検索ワード:安全保障/279件ヒットしました

  • Thumbnail

    記事

    安倍政権にあって「小池劇場」に足りなかったモノ

    安倍政権への対決軸をどう構築するか、その準備が成熟していなかったことが大きかったように思う。とりわけ安全保障に関する対決軸が未成熟と言わざるを得ない。本稿ではその点について考察してみたい。 小池百合子東京都知事が希望の党の公認を求める民進党出身候補に対して、憲法改正と新安保法制への賛成が条件であり、それが飲めない人を「排除する」と明言したことは、今回の経緯の核心をなす問題だと感じる。希望の党の動きがなければ、今回の選挙は、新安保法制を踏まえて北朝鮮情勢などに対処するという政権側と、新安保法制を廃止する枠内で対処するという野党側が、正面からぶつかる二項対立の構図になる可能性があった。小池発言は、結果だけから見れば、民進党の新安保法制に対する「反対」勢力の弱さを露呈させ、想定されていた対決構図が浮上するのを押しとどめるという役割を担うことになったのである。 ただ、これは小池知事にグチを言っても仕方のないことである。野党側にも問題があるからだ。 では、何が問題だったのか。端的に言えば、新安保法制に反対したとしても、どんな安全保障政策で対処すればいいのか、という対案に説得力が欠けていたことである。野党間の政策協議で一致していたのは「新安保法制に反対」ということだけであり、新安保法制廃止後の国防政策をどうするのかということへの言及はない。つまり、建設的な防衛政策が法案反対野党にはなかったということである。 野党共闘を市民の側から主導したのは「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)である。その市民連合は9月26日、民進・自由・社民・共産の野党4党に対し、衆院選での「野党の戦い方と政策に関する要望書」を提出した。そこにも9条改正への「反対」や新安保法制などの「白紙撤回」はあったが、防衛政策での要望と呼べるようなものは見られなかった。「市民連合」と面会し、プラカードを掲げる(左2人目から)共産党の小池書記局長、立憲民主党の福山幹事長、社民党の吉田党首=2017年10月、東京都千代田区 いま、わが国の眼前で進行しているのは、北朝鮮による核ミサイル開発である。有権者の多くが関心を持っているのに、この問題が政策協議で議題になったとも聞かないし、市民運動も言及しない。国民意識と野党共闘の間には深い溝があったわけだ。 この間、北朝鮮の「完全な破壊」を叫ぶトランプ政権の下で、安倍政権がそれに追随し、新安保法制に基づいて米艦防護などを実施している状況は、有事の際には日本も巻き込まれる危険を示すものであり、この法制の「廃止」には安全保障上の危機が生じる。しかし、法律を廃止したからといって、北朝鮮の核ミサイルに対処できる態勢ができるわけではない。自民党の一部にあるような敵基地攻撃論にはくみしないにせよ、ミサイル防衛システムを整備、改良するという程度の政策も打ち出せないのが一連の野党共闘であった。「総論賛成、各論反対」の共産党 むろん、野党共闘に期待する人々もいたと思う。同時に、目の前の事態に不安を感じる大多数の国民にとって、野党は弱々しく映ったに違いない。このままでは当選できないと感じた民進党議員の中から、持論を曲げてでも希望の党に移りたいという動きが生まれたのには、そういう背景もあろう。 しかし、野党にその気があれば、安全保障問題でも政策協議できたはずだ。この間の野党共闘は、共産党が日米安保条約の廃棄と自衛隊の解消という独自の立場を持ち込まないと明確にしたことで、ようやく成り立っていたものだ。しかも、共産党はただ持ち込まないというだけではなく、新安保法制以前の条約や法律で安保や自衛隊を運用するとまで明言していたのである。志位 私たちは、日米安保条約を廃棄するという大方針、それから自衛隊は、日米安保条約を廃棄した新しい日本が平和外交をやるなかで、国民合意で一歩一歩、解消に向かっての前進をはかろうという大方針は堅持していきたいと思っています。ただ、その方針を『国民連合政府』に求めるということはしない。これをしたら他の党と一致にならない。そういう点では方針を『凍結』する。 ですから、『国民連合政府』の対応としては、安保条約にかかわる問題は『凍結』する。すなわち戦争法の廃止は前提にして、これまでの(戦争法成立前の)条約と法律の枠内で対応する。現状からの改悪はやらない。『廃棄』に向かっての措置もとらない。現状維持ということですね。これできちんと対応する。「赤旗」2015年11月8日、テレビ東京系番組「週刊ニュース新書」での田勢康弘氏とのやり取り 「戦争法廃止以前の条約と法律」と言えば、安倍政権以前の自民党政権時代の条約と法律ということである。そこには条約で言えば、日米地位協定もあるだろうし、「思いやり予算」の特別協定も含まれるということだ。法律といえば、自衛隊法はもちろん、日本防衛とは距離のある周辺事態法も含まれる。これらはすべて、共産党が野党として反対してきたものだ。それでも新安保法制を廃止するために、ここまで踏み切ったのである。この考え方で行けば、既に配備されているミサイル防衛システムの発動や改良にだって「賛成」を明言できたはずである。 ところが、その共産党もメディアに尋ねられれば、ここまで踏み込むのに機関紙「しんぶん赤旗」の記事では、自衛隊について肯定的な報道をすることが一切ない。ミサイル防衛システムを改善するイージス・アショアについても、猛反対の記事ばかりが掲載される。つまり、総論では現状の枠内なら賛成と言いつつ、各論になると賛成できるものを提示できないのである。街頭演説で支持を訴える共産党の志位和夫委員長=2017年10月、東京・新宿 そういう現状では、共産党から他の野党に防衛問題を提起することができなかったのは仕方がない。国民が信頼できる防衛政策を野党共闘が打ち出せなかった理由の一つはここにある。エキスパートでも提起できなかった民進党 一方の民進党には、共産党と共闘することへの躊躇(ちゅうちょ)がもともとあることは理解できる。けれども、民進党が総崩れになったことの本質は別のところにあったのではないか。最初に離党した長島昭久元防衛副大臣は、離党の理由を次のように述べたが、そこから見えてくるものが実に興味深い。 野党共闘そのものを否定しているわけでもありません。まず民進党がしっかりと政策の柱を立てる。その政策に共産党が賛同していただけたとする。そうなれば、『ともに闘う』という形も納得できます。 (しかし)野党共闘路線に引きずられる党の現状に非常に強い『危機感』を持っていました。つまり、共産党が主導するなかで、野党がいわば『左に全員集合』する形になりつつある。 これまで私が書いてきたことを理解していただける方は、この長島氏の言明に違和感を覚えてもらえるのではないだろうか。共産党は、左か右かを分ける分水嶺(ぶんすいれい)である安全保障問題で、魅力ある政策を自分から打ち出せていないとはいえ、野党共闘に独自の立場を持ち込まなかったのである。安全保障に関しては、新安保法制に反対するということを除き、民進党は自由にできる立場にあったのである。だから、長島氏が言っているように「まず民進党がしっかりと政策の柱を立てる。その政策に共産党が賛同していただけた」ということが可能だったのである。 それなのに、長島氏は安全保障政策について「しっかりと柱を立てる」努力をしてこなかった。共産党に賛同を求めるには、まず自分たちの政策の柱が必要だといいながら、実際には何もしてこなかった。その結果、野党共闘は安全保障政策に関しては何一つ提示できなかったのである。少なくとも、この分野では「左に全員集合」の政策など影も形も存在しない。2017年10月、党本部で会見する民進党の前原誠司代表(佐藤徳昭撮影) 民進党の中で安全保障政策の第一人者である長島氏が提示できないわけだから、他の民進党議員が提示できるはずもない。というより、長島氏も含め民進党の議員たちは、そもそも安全保障で安倍政権に代わる「政策の柱」が必要だとも思っていなかったのではないだろうか。 民進党の中にも、安倍政権に対抗するだけのリベラルな防衛政策の必要性を自覚している人が個々にはいる。民主党時代に政権奪取に成功した理由の一つも、「対等平等の日米関係」とか「米軍普天間基地は最低でも国外」として、自民党と異なる選択肢を有権者に示せたことが大きい。しかし、鳩山由紀夫政権が「抑止力のことを考えれば考えるほど」と述べて普天間基地の辺野古移設に回帰して以来、防衛問題で自民党との対抗軸を打ち出す気風はなくなり、現在も全体として問題意識は希薄である。公示直前に立憲民主党を立ち上げた枝野幸男代表も含め、安全保障政策は自民党とあまり変わらなくていいという人が多数だったのである。もう護憲派にも防衛政策は必要だ 結局、問題の根源はここにある。新安保法制への賛否というのは、あくまで安全保障政策全体の中の一部である。民進党の中でその一部を大事に思う人が多かったから、これまで「廃止」で結束し、野党共闘も成り立ってきた。 しかし、そうはいっても新安保法制は安全保障政策全体の一部に過ぎないのである。その安全保障政策が「自民党と一緒でいい」というままでは、民進党あるいは野党共闘は自民党の対抗軸になり得なかったということだ。いや、少なくとも希望の党は、憲法でも安全保障でも自民党と足並みをそろえるが、それでも対決の構図を打ち出している。そういう道も不可能ではないのかもしれない。それに意味があるかどうかは別にして。 しかし、どの野党であれ、自民党に代わる政権を本気で目指すなら、安全保障問題でも対抗軸となるものを打ち出すことが求められるだろう。それがないと、今回のように「自民党と変わらない政党」の軍門にあっさり下ることになる。2017年10月、盛岡市での街頭演説を終え、JR盛岡駅の新幹線ホームで携帯電話を操作する希望の党の小池代表 わが国では、安全保障政策といえば、これまでは政権側のものしか存在してこなかった。というより、米国の抑止力に頼るというのが、わが国の安全保障政策のすべてであり、そういう意味では政策を考えるのは米国であり、現政権側も含め自分たちで政策を考える人はいなかったのかもしれない。一方、政権と対峙(たいじ)すべき護憲派は、防衛政策を持たないことを誇りにしてきたのである。冷戦時代はそれでも良かったかもしれない。旧ソ連の影響下に入らないようにする点で、米国と日本の国益は一致していたからだ。だが、現在は明らかに違う。 中国との関係をめぐって、日本は尖閣諸島の主権が侵されることを心配しているが、米国が関心を持つのはこの地域における自国の覇権、自国主導の秩序を侵されないようにすることである。北朝鮮の核ミサイル開発についても、仮に核弾頭が米本土に到達する事態になれば、自国民を犠牲にしてでも、わが国を「核の傘」で守ることができるのかという問題も生じる。 つまり、米国と日本の国益には、微妙なズレがあるのだ。その時に、ただ米国の核抑止力に頼るという安全保障政策でいいのか、無思考のままでいいのかが、今まさに問われているのである。 野党が政権に接近しようとすれば、安保と自衛隊の維持を前提にして、しかし自民党政権とは違って抑止力を疑い、安全保障とは何か、日本の国益はどこにあるのかということをトコトン突き詰め、安保と自衛隊をどう使いこなすのかということを提示する必要がある。それができない野党は結局、他党に飲み込まれていくか、小勢力のまま生き永らえるしかないのである。いずれにせよ、小池氏が主導した今回の政界再編は、そのことを野党に自覚させたという点では、大いに意味があったのかもしれない。

  • Thumbnail

    テーマ

    北朝鮮を核保有国として認めるべきか

    世間はすっかり解散風になびいているが、核実験とミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威は何も変わっていない。トランプ米大統領は「完全に破壊する以外の選択はない」と強く警告。わが国でも長年タブーとされた核武装論に言及する動きもみられ、議論はさらに広がりつつある。もはや北朝鮮の核保有を認めざるを得ないのか。

  • Thumbnail

    記事

    米国が「北朝鮮の核保有」を容認すれば、日本はこうなる

    に防衛政策を組み立てていると考えるのが自然であろう。 他方で、米国を標的とする長距離ミサイルは日本の安全保障にとって無関係なわけではない。むしろ、日本にとって米本土の安全は、米国から提供される「核の傘」を含む拡大抑止の信頼性と密接に関係している。冷戦期にソ連と対峙(たいじ)していた米国が「パリを守るために、ニューヨークを犠牲にする覚悟があるか」というジレンマに直面したのと同じように、北朝鮮が非脆弱なICBMを保有した場合、米国の大統領は「東京を守るために、サンフランシスコを犠牲する覚悟があるか」という状況を前に、アジア地域への介入や日韓が攻撃を受けた場合の報復を躊躇(ちゅうちょ)する恐れがある。したがって、米本土の安全を高めておくことは、拡大抑止の信頼性を維持しておくためにも決定的に重要なのである。 極東から米本土に向けて発射されるICBMの最短飛行経路は、日本のはるか北からアラスカに向かうコースをたどるため、現在の技術ではこれを日本周辺から迎撃することはできない。だが既に米本土は、アラスカ州のフォートグリーリー基地とカリフォルニア州のバンデンバーグ基地に配備されている地上配備型迎撃システム(GMD)・迎撃ミサイル(GBI)と、一部の高高度防衛ミサイル(THAAD)によって守られている。GBIは5月30日にICBMを想定した迎撃実験に成功しており、2017年末までに44基の配備を完了する予定である。そのため、北朝鮮が数発の限定的なICBM能力を獲得した程度では、米本土のミサイル防衛網を突破することは容易ではなく、「ゲーム・チェンジャー」にはなり得ない。 しかし将来的に、火星14、もしくはより残存性・即応性の高い移動式ICBMが量産化され、実戦配備に移行した場合には、北朝鮮が一定の対米抑止力を確立し、名実ともに「ゲーム・チェンジャー」となる可能性も否定できないのだ。この段階に至っても、北朝鮮の核・ミサイル能力は、冷戦期の米ソのような相互確証破壊を達成するには遠く及ばない。しかしながら、それが米国の主要都市を1つでも確実に攻撃できるとすれば、米国は「巻き込まれる」ことを恐れて日本の防衛を諦め、われわれは「見捨てられて」しまうのではないかという「同盟の切り離し(デカップリング)」を引き起こしてしまう恐れがある。 さらに言えば、北朝鮮がICBMによって米国からの報復を抑止できるとの自信を背景に、制裁解除や経済援助、在韓米軍の撤退、あるいは朝鮮半島有事における在日米軍の来援阻止といった要求をのませるため、核を用いた恫喝(どうかつ)に及ぶことも考えられる。この恫喝相手は何も米国である必要はない。むしろ、在韓米軍の撤退や有事における在日米軍の支援を諦めさせたいのなら、今度は日本や韓国を核やミサイルで脅し「米軍のせいで、われわれが巻き込まれる」という国内世論の不安をかき立てることで、日米韓をデカップリング(非連動)させようという計算が働く可能性は十分考えられる。 すなわち、われわれは「米国が同盟国に巻き込まれることを恐れ、核の傘の提供を躊躇すること」への対処だけではなく、「日本が米韓に巻き込まれることを恐れ、朝鮮半島で生じる事態への支援を躊躇すること」への懸念に対しても同時に向き合わなければならない「二重のデカップリング」の問題に直面しているのである。2つのリスクが対立する「核容認」論 さて、ここで「北朝鮮の核容認」論とは何を意味するかという論点に立ち返ってみよう。米国で議論されつつある「核容認」論とは、何も北朝鮮を核拡散防止条約(NPT)の米露英仏中5カ国と同等の核保有国として認めるという話ではない。現在議論されているのは、北朝鮮が核ICBMを保有していることを前提に、それを使わせないよう抑止しつつ、状況改善のための交渉をするかどうかという点だ。 一方、これに反対する立場は、北朝鮮の核を前提としての交渉が、核の脅しに屈し、米国が交渉の場に引きずり出されたことになるため到底容認できないし、また金正恩朝鮮労働党委員長を伝統的な方法で抑止し続けられる保証もないというものである。そして経済制裁などの圧力の効果がなければ、究極的には軍事行動による強制武装解除も辞さない構えをとる。前者はゲーツ元国防長官やスーザン・ライス元国家安全保障担当大統領補佐官の立場、後者は現政権のマクマスター国家安全保障担当補佐官らの立場である。 つまり第一の問いは、これから長期にわたって北朝鮮の核と共存し、それを抑止し続けることのリスクと、短期決戦の軍事行動に伴うリスクのどちらを取るかという問題とも言い換えられる。ただ、この判断は極めて難しい。ライス氏が言うように、米国はこれまでにもソ連や中国のICBMと共存し、その使用を抑止し続けてきた。われわれもまた同様に、この十数年を多数のノドンを有する北朝鮮と向き合ってきた。 しかし、時間はわれわれに味方していない場合もある。「第1次朝鮮半島核危機」と呼ばれた1994年にも、寧辺の核施設に対する先制攻撃が検討されたが、大規模な被害が及ぶことを懸念した韓国政府の意向などをくみ、結局攻撃は行われなかった。だがそれから25年近くが経過した現在の戦略環境は、核・ミサイル脅威が顕在化したことによって劇的に悪化している。どのみち一定の被害は避けられないのならば、軍事行動は状況がさらに悪化する前-すなわち、北朝鮮がICBMの量産・配備に入る前でなければならないのかもしれない。 時間が状況を悪化させるとすれば、その緩和のためにも、ひとまず何らかの交渉が必要という考えはどうだろう。例えば、ゲーツ氏は「まずは北の体制は保障する。その上で核を放棄させることはできなくても、ICBM開発と実験を停止させ、ミサイルの射程を短いものに制限することは可能かもしれない」と述べている。 だが、日本はこの提案に乗るべきではない。既に北朝鮮はロフテッド軌道ではあるが、2度のICBM実験を行っている。もちろんミサイルと再突入体の完成度を高めるなら、通常弾道軌道によるフルレンジ(全射程)の実射実験をするのが望ましいが、それがなくともICBMは技術的にほぼ完成していると見るべきだろう。よって、今更実験を凍結することはさしたる意味を持たない。またミサイル実験を停止しても、「人工衛星打ち上げのロケット発射」などと言って、新型のエンジンテストなどをしてくる可能性もある。 ミサイルの射程制限については二つの問題がある。第一に、既にマティス国防長官やティラーソン国務長官は、北朝鮮を体制転換する意図がないことを繰り返し明言している。その判断が政策的に正しいかどうかはさておき、米国の長官級が体制を保障するとしているにもかかわらず、金委員長が核・ICBM実験を続けてさせているのは、言葉による体制保障を信用していないからだろう。そうであれば、物理的抑止力=体制保障の証しとしてのICBMを手放すことは考えにくい。米中両政府の「外交・安全保障対話」に先立ち、中国側と面会した米国のティラーソン国務長官(左端)とマティス国防長官(左から2人目)=6月21日、ワシントン(ロイター=共同) もう一つの問題は、対米ICBMを制限しても、日本の安全保障環境は核付きのノドンによって一方的に悪化したまま、状況が固定化されることである。もちろん、日本はノドンを自力で相殺(オフセット)する手段を持っていない。 それならば、冷戦を戦い抜いた先人たちの知恵を借りてみるのはどうだろうか。1970年代、「SS-20」に代表されるソ連の中距離核戦力(INF)が欧州に配備されたとき、西ドイツのシュミット首相は、「米国はハンブルクを守るためにニューヨークを犠牲にする覚悟がない」としてデカップリングの危険を訴えた。米=北大西洋条約機構(NATO)はこの問題を解消すべく、欧州に米国のINF(「パーシングII」と地上配備型核巡航ミサイル)を配備することによって、西独を含むNATO諸国への拡大抑止を再保証しつつ、ソ連を核軍縮・軍備管理交渉のテーブルに着かせるための圧力をかけるという「二重決定」方針を導入した。これにより、1987年には米ソ間で射程500~5500キロの地上発射型ミサイルシステムを全廃するというINF条約が締結されたのである。 米国の核持ち込みによって同盟国とのデカップリングを防ぎ、相手が持つ同等の核兵器をオフセットするという発想は、NATO型の核共有(nuclear sharing)にも当てはまる。核共有とは、NATO加盟国の一部に米国が管理する戦術核を平時から前方配備しておき、危機・有事が発生した場合には事前に策定した共同作戦計画に基づいて、米国が戦術核を供与、同盟国の核・非核両用機(DCA)がそれを搭載して核攻撃を行うというメカニズムである。米=NATO間では現在でも、200発程度とされる戦術核の配備と、その協議枠組みとしての核計画部会が継続されている。 折しも、自民党の石破茂元地方創生担当相は、非核三原則のうち「持ち込ませず」を緩和し、米国による核持ち込みの意義を検討すべきとの提案をしている他、最近ではメディアなどでも核共有の必要性を主張する声も聞かれるようになっている。 では、米国による核持ち込みやNATO型の核共有モデルをいまの日本に適用させた場合、地域の拡大抑止構造にどのような影響を与えるかを検討してみたい。考えられる唯一のオプション ここで前提としなければならないのは、現在の米国が保有する核戦力態勢である。米国の核態勢は、いわゆる「核の三本柱」(ICBM・SLBM・戦略爆撃機)に、グローバルに展開可能なDCAを加えた各種運搬手段と、戦略・戦術核兵器の組み合わせによって構成されている。これらのうち、米本土に配備されるICBM「ミニットマン3」は言うまでもなく、第二撃能力としての秘匿性を重視するオハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)がその位置を意図的に露呈することは考えにくいため、これらは前方展開を前提とする核共有・核持ち込みのいずれのモデルにも適さない。4月26日、米カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地で行われたICBM「ミニットマン3」の発射実験(米空軍提供・共同) 同様に、地下貫通型(バンカーバスター)の強力な戦略核(B61-11)を運搬可能なB2ステルス爆撃機はその航続距離と配備数20機という希少性から、また射程2500キロを超えるAGM-86B空中発射型核巡航ミサイル(ALCM)を運搬可能なB52長距離戦略爆撃機は、その利点である防空圏外からのスタンドオフ攻撃能力を犠牲にし、駐機中を先制攻撃されるリスクを負ってまで、在日米軍基地に常時前方展開することは想定しづらい。さらに、艦載機に搭載される戦術核や艦船に搭載する核トマホーク(TLAM-N)はいずれも既に退役・解体されている。そのため、かつて言われていたような、核搭載艦船による日本の領海通過や寄港という形での「核持ち込み」は今日では起こりえない。 残る手段は、かつてNATOが「二重決定」に用いたINFの前方配備であるが、皮肉なことに、米国は今現在でもINF条約の順守を継続しているため、ノドンをオフセットできる射程500~5500キロ以下の地上配備型ミサイルシステムを保有していないのだ。 したがって、現在考えられる唯一のオプションは、DCAと戦術核爆弾(B61-3/4)の前方展開という組み合わせに限られる。こうした前提で日本が米国との核共有を行うとすれば、2010年から始まった日米拡大抑止協議を格上げし、共同核作戦計画を策定。その上で在日米軍基地のいずれかに米軍が管理するB61用の備蓄シェルターを設け、それを有事の際に日本に提供するよう要請し、最終的には航空自衛隊のF-2戦闘機(将来的にはF-35A)に搭載して、総理大臣が核攻撃を命じるという形式が想像できる。 しかし、現在の核態勢下で実現できるオプションを具体化してみると、NATO型の核共有は、政治・軍事両面のハードルが著しく高いと言わざるをえない。言うまでもなく、戦術核を常時国内に備蓄することに対しては、極めて大きな政治的反発が予想される。また、米国の核報復が期待できず、自らそのトリガー(引き金)に手をかける必要があるという論理であっても、NPTとの整合性を保つ上で、最終的な戦術核引き渡しの決定権は米国が握っている。また、日本から飛び立つDCAが北朝鮮上空に達するには早くても1時間以上かかるため、弾道ミサイル発射の兆候を察知した段階で、即時的な武装解除を目的とした核攻撃を行うにはDCAは意味をなさない。加えて、DCA搭載用のB61-3/4はバンカーバスター能力がなく、地下化された北朝鮮の重要施設を破壊することも難しいため、軍事的合理性にも乏しい。 他方、軍事アセットを標的とする対兵力攻撃(カウンターフォース)ではなく、平壌に報復する対価値攻撃(カウンターバリュー・ターゲティング)を目的とするのであれば、「戦術核」とされるB61-3であっても出力調整により最大170キロトン(広島型原爆の約13倍)の威力を発揮できる。しかしその場合には、唯一の被爆国である日本の政治指導者が、自衛隊に対して民間人の大量殺戮(さつりく)を意味する報復を命じる覚悟を問われることになる。 もちろん、NATOの核共有が現在でも維持されているのと同様、戦術核の前方配備が米国のコミットメントを高める一助となることは事実であろう。しかし北朝鮮側から見れば、緊迫した情勢下における戦術核展開は先制核攻撃の準備と映りかねない。何より、近代化された空軍を持たない北朝鮮は、出撃後のDCAを迎撃するのが困難なことから、地上に置かれているDCAとB61を先制攻撃で無力化することのメリットが大きい。当然、B61の備蓄シェルターの破壊に用いられるのは核ミサイルであろう。これは抑止論で言う「脆弱(ぜいじゃく)性の窓」と呼ばれる問題であり、「危機における安定性(crisis stability)」を著しく悪化させる危険性がある。 本来こうした形での先制攻撃の誘因は、前方配備の戦術核がある種の「トリップワイヤ(仕掛け線)」としての役割を果たすことにより、米国の戦略核報復を促すため、高次の抑止構造が機能していれば、トータルな抑止計算の上では抑制されるはずである。しかし、北朝鮮が少数のICBMによって、米国からの報復を抑止できると「誤認」した場合には、上記のような形で限定核戦争の戦端が開かれる可能性も否定できないのである。こうしたDCAの脆弱性と危機における安定性に起因する問題は、核共有を行わずとも、日本や韓国に米軍のDCAと戦術核を前方配備するケースでも起こりうることに留意する必要がある。日本が今すべき具体的努力 もともと日本では、核戦略や拡大抑止をめぐる議論それ自体が限られてきた。また、そうした議論があったとしても、その大半は現実の核態勢や運用上の前提を踏まえていない場合がほとんどである。もっとも、同盟国からの要請として、米国に核兵器の運用態勢の変更や、新たな兵器システムの開発を求めること、例としては、INF条約脱退や、残存性の高い移動式中距離弾道ミサイル(IRBM、「パーシング3」?)、TLAM-Nの再開発・再配備なども考えられる。しかし、それらの要求は在欧戦術核のように軍事的意義を失った兵器を政治的理由から維持し続けるよりもハードルが高い。そうした要求をするにしても、拡大抑止の受益国として、前提となる米国の核政策やその運用態勢を理解していなければ、抽象的な不安を伝達するにとどまり、問題の具体的解決策を議論していく説得力を欠いてしまうことになるだろう。 結局のところ、北朝鮮の核・ミサイル脅威に屈することなく、日米韓のデカップリングを避けるには、どのような努力が必要なのだろうか。 月並みではあるが、やはり必須となるのは、日米韓三カ国によるミサイル防衛体制の強化である。米国は北朝鮮のICBM脅威の高まりを黙って見過ごしているわけではない。現在米国内では、本土防衛能力のさらなる強化を訴える声が高まりつつあり、議会では共和党のダン・サリバン上院議員(アラスカ州選出)が主導する形で、GBIの配備数を最終的に100基まで増強することなどをうたった超党派法案が提出され、その内容は少なからず2018会計年度の国防権限法や現在策定が進められている政策指針「弾道ミサイル防衛の見直し」(BMDR)に反映されるものとみられている。 日本では、現有のイージス艦4隻に加え、2隻が新たに弾道ミサイル防衛(BMD)能力を付与するための改修を受けている他、「SM3ブロック1B/2A」「PAC3MSE」といった新型・能力向上型迎撃ミサイルを調達する予定である。そして平成30年度概算要求では、地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」を中心とした新規装備の取得を目指している。イージス・アショアは、BMD専用のSM3のみならず、弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機といった多様な経空脅威に対処可能な艦対空ミサイルSM6も運用可能であり、柔軟性が高い。 また、現在配備されているSM3ブロック1Aよりも倍近い迎撃範囲を持つとされるSM3ブロック2Aと合わせれば、2基で日本のほぼ全域を常時カバーすることが可能であり、日本周辺に張り付けたきりになっているイージス艦の負担を軽減することも期待できる。ただし、イージス・アショアの国内配備は早くとも2023年頃とみられるため、一刻も早いミサイル防衛体制の多層強化のためには、韓国でそうしたように、在日米軍へのTHAAD配備を同時に要請すべきであろう。 その韓国では、在韓米軍へのTHAAD導入が前倒しされた他、「KAMD」と呼ばれる韓国独自のミサイル防衛の構築が進められている。ところが、韓国のミサイル防衛に用いられるセンサーや在韓米軍のTHAADに付属するAN/TPY-2レーダーは、ハワイのミサイル防衛管制施設(C2BMC)を含めた地域のBMDネットワークとは連接されていないといわれている。これは韓国が日米のBMD体制に取り込まれることを嫌う中国の懸念を反映した「忖度(そんたく)」によるものとされるが、ミサイル防衛は各種センサーがネットワーク化されてこそ、弾道ミサイルの正確な追尾や効率的な迎撃が可能となる。ならば、中国の懸念を逆手にとり、「中国が北朝鮮問題に真剣に対処してこなかったことにより生じた、やむを得ない措置」として、日米韓のセンサー・ネットワーク連携を明示的に行うことで、それを中国に圧力をかけるレバレッジ(てこ)とすることも考えられるだろう。9月7日、韓国南部、星州に搬入されたTHAADのミサイル発射台(韓国共同取材団撮影、聯合=共同) 第二には、拡大抑止にかかる共同演習や、核の先制使用を含む作戦計画の共有・策定が挙げられる。核使用を伴う米軍の作戦は、太平洋軍などの戦闘軍司令部ではなく、戦略軍がその指揮権を持つとともに主要な計画立案を行っている。そこで日米拡大抑止協議の内容を新ガイドラインで定められた共同計画策定作業と連関させ、グレーゾーンから核使用を含む高次のエスカレーションラダー(段階的な軍事衝突規模の拡大)を切れ目のない形で構築し、核オプションのより具体的な形での保証を促すべきである。 またそれらの計画を基に、在日・在韓米軍、太平洋軍、戦略軍などを交えた日米共同演習を繰り返し、実戦上の課題を常に点検・共有しておくことが望まれる。この中では、危機時におけるDCAの前方展開リスク、グアムにおけるDCAや戦略爆撃機、SSBNの展開頻度を高めることの軍事的・政治的効用、さらにはICBMやSLBMをリアクションタイムの短い移動式ミサイルに対する即時的な武装解除手段として適切なタイミングで使用する必要性などについても、個別の作戦計画に照らして検証すべきである。稚拙な対韓感情論に振り回される日本 第三は、非核の長距離即時攻撃手段(CPGS)としての極超音速飛行体の開発に関する技術協力・共同開発である。先にICBMやSLBMを即時武装解除の手段として使用する可能性に言及したのは、長射程の即時攻撃を行いうる手段が、現時点では核搭載の弾道ミサイル以外に存在しないからである。しかし、それらに搭載される核弾頭の威力や標的国以外に発射を誤認される危険性から、柔軟な運用が難しいのも事実である。そこで米国が研究開発してきた各種CPGSプログラムを技術支援する形で、同種の兵器の共同研究開発を検討することが望まれる。 第四は、B52から発射するAGM-86B空中発射巡航ミサイルの後継となる、新型長距離巡航ミサイル(LRSO)の開発継続を後押しすることである。TLAM-Nの退役とDCAの脆弱性を考慮すると、射程2500キロを超え、核出力を5〜150キロトンまで調整可能なAGM-86Bは、通常戦力と戦略核のエスカレーションラダーを埋める重要な役割を持つが、運用開始から35年以上がたち老朽化が進んでおり、2030年には退役を予定している。 今後開発される新型爆撃機B21のステルス性をもってすれば、敵の防空網に侵入して攻撃することが可能であるから、これを更新する必要はないとの声も聞かれる。だが、防空システムの高度化、とりわけステルス機を探知する「カウンター・ステルス技術」の発展をかんがみると、いまだ開発されていないB21に過度に依存するのはリスクが高い。まして中国を想定した接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力次第では、既にDCAが直面しているように、危機や有事の際にステルス機を前方展開させるのが一時的に難しくなるケースも考えられる。したがって、B21の運用を想定した場合でも、グアム以東から2500キロ超のALCMを発射できるオプションを確保しておく意義は大きい。日本は拡大抑止の受益国としてその必要性を訴え、LRSOの開発を確実にしておく必要がある。 最後に挙げるのは、国民に対して日米韓協力の重要性理解に努めることである。今日においても、日本は朝鮮半島有事において決定的に重要な後方支援基盤であり、朝鮮半島と日本は一体化された戦域としてつながっている。だが、北朝鮮による核・ミサイルを通じた日本への恫喝は、この地政戦略的リンクを切り離しかねない。一般的な世論感覚からして、日米同盟が地域に果たす戦略的機能の重要性にかんがみれば、日本が核の脅しを受けたとしても、それに屈することなく対米協力を続けることはおおむね支持されるように思われる。 しかし、日本の世論は韓国のこととなるとその戦略的重要性を忘れ、稚拙な感情論に振り回される傾向がある。国内世論に見え隠れする韓国軽視は、北朝鮮が米韓支援を断念するよう日本を恫喝してきた際に、その脅しを受け入れかねない潜在的リスクになる恐れがある。だが、朝鮮半島の将来像が日本の安全保障にとり極めて大きな影響を及ぼすことにかんがみれば、何としても関与を継続する必要がある。そのために、日本は米国だけでなく韓国とも緊密な連携を模索し続けるべきである。 加えて、韓国が保有する独自の対北打撃力とその政策(先制攻撃システム「キルチェーン」、KMPR、米韓ミサイル指針など)に対する理解と情報共有も必要である。米韓が北朝鮮のミサイルをどこまで制圧できるかは、われわれのミサイル防衛能力はもちろん、将来敵基地攻撃能力を整備していく際の計算にも大きな影響を与えるからだ。 日本の敵基地攻撃能力については、その前提となる財政状況や防衛予算の趨勢(すうせい)からみても、弾道ミサイル発射を探知する早期警戒衛星やターゲティングのための情報・監視・偵察(ISR)などの手段をすべて独自調達し、完全自己完結型の攻撃能力を持つことは現実的ではない。同様に、相手の都市部を標的とした大量報復(懲罰的抑止)ベースの攻撃能力は、最終的に核保有に進まざるをえないことを踏まえると、これも選択肢にはなりにくい。したがって、日本が敵基地攻撃能力を保有する場合には、相手から飛来するミサイルの数をなるべく減らし、ミサイル防衛の迎撃効率を向上させるという損害限定(拒否的抑止)ベースの攻撃能力を米(韓)のISR協力の下で追求するのが最も現実的であろう。島嶼防衛用「高速滑空弾」(防衛省ホームページから) 具体的な攻撃手段は複数あるが、注目されるのは平成30年度の防衛省概算要求に要素技術研究対象として提示されている「島嶼(とうしょ)防衛用高速滑空弾」である。資料によれば、これはあくまで「島嶼間」の長距離射撃を目的とするものであるが、その原理は米国がCPGSプログラムで開発していた「(極)超音速滑空体」そのものであり、打ち上げに用いるブースター次第では、INF並みの射程を持つ即時攻撃システムとして移動目標を短時間で無力化する手段となりうる。米国がINF条約にとどまり続けるのであれば、INF再開発と前方配備を促すよりも、米国との技術協力を経て、移動式かつ十分な射程を備えた非核の即時攻撃システムを日本が自ら保有するというオプションも検討する価値があるのではないだろうか。

