検索ワード:北朝鮮/108件ヒットしました

  • Thumbnail

    記事

    安倍内閣の北朝鮮への最大の貢ぎ物は朝鮮総連ビルの特別配慮

     日朝協議で日本人拉致被害者らの再調査を両政府が合意してから半年が経った。しかし北朝鮮による拉致調査はいまだにゼロ回答。その一方で北朝鮮に対する一部制裁解除が行なわれたばかりか、日本人遺骨の発掘・改葬費用として「遺骨1柱あたり200万円」という金額が取り沙汰されている。北朝鮮での日本人戦没者は約3万4600人で、うち未帰還遺骨は約2万1600柱にのぼり、単純計算で約400億円もの収入を見込めるというのだ。 そして安倍政権の北朝鮮に対する最大の「貢ぎ物」は、朝鮮総連本部ビルをめぐる特別な配慮だ。 バブル崩壊以降、次々に破綻した朝銀信用組合の不良債権回収に乗り出したRCC(整理回収機構)は、事実上の融資先であった総連に返済を求め、資産である総連ビルを競売にかけた。1度目の入札が行なわれたのは2013年3月。この時は鹿児島の宗教団体が落札したが、資金調達がうまくいかず断念。2度目の入札ではモンゴル企業が落札したが、書類の不備で失格。次点の四国の不動産投資会社「マルナカホールディングス(HD)」が落札者となった。 ところが、この決定に総連と北朝鮮本国が猛反発を見せる。家宅捜索後、記者団の質問に応じる朝鮮総連の許宗萬議長=3月26日(三尾郁恵撮影) 総連側はすぐ東京高裁に抗告を申し立て、宋日昊(ソン・イルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使も4月、「不当な判決について強い憂慮を表明する。この問題の解決なしに朝日関係の進展の必要はない」と強い口調で日本側を牽制した。宋大使は5月末の日朝協議の際も、合意内容に総連ビルの保全が「含まれる」と発言した。 本誌7月4日号でスクープした「京都駅近くの約3300坪の土地を売却した資金で総連ビルの継続使用を図る計画」はそうした状況の中で日本側も合意して進められた「総連救済策」だった。本誌が報じたために計画は流れたが、官邸中枢が北朝鮮に配慮して計画を進めた痕跡が関係者の証言から浮かび上がった。 そして、さる11月4日、最高裁は総連の不服申し立てを棄却し、マルナカHDへの本部ビル売却が確定した。 これが額面通りに受け取れないことは、これまで総連に不利な司法決定が出るたび日本に強く抗議してきた北朝鮮が今回は沈黙していることからも読み取れる。日本政府関係者の話だ。 「マルナカはすでに落札代金を裁判所に納付しており、月内にも所有権移転手続きが完了する。それでも北朝鮮本国や総連が静観しているのは、売却後も総連が本部ビルを継続使用できるスキームがすでに整っているからに他ならない」 この政府関係者によれば、そのスキームとはこうだ。総連からビルを取得したマルナカHDは他の不動産会社Xにビルを転売する。しかし、そのX社は間もなく、さらに他のY社に売却する。そのY社というのが、実は総連に関連する会社であり、そこが総連に賃貸契約で貸し出す。そうすれば、総連はビルから退去する必要はなくなる--というものだ。 「『三角取引』のスキームは10月末までにできあがった。最終的には外務省を通じ、日朝の政府間で了解を得たと聞いている」(同前) 最高裁決定直前の11月2日に外務省の伊原純一・アジア大洋州局長と北朝鮮政府関係者との中国での極秘会談が行なわれたが、その内容はこのスキームの報告ではなかったのか。そう考えると、北朝鮮がこの間、総連ビル問題について何も発言してこなかったことも合点がいく。関連記事■ 朝鮮総連本部ビル「極秘返還シナリオ」の存在を週刊誌が報道■ 北朝鮮 対日工作の新拠点と目されるビルは東京ドーム付近に■ 朝鮮総連本部落札法主 安倍首相の体調維持を一次政権来祈祷■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 拉致命じられ日本に潜入した韓国秘密工作隊の悲劇を描いた本

  • Thumbnail

    記事

    朝鮮総連本部「継続使用」に日本政府“沈黙”の裏側

    売や転売への関与を完全に否定して無関心を装っているが、実は拉致被害者らの救出を目指す日朝協議を通じて北朝鮮から継続使用を強く要求され、対処に困っていた。朝鮮総連が中央本部ビルを継続使用できるようになることで、拉致問題交渉のカードに使えるという期待が出てくる。ただ、税金を投じた不良債権問題で競売が行われた本部ビルに朝鮮総連が入居し続けることに、国民の理解は得られそうもない。政府が無関心を装うのは、こうした事情があるのだ。完全否定で国民批判回避東京都千代田区にある在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビル(蔵賢斗撮影) 本部ビルは平成26年3月、約22億円で高松市の不動産業「マルナカホールディングス」が落札した。それが今年に入り、山形県酒田市の不動産会社「グリーンフォーリスト」に約44億円で転売する契約が1月28日付で結ばれた。今回の契約には、四国で不動産業を営み、マルナカの前社長とも親しい山内俊夫元参院議員が仲介した。自民党に所属していた元政治家が介在したことから、政府関与の見方が浮上した。 菅義偉官房長官は、転売の話が明らかになった1月23日の記者会見で、こうした見方を払拭するかのように、本部ビルをめぐる動きについて「裁判所による競売手続きを経て、マルナカホールディングスに移転した。後は民間のことだから、それ以降について政府として承知していない」と関与を否定した。外務省や情報機関関係者も異口同音に否定している。 政府が否定に躍起になるのには理由がある。 競売問題は、破綻処理で多額の公的資金が投じられた在日朝鮮人系信用組合の不良債権問題が根底にある。競売は朝鮮総連に対する約627億円の債権を引き継いだ整理回収機構が申し立てたもので、政府が朝鮮総連の継続使用に少しでも手助けしたことが発覚すれば国民の反発を招くのは避けられない。 競売問題は、野田佳彦政権が拉致問題解決に向けた日朝協議を進めるため、競売回避をめぐり朝鮮総連と秘密裏に協議したことがある。しかし、24年12月の衆院選で民主党は敗北、政権は安倍晋三政権になったことで白紙に戻っていた。継続使用の賛否交錯 結局、日本政府の関与の有無とは無関係に朝鮮総連が本部ビルを継続使用することで、北朝鮮が訴え続けてきた要求は実現したことになる。 日朝協議は、「夏の終わりから秋の初め」で合意していた昨年の初回報告がほごにされ、遅々として進展せず、北朝鮮が交渉を打ち切る可能性も否定できない状況に陥っていた。日本政府は、あくまで「民間の取り引き」によってでも朝鮮総連が本部ビルを継続使用できることで新たな交渉の糸口を探ることもできると踏んでいる。 一方、日本政府内には継続使用について「朝鮮総連の既得権益が単に維持されただけで、北朝鮮が新たな利益を得ることにはならない」(関係者)として、拉致問題にプラス材料にはならないとする分析もある。 また、債務者や、債務者をバックにした業者が競売物件を買い戻す行為は「その資力があれば弁済に充てるべきだ」として民事執行法で禁じられている。しかし、落札後に転売された同一物件を継続して使用することを想定した規定はなく、継続使用は、いわば法律の抜け穴をつく「脱法ケース」だったといえる。 政府内には「血税を使った不良債権問題で、債務者が立ち退かずに入居し続けることに国民の理解が得られるはずもない」(政府高官)との意見もある。 いずれにせよ、朝鮮総連が本部ビルに居座ることができることになったことで、日本政府は拉致問題を前進させるしかない。(政治部 比護義則)関連記事■ 朝鮮民族の「恨」は恨み辛みや不満を生きる力に転換した状態■ クマラスワミ報告否定が河野談話見直しへの突破口だ■ 「あのとき」の覚悟を思い出せ  交渉ありきの外務省は危険

