地に展開された地対空誘導弾パトリオット(PAC3)=8月12日、高知県香南市 それでも、万が一失敗した場合には、陸上にある航空自衛隊の『ペトリオットPAC-3』が最後の砦となって迎撃する。 また、北朝鮮から武力攻撃として弾道ミサイルが撃ち込まれた場合は、武力攻撃における防衛出動として自衛隊の出動が許可されている。もしもの場合に日本は、2重、3重の守りを備えている。関連記事■ ミサイルよりも怖い北朝鮮の攻撃 バルーンで化学兵器散布も■ 金日成の健康法は少女からの輸血や少女との入浴など■ 『国民保護ポータルサイト』 ミサイル脅威でアクセス20倍■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ 北朝鮮の核ミサイル落下で熱線、爆風、放射線への対処法

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    「世界最強の核保有国」北朝鮮に打つ手なし

    強のICBMを保有する核強国として米国の威嚇を終わらせる」。大陸間弾道ミサイルの試射に初めて成功した北朝鮮の声明は、決してただの脅しではない。狂気の独裁国家が核とICBMを手にすれば、もはや外交による対話など不可能である。現実を直視しなかったツケはあまりに大きい。

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    北朝鮮ICBM、それでもトランプには最後の「制裁カード」がある

    西岡力(麗澤大学客員教授、「救う会」全国協議会会長) 北朝鮮がついに大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を強行した。今年の新年の辞で金正恩がその準備ができていると豪語したとき、トランプ米大統領(当時は当選人)は「そんなことは起きない」とSNSに書いたが、起きてしまった。金正恩は米国の独立記念日への「贈り物」だったとうそぶき、米国連大使は武力攻撃もありうると発言するなど米朝の緊張は高まっている。 トランプ大統領はオバマ政権の対北政策である「戦略的忍耐」は間違っている、と繰り返し表明している。「戦略的忍耐」とは、北朝鮮は経済的困窮と国際的孤立で困難に直面しているから、核開発放棄を宣言するまで放っておけば、必ず助けを求めてくるという楽観的見通しに立つ、問題先送り政策だった。ところが、オバマ政権の10年間で、北朝鮮の核ミサイル開発は格段の進歩を見せ、数年以内に米国本土に届く核ミサイルを保有するところまできてしまった。 トランプ政権はすべての手段をテーブルの上に置き、まず北朝鮮の9割の貿易相手国である中国に経済制裁を強めさせて、圧力を加えるという政策をとっている。中国は本当に北朝鮮に圧力を加えているのか。トランプ大統領は7月5日、「中国と北朝鮮との間の貿易は第1四半期に約40%増加した。米国は中国と手を組んできたが、こんなものか。でもわれわれは試してみるしかなかった」とSNSに投稿した。別荘の中庭で中国の習近平国家主席(右)と歩くトランプ米大統領=4月7日、米フロリダ州 私はここで「試してみるしかなかった」という部分に注目する。今年4月、米韓軍事演習の実施、米国空母が2隻、朝鮮近海に出動するなどを受けて、米国が北朝鮮への爆撃を行うのではないかという予測が、日本の一部専門家やマスコミの中で沸騰した。そのとき、私は「まだ早い、米国はまだ試していないことがある、それを試してみてダメだったら軍事攻撃が浮上する」とコメントしていた。 それでは何を「試す」のか。中国と国際社会に対して強度の経済制裁を実施させる。具体的には北朝鮮の統治資金を徹底的に締め付けることと、石油の対北輸出を止めさせることだと考えていたが、7月になっても北朝鮮は音を上げず、ついにICBMの発射を行った。 しかし、トランプにはまだ、試してみるべきカードが残っている。それは北朝鮮と取引をしている第3国企業と銀行に対して、ドル取引を停止するといういわゆる「セカンダリー・サンクション(2次制裁)」だ。ICBMの発射の直前にその一部はすでに発動されていた。水面下の中朝取引 米政府は6月29日、北朝鮮の核、ミサイル開発を支援した中国企業「Dalian Global Unity Shipping Co」と2人の中国人および、北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に関与した中国の銀行1行、丹東銀行(Bank of Dandong)に対して米国との取引停止、ドル取引停止という制裁をかけた。丹東銀行は北朝鮮が米金融システムにアクセスするための入り口の役割を果たしてきたと米財務省は指摘している。同行顧客のドル口座は取引の17%が北朝鮮に関連したものだったという。ムニューシン財務長官は調査を続けており、追加制裁を行う可能性もあるとした。 私は5月に米国軍に近い情報関係者から、中国と北朝鮮の関係について次の話を聞いていた。 「これまで25年間の中朝関係はやらせ詐欺であり、①北朝鮮が軍事挑発を行う②中国も加わって国際制裁が決議される③中国がわれわれも対北制裁していると明言する④北朝鮮が中国を批判⑤中国が国際社会に対北制裁をよくやっているとアピールする、という循環が繰り返された。しかし、水面下での中朝取引は続き、事実上、中国は北朝鮮の核ミサイル開発を助けてきた。われわれは、もはやそれにはだまされない。数年前から北朝鮮と取引をしている中国企業を徹底的に調査してきた。その調査結果の一部が、C4ADSという米国のシンクタンクが昨年8月に公表した報告書(※注1)に載っている。アルミニウムパイプを風呂桶として対北輸出している企業などがある。まず、ここまで分かっているということを教えるために代表的な10社を選んでリストを作った。その10社のリストをあなたにもあげますよ」 6月21日にワシントンDCで開かれた米中安保対話では、そのことが議題になったという。米紙「ウォールストリート・ジャーナル」によると、米政府は中国に2次制裁候補として調査が終わっている代表的な10社のリストを渡したという。中国銀行、ニューヨーク支店の外観=2011年10月 私が5月に上記関係者からもらった10社のリストと、安保対話で中国に渡されたリストが同じものかどうか確認できていない。 すでに、ウォールストリート・ジャーナルは4月25日付の社説で中国4大商業銀行の一つ、中国銀行(Bank of China)への二次制裁をかけよと主張した。「国連の専門家パネルによれば、昨年、中国銀行のシンガポール支店が北朝鮮の事業体の決済に605回関与している。中国政府はこの国連リポートの発表を阻止したが、内容はメディアにリークされた」「(中国銀行への二次制裁は)トランプ氏の真剣さに関する最小限のテスト」だと書いている。 中国銀行は、資産規模2・5兆ドルで世界4位だ。米シティバンクの2倍、三菱東京UFJ銀行の1・5倍の超巨大銀行であり、昔の東京銀行のように国際金融市場で中国を代表する銀行だ。その銀行が、ドル取引ができなくなることは国際金融秩序と米中経済関係に多大な影響を与えるだろう。しかし、軍事行動に比べれば少なくとも人命被害は出ない。これすらできなければトランプも結局、戦略的忍耐と同じことをしていると批判されるだろう。(※注1)報告書名は「In China’s Shadow Exposing North Korean Overseas Networks」。

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    「核とミサイルの罠」金正恩を追い詰める父の亡霊と内なる敵

