検索ワード:北朝鮮/108件ヒットしました

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    重要な敷居を超えつつある北朝鮮の核能力

    忍耐はもはや実効性のあるオプションではない、と五つのリスクを挙げて主張しています。要旨は次の通り。 北朝鮮の核脅威が大幅に増大している。2015年に北が保有していた核分裂物質の量では20未満の核兵器しか作れなかった。しかし、北は急速に核物質の備蓄量とその生産能力を増大させている。 昨月IAEA事務局長は寧辺のウラン濃縮工場の規模が二倍に拡大されたとの報告を出した。科学・国際安全保障研究所は今のウラン濃縮・プルトニウム生産施設の能力を使えば18カ月の間に4~6個のペースで核兵器を製造することができる、もし秘密の第二の濃縮工場があれば生産能力は更に50%増大する、と予測している。 核開発が規制されない限り、北は2024年までに100個に近い核兵器を保有することになるだろう。これらのことは五つの次元で北の核脅威の性質を変えることになる。 第一に、核戦力の展開、ドクトリン、ポスチャーが変わる可能性がある。核兵器の保有量が増えれば、北はドクトリンを発展させ、もっと攻撃的なポスチャーを採用し、場合によっては核兵器を常時使用可能な状態に置くことまでしかねない。朝鮮半島の核戦争の脅威は大きく高まる。北は核能力を隠れ蓑にして、通常戦力による攻撃あるいはテロ攻撃を行ってくる可能性もある。 第二に、核分裂物質の保有量の増大は核兵器と運搬システムの進歩を容易にする。核実験のペースは速まっている。昨年は2回核実験をしたが、それまでの核実験は約3年の間隔で行われてきた。実験を通じて兵器の小型化、軽量化、強力化が可能となり、ミサイルの射程距離は増大する。 第三に、核兵器の移転のリスクが高まる。北はこれまでリビアへのミサイル売却やシリアでのプルトニウム生産原子炉の建設などを行ってきた。核物質の保有量が小さい段階では核物質や兵器の売却は軍事的にはコストの高いものだったが、保有量が増えればそのような懸念は縮小する。さらに、北への制裁は強化されており、価値のある核兵器や核物質を売る誘惑は増えるだろう。 第四に、北が核兵器を常時使用可能な状態に置くようなことになれば、偶発発射や無許可発射のリスクが高まる。経験を持たない北にとりリスクは一層高いものになる。第五に、核窃盗のリスクが高まる。核物質生産が大規模施設で行われるようになると、これらの物質を盗み出す機会は増大する。北は世界で最も厳しい警察国家だが、最悪の汚職国家でもある。 これまで北の核脅威は相対的に小さかった。米国と同盟国は強制等種々の政策を試みてきたが、北は、中国の庇護の下、処罰を受けることなく国際法を無視してきた。北の核物質保有量の増大により、脅威の緊急性とその性質は変わっている。戦略的忍耐は、もはや実効性のあるオプションではない。出典:William H. Tobey,‘The North Korean Nuclear Threat Is Getting Worse By the Day’(Foreign Policy, April 7, 2017)今の北朝鮮は50年代、60年代の中国と同じ 極めて興味深い、説得力のある見解です。筆者は、北の核物質生産能力の増大に伴い、(1)軍事ポスチャー、(2)技術進歩、(3)移転、(4)偶発、(5)核窃盗という五つの次元でリスクが大幅に増大すると主張しています。それに伴い北の通常戦力による行動も攻撃的になり得るとの指摘は重要です。これに対抗するためには、抑止力を強めるしかありません。その他のリスクが高まることも指摘の通りでしょう。 北の核能力は重要な敷居を超えつつあります。今の北朝鮮は50年代、60年代の中国と同じだとも言えます。成長する核兵器国が最も不安定で、危険な存在です。 筆者は、戦略的忍耐に代わる実効性のあるオプションが何であるかについては述べていません。しかし、筆者の議論から敢えて推測すれば、問題がこのような段階に至っている以上、優先順位として現下の脅威のリスクをコントロールすべきだということではないでしょうか。引き続き非核化を究極の目標としつつも、それが今できないのであれば、筆者が言う五つのリスクについて何らかのコントロールが必要だということでしょう。北朝鮮は、孤立させておくには危険になりすぎました。リスク・コントロールのためには話し合いが必要となります。 4月6~7日に行われた米中首脳会談は、共同声明もなく共同記者会見もありませんでした。報道によれば、米中両首脳は北朝鮮問題が極めて深刻な段階に入ったとの認識を共有し、米側は人権問題の重要性を指摘し、トランプは習近平に「中国が我々とともに行動しないのなら、米国は単独で対応する用意がある」との意向を伝え、北朝鮮への制裁強化を求めました。ただ、この問題で具体的な項目の合意はなかった、ということです。 しかし、トランプが述べたことは北朝鮮側にも伝えられたと思われるので、やり取りは有益であったはずです。戦術核の韓国再配備や米朝接触の可能性などが話し合われたかどうかは定かではありません。米中首脳会談の直後、4月9日ティラーソン国務長官は、米のシリア攻撃の北朝鮮への意味合いについて、「他国への脅威となるなら、対抗措置がとられるだろう」と述べています。米国としては、北への圧力を強めるとともに、北側の反応を見ようということでしょう。

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    金正恩 バッジを外した理由は3代目としての矜持?

    ら、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、金正恩委員長の心理状態を読み解く。* * * 北朝鮮をめぐる緊張状態が続いている。テレビで金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長の顔を見ない日はないほどだ。2012年の軍事パレード終了時、バルコニーから身を乗り出し、ちぎれんばかりに手を振り、群衆に向かって拍手していた若き指導者も、今や貫禄たっぷり、悠々と手を振る将軍様に。おっといけない、金委員長はまだ33歳だ。 15日に行われた金日成生誕105周年記念軍事パレードでは、その貫禄ある身を人民服ではなく、スーツで包んでいたことが話題になった。人民服は金委員長にとってある種、ユニフォームみたいなもの。 ユニフォームを着ることで、同じ集団や組織に属していると内部でも外部でも一目でわかり、集団のイメージを作りやすく、仲間意識や結束を強めることができる。警察官の制服を例にするが、それを着ていることで、相手から期待される役割を演出し優先させる効果もある。 金委員長の人民服は、国としての結束と北朝鮮トップの役割を象徴するもの。だが諸外国から見ると、あの人民服姿は独裁者のイメージが強い。それを今回の軍事パレードでは脱いだのだ。ここには、自らの役割やイメージを変えようとする意図が働いているように思う。 人民服姿の独裁者からスーツを着た発展する国のリーダーへ、イメージチェンジ。先進国となった中国だって、首脳陣はすでに人民服を脱ぎどこでもスーツ姿だ。宗教的な意味がないかぎり、発展する国のリーダーはみんなスーツなのだ。 諸外国にとっても人民服姿よりスーツ姿の方が、見た目に違和感がないのは確かだ。もし人民服とスーツ姿の人が目の前に現れたら、間違いなくスーツ姿の人に好感を持つだろう。 米国をはじめとする諸外国をこれまで以上に意識しており、すでに自分は各国首脳と肩を並べるグローバルなリーダーなのだと北朝鮮人民にもイメージ付けたかったのではないだろうか。正恩氏の胸にバッジなし、なぜ? さて、このスーツ姿、驚くことがもう1つある。その胸にバッジはなかったのだ。祖父を称える生誕記念の軍事パレードに、その肖像が描かれたバッジをつけないってどういうこと?…である。 また、25日の朝鮮人民軍創建85周年を祝う合同攻撃演習で行った、建軍史上最大規模の砲撃訓練を、人民服姿で笑顔を見せて視察する金委員長の胸にも、肖像徽章である金日成バッジが見当たらないのだ。北朝鮮では、公式な場では必ずつけなければいけないはずだが。金委員長だけは、やはり別格ということだろうか? 実は、これまでにも度々、バッジをつけていない姿が見られている。だが、今回はかつてないほど、その一挙一動に各国が注目している中でのことだ。 もしかして自分は、祖父も父も越える存在になりつつある。いや、すでに越えたという思いがあるのではないだろうか。自身が祖父や父より偉大な指導者になったため、バッジは必要なくなったということかもしれない。北朝鮮はこれまでにないほど軍事力を持つ強い国に、祖父も父も成し得なかった強い国に、米国を脅かす国になっているという自負が、そうさせたのかも。 そう思えるぐらい今回の軍事パレードでは、多種多様な兵器や新しいミサイルに、肝いりの精鋭部隊までも公開し、軍事力を見せつけた金委員長。映像では終始、機嫌がよさそうだ。真剣な眼差しでパレードを見ていると思えば、次のカットでは白い歯を見せ笑っている。側近や軍幹部と話している様子は、いかにも満足気だった。 それに今回の映像には、2015年の朝鮮労働党創建70周年記念の軍事パレードやそれ以前の映像とは違う変化が見られる。金委員長の映像が以前より多くなっているのだ。年々増えてはいたが、今回は行進する部隊ごとに、それを見守る金委員長のカットが入っているのでは、と思えるぐらい多くなっている。 国内的には金委員長がすべての部隊に関心を持ち、重要だと思っているというアピールに見える。対外的には、これだけ統制が取れた軍隊を掌握している様を見せつけたかったのかもしれない。 感情的には、こんな推測もできそうだ。金委員長は世襲の3代目。会社に例えるなら、創業者が作って成長させた会社を、その背中を見てきた2代目が守る。バトンタッチした3代目は自分なりの改革を行おうとするが、これまでのやり方、歴史、組織文化に阻まれ周りの反感を買う。そんな環境に身を置くと、祖父や父を尊敬しながらも、どこかで反発、反抗したいという相反する感情が生じやすくなる。 何かを変えようとしても、周りは嫌がるばかり。そこで3代目は、反りの合わない古参の役員を辞めさせ、言う事をきかない社員を排除して、自分なりの体制を作り上げる。そう、金委員長が粛清の嵐を吹かせ、恐怖政治を行ってきたのはまさにそれだ。そして祖父や父が築いてきた過去に縛られることなく、独自路線を歩み始める。バッジを外したのは、そんな相反する感情を心の奥に抱えていたからかもしれない。 スーツを着てバッジをはすした金委員長は、いったいどこに向かうのだろうか?関連記事■ 金正恩氏がキューバ議長に親書 米朝首脳会談依頼か■ 金正日氏の後継者・正恩氏は体重90kgとジャーナリスト予測■ 金正恩氏 中国共産党創建祝電で「友誼」使用回数3分の1に■ 『海街diary』出演3人の美女 たけしとコマネチ■ 中国最高指導者の月給判明 胡錦濤氏49万円、習近平氏40万円

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    金正恩体制転覆のため われわれ日本人ができること

     北朝鮮情勢が緊張度を高め、米国が先制攻撃するのではないかとの観測も流れた。しかし、実際に米国は攻撃しないまま、今に至っている。北朝鮮情報の発信メディア「デイリーNKジャパン」編集長・高英起氏が、武力攻撃以外でいかにして北朝鮮と渡り合うのかについて解説する。* * * 米国の軍事攻撃は幻に終わった。さらに、中国も、米国の要望によって経済制裁を強めるだろうが、北朝鮮が崩壊した際の混乱を考えると、これ以上の圧力は加えないだろう。日本にとって事態は深刻である。 では、われわれは今、北朝鮮の脅威に対して現実的にどのような手を打てるのか。筆者は、金正恩体制に有効な数少ない圧力の一つとして「人権包囲網」があることを指摘したい。日本では、核やミサイルに比べて、北朝鮮の人権問題は軽視されがちである。 しかし、国連決議などに対する北朝鮮の反応をみる限り、金正恩は国際社会から人権侵害の責任を追及され、「人道に対する罪」を問われることを殊のほか嫌がっている。彼が「核武装」を進めるのも、国際社会から認められないことの反発があると、筆者はみている。 「人道に対する罪」は、戦時・平時にかかわらず、一般人に対してなされた殺戮、殲滅、奴隷的虐使、追放その他の非人道的行為、または政治的・人種的もしくは宗教的理由に基づく迫害行為について問われる国際法上の犯罪だ。金正恩は最高指導者となって以降、幹部の粛清や一般国民に対する無慈悲な公開処刑を続けている。体制に不都合な言動を行った民間人の政治犯収容所送りも常態化している。ナチスがアウシュビッツ強制収容所で行ったユダヤ人の大虐殺を彷彿させる。 この罪に問われれば、アドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリンなどと同様「残酷な独裁者」として悪名がとどろくことになる。実は、人権包囲網を敷くことは、北朝鮮の体制変換を促す劇的効果がある。 まず、中国を巻き込める。北朝鮮と陸続きの中国には大勢の脱北者が逃げ込んでおり、いまも万単位の人が、韓国などへ逃れることができず潜伏している。中国当局は北朝鮮に協力し、そうした人々を摘発しては強制送還している。そうしたなか、立場の弱い脱北女性は中国で性的搾取を受けたり、人身売買の被害に遭ったりしている。この事実を、国際社会にアピールされることを、中国は嫌がるだろう。 国際社会は、中朝国境地帯における脱北者の人権を守るよう促せばいいし、世界の覇権国たろうとする中国もその声を無視できない。では、脱北者の人権が改善するとどうなるか。 北朝鮮の核・ミサイルの暴走を止めるには金正恩体制の転覆は不可欠だ。それは、北朝鮮の民主化を意味する。中朝国境地帯で北朝鮮の人々の人権が守られるならば、脱北者も増加するだろうし、北朝鮮内部にも必ずや、新たな風が吹き込むだろう。 ちなみに北朝鮮の建国の父とされている金日成は、日本に統治されていた当時の朝鮮本国ではなく、中国での抗日パルチザン闘争を通じて、朝鮮独立運動を目指したとされている。ならば、今の北朝鮮独裁体制を解放するため、中国にその根拠地を作るという発想があってもいいだろう。 もちろん、中国がたやすくそんなことを認めるわけがない。しかし、現状のような米中首脳の政治的判断に振り回されるより、よほど効果的ではないだろうか。さらに、北朝鮮の人権問題を国際的イシューとする上で、国連人権理事会などでEUとともに主導役となってきたのは日本である。日本としては北朝鮮の人権侵害の解決に向けて積極的に取り組まなければならない責務がある。もちろん、そのなかには日本人拉致問題も含まれる。 北朝鮮が完全なる核武装国家になれば、金正恩は手のつけられない独裁者として東アジアに君臨することになる。それを防ぐために求められるのは今のような対症療法ではなく抜本的な外科手術、すなわち金正恩体制を変革させるしかない。そして当たり前だが、その手段は武力攻撃だけでないのである。●こ・よんぎ/関西大学経済学部卒業。1998年から1999年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。関連記事■ 「正常じゃない人がおもちゃ持っている」麻生氏■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 北朝鮮人民は「傲慢で横柄、生意気」だからと中国人が嫌い■ 【ジョーク】金正男から金正恩にメール「TDL破壊しないで」■ 中国が「北朝鮮は自国領」と伏線張っていると櫻井よしこ氏

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    もはや韓国の世論は北朝鮮の核の前に屈してしまった

    一」を目論む金正恩にとって、最重要課題は韓国に従北政権を樹立させることだ。ジャーナリストの李策氏が、北朝鮮が長年続けてきた、韓国に対する心理戦について報告する。* * * 大統領選の候補者登録(告示)が締め切られる前日の4月15日、韓国のテレビには北朝鮮のニュースがあふれた。故・金日成主席の生誕105周年を祝って行われた軍事パレードを、北朝鮮メディアが中継。新型と見られる大陸間弾道ミサイル(ICBM)など戦略兵器が続々登場し、核武装が既成事実化した現実をまざまざと見せつけたのだ。 だが、それを見守る韓国の人々の表情は淡々としている。韓国紙記者が言う。「日本人だって、今や福島第一原発の放射能漏れや汚染水流出を誰も気にしないらしいじゃないですか。それと同じです。北朝鮮のやることをいちいち気にしたって仕方ないのです」 たしかに、韓国国民の生活が北朝鮮にかき乱されるようであってはならない。安定した日常は、強い社会の証明だ。しかし忘れてはならないのは、北朝鮮の行動には「意図」が隠されているということだ。韓国の公安捜査員が話す。「北朝鮮はわが国民に対し、絶え間なく心理戦をしかけている。その方法は巧みで、一般の人がそれと認識することはなかなかできない」 北朝鮮による心理戦の事例で有名なのが「火の海」発言だ。朝鮮半島が第一次核危機の最中にあった1994年3月、板門店での南北協議で北側の朴英洙(パクヨンス)・首席代表が、韓国側の宋栄大・首席代表にこう言い放ったのだ。「ソウルはここからそれほど遠くはない。もし戦争が勃発すればソウルは火の海になるだろう。宋さん、あなたはまず生き残れないだろう」 もちろん、協議は決裂。この様子を収めたビデオは当時の金泳三大統領の指示でテレビ放映され、北朝鮮の「危険さ」を全世界に認識させた。 だが、朴氏の「火の海」発言は、実は失言ではなく、意図的なものだったと言われている。実際、戦争になればソウルは北朝鮮の長距離砲部隊によって甚大な打撃を受ける。それを知っている韓国国民は、動揺せずにはいられないからだ。 それでもかつての韓国は、こうした北からの心理戦に対してかなりの耐性を持っていた。軍事政権下で徹底した反共教育が行われていたこともあって、北朝鮮による脅しに世論が強く反発し、国内保守派の発言力を強める構図があったからだ。北朝鮮シンパが暗躍北朝鮮シンパが暗躍 ところが近年の選挙では、これとはまったく逆の構図が現れるようになっている。端的なのが、2010年6月に行われた統一地方選挙だ。このときは地方選ながら、対北政策が最大の争点になった。同年3月26日、海軍の哨戒艦「天安」が突如爆沈して乗員46名が死亡。これが北朝鮮の魚雷攻撃によるものと判明し、北とどのように向き合うかがテーマとなったのだ。 このとき、保守派の李明博政権は、「北朝鮮をつけあがらせたのは、金大中、盧武鉉の10年間にわたる左派政権である」として、対北強硬策を次々に打ち出した。しかし、地方選で圧勝すると思われた与党は、まさかの惨敗を喫したのである。 理由については様々な分析があるが、早い話、韓国国民は現在の繁栄を賭けてまで北朝鮮と対決することを望まなくなったということだ。韓国国内の厭戦ムードは、時とともに顕著になりつつある。ソウル在住のジャーナリストが話す。「今回、保守派の自由韓国党から大統領選に出た洪準杓(ホンジュンピョ)候補が4月15日に釜山で行われた集会で、『有事の際には軍を北進させ、金正恩ら指導部を除去して国土を制圧する』とぶち上げたのですが、ネット上で『頭がおかしいんじゃないか』『ぜったいに投票しない』と叩かれまくっています。発言しているのは主に、息子を兵役に送っている親の世代。北朝鮮は核兵器を持って待ち構えているわけで、そんなところに息子を送るなどとんでもないと。この点は保守派も左派も差がなくなっているように見受けられます」 ということはもはや、韓国の世論は北朝鮮の核の前に屈してしまったとも言える。金正恩朝鮮労働党委員長は核兵器を使わずして、その心理的効果により、すでに大きな果実を手にしているわけだ。 一方、韓国社会が北朝鮮の心理戦につけ込まれてしまうのは、「左派のせいばかりではなく、保守派の責任も大きい」との指摘もある。人権NGOの専従活動家が言う。「韓国では軍事政権以来、政治と財閥が癒着し、労組運動にも権力が介入してきた。過激な労使闘争が長らく続き、労働者階級の権力への不信は根強い。そこに、北朝鮮シンパが活動の場を広げる余地ができてしまっている。シンパの中には北朝鮮の工作機関と接触を持ち、平壌からの指令を受けて動いている者もいる」●り・ちぇく/1972年生まれ。朝鮮大学校卒。日本の裏経済、ヤクザ社会に精通。現在は、北朝鮮専門サイト「デイリーNKジャパン」などを足場に、朝鮮半島関連の取材を精力的に行っている。関連記事■ 北朝鮮情勢 米国が先制攻撃できない理由■ 雑誌モデルからAVに転身して「救われた」女優の告白■ グラビア女王・吉木りさ 純白ビキニからのぞく谷間にドキッ■ 婚活中のカナ34歳 同棲までした商社マンはクーポン男だった■ 北朝鮮の特殊部隊 日本にとっては弾道ミサイルよりも脅威

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    朝鮮半島動乱、自衛隊は在韓邦人を救えない

    日本国憲法施行70年の節目の日に、安倍首相は2020年の憲法改正を明言した。最大の焦点は、9条に自衛隊の存在を明記する条文を追加することだが、はっきり言って遅すぎる。動乱が続く朝鮮半島情勢下、いまだ「違憲の軍隊」である自衛隊に在韓邦人の救出などできるはずがない。

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    ヒゲの隊長が緊急警告! 今の自衛隊では在韓邦人6万人を救えない

    佐藤正久(参議院議員) 3月6日、北朝鮮は東倉里(トンチャンリ)から4発のミサイルを発射し、そのうちの3発が日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾しました。北朝鮮のミサイル技術は日々精度と射程が向上し、発射手段も多様化しています。米国の人工衛星画像などからの分析によると、核実験の準備も進んでいる模様です。 トランプ米大統領は「第一空母打撃群を派遣した」と発言。4月18日に来日したマイク・ペンス米副大統領は「平和は力によってのみ初めて達成される」と、北朝鮮の行動を強く牽制し、安倍総理も「新たな段階の脅威」と述べました。朝鮮半島の緊張状態は、朝鮮戦争以来ピークに達しているといえます。朝鮮半島情勢に関心を持つ日本人は増えていますが、かたや備えは十分できていると言えるでしょうか。 もし、北朝鮮がミサイルを発射した場合、ミサイルは10分ないし15分以内にわが国本土に到達します。早期警戒衛星などの情報をもとに全国瞬時警報システム(Jアラート)を使って自治体が国民に速報を打つことができるのは3~4分後になります。北朝鮮の軍事パレードに登場した、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星」=4月15日(共同) 政府並びに自治体が「弾道ミサイル」を想定した住民避難訓練を実施したのは、実は今年3月、秋田県男鹿市が初めてです。地震や津波の防災訓練をやるように、外国からの攻撃や弾道ミサイルを想定した訓練も、国民の生命を守るという点では同じことです。 北朝鮮の脅威が新たな段階に入ったのであれば、日本でも新たな備えが必要です。さらに、朝鮮半島有事の際は、韓国内にいる邦人の安全と避難についても考えなくてはなりません。 私は自衛官時代、朝鮮半島有事を想定した演習を実施してきましたが、未解決の課題はたくさんあります。有事になる前に邦人を避難させることができればよいのですが、情勢が急変する場合も想定し備えなければなりません。 韓国に滞在している邦人は、約6万人と言われています。日本大使館に滞在届けを出しているのは約3万8千人ですが、旅行者や出張の人が一日あたり約2万人と推定されており、実際の旅行者等の数や行動を把握するのは困難な現状です。 さらに、自衛隊を邦人救出に向かわせようと計画をしても、韓国政府の同意がなければ、自衛隊は韓国内に入ることはできません。その韓国政府との調整も歴史的背景から進んでいない現状もあります。「憂いあれども備えなし」は無責任 一昨年、平和安全法制を整備しましたが、自衛隊が邦人救出のために外国へ行って活動するには、次の3条件が必要です。① 当該外国の権限ある当局(警察など)が、現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること。② 自衛隊が当該保護措置(邦人救出)を行うことについて、当該外国の同意があること。③ 当該外国の権限ある当局(警察など)との間の連携及び協力が確保されると見込まれること。 仮に韓国政府が自衛隊を受け入れたとしても、自衛隊は現地の警察が機能していて、現地の警察との連携の下で邦人を保護するという活動しか認められていないということです。 さらに、韓国に滞在している外国人は約200万人。そのうち半数は中国人です。アメリカ人が約20万人、ベトナム人が約14万人、タイ人は約8万人いると見込まれています。韓国の人口は約5100万人ですが、その半分の約2500万人が、ソウルと仁川、その周辺の京幾道の数十キロの狭い地域に暮らしています。 そこが〝火の海〟になれば、韓国は大混乱に陥り、韓国に滞在する外国人も、韓国人も、日本への避難を考えるでしょう。これは最悪のケースで、日本には数十万人から100万人の避難民が押し寄せる可能性もあります。邦人だけ救出するという状況は、実際には想定できないのです。 今から7年前の2010年、北朝鮮が韓国の延坪(ヨンピヨン)島を砲撃し、海兵隊員2人と民間の2人が亡くなりました。その時、フィリピン政府から「韓国にいるフィリピン人約5万人を避難させてほしい」と日本政府に申し入れがありました。韓国からフィリピンまで帰国させるには遠いので、一番近い日本にとりあえず避難させようと考えるのは自然です。他国も同じ考えでしょう。 もし、フィリピン人5万人を避難させるとなったら、韓国ー日本間をピストン輸送する必要があります。200人乗りの飛行機で250往復は現実的ではありません。 実際には、アメリカ人、ベトナム人、タイ人あるいは韓国人も日本に避難してくることを想定して備えなければいけません。すなわち、避難する人たちをどこに移送するのか。空港や港湾の利用状況は。滞在施設や生活支援はどこまですればいいのか。期間はどれくらいになるのかなど、東日本大震災や熊本地震などの経験を踏まえても、予め検討しておくべき課題は多くあるのですが、政府も地方自治体もこういう視点からの避難訓練をしたとは耳にしていません。陸上自衛隊11次隊の先発隊=2016年11月21日、首都ジュバの空港(共同) そもそも、邦人ではない外国人を避難させる場合、誰が輸送するのでしょうか。実は、私が自衛官時代にイラク人道復興支援でイラクに向かう際にも、迷彩服を着た自衛官を乗せると攻撃対象になるかもしれないという理由で、日本の航空会社から搭乗を断られた経験があります。 もし、朝鮮半島で緊張が高まった時、民間の航空会社が邦人救出に協力してくれるかどうかはわかりません。政府も、民間企業に「行け」とは命令できません。国民の自由と権利は憲法で保障されているからです。 結局、邦人を救出するには、自衛隊が十分に活動できるような法整備と、関係国との平素からの信頼醸成が肝となります。危機管理とは、最悪に備え、想定外をできるだけなくし訓練しておくことに他なりません。 「憂いあれども備えなし」は無責任です。「備えあれば憂いなし」がどれほど重い言葉か、東日本大震災から学んだはずです。

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    「在韓邦人救出も米国任せ」 日本人よ、ホントにこれで良いのか?

    一色正春(元海上保安官) 風雲急を告げる朝鮮半島。目に見えて進歩する北朝鮮のミサイルや核、生物化学兵器の脅威。そんな中でも北朝鮮に強硬姿勢を貫く大統領を罷免し、国連の北朝鮮人権決議案の採決前に当の北朝鮮に意見を求め、それに従い棄権を決めた疑惑のある人物を、今まさに大統領に選ぼうとしている韓国。 その韓国のTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)配備に対し、激しく反発する一方で北朝鮮との距離を取り始めたかのような動きを見せる中国。これまでの北朝鮮融和政策の誤りを認め「戦略的忍耐は終わった」と述べ、先制攻撃も辞さない姿勢をみせる米国。そして、今なお不気味に沈黙を続けるロシア――。 各国が、それぞれの思惑を秘めた駆け引きを行い、予断を許さない状況ですが、翻ってわが国の国会といえば、予算審議はそっちのけで朝から晩まで多くの国民とは直接関係のない小学校問題で大騒ぎし、ようやく落ち着いてきたかと思えば、今度は朝鮮半島情勢いかんで起こり得る大規模テロを未然に防ぐための法律に対して荒唐無稽な理屈を並べ立てて反対する。しかも、政務官の女性問題や復興大臣の失言を理由に野党が審議をサボタージュしている有り様です。参院予算委員会の集中審議で答弁する安倍晋三首相=2017年3月、国会・参院第1委員会室 このかつてない戦争の危機であると同時に、拉致被害者や竹島を奪還することができるかもしれない千載一遇の機会にいったい何をやっているのか。これが日本国民の代表だと思うと本当に情けない気持ちになります。 万が一、朝鮮半島で有事が勃発した場合、わが国がやらなければならないことは・拉致被害者および竹島奪還・在留邦人の救出・ミサイル防衛・テロ防止・難民流入阻止・尖閣死守 などなど、さまざまな重要かつ困難な課題が山積しており、国会は党利党略のために無駄な時間を浪費している暇などありません。これら全ての問題について語る時間はないので、本稿では拉致被害者及び在留邦人の救出に絞って論じてみたいと思います。 日本で生まれ、幼年時代を朝鮮半島で過ごし、結婚を機に渡米したヨーコ・カワシマ・ワトキンズさんという方が、先の大戦終了を朝鮮半島で迎えた自らの体験をもとに書かれた「So Far from the Bamboo Grove(竹林はるか遠く)」という物語があります。終戦後の朝鮮半島では日本人とみれば乱暴狼藉(らんぼうろうぜき)を働く輩が少なくなかったため、時には身を隠して夜通し歩き、家族が離れ離れになりながらも、苦難の末に朝鮮半島を縦断して、命からがら日本にたどり着いた話で、今も反日感情が渦巻く朝鮮半島に事が起これば、在留邦人の運命はこの物語の少女のように悲惨な目に合うことは想像に難くありません。特に、自らの意思とは関係なく拉致され、何十年も故国の土を踏めずに、自由を制限されたままの拉致被害者であればなおのことです。 そこで、まず問題になるのが救出すべき人の数ですが、在韓邦人は定住者が3~4万人、旅行などの一時滞在者が1~2万人だとすると、多く見積もって5~6万人、北朝鮮には政府が認定した12人の拉致被害者以外にも、拉致の疑いが濃厚な77名を含む860人の特定失踪者がいる可能性があります。 それに加えて、帰国事業の時に北朝鮮に渡った朝鮮人の配偶者や子供が千人単位でいるとされ、他にもメディアなど仕事の関係で滞在している人がいますが、その人数はそれほど多くないと思われますので、北朝鮮国内の日本人は多く見積もって5千人くらいだと思われます。 次に救出に使用する輸送手段ですが、航空機の輸送能力は民間のジャンボジェット機で500人、自衛隊の輸送機で100人程度しか運べませんので、上記人数の救出には船による輸送が欠かせません。物理的に使えるのは自衛隊の艦船、海上保安庁の巡視船、民間船会社が所有する旅客船となりますが、自衛隊の艦船は現行法上、受け入れ国の同意がないと入港できないため、日本政府との協議にすらまともに応じようとしない韓国政府の態度に鑑みれば、現状での自衛隊の艦船を使用しての救出は難しいと言わざるを得ません。自衛隊の艦船による救出は困難 また、巡視船は物理的な輸送能力の問題や難民対策任務があるため、これも救出作業の主力とはなりえず、民間の旅客船に頼らなければいけないのが現状です。 防衛省は昨年2月にPFI法に基づき設立された特別目的会社「高速マリン・トランスポート株式会社」と同社が運航管理するカーフェリー2隻を有事の際に使用することができる契約を結んでいるので、日本政府は朝鮮半島有事の際はこの船を使って邦人輸送を行うことを想定していると思われます。 しかし昨年、北朝鮮による長距離弾道ミサイルの発射に際し自衛隊が同船による部隊移動を検討したにもかかわらず、船員が加盟する全日本海員組合が難色を示して同船の使用を断念した経緯もあり、併せて海技免状を持つ予備自衛官の数が不足していることを考慮すれば、有事の際の対応に不安要素がないとは言えません。だからこそ、朝鮮半島の在留邦人を無事に救出するためには防衛省、海上保安庁、民間船会社が協力して、各自が持てる力を発揮しなければなりません。 ただ、自衛隊は「専守防衛本土決戦」を基本戦略としているため、大型輸送船の保有に積極的ではありませんでしたが、このような朝鮮半島や中国大陸での有事に際しての邦人救出だけではなく、災害対応や南西諸島の防衛を考慮すれば、今後はその方針を改めることを検討する必要があります。予算上、建艦が難しいのであれば、借金をしてでも輸送艦をつくり、就役後借金を返すまでは海運業務に従事するなど従来の枠組みにとらわれない柔軟な政策が求められます。 そして、何よりも法整備が喫緊の課題です。一昨年、すったもんだの大騒動の末に安保関連法案が改正され、自衛隊の邦人救出要件が多少緩和されたとはいえ、今なお他国への派遣は相手国の同意が必要であり、武器の使用要件は正当防衛を原則としているなど隊員や救出される国民の生命を守る措置が他国の水準に達したとはとても言えない状況です。「危険だから救出しなければならない」「危険だからこそ自衛隊が行く必要がある」という基本的な認識が、いまだ薄いように感じられます。 何と言っても、わが国の政府が一番に考えなければならないのは、自国民の生命財産を守ることです。ただ、残念ながら自衛官を含めた在外邦人に対してはその責務を果たしているとは言い難く、憲法をはじめとする各種法令を早急に改正していく必要があります。 海上保安庁の本来業務は沿岸警備なので、巡視船は大量の人員輸送を想定していません。例外として、阪神淡路大震災の教訓から建造された災害対応型巡視船「いず」と、普段は練習船として使用されている「みうら」「こじま」の3隻が比較的多人数を収容できますが、それでも最大搭載人員は百数十人と桁が一つ少ないのが現状です。とはいえ、ごく短時間に限り居住性を考慮しなければ千名程度の人員を収容することが可能なので、非常時には簡易的な船検で最大搭載人数を増やして邦人救出等に使用できるよう法整備をしておく必要があります。航行する巡視船(海上保安庁提供動画から) ただし、海上保安庁は半島有事など近隣諸国で動乱が発生すれば小型ボートに乗って押し寄せてくる難民対策が主任務になるので、邦人救出にはなかなか手が回らないことが予想されます。つまり、あくまでも「補助的な役割」しか担えないのです。そこでこの際、邦人救出だけを目的とするのではなく、災害対策や国際貢献をも見据えて、国として「病院船」を持つことを検討すべきだと考えます。 前述した特別会社から防衛省がチャーターしている2隻のカーフェリー「ナッチャンWorld」と「はくおう」は、いずれも居住性を無視して車両甲板などにも人員を詰め込めば、一回で2千~3千人くらい運ぶことができ、速力も30ノット近く出ますから釜山ー博多間であれば一日2往復することが可能です。これを単純計算すれば2隻で一日1万人程度を輸送することができるので物理的な輸送能力としては申し分ありません。 しかし、前述した朝鮮半島にいる日本人の数や人道上、他国の人間も救助しなければならなくなることを考えると状況次第では船の数が足りなくなる恐れがあります。今後は契約船の数を増やすか、万が一の場合はスムーズに民間船会社からカーフェリーなどの旅客船をチャーターすることができるような法整備と官民交流により役所と船会社の意思疎通を図っておくことが必要です。「日本は自国民を救うこともできない」 船の確保も重要な課題ですが、民間人の場合は乗組員が任務を拒否することが可能であるため、直前になって船員が乗船を拒否すれば船があっても運航できない事態も起こり得ます。有事の際でも任務をこなすことができる船員の確保も重要です。 前述した北朝鮮ミサイル危機の時のように海員組合が部隊輸送に難色を示すなど、彼らが軍事作戦を忌避することは、先の大戦において船員が最も死亡率の高い職業であったことに鑑みれば、やむを得ないことなのかもしれません。とはいえ、事は同胞の命を救うことなので日頃から任務についての理解を求め、有事を想定した訓練をするなど防衛省職員と船員がコミュニケーションを深めておかなければ、イラン・イラク戦争の最中に日本の航空機ではなくトルコの航空機によって邦人が救出され「日本は自国民を救うこともできない」と陰口を叩かれたときのような醜態を晒しかねません。 そのような事態を避けるために、防衛省は有事の際には命令を拒否できない予備自衛官を乗り組ませて任務を行わせようともくろんでいるようですが、自衛隊の船と民間船では戦車と大型バスくらい操縦性能が違います。つまり、自衛隊の艦船しか乗ってこなかった隊員が大型民間船を乗りこなすためには一定の習熟期間が必要であり、また旅客船ぐらいしか乗ったことのない民間人に軍事作戦の一部を担わせるためには、それなりの訓練が必要です。 そのため、いざとなれば現役自衛官が民間の旅客船等に乗り組んで任務を遂行できるよう、海上自衛隊の定員を確保した上で日ごろから官民交流と称して自衛官が民間の船に乗り、民間船の乗組員が支障のない範囲で自衛隊の艦船に乗るというような技術交流を図ることも検討するべきです。 次に北朝鮮からの救出ですが、現行法通りに動こうとすれば、まず北朝鮮が無政府状態になったことを国連が認め、かつ日本政府が北朝鮮国内に組織的な武装勢力が存在しないことを確認して「安全」に任務が行えると判断しなければなりませんが、果たしてそんなことが現実的に可能なのでしょうか。軍事パレードで手を振って応える金正恩・朝鮮労働党委員長 仮にそのハードルがクリアできたとしても、現行法では外務省の職員が救出対象者の識別確認、スクリーニングやセキュリティーチェックを行い、自衛官は邦人の輸送任務に当たるだけで、組織的な抵抗は想定していません。しかし、いくら無政府状態になったとしても百万人以上いる反日教育を受けた北朝鮮軍人が邦人救出を黙ってみていることは考えにくいので、外務省の職員や自衛官が攻撃を受け交戦状態に陥る可能性は高く、「現行憲法は自衛隊の海外での交戦を禁じている」との解釈を政府が認めている以上、法的には作戦を発動すること自体が難しいと言わざるを得ません。 細かい話は抜きにしても、2013年に起きたアルジェリア人質事件や中東などで日本人が人質になった時の日本政府の対応や、今も安倍総理が拉致被害者の救出を米国に要請している実情を見れば、残念ながら現在の日本政府には「他国にお願いする」くらいしか打つ手がないことが分かると思います。では、もし朝鮮半島で有事が起こっても、わが国は指をくわえて眺めていることしかできないのかといえば、実はそうではありません。「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」 当然、憲法や法令改正のために努力を続けていく必要はありますが、不幸にして有事勃発までに法改正が間に合わなかった場合はダッカ日航機ハイジャック事件の時のように総理大臣が「超法規的措置」を決断すれば法的問題はクリアされます。法治国家としては本来選択すべき手段ではありませんが、「一人の生命は地球より重い」と述べ、身代金600万ドルを支払って凶悪犯を野に放ち、結果として新たな犯罪を誘発した過去に比べれば、純粋に日本人の生命を守る行為が非難される謂れはありません。ハイジャックによる人質の命も、拉致被害者の命も、その重みは一緒なのですから。ただ、くれぐれもソ連崩壊時に北方領土返還への道筋をつけられなかったことや、来日した金正男を無条件に釈放したときのように、千載一遇の機会を逃すことがないようにしてもらいたいものです。合同潜水訓練に臨む海上保安庁の隊員ら ここまで邦人救出について簡単に書いてきましたが、実際の任務に当たっては「韓国政府の同意をどうやって得るのか」「米軍や韓国軍との連携はどうするのか」「どうやって他国の人間を一緒に救出するのか」「各省庁間の連携はどうするのか」など問題点は少なくありません。現実問題として日本は世界の国々、特に米国、韓国と協力していかねばならないのは言うまでもないことですが、北朝鮮の拉致被害者奪還に関しては中国、オランダ、フランス、ギニア、イタリア、ヨルダン、レバノン、マレーシア、シンガポール、タイ、ルーマニアなどの国々とも同じ拉致被害国であるという共通認識を持ち、連携していく必要があります。 最後に、邦人救出だけではなくわれわれ日本列島に住む日本国民も戦争に備えなければなりません。北朝鮮の大使が「戦争になれば真っ先に被害を受けるのは日本だ」と言っていましたが、あながちハッタリではなく彼らなりの理由があります。それは・日本は経済制裁という戦争行為を行っている・朝鮮戦争の時に兵站基地となったのが日本・敵国の中で最も反撃を受ける恐れが少ない・日本国内に多数の工作員がいる からです。いまだに朝鮮半島で起きている出来事は日本に関係ないと思っている人が少なくないようですが、何十年も戦争のことばかり考え子供のころから反日教育を受けてきた国と、「平和平和」とお題目を唱えるだけで国家安全保障について深く考えることを拒否して能天気に暮らしてきた国とは考え方が大きく違うということを改めて認識し、彼らが日本に対して攻撃してくる可能性を排除せず、それに備えなければなりません。 日本人は今こそ、この言葉の重みを感じなければなりません。古人曰く「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」。

