検索ワード:地方創生/27件ヒットしました

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    地方をダメにする「ふるさと納税」を正せ!

    この2年で激増した「ふるさと納税」は、地方自治体と生産者を「下りると損」のチキンレースに追い込んでいる。返礼品、おみやげ競争が地方の生産者にとって大きなインセンティブとなり競争を歪め、地方の力は逆にどんどん失われている。

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    2千円で750万円の土地をゲット!? ふるさと納税「競争」曲は止まらない

    の納税額が減るという制度になりました。北海道上士幌町が寄付者らを招いて開いた感謝祭に駆けつけた石破茂地方創生担当相=2015年2月1日 たとえば、自分が寄付したい自治体に3万円送ると、寄付額のうち2000円は自己負担になりますが、残り2万8000円(控除範囲内)は、本来自分が納税するはずの自治体への住民税と所得税から控除されます。 その際、寄付された自治体は「お礼の品」として、地域の特産物などを送ってくれるケースが増えています。どんな特産品があるのかは、ネットに専用サイトがあって、たとえば「ふるさとチョイス」というサイトでは、カテゴリー別に「お礼の品」を紹介しているほか、申し込みや支払いもこのサイトからできるようになっています。ここでは、約750の自治体が「Yahoo!公金支払い」と連携してクレジットカード決済もできるようになっています。 今まで、納税や寄付といえば、煩雑な事務処理手続きが必要でしたが、こうした煩雑さを解消し、しかもショッピング感覚で「お礼の品」が選べるということで人気となっています。 そんな中、この「お礼の品」が年々豪華になり、これがエスカレートしすぎて寄付から逸脱しているという批判も出てきています。「税金を使ったカタログ通販」と批判も「税金を使ったカタログ通販」と批判も 現在の「ふるさと納税」には、米、肉、魚、酒などの食品はもとより、旅行、美容、結婚式まで、寄付額に応じてありとあらゆる「お礼の品」が登場してきています。 しかも、2015年から控除の上限が引き上げられ、納税方法もより簡便になりました。 控除の上限は、従来の約2倍。サラリーマン(給与所得者)なら、2015年(4月1日以降)からは「ワンストップ特例制度」が導入されたために、1年間に寄付する自治体が5つ以内であれば、寄付をした自治体に「申告特例申請書」を郵送すれば自分で確定申告をしなくても税金が戻されるようになりました。 その一方で、寄付を集められる自治体、集められない自治体の明暗も分かれつつあります。2015年4月1日から9月30日までの総務省の集計を見ると、最も多く「ふるさと納税」を集めたのが宮崎県都城市で、寄付額は約13億円(寄付件数約10万2000件)。前年9位だった同市が1位に躍り出たのは「日本一の“肉と焼酎”に特化し、よいものをより多く提供する」ということを大々的にアピールしたこと。500万円の寄付で焼酎1年分、牛一頭などという商品で、焼酎好き、肉好きを中心に知名度を上げました。 2位は山形県天童市で寄付額は約12億円(寄付件数約7万4000件)。さくらんぼ、りんご、ぶどうなどの果物のラインナップが多く、天童牛というブランド牛や米、日本酒など地域特産品のメニューも豊富。温泉宿泊利用券や伝統工芸品の将棋駒など地域色のアピールも功を奏したようです。山形県天童市の返礼品の一つ「あかつき」。同市はサクランボやモモなど旬の果物で人気がある 第3位は、長野県飯山市で寄付額は約10億円(寄付件数4万4000件)。「人間ドック+森林セラピー」や「北陸新幹線開通記念で駅にチタンプレートでお名前掲載」など地域性を活かしたユニークな「お礼の品」に加えて、飯山市内に事業所がある「マウスコンピューター」が液晶モニタやタブレットPCを出品。これに寄付が殺到し、瞬く間に品切れとなりました。 こうした状況に、「税金を使ったカタログ通信販売ではないか」という批判も起きています。 確かに、「お礼の品」が過熱している状況を見ると、ここまでできない自治体はどうなるのかという危惧があるのは否めません。実際に、自治体によっては「お礼の品」が水族館や博物館など自治体が運営している魅力がない施設のみで、入っていく寄付よりも他の自治体に出て行ってしまうお金のほうが多いというところもあります。 たとえば、静岡県富士市では、平成26年度に市に入った寄付金は100万円で控除として市から出ていった金額が300万円。差し引き200万円の税金が流出しました。 「ふるさと納税」人気が過熱する中、寄付を集めたいばかりに自治体が無理をして地域の特産品を買い上げ、財政に不安が出てくるというところもあるようです。 こうした中、「ふるさと納税」の「お礼の品」に宅地を提供しようとした自治体があり、総務省からストップがかけられました。天橋立を望む宅地提供に「待った」天橋立を望む宅地提供に「待った」 ふるさと納税の「お礼の品」に宅地を提供しようとしたのは、日本三景の天橋立がある京都府宮津市。人口流出に悩む同市は、1000万円以上の寄付に対し、宮津湾を見下ろす200㎡の時価750万円相当の分譲地を「お礼の品」として提供することで、税収増と移住者の一石二鳥を狙いました。けれどこれが、納税者に特別な利益が及ぶ場合には地方税法の控除の対象外になるとして、総務省から待ったがかかりました。 確かに、「ふるさと納税」には、高額納税者ほど得をするという税制面での不公平があり、「お礼の品」がエスカレートすると地域の利益誘導に結びつきかねない危惧もあります。それは、「ふるさと納税」のデメリットの部分ですが、一方では地域活性化というメリットの部分も見落とせません。 今まで、地方では、自治体が積極的に企画して動いて何かを獲得していくというケースはあまりありませんでした。日本では中央集権制が長く続いたために、採算性やニーズを探るよりも、霞ヶ関に顔を向けて少しでも多く交付金をもらうことが自治体にとっては重要でした。そして、配られた交付金で、ろくに市場調査などもせずに田んぼの中に大きな体育館を建設したり、赤字垂れ流しの遊園施設をつくるなどして赤字をさらに膨らませてきました。こうした税金の使い方が、地域の活性化にあまり役に立ってこなかったことは言うまでもありません。 そういう意味では、「ふるさと納税」では、この手法は通用しません。なぜなら、地場産業を洗い直し、何が自分たちのアピールにつながるのかを考え、採算性やニーズはどうなっているのかを調べなくては、結果が税金の流出という数字で跳ね返ってくるからです。「ふるさと納税」の担当者となった若い職員が自転車で地域をくまなくまわって特産品を掘り起こし、地域の生産者と連携してどうアピールすれば売れるのかを考える。交付金頼みの自治体の旧態依然とした状況からすると、隔世の感があります。 もちろん、行き過ぎた「お礼の品」については、国の規制も必要でしょう。税金が寄付で目減りしてしまうという状況も、その自治体が瀕死の状況になるようなら国の関与が必要でしょう。 ただ、ふるさと納税で税金が最も減っているのは東京都で約18億円と全体の税額控除額の3割を占めています。いっぽう東京都の場合、26年度は前年に比べ都税が約4000億円も増えて全国の自治体の中では一人勝ちの状況。ですから、東京都に限っては、地方に税金が流れることは格差是正につながる気がします。 賛否両論ある「ふるさと納税」で、確かに行き過ぎを是正しなくてはいけないところも多いですが、自治体が自ら地域をリサーチし、アピールポイントを探し、企画し、挑戦して、結果を得るというはじめての試みには、それなりの意義もあるのではないでしょうか。

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    富める者ほどトク!ふるさと納税をこのまま続けることなどあり得ない

    小笠原誠治(経済コラムニスト) ふるさと納税というものが、大人気である。 何故人気があるかと言えば、住民税の納税先を今自分が住んでいる地方自治体から他の自治体に事実上変更するだけで、和牛だとか毛ガニだとかマグロだとかメロンだとか…否、食べ物ばかりでなく、クルーズ船での旅行の権利だとか宿泊券だとか、ありとあらゆるものが手に入るからなのだ。しかも、それがたったの2千円の参加料を支払うだけで済むのだ。 今、納税先を事実上変更するだけで、と言ったが、このふるさと納税制度の下でも、実際の納税先が変わる訳ではない。自分が住んでいる市町村に対する納税義務は消えない。しかし、他の地方自治体に寄付を行うことにより、事実上納税先が変更されたような効果をもたらすのだ。 どういうことかと言えば、自分が住んでいる市町村以外のところに寄付をするとともに確定申告をすると、その寄付金のほぼ全額が所得税の還付と住民税からの控除で回収できるということだ(細かく言えば、寄付金から2千円を差し引いた額が、還付と控除の対象となる)。 従って、例えば多額の所得税と住民税を納めている者が、仮に10万円の寄付をどこかの地方自治体に行った場合、9万8千円が還付・控除されるので、実際に自分が負担する分は2千円にしか過ぎないが、その寄付のお礼として概ね5万円以上の価値のある牛肉や米や果物などが贈られてくるのである。 ふるさと納税について、吾、関せずという態度を取っている人には何の恩恵もない。その一方で、ふるさと納税に参加する人は、たった2千円の負担で高価なプレゼントが得られるのだ。 では、ふるさと納税をしてくれた人に、そのような高価なプレゼントをして地方自治体はペイするのか? でも、それは大丈夫。何故ならば、ある自治体が仮に10万円の寄付に対し5万円のプレゼントを贈り、さらに、それ以外の諸々の経費が1万円かかり、合計6万円の負担が生じたとしても、差し引き4万円を確保できれば、まるまる4万円の収入が追加されるからである。 このように、ふるさと納税は、参加する納税者と実施する地方自治体双方にとってハッピーな制度であるから、だから大盛況となるのである。ふるさと納税の負担は誰にかかるのか?ふるさと納税の負担は誰にかかるのか?  今、地方自治体にとってもハッピーな制度と言ったが、実は、ハッピーではない立場に追いやられる地方自治体もある。どういうことかと言えば、仮にある自治体が地味なプレゼントしか用意しなかったような場合、ほとんど寄付金が集まらず、それと同時に、そこの住民が他の自治体に多くの寄付をし、その結果、その自治体の歳入が大きく減ってしまうことがあるからだ。 つまり、収入が増えてハッピーになる自治体があるのと同時に収入が減ってアンハッピーになる自治体もあるのだ。そればかりではない。国の立場に立つと、自治体に対する寄付金が多くなればなるほど、所得税が減少してしまうのだ。 例えば、ある人が10万円の寄付を自分が住んでいるところ以外の自治体に行ったと仮定しよう。「換金性」が問題になった三重県伊賀市の“金の手裏剣” 仮にその人の所得税の税率が20%だとすれば、100000円-2000円=98000円に対して20%、従って、19600円の所得税が還付される。 そして、住民税に対しては、基本分の控除が、98000円に住民税率10%をかけたものである9800円となり、さらに特例分の控除が98000円分に、100%から住民税率の10%と所得税率の20%を差し引いた70%をかけた68600円となる。つまり、住民税の控除額は合計78400円となる。 そうすると、この人の還付額と控除額の合計は98000円となるので、2千円の追加負担を負っているだけになる。 しかし、明らかに国は19600円の税収をこの制度で失う。 一方、この人が住んでいる地方自治体は78400円の住民税収入を失うことになる。 失われた税収は、国と地方の合計で10万円になる。 一方、得られた寄付金は10万円でしかない。しかも、通常はその10万円を得るためにプレゼント代を含め6万円以上の経費がかかっているのが普通だ。だとすると、国と地方自治体を合計して見れば、今まで10万円の収入があったのが4万円程度にまで減ってしまうのだ。 ということは、個々の納税者が僅か2千円の負担で高価なプレゼントを得ることができるのは、全て、国と地方自治体が新たな負担を負っているからだ、ということが分かる。お金持ちを優遇するふるさと納税お金持ちを優遇するふるさと納税 以上、見てきただけでもふるさと納税が如何に持続可能性のない…つまり、いつまでも続けることなどあり得ない制度であることが分かると思うが、それでも、国民が等しくこの制度で恩恵を得ることができるのであれば、それほど目くじらを立てる必要はないかもしれない。何故ならば、国は、国民の集合体であり、その国民が等しく恩恵を受け、そして、結果として、最終的に等しく負担を負うのであれば、誰も文句を言う必要はないからだ。 しかし、このふるさと納税は、実は利用できる者と利用できない者がいるのだ。どんなに利用したくても利用できない者とは、貧困層、或いは今は引退して給与所得がないような人々だ。つまり、所得税や住民税を払っていないような人々は、幾ら地方自治体に寄付をしても、所得税の還付や住民税の控除を受けられないのであるから、意味がないということになる。 例えば、所得税も住民税も払っていない人が10万円をある地方自治体に寄付したとする。そうすると、例えば5万円相当の牛肉が贈ってもらえるかもしれないが、所得税の還付や住民税の控除はなく、10万円出して5万円相当のものをもらうという結果にしかならない。 しかも、実際のふるさと納税の制度の下では、高額所得者で納税額が多ければ多いほど、多額の寄付ができる(多額の控除が受けられる)ので、高額所得者ほど地方自治体から高価なプレゼントをもらうことが可能なのである。 ふるさと納税に参加する人は、どんなに高額な所得者であろうと等しく2千円を負担するだけなのだ。そして、等しく2千円を負担しながら、ある者には50万円分の牛肉が贈られ、ある者には1万円分のお米が贈られ、ある者には5千円の野菜が贈られる、と。これが不公平でなくて何が不公平なのだろうか。 寄付をしたのだから、その寄付の多さに応じて高価なプレゼントをもらって何が悪いのかと反論する向きがあるかもしれないが、実は、実質的には寄付などしてないのだ。つまり、所得税の還付や住民税の控除がなければ、寄付額に応じて高価なプレゼントを得ても何も文句をいう筋合いはないが、所得税の還付や住民税の控除がほぼ100%に近い形で受けられるのであるから、何も新たに寄付をしたことにはなっていないことに注意を払う必要がある。過当競争を招くふるさと納税過当競争を招くふるさと納税 ふるさと納税には多少のメリットがあるかもしれないが、今まで見てきたように多くの弊害が存在することも事実である。従って、このような弊害について危惧してきたような地方自治体の首長さんなどのなかには、ふるさと納税に積極的になれたかった人もいたと聞く。 しかし、幾ら弊害があるとは分かっていても、黙って手を拱いているだけでは自分たちの税収は減るばかり。一方で、気前のいいプレゼントをする自治体は寄付金収入が増えるばかりだけではなく、地域産業にもプラスの効果を与えているとの情報が耳に入ると、何もしないでいる訳にはいかなくなる。長崎県平戸市の「ふるさと納税特典」。市を代表するウチワエビやサザエなど新鮮な魚介を詰め合わせたもので、人気ナンバーワンという(同市HPより) そうなると、どの自治体も少しずつプレゼントを高価なものにしない訳にはいかなくなり、過当競争となってしまう。 結果、どれだけ寄付金が沢山集まろうと、そのために多額の経費がかかっているので、実際に使えるお金は僅かなものになってしまうであろう。 しかし、だからと言って、ふるさと納税の競争に参加することがなければ、自分たちの自治体の税収が減るだけなので、幾ら手元に残るお金が僅かであっても、競争に参加しない訳にはいかない。 まさに囚人のジレンマのような状態であり、これが、ふるさと納税の過当競争の結果なのだ。 いずれにしても、ふるさと納税にこれだけ多くの関心が集まれば、どこの自治体もふるさと納税に積極的に取り組まざるを得なくなる。しかし、そうなると、寄付金の受付、プレゼントの選定・発送、或いは、そうした自治体のふるさと納税の制度を紹介するサイトの充実などに多くの労力と時間を費やさざるを得ない。そして、そうなるとどうしても他の仕事が疎かになってしまうのである。 もちろん、そうしたことによって地元の産業や産物の宣伝に一役買えば、それはそれなりの効果があったということになるが、それが、他の仕事よりも優先度の高い仕事かと言えば、はなはだ疑問ではなかろうか。地元産業の育成効果が一時的なもので終わる懸念地元産業の育成効果が一時的なもので終わる懸念 ふるさと納税のメリットとして、地元の産物の売り上げを支援する効果があることが挙げられることもある。確かに、ふるさと納税に対する世間の注目度が高まれば、自然とそのような地方の産物にも目が向くかもしれない。 しかし、仮にふるさと納税制度のお蔭で地元の産物の売り上げが伸びたところで、その産物を実際に購入するのは、寄付をした(とは言っても税の還付・控除をされるのでほとんど負担は伴わない)者ではなく、地元の自治体であるのだ。 つまり、他の地域の納税者が2千円の負担でどんなものが手に入るのか考えた上で選ばれたに過ぎない。 いいだろうか? たとえ他の地域の人々が、自分たちの産物を選んでくれたとしても、その人々は2千円しか払っていない。残りのお金は、全て地元の自治体が負担しているのだ。 要するに、地元の自治体が高い補助金を出してくれたから自分たちの産物が売れたようなもの。そのようなことで仮に地元の産物の売り上げが伸びたところで、持続可能性があると期待できるのであろうか。 このふるさと納税が続く限り売り上げは保証されるかもしれないが、このふるさと納税がいつまでも続く保証はない。むしろ、余りにも弊害が多いことから、いつ縮小廃止されないとも限らない。 そうなると、地元の産物の売れ行きを上げる効果も一時的なものだと考えておいた方がいいであろう。 ふるさと納税は、納税とは言いながら実は寄付という形を取る。しかし、寄付ではあるものの、その一方で、所得税と住民税が還付・控除されるので2千円の負担しか負わない。 要するに、ふるさと納税は、2千円でプレゼントを手に入れることができる制度であり、手に入れることのできるプレゼントは、それまでの所得税と住民税の合計額によって規定される訳だから、高額所得者ほど高いプレゼントを与えられる制度と考えればよい。 一方で、消費税増税の引き上げが必要であると国民に迫りながら…そして、同時に、納税者の負担を軽くする必要があるとして、軽減税率を導入すると決定しながら、何故、高額所得者であればあるほど高いプレゼントを得られるようなシステムを作る必要があったのだろうか? しかも、そうした制度の行く末は、過当競争の結果、真の収入増加にはつながらず、国の負担が益々増えるだけの結果に終わることが明らかなのに。

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    過熱する高額返礼品競争!ふるさと納税はチキンレースと化した

    上げられ、一部の人達の価値判断によって地方に分配されるだけでは、地方の多様な成長は成立しない。真なる地方創生を推進する上でも、制度趣旨に立ち返り、ふるさと納税を健全な選択型寄付税制に戻す必要がある。きのした ひとし  一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。経営を軸に置いた中心市街地活性化が専門。内閣官房地域活性化伝道師等も務める。近書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK出版新書)。

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    ふるさと納税ブームを静観する東京都「応益原則に反する」

    東京都は反対を表明しています。「企業版」ならさらなる税収減に「企業版」ならさらなる税収減に さらに、地方創生を掲げる安倍政権では、ふるさと納税ブームに着目して「企業版のふるさと納税」創設の検討を始めています。「国が企業版のふるさと納税を検討していることについては、承知をしております。制度の詳細はまだわかりませんが、応益原則に反するなど問題も多いと考えています」(東京都財務局財政課) いま自治体間で税収格差が顕著になっています。それだけに、政府はふるさと納税で格差の解消を図ろうとしているのです。 東京都は企業が多く立地し、法人税収も潤沢です。企業版のふるさと納税が創設されれば、都の税収がさらに減少することは間違いありません。 均衡ある国土の発展には、地方都市の発展は欠かせません。それだけに、東京に集中する“富”を地方に分散させようという取り組みは議論されるべきでしょう。しかし、単に都の潤沢な税収を地方に分配するだけでは、いつまで経っても地方都市の発展につながりません。すべての地方自治体が納得する制度にするのは難しい話ですが、単なる税金の奪い合いにならない制度を期待したいものです。(小川裕夫=フリーランスライター)

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    ブームだけど…… あらためて問う「ふるさと納税」の本質って何?