    重村智計(早稲田大学名誉教授) 北朝鮮北東部の日本海に近い豊渓里(プンゲリ)には、核実験場がある。核実験に携わる人たちの放射能汚染や人権侵害を描いた韓国の小説「豊渓里」が、関係者の注目を集めている。作者は、豊渓里に長年居住した脱北者で、核開発の科学者たちとも交流があった。この中で、ロシアや東欧の科学者たちの存在が初めて確認された。 外国人科学者は、偵察衛星に発見されないように核実験場や核施設の近くには姿を見せず、都市に住まわせていた。この中に、ミサイル開発の外国人科学者もいた。最近の北朝鮮のミサイル開発の進展は、この外国人科学者のおかげだと言ってもいいようだ。 北朝鮮は、7月4日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行った。北朝鮮の報道機関は、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が指示書にサインする場面を伝え、指示書の内容を次のように明らかにした。日本では報じられなかった。平壌駅前の大型スクリーンに映し出される、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による大陸間弾道ミサイル発射実験実施命令のサイン=7月4日(共同)「党中央は、大陸間弾道ロケット試験発射を承認する。7月4日午前9時に発射しろ。金正恩 2017.7.3」 実はこの表現からは、金委員長が全権掌握にかなり苦労している様子がうかがえる。この指示書で最も重要なのは、「党中央」の表現である。党中央は、後継者として登場する前の金正日(ジョンイル)総書記を意味する代名詞だった。今は金委員長を意味する言葉だが、最後にサインがあるので、文章としてはおかしい。ただ、素直に読めば、党中央を「労働党指導部」と読めないことはない。 どちらにしろ、今回のICBM成功は「金正恩委員長」と「労働党」の成功である、と強調しているわけだ。つまり、人民軍の成果ではなく、指導者と党の成果で「指導者の偉大な業績」と述べている。「軍でなく党の力」を見せつけようとしているのだ。裏を返すと軍の掌握に苦労している姿が浮かび上がる。 なぜ、これほど「指導者と党」を強調する必要があるのか。正日氏が残した「先軍政治」にすがる抵抗勢力を排除できない事情がある。金委員長は、軍優先の先軍政治の終了を宣言し、「経済と核の並進路線」に切り替えたが、軍部の抵抗はなお根強い。昨年6月、先軍政治の象徴であった国防委員会を廃止したものの、国防委の下部組織はそのまま維持されているからだ。 正日氏は、党の権限を弱体化させるために、先軍政治を数十年間展開した。この結果、事実上軍が党よりも権限を持つ事態が生まれた。多くの利権を軍が握っている。金委員長が目指す「経済建設」には、軍が握る利権を引き剥がす必要があるが、これが極めて難しい。軍の協力と努力に言及せずに、「党中央」を強調する理由がここにある。習近平と会談できない金正恩の重い現実 北朝鮮の指導者には、血統と思想の継承に加え「偉大な業績」が求められる。抵抗勢力は、「金委員長には偉大な業績がない」と陰口をたたく。だから、「ICBM成功」と「核保有」が必要になる。その思いは、金委員長の次の発言からも伝わる。「米帝との長い戦争も最後の局面に来た。警告を無視し、われわれの意思を試した米国に明確に示すときが来た」「米国野郎どもはたいへん不愉快だろう。独立記念日の贈り物が気にくわないだろうが今後も頻繁に送り続けてやろう」 朝鮮中央通信は、「絶妙なタイミングで、傲慢な米国の顔を殴りつける決断をした」と報じた。この発言は、一国の指導者としてはかなり下品な言葉だ。だが、こうした発言が国民の拍手を浴び、軍を掌握できるとの計算があったのだろう。ということは、それほどに国内掌握に苦労していると思われる。 また、この表現を報道した当局者の中に、抵抗勢力の影を見るのは読みすぎだろうか。「米帝」の表現は、米国に対する敵対意識が露骨で、米朝対話を求める意向を感じさせない。米国は怒るだろう。それを承知の上で、報道した事実からは金委員長をおとしめようとする人々の「悪意」が感じられる。 こうしてみると、北朝鮮は「核とミサイルの罠(わな)」に陥ってしまったようだ。 国内的には先軍政治の亡霊との戦いを強いられ、偉大な成果を生み続ける必要がある。経済優先政策も経済制裁のため頓挫している。 米国との交渉に乗り出したいが相手は応じない。米国を対話に向かわせるためには、ミサイルを発射し核実験を続けるしかない。緊張が頂点に達すれば対話に乗り出してくるとの過去の成功戦略にしがみついている。出口のない核とミサイルの罠から抜け出せない。 金委員長が、外国の指導者と首脳会談をできない現実は、祖父の金日成(イルソン)主席や父親の正日氏と全く異なる。特に中国の習近平国家主席と会談できない事実は、国際社会から追い詰められた現実を物語る。日米は中国の意向も尊重し、決定的な制裁は控えている。米国のヘイリー国連大使は、国連安保理での軍事的対応にも言及し始めている。すぐに軍事的な措置が取られる可能性はないが、やがて大きな議題になりそうだ。7月3日、「火星14」の発射実験を承認するため報告書に署名する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。朝鮮中央通信が配信した(朝鮮通信=共同) 北朝鮮軍は核実験実施を強く求めていると伝えられているだけに、金委員長は大きなジレンマに直面している。核実験に踏み切れば、中国とアメリカから大きな制裁を受ける。核実験ができなければ、米中を恐れる弱気の指導者と国内で陰口をたたかれ、権威が失墜する。 それを避けるために、「核兵器の完成」「ミサイルの完成」を宣言し、「核とミサイルの実験をしない」交渉に乗り出すとの戦略が、平壌から流されたこともあった。戦略への期待が急速に失われている。

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    どれもこれも嘘ばかり、感情で動く「無責任メディア」の北朝鮮報道

    潮匡人(評論家) 私が予測した通り、北朝鮮は7月4日の米独立記念日に発射した。いわゆる大陸間弾道ミサイル(ICBM)である。なぜ予測できたのか。今後どうなっていくのか。その答えは、発射当日のテレビ東京やニッポン放送の番組でコメントさせていただいた。詳しくは拙著最新刊『安全保障は感情で動く』(文春新書)に書いたので、ぜひ、御購読いただきたい。 ここでは発射後の報道検証に絞ろう。上記ニッポン放送の番組出演は以前から予定されていた。夕方の生放送番組「ザ・ボイス」である。リスナー間では、私が出演すると決まって大事件が起こる、というジンクスがささやかれており、今回もそうなった。 当日午前、発射のニュース速報を見て、やはり撃ったか…と思っていた矢先、テレビ東京から出演オファーを頂戴した。番組が同じ夕方の生放送(ゆうがたサテライト)のため、昼過ぎにコメントを収録する格好になった。 北朝鮮が国営放送を通して画像を公表するかもしれない、それらを確認した上でコメントしたい…そう思い、バスの時刻を気にしつつ、当日正午のNHKニュースを見て、驚いた。「台風、大雨関連のニュースを中心に時間を(12時45分まで)延長してお送りします」と始まり、いつまで待っても報道しない。やむなく見切り発車でバスに飛び乗った(後で見たら途中に台風報道をはさみながら12時21~28分まで報じていた)。 かくして少ない情報をもとに当日の番組でコメントする羽目に陥った。だから分析を間違えた云々の言い訳ではない。視聴者はご存じのとおり、発射直後から私は「ICBM」と明言した。ニッポン放送の番組でも評論家の宮崎哲弥さんと放送時間の大半を割いて「ICBM発射」の意義を語った。あの時点で「ICBM」と断じたのは、マスメディアでは私だけ。日本政府も翌日まで明言できず、「分析中」と言葉を濁し続けた(防衛相の会見など)。 そもそもニュースの扱いが小さい。小さすぎる。発射当日夕刻には、北朝鮮が「ICBM火星14型発射に成功」と「特別重大報道」したにもかかわらず、同夜のNHK「ニュース7」もトップ項目は「台風と前線」だった。同様に「ニュースウオッチ9」のトップも「台風3号」。なぜ、みな過小評価したのか。それがICBMとは思わなかったから。そういう次第であろう。北朝鮮のミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内の日本海に着水したことを報じるNHKニュース=2017年7月4日、東京都内(AP) 他方、世界の主要メディア(と当局)は大きく扱った。米韓両国は言うに及ばず、北朝鮮のICBMが届かないイギリスの公共放送BBCもトップ項目で詳しく報じた。例外は日本だけ。 ところが、翌5日に至り、それらが一変する。理由は単純だ。アメリカ連邦政府がようやく「ICBM発射」(国務長官)と認めたからである。その途端、反米論調で知られる新聞や番組も含め、みな一斉に「ICBM」と報じ始めた。日本政府も例外でない。脱力感を覚える。 過去ずっと、こうだった。北の「火星12型」が発射された今年5月も、今回と同様の展開をたどった(詳しくはアゴラ関連拙稿)。今年4月のバカ騒ぎも思い出す。マスコミが重用する「識者」やジャーナリストらは、みな4月15日や4月25日を「Xデー」と断じ、危機を煽(あお)った。知り得るはずのない「米軍の最高機密」を論拠にした猛者もいる。私は一貫して異論を唱えたが、NHK以下多くの主要メディアは聞く耳を持たなかった。識者は無責任な放言ばかり 結局、4月15日にも4月25日にも、何も起きなかった。4月の軍事挑発は私が予測したとおりイースター(復活祭)の朝、5月も予測どおり米メモリアルデー(戦没将兵追悼記念日)となった。同様のことは2013年にも、2009年にも、2006年にも起きた。一貫してそう主張してきたが、日本の政府とマスコミには馬耳東風。関係国の当局者だけが耳を貸した(詳しくは前掲拙著)。 みな口をそろえて「ICBM発射はアメリカにとってレッドライン(越えてはならない一線)」と断言してきた。主要メディアとも7月5日までそう断定してきた。NHKも例外でない。今回、北朝鮮はその「レッドライン」を越えた。 当然アメリカが軍事行動を起こすはずだが、発射から数日経った今も、その兆候は見えない。「レッドラインは(ICBMが届く)アラスカではなく東海岸」との釈明まで出始めたが、開いた口が塞がらない。 要は「Xデー」同様、「レッドライン」をめぐる報道もフェイク(偽物)だった。北朝鮮関連報道自体フェイクだったと評してもよかろう。それなのに、テレビ画面に映る「識者」らの顔は、いつまで経っても変わらない。代わり映えしない。出す方も、出る方もどうかしている。ここまで予測と分析を間違えておきながら、恥じることを知らない。破廉恥きわまる。朝鮮中央テレビが放映した、ICBM「火星14」発射実験の写真(共同) 今回「また潮が危機を煽った」云々の批判を受けた。事実関係のみ反論しておく。やれXデーだ、レッドラインだと危機を煽ってきたのは、連日ワイドショーなどでコメントしてきた著名な「識者」やジャーナリストのみなさまである。私ではない。私は事実と今後の予測を述べただけ。 もし、それが「危機を煽った」ように聞こえたなら、失礼ながら事実を直視できないからか、あるいは私の予測を受け入れ難い〝良心〟(感情)があるからなのか。どちらにしても私の責任ではない。 ICBM発射当日、私の長女(自衛隊員)は航空自衛隊の主力戦闘機F-15DJに搭乗飛行していた。もし今後、拙著の予測どおり展開するなら、そのとき、隊員は「危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえ」なければならない(自衛隊法)。 最近まで危機を煽ってきたのは、そうしたリスクを背負う気概すらない無責任な連中である。どいつもこいつも放言しているだけではないか。彼らの眼には、自分が見たいものしか映らない。私は見たくもない現実を直視している。彼らと私では、そこが決定的に違う。 北朝鮮の脅威は核や弾道ミサイルだけではない。いま最も警戒すべきはテロ・ゲリラ攻撃である。本来なら軍隊たるべき自衛隊が対処すべきだが、残念ながら、戦後日本では警察(または海上保安庁)が対処の任を担う。 案外知られていないが、交番の警官が着用しているのは防弾チョッキではない。防刃ベストである。そのとき、私の次男(警察官)が凶弾に倒れるかもしれない。その私が今回、危機を煽ったなど、聞き捨てならない。 拙著の予測は外れてほしい。もうこれ以上、当たってほしくない。ひとりの父親としては、心からそう願っている。きっと誰よりも、その思いは強い。