  • Thumbnail

    記事

    日朝に振り回された拉致被害者家族の一年

     当たり前のことですが世界には日本より寒い国が沢山あります。その沢山ある国の中の一つ「北朝鮮」という国には何百人(警察の発表している「拉致の可能性が排除できない失踪者」は881人)もの拉致された日本人が、今この瞬間も閉じ込められています。日本に帰国された拉致被害者の方から聞いた話ですが、この年末の時期が一年で一番辛いそうです。それは体が感じる寒さのためではなく、「いつか祖国が助けに来てくれるだろう」との儚い希望が打ち砕かれ、家族から切り離された異国の地で、また一つ望まぬ年を重ねてしまわねばならないという絶望感に打ちひしがれてしまうからだそうです。当たり前のことですが、苦しいのは被害者御本人だけではなく、御家族も同様です。事件発生からの年月の長さを考えれば当然のことですが、皆さん御高齢になられており、今年も何人かの方が、再会の念願がかなわぬまま旅立たれてしまいました。 そんな中でも、今年は5月29日のストックホルム合意発表以後、例年になく日本国中に、この問題が進展するのではとの期待が盛り上がったのですが、それがだんだんと尻窄みになって年が変わろうとしています。家族会を含め、多くの人が危惧した7月の制裁解除や10月の訪朝ですが、結果は今のところ皆が心配したとおりになっています。夏の終わりから秋の初めになれば再調査の結果が発表されるという話は、一体何だったのでしょうか?日本政府は一体、何のために制裁を解除し、誘拐犯のご機嫌をとるように平壌まで行ったのでしょうか? 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための連続集会で挨拶する横田早紀江さん。左は夫の滋さん、右は増元照明氏=11月6日、東京都文京区(蔵賢斗撮影) その一方で啓発コマーシャルやコンサートなどが、多くの予算を使って政府主催で行われています。確かに啓発活動は必要でしょうが、事ここに至った今、民間ならいざ知らず政府がやるべきことではないでしょう。過ぎ去った年月の長さを考えると、政府がやるべきことは結果を伴うことでなければならないというのに、これではいかにも「予算を余らせてはいけない」という典型的な役人のお金の使い方に見えてしまいます。あえて穿った見方をすれば、日本政府は拉致関連の予算で被害者家族を慰撫しながら、御家族がお亡くなりになるのを待っているのではないかとすら思えてきます。実際に日本国内で拉致事件の共犯者がのうのうと大手を振って暮らしていることや、山本美保さん失踪事件に関して警察がDNAの鑑定結果を捏造したことから考えると、あながち有り得ない話とは言えないでしょう。何れにしても今年を振り返ってみると、拉致被害者家族の方々にとっては、日朝両政府に振り回された一年であったと言えるでしょう。 少し話しは飛びますが、それにしても今年、民間企業に落札された朝鮮総連本部ビルは法的な手続きに基づいて所有権が移転するというのに、一向に明け渡す気配が有りません。これらの常識では説明できない出来事は、永田町や霞が関に北朝鮮の意向を汲んで行動する人間が多くいるからなのでしょうが、北朝鮮問題の闇の深さに思いやられます。 そのようなことも含め日本政府が何もしないのであれば「自分がやるしかない」と思い立ち(御本人に直接確認しておらず、私の勝手な推測です)前回の総選挙に出馬したのが家族会元事務局長の増元照明さんです。しかし、彼の得票数の少なさや拉致問題解決を訴えて選挙戦に臨んだ方々が殆ど落選したのを見ると、拉致問題に対する日本人の関心が薄れてきているのではないかと危惧いたします。とかく人間は、自分に関係のないことに対しては中々興味を持たず、自分さえ良ければそれで良いと思いがちですが、拉致被害者家族の方々は自分たちの家族「だけ」の帰国を望まれておりません。孫娘に会いたくとも決して北朝鮮には行かなかった横田さん御夫妻。一時、自分の娘が帰国するかもしれないとの噂が飛び交ったとき「恵子だけではだめなんです。皆一緒でなければだめなんです」と仰っていた有本さん御夫妻。 それなのに、今年一年、日本政府は問題解決に結びつく具体的な結果を出せませんでした。我々は今一度、自分たちと同じ日本人が、日本から、わずかの距離(東京―平壌約1300km)のところに捕えられているという現実を噛み締める必要があります。そして日本という国が、自国民を拉致した犯人や閉じ込められている場所が分かっているにもかかわらず、取り返せない国であることから目を逸らすべきではありません。拉致被害者の奪還には、我々国民の声が欠かせないのですから。