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    北朝鮮有事は「想定内」 在留邦人退避のためにまずやるべきこと

    人の退避のための自衛隊の受け入れを強く働きかける必要がある。全面戦争レベルじゃなくても武力行使を行う北朝鮮 ここで仮に、韓国政府が在留邦人などの退避のための自衛隊の艦艇や航空機の受け入れを認めたとしよう。しかし、それでも懸念は残る。朝鮮半島で戦争が切迫している状況下では、自衛隊の艦艇や航空機は平素を上回るレベルで情報収集、警戒・監視、部隊輸送などの任務に従事し、本土防衛のための即応態勢の維持を求められる。その結果、韓国に派遣できる艦艇や航空機の数が制約される可能性は否めない。この際、自衛隊が保有する輸送機や輸送ヘリの搭載人員数は多くないことから、1隻で多数の人員輸送が可能な艦艇による在留邦人などの退避への期待が高まる。韓国・ソウル しかし、戦争が切迫している状況は、危険が全くないという状況ではない。2010年3月に韓国海軍の哨戒艇が北朝鮮の小型潜水艇による魚雷攻撃を受けて沈没した事件と、同年11月に北朝鮮が韓国北西部の延坪島(ヨンピョンド)を砲撃した事件は、北朝鮮が平素においても全面戦争に至らないレベルで武力行使を行う可能性を示唆している。 この際、特に警戒が必要なのは、10年の哨戒艦沈没事件と同様の小型潜水艇による艦艇への魚雷攻撃である。こうした攻撃は匿名性が高く、北朝鮮にとっては好都合なのだ。加えて、水深の浅い海域に潜伏する小型潜水艇を発見するには時間と困難が伴う。 また、いつ戦争が勃発しても不思議ではない切迫した状態の中では、艦艇で在留邦人などを退避させる前に潜水艇の捜索に十分な時間をかける余裕はない。したがって、在留邦人などを乗せた艦艇が魚雷攻撃を受けるリスクは覚悟せざるを得ない。 しかし、幸いなことに日本と韓国は近接しており、たとえば博多-釜山の距離は約200キロしかない。この距離であれば小型・中型艇を使った退避作戦も可能であり、喫水の浅い高速艇であれば、「おおすみ」型輸送艦などの大型艦に比べて魚雷攻撃を受けるリスクは大幅に低下する。したがって、人員を200-300人積載可能で、40ノット程度の高速性を有し、約800キロ以上の航続距離(無給油で博多-釜山間を2往復以上)を有し、海岸へのビーチング(直接乗り上げ)や岸壁への接岸も可能な高速揚陸艇を自衛隊が多数保有することは、朝鮮半島からの在留邦人などの退避にあたって意義が極めて大きい。邦人救出、現在の法制度でできること 現在、海上自衛隊は巨大ホーバークラフト「エアクッション艇(LCAC=エルキャック)」を6隻保有している。しかし、LCACの航続距離は40ノットでの航行時に約370キロと短く、一般の船舶に比べて小回りが利かないため小規模な漁港湾には入港しづらく、岸壁に接岸した場合には人員の乗降に時間がかかるという欠点を有するため、朝鮮半島からの在留邦人などの退避に適しているとはいえない。政府は、朝鮮半島からの在留邦人などの退避に備えて、LCACとは別の新たな高速揚陸艇を10隻以上自衛隊に保有させるべきだろう。2016年9月、支援車両を乗せて西表島の大原港に上陸する、海上自衛隊のエアクッション艇「LCAC(エルキャック)」(宮崎瑞穂撮影) もちろん、こうした新たな高速揚陸艇の導入には一定の時間を要し、現在の朝鮮半島情勢の緊張に直ちに対応はできない。しかし、北朝鮮が現在の危険な体制を維持する限り、朝鮮半島では今後も緊張が繰り返されることが予想され、それに備えた装備品の導入は急ぐ必要がある。また、高速揚陸艇は朝鮮半島からの邦人などの退避のみならず、南西諸島などでの離島防衛あるいは大規模震災における海路からの救援活動においても有効性が高く、「四面環海」の日本には不可欠の装備である。 最後に、危機管理の基本は「最悪の事態に備えた準備をしておく」ことであり、戦争が勃発した場合における在留邦人の退避態勢の整備を政府・与党に強く求めたい。現在の法制度では戦闘下における在留邦人の退避は外国頼りであり、イラン・イラク戦争中のトルコ航空機による在留邦人のテヘランからの救出劇(1985年)の再現を祈るほかに手段はない。野党も、在留邦人の命を守るという国家の責任に思いを致し、現実的な姿勢で議論に臨んでほしい。 6年前の東日本大震災は「想定外」だったのかもしれない。しかし、朝鮮半島で戦争が勃発した場合に多くの在留邦人が命の危険にさらされることは「想定内」である。「想定内」の事態に備えないことは、「想定外」の事態への準備がなかったことに比べれば、はるかに罪が重い。

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    北朝鮮の核実戦配備は最終段階へ、3つの抑止策とは

    を開催した。日米中ロ韓にEU諸国の代表団が集う会議場が独特の緊張感に包まれたのは、同セミナーに初めて北朝鮮の政府代表団が参加したからだ。 主催者によると、過去に開催された同セミナーへの招待に振り向きもしなかった北朝鮮だったが、今回は強い要望で参加が実現したという。その代表団を率いたのは崔善姫(チェ・ソンヒ)外務省米州局副局長だった。同氏は5月末にスウェーデンのストックホルムで開催された国際会議、翌6月に中国の北京で開催された「北東アジア協力対話」(ミニ6カ国協議と呼ばれる)にも相次いで参加している。後者の会議は北朝鮮が新型ミサイル「ムスダン」発射の最中に開催され注目された。崔副局長は同会議で「6カ国協議は死んだ」と発言したとされており、記者会見でも「(北)朝鮮の非核化を議論する会談に応じる気はない」と強調した。 改めて9月のモントルーでの北朝鮮代表団の主張の概要を紹介したい。・我が国は本年に入り2度の核実験を成功させ核兵器の技術的精度を高めた。また多種多様なミサイル実験も成功させ運搬手段を多角化した。これにより敵国である米国に対する抑止力を完成するに至った。・我々が「核兵器国」であることは現実であり、もはや一方的な非核化などありえない。核兵器の開発を中途半端にした結果、愚かにも崩壊を招いたイラクやリビアなどの轍は絶対に踏まない。・我が国は「責任ある核兵器国」であり、核兵器保有の目的は我が国の自衛に限定される。また我が国は核兵器の先制不使用を採択し、無用に他国を刺激することはない。・6カ国協議の過去の共同声明は(「核兵器国」である我が国の実態とは乖離しており)すでに死文化した。我々は同共同声明に関し、何ら履行義務を負わない。現況のような米国の敵視政策が続く限り、公式な多国間の対話をすることは考えられない。 以上のように、北朝鮮は今年に入って相次いで実施した核実験及びミサイル実験の成果を背景に、インドやパキスタンに連なる「核兵器国」としての地位を獲得したことを自認し、これを国際的に認知させることに躍起となっている。かつて北朝鮮自身が署名した「すべての核兵器及び既存の核計画を放棄」を柱とする6カ国協議共同声明は、もはや「核兵器国」としての現実と乖離し、リセットしなければならないと主張するのである。核の実戦配備は、すでに最終段階へ 北朝鮮のこうした言説キャンペーンの背景には、自他共に「核兵器国」として認める新しい現実を作りたい意図があることは明白である。しかし、問題となるのは核兵器計画や抑止力の実態の評価、そしてそれに基づく今後の対北朝鮮政策のあり方である。 北朝鮮が過去5回の核実験によって核兵器の小型化・弾頭化を実現させた可能性は高まった。特に9月に実施された第5回実験では過去最大の10キロトン程度と推計され、その爆発規模もさることながら、弾頭化に必要とされる運用の信頼性が重視されている。北朝鮮の声明によれば、今回の核実験により「小型化・軽量化・多種化」された核弾頭を必要なだけ生産できるようになり、「核兵器化はより高い水準」に引き上げられたという。 長年その実現が疑問視されてきた「小型化・弾頭化」について、日本の防衛白書(2016年度版)も「米国、ソ連、英国、フランス、中国が1960年代までにこうした技術力を獲得したとみられることや過去4回(刊行当時)の核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられる」と踏み込んだ評価をしているのである。 核兵器の運搬手段としてのミサイル開発も急速な進展がみられる。相手国に探知されにくい潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、移動式発射型ミサイルの実験、ミサイル防衛で迎撃を難しくさせるノドンミサイルの連続発射実験、中距離弾道ミサイルに匹敵するムスダンの「ロフテッド軌道」(通常の軌道に比べて高高度まで打ち上げる)実験の成功など、攻撃手段の多様化と高精度化を同時に追求している。また、北朝鮮は弾頭の耐熱性技術の確保に熱心に取り組み、最近のミサイル実験では再突入時の弾頭保護について相当の成果を得たという分析もある。金正恩朝鮮労働党委員長(中央)=2016年12月、平壌(共同) 現段階において、北朝鮮の核兵器の実戦配備はほぼ最終段階にあるとみてよい。北朝鮮の核・ミサイル実験は実戦配備に向けた軍事的合理性に適ったものであり、単なる「核保有」という象徴的な意味合いから「核の運用」という現実的段階へと状況は急速にシフトしているのである。その意味で、「北朝鮮の核兵器は運用段階にない」といった楽観的評価や、核・ミサイル実験の主たる目的は国威発揚や対米交渉カードであるといった情勢判断は、北朝鮮の意図と能力の過小評価であると言わざるをえない。 しかし、冒頭の北朝鮮代表団が言及したような、北朝鮮が対米抑止力を持ったという判断は過大評価でしかない。核兵器が抑止力として機能するためには、いかなる状況下でも相手国に核ミサイルを高精度で打ち込める能力(具体的には相手国からの攻撃を回避し、ミサイル防衛を突破できる能力)を担保する必要がある。北朝鮮が現時点で達成したのはその一部分の能力であり、最小限抑止を担保する攻撃手段の残存性や指揮命令系統の信頼性の確保など、まだ初歩的な段階に過ぎないのである。 しかし、仮に北朝鮮が、米国や韓国への抑止力を確保したという認識を一方的に持った場合、地域における小・中規模の軍事的挑発行為を誘発する可能性も高まる。これが北朝鮮の核能力を過大評価することの危険性である。 我々は以上の過小・過大評価を慎重に避けつつ「核兵器の実戦配備は現実的段階にあるが、信頼ある対米抑止力の確保には至らない」ということを情勢判断の基礎に据えるべきである。北朝鮮の戦略的優位を阻む、不断の抑止態勢を築け 北朝鮮の核・ミサイル開発の進展は、日本を含む北東アジア諸国にとり、現実的で差し迫った問題となっている。 しかし、6カ国協議の再開の目処が立たず、北朝鮮が6カ国協議の共同声明を反故にするなかで、膠着状態に陥った多国間外交に打開の可能性を見出すことは難しい。今年の3月に制裁措置を追加・強化した国連安保理決議2270が全会一致で採択されたことは重要な成果だが、北朝鮮の核・ミサイル開発の制止に向けた効果を見出すことはできていない。制裁の効果の鍵を握る中国も北朝鮮の体制の動揺・崩壊に繋がるような圧力の強化には依然として及び腰である。 こうした中で重要性を増すのは、北朝鮮に新たな能力獲得によって戦略的な優位をもたらさない、不断の抑止態勢の整備の必要性である。第1に重要なのは、日本の弾道ミサイル対処能力の総合的な向上の必要性である。近年の北朝鮮の多種・多様なミサイルとその運用態勢に対応するためにも、隙のない即応態勢や同時・継続的な対処能力を強化する必要がある。 第2に、日米韓の安全保障協力を一層強化する必要がある。在韓米軍のTHAAD導入決定を重要な機会と捉え、韓国における早期警戒情報やXバンドレーダーの情報を日米韓がリアルタイムに共有することは日本のミサイル防衛の精度向上に不可欠となる。軍事情報包括保護協定(GSOMIA) (出所)各種資料をもとにウェッジ作成 そのためにも、日米韓でミッシングリンクとなっている日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の早期締結は急務だ。また、本年実施した日米韓のミサイル防衛合同演習を定例化・活性化させるとともに、米韓合同軍事演習への自衛隊の参加や、日米共同統合演習における北朝鮮の挑発・エスカレーション事態の重視など、平素の安全保障協力の基盤強化が重要となる。 第3は米国の核拡大抑止(核の傘)の重要性を日米及び米韓が不断に確認することである。北朝鮮の核・ミサイル開発の実態を踏まえつつ、北朝鮮のあらゆる事態に適合した米国の核態勢の維持は、北朝鮮の挑発行動の拡大を抑止するための鍵となる。その意味でも、米次期政権の下で策定される「核態勢見直し」が北東アジアの現実を見据え、核戦力の戦域展開を担保するものであってほしい。性急な核戦力の削減や「先制不使用」は北東アジアの現実とは相容れないのである。 以上の抑止態勢の整備によって、北朝鮮の核・ミサイル開発が限定的な効果しか生み出しえない戦略環境を作るべきである。こうした戦略的膠着が定着してこそ、北朝鮮に外交オプションを真剣に追求する機会を促すことができる。北朝鮮の核・ミサイル能力の過大評価に基づく必要以上の外交的妥協や、逆に過小評価に基づいて実態に向き合わないことの双方が、大きな安全保障上のリスクとなるのである。

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    元海自小隊長 自衛隊員が最も「死」に近づいた瞬間を語る

    込む必要があった。拉致された日本人がいれば、是が非でも救出しなければならない。相手は特殊訓練を受けた北朝鮮の工作員である可能性が高く、戦闘になり命を落とす危険がある。 当時はまだ、海軍の仕事は船の沈め合いだという認識があり、武器による抵抗が予想される船舶を立入検査するという発想は出てきたばかりだった。そのため、我々は防弾チョッキもなかった。それでも隊員たちは、腹を決めて粛々と準備を始めた。 結局、不審船は再び動き出し、猛スピードで北朝鮮の領海へ逃げ込んだため、実際に彼らを送り込むことはなかったが、自衛隊員が最も「死」に近づいた瞬間だった。緊迫感を増す日本周辺の安全保障環境において、能登半島沖のような事態は十分起こりうる。(談)【PROFILE】いとう・すけやす/1964年生まれ。日本体育大学から海上自衛隊へ入隊。「みょうこう」航海長在任中の1999年に能登半島沖不審船事件を経験。後に海自の特殊部隊「特別警備隊」の創設に関わる。現在は退官し、警備会社のアドバイザーを務めるかたわら、私塾にて現役自衛官の指導にあたる。著書に『国のために死ねるか』(文春新書)。関連記事■ 能登半島地震 2013年から2019年にかけ起こる可能性と専門家■ イラクで活躍「ヒゲの隊長」 震災後の自衛隊の活躍を報告■ 海上自衛隊特殊部隊の能力を、お世辞を言わない米軍がホメた■ 安保論議の最中に「命令あらば実戦で任務遂行」と現役自衛官■ 震災後に士気高揚した自衛隊 最前線に行きたい人間が増加する

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    北朝鮮有事、日本はどう動くべきか

    もはや火薬庫と化した朝鮮半島情勢だが、北朝鮮の挑発が止む気配はない。「米軍が先制攻撃に踏み切れば、いかなる戦争にも対応する」。報復を警告した北朝鮮の標的には、むろん日本も含まれる。迫り来る北朝鮮有事に日本はどう対応し、いかに備えるべきか。北朝鮮クライシスを考察する。

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    北朝鮮の核暴発から日本を守る「戦略」は先制攻撃ではない

    柳澤協二(元防衛省幹部、国際地政学研究所理事長) 北朝鮮の挑発が止まらない。アメリカのトランプ政権が、シリアの空軍基地を爆撃、空母部隊の北朝鮮近海への派遣、アフガニスタンでのタリバン拠点に対する新型爆弾の使用など、一転して軍事力を前面に押し出す姿勢を示している一方、北朝鮮はさらに核実験やアメリカに届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発の意図をもって答えている。 それがトランプ政権にとってレッド・ラインを超えると判断されれば、シリアで行ったようにアメリカによる懲罰的な武力行使が予想され、北朝鮮がこれに反撃する形で戦争が始まるかもしれないという恐怖が広がっている。 発射されたミサイルを迎撃するミサイル防衛に100%の成果を期待できないのだから、ミサイルの発射基地を攻撃しなければならないという声もある。「敵基地反撃」能力を持つべきであるとの提言が、3月30日に自民党の安全保障調査会・国防部会で発表されるなど、従来の専守防衛では、高まる北朝鮮の核・ミサイルの脅威には対抗できないのではないかという問題意識だ。北朝鮮の軍事パレードに登場した、新型ICBM用の可能性がある発射管付き車両=2017年4月、平壌(共同) しかし、そのこと自体、何を問題にしているのかよくわからない。生半可な理解のまま国防を語るのは危険だ。勇ましいようでも、あらぬところに弾を打ちまくるならば、それは恐怖の裏返しにすぎない。専守防衛と敵基地攻撃 「専守防衛では、ミサイルが飛んでくるまで何もできないのだから、発射前に破壊できるようにしなければならない」という発想について考えてみる。 専守防衛とは、「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう」とされている。 これは、他国領域への先制攻撃を否定するものではあるが、「自衛のための必要最小限度」の範囲内であれば、敵基地への攻撃を否定するものではない。また、国土に被害が出るまで何もできないわけでもない。自衛権を行使するのは、攻撃が完了した段階ではなく、敵が武力攻撃に着手した段階だから、日本を攻撃することは明白な敵兵力が行動を開始すれば、それがいまだ敵国の領域にとどまっていたとしても、反撃することができる。 弾道ミサイルの場合、日本を目標にしたミサイルが発射準備に入れば、その時点でこれを攻撃しても、専守防衛からの逸脱とは言えない。問題は、専守防衛にあるのではなく、敵のミサイルが発射態勢にあることをどのように察知し、それが日本を狙っていることを誰がどのように判断できるのか、そして、そのミサイルを首尾よくつぶせば、それでことが終わるのか、ということだ。 そもそも、地下に格納され、あるいは移動発射台に搭載されたすべてのミサイルの位置を把握し、同時に破壊することは不可能だ。そして、残存したミサイルによる報復攻撃が来る。それが核であったら、今度は日本が壊滅する。 テレビの映像で、3月7日に北朝鮮が4発のミサイルを同時に発射するシーンが放映された。「そこをつぶせばいい」という気分になる。しかし、「そこ」が「どこ」なのか、誰が知っているのか?当日の衛星画像を解析すれば、どこであったのかが判明するかもしれない。しかし、それこそ「後の祭り」である。相手は動くのだから。報復の抑止力 発射態勢にあるミサイルを破壊しようとすれば、北朝鮮上空を無人偵察機で覆うか、あるいは、あらかじめ特殊部隊を潜入させるなどして、爆撃目標を視認して、攻撃部隊に指示しなければならない。問われるのは、攻撃手段ではなく目標探知能力なのだ。 つまり、敵基地攻撃を行うとしても、ミサイルを100%防ぐことはできないということだ。それゆえミサイルは、劣勢にある側が優勢にある敵に対抗する拠り所となる。北朝鮮がミサイルに固執する理由もそこにある。報復の抑止力 そこで、ミサイルは防げないことを前提にした対応が必要となる。それが、「報復力」にほかならない。 今年2月14日の衆議院予算委員会で、安倍晋三首相は「北朝鮮のミサイル発射の際、共同で守るのは米国だけだ。撃ち漏らした際に報復するのも米国だけだ。トランプ大統領が必ず報復するとの認識を(北朝鮮に)持ってもらわないと冒険主義に走る危険性が出てくる。日本としては、トランプ大統領と親密な関係を作り世界に示す選択肢しかない」と答弁している。衆院予算委員会で民進党の辻元清美氏(左)の質問に答弁する安倍晋三首相=2017年2月14日(斎藤良雄撮影) ここで言われていることは、ミサイル攻撃をすれば報復するという典型的な「報復による抑止」の思想である。防げない攻撃を思いとどまらせるには、倍返しの脅しによって攻撃を思いとどまらせるというものだ。そして、その報復力を担うのはアメリカである、と言っている。政府は、自身の敵基地攻撃よりもアメリカの攻撃力に拠ろうとしている。 脅威とは、攻撃する能力と意志の掛け算で定義される。同様に抑止力も、攻撃されれば報復する能力と意志の掛け算である。アメリカに、北朝鮮を壊滅させる能力があることは、だれも疑っていない。北朝鮮も、それを知っているがゆえに、アメリカを「抑止」しようとして核・ミサイルを開発している。これは、基本的に、アメリカと北朝鮮の間のパワー・ゲームである。 安倍首相の答弁も、アメリカの能力がないからではなく、アメリカの報復の意志が揺らいでは抑止力にならないという認識に立っている。ちなみに、トランプが「アメリカは常に100%日本とともにある」というとき、英語では「stand behind Japan」なので、アメリカは「背後から」日本を守る、つまり、報復するというわけで、安倍首相の答弁と表裏一体をなしている。抑止力の限界抑止力の限界 しかし、アメリカの報復に頼ることにも問題はある。 第一に、アメリカが、常に100%日本の味方であることは、日本への攻撃に対して常に100%報復することと同じではないということだ。アメリカは、日本だけでなく、韓国も、そして何より、自国の兵力を守らなければならない。 日本に数発のミサイルが着弾したとしても、アメリカの報復が北朝鮮の韓国に対する大規模報復を招くのであれば、韓国の利益も考慮せざるを得ないだろう。少なくともアメリカの報復作戦は、韓国軍による38度線付近にある北朝鮮軍の砲兵陣地への攻撃と連動しなければ、たちまちソウルが火の海になる。 第二に、アメリカの報復によって北朝鮮の体制を崩壊させるかどうかという悩ましい問題がある。アメリカが報復する場合、その規模は限定的なものではなく、再発射可能なすべてのミサイルを破壊するものでなければならないが、それは、北朝鮮の攻撃能力を失わせることになり、ひいては体制の崩壊につながる可能性が大きい。 体制が崩壊すれば、北朝鮮はたちまち破たん国家となる。2000万の人口をどうやって食わせるかという難問が待ち構えている。ミサイルを破壊しても、100万人の軍隊と100万人の労働党の武装組織が残っている。韓国がこれを喜ぶはずはないし、この地域を統治するには、半分を中国に任せなければならないほどの大量の軍隊が必要になる。 アメリカが本気を出せば、北朝鮮との戦争に勝つことは難しくないだろう。だが、勝った後の方がよほど大変なのだ。それでもあえてアメリカが報復するのかというのは、当然の疑問だ。韓国・釜山に入港する米海軍の原子力空母カール・ビンソン=2017年3月15日(共同) 第三に、アメリカが報復する前提である「撃ち漏らしたとき」とは、日本にミサイルが落ちているということになる。それが何発なのか、核や化学兵器が積まれているのか、どのくらいの被害が出ているのか、述べられていない。つまり、抑止が成り立つ前提には、少なくとも敵の第一撃に耐える覚悟と態勢がなければならないということだ。 日本人が陥りがちな勘違いは、アメリカの抑止力があるから戦争にならない、戦争にならないのだから戦争の被害を考える必要はない、というものだ。だが、アメリカ軍が考える抑止力とは、戦争になれば必ず勝つ力を持つことを前提としている。 抑止と戦争は、日本人が考えるよりもずっと近い関係にある、同じコインの裏表なのだ。そして、そうでなければ抑止も成り立たないというところに、抑止と安全のジレンマがある。 第四に、北朝鮮は、攻撃目標が在日米軍基地であると公言している。在日米軍基地から発進する戦闘機が、北朝鮮を攻撃する最大の脅威であるからだ。すなわち、北朝鮮が日本に向けてミサイルを撃つ動機は、米軍がいるからということになる。抑止力であるはずの米軍の存在が攻撃の動機を与えているところに、抑止と挑発は紙一重というジレンマがある。 第五に、抑止という戦略は、抑止が効いている限り、北朝鮮はあえて攻撃しないという仮定の上に成り立っている。北朝鮮の最大の目標は、体制の生き残りだから、体制の崩壊につながるようなアメリカの報復を招くような攻撃はしないだろうという仮定に「確からしさ」はある。だがそれは、「相手もこちらと同じように考えるはずだ」という仮定である。戦略とは、確かではなく、確からしさの上に作られる計算式にすぎないのだ。 北朝鮮をとことん追い詰めれば、たとえ負けても一撃を食わせるという判断に至るかもしれない。現に北朝鮮は、そのためにアメリカに届く核ミサイルの保有を、最後の拠り所として目指している。 総じて言えば、抑止戦略は、攻撃を思いとどまらせる効果はあるにしても、やりすぎれば逆効果になる危険性があり、同時に、相手をこちらの思い通りに行動させる(例えば、核を放棄させる)効果はない。アメリカの抑止力がすべてを解決するわけではないのだ。ミサイル防衛に関する戦術と戦略ミサイル防衛に関する戦術と戦略 ミサイルを落とせないなら先にミサイルをつぶせばいいというのは、戦術の話であり、しかも確からしさのない思考という意味で、戦術論とも言えないかもしれない。一方、どうすればミサイルを撃たせないことができるかというのは、戦略に属する話だ。 言い換えれば、戦術論とは、自分が能力を持っているときにそれをどう使うかということであり、一方、戦略論とは、能力が十分でないことを前提に、それを敵との比較の中でどう補っていくか、敵の弱みを最大化し、こちらの弱みを最小化するか、という思考である。 北朝鮮の弱みとは、体制を守らなければならないという目的そのものにある。あのような古代王朝的な独裁体制を維持すること自体に無理があるということだ。一方、日本の弱みは、戦争の被害に対する耐久性がないことにある。 ミサイルを撃ちあうような戦争に耐えられないということだ。「だからアメリカの報復が抑止になる」というのは、敵基地攻撃よりもはるかに戦略的思考である。しかし、それには限界があることもすでに見てきた。 戦略の上に大戦略があるとすれば、ミサイルが飛んでこないようにするという目標を達成するためには、報復の威嚇によって抑止するだけではかえって攻撃の動機を与えるのだから、むしろ攻撃の動機である恐怖を和らげることを併用することがその大戦略に当たる。 これまで我々は、核・ミサイル開発を止めることを交渉の条件としてきた。しかし、現状は止まっていない。北朝鮮は、体制の保証のために核を手放すことができない。体制をつぶそうとすれば、おそらく必ず暴発してくる。核保有を止められないなら、核を使う動機をなくさなければならない。ミサイル攻撃という悪事への懲罰だけでなく、悪事をしないことのご褒美を用意することだ。北朝鮮の朝鮮中央テレビが放映した、軍事パレードを観覧する金正恩委員長(右)の映像(共同) そのために必要なのが、体制を外部からつぶさないという安心供与、あるいは「報償による抑止」といわれる手法である。外部からつぶさなくても、やがて内部崩壊するであろうから、それまでの間、「暴発させない」というところに戦略目標を変えるという意味でもある。 もちろん、ここまで来てしまった以上、事は容易ではない。一方、トランプ政権のように、空母を派遣して交渉のテーブルに着かせるという威嚇外交は、成功すればいいが、相手が応じなければアメリカの軍事的威嚇、ひいては抑止力の信ぴょう性を傷つける。 イラク戦争の前年、アメリカは、大量破壊兵器に関する完全な申告と査察をイラクに要求する国連安保理決議を背景に、戦争準備をもって威嚇したが、イラクの譲歩を得るに至らず、ついに戦争に踏み切った。イラクのサダム・フセインの誤算は、大量破壊兵器があるように思わせなければアメリカに攻撃されるという思い込みだった。北朝鮮が、アメリカの空母を目の当たりにして、同じ誤算をしないとは限らないことが心配だ。 確かなものは何もない。だからこそ、我々に必要なものは、やったらやり返す戦術ではなく、核を持った北朝鮮と付き合い、自滅を待つ長期的な戦略的思考なのだ。

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    北朝鮮「敵基地反撃能力」を日本が保有しなければならない理由

    田村重信(自民党政務調査会審議役)  北朝鮮の金正恩委員長は、核兵器とミサイル開発を進めて抑止力を向上、通常兵器を削減し、その余力で経済建設を行うという「併進路線」を推進している。 昨年の2度の核実験および23発の弾道ミサイル発射に加え、3月6日には石川県能登半島沖のわが国の排他的経済水域内に3発を着弾させ、「在日米軍攻撃担当部隊が参加」と発表するなど、北朝鮮の挑発行為はわが国が到底看過できないレベルに達している。 さらに、固定式発射台から発射する長距離弾道ミサイルに加え、移動式発射台(発射台付き車両=TEL)および固体燃料を用いた弾道ミサイル、高軌道に打ち上げ高速で落下するロフテッド軌道による発射など、新たな中・長距離弾道ミサイルも開発中で、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)についても開発を進めている。 このように北朝鮮は、わが国及び同盟国にとって探知や迎撃が通常より困難となる技術を獲得しつつあると考えられ、北朝鮮の脅威が新たな段階の脅威に突入したとみなければならない。北朝鮮の軍事パレードに登場した、新型中距離弾道ミサイル「北極星2」の発射管付き車両=4月15日、平壌(共同) こうした北朝鮮による度重なる核実験及びミサイル発射は深刻な脅威であり、もはや、わが国の弾道ミサイル防衛の強化に一刻の猶予もなく、北朝鮮による核・弾道ミサイル開発への対応は喫緊の課題である。政府においても防衛省を中心に弾道ミサイル防衛(BMD)の強化のための施策が進められているが、それでも北朝鮮による挑発は止まらない。 そこで自民党が北朝鮮核実験・ミサイル問題対策本部や、安全保障調査会、国防部会の場において積極的に議論したところ、北朝鮮が新たな段階の脅威であることが明確になった。 そこで今般、党安全保障調査会の下に「弾道ミサイル防衛に関する検討チーム」(座長・小野寺五典元防衛大臣)を急遽発足させ、これまでとは異なる北朝鮮の新たな段階の脅威に対して有効に対処すべく、あらゆる実効性の高い方策を直ちに検討し、「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言」を取りまとめ、予算措置を含め、政府に対しその実現を求めることとした。 この提言は3月29日に発表され、党の政調審議会の了承を経て、翌日、今津寛党安全保障調査会長、小野寺座長らによって総理官邸で安倍総理に報告された。 提言の内容は、(1)「弾道ミサイル防衛能力強化のための新規アセットの導入」(2)わが国独自の敵基地反撃能力の保有(3)排他的経済水域に飛来する弾道ミサイルへの対処―の三点で、政府において実現に向けた検討を迅速に開始し、さらなる抑止力の向上により、北朝鮮にこれ以上の暴挙を断念させるとともに、国民保護体制の充実を含めたより一層の対処力の強化により、万が一の際に国民の生命、わが国の領土・領海・領空を守り抜く万全の備えを構築することを求めるものである。先制攻撃は許されない 「弾道ミサイル防衛能力強化のための新規アセットの導入」は下記の通りだ。 イージスアショア(陸上配備型イージスシステム)やTHAAD(終末段階高高度地域防衛)の導入の可否について成案を得るべく政府は直ちに検討を開始し、常時即応体制の確立や、ロフテッド軌道の弾道ミサイル及び同時多発発射による飽和攻撃等からわが国全域を防衛するに足る十分な数量を検討し、早急に予算措置を行うこと。また、将来のわが国独自の早期警戒衛星の保有のため、関連する技術開発をはじめとする必要な措置を加速すること。 これは、従来の防衛予算の大綱・中期防、歳出化予算、概算要求といったことではなく、災害対応で予備費を充当するといった大胆な発想で早急に政府の決断を求めている。あわせて、現大綱・中期防に基づく能力向上型迎撃ミサイルの配備(PAC-3MSE:平成32年度配備予定、SM-3ブロックⅡA:平成33年度配備予定)、イージス艦の増勢(平成32年度完了予定)の着実な進捗、事業の充実・更なる前倒しを検討すること。 次が「わが国独自の敵基地反撃能力の保有」で、この点がマスコミに「敵基地能力の検討を提言」と大きく報道されたところである。 これは、従来からの敵基地攻撃とか策源地攻撃などについては議論されてきたが、今回は責任ある与党・自民党から「わが国独自の敵基地反撃能力の保有」が打ち出されたことで、野党から従来の日本の防衛政策の変更ではないか、例えば、民進党の安住淳代表代行の「専守防衛に徹してきた今までの流れを根本から変えていく話なので、私は反対だ」との発言など、専守防衛と逸脱するのではないかと言った批判がある。 専守防衛は「憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢」とされ、「相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保有する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限ること」を意味している。オスプレイを使って自衛隊員らが日米共同訓練を行った=2013年10月、滋賀県高島市(松永渉平撮影) これをさらに具体的にすると「政府は、わが国に対して誘導弾等による攻撃が行われた場合、そのような攻撃を防ぐのにやむをえない必要最小限度の措置として、他に手段がない場合に発射基地を叩くことについては、従来から憲法が認める自衛の範囲に含まれ可能と言明しているが、敵基地の位置情報の把握、それを守るレーダーサイトの無力化、精密誘導ミサイル等による攻撃といった必要な装備体系については、「現在は保有せず、計画もないとの立場をとっている。」とのことである。したがって、「わが国独自の敵基地反撃能力の保有」は憲法上からも専守防衛の観点からも可能と言うことになる。 従来からの敵基地攻撃とか策源地攻撃などの用語は、先制攻撃ではないかとの誤解が生じる恐れがあることから、今回「敵基地反撃能力」として、先制攻撃ではないことを明確にした。 先制攻撃は、武力攻撃が発生する前に武力行使をするものであり、わが国の憲法上はもとより、国際法上も許されるものではない。今回自民党の提言に盛り込んだ「わが国独自の敵基地反撃能力」については、こうした先制攻撃を考えるものではなく、このことを明示する趣旨で敵基地「反撃」能力との用語を用いた上で、これまでの法理上の解釈に基づき、かつ日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上を図る観点から検討すべきとしたものである。楯と矛を考える 日本の防衛政策は、自衛隊と米軍が、いわゆる「楯と矛」の関係性の中で日本の防衛を行っている。つまり、自分の国を守るという「楯」としての役割は自衛隊が担っている。一方、相手から攻撃された場合、では相手の国を攻撃するにはどうすればいいのかというと、全面的に「矛」としての米軍に依存するということになっている。 これが今の日本の防衛政策の仕組みだが、今回のトランプ米新政権が同盟国に対して自助努力を促していることからも、提言では「北朝鮮の脅威が新たな段階に突入した今、日米同盟全体の装備体系を駆使した総合力で対処する方針は維持するとともに、日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上を図るため、巡航ミサイルをはじめ、わが国としての『敵基地反撃能力』を保有すべく、政府において直ちに検討を開始すること」とした。 三つ目が「排他的経済水域に飛来する弾道ミサイルへの対処」で、提言の内容は「昨年8月以降、北朝鮮は3度にわたりわが国の排他的経済水域内に弾道ミサイルを着弾させており、航行中の船舶への被害は生じなかったものの、操業漁船が多い海域でもあり、わが国船舶等の安全確保は喫緊の課題である。  このため、弾道ミサイル等の脅威からわが国の排他的経済水域を航行しているわが国船舶等の安全を確保するため、政府は、当該船舶に対して、航行警報等を迅速に発出できるよう、直ちに検討すること。また、これらの船舶の位置情報の把握に関する技術的課題や当該船舶を守るための迎撃を可能とする法的課題について検討すること これは、排他的経済水域内には、わが国の船舶が多く所在し、これらの安全を確保することは極めて重要と考えている。 一方、これらの船舶がどこに所在するかを精緻に把握することは難しいことから、今回の提言では、この船舶の位置情報を把握する技術的課題の検討とともに、迎撃のための法的課題の検討についても検討すべき旨を盛り込んだ上で、船舶への航行警報を迅速に発出するための検討に直ちに着手すべきとした。自衛隊と米軍の共同訓練でボートで沖縄本島東方の浮原島に上陸し、米兵ら(左)と担架を運ぶ自衛隊員=2016年11月7日 法的課題の検討とは、具体的に現在の自衛隊法第82条の3の規定による弾道ミサイル等に対する破壊措置は「我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止する」ことを目的とし、「我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等」を破壊するためのものであるため、排他的経済水域(EEZ)に落下する弾道ミサイルについては、同条の規定による措置を取ることはできないとの課題がある。 この点については、技術的課題に係る検討と併せ、政府において検討を進めてもらいたいとの提言である。今回の自民党の「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言」は、現憲法下で許容される範囲のもので、専守防衛を逸脱したものではない。今後は、国民の生命と財産をしっかりと守るためにも憲法改正を急ぎ、国際標準の防衛法制及び政策の策定が喫緊の課題となっている。