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    中国が北朝鮮を止められない3つの理由

    小原凡司 (笹川平和財団特任研究員) 中国は、北朝鮮の核兵器開発に反対し、米国と協力姿勢も示してきた。しかし、中国は米国の軍事力行使を含む全てのオプションを支持している訳ではない。中国にとって、北朝鮮が米国との間の緩衝地帯であることの重要性は変わらない。中国は戦略的縦深性にこだわるのだ。これが、中国が北朝鮮に対して強い制裁をかけきれない理由でもある。一方で、現実主義者である中国は、米国の軍事力行使の可能性も視野に入れている。矛盾しているともとれる中国の態度の背景にある本音はどのようなものだろうか? 米国の軍事的圧力及び中国の政治的働きかけ、そして国連の制裁決議にもかかわらず、北朝鮮は核弾頭と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を加速させている。このまま、北朝鮮が時間稼ぎに成功すれば、近い将来、米国に対する北朝鮮の核攻撃という脅威が現実のものとなる可能性が高い。北朝鮮によるICBM発射を受け開かれた国連安保理の緊急会合=2017年7月、ニューヨーク(共同) 米国もそれを理解していない訳ではない。2017年6月7日、米国防総省のスーファー副次官補(核・ミサイル防衛政策担当)が、米情報機関の分析に基づき、北朝鮮初のICBM発射実験について、「年内に実施できる態勢が整う」と議会に証言したのだ。 トランプ政権は、北朝鮮が米本土を射程に入れるICBMを保有することを警戒してきた。米国は、何人たりとも米本土を自由に攻撃できる能力を持つことを許さない。ましてや大量破壊兵器である核兵器だ。北朝鮮のICBMの発射実験が成功すれば米国内で危機感が高まり、北朝鮮に核・ミサイル開発の放棄を迫る現在の「最大限の圧力」政策の転換を迫られる可能性がある。その行き着く先は、北朝鮮に対する米国の軍事力行使だ。 北朝鮮は、米国を攻撃できる核兵器を保有することが唯一の生存の手段であると考えている。核兵器がなければ、米国や他の大国によって、体制が崩壊させられると考えるのだ。自国(現在の統治システム)の生存のための核兵器及び弾道ミサイル開発を、たとえ国際秩序に反すると非難されても、北朝鮮があきらめるはずがない。 こうした状況の下で、米国の中国に対する期待は高い。米国は、自国の軍事的圧力だけで、北朝鮮に核兵器・弾道ミサイル開発を放棄させることは難しいと考え、特に、2017年4月に行われた米中首脳会談以降、強く中国に協力を要求してきた。北朝鮮指導部に対して唯一影響力を持つ国であり、北朝鮮が経済的に依存している国であると考えられているからだ。 2017年6月13日、ティラーソン国務長官が、上院外交委員会の公聴会において、核兵器・弾道ミサイル開発を続ける北朝鮮への制裁に関し、「次の段階に進みつつある」と述べ、北朝鮮を支援し続ける第三国に対する制裁を検討していることを明らかにした。中国などを念頭において、国連安保理の制裁決議の履行が不十分だとしてけん制したものと捉えられている。 国連の制裁決議後も、中国から北朝鮮に資金や物資が流れているのは事実である。2017年6月15日、米検察当局は、北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に関わったとして、中国遼寧省の貿易会社に対して、約2億1千万円の差し押さえを求めて、米国の首都ワシントンの連邦地裁に提訴したと述べている。検察当局によると、北朝鮮に関わる差し押さえとしては最高額となるというが、「最高額」と言うからには、これ以外にも複数の同様の案件が発生しているということだ。中露関係を利用する北朝鮮 それでは、中国は、本当に北朝鮮に対して経済制裁をかける気がないのだろうか?これまでに何度も言ってきたことだが、中国が北朝鮮に対して強い経済制裁をかけきれない理由は大きく3つある。 1つ目は、北朝鮮が暴発することだ。北朝鮮の経済状態が悪化すれば、社会が不安定化して指導者に対する不満が増大するだけでなく、核弾頭及び弾道ミサイル開発に用いる資金が枯渇し、部隊を動かす燃料さえ不足する可能性がある。追い詰められた北朝鮮が、自棄になって軍事的に暴発するかもしれないと恐れるのである。朝鮮中央テレビが放映した、「火星14」が地上に立てられる映像(共同) 2つ目は、北朝鮮が中国のコントロール下から外れてしまうことだ。これまでも、中国が強い経済制裁をかければ、北朝鮮はロシアにすり寄ってきた。中国とロシアの間には、不信が充満している。相互に、自国が安全保障のために重要だと考えるエリアで、相手の影響力が高まることを警戒するのである。 例えば、ロシアは、中国海軍がオホーツク海で行動することに対して警戒を露わにしている。2013年7月に実施された中ロ海軍合同演習「海上連携2013」後、中国海軍は、演習参加艦隊の一部を分離して宗谷海峡を抜け、オホーツク海に入ったが、この直前、ロシア海軍艦隊が宗谷海峡からオホーツク海に入っている。ロシア海軍は、「ここがロシアの海だということを中国に知らしめるためだ」と述べていた。 ロシアが、北方四島、特に、国後島及び択捉島を決して日本に返還しようとしないのは、この2島がオホーツク海を囲い込む重要な一部だからであり、安全保障上、極めて重要な位置に存在するからでもある。 中国も同様に、極東でロシアが影響力を増すのを警戒している。二国は、グローバルな視点では協調姿勢を見せることが多いが、それは中国もロシアも米国という最強の地域覇権国をけん制する必要があるからだ。しかし、極東に焦点を合わせて見ると、違った中ロ関係が見えるのである。 これら2つの理由の背景には、自国にとっての米国との間の緩衝材としての北朝鮮を失い、戦略的縦深性を失いたくないという中国の意識がある。 3つ目は、前述の2つの理由とは異なり、中国国内政治に関わる理由である。中国における中央と地方の微妙な関係の反映なのだ。北朝鮮との貿易等で利益を上げているのは中央ではない。遼寧省等の地域なのである。 今回、米検察当局が差し押さえ対象にした中国の貿易会社は、その遼寧省に所在する企業である。この遼寧省という地方には問題がある。遼寧省は、2016年の経済成長率が中国全省の中で唯一マイナスになった地域なのだ。北朝鮮との取引が遼寧省経済に占める割合に関わらず、北朝鮮に対する経済制裁は、遼寧省の経済にマイナスの影響を与えることは間違いない。中国に北朝鮮への軍事援助義務はあるのか? 習近平総書記は、秋の中国共産党第19回全国代表大会(19大)を控え、地方の反発を買いたくはない。習近平総書記及びその周辺は、2016年初めから、各省など地方を含む共産党内で習近平総書記を核心とするキャンペーンを行ってきたが、各地方の反応を見た中国メディアの記者や研究者の中には、「19大は微妙だ」という者たちもいる。 習近平総書記にとって、現在は、国内政治のパワー・ゲームの季節なのだ。それでも、中国は遼寧省と北朝鮮の関係を黙認している訳ではない。2016年9月、遼寧省丹東市の遼寧鴻祥実業発展有限公司の会長が、北朝鮮に核とミサイル開発物資を密輸した容疑で逮捕されたのに続き、丹東市のトップも更迭された。丹東市は、遼寧省の中でも、北朝鮮との貿易の最前線として知られる。習近平氏 中国は、北朝鮮国内が暴発しない程度、米国の圧力とロシアの思惑、国際関係と国内政治、それぞれの及びそれら相互間のバランスをとろうとしているに過ぎない。 東アジア地域における米国の軍事的影響力が増すことは、中国にとっての「平和で安定した地域情勢」を崩すものだ。中国は、米国の妨害なしに発展し、地域及び国際秩序の構築を主導したいと考えている。中国が北朝鮮の核弾頭・弾道ミサイル開発に反対する理由もここにある。北朝鮮が核を振りかざして米国を挑発するのは、手招きして、米軍に「来て下さい」と言うに等しい行為だからだ。 一方で中国は、現実主義者である。中国自身が、これまで不満国家として、国際社会における自らの権利を変更しようとしてきたのだ。「全ての国家は既存の国際秩序を守らなければならない」という主張が、強者によるユートピアニズムであることを知っている。中国は、北朝鮮もまた自らの権利を変更しようとしていることを理解しているし、また、それゆえに北朝鮮が核弾頭と弾道ミサイルの開発を止めることに対しては悲観的である。 そして、その行き着く先に米国の軍事力行使があることも中国は想定しているということでもある。しかし、中国は、現段階で米国と軍事衝突しても勝利できないことを理解している。中国は、米国が北朝鮮に軍事力を行使した場合、この戦争に巻き込まれたくないと考えるのは当然のことだ。 実際、2017年4月頃から、中国国内で、中朝友好協力相互援助条約の「参戦条項」の無効を主張する声も上がっている。「一方の国が戦争状態に陥った場合、他方の国は全力で軍事援助を与える」と規定した第2条に従えば、北朝鮮が米国と開戦した場合、中国は軍事援助の義務がある。しかし中国は、同第1条の「両国は世界平和を守るためあらゆる努力を払う」という規定を盾に取り、「北朝鮮の核開発はこれに違反している」ので、中国には援助義務がないと主張するのである中国の「本音」は 「血の友誼」を謳う同盟国である中国のこうした態度に、北朝鮮は怒っているだろう。しかし、中国も北朝鮮に腹を立てているのだ。中国にとって、北朝鮮は中国と同じではないのである。中国は、経済発展して強者を目指しつつ、国際社会における自らの権利を変えようとしているが、北朝鮮は経済的実力もないのに挑発行為を繰り返すのだ。中国が、改革開放政策を取り入れて経済発展するよう促しているにもかかわらず、北朝鮮はこれに応じようとはしない。 北朝鮮の核兵器開発や核による恫喝は、1960年代に毛沢東主席(当時)が行ったことと同様である。「弱者の選択」として、核開発に国内資源を集中しなければ、米ソの妨害を排除して生存を続けることができないと考えたのだ。これも、現在の北朝鮮の考え方と同様である。天安門に掲げられた毛沢東の肖像画の近くで警備する武装警察隊員=北京(共同) しかし、中国には、鄧小平氏がいた。彼は、1978年の党第11期三中全会において「改革開放」政策を打ち出してから、経済発展を追求してきた。しかし、改革開放政策は、経済政策だけでなく、集団意思決定及びボトムアップの政策決定の制度化にもつながるものであった。金一族の独裁的統治システムである北朝鮮には、これが受け入れられない。 一方で、中国は、金一族の統治、少なくとも金正恩氏の統治にはこだわらない。対外的な問題を抱えたくない中国にとって、米朝軍事衝突といった事態は避けたい。中国の状況を考慮すれば、中国は、米朝軍事衝突が起きるくらいであれば、北朝鮮国内でクーデター等によって勝手に体制が変えられることを望むはずだ。 それでも、北朝鮮国内でのクーデターは、積極的に期待できるとは考えられない。米国と北朝鮮の主張は交わることはなく、衝突コースを進んでいる。もし、米国が北朝鮮に対して軍事力を行使したならば、中国は、自らが参戦せずに済む短期間で戦闘が終了することを願うだろう。 中国にとっては、中国が発展し強者となって国際社会の支配的国家グループの仲間入りをし、中国にとって経済的に有利である「自由」な国際秩序を構築することが、何より重要である。