  • Thumbnail

    テーマ

    拉致解決はどこへ消えた

    新聞をみてもテレビをみても世の中は総選挙一色だが、この間も忘れてはならない政治課題は山積している。北朝鮮による国家犯罪、日本人拉致問題もその一つである。

  • Thumbnail

    記事

    「あのとき」の覚悟を思い出せ  交渉ありきの外務省は危険

    恭子氏/東京基督教大学教授 西岡力氏拉致が脇に追いやられている日朝合意 西岡 今年5月29日、日本と北朝鮮は、北朝鮮による日本人拉致被害者らについて再調査することで合意しました。これまで「拉致は解決ずみ」と言ってきた北朝鮮の姿勢が変化したことで、被害者救出を目指してきた「救う会」には「よかったですね」という声がたくさん寄せられました。しかし実は、このとき発表された政府間協議の合意文書を読み、内心「本当によかったのだろうか」という複雑な思いでいました。そうしたら発表翌日、テレビカメラの前で中山先生が「よく見極めないとたいへんなことが起きる」「大丈夫なのか」と強い懸念を表明され、懸念はさらに強くなりました。 中山 あのときは、厳しい言葉を使ってしまいました。合意文書に目を通して、というより目を通し始めた瞬間に感じたのは、拉致被害者救出が合意の主要テーマになっていない、ということでした。文書は「双方は、日朝平壌宣言に則って、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現するために、真摯な協議を行った」という書き出しになっています。平成14(2002)年9月17日に訪朝した小泉純一郎首相が金正日国防委員長と交わした平壌宣言には、「拉致」という文言は入っていません。いわゆる「国交正常化」交渉に主眼を置いていて、「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」などと曖昧な言葉で触れているだけです。その「平壌宣言に則って」という書き出しですから、拉致問題が脇に追いやられているという印象を強く受けました。日朝政府間協議に臨む、外務省の伊原純一アジア大洋州局長(左手前から3人目)、北朝鮮の宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使(右手前から3人目)=7月1日、北京の北朝鮮大使館 西岡 平壌宣言を出したあと、北朝鮮はミサイルを発射したり核実験を強行したりと宣言の合意事項に繰り返し違反してきました。宣言は無効でしょう。 中山 ええ。ところが日本の外務省は今もなお平壌宣言を後生大事に抱え込んでいるとしか思えません。北朝鮮がミサイルを発射した段階で宣言は無効だと言い切るべきだったのに、それもしないで現在まで来ている。今回の合意文書の「不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し」という文言も平壌宣言に出てきます。その文言を使って「真摯に協議をした」というのであれば、やはり日朝国交正常化に重点を置いた合意であるとしか読めないのです。 読み進むと、北朝鮮側が約束した行動措置として、北朝鮮内の日本人に関する調査が挙げられているのですが、この項目もどう理解してよいのか分かりませんでした。「第一に、1945年前後に北朝鮮領域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地、残留日本人、いわゆる日本人配偶者」ときて、最後にやっと「拉致被害者及び行方不明者を含む全ての日本人」と出てくる。拉致は犯罪行為です。戦後に残留せざるを得なかった方々や帰国事業で北に行かれたいわゆる「日本人妻」の調査も間違いなく重要ですが、袋詰めにされるなどして無理矢理暴力的に連れていかれたり、騙されたりして連れていかれた犯罪の被害者を同列に扱う、あるいは最後に記してすませるという感覚は、何なのかと思いました。 一読して、これは外務省の中でずっと続いている流れ、つまり日朝の国交正常化交渉を実現させるための合意でしかないと考えざるを得ませんでした。拉致被害者救出のための話し合いが、真剣になされてないのではないかと心配されます。国交正常化問題は交渉ですが、拉致の問題は交渉ではなく救出なのです。そこを分かっているのでしょうか。 西岡 北朝鮮が拉致を認める前には、槙田邦彦アジア大洋州局長(当時)が「(拉致された)たった10人のことで日朝国交正常化交渉が止まってよいのか」と発言したのを思い出します。 中山 国交正常化最優先の姿勢がいまも変わっていないということですね。 西岡 私が最も心配している点は、生存している被害者の身の安全です。昨年処刑された張成沢は実は認定被害者全員を返すという方針で日本と交渉しようとしていました。それに反対していたのが統一戦線部です。現在の交渉は、その統一戦線部が主流になっている。だとすると、認定被害者はほとんど帰ってこず、最悪の場合は生きている被害者を殺して、本物の遺骨にして出してくることさえあり得るのではないか。そんな危険性があると思いました。 本誌7月号で書きましたが、北朝鮮は2007年頃から「日本のDNA鑑定技術で死亡時期や死因はどの程度分かるのか」を調査していたという情報を北の内部から入手していたからです。2012年には遺骨を高温で焼いた後、DNAを鑑定する実験までヨーロッパで実施しています。その骨が誰のモノかは判断できるが、死亡時期や死因は判別できないという火葬温度を探ったというのです。 今回の合意の背景には、経済制裁が効いて北朝鮮が外貨不足に陥り、中朝関係も悪くなって困り果てて日本に接近してきたという事情があります。その点で、制裁圧力で彼らを交渉の場に引きずり出すという第一次安倍政権以降の戦略は成功だった。そのことは押えておくべきですが、交渉でいつも嘘をつく彼らが、被害者を殺して遺骨をつくるという恐ろしい嘘を考えているのであれば、取り返しがつかない。そのため、水面下で、認定被害者が本当は生きているのだという保証を日本が取ったうえで協議を進めているのか。心配しています。北朝鮮で「帰国を協議する」ことの危険 西岡 次に、合意文書の中の北朝鮮がやるべき行動措置の第5に、こう書いてあります。「拉致問題については、拉致被害者および行方不明者に対する調査の状況を日本側に随時通報し、調査の過程において日本人の生存者が発見される場合には、その状況を日本側に伝え、帰国させる方向で去就の問題に関して協議し、必要な措置を講じることとした」。《帰国させる方向で去就を協議》という文言は、私には罠だとしか読めません。そのことは、2002年に5人の被害者、蓮池さん、地村さん夫妻と曽我ひとみさんの帰国、そして彼らの家族が日本に帰るか帰らないかを決めるとき、拉致被害者・家族支援参与として渦中にいらっしゃった中山先生が最もよくご存じだと思います。 中山 そうです、私もこの項目はまずいと思いました。外務省に「北朝鮮で被害者が去就を考えるということはあってはならない。なぜはっきりと《帰国させる》と書けなかったのか」と確認したところ、「そうは書いていませんが、《帰国させる方向で》という文言は日本側の主張で入ったのです」という答えでした。ですから確かに努力はしているのでしょうが、実際に北朝鮮で被害者が置かれている状況に無頓着にすぎるのではないかと危惧しました。政府は帰国した被害者らから聞き取りをしていますので、この合意内容は危険だと分かっている人は相当いるはずです。帰国した5人、そしてその家族たちから話を聞いていれば、こんな合意をすることは決してないはずです。 2008年の交渉でも、北朝鮮から「拉致被害者が発見された」という情報――勿論つくりごとだとは分かっていますが――そういう言葉で通報があった場合には、日本政府の者が平壌に行って、人定確認をした上で、直ちに帰国させると主張していました。 ところが、外務省だけの交渉になると、合意文書をつくること自体が目標になってしまい、足して二で割ったような内容の文書ができる。でも拉致被害者は、足して2で割る文書では救出できません。北朝鮮側としても「方向で」というような文言は十分呑める。本来は、「人定確認の上、帰国させる」という文章でなければならないのに、妥協したような文章になっている。救出のためにはあってはならないことです。 西岡 ひとみさんの夫のジェンキンスさんは、2004年に2度目の訪朝をした小泉総理から日本行きを説得され、「行きたくない」と答えたんですよね。後でジェンキンスさんに聞くと、「あのとき日本に行くと言ったら、私は車で空港に向かう途中、そのままどこかに連れていかれただろうと思った」と話したと聞いています。それほどの恐怖心を持っている。 中山 「どこかに連れていかれただろう」ではなく「殺されていただろう」と、はっきり言っていました。あのとき、インドネシアで曽我ひとみさんと生活を共にして日本行きについて考えてもらうこととしました。私たちは日本行きを決断するには半年、あるいは一年くらいかかるのではないかと思っていましたが、存外に早く一週間ほどで決断してくれました。ひとみさんが頑張りました。そしてインドネシア政府の協力も大きかったと思います。ジェンキンスさんたちが飛行機を降りるタラップのすぐそばまで、外務省や家族支援室のスタッフたち日本人だけがいるバスをつけてジェンキンスさんたちを乗せてくれたのです。 ジェンキンスさんとお嬢さん2人がタラップを降りてきたときの映像を覚えてらっしゃるでしょうか。政府チャーター機のタラップを降りる拉致被害者ら=2002年10月15日 西岡 ひとみさんが抱きついた。 中山 そうです。私は、「まあ、ひとみさんてこんなことをする人ではないのに」と一瞬思いましたが、そのあとすぐに納得しました。北朝鮮では人前で抱擁することは許されてない社会です。それなのに敢えて降りてきた瞬間に抱きしめてしまった。女性としての本能的行動だったんでしょう、「あなたはもう北朝鮮から出たのよ、ここは北朝鮮じゃないのよ」ということを体で伝えようとしたのだと思います。強いなあと思いましたね。