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    小林麻央さんが遺してくれたもの

    フリーアナウンサーで乳がん闘病中だった小林麻央さんが34歳の若さで亡くなった。昨秋にブログを開設して以来、352回ものメッセージを発信し、多くの人々の心を動かした。麻央さんは私たちに何を伝え、何を遺してくれたのか。その意味を考えたい。

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    小林麻央さんのブログが変えた「日本人の死生観」

    碓井真史(新潟青陵大学大学院教授) 有名人や芸能人の人生は、私たちに大きな影響を与え、時に社会を変えていく。山口百恵のように、人気絶頂のアイドルが結婚を機にすっぱりと引退し、専業主婦として生きていくといった姿は、当時の日本女性に強いインパクトを与えただろう。そして「山口百恵」は伝説化されていく。1977年秋に極秘来日し、インタビューに応じたジョン・レノン(右)とオノ・ヨーコ=東京都内のホテル さらに「死」にまつわることは、より普遍性が高いために、多くの人々の生き方にさえ影響を与える。スポーツカーで事故死したジェームズ・ディーン、愛と平和を歌いながら暗殺されたジョン・レノン、民家の軒先で遺体が発見された尾崎豊。彼らは、その芸能活動と死にざまがあいまって、熱狂的なファンを生み神格化されていった。 人はみんな死ぬ。有名人も権力者も金持ちも関係ない。死から免れる人はいない。だから問題は、どう死ぬかだ。涙で包まれた穏やかな臨終の場面はドラマでよく登場するシーンだが、現実とは異なる「様式美」とさえ言えるよう最期が描かれたりする。事故死は、突然の死であり、ご遺族にとってはとても辛いことになる。だが、だからこそこの衝撃的な死に方も物語にはよく登場する。現実世界の芸能人も、事故死の方がその芸能人のイメージのままで死を迎えられるために、「永遠のスター」として私たちの記憶に残ることもある。 だが、病気はなかなか辛い。徐々に体が弱る。痩せ細るなど容姿が変わることもある。長く苦しむこともある。病人の周囲では良いことばかりが起こるわけではない。体と心の苦しみ、お金の問題、看病、人間関係の問題など、さまざまなトラブルが起こることもあるだろう。辛さだけが残る最期もある。だから、有名人の中には闘病生活をほとんど世間に知らせない人もいる。華やかな結婚式や、授賞式や、一家だんらんなど公私にわたる人生を公開してきた人も、死期が近づいている闘病生活は公開しない。夢を売ってきた芸能人として、それも当然のことだろう。 だからこそ、フリーアナウンサーの小林麻央さんの活動は注目された。彼女のネット発信は素晴らしものだった。「私は前向きです」「今、前向きである自分は褒めてあげようと思いました」「何の思惑もない優しさがこの世界にも、まだたくさんある」「がんばれっていう優しさもがんばらなくていいよという優しさも両方学んだ」「今は今しかない」「今日、久しぶりに目標ができました。娘の卒園式に着物で行くことです」「空を見たときの気持ちって日によってなんでこんなに違うのだろう」「苦しいのは私一人ではないんだ」「私はステージ4だって治したいです!!!」「奇跡はまだ先にあると信じています」。小林麻央さんのブログには、宝石のような言葉があふれた。死との向き合い方のお手本のようだ。人生の苦悩と希望を届けてくれた 酸素チューブを鼻に入れた写真。ウイッグ(カツラ)の写真。闘病中の姿も、美しく、ユーモラスに公開した。そして彼女は語る。6月20日、小林麻央さんが最後に自身のブログに掲載した写真(本人のブログから) 「私が今死んだら、人はどう思うでしょうか。『まだ34歳の若さで、可哀想に』『小さな子供を残して、可哀想に』でしょうか?? 私は、そんなふうには思われたくありません。なぜなら、病気になったことが私の人生を代表する出来事ではないからです。私の人生は、夢を叶え、時に苦しみもがき、愛する人に出会い、2人の宝物を授かり、家族に愛され、愛した、色どり豊かな人生だからです」。闘病生活をつづったブログなのだが、麻央さんのプログは闘病記ではなかったのだ。 もちろん、公開されたことだけが事実ではないだろう。家族にしか言えない苦しみがあったことだろう。死も闘病も、きれいごとだけですまない。しかしそうだとしても、2016年9月1日に始まった麻央さんのブログは、人生の苦悩と希望を私たちに届けてくれた。それは日本人の心を動かし、世界にも報道された。彼女の言葉に、慰められ、励まされた人々はどれほどたくさんいたことだろう。そしてその活動が、小林麻央さん自身の癒しと勇気にもつながったことだろう。 どう死ぬかという問題は、どう生きるかという問題であり、死生観が関わる問題だ。そして死生観には、宗教が絡む。普段は無宗教という人でも、葬儀の時には宗教的なことをする。しかし、世界的に宗教の力は落ちている。日本でも、簡易な家族葬、無宗教の葬儀、そして「直葬」と呼ばれる宗教的葬儀なしに火葬場へ行く方式も増えている。仏教式の葬儀を行っても、以前ほど戒名などにこだわる人は減っているだろう。宗教への熱い信仰があれば、どう生きてどう死ぬかの指針になる。だが、非宗教化した現代社会で、人々は新しい死生観を求めている。 インターネットは、まるで新しい宗教だ。人は確かに生きて日々活動しているのだが、人生とは各自が振り返ってみたこれまでの記憶とも言える。同じような生き方をした人でも、良い記憶でまとめられた人生もあるし、悪い記憶でまとめられた人生もある。人生は、当人の記憶であると同時に、周囲の人々の記憶だ。多くの人々の記憶が、その人の人生を形作る。 神仏を信じていれば、神仏が私の人生を見守る。神仏は私に関する出来事を全て記憶し、私の人生に意味づけをする。心理学の研究によれば、信仰を持っている人の幸福感は高い。神仏的なもの抜きで人生の意味づけをすることは、簡単ではない。 インターネットは、新しい神にもなるのだろう。私の人生を、ネット上で記録できる。世界に発信できる。世界の人々は、ネットを通して私を見て、リツイートしたり、「いいね」したりする。その記録は半永久的に残る。ネット世界でも人は包まれる インターネットの黎明期(れいめいき)から、人生を語る人々はいた。一般の人の中にも、闘病生活を発信した人はいた。まだブログもなく個人ホームページも数少なかった頃、母であり教師であるある一人の女性は、死期が近づく中で、普及し始めた電子メールで配信を始めた。「私は、なぜ病気になったのかではなく、何のために病気になったのかと、考えるようになりました」と。その活動は、多くの友人、知人たちを力づけた。 このような活動は、今や多くの人々に広がっている。ある元校長は末期のガンであることをブログでカミングアウトし、それでも最期まで自然に親しみ、グルメを楽しみ、家族や病院スタッフに感謝する。家族がそれを見守り、友人や知人が応援し、見ず知らずの読者との温かな会話が始まる。同じ病で苦しむ読者とも交流が生まれる。それは、どれほど素晴らしく意味あることだったことだろう。 ネットを通して、記録を残し、思いを伝え、人々とつながる。それは、真剣に命と向き合っている人にとって、かけがえのない活動だ。死期が迫った終末期は、人生の中でもっともコミュニケーションを必要とする時期だ。しかし、しばしば死期が迫っているからこそ、孤独感に襲われることもある。だがネットは、豊かなコミュニケーションを提供する。神仏の腕に包まれるように、ネット世界で人は包まれることもあるだろう。 余命いくばくもない人にとって必要なことは、安易な慰めでもなく、客観的だが悲観的なだけの情報でもない。必要なのは「祈り心」だ。神仏に祈れる人もいる。同じ宗教の信者たちに祈ってもらえる人もいる。健康心理学の研究によれば、祈られている人は病気が治りやすくなる。そして祈り心は特定宗教によらなくてもできる。祈り心とは、客観的には厳しい状況であることを知りつつ、同時に希望を失わない心だ。 東日本大震災の時に、日本は祈りに包まれた。「Pray for Japan」、日本のために祈ろうと、世界が日本の支援に乗り出した。国連はコメントしている。「日本は今まで世界中に援助をしてきた援助大国だ。今回は国連が全力で日本を援助する」。 義援金や救助隊員を送ってくれたことはもちろんうれしい。だが金や人だけではなく、その心に熱い想いを感じた人も多かったことだろう。真実の祈りは行動が伴い、真実の行動は祈りが伴う。世界はマスコミ報道により日本の状況を知り、そしてインターネットによってさらに詳細な情報が伝わり、人々はつながっていった。つながりこそが、人間の本質だ。 このようなことは、個人でも起こる。今回は、小林麻央さんというたぐいまれな人格と文才を持った女性が、苦悩と希望を発信してくれたことで、大きな祈りと交流が生まれたといえるだろう。ネットは世界を変えた。ネットは私たちの死生観をも変えるのかもしれない。

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    小林麻央さんの乳がんを「誤診」した医師の責任は問えるか

    上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 小林麻央さんが乳がんで亡くなった。享年34歳だった。夫である市川海老蔵氏と二人三脚の闘病生活をブログで報告し、多くのがん患者を勇気づけた。心からご冥福を祈りたい。彼女は夫ともども、有名人だ。病名発表時点からマスコミが大きく報じた。メディア報道によれば、彼女の闘病生活は順調ではなかったようだ。イベントに登場し、笑顔を見せる小林麻耶さん(左)と妹で歌舞伎俳優の市川海老蔵さんの妻、麻央さん=2014年10月16日東京都墨田区 たとえば、『FLASH』2016年11月1日号には「ステージIVに追い込んだ2人の医師を直撃 小林麻央奇跡への第一歩!」という記事が掲載されている。 見出しからして穏やかではないが、この記事によれば、小林麻央さんが最初に乳がんの可能性を指摘されたのは、2014年2月に人間ドックを受診したときだ。 彼女はすぐに東京都港区の有名病院の専門医を受診した。このとき、乳がんとは診断されなかった。詳細はわからないが、幾つかの検査を追加し、乳がんとは言えないと診断されたようだ。結果論だが、主治医は「誤診」したことになる。 8カ月後、彼女は乳腺の腫瘤(しゅりゅう)を自覚し、この医師を再診したらしい。このときに、乳がんと診断された。精密検査の結果、リンパ腺への転移も認められ進行していた。この後の闘病生活は広くメディアが報じる通りだ。 小林麻央さんのがんは進行が速い。一般論ではあるが、このようなタイプは、仮に早期診断しても治癒は難しい。早期診断したころには、すでに遠隔臓器に転移していることが多いからだ。メディアの中には「誤診」した医師の責任を問う声があるが、それは医学的には妥当な判断かわからない。 ただ、遺族には「もし、最初の主治医が誤診しなければ、治っていたかも」という思いが残る。早期に診断し治療していれば、治癒は期待できなくても長期に生存できた可能性は十分にある。小林麻央さんはもっと子供の成長を見ることができたかもしれない。その意味で、最初の主治医には責任がある。ただ、この主治医を断罪しても問題解決にはならない。医者を過信するべからず 読者の皆さんには、言い訳には聞こえるかもしれないが、医師は誤診する。特に早期の乳がんの診断は難しい。早期がんを画像診断や生検で正常と判断してしまうことは珍しくない。重要なことは、最初の医師が見落としてしまった乳がんを拾い上げるシステムである。この点において、最近、南相馬市立総合病院の尾崎章彦医師らが興味深い研究を英国の医学誌『BMC Cancer』に報告した。 尾崎医師は乳がんを専門とする外科医だ。2010年に東大医学部を卒業し、千葉県旭市、福島県会津若松市で研修を終え、3年前から南相馬市立総合病院に勤務している。 南相馬で診療を続けるうちに、「病状が進み、手遅れになってから来る患者が多い」と感じるようになったそうだ。特に独居の人が目立ったという。 彼は南相馬市立総合病院で保存されている病歴を用いてこの仮説を検証した。その結果は衝撃的だった。 2005年から震災までに乳がんと診断された122人の患者と比較し、震災から2016年3月までに乳がんと診断された97人の患者では、腫瘤(しゅりゅう)など乳がんの所見を自覚してから病院を受診するまでに3カ月以上を要した人の割合が1・66倍も高かった。さらに、12カ月以上受診が遅れた患者の割合は4・49倍も増えていた。いずれも統計的に有意な水準である。尾崎医師の予想通り、進行がんに成って受診する患者の割合は増加していた。 では、どんな患者が危険なのだろう。これも尾崎医師の予想通りだった。12カ月以上治療開始が遅れた患者18人のうち、子供と同居していたのはわずかに4人だった。症状自覚から12カ月以内に治療を開始した79人では、42人が子供と同居していた。家族、特に子供との同居が病院受診に影響したことになる。 このような反応は心理学の世界では「正常性バイアス」と呼ばれる。不都合な事態に直面すると、人はそのことを過小評価しがちになるのは万人に共通する傾向だ。東日本大震災で津波警報が出ても避難しなかった人がいたり、沈没船から脱出せずに溺死する人が多いのは、この機序(きじょ)によると考えられている。正常性バイアスを防ぐには 皆さんも体の異変に気づいたときに、「まあ大丈夫だろう」と思い、放置した経験がおありだろう。「病院に行ってきたら」と家族に勧められ、渋々、病院を受診した人も少なくないはずだ。家族の存在が正常性バイアスを防いでいることになる。 乳がんの患者の場合では、夫より子供がこのような役割を担うことが多いことが知られている。 ところが、福島県では原発事故が起こり、若者たちが避難した。福島県内の65歳以上の独居老人、あるいは高齢者夫婦の人数は、2010年の29万7144人から2015年の31万6096人と6.3%増加している。家族構成の変化が住民の健康に影響した可能性が高い。 では、小林麻央さんはどうだったろうか。彼女の2人の子供は5歳と4歳である。自らの病気を相談できる年齢ではない。夫の海老蔵氏は多忙だ。そもそも乳がんに関して、夫は相談相手にならないことが多いことに加え、十分に時間が取れなかったのではなかろうか。 小林麻央さんが最初の医師に「がんでない」と言われてから、再受診するまでの8カ月をどのような気持ちで送っていたかは、私にはわからない。おそらくだんだん大きくなる腫瘤(しゅりゅう)に対し、不安を感じていただろう。その際、「専門医が問題ないと言ったのだから、安心してもいい」と自らを信じ込ませていたのではなかろうか。典型的な正常性バイアスだ。 もし、周囲に「一度、病院に行ってくれば」という人がいれば、彼女は再度、受診したのではなかろうか。 確かに、はやい段階で病院を再受診しても、転帰は変わらなかったかもしれない。ただ、本人や家族の納得は違った可能性が高い。 乳がんは40~50代の女性に多い疾患だ。多くの患者が子育て中であり、核家族だ。子供が幼少の場合、相談相手がいないという点で状況は南相馬市と同じだ。子育て世代の女性は社会的に孤立していると言っていいかもしれない。 この問題を解決するには、問題の存在を社会的に認識し、普段から健康問題を相談できるような新たなコミュニティーを作ることだ。乳がん患者の支援には社会的な視点が欠かせない。

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    「ステージ4でも治したい」小林麻央さんの闘病記に感じた妙な胸騒ぎ

    それらには強い憤りを感じざるをえません。 先日、インターネット上に横行する虚偽・誇大広告を禁ずる改正医療法が成立しました。しかし、そのような対処はあくまでも広告のあり方に対するものです。現状、日本では、倫理やモラルの観点から「エセ医学」そのものを裁くような法的規制はありません。 したがって、科学的根拠の乏しいモノを「医療」と称して商売をしている関係者は、欧米のように法のもとで裁かれたり、資格免許が剝奪されるようなことはほとんどありません。翻ると、わが国は先進諸国の中でも世界一「エセ医学」に寛容だということです。麻央さんのエピソードを決して無駄にしないよう、一人ひとりが自身の死生観を顧みながら、賢いがんリテラシーを身につけて欲しいと願います。

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    小林麻央さんの闘病が共感されても日本で「がん告知」が進まない理由

    に辛いことは知らせないという文化の日本。そう、がんが患者本人にほとんど告知されていなかった昔の日本の医療において、家族でサポートして最後までだまし続ける「嘘も方便」の方法が取られていた時代があります。 欧米から「がん告知」の文化が輸入されましたが、それに伴う心理的影響を和らげてくれる宗教的フォロー(神父の病院常駐など)、カウンセラーの充実といった気持ちをサポートする制度の導入は正直日本では一部でしか行われませんでした。それだけが原因ではないですが、死生観について日本ではあまり深い議論もなされてきませんでした。 また、がんを告知する医師も相手の気持ちに寄り添う行為についてはトレーニング不足で、その結果、日本には自己責任の名の下、気持ちが落ち着かない告知後の患者たちがどんどん増えていたのです。 本来であれば緩和医療を含め、がん患者に対するサポートは、行政、医療、家族、友人が行っていくべきなのですが、非正規、共働き、核家族化、高齢化した日本では、ともに寄り添いながら話ができる時間も場所も限られています。それこそ最近できたがん患者の支援施設「マギーズ東京」以外ほとんどありません。 家族会なども本当にがんばっているのですが、いかんせんネットに飛び交ういい加減な情報、そして閉じこもりがちになる告知後の患者の傾向、病院においては共感しにくい教科書的対応など、結果患者は誰にも相談しにくい状況となり、今までのがん患者さんの気持ちを和らげる方法が正直足りていなかった可能性があります。 なぜ、麻央さんのブログがここまで共感を得たのか。そして医療的には今後どのようにしていくことが望ましいのか、医師としての自分の意見を述べさせていただきます。共感したのはがん患者だけではない 彼女ががんと告知された後の言葉で理想の母親像とのギャップについて話している部分があります。 全てやるのが母親だと強くこだわっていました。それが私の理想の母親像でした。 これは昔の日本の姿かもしれません。そういう思いがありながら病のために自分の体が動かない状況に麻央さんは最初隠れることを選びました。行動できない自分に対する負い目として。 緩和ケアの先生の言葉が、私の心を変えてくれました。「がんの陰に隠れないで!」。私は気がつきました。元の自分に戻りたいと思っていながら、私は、陰の方に陰の方に、望んでいる自分とはかけ離れた自分になってしまっていたことに。何かの罰で病気になったわけでもないのに、私は自分自身を責め、それまでと同じように生活できないことに、「失格」の烙印(らくいん)を押し、苦しみの陰に隠れ続けていたのです。 この時の悩む様は巷(ちまた)にあふれているがん闘病患者の共感を得ました。そう、麻央さんと同じように悩んでいる患者さんが多いということもありますが、がん患者だけでなくいろいろなことに悩みを抱えて誰にも話すこともできず一人で生きてきた普通の少し弱っている人間も共感したのです。 そしてがんという死の淵にある彼女がここまで笑顔でがんばっていることを応援するとともに、こうした境遇の人を応援することで自分もがんばろうという気持ち、人間としての共感が湧いてきたことが予想されます。 以下は海老蔵さんの言葉です。 「(ブログで)同じ病の人や苦しんでいる人たちと喜びや悲しみを分かち合っている妻の姿は、私からすると人でないというか、なんというか……すごい人だなと」 「総合的に教わったこと、そして今後も教わり続けることは『愛』なんだと思います」 そう、今の日本における、足りない他者に対する「愛」を麻央さんのブログに感じたのです。この現象はおそらく「純粋」な彼女でなければ得られなかったでしょう。自分がどんなに辛くても他人を思いやる行動を見せようとする彼女。ブログに出てくる写真は笑顔がほとんどでした。その笑顔の奥に読者たちは無償の「愛」を感じることができたのです。妻の小林麻央さんの死去について会見で話す市川海老蔵さん=2017年6月、東京都渋谷区(撮影・早坂洋祐) そして麻央さんのテレビでの言葉です。 「もし私がこの病気を乗り越えて、いま私なりにある試練っていうものを乗り越えられたときに、病気をする前よりも、ちょっといいパートナーになれるんじゃないかな、っていう。なので、すごく思うのは、役者・市川海老蔵をパートナーとして支えられるチャンスを神様ください、っていつも思うんですね」 こんな少し弱音が混じりながらも他人のために生きたいという前に向かっている彼女の言葉は、今苦しんでいるさまざまな人たちを助け、そしてその人たちから贈られる感謝の言葉が彼女を励ましました。そう素晴らしい連動でした。 そして再びブログから。私が怖れていた世界は、優しさと愛に溢れていました。なりたい自分になる。人生をより色どり豊かなものにするために。だって、人生は一度きりだから。 この前向きな言葉が共感を呼び、多くの人を巻き込んでいったのです。芸能人の方のブログ、みなさんへの影響力はとても強いものです。そう、一緒にがんばろうという気持ちを読むものに奮い立たせてくれます。そして今回読み手だけではなく書き手にも良い効果が出たことは間違いありません。 そして麻央さんのブログの特徴は、厳しい戦いであることをみんながわかっていたのに、それでも笑顔を絶やさず、そしてたまに弱音を見せてくれる人間としてのありのままの純粋さを見せてくれたことです。こんな純粋な人、今時そうはいないでしょう。だからこそ250万人の読者を得たのだと思います。 ただ、医療者として分析すると、今回の麻央さんのような最期を迎えることができるかといえば、厳しいでしょう。患者と家族、医療がうまくかみ合った成功例 今回の麻央さんのような在宅における周りのサポートは正直一般の家庭では難しいからです。麻央さんが若かったことで親が看病できたという部分もあると思いますし、核家族ではないという点でもそうです。 他の大部分の家族ではおそらくサポートしようとすると家族がつぶれてしまうことも予想されます。BuzzFeedのこの記事における「仕事をしましょう」という主治医のおせっかいな言葉はまさにそれを表しています。そして献身的看病のため体調を壊す姉の麻耶さんの存在もこの在宅が維持できた一つの理由でもあります。 また、緩和医療の主治医の「がんの陰に隠れないで」という、この言葉で麻央さんがブログを始めたと書かれています。がんの治療はそれこそ麻央さんが望む完治を目指すと言ったものではなかった可能性が高いですが、それでもモチベーションを保つため症状の緩和を主眼とした姑息(こそく)的手術、適応外の放射線治療など、がんの発表後1年生存できたのは病院の麻央さん個人に対応する医療レベルがかなり高かった可能性があります。  そして最後の入院の際、今にも亡くなりそうであった麻央さんは奇跡の復活を迎えます。その時に家に帰した病院の対応、思い切りも正直素晴らしいものです。実際家に帰した後すぐに命を落とすことで訴えられた病院も多数存在します。 この点でも患者、家族、医療がうまくかみ合い、同じゴールを目指していたと思います。ただこの東京での優れた医療が地方を含めて行えるかは、まだ無理と言っていいでしょう。小林麻耶さん(左)と麻央さん=2014年10月、東京都墨田区 人間が当たり前と思っていた「明日」。毎日ただ生きていた人間にとって、それが約束されていない彼女の記録は日常のありがたさ、命の輝き、尊さなどいろいろ思いを気付かせてくれたでしょう。その中でも家族を大切にする彼女の記事は癒やしになったと思います。   子宮がんサバイバーでもあるタレント、原千晶さんのブログからです。 「さらけ出す覚悟」 誰かのために。誰かのために生きる事 それが、自分でも信じられないくらいの力を生み出すことを、がんを経験して知りました。 麻央さんを含め、がんサバイバーのみなさんは、この言葉を伝えたいのだと思います。 教科書的な緩和医療は「傾聴・共感・受容」ということばで患者の痛みを和らげるとされています。ただ、それは医療者だけでなく家族の支え、社会の理解があって初めて成立するものです。そしてこの言葉はがん患者だけに当てはまるのではなく、苦しんでいる人間にとって全てに当てはまるものです。 他人となかなか気持ちを共有できない時代、他人のサポートがなかなか得にくい時代、そして無償の「愛」を与える麻央さんだからこそ得られたこの250万人の読者。今後、悩んでいる読者が減少し、こんなにたくさんのフォロワーを出さないこと、医療体制を含めた整備が麻央さんの望みなのだと思います。

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    2度転院していた小林麻央さん、がん治療法選択の難しさ

    今、セカンドオピニオンという言葉の広まりから、より自分に適した治療を受けられる選択肢が格段に増えた。医療関係者が語る。「世界中のがん治療の統計によって導き出された最も有効とされる治療のガイドラインでは、切除(手術)・薬物・放射線治療が『標準治療』の3本柱とされています。程度の差によって、これを組み合わせていくのが治療の基本です。ところが、ネットなどに膨大な医療情報があふれている現在では、この標準治療を“最低限の治療”と誤解している人も少なくない。お金さえ出せば、ゴッドハンドと呼ばれる医師の元を訪ねれば、別の“特別な治療”を受けられるのではと考え、いつまでも治療方針が定まらないケースもあるのです」 ある著名な女性医師は、次のように警鐘を鳴らしている。「標準治療というネーミングが悪いイメージにつながっているのではないか。特に有名人の場合、標準治療とは一線を画した“スペシャルな治療法”が残されているのではないかという考えに陥ってしまうケースもある」 芸能関係者が明かす。「麻央さんのがんが発覚した前後に海老蔵さんが知り合った人の中に、切らないでがんを治す自然治癒や免疫療法を提案する人がいたそうです。しばらくはその人の方針に従って、数百万円の治療費をかけたと聞いています」 望むような治療方針を示されなかった麻央さんが転院したのはB病院だった。同院もまた、都内にある屈指の大病院といっていい。「最先端の放射線治療や抗がん剤投与を受けながら、『緩和ケア科』に通い、QOLを優先した治療を受けていたそうです」(B病院関係者) 2016年7月には、さらに別の都内の有名大学付属のC病院に移っている。3つの病院はいずれも日本の最高峰の医療を受けられる大きな病院だが、乳がん治療に詳しいベルーガクリニック院長の富永祐司氏(乳腺外科)は「大病院を3つも変えるというのは、非常に稀なことというほかありません」と指摘する。がん“放置”?麻央さんと海老蔵の揺れた心 2度の転院は、麻央さんと海老蔵の揺れる心を表していたのかもしれない。その陰には、当時、医療界に吹き荒れていた風潮が影響した可能性もあるのだろう。 元慶応大学医学部講師の近藤誠医師が2012年12月に著した『医者に殺されない47の心得』は110万部を超えるベストセラーになった。近藤氏はがんを「積極的に放置」する治療法の第一人者といえる。「近藤医師によれば、がんには本物のがんとニセモノの『がんもどき』があり、本物は発見した時点で転移しているため手術の効果はなく、がんもどきは転移しないので放置すればいいというものです。それどころか手術することによってがんが増殖や拡散するケースもあり、手術や抗がん剤治療は無意味とまで断じています。 賛否両論が渦巻く近藤理論ですが、がん患者に与えるインパクトは強く、2年ほど前は手術や抗がん剤治療を拒む患者が続出しました。そうした風潮の中でがんに関するあらゆる情報を集めた麻央さんが“放置”に傾いた可能性は否めません」(医療ジャーナリスト) さまざまな要因が重なって手術を回避した麻央さんだったが、気がついた時には治療の選択肢が限られていた。昨年春には骨や肺への転移が進み、手術もままならない状態になった。海老蔵は今年1月に放送された密着特番『市川海老蔵に、ござりまする。』(日本テレビ系)で当時の様子をこう明かしている。「早かったら3、4、5月でたぶんダメだった。夏は絶対無理だと思った」 そのシーンが撮影されたのは昨年10月。奇跡のような状況の一方で、麻央さんの命は着実にがんに蝕まれていった。今年4月、麻央さんはがんが顎に転移したことを公表した。「5月末に退院して在宅医療に切り替えた頃には、ひどい頭の痛みにも苦しんでいたみたいです。それでも麻央さんは生きようとしていた。もし、もっと麻央さんに合った治療を最初からできていれば…。そう考えると後悔してもしきれません」(梨園関係者) 綿密な研究に裏打ちされた最新の治療法から、根拠に乏しい民間療法まで、世の中には数え切れないほどの情報が氾濫している。ごく限られた一例が大々的に話題になることで、それまでの治療法の一切が否定されたようなブームとなることさえある。私たちに必要なのは、統計や調査、研究の上に立った正確な情報を取捨選択し、耳当たりのいいだけの不確かな煽り文句に踊らされないことなのだろう。関連記事■ 乳がんの小林麻央 全摘出しなかったのはなぜなのか?■ 切らない選択をした麻央さん 「できれば3人目」という思い■ 麻央さん娘・麗禾ちゃん 明るく振る舞う姿に周囲が心痛める■ 病院の海老蔵・麻央を隠し撮りしたフジ 怒られなかった理由■ 小林麻央 暴走族グループの報復が怖くていまも眠れない

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    切らない選択をした麻央さん 「できれば3人目」という思い

    、患部のみ切除して乳房を温存する『部分切除』があり、患部の場所やがんの進行具合に応じて判断します」(医療関係者)治療方針は示されたが…治療方針は示されたが… 乳がん治療に詳しいベルーガクリニック院長の富永祐司氏(乳腺外科)は次のように解説する。「麻央さんの場合、乳がんとリンパ節への転移が認められたそうですが、その段階で手術して切除するというのが一般的な治療だと思います。並行して抗がん剤治療やホルモン療法は必要になりますが、充分寛解の可能性はあったのではないでしょうか」 実際、その時点で麻央さんが通っていた都内のA総合病院でも「早めに切るべき」という治療方針が示されたという。「ですが、麻央さんと海老蔵さんは“切らないで治す”方法を模索していたそうです。女性にとって、乳房にメスを入れることには大きな抵抗があります。ただ、それは病院の方針とは食い違うものでした。結局、しばらくして麻央さんは別の総合病院に移ることになりました」(A病院関係者) なぜ、麻央さんは切らないことにこだわったのか。その理由の一端は、麻央さんのブログに垣間見える。《「子供は2人いますので、3人目は考えていません」と何の強がりなのか言ってしまったが、私は、ふたり姉妹で育ってきたので、麗禾に妹ができたらな、とか勸玄にも分かり合える弟ができたらな、と思ってきた気持ちは、高望みだと一気にかき消した》(2016年9月21日) 前出の梨園関係者が明かす。「(小林)麻耶さんとの仲良し姉妹で知られる麻央さんとしては、麗禾ちゃんに妹ができれば幸せだったし、男の兄弟がいなかった海老蔵さんは勸玄くんに弟ができることを夢見ていたそうです。麻央さんには“できれば3人目を…”という思いがあり、なかなか手術に踏み切れなかったというのもあったのでしょう」 一般的に、乳がんの切除と前後して抗がん剤の投与が行われるが、薬の影響で、排卵機能が停止し、そのまま機能が戻らないこともある。また、術後に行われることの多いホルモン療法も、その後の妊娠への影響が懸念される。多くの妊娠を望む女性と同様に、麻央さんにとっても、それが大きな判断基準の1つだったのかもしれない。関連記事■ 乳がんの小林麻央 全摘出しなかったのはなぜなのか?■ 麻央さん娘・麗禾ちゃん 明るく振る舞う姿に周囲が心痛める■ 小泉孝太郎、気遣い上手な女性と交際 本人は直撃に認める■ 病院の海老蔵・麻央を隠し撮りしたフジ 怒られなかった理由■ 小林麻央 暴走族グループの報復が怖くていまも眠れない

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    夢のがん治療薬「オプジーボ」の光と影

    いま、一つの新薬をめぐり議論が渦巻いている。小野薬品工業が開発したがん免疫薬「オプジーボ」(一般名・ニボルマブ)である。治療効果が高く画期的な新薬との評価がある半面、超高額の薬価は国の財政を圧迫しかねないとの懸念も広がる。夢の新薬が問う「命の値段」。その光と影を考える。

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    夢のがん治療薬は国を滅ぼす? ボロ儲け製薬企業の「暴走」を阻止せよ

    上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 新規抗がん剤ニボルマブ(商品名オプジーボ)が話題だ。その理由は高額な薬剤費。肺がん患者に1年間使用すると、薬剤費は約3500万円もかかる。このままでは「医学の勝利が国を滅ぼす(里見清一医師)」ことになりかねない。4月には財務省の財政制度審議会でもやり玉にあがった。本庶祐・京大客員教授との共同開発で小野薬品工業が発売するオプジーボ ニボルマブは、小野薬品がブリストル・マイヤーズスクイブ社(ブ社)と協力して開発した画期的な抗がん剤だ。リンパ球の一種類であるT細胞の表面に発現するPD-1分子に結合することで、がん細胞に対する免疫を活性化させる。世界で初めて実用化されたがん免疫治療薬で、開発者である本庶佑・京大名誉教授はノーベル賞の有力候補となった。小野薬品が臨床開発の候補として白羽の矢を立てたのは悪性黒色腫だ。皮膚癌の一種で、以前から免疫治療に反応しやすいことが知られていた。 年間の発症数は2000人程度と少ない。治療薬を開発する企業には、優遇措置が与えられる。例えば、患者数5万人以下の疾病を対象とした薬剤は「希少疾病用医薬品」に認定される。承認審査は優先され、高い薬価がつく。 14年7月、ニボルマブは悪性黒色腫の治療薬として承認された。世界初の承認だったことが話題となった。この時は、体重1キロあたり2mgを3週間に1回投与することが推奨された。薬価は100mgの静注製剤で72万9849円に決まった。年間470人が使用すると想定され、原価は積み上げ方式で45万9778円と算定された。さらに、画期的な新薬であるため、利益率は標準の16・9%の6割増しとなった。この結果、体重60キロの患者の年間の薬剤費は約1500万円となった。 小野薬品は当初の予定通り、悪性黒色腫以外のがんの開発も進めた。そして15年12月には、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんにも適応が拡大された。この時の治験では、ニボルマブを投与された患者の生存期間は約3カ月延長し、治療から2年の段階で2割の患者が生存していた。 注目すべきは、投与量は世界標準である体重1キロあたり3mgを2週間に1回投与するように増量されたことだ。この結果、1年間の薬剤費は約3500万円に跳ね上がった。肺がんの患者数は悪性黒色腫とは比べものにならない。もし、日本の肺がん患者10万人の半分が1年間、ニボルマブを投与されれば、薬剤費の総額は1兆7千億円になる。これは日本の総薬剤費を2割程度押し上げる数字である。 肺がんに適応を拡大した際、ニボルマブの投与量は2倍以上に増えた。患者も100倍程度増えた。「希少疾病用医薬品」の主旨に照らし、薬価を引き下げるべきだ。子どもでも分かる理屈である。国民皆保険制度が壊れてしまう ところが、厚労省は何もしなかった。当初、厚労省は消費税引き上げに伴う医療機関の損税に対応するため、17年4月に薬価を改定する予定だったが、安倍政権の消費増税延期とともにお流れとなった。 中央社会保険医療協議会(中医協)では、ニボルマブだけでも薬価を引き下げようという話が出てきたが、日本医師会は乗り気ではなかった。その理由は「来年、ニボルマブの薬価を下げると、再来年の診療報酬改定で、医療に回す財源がなくなるから(医療業界誌記者)」だ。結局、何も決まらず、医療費だけが膨張する。迷走を尻目に、小野薬品はボロ儲けした。6月期には252億円を売り上げた。前年同期比17倍の伸びである。全医薬品の中で3番目だ。17年3月期の売上は1260億円と予想されている。 最近、ニボルマブは腎細胞がんにも適応が追加されたし、小野薬品とブ社は、ホジキンリンパ腫、頭頸部がんへの適応拡大を申請中だ。さらに胃がん、食道がん、肝細胞がん、卵巣がんなどへも臨床試験を行っている。小野薬品も批判は理解している。同社社長、相良暁氏は朝日新聞の取材に答え、「先に肺がんで申請していれば、薬価は安くなったに違いありません」とコメントしている。 ただ、「売上高が予想の1・5倍以上で年間1千億円を超えた薬に限り薬価を下げる特例拡大再算定制度も今年始まりました。高額薬を狙い撃ちにしたこれらの制度は経営の見通しを立てにくくさせ、研究開発へ負の影響も出かねません」と理解を求めている。製薬企業の経営者が、しばしば用いるロジックだ。 ただ、20年度には全世界の売上が1兆円近くに達すると予想されているニボルマブに対し、この説明は説得力がない。私は、画期的な新薬に相応の対価を払うことを否定しない。ただ、程度の問題だ。ニボルマブを「夢の新薬」と煽り、高額な薬価を正当化しても、長期的には国民のためにならない。国民皆保険制度が壊れてしまっては、元も子もない。製薬会社の説明を額面通り受け取るな 製薬企業は営利企業だ。彼らの説明を額面通りに受けとってはいけない。製薬企業が生き残るには、利益をあげなければならないからだ。彼らには、彼らの理屈がある。 抗がん剤は数少ない「儲かる」分野だ。年率10%以上の成長が見込め、20年には世界の医薬品市場の15%を占めると予想されている。降圧剤(3%)や糖尿病薬(7%)とは比較にならない。 武田薬品のウェーバー社長も「今後はがん、消化器、神経系の三つの分野に重点を置く」と公言しており、従来、得意だった糖尿病薬や降圧剤からは撤退することを表明している。 製薬企業の「暴走」をチェックするのは、本来、医師の仕事だ。ところが、専門医が、その役割を果たしていない。むしろ、製薬企業と一緒に利益を独占している連中までいる。この問題については、総合情報誌『選択』9月号に秀逸な記事がでている。興味のある方は、お読み頂きたい。https://www.sentaku.co.jp/articles/view/16216 ポイントは高額な薬価差益と、処方権を専門医に限定することによる利権だ。国立がん研究センターの幹部が、自らが理事長を務める学会(日本臨床腫瘍学会)が認める専門医しか処方できないように提言し、それが実現している。 日本臨床腫瘍学会の会員でない医師が、同学会の専門医資格を取ろうとすれば、受験料・審査料・認定料などで18万円を支払わねばなない。「日本臨床腫瘍学会は、利益相反を無視して、高額な薬価から間接的に利益を受けている」と批判されても仕方ない。 資本主義社会で価格の決定は難しい。ただ、常識的な線があるし、小野薬品のやり方は卑怯だ。ニボルマブに幾らの値段を払うか、それは、薬価決定のプロセスも含めて、国民が納得するものでなくてはならない。そのためには、情報開示が必要だ。ニボルマブを国民皆保険の仕組みに、如何にして取り込んでいくかは、国民視点でオープンに議論しなければならない。