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    北の独裁体制に高まる不満 テロ検討の人物がいるのは確実

     昨年5月、平壌で36年ぶりとなる朝鮮労働党大会の第7回大会が開かれた。同じ時期、北朝鮮中西部・平安南道のある都市では、秘密警察に当たる国家安全保衛部(現国家保衛省)の地方組織が、思想教育を目的とする「講演会」と呼ばれる、秘密の集会を開いていた。 そこでは金正恩氏が乗る専用列車の爆破未遂事件について、そして金正日総書記の死去(2011年12月17日)の直後、「組織の地位にあった男」が元服役囚など4人の男をそそのかし体制転覆を謀議していたという事件についても報告がなされた。ジャーナリスト・城内康伸氏がレポートする。* * * 保衛部は講演会が開かれた当時、党大会を「金正恩体制を強固にするための国内イベント」(韓国情報機関・国家情報院)として無事に終えるため、取り締まり強化に注力していた。 ある北朝鮮消息筋は、北朝鮮当局が党大会前、政権への忠誠心が低いと判断している「不純分子」を数千人規模で、平壌から追放していた、と指摘する。朝鮮人民軍創建85年の記念日を迎え、平壌の「万寿台の丘」に立つ金主席と故金正日総書記の銅像に献花に訪れた人たち=4月25日(共同) 報告された2件のテロ計画が実際にあったのかどうかは不明だ。ただ、保衛部幹部は次のように付言している。「みなさんの中には『講師の話は、本当なのだろうか。われわれを覚醒させようと、話を作っているのでは』と疑っている人がいるかも知れない。実際、私自身が、このような想像を絶する事件が起きるとは、考えもしなかった」 国家保衛省報道官は今年5月5日、米国の中央情報局(CIA)と韓国国家情報院が主導した「最高首脳部を狙った生物・化学物質による国家テロ計画」を摘発したと発表し、米韓を非難した。 米国防総省はその日のうちに、「そのような現実を知らない」と一蹴した。北朝鮮専門家は「米国で動いている北朝鮮をテロ支援国に再指定する動きに対抗する意図」とみる。今回、紹介した2件の事件は、国家保衛省が発表した事件とは、性格が異なる。事実だとすれば、北朝鮮住民が自分の意思で体制に反旗を翻そうとした点だ。 韓国情報当局者は「事前に発覚し、未遂に終わったとされる以上、計画の有無を確認することは困難」と語る。その上で、次のように強調してみせた。「北朝鮮では、独裁体制に対する不満が高まっている。われわれの知らないところで、報告にあったようなテロを考える人物が少なからずいるのは、間違いないだろう」【PROFILE】しろうち・やすのぶ/北朝鮮事情に精通するジャーナリスト。主な著書に『猛牛(ファンソ)と呼ばれた男』『昭和二十五年 最後の戦死者』『朝鮮半島で迎えた敗戦』など。関連記事■ 北朝鮮の核実験 月曜日に行われる可能性が高いと専門家指摘■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 金正日総書記の死去直後、活動家らが体制転覆を謀議していた■ 北の日本人所在調査 拉致被害者、特定失踪者抜け落ちる恐れ■ 金正恩氏 脱北者に激怒し中国国内で韓国人拉致を指示か

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    北朝鮮ミサイル問題 金正恩体制崩壊させる以外解決策ナシ