体をぶつけて「もう北朝鮮から出たんだ!」という感覚をジェンキンスさんに植えつけた行為だったと思います。 西岡 ジェンキンスさんたちをインドネシアに運ぶのに、政府はチャーター便を使いました。そのことでお金を使い過ぎだといった批判もありましたが、チャーター便の機内は日本国で、座席も日本が決めることができる。 中山 指導員が2人付いてきていましたからね。 西岡 ええ。蓮池さんたち5人が帰国したときもそうですけども、指導員を一番後ろの座席にして、機内で接触をさせないようにすることができた。つまり被害者を北朝鮮の監視からはずす空間をつくったわけです。 中山 そう。5人が帰国した便では完全に遮断しました。話も一切していません。 西岡 インドネシアまでジェンキンスさんに付いてきた指導員も、蓮池さんたちが帰国した際に付いてきた指導員も、実は北朝鮮で彼らを長く担当していた人たちでした。つまり人間的な関係ができている人たちだったのです。ジェンキンスさんや蓮池さんたちは、自分が北朝鮮に戻らないという決断をしたら、これまで世話になってきた彼らが処罰されるかもしれないと考える。そんな人としての情までも利用して操ろうとする世界なわけです。 北朝鮮では、生活総和という義務が課せられています。1週間に1回、金日成・金正日の教えに照らして自分が間違ってなかったかどうか自己批判をし、その後相互批判する。労働党員は党の細胞でやりますし、職場でも行われる。主婦たちは隣組みたいな組織でしなくてはならない。それを監督するのが指導員です。ですから、彼らに何かまずいことを報告されたら、どうなるか分からない。金日成・金正日の教えに沿ったことしか話してはいけないという世界に住まわされてきた人たちに、自分の意思で話してもいいのだと分かってもらえる安心感をつくらないといけないわけです。しかし、この合意文書からは、その点への理解が感じられません。 中山 2002年に帰国した5人は指導員から日本に行ったらこういう説明をしなさいと教え込まれていました。でも、言わなくて済みました。私たちが止めましたから。 西岡 飛行機の中から5人と指導員を別々にして、さらに、指導員の宿泊しているホテルには、マスコミの人たちに「あの人たちはメディアスクラムにあっても構わないんだからどんどん取材に行ってくれ」と頼んで、カメラで24時間追っかけ回してもらったんです。 中山 マスコミも協力してくださいました。 西岡 帰国翌日の10月16日朝、蓮池薫さんが「指導員に連絡したい」って言ったんです。そうしたら中山先生が「いいのよ、私たちが連絡しとくから」とおっしゃって…。 中山 5人には携帯電話も渡さなかった。 西岡 そう。一方で指導員たちが朝鮮総連を介して、レンタルの携帯電話を持ったという情報もあった。そこで、5人の家族には、実家に戻った後も、「本人には携帯電話を持たさないでください。固定にかかってきた電話もまず家族が取って確認できた人とだけ話させてください」とお願いした。そして本人たちには「マスコミが大変ですから」と言って、指導員に接触をさせなかった。 10月17日にそれぞれの故郷に帰ったのですが、私は地村保志さんに付いて一緒に自宅に泊まりました。地村さんはお兄さんと2階で酒を飲み、私は隣の部屋で、お父さんは1階で寝ていました。そうしたら、お兄さんが夜中の3時ごろ私のいた部屋にきて、「弟が、日本政府が守ってくれるなら日本に残りたいと言っています」と言ったのです。  地村さんたちは、指導員から離れて、自宅に帰って、安心感が生まれて、ようやく本心を口にすることができた。しかも、マスコミの応対をするお父さんは警戒して、お兄さんにだけ本心をしゃべった。彼らは実によく状況を見ていたんです。 ところが、この合意文書に従えば、日本人生存者が・発見・された場合、北朝鮮で去就を協議する、本人の意思を聞きましょうということになる。そこで日本政府代表団が「帰りますか」と尋ねても、「帰らない」としか言えないでしょう。 中山 「帰らないと言いなさい」と指導されていますから。小泉総理がジェンキンスさんを説得したとき、ジェンキンスさんは「なぜひとみを連れてこなかったのか」と、また2人のお嬢さんは「なぜ今日母親を連れてきてくれなかったのか」と繰り返し言い続けていたそうです。長年監視され、指導されている被害者は、指導と違うことはひと言も言えないんです。 西岡 そうですね。 中山 被害者達は、もし日本に帰るなどと言ったら何時間後かには殺されると考えているわけです。そういう実態を知っていれば、外務省への私の質問に「《帰国させる方向で》という単語を入れさせました」などという答えが返ってくることはありえません。たとえば政府の拉致対策本部のメンバーで北朝鮮の情勢をよく知っている情報関係者と打ち合わせをしながら北と協議していれば、こんな合意文書は出てくるはずはないと思います。交渉維持が目的化していないか 西岡 7月1日に北朝鮮側から特別調査委員会の設置が通報されたことを受けて、日本は、人的往来規制、送金などへの規制、北朝鮮船舶入港規制(人道物資運搬に限り規制解除)の3つの制裁を解除しました。 それ以降、多くのマスコミ報道が「特別調査委員会は、国家最高機関である国防委員会から権限を付与され、秘密警察である国家安全保衛部も調査に加わっている」のであるから、期待できるという論調になっています。 特に、今回の日朝協議には国家安全保衛部幹部が継続して参加していて、その人物は金正恩に直結している、2002年9月に金正日が拉致を認めて5人を返したときも同じように国家安全保衛部幹部が参加していた、などと盛んに報じられ、あたかも、よい結果が出る可能性が高いかのような雰囲気が作られています。私は、これは悪質な日本世論を歪める謀略工作がなされていると考えています。 まず、今回の協議は保衛部ではなく、先述した朝鮮労働党の工作機関である統一戦線部が管轄しています。彼らは張成沢の被害者全員帰国という方針に反対してきました。つまり彼らは政府の認定拉致被害者17人のうち帰国した5人をのぞく12人について、「8人死亡、4人未入境」とした2002年の虚偽説明を維持しようとしてきた勢力です。 さらに特別調査委は北朝鮮の最高指導機関である国防委員会から権限を付与されているといいますが、社会主義国家という体制からすれば、まったく意味をなしません。いろいろなところで繰り返し言ってきましたが、国防委員会は国家機関に過ぎず、北朝鮮では労働党のほうが上位機関なのです。そして拉致をしたのも党の工作機関である作戦部、調査部、連絡部、統一戦線部なのです。 中山 特別調査委には、その肝心の党が入っていません。 西岡 そしてもう一つ。特別調査委に設置する4つの分科会(拉致被害者▽行方不明者▽日本人遺骨問題▽残留日本人・配偶者)のうち、拉致に関する分科会にだけ保健省が入っているのです。病院を管轄する政府機関がなぜ入らねばならないのか。 2002年に被害者5人が帰国したとき、8人は死亡したと彼らは言いました。そのとき、根拠として「死亡確認書(日本でいう死亡診断書)」なる書類を出してきたのですが、それはニセモノだったということが分かっています。8人の内7人は死亡したという場所がバラバラなのに、確認書はすべて平壌市内の同じ病院で発行されている。  中山 押してある印鑑の欠けている部分まで同じでしたから。 西岡 死亡確認書偽造の証拠を日本はオープンにしていますから、今度は保健省の倉庫に本物がありましたというために保健省を入れてきたのかもしれない。さらには、生きている人を殺して遺骨をつくるという危険性も考えられる。私は繰り返し外務省に「被害者を殺すということをさせないためにも、日本は生存情報を持っている、そして日本のDNA鑑定技術は世界一で、死亡時期も分かるのだということを北に伝えているのか」と確認しています。 それに対して、「被害者の安全は絶対優先だと言っています」という答えは返ってきます。しかし中山先生がおっしゃるように、外務省が今回の協議は相手の言い分にすり合わせるように進めているような気がしてなりません。 合意文書をみると、実際に国交正常化まで行かなくても、北朝鮮が日本からお金を取れるような仕組みがいろいろ盛り込まれています。その一つが、人道支援の実施検討です。 中山 人道支援実施の前提となる条件も時期も書いていませんね。「適切な時期に」という、非常に外交的な言葉があるだけです。 西岡 日本はなぜ、北朝鮮への人道支援を止めたのか。2004年に横田めぐみさんのニセの遺骨を日本に出してくるという、極めて非人道的なことをやったからです。ですから、今回は「2004年の説明を北朝鮮が撤回したのちには」という条件は書いてもいいはずです。 拉致被害者救出は犯人と警察との交渉であって、何人か出てくればいいというものではない。被害者全員の安全確保と全員救出は譲れないのです。「100対0」であって、「60対40」はあり得ない。 外務省が一概に悪いと言うつもりはありませんが、彼らは、交渉が始まった後で強硬なことを言うとパイプが切れてしまうとしきりに言うのです。せっかく北朝鮮が再調査すると言ってきた、ここまで来たんだから、このパイプを切らないほうがいい、と。伊原純一アジア大洋州局長が今回の北の特別調査委員会の設置と日本の制裁解除について救う会や拉致議連などに説明したときに、「再調査で被害者は全員死んでいたなどという変な結果が出てきたら、当然、今回の制裁解除は停止して再制裁しますよね」と質問しても、「それを今の時期に言わないほうがいいと思います」としか答えなかった。2002年の5人帰国のときの田中均アジア大洋州局長もそうでしたよね。 中山 とにかく北との関係が悪くなることだけは避けて、ことを進めるという姿勢でした。「そんなことを言ったら北朝鮮は怒りますよ。全て引っ込めますよ」という姿勢です。なぜ当然のことが言えないのか不思議でした。平壌空港に5人を迎えに行ったときの話ですが、北朝鮮側は5人を送り出してあげるというお祝いの席のような雰囲気で、日本側も5人を日本に・派遣・してくれて感謝しているというムードだったのです。