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    「奇跡のがん治療薬」オプジーボに立ちはだかる5つの現実

    「手術」「放射線」「抗がん剤」の3大治療法しかありませんでした。そしてそれらを組み合わせることでがん医療は治療成績をわずかながら進歩させてきました。しかし同時に目に見える延命効果が僅かであったため、その副作用とクオリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)悪化のバランスが問題となり、抗がん剤を使わないほうがいいという主張で論争が起きるなど医療不信の原因ともなっていました。 あなたががんと言われても、病変が限局し手術で取りきれば完治の可能性があります。実際手術適応の胃がんでは90%以上手術で治癒、長生きできます。がんが拡がっていて手術できないような時は抗がん剤や放射線が使われますし、それこそ手術前に使用して小さくしてから手術という方法も存在します。ただがん種によって異なりますが、血液疾患等を除いて、抗がん剤等は治癒ではなく延命を目的に行なわれることが多く、再発したがん患者の治癒はほぼ絶望的で、命を一定期間延ばすだけでした。 この3つの治療に加えて現状を打破し新たに出てきた治療法が免疫治療です。抗PD−1遺伝子抗体Nivolumab(オプジーボ)の登場で、奇跡のがん治療が一躍現実のものとなってきています。アメリカのカーター元大統領はPembrolizumab(キートルーダ)と呼ばれる薬の恩恵を得ています。 まさにいいことづくめのようですが、いまある問題点を解説していきます。問題点1 高額な値段2 投与するまで効果の予測が難しい3 やめ時がわからない(Until PD)4 副作用が今までと違う5 併用薬がまだ不明年間3500万円の抗がん剤を使う患者は何割? 最近の新薬に共通して言えますが、オプジーボは何せ高い! 日本の値段設定も問題ですが、薬品代だけでイギリスの4倍、アメリカの2倍の値段が付いています。それこそ年間3500万円! そしてこれは薬の値段だけで、実際にはその他の費用もかかります。それもこれも日本の医療の値段のつけ方がおかしいからです。 ただ日本の保険制度なら1−3割の負担で済む上、高額療養等の制度があるため、患者が払う額は年間最高200万円に抑えられ、その他は税金などで賄われます。欧米に比べたら患者は恵まれてはいますが、国は大変です。 またついこの間初発、つまり今まで治療を受けていない肺がん患者に対しては、今までの抗がん剤と治療成績が変わらないことが報告されました。だからオプジーボは再発後、化学療法後進展し、オプジーボ投与にて効果が出た症例(一般的には投与患者の2−3割のみ)のみ年間3500万円の薬品を使うという予想になります。もちろんこれはすべてのがん患者に当てはまるわけではありません。計算すると、「患者数×再発患者割合×0.2~0.3」になり、全体の1-2割程度になります。それゆえ、お金がすぐにパンクすることはないと考えていますが、せめて値段はイギリス並みにはする必要があるでしょう。 しかも基本効くかどうか、投与するまでわかりません。いや投与してもわからないことがあります。それは、オプジーボの反応が出て腫瘍が小さくなる前にがんが見た目一瞬悪くなる時があり、今までのがんの評価方法が使いにくいのです。そのため免疫治療用の新しいがんの評価方法が作成されています。薬によって今までの治療効果判定基準が変わったのです。 また治療効果を予測するバイオマーカー(生体指標)がないというのもあります。もう一つの抗PD-1抗体薬「キートルーダ」では腫瘍のPD-L1発現50%以上という投与の縛りがありますが、オプジーボの前試験においてPD-L1発現の低い患者でも効果が出ていることが言われています。 この効果を予測するバイオマーカーを、今見つけるためにいろいろなところで研究されています。先ほど挙げたPD-L1発現は概ね一つの候補なのですが、発現が低い症例でも効果が認められています。また腫瘍に浸潤するリンパ球(TIL)が多い方がいいなども上がっています。 実際ホジキン病という悪性リンパ腫は、腫瘍に浸潤するリンパ球(TIL)が多いことで有名なのですが、抗がん剤の効果がなくなった難治性の患者さんに8割以上の反応を見せています。 分子標的医療薬のようなはっきりしたバイオマーカー(例:EGFR=上皮成長因子受容体など)のようなものが見つかれば、投与される患者がさらにセレクトされることになるでしょう。 またPD-L1発現に関しては、新たな抗がん剤耐性のメカニズム、腫瘍免疫誘導の低下として報告されています。遺伝子の変異でPD-L1タンパクの発現増強がATL(成人急性T細胞性白血病/リンパ腫)で言われています。この疾患は抗がん剤耐性のリンパ腫として有名で、まさに今後オプジーボの効果が期待できるでしょう。また悪性リンパ腫として代表的なDLBCL(びまん性大細胞型リンパ腫)においてもPD-L1発現が予後不良因子として報告されています。またビダーザ治療に伴いMDS幹細胞にPD-L1発現が認められており、治療法がないビダーザ耐性のMDSに新たな治療薬が出る可能性があります。今後他のメカニズムを含めてオプジーボはすべての悪性新生物に適応を拡大しそうと考えています。だからこそお金のことも含めてバイオマーカーが必要なのです。「がんの万能薬」だからこそ必要な改善を さらに効果が出ている患者にいつまで使い続けるのかも全くわかっていません。効果が出てがんが消えても再発しないようにとか、治療効果がなくなるまで、悪くなるまで使い続ける、つまり止められないといったもの(Until PDという用語で製薬会社としては最高の利益が出る方法)も問題となっています。ですからいつまでたっても薬の投与が終わりません。免疫治療の理論としては消失したらやめても大丈夫と思うのですが、結果医療費は膨れていきます。 おまけに一般的な抗がん剤と違い、副作用への対処が全く異なります。作用機序は一種の自己免疫誘導!それゆえ疲労感、食欲不振、大腸炎、皮膚炎、間質性肺炎、激症型糖尿病、重症筋無力症などの膠原病に似た自己免疫疾患の副作用が報告されています。それこそ膠原病専門医、消化器専門医、皮膚科専門医、呼吸器専門医、神経専門医、内分泌専門医のチーム診療が必要になり、選ばれた病院でしか治療できない状態です。ただその頻度はさほど多いわけではありません。 またその副作用治療にはステロイドや免疫抑制剤といった免疫を抑制するものが使われています。どうしてもがん免疫治療に対し少し矛盾になってしまいますが、その後の再発率が高いわけではないようです。ここもまだよくわかっていません。 まだ2-3割しか効果がないオプジーボは、その他の薬を併用することでその効果が上昇することが期待されています。事実メラノーマでは別の免疫治療薬ヤーボイとの併用で治療効果増強が報告されています(その分副作用も多いのですが)。 それこそ、初発肺がん患者に抗癌剤と併用すると、抗がん剤単独やオプジーボ単独に比べて効果があるのではと期待されています。その他の免疫治療薬や抗がん剤、分子標的医療薬との併用も、どのがん種でも理論上期待できます。このように免疫治療薬には未来があります。 今まで死ぬことが運命付けられていた再発がん患者が治癒しているこの治療法。正直夢のがん治療、がんの万能薬であることは間違いありません。ただお金、効果、併用薬などはまだまだ改善する必要がいっぱいあります。経済などを含めて考慮されなければいけません。がん撲滅プロジェクト「Cancer Moonshot」について演説する、同プロジェクトを主導するバイデン副大統領=9月16日、ヒューストン(AP) ただ死を待つしかなかった患者さんの数割ではあるものの治癒をもたらすという一番のハードルを超えた今、その他の改善は容易なことが予想できます。アメリカではがん撲滅運動「National Cancer Moonshot」に対して巨額の予算が拠出されました。iPS細胞すら少ない予算しかついていない日本にとっては、またアメリカが恩恵を得るだけになってしまうかもしれませんが、全ての悪性新生物が治癒する時代がくる可能性だってあります。そう考えれば未来は明るいものになるでしょう。

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    夢の新薬で「トンデモ治療」? オプジーボに生まれる新たな火種

    臨床試験の結果では、奏功する割合は20-30%程度であり、オプジーボの効果が事前に予測できないことも医療経済的には問題になっているかと思います。そして、メディアは相も変わらず、まるで奇蹟でも起こすかのような「画期的な効果」ばかりに注目して報道しますが、申し上げておきたいのは、オプジーボは治せないものまでも治す「ミラクルを起こす」薬ではないということです。あくまでもがんと上手に共存するための全身治療の一つという位置付けであることに今一度理解しておく必要があります。夢をビジネスチャンスに…乱用するクリニック 効果ばかりに目が行きやすくなるのは仕方ありませんが、元々備わっている免疫バランスを崩して前述したT細胞の攻撃機能を惹起させるので、健常な「自己」組織にもダメージを与えることは知っておいたほうがよいでしょう。要するに、抗がん剤とはまるで違った副作用のある「諸刃の剣」のような薬であることをご理解ください。以下、オプジーボ添付文書より重大な副作用を抜粋してみます。 ・間質性肺疾患 ・重症筋無力症、筋炎 ・大腸炎、重度の下痢 ・1型糖尿病(劇症1型糖尿病を含む) ・肝機能障害、肝炎 ・甲状腺機能障害(甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、甲状腺炎など) ・神経障害(末梢性ニューロパチー、多発ニューロパチー、自己免疫性ニューロパチー、ギラン・バレー症候群、脱髄など) ・腎障害(腎不全、尿細管間質性腎炎など) ・副腎障害(副腎機能不全など) ・脳炎 ・重度の皮膚障害(中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑など) ・静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症など) ・インフュージョン・リアクションなど  これまでに、死亡例が出るほどの重篤な副作用も報告されています。従来の抗がん剤と違って特徴的なのは、様々な臓器をまたいだ自己免疫疾患にも似た副作用が多いということです。その副作用対策のためには、呼吸器内科、内分泌・代謝内科、皮膚科、消化器内科、神経内科など、多職種の専門医たちによるチーム連携でもって安全管理に努めなければいけません。 したがって、誰にでも気軽に扱える新薬ではないということです。現状では、「抗がん剤治療に十分な知識・経験をもつ専門医師のもとで、緊急時に十分対応のできる医療施設で使用するよう」に警告されています。そして、本稿が掲載される時点では肺がんとメラノーマ、そして腎細胞がん以外のがん疾患では適応とはなっていません。 ここで新たな火種となりかねない大きな問題が生じています。この「夢の免疫療法」登場をビジネスチャンスととらえて、適応疾患に関係なくこのオプジーボを乱用する民間クリニックが最近では増えているようです。その中でも、インターネットやメディアを巧みに利用して一般向けに宣伝を強めることで患者さんを惑わしているクリニックが現れました。もともと美容形成ジャンルを扱っている大手クリニックグループが、がん免疫療法専門クリニックを立ち上げ、「当院独自のアクセル+ブレーキ療法」と勝手に題して、およそがん治療の素人に等しい医師が、自前の免疫療法と組み合わせることで、明らかに適正な用法・用量を逸脱したトンデモ診療を行っているようなのです。 また、最近では、危惧されていた事例が起こり問題となっています。自由診療であるクリニック免疫細胞療法がオプジーボと併用して投与されたことで、通常の抗がん剤にはみられない劇症型心筋炎が疑われる心不全で死亡したケースが報告されています(http://www.mhlw.go.jp/file/06-seisakujouhou-10800000-iseikyoku/0000131641.pdf)。要するに、副作用のマネージメントができない専門医不在の民間クリニックには、最初から近寄らないほうが賢明だということです。オプジーボがかつてのイレッサ (一般名:ゲフィチニブ) のように、「夢の新薬」から一転して「悪魔の免疫療法」というイメージに成り下がらないことを願うばかりです。

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    新薬の高騰が止まらない! 抗がん剤が日本を滅ぼす日

    中山祐次郎(外科医、都立駒込病院 大腸外科医師) 抗がん剤が医療費を跳ね上げる時代が来ている。そして医療費はおろか、日本経済を破壊しかねない可能性がある。かねてより筆者は、徐々に高価になってきた抗がん剤の薬価(薬の値段)に強い危惧を持っていた。今回新しい抗がん剤が承認されたことを機に、抗がん剤の薬価について論じたい。 平成27年12月17日、厚生労働省は「オプジーボ(一般名 ニボルマブ)」という新しい抗がん剤を肺がんに対して承認した。この薬はもともと皮膚がん(正式には皮膚悪性黒色腫)に対する抗がん剤として以前から使われていた薬剤で、今回は適応拡大(ある病気にのみ適応となっている薬が、他の病気にも新たに適応となること)の決定となった。 この抗がん剤はこれまでの抗がん剤と違い、免疫に作用することで効果を発揮するという新しい作用機序 (薬が作用し効果を示すためのシステム)を持つため、業界でも大変注目を浴びている。ただ、劇的な効果を持つというわけではなく、例えば肺がんに対する従来の治療法、ドセタキセルという抗がん剤と比べ、生存期間を約3ヶ月延長する(扁平上皮がんでは6ヶ月→9.2ヶ月、非扁平上皮がんでは9.4ヶ月→12.2ヶ月)というものだ。 そして、肺がん以外での承認を目指し他のがんの領域でも様々な臨床試験が行われている。 効果がある新薬の登場は医療現場としても喜ぶべきものだが、今回は手放しで喜べない事態となっている。それは、この薬の価格だ。 肺癌学会ホームページによると、このニボルマブの薬価は1ヶ月で約300万円。筆者の計算でも332万4622円となった(計算の詳細は下記の※)。これは以前使われていたドセタキセル、ジェネリック薬を使えば1ヶ月で5万円以下であることを考えれば、異常に高価である。 販売元である小野薬品工業株式会社は、このようなファイルを公開している。・抗悪性腫瘍剤「オプジーボ点滴静注 20mg、100mg」の平成 28 年 3 月期売上実績および平成 29 年 3 月期売上予想について これによると、平成28年度3月期の売り上げは212億円であり、1年後の平成29年3月期の売り上げは1260億円になると予想している。この極端な増加はもちろん今回の肺がんへの適応拡大により使用する患者さんが増えることによるものだ。さらに計算をすると、一年使ったとして300万円×12ヶ月=4200万円。これを製薬会社が推定している新規使用患者数の15,000人が使うと、4200万円×15,000人で6300億円だ。同じ人数が使ったとして2年で1兆円を超す。どんどん高額化している抗がん剤どんどん高額化している抗がん剤 日本では「高額療養費制度」という制度がある。詳しくはこの厚生労働省ホームページを参照いただきたいが、すごく簡単に言うと「めちゃくちゃ高い治療費を払わなくていいように、月10万円くらい払ってもらえればあとは全額キャッシュバックします」という制度だ。この「月10万円くらい」の額面はその人の収入によって異なっており、例えば年収が1160万円以上の人は約25万円だし、年収が370万円~770万円では約8万円、年収が370万円以下だと6万円くらいになる。さらに「多数回」など色々な制度があるので、実際に払う額はもう少し少なくなる。 そして生活保護制度の受給者はかかった医療費全額が支給されるため、どれだけ医療費を使っても支払う額はゼロだ。つまり、かかった高額な医療費のほとんどあるいは全額が国のお金で支払われることになる。 高価なものはニボルマブだけではない。増え続ける大腸がんの治療薬として広く使われる「アバスチン(一般名 ベバシズマブ)」を使った多剤の治療(FOLFOX+Bev)は1ヶ月に約50万円、「アービタックス(一般名 セツキシマブ)」や「ベクティビックス(一般名 パニツムマブ)」を使った多剤ではだいたい約60-80万円だ。 これらの薬は「分子標的薬」と呼ばれる新しいもので、従来の抗がん剤と比べると比較的副作用が少なく効果が期待できるのが特長だ。今現在でも多数の分子標的薬の開発・臨床試験が進行しており、これからさらに多数の薬が登場してくると予想されている。 多くの薬が使えるようになることはひとりひとりの治療にとっては良いことだが、国全体で考えた場合は医療費を押し上げ続けることにもなる。 そういえば4年前にこんな事件があった。新しい抗がん剤がリリースしたのだが、あまりに高価すぎるためにニューヨークの有力な医師が「高すぎてウチの病院では使わないことにした」と公表したところ、あっと言う間にその抗がん剤の値段が半額になったのだ。 冗談のような話だが、これは実話である。その薬の名は「ザルトラップ(一般名 アフリベルセプト)」。新しい分子標的薬だったが、その薬価の高さ(1ヶ月で約100万円)と効果を考えたそのドクターは、ニューヨークタイムズ紙にこんなレターを送っている。...we must remember that the best medical care is not always the most expensive.出典:'The High Cost of a Cancer Drug: An Oncologist’s View' The New York Times, Oct. 19, 2012「我々医師は、『最も良い医療は、いつもがいつも最も高価なものではない』ということを肝に命じておく必要がある。」(筆者訳) ちなみにこの薬は日本ではまだ保険適応ではない。開発と市場規模、抗がん剤が高価な理由開発と市場規模、抗がん剤が高価な理由 しかし製薬会社にも価格の設定を高価にした理由はある。一つは、新薬開発にかかる費用と時間だ。冒頭で取り上げたニボルマブは、実際に患者さんに投与できるまで10年以上もかかっている。費用は一般に数百億円以上の単位と言われる。このホームページにも1品目あたりのくすりの開発費用は200~300億円にも達します。出典:製薬協ホームページとある。 1992年に京都大学の本庶らが発見したPD-1という遺伝子が同定されて以来10年の時を経て、小野薬品という日本の製薬会社に開発の話が持ち込まれたという。当時は「がんの免疫療法」が医師たちの間ではそれほど信頼のおけるものではなく、周辺の怪しい治療法とともに眉唾と考えられていたため、開発や臨床試験にもかなりの困難を伴ったことだろう。 この開発コストを回収しなければ会社は存続できないし、次の新薬開発の資金もなくなってしまう。 製薬会社としてはそれほど大きくはない規模の小野薬品が、世界のメガファーマと呼ばれる売り上げ3兆円以上を押しのけこの「がん免疫療法」の開発の先陣を切り文字通りトップに立ったことは賞賛に値する。市場もニボルマブを評価していて、小野薬品の株価は上がり続けており現在では1年前の倍以上だ。 もう一つの高価な理由として、抗がん剤市場の規模がある。実は、抗がん剤のマーケットは他の薬剤と比べそれほど大きいわけではない。 例えば高血圧患者さんは日本に906万7,000人いるが、継続的な治療を受けているがん患者さんは152万人と単純な比較でもかなり少ない。そしてがん患者さんの全員が抗がん剤投与を受けているわけではない。さらに言えば、高血圧の患者さんは10年も20年も薬を飲み続ける人が多い(基本的には内服が始まったら殆どの患者さんは亡くなるまで飲み続ける)が、がんの患者さんは「死亡」により抗がん剤使用はストップする。また、抗がん剤は蓄積する毒性により副作用が出るものが多いため、5年も10年も抗がん剤を使用することは稀だ(乳がんでホルモン剤を5年以上使うことはある)。 高血圧の市場は大きく、年間の医療費は1兆8,890億円と報告されている。事実、高血圧の薬は競うようにして毎年開発され、過度な競争がしょうもない事件まで引き起こした(ノバルティスと武田薬品の事件、詳細は各製薬会社ホームページに掲載されている)。詳細は他稿に譲るが、医師主導臨床試験に製薬会社社員を研究者として突っ込み、その研究者によるデータ改ざんをしたり医師用の説明パンフレットで効果があると勘違いしやすいグラフを用いたりという不正だ。業界内で規制がかかる数年前までの、製薬会社によるすさまじい接待攻勢は高血圧治療を担当する循環器内科医には常識的だったのだ。 新規抗がん剤の価格は高騰しており、特にニボルマブは極めて高価である。見通しの明るくない日本経済の中でいかに高価な薬剤を考えるか、がこれからの課題である。この記事が問題提起になることを切に願う。※文中のニボルマブの価格については、60kgの人に2.5回/月投与した計算。添付文書によると、3mg/kgを2週間に1回投与するレジメンである。1回投与する量は3mg/kg x 60=180mgとなり、100mgで72万9849円、20mg x 4で15万0200円 x 4 =60万0800円、合計で180mg、132万9849円となる。2週間に1回投与なので、1ヶ月に2.5回で132万9849円 x 2.5= 332万4622円と算出した。※文中で使用している「抗がん剤」という用語は、あらゆる作用機序のがんに対する薬剤という意味で使っており、殺細胞性抗がん剤のみならず分子標的薬剤や免疫チェックポイント阻害剤なども含みます。※記事は筆者個人の考えであり、所属団体の意見ではありません。製薬会社の方のご意見や反論など、広く歓迎いたします。 (参考)厚生労働省ホームページ「高額療養費制度を利用される皆さまへ」厚生労働省ホームページ「生活保護制度」日本肺癌学会「ニボルマブ(オプジーボ)に関する声明文公開・要望書提出について」小野薬品工業株式会社Nivolumab versus Docetaxel in Advanced Squamous-Cell Non-Small-Cell Lung Cancer Brahmer J. et al. N Engl J Med 373:123, 2015Nivolumab versus Docetaxel in Advanced Nonsquamous Non-Small-Cell Lung CancerBorghaei H. et al.:N Engl J Med 373:1627, 2015一般社団法人 日本生活習慣病予防協会厚生労働省 「がん患者数の年次推移」(『Yahoo!ニュース個人』より2016年4月27日分を転載)なかやま・ゆうじろう 1980年、神奈川県生まれ。鹿児島大学医学部卒。その後、がん・感染症センター都立駒込病院外科初期・後期研修医を修了。現在は同院大腸外科医師(非常勤)として勤務。資格はマンモグラフィー読影認定医、外科専門医、がん治療認定医。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと〜若き外科医が見つめた『いのち』の現場三百六十五日〜」(幻冬舎)。

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    オプジーボの光と影 日本の医療界は腐っているのか?