    月にかけて米韓合同軍事演習が繰り替えされているが、今年はトランプ新大統領の登場によって、メディアは“北朝鮮危機”を大々的に報じた。第2次朝鮮戦争が勃発すれば、在日米軍基地を狙って、弾道ミサイルが日本に向けて発射される可能性は高まるが、平時に北朝鮮が日本の原発や都市にミサイルを発射することはないだろう。会談を前に記念撮影する(左から)韓国の文在寅大統領、トランプ米大統領、安倍首相=7月6日、ドイツ・ハンブルク(共同) 5月14日、北朝鮮は新型中距離弾道ミサイル「火星12号」の発射実験を行ったが、すでに実戦配備されている北朝鮮の弾道ミサイルは、韓国向けの「スカッド」(射程600km)、その射程を延長した日韓向けの「スカッドER」(1000km)、そして日本向けの「ノドン」(1300km)の3種類だけである。 米韓軍の発表によれば、北朝鮮はスカッドを600発、ノドンを300発を保有し、そのTEL(発射台兼用の運搬車輛)は、それぞれ50台と40台といわれている(スカッドERについては不明)。 北朝鮮は朝鮮戦争の教訓をふまえ、1960年代に軍事施設の「地下化」に取り組み、ミサイル基地も山中に建設している。それらの地下基地の入口は偵察衛星によって把握されており、もし開戦となれば、現在の精密誘導技術によって入口は米軍機によって爆撃され、地下ミサイル基地はそのまま“棺桶”になることだろう。もちろん、日本への攻撃を完全に封じ込めるには、すべての地下ミサイル基地を把握していることが大前提となる。 北朝鮮がすでに実戦配備している弾道ミサイルは全て液体燃料であるが、現在、北朝鮮は固体燃料エンジンの開発に取り組んでいる。昨年のSLBM(潜水艦搭載弾道ミサイル)「北極星」試射の成功に続いて、今年2月に地上発射型の弾道ミサイル「北極星2号」の打ち上げに成功したが、この北極星シリーズは固体燃料である。  液体燃料の場合、発射直前に燃料を注入しなければならず、燃料車や電源車など発射部隊による作業時間が必要であるため、即応性に欠ける。しかし、固体燃料であれば常時装填済みなので、TEL単独での移動が可能で、発射命令と同時に発射できる。金正恩は固体燃料のICBM(大陸間弾道ミサイル)を開発しているが、日韓向けの液体燃料エンジンを固体燃料に換装させる可能性は低く、固体燃料問題は日本に影響を与えるものではない。 1994年の米クリントン政権時代の「第1次核危機」ではできなかったピンポイント攻撃が、今では可能になっているが、限定空爆などによって金正恩の核・ミサイル開発の意志を放棄させることは不可能であることだけは疑いなく、金正恩体制を崩壊させる以外に方法はないと考えられる。文■惠谷治関連記事■ 【ジョーク】金正男から金正恩にメール「TDL破壊しないで」■ アメリカの「金正恩暗殺」に日本は協力するしかない■ ミサイル発射でワンピ中断 「北朝鮮を許しません」の声も■ 北朝鮮ミサイル落下時の行動マニュアル「頑丈な建物に避難」■ 北朝鮮が日本海に弾道ミサイル発射 個別的自衛権行使の事案

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    北朝鮮の特殊部隊 日本にとっては弾道ミサイルよりも脅威

     北朝鮮を巡る緊張が日増しに高まっている。もしアメリカとの武力衝突が起これば、その影響が日本に及ぶ可能性も十分にある。日本にとっては、もちろん核実験や長距離弾道ミサイルの“暴発”は最大の脅威となるが、4月15日に平壌で行われた軍事パレードで勇ましく行進した「特殊部隊」の存在も不気味だ。 特別な訓練を受けた北朝鮮の特殊部隊とは、一体どのくらいの強さを持ち、日本が攻め込まれたらどうなるのか──。朝鮮半島問題研究家で近著に『北朝鮮恐るべき特殊機関』がある宮田敦司氏が緊急報告する。* * * 北朝鮮の脅威といわれて、まず頭に浮かぶのは弾道ミサイルだろう。実際に北朝鮮は、日本を攻撃するために200基以上の「ノドン」を持っている。 しかし「ノドン」の破壊力が非常に限定されている。通常弾頭(高性能爆薬)の弾道ミサイル1発で破壊可能な面積は、最大700平方メートル(バスケットコート1面を有する体育館程度に相当)といわれている。おそらく「ノドン」の破壊力もこの程度だろう。 だが、「ノドン」の本当の脅威は、いつどこに落下するかわからないということである。 例えば、1991年の湾岸戦争では、イラクがイスラエルへ通常弾頭の弾道ミサイルによる攻撃を行っている。イスラエルは42日間で18回のミサイル攻撃を受けたが、このうち10回の攻撃では負傷者は出なかった。最終的に直撃による死者は2人、負傷者は226人であった。問題は530人もの人々がヒステリーや精神障害の治療を受けていることだ。 もちろん物的な被害も決して小さいものではなかった。ミサイルの破片(迎撃ミサイルの破片も含む)などによって6142棟の民家が被害を受けている。一部で火災は起きたがイスラエルの市街地は火の海になることはなかった。同様に、核弾頭を搭載しないかぎり「ノドン」で東京が火の海になることはない。ただ、イスラエルの例に見られるように、たとえ大都市に落下しなくても、一般国民に対する心理的な圧力の大きさは計り知れない。「ノドン」の破壊力が限定されているとはいえ、日本へのミサイル攻撃、すなわち在日米軍基地への攻撃はアメリカ軍からの報復攻撃を招くことになる。ミサイルよりももっと現実的な脅威が存在する そこで投入されるのが、「朝鮮人民軍偵察総局」(以下、偵察総局と表記)である。偵察総局は、国外へ工作員を派遣し、要人暗殺、破壊工作、情報収集、世論工作などの各種工作活動を行なうことを任務としている。 偵察総局は、2009年に労働党と人民軍に所属する特殊機関を大幅に改編した際に創設された。初代局長には軍強硬派として知られていた金英哲(キム・ヨンチョル)が就任した。偵察総局に対する金正恩の信頼は厚く、2015年6月には偵察総局関係者を集めて「偵察活動家大会」を開催して激励している。 偵察総局所属の特殊部隊員(以下、偵察兵と表記)は、あらゆる面で最高水準の能力が要求される。偵察兵の能力について、2000年に脱北した元北朝鮮軍大尉(34・当時)は、「偵察兵の訓練は、氷の張った冬の海で遠泳を行うなど、尋常ではない」と証言している。また、アメリカ軍の情報でも、「40キロの装備を背負い、24時間以内に山地50キロを踏破できる」とされている。 どこの国の軍隊でも特殊部隊の訓練は過酷である。しかし、北朝鮮軍の異常性は安全性が二の次になっていることである。このため、落下傘降下訓練や冬の海での遠泳など、訓練中に死亡する事故が発生している。 このような訓練を積んだ集団が日本国内へ侵入したらどうなるだろうか? 北朝鮮軍は、北朝鮮と日本を十分往復可能な大型輸送機(イリューシン76)を用いて落下傘降下訓練を行っており、日本へ特殊部隊を投入することも可能な状態にある(なお、この輸送機は最近になって新たに迷彩塗装が施されている)。 陸上自衛隊最強の特殊作戦群なら彼らに対応できるかもしれない。しかし、現実には法律の壁が立ちはだかることになる。防衛出動が下令されないかぎり、自衛隊の武器使用は警察官職務執行法が準用される。つまり、偵察兵の侵入が「外部からの武力攻撃」とみなされない限り、自衛隊は北朝鮮軍最強の兵士と「警察官」として対峙しなければならないのだ。 このような、北朝鮮国外における暗殺や破壊工作などのテロを主任務とする特殊部隊の存在は、日本にとっては弾道ミサイルよりも現実的な脅威といえるのではないだろうか?特殊部隊によってテロが起きる可能性も 近い将来、特殊部隊が大型輸送機で日本へ侵入するような事態が発生する可能性は低いだろう。だが、米朝関係次第では(例えば、米国に対する「本気度」を示すため)、地方における小規模なテロを起こす可能性はある(偵察兵は、国外では通常3人一組で行動するよう訓練されている)。 テロの目的にもよるのだが、そもそもテロは大都市で起きるとは限らない。日本国民を不安に陥れることを目的とするなら、例えば、地方のローカル線を走るワンマン列車を爆破すれば済む。単なる脱線事故ではなく爆破事件となればマスコミが注目し、毎日のように様々な憶測が飛び交うだろう。 今回の「アメリカ先制攻撃説」以上の流言飛語がネット上で飛び交うことになる。さらに、爆発物が北朝鮮製のものと判明すれば、混乱はさらに大きくなるだろう。 特殊部隊出身の脱北者によると、人民軍偵察局(現・偵察総局第2局)では、1995年に発生したオウム真理教による「地下鉄サリン事件」を参考に討論を行ったことがあり、化学兵器そのものの効果よりも社会的混乱が大きかったことが議論の中心になったという。 日本が大規模攻撃や特殊部隊による攻撃などを受けた場合、陸上自衛隊は全国にある135か所の「重要防護施設」へ部隊を配備することになっている。これには、原子力発電所、石油コンビナートなど、破壊されると被害が拡大する可能性が高い施設のほか、国民への情報伝達ルートや通信手段を確保するため、放送、通信施設も盛り込まれている。 しかし、北朝鮮はこれらの施設への攻撃は行わないだろう。実際に、原子力発電所は警備が厳重であるため、破壊工作の対象から除外されたという証言もある。 米国からの報復攻撃を招きかねないような大規模な破壊工作は、能力を持っていても実行はしないだろう。小規模のテロを同時多発的に実行することにより、日本国内で社会不安が起きれば目的が達せられるからだ。 特殊部隊とて潤沢な予算が配分されているわけではない。実際に核開発とミサイル開発に多くの軍事費が使われている。しかし、テロなら弾道ミサイル数発分の予算で遂行可能だろう。 つまり、北朝鮮軍が狙うのは、日本人の心理なのだ。●みやた・あつし/1969年愛知県生まれ。朝鮮半島問題研究家。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校修了。北朝鮮を担当。2005年航空自衛隊退職。2008年日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。近刊に『北朝鮮恐るべき特殊機関』(潮書房光人社)がある。関連記事■ 敗れかぶれの北朝鮮、人口密集地の東京やソウル狙う恐怖■ 佐々木希が夫・渡部の前に「濃厚キス」していた相手■ 緊迫の北朝鮮情勢 「戦争の可能性ほぼない」と事情通■ 松戸女児殺害 澁谷容疑者、最初の結婚相手は未成年■ 元AKB48小林香菜 大胆すぎる露出「ヤッちゃった」