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮脅威、日本に必要なのは「核武装」のタブーなき言論空間

    島田洋一(福井県立大学教授) まずは日本の核武装から論じよう。日本は、独自の核抑止力確保に向けて動き出すべきである。それは、直接的には北朝鮮による核の脅威に、アメリカに頼り切らずに対応するためだが、すでに多数の核ミサイルを実戦配備している中国をにらんだものでもある。北京市内の北朝鮮大使館前で警備する武装警察隊員 =9月3日(共同) 中国は、日本の核武装がいよいよ現実化してきたと認識すれば、その動きをもたらした「震源」である北朝鮮・金正恩体制を崩壊させることで、流れを止めようとしてくるかもしれない。すなわち中国経由で、北朝鮮の脅威を除去することにもつながりうる。 日本が核武装するか否かは、日本国民の意思次第である(これが高いハードルであることは言うまでもない)。さまざまな外的障害の存在を指摘し、核武装の不可を説く声もあるが、結論ありきで、事実認識が不足したものも多い。 外的障害としてよく挙げられるのが、日本が核拡散防止条約(NPT)を脱退し核武装に動くと、国際社会からさまざまな制裁を科され経済が破綻してしまう、ウランの供給なども止められ、原子力産業が立ちいかなくなるという主張である。  これは、NPTに加入せず核武装を進めたインドの例に照らし、当を得ていない。 2008年9月、国際原子力機関(IAEA)理事会は、NPTが「核兵器国」と規定する米露英仏中に加え、インドを例外的に核保有国と認める決定を、圧倒的多数で行っている。 それ以前、2005年7月にインドのシン首相とブッシュ米大統領の間で、インドがNPTに非加入のままでも、米国は民生用の原子力協力に向けた努力を行う旨が合意がされていた。そのブッシュ政権が各国に働きかけてのインド例外化決定であった。日本も賛成票を投じている。  中国は当初、「国際的な核不拡散体制にとり大きな打撃」と反対したが、衆寡敵(しゅうかてき)せずと見るや、パキスタンも例外扱いすべきとの主張で対抗したが、北朝鮮などへの核拡散(実務はカーン博士が担う)の過去を問われ、パキスタン例外化案は却下された。  すなわちここにおいて、「責任感ある(responsible)国」の核保有には制裁を科さないという国際的な流れができたといえる。「経済制裁」という障害はない 大多数の国々にとって、日本の経済的存在感はインドよりはるかに大きい。インドは例外化するが、日本には包括的な制裁を科すといった展開はまずあり得ないだろう。日本核武装に「経済制裁」という障害はない。  なお、IAEA理事会のインド例外化決定と前後して、原子力供給国グループ(NSG)もインドとの「民生用原子力協力」について合意に達している。ウランの供給などを認めたもので、日本が核武装すればウランを止められる云々(うんぬん)もやはり杞憂(きゆう)と言えよう。  この合意もアメリカが主導している。要するに、事前に米国と擦り合わせができていれば特に問題は生じないということである。 米印間の核問題交渉に長く携わったストローブ・タルボット元国務副長官は、「核関連物資の輸出管理に関してインドは、二つのNPT上の核兵器国、ロシアと中国より、よい成績を残していた。ロシアはイランが、中国はパキスタンがそれぞれ危険なテクノロジーを獲得するのを助けていた」と述懐している。 日本が中露以上に無責任に振る舞うと考える国はまずないだろう。インドと同等以上に厳格に核管理すると見なされるはずだ。 以上、核武装に伴って制裁を課されるという議論が、日本のような「責任感ある国」の場合根拠がないことを示してきた。独自核抑止力に向けた議論を大いに喚起し、具体的動きを起こしていかねばならない。北朝鮮の核実験について記者団の取材に応じる安倍晋三首相 =9月3日、首相官邸 もっとも、「核武装を口にすると政治家は即死する」(首相返り咲きの前の、あるシンポジウムでの安倍晋三氏発言)という状況にほとんど変化はない。いま即座に、政治家に核武装を唱えよと要求するのは酷であろう。 まずは民間において、核に関するタブーなき言論空間が打ち立てられなければならない。 その間、政権に求めたいのは、何よりも通常戦力による策源地(敵基地)攻撃力の整備に乗り出すことである。この地点までは十分に機は熟しており、踏み出さない言い訳は成り立たない。憲法9条の範囲内という、半世紀にわたって確立された政府見解もある。問われるのは政権の意志のみである。

  • Thumbnail

    記事

    米国の「アジア蔑視」が北朝鮮に核保有の大義名分を与えた

    重村智計(早稲田大名誉教授) 北朝鮮の核問題を解決できなかった米国の高官や、研究者たちが的外れと思える「宥和(ゆうわ)策」を述べている。発言者の多くが米外交の「戦犯」たちで、自分の責任を感じていないから困る。オバマ政権のスーザン・ライス前国連大使、ブッシュ政権のクリストファー・ヒル元国務次官補などだ。心の底に、アジアや朝鮮人に対する蔑視意識(オリエンタリズム)があるようだ。9月7日、ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領(ゲッティ=共同) 米紙ニューヨーク・タイムズ(国際版)は5日、「北朝鮮の本心はミステリー」との記事を一面に掲載した。書いたのは著名な国際記者のデービッド・サンガー氏と、トモコ・リッチ東京支局長だ。サンガー記者とは筆者がワシントン特派員時代に話をかわしたことがあるが、優秀な特ダネ記者である。 この記事によると、米国は「金正恩の本心」を計りかね、多くの主張や論議が起きているというのだ。北朝鮮は「米国の敵対政策」を非難するだけで何も要求していない。今更なにを寝ぼけたことを、と思うのだが「北朝鮮の核容認論」が生まれるワシントンの空気は十分感じられた。 背景にはライス氏のニューヨーク・タイムズ紙(8月10日)への寄稿がある。ライス氏は「北朝鮮に軍事力を行使すべきではない」と強調し「米国は北の核を容認できる」と述べた。この主張は、日韓両国が「北の核に耐えられない」事実を全く理解していない。また、中国が東アジアで自分以外の核保有国を決して認めない現実をわかっていない。寄稿の目的はトランプ大統領の軍事攻撃発言への批判だったようで、実際、大統領の強硬発言の連続が「緊張を高めている」と批判した。これも朝鮮人の言語文化と歴史を理解していない判断だ。 トランプ大統領の一連の発言は、北朝鮮の言語文化を相手にするにはピッタリだ。北朝鮮は「日米は断固たる対応に直面する」「制裁に加担した(日本の)罪に決着をつける」など、過激な表現を高官や公式の報道機関が平気で使用する。過剰表現は北朝鮮での「日常生活」なのだ。それに対し、「軍事攻撃も選択肢」と語るのは、戦術としては正しいやり返しである。北東アジアの文化を理解していないライス氏 ライス氏は、この北東アジアの文化を理解していない。ライス氏の寄稿とニューヨーク・タイムズの記事はかなり的外れと私には思える。「北の核容認論」は北朝鮮の歴史と文化を理解せず、アジアの現実もわからない米国人特有のアジア観である。「アジアがどうなろうと関係ない。あの人たちはおかしな人たちだから」との蔑視感情が根底にある。国連本部で握手する潘基文国連事務総長とスーザン・ライス米国連大使=2009年1月26日、米ニューヨーク(UPI=共同) オリエンタリズムは、故エドワード・サイード・コロンビア大教授が、欧米人のイスラムやアジアへの根深い蔑視感情をえぐり出した「書籍」のタイトルだが、欧米人の「アジア、イスラム蔑視」を意味する用語として使われている。サイード教授は、パレスチナ移民の息子で世界的な言語学者だった。 なぜ北朝鮮は核開発を始め、金正恩朝鮮労働党委員長は核とミサイル実験を急ぐのか。話は冷戦崩壊前後に戻る。東欧社会主義国が崩壊する中で、旧ソ連は韓国との国交正常化を決めた。怒った北朝鮮は、新型兵器の開発を通告した。 金日成主席と金正日総書記は北朝鮮が崩壊し、金ファミリーが指導者として追放される事態を最も恐れた。当時の軍事用石油は60万トンしかなく、戦争能力はない。米韓が軍事攻撃すれば、たちまち崩壊する。それを阻止する手だてとして核兵器保有に行き着いた。核開発にはミサイル開発が不可欠だ。 金総書記は一時「米朝合意」で核放棄を覚悟したが、軍の反発で方針を変更した。2001年頃といわれる。核とミサイルを持たないと崩壊させられるとの戦略と「信念」で指導者と軍幹部は一致した。だから、祖父と父、軍幹部が決定した方針を金正恩委員長は自らの一存で放棄できない。 これは儒教社会の北朝鮮では誰も疑わない価値観である。ライス前大使らは、北朝鮮が儒教文化の国家である事実を理解できていない。北朝鮮は対話や条件提示で核実験を止める文化でも体制でもない、とわかっていない。金正恩委員長は核とミサイルが完成するまで実験を放棄できないのだ。 儒教国家では「正統性」と「大義名分」が最大の価値観である。米国が核保有を認めれば、北朝鮮は国際社会から正統性を得たことになる。北朝鮮では核で譲歩することはないという空気が広がっている。北朝鮮国民は、金委員長は国際社会から正統性を認められた偉大な指導者と受け止める。「北の核容認論」の本当の危険性 ライス氏の主張やニューヨーク・タイムズの記事は、米国がいかに北朝鮮の歴史と文化、外交戦略、思考パターンに無知であるかを物語る。また、金正恩委員長や北朝鮮幹部が何を考えているかについての情報もなく、確認もしていない。 北朝鮮中枢は、以前からひそかに「核兵器を完成して米国と交渉する」との戦略を語っている。金正恩委員長は核開発を中断するわけにはいかないのだ。だから核の完成を急いでいる。それでも、しばらく時間がかかるだろう。核とミサイルの実験はなお続く。 核兵器が完成しても交渉で譲歩する保証はない。核兵器を手にした軍部は実験中止や核放棄に簡単に応じないだろう。金委員長と軍部の対立が高まる。もし応じなければ、米中が協力して「崩壊作戦」に乗り出し、北朝鮮の米中対立誘導戦略が破綻しまう。 「北の核容認論」の本当の危険性にライス氏は気がついていない。北朝鮮が核保有を認められれば、韓国と日本でも核保有を求める声が高まる。日本と韓国が核を持てば、台湾、ベトナム、インドネシアへと、アジアは「核拡散の時代」を迎える。その危険さを米国の「北の核容認論」は理解できていない。その背後に、アジアでの核拡散は構わないとのアジア蔑視意識が見え隠れする。 ただ、現実的には無理な話だが、「北朝鮮の核保有容認」が「日韓台の核保有容認論」につながるものなら、戦略的に理解できないわけではない。中国が最も恐れるのは、韓国や日本の核保有である。米国が「中国が北朝鮮の核保有を黙認するなら、日本と韓国、台湾の核保有を認める」といえば、中国は対応せざるを得なくなる。中国内モンゴル自治区で行われた中国人民解放軍建軍90周年記念閲兵式に出席する習近平国家主席=2017年7月30日(共同) 多くの人は、中国はなぜ北朝鮮の核開発を黙認するのか、との疑問を抱く。それは、中朝関係が2000年にもおよび、中国は朝鮮人の扱いを誰よりも知っていると考えているからだ。 中国要人はひそかに「北朝鮮はいつでもつぶせる」と言う。石油供給を全面中止すれば、北朝鮮の軍隊は崩壊に直面し、指導者追放劇が期待される。それでもダメなら国境を全面封鎖すれば北朝鮮は崩壊に向かう。ただ、今はその時期ではないと判断しているようだ。

  • Thumbnail

    記事

    「北朝鮮は草を食べても核開発」プーチンも苦悩する旧ソ連の大誤算

    にまい進する契機になったのは、1991年のソ連邦崩壊だった。最大の後ろ盾だったソ連の解体で、北朝鮮は安全保障の切り札として核・ミサイルを保有することが不可欠と判断し、開発を強化した。94年には、これを察知したクリントン米政権が寧辺の核施設攻撃を計画し、一触即発の危機を招いたこともある。 このころ、北朝鮮外交官は冷戦終結で失業したロシアやウクライナの核・ミサイル技術者を高い給与で一本釣りし、北朝鮮に招いた。北朝鮮のミサイルシステムは、旧ソ連のスカッドミサイルを軸にしており、旧ソ連の技術が開発に貢献した。ロシア外務省は、「ロシア国籍の技術者は現在、北朝鮮には一人もいない」としているが、筆者の得ている情報では、一部のロシア人は北朝鮮の女性と結婚し、国籍も変えているという。広がる北朝鮮の核保有容認論 そして北朝鮮はソ連を崩壊させたエリツィン元ロシア大統領を「社会主義の敵」と糾弾し、関係を事実上断絶した。プーチン政権発足後、金正日総書記はロシアとの関係を再開するが、ロシアはソ連時代のように石油や食糧の無償援助はできない。今日でも、朝露間の貿易額は中朝間の1~2%程度にすぎず、ロシアでは到底中国の肩代わりはできない。ロシア経済自体が中国経済の12%まで縮小してしまった。 2代目の金正日総書記は核・ミサイル開発を強化した反面、米国や韓国、日本との対話も念頭に置き、一定の落とし所が想定できた。しかし、3代目の金正恩委員長は核・ミサイル開発を急速に進めており、対話の糸口が見られない。一種の暴走状態にあることが、危機を一段と拡大させている。金委員長は、大量破壊兵器のなかったイラクやリビアの反米政権が力で倒されたことを熟知しており、同じ運命をたどらないことを誓っている。北朝鮮の故金日成主席と故金正日総書記のモザイク画の前を行き交う車=8月、平壌(共同) 北朝鮮の大量破壊兵器保有に反対する点では、米露は一致し、冷戦終結後、連携して北朝鮮に核開発中止を求めたり、6カ国協議で協力したりしたこともあった。しかし、旧ソ連は金王朝の生みの親であり、北朝鮮がどのような国かは米国以上に理解している。 米カーネギー財団モスクワセンターのドミトリー・トレーニン所長は「朝鮮半島の非核化はもはや現実的ではない。この際、北朝鮮を核保有国として認めるべきだ。そうすれば、交渉は失敗しても破滅は免れる」とし、北朝鮮をインド、パキスタンのように核保有国として容認するよう求めた。 ロシアではこうした現実論者が増えているが、米国でも北朝鮮の核容認論を主張する専門家も出ている。日米韓にとって、北朝鮮の核保有容認は受け入れがたいが、北朝鮮は米国がそれを認めない限り交渉に応じないだろう。 プーチン政権は以前、北朝鮮問題で米国と連携することもあったが、米露関係が極度に悪化した現在は、世界的に反米外交を展開し、北朝鮮問題でも米国の外交を妨害している。日米韓対ロシアという構図の中、双方の求愛を受ける中国がどちらに付くかが焦点となりそうだ。ただ、筆者自身は、中国はロシアに接近するそぶりをしながら、実質的には日中韓と連携していくのではないかと考えている。