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    北朝鮮有事の「最悪シナリオ」に日本が取るべき選択肢は一つしかない

    松竹伸幸(ジャーナリスト、編集者、「自衛隊を活かす会」事務局長) 北朝鮮情勢が風雲急を告げている。真剣な対策が必要だ。軍事対応と外交努力をどう適切に結合させればいいのか、その「最適解」を見つけだすことが決定的に重要だと考える。それはどんなものだろうか。 軍事対応だけでも、あるいは逆に外交努力だけでも、北朝鮮の核問題には対応できない。歴史的な経緯を見ればそれは明白だ。 いわゆる1990年代前半の朝鮮半島第一次核危機。クリントン政権が軍事対応を志向したが、その道を進めば100万人以上の死者が出るとの試算も出され、当時の韓国・金泳三政権が断固として反対したこともあって、軍事対応には至らなかった。後で論じるように、軍事対応が今でも同じ問題を引き起こすという構図は変わっていない。 一方、その核危機がカーター米元大統領の訪朝によって回避され、北朝鮮は1994年のいわゆる「米朝枠組み合意」により、核兵器を最終的には放棄することを約束した。その見返りに北朝鮮に対して軽水炉2基を供与するとともに、それが完成するまでの間、毎年50万トンの重油を供与することになり、日本も軽水炉建設費の30%を負担した。トランプ米新大統領の就任式会場で開会を待つ(左から)カーター、クリントン、ブッシュ(子)の各元大統領夫妻=1月20日、ワシントン(ロイター=共同) 「外交努力」の成果だと見られたが、北朝鮮は秘密裏に核開発を続行しており、ついにはIAEA(国際原子力機関)の査察を拒否し、NPT(核拡散防止条約)からの離脱も宣言、外交努力は見事に破綻したのである。「外交努力だけでなんとかなる」というならば、この時の失敗の教訓を徹底的に酌みつくした上で、「このやり方ならば」というものを説得的に提示しなければならないが、そういうものにはまだお目にかかっていない。 それに続くジョージ・W・ブッシュ大統領の時代、アメリカはイラク戦争に突入し、小泉純一郎首相は「北朝鮮が攻めてきたときはアメリカに頼る必要があるのだから」という理由で、その戦争を支持した。今回、トランプ政権のシリア爆撃を「理解」した安倍晋三首相につながってくるが、故金正日は、化学兵器の保有をちらつかせるような甘い対応では体制を打倒されるということをイラク戦争の教訓だと捉え、本気で核保有国になる決意を固めたとされる。シリア爆撃を「牽制」とする見方は、北朝鮮には通用しないだろう。 オバマ大統領の時代、アメリカは「戦略的忍耐」といって、北朝鮮が核放棄するまでは相手にしないという態度をとった。軍事対応は行わず、外交努力もしないという新たな対応だったが、結局その間に北朝鮮の核、ミサイル開発は加速した。 要するに、これまで世界がどういう対応をしようとも、北朝鮮は核、ミサイル開発をやめなかったということだ。アメリカが軍事対応してくるかもしれないという恐怖感があったとしても、何らかの経済的利益を得られるかもしれないという期待感があったとしても、そういうものには目を向けることなく、まさに自分たちも「戦略的忍耐」を堅持して、ただひたすら核開発を完遂するのが体制維持に決定的だと考え邁進しているのが、現在の北朝鮮ということである。 そういう国とどう向き合えばいいのか。我々は今まさにこの問題に直面している。単純な結論で済むはずがない。日本独自の立場も貫かなければならない この問題を考える上でもう一つ大切なことは、アメリカ抜きで解決することはできない問題であると同時に、日本独自の立場も貫かなければならないということである。日米の利害は一致しているように見えて、異なる部分もある。 北朝鮮の核、ミサイル開発を阻止するという目標では日米は共通している。情報交換その他、緊密な日米連携が必要であることは論を俟(ま)たない。 しかし、決定的に違うのは、もし戦争になるようなことがあれば、戦場になるのは日本(と韓国)だということである。アメリカに届くミサイルが完成しているわけではないので、米本土は戦場にならないからだ。 アメリカの中で「先制攻撃」がオプションの一つとして浮上しているのは、そうなる前に何らかの対処が必要だと考えられているからであって、主にアメリカの国益を最優先させる立場からである。90年代前半の核危機では100万人の死者というシナリオを前に冷静になれたが、トランプ政権下では、たとえ軍事攻撃をしたとしても、北朝鮮は体制維持を優先させようとするので、体制崩壊につながるような全面戦争に北は踏み切らないという楽観的な考え方も生まれつつあると聞く。 けれども、それはあくまで希望的観測である。北朝鮮が体制維持を最優先させるのは間違いないが、アメリカに一方的に攻撃され、反撃もできないとなれば、それこそ金正恩体制を維持する求心力は失われるだろう。体制維持のために反撃に出てくるシナリオだってあり得るということだ。「国体護持」の保証を得るため、どんなに被害が拡大しても戦争を止めなかったようとしなかった日本の過去のことを考えれば、こちらの方が現実味があるかもしれない。 そうなれば、アメリカの先制攻撃を支持し、発進基地を提供する日本は間違いなく標的となる。北朝鮮のミサイルの精度が高まっていることは日本政府も認めていることであって、日本に到達する前に落下したり、上空を通過していくということにはならないだろう。 要するに、日本としては、自国が戦場になることは避けるという目標を持つことが大切だということだ。アメリカがお気軽な先制攻撃のシナリオを持つのも、米本土は戦場にならないという安心感が生み出すものであって、自国を戦場にしないと考えて行動するのは、どの国であれ決して身勝手な立場ではない。お互いの異なる立場をぶつけ合って、対応を決めていく必要があるということだ。日米の軍事対応が外交努力と矛盾してはならない 一方、軍事的対応は絶対にとらないという選択肢も、あり得ないだろう。その選択肢は極論すれば、北朝鮮からミサイルが撃ち込まれるようなことがあっても「こちらは我慢する」「被害を受けても外交努力だけに徹する」と言っているように聞こえる。 1955年1月、アメリカのアチソン国務長官が、アメリカの防衛ラインは日本列島からフィリピンまでだと演説したため、金日成が韓国を攻撃しても反撃されないのだと考え、朝鮮戦争が勃発したというのが国際政治学では通説となっている。その教訓を踏まえれば、もし北朝鮮が核やミサイルで先制攻撃してくれば、それ相応の反撃をするという意図を北朝鮮側に伝えていく必要がある。北朝鮮のミサイル発射に備えて設置されたPAC3(地対空誘導弾パトリオット)=2012年10月12日、沖縄県石垣市(恵守乾撮影) 具体的に言えば、もしミサイルが日本に落ちてきた場合、現存のミサイル防衛システムを発動し、迎撃するのは当然だろう。10年ほど前までは、北朝鮮はミサイルを「衛星」だと強弁しており、仮に撃ち落とされれば反撃すると公言していた。本当にそれが「衛星」だったなら、北朝鮮の反撃にはそれなりの正当性があったと言える。しかし、今の北朝鮮は核、ミサイルの開発という意図を隠していないわけだから、落ちてくるミサイルを迎撃するのは、国際法上も許される自衛措置である。 他方で、日本あるいは日米がやろうとする軍事対応が、北朝鮮に核、ミサイル開発を止めさせるための外交努力と矛盾するものであってはならない。最終的にこれを止めさせるようとすれば、外交の力に頼るしかないからだ。 この点では、こちら側が先制攻撃するというのは、最悪のシナリオである。北朝鮮にミサイルや化学兵器を使用させる口実を与えてはならないのだ。 それと表裏一体のことだが、北朝鮮側の先制攻撃がない限り、こちら側は武力の行使をしないというメッセージも明確に伝えるべきだ。さらに、その武力行使の規模と態様も、もっぱら自衛措置の範囲に止まることを明確に北朝鮮に伝えるべきだ。ミサイルが撃ち込まれるなら、そのミサイル発射基地は叩くという程度のものにするということである。 北朝鮮は、イラクのフセイン政権の末路その他、アメリカがこれまでに実際にやってきたことを見て、武力を行使される時は体制が転覆される時だと感じ、必死になって核ミサイル開発に狂奔している。だからこそ、多少のメッセージで真意を伝わるのは簡単ではなかろうが、核ミサイル開発を止めさせようとすれば、そこに真剣になる必要があるのだ。 北朝鮮が核やミサイルを開発し、使用するようなことがあれば、現体制は維持されない可能性がある。しかし、その開発を中断し、核とミサイルを放棄するなら、体制の維持につながる報償は与える。与えることになる報償の内容は、外交関係者が知恵を出していかなければならないが、軍事対応と外交努力の結合というのはそういうことである。「敵基地攻撃」の抑止力が効かない相手 こちら側の武力行使が、先制攻撃されたときの自衛に限られるとなれば、その最初のミサイルが着弾することを前提としており、日本が被害を受けることになるではないかという批判が寄せられよう。しかし、それ以外の手段は創造できないほどの大規模な厄災を招くのであって、自衛に限るやり方こそが被害を最小化する考え方である。北朝鮮の労働新聞が3月7日掲載した、砲兵部隊による訓練で発射される4発の弾道ミサイルの写真(共同) 例えば、北朝鮮のミサイル基地を一挙に叩けばいいのだと、威勢のいいことを言う人もいる。けれども、テレビに映るミサイルの発射場面やアメリカの軍事衛星の写真を見ると、基地がどこにあるか分かっているような錯覚に陥るが、発射台がどこにあるのかすべて分かっているわけではない。たとえ分かったとしても、移動式の場合は、予想を超えたところから発射されることになる。しかも、すべての基地を一挙に完全に叩くことができなければ、残りのミサイルがアメリカではなく、日本と韓国に飛んでくることになるのである。 北朝鮮は、ノドン200発とスカッドER100発の計300発程度のミサイルを保有していると考えられている。最初の一撃で半分を破壊したとしても、なお150発のミサイルが残る。北朝鮮がその報復として、化学兵器を搭載したミサイルを東京に向けてきたらどうするのか。そういう想定を抜きにして、敵基地の先制攻撃論を語ってはならない。一方、自衛の場合に限って対応する場合は、発射した場所が特定されるのであって、破壊できる確実性もはるかに増すことになる。 いや、敵基地を攻撃するというのは、あくまで威嚇であって、抑止するためだという人もいるだろう。確かに、怖いから手を出さないでおこうと北朝鮮が認識すれば、暴発はしないかもしれない。しかしこの間、北朝鮮はそういうことにお構いなく、核やミサイル開発を加速させてきたではないか。抑止力というのは、要するに相手の意思をくじこうとするものであり、結局のところ「くじけない相手」には効かないのである。 であれば結論は明白だ。軍事と外交の適切な結合しかない。北朝鮮が先制攻撃するなら、こちらは自衛の範囲で対応することを明確にし、その意図を北朝鮮に伝える。同時に、北朝鮮が核やミサイル開発を放棄するなら、体制を転覆するようなことはしないという立場で、あらゆる外交努力を強める。簡単なことではないが、現状での「最適解」はそこにしか存在しないのではなかろうか。日米に中国の損失をかぶる覚悟はあるか なお最後に、中国が果たすべき役割について触れておく。日本やアメリカは、中国に役割を果たさせるため何をすべきかという問題も含めてだ。 北朝鮮の核、ミサイル開発を止めさせる上で、中国の役割が大きいと言われる。いくら国連が経済制裁を決めても、北朝鮮の輸出入の相手国がほとんど中国だけという現状では、中国が本気にならなければ効果は薄いものになるのは事実だろう。 ただ、中国に経済制裁の協力を本気で求めるには、中国が被る損失を誰がかぶるのかという問題は避けて通れない。日本やアメリカは、自分たちが中国の損失をかぶる覚悟があるのかということだ。 中国は現在、本来は受け入れるべき政治難民にあたる脱北者でさえ、拘束しては北朝鮮に戻しており、国際社会から批判を受けている。経済制裁が効いてくることになると、経済的に困窮した大量の難民が中国に逃れて来るのは目に見えている。中国全人代の全体会議で、言葉を交わす習近平国家主席(右)と張徳江・全人代常務委員長=3月12日、北京の人民大会堂(共同) その対策を中国任せにするという態度では、中国を本気にさせることはできない。日本やアメリカは、そこまで考え抜いて、経済制裁の実施を提唱すべきだろう。自分たちも費用を分担したり、難民を受け入れるのかという覚悟も必要になる。 同時に、中国を本気にさせようとしたら、現在のような先制攻撃路線は百害あって一利なしだ。中国は、制裁が北朝鮮の体制崩壊につながることを心配していると言われるが、実は最も懸念しているのは「在韓米軍の緩衝地帯」がなくなることである。 朝鮮半島が統一されれば、米軍の駐留を受け入れる国家が目の前に立ち現れることなる。軍事的な選択肢で北朝鮮が崩壊するようなことになれば、それを遂行した軍隊がそのまま占領し、継続して駐留するようになるであろうことは容易に推測できる。 これを逆の角度から見ると、中国を本気にさせることができるとすれば、経済制裁の結果として北朝鮮が崩壊するようなことがあっても、その際は韓国から米軍が撤退すると分かった時だけだろう。アメリカにその気はあるのだろうか。中国を本気にさせるというが、いま問われているのは「アメリカの本気度」のように思えてならないのである。

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    朝鮮半島の恐怖は「次の一手」が読めない指導者の暴挙

    破壊する」と警告を発しているのだ。両国とも武力行使の用意があることを繰り返し表明している。すなわち、北朝鮮も米国も武器のボタンに手をかけている状況だ。 ところで、北朝鮮と米国双方は本当に武力衝突を考えているのだろうか。北側は世界超大国の米軍と正面衝突した場合、勝算はまったくないことを軍事専門家でなくても分かるはずだ。だから、金正日総書記は瀬戸際外交を展開し、土壇場で米国が手を引くと期待していたのだ。幸い、相手側は土壇場で対話路線に転換させてきた経緯がある。正恩氏も父親と同じように瀬戸際作戦を展開させている、といった気持ちがあるかもしれない。 一方、トランプ氏の場合、対北作戦を展開させる前に2回、派手な軍事活動を指令している。同大統領は7日、地中海の米海軍駆逐艦からシリア中部のアサド軍のシャイラト空軍基地へ巡航ミサイル、トマホークを撃ち込む指令を出し、13日には、アフガニスタン東部のナンガルハル州のイスラム過激派テロ組織『イスラム国』(IS)の拠点に非核兵器では最高火力を持つ「MOAB」(GBU-43)を初めて投下させている。正恩氏は面子を大きく失わない段階で挑発を中止すべきだ トランプ氏の軍事デモンストレーションに対抗し、正恩氏は16日午前、弾道ミサイル1発の発射を命令したが、ミサイルはどうやら発射直後、爆発した。この段階でトランプ氏と正恩氏の脅迫作戦の勝負ははっきりしたのだ。米軍は北が弾道ミサイルを発射しようすれば、北のミサイル機能をマヒさせる電子攻撃を仕掛け、落下させるからだ。 北は昨年10月段階で計8度、中距離弾道ミサイル「ムスダン」(射程3500キロ)を発射し、成功は同年6月22日の1回だけだった。グアム米軍基地まで射程に収める弾道ミサイルの開発という平壌の宣伝文句が空しくなるほどの結果だったのだ。 弾道ミサイルを開発し、核搭載ミサイルで米本土を攻撃すると豪語した金正恩労働党委員長に対し、米国は電子戦を展開させ、軍事力の差を示したわけだ。今回のミサイル発射失敗も同じ理由が考えられるのだ(「米軍の電子戦で『ムスダン』は不能?」2016年10月21日参考)。 ちなみに、米軍は80機の戦闘機を運ぶ米原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島近海に派遣する一方、トマホーク巡航ミサイルを発射できる駆逐艦2隻のうち1隻は現在、朝鮮半島から約480キロ離れたところで待機中だ。 正恩氏は面子を大きく失わない段階で挑発を中止すべきだ。さもなければ、トランプ氏は米海軍特殊部隊を動員させ、奇襲攻撃に出ざるを得なくなるのだ。なぜならば、「もし、……ならば」と繰り返し表明してきた立場上、トランプ氏は一旦手をつけた刀(武器)を容易に鞘に納めることはできないのだ。 トランプ氏と中国の習近平国家主席の間で対北政策で一定の合意が達成された兆候が見られる。米財務省は14日、中国を「為替操作国」に認定することを見送る一方、中国国際航空は17日から北京と北朝鮮の首都・平壌を結ぶ便の運航を停止するとともに、中国旅行社は北観光を全面中止するなど、人的交流の制限に乗り出してきているのだ。金正恩氏を取り巻く情勢は限りなく北に不利だ。 正恩氏もトランプ氏も世代は異なり、国は違うが、面子を重視する点で似ている。その上、両者とも「計算できない、予想外の言動をする人物」と受け取られていることだ。換言すれば、朝鮮半島の危機とは、武力衝突の危機というより、「計算できない、予想外の言動に走る」2人の指導者の“次の一手”が読めない危険性を意味しているわけだ。データ主義が席巻する21世紀の国際社会では、次の一手が予想できないというほど怖いことはないのだ。世界は今、この恐怖と対峙しているのだ。(公式ブログ「ウィーン発 『コンフィデンシャル』」より2017年4月17日分を転載)

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    安倍首相が外交の素人・トランプ大統領を頼る危険性と愚かさ

     トランプ政権の一貫しない外交に世界中が振り回されている。北朝鮮がミサイル発射を繰り返すなか、そのトランプ政権に頼る日本の安全保障政策は危険だと、ジャーナリストの落合信彦氏は指摘する。 * * * トランプ政権の外交政策での支離滅裂が凄まじい。つい最近、安倍(晋三首相)とゴルフ三昧の首脳会談を終えて「信頼関係」を築いたと語っていたが、その舌の根も乾かぬうちに、再び日本バッシングを始めているのだ。トランプの懐刀でアメリカ国家通商会議(NTC)のトップに指名されたピーター・ナヴァロは、3月の講演で次のように日本を批判した。「日本からアメリカへの2日分の自動車輸出が、アメリカから日本への輸出の1年分より多い」 アメリカ車が消費者にとって魅力のない商品であることを棚に上げて、“日本はもっと車を輸入しろ”というのだ。何よりも、外交が一貫しない国は信頼されないということを、トランプは理解していないようだ。 トランプは当選直後に台湾総統の蔡英文と異例の電話会談をした。そのことは「1つの中国」と主張している習近平を揺さぶったが、今度は4月に仲良く米中首脳会談を行うというのである。 ビジネスの現場でカネのことばかり考えてきたトランプは、外交についてはまったくの素人だ。だからその場しのぎの外交を繰り出してくるのである。問題なのは、安倍が、そんな一貫しない国のトップを全面的に頼っていることだ。 3月上旬、北朝鮮が4発の弾道ミサイルを連射して秋田県沖の日本のEEZ(排他的経済水域)に着弾させた。それを受けて安倍は緊急でトランプと25分間にわたって電話会談した。安倍はトランプから「アメリカは日本を100%守る」と言われ、官邸は大喜びしたという。電話会談の内容はすぐに新聞記者たちにリークされた。官邸に入る安倍晋三首相=2017年4月7日、首相官邸(斎藤良雄撮影) しかし、トランプの「守る」という口約束を聞いて喜んでいる場合ではない。今の“一貫しないアメリカ”に頼るのは、愚かなのだ。 実際に北朝鮮から我が国に向けてミサイルが発射されたら、日本は自らの手で国土と国民を守るしかない。国会では森友学園とやらの「土地疑惑」が盛り上がって多くの時間が割かれている。防衛相の稲田朋美は自らの立場を“防衛”することに必死で国を守ることは何も考えていない。国家の安全が問われている今、いつまでもあのような矮小な議論をしている場合ではないはずだ。 日本政府・外務省は、北朝鮮の暴挙に対し「遺憾である」「断固とした措置をとる」「厳しく対応する」とお決まりのフレーズを繰り返している。彼らは日本国民がミサイルで殺されても、同じ言葉を発するつもりなのだろうか。 私は、金正恩は地上のミサイル迎撃体制が手薄な大阪周辺や九州をまず狙ってくるとみている。3月のように何発も一度にミサイルを発射されてイージス艦による高高度迎撃で撃ち漏らした場合、地上の“最終迎撃手段”であるPAC3で対処することになる。だが、その射程範囲はわずか20kmと狭い。 首都圏では、市ヶ谷の防衛省本部や練馬の朝霞駐屯地、千葉の習志野駐屯地にPAC3が配備されて人口密集地がカバーされているが、大阪などではそれが手薄なのだ。人口が多い都市では1発着弾しただけでも、多大な犠牲が出るだろう。 安倍はその責任をとって総理大臣を辞めたら、トランプの会社に雇ってもらうつもりなのではないか。安倍がトランプを全面的に頼っている姿を見ると、そうとしか思えない。関連記事■ 日中軍事力 総兵力:23万人/224万人、民兵:0/800万人■ 【ジョーク】金正男から金正恩にメール「TDL破壊しないで」■ 史上最も長生きは仏人女性の122歳 117歳まで喫煙していた■ 落合信彦氏 中国が軍事で米に挑んでも現状はお話にならない■ 北朝鮮 米韓怖いから日本だけミサイル攻撃すると大前研一氏

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    トランプ大統領は北朝鮮を攻撃するのか?

    小谷哲男(日本国際問題研究所 主任研究員) 北朝鮮情勢が緊迫度を増している。米東部時間の4月13日夜、米NBCニュースが、トランプ政権内が、北朝鮮が6度目の核実験を実施する兆候がみられれば、「先制攻撃」を行う準備をしていると伝えた。朝鮮半島近海に呼び戻されている空母打撃群に加えて、トマホーク対地攻撃巡航ミサイルを搭載した駆逐艦が朝鮮半島近海に配備され、グアムでも戦略爆撃機が待機中という内容だが、ホワイトハウスはこのNBCの報道を否定した。米国の攻撃に対しては徹底抗戦する姿勢 4月11日に開幕した北朝鮮の最高人民会議では、核開発の推進などに関する法整備が議題に上がらず、20年ぶりに外交委員会を設置するなど、外交を強化する姿勢を見せている。他方、北朝鮮は、シリア空爆に関する声明で、自らの核開発による自衛力の強化が「正当」だったことが証明されたとし、米国の攻撃に対しては徹底抗戦する姿勢を維持している。 北朝鮮分析サイト「38ノース」によれば、北朝鮮北東部の豊渓里の核実験場ではすでに実験の準備が整っており、故金日成主席の生誕105周年である4月15日の午前にも実験を行うとの情報もある。4月25日は朝鮮人民軍創建85周年で、今後もミサイル実験など挑発が続くことが予想される。 では、トランプ政権は、本当に北朝鮮に軍事力を行使するのだろうか。まず、トランプ大統領が北朝鮮問題を安全保障上の最優先課題の1つと考えていることは間違いない。オバマ前大統領からの引き継ぎを受けた際、最初の案件が北朝鮮問題で、トランプ大統領はこの時に状況の深刻さに気づいたと言われている。このため、当初情報機関によるブリーフィングを受けることに難色を示していたが、少なくとも北朝鮮情勢については聞く耳を持つようになったらしい。 次に、トランプ政権は発足後に北朝鮮政策の見直しを行い、20年以上にわたる北朝鮮の非核化は「失敗」したと結論づけ、非核化の意思を示さない限り対話に応じないというオバマ政権時代の「戦略的忍耐」も終わったとしている。政策見直しの中で、長距離弾道ミサイルの発射実験をレッドラインとみなしていると一部報道されたが、公式な方針となっているかどうかは不明だ。政権内部からは、軍事的手段はあくまで最後の手段で、まずは中国に本気で北朝鮮を止めさせることが最優先で、そのために早期の米中首脳会談に応じたという声も聞こえる。 他方、米太平洋軍では、北朝鮮攻撃のシミュレーションが繰り返され、その準備が着々と進められているという。その中には、ミサイル等による外科手術的な空爆だけではなく、サイバー攻撃や、特殊部隊による作戦も含まれているようだ。ただ、「斬首」作戦が含まれているかどうかは今のところ確証がない。レッドラインがレッドカーペットに トランプ大統領はツイッターで「中国が行動しなければ、同盟国と行動する」とつぶやいている。このため、少なくとも日韓との事前協議なしに単独行動を行う可能性は低い。だが、米側が事前協議で日韓の同意を求めるのか、あるいは同意なしでも攻撃を行うのかどうかは不明だ。中国の習近平国家主席との首脳会談で話すトランプ米大統領=4月7日、米パームビーチ(AP=共同) 最大の問題は、米軍が北朝鮮を攻撃した場合、北朝鮮が米軍基地のある日韓に対して報復する可能性が非常に高いことだ。このため、日韓としては米軍による北朝鮮への先制攻撃を支持することに慎重にならざるを得ない。 1994年にクリントン政権が北朝鮮空爆を検討した際、米軍は90日間で米軍5万2000人、韓国軍49万人が死亡、民間人の死者も100万人を超え(そのうち在韓米国人8-10万人)、被害総額は1兆ドルと推定したため、大統領は空爆を決断することができなかった。当時の韓国政府も空爆に反対した。 なお、当時の日本は55年体制崩壊後の政治の混乱のまっただ中にあり、米軍から補給、機雷掃海、情報収集、護衛、船舶検査など1900項目に及ぶ協力依頼が来ても、集団的自衛権の行使に当たるため応じられず、米側を失望させた。レッドラインがレッドカーペットに 北朝鮮が日韓に対する報復能力を持つため、米国は北朝鮮に対して何度レッドラインを設定しても、結局は軍事的手段を行使できなかった。このため、専門家の間では、レッドラインが“レッドカーペット”になったと自虐的に言われている。トランプ政権にとっても、北朝鮮に対してレッドラインを設定するのは容易なことではない。北朝鮮は自らの報復能力にますます自信を深め、米軍の攻撃を抑止できると考えて、核ミサイル開発を強行しているのだ。 トランプ政権による北朝鮮政策の見直しは完了したと伝えられているが、その中身は不明だ。おそらく、北朝鮮が米本土を核攻撃できる能力の保有を阻止することが柱の1つだろう。そのために軍事力の行使も辞さない構えを見せながら、中国への働きかけと、北朝鮮への圧力を強めているのだろう。しかし、中国がかつてほど北朝鮮に大きな政治的影響力を持っていない可能性は高く、また中国企業を対象とした経済制裁を行ったとしても、その効力が現れるには時間がかかる。米国単独の外科手術的な軍事力の行使を検討するだけでは不十分 他方、北朝鮮の戦略目標もこの20年で変化した。当初、北朝鮮は核兵器開発を放棄するのと引き換えに、体制の保障と経済支援を求めてきた。しかし、今の北朝鮮は、国際社会に自らを核保有国であることを認めさせた上で、米国との一種の核軍備管理交渉を目指していると考えられる。それによって北朝鮮は生き残ろうとしているのであり、米国を交渉に引きずり出すためには、米本土を核攻撃できる能力を持つことは不可欠なのだ。 トランプ政権は「力による平和」を掲げる。それはオバマ政権には欠けていたことだったし、オバマ政権が軍事力の行使に慎重でありすぎたことが、今日の安全保障環境を悪化させたとするトランプ政権の認識もある程度正しい。しかし、トランプ政権には安全保障に関する全体的な戦略が描けていない。仮に、戦略もなく、軍事力の行使を脅しのために使っても、これまでのレッドカーペットをさらに長くするだけだ。一方、事態の打開のために北朝鮮に対して空爆を行えば、大きな被害と混乱を北東アジアにもたらすだろう。米国単独の外科手術的な軍事力の行使を検討するだけでは不十分 北朝鮮の非核化を実現するためには、米国単独の外科手術的な軍事力の行使を検討するだけでは不十分だ。まずは、日米韓が北朝鮮を核保有国として認めないことを確認し、その上で、金正恩体制を維持するのか取り除くのかという戦略目標を検討しなければならない。さらに、実践可能なレッドラインを設定し、北朝鮮がレッドラインを越えた場合に備えた共同作戦計画も必要だ。もちろん、北朝鮮による報復への備えに加えて、紛争後の構想、非戦闘員の避難、難民対策など、この20年の宿題も早急にこなさなくてはならない。 北朝鮮以外のどの国も現状維持を望んでおり、北朝鮮に対する本格的な武力行使など考えたくもないだろう。混乱する韓国の国内情勢と、日韓関係の現状では日米韓の連携が難しいことは明らかだ。しかし、これこそが北朝鮮の望んでいる環境だ。日米韓が一体となって北朝鮮の非核化のためにリスクを取る覚悟を示さない限り、中国の協力を引き出し、北朝鮮に核開発を放棄させることはできない。

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    早晩、日本に「金正恩後の朝鮮半島」を考える局面が来る

    櫻田淳(東洋学園大学教授)中国の役割は火薬庫点火の阻止 北朝鮮情勢の「緊迫」が語られている。ただし、忘れてならないのは、「火薬庫に火薬を運び込む」のと「火薬庫の中で火を付ける」のとでは、持つ意味は異なるという事実である。 カール・ヴィンソン空母打撃群急派を含めて米国が示した直近の対応は、「有事」を想定して「火薬庫に火薬を運び込む」類いの挙であるかもしれないけれども、それでも、「火薬庫の中で火を付ける」類いの挙ではない。結局のところ、「火薬庫の中で火を付ける」のは、北朝鮮の対応である。 北朝鮮が再び核実験に走るか、金正男氏暗殺と同様に化学兵器を再び使用するか、あるいは日米両国を含む他国領域内に着弾するミサイルを発射するかでもしない限りは、朝鮮半島周辺では「有事」は起きない。逆にいえば、この3つのどれかに北朝鮮が手を掛けた場合には、それが「火薬庫の中で火を付ける」振る舞いとなる。 先刻の米中首脳会談の折、シリア空爆決行を含めてドナルド・J・トランプ米国大統領が習近平中国国家主席に示した姿勢の意味とは、そうした米国の対朝政策方針だけではなく、北朝鮮の「火を付ける」挙を制止する第一の責任が中国にあると伝えたことにある。夕食会のためトランプ米大統領(中央右)夫妻に出迎えられる中国の習近平国家主席(中央左)夫妻=4月6日、米フロリダ州パームビーチ(ロイター=共同) 以上に披露した筆者の観測が正しいならば、日本政府の対応として考慮しなければならないのは、次の2点である。意義のある敵基地攻撃議論 第1に、北朝鮮が実際に「火を付ける」挙に及んだ場合に手掛けるべき事柄については、早急に見極めを付ける必要がある。当然、その中核を占めるのは、日米同盟の枠組みで何ができるのかという議論であろう。 たとえば、過刻、自民党は、自衛隊の敵基地攻撃能力保有を求める提言を出した。この政策展開の実際の「有効性」については、諸々(もろもろ)の評価がある。しかし、確認さるべきは、自衛隊が敵基地攻撃能力を保有したとしても、それを自衛隊が単独で行使することは考え難いということである。 戦国の故事に例えれば、自衛隊(徳川家康軍)が米軍(織田信長軍)との関係で踏襲すべきは、織田、徳川両軍の万全の協調の下に臨むことができた「姉川」「設楽ケ原」の両戦役の様態であって、徳川軍が織田軍の十分な来援を得ないままに戦端を開いた「三方ケ原」の戦役の様態ではない。 「清洲(織田・徳川)同盟」の下での徳川軍のように、日本が米国の「ジュニア・パートナー」であっても、対等な役割を引き受ける流儀を模索できるのであれば、敵基地攻撃能力保有に絡む議論に相応の意義がある。現下の北朝鮮情勢は、そのための奇貨かもしれない。今後の半島の可能性を吟味せよ 第2に、金正恩体制の今後を含めて朝鮮半島の将来に係る構想は、日本としても準備しておく必要がある。米国政府は、「金正恩体制の転換を求めない」と既に表明しているけれども、それは、対朝宥和(ゆうわ)の表明ではなく、「体制転換の結果、中朝国境が混乱する事態はあえて起こさない。ただし、中国は確実に北朝鮮に圧力を加えよ」ということを趣旨とする対中督促の意味合いが濃い。 米国政府は、「体制転換を求めない」としたところで、現状のままでは北朝鮮が望むような「直接交渉」に応じる余地は、皆無であろう。中国政府は、金正恩体制を国際社会の規範に恭順させる趣旨での「6カ国協議」の枠組みの復活を期待している節があるけれども、過去二十数年に及ぶ北朝鮮の背信に接した日米両国には、そうした政策方針は受けいれ難いであろう。今後の半島の可能性を吟味せよ 早晩、日本にとっても、「金正恩後の朝鮮半島」を考える局面が来るのではなかろうか。これに関して、米中両国の一部には、米中協調の上で朝鮮半島の「非核化・非金正恩化」を経つつ、朝鮮半島統一を実現させ、その後の朝鮮半島全域を中国の影響下に置くという構想が語られているようである。北朝鮮への対処を主導するのが中国であるという見地に立てば、こうした「米中談合」論はあながち荒唐無稽だともいえまい。 しかしながら、日本としては、朝鮮半島の北半分に関しては「中国の差配に委ねても構わない」と応じることはできるかもしれないけれども、朝鮮半島全域が中国の影響下に置かれる事態は到底、容認できまい。それは、日本の防衛線が「38度線」から「対馬海峡」に後退する事態を意味するからである。そうでなければ、最低限でも、「朝鮮半島全域が中国の影響下に入るのを認める代わりに、尖閣諸島・竹島を含む日本領には一切の脅威を与えない」旨、中国に確約させるかである。こうした一つ一つの「可能性」を吟味する議論こそが、現下の日本には要請されているのではなかろうか。 日本の安全保障政策論議には、「病が重篤になってから慌てて病院に行く」風情が漂っている。慌てた議論は、往々にして「火事見たさ」の議論に重なる。どちらも無益な議論である。

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    トランプの狙いは空爆ではなく、金正恩「統治資金」の全面凍結だった