    番が違ったら、薬価はもっと安かった~オプジーボの光と影(1)川口恭(ロハス・メディカル編集発行人)(医療ガバナンス学会 2016年4月15日) 免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブ(商品名・オプジーボ)が、昨年12月、既に承認されていた「根治切除不能な悪性黒色腫」に続き、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」にも使用が承認されました。 どの程度の効果があるかという説明は、MRICメルマガでは割愛します。 肺がんでは2014年の時点で年間約7万3千人が亡くなっており、非小細胞肺がんはその8割強を占めますから約6万人です。その方々に希望の火を灯すことになります。さらに作用機序から、他の多くのがんにも効果があると考えられており、既に腎細胞がんとホジキンリンパ腫に関しては適応拡大の申請がされています。今後も恩恵に浴することのできる患者は増えていくことでしょう。 このように極めて画期的な素晴らしい薬であるということと同時に、100mgで約73万円、20mgの小瓶は約15万円という薬価の高さも大変な注目を集めています。 その用法用量は、最初に悪性黒色腫のセカンドライン用として承認されたのは体重1kgあたり2mgを3週に1回だったのが、肺がんでの承認を機に体重1kgあたり3mgを2週間に1回投与と、期間あたりの投与量が2.25倍になる使い方も認められました。悪性黒色腫のファーストラインと肺がんの場合、量が多い方の使い方になります。仮に体重60kgの人だと1回180mgということになり約133万円。投与できなくなるまでは続けるという想定なので、1年間続けると52週26回投与で3500万円弱になります。健康保険の高額療養費制度があるため、自己負担は最高(高額所得者)でも約200万円、よって年3300万円以上は保険者の負担となります。 困ったことに、現時点では効くであろう人と効かないであろう人を事前に見分ける方法が見つかっていません。しかも効いているのか効いていないのかも何カ月か様子を見ないと分かりません。さらに、もし効いていた場合に、やめるとどうなるのかもよく分かりません。 このため、何の制限も加えなければ、先ほど説明した年6万人の全員が投与対象となる可能性があり、その人たちの平均投与期間が半年あったとすれば、その健康保険の負担分だけで約1兆円と国民皆保険制度を揺るがす金額になります。 もちろん万策尽きた患者全員に投与するわけはありませんし、使用量を抑制するような様々な関門も設けられてはいるのですが、その関門が必ずしも医学的な妥当性だけから設けられているとは言えないため、医療不信を増幅しそうなのです。詳しくは次回説明します。薬価ルールの不備薬価ルールの不備 さて、この驚くべき薬価は、ルール通りにしたら、こうなったという値段です。そして、ルールの内容を知ったら、皆さんは再び驚くはずです。 オプジーボのように全く新しい薬に値段を付ける時は、原価計算方式で算定します。 物の1個あたり原価は、売れる数に関係なく必要な費用(固定費)と、売れる数によって変動する費用(変動費)の合計額を数量で頭割りすると計算できるというのは、商売をしたことのある方なら常識だと思います。薬価の原価計算も、似たような方法で行われます。 注意が必要なのは、医薬品の場合、開発成功までの研究開発費や製造ラインの設備投資費などの固定費が巨額で、変動費は相対的に小さいことです。つまり、販売数量が大きくなると、加速度的に1個あたり原価は下がっていきます。 オプジーボの場合、薬価収載された時点では、多く見積もって国内罹患者年数千人の悪性黒色腫で、ピーク時で年470人に投与されるという想定で算定されていました。その薬価が、ケタ違いに対象患者数の多い非小細胞肺がんに、しかも用量を増やして、そのまま認められてしまいました。適応拡大を得るための若干の臨床研究費上積みは必要だったにせよ、あまりに理不尽な話です。  ピンと来ない方のために別の言い方で説明すると、先に非小細胞肺がんで承認されていたら、投与対象者数や用量から考えて、10分の1以下の薬価だった可能性もあるのに、悪性黒色腫が先だっただけで今回の薬価になってしまったということです。 適応拡大したら薬価を算定し直すというルールがないため、このように承認の順番が違うだけで同じ物の値段が全く違ってしまうという現象が起きます。用量を増やした方に関しては、用量変更があった場合は1日あたり薬価が同じになるよう調整し直すというルールは今でもあるので、2.25で割るということも不可能でなかったはずですが、4月の薬価改定では調整されませんでした。 オプジーボの薬価は、ルールや運用の不備によって高くなり過ぎているということ、お分かりいただけたと思います。であれば、社会的に妥当な金額まで下げて当然ではないでしょうか。これから次々と登場すると考えられる免疫チェックポイント阻害剤は、オプジーボの薬価を基準に値付けされる可能性が高く、急がないといけません。 そもそも、健康保険の支払い原資が税金・国債で賄った公金と国民が出し合った保険料だということを考えると、業界だけでルールや運用が決められてきたこと、それを許してきたことを、私たち社会の側も反省する必要がありそうです。そして、今回の問題を良いきっかけとして、ルールの決め方そのものの見直しも求めるべきなのだろうと考えます。 薬価とルールの見直しは、一義的には支払側の保険者なり、制度設計を行った厚生労働省なりが発議するべきですが、オプジーボの問題で真っ先に被害を受けるのは、次回に説明するように高過ぎる薬価によって選択肢を狭められる患者、そして対患者・対社会で悪者にされる医療従事者です。その人たちが代わりに声を挙げてもよいのかもしれません。手をこまねいているうちに、ツケを回される若年健康層の怒りが爆発するような事態は避けたいところです。(この文章は、『ロハス・メディカル』4月20日発行号の記事の一部に若干の修正を加えたものです)難民と医療不信が大発生難民と医療不信が大発生~オプジーボの光と影(2)(医療ガバナンス学会 2016年5月17日) 我が国の国民皆保険制度は、普及した医療行為の中で最善のものを誰にでも保証することによって、世界から羨まれてきました。しかしオプジーボ(ニボルマブ)の登場によって、その前提を足元から揺さぶられています。標準治療を最善と確信できない患者や、希望してもオプジーボ投与を受けられない患者が「難民」と化して、皆保険の網から漏れ始めているのです。 オプジーボでは、その投与時にがんに対してメインで攻撃を加えるのは、リンパ球のキラーT細胞だ、と説明されています。 と、いきなり大問題に気づきます。非小細胞肺がんの診療ガイドラインでは、オプジーボを試す前に1次治療として白金併用療法を行うことが定められています。そこで用いられる殺細胞系の抗がん剤は、副作用として免疫抑制を起こします。簡単に言うと、リンパ球を含む血液系の細胞が大量に死んでしまうのです。 そのように免疫細胞を殺してから、オプジーボによって免疫のブレーキを外すというのは、何かおかしくないでしょうか? 腫瘍がブレーキ系の免疫細胞を周囲に呼び集めているので、いったんリセットした方が免疫は働きやすいのだという説もありますが、白金併用療法がそのような免疫のサポートを目的に行われるのでないことだけは確かです。免疫が健全な薬物治療の最初からオプジーボを使えば、もっと効くかもしれないし、薬の量が少なくて済む可能性もあります。効くか効かないかの判定が速やかにできるようになるかもしれません。 これは、ちょっと理論をかじった人なら誰もが抱く疑問だと思いますが、現在の医療では「じゃあ最初から使ってみようか」とは、なりません。 というのも、治療の方針を、人間の浅知恵に過ぎない理論で決めてはならず、厳然たる事実のヒト対象臨床試験の結果(エビデンス)に従う他ないというのが、世界の医学界のコンセンサスになっているからです。薬物治療の最初からというのが認められるためには、現在の標準治療と比較する臨床試験を行って、少なくとも劣らないという結果が出なければなりません。 そしてその臨床試験も、いきなり始めることはできず、それに参加したために現在の標準治療を受けられないことが非倫理的とならないよう、同等以上の成績を望める場合だけ行うことができます。 このため、2次治療のドセタキセルに挑戦するという形でしか、最初の治験は行えなかったわけです。 そして2次治療でオプジーボを使った場合に「効いた」(ここにも問題はあるので次回述べます)割合は2割で、1次治療の白金併用療法が4~5割に「効く」と分かっている現段階では、順番を引っくり返した方が良いだろうと根拠付けるデータはないことになります。 他の治療では、医師が裁量でガイドラインの順番を引っくり返すということがないわけでもありませんが、オプジーボに関しては薬価が高額過ぎるため、ほぼ不可能と考えられます。もしガイドラインと違う使い方を理由に保険者から支払いを拒否された場合(保険者の側は、拒否したくて仕方ないはずです)、その費用は病院の自腹になってしまうためです。倒産してしまうかもしれません。 ドセタキセルを上回ることが確定した現在、ようやく1次治療として使ったらどうかという臨床試験も行われるようになっています。その結果が出てくれば使い方が大きく変わる可能性はあるものの、当面は理論と使われ方の間に矛盾を抱えた状態が続きます。自由診療へ殺到自由診療へ殺到 対象となる患者が全員、少しずつしか変化できない医療界の論理に納得すればよいのですが、実際にはそうでありません。近藤誠医師の理論などを支柱に、殺細胞系の抗がん剤治療は絶対やりたくないという人が一定数存在します。このため、この問題は極めて深刻な影響を生みます。 現段階で患者は、オプジーボを使いたければ白金併用療法を受ける必要があり、それを拒否するとオプジーボを使えないのです。 先ほども説明したように、免疫抑制を起こす殺細胞系の薬物療法を行った後にオプジーボで免疫のプレーキを外すというのは、免疫のことだけ考えれば明らかに変です。 それに加えて、白金併用療法自体、半分以上の患者にとっては効果がないという問題もあります。その人たちは白金併用療法で体力を奪われ、また効果と関係なく免疫細胞は確実に死にますので、次の治療が可能になるまでの時間も奪われます。ガイドライン通りに、白金併用療法をやってからオプジーボでいいじゃないと言えるのは、必ずオプジーボを投与できるという保証がある場合だけで、そんな保証はどこにもありません。オプジーボを投与させないため時間稼ぎしている、と邪推されても反論できないのです。 こんなことから、標準治療を勧める主治医の説明に納得がいかない患者の一定数は、「オプジーボ難民」と化して、自由診療のクリニックに今現在も殺到しています。海外から輸入したオプジーボ(後述するように国内でメーカーから購入できる医療機関には施設基準があります)を少量、旧来の免疫療法と併用してくれるような医療機関です。 そのような自由診療のクリニックで提供されるがん治療は、これまでなら標準治療より成績で劣ることが確実だったため、標準治療ですることがなくなったとか標準治療に加えて何かしたいという場合の受け皿であり、標準治療やその実施医療機関に直接的な脅威を与えることはありませんでした。しかし、抗がん剤で免疫抑制が起きる前にオプジーボを使い、他の免疫療法とも組み合わせるというのは理屈から言うと正しい可能性があるので、その量が適切かどうかはともかくとして、標準治療より成績で劣るとは断言できないものがあります。 自由診療のクリニックは、データをきちんと収集・保管・発表しないことが多く、受けた患者全体の本当の成績がどうなのかは恐らく最後まで分からないことでしょう。しかし、生存・生還を果たす患者は一定数出てくると思われます。 近藤誠医師に依然として強い支持があること、HPVワクチンの問題が膠着状態に陥っていることなど見ても分かるように、医療界は、自分たちが思っているほどには社会から信用されていません。この下地がある中で、自由診療での「生還者」たちが「体験談」を出版したりしたら、一体どうなるでしょうか。「オプジーボの投与を遅らせるため無駄な抗がん剤を受けさせられた」と邪推しかねない患者の割合が半分以上なのですから、標準医療に対して今以上に社会の不信が高まることは間違いありません。このマグマが溜まった危険な状態に気づいていないのは、業界の中の人たちだけです。全身状態の壁全身状態の壁 しかも「オプジーボ難民」は、抗がん剤拒否の人たちだけから生まれるわけではありません。ガイドライン通りに治療を受けてきたのだけれど、オプジーボの投与を病院に断られる、という人たちも発生すると見込まれます。これは治験が、主にPS0・1の全身状態の良い患者を対象に行われており、病状が進んだ状態の悪い患者に使うとどうなるか現時点ではデータがないため、学会は「推奨しない」との立場をとっているからです。最終的には現場の医師の判断に任されていますが、業界には「イレッサのトラウマ」が強く残っており、とにかく慎重を期して無理しないという方針が徹底されています。 投与することのできる施設と医師の基準も決まっています。最初から基準を満たす環境で治療を受けている場合は、主治医との信頼関係の中で、全身状態は悪くとも、「ダメ元」で使ってみるという願いが聞き届けられるかもしれません(ダメ元で試すことが許容されるような薬価か、という議論は棚上げします)。 しかし対象以外の施設で治療を受けていて、万策尽きたので、基準を満たす施設へ転院してオプジーボを受けたいと希望しても、恐らく願いは叶えられません。PSが悪くなり過ぎている可能性は高く、そのような学会が推奨しない人を引き受けてオプジーボを投与する医療機関や医師は存在しないと考えられるからです。こちらも保険者から支払いを拒否される可能性がありますし、それより何より、そのような患者で有害事象が発生したら、イレッサの時と同様に訴訟を起こされる可能性があります。 転院や投与を断られた患者や家族が、そこまでの事情を分かる可能性は低いと思われます。「見捨てられた」という話だけが独り歩きすることでしょう。また、事情を知っていたらオプジーボ投与可能な医療機関で1次治療から受けたのに、という恨みを抱く人もいることでしょう。そして、その何割かは、「オプジーボ難民」となって自由診療クリニックを頼るのでしょう。パンドラの箱開いたパンドラの箱開いた 希望する患者全員に希望通りオプジーボを投与せよ、などと主張するつもりは毛頭ありません。そんなことをしたら、どれほどの有害事象が発生するか分かったものではありませんし、現在の薬価と用法用量のままなら健康保険財政も破綻します。 しかし一方で、投与を希望する多くの患者を納得させられず「難民」化させる現在の対応を正しいと言うこともできません。社会が医療従事者や医療機関を信頼しなくなり、我が国の医療と国民皆保険制度を危機へ追いやるのは明らかだからです。 医療従事者や医療機関は、目の前の患者を支えるため全力を尽くすことが職業倫理に適い、それでこそ社会からの信頼も得られます。自らの良心に恥じず最善を尽くしてもなお患者が納得しないというならともかく、自らも疑問を感じながらルールに縛られて「難民」を生んでしまっているのだとしたら本末転倒、医療不信のタネを自ら撒いているようなものです。 健保財政やルールの番人として患者や社会と対峙するのは、本来は厚生労働省や保険者の役割です。薬価見直しの音頭取りも彼らがしなければなりません。それなのに現在、オプジーボ使用を抑制する防波堤役は現場の医療従事者に押し付けられ、それを不思議に思う人もあまりいないようです。厚労省や保険者が本来の役割から逃げている間に、標準治療を行っている真っ当な医師や医療機関が患者や家族から恨まれるのです。 そして、もしも「難民」たちが頼った自由診療クリニックから標準治療と遜色ない成績が出てきた場合、大変なことになります。 というのも、自由診療クリニックで行われている治療は、自己負担額そのものは高額ながら、費用総額を見れば、オプジーボの投与量が少ない分、ガイドラインと添付文書通りの治療を受けるより、はるかに安いからです。医療界に対する社会の不信は爆発し、取り返しのつかないことになるでしょう。 患者が希望する場合は1次治療でもオプジーボを使えるようにすれば、「難民」はかなり減り、リスクも軽くなります。ただし、そうした場合の保険者からの支払い拒否を防ぐには、薬価を何分の1かに下げておくことが不可欠でしょう。もし薬価引き下げに時間がかかるのだとすると、「難民」発生は避けられず、自由診療クリニックがやっているような治療法の効果も検証して理論武装しておかないと、好き放題を言われかねません。 ところが、その効果検証のために臨床試験を行うのは、現在の枠組みを前提にする限り、ほぼ不可能です。 というのも、自由診療クリニックでやっている治療法は、少量のオプジーボと他の免疫療法の組み合わせです。 オプジーボの量に関しては、既に相当の検討が行われています。量が少なければ効果は落ちると考えられます。また、既存の免疫療法が単独で大した効果を出せないこともハッキリしています。現時点での知見を前提にする限り、組み合わせたところで、標準治療と比較するような臨床試験実施は「非倫理的」となります。 自由診療クリニックが、このように中途半端な治療法を採用しているのは、オプジーボを添付文書通りの用量で使ったら高額過ぎて負担できる患者はほとんどいないからと考えられます。訴訟になるリスクが他人事ながら心配ではありますが、高過ぎる薬価は、このように検証不能な鬼っ子を産み出すことにも、つながっていますす。 たとえ医療倫理の問題を乗り越えたとしても、試験費用の問題が立ちはだかります。 オプジーボの薬価がとてつもなく高いため、メーカーが協力しなければ、試験実施の費用も巨額になります。しかしメーカーには、有害事象の確率が高そうな試験や売上を減らす方向の試験に協力するメリットがありません。個人的には正しいかもしれないと思ったとしても、売上を減らす方向の試験にお金を使ったら、株主代表訴訟を起こされてしまう可能性があります。 つまり、効果検証して理論武装しておくことすら不可能に近いのです。あとは自由診療クリニックを頼って生還した患者が社会に広く認知されないことを祈る他ありません。 要するに医療界は今、自由診療クリニックを頼った「難民」たちが多数生還しないことを祈るしかない、という自分たちの良心の底を覗き見るような悪夢の状況に追い込まれているのです。(この文章は、『ロハス・メディカル』5月20日号に掲載されたものです)「次」はドラッグ・ラグ必至「次」はドラッグ・ラグ必至~オプジーボの光と影(3)(医療ガバナンス学会 2016年7月21日) これまでなら治療法がなかったような難治がんの人たちに希望を与えているオプジーボ(ニボルマブ)ですが、単独で使うと2~3割の人にしか効かないこと、何かと組み合わせるともっと効く人の割合を増やせるかもしれないことが分かってきています。このため、組み合わせると効く割合が上がる「何か」を見つけ出すために欠かせない臨床試験は世界中で猛烈に行われています。しかし、そこに我が国の影は薄く、近い将来、導き出された成果のドラッグ・ラグに悩まされ高値で買わされることが懸念されます。 オプジーボは、これまでに承認されている悪性黒色腫、非小細胞肺がん共に、単独使用での奏効率は2~3割です。免疫に働きかける薬を奏効率で評価するのが果たして妥当なのか、という論点はあるものの、「効かない」人が多いことは明らかな課題です。 その一方、悪性黒色腫で、やはり免疫チェックポイント阻害剤のヤーボイ(イピリムマブ)と併用したら6割の奏効率になったという試験結果があり、組み合わせて「効く」割合を増やす方法はあるはずと考えられます。また、極めて高い薬価や重篤な副作用もあることを考えると、効きそうな人を事前に見分けて、効きそうな人にだけ投与することも大切です。 この、効く人の割合を増やすのと、効きそうな人を事前に見分けるのは、本来なら別個の話ではなく、効く人と効かない人の一体何が違うのか分かれば、それを投与するかどうかの判定材料に使えますし、その状態に働き掛けて効く割合を増やす道も拓けます。ただ現時点では、効く人と効かない人の何が違うのか、決定的な違いは見つかっておらず、併用すべき治療法の本命も見えない状況です。 そして、理屈は何であれ効く割合の増える方法を見つければ良いのだと、世界中で様々なものと併用してみる臨床試験が盛んに行われています。オプジーボ自体も理屈に関して半信半疑の人が多かったのを実際のデータで納得させてきた経緯があり、効くことによって理屈の確かさが証明されるという側面はあるので、試験が行われること自体は当然かもしれません。ただ、実施するには巨額の資金が必要ということを考えると、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、先に当てた者勝ちだ」としか表現しようのない試験の急増ぶりは、この分野がマネーゲームの舞台になっていることも表しています。臨床試験に関する潮流臨床試験に関する潮流 ちょっと脱線して、皆さんがビックリするようなことを書きます。このことを知っておかないと、オプジーボを巡って起きている事態の本当の恐ろしさを理解できないと考えています。 ほんの10年ほど前まで、製薬会社が資金を提供する臨床試験は一部の関係者しか知らないうちに行われ、悪い結果は公表されずに握り潰されていたようです。そのことが明らかになってきて、悪い臨床試験結果が握り潰される(たまたま良い結果になったものだけ公表される)と、効果が過大に、副作用は過少に評価されてしまうことになり、場合によっては薬として認められるべきでないものまで市販されてしまったり、医師の判断を誤らせてしまったりするため、社会的な批判が高まって2007年に米国でFDA法が改正されました。これによって、米国で試験を行うか、製造を行うか、米国で新薬として販売しようとする場合は、米国国立衛生研究所(NIH)運営の「クリニカルトライアルズ・ガブ」というWEB上の臨床試験データベースに事前登録すること、「市販」された薬ではすべての臨床試験結果を報告すること、が義務づけられたのです。  さらっと書いてしまいましたが、ご存じでなかったという方が、ほとんどだと思います。日本でこれについての一般報道は皆無だったと思われ、実は私自身も知ったのは最近です。EBM(科学的根拠に基づく医療)が大事で、それを推進することは患者自身の自律にも役立つと信じてきました。それなのに、科学的と思われてきた根拠自体を疑い直す必要がある、と知って、愕然としているところです。科学的根拠の怪しさを知った上で製薬業界のお先棒を担いできたわけでないことは、ご理解ください。 さて、このような世界の潮流が分かってみると、2013年に発覚した高血圧治療薬バルサルタン(商品名・ディオバン)を巡る臨床研究不正は、ノバルティスにとって存亡の危機につながりかねない大事件で、だからこそ日本法人幹部を直ちに放逐、地域的不祥事として扱い影響を最小限に食い止めたということに気づきます。逆に、関係者が居座っている日本の医療界は、臨床試験を行う場としての信頼を世界から失ったことも分かります。 そして改めて、臨床研究不正を受けて今通常国会に提出された「臨床研究の適正化に関する法律案」(臨床研究法案)を眺めてみると、その余りにも周回遅れの内容に悲しくなります。臨床研究は、プラスの結果が出たにせよ、マイナスの結果が出たにせよ、将来の医療に生かされなければ何の意味もありません。患者が協力しなければできないことでもあり、資金提供者や研究者が私物化して良いものではなく、資金提供者と計画と結果をすべて公開して、その知見を全人類共通の財産にすべきですし、FDA法もその発想です。公開すれば、不正はバレて社会的批判に晒される可能性が高まるので、その抑止効果もあります。ところが、臨床研究法案では研究データの公開を義務づけていないのです。 指導的立場の医師に袖の下を渡す手段として臨床研究が用いられていたという我が国の実態には適合し、その抑止効果はあるのかもしれませんが、より良い治療手段を患者に届けるため行うという臨床試験の大前提に立ち返ると、なぜ公開を義務づけないのか不思議でなりません。何しろ、FDA法の条件に該当するものであれば、日本でやっている臨床試験もすべて「クリニカルトライアルズ・ガブ」での登録・公開の対象です。英語で公開されている日本での試験結果を、日本語では読めないなんて、何かの悪い冗談でしょうか。 ただし、FDA法にも課題はあって、昨年11月にBMJOpenという科学雑誌に載った論文(※)によれば、よく守っている会社と依然として都合の良いものしか公表していない会社があるようです。罰金が、製薬会社の事業規模から見ると極めて小さく、しかも実際に課された例がないため、確信犯的に破っていると考えられます。規定を守らないことに対する制裁を社会が加えないでいると、元のような状態に戻ってしまう危険性は大いにあります。※BMJ Open 2015;5:e009758 doi:10.1136/bmjopen-2015-009758Clinical trial registration, reporting, publication and FDAAA compliance: a cross-sectional analysis and ranking of new drugs approved by the FDA in 2012Jennifer E Miller, David Korn, Joseph S Ross米国に一極集中米国に一極集中 脱線が長くなりました。話を戻すと、オプジーボのような免疫チェックポイント阻害剤は、米国で新薬として売られる前提で開発されているはずなので、「クリニカルトライアルズ・ガブ」を見れば、冒頭に述べた探索競争がどのように行われているか、大体分かるということになります。 で、話が混乱しかねないので今回まで意図的に触れてこなかったのですが、実はオプジーボと同じ所で働くと考えられている薬、つまり市場を奪い合う関係になりそうな薬が、分かっているだけでも他に4種類あります。同じ抗PD-1抗体のペンブロリズマブ(商品名・キートルーダ)と、PD-1が結合する相手のPD-L1の抗体(ややこしいので図1をご参照ください)であるアテゾリズマブ、ダバルマブ、アベルマブです。ちなみに、キートルーダは米国ではオプジーボより先に承認され、日本でも承認申請済みです。 オプジーボは米国に本社のあるブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)の薬(ただし、日本・韓国・台湾では小野薬品工業が権利を保有)、キートルーダはやはり米国のメルク・アンド・カンパニー(MSD)の薬、アテゾリズマブはスイスのロシュ(日本では傘下の中外製薬が担当すると考えられます)、ダバルマブは英国のアストラゼネカ、アベルマブは米国のファイザーとドイツのメルクが共同で開発している薬です。 さて、クリニカルトライアルズ・ガブで、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、ダバルマブ、アベルマブそれぞれの薬剤の開発コードを入力し検索すると、200件、291件、64件、96件、16件の臨床試験がヒットします(2016年5月25日現在)。このうちまだ終了や中断などしていないものだけ抜き出しても189件、286件、64件、95件、16件です。調べる度に件数が増えており、この号が出る頃には、もっと多くなっていると思われます。 試験の規模によって必要な費用は全く異なるため乱暴な話ではありますが、1件あたり平均で10~40億円かかったという2009年の調査報告もあり(※)、試験には多くの市販済み薬剤も使われることから、ここ数年の薬剤費高騰まで考慮に入れると、想像を絶する額の投資が行われていることは間違いありません。それだけ投資した分に利息を付けて、成功した薬で回収するわけですから、値段が高くなるわけだ、とは思います。 それはともかく、問題は、ここからです。クリニカルトライアルズ・ガブは、地域別に臨床試験件数を表示することもできます。表示させてみると一目瞭然、米国が他を圧倒しており、ヨーロッパ、中国、カナダ、オセアニアが続きます(図2)。PD-1を発見しコツコツ研究してきたのは本庶佑・京都大学客員教授と研究室員たち、つまりこの分野の隆盛のきっかけを作ったのは日本の公的機関なのに、次の一手を探す競争で日本の影は驚くほど薄いのです。 この驚きは、各臨床試験を個別に眺めていくと、さらに強まります。登録されている臨床試験は、大きく分けて(1)別のがんへの適応拡大狙い (2)既存の治療への免疫チェックポイント阻害剤の上乗せ(3)免疫チェックポイント阻害剤をベースに何かと併用、の3パターンあることが分かります。 探索競争になっている「併用すれば効く割合を増やせる何か」は、明らかに(2)か(3)からでないと出てきません。詳細は次回説明しますが、オプジーボに関しても米国で行われている試験の主流は(2)と(3)で、未発売の物が多数試されています。ところが、日本で行われている(2)や(3)は、(1)との混合型を含めても9件に過ぎず、未発売の物に限定すると1件しかないのです(表は『ロハス・メディカル』本誌をご参照ください)。 これでは、もし「併用すれば効く割合を大幅に増やせる新しい何か」が見つかったとしても、日本での承認のためには追試が必要(審査を担当するPMDAが国内での臨床試験を要求する)になるはずで、その導入は遅れることでしょう。 「薬価をやたらと下げると、新しい薬が日本に入って来なくなる」という主張をよく目にしますが、世界中で最も高いと考えられる薬価をオプジーボに付けている現在ですら、実情はこれです。 思い起こされるのが、本誌創刊前後の2005年頃に大きな社会問題として取り扱われていた抗がん剤のドラッグ・ラグ問題です。先ほど述べたFDA法改正の前のことですから、今にして思えば「都合の良いデータ」だけで承認申請に至っていたかもしれず、そのデータで僅かの延命効果しか示せていないような薬ですら、「使えない」ことに対する患者たちの怒りは激しいものがありました。オプジーボ(そして、恐らく他の4剤も)の場合、効いたら長続きするので、その効く割合を増やせる薬に関するラグは文字通り生きるか死ぬかの境目になります。ラグが長期化したら、厚生労働行政への社会の批判はとんでもないものになることでしょう。結果として、お上の威光など吹き飛ばされ、メーカーにお願いして申請してもらい猛スピードで承認することになる可能性は高いです。当然の帰結として、その価格も、世界で最も医療費の高い米国を基準に定めざるを得なくなると考えられます。こんなことで本当に良いのでしょうか。有望な併用法が霞む有望な併用法が霞む (2)の臨床試験は、副作用の激しさも懸念されることから、日本で少ないことは理解できないでもありません。しかし(3)が少ないのは大問題です。 というのも、がんに対する免疫の基礎的な研究を日本の研究者たちはコツコツ積み重ねてきており、(3)として有望そうなタネも数多くあるからです。例えば、がんワクチンであり、樹状細胞ワクチンであり、T細胞療法やNK細胞療法、NKT細胞療法、です。 それぞれの治療法については別の機会に説明しますが、比較的安いものも多く、純粋に競争したら米国などの(3)の試験で試されている様々なタネに負けるとは限らない潜在力を秘めているのに、残念ながら臨床試験の土俵にほとんど乗れていません。理由を端的に言うと、費用を賄えないからです。そして、日本勢が大きく出遅れていることは、その研究をしてきた人たちにとって痛手であるだけでなく、国民皆保険制度にとっても痛手です。安くできるはずのタネであっても、出遅れると、高くなるか、一番手としては保険で使えなくなるか、のどちらかだからです。 前回も説明したように、現代の医療は、ひょっとすると他にも良い方法はあるかもしれないという留保は付けながら、有効性を示す臨床試験データのあるものから順番に治療法を選ぶことになっています。新参の治療法は、先にデータを出したものとの比較試験で勝たない限り、二番手以下として扱われます。要するに、ベストの治療法が自動的に一番手に選ばれるのではなく、早く結果を出した治療法が一番手になる、のです。現時点では、どの併用法も同等に一番手になれる可能性を持っていますけれど、ひとたび標準治療と位置づけられる併用法が出現した後は、それとの比較試験を越えなければ一番手になれなくなります。 一番手のメーカーが、挑んでくるものとの比較試験に協力する義理はないので、その薬剤費は挑戦者の試験費用に上乗せされることになります。つまり一番手の値段が高額だったら(この分野は、投資総額から見て間違いなく高額になります)、後から出てくるものの開発費も莫大になり、結局は高く値付けせざるを得ないという構造があります。 だからこそ「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、先に当てた者勝ちだ」という開発競争になっているのです。そして、そのデータに関しては、社会がきちんと監視していないと製薬会社は都合の良いものだけを出してきかねない、というのが先ほど説明した過去の教訓です。投資額が巨大なだけに油断はできません。 製薬業界は盛んに、「イノベーションには、お金がかかる」と主張します。しかし、実際に起きていることを見ると、薬の値段が高くなり続けることを前提にしないと成り立たないバブルの部分が大きいのでないかという疑念も湧いてきます。そして、私たちは今回の問題を国民皆保険制度が破綻するかもしれないという被害者意識で見てきましたけれど、現実には、オプジーボにとんでもない薬価を付けたまま直さないことで、むしろバブルを加速させていると気づきます。 国民皆保険制度を守るためにも、内向き思考をやめて、世界全体にバブルを発生させないよう、発生しているなら軟着陸させるよう貢献する必要があり、制度運用の工夫と日本にあるタネの上手な活用を模索しないといけません。(この文章は『ロハス・メディカル』6月20日号に掲載されるものです)日本の医療界は腐っているのか?日本の医療界は腐っているのか?~オプジーボの光と影 番外編(医療ガバナンス学会 2016年7月25日) 前回、日本はオプジーボに関する臨床試験件数が少なく、ドラッグ・ラグを招きかねないと指摘しました。少ない原因はいくつも挙げられるのですが、世界を唖然とさせるような日本の医療界の不祥事と、それがきちんと医療界内で自律的に処分されないことも、日本での試験実施を敬遠させることにつながってはいないでしょうか? 前回、「クリニカルトライアルズ・ガブ」で検索すると、オプジーボ(ニボルマブ)の臨床試験が全世界で200件ヒットする(5月25日現在)ことを、ご紹介しました。ちょうど1カ月後の6月25日に再検索したら207件ヒットしました。1カ月で7件増えたことになります。1件実施するのに何十億円単位で費用が必要なことを考えると、開発競争の激しさが、改めてよく分かると思います。 なお、地域別に見ると(重複あり)米国と欧州で5件、カナダ、中米、中東、ロシア東欧で1件増えている一方、日本では増えていません。世界との差は開く一方のわけです。そして、臨床試験を個別に見ていくことで、日本は単に試験数が少ないだけに留まらず、他国では当たり前に行われているベンチャー企業によるものや公的団体によるものが、全くないことも分かってきました。そこで、今回はこの日本の特異的構造問題を指摘しようと考えていました。 ところが6月中旬、世界の医療史に刻まれるかもしれないド級の不正疑惑が日本の指導的立場の医師に発覚し、指導層がそういうものに手を染める医療界の体質があるとしたら、それは日本の試験件数が少ないことの原因となっているであろうし、ひいてはドラッグ・ラグを招いて社会に不利益を与えている可能性が高いのに、一般のメディアが全く報じない(記事校了直前になって極めて小さく報じるようになりました)ので、予定を変更、番外編として、そちらを扱うことにしました。 今号が出る段階で既に大騒ぎになっていたら、かなり間の抜けた文章になってしまいますが、後述するように2013年発覚のディオバン事件に関係した医師が1人も免許を剥奪されていないばかりか、中には栄進すらしている例もあり、そのことがメディアでも特に問題とされていないことを考えると、この疑惑に関してもウヤムヤになる可能性は高いと恐れています。ウヤムヤになってしまった場合、多くの日本人が知らないうちに世界の人々から軽蔑され、臨床試験を日本でパスする流れがさらに進んでしまう可能性もあります。ワクチン禍の捏造疑惑ワクチン禍の捏造疑惑 疑惑の舞台になったのは、『ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状に関する厚生労働科学研究事業』です。長くて読むのがイヤになった人も多いと思いますが、単語を区切って読むと、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)を接種後、激しい体調不良に襲われた女子生徒たちが出たことを受けて、厚生労働省が委託した研究であると分かると思います。当然、その費用は公費で賄われました。 主任研究者は、池田修一氏(信州大学医学部脳神経内科、リウマチ・膠原病内科教授)と牛田享宏氏(愛知医科大学学際的痛みセンター教授)の2人(肩書はいずれも研究班としての表記)で、3月に「成果発表会」が行われています。池田氏は、単なる教授ではなく、信州大学の医学部長であり副学長でもありました。 この池田氏の発表会資料に、捏造疑惑が発覚したのです。スクープしたのは、6月20日に発売になった雑誌『Wedge』7月号で、医師資格を持つジャーナリスト村中璃子氏の記事でした。 発表資料59枚目に出てくるマウスを使った実験のスライドに関して、池田氏の説明は虚偽だ、と村中氏は指摘しました。 スライドは、自己抗体があったら緑色に光るよう染めて撮った写真で、他のワクチン接種後のマウスの海馬(脳)は緑色に光らなかったけれども、HPVワクチン接種後のマウスでは緑色に光ったことを示しています。加えて文字でも「サーバリックス(筆者注・HPVワクチン)だけに自己抗体(IgG)沈着あり」と記しています。 自己抗体が沈着しているということは、その組織に対して免疫が攻撃を仕掛けていると考えられ、組織が破壊されても不思議はないことを意味します。脳の組織が破壊されたら、それは色々な不具合が起きることでしょう。発表資料を初めて見た際、私などは、「ああ、なるほど、激しい症状を示す人たちの脳で同じことが起きている可能性はあるな。やっぱりHPVワクチンは、他のワクチンとは違うんだな」と思ったものです。そんな報道をテレビや新聞で見たな、と思い出した方もいらっしゃることでしょう。 この発表には、色々な波及効果が予想されました。まず、生きている人の脳を切り出して抗体検査してみるわけにいかない以上、「ワクチン被害者」の脳でも同様に免疫が暴走している可能性を否定できなくなり、場所が脳だけに体のどこで何が起きても不思議はないので、被害認定・救済のハードルは下がると考えられました。また、そのような免疫暴走を起こしてしまう体質・遺伝的要因を探索して発見することで、要因保持者をワクチンの接種対象から外せるようになり、社会全体としてはより安全にワクチンの利益を享受しやすくなるとも考えられました。 スライドで名を挙げられていたサーバリックスはイギリスに本拠を置く多国籍企業グラクソ・スミスクライン(GSK)の製品ですから、池田氏の発表内容は世界中に知れ渡っていたと考えられ、きちんと論文発表された暁には、世界が注目する画期的発見になるかもしれませんでした。 ところが、村中氏が報じるところによれば、このスライドが完全なデタラメというのです。実験を担当した研究者から、他のワクチンでも緑色に光り、その写真を池田氏に渡したのに、発表スライドでは光らなかったことになっていた、との証言を引き出したと書いています。さらに、実はワクチンを接種したマウスの脳に自己抗体は沈着しておらず、別のマウスの脳切片に(抗体の入った)血清を振りかけただけ、との証言を得たとも書いています。 もし、この記事に書かれていることが本当なら、HPVワクチンだけ脳組織に悪影響を与える可能性があると見える池田氏の発表は、明らかに悪質な捏造です。 起きていないことを起きたことにしてしまうのが自然科学者として許されることでないのは当然として、「副反応」に苦しんでいる人たちの原因究明や治療法探索に誤った情報を与え妨害することになるので医師としての倫理にも反します。厚労省から委託された研究のテーマが「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供について」だったことも考え併せると、悪質さは一層際立ちます。提訴が予定されている「ワクチン被害者」たちによる民事訴訟への影響も甚大でしょう。 ここまで名指しで嫌疑をかけられた以上、池田氏は研究者生命・医師生命を賭けて反論するのが当然です。本当に発表のような実験結果を得ていたのだとしたら、証拠はいくらでも残っているでしょうから、記事が言いがかりだと示すこと自体は簡単なはずです。村中氏を名誉棄損で訴えることもできます。しかし、なぜかそのような動きは聞こえてきません。記事が正しいので反論できず、むしろ騒がずにいることで世間が忘れるのを期待しているのでないか、という疑念を抱かせます。鈍い医療界の反応鈍い医療界の反応 前述のようにGSKのワクチンを名指しした以上、この疑惑は既に世界中に知れ渡っており、どのように決着するのか大いに注目されていると考えるべきです。 それなのに、研究の費用を出した厚労省、自浄作用を発揮すべき医療界の動きは鈍いのです。先ほど述べたように、記事のシロクロを付けるのは簡単なはずで、もしクロなら言語道断で直ちに処分が必要です。しかし、記事が出て10日経ってから、ようやく信州大学で学内調査を行う方向が出たというノロノロぶりです。 この自律的行動の鈍さを、どのように解釈したらよいのでしょう? まずあり得るのは、医療界の多くの人間が、大した事案だと考えていないということです。 実際、ディオバン事件では、ノバルティス日本法人幹部が放逐され元社員は刑事被告人となった一方、事件の舞台の一つとなった千葉大で研究の責任者だった現・東京大教授が、この6月から日本循環器学会のトップである代表理事に就任しています。「あの程度は大した事案でない」と医療界の多くの人が考えているのでしょう。患者を対象とした臨床試験での不正ですら、こんな受け取り方なのですから、マウス実験くらいで大げさなという人は少なくないのかもしれません。 しかしHPVワクチンを巡って激しい論争が起きている現実がある以上、世の中の普通の人の感覚では、明らかに重大な不正です。それに対して自律的行動が鈍いことは、医療界の多くの人間ができるだけ事を荒立てたくないと考えているから、という解釈が成り立ってしまいます。 私個人としては、単純に面倒なことに関わりたくない人が多いためだろうと考えていますが、邪推しようと思えば、日本の医療界では患者に影響を与えるような研究不正が当たり前に行われていて、変に突っつくと自分にも返ってくる人が多いから荒立てたくないに違いない、と考えることも可能です。 そう邪推できることが、臨床試験件数の少なさの原因になります。企業からすると、試験自体に巨額の投資が必要で、しかも成功確率が高くないわけですから、不確定なリスク要因はできるだけ排除しておくのが当然の危機管理です。日本に研究不正が蔓延している可能性を否定できない以上、他に代わりがない場合以外は、別の国で臨床試験を実施した方が安全です。万一、試験が無効になったら大損害だからです。 現時点で「他に代わりがない」は、日本で承認を得るのに必要な場合に限られ、それは日本で確実に儲かるとの見通しが立つ場合に限られます。つまり、日本の医療界で研究不正が蔓延しているのでないかという世界から抱かれている疑念を払拭しない限り、ドラッグ・ラグや高い薬価となって患者や社会にツケが回されてくるのです。メディアはどうする?メディアはどうする? なお、3月に池田氏の発表を大々的に報じたメディアには、事実関係を検証して、結果的にせよ間違った報道をしてしまっていたなら、訂正する責務があるはずですが、その動きがまた極めて鈍いのです。 メディアや記者に主義主張があるのは当然としても、「事実」を伝えるのは最低限死守すべきラインで、「事実を伝えない」と受け手に見限られてしまった時、異なる主張や立場の人々をつなぐことができなくなり、同人誌・放送と化すので、どうするのか要注目です。もしきちんと対応しないなら、日本のメディアの偏りもまた臨床試験件数を減らす方向に働くでしょうし、ドラッグ・ラグや高い薬価の原因の一つと言えるのでしょう。(この文章は、『ロハス・メディカル』7月20日号に掲載されたものです)

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    年3500万円の抗がん剤、患者負担約3%で残りは公的負担のホラー

    れ、さらに2015年12月には切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌への効能が追加承認された。ここにきて医療従事者だけでなく、にわかに巷間の衆目を集めた理由は、この薬をがん治療に用いた際にかかる莫大なコストだ。 この問題を提起された、日本赤十字社医療センター化学療法科部長の國頭英夫氏(専門は胸部腫瘍、臨床試験方法論)の試算によると、体重60kgの患者が1年間、オプジーボを使うと年3500万円の費用がかかる。 氏は追加承認された非小細胞肺癌の患者数を約10万人強と推定。早期がんなどを除き、オプジーボの対象になる人を5万人程度に対して1年間投与すれば3500万円×5万人で、1兆7500億円となる計算だ。2013年度の国民医療費、約40兆円のうち薬剤費は約10兆円なので、いきなり2割近くもの薬剤費が跳ね上がることになる。医療費や薬剤費はその約4分の1は国家予算に占める社会保障費で賄われているので、単純に考えても4000〜5000億円レベルの影響が出るということになる。 ところでこの問題は、オプジーボに設定されている超高額の薬価に端を発していることが明らかだ。新しい薬が開発された際の薬の価格(薬価)は、既存の類似薬が無い場合は、厚生労働省中央社会保険医療協会(中医協)にて定められた、「原価計算方式」と呼ばれる方法で薬価を算定される。下図シミュレーションを参照のこと。 ※2015年4月現在、注4の営業利益率は16.2%、既存治療と比較した場合の革新性や有効性、安全性の程度に応じて、平均的な営業利益率の-50%~+100%の範囲内の値を用いることとなっている。(出典:2015/03/20 m3.com 医療維新レポート)もはや適切とはいえない薬価 ここで気になるのは、原価計算方式による薬価算定時に用いられる営業利益率の高さだ。図表8にあるように、全製造業の売上高営業利益率が毎年約5%程度で推移しているのに比べて、医薬品製造業のそれは毎年約3倍だ。 日本大学商学部教授の高橋史安氏(専門は原価計算、管理会計)の論文には、会計学者醍醐聡氏の図表を引用して次のようにあった。図表8では医薬品・化粧品等卸業、スズケンの収益性を分析し、医薬品・化粧品等卸業の売上高総利益率は全製造業の水準を下回り、医薬品製造業よりも格段に低い水準にあること、さらに売上高営業利益率は1%台という薄利の状況を分析している。 醍醐は、以上の結果から「わが国の医薬品の価格水準を決定する主たる要因は医薬品卸売業から医療機関に納入される際の値決めにあるのではなく、その前段階の医薬品メーカーから医薬品卸売会社に販売される際の医薬品の値決め(仕切価格)にあるといってよく、この段階で製造原価との対比で異例ともいえる高い水準で値決めがされていることが、保険医療機関が社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会に請求する薬剤料を高騰させる決定的要因になっている」と指摘している。高橋史安「わが国における薬価原価計算の現状と課題」p.118-119 元々ずば抜けて営業利益率が高い業界に、さらに(16.2+α)%の加算をつけるというのはずいぶん大きい。オプジーボの場合は薬価収載時、従来の抗がん剤とは異なる免疫機能を高める作用機序で既存薬に対する優位性などが評価され、原価計算方式の営業利益率としては過去最高の60%もの加算をつけられた。 当時はメラノーマのみにしか適応が無かったが、適応が拡大して患者数が爆増した今となっては、この薬価はもはや適切とは言えないにも関わらず、次ような報道があった。国と製薬会社、高額薬めぐる攻防 引き下げルール化に米業界反発「1日延命 いくら払えるか」「企業の立場は理解するが、国民皆保険を維持する仕組みとして、のみ込んでほしい」 平成28年度予算案の編成を目前にした昨年末、処方薬や治療の価格を決める国の会議(中央社会保険医療協議会=中医協・薬価専門部会)で、売れすぎた薬の価格を引き下げるルールが決まった。(中略)新薬の価格設定は年4回、製薬会社と厚生労働省の間で行われる。製薬会社は新薬に高い価格をつけたい。国は、企業に開発費を回収してもらいつつ、なるべく安い価格をつけたい立場だ。双方の折り合いがつかず価格がつかなければ、患者は次のタイミングまで、治療の選択肢を失いかねない。 特に難しいのが、他に比較する対象のない革新的な薬の価格決定だ。開発にかかった費用などを、売れる見込みの薬剤数で割り、そこに1剤ごとの材料費を足すのが基本。患者予測数が少ないと、単価は上がる。 「オプジーボ」もそんな薬だ。2年前、皮膚がんの一種「悪性黒色腫」の薬として登場。患者予測はピーク時でも470人と少なく、高単価となった。1年半後、非小細胞肺がんに適応が拡大されたため、患者数は2桁も変わり、財政インパクトが一気に膨らんだ。今月13日に開かれた中央社会保険医療協議会。出席した委員から、オプジーボを念頭に値下げを求める意見が相次いだ。オプジーボは4月に適用された価格引き下げの新ルールの対象品目ではない。次の見直し時期は2年後だ。日本医師会の中川俊男副会長は「適応が拡大された際に薬価を見直す仕組みにできないか。早急にルール変更をお願いする」と要求。(2016/04/28 産経新聞) 日本には国民皆保険制度の他にも高額療養費制度というものがあり、年収が約770万円未満の患者の自己負担限度額は年間100万円程度で済むのだが、例えばオプジーボを用いる場合は総額3500万円の3%も満たさず、残りの97%は全て公的負担ということになる。 本稿では超高額の医薬品や新薬の薬価算定方法のごく一部にフォーカスしたが、常に医療費の問題の根底にあるのは、私たち国民全員がメーカーや医療の担い手、厚労省、または患者といったそれぞれの立場で我田引水の施策を続けた挙句に招いてしまった圧倒的な財源不足である。今やとっくに日本の国民皆保険制度=保険財政が破綻の危機に瀕していることを、一体どれだけの国民が認識しているのだろうか。《参考記事》■【蟻の一穴】セルフメディケーションによる医療費抑制は眼前の急務だ。(山浦卓 薬剤師・医学博士)https://045310.com/blog/self-medication/■医療費40兆円突破の元凶、医療機関へのフリーアクセスを抑制する方法。(山浦卓 薬剤師・医学博士)https://045310.com/blog/40trillion-yen-medical-bills/■年間損失500億円。「残薬」解消の糸口を薬剤師が客観的に考えてみた。(山浦卓 薬剤師・医学博士)http://sharescafe.net/47148790-20151209.html■コンビニ弁当で健康に?厚労省が来年4月に認証マーク導入という愚。(山浦卓 薬剤師・医学博士)http://sharescafe.net/40235965-20140807.html■医薬品ネット販売の賛否は一旦さておき、現場ではたらく薬剤師が考える他愛もないけど重要な事。(山浦卓 薬剤師・医学博士)http://sharescafe.net/34951271-20131119.html

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    肺がん「夢の特効薬」 効果が出るのは患者全体の2割程度

    ある薬の中でも、「治療」と「延命」の境目が曖昧なのが抗がん剤だ。 昨年12月、肺がんの新薬として公的医療保険が適用された「オプジーボ」は“夢の特効薬”として注目を集めた。しかし、がん細胞が縮小するなどの効果が表われるのは肺がん患者全体の2割程度とされ、その効果も1年生存率を39%から51%に押し上げるに過ぎないという海外の臨床試験のデータもある。「肺がんが消えてなくなる」──といった過大な期待は禁物だ。関連記事■ 肺がん治療薬イレッサ 2週間でがん細胞がほぼ消滅した例も■ 抗がん剤使わぬがいいとの説 梨元氏は使用後2か月で亡くなる■ 「抗がん剤は使えば使ほど寿命が縮まります」と近藤誠医師■ 現在の乳がん治療は「切る」「切らない」の二択ではない■ がん治療費 乳がんは5年92万円、肺がんは2年45万円のケース

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    夢の新薬で日本の医療保険制度が崩壊するかもしれない

    げられるテーマの一つに国民皆保険制度がある。日本では現在、この制度が機能しているので経済格差を超えて医療を受けられるようになっている。だが、新しい抗がん剤などの利用で制度が崩壊するかもしれない現実について、鎌田實医師が解説する。 * * * 新しいタイプの抗がん剤が注目されている。免疫細胞には、免疫が暴走しないようにブレーキの働きをする「免疫チェックポイント」という仕組みがある。悪賢いがん細胞はその仕組みを利用して、自分を攻撃する免疫(T細胞)にブレーキをかけさせている。この新しい薬は、がんを直接叩くのではなく、ブレーキの働きを抑えることで、免疫ががん細胞を攻撃できるようにする。免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれている。 昨年12月に肺がんに適応認可されたオプジーボ(一般名ニボルマブ)はその代表的な薬だ。肺がんの非小細胞肺がん、手術したが再発した場合や、手術できない患者に使われる。効果は2割程度だといわれているが、選択肢が増えることは肺がんの患者さんには朗報である。開発には、アメリカのベンチャー企業も関係しているが、日本人の研究が中心になっているというから、喜ばしい。 このオプジーボ、薬の値段も瞠目に値する。抗がん剤の適量は、体重を目安に決められるが、60キロの肺がん患者さんが1回使うと、133万円かかる。これを2週間おきに点滴すると、年間約3500万円というべらぼうな費用になる。 医療保険には高額療養費制度がある。患者さんの1か月の自己負担額が一定額を超えると、超えた金額が戻ってくる。上限額は所得に応じて決められ、70歳未満の一般所得区分の場合は、概ね8万円程度となっている。 しかし、患者の窓口負担が減っても、国の医療費の負担は大きい。オプジーボを1年間使用する患者さんが5万人いるとすると、年間1兆7500万円がかかる。日本の医療費は40兆円。そのうちの10兆円が薬剤費といわれているが、期待の新薬だけで2割近くも占めてしまう計算になる。 高い薬だからといって、混合診療にして薬代だけ患者の負担にすれば、貧富の差による医療格差が大きくなってしまう。お金を持っている人だけが薬を使用できるというのは、いいことではない。 アメリカの保険会社は、日本の国民皆保険制度が壊れるのをじっと待っている。高い薬が出れば出るほど、民間保険に入っていないと安心できなくなる。高額な新薬を使うために、民間保険に入らざるを得なくなっていくのだ。すでに日本郵政は、アメリカの保険会社のがん保険を販売している。 2016年度薬価制度改革により、年間販売額が非常に大きい薬に関しては、薬価を引き下げる「特例拡大再算定」も設けられた。年間販売額が1000億~1500億円で予想の1.5倍以上売れたものは薬価を最大25%引き下げ、年間販売額1500億円超で予想の1.3倍以上売れた場合は薬価を最大50%引き下げる。これにより、3か月で500万円かかっていたC型肝炎治療薬が3割下がった。しかし、これだけでは足りない。 なぜ、こんなに高額なのか。もともとオプジーボは、悪性黒色腫の治療薬として認可された。悪性黒色腫は日本人には比較的少ないがんで、患者数が限られている。 患者の数と、開発にかかわった研究費や薬の製造費などを考えて、薬価が高くなった。ここまではしかたがないことだったと思う。 その後、患者数の多い肺がんに適応承認され、将来的にはほかのがんにも承認されていく可能性もある。今のままの高額な価格設定で、多くの患者さんに使われるようになると、日本の医療費は膨れ上がり、医療保険制度そのものが破綻しかねない。 医療は、経済的な格差を乗り越えて、多くの人が平等に受けられるべきものだ。理想かもしれない。だが、決して忘れてはならない理想である。かまた・みのる 1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。

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    肝心なのは食材の数ではなかった!「一日30食品」健康法の神髄