    (THE PAGEより転載) 人は「損をすること」が大嫌いです。そして、「おトクになること」は大好きです。しかし、おトクと見せかけてじつは損なことが、意外と身近なところにたくさん存在しているのです。  実際の人間による実験やその観察を重視し、人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明する経済学の一分野に「行動経済学」があります。この考え方は企業の広告やマーケティングなどに活用され、日々、私たちの経済行動を左右します。「お買い物3,000円で駐車場代1時間無料」や「ポイント5倍セール」などのとき、無駄な買い物をしてしまった経験はありませんか? つまりはおトクと見せかけて、消費をあおっているという実例の一部です。損得はお金の問題だけに限らず、「時間」であったり、「せっかくの機会」だったり、「不快な気持ち」だったりもします。特産品のプレゼントが、ふるさと納税の最大の魅力だけど……(写真はイメージ、提供:アフロ) この連載は、経済コラムニストの大江英樹さんが、とくにいま話題になっている時事問題を「行動経済学」の観点で、検証し、ブレない「損得感覚」を身に付ける方法を提案します。 第1回のテーマは、おトク感いっぱいで大人気の「ふるさと納税」のついて解説します。そもそも税って何のため? ふるさと納税がとてもブームになっています。でもそもそも税金って何のためにあり、そんな中でふるさと納税が生まれたのはどういう理由かということからまず簡単に説明していきましょう。 税というのは一口で言うと、協同組合費みたいなものです。人が社会の中で生きていく上で何でも自分でやることは基本ですが、みんなでお金を出し合って共同でやった方が楽だし、一人当たりのコストも安くつくものがたくさんあります。例えば国防、警察、消防といったものから、道路や橋を作るといった公共の利益になるものは全て社会全体でやった方がいいものばかりです。いわば国や自治体というのは自動的に所属している協同組合みたいなもので、その組合がおこなう事業の費用として組合員から徴収される組合費が税金というわけです。 したがって、税金というのは壮大な徴収と分配のシステムであり、最も大切なことはいかに効率よく徴収が行われ、集まったお金がいかに公平に効果的に分配されるかということです。当然、税金を納めているわれわれ納税者はその仕組みを知り、どのように使われているかをきちんと関心を持って見ていくことが大切なのです。 ところが、働く人の多くを占めるサラリーマンは日頃あまり税金を意識するということがありません。なぜなら自動的に給料から源泉徴収されてしまっているからです。そんな中、サラリーマンが納税と確定申告による還付を通じて税のしくみを正しく理解できる良い機会が生まれました。それが2008年に始まった「ふるさと納税」です。ふるさと納税は納税か寄付か?ふるさと納税は納税か寄付か? ふるさと納税というのは本来、都市と地方の格差是正という目的で始まった制度です。都会に住む人などが自分の出身地や自分の好きな地方を支援したいという目的で寄付する。そしてその寄付のほとんどが税金から控除されるという制度です。したがって、「納税」と名前はついているものの実態は「寄付」と言ってもいいでしょう。日本の税制には「寄付金控除」という項目があります。自分が寄付をすることによって税金が軽減されるしくみです。寄付にはメリットが二つあります。 一つは自分で税金の使い途を実質的に指定できるということです。例えば震災で被害を受けたところへ寄付をすると、その何割かは税金が戻ってきます。でも被災地援助には自分が寄付した金額がまるまる使われているわけですから、税金が戻ってきた分というのは国がその分を支払ったのと同じということになります。つまり普通であれば自分の払った税金が何に使われているかわからないのに寄付をすることによって、いわば国に税金の使い途を指定するのと同じことになるわけです。もちろん確定申告しないと税金は戻ってきません。実はこれが二つ目のメリットです。つまり寄付⇒申告⇒税の還付という流れを体験することで税のしくみを知ることができるということです。 ふるさと納税ではこれらの二つのメリットに加えて寄付をした自治体によってはお礼の品物で名産品や特産の農水産物などがもらえるという楽しみがあります。ふるさと納税の場合は寄付する金額と自分の収入にもよりますが、実質的に自分が負担する金額は多くの場合2,000円ですから、いわばこうした各地のおいしいお米や立派な魚など、美味しいものがたった2,000円で手に入るということになります。これが最近、ふるさと納税が急速に人気の出てきている大きな理由なのです。特産品の魅力に心奪われ、忘れられてしまった最大のメリットとは? ところが最近ではどうやらこのお礼の品物だけが注目されるようになり、雑誌の「ふるさと納税」特集でも多くは「どこの自治体はどんなプレゼントが送られてくる」といったものだけに関心が集まりがちです。行動経済学では、人の思考や好みが状況や文脈によって左右されることを「選好の逆転」と言います。本来であれば、自分の応援したい地域があるからふるさと納税をするはずであるにも関わらず、こうしたプレゼントの良し悪しで納税先を決めてしまうというのは典型的な「選好の逆転」と言ってもいいでしょう。 もちろんプレゼントに惹かれて納税(=寄付)をするのが悪いというわけではありませんが、本来の目的や狙いからは大きく逸脱しています。実際にそうやってうまく寄付金を集めた自治体とアピールの下手なところでは集まるお金に大きな差が生じているということも言われています。自治体の間でのプレゼント合戦になりつつあるということもあり、本来のふるさと納税の目的とは合わなくなってきている部分も生じてきています。これが将来、大きな問題化する可能性もないとは言えません。 さらに言えば、2014年から「ふるさと納税ワンストップ特例制度」というのができてサラリーマンの場合であれば多くの人は確定申告が不要になりました。これによってふるさと納税を利用する人は更に増えたようです。これは一見便利なように思えますが、「申告することによって税のしくみを理解することができる」という、寄付をすることによる本来の大きなメリットがなくなってしまいます。いずれも特産品プレゼントというメリットが前面に出過ぎたことによる「選好の逆転」現象であり、現在のふるさと納税は必ずしも良いことばかりというわけではないと思います。 特産品をもらうのはうれしいのですが、あくまでもそれはプラスアルファの楽しみとし、税のしくみを理解して、それが有効に使われるように自分で考えるということが最も大切なことでしょうね。(経済コラムニスト・大江英樹)

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    「ふるさと納税」「ふるさと割」 根本的に間違いだと大前氏

    の勝俣州和、元サッカー日本代表でタレントの武田修宏、AKB48の島田晴香と西野未姫「ふるさと割」は、地方創生事業の1つとして2014年度補正予算に盛り込まれた「地域住民生活等緊急支援のための交付金」を利用して自治体が発売するプレミアム付きの旅行券や商品券で、対象県に旅行する宿泊プラン料金から助成が受けられたり、対象市区町村で買い物をする時に一定割合を上乗せした金額分が使えたりするという。発売してすぐに完売した自治体も多く、幹部らのまとめ買いが続出して問題になったほど人気を集めている。 しかし、これらのほかに地方の話題といえば「ゆるキャラ」と「B級グルメ」くらいである。政府は地方創生だの地域活性化だのと声高に叫んでいるが、まるで学芸会だ。地方創生や地方活性化とはかけ離れた無駄遣いを奨励し、税金を絡ませて地方の衰退をますます加速している。 これからは地方が自力で生き延びていけるようにしなければならないのに、「ふるさと納税」や「ふるさと割」は、衰弱している地方を延命するためにカンフル剤を投与してやるという発想だ。これは根本的に間違っている。 安倍首相と自民党は「TPP(環太平洋パートナーシップ)に関する総合的な政策対応に向けた提言」の中で、またも広告代理店が作ったCMのような「新輸出大国」という新しいキャッチフレーズを打ち出した。そしてTPPは、とくに地方の中堅・中小企業にとって大きなチャンスになり得るとして、鯖江の眼鏡、今治タオル、美濃焼などの陶磁器といった地場産業の輸出の後押しともなると強調している。 鯖江の眼鏡や今治タオルや美濃焼などの陶磁器はイタリアの地方の名産品、特産品と似ていると思うかもしれないが、似て非なるものである。いずれも世界ではブランドの知名度は低く、競争力がない。ブランドを維持するカギはデザイン力だ。そのためにはスイスやイタリアのような仕掛けを作らなければ、世界最強の会社や世界最強の市町村を生み出すことはできない。 日本は結局、いつも中央の政治家と役人が“自分たちの手のひらに乗ったら恵んでやる”というやり方だ。ふるさと割しかり、家電や住宅のエコポイントしかりである。税金のバラ撒きが、国民を元気にする“媚薬”だと思っている。 しかし、価格は商品の価値を反映するものだから、ふるさと割のプレミアム付き旅行券・商品券で本来の価格より安く買ってもらうのは、売れない店のバーゲンセールと同じで、ただ単に価値を下げているだけである。それを国民の税金を使ってやっているのだから、日本は実におめでたく、ほとほと情けない国である。関連記事■ ふるさと納税 出身ふるさとに限らず好きな自治体に寄附可能■ 特産品貰えるふるさと納税は控除対象 フカヒレ、土佐和牛も■ ふるさと納税で大量に送られてくる野菜 野菜好きになる好機!■ ふるさと納税で高級な魚介類 松葉がに、キャビア、鰹たたき■ ふるさと納税 確定申告用書類の煩雑さや特産品の品切れに注意

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    特例制度で大幅増?ふるさと納税の勝ち組自治体は、どこなのか?

    村山聡(中小企業診断士) 今年度の確定申告対象となる「ふるさと納税」の期限が迫っています。期限は12月末までですが、自治体によっては、受付を早めに終了することもあるため、寄付を考えている方は、早めに確認されることをおすすめします。 ふるさと納税は住んでいる自治体以外に寄付をすることで、住民税と所得税の控除が受けられる制度ですが、2015年1月から住民税の控除額が2倍になり、また2015年4月から確定申告が不要になるワンストップ特例制度が始まるなど、利便性が高まったことで、大幅な利用の拡大が予想されていました。では実際のところはどうだったのでしょう?昨年と比較してどのぐらい増えたのか? 総務省が運営する「ふるさと納税ポータル」サイトには「ふるさと納税に関する現況調査」という統計調査の結果が掲載されています(2015年10月23日公開)。この調査結果によると、2015年4月~9月のふるさと納税の受入額は、約453.6億円です。これは2014年の同期間と比較して約3.9倍となっており、大幅な増加といえるでしょう。 また納税額の増加要因として「返礼品の充実」と約41%の自治体が回答しており、魅力的な返礼品がふるさと納税を増やす効果的な手段であると自治体が考えていることがわかります。どの自治体への寄付が多かったのか? では、どの自治体への寄付が多かったのでしょう。同調査では、自治体すべての納税受入額と件数についても公表しています。 そこで、ふるさと納税の受入額が多いトップ10をピックアップしてみました。自治体名      納税受入額(千円)1.都城市(宮崎県) 1,332,936 2.天童市(山形県) 1,222,239 3.飯山市(長野県)  963,807 4.平戸市(長崎県)  943,752 5.米沢市(山形県)  855,938 6.浜田市(島根県)  796,281 7.焼津市(静岡県)  749,781 8.備前市(岡山県)  717,372 9.久留米市(福岡県) 641,218 10.京丹後市(京都府) 614,021 ※金額は2015年4月~9月の実績 1位の宮崎県都城市は約13億円、10位の京丹後市でも約6億円となっています。1位の都城市は、宮崎県第二の人口を要する市で、予算規模も2015年度の一般会計予算は約750億円ほどあり、一見、ふるさと納税による増収効果は少なそうに見えます。しかし、予算の内訳に目を向けてみると、予算における自主財源の割合は39.2%で、その額は約290億円しかありません。その内、市税などの税金歳入は約180億円とさらに少なくなり、もし、ふるさと納税の受入額がこのままのペースで推移して、今年度26億円となった場合、税金歳入は約14%増加することになります。 2位の天童市になると、2015年度における市税は、約76億円とさらに少なくなるため、同様に考えると、税金歳入は約30%増加します。このように上位に入るような寄付をふるさと納税により獲得できれば、自治体規模にもよりますが、財政状況にかなりのインパクトをもたらすといえそうです。上位自治体の前年実績はどうだったのか?上位自治体の前年実績はどうだったのか? では、これらの自治体は、前年度から継続的にこれだけの額の寄付を受け入れていたのでしょうか?2014年の実績と比較してみることにしましょう。自治体名        2014年    2015年    増加額(千円)1.都城市(宮崎県)   1,085   1,332,936   1,331,851 2.天童市(山形県)  179,810   1,222,239   1,042,429(8)3.飯山市(長野県)   49,564    963,807    914,243 4.平戸市(長崎県)  373,793    943,752    569,959 (2)5.米沢市(山形県)    266    855,938    855,672 6.浜田市(島根県)  196,228    796,281    600,053 (6)7.焼津市(静岡県)    670    749,781    749,111 8.備前市(岡山県)    2,672    717,372    714,700 9.久留米市(福岡県)  14,382    641,218    626,837 10.京丹後市(京都府)  1,688    614,021    612,333 ※金額は4月~9月の実績※( )内の数値は、2014年実績の順位 2014年の実績で1億円以上の寄付を受け入れていたのは、天童市、平戸市、浜田市の3つです。とはいうものの、これらの自治体の受け入れ額も2015年の実績と比較すると、かなり低いと言わざるを得ません。他の7つの自治体については、2014年の実績は、数千万円規模であり、2015年に急激に増加していることが分かります。これらの自治体については、制度の改革に伴い、ふるさと納税を促進させる各種施策が奏功したといえるでしょう。 ふるさと納税制度自体は、2008年の開始ですが、事実上話題となり急激に寄付額が増加したのは2014年からです。その意味では、出遅れた自治体についても、巻き返すチャンスが十分にあると考えられます。全体としてはどうだったのか? これまでは受け入れ額上位の自治体に絞ってみてきましたが、全体としてはどうなのでしょうか。 上位20%、中位60%。下位20%のグループに分け、比較してみました。        上位20%(358)      中位60%(1072)    下位20%(358) 2014年  10,325,357(88.7%)    1,298,532(11.2%)    13,532(0.1%)2015年  40,024,341(88.2%)    5,287,748(11.7%)    42,979(0.1%)増加率         3.87倍          4.07倍        3.18倍※単位(千円) 2014年からの寄付の増加率ですが、全体の増加率3.9倍と比較すると、下位グループの増加率が若干低いといえます。また2014年、2015年ともにグループ間の寄付の総額の比率はほとんど変わらず、上位が全体の90%近くを占める結果となっており、いわゆる20対80の法則に近しくなっています。つまり、どのグループも寄付は増加しているのですが、全体のパイが増えたため、差はより開く結果となり、構造的には、上位の自治体に寄付が集中していることになります。まとめ このように全体の金額は、大幅に増加したふるさと納税ですが、一方で問題もあるようです。統計調査にもあるように、寄付を増やすための大きな要因は「返礼品の充実」です。そのため寄付を増やそうと考えた場合、魅力的な返礼品を揃える必要があり、それが返礼品の過剰なサービス合戦に繋がるという問題です。2015年3月には、電子マネーを返礼品とした石川県加賀市が換金性が高いとして、発表後、わずか半年で募集を打ち切りました。これを受けて、2015年4月には総務大臣の通達として、ふるさと納税の返礼品について、適切な対応をするように通達が出される事態になりました。 また返礼するような特産品を持たず、人口の多い都市圏の自治体においては、ワンストップ特例制度の事務処理コストが増加する一方で、税収は減少することになるため、不満の声が上がっても不思議ではありません。 このように問題はあるとしても、財政難に苦しむ自治体にとってはふるさと納税による税収の増額は、魅力的であることに違いはありません。2015年4月~9月の半年で453.6億円だった寄付金額ですが、住民税に限ってみた場合でも、2015年の住民税121,734億円の20%である24346.8億円はふるさと納税の対象であり、453.6億円は、その内の1.8%に過ぎません。仮に10人に一人が、ふるさと納税すると仮定した場合、住民税分だけでも、その規模は約2435億円です。大ブームとなった「妖怪ウオッチ」の商品市場規模が2000億円といわれてることから考えても、その規模の大きさと、拡大余地は、自治体が本腰をいれて取り組むには十分すぎるでしょう。 今後も寄付の増額をめぐって自治体による様々なふるさと納税施策が登場してきそうです。《参考記事》■新入社員のうちに覚えておきたい!仮説思考の重要性と重病性(村山聡 中小企業診断士)http://sharescafe.net/44386900-20150421.html■企業任せでは済まされない?女性活用が進まない理由をデータで考える(村山聡 中小企業診断士)http://sharescafe.net/43516534-20150224.html■あなたの会社にもいるかもしれない?ビジネスメソッドマニアに気をつけろ!(村山聡 中小企業診断士)http://sharescafe.net/40838018-20140914.html■平均値をウソつき呼ばわりするのは、もうそろそろ終わりにしよう。  村山聡http://sharescafe.net/39363307-20140614.html■「飲み会は残業代出ますか?」と聞く前に新入社員が心得ておくべきこと 村山聡http://sharescafe.net/38576145-20140430.ht

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    森永卓郎氏 「ふるさと納税」のお得なやり方と注意点を解説

     自治体に寄付をすることで、金額に応じて翌年の所得税と住民税の一部が減額される「ふるさと納税」。節税効果に加え、各自治体の特産品が格安で手に入ることからも人気となっている。では、実際にやってみるにはどのような手順を取ればよいのか。経済アナリストの森永卓郎氏が、お得なふるさと納税のやり方と、注意点について解説する。 * * * ふるさと納税は現在、手続きも簡単になっていて、インターネットの環境があれば、ほんの数分から数十分でできてしまいます。 具体的には、まず「ふるさとチョイス」などのふるさと納税専門サイトにアクセスする。それからお好みの特産品を提供している自治体のタグをクリックすれば、自治体のホームページに移動する。そこに寄付のやり方が載っていて、すぐに申し込むことが可能となります。 今ではふるさと納税を行なっている自治体の約半分が特典を設けているので、そこで特典を選び、寄付の金額を指定して申し込めばそれでOKです。その際、クレジットカード払いができる自治体はやはり便利なので、それで選別してもいいでしょう。クレジットカード払いなら、その場で手続きが簡単に済んでしまうし、ポイントも貯まります。 ただし、これほどおいしいふるさと納税ですが、留意点はあります。まず、ふるさと納税は年収や家族構成によって寄付できる上限額が決まっています。そのため、上限額を超えて寄付すると、この制度の魅力である節税メリットが薄れてしまうのです。前述の「ふるさとチョイス」などのサイトを活用すれば、自分の上限額が簡単にシミュレーションできるので、事前にそれを見極めてからやるのが得策です。 また、特典の特産品には人気の高いものや、フルーツなどのように季節によって出品されるものもあります。特に「お得」と思われるものは申し込みが殺到して、あっという間に品切れになってしまいます。すぐに品切れになりそうなものは申し込みの期日を調べてすぐに申し込むか、予約ができるものがあれば前もって予約しておくのもいいでしょう。 この制度の本来の趣旨は、自分の応援したい自治体を支援するためのものです。だが、現実問題としては、寄付金に対するもらえる特典の還元率で自治体を選ぶことも重要だと思います。もちろん、本来の趣旨である「応援」意識は忘れずに、ふるさと納税を賢く活用してはいかがでしょうか。マネーポスト 2015年秋号 2015年 10/1 号 [雑誌]: 週刊ポスト 増刊関連記事■ 得するふるさと納税 確定申告しないと「単なる寄付」になる■ ふるさと納税 出身ふるさとに限らず好きな自治体に寄附可能■ 注目のふるさと納税 気軽に・お得に楽しむポイント3か条■ 特産品貰えるふるさと納税は控除対象 フカヒレ、土佐和牛も■ ふるさと納税で高級な魚介類 松葉がに、キャビア、鰹たたき

