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    世界一厳しい「共謀罪」がある英国でなぜ無差別テロは続発するのか

    福田充(日本大学危機管理学部教授) 英国マンチェスターにおける歌手アリアナ・グランデのライブ会場で5月22日に発生した爆弾テロ事件の死者は22人、負傷者は多数に上った。サルマン・アベディ容疑者による自爆テロであった。容疑者はリビア系イギリス人の22歳の男性、リビアからの難民二世であったと伝えられている。6月4日、英中部マンチェスターでアリアナ・グランデさんらが出演した慈善公演(ロイター=共同) これこそ現代の国際テロの特徴がそろった典型的なテロリズムだといえる。まずは一般市民を狙った無差別テロという特徴である。標的となったのはライブ会場という「ソフトターゲット」で、「メディアイベント」「ランドマーク」「公共施設、交通機関」などが挙げられる。 メディアイベントとは国際的に要人やメディア、観客が集まる五輪、サッカーW杯、サミットのような国際的イベントがそれに当たる。また、2つ目のランドマークとは、2001年の米同時多発テロ事件でニューヨークのワールド・トレード・センター・ビルが攻撃され、計画段階では自由の女神像までも標的となっていたようにその国の文化的、歴史的な象徴となるもの、観光地などが含まれる。3つ目の公共施設には誰でも利用できるライブ会場やスポーツ競技場、レストランなどが含まれ、交通機関には鉄道の駅や空港などが含まれる。 さらに、現代テロリズムの次の特徴はその国で育った国民、住民がテロを起こす「ホームグロウン」(自国育ち)型テロという側面であり、テロ組織に所属しない個人や兄弟などでテロを実行する「ローン・ウルフ」(一匹狼)型テロという側面である。今回のマンチェスター爆弾テロ事件には、これらの現代的テロリズムの特徴がすべて当てはまることが分かる。実は、2013年の米ボストンマラソン爆弾テロ事件など現代の多くのテロ事件がこの特徴に該当する。イスラム国(IS)をはじめとするイスラム過激派組織が「グローバル・ジハード(聖戦)」と呼ぶ戦略に基づいたものである。 この現代的テロリズムの特徴を改めて問い直すことが重要なのは、この現代的テロリズムの特徴が、現代のテロリズムを未然に防ぐことが極めて困難になりつつあることの原因だからである。かつて1900年代中盤くらいまでは主流であった要人暗殺テロよりも、現代において一般市民を狙った無差別テロが増えたのは、政治家など権力者の警備が極めて強固になったことにより、要人暗殺テロの実行が容易でなくなったことの反動である。また同時に、社会が民主化されることにより、国民の生命の価値がより尊重される時代が到来したこともその遠因の一つである。テロリズムと対策の「いたちごっこ」 また、ホームグロウン型が増加したのは、2001年の米同時多発テロ事件以降、世界各国のテロ対策が強化され、出入国管理が極めて厳しい状況に変わったことが大きい。米同時多発テロ事件は、中東各国から国際テロ組織「アルカーイダ」によってリクルートされた若者たちがアメリカに入国して潜伏することにより実行された。事件後、出入国管理が強化され、外国からテロ組織に関与する人物が入国することが極めて困難になったことにより、もともとその国に生まれ育った国民を過激化させ、その国内でテロ事件を起こさせるという手法に切り替わったというのが、ホームグロウン型が潮流となった原因である。 一方、ローン・ウルフ型が増加したのは、テロ対策の一環で監視カメラの運用や、電話やメールなどの通信傍受が強化されたことの反動である。通信傍受や監視カメラなどテロ対策における監視の強化によって、テロ組織がメンバー同士で会合をしたり、連絡を取り合ったりすることが極めて困難となった。そこで、テロリズムを実行するためにグループでメールや電話の連絡を取り合う必要のない、単独犯の個人または兄弟など極めて近しい関係者だけで実行されるローン・ウルフ型が増加したのである。ロンドンで起きたテロ事件で、車が通行人をはねたロンドン橋付近を警戒する警官ら=6月3日(ロイター=共同) このように、テロ対策やインテリジェンス活動が強化され、進化すると同時に、テロリズムの形、テロリズムの特徴も変化してきたことがわかる(※1)。テロ対策と監視活動を強化するほど、それをすり抜けるための新しい形のテロリズムが誕生する。さらに先日6月4日にロンドンで発生したテロ事件は、3人の容疑者が車を暴走させて市民を引き倒し、その後市街地のレストランやバーでもナイフを使って無差別に刺殺するという犯行であった。このように近年増加している車やトラックの暴走により一般市民をひき殺すテロ、ナイフなど身近な道具を使ったテロは、未然に防止することが極めて困難である。 イギリスには2006年に制定されたテロリズム法や2005年のテロリズム防止法など、テロ対策に関する基本法的な法制度が存在する。これらの包括的なテロ対策の仕組みにより、イギリスでは容疑があれば令状なしで48時間拘束することができる。 同時に、共謀罪の枠組みも整備されており、イギリスは最もテロ対策、特にテロを防止するための法制度が進んでいる国の一つだといえる。さらには、情報局保安部(MI5)、秘密情報部(MI6)などの機関によるインテリジェンス活動も世界でトップレベルの運用がなされている。しかしながら、このようにテロ対策が進んでいるイギリスにおいても、こうしたテロ事件を食い止めることが難しいという現状がある。それは、テロ対策の進化と同時に、それをすり抜けるためのテロリズムの形も変容し、進化しているためである。文化的多元主義を許容できるか マンチェスター爆弾テロ事件の容疑者は、事件前からインテリジェンス機関の要注意人物リストに含まれていたという情報がある。それでもこの事件は未然に防ぐことはできなかった。それはインテリジェンス活動におけるテロリズムの監視の「5W1H」に鍵が潜んでいる(※2)。 インテリジェンス機関はその諜報活動、監視活動により危険人物が誰か(WHO?)を特定することはできる。だが、その危険人物が、いつ(WHEN?)、どこで(WHERE?)、テロリズムを実行するかを特定するのは極めて難しい。それがローン・ウルフ型のテロリズムの防止、監視の難しさであり、この5W1Hを完全に把握するためには、より強大な監視体制を構築せねばならなくなる。テロ対策による「安全・安心」の価値と、監視や諜報活動により損なわれる可能性のある「自由・人権」の価値のバランスこそが民主主義社会においては重要であり、市民の「自由・人権」を守ることができる民主的でリベラルなテロ対策のあり方が求められている。5月23日、英マンチェスターの市役所前にささげられた花の前でうなだれる女性(ゲッティ=共同) マンチェスター爆弾テロ事件において、ISが犯行声明を出した。その声明の中には、このような表現があった。「爆弾は恥知らずな祝宴のためのアリーナで爆発し、約30人の十字軍兵士を殺害、約70人を負傷させた」。グローバル・ジハード戦略によって世界各国で発生するホームグロウン型テロに対して、ISは事後的に犯行声明を発表して追認する姿勢を常にとってきた。 イスラム原理主義者、イスラム過激派の思想には、こうした欧米のポップシンガーのライブが「恥知らずな祝宴」であると映ること、こうした欧米の大衆音楽、ハリウッド映画、ディズニーランドといった欧米型エンターテインメントが文化帝国主義的な「十字軍兵士」と映ることに、世俗社会に生きる私たちは想像力を巡らせなくてはならない。文化的多元主義を許容できる社会を目指して、孤立する個人やコミュニティーの過激化を根本的に防ぐ長期的なアプローチの構築が必要であることを、このテロ事件は示している。【参考文献】(※1)福田充『メディアとテロリズム』(2009、新潮新書)(※2)福田充『テロとインテリジェンス~覇権国家アメリカのジレンマ』(2010、慶應義塾大学出版会)

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    「共謀罪」があってもテロは防げない?

    共謀罪の構成要件を厳格化した「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が成立した。与党が委員会採決を省略する異例の中間報告に踏み切ったことに、野党は「究極の強行採決」と非難したが、そもそも共謀罪はテロ対策になり得るのか。海外の先行事例も踏まえ、この問いについて考えたい。

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    安倍総理が絶対に言いたくない「共謀罪」の恐るべき狙い

    小口幸人(弁護士) テロ対策にならない「共謀罪」が成立しました。政府与党は、最後まで「テロ対策」として成立させました。この事実は、二つのことを物語っています。 一つは、安倍政権はテロ対策を真面目にやっていないということです。一国民としてはとても心配ですが、裏を返せば、日本でテロが行われるという危険はそこまで差し迫っていないということなのかもしれません。 もう一つは、目的不明の共謀罪が成立したということです。任意捜査の名の下に警察による監視活動が広がることは止めようもありませんし、通信傍受法改正も数年以内に行われるでしょう。 将来、どの政権が共謀罪を戦前の治安維持法のように乱用的に使い始めるかはわかりませんが、そのボタンはセットされてしまいました。 そのボタンが押される対象としては、沖縄の辺野古新基地建設反対運動が最有力でしょうが、原発再稼働反対運動もその候補です。今後予定されている、核のゴミの最終処分場選定にまつわる反対運動も候補でしょう。 望み薄だとは思いますが。乱用される前に、警察が「任意捜査」の名の下に行う捜査・監視に法規制をかけることで実質的に法の支配を確保し、捜査の必要と人権保障を適正に両立できるようになることを期待したいと思います。※以上6月15日追記、以下は法案成立前に執筆テロ等準備罪法が成立。記者団の質問に答える安倍晋三首相=6月15日、首相官邸(酒巻俊介撮影) 政府は、テロ等準備罪(共謀罪)法案は、国際組織犯罪防止(TOC)条約の批准に必要だとし、TOC条約に批准することがテロ対策になるとしています。しかし、TOC条約を批准している国でテロが起きています。共謀罪発祥の地とも言われるイギリスでもテロが続いています。 TOC条約や共謀罪がそろっている国でなぜテロが起きているのか。答えは簡単です。TOC条約はテロ対策ではないからです。共謀罪もテロ対策の役に立たないからです。政府は事実と異なる説明をしているということです。 TOC条約がテロ対策でないことは、条約の立法ガイドを書いた張本人であるニコス・パッサス教授が断言したことで、議論の余地がないほどはっきりしました。疑問に思われる方は、ネットで検索して外務省のホームページから和訳を読んでください。最初の数条を読めば、経済目的の犯罪対策、つまりテロ対策ではなくマフィア対策であることがおわかりいただけます。政府は説明してくれない そもそもTOC条約は、インターネットもまだ普及していない1992年にイタリアで起きたマフィア犯罪をきっかけに成立した条約です。主な内容はマネーロンダリング(資金洗浄)対策です。1993年から会合が重ねられ2000年に国連総会で採択されています。2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロより前に採択された条約が、今のテロ対策になると強弁するのは、余りに国民をばかにしていると思います。 そして、共謀罪法案もテロ対策になりません。共謀罪は、今でも犯罪として定められている277の罪を、実行されなくても、計画段階でも犯罪にするという法案でしかありません。計画段階で処罰できるようになったからといって、警察が突然パワーアップするわけではありません。 もっとも、わが国は9.11の翌年に行われた日韓ワールドカップを無事開催した国です。サミットも開催し続けています。日本の安全対策は国際オリンピック連盟にも高く評価されるほどであり、その結果、オリンピックが東京にやってくることになりました。 そもそも犯罪の未然防止は、今でも警察法に定められた、警察の立派な使命です。警察は今も犯罪の未然防止に力を尽くしており、手を抜いているわけではありません。そしてその結果、犯罪は減り続けています。刑事事件の数は、統計上戦後最低水準にあります。 なお、TOC条約に批准したとしても、その結果海外から提供されるようになる情報はマフィア犯罪に関する情報です。よって、この点でもテロ対策能力が高まるわけではありません。テロ対策訓練で化学兵器を調べる県警NBCテロ対応専門部隊 =5月18日、千葉県の幕張メッセ(長谷裕太撮影) 他方で、わが国はテロ対策の代表的な条約を全て批准しています。政府も2004年から体系的なテロ対策を立てており、安倍政権になった後も2013年12月10日に「世界一安全な日本創造戦略」を立て、その中で独立した項目を設け、オリンピック開催に備えたテロ対策を講じています。 ここまで述べたとおり、TOC条約はテロ対策ではありませんし、共謀罪もテロ対策の役には立ちません。どちらもテロ対策でないとわかれば、既に批准した国で、共謀罪のある国でテロが起きているのも何ら不思議ではありません。 では、さらなるテロ対策を講じる必要はないのかということですが、正直なところ、私にはよくわかりません。どんなテロがどの程度懸念されているのか、具体的にどんな事象があったのかを、政府が説明してくれないからです。嘘をそのままにするな! ただ少なくとも言えることは、新たなテロ対策を検討する必要があるならば、まずすべきことは2013年に策定されたテロ対策「世界一安全な日本創造戦略」を改定し、体系的な対策を検討することでしょう。テロ対策でない条約をテロ対策と言ってみたり、2003年から何度も出してきた共謀罪を突如テロ対策として出してくることではありません。 その上で、日本人のわれわれが、なぜイギリスでテロが起きたのか、そして防ぎきることができないのかを考えるのは重要なことだと思います。イギリスは防犯カメラ対策が最も講じられている国であるとされ、通信の監視等もアメリカのそれに近いものが行われていると言われています。それでもテロが起きていることに照らせば、日本が新たに2、3法律をつくったところで、果たしてどうなんだろうという気がします。 この部分で、一弁護士にすぎない私がお伝えできることは数多くありませんが、考えていることは三つあります。一つめは、見ている世界地図が違うということです。日本人は日本が真ん中の世界地図を見ていますが、多くの人は大西洋が中心の世界地図を見ています 日本は極東の島国に過ぎません。二つめに考えていることは、わが国がイスラム国に不利益なことを、他国と比べてどれほどしているかということです。三つめは、テロを減らすために、なくすために本当に必要なことは何なのかということです。自分と異なる価値観を認め合える社会を築き、貧富の差を縮める努力をし続ける、そこに尽きるのではないかと思います。組織犯罪処罰法改正案の採決で牛歩で投票に向かう野党議員(左下奥)=6月15日、国会(斎藤良雄撮影) 仮に、本当にテロ対策を講じる必要があるのであれば、検討するのは捜査機関の捜査能力をパワーアップすることであって、共謀罪を設けることではありません。新たな捜査手法を警察に付与し、装備や設備や人員を増強、日本版の国家安全保障局(NSA)や連邦捜査局(FBI)を設けることなどでしょう。そして、正直に国民に話すこと。これだけテロが起きそうな予兆があり、テロを防ぐためには監視を強め捜査権限を高める必要がある。だから一般市民も幅広く監視するし、通信も監視する。自由も狭められる。衛星利用測位システム(GPS)捜査も幅広く行うし、通信記録も携帯電話会社から開示してもらう。アメリカから提供された監視システム「XKEYSCORE(エックスキースコア)」も使う。それぐらいしないとテロは防げないから国民のみなさん我慢してください、と。 しかし、ご存じのとおり政府はそんなことは言いません。一般の人は対象にならないと強弁し続けるだけです。これで信用しろというのは無理というものです。 そして歴史は教えてくれます。政府が本当の目的を言わないときは危険だということを。もし、国を憂い、テロ対策を真面目に考えるのであれば、共謀罪がテロ対策だという嘘をそのままにして成立させてはならないと思います。テロ対策でないことを明確にし、本当にテロ対策が必要なら、そっちの議論を求めるべきです。

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    「監視カメラ大国」英国の共謀罪はここまで進んでいる

    宮坂直史(防衛大学校教授) イギリス・マンチェスターのコンサート会場で先月23日に自爆テロが起き、多数の死傷者が出ました。今月4日にはロンドン橋とその付近でもテロが起きました。もちろんイギリスだけではありません。この2つの事件の間にも、バンコク、バクダッド、アテネ、ミニヤ(エジプト)、ホースト(アフガニスタン)、ジャカルタなどでテロは起きていますし、年間の総数では全世界で1万件は下らない不安定な情勢が、ここ何年も続いています。 ただ、イギリスの場合、先進民主主義国家としては最も厳しいテロ対策を導入している国ということもあって、ひとたび事件が起きると、大きな関心が向けられます。日本で15日に成立した、いわゆる「共謀罪」も長年イギリスにはあります。 加えて、2001年の「反テロ法」制定以降の取り組みの中では、容疑者の無期限拘束を可能としたり、テロを称賛することを禁止するなどしてきました。令状なしの身柄拘束という日本ではありえないこともできますし、「監視カメラ大国」(約600万台)とさえ揶揄されています。犠牲者へのメッセージや花束、供え物を見て涙を流す警察官=2017年5月、英マンチェスターのアン女王広場 そういう国でテロが起きると、取り締まりや規制を中心とする小手先のテロ対策をしても、あるいは共謀罪などを導入しても結局、テロは防げないではないか、だから不要だといわんばかりの議論も出ています。 このような考え方は、テロやテロ対策についての無知や誤解に基づくものだといえます。イギリスでは2005年7月に同時テロが発生しましたが(その国で育った人が起こす「ホームグロウンテロ」の先駆けと言われた)、同国に在住している2万人以上といわれるイスラム過激主義者の多さに比べて、よくテロを防いできた方です。 一例をあげると、2006年に24人もの英国人を逮捕して、米国とカナダに向かう旅客機10機の同時爆破計画を共謀・準備段階で防ぎました。これは、過去最大級の未然防止の成功例になるでしょう。 この事件をきっかけに、航空機内への液体の持ち込みに厳しい規制がかかったので、それを記憶している方も多いと思います。ロンドン五輪(2012年)当時もグローバルテロの情勢は不穏でしたが、当局はテロを封じ込めました。では、どのようにしてテロを防ぐのでしょうか。共謀罪に限らず、何か法律を整備したからといって自動的にテロが防げるものではありません。法的万能薬など、どこにもありません。 まず、テロを企てるのではないかと思われる人物に関する情報収集や分析と、関係機関での情報共有がカギになります。マンチェスター事件の自爆犯は、英情報局保安部(MI5)の監視対象者でした。それは約3千人もいるうちの1人です。監視といっても1人に対して何人もの要員が必要で、対象者を24時間、通信傍受も含めてすべて見ていることは物理的にできません。 ロンドン橋での実行犯のうち1人はイタリア人であり、同国で監視対象者だったようですが、イギリスとの情報共有が問題になっています。 上記した航空機テロの防止は、住民の通報に依拠していた点も見逃せません。市民が周囲の異変に気づいて警察に一報を入れることは、初動として決定的に重要になるでしょう。他にも、テロ組織内およびその周辺にいる情報提供者の役割もあります。 例えば、おとり捜査では、実行直前に容疑者を逮捕しても、情報提供した容疑者については不起訴処分にして捜査側のために働かせるのです。テロを100%なくすのは無理 テロリストは、次々と最新の電子ツールを使って謀議を図り、情報・捜査当局はそれを見破る努力をしています。こういう時代だからこそ、尾行さえついていなければ、昔のように喫茶店の奥のテーブルで、小声で謀議したほうが察知されないかもしれません。 テロの防止が難しいのは、テロの主体が「組織」に限定されないからでもあります。組織として一定期間存続し、メンバーシップが明確ならば、監視も、封じ込めもそれなりの手を打てます。 しかし、1回の事件のために一時的にグループを作る場合や、ましてや単独犯ですと、よほど前科があるとかでなければ、当局の目にはとまりません。市民から通報が不可欠になってきます。自宅で爆弾をつくっていたり、不自然なまでの車両や人の出入りがあれば、周囲に怪しさを発散させているものです。 単独犯でも大勢の犠牲者数を出す例がありますが、テロの歴史を振り返れば、組織・グループのほうがはるかに大きな被害をもたらしてきました。ですから、共謀段階で察知し摘発するか、遅くとも準備に着手しているときに摘発することが最も望ましいのです。けが人を救急車に運ぶ救急隊員=ロンドン国会議事堂近く 最後に、「テロを防ぐ」という意味もよく考えねばなりません。完璧になくすということであれば、自由で民主的な社会とは決別しなければなりません。北朝鮮では、統計上テロは発生していません。 全体主義国家では、テロリスト(非国家主体)が活動する余地などありません。国民がテロのリスクをゼロにして欲しいと願うのは逆に危険なことです。いざ起きてしまうと、政府は何をやっていたんだと批判し、その結果、今より厳しい規制をとらざるを得なくなります。 すべてを政府や警察任せにするのは、自由民主主義の価値から遠ざかります。市民ひとり一人が身近なところで異変に気づき、防止に貢献する意識と行動が必要です。また、海外でテロに巻き込まれないような注意情報は外務省などからも出されていますが、それを真摯に受け止め、回避行動をとるかどうかも、市民の判断にかかっているのです。 テロは100%防げない。だからこそ、日本でもテロ発生後を想定した「国民保護訓練」などが全国的に多数行われてきたことも付言しておきます。