    活で人の健康や寿命が左右されると考える人はそれほど多くはなかった。健康や寿命を左右するのは、ひとえに医療の力であると、多くの人が考えていた。iStock 半世紀ほど前まで、日本人の死因の第1位は結核や肺炎などの感染症だった。日本人の疾病構造が変わり、今では多くの日本人が糖尿病や高血圧症や脂質異常症など、いわゆる生活習慣病を主原因とする脳卒中や心疾患によって、死に至るようになった。ガンや認知症でさえ、生活習慣が深く関わっている。つまり、生活習慣を改善することによって、これらの致命的な病気になるリスクを下げ、健康で長生きできるらしいということが明らかになってきたのだ。 それ以来、日本(に限らず先進国)の多くの人が健康情報・食情報を追い求めるようになったのだ。かつては、著名な学者や医師の経験を頼りに、健康や長寿の道を探っていた(今でもそれに頼る人はものすごく多いのだが)。最近になってようやく、個人の体験や推測に基づくのではなく、きわめて多くの根拠ある科学的データ(エビデンスという)に基づいた食事法や生活習慣が効果的であると気づいたのである。一般人にはハードルの高い「食事バランスガイド」一般人にはハードルの高い「食事摂取基準」や「食事バランスガイド」 ここでは、主として、ビジネスパーソンを念頭に、健康・長寿に役立つ情報を提供していきたい。とはいっても、対象がビジネスパーソンだろうが、成長期の児童・生徒であろうが、中高年であろうが、お年寄りであろうが、健康にいい食習慣の基本に大きな違いはない。一口でいえば「バランスよく、適量」を食べればいいのだ。しごく単純である。ただし、単純ではあってもけっして簡単ではない。 エビデンスから導かれた理論が明らかになってはいても実践が伴わないからだ。私たち日本人にとって、「何をどれだけ食べれば健康で長生きできるか」は相当にたしかな情報によってすでに明らかになっている。その最新情報は『日本人の食事摂取基準2015』(※1)という形で提供されている。時間と興味のある人は一度見ていただきたい。かなり詳細な情報が、きわめて確かな根拠に基づいて、明らかにされている。 が、その情報は「料理」ではなく「食材」でもなく「栄養素」という形で提供されている。そのため、これを理解できる人はほとんどいないといってよいだろう。たとえ管理栄養士や医師であっても、勉強不足の人では「手に負えない」だろうと推測する。もちろん、素人には「何のこっちゃわからん」というシロモノだ。「たんぱく質60グラム」といわれてもわかる人はほとんどいないだろう。 現在、これを実際に役立てている人といえば、たとえば学校給食や病院給食の献立を考えている管理栄養士、あるいは糖尿病や高血圧症の患者に食事指導をする専門医くらいではなかろうか。 これではいけないと(思ったかどうか定かではないが)食事摂取基準を「料理段階」にまで落とし込んだ「例」を、2005年、厚生労働省と農林水産省が(文部科学省の協力も得て)作成した。それがコマ型の『食事バランスガイド』(※2)だ。このイラストには「一日に何をどれだけ食べればいいか」が「料理」で示されている。食事摂取基準よりもはるかに具体的になってはいるが、使いこなすのは、やはり、難しい。「何を=質」はかろうじて理解できても、「どれだけ=量」がわかりづらい。「食パン1枚」や「ロールパン2個」などはわかりやすいかもしれないが、「野菜サラダ」や「野菜の煮物」をどれぐらいの量食べればよいのかは、このイラストからはよくわからないだろう。【※1】http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/000004195...【※2】http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou-syokuji.html 小中学校の食育授業などで、九九(くく)のように覚え込ませてしまうか、「守らないと致命的な病気になってしまいますよ」と脅された中高年が必死で覚えるか、しか身につかないのではなかろうか。日常業務に忙しいビジネスパーソンには、これとてハードルが高い。一日に三〇の食材を食べる健康法を勧める一日に三〇の食材を食べる健康法を勧める では、そんなことをしているヒマが(やる気も)ないビジネスパーソンが「バランスよい食事」をとるためにはどうすればいいのか・・・。私が勧めるのは『一日三〇食品』を食べる方法だ。 これはまったく根拠のない食事法ではない。2005年に『食事バランスガイド』が発表されるまで、厚生労働省が「健康に長生きするための食事法」として推奨していた方法である。年配のビジネスパーソンなら聞いたことがあるはず。 その日食べた「食材」を、1つ、2つ、3つ・・・と数え上げていけばいい。小学生以上ならだれにでもできる方法だ。もちろん多少の数え間違いなど気にしなくていい。いたって簡単で、有効な食事法だと、私は今でも思っている。 なぜこれが『食事バランスガイド』にとってかわられたのか? 基本的にはエビデンスがイマイチだったこと。つまり『一日三〇食品』を食べる方法よりも『食事バランスガイド』による食事法のほうが、たしかであるという科学的根拠が揃ったということ。 ただし、絵に描いた餅よりも小さなきびだんごのほうが腹の足しになるように、まったく実行不可能な『食事バランスガイド』よりも、多少は実行可能性のある『一日三〇食品』のほうが、ビジネスパーソンにとっては有益であると、私は考える。 『一日三〇食品』法の神髄は「食材の数」ではない。「できるだけ多種類の食材を食べる」という点にある。これを心がけよう。やってみるとわかるが、食材の数を増やすためには、野菜の種類を増やすしかテがない。「肉で3種類」とか「魚で5種類」とは至難の業。つまりは「多種類の野菜を食べよう」という提案になる。 ただし、『一日三〇食品』を実行すれば健康になれる!などと早合点しないでもらいたい。これは、『日本人の食事摂取基準2015』や『食事バランスガイド』を実行することができない人の「次善の策」「次々善の策」である。大きな効果を期待できるわけではないが、何もやらないよりはずっといい、という程度であると自覚してほしい。 このコラムでは(今回のような)ビジネスパーソンが実行可能な健康法、とりわけ食事法をご紹介していきたい。最後に書いたように、これさえ実行すれば健康・長寿が実現できるなどと思い込まないでほしい。健康や食事に関する知識レベルや実践レベルは、個人によって天と地ほどの差がある。そのレベルを仮に「松・竹・梅」としよう。理想的には「松」の方法がいいことはわかっていても、それを「梅」の人に提供しても効果的ではない。ここでは「梅」の人を「竹」の方向に導く実践的な情報を提供する。できることが一つでもあればぜひ実行していただきたいと願う。 次回は「何を、どれだけ」のうちの「どれだけ=量」の問題を取り上げたいと思う。

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    大橋巨泉のがん闘病に何を学ぶ

    たタレント、大橋巨泉さんが11年にも及ぶがん闘病の末、82歳で亡くなった。死後、妻の寿々子さんが在宅医療の医師によるモルヒネ系鎮痛剤の「誤投与」を訴え、物議を醸した。巨泉さんの死は「天命」だったのか、「無念」だったのか。その是非を問う。

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    患者は厚かましくても構わない、大橋巨泉「殺された」報道に思うこと

    上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 大橋巨泉さんの最期が話題だ。 週刊現代8月6日号には「独占!巨泉さん家族の怒り「あの医者、あの薬に殺された」~無念の死。最後は寝たきりに」という記事が掲載されている。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49309 この記事によれば、巨泉さんは、国立がん研究センターを退院し、在宅医療を受けるつもりだったが、がんの終末期医療と勘違いした在宅医が、過剰にモルヒネ製剤を処方し、亡くなってしまったらしい。故大橋巨泉氏の遺影と祭壇 =9月5日、東京都港区 この話を聞くと、ほとんどの読者は「在宅医療担当医はとんでもない男だ」と思われるだろう。巨泉さんは有名人だから、この医師も慎重な対応をしたはずだ。それなのに、患者・家族に、ここまで不評を買っているのだから、この医師に、何らかの落ち度があった可能性は高い。 ただ、今回のケースを、この医師個人の資質の問題で片付かせてしまっていいのだろうか。週刊現代の記事によると、巨泉さんはモルヒネ系の薬を飲み始めて2日目には、「フラフラして一人で歩けなくなり」、3日目になると「二人がかりじゃないと支えられないほど」になっている。そして、5日目には在宅医から「今日がヤマです」と告げられている。その後、集中治療室に担ぎ込まれて、亡くなった。 週刊現代によれば、巨泉さんが使用した麻薬はMSコンチンやオプソだったらしい。 MSコンチンとは、モルヒネの徐放剤だ。10~20mgの12時間毎の投与から始め、痛みがコントロールされるまで、一日量を40mg、60mg、80mgという風に増量していく。オプソは、急に痛みが強くなったときに、一日に必要なモルヒネの量の6分の1程度を補充する速放モルヒネ製剤だ。 このように少量から開始して、増量していくのは、研修医でも知っている常識だ。在宅医が、このルールを破っていたなら問題だが、おそらくそうではないだろう。 巨泉さんの場合、モルヒネ投与2日目から、体調の異常が出現した。週刊現代では、このことを問題視している。ただ、モルヒネは投与開始時に悪心、嘔吐、傾眠傾向、便秘などの副作用が生じることが多い。多くの場合、モルヒネを続けるうちに、体は慣れてくる。便秘以外の副作用は、やがて改善する。多くの医師は電話よりメールや手紙を好む モルヒネ開始時の副作用には、大きな個人差がある。その評価は、時に、経験豊富な主治医でも難しいことがある。 週刊現代によれば、国立がん研究センターの二人の主治医は、「異口同音に『痛み止め(モルヒネ)の使用法に問題がありそうだ』と、再入院をすすめた」そうだ。状況が切迫していたのだろう。 ただ、この部分を読んで、私は「そんなことを言うくらいなら、なぜ、国立がん研究センターの医師が、電話で直接、在宅医と連絡と取り合わなかったのだろうか」と疑問を感じる。 国立がん研究センターの医師は、がんの専門家だ。在宅医よりも、モルヒネの管理には慣れているだろう。モルヒネには拮抗薬が存在することも知っていたはずだ。巨泉さんの死因に麻薬の過量投与が絡んでいるとすれば、早い段階で拮抗薬を投与すれば、救命できていた可能性もある。画像はイメージです 私は、巨泉さんの本当に死因を知らない。週刊現代の記事を額面通りに受け取れないところもある。ただ、医療は結果が全てだ。巨泉さんとご家族が、巨泉さんの亡くなり方に納得していなかったことは間違いない。どうすれば、このような不幸を繰り返さずに済むのだろうか。 私は当事者間のコミュニケーションが重要だと思う。特に、専門病院から在宅医療に患者を紹介するときなど、主治医間で密にやりとりする必要がある。「診療情報提供書」を送って終わりではなく、疑問があれば、すぐにスマホで話したり、LINEやフェースブックメッセンジャーでやりとりすればいい。そうすれば、臨機応変な対応も可能になる。 ところが、これが難しい。多くの若き医師を指導した経験から言えば、多くの医師は、電話で直接やりとりするより、メールや手紙で情報を送ることを好む。先方に情報を提供したという証拠が残るため、厚労省が「診療情報提供書」を介したやりとりを推奨していることもあろうが、直接、見知らぬ人(医師)と話すのは精神的なストレスが強く、回避しているのが本当のところだろう。医師のコミュニケーション力に問題があるのだが、この状況は一朝一夕では変わらない。患者・家族が賢くならねばならない。 巨泉さんのご家族も、遠慮せず、「先生同士でもっと話して下さい。先方の携帯番号をお伝えしますから、かけてください」くらい言えば良かったのではないだろか。 昨今、在宅で終末を迎えることを希望する患者が増えている。在宅治療では、専門病院から在宅専門医に主治医が交代することが多い。また、24時間、看護師がつきそう入院治療と比較して、患者の細かい変化は見落としがちだ。どうすれば、安全で満足できる治療を受けることが出来るか。それは、関係者の間で密なコミュニケーションをとることだ。医師任せにすべきではない。厚かましいと思われてもいい。どんどん、主治医に希望を伝えることだ。

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    40歳、モーレツ仕事人間ががんになった

    高山知朗(IT企業経営者)30歳でIT企業を興して経営者となった高山知朗さん。ところが猛烈に働いていた40歳の時に脳腫瘍、さらに42歳の時に白血病と、2回の異なるがんを経験します。5年生存率はそれぞれ25%と40%、かけ合わせると10%という低い確率です。『治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ』では高山さんが2度の闘病経験から学んだ、病を生き抜くヒントを丁寧に解説しています。今回はその中から「前書き」を試し読みとして公開します。生存率10%を生き抜いた高山さんが選んだ、がん治療法とは!?*  *  * 私は40代前半の頃、悪性脳腫瘍と白血病の2回のがんを経験しました。30歳で株式会社オーシャンブリッジというIT関連会社を起業した私は、経営者として事業拡大に邁進してきました。「会社経営=自分の人生」のような生き方をしてきました。 そんな中、40歳で悪性脳腫瘍を告知されたのです。娘がまだ1歳の頃でした。 その闘病から2年後、仕事に復帰してまた忙しくしているときに、2度目のがんである白血病・悪性リンパ腫を告知されました。脳腫瘍の再発ではなく、全く別のがんでした。 がんでよく言われる「5年生存率」は、脳腫瘍では25%、白血病では40%でした。かけ合わせると10%です。つまり10人に1人しか5年生きられないという低い確率です。 その2回のがんを、手術、放射線治療、抗がん剤治療のいわゆる「がんの三大治療」で乗り越えてきました。脳腫瘍の手術からは区切りとなる5年が経過し、白血病の入院治療終了からはもうすぐ3年が経過しますが、再発の兆候も全くなく、普通の生活を送っています。 私はがん治療においては代替療法、民間療法、食事療法などの類(たぐい)には頼っていません。退院後、治療による副作用や後遺症の軽減、免疫力の回復のために東洋医学を一部取り入れていますが、がんそのものの治療については、完全にがんの三大治療だけを信じました。 今、日本では2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで死ぬと言われています。そしてマスメディアでは、有名人のがんに関するニュースに加え、「抗がん剤は効かない」「がんは放置すべき」など、西洋医学を否定するような意見が報道されています。そうした報道に不安を覚える人、混乱する人も少なくないのではと思います。「もし自分ががんになったときには、どうすればいいんだろう?」と。 この本は、私が2回のがん闘病経験から学んだ、がんを受け入れ、立ち向かい、克服するための具体的な心構えをまとめたものです。 まず第一章、第二章では、私自身の脳腫瘍、白血病の闘病体験を書いています。生存率10%に入るために私が考えたこと、やったことの記録です。 そして第三章では、その闘病体験から学んだ「気づき」や「知恵」を、できるだけ多くの方に参考にしていただけるようにまとめています。病院選び、医師とのコミュニケーション、入院、手術、抗がん剤治療、副作用、治療費などの闘病の段階ごとに、みなさんの参考にしていただけそうなポイントをまとめました。 第四章では、私が闘病中に精神的な苦しみの中で気づいていった、がんになることの意味、がんを引き寄せてしまう考え方とその手放し方、そして人生のシナリオなどについても書いています。 この本の内容は私個人が経験したこと、考えたことですので、全てのがん患者さんに当てはまるわけではありません。でも、実際に2回のがん闘病を経験して、そこから学んだことの中には、他の患者さんやご家族にとって多少でも参考にしていただけることがあるのではないかと考えています。 この本が、がんと闘っている患者さんやそのご家族をはじめ、健康に漠然とした不安を感じているみなさんに、少しでもお役に立つのであれば幸いです。一人でも多くの患者さんががんを乗り越えて幸せな人生を歩まれることを願っています。 (高山知朗『治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ』に続く)たかやま・のりあき 1971年、長野県伊那市生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)戦略グループにて各種コンサルティングプロジェクトに従事。その後Web関連ベンチャーを経て、2001年、株式会社オーシャンブリッジを設立し、代表取締役社長に就任。現在、同社代表取締役会長。海外のソフトウェアやクラウドサービスを発掘してローカライズ(日本語化)し、日本企業向けに販売する事業を展開。11年7月に悪性脳腫瘍(グリオーマ)摘出手術を受ける。13年5月には白血病・悪性リンパ腫を発症し、7ヶ月間の入院による抗がん剤治療を経て、現在維持療法中。2度のがん闘病の記録をつぶさにつづったブログは、がん患者とその家族から「勇気と希望がわいた」「冷静で客観的な文章で分かりやすい」と反響が大きく、全国の医師からのアクセスも多い。オーシャンブリッジ高山のブログ http://www.oceanbridge.jp/taka/関連記事■ 病院選びは命の長さを選ぶのと同じ■ 人間ドッグだけでがんは見つからない■ 受験生を上手に褒めるちょっとしたコツとは■ 「美容」にまつわるメモ ひとり暮しの手帖

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    大橋巨泉の誤投与はきっと防げた  「これも天命」と思える医師選び

    から死亡の連絡があったのだという。医師や看護婦はその急変のについての経緯を十分に説明しきれず、母親は医療ミスを疑った。実際に医療ミスによる死だったかは分からないのだが、病院側の対応に強い不信感が残ったのは事実だ。それでも、相談した弁護士や専門家は「医療ミスは立証が難しい」として訴訟など法的な抗議を起こすには至らず、泣き寝入りしたという。死の後に医師への不信感が残ったという意味では巨泉さんのケースと同じだ。 6月、歌舞伎役者の市川海老蔵さんは、妻の小林麻央さんが乳ガンであることを発表。海老蔵さんはマスコミへの追跡取材を強く拒んでいたが、これは妻への配慮だけでなく、病院側との距離感も理由だったといわれる。実際にその後、一部週刊誌では治療方針を巡って海老蔵さんが一部の医師と対立、転院したことが伝えられた。信頼できる医師でなかったらそういう選択肢もあるから、記者が情報を小出しにすることを嫌がったのかもしれない。 筆者がかつてテレビマンだった時代、現場で優しく声をかけてくれた元フジテレビのアナウンサーの故・逸見政孝さんは、仕事合間の雑談の中でたまたま「医師選びはしっかりとね」と言っていたのだが、93年9月にテレビカメラの前で「私がいま侵されている病気の名前、病名はガンです」と告白。闘病の決意表明をした。医師選びに賢明だった逸見さんだけに、その覚悟の強さだけでなく、信頼できる医者が付いていることを感じたものだ。軽視できない「かかりつけ医」の役割 ただ、有名タレントのようなセレブでもなければ、私たち一般人が海老蔵さんや逸見さんのように有能な医者探しをするというのはなかなか難しい。大病院に行ったところで、どの医者が担当するかは分からず、それは病院側に託される。 どんな人にもあるのが生命への執着で、それこそが生きている証なのだが、それと対峙する医師は大きな責任を負うだけに「医療ミス」の可能性については隠ぺいしやすいのが現実だ。巨泉さんのようにミスがすぐに分かった話ばかりではない。あの東京女子医大でさえも過去、手術中に亡くなった患者のカルテ改ざんがあったほどだ。これは遺族が医療ミスを疑って調査を申し出たことで、警察も捜査に踏み切ったものだった。 こうしたことをゼロにすることは私たち自身の手では不可能なことで、揉めたところで死者が帰ってくるわけでもない、あくまで事後のトラブルに過ぎず、結局は名医だろうがヤブ医者だろうが私たちは医師たちに我が命を委ねる、死ぬ可能性も含めてそれを委ねるという覚悟に立たされることに変わりはない。 その点で軽視できないのが「かかりつけ」の医者の役割だ。変な例えだが、今日初めて乗った新車では小さな異常があっても気づきにくいが、3年間乗り続けた愛車なら、微細な違和感も気付きやすい。日ごろから自分の体調をデータとして持っている「かかりつけ」の医師は少なくとも最初のチェックゲートになる可能性は高く、もっと重要視されてもいいのではないか。 かかりつけ医は北欧のデンマークなどが法的な制度を厳格に運用している。これは患者がまずかかりつけ医の診察を経ないと専門医療を受診できないというもの。ヨーロッパではこのかかりつけ医の方が高収入であるケースも多く、中でも先進のデンマークでは自分で治せる軽い風邪程度の病気については病院が対応せず、薬も処方しない。代わりに大きな手術や難しい治療が必要なものは無料、すべて税金で医療費をまかなっていることで、入院患者を減らすことにも成功。眼科や耳鼻科などは例外とするなど柔軟な対応もとっている。日本では些細なことでも病院を利用するため、ちょっとした症状でも多数の検査をしてしまい、病院内は常に混雑。重い症状の人の手当てが遅れ、慢性的な医師不足にも陥っている。その流れでは医師の技量も向上しにくく、高齢化社会に嫌でも向き合う日本にとっては検討すべき重要な話だ。命を預けられる医師と出会えてましたか? 巨泉さんの担当医が、どのぐらい巨泉さんと付き合いのあった医師なのかは分からないが、重病には相応の慎重な判断が求められ、それには医師の環境も含めた国民全員の意識改革や議論が必要かもしれない。 筆者も実は長年の「かかりつけ医」に頼っていて、逆流性食道炎や過敏性腸炎を患っていたことで、少しでも具合が悪くなると「とりあえず診察」をしてもらってきた。その点では医師を酷使しすぎたと反省する次第だが、6年前に医師が亡くなって病院自体が閉院。そうなると長年の治療履歴が書かれたカルテ(医療情報)が『特別な事情がないかぎり渡せない』と、別な病院への資料提出も拒まれてしまった。マイナンバー制度の導入でカルテの共有ができるようになったということでは、ひと安心する部分もあるが、新たなかかりつけ医が定着するまでの間は非常に不安であり、我が身をもって日本が「かかりつけ医」の問題を認識した次第だ。新たな医師にイチから病状を説明しても、それはあくまで表面的な症状を伝えているにすぎず、きちんと理解してもらえるのか疑問だった。いまも新たな担当医には、その肩書きだけでは見えない「信頼」を構築できているとは言いきれず、いつなんどきそれが「薬の過剰投与」みたいなことになるかとも思ってしまう。 もし、信頼できる「かかりつけ医」にすべてを預ける覚悟が私にあれば、たとえ医療ミスで死んだとしても、死の瞬間「先生に任せたのだから、これも天命」と思える気がするが、そうでないなら遺族ともども無念極まりない。巨泉さんの死については、医学的な知識がないからその治療方法の是非にまで触れることはできないが、ひとつ問えるとすれば、「命を預けられる医師と出会えてましたか」ということ。医師も人間である以上、ミスは起こしてしまうもの。それだけに我々は必要とするのは、医師との信頼をどうやって作っていくか、である。制度の見直しは急務だと思う。

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    知らないうちに進行する「あの病気のリスク」

    森田豊(医療ジャーナリスト)健康診断「問題なし」でも要注意!40代になると、身体に無理がきかなくなり、さまざまな不調を感じる人が多いだろう。若さでカバーできた20代や30代と同じ生活をしていると、病気にかかるリスクも高くなる。不摂生を続けると、どんな病気の危険性があるのか。そして、病気にならないために普段の生活をどのように見直すべきか、アドバイスをいただいた。 脳梗塞 ~その前兆を見逃すな!~ 脳梗塞とは、脳の血管を血の塊である血栓が塞ぎ、脳細胞の一部が死んでしまう病気です。血液が脳に届かなくなり、ある日突然バッタリ倒れることも。 脳梗塞の患者数は、この30年で3倍以上に増えています。その背景にあるのは、食生活が豊かになったことによる糖尿病や高脂血症、肥満の増加。その結果、血管にコレステロールや脂肪が溜まり、動脈硬化を起こす人が増えているのです。 突然襲ってくるイメージの強い脳梗塞ですが、実は本人が気づかないだけで、前兆がある場合も多いのです。それを見逃さないよう気をつけることが、脳梗塞のリスクを回避する何よりの方法と言えるでしょう。 チェックリストのうち、とくにリスクが高いのは「左右どちらかの身体や手足がしびれて動かせない」「足がふらつく」「ろれつが回らない」です。これに当てはまる人は、要注意。すでに脳に血栓ができているのに、まだ症状が出ていない「隠れ脳梗塞」の可能性があります。 隠れ脳梗塞は自覚症状がなく、症状が現われてもごく短時間で回復するため、本人も「気のせいだったのか」と放置しがちです。しかし、隠れ脳梗塞ができて数年以内に、約3割の人が脳梗塞を起こしているというデータがあります。本格的な脳梗塞を発症したら、4時間半以内に専門的な治療を受ければ予後が良好になる可能性が高まります。ただ、そうなる前に先ほどの3つの項目に当てはまる人は、一度脳ドック(MRI検査)を受診することを勧めます。 脳梗塞の前兆は、顔にも現われます。鏡の前でにっこり笑ってみてください。片方の唇が下がり、顔がゆがんでいたら、軽い麻痺が起こっている証拠です。顔の表情に左右差があるときは、危険信号と考えてください。 他にも、「ラリルレロ」「パピプペポ」が発音しづらくないか、などが脳梗塞の前兆に気づくきっかけになります。定期的にチェックをして、顔や手、言葉に異変があれば脳梗塞を疑い、病院で診察を受けましょう。 なお、朝と入浴時は脳梗塞を起こしやすいので注意しましょう。就寝中の発汗や長湯による脱水状態によって、血液がドロドロになって血栓ができやすくなるのです。予防のために、就寝時と起床時、入浴の前後に、必ず水分補給する習慣をつけてください。脳梗塞チェックリスト1.文字が上手く書けなくなるなど、手先が不器用になったと感じる。2. 手先に力が入りにくいことがある。3.左右どちらかの身体がしびれて動かせない。震えが止まらない。4.立ち上がろうとして足がもつれたり、階段を登るときつまずいたりする。5.突然ろれつが回らなくなる。6.笑顔になったとき、片方の唇が下がっている。7.顔の表情に左右差がある。8.最近、もの忘れがひどくなった。9.時々、めまいや耳鳴りがする。10.早口で話をされると理解しにくい。難解な本を読んでも頭に入ってこない。11.食べ物を飲み込みにくく感じる。むせやすい。12.視野の半分が欠けてみえることがある。13.突然冷や汗が出たり、動悸が出たりすることがある。糖尿病 ~健診OKでも安心はできない~糖尿病 ~健診OKでも安心はできない~ 40代になると、男女ともに糖尿病になる人が増えます。厚生労働省の2012年の「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる人の数は約950万人、可能性を否定できない人は1,100人に上ります。40歳以上に限れば、3人に1人は糖尿病もしくはその予備軍だというデータもあります。 糖尿病予備軍とは、「血糖値が正常よりは高いが、糖尿病と診断される値よりは低い状態」の人たちです。正常値は空腹時の血糖値が110㎎/dl未満で、食後の血糖値が140㎎/dl未満。糖尿病と診断されるのは、空腹時の血糖値が126㎎/dl以上、または食後の血糖値が200/dl以上です。この間にいるのが“予備軍”になるわけですが、会社の健康診断で「問題なし」と言われた人も安心はできません。一般的な健診では空腹時の血糖値しか測定しないので、食後の血糖値が上がりやすい“隠れ糖尿病”の人は見逃されているかもしれないからです。 しかも糖尿病は、ある程度進行するまで自覚症状がありません。典型的な症状とされる「のどが渇く」「体重が減って疲れやすくなる」などは、かなり進行した段階で現われるもの。知らないうちに病状を悪化させないよう、チェックリストで隠れ糖尿病のリスクを確認しましょう。 もし4項目以上当てはまったら、病院の内科で「ブドウ糖負荷試験」という検査を受けることをお勧めします。これは食後の血糖値の変化を正確に測るもので、ブドウ糖を摂取し、30分後、1時間後、2時間後などと時間を置いて、数回にわたり血糖値を測定します。 検査によって、自分が隠れ糖尿病だと判明したら、病気を進行させないよう、食生活を見直すことが大切です。まずは、食物繊維の多い野菜を多くとること。そして、血糖値の急激な上昇を抑える効果のある酢を使ったメニューを積極的に取り入れることなどです。 食べる順番にも気をつけましょう。最初に、血糖値が上がりにくい肉や野菜類をゆっくり食べ、最後に、血糖値が上がりやすいごはんやパンを食べるようにしましょう。 食品のカロリーやおおよその摂取量を把握しながら、食べすぎを防ぐことも必要。栄養の知識を身につければ、食事を楽しみながら血糖値をコントロールすることも可能になります。糖尿病チェックリスト1.肉親に糖尿病患者がいる。2.肥満である。3.40歳以上である。4.運動不足である。5.食べたいものを好きなだけ食べている。6.お酒をよく飲む。飲むときは、よく食べる。7.食事が不規則。8.朝食を抜くことが多い。9.甘いものが好き。10.ストレスを溜めている。※0~3は経過観察。4~6個なら医師に相談を。7個以上は、精密検査を受けてください。五十肩 ~女性はとくに注意~五十肩 ~女性はとくに注意~ 重い荷物を持ったり、ゴルフの素振りをした瞬間、肩に激痛が走ったことはないでしょうか。俗に言う「五十肩」の症状ですが、実際には40代にも多く見られます。デスクワーク中心で運動量が少ない人も、五十肩になりやすいのです。 五十肩(正式名称は「肩関節周囲炎」)になるのは、長年腕や肩を動かすうちに、肩関節にある回かい旋せん腱けん板ばんが疲労してもろくなり、周辺組織が炎症を起こすから。つまり、関節の老化です。 チェックリストの2番目から6番目の動作で痛みを感じたら五十肩の疑いがあります。 とはいえ、痛みが出ても適切な治療をすれば症状は和らぎます。日頃からストレッチや肩の運動をするのも効果的です。たとえば、肩のリハビリに有効なのが、お風呂で行なう「指階段療法」。湯船に肩まで浸かって身体を温めたら、痛むほうの腕の人差し指と中指を壁に当て、2本の指で歩くようにして、少しずつ腕を上げていきます。これ以上は上がらない地点まできたら、腕に身体を預けるように寄りかかり、10秒キープ。毎日続ければ肩や腕の筋肉が伸びて、肩の稼働域が広がります。五十肩チェックリスト1.40歳以上である。2.両腕を真上に上げると痛い、またはスムーズにできない。3.両腕を肩の高さで上下させると痛い、4.またはスムーズにできない。5.両腕を曲げて、外に開くと痛い、またはスムーズにできない。6.両腕を腰の後ろで組むと痛い、またはスムーズにできない。7.両腕を首の後ろで組むと痛い、またはスムーズにできない。8.日頃、運動をほとんどしていない。9.デスクワークが多く、身体を動かすことが少ない。10.ひどい肩こりである。11.左右の肩の形が違う。※1に該当し、2~6のうちの1つでもあてはまれば、「五十肩」の疑いがあります。がん ~「前立腺がん」が増えている!?~がん ~「前立腺がん」が増えている!?~ がんは日本人の死因の第1位を占める病気です。1950年には全死亡者数の7%に過ぎませんでしたが、81年以降は死因トップを走り続け、2013年の死亡者数は全体の3割を超える36万人強まで増加しました。つまり、日本人の3人に1人はがんで亡くなっているのです。 身体が正常な状態であれば、約60兆個の細胞の数はほぼ一定に保たれます。しかし、食生活や生活環境などさまざまな理由で遺伝子が突然変異すると、細胞の数が無制限に増えてしまう。これが「がん」であり、ほぼすべての臓器にできる可能性があります。 最新の統計によれば、がんの中で最も死亡者が多いのは「肺がん」。2位が「大腸がん」、3番目が「胃がん」です 。※国立研究開発法人国立がん研究センター 2015年のがん罹患数、死亡数予測より ただし、1位~3位には入っておりませんが、中でも注意したいのは近年患者数が伸びている「前立腺がん」。死亡者数は2015年で12,200人に上ると予測され、2000年の2倍以上、1995年の約3倍に上ると推定されています。 前立腺がんが急増した理由は、いくつかあります。まず、日本人の寿命が延びたこと。前立腺がんは比較的進行が遅く、年齢が上がるごとに発症率が高まります。 さらに、日本人の食生活が欧米化し、動物性脂肪を多く摂るようになったことも原因の一つでしょう。 一方で、近年は血液検査だけで前立腺がんを早期発見できる「PSA検査」が普及し、患者が顕在化しやすくなったという背景もあります。 いずれにしても、がんで命を落とさないためには、何よりも早期発見・早期治療が肝心。あなたの前立腺がんのリスクはどの程度か、チェックリストで確かめてください。 どのがんの予防にも効果的なのは、食生活の改善です。肉類の食べすぎを避け、緑黄色野菜を多く摂るよう心がけてください。洋風の食事よりは、和食のほうがバランスよく野菜を摂れるのでお勧めです。 また、大豆や緑茶などは、前立腺がんの予防に効果的と言われていますので、普段の食事に積極的に取り入れましょう。 適度な運動を習慣づけ、肥満にならないよう心がけることも、がんのリスク低下につながります。前立腺がんチェックリスト1.50歳以上である。2.父親や兄弟など、血縁者に前立腺がんの患者がいる。3.チーズ、牛乳などの乳製品が好きだ。4.肉類など、動物性脂肪が多い食べ物が好きでよく食べる。5.緑黄色野菜が嫌いであまり食べない。6.日頃、運動をほとんどしていない。7.肥満である。8.性活動が活発である。9.生活パターンが一定しておらず、不規則な生活をしている。10.ストレスが多い。 ※3個以上当てはまれば経過観察。4個以上もしくは2に該当する人はなるべく早くがん検診を受けましょう。骨粗しょう症 ~老後の寝たきりにつながる~骨粗しょう症 ~老後の寝たきりにつながる~ 骨粗しょう症は、骨量の低下によって骨が弱くなる病気です。主な原因は加齢で、40歳以上の骨粗しょう症患者数は1,280万人。そのうち女性は980万人、男性は300万人と推定されます。骨粗しょう症は女性がなりやすいイメージがありますが、男性の患者数も決して少なくないことがわかります。 高齢化社会において、骨粗しょう症は大きな問題。高齢者が寝たきりになる原因の約20%が「骨折」であり、それをきっかけに認知症が進行するケースも多いのです。「まだ若いから大丈夫」と思うかもしれませんが、骨量の低下は40代から始まります。 予防のためにとくに大事なのが、食事。カルシウムは1日に800㎎の摂取を目標とし、乳製品や大豆製品、海草類を積極的に食べましょう。また、ビタミンBやマグネシウムも欠かせません。前者は鮭やサンマなどの魚に、後者は玄米や豆類に多く含まれます。 なお、リンを含むスナック菓子やインスタント食品を摂りすぎると、カルシウムが尿から排泄されやすくなるので注意してください。骨粗しょう症チェックリスト1.55歳以上である。2.女性の場合、閉経している。3.細身の体型である。4.ちょっとしたことで骨折したことがある。5.最近、背が縮んだ。6.あるいは背中や腰が曲がってきたと感じる。7.乳製品や大豆製品をあまり食べない。8.運動不足である。※3つ以上あてはまる人は、骨量の低下に警戒が必要です。取材・構成 塚田有香もりた・ゆたか 医療ジャーナリスト。1963年、東京都生まれ。秋田大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京大学医学部附属病院助手、米国ハーバード大学医学部専任講師、埼玉県立がんセンター医長、板橋中央総合病院部長を経て、現職。医師として現場に立ちながら、テレビや雑誌で医療情報を発信。近著に『今すぐ「それ」をやめなさい!』(すばる舎)など。関連記事■ 「間違いだらけの食習慣」を見直し、若く健康な身体を手に入れよう■ 疲れがスッキリ取れる!  入浴の正解■ 気になるあの「食のウワサ」はウソ?本当?