北側の代表は「今回は日本との関係で5人を送り出すことができる」と外交的な喜びのあいさつをしました。日本側であいさつした私には、「今日は5人を日本に送っていただきありがとうございます」という話が求められていたのでしょう。しかし、私は「日本では、この5人以外の人たちが死亡した、あるいは北朝鮮に来てないという話を信じている人は1人もいません。拉致はこれからもいろいろご相談しないといけない問題であり、今回で終わりにすることは決してありません」と言ったのです。 まず日本側の席が、しれーっとなりました。通訳の間を置いて、次は北側がピーンとこわばった感じになりました。なんとも居心地の悪い場になったのですが、だからといって5人の帰国が中止になったわけではありません。 日本が主張しなければいけないことを主張すれば、逆に北朝鮮側もそれにどう対応するかを真剣に考えるのです。それなのに日本の外務省は、北朝鮮が何を考えているのか、あるいは北が受け容れるのはどんな条件かということをまず探るという心構えでいる。日本として主張しなければならないこと、被害者全員を帰国させよという要求を伝えていないのではないかとすら思えてきます。 西岡 北朝鮮側も、なんらかの目的を持って日本に接近してきているのです。前回は金正日、今回は金正恩から、日本から何かを取れと指示されて接近してきているのですから、交渉当事者も弱い立場なのです。席を立つ権限は与えられていない。指示された成果を上げられなかったら粛清されるかもしれない。その点は経験上も裏付けられています。 2002年の5人のケースでいえば、本人たちから「日本政府が守ってくれるなら残りたい」という秘密の意思表示がある一方で、田中局長は5人を北朝鮮に戻さないと交渉のパイプが切れると反対して大論争になった。 金正日が拉致を認めて謝罪したのに、日本からお金を取れなかったら交渉当事者の大失態です。彼らもお金を取るためにはどこまでも日本と交渉をせざるを得ない立場であって、交渉が始まっているということは向こうにも弱みがあるということなのです。 そこを考えずに、パイプの維持という罠にはまってしまうという危険が今後もあると思うのです。北のウソと対決する覚悟を 西岡 私は民間ですけれども、死亡したと言っている8人の被害者について、少なくとも主要な人たちについては生存しているというほぼ確実な情報を持っています。日本政府も持っているはずです。第一次安倍政権のときも、めぐみさんが死んだとされた1994年より後の生存情報を持っていて、それを前提に交渉されていましたよね。 中山 そうです。 西岡 最悪の場合は生きている被害者を殺してしまうかもしれない、あるいはそこまでいかなくても一部しか生存情報を出さずに他の人は死んだという虚偽情報を伝えてきたときに、全員が生存しているということを前提に交渉ができるのか。北朝鮮からの1回目の通報では、秘密を多く知っていて北朝鮮からすると最も生存を公表したくない横田めぐみさんや田口八重子さんが生きていると言うとは思えません。また何か嘘をついてくると思いますが、そのときに「北朝鮮がせっかく再調査してくれたのだから、パイプが切れないようにとりあえず受け入れよう」と対応するのか、「われわれは生存情報を持っているんだ。このような嘘は受け入れられない」と反論するのか。そこが救出の成否の分かれ目になるのではないでしょうか。 中山 5月の合意の前には、北朝鮮側も相当真剣に対応しようとしているらしいという話が伝わってきていました。ところが、合意後、北は、思っていたより低いレベルの結果でも日本は認めるかもしれないと緩んだ見方をしているという情報もあります。日本の世論は、被害者全員を返さなかったら日朝関係を進めることを決して許さないということを真剣に北朝鮮に伝えれば、北朝鮮はそれに応じて動くはずです。 西岡先生がとても心配されているように、日本側が中途半端に妥協すれば、拉致被害者たちを亡き者にしてしまう可能性もあり、非常に危険な状況に今なっている。しかし、日本の世論が中途半端な妥協に納得するとは思いません。 再調査の推移によっては、日本と北朝鮮の関係は一気に動き出す可能性もあります。厳しいことばかり言っていますが、被害者全員が帰ってきて日朝関係がよくなることを願うがゆえなのです。 西岡 いろいろ問題はありますが、北朝鮮は日本政府が認定している拉致被害者8人それぞれについて入境からの経緯を調査し、確認すると約束した。この約束を取ったことは成果だと思います。そして調査の結果を伝えてくるわけです。 これまでの長い膠着状態から勝負のときへと状況は変わったのです。8人について、北はわれわれが把握している情報もすべて分析したうえで何か出してくる。それが新たな内容を盛り込んだうえでの「死亡」という主張なのか、2002年の金正日の説明を覆す結論になるのか予断は許しません。調査といっても被害者は彼らが管理してきたわけですから、問題は北の決断にかかっている。今、日本に必要なのは、外務省も拉致対策本部も与党も野党も、そして国民も「全被害者を返すという以外の選択をすれば、あなたたちの立場は悪くなり、国交交渉も進みませんよ」というメッセージを、どこを切っても同じ金太郎飴のように発信することだと思っています。 中山 実は2006年のミサイル発射に対する国連制裁実施時に日本が独自にかけた対北制裁は、北朝鮮側、つまり金正日総書記に拉致被害者帰国の決断を促すため、という位置づけでした。当時の議論はそうです。ところがいま外務省は、日朝交渉や協議を途切らせないためだけに「制裁解除」のカードを使っていいと解釈をしているように見えます。本来の位置づけとは違います。 交渉を続けるためだけであれば、別の手段や手法を考えるべきなのです。もちろん、金正恩第一書記の何らかの決断の証拠が示されたことで制裁を解除したのであれば納得できます。一部で報道されている生存者リストの提示などです。 西岡 私は、それはまだないのではないかと思っています。拉致認定被害者の8人について何か情報を出すと北が約束したことに対して、小さな制裁解除をしたという状況だと思っています。だからこそ、「8人について出してくる結果がひどければ、再制裁しますよ」と釘を刺さなければならない。 中山 でも外務省は北朝鮮に対し再制裁しますとは言わない。 西岡 安倍総理は言っているんです。7月6日付紙面で掲載された読売新聞との単独インタビューで、北朝鮮の対応に問題があれば再び制裁を科す可能性があると言及しています。「制裁は、かける時と解除する時、カードとして2回使える。『制裁解除』というカードは、いつでも、制裁をかけている状態に戻せる」とはっきり語っている。一方で、たとえばコメなどの人道支援については、「こちらが何か出してしまったら、北朝鮮が約束を履行しなかったとしてもカードは戻ってこない」とも言っている。外務省は「せっかく北朝鮮に再調査委員会がつくられたのだから」と言いますけど、まだ誰も帰ってきてない。「せっかく」などと言えるレベルではないんです。 中山 外務省が心配しているのは交渉が途切れることであって、被害者を救出できるかどうかではないようです。 西岡 北朝鮮側にモノを言うのではなく、日本側、被害者側に向かって、パイプを守るために制裁解除が必要だと言うようになってしまう。 中山 北朝鮮から、金第一書記が決断したという証拠を提示されているのではないとすると、日本として非常に弱い立場の交渉になっているということです。ですから、私は何らかの証しを得た上で制裁を解除したのだろうと考えています。 西岡 8月中旬の時点で、水面下の交渉が少し膠着状態になっていると聞いています。平壌に調査の状況を調べに行く、あるいは平壌に日本人スタッフの駐在事務所を置くという計画が延期されている。もしかしたら水面下の交渉で日本側が相当頑張っているのではないかという感触も持っています。 というのも実は、安倍首相から外務省に、次の3点を交渉方針とするよう指示されているからです。第一は拉致を最優先させること、第二は被害者の安全確保。そして第三点が一括解決です。といっても遺骨や日本人妻の問題を含めての「一括」ではなく、拉致問題の一括解決です。北朝鮮から認定被害者の1人か2人かが入っている生存者情報が伝えられたという報道もありましたが、そのようなレベルではダメだということです。北朝鮮からの調査報告が遅れることを恐れて、首相が指示した「拉致最優先」「安全確保」「一括解決」の原則を譲ってはならないのです。北朝鮮から何か情報が出てくる。そのとき北とのパイプの維持ではなく、全被害者を取り戻すという観点からその情報を評価し、拒否するときは拒否するという覚悟を決めていただきたいと思っています。 中山 西岡先生も同じだと思いますが、2002年の拉致被害者5人帰国のとき、官房副長官だった安倍総理と一緒に行動してから、総理のことは非常に強く信頼申し上げてきました。安倍総理は必ず全員救出という考えで進んでくださるはずです。そして安倍政権のいまが、被害者帰国を実現できる可能性が一番強いとも思っています。そんな思いから辛口なもの言いをしましたが、今回の再調査にも相当程度のチャンスはあると見えますので、周囲がミスリードして中途半端にことを進めるということがないよう、きちんと被害者を救出していただきたいと思います。中山恭子氏 昭和15(1940)年、東京生まれ。東京大学卒。大蔵省入省。同省初の女性課長や初の女性地方支分部局長を務め、平成5年に退官。ウズベキスタン兼タジキスタン特命全権大使、首相補佐官など歴任。19年、参院選に自民党比例区から出馬し当選。拉致問題担当相など歴任。その後、たちあがれ日本、日本維新の会を経て次世代の党に所属。著書に『国想い 夢紡ぎ』など。西岡力氏 昭和31(1956)年、東京都生まれ。国際基督教大学卒。筑波大学大学院地域研究科東アジアコース修士課程修了。在ソウル日本大使館専門研究員などを歴任。「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」(救う会)会長。著書に『韓国分裂』(扶桑社)、『金賢姫からの手紙』『よくわかる慰安婦問題』(ともに草思社)など多数。