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    「時間の問題だった」英国テロ、一匹オオカミか

    佐々木伸 (星槎大学客員教授) ロンドンの国会議事堂周辺で起きた22日のテロは「起きるかどうかではなく、いつ起きるかだ」(元警視総監)という“時間の問題”だった。しかも車という誰でも容易に入手することができる手段が使われており、事前に犯行を阻止することの難しさも露呈。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、事件は一匹オオカミの呼応テロだったことが濃厚だ。 英国のメイ首相が23日、議会で明らかにしたところによると、犯人は英国生まれ、過去にイスラム過激主義との関連で保安局(MI5)の事情聴取を受けたことがある男だった。首相によると、この男は現在の監視対象から外されており、治安当局には事前に犯行に関するような情報はなかった、という。 ロンドン警視庁は犯人を英南東部ケント州生まれのハリド・マスードと発表。当局はマスードが単独犯で、「国際テロリズムに感化された犯行」としており、ISの「地元でテロを起こせ」といった呼び掛けに応じたローン・ウルフ型テロだったのではないかと見られている。事件では、これまでに4人が死亡、28人が重軽傷を負った。ロンドン国会議事堂近くで起きたテロで、けが人に治療をほどこす救急隊員=2017年3月 捜査当局は事件後、ロンドン、中部バーミンガムで家宅捜索などを行い、8人を事件の関連で拘束。ISからの指示など背後関係、犯行を支援した共犯者がいなかったのかどうか、実行犯がいつ、どういう形で過激化し、そして何がテロの引き金になったのかなどに焦点を絞って調べている。 治安関係者が最も懸念し、注目しているのは、テロの手法とテロが起きた3月22日という日時だ。手法については昨年7月にフランスの保養地ニースで発生したアイスクリーム冷凍車の暴走テロ(86人死亡)や同年12月にドイツ・ベルリンで起きたクリスマス市へのトラック暴走テロ(12人死亡)と同様、銃や爆弾など入手が困難な凶器ではなく、どこでも手に入る車を使っていることが特徴だ。 昨年、米空爆で殺害されたISの海外作戦の責任者モハマド・アドナニは「石で頭を砕け、ナイフで殺せ、車でひき殺せ」など、どんな手段を使ってでも米主導の有志国の市民を殺害するよう訴えていたが、2つの事件はこの指示に呼応したテロだったことが濃厚だ。アマク通信は今回の声明で、自分たちの兵士が有志国の市民を襲え、という呼び掛けに応じて作戦を実行したとしており、同種のテロの可能性が強い。 もう一つは日時の問題だ。ちょうど1年前の3月22日にはベルギーのブリュッセルで国際空港、地下鉄の同時爆破テロが起きており、ISにとっての“記念日”に犯行を起こしたとの見方が強まっている。ベルギー・テロの実行犯が犯行前に英国を訪れ、協力者と会っていたことも分かっている。 英国では2005年に地下鉄やバスの爆破テロで52人が死亡する事件が発生。それ以降、国内の過激派への監視や情報網を強化し、テロを未然に防いできた。特にロンドンの監視カメラ数は世界一といわれ、テロ防止に役立ってきた。当局によると、2013年からの3年間で阻止されたテロ計画は12件に上るという。続発が懸念されるテロ だが、フランスやベルギー、ドイツなど欧州でテロが続発する中で、英国だけが無関係のままでいられるはずはない。ロンドン警視庁のホーガンハウ元警視総監は昨年、英国でテロが起きるのは時間の問題とし、英国内のテロの警戒レベルが5段階中の「4」であることを「テロがかなりあり得る」ことを意味すると警告していた。 英国や欧州の治安当局者は今回のロンドン・テロをきっかけに各地でテロが続発するのではないかと恐れている。というのも、シリアとイラクのISが現在、戦場で軍事的に追い詰められ、組織崩壊の瀬戸際に立たされているからだ。 イラクでは、ISの最後の拠点である北部のモスルがイラク軍によってすでに市全体の4分の3が奪還され、5月までには完全制圧されるとの見通しが強まっている。モスルが陥落すれば、ISは事実上イラクから一掃されることになる。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」との戦闘で、前進するイラク軍特殊部隊 シリアでは首都のラッカ包囲作戦が進み、クルド人らの武装勢力がラッカから10キロ程度にまで迫っている。トランプ政権もシリアの米部隊を増派し、すでに1000人程度が駐留。近く2000人にまで増やすと伝えられており、迎え撃つISは組織存亡に直面している。 治安当局はISがこのように戦場で劣勢になればなるほど、欧州などでのテロが増えると見ており、ロンドン・テロを契機に欧州に潜入しているISの休眠細胞が一斉に動き出すという懸念がある。 ロンドン・テロの後にベルギー・アントワープ繁華街でも車が暴走しようとした事件が発生。トランクからライフル銃などが見つかり、男が拘束された。2月の初めにはパリのルーブル博物館の前で、またこの3月18日にはオルリー空港でテロが未然に食い止められている。テロ続発の兆候は現実のものだ。 欧州では今、「反イスラム」「反移民」を掲げる極右が台頭している。最近のオランダ下院選挙では極右の自由党が票を伸ばし、今後のフランス大統領選挙、ドイツ総選挙などでも極右勢力が勢いを増している。テロが続発すれば、こうした極右が勝利することになりかねない。欧州の政治にテロは直結している。

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    日本でのテロ 当局が警戒するのは新幹線狙った爆弾テロ

    「テロ現場になったロンドン橋は、予定されていたライブ会場からテムズ川に沿って車でたったの10分の距離。まさに危機一髪でした。もしあのまま開催して、ファンやメンバーが巻き込まれでもしていたら──」(芸能関係者) 6月3日夜、英ロンドン中心部のテムズ川に掛かるロンドン橋でテロ事件が発生した。刃物で武装した3人が乗るワゴン車が暴走。歩行者を次々とはねた後、近くの飲食店を襲撃。少なくとも7人が死亡、50人近くが重軽傷を負う大惨事になった。「実はその前夜、EXILEの弟分の、7人組の人気グループ『GENERATIONS』がロンドン公演を行う予定でした。オフィシャルツアーが組まれ、日本からも大勢のファンが現地に向かうはずだった。ところが、運営サイドは2週間前に起きた英マンチェスターでのテロ事件を受け、開催直前に中止を決断していたんです。本当に英断でした」(前出・芸能関係者) 5月22日のマンチェスターの事件は音楽イベントを狙ったテロで、米人気歌手のアリアナ・グランデ(23才)が収容人数2万人の屋内アリーナで開催したコンサートの終了直後、会場入り口でテロリストが自爆。8才の女児を含む22人が死亡、59人が負傷した。 欧州ではイベント会場や繁華街を狙った無差別テロが相次いでいる。昨年7月にはフランスのリゾート地のニースで、花火の見物客にトラックが突っ込んだ後、銃を乱射し84人が死亡。12月にはドイツ・ベルリンで、買い物客で賑わうクリスマスマーケットに鉄骨を積んだ大型トラックが突入した。今年に入ってからも、3月にはロンドンの国会議事堂を狙って車が暴走し、4人が犠牲になっている。日本も安全ではない いずれのテロ行為も、過激派組織イスラム国の関与が報じられている。彼らが2015年、「すべての日本人が標的だ」と宣言したのは記憶に新しい。では、日本国内ではどんな場所が狙われるのか。「いちばんのターゲットは彼らが最も敵視するアメリカの大使館(東京・虎ノ門)でしょう。実は、そこにアメリカの情報機関CIAの下部組織『中近東分析室』があり、イスラム国の情報分析を行っています。しかし、最近のテロでは政府や軍の施設といった警備が厳重な“ハードターゲット”ではなく、劇場やカフェといった一般市民が集まる“ソフトターゲット”が狙われる傾向があります」(公安関係者) なかでも当局が警戒しているのが走行中の新幹線を狙った爆弾テロだ。「上り列車と下り列車のすれ違いざまに先頭車両で爆弾を爆発させれば、2つの列車が同時に脱線する。猛スピードで走る新幹線だけに、膨大な数の被害者が出るのは避けられません。日本では火器銃器の使用は難しいが、爆弾の製造は簡単です。材料は街中のドラッグストアで簡単に購入できるし、製造方法はネット上に公開されていますから」(前出・公安関係者) 英仏海峡高速列車『ユーロスター』では、空港と同様に手荷物検査やX線検査が行われている。ご存じのように、日本の新幹線にはそのような検査はない。「実際に、2002年に過激派組織アルカイダの関係者が逮捕された際、関係先から新幹線の運行システムに関する資料が見つかっています。標的の1つとしていたと考えられます」(前出・公安関係者) 東海道新幹線の定員は16両編成で1323人。もしすれ違いざまが狙われれば2000人以上、旅客機5機分の乗客の命が危険に瀕することになる。東京五輪を控え、世界から注目を浴びる日本は、ますます狙われやすい。テロは決して対岸の火事ではない。関連記事■ 新幹線建設の歴史を振り返り新幹線網整備が急務と提言した本■ 元新幹線運転士の著者ならではのエピソードが満載された本■ ドクターイエロー 初の車体上げ実演に34240人集結で「うぉー」■ 驚異の定時運行率を誇る新幹線 フランス基準ならほぼ100%■ 日本の新幹線 速度ではフランスに、価格では中国に敵わない

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    北朝鮮の特殊部隊 日本にとっては弾道ミサイルよりも脅威

     北朝鮮を巡る緊張が日増しに高まっている。もしアメリカとの武力衝突が起これば、その影響が日本に及ぶ可能性も十分にある。日本にとっては、もちろん核実験や長距離弾道ミサイルの“暴発”は最大の脅威となるが、4月15日に平壌で行われた軍事パレードで勇ましく行進した「特殊部隊」の存在も不気味だ。 特別な訓練を受けた北朝鮮の特殊部隊とは、一体どのくらいの強さを持ち、日本が攻め込まれたらどうなるのか──。朝鮮半島問題研究家で近著に『北朝鮮恐るべき特殊機関』がある宮田敦司氏が緊急報告する。* * * 北朝鮮の脅威といわれて、まず頭に浮かぶのは弾道ミサイルだろう。実際に北朝鮮は、日本を攻撃するために200基以上の「ノドン」を持っている。 しかし「ノドン」の破壊力が非常に限定されている。通常弾頭(高性能爆薬)の弾道ミサイル1発で破壊可能な面積は、最大700平方メートル(バスケットコート1面を有する体育館程度に相当)といわれている。おそらく「ノドン」の破壊力もこの程度だろう。 だが、「ノドン」の本当の脅威は、いつどこに落下するかわからないということである。 例えば、1991年の湾岸戦争では、イラクがイスラエルへ通常弾頭の弾道ミサイルによる攻撃を行っている。イスラエルは42日間で18回のミサイル攻撃を受けたが、このうち10回の攻撃では負傷者は出なかった。最終的に直撃による死者は2人、負傷者は226人であった。問題は530人もの人々がヒステリーや精神障害の治療を受けていることだ。 もちろん物的な被害も決して小さいものではなかった。ミサイルの破片(迎撃ミサイルの破片も含む)などによって6142棟の民家が被害を受けている。一部で火災は起きたがイスラエルの市街地は火の海になることはなかった。同様に、核弾頭を搭載しないかぎり「ノドン」で東京が火の海になることはない。ただ、イスラエルの例に見られるように、たとえ大都市に落下しなくても、一般国民に対する心理的な圧力の大きさは計り知れない。「ノドン」の破壊力が限定されているとはいえ、日本へのミサイル攻撃、すなわち在日米軍基地への攻撃はアメリカ軍からの報復攻撃を招くことになる。ミサイルよりももっと現実的な脅威が存在する そこで投入されるのが、「朝鮮人民軍偵察総局」(以下、偵察総局と表記)である。偵察総局は、国外へ工作員を派遣し、要人暗殺、破壊工作、情報収集、世論工作などの各種工作活動を行なうことを任務としている。 偵察総局は、2009年に労働党と人民軍に所属する特殊機関を大幅に改編した際に創設された。初代局長には軍強硬派として知られていた金英哲(キム・ヨンチョル)が就任した。偵察総局に対する金正恩の信頼は厚く、2015年6月には偵察総局関係者を集めて「偵察活動家大会」を開催して激励している。 偵察総局所属の特殊部隊員(以下、偵察兵と表記)は、あらゆる面で最高水準の能力が要求される。偵察兵の能力について、2000年に脱北した元北朝鮮軍大尉(34・当時)は、「偵察兵の訓練は、氷の張った冬の海で遠泳を行うなど、尋常ではない」と証言している。また、アメリカ軍の情報でも、「40キロの装備を背負い、24時間以内に山地50キロを踏破できる」とされている。 どこの国の軍隊でも特殊部隊の訓練は過酷である。しかし、北朝鮮軍の異常性は安全性が二の次になっていることである。このため、落下傘降下訓練や冬の海での遠泳など、訓練中に死亡する事故が発生している。 このような訓練を積んだ集団が日本国内へ侵入したらどうなるだろうか? 北朝鮮軍は、北朝鮮と日本を十分往復可能な大型輸送機(イリューシン76)を用いて落下傘降下訓練を行っており、日本へ特殊部隊を投入することも可能な状態にある(なお、この輸送機は最近になって新たに迷彩塗装が施されている)。 陸上自衛隊最強の特殊作戦群なら彼らに対応できるかもしれない。しかし、現実には法律の壁が立ちはだかることになる。防衛出動が下令されないかぎり、自衛隊の武器使用は警察官職務執行法が準用される。つまり、偵察兵の侵入が「外部からの武力攻撃」とみなされない限り、自衛隊は北朝鮮軍最強の兵士と「警察官」として対峙しなければならないのだ。 このような、北朝鮮国外における暗殺や破壊工作などのテロを主任務とする特殊部隊の存在は、日本にとっては弾道ミサイルよりも現実的な脅威といえるのではないだろうか?特殊部隊によってテロが起きる可能性も 近い将来、特殊部隊が大型輸送機で日本へ侵入するような事態が発生する可能性は低いだろう。だが、米朝関係次第では(例えば、米国に対する「本気度」を示すため)、地方における小規模なテロを起こす可能性はある(偵察兵は、国外では通常3人一組で行動するよう訓練されている)。 テロの目的にもよるのだが、そもそもテロは大都市で起きるとは限らない。日本国民を不安に陥れることを目的とするなら、例えば、地方のローカル線を走るワンマン列車を爆破すれば済む。単なる脱線事故ではなく爆破事件となればマスコミが注目し、毎日のように様々な憶測が飛び交うだろう。 今回の「アメリカ先制攻撃説」以上の流言飛語がネット上で飛び交うことになる。さらに、爆発物が北朝鮮製のものと判明すれば、混乱はさらに大きくなるだろう。 特殊部隊出身の脱北者によると、人民軍偵察局(現・偵察総局第2局)では、1995年に発生したオウム真理教による「地下鉄サリン事件」を参考に討論を行ったことがあり、化学兵器そのものの効果よりも社会的混乱が大きかったことが議論の中心になったという。 日本が大規模攻撃や特殊部隊による攻撃などを受けた場合、陸上自衛隊は全国にある135か所の「重要防護施設」へ部隊を配備することになっている。これには、原子力発電所、石油コンビナートなど、破壊されると被害が拡大する可能性が高い施設のほか、国民への情報伝達ルートや通信手段を確保するため、放送、通信施設も盛り込まれている。 しかし、北朝鮮はこれらの施設への攻撃は行わないだろう。実際に、原子力発電所は警備が厳重であるため、破壊工作の対象から除外されたという証言もある。 米国からの報復攻撃を招きかねないような大規模な破壊工作は、能力を持っていても実行はしないだろう。小規模のテロを同時多発的に実行することにより、日本国内で社会不安が起きれば目的が達せられるからだ。 特殊部隊とて潤沢な予算が配分されているわけではない。実際に核開発とミサイル開発に多くの軍事費が使われている。しかし、テロなら弾道ミサイル数発分の予算で遂行可能だろう。 つまり、北朝鮮軍が狙うのは、日本人の心理なのだ。●みやた・あつし/1969年愛知県生まれ。朝鮮半島問題研究家。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校修了。北朝鮮を担当。2005年航空自衛隊退職。2008年日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。近刊に『北朝鮮恐るべき特殊機関』(潮書房光人社)がある。関連記事■ 敗れかぶれの北朝鮮、人口密集地の東京やソウル狙う恐怖■ 佐々木希が夫・渡部の前に「濃厚キス」していた相手■ 緊迫の北朝鮮情勢 「戦争の可能性ほぼない」と事情通■ 松戸女児殺害 澁谷容疑者、最初の結婚相手は未成年■ 元AKB48小林香菜 大胆すぎる露出「ヤッちゃった」

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    日本のテロ危険度は本当に低いのか

    英マンチェスターのコンサート会場で起きた爆弾テロは世界に衝撃を与えた。イスラム教のラマダン(断食月)が始まり、過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロの危険度は一層高まる。欧州に比べ、危険度が低いと言われる日本だが、テロの脅威を楽観視して本当に大丈夫なのか?