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    新幹線は地方を幸せにするのか

    中田宏(日本の構造研究所代表、前衆議院議員、前横浜市長)新幹線フィーバーで沸く日本列島 3月26日に予定される北海道新幹線開通のニュースがたびたび各種のメディアで取り上げられている。飛行機の倍以上の時間をかけて東京から函館まで新幹線で行くかどうかは別として、東京を出発した新幹線が青函トンネルを越えて北海道に上陸するのだから、鉄道ファンならずともその話題性については認めるところだ。おそらくは、3月から4月にかけて、どのテレビ局でもニュースや旅番組などで、函館の観光名所やグルメなどが紹介されるのだろう。正直、私はいまから「またか」という嫌悪感を覚える。北海道新幹線開業日の一番列車の切符を求め、みどりの窓口に並ぶ人たち=2月26日午前10時、JR函館駅 昨年もそうだった。3月14日、長野から富山、金沢に至る北陸新幹線が開業した。地元は「新幹線フィーバー」ともいえる千客万来の活況に大いに沸いた。石川県は、ゴールデンウィーク期間中に金沢城公園を訪れた観光客数が前年対比で倍増したと発表した。また、JR西日本も、延伸区間の上越妙高・糸魚川間の乗客数が開業後2カ月で累計約170万人となり、在来線特急だった前年対比で約3倍の水準となったと発表した。そして、テレビでは温泉で日本海の幸に舌鼓を打つなどの浮かれた光景ばかりが映し出されていた。平成23年に熊本や鹿児島に開通したときの盛り上がりも同様だった。 だが、新幹線開業を祝うテープカットの華々しさの裏には、とんでもない赤字地獄があることをテレビはこれっぽっちも伝えていない。目先の地元利益を求める業界や国民から票を得んがために、政治家が「我田引鉄」をした国鉄の失敗とまるで同じだ。万年赤字の国鉄が巨額債務を抱え、当の国鉄は民営化されたものの、その債務返済に国民はいまもなお巨額の税金を納めている。 国土交通省はその具体的な金額を公表していないが、同省の「平成25年度:日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律に定める施策の実施の状況に関する報告」(平成27年2月)によれば、平成25年度の1年間に債務残高が2970億円減少、同年度末段階で18兆1083億円にまで元本部分の償還がなされたことがわかる。したがって、旧国鉄債務の元本償還費および利払い費は、いまなお年間約5000億円前後に達しているものと推察される。そして、これらの支払い財源については、「郵便貯金特別会計からの特別繰入(平成14年度まで)、たばこ特別税収、一般会計国債費等により手当した」旨が記載されている。 各種メディアもその現実を知らせないままに浮かれた話題だけを煽るのだから、新しいもん好きの国民はそんなことを露(つゆ)とも知らずブームに乗る。地域経済に恵みの特需がずっと続けばいいが、必ずブームは去っていく。メディアで北海道新幹線の話題を見聞きするたびに、私は「またか」と思いつつ、ますます疲弊していくわが国の将来に暗澹たる気持ちになる。整備新幹線の二つの問題整備新幹線の二つの問題 近年、次々に開業している新たな新幹線を整備新幹線と呼ぶ。はたして整備新幹線とは何か。昭和45年の全国新幹線鉄道整備法の制定以前に事業化された東海道新幹線や山陽新幹線、上越新幹線は整備新幹線とは呼ばない。その後、同法に基づき事業化された路線が整備新幹線である。昭和48年に政府が整備計画を決定、昭和62年の旧国鉄の分割・民営化を経て、平成元年から着工された。その対象は、冒頭に述べた北海道新幹線(新青森・新函館北斗)のほか、平成22年に全線(東京・新青森)が開業した東北新幹線、平成23年に鹿児島ルート(博多・鹿児島中央)が開業した九州新幹線、そして平成27年3月に長野・金沢間が開通した北陸新幹線(高崎・金沢)である。 整備新幹線が構想された昭和40年代は、地方も含め日本全国の人口がどんどん増えた時代である。東京をはじめ大都会に若い労働力が大量に流入し、中央集権体制の下で地方も戦後の貧困から脱し発展し続けていた。地方自治体の税収も地方の中小企業の業績も右肩上がりで、日本中が高度経済成長に沸いていた。その後も、日本の人口は伸び経済は発展し続けるものと誰もが考え、「国土の均衡ある発展」などの美しいフレーズも謳われるなかで整備新幹線は計画された。 だが、当時から半世紀近く経ったいま、「失われた20年」とも揶揄される長期のデフレ経済にもがき苦しみ続けているのが21世紀の日本だ。想定された社会環境がまったく違うのだから、歪みが生じないわけがないだろう。結果論をいっているのではない。人口減少などはもう何年も前からわかっていて、不肖私を含めてその指摘をする者もいたが、残念ながらそうした指摘は無視されたままかつての計画は次々に建設着工に至った。 第一の指摘は、整備新幹線そのものが巨額の建設コストに見合う収益を上げられるものなのかという点である。構想から半世紀近く経ってようやく開業にこぎ着けたということは、逆にいえばその間の社会環境の変化により、当初の構想段階での投資損益の予測と現実がまったく異なってしまうということだ。要するに、造った新幹線は本当に元を取れるのかということだ。その間には、昭和62年に経営主体である旧国鉄の分割・民営化が実現し、これに伴う形で平成8年には建設のための財源スキームも大きく変容を遂げている。口惜しいが、この採決時、私は衆議院運輸委員会でただ一人反対した。孤独な謀反だった。第三セクター・しなの鉄道の観光列車「ろくもん(ROKUMON)」の出発式でテープカットする藤井武晴社長(左から2人目)、デザイナーの水戸岡鋭治氏(中央)ら=2014年7月11日、しなの鉄道・軽井沢駅 第二の問題は、整備新幹線の開業時にJRの経営から分離される「並行在来線」をどうするかという点である。こちらはより深刻だ。これまでJRの経営から分離された並行在来線はすべて地元自治体の出資する「第三セクター」が受け皿となってきた。並行在来線沿線の地元自治体には、地元住民の「身近な足」を維持・存続すべき責務がある。 しかし、現実にそれは可能なのか。一口に「第三セクター」による並行在来線の経営といっても、急激な少子高齢化とそれに伴う乗車人員の減少が続く地域にあって、本業の旅客輸送で売り上げを伸ばすことは至難の業である。運賃を引き上げようにも、主な利用者は減り続ける通勤客・通学生であるから自ずと限界がある。観光客を惹き付けるため、観光列車を仕立てたり観光施設を整備したり、何とか知恵を絞って頑張ったとしても、一時的にはともかくその経営の安定化に成功した例はない。だいたい鉄道に限らず、第三セクターという組織が経営を成功させている事例がどれほどあるだろうか。 さらに、第三セクターの経営に責任を負う地元自治体の財政状況はどうか。そもそも大多数の自治体は、人口減少や地方経済の低迷等により、税収の減少に歯止めがかからない状況にある。とくに、平成21年度から施行された地方財政健全化法により、すべての自治体は第三セクターを含めた負債や資金不足について財政運営上の一定の制約が課せられており、「健全化判断比率」という複数の財務指標が監視対象とされている。したがって、第三セクターによる並行在来線の経営の失敗は、そのまま地元自治体の財政破綻に直結するのだ。整備新幹線の甘い将来予測整備新幹線の甘い将来予測 具体的に見てみよう。整備新幹線を建設すれば、地域経済もJRも潤うといった夢のような時代はすでに過ぎ去っている。鉄道が開業することで交通不便な地域に光が当たり、人が住み、職場ができ、新たな経済圏ができる時代ではないということだ。半世紀近く前に構想された整備新幹線の需要や投資損益をきちんと予測するのは人智を超えている。そして、どうしてもバラ色の未来といった甘い将来予測になりがちなバイアスがかかるのが世の常である。 たとえば、整備新幹線のなかでも最も早く開業した長野新幹線(北陸新幹線の高崎―長野まで)の需要予測と実績を対比してみよう。昭和63年に政府・与党の着工優先順位専門検討委員会が公表した平成12年度(開業次年度)の需要予測は2万3000人キロ/日・㎞であるのに対して、同年度の実績輸送密度は1万7600人キロ/日・㎞にすぎず、予測の77%にとどまっている。 現在、国土交通省は、整備新幹線の路線ごとに需要予測に基づく収支採算性や投資効果を見積もった上で、着工の優先順位等を判断するとしている。 では、その収支採算性とはいったい何か。国土交通省の資料によれば、収支採算性とは次のような概念とされる。まず、整備新幹線の開業後30年間にわたる交通需要予測に基づき、各年度の(1)新幹線を整備した場合の利益(整備新幹線の利益+既設線の利益)と、(2)新幹線が整備されない場合の利益(並行在来線の利益+既設線の利益)を比較した上で、(1)の利益が(2)の利益を上回る場合、その差額を収支改善効果(年額)と呼ぶとともに、鉄道・運輸機構がその整備新幹線の建設を進めることとする。そして、上記収支改善効果(年額)の30年分の平均値(年額)を収支採算性と呼ぶのだそうだ。典型的な霞が関文学のなせる業であり、一読しておわかりになる向きはほとんどいないのではないだろうか。 そもそも整備新幹線の開業後30年間にわたる交通需要予測は、将来人口の予測値のほか、実質GDP成長率や物価上昇率をベースとして計算されており、いずれ実態と大きく乖離する恐れがある。また、(1)新幹線を整備した場合の利益(整備新幹線の利益+既設線の利益)と、(2)新幹線が整備されない場合の利益(並行在来線の利益+既設線の利益)とを比較するというが、そこでの「利益」計算では、新幹線の建設コストはいっさい考慮されておらず、開業後の運営コストのみで比較がなされているのだ。要するに、収支採算性というもっともらしい言葉で国民を煙に巻き、将来、赤字が発生してもその時に考えればいい……という安易な考えさえ見て取れる。最初から破綻した理屈なのだ。 なお、整備新幹線の開業後、JRは、収支改善効果(年額)の30年分の平均値とされる収支採算性(年額)の範囲内で、鉄道・運輸機構に貸付料等を支払うこととされている。要は、JRは絶対に損をしない仕組みが約束されているのだ。これは、JRは並行在来線等の不採算部門を切り離した上で、整備新幹線で利益が出たなかからだけ新幹線建設費を鉄道・運輸機構に払うということにほかならない。国鉄時代とは隔世の感がある。ここにこそ、民間企業になったJRが新幹線を引き受けるカラクリがあるのだ。 たとえば、平成24年に国土交通省が取りまとめた「収支採算性及び投資効果に関する確認」によれば、北海道新幹線(新函館・札幌)の収支採算性の予測として、(1)新幹線を整備した場合の利益が年11億円であるのに対し、(2)新幹線が整備されない場合の利益は年間でマイナス24億円であるから、収支採算性は年間で35億円のプラスとされている。だが、その両者の内容を子細にみると、開業後にJRの経営から分離される並行在来線の収支採算性は年間でマイナス75億円。したがって、赤字の並行在来線を切り離すだけで必ず整備新幹線の収支採算性はプラスになるのだ。そのような赤字の並行在来線を押し付けられる地元自治体にとってはたまったものではないといいたいところだが、熱心に新幹線誘致をしてきたのは当の自治体だ。結局、誰も社会全体での採算性を計算していないのだ。並行在来線問題とは何か並行在来線問題とは何か 並行在来線とは、整備新幹線に並行して走る在来線を指す。新幹線開業前はJRの特急も鈍行も走ってきた地域の大動脈だが、新幹線開通後は新幹線を除く列車が走る。たとえば、九州新幹線ができる前は、鹿児島―熊本―博多の間には旧鹿児島本線があり、特急つばめも鈍行も同じ線路を走っていた。だが、九州新幹線開業に伴い旧つばめは廃止され、いまは快速と鈍行が走るのが並行在来線だ。 整備新幹線の建設・開業に伴い、並行在来線をどうするかという点については、平成2年、「整備新幹線着工等についての政府・与党申合せ」により「建設着工する区間の並行在来線は、開業時にJRの経営から分離することを認可前に確認すること」が合意された。その後、平成8年の政府与党合意「整備新幹線の取扱いについて」で、「具体的なJRからの経営分離区間については、当該区間に関する工事実施計画の認可前に、沿線地方公共団体及びJRの同意を得て確定する」こととされた。 これまで整備新幹線の開業に伴いJRから経営分離された並行在来線は、地元自治体を主体とする第三セクターが経営してきた。「しなの鉄道」(長野県)、「青い森鉄道」(青森県)、「IGRいわて銀河鉄道」(岩手県)、「肥薩おれんじ鉄道」(熊本県・鹿児島県)などである。昨年3月の北陸新幹線(長野・金沢)の開業時からは、同様に「えちごトキめき鉄道」(新潟県)、「あいの風とやま鉄道」(富山県)、「IRいしかわ鉄道」(石川県)の運行が始まった。「青い森鉄道」の筒井駅(青森市)に到着した電車 新たに新幹線ができる地方はいずれも人口減少の真っただ中にあり、当然、並行在来線に乗るパイは年々減っている。とはいえ、新幹線では通勤・通学はできないから、地域住民の足としての鉄道を絶対に残さなければならない。長距離の乗車料金を払った上に、特急料金やグリーン料金まで払ってくれる〝おいしい〟客は全員JRの新幹線に乗り、通勤・通学の割引料金で乗る人とたまのお出かけの人を客として並行在来線は運行し続ける。すでにお察しだと思うが、すべての並行在来線の経営状況は当然にきわめて厳しい。 そこで、平成23年6月、国鉄債務処理法を改正して対策が講ぜられた。JR貨物が並行在来線に対して支払うレール使用料に鉄道・運輸機構が金額を上乗せする「貨物調整金」について、鉄道・運輸機構の特例業務勘定の利益剰余金(1兆2000億円)のうち1000億円を10年間で分割して支出することとされたのだ。しかし、10年間の収入増が約束されたとしても、そもそも経営構造として黒字化できない鉄道だからあくまで一時しのぎにしかならない。 さらにいえば、そもそも鉄道・運輸機構の特例業務勘定とは、旧国鉄職員の年金支給や国鉄資産の売却などを行なう国鉄清算業務の経理に関する勘定であり、そこに利益剰余金が溜まったからといって並行在来線の赤字救済に支出するというのは、まったく筋違いの政治的決定でしかない。 いまや立派に民間企業マインドを有するJRは、お荷物路線を切り離すことと引き換えに整備新幹線を引き受けているのだ。よって、万年赤字が宿命づけられた並行在来線こそが新幹線狂騒の裏にある最も深刻な問題といえる。 以下、すでに過去10年前後の実績のある4事例(しなの鉄道、青い森鉄道、IGRいわて銀河鉄道、肥薩おれんじ鉄道)を具体的にみてみよう。いずれも沿線人口や利用者の減少、運賃の大幅な高騰、地元自治体の負担の増大といった問題が生じている。赤字垂れ流しの並行在来線赤字垂れ流しの並行在来線(1)しなの鉄道 平成9年、長野新幹線の開業に伴い、長野県の第三セクターとしてスタートした。当初、長野県は、開業からの10年間、毎年1.5%ずつ輸送人員が増加するとの予測を公表していた。 しかし、現実はまったく逆で、開業2年目の平成10年の1235万人から平成22年の998万人にまで一貫して輸送人員は減少した。平成13年には債務超過に陥り、しなの鉄道は早くも経営危機を迎える。長野県は、しなの鉄道に対する無利子融資約103億円を出資に切り替えた上で減損損失と相殺し、実質的な債権放棄を余儀なくされた。すなわち、約103億円の長野県民の税負担ということだ。運賃も、JR当時と比較すると、普通運賃が1.24倍、通学定期は1.61倍、通勤定期は1.49倍に高騰した。 その後、輸送人員は平成23年度の1004万人から、一時的には沿線のワイナリーのワインを楽しめる観光列車「ろくもん」の運行開始などもあって平成25年度に1037万人にまで回復したものの、ブームは長続きせず、平成26年度には再び1005万人にまで減少した。(2)青い森鉄道 平成14年、東北新幹線の盛岡以北の延伸に伴い、青森県の第三セクターとしてスタートした。並行在来線として初めて「上下分離方式」を採用し、青森県が線路設備の維持・管理を行ない、青い森鉄道が県に線路使用料を支払い列車を運行する仕組みである。 平成15年の開業翌年から平成22年まで輸送人員は減少の一途をたどり、営業収支、経常収支ともに赤字基調が続いた。新青森まで全線開通した平成23年度以降一転して黒字になるが、それは旅客運輸収入等の本業による収入増の寄与ではない。そのからくりは、上述のJR貨物から支払われる貨物調整金の増額が主要因であり、いわば形だけの黒字である。 さらに青い森鉄道の場合は、青森県に対して支払うべき線路利用料の減免がある。具体的には、平成25年度には7億436万円発生した本来の線路使用料のうち、8割超の5億9094万円の減免を受けている。上下分離方式の下、青森県は線路設備の維持・管理を外部委託しており、本来、青い森鉄道から青森県に対して支払われる線路使用料は、青森県の保守管理に要する経費(鉄道施設事業費)に充当されるべきものであるが、それが8割超も減免されているのである。 実際に青森県は、平成25年度に46億6494万円の鉄道施設事業費を支出している。裏を返せば、青い森鉄道の経営は、青森県民の税金でほとんど丸抱えされている。JR当時と比較すると、普通運賃は1.37倍、通勤・通学定期は1.65倍に高騰している。(3)IGRいわて銀河鉄道 平成14年に青い森鉄道と同時に岩手県内での運行をスタートした。IGRいわて銀河鉄道は青い森鉄道とは異なり、鉄道施設の保有および運行の両方を行なっている。平成15年の開業翌年から、平成18年を除き、一貫して輸送人員は減少した。その間、開業時から平成22年度までは営業収支、経常収支ともに赤字を垂れ流し続け、累積赤字は4億1500万円にまで達した。平成23年度以降、東北新幹線の新青森までの延伸に伴ってIGRいわて銀河鉄道も延伸され、線路利用料収入の増加に加え、上述の貨物調整金の大幅な増額があり、平成25年度決算でようやく累積赤字を解消した。 JR当時と比べて、普通運賃で1.58倍、通学定期と通勤定期はそれぞれ1.99倍、2.12倍に倍増させた。〝日本一〟の沿線住民負担で努力しているものの、年間10億円にも達する貨物調整金頼みの経営となっている。(4)肥薩おれんじ鉄道 平成14年、鹿児島県、熊本県、沿線10市町、JR貨物の出資による第三セクターとして設立された。平成16年、九州新幹線鹿児島ルートの一部開業に合わせて鹿児島本線(川内・八代)の運行をJR九州から引き継いだ。 輸送人員は、開業2年目の平成16年度の18万8000人から平成23年度の14万5000人にまで一貫して右肩下がりで減少している。運賃も、JR時代と比較すると、全体で平均1.3倍となった。経営状況は、これまで述べてきた既存の四つの第三セクターのなかでも最悪である。開業以来、一貫して経常赤字を垂れ流し続けており、黒字転換の目処は立たない。平成16年に約5億円の「肥薩おれんじ鉄道経営安定基金」を設置したものの、すでに底を突きつつある。平成24年には今後10年間で、熊本県および同県沿線自治体(約16億円)、鹿児島県および同県沿線自治体(約7億円)、鹿児島県市町村振興協会(約10億円)の補助を行なう計画が立てられたが、たんなる延命措置にすぎず、抜本的な経営改善の見通しはまったく立たない状況にある。(5)北陸新幹線の開業に伴いスタートした第三セクター 以上、既存の四つの第三セクターの惨憺たる実績に鑑みれば、北陸新幹線の開業による「新幹線フィーバー」の陰でスタートした三つの第三セクター「えちごトキめき鉄道」、「あいの風とやま鉄道」、「IRいしかわ鉄道」の前途も赤字垂れ流し線になることは確実といえる。 運賃はすでに高騰が始まっている。えちごトキめき鉄道の場合、移管後5年間はJRと同水準とし、6年目以降は利用者の動向を踏まえて決定するとしているが、あいの風とやま鉄道の場合、開業後5年間は激変緩和措置として、普通運賃と通勤定期はJRの1.12倍、通学定期はJRの1.03倍とし、6年目以降、普通運賃と通勤定期はJRの1.19倍、通学定期はJRの1.05倍に値上げする計画としている。 また、IRいしかわ鉄道の場合、普通運賃と通勤定期は5年目までJRの1.14倍、6年目から11年目までJRの1.19倍、通学定期は5年目まで据え置き、6年目から11年目までJRの1.05倍に値上げする計画とされている。各線とも、その後のさらなる値上げは避けられないだろう。なぜならば、IRいしかわ鉄道は、開業後10年間で約11億円の累積赤字をすでに見込んでいる。そこで、石川県は約30億円の基金を設置して経営を支援することにしているが、赤字解消の具体策は何らなく食いつぶすだけになるだろう。富山県も約65億円の基金を設置して、あいの風とやま鉄道の経営を支援するが、基金は開業後10年間で底を突く予定という。政治家も国民も悪い政治家も国民も悪い 整備新幹線の開通によって恩恵を受けるのはいったい誰なのか。最速かつ快適に移動できる新幹線の乗客、そして不採算の赤字在来線から手を引き新幹線の売り上げを見込めるJR各社だ。その裏で赤字在来線の穴埋めをするのが当該自治体であり、従来に比べ不便を強いられた上に穴埋めのための納税をするのが当該住民たちだ。日常生活で新幹線を利用することの少ない地元住民、とくに新幹線のルートから外れた地域や通過されるだけとなった駅周辺の住民にとっては、負担のみを押し付けられることになる。もっとも、20年以上前には、対象地域の県庁や市役所は「一日も早い新幹線を」などという横断幕を掲げ、決起集会を催していた。住民も新幹線が来ることが地域の発展になると淡い期待をもって、「早期実現」署名に応えていたはずだ。北海道新幹線報道試乗会、車窓から函館山が見られる区間もあった=1月28日午前、北海道北斗市付近(撮影・春名中) いまさら恐縮だが、平成9年4月15日、衆議院運輸委員会での法案採決の場面を思い起こさずにはいられない。JRから並行在来線を切り離すことやJRは受益分からの建設費負担にするなどの建設スキームを変更する法案に、私は共産党以外でただ一人反対した。自民党議員は「オレが引っ張ってきた」というために建設推進一色、野党議員は「妨害した」と地元から思われたくない一心で皆賛成した。私自身は当時の所属政党だった新進党内で厳しい視線に晒され、党議違反ということで厳しく注意された。政策議論であるはずなのに、先輩議員からは「生意気だ」といわれもした。私以外にも上述の問題を予想していた政治家も学者も国民も少なからずいたはずだが、「わがふるさとにも新幹線を」の声にかき消された。後先を考えないこうした政策決定が日本をますます疲弊させている。 現在、新青森と新函館北斗を結ぶ北海道新幹線の工事も最終盤を迎え、今月には開業予定である。また、新函館北斗から札幌までの区間もすでに平成24年8月に着工しており、平成43年春に開業予定だ。青函トンネルを通る海峡線は、新幹線と在来線が共用するのでJRの経営からは分離されないものの、経営難とそれに伴う安全対策の不備により重大事故が多発しているJR北海道の運行もまた手放しで喜べない。そして、江差線(五稜郭・木古内)については、新青森・新函館北斗間の開業と同時に第三セクター「道南いさりび鉄道」に移管される。すでに見たように並行在来線の第三セクターによる経営はすべてが失敗事例だ。ましてや、JR北海道でも立派にできない北の大地での鉄道事業を、不慣れな地方自治体主体の第三セクターがうまく経営できるとは思えない。 北海道新幹線が開通する今回も、マスコミはまた華やかな一面だけを伝え、その裏側にある現実を国民に伝えないのだろうか。第三セクターの赤字穴埋めのための財政負担に耐え切れなくなった各地方自治体はやがて国に補助金等の陳情に走る。国だろうが、地方だろうが、税負担による穴埋めは国民に回ってくる。結局、政治家も国民も悪いのだ。共に「我田引鉄」で万年赤字になった国鉄の教訓をすっかり忘れている。わが国の財政の窮状を国民に正直に伝える勇気のない政治家と、甘い政策には飛び付くものの自らが負担する覚悟のない国民がわが国を蝕んでいるのである。なかだ・ひろし 1964年生まれ。青山学院大学経済学部を卒業後、松下政経塾に入塾(第10期生)。93年、衆議院議員に初当選。以降、通算4期務める。2002年、横浜市長に政令市史上最年少で当選、2期務める。総務省顧問、大阪市特別顧問などを歴任。著者に『政治家の殺し方』(幻冬舎)、『失敗の整理術』(PHPビジネス新書)などがある。

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    新幹線の裏にある「不都合な真実」

    昨年の北陸新幹線の開業に続き、今年は北海道新幹線が開通した。今年もマスコミは新幹線狂騒曲を奏で、華やかに報道するだろう。しかし、その裏側にある赤字在来線の穴埋めをする自治体や住民の負担のことには触れない。政治家と国民が忘れてはいけないお金の話とは。