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    米軍事作戦に怯える金正恩「ハッタリ外交」

    金正恩の暴走が止まらない。半島危機の真っただ中、北朝鮮は弾道ミサイルを発射した。国連安保理は緊急会合を開き、北朝鮮のさらなる挑発阻止への具体的協議に入った。圧倒的戦力差の米軍事作戦に怯え、もはや核開発しか生きる道のなくなった独裁国家の「ハッタリ外交」はいつまで続くのか。

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    トランプに怯える金正恩の秘策は「日朝首脳会談」の再現だ!

    西岡力(麗澤大学客員教授、モラロジー研究所室長)  今月14日、北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。その日は、中国が威信をかけた「一帯一路」サミットの開幕日でもあった。 こうした金正恩の挑発的な「瀬戸際外交」に今後、変化が訪れることはあるのか。それが編集部から与えられたテーマだ。具体的には、対話による外交努力、米朝首脳会談などが実現するかという問いだった。私の答えは基本的にはノーだ。ただし、日朝首脳会談の可能性はあるとみている。 理由は2つある。第1は、金正恩政権の権力構造だ。端的に言うと金正恩独裁政権を支える労働党組織指導部が対外感覚をほとんど持たない国内向け組織だからだ。新型の中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験に立ち会う金正恩氏(共同) 第2は、金正恩政権の対外矛盾は交渉で解決できるものではないからだ。金正恩政権と米国トランプ政権の間に妥協の余地がほぼない根本的矛盾が存在し、その上、中朝関係が最悪で中国共産党は米朝の対立で金正恩をかばわないだろう。ただし、金正恩が米国の軍事圧力をかわすために日本の安倍政権に接近する可能性はある。 一つずつ検討する。まず、金正恩政権の権力構造だ。20歳代の若者だった金正恩が父の死後、独裁者の地位に昇り、曲がりなりにも政権を維持し続けられた秘訣(ひけつ)は、金正日が作り上げた個人独裁システムが精緻で強固だったからだ。その核心的な部署が党組織指導部だった。 金正日は1970年代初めに金日成から後継指名を受けた後、党組織書記となった。朝鮮語では書記は「ピソ(秘書)」であり、金日成は金正日のことを組織ピソ同志と呼んでいた。金正日は自分が掌握した党組織指導部を大幅に増強し、自分が一番信頼する大学の同窓などを幹部として呼び寄せた。 まず、組織指導部に検閲班をつくり、党、政府、軍、対南工作機関などに同班を派遣して、金日成に忠誠を尽くしてきた年長幹部らを「成果がない」としてつるし上げて、今後は全ての決定を組織ピソである金正日の承認の下で行うことを誓わせた。全ての情報と決済書類は金正日を通じてのみ金日成に上がるというシステムが築かれた。 金正日の手足となった組織指導部が、国内の全ての機関の幹部、また、全人民を監視統制するようになった。北朝鮮の全ての人民は毎週1回、金正日の指令を忠実に実行したかどうかを自己批判、相互批判する「生活総和」に出席することが義務となった。その生活総和は各組織にいる組織ピソの指導を受ける。そのトップに金正日が君臨するというシステムだった。全ての機関の幹部人事も組織指導部が管轄した。 金正日は同部が絶大な権力を持つことになることをよく知っていて、同部には部長をおかず、数人の第1副部長と副部長らが分担して業務を行い、お互いを牽制(けんせい)し合わせ、金正日が組織ピソ兼組織指導部長として全体を統括した。また、組織指導部幹部らには党中央副部長以上の職位は与えず、また、外交や対南工作にも関与させなかった。彼らは国内だけにいて、海外に送ることもしなかった。一言で言ってまったく国際感覚がない組織だ。 その組織指導部が金正日の死後、金正恩を取り囲み事実上、金正恩政権の最高権力機関となっている。張成沢処刑も彼らが主導したし、金正恩を支えたもう一つの支柱だった金元弘国家保衛部長をも今年初めに解任した。彼らは金正日の立てた国家戦略を盲目的に守ることしか考えていないから、いくら米国が圧力をかけても核ミサイル開発を止めるという決断はしないだろう。金正日が生きていれば…金正日総書記の肖像画に黙とうする幹部ら。左端は金正恩氏=1月17日、平壌(共同) 金正日が生きていれば組織指導部に国内監視を任せながらも、対外関係では大胆に決断をすることも可能だった。しかし、金正恩はそのような能力を持っていないと思われる。すでに国内で米国まで届く核ミサイルは完成している、米国本土を攻撃できると公言、宣伝しているので、外交的にずるく立ち回って時間稼ぎをするため核ミサイル開発を中断することができなくなっている。それをすれば、米国の圧力に敗北した弱い指導者だと国内で思われ、人民統制が困難になる。組織指導部は人民統制を最重視するので、その意味で外交的解決は不可能に近い。 金正日が生きていれば 第2の、金正恩政権の対外矛盾は交渉で解決できるものではないという理由を検討する。4月に朝鮮戦争が始まるのではないかと多くのメディアが報じたのは、トランプ政権がこれまでの米国政権の対北政策を間違いだったと断じたためだった。 トランプ大統領と政権高官らはオバマ政権の「戦略的忍耐政策」は間違っていた。こちらが忍耐している間に、北朝鮮は米本土に届く核ミサイルを持つ直前に至った。トランプ政権はそれを絶対に許さない。そのため、軍事行動を含む全ての手段をテーブルの上に置く、と繰り返し述べた。 米国にとってのレッドラインは、独裁者金正恩が米本土を核攻撃できる能力を持つことだと明言された。米国は強力な核兵器体系を保有しており、当然、北朝鮮を核攻撃する力を持っている。その米国も自国の安全のためには北朝鮮のような狂気の独裁国家が自国を核攻撃する能力を持たせないと宣言しているのだ。 ひるがえってわが国はどうか。すでに北朝鮮は1993年に日本のほぼ全土を射程に入れたノドンミサイルの実験発射を富山沖に向けて行ったが、当時の宮沢内閣はその事実を非公開にして、危機を見ないふりした。それを米国のウォールストリート・ジャーナルは「日本はお得意のダチョウのポーズをとっている。そのような国になぜ米国が核の傘をさしかけなければならないのか」という趣旨の記事が出た。 わが国にとって北朝鮮が米本土を核攻撃できる能力を持ったら、核の傘は機能しなくなる危険が高まる。その意味では、核攻撃は絶対に許してはならないが、一方で独自に核抑止力を整備する議論もすべきだと私は思っている。 一方、金正恩は先述の通り核ミサイル開発を止められない。したがって、今年秋にかけて米朝の矛盾は極限まで高まるだろう。その場合、拉致問題を核と切り離して先行協議できるというメッセージを日本が送り続ければ、米国の軍事圧力をかわすため日本を利用としようとした2002年9月の日朝首脳会談の再現があり得るかもしれないと、息を呑む思いで状況の推移を見守っている。

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    「口先攻撃戦略」金正恩が震え上がったトランプのあるセリフ