  • Thumbnail

    記事

    知られざる 素顔の「北」

    現させる。 巻末の「滞在記」に悪戦苦闘の経緯が記されるが、自作を突き放すかのような一文が印象的だ。〈北朝鮮の真実である、というつもりは毛頭ない。真実とはそれ自体多面的なもの〉。単眼では見えなくなってしまうものがある。収められた写真たちは静かに、でも確かに、そう語っている。 ※写真は「隣人。38度線の北」(徳間書店)より掲載。

  • Thumbnail

    記事

    拉致再調査 国家テロとの戦いであることを忘れてはならない

    は13人だけ、そのうち8人は死亡しており、残り5人を返して拉致問題は解決した」を崩すことを目標にして北朝鮮と交渉している(3月28日、安倍総理が家族会に明言)。北朝鮮と日本の思惑は異なっている。 今回の日朝合意は、安倍政権が統戦部の狙いに一度乗ってみせて、彼らの出してくる新たなウソ報告を打ち破って事態を打開しようと試みたものであるという前提に立つときに初めて肯定的に評価できる。 安倍政権に与えられた北朝鮮との交渉の時間は最長3年と思われる。2017年に韓国で再び、親北政権が成立する可能性がある。そうなれば、無条件的な支援が再開され、金正恩政権が日本に接近する動機の大部分は消滅する。また、同じく2017年までに北朝鮮が米国本土まで届く核ミサイルを完成させる可能性もかなりあり、そうなれば朝鮮半島を巡る戦略環境は大きく変動する。米国が赤化する韓国を見捨てベトナム型の共産統一という悪夢も起こりえる。その場合、拉致問題は半永久的に解決できない。 金正恩政権は2017年までの3年間をどうしのぐのかという観点から対日カードを切ってきた。枯渇する外貨を補い、中朝関係悪化から来る外交的孤立を挽回しようとして安倍政権に急接近してきた。彼らは日朝国交正常化にともなう巨額の経済支援ではなく、当面の外貨を日本から調達しようとしている。具体的には、①1945年前後に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨を日本に返還するプロセスで実費と称してまとまった外貨を得ようとする「遺骨ビジネス」②2006年第1次安倍政権が開始した朝鮮総連への厳格な法施行を中止させて、過去のごとく総連から金とものを送らせようとし、③食糧支援再開にともない大量の米を得る―の3つを狙っている。懸念される拉致被害者殺害 北朝鮮内部に繋がる複数の情報源によると、金正恩は今年1月、朝鮮総連を再建せよ、そのために対日接触をせよとの以下のような秘密指令を下した。 「首領さまと金正日同志が育てた総連が日本の野郎どもの工作のため脱退者が続出して崩壊直前になっている。北朝鮮住民への影響も大きい。総連からカネやミサイル用電子部品が来なくなっていることもダメージが大きい。総連を再建せよ。そのために日本と協議をせよ」 統戦部は、この指令を受けて今年1月から本格化した対日交渉を主導している。なお、総連の秘密工作を管轄してきた225部(旧連絡部・姜周一部長)は昨年統戦部と統合している。日本のメディアがしきりに報じている国家安全保衛部は、交渉を主導していない。ただ、統戦部の監視役をして課長クラスの保衛部の人間(キムジョンチョルと名乗る)が交渉団のメンバーに入っている。 統戦部は今回の対日交渉において、総連再建に必要な制裁解除(厳格な法執行を含む)と遺骨提供にともなう外貨の獲得を当面の目標としている。合意内容のうち「日本側がとる行動」の第5項目「在日朝鮮人の地位に関する問題については、日朝平壌宣言にのっとって、誠実に協議することとした」が前者のための仕掛けになっている。すでに宋日昊大使はこの項目の中に総連中央本部問題が含まれると主張している。 統戦部は、今回の調査で拉致問題を終わらせようとしている。それは、合意文にある「北朝鮮側は、…最終的に、日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明した」という部分からも分かる。統戦部は、8人を含む全被害者を返さなければ日本政府と世論が好転しないと主張していた張成沢部長に対して、8人を返せば秘密が漏れて工作活動に支障が出ると頑強に反対していた。統戦部主導の現在の交渉は「8人死亡」維持を前提とされている。日本の世論対策として、生きている被害者を殺害して高温で焼き遺骨を作るテロを実行する危険がある。すでに金正恩が決済している可能性もある。 あらゆるルートで8人が生きて帰ってこない限り、遺骨返還に伴う現金支払いも総連への圧力低減もないという安倍政権の不動の立場を発信しなければならない。8人について日本が確実な生存情報を持っており、もし遺骨が出てきた場合は、DNA鑑定を待たずに生存情報を公開して北朝鮮を糾弾するというメッセージを発信しなければならない。 今回の日朝協議で、わが国外務省は水面下で大幅に譲歩した疑いがある。北朝鮮が2002年の説明をくつがえす意思表示をしていないのに、安倍総理訪朝、独自制裁の完全解除、核ミサイル実験をしても交渉決裂させないなど大幅な譲歩を約束したという北側からの情報を、私は最近入手した。 金正日政権は、調査は1回だけ行い、それが拉致問題に関する最終報告だと位置づけている。日本政府が北朝鮮で確認作業を行うことを悪用して事実上の共同調査に持ち込もうとしている。このまま、外務省主導で日朝協議が進むと、被害者の大多数は再調査でも死亡や未入境とされ、金正恩政権下での帰還が不可能になるかもしれない。最悪のケースでは最高機密を知るとされる数人の被害者が殺害され、高温で焼いた遺骨とされて引き渡される危険性もある。 外務省が水面下で約束したと複数の北筋が主張している内容は以下の通りだ。・9月か10月の安倍総理の訪朝を実現させる。それによって韓国と中国を刺激して、北朝鮮に接近させようともくろんでいる。・北朝鮮が核、ミサイル実験を行っても今回の合意に基づく日朝協議は決裂させない。・総連中央本部に関して外務省は水面下で「司法に介入できないが道はある。応札した業者を説得して10億円上乗せして転売させるという方法もある」と伝達した。すでに4月に外務省幹部が地裁決定で購入権を得ているマルナカホールディングに接触したという。・外務省は水面下の交渉で、万景峰号入港許可を前提に、船を改造したため日本の安全基準を満たしていないから入港不可能と伝え、修理すべき箇所の資料を伝達した。北朝鮮はそれを受け羅津で修理を行っている。 これらが事実だとすると日本側が大幅な譲歩を行っていることになる。拉致被害者全員を取り戻す前に譲歩してしまえば、北朝鮮は動かなくなる。北朝鮮は制裁の「痛み」を感じている間だけ動くのだ。 もっとも、警戒すべきは前述したとおり、統戦部が数人の被害者を殺害して「遺骨」を作り、高温で焼いてから日本に提供することだ。北朝鮮工作機関の動静に詳しい複数の情報源は今回の合意を見て、2~3人殺される恐れが高いと私に伝えてきた。 安倍総理も幹事長代理だった2004年12月、横田めぐみさんのモノとされた遺骨から別人のDNAが検出されたとき、「これからは証拠を出せというと危険だ。生存者を返せというべきだ。彼らは生きている人の腕を折って本物の遺骨を作ることすらやりかねない」と警告を発していた。 日本の技術では遺骨の鑑定によって死亡時期も分かる、たとえば94年に死亡したとされている被害者の遺骨が出てきて死亡時期が2002年以降であれば虐殺だ。そうなれば日朝関係は半永久的に改善できず、日本は金正恩政権を倒すためにあらゆる手段を取る、と警告し続けなければならない。 死亡時期が判別できるということを統戦部も知っており、高温で焼けばそれが不可能になるのではないかと、日本の技術に関する調査を数年前から必死で行ってきた。私のところには複数の情報源から以下のような情報がもたらされており、大変緊張している。2005年か2006年、被害者を毒殺して遺骨を作る計画があったが実行されなかった。2007年頃から「日本のDNA鑑定技術で死亡時期や死因がどの程度分かるのか」を調査していた。2012年にヨーロッパのある国の病院で遺骨を高温で焼いた後、DNAを鑑定する実験を実施した。DNAは検出されその骨が誰のモノかは判断できるが、死亡時期や死因は判別できないという火葬温度を探ったという。 この情報に接した後、私は日本国内の専門機関関係者にわが国のDNA鑑定技術水準に関して質問した。その結果、日本警察が現在持っている技術は世界最高水準であることが分かった。2004年、横田めぐみさんのものとされる遺骨を鑑定した警察庁の科学警察研究所はDNAを抽出できなかった。民間の帝京大学法医学研究室でそれができた。ある意味、警察は恥をかいたことになり、その後、予算、人材を集中的に投入して技術開発を行ってきた。帝京大学の法医学研究室から吉井富夫教授を警視庁の科学捜査研究所にスカウトしたのもその一環だ。最新の研究成果は公開されていないという。したがって、北朝鮮がヨーロッパの技術で実験を行ったとしても、日本が持っている最高水準の技術を見破ることはできない。この点を金正恩に伝えなければならない。「日本政府は世界最高のDNA鑑定技術を持っており遺骨から死亡時期を判別できる。その上、死亡とされた8人に関して確実な生存情報を持っている。被害者を殺傷するな。それをしたら日朝関係は最悪となる」というメッセージを金正恩に向けて発信しなければならない。 日本は被害者の生存を確認できる多くの情報を持っている。菅義偉官房長官は昨(2013)年10月9日の会見で「政府としてめぐみさんの生存についてどのようにお考えですか」という質問を受け、「もちろん生存していると私どもは確信しています」と答えている。 古屋圭司拉致問題担当大臣も5月22日に出した「第2回日朝首脳会談10周年談話」の中で〈(10年前の)第2回日朝首脳会談後の日朝実務者協議で示された「再調査結果」は、裏付けとなる物的証拠がないばかりか、不自然な点や矛盾に満ちたものです。我が方として、これを最終回答とみなすことはありません〉〈我が国は、安否不明の拉致被害者についての情報収集活動を一貫して強化してきました。一時的なポーズをとって時間を稼いでも、状況の改善や実利の獲得にはつながりません。拉致被害者の存在を隠蔽することで拉致問題の終息を図っても、日朝関係を取り返しのつかない状況に追い込むだけです。御家族に「死亡」を納得させたり関係者を離間させたりすることによる問題風化の試みも、一切通用しません。こうした策動により拉致被害者の無事帰国を求める日本国民の声を収拾することは、不可能です〉(傍線西岡、以下同)と述べた。 傍線部分を熟読すると、日本は生存情報を持っているのだから、偽遺骨などを出して被害者を隠蔽したら「日朝関係を取り返しのつかない状況に追い込む」と警告していることがわかる。日朝合意発表後、古屋大臣は機会あるごとに同趣旨の発言をしている。 民間である救う会も多くの情報を持っている。生存情報は全て政府に提出している。金正恩政権が日本のDNA鑑定能力と情報収集能力を甘く見たらとりかえしのつかないことになると、繰り返し警告しておく。 被害者殺害さえ阻止できれば、調査結果として「8人死亡」説が再度出てきても、日本として受け入れられないとの判断をなし、彼らが求める総連再建につながる制裁解除や遺骨にともなう外貨の支払いを実施せず、金正恩の決断を待つという戦略を貫ける。国家テロとの戦いであることを忘れるな 今後の交渉の推移を評価するにあたって、一つ強調しておきたいことがある。テレビや週刊誌などに登場する解説者の多くは、今回何人の被害者が出てくれば世論は納得するか、小泉政権は5人を取り戻したから安倍政権ではそれ以上出てこないと政治的業績にならない、等という議論を繰り返している。しかし、焦点は北朝鮮が出してくる被害者の人数ではない。 拉致問題は国家犯罪、国家テロである。いま、北朝鮮当局と行っている協議は、たとえて言えば人質をとって立てこもっているテロリストグループと警察が行っている人質救出のための交渉なのだ。そのとき、最優先にされるのはすべての人質の解放であり、その次に真相究明と犯人逮捕だ。人質のうち、3人出せばあとは殺してもいい、連れて行ってもいいなどという交渉はあり得ない。拉致問題においても「全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国」こそが最優先されるべきなのだ。これは白か黒か、100対ゼロの交渉であって人数で譲歩することはあってはならない。 ところが、多くの論者の認識には、この問題を通常の外交交渉と同じ質の、数字で譲歩できるという考えが忍び込んでいる。そして、もしかしたら交渉に当たっている外務省の潜在意識にも、それがあるのではないか。