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    日本でも浮かぶ「要人暗殺」の可能性、X国のテロから首相を守るには

    福田充(日本大学危機管理学部教授) 現代のテロリズムの特徴は、一般市民を狙った無差別テロであり、ソフトターゲットを標的とした無差別大量殺傷であった。昨今のイスラム国を中心としたイスラム過激派組織が起こしたフランスやベルギーなどでのテロ事件のような、欧米諸国で実行されているグローバル・ジハードの戦略の影響も影を落としている。2001年5月、強制退去処分を受け、北京行きの航空機に向かう金正男氏(右)=成田空港 しかしながら、北朝鮮の金正男氏がマレーシアのクアラルンプール国際空港で神経剤VXガスとみられる猛毒により暗殺された事件が発生した。これは特定の要人を狙った要人暗殺テロである。本来、大統領や首相など国家の要人であればテロや犯罪から守るための警備が厳重に敷かれているが、金正男氏には立場上、その警備がなかったために比較的容易にテロ行為が成功した。この金正男殺害事件は、最も古いタイプのテロリズムである「要人暗殺テロ」に分類することができる。「テロリズムは劇場である」と述べたのは、テロリズム研究者のブライアン・ジェンキンスである。テロリズムはテレビや新聞などのメディア報道を通じてドラマティックなストーリーとなり、それを見守るオーディエンスを取り囲んで社会全体を劇場化する作用をもつ。テレビの視聴者も、新聞や雑誌の読者も、テロリズムという劇場のオーディエンスとなってこの物語に参加する。金正男殺害事件は、事件発生当時から1カ月を経過した段階でも、テレビのワイドショー番組や週刊誌、タブロイドなどを連日にぎわせる数字の取れるキラーコンテンツであった。 かつて2004年のイラク日本人人質テロ事件では、人質となった日本人3人をめぐって小泉政権がイラク派遣の自衛隊撤退という要求を受け入れるか、それとも拒否するか、日本人3人の命は助かるのか、日本の世論は同情論と自己責任論に分裂しながらこの事件の行方について固唾をのんで見守った。2015年のイスラム国によるシリア日本人人質テロ事件でも、日本人2人の命と2億ドルという身代金要求のあいだで有効な手を打てない安倍政権を尻目に、インターネットやソーシャルメディアを通じて、2人が殺害される画像や動画が世界を駆け巡るという結末を迎えた。テロリズムを実行するテロ組織やテロリストは、自らのメッセージを世界にプロパガンダするために、テレビや新聞などのマスメディア、インターネットやソーシャルメディアを利用して、世界中のオーディエンスを取り込みながらテロリズムを実行する。 このようにメディアの進化した現代社会において、テロリズムは新しく魅力的なコンテンツとスペクタクルを供給する装置として機能している。金正男殺害事件と地下鉄サリン事件の共通点 今回の金正男殺害事件は、白昼堂々と監視カメラに囲まれた国際空港という舞台で実行された。第三国のマレーシアで、一般客でにぎわう国際空港で目撃者も多く、監視カメラの動画が多く残されているのがその特徴である。実行犯の2人の女性とその背後にある組織、国家の存在、そして犯行の手段として使用された化学剤など、テロリズムのストーリーを構成するドラマティックな要素を含んでいる。 この事件で使用されたとされる神経剤VXガスは、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教が、漫画家で評論家の小林よしのり氏をかつて殺害しようとして使用した化学兵器の一種である。オウム真理教による1995年の地下鉄サリン事件は、東京の地下鉄乗客を無差別にターゲットとして化学剤サリンを用いて13人を殺傷し、6000人以上の負傷者を出した世界で初めての都市型無差別化学兵器テロであった。前年の松本サリン事件、亀戸の炭疽菌生物兵器テロ未遂、皇居を狙ったボツリヌス菌計画などオウム真理教によるNBC(核・生物・化学)兵器を利用したテロ計画が発覚し、テレビや新聞、雑誌などのマスコミによるメディアスクラム(集団的過熱報道)は1年以上続いた。オウム真理教による一連のテロリズムに対して、メディア報道は過熱し、テレビの視聴率や新聞雑誌の販売部数は高まり、数多くのオーディエンスが魅了されたのである。 メディアスクラムを発生させ、オーディエンスを夢中にする金正男殺害事件と地下鉄サリン事件の共通点は紛れもなく「テロリズム」である。テロリズムを構成する要素として「政治的動機」があるが、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教が霞が関の官庁街や皇居を狙うという政治性、クーデター的要素をもったように、金正男殺害事件には北朝鮮の国家体制をめぐる政治的意図が存在する。この政治的目的を達成するためのテロリズムがもつ意図や計画が、政治的、国家的スペクタクルを生み出す。 またこの2つの事件の共通点は、化学兵器を用いたNBCテロであるという点である。通常の爆弾や銃器ではない、耳慣れない特殊な化学兵器は「脅威の神話性」をもつ。国際法や国際条約によって戦場でさえもその使用が禁止されている化学兵器が、一般社会で使用されるインパクトは大きい。サリンやVXガス、タブン、ソマンといった化学兵器がどのように精製され、どのような影響をもたらすか、その謎に包まれた兵器自体がドラマティックな要素を含んでいる。 国家や組織による陰謀や謀略の物語性、謎の化学兵器がもつ神話性などオウム真理教による地下鉄サリン事件がもっていたその特徴を、この金正男殺害事件も有している。メディアスクラムが発生しオーディエンスが魅せられる要素はそろっているのである。要人暗殺テロの系譜 金正男殺害事件は、首相や大統領といった要人ではないものの、北朝鮮にとって影響力をもつ人物が殺害されたという意味で、要人暗殺テロの亜種であるといってよい。これまで一国の首相や大統領などのリーダーが国内の勢力によって暗殺された事例や、命を狙われた事例は数多く存在する。 戦後でも有名な事例として、ケネディ大統領は1963年テキサス州ダラスでパレード中に銃撃され暗殺された。この映像は、初めての国際テレビ中継映像として日本に伝えられた。犯人とされたオズワルド容疑者も警察署内で銃撃されて死亡する展開に、この事件の真相はいまだに議論が続いている。このほかにも81年にはレーガン大統領暗殺未遂事件が起きるなど、アメリカの大統領はリンカーン大統領をはじめ、つねにテロリズムの対象となってきた歴史がある。米バージニア州のアーリントン国立墓地にあるケネディ大統領の墓 そのほかにもエジプトのサダト大統領は81年、戦勝記念パレードの観閲中にジハード団の将校により暗殺された。イスラエルとの和平実現に反対するイスラム原理主義集団による犯行であった。韓国の朴正熙大統領は79年にソウルで殺害された。韓国中央情報部(KCIA)部長による暗殺事件であった。このように、国家権力の中枢にいる大統領や首相が国内勢力のテロリズムによって殺害されるケースは世界各国で発生している。 しかしながら、国家の要人が国外の勢力によって暗殺された事例や、その未遂事件はそれほど多くない。同じく韓国の事例でいえば、83年のラングーン爆弾テロ事件において、ビルマのラングーンを訪問中であった全斗煥大統領が北朝鮮工作員によって狙われた爆破事件が発生したが未遂に終わった。韓国では同様に、68年にも北朝鮮ゲリラによる朴正熙大統領を標的とした青瓦台襲撃未遂事件が発生している。 要人暗殺テロは、時代を超えていつの時代にも発生してきた最も古いテロリズムの形態の1つであるが、現代において要人暗殺テロの発生が減少した要因の1つは、テロ対策など要人の警備が強化されたことにより、テロ組織やテロリストが武器や兵器を持って要人を直接攻撃することが困難になったことである。テロリズムに道徳を見出す日本人 テロリズムという概念が存在しなかった時代から、要人暗殺は歴史的に繰り返されてきた。それは日本の歴史においても同じである。 犬養毅首相が青年将校に殺害された5・15事件は、テロリズムという概念が一般化していなかった当時は使用されていなかったものの、現代的な観点でみれば要人暗殺テロである。青年将校を「話せばわかる」と説得しようとした犬養首相に対して「問答無用」と答えて銃撃した青年将校の行動は、まさに言論を封殺するテロリズムである。陸軍青年将校によるクーデター未遂となった2・26事件も同様に要人暗殺テロに分類できる。襲撃された岡田啓介首相は難を逃れたものの、高橋是清大蔵大臣や斎藤実内大臣ら政府要人が暗殺された。これらはいずれも軍人によるテロリズムであり、当時すでに崩壊していたシヴィリアン・コントロールを完全に破壊する行為であった。しかしながら、これらの要人暗殺でさえも、テロリズムの政治的動機(たとえば「昭和維新・尊皇討奸」というスローガン)に情状酌量や同情の余地があれば、その行動の源にある正義を斟酌するという心的態度が日本人にあることも事実である。 さらに歴史をさかのぼっても、幕末の江戸で発生した桜田門外の変も水戸脱藩浪士による大老・井伊直弼の殺害事件であり、これも現代的に考えれば、政治的目的を達成するための要人暗殺テロである。しかしながら、安政の大獄で吉田松陰や橋本左内など多くの志士を処刑した大老に天誅を下した水戸脱藩浪士に対して義挙として賞賛する立場、明治維新の先駆けとする見方も日本人のなかにあることを忘れてはならない。 さらにいえば「忠臣蔵」で知られる元禄赤穂事件も、取りつぶされた浅野家の赤穂浪士四十七士が幕府の重鎮である吉良上野介を襲撃して殺害するという重大事件であり、現代的な視点で考えれば要人暗殺テロ以外の何ものでもない。しかし主君への忠義と仇討ちという日本人の心の琴線に触れる物語として、歌舞伎やドラマ、映画のキラーコンテンツとして現代まで人びとに親しまれていることは周知の事実である。江戸城、松の廊下で吉良上野介に切りかかる浅野内匠頭を描いた絵馬=兵庫県赤穂市の大石神社 テロリズムを罰する法治主義的態度の観点と、そこに正義や忠義の道徳的態度を見出す観点が分離して相克しているのが日本人のテロリズム、とくに要人暗殺テロに対する心的態度の複雑さを形成している。 日本の初代内閣総理大臣となった伊藤博文も晩年の韓国統監辞任後に、ハルビンで朝鮮の独立運動家の安重根に殺害された。この事件は日本側から見ると明治維新の元勲を殺された要人暗殺テロと考えることができるが、朝鮮から見ると犯人の安重根は日本からの独立運動の英雄として讃えられている。このように政治的動機の伴うテロリズムは、国や民族の立場が変わると、要人暗殺テロというラベリングと、民族解放運動や革命といったラベリングとがせめぎ合う解釈の闘争が発生する現象なのである。現代日本で要人が標的となるリスク このように歴史的に見たとき、日本では数多くの要人暗殺テロが発生してきたことを見落としてはならない。そしてそのテロリズムが発生する政治的風土や、それに道徳的観念や正義を見いだす精神的風土が日本には存在していたのである。 そして、その環境は現在も決して変わってはいない。現代の自民党安倍政権誕生以降も、特定秘密保護法をはじめ安全保障法制、そして現在のテロ等準備罪などのアジェンダ(議題)に対して国会周辺等で大規模な反対デモも発生した。また沖縄を中心とした米軍基地への反対闘争、反原発運動などのイシュー(論点)で局所的な政治的闘争は存在している。こうした政治的闘争は、現代の日本においてきわめて民主的で合法的な手段を用いた社会運動として定着していることも事実である。 しかしながら、最悪の事態を想定する危機管理の観点からみれば、また60年代、70年代において学生運動やマルクス主義運動が過激化して多くの爆弾テロやハイジャックなどの事件を引き起こした歴史的事例をみれば、社会運動が過激化した結果としてテロリズムが発生する可能性は決してゼロではない。本来、民主的かつ合法的であった政治運動から逸脱した一部の「過激化(radicalization)」という現象がテロリズムに結び付くプロセスは現代においても見逃してはならない。 また、国際テロリズムや国際安全保障の文脈においても日本の要人がテロリズムの標的となるリスクは高まっている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、これまでのオリンピックなど国際的メディアイベントがそうであったように、テロリズムの標的になる可能性が高く、東京五輪に向けた日本のテロ対策の強化が求められている。さらに「イスラム国」による欧米各国へのグローバル・ジハードはまだ終結しておらず、世界のどこでイスラム過激派によるテロリズムが起きてもおかしくない状況はいまだ続いている。北朝鮮の核実験・ミサイル実験や、中国による尖閣諸島、南シナ海への侵出など、東アジアをめぐる国際安全保障環境も緊張状態にある。テロリズムを防止する手だて このような時代状況と国際環境を踏まえたとき、また現代テロの特徴であるソフトターゲットを狙った無差別テロへ意識が向かっている現在こそ、要人暗殺テロへの備えに綻びが発生する可能性がある。いまこそ、本来テロリズムの王道であった要人暗殺テロへの備えと予防策を強化すべきである。 要人暗殺テロを防止するためには、その①「リスク源(risk source)」となる問題や組織の洗い出しが第一歩となる。そしてそれらの問題や原因によってテロが発生する可能性があることを②「リスク認知(risk perception)」し、さまざまな情報分析により③「リスク評価(risk assessment)」を実施しなければならない。そうして得られた要人暗殺テロのシナリオや想定に対して、具体的な④「リスク管理(risk management)」を実施し、国内外に幅広くアピールする⑤「リスク・コミュニケーション(risk communication)」が重要となる。このプロセス全体がテロ対策をめぐる危機管理である。そこで重要な鍵となるのは情報活動、諜報活動とも訳される「インテリジェンス(intelligence)」である。 想定されるシナリオには多様なケースが存在する。しかし日本の要人暗殺テロにおいて、リスクとして可能性が高いのは次の2つのケースであろう。1つ目は「日本国内のメディアイベントで警備状況が手薄になるケース」であり、2つ目は「国外の外遊時に外国勢力に狙われるケース」である。 本来、いずれも警察や治安機関により警備態勢が強化されている状況にあるはずであるが、その警備が一瞬緩むポイント、タイミングが発生したときに要人暗殺テロが発生する余地が生まれる。あえて具体的なシナリオで示せば、とくに危険なのは要人が小規模な文化的催しに参加して一般人と交流し、その様子をテレビや新聞などのメディアに公開してアピールしようとするようなケースである。 そこで使用されるテロの道具は、蓋然性としては爆弾や銃器、刀剣などの一般的に普及していて利用しやすい兵器である可能性が高いが、同時にこれらの道具は金属探知機や手荷物検査で発見しやすく失敗する可能性も高くなる。反対に、サリンやVXガスなどの液体、炭疽菌などのように粉末状にできるもの、放射性物質などのNBC兵器は、入手や製造が困難であったとしても、探知機や手荷物検査で発見しにくいという条件から、こうしたNBCテロやCBRNE(化学・生物・放射性物質・核・爆発物)テロは事前に防止するのが困難であるという理由で大きな脅威となる。インテリジェンス・サイクルを強化せよ 要人暗殺テロを防止するための対策にはさまざまなものがある。まずは、危険団体、危険人物を特定してマークするインテリジェンス活動である。警察庁、警視庁の外事や公安が実施している活動であり、通信傍受などのシギント(SIGINT)や、監視カメラによるイミント(IMINT)などの監視活動も含まれる。また、危険な外国勢力の入国を水際で阻止するための出入国管理も重要な活動である。法務省の出入国管理インテリジェンス・センターは、出入国管理の情報収集と分析をテロ対策に活かすために設置された組織である。外務省は国際テロ情報収集ユニットを結成して、外国のインテリジェンス機関と情報共有し、海外のテロ組織やテロリストの情報分析を強化している。これらの各省庁が実施しているインテリジェンス活動の成果が内閣情報調査室、および国家安全保障会議(NSC)に集約されることで安全保障やテロ対策など危機管理に活用される。こうした一連のインテリジェンス・サイクルの強化が現代の日本に求められている。 またテロリズムの防止には、ほかにも多様なアプローチが存在する。たとえば、企業の研究施設や大学の研究所で使用される化学剤や放射性物質が拡散してテロリズムに利用されないようにするための拡散防止、危険物質の管理が重要である。デュアル・ユース(dual use)と呼ばれる問題であるが、そのために化学剤やバイオ、放射性物質などに関する危険物を保持している企業や病院、大学などのネットワークを強化して管理体制を構築することが必要である。 戦後の日本国内では、オウム真理教による地下鉄サリン事件以降は、大規模なテロ事件が発生していない。むしろイラク日本人人質テロ事件、アルジェリア日本人テロ事件、シリアイスラム国日本人人質テロ事件、ダッカ襲撃テロ事件など、国外の日本人がテロ事件に巻き込まれるケースのほうが増えている状況である。グローバル化した国際テロリズムの時代にこそ、こうした国際的環境のなかで日本のテロ対策の在り方を見直し、国民のなかで議論を行なうべき時期が訪れている。ふくだ・みつる 日本大学危機管理学部教授。1969年、兵庫県生まれ。99年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。コロンビア大学戦争と平和研究所客員研究員、日本大学法学部教授などを経て、2016年4月より現職。関連記事■ 福田充 危機管理学とは何か■ なぜ、イスラム系のテロ組織が多いのか―テロにまつわる4つの疑問■ 難民・テロ・甦る国境……ヨーロッパから民主主義が消える?