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    新幹線ができること、できないこと

    梅原淳(鉄道ジャーナリスト) 今日のJRの前身である国鉄時代の昭和51年2月から昭和57年1月にかけて、東海道新幹線は44回にわたって午前中の半日だけ列車が運休となった。この間にレールや架線などが取り換えられ、昭和39年10月1日の開業から10年を経過して老朽化にまつわるトラブルが多発した東海道新幹線は面目を一新したのだ。 日本の大動脈である東海道新幹線の計画的な運休は興味深い結果を残した。国鉄は運休対策として、並行する在来線の東海道線や東名・名神高速道路を行く高速バス路線に多数の列車やバスを増発したものの、いずれも乗車率は低く、大きな混乱は起きなかったのだ。その後の国鉄の調査によると、東海道新幹線の半日運休時に利用者が取った最も多くの選択肢は旅行自体の中止であったという。言い換えれば、人々は新幹線が存在するから利用するのであって、そうでなければよほどの動機でもない限り出かけないのである。東海道新幹線0系の引退を惜しむ多くのファンが集まった新大阪駅=1999年8月28日 国鉄時代に得られた結果は、21世紀に入って開業を果たした整備新幹線でも同様の動向を示している。建設の必要性の是非が問われたなか、どの新幹線も多くの人々が利用し、新幹線の沿線となった地域と大都市圏との間の移動者が大幅に増加しているのだ。そして、その理由はまさに「新幹線が開業したから」としか考えられないのである。 表1をご覧いただきたい。東北新幹線盛岡-八戸-新青森間と九州新幹線博多-新八代-鹿児島中央間がそれぞれ開業を果たした結果、関東対青森県と関西対熊本県とで移動した人の数がどれだけ変化したかをまとめたものである。 どちらのケースとも、開業前と開業後とでは新幹線での移動者(開業前は新幹線と在来線の特急列車とを乗り継ぎ)数は2倍以上に増えた。いっぽう、主要な競争相手である航空の移動者数は減ったものの、新幹線の開業効果が上回り、全体の移動者数は関東対青森県で12.3%と、関西対熊本県では26.6%といずれも大幅な増加をもたらしている。 よく言われる新幹線の開業に伴う経済波及効果とは、増加した移動者、特に大都市圏からの来訪者による直接的、間接的な消費の動向を指す。増加した移動者数の内訳は両ケースとも、大都市圏発と青森・熊本県発とがほぼ半々であるか、実際に得られる経済波及効果は青森県で6%程度、熊本県で13%程度増えた来訪者によるものだ。 新幹線の開業によってなぜ新たな移動が生じるのか。確たる理由は不明ながら、やはり人々は巨大かつ安定した交通機関の誕生を強く意識するのであろう。実際に近年開業の新幹線は500人から1000人程度の旅客を一度に移動させることができるし、たいていの駅では1時間に1本程度以上の割合で列車がやって来る。運行についての安定度も高く、列車が大きく遅れる事態は少ない。 航空の場合、輸送需要に見合った設定ながら、多くの路線では頻繁と言えるほどの便数ではないし、実際には天候によって運休する例は少ないとはいえ、多くの人々は欠航の可能性の高い不安定な交通機関であると認識している。また、自動車の場合は自らハンドルを握って移動することが多いため、交通渋滞であるとか万一の事故といった不安定な要素がさらに増す。空港や高速道路の建設によってその地域にもたらされた恩恵は、ことによると新幹線よりも大きいかもしれないにもかかわらず、人々は新幹線によりありがたみを感じ、実際に利用するのだ。人々の移動に関して万能でもできないこと 新幹線の開業後に生じる新たな移動需要の具体例を挙げよう。それは結婚式だ。東京で行われる結婚式に対し、関東以外に在住する親類や知人を招待する範囲を端的に言うと、新幹線が通っている場所であろう。東海道新幹線の開業前には関西での結婚式に関東の人が招かれることはほとんどなかった。私事ながら、関東在住の筆者も北陸新幹線開業直後に長野市内での結婚式に招待されたことがある。この3月26日に予定されている北海道新幹線の開業以降、函館で執り行われる結婚式に首都圏や東北地方在住の人が招待されるケースは間違いなく増えるはずだ。 人々の移動に関しては万能に見える新幹線にもできないことがある。現時点で新幹線は貨物を運べないため、物流の担い手にはなり得ないのだ。 どの地域も「新幹線が開業すると大都市圏から多くの人が訪れ、それに企業も進出して大いに発展する――」と開業効果を見込む。前半部分は間違っていない。いままで述べたように、移動者数の増加は「新幹線マジック」としか形容せざるを得ない現象によってもたらされる。しかし、後半部分は場所にもよりけりで、一定していない。成功例のほうが少ないと言える。 企業の進出と完全にリンクしているとは言えないものの、新幹線の開業による経済波及効果を図る意味合いで、物流の変化の度合いを、例によって関東対青森県、関西対熊本県とで表2にまとめてみた。サンプルが少ないながら、表2を見る限りでは新幹線の開業は物流には影響をもたらさず、それどころかむしろ貨物の輸送量は減少している。 北陸、東北、九州の各整備新幹線の開業後に関係者に話を聞くと、一様に同じことを言う。大勢の観光客が押し寄せて名所、旧跡は芋の子を洗うような状況になった反面、新たな産業が勃興するケースは少なかったと。ただし、ストロー現象によって地域の経済力が大都市圏に吸い取られるといった事態は事前の心配をよそにあまり起きていない――。以上の発言が新幹線のできること、できないことを如実に物語っていると筆者は考える。その理由はと言うと、航空や自動車と異なり、新幹線が旅客の移動に特化した特殊な乗り物であるからだ。九州新幹線全線開業1周年記念の出発式。熊本行き「つばめ」の発車の合図を送る女優の村川絵梨さんら=2012年3月17日、JR博多駅 今後も新幹線の整備は続けられる。いまのところは北海道新幹線の新函館北斗-札幌間と北陸新幹線の金沢-敦賀間、九州新幹線西九州ルートの武雄温泉-長崎間が建設中、敦賀-大阪間の建設も時間の問題であり、他の区間も建設されるかもしれない。他方、新幹線の建設費の有力な財源となる国や地方の財政事情は悪化の一途をたどり、好転の兆しは見えない。いかに新幹線の開業で多くの人が移動するようになるからといって、従来よりもさらに多くの経済波及効果が得られなければ建設は非常に困難だ。 いま挙げた理由から、これからの新幹線は新たな役割を果たさなくてはならない。それは並行する在来線が果たしていたすべての機能の置き換えだ。 既存の新幹線は並行在来線の機能のうち、長距離旅客の輸送だけを引き受け、先に述べたように貨物の輸送をはじめ、近距離の通勤、通学客の輸送は肩代わりしてこなかった。莫大な建設費を要する新幹線であるから、今後は在来線をそっくり置き換えるほどの能力をもたせなければ無駄が多く、経営上も成り立たないとさえ筆者は考える。 新幹線が貨物を輸送するに当たり、既存の新幹線にも物流拠点を建設するケースが生じるかもしれない。近距離の輸送を実施するには、現在よりもはるかに多くの駅を設置する必要が生じる。そうした困難を乗り越えてなお、新幹線を整備すべきと判断された区間であれば、2020年代以降の日本にあっても立派に役割を果たし、地域にとって大きな力となるであろう。

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    北海道新幹線 路線図・車両・料金とその沿線

     北海道新幹線は、東北新幹線の新青森(青森市)と札幌を結ぶ延長約360キロメートルの路線だ。今回は新青森-新函館北斗(北海道北斗市)間の約148キロが開通。奥津軽いまべつ駅(青森県今別町)、木古内駅(北海道木古内町)が設置され、両駅の間は世界最長の海底トンネルである青函トンネル(約54キロ)を走る。営業主体はJR北海道。新函館北斗と函館は、在来線「はこだてライナー」で約20分。新函館北斗-札幌間は在来線特急で3時間10分~3時間40分ほど。列車と停車駅東北新幹線と乗り入れ、東京と新函館北斗を乗り換えなしで結ぶ「はやぶさ」は、1日上下各10本。最も速い列車は大宮、仙台、盛岡、新青森のみに停車し、東京-新函館北斗間を4時間2分で運行する。このほか、仙台と新函館北斗を結ぶ「はやぶさ」、盛岡-新函館北斗間の「はやて」、新青森-新函館北斗間の「はやて」がそれぞれ上下各1本。車両と車内JR北海道は、新幹線用車両として「H5系」を4編成(40両)投入。JR東日本のE5系と基本仕様は同じだが、車体中央の帯色を紫色とした。内装の一部にも北海道独自のデザインを取り入れた。東京と新函館北斗を結ぶ「はやぶさ」はH5系かE5系の10両編成。グランクラス、グリーン車が1両ずつ置かれるのは、これまでの東北新幹線・東京-新青森間と同様。どちらの車両の座席にも電動リクライニング機能のほか、レッグレストや読書灯が付く。普通車を含めた全座席に電源コンセントを備える。グランクラス車内。東京―新函館北斗間で運行される「はやぶさ」では、 専任アテンダントによる車内サービスが行われる(写真提供=JR北海道)グリーン車(写真提供=JR北海道)普通車(写真提供=JR北海道)運賃・料金主な区間の運賃・料金の総額(通常期)沿線の見どころは?沿線の見どころ新函館北斗、木古内から  函館人口約27万人の函館市は、年500万人近くが訪れる観光都市。1859年、箱館港が横浜、長崎とともに国内初の対外貿易港となり、異国情緒あふれたエキゾチックな街並みが形成された。函館山(標高334メートル)の山頂から見る夜景は「日本でも屈指」と評判だ。好漁場が近くにあり、「函館朝市」「大門横丁」などで四季折々の海の幸が楽しめる。特にイカとコンブが特産品。観光資源としてはほかに、赤レンガの倉庫群、日本初の西洋式要塞である五稜郭、湯の川温泉などが知られている。函館・冬の夜景(写真=函館観光画像ライブラリー)函館朝市(写真=函館観光画像ライブラリー)大沼国定公園大沼、小沼など3つの沼を中心としたリゾート地。駒ケ岳(標高1131メートル)を眺めながらの散策やバードウォッチング、カヌー、サイクリングなどが楽しめる。JR大沼公園駅下車。新函館北斗からのバス便もある。夏の大沼国定公園(写真=みなみ北海道フォトライブラリー)江差かつて北前船の往来とニシン漁で栄えた港町。幕末までは北海道唯一の商業港で、江戸期から大正にかけての商家や蔵、歴史的建造物が多く残る。江差沖で沈没した幕末の軍艦、開陽丸の復元船、引揚げ品を展示した「開陽丸青少年センター」も見どころ。現在の人口は約1万人。江差までは木古内からバスで約1時間20分。函館からは約2時間。江刺の商家・横山家(写真提供=横山家)松前旧松前藩が置かれた、北海道唯一の城下町。江戸時代には地域における政治・経済・文化の中心だった。松前城、藩屋敷などが主な観光スポット。全国屈指の桜の名所としても有名。開花時期は例年4月末から5月中旬ごろ。松前へは木古内駅からバスで約1時間30分。松前城(写真提供=松前観光協会)奥津軽いまべつから  龍飛崎(たっぴざき)津軽半島の最北端に位置する岬。津軽海峡と北海道が見渡せ、海から一日中、強い風が吹き付ける土地。龍飛崎灯台や、青函トンネル記念館などがある。龍飛崎(写真=青森県観光情報サイト「アプティネット」)津軽半島奥津軽いまべつ駅と津軽鉄道の終点、津軽中里駅を結ぶ路線バスが1日4往復運行(所要時間70分、大人1200円)。冬季のストーブ列車が人気の同鉄道を使い、金木や五所川原など、津軽半島の各地へ足を延ばすことができる。津軽鉄道のストーブ列車(写真=青森県観光情報サイト「アプティネット」)金木金木(津軽中里駅から約15分)は、作家・太宰治の故郷で、生家の豪邸「斜陽館」が観光スポット。叩きつけるようなバチさばきで弾く独特な奏法の津軽三味線が生まれた土地でもあり、「津軽三味線会館」では生演奏が行われている。斜陽館(写真=青森県観光情報サイト「アプティネット」)津軽三味線会館でのライブ(写真=青森県観光情報サイト「アプティネット」)五所川原五所川原(津軽中里駅から約40分)は、7階建てのビルに相当する高さ22メートルの「立佞武多」(たちねぷた)=武者などを模した人型の山車灯籠=の祭りで知られる。祭りの期間は8月4日から8日まで。「立佞武多の館」では、常時実物を見ることができる。立佞武多(写真=青森県観光情報サイト「アプティネット」)

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    盛り上がりに欠ける? 北海道新幹線 テレビでは開業日に特番ラッシュ

    (THE PAGEより転載) 【北海道・札幌】3月26日、北海道に「新幹線」がやって来ます。第1号列車はすぐにチケットが売り切れましたが、それ以外の予約率は、開業日から9日間では25%にとどまっていることが報じられました。 テレビでは毎日のように「いよいよです!」と北海道新幹線の開通を歓迎ムードとともに報じていますが、北海道民全員が盛り上がっているわけではないように思います。予約率は25%にとどまるJR札幌駅の外観にも「いよいよ」の文字が躍る ここで、北海道新幹線の開業に向けた昨年末からの動きを簡単におさらいしておきましょう。●2015年10月JRグループが北海道新幹線に関わる料金表を発表。東京~新函館北斗間は片道2万2690円(運賃1万1560円/指定席1万1130円)に決定。東京~札幌間は2万6820円(同1万4140円/1万2680円)。●2015年12月JRグループが3月26日以降のダイヤを発表、東京~新函館北斗間は最短で4時間2分で運行することが判明。接続などを含むと東京~札幌間は最短で7時間44分で、これまでのダイヤよりも1時間23分の短縮。収支試算は年間48億円の赤字(収入111億円、支出160億円)という厳しい数字。●2016年2月マスコミも多数乗車して行われた避難訓練中に5分間の停電。JR北海道は「送電の手順に誤りがあった」と人為的なミスであることを発表。●2016年3月JR北海道が、3月26日の北海道新幹線開業日から9日間の指定席予約状況が25%に留まっていることを発表。また「はまなす」「カシオペア」などの北海道と本州の架け橋的電車が相次ぎ休止。特に「はまなす」は、「最後の急行列車」として愛された存在だった。 このように、決して好調とはいえない指定席の予約状況や厳しい収支予想が発表される中でも、開業PRキャラクター「どこでもユキちゃん」がラベルに登場する記念フードが販売されたり、新幹線に関係する各駅ではイベントが催されたり、札幌ではスキー場で開業を祝う花火大会が開催されたりするなど、開業を歓迎する動きは見られます。今回は「札幌」まで開通しない朝から二部構成で各局が特番放送 一番顕著なのは、テレビの特別番組ラッシュです。開業に向け、これまでも折にふれて特集が組まれてきましたが、 26日の開業日には民放5テレビ局が軒並み特別番組を放映します。(時間はいずれも午前)●HBC(北海道放送/TBS系列)「北海道にガッチャンコ!新幹線がやって来たまるわかりスペシャル!」(第1部5時45分~7時30分、第2部9時25分~11時45分、ゲスト:杉村太蔵他)●STV(札幌テレビ放送/日本テレビ系列)「みるみる北の新幹線!北海道開業スペシャル」(第1部5時58分~6時28分、第2部9時30分~11時25分、ゲスト:サンドウィッチマン他)●HTB(北海道テレビ放送/テレビ朝日系列)「新幹線がやってきた!ユメをのせて出発進行」(第1部5時30分~8時00分、第2部9時50分~11時45分、ゲスト:タカアンドトシ他)●UHB(北海道文化放送/フジテレビ系列)「みんなの新幹線」「ゆったりしあわせ旅」(それぞれ9時55分~11時15分、12時~12時55分、ゲスト:矢野直美他)●TVh(テレビ北海道放送/テレビ東京系列)「体感LIVE!新幹線1番列車~期待と課題載せ出発進行~」(6時30分~7時、3月22日に池上彰司会の特別番組を編成)今回は「札幌」まで開通しない ほぼ同時刻に、ほとんどの局が早朝から昼までの長時間にわたる二部構成で特集するという 「テレビ報道の加熱ぶり」と、わずか25%という新幹線の 「低調な予約率」のコントラストが浮き彫りになっています。それにはさまざまな背景があると考えられます。 まずは、今回のタイミングでは札幌まで開通しないこと。予定では2030年度末に札幌に開通するので、後15年ほどかかります。札幌市の人口は190万人強、函館市の人口は26万人強ですから、単純に7分の1の人口規模では全道へ盛り上がりを波及させるのは至難の業です。北海道新幹線の路線図(北海道庁ホームページより) しかも、札幌駅から新函館北斗駅まででも3時間半近くかかります。プラスして、新函館北斗駅があるのは函館市に隣接している北斗市。新函館北斗駅から函館駅までも、新設される「はこだてライナー」などを利用し20分近くかかってしまいます。 SNSをのぞいてみると、「26日の時点では札幌まで開通しないこと」「新函館北斗駅が函館市にないこと」はあまり知られていないようです。 時間的な面・費用的な面などでも、飛行機に後れを取ってしまっている北海道新幹線。「試される大地」(ここ数年北海道のキャッチフレーズに採用されている文言)に乗り込んでくる新しい列車たちは、まさに北の大地で試されようとしています。(ライター・橋場了吾)

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    新幹線開業で勃発する「函館ホテル戦争」の期待と不安

     北海道初の乗り入れとなる新幹線開業(3月26日)まで1か月強と迫っているが、北の玄関口となる函館周辺では、観光客の大幅増加を見込んだホテルの新規開業計画や改装が目白押しで、顧客争奪戦が激化しそうだ。 函館港に面する人気のベイエリア地区では、「センチュリーロイヤルホテル(札幌)」を運営する札幌国際観光が2017年のオープンを目指して200室規模のリゾートホテルを建設予定。またJR函館駅前の市有地では大和ハウス工業がホテルと物販の複合施設の建設を提案しているほか、新幹線駅の新函館北斗駅前でも、地元経済界がホテルやレストランの入る施設をつくる計画となっている。 既存ホテルのリニューアルも着々と進んでいる。リーマン・ショックなどの影響で閉鎖されていた函館市内のホテルを買い取ったWBFリゾートは、2014年に「函館グランドホテル」、2015年7月に「函館グランドホテル別館 ラ・ジョリー元町」を次々オープン。会議室や展示場などのコンベンションを備える「函館国際ホテル」もおよそ3億円を投じて客室を大改装した。北海道函館市で人気が高いホテル「ラビスタ函館ベイ」=3月11日 注目ホテルはまだある。ホテル評論家の瀧澤信秋氏は、〈サービス拡充〉〈周辺余波〉というキーワードで2棟のホテル名を挙げる。「口コミサイトなどで“朝食のおいしいホテル”としての人気が定着している『ラビスタ函館ベイ』は食事だけでなくサービス全般の拡充に力を入れています。 また、新幹線駅からは少し距離がありますが、人気リゾート地として知られる大沼公園周辺では、ホテル営業が一旦休止されていた『クロフォード・イン大沼』が新幹線開業に合わせてリニューアルオープンする予定です」 さらに、湯の川温泉地区の旅館改装も急ピッチで行なわれている。オリックスグループのオリックス不動産が観光ホテル「ホテル万惣」を買収して全面改装をしているのはその一例だ。 その他、「東横イン」「ルートイン」「スーパーホテル」など全国チェーンのビジネスホテルも鎬を削る中、函館ホテル戦争は“新幹線特需”の奪い合いの様相を呈してきた。 しかし、不安要素も多いと指摘するのは、前出の瀧澤氏だ。「函館は『さっぽろ雪まつり』のような注目イベントが少なく、ホテル業界も夏の繁忙期と冬の閑散期の稼働率の差に苦しめられてきました。昨年は中国の航空会社が相次いで函館との定期路線就航を果たしたおかげで中国人観光客に救われましたが、インバウンド効果はいつまで続くか分かりません。 もちろん、新幹線の開業に伴って本州からの観光客も集中するでしょう。しばらくはホテルの予約が取れないほど盛況になるのは確実ですが、北陸新幹線が開業した金沢などと比較すると、どうも街の話題性が少ないことが気になります。 ホテルは観光地の人気を如実にあらわします。そういう意味では、北海道新幹線の開業によって函館の実力が試されるといってもいいでしょう」(瀧澤氏) いま、函館の観光業界は、単に施設や名所を巡る「見る」観光だけでなく、体験型プランなどを組み込んだ「する」観光を前面に掲げ始めている。ホテル業界も同様、リピーターを増やす集客策を練らなければ、いくら立派な施設を築いても一時的な新幹線効果で終わってしまうだろう。関連記事■ 新幹線建設の歴史を振り返り新幹線網整備が急務と提言した本■ 元新幹線運転士の著者ならではのエピソードが満載された本■ 銀座の金沢アンテナ店 芸妓さんとのお座敷遊びも定期的開催■ 新幹線だけじゃない 注目の九州観光列車&特急列車■ 新幹線延伸で注目の金沢・富山ビジネスホテル 評論家が推奨

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    採算度外視の整備新幹線 安倍政権になって一気に建設が加速

    る。財務省は慎重だったが、わが省は官邸を味方につけた。ここで予算を投じて工期を早めることが景気回復、地方創生につながると省を挙げて官邸にプッシュし、ゴーサインを出させた」(国交省キャリア) 整備新幹線は「昭和の三大バカ査定」のひとつで、かつて推進役だった自民党幹部は「最初はクマしか乗らないかもしれないが、そのうち人が住んで乗るようになる」と言い切った採算度外視の公共事業の代表格。民主党政権時代に一時凍結され、安倍政権になって一気に建設が加速した。 国交省は北海道の延伸を5年、北陸の延伸を3年前倒しするのが悲願だ。国費投入は年間720億円という財務・国交次官合意があるが、官邸の力をバックに来年度予算で100億円の増額を目指している。関連記事■ 安倍晋三氏「この状況では靖国参拝表明はない」と安倍氏側近■ 羽田~成田空港都心直結線整備事業 東京五輪に間に合わず■ 国交省が当て込む公共事業費 対前年度17%増の5兆1986億円■ 【日韓比較・政治編】ODA実績、国連分担金、腐敗認識指数ほか■ 首相の復興予算青天井宣言に各省庁 「こんな機会もうない」