  • Thumbnail

    記事

    「北朝鮮核施設への先制攻撃」トランプはどこまで本気なのか

    弾頭に積む水爆まで完成に近づいており、これまで東アジア政策でしかなかった北朝鮮政策は一気に米国自身の安全保障に直結する状況になっている。「核保有国」として北朝鮮を認めるのかどうか、米国としては何らかの大きな対応を一気に迫られる状況になっている。8月11日、ソウル駅でトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が映し出されたニュースの画面を見る男性(AP=共同) トランプ政権の北朝鮮政策のゴールは「北朝鮮の非核化」に他ならない。核を放棄させるため、オバマ前政権の「戦略的忍耐」ではなく、軍事的オプションを常にちらつかせてきた。いわゆる「4月危機」のときに注目された、米韓軍事演習に呼応した空母カール・ビンソンなどの周辺への派遣がこれに当たる。ただ、実際には貿易・経済問題を「取引」材料に北朝鮮に最も影響力がある中国に対して圧力をかけ、北朝鮮を最大限に動かしていくというのが、トランプ流の対中、そして対北朝鮮政策の根本にある。 しかし、4月の米中首脳会談で、トランプ政権から北朝鮮への圧力強化の要請を受けた中国は、北朝鮮に核をあきらめさせるのが難しいことを熟知している。そもそも韓国、日本、そしてその背後にいる米国の緩衝地帯として、北朝鮮は中国にとって地政学的に重要な存在でもある。習近平国家主席にとっては、秋の中国共産党大会を前にできるだけ国内のパワーゲームに集中したいのが本音であり、北朝鮮については抜本的な制裁まで至っていない。むろん、トランプ政権のいらだちも募っている。 また、北朝鮮の核とミサイル開発のペースは速く、ここ半年だけでも米国は北朝鮮側に常に出し抜かれてきた。北朝鮮としては、ミサイルも核弾頭に搭載する水爆もほぼ完成したため、怖いものはない。米国に対して、交渉の席につかせ、何らかの条件と引き換えに無条件に核保有国として認めさせたいというのが北朝鮮の狙いだろう。限定攻撃なら日韓への報復は必至 トランプ政権としては北朝鮮の非核化どころか、核開発の凍結もなかなか難しくなっており、かなりの手詰まり感がある。いま議論されている産業や工業の「血液」となる石油の禁輸がどれだけ可能なのかさえ分からない。他の経済制裁を進めても、どれだけ効果があるのか未知数である。そうしているうちに、既に米本土に到達する核弾頭付きのミサイルも完成してしまうかもしれない。トランプ政権に残された時間は実のところ多くはない。 この手詰まり感の中、外交的な選択肢ではなく、強硬策を主張する声も米国内では目立ちつつある。報復の可能性が極めて低くなるようなことが想定されれば、先制攻撃を決断し、北朝鮮の核施設をたたいていく選択肢もあり得ないわけではない。最高司令官であるトランプ大統領が外交・安全保障政策について全くの素人である分、何らかの思い切った強硬策に出てくる可能性もゼロではない。 ただ、もし限定的な攻撃を行ったならば、北朝鮮から韓国、日本という同盟国への報復はやはり避けられないだろう。戦闘には必ず不確定要素がある。いわゆる「戦場の霧(フォッグ・オブ・ウォー)」である。北朝鮮の報復攻撃を100%抑えることができるかどうかは分からない。もし戦争になれば「米国史上最悪の戦争になる」という指摘もある。記者団に話すマティス米国防長官(左)とダンフォード統合参謀本部議長=9月3日、ワシントン(AP=共同) トランプ政権の安全保障政策は、マティス国防長官やマクマスター国家安全保障担当補佐官、ケリー首席補佐官らの軍人出身者がプロとして支えてきた。上述のようにトランプ氏は外交・安全保障政策の経験はないが、本人もそれを自覚しており、高官たちの意見を比較的そのまま採用してきた。戦闘の現場をよく知っている「外交・安全保障のプロ」たちにとって、報復が考えられる不確実な先制攻撃に踏み込むだけの米国の諜報(ちょうほう)活動がどれだけ整っているかが、今後の大きなポイントとなるであろう。 先制攻撃とともに考えられる米国の対応は、おそらく二つある。一つは何らかの条件を付けた上で北朝鮮の核保有を容認するか黙認するかという選択肢である。そして、もう一つが核保有という現実に即して、同盟国である日本や韓国の核武装を推進し、米国と協力することで北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るという選択肢である。「核容認」で大きく揺らぐ日米安保北朝鮮による6回目の核実験を受け、「0」にリセットされた地球平和監視時計の「最後の核実験からの日数」=9月3日午後、広島市の原爆資料館 北朝鮮の核保有を容認、または黙認するという選択肢については、オバマ前政権で国家安全保障担当補佐官だったスーザン・ライス氏のニューヨーク・タイムズへの寄稿(8月10日)が大きな波紋を広げている。北朝鮮に対する強硬策を取った場合、全面的な戦争が不可避であるため、それよりも北朝鮮の核保有を認めることも視野に入れた方がいいという議論である。同じくオバマ前政権で国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏も同様の指摘をしている。 北朝鮮の核を容認、もしくは黙認する代わりに、日本などの同盟国、あるいは米国に向けた挑発行為の停止、テロリストへの核拡散の徹底した防止などを条件に米国は切り出すのかもしれない。 とはいえ、もし北朝鮮の核を黙認すれば、日本にとっては米国の「核の傘」が極めて弱体化する。「有事にどれだけ日本を助けてくれるのか」という戦後何十年も続いてきた日米安保体制の、そもそもの議論が再び沸騰するのは必至である。それもあって、トランプ政権はライス氏の指摘をことあるごとに否定した。 一方で、「日本や韓国に核を持たせるなどの対抗措置を取った方が賢明」という主張も米国内で安全保障のリアリストらから指摘されるようになっている。核武装やさらなる迎撃システムの強化を通じ、日米韓で北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るというのがその狙いである。 しかし、唯一の被爆国である日本が核を持つという、国論を二分するような選択が本当にできるのかどうか、筆者にはまだ判断がつかない。 9月3日に行われた北朝鮮の「水爆実験」の第一報を筆者は学会報告と調査のために訪れたサンフランシスコで聞いた。この際、筆者が現地の専門家に聞いた限り、北朝鮮の核容認論と日本、韓国の核武装推進論のいずれもあったが、限定攻撃に対する肯定的な意見はほとんどなかった。これをみても、現時点では北朝鮮に核放棄を求めるのは、かなり難しくなっているのが分かる。 北朝鮮の「国家生存の柱」と位置付けられてきた核開発。それがまさに北朝鮮の国家を温存することにもなる。その意味では、北朝鮮の思惑通りに事が進んでいると言えなくもない。

  • Thumbnail

    テーマ

    トランプでも金正恩は止められない

    北朝鮮が9日の建国記念日に合わせ、新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する可能性が高まっている。トランプ米大統領は、北朝鮮に対する制裁圧力の強化を国際社会に呼び掛けるが、中露両国の同意を得るのは困難な情勢だ。国際社会はなぜ「狂気の独裁者」を止められないのか。

  • Thumbnail

    記事

    なぜ中国は「北朝鮮の非核化」に消極的なのか

    すことができていないものの、「国際関係の民主化の推進」「覇権主義および強権政治への反対」「持続可能な安全保障観」を共に唱える中露協力を中国が米日欧諸国へアピールする舞台となってきた。 しかも、BRICS首脳会議直前、ヒマラヤ山脈の国境地帯ドクラム高原における中国軍の道路建設で長らく対峙(たいじ)していた中印両軍の撤退が合意され、インドのモディ首相のBRICS首脳会議参加が実現したことにより、ホスト国として中国の面目が保たれたばかりであった。BRICS首脳会議に合わせた会談で、握手するインドのモディ首相(左)と中国の習近平国家主席=9月5日、中国福建省アモイ市(新華社=共同) 習主席は、10月18日から開催される中国共産党の第19回党大会を控え、大国外交の成果と自身の権威をアモイから国内外へ向かって発信するはずであった。アモイは、習主席が1985~88年に市党委員会常務委員や副市長を務めた地方市である。2002年に浙江省へ党委員会副書記・省長代行として異動するまで、習主席は福建省で17年も務めた。そのような福建省アモイへゲストを含めて9カ国の首脳を招いていたBRICS国際会議の当日に、金正恩朝鮮労働党委員長は核実験を行ったのである。レッドラインを越えたのか 昨年9月に杭州で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議と今年5月の「一帯一路」国際フォーラムの開催日にミサイルを発射したのに続き、中国がホスト国を務めた重要なBRICS会議開催日に、北朝鮮は核実験をぶつけ、習主席のメンツをまたもやつぶしたのである。  米政府は8月上旬、北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄した場合に「4つのノー(ない)」を約束すると説明していた。「4つのノー(ない)」とは、(1)北朝鮮の体制転換は求めない、(2)金正恩政権の崩壊を目指さない、(3)朝鮮半島を南北に分けている北緯38度線を越えて北へ侵攻しない、(4)朝鮮半島の再統一を急がない、という4つの行為をしないという内容であった。それでも北朝鮮が核実験を強行したということは、「金体制の維持」を約束するだけでは北朝鮮が満足しないということを、また、米国の「レッドライン(越えてはならない一線)」を北朝鮮が越えたことを意味する。G20首脳会合に臨む中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領=2017年7月7日、ドイツ・ハンブルク(代表撮影・共同) しかし、米高官が「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と繰り返すものの、米政府の選択肢が限られていることを中国はわかっている。米国とその同盟国の財政状況を見れば、日英独加などが戦費を出したことで戦争が可能であったイラク戦争のようにはいかない。北朝鮮と全面戦争をしても戦費と復興再建費を積極的に出そうとする国がないのは明らかである。米国の同盟国である日本と韓国は、自国への被害を考え、米朝の軍事衝突に否定的である。米トランプ政権では、アジア政策の実務担当の高官ポストがいまだに埋まっていない。トランプ政権の北朝鮮政策は袋小路に陥っている。 一方、9月3、4日の中露の対応を見る限り、核実験は中国のレッドラインをまだ越えていない。3日の吉林省延辺の朝鮮自治州では、北朝鮮による核実験の激震で建物に亀裂が入るほどの被害があった。中国の環境保護部(「部」は日本の「省」に相当)は、3日の核実験を受けて、北朝鮮に隣接する吉林省などで放射性物質のモニタリングを始めた。翌4日には、環境保護部は、放射性物質による異常が見つかっていないと発表した。北朝鮮による中国国境付近への放射性物質の侵犯、そのレベルこそが、中国のレッドラインではないかとみられている。中国の狙いはココだ 中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を制裁や圧力では解決できないと考えている。また、トランプ政権には北朝鮮問題を処理できないとみている。中国は北朝鮮のミサイル発射の目的を「金体制の存続」と「米日韓からの経済援助を引き出すための恫喝(どうかつ)」にあると見ており、対米攻撃を北朝鮮の核・ミサイル開発の目的とは考えていない。 さらに、北朝鮮問題は、「アジア安全保障の最大関心事」を南シナ海から朝鮮半島に移してくれている。「北朝鮮が米国にとってコントロール困難な問題国」である間、米国にとっての中国は「南シナ海や東シナ海への姿勢を変えさせる対象国」である前に、「北朝鮮情勢をめぐって協力を引き出させる協力国」として位置づけられる。また、「尖閣奪取へのろしを上げた中国」にとって、日本の防衛力が北朝鮮に分散することは悪くない話である。 したがって、中国が北朝鮮を追い詰めることはしないであろう。中国が北朝鮮を追い詰めれば、北朝鮮に対するロシアの影響力だけが強まり、そこに中国のメリットはない。 また、中国が金委員長の首をすげ替えようとすることは当分ないであろう。「ポスト金体制の北朝鮮」が不安定化したり多元化したり米韓の傀儡(かいらい)政権に北朝鮮を握られるよりは、ましてや「反中国体制」が北に誕生するよりは、「金正恩体制の現状維持」のほうが中国にとってはマシだからである。 北朝鮮が7月28日に発射したICBMの移動発車台は中国が「民生用」として提供した「中国産の新型」を北朝鮮が改造した可能性があるとの専門家の指摘が報じられている。北朝鮮の強気な態度の根底には、中国とロシアの影響力があると見るべきではなかろうか。BRICS首脳会議で、記念写真に納まるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=9月4日、中国福建省アモイ市(共同) 「カリスマでもなければ、カリスマが指名した指導者でもない」習主席にとって、安定した米中関係の構築は、中国最高指導者としての威信の確立に必至である。中国は、「北朝鮮をめぐる米中協議」を「アフガン・パキスタン・メカニズム」(4カ国調整グループ)への再開とともに、米中協調外交の政治的ツールとして組み込んでいきたいところであろう。名ばかりの経済制裁 国連安全保障理事会の新たな制裁決議に基づき、中国が8月15日から実施した対北朝鮮禁輸を受けて、中国メディアは、中朝国境に架かる橋の上で海産物を載せて中国側に入ろうとするトラックを拒否した中国側通関の報道を「宣伝」した。しかし、国連などの統計によれば、北朝鮮の約9割強の貿易相手国は中国であり、そのうち約1割が海産物である。その海産物の禁輸を「パフォーマンス以上のレベル」で中国が実際に行っているのであれば、北朝鮮の中国に対する反発はもっと激しいものになっているはずではなかろうか。 9月1日に中国吉林省の長春で開幕された国際展示会では、日本や韓国など110以上の国と地域の企業とともに、北朝鮮からも30社以上が出展していた。そこでは、国連制裁決議で輸出が禁止されているはずの海産物の乾燥ナマコも売られていた。 中国は、「国連や米国に対する協調のパフォーマンス」を内外へ、特に米国へ「宣伝」している。しかし、それが厳密に実施されているかは、疑わしい。 「トランプ米大統領が明確な対北朝鮮外交・安全保障政策をもたないままに、北朝鮮を挑発している」と中国は見ている。米朝両国が「偶発的な衝突」に突入しないように、中国とロシアは、米朝両国を抑制するような中露協調外交を強化していくことを明らかにしている。 ただし、中国はロシアの動きにも注視している。中国の「一帯一路」構想の港湾戦略を据えたベンガル湾沿岸国でロシアが軍事外交を積極的に展開する近年(この点は拙著『米中露パワーシフトと日本』〔勁草書房、2017年〕を参照されたい)、中露の北朝鮮政策は海洋戦略も含んでいる。ロシアとの「競合と協調」のバランスを図りながら、中国は北朝鮮の地政学を「氷のシルクロード(北極海航路)」構想においても位置づけて、「北朝鮮をめぐる対話・協議による大国外交」を主張していくであろう。このままでは、アジア太平洋の秩序形成におけるパワーシフトが、ますます中国優位へと加速してしまうことになる。米国が中国頼みの北朝鮮政策を転換すべき時期にきていると、日本はもっと声を高めていくべきではなかろうか。

  • Thumbnail

    記事

    トランプに戦争の選択肢はない 「北朝鮮核保有国」の現実を直視せよ

    柳澤協二(元防衛省幹部、国際地政学研究所理事長) 北朝鮮が6度目の核実験をした。しかも今度は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭に載せる水爆だという。私は率直に言って、このことに驚かなかった。それは北朝鮮の既定路線であって、やるかやらないかではなく、いつやるかという問題だと思っていたからだ。北朝鮮はアメリカと対等になるために、アメリカ本土を脅かす核ミサイルを持たなければならないと思っている。目的は戦争ではない。戦争になれば負けることは分かりきっている。アメリカと対等な立場で交渉できるようにするためだ。 あえて「今なぜか」と言えば、北朝鮮経済の生命線である石油の禁輸という制裁に中国が同調しないという「読み」があったからであり、あるいは石油禁輸が不可避とすれば、それを発動されないうちに核を完成させようという狙いがあったのだろう。 深刻なのは、アメリカの圧力外交が効果をあげていないことが明らかになったことだ。中国が石油を止めないとすると、体制を脅かす「決め手」になるような制裁はない。そうすると、実力で核を排除する以外にない。少なくとも、空母を浮かべ、B1爆撃機を見せる程度ではなく、戦争すれすれの脅しをしなければならない。8月8日、米ニュージャージー州のゴルフ施設で北朝鮮情勢について話すトランプ大統領(ロイター=共同) それでも、北朝鮮が核を放棄することはあり得ないと誰もが知っている。つまり、武力で威嚇するやり方では、核開発は止まらないということが明らかになったのだ。 制裁や威嚇で止まらなければ、物理的に核を排除するしかない。そのためには、政権を排除することが最も確実だ。それは「大量破壊兵器を隠し持っていた」と決めつけてイラクのサダム・フセインを打倒したときと同じ論理である。 今回は、結果的に大量破壊兵器が見つからなかったイラクよりも、はるかに大義名分がある。そして、北朝鮮に武力行使した場合、水爆を積んだICBMが完成する前にやらなければ、核の反撃にあうかもしれない。アメリカにとっても「やるなら今だ」という計算が成り立つ。韓国は、自分の同意なしに戦争することに反対だと明確に述べている。中国には、戦争になれば北朝鮮に加勢するという論調もある。さて、日本はどうするのだろう。 1960年に改定された日米安保条約の交換公文では、日本の基地からの直接出撃は事前協議の対象となる。ベトナム戦争の時のように「米軍機が飛び立ったのは通常の移動であって、その時点で北朝鮮の核施設を爆撃する予定はなかったと承知している」という話では済まない。日本の基地への反撃があり得るからだ。 だが私は、実際にはそのシナリオはないだろうと思っている。戦争は、早期に目的を達成して終結する見通しと、戦争終結後に訪れる状況が戦争前よりも良くなっているという展望がなければ始められないからだ。 核開発を止められず、戦争のシナリオがないとすると、選択肢は「交渉」しか残っていない。交渉の条件は、北朝鮮が主張する「核保有国であること」を認めるか、少なくとも「棚上げ」することにならざるを得ない。交渉に移行する最大の障害は、米国内と日韓両国の世論だ。トランプは、自らの強硬路線の失敗を認めることになるのだから、どうやって「名誉ある転進」のように見せるかに腐心することになる。日本がもっと心配するべきこととは? そのシナリオは、おそらく「自分は戦うつもりだったが、韓国や日本といった同盟国がやめてくれと懇願するので仕方なく交渉を選んだ」と言えるような、もう一段高い危機的状況を作り出すことだと考える。 そして、もう一つの「おそらく」を言えば、日本の官邸もそのことに気づき始めている。だから、そこではきっとうまい「芝居」がうたれるに違いない。安倍政権の支持も劇的に回復するかもしれない。 下手な芝居をすれば、本当に戦争になってしまうかもしれない。だから、ぜひうまくやってもらわなければならないのだが、核保有を前提とした交渉をどうやって正当化するのか、依然として難しい課題があることは間違いない。 日本人が考えなければならないことは、したいこととできることは違う、という現実を直視することだ。北朝鮮に核を放棄させたいのなら、金正恩体制を倒すしかない。それは、アメリカにはできるが、その過程でどれだけの被害を受けるのか、その覚悟がなければ「できないこと」なのだ。 脅威とは、能力と意志の掛け算だ。北朝鮮の能力を止められないなら、その能力を使う意志をなくさなければならない。北朝鮮の意志は、一貫してアメリカを向いてきた。そもそも、米朝の対立は1950年の朝鮮戦争にさかのぼる。戦争は3年後に休戦を迎えたが、まだ終わったわけではない。両国は今も戦争当事者であり続けている。戦争当事者の一方に向かって、「敵と対等になるための核を持つな」と言っても通じない。 それゆえ、核放棄というハードルを外し、まずは南進統一の野望を捨てさせる。それならアメリカも北朝鮮を攻撃しない、という平和条約によって両者の戦争を終わらせることから始めなければならないのだろう。現に両者の激しい言葉の応酬にもかかわらず、事態はそこに向かって進んでいる。それは両国の政治リーダーの思惑を超えた、問題の構造に内在する論理的帰結だ。 そこで、日本がもっと心配しなければならないのは、北朝鮮の核を現実として認めることによる「核不拡散レジーム」の空洞化だ。だが、少なくともそれは、戦争の理由にはならない。それが許せないのなら、インド、パキスタン、イスラエルも許せない。そうではなく、北朝鮮が自国の脅威だから許せないというのであれば、日本も核を持つという論理になりかねない。「核兵器禁止条約」制定交渉で、空席となっていた日本政府代表の席=7月7日、ニューヨークの国連本部(共同) しかし、その脅威は日本を攻撃する意志をなくすことで脅威ではなくなる。インド、パキスタン、イスラエルの核が脅威ではない理由もそこにある。その上で、唯一の戦争被爆国という、カネで買っても得られない正当性を背景に、核の不当性を訴えていく。日本が「できること」は、そういうことではないのか。核をなくすという「したいこと」を、「できること」をもって実現するには、時間がかかるのである。

  • Thumbnail

    記事

    「核戦争の共通認識」がない北朝鮮に米国が取るべき道は対話しかない

    中岡望(東洋英和女学院大学大学院客員教授) 北朝鮮の核兵器と大陸間弾道弾の開発で朝鮮半島の緊張が高まっている。北朝鮮は挑発的で過激な発言を繰り返し、トランプ大統領も激しい言葉で応じている。アメリカは北朝鮮に対する経済政策強化を進めることで北朝鮮に核兵器開発を断念するよう圧力をかけ続けている。 しかし、誰も経済制裁の強化で北朝鮮が核兵器開発を断念するとは思っていないのではないだろうか。最悪の場合、事態はさらに悪化する可能性もある。こうした時こそ単に軍事的な分析だけでなく、冷静な判断が必要となるだろう。 戦争は誰のメリットにもならない。北朝鮮とアメリカの軍事力、経済力の格差は歴然で、どう転んでも北朝鮮に勝ち目はない。「螳螂(とうろう)の斧」である。その激しい口調とは裏腹に、北朝鮮にはアメリカを攻撃する能力も意味も存在しない。過剰に北朝鮮の脅威を強調するのは賢明な対応とはいえない。 実際に軍事衝突が始まれば、北朝鮮が目指す体制維持は難しくなるだろう。韓国と中国にも戦火は拡大するかもしれないし、北朝鮮の体制崩壊で中国と韓国に大量の難民が押しかけてくるのも間違いない。日本にも影響は及ぶだろう。またアメリカにとっても何のメリットもない。「核クラブ」による核兵器の独占を維持できたとしても、その代価はあまりにも大きい。北朝鮮の水爆実験の成功を報じる街頭テレビ=3日、東京都(佐藤徳昭撮影) では、なぜ北朝鮮は強引に核兵器の開発を進め、アメリカを挑発し続けるのだろうか。北朝鮮は非合理的な判断をする可能性はあるのだろうか。そこまでのリスクを冒して、北朝鮮は何を得ようとしているのだろうか。狙いは単純である。すべては「体制維持」にある。「核保有国」として認知されることで、それを実現しようとしているのである。 さらにアメリカを直接交渉の場に引き出したいのである。もうひとつ加えれば、経済制裁は効果がないことを示そうとしているのだろう。しかし、アメリカは北朝鮮を「核保有国」として容認することはできないし、直接交渉する準備もできていない。 まず指摘しておかなければならないのは、朝鮮戦争はまだ終わっていないということである。現在は休戦状態だ。アメリカは朝鮮戦争が始まったときから現在に至るまで北朝鮮に対する制裁を続けている。両国の間には正式な外交チャンネルが存在していない。「ニューヨーク・チャンネル」と呼ばれる国連を舞台にする細いチャンネルがあったが、オバマ政権の最後の年にそのチャンネルも閉ざされている。両国はお互いの真意を知る機会さえ持つことができない状況が続いている。 一番怖いのは、対話のない中でお互いの意思を誤解し、計算間違いを犯すことだ。アメリカも北朝鮮に関する明確な情報を持っていない。誤解と計算違いのリスクは北朝鮮だけでなく、アメリカにもある。北朝鮮を非核化するために必要なこと 冷戦の時でさえ米ソの間に外交チャンネルは存在し、お互いの意思を確認し合うことができた。また「相互確証破壊」という共通した考えを持ち、核戦争ではどちらの国も勝利を収めることはできないという共通認識が存在した。だが、北朝鮮とアメリカの間には、共通認識は何も存在しない状況にある。 北朝鮮の挑発的な発言は今に始まったことではない。それに対してアメリカは比較的自制的な対応を取ってきた。オバマ政権は「戦略的忍耐(strategic patience)」を取り、直接的にコミットすることを避けてきた。付け加えれば、オバマ政権は成功はしなかったが核軍縮を目指してきた。 だが、トランプ大統領はそうした自制心を投げ捨て、極めて厳しい対応を取り始める。核開発予算の増額も求めている。北朝鮮に対しては「すべてのオプションはテーブルの上にある」と、「対話」と同時に「軍事的攻撃」も選択肢にあると発言している。 3日、トランプ大統領は記者団に「北朝鮮を攻撃する計画はあるのか」と聞かれ、「検討する(We’ll see)」と答えている。こうしたメッセージが北朝鮮にどう伝わり、どう受け止められているか分からないが、北朝鮮に大きな脅威を与えていることは間違いないだろう。記者団に対応するドナルド・トランプ米大統領=10日、米ニュージャージー州(AP=共同) さらに混迷を深めているのは、トランプ政権内で明確な北朝鮮政策がみられないことだ。トランプ大統領とは違い、ティラーソン国務長官やマティス国防長官は対話の重要性を訴えている。9月3日のNBCニュースは、ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮ウオッチサイト「38North」が8月に「もしアメリカが北朝鮮に対する敵対政策と核の脅威を止めるなら、核兵器とミサイル開発を中止する準備がある」と分析していると伝えている。だが、トランプ政権はそうした兆候や分析を無視している。 スタンフォード大学教授のエイミー・ゼガート氏は、『アトランティック』誌に寄稿した記事(How not to Threaten North Korea)で「アメリカの北朝鮮政策は失敗し続けている。トランプ政権になって対立のリスクは劇的に高まった」と指摘している。その中で注目されるのは、トランプ大統領は自らの情緒的な発言でアメリカに対する「信頼性」を損なっていると指摘していることだ。「外交政策では、言葉は安っぽいものではない。危険性を孕(はら)むものである」とも書いている。危機的な状況の時こそ、冷静な発言と判断が必要となる。 北朝鮮問題を解決できるのはアメリカだけである。北朝鮮の対米不信は根深い。声高に制裁強化を主張するだけでは問題解決にはならない。また歴史的に見て、経済制裁が成功した例はない。北朝鮮に対する「太陽政策」も「北風政策」もあまり効果はなかった。太陽政策は単に北朝鮮に時間を与えただけではないかとの批判もある。しかし、北風政策は間違いなく危機を深刻なものにするだろう。 目標は明確である。朝鮮半島の非核化である。そのために必要なことは、経済制裁強化ではなく、まずアメリカが北朝鮮との間に対話のチャンネルを構築する努力を行うことであり、高官レベルでの直接対話の可能性を探ることである。それによって初めて信頼関係を取り戻せるのだ。