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    IS、ラマダン前に報復開始か 英テロで全欧州が厳戒態勢

    佐々木伸 (星槎大学客員教授) 英中部マンチェスターのコンサート会場で22日夜に起きた自爆テロは死者22人、負傷者約60人という悲惨な結果となった。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。ISは本拠地のシリアやイラクで軍事的に追い詰められており、イスラムの聖なる月ラマダン入りを直前に報復テロ作戦を開始した懸念が強い。欧州全体が厳戒態勢に入った。 米国の人気ポップス歌手、アリアナ・グランデさんのコンサートが開かれていたのは「マンチェスター・アリーナ」。爆発が起きたのはコンサートが終了した直後で、出口付近で自爆犯が爆弾を爆発させた。爆弾には、殺傷力を高めるためクギやボルトなど金属片が大量に仕込まれていた。 メイ英首相は「凄惨なテロ」と断じた。イスラエルを訪問中のトランプ米大統領も「邪悪な敗者の犯行」と非難した。自爆犯の体が粉々に吹っ飛んでいるため、警察当局はDNA鑑定などで実行犯の身元の特定を急いでいる。単独の“ローン・ウルフ”(一匹オオカミ)型テロか、組織型テロかなどは不明だが、警察は事件の関連で23歳の男1人を拘束した。 ISは事件から約10時間後にネット上に「ISの戦士の犯行」とする声明を出した。動機を「イスラム教徒諸国への攻撃に対する報復」とし、「マンチェスターの十字軍の集まりに爆弾を仕掛けた」と主張した。一匹オオカミ型テロにせよ、組織型テロにせよ、背後でISが直接、間接的に介在していたとする見方が強い。多数の死傷者が出たコンサート会場の周辺で活動する警察官ら=英マンチェスター 米紙によると、テロ専門家らは今回の自爆に使われた爆弾が相当精巧に作られていたとし、爆弾を爆発させたタイミングなど被害を大きくする手口などから、周到に準備された犯行と見ている。こうしたことから実行犯ないしは実行グループがかつて爆弾を製造した経験を持っている可能性がある。 テロ事情に精通するベイルート筋は「ISは中東の戦場で米軍の空爆やイラク軍に追い詰められ、滅びが間近に迫っている。折からイスラム教徒の宗教心が高まるラマダンが27日から始まる予定で、米欧に最後の報復を開始したのではないか。欧州全体でテロが続発する危険がある」と警告する。 同筋などによると、英国のイスラム教徒人口は移民の増大などでこの10年で倍増し、人口の5%、約300万人に達している。人口の増加とともに、社会から疎外される若者も増え、不満を強めた一部が過激化。これまでに1000人弱がシリアに渡り、ISに合流して戦闘に加わった。 400人前後はすでにシリアから戻り、またシリアに渡ろうとして治安当局に阻止された若者も約600人おり、これを合わせた1000人が治安当局の監視下に置かれているという。しかし、これら対象者を24時間監視するのは人員面などから不可能に近い。モスル陥落で“休眠戦士”が起動 英国のテロとしては今回、2005年に起きた地下鉄爆破事件以降、最大の死傷者数となった。今年3月には、ロンドンの国会議事堂近くで車暴走テロが発生し、5人が死亡。この時もISが犯行声明を出している。英国のテロ警戒レベルはなお「テロが起きる可能性が高い」という上から2番目の段階にある。 欧州の治安当局が憂慮しているのは、マンチェスターのテロが欧州全体でテロ攻勢を仕掛けるIS作戦の始まりではないか、ということだ。特にイラクのISの拠点であるモスルがイラク軍の攻勢で陥落寸前にまで追い込まれており、この報復のため欧州でテロを活発化させるのではないかと懸念を強めている。 昨年10月から始まったイラク軍と米軍によるモスル制圧作戦は現在、ISがチグリス川西側の旧市街地に追い込まれ、一時は5000人もいたと見られる戦闘員はもはや400人程度しか残っていない、という。IS戦闘員の捕虜がほとんどいないのは結果的に「“皆殺し”にされている」(ベイルート筋)からに他ならない。イスラム国(IS)からモスルを奪還するために展開されたイラクの特殊部隊=ガザ近辺のキャンプ 戦場での戦力では圧倒的に劣るISの報復手段はイスラム教徒コミュニティーが多い欧州でのテロだ。ISが難民などの形で欧州に潜り込ませた“休眠戦士”は依然、数百人はいると見られており、モスル陥落を契機にこれら戦士を起動し、欧州全体でテロ攻勢に出るという現実的なリスクがある。 マンチェスターのテロの被害者は歌手グランデさんのファンである少女が多い。それだけに英国民の怒りは強く、反イスラム感情が高まりかねない。英国では、6月8日には総選挙が予定されており、今後イスラム排斥を訴える候補が勢いを増すことになるだろう。イスラム教徒とキリスト教徒の分断をテロの目的とするISにとっては、それこそ思うツボだ。

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    理想だけでは語れない難民問題、日本はなぜ慎重であるべきなのか

    墓田桂(成蹊大学教授) 2016年12月19日、ドイツの首都ベルリンで起きたテロ事件は世界を震撼させた。教会前のクリスマス市に大型トラックが突入し、12人の犠牲者を出した。トラックが凶器となったのは同年7月14日にフランスのニースで起きたテロと同じ構図である。 犯人はチュニジア出身の男だった。難民申請が却下され、本国に送還されないままドイツに滞在していた。 ドイツでは、このほかにも難民や移民による凶悪な事件が発生している。難民保護に人道主義の夢を託した市民たちは裏切られた思いだろう。「難民はテロリストである」といった極論に与するつもりはない。難民の多くは私たちと同じ普通の人間である。ただ、留意しなければならないのは、難民、あるいは移民のなかから社会に脅威をもたらす人物が現れてしまう事実である。2016年12月にベルリンで起こったトラック突入テロの現場で警戒にあたる警察官(ロイター) テロとも相まって、欧州の政治状況は不安定になっている。不安定化の要因の1つに難民・移民問題があることは否定できない。16年6月に行なわれたイギリスの欧州連合(EU)離脱の国民投票も然りである。ドイツの一極支配やEUの官僚主義に加えて難民・移民問題が争点となった。 大西洋の対岸でも難民問題は先鋭化している。アメリカのドナルド・トランプ大統領は17年1月27日、「外国のテロリストが合衆国に入国することを防ぐ」ためとする大統領令を発した。イスラム圏7カ国の国籍者の入国を90日間停止するとともに、難民の受け入れを120日間停止するといった内容である。 入国管理の厳格化はオバマ政権下でも進んだが、今回の大統領令は必要以上の混乱を招いている。内容、手法共にトランプ政権を象徴するものである。 ただ、問題含みの措置とはいえ、移民・難民の流入を懸念するアメリカ人も存在する。テロへの懸念はいまでも根強い。ロイター/イプソスがアメリカで行なった世論調査では49%が大統領令を支持すると答えた。調査によって差はあるが、無視できない世論の動向である。 理想主義と現実主義、グローバリズムとナショナリズム。相反するこれらの要素が複雑に絡み合うのが難民・移民をめぐる問題である。いまや国内、国際政治を揺るがすテーマでもある。 世界的な規模で展開している難民問題だが、先進国圏ではEUの苦難が際立っている。欧州に活路を見出そうと中東やアフリカから難民・移民が地中海を船で渡っている。難民を含めた多様な背景の移動者が流れ込む「混在移動」の典型である。 概して密航船の衛生状況は悪く、船の転覆は後を絶たない。密航者の苦境に胸を痛めない者はいないだろう。 EUでの難民申請者は15年だけで128万人に上った。EUの人口は約5億人だから、比率でいえば1%にも満たない。だが、流入してくるのは文化的、宗教的背景の異なる人たちである。お金を落として帰ってくれる旅行者とは異なり、難民は社会の負担となりかねない。やはり重たい数である。 15年9月、事態は大きく展開する。トルコの海岸に横たわるシリア人の幼児の溺死遺体に欧州は動かされた。16万人の難民申請者をEU加盟国間で分担することも決まった。道徳感の強いドイツ、そして欧州委員会が牽引力となった。 そうしたなか、同年11月、フランスのパリで自爆と銃の乱射によるテロ事件が発生する。犠牲者は130人。犯人のうち少なくとも2人は密航ルートを使ってギリシャに入り、パリまでやって来た。欧州で人びとの善意が高まっていたそのとき、テロの計画は進んでいた。 幼児の溺死事件を機にEUは迅速に対応したが、苦悩を背負うことになる。16万人の分担策はEU加盟国を分断させた。反難民・反移民感情が高まり、反EU勢力と化して既存の政治秩序を揺るがしている。「難民に厳しい国」を演出する国々 EU域内では難民受け入れの厳格化が進んでいる。オーストリアは難民申請の受付数に制限を設けた。難民に開放的だったスウェーデンでも難民認定者の権利や恩恵(家族の呼び寄せなど)を縮小している。どの国も「難民に厳しい国」を演出しようとしているのである。 16年3月、EUはトルコと密航者の送還について協定を結んだ。これによってトルコ経由でEUに流入する者の数は減少した。他方で、バルカン半島のルートが閉鎖されているため、数万人の難民申請者がギリシャで滞留している。 すでに285万人ものシリア難民を抱えるトルコは、EUから見れば、難民を手前で堰き止める重要な役割を担う国である。EUが求めた送還協定はその延長線上にある。しかし、汚れ仕事をトルコに任せ、残務処理をギリシャに押し付けた感は否めない。 トルコからの人口流入は抑えられたものの、リビアからイタリアに流入する密航者は後を絶たない。トルコ・イズミルを歩くシリア人とみられる女性と子ども(共同) EUの対応は苦悩に満ちている。難民問題を解決しようと積極的な姿勢を見せたものの、それを上回る勢いで密航者が到達し続ける。理想を裏切る形でさまざまな事件が発生する。人びとの善意は限界を迎えてしまう。 EUに比べれば規模は小さいが、日本も難民問題とは無関係ではない。 日本での難民申請者数は16年、1万901人に上った(17年2月10日付、法務省発表資料)。難民申請者は2000年には216人だったのが、10年には1202人、13年には3260人、14年には5000人、15年は7586人に増えている。 難民申請者が増加する一方で、日本の難民行政は「閉鎖的」といわれる。数だけを見ればそう指摘されても仕方がない。16年は1万901人の申請者のうち難民と認定されたのは28人。認定率にすれば0・26%である。実際にはこれに人道配慮の97人が加わるので、合計125人が保護を認められている。ただ、人道配慮を合わせても申請者全体の1・15%にすぎない。 その一方で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に対する日本の貢献は小さくない。15年の拠出額は1・73億ドル(1ドル=120円の換算で208億円)に上り、アメリカ、イギリス、EUに次いで4位にある。 難民や国内避難民を抱えた国々に対する日本の支援も手厚い。日本人人質事件の際に注目されたが、たとえば15年1月、安倍晋三首相は中東の人道支援に25億ドルの拠出(その9割近くは円借款)を表明している。 対外的には難民・避難民支援に積極的に貢献しているものの、日本国内での難民受け入れは消極的と映ってしまう。ただし、この点は冷静に考察する必要がある。 日本国内では法務省入国管理局が難民認定業務を所管する。「出入国管理及び難民認定法」に基づいて法務省が難民認定の申請を受け、「難民の地位に関する条約」の定義に照らし合わせて申請者を審査し、認定の是非を判定する。 不認定となった場合、申請者は異議を申し立てることが可能である。この場合、難民審査参与員が中立的な立場で異議を審査する。参与員は法務大臣に意見書を提出するが、意見書に拘束力はなく、最終的には法務省が決定を下す。 筆者は13年4月から15年3月までの2年間、難民審査参与員を務めた。かつては日本の難民行政の在り方を批判的に見ていたこともある。しかし、参与員としての体験や、欧州で起きた一連の出来事は、この問題を冷静に見詰める契機となった。イスラム教徒を受け入れるか否か 現在の難民認定制度は事実上の移民制度となっている。申請をすれば在留資格(名目は「特定活動」)と就労資格(申請の6カ月後)が得られる仕組みである。異議審査では1次審査で漏れた難民性の低い、あるいは低いと見なされた申請者が審査を求めてくる。申請者の多くが異議申し立てを日本での在留延長の手段と捉えているようだった。現に制度上、それが可能なのである。 面談した限りでは、申請者は概してサバイバル能力が高かった。「移民」としての資質は申し分ない。彼らも生き残りを懸けている。参与員には保秘義務があるので多くは語れないが、支障のない範囲で言及するなら、アフリカの某国からの申請者に多く見られたのは、「伝統的なチーフを継承することになったが辞退した。毒殺される危険があるので保護してほしい」という主張だった。興味深いことに、この物語にはいくつかのバリエーションが存在した。 難民性の低い申請者が多く押し寄せるのだから、最終的な難民認定率が低くなるのは当然の結果である。偽装難民の問題を直視せずに、認定率の数値だけで難民行政の現状を議論してもあまり意味がない。 認定条件の厳しさを指摘する意見もある。たしかに諸外国に比べれば厳格に映る部分はある。しかし、それゆえに「難民に厳しい国」を世界に示せるならば、日本で難民申請をする動機を抑制することにもつながる。結果的に難民申請者の流入圧力や、流入がもたらす諸々の問題を抑止していると見ることもできる。 日本社会の安寧を考えれば、慎重な難民行政はむしろ望ましいのではなかろうか。葛藤は付きまとうが、この問題に真剣に向き合えば向き合うほど、そう考えざるをえないのである。 難民問題は世界規模の現象である。15年の時点で世界には6000万人に上る難民・国内避難民が存在する。1548万人の難民と500万人のパレスチナ難民、さらには4080万人の国内避難民を合わせた数である。12年以降、世界の難民の数は増加傾向にある。「アラブの春」後のイスラム圏の混乱と軌を一にする動きである。 事実、難民の発生国の多くがイスラム圏に集中している。いまの時代、難民問題はイスラム教徒を受け入れるか否かという問題と重なり合う。 全体を俯瞰すれば、イスラム圏の難民に限らず、世界は大移動時代にある。むろん有史以来、人類は移動によって歴史をつくってきたわけだから、現代に限った現象ではない。ただ、グローバル化とともに人の移動が増幅し、異文化の流入を人びとが肌で感じるようになった現在、さまざまな軋轢が生じている。シリアとの国境に近いトルコ南部、スルチにある難民キャンプでテントの前に座るシリア・クルド人の親子=1月27日 難民現象は縦横無尽に展開する人口移動の一部である。人の移動は継続的な現象であり、流入圧力を抑制することは容易ではない。難民問題を解決しようと受け入れを強化したり、その制度を整備したりすることは、新たな難民を引き寄せる要因となってしまう。根本原因の解決が叫ばれるものの、難民の押し出し要因となる紛争や貧困を根絶することは難しい。 解決が難しく、一面的な正義が通用しないのが難民問題である。安易に唱えられることが多いが、難民の受け入れは付随する種々の問題を招き入れることでもある。いくつか挙げてみたい。 まずは治安の悪化である。繰り返すが、「難民=テロリスト」ではない。社会に危険を及ぼす人物が難民のなかに混入してしまうことが問題なのである。 EUでは密航者や難民申請者のなかに「イスラム国」と接点をもつ者や戦争犯罪者が紛れ込んでいた事例がある(筆者自身、アフリカの難民定住地で元戦闘員の難民に遭遇したことがある)。また、難民キャンプの軍事化や「難民戦士」の問題は古くから指摘されてきた。テロリストや戦闘員のレベルでなくとも、一般犯罪が一定の割合で発生するのも事実である。状況によっては暴徒も生まれる。理念的な美しさの弊害 難民問題は「非伝統的安全保障」の課題ともいわれるが、弾道ミサイルに対処するのとは異なり、武力行使は許されない。人間が対象となるだけに、対応はきわめて複雑なものとなる。 国民の税負担や行政(とくに自治体)の業務負担も考えなくてはならない。先進国では難民を劣悪な状況に留めおくことは非倫理的と認識される。しかし、自国民と同等の生活条件を与えるとなると、住居の供給、言語習得と教育機会の提供、雇用の創出、医療へのアクセスを含めた社会保障など、さまざまな支援や保障が必要となる。先進国となれば外からの援助は期待できない。 貧困にあえぐ自国民の傍らで、難民が手厚い支援を受けるという逆転現象もときどき起きる。難民のなかでも社会関係資本をもつ者の場合、受け入れ側の国民よりもより良い生活条件を手にすることがある。 難民が労働力になることを期待する向きもある。これについては、経済が好調なドイツでも15年以降に来た難民の雇用率は13%に留まるという統計がある(16年11月16日付ロイター)。無理もない結果だろう。ドイツ語の習得は簡単ではない。そもそも同じアジアの人間でも、アフガニスタンの下層の少年とインドの工科大学を卒業した者では資質が異なる。移民ならば相応のルートで適切な人材を調達すべきだった。 人口減少を埋め合わせるために難民の受け入れを唱える論者もいる。ただ、少なくとも日本にとっては、社会制度や技術のイノベーションを通じた内側からの対応が最適解と考えられる。 さらに、難民や移民との関係で問題となるのが社会の景色が変わることである。多文化主義は美しい理念として時に無邪気に語られる。だが、多文化主義は自国の文化と社会が変容を強いられることを意味しかねない。つまりは「庇を貸して母屋を取られる」のである。 中長期的には貧困層が生まれたり、「並立(パラレル)社会」が現れたりすることもある。テロを含めた治安悪化は、移民・難民の2世たちが不満分子となった場合にも起こりうる。ベルギーの首都ブリュッセルにあるモレンベーク地区が有名だが、ひとたび並立社会ができてしまうと解体することは難しく、社会問題の温床となってしまう。人の移動の影響は長いスパンで見なければならない。 ちなみに、2070年以降、世界の宗教別の人口ではイスラム教徒がキリスト教徒を追い抜くとの予測がある(ピュー研究所の予測)。アメリカ国勢調査局によると、2044年にはアメリカの非白人人口(ヒスパニックを含む)は白人人口を超えると見られる。ベルリンの首相府前に到着した難民を乗せたバスを取り囲む、報道陣と受け入れ反対派のデモ隊ら=1月14日、(ロイター) 欧米諸国で見られる反難民・反移民の動きの根底には、肌で感じる治安悪化のみならず、変わりゆく社会に対する不安があるのだと思われる。事実、イギリス王立国際問題研究所が欧州10カ国で行なった調査(17年2月7日発表)でも、イスラム諸国からのすべてのさらなる移民の停止に55%が賛意を示した。慎重な世論が読み取れる。 ナショナリズムは悪として非難されがちだが、21世紀のナショナリズムには、行きすぎたグローバリズムとグローバル化から既存の社会秩序を守ろうとする力学がある。善悪はともかく、越境者に対する人びとの否定的な感情もその文脈で捉えられる。 難民保護の理念は美しい。迫害を受け、母国を逃れた人を別の国家がかくまい、保護を与える。シンプルで力強い理念である。だが、理念的な美しさは、宗教にも似て教条主義を生みやすい。 難民問題は夢想的に論じられがちである。支援者が夢を語るのは構わない。ただ、国家として現実を見据えた方策がなければ、国民を軋轢や危険にさらしてしまう。難民受け入れよりも効果的な支援 国家が入国管理という機能を果たしているからこそ、難民保護の運動論は成立する。EUの事例が示すように、国境管理が崩れ、無尽蔵に人が流入したとき、綺麗な論理は破綻してしまう。 とはいえ、難民のための多国間協調も必要とされている。私たちは難民問題とどう向き合えばよいのか。 日本政府は二国間の援助に加えて、UNHCRに多額の資金を拠出している。国内で難民を受け入れるよりも効果的な支援だろう。日本の財政状況は厳しい。そのなかでの貴重な貢献である。 また、難民認定制度とは別に年間20人程度、第三国定住難民の受け入れを実施している。シリア難民についても国費留学生制度や技術協力の枠内での受け入れが予定されている(16年5月に表明された5年間で150人に加え、17年2月3日付『朝日新聞』によれば、5年間で300人規模の留学生と家族を受け入れるとのこと)。 日本の状況や立ち位置に鑑みれば、十分すぎる支援といえないだろうか。 安易な人道主義は禁物である。難民問題に甘い夢を持ち込めないことはEU諸国が示している。他国の経験を他山の石とすべきである。【補記】この論考から「イスラム嫌い」を疑われかねないが、筆者はむしろイスラム圏の文化に深い愛着を抱く者である。ただし、異なる文化への愛着は、自身が属する文化圏の溶解を認めるものではない。はかた・けい 成蹊大学教授。1970年、富山県生まれ。フランス国立ナンシー第二大学より公法学博士(国際公法専攻)の学位取得。外務省勤務を経て、2005年より成蹊大学文学部国際文化学科にて教鞭を執る。13年から15年まで法務省難民審査参与員。著書に『難民問題―イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題』(中央公論新社)、『国内避難民の国際的保護―越境する人道行動の可能性と限界』(勁草書房)など。関連記事■ なぜ、イスラム系のテロ組織が多いのか―テロにまつわる4つの疑問■ 難民・テロ・甦る国境……ヨーロッパから民主主義が消える?■ 福田充 X国のテロから首相を守るには