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    地域活性化の現実を見よ 維持費と借金が地方を苦しめる

    木下斉(まちビジネス事業家)飯田泰之(エコノミスト、明治大学准教授)司会:柳瀬徹(フリーランス編集者、ライター)地方のリーダーシップは「絶滅の危機」にある飯田:地方の問題だけでなく、国政レベルでもしきりに言われるのが「リーダーシップが求められる」という意見です。でも、民主的な状況でのリーダーシップ待望論は、根本的な矛盾を抱えています。 もっと簡単な状況は、その地域に権力者がいて、その人さえ口説けばなんとかなるというものです。『農業で稼ぐ経済学』(浅川芳裕との共著、PHP研究所)でもお話ししたことですが、「豪農」が名家として残っている地域では、農業改革ができる。庄屋や名主の家が没落していなくて、かつ、地元で仕事をしているのであれば、何をやるにも話は早いということですね。木下:たしかに温泉街でプロジェクトをやったときも、代々有力者の家系でなおかつ元町長という方が「やるぞ!」と声をかけてくださったら、あっという間に進んだことがありました。飯田:リーダーシップという言葉だとふんわりとした、清廉潔白なニュアンスが強いんですけど、要するに「権力者が残っている方がまだ望みがある」という話なんですよね。まちをひとつの「会社」に見立てて経営を立て直す事業に携わる木下斉さん木下:誰が決めればいいのかがわかっている街は強い、それは明確にそうですね。意思決定をする段階でそれまで表に出てこなかった人たちが急に大挙してやってきてめちゃくちゃな意見を出してきてしまう場所だと、結局落とし所が見えない。やるのかやらないのかさえ意思決定出来なかったりします。僕らはそのような地域は諦めます。やることさえ決められないのであれば、前に進まないですから。飯田:やはり交通網も発達しているから、事実上の責任者になってくれそうな地元財界人は、一定以上の成功を収めると地元からいなくなってしまいますしね。木下:本当にそうなんですよ。僕の知っている地方のお金持ちは多くは、家は地元にある。でも東京にセカンドハウスも持っていて、週の半分かもしくはウイークデーは東京に来ている。週末だけ地元に戻るけど、友だちは東京のほうが多いという人も少なくありません。息子娘は高校の時から海外、という人もいますからね。飯田:僕の友だちも山梨県で会社を経営しているけど、奥さんと娘さんは東京に住んでいます。本人も週の半分くらいは東京にいるようです。そもそも山梨なら通勤できる範囲でもありますしね。木下:そういう行動形態が普通にある。時間とお金に余裕がある人ほど、そういったライフスタイルになりやすい。「二地域居住」などとしきりに言われていますが、昔からいくらでもあったし、すでにみんながやっていることなんです。地方の経営者層や資産家、いわゆる名士の人たちの往来は本当に活発です。飯田:九州地域の活性化事業に携わっている人たちと打ち合わせをする機会があって、「小倉か博多あたりでやりますか?」と言ったら「いえ、みんなだいたい東京にいますから」という返事でした。誰も九州にいなかった(笑)。木下:一番集まりやすいのが東京ということは多いです。飯田:許認可関係も東京に来なければなりませんからね。木下:東京集中はネガティブに語られやすいですけど、まず「仕事がしやすいから東京にいる」という現実を認めないといけない。 東京で会う地方の名士の人たちの実家に行くと、古墳みたいなお墓があったりします。どの地域にも一人くらいはスケール感のまったく違う人がいますよね。明治維新で利権が四十七都道府県に分割されて、一県ずつにその利権を継承している人がいる、そんなふうにさえ思えます。そういう人たちは、ちょっと昔までは地元に利益を還元する役割を負っていたはずですが、今はそういう人ほど東京や海外に進出していかざるをえない。そうなると地元への影響力も低下していく。その人への関心もなくなっていくから、「あの人が首をタテに振ればなんとかなる」という存在はどんどん減ってきています。飯田:「どんな人かは知らないけど、でかい屋敷に住んでいる」くらいの認識になってしまったら、もうダメですよね。木下:ダメですね。「最後はあの人に」という認識が、地域内でなくなってしまう。企業で言えば、誰が社長なのか、決裁者なのか見えなくなってしまうのと同じです。飯田:「気が向くと市長を電話で呼びつけて、一緒に昼飯を食べている」みたいなノリの人が残っていれば、いろいろと話は早いのですが、そういう人は少なくなっている。「子どもの頃は飛行機で東京の塾に通っていた」なんて人もいましたからね。木下:マイルがすごい勢いで貯まりますね(笑)。迷走するコンパクトシティ迷走するコンパクトシティ木下:人口減少社会では、地方は交通網で統合されつつ機能や産業も集約されて、集約された土地と土地を人が活発に移動する、このシナリオの上ですべてを考えなければいけないのだと思います。 今までの地方は、人口規模も産業集積も無関係にひとまとめになって存在していたといえます。そこでの生活のイメージを転換しなければいけないし、イメージの変容を待たずに現実はそうなりつつある。「住む家があって、会社まで電車で通勤する」というイメージが共有されていて、そこに生活の軸が寄っているけれども、地方を見れば居住も働き方もどんどん変わりつつあることが明白です。そこに人々の感覚がどこまで追いついていけるのか、産業構造の問題としてもそれが問われていると思うんですよね。 これまでは、やっぱりそれぞれの「場所」に拘束されていた。これからは大都市では人が集まり、それ以外の地域では移動が活性化する。そういうふうになるのではないかと思っています。飯田:ある場所が人々の繋留点、わざわざ足を止めるポイントになるためにはやはり何かが集積していないといけないですからね。やはりしきりに喧伝されているキーワードに「コンパクトシティ」がありますが、これは研究者泣かせの概念で、なぜなら論じている人によって定義がまったく違うんです(笑)。 コンパクトシティに関連して、もっともまともな考え方だと思ったのは、「DID」※という概念です。※DID(Densely Inhabited District):1平方キロメートルに4000人以上の人口密度のある区域が隣接して、人口5000人以上となる地域のこと。2010年の国勢調査の結果では、全国1728市町村の約48%に当たる829市町村で、1319地区がDIDとして設定された。参照:内閣府『地域の経済2012 集積を活かした地域づくり』 http://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr12/chr120303.html経済学の立場から都市と地方のあり方を模索する飯田泰之さん飯田:人口集中地域を分散させずに連続させて、隣接区域全体の人口密度を上げていく。それくらいが当面の目標なのに、出来上がってみると「学校、市役所、県の出先機関をひとつの庁舎に入れました!」というハコモノになっている。「それはたぶんコンパクトシティじゃないんだけどな」と思います。木下:目標を取り違えていますよね。飯田:東京都がそれを行うなら意味はあるかも知れない。希少な土地の節約にもなるし、高層建築の低層階に公的な機能を集約させて、それ以上の高層階はすべて住宅にするということもできるでしょう。でも、地方都市はそういう場所ではない。むしろDIDが途切れないようにする、市の中に10箇所のDIDが分散するのではなく、せめて1箇所に集約させる。そういう誘導が必要だと思うんですよね。木下:高層にしなくてもいいものを高層にしてしまう流れが未だに地方にもあって、地方都市にはタワーマンションなんかも増えている。売れるのは分かりますが、何十年後にあれどうするんだろう? と思いますね。田んぼのどまんなかにタワーマンションがあったりして、目を疑うこともあります。飯田:高層マンションは維持費だけでもとんでもない額になります。その維持費を払ってもペイするくらい地価が高いならともかく、そうでないなら無用の長物ですよ。木下:どの程度の密度があれば、住むために必要な機能がその地域で保持されるのか、今の段階ではよくわからないというのが正直なところだと思うんです。 DIDをある程度連続させれば、その環境下なら人が移動しながら生活できて、機能が保持される。密度を上げてサービス効率が向上するから、財政負担も大きくならず、一定以上のサービスを受けることができる。これが無理のない着地点だと僕も思います。 いまコンパクトシティを議論している人たちには、「負担によって受益がある」という発想があまり感じられないんです。「みんなが安心して歩けるような街を」といったイメージ先行の議論ばかりで、実際に地方に行けば猛烈な車社会だったりするのに、何を見て何を言おうとしているのかがわかりません。LRT(次世代型路面電車)待望論も相変わらず多いのですが、土木事業をやればコンパクトシティができるとでも思っているのかと言いたくなります。「コンパクトな路面電車で市街地と郊外をつなぐんです!」ってそれ、ちっともコンパクトじゃない(笑)。飯田:コンパクトなはずがどんどんスケールが上がっていく(笑)。木下:人のいる街中どうしをつなぐのであれば、まだ意義はわかるのですが。路面電車を整備しながらも、さらに「自動車を使う人にも配慮した設計を」とか言い出してしまうし。飯田:何にでも配慮しますよね(笑)。そもそもコンパクトシティは選択と集中の話なんですから、平等なわけがない。というかどの地域にも平等ならそれはコンパクトではないですよ。木下:そんなことしたら、市民の負担は膨大に膨れ上がります。結局は生活環境が急に破綻しないためには致し方ない集約という話であるわけです。あれもこれも配慮なんてできないのに、それをいうと市長などは選挙に負けてしまうとかそういう当座の話になってしまう。せめて選挙に受かったらやって欲しいですが、受かったら受かったで、結局は議会には郊外出身者議員も多数いて、全てに配慮した話に丸め込まれてしまう。数年もしたら財政負担がとんでもないことになるのは目に見えています。けど、地方の方々には、未だに最後は国がどうにかしてくれると信じている方も少なくありません。シムシティには「維持費」を盛り込むべき?シムシティには「維持費」を盛り込むべき?飯田:ついでに「国土強靭化」もディスっておきましょうか(笑)。強靭化政策の推進者も支持者も、建物や建造物には維持費がかかるというシンプルな理屈を、まったく理解していないんですよね。 ありえない仮定ですが「建てて終わり」であれば、一応は「景気対策としてやった」という理屈は成立するかも知れない。でも借金で建ててしまえば、そのあとは借金の金利と維持費を払い続けることになります。建造時のイニシャルコストよりも、維持していくランニングコストのほうが高くなるという点を意識しないといけない。逆に維持費がペイできる事業であれば、ある程度の必要性はあると言えるでしょう。木下:まったくそうなんです。イニシャルコストだけ国や自治体が支援しても、あとは自走可能な設計であれば全然OKだと思います。飯田:いまは国債利回りも低いのでたいした金利負担ではありませんから、自走可能だったらGOサインを出しても構わない。ところが、もしその事業が本当に自走可能であれば、これだけの低金利下では自治体や国が出てくるまでもなく、とっとと民間企業がやるはずなんですよ。木下:すでに民間がやれる条件になっている。飯田:となるとまあ、そもそも無理な計画なんだろうな、と(笑)。木下:国土強靭化路線の人たちは、「作らなければダメだ!」と言い続けてきて、いざ「朽ちるインフラ」※問題が表面化すると、「ほら見たことか! 作り続けないからこういうことになるんだ!」と言い始めていますね。※朽ちるインフラ:根本祐二『朽ちるインフラ――忍び寄るもうひとつの危機』(日本経済新聞社、2011年)で指摘された、東京オリンピックや大阪万博開催前後に集中的に建設された道路、橋梁、学校、上下水道などのインフラ老朽化問題。同書では、現存の社会資本を単純に更新するだけでも、年間8.1兆円の投資を50年間続けなければならないと試算されている。木下:基本的にはストックを作り続けることがすべての前提なんですよね。でも国費が負担してくれるのはイニシャルコストであって、維持費ではない。なかには「すべての道路を国道にしよう」と主張する人までいる。けど、ない袖が振れないのは地方だろうと、国だろうと同じであることを忘れてはいけません。飯田:私たちでは維持費をまかなえないから、他地域の税金で維持してくださいという発想ですよね。木下:最近は国道を県道に、県道を市道にとどんどん移譲されていますが、「国道が県道になったら草が生えるようになった」とか、「県道が市道になったら窪みを直すスピードが遅くなった」とか、必要性も考えずにマリー・アントワネットも真っ青になるようなご発言をする方が多くてびっくりします。全部対応していたら、どれだけ予算があっても足りません。最低限の必要性や、どこで収支を合わせるかとったことをトップがあらかじめ決めておかないと、際限がないですね。一番危ないのは、ある年だけバーっと自治体の予算が膨れ上がって、一斉に公共事業が行われるケースです。飯田:翌年から維持費が爆発する。木下:待ち受けるは維持費地獄、建設時に行った地元負担の借金地獄ですよね。維持費と借金で自治体が潰れていく。でもこういう計算が全然なされていない。施設整備計画が発表されて資料が公開されても、どこを探しても総事業費しか出ていないことがほとんどです。国がいくら出してくれたとか、そういうことしか発表されないし、地元紙にも出ていない。たとえば100億円の庁舎を建てたら年間の維持費がどれくらいになるのか、財政根拠はどうなっているか、そんな情報は一切出ない。議論もされない。飯田:僕はかねがね、「シムシティ」は維持費の設定を厳しくするべきだと思っているんです(笑)。木下:シムシティでは維持費の概念が弱いですよね(笑)。道路とか延伸すればその分、歳出は増加しますが、もっと現実に則して重くしたほうがいいですね。飯田:建てるときだけ金がかかって、そのあとはそこから税収が上がってくる設定だったりしますからね。赤字になることはあるけど、もっと維持費を厳しくしていい。わけのわからない場所にわけのわからないものを建てたら、ひたすら金が出ていくだけという設定にすべきです(笑)。むしろ壊したほうが安上がりになることさえあることを、教えるべきだと思います。木下:そうなんですよ。そんな事業はやればやるほど、地方が苦しくなる。作っているときはお金が回るし、人も雇用される。でも工事が終わった瞬間から地獄が始まります。ずっと財政支出が続くことの怖ろしさが、ほとんど社会に共有されていないことが不思議です。地方議会では常にこういう議論をすべきだと思うのですが、基本的には作りたい人たちしか集まっていない。作らせて、工面できれば万事OK、という世界です。経済活性化は事業活動を行う民間中心で取り組むしかない飯田:地方議会でもわかっている人はわかっているはずです。わかっていて、口をつぐんでいたほうがトクだという計算が働いているのだと思うんです。地方議会や住民だけではなく、日本国民のほとんどに維持費という概念があまり理解されていない。たとえば家を買ってずっと住んでいると、老朽化してくる。それでもまあいいじゃないか、と思えるのはそれが一戸建てだからなんですよね。木下:タワーマンションなんかの長期修繕計画は大変ですよね。多くの場合、長期修繕積立が安すぎるという話もあります。でも即座に売るためには安く見せないといけない。分譲マンションについては、30~40年後にはおそらく……飯田:大変なことになりますよね。木下:都内でも、区役所の上層階をマンションにした大型複合施設が数年後に完成しますが、あれ、建て替えのときはどうするんでしょうか。賃貸か、せめて定借物件として売るのならまだいいのですが、分譲など区分所有で売ってしまったら、次の建替えの時、実務的には建て替えできなくなるんじゃないでしょうか。飯田:そういえばそうだ(笑)。木下:入居者すべてを立ち退かせて建て替えるとなったら、莫大なお金が必要です。だから、そういう物件を買った人はラッキーです(笑)。割安で買えて、おそらく退去時にも大金が入ってくるんですから。飯田:役所の立て替えが必要なときに、自治体としては大枚払って出て行ってもらうしかないわけですもんね。木下:分譲売却により建築コストが安上がりになったと喜んでいますけど、それこそ行政が意識すべき中長期的な視点が欠落しているように思います。維持費とか、数十年後にやってくるリニューアルについて、公的建造物ほどゴーイング・コンサーンを考えなければいけないはずなのに、総事業費を捻出するためだけの一過性の論理でああいうことをやってしまうのは、単年度で予算を工面する発想なのだと思います。これは全く経営合理的ではありません。飯田:ディベロッパーの人は「マンションは買うな」と言いますよね。「もし買うのであれば低層中古にしろ、戸建てが買えるのだったら戸建てにしなよ」と言われたことがあります。戸建てだったらダメになったときに、直せれば直せばいいし、直せなくてもいわば自己責任だから諦めがつく。木下:長期的な維持に関する視点、この発想は地方にいくほど希薄になるように感じています。国土強靭化や公共事業が短期的には工事期間中では地方での経済効果を生み出す反面、中長期的に地方を、特に地方自治体の財政を悪化させているのは、これら施設維持費の問題が大きいわけです。公共投資を撒いている間は、雇用も生まれるし地域にお金も回るのですが、それは文字通りの意味でカンフル剤に過ぎません。ライフサイクル全体でいえば、建設時の4~5倍の維持費がかかる現実に知らぬ間に直面し、みんなで汲々としているのが現状です。 かつてのように税収が上がり続けているのなら維持費も払えるわけですけど、その維持費で汲々としている状態で、その他行政サービスの拡充との兼ね合いでさらに悩まなくてはならない。医療と福祉でさらに切羽詰まっているなかでのことですから。自治体の人件費さえ地元税収で払えない役所もあるこの時代、せめてハードの整備については発想を変えましょう、と言っているのですがなかなか変わりません。なんだかんだいって経済活性化は事業活動を行う民間中心で取り組むしかありませんが、せめて行政には地域で負担すべき金額だけは軽減していける、行政経営のあり方を考える時代に来ていると思うわけです。きのした・ひとし 1982年生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房地域活性化伝道師、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、一 般社団法人公民連携事業機構理事。高校時代に全国商店街の共同出資会社である商店街ネットワークを設立、社長に就任し、地域活性化に繋がる各種事業開発、 関連省庁・企業と連携した各種研究事業を立ち上げる。以降、地方都市中心部における地区経営プログラムを全国展開させる。2009年に一般社団法人エリ ア・イノベーション・アライアンス設立。著書に『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)、『まちづくりデッドライン』(共著、日経BP社)など。いいだ・やすゆき 1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