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮が「アメリカ本土に届くミサイル」にこだわる理由

     7月28日、日本時間の午後11時42分頃、北朝鮮の内陸部・舞坪里(ムピョンリ)から弾道ミサイルが発射された。このミサイルは、約45分間飛行して、北海道・奥尻島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと推定されている。朝鮮中央通信によると、高度は3724.9km、水平距離は998kmで、過去最高の高度と飛行時間を記録。7月4日に発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星14号』の改良版ではないかといわれている。金正恩朝鮮労働党委員長は「米本土全域がわれわれの射程圏内にあるということがはっきりと立証された」と誇らしげだったという。 北朝鮮はなぜここまで、“アメリカ本土に届くミサイル”にこだわるのだろうか。 オバマ時代の対北朝鮮政策は「戦略的忍耐」と呼ばれ、「北朝鮮が非核化に向けた措置を取らない限り、対話に一切応じない」というものだったが、北朝鮮はそれを無視し、オバマ時代に4回も核実験を行い、核兵器の性能を大幅に向上させてきた。だが今年1月、トランプ大統領政権に変わったことで、事態は大きく変化する。 金沢工業大学虎ノ門大学院教授で、34年間、海上自衛隊の海将などを務めてきた伊藤俊幸さんが、こう解説する。「トランプ政権が北朝鮮に対して出した対話の条件は、“核の完全放棄”です。さらに、北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す挑発行為をエスカレートさせた場合、あらゆる措置をとると厳しく警告。軍事行動が含まれることも示唆しています」 実際にアメリカは、北朝鮮への影響力が強い中国に対し、北朝鮮への圧力強化を指示している。しかし、中国はそれに応える結果をなかなか出さない。そんな中国に対してアメリカは、米中の銀行取引を禁じるなど、この6月から経済制裁をかけ始めている。「そうした中、北朝鮮は、“自分たちにも核ミサイルをアメリカまで飛ばす軍事力があるとわかれば、アメリカは自分たちと対等に話をするはず”と考え、そのアピールのために、頻繁にミサイルを飛ばしているのです。言うなれば、北朝鮮が欲しいのは“核”による抑止力です。これがあれば、アメリカをはじめとするロシアや中国などの大国と対等になれると思い込んでいるのです。しかし、北朝鮮の核保有に、アメリカは強く強く反対しています」(伊藤さん)関連記事■ 北朝鮮核ミサイルに対抗するには日韓核武装も選択肢と専門家■ 北がミサイル発射、日本EEZに落下か…深夜に■ ノドン、ムスダン、テポドン… 金正恩のミサイルの実力■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 金正日死去で北朝鮮に暴動発生・米国の武力介入の可能性指摘

  • Thumbnail

    記事

    「電磁パルス攻撃」が次の一手? 核実験も疑わしい北朝鮮に騙されるな

    原田武夫(元外交官・原田武夫国際戦略情報研究所代表取締役) 9月3日、北朝鮮を震源地とする大きな揺れが観測された。これを受けて北朝鮮は「水爆実験に成功した」と主張し、国際社会全体に衝撃を与えた。北朝鮮は先日も弾道ミサイルを太平洋上に向けて発射し、北海道をまたいでわが国に対して深刻な恐怖を与えたばかりだ。北朝鮮核実験のニュースを報じる街頭モニター=9月3日、東京都千代田区(佐藤徳昭撮影) しかもそれだけではない。今後、北朝鮮は一般には聞きなれない「電磁パルス攻撃」なるものまで仕掛けて来ると言われている。「次の一手」として北朝鮮が一体どのタイミングで何をしでかしてくるのかに注目が集まっているのである。 私は2005年春まで外務省にキャリア外交官として勤務し、最後は北東アジア課で北朝鮮班長を務めていた。わが国の対北朝鮮外交の最前線にいたわけであるが、そこで積んだ経験、さらにはその後、外務省を自主退職して以降、さまざまな方面から収集した情報をベースに「私たち日本人はいま何を考え、そしてこれから何をすれば良いのか」について書いてみたいと思う。 最初に考えなければならないのはそもそも北朝鮮の「主張」が真実なのかという点である。 「弾道ミサイルが発射されたのは本当であり、また巨大な揺れを感じた以上、水爆実験が行われたことも真実のはず。これ以上何を疑う必要があるのか」 読者はきっとそう考えるに違いない。しかし、プロの「北朝鮮のウォッチャー」の視点からすると最初にこの点こそ真正面から疑ってみる必要がある。それはなぜか。 例えば、今回の「水爆実験成功」なる北朝鮮の主張を取り上げてみよう。実は核不拡散の専門家の見地からいうと、まだ本当に「水爆実験」であったかどうかは分からないというのが正直なところなのだ。 なぜなら、非常に簡単にいうとこうした核実験が行われたことを確認するためには、下記の3つの要件が必ず必要だからである。①巨大な揺れが世界中に設置されている「包括的核実験禁止条約(CTBT)」事務局公認の地震計(わが国では長野県・松代に設置されている)で均(ひと)しく観測される必要がある。②核実験を行った時のみに観測することができる特定の放射性物質(キセノン等)を空気中で実際に採取することができる。③ 中立的な専門家が当該国の現地を実際に訪問し、確認すること しかし、北朝鮮がこれまで「核実験」として主張してきた例を見ると、①~③まで全ての条件がそろったことは一度もないのである。③については北朝鮮という閉鎖的な国柄から考えて、当然、現地査察は認められないとしても、②も毎回観測できているわけではないのだ。そして、①も実のところ、専門家たちの間では「核実験が行われたと考えるのに十分な揺れ」が全ての観測地点で観測されているわけではない。核実験に加えミサイルも それでも米国やわが国をはじめとする各国は、どういうわけか「北朝鮮が核実験を行ったこと」を認め、そのことを前提に議論してしまっているのである。むろん、弾道ミサイルの開発が北朝鮮において順調に進んでいることは確かなのだから、悠長なことを言うべきではないという意見もあるはずだ。だが、その肝心の「弾道ミサイル」開発についても、ここに来て「どうやらウクライナからミサイルエンジンを輸入しているらしい」という分析を米インテリジェンス機関が公開したばかりなのである。 つまり、北朝鮮は完全に自分自身で弾道ミサイルを開発し、それに「核弾頭」を載せて威嚇しているわけでは決してないのである。そもそも弾道ミサイルについては、どこか外部の勢力からの支援を受けて開発しているに過ぎず、また「核弾頭」は存在するかどうかさえ分からず、その大前提としての「核実験」についてすら、本当に行われているのかどうか、全く定かではないというのが実態なのだ。 だが、米国をはじめとする関係諸国はすでに「北朝鮮がいよいよ米領グアムに対して弾道ミサイルを発射すること」を前提に動き出している。先日まで「北朝鮮はよく自制をしてきている」として対話の用意があることすら示唆していたトランプ米政権も、どういうわけか軍人たちを筆頭とする「主戦論」に転換し、下手すれば「第二次朝鮮戦争」にまで発展しかねない軍事的衝突を今や遅しと待ち構えている可能性がある。演説するトランプ米大統領=8月22日、アリゾナ州フェニックス(AP=共同) しかも、わが国はそうした中で北朝鮮が隣国であるにもかかわらず、主体的な動きをすることができず、明らかにもがいているのである。事実、わが国の上空をまたいでいった先日の弾道ミサイルに対して、事前及びその飛行中にわが国は何もすることができなかった。もはや「国民の生命と財産」と言う意味での「国益」は政府であっても守れないことが露呈しているというのが実態なのである。 しかし、そうした状況の中であっても驚き、慄(おのの)いてはならないというのが私の考えである。むしろ、北朝鮮をめぐる現下の情勢において、ある意味では、わが国が明らかに「当事者能力」を失っているからこそ、冷静に今の状況を見つめる必要がある。そうして、グローバル社会の背後にうごめく、日本古来から伝えられる妖怪「鵺(ぬえ)」のような不可思議なものが、この出来事を通じて一体何を実現しようとしているのかをはっきりと見いだすべきなのである。東アジア秩序の大転換 なぜならば、今回の北朝鮮をめぐる一連の「出来事」はあまりにも「できすぎたストーリー」だからだ。事実、突然「テロ」に遭って亡くなった金正男から始まり、ここに至るまでの北朝鮮をめぐる一連の展開は話ができすぎている。北朝鮮の金正日総書記の長男、金正男氏=2007年3月18日マカオ市内(清水満撮影)  その金正男が実のところ、ある段階まで「今後、北朝鮮の金正恩体制が事実上崩壊した際、暫定大統領として自由選挙を取り仕切る役割を果たすべき人物」として、マカオで米国と華僑・客家集団の取り決めに基づき「温存」されていたことは、グローバルなインテリジェンスの世界では「常識」だった。ところがある時、何者かによってこのシナリオは完全に破棄され、少なくとも表舞台から金正男は姿を消したのであった。 このような展開を前に各国の情報機関でも動揺が走っているように見受けられる。なぜならば、より上位の意思決定によって明らかにこの「シナリオ」は放棄され、そこからやおら、北朝鮮の金正恩体制による暴走が露呈し始めたからである。そして現体制は明らかに「自滅」に向かっている。 このままいけば、弾道ミサイルはグアムに向けて発射され、それに対して怒り狂うトランプ米政権は一気にミサイル攻撃を北朝鮮に対して仕掛け、その軍事力を極めて短時間で「無能力化」するのは目に見ている。「裸の王様」となった金正恩に統治能力はもはやないに等しいが、問題はその時「彼の身に何が起こるのか」なのである。 万が一、金正恩が「命を落とす」といったケースが自然な形で起きてしまった場合、なし崩し的に北朝鮮における体制転換が生じ、これが韓国をも含む朝鮮半島全体の再編を促し、ついには周辺諸国をも含む、いわば「環日本海秩序」とでもいうべきものをリニューアルする流れが一気に始まる可能性がある。 国際社会のより上部に位置しながらその歩みの連続として「世界史」を動かしている「鵺(ぬえ)」は今、いよいよ決断し、動かし始めたと考えるべきだと私は分析している。 そして何よりも問題なのは、「加計問題」など国内問題に相も変わらず揺れている安倍政権が、果たしてこうした極めてハイレベルな国際社会の最上部における決断に対して、応分の貢献が主体的な形でできるか否かなのである。広い意味で言えば「2019年に主要20カ国・地域首脳会議(G20)の議長国をわが国にする」という決定は、そのための機会として与えられたものであることを私たちは忘れてはならないのだ。 そして、その先においてわが国が憲法でうたう「国際社会における名誉ある地位を占める」ことができるかどうかは、今この瞬間から始まっている「グレート・ゲーム(政治的駆け引き)」において、私たち日本人一人ひとりがいかなる自覚をもって、どのように動くのかにかかっているのである。そのことを決して忘れてはならない。

  • Thumbnail

    テーマ

    北朝鮮核実験、揺らぐ世界秩序

    北朝鮮が6度目の核実験を強行した。国営放送を通じた声明では「水爆実験の成功」を主張し、強硬姿勢を貫く米国を射程圏に入れた核ミサイル開発が最終段階にあることをアピールした。国際社会の反発を無視して暴挙を繰り返す北朝鮮。対話か圧力か、それとも軍事オプションか。揺らぐ世界秩序の今を読み解く。

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮情勢、カギは日本の核武装を許さない中国の「レッドライン」

    しなければ米国に協力する」とのニュアンスに変わっている。中国もロシアもややサジを投げた格好だ。 国連安全保障理事会や日米韓三国は、北朝鮮への経済制裁を実施してきた。ぜいたく品の輸出禁止や、高官や企業への制裁を実行したが、北朝鮮が本当に困る制裁ではなかった。企業名と個人名を変更すれば制裁逃れができたように、抜け道がいくらでも可能だったからだ。北朝鮮の「最も嫌がる作戦」 日露戦争の名参謀、秋山真之は外交や軍事戦略の極意について「相手が最も嫌がる作戦の実行だ」と述べた。北朝鮮が最も嫌がる対応は、石油の全面禁輸と米国の軍事攻撃である。北朝鮮は石油が一滴も出ない。しかも、年間の石油の確保量は世界最低である。軍用石油の保有も世界最低だ。北朝鮮は昨年約27万4千トンの石油製品を中国から輸入した(読売新聞、9月4日朝刊)。中国はひそかに、通関統計には公表されない原油を数十万トン供給していると報じられる。中国以外では、ロシアや中東、東南アジアから数万トン規模の石油を輸入している。 それでも、軍事用に使用できる石油は最大で50万トン程度しかない。自衛隊の約3分の1だ。石油製品と原油が全面ストップすると北朝鮮は軍隊を維持できない。通常兵器による戦争と戦闘は不可能になる。中国は、この状況を十分に理解していたから北朝鮮に毎年50万トンの原油を送り続けた。だが、この原油から軍事用の石油製品は最大でも20万トンしか生産できない。中国は重質分が多く質の悪い原油しか供給しなかったからである。北朝鮮に輸出する原油を積んだ貨物列車=4月、中国遼寧省丹東市(共同) 歴史の教訓に学ぶなら、北朝鮮は明らかに崩壊の道に突き進んでいる。歴史の流れに逆行する国家はやがて滅びるからだ。旧ソ連は、市場経済を拒否し核大国として人権と自由を抑圧し、崩壊した。北朝鮮は、中国とロシアの黙認を背景に核開発を継続できた。しかし、中露が許せる「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えれば、黙認も終わる。 中国はなぜ北朝鮮への石油禁輸に反対したのか。石油を全面禁輸すれば北朝鮮の軍隊は崩壊する。戦車は動かないし、戦闘機も飛べない。軍の崩壊はすなわち北朝鮮の体制崩壊を意味する。それは望んでいないから、石油禁輸に反対してきたわけである。だが、米国に届く核弾頭とミサイルが完成すれば、トランプ大統領は北朝鮮を軍事攻撃するかもしれない。そうなれば、北朝鮮が崩壊し朝鮮半島は統一され、中国の東アジアへの影響力は失われる。 軍事攻撃がなければ、北朝鮮の核保有は既成事実となる。次に起きるのは日本や韓国、台湾、ベトナムなどの核開発だ。米国が容認するかもしれない。むろん、中国にとっては最大の悪夢である。米中の「レッドライン」はこれだ とすると、中国にとってのレッドラインは、北朝鮮が米国に届く核ミサイルを完成する直前になる。これは、トランプ政権とも共有できるレッドラインだ。あるいは、米国が日本や韓国の核武装を認める時期がレッドラインになる。 安倍首相とトランプ大統領は、国連安保理で「対北石油全面禁輸」の制裁決議を採択させようとしている。中国とロシアは簡単には賛成しないかもしれない。その場合にはどうするのか。米ロ首脳とそれぞれ電話会談後、取材に応じる安倍首相=9月3日深夜、首相公邸 選択肢は、①北朝鮮への石油タンカーの全面入港禁止②中露以外の国の石油輸出禁止③中露は核実験とミサイル実験のたびに石油供給を減らす④世界の船舶の北朝鮮入港禁止⑤北朝鮮との貿易の全面禁止⑥北朝鮮の国連傘下機関からの除名⑦北朝鮮の国連加盟資格停止⑧国連からの除名-など本格的な制裁はなお多く残されている。 米国の軍事行動も、小規模なものから大規模なものまで、多くのオプションがある。そのオプションが既に提出されているとトランプ大統領は明らかにした。 軍事オプションは、①中朝石油パイプラインの破壊②北朝鮮に向かう全タンカーの海上での阻止-などの小規模行動から、③核実験場破壊④ミサイル発射台破壊⑤核施設破壊-などの限定攻撃まで、数百もの細かい攻撃目標がリストアップされる。米国は、北朝鮮が韓国に報復攻撃しにくい口実と攻撃目標を設定するはずだ。軍事オプションには、在韓米軍兵士の家族や米民間人の韓国からの退去が不可欠だ。報復攻撃による米国民の犠牲を恐れるからだ。それがない限り、北朝鮮の核とミサイルの実験は続く。

  • Thumbnail

    記事

    北ミサイル発射 それでも日米が「断固抗議」で済ませる理由

    できない。そこで登場するのが、弾道ミサイルを使っての「脅し」なのである。脅しで米朝対話を要求 国連の安全保障理事会は8月5日、北朝鮮が7月に実施した2回のICBM発射を受けて、新たな制裁決議を全会一致で採択した。しかし、今回の弾道ミサイル発射は、あえて太平洋に向けて発射することにより、国連安保理決議を無視し、さらに経済制裁をも無視する余裕があることを改めて強調したものといえる。 太平洋への発射は、最近の日本海へ落下させる実験よりも米国を強く刺激することができる。太平洋に落下させた意図には、ミサイルの開発が着々と進んでいることを米国にアピールする狙いもあったのだろう。外交カードとしての核 これまでの米朝関係を振り返ると、北朝鮮が強硬姿勢に出る時は、米朝直接対話を要求するときであった。この手法は「瀬戸際政策」とも呼ばれている。「瀬戸際政策」は北朝鮮が1993年にNPT(核拡散防止条約)からの脱退を表明したところから始まる。いまや使い古された手法だが、結果的に米国の譲歩を勝ち取り、経済支援を受けるなどの勝利を収めてきたことは事実だ。北朝鮮が米領グアム沖に弾道ミサイルの発射を検討中と表明したことに対応するドナルド・トランプ米大統領=8月10日、米ニュージャージー州(AP=共同) 今回の弾道ミサイル発射も核実験とともに対話の実現を目指したものであろう。つまり、米国を対話のテーブルに着かせるためのカードというわけである。「圧力」しかかけられない米国 北朝鮮に軍事攻撃を加えようにも、現在の米国はイラクやシリア、アフガニスタンでの戦争で手一杯である。2018会計年度で戦費として約7兆1000億円を計上しているほどだ。 このような状態で北朝鮮との「二正面戦争」を遂行することは不可能に近く、トランプ大統領としては現に戦闘が行われている地域を重視せざるを得ないため、たまに強硬な発言をしていても、北朝鮮だけに対応する余裕はない。このため北朝鮮は「後回し」となるだろう。 北朝鮮はこうした米国の苦しい事情を見透かしている。いまが米国に対する圧力のかけどころだと判断したのかもしれない。 今後、弾道ミサイルの発射が続き、たとえ北朝鮮に対する警告の意味であっても、米国が北朝鮮近海や核関連施設などへミサイルを発射することは現実的ではない。北朝鮮が反撃する可能性がゼロではないためだ。戦争はタダではできない トランプ大統領が愛用しているツイッターでの「言葉の攻撃」にかかる費用はタダ同然なのだが、現実的な問題として、米国は世界最大の債務国であり国家予算は国債に依存しているため、北朝鮮に武力行使するための費用、すなわち戦費をどのように確保するのかという問題がある。 米国防総省が今年5月23日に発表した2018会計年度の国防予算案は、本予算約5745億ドル(約64兆2千億円)にイラクやシリア、アフガニスタンなどでの戦費約646億ドル(約7兆1000億円)を加えた約6391億ドルとなっている。(日本の2017年度の一般会計予算は97兆4547億円、防衛費は5兆1251億円)戦争が国庫を食いつぶす 戦費の負担は景気にも影響する。2010年9月、オバマ米大統領が米軍のイラクでの戦闘任務の終結を宣言したが、7年5か月に及ぶ戦いにより、7000億ドル(約77兆円)にのぼる戦費が米国経済への重荷となり、リーマン・ショックの伏線となった。国連総会の一般討論で演説するオバマ米大統領=2016年9月20日、米ニューヨーク(ロイター=共同) 戦争により軍需産業が潤うなどの経済効果はあるが、返す当てのない大量の国債の発行が長期的に経済に与える影響は少なくない。 北朝鮮への武力行使に必要となる戦費は、クリントン政権が北朝鮮攻撃を検討した際の推計が1000億ドル(現在のレートで約11兆円)であった。攻撃を検討した1994年当時とは違い、巡航ミサイルや誘導爆弾が大量に使用されることになるため、大規模な地上戦が行われることはないだろうが、高価な兵器を大量に使用することになるため高額な戦費になるのは間違いない。 北朝鮮軍が相手なら、米軍が現在保有している兵器の「在庫処分」で済むという見方もあるが、それは一時的なものであり、後々「在庫処分」した分の穴埋めをするために新たに兵器を購入しなければいけない。日本に着弾した場合 今回のミサイルは日本列島を飛び越えたが、もし、日本へ着弾したらどうなるのだろうか。安倍晋三首相は8月29日、「北朝鮮のミサイル発射直後から動きを完全に把握していた。万全な対策を取ってきた」「これまでにない深刻かつ重大な脅威。(北朝鮮に)断固たる抗議を行った」と述べている。 弾道ミサイルが発射されるたびに繰り返される、何の実効性もない「断固たる抗議」はともかく、「万全な対策」とはどのような対策なのだろうか。 おそらく、人工衛星を使って防災無線から地方自治体に瞬時に伝達する「Jアラート」と、内閣官房から緊急情報が流れる「Em-Net(エムネット)」が正常に作動し、自治体での被害状況の確認が円滑に行われたことを指しているのだろう。 今回は何の被害もなかったが、もし弾頭が着弾した場合はどう対応するのだろうか。日本への着弾が予想される場合は、自衛隊法に基づく破壊措置を実施することになるが、その後の自衛隊の対応に問題が残る。つまり、「防衛出動」や「防衛出動待機命令」を発するかどうかである。 防衛出動には国会の承認が求められるため、よほどの事態に発展しないかぎり、野党が反対することは目に見えている。本当の「宣戦布告」か?あいまいな「宣戦布告」 北朝鮮が事前に「宣戦布告」した後の攻撃なら別だが、北朝鮮は米国を非難する際に「宣戦布告」という表現をこれまで乱発してきたため、本当の「宣戦布告」なのか北朝鮮側に確認する必要がある。 もちろん、複数の弾道ミサイルが日本列島に着弾した場合は、事実上の「宣戦布告」となる。しかし、1発だった場合は「発射実験の失敗」の可能性を排除することが出来ないため、本当の攻撃なのかどうかを確認するという滑稽な形を取ることになる。 戦争は、ある日突然起きるわけではない。対話が行き詰まるなど何らかの前兆がある。現在の北朝鮮情勢の緊迫度は、米朝関係の歴史を振り返るとそれほど高いものではない。しかし、複数の弾道ミサイルが日本に着弾するという事態になってしまった場合、米軍はどのように動くのだろうか。 米国に対して「宣戦布告」が明確に行われれば、米軍は北朝鮮攻撃へと動くだろうが、北朝鮮は「宣戦布告」する前に大規模な奇襲攻撃を仕掛けるだろう。 とはいえ、弾道ミサイルで奇襲を仕掛けるにしても、1990年代に製造された日本を攻撃する「ノドン」や、もっと前に製造された韓国を攻撃する「スカッド」は老朽化をはじめており、正常に飛ぶのかどうかも怪しい。 最新の弾道ミサイル以外は老朽化した兵器しか持たない北朝鮮軍には、いまも昔も大規模な奇襲攻撃しか勝ち目がない。あとは特殊部隊を用いた破壊工作に頼るほかない。 北朝鮮は、米国本土まで届くICBMを配備したとしても、米国、日本、韓国に戦争を仕掛けることはないと筆者は考えている。戦争を行なうとなれば、少なくとも在日米軍と在韓米軍の北朝鮮に対する攻撃手段を短時間で全て破壊するだけでなく、グアムや米国本土の航空基地も破壊しなければならないからだ。 北朝鮮の弾道ミサイル発射と核実験はセットで行われる傾向があるため、6回目の核実験もまもなく行われるだろうが、日本が行えることは「断固たる抗議」と効果が疑問な経済制裁しかない。 このような事を繰り返しているうちに、今回のように日本列島を弾道ミサイルが飛び越えるという事態になってしまった。敵基地攻撃能力の保有に本格的に着手すれば、野党などから猛反発を受けるだろうが、そろそろ実効性のある対応策を検討すべきではなかろうか。関連記事■ 使える時間は4分のみ 現実に見えた「Jアラートの実力」■ 「日本の刑務所すら夢のような世界」北朝鮮の難民リスクは■ 金正恩が核兵器と弾道ミサイルの開発を止めることはない理由■ 北朝鮮のミサイルの脅威から日本は自国を守れるか?■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖