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    イスラム国の衰退で高まるテロ拡散の危機

    畑中美樹 (国際開発センター エネルギー・環境室研究顧問) イラクとシリアにまたがる国家樹立を宣言したイスラム国(IS)の終焉(しゅうえん)が近づいている。既にIS戦闘員がイラクのモスル西部の旧市街及び彼らが首都とするシリアのラッカにほぼ追い込まれているからだ。 だが欧米やトルコ、ヨルダン、クウェートなど中東諸国のイスラム過激組織の専門家は、新たな危機を懸念している。すなわち、組織としてのISは疑似国家の消滅で解体しても、地下に潜り母国に戻るIS戦闘員や彼らのイデオロギーが拡散し、各地で新たなテロを引き起こす可能性が高いからだ。このため、英仏独などの欧州諸国やロシアの治安専門家は、自国出身のIS戦闘員の帰国に目を光らせつつ、IS思想への共鳴者の監視を強化している。イラク北部のモスルで、ISとの戦闘に備えて武器を運ぶイラク軍 実際、これら諸国では3月以降、IS共鳴者によると見られるテロ事件が続発している。犯人を含む5人が死亡し約40人が負傷した英国会議事堂近くでの四輪駆動による殺傷事件(3月22日)、11人が死亡し45人が負傷したロシア・サンクトペテルブルクの地下鉄車内での爆発事件(4月3日)、4人が死亡し15人が負傷したスウェーデンでのトラック暴走事件(4月7日)、警察官1人が死亡し2人が負傷した仏・シャンゼリゼ通りでの銃撃事件(4月20日)などがそれに当たる。 英国の事件では、ロンドン警視庁はIS共鳴犯が、ニースやベルリンでの車を使ったISの民間人攻撃手法を模倣したと見ているし、スウェーデンの事件では、容疑者がフェイスブックで何人かの過激主義者とリンクしていたことが明らかになっている。 さらに、髭を生やしイスラム教の聖典コーランを読んでいたロシア事件の容疑者が、IS関係者のシリア入出国の経路トルコに2015年11月に入り翌年12月に国外追放処分となったことも分かっている。そして、フランスの事件の容疑者のポケットから落ちたメモには、ISを擁護する内容が記されていた。 ISによると見られるテロは中東でも頻発している。シリア、イラクと国境を接するヨルダンの南部カラクでは昨年12月18日、武装集団がパトロール中の警察官に発砲後、立てこもる事件が発生して10人が死亡し34人が負傷している。また、イラクと長い国境を接するクウェートでは4月26日、逮捕されたIS要員が米軍施設やシーア派宗教施設などへのテロ攻撃を計画していたことが判明している。 今後、ISの壊滅を目指したイラク・モスル西部やシリア・ラッカへの総攻撃が行われることは必至である。そうなった場合、反発するIS要員やIS同調者による欧州・中東主要国でのテロ攻撃の可能性は一層高まる。これら諸国への出張や旅行に際しては、最新の治安情勢に関する事前情報の徹底的な収集が必要になってこよう。

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    人質テロ、東京は次の「標的」になり得るか

    バングラデシュの首都ダッカで、邦人7人を含め20人が犠牲となる襲撃事件が起きた。イスラム過激派組織による卑劣なテロは到底許し難いが、武装グループが外国人を選別し「標的」にしたという事実は見逃せない。五輪開催を4年後に控えた東京も「聖戦」のターゲットになり得るのか。

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    恐怖のバングラ・テロ、外国人を選別しコーラン暗誦を要求

     [WEDGE REPORT]佐々木伸 (星槎大学客員教授) 南アジアのバングラデシュの首都ダッカのレストラン「ホーリ・アーティサン・ベーカリー」で起きたテロ立てこもりの実態が地元メディアなどの報道で次第に明らかになってきた。襲撃犯たちは客の中から外国人を選別し、イスラムの聖典コーランの一部を暗誦させ、できなければ惨殺するなど残虐極まりない犯行を行っていた。「外国人だけを殺す」 同レストランは日本大使館や各国大使館、外国人向けの高級マンション、しゃれた飲食店などが立ち並ぶ「グルシャン地区」にある。この夜は金曜日とあって襲撃犯が店内に侵入してきた夜8時45分ごろには40人弱の客が席についていた。9時半ごろには満員になる見通しだった。 襲撃犯はライフルや手投げ弾などの武器を入れていたとみられるバッグを持ち、店内に押し入ると、銃を出して空中に向けて乱射。この際、「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んだ。客たちは銃弾を避けようと、テーブルやイスの下に隠れたが、この時は、襲撃犯が客たちを銃撃することはなかった。7月3日、封鎖が続くテロ現場(Getty Images) レストランのバングラデシュ人の従業員によると、5、6人の男たちはジーンズとTシャツ姿で、全員が「ハンサムで教養があり、このようなことをするとは全く見えなかった」という。襲撃犯は明らかに外国人を捜し回っている様子でレストランの外にいた客も店内に押し込んだ。イタリア人、日本人ら外国人35人ほどが人質になった。 近所の人はこの際「私は日本人だ。撃たないでほしい」という声を3回聞いたという。やがて警察官が駆け付け、襲撃犯と銃撃戦になった。襲撃犯は屋根の上などから発砲し、手投げ弾を投げた。この時の交戦で、警察官2人が死亡し、約20人が負傷した。 銃撃戦は約1時間で静まり、警察がレストランを包囲する中、襲撃犯と交渉しようとしたがうまくいかなかった。襲撃犯からの要求が全くなかったからだ。従業員ら8人がトイレに逃げ込んでいたが、襲撃犯は「ベンガル人は殺さない。緊張しなくていい。われわれは外国人だけを殺す」と話し、ドアを開けさせた。 従業員らはトイレから出た時、レストランのフロアに6、7人の外国人とみられる遺体が横たわっているのが見えた。被害者は撃たれ、そして手刀で傷付けられていたようだった、という。襲撃犯は外国人からアルコールの臭いがすると嫌悪感を示し、「彼らの生活スタイルは地元住民を汚染する」と述べた。魚とシュリンプ料理を所望魚とシュリンプ料理を所望 銃撃戦が鎮まった後、人質にとっては本当の恐怖が始まった。外国人はイタリア人グループ、日本人グループなどとテーブル別に分けられた。米国人、インド人もいた。地元のメディアによると、襲撃犯は人質にコーランの一節を暗誦させ、できない者は刃物で惨殺した。 バングラデシュ軍のスポークスマンは「ほとんどの犠牲者が鋭い刃物で残虐に殺害された」と述べている。過激派組織「イスラム国」(IS)の関連通信社がネット上に掲載した被害者の写真はこうして殺された外国人のものだったと見られる。現場に向かう車両の中で待機するバングラデシュ軍特殊部隊(SWADS)の隊員=7月2日、ダッカ(AP) バングラデシュ従業員らは2日の午前1時半過ぎ、襲撃犯によって再びトイレに閉じ込められた。従業員は同1時44分、レストランの外にいるいとこに携帯からメールし、軍が救出作戦を仕切っていることを知った。従業員は狭いトイレに閉じ込められて窒息することを恐れ、トイレの壁を破壊して救出してくれるよう訴えた。 襲撃犯は残りの人質らに、お茶とコーヒーを出すようレストランのスタッフに言いつけた。そして同午前3時半、ラマダン(断食月)の1日の始まる前の食事を出すようキッチン係に要求。魚とシュリンプ料理を所望した。襲撃犯は生存していた人質らに対し、イスラムの実践について講釈をたれた。 一方、政府は早朝の会議で、ハシナ首相がレストランへの突入作戦を承認した。首相はこの際、突入は軍の突撃部隊が実行するよう求め、同部隊をダッカから150マイル離れたシルヘトから連れてくるよう指示した。この頃にはレストランの前に装甲車が隊列を組んでいた。 襲撃犯らは殺害した外国人の遺体を指しながら「われわれがやったことが見えるだろう。間もなく自分たちもああなる」と従業員らに述べ、軍の突入で死ぬことを覚悟しているようだった。 午前7時半、襲撃犯らは従業員に対して「われわれは出て行く。天国で会おう」と述べ、レストランの外へ出ようとした際、突撃部隊が突入した、という。 こうして恐怖の一夜に幕が下りた。しかし、犯人たちの動機や背後関係など多くの疑問が残ったままだ。ISが本当に関与していたのか、関与していたとすれば、どの程度関わっていたのか、直接的な指示は出されていたのか。未解明の部分は多い。バングラデシュ当局が生存して拘束されたという犯人の1人から供述を引き出し、早急に捜査を進展させ、再発防止策を打ち出すよう望むばかりだ。

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    欧州サッカー選手権にもテロの懸念 狙うIS、パリ厳戒態勢 

     [WEDGE REPORT]佐々木伸 (星槎大学客員教授) 世界最高峰のサッカー大会といわれる「欧州選手権」がフランスで開幕した。4年に一度の大会には24カ国が参加、1カ月に渡って事実上世界ナンバー1を決める熱戦が繰り広げられる。しかし米国で起きた史上最悪の銃撃テロで犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)が選手権大会でテロを計画しているとの懸念も高まり、フランス全土が厳戒態勢に包まれている。標的はパブリック・ビューイング? 大会はフランス全土の10都市で51試合を開催、決勝が行われる7月10日まで続く。出場枠が8つ増えたこともあり、250万人のサッカーファンが殺到する大イベントだ。すでにフランス対ルーマニアや、イングランド対ロシアなどの試合が行われ、観客同士の乱闘騒ぎも発生している。 大会がヒートアップするにつれ、フランスの治安・警備当局のテロへの警戒も強まる一方だ。当局は全国から警官を大動員し、1万3000人を超える民間の警備員も配置されている。カズヌーブ仏内相は「100%の予防措置を講じたからといって、テロのリスクはゼロにはならない」と安全を完全に保証できないことを認めている。マルセイユに訪れたイングランドサポーター(Getty Images) 当局が狙われることを最も心配しているのは、大会会場そのものよりもむしろ、巨大なスクリーンでゲームを放映する屋外のパブリック・ビューイングだ。例えばパリ・エッフェル塔近くの公園シャン・ド・マルスには試合のたびに約9万人が押しかける見通しだ。 入場時間を早めて手荷物検査を二重にするなど警備を強化しているが、パリのほか、マルセイユ、ボルドーなどではこうしたパブリック・ビューイングは試合が行われている間、ほとんど毎夜、開設される予定だ。 パリでは昨年1月には風刺週刊誌シャルリエブドなどが襲撃され17人が死亡。11月には欧州選手権のメーン会場でもあるパリ郊外サンドニのフランス競技場などで同時多発テロがあり、130人が犠牲になった。いずれもISや国際テロ組織アルカイダ信奉者の犯行だった。 とりわけ当局が、今大会がISの標的になっていると懸念しているのは、11月のテロと、3月にベルギーのブリュッセルで起きた自爆テロの双方に関与しているとして拘束されたIS工作員モハメド・アブリニの供述による。 アブリニはISが欧州選手権の開催中にフランスを狙っていると明らかにし、大会がテロの標的になっている恐れが一気に強まった。2013年のボストン・マラソンを狙ったテロで明白になったようにスポーツ・イベントはテロリストにとっては狙いやすく、大きな被害を与えやすい格好の標的だ。 当局が大会会場やパブリック・ビューイングと同様に警戒しているのは、各国チームの宿泊施設だ。44年前のミュンヘン五輪でイスラエル選手団の宿舎が襲撃された事件を治安当局者は忘れてはいない。また無人機を飛ばして空から爆弾や化学物資を投下するリスクもあり、当局の心配は尽きない。ラマダン・テロを予告ラマダン・テロを予告 こうした懸念に拍車を掛けているのがIS本家から出た不気味な予告だ。ISの海外作戦の元締めで、公式スポークスマンであるモハメド・アドナニは5月、6月6日から始まったラマダン(断食月)の間、西側の不信心者に厄災が降りかかるだろう、と不気味に予告した。 アドナニはさらに欧州在住のイスラム教徒に対して、欧州の市民を攻撃するよう強く求めた。アドナニは過去にもこうした呼び掛けを行い、刺激を受けたイスラム教徒がカナダやオーストラリアなどでローン・ウルフ(一匹狼)型のテロを起こした。 ラマダンはイスラム教徒の宗教心が高まる時期で、昨年の6月のラマダン時にもフランス、クウェート、チュニジアで3大陸同時テロが発生、いずれもISの関与が明らかになっている。 「ISがイラクとシリアで軍事的に急速に追い詰められていることもサッカー大会が標的にされる大きな要因」(仏治安当局筋)だろう。そこには欧州でテロを仕掛けることで社会不安を巻き起こし、欧米のIS攻撃を鈍らせたいとする狙いがある。 フランスは東京の後の2024年の夏期五輪の候補地の1つ。「欧州選手権は五輪への入学試験でもある」(西側アナリスト)。フランス政府には、大会を無事に乗り切り、万全な治安を誇示することで五輪につなげたいという思惑もあるようだ。

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    どう守る海外での安全、邦人殺害で問われるテロへの対処法

     [WEDGE REPORT]佐々木伸 (星槎大学客員教授) トルコのイスタンブール空港テロに続いて、今度は1日、南アジアのバングラデシュの首都ダッカのレストランが武装グループに襲撃され、国際協力機構(JICA)関係の邦人7人(男5人、女2人)を含め外国人20人が殺害された。過激派組織「イスラム国」(IS)の関与が濃厚。海外での邦人の身の安全の守り方があらためて問われそうだ。“赤信号”はすでに点っていた 襲撃犯は6人が治安部隊に射殺され、1人が拘束された。バングラデシュ当局は犯行組織や背後関係を断定していないが、IS系のアマク通信が犯行声明を出し、店内から送られたとみられる遺体のもようなど現場写真を公表。加えて犯人らが襲撃の際、「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んでいることや、無差別銃撃や爆弾を爆発させる手口などから地元のIS連携組織の犯行の可能性が高い。ダッカの人質事件現場(AP/Aflo) ISがアジアでテロを起こしたのは今回が初めてではない。1月14日、世界最大のイスラム教国であるインドネシアの首都ジャカルタの中心部でIS分派によるテロが起きている。IS絡みの大規模なテロとしては、アジアで2件目ということになる。 バングラデシュの人口1億6100万人の90%以上がイスラム教徒で、同国でも過激主義の思想が高まりを見せていた。地元メディアなどによると、2013年以降、約40人が過激派に殺害されているが、これらのテロ事件のうち18件はISの地元組織が犯行声明を出している。 18件の中には、過激思想への反対を説いていた有名なブロガーがダッカで殺害された事件をはじめ、2015年10月、北部ランプル近郊で発生した日本人、星邦男さんが銃撃されて死亡した事件も含まれている。星さんは農業関係のプロジェクトに携わっていた。これに先立つ9月にもイタリア人がダッカで殺害される事件が起きている。 このようにバングラデシュではISのテロが頻発するようになっており、今回のレストラン襲撃のようなテロがいつ起きても不思議ではなかった。つまり「テロの赤信号は早くから点っていた」(テロ専門家)ということだ。ラマダン期間中の行動に注意ラマダン期間中の行動に注意 イスラム世界は現在、7月5日ごろのラマダン(断食月)明けに向け、日中の飲食を一切断つという苦行に最後の追い込みを掛けている時だ。しかも事件が起きた1日は集団礼拝などが求められる金曜日であり、過激派の宗教心が高まる日でもあった。外国人や富裕層ら“不信心者”が利用することで有名だったレストランは過激派にとって格好の標的だったろう。 バングラデシュのハシナ政権はこれまで、ISの存在を否定するなど過激派の取り締まりには熱心ではなかった。先月初め、全国一斉の取り締まりを行い、約1万2000人を拘束したが、捕まったのはほとんどがチンピラのような犯罪者か政敵の野党関係者だった。 ISは対外戦略の責任者である公式スポークスマンのモハメド・アドナニが海外の支持者らに地元でテロを起こすよう呼び掛け、これに刺激されたかのように、米フロリダ州オーランドでの史上最悪の銃撃事件(49人死亡)やフランスでの警官夫妻殺害事件などが続き、世界各地で、とりわけイスラム教国でのテロが懸念されていた。 テロ専門家によると、今回の事件はシリアの本部からの具体的な命令に基づいた犯行というよりも、アドナニの呼び掛けに応じて地元のIS連携組織が一匹オオカミ的にテロを起こした可能性が強いのではないか、という。武装グループからの人質救出作戦後、通りを歩く兵士たち=7月2日、ダッカ(AP) 海外での安全をどう確保するか、あらためて問われることになりそうだが、普通の民間人がどこで、いつテロが起きるかを正確に知ることは不可能だ。しかしテロに遭遇する危険性をできる限り小さくすることは可能だろう。第1にテロ発生の蓋然性が高い国や地域には、不要不急の場合、少なくともラマダン期間中は近づかないことだ。 イスタンブール空港のテロが起きた時、日本人観光グループがトルコ国内にもいた。幸い安全上、何も問題はなかったが、トルコの観光地が過激派に狙われていることは分かっており、旅行の日程を別の時期にずらすべきではなかったか。昨年3月、チュニスの博物館が襲撃され、日本女性3人が殺害されたことを忘れてはならない。 イスラム教国では、ラマダン期間中は特に、外国人などが利用する飲食店への出入りは慎んだ方がいい。バングラデシュのように、過激派の取り締まりが比較的緩い国では特にそうだ。「自分の身は自分で守るように行動することが危険を小さくする」(テロ専門家)ということだろう。まず自衛の意識を持つこと、それこそがテロに遭わないための対処法だ。ここ数日で新たなテロの懸念 テロは戦場で起きるのではない。平和な通りや街角、団らんのレストラン、イベント会場や駅、空港などの交通の拠点。こういったところが一瞬にして恐怖に満ちた殺りくの現場に変わってしまう。日本ではたとえ深夜であっても、歩いている通りが安全かどうかなどと考える人はほとんどいない。日本があまりにも平和であるためだ。 だが、トルコ、バングラデシュと相次いだテロがこれで終息と思っている人はいない。とりわけラマダンが明ける今週いっぱいは新たなテロが起こる懸念が強い。だから海外に居住している、また海外を訪れる日本人は、滞在先の治安情報にことのほか敏感でなければいけない。 欧州各国や中東・アフリカ、アジアのイスラム教国では、「駅や繁華街など人の多く集まる場所での滞在時間を短くするよう心がける」(同)といった安全のポイントをあらためて確認したいものだ。

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    イスラム国に共鳴した日本人テロリストが「聖戦」に走る最悪シナリオ