    重村智計(早稲田大学名誉教授) 北朝鮮が5月14日に新型ミサイルを発射した。同じ日に、中国の習近平国家主席が世界に呼びかけた経済圏構想「一帯一路」の国際会議が北京で開かれた。ミサイルは中国の威信を汚した。南北首脳会談に積極的な韓国の文在寅大統領もメンツを潰された。北朝鮮は、中韓の指導者をコケにする強気を示したように見える。一方、ミサイル発射に合わせ、米元国連大使と北朝鮮外務省局長の非公式接触も行われたという。弱気に揺れる指導者の悩みが浮き彫りになった。 トランプ米大統領は、北朝鮮指導者の扱いを熟知している。得意の「誇大表現」で「核施設を限定攻撃する」と思わせ、金正恩委員長を追い詰めた。米韓の情報機関は、金委員長が野外で行われる式典に姿を見せるのは、暗殺を心配する金委員長の「影武者」との情報をひそかにリークし、「弱気な指導者」を演出している。 北朝鮮は、「ソウルを火の海にする」などの過激な表現で、周辺大国を不安に追い込み、譲歩を得る手口を得意とする。ところが、トランプ氏がその「口先攻撃戦略」のお株を奪い取ってしまった。「北朝鮮は米国の安全保障にとって喫緊の課題だ」と強調し、金委員長を弱気にさせ、核実験を見送らせたのである。 トランプ氏は、習氏に「核実験をすれば、必ず限定攻撃する」と北朝鮮に伝えるよう求めたという。北朝鮮が中国に「4月20日に核実験を行う」と伝えた、との報道がある。中国は「トランプ氏は核実験施設を限定攻撃する」と強く警告した。4月29日、米ペンシルベニア州出行われた支持者向け集会で登壇したトランプ米大統領(ロイター=共同) 核実験は見送られたが、これでは金委員長の軍へのメンツは丸つぶれだ。4月15日の金日成主席の生誕105周年と、25日の朝鮮人民軍85周年の記念すべき日の前に、核実験もミサイル実験もできず、「トランプと習近平に脅された弱気の指導者」とみられてしまう。指導者に対する軍の信頼が揺らぎ、威信が傷ついた。 だからこそ、軍は指導者に新型ミサイルの実験を求めた。ミサイル発射は4度も失敗していた。北朝鮮では、担当者同士が横の連絡を取るのは禁止だ。軍は、米中首脳会談の内容や韓国大統領の対話策はもとより、米朝接触などの日程を知らされていないため、外交当局の弱腰に反発し妨害する。この平壌のポリティクス(政治)がわからないと、北朝鮮の行動は理解できない。 トランプ氏の「金委員長弱気作戦」の始まりは、2月の日米首脳会談であった。安倍晋三首相は、トランプ氏に北朝鮮がいかに小さな国であるかを説明した。北朝鮮は世界最低の「石油最貧国」で、年間の石油輸入量はわずか50万トンだ。安倍首相は、石油供給を止めれば軍隊は崩壊すると述べ、「対北石油禁輸」戦略に中国を巻き込む必要を強調した。トランプ氏は米中首脳会談で習氏に「対北石油禁輸」を求めた。 信じられないだろうが、北朝鮮の国家予算は公式レートで計算するとわずか80億円、韓国銀行の推計でも約8000億円しかない。消え去るのは国家か威信か…正恩氏のジレンマ 安倍首相は、北朝鮮に言及する際には「軍事オプションを排除しない」との立場を表明するのが効果的だ、とトランプ氏に説いた。トランプ氏をはじめ、米政府高官が「全てのオプションはテーブルの上にある」と述べるのは、安倍首相のアドバイスのおかげだ。 4月の米中首脳会談の前後に、トランプ氏は2度も安倍首相に電話し、中国への「対北石油禁輸」要請を確認した。米中首脳会談の晩さん会の最中、トランプ氏はシリアへのミサイル攻撃を行った。この作戦が平壌を震え上がらせた。 さらに安倍首相は4月27日にモスクワでプーチン露大統領と会談し、拉致問題と北朝鮮問題も話し合った。首相は、プーチン氏にトランプ氏との電話会談を説得して実現させ、日米中露の「北朝鮮包囲網」を作り上げた。 その後、トランプ氏は「北朝鮮は国家の安全保障に差し迫った課題で、外交上の最優先課題」と繰り返しながら、4月27日には「戦争になる可能性はある」と過激な表現を使った。北朝鮮も「破局的結果も覚悟すべき」「先制核攻撃」などの「言葉の戦争」を展開したが、トランプ氏にはかなわない。 北朝鮮の「過激な言葉」を分析なしに報じると、その「弱気」を読み違える。北朝鮮は「敵が挑発するなら」や「中国が制裁強化すれば」などの「留保表現」を忘れない。「米国に限定攻撃させたくない」との思いが痛いほど伝わる。5月14日、ソウル駅のテレビ画面で流れた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の資料映像(AP=共同) 日本や米国、韓国では、米国が「核施設限定攻撃」をしたら北朝鮮の報復攻撃でソウルは壊滅的な打撃を受ける、だから米国は限定攻撃できないと言う。この分析は日米韓側の事情だけの判断で、戦略的分析とはいえない。北朝鮮側の「弱点」を計算に入れていないからだ。 北朝鮮は、核施設などを限定攻撃されても報復反撃はできないだろう。反撃して、全面戦争にはしたくない。全面戦争を継続できる石油がないからだ。 戦争なら北朝鮮は消滅する。だが、報復攻撃しなければ、指導者の権威と威信は失われる。金委員長のジレンマは深い。米国の限定攻撃に反撃しなければ、国内で「弱気」を批判される。米国の脅しに恐れをなしたと噂されれば、指導者の正当性と権威は失われる。 軍部は金委員長に「核実験継続」を迫る。「米国ごときは怖くない」との姿勢を示すためにも、核実験せざるを得ない。核兵器をミサイルへの搭載が可能になるほど小型化するには、なお実験が必要だ。必ず核実験をするだろう。そうなると中国は、石油禁輸に踏み切らざるを得なくなる。 それでも核とミサイルの実験が止まらなければ、トランプ大統領は「独自の対応」に踏み切ると明言する。北朝鮮は、核兵器の小型化と大陸間弾道ミサイル(ICBM)完成について、「最終段階」と明言する。この言葉には、完成すれば米朝交渉をするとの「戦略」が込められている。「もう少しで終わるから…。軍には逆らえないから…」理解してほしい、との指導者の弱気がにじむ。

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    金正恩がひた隠しにする「朝鮮人民軍」の致命的弱点