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    40代からの「カラダ」見直し術

    白澤卓二(白澤抗加齢医学研究所所長)健康な人vs.病気になる人の違いは「食と背骨」にあった!「体力の衰えを感じる」「メタボが気になる」「仕事で無理が利かなくなった」など、40代に近づくにつれ、身体の変調を来す人は多いだろう。基礎代謝が落ちてくる40代以降は、それまでと同じ生活をしていては疲れが溜まる一方。では、その後の人生を健康に過ごすために、今、何をすればいいのか、抗加齢の専門家である白澤卓二先生に話をうかがった。 40代は、今までの「ツケ」を払う時期 これまでと同じ生活をしているのに、最近、疲れやすくなった、お腹回りの肉が目立ってきた、慢性的な腰痛や肩こりに悩まされる――40歳が近づいてくる頃から、そんなことを感じる人は多いのではないでしょうか。 40代は、身体の機能が老いに向かい始める年頃。基礎代謝、ホルモン、体力、免疫力の低下が顕著に進んできます。 また、疲れやすくなるなどの不調の原因は、今の生活だけではなく、20、30代の生活習慣が蓄積した結果でもあります。若い頃は、表に出てこなかったものが、いよいよ表面化してくるのです。 さらに、職場での責任が増え、中間管理職として部下を抱え、ストレスも増えてきます。このように、40代は多様な要因が重なって、身体の変調を来しやすい人生のターニングポイントでもあるのです。 それに加えて、現代人を取り囲む生活環境は実に過酷ですこの半世紀ほどで人類の生活環境は劇的に変わりました。自動車や電車などの交通機関が発達し、身体を動かさずして長距離を移動できるようになりました。その結果、現代人の足腰は衰える一方です。 食べ物についても、人類史上例を見ない飽食の時代を迎えた一方、品種改良や農薬、添加物など、別の意味での「食の危機」にさらされています。 また、ここわずか十数年で急速に進んだIT化で、一日中座りっぱなしでパソコンやスマホの画面とにらみ合って過ごす人が急増しています。 こうした生活環境は「当たり前」のように思えますが、長い人類の歴史から見ればつい最近のこと。人間の身体は、その生活にまだ対応しきれていないのです。 そのことに気づかず、身体を動かさずラクをして、食べたい物を食べて、垂れ流しの情報におぼれていれば、この先の自分の健康はとうてい守ることはできません。糖尿病や高血圧などの生活習慣病も忍び寄ってくることとなり、これらは、がん、心筋梗塞、脳卒中などにもつながって、50代での突然死を引き起こすこともあります。 40代はまさに、これまでの生活習慣を見直し、自分の身体と向き合うのに最適な時期でしょう。それをするかしないかで、今後の人生は大きく変わってきます。 とはいえ、難しいことをする必要はなく、日常生活の中で少し気をつければ変えられることばかり。まずは、その基本となる「運動」と「食」について説明します。筋トレより「歩く」ほうが効果的筋トレより「歩く」ほうが効果的 現代人の多くは、便利な生活に慣れきって運動不足の傾向にあります。とくに長年、デスクワークを続けているビジネスマンは、足腰の衰えが引き起こす背骨のゆがみ、それを原因とする腰痛や肩こりが顕著になってきます。 40代が近づいてきたら意識してほしいのが「背骨」回りを鍛えることです。40歳頃から、背骨の骨と骨の間にある椎間板というクッション組織が軟化してきます。それによって椎間板が骨に押し出されて神経を刺激し、腰痛を発症しやすくなるのです。椎間板組織の変性は加齢現象ですが、背骨の筋肉がしっかりさえしていれば、筋肉が骨を支えるので椎間板を守ることができるのです。 背骨回りを守る運動として効果的なのが「歩く」ことです。足を左右交互に出して骨盤を回転させることで、背骨のゆがみが矯正されていきます。また、脳への血流が良くなるので脳の機能が活性化し、カロリーも消費されます。単純なことですが、「歩く」ことは最良の健康法なのです。 また、電車通勤の方にお勧めなのが、あえて大きなターミナル駅を乗換駅にすること。歩く距離が自然に増えることに加え、階段を利用することで、階段の上り下りをエクササイズにできるのです。階段の上り下りは、平地を歩くのに比べて、下半身の筋肉と骨におよそ3倍の負荷がかかります。このように少し負荷のかかる階段エクササイズを、日常生活に効果的に取り入れるといいでしょう。 一方、筋トレはあまりお勧めしません。筋トレは一方向に筋肉を使う反復運動なので、偏った筋肉がつきがち。やはり、バランス良く身体を使うことが大切です。身近にある意外な「ジャンクフード」とは?身近にある意外な「ジャンクフード」とは? 食に関してはさまざまな健康習慣がありますが、短期間でてきめんに効果が現われやすいのが、ジャンクフードを避ける食生活に切り替えることです。 ジャンクフードと言うと、スナック菓子や炭酸飲料などが思い浮かびますが、意外と知られていないのが「パン」です。たとえば今、日本で最も多く流通している、ふわふわもっちりした食感のパン。しかし本来、パンは硬くてパサパサしているものです。この柔らかさは、人工的にグルテン含有量が増強された、品種改良された小麦に起因します。それを長い間食べ続けていれば、身体が不調を起こすのも当然かもしれません。 それでは、私たちはこれからどんな食べ物を摂ればいいのでしょうか。答えは簡単。日本人の伝統的な食生活に戻ることです。ご飯(できれば玄米)、野菜、魚介、豆、海藻類を中心とした食事です。 人生後半戦にさしかかる40代――これからの生き方は、自分の身体の変化に向き合い、できるところから少しずつでも行動を変えていく。そして、世の中の「当たり前」を疑い、その異常さを自覚して、自分の頭で考え、バランスを取っていくことが肝要です。こうした知性ある健康管理が、人生後半を健康に、楽しく過ごす秘訣なのです。《取材・構成:麻生泰子》しらさわ・たくじ 白澤抗加齢医学研究所所長・医学博士。1958年、神奈川県生まれ。1982年に千葉大学医学部を卒業後、東京都老人総合研究所分子病理部門研究員、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーなどを経て、2007~15年、順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。15年より、米国ミシガン大学医学部客員教授。専門は、寿命制御遺伝子の分子遺伝子学、アルツハイマー病の分子生物学・分子生理学、アスリートの遺伝子研究など。テレビ、雑誌、講演、書籍などでの老化防止対策のわかりやすい解説に定評がある。 日本抗加齢(アンチエイジング)医学会理事。主な著書に『100歳までボケない101の方法』(文春新書)、『2週間で効果がでる!〈白澤式〉ケトン食事法j(かんき出版)、『「砂糖」をやめれば10歳若返る』(KKベストセラーズ)など。

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    大橋巨泉氏のモルヒネ投与医師はニキビ治療専門家だった

    た巨泉さんは、国立がん研究センターで放射線治療などを受けた後、今年4月に退院し、千葉県内の自宅で在宅医療を受けていた。2001年8月7日、参院選後の臨時国会で初登院した民主党の大橋巨泉さん。半年で辞職した=東京都千代田区 それを担ったのが、近所の在宅診療所の院長であるA医師だった。A氏は、巨泉さんが「背中が痛い」というと、モルヒネ系の鎮痛剤を処方したという。巨泉さんはその後、一人で歩けなくなるほど体力が低下し、再びがんセンターに入院。それから約3か月後にこの世を去った。寿々子さんは今も鎮痛剤の服用を後悔しているという。巨泉さんの親族が語る。「親族はみな後悔の気持ちでいっぱいです。あとで調べたら、A氏は皮膚科や美容形成外科の分野で有名な医師だったと知り、驚きました」 A氏はもともと防衛医科大学校病院の形成外科医として勤務後、都内に美容皮膚科クリニックを開業。重症のニキビに対する光線力学療法で話題を呼び、ニキビ治療に関する著書も出版するなど、業界内では有名な存在だった。 だが、その得意分野においてもこんな過去があった。防衛医大病院の形成外科医時代の1998年に、あざの治療をめぐって医療事故訴訟を起こされていたのである。原告であるフリーライターの井上静氏によれば、裁判では「十分な説明がなされないまま手術をした診療契約上の債務不履行にあたる」として、勤務する防衛医大=国に、500万円の賠償命令が下された。井上氏はこういう。「私は背中の手術だったため、命に影響はなかったが、巨泉さんは違う。形成外科医ががん患者の在宅医療に携わっているとは思いもよりませんでした」 今回の背景には、高齢化が進むなかで注目を集める「在宅医療」の構造的問題があると、この分野のパイオニアとして知られる長尾クリニックの長尾和宏院長がいう。「多くの医師が在宅医療に続々参入していますが、終末期医療や在宅緩和ケアに関する教育体制が追いついていません。皮膚科や眼科など緩和医療の研鑽を積んでいない医師が、末期がんの在宅患者を診ている場合もあるのが実情です」 A氏が経営する診療所に取材すると、「(巨泉さんのことも裁判のことも)何も答えられない」というのみだった。 終末期における治療には、慎重な対応が求められる。関連記事■ 水原希子 天安門中指写真に「いいね!」で謝罪の背景■ 嵐・二宮と熱愛報道 伊藤綾子アナに松潤ファン激怒の理由■ 乳がんの小林麻央 全摘出しなかったのはなぜなのか?■ SMAP 「香取の乱」で25周年コンサートが絶望的■ 故・大橋巨泉さん 献身の妻が後悔する「在宅がん治療」

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    歯の不健康が、がんや心筋梗塞を引き起こす!?

    九州歯科大学講師、岩手医科大学助教授、国立感染症研究所部長、九州大学教授(厚生労働省併任)、国立保健医療科学院部長を経て、2008年より現職。この間、健康日本21計画策定委員などを務める。著書に『白米が健康寿命を縮める』(光文社新書)などがある。関連記事■ 40歳を超えたら、運動は「8,000歩/20分」のウォーキングで十分■ 40代からの「カラダ」見直し術■ 健康管理の決め手は自律神経と腸内環境

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    大橋巨泉さんでも叶わなかった「平穏死」

    ていた『週刊現代』の連載を終了させました。「いつまで生きられるかわからない」と認め、4月に受けた在宅医療の際の、モルヒネの誤投与に対しても指摘をしています。「在宅医からモルヒネをなぜだか大量に渡された」「モルヒネ投与からたった5日で意識が薄れ、歩行もままならぬ身体になったのだから恐ろしいことだ」とも記しているのです。また、安楽死を望むも、看病をしていた弟さんから、「今の日本の法律では安楽死は認められていない」と言われ、「生きている意味がない」とまで書いています。 そして今年の7月12日、入院先の千葉の病院で死去されました。82歳でした。奥様の寿々子さんは、マスコミ宛のFAXで以下のように心境を吐露されています。 先生からは「死因は“急性呼吸不全”ですが、その原因には、中咽頭がん以来の手術や放射線などの影響も含まれますが、最後に受けたモルヒネ系の鎮痛剤の過剰投与による影響も大きい」と伺いました。もし、一つ愚痴をお許しいただければ、最後の在宅介護の痛み止めの誤投与が無ければと許せない気持ちです 私は、約1000人の患者さんを在宅で看取った医師として、とても複雑な想いで一連の報道を見ていました。モルヒネの誤投与、これは絶対にあってはならない事です。医療用麻薬の取り扱いについては、在宅医によってその技術は一様であるとは残念ながら言えません。今後、多死社会に向けて、国は在宅医療への推進に懸命ですが、そのスピードに質が追い付かず、モルヒネにあまり慣れていない在宅医が存在することも事実だと思います。 もし誤投与が真実であるとすれば、これはあってはならないことですし、真相を究明するべき事態です。医療用に使われるモルヒネは、あくまで痛みを取り除くものであり、少量からさじ加減をしながら適切に使用すれば意識が無くなることも中毒になることもありません。ましてや、死期を早めることもなく、安全で効果的な緩和ケアに欠かせない薬です。安楽死は法律で認められていない 私は常に10人くらいの末期がんの患者さんを、最期まで自宅で診させて頂いていますが、モルヒネ(医療用麻薬)無しでは到底それはできません。ですから、今回の件により在宅医療に対して誤解が生まれることは、今まで若い在宅医を育てるために啓蒙活動をしてきた私にとっては、甚だ不本意、残念で悲しいことです。 そして巨泉さんが言うように、日本では安楽死は法律で認められていません。しかし、尊厳死や平穏死は叶います。安楽死の定義、尊厳死の定義は、「広辞苑」にはそれぞれこう書かれています。 【安楽死】⇒助かる見込みのない病人を、本人の希望に従って、苦痛の少ない方法で人為的に死なせること。 【尊厳死】⇒一個の人格としての尊厳を保って死を迎える、あるいは迎えさせること。近代医学の延命技術などが、死に臨む人の人間性を無視しがちであることへの反省として、認識されるようになった。 さらに、辞書「新明解」ではここまで具体的に説明があります。会場隣に設置された人気番組「クイズダービー」のセットに座る女優、竹下景子=9月5日午後、東京都港区(納冨康撮影) 【尊厳死】⇒人間として、自分の意志で死を迎えること。現在の医療技術では回復が不可能で死を迎えるしかないがんの末期などの場合、延命のための治療行為を断り、自らの意志で死を迎えようとする考え。リビングウィル(の結果)。 また、こういう捉え方もできます。日本の尊厳死=自然死=平穏死/日本の尊厳死=欧米では当たり前のことなので該当する言葉は無い/日本の安楽死=欧米の尊厳死/欧米の安楽死=日本では、殺人罪。 私は、約12万人の会員が加入されている一般財団法人・日本尊厳死協会の副理事を拝命しています。そして「平穏死」と名のつく本をたくさん書いてきました。「尊厳死」を市民に身近に感じてもらうべく、ほぼ同じ定義なのですが二つの言葉を使っています。尊厳死(平穏死)を望むには、リビングウィルが不可欠です。 リビングウィルとは、終末期医療への意思を、伝えられない状態になる前にあらかじめ書面で明らかにしておくこと。自己決定を表した文書です。普段から家族に話してあるから大丈夫、とはならないのです。必ず文書で残すこと。こうすることで、ご家族も「私を人殺しにさせないで」という想いに囚われなくても済むのです。 巨泉さんは最期の最期まで、自らの闘病に対し冷静な分析を行い、その都度ベストな選択肢を選びながら、世の中に多くのテーマを投げかけられました。実にお見事な最期だったと思います。医師として私も、多くの宿題を頂いたような気がしています。 大橋巨泉さんのご冥福を、心よりお祈り申し上げます。ながお・かずひろ 長尾クリニック院長。1958年香川県出身。1984年に東京医科大学卒業、大阪大学第二内科入局。阪神大震災をきっかけに、兵庫県尼崎市で長尾クリニック開業。現在クリニックでは計7人の医師が365日24時間態勢で外来診療と在宅医療に取り組んでいる。趣味はゴルフと音楽。著書は「長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)、「『平穏死』10の条件」(同)、「抗がん剤10の『やめどき』」(同)。

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    大橋巨泉氏の薬の誤投与 特殊なケースではない

    た。11年間にわたるがん闘病生活を送ってきた巨泉氏は、亡くなる約3か月前に千葉県内の自宅に戻り、在宅医療を受けた。 しかし、在宅医は背中の痛みを訴えた巨泉氏に大量のモルヒネを投与。意識障害を起こすなどした巨泉氏は退院してわずか6日後に再入院し、そのまま帰らぬ人となった。大橋巨泉さんが司会を務めたTBS系「世界まるごとHOWマッチ」の収録風景。左はアシスタントの西村知江子さん=東京・渋谷ビデオスタジオ(1988年5月28日)〈一つ愚痴をお許し頂ければ、最後の在宅介護の痛み止めの誤投与が無ければと許せない気持ちです〉 妻の寿々子さんが死後、発表した手記の一文だ。巨泉氏の在宅医は「元々は皮膚科の専門医」だったことが明らかになっている。巨泉氏のケースが特殊ではないと話すのは、埼玉県在住の霧島文子さん(仮名・60)である。「長く認知症を患っていた母は1年ほど前から寝たきりが続き、褥瘡(じょくそう=床ずれ)に悩まされていました。在宅医に相談すると、軟膏を塗ってガーゼを貼って“これで大丈夫”と言うだけ。でも、日が経つにつれて患部は広がり、とうとうお尻一面がただれたように真っ赤になってしまいました。 近くの大学病院で診断を受けたところ、患部の皮下組織が壊死している。“切開手術が必要です”と言われたのです。すぐに在宅医に伝えると、“私の専門は泌尿器科ですから!”と逆ギレされました」 他にも在宅医療を選択した家族に話を聞くと、「夜中に往診を頼んだ時、酒に酔って家に現われた」(60代・男性)「80代の父が夜中に“胸が痛い”と訴えたので、在宅医に往診を頼んだら不機嫌そうな顔でやって来て、鎮痛剤を飲ませて3分で帰ってしまった」(50代・女性) などの証言を得た。関連記事■ 大橋巨泉氏 終活の日々と叶わなかった「金婚式の夢」■ 大橋巨泉氏のモルヒネ投与医師はニキビ治療専門家だった■ 故・大橋巨泉さん 献身の妻が後悔する「在宅がん治療」■ がん難民コーディネーターと在宅医療従事医師による対談集■ 金子哲雄氏の妻 遺作に「臨終の瞬間」書き足すべきか悩んだ

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    それでも娘に受けさせますか? 子宮頸がんワクチンが「危険」な理由

    患者の支援活動を行っている。CFS/MEは厚労省が定める難病のリストにないため、研究は進んでないし、医療費の助成や生活支援も無い。医師からも「心因反応」とか「詐病」だとみなされることが多い難病だ。 2011年にHPVワクチン接種後に日常生活が困難となった女子中高生のことを知り、HPVワクチン接種後の症状とCFS/MEの症状との共通性、そして患者達の社会状況の類似性に驚いた。 私はHPVワクチンについては慎重の立場だ。被害者を診療してないので、形式的には当事者ではないが、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会とは昨年から連絡を取り合っている。私が今日までかかわってきた経験を基礎として、HPVワクチン問題の創造的な解決に役立つ“種”となるような言説を展開したい。会見で全身の痛みや記憶障害などの深刻な症状を涙で話す被害者の谷口結衣さん (中央)=3月30日、東京都港区(早坂洋祐撮影)「HPVワクチン接種後症候群」の症状 「HPVワクチン接種後症候群」という呼称は私が独自に使用している。症候群とは症状と医師の診察による徴候の組み合わせとの意味である。これらは以下のような多彩な症状の組み合わせで特徴づけられる。1. 運動系障害: 姿勢保持・起立・歩行障害、不随意運動、痙攣、筋力低下、運動後の疲労回復の遅延2. 感覚系障害: 頭痛、四肢・関節などの疼痛、光・音・嗅覚過敏、激しい生理痛3. 自律神経・内分泌系障害: 過敏性腸症候群、体温調節障害、発汗異常、睡眠障害、生理不順、ナルコレプシー、起座位での低血圧や頻脈4. 認知・情動系障害:無気力、だるさ、幻視、幻聴、妄想、暴言、記憶障害、学習障害、集中力低下、肉親の顔をみても認知できない テレビの映像でよく取り上げられる手足が勝手に動くという不随意運動・痙攣は症状の一つに過ぎなく、どの患者にも必ず出現するのではないことは強調されねばならない(ワクチンによる被害を軽視する一部の医師は、不随意運動・痙攣だけを取り上げて、昔からそんな症状を呈する未成年はしばしばいると見当違いのことを言っている)。 上記の諸症状の多くが、接種後すぐに一度に現れるのではなく、長い経過の間に出現したり消えたりする。慢性的な極度の疲労や歩行障害が出現したら、通学不能となる。痛みや脱力を我慢して通学はしても、学習が困難なケースが少なくない。読者にはこのような多彩な症状が自らにふりかかったら、生活がどうなるかを想像して欲しいと願う。車いす生活を余儀なくされている女子中高生が何人も存在する事実の重みを考えていただきたい。 患者を実際に診療した医師達は最初の患者をみて、このような症状の組み合わせは「みたことがない」と驚き、似たような症状の患者が幾人も外来に来て、HPVワクチン接種が共通項であることに気づいた。患者を何人も診療した医師達は互いに連絡を取り合い、共同で研究し、診断基準を作成したが、未だにそれは仮説段階である。「HPVワクチン接種後症候群」が新たな疾患だと示唆される理由 ちなみに、HPVワクチン接種後症候群とCFS/MEとの相違点は、後者では「不随意運動、痙攣、幻視、幻聴、妄想、暴言」等がほとんどみられないこと。被害者会に登録している女子中高生の中には真のCFS/ME患者が一人以上「紛れ込んで」いると推察されるが、そのことは問題とするに足らないことは常識的に考えて自明であろう。 この項の最後に、名古屋市による計7万人のHPVワクチン接種・非接種者についての調査報告に触れないわけにはいかない。名古屋市は様々な症状の一つ一つについて「だけ」比較したため、当然のことながら明確な結果は出なかった。HPVワクチン接種後症候群というくくりで、複数の症状を組み合わせての比較(当然、組み合わせは何種類も必要)をしなかった理由は不明だ。症状の組み合わせでの比較検討は厚労省の研究班による調査報告に期待する。 新たな「疾患」だと示唆される理由 新たな疾患として世界レベルの医学界で認知される条件としてあげられるのは、症状の新規性はもちろん、時間と空間の広がりの二点で未知の疾患が発生していると考えないと説明がつかないこと。原因の判明も客観的な検査による診断が可能なことも、新たな疾患と認定される必須条件ではない(例えば、CFS/MEは原因不明で、しかも検査による診断は不可能であるが疾患として認知されている)。1. 空間の観点 米国、イギリス、アイルランド、デンマーク、フランス、ドイツ、オーストラリア、インド、コロンビア等の諸国において、HPVワクチン接種後症候群が多数報告されており、日本と同様に多かれ少なかれ社会問題化している。医師組織が接種中止を求めたり、被害者・家族が裁判に訴えたりしている事実はネットで検索したら枚挙にいとまがない。一部の医師は「日本だけで社会問題化」しているように主張しているが、根拠を欠いている。2. 時間の観点 HPVワクチンを接種した生来健康な女子達の一部が、多彩な症状で日常生活が困難になっている事実が第一に重大(一部の医師は、出来事の時系列関係は因果関係を証明しないと当然のことを言い、被害者団体を揶揄しているが、言うまでなくそんなことは被害者も父母も理解している)。このような症状の発現が他のワクチンでも極めて稀にはあったと考えられるが、社会問題化することはほとんどなかったという事実も重大だ。 決定的なことは、厚労省が積極的な接種推奨を中止した2013年6月以降は接種が激減し、それ以後に接種してから発症した患者の被害者会へ登録は二人しかいないこと。HPVワクチン接種後症候群を診療している医師達は「新たな患者さんは(ほとんど、あるいは全く)来てない」と証言している。 思い起こしていただきたい事実がある。チェルノブイリ原発事故後に、小児甲状腺癌が激増したとき、放射線による増加ではないと一部の医師は主張したものの、その後に発病が経時的に減少したために、主張の誤りが明らかとなったことを。 一部の医師は、「そのような症状の患者はもともと存在しており、減じてない」との根拠無き仮説を未だに維持し、「HPVワクチン接種が激減したから、HPVワクチンが原因とは疑わないので、HPVワクチン接種後症候群をみている医師のところにはいかないだけだ。被害者連絡会に登録などしないのだ」と主張するかも知れないが、事実による根拠を提示できるとは思えない。 これら二点の重要性は、医学的知識がない一般の方々にも自明だと思う。接種後に症状が長期化した女子の数接種後に症状が長期化した女子の数 ワクチン接種後、日常生活に支障がでるほどの副作用が数か月続く頻度が、何万人に一人なら、あなた、あるいは、あなたの娘への接種を容認するであろうか。50~100万人に一人なら、大多数の人はリスクを許容すると思う。5~10万に一人なら、少なからずの人々は接種を控えるのではあるまいか。5~10万に一人がそうなってしまうようなワクチンを厚生労働省が医薬品として認可するとは考えられないのではなかろうか。 約338万人が接種(延べでない)した。もしも5万人に一人ならば、68人くらいしか深刻で長期にわたる健康被害は発生してないこととなる。その程度の発病者数であれば、被害者会が発足するような事態にはなるまい。  厚労省が昨年公開した報告書より引用。未回復の186人の生活状況は、入院した期間あり87人、日常生活に介助を要した期間あり63人、通学・通勤に支障を生じた期間あり135人 この186人という数値は、あくまでも医療機関が副反応疑いとして自発的に報告した2584例のうち、どうなったか判明した1739例についてのもの。186人の全員が長期にわたり日常生活に支障をきたしたわけではない。「期間」ありという表現が「今はそうではない」ということを必ずしも意味するわけでもない。 被害者会に登録されている患者は約550人。登録者の全員が「日常生活に支障がでるほどの副作用が数か月ないし今日まで継続している」わけではないことは言うまでもない。被害者会の550人中の3分の1、すなわち183人が「長期にわたり日常生活に支障をきたした(ている)」と仮定し、厚労省調査で未回復の186人という数値を参考に推定しみよう。 「二万人に一人」との推定頻度になるのだ。338÷2=169。183・186を少なめに169とするならば。「二万人に一人」という推定頻度は、娘への接種を控えさせるに十分に高いのではないのだろうか。提訴のため車椅子で大阪地裁に入る原告=7月27日、大阪市北区の大阪地裁中枢神経系の機能異常 多彩な症状の多くは中枢神経系の機能異常そのものであるが、客観的な検査による機能異常に関連する生理的異常の裏付けはまだまだ不足している。私が注目したのは、2015年5月、日本神経学会における信州大病院の医師による報告。症状を説明できる脳の特定部位において、頭部MRIでは異常はないが、血流ないしブドウ糖取り込みの異常が認められたとのこと。 ちなみに、同大学の池田修一教授はマウスでの実験結果の途中経過をマスコミに公開した。脳内炎症の存在を「示唆」するという控えめの結論であったが、その手法について一部の医師は「ねつ造」との行き過ぎた表現をし、それどころか教授の人格も攻撃した。中枢神経系の機能異常は厳然たる事実であり、そのことに疑問を呈する医師は私の知る限りいない。 池田教授は中枢神経系の機能異常についての仮説を検証するためにマウスで実験しただけのことであり、同教授の手法に一定の限界があるのは医学研究の経験がある医師には自明のこと。研究手法の限界を理由に、中枢神経系の機能異常の存在自体を否定することは原理的に不可能なことを念のために強調しておく。予防・慎重の原則と医師の倫理予防・慎重の原則と医師の倫理 医薬品は人の生命・生活を左右する。医薬品による健康被害をゼロにすることはできないが、最小限にするための適正な手続きは必須であり、諸国において法令により厳密に定められている。健康被害が発生した後に、完全に回復させる治療法が無い限りは予防するという大原則だ。 もう一つは「疑わしきは使用を認めない」という慎重の原則。HPVワクチン接種後症候群に関して言えば、地球上の諸国において同様の症状を呈する女子が高頻度に発生しており社会問題化している。HPVワクチンが原因か否かの判定にはまだまだ年余にわたる研究が必要であることは言うまでもない。 一部の医師はワクチンの安全性は「確立」されていると信じて、厚労省は積極的な推奨を再開すべしと主張しているが、安全性の根拠は何であろうか。事実上は、ワクチン製造会社がほとんどの資金を提供した臨床治験だけなのだ。莫大な資金提供を受けた医師であっても、不都合な結果がでないように研究をデザインしたり、結果を可能な限り捻じ曲げないだろうと、一般市民の大多数は信じないのではないだろうか。製薬会社による医学研究者の事実上の買収による結果ねつ造事件は数多い。だから、HPVワクチンもそうに「違いない」とまでは言わないのであるが。画像はイメージです 医師の倫理についても触れないわけにはいかない。様々な理由や動機(製薬会社からお金をもらっているとか、そうではなくて、論文を読んだから安全性と有効性を信じたからでもよい)により、医師がHPVワクチンの推進再開を強く提唱するだけならまだしも理解できる。しかしながら、一部の医師は被害者会の方々を医師倫理に違反する疑いのある言葉で非難している。 例えば、私の元友人である上昌広医師。彼は特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長で、2010年に私がCFS/ME患者についての支援をお願いしたとき、直ちに患者会代表と面会し、絶大な支援をしてくださった。HPVワクチン接種後症候群とCFS/MEの症状が類似しており、社会的状況もほとんど同一なのに、どうしたものか上氏はHPVワクチン接種後症候群については最初からその重大性を軽視している。HPVワクチン推進言動では非常によく知られているが、なんと上氏は「16歳の高校生を利用した『社会運動』、そろそろやめたらどうだろう」とツイッターで言明した。 患者と家族の怒りを買ったことは言うまでもない。同じく元友人の医師、久住英二氏(医療法人社団鉄医会理事長)も被害者会の活動を「醜悪」と表現して、轟轟たる非難を浴びた。両人とも患者と被害者団体による批判など馬耳東風で今日に至るまで、相変わらず「患者の診療をすることなく」、「医学研究の結果に対しては、独自の研究で反証を試みることもなく」、ほとんどネット上だけで同じ主張を繰り返している。 正直のところ、元友人の実名をあげて批判することは心苦しいのであるが、彼らは実名をさらして言論を展開しているからには、覚悟の上なのであろう。匿名でHPV推進を声高に提唱し、池田教授や被害者団体の誹謗中傷を継続して実行している一部の医師については言及するに値しないので直接には触れないが、彼・彼女らも元友人の両人と同様に患者を実際に診療しての「根拠」を何一つ示していない。問題解決のために最も重要なこと問題解決のために最も重要なこと HPVワクチン接種後症候群に関しては、まだまだ不明の点が数多いことでは推進派も反対・慎重派も一致していると思える。両派が対立することは、必要なことだった考えるが、私は両派の人々に問題解決のための協業を模索しようと呼びかける(この提唱は、ワクチン製造会社のエージェントとして活動している医師は対象外)。 協業実現の必要条件の一つは、推進派が自らの決定的な欠陥を自覚することだ。患者をみることなくネット空間や非医学雑誌で声高に主張しても、医学専門誌や学会において有力な証拠を提示できない限りは、無力であり続けることを。反対・慎重派の医師達はHPVワクチンについての医学論文を読んだ上で、現実の患者を診療して危険性がわかったので警鐘を鳴らしている。これに対して、推進派は外国の他人が執筆した論文だけが主張の根拠。この決定的な非対称性が解消しない限りは、両派の協業などできないであろう。 推進派の医師達は被害者会と真摯な対話を始めるべきだ。これまでのような言動を無反省に継続すると、いつの日か医療界での信用を決定的に失うことになろう。 問題解決のための協業における、具体的な諸目標の中で最も重要と考えられることを一つだけ挙げる。 本人・家族のアレルギー体質、白血球型(HLA)、人種とか様々なファクターと、HPVワクチン接種後症候群の発病頻度との関連性を明らかにすること。そのためには、338万人の既接種女子について、50万人くらいは調査する必要があろう。既に健康を害している被害者とその家族の全員については特に詳細な調査が必要であろう。なお、調査のための資金は、国庫支出金プラス製薬会社の拠出金によってまかなわれることになろう。 調査のデザインは精緻かつ偏らない態様であらねばならない。名古屋市の調査はテザインに決定的な欠陥があったため、意味のある結果を出せなかった。そのようなことを防止するためには、調査・研究デザインの作成には、ワクチン専門家たけでなく、推進派と反対・慎重派双方の医師を加えるべきではあるまいか。 調査・研究の結果、個人のリスク評価が可能となれば、厚労省として「これこれに該当する方には推奨しない」と明確なガイドラインを作成できる。個々のリスクを数値化して、合計点により定量的なリスク評価をする手法も確立できるかも知れない。 リスクが高いと判定された女子は受けないであろうが、そのことにより死亡リスクが高まることがないように、実際に必要な検診を受ける確率を高めるための、実効的なシステムの構築も必要であろう。 そもそも、接種したとしても、子宮頸がんの原因ウイルスは幾種類もあり、ワクチンの攻撃対象ウイルスはそのごく一部。接種したことで安心して、検診をしないことによりかえって死亡率が高まる危険もあるから、検診体制を先進国並みに整備することは是非ともなされねばならない。 リスクを評価する手法が確立することにより、実際の被害者の実数は大きく減じることであろう。被害者の実数が著明に減じることは、ワクチン製造企業にとっての利益であることも言うまでもない。リスク評価手法の確立は、女子中高生にとって必須なことであり、ワクチン製造企業、推進派、反対・慎重派、厚労省の四者ともそれに賛成し、四者は協業できるのではなかろうか。医師としての倫理を踏み外したように見える元友人の医師二人へ元友人の医師二人へ HPVワクチン推進派の代表格とみなされる二人の医師、上昌広氏と久住英二氏には、2008年以来、個人的に絶大な恩義がある(2008年、私は厚生労働大臣を被告として、リハビリ棄民政策の差し止めを求めて二件の行政訴訟を開始。真っ先に支援を開始してくれたのは両人だった)。HPVワクチン問題への姿勢が異なるために、両氏は私をツイッターでブロックする形で、私との人間関係を断った。『女性セブン』の2016年4月14日号において、私は上氏の言動を「医師としての倫理」の観点から非難した。 彼らは「現場からの医療改革推進」を実践してきた。両氏が苦境に陥った患者達(CFS/MEという難病患者だけでない)を救うために絶大な努力を重ねてきたことを、私は深く知っている。現場・現実を直視して問題を同定し、解決するための方策を試みるという両人のかつての姿勢と、HPVワクチン接種後の患者をみることなくして被害者会(の人々)を揶揄・誹謗・中傷するような言動とは明らかに矛盾している。彼らがどのような経緯で道を踏み外したのか、幾通りもの説明が考えられるが、それは言わない。 私が昨年6月に被害者のある方とコンタクトを取った時に、(被害者会から憎まれている)上・久住両医師とは昔からの知り合いだと正直に言ったため、「スパイ」の疑いをもたれてしまった。誤解が解けてからは、被害者会の方々と情報・意見交換を重ねてきている。私には上氏らと被害者会とを仲介する用意がある。このような立ち位置にある医者は私以外にそんなにいないはずだ。 両氏に呼びかける。まずは、これまでの医師倫理に反する言動について、被害者会の人達に真摯に謝罪すること。謝罪が受け入れられたら、現実の患者さんをみさせて下さいとお願いすること。HPVワクチンの「有効性」と「安全性」を示唆する百の医学論文よりも、現実世界で苦境に陥っている数人の女子中高生をしっかりとみる方が大切ではなかろうか。 HPVワクチンの被害者達が7月27日に集団訴訟に踏み切った。上氏も久住氏も私が「勝てる見込みがほぼゼロの裁判」を起こした時は絶大なる応援をしてくれた。然るに、久住氏はHPVワクチン被害者は裁判で勝てるはずがないと公言し、被害者会の事務局長を執拗にツイッターで揶揄している。上氏と久住氏が本来の「現場主義」の姿勢に戻ることを願って、本稿の終わりとする。 善とは人と人とを結び付けること、悪とは人と人とを離反させること(トルストイ)

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    計り知れぬ潜在被害者 暴かれた子宮頸がんワクチン禍の真相 