私は、先述の通り今回の外務省の交渉姿勢に関していくつかの懸念を抱いている。国家として自国民が一人でもテロ集団に不当に抑留されている事態が継続していることは、主権と人権の侵害として絶対に容認できない、という原則に則っているのかどうかだ。 安倍政権は解決方針を「拉致被害者としての認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国」と定め、認定できていない被害者を含み全員を助けると明言した。認定できていない被害者が何人いるのかは分からない。助けるべき人質の総数が何人か把握できていないのだ。全員のリストがないけれども、一人残らず助ける、このような極めて困難な課題にわれわれは直面している。 全員を助けるための方策はある。私はこの間繰り返し、北朝鮮による時間稼ぎと責任転嫁を許す合同調査委員会は絶対作ってはならない、北朝鮮にこれが全員であるという調査結果を申告させ、それを日本が検証して、不十分だと判断すれば反論をして再申告させるという、申告検証を繰り返す枠組みを作れと主張してきた。 今回の合意を見ると、いくつかの危険性はあるが、それがほぼ実現したかのように読める。北朝鮮がとる行動の第5で「拉致問題については、拉致被害者および行方不明者に対する調査の状況を日本側に随時通報し、調査の過程において日本人の生存者が発見される場合には、その状況を日本側に伝え、帰国させる方向で去就の問題に関して協議し、必要な措置を講じることとした」(傍線西岡、以下同)とされて、北朝鮮が拉致被害者に関する調査の状況を日本に通報することとされた。 そして、日本側がとる行動の第6で「包括的かつ全面的な調査の過程において提起される問題を確認するため、北朝鮮側の提起に対して、日本側関係者との面談や関連資料の共有などについて、適切な措置を取ることとした」とされ、日本が北朝鮮の通報してくる調査状況を確認することとされた。また、北朝鮮がとる行動の第6で、「調査の進捗に合わせ、日本側の提起に対し、それを確認できるよう、日本側関係者による北朝鮮滞在、関係者との面談、関係場所の訪問を実現させ、関連資料を日本側と共有し、適切な措置を取ることとした」と北朝鮮が日本の確認作業に協力することが書かれている。 北朝鮮が調査して日本に通報し、日本が確認するという枠組みが一応できている。しかし、気になるのが日本の確認作業が北朝鮮で行われるかのように読めるところだ。北朝鮮の行動の第6「日本側関係者による北朝鮮滞在、関係者との面談、関係場所の訪問を実現させ、関連資料を日本側と共有し…」はまさにそのことを意味する。菅官房長官も日本政府代表を北朝鮮に駐在させて確認作業を行うと表明している。これは危険だ。 捜査権のない日本政府代表が北朝鮮内で捜査、調査を十分に行える保証はない。これが全容だという調査結果を客観的な証拠を添付した上で北朝鮮に申告させ、それを日本が日本国内で緻密に検証してここは不十分だ、この証拠は捏造だという反論を提起して再調査を北朝鮮に求めるという枠組みにしなければならない。北朝鮮での確認作業に重点を置くと、いつのまにか合同調査のような形式に巻き込まれてしまう危険がある。北が繰り返してきた虚偽申告 実はこれまで日朝は申告検証のプロセスを4回繰り返してきた。今回が5回目になる。北朝鮮はそのたびごとに虚偽申告をしてきた。そのことを前提にして今回の北朝鮮の「再調査」を注視しなければならない。過去の申告検証プロセスを振り返っておく。 1回目の調査は、1998年1月から6月初めまで5ヵ月間、北朝鮮赤十字会が行った。前年に日本政府は北朝鮮に7万トンのコメ支援をし、北朝鮮は行方不明者としての調査を約束した。調査対象は当時日本の警察が拉致容疑事案としていた10人(久米裕、横田めぐみ、田口八重子、地村保志・浜本富貴恵、蓮池薫・奥土佑木子、市川修一・増元るみ子、原敕晁)。しかし、結果は、「1970年代以降、日本から来た30歳以上の人々について、日本から送られてきた10人の身元と詳細に照合された。しかし、残念ながら日本が求める10人のうち1人も見つからなかった」(98年6月5日北朝鮮赤十字会スポークスマン談話)とゼロ回答だった。 日本は「今回の北朝鮮側の対応はとても受け入れられるものではない。政府として今後、引き続き本件がわが国国民の生命の安全にかかわる重要な問題であるとの認識に立ち、北朝鮮側の真剣な対応を粘り強く求めていく」(橋本龍太郎首相)「到底受け入れられず、極めて遺憾だ。北朝鮮による拉致の疑いが持たれている事件は、わが国捜査当局で検討した結果、7件10人と判断している」(村岡兼造官房長官)と反論した。ここで1回目の申告検証プロセスが実施され、日本は再調査を求めた。 2回目の調査は、2000年に始まった。この時も前回と同じコメ支援実施、調査開始、ゼロ回答、日本の反論という流れだった。3月に10万トン、10月に50万トンのコメ支援が決まり、12月に7件10人の日本人について「行方不明者」として再調査をすることで合意した。北側は、赤十字から捜査当局に調査を依頼すると伝えてきた。しかし、結果は、やはりゼロ回答だった。翌2001年12月17日、朝鮮赤十字会は「日本側が要請した『行方不明者』の消息調査事業を全面中止する」として、「人間の自主性、人権を最も重んじることを本性とするわが国(北朝鮮)では『拉致』などありえず、あったこともない」「日本側が謀略的な『拉致』騒動でわが国を冒涜し、朝鮮人民の神経を極度に刺激して『行方不明者』の消息調査事業に大きな難関が作り出されたため(調査を中止した)」と一方的に発表した。日本政府は当然、この通告に抗議した。 3回目が2002年9月17日、小泉首相の訪朝のときだった。朝鮮赤十字会名義で「生存者5人、死亡者8人、未入境1人」という調査結果が通告された。日本は政府とわれわれ家族会・救う会など民間部門が協力して検証を行い、全く信用できないことを証明した。 9月28日から10月2日、日本政府は北朝鮮に調査団を派遣して「死亡確認書」「患者死亡台帳」などの「証拠」を得てきた。それらを帰国後に分析したところ、死亡時期や死因が合理性を欠くだけでなく、出された文書も捏造だと判明した。たとえば死亡年度も場所も異なる7通の「死亡確認書」が同じ病院で急造されたもので、めぐみさんの死亡を証明するという精神病院の死亡台帳は「患者入退院台帳」の表紙だけを書き換えて捏造したものだった。家族会・救う会はこれらの矛盾点25項目を政府に提出、それ以外にも警察が多くの矛盾点を指摘し、外務省は10月29~30日、日朝国交交渉の場で150以上の質問項目を北朝鮮に対してぶつけて回答を求めた。これに対する北朝鮮側の回答はなかった。 4回目が2004年5月、小泉首相の2度目の訪朝で金正日が約束した「白紙に戻しての再調査」だった。北朝鮮は日本に対してこのように説明した。「政府から必要な権限を与えられた調査委員会が設置され、同委員会が特殊機関を含む関係機関も調査対象にしつつ、鋭意調査を行った」「同委員会の委員長は陳日宝人民保安省捜査担当局長であった」「その際、生存者がいれば全員帰国させるとの方針で調査を進めた」。同年11月にその結果として、横田めぐみさんと松木薫さんの遺骨と称する骨など多くの「証拠」が出された上で「8名は死亡、2名は入境を確認せず」という2002年9月の調査結果は正しいとされた。(未入境が2名となっているのは2002年9月17日以降に認定された曽我ひとみさんの母である曽我ミヨシさんが加わったため)。 家族会・救う会は、帰国した5人の協力を得て73項目の疑問点・矛盾点を指摘した。日本政府も精密な検証作業を行い、横田さんと松木さんのものとされる遺骨から別人のDNAが検出されたことをはじめ、47項目の疑問点・問題点を指摘し「北朝鮮側から得た情報及び物証からは、『8名は死亡、2名は入境を確認せず』との北朝鮮側説明を裏付けるものは皆無である。北朝鮮側の『結論』は客観的に立証されておらず、我が方としては全く受け入れられない。」として次のように北朝鮮に対して調査のやり直しを求めた。この部分は重要なので少し長いが全文引用する。 〈今回の再調査は、本年(2004)5月に金正日国防委員長が小泉総理に対して「白紙」に戻して徹底した再調査を行うと約束したことを受けて実施されているものであるが、上記で指摘してきたとおり、これまでに北朝鮮側から提供された情報・物証では、安否不明の拉致被害者に関する真相を究明するためには全く不十分と言わざるを得ず、「調査委員会」による本件再調査は信頼性を欠き、到底、金正日国防委員長が約束した「『白紙』に戻しての徹底した再調査」と呼べるものではない。 以上を踏まえて、政府としては北朝鮮側に対して、今般の再調査の結果は極めて誠意を欠く内容であるとして強く抗議するとともに、日本側の精査の結果を早急に伝達することとする。そして、北朝鮮側が「日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む」との日朝平壌宣言に則り、また、金正日国防委員長自身が行った約束を自らの責任と関与で誠実に履行することにより、安否不明の拉致被害者の真相究明を一刻も早く行うよう、厳しく要求するものである。〉「北朝鮮から提示された情報・物証の精査結果」 その後、北朝鮮は2008年8月に5度目になる「調査」を約束したが、突然その約束を破棄して今に至っている。したがって、今回、北朝鮮が行う「再調査」は5度目の調査となり、日本としては2004年に指摘した精査結果47項目に対する誠実な回答がなされるかどうかを、結果を評価する基準とするべきなのだ。何人の被害者が出てくるかなどという問題ではないという点、再度強調しておく。 拉致問題では以上見てきたようにすでに北朝鮮側が4回「調査」を行ってその結果を日本に申告したが、日本はそのたびに、それを検証して「北朝鮮側の『結論』は客観的に立証されておらず、我が方としては全く受け入れられない」として具体的な疑問点を多数指摘して北朝鮮に調査やり直しを求めてきた。すでに私の言う北朝鮮による調査結果の申告、日本による検証というプロセスが4回実施されたが、北朝鮮がそのたびごとに虚偽申告を繰り返した結果、多くの被害者が北朝鮮に取り残されたまま拉致問題の解決には至らない状況が今も継続しているということだ。北朝鮮側が提供した横田めぐみさんとみられる女性の写真オールジャパンの戦いだ 読者諸侯にお願いしたいことがある。いま現在、日本政府が北朝鮮に突きつけている「反論」の内容をぜひ確認していただきたい。拉致問題対策本部は「北朝鮮側主張の問題点」というパンフレットを作り、またウェブ上でも同じ内容を公開している。その冒頭で日本政府は以下のように堂々たる反論を行っている。〈北朝鮮側は、次のように主張しています。・(安否不明の拉致被害者12名のうち)8名は死亡、4名は北朝鮮に入っていない。・生存者5名とその家族は帰国させた。死亡した8名については必要な情報提供を行い、遺骨(2人分)も返還済み。・日本側は、死んだ被害者を生き返らせろと無理な要求をしている。 しかし、こうした北朝鮮側の主張には以下のように多くの問題点があり、日本政府は、北朝鮮側の主張を決して受け入れることはできません。そして、被害者の「死亡」を裏付けるものが一切存在しないため、被害者が生存しているという前提に立って被害者の即時帰国と納得のいく説明を行うよう求めています。日本政府は、決して「無理な要求」をしているのではありません。1.8名の「死因」には不自然死が極端に多いことに加え、これを裏付ける客観的な証拠がまったく提示されていない。2.北朝鮮側説明には、不自然かつ曖昧な点が多く、また、捜査により判明している事実や帰国被害者の証言との矛盾も多く、説明全体の信憑性が疑われる。3.拉致の責任者の処罰に関する北朝鮮側の説明には多くの疑問点がある。〉 その全文を多くの日本国民がじっくりと読んで欲しいのだ。その上で、今回の再調査で北朝鮮がこの日本政府の反論にどう答えるのかに注目していただきたい。 統戦部はいま、何かを準備している。全被害者を返すというわれわれが望むものではないだろう。しかし、彼らは満を持して再調査の結果として、その何かを出してくる。時期はかなり早いかもしれない。官民挙げて検証し、でたらめを暴かなければならない。この間、政府が蓄積してきた情報力が試される。私たち民間部門も総力を挙げる覚悟だ。またしてもでたらめな調査報告だと分かったなら、解除した制裁の再発動や、人的往来の全面停止など一層強い制裁発動を躊躇なく行うべきだ。 安倍晋三首相は本稿で私が指摘したさまざまな危険性を全部、承知の上で事態を動かして被害者を何とか救おうと決断したと信じている。勝負はこれからだ。オールジャパンの力が試されている。