  • Thumbnail

    記事

    金正恩が核兵器と弾道ミサイルの開発を止めることはない理由

     北朝鮮がグアム島周辺に弾道ミサイルの発射を計画していることで、アメリカと一触即発の緊迫状態が続いている。グアム当局は核兵器による攻撃も想定した緊急ガイドラインを発表するなど、いまや北朝鮮の核保有は現実的な脅威として受け止められている。 北朝鮮の核開発の進捗状況や威力、日本への影響などどれほど深刻なのか。『北朝鮮恐るべき特殊機関』などの著書がある朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏がレポートする。* * * 韓国国防省は7月5日、北朝鮮北東部の豊渓里(プンゲリ)の核実験場の状況について、「2番、3番坑道はいつでも核実験が可能な状態を維持している」「爆発力を拡大させた核実験で、核弾頭の能力を試す可能性がある」と明らかにしている。 北朝鮮は昨年の9月9日の建国記念日に5回目の核実験を実施していることから、今年の建国記念日に6回目の核実験を行う可能性もある。 北朝鮮は核実験の回数を重ねるたびに核爆発の威力を高めてきた。2006年10月の初回は1キロトン未満と推定されたが、2016年9月の5回目は広島や長崎に投下された原爆と同程度の最大20キロトンと推定されている。 米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」は2017年3月10日、核実験場で坑道の掘削が続いており、地形などから昨年9月に実施された5回目の10倍以上の威力を持つ核実験も可能で、6回目の核実験を行う場合、最大282キロトン規模になる可能性があるとの分析を発表している。北朝鮮の核実験の危険性 北朝鮮はこれまで全ての地下核実験を豊渓里(プンゲリ)で行っているが、このような狭い地域における地下核実験には大きな危険が伴う。地下核実験では実験の規模にもよるが、通常、地下核実験では一辺が50~60kmの砂漠で行われる。その理由は、核爆発によって破壊された地下水脈を通じて放射能が拡散することを防ぐためだ。 米国はネバダ砂漠、中国はタクラマカン砂漠、インドはタール砂漠、パキスタンはシン砂漠、旧ソ連は砂漠がないため広大な平原で地下核実験を行っている。ネバダ砂漠の核実験場は日本の鳥取県全域に相当し、旧ソ連・カザフスタンのセミパラチンスク核実験場の面積は四国とほぼ同じである。つまり地下核実験は砂漠などの広大な場所が必要になるのだ。核実験場が確保できない そのため、北朝鮮は過去に、金日成政権が旧ソ連・ブレジネフ時代(1964~1982年)の末期に旧ソ連共産党指導部に対し「核兵器を開発したあかつきには、その実験場としてソ連の地下核実験場を使用させてほしい」と非公式に要請したことがある。(「産経新聞」1993年3月20日)北朝鮮の特別調査委員会の庁舎玄関に掲げられた、金日成主席と金正日総書記を描いた絵画=2014年10月29日(桜井紀雄撮影) 金日成政権がブレジネフ政権に場所借りの要請をした時期は、1970年代末から1980年代初めで、希望した実験場はセミパラチンスクの可能性がある。 ブレジネフ政権が当時、北朝鮮の核実験場使用の申し入れにどう対応したかは明らかになっていない。しかし、このような北朝鮮の動きは、北朝鮮には核実験に適した場所がないことを北朝鮮(金日成)が認識していたことを示している。 豊渓里周辺は岩盤となっているため安全という見解があるが、度重なる実験により岩盤に亀裂ができている可能性もある。朝鮮半島は豊かな地下水脈が流れており、最終的に少量の放射性物質が日本海へ流出しないという保証はどこにもない。地下核実験でも起きる放射能汚染 北朝鮮が過去5回行った地下核実験では、放射能漏れは起きていないようだ。 大気圏に放射性物質が放出された場合は、日本海を飛行する米空軍のWC-135大気収集機と、集塵ポッドを搭載した航空自衛隊のT-4 練習機で放射性粒子を収集することができる。この結果、これまでは放射性物質は観測されていない。 だが、1960年代に遡ると、米国、旧ソ連、中国、フランスは地下核実験で放射能漏れを起こしており、同様の事態が北朝鮮で起こらないとはいえない。 米国は1960年代に行った地下核実験で放射能漏れを何度も起こしている。放出された放射能の規模は大気圏内実験並みであったという。その後、放射能の封じ込めの技術の進歩により、放射能漏れはほぼなくなった。 旧ソ連は1965年に行ったセミパラチンスクでの地下核実験で、爆発によって山が吹き飛ばされ、その時の「死の灰」は風下のセミパラチンスク市に大量に降り注いだだけでなく、微量ではあるが5日後に日本でも検出された。日本への影響も核実験によるウイグル人の被害の実態調査を訴えるイリハムさん=2012年 6月 22日、広島県庁(浜田英一郎撮影) 中国が新疆ウイグル自治区のロプノールで核実験を行った際には、実験に使われた山中のトンネルの一部が吹き飛ぶ事故が発生しており、大気圏に放射性物質が放出された。放射性物質を帯びた雲は4000km離れた日本上空に達したという。 フランスは1960年2月13日以降、当時フランス領だったアルジェリアのサハラ砂漠で核実験を実施しており、6年間で13回行われた地下核実験のうち12回の実験で放射性物質が大気圏に放出された。 北朝鮮の地下核実験における放射能の封じ込めの技術がどの程度なのか分からないが、実験を行うたびに規模が拡大していることから危険性は高まっているといっていいだろう。 北朝鮮は1回目の地下核実験の前に、実験場がある豊渓里周辺の住民に強制移住を命じている。この措置は地下核実験後、放射能が漏れる可能性に備えたものとみられるが、詳細は不明だ。日本への影響 北朝鮮が2016年1月6日の4度目の地下核実験に成功したと発表したのを受け、日本の原子力規制庁は全国約300か所のモニタリングポストの測定結果を公表し、いずれも放射線量に変化がなかったことを明らかにした。 しかし、放射能の封じ込めが不完全だった場合、日本には25~50時間後に影響が出る可能性があるという見解と、日本で健康へ影響を及ぼすことは考えにくいという見解がある。どちらの見解が正しいのか分からないが、最悪の場合、旧ソ連や中国のような山やトンネルが吹き飛ぶような深刻な事態が発生し、大量の放射性物質が放出されるかもしれない。1950年代から核開発を開始 北朝鮮は2005年に核保有を公式に宣言しているが、開発には半世紀以上の時間をかけている。 1950年代から旧ソ連の支援を受けて核開発を進めてきた。1956年に旧ソ連の核研究所の創設に加わる協定を結び、モスクワ郊外にあるドブナ合同原子核研究所をはじめとする東欧諸国で技術者を研修させ、核の専門家を養成するなど核関連技術の蓄積を始めた。なぜ核開発を続けるのか 採掘可能量が約400万トンの良質なウラン鉱山を持っている北朝鮮は、1959年に旧ソ連と原子力協力協定を締結し、1965年に旧ソ連から研究実験用原子炉1基(熱出力2000kW)を導入し、寧辺(ヨンビョン)に原子力研究所を設立し、同研究所を中心に原子力技術の研究開発を進めた。 1970年代に入ると、核燃料の精錬、変換、加工技術などを集中的に研究するなど、自国の技術で研究用原子炉の出力拡張に成功した。 1980年代には寧辺原子力研究所の敷地を拡張し、電気出力5MW級の黒鉛原子炉を建設し、1986年に稼動させた。また、出力50MW級黒鉛減速炉、核燃料製造工場及び核再処理工場等の核関連施設の建設を本格化させた。その後、米朝枠組み合意(1994年)で核開発凍結に合意するまでに、核兵器の原料となるプルトニウムの抽出に成功したとされる。 そして2006年、豊渓里での初の地下核実験を行い、世界で8か国目の実施国となった。北朝鮮・豊渓里にある核実験場と見られる建物、5月18日撮影(デジタルグローブ/38ノース提供・ゲッティ=共同)核兵器の開発を続ける理由 北朝鮮は長い歳月をかけて核開発を行ってきた。核兵器の開発は金正恩が暴走しているのではなく、米国の脅威を感じた金日成と金正日の「遺訓」を守ってきた結果ともいえる。 北朝鮮は米国と敵対している。その米国は広島と長崎に原爆を投下した。世界で唯一、核兵器を使用した国である。米国と敵対している国の指導者にとっては、核兵器を本当に使用してしまう米国を信用することは出来ないだろう。 もっとも、米国は北朝鮮に対して核兵器の使用を検討したことがある(1968年のプエブロ号事件など)。このため、金日成が米国の核兵器に脅威を感じたのも無理はない。金日成が経済の停滞や食糧不足にもかかわらず核兵器の開発を推し進めた目的と、中国の毛沢東が大量の餓死者を出しながらも核兵器の開発を推し進めた目的には共通点がある。 したがって、北朝鮮は米国の軍事的脅威がなくなるまで、制裁が強化されようとも、核兵器の開発とそれを運搬する手段である弾道ミサイルの開発を止めることはない。むしろ、制裁が厳しくなればなるほど開発を急ぐだろう。関連記事■ 金日成の健康法は少女からの輸血や少女との入浴など■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ 激太り目立つ金正恩に欧州から医師招く「特別医療体制」■ 中国 ウェブからプーさん遮断し「北朝鮮よりひどい」の声■ 金正男氏暗殺事件 北朝鮮に引き渡された遺体の行方

  • Thumbnail

    テーマ

    北朝鮮ミサイル、日本は迎撃できるか

    北朝鮮が日本上空を通過する弾道ミサイルを発射した。朝鮮中央通信は「太平洋における軍事作戦の第一歩」とした上で、「日本が慌てふためく作戦」とも伝えた。安倍首相は「発射直後は動きは完全に把握していた」と強調したが、そもそもわが国のミサイル防衛能力はどれほどなのか。迎撃可能性の有無を検証する。

  • Thumbnail

    記事

    日本はこのまま「北朝鮮の核ミサイル完成」を待つのか

    門田隆将(ノンフィクション作家) 本日早朝、北朝鮮の中距離弾道ミサイルが、警告されていた島根、広島、高知の上空ではなく、北海道上空を通過し、太平洋上に落下した。小野寺五典防衛相は、「中距離弾道ミサイル『火星12』の可能性がある」と記者団に述べた。 これまで、北朝鮮が予告の上で「人工衛星である」と称して発射した飛行体が日本列島を通過したことはあったが、ついに弾道ミサイルが「予告なし」で列島を通り越していったのである。 北海道をはじめ全国各地で、Jアラートと連動したサイレンが鳴り響き、携帯電話やスマートフォン等で「エリアメール」が鳴動した。テレビ画面も一斉に緊急画面に切り替えられた。 「私たちは、このまま北朝鮮の“核ミサイルの完成”を待ちますか?」――私は、そんなことを思いながら、一連の動きを見ていた。北朝鮮のミサイル発射について取材を受ける安倍晋三首相=29日(宮川浩和撮影) 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」した私たち日本人にとって、北朝鮮の弾道ミサイルは、本来「あり得ないこと」である。 憲法前文で謳うこの理想は、人類の夢である。だが、「夢」は「夢」であり、「現実」ではない。世界の諸国民が「平和を愛する人々である」という前提がいかに「おめでたい」かは、小学生にでもわかる。 だが、私は、「日本人はこのまま北朝鮮の“核ミサイルの完成”を待ち、座して“死”を待つのだろうか」と本当に思う。当欄でも、私は長くこう書いてきた。「北朝鮮が核弾頭の小型化と起爆装置の開発を果たすまでが、日本人が生存できるリミットである」と。 多くの研究者が、「もはや北朝鮮は核弾頭の小型化を実現している」という中、あとは「起爆装置の開発」ができているかどうか、である。 言うまでもなく「核弾頭の小型化と起爆装置の開発」の成功は、「核ミサイルの完成」を表わす。その瞬間から、日本人は、「いつ、理不尽に、自分の命が失われるかわからない状況下に立つ」ことになる。すでに日本の「5都市」が攻撃対象 日本人は忘れやすいのであらためて記すと、北朝鮮はすでに、2013年4月、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」に〈わが国に対する敵対政策は日本の滅亡を招く〉という記事を掲載(4月10日付)している。 その中で、〈日本は我々の報復対象から逃れることはできない〉とし、攻撃対象として〈東京、大阪、横浜、名古屋、京都〉の「5都市」を挙げている。 記事はかなり詳細で、これらの5都市が日本の人口の「3分の1」近くを占めていることを理由に、〈われわれは、日本の戦争持続力を一気に壊滅させることができる。日本列島のすべてをわれわれは戦場とするだろう〉と主張していた。 この「宣言」は核ミサイルを前提にしている。そして今、いよいよその完成が「間近」となったのである。北朝鮮の労働新聞が7月29日に掲載した「火星14」発射の写真=(共同) 私は、テレビで評論家の話を聞きながら、「なぜ、ここまで危機感がないのか」と思う。まだ「起爆装置の開発ができていない」今だからこそ、日本は「生存」できている。なにも起こらないで欲しい、と思っても、もはやそんな悠長なことを言っていられる場合ではない。 もし、北朝鮮が「すべての開発」を終了させたら、日本はどうするのだろうか。そんなことをなぜ議論しないのだろうか。そして、今回のミサイルを「なぜ、撃ち落さなかったのか」、それは、ひょっとして「撃ち落せなかったのか」、それとも完全にミサイルの航跡を把握しながら「撃ち落す必要はない」と判断したのか、そして、もしそうなら、なぜそう判断したのだろうか。議論すべきことは数多くある。 なかでも日本が今、議論すべきは、アメリカに「北朝鮮の無力化」をどう果たしてもらうか、ということではないだろうか。その具体策をどうするか、それを政府に先んじてマスコミは議論していかなければならない。 加計問題で、ファクトに基づかない一方的で煽情的な報道をつづけた日本のマスコミ。「国民の生命と財産を守る」ということに対するマスコミの意識の低さと危機感の欠如に、私は、ただ溜息が出るだけである。(「門田隆将オフィシャルサイト」より2017年8月29日分を転載)

  • Thumbnail

    記事

    もし北朝鮮が多弾頭化に成功すれば、日本の迎撃可能性は「0%」

    松竹伸幸(ジャーナリスト、編集者) 8月29日の朝、筆者が目覚めたときはすでに北朝鮮のミサイルが日本上空を越え、北海道の東側海域に落下したという情報が流れていた。その後、現在まで1日で得た情報を通じて感じることを1つのキーワードにすると、「当事者性」ということになろうか。 びっくりしたのは、早い段階で「ミサイルは上空で3つに分離した可能性がある」とされていたことだ。これによって、日本の「当事者性」は格段に高まった。 北朝鮮のミサイルというと、この間、飛距離が大きな話題になってきた。米本土まで到達するかどうかが焦点だった。そうなると、米国が北朝鮮ミサイル問題の最大の「当事者」になるからだ。今回、そういう点での技術的進歩はなかったわけで、米国防総省のマニング報道官は「北米には脅威にはならない」(米国時間28日朝)と述べたという。米本土に届くようなものではなかったので、冷静に受けとめているように見える。 だが、上空で分離したというのが「多弾頭化」への前進を意味するなら、日本にとっては重大な問題である。いうまでもなく、弾道ミサイルを迎撃するのは、それが1発だとしても至難の業である。複数が同時に発射されるだけで、迎撃はほとんど不可能になるといわれている。多弾頭化が成功し、上空に来てから分離されるとなると、対処しようがなくなるわけである。配備している地対空誘導弾パトリオット(PAC3)などの信頼性がなくなるという事態に日本は直面しているということだ。防衛省に配備されているPAC3=8月29日、東京都新宿区(桐原正道撮影) ところが、安倍晋三首相の談話が問題にするのは、ミサイルが日本の上空を飛び越えたことだけだ。もっとも懸念すべき多弾頭化には何もふれていない(菅義偉官房長官の記者会見では言及していた)。国民に恐怖感を植え付けるためには、「頭の上を飛んだぞ」というのが効果的という程度のことなのだろうか。多弾頭化の問題に関心がないとすると、当事者意識が希薄でないかと心配になるほどだ。Jアラートが混乱を招く 一方、日本政府は、国民に当事者意識を植え付けることについては、かなり真剣になったようである。話題になっている全国瞬時警報システム(Jアラート)の問題である。 安倍首相は、談話で「ミサイル発射直後からミサイルの動きを完全に把握して」いたことを明らかにした。北朝鮮が関係国の目をグアム方面にくぎ付けにしようとしたなかで、その陽動作戦に惑わされず、かつ早い段階で日本に落下しないことも分かっていたということで、日本にそこまでの情報力があったのは大事だったと思う。 しかし、今回の問題を通じて議論の必要性が明らかになったのは、日本にミサイルが落下しないことが明白なのに、どこまで国民を巻き込むのかということだ。ミサイルの発射が午前5時58分で、Jアラートが12道県に伝えられ、新幹線などが運転を見合わせたのが6時2分、太平洋に落下したのが同12分とされる。そして、北海道のえりも町教育委員会が児童に自宅待機を要請したのは、落下したあとの6時20分ということだ。日本政府は、日本に落下しないと分かっていたのに(だから破壊を命令しなかった)、いろいろな措置がとられるのを黙って見ていたわけである。北朝鮮のミサイル発射の影響で、JR北海道では各方面への列車に遅れと運休が発生した=8月29日、JR札幌駅(高橋茂夫撮影) 未完成のミサイルが日本上空を通過するわけだから、たとえ日本領土に向けたものでなくても、破片の落下など万が一の心配があることは分かる。しかし、オオカミ少年の寓話(ぐうわ)にあるとおり、常に国民を巻き込んでいては、いざというときに冷静な行動がとれなくなる。慌てふためく日本国民を見て、日本上空を通過させるのが効果的と、北朝鮮が判断しても困る。 Jアラートの発動は、政府がミサイルの破壊を命令するとき(日本に向かうミサイルだと判断したとき)など、限定的なものにすべきではないだろうか。北朝鮮によるミサイル発射が今後も頻繁にくり返されることが予想されるだけに、余計にそう感じる。迎撃システムは必要か? また、日本政府は、日本が衛星を打ちあげる際、たとえ北朝鮮の上空を通過しない場合でも通告することによって、北朝鮮にも同様の通告を促すべきではないか。6月はじめに日本が測位衛星を打ちあげた際、北朝鮮外務省は「日本は、われわれが何を打ちあげようと、そしてそれが日本の領空を通過しようと、何も批判できなくなった」と主張したそうだ。そんな口実を許すようであってはならない。 最後に、地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」の問題である。今回のミサイル発射を受けて、導入の必要性に向けた議論が加速されるだろう。しかし、「ちょっと待て」と言いたい。 冒頭に書いたように、今回のミサイル発射は、多弾頭化の実験だった可能性がある。今回がそうでなくても、ミサイルを効果的なものにしようとすれば、どの国であれ多弾頭化に行き着くことは当然である。ところが、イージス・アショアは、多弾頭のミサイルに対しては無力なのである。2017年5月に行われた北朝鮮の中距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験(朝鮮通信=共同) 北朝鮮の核ミサイル問題は外交努力抜きに解決できないのは明白だ。ただ、一方で「どうせ撃ち落とせないのだから外交を」という立場では、外交努力を強める方向に単純には働かないように思う。撃ち落とせないことが前提になってしまうと、「じゃあミサイル基地をたたくべきだ」という世論に向かうことと背中合わせになるからである。 いま大事なことは、多弾頭化によって、このままでは日本の迎撃システムは役に立たないと自覚することである。そして、迎撃システムを開発している米国に対して、多弾頭化に対応したシステムの開発を強く求め、「対応すれば購入する」という立場を貫くことではないか。米本土と異なり、日本はミサイル被害の「当事者」になり得るだけに、役に立たないものは買えないと明確に主張するのは、あまりにも当然の対応ではないだろうか。

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮ミサイル、日本の「迎撃成功率90%」でも守りは万全じゃない

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト) 「自衛隊は大したものです。日本の守りは万全ですね」と知り合いからお褒めの言葉を授かった。私を航空自衛隊出身と知っている彼が私共々、自衛隊全体を褒めるきっかけとなったのは、他でもない。 8月10日に北朝鮮が「中距離弾道弾『火星12号』を島根、広島、高知3県上空を通過させ、米軍基地のあるグアム島沖に着弾させる計画を検討中」と発表し、それを受けて自衛隊が迎撃ミサイルPAC3を3県に配備したからである。 国民の期待を代表しているようなお褒めの言葉はうれしい限りなのだが、実情を知る身としては誤解を放置しておくわけにはいかない。 「実は万全とは言えないのですよ。確かにこの3県に落ちて来るなら、迎撃できます。しかし、ここに撃つと言って、欺いてよそに撃つことだってあり得るわけです。そうなったら全く対処できません」 今回、まさに期せずしてそうなった。北朝鮮はグアム島沖に撃つと言って、実際には8月29日、襟裳岬東方の太平洋上に撃ち込んだ。自衛隊としては情報収集以外、何の対処も出来なかった。しかし、だからといって「自衛隊は大したものだ」という国民の期待が「自衛隊は役に立たない」という失望に一変するとすれば、それは国民の無知と身勝手としか言いようがない。 迎撃ミサイル部隊は全国に6個部隊しかなく、もともと主要地域しか防衛できない。全国くまなく防衛せよと言うなら、この10倍必要なのだが、そんな予算も人員もない。国会で審議すらしていないから、国会議員の怠慢だが、そんな議員を選んだのは他ならぬ国民自身なのである。 そもそも迎撃ミサイル「PAC3」とは、PAC2の後継である。PAC2が航空機の迎撃を主要目的としているのに対して、PAC3は迎撃の対象を弾道ミサイルに広げている。米国製であり日本で実戦配備が始まったのが2007年。迎撃の成功率は90%超とされている。米軍横田基地内でPAC3機動展開訓練に取り組む航空自衛隊=2017年8月29日、東京都福生市(川口良介撮影) ただ、同年に米国では高高度迎撃ミサイル「THAAD」が完成しており、翌2008年から米国で実戦配備が始まっている。PAC3は低高度で迎撃するのに対しTHAADは高高度で迎撃する。 ご存じの通り弾道ミサイルは放物線を描いて落下する。THAADは放物線の頂点付近の中間段階の高高度で迎撃するのに対して、PAC3は落下予定地に近い終末段階の低高度で迎撃するわけである。 2009年4月に北朝鮮は弾道ミサイル「テポドン2号改良型」を発射し、東北地方上空を通過させ太平洋上に落下させた。今回の軌道に近いが、北朝鮮は人工衛星の打ち上げと称し事前に軌道を予告していた。危機の本質を知らない日本国民 自衛隊はPAC3を東北地方に配備したが、その時、公表した対処方針がいけなかった。「日本の領土に落下する様であれば迎撃するが、米国に向かって飛んで行く場合は迎撃しない」。これに米国が激怒したことは言うまでもない。4月5日に発射された際には、米軍は一切その情報を日本に伝達しなかった。日米の信頼関係が損なわれ、日米同盟は情報通信上、崩壊したのである。 実はこの対処方針を公表したのには、二つの理由があった。一つは、米国に向かう弾道ミサイルを日本が迎撃するのは、日本が米国を守る行為であり日本の集団的自衛権の行使に他ならない。2009年当時、日本の集団的自衛権の行使は憲法上禁止されているとの政府見解がなされており、憲法上、こうした対処方針にならざるを得なかったのである。 この点については2014年に安倍総理が、集団的自衛権の行使が一部可能になるように政府見解を改め、翌年には平和安全法制が制定されたおかげで今般、小野寺防衛相は国会で、グアム島の米軍基地を攻撃する北朝鮮の弾道ミサイルを法的には迎撃可能とする見解を示せた。 これは大きな進歩だと言っていい。トランプ大統領が「日本を100%守る」と明言できたのも、この新見解があればこそであり、グアム島の住民も「米軍だけでなく日本もグアム島を守ってくれる」と喜んだと言うから、日米の信頼関係の維持に明確に貢献したのである。 だが、もう一つの理由は、現在に至っても解決されていない。実の所、日本のPAC3は米国に向かう弾道ミサイルを迎撃する能力がないのである。 先に説明したようにPAC3は終末段階において低高度で迎撃するミサイルであり、日本を飛び越えて米国に向かう北朝鮮の弾道ミサイルは、日本上空では中間段階つまり大気圏外の高高度を飛行するため、日本のPAC3では迎撃できないのである。 ちなみに海上自衛隊のイージス艦に装備されている迎撃ミサイル「SM3」は日本に着弾する弾道ミサイルを中間段階である日本海で迎撃するためのものである。つまり、2009年当時は法的にも物理的にも不可能であった迎撃が現在、少なくとも法的には可能になっただけで、物理的には相変わらず不可能なのである。小野寺防衛相の見解はリップサービスに過ぎない訳だが、そうであれば当然、トランプ大統領の発言もまたリップサービスなのである。海上自衛隊のイージス艦「ちょうかい」(海自提供) トランプ大統領の本音は、むしろ5月26日の日米首脳会談で安倍総理に言ったとされる、「米軍が北朝鮮を攻撃した場合、日本は軍事的に何ができると言うのか?」といういらだちに満ちた発言にあるとみてよい。 北朝鮮が7月28日に発射したICBM「火星14号」にしろ、今回の中距離弾道ミサイル「火星12号」にしろ、完成すれば米国領を射程に入れる事は確実だ。完成は来年以降と見られるが、完成すれば米国市民の大量殺戮を避けるために、米国は北朝鮮の核兵器を承認して米軍を極東から撤退させる他なくなる。 もし、この事態を避けたければ、年内か来年の早い時期に北朝鮮を米軍が攻撃する以外に選択肢はない。要するに米国は進むか、退くかの二者択一を迫られており、それは日本の対応次第なのだ。 だが、日本国民はいまだにその事に気が付いていない。そこに今回の危機の本質がある。