    あったとして、軍事行動を含む全ての手段をテーブルに載せて検討すると繰り返し表明している。それに対して北朝鮮は米国の侵略は許さない、先制核攻撃も辞さないと緊張を高めている。当面の焦点は4月15日の金日成生誕記念日前後核実験や大陸間弾道ミサイルの発射実験を行うかどうかだ。 私は4月上旬に訪韓し、北朝鮮内部と連絡を取り合っている複数の脱北者らから以下の内部情報を聞いた。1. 金正恩は中国と交渉するつもりはない。潜在的な敵国と考えている。2. 早くアメリカ本土まで届く核ミサイルを完成させよと、金正恩が命令した。そのため、昨年から今年にかけて繰り返しミサイル実験をしているが7割から8割は失敗した。それでも少しづつ技術開発は進んでいる。3. 金正恩は4月15日の前に核実験の準備は完了せよと命じた。それは完了している。弾道化した核兵器の実験だ。これまでの実験に比してかなり爆発力が大きい。100メガトンクラスだ。これが成功すれば弾頭は完成する。4. 米国と交渉をしたいと、密使を送って、「米国の要求をのむ」と伝えている。しかし、米国は「言葉ではなく行動を示せ」と返事して交渉に応じていない。5. 金正恩の狙いは、最初に米国と交渉することだ。米国に核保有国として認めさせた上で、経済制裁を解除させることを考えている。6. それがうまくいった後、日本と交渉し小泉首相が金正日に約束した100億ドルを得る。そして、大規模な外資を誘致することを狙っている。 一方、米国内にも北朝鮮との「取引」を提案するリベラル派の意見が出てきた。外交問題の専門誌『フォーリン・アフェアーズ』の発行元である「外交評議会」のリチャード・ハース会長は3月17日付け論文で北朝鮮との取引しかないと主張した。「ミサイル防衛は不完全であり、抑止は不確実だ」、軍事攻撃は多大な報復を受ける韓国政府が反対する、残された選択は「取引」しかない。平壌で高層住宅団地の竣工式に出席した金正恩朝鮮労働党委員長(中央)=4月13日(ロイター) 北朝鮮に対して核ミサイル開発の「凍結」と核物質の不拡散、それを検証するための国際査察の受け入れを求める。彼らがその条件を受け入れすなら、米国は制裁を緩和し、人権問題を棚投げして平和条約を結ぶ、というものだ。 上記の金正恩の狙いに合致する内容だ。このような融和論が出るから、金正恩は勇気を得るのだろう。 日本にとってこの取引は最悪だ。米国まで届く核ミサイル開発は凍結されるが日本を射程に入れた核ミサイルは完成しているので安全保障上、重大な危機となる。その上、拉致問題を棚上げにして米国が制裁緩和と平和条約締結に踏み切れば、核問題での国際圧力をてこに拉致問題の先行解決を目指すという安倍政権と私たち家族会・救う会の救出戦略がほぼ不可能になる。 ただし、金正恩は今、米国まで届く核ミサイルを完成させるために必死の努力をしている。あと1回核実験をすれば弾頭は完成する。大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイルも完成間近だ。まず、それを完成させてから米国との「取引」に臨むことが彼らの当面の目標だろう。韓国を占領する奇襲南侵作戦 金正恩にとって米国まで届く核ミサイル保有は、単なる取引の材料ではない。祖父金日成が立てた対南赤化戦略の支柱なのだ。したがって、ハース会長が言うような「核ミサイル開発の凍結」を金正恩が約束したとしたら、それは詐欺だ。金正日がそうしたように、口では約束をして制裁解除や支援を得ながら、隠れて開発を続けるだろう。 私がそのように確信するに至ったのは次の経験があるからだ。1998年北朝鮮がテポドン1を発射したとき、私は当時韓国の空軍大学教授だった李チョルス氏に会いに行った。彼は1996年ミグ19に乗って韓国に亡命した元北朝鮮人民軍のパイロットだ。私は李元大尉に北朝鮮軍の戦略の中で核ミサイルはどの様な位置づけをされているのかと質問した。すると彼は私の顔をじろじろと見つめながら「あなたは本当に北朝鮮問題の専門家ですか。なぜ、このような基礎的なことを尋ねるのですか」と言いながら次のように語った。 「自分たち北朝鮮軍人は士官学校に入ったときから現在まで、ずっと同じことを教わってきた。1950年に始まった第1次朝鮮戦争で勝てなかったのは在日米軍基地のせいだ。あのとき、奇襲攻撃は成功したが、在日米軍基地からの空爆と武器弾薬の補給、米軍精鋭部隊の派兵などのために半島全域の占領ができなかった。第2次朝鮮戦争で勝って半島全体を併呑するためには米本土から援軍がくるまで、1週間程度韓国内の韓国軍と米軍の基地だけでなく、在日米軍基地を使用不可能にすることが肝要だ。そのために、射程の長いミサイルを実戦配備している。また、人民軍偵察局や党の工作員による韓国と日本の基地へのテロ攻撃も準備している」 彼はすでに1992年金正日が命じて北朝鮮人民軍は対南奇襲作戦計画を完成させていると話した。李元大尉の亡命の翌年、1997年に労働党幹部の黄長燁氏が亡命した。黄長燁氏がその作戦計画について次のように詳しく証言している。北朝鮮の3月7日付労働新聞が掲載した、4発の弾道ミサイル同時発射の写真(共同) 1991年12月に最高司令官となった金正日は人民軍作戦組に1週間で韓国を占領する奇襲南侵作戦を立てよと命じ、よく92年にそれが完成した。金正日は作戦実行を金日成に提案したが、経済再建が先だと斥けられた。当時まだ核ミサイルが完成していなかったことも金日成を躊躇させた理由の一つと考えられる。 作戦の中身は、概略以下の通りだ。北朝鮮は石油も食糧も十分備蓄できていないから、韓国を併呑する戦争は短期決戦しかない。1週間で釜山まで占領する。まず、韓国内の米韓軍の主要基地を長距離砲、ロケット砲、スカッドミサイルなどで攻撃し、同時にレーダーに捕まりにくい木造のAN2機、潜水艦・潜水艇、トンネルを使って特殊部隊を韓国に侵入させて韓国内の基地を襲う。在日米軍基地にもミサイルと特殊部隊による直接攻撃をかける。 それと同時に、米国にこれは民族内部の問題であって米軍を介入させるなと、また、日本に在日米軍基地から米軍の朝鮮半島への出撃を認めるな、それをするなら核ミサイル攻撃をするぞと脅すというのだ。韓国内に構築した地下組織を使い大規模な反米、反日暴動を起こしながら核ミサイルで脅せば、米国と日本の国民がなぜ、反米、反日の韓国のために自分たちが核攻撃の危険にさらされなければならないかと脅迫に応じる可能性があると彼らは見ている。中国にちらつかせる劇薬 金日成は1970年代、工作員を集めて「祖国統一問題は米国との戦いである。米国は2度の世界戦争に参戦しながら、1発も本土攻撃を受けていない。もし、われわれが1発でも撃ち込めば、彼らは慌てふためいて手を挙げるに決まっている」と教示している。国民の被害に弱い民主国家の弱点を突こうという一種のテロ戦略だ。首脳会談に向かう「エアフォースワン」の機内で、中国への不満をぶちまけたトランプ氏=4月6日(ロイター) トランプ政権は韓国とその周辺海域で大規模な軍事演習を行ない、空母艦隊を北朝鮮近海に送るなど、いまのところ「取引」ではなく、圧力をかけることを選択している。先制攻撃、特に特殊部隊による金正恩暗殺作戦を実行するのではないかと、ここ数日、日本のマスコミを賑わしている。しかし、すぐに軍事攻撃はしないだろう。中国に対して制裁の徹底的強化を求めるという非軍事的手段がまだ残っているからだ。 核ミサイル関連部品、素材を中国が国連制裁を破って秘密に提供しているという情報が多くある。米国の情報機関はそのことについて具体的に調べてきた。それを止めさせることと、核ミサイル開発と金正恩の政権維持に欠かせない外貨を止めることが当面の目標だ。 北朝鮮は金正日時代に労働党39号室を作って、政府が主導する社会主義計画経済の外に金正日が自由に使える「統治資金」を管理した。80年代から90年代にかけて朝鮮総連が送った多額の外貨がその資金源となった。武器や麻薬販売資金、人民から毎年上納させる「忠誠の証し資金」(国内の住民には砂金などで上納させ、海外勤務者には外貨を求める)などで集められた外貨をスイスなどの銀行の隠し口座で管理していた。ブッシュ政権がそのことに気づき、金融制裁をかけたので、彼らは口座の多くを中国に移したといわれている。 今回、トランプ政権は中国の外為専門銀行である中国銀行など10以上の金融機関に対して米国と取引を出来なくする制裁を準備していると聞く。それが発動されれば、中国銀行は外為業務が出来なくなり、事実上、倒産するとさえ言われている劇薬だ。その劇薬をちらつかせながら、トランプは習近平に圧力をかけている。まずはその結果をみることが、トランプ政権の当面の考えだろう。  

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    【独占スクープ】安倍首相は「金正恩包囲網」をトランプに助言した

    訴えた。彼らは日本の真珠湾攻撃で尊敬と人生を失った。 トランプ大統領は、シリアへの巡航ミサイル攻撃と北朝鮮の核開発阻止で「孤立主義」を捨て、「干渉主義(国際主義)」に舵を切った。習近平主席に、北朝鮮の核開発阻止への協力を約束させた手腕はなかなかのものだ。 トランプ大統領は米中首脳会談の前後に安倍晋三首相と電話会談し、対北朝鮮政策について協議した。二人は、北朝鮮を核放棄に追い詰めるため「対北石油全面禁輸」が効果的と合意し、習主席に協力を求めた。米フロリダ州パームビーチの高級別荘「マールアラーゴ」で中国の習近平国家主席(左)を歓迎するトランプ米大統領=4月6日(ロイター=共同) 北朝鮮はアジアで最も石油のない国である。この問題の重要さに多くの人は気がついていない。北朝鮮の年間の石油輸入量は、最大でも70万トンである。この90%は中国が供給している。日本の自衛隊が年間消費する石油は年間150万トンに達する。その半分以下では全面戦争はできない。 石油の全面禁輸に踏み切れば、北朝鮮の軍隊は崩壊する。戦車は走らないし、戦闘機は飛ばないし、海軍艦艇も動かない。北朝鮮は軍隊が支える国家である。石油が切れれば、体制は崩壊に向かう。 だが米国と中国のメディアは、12日の米中首脳電話会談で「北朝鮮が核実験とミサイル実験に踏み切れば、中国は石油禁輸を実行する」意向を習主席が伝えたと報じた。画期的な政策転換だ。 トランプ大統領は「中国が問題を解決すれば最高だが、ダメなら中国抜きで問題を解決する」と明らかにしていた。このため、航空母艦や巡航ミサイルを発射する海軍艦艇を朝鮮半島周辺に配備した。 中国は、米中首脳会談の内容をすでに金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に伝えた。北朝鮮はどう出るか。北朝鮮は、4月15日の金日成主席生誕105周年のお祝いムードに満ちている。この祭典に彩りを添えるには、「打ち上げ花火」のミサイル発射と、「仕掛け花火」の核実験は不可欠だ。米国と中国の圧力に屈して、実験を中止すれば指導者の権威と正統性が疑われる。金委員長は最大のジレンマに直面している。実はかなり弱気な北朝鮮の対応 米国は核施設とミサイル施設への限定攻撃について、「北朝鮮は米国に届く核とミサイルを保有している、と明言した」から、「米国への重大な脅威だ」と説明するだろう。しかも攻撃は潜水艦や空母などの艦船から行われ、在韓米軍基地や在日米軍基地は使わない。とすると、北朝鮮は韓国を攻撃する法的理由に欠ける。 金委員長が核実験に踏み切っても、トランプ大統領は限定攻撃できないと判断すれば、ミサイルと核の実験が行われる。どう判断するのか。米国が核施設を単独攻撃すれば、在韓米軍基地や在日米軍基地への報復が予想され、被害を無視できないとの指摘がある。その可能性は否定できない。ただ、70万トン程度の石油では全面戦争はできない。 北朝鮮が最も恐れるのは全面戦争だ。もし在韓米軍基地や在日米軍基地を報復攻撃すれば、米国は全面的攻撃を行う。限定攻撃の際には、北朝鮮の連絡網や指揮伝達の回線やコンピューターも使用不能になる。反撃は簡単でない。 ティラーソン米国務長官は、12日にロシアを訪問しプーチン大統領とも会見したが、露首脳は北朝鮮への米国の限定軍事攻撃に、反対の立場を明らかにしなかった。習主席も電話会談で「平和的な解決」を求めたが、「軍事攻撃反対」とは言わなかった。習主席に近い人民大学国際関係学院の時殷弘教授が、昨年9月に「米国が核施設だけの攻撃で、金委員長に影響がなければ中国は黙認する」と述べたと、台湾の中国時報が伝えていた。金委員長に対する中国の冷たい雰囲気が反映されている。金委員長は習近平主席に何度も招待状を送ったが、全く返事がない。 「石油禁輸」は、安倍首相がトランプ大統領に強くアドバイスした戦略である。安倍首相は、北朝鮮への効果的な制裁策を聞かれ、「中国の対北石油全面禁輸」を伝えた。2月10日、ワシントンのホワイトハウスでトランプ米大統領(左)の出迎えを受ける安倍首相(ロイター=共同) 実は、北朝鮮の対応はかなり弱気だ。米国のシリア攻撃直後には、外務省スポークスマン談話で米国を激しく非難し、「核武力強化は正しかった」と述べた。ところがその後は沈黙を守り、4月11日に10カ月ぶりに開かれた最高人民会議でも、米国非難はもとより日米韓三国に言及すらしなかった。米単独攻撃阻止へ追い込まれる金正恩 金日成主席生誕105周年の祝典を宣伝するため、北朝鮮は海外のテレビメディアと通信社を平壌に招いた。金委員長が、13日に行われた平壌目抜き通りの建設完成式典に登場し、海外のテレビ局に平穏な姿を報道させた。この式典で、朴奉珠(パク・ポンジュ)首相が脈絡のない演説で「(この建設完成は)何百発の核爆発よりも効果がある」と述べた。この言葉に、今回は核実験をしない北朝鮮の立場を米中に伝えたのではないかとの観測が出ている。高層住宅団地の竣工式に到着した金正恩朝鮮労働党委員長(右)=4月13日、平壌(AP=共同) 米国は単独攻撃の前に、在韓米軍兵士の家族を帰国させる必要がある。米国民の犠牲を避けるためだ。その動きがない限り、攻撃はない。 韓国もまたトランプ戦略に驚愕している。5月の大統領選で、当選確実と言われた左派の文在寅氏の支持率が急落し、中道左派の安哲秀氏に追いつかれている。文氏の陣営は混乱し政策の変更を行ったが、当選の見通しは一時より後退した。 トランプ大統領は朝鮮半島の危機を演出しながら、韓国の大統領代行とは電話会談もしない。韓国では「米大統領と話し合えない大統領は役に立たない」との空気が広がっている。 北朝鮮はどうするのか。米単独攻撃を阻止できる方策は、南北対話と米朝対話、日朝交渉しかない。米国の軍事攻撃が高まると、北朝鮮は過去にも対話戦略に切り替えた。今回も南北対話や米朝対話を模索するだろうが、韓国は次期大統領次第だ。米国は応じない。残るは日本だ。小泉純一郎首相との日朝首脳会談も、米大統領が「軍事攻撃を排除しない」と明言したから、実現した。 北朝鮮は、今年になって秘密警察の国家保衛省に対日担当の要員を増員し、新たな部局を設置した。これまでは2、3人しかいなかったのに、20人前後に拡大したという。かつての日朝首脳会談も、国家保衛省の担当だった。北朝鮮はトランプ大統領の単独軍事行動を避けるために、日朝首脳会談を模索せざるを得なくなる。

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    北朝鮮空爆「Xデー」の裏側を読む

    米軍による北朝鮮空爆は有り得るのか。緊迫を増す朝鮮半島情勢。4月15日は故金日成主席の生誕105周年に当たり、6度目となる核実験への懸念も広がる。「ワシントンの戦略的忍耐は終わった」。単独攻撃を示唆したトランプの本気度、そして秒読み段階に入った「Xデー」の裏側を読む。

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    トランプが「北朝鮮攻撃命令」を出すタイミングはここしかない!

    界の多くの人々にとって朗報になることは間違いないであろう。だが、それは米国が決して油断することなく、北朝鮮に対する「だらだら攻撃」(後ほど詳述)を遂行できれば、とも付言しておきたい。 一つ気掛かりなのは、トランプ米大統領が「いま北朝鮮を崩壊させておくことの意義」をどこまで理解しているかどうかである。彼は中東人の考え方はある程度呑み込んでいるものの、儒教圏(中国共産党および朝鮮半島)のことはサッパリ分かっていない。そこからは、もう一つの疑問も生じる。トランプ政権内には、金正恩体制を打倒するための巧妙な策を考えてきた人物など一人もいやしないのではないか――もしそうだとすれば、そもそも朝鮮半島への関心などゼロに近かったトランプ氏にとって、北朝鮮への「攻撃命令」を出す前にその胸中に迷いが生じても当然であろう。エアフォースワンから降りるトランプ大統領=2017年4月13日、フロリダ州(AP) かれこれ総合的に判断すると、私は米軍がすぐには北朝鮮に攻撃を仕掛けない、いや仕掛けられないだろうと疑っている(この論考を書き上げた4月14日時点での判断である)。きっかけがなければ「攻撃」できない米国 朝鮮戦争の休戦以降、歴代の米国政権は、北朝鮮をどうすることもできなかった。それには立派な理由があった。北朝鮮は、第三者を納得させられるような理由なしに米国人を狙って殺害する「国家後援テロ」を実行していないからである。したがって、米国から見た北朝鮮は、革命後のイランや核武装後のパキスタンよりも、米国側からの攻撃(コマンドー作戦やキラー・ドローン空爆をも含む)を仕掛け難い対象だったと言える。特殊な有人偵察機(SR-71など)を使った強行領空侵犯ぐらいが、せいぜい軍事的にできることの限界であった。 米指導層はホメイニ革命後のイランを甚(はなは)だしく憎む。その憎しみの強さは対北朝鮮の比ではない。それでも米政府は、イランに思い切った軍事攻撃を仕掛けることはできない。なぜなら、米側からの戦争開始を国際慣習法的に正当化できるような「きっかけ」をイランが一貫して与えてくれないからだ。 1979年のテヘラン米大使館占領事件は、いかにも米国の上下を憤慨させた大事件であった。けれども、人質とされた米国籍の大使館員たちは結局、1人も殺されずに解放された。だから、事件発生直後の即決リアクションとしてならばともかく、事件発生から数十日も経過してしまった後では「開戦」の大義名分を掲げにくくなった(ただ、米国民のフラストレーションは、宥和主義者、ジミー・カーターを大統領選挙で大惨敗させてホワイトハウスから逐い出すことに焦点を結ぶ)。 2003年に米国がイラク全土を占領する作戦を発起した時のジョージ・W・ブッシュ大統領による決断材料の一つには、湾岸戦争で敗退したサダム・フセインが、その私的復讐として父親であるブッシュ元大統領個人を暗殺しようとしたプロット(筋書き)の認定があったと推量される。米指導層の要人を意図的に殺害しようとする露骨な反米テロ国家に対しては、米政府および連邦議会として、いかなる容赦をする必要がなかったのである。 それならば、リビアのカダフィ政権は、なぜ2011年に転覆させられてしまったのか。北朝鮮政府はこれについての根本的な「勘違い」をしているようである。カダフィ政権は、北朝鮮が核武装努力の表向きの論拠としているように、米ソ冷戦末期に核武装を諦めてしまったがゆえに、米国によって倒されたわけではない。  2011年の米オバマ政権にとって、アラブ世界の非民主的体制はすべて気に入らない存在だったのである。その気に入らない政権が、国内動乱で崩壊しそうな兆しが見えたときに、その動乱の火焔にガソリンを注ぎかけてやる外交は、オバマ政権にとっては「安全・安価・有利」で、しかも「快楽」そのものだったのである。 同年に、やはり権力の座から引きずり降ろされたエジプトのムバラク政権もそうである。彼の場合もまた、米民主党政権内の「快感原則」が優先された。ホスニ・ムバラク大統領は、イラクのサダム・フセインのように大量破壊兵器の研究を命じたりなどしていない。逆に、イスラムテロ組織を弾圧することにかけては「有能」だった。オバマ時代の空母派遣と今回の類似 されども、オバマ政権にとっては、ムバラク政権は単に「非民主的」であり、彼の追放劇を見ることはこの上もない愉悦だったのである。 皮肉にも、現在のエジプト政権(2013年に宗教原理主義のモスレム同胞団政権をクーデターで打倒した軍事政権)が続けている、「国内反政府集団」に対する取り締まり、たとえば大量無期限留置や闇処刑などはムバラク時代と「人権無視度」において特段の隔たりはない。 しかし、「IS(イスラム国)」が世界を撹乱するようになって以後の米政権にとって、今のエジプトは黙認できる政体に評価が変わった。彼らが自国内のISやアルカイダ系の運動を弾圧することで、米国民を間接的に守っていると思えるからである(ただ、シナイ半島でイスラエルを困らせている点については今後大きな問題になるだろう)。オバマ時代の空母派遣と今回の類似 2010年のオバマ政権は、北朝鮮を「まだ放置しておいてよい国」と判断している。  回顧しよう。第1期オバマ政権の2年目にあたる2010年11月23日、北朝鮮軍が突如、韓国の延坪島を砲撃した。このときオバマ大統領は、朝鮮半島に米海軍の空母艦隊を向かわせる姿勢を「演出」したものの、何の攻撃も命じなかった。グアム島所在の戦略爆撃機の動きと同様、ただ西側のテレビのニュースショーに映像ネタを供給しただけだった。最初から「戦争する気などなかった」のである。 だが、オバマ氏にはその「余裕」が許された。彼の下には、北朝鮮が数年以内に「核弾頭付きICBM」を持つことなどは到底できやしないと確信に足り得るだけの情報が集まっていたからである。つまり「核兵器で米国を脅せるようになった北朝鮮の処分」という難題は、次の誰かの政権に先送りしてもよかったのである。 だが、トランプ氏には、問題の先送りが難しい。いくらなんでも、あと8年もあれば、初歩的な北朝鮮製のICBMが1基か数基ぐらいできたとしても不思議ではない。その弾頭はおそらく低出力(せいぜい数十キロトン)のできそこないの強化原爆で、上昇中にロケットが折れたり、大気圏再突入時に弾頭が燃え尽きたり、不発に終わったり、狙った大都市から大きく外れる蓋然性も高いだろう。トランプタワーを張り込む報道陣=2017年1月14日  メガトン級でないキロトン級のICBMが現代の大都市域を数十キロメートルも外れれば、与える損害はあっけないほどに小さくなる(だから1950年代の米戦略空軍は、メガトン級の水爆を重さ2トン未満に軽量小型化できる技術的見通しが得られるまでは、ICBMの配備など無意義であるとして当初開発を閑却していた)。しかし、想定リスクとしては、ニューヨーク市中心部に「トランプ・タワー」を構える米大統領が、無視を決め込むレベルではなくなっているのである。 もし、マンハッタンの上空1千メートルか、それ以下の高度で1発でも原爆が爆発すれば、トランプ大統領は、自身の本拠地であるマンハッタンをむざむざ人の住めない街にさせてしまった責任者として、米国史に汚名を刻んでしまうのである。 北朝鮮は、出力がメガトン級ながら重さ2トン未満の水爆を持ってはいない。そのような実験も当分できないだろう。核武装国であるインドやパキスタン、イスラエルですら、そんな高性能の水爆を開発できないのである。 個人的には、北朝鮮は広島、長崎級の実用原爆すらもまだ保有してはおらず、核分裂爆発実験は2006年10月に装置型を一度成功させたきりで、後の「地下実験」はすべてフィズル(過早破裂による不完爆)におわっているか、硝酸アンモニウム肥料爆薬を地下坑道で発破したフェイク(偽装地震波発生)であろうと見ている。しかし、本稿ではあえて流布されている宣伝や憶測に付き合うことにする。 北朝鮮が、出力数キロトンの原爆弾頭を、なんとか全重1トンに抑え、それを載せてかろうじてニューヨークまで届く多段式の弾道ミサイルの先端に、搭載できたものと仮定しよう(これは仮定の上に仮定を重ねた、技術相場値の上でほとんど考え難い想定であることはなおも強調しておく)。 実験試射であれ、実戦攻撃であれ、まず、その大型の弾道ミサイルを垂直に立てて発射しなければならない。ここで北朝鮮は、解決不可能な難問に直面してしまう。 トランプの「つぶやき」の真意は? トランプの「つぶやき」の真意は? トランプ氏は大統領に正式就任する直前の2017年1月3日に自身のツイッター上に「北朝鮮はさきごろ、米本土に到達できるひとつの核兵器の開発の最終段階だと声明した。そうはさせんよ(It won't happen!)」と書き込んだことがあるのを思い出してみよう。 あの時点で、軍事専門家の誰かがトランプ氏に「ICBMは中距離弾道弾とは違って巨大であり、おいそれと移動などはさせられない。そんなものが露天発射台に据えられようとした時点でわが偵察衛星は探知ができる。あなたが即座に空襲を命じれば、発射準備が整う前に確実に米軍からのミサイル空襲で爆破できる」とレクチャーをしたのではないかと、私は思っている。 すでに北朝鮮政府は「米国を核攻撃する」と何度も口先で脅している。いまさらそれは取り消せまい。そのあとで、たとえ試射用であろうとも、ICBMなどを発射台に据えたなら、米国はそれを即座に先制空爆して発射台ごと破壊してもいい事態が生じたと考えるだろう。そう、米有権者が完全に納得できる「開戦理由」である。ましてトランプ政権ならば、決行は確実だ。朝鮮中央テレビが放映した金正恩朝鮮労働党委員長の映像(共同) したがって北朝鮮は、露天発射方式ではない方式をなんとか工夫しない限り、米国を攻撃できるICBMを手にする日は永遠にやって来ない。 それならば「鉄道機動式」とすれば、どうであろうか。ロシアのような広大な国ならば、それは合理的オプションとしても足り得る。だが、北朝鮮のような狭い国で、既存線路の保線すらまままらなくなっている経済失敗国家であると、既存のレールをミサイル移動用に利用するにしても、新規に専用線を建設するにしても、その作業を米国の偵察衛星から隠すことはできない。 そうなると、残されている現実的な方法は、ICBMを最初から垂直に立てたままで、鉄道軌条の上をゆっくりと水平に移動させられるような、天井の非常に高い「横穴トンネル基地」を新たに整備して、山岳中の「垂直坑」からそのミサイルを奇襲的に発射するやり方以外にない。この大規模な大深度地下工事を米国家偵察局(NRO)のマルチスペクトラム偵察衛星(地下構造物までも見分けることができる)から隠して進めることも、おそらくは難しいだろう。 北朝鮮からニューヨーク市に届かせるのに必要な弾道弾の飛距離は、ロシアのICBM以上だ。ロシアよりも遅れた技術しか持っていない北朝鮮に、ICBMの全システムをロシアのように都合よくコンパクトにまとめることはできない。なかんずく、ICBMの全段を工場で組み立て終えて、燃料が入った状態で横に寝かせることなど北朝鮮には不可能なのである。 高さ30メートルか、それ以上もある縦長楕円形の横穴トンネルと、軌条と縦坑と台車の組み合わせでICBMを地下空間から発射できるようになるまでに、北朝鮮の土工能力ではまず「2年は必要」だろう。しかし、縦坑が一つだけでは最初から位置固定の硬化地下サイロと同じで、米軍が先制攻撃して潰してしまうことはたやすい。 垂直坑の生残性を高めるために、縦坑を複数化するとなれば、北朝鮮の工事能力では4年かかるかもしれない。(硬化地下サイロを複数設ける場合も同じ。米ソのICBM用の強化コンクリートサイロは、1基の工期が2年以上かかったとされている)巡航ミサイルが重宝されるのは理由がある これはトランプ氏にとっては朗報である。もし、トランプ氏が「2期目」を諦めるつもりならば、2010年のオバマ氏と同じ判断も可能だ。すなわち「空母艦隊は派遣してみせるが、北朝鮮空爆は命令しない」という結論である。 だが、もしトランプ氏が2期目も狙うのならば、そして歴史に汚名を残したくなければ、今のうちに「禍根」は断っておかねばならない。8年間も傍観すれば、地下発射施設が複数整備されてしまう恐れがあると、誰でも考えられるだろう。その間には、イランやその他の危ない国も、核武装に近づくかもしれない。ボヤボヤしている暇などないはずである。 では、具体的にはどんな方法があるだろうか。まず、ホワイトハウスの立場になって考えてみると、「空母からの空襲」はできるだけ避けたいオプションである。なぜなら、海面のロケーションがあまりにも悪すぎるからである。 黄海から作戦を決行すれば、中共領の大連海軍工廠や旅順軍港の目と鼻の先に米機動艦隊があちこちに航行することになる。中共は、漁船団の「海上民兵」を含めたあらゆる手段でそれに対して各種の妨害を加えるにきまっているだろう。さもないと中共中央が中共軍から激しく詰め寄られてしまうからだ。 ホワイトハウスは、攻撃が開始される前から中共との予期せぬトラブルに対応せねばならなくなる。そこから先の「詰め将棋の手」を考えるどころではなくなってしまうだろう。 日本海側から作戦する場合も、同じだ。そこはウラジオストック軍港から指呼の間である。おちぶれたりとはいえどもロシア海軍が、黙って傍観するわけがあろうか。黒海やバルト海で最近繰り返しているNATO艦艇へのイヤガラセを何倍にも強化したような、空・海からの妨害行動に出てくるであろう。 だからトランプ政権としては、対北朝鮮作戦に空母を使う気なんて最初から全くないだろうとわたしは考えている。対北鮮の有事において米空母艦隊に何か役目があるとすれば、それは真の攻撃軸から敵の目を逸らしておくための「囮(おとり)」、すなわち「陽動/陽攻」用としてだけだろう。しからば、派手な煙幕ではない主力の攻撃手段とは何なのか?巡航ミサイルが重宝される理由 中共やロシアからいっさい邪魔をされずに、北朝鮮の核施設とICBM発射台を奇襲的に破壊してしまえる手段としては、まず「潜水艦から発射する巡航ミサイル」に指を屈するのが穏当だ。ステルス爆撃機の「B-2」や、ステルス戦闘機「F-22」に空爆させるというオプションは、万が一にもその有人機が墜落したり、乗員が北朝鮮の捕虜になるというリスクが、政権1年目のトランプ氏としては、ほとんど受け入れ難いため、空母からの有人機による爆撃と同様に、選ばれることはないであろうとわたしは考える。 ところで、既往の戦例にかんがみれば、巡航ミサイルでは、敵の要人を爆殺することはまずできない。だからこれまで、アフリカや中東では、「巡航ミサイルは決着性にとぼしい兵器だ」と思われてきた。問題をなにも解決しないで、ただ、米政権が自己宣伝して自己満足するだけの道具なのだ――と。 実際、直近のシリアでも、シリア政府軍の航空機とその掩体壕等は正確に59発のトマホークで破壊されたけれども、基地機能そのものはじきに復活した模様である。あきらかに、巡航ミサイルだけでは、戦争は決着してはくれない。米軍の巡航ミサイル「トマホーク」(ロイター) しかし、トランプ政権がひとたび巡航ミサイルによる北鮮攻撃に踏み切れば、おそらく「金正恩体制は崩壊する」と、わたしは予言することができる。すなわち、こと、相手が北朝鮮である場合に関してのみ、米国の「巡航ミサイル主義」は、とても正しい。それがいずれ立証されるであろうと思う。 その理由を説明しよう。対地攻撃用の非核弾頭の巡航ミサイル「トマホーク」は、北朝鮮の核関連施設とICBM射場施設を、ほぼ2日のうちにすべて機能停止させるであろう。(第一波の攻撃終了後、日の出後の偵察衛星写真によって破壊状況を判定して、念を入れて第二波攻撃を加える必要がある。よって1日では片付かぬ) しかし、それがうまくいっても、北朝鮮軍が機能停止するわけではまったくない。その結果、どうなるか。米軍と北朝鮮軍は、緩慢な戦闘を再開することになる。(朝鮮戦争は法的にはまだ終わっていない休戦状態であるので、あくまで「開戦」ではなく「戦闘再開」だ) といっても、血みどろなものではない。北朝鮮の砲弾は米軍基地には届かないし、米兵も1人も死なない。彼我の実力差をよく知る北朝鮮指導部は、韓国内の米軍基地を地対地ミサイルで攻撃することも自粛するはずである。首都平壌が空爆されない限りは……。「だらだら交戦」の大先輩はイスラエル 北朝鮮の工作員みたいな者たちがあちこちで叫んでいるような、38度線沿いの北朝鮮軍砲兵部隊による大規模な京城市街砲撃は起きない。なぜなら、そんなマネをすれば、韓国空軍機による平壌爆撃に米国がGOサインを出すと、平壌は知っているからである。 今日の空軍機が運搬できる爆弾の重量は1回につき数トン。それに対して、射程の長い大砲やロケット弾の充填炸薬は、数十キログラムでしかない。破壊力でも射程でも、比較にはならないのだ。 念のため注記しておこう。「北朝鮮空軍」なるものはとっくに存在していない。燃料が無く、パイロットの訓練ができず、したがって空軍機による空襲をしたくてもできないので、北朝鮮はやむをえない選択として、大砲やロケット弾や地対地ミサイルにばかり頼っている次第だ。現代の軍隊が、燃料油が無いのに「南進」などできないことも、いまさら説明するまでもないだろうと思う。短距離弾道弾や、中距離弾道弾は、平壌政府が終戦交渉の切り札として、山の中の横穴トンネルに、最後まで温存しようとするだろう。もちろん、「核爆弾」もだ。 ところで、シリアとは違って、北朝鮮内にはロシア兵などの余計な邪魔者は存在しない。だから米軍は、巡航ミサイルで「目標A」群を破壊したなら、翌日は「目標B」群、その翌日は「目標C」群……と、誰にも気兼ねをすることなく延々と、巡航ミサイルによる攻撃を継続することができる。北朝鮮国内には、政治犯を強制労働させながら衰弱死に追い込んでいる収容所がたくさんある。米軍が巡航ミサイルでそれら施設の看守棟をひとつひとつ破壊すれば、内外に対して、これが「人道戦争」であることを明快に宣伝できるだろう。 この、遠くの海からひたすら巡航ミサイルだけを撃ちかける「だらだら攻撃」が続く状態が、最大の打撃を与える対象は、じつは中共なのである。米朝が変則的ながらも常時の交戦状態となれば、黄海~渤海を利用して通航する商船、なかんずく天津港の物流機能は、戦時国際法の要請とぶつかり、大制約を受けざるを得ない。 大連工廠の目の前にも常時、米海軍の北鮮沿岸ブロケイド艦隊(それは空母は含まないが海上自衛隊が封鎖活動を支援する可能性は高い)が蟠踞(ばんきょ)することになる。もちろん、シナ漁民の誰もそこで漁労などできはしない。これは中共に対する米国からの「経済制裁」にも等しい大圧力だろう。 トランプ氏は大統領選挙中から、中共の対米貿易政策を非難してきた。中共貿易がこのようにして打撃を被ることについて、トランプ氏は少しも同情しないどころか、それを愉快だと思える理由がある。 米国と北朝鮮が交戦を再開することで、自動的に、中共から米国への輸出は半減する。東シナ海は「戦場の後方海域」となるので、世界の船員組合は「だらだら交戦」が終わるまで、同海域への乗務を拒否するはずである。トランプ氏の初志は、はらかずもこうして貫徹されるわけだ。 こうなってはいよいよ中共も、金王朝の「転覆工作」を始動させるしかないだろう。それが、米国と北朝鮮との戦争を、意外にもスピーディに「決着」させることになるであろう。かくして、北朝鮮の核施設と核兵備に対して米軍が巡航ミサイルを発射することが、「金王朝終焉」への最短シナリオとなるのである。「だらだら交戦」術の大先輩はイスラエル 日本ではまったく報道されないので誰も知らないが、イスラエルは、周辺地のゲリラであるヒズボラおよびハマスと「365日いつも戦争」の状態にある。ヒズボラがイランから地対地ロケットなどを受領すれば、即座にイスラエル空軍機は越境空襲を仕掛け、それを爆砕しているのだ。多くはそれは、シリア領土内である。トランプ大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー氏ならば、こうしたイスラエルの「政策」には、詳しいだろうと思われる。トランプ氏は、適当なアドバイザーをすでに抱えているわけである。 空母艦隊は、作戦期間が半年を越えるような「だらだら攻撃」には向いていない。艦隊を数日間、特定海面で遊弋させておくだけでも、べらぼうな経費が飛んでしまうものだからだ。対北朝鮮の「だらだら攻撃」の主役は、潜水艦と、駆逐艦などの水上艦艇から発射される巡航ミサイルである。残る最後の問題は、「いつ?」だけである。米海軍のバージニア級原子力潜水艦 わたしが『ニッカンペキスポ』とひそかに仇名している中共の英文政治宣伝サイト『Global Times』に4月11日、中共軍による北鮮核施設に対する空爆をチラつかせるテキストが掲載され、それは数時間後に忽然とウェブサイトから削除されたという。これは北京として、米軍が北朝鮮の核施設を空爆することについて半ば事前承認していることを強く示唆しているのだろう。 北朝鮮が、次の核実験、もしくは次の長距離ミサイル発射を試みるときが、トランプ政権が決断するときであろう。

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    大都市を一夜で壊滅できる「世界最強」米空母カール・ビンソンの実力