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    北陸新幹線開業 百年に一度の期待と不安

    るという。千載一遇の好機に沿線自治体の期待も高まるが“副作用”も指摘されている。果たして北陸新幹線は地方創生につながっていくのだろうか。

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    新幹線は北陸に何をもたらすのか

    幹線延伸の原動力になった。 「北陸新幹線はこの地域にとって100年に一度の好機」 安倍政権が掲げる『地方創生』を錦の御旗とする自治体関係者からはそんな声も聞かれる。北陸新幹線開業を契機に観光客の呼び込みや企業誘致に成功すれば、地域は大きく発展していくとの考えだ。 実際、報道によると、日本政策投資銀行は北陸新幹線開業経済波及効果を富山県で88億円、石川県では124億円と試算している。だからこそ、両県では官民あげて観光、企業誘致PRに力をいれてきた。 故郷は遠きにありて…と思う私でも、故郷の見知った観光地や食べ物、名産品などがメディアで取り上げられればうれしい。うれしくなったついでに、人に話し、誇りたくなってしまう。そして気がつけば「行ってみないか」と誘ったりしているのだ。新幹線開業のような画期的な出来事は、人の思いや行動までも変えるのかもしれない。 企業で言えば、世界的なファスナー製造大手のYKKが意識変革に乗り出した。創業者ゆかりの富山県黒部市に北陸新幹線開業を機に本社機能の一部を移転するという。黒部宇奈月温泉駅が同社のそば、まるで専用駅のような装いになる。具体的には首都圏にすんでいた管理部門などの社員230人が黒部市に移り住むわけだが、日帰り可能な新幹線出現が可能にしたといっていい。 ほかにも富山や金沢近辺に工場移転を計画中の企業がでてきている。こうした動きが北陸地方に新たな活力を生むことだろう。 ただ、一方で新幹線効果に疑問をもつ高校時代の友人もいた。曰く、「騒ぎは一過性のものかもしれない」。金沢のひとり勝ち 過日、あるテレビ番組に思わずムッとした。新幹線開業・北陸三都物語とテーマアップされていたので、てっきり「富山、石川、福井」を取り上げた番組だろうと思ってチャンネルをひねってみたら、三都とは金沢、能登、加賀温泉だった。これでは「石川三都物語、金沢三都物語ではないか」。北陸新幹線の開業を祝う市民や鉄道ファンらでごった返すJR金沢駅のコンコース=14日 その番組は極端な例外だったのかもしれないが、金沢ありきの現実もあることはある。 兼六園、石川門、ひがし茶屋街、近江町市場、加賀友禅、金箔…ともかく加賀百万石の城下町・金沢は見るもの、聞くもの、愛でるもの、食べるものに事欠かない。子供のころ、大事なものは金沢で買ったことを思い出す。 「アンノン族であふれた頃以来、いやそれ以上かも知れんね。金沢は人であふれている。観光地が近場にあるし、北陸の経済、文化の中心でもあるから、やっぱり金沢に人が集まってくるよ」 高校時代の友人で、地方自治を専門にする大学教授はそう話すとともに、こうも続けた。 「富山県はスルーされるかもしれん」 富山にも集客の期待できる観光地は少なくない。例えば立山黒部アルペンルートはヨーロッパ的なスケールを誇る山岳リゾートである。山あり温泉あり、ゆっくり楽しむことができる。世界遺産である五箇山の合掌づくりの集落、そして氷見のぶり、滑川のホタルイカなど海の幸にも恵まれた土地だ。だが、それも金沢と比べるとどうだろう。前述の番組ではないが、能登半島や加賀温泉への起点でもある。しかも、現時点での終着駅、旅情をかき立てる。 「『かがやき』が止まるのは富山だけ。新高岡は1日1本、まして中心街から離れた新駅。ちょっと厳しい」。友人の顔が曇った。「だから真剣に対策を講じていかなければならない」 こうした思いは、実は長野県や新潟県の市町村でもおなじだろう。終点・金沢のひとり勝ちが決まる前に生き残る手立てを考えなければならない。 北陸新幹線という線を、いかに地域という面にしていくか。例えば、故郷の例で恐縮だが、高岡は富山と金沢、和倉温泉を結んだトライアングルの中にすっぽり収まる。逆の見方をすればどの場所にも行きやすい。実際、能越自動車道を使えば能登半島の入り口としては金沢よりも好位置にあると言えよう。また、東海北陸自動車道で名古屋と結ばれている。新幹線で伸びてきた線を高速道路によって面で吸収していくことが可能だ。加えて五箇山の南東方向に位置する高山を中核とした飛騨地方とは古くから「ぶり街道」などを通して密接な関係がある。情報を共有し、利用しない手はない。 「ようは意識改革と早急な政策立案が必要だ」。友人が言った。新幹線開業で目が北陸に向いている今だからこそ、手立てを講じる必要がある。一過性な盛り上がりで終わらせてはこの地域に進歩はない。ストロー現象は起きるか JR金沢駅の周辺ではオフィスビルの建設が相次いでいるという。首都圏からの企業の移転などを意識した建設ラッシュか、すでに目算が付いたビル建設かはわからないが、金沢駅周辺が北陸新幹線開業でクローズアップされていることの証明であろう。 首都圏と近づいたことで「企業誘致が進む」という声がある反面、日帰り地域に組み込まれたことで「逆に支店や営業所が撤退するのではないか」という意見も出ている。 長野新幹線ができた後の長野市がそうだったと聞く。首都圏からの所要時間が短縮され、日帰り出張が増えたことによって企業の支店が撤退していった。支店がなくとも、本社から人を派遣すれば、出張費ともかく、支店運営にかかる経費は大幅に縮小できる。だから支店はいらない。ちょうど首都圏がストローで人と金を吸い込む「ストロー現象」が発生した。長野では日帰り出張の増加から経済波及効果も小さかったという。 もっと言えば、人材の流出も招きかねない。支店や営業所の撤退で現地採用の枠が減り、就職事情が厳しくなりかねない。むしろ職を求めて首都圏への人材流出も懸念されよう。中核都市・金沢はともかく、富山や高岡には気がかりなことだ。コールセンターや流通センターの誘致など、別なかたちで人材の確保を考えていく必要もあろう。 買い物にしても、高級志向のおりから目は首都圏を向く。日帰りで東京まで買い物という時代がこの地方に訪れるかもしれない。ゴルフにしても県内のゴルフ場よりは日帰りできる首都圏や長野、とりわけ軽井沢あたりのゴルフ場が盛況となるかもしれない。これらもまた、ストロー現象である。西から東へ、人の動きが変わる 北陸新幹線の開業で在来線が大きく変わる。高校時代の別の友人が話した。 「これまで京都や大阪など関西圏に気軽に出かけることが多かった。でも、新幹線開業の替わりに、富山まで来ていた特急サンダーバードが金沢止まりになった。乗り換えが面倒だから行く機会が減るかもしれない」 すると、もうひとりの友人がこう話した。 「いや、乗り換えを入れても新幹線を使ったほうが早いよ。特急料金も乗り換えを使えば安いし、乗り換えもわかりやすい」北陸新幹線が延伸開業し、富山駅を出発する東京行き一番列車「かがやき」=14日午前6時21分(代表撮影) きっとそうなのだろう。JR西日本にとって北陸地方は、関西圏の人と物が交流する大事な地域である。それなりの措置は講じているに違いない。 しかし、人の流れは変わると思う。これまで乗り換えなしで富山から行くことができた関西圏は乗り換えが必要、越後湯沢なり長岡なりで乗り換えなければならなかった首都圏が直接結ばれる。時間も大差ないとなれば、自ずと楽な方に人の流れはできる。 北陸から関西への流れ、あるいは関西圏から北陸への流れは減ると同時に、首都圏から北陸への双方向の流れができるように思う。 激変するとは思われないが、大学受験生の志望校に影響がでるように思う。私の母校では、東京の大学を指向するものも少なくなかったが、我が同級生たちは結構、関西方面の大学に進んだ。件の大学教授も京都の大学に学び、大阪の大学院で学位をうけた。関西地区の大学もまた、後背地としての北陸を意識し、金沢に受験会場を設けて便宜を図ったりもしていた。 しかし、金沢-東京間、最短2時間28分となれば、意識も異なってくるに違いない。長野や首都圏、とりわけ東京の大学を指向する者が増えていくような気がする。機を見るに敏な大学では早くも北陸地区で説明会を開き、地方入試を実践するところもあった。 一方で国立大学法人の金沢大学や富山大学が長野や新潟、さらには首都圏で説明会を実施している。北陸に人材を集めるための攻撃的な活動は、やはり北陸新幹線延伸の好影響だとみていいだろう。生き残りをかける地方大学が独自の魅力をアピール、受験生を増やすことは将来の人材確保にもつながり、若い人材の流入は地域活性化の最大の要因である。こうした大学の挑戦、戦略に自治体も支援を惜しまないでもらいたい。持続的な成長につなげたい 少子化と共に地方の衰退が語られて久しい。一方では東京への一極集中が危惧されている。整備新幹線は一極集中を加速させるのではないのか、そんな疑問もないわけでない。いや、むしろ大いに心配している。 開業した北陸新幹線は、首都圏と北陸を近づけ、北陸の潜在的な魅力の売り出しに大きく貢献した。これによって、観光面にしろ、経済面にしろ、北陸への波及効果と人の流入が期待されている。 だからこそ、現在のブームを一過性で終わらせてはいけない。いかに、北陸地方をあげて対策を講じていくか、ここ数年の取り組みが将来を左右すると考える。自治体相互の競争とともにある協調、共同歩調が必要だ。官と民、双方の協力もまた重要な要素である。情報の共有、人材の共有、意識の共有…道州制を前倒ししたような「北陸道」としての対処、対応が求められる。それが実現できて始めて、持続的な成長が可能になるだろう。関連記事■ 世界であまり例がない 東京一極集中の是非を考える■ 格差は悪か ピケティは正しいか■ 地方紙はローカルニュースだけでよい

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    日本を大きく変える最後の「北陸新幹線」

    小宮一慶(コンサルタント)2015年3月、いよいよ北陸新幹線が金沢まで開業する。北陸地方にとってはまさに悲願だったわけだが、航空網も発達した現在、新幹線開業がどれほどの経済効果をもたらすのか、首をかしげる人も多いだろう。そこで、経済に精通し、年間100回以上新幹線に乗るという「新幹線好き」として知られる経営コンサルタントの小宮一慶氏に、「北陸新幹線で何が変わるのか」についてうかがった。「北陸新幹線」で何が変わるのか? 3月14日、いよいよ北陸新幹線長野-金沢間が開業します。北陸にはお客様も多いため、しばしば行っているのですが、地元ではすでにかなり盛り上がっているようです。新幹線開業直後のホテルや旅館はもう、ほぼ満室とのことです。 実は私は自他ともに認める「新幹線好き」。毎年少なくとも100回は乗っており、『新幹線から経済が見える』という本まで書いているほど。そんな私ですから、もちろん開業は非常に楽しみです。ただ、だからといって全国にどんどん新幹線を走らせればいいと思っているわけではありません。2016年に函館(新函館北斗駅)まで、さらに札幌までの延伸が予定されている北海道新幹線や、九州新幹線の長崎ルートなどは、事業の採算が取れるのかなと心配しています。ただ、この北陸新幹線に関しては、人の流れや経済に確実に大きなインパクトを与えると考えられます。リニアを除いて、日本経済や文化に大きな好影響を与える最後の新幹線と言えるでしょう。金沢を午前6時に出発し、東京駅に到着した上り1番列車「かがやき500号」=14日午前、JR東京駅(鈴木健児撮影) まず、東京と北陸との間の人の流れが変わるのは確実です。現在、東京から富山県や石川県に行く人の大半は、羽田から空路を利用しています。羽田から富山や小松(石川県)への路線は国内で最も短い航空路線の1つで、飛行時間はわずか1時間。空港へのアクセスの時間などを考えても、現状、越後湯沢経由で4時間はかかる鉄道に比べて圧倒的に優位です。 それが、新幹線開通により金沢まで最速2時間半で着くようになります。ドアトゥドアの時間では飛行機と大差ないかもしれませんが、私のお客様に聞いてもほぼ全員が「新幹線を使う」と言います。なぜなら、ビジネスマンにとっては「忙しいときこそ新幹線」だからです。日本の新幹線技術は世界に比類なきもの 飛行機の場合、30分前には空港に到着せねばならず、その後も手荷物検査や搭乗などが慌ただしく続きます。離陸時には何もできず、やっと安定飛行に入ったと思ったらまもなく着陸。さらに空港から市街地まではバスに乗り換えと、落ち着く暇もありません。 一方、新幹線はギリギリに駅に到着してもすぐに乗ることができ、車内では到着まで落ち着いて過ごすことができます。私を含め、新幹線の車内で仕事をする人は多いと思いますが、日本の新幹線は揺れが少ないので、仕事をするにはもってこいの環境です。フランスのTGVなどに乗ってみるとわかりますが、ここまで揺れの少ない高速鉄道は世界に類を見ません。しかも、北陸新幹線に投入される新型のE7/W7系新幹線車両には、普通車にも全席に電源コンセントがついているというのですから、パソコン作業はますます便利になりそうです。さらに、駅から市街地まで近いこと、比較的遅延や欠航がある飛行機に比べ、天候に左右されにくいのもビジネスでは重要です。 東京-金沢間の所要時間2時間半というのは、東京-大阪間とほぼ同じです。言うまでもなく、東京-大阪間を移動する人の多くは新幹線を使っています。とくに、所要時間が2時間強の富山は、ビジネスユースの大半が新幹線に切り替わるでしょう。 ちなみに、北海道新幹線は東京から函館まで4時間10分、札幌までは約5時間の予定。新幹線長崎ルートの時短効果はわずか20~30分。これでは、劇的なシフトが起こるとはとうてい思えないのです。石川・富山の有効求人倍率はなぜ高いのか? 北陸は歴史的に関西圏とのつながりが強い地域で、現在でも大阪-金沢間は特急「ザンダーバード」で約2時間半と、東京より圧倒的に近い。それが新幹線開通でほぼ同じ所要時間になるわけで、当然、北陸と首都圏との結びつきは強化されます。企業同士のつながりや人の移動の増加などが予想されるでしょう。 実は石川県や富山県には、コマツやYKK、インテックなど多数の優良企業があります。有効求人倍率を見れば、石川県1.40倍、富山県1.39倍(平成26年11月)。これは全国平均1.11を大きく上回り、東京都や愛知県などに次ぎトップ10に入っています。それだけ業績のいい企業が多いということでしょう。また、農業や漁業も盛んです。 それもあってか、県民の幸福度ランキングでは北陸の各県が常に上位を独占しています。実際に行ってみると、この地域の家はどこも広く、何より仏壇の大きさに驚かされます。これも裕福さの表われでしょう。 そして、見逃せないのが観光です。とくに古い街並みが残る金沢は、今でも欧米人を中心に多くの外国人観光客を集めていますが、新幹線開通によりさらに増えるのは確実。食べ物もおいしく、今後はアジア系の観光客も見込めるでしょう。こうした観光客をうまく取り込むことができれば、飛行機も意外と利用者が減らないかもしれません。「軽井沢」の成功を再現できるか? さて、こう言うとバラ色の未来ばかりが開けているようですが、もちろん、懸念材料もあります。参考になるのが長野の事例。1998年の冬季オリンピックに合わせて、その前年に開業した新幹線東京-長野間ですが、オリンピックの後、ホテルや旅館は急速な業績悪化に見舞われました。かつては宿泊が必要だった長野出張が日帰りでできるようになり、宿泊客が減少したのです。オリンピックに合わせて整備された中心部の商店街にも、シヤッターが目立つように。これと同じことが、沿線各地で起こり得るわけです。 さらに、新幹線開業と同時に、並行する在来線がJRから切り離され、各県ごとに別々の会社が運営することになります。財務基盤の弱いこれらの会社が運営をすることで、運行本数の減少や運賃の値上げが懸念され、地元の人が不便を強いられる場面も出てくるでしょう。 とくに長野や上越といった「途中駅」の中には、金沢のほうに観光客を持っていかれてしまうという危機意識を持っているところもあるでしょう。上越妙高駅のように、市街地と新幹線駅が離れている場合はなおさらです。 ですが、そこは工夫次第です。たとえば今、軽井沢は数々のショッピングセンターやアウトレットモールが立ち並び、非常ににぎわっています。新幹線が開通したことにより、首都圏から日帰りで行けるスポットとして人気を集めているのです。私もときどき軽井沢のゴルフ場に日帰りで行くのですが、ちょっと遠出をしたくらいの印象しかありません。 考えてみれば、飛行機はこれらの地域を通過すらしてくれなかったわけで、通過してくれる以上、途中下車してもらえばいいのです。金沢に行くついでに善光寺に立ち寄ってもらい、宇奈月温泉に宿泊してもらうにはどうすればいいか。どう魅力を打ち出すかが決め手となるでしょう。実際、すでに糸魚川など沿線各地は、いろいろなPR活動を始めているようです。 今後、北陸および沿線各地がどのような工夫を凝らし、どう変わっていくのか。楽しみに見守りたいと思います。小宮一慶(こみや・かずよし) 経営コンサルタント、〔株〕小宮コンサルタンツ代表。1957年、大阪府生まれ。1981年、京都大学法学部を卒業後、東京銀行に入行。1986年、米国ダートマス大学経営大学院でMBAを取得。帰国後、経営戦略情報システム、M&A業務や国際コンサルティングを手がける。1993年には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。1996年、〔株〕小宮コンサルタンツを設立。『小宮一慶の1分で読む!「日経新聞」最大活用術』(日本経済新聞出版社)など、著書多数。関連記事■ 新幹線をつくった伝説のエンジニア・島秀雄とは■ 冨山和彦・なぜローカル経済から日本は甦るのか■ 山本昌・野球界最年長投手のやる気の源とは?

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    地方経済を再生させる「企業とまちのたたみ方」

    冨山和彦(経営共創基盤〈IGPI〉代表取締役CEO)  2014年秋の臨時国会では、「地方創生」が大きなテーマとなった。安倍総理は、内閣改造で石破茂氏を地方創生担当大臣に任命するとともに、「まち・ひと・しごと創生本部」を設置した。政府は、地方創生の理念を定めた基本法案を臨時国会早々に提出し、速やかに可決。省庁のタテ割りを排した地域活性化に全力を挙げる方針と報じられている。 地域活性化はこれまでの政権も力を入れており、すでに内閣官房には、「都市再生本部」「構造改革特別区域推進本部」「地域再生本部」「中心市街地活性化本部」「総合特別区域推進本部」の5つの本部が置かれている。今回、地方創生を進めるといっても、従来型の施策の焼き直しに止まるのではないかとの見方も根強い。 政府に地方創生に対する危機感を募らせるきっかけとなったのは、増田元総務大臣を中心とする日本創成会議がまとめた、「大都市への人口移動が収束しなければ、2040年には全国1800市区町村のうち約半数の896が消滅可能性都市になる」とするレポートであった。これを受けて、骨太の方針も「50年後にも1億人程度の安定的な人口構造を維持することを目指す」と、初めて人口減少への対応を盛り込んだ。 本格的な人口減少という局面で、地域活性化という古くて新しい課題に、どうすれば起死回生策を見出すことができるのか。『なぜローカル経済から日本は甦るのか』の著者である冨山和彦氏とともにそのヒントを探った。<聞き手:荒田英知(PHP総研主席研究員)>人手余りから人手不足に転じた地方経済荒田 冨山さんのご著書『なぜローカル経済から日本は甦るのか』は、グローバル(G)とローカル(L)という2つの世界を対比し、わが国のGDPの7割を占めるLの方の経済成長戦略を解き明かされたことが実にタイムリーでした。夏には、菅官房長官の愛読書であると新聞記事に取り上げられたり、地方創生本部事務局の参考図書リストに載っているとも伝えられたりしています。先日はある研究会のゲストにお迎えした公明党の石井啓一政調会長が、カバンから同書を取り出し、「これを読んで、なぜローカル・アベノミクスが必要か、一目瞭然にわかった」と仰っていました。冨山 私は、本来はLでなくてGの世界の人間なんですけどね(笑)。当社(経営共創基盤)の子会社に「みちのりホールディングス」という地方公共交通の運営会社があります。岩手県北バス、福島交通、会津バス、茨城交通、関東自動車の5グループを抱えて、合わせて約3500人の従業員と2000台近いバスとタクシーを保有しています。これらの会社の経営に関わることを通じて、地方経済に問題意識を持つようになりました。荒田 地方創生という古くて新しい課題に対して、これまでと何が違うのか、どうあるべきとお考えでしょうか。冨山 地方経済をめぐる環境面では、現在、人手不足という極めて大きな変化が起こっています。これまでは人手余りの中での地域活性化だったのです。人手が余って仕事がないからどうするかという議論でした。結果的には、それらの政策はワークしませんでした。それが今度は人手不足です。景気低迷の中で、都市よりも地方で先に人手不足が起こっているという環境変化があります。人手不足の中で地方創生をどうするかが問われます。政策展開するときの自由度、選択肢の広がりは、人手が不足している時の方が大きいと思います。荒田 Lの世界で成長の鍵を握るのは、生産性の低い企業の「緩やかな退出」であるという指摘は全く同感です。けれども、これを現実に進めようとすると簡単にはいきません。従来と何を変えることが効果的なのでしょうか。冨山 これまでは人手が余っていましたから、それを吸収するためには生産性の低い企業や産業が存続することが、必ずしも悪いことではなかったのです。ローカル経済圏の主役は労働集約的な非製造業、いわゆるサービス業ですから、それらを低い労働生産性のまま、金融措置や助成金で延命させるということをやってきたのです。人手不足のいま、これを続ける理由はなくなりました。生産性の低い会社は退出するか、生産性の高い会社や業種を応援して、そこに雇用を引き取ってもらう、ということが政策の基本になります。産業政策と社会政策は別ものである荒田英知・PHP総研主席研究員荒田 これまで地方自治体は、地域の産業政策と称して、地場企業に対してさまざまな補助金や助成金を出してきました。しかし、それは産業振興政策というよりも、延命するための社会福祉政策になっているのが実態だと思います。冨山 バブル崩壊以降は、人手余りは続いていましたから、それを失業という形で顕在化させるよりも、企業の側に社会政策を代替してもらったということですね。その限りでは延命政策は功を奏したといえなくもありません。しかし、いまや人手不足の局面ですから、そういう政策を引っ張る必要は社会政策的にもなくなったのです。荒田 「緩やかな退出」という方向性は地域で共有できると思うのですが、それが予定調和的に進むとは限りません。ご著書では地域金融機関の「目利き」としての役割を重視していますが、はたして金融再編が続いた中で地場の金融機関にそうした人材が育っているかが気になります。冨山 結局は人材の問題に帰着します。解決策は2つしかなくて、もし大都市と地方で人材の不均衡があるなら、それをどう還流させるかです。ちょうど、当社(経営共創基盤)のスタッフがみちのりホールディングス傘下の東北のバス会社に張り付くイメージです。もう1つは、どこにも人材がいないなら、時間をかけて育てるしかないということです。荒田 地域のコーディネート役としては、地方自治体への期待もあるのですが、多くの場合は目利き役までは期待できそうにありません。しかし、たとえば農業の退出戦略を考えようとすると、農地の土地利用の問題とか、自治体の積極的な関与というかデザイン力が求められる場面も想定されます。冨山和彦・経営共創基盤代表取締役CEO冨山 ここは難しい問題です。役人が「こういう風にすれば、うまくいく」というように商売の中身に口を出すと必ず失敗します。それは無理なんです。それができるなら自分でやればいい。そうすると自治体ができることは何か、という話になります。地方自治体にしても中央政府にしても政府部門の役割は、能力があってやる気のある人たちが起業しようとした時に「邪魔をしない」ことにつきます。邪魔の仕方には2つあって、1つは余計な規制をいっぱいつくること。2つめは能力もやる気もない人でも貰える補助金をつくることです。弱者救済型のお金の出し方はダメです。この2つをずっとやってきたのです。大事なことは、規制にしても政策金融による支援にしても、よりイノベイティブで高収益な会社、ブラックな会社よりもホワイトな会社の方が得をするような監督や支援の仕方をすることでしょう。荒田 そういう見極めは、中央政府が一律にやるよりも、本来なら地域に密着した地方自治体の方が得意でないといけないですよね。冨山 それはそうです。近くでみた方が、規制やお金の使い方は判断がしやすいでしょう。だからこうした政策転換の効果をきめ細かく測定して、PDCAを粘り強く回す役割は重要です。けれども、近くにいると弊害もあって、近くの困った人たちがすごい勢いで来るので、しがらみでたいへんなことになります(笑)。その意味では、近いのと遠いのと五分五分でしょうか。しがらみにお付き合いしなくて良い防衛線を国が設定して、自治体が「国のせいでできません」といえるようにしてあげることも必要かもしれません。荒田 だれが悪者になるか、という話ですね。冨山 ある意味、不利益の再分配ですからね。従来は強い人も弱い人も救われるやり方をやってきました。結局、弱い人が足を引っ張って全体が沈んでいくという構図が地方の産業にはあったわけです。これを「強い人は天まで上がれ、弱い人は穏やかにエグジットを」ということを進めていくわけですから、前者は応援するけど後者はできないというルールは、現場から離れた霞が関で決めた方がうまくいくのではないでしょうか。 社会政策的にみれば、これには不公平感があるでしょう。「強きを助けて、弱気を挫いて」いるような見え方をするんです。でも、産業政策とは、そういうものです。「強きを挫いて、弱気を助ける」のは社会政策の役割です。社会政策は本来的には企業ではなく個人に対して講じられるべきでしょう。企業に対して社会政策をやると、成長力を阻害するという大きな社会的コストが発生するということを肝に銘じるべきです。地方に足りないのは「高質」な仕事冨山 人手が不足している局面では、企業に雇用を吸収してもらう必要はなくなります。むしろ期待すべきは、生産性と賃金をあげること。「地方に仕事がない」とよくいいますが、地方でバス会社をやっている実感からするとウソです。都会よりも生産労働人口が先行的に減っているので、量的な意味での仕事は相対的に十分にあるんです。地方に足りないのは「高質」な仕事です。賃金水準が高く、雇用形態が安定的な仕事がない。現実に、地方で公共工事を増やしているけれども消化できずにいます。あれだけ労賃が上がっているのに、やる人がいないんです。理由は簡単で、仕事がハードということもあるけれど、工事が終わったら仕事がなくなるということをわかっているから。一方で、継続的に雇用されるサービス業の方は相対的に賃金が安い。そうすると、高質な仕事はなんとなく東京にあるように錯覚して、「都会へいってみよう」ということになる。ところが実は、東京でも事情は同じで、一般事務職の正社員という雇用はほとんどないんです。地方から出てきた若者が、気がついたらコンビニや居酒屋のバイトだった、ということになっています。荒田 都会に出て行っても、地方で就ける仕事と大差なくなっていると。冨山 そうなってしまうんです。これは不幸な状況です。もちろん、運のいい人は最近のユニクロみたいに正社員化の流れに乗ったりします。この流れを全国に広げるべきです。なぜユニクロが正社員化できるかというと、高生産性だからです。赤字の会社に賃金を上げろといってもできません。つぶれますからね。まず、赤字の会社が生産性を上げて黒字にするのが先なんです。黒字になったら賃金を上げられます。これが地方の企業のやるべきことです。荒田 今回の地方創生の成否を占う尺度として、若者の流出に歯止めがかかるかがあります。潜在的な大都市への憧れに対抗できるだけの、働く場としての地方都市の魅力をいかにつくるかが問われていると思います。ご著書では、退出と集約が進んだ後の課題として、寡占的安定と適度な規律の両立が重要と指摘し、それを実現する仕組みの一つとして「非営利ホールディングカンパニー」という概念を提唱していますが、どのような形態なのでしょうか。冨山 株式会社と公益法人の中間形態として、医療・介護をはじめとした公共性の高い分野で成立可能とみています。サービス産業はもともと公共性の高い分野ですから。公共交通も当てはまるかもしれません。教育もいけるかもしれませんね。そうした領域で生産性を高めていくためのフォーマットとして、このやり方があるのかなと思います。サービス産業の中でも、社会福祉系に加えて地方公共交通は隠れた成長産業なんです。要は高齢者が増えるからです。 こうした産業分野は、資本価値の最大化だけの価値観で走られたのでは困るんです。典型的なマルチステークホルダー型の企業形態です。社会や公共の利益と株主の利益、従業員の利益、サービス受益者の利益それぞれを持続的にバランスを取る。地域の中で共創共生的にやっていくための会社のガバナンスのあり様なんです。だから、資本の構成は工夫する必要があります。近年、アメリカでも広がっています。荒田 日本でも再生可能エネルギーを大手資本でなく地域主導で進めていこうという問題意識をもった地域で、似たようなスキームが生まれています。たとえば長野県の飯田市では市民出資の「おひさまファンド」を活用して、公共施設や一般家庭の屋根にソーラーパネルを置いて太陽光発電の普及を進めています。ここでも持続性が活動のキーワードになっています。冨山 エネルギーも公共的ですから、似ていますね。持続性というのがとても大事なんです。G(グローバル)の論理でいくと、グローバル競争に生き残るための持続性の方が大事になってしまうから、L(ローカル)における持続性は犠牲にして、グローバルでトータルに生き残るという志向になります。このグローバル経済圏の論理を地域に持ち込むと必ず軋轢が生じます。地域はあくまで地域循環型のモデルを考えなければなりません。荒田 持続的な地域循環モデルを構築するためにも、退出と集約を進めるべき分野があるのかもしれません。医療・介護に加えて、公共交通、エネルギー、場合によっては教育はどうでしょうか。冨山 教育の生産性格差も極めて大きいと思います。今日の公共サービスは、経済的な自立力と公共的な責任との関係がトレードオフではなくて、経済的自立力が高いから、より少ない税金でより高い公共サービスを担うことができるという関係になっています。したがって、より高い生産性や付加価値をより高い効率で実現するということからすれば、生産性の低い人は公共性という付加価値をつけることができないということになります。結局のところ、良い経営をするという点においては、教育機関も同じだと思います。 短期的な収益性を追求するだけなら、バス会社でも古いバスを使い続けて排気ガスもどんどん出せばよいということになります。しかし、それでは地域と折り合いがつかなくなります。持続性がないのです。そういう会社で働きたいと思う人も減っていきます。地域と持続的に共創共生していくという命題が入った瞬間に、先ほどのトレードオフの議論はナンセンスなものになってしまうのです。 Gの世界の人はLの世界から逃げも隠れもできるんです。地域から逃げも隠れもできない存在が大事で、だから金融でいえば、地域金融機関が大事なんです。ほかの地域では競争力もなにもないから(笑)。彼らは、地域の中でやっていくことにこそ比較優位があります。《社会変革プラットホーム「変える力」より》※この記事は全2回のうちの第1回です。第2回はこちら。http://www.kaeruchikara.jp/article/1552/?Page=4冨山和彦(とやま・かずひこ) 株式会社経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO。1960年生まれ。ボストン コンサルティンググループ、コーポレイト ディレクション代表取締役を経て、2003年、産業再生機構設立時に参画し、COOに就任。解散後、IGPIを設立、数多くの企業の経営改革や成長支援に携わる。現在、オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役、経済同友会副代表幹事、財務省・財政投融資に関する基本問題検討会委員、内閣府・税制調査会特別委員、文部科学省・国立大学法人評価委員会「官民イノベーションプログラム部会」委員、経済産業省・「稼ぐ力」創出研究会委員、金融庁・コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議メンバー、公正取引委員会・競争政策と公的再生支援の在り方に関する研究会委員等を務める。著書に、『会社は頭から腐る』『結果を出すリーダーはみな非情である』(以上、ダイヤモンド社)、『カイシヤ維新』(朝日新聞出版)、『挫折力 ‐ 一流になれる50の思考・行動術』『30代が覇権を握る!日本経済』『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(以上、PHP研究所)などがある。荒田英知(あらた・ひでとも) 政策シンクタンクPHP総研 地域経営研究センター長 主席研究員。1962年、福岡県生まれ。85年、鹿児島大学法文学部を卒業。同年PHP研究所入社。 87年から、同研究所内に松下幸之助が設立した新政策研究提言機構「世界を考える京都座会」の事務局に勤務し、 各種研究プロジェクトのコーディネーターを務める。89年に京都座会の国土創成研究会が提言した「ジャパン・コリドール・プラン」は、 リニアモーターカーの活用による均衡ある国土利用の実現をめざしたもので、 新聞などで「民間版四全総」とも評された。これを契機に、 地域政策分野の研究に専念。 独自の視点からの自主研究や講演活動に取り組んでいる。これまで、全国各地の地域連携や広域行政、市町村合併などを数多くフィールドワーク。 「平成の大合併」以降の市町村のあり方についての諸方策や、大都市制度・地域主権型道州制について研究・活動している。関連記事■ 地方経済を再生させる「企業とまちのたたみ方」〔2〕■ 人口減少時代の自治体像 ~不都合な現実を直視せよ■ 「ネオ・アベノミクス」のすすめ■ 中国のこれからと日本が果たすべき役割〔1〕■ 「ザクとうふ」の相模屋食料、急成長の秘密