  • Thumbnail

    記事

    国連人権決議は金正恩氏への「核爆弾」である

    久保田るり子(産経新聞編集委員) 北朝鮮にとっては「核爆弾」級のインパクトだという。国連総会で12月中の採択が確実の「北朝鮮人権決議」のことだ。 北朝鮮外交官が国連本部ビルをナーバスに走り回っている。国連北朝鮮代表部の幹部が自国の人権をめぐる抗弁で口角泡を飛ばしたり、自画自賛する〝決議案〟を配りまくったりとロビー活動に血眼という。「金正恩が国際刑事裁判所に訴えられるかもしれないということで、それを『すべての外交力量を使って防げ』という命令が出ていると聞いている」(北朝鮮情勢に詳しい専門家)。 10年ほど前から毎年、出ている国連での北朝鮮人権決議だが、これまで北朝鮮は見向きもしなかった。今回が異なるのは決議案に「人道に対する罪を犯した最高責任者を特定する」と「人権侵害を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう国連安保理に議論を促す」との2点が明記されたこと。だがICC付託には安保理決議が必要だし、すでに中露が反対を表明しているため、金正恩氏がICCで裁かれる実現性はほぼゼロ。それでも北朝鮮はなりふり構わず必死になっている。一体、なぜ? 「みなさんは北朝鮮のことをあまりに知らない。首領主義がすべての中心にある北朝鮮で、最高権力者が世界から刑事被告に名指しされたら、それこそ核爆弾だ。本物の核実験非難や制裁など、今回に比べたら何の痛痒もない」 「労働新聞を見てください。毎日のように赤道ギニア共和国から花輪が届いたとか、どこどこ共和国の元首から祝電が届いたと、わが国の指導者は世界中から尊敬されていると北では教えている。『国連で刑事告発された』などと風船ビラで撒かれたり、ラジオで言われたりしたらとんでもないダメージだ」と北朝鮮出身者たちは言う。 金正恩政権は基盤が危うい 韓国の2014年の外国白書は「無分別な恐怖政治で権力内部の脆弱化が進み、権力層の動揺、民心離反が広がっている」と評価した。国連総会の決議は国際社会の「総意」だ。金正恩氏が父や祖父はじめ金氏一族の名誉を地に堕とす、これにまさる恥はなかろう。 この「北朝鮮人権決議」は欧州連合(EU)とともに日本が共同提案した。2014年2月、ジュネーブで国連の調査委員会が「北朝鮮人権報告書」を公表、政治犯収容所や外国人拉致、公開処刑など1950年代からの残虐行為を「人道に対する罪」と断定、最高指導者の責任追及にも言及した。これを元にまとめられた決議案には日本人拉致事件も明記された。3月にはジュネーブの国連人権理事会で採択。そして舞台をニューヨークに移し、国連総会での採択を迎えようとしている。 実は、日本政府代表団が訪朝し、北朝鮮の特別調査委員会、徐大河・国家安全保衛部副部長と面談していた10月28日、ニューヨークの国連本部は決議案をめぐる攻防戦がピークを迎えていた。この日、北朝鮮人権問題に関する国連特別報告者のマルズキ・ダルスマン氏が、「北朝鮮の人権問題はICCに付託すべきだ」と安保理に向けて熱弁をふるい、北朝鮮が危機感を募らせていた。 平壌では徐大河委員長が登場し、何やら芝居がかった協議が行われたが、予想通り何の成果もなかった。日朝協議は、「拉致問題もやっていますよ」というNYの決議案をめぐる北朝鮮の宣伝攻勢の一環だった可能性があるのだ。だとすると日本は、一方で金正恩氏の急所を突いた画期的な決議案を共同提案しておきながら、一方で宣伝に使われたことになる。 拉致問題再調査の日朝協議は、北朝鮮の対応全体を俯瞰して戦略を立て直すべきである。結果を出さない彼らには「再制裁」を突きつける必要がある。追い詰めなければ、彼らは決して動かない。彼らは焦っている。今回の国連での動きを受けて有名な「燿徳(ヨドク)収容所」を農村に偽装しているとの話もある。国際社会の追い風の中、日本外交はこの好機を逃すというのか。■北朝鮮人権非難決議を採択 国連総会委、刑事裁判所へ付託促す 北「核実験自制難しい」(産経ニュース 2014/11/19)■核実験に重ねて言及 国連決議で北朝鮮外務省(産経ニュース 2014/11/20)