    令官のハリス提督は、原子力空母カール・ビンソンを中心とする艦隊、すなわち「第1空母打撃群」を北上して北朝鮮近海に航行するように命じた。中東で戦争が始まったのに米空母が北東アジアに向かう、この一見矛盾した行動に世界は驚いた。 米軍が中東に集中すれば、その隙を狙って北朝鮮が軍事行動を過激化させる懸念に基づく米国の戦略的行動であるが、この行動は改めて世界の軍事専門家に問いを投げ掛けた。現代においても、航空母艦とはそれほど軍事的脅威となる存在なのか、と。 この問いは、もっともであろう。シリア攻撃では巡航ミサイル「トマホーク」を米駆逐艦2隻から59発発射した。中東や中央アジアでの戦闘で活躍しているのは無人機である。もはや空母や戦闘機の時代ではないのではないか、との考えもある。 だが、その一方で、中国は「空母造り」に余念がない。空母遼寧は既に運用を開始し、それに続く2番艦、3番艦も建造中である。空母遼寧について、米国防総省はかねてから見解を示している。「米軍のニミッツ級原子力空母の持つ遠距離の戦力投射能力を持つことはできない」。そして、このわずかな文言にこそ、現代における「空母の意義」が凝縮されていると言っていいだろう。米空母カールビンソンと偵察救助ヘリCH-46 =2001年10月24日、アラビア海(ロイター) 空母カール・ビンソンは1982年に就役したが、同型の空母は米海軍に10隻ある。一番最初に建造されたのが空母ニミッツであり、1975年就役、従ってそれ以後の同型艦をニミッツ級と呼ぶ。カール・ビンソンはニミッツ級の3番艦である。 ニミッツ級は排水量約10万トン、全長約330m、速度30ノット、艦載機約71機である。遼寧は排水量6万7500トン、全長305m、速力20ノット、艦載機67機(計画)である。またニミッツ級は原子力であるため、通常動力の遼寧に較べて速度が速いだけでなく、航続距離がはるかに長い。 空母は正式には航空母艦と言われることから明らかなように、航空機が発着できるのが特徴であり、艦載機が命である。ニミッツ級は戦闘攻撃機「FA18」を約45機搭載しており、3分間に1機の間隔で発艦させられる。 遼寧の67機とはあくまで計画であって、現段階では艦載機の「J15」そのものが開発段階、しかもパイロットは訓練段階であり、実際に67機を運用しているわけではない。米国の見解では、そうした運用を実現できたとしても、ニミッツ級の戦力投射能力には到底及ばないと言うのである。 また、戦訓の一つに「戦力の逐次投入は禁物」とある。その典型的な戦例は大東亜戦争におけるガダルカナル島の戦いである。日本の陸軍は海軍の要請で太平洋のガダルカナル島に当初、900人の部隊を上陸させたが、米軍の反撃ですぐに全滅した。そこで5千人もの部隊を上陸させたが、これまた壊滅した。それもそのはずである。旧日本海軍は当初、「米兵は2千人」と報告していたが、実際には1万人を超える米兵が陣地を築いて待ち構えていたからである。米空母の進化と弱点 戦力の逐次投入が戒められるのは、投入される戦力が小規模であればこのように待ち構えられて各個撃破されてしまうからである。それを避けるためには敵情の把握、すなわち情報活動が必要だが、現代においては偵察衛星の発達によってかなり正確な把握が可能になった。 しかし、いかに情報が正確であろうと、適切な戦力を適時、的確な場所に運搬できなければ敵に勝利できない。すなわち、いかに大量の戦力をいかに短時間に敵の中枢部に投入できるか、これこそが戦力投射能力の本質である。米海軍の原子力空母カール・ビンソンの甲板に並ぶ艦載機 =3月15日、韓国・釜山(共同) ニミッツ級空母カール・ビンソンは、航行距離にして1200キロを一日で海上移動し、500キロ先の敵に3日間で2千トンの弾薬を投入する能力がある。昭和20年3月の東京大空襲で投下された爆弾が一晩で3千トンであり、その時の犠牲者は約10万人である。精密誘導能力が格段に向上した現在、2千トンの弾薬は、一大都市はもちろん、敵の軍事要塞を壊滅させるのに十分であろう。 ちなみに東京大空襲の爆撃機は「B29」300機であるが、これはサイパン島の飛行場から飛来した。B29は長航続距離を誇る重爆撃機であるが、それでも米本土から日本に直接飛んで来ることはできなかった。つまり南太平洋のサイパン島に飛行場を造らなければ、日本の空爆は不可能であった。 当時、サイパン島をはじめとする南洋諸島は日本領であり、米軍がここを占領したのは昭和19年7月。つまり、米軍はサイパン島に到達するのに開戦以来、2年半の月日を費やしている。もちろん、当時の米国にも空母はあり、現に東京初空襲は昭和17年4月に空母から発進した爆撃機によって行われている。 だが、この爆撃は極めて限定的であり、日本の警戒の目を盗んで行われた「奇襲」であって、壊滅的な打撃を与えるのは不可能だった。つまり、当時の米海軍は東アジアに対する戦力投射能力を持っていなかったのである。 カール・ビンソンは北朝鮮周辺に向かうと堂々と宣言して航行しているが、もし大戦初期に米空母がこんなことをしていたら、日本の航空戦力と潜水艦によって海の藻屑と化すことは間違いなかった。カール・ビンソンがなぜそうならないかといえば、周りを巡洋艦、駆逐艦、潜水艦で固めているからであり、北朝鮮のミサイル攻撃や魚雷攻撃をも撥(は)ね退ける能力を有しているからである。 つまり、空母はいかに優秀でも1隻では、身を守ることはできない。したがって、「空母打撃群」という艦隊で行動することになる。空母の戦力投射能力とは、空母そのものの能力に加えて偵察衛星の情報収集力さらにはそれを伝達する通信網、艦載機や、その他の艦艇の性能を掛けあわせて得られるものであり、そのいずれかがゼロである場合、答えは「ゼロ」となるのである。

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    北朝鮮問題が最大の焦点、米中首脳会談では何が起きていたのか

    トランプ大統領の年内の訪中などで合意がなされたが、最大の焦点は会談直前にも弾道ミサイル実験を強行した北朝鮮への対応だった。 トランプ政権は発足後に北朝鮮政策の見直しに着手し、オバマ政権の「戦略的忍耐」は失敗したと結論づけた。そして、軍事的手段を含む「すべての選択肢」が検討されていることを繰り返し表明する一方、中国に北朝鮮に対する影響力を行使するよう求めてきた。米中会談の直前には、トランプ大統領が、中国が北朝鮮の核ミサイル開発を中止させるために協力しなければ、米国が単独で行動すると述べ、それが軍事攻撃を意味するのかどうかに注目が集まっていた。 初日の夕食会で、トランプ大統領は笑顔で習主席と握手を交わし、偉大な関係を築こうと呼びかけた。しかし、実際には夕食会の直前に米軍によるシリア空爆が決定されており、夕食会の終わりにトランプ大統領から攻撃の事実が習主席に伝えられるという波乱含みの幕開けとなった。シリアへの空爆は、数日前のアサド政権による化学兵器の使用への対抗策として行われたが、トランプ政権は空爆を夕食会の最中に行うことで、中国、そして北朝鮮にも軍事的手段を使うべきときは使うというシグナルを送ろうとしたのだ。夕食会で握手を交わすトランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席=2017年4月6日、(AP) 今回の会談では共同声明も共同記者会見もなく、米中双方がそれぞれ会談の内容を発表するという異例の形が取られた。実際の会談では相当激しいやり取りもあったためだ。 北朝鮮問題について、ティラソン国務長官の発表では両首脳が北朝鮮の核・ミサイル問題について「深刻な段階」に達しているとの認識で一致し、国連制裁の完全履行も確認したとなっている。他方、王外相の発表では、米中両国が朝鮮半島の非核化と国連制裁の完全履行を確認したことに加え、中国側が対話と協議による問題の解決と、韓国へのTHAADミサイル防衛システムの導入反対を主張したとなっており、米中双方の発表内容にズレがある。 会談では、米側が北朝鮮と取引がある中国企業を制裁対象にする意向を伝達したとみられ、実際トランプ政権は制裁対象に中国4大商業銀行の1つである中国銀行を含めて検討している。他方、中国は米韓による軍事演習の停止を要求し、米朝の直接対話も提起したようだ。北朝鮮問題に関する双方の立場に相当の開きがあることはあきらかで、米側はこの会談で中国側の譲歩を勝ち取ることは考えておらず、米側の本気度を中国側にわからせることを目的としていた。「習主席が夕食会の場でシリア空爆に理解を示した」のか そもそも、この米中会談は中国側の要請によって実現したが、中国側にとって最大の懸念は台湾問題だった。トランプ大統領は就任前に「1つの中国政策」の見直しを示唆し、中国にとってもっとも敏感な問題で中国側を揺さぶった。2月初めの米中電話首脳会談で、トランプ大統領は「1つの中国政策」を尊重すると述べたが、秋に共産党の最高機関である党大会を控えた習主席は、何としても直接の首脳会談でその言質を取る必要があった。 他方、トランプ政権側は、北朝鮮問題で中国に圧力をかけるためにこの会談を受け入れた。中国側が2月の日米首脳会談並みの扱いを求めたため、トランプ大統領は安倍総理を招待した「マール・ア・ラゴ」に習主席を迎えることにした。しかし、トランプ大統領は夕食会のデザートを食べている間にシリア空爆を知らせるという屈辱的な形で習主席の面子を潰し、中国側が期待した1つの中国政策に言及することもなかった。会談後も続く両国の駆け引き 特に、米側の発表では、習主席が夕食会の場でシリア空爆に理解を示したとされているが、伝統的に対外介入に反対することを原則とする中国政府が空爆に理解を示すとは考えにくい。仮に習主席が米軍の空爆に理解を示したとすれば、失脚につながりかねない失言である。実際のところ、習主席は、化学兵器の使用には反対するが、軍事力による介入も支持しないという原則論を述べたようだが、米側によって空爆に理解を示したと発表されたことは習主席にとって後を引く問題となるかもしれない。会談後も続く両国の駆け引き トランプ政権は、北朝鮮問題解決への決意を示すため、米中会談後も様々な動きを見せている。核兵器を在韓米軍に再配備することを検討していることが報道されただけでなく、3月に米韓演習に参加したばかりのカール・ヴィンソン空母打撃群を再び朝鮮半島近海に呼び戻した。トランプ政権は、東南アジア各国に北朝鮮労働者の追放を要請することも検討している。韓国・釜山に入港する米海軍の原子力空母カール・ビンソン(共同) 4月12日にはトランプ大統領が再び習主席に電話をかけ、北朝鮮への圧力を迫った。これに対し、習主席は「平和的な方法」での解決を主張し、北朝鮮への軍事的圧力を強化するトランプ政権も牽制した。他方で、北朝鮮が6度目の核実験を強行した場合は、中国政府が北朝鮮への重油の提供の中断や、国内の北朝鮮労働者の追放、北朝鮮観光の制限などを検討していることが漏れ伝わるようになっており、トランプ政権の意向にある程度応えることも検討していることがうかがえる。 それでも、中国がトランプ政権の圧力に屈するとは考えにくい。制裁で北朝鮮が崩壊することは中国の国益にはならないため、金正恩体制を生かさず殺さずの状態にしておきたいのが中国の本音だろう。シリア空爆をめぐって米ロ関係が悪化する中、中国はロシアとの連携によって、米国からの圧力をかわすことができる。米国が国連安保理でさらに厳しい制裁を提案しても、ロシアが反対するので、中国はロシアの陰に隠れていればいい。また、シリア空爆をきっかけに中東情勢がさらに悪化する可能性が高く、今の米国に中東とアジアでの二正面作戦を行う余裕があるかどうか、中国は見極めようとするだろう。 会談の成果に関して、米中双方は表向き友好関係を強調したが、実際には北朝鮮をめぐる両国の立場の違いが一層浮き彫りになった。トランプ政権は引き続き中国への圧力をかける一方、おそらくは為替操作国指定を見送ることで、中国に妥協の姿勢も示すようだ。他方、秋に党大会を控えた中国は米中関係の強化と朝鮮半島の安定の両方を重視し、結果としてトランプ政権が納得する行動は取れないだろう。このため、事態の打開を求めてトランプ政権が軍事的手段に出る可能性を排除することは危険である。 数年後に振り返れば、この米中首脳会談が、朝鮮半島そして地域の安全保障環境を劇的に変化させるきっかけになったと評価されるかもしれない。日本としても、米国と緊密に連携してあらゆる事態に対処する準備を進めつつ、金正恩後の朝鮮半島にどう関与していくかを真剣に考える必要がある。

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    落合信彦氏が指摘 今後日本に牙を剥く「2つの核保有国」

    領のエルドアンは独裁色を強めていて、何をしでかすかわからない。 何と言っても日本にとって脅威なのは、北朝鮮だ。金正恩は日米首脳会談の真っ最中に弾道ミサイルをぶっ放し、挑発してきた。日本はそれに対し、「断じて容認できない」とお決まりのフレーズで声明を出しただけだった。 北朝鮮は、潜水艦発射型のミサイルを地上から発射するタイプに改造した新型弾道ミサイルであり、実験に成功したと主張している。発射準備に時間がかかる液体燃料ではなく固体燃料が使われたとも指摘されている。本当なら、発射の兆候がつかみにくくなり日本の安全保障にとって極めて深刻な事態だ。 他の国なら、隣国から何発も弾道ミサイルが発射され、目の前の海に撃ち込まれていたら、すぐ戦争になる。ここまでされて何もしないのは、日本くらいのものだ。日本は「ケンカ」を恐がっているから舐められて、北朝鮮の挑発がエスカレートするのである。 金正恩は異母兄の金正男を暗殺し、暴走を加速させている。アメリカが世界平和にコミットしないとなれば、金正恩にとっては大チャンスだ。習近平が金正恩をバックアップし、極東で戦争が始まる可能性もある。その時、日本は“2つの核保有国”と戦わなければならないのだ。アメリカの劣化により、世界はジャングル化した。日本人は、その中でどう生き抜いていくか、考えていかなければならないのである。関連記事■ 米の低レベル高校生、殺人事件が日常の街等をリポートした本■ 【ジョーク】ビンラディンとカダフィが金正日を飲みに誘った■ アメリカの原爆投下に戦争責任はないのかを真正面から問う本■ ディズニーランド アニメがメインコンセプトではないのだ■ トランプ氏取材した落合信彦氏「会話する価値なかった」

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    〝四面「核」歌〟状態の日本が生き残る道

    集部)冷戦の終結とともに、米国とソ連はそれぞれが保有する核兵器の数を削減してきた。しかし、その一方で北朝鮮や中国は核戦力を増強し、脅威を増している。日本を取り囲むこれらの核保有国の具体的な脅威とは。日本がとるべき戦略とは。核戦略・安全保障の専門家3人に語ってもらった。編集部(以下、――)北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まっています。今年に入っても2月、3月と続けて弾道ミサイルを発射していますが、狙いは何でしょうか。また、その技術はどれくらい進化しているのでしょうか。日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター 主任研究員の戸崎洋史氏神保:北朝鮮は、自らの核抑止力を技術的に証明することに躍起になっています。かつては核開発を進めることを通じて米国との直接交渉を目指していましたが、現在は核兵器の実戦配備を通じて事実上の核兵器国としての承認を欲している状況です。核弾頭の小型化、ミサイル実験の多種化、弾頭の大気圏再突入技術の誇示など、全てこのロジックに沿っています。小泉:核爆発装置があるという段階から、実際に戦略として核を使用できる段階まで進んできているということですね。ただ、北朝鮮は面積としてはかなり小さな国で、先制攻撃を受けた場合に核兵器が生き残る能力にはかなり疑問があると思いますが、いかがでしょうか。先制攻撃から生き残ってミサイルを発射できてもミサイル防衛もすり抜ける必要があるわけですし。戸崎:確かに、他の核保有国と比べると開発は初期段階ですが、恐らく自らが世間一般の常識の枠を超えた「非合理的」な存在として見られていることを知っていて、初期段階ながらも、何をするか分からない、核兵器をいつ使うか分からないという恐怖心を他国に抱かせようとしている側面もあるのではないでしょうか。さまざまな計算の上での行動だと思います。小泉:非合理性の合理的な利用、もしくは戦略的曖昧性といったところですね。神保:北朝鮮は抑止力について3層の戦略を考えていると思います。1層目は、韓国の都市部や米軍基地に対する通常戦力による奇襲能力や核兵器の打撃力を誇示して、米韓同盟にくさびを打ち込むこと。2層目は、日本の都市や在日米軍に対するミサイル攻撃能力の確保。過去10年程度進めてきた中距離弾道ミサイル・ノドンの連続発射実験、移動式発射台の運用、ミサイルの固体燃料化などは、ミサイル防衛を難しくさせています。 そして3層目は、米国に対して長距離弾道ミサイル・テポドン2改良型や開発中のKN−08などの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を本土に打ち込める能力を示し、米国と同盟国を切り離し(デカップリング)、拡大核抑止の信用性を揺るがすこと。これらが彼らの戦略だと思います。北朝鮮が攻撃対象にしやすいのは日本戸崎:その中で、特に危険なのは日本でしょうね。北朝鮮にとって、朝鮮半島統一という将来的な目的のためには、韓国に核戦力で壊滅的な被害を与えることは望ましくないことから、最も実際の攻撃対象としやすいのは日本でしょう。また、日本を威嚇して朝鮮半島事態への関与から手を引かせれば、米国による韓国防衛コミットメントの遂行も難しくなります。その意味でも、日本は3カ国の中で一番適当なターゲットだと思います。小泉:国力やテクノロジー面で劣勢な国は、必ずその制約の中で何かしらの軍事戦略を考えるものです。そういった意味では、北朝鮮も必ず相手の隙をつく作戦を考えてくると思われますので、侮れないですね。  北朝鮮が戦略的曖昧性を最大限に発揮する中で、米国は韓国との合同軍事演習で朝鮮半島上空に爆撃機を飛ばすなど、その程度の能力では核抑止は確立していないと北朝鮮に知らせる行動を繰り返し起こしています。これはイタチごっこのような気がしますが、どこかで均衡して交渉に向かうことはできるのでしょうか。日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター 主任研究員の戸崎洋史氏戸崎:難しい問題ですね。互いに相手の能力や意図を十分に認識しているつもりが、実際にはそうではない部分も少なくないと思います。北朝鮮が核を持ち、増強しようとする目的をどう捉えるかによっても変わってくるでしょうね。現体制の維持という防御的な目的であれば、交渉での解決を目指せるかもしれませんが、核を背景にした挑発などによって攻撃的な目的の達成を狙っている場合は、抑止など強い圧力をかけないと北朝鮮はチャンスだと判断しかねません。 しかも、北朝鮮の狙いも、自らの核戦力の強化とともに変わる可能性があり、その動きを絶えず慎重に把握していないと間違った政策判断を下すことになりかねません。――トランプ大統領は就任前に、北朝鮮への対応は中国に任せておけばいいという放任的な発言もしていました。小泉:トランプ大統領の選挙中の発言は正直あてにならないと思います。選挙戦中の発言とその後の行動が合致していないことが多々あります。選挙戦中は北朝鮮なんてどうでもいいと言っていましたが、現実的に彼が米国の安全保障戦略を仕切る立場においては、そうは言っていられないでしょう。神保:大統領選挙期間中のトランプ大統領に明確な北朝鮮政策があったとは思えません。しかし今年2月のマティス国防長官の韓国・日本訪問や、日米首脳会談の際のミサイル実験への対応、3月に実施されている最大規模の米韓合同軍事演習を通じて、トランプ政権が北朝鮮への軍事的警戒を強めていることは明確になりました。オバマ政権の「戦略的忍耐」が失敗したという認識のもとに、現在はマクファーランド大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)の下で北朝鮮政策の見直しが行われているとも伝えられています。  しかし、対北朝鮮政策が大幅に変更されることは考え難いと思います。北朝鮮の影に隠れた中国の核戦力――北朝鮮に関する報道の影に隠れて表に出ない中国の核戦力も日本にとって脅威となるのでしょうか。戸崎:中国は、核弾頭を250~300発、米国に届くICBMを少なくとも50基以上、日本を対象にできる中距離ミサイルを数百基保有していると言われています。ただし、中国の核戦力における透明性は低く、保有する核弾頭数も運搬手段の種類・数も公表していません。運搬手段については、海(潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM))、陸(弾道・巡航ミサイル)、空(爆撃機)と多様化しています。 さらに、米ロ間では、中距離ミサイルを全廃する中距離核戦力(INF)全廃条約を締結していますが、中国はその締約国ではなく、この中距離ミサイルも保有しています。このように、核運搬手段の多様性という点においては、他の核兵器保有国を上回っている状況です。 核戦略に関して、中国は一貫して「最小限抑止」、「先行不使用」、「非核兵器国には核兵器を使わない(消極的安全保証)」、という3点を主張してきましたが、核戦力が拡大していく中で変化する可能性も指摘されています。最近では、1基の弾道ミサイルに数発の核弾頭を載せたMIRV化ICBMを配備したという話もありますが、これは先制攻撃に有効な兵器のため、先行不使用政策を本当に今後も継続するのかという懸念が生じています。 日本にとっては核・通常両用の中距離ミサイルが脅威ですが、核を後ろ盾にしつつ、通常戦力を積極的に活用する戦略をとってくるのではないかと思います。核戦力と通常戦力の双方への対応も考えなければいけないという点で、北朝鮮以上に対応が難しいと思います。小泉:中国は、北朝鮮やロシアと違って通常戦力をどんどん近代化させているので、核に頼らなければならない場面は逆に減っていくと思います。日本にとって中国の核が問題になるとすれば、尖閣諸島などで米国のコミットメントが後退した場合に、通常戦力ではなんとか中国に対応できたとしても、核を使用されることになれば何もできなくなるというシナリオでしょう。 ただし、トランプ大統領は尖閣諸島においても日米安保条約を適用すると明言しました。その意味では、トランプ政権に変わったことで日本が中国の核を今まで以上に気にする必要が出てきたということはないと思います。中国の核開発と米ロ核軍縮の行方は?――中国の核弾頭数が明らかにされていないことを踏まえると、中国が数年後に米国やロシア並に多くの核弾頭を持つこともあり得るのでしょうか。小泉:それはさすがに難しいでしょうね。米国の分析にもありますが、中国で生産できる核分裂物質の数から考えると、そこまで多くの核弾頭を作れないと思います。戸崎:もし仮に、核弾頭数を大幅に増やすことができるとしても、どこまで増やすのかは、中国がどのような核戦略を目指すのかによっても変わってくると思います。米ロと同数程度の核弾頭を持つことで、米ロに並ぶ大国としての地位を築きたいと考えるのであれば、米ロの核弾頭数に並ぶまで数を増やすことを考えるかもしれません。 一方、米国に相当程度のダメージを与えられる能力を持つことで中国の目標達成に十分だと考えるのであれば、そこまで核弾頭数を増やす必要はないと考えるでしょう。神保:冷戦期の米ソ間の「戦略的安定性」を中国は異なる文脈で追求していくと思います。かつて米ソは数万発の核兵器を保有し、互いに第二撃能力を保持することを通じて、確実に報復が可能な「相互確証破壊」を基礎に据えて、相互抑止を模索しました。 しかし中国は自らの核心的利益を保護するために、米軍の介入を阻止する通常戦力を重視し、核戦力はその延長に位置付けられています。中国にとって重要なのは米国に対する限定的な確証報復(米本土の都市部を確実に攻撃すること)であり、米国と同じレベルの核戦力(パリティ)は目指さないと思います。したがって米中・中ロの間で核弾頭数では非対称の「戦略的安定性」をつくることができるかが、大きなポイントになります。――中国が核開発を進める一方で米国とロシアは2国間で核軍縮を進めてきましたが、この構図は続いていくのでしょうか。トランプ大統領は核戦力を増強する姿勢を見せ始めています。未来工学研究所客員研究員の小泉悠氏 小泉:米ロ間では18年までに戦略核弾頭(長射程で破壊能力の高い核兵器)の数を1550発まで削減する新戦略兵器削減条約(新START)という条約を結んでいます。ここまでは減らせるかもしれませんが、さらに1000発まで減らすことはできないでしょう。ロシアは中国を恐れているため、米国との2国間でのさらなる軍縮は避けたいと考えているからです。 そして、核軍縮に中国を巻き込めないのであれば中距離ミサイルを持てるようにすべきだというのがロシアの主張です。先日、ニュースでも報じられていましたが、とうとうロシアが米国とのINF全廃条約を破ったことは、その主張の強い表れだと思います。 米国にとっては、中国から飛んでくる核弾頭はせいぜい100発程度でしょうが、ロシアの場合は距離が近く、もっと多くの核弾頭が中国から飛んでくる可能性があります。保有する核弾頭数を1000発程度まで減らすと、ロシアは米国の1000発に加え、中国の数百発を気にしなくてはならなくなるため、新STARTを超えたさらなる削減はのまないでしょう。日本にとってのロシアの脅威とは?――ロシアの核戦略の中には、日本を核攻撃する計画もあるのでしょうか。小泉:ロシアの参謀本部の中には日本を核攻撃するオプションも用意してあるのでしょうが、標的は自衛隊の基地というより米軍基地でしょう。日ロ間の軍事的な対立レベルは低いので、日本を攻撃する優先度はそこまで高くないと思います。 ロシアが本当に核戦力を使うのは、日本と通常戦力で戦って劣勢になりそうな場合でしょうが、そのシナリオ自体が考えにくいです。今ヨーロッパでロシアと緊張が高まっているのは、ソ連崩壊後、ロシアの勢力圏だと思っていた地域が西側に取り込まれそうになっているからです。――昨年の日ロ首脳会談では北方領土問題が話題になりましたが、より重要なのは、平和条約締結によりロシアの危険度を下げることなのでしょうか。小泉:日本にとってのロシアの危険度はそこまで高くはないものの、日ロ間でずっとわだかまりが続くことは戦略的に望ましくないため、それを取り除こうとはしていますね。一番の原因は相互不信だと思います。結局日本は米国の同盟国であり、そんな国に領土を譲り渡すのは心配だ、ということをロシアは繰り返し言っています。慶應義塾大学総合政策学部准教授の神保謙氏神保:過去数年間の航空自衛隊のスクランブル数は、冷戦期の最も多い時期に匹敵します。中国機への対応が急速に増えたことに加え、ロシア機も過去3年ほど活発な活動を続けています。 日本は新しい防衛大綱のもとで力点を中国と接する南西にシフトしたいのですが、北方から離れられない状態であり、ロシアが自衛隊の構造改革を遅らせているともいえます。日本は中国とロシアの二正面で防衛態勢を維持する余裕はないので、ロシアとできるだけ信頼関係を深めて中国に注力できる状態にしていく必要があります。さらに外交戦略まで踏み込むと、日本は中ロ分断を進める必要があるでしょう。戸崎:中ロを分断するという意味においては、日本は基本的価値、あるいは国際秩序などよりは、もっと「利益」の側面に焦点を当てる方が良いと思います。神保:その通りだと思いますね。ヨーロッパから見たロシアとアジアから見たロシアは違い、アジアにとっては機会主義的な見方ができると思います。小泉:ロシアは、アジア太平洋にはそんなに不満を抱いているわけではなく、むしろ期待を持っています。ヨーロッパの国々と付き合ってもそこまで高度成長を望めないので、アジアに入っていくというポジティブな姿勢でいます。これまでは中国という非常に大きなパートナーがいましたが、その次に日本とどんな関係が結べるかというのがロシアの関心だと思います。その時に日本がロシアをうまく引き付けることで北方の脅威を軽減し、南西側の脅威に専念できるようにすることが、安保上の重要な方策でしょう。日本が生き残るための具体的な戦略とは?――北朝鮮、中国、ロシアという核保有国に取り囲まれる中、日本が生き残るための具体的な戦略について教えてください。神保:核戦略は単純なものではなく、それぞれの国、地域の特色に応じた戦略が重要で、日本はそれに適合した形での抑止戦略を丁寧に作り上げていく必要があります。その前提として、米国のアジアにおける地域的な核戦略が明確に定義されている必要があります。具体的には、米国が北朝鮮や中国の戦力構成に対してカスタマイズした兵器体系と宣言政策を明示していることです。 日本については、海上配備型迎撃ミサイルのSM−3ブロック2Aの配備計画を着実に遂行し、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)との二段構えのミサイル防衛態勢を構築するとともに、早期警戒、破壊措置命令が運用レベルで維持できるように整えておくことが重要だと思います。それでも穴があるようであれば、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)を導入してさらに多層的な迎撃態勢を整えていく必要があるでしょう。韓国の米軍烏山基地に到着した最新鋭迎撃システム「THAAD」の関連装備=3月6日夜(在韓米軍提供・共同)小泉:日本独自の敵基地攻撃能力も視野に入るのでしょうか。神保:実際の運用は難しいのではないかと思います。日本を射程におく北朝鮮のノドンについて言えば、発射までに要する時間が短い上に、抗堪化(敵の攻撃の中で生残り,その機能を維持できるようにすること)・秘匿化が進み、移動式発射車両を利用するとなると、これらの策源地を確実に攻撃できる能力を持つことは至難の技です。 そう考えると、日本にとっての有効な資源配分の在り方は、確実なミサイル防衛配備と拡大核抑止の信頼性の担保の2点セットであり続けるのではないかと思います。戸崎:おっしゃるとおりですね。ただ、北朝鮮による日本への核攻撃に対して、もし米国、韓国による防衛が間に合わないという状況になったときには、日本として敵基地攻撃をせざるを得ないような状況に追い込まれるかもしれません。 また、米韓が自国だけでなく日本の防衛も目的として敵のミサイルや指揮命令系統を攻撃するという梃子(てこ)、のようなものを常に与えておく必要があると思います。日本単独で24時間体制の監視・攻撃を行うことはほぼ不可能なので、米韓との協力体制を強化しておくことがいずれにしても不可欠です。米国が日本に期待すること――仮に日本がTHAADを配備したとすると、中国からの大きな反発を生むことになるのでしょうか。神保:韓国のTHAAD配備とは少し意味合いが違うと思います。中国が最も気にしているのは、新たに前方配備されたレーダーにより、核能力をはじめ中国の軍事情報が収集されてしまうことです。日本は、THAADの運用に必要なXバンドレーダーを既に地上に配備しているので、韓国のTHAAD配備と同じ目線で反発するということはないと思います。 ただ、一般論として新しい兵器体系が日本に入ることに対しての反対は間違いなくあるでしょう。戸崎:韓国がこれまでミサイル防衛に慎重だったのは中国との関係に留意していたからですが、その韓国が16年に入ってTHAAD導入を決定したこと自体に中国は強い不快感を抱いています。さらに、それが日米韓のミサイル防衛を通じた連携を強める可能性があるということも、反発を強める一因になっていると思われます。――米国が日本に対して、新たな役割として期待していることはありますでしょうか。神保:自らの防衛や地域間協力の責任をもっと担ってほしいという考え方はオバマ政権以前から継続してあると思います。 中国のA2/AD能力(遠方で米軍の部隊を撃破し、中国軍の作戦地域に進出させないようにする能力)拡大により、米国の前方展開のコストは飛躍的に増えています。その中で同盟国として期待されるのは、やはり抗堪性の高い形での駐留能力、つまりは米国がプレゼンスを確保できる環境を整備することだと思います。 そうすると、日本のミサイル防衛も首都防衛だけでなく、在日米軍基地防衛の在り方を考える必要がありますし、敵の攻撃に耐え得るような地下施設やコンクリートの厚い滑走路の建設、修復能力の強化、場合によっては、嘉手納、岩国、三沢などの米軍基地が攻撃されたときに他の航空基地や民間空港が使える体制を整える必要があるでしょう。 トランプ政権になって、米軍の駐留経費負担の問題も議論されます。労務費や光熱費といった使途もいいのですが、日米が協力して在日米軍基地の抗堪性の強化に投資するとすれば、非常にピントの合った議論ができるのではないかと思います。現代の戦略環境に沿った形で同盟を位置づけるためにお金を使うことが重要だと思います。

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    北朝鮮の信念「38度線の南にあるソウルや釜山は領土の一部」

    月、朝鮮人民軍の特殊作戦大隊が韓国大統領府「青瓦台」を標的とする大規模襲撃訓練を行った。訓練を報じた北朝鮮メディアは「青瓦台を火の海にし、南朝鮮傀儡どもを殲滅する」と気炎を上げたが、朝鮮半島情勢に精通する拓殖大学大学院特任教授・武貞秀士氏が、北朝鮮が抱く半島統一の野望について解説する。* * *南北軍事境界線がある板門店 北朝鮮が核を手放す可能性は皆無に近い。北にとって「38度線の南にあるソウルや釜山は共和国(北朝鮮)の領土の一部」であり、そこを「侵略主義者の米国とソウルの傀儡政権が不法に占拠している」というのが彼らの信念なのである。 そして、北朝鮮は在韓米軍の縮小・撤退の動向を窺いながら時間稼ぎをして核放棄の圧力を凌ぎ、ミサイルの射程延長、弾頭の小型化、軽量化を進めてきた。 この時、北朝鮮の追い風となるのが、韓国内で勢力を拡大する対北融和派だ。朴槿恵大統領を弾劾に追い込んだ韓国国民は、既得権益を独占する保守層に強い怒りを抱いている。また、現在の韓国では2代続いた保守政権の反動で「次は北朝鮮と話し合いたい」と考える融和的な国民が増えている。 加えて、北朝鮮の影響が強い労働組合と教職員組合の懐柔策が効を奏し、韓国内では北朝鮮への対決姿勢が薄まっている。言わば、「精神的な武装解除」が進んでいるのだ。 しかも、次期大統領の有力候補である最大野党「共に民主党」前代表の文在寅氏や城南市長の李在明氏はいずれも対北融和派であり、同じ民族同士の話し合いによる平和統一が可能と考える。前国連事務総長の潘基文氏でさえ対話優先論をとっている。 対北融和派は、「米韓が軍事力をチラつかせるから北朝鮮はやむを得ず軍事力で対抗する」という発想のため、まず韓国側から脅威を与える軍事力を取り下げるべきだと主張するだろう。精神面に加えて現実的にも在韓米軍の高高度防衛ミサイル配備反対運動が勢いを増しており、北朝鮮の対南攻勢が勢いを増す結果となっている。●たけさだ・ひでし/1949年兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、防衛省防衛研究所(旧・防衛庁防衛研修所)に教官として36年間勤務。その間、韓国延世大学に語学留学。米・スタンフォード大学、ジョージワシントン大学客員研究員、韓国中央大学国際関係学部客員教授を歴任。2011年、防衛研究所統括研究官を最後に防衛省を退職。その後、韓国延世大学国際学部教授等を経て現職。主著に『東アジア動乱』(角川学芸出版刊)、『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所刊)、『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』(PHP研究所刊)などがある。関連記事■ 北朝鮮の悲願 朝鮮半島統一が叶う日■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 韓国軍 安全第一と兵士気配り優先による平和ボケで弱体化■ 延坪島砲撃事件 北朝鮮難民の日本への不法流入を専門家懸念■ 拉致命じられ日本に潜入した韓国秘密工作隊の悲劇を描いた本

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    金正男「暗殺」衝撃の新事実

    なぜこのタイミングだったのか。北朝鮮の最高指導者、金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏がマレーシアの空港で殺害された。実行犯の素性や動機、背後関係に至るまでいまだ謎は多いが、これまでも正男氏はたびたび命を狙われていたとされる。「金正男暗殺のなぜ」をiRONNAでも総力特集する。

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    「北京に核を撃ち込む」金正男暗殺は中国への宣戦布告だった

    空港で暗殺された。現在、マレーシア当局の捜査が続いているが、韓国の国家情報院は金正恩の命令にもとづく北朝鮮工作機関によるテロだと判断している。私もその見方に賛成だ。 ここでは第一になぜ金正恩が金正男を殺さねばならなかったのかという事件の動機と、第二に金正日時代の用意周到なテロと比べて今回のテロがあまりにも稚拙なやり方がとられた背景を論じたい。金正男氏が殺害された空港の出発ゲート付近 =2月15日、マレーシア・クアラルンプール国際 第一に、テロの動機についてだ。言い換えると金正恩は正男の何を恐れて殺さざるをえなかったのか、という問いだ。 消去法で考えたい。金正男は北朝鮮国内ではまったく力を持っていない。正男の存在自体が北朝鮮国内で秘密とされてきたからだ。 彼の母である成蕙琳は、人気女優であり著名な作家李箕永の息子である李平と結婚し子供も持っていたが、金正日に横恋慕され離婚させられ、正男を生んだ。しかし、人の妻を奪ったことに激怒した金日成はその結婚を認めなかったため、正男は通常の学校生活も送らず、家庭教師による教育を自宅で受け、その後、スイス留学に出た。 過去、金正日が異母弟金平一を強く警戒していたケースと比較すると、平一は金日成に可愛がられ、母親の金聖愛が女性同盟委員長として絶大な権力をもっていたため、周囲に多くの人間が集まって平一閥を形成していたが、正男にはそのような追随勢力はまったく存在しない。 それでは金正恩は正男の存在の何を恐れたのか。彼が中国の保護下にいたことが許せなかったのだ。金正恩は金正日の死後、5年以上経つのにいまだに北京を訪問できないでいる。それだけ中国共産党との関係がよくない。中国は米韓軍が自国と国境を接する事態をさけるための緩衝地帯として北朝鮮という国家の存続を望んでいる。しかし、金正恩政権に対しては、中国がずっと勧誘してきた改革開放政策を採用せず、核ミサイル開発に邁進し、軍事的緊張を高めていることを苦々しく感じている。そのことを金正恩もよく分かっている。 正男は改革開放論者だった。1996年、年間100万人あまりの餓死者がでるほど経済が悪化している時期に、金正日から経済再建を任され、改革開放政策を採用しようと提案した。韓国に亡命した元統一戦線部の幹部張真晟氏はその頃、平壌で正男に会い、彼が以下のように話すのを直接聞いている。「お父さんが国の状況がこの様子なので、私を見て国家経済をちょっと立て直してみろといいました。私は中国式改革開放以外に方法がないと考えます」 ところが、その提案に接した金正日は「お前は経済よりまず政治から知らなければならない」といってその提案を退け、正男の周りで経済政策を準備していた者たちを逮捕した。改革開放を採用すれば経済は再建できるかもしれないが金一家の独裁体制は維持できないという金正日の冷徹な判断がそこにある。正男が北朝鮮を出て中国を拠点とする海外生活に入ったのはこの事件が契機だった。金正日時代のテロとの大きな違い 私が北朝鮮内部筋から直接聞いたところによると、2015年後半、金正恩は工作機関である党統戦部や国家保衛部海外パートなどに中国共産党の対朝鮮政策を調査分析するように命じたという。その結果、中国は北朝鮮を改革開放に導こうとしており、金正恩政権がそれに従わず核ミサイル開発を続ける場合、正男を使って金正恩政権の倒すことを検討しているという報告が金正恩に上がった。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と暗殺された金正男氏 2016年1月、金正恩は中国の制止を振り切って核実験を断行した。それに対して習近平は激怒した。それを伝え聞いた金正恩は「中国が正男を使って自分を倒しに来るなら、北京と上海に一発ずつ核ミサイルを撃ち込む」と語ったという。 同年3月には党員らに下された北朝鮮の内部文書「方針指示文」で「すべての党員と労働者は、社会主義を裏切った中国の圧迫策動を核暴風の威力で断固として打ち砕こう」 「敬愛する最高司令官金正恩元帥様の卓越した領導で、わが祖国は水爆を含む各種軽量化された核爆弾を完璧に備えた核保有国の隊列に堂々と入った。 これに驚きおののいた中国は、国連制裁の美名の下に東北アジアでの彼らの派遣的地位が揺らぐことを恐れ、制裁に同調している。 造成された現在の情勢は、われわれ党員と勤労者たちが東北アジアでの政治、軍事、経済的与件を追い求める中国の対北朝鮮敵対視策動に断固として抗い、戦うことを切実に要求している」と中国への核攻撃を示唆していた。 金正恩からすると正男が中国に保護されていること自体が、自身に対する中国共産党の銃口に見えていたのだ。この恐怖が正男暗殺の一番の動機だと思う。 ただし、今回の暗殺テロはあまりにも稚拙だった。金正日時代のテロは緻密な準備作業を行ない、プロ級の工作員を使って行われた。日本人が多数拉致されたのも、テロを行うが北朝鮮の犯行だと発覚しないように工作員を外国人に偽装させよという金正日の秘密指令にもとづくものだった。 今回は監視カメラがまわっている白昼の空港でテロを行ない、実行犯の女性は準備された車両でなくタクシーで逃走して、数日後に逮捕された。そのとき、彼女らは自殺を企図してもいない。これでは金正恩がテロリストであることが全世界に知れ渡る。このようなやり方を避けるべきだという正論を金正恩に告げる側近が誰もいない位、金正恩は政権内で孤立している証拠だ。数年前から軍、党、治安機関、政府などの幹部クラスの亡命が相次いでいる。金正恩政権はこれからも致命的な政策判断ミスを続けながら自壊の方向に向かうのだろう。 