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    日本はイタリア地方都市のように国家や政府に頼らず世界化を

     消費税増税をなんとか実施したい安倍政権にとって、「地方創生」は最重要課題である。関連2法が成立したが、法律ができたところで、地方が蘇ることはない。そう断言する大前研一氏が、地方創生のモデルプランを提起する。大前氏はイタリアのあり方に注目しているようだ。* * * イタリアは財政破綻国家という印象が強いが、実は国家が滅びても地方は全く困らない。それどころか、どっこい地方は栄えている。なぜなら約1500の小さい町の大半が自前の産業を持って世界化し、経済的に自立しているからである。いわば「国破れて地方都市あり」なのだ。 もともとイタリアは都市国家の集合体である。都市国家は「自衛」「自治」「自分で稼ぐ」という意識が非常に強く、その歴史と伝統から各地方都市の多くが「世界で1位のものを1つだけ」作っている。バッグの留め金だけ、ベルトのバックルだけ、照明器具だけといった具合である。 たとえばニットの伝統的な産地は、カルビという人口1500人ほどの小さな町だ。ニットは、とくに女性ファッションで非常に重要な商品であり、その中心地のカルビでは年1回、来シーズンのファッションのためのニットショーが開かれる。そこに世界中から有名なファッションデザイナーやバイヤーがやってきて、翌年の商品を注文していくのだ。 イタリアに見習いたいもう1つのポイントは、生産部門を他国に切り離しても、デザイン部門は頑として動かさなかったことだ。 靴やバッグをはじめとする革製品、洋服、家具などの製造部門はトルコやルーマニアに拠点を置いて製造ノウハウを移転しているが、デザインだけは絶対に教えない。 イタリアからデザイナーが金曜日の夜に現地へ飛んで日曜日の夜に帰ってくる、というようなことまでして死守している。イタリア製品にとってデザインは“生命線”だからである。 一方、日本の地方都市で自前の産業を持って世界化している例としては、福井県鯖江市の眼鏡フレームが挙げられる。しかし、残念ながらOEM(相手先ブランド名製造)が大半で、世界に通用する自前のブランドを持っていない。デザインを他人に依存し、受託生産しているのが現状だ。 あるいは日本には、陶磁器なら薩摩焼や伊万里焼、九谷焼など素材としては素晴らしい伝統工芸品がある。しかし、海外では知名度がまだまだ低く、多くの上流家庭が食器棚に並べている常備品にはなっていない。 今こそ、産地の市町村がイタリアの地方都市のように、国家や政府に頼らず自力で世界化を目指すべきであり、その気になれば高額商品を世界中に普及・販売することも不可能ではないはずだ。 実際、イタリアに限らず、ドイツのマイセンやローゼンタール(以下、陶磁器・洋食器の産地・メーカー)、デンマークのロイヤル・コペンハーゲン、イギリスのウェッジウッド、ハンガリーのヘレンドなどはそれを実践し、世界に高額商品を売りさばいている。 日本の地方がイタリアモデルに学ぶべきことは、実に多い。もはや、選挙対策にすぎない「地方創生」などのスローガンを掲げる国家には頼っていられないのである。関連記事■ 地方の人口減少や都市の高齢者激増等の今後の対策を考える本■ ポルノ産業1人あたり売り上げ 韓国が世界一、日本は2位■ 長岡市名物の「イタリアン」 全国区だと信じている市民多い■ Jポップの歌詞の分析を基にしながら今後の日本を考える社会論■ 日本人のSEX 回数はギリシャの29%で快感達成率は伊の41%

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    東京一極集中が地方を救う

    地方創生」―。この言葉のモヤモヤ感がたまらない。日本の人口がどんどん減り、海外との競争がより厳しくなる将来を考えれば、地方よりも前に東京や大阪などの中核都市の競争力をもっと引き上げる必要があるのではないか。このままでは世界はおろか、アジアの都市にも勝てない。

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    世界であまり例がない 東京一極集中の是非を考える

    矢理に地方分散投資を急ぐのではなく、ヒト・モノ・カネの地方分権をした方が効果的だ。 安倍晋三政権の「地方創生」がその突破口になるべきであるが、どうも道州制のような長期ビジョンがなく、小粒感は否めない。関連記事■ 自治体の消滅 「東京集中」破綻の警告だ■ 石破氏、「地域再生」キーワードは自立■ 地方の生き残り、30万都市圏で若者定着を

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    それは「東京」でなければいけないのか

    2期」を迎えることになった安倍政権によるアベノミクス。その目玉として掲げられるローカルアベノミクス=地方創生の理論的支柱となっているのが、元岩手県知事で日本創成会議座長を務める増田寛也氏だ。その著書『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』(中公新書)は「このままでは896の自治体が消滅しかねない」と訴えかけ、大きな衝撃とさまざまな議論を呼んでいる。 「消滅」の真意や東京一極集中の是非、にわかにクローズアップされてきたコンパクトシティ構想の実現可能性について、エコノミストの飯田泰之氏が聞く。異なる「地方」観と異なる政策が必要だ飯田:ご著書の『地方消滅』については類書や批判本が書店店頭に溢れていて、もはやひとつのジャンルになってしまった感さえあります。これだけ多くの方にインパクトを与えた背景には、現内閣の掲げる「地方創生」以前から、地方が危機に瀕しているという問題意識が広く共有されていたことがあったのだと思います。その分、このタイトルは衝撃的でしたし、やはりそうか、と多くの人に再認識させるものでした。 お話をうかがっていく前に確認させていただきたいのは、この本が前提としている「地方」のスケール感です。というのは、人によってこの言葉でイメージする人口規模や広さは、大きく異なる印象があります。増田寛也氏増田:厳密な定義ではなくあくまでも指標ですが、まずは人口40万人以上の都市が地方経済の牽引力にならないと厳しいという実感を持っています。それらが活躍すれば、その近隣の5万~10万人都市や中山間地域でも、波及効果や機能連携で住みやすくなりますし、20万~30万人都市であれば40万人都市との共生で、独自の産業や雇用を生み出すこともできるでしょう。サービス産業が成立するかどうかがひとつの試金石になります。飯田:牽引役が必要だということですね。増田:そうです。それによって日本の人口の大きな部分を抱えている5万~10万人都市も、住みやすい地方であり続けることが可能になるでしょう。 中山間地域、5万~10万人、20万人以上、40万人以上、それぞれに機能分担をして別の施策を考えていくべきだと思いますが、この議論をすると「20万人以下は捨てろということか」という批判を受けやすい。それはまったくの誤解で、実際にこの本では全国の市町村区の将来人口推計を掲載して、モデルやスケールを分けて考察しています。増田:さらに「地方」は東京以外の話ではなく、たとえば豊島区など、東京23区にも消滅可能性があることを指摘しています。この本での「地方」とはすべての自治体のことなんです。飯田:基礎自治体の維持可能性を検証している、と。増田:そうです。ですからいわゆる「田園が消滅する」「里山が放棄される」といった議論ではありません。飯田泰之氏飯田:「限界集落をどう維持するか」という議論でもないということですね。増田:それはまた別の社会政策的アプローチが必要になるのだと思います。飯田:この本への批判にも、議論が混在している印象がありましたが、いまのお話で論点がクリアになったように思います。 増田さんは1995年から2007年までの3期12年間にわたって、岩手県の知事としてご活躍されてきました。私も縁があって岩手県にはよく行くのですが、県全体で見ると都市機能の多くは盛岡市に集約されていて、三陸沿岸部は漁港とそれに付随する施設や産業などで街が構成されている印象です。逆にいえば大きな漁港のない地域は厳しい状況にあるように思います。 これは全国共通の問題で、4月に施行される改正地方自治法では人口20万人以上が「中核市」となりますが、実際はほとんどの場合は「まず県庁所在地をどうするか」ということになるだろうと思います。それらが活性化して地方経済の牽引力になるために、必要な産業とは何でしょうか?増田:人口減少が続く岩手県内でもトヨタ関連やセブン-イレブン・ジャパンなどの大型の企業誘致を続けている北上市の場合、2014年11月時点での有効求人倍率は1.87倍で、地元だけでは労働力が不足している状況です※。 海外との競争力のある製造業のある都市とその周辺地域では、まだ可能性があります。ただ、製造業誘致はどこでやってもうまくいくわけではありません。 やはり柱は広義のサービス産業になっていくでしょう。百貨店や商店などの物販はある程度までeコマースに代替されてしまうでしょうが、交通事業者や医療介護など、人的資本が必要とされる業種そのものは高齢化で今後しばらくは需要が増していくはずです。こういった業界が、若者にもっと給料を払えるようにならないと厳しい。※参照記事:「岩手日報」2015年1月5日付労働力不足に外国人採用の動き 北上、数百人規模かhttp://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20150105_1飯田:製造業は大きな工場が来た時の、雇用へのインパクトが非常に大きかったですし、しかも被雇用者の熟練が進むという大きなメリットがあります。だからこそ、これまでの雇用政策では企業誘致の花形だった。その一方でサービス産業は、「食べさせられる人数が少ない」という点からこれまでの地域雇用政策ではともすると軽視されていたように感じます。増田:サービス産業ひとつひとつはそれほど多くの雇用を抱えることはできませんが、現実に製造業をはじめとして他産業がどんどん衰退しています。製造業頼みはシャープの亀山工場のように、ほんの数年で状況が一変することもあり、かなり厳しいでしょう。飯田:これから増やすという目標を発生するためには輸送条件に優位性がないと厳しいですよね。その意味で製造業立地に向く都市は幸運だということにはなる。増田:おっしゃる通りです。新たに公共事業を行って立地環境を整えるような時代ではなくなっています。現状のなかでのベスト、新しい産業の芽が残っているのがサービス産業であるならば、そこで新しいビジネスやサービスの可能性を探っていく必要があるでしょう。農業や漁業など第一次産業に優位性があり他の産業が難しい地域では、中核となる都市との連携を考えなければいけない。そのためにも中核となりうる集積地でいろいろな施策を打って、周辺地域の牽引力となってもらう必要があります。政策的に集住を進めることは日本ではとても難しい面があるので、今ある集積地への政策がカギになると思います。「それでも東京にいる意味」を問いなおす飯田:この「WEDGE Infinity」でも対談をしたまちづくりコンサルタントの木下斉さん(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4257)は、若者が安心して小さなお店を起業しやすい街が若者にとっての「住みたい街」になることを重視しています。中央からの目線では...。増田:そう思います。地方には空き家も空き店舗もたくさんあります。本来はこれらを無料で貸し出して、維持管理はテナント側にやってもらうくらいでもいい。でもそうなっていないのは、そんな視線をもったプロモーターがいないからです。商工会議所も商工会も身内で固まっていて、なかなか新しい風が入らない。増田:大都市の大学を出た人の雇用がないのは大きな問題で、とくに若い大卒女性にとって魅力のある職種が不足しています。おっしゃるように小さな商売を起こしやすいことはその魅力になりえますが、それは従来型の商売とは違うので商工会にも自治体にもノウハウがありません。金融機関がノウハウを提供してくれるのがもっとも相応しいのですが、そうなってもいません。飯田:自治体や商工会、商店街が音頭を取ると行政にお願いして立派な複合施設を建てるとか、そういったことになりがちですね。増田:ハコモノに目が行きがちですね。飯田:立派なハコの建築費から家賃を逆算すれば、その家賃を払えるような新規事業者はいなくなってしまうので、東京からチェーン店を誘致することになる。増田:チェーン店は撤退する逃げ足も速いですし、地元のお祭りにもなかなか参加してくれません。ハコを作るにしても小さな起業者を集められるような設計が必要ですね。飯田:私はJC(公益社団法人日本青年会議所)のイベントや講演のお仕事をさせていただくことが多いので、地方の商店主の二代目、三代目の人たちと接する機会は少なくありません。しかし、彼らのなかでも東京の大学を卒業していて、今でも月に2回くらいは東京に来ている、そんなライフスタイルの人が少なくない。継ぐ商売があるから故郷に帰っているわけですが、継ぐものがない人はやはり東京周辺に住み続けることになるでしょう。高校までは地方で教育を受けた人的資本が東京に集中しているわけです。裏返せばよそが育てた人的資本が集中しているからこそ、東京は生産性が高いということでもあります。 この状況を転換させることは容易ではないですが、東京一極集中を避けながら、クリエイティブなビジネスを地方に集積させ維持するためには何が必要なのでしょうか?増田:その答えは、おそらくまだ誰も持っていないのでしょう。東京への集積をいたずらに崩すことは、日本全体にとってかえってマイナスです。 しかし東京という都市の持続可能性を見れば、集積により地価も高くなっていて現役世代が土地を取得することも家賃を払うことも厳しい。高齢者の介護施設入所待ち、いわゆる「待機老人」も43000人に上ります。これは団塊世代が後期高齢者になる時点で一気に増えることになります。増田:高度経済成長は人口移動で見ると、東京に集めるだけの一方通行で、集まった人間が適度に散らばることはありませんでした。もちろん、それを今度は東京の都合だけで高齢者を地方に分散させるというわけにもいきませんが、何らかの方法で人口は対流させないと、若者にとっても住みにくい国になってしまいます。高齢者だけではなく待機児童問題の深刻化もご存知の通りです。 暮らしやすさという意味の利便性は、東京よりも地方都市にあります。とはいえ二地域居住は富裕層にしかできませんし、東京の郊外から都心部に通うのでは通勤時間ばかり長くなります。若年層では往復3時間を超えるような人も増えていて、生活しやすい状況とはとてもいえません。 集積のメリットは享受しつつ、生活の利便性を保つには、東京に集めざるをえない機能とそうではないものを切り分ける必要があります。たとえば小松製作所は教育研修部門を、創業の地である石川県小松市にすべて移転させました。主要工場である粟津工場もあり研修効果も高く、宿泊施設は作らずにすべて市内の旅館などを利用するので、宿泊や飲食といった経済効果も地元に還元できます。工場の跡地に大きな体験型広報施設(こまつの杜 http://www.komatsunomori.jp/)を作るといった取り組みもされています。 高い地価を払ってでも東京での集積が必要な部門と、そうではない部門はどの大企業にもあるはずです。ICTも大いに活用できるでしょう。高い地価や生活環境の悪さに見合う対価を得ているか、考えるべきでしょう。ますだ・ひろや 1951年東京都生まれ。77年に東京大学法学部卒業し、建設省入省。95年から2007年まで岩手県知事、07年から08年まで総務大臣を務める。2009年より、野村総合研究所顧問、東京大学公共政策大学院客員教授。2011年より日本創成会議座長。いいだ・やすゆき 1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。やなせ・とおる フリーランス編集者、ライター。1972年伊豆大島生まれ。企画・編集をした本に飯田泰之・雨宮処凛『脱貧困の経済学』、五野井郁夫『「デモ」とは何か―変貌する直接民主主義』、若田部昌澄『もうダマされないための経済学講義』、五十嵐泰正・他『みんなで決めた「安心」のかたち―ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年』、片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』など。※この記事は前篇です。続きの後篇はこちら。http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4731関連記事■ 自治体の消滅 「東京集中」破綻の警告だ■ 石破氏、「地域再生」キーワードは自立■ 地方の生き残り、30万都市圏で若者定着を