    令官は空母カール・ビンソンの北上を命じた。こうした命令が公開される事自体が極めて異例なことで、米国が北朝鮮に圧力を掛けるための作戦である。 1週間以内に北朝鮮近海に到達することは、ほぼ確実と見られていたが、まさに1週間後の15日、カール・ビンソンがインドネシアのスンダ海峡を通過したと公表された。北上せよとの命令が公表されていたにもかかわらず、この空母は逆に南下し1週間、南シナ海に留まっていた。なぜ直ちに北上しなかったのか? その疑問は4日後に解けた。 19日、米国のペンス副大統領は横須賀に停泊している米空母ロナルド・レーガンの艦上で演説し、北朝鮮を牽制した後、「空母レーガンの復帰は間近だ」と演説を締めくくった。レーガンは昨年11月に横須賀で定期修理に入っていた。期間は約半年とされていたから4月中に定期修理を終え実任務に復帰するわけだが、カール・ビンソンが南シナ海で待っていたのは他でもない、この空母レーガンの復帰だったのだ。米空母「ロナルド・レーガン」艦上でスピーチするペンス米副大統領 =4月19日、横須賀基地(古厩正樹撮影) 先のiRONNAへの寄稿「大都市を一夜で壊滅できる『世界最強』米空母カール・ビンソンの実力」で米空母の凄さを解説したが、基本的に米国の正規空母は、爆薬約2000トンと戦闘攻撃機「FA18ホーネット」50機前後を搭載している。そして戦闘攻撃機を3分に1機の時間間隔で発着艦させられる。 1機が2トンの爆弾を搭載するとすれば、60時間、敵地の爆撃を間断なく継続できる計算になろう。空母が2隻あれば、交代して爆撃を継続でき、日本で爆弾と燃料の補給を受けられるから、半永久的に爆撃を継続できるわけである。 第2次大戦において日本の都市の多くは米軍による空襲を受けた。民間の被害は甚大であったが、実は軍事活動は壊滅していなかった。空襲警報により、防空壕に避難し、空襲が去った後、軍事活動は再開されたからである。 中東におけるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に対する空爆も同様であり、空爆の間は避難し、その後活動を再開するため、IS軍を空爆だけで壊滅するのは難しいのが実情だ。だが、同時に上記2例はいずれも、空爆の間、軍事活動が一時停止することを示していよう。となれば空爆が間断なく続いた場合、軍事活動は半永久的に停止せざるを得ないわけだ。空母2隻体制で爆撃された場合、北朝鮮は反撃の機会すら与えられず、ただひたすら防空壕の中で空爆に耐えているしかないのである。 北朝鮮の金正恩委員長は今年の新年の辞で「ICBM(大陸間弾道ミサイル)試射の最終段階にある」旨を述べた。また1月8日には北朝鮮外交部の声明で、ICBMは「最高首脳部が決心する任意の時刻に任意の場所から発射されるだろう」と述べたが、現時点まで発射された形跡がない。 北朝鮮は2012年に人工衛星の打ち上げに成功しており、ICBMの基本的な技術は持っているはずだが、まだ実験すらしていない。つまり米国に届く長距離ミサイルが実戦配備されるには、今後数年を要すると見られる。北朝鮮の潜水艦は全くの無力 米軍基地のあるグアム島を射程に入れた中距離弾道弾ムスダンは実戦配備されていると見られるが、昨年10月に試射され失敗に終わっている。ムスダンは中国製と見られることから、発射に際しては中国の許可が必要となるはずである。 つまり、安全装置を解除するためには暗証番号を入力する必要があり、その番号はその都度、中国に聞かなければならない。正しい番号が入力されずに発射されれば、発射は失敗に終わる仕組みである。 これは4月16日、29日に発射された弾道弾も同様であり、いずれも中国の許可を得ずに発射を強行して失敗に終わったと見られる。 もちろん、北朝鮮製の弾道弾もあるにはある。例えば3月6日に4発発射され秋田沖に着弾した「スカッドER」は北朝鮮製である。また日本を射程に入れる「ノドン」も北朝鮮製であり、発射に中国の許可を必要としない。5月14日に発射した中距離弾道弾「火星12号」も同様である。 しかし、これらのミサイルは旧式の液体燃料型であり、発射に際してはその都度、数時間かけて燃料注入をしなければならない。つまり発射の予兆を探知されやすく、米軍による攻撃の格好のターゲットになろう。また、壊滅しそこなったとしても日米韓の分厚いミサイル防衛システムに阻まれることは必定である。 そして懸念が広がっている核爆弾の開発状況については、昨年9月に5回目の核実験に成功し、4月以降、6回目の実験を実施するのは確実と見られている。だが、弾道弾に搭載できるように小型化、軽量化するには、まだ数年を要するであろう。ミサイルの発射実験に立ち会う金正恩氏(中央)の写真=(共同) また、北朝鮮の海軍は排水量1700トンのロメオ級潜水艦を20隻程度保有しているが、これは旧ソ連製であり実力としては第2次世界大戦当時の標準的能力しか有していない。現在3500トン級の戦略潜水艦を建造中であるが、まだ完成には程遠い。日米の対潜水艦能力は世界最高水準にあり、これに対して北朝鮮の潜水艦は全く無力であろう。 戦闘機については、北朝鮮はロシア製のミグ23、29を合わせて数十機保有している。しかし、ミグ23は第3世代型の旧式機であり第4世代型のFA18や我が国のF15に太刀打ちできる代物ではない。 ミグ29は第4世代型であるが、パイロットの年間飛行時間が20時間程度と日米の150時間以上と比べて極端に少なく、格闘戦は不可能だ。しかも山口県の岩国の米軍基地には第5世代型のF35が配備されており、ミグ29を一瞬にして壊滅できる実力を誇っている。 北朝鮮の陸軍はT72やT62といった旧ソ連製戦車を多数保有しているが、やはり世代的に古く米国のM1戦車の敵ではない。自走砲として注目されているのが300ミリ多連装ロケット砲だが、制空権を維持できない状態では戦車同様、米軍の戦闘攻撃機の餌食になるしかないであろう。 北朝鮮の特殊部隊は10~20万人いるとされ、北朝鮮軍の中では唯一危惧されるべき存在であるが、これを管理している国家保衛省の上級幹部が最近多数解任されており、有事に際してどれほど動けるのかは不明である。

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    重要な敷居を超えつつある北朝鮮の核能力

    忍耐はもはや実効性のあるオプションではない、と五つのリスクを挙げて主張しています。要旨は次の通り。 北朝鮮の核脅威が大幅に増大している。2015年に北が保有していた核分裂物質の量では20未満の核兵器しか作れなかった。しかし、北は急速に核物質の備蓄量とその生産能力を増大させている。 昨月IAEA事務局長は寧辺のウラン濃縮工場の規模が二倍に拡大されたとの報告を出した。科学・国際安全保障研究所は今のウラン濃縮・プルトニウム生産施設の能力を使えば18カ月の間に4~6個のペースで核兵器を製造することができる、もし秘密の第二の濃縮工場があれば生産能力は更に50%増大する、と予測している。 核開発が規制されない限り、北は2024年までに100個に近い核兵器を保有することになるだろう。これらのことは五つの次元で北の核脅威の性質を変えることになる。 第一に、核戦力の展開、ドクトリン、ポスチャーが変わる可能性がある。核兵器の保有量が増えれば、北はドクトリンを発展させ、もっと攻撃的なポスチャーを採用し、場合によっては核兵器を常時使用可能な状態に置くことまでしかねない。朝鮮半島の核戦争の脅威は大きく高まる。北は核能力を隠れ蓑にして、通常戦力による攻撃あるいはテロ攻撃を行ってくる可能性もある。 第二に、核分裂物質の保有量の増大は核兵器と運搬システムの進歩を容易にする。核実験のペースは速まっている。昨年は2回核実験をしたが、それまでの核実験は約3年の間隔で行われてきた。実験を通じて兵器の小型化、軽量化、強力化が可能となり、ミサイルの射程距離は増大する。 第三に、核兵器の移転のリスクが高まる。北はこれまでリビアへのミサイル売却やシリアでのプルトニウム生産原子炉の建設などを行ってきた。核物質の保有量が小さい段階では核物質や兵器の売却は軍事的にはコストの高いものだったが、保有量が増えればそのような懸念は縮小する。さらに、北への制裁は強化されており、価値のある核兵器や核物質を売る誘惑は増えるだろう。 第四に、北が核兵器を常時使用可能な状態に置くようなことになれば、偶発発射や無許可発射のリスクが高まる。経験を持たない北にとりリスクは一層高いものになる。第五に、核窃盗のリスクが高まる。核物質生産が大規模施設で行われるようになると、これらの物質を盗み出す機会は増大する。北は世界で最も厳しい警察国家だが、最悪の汚職国家でもある。 これまで北の核脅威は相対的に小さかった。米国と同盟国は強制等種々の政策を試みてきたが、北は、中国の庇護の下、処罰を受けることなく国際法を無視してきた。北の核物質保有量の増大により、脅威の緊急性とその性質は変わっている。戦略的忍耐は、もはや実効性のあるオプションではない。出典:William H. Tobey,‘The North Korean Nuclear Threat Is Getting Worse By the Day’(Foreign Policy, April 7, 2017)今の北朝鮮は50年代、60年代の中国と同じ 極めて興味深い、説得力のある見解です。筆者は、北の核物質生産能力の増大に伴い、(1)軍事ポスチャー、(2)技術進歩、(3)移転、(4)偶発、(5)核窃盗という五つの次元でリスクが大幅に増大すると主張しています。それに伴い北の通常戦力による行動も攻撃的になり得るとの指摘は重要です。これに対抗するためには、抑止力を強めるしかありません。その他のリスクが高まることも指摘の通りでしょう。 北の核能力は重要な敷居を超えつつあります。今の北朝鮮は50年代、60年代の中国と同じだとも言えます。成長する核兵器国が最も不安定で、危険な存在です。 筆者は、戦略的忍耐に代わる実効性のあるオプションが何であるかについては述べていません。しかし、筆者の議論から敢えて推測すれば、問題がこのような段階に至っている以上、優先順位として現下の脅威のリスクをコントロールすべきだということではないでしょうか。引き続き非核化を究極の目標としつつも、それが今できないのであれば、筆者が言う五つのリスクについて何らかのコントロールが必要だということでしょう。北朝鮮は、孤立させておくには危険になりすぎました。リスク・コントロールのためには話し合いが必要となります。 4月6~7日に行われた米中首脳会談は、共同声明もなく共同記者会見もありませんでした。報道によれば、米中両首脳は北朝鮮問題が極めて深刻な段階に入ったとの認識を共有し、米側は人権問題の重要性を指摘し、トランプは習近平に「中国が我々とともに行動しないのなら、米国は単独で対応する用意がある」との意向を伝え、北朝鮮への制裁強化を求めました。ただ、この問題で具体的な項目の合意はなかった、ということです。 しかし、トランプが述べたことは北朝鮮側にも伝えられたと思われるので、やり取りは有益であったはずです。戦術核の韓国再配備や米朝接触の可能性などが話し合われたかどうかは定かではありません。米中首脳会談の直後、4月9日ティラーソン国務長官は、米のシリア攻撃の北朝鮮への意味合いについて、「他国への脅威となるなら、対抗措置がとられるだろう」と述べています。米国としては、北への圧力を強めるとともに、北側の反応を見ようということでしょう。