    福田充(日本大学危機管理学部教授) 日本人7人が犠牲になったダッカ襲撃テロ事件は、レストランとその客が襲撃された無差別テロであった。外国人が多く利用するレストランが武装グループに狙われた形となったが、レストランという警備の弱い「ソフトターゲット」が標的となり、さらには日本人やイタリア人といった外国人を襲撃したことで、世界中のメディアが卑劣なテロの衝撃を伝えた。 だが一方で、武装グループの側からみれば、彼らは世界中の注目を集めることに成功したことになる。これこそが現代的なテロリズムの構造であり、イスラム国が目指す「グローバル・ジハード(聖戦)」の実践である。今回も、イスラム国(IS)は襲撃後に犯行声明を出し、この武装グループによるテロリズムを追認した。3日、ダッカの飲食店襲撃テロ現場近くに手向けられた花束(共同) バングラデシュでは昨今、テロ事件が続いており、テロの警備は強化されていたが、それでもテロを実行しようとする武装グループを事前に察知して逮捕することは非常に困難であり、そのためには国を挙げてのインテリジェンス(諜報)活動の強化が求められる。 現代的な無差別テロの標的となるソフトターゲットにはさまざまなものがある。一つは、サミットやオリンピック、ワールドカップなど世界中から要人やメディア、観客が集結するメディアイベント。もう一つは、その国の文化を象徴したりする施設や観光地であるランドマーク。他にもターミナル駅や鉄道、またはレストラン、ショッピングモールなどの集客施設、公共施設などがそれにあたる。今回標的となったレストランは集客施設にあてはまるが、その中でも手荷物検査や警備が最も難しい場所の一つであり、だからこそテロを実行しやすく、その効果も大きい。昨今、テロ事件の標的となっているレストランやショッピングモールは今後、テロが起こる場所として最も警戒すべき場所の一つと言えるだろう。 現在のグローバル社会において、世界のどこにいてもテロリズムの危険性はある。世界中のあらゆるところでそのシンパがテロリズムを実践するのがイスラム国(IS)のグローバル・ジハードの戦略である。インターネットやソーシャルメディアを活用して世界中のシンパにプロパガンダすることで過激化させ、テロリズムを実行させることができれば、直接的な接触や指揮命令が存在しなくとも、グローバル・ジハードは実践できる。 中東や北アフリカといったイスラム圏だけではなく、バングラデシュやインドネシア、フィリピンなどアジア諸国にもイスラム教徒はたくさん暮らしている。当然、多くのイスラム教徒は世俗化されていて穏健であり、過激化するのは原理主義的なごく一部に過ぎない。しかし、世界中のいたるところにイスラム教徒のコミュニティがあること、さらには欧米の先進国もイスラム過激派のテロリズムの標的となっていることを日本人はきちんと理解する必要がある。日本国内の無差別テロ、狙われる場所はここだ日本でも起こり得る「ローン・ウルフ」型テロ イスラム国(IS)などイスラム過激派勢力が欧米の「対テロ戦争」によって劣勢になればなるほど、世界中の国々でテロリズムの戦術を多用する可能性が高まる。また、「積極的平和主義」による中東諸国への支援を強化する一方、安全保障関連法を整備して日米同盟と集団的安全保障の強化に乗り出す安倍政権に対して、イスラム国(IS)は日本もそのテロ攻撃の「標的」であることをネット上で何度も警告している。 その結果、世界中にいる日本企業やその社員、観光客も今後、テロに巻き込まれるリスクは高まる。世界で日本人がテロに巻き込まれないようにするためには、自分が出張や赴任する国がどういう国で、どういうテロのリスクがあるか、外務省の海外安全情報などで危険度のレベルを確認して対策を考えることが不可欠である。さらには、その地で外国人が狙われやすい危険な場所、いわゆるソフトターゲットであるランドマークの観光地や、外国人が集まるレストランやショッピングモールなどの集客施設、ターミナル駅や交通機関にはより注意が必要となる。 日本国内でテロが発生する可能性について考えると、出入国管理を強化し水際対策ができていれば、国外からテロリストなどの危険人物や武装グループが国内に入ってくるというリスクはそれほど高くない。現在の日本では、法務省の出入国管理インテリジェンス・センターも発足して水際対策を強化している。また、外務省の国際テロ情報収集ユニットが各国のインテリジェンス(諜報)機関と情報共有し、危険人物の監視を強化している。 その結果、日本の都市、例えば首都・東京を狙うテロリストが発生するとすれば、それは海外で活動するイスラム国(IS)メンバーが日本に入ってくる可能性は限りなく低いだろう。各国が警戒しているように、日本国内で生まれ育った「ホームグロウン」で、「ローン・ウルフ(一匹狼)」型の人物が過激化するような事態があれば、警察や公安が事前にその人物を発見して、テロリズムを未然に防ぐことは日本でも難しいと思われる。 インターネットやTwitter、Facebook、YouTubeなどソーシャルメディアを媒介して、イスラム国(IS)のメッセージは世界中の若者に影響を与えている。日本において疎外感を抱きながら生活する若者が、こうしたイスラム国(IS)など過激派組織のプロパガンダの影響を受け、ローンウルフ的にテロ事件を起こすことは十分に有り得るシナリオである。日本国内で生まれ育った者が過激派組織の主義主張に共鳴し、日本でテロを起こす「ホームグロウン・テロリズム」に対して、事後的にイスラム国(IS)は犯行声明でそのジハード(聖戦)を賞賛し、追認する。2015年6月の放火事件で天井パネルが落下するなど損傷した東海道新幹線の先頭車両客室内(運輸安全委員会報告書より) 日本国内におけるローンウルフ型テロリストが実行するホームグロウン・テロも、ソフトターゲットを標的とした無差別テロとなる可能性が高い。武器となる爆弾はインターネットなどで詳細な作り方が公開されており、ホームセンターなどで誰でも買える材料で作ることが可能である。テロ実行犯にしてみれば、爆弾テロが最も安価で容易な手段であり、その場合に狙われる可能性が高いのは日本においても、東京のような大都市における観光地などのランドマーク、レストランやショッピングモールのような集客施設、さらには鉄道、新幹線のような交通機関である可能性が高い。 2020年の東京オリンピック・パラリンピックを4年後に控えた日本も、国内のテロ対策の警備とインテリジェンス活動の強化が一層求められている。

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    なぜイスラム系のテロ組織が多いのか? テロにまつわる4つの疑問

    ワールドミリタリー研究会(『世界の「テロ組織」と「過激派」がよくわかる本』より)21世紀はテロの時代!テロ事件が右肩上がりで増えている理由は?⇒9・11がターニングポイント 20世紀は「戦争の時代」と呼ばれるように、国家間の大きな戦争がいくつも起こった。しかし、21世紀に入ってからは、大規模な戦争よりもテロが目立つようになっている。 世界におけるテロの発生件数、死者数を見ると、2000年以降、ほぼ右肩上がりに増えており、2014年時点で発生件数は1万6000件以上、死者数は4万数千人に及ぶ。2000年時点の発生件数が約2000件、死者数が約5000人だから、すさまじい増加率だ。 この背景には、イスラム過激派の存在がある。 2001年9月11日、オサマ・ビンラディン率いるアルカイダがアメリカで同時多発テロを起こし、3000人以上の死者が出た。これに対してアメリカをはじめとする多国籍軍はアフガニスタンやイラクをテロの温床とみなして攻撃したが、イスラム過激派はますます欧米諸国に敵意を燃やして、より激しいテロ活動を繰り広げるようになった。米ニューヨークのワールドトレードセンター跡地「グラウンド・ゼロ」 さらに2010~12年、アラブ諸国で次々と民主化運動が起こり独裁政権が倒れると、それまで強力な独裁者によって保たれていた秩序が崩壊、政情不安に陥る国が続出した。その混乱がISなどのイスラム過激派が台頭する素地となった。 テロ増加の要因としては、経済格差の問題も見逃せない。先進国と途上国との格差だけでなく、先進国内の格差も深刻化しており、貧困生活者の不満と敵意がテロに転化することがある。 もうひとつ、技術革新の影響も大きい。インターネットはテロ組織のネットワーク化と新たなテロリストの勧誘に大きく貢献し、爆弾は小型化して遠隔操作が可能になった。こうした環境の変化がテロの激増につながっているのである。変化するテロのかたち ここ最近、特に目立つテロの傾向は?⇒自国育ちのテロリストが急増中 2015年11月13日、パリ同時多発テロが起こった際に、「ホームグロウン・テロリスト」の存在がさかんに報じられた。これは簡単にいうと豊かな欧米諸国で育ちながら過激思想に染まり、テロを起こす人間のこと。「新世代のテロリスト」ともいわれる。 ホームグロウン・テロリストは、イスラム圏からの移民2世、3世に多い。貧しい移民地区で疎外感や失意に苦しむ少年が、成長して“聖戦士”に変貌するのだ。アルカイダやISなどのインターネットを利用したPRに感化されたり、モスクなどで声をかけられて過激思想に染まケースが多いという。聖戦士となった者は、自発的テロ実行の呼びかけに応じ、国の政府や市民に対する攻撃に出る。2005年のロンドンの地下鉄・バス連続テロも、パキスタンなどからの移民出身者が起こしたものだった。自国育ちであれば、日頃は一般市民として普通の生活を送っているため、警察当局もテロリストとして認識しにくい。そのため、テロに対する監視や規制が強化され始めた01年以降に急増しているといわれる。イスラム教のテロ組織が多いのはどうして?ひっそりと睨みを利かせるローンウルフやスリーパーの恐怖 「ローンウルフ」が増加傾向にあることも見逃せない。ローンウルフとは、文字どおり一匹狼(または数人程度)のテロリスト。本体のテロ組織と直接接触をしないまま、高度な訓練を受けることもなく、独断で突然に事件を起こして世間を騒がせるのである。 パリ同時多発テロでは、一般市民として生活しながら指令を待つ「スリーパー」の存在を指摘する声も上がった。かつては共産ゲリラや潜伏スパイとしてとられた手法である。 アルカイダは世界各地にスリーパーの“細胞(セル)”を配置し、入念な計画のもと命令すれば攻撃できる体制を築いていた。ISも戦闘員になりたいと欧米諸国からやってくる若者をキャンプで訓練したあと、一部をスリーパーとして自国に送り返しているらしい。細胞同士は連絡を取り合わないため、ローンウルフ同様、存在の把握が難しい。 当局の警戒が強化されるにつれて、攻撃対象はソフトターゲットに移ってきた。警備や監視が厳重な官公庁や軍事施設、空港といったハードターゲットを避け、不特定多数の人が集まる劇場や学校、ホテル、公園などを狙ったテロが急増し、一般市民の甚大な犠牲を生んでいる。キリスト教や仏教に比べて、イスラム教のテロ組織が多いのはどうして?⇒欧米諸国による身勝手な政策がテロ組織をつくった IS、アルカイダ、タリバン、ハマス、ボコ・ハラム、アル・シャバブ……。世界各地で起こるテロ事件の多くにイスラム教を掲げるテロ組織が絡んでいる。これはなぜだろうか。 イスラム教は好戦的な宗教だとよくいわれるが、実際にはそんなことはない。本来、イスラム教は暴力を否定し、平和を大切にする宗教だ。この問題は、欧米諸国によって虐げられてきたイスラム世界の歴史と強く関わっている。 中東や北アフリカのイスラム世界は、近代までオスマン帝国(オスマン・トルコ)の支配下に置かれており、そこに暮らす人々は民族や宗派が違っても同じイスラム教徒として共存していた。 しかし第1次世界大戦前後、イギリスやフランスが弱体化したオスマン帝国を分割し、自分たちの都合で勝手に国境線を引いていった。 さらに第2次世界大戦後には、アラブ人が住んでいたパレスチナの地にユダヤ人国家イスラエルが建国され、アラブ人は追い出された。その結果、イスラム世界は大混乱に陥り、民族や宗派の対立が起こってしまう。 その後、冷戦時代にも欧米諸国は中東諸国を都合よく利用し、冷戦が終わってからもさまざまなかたちで介入を続けた。こうして欧米諸国に翻弄されてきた歴史は、イスラム世界で反欧米の思想を増長させた。そのなかからイスラム過激派が台頭してきたのだ。治安のよさは世界屈指の日本でも、テロの可能性が高まっている?ヨーロッパで疎外されたイスラム教徒がテロに走ることも 社会問題的な側面もある。中東には石油や天然ガスなどが豊富にあるが、そこから得られる利益の多くは欧米企業へ流れていた。そこで貧しいイスラム教徒は経済的豊かさを求めてヨーロッパなどへ移民したが、ヨーロッパのキリスト教社会は彼らをなかなか受け入れない。彼らは疎外感に苛なまれ、過激思想に染まっていくといった事例も多い。 しかし、テロに走るようなイスラム教徒はごく一部の人間だけ、ということを忘れてはならない。世界16億人以上のイスラム教徒のうち、圧倒的多数はテロ行為を強く非難している。また、イスラム教徒のなかからもテロによる犠牲者が多数出ている。「イスラム教徒=テロリスト」という誤った考えは絶対にしてはならない。治安のよさは世界屈指の日本でも、テロが起こる可能性が高まっている?⇒伊勢志摩サミットや東京オリンピックが危険 欧米や中東で起こるテロ事件のニュースを見聞きしていても、どこか現実感がなく、遠い世界のこととしか思えない人もいるだろう。2013年1月のアルジェリア人質事件、15年3月のチュニジア銃乱射事件などで日本人がテロの犠牲になったこともあるが、いずれも海外での事件である。日本にいるぶんには安全だと信じている人が多いに違いない。 しかし、テロはもはや対岸の火事ではない。いつ何時、日本国内でテロが起こったとしても不思議はないのだ。 実際、日本はISの標的となっている。15年1月に起こった日本人ジャーナリスト殺害事件の際、ISの兵士が「日本はアメリカとともに“十字軍”に参加した」と非難。人質殺害の場面を撮影した動画では、「今後、どこにいようと日本人を殺す」と宣言した。さらにインターネット上のIS機関紙「ダービック」でも、繰り返し「日本をターゲットにする」と言明している。 日本では今後しばらく国際的なビッグイベントが続く。2016年5月には伊勢志摩サミットが開催され、2020年にはいよいよ東京オリンピックがある。特に懸念されるのは後者だ。 オリンピックムードが高まるにつれて、「トウキョウ・ジャパン」への注目が高まっているが、テロ組織にとっては開催期間中が最高のアピールタイムになる。 このタイミングでテロを行ない、世界をあっといわせようと考えている輩がいたとしても不思議はない。もしかすると、すでに日本に潜入している可能性もあるのだ。 尊い人命を守るため、また国際的な信用を失わないためにも、日本政府には万全のテロ対策が求められている。関連記事■ 難民・テロ・甦る国境……ヨーロッパから民主主義が消える?■ アメリカはイスラム国に勝てない■ イスラームの悲劇~中東複合危機から第3次世界大戦へ

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    マスコミ対応のプロが斬る! 不倫夫の妻、謝罪の成功例と失敗例

    ライシス(危機)発生時のダメージを最小限にするコミュニケーション活動(情報発信、説明責任等)のことで危機管理広報とも言います。ここで失敗すると対応がよくないといった新たな批判が起こるのです。選挙に出る予定があったのであれば、関係する組織の広報担当者がクライシスコミュニケーションの観点からアドバイスできていたらよかったのだろうと思います。しぶしぶ許すのは「ありがち」でよいしぶしぶ許すのは「ありがち」でよいパーソナリティーを務めるFM番組の公開収録後、会場から出てきた石井竜也(右)と妻のマリーザさん=3月17日、東京都内 では、どうしたらよかったのでしょうか。ミュージシャンの石井竜也氏はありがちな対応でうまく収束したといえるでしょう。自分のファンと不倫していたことを報道されたことに対し、16年3月17日、自身の公式サイトで軽率な行動であったと謝罪コメントを公表しました。追いかける報道陣に対しては、妻のマリーザさんと二人で手をつないで登場し、それを撮影させた上で、妻を車に乗せた後、一人で報道陣に一礼し、軽率な行為であったと短くコメント。自分もさっと車に乗って去りました。 なかなかうまい。妻と手をつないでいるということは、妻が許していることを十分表現しています。不倫は妻が許していれば他の人がとやかく言うことではありませんから。マリーザさんはしぶしぶ承知して手をつないでいた可能性はありますが、これはいかにもありがちな対応で共感できるのです。 「許したくはないけど、これ以上報道されたくないし、子どもも傷つくから。手をつなぐくらいは協力するか」と。”怒り”は共感を得やすい 痛快だったのは金子恵美衆議院議員が、夫である宮崎謙介元議員に言い放った「恥をかいてきなさい」。週刊誌で不倫を報道された宮崎議員は、当初は否定したり報道陣から逃げるといった対応をしていましたが、2016年2月12日記者会見を行い、議員辞職を表明しました。会見の前、出産直後の妻は、謝罪する夫に対し「やり直す気があるなら恥をかいてきなさい」と喝を入れたとのこと。この言葉には怒りと許しが同居しており、不倫された妻の心情を見事に表しています。 「許したくはないけれど、生まれてきた子どもの父親でもある。かといって、簡単には許せない。怒りをぶちまけたい。やり直す気があるなら皆の前で恥をかき、責められてきなさい。そうすればもう一度チャンスをあげる」 このような複雑な気持ちは多くの妻たちが共感できる感情ではないでしょうか。マスコミから逃げていた夫、宮崎元議員も、この言葉に押されて妻と子を守るためになすべきことは何かと考え、火だるまになる決意が持てたはずです。妻の怒りと許しの気持ちを表現すると共に、夫の決意さえも促す役割を果たした名セリフであったといえるでしょう。(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 理事/広報コンサルタント 石川慶子)

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    なんでも謝罪する社会、とにかく謝らせようとする人々