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    嘘のクーデター情報から始まった金正男暗殺の内幕

    村智計(早稲田大学名誉教授)2007年2月11日、北京空港に到着した金正男氏とみられる男性(共同) 北朝鮮の故金正日総書記の長男、金正男の動向は、毎日弟の金正恩委員長の手元に届けられていた。金正男は、北京やマカオ、香港、シンガポール、マレーシアによく出没した。必ず中国機関のボディーガードが守っていた。北京やマカオは安全だった。シンガポールも、厳しい警察国家で北朝鮮の工作員は、必ずマークされた。 シンガポールでは、私のゼミの学生の父親が借りた高級マンションの隣に住んでいた。若い女性と一緒にいる姿が、よくエレベーターで目撃された。1カ所に長くは住まず、3カ月か半年おきに部屋を変えていた。暗殺の危険は、本人も承知していたのだ。欧州でも、フランスやオーストリアで、暗殺の危機に直面した事もあった。 中国政府とシンガポール政府は、北朝鮮の大使に「我が国では不祥事を起こしてはならない」と警告していた。怪しい工作員が頻繁にうろついていたからだ。大きな影響力はないのだから、殺す必要はなかった。 それなのに金正男は2月13日、マレーシアの空港で暗殺された。マレーシア警察によると、二人の女性工作員が毒ガスで殺害したという。毒針は間違いだった。韓国の報道は信用できない。金正恩委員長の指示が無ければ、北朝鮮の工作員は暗殺を実行できない。 金正男は、なぜこの時期に殺害されたのか。中国に伝えられた情報では、きっかけは昨年7月の駐英北朝鮮公使の、家族全員での韓国亡命だった。北朝鮮外交官は、家族のうち少なくとも一人は、人質として平壌に留め置かれる。ところが、駐英公使は「人質」の子供を、平壌からロンドンに出国させた。 「人質の出国」は、金元弘・国家保衛相の許可無しには不可能だ。数千万円の賄賂を手渡した。ロンドンの北朝鮮大使館にも、外交官を監視する秘密警察高官がいる。彼にも千万円単位の賄賂が手渡された。こうして秘密警察の警戒を解いた。資金の一部は、韓国の情報機関から提供されたと、金正恩に報告された。 海外の秘密警察要員に帰国命令が出されたが、半数が帰国せず逃亡した。帰国すれば、処刑される。逃げるしか無い。さらに驚愕すべき報告が届いた。海外に派遣の秘密警察要員が、韓国情報機関と接触し資金を手渡されていた。金正男と韓国情報機関の接触情報も届けられた。 これは、真実かニセ情報かは定かではない。指導者の信頼を失った秘密警察が、指導者に取り入るために報告したのかもしれない。この報告が金正男暗殺への、引き金になったという。 新聞記者や朝鮮問題の専門家には、「金正恩体制は安定して強固だ」と断定する人が少なからずいる。それが間違いである事実が、今回の暗殺で確認された。安定していれば、暗殺の必要は無い。 金正男暗殺では、いつもテレビに登場する在日のコメンテーターが姿を消した。北朝鮮に遠慮して「金正恩委員長の指示だ」と言えないのだろう、とのウワサが飛び交っている。正統性を失う金正恩の「秘密」正当性を失う金正恩の「秘密」 金正男を暗殺すれば、金正恩は指導者としての「正統性」を失う。儒教文化の社会で偉大な父親の息子を殺すのは許されない。儒教の価値観では、目上の実兄を殺してはいけない。殺すだけの理由があったのか。 まず考えられるのは、中国が金正男を立てて金正恩を追い落そうとする計画の存在だろう。これに国内の勢力が呼応したら終わりだ。米韓の情報機関は、金正恩がこれまで数回暗殺未遂に直面した事実を確認している。金正恩は、背後に中国と金正男がいると、秘密警察から報告を受けた。秘密警察は、自分たちの責任を回避するために、ウソ情報を指導者に流す。 第二に金正恩が警戒するのは、出生の秘密や後継者決定過程の機密だ。金正恩の母親が在日の出身であったのは、日本では公知の事実だが北朝鮮では口にすれば拘束される。また金正男は「父親は三代世襲に反対だった」と公言した。後継者決定過程の秘密を知っているのだ。 第三に、北朝鮮の秘密警察、国家保衛省のトップ金元弘が逮捕更迭された事件だ。国家保衛省は信頼回復のため「金正男が米韓の情報機関と接触し、亡命しようとしている」との報告を上げた、とのウワサがあった。今回の暗殺には、こうした伏線があったのかもしれない。 第四に、金正男は処刑された叔父の張成沢氏と親しかった。北朝鮮では今もなお張成沢の関係者の逮捕や追放、処刑が続いている。この関係で、何らかのクーデター計画が報告された可能性もある。 金正男暗殺で、北朝鮮は最も厳しい制裁に直面する。事実が確認されれば、マレーシアは北朝鮮と外交関係を断絶せざるをえなくなる。中国は「暗殺するな」と警告していたから、その怒りは激しい。国連の制裁決議で、石油禁輸に同意するかもしれない。 北朝鮮は、石油が一滴も出ない。しかも、外貨がなく年間わずか50万トン程度しか輸入できない。これが全面ストップすると、北朝鮮の軍隊は崩壊する。 中国はこれまで石油禁輸には反対し、ロシアは賛成しなかった。しかし、トランプ米大統領の登場と安倍晋三首相の外交で、プーチン大統領は同意するだろう。そうなると、中国だけが最後まで拒否するのは難しい。20万トンから30万トン程度の数量削減は、応じざるを得ない。 金正男暗殺で、米国は北朝鮮への「テロ支援国家」指定を再開するだろう。トランプ政権は、金正恩委員長を本気で追いつめる意向をみせている。北朝鮮の崩壊は、これまでより現実味をおびてきた。

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    金正男暗殺を決意させた1万枚の「風船ビラ」

    李英和(関西大学教授)  私が昨年9月にiRONNAに寄稿した「北朝鮮に交渉など通用しない!脱北者による『亡命政権』樹立を急げ」で亡命政権について論考したのは、そのころに情報筋から構想が進んでいることをキャッチしていたからだ。当時はまだ情報源の秘匿の意味もあり、具体的に触れるわけにいかなかったため、寄稿はあくまで私の提言としていた。  だが、その後の昨年10月ごろには、この構想がかなり具体化していったようだ。今年1月に英国在住の脱北者団体が中心となって韓国側から北朝鮮側に風船で飛ばした1万枚のビラの内容は、明確に金日成(キム・イルソン)の次男である金平一(キム・ピョンイル)をトップとする亡命政権樹立を呼びかけている。これに金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が怒り狂ったのだ。風船で北朝鮮にまかれた亡命政権樹立を呼びかけるビラのコピー(李英和氏提供) そのころから、北朝鮮高官の処刑が相次ぐようになっており、正恩の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)の暗殺はまさに亡命政権構想を潰すための実力行使であることはまちがいない。 平一は正恩から見れば叔父にあたり、現在の駐チェコ大使だ。ビラで亡命政権のトップとして担がれているとはいえ、本人は正恩に表向きは従っているため、先に正男が暗殺の対象になったというわけだ。 正男の亡命政権での位置づけは、平一に次ぐ第2位だ。まだ、亡命政権に加担するという意思表示はしていないが、最近になってかなり具体的な動きを始めたため、工作員に命を狙われたのだろう。 ただ、正男は北京やマカオに自宅があり、中国政府に守られているため、中国国内での暗殺は難しかった。ゆえに、工作員はマレーシアに出国したところを見計らって実行したにちがいない。 本来なら中国の護衛があるはずだが、マレーシアに1人でいた理由は簡単に想像がつく。本格的に亡命政権樹立に向けた動きが始まったため、中国政府が面会などをさせたくないと思った人物と正男が秘密裏に単独で接触を図ろうとしたのだろう。 正男暗殺の理由は亡命政権への動きに関連しているとみられるが、これは最近起きた北朝鮮秘密警察幹部の処刑と密接につながっている。 今年1月、北朝鮮秘密警察である国家安全保衛省(旧国家安全保衛部)のトップが解任されて幹部が処刑される大事件が起きた。これも当初はなぜなのかわからなかったが、その後、正男の暗殺につながっていることがわかった。 右腕のような存在の保衛省幹部が粛清の対象になった理由は、正男が亡命政権を目論む人物と接触しているという情報を、保衛省以外の部署がつかんだからだ。おそらく、今回の暗殺を実行した部署だと思われるが、その部署は保衛省とライバル関係にある一般警察の人民保安省だと思う。 本来こうした事実を真っ先にキャッチしなければならない保衛省がキャッチできなかったか、あるいはキャッチしていたのに握り潰したのではないかという疑惑を招いたようだ。くすぶり始める北朝鮮国民の不満 こうした内部的なトラブルが起きる中、いずれかが、正男はまだ亡命政権に加担する意思表示をしていないのに、あたかも首謀しているかのようなでっち上げ情報を伝えた可能性もある。 相次ぐ高官の処刑を目の当たりにし、競い合うように正恩に情報を上げて、忠誠を見せつけたという見方もできる。 いずれにせよ、亡命政権構想が出始めた昨年秋ころから正男の暗殺指令は出ていただろうし、これまでにも殺害するチャンスもあったはずだ。だが、工作員といっても正恩の兄である正男の暗殺実行を躊躇したことがあったのかもしれない。たまたま2月になって実行した結果、うまくいったのではないか。北京行きの航空機に向かう金正男氏(右)=2001年5月、成田空港 ただ、今回の暗殺は正恩にとっては諸刃の剣になる。北朝鮮のニュースでは一切報じていないが、最近はさまざまな手法で国民も情報が入るようになっている。金正日の長男である正男は血統的にはトップに就くだけの大義名分があるだけに、こうした身分の兄を暗殺したとなれば、国内外の印象は悪いはずだ。 特に国際社会は「兄殺し」というレッテルを貼り、北朝鮮国内では表向きは知らないふりをしていても、徐々に正恩への不満がくすぶり始めるであろう。あまりに狂気じみている正男の暗殺を知った国民が亡命政権樹立に向けて結集する可能性も出てくる。特に正男の息子は、父親の仇として立ち上がる可能性も十分あり、正恩にとっては脅威以外の何ものではない。 その半面、正恩はますます恐怖心を抱いていく。冷静さを欠いているだけに暴走を止めるのは難しい。特に懸念されるのが正男の子供らがターゲットになることだ。もちろん平一も今回の事件をきっかけに暗殺への機運がぐっと高まるかもしれない。 一方で正恩とってメリットは、脅威になる存在の芽を摘んだことだろう。平一に「裏切るようなことがあれば次はお前だ」というメッセージを強く打ち出した。これから平一は下手に動くことはできなくなる。兄を暗殺した以上、もうだれを暗殺してもおかしくないという圧力を内外に知らしめたことは、亡命政権樹立を阻止することに大きな効果があったといえるのではないか。(聞き手iRONNA編集部 津田大資) り・よんふぁ 関西大教授。1954年生まれの在日朝鮮人3世。関西大学(夜間部)卒、同大学院博士課程修了。関西大学経済学助手を経て、現職。1991年に平壌の朝鮮社会科学院に留学。専攻は北朝鮮社会経済論。著書に「暴走国家・北朝鮮の狙い」(PHP研究所)など多数。

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    北朝鮮工作員による金正男殺害 長年の怨念を晴らした金正恩

    学海外事情研究所教授、日本戦略研究フォーラム政策提言委員) 今年(2017年)2月13日午前8時頃、北朝鮮の最高指導者、金正恩委員長の異母兄弟、金正男がクアラルンプール第2国際空港で北朝鮮工作員によって毒殺されたという(ただし、北の工作員による直接犯行かどうかは断定できない)。 1人の正体不明の女が、突然、金正男の顔にスプレーをかけ、その後、液体を含んだハンカチを正男の口に押し込んだ(ハンカチを正男の頭にかけたという説もある。他方、毒針を使用したか否かは分からない)。そして、その女は、もう1人の女と現場からすぐに逃亡した。平壌の錦繡山太陽宮殿を訪問する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(前列中央)。朝鮮中央通信が配信した=2月16日(ロイター) 金正男は両目が痛いと、空港カウンターの職員に助けを求めた。しかし、その後、正男は市内の病院へ運ばれる途中に死亡している。 金正男は2月6日、居住地のマカオからマレーシアへやって来た。そして、13日午前10時30分のマカオ行き便の搭乗をロビーで待っていたのである。 マレーシア警察は、その2人の女の身柄を拘束したという。だが、北朝鮮の工作員と見られる4人の男らが、彼女達に金正男殺害の実行を依頼した可能性がある。 『東網―東方日報』電子版(2017年2月15日付)によれば、金正男に関する情報は、以下の通りである。 金正男には、マレーシアにも愛人がいたという。そこで、正男は同国へ足しげく通うようになった(ひょっとすると、金正男は、北朝鮮の女性スパイの美人局に嵌って、マレーシアで殺害されたのかもしれない)。 実は、北朝鮮とマレーシアの間では、ビザなしで出入国できる。そのため、しばしば北朝鮮高官はマレーシア経由で亡命する。だが、一方では、北朝鮮のスパイもマレーシアに入国しやすい。 2014年1月、金正男はクアラルンプールの韓国系ホテルに現れた。その後も、正男はシンガポールとマレーシアの高級ホテルにしばしば出没している。 金正男は、弟の正恩が北朝鮮のトップになって以降、自分の身の安全に脅威を感じていたという。最近、正男は、逃亡を計画していたという。義母兄暗殺の原因 さて、金正男には、妻と愛人が少なくとも合計4人いた。申正熙は、金正男の正妻で、北京の高級住宅街で母子共に生活している。申正熙は、もともと平壤招待所の服務員だった。申正熙は、いつも夫の金正男に代わりに平壌へ行き来して、政治活動を行っている。 あとの2人の愛人は、マカオに住んでいる。金正男の2番目の女性は李慧静という。もう1人は、張吉善だが、第2夫人か、或いは2番目の愛人である。張は美人であり、常にブランド品を身に着けている。彼女は、金正男の息子、金韓松と娘の金率熙を出産した。 2011年、息子の金韓松は、香港のインターナショナルスクールへ入ろうとしたが、断られた。一旦、韓松はボスニアで勉強し、その後、フランス・パリへ行き、勉強を続けた。金韓松はネット上で民主主義を支持するという政見を発表している。韓松は、昨年、フランスを出国したが、現在、その行方は不明である。 徐英羅は、金正男の3番目の愛人で、かつて高麗航空の客室乗務員だった。2001年、金正男が偽のパスポートを使って、妻子と一緒に日本へ入国したが、まもなく強制送還された。その際、金正男と共に申正熙・金錦率母子と愛人の徐英羅が写真に撮られている。 生前、金正男は生活が派手で、カネを湯水のように使った。4人の妻妾、及び子供達を養わねばならなかったし、子供達のインターナショナルスクールの学費や養育費もかかった。そのため、毎年年間の生活費は最低でも50万米ドルだったという。張成沢氏 金正恩委員長が、北朝鮮工作員に兄の正男殺害を命じた公算は大きい。何故、金委員長は命乞いをしていたと言われる正男を亡き者にしたのだろうか。 その原因は2012年まで遡る。同年夏、張成沢(金正日の妹である敬姫の夫)が胡錦濤主席(当時)に面会した際、張は、正恩を排して、正男を北のトップに据える考えを示したという(一種の宮廷内クーデター)。 張成沢は、正男を我が子のように溺愛していた。2011年12月、金正日死亡後、張は正男に北朝鮮の最高指導者となって欲しかったのだろう。 その秘密会談の内容が、周永康(「上海閥」)を通じて金正恩へ伝えられた。激怒した正恩は、まず、その翌13年12月、張成沢を処刑している。当然、正恩は、ライバル(政敵)である正男の命も狙っていたに違いない。 けれども、金正男は北京政府(「太子党」)にしっかり守られていたので、金委員長は正男を容易に殺害できなかった。 ところが、前述のように、正男はマレーシアにも愛人ができたため、同国へ通うようになったのである。そこで、金委員長はチャンス到来と見て、北朝鮮工作員をマレーシアに派遣し、漸く長年の怨念を晴らしたと考えられる。(2017年2月16日 日本戦略研究フォーラム『澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」』より転載)しぶや つかさ 1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に「戦略を持たない日本」「中国高官が祖国を捨てる日」「人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖」(経済界)等多数。

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    北朝鮮亡命政府」に担ぎ出されて暗殺された金正男

    は事件について、「金正恩政権発足後、継続的な暗殺指示があった。5年前から暗殺を試みていた」と報告し、北朝鮮の犯行であることを指摘した。金正男氏の暗殺を伝える韓国の放送局(AP)暗殺チームを送り出した「偵察総局」 犯行時の状況や実行犯については様々な情報が飛び交っており、現時点で全容は明らかになってないが、一つ確実に言えることは、犯行には北朝鮮の工作機関「偵察総局」が関与しているということだ。 偵察総局とは、2009年に朝鮮人民軍と朝鮮労働党の工作機関や特殊部隊を統合した北朝鮮最大の工作機関で、海外での情報収集や破壊工作、サイバー攻撃を任務とする。そして、偵察総局には要人暗殺を専門とする「暗殺組」という組織も存在する。「暗殺組」の実態は不明だが、数十人の暗殺専門工作員が所属するといわれる。 この「暗殺組」は、黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党書記を暗殺するため、脱北者に偽装して韓国に入国した工作員が2010年に逮捕されたことで、存在が明るみに出た。逮捕された二人の工作員は、金英哲(キム・ヨンチョル)偵察総局長から「黄長燁を殺害しろ」と指示を受けて、黄元書記の所在地や行動を調査していたという。 「暗殺組は、偵察総局の中から射撃や撃術(徒手格闘)を得意とし、胆力がある者が選ばれる。素手でも銃でも暗殺できるが、主な手段は神経毒を仕込んだペン型の暗殺器だ。ターゲットに接近し、通り過ぎざまに毒針を突き刺す、あるいは毒ガスを浴びせる。ターゲットは一瞬で死に至るが、毒性を制御することで数秒から数分で死亡するように調整することもできる」(韓国・国家情報院関係者) 金正男氏殺害現場を録画した監視カメラには、背後から近づいた女性が同氏の顔面をハンカチのようなもので覆った姿が映っているという。正男氏はヨダレを垂らしながら空港職員に助けを求めたが、これは神経毒特有の唾液多寡症状が現れたものだ。その後、彼は救急車到着を待たずに心停止した。脱北エリートが目論む「北朝鮮亡命政府」構想脱北エリートが目論む「北朝鮮亡命政府」構想 韓国・国家情報院による「金正男暗殺指令」の情報や偵察総局「暗殺組」の存在、そして金正男氏殺害時の状況から、事件は北朝鮮偵察総局が直接あるいは間接的に起こしたことは間違いないだろう。だが、北朝鮮がなぜこの時期に、しかも公衆の面前で金正男氏を殺害しなければならなかったのか、という疑問は残る。 金正恩政権は、対外的には核・ミサイル開発で国際的な制裁を受け、国内的には父・金正日時代から仕えた党や軍の高官を次々に粛清しながらも、盤石の安定をみせている。海外で事実上の亡命生活を送り、国内に支持基盤がなく、金正恩を政治的に脅かす存在でない異母兄を殺害する合理的な理由は見当たらないようにもみえるがーー。 ある脱北者団体のリーダーは昨年夏、2017年上半期までに米国ワシントンに「北朝鮮亡命政府」を樹立する構想を披露した。金正恩体制に反発して脱北したエリートを中心とする亡命政府を作り、政治的には自由民主主義体制を、経済的には中国式の改革・開放政策を目指す国家を樹立するという内容だ。 そして公にはされていないが、「北朝鮮亡命政府」の首班に金正男氏を推戴することも計画されていたという。金正男氏自身は政治に関心がなく、投資顧問として悠々自適な生活を送っており、過去には「世襲」反対を明言している。正男氏が自由な生活と身の安全を犠牲にしてまで、亡命政府首班への推戴を受け入れたとは考えづらい。「暗殺組」の極秘オペレーション「暗殺組」の極秘オペレーション しかし、金正恩はそうは見なかった。偵察総局「暗殺組」には、金正恩からの親筆命令が与えられ、亡命政府樹立までに金正男氏を殺害することが至上命題となった。 金正男氏は家族と暮らすマカオを拠点として、東南アジアを飛び回って金融や不動産取引を行なっている。だが、同氏の身辺警護を行う中国機関の目が届く、マカオや香港で殺害することはできない。同氏が頻繁に渡航し、かつ、北朝鮮国籍者がビザなし渡航できるマレーシアでなら、チャンスはある。クアラルンプールには東南アジア最大規模の北朝鮮大使館があり、偵察総局が活動拠点とする北朝鮮レストランや合営企業も存在するため、作戦支援を受けることも可能だーー。 「暗殺組」のリーダーは、このような思考で暗殺計画を練ったのではないか。そして、2月13日に決行した、というのが極秘オペレーションの全容だろう。公衆の面前で暗殺したのは、亡命政府樹立を目指す脱北者たちに恐怖のメッセージを送ったのだと考えることもできる。暗殺事件が起きた国際空港をパトロールする警察官=2月15日、クアラルンプール(ロイター) 金正恩は、「光明星節」と名付けられた金正日の誕生日に祖父と父の遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿を参拝する。血で血を洗う政治闘争を繰り広げてきた祖父と父でさえ行わなかった“兄弟殺し”をした息子に対して、草葉の陰から何を思うのであろうか。

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    小池百合子 金正男密入国時に「日本から出すな」と進言した

    けだ。 自民党の平沢勝栄衆議院議員も、彼女の情報網の広さを実感したことがあるという。2001年5月、北朝鮮から金正日総書記(当時)の長男・金正男が偽造旅券を使って密入国し、成田で身柄を確保された時のことだ。当時、小池さんは衆議院議員3期目で保守党に在籍していた。「政府の極秘情報だったのにどこで入手したのか。彼女がぼくのところに電話してきて、“あの男を日本から出しちゃダメだ”と言うんです。それにはぼくも同感で、偽造旅券で入ってきた人間を徹底的に調べるのは当たり前のことですから。ところが外務大臣だった田中眞紀子さんは“テポドンが飛んできたらどうするのよ”とパニックになり、結局、丁重に送り返してしまいましたが…」(平沢議員)関連記事■ ラーメン大好きの小池さん モデルとなった人の名は鈴木さん■ 小泉元首相と結婚説あった小池百合子 いまは進次郎がお気に入り■ カイロ貼ると基礎代謝が12%アップ ダイエットや美肌効果も■ 自宅で末期がんの母看取った小池百合子議員 介護生活を回想■ 小池里奈 初挑戦のヒモ水着ほか盛りだくさんのビキニ姿披露

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    北朝鮮副首相、メガネ拭きが金正恩の逆鱗に触れて命落とす

     北朝鮮に対し、厳しい姿勢で臨んできた韓国の朴槿恵大統領の政治危機に、金正恩朝鮮労働党委員長はさぞかし、大喜びに違いない。 が、日を置かぬうちに今度は、正恩氏を不安にさせる材料が持ち上がった。正恩氏を「狂人」扱いし、北への軍事力行使も辞さない、と強硬な発言を繰り返してきたドナルド・トランプ氏の米大統領当選である。ジャーナリストの城内康伸氏が若き暴君の“心奥”に迫る。* * * 金正日総書記の死去を受けた正恩体制は12月17日で発足5年を迎える。彼の統治スタイルを語る時、キーワードは“恐怖統治”である。 2012年に李英鎬軍総参謀長(当時)、2013年に叔父の張成沢国防委員会副委員長(同)、2015年には、玄永哲人民武力相(同)を粛清するなど、韓国の情報機関・国家情報院によると、2016年9月までに164人の幹部を処刑している。2016年になって処刑された幹部の数は2015年の2倍以上に上る。 正恩氏は幼少年期、スイスなど海外で暮らし、父親の急逝で、政治経験不足のまま、わずか27歳で権力を継承した。2016年1月に32歳になったばかりだ。父親に尽くしてきた忠臣や幹部らへの劣等感のために、強いストレスを抱えているとされる。 労働党関係者の間では正恩氏の性格について、「気分次第で怒り出す」「衝動的」というのが定評になっている。「権力維持に対する不安感から、小さな過ちでも幹部を粛清する。大部分は独断で決め、成果に不満があると、幹部に責任を転嫁して残酷に処罰している」。正恩氏に関して、国家情報院は2015年7月、韓国国会の情報委員会でこのように指摘した。 国家安保戦略研究院の李寿碩首席研究員が2015年11月に発表した報告書によると、正恩氏は崔竜海氏や黄炳瑞総政治局長ら父親ほどの年配者である側近を、「この野郎」「処刑してやろうか」などと口汚く罵り、幹部には「俺が壁を門だと言えば、開けて中に入る心構えが必要だ」と無体な要求をするという。 2016年8月に処刑された事実が判明した金勇進副首相は6月末の最高人民会議の席上、メガネをはずして拭いていたことが正恩氏の逆鱗に触れ命を落とした。横領や韓国ドラマを視聴したなどの理由でも、多くの幹部が処刑されている。 正恩氏は最高指導者に就任して早い時期には、酒をあまりたしなまなかったとされる。しかし、国家情報院によると、最近では毎週3、4回は深夜まで宴会を催し、暴飲暴食の日々を送る。泥酔することもあるようだ。ストレスに起因するとみられ、その影響で、4年前には90kgだった体重が、今では130kgにまで増えたという。●しろうち・やすのぶ/北朝鮮事情に精通するジャーナリスト。主な著書に『猛牛(ファンソ)と呼ばれた男』『昭和二十五年 最後の戦死者』『朝鮮半島で迎えた敗戦』など。関連記事■ 金正恩に疎まれた北朝鮮NO.2 “失脚”の兆候以前からあった■ 北朝鮮・金正日総書記「後継・正恩」で握られた「金玉」情報■ 金正恩氏「狂気の粛清」の真意 自分に復讐の刃向かせぬため■ 金正男氏 現在中国の軍事基地内施設で24時間厳戒態勢下に■ 金正恩 年齢詐称し、生みの親明かさぬことで“箔付け”図る

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    偉大な元帥様になれない金正恩を悩ませる「抵抗勢力」の正体

    誉教授)恐怖の平壌 平壌では、「日米首脳会談」の事実を口にできない。禁句である。話せば、逮捕される。北朝鮮の秘密警察のトップ、金元弘・国家保衛相が1月中旬に解任されたという。処刑の可能性も指摘される。北朝鮮国民は誰も知らない。口にすれば、拘束される。1月1日、ソウル駅で北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による「新年の辞」の発表を報じるテレビ番組を見る人々(AP) 国家保衛相解任の理由は、テ・ヨンホ駐英公使の韓国亡命というのが、平壌からの情報だ。テ公使は、家族全員で亡命した。その過程で、子供の出国のため金元弘・保衛相に数十万ドル(数千万円)の賄賂を手渡した。 北朝鮮の外交官は、少なくとも家族一人は人質として平壌に留め置かれる。家族を海外に連れ出せる許可は金元弘の権限だ。さらに、大使館内の秘密警察の担当者にも、多額のカネを握らせた。また、以前から韓国の情報機関と連絡を取っていた。 秘密警察の幹部多数が、責任を問われ処刑された。テ公使は、昨年7月の亡命以来メディアとの会見を重ねている。その中で、金正恩委員長の母親の高英姫について言及した。北朝鮮の指導部内では、母親が在日出身であるというのはなおタブーで、彼女の墓地へのお参りは、幹部も含め禁止されている。公開には指導部内に強い反対意見があったという。 金正恩委員長の誕生日は1月8日とされるが、今年も公式発表はなかった。カレンダーも祝日になっていない。北朝鮮最大のミステリーだが、母親の秘密と関係があるようだ。 誕生日を最初に明らかにしたのは、「金正日の料理人」と言われる日本人だ。彼は、昨年の八月中旬に北朝鮮に入った。妻と娘が平壌にいる。日本料理店を開き、「年末には一度帰国する」と語っていたが、消息は途絶えた。命が危険になる「誕生の秘密」を知っているから、との憶測がある。 北朝鮮の情報、工作機関は彼をスパイと疑っていたが、指導者の保護で手を出せなかった。日本の警察や公安、拉致対策室、韓国の情報機関とも接触していた、との報告が届いていた。 処刑された「張成沢(チャン・ソンテク)」の名前も、禁句だ。「チャ」と言っただけでも、捕まりかねない緊張感が漂う。テ・ヨンホ公使は、「金正日以上の、恐怖先行政治」と述べた。 マキアベッリは「君主論」で「君主は、愛されるより恐れられる方が安全である」と述べた。北朝鮮はこの理論を実践している。過去5年間で340人が処刑されたという。幹部や軍の将軍は、完全盗聴の対象だ。事務所はもちろん自宅の隅々に、盗聴器が隠されている。「儒教全体主義」国家の限界「儒教全体主義」国家 北朝鮮は、哲学者ハンナ・アーレントのいう全体主義国家である。主体思想は「指導者の考え通り考え、指示通り動く」と教える。信仰の自由や思想の自由、職業の自由もないのに、「全体主義国家」と指摘するジャーナリストや研究者は、極めて少ない。共産主義と朝鮮儒教の理論が結びついた「全体主義」だ。「指導者を国民の父親とし、無条件服従」を求める。北朝鮮の労働新聞が1月8日に掲載した、平壌の製糸工場を視察する金正恩朝鮮労働党委員長の写真(共同) 指導者になる第一の条件は、金日成主席と金正日総書記の血統と思想の継承で、息子や家族しか後継者にはなれない。第二の条件は、偉大な業績だ。金正恩委員長は、偉大な業績作りに苦労している。 偉大な業績のために、金正日総書記の「先軍政治」を捨てた。「経済と核優先」の二大政策を掲げた。何が違うのか。「先軍」は、軍人を優遇し利権を与え、軍が貿易に手を出す外貨稼ぎを認めた。それをやめて、「核開発」に利権と資金を集中した。軍が反発し不満を抱くのは当然で、従わない軍幹部を次々処刑した。 金正恩委員長は、元日に「新年の辞」のテレビ演説を行い「水素弾と核弾頭実験、ミサイル発射実験」を偉大な業績として力説した。演説では、「米帝国主義」との言葉を使わず、米大統領への期待をにじませた。トランプ米大統領は「金正恩委員長とハンバーガーを食べたい」と発言し、在韓米軍撤退に言及した。それに期待をかけたが、日米首脳会談で消し飛んでしまった。トランプ大統領は、安倍晋三首相の意向を聞き、強硬策に転換した。北朝鮮に石油禁輸の国連制裁を行う環境が、整ってきた。プーチン露大統領も反対しないだろう。 金正恩委員長は、生き残りのために拉致問題解決の日朝交渉再開に応じるしかなくなる。北朝鮮の外交政策立案は、外務省には権限がない。最近は、40歳代を中心にした指導者直属の部署が、対日外交戦略を密かに担当している。 「儒教全体主義」では、老人や元老が強い発言力を持つ。金日成主席は92年に日本財団の笹川陽平会長に、「わが国では、老人を手なづける能力がないと指導者になれない。儒教の伝統だ」と語った。老人たちは役職にしがみつき現状維持を図り、新しい政策に消極的だ。老人は「金日成と金正日のお言葉がある」と抵抗する。彼らなりの手続きと権限がある。独裁国家といえども、独裁者一人では何もできない。 日米は国連の制裁で、対北石油禁輸に踏み切流べきだ。中国は反対しても、ロシアは受け入れるだろう。中国は、供給削減でもいい。そうなると、北朝鮮軍は崩壊に向かう。石油がないからだ。 国連や日米韓の制裁で困り果て、米国の金融制裁でドル送金を押さえられた。中国も貿易制限に乗り出した。日米との関係改善なしには、衰退するばかりだ。関係改善には、拉致問題の解決と核開発中止が不可欠だ。軍は、核開発中止を絶対に受け入れない。 米国の金融制裁で、ドル送金も押さえられた。日本との関係改善なしには、衰退するばかりだ。日本との関係改善には、拉致問題の解決と核開発中止が不可欠だ。それでも軍は、核開発中止を絶対に受け入れないだろう。 指導者は、「核保有国になった」と米国に認めさせ、核開発の中止を軍に受け入れさせる戦略だ。でも米議会は、北朝鮮の条件を受け入れまい。今年は、金日成生誕105年で、金正日生誕75周年に当たる。お祝いの「花火」として、核実験とミサイル実験をする。実験できなければ、指導者の資格を疑われる。北朝鮮の核実験で、韓国大統領選挙の様相も変わる。国連安保理が、石油禁輸を採択すれば、北朝鮮は崩壊に向かう。

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    北朝鮮に忍び寄る崩壊の足音

    北朝鮮が5度目の核実験を強行した。建国記念日に合わせた核実験の狙いは国威発揚だが、短い周期で弾道ミサイルの発射を繰り返す背景には、金正恩体制の維持を国際社会に認めさせたい思惑もある。亡命者が相次ぎ、軍事的挑発以外に生きる道がなくなった北朝鮮。忍び寄る「崩壊」のシナリオを読み解く。

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    狂気の北核実験、金正恩は賭けに勝った

    北朝鮮は6日午後、「朝鮮で初の水爆実験を成功させた」と発表した。北朝鮮による4回目の核実験は2013年2月以来だが、真偽はともかく国際的な孤立を深める北朝鮮にとって、最後の賭けに出たとも言える。米国をはじめ世界を手玉に取った金正恩。狂気の独裁者が次に打つ手は何か。

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    横田めぐみさんは生きている

    1月15日、日本海に面した新潟市で一人の少女が忽然と姿を消した。当時、中学1年だった横田めぐみさんが北朝鮮に拉致されてからもう38年になる。めぐみさんの生存情報は今も湧いては消えの繰り返しだが、肝心な日本と北朝鮮両国の交渉は遅々として進まない。めぐみさんの帰国はいつ実現できるか。

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    中山元拉致相「北で会ったヘギョンさん、そのまま連れ帰りたかった」