  • Thumbnail

    記事

    「戦時放送を流す安倍政権も怖い」北朝鮮危機で注目した謎のつぶやき

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)北朝鮮がミサイルを発射したことを伝えるJアラートの画面=8月29日午前6時24分、東京都港区 北朝鮮がミサイルを発射し、全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて「国民保護に関する情報」が流されたときに、私はちょうど文化放送「おはよう寺ちゃん 活動中」の本番中だった。番組開始して2、3分後には、スタジオの中にスタッフの方が緊張した顔で入ってこられ、メーンパーソナリティーの寺島尚正アナウンサーに、Jアラートの本文が記された用紙が手渡された。われわれはそれから1時間近く、北朝鮮のミサイルについての警報と、また政府の対応、そしてこれからの経済・社会に対する影響について放送させていただいた。 ミサイル発射による避難を呼びかける政府の警報が流れる中、それを伝える側として現場にいたことは、実に緊張した時間であった。もちろん避難を呼びかけられた地域にお住まいだった方々の不安はそれどころではなかったと思う。また日本や世界の多くの人たちが、この日本の上空を通過するミサイル発射の「無法」に心を痛めたことであろう。 私は、寺島さんやスタッフの誠実で、また緊張感のある仕事に感銘を受けるとともに、ジャーナリズムと災害警報、しかも天災ではなく他国によるミサイル発射という人災との関係にも深く思うところがあった。 Jアラートでは、北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県という極めて広範囲に対して、ミサイル発射に関しての避難勧告が出された。内容も「頑丈な建物や地下に避難してください」というものであった。ラジオでもコメントしたのだが、おそらく「頑丈な建物」や「地下」などが周囲になく、どうしていいのかわからなかった方々も多かったろう。 政府では事前にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などで、ミサイルが墜落してくる場合の避難の仕方として、頑丈な建物や地下がない場合で、屋外にいるときは物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守ること、さらに屋内では窓から離れるか窓のない部屋に移動するように説明していた。しかし、その広報活動は必ずしも周知徹底されていたわけではなく、また今回のJアラートでも避難の仕方について、少なくとも窓から離れるなどの付加的な指示を明記すべきであったと思う。あえて注目したい金子勝氏のツイート 不幸中の幸いで、ミサイルによる国民への直接の被害は発生しなかった。今後は、ミサイル発射に対しての避難のあり方について、国民的な議論を行う必要があるだろう。もちろん北朝鮮に対する抗議を強めること、そして国際社会と連携して北朝鮮にこれ以上の暴挙を行わないように、さまざまな手段を講じる必要がある。個人的には、危機を過剰にあおることがないことを、政府や政治家だけではなく、言論に責任をもつ識者やマスコミにも賢慮を求めたい。危機や恐怖をあおることで、議論があさっての方向にいってしまえば、むしろ北朝鮮の狙いのひとつである、日本国内の世論分断や混乱とも合致してしまう不幸な展開になる。 もちろん多様な意見があるのは当然である。ただ同じ経済学者であることで、あえて注目したいのだが、慶応大経済学部の金子勝教授による以下の意見には賛同しかねる。テレビは「国民保護に関する情報」と称して北海道から関東甲信越まで「頑丈な建物に避難せよ」と、まるで戦時中の「空襲警報」を一斉に流す。北朝鮮も怖いが、「戦時放送」を流す安倍政権も怖い。出典:金子勝教授の公式ツイッター 「空襲警報」や「戦時放送」というのは、金子教授の独特レトリックでもあり、また彼の現状認識を反映しているのかもしれない。その表現については特に賛成も反対もない。だが、なんで警報を流す「安倍政権が怖い」のだろうか。 警報には余計な価値判断は一切含まれていない事実のみを伝えるものだ。問題があるとしたら、先ほど指摘したように、避難の対処法など説明が不足していたことを挙げることができる。私見では、正体不明の「恐怖」をつぶやくよりも、Jアラートが問題をはらむものならば具体的な批判を展開すべきではないだろうか。ただ、金子教授のつぶやきは現在も多くの議論を招いていて、その意味では多様な意見をぶつけあう場になっている貢献はあるかもしれない。市場が記憶する「北朝鮮リスク」 経済学の観点から、番組でも言及したのは「北朝鮮リスク」を反映した株式市場や為替レートなどへの影響である。実は、ミサイル発射の当日は、民間団体「放送法遵守を求める視聴者の会」を新たな体制で立ち上げた初日でもあった。この会の目的や活動については、リンク先を見ていただきたい。その会合で、作家の百田尚樹氏や評論家の上念司氏、米カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバート氏、ジャーナリストの福島香織氏らと、今後の北朝鮮問題やミサイル発射に伴う影響についても話す機会があった。私は経済学の観点から、「北朝鮮リスク」が、当面は株価に不安定な影響を与え、また為替レートも円高に振れるのではないかと意見を述べた(注)。 ここでは特に為替レートの動向についてのみ簡単にコメントをしておきたい。ミサイル発射を受けて、日経平均株価は下げ、また為替レートは円高に振れた。市場関係者はしばしば「リスクオフ」(リスク回避)をすると円や円資産(日本国債など)を購入するためだという。しかし、そもそも北朝鮮のリスクは、今回日本が最も大きくなるではないか、と誰でも思うことだろう。実際にこのリスクオフ仮説は、いささか根拠に乏しい。日経平均を示す株価ボード。北朝鮮のミサイル発射を受け、約4カ月ぶりの安値を付けた=8月29日、東京都中央区(松本健吾撮影) ひとつのあり得る仮説としては、日本の政策当局が過去、甚大な災害にあたって事実上の金融引き締め、そして増税にシフトした経験をもとにマーケットが判断しているからだ、というものがある。もちろん現在の日本銀行は、量的・質的金融緩和を継続中である。だが、直近では、東日本大震災に際して、民主党政権は野党であった自民党とともに、被災の状況もまだわからない中で、増税の相談を真っ先にしたことがあった。そして当時の日銀には、金融緩和姿勢をとる気配はなく、そのため急激に円高・デフレが進行したのである。実はこの事実上の金融引き締めスタンスは、阪神・淡路大震災のときにも観測される出来事であった。このような記憶が、日本の市場取引者の中で共有されている可能性はあるだろう。 ただ、現在の日銀の金融政策のスタンスは緩和姿勢を維持している。また、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策のスタンスは利上げを伺うなど「引き締め」スタンスである。そのため一時的には、円高ドル安に振れても、次第にミサイル発射前の為替レートの水準(円安トレンドの維持)に戻る可能性が大きいだろう。もっとも北朝鮮リスクが深刻化していけば、この日銀の金融緩和姿勢で基本的に決まる中長期の為替レート理論は、見直しを迫られることにはなる。 現状の日本経済は、ようやく長い停滞の時期を抜けつつある。今回の北朝鮮リスクの顕在化は、日本の経済復興にとっても無視できない障害となるだろう。その意味でも、過剰な不安を抱くことなく、冷静で具体的な議論をしていかなくてはいけない。(注)議論の詳細は上記HPで購入できるオーディオブックを参照にしていただきたい。

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮の核ミサイル落下で熱線、爆風、放射線への対処法

    北朝鮮の核ミサイルが日本のミサイル防衛網を突破し、日本列島で爆発した時、我々がとるべき行動とは何か。元自衛官で『ミサイルの科学』の著者・かのよしのり氏が核爆発から生き残るための方法を伝える。 * * * 核ミサイルが飛んできた時、個人ができることは政府が提供するJアラート(全国瞬時警報システム)が作動してからの数分間と爆発後の行動で、最善を尽くすことだけだ。そこで適切な行動を取れるかどうかで、生存率には雲泥の差が出る。北朝鮮のミサイル発射で作動した全国瞬時警報システム(Jアラート)の画面=8月29日、東京都千代田区の産經新聞東京本社 そもそも核ミサイルの被害は、爆弾の爆発力と爆心地からの距離によって大きく違う。たとえば、外務省がまとめた「核兵器使用の多方面における影響に関する調査研究」(平成25年)によれば、広島に落ちた16KT級(TNT火薬相当)原爆に近い20KT級の空中爆発(都市の数百m上空での爆発)では、1km以内の建物はほぼ全壊、インフラもほぼ壊滅状態で、車両もほぼすべて走行不能になると想定されている。 核爆弾が爆発すると、巨大な火の玉(火球)ができる。このとき熱線と爆風、放射線が放出される。ピカッと光った瞬間、光と同時にやってくるのが熱線だ。20KT級の核爆弾なら熱線は約1.5秒持続する。爆心地から数百m以内なら瞬時に蒸発し即死、1.5km程度までが黒焦げとなり約6~8割が死亡する。2km程度までは火膨れ(ひどい火傷)、2.8km程度までは日焼けのように肌が赤くなる。広島では3.5km離れていても素肌は火傷になった。熱線は、光った後では逃げられるものではないから、爆心地から近ければ諦めるしかない。ただし、運よく物陰などにいた場合は、爆心地から近くても助かることがある。 熱線の後、風速数百m/sの爆風がおおよそ10秒後までに吹く。都市の場合、爆風によって破壊されたガラス片が、爆心地から1km以内なら弾丸と同じスピードで飛んできて人を殺傷する。その場の状況によってガラス片から体を防御することが必要だ。放射線が弱まる速度 爆発が起こると、熱せられた空気が上空に巻き上げられ、上昇気流が発生する。すると地表の空気が希薄になりそれを補うように周囲から風が吹き込む。爆風はまず爆心地から吹き、そのあと逆方向からの「吹き戻しの風」が吹くため、2方向からガラス片が飛んでくることを覚えておこう。◆概ね24時間で放射線は弱まる 熱線、爆風の次に考えなければならないのは放射線だ。爆発で一次放射線と二次放射線が生じる。前者は核爆発の反応が起きているときに出る放射線で、放出される時間は火球が見える時間とほぼ同じ(20KT級なら1.5秒程度。爆発力による)。後者は核爆弾の材料が蒸発した後、冷えて灰のような細かい固体になって降ってくるものや、爆風で巻き上げられたほこりなどが、一次放射線の影響を受けて放射能を持ったもの。いわゆる「死の灰」だ。 一次放射線から生き残るために特に何かを考える必要はない。地下や建物内で熱線や爆風から生き残ることができれば、一次放射線からも逃れたことになるからだ。むしろ心配しなければならないのは二次放射線のほうだ。 放射能は時間に比例して弱まる。それは放射性物質の種類によってさまざまだが、おおまかにいうと、時間経過が7倍になれば放射能は10分の1になる。爆発7分後の放射能は1分後の10分の1、さらに7倍の49分後には100分の1になる。核爆弾の規模にもよるが、概ね24時間も屋内に退避していれば、かなりの程度、放射能は弱まり、注意すれば外出できるようになるだろう。 つまり、生死を分けるのは最初の数時間なのだ。●かの・よしのり/昭和25年生まれ。自衛隊霞ヶ浦航空学校出身。北部方面隊勤務後、武器補給処技術課研究班勤務。平成16年退官。『ミサイルの科学』(サイエンス・アイ新書)など著書多数。関連記事■ 朝鮮半島有事で押し寄せる難民27万人がもたらす影響■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ ノドン、ムスダン、テポドン… 金正恩のミサイルの実力■ 北朝鮮のミサイルを自衛隊は撃ち落とすことができるのか■ 愛子さま「激やせからの15キロ増」に周囲は心配の声

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮のミサイルを自衛隊は撃ち落とすことができるのか

     弾道ミサイル防衛(BMD)システムは、早期警戒衛星が弾道ミサイルの発射を探知すると、地上レーダーや海上のイージス艦などが得た情報とを総合して、コンピューターが自動的にミサイル軌道を計算する。北朝鮮の弾道ミサイル発射に備え、陸上自衛隊出雲駐屯地に配備されたPAC3=8月12日、島根県出雲市(門井聡撮影) 弾道ミサイルの飛翔経路は、発射後に上昇する「ブースト段階」、大気圏外に出て弾道飛行する「ミッドコース段階」、大気圏再突入後に着弾するまでの「ターミナル段階」の3つに区分される。日本のBMDシステムは、ミッドコース段階で海上自衛隊のイージス艦に搭載したSM3が、高度100km以上の大気圏外で迎撃する「高層迎撃」と、それを撃ち漏らした場合に「ターミナル段階」において、航空自衛隊のPAC3が上空15km付近に飛来した時点で迎え撃つ「低層迎撃」の2段構えとなっている。 米韓軍の情報によれば、北朝鮮は日本を射程に収める「ノドン」を200~300基、韓国向けの「スカッド」を600基(このうち日本攻撃が可能なスカッドERは多くて100基と推定)、北朝鮮は保有している。これらのミサイルを一度に発射する「飽和攻撃」に対処できるのかという議論があるが、その際重要になるのは発射機の台数であり、米韓軍によればノドン用は40台、スカッド用は50台という(スカッドER用は不明)。 日本向けの発射機は最大50台と推測される。常時使用可能なのは保有数の3分の1という原則(残り3分の2は予備と整備)に従えば、常時使用可能な発射機は15台ほどとなる。海上自衛隊のイージス艦1隻が「SM3で同時に迎撃可能なのは2基」という“神話”が横行しているが、実際に操作可能なミサイル数は軍事機密であり、公表されていない。 そうしたSM3を搭載した日米両軍のイージス艦は、日本海に常時数隻遊弋(ゆうよく)しており、現在の北朝鮮の能力による「飽和攻撃」に対しては、ほぼ全てを撃ち落とすことができると考えられるが、撃ち漏らしたノドンが着弾する可能性は否定できない。●解説・文/惠谷治関連記事■ 米韓VS北朝鮮戦争勃発で日本はどうなる?のシミュレーション■ 海上自衛隊 今後10年以内にイージス艦をさらに2隻建造方針■ ミサイル防衛 北の核弾頭迎撃可能確率は50%以下との予測も■ 北朝鮮がミサイル50発を一斉射撃したら日本は防げるのか■ 日中潜水艦比較 攻撃力は互角、探知能力・静粛性は日本が上

  • Thumbnail

    記事

    「稲田大臣への報告はあった」日報問題の真実はそれしかない

    潮匡人(評論家) 7月28日午前、防衛省が「特別防衛監察の結果について」を公表した(以下「監察結果」)。今回の特別防衛観察は「南スーダン派遣施設隊日々報告」(以下「日報」)の管理状況に関し、「防衛大臣の命を受け、平成29年3月17日から実施している特別防衛監察について、これまで明らかになった事項等を取りまとめたものである」(監察結果)。特別防衛監察の結果を公表し、辞任を表明する稲田防衛相=7月28日、防衛省 つまり、稲田朋美「防衛大臣の命を受け」実施された監察であり、防衛省の防衛監察本部が実施した監察結果に過ぎない。一定の独立性があるとはいえ、公正中立な第三者によるチェック機能は働いていない。元検事長らが監察した結果とはいえ、裁判所の確定判決とは似て非なる性質である。 広く知られたとおり、稲田大臣が「隠蔽(いんぺい)を了承していた」と報じられてきた。加えて、日報データの存在を複数回にわたり報告されていたと報じられた。その際の場面を克明に記録したメモの存在も明かされた。そうした経緯を受けた監察結果である。当然ながら関心はその一点に集中した。 監察結果で、以上はどう結論づけられたのか。該当個所の本文を引こう。 平成29年2月16日、事務次官は、陸幕長等に対し、陸自に存在する本件日報は個人データであるとの認識により、当該日報の取扱いについて、防衛省として本件日報を公表していることから、情報公開法上は問題ないとし、対外説明する必要はないとする旨の対外説明方針を示した。特別防衛監察の結果について (防衛省ホームページより) この「情報公開法上は問題ない」との判断が批判されたが、当を得ない。なぜなら、なかで「戦闘」と明記され、問題視された当該「日報」は、一部が黒塗りになっていたとはいえ、すでに(2月6日)公開されていたからである。 河野太郎衆院議員のブログを借りよう。防衛省は、見つかった日報が個人の文書だと考え、特に発表の必要がないと考えた。しかし、日報に関してはそれまでいろいろとあったわけだから、自分たちで判断するだけではなく、内閣府の公文書課や国立公文書館に、きちんとした判断を仰ぐべきだった。それがこの騒動の本質ではないか。こうした説明もなく、あたかも日報を隠蔽する決定が行われたかのような報道は、間違っていないか。河野太郎ブログ「ごまめの歯ぎしり」 その通り。公開済「日報」の電子データが見つかった、というだけ。すでに「公開」したものを「隠蔽」するなど、技術的にも不可能である。自ら火に油を注いだ防衛省 同様に当初「日報」を「破棄」した経緯も批判されたが、これも当を得ない。今度は監察結果を借りよう。 本件日報は、「注意」、「用済み後破棄」の取扱いであるが、これらに関連する標記の表示がなされておらず、関係者において、必ずしも認識が統一されていなかった。また、平成28年8月3日付の日報からこれらの標記が表示された。「特別防衛監察の結果について」 もともと「用済み後破棄」されるべき日報である。ポレミック(論争的)に言えば、用が済んだにもかかわらず、そのデータが「破棄」されず、“保管”されていたという“問題”にすぎない。 さらに言えば、マスコミは「保管されていた」と報じたが、いったん陸自の指揮システムにアップロードされたものを、誰かがどこかで閲覧(ダウンロード)すれば、ほぼ自動的にそうした状態が発生してしまう。公表された「特別防衛監察の結果について」 単に、それだけの話である。もともと、大騒ぎするような話ではなかった。だが、他ならぬ防衛省が自ら火に油を注いだ。稲田大臣が特別防衛監察を命じ、今日に至る結果を自ら招いた。 監察結果は「改善策」として、以下の3点を挙げた。(1)適正な情報公開業務の実施(2)適正な文書管理等の実施(3)日報の保存期間等のあり方の検討及び措置 それらより、例えば電子データの取り扱いを今後どうすべきか、といった視点のほうが重要なポイントではないかと思うが、監察結果にそうした問題意識はない。最後の「結言」はこう述べた。 防衛省・自衛隊の活動には、国民の理解と支持が不可欠であり、国民に説明する責務を全うすることが、極めて重要であることを認識し、改善策を早急に講じた上で、各種業務における適正性の確保に万全を期すべきである。「特別防衛監察の結果について(概要)」(防衛省ホームページより) 以上に納得した国民が一人でもいるだろうか。もしいるなら、たぶん稲田大臣ひとりであろう。焦点の「隠蔽了承」について、監察結果は上記引用個所の注記で以下のとおり記した。まず、フジテレビが当日の詳細な報告場面のメモまで明かした2月13日の統幕総括官および陸幕副長による防衛大臣への日報に関する報告について、こう書いた。 その際のやり取りの中で、陸自における日報データの存在について何らかの発言があった可能性は否定できないものの、陸自における日報データの存在を示す書面を用いた報告がなされた事実や、非公表の了承を求める報告がなされた事実はなかった。また、防衛大臣により公表の是非に関する何らかの方針の決定や了承がなされた事実もなかった。「特別防衛監察の結果について」 同様に2月15日の事務次官、陸幕長、大臣官房長、統幕総括官による防衛大臣への日報に関する報告についても、同じ表現が用いられた。マスコミ、防衛省・陸自幹部が全員ウソつき? 果たして、2月13日および15日に、日報データの存在が報告されたのか。監察結果は、上記の表現で、巧妙にその判断を避けた。 今回、最も真相に迫った報道を続けたフジテレビは7月28日午前のニュース番組でメモの存在を改めて指摘しながら「真相を明らかにしませんでした」と監察結果を断罪した。 日本テレビの番組でも政治部長が「稲田大臣が関わったわけではないと結論付けたわけではない」と解説した。TBSも「曖昧な表現にとどめた」と報じ、テレビ朝日も「保管の事実は(稲田大臣に)伝えていたことがANNの取材でわかっています」と明言し「十分に解明されていません」と監察結果を批判した。NHK総合テレビも正午のニュースで「解明できない点も残りました」と報じた。特別防衛監察の結果を公表する稲田防衛相=7月28日、防衛省(納冨康撮影) 他方、稲田大臣は辞任表明会見で「私への報告がなかった」と明言、監察結果を“錦の御旗”に掲げながら、「隠蔽了承、そのような事実はない」と断言した。フジテレビが報じたメモについても、「しかしながら、私の認識を覆す報告は一切なかったと承知しております」との表現で、報じられた事実関係を全否定した。 もし、稲田大臣が真実を語ったとすれば、これまで全マスコミが誤報を繰り返したことになる。ひとり大臣を除き、防衛省・陸上自衛隊の主要幹部らがウソをついたことになる。あろうことか、メモまで捏造(ねつぞう)し、大臣を陥れたことになってしまう。 真実はひとつ。大臣への報告はあった。監察結果のとおり「日報データの存在を示す書面を用いた報告」はなかったとしても、大臣室における口頭での報告は複数回あった。そうとしか考えられない。同時に、稲田会見もまた真実を語ったとすれば、大臣は複数回にわたる口頭報告の中身を正しく理解できなかった。そういうことになろう。いずれにせよ「自衛隊の隊務を統括する」(自衛隊法第8条)防衛大臣がすべての責任を負う。その大臣が部下に責任を転嫁するなど、あり得ない。 この1年間で、防衛省・自衛隊が失ったものは大きい。次の防衛大臣が背負う責任は重大かつ深刻である。

  • Thumbnail

    記事

    「核とミサイルの罠」金正恩を追い詰める父の亡霊と内なる敵

    重村智計(早稲田大学名誉教授) 北朝鮮北東部の日本海に近い豊渓里(プンゲリ)には、核実験場がある。核実験に携わる人たちの放射能汚染や人権侵害を描いた韓国の小説「豊渓里」が、関係者の注目を集めている。作者は、豊渓里に長年居住した脱北者で、核開発の科学者たちとも交流があった。この中で、ロシアや東欧の科学者たちの存在が初めて確認された。 外国人科学者は、偵察衛星に発見されないように核実験場や核施設の近くには姿を見せず、都市に住まわせていた。この中に、ミサイル開発の外国人科学者もいた。最近の北朝鮮のミサイル開発の進展は、この外国人科学者のおかげだと言ってもいいようだ。 北朝鮮は、7月4日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行った。北朝鮮の報道機関は、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が指示書にサインする場面を伝え、指示書の内容を次のように明らかにした。日本では報じられなかった。平壌駅前の大型スクリーンに映し出される、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による大陸間弾道ミサイル発射実験実施命令のサイン=7月4日(共同)「党中央は、大陸間弾道ロケット試験発射を承認する。7月4日午前9時に発射しろ。金正恩 2017.7.3」 実はこの表現からは、金委員長が全権掌握にかなり苦労している様子がうかがえる。この指示書で最も重要なのは、「党中央」の表現である。党中央は、後継者として登場する前の金正日(ジョンイル)総書記を意味する代名詞だった。今は金委員長を意味する言葉だが、最後にサインがあるので、文章としてはおかしい。ただ、素直に読めば、党中央を「労働党指導部」と読めないことはない。 どちらにしろ、今回のICBM成功は「金正恩委員長」と「労働党」の成功である、と強調しているわけだ。つまり、人民軍の成果ではなく、指導者と党の成果で「指導者の偉大な業績」と述べている。「軍でなく党の力」を見せつけようとしているのだ。裏を返すと軍の掌握に苦労している姿が浮かび上がる。 なぜ、これほど「指導者と党」を強調する必要があるのか。正日氏が残した「先軍政治」にすがる抵抗勢力を排除できない事情がある。金委員長は、軍優先の先軍政治の終了を宣言し、「経済と核の並進路線」に切り替えたが、軍部の抵抗はなお根強い。昨年6月、先軍政治の象徴であった国防委員会を廃止したものの、国防委の下部組織はそのまま維持されているからだ。 正日氏は、党の権限を弱体化させるために、先軍政治を数十年間展開した。この結果、事実上軍が党よりも権限を持つ事態が生まれた。多くの利権を軍が握っている。金委員長が目指す「経済建設」には、軍が握る利権を引き剥がす必要があるが、これが極めて難しい。軍の協力と努力に言及せずに、「党中央」を強調する理由がここにある。習近平と会談できない金正恩の重い現実 北朝鮮の指導者には、血統と思想の継承に加え「偉大な業績」が求められる。抵抗勢力は、「金委員長には偉大な業績がない」と陰口をたたく。だから、「ICBM成功」と「核保有」が必要になる。その思いは、金委員長の次の発言からも伝わる。「米帝との長い戦争も最後の局面に来た。警告を無視し、われわれの意思を試した米国に明確に示すときが来た」「米国野郎どもはたいへん不愉快だろう。独立記念日の贈り物が気にくわないだろうが今後も頻繁に送り続けてやろう」 朝鮮中央通信は、「絶妙なタイミングで、傲慢な米国の顔を殴りつける決断をした」と報じた。この発言は、一国の指導者としてはかなり下品な言葉だ。だが、こうした発言が国民の拍手を浴び、軍を掌握できるとの計算があったのだろう。ということは、それほどに国内掌握に苦労していると思われる。 また、この表現を報道した当局者の中に、抵抗勢力の影を見るのは読みすぎだろうか。「米帝」の表現は、米国に対する敵対意識が露骨で、米朝対話を求める意向を感じさせない。米国は怒るだろう。それを承知の上で、報道した事実からは金委員長をおとしめようとする人々の「悪意」が感じられる。 こうしてみると、北朝鮮は「核とミサイルの罠(わな)」に陥ってしまったようだ。 国内的には先軍政治の亡霊との戦いを強いられ、偉大な成果を生み続ける必要がある。経済優先政策も経済制裁のため頓挫している。 米国との交渉に乗り出したいが相手は応じない。米国を対話に向かわせるためには、ミサイルを発射し核実験を続けるしかない。緊張が頂点に達すれば対話に乗り出してくるとの過去の成功戦略にしがみついている。出口のない核とミサイルの罠から抜け出せない。 金委員長が、外国の指導者と首脳会談をできない現実は、祖父の金日成(イルソン)主席や父親の正日氏と全く異なる。特に中国の習近平国家主席と会談できない事実は、国際社会から追い詰められた現実を物語る。日米は中国の意向も尊重し、決定的な制裁は控えている。米国のヘイリー国連大使は、国連安保理での軍事的対応にも言及し始めている。すぐに軍事的な措置が取られる可能性はないが、やがて大きな議題になりそうだ。7月3日、「火星14」の発射実験を承認するため報告書に署名する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。朝鮮中央通信が配信した(朝鮮通信=共同) 北朝鮮軍は核実験実施を強く求めていると伝えられているだけに、金委員長は大きなジレンマに直面している。核実験に踏み切れば、中国とアメリカから大きな制裁を受ける。核実験ができなければ、米中を恐れる弱気の指導者と国内で陰口をたたかれ、権威が失墜する。 それを避けるために、「核兵器の完成」「ミサイルの完成」を宣言し、「核とミサイルの実験をしない」交渉に乗り出すとの戦略が、平壌から流されたこともあった。戦略への期待が急速に失われている。

  • Thumbnail

    テーマ

    日本のテロ危険度は本当に低いのか

    英マンチェスターのコンサート会場で起きた爆弾テロは世界に衝撃を与えた。イスラム教のラマダン(断食月)が始まり、過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロの危険度は一層高まる。欧州に比べ、危険度が低いと言われる日本だが、テロの脅威を楽観視して本当に大丈夫なのか?