     なんでも謝る人たちが増えている。それが行き着く社会とは。フリーライター・神田憲行氏が考える。* * * SNSの世界では「謝ったら死ぬ病」というのがある。自分の発言の事実関係の間違いを指摘されても、絶対に誤りを認めようとしない人たちのことだ。まるで謝ったら即死するかのように、頑なに間違いを認めようとしない。 逆に「なにがなんでも謝ってもらわないと死ぬ病」の人もいる。たとえば見知らぬ人が「焼肉美味しかった」とつぶやけば、「私は貧しくて焼肉なんて食べられません。あなたのツイートに傷つきました。謝ってください」というような人だ。SNSは自己の承認欲求を満たす装置なので、いずれもフォアグラのように自己を肥大化させた人たちの姿である。 一方でリアル社会では「なにがなんでも謝らせてください病」が進行しているようだ。週刊新潮で複数の女性との不倫を報じられた乙武洋匡氏のホームページでは、乙武氏だけでなく妻の仁美さんの「お詫び」まで掲載した。なんで浮気された妻が謝っているのか、「このような事態を招いたことについては、妻である私にも責任の一端があると感じております」という一文に、頭の上にでっかい「?」マークを点滅させた人は多い。 埼玉県で起きた女子中学生誘拐事件では、容疑者が通っていた千葉大学が徳久剛史学長名で謝罪文を公表した。《このたび,本学工学部の卒業生が,未成年誘拐の容疑で身柄確保されましたことは,誠に遺憾であり,事件の被害者の方・ご家族のみなさまはもとより,世間のみなさまに多大なご迷惑とご心配をおかけしましたことを,心よりお詫び申し上げます。大変に申し訳ございませんでした》《今後,このようなことがないよう学生への指導に努めてまいります》《なお,当該者の処分については,卒業取り消しも含め,今後学内で検討していく予定になっております》 大学が管理責任を負う学内で起きた事件・事故ならいざしらず、学生が学外で起こした犯罪にまで大学は責任があるのだろうか。大学に電話してくるクレーマーのような存在を想定して先回りしたのかも知れないが、「卒業取り消し」はいくらなんでもやり過ぎだ。 乙武氏の奥さんもそうだが、世間を騒がせたので謝るという姿勢が私にはわからない。 簡単に謝罪する社会は、簡単に人に謝罪を求める社会につながる。なんか嫌な世の中だなあと感じていたら、やっぱりこんなことが起きていた。 3月30日の毎日新聞によると、産経新聞社が日本野球機構(NPB)から記事の抗議を受け、施設内の立ち入りを拒否されているというのである。その理由は野球賭博が発覚した巨人の高木京介元投手の処分について、産経新聞社がスポーツ評論家・玉木正之氏の《「涙を浮かべて謝ったから処分が軽くなったのかと疑ってしまうし、そもそもきちんと調べているのかも疑問だ」》 という談話を紹介したところ、NPBは談話が事実に反するとして産経新聞社に抗議書を送り、訂正記事の掲載と書面での謝罪を要求した。産経新聞社がこれを拒否したところ、NPB事務局などの敷地立ち入りを禁止されたという。 この件に関しては産経新聞社は圧倒的に正しい。絶対に謝るべきではない。玉木氏はただ感想を述べたに過ぎず、論評の範囲内だ。NPBが反論したければHPでも掲載すればいいし、そもそも玉木氏が毎日新聞の取材で答えているとおり、玉木氏本人に抗議すれば良い。NPBは「(産経新聞社に対して)取材拒否ではないが、敷地内への立ち入りはご遠慮願いたい」と毎日新聞の取材に回答しているが、まるで子どものような言い分ではないか。 こんなところでハレーションを起こしていて、NPBは本当に賭博問題に真摯に取り組む姿勢があるのか疑ってしまう。本来なら記者クラブ全体で逆にNPBへの取材を拒否するくらいやってほしいが、ま、しないだろうな。 千葉大学にしてもNPBにしても誰かひとり「謝ろう」「謝罪させよう」と言い出した人がいるに違いなく、またその人の声が組織内で大きいことも考えられる。余計に気持ちが悪い。関連記事■ 朝日内々定説登場したSEALDs代表「本当に入りたいのは産経」■ 産経に「たかが電気発言」批判された坂本龍一 産経で連載中■ 朴氏の産経新聞名誉毀損起訴 韓国の法曹界は無罪論が支配的■ 増税批判する産経新聞に財務省有力OB「おたくはひどいな」■ 産経締めだし前原氏 政界の嫌われ者とバラされ激怒しただけ

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    夫の不倫で妻が謝罪 政治家の妻なら主導権握る究極の手法

     年明けのベッキー(32才)とゲスの極み乙女。のボーカル・川谷絵音(27才)から始まった、芸能界不倫劇場。第2、第3のゲス不倫が続くなか、釈明の場に“妻”が出てきている。 女性セブン13号でスクープした石井竜也(56才)の場合、女性セブン発売前夜に自身のHPで不倫を認め、ファンをはじめ妻や母親などへの謝罪コメントを掲載。その翌日には、報道陣の前に妻マリーザさんと手をつないで現れ、夫婦仲の修復をアピールするパフォーマンスをやってのけた。しかもそのすべてを仕切っていたのは妻。そのかいあって、2日ほどで不倫報道は沈静化した。 その迅速な対応ぶりは、坂上忍(48才)も「今の芸能界をよくわかってらっしゃる」と絶賛するほど。あるスポーツ紙記者は話す。「マリーザさんは石井さんの事務所の社長も務めていて、本当に頭の切れる人なんです。でも彼女がなぜこれだけ素早くこのような対応ができたのかというと、彼女自身も不倫・略奪の末に石井さんと再婚しているからでしょうね」 そして乙武洋匡氏(39才)。連名で出された妻の謝罪については、賛否両論を巻き起こしている。乙武洋匡氏は夫婦による謝罪コメントを発表した だがこのような対応は、政治の世界であれば珍しくないのも事実。かつては後藤田正純議員(46才)の妻・水野真紀(46才)や、山本モナ(40才)との不倫が報道された細野豪志議員(44才)の妻も「私も反省するところがある」などと後援者に頭を下げている。 夫婦問題研究家・岡野あつこさんはこう分析する。「政治家の妻としては当たり前の対応です。夫の人気=収入という世界ですから、もし夫が社会的制裁を受け続ければ、家族が路頭に迷ってしまいます。もちろん、腸は煮えくり返っていると思いますよ。でも生活のためには、寛容な妻を演じるしかないんです。“自分も悪かった”という妻たちが多いのですが、これは本当に自分を責めているわけではありません。あくまでも周囲へのパフォーマンス。ですが、これで夫も世間も“なんて懐が深いんだろう、かなわない”となる。これこそ、妻が主導権を握る究極のリベンジなんです」(岡野さん) では一般的には、妻は夫の不倫が発覚した時、どう対応すればいいのか。「もし離婚する気がないのなら、の話ですが、きちんと怒って、それから許す。“今度から気をつけてよ”と口で言うだけではまたやっちゃうでしょうね。男は懲りない生き物ですから、次はもっとうまくやろうと思うはず(苦笑)。 そういう意味では“罰金”というペナルティーは有効です。“あなたのことは許すけど、彼女のことは許せないから、彼女に慰謝料請求するわよ”といえば夫も震え上がるはずです」(岡野さん) もし別れないならば、今後の結婚生活で夫を奴隷のごとくすることも可能であり、すべては妻しだい。関連記事■ 不倫のしやすい現代社会について考えつつ打開策を提唱する本■ 不倫相手に「学歴」求める妻は0.2% 「社会的地位」は1.8%■ 男性の74%は不倫経験アリ、相手の3分の1超が仕事関係■ 41歳人妻 「カッコいい人から誘われたら不倫を絶対断わらない」■ 社内の男転がし35才OL 「結婚したい」でハゲ上司以外去る

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    ドローンの恐怖 加速する進化についていけない日常社会

    岡本裕明(Blue Tree Management 株式会社 代表取締役) ドローンの改良版が首相官邸に落ちていた問題は思った以上に波紋を投げかける気がしています。世の中の進化がよりスピードアップしている半面、我々の日常社会はあまりにも無防備であります。それはそんなことないと信じている性善説に立っているのですが、とんでもない輩はいくらでもいるという事です。警視庁本部の施設に「サティアン」と書き込まれていた「グーグルマップ」の画面((C)Google) グーグルマップ上に奇妙な名称が現れたのも今週のニュースでした。皇居や警視庁、富士山を始め他の国の街でも同様のいたずらが発見されています。グーグルも性善説に立って一般の人が情報をどんどん書きこむ仕組みになっていることから発生した可能性があります。 今の世の中は利用者の情報をベースにその更新が進んでいるものが多くなっています。我々がお世話になるウィキペディアも一般人の書き込みが主体ですし、元を辿ればLinuxというマイクロソフトに対抗したオープンソフトの仕組みがその元祖だったともいえます。 グーグルや自動車各社が開発競争する自動車の自動運転。可能かどうか分かりませんが、プログラムを書き換えれば無人自動車が爆走する凶器となり悪用される可能性は否定できないでしょう。あるいはストーカーもどきの追跡自動車も作れるかもしれません。 我々の社会はより一層SFチックな時代へと踏み込んでいくのですが、その一方で人間が経験値として知らない防御があまりにもお粗末な気がするのです。 昔、日本にはいなかったブラックバスが繁殖し、それまでの種が絶滅の危機となっている話はよく聞きます。これはそれまでの生態系が新しい種によって変化し、対応できなかった結果、生物界の淘汰が起きるのですが、人類においてその最大の新種が最新のテクノロジーであるのかもしれません。 もちろん、私は技術革新、大いに賛成であります。が、その進化と共に我々がともに学んでいかなくてはいけないことがおろそかになってやしないかという警告は発したいと思います。 銀行のキャッシュカードができたころ、その暗証番号はカードの磁気に隠されていました。ですから当時、それを読みだす方法を見つけ犯罪が起きたのです。今では信じられないのですが、無から有を生み出す時、そのリスクがどこにあるか、開発者は想像がつかないのであります。 株の世界。ネット取引が当たり前になった時、見せ板や架空の注文を出し、市場をかく乱する事件がよく発生しました。これもシステムを開発した時誰も予想していなかったのではないでしょうか? ドローンはアマゾンもアメリカなどで画期的な配達システムとして開発、研究しています。渋滞知らずだし、システムとしては非常によくワークします。ですが、とんでもない発想はあり得ます。今回は放射線らしきものが検出されたとありますが、生物兵器の散布なども簡単にできるでしょう。こうなれば十分な兵器です。あるいは飛んでいるドローンを撃ち落として商品を盗む輩が出ないとも限りません。散弾銃を使えば命中率は高くなりそうです。(笑) 世の中に今までの常識を覆した便利で生活を豊かにするものが次々と生み出される一方、我々のリスク管理はより重要になるはずなのに脇が甘い気がします。生物界の淘汰のケースで言うならばロボットが人間を駆逐するというSFにすら出てこないストーリーが起こりえないとは限らないのです。事実、人間は「外部記憶装置」(携帯、スマホ、パソコン、ナビ…)のおかげで既に自分の頭に記憶することを忘れつつあるのですがそれをはっきり認識している人は一握りでしょう。恐ろしいものです。 今日はこのぐらいにしておきましょう。(ブログ『外から見る日本、見られる日本人』(http://blog.livedoor.jp/fromvancouver/)より転載)関連記事■ “選挙に強い泡沫候補”はすべて計算ずくのことである■ 特許無償開放 トヨタ自動車とテスラの違い■ テロリズムを「劇場化」するメディア報道

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    ドローンテロに為す術なし

    放射性物質を搭載した小型無人飛行機「ドローン」が首相官邸に侵入した事件は、重要施設を狙ったテロへの無策を浮き彫りにした。政府はさっそく規制強化に乗り出したが、関連法の抜本的見直しも迫られるなど課題は多い。ただの「おもちゃ」に振り回される日本。ドローンテロに為す術はないのか。

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    ドローンの運用ルールや法規制早急に

    から指示を出しました。 今回の事案は国家の中枢である首相官邸で発生し、重要施設の防護という観点から、危機管理上、重大な問題です。 また、小型無人機は様々な可能性のある新しい技術ですが、使用方法によっては、広く国民の皆様の生活の安全やプライバシーの保護にも大きな影響を与えかねないものであり、様々な問題の発生が懸念されます。記者会見する菅義偉官房長官=4月24日午前、首相官邸 これまでの制度では、航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある場合以外は、法律上の規制や運用のためのルールがない状況にあり、今回の事案を始め、新たな問題に対応するためには見直しが必要です。 会議では、危機管理の万全を期する上で、首相官邸を始め、重要施設の警備体制を検証し、抜本的な強化策を確立すること、国民の生活の安全を確保するために、更に様々な観点から検討を行い、必要と認められる運用ルールや法規制については、早急に整備することを、私から指示しました。 私の指示を受け、会議では、重要施設の警備体制の抜本的強化に関する分科会、運用ルールの策定と活用の在り方、関係法令の見直し等に関する分科会の2つに分かれて、課題の整理と対応方針の検討を行い、両分科会での検討を踏まえ、ゴールデンウィーク明けに、再度、会議を開催することとなりました。 この問題に対しては、与党からも早急に対策を講じるよう要請を受けており、首相官邸周辺など指定された区域において、小型無人飛行機の飛行を禁止することなどについて、議員立法を考えているとのことです。 政府としても、スピード感を持って目に見える形で結果を出していく必要があると考えております。 政府・与党一丸となって、重要施設の警備体制の抜本的強化策や運用ルール、法規制の在り方を早急に検討し、できるところから速やかに実行に移すことによって、危機管理に万全を期すとともに、国民生活の安全・安心を確保してまいります。関連記事■ 首相直属の「情報局」創設を望む■ テロリズムを「劇場化」するメディア報道■ 何をよりどころに沖縄の将来を築いていくのか

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    「ドローン規制」に有効性無し 必要なのは施設側の警備強化

    文谷数重(軍事専門誌ライター)(「Japan In-depth」より転載) テロを法律で禁止してもテロは根絶できない。同じようにテロ対策としてドローンを法的規制しても、ドローンによるテロは根絶できない。 ドローンは従来警備の穴を明確にした。4月22日、首相官邸の屋上への着地発見により、重要施設でも空からは容易に進入できることが判明したのである。 この問題を受け、政府はテロ対策として早急なドローン対策を図ることとなった。発見翌日の23日には、重要地区での飛行禁止や、所持に手続きを持たせるといった話が出ている。だが法的規制を掛ければ、警備上の問題は解決するのだろうか?飛行禁止を守るだろうか?4首相官邸の屋上ヘリポートで発見された小型無人機を調べる捜査員ら=4月22日、東京・永田町(酒巻俊介撮影) テロ対策として飛行禁止を設定しても意味はない。テロ組織は法を守らない。殺人や傷害は刑法で禁じられているが、テロ組織はそれを守るだろうか? また、飛行禁止を強制する方法もない。現状では飛行中のドローンを阻止する手段はない。上空を監視し、侵入ドローンを発見し、撃ち落とすシステムといったものだ。将来的にドローンを落とすドローンや、飼いならした猛禽類等といったものがなければ、法律で禁止しても強制はできず、実効性は期待できない。 操縦者への強制も難しい。禁止地域の1km先から操縦されれば、操縦者を発見できず飛行中止の強制もできない。そしてドローンは本質的に遠距離からでも操縦できる。高いところに登れば1-2km先での操縦は問題とならない。高速回線の携帯電話を利用すれば、ドローンが見えない地下室や、海外からでも操縦できる。禁止ドローンを強制阻止できない以上、飛行禁止は実効性を持たない。操縦資格も販売・購入制限も効果なし 操縦資格を作っても、やはりテロ対策としての効果は少ない。もともと操縦容易である。姿勢安定が自動化されておりラジコンのように苦労する必要はない。飛ぶ方向を事前設定し、最終段階ではカメラ画像を見ながら方向だけ誘導すれば済む。技量が要求されない以上、資格や資格者登録はあまり意味はない。テロで使うなら、人目にどこかの山中で2-3回も訓練で飛ばせば充分である。 実際に制度を作っても、どうでもいい教育に終わる。「飛行禁止地区で飛ばすな」とか「高度は1000フィートまで」といったものだ。もちろん、テロを決意した人間には何の効果ももたらさない。 販売や購入、登録制度もテロ防止にはつながらない。ドローンは自作容易であるためだ。中核部分は一般品である。キモは安定機構だが、ほぼジャイロとプログラムである。汎用品のジャイロは販売制限できないし、ハードもPICと制御系で済み、そのプログラムの流通も制限できない。 通信系も入手容易である。見通し距離なら5GHzの無線LANで充分であり、いざとなれば電話回線とスマホそのものでもよい。動力部分もモーターとリチウム電池とプロペラに過ぎない。これも汎用品であり、販売制限も意味を持たない。 そもそもドローンだけを禁止しても仕方がない。ラジコンを改造しても作れるし、鳥を訓練しても代用できる。条件付けしたカラスに、電極とカメラ付きスマホをつければ、今回のセシウム程度は運べる。これはネズミでの先行例がある。本格テロをやるつもりならば、風船による人間の直接侵入もできない話ではない。必要なのは法的規制より施設防護の強化 むしろ、必要なのは施設側の警備強化である。まずは、防護強化である。ドローンそのものが危険なわけではない。ドローンに積まれた危険物が怖いのである。それならば、危険物が通用しない建物にしたほうが確実である。 ドローンに積める危険物は、たかが知れている。少量の毒ガスや放射性物質ならば、空調系の空気取入口の位置と吸気方向の変更で対処できる。少量の爆薬や体当たり防止ならば、窓ガラスの飛散防止や重要区画の無窓化で対抗できる。ドローン侵入防止はさらに簡単であり、開口部に網を張るだけよい。 その上で、ドローンの接近も阻止したいのならば、阻止手段を準備すべきである。妨害電波のジャミングによる操縦側との通信妨害や、カメラの目潰しや灼ききりを狙ったレーザ照射といったものだ。あるいは鷹匠と鷹でドローンを落とす準備でもよい。 法的規制は効果は少なく、むしろドローンの有効利用の妨げとなる。今のところは撮影や調査、監視で限定使用されたものだが、いずれは軽輸送や通信中継、空中配線といった用途に使われる。各種の法規制は、穏当な利用に無駄なハードルを課すものであり、害の多い規制となるのである。関連記事■ オウムの失敗に学んだ「イスラム国」と失敗に学ばない日本■ テロリズムを「劇場化」するメディア報道■ 韓国で結びつくナショナリズムとテロリズム

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    UBERは「何でも運べる魔法のじゅうたん」?