    問題も見えてきました。推進派と慎重派の間には、ワクチンに対する評価、それを支える公衆衛生観、あるべき医療リテラシー、などに大きな超え難い壁があるかもしれません。 しかし、こと子宮頸がんワクチンについては、「いらないものを入れて被害を発生、拡大。副作用を原因不明の病気、心因性のものとして接種との因果関係をかたくなに否定する」国の姿勢への漠然とした不信感は共有できるのではないでしょうか。身を挺した少女たちの訴えに対してマスコミももっと真摯に耳をかたむけるべきでしょう。 今回の提訴を契機に、被害の実相や関係者の果たした役割が明らかになることを隠したい個人や機関(組織)、それを擁護する学識者等を中心に、ワクチンの有効性のことさらの強調、国際平準化を根拠とした根拠のない因果関係の否定論や無過失補償の提言などが散見します。本来導入すべきでないものを導入した責任を回避するだけでなく、被害者の権利回復と国の誤った制度設計責任を問う国民の権利に対する侵害であり大きな問題と言わざるを得ません。実態が不透明なワクチン被害被害の実態が不透明 子宮頸がんワクチンは、接種後の過剰な免疫応答により、神経障害(中枢神経系症状、抹消神経症状)をおこしています。①感覚系障害(頭痛、関節痛、筋肉痛、視覚障害、痺れ等)、②運動系障害(不随意運動、脱力、筋力低下、歩行運動失調、けいれん)、③認知・情動系障害(学習障害、記憶障害、見当識障害、睡眠障害)、④自律神経・内分泌系障害(発熱、月経異常、過呼吸)などを発生させているとされます。 今回の提訴者の中には重篤な副作用である、ギランバレー症候群、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス、体位性頻拍症候群(POTS)などの自己免疫性疾患や脱随性疾患など難病の診断を受けている人もいるようです。「第15回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、平成 27年度第 4 回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会」(合同開催:2015 年9月17日)で、厚労省は「子宮頸がんワクチン副反応報告」を提出しました。 この中で、これまで副反応報告で集積した2584人を副反応疑い例とした上で、発症日・転帰が確認できたものが1739人、うち未回復者を186人と発表していますが、この数はあまりにも少ないとの批判があります。今なお重篤な副作用のために治療中の被害者が調査の報告中に入っていなかったり、調査自体が国や自治体ではなくメーカーのMR(医薬情報担当者)が主導していたこと、救済窓口となるべき自治体の中には救済制度はおろか、この問題についての大きな情報格差があることなどから、もの言えぬ被害者が多く存在することが予想され、国の把握している被害者数は氷山の一角に過ぎないと思われます。 全国子宮頸がん被害者連絡会に寄せられた被害者登録では①被害者は全国におよぶこと(とりわけ首都圏に多い)、②接種年齢は13歳をピークに12、14、15歳が大半を占めること、③20代~45歳までの接種者もいることなどが報告されています。初交以後の接種も含め、このワクチンの有効性についての正確な情報提供がされないままに接種が推進されていたことがわかります。2016年3月の提訴会見以後、被害者登録数は530件余になったとされていますが、潜在的な被害者数は計り知れません。認められない副作用被害 2016年8月3日の子宮頸がんワクチンに関するPMDAの報告では、ADEMやギランバレー症候群(GBS)など添付文書にも副作用として書かれている症状についてもたった1件しか認められていません。また、市販後、2016年6月30日までに決定(判断)された件数は129件ですが、うち28例が不支給、救済されたのは101例とされています。救済申請自体が多くの書類や医師の診断書等の労多いものですが、重篤な副作用にあい、ようやく申請までこぎつけても否認が大多数というのが実態です。大半は医療費と医療手当のみの支給に留まり、被害救済に資するものとなっていません。そもそも、申請自体にたどりつけない被害者が大半です。 子宮頸がんワクチンは定期接種前の被害者が大半を占めます。ですから定期接種以外の PMDA での審査も詳しく公表される必要があります。公表されることで、同じような症状に悩むより多くの全国の被害者が被害に気が付くことが必要です。入院レベルでないものも救済するとしていますが、入院できずにさまざまな不調を訴えたり、学校に通えなくなっている多くの子どもがいます。接種から数年たち、患者記録の保存もむずかしくなってきています。症状が改善している例もありますが、症状によってはこうした救済の土俵にすら上がれない人も多くいます。医学的な原因解明の困難にどう立ち向かうか 筆者が相談を受けた中には、3年近くたってからうつ病となったという方もいます。精神科を含む病院を受診し、学業を中断され、実家への帰郷を余儀なくされた本人の苦しみ。家族の心労や、経済的負担も驚くほどです。しかし、当初から、ワクチンの副作用とは全く気付かれませんでした。気づいたとしても申請すらできないし、「どうしたらよいかわからない」という状態です。この方に限らず、遅延性のものがあり、状態も好悪を繰り返す被害者も多くいるようです。 こうした中、医療者、研究者の間では、個別の症状を分断してとらえたり既存疾患にあてはめたりしないで、ワクチンによる過剰な免疫反応が引き起こす疾患群として、HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HPV vaccine-associated neuroimmunopathic syndorome)と呼ぶことも提唱されています。検査では異常はでない、治療法が確立していないものについて、丁寧な分析をし、救済への足がかりを提供するものといえます。 これに対して、国の審議会の座長はHANSは病名ではないとして、殊更無視をしています。心因性のものとして認知行動療法をすすめる国と、多くの症例をていねいに分析して被害救済を訴える研究者、どちらが医療者として適格か、良心があるかは明白でしょう。国が因果関係は治療に無意味との見解を重用し、因果関係を否定し、責任を認めることをあくまでも拒否するのであれば訴訟以外に取るべき道はありません。医学的原因解明の困難にどう立ち向かうか 子宮頸がんワクチンの副作用の医学的な原因は未だ解明されていません。子宮頸がんワクチンは遺伝子組み換え技術で作成されたウイルス様粒子(VLP)にアジュバントと外来DNAなど自然免疫を活性化する数種の成分が含まれているとされています。どの成分が激烈な免疫応答を示すかは科学的に解明されていません。よく、海外では副作用被害は発生していないとか、日本ほど発生していないなどと言われますが、海外でも副作用は大きな問題となっており、報告のトップは神経系関連障害とされています。自己免疫疾患や神経障害が多数報告されています。日本でも海外でも医学的な原因究明の努力がされていますが、未だ、原因は明らかになっていません。 子宮頸がんワクチンに限らず、ワクチンにより自然免疫の強力な活性化や炎症反応により、神経障害の臨床症状が発生することは、その原因物質がアルミニュームや水銀(チメロサール)に由来するのではないかと指摘されてきました。原因がわからない中で、どう法的救済につなげるのか。因果関係が認められなければ、当然損害論までたどり着けない日本の司法制度の中で、過去の4大裁判でいかに原告が勝訴することができたのか。白木4原則が果たした役割を紹介します。 予防接種禍4大裁判で原告側証人として活躍され、水俣病、スモンでも原告側の証人として証言された、白木博次博士は著作(藤原書店 冒される日本人の脳より「 」内引用)の中でこう述べられています。白木博次博士は、優れた臨床神経病理学者ですが、化学物質とそれよる被害の因果関係の立証は極めて困難とし、終始、厳密細心に自然科学の手続きを踏みながら、同時にそのなかで、(物)の局面での「客観性」に固執して魂の訴え(自覚症状など)を軽視する科学の手法の本質的な限界に警鐘を鳴らしながら、今日の科学技術文明は、自然には存在しない人工化学物質の多用による速効性の追求と、反面、そのマイナスの副作用の顕在化を特色とするとしています。 ワクチン禍の医学的解明は、ほとんど不可能に近いとし、ワクチン禍の総論または原則論を組み立てるのに参考になる医学関係のわが国の文献は全くないに等しいということで、自分で考えられたのです。白木博士の因果関係の立証のための白木4原則は、①ワクチン接種と予防接種事故とが、時間的、空間的に密接していること、②他に原因となるべきものが考えられないこと、③副反応とその後遺症(折れ曲がり)が原則として質量的に強烈であること、④事故発生のメカニズムが、実験・病理・臨床などの観点からみて、科学的・学問的に実証性や妥当性があること、の4つを組み合わせて、その蓋然性の高低の視点から、ワクチン禍の有無を考えることを提唱しました。 そして、現にある被害は動物実験のように条件づけできないので、あるがままの状態を受け取る経験科学ととらえ、4つの原則論の組み合わせによって蓋然性が60%以上の確率によりワクチン禍の存在を肯定すべきとし、これが全国の裁判所に受け入れられたのでした。(その後の因果関係判定のためのルンバール事件[注3]も同様のロジックである[注2])。白木博士の卓越した点は、東京裁判以外の全患者を診察、CT、MRI、PET、脳波などの特殊検査を加味し、主として母親と近親者の聞き取り調査も行い、死亡した患者の剖検所見も参考として、その実態について総合的に把握することを怠たらずにされたことです。もう一度問い直す子宮頸がんワクチンの危険性 その上で、因果関係の立証は、動物実験のように条件づけできないので、あるがままの状態を受け取る経験科学として、4つの原則論の組み合わせによって蓋然性が60%以上の確率によりワクチン禍の存在を肯定させたことです。こうした化学物質による被害の因果関係の立証については、経験医学、社会医学の観点から解決されるべきだと提唱されています。 予防接種問題についての白木博士はいくつか「遺言」を残されています。まず、白木博士は、ワクチンがどう改良されても絶対になくならないと断言しています。「ワクチンを製造・管理する人が自らいわれているように、ワクチンは所詮「毒をもって毒を制する必要悪」であって、「たとえ防御抗原のみの純粋な製剤が開発されたとしても、それ自体は抗原であるから、アレルギー反応による神経系の傷害を惹起する可能性を避けられないであろう。(中略)。正と負の効果(アレルギー反応とワクチン禍)とは常に表裏一体をなしている。特に神経障害のように、少数であっても犠牲者が出てしまうことを、今後いかにワクチンを改良しようとも避けて通ることができないのは、理論上または経験上からも明白である。またもし副作用を避けるために本来の毒性を薄めてしまうなら、その防御効果は全く期待できないことになる。しかも神経細胞は容易に失われやすい事実に加えて、失われた神経細胞は二度と再生されることはなく、後遺症として永久かつ不可逆性に残ってしまうという厳然たる事実がそこにある。これが神経組織が他の臓器や組織と違う最大の特徴をなしている」 「①弱毒化したワクチンが強毒化する点についての症例は述べなかったが、これはワクチン自体の問題か、それとも接種を受ける個体側の問題か、それは大きな学問的な問題として未解決。いずれ実現するであろう遺伝子組み換えワクチンによる安全性について、特に大きな問題になるであろう。遺伝子組み換えの基礎的な部分が完全にわかっていないのではないだろうか。②ワクチン禍には第1から第4アレルギー型まであり、それぞれ相互の移行型もあり免疫学の領域から見ても未知の部分が数多く残っている。また、遅延型アレルギーの重大な問題が残っている。4原則目は、医学のうちの特に免疫学のうちで、未知の領域が数多く残っている。今後のワクチンの改良、強制接種の廃止、その他によって、将来の問題としてクローズアップされるのは、国賠がそのまま適用できなくなるというのは思い過ごしか。(中略)どのようにワクチンが改良され、被害者の数は減ってこようと、ワクチン禍がなくなってしまうことは考えられないとすれば、今後のワクチン禍訴訟は、どのような総論・原則論に基づき、国の責任論はどのようなものになるのかの問題を今からでも真剣にかんがえておかなければならない」。白木博士が、1998年12月に危惧されていた問題提起は、子宮頸がんワクチン問題の発生を見据えていたかのような重みがあります。もう一度問い直す、子宮頸がんワクチンの必要性 長年予防接種問題に取り組む中で、シンプルな結論にたどり着きつつあります。それは、「ワクチンの安全性や有効性に優先するものは当該ワクチンの必要性についての徹底した検証」です。一言でいえば、「やらなくてよいワクチンで、利益より被害が多いものはやるべきではない」ということです。現在、0才までに13回(2016年10月からはB型肝炎ワクチンも導入されるために16回)のワクチン接種が定期接種とされています。勢い、複数ワクチンの同時接種が勧められ、同時接種後の死亡例も発生しています。効果に疑問のあるインフルエンザワクチンも1994年の改正時には30万本まで減少したものが、5500万本を超える生産高となっています。 2000年代に入り、一方で、被害者救済が強調されることは、より多くの感染症による被害を予防すべきワクチン行政をゆがめるという指摘のもと、ワクチンで予防できる病気という原語が、ワクチンで防げるものは防ぎたい(防ぐべき)という標語のもとに、Vaccine Preventable Desease(VPD)という考え方が台頭し、予防接種推進の巻き返しを図る医師会とワクチンの世界戦略が跋扈するなか、2012年5月23日の厚生科学審議会予防接種部会の「予防接種制度の見直しについて(第二次提言)[注4]以降、厚労省も基本政策としてVPDの考えを採ることを明確に打ち出しています。しかし、いまこそ、ワクチンがあるから接種すべきというのではなく、本当にそのワクチンが必要であるのかどうかという原点に返って考え直さなければならない時期にきていると思います。子宮頸がんワクチン問題はそのことを警告していると言っても過言ではありません。 接種再開論者は、「日本だけがワクチンを接種しないことで将来子宮頸がんで死亡する不利益がある」と言います。しかし、当初から、ワクチン接種だけでは原因ウイルスであるHPVの感染を防ぐことはできず、検診の重要性が強調されていました。ワクチンの有効性については添付文書ですら、断定していません。がん予防効果は証明されていない上、前がん病変の予防効果も限定的、継続感染におけ効果持続期間すら不明です。以下は拙著[注1]からの引用です。厚労省は予防接種行政を見直すべき HPVというのは、大体100種類くらいあって、皮膚と粘膜に、ほとんど常在的にいるウイルスです。そのうちの15種類くらいが、ハイリスクグループと言われ子宮頸がんと関係があります。ワクチンが効くのはわずか2種のウイルスです。HPVは100種類くらいあり、子宮頸がんと関わるハイリスクHPVといわれるのは15種類です。日本人の場合、子宮頸がんで見つかる16型、18型の頻度は併せて58.8%。認可されているワクチンは16型、18型が対象のもの(サーバリックスでハイリスクの方はガーダシルの同様)ですが、日本人でそれ以外に多いのが52型、58型、33型があります。このワクチンでは16型、18型以外のハイリスクHPVの感染は、予防できないのです。 しかも、ウイルスを取り込んでも、自然のメカニズムでウイルスの存在がなくなり、持続感染になるのはごく一部で、さらにその一部、HPV感染を起こしたものの0.15%だけしかがんにならないのです。HPVというのは皮膚常在のウイルスで、ウイルス単独で存在しても、そこで増殖することはできません。細胞の中に入り込んで、その中で細胞の機能も利用しながら増殖するのです。 たとえば、HIV(エイズウイルス)はリンパ球の中で増え、B型肝炎ウイルスは肝細胞の中に入って、そこで増殖するという特徴があります。HPVは、子宮頸部の粘膜の上皮細胞の中に入り込んで、そこで生き続けていくわけです。他のワクチン療法と違って難しいのは、ワクチンを使うことによって、HPVの感染を防ぐことはできますが、がんそのものを防ぐことはできないのです。 HPVに感染することにより、その後、細胞の異形成をつくり、それらががん化し、さらに進行して浸潤がんになるということであれば、この最初のHPVの感染をワクチンで防ごうという考え方が出てきたわけです。しかし感染してからがん化して浸潤がんに変化するまでには、数年から十数年という時間がかかります。非常にゆっくり進んでいくので、現在の検診のシステムで充分この変化を捉えていくことは可能です。そうしたことを考えて、ワクチンの必要性も考えていくべきでしょう。 うつらない病気、他に安全で有効かつ経済合理性ある対策があることを情報提供し、副作用被害防止のために必要な政策へシフトすることが必要ですが、子宮頸がんワクチンはまさに、WHOが推奨しているとか、世界では日本のような被害はない、最近では、ワクチン接種をやめたままでいると将来的に日本は、子宮頸がん対策で世界の遅れをとるなどの意見があり、被害者を詐病や思春期の一過性の症状扱いしたり、提訴を「不幸なこと」などと揶揄したりする主張がされています。しかし、実際にはがん予防効果は限定的であり、「がん予防ワクチン」というネーミング自体おかしいこと、世界的にも深刻な副作用被害が多発していることなどが明らかになっているのです。厚労省は予防接種行政を根本的に見直すべき 全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会や自治体議員や教員、市民の支援者による取り組み、民間の研究者による治療や原因究明への努力は、国の救済に向けた動きを促してきたものの、国は未だに被害と接種との間の因果関係を認めず、相談体制や協力医療機関の設置など、小手先の対応に終始してきました。厚労省の検討部会は2014年、ワクチン後の症状について「心身の反応によるもの」との検討結果をまとめる一方、健康被害を訴える患者を診る協力医療機関を整備し、研究班を作って治療法の開発などを急いでいるとされていますが、その対応は被害者の救済支援とは程遠いものです。 2016年7月22日、厚労省の「ヒトパピロマーウイルス感染症の予防接種後に生じた症状の診療に係る研修会」で出された「当面の対応」は、2015年9月17日の審議会での結論を敷衍したものでした。被害者の声を無視できない厚労省は、頑なに因果関係を認めない一方で、2015年9月17日に、副反応を検討する審議会の合同開催の委員であり、疾病・傷害認定審査会感染症・予防接種審査分科会(分科会長五十嵐隆、稲松孝思、岡部信彦、多屋馨子(敬称略))連名で、「ワクチン接種後に生じた症状に関する今後の救済に対する意見」(以下、有志の意見書)をだしました。ここでの結論は、因果関係は認めないまま、ある程度の救済は行うという中途半端なものでした。 その内容は、①患者とのていねいな個別交渉で対応する、②入院以外にも医療費、医療手当を払う(接種を受けた時期が定期接種化(2013年4月)の前か後かで救済範囲に差があるのを改善し、定期接種化前では入院相当しか出なかった医療費と医療手当(月額 34,000~36,000円)を、定期接種化後と同じように通院でも出す)、③患者の治療のために患者からの研究への協力を得やすくする仕組みを検討する(因果関係が否定された場合でも、治療が必要な人には研究に協力してもらうとの名目で支援金を出す)、④協力医療機関が全都道府県に整備されたが、患者に適切な治療ができるよう、更に診療の質の充実を図る、⑤患者の学習支援や教育現場との連携等、患者の生活を支えるための相談体制を拡充する、というものでした。利益相反体制の下で適正な議論がなされるか 翌9月18日から疾病・障害認定審査会感染症・予防接種分科会(認定部会)ではHPVワクチンの審査が始められました。しかし、申請自体が多くない中、しかも定期接種前の接種が大半であることから、もともと被害者を絞っておこなう審査制度は真の被害者の救済のための審査とは程遠いものといえます。2016年7月22日の、「研修会」では、「診療の質を高める」「被害者で診療調査協力者には支援金を出す」「事業接種時のPMDA法では救済されない入院相当でない通院についても医療費・医療手当の範囲とする予算事業措置をする」と確認されました。目新しいところでは、「臨床的観点からの研究に加え、疫学的観点からの研究を実施する」というものですが、現在の被害者のためにどれだけ役立つ研究がされるのか疑問です。 この「研修会」は、「回復例」の報告研修会と称し、国の協力指定病院のうちの4例を医療機関の医師(ペインクリニック等)が回復例として紹介しましたが、痛み感覚障害や脱力、意識消失発作、記憶力低下、頭痛、耳鳴り、まぶしさ、立ちくらみなど、それぞれ患者の接種歴や主訴、初診時の様子や経緯を説明し、医療者が患者に親切に冷静に対応すること、普通の生活をさせること、慢性疾患となった副作用被害に病名をつけることは意味がないこと、ワクチンとの因果関係を追及することは痛みに対するネガティブな思考となり症状を悪化させること、原因のわからない痛みは多くあることなどを患者に説明している等と報告されました。 牛田班[注2]が提唱していたように、認知行動療法(慢性疼痛の原因治療と慢性痛と心理社会的要因の相互作用から物事の受け取り方や考え方である「認知」に働きかけて物事のとらえ方を改善し、日常生活でできることを増やし、痛みがあっても安心してできることをする、因果関係や病名を特定することは意味がないなど、決して因果関係を認めようとしない国の立場に添うため、ワクチンとの関係を棚上げしたままで対処方法をすすめているように受け止められました。心因性の病気には心因性治療で対応するというものでしょうか。 そもそも、政府の予防接種関連の審議会は、ワクチンの導入から、評価、救済にいたるまで、一貫してワクチン擁護の立場を取っており、その委員構成は利益相反を強く疑わせるものです。子宮頸がんワクチンも最初にワクチンの医学的な評価をするためのファクトシート作成にあたって、グラクソスミス・クライン(GSK) 社員の論文が重用されたり、関係委員がメーカーからの寄付金を受け取っていたことなども明らかにされていますが、このようなことは氷山の一角です。 副反応の検討すべき審議会(厚生科学審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会と予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の合同開催、以下合同開催)の委員長が、メーカーから多額の寄付金を受け取っていて、合同開催の審議規程により参加できないことも多々あります。しかし実際はその委員の知見が必要として発言を許し、審議会の議論をリードしています。しかも、その委員が最終的な個々の副反応を審査する認定部会の部会長をしているのがこの国の実態です。信頼できる審議会体制とは到底言えないところで、実質的な予防接種行政を決定づける審議会は国の責任回避のためのノウハウを蓄積しているとしか思えません。 それ以上に問題なのは、こうした失政が明らかになると審議会内の一部委員が「意見」を出して小手先の救済の対応(ポーズ)をとることです。2015年9月17日の「有志の意見書」はその典型例です。国としては訴訟回避しながら被害者の声にこたえるための苦肉の策かもしれませんが、責任をあいまいにする姿勢は許されるものではありません。訴訟ではどこまでこうした意思決定が問われるのか、注視していきたいと思います。無過失補償制度は被害者保護になるのか 4大裁判やMMR裁判を経て、1994年に予防接種禍4大訴訟の敗訴をうけた国は、予防接種法を改正しました。予防接種は集団社会防衛から個人の健康を守るため個別接種となり、接種は基本的に義務ではなくなりました。どのようなワクチンも基本的には、接種を受ける側が選択できることが保障されたわけです。しかし、その後の制度設計そのものが、経済成長戦略の観点から、ワクチンの増加による市場規模の急速な拡大と、り患するリスクの少ない疾病についても、ワクチンで防げるものは防ぐVPD(Vaccine Preventable Diseases)という考えのもと、国と業界、医師界の太宗、一部マスコミをあげての接種推進政策が続けられている点に根本的な問題があります。 ネット等で被害者へのバッシングともうけとれる論調に、「国際的にはHPVワクチンの有用性・安全性は確立されています」との前提のもとに、「因果関係がないことは国際的にも明らか」とか、「米国疾病予防管理センター(CDC)や欧州医薬品庁(EMA)もHPVワクチンの安全声明を出し、『これまでの科学的検討から、HPVワクチンが複合性局所疼痛症候群(CRPS)や起立性調節障害(POTS)を引き起こすことを支持する知見はない』と断言している」とし、(被害者の副作用を)「日本で年間約3000人の命を奪う子宮頚がんの脅威と比べて、ゼロではないとしても如何に小さい『副反応』であるかはあきらか」としたうえで、(私の目的は提訴に踏み切った)「彼女たちを『科学的ではない』と批判することにはありません。彼女たちは『HPVワクチン接種後に、それぞれの後遺症を受けた』被害者です。科学的方法とは、A→Bの順番に起こったことをそのまま『因果関係』と認めることではありません。適切な証拠、明確な結論、証拠と結論を結ぶ推論過程、並びに事象の再現性。このような条件を揃えて、科学者はある事象を(少なくともその時点での)科学的事実と捉えます」としています。 「(原告となることを決めた『被害者』12人を批判する気はありません。『因果関係』が科学的に認められようと認められなかろうと、彼女たちが『被害』を受けたことは事実であり、それに対して『無過失補償』を行うことは必要だと考えています。最終的に因果関係が明確に否定される(あるいは「被害者」たちが納得する)日が来たら、『無過失補償』ではなく、通常のCRPSやPOTSに対する保険診療のみで対応しても良いでしょうが、まだ原告たちが納得できる社会状況にはないと考えています。)としています。(「 」内2016年4月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会寄稿文より抜粋) 因果関係に関する主張の当否は別として、このほかにも、無過失補償をすべきとの議論があります。訴訟という多大なる時間と費用を考えた場合に、無過失補償という立法的解決は有用な選択肢であることも論を待たないでしょう。現にこれまでの薬害エイズやB型肝炎訴訟、スモンなどの一連の訴訟では敗訴または和解後、国は被害者救済のための特別立法での救済の対応を行っています。 しかし、それも因果関係を認めさせ、訴訟という過酷な手続きを経ての成果です。「因果関係はともかく、被害を受けたから無過失補償でいいじゃないか」という考えは、真の意味での原因究明や責任の所在をあいまいにするものであり、失政やそれに加担した真の原因者の責任をあいまいにし、将来にわたって化学物質等における被害救済にとって組織的過失を繰り返す元凶だということに思いを致す必要があります。なによりも、被害者はなぜ、このようになったのか、その原因を知りたい、そしてもとの状態にもどしてほしいというのは当然の権利というべきものです。 そもそも予防接種法自体が。国が強制(積極的勧奨)をしたことによる損失補償的な観点からつくられた法律ですから、本来は国の無過失責任を保障するものであったはずです。1994年の法改正以後、迅速な救済と情報公開の理念のもとに改正された法律ですが、その改正を跨いで、予防接種法上の救済と国家賠償法による救済が両方とも司法で認められたことが、改正後の予防接種法の解釈に混乱を期待している原因のように思われます。ここでもう一歩、法的救済について考えてみましょう。 日本では、民事上、行政上被害を受けた場合の被害回復の金銭的な填補として、損害賠償と損失補償という制度があります。損害賠償は、民事上、債務不履行や不法行為等の違法な行為によって損害が発生した場合に損害を与えた者が、損害を受けた者に対してその損害を賠償して、損害がなかった状態と同じ状態にすることをいいます。損害賠償で賠償される損害の範囲は、原則として不法行為や債務不履行等の原因事実と相当因果関係に立つ全損害。国が損害を与えた場合は、国家賠償法によるとされます。 これに対して、損失補償とは、適法な公権力の行使によって損なわれた特別の犠牲による財産的補償をいいます。一般的な法律の定めはありませんが、憲法第29条第1項は、「財産権は、これを侵してはならない」と定め、同条第3項では、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と定め、損失補償の根拠とされています。米国の制度は優れているのか 予防接種禍の法的救済としては、第1に,1976年,予防接種法が改正され予防接種健康被害救済制度(以下,被害救済制度)が作られているので,それによる給付を求める(予防接種法の救済)、第2に,国が行っている予防接種制度によって被害を受けたとして,国家賠償法に基づき裁判に訴えて損害賠償を求める、第3に,一方で,被害救済制度は不十分であり,他方で,損害賠償請求訴訟では過失の立証その他,被害者に重い負担があるとして,損失補償の理論による救済を求めることができるとされてきました。 被害救済制度による給付請求では予防接種と後遺症との因果関係が,国家賠償法による損害賠償では過失の有無および後遺症との因果関係が問題となりました。この場合の過失とは何か,そしてそれぞれの手続で争われた因果関係はどのような内容のものかが論点とされました。1986年に福島県で提訴された訴訟(筆者も傍聴)では、1996年に不支給処分取り消しとして、第1の請求が認められました。また、2001年,東京地裁は,本件接種に過失があり,それによって原告は損害を被ったとして因果関係も肯定し、第2についても原告勝訴の判決を出しました。 その後、第1が認められると自動的に第2も認められることから、被害者救済に厚い反面、国が認めない方向に固執し、逆に被害者救済を阻害することになったいう見解も出され、「疑わしきものは認定」ということで、国の因果関係を肯定する姿勢を躊躇させ、逆に被害者救済逆に阻害する可能性が出てきたとの見解もだされています。第3の請求のロジックは今のところ日本の高裁レベルでは否定されていますが、米国はこれに近い考え方取っており、低額ではあっても無過失補償を得るか、弁護士を立て徹底的に損害賠償を争うかの二者択一をさせるという制度を取っています。米国の制度は優れているのか 米国では、1970年代から80年代にかけて,予防接種による被害者がワクチン製造業者や予防接種を実施した医師を被告として訴える訴訟が増加しました。予防接種を推進した州政府や連邦政府を訴えなかったのは,アメリカでは伝統的な主権免責法理の下で国家責任を問うことが難しいこと,主権免責を放棄した州についても予防接種自体が効果的な公衆衛生の施策だと評価されている限り,そこに過失を伴う不法行為があるという立証は不可能に近いと考えられたからだとされています。 そこで,アメリカでは,当時製造物責任一般について判例法による無過失責任(厳格責任)等の救済が拡大していたことから、ワクチン製造業者に対する製造物責任訴訟が主要な被害者救済手段となりました。1980年から1986年までの間に,予防接種被害に関する製造物責任訴訟の請求額は総額で35億ドルにも上り,賠償責任を恐れて,製薬会社でワクチン製造から手を引くものが増加したとされています。 アメリカの場合には,社会の個人主義的傾向にもかかわらず,強制という要素を伴わせて1988年に救済制度が連邦政府の下で作られました。しかも,アメリカの場合,その救済を選択すると損害賠償請求の訴権を失う形(補償としての被害救済制度と損害賠償請求訴訟が択一的で,どちらかを選択しなければならない)になっているのです。その代わり,被害救済制度では過失を立証する必要がなく,予防接種によって被害を受けたことだけを立証すれば救済が与えられるとされています。 アメリカの弁護士には,予防接種によって被害を受けた人に相談をされた場合,この救済制度が存在することを知らせる義務が課されており,不法行為訴訟に訴える前に救済制度への請求をしなければならない形になっているそうです。しかしながら、米国の救済制度がうまくいっているわけではなさそうです。 無過失補償と言っても、① 軽微な損害を除外するため,損害は少なくとも6か月以上継続し,死亡かまたは入院や手術を必要とする重症の場合に限定した。②救済を請求する期間に一定の出訴期限を設けた。③請求にあたっては,百日ぜきなど限定列挙された一定範囲の感染症に対する予防接種を受けた事実とそれによって被害を受けたことを証明する医療記録を提示することが求められている。④法律には付表(table)が付けられており,そこには予防接種の種類ごとに一定の副反応と接種後発症する通常の期間が明記されている。それに当てはまる請求は付表型として因果関係ありとの推定が働く。しかし,それが当てはまらないケース(非付表型)では,被害者は予防接種によって被害が生じたことの立証責任を負う。⑤請求は裁判所に行う。Court of Federal Claims(連邦請求裁判所)に訴え,補助裁判官(special master)が240日以内に認定を行い,通常はそれに従った決定の形で判断がなされる。上訴も可能であり,その場合,Court of Appeals for the Federal Circuit(連邦巡回区控訴裁判所)への上訴がなされ,最終的には連邦最高裁へも上訴する可能性がある。国の責任追及と訴訟への支援を その実態は、被害者に手厚い保護を与えるための制度だと強調していたにもかかわらず,実際の運用は敵対主義的になっており,容易に因果関係が認められない状況になっている。予防接種と副反応との因果関係が現代の医学では十分にわからないことのリスクを,どちらかといえば被害者に負わせているのである。なお2001年から2005年までの期間で,この救済制度の恩恵を受けた被害者は年平均66件である。(以上、医療と法を考える 法学教室 2007 June № 321 予防接種被害と救済 樋口範雄より抜粋引用)日本のこれから~国の責任追及と訴訟への支援を これまで述べてきたように、子宮頸がんワクチンはいまだに定期接種の対象に入っています。未だに接種を受けている人がいるのです。また、いつ被害が発症するかとの不安な思いを持っている接種をした人に十分な説明責任を果たすためにも、定期接種から外し、政策の誤りを認め公的に謝罪すべきでしょう。まずはここから始めるとしても、被害者のための救済体制の整備もされていません。厚労大臣は超法規的な救済も視野に入れるとの発言をして、予防接種リサーチセンターで、わずかばかりの救済事業を始めましたが、医療費や医療手当の支給の留まり、その手続きも煩雑で被害者を苦しめています。 こうした中で、定期接種からもすでに5年を超えた今、法的裏付けのある公的な救済体制を求めての提訴は当然の権利です。提訴にネガティブな意見がネット上散見されますが、再発防止の観点から、国は真摯に訴えを受け、検証委員会を設置し、第三者機関として導入の経緯から再発防止の観点から、国自らがこれまでの姿勢を問うことがなければなりません。それをしないで、接種再開など許されるはずがないことは言うまでもありません。 最期に、お子さんがインフルエンザワクチンで被害に遭われ、「私憤から公憤へ」の著者であり、4大裁判の被害者をまとめ上げ26年の訴訟を戦い抜かれた吉原賢二さんの言葉を引用させていただきます。少数の被害者は「ひとごと」ではなく、もしかしたら自分にもあたるかもしれない災厄であり、社会の多数者の問題として意識されなけれならないということです。人がそれぞれの知恵とわざをもって造りあげた文明社会で、連帯の精神を忘れたらどうなるでしょう。社会は崩れるほかないと思います。予防接種が社会問題となって約40年、このことを明らかにしてきた私どもの運動はそれなりに意義があったと確信します。(中略)伝染病と人類の闘いは有史以来ですが、ワクチンは万能ではなく、その効果の限界、副反応の状況をよく把握して使わなければなりません。  問われているのは、私たち一人ひとりの医療リテラシーかもしれません。子宮頸がんワクチン禍訴訟を全力で支援していきます。[注1] 新刊ブックレット それでも受けますか?予防接種~知っておきたい副作用と救済のこと(コンシューマネット・ジャパン)[注2] http://www.aichi-med-u.ac.jp/mpcmhlw/H25研究報告.html(代表研究者 牛田享宏  愛知医科大学医学部学際的痛みセンター教授)[注3]ルンバール事件(東大病院ルンバール事件) 1975年10月24日に下された最高裁判決(民集29巻9号1417)。因果関係について、裁判所が因果関係の証明に関して「指導的な判断」を示した判例[注4]厚生労働省「予防接種制度の見直しについて(第二次提言)」(この提言で7つのワクチンの積極的推進の方向が出されたが、特に子宮頸がんワクチンについては委員間で疑問も呈される中、座長の加藤達夫氏が異例の意見書を出していた)

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    一匹のマウス実験で結論 子宮頸がんワクチン研究班捏造の実態

    ット実験の状態で、有意差を認められるような結果は得られていません。将来、何かしらの情報が得られれば、医療機関で同ワクチン接種の際、付加コメントが出来れば良いかと思っています。宜しく御願い致します。 A Wedge編集部は7月号発売直前の6月17日、厚労省担当課に記事の内容を説明しに行った際に、池田修一教授から厚労省に対し電話が入「ウェッジは人権侵害である」と池田教授は言ったそうだ。 編集部は、「このような方が副学長、医学部長の任にあることは大きな問題であると考えます。大学として何らかの措置をとられるべきではないかと存じます」との手紙を添えて、信州大の学長宛てにWedge7月号を6月17日午前着の宅配便で送付している。学長に呼び出された池田修一教授は、このような手紙を学長に送ることは人権侵害だと言っているらしい。 記事で問われた実験内容については一切のコメントなく、人権侵害だという怒りの電話をなぜか厚労省にかける池田修一教授。何が人権侵害なのか不明だが、万が一そうだとしても、言うべき相手は編集部だろう。 編集部は、池田修一教授にも同日着でWedge7月号を届けている。「先日は当方の取材に対して誠実なご回答がいただけませんでしたが、どういうお考えでこのようなことをなさったのか、ぜひ改めてきちんとお答えいただけないでしょうか」という手紙を添えて。 まもなく1週間が経つが、池田教授からリアクションはない。 それぞれの立場と動機から、捏造に手を染める研究者たち——これが国費を投じた子宮頸がんワクチン薬害研究班の実態だ。子宮頸がん罹患リスクを負ったワクチン未接種の少女たちとワクチンに人生を奪われたと苦しむ少女たちの未来は、こんな大人たちの手に委ねられている。むらなか・りこ 医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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    子宮頸がんワクチンと遺伝子 不安煽るミスリードをする研究班

    ど脳の働きに関する症状を訴えた患者の7~8割は特定の白血球の型を持っていることが分かった」(中日新聞<共同通信配信>、2016年3月17日朝刊) 3月16日以降、こんな報道が続いた。 16日の午後、池田修一・信州大学脳神経内科教授を班長とする「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究」(通称:池田班)と、牛田享宏・愛知医科大学医学部学際的痛みセンター教授を班長とする「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」(通称:牛田班)の2つの子宮頸がんワクチン副反応研究班による成果発表会が行われた。これまで2班は非公開の合同会議を繰り返してきたが、この日はその模様がメディアに公開される形となった。一連の報道は2班のプレゼンテーションを受けてのものである。「遺伝子」に食いつくメディア プレゼン合戦の結果は、池田班の圧勝だった。メディアは池田班の発表だけに触れた。科学的な意味を持たないデータでも「遺伝子」「白血球型」といった科学的なワードを使って不安を煽るデータを出せば、メディアは進んで書く。言い方にさえ気をつけていれば、問題になっても「メディアが勝手に書きました」と言える。牛田班が公然と池田班を批判しないことも分かっていただろう。神経に障害が無くても痛みが生じることや、子宮頸がんワクチン導入以前から、原因不明の長引く痛みを訴える子供が多数いることを紹介した牛田班の眠たげなデータに触れたメディアはなかった。 問題の白血球型は、正しくはHLA(ヒト白血球型抗原)型と呼ばれ、ヒトの免疫応答に深く関与する遺伝子の配列だ。人によって型が異なり、例えば、移植を行う際に拒絶反応がおきないよう患者と臓器提供者との間で一致させるのもこのHLA型である。比較の対象とはならない別の数値を比較 2015年7月4日、毎日新聞が「信州大の池田班に加わる鹿児島大のグループが12人の患者の血液を検査したところ、HLA-DPB1という遺伝子が0501型だった患者が11人(92%)に上り、免疫異常による脳炎を起こしていた。0501型は日本人に多い型だが、全体では4〜5割に過ぎないため、同グループは、『HLA型が副作用に関連している可能性がある』とした」 と報じて以来、界隈では注目されていた話だったが、今回の成果発表会ではデータが更新され、*05:01の型の患者が鹿児島大で19人中16人(84%)、信州大で14人中10人(71%)となった。 筆者は、京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターの松田文彦教授の協力を得て、池田班の発表資料を検証した。すると、池田班の発表には複数の重大なミスリードが見つかった。出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料 それはまず、池田班が、比較の対象とはならない別の数値を比較していることだ。「患者で84%(鹿児島大)、71%(信州大)」という数値は、患者集団の「遺伝子(正確には、アレル)保有率」であり、「日本人全体で4割程度」という数値は、日本人が保有する「遺伝子頻度(アレル頻度)」だからである。 池田班のやっていることをわかりやすいたとえで言えばこうだ。夫婦12組、計24人のある集団の収入を調査したところ、少なくともどちらか1人が500万円以上の収入のある夫婦が11組あった。働く日本人全体の40から50%が年収500万円以上であることがわかっているとする。だからこの集団は平均より年収500万円以上の人の割合が多い。これは本当だろうか。11組すべてでどちらか1人だけが500万円以上稼いでいたとすれば、11/24x100=45.8(%)である。これは日本人の平均40から50%と変わりない。出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料をもとに作成 詳しく説明する。HLA型は父・母の両親から各1個ずつ引き継ぐ2個の遺伝子により決まっている。例えば、12人の患者がいれば、遺伝子は24 個ある。「遺伝子保有率」とは12 人の患者において2個のうち1個でも特定のHLA型を持っている人の割合(●/12人)であり、「遺伝子頻度」とは24個の遺伝子のうち特定のHLA型が占める割合(▲/24個)のことである。正しい比較を試みる比較してはいけないものを比較する ここで*05:01型をA、*05:01以外の型をaと表すとする。HLA-DPB1はAA(ホモ)、Aa(ヘテロ)、aaの3通りのパターンがある。仮に計12名、AA、Aa、aaがそれぞれ3名、6名、3名の集団があったとすると、*05:01の「保有率」は12 名中9名で75%だが、「遺伝子頻度」は24個中12個、すなわち、50%となる。保有率と頻度はまったく別のもので、同じ集団の異なるものを見ていることが分かるだろう。 筆者は改めて正しい比較を、すなわち、遺伝子頻度同士の比較を行うため、まずはAA、Aa、aaを保有する人の人数の再現を試みた。 鹿児島大の19例には遺伝子頻度の記述がないため分析しようがないが、HLA-DPB1*05:01だけは、欄外の注記に「2例追加」「ホモ接合例6例、ヘテロ12例」とあるので、2例追加後の21例を母集団(検体数:N=21)とすれば、保有率85.7%、遺伝子頻度57.1%と計算が再現できる。また、信州大の14例については、すべてのHLA型について保有率と遺伝子頻度がきちんと明記されているため、人数の再現ができ、遺伝子頻度を計算することができた。その結果が次の2つの図であり、鹿児島大57.1%、信州大が46.4%である。出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料をもとに作成 次に「日本人全体で4割程度」と報道されている数字について検証する。鹿児島大の表でいうところの「HLA遺伝子アレル頻度(日本人control)」と、信州大の表でいうところの「遺伝子頻度(一般日本人)」であり、HLA-DPB1*05:01は、鹿児島大40.70%、信州大38.4%となっているのでどちらの数字も「4割程度」で間違いない。ただし、信州大は38.4%という数字の出典を「HLA研究所のデータ」としているものの、鹿児島大の40.70%という数字の出典は不明であるため、ここからは、日本人全体の遺伝子頻度は、信州大の数字である38.4%(つまりHLA研究所のデータ)として話を進める。 さて、本題は、先ほど計算したHLA-DPB1の*05:01の遺伝子頻度である、「鹿児島大57.1%(N=21)、信州大46.4%(N=14)」という数字は、「日本人全体の遺伝子頻度38.4%」に比べて本当に多い(統計学的に有意差あり)と言えるのか、である。有意差がない!?比較すべきものを比較すると有意差がない そこで今度は、松田教授に検定(FisherのExact検定)を実施してもらった(信州大は他の6つのHLA型についても遺伝子頻度が明記されているため、それらについても検定を行ってもらった)。 その結果、p値は上図H列のとおりとなった。有意水準は厳密な統計解析では1%を設定し、p値が0.01より小さければ「有意差あり」とするが、鹿児島大のp値は0.0162で「有意差はない」。ところが、鹿児島大の発表資料の欄外注記にはp<0.001となっており、これは検定の手法に重大な誤りが想起されるほどの大きな違いである。少なくとも鹿児島大は計算根拠を示すべきだろう。 鹿児島大が示している日本人全体の遺伝子頻度40.7%を使っていないからだという反論はあたらない。HLA研究所の38.4%という数字の方が40.7%という数字よりも値が小さく、むしろ有意差が出やすいからだ。 有意水準は5%と少し緩めに設定する場合もあるが、鹿児島大のデータは10種類のHLA型を比較しているので、設定した有意水準の0.05を10で割った数字(この場合は0.005)より小さな時に初めて有意差があると判断する。「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」を避ける一般的な方法で、統計学者は常にそれを行なう。そうすると、0.0162は5%の有意水準でも「有意差はない」と結論されることになる。 信州大の検定結果も、HLA-DPB1の*05:01型を含む全7つの型についてp値は0.05を大きく上回り、「有意差は全くない」とも言える結果となった。 すなわち、日本人全体で4割程度の人が保有している*05:01型が、ある集団で57.1%や46.4%という頻度を示すことは極めて当たり前のことなのだ。 池田班の発表とそれに基づくメディア報道には、遺伝学者や統計学者の専門的サポートを受けていないのではないかと思われる箇所が散見されている。これまで述べた保有率と頻度の混同という極めて基本的な誤りがその代表例だが、例えば鹿児島大のスライドでは「05;01」などとセミコロン「;」を使っている。HLA遺伝子の遺伝子型の表記ではコロン「:」を用いるのが世界のコンセンサスだ。現段階でのデータは科学的意味を全く持たない 松田教授はこう語る。「そもそも、21とか14という少ない検体数では偶然の産物である場合が多すぎて、科学的にどうということは論じられない。そのため検定を行うことはほとんど意味をもたず、だから発表では検定の結果を示さなかったのかもしれない。今後の計画では150人に検体を増やしていくらしいが、少なくとも現段階でのデータは科学的意味を全く持たない」 では、150人にまで検体数を増やすと、どんな検定結果が予想されるのか。 「信州大の14例の分布結果と同じままだったら」という仮定を念頭に松田教授に尋ねると、次のような答えが返ってきた。 「検定はデータが揃ってから行うものであり、仮定に基づいた推論はできない。いずれにせよ、150人のHLAを調べた結果が14人のときと全く同じであるとは考えられない。たとえば、*05:01の遺伝子頻度が約46.4%だとすると、14人が15人になった時に15人目の人がAA、Aa, aaである確率は、それぞれ21.5%、49.8%、28.7%であり、15人目がどれになってもおかしくない。それによって15人の集団の遺伝子頻度は50.0%、46.7%、43.3%となる。一例増やしただけでもこのようにぶれてくるので、14例から150例で頻度が変わらないという単純な発想は通用しない。それでも何か言えることはないかと聞かれれば、極めて控えめにではあるが、検体数を増やせば、14例のときDPB1*05:01よりも患者と対照群で頻度の差が大きかったDQB1*06:01やDRB1*15:02でより強い関連が得られる可能性がある」出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料 では、なぜ池田班はHLA-DPB1の*05:01というHLA型にこだわるのだろうか。先述した15年7月4日付け毎日新聞で紹介されたように、12例中11例と保有率が極めて高く(現段階でも保有率が7〜8割と高い)、他の遺伝子より目立ったこともあるだろうが、この考え方は保有率と頻度の混同であって誤りである。同時に、次のスライドからは、池田班のひとつの「狙い」が透けて見える。むらなか・りこ 医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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    子宮頸がんワクチン「脳障害」に根拠なし 誤報の震源は医学部長