    存在が伝えられた直後から、日本政府は、キム・ヘギョンさんを日本に連れ戻すための交渉をしていましたが、北朝鮮側は「学校があるので」という理由で受け入れないままその日を迎えていました。 ドアが開いて、姿を見せたキム・ヘギョンさんは、一瞬めぐみさんが現れたかと思うくらい、写真で見ていた13歳のめぐみさんそっくり。穏やかで利発そうなお嬢さんでした。中山恭子・内閣官房参与(右)から、めぐみさんとヘギョンさんの親子関係立証の為の、DNA鑑定結果を受け取る横田滋さんと早紀江さん=2002年10月24日、内閣府(代表撮影) その部屋にいた皆が、被害者5人も、言葉を止めました。私は、万が一にもと思い、横田早紀江さんの著書「めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる」を手提げの中に入れていました。当時、キム・ヘギョンさんは15歳、気持ちが混乱しているなか、この本を出すのは酷かなと思いましたが、めぐみさんのことは知ってもらわなければ、と心を強くして手渡しました。キム・ヘギョンさんは本を手にして、自分とそっくりな少女の写真が載っている本の表紙をじっと見つめていました。 蓮池さん、地村さんご夫妻がキム・ヘギョンさんを抱きしめ、曽我ひとみさんは長い間キム・ヘギョンさんを抱いたまま、二人は涙にくれていました。 その後、キム・ヘギョンさんは壁際の椅子に座り、その時も膝に置いた本を見つめ続けていました。そのまま連れて帰りたいと思いましたが、思うようにいきませんでした。思い出すたびに、拉致の酷さ、理不尽さに悲しみや憤りが込み上げてきます。 北朝鮮側は日本のテレビ局を使って、キム・ヘギョンさんに「おじい様おばあ様お会いしたいです。平壌に来て下さい。」と言わせ、めぐみさんの死亡を認めさせようとしました。横田さんご夫妻は、13歳で突然拉致されためぐみさんと15歳のキム・ヘギョンさんの姿を重ね合わせ、「すぐにでも孫に会いたい」と飛んでいきそうでしたが、はやる気持ちを抑え、冷静に「めぐみさんを助けることを優先する」と決断しました。 北朝鮮は今もなおキム・ヘギョンさんを使って拉致被害者が全て死亡したと納得させ、拉致問題を終局させようとしています。 このテレビ局のインタビューに答えるキム・ヘギョンさんの姿は、平壌で会った時と全く違っていて、徹底して教え込まれたことを話さなければならない少女の姿でした。 拉致という国家犯罪に翻弄される少女、そして家族。 一日も早く救出しなければなりません。めぐみさんとキム・ヘギョンさん、二人揃ってタラップを降りる姿を見たいとの思いで真剣に取り組みましたが、今なお果たせていないのは実に残念であり、申し訳ないことです。国交正常化を進めることは根本的に間違っている 私たちは、今なお北朝鮮に拉致されている被害者全員が一刻も早く帰国することを希求していますが、いまだに実現できていません。 昨年5月に、北朝鮮と取り交わしたストックホルム合意でも事態は全く進展していません。 北朝鮮が孤立化を深め、拉致被害者救出には千載一遇の好機が到来している。にもかかわらずこの合意文書は相も変わらず国交正常化ありきで始まっています。 この合意文書には、拉致問題の関連項目としてただ1ヵ所、北朝鮮が行う措置の一つとして《拉致問題については、拉致被害者及び行方不明者に対する調査の状況を日本側に随時通報し、調査の過程において日本人の生存者が発見される場合には、その状況を日本側に伝え、帰国させる方向で去就の問題に関して協議し、必要な措置を講じることとした》とあります。 日本人が発見された場合に「帰国させる」と約束しているのではなく「帰国させる方向で去就の問題に関して協議する」となっています。 これでは北朝鮮は、被害者を日本へ帰国させるつもりは絶対ありません、と言っているようなものです。このまま外務省に任せて交渉をいくら続けても被害者の救出は出来ないでしょう。被害者は永久に日本に帰れなくなり、戻って来る道が完全に絶たれてしまいます。 安倍晋三総理は被害者を必ず取り戻すと繰り返し述べています。にもかかわらず外務省はあくまでも国交正常化を目標に据えています。国交正常化は確かに外務省の仕事です。外務省には拉致被害者を救出しなければならないという任務がもともと与えられていないと考えられているのでしょう。 何故そうなってしまうのでしょうか。外務省の仕事、任務は、敗戦後、様々な国々との国交正常化を図ることでした。 北朝鮮との国交正常化も外務省にとっては長年の懸案であり、これを決着させることが任務を全うすることになっています。外務省は本当に仕事熱心です。どんなに厚い壁が立ちはだかり高いハードルが目の前をふさいでも国交正常化を図ろうと頑張っている。それが、そのために拉致被害者が犠牲になってもいたしかたないという論理になってしまっているのだと考えられます。 しかし、北朝鮮の場合、日本人を拉致して監禁しているのですから、これを放置して国交正常化を進めることは根本的に間違っていると考えます。  もうひとつ理由があります。これは外務省の問題というよりも国家全体の問題ですが憲法の問題です。相手が嫌がるようなことは言わずに仲良く過ごす。これが憲法の精神だと思われています。日本国民を守ろうと思えば、まわりの国々、相手国が嫌がることを口にしてでも日本国民を守る、そういう考えが憲法の中に存在しないと考えられています。 しかし、現在の国際社会の中では、自国の被害者を放置したまま友好関係を結ぶことは国民を守る意思のない国として信用されません。国交正常化する前に被害者を救出。 私たち次世代の党は、そう考えています。 被害者を救出する仕事をどこがやるか。拉致問題は外交交渉で片付く問題ではありません。被害者救出の問題です。外務省にすべてを任せるのではなく、外務省の国交正常化に向けた動きを凍結してもらい、安倍総理直轄のもと、被害者救出に焦点を当てて動く組織を立ち上げることが必要です。この一本に焦点を当てて動く専門家集団を政府の中につくって下さいと、これまで予算委員会等で要請してきましたが、7月31日、総理官邸に伺い安倍総理に直接要請致しました。 北朝鮮は一党独裁というより金正恩第一書記1人の国です。そういう国から見ると、日本のトップ、総理大臣がリーダーシップを発揮し真剣にやっているとはっきり打ち出すことが大事です。それも瞬時の判断が必要となります。一瞬の判断の誤りが取り返しのつかないことになりかねません。いずれにしても日本国が結束して救出するという国家的な意思を内外に示す必要があります。さもなければ、北朝鮮はなかなか動かないでしょう。 安倍総理は「拉致問題を解決しなければ北朝鮮が未来を描くことはできない」とはっきり述べておられます。安倍総理のリーダーシップのもと、しっかり信頼できる側近を据えた救出チーム、拉致被害者救出に焦点を当てて仕事をするチームをつくって救出に当たることが不可欠です。 昨年7月4日に、北朝鮮が「調査委員会を立ち上げます」との言葉に対して、日本は行動を起こし、制裁を解除してしまいました。これは行動対行動だと政府はいいますが、そうではありません。言葉対行動です。やはり、今一度、制裁措置を課し、法執行を厳格にすることが必要です。この手の交渉は当然のことですが、拉致している人達、人質をとっている者が絶対優位です。日本として使える手段は制裁や執行を厳格にすることしかありません。今は制裁が解除されてしまい、その手段すらなくなってしまっている。それが現状です。 北朝鮮に拉致された人達はもう向こうになじんでしまっている、だから、何も日本に戻さなくてもいいではないですかという意見もときどき聞かれます。 しかし、自分の生まれ育ったふるさとや親、兄弟など肉親のことを思わない人がいるでしょうか。きっと被害者の方々は自分の親兄弟のことを毎日思い出しながらふるさとに思いを馳せているはずです。親はどうしているか、兄弟はどうしているか。いつも心の片隅で案じながら暮らしていると思うのです。彼らはたとえそう思っても、それを口にすることすら許されない生活を送っています。全ての自由を奪われ、閉じこめられ、監禁されているのです。同じ日本人だからということだけでなく、それ以前に、人として考えても許されないことです。帰りを待つ家族が非常に辛い思いをしていることも忘れてはなりません。さらにこれは、国家の問題です。二重、三重に救出をしなければいけない。そのことを正しく認識していただきたいと思っています。被害者の帰国を図るべく揺るぎない取り組みをしなければなりません。

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    拉致事件解決のために 国民を護れる国造りを始めよう

    パリで起きただけではない。 日本ではおよそ40年ほど前から、国土のあらゆる場所で頻発している。それが北朝鮮の国家テロリストによる拉致事件である。 わたしはこの原稿を、西暦2015年11月15日に書いている。38年前の今日、学校帰りの自宅近くで拉致されたとき、横田めぐみさんは13歳の中学1年生だった。 わたしは、教鞭をとっている近畿大学経済学部の新入生にこう話している。「若い君たちより、さらに5つ以上も若いときに奪われた横田めぐみさんは、誰も取り返しに来てくれないまま、とうとう君たちのお母さんの多くより年上になってしまった」 めぐみさんは、今年10月5日の誕生日で51歳になった。 しかし、めぐみさんの歳月をめぐって、わたしたちが考えるべきことは、これだけではないのだ。首脳会談を終え、握手する小泉純一郎首相(右)と北朝鮮の金正日総書記=平成14年9月17日 かつて小泉純一郎さんが総理だったとき、平壌で初めて日朝首脳会談が開かれることになった。このとき金正日総書記が日本国民を拉致したことを、カネ欲しさに認めるのではないかという見通しが日本政府のインテリジェンス(機密情報)にあった。 そのうえで、政府当局者から一民間人のわたしまで、北朝鮮は次のように主張するだろうと予想した。―「北朝鮮にも悪者がいて、それが起こした犯罪が拉致である。国には責任がない。それをわざわざ国が解決の手助けをするのだから日本は、それ相応のカネを払え」 当時、官房副長官だった安倍晋三さん、現在の総理も小泉さんに同行して平壌に行った。その安倍さんもそう思っていたかどうかは、わたしの勝手な想像だけで言おう。同じことを考えていただろう。 ところが金正日総書記は、小泉さんと安倍さんの前でこう言った。「北朝鮮の国家機関が日本国民を拉致していたことが分かった」 そして北朝鮮の政府高官を名指しして「すでに処罰した」と語った。 のちに分かったのは、この人物は実在するが拉致とは無関係のつまらない横領事件で処刑されたと分かった。この汚職高官に罪を被せつつ、あえて国家の仕業と認めたのである。 なぜか。 わたしたちの大切な最高法規であるはずの日本国憲法、その第九条の最後に「国の交戦権はこれを認めない」とあるからだ。 憲法学者は要らない。複雑な解釈論は要らない。本来の憲法は、国民が学歴、年齢、立場の違いを乗り越えて誰でも分かる、まっすぐに直ちに分かるものでなければならない。 この条文をふつうに読めば、「国同士の戦いはいかなる理由があっても認めない」、すなわち日本国は相手が国であれば、国民に何をされても戦えない、となる。 その相手の国には、国家主権をこのように根本から否定する憲法などあるはずもないから、つまりは日本国民は拉致されようが殺害されようが、相手が国家を名乗れば、政府は何もできない国に誰もが住んでいるのである。 民を護らないのなら、それは国家だろうか。 そんな憲法であってもそれがある限り、日本は本物の法治国家としてそれを守ることを、北朝鮮は良く知っている。 人治国家の北朝鮮や中国とは違い、日本では改憲論者の安倍総理も、天皇陛下も、わたしたち民衆も現憲法がある限り、それを守る。そして憲法自身の持つ改憲の定めに従って改憲されれば、その憲法を陛下も総理も国民もみな力を尽くして守る。 わたしと独研(独立総合研究所)は毎月、自主開催の「独立講演会」を開いておよそ5時間、わたしが参加者と対話し、事前打ち合わせのない自由な質問をお受けしている。 ある当局者によれば、ここに北朝鮮の工作員も「参加」しているそうだ。テロ要員ではない。あくまで情報収集が任務の潜入型工作員だ。では、わたしの話や、質問への答えを聞きたいのか。いや違う。北朝鮮にとっては、わたしの話や答えなどテレビラジオや著書による発信で充分であり、今さら聞きたくもない。知りたいのは、聴衆・国民の反応であり、何をわたしに問うかである。 北朝鮮のように、あるいは中国のようにもともと戦争の弱い国、民族は、外交がしたたかである。 日本のように強いと、どうしても外交は下手になる。外交とは情報である。北朝鮮は、国営テレビでのあの大仰な言いぶりとは裏腹に自国の国力を良く知っている。だからこそ、潜在力のある日本国民が何を考えているかを常に丁寧に探る。日本国民が目覚めないように、マスメディアや学者や政治家を相手に徹底した工作・浸透活動と情報収集を怠らない。 拉致も、「国がやった」と言えば日本は国際法や国際社会の常識とは真逆に身動き取れなくなることを良く知り尽くしている。だからこそ金正日総書記は「国家機関が拉致した」と明言したのだった。 この冷厳な事実に、右翼、左翼があるだろうか。改憲派、護憲派があるだろうだろうか。立場の違いを乗り越えられる論点のはずだ。 ところが、国の直接関与を認めたこの金正日発言にマスメディアはほとんど反応せず、国民もその重大な意味にほぼ気づかずに終わった。 もしも気づいていて、広範な国民が声をあげ、憲法の最低限の改正を行い、わたしたちの自衛隊、なかでも陸上自衛隊の世界トップレベルで屈強な特殊作戦群(通称S)を千葉県の習志野駐屯地から拉致被害者の救出に派遣すると決定していれば、北朝鮮はその作戦が発動する前に交渉に応じ、被害者の解放に踏み切っていただろう。 そのとき横田めぐみさんは幾つだったか。38歳前後である。13歳で拉致されても人生をやり直せる年齢だった。それが国民が見過ごしたために、すでに50歳を超えてしまった。 この事実は何を物語るか。 拉致事件の解決とは、わたしたち自身の生き方を見直すことである。たった一度、戦争に負けただけで、国民を護らない国にならなければいけないのか。 この刷り込み、思い込みから自ら脱し、むしろ敗戦をはじめ失敗をこそ活かして、より国民を護れる国造りを、国の唯一の主人公、主権者としてそれぞれの場所から始めよう。 ふつうの国民にまず、できること。それは例えば視聴者として日常的に接するマスメディア、子供たちを通わせる教育現場、選挙で直接に代表を選ぶ政界、それらに浸透している北朝鮮への協力者を怒りもて、もはや叩き出すことだ。北朝鮮の独裁を支える中国への協力者も、もはや安易に許さないことだ。 めぐみさんも、それでもまだ51歳である。残された時間をわたしたちが同胞(はらから)として取り返さねばならない。 立て、万(よろず)の地の日本国民。 100人を超える恐れのある他の拉致被害者と共に横田めぐみさんにも、祖国日本での人生をやり直していただくために、一緒に考え、一緒に立とう。

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    北朝鮮が拉致でついた二つのウソ 「死亡」の8人は生きている

    西岡力(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長) 横田めぐみさんをはじめとする多くの日本人拉致被害者が今も北朝鮮の地で救出を待っている。私は曽我ひとみさんに「いつまで日本からの助けを待っていましたか」と質問したことがある。ひとみさんはこう答えた。 「1990年、北朝鮮のTVで金丸という日本の大物政治家が訪朝して金日成と会ったことが報道されました。そのとき、日本の政治家がきてくれたのだから、日本から連れてこられた自分のことを議題にしてくれるだろうと内心期待しました。しかし、何も起きず、がっかりした。昼間は家事や育児で忙しく考える暇がないが、夜になると月や星を見て、同じ月や星を故郷佐渡の父や母、近所の人たちもみているだろう。いつになったら日本から助けが来るかと毎日考えていた」「拉致問題を考える埼玉県民の集い」で、「ふるさと」を歌う拉致被害者の曽我ひとみさん(左から2人目)、家族会代表の飯塚繁雄氏(同3人目)=9月5日、埼玉県さいたま市(荻窪佳撮影) ひとみさんは佐渡の自宅近所で工作員らに襲われたときいっしょにいたお母さんについて、北朝鮮についてから日本にいると聞かされていたので、そう信じていたから、お母さんも佐渡で自分を待っていると思っていた。だから、曽我さんは2002年10月に帰国を果たしたとき、お母さんがいないことに大変強い衝撃をうけ、自宅のタンスからお母さんの着物を出して泣いていたという。 当初、北朝鮮は拉致などでっち上げだと開き直っていた。平成9年に運動を始めた家族会と救う会は必死で拉致は事実だと訴えた。平成14年、訪朝した小泉純一郎首相に金正日が拉致をしたことを認め謝罪した。これは大きな勝利だった。しかし、ここでまた北朝鮮は二つのウソをついた。拉致したのは13人だけというウソと、そのうち5人は生存、8人は死亡というウソだった。 現在政府は17人を拉致被害者として認定している。だから、それと比べても13人しか拉致していないという北朝鮮の主張がおかしいことはすぐ分かる。 例えば、曽我ひとみさんのお母さんである曽我ミヨシさんについて北朝鮮は、ひとみさんを拉致したのは日本国内の下請け業者であり、ミヨシさんについては自分たちは知らないと説明した。しかし、曽我さん親子は自宅近所の道を二人で話しながら歩いているときに女1人、男3人の北朝鮮工作員に襲われた。ひとみさんの証言によると、親子を襲った工作員らは工作船に一緒に乗って北朝鮮に帰還した。その過程でどこか隠れ家に監禁されるなど、日本国内の「下請け業者」らしき存在の関与は一切ないという。 その上、政府認定以外にも拉致されたこと確実な失踪者は存在する。安倍政権も「認定の有無にかかわらず全ての被害者を帰国させる」という方針を掲げている。死亡とされた8人はなぜ生きていると言えるのか 次に死亡とされた8人はなぜ生きていると言えるのかについて説明する。 第1に、北朝鮮が「死亡」と通報した8人について、死亡を証明する客観的証拠が誰一人についてもないことだ。 北朝鮮から提供された「死亡の証拠」はすべてでっち上げられたものだった。その結果、2006年、第1次安倍政権は被害者が全員生存していることを前提にして全員の安全確保と帰還を求めるという現在まで続く基本方針を打ち出した。 家族会・救う会だけが生存を主張しているのではなく、政府が全員生存と主張している。 政府がウェブサイトやパンフで生存を主張する根拠は以下の通りだ。1.死亡したとされる8名[横田めぐみ、田口八重子、市川修一、増元るみ子、原敕晁、松木薫、石岡亨、有本恵子]について、死亡を証明する客観的な証拠が全く提示されていない。 (1) 死亡を証明する真正な書類が一切存在しない:「死亡確認書」は日本政府調査団訪問時に急遽作成されたもの。また、交通事故記録には被害者の名前がない。 (2) 被害者の遺骨が一切存在しない:亡くなったとされる8人について、北朝鮮は6人の遺骨は豪雨で流出したと説明。提供された2人分の遺骨とされるものからは本人らのものとは異なるDNAが検出されたとの鑑定結果を得ている。 2. 8人の被害者の生活状況、「死亡」に至る状況についての北朝鮮側説明には、不自然かつ曖昧な点が多く、また、日本側捜査により判明している事実・帰国被害者の証言との矛盾も多く、説明全体の信憑性が疑われる。》 8人生存の第2の根拠は、確実な生存情報があることだ。 政府は精力的な情報活動を行っており、かなりの情報を蓄積しているはずだ。たとえば、菅官房長官は「もちろん生存していると私どもは確信しています。政府の考え方は、すべての拉致被害者の生存を前提に、情報収集、その分析、その他の取り組みを、今全力を挙げて取組んでいる」(2013年10月9日)と語っている。 救う会も確実な生存情報を持っている。その大部分は非公開だが、以下の情報はすでに公開している。・ 横田めぐみさんについて北朝鮮は「94年に死亡した」と通報したが、救う会は2001年まで平壌の龍城区域の七宝山(チルボサン)招待所で暮らしていたという複数の情報源から得た情報を持っている。1987年に順安区域招待所に移り、そこで金英男氏と会って同居し、結婚した。1993年に夫との不和で離婚した。94年4月、義州の49号予防院に入院させられたが、1日後に呼び戻され平壌の49号予防院に入った。94年9月、対日工作員と再婚、96年11月に、男子を出産した。・ 市川修一さんについて北朝鮮は「79年に死亡した」と通報したが、救う会が複数の情報源から入手したところでは、96年まで金正日政治軍事大学から龍城招待所まで日本語を教えに行っていた。・ 田口八重子さんについて北朝鮮は「86年に死亡した」と通報したが、救う会は彼女が2014年に肝臓の病気で治療を受けていると複数の情報源から確認している〉 蓮池薫さんが最近、次のように語っている。「向こうにいる人たちの精神状態が一番心配だ。物質的には一定の供給があってそれほど不自由ではないが、精神の安定を保つことが大変困難だ。彼らは、去年から日朝間で拉致問題についての協議が行われているということを知っているはずだ。もし今回もだめだったら、精神の安定を保てなくなるのではないかと心配している」 一番苦しいのは向こうにいる被害者たちで、その中には家族が今表に出ていない人もいる。名前も分かっていない、まだ未認定の被害者もいる。そういう人たちを含め、今回何人かでも積み残したらあと何年かかるか。5人帰って来てからもう13年経っている。今回積み残された人がいたら、あと10年、その人たちの精神状態がもつだろうか。 全員の一括帰国ということは絶対に譲れない。「何人かでいい」ということは絶対言ってはならない。安倍首相は繰り返し「拉致問題の解決なくして北朝鮮は未来を描くことはできない」と言っている。「拉致問題の進展なくして」とは言っていない。何人か帰ってくれば進展だと思うが、しかし解決ではない。 「認定の有無に関わらず全員の安全確保と帰国」については、絶対に譲歩してはならない。それが実現しないならば、安倍首相の発言通り、金正恩政権が未来を描けないくらいの強力な制裁をかけるしかない。その決断をすべきときだ。

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    これで横田めぐみさんを救えるか 特殊部隊、邦人救出論議に思う

    歴史を正面から受け止めている者と、見て見ぬ振りをしている私の違いであるように思えてならなかった。なぜ北朝鮮による拉致被害者ではないのかなぜ北朝鮮による拉致被害者ではないのか 私は、どんな国へ行っても、何をしている人でも、喋った相手は、みんないい奴に見えてしまう。だが、私のような経歴の人間がいい奴ばかりに囲まれて生きてこられるはずもなく、私に悪意を持ったり、やっかんだり、人種差別をした奴だって多くいたに違いない。鈍感な私が気づいていないだけだ。その信じがたいほど鈍感な私でも、事情をよく知りもしないのに、どちらか一方に加担することの愚かさだけは、身に沁みた。そして、その事情を理解するということは、簡単なことではなく、同じ時間を、同じ空間で、しかもかなり長い期間を、共に過ごさないと理解なんかできるものではない。 今もアメリカ海軍の空母には、白人も黒人もネイティブアメリカンも乗り組み、あの時と同様の人間関係があるのだろう。皮肉なことに黒人もネイティブアメリカンも、それぞれの民族に誇りを持ちながら、民族の歴史を認識しながら、自分たちを屈服させたイデオロギーを、更に他の民族に強要する行為の最先鋒を担っている。片棒を担ぐどころではなく、ほぼ張本人になっている。それは、彼らが「独立した国家」を持たないからだ。黒人は、アフリカの地で暮らしていた自分たちを・かっさらってきて・アメリカ合衆国に連れ込み、奴隷として売買した者を恨み蔑んでいたし、ネイティブアメリカンは元々自然と調和して豊かに生きていた自分たちを消し去った奴を嫌っていたが、その忌み嫌うやつらの空母に乗っていた。 あの時の私の「お前は、黒人の悪口言ってるけど、その黒人と同じアメリカ海軍に属して、同じ空母に乗ってるじゃね~か。インチキアメリカ人なんかやってね~で、独立戦争しろ」という言葉は、思い出すだけで身震いするほど、愚かで恥ずかしい発言だ。しかし、間違っていない部分もあると思う。そして、あの言葉はむしろ私自身に向けるべきものでもあった。あの時、本当に考えなければならなかったのは、自分のことである。 「俺は、これに乗ってていいのか?」「俺が乗っている空母に爆弾を積んで突っ込んでいった先輩は、日本が日本の理念でものごとを決断し、実行できる国のかたちを守ろうとしたのではないのか?」 あの時、少しは頭をよぎったものの、保留状態にしてそこで止まってしまっていた。 だが、安倍首相の演説に強烈な違和感を覚えて、思い出したあの時の出来事の本質はここにあると思っている。首相が日本の理念でものごとを決断し、発言しているとはとても思えなかったから、違和感があったのである。どう考えても日本にとって最優先すべき対象は、北朝鮮による拉致被害者だろう。無理やり、あるいは騙されて拉致された彼らを放置しておいて、再三にわたる渡航自粛要請を無視し、自分の意志で、自己責任と宣言して行った人の事件をきっかけに法整備を進めると言ってみたり、必ず償わせると言ってみたり。彼ら2名をどうでもいいと言っているのではない。誰がどう考えたって、優先順位がおかしいだろうと思うのだ。 独立している国だと思っていたが、実は空母に乗っている黒人やネイティブアメリカンと同じなんじゃないか? だって、自国の理念で行動しているように思えないことが多すぎる。憲法にしろ、外交にしろ……このまま今度は、集団的自衛権の名の下に武力の行使に至るまで、他人がコントロールできる方向に向かっているように思えてしまう。特殊部隊員たちの生き様 この国には、奪還すべき対象がどこに居ようと、情報があろうと無かろうと、「奪還しろ」という命令が下れば必ず実行する者がいる。方法はいくらでもある。映画のように《衛星写真や情報部からのネタを元にパラシュート降下して、ドンパチやって、離脱用のヘリで脱出…》という方法ばかりではない。《ほとんどない情報を頼りに、浸透し同化し情報をとりながら近づく》方法だってあるのだ。 私は、陸・海自衛隊の特殊部隊員(注)が、どうやって選抜され、何を考え、何を望み、毎日何をしているかを知っている。そしてその実力も知っている。彼らだけではない。どんな部隊にも、極々少数かも知れないが、孤立しながら、いつ来るか判らない任務のために毎日、寒さ、暑さ、枯渇、飢餓、激痛、虚脱感の中で心身を錬磨して備えている者がいる。彼らは、命令が実行されれば、生きていたいという本能をねじ伏せ、“いきもの”から、ただの肉の塊になることも、肉片すら残らないことをも気に掛けず、ただ淡々と任務を達成しようとする。 彼らが、自分を消滅させてでも守ろうとしているものは、日本が、その理念に基づき決定した国家の意志であり、そして、それを貫こうとする国家の姿勢である。 誠に殉じようとする彼らを、他国のイデオロギーで決めた、他国の意志で翻弄するようなことがあっては、断じてならない。(注)「陸上自衛隊特殊作戦群」及び「海上自衛隊特別警備隊」所属の隊員いとう・すけやす 昭和39年、茨城県出身。日本体育大学卒業後、海上自衛隊に二等海士で入隊。「能登半島沖不審船事件」の際は護衛艦「みょうこう」航海長として不審船を追跡。この経験から海上自衛隊の特殊部隊・特別警備隊創設に携わる。同隊初代先任小隊長。平成19年退職(二等海佐)。予備役ブルーリボンの会幹事長。 

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    関係者が証言する 拉致問題が進展しない本当の理由

     [桐生知憲の第四社会面]またしても北朝鮮からの延期通告桐生知憲 今月2日の夜、北京の大使館ルートを通じて、北朝鮮が日本人拉致被害者などの再調査についての報告を延期したいと日本側に伝えてきた。去年の5月、スウェーデンのストックホルムで日朝局長級協議を開催して、日本人拉致被害者に関する再調査を実施することで両政府が合意した(ストックホルム合意)。合意した再調査の内容は、拉致被害者のほか、 ▼拉致の疑いが排除できない行方不明者 ▼終戦前後に北朝鮮で亡くなった日本人の遺骨 ▼残留日本人と日本人妻というものだった。「せいぜい1年以内」(菅義偉官房長官)は両国で合意していた期限だったのか 去年の7月4日には北朝鮮が特別調査委員会を設置して調査を行っていた。委員会設置から1年となる直前に、報告の延期を通知してきた北朝鮮の狙いは何なのか。日本側が再調査の期限としていた「せいぜい1年以内」(菅義偉官房長官)は本当に両国で合意していた期限だったのか。5月31日に東京で行われた朝鮮総連設立60周年集会(REUTERS/Aflo) 国家安全保衛部。今回の再調査では、この組織が主導権を握るとされた。これは日本側の要求でもあり、実際にこの部の徐大河副部長が特別調査委員会の委員長となった。過去には、外務省の田中均・アジア大洋州局長(当時)が国家安全保衛部の柳敬副部長と極秘交渉を進めた結果、2002年の日朝首脳会談につながったとされる。国家安全保衛部は金正恩第一書記直轄の組織とされる秘密警察で、拉致被害者を担当しているとも言われていた。 こうした日本側の要求が通ったという背景があるため、「拉致問題は進展する」と日本国内の期待は高まった。高齢化する未帰還の拉致被害者家族はなおさら被害者が帰ってくることを信じて疑わなかったことだろう。 しかし、である。当初、北朝鮮の第1回の報告は、「夏の終わりから秋の初め」とされていたが、北朝鮮は去年9月、調査は初期段階にあり、調査全体で1年程度を目標としているとして1回目の報告を先送りにした。去年10月には日朝両政府の公式協議が行われたが、具体的な話はなく、その後は水面下の協議が続けられただけで、今月2日の結果報告の延期通知に至ったのだった。北朝鮮は安倍総理を信用していない 「これはかの国と深い関係がある人物から聞いた話だが、国家安全保衛部では拉致被害者を調査できない。本当に権限を持っているのは別の組織だ」。再調査が始まった頃、筆者は日朝関係筋から打ち明けられたこの言葉が忘れられない。その組織の名前はあえて記さない。なぜなら、その組織こそが重要というわけではなく、こうしたメッセージが届いている段階で、日本側が情報戦に敗北していることを示していると筆者は考えるからだ。 さらに、この人物は「北朝鮮は安倍総理を信用していない」と話した。これは、2002年に拉致被害者5人が帰国した際、5人を北朝鮮に”帰国させる”とした約束や北朝鮮に対する経済支援の合意を日本側が守らず、この決定には当時、官房副長官だった安倍総理が深く関わったと北朝鮮側が見ているからだ。 この人物は、この時以降もこのような北からのメッセージを幾度となく聞いたという。確かに、この人物の“ルート”がすべてではないが、筆者は日本側が報告期限とした1年となっても動きはないと予想していた。霞が関界隈の多くの関係者も同様に予想していたことを付け加えておく。 拉致を最優先するとした日本と、日本人遺骨や日本人妻の報告をまずできるとした北朝鮮。ここにも溝がある。罪もなく異国にさらわれた日本人を真っ先に返すよう主張するのは当然のことと言える。ただ、日本側は「拉致が最優先」とする主張が、両国間で合意していたかは極めて疑わしい。 筆者が最も気になったのは拉致の疑いが排除できない行方不明者の取り扱いだった。警察庁は可能性が排除できない人は870人余りとしているが、ある警察幹部は「本人を見つけるか、死亡していたという証拠がない限りは可能性ありとなってしまう。(870人あまりの大半が)北朝鮮に拉致されたとはとてもではないが言えない」とその実態を話す。 このリストを北朝鮮に示しているとされるが、再調査開始以降、日本国内で見つかっている人がいて、「このリストは日本の信頼性を失わせ、北朝鮮につけこまれる一因になるかもしれない」(別の警察幹部)。「圧力」の狙いは北朝鮮から「再調査打ち切り」を言わせるための口実作り「圧力」の狙いは北朝鮮から「再調査打ち切り」を言わせるための口実作り 拉致を錦の御旗にして、北朝鮮に強硬姿勢を示す日本。結果報告の延期通知でさらなる「圧力」を求める声が高まっている。「圧力」になるとされる警察の捜査はどうか。 今年3月、北朝鮮産の松茸を不正に輸入した事件で、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の許宗萬議長の自宅が捜索された。この捜索についてある警察幹部は、「法と証拠に基づいて捜査した結果だ」と話した。この事件のそもそもの捜索があったのは去年5月で、ストックホルム合意よりは前だったので、日朝間に大きな影響はなかったように当初は見えた。 その後、議長の次男が逮捕されることになるが、議長の自宅から押収されたのは携帯電話1台だったと議長自らが捜索後の会見で語った。実際に捜査関係者も「本当に携帯電話だけだった」と筆者に証言していた。この件について、北朝鮮は「このような状態では、政府間の対話もできなくなっている」と批判した。 法と証拠に基づいた捜査ではあるだろうが、警察関係者であればこうした捜査がどのような影響が出るかは予想されるであろうし、建前だけの司法の独立であることから考えれば、議長宅の捜索を官邸が承認したことは間違いない。 別の捜査関係者は、「議長宅以外からの押収品には北朝鮮本国が指示したと証拠があった。朝鮮総連の中央本部を捜索することもできるが、影響の大きさを考えて今回は見送るとの判断があったようだ」とその内幕を披露した。影響の大きさから中央本部の捜索を見送ったとするのであれば、とてもではないが法と証拠に基づく捜査とは言えまい。 実際に、不正輸入事件で逮捕された人物が経営する会社は、中央本部内に事務所を構えているとされ、そうであるならば中央本部を事件の関係先として捜索することは自然であり、捜索しないほうがむしろ不自然なのだ。 この事件のあとも、警視庁が朝鮮大学校の関係者宅を捜索することがあった。また、不正輸入事件を手がけた京都府警以外の警察が中央本部を捜索するのではないかという噂も出ている。こうした背景には、再調査が進まないことへの「圧力」があるとされる。 ただ、これまでの圧力で拉致問題が進んでいないことは衆目の一致するところだ。そこで筆者はうがった見方をする。こうした圧力は、そもそも再調査に勝算を持っていなかった日本側が、北朝鮮から再調査を打ち切ると言わせるための口実ではないだろうか。 北朝鮮といえば「拉致」としか思い浮かべなくなってしまっている日本。国家犯罪による被害者を取り戻すことは最優先であることは間違いない。批判を承知で書くが、拉致被害者が全員生きていること以外の報告を認めないという外交交渉は、あまりにも日本側だけの目線だ。 外交は相手があってのことで、言い方は悪いが、落とし所を再調査合意時点で日本は考えておくべきだった。政府は実際に考えていたのかもしれないが、今はその時期ではないだけなのか。1年でダメだったものが、日本が次の結果報告の期限とする9月までの2カ月間で進展があるとはとても思えない。

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    北朝鮮の国交正常化大使 拉致問題をあざ笑う秘密メモを入手

     横田めぐみさんが北朝鮮に拉致されて37年を経た。拉致被害者はもちろんのこと、体力の衰えを考慮し、2014年内の講演をすべてキャンセルしたご両親の横田滋さん(82)・早紀江さん(78)ら家族を思えば、全面解決をこれ以上先延ばしにしてはならない。 だが、そんな思いをあざ笑うかのような秘密メモを入手した。 北朝鮮の一連の対応を見ると、拉致問題を最重要課題の一つに掲げ、解決に向けた糸口をつかもうとする安倍政権を上から目線でなめきっているのは明らかだ。 そうした北朝鮮の姿勢をはっきりと示した内部文書がある。9月29日、中国・瀋陽で日本と北朝鮮の外務省局長級会談が行われた際、北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使が、日本側の関係者と非公式な懇談を行った際の記録だ。2014年7月3日、北京国際空港で記者団の質問に答える北朝鮮の宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使(川越一撮影) 酒好きで知られる“北のスポークスマン”宋氏だが、この日は酒を交えたオフレコの懇談でいつもより気が緩んだせいか、かなり饒舌に日朝関係や拉致問題などに関する見解を述べている。 そこでは、拉致問題を「たいした問題ではない」と言い放つなど数々の暴言・暴論を吐いており、北朝鮮が拉致問題にまともに向き合おうとしていないことがよくわかる。 宋氏は、日本による植民地支配の歴史から、北朝鮮の人々には「土地や文化を奪われた記憶が残っており、日本に対する国民の印象はよくない」とし、そうした背景が拉致問題を招いたと指摘している。 植民地支配の苦しみに比べたら日本人拉致など取るに足らない問題だとする、北朝鮮お得意の典型的な「すり替え論法」だが、宋氏は外務省で日本との国交正常化交渉を担う責任者だ。その人物が「それ(植民地支配)を考えれば、拉致問題など何でもないと思える」と発言してしまうのだから、協議の進展など望むべくもない。「8人死亡、4人未入国」の見解についても「詳細はわからない」としたうえで、こう発言している。「死んだ人間は帰ってこない。それよりも1億2000万人の安全の問題を考えるべきだ」「死んだ人間について詳細がわかったところで、それが1億2000万人の安全に役立つのか」 横田めぐみさんをはじめ、死亡とされた8人を「死んだ人間」と断定し、それにこだわれば武力攻撃に発展しかねないと脅しをかける。 そうした物言いを聞けば、北朝鮮側の「過去の調査結果にこだわらない」とする説明が単なる口約束なのではないかという疑念が生じてくる。 特別調査委員会についても「きれいに調査をし終えたい」と述べただけで、何をもって「きれい」とするかには一切触れていない。「(特別調査委員会を)日本に生中継してもらっても構わない」と語っておきながら、実際に協議は内容に乏しく、そもそもがパフォーマンスにすぎなかったこともうかがわせる。(文/岸建一(ジャーナリスト)関連記事■ 拉致問題や拉致被害者の家族は韓国政府にとって厄介な存在■ 金正日が正恩に遺訓「拉致問題を遺骨返還問題に切り替えろ」■ 金正日死去は横田めぐみさん帰国のチャンスとジャーナリスト■ 日朝協議 北京開催は北朝鮮による中国への嫌がらせが目的か■ 拉致被害者と家族には命の限りがある 早く解決をと家族会

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    拉致で口先だけの北朝鮮 ストックホルム合意とは何だったのか