  • Thumbnail

    記事

    日本でも浮かぶ「要人暗殺」の可能性、X国のテロから首相を守るには

    して、その環境は現在も決して変わってはいない。現代の自民党安倍政権誕生以降も、特定秘密保護法をはじめ安全保障法制、そして現在のテロ等準備罪などのアジェンダ(議題)に対して国会周辺等で大規模な反対デモも発生した。また沖縄を中心とした米軍基地への反対闘争、反原発運動などのイシュー(論点)で局所的な政治的闘争は存在している。こうした政治的闘争は、現代の日本においてきわめて民主的で合法的な手段を用いた社会運動として定着していることも事実である。 しかしながら、最悪の事態を想定する危機管理の観点からみれば、また60年代、70年代において学生運動やマルクス主義運動が過激化して多くの爆弾テロやハイジャックなどの事件を引き起こした歴史的事例をみれば、社会運動が過激化した結果としてテロリズムが発生する可能性は決してゼロではない。本来、民主的かつ合法的であった政治運動から逸脱した一部の「過激化(radicalization)」という現象がテロリズムに結び付くプロセスは現代においても見逃してはならない。 また、国際テロリズムや国際安全保障の文脈においても日本の要人がテロリズムの標的となるリスクは高まっている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、これまでのオリンピックなど国際的メディアイベントがそうであったように、テロリズムの標的になる可能性が高く、東京五輪に向けた日本のテロ対策の強化が求められている。さらに「イスラム国」による欧米各国へのグローバル・ジハードはまだ終結しておらず、世界のどこでイスラム過激派によるテロリズムが起きてもおかしくない状況はいまだ続いている。北朝鮮の核実験・ミサイル実験や、中国による尖閣諸島、南シナ海への侵出など、東アジアをめぐる国際安全保障環境も緊張状態にある。テロリズムを防止する手だて このような時代状況と国際環境を踏まえたとき、また現代テロの特徴であるソフトターゲットを狙った無差別テロへ意識が向かっている現在こそ、要人暗殺テロへの備えに綻びが発生する可能性がある。いまこそ、本来テロリズムの王道であった要人暗殺テロへの備えと予防策を強化すべきである。 要人暗殺テロを防止するためには、その①「リスク源(risk source)」となる問題や組織の洗い出しが第一歩となる。そしてそれらの問題や原因によってテロが発生する可能性があることを②「リスク認知(risk perception)」し、さまざまな情報分析により③「リスク評価(risk assessment)」を実施しなければならない。そうして得られた要人暗殺テロのシナリオや想定に対して、具体的な④「リスク管理(risk management)」を実施し、国内外に幅広くアピールする⑤「リスク・コミュニケーション(risk communication)」が重要となる。このプロセス全体がテロ対策をめぐる危機管理である。そこで重要な鍵となるのは情報活動、諜報活動とも訳される「インテリジェンス(intelligence)」である。 想定されるシナリオには多様なケースが存在する。しかし日本の要人暗殺テロにおいて、リスクとして可能性が高いのは次の2つのケースであろう。1つ目は「日本国内のメディアイベントで警備状況が手薄になるケース」であり、2つ目は「国外の外遊時に外国勢力に狙われるケース」である。 本来、いずれも警察や治安機関により警備態勢が強化されている状況にあるはずであるが、その警備が一瞬緩むポイント、タイミングが発生したときに要人暗殺テロが発生する余地が生まれる。あえて具体的なシナリオで示せば、とくに危険なのは要人が小規模な文化的催しに参加して一般人と交流し、その様子をテレビや新聞などのメディアに公開してアピールしようとするようなケースである。 そこで使用されるテロの道具は、蓋然性としては爆弾や銃器、刀剣などの一般的に普及していて利用しやすい兵器である可能性が高いが、同時にこれらの道具は金属探知機や手荷物検査で発見しやすく失敗する可能性も高くなる。反対に、サリンやVXガスなどの液体、炭疽菌などのように粉末状にできるもの、放射性物質などのNBC兵器は、入手や製造が困難であったとしても、探知機や手荷物検査で発見しにくいという条件から、こうしたNBCテロやCBRNE(化学・生物・放射性物質・核・爆発物)テロは事前に防止するのが困難であるという理由で大きな脅威となる。インテリジェンス・サイクルを強化せよ 要人暗殺テロを防止するための対策にはさまざまなものがある。まずは、危険団体、危険人物を特定してマークするインテリジェンス活動である。警察庁、警視庁の外事や公安が実施している活動であり、通信傍受などのシギント(SIGINT)や、監視カメラによるイミント(IMINT)などの監視活動も含まれる。また、危険な外国勢力の入国を水際で阻止するための出入国管理も重要な活動である。法務省の出入国管理インテリジェンス・センターは、出入国管理の情報収集と分析をテロ対策に活かすために設置された組織である。外務省は国際テロ情報収集ユニットを結成して、外国のインテリジェンス機関と情報共有し、海外のテロ組織やテロリストの情報分析を強化している。これらの各省庁が実施しているインテリジェンス活動の成果が内閣情報調査室、および国家安全保障会議(NSC)に集約されることで安全保障やテロ対策など危機管理に活用される。こうした一連のインテリジェンス・サイクルの強化が現代の日本に求められている。 またテロリズムの防止には、ほかにも多様なアプローチが存在する。たとえば、企業の研究施設や大学の研究所で使用される化学剤や放射性物質が拡散してテロリズムに利用されないようにするための拡散防止、危険物質の管理が重要である。デュアル・ユース(dual use)と呼ばれる問題であるが、そのために化学剤やバイオ、放射性物質などに関する危険物を保持している企業や病院、大学などのネットワークを強化して管理体制を構築することが必要である。 戦後の日本国内では、オウム真理教による地下鉄サリン事件以降は、大規模なテロ事件が発生していない。むしろイラク日本人人質テロ事件、アルジェリア日本人テロ事件、シリアイスラム国日本人人質テロ事件、ダッカ襲撃テロ事件など、国外の日本人がテロ事件に巻き込まれるケースのほうが増えている状況である。グローバル化した国際テロリズムの時代にこそ、こうした国際的環境のなかで日本のテロ対策の在り方を見直し、国民のなかで議論を行なうべき時期が訪れている。ふくだ・みつる 日本大学危機管理学部教授。1969年、兵庫県生まれ。99年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。コロンビア大学戦争と平和研究所客員研究員、日本大学法学部教授などを経て、2016年4月より現職。関連記事■ 福田充 危機管理学とは何か■ なぜ、イスラム系のテロ組織が多いのか―テロにまつわる4つの疑問■ 難民・テロ・甦る国境……ヨーロッパから民主主義が消える?

  • Thumbnail

    記事

    重要な敷居を超えつつある北朝鮮の核能力

    研究所論評集岡崎研究所 米ハーバード・ケネディスクールBelfer Center主任研究員で米国家核安全保障局次長もつとめたウィリアム・トビーが、Foreign Policy誌ウェブサイトに4月7日付で掲載された論説で、北の核物質保有量の増大により核脅威の緊急性とその性質は大きく変わっている、戦略的忍耐はもはや実効性のあるオプションではない、と五つのリスクを挙げて主張しています。要旨は次の通り。 北朝鮮の核脅威が大幅に増大している。2015年に北が保有していた核分裂物質の量では20未満の核兵器しか作れなかった。しかし、北は急速に核物質の備蓄量とその生産能力を増大させている。 昨月IAEA事務局長は寧辺のウラン濃縮工場の規模が二倍に拡大されたとの報告を出した。科学・国際安全保障研究所は今のウラン濃縮・プルトニウム生産施設の能力を使えば18カ月の間に4~6個のペースで核兵器を製造することができる、もし秘密の第二の濃縮工場があれば生産能力は更に50%増大する、と予測している。 核開発が規制されない限り、北は2024年までに100個に近い核兵器を保有することになるだろう。これらのことは五つの次元で北の核脅威の性質を変えることになる。 第一に、核戦力の展開、ドクトリン、ポスチャーが変わる可能性がある。核兵器の保有量が増えれば、北はドクトリンを発展させ、もっと攻撃的なポスチャーを採用し、場合によっては核兵器を常時使用可能な状態に置くことまでしかねない。朝鮮半島の核戦争の脅威は大きく高まる。北は核能力を隠れ蓑にして、通常戦力による攻撃あるいはテロ攻撃を行ってくる可能性もある。 第二に、核分裂物質の保有量の増大は核兵器と運搬システムの進歩を容易にする。核実験のペースは速まっている。昨年は2回核実験をしたが、それまでの核実験は約3年の間隔で行われてきた。実験を通じて兵器の小型化、軽量化、強力化が可能となり、ミサイルの射程距離は増大する。 第三に、核兵器の移転のリスクが高まる。北はこれまでリビアへのミサイル売却やシリアでのプルトニウム生産原子炉の建設などを行ってきた。核物質の保有量が小さい段階では核物質や兵器の売却は軍事的にはコストの高いものだったが、保有量が増えればそのような懸念は縮小する。さらに、北への制裁は強化されており、価値のある核兵器や核物質を売る誘惑は増えるだろう。 第四に、北が核兵器を常時使用可能な状態に置くようなことになれば、偶発発射や無許可発射のリスクが高まる。経験を持たない北にとりリスクは一層高いものになる。第五に、核窃盗のリスクが高まる。核物質生産が大規模施設で行われるようになると、これらの物質を盗み出す機会は増大する。北は世界で最も厳しい警察国家だが、最悪の汚職国家でもある。 これまで北の核脅威は相対的に小さかった。米国と同盟国は強制等種々の政策を試みてきたが、北は、中国の庇護の下、処罰を受けることなく国際法を無視してきた。北の核物質保有量の増大により、脅威の緊急性とその性質は変わっている。戦略的忍耐は、もはや実効性のあるオプションではない。出典:William H. Tobey,‘The North Korean Nuclear Threat Is Getting Worse By the Day’(Foreign Policy, April 7, 2017)今の北朝鮮は50年代、60年代の中国と同じ 極めて興味深い、説得力のある見解です。筆者は、北の核物質生産能力の増大に伴い、(1)軍事ポスチャー、(2)技術進歩、(3)移転、(4)偶発、(5)核窃盗という五つの次元でリスクが大幅に増大すると主張しています。それに伴い北の通常戦力による行動も攻撃的になり得るとの指摘は重要です。これに対抗するためには、抑止力を強めるしかありません。その他のリスクが高まることも指摘の通りでしょう。 北の核能力は重要な敷居を超えつつあります。今の北朝鮮は50年代、60年代の中国と同じだとも言えます。成長する核兵器国が最も不安定で、危険な存在です。 筆者は、戦略的忍耐に代わる実効性のあるオプションが何であるかについては述べていません。しかし、筆者の議論から敢えて推測すれば、問題がこのような段階に至っている以上、優先順位として現下の脅威のリスクをコントロールすべきだということではないでしょうか。引き続き非核化を究極の目標としつつも、それが今できないのであれば、筆者が言う五つのリスクについて何らかのコントロールが必要だということでしょう。北朝鮮は、孤立させておくには危険になりすぎました。リスク・コントロールのためには話し合いが必要となります。 4月6~7日に行われた米中首脳会談は、共同声明もなく共同記者会見もありませんでした。報道によれば、米中両首脳は北朝鮮問題が極めて深刻な段階に入ったとの認識を共有し、米側は人権問題の重要性を指摘し、トランプは習近平に「中国が我々とともに行動しないのなら、米国は単独で対応する用意がある」との意向を伝え、北朝鮮への制裁強化を求めました。ただ、この問題で具体的な項目の合意はなかった、ということです。 しかし、トランプが述べたことは北朝鮮側にも伝えられたと思われるので、やり取りは有益であったはずです。戦術核の韓国再配備や米朝接触の可能性などが話し合われたかどうかは定かではありません。米中首脳会談の直後、4月9日ティラーソン国務長官は、米のシリア攻撃の北朝鮮への意味合いについて、「他国への脅威となるなら、対抗措置がとられるだろう」と述べています。米国としては、北への圧力を強めるとともに、北側の反応を見ようということでしょう。

  • Thumbnail

    テーマ

    朝鮮半島動乱、自衛隊は在韓邦人を救えない

    日本国憲法施行70年の節目の日に、安倍首相は2020年の憲法改正を明言した。最大の焦点は、9条に自衛隊の存在を明記する条文を追加することだが、はっきり言って遅すぎる。動乱が続く朝鮮半島情勢下、いまだ「違憲の軍隊」である自衛隊に在韓邦人の救出などできるはずがない。

  • Thumbnail

    記事

    ヒゲの隊長が緊急警告! 今の自衛隊では在韓邦人6万人を救えない

    佐藤正久(参議院議員) 3月6日、北朝鮮は東倉里(トンチャンリ)から4発のミサイルを発射し、そのうちの3発が日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾しました。北朝鮮のミサイル技術は日々精度と射程が向上し、発射手段も多様化しています。米国の人工衛星画像などからの分析によると、核実験の準備も進んでいる模様です。 トランプ米大統領は「第一空母打撃群を派遣した」と発言。4月18日に来日したマイク・ペンス米副大統領は「平和は力によってのみ初めて達成される」と、北朝鮮の行動を強く牽制し、安倍総理も「新たな段階の脅威」と述べました。朝鮮半島の緊張状態は、朝鮮戦争以来ピークに達しているといえます。朝鮮半島情勢に関心を持つ日本人は増えていますが、かたや備えは十分できていると言えるでしょうか。 もし、北朝鮮がミサイルを発射した場合、ミサイルは10分ないし15分以内にわが国本土に到達します。早期警戒衛星などの情報をもとに全国瞬時警報システム(Jアラート)を使って自治体が国民に速報を打つことができるのは3~4分後になります。北朝鮮の軍事パレードに登場した、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星」=4月15日(共同) 政府並びに自治体が「弾道ミサイル」を想定した住民避難訓練を実施したのは、実は今年3月、秋田県男鹿市が初めてです。地震や津波の防災訓練をやるように、外国からの攻撃や弾道ミサイルを想定した訓練も、国民の生命を守るという点では同じことです。 北朝鮮の脅威が新たな段階に入ったのであれば、日本でも新たな備えが必要です。さらに、朝鮮半島有事の際は、韓国内にいる邦人の安全と避難についても考えなくてはなりません。 私は自衛官時代、朝鮮半島有事を想定した演習を実施してきましたが、未解決の課題はたくさんあります。有事になる前に邦人を避難させることができればよいのですが、情勢が急変する場合も想定し備えなければなりません。 韓国に滞在している邦人は、約6万人と言われています。日本大使館に滞在届けを出しているのは約3万8千人ですが、旅行者や出張の人が一日あたり約2万人と推定されており、実際の旅行者等の数や行動を把握するのは困難な現状です。 さらに、自衛隊を邦人救出に向かわせようと計画をしても、韓国政府の同意がなければ、自衛隊は韓国内に入ることはできません。その韓国政府との調整も歴史的背景から進んでいない現状もあります。「憂いあれども備えなし」は無責任 一昨年、平和安全法制を整備しましたが、自衛隊が邦人救出のために外国へ行って活動するには、次の3条件が必要です。① 当該外国の権限ある当局(警察など)が、現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること。② 自衛隊が当該保護措置(邦人救出)を行うことについて、当該外国の同意があること。③ 当該外国の権限ある当局(警察など)との間の連携及び協力が確保されると見込まれること。 仮に韓国政府が自衛隊を受け入れたとしても、自衛隊は現地の警察が機能していて、現地の警察との連携の下で邦人を保護するという活動しか認められていないということです。 さらに、韓国に滞在している外国人は約200万人。そのうち半数は中国人です。アメリカ人が約20万人、ベトナム人が約14万人、タイ人は約8万人いると見込まれています。韓国の人口は約5100万人ですが、その半分の約2500万人が、ソウルと仁川、その周辺の京幾道の数十キロの狭い地域に暮らしています。 そこが〝火の海〟になれば、韓国は大混乱に陥り、韓国に滞在する外国人も、韓国人も、日本への避難を考えるでしょう。これは最悪のケースで、日本には数十万人から100万人の避難民が押し寄せる可能性もあります。邦人だけ救出するという状況は、実際には想定できないのです。 今から7年前の2010年、北朝鮮が韓国の延坪(ヨンピヨン)島を砲撃し、海兵隊員2人と民間の2人が亡くなりました。その時、フィリピン政府から「韓国にいるフィリピン人約5万人を避難させてほしい」と日本政府に申し入れがありました。韓国からフィリピンまで帰国させるには遠いので、一番近い日本にとりあえず避難させようと考えるのは自然です。他国も同じ考えでしょう。 もし、フィリピン人5万人を避難させるとなったら、韓国ー日本間をピストン輸送する必要があります。200人乗りの飛行機で250往復は現実的ではありません。 実際には、アメリカ人、ベトナム人、タイ人あるいは韓国人も日本に避難してくることを想定して備えなければいけません。すなわち、避難する人たちをどこに移送するのか。空港や港湾の利用状況は。滞在施設や生活支援はどこまですればいいのか。期間はどれくらいになるのかなど、東日本大震災や熊本地震などの経験を踏まえても、予め検討しておくべき課題は多くあるのですが、政府も地方自治体もこういう視点からの避難訓練をしたとは耳にしていません。陸上自衛隊11次隊の先発隊=2016年11月21日、首都ジュバの空港(共同) そもそも、邦人ではない外国人を避難させる場合、誰が輸送するのでしょうか。実は、私が自衛官時代にイラク人道復興支援でイラクに向かう際にも、迷彩服を着た自衛官を乗せると攻撃対象になるかもしれないという理由で、日本の航空会社から搭乗を断られた経験があります。 もし、朝鮮半島で緊張が高まった時、民間の航空会社が邦人救出に協力してくれるかどうかはわかりません。政府も、民間企業に「行け」とは命令できません。国民の自由と権利は憲法で保障されているからです。 結局、邦人を救出するには、自衛隊が十分に活動できるような法整備と、関係国との平素からの信頼醸成が肝となります。危機管理とは、最悪に備え、想定外をできるだけなくし訓練しておくことに他なりません。 「憂いあれども備えなし」は無責任です。「備えあれば憂いなし」がどれほど重い言葉か、東日本大震災から学んだはずです。

  • Thumbnail

    記事

    「在韓邦人救出も米国任せ」 日本人よ、ホントにこれで良いのか?

    も戦争のことばかり考え子供のころから反日教育を受けてきた国と、「平和平和」とお題目を唱えるだけで国家安全保障について深く考えることを拒否して能天気に暮らしてきた国とは考え方が大きく違うということを改めて認識し、彼らが日本に対して攻撃してくる可能性を排除せず、それに備えなければなりません。 日本人は今こそ、この言葉の重みを感じなければなりません。古人曰く「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」。

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮有事は「想定内」 在留邦人退避のためにまずやるべきこと

    吉富望(日本大学危機管理学部教授) 4月12日、菅義偉官房長官は「朝鮮半島で在留邦人の保護や退避が必要になった場合を想定し、常日頃から必要な準備、検討を行い、いかなる事態にも対応できるよう万全な態勢を取っている」と述べた。朝鮮半島情勢に対する国民の懸念が増す中での大変力強い発言である。しかし、「朝鮮半島で在留邦人の保護や退避が必要になった場合」における具体的な状況をイメージしてみると、菅官房長官に「在留邦人の保護や退避の態勢は、真に万全なのでしょうか?」と質問したくなる。 「朝鮮半島で在留邦人の保護や退避が必要になった場合」とは、朝鮮半島で戦争が切迫している場合、あるいは戦争が勃発した場合である。前者の場合には自衛隊による邦人の輸送は法的に可能であるが、韓国政府が自衛隊の受け入れに同意していない現状では、民間の航空機や船舶の使用を検討せざるを得ない。 しかし、いつ戦争が勃発しても不思議ではない切迫した状態の中で、政府は本当に民間の航空機や船舶に危険覚悟での派遣を要請するのだろうか。また、民間の航空機や船舶の乗員組合は運航に同意するのだろうか。結局のところ、民間の航空機や船舶の派遣には大きな疑問符がつく。(※写真はイメージです) 韓国には邦人以外にも多数の外国人が滞在している。戦争が切迫している場合、多くの国は自国民を退避させるだろう。しかし、米国でさえ約20万人の在韓米人を自力のみで退避させることは難しいだろう。 したがって、多くの国が韓国に隣接する日本に自国民の退避への協力・支援を依頼し、日米を含む多国籍での大規模な退避作戦が実施されることも考えられる。この時に隣国の日本が日の丸を掲げた民間機、民間船舶、そして自衛隊も派遣せず、代わりに外国の民航機をチャーターして邦人や外国人の退避を行う姿は、日本の国際的な信頼にどのような影響を与えるだろうか。 日本が1991年の湾岸戦争において資金協力しかできず、国際的に評価されなかった轍(てつ)を踏むことは避けねばならない。政府は米国、韓国に多数の自国民が滞在する国々と連携し、韓国政府に対して邦人及び外国人の退避のための自衛隊の受け入れを強く働きかける必要がある。全面戦争レベルじゃなくても武力行使を行う北朝鮮 ここで仮に、韓国政府が在留邦人などの退避のための自衛隊の艦艇や航空機の受け入れを認めたとしよう。しかし、それでも懸念は残る。朝鮮半島で戦争が切迫している状況下では、自衛隊の艦艇や航空機は平素を上回るレベルで情報収集、警戒・監視、部隊輸送などの任務に従事し、本土防衛のための即応態勢の維持を求められる。その結果、韓国に派遣できる艦艇や航空機の数が制約される可能性は否めない。この際、自衛隊が保有する輸送機や輸送ヘリの搭載人員数は多くないことから、1隻で多数の人員輸送が可能な艦艇による在留邦人などの退避への期待が高まる。韓国・ソウル しかし、戦争が切迫している状況は、危険が全くないという状況ではない。2010年3月に韓国海軍の哨戒艇が北朝鮮の小型潜水艇による魚雷攻撃を受けて沈没した事件と、同年11月に北朝鮮が韓国北西部の延坪島(ヨンピョンド)を砲撃した事件は、北朝鮮が平素においても全面戦争に至らないレベルで武力行使を行う可能性を示唆している。 この際、特に警戒が必要なのは、10年の哨戒艦沈没事件と同様の小型潜水艇による艦艇への魚雷攻撃である。こうした攻撃は匿名性が高く、北朝鮮にとっては好都合なのだ。加えて、水深の浅い海域に潜伏する小型潜水艇を発見するには時間と困難が伴う。 また、いつ戦争が勃発しても不思議ではない切迫した状態の中では、艦艇で在留邦人などを退避させる前に潜水艇の捜索に十分な時間をかける余裕はない。したがって、在留邦人などを乗せた艦艇が魚雷攻撃を受けるリスクは覚悟せざるを得ない。 しかし、幸いなことに日本と韓国は近接しており、たとえば博多-釜山の距離は約200キロしかない。この距離であれば小型・中型艇を使った退避作戦も可能であり、喫水の浅い高速艇であれば、「おおすみ」型輸送艦などの大型艦に比べて魚雷攻撃を受けるリスクは大幅に低下する。したがって、人員を200-300人積載可能で、40ノット程度の高速性を有し、約800キロ以上の航続距離(無給油で博多-釜山間を2往復以上)を有し、海岸へのビーチング(直接乗り上げ)や岸壁への接岸も可能な高速揚陸艇を自衛隊が多数保有することは、朝鮮半島からの在留邦人などの退避にあたって意義が極めて大きい。邦人救出、現在の法制度でできること 現在、海上自衛隊は巨大ホーバークラフト「エアクッション艇(LCAC=エルキャック)」を6隻保有している。しかし、LCACの航続距離は40ノットでの航行時に約370キロと短く、一般の船舶に比べて小回りが利かないため小規模な漁港湾には入港しづらく、岸壁に接岸した場合には人員の乗降に時間がかかるという欠点を有するため、朝鮮半島からの在留邦人などの退避に適しているとはいえない。政府は、朝鮮半島からの在留邦人などの退避に備えて、LCACとは別の新たな高速揚陸艇を10隻以上自衛隊に保有させるべきだろう。2016年9月、支援車両を乗せて西表島の大原港に上陸する、海上自衛隊のエアクッション艇「LCAC(エルキャック)」(宮崎瑞穂撮影) もちろん、こうした新たな高速揚陸艇の導入には一定の時間を要し、現在の朝鮮半島情勢の緊張に直ちに対応はできない。しかし、北朝鮮が現在の危険な体制を維持する限り、朝鮮半島では今後も緊張が繰り返されることが予想され、それに備えた装備品の導入は急ぐ必要がある。また、高速揚陸艇は朝鮮半島からの邦人などの退避のみならず、南西諸島などでの離島防衛あるいは大規模震災における海路からの救援活動においても有効性が高く、「四面環海」の日本には不可欠の装備である。 最後に、危機管理の基本は「最悪の事態に備えた準備をしておく」ことであり、戦争が勃発した場合における在留邦人の退避態勢の整備を政府・与党に強く求めたい。現在の法制度では戦闘下における在留邦人の退避は外国頼りであり、イラン・イラク戦争中のトルコ航空機による在留邦人のテヘランからの救出劇(1985年)の再現を祈るほかに手段はない。野党も、在留邦人の命を守るという国家の責任に思いを致し、現実的な姿勢で議論に臨んでほしい。 6年前の東日本大震災は「想定外」だったのかもしれない。しかし、朝鮮半島で戦争が勃発した場合に多くの在留邦人が命の危険にさらされることは「想定内」である。「想定内」の事態に備えないことは、「想定外」の事態への準備がなかったことに比べれば、はるかに罪が重い。