    社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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    女医アンケート 定期的にがん検診受けている割合は47.5%

    がんにはまずかからない」「不要な検診はしない」というのが主な理由。「自分で診断する」という声も。女性医療ジャーナリストの増田美加さんはこう解説する。「20~30代医師も含まれているため、受けていない人が多いのかもしれませんね。現在、科学的証拠(エビデンス)のあるがん検診では、子宮(頸)がん検診以外は40才以降1~2年に1回でOKです」 ちなみにがん検診を受けているという女医を対象に「受けている項目は?」(複数回答可)と質問したところ、「子宮がん」「乳がん」がともに40人、「胃がん」が26人、「肺がん」が25人、「大腸がん」が22人という結果となった。「30代までは胃がん、大腸がんの検査は不要」とした人でも、「乳がん、子宮がん検診は20代から」という声多数。「子宮(頸)がん検診は20才から1~2年に1回定期的に受けることで、がんになる前に発見することも可能です。しかし日本の子宮(頸)がん検診受診率は約24%。乳がんも同様で先進国で最低の値です」(増田さん)

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    注目高まる乳がん検診 マンモグラフィー効果は多様な見解

    ラフィーについて海外では「意味がない」「リスクがある」との意見も強い。実際、2014年5月にはスイス医療委員会が「マンモグラフィーは死亡率を低下させない」として廃止勧告、2009年には米国予防医学特別作業部会が「推奨しない」と結論づけたことを発表。2014年にはカナダ・トロント大学も「マンモグラフィー検診は、乳房触診検査や通常診療のみの場合に比べ乳がん死を低減しなかった」と指摘した。 新潟大学名誉教授の岡田正彦氏が言う。「検診を受けた人と受けない人の死亡率は統計学的に有意な差がないという報告があります。つまり乳がん検診に有益性はありません。 乳がん患者が増えているのは単純に検診率の上昇とともに過剰な診断が増えているからでしょう。死亡者数はほぼ横ばいです。誤診によって投薬や切除されてしまうこともあるなど不利益もあります」 マンモグラフィーへの疑念と同時に、日本では視触診に対する見直しの動きもある。「厚生労働省は2015年に、《乳がんの早期発見という観点からはしこりを発見する視触診は最適な検査法であるとは言い難い》としていて、全国各地の病院のなかには視触診を廃止した病院もあります」(富永院長) ではどうすればいいのか。富永院長が続ける。「2015年に東北大学の教授らによるグループが発表した論文で、マンモグラフィーと超音波を併用すると発見率が1.5倍上がったことが報告されました。調査の中心となった対象は40代ですので、特に50才までは併用することをおすすめします」 大切なのは“検診しているから大丈夫”“若いから大丈夫”といった「○○だから大丈夫」という油断を捨てることだ。 自分の手で体をなぞるセルフチェックを欠かさないようにし、日々の変化を見逃さないことが求められる。海老蔵は6月10日、会見後に「検診に行きます」というコメントが殺到したことを受け、ブログにこう綴った。《これってマオがとても喜ぶなぁと想いました。マオは元気になったら少しでも世の中の為に役立ちたいと思っているので…。(中略)今回の事で多くの方が検査をして場合によっては救われる方も出てくる。その様なとらえ方ならば昨日の会見はよかった》関連記事■ 女医アンケート 定期的にがん検診受けている割合は47.5%■ ピンクリボン運動始めた医師 検診受けやすい環境作りも行う■ 乳がん検診 マンモグラフィーより超音波が検出率高いと医師■ 北斗晶がマンモグラフィーで乳がん発見できず 医師が理由解説■ 厚生労働省の乳がん検診無料クーポン 利用者は24.1%

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    子宮頸がんワクチンは危険なのか

    「子宮頸がんワクチン」をめぐり、国と製薬会社2社を相手取った集団提訴が間もなく提起される。本当に薬害を引き起こしているのか否かという議論もさることながら、ワクチン問題は現代を生きる私たちが陥った、ある深刻な病巣を浮かび上がらせる。

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    子宮頸がんワクチンがあぶり出すメディアとアカデミアと行政の病巣

    (ヒト白血球型抗原)型とマウス実験に重大な疑義があることを示した村中氏の記事は非常によく読まれ、特に医療界に大きな衝撃を与えた。前者は遺伝子頻度と保有率をあえて混同しており、ミスリードは甚だしい。後者は、深刻すぎて説明を始めると紙幅を要するため詳細は上記記事をご覧いただきたいが、少なくとも明らかな研究不正であり、その実験デザインと恣意的な発表に込められた意図を考えれば「捏造」と呼ぶにふさわしいと弊誌は判断している。Wedge編集部は6月17日着で信州大学の濱田州博学長宛てに雑誌をお届けし、「大学として何らかの措置をとられるべきではないか」との書簡を添えた。村中氏が大学事務に6月27日午後に確認をとったところ、学長判断として内規に基づく調査委員会を設置する方針であるとのことだった。 同日夜に毎日新聞はウェブに次のような記事を掲載した(以下、太字は筆者)。■「子宮頸がんワクチン 信州大、研究内容で調査委設置」(最終更新 6月27日 19時41分) 子宮頸(けい)がんワクチン接種後の健康被害を訴える女性らを診療している、厚生労働省研究班代表の池田修一・信州大教授(脳神経内科)が、3月に発表した研究内容について、不正を疑う通報があり、同大は27日、学内規定に基づく調査委員会を設置する方針を決めた。(中略) 発表では、子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳組織にのみ、自分の体を攻撃してしまう抗体が沈着していたと説明した。しかし、外部の医療関係者らから詳しい実験データの開示を求める声や、実験自体への疑義が上がっていた。(以下略)■朝日新聞は翌28日朝刊で追随した。ウェブサイトにも転載されている。「子宮頸がんワクチン副反応研究で信州大が調査委設置」(2016年6月28日07時05分) 信州大学は27日、子宮頸(けい)がんワクチンの副作用などを研究している厚生労働省研究班代表の池田修一教授(脳神経内科)の発表内容について、不正を疑う通報があったとして学内に調査委員会を設置する方針を決めた。 発表は今年3月、厚労省内で池田教授がした。自己免疫疾患を起こしやすく遺伝子操作したマウスに、子宮頸がんワクチンや他のワクチンなどを打って反応を調べたところ、子宮頸がんワクチンを打ったマウスだけに異常な抗体が見られたと説明していた。 しかし、外部の研究者らから詳しい実験データの開示を求める声や、研究手法への疑問が出ていた。(以下略)日本テレビも追随している。■「頸がんワクチン研究内容巡り 信州大調査へ」(2016年6月27日 23:40) 子宮頸がんワクチンの副反応の原因究明を行っている信州大学の教授をトップとした国の研究班の研究発表に対し、一部報道などで研究内容に対する疑いが指摘されていることを受け、信州大学は27日、調査委員会を設置することを決めた。 信州大学の医学部長である池田修一教授は、子宮頸がんワクチンの副反応に関する国の研究班の代表者として、今年3月、「子宮頸がんワクチンの接種後に副反応の出ている患者の脳には障害が出ていて、そのワクチンを打ったマウスの脳にのみ緑に光る『自己抗体』が見られた」という内容の発表をしていた。 しかしその後、実験の詳細な内容が明かされないことなどから、一部報道で実験自体への疑いが指摘されていた。この指摘を受けて、信州大学は27日、調査委員会を立ち上げて発表された内容について大学内で調査を行うことを決めた。 信州大学には弊誌を含む複数の通報が届いているであろうし、大学側も誰からの通報と明かすことはないだろうから、「通報があって」という表現は致し方ないのかもしれない。が、「医療関係者ら」「研究者ら」「一部報道」とは何だろうか。たしかに、発表当初からSNSなどで感想を述べる医療関係者や研究者は存在しただろうが、報道として耐え、大学も耳を傾けることのできるレベルでエビデンスを提示したのは村中璃子氏の記事が初めてだった。なぜ、「村中璃子氏」「Wedge」と原先行報道を明記しないのだろうか。 スクープを連発している週刊文春は、「一部週刊誌が報じた」「いついつまでにわかった」など書くメディアに対して厳重な抗議を重ね、「週刊文春が報じた」と書かせるようにしていると新谷学編集長が複数の媒体インタビューに答えている(参考記事の一つ:Yahoo!ニュース 特集 ジャーナリスト森健氏の記事)。新谷編集長は「スクープ泥棒」は恥ずかしいことだと自覚してほしいと、このYahoo!記事で述べている。メディアが抱える「病巣」 これは単に表現の問題ではなく、新聞やテレビといった大手レガシーメディアが抱える「病巣」が露出されているように感じる。 特ネタ・特オチを気にする記者たちは、「抜いた・抜かれた」を過剰に気にしている。しかも、そのネタの多くは、「発表モノ」だ。警察がどんな事件をつかんでいるか、大臣や役所が何を発表するか、大企業が次の社長を誰にするか、どこの企業とどこの企業が合併するか、いずれは公式にリリースされ、全国民が知ることとなる情報を、1分でも早く報じようと鎬を削り、役所や企業の「中の人」との人脈作りに励む。抜かれた場合は、「同業の○○新聞が報じたところによれば」と書くのは恥なので絶対にやらない。ネタ元の役所や企業に「こういう情報はあるか」とアテて、さも自分がもともと別にネタをつかんでいたかのような顔をして報じる。 どうせいずれ公になる「発表モノ」ならそれでいいのかもしれない。しかし、多大なリスクとコストをかけて先行者が取材している「調査報道」に同じことをしていいのだろうか。彼ら大手レガシーメディアの記事の書き方は、形式的には間違ってはいなくても、職業倫理の感じられない不適切なやり方だと筆者は思う。 そもそも、先に紹介した大手メディアは、池田班の発表をどう報じていたか。タイトルを拾う。「健康障害 患者8割、同じ遺伝子 」(毎日新聞、2016年3月17日朝刊「子宮頸がんワクチン 脳障害発症の8割で共通の白血球型」(朝日新聞、2016年3月17日朝刊)「子宮頸がんワクチン副反応 白血球型影響か」(日本テレビ、2016年3月16日22:18日テレNEWS24) 新聞でもっとも詳しく報じた毎日新聞は、「事前に遺伝子型を調べることで、接種後の障害の出やすさの予測につなげられる可能性があるという」「研究班は複数のワクチンをマウスに接種する実験で、子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳だけに神経細胞を攻撃する抗体が作られたとしている」とまで書いた。もちろん、発表があったのは事実であり、“研究班”という主語が「という」「としている」と書く限りは毎日新聞に形式上の落ち度はない。 しかし、これらの報道は、市民にどのような印象を与えたかを考えてほしい。「という」と書きさえすれば、メディアの責任は免れるのだろうか。発表している相手、役所なり企業なり学者なりの言っていることが正しいのかどうかを検証してから報じるのがメディアの務めではないのだろうか。正しいのか自信が持てなければ「報じない」という権利を行使することもできる。 先行する報道の主体をあえて明記しないという有り様と、公的な機関の発表を検証しないで垂れ流すという有り様は、どちらも「発表モノ」の「抜いた・抜かれた」に溺れる業界の文化に深く根ざしているのではないか。これは大手レガシーメディアの深刻な「病巣」であると筆者は思う。アカデミアの「病巣」アカデミアの「病巣」 次に、アカデミアの「病巣」である。 研究不正と言えば、STAP問題が記憶に新しい。あの理研(理化学研究所)が発表したのだからと言わんばかりにそのまま内容を垂れ流し、「リケジョ」「ムーミン」「割烹着」と理研の広報戦略に乗せられて、耳目を引く報道が当初溢れたのは、これもまた先述のメディアの「病巣」の一つと言えようが、注目したいのはアカデミアの自浄作用である。 STAP問題における理研の迷走は目に余るものがあった。詳細は、今回問題になっている信州大学を舞台に実施されている倫理教育プロジェクト「CITI Japan」に参加する市川家國氏の筆による弊誌過去記事「小保方晴子が開けたパンドラの箱 アカデミアは不都合な真実に向き合えるか」に譲るが、研究不正に対してどう対応するかは、近年、日本の研究機関が何度も突き付けられてきた課題である。 研究不正の摘発においては、在野の匿名市民が大きな役割を果たしている。STAP問題でも問題に火をつけ、多くの記者が参考にしていた「世界変動展望」のブログ主も子宮頸がんワクチン問題に関心を寄せてくれているが、彼はこんなツイートをしている。「子宮頸がんワクチン捏造の調査が始まったが、これまでの例から言うと不正認定はなかなか難しく最後までどうなるか不明。J-ADNIも厚労省関係のやつだったが東大は改ざんを否定した。大問題ほど調査されやすいが不正認定基準が上がる事もある」(6月27日、https://twitter.com/lemonstoism/status/747436441106546688) J-ADNIとは、朝日新聞がデータ改ざんの疑いを指摘し、大問題になった国が主導するアルツハイマー病研究プロジェクト。データ改ざんを内部告発した研究者が実名で会見までしたが、東京大学に設置された第三者委員会は、データ書き換えはあるが修正の範疇で意図的な改ざんではなかったと結論付けた。「不適切だが違法ではない」 そう、どこかの知事の問題で何度も聞いた、あのオチである。これまで日本のアカデミアが数々の不正案件で見せなかった自浄作用を、信州大学が発揮することができるか、要注目である。行政の「病巣」行政の「病巣」 一方、名古屋の疫学調査では、村中氏が上記記事で詳述したように、名古屋市が、いったんは公開した、委託先である名古屋市立大学の解析結果を封印し、公開要請にも応じないという、極めて憂慮すべき事態に陥っている。 記事はこう結んでいる。「市が主体的に『因果関係なし』と主張していると受け止められると何かと困るから、解析結果に蓋をしてしまったというだけだ。クレームが来れば科学を封印する、そんな行政でよいのだろうか」 行政が市民や議員のクレームに耳を傾けることは大事である。しかし、科学を封印してはいけない。 市の担当者は、編集部の取材に対し、「名古屋市立大学の解析結果は、いち解析結果として否定しない」、しかし、「解析結果について、専門家がいない市役所では評価できないから公表は差し控えたい」とし、市立大学が公表することも許可しないとしている。 専門家ではない市が科学的な評価を下せないと主張するのは、まだ理解できる。であれば、市の言う、まさに「いち結果」として淡々と、市立大学の解析結果を公表し、合わせて、ほかの疫学者が解析しやすいような全データの開示に努めればいい。そして、市としては、市立大学の解析結果を保持したまま、アカデミアの多様な研究や議論を喚起し、すべて出そろった段階で、行政として市民に必要な一定の判断を下せばいい。 最終的な評価・判断を下すための専門性がないなら、専門家を集めて委員会を立ち上げることもできる。河村たかし市長は会見で見解を示すのは国に委ねたいと言ったが、そんなことはない。かねてから主張している「地方分権」を完遂するなら、まさにこのようなテーマで、大都市名古屋の長として、一定の評価・判断を下すところまでやり切るべきだ。 行政が科学的な評価・判断をいきなり下すのはもちろんおかしい。しかし、アカデミアは多様な意見が尊重されるからアカデミアなのであって、その多様な研究や議論を尊重したうえで、一定の評価・判断を下さなければ、責任ある政治・行政は遂行できないのではないか。 いったん発表した、ある一つのアカデミアの結論を闇に葬る権利は行政にない。それは「専門性のない」市がもっともやってはいけない科学に対する越権行為ではないか。 池田班の問題では、信州大学は調査委設置を決めたようだが、厚生労働省に動きがない。池田班は、厚生労働科学研究班であって、厚労省が管轄する国費を使った研究プロジェクトである。いわば、厚労省がスポンサーなのであり、ガバナンスをきかせる主体である。厚労省は、専門性がないから判断できないと名古屋市のように逃げるのではなく、研究班が行う発表や、出す結果を受け取る主体として、研究班の行動に問題が発生すれば、適切に監視、調査を行うべきである。 そもそも厚労科学研究班の班会議はクローズドで行われるのが一般的なのに、成果発表会として公開扱いになったのは被害者サイドの要望だ。接種後症状を受け止める全国各地の拠点病院の医師たちに、研究成果を発表して、専門家の中で共有・議論を行おうという取り組みが、それなら患者・被害者にも見せるべきだという要望が入り、厚労省はそれに応じることとなった。 アカデミアは倫理観と正しい科学的手法をもって研究に取り組み、捏造などの不正行為を排し、多様性を維持する。行政はその多様なアカデミアの意見から、もっとも合理的で適切な結論を選択し、政策に反映する。メディアは、アカデミアや行政と市民の間に立つ立場として、専門的な議論や、相反する議論や、複雑難解な事実を、よく取材して、適切な情報提供に努める。3者がそれぞれの役割を果たさなければ、これほどまでに高度に進化した科学技術社会、情報化社会をより良くしていくことはできない と思う。 一見、市民に寄り添っているように見える、アカデミアや行政やメディアの恣意的で安直な行動が、複雑化する現代社会の適切なコンセンサス形成を妨げているのではないだろうか。

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    名古屋市子宮頸がんワクチン副反応調査「事実上撤回」の真相

    社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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    子宮頸がんワクチン研究班捏造問題を報じぬメディアの罪

    上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)「上昌広と福島県浜通り便り」  6月17日、村中璃子氏が『ウェッジ』で衝撃的なレポートを発表した。タイトルは「子宮頸がんワクチン薬害研究班に捏造行為が発覚」だ。 6月23日には、「子宮頸がんワクチン研究班が捏造 厚労省、信州大は調査委設置を 利用される日本の科学報道」という続報が公開された。 村中氏は、これらのレポートで、子宮頸がんワクチンが重大な副作用をもたらすと主張してきた池田修一・信州大学教授(同大副学長、医学部長)らが提示したデータが捏造されたものであったことを示した。 村中氏は、子宮頸がんワクチンがマウスの脳に障害を起こす証拠として提示された写真が「ワクチンを打ったマウスの脳のものではない」こと、および「ワクチンを接種したノックアウトマウスから血清(血液の液体成分)を採取。その血清を別の正常なマウスの脳切片にふりかけて撮った画像」であることを挙げた。 子宮頸がんワクチンが脳障害を起こしたと主張したいなら、血液中に抗体があり、それを実験室で正常脳組織と反応させるだけでは不十分だ。血液と脳の間には血液脳関門と言われるシステムがあり、血液内のたんぱく質の大部分が脳には移行しないからだ。 血中の抗体が脳に移行し、実際に脳組織を破壊していることを示さねばならない。実は、池田氏は、マウスを解剖し、この点も分析していた。おそらく、結果は問題なかったのだろう。この結果は村中氏に追及されるまで隠していた。自分に都合のいいデータだけを取り上げ、牽強付会な論理を構築する。池田氏の態度は科学的には不適切であり、「捏造」と言われても仕方がない。 3月16日、池田教授が研究成果を発表したとき、マスコミは大々的に取り上げた。例えば、TBSは看板番組の「NEWS23」で「子宮頸がんワクチン副反応『脳に障害』国研究班発表」、共同通信は「脳の症状、免疫関与かー子宮頸がんワクチン研究班」と報じている。 3月16日の段階で、各紙が池田教授の発表を、そのまま報じたことは仕方がない。信州大の副学長を務める人物が、厚労省の研究班の班長として発表したのを、「捏造かもしれない」と考える記者はいないだろう。 では、ウェッジのレポートを各紙はどう扱っただろうか。重要なのは、池田氏の発表が不適切であったことが判明したあとのマスコミの対応だ。残念ながら、ウェッジのレポートが発表されてから一週間の6月24日現在、テレビ・新聞はどこも報じていない。 知人の医療を専門とする全国紙の記者に聞いたところ、「社内で揉めている。このことを書きたい記者がいるが、被害者サイドにたつ記者が書かせないようにしている」と言われた。 被害者の救済と、子宮頸がんワクチンの安全性の議論は別物だ。こんなことをしていると、ワクチンを使うことで、予防できるかもしれない子宮頸がんをみすみす見逃すことになる。 どんなワクチンでも副作用はある。メリットとデメリットを天秤にかけねばならない。ワクチン接種は社会全体で考える問題だ。そのためには、正確な情報が国民に伝わらなければならない。これはメディアの仕事だ。今回のような対応は、自らその責任を放棄したことになる。マスコミの自殺と言っていい。 記者が主義・主張をもつことは大いに結構だが、都合の悪いニュースを無視してはならない。短期的に国民を騙せても、やがて信頼を失う。子宮頸がんワクチン問題に関して、マスコミ関係者の奮起を期待したい。

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    日本人はがんとどう向き合うべきか

    今や日本人にとって、がんは最も身近な病と言える。昭和56年以降、日本人の死因のトップはがんであり、もはや世界有数の「がん大国」といっても過言ではない。がん治療は日進月歩とはいえ、私たちの死生観に今なお大きな影響を与える。日本人とがん、この重くて難しいテーマについて考えたい。

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    エセ医学が蔓延する「がんビジネス」 川島なお美が鳴らした警鐘

    い方向性を示してあげることも大切だと思われます。 ひとりでも多くの患者さんが、納得し安心をして最善の医療を受けられることを心から願うばかりです。おおば・まさる 東京オンコロジークリニック院長。1972年、石川県生まれ。外科医、腫瘍内科医。医学博士。金沢大学医学部卒業後、がん研有明病院等を経て東京大学医学部附属病院肝胆膵外科助教。外科医と腫瘍内科医の両方の専門性を有するがん治療専門医。2015年に退職し、セカンドオピニオンやがん相談を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設。著書に『がんと著書に『がんとの賢い闘い方「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)がある。関連記事■ 先端医療? 先進医療? 標準治療? 東大病院を辞めたから言える「がん」の話■ がん治療に携わる医師の「説明責任」~近藤誠氏の川島なお美さん記事に思うこと■ 手術支援ロボット「ダビンチ」が拓く未来■ ストレスに強くなり、胃が元気になる生活習慣■ やせたい人は、今夜もビールを飲みなさい―メタボが気になる方に朗報!

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    「がんになったら不幸ですか?」若くしてがんになるということ

    れてしまう。咳の患者さん全員に肺がんを疑ってCT検査を行うようなことをしていたら、おそらく国家予算は医療費で破産するだろう。でも、その咳の患者さんの中には確実に肺がん患者が潜んでいる。 現段階では、若い人のがんを早期に見つける手立ては残念ながら無いといって良いだろう。山下弘子さん(右)と、鈴木美穂記者(左・カメラ)の取材中の一コマ そんな若年性のがん。 10代でがんにかかった人がいる。山下弘子さん、22歳。 19歳の時に肝細胞がんにかかり、「余命半年」と言われた。19cmもの巨大な腫瘍だったそうだ。それを聞くだけで、医師はこう想像する。「いつrupture(破裂)してもおかしくないし、もしruptureしたらおそらく数分でshockから死に至り、救命は不可能だっただろう」と。 それから複数回にわたる手術、抗がん剤治療、RFA(ラジオ波凝固療法)を経て、現在も治療を続けている。「がんになった今の方が幸せ」山下弘子さん(左)と鈴木美穂記者(右) こう言い切る山下弘子さんを見つめカメラを回したのは、日本テレビの報道記者、鈴木美穂氏(31)。記者である彼女は、実は24歳の時に乳がんにかかっていた。Stage IIIだった。 手術、抗がん剤治療を経て、再発なし。現在はホルモン療法のみで元気に働いている。 そんな彼女が企画・編集し、自らの闘病をも描いたドキュメンタリー番組が、7/4(土)午前10時半から日本テレビで放送された。 番組では、鈴木記者の闘病の様子がありありと流される。手術室に向かうシーン、「死んじゃうー!」と泣き叫ぶシーン、抗がん剤でほとんどの髪が抜けて落ち込むシーン。あまりに生々しい映像に、目を背けたくなる。鈴木記者自身も、その壮絶さに編集作業中に寝込んでしまったほどだ。 二人の若年性がんの患者。姉と妹のように仲の良い二人。二つの人生が交錯する。 若くしてがんにかかるということ。そして立ち向かうということ。 がんにかかった二人は、それぞれ自らの死と直面する。 自らの死を想うことで、「生きるとは何か」「幸せとは何か」を自問する。 自らの死を想うことは、人生を変える最高のトリガーなのである。 筆者は、拙著「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと 若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日」(幻冬舎 2014/3/25)で、「死を想う」ことの大切さ、そして「死を想う」ことによって聞こえてきた「自分の本音」を知り、それに従って生きることの大切さをお話ししてきた。それがあなたの最期のときの無念や悔いを、少しでも減らすことになると考えるからだ。 がんと宣告され、本当に「死を想」った彼女たちだからこそ、いまなにをすべきか、いまどう生きるべきなのか、自分の本音に従って歩んでいけるのであろう。そこに筆者は、目がくらむような魅力を感じ、誤解を恐れずに言えば「幸せそうだ」とさえ思い、この記事を書くに至ったのである。 拙著を読んでいただいたことで筆者は鈴木記者と繋がり、山下弘子さんを知った。そして山下弘子さんの著書「人生の目覚まし時計が鳴ったとき」(KADOKAWA 2015/2/24)に強く共感し、このドキュメンタリー番組の企画を知り取材させてもらったのだ。 がんの宣告。 そんな人生の目覚まし時計が鳴ったとき、あなたは何を想うのだろう。 番組放映はすでに終了しているが、全国からの反響が大きかったためホームページから動画を無料で配信中だ(編集部注・配信終了)。 動画はこちら。 番組ホームページはこちら。 二人が出会い、一年が経つ。 七夕を目の前にして、二人の想いは混ざりあい、ゆっくりと天に昇っていく。(参考・出典)国立がん研究センターがん情報サービスhttp://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html(『Yahoo!ニュース個人』より2015年7月3日分を転載)なかやま・ゆうじろう 1980年、神奈川県生まれ。鹿児島大学医学部卒。その後、がん・感染症センター都立駒込病院外科初期・後期研修医を修了。現在は同院大腸外科医師(非常勤)として勤務。資格はマンモグラフィー読影認定医、外科専門医、がん治療認定医。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと〜若き外科医が見つめた『いのち』の現場三百六十五日〜」(幻冬舎)。

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    がんはいずれ「理想の死に方」になる

    ないくらい深刻だ。なぜなら、日本は癌の疼痛対策後進国だからだ。世界保健機構によると、日本は処方すべき医療用麻薬の16%しか処方していない。多くのがん患者が適切な緩和ケアを受けることなく、痛みをこらえながら亡くなっている。この状況は、一日もはやく是正されなければならない。 どのような終末期を迎えるか。それは、どのように尊厳を持って生きるかだ。いま、寿命を延ばすことを全てに優先してきた価値観の転換が求められている。癌との付き合い方も考え直さねばならない。

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    がん三大治療の限界 抗がん剤では「がん幹細胞」は殺せない