    都杉並区(三尾郁恵撮影) 拉致被害者救出に関する日朝ストックフォルム合意から一年が経った。一年前に、北朝鮮が、拉致被害者等の調査特別委員会をつくると日本側に約束したのに応じて、我が国は、在日北朝鮮人の日朝往来に関する制裁と送金額に関する制裁を解除した。 つまり、安倍内閣の、北朝鮮に対する「行動対行動」の原則は、外務省によって、いとも簡単に放棄され、我が国は、「口先対行動」で応じたのだ。 その結果、外貨が喉から手が出るほど必要な北朝鮮に送金が出来るようになるとともに、朝鮮総連の議長が、久しぶりに安心して北朝鮮に帰国して、意気揚々と日本に再入国した。 では、北朝鮮が作ると約束した特別調査委員会はどうなったのか。調査結果を我が国に報告しないどころか、調査した形跡もない。 つまり、何だ、これは。我が国は北朝鮮に騙されたのだ。 平成十四年九月十七日、小泉総理が平壌に行って金正日との間で「平壌宣言」を行った。冒頭から七割を占めるその宣言の内容は、まず我が国が、村山富市談話と同じ表現で北朝鮮に謝り、次ぎに北朝鮮に対する巨額の請求権を放棄し、巨額の金を支払う約束。残りの三割は、北朝鮮が、日本人の安全について配慮する約束、そして、ミサイルは飛ばさない、核の開発はしないという約束。 しかし、北朝鮮は、横田めぐみさんらを未だ解放せずに抑留したままで、ミサイルは飛ばし、核実験は実施している。 つまり、小泉総理一行は、北朝鮮に騙されて帰ってきたのだ。我が国は、平成十四年九月と平成二十六年五月の二度、北朝鮮に騙されている。従って、「平壌宣言」と「ストックフォルム合意」は、我が国が北朝鮮に騙されたことを証明する文書であるに過ぎない。 諸兄姉は、「おれおれ詐欺」で、お年寄りが簡単に騙されて巨額の金を送金するのを知っているだろう。しかし、簡単に騙されるのはお年寄りだけではない。外務省が、騙されることを業績としている。外務省は騙されたことを認めずに繰り返し騙される。業績だから仕方がないと見逃すなかれ。その騙された代償は、国民が払っている。拉致被害者と家族が払っている。  何故、実務を担った外務省は、未だに騙されたことを認めないのか。それは、外務省の目的が、拉致被害者の解放ではなく、日朝国交樹立にあるからだ。従って、外務省は、拉致被害者の存在は、日朝友好関係の「障害」であると位置付けて、その「障害」を除去する為にならば、相手の嘘、例えば、平成十四年の「八人死亡」にも平気で乗るのだ。 そもそも、我が国の国家主権を蹂躙して十三歳の横田めぐみさんをはじめ多くの我らの同胞を拉致した「犯人」と、このような外交交渉を進めるとが妥当なのか。従って、私は、拉致被害者の救出を目指す対北朝鮮交渉においては、外務省を外して、大阪府警と警視庁の、犯罪捜査の辣腕刑事および暴力団対策の凄腕刑事を交渉担当者として派遣するように主張してきた。  これら刑事と外務省とは、発想が全く違う。そもそも、犯人が、一年前のストックフォルムのように、「私が何をしたのか、特別に調査して報告します」と言ったとする。  外務省なら、それを「誠意を示したもの」と受け取って、そうですかよろしくお願いしますと応じる。しかし、刑事は、次のように言う。「馬鹿野郎、なめるなよ、お前のやったことは、お見通しだ。被害者を解放しなければ破滅させるぞ」 この何れが、拉致被害者救出につながるか、明らかではないか。 事実、事態は、外務省ではなく警察によって動き始めた。それは、前回書いたように、マツタケ不正輸入に関する京都府警による朝鮮総連議長宅の捜索と息子の逮捕である。警察は、疑惑の徹底究明のために、朝鮮総連本部の捜索と議長の逮捕に進んでもらいたい。同時に、政府は、対北朝鮮制裁を一層強化するべきである。

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    緊急報告 拉致~対北朝鮮交渉で何が起きているのか

    うに見えるが、その実態はかなり違うということを緊急報告する。 「安倍と金正恩のキッサウムだ」。複数の北朝鮮関係者が私に現在の日朝協議について語った。「キッサウム」とは、「キ=気」の戦い、すなわち、お互いの要求が衝突するにらみ合い、気合いと気合いがぶつかり合う状態をさしている。 昨年末から北朝鮮は水面下の接触で、1回目の調査報告を行いたいと伝えてきた。しかし、その中身が拉致被害者に関するものではなく、戦後すぐ亡くなった日本人の墓地と日本人妻などに関するものだと知った安倍晋三首相が「拉致最優先、認定被害者が必ず入っていなければならない」として受け取りを拒否している。この状態を指して「キッサウム」と表現しているのだ。 この戦いが3月末から4月初め、表舞台で火花をちらした。3月26日、神奈川県警、京都府警、島根県警、山口県警が総連の最高幹部、許宗万議長、南昇祐副議長らの自宅を松茸(マツタケ)の不正輸入容疑で家宅捜索を行った。昨年5月、許議長の次男の会社などを家宅捜索して確保した証拠を確認整理した結果、行われた捜索だ。それに対して、4月2日、北朝鮮は「このような状態では朝日政府間対話もできなくなっている」と北京の大使館ルートで日本に通知してきた。 実は、その翌日、家族会と安倍首相が1年ぶりに面会することになっていた。当日の各紙朝刊が日朝協議中断かと大きく報じる中、安倍首相は面会の冒頭、テレビカメラや記者がいる前で北朝鮮の前日の通報を「全く受けいれられない」と切り捨てた上で、「大切なのは拉致問題を解決しなければ、北朝鮮が未来を描いていくことは困難だと認識させることだ」と強調した。北朝鮮による拉致被害者の家族会(右側)と面会し、挨拶する安倍晋三首相(左から2人目)=4月3日午後、首相官邸(酒巻俊介撮影) 私はその面会の席に同席した。安倍首相はこの発言をするとき原稿を読んでいた。つまり、前日の北朝鮮の脅しを受けて、意図的にこの発言を準備したのだ。「主体思想」の国である北朝鮮としては、自国の未来を安倍首相に描くことが困難だとされることに反発しなければならないはずだ。しかし、その後、北朝鮮は安倍首相の発言に対して全く反応を見せていない。非認定被害者数人が浮上も安倍首相は拒否 北朝鮮関係者によると、金正恩はまず、拉致をのぞく調査結果の報告を行い、日本人妻などを帰国させ、日本の世論をなだめて、取れるだけのものをとろうとしているという。 昨年の6月頃、国家保衛部は北朝鮮全域に住む日本人に対する調査を行った。そのとき、本人に面談して帰国希望があるか調査したが、大多数の日本人妻らは本心を話すと処刑されるのではないかと恐れて「帰りたくない」と答えたと聞く。 ところが、今年3月に入り、再度調査が行われた。清津に住む日本人妻のところに再び保衛部がやってきて、金正恩は寛大な心の持ち主だから帰国したいと言えば本当に帰国が許されると説得したと聞いた。その結果、拉致被害者以外の北朝鮮在住日本人全体とその中で帰国を希望する者のリストができている。私が保衛部に近いある筋から聞いたところによると、その中には特殊機関で働いたことがない日本人拉致被害者が数名入っているともいう。 しかし、安倍首相は「横田めぐみさんたち認定被害者が入っていないリストは受け取らない」と強い姿勢を崩していない。それに対して北朝鮮では、「安倍が突然ハードルを上げてきた、話が違う」と当惑し、その理由について、「日本が北朝鮮に接近することを嫌う米国が牽制しているのではないか」、あるいは「間に入った担当者が虚偽報告をしたのか」などと推測していると聞いた。 北朝鮮では日本との接触は必ず複数のラインで点検監視されているから、虚偽報告される余地がない。したがって、日本側の外務省担当者が疑われていることになる。 一方、日本の中でも、安倍首相が当初から強調していた拉致問題最優先という方針を外務省が正確に北朝鮮側に伝達していたのか疑う声が出ている。本誌でも私は昨年繰り返し、その点を指摘してきた(4月発売の拙著『横田めぐみさんたちを取り戻すのは今しかない』PHP研究所で詳論したので参照して欲しい)。 昨年3月から始まった公式局長級協議には外務省以外に拉致対策本部や警察からも参加者を送っているので、おかしな話はないはずだが、3月以前に水面下で行われていた非公式接触は完全に外務省単独でなされた。2月のモンゴルでの横田夫妻とめぐみさんの娘ウンギョンさん一家との面会は、家族を担当する拉致対策本部も直前まで知らなかった。 今年に入り、1月末、2月末、3月末などに持たれたといわれている非公式接触を受けて、外務省は安倍首相に、昨年のストックホルム合意があるのだから、拉致以外の報告を先に受け取る方がよいのではないかと提言しているという。 しかし、安倍首相の拉致最優先という立場にぶれはない。4月3日につづき、14日にも首相は飯塚繁雄家族会代表、横田滋・早紀江夫妻に面会した。自民党総裁の立場で、自民党本部で行われた拉致をテーマにした演劇公演であつめた寄付を伝達するという名目だった。そして、26日には訪米の特別機を空港に待機させている中で、家族会・救う会・拉致議連などが主催する国民大集会にも出席して、被害者救出への決意を語る予定だ。金正恩に対して拉致問題最優先、特に認定被害者を含む報告をせよと圧迫しているのだ。 金正恩は先述の通り、まず拉致以外の報告で取れるだけのものをとろうとしているのだが、安倍首相の強い姿勢に対して、協議打ち切りを宣言できず、守勢に回っている。また、やはり昨年、本誌などで私が繰り返し警告してきた生存者を殺害して死亡の証拠を作るというテロ計画は、それをすると日本の世論が激高して日朝関係は最悪になるという反対論が北の政権内部で多数派となり、金正恩もその方向で考えているらしいと聞いた。現時点では心理戦、情報戦で殺害を抑止できた。 金正恩が守勢であることは、4月2日の通知の表現にもよく表れている。それほど長いものではないので、朝鮮中央通信の全文を訳しておく。(通知に関する報道は日本語版がない。また、労働新聞や平壌放送など国内で接することが出来る媒体では一切報じられていない。その点も安倍批判の水位を調整している表れと言える)。 〈共和国に対する厳重な政治的挑発と国家主権侵害行為と関連した立場を日本側に通知(平壌発4月2日発朝鮮中央通信) 最近、我が共和国に対する日本の厳重な政治的挑発と国家主権侵害行為が度を超えていることと関連して2日外交経路を通じて日本側に我々の立場を明らかにした通知文を送った。 通知文で、我々は朝日ストックホルム合意を誠実に履行していることに言及したあと、日本が拉致問題を双方の間で解決することにした合意を破って国連人権舞台で国際化してその中心問題として浮上させたことにより自らが信頼できなくさせたと指摘した。 最近、日本警察が不法無道に我が共和国の最高人民会議代議員である総連幹部の家を強制捜索するという前代未聞の国家主権侵害行為を敢行したことに対して強力に糾弾し、今回の事件を日本政府が徹底的に解明して謝罪することを要求した。 このような状況では朝日政府間対話もできなくなっていると明らかにした〉 ここでまず目に付くのが、傍線部分の微妙な表現だ。受動態を使い、自分たちは対話を続けたいというニュアンスを出し、その上で「できなくなった」と書かずに「できなくなっている」と現在の状態を示す表現を使っている。これ以上、総連幹部を取り締まらないで欲しい、国連で人権問題を持ち出さないで欲しいという悲鳴にも聞こえる。 その上、通知文全文を報じないから誰が誰に通知したのか分からない。一体誰の名前で日本に通知したのかを書いていない。主語がないのだ。国防委員会や外務省が主語なら、ストックホルム合意を破棄するという脅しの程度が高くなるが、誰が通知したのかわからないから脅しの程度も低くなる。松茸不正輸入摘発は大きなカード松茸不正輸入摘発は大きなカード 安倍政権は北朝鮮がいやがっている拉致問題の国際化の一環として5月5日、ニューヨークの国連本部前で、日本政府主催の北朝鮮人権国際セミナーを開催し、山谷えり子担当大臣が基調講演をする。私も家族会代表らと共に参加する予定だ。それに対して金正恩は5月9日モスクワで行われる対独戦勝利70周年式典に参加すると言われている。日本に頼らなくてもロシアがあるという安倍首相への牽制の意味もあろう。なによりも、北朝鮮軍の武器・装備の大部分は旧ソ連製であり、部品などが不足して戦力が大幅に低下していることに金正恩は危機感を抱いている。昨年もミグ19戦闘機が3機墜落して、パイロットらが搭乗を怖がるなど部品不足の影響は深刻化している。しかし、ロシアは現金払いをしない限り北朝鮮にものを売らない。過去のように一方的な支援は考えられない。中国との関係は最悪の状況が続いている。5月5日、ニューヨークで開かれた北朝鮮人権国際シンポジウムでスピーチする山谷拉致問題相(右端)。右から3人目は横田拓也さん(共同) 韓国とは2017年12月の大統領選挙で従北左派を勝たせるために、朴槿恵政権とは関係改善をしないだろう。選挙の結果、韓国が再び太陽政策に転換し大量の支援が実施されることを期待しながらそれまでの3年間、拉致を餌にして安倍政権に接近して、対日貿易再開・総連からの送金の復活・人道支援などで経済延命、安倍訪朝で国際孤立挽回などを狙っているのだ。 金正恩は対日協議を中止できない。だからこそ、今、日本がすべきことは、ぶれないで拉致最優先を貫くことだ。安倍首相が語った「北朝鮮が未来を描いていくことは困難だと認識させる」ためには、より強い圧力が必要になる。自民党の拉致対策本部はどのような手段でより強い圧力を加えるかを検討するプロジェクトチームを5月に発足させる。 総連組織ぐるみの松茸の不正輸入事件で、現職総連最高幹部やその息子らの逮捕というカードも安倍首相の手にあると思われる。今回事件化されたのは2010年9月、北朝鮮産の1200キロを中国・上海経由で中国産と偽って輸入したという容疑(外為法違反)だ。わずか1トンあまりの不正輸入だが、私は日本の松茸消費量の1割を超える大量の不正輸入が行われたという以下のような有力な情報を入手している。〈2006年の核実験により北朝鮮産品が全面輸入禁止になったので松茸も輸入が禁止になったが、2011年まで総連系の朝鮮特産物物産などが迂回輸入していた。今回事件化された2010年もそのような不正輸入だった。 しかし、2012年にはより大規模な不正輸入が始まった。危ないものは取り扱わないようにしていた築地市場でさえ扱い始めた。 2012年の北朝鮮からの輸入量は約200トン、キロ5千円で計算すると約10億円になる。同年の消費量は1450トンだから約14%が不正輸入された北朝鮮産ではないかと疑われる。 北朝鮮産は吉林省産として売っているが、吉林省は寒いので9月初めが輸入の限度だ。その後は雲南省から輸入する。10月に吉林省産を輸入できるはずがないのに、出回っている。そういうことは、市場関係者は皆知っていながら金儲けのため黙っている。 相手が中国だから日本当局は強く出られないだろうと勝手に思い込み、輸入している。ただし、DNA鑑定をすれば北朝鮮産であることは分かる。韓国産と北朝鮮産は似ており姿がいい。中国産は姿が違う〉 事件化された1・2トンはまさに氷山の一角だ。警察はかなり時間をかけて緻密な捜査を行ってきたと見える。総連が組織ぐるみで大がかりな制裁破りをしていたことが判明すれば、彼らは今後、日本国内で大変厳しい立場におかれるだろう。また、松茸輸出は金正恩の秘密資金を管理する労働党39号室や軍の外貨稼ぎ部門が行っているので、その資金を遮断することは金正恩政権に大きな打撃を与えることになる。総連は家宅捜索に強く反発しているが、迂回輸入そのものがでっち上げだとは主張できず、自分たちは全く無関係だと訴えるのみだ。北朝鮮産松茸が大規模に不正輸入されているということを彼らもよく知っているのでそこで争うことができないのだ。守勢に回っているのは金正恩 安倍首相はぶれていない。金正恩は守勢に回っている。安倍首相は昨年3月、局長級公式協議が始まったとき、(1)拉致問題最優先、(2)拉致被害者安全確保、(3)拉致問題一括解決(被害者一括帰国)という3針を決めた。(当時の古屋圭司担当大臣の説明)。そのうち、(1)と(2)はほぼ確保された。問題は(3)である。先に見たように、北朝鮮は日本人妻らと一緒に数名の未認定被害者を出してくる案を持っているという情報があるからだ。また、現段階で金正恩は全被害者を返す決断をしていない。つまり、再び、生存者について死亡と通告してくる危険があるのだ。 このまま進めば、金正恩側が、拉致ではなく日本人妻や墓の報告を優先させる方針を諦めて、拉致についても何らかの報告を出してくる可能性はある。拉致とそれ以外の報告を同時にするかもしれない。 しかし、そこで妥協してはならない。今、日本が急ぎしなければならないことは、金正恩に対して、日本が制裁や総連への取り締まりを緩め、人道支援を行うための最低条件を分かりやすく伝えることだ。具体的には、「認定被害者を含む全ての生存者の一括帰国」は絶対譲れないと伝えるのだ。上記(3)を再度確認することだ。認定被害者に関して新たな死亡通告をするならば日朝関係は再び、悪化し、日本は全ての手段を動員して「北朝鮮が未来を描いていくことは困難」な状況を作り出すと伝えなければならない。 この点を曖昧にした交渉を行って、あとから北朝鮮が「話が違う」などというクレームをつける余地を与えないようにする必要がある。 家族会・救う会はすでに3月1日、その点を明記した次のような運動方針を決めている。 〈被害者のリストはすでに金正恩氏のもとにある。全員返すという決断をするかどうかが問題の核心だ。いわゆる再調査委員会が報告を遅延させているため、報告をいつ出すのかが焦点となりがちだが、我々は基本に戻り、全ての被害者をすぐ返せと要求する。特に、生きている被害者を傷つけて「証拠」を捏造する暴挙を行うなら、日朝関係は最悪になる。救う会はこの間、被害者の確実な生存情報を入手していると伝えておく。 我々は金正恩政権に、これ以上被害者抑留を続けるなら日本国民の怒りは限界を超え、制裁の再発動や強化を求めるための一大国民運動を起こすと警告する。いまこそ、全被害者を取り戻す最終決戦のときだ〉。 また、家族会の飯塚代表は4月3日安倍首相に「焦って北の報告書を受け取る必要はありません」と、次のようにその点を明確に訴えた。 〈総理、率直に申し上げますが、我々は拉致被害者の確実な帰国を譲ることができないのです。焦って北の報告書を受け取る必要はありません。拉致被害者の確実な帰国の実現以外、望んでおりません。 総理の英断と行動をもって、どんな状況下にあろうとも、拉致被害者帰国の実現に向け、最優先で対応してください〉 まさに、最終決戦のときが来ている。関連記事■ 「あのとき」の覚悟を思い出せ  交渉ありきの外務省は危険■ 朝鮮民族の「恨」は恨み辛みや不満を生きる力に転換した状態■ 国連人権決議は金正恩氏への「核爆弾」である

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    総連事件の裏で蠢く日朝の攻防

    在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)トップの許宗萬(ホジョンマン)議長の次男、許政道(ホジョンド)容疑者が逮捕された。日本の警察当局による強制捜査に対し、総連側は拉致再調査の中断も示唆したが、政府は強硬姿勢を崩していない。事件の裏で蠢く日朝攻防の深層やいかに。

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    「萎縮」が阻んだ拉致打開 今は北朝鮮に萎縮させるときだ

    阿比留瑠比(産経新聞政治部編集委員) 政府が北朝鮮制裁措置の2年間延長を閣議決定した3月31日、先週に拉致問題に関する働きかけのため訪米した古屋圭司前拉致問題担当相に、議員外交の成果について聞いた。今回は安倍晋三首相にも事前に相談して賛同を得た上での訪米だったとのことで、十分な手応えを感じたという。多角度から対策 「米議員らは『ナイス・アイデア』と言っていた」 こう語る古屋氏は、マイク・リー上院議員ら4人の上下両院議員に会い、協力を要請した。内容は中国で北朝鮮に拉致された可能性が高いスネドン氏について、米議会で調査徹底や問題解決を求める決議を採択することが1点目だ。その際、決議文で日本の拉致被害者に関しても言及してもらう。古屋氏は指摘した。 「米国は、自国民が拉致されたとなれば、世論がどっと動く。自国民救出のためなら、軍隊の使用も辞さない国だ」 次に、2008年のブッシュ大統領時代に米国が解除した北朝鮮へのテロ支援国家指定の再指定である。指定解除は、これを主導した当時のヒル国務次官補も後に「失敗だった」と認めている愚策であり、議会側から米政府に強く働きかけるよう求めたのだ。 この2点が実現すれば、北朝鮮に対する大きな圧力となり、日本の拉致問題が動くきっかけにもテコにもなり得るだろう。北朝鮮からマツタケを不正輸入した疑いで、家宅捜索のため朝鮮総連の許宗萬議長の自宅に向かう捜査員=3月26日 折しも安倍政権は先月、警察当局が1年以上前から内偵していた密輸事件をめぐり、朝鮮総連の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長、南昇祐(ナム・スンウ)副議長の自宅などの家宅捜索にゴーサインを出した。こうしたさまざまな角度からのアプローチが、拉致問題解決につながることを期待する。レッテル覚悟で 思えば日本政府もメディアも、平成14年9月の小泉純一郎首相(当時)による初訪朝以前は北朝鮮に対して過剰に配慮し、腰が引けていた。最近メディアにたびたび登場する表現を使えば「萎縮」していた。 朝日新聞に至っては、小泉氏の初訪朝当日である9月17日付朝刊の1面でも、写真説明に「拉致問題解決を訴える行方不明者の家族たち」と書いた。「拉致被害者」とストレートに記さずに、わざわざ北朝鮮が好む「行方不明者」という言葉を用いる萎縮ぶりだ。 もっとも、報道が萎縮するという懸念については、数年前にも聞いたことがある。20年1月に民間シンクタンク、国家基本問題研究所が初記者会見を開いた際のことだ。フリージャーナリストの男性が、こんな質問をした。 「小泉訪朝は日本の空気を大きく変えた。北朝鮮に融和的なことを言うと『反日』とレッテルを貼られるリスクも出てきた。私の知人にも萎縮して本心が言えないという人がいる」 これに対し、研究所企画委員の西岡力・拉致被害者を救う会会長はこう言い切った。 「小泉訪朝前は、拉致問題について書くと身の危険があった。私は脅迫状も脅迫電話ももらった。しかし、言論活動をしていればレッテルを貼られるぐらい当然だ。それぐらいの覚悟がなければ、言論活動をしなければいい」 自身にその覚悟があるだろうかと自問しながらメモを取ったのを覚えている。被害者家族や西岡氏らが萎縮せずに活動を続けたからこそ、拉致問題が日本社会で重視されるようになったのである。今萎縮しなければならないとすれば、報道関係者ではなく北朝鮮だろう。関連記事■ 朝鮮民族の「恨」は恨み辛みや不満を生きる力に転換した状態■ 国連人権決議は金正恩氏への「核爆弾」である■ 日朝に振り回された拉致被害者家族の一年

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    このままでは拉致被害者奪還は不可能だ

    中山恭子(参議院議員) 日本政府の調査団が北朝鮮から10月30日、帰国しました。拉致問題に関しては事実上のゼロ回答でした。かねがねこの交渉を危惧し、折に触れて警鐘を鳴らしてきましたが、その心配が現実になったと痛感しています。今の交渉をこのまま続けても拉致被害者が救出されることはありません。北朝鮮訪問を終え、経由地の北京に到着した伊原純一外務省アジア大洋州局長(中央)=2014年10月30日、北京国際空港(共同) 一刻も早くこの交渉をいったん止める必要があります。そして交渉当事者を外務省から、拉致被害者に関して十分な情報を持つ拉致担当大臣を中心にした警察関係者などに代えたうえで、北朝鮮に対し、拉致被害者を全員帰国させる決断を迫る交渉を進めるべきと考えます。北朝鮮側の担当者も拉致問題について判断権限を持つ者に代わらなければならないことは勿論です。 拉致被害者を取り返すべく外務省は動いてくれている、と信じている方は依然いるかもしれません。いくら働きかけても北朝鮮が言うことを聞かないから事態が進まない。こう考えている方もいるでしょう。北朝鮮相手の交渉が難しいことは確かですが、問題はそこにあるわけではありません。千載一遇の好機到来 まず北朝鮮を取り巻く情勢を見ますと、2014年に入り、北朝鮮は日本との接触を強めました。拉致問題が進展するのではないか、との見方が広がりました。 2013年12月、北朝鮮の最高幹部、張成沢氏が粛清・処刑されました。張成沢氏は中国とのパイプ役として重要な役割を担っていましたので、北朝鮮と中国との関係は険悪になってしまいました。金正恩第一書記は、未だ中国公式訪問もできておらず、ロシアとも良好な関係がまだ築けていません。米国には「ならず者国家」と見なされ、北朝鮮の孤立は深まるばかりです。打開のために拉致問題が動きだすだろう、今がチャンスだと、さまざまな機会に発言してきました。問題だらけの合意文書 ところが5月29日付で公表された日朝政府間協議の合意文書(ストックホルム合意)を見て、衝撃を受けました。背筋が寒くなる思いでした。合意文書の冒頭はこうなっています。 《双方は、日朝平壌宣言に則って、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現するために、真摯に協議を行った》 私達は北朝鮮との国交正常化の交渉を論じる前にまず拉致被害者が救出されなければならないと考えてきました。日本政府も拉致問題が解決しなければ国交正常化など許されないという立場だったはずです。 2002年9月17日に小泉純一郎首相が訪朝し、金正日総書記と首脳会談を行い、平壌宣言に署名しました。当時の日本政府は北朝鮮が拉致問題を認めて謝罪すれば、国交正常化をするという考えでした。つまり、外務省の仕事は日朝国交正常化をすることであり、拉致被害者の救出は念頭にありませんでした。 10月15日、5人の拉致被害者が出張目的で日本に帰ってきました。地村保志さん夫妻、蓮池薫さん夫妻、そして曽我ひとみさんの5人です。 当時、この問題を担当していた安倍晋三官房副長官の下で開かれていた会議で、5人を日本に残すべきであると主張しました。そう簡単なことではありませんでしたが、最終的には安倍官房副長官が、「解った。そうしよう」と決断して下さり、5人は日本に留まることとなりました。その後家族も無事日本に到着し、頑張っています。 この間、テレビの取材中に、「国家の意思の問題だ」と発言しましたら、全国から多くの非難の電話、メール、ファックスが寄せられました。たった12年前のことですが、日本では、「国家」と言う単語を使うことすらタブーでした。国家が自分の国の国民を守る、領土を守る、国防といったことは口にしてはならないことだったのです。 国家の意思で拉致被害者を守るべきであるとの方針は、総理のご了解も得て、政府の方針とされていました。小泉総理は「拉致問題の解決なくして、国交正常化なし」という非常にわかり易いフレーズを機会ある毎に、発信して下さいました。まず拉致問題を解決すべきで、それがなければ、北朝鮮との国交正常化などあり得ない。これが以来続いてきていた方針でした。救出のマインドなき外務省 ところが、このストックホルム合意は冒頭から2002年以前の外務省の考え方に戻ってしまっています。ストックホルム合意は、拉致被害者の救出が、最重要課題となっていません。日本側は、日本人遺骨の問題、墓参の問題、日本人配偶者の問題、拉致被害者の問題について調査を包括的かつ全面的に実施することを要請したとなっています。外務省の説明によれば、拉致問題が置きざりにされないために、これらの調査を同時並行的に行うこととしたとのことです。日本は、工作員の侵入も防げず、袋詰めにされて連れ去られ、北朝鮮で監禁状態に置かれている日本人、国家による犯罪の被害者を生きて救出できるよう優先して取り組まねばならない筈です。しかし、ストックホルム合意は、国交正常化が日本政府の仕事であり、拉致問題はそのための懸案事項のひとつに過ぎないとの立場に立った合意となっており、拉致被害者が帰国することは殆ど望めません。 この合意文書は、日本側に―北朝鮮側だけでは決してありません―拉致被害者を救出して帰国させようという意思やマインドがまったくないことを示してしまった文書です。 拉致問題が最重要課題となっていないことはこの合意文書の冒頭だけでなく随所に読み取れます。 北朝鮮側の取る措置として《第五に、拉致問題については、拉致被害者及び行方不明者に対する調査の状況を日本側に随時通報し、調査の過程において日本人の生存者が発見される場合には、その状況を日本側に伝え、帰国させる方向で去就の問題に関して協議し、必要な措置を講じることとした》と書かれています。 日本人が発見された場合に「帰国させる」と約束しているのではありません。「帰国させる方向で去就の問題に関して協議する」となっています。北朝鮮は被害者を日本へ帰国させるつもりは絶対ありませんよ、と言っているに等しいのです。《…生存者が発見された場合には、日本政府の者が人定確認をし、直ちに帰国させる》との文言でなければなりません。 拉致被害者には必ず指導員がついています。拉致被害者は指導員から指示された言葉以外は、決して口に出来ません。 小泉総理の2度目の訪朝の際、総理は北朝鮮に残されていた曽我ひとみさんの夫ジェンキンスさんと2人のお嬢さんに対し、一緒に日本へ行きましょうと約一時間かけて説得しました。 ところが、日本の総理大臣が説得しても、ジェンキンスさんとお嬢さん2人は「今日、どうしてひとみを連れてこなかったのか」「どうしてお母さんを連れてきてくれないんですか」と繰り返し小泉総理を非難したそうです。被害者は指導員が指導した言葉以外の言葉を決して言えません。私はその場にいたわけではありませんが、そのときの事情をあとで知りました。 曽我ひとみさんの帰国から1年9カ月後、ひとみさんと夫ジェンキンスさん一家はインドネシア・ジャカルタで再会しました。ジェンキンスさんと二人のお嬢さんを日本政府がチャーター機で平壌に出迎え、北朝鮮を出国、ジャカルタに到着後、家族4人がジャカルタのホテルで過ごしました。 約1週間後、ジェンキンスさんが日本に行きたいと伝えてきました。慌ただしい時でしたが、私は「平壌で、日本の総理が『一緒に日本に行こう』と熱心に説得したのに、なぜ一緒に日本に行きたいと言わなかったのか」と尋ねました。 ジェンキンスさんは、何故そんな質問をするのかと、キョトンとした様子でしたが、「あの時、もし自分が日本に行きたいと言っていたら、総理はそのまま飛行場に行くだろうが、自分たちは別ルートにされ、そのあいだに3人とも殺されていましたよ」との答えが返ってきました。「なぜそんなことが分からないのだ」と言いたげでした。 被害者は北朝鮮で「日本に行きたい」とは絶対に言えないのです。指導員から、「北朝鮮で幸せな生活をしているから日本に行くつもりはない」と言いなさいとの指導があれば、その通りの発言となり、ストックホルム合意に従えば、被害者の去就は北朝鮮に残ることとなります。 まず大前提としてそのことをしっかりと認識して事に臨まなければなりません。 担当者に「…直ちに帰国させる」となぜ書かなかったのか、と問い質しました。すると「帰国させる方向で」という単語は日本側の主張で入れたものですと満足げな答えが返ってきました。だから問題はないといわんばかりでした。日本は「ちょろい」日本は「ちょろい」 合意文書の第3パラグラフには《北朝鮮側は…全ての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施し、最終的に、日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明した》という表現があります。 今回実施する調査の結果を示したら、それで全て終わりにしますと言っているのです。拉致被害者の解放については、それで終わりか否かは、日本側が納得できるかどうかの問題だと考えます。 2002年死亡と伝えられた時、横田めぐみさんは病院の裏庭で木の枝にひもを下げて自殺したと伝えてきました。ところが、その病院の裏庭には自殺できるような枝のある木は一本も無かったことがはっきりしています。すると2004年に遺骨を出してきました。この遺骨も別人のものであることが鑑定されました。そして、先月、死亡の原因は薬物の過剰投与であったと、脱北者を使って言わせています。 今回、北朝鮮がゼロベースで調査しなおすと述べたことについて、死亡したと伝えてきた被害者が調査の結果生存しているとの報告があるのではないかと期待する者もいるようです。しかし、ゼロベースで調査をするとの意味は、2002年の時の死亡についての説明が子供だましのようなあまりにも杜撰なものであったので、もう少し辻褄の合う説明を作りますとの意味であると解釈して対応するのが妥当だろうと考えます。 そして、上手く説明できる調査報告を作れたら、それを通報し、日本人に関する全ての問題を終了する。日本側が納得しようとしまいと、最終的なものであるということを合意したというのがストックホルム合意なのです。日本側もそれをのんでいるわけです。 あくまで国交正常化が目標であり、それが自分達の仕事だと考えている外務省には拉致被害者を救出しなければならないという考えがもともとないのだと言わざるを得ません。遺骨の問題、墓参の問題など利権に絡む案件を進めながら、拉致問題については形だけ整えばそれで良しとも言える対応は極めて残念なことです。 さらに、合意文書には「包括的」という言葉が随所にあります。それは決して拉致を先行させることなどないという意味です。 合意文書には《調査は一部の調査のみを優先するのではなく、全ての分野について、同時並行的に行うこととした》とあります。そこまで手が打たれて、それを日本は了承しているのです。 合意後の北朝鮮側の反応は「日本はちょろい」というものでした。大勝利だと考えているのです。北朝鮮は、制裁の一部解除という実質的な成果も得た、このルートを壊さずに、このルートで日本側と交渉を続けようとしています。 もちろん、北朝鮮の中には、拉致問題解決、拉致被害者の帰国なしに、日本が国交正常化を進め、巨額の経済支援を行うことはないと考えている人々がいます。ところが、あまりにも簡単に日本側が折れて北朝鮮の言いなりになってしまっており、しかも思いがけない成果が得られているので、これらの人々は、今は沈黙しているに違いありません。拉致被害者の問題に手を付けずとも日本から大きな成果が得られるのですから、当然のことです。 ストックホルム合意が発表された直後の6月1日でした。茨城県那珂市で国民集会が開かれました。被害者のご家族の方も参加し、政府からの出席者もいました。拉致問題が進展するようだと大きな期待に包まれていました。私は正直気が重かった。でも、やっぱり言っておかなければならないと思い、今回の合意では、拉致被害者が帰国することにはつながりませんと述べました。チャンスではあるけれども、非常に危険な合意で、むしろこの交渉はいったん止めなければいけないとまで主張しました。会場はシーンとしてしまいました。国民大集会で拉致問題解決への思いを述べる安倍晋三首相=4月26日、東京・日比谷公会堂(大西正純撮影) 安倍総理は被害者を必ず取り戻すと繰り返して言ってらっしゃる。にもかかわらず、そこを通り抜ける形でこうした合意が結ばれてしまっていることは不可解です。被害者の家族は、安倍総理だったら、何とかしてくれるのではないか、と頼っています。すがる思いといってもいい。 総理は救出したいと本気で考えていらっしゃる。それがわかっていながら、なぜ外務省はこういう合意を平然と結んでしまうのか。しかも外務省はこの合意について「安倍総理了解のうえで合意した文書だ」と公の席で説明しています。あまりに無責任です。軽くあしらわれた政府代表団 今回、訪朝の直前になって安倍総理は今回の訪朝団の役割は、拉致問題が最重要課題だと伝えに行くことだと発言されました。菅義偉官房長官からも同様の発言がありました。これまでの交渉では拉致問題が最重要課題として扱われていなかったということを明確に示しています。ストックホルム合意を修正したい、その意思表示のための訪朝と考えられます。 訪朝時の様子で北朝鮮の態度は一層よくわかったと思います。保衛部の副部長として現われた人物の記章が階級の低い星が一つだった点は多くの方々が指摘しています。着ていた洋服も保衛部の副部長が身に着けるものとは言えません。会議が開かれたのは彼の執務室と称される場所でした。報道の写真で見ますと、いかに軽くあしらわれているかを直ちに読み取ることが出来ます。外国政府の代表団との会議ですから、普通は壁も机も椅子もきちんとした格式のあるもので、通常はシャンデリアがある会議室が用意されている筈です。今回の会議室はこの方の執務室というより、急きょテーブルを入れてつくった部屋だったのかもしれません。北朝鮮は言葉ではなく、このようなやり方で北朝鮮の意図を示してきます。いかに軽く見ているか。それがわかると思います。このような対応であれば、交渉にならないと言って帰ってきて良かったのではないかと思います。拉致交渉の仕切り直しを 拉致問題をこのまま外務省に任せていいのか。私達は本気で考え直さねばならないと思います。安倍首相は拉致問題が最重要課題だと言い続けている。にもかかわらず外務省の動きはそうなっていません。そもそも外務省は国交正常化を仕事としており、犯罪に関わる交渉は外務省の管轄を超えています。テロや人質を専門とする知見を持った人々が担当すべきと考えます。 外務省は、現在交渉の線が切れれば、拉致もダメになると主張するかもしれません。しかし、この交渉をいくら続けても、遺骨のビジネスや日本からの支援事業だけが進み、拉致被害者の救出には到達しないでしょう。であれば、交渉の仕切り直しが必要です。 農産品交渉は外務省ではなく農水省が行います。航空協定の交渉も国交省が行います。自動車交渉は経産省です。拉致被害者の救出も、外務省のテーマではないはずで、犯罪被害者の救出という意味で警察や、拉致対策本部が中心になってやるべきだと私は考えています。 「平壌宣言」と「ストックホルム合意」、そして今回の出来事の根底には、国土を守り、自国民を守ることを遠ざけてきた戦後の日本外交の欠陥があり、それが如実に突きつけられていると言えましょう。外交とは当たりの良い言葉だけで成り立つものではありません。国家を背負って時に厳しく臨み、戦わねばならない場面だってあるはずです。そのためにはまず今も自由を奪われ、救出を待っている私達の同胞に思いを馳せること、そして何としても助け出すのだという気持ちを持って臨むことが不可欠だと考えています。 最後にひとこと。いいたいのは まず拉致問題にしぼって交渉せよ。ということです。(構成 月刊正論編集部・安藤慶太) 中山恭子氏(なかやま・きょうこ) 昭和15(1940)年、東京生まれ。東京大学卒。大蔵省入省。同省初の女性課長や初の女性地方支分部局長を務め、平成5年に退官。ウズベキスタン兼タジキスタン特命全権大使、首相補佐官など歴任。平成19年、参院選に自民党比例区から出馬し当選。拉致問題担当相など歴任。その後、たちあがれ日本、日本維新の会を経て次世代の党に所属。著書に『ウズベキスタンの桜』『国想い 夢紡ぎ』など。関連記事■ 日朝に振り回された拉致被害者家族の一年■ 「あのとき」の覚悟を思い出せ  交渉ありきの外務省は危険■ 拉致再調査 国家テロとの戦いであることを忘れてはならない