    [WEDGE REPORT]ドローンや無人運転技術の活用もあり得る驚くべき未来UBER JAPAN 髙橋正巳社長インタビューWedge編集部 UBERは、ゴールドマンサックス、グーグル、中国の百度(バイドゥ)をはじめとして、世界中から投資を集め、企業価値は400億ドル(約4兆8000億円)を超えているといわれる。これは、セブン&アイ・ホールディングス、ソニー、日立製作所などの時価総額に匹敵する規模だ。もちろんこれだけの資金を集めるには理由がある。現在、世界56カ国、300都市以上で、ハイヤーやタクシー、そして、いわゆる「白タク」の配車を中心に、事業を展開するが、その価値は人を運ぶことにとどまらない。日本事業を取り仕切る、UBER JAPAN髙橋正巳社長にUBERの未来像や、国土交通省の行政指導を受けた「福岡事件」について、尋ねた。 *この記事は、Wedge5月号の特集『企業価値4兆円超!「破壊者」UBERの正体』に掲載されているインタビューコラムをWEB用に編集したものです。UBER JAPAN 髙橋正巳社長 Wedge編集部(以下、――):UBERは日本で、ハイヤーやタクシーの配車を行っているが、UBERのプラットフォームを活かして、「人」以外のものも運ぶことを考えているのか? 髙橋社長(以下、髙橋):今はどういったニーズがあるのかを探っているところだが、UBERは、需要と供給をリアルタイムでマッチングするプラットフォームだ。 モノやサービスが欲しいといった需要に対して、スマホを使って、「今すぐここに来てくれ」といったことができる。 その上に何を乗っけるのか、ということ。 今は交通に重点を置いているが、このプラットフォームを使って、実際に人以外のものを運んでいるサービスを展開している海外の都市もある。 例えば、ニューヨークのマンハッタンでは、自転車を使って荷物を届ける「UBER RUSH」を、ロサンゼルスなどの複数の都市では、「UBER FRESH」と呼ぶ、お昼ごはんをオンデマンドで注文できるサービスを行っている。UBERのスマホアプリは、世界共通。左はニューヨークの「UBER RUSH」、右は東京のハイヤー プロモーションベースだが、東京を含む世界144都市で、アイスクリームを届ける実験を行ったこともある。 今は色々なことを試している段階。 ――アメリカでUBERは無人運転の研究をしているが、法規制などが整えば、将来日本でも無人運転の技術を使って、ハイヤーやタクシーの配車や、配達などの事業を手掛けることはあり得るのか? 髙橋:弊社はテクノロジーカンパニーなので、革新的な技術には常に関心を持っている。 無人運転技術とUBERのオンデマンドプラットフォームを組み合わせることで、我々が目指す「街の超効率化」の実現に向けて大きく前進できると考えており、実用化が見えてきた段階で、固定概念にとらわれず様々な可能性を検討したい。 ――4月1日には、「ドローン(無人飛行機)でマスクを配達する」というエイプリルフールならではのリリースをしていたが、法規制などが整えば、あながち不可能な話ではないと感じている。将来的にドローンを使って配達する可能性はあるのか? 髙橋:あれは、多くの方から本当に始めたのかと思われた(笑) 外で待っていただいたり、空をずっと眺めていつ飛んでくるか、とお待ちいただいた方もいたと聞いている。 「UBERならやりかねない」と思われたのかもしれない。 個人的にはそういう世の中が訪れてほしいので、もし環境が整えば可能性はゼロでない、と信じている。(画像:istock) ――UBERは「何でも運べる魔法のじゅうたん」になり得る? 髙橋:UBERプラットフォームの本質は、リアルタイムで需要と供給をマッチングすることだ。 データを用いることで、数分以内に●●がやってくる、という価値を提供できる。 これが「魔法のじゅうたん」と思っていただけるのであれば嬉しい。 実際、海外では先ほど触れたとおり、配達やお昼ごはんのオンデマンド注文も、事業として展開している。 実験段階では、サンタクロースを呼べるという企画も実施したことがある。もし、「これを届けて欲しい!」などのアイデアがあったら、連絡してほしい(笑) ――訪日外国人などから、日本でも配達や「UBER X(編集部注:いわゆる白タク)」をやってくれという要望はないのか。 髙橋:そうした意見は頂戴しており、もちろん意識はしている。 ただ、UBER JAPANはまだベンチャーというか、事業を始めたばかりで、リソースが限られている。 まずはフラッグシップサービスと位置付けているハイヤーとタクシーのサービスを充実させていきたい。 ――今は東京中心部のみでの営業だが、大阪など、他の都市への展開はあり得るのか? 髙橋:あり得るが、まずは、東京エリアにおけるハイヤーとタクシーの利便性をあげていきたい。 東京以外のエリアへの展開はじわりじわりと行っていく。 2014年3月に、東京で正式に営業を始めたが、当時の平均待ち時間は、10~15分ほど。 これが、最近は7分ほどまで下がってきた。ニューヨークやサンフランシスコは平均2~3分なので、そこを目標にしていきたい。 ――ハイヤーは、需要が限られるため、地方都市への展開は難しいのでは。 髙橋:たしかにハイヤーは、都市部しか需要も供給もないため、結果的に大都市のみのサービスとなる可能性があるが、それ以外のサービスは地方都市でも展開可能だ。 今年は地方都市や過疎地、交通の不便な地域で、どのようなニーズがあるのかも理解していきたい。 ――今年2月5日から福岡市で行った「ライドシェア(相乗り)」の実験、「みんなのUBER」は、国土交通省から行政指導を受けた。 髙橋:元々データ収集が主目的であったが、今は実験で収集できたデータを分析している段階。 国土交通省とは「第1フェーズ」開始前に話をしてから実験を開始した。 引き続き「第2フェーズ」に向けて話し合い、懸念点があれば払拭し、「みんなのUBER」を通じて次世代の交通のあり方を検討していきたい。 詳細については「第2フェーズ」の内容が固まった段階で、きちんとしたメッセージを発信する。 ――東京での事業に影響は出ているか。 髙橋:影響は出ていない。引き続き事業は拡大している。 ――白タクが法律で禁止されている国で、「UBER X」を展開している事例もあるが、なぜ日本では「UBER X」を行わないのか。慎重に進めている印象を受けている。 髙橋:慎重というより、ハイクオリティなサービスに対するニーズが東京にはあるだろうというのが、我々の仮説としてあり、まずはそれをやってみたというところ。 ハイヤー事業を通じて、様々なデータを得ることができているが、こうしたデータを取りながら、今後のプランニングをしていこうと思っている。 繰り返しになるが、リソースが限られているので、色々なサービスを一度に行うことはできない。 ――「UBER X」には法規制が立ちはだかる。髙橋:日本に限らず世界中で発生していることだが、そもそも何十年も前につくられた法規制で、インターネットがなかった時代に決められたもの。 前提が変わってきているともいえる。国土交通省には、事業開始前から、規制に関する相談はしている。 ――タクシー業界から苦情は寄せられているのか? 髙橋:そもそもそれほど接点がないということもあるが、特にそういった声は入ってきていない。 ――UBERにハイヤー、タクシーを提供している会社に評判を聞くと、「新たな収益の柱ができ、儲かるようになった」と有難がっていた。 髙橋:UBERにタクシーやハイヤーを供給するメリットがあるように設計していることも、影響しているのかもしれない。 ――2020年の東京オリンピックまでには、サービスを定着させたいというような目標などはあるのか。 髙橋:サービスの内容も、5年先となると、まったく別のものになっている可能性がある。 A地点からB地点へ、なるべく早く、安く、安全に連れていってくれという需要は必ずあるので、これにどうやって応えていくのかということを数年かけて詰めていかなければいけない。 これだけグローバルで普及しているサービスが東京をはじめ、日本全国で当たり前のように使える世の中をつくっていかないといけないという、ある意味で使命感のようなものを感じながら取り組んでいる。(聞き手・構成/Wedge編集部 伊藤 悟)関連記事■ 会社を改革したいのならまず上司と部下を入れ替えよ■ 特許無償開放 トヨタ自動車とテスラの違い■ DeNA創業者が語る 21世紀に身に付ける「4つの力」

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    官邸テロ対策の甘さが浮かび上がったドローン事件

    紀藤正樹(弁護士)容疑者のブログに一部始終が掲載されていた ドローン事件で、警視庁に、本日2015年4月25日逮捕された山本泰雄容疑者(福井県小浜市青井)のブログは、出頭する直前の昨日2015年4月24日まで更新されています。 なんとアップされた、記事を追うと、官邸のセキュリティのなさだけでなく、管理されていないといけないはずの、放射能汚染土が、福島で全く放置され、テロや犯罪に使われかねない状態にあることが、わかります。 しかも実際に「見えない武器」として、高浜町に使用されています。⇒見えない武器3 (03/14)⇒高浜町議会同意 (03/20)⇒第1の矢 (03/25) 結果として、高浜事件は、事件になっていないだけです。 今回のドローン事件が、真に悪意のあるテロリストのしわざで、なかったことが、本当に、運がよいくらいです。 集団的自衛権、憲法改正、太平洋戦争の戦禍に謝罪するか否かの議論など、正直、机上のことにばかりにかまけて、現実の、具体的なテロに対する安倍政権の甘さが、浮き彫りになっています。 今回のドローン事件は、1 首相官邸のテロへの備えの甘さ ⇒たとえば首相官邸の屋上管理の問題(⇒<ドローン>官邸屋上1カ月点検なし…警備を強化 (毎日新聞) - Yahoo!ニュース.毎日新聞 4月23日(木)21時50分配信)。山本泰雄容疑者が「ドローン」による侵入を狙った九州電力の川内原発2 原子力発電所及びその事故後の対応のテロへの備えの甘さ の2点を、明らかにしています。 そもそも原子力発電を進める政策は、テロとの戦いの最前線であり、日本の原子力発電所のテロへの脆弱性は、米国に比較しても、あまりにも弱いです。 発電所を守るのが、第一次的に「警察」では、テロへの備えとしては、不十分で、原子力発電所を本当に稼働させるなら、ふだんから自衛隊で守ってもよいくらいです。 今回のドローン事件は、オウム真理教事件でさえ、いまだに総括できない、日本政府と、そして野党を含む我が国の議会の平和ボケのような甘さを、教えています。[参考]■地下鉄サリン事件20年の節目にテロとの戦いに思う!=「オウム真理教事件(1995年)」の失敗を学んだ「IS(イスラム国)」と、失敗に学ばない「日本国」: 弁護士紀藤正樹のLINC TOP NEWS-BLOG版.2015.03.19■Twitter⇒たとえばテロ対策だと日本は世界で一番脆弱な国=小泉氏はまた「日本は世界一厳しい安全基準を持っているというが、アメリカやフランスなどと比べどこが一番厳しいのか、ひとつも説明していない=「小泉元首相、改めて原発ゼロに向けた政治決断訴え」 http://t.co/ySPwllMmky.23:07 - 2015年2月17日◇以下山本容疑者のブログより■ゲリラブログ参. 2014.07.14~2015.4.25(弁護士紀藤正樹のLINC TOP NEWS-BLOG版 『日本のテロへの備えの甘さが浮かび上がる「ドローン事件」の真相=容疑者のブログ「ゲリラブログ参」に一部始終が掲載されていた!』より転載)関連記事■ オウムの失敗に学んだ「イスラム国」と失敗に学ばない日本■ テロリズムを「劇場化」するメディア報道■ 韓国で結びつくナショナリズムとテロリズム

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    ドローン規制は平和ボケのしわざ

    赤木智弘(フリーライター) 首相官邸の屋上に正体不明のドローン(無人航空機)が落ちていたとかいうことで、なんか大騒ぎである。 政府は早急にドローンの法規制を進めることを決め、野党は問題が発生したことの説明と責任の追求を求めている。 ネットでも「とんでもないテロだ!」という声が上がり、「もしこれが、サリンや炭疽菌を運んでいたとしたら、大変な事になった」として、規制に賛同する人が多い。 相変わらずである。日本は新規性が強いものに対して、どうしてここまで警戒心を露わにするのだろうか。 思い出すのはインターネット黎明期だ。僕は1994年頃からインターネットを利用しているが、当時はまだインターネットというものに対する世間の認知はほとんどなかった。 だから、ちょっと犯罪が起きただけで「インターネットは危険だから規制しろ」という声が挙がったものである。たとえそれが電話や郵便でも行えるような犯罪であっても、電話や郵便には規制の声が上がらず、インターネットだけには規制の声が挙がった。今では企業もインターネットを利用しているし、インターネットが富を産むようになったからインターネット廃止なんて誰も言わなくなったけどね。 それと今回の件も同じことで、ドローンでできるようなテロ行為は、他の手段を用いてもできるのであり、ドローンを規制しても無意味である。 しかし、インターネットの時には「インターネットはあくまでも道具である。包丁がそうであるように、犯罪に使うこともできるし、有用なツールとして使うこともできる」という反論があるのが常だったが、今回はあまりそうした声は強くないようだ。 それには、やはり個人所有のドローンが、まだおもちゃに毛が生えたようなものだと理解され、仮に規制されたとしても一部のマニアが困るだけで、一般市民である我々には関係ないから困らないという感覚が強いのだろう。 しかし、僕は今回の事件において、ドローンに対する法規制があまりに早く検討されたことに危惧を念を抱く。なぜなら、こうしたテロ行為に対する過剰反応こそが、別のテロを呼び込みかねないからだ。 テロリストがテロを行う理由は、自分の主張を世間に広めることである。そのためには事件が騒がれば騒がれるほどいい。今回の事件でも、マスメディアが被告に成り代わって、その意図を一生懸命宣伝してくれている。(*1) 首相官邸屋上で小型無人機「ドローン」が見つかった事件で、送検のため警視庁麴町署を出る山本泰雄容疑者=26日午前8時45分 被告のものと思わしきブログにも、ドローンを墜落させた当初は全く反応がなくて、がっかりしていた被告も、官邸でドローンが発見されたことがニュースに流れると「犯罪者は自分の報道をこんな感じでみるのか...平常心を保つのが難しい」と、高揚感があったようなことが書かれている。それはまるで、ようやく自分の行動が発見されて「認められた」かのような受け入れ方である。 24日には、官邸近くにドローンを持った男女が現れて、機動隊員が駆けつけたという事態があった。2人は「おとといの事件を見て官邸の近くでドローンを飛ばしたくなった」ということだ。(*2) これはまさに、無闇に騒いだ事により、目立ちたがり屋が呼び寄せられた問題と言っていい。 テロの怖さというのは、決してその犯行単体だけではない。その犯行が誰かの共感を呼び、大小関わらず他の事件を呼びこむことが怖いのである。 テロリストに最も効く対抗法は、徹底的に無視することである。 彼らの主張を報じず、事件そのものも概要のみを伝え、犯人の個人像に一切触れない。そうすれば、テロリストにテロを起こすような誘因を与えずに済む。 被害者が出たような事件ならまだしも、今回のような全く被害のないような事件であれば、一切事件を報じずに無視したほうがいいのではないかと僕は思う。 今回の事件を受けて、早速の法整備が進んでいるようだが、ドローンを規制したところで、テロリズムは規制できない。テロリストは使えるものを使って、自分の主張を世の中に広めようとしてくる。 規制で安全が守れるなどと少しでも考えているようならば、それこそが「平和ボケ」と批判されて然るべきだろう。*1:「官邸ドローン」の狙いは「福井県知事選の混乱」 容疑者はブログで犯行を克明に明かしていた(J-CASTニュース)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150425-00000001-jct-soci*2:官邸近くにドローン持った男女 一時騒然(日テレNEWS24)http://www.news24.jp/articles/2015/04/24/07273698.htmlあかぎ・ともひろ 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。(BLOGOS「赤木智弘の眼光紙背」より転載)関連記事■ 韓国で結びつくナショナリズムとテロリズム■ オウムの失敗に学んだ「イスラム国」と失敗に学ばない日本■ 拉致再調査 国家テロとの戦いであることを忘れてはならない

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    ザルだったと実感したドローンのテロ対策

    島田範正(ITジャーナリスト) 日本でも、テロ対策の観点から議論と対策立案が喫緊の課題になってきた。 かのイスラム国でさえ、敵対組織の軍事基地をdroneで偵察するという時代。まして日本も標的にされた昨今。テレビニュースによく映る総理大臣官邸(首相官邸)の前庭、あるいは皇居内に小型無人飛行機Droneが突入してから大騒ぎしても遅いかもしれません。 これは、今年1月下旬に書いた拙ブログ記事「ホワイトハウスへのドローン侵入は日本への警鐘だ」のお終いの部分です。首相官邸の屋上に落下したとみられる無人小型機「ドローン」(左の段ボールの下)=4月22日午前 ほかでもありません。昨22日に明らかになった首相官邸屋上へのドローン着陸(殆どの新聞は「落下」と書いてますが)事件のことです。読売によれば皇居外苑、北の丸公園上空を飛んでいるとの情報もあったそうですから、なんだか、脱力してしまいました。 結果的に大したことがなくて良かった、という意味ではなく、やっぱり、警備当局のテロ対策は、ことドローンに関してはザルだったんだな、と実感させられ、朝日によれば、切れ者で鳴る菅官房長官にして、「小型無人機を利用したテロの発生も懸念される」という、何をいまさら発言をしているからです。 笑えたのは産経の1面トップ記事の主見出し。「衝撃 厳戒破られ侵入」。そりゃあ、警備にあたる警視庁は、人の出入りや周辺警備は厳しいかもしれないけれど、空には「厳戒」どころか、全く無警戒だったことが露呈したからです。 屋上がヘリポートで、息抜きするようなスペースじゃないからだとしても、安倍首相が防大卒業式出席の際に使った3月22日以来、誰も上がってない(朝日)というのは考えられない。 ヘリの発着に邪魔だからでしょう、屋上にフェンスはない。しかし、監視カメラも省略しているのでしょうか。国会のフェンスには無数の監視カメラがあるのに。いや、多分、官邸屋上にもあるはず。それなら、それをモニターして当然でしょうが、それでも、発見できなかった、ってことは職務怠慢というか、やっぱり、空への警戒がゼロってことを裏書きしてます。(もしかして、ホントになかったのかな) 上記、1月下旬の記事にも書きましたが、米国のホワイトハウスの上空への警戒は徹底しているようです。ワシントン・ポストの報道によると、基本的にホワイトハウスとその周辺の上空を有人、無人を問わず飛行が禁止されていて、そこに侵入された場合に備えてレーダーで監視をしており、対飛行ミサイルまであるとか。高い塀と監視カメラ、環境センサーの配備はもちろんです。 しかし、それでも操作を誤ったドローンを阻止できず、ホワイトハウス前庭に着陸を許したのは、低空で小さな物体をレーダーが捕捉出来なかったからだといいます。その危険性については、政府はリスクマネジメントのコンサルタントを交えて検討を進めていたとのこと。 それで明らかになったのは、敏感なレーダーと音響追跡器のコンビネーションで、接近するドローンを探知することが技術的に可能だということです。しかし、探知しても、追跡して、怪しいかどうかを見極め、しかるのちにどう処理するかを決めるという手順になりますが、怪しいと分かっても、街なかで火器を使って撃ち落とすわけにも行きません。 では、飛行不能にする手はどうか。ところが、日本と違って、法整備が進んでいる米国では連邦法で、ドローンが飛行のために使っているGPS信号などを混信させたり妨害することを禁じている、とのことで、この手も難しい。 ということで、米国ではとっくの昔から連邦議会で取り上げられ、省庁横断的にこの難題に取り組んでいるようですが、少なくとも、今回の事件の経緯や対応を報道で知るかぎり、国会は音無しだったし、日本政府、警備当局の対応は後手に回っているように見えます。 人気ニュースアプリ「News Picks」では、この件について何百というコメントが寄せられていますが、「警備の甘さに驚き」「テロに屈しない国じゃなくて、テロに気づかない国、なんだな」「オウム全盛期だったら恐ろしいことになってる」「平和ボケ」などという辛辣な書き込みが目立ちます。 そして、「これを契機に規制が進むだろう」という書き込みも多いようです。国交省では「今回の事件を契機に法規制の検討を加速させる」(読売)とのことですが、規制しても、テロは法を無視して行われるのですから、その実行行為をいかに阻止するかが大事なことに変わりありません。 その意味で、前東京都知事の猪瀬直樹さんのNews Picksへの書き込みがまっとうだと思われますので紹介します。 ドローン、予想しようと思えば、予想できた場所ですね。これから予想できる場所は幾つもあります。今回の事件がきっかけで、今後予想できる場所、原発など、職員がどれだけ本気で対策を提案できるかが問われているわけです。自衛隊のテロ対策のプロからの助言をきちんと受けないと、いくら日本の警察が優秀であろうと、警察の守備範囲のみの考え方では無理でしょう。縦割りを超えた話し合いが必要です。 その通りだと思います。 蛇足ながら、米国では、接近するドローンを傷つけずに捕捉するという「Drone Net Gun」なる新兵器が495ドルで売り出されています。これは、顧客のセレブたちに、盗撮のためのドローンが接近してきたことをアラームやメールで知らせるサービスを提供しているDrone Shield社が開発したもので、50~100フィートまで接近したドローンに向けてネットを発射するというものだそうです。その発射映像はこちら。(KDDI総研「島田範正のIT徒然」より転載)島田範正(しまだ・のりまさ) 元読売新聞記者。国際大学グローコムフェロー。早稲田大学IT教育研究所客員研究員。