  • Thumbnail

    記事

    元海自小隊長 自衛隊員が最も「死」に近づいた瞬間を語る

    際に彼らを送り込むことはなかったが、自衛隊員が最も「死」に近づいた瞬間だった。緊迫感を増す日本周辺の安全保障環境において、能登半島沖のような事態は十分起こりうる。(談)【PROFILE】いとう・すけやす/1964年生まれ。日本体育大学から海上自衛隊へ入隊。「みょうこう」航海長在任中の1999年に能登半島沖不審船事件を経験。後に海自の特殊部隊「特別警備隊」の創設に関わる。現在は退官し、警備会社のアドバイザーを務めるかたわら、私塾にて現役自衛官の指導にあたる。著書に『国のために死ねるか』(文春新書)。関連記事■ 能登半島地震 2013年から2019年にかけ起こる可能性と専門家■ イラクで活躍「ヒゲの隊長」 震災後の自衛隊の活躍を報告■ 海上自衛隊特殊部隊の能力を、お世辞を言わない米軍がホメた■ 安保論議の最中に「命令あらば実戦で任務遂行」と現役自衛官■ 震災後に士気高揚した自衛隊 最前線に行きたい人間が増加する

  • Thumbnail

    記事

    朝鮮半島有事 10~15万人の北朝鮮難民が日本に流入か

     米軍は、韓国に駐留させている軍隊を縮少・撤退する方針を発表している。朝鮮半島の軍事バランスが崩れた場合には何が起きるか。 軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、「在韓米軍撤退後、金正恩が軍事挑発を繰り返し、第二次朝鮮戦争を誘発する可能性がある」と指摘。北朝鮮を支援する中国との全面戦争を回避するためアメリカが韓国支援を控えた場合、どうなるか。「韓国が反撃に出れば金正恩がソウル一斉攻撃を決断するかもしれません。そうなれば、北は板門店付近に配備したロケット砲などでソウルを火の海にするでしょう。北の工作員によるテロも多発し韓国は大混乱に陥ります(フェーズ1)」 ただし、戦力は韓国が北を上回り、早い段階で北の対南攻撃部隊は壊滅。その後、韓国軍の対北空爆、地上進撃が始まり、1か月程度で平壌が陥落する(フェーズ2)と黒井氏は見る。「中朝国境に追い詰められた金正恩が捨て身の反撃で核攻撃を仕掛ける可能性もある(フェーズ3)。韓国の複数の大都市が焦土化すれば、被爆地から大量の韓国人が日本に避難してくるでしょう(フェーズ4)」 2007年、日本政府は、朝鮮有事で日本に流入する北朝鮮難民を10万~15万人と見積もった。これに韓国の避難民が加われば日本の治安当局の機能は麻痺。難民の暴徒化や、北の武装難民が上陸することも考えられる。 約4万人の韓国在留邦人の救出も課題だ。韓国に自衛隊艦艇を派遣すれば、北からの攻撃に晒されかねない。金正恩が日本本土にミサイル攻撃を仕掛ける事態も想定される。米軍撤退は、東アジアの悪夢の始まりになるかもしれない。関連記事■ 延坪島砲撃事件 北朝鮮難民の日本への不法流入を専門家懸念■ 日中尖閣紛争が起きれば混乱に乗じて金正恩が南侵する可能性■ 次の将軍様・金正恩に「取り柄」が一つだけあるとの指摘出る■ 金正恩はシンクロナイズドスイミング愛した父の趣味受継ぐか■ 金正恩政権で予想される崩壊シナリオ 「朝鮮統一」「暗殺」等

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮の核実戦配備は最終段階へ、3つの抑止策とは

    美しいアルプスの山並みを望むことができる。このホテルの会議場で、スイス外務省は9月中旬に北東アジアの安全保障に関する1・5トラック(政府関係者と民間研究者が参加)のハイレベルセミナーを開催した。日米中ロ韓にEU諸国の代表団が集う会議場が独特の緊張感に包まれたのは、同セミナーに初めて北朝鮮の政府代表団が参加したからだ。 主催者によると、過去に開催された同セミナーへの招待に振り向きもしなかった北朝鮮だったが、今回は強い要望で参加が実現したという。その代表団を率いたのは崔善姫(チェ・ソンヒ)外務省米州局副局長だった。同氏は5月末にスウェーデンのストックホルムで開催された国際会議、翌6月に中国の北京で開催された「北東アジア協力対話」(ミニ6カ国協議と呼ばれる)にも相次いで参加している。後者の会議は北朝鮮が新型ミサイル「ムスダン」発射の最中に開催され注目された。崔副局長は同会議で「6カ国協議は死んだ」と発言したとされており、記者会見でも「(北)朝鮮の非核化を議論する会談に応じる気はない」と強調した。 改めて9月のモントルーでの北朝鮮代表団の主張の概要を紹介したい。・我が国は本年に入り2度の核実験を成功させ核兵器の技術的精度を高めた。また多種多様なミサイル実験も成功させ運搬手段を多角化した。これにより敵国である米国に対する抑止力を完成するに至った。・我々が「核兵器国」であることは現実であり、もはや一方的な非核化などありえない。核兵器の開発を中途半端にした結果、愚かにも崩壊を招いたイラクやリビアなどの轍は絶対に踏まない。・我が国は「責任ある核兵器国」であり、核兵器保有の目的は我が国の自衛に限定される。また我が国は核兵器の先制不使用を採択し、無用に他国を刺激することはない。・6カ国協議の過去の共同声明は(「核兵器国」である我が国の実態とは乖離しており)すでに死文化した。我々は同共同声明に関し、何ら履行義務を負わない。現況のような米国の敵視政策が続く限り、公式な多国間の対話をすることは考えられない。 以上のように、北朝鮮は今年に入って相次いで実施した核実験及びミサイル実験の成果を背景に、インドやパキスタンに連なる「核兵器国」としての地位を獲得したことを自認し、これを国際的に認知させることに躍起となっている。かつて北朝鮮自身が署名した「すべての核兵器及び既存の核計画を放棄」を柱とする6カ国協議共同声明は、もはや「核兵器国」としての現実と乖離し、リセットしなければならないと主張するのである。核の実戦配備は、すでに最終段階へ 北朝鮮のこうした言説キャンペーンの背景には、自他共に「核兵器国」として認める新しい現実を作りたい意図があることは明白である。しかし、問題となるのは核兵器計画や抑止力の実態の評価、そしてそれに基づく今後の対北朝鮮政策のあり方である。 北朝鮮が過去5回の核実験によって核兵器の小型化・弾頭化を実現させた可能性は高まった。特に9月に実施された第5回実験では過去最大の10キロトン程度と推計され、その爆発規模もさることながら、弾頭化に必要とされる運用の信頼性が重視されている。北朝鮮の声明によれば、今回の核実験により「小型化・軽量化・多種化」された核弾頭を必要なだけ生産できるようになり、「核兵器化はより高い水準」に引き上げられたという。 長年その実現が疑問視されてきた「小型化・弾頭化」について、日本の防衛白書(2016年度版)も「米国、ソ連、英国、フランス、中国が1960年代までにこうした技術力を獲得したとみられることや過去4回(刊行当時)の核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられる」と踏み込んだ評価をしているのである。 核兵器の運搬手段としてのミサイル開発も急速な進展がみられる。相手国に探知されにくい潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、移動式発射型ミサイルの実験、ミサイル防衛で迎撃を難しくさせるノドンミサイルの連続発射実験、中距離弾道ミサイルに匹敵するムスダンの「ロフテッド軌道」(通常の軌道に比べて高高度まで打ち上げる)実験の成功など、攻撃手段の多様化と高精度化を同時に追求している。また、北朝鮮は弾頭の耐熱性技術の確保に熱心に取り組み、最近のミサイル実験では再突入時の弾頭保護について相当の成果を得たという分析もある。金正恩朝鮮労働党委員長(中央)=2016年12月、平壌(共同) 現段階において、北朝鮮の核兵器の実戦配備はほぼ最終段階にあるとみてよい。北朝鮮の核・ミサイル実験は実戦配備に向けた軍事的合理性に適ったものであり、単なる「核保有」という象徴的な意味合いから「核の運用」という現実的段階へと状況は急速にシフトしているのである。その意味で、「北朝鮮の核兵器は運用段階にない」といった楽観的評価や、核・ミサイル実験の主たる目的は国威発揚や対米交渉カードであるといった情勢判断は、北朝鮮の意図と能力の過小評価であると言わざるをえない。 しかし、冒頭の北朝鮮代表団が言及したような、北朝鮮が対米抑止力を持ったという判断は過大評価でしかない。核兵器が抑止力として機能するためには、いかなる状況下でも相手国に核ミサイルを高精度で打ち込める能力(具体的には相手国からの攻撃を回避し、ミサイル防衛を突破できる能力)を担保する必要がある。北朝鮮が現時点で達成したのはその一部分の能力であり、最小限抑止を担保する攻撃手段の残存性や指揮命令系統の信頼性の確保など、まだ初歩的な段階に過ぎないのである。 しかし、仮に北朝鮮が、米国や韓国への抑止力を確保したという認識を一方的に持った場合、地域における小・中規模の軍事的挑発行為を誘発する可能性も高まる。これが北朝鮮の核能力を過大評価することの危険性である。 我々は以上の過小・過大評価を慎重に避けつつ「核兵器の実戦配備は現実的段階にあるが、信頼ある対米抑止力の確保には至らない」ということを情勢判断の基礎に据えるべきである。北朝鮮の戦略的優位を阻む、不断の抑止態勢を築け 北朝鮮の核・ミサイル開発の進展は、日本を含む北東アジア諸国にとり、現実的で差し迫った問題となっている。 しかし、6カ国協議の再開の目処が立たず、北朝鮮が6カ国協議の共同声明を反故にするなかで、膠着状態に陥った多国間外交に打開の可能性を見出すことは難しい。今年の3月に制裁措置を追加・強化した国連安保理決議2270が全会一致で採択されたことは重要な成果だが、北朝鮮の核・ミサイル開発の制止に向けた効果を見出すことはできていない。制裁の効果の鍵を握る中国も北朝鮮の体制の動揺・崩壊に繋がるような圧力の強化には依然として及び腰である。 こうした中で重要性を増すのは、北朝鮮に新たな能力獲得によって戦略的な優位をもたらさない、不断の抑止態勢の整備の必要性である。第1に重要なのは、日本の弾道ミサイル対処能力の総合的な向上の必要性である。近年の北朝鮮の多種・多様なミサイルとその運用態勢に対応するためにも、隙のない即応態勢や同時・継続的な対処能力を強化する必要がある。 第2に、日米韓の安全保障協力を一層強化する必要がある。在韓米軍のTHAAD導入決定を重要な機会と捉え、韓国における早期警戒情報やXバンドレーダーの情報を日米韓がリアルタイムに共有することは日本のミサイル防衛の精度向上に不可欠となる。軍事情報包括保護協定(GSOMIA) (出所)各種資料をもとにウェッジ作成 そのためにも、日米韓でミッシングリンクとなっている日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の早期締結は急務だ。また、本年実施した日米韓のミサイル防衛合同演習を定例化・活性化させるとともに、米韓合同軍事演習への自衛隊の参加や、日米共同統合演習における北朝鮮の挑発・エスカレーション事態の重視など、平素の安全保障協力の基盤強化が重要となる。 第3は米国の核拡大抑止(核の傘)の重要性を日米及び米韓が不断に確認することである。北朝鮮の核・ミサイル開発の実態を踏まえつつ、北朝鮮のあらゆる事態に適合した米国の核態勢の維持は、北朝鮮の挑発行動の拡大を抑止するための鍵となる。その意味でも、米次期政権の下で策定される「核態勢見直し」が北東アジアの現実を見据え、核戦力の戦域展開を担保するものであってほしい。性急な核戦力の削減や「先制不使用」は北東アジアの現実とは相容れないのである。 以上の抑止態勢の整備によって、北朝鮮の核・ミサイル開発が限定的な効果しか生み出しえない戦略環境を作るべきである。こうした戦略的膠着が定着してこそ、北朝鮮に外交オプションを真剣に追求する機会を促すことができる。北朝鮮の核・ミサイル能力の過大評価に基づく必要以上の外交的妥協や、逆に過小評価に基づいて実態に向き合わないことの双方が、大きな安全保障上のリスクとなるのである。

  • Thumbnail

    テーマ

    北朝鮮有事、日本はどう動くべきか

    もはや火薬庫と化した朝鮮半島情勢だが、北朝鮮の挑発が止む気配はない。「米軍が先制攻撃に踏み切れば、いかなる戦争にも対応する」。報復を警告した北朝鮮の標的には、むろん日本も含まれる。迫り来る北朝鮮有事に日本はどう対応し、いかに備えるべきか。北朝鮮クライシスを考察する。

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮の核暴発から日本を守る「戦略」は先制攻撃ではない

    しなければならないという声もある。「敵基地反撃」能力を持つべきであるとの提言が、3月30日に自民党の安全保障調査会・国防部会で発表されるなど、従来の専守防衛では、高まる北朝鮮の核・ミサイルの脅威には対抗できないのではないかという問題意識だ。北朝鮮の軍事パレードに登場した、新型ICBM用の可能性がある発射管付き車両=2017年4月、平壌(共同) しかし、そのこと自体、何を問題にしているのかよくわからない。生半可な理解のまま国防を語るのは危険だ。勇ましいようでも、あらぬところに弾を打ちまくるならば、それは恐怖の裏返しにすぎない。専守防衛と敵基地攻撃 「専守防衛では、ミサイルが飛んでくるまで何もできないのだから、発射前に破壊できるようにしなければならない」という発想について考えてみる。 専守防衛とは、「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう」とされている。 これは、他国領域への先制攻撃を否定するものではあるが、「自衛のための必要最小限度」の範囲内であれば、敵基地への攻撃を否定するものではない。また、国土に被害が出るまで何もできないわけでもない。自衛権を行使するのは、攻撃が完了した段階ではなく、敵が武力攻撃に着手した段階だから、日本を攻撃することは明白な敵兵力が行動を開始すれば、それがいまだ敵国の領域にとどまっていたとしても、反撃することができる。 弾道ミサイルの場合、日本を目標にしたミサイルが発射準備に入れば、その時点でこれを攻撃しても、専守防衛からの逸脱とは言えない。問題は、専守防衛にあるのではなく、敵のミサイルが発射態勢にあることをどのように察知し、それが日本を狙っていることを誰がどのように判断できるのか、そして、そのミサイルを首尾よくつぶせば、それでことが終わるのか、ということだ。 そもそも、地下に格納され、あるいは移動発射台に搭載されたすべてのミサイルの位置を把握し、同時に破壊することは不可能だ。そして、残存したミサイルによる報復攻撃が来る。それが核であったら、今度は日本が壊滅する。 テレビの映像で、3月7日に北朝鮮が4発のミサイルを同時に発射するシーンが放映された。「そこをつぶせばいい」という気分になる。しかし、「そこ」が「どこ」なのか、誰が知っているのか?当日の衛星画像を解析すれば、どこであったのかが判明するかもしれない。しかし、それこそ「後の祭り」である。相手は動くのだから。報復の抑止力 発射態勢にあるミサイルを破壊しようとすれば、北朝鮮上空を無人偵察機で覆うか、あるいは、あらかじめ特殊部隊を潜入させるなどして、爆撃目標を視認して、攻撃部隊に指示しなければならない。問われるのは、攻撃手段ではなく目標探知能力なのだ。 つまり、敵基地攻撃を行うとしても、ミサイルを100%防ぐことはできないということだ。それゆえミサイルは、劣勢にある側が優勢にある敵に対抗する拠り所となる。北朝鮮がミサイルに固執する理由もそこにある。報復の抑止力 そこで、ミサイルは防げないことを前提にした対応が必要となる。それが、「報復力」にほかならない。 今年2月14日の衆議院予算委員会で、安倍晋三首相は「北朝鮮のミサイル発射の際、共同で守るのは米国だけだ。撃ち漏らした際に報復するのも米国だけだ。トランプ大統領が必ず報復するとの認識を(北朝鮮に)持ってもらわないと冒険主義に走る危険性が出てくる。日本としては、トランプ大統領と親密な関係を作り世界に示す選択肢しかない」と答弁している。衆院予算委員会で民進党の辻元清美氏(左)の質問に答弁する安倍晋三首相=2017年2月14日(斎藤良雄撮影) ここで言われていることは、ミサイル攻撃をすれば報復するという典型的な「報復による抑止」の思想である。防げない攻撃を思いとどまらせるには、倍返しの脅しによって攻撃を思いとどまらせるというものだ。そして、その報復力を担うのはアメリカである、と言っている。政府は、自身の敵基地攻撃よりもアメリカの攻撃力に拠ろうとしている。 脅威とは、攻撃する能力と意志の掛け算で定義される。同様に抑止力も、攻撃されれば報復する能力と意志の掛け算である。アメリカに、北朝鮮を壊滅させる能力があることは、だれも疑っていない。北朝鮮も、それを知っているがゆえに、アメリカを「抑止」しようとして核・ミサイルを開発している。これは、基本的に、アメリカと北朝鮮の間のパワー・ゲームである。 安倍首相の答弁も、アメリカの能力がないからではなく、アメリカの報復の意志が揺らいでは抑止力にならないという認識に立っている。ちなみに、トランプが「アメリカは常に100%日本とともにある」というとき、英語では「stand behind Japan」なので、アメリカは「背後から」日本を守る、つまり、報復するというわけで、安倍首相の答弁と表裏一体をなしている。抑止力の限界抑止力の限界 しかし、アメリカの報復に頼ることにも問題はある。 第一に、アメリカが、常に100%日本の味方であることは、日本への攻撃に対して常に100%報復することと同じではないということだ。アメリカは、日本だけでなく、韓国も、そして何より、自国の兵力を守らなければならない。 日本に数発のミサイルが着弾したとしても、アメリカの報復が北朝鮮の韓国に対する大規模報復を招くのであれば、韓国の利益も考慮せざるを得ないだろう。少なくともアメリカの報復作戦は、韓国軍による38度線付近にある北朝鮮軍の砲兵陣地への攻撃と連動しなければ、たちまちソウルが火の海になる。 第二に、アメリカの報復によって北朝鮮の体制を崩壊させるかどうかという悩ましい問題がある。アメリカが報復する場合、その規模は限定的なものではなく、再発射可能なすべてのミサイルを破壊するものでなければならないが、それは、北朝鮮の攻撃能力を失わせることになり、ひいては体制の崩壊につながる可能性が大きい。 体制が崩壊すれば、北朝鮮はたちまち破たん国家となる。2000万の人口をどうやって食わせるかという難問が待ち構えている。ミサイルを破壊しても、100万人の軍隊と100万人の労働党の武装組織が残っている。韓国がこれを喜ぶはずはないし、この地域を統治するには、半分を中国に任せなければならないほどの大量の軍隊が必要になる。 アメリカが本気を出せば、北朝鮮との戦争に勝つことは難しくないだろう。だが、勝った後の方がよほど大変なのだ。それでもあえてアメリカが報復するのかというのは、当然の疑問だ。韓国・釜山に入港する米海軍の原子力空母カール・ビンソン=2017年3月15日(共同) 第三に、アメリカが報復する前提である「撃ち漏らしたとき」とは、日本にミサイルが落ちているということになる。それが何発なのか、核や化学兵器が積まれているのか、どのくらいの被害が出ているのか、述べられていない。つまり、抑止が成り立つ前提には、少なくとも敵の第一撃に耐える覚悟と態勢がなければならないということだ。 日本人が陥りがちな勘違いは、アメリカの抑止力があるから戦争にならない、戦争にならないのだから戦争の被害を考える必要はない、というものだ。だが、アメリカ軍が考える抑止力とは、戦争になれば必ず勝つ力を持つことを前提としている。 抑止と戦争は、日本人が考えるよりもずっと近い関係にある、同じコインの裏表なのだ。そして、そうでなければ抑止も成り立たないというところに、抑止と安全のジレンマがある。 第四に、北朝鮮は、攻撃目標が在日米軍基地であると公言している。在日米軍基地から発進する戦闘機が、北朝鮮を攻撃する最大の脅威であるからだ。すなわち、北朝鮮が日本に向けてミサイルを撃つ動機は、米軍がいるからということになる。抑止力であるはずの米軍の存在が攻撃の動機を与えているところに、抑止と挑発は紙一重というジレンマがある。 第五に、抑止という戦略は、抑止が効いている限り、北朝鮮はあえて攻撃しないという仮定の上に成り立っている。北朝鮮の最大の目標は、体制の生き残りだから、体制の崩壊につながるようなアメリカの報復を招くような攻撃はしないだろうという仮定に「確からしさ」はある。だがそれは、「相手もこちらと同じように考えるはずだ」という仮定である。戦略とは、確かではなく、確からしさの上に作られる計算式にすぎないのだ。 北朝鮮をとことん追い詰めれば、たとえ負けても一撃を食わせるという判断に至るかもしれない。現に北朝鮮は、そのためにアメリカに届く核ミサイルの保有を、最後の拠り所として目指している。 総じて言えば、抑止戦略は、攻撃を思いとどまらせる効果はあるにしても、やりすぎれば逆効果になる危険性があり、同時に、相手をこちらの思い通りに行動させる(例えば、核を放棄させる)効果はない。アメリカの抑止力がすべてを解決するわけではないのだ。ミサイル防衛に関する戦術と戦略ミサイル防衛に関する戦術と戦略 ミサイルを落とせないなら先にミサイルをつぶせばいいというのは、戦術の話であり、しかも確からしさのない思考という意味で、戦術論とも言えないかもしれない。一方、どうすればミサイルを撃たせないことができるかというのは、戦略に属する話だ。 言い換えれば、戦術論とは、自分が能力を持っているときにそれをどう使うかということであり、一方、戦略論とは、能力が十分でないことを前提に、それを敵との比較の中でどう補っていくか、敵の弱みを最大化し、こちらの弱みを最小化するか、という思考である。 北朝鮮の弱みとは、体制を守らなければならないという目的そのものにある。あのような古代王朝的な独裁体制を維持すること自体に無理があるということだ。一方、日本の弱みは、戦争の被害に対する耐久性がないことにある。 ミサイルを撃ちあうような戦争に耐えられないということだ。「だからアメリカの報復が抑止になる」というのは、敵基地攻撃よりもはるかに戦略的思考である。しかし、それには限界があることもすでに見てきた。 戦略の上に大戦略があるとすれば、ミサイルが飛んでこないようにするという目標を達成するためには、報復の威嚇によって抑止するだけではかえって攻撃の動機を与えるのだから、むしろ攻撃の動機である恐怖を和らげることを併用することがその大戦略に当たる。 これまで我々は、核・ミサイル開発を止めることを交渉の条件としてきた。しかし、現状は止まっていない。北朝鮮は、体制の保証のために核を手放すことができない。体制をつぶそうとすれば、おそらく必ず暴発してくる。核保有を止められないなら、核を使う動機をなくさなければならない。ミサイル攻撃という悪事への懲罰だけでなく、悪事をしないことのご褒美を用意することだ。北朝鮮の朝鮮中央テレビが放映した、軍事パレードを観覧する金正恩委員長(右)の映像(共同) そのために必要なのが、体制を外部からつぶさないという安心供与、あるいは「報償による抑止」といわれる手法である。外部からつぶさなくても、やがて内部崩壊するであろうから、それまでの間、「暴発させない」というところに戦略目標を変えるという意味でもある。 もちろん、ここまで来てしまった以上、事は容易ではない。一方、トランプ政権のように、空母を派遣して交渉のテーブルに着かせるという威嚇外交は、成功すればいいが、相手が応じなければアメリカの軍事的威嚇、ひいては抑止力の信ぴょう性を傷つける。 イラク戦争の前年、アメリカは、大量破壊兵器に関する完全な申告と査察をイラクに要求する国連安保理決議を背景に、戦争準備をもって威嚇したが、イラクの譲歩を得るに至らず、ついに戦争に踏み切った。イラクのサダム・フセインの誤算は、大量破壊兵器があるように思わせなければアメリカに攻撃されるという思い込みだった。北朝鮮が、アメリカの空母を目の当たりにして、同じ誤算をしないとは限らないことが心配だ。 確かなものは何もない。だからこそ、我々に必要なものは、やったらやり返す戦術ではなく、核を持った北朝鮮と付き合い、自滅を待つ長期的な戦略的思考なのだ。

  • Thumbnail

    記事

    対北朝鮮「敵基地反撃能力」を日本が保有しなければならない理由

    いるが、それでも北朝鮮による挑発は止まらない。 そこで自民党が北朝鮮核実験・ミサイル問題対策本部や、安全保障調査会、国防部会の場において積極的に議論したところ、北朝鮮が新たな段階の脅威であることが明確になった。 そこで今般、党安全保障調査会の下に「弾道ミサイル防衛に関する検討チーム」(座長・小野寺五典元防衛大臣)を急遽発足させ、これまでとは異なる北朝鮮の新たな段階の脅威に対して有効に対処すべく、あらゆる実効性の高い方策を直ちに検討し、「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言」を取りまとめ、予算措置を含め、政府に対しその実現を求めることとした。 この提言は3月29日に発表され、党の政調審議会の了承を経て、翌日、今津寛党安全保障調査会長、小野寺座長らによって総理官邸で安倍総理に報告された。 提言の内容は、(1)「弾道ミサイル防衛能力強化のための新規アセットの導入」(2)わが国独自の敵基地反撃能力の保有(3)排他的経済水域に飛来する弾道ミサイルへの対処―の三点で、政府において実現に向けた検討を迅速に開始し、さらなる抑止力の向上により、北朝鮮にこれ以上の暴挙を断念させるとともに、国民保護体制の充実を含めたより一層の対処力の強化により、万が一の際に国民の生命、わが国の領土・領海・領空を守り抜く万全の備えを構築することを求めるものである。先制攻撃は許されない 「弾道ミサイル防衛能力強化のための新規アセットの導入」は下記の通りだ。 イージスアショア(陸上配備型イージスシステム)やTHAAD(終末段階高高度地域防衛)の導入の可否について成案を得るべく政府は直ちに検討を開始し、常時即応体制の確立や、ロフテッド軌道の弾道ミサイル及び同時多発発射による飽和攻撃等からわが国全域を防衛するに足る十分な数量