    治も進行を止めることもできません。「がん幹細胞仮説」は現在も議論の最中ではありますが、多くの研究者や医療者が納得しつつある有望な仮説です。新しい統合医療と混合診療の壁―がん幹細胞仮説が新しい常識になると、進行がんには抗がん剤という従来のがん治療の常識も見直す必要がありますか。白川 そう思います。なぜなら、がん幹細胞には抗がん剤が効きにくいからです。抗がん剤を投与すると、がん細胞は次々と死んでいきます。一見、がん細胞がなくなったように見えますが、女王蜂のがん幹細胞はしっかりと生き残っている。 なぜがん幹細胞が生き残れるのかというと、体内の臓器や組織でがん細胞が集まって塊をつくる固形がんの場合、一般のがん細胞たちががん幹細胞を取り囲むように防波堤をつくって守っているから。死ぬのは働き蜂ばかりで、鎧の中にいる女王蜂までは攻撃が届かないのです。 半面、白血病や悪性リンパ腫といった血液のがんは、ばらばらのがん細胞がうようよと浮いている状態。女王蜂だろうと働き蜂だろうと関係なく抗がん剤の攻撃を浴び、次々と死んでいく。だから血液のがんには抗がん剤が効きやすいのです。 したがって、固形がんに有効な抗がん剤治療をしようとすれば、働き蜂の鎧をすべてどけるか、鎧の中にかいくぐって攻撃するかのどちらかしかありません。しかし、働き蜂を全滅させるほど高濃度の抗がん剤を投与すれば、がんが全滅する前に患者さん自身が死んでしまいます。働き蜂のブロックをかわしてがん幹細胞を叩く方法すら、まだ見つかっていないのです。こうした現状では、たとえ水溶性と脂溶性の問題をクリアした抗がん剤が開発されても、本当にリンパ管の中のがん幹細胞に効くか疑問です。―時に正しい情報より政治的・経済的判断で動くWHO(世界保健機関)が、抗がん剤禁止令を出したという話は本当ですか。白川 2014年5月に「抗がん剤治療は中止すべき」という趣旨の勧告をホームページに出したのは事実です。WHO内の化学療法審議会が議論の末、「ほとんどの抗がん剤は固形がんには無効である」との結論に達し、その内容をまとめたレポートをWHOのホームページに掲載したのです。本来なら社会的に議論されるべきレポートですが、日本ではあまり知られていません。なぜならホームページに掲載されたのは半日だけ。世界中のニュースサイトでトップニュースとして紹介されたものの、日本時間では夜中に掲載され、朝にはもう姿を消していたからです。おそらく掲載が化学療法審議会の独断だったのでしょう。内外からの反響の大きさに慌てて引っ込めたのか、真相は藪の中ですが、WHOが禁止令を出しても不思議ではない状況になっているのは確かです。新しい統合医療と混合診療の壁――白川先生のクリニックでは、リンパ管の中に確実に届き、なおかつ女王蜂のがん幹細胞まで叩ける治療法を実践されているということですね。具体的にはどのような治療をしているのですか。白川 「遺伝子治療」「温熱治療」「免疫治療」と、サプリメントを取り入れた「栄養療法」を加えた4つを組み合わせた統合医療を実践し、実際に効果を上げています。 まず、無限に分裂するがん細胞の動きを止めるための遺伝子をリンパ管の中に送り込む「遺伝子治療」を行ないます。次に、40度を超える高温に弱い性質を利用して、リンパ管の中に潜むがん細胞を直接叩くために、強力な遠赤外線を当てて体全体を温める「温熱治療」を施す。そして体内から取り出したがん細胞と闘う免疫細胞のNK細胞を、機能を強化したうえで再び体内に戻し、攻撃型T細胞では対応できないがん細胞への攻撃力を高める「免疫治療」を行ないます。 さらに、サプリメントを取り入れた「栄養療法」で全身状態を改善することで、1+1+1+1=4ではなく、時にそれ以上の相乗効果を得られる新しいがん治療です。この治療法と合わせて、病状をモニターするため適宜血液中のがん遺伝子を測定しています。自由診療ですから治療費は全額患者負担です。―治療の成果を教えてください。白川 これまで私は500人の患者を診てきました。そのほとんどがステージ4の末期がん患者の方ですが、治療有効率(3年生存率)を約60%にまで伸ばすことができました。国立がんセンターや大学病院といった権威ある拠点病院におけるステージ3、4の治療成績と比べて、治療有効率の高さは明らかです。臨床数が少ないとはいえ、進行・末期がん治療における大きな進歩といえる成果だと思います。がん発生の仕組みをがん予防に生かす―3大治療、とくに抗がん剤治療の行き詰まりをかなりの研究者や医療者が感じている。にもかかわらず、治療現場の多くで3大治療を組み合わせる標準治療が選択されているのはなぜですか。白川 理由はいろいろ考えられます。世の中に3大治療以外の治療法は山ほどありますが、ありすぎてどれが効く/効かないの判断ができない。ましてや一人ひとり違う患者に合う治療法を選ぶなどとてもできません。とくに大学病院などの大きな病院ほど保身からマニュアル診療優先の傾向が強い。ガイドラインに則った治療をしていれば、結果はどうあろうと医療者と病院側の責任を問われることがないからです。 制度上は、混合診療という大きな壁があります。医師個人がその患者に保険適用外の治療法がベターだと確信していたとしても、保険診療を順守する病院の方針に反して混合診療を選ぶことは事実上不可能です。この壁は大きいと思います。―医療行政のほうから新たな動きはありませんか。白川 免疫治療が第4の治療として保険適用されるという話は耳に入ってきます。どの大学病院でも治験と称して始めていますし、2011年のノーベル生理医学賞は免疫療法の一種である「樹状細胞の役割」を解明したスタインマン博士らが受賞しました。世界の権威が認めた治療法として、いずれ現実にそうなるだろうと思います。ただ、混合診療を認めないまま、高額の免疫治療を保険適用する方針のようですから、何かの治療を保険から外さないと、医療費の増加に歯止めがかかりません。混合診療の解禁以外に妙案があるとは思えないのですが。がん発生の仕組みをがん予防に生かす―日本人のがん死亡者数は年間約36万人(2013年、国立がん研究センター調べ)で、いまや男性の2人に1人、女性の3人に1人が生涯のうちに何らかのがんにかかると推察されています。「国民病」ともいえる「がん」との付き合い方、予防に関する考え、行動も最新の知見に基づいて変える必要があるのでしょうか。白川 そうです。がんの新常識を身に付け、予防や再発防止に役立て健康寿命を延ばす。そのためにはまず、がん発生の仕組みを知ることが重要です。じつは健康な人でも、体内では毎日3000~5000個の「がん細胞の元」が生まれています。人の体内では約60兆個の細胞が日々、細胞分裂を繰り返しているのですが、その際に紫外線や放射線、食品などに含まれる化学物質、ウイルス、ストレス、活性酸素などの「発がん因子」によって細胞の遺伝子が傷つけられ、コピーミスが生じるためです。 ただ、この段階はまだがん細胞ではなく、「発がん遺伝子」が作動した、正常な細胞から変異した異形成の細胞にすぎません。人の体内には、がん細胞の分裂を止める「がん抑制遺伝子」があり、発がん遺伝子を正常な遺伝子に修復してくれます。つまり、異形細胞の段階であれば、まだ正常細胞に戻れます。食事や生活習慣の変化など、何らかの要因で正常細胞に戻ることがよくあります。―傷ついた遺伝子を自動的に修復する機能が備わっているわけですね。白川 その一方で、体内にはがん抑制遺伝子の働きを邪魔したり、異形細胞の分裂を応援する「発がん促進因子」も多数存在しているのです。血液や体液中にある活性酸素、過酸化脂質、化学物質、有害毒素などがその代表です。発がん促進因子のせいで、がん抑制遺伝子の働きが邪魔されると、遺伝子が変異したままの形で増殖を始め、分裂して新しく生まれる細胞に引き継がれます。ここまで来ると立派ながん細胞です。―体内にはまだがん細胞を取り締まる「免疫細胞」という警察組織があります。白川 免疫細胞には、がん細胞という異物を察知して食べてくれる「マクロファージ」、異常な細胞を見つけて攻撃を仕掛ける「攻撃型T細胞」、体内をパトロールして異常な細胞を見つけて殺す「NK(ナチュラルキラー)細胞」などがある。そして体内では、毎日新たに生まれる異形細胞やがん細胞と、5000勝無敗の闘いが繰り返されます。 しかしあるとき、たった1つのがん細胞が「違法改造車」と見破られない外見をもち、免疫細胞をだますことに成功するのです。1度、取り締まりを擦り抜けると、体の中で大幅な「法改正」が行なわれないかぎり、基本的には2度と免疫細胞に退治されることがないので、5~20年の時間をかけて1㎝のがんへと成長していきます。この1㎝のがんが、倍の2㎝、さらに倍の4㎝に成長するまでの期間はおよそ数カ月です。増殖して大きくなったがんは原発巣を離れ、リンパ管などを通じて体内の別の臓器や組織へ転移していく。転移した進行がんに標準治療が効きにくい理由はすでに説明したとおりです。受動喫煙の発がんリスクは信憑性に欠ける受動喫煙の発がんリスクは信憑性に欠ける―がんの発生過程を聞くと、生活習慣・環境のすべてに原因があることがよくわかります。これまでたばこや飲酒が発がん要因としてやり玉に挙げられてきましたが、その常識も非常識になりつつあるのでしょうか。白川 人間の体の多様性を考慮しない20世紀医療の常識は、21世紀のオーダーメイド医療に沿った新常識に書き換えられていくと思います。人によっては、たばこや飲酒が発がん因子、発がん促進因子になりうるのは確か。ただ、飲酒・喫煙習慣をもちながら60歳まで大過なく過ごせたということは、その人が「酒・たばこの習慣があってもDNAの修復能力が高く、がんになりにくい遺伝子」をもっている可能性が高い。いまから禁酒禁煙したところで、我慢することで生じるストレスのほうがよほど免疫力を低下させ、かえって健康には悪影響。逆に「酒・たばこに影響されやすい遺伝子」をもつ人もいる。そういう人は、きちんと調べて治療しなければなりません。 受動喫煙の発がんリスクについては、検証不能な「平山論文」の非科学性と合わせて、喫煙リスク以上に信憑性に欠けるというのが正直なところです。受動喫煙を避ける権利と喫煙する権利は同等だと思っているので、分煙で棲み分ければ問題ないでしょう。―喫煙率が下がり、受動喫煙の機会も激減しました。それでも肺がんはもちろん、他のがんの発生数も一向に減りません。日本人の健康における課題は何だと考えていますか。白川 最近の疫学調査で、食事が発がんの最大素因であることがわかってきました。食品・水や食品添加物のなかに発がん因子があり、調理の過程で発がん物質が発生し、摂取後の体内で発がん物質が産生されることがあります。 また、発がんを抑制する栄養が欠如した食事、体を冷やし免疫力を低下させる食事を続けていたり、発がん因子の化学物質を含む農薬、肥料、飼料を使った食品を日常的に口にしている。日本人の大半が、そうした食事と無縁ではないはずです。 国立がん研究センターが発表した「2015年の部位別予測罹患数」では、ついに大腸がんが発生数の1位と予測されました。食生活の欧米化が、欧米人より長めの腸でゆっくり消化する日本人の体質に合わず、大腸がんの増加につながったのです。―和食中心の食生活への変更を勧めたり、長年の食生活で変更が難しい人には代替案を提案する必要がありますね。医師にそこまでの知見・指導力があるのですか。白川 日本の医学に栄養学はないので、知識のない医師には指導できません。このことが日本人の健康を守るうえで最大の障害になるのではと危惧しています。がん治療や予防で求められるのは「分子栄養学」で、食品やサプリメントを受け入れる人の治療・予防に必要な栄養や働きを分子レベルで考える学問のこと。 サプリメントや機能性食品が抗がん剤に取って代わるであろう、これからの健康常識に不可欠な知見なんです。 知識をもっているのは農学系統の学者ですが、彼らは患者に直接接して指導できない。病院の栄養士は、医者の処方に従って食事をつくっている。患者は結局、医師に聞くしかありませんが、その医師には知識がない。長年、放置されている構造的な問題です。―今後の問題どころか、いまの医療現場で顕在化している問題なのですね。白川 たとえば、がん患者や食の細い老人に対して、玄米など菜食中心の食事、消化のよいお粥を出す医師は新常識がない可能性が高い。粗食や炭水化物のお粥ではタンパク質の摂取量が減ってしまうからです。免疫系を活発に動かすには必須アミノ酸が不可欠なのですが、良質なタンパク質からつくられます。必須アミノ酸が足りないと、体内の抵抗力が落ち、逆に身体を弱らせてしまうことがある。免疫力が落ちたり食べられない人こそ、効率的にタンパク質、それも吸収のよいオリゴペプチドを摂取すべきなのです。 具体的な食材を挙げれば、卵とシジミ。古い常識ではコレステロール値を高める卵は、病人食・老人食に相応しくないと蛇蠍のごとく嫌われる食材です。ところが、アメリカの疫学調査でコレステロール値が上がっても、死亡率は上がらないことが判明しました。―タンパク質を取るのが常識の時代が来て、最近は植物性脂肪か動物性脂肪かが議論されていると聞きました。白川 そうなんです。ここ3、40年間は、マーガリンなど植物性の不飽和脂肪酸が体によくて、バターの動物性飽和脂肪酸は体に悪いとされてきました。いまになってじつは、不飽和脂肪酸の食べ物がいいと結論付けた数十年前のデータ解析が正確ではなかった。そういう話になりつつあるのです。しかも植物性の不飽和脂肪酸は過酸化脂質ができやすいから、むしろ体に悪い。マーガリンよりもバターの時代が訪れようとしています。食事を改革するしかない食事を改革するしかない―新しい時代の常識に対応した医療を実践して成果を上げている国はありますか。白川 アメリカです。栄養学のエキスパートが医師と同等の発言権をもって、同じ医療チームのメンバーとして活躍しています。アメリカはかつて、世界で最も抗がん剤を使っていた国ですよ。ただ、当時から抗がん剤治療以外の、栄養学に基づく治療を実践するグループが多かった。彼らの知見と医学界の知見が統合され、脱抗がん剤の動きが始まります。米国がん協会では毎年、がんの死亡者数を公表しています。同協会の報告書によると、がんの死亡率は1990年代に低下に転じ、2003年にはがんの死亡者数が1930年以来初めて減少したと報告しています。その後も、アメリカのがん死亡者数は右肩下がりに減少しつづけているのです。―1990年前後に国内で生活習慣の大きな変化があったのでしょうか。白川 肥満の富裕層が、余命を考えて「早死にしたくなければ食事を改革するしかない」と考えたようです。ビジネスエリートたちのあいだで、太った人は自己管理ができない。ビジネスマン失格だという価値観が出てきたのも、同じ時期だったと思います。いまはヘルシーな食事と体内に溜まった有毒物質を体外へ排出する断食のファスティング。この2つがブームです。 多くの日本人は知らない事実ですが、1人当たりの1日の野菜摂取量は、アメリカのほうが日本より多いんですよ。農林水産省が平成25年に発表した「野菜の消費をめぐる状況について」によると、2009年度の日本人1人1年当たりの野菜摂取量は102㎏(1日平均約280g)に対して、アメリカ人は123㎏(1日平均約340g)です。医学部に栄養学を―日本人としては衝撃的な事実ですね。国内ではそうした動きはないのでしょうか。白川 女性のほうは敏感に察知して、毎朝、野菜スムージーや酵素ジュースを飲んだりしていますよ(笑)。栄養学の知識が医師より詳しい人がゴマンといます。ところが、中年男性は白いパンにマーガリンを塗りたくった朝食に、昼食は牛丼、夜はストレス発散と称して居酒屋で1杯やっている。健康になるはずがありません。―日本の国を活気づけ、健康な国にするには、中年男性の栄養をどう改善していくかがカギということですね。白川 日本人の今後の平均寿命・健康寿命を左右する大問題ですから、早急に医学部に栄養学の授業、講座を取り戻す。それが無理なら、医師の生涯教育として栄養学の講習を設けて、その単位を取らないとがんの専門医として認定しない。ある程度の強制力をもたせるかたちで導入しないと、手遅れになってしまいます。―最後に、口に入るものとして空気はどうですか。白川 空気の問題も大きいですね。空気は個人でコントロールできないから、それこそ国家管理の問題です。中国の大気汚染、とくにPM2・5の問題は、黄砂と一緒に飛んでくる日本にとっても深刻で、たばこのリスクよりもはるかに心配すべきです。政府として中国に規制を求めてしかるべきでしょう。 また、たばこと関連した簡単な計算問題ですが、仮に肺活量が3リットルあったとしましょう。そのうち空気の出入りで使うのは2リットルぐらい。1分間の呼吸数が十数回として、毎分30リットルの出入り。1時間に1800リットル、24時間なら数万、年間では数百万リットルの出入りです。そのなかに、自動車や工場などの排ガスに含まれる有害物質やPM2・5のような粒がどれだけ入っているか、見当もつきません。その数百万リットルの空気の出入りのなかで、たばこ由来のものが屋外・屋内の喫煙が規制された日本で、どの程度の割合を占めるのでしょう。おそらく微々たるものです。 発がんリスクをいうのであれば、せめて数値的な確率を基に算出すべきで、現在のたばこの疫学調査などはとても科学的な水準に達していません。遺伝も体質も考慮なしに患者を断定するのはそれこそリスクが高い、といわざるをえません。(取材/構成 清水 泰<フリーライター>)関連記事■ 先端医療? 先進医療? 標準治療? 東大病院を辞めたから言える「がん」の話■ がんビジネスへの警鐘~川島なお美さんの闘病手記『カーテンコール』で明らかになったこと■ 「いざ!」というとき後悔しない「病院選び」のポイント

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    がん治療 先端、先進という「キラキラワード」にだまされるな

    ん」の話』より)がんの正しい治療を選ぶための基礎知識 がん保険商品の説明などでしばしば目にする「先端医療」や「先進医療」という言葉の意味について、みなさんはどれほど正確に理解されているでしょうか。「先端」や「先進」という言葉のもつ響きや、保険の効かない高額治療であるということから、何やらミラクルを引き起こす「ハイグレード治療」というイメージが誤って蔓延しているようです。 そこで、「正しい治療とは何か」という点について、一般の読者の方でも最低限知っておくべき(にもかかわらず、あまりにも知られていない)基礎知識について解説していきます。 冒頭に挙げた「先端医療」「先進医療」の説明の前に、まずは保険診療枠で行われている「標準治療」の定義について考えていきましょう。「標準治療」という名の最善治療 「標準治療」の意味をまだまだ誤解している方が多いようです。じつは、車の「標準」装備などといった言葉で使用されるような「平均、普通レベル」という意味では決してありません。例えば、スティーブ・ジョブズ氏ですらも、膵臓由来の悪性腫瘍(正式には膵内分泌腫瘍)の治療においては、当初は様々な民間療法に陶酔してしまったようなのですが、病気の悪化にともなって結果的には「標準治療」のもとに戻ってきたそうです。 すなわち、「標準治療」とは「世界中どこの先進国であっても通用する、推奨レベルのもっとも高い治療」のことを指します。安全で有効性が確認されているベストな治療であるからこそ、誰も知らない秘密のものにしておく必要はありません。世に広く標準化されることで、同じ病気を抱える世界中の患者さんに等しく恩恵を与えることが期待される、いわば「最善治療」のことを指すのです。 ただし、「標準治療」とはいっても、例えば米国ではこの標準治療を受けるだけで、非常に高額な治療費が請求されるのです。経済的な理由のために、受けたくても「標準治療」を受けることができない患者さんは、じつはたくさんいらっしゃいます。高額な治療費用が「副作用」のひとつとして考えられているくらいです。 しかし、日本では国民皆保険制度で保障されている「高額療養費」の申請によって、一定の自己負担金しか支払わなくても、みなが等しくそれを受けることができます。そのせいなのか、「標準治療」の本来の価値が正当に評価されていないようにもみえます。 ある意味、当たり前に享受できる治療になっているために、「先端医療」や「先進医療」といった何かキラキラしたイメージに心惹かれてしまう人間の性のようなものがあるのかもしれません。先端医療、先進医療という「キラキラワード」が招く誤解先端医療、先進医療という「キラキラワード」が招く誤解 「先端、先進というからには、厚生労働省がお墨付きを与えた高級治療ではないのか」こういったイメージを抱いている人が意外と多いことに驚きます。それは大きな誤解であることを以下で説明していきましょう。 まず「先端医療」とは、勝手につけられたキャッチコピーのようなものです。医学的にも行政的にも意味をもたない、私的な造語にすぎません。例えば、巷のクリニックレベルで行われている免疫療法や、大学病院で薦められる研究治療などのほとんどがこれに当てはまります。「安全で有効」という患者さんの利益よりもお金儲けや研究者の業績としてしか考えられていない場合がほとんどなので、それらを選択する際には、いくら自己責任とはいえ十分な注意が必要でしょう。 一方で「先進医療」は、一応は行政上でも認められている用語です。これは保険診療との併用が認められているものの、現段階ではまだまだ「安全で有効」であることが十分に確立されていない暫定的な治療のことを指します。それらの中には、確かに将来的に有望な「標準治療」になるものも出てくるかもしれません。しかしその反面、効果がないものも含まれていることでしょう。たとえるならば、プロ入りが期待されている有望なアマチュア選手のような段階です。本当にプロになれるのか、臨床試験というテストで試されている最中のものがほとんどなのです。ところが、すでに確立された立派な高級治療のごとくメディアなどを介して盛んに取り上げられることが少なくありません。基本的には保険診療枠で実施されている「標準治療」に勝る治療ではないにもかかわらず、です。 例えば、2012年に、「NHKスペシャル」で、こうした報道がありました。まだ臨床試験の最中であったにもかかわらず、膵臓がん患者への「がんペプチドカクテルワクチン」があたかも「夢の治療薬」のごとく大手を振って放送されたのです。ところが、このワクチン治療がその後どうなったかといいますと、第三者機関が行った中間解析の結果、主要評価項目であった全生存期間(寿命)の有意な延長が達成される可能性が低いことがわかり、この試験は早期に中止となりました。要するに、効果がなくてテストで失格とされてしまったのです。 しかし、当時放映された番組内では、このがんワクチンが劇的に効果を示したとされる個別ケースが、誇大に強調されていたのです。このように目新しいものだからという理由で、テストの結果も出ていないうちから過度の期待を寄せるのは注意したほうがよい、ということです。「高額=レベルの高い治療」という大いなる勘違い「高額=レベルの高い治療」という大いなる勘違い そもそも、このような報道バイアスは、本来は高額である「標準治療」が、日本では特別安価で当たり前のように受けることができる「慣れ」に対する反動から発生しているともいえるでしょう。高いお金を支払うのだから、先端や先進のようなキラキラした冠がついていればきっとレベルの高い治療なのだろうと思われることは、人情としてよく理解できます。 しかし実態は、海のモノか山のモノかもわからないような商品がたくさん紛れ込んでいる、ということです。 今や、そのような冠のついた詐欺まがい治療を扱うクリニックの開設が全国何百カ所も相次いでいるそうです。これは、世界中の先進国を見渡してもこの国ならではの「医学(サイエンス)を理解できない」恥ずべき特異現象だといえます。しかしそうはいっても、それだけの需要があるからこそ成り立っているわけです。もしかしたら、行政が厳格に取り締まりのできない何かウラでもあるのでは、とも勘ぐりたくもなってしまいます。本当に切らずに治せるのか?「粒子線治療」 ここで、耳にしたことがある方が多いであろう「重粒子線」または「陽子線」治療という先進医療についても、少し言及してみます。 現在の放射線治療は昔のものと明らかに様変わりしました。放射線治療装置やコンピューター技術の革新にともなって、その学問は確実に進歩しているのは本当です。治療する標的周囲にある臓器への放射線障害をなるべく減らしながら、がん病巣だけにできるだけ的を絞ってピンポイント照射できる技術力などもそうです。前立腺がんや、頭頸部がん、脳腫瘍などには過去には難しかった恩恵が受けられるようになっています。そのような中、放射線とは異なるエネルギーをもった重粒子や陽子を用いた治療が「先進医療」として位置づけられ、多くの国民の関心が、体にストレスを与えないハイテク治療に向いているのは確かでしょう。 しかし、従来の放射線治療を凌駕することを示した検証データはまだどこにも存在していません。まだまだ臨床研究段階レベルのいわばテスト最中の治療であり、対象を明確にして慎重な取扱いとするべきなのです。ところが、この「先進医療」を実施する装置がいたるところに設置され、各生命保険会社が、それら「先進医療」などもカバーできる保険商品を盛んに売り出していることも相まってか、まるで「万能治療」のような目に余る宣伝が見受けられることが少なくありません。 これらは、あくまでも従来の放射線治療枠の代替という位置づけであるにもかかわらず、本来のあるべき標準治療体系までも覆すような「切らずに治す」というメッセージを平気で言い切ってしまうことは大きな問題です。そのような実態以上の宣伝が社会に向けて大々的に発信され、そこに「先進医療」という何やら立派な冠がついているがゆえに、100万円を超えるような高額な自己負担であっても、すんなり受け入れてしまうのです。「切らずに治す」という甘言と不誠実「切らずに治す」という甘言と不誠実 現状、治すことを目指した治療として本当に「切らずに」済む可能性があるかどうかを具体的に議論してよいがんは、転移性肝がん、前立腺がん、脳腫瘍、肉腫などといった限られた疾患の、限られた状況に対してです。 「切らずに治す」という主張を言い切る人たちは、その無責任さゆえに患者さんを最善の治療に導いていないリスクを与えていることを、強く自覚するべきでしょう。治るという確認作業は治療後の長期に及ぶ経過観察(アフターケア)が大前提です。日本放射線腫瘍学会による「粒子線治療施設等のあり方に関する声明」においても、「粒子線治療を行った国内患者は、すべて症例登録が行われ、当該病院、連携医療施設にて適切に経過観察されるべきである」と言及されています。 「がん」という病気は、一時のパフォーマンスの成功のみで治癒が得られる保証などどこにも存在していません。多くの放射線科医たちは患者さんの死の場面に立ち会うことはなく、その転帰(生死)についてはカルテや診療録などをのぞいて、後から結果を知るだけのことがほとんどでしょう。患者さんはどのような再発をして最期をどのようにして迎えたのかについてまで丁寧にアフターケアしない者に、治療の本当の意義などわかるはずがありません。患者さんの前では調子いいことはいくらでもいえるのでしょうが……。 誤解しないでいただきたいのですが、私は別にすべての放射線科医を悪くいっているのではなく、仕事の領分の違いを述べているだけです。進歩した放射線治療学を理性的に普及させようとする、素晴らしい専門医もたくさん知っているのですが、先進医療がまるで「魔法の杖」であるかのように語る放射線科医は、一体どのようなインフォームド・コンセントを患者さんとの間で交わしているのでしょうか。粒子線治療が格下げになる? 最後に、2015年8月8日付の「読売新聞」「毎日新聞」が報じたニュースによると、重粒子や陽子を用いた粒子線治療について、日本放射線腫瘍学会が「前立腺がんなど一部では、既存の治療法との比較で優位性を示すデータを集められなかった」とする報告書を厚生労働省に提出したようです。後ほどデータの詳細なども明らかになるでしょう。このような現状では、先進医療といったキラキラとした冠が付されていても、高額であることを加味すると標準治療に取って代わることは難しいわけです。場合によっては格下げ治療となることも考えられるでしょう。しかし、検証結果がまだ出ていないうちに、各地域で多くの粒子線治療装置施設の建設ラッシュがすでに見切り発進されていると聞きます。今後、この治療に対してどのような評価が行政として下されるのでしょうか。節度ある理性的な対応を期待したいところです。おおば・まさる 東京オンコロジークリニック院長。1972年、石川県生まれ。外科医、腫瘍内科医。医学博士。金沢大学医学部卒業後、がん研有明病院等を経て東京大学医学部附属病院肝胆膵外科助教。外科医と腫瘍内科医の両方の専門性を有するがん治療専門医。2015年に退職し、セカンドオピニオンやがん相談を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設。著書に『がんと著書に『がんとの賢い闘い方「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)がある。関連記事■ がん治療に携わる医師の「説明責任」~近藤誠氏の川島なお美さん記事に思うこと■ がんビジネスへの警鐘~川島なお美さんの闘病手記『カーテンコール』で明らかになったこと■ 「いざ!」というとき後悔しない「病院選び」のポイント■ がんと健康の常識、非常識〜抗がん剤では「がん幹細胞」は殺せない!?■ やせたい人は、今夜もビールを飲みなさい―メタボが気になる方に朗報!

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    近年の乳がん治療 全摘出乳房再建が主流で精神的苦痛も減少

     現在、日本女性の12人に1人がなるという乳がん。その乳がんが見つかった場合、どんな治療を受けるのか。他人事ではない、乳がん治療について紹介する。 乳がんのタイプや病状に応じて、手術、放射線治療、抗がん剤治療などがある。女性ホルモンが影響しているタイプのがんでは、乳がん細胞に対する女性ホルモンの作用をブロックするホルモン治療を5~10年間行って再発を防止するなど、治療法はさまざまだ。濱岡ブレストクリニックの濱岡剛院長はこう語る。「早期でしこりが小さい場合は、乳房を部分切除して温存するケースが多いです。温存した場合は、術後に放射線治療をすることが多く、がんのタイプによっては手術前後に抗がん剤治療も併用します」 手術をするにあたって、決断を迫られるのが、乳房の「部分切除」か「全摘出」かだ。2007年に乳がんに罹ったアグネス・チャン(60才)は部分切除し、2012年に乳がんだと診断された麻木久仁子(53才)は乳頭を温存して、左右両乳房を部分摘出した。 北斗晶(48才)の場合は全摘手術をしたが、全摘出でも不安になることはない。昔は全摘出といえば乳頭を含めてすべて切除するので、傷跡は残り、文字通り“乳房がなくなって”いた。女性には抵抗がある手術のため、可能な限り部分切除をして乳房を温存するのがこれまでの主流だった。しかし、近年では全摘出乳房再建が主流になりつつある。「近年、乳房再建技術が格段に進歩し、乳房の皮膚や乳頭といった外側はそのまま残し、内側を全て切除すると同時に人工パックに入れ替えて再建することができるようになりました。1回の手術で初期の再建まで行うので、精神的なダメージも少なく、外見からは傷がほとんどわかりません。 乳腺は全部切除するので乳房内再発の可能性も極めて低くなります。乳房を温存するときは放射線治療が必要ですが、すべて摘出した上で再建すれば、それも必要ない場合もあります。なおかつ、2014年から乳房再建手術は自費負担ではなく、保険適用になりました」(濱岡院長) 乳房の再建は、摘出手術と同時に行うことも、時間をおいてから行うこともできる。治療に際して不安なのは、副作用だろう。北斗も抗がん剤の影響で微熱や吐き気の症状が出たことや、わきに転移していた腫瘍を取った影響で右腕のリハビリが必要なことを告白している。関連記事■ 「女性の出産率が低下し乳がん発症率が高まった」と南雲医師■ 乳がん診断後の乳房再建手術が少数派である理由を医師解説■ 「命とるか、乳房とるか」だった乳がん 今では綺麗に残せる■ 乳がん手術 全摘と同時再建を保険適用で選択する患者が増加■ がん治療費 乳がんは5年92万円、肺がんは2年45万円のケース

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    末期がんの僧侶「余命幾ばくもない患者救えるのは宗教だけ」

    ん患者のケースでは、担当医が本人にがんを告知せず、必ず治ると嘘をついていて、その嘘がバレ、患者さんは医療不信に陥った。そして、「毎週、新しい信者を5人連れてきて、一人2万円ずつ払わせれば、病気を治してやる」というインチキ宗教に騙され、家族は多額の借金を負ってしまったという不幸な例もありました。 不治のがん患者がこうしたインチキに騙されて、すがってしまうのは、日本の医療現場に「スピリチュアル・ケアワーカー」がいないことが原因の一つです。スピリチュアル・ケアワーカーとは、患者さんや医療従事者の「いのちの苦」のケアをする専門職です。 欧米では一般にキリスト教の聖職者がなります。スピリチュアル・ケアワーカーの原則は、「患者本人の生き方を尊重すること」「自分の宗教を押しつけないこと」「あらゆる宗教に対応すること」です。 キリスト教の聖職者であっても、キリスト教の教えを押しつけるのは禁じられています。「傾聴」といいますが、あくまで患者さんの話をじっくり聞いてあげて、どんな人生であっても、自分の人生には価値があったと感じてもらう。そして、自分の人生という物語を完結させるのをお手伝いするのです。 私はローマ教皇庁医療国際会議にこれまで4回招待されましたが、そこで聞いた話では、バチカンの大学ではスピリチュアル・ケアワーカーを養成する講座があり、哲学2年、神学4年、医療2年の計8年もかけて学んで資格を取るそうです。 スピリチュアル・ケアワーカーは別に宗教者でなくてもなれますが、死生観を問われるので、西洋ではキリスト教の聖職者が多く、日本では仏教の聖職者がなるのが適当だと思います。 日本でも、高野山大学や龍谷大学など仏教系の大学等で、スピリチュアルケアを担当する「臨床宗教師」や「臨床仏教師」の養成が行なわれています。 当院で臨床仏教実習生が担当していたある患者さんは症状が進んで話ができなくなっていて、筆談になりました。「あなたの考えは浅い」と厳しいことも書かれましたが、何時間も対話して、最後は「また来てください」とお書きになった。 僧衣で病院をうろつかれると、他の患者さんがギョッとすると思うかもしれませんが、意外とそうでもない。違和感があるなら制服を作ればいいのです。ローマの病院のスピリチュアル・ケアワーカーは、白衣を着て仕事をしていました。 世界医師会の「患者の権利宣言(リスボン宣言)」には、「患者は、患者自身が選んだ宗教の聖職者による支援を含めて、宗教的および倫理的慰安を受ける権利を有す」とあります。患者さんにとっては宗教者の支援を受けることは、当たり前の権利なのです。 日本の医療はWHO(世界保健機関)から世界最高とのお墨付きをもらっていますが、唯一の欠陥は、医療現場に宗教者がいないことです。医療という「科学」ではどうにもならなくなった、余命幾ばくもない患者さんを救えるのは、「非科学」である宗教しかないと思います。 たとえ信仰のない人であっても、自分の命より大事なものがあるのなら、それがその人の「宗教」です。 私もそれに気づくことができたので、残されたわずかな時間を生きていけると思います。関連記事■ 書籍『「余命3カ月」のウソ』出版以降「余命4カ月」宣告も■ 説明もなく何種類もの薬を出す病院は信用して大丈夫なのか■ 患者多い総合病院 カネ払ったサクラ患者がいると看護師暴露■ 近年増加傾向にある乳がん患者受け入れ数トップ10病院発表■ 自覚症状なく治療困難な肺がん患者 受け入れ数トップ10病院

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    「すぐに手術していたら…」長尾和宏医師が川島なお美さんの闘病を解説

    だ治療方法について聞いた。 兵庫県尼崎市でクリニックを運営し、「町医者」という肩書に誇りを持って地域医療に従事する内科医で、さまざまなコラムでも全国的にファンを持つ長尾氏。がん専門家で独自理論を展開している近藤誠氏の治療法に疑問を呈した本「長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)を夏に出版している。 長尾氏は、胆管がんについて「胆管とは肝臓で造られた胆汁を十二指腸に運ぶ管のことで、肝臓の中にある肝内胆管にがんができると、肝内胆管がんと呼び、胆管がんはかなり進行するまで症状が表れないため、早期発見が難しいがん」だという。長尾クリニック(兵庫県尼崎市)の長尾和宏院長 「早期発見には腹部エコーが有用であり、CTやMRIによる精密検査が行われる。進行すると、黄疸、腹痛、食欲不振などの症状が出る。原因としては、肝内胆管の結石、高脂肪食、印刷工場での職業歴が知られている。わが国の2013年の胆のう・胆管がん死亡数は男性約8900人および女性約9300人で、それぞれがん死亡者全体の4%および6%を占めている」 川島さんは「人間ドックで自覚症状が出る前に発見されたことは幸運だった」というが、「手術をためらい、手術までに6ケ月の間が開いたことはマイナスだったかもしれない」という。「少なくとも、発見されてすぐに手術をしていたら、経過が異なっていた可能性がある」と話す。 また川島さんは抗がん剤治療を行っていなかったが、「根治性を期待できる手術は受けて、手術後の抗がん剤も放射線治療も行わなかったという川島さんの選択は、とても良かった。実際、早期に仕事にも復帰もできていたようです。もし抗がん剤治療をしていれば、あれほど早く仕事に復帰できなかったことは、川島さんご本人が一番わかっていたはず。たとえ主治医から勧められても、彼女のように『抗がん剤はやらない』という選択はもちろんあります。そして報道から知る限りにおいて、抗がん剤をやっても結果はほぼ同じか、かえって寿命を縮めた可能性が高いはず。少なくとも、抗がん剤をやらなかったから再発して死に至ったわけではない」と語る。 ちなみにワインとがんの関係性については「一般的には、ワインはポリフェノールの作用でがんの発生には抑制的と考えられている。ただしアルコールは飲み過ぎると肝硬変や脂肪肝になるので危険。ワインと胆管がんの直接の関係は知られていないが、ワインのつまみとして食べるチーズやハムソーセージ類などの高脂肪食が、胆管がんに関係した可能性は充分ありえます。またもし川島さんが喫煙もされていたなら、リスクを高めた可能性はある」と話す。 そして最後に「川島さんは亡くなる直前まで、皆さんの前に姿を現し、仕事をしていたこと、一切弱音を吐かなかった点は、見事というか、あっぱれの一言だ。がんでも最期まで働けることを証明した初の芸能人ではないか」といい「その根底には『平穏死』の思想があったことに気がついて欲しい。平穏死の思想は老衰だけではなく、がんでもまったく同じ。本人、家族、そして医療スタッフとも『枯れていくことを待てた』ことで最期まで仕事を続けて、食事をして、笑顔でいられたのだと思う。川島さんのがんは、悪性度の高いがんであったのだろうが、手術後1年半も生きられたので、少なくとも手術が彼女の寿命を縮めた可能性は極めて少ない。なによりも、川島さんは自分のいいタイミングで、治療の『やめどき』を自己決定、何よりも前向きさをわれわれは見習うべきだと思う」と話していた。

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    川島なお美さん 手術遅かったとの指摘は間違いと近藤誠医師

     9月24日、川島なお美さんが胆管がんで54歳にして亡くなった。川島さんが胆管がんと診断されたのは昨年8月のことだが、その翌月に近藤誠医師のセカンドオピニオン外来を訪れていたことがわかった。 近藤誠医師といえば、手術も抗がん剤も患者にとって有害だとする「がん放置療法」で知られる。他臓器に転移しないがんを「がんもどき」と名づけ、治療せずに放っておいた方が長生きできるというのだ。 そんな近藤医師から川島さんはどんなセカンドオピニオンを受けたのだろうか。取材にあたり、近藤医師は患者のプライバシーに関わること、亡くなった人に対する守秘義務は生じないことを説明した上で、「話しておかなくてはならないことがある」と取材に応じてくれた。「テレビの報道を見ていると、もっと早く手術していればとか、抗がん剤治療を受けていれば助かったのに、という趣旨のコメントが目立ちます。これでは視聴者が誤った認識に誘導されてしまうと危惧を抱いています。川島さんのケースから明らかなことは、手術が遅かったことではなく、手術をしても救えなかったという事実です。なぜそこを誰も突っ込まないのでしょうか」 川島さんは一昨年の8月半ばに人間ドックのPET-CTで胆管がんを発見された。近藤医師のセカンドオピニオン外来にはCT画像などの検査データを持参していた。近藤医師のセカンドオピニオンはいかなるものだったのか。医師の近藤誠氏「その時点で症状は出ていなかったのですが、確かにがんだとわかりました。胆管がんは肝臓、膵臓などと並んで予後の悪いがんのひとつです。症状がなくても、いずれ転移が出てくる可能性が高い。 考えられる治療法は4つ。1、手術。2、ラジオ波焼灼術。3、放射線治療。4、様子を見る、です。川島さんはミュージカルの舞台を優先したいこと、そのためには今手術は受けられないこと、抗がん剤治療は体を傷めるので受けたくないことなど、はっきりした意志をお持ちでした。 ぼくは『ラジオ波なら手術をしないで済むし、1ショットで100%焼ける。体への負担も小さい。そのあと様子を見たらどうですか?』と提案しました。『手術しても十中八九、転移しますよ』ともお伝えしました。むしろ手術することで転移を早めてしまう可能性もあるからです」 セカンドオピニオンを受けて約4か月後の今年1月、川島さんは手術を受けた。しかし半年後の7月に再発。抗がん剤治療を拒否し、舞台に立ち続けた。そして9月、激やせした姿で記者会見を行った。川島さんの再発がどのようなものだったのか、施術した病院や医師からの発表はないが、近藤医師は再発の理由をこう分析する。「手術後わずか半年で再発したのは、やはり手術が原因だったのではないでしょうか。手術することでがん細胞が暴れ出し、再発が早まることはよくあります。また、転移先のがんの増殖を抑える物質が初発巣(初めにがんができた部位)から出ている可能性についても近年わかってきました。テレビに出てくる医者には、川島さんはもっと早く手術するべきだったと言う人がいますが、もっと早く手術していたら、もっと早く再発し、死期を早めていた可能性もあります」 もう1点、他の医師たちから疑問の声が上がった川島さんの“抗がん剤拒否”については、「賢明な選択だった」と近藤医師は言う。「医者からはかなり強く勧められたようですね。でも、もし手術後におきまりの抗がん剤治療を受けていたら、あのように舞台に立ち続けることはできなかった。抗がん剤を受けなかったからこそ、彼女は死の1週間前まで舞台に立ち、毅然とした態度で記者会見を行うことができたのです。実にあっぱれな生き方だったと思います」 最後に、川島さんも毎年受けていたという有名ブランド病院の人間ドックについて。「これだけは言っておきたい」と、近藤医師は警告する。「高級な人間ドックに行くと、最先端の検査機器がたくさんありますから、胆管がんのような見つけにくいがんも発見されます。川島さんの胆管がんも、ご本人がおっしゃっていたように早期発見でした。それでも治らないのですから、早期発見しても意味がない。早期発見するほど手術も早まるから、人間ドックでがんを見つけられると早死にすることもあるわけです。川島さんのケースも残念ながら、人間ドックの被害者と言えるかもしれません」◆近藤誠(こんどう・まこと):1948年生まれ。慶應義塾大学医学部放射線科講師を2014年3月に定年退職。「乳房温存療法」のパイオニアとして知られ、安易な手術、抗がん剤治療を批判。現在「近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来」を運営。著書に『がんより怖いがん治療』、近著に倉田真由美氏との共著『先生、医者代減らすと寿命が延びるって本当ですか?』など。関連記事■ 書籍『「余命3カ月」のウソ』出版以降「余命4カ月」宣告も■ 中村勘三郎さん がん検診したことで死期が早まったとの意見も■ 「抗がん剤は使えば使うほど寿命が縮まります」と近藤誠医師■ がん放置療法の近藤誠医師 がん治療がいらない理由を語る■ 川島なお美 露出の多いワンピースで深刻な様子ナシと目撃談

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    誰が川島なお美の命を奪ったのか

    今年9月、胆管がんで急逝した女優の川島なお美さんは、抗がん剤による治療を最期まで拒んだ。54歳という早すぎる死に衝撃が広がったが、一方で医師が患者にがん放置療法を勧める「セカンドオピニオン」も物議を醸した。もし、がんと診断されたら、私たちはがんとどう向き合えばいいのか。

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    川島なお美さんの死から考える 「がんによる死」に向き合うこと

    る。 充実した生をおくるためにも、死から目をそむけず、死に向き合うことが必要なのではないだろうか。 医療者は、患者さんの死に方を知ることで、死に対する苦痛を和らげる方法の開発や、死を少し先に伸ばす治療法の開発をすることができる。 そして、医療者でない人も、死に方を知れば、死に対する漠然とした不安が和らぐのではないか。がんになったらもう終わりだ、と極論するのではなく、どのような経過をたどり死に至るのかを知ることで、それぞれの段階でできることを見極め、死に備えることができる。 もちろん、死に方を知ったとしても、自分という存在が消滅することに対する恐怖は減らないかもしれない。けれど、決して逃れることのできない死と付き合っていくためにも、「死に方の科学」が今求められている。(『Yahoo!ニュース個人』より2015年9月26日分を転載)えのき・えいすけ 病理専門医。1971年、横浜市生まれ。東大理学部生物学科動物学専攻卒業後、同大学院博士課程を中退し、神戸大医学部に学士編入学。兵庫県内の病院で病理医として勤務後、2011年近大医学部病理学教室講師。15年から同学部附属病院臨床研究センター講師を兼務。主な著書に『博士漂流時代』『医者ムラの真実』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)『嘘と絶望の生命科学』(文藝春秋)。