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    農業による地方創生は「日本全国、ブルゴーニュ化」

    淳(東洋学園大学教授) 内閣改造後1カ月、安倍晋三内閣の政策課題の柱として位置付けられているのは、「地方創生」である。筆者は、本来、対外関係に掛かる政策にもっぱらの関心を抱いているので、内治に掛かる政策には特段の知見を持たない。ただし、筆者は、青森県八戸市から「八戸特派大使」を委嘱されている立場上、どのような対外戦略の相の下に地方振興に掛かる政策が展開されるかには、相応の関心がある。日本の「ブルゴーニュ化」 石破茂地方創生担当相は、農業を「地方創生」の中核として位置付ける旨、語っている。「和食」が世界文化遺産に登録された流れの中では、石破大臣の認識は、正しいのであろう。それならば「地方創生」を対外戦略に位置付ける論理は一層、明確にされてよい。 筆者は、農業を軸とした「地方創生」の理念は、「日本全国、ブルゴーニュ化」とでも呼ぶべきものなのであろうと考えている。フランス・ブルゴーニュ地方が、その豊かな食文化によって世界の美食家にとっての「憧憬(しょうけい)の場所」になっているように、日本という国というよりは日本の各地方が、海外から憧憬のまなざしを向けられるようにしなければならない。 ちなみに、たとえばフランス産ワインには、ブルゴーニュに限らず、ボルドー、シャンパーニュ、ロワールといった産地があり、中でもボルドー・メドック地区産のものは、5つの階級に格付けされている。その格付け筆頭に位置付けられるワインには、高名な「シャトー ラトゥール」や「シャトー マルゴー」といった銘品が含まれる。 こうした「平等」の建前に反するような仕方もまた、実は海外からの憧憬の感情を刺激する仕掛けになっている。日本酒や牛肉に代表される農産品を海外に展開するに際しては、たとえ日本国内での「摩擦」を覚悟してでも、こうしたフランスの仕方に倣うことは、大事であろう。称号を付けて銘品を紹介 加えて、この文脈で参照すべきは、英国における「ロイヤル・ワラント」(英国王室御用達)制度である。 19世紀、ビクトリア女王統治期の英国では、安価な外国産品から国内産業を保護するために、12世紀に始まっていた「ロイヤル・ワラント」制度の拡充が図られた。「ロイヤル・ワラント」一覧には、紳士服、靴、革製品、陶磁器から紅茶、文房具に至るまで、「英国の魅力や声望」の代名詞として諸国の名士たちの垂涎(すいぜん)の的になった銘品の名前が並ぶ。吉田茂が「ターンブル・アンド・アッサー」でシャツを仕立て、「ヘンリー・プール」で紳士服をあつらえていたという挿話は、そうした銘品に反映された「英国の魅力や声望」の意味を物語る。 ちなみに、NHK-BSプレミアムが放映する『イッピン』という番組では、日本各地の銘品が紹介され、たとえば「愛媛・今治のタオル」「岩手の南部鉄器」「新潟・燕のカトラリー」「岐阜・関の包丁」「広島・熊野の筆」といったものが取り上げられている。筆者の提案は、こうした各地の銘品に「日本のロイヤル・ワラント」の称号を付した上で、海外に広く紹介していくことである。 実は、明治以降、昭和20年代までは、宮内省御用達という「日本のロイヤル・ワラント」制度は厳然として存在し、それは近代日本の「殖産興業」の一翼を担っていた。現在、東京・銀座に軒を連ねる老舗の名店には、過去に宮内省御用達の栄誉を拝していた事例が多い。 無論、昔日の宮内省御用達制度と同じものを平成の御代に復活させることが適切であるかは、意見が割れるかもしれないけれども、こうした日本各地の銘品が銘品である所以(ゆえん)を世界中に認知させていく仕組みは、適宜、用意されていくべきなのではないか。 「メード・イン・ジャパン」の質の高さは、既に広く知られているかもしれないけれども、今後は、「どのような『メード・イン・ジャパン』か」が問われることになるであろう。そうしたことを海外に緻密に伝える努力は、決して十分であるとはいえないではないか。地方の魅力を海外に伝える 「地方創生」という政策課題ですらも、「グローバリゼーション」が進展した現状では、対外戦略における位置付けを考慮しないままならば、実の伴った対応は難しいであろう。目下、「クール・ジャパン」の言葉で「日本の魅力や声望」を伝える努力は、さまざまに行われているかもしれないけれども、「地方創生」の文脈で主眼が置かれるべきは、たとえば「青森の魅力」や「島根の魅力」といったように、それぞれの地方の魅力を直接に海外に伝える努力である。 前に触れた日本各地の銘品は、そうした努力に「説得性」を与える材料として扱われるべきものである。「地方創生」の文脈で考慮されるべきことは、多面的である。関連記事 ■ 安倍首相は「中興の祖」となるか■ 石破氏、「地域再生」キーワードは自立■ 地方の生き残り、30万都市圏で若者定着を

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    新幹線で地方は復活するのか

    、ライター) 人口減少の進行と地方経済の衰退を受けて、第二次安倍改造内閣が重要課題として掲げている「地方創生」。「官僚や有識者を地方に派遣し、地域の声を聞く」「補助金バラマキにはしない」などと政権内部からは勇ましい声が聞こえてくるが、具体像はまだ見えていない。 一方で、「創生」される側である地方に目を移すと、B級グルメやゆるキャラのブームが全国津々浦々まで浸透した感もあるものの、それによって本当に地域の活性化は果たされたのか、疑問も多い。 まちをひとつの「会社」に見立てて経営を立て直す事業に携わる木下斉氏と、経済学の立場から都市と地方のあり方を模索する飯田泰之氏の対話は、戦後日本と地方の関係を象徴する「新幹線」を問い直すことから始まった。交通網の発達で 人もお金も地方から大都市へ 木下:北陸新幹線が来年の春に開通します。地方には相変わらず新幹線待望論が根強いのですが、それが果たして地域活性化につながるのかというと、そうとは限らないと思うんです。つまりそれで地元に流入するお金が増加するのかという問題ですね。 飯田:新幹線の駅があるということには、とてつもないメリットがありますが、それは移動する人、つまりは頻繁に地域間を、もっといえば東京とその地区を行き来する人にとっての利便性でしかないですよね。 木下:その移動に関するメリットは絶大ですよね。地方から仕事の依頼を受けるときも、近くに空港か新幹線駅があるかどうかはすごく気になります。どちらもない場所に行くためには半日、場合によっては丸一日かかってしまう。地域外から行く人にとってのハードルは、きわめて高いですよね。飯田泰之さん(左)と木下斉さん(右) 飯田:そうですね。空港から大きな街が近いとか新幹線の駅前が中心街という地区だと下手すると関東近県のちょっと不便なところよりも「東京に近い」とさえ感じられますからね。 木下:地元の方にとっても利便性がまったく違います。アクセス圏内に駅か空港があれば、地域内から地域外への人の移動は確実に増大します。 飯田:入ってくる人が多くなるということは、出ていく人が多くなるということでもありますよね。 木下:まず個人的なレベルで言えば、お金も時間があるから当然ですけど、やはり富裕層ほど移動が多くなります。知り合いの地方在住者でも、空港の圏内に住んでいる人の中には、年間の交通費が300万円を超えるという方もいます。彼らはちょっとした集まりがあれば、すぐに東京に出てくる。東京にセカンドハウスをもって行き来している場合もあります。国内なら飛行機だったらまぁ1時間半くらいですし、新幹線でも5時間あれば東京などに出てこれる。お金に余裕があって、消費意欲がある人の財布ほど、多様な消費する場が集積している消費地に吸い寄せられてしまう。木下斉さん 企業などの場合にも、新幹線が開通すれば、それまで分散して支社・支店を設けていたものを統廃合してしまいます。出張で行き来できるような範囲にわざわざ事務所を固定的に置くことはしません。ましてや地方は市場縮小のプロセスにあるので、より効率的な配置をしていく。東京資本の企業の支店勤務者は地方では高所得者層になり、地元消費でもそれなりのポジションを占めていたのが、一気に薄くなってしまう。事務所機能なども新幹線などの高速移動網で接続された大都市に、一気に吸い上げられていく。 飯田:交通網の発達により、人とお金が地方から大都市に吸い寄せられてしまう「ストロー現象」は以前から指摘されています。近年の典型例は東北新幹線でしょう。割を食うかたちになったのが盛岡と仙台です。 僕自身は、4時間以内の移動時間だったらなるべく電車で動きたいんですよ。飛行機は本数も限られているし搭乗前に余分な時間を40~50分は取られてしまうこともある。それに比べると新幹線はギリギリに飛び乗ることができますから。『Wedge』も新幹線で毎号読んでいます(笑)。 木下:「買っています」じゃないんですね(笑)。地方の方でもグリーン車に乗っているから読んでいるという方は多いですね。 飯田:まさに地方の富裕層が、東京に出てきて消費してしまう。これは地元経済にとっては非常に深刻な問題です。日本におけるお金持ちはいわゆる名家や地元財界人、医者。そういう人たちが、地元のデパートの外商部を家に呼ぶ、そんな文化は交通網の発達により、おそらくほとんど消滅してしまいました。お客が少なければ品揃えも薄くならざるを得ません。その結果ますます地元百貨店よりも東京や大阪に行って消費ということになるわけです。 木下:そうなんですよね。今の地方の富裕層は本当に良いモノを知っているので、地元百貨店の品揃えではもう満足しなくなっている。消費地に出て行って消費をするというライフスタイルが確立してしまった。北陸新幹線の開通に関しても「これで活性化する」といまだに言われていますが、そんな単純ではない。全国各地の新幹線駅周辺を見れば分かります。普通に東京からの日帰り可能エリアに完全になってしまうわけですから、個人の面でも、企業の面でも、流入よりも吸い上げられる危機感を優先して持ったほうがよいだろうと思うわけです。 飯田:利用する側にとって交通網の整備は本当にありがたい。さらに大消費地にとっては新規顧客のチャンスというわけですが。その一方で、「地元のためになる」を額面通りに受け取ってはいけない部分もあるでしょう。 木下:そうなんですよ、何といっても便利ですからね。「国」という単位で見れば、お金を持っている人の移動が活発になって消費なども喚起され、企業活動が効率化されていくことはメリットですが、「地方」にとっても同じ構造とは限らない。 飯田:交通手段の発達によって、都市への集中はますます進みやすくなっていますからね。 木下:しかも今後はさらにより大きな都市への集中がどんどん進むでしょう。危機感を持たなければいけない人たちが、今は持っていないんです。地域活性化とは「貧困の解消」である 飯田:インターネットが普及し始めたときに、「これで地方でも東京にいるのと同じように仕事ができる」などとさかんに言われました。 木下:はい、リモートワークでどこでも仕事できるという考え方ですね。 飯田:実際は、ほぼすべての実証研究が正反対の結論を出しています。リチャード・フロリダ※などが指摘するところですが、知的生産やクリエイティブと呼ばれるような職種ほど、同じような職種の人たちが集積している場所でないとできないことがわかってきています。 ※リチャード・フロリダ:都市経済学者。「クリエイティブ・クラス」に着目した地域発展論を提唱。邦訳書に『クリエイティブ都市論』(ダイヤモンド社)など。 木下:「分散するだろう」と言われていたのとは、逆の現実なんですね。 飯田:なぜシリコンバレーがいまだに存在しているか、を考えれば明白です。事前の予想では世界で一番リモート・ワークに向いていそうだと思われた人たちが、一番地理的な集積を選んでいるわけです。 木下:物理的に集まっているほうが営業効率も高いし、人材集めも行い易く、何もかもが進めやすいですよね。わざわざ全てを分散させるメリットを探すほうが難しい。しかも多くは付加価値の高い生産をしている人なので、大都市で暮らすコストは吸収できてしまいます。余暇に海や山に行けるのは地方に暮らしたり、サテライト・オフィスなどを設けるメリットではあるけれど、そこを中心拠点にする理由はなかなか見いだせないですよね。小さいうちはできても、規模が大きくなったらやはり大都市に出てこざるを得ない。 飯田:集中することのメリットは確実にある。その上で、あられもなく根本的な話なのですが、いったい何をすれば「地域活性化」なのでしょうか(笑)。飯田泰之さん 木下:僕らがやっているのは「域内をひとつの会社として見立てる」ということなんです。その上で、その「会社」の収支を改善する。論理はシンプルで、地域に入ってくるお金をいかに増加させ、出て行くお金をセーブするか。域内になるべく留保させて、地域内での消費を活性化させる。それが可能になる環境を整備することが「活性化」、というのが我々の定義です。 飯田:ジェイン・ジェイコブス※の「輸入代替」の視点ですね。入ってくるものを自給できるようにし、内部循環を作るという。 ※ジェイン・ジェイコブス:ノンフィクション作家・ジャーナリスト。主著に『都市の経済学-発展と衰退のダイナミクス』(ちくま学芸文庫)など。 木下:ところが、今は稼ぐ手段もなければ、投資する先も地域内になくて地元外になってしまって、どんどん資金も人材も出て行く一方というのが多くの地方の現実です。「地方の衰退」という言葉で語られることが多いですが、我々はあえて「地方の貧困」として捉えています。 それは如実に「貧困」なんです。教育機会も低下していますし、人口も20万人から15万人、さらに10万人と規模が小さくなっていくと、高校ごとの学力レベルの違いもなくなってきて、みんな同じレベルになってしまう。学力の高い子ほど高校入学時点から地域外に出なければいけない状況になってしまうのは、その地域の人口規模の大きさによって、当然のことですが皆が出せる教育負担の総額は縮小するわけで、結果として教育機会の多様性も失われてしまうからです。高い能力のある人ほど、早い段階で地域を離れるのがその個人にとってプラスになる。そして逆の構造もまたそこにある。これは貧困の連鎖であり、そういう地域を活性化するということは、「貧困の解消」を意味します。結局は産業であり、所得であり、それに紐づく税収の問題です。だからすべての問題が経済に立脚しているともいえますね。 飯田:学歴そのものというよりもその都市が稼げる都市か否かの方が収入には有意に影響するというエンリコ・モレッティ※の指摘がありますが、そのキーになる移住の可能性を高めるのはやはり学歴ではないかと私は考えています。大卒者が少ない地域では、そもそも「大学に行く」という概念が希薄です。これは文化資本の問題ともいえると思いますが、大学に行くカルチャーがなければ、高校受験段階で進学校に行く、行きたいという考え方にも至りにくい。つまりは勉強しなければいけないという空気がないんです。 ※エンリコ・モレッティ:労働経済学者。労働人口や投資、雇用の増減に着目し、都市間の格差拡大を分析した『年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学』(プレジデント社)が大きな話題に。 飯田:先進国に共通の現象として、大卒者の年収はその国の経済成長率とおおむね同じペースで伸びていきます。ところが高卒者の就く仕事の年収はほとんど上がっていない。ただし起業家の年収になると学歴は関係なくなりますが、これも起業というカルチャーがなければ起こらない。 マーケティング理論では「消費者の選択肢に入る」ということが重視されます。人生においても選択肢に入らない、言い換えれば思い浮かばないものを選ぶことはできないんです。起業することを思い浮かべない人は起業家にはならないし、進学という選択肢が頭から排除されている人は大学には行かない。カルチャーの有無は世代を重ねていくことによって、地域間の格差を拡大させます。いわば国がしだいに分解していくことを意味しています。Uターン組が役所に就職してしまう 木下:分離していく方向性はすごく強いですね。地域のプロジェクトを我々がやっていても、不幸だなと思うのは、せっかく東京で勉強したり、仕事して地元に戻ってきた大卒者の方が付加価値を生まない側に回ってしまうことがとても多いんです。つまり、役所などの公共セクターで働いてしまう。 飯田:そうですね。大卒で、地方で、雇われるとなると公的セクター以外に選択肢がないに等しいという地域もあります。 木下:そうです。教育を受けている世代は非生産的な地域のコストセンターに回ってしまい、逆に地元に残った選択肢が少ない側の人達のみが、自分でできる範囲の商売をしているという現実もあります。こちらもまた公務員になる層とは大きく乖離しています。結局は高卒でバリバリ店やっているとか、中小企業継いでいる人とかのほうが地方経済を支えていて、高度教育だけは受けた人材が行政で地域経済の重荷になってしまうという地方の構造があるのです。 木下:例えば、地域で新たな事業をやろうとして、役所の人たちと話していても、埒が明かないことが多いわけです。東京とかでバリバリ事業をやりたいとか、リスクを取って起業しようとかいう志向がないからこそ、地元に戻ってきて役所に就職して落ち着いてしまっている、基本的にはそういう場合が多いわけです。 そういう方に新規事業の話をしても理解してもらえない。目の前に与えられた仕事をちゃんとやろうというモチベーションは正しいものですが、それだけではもうどうにも地方が立ち行かないことが明らかになっているのに、これまでの仕事の枠組み、進め方以外を自分で開拓していこうとは思わないことが多い。しかし彼らは行政組織として許認可を含めた権力を有しているわけです。ただし、若手の一部にはまだ環境に毒されずに、どうにか新しいことに取り組みたいという人もいます。だけど、自分からは行動できない。このあたりを狙い撃ちにします。 一方で、やる気はあってリスクもバリバリとって事業やるけど、権力もなければオーソライズもされていない人たちこそが、地域で様々な事業を起こし始めています。これらの人たちを街で飲み歩いて発掘することも大切です。 権力を持っているけれど自分達が率先して挑戦できない人と、やる気があってバリバリ挑戦するけど地元では公的立場のない人を組み合わせて事業化を図っていく、これは我々の仕事では極めて重要な役割です。外部の人間であり、かつ市役所にも一定認知されている、そういう存在が間をつなぎながら、地元にいても相容れない2つの層が、互いのメリットを認めて事業をやる枠組みにしないと、しっかりとした実績を上げることは難しいです。 飯田:東洋大学の川崎一泰さん(財政学・公共経済学)※の研究では、地方公務員と民間の官民給与格差が大きい地域ほど、労働生産性が低いことが指摘されています。 ※川崎一泰(2013) 「官民給与格差が地域経済に与える影響」,『官民連携の地域再生――民間投資が地域を再生させる』(勁草書房)、第四章。 合理的に判断する人ほど、給料が高ければ公務員になってしまう。地元に愛着を持っていて、地元を何とかしたいと思っている人は多いでしょう。でも、さあ何をやるか、となるとビジネスに向かわずに、地方公務員になってしまう。 木下:もっとビジネスマインドのある人は東京に来てしまうし、海外にだって行ってしまいますよね。おっしゃるように地域内での給与体系は公務員が一番高いケースが多いし、様々な社会保障も恵まれています。ビジネスを起こそうと思った時に、よりチャンスのあるところでと思うのが自然です。 だからある意味で相対的に行政のポジションが低い「大都市集中」が進んでいくのは自然な流れだと思います。せっかく頑張って地元で事業を興しても、役所で淡々と仕事をしている人のほうが給料高かったら、やはりバカバカしくなるし、生産性なんてあがらないですよね。だから、地域で事業を興しても、規模が一定以上になると大都市に拠点をシフトしてしまう人も少なくありません。地域経済の規模は小さい割にしがらみは多くて、さまざまな「調整」もかかったりします。ビジネスの自由さや公正さでいえば、大都市のほうがフェアなんですよね。 飯田:「都市は人を自由にする」は現代にも生きているのかもしれません。よほど強い動機がないと、地方で事業を興して継続していくのは難しい現実があるわけですね。 きのした・ひとし 1982年生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房地域活性化伝道師、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、一般社団法人公民連携事業機構理事。高校時代に全国商店街の共同出資会社である商店街ネットワークを設立、社長に就任し、地域活性化に繋がる各種事業開発、関連省庁・企業と連携した各種研究事業を立ち上げる。以降、地方都市中心部における地区経営プログラムを全国展開させる。2009年に一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス設立。著書に『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)、『まちづくりデッドライン』(共著、日経BP社)など。 いいだ・やすゆき 1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。やなせ・とおる フリーランス編集者、ライター。1972年伊豆大島生まれ。企画・編集をした本に飯田泰之・雨宮処凛『脱貧困の経済学』、五野井郁夫『「デモ」とは何か―変貌する直接民主主義』、若田部昌澄『もうダマされないための経済学講義』、五十嵐泰正・他『みんなで決めた「安心」のかたち―ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年』、片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』など。※この記事は全4回のうちの第1回です。第2回以降はこちら。第2回 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4260第3回 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4262第4回 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4270関連記事■ 3割が地方定住希望 引退後は地方で学生満喫■ 地方の生き残り、30万都市圏で若者定着を■ 石破氏、「地域再生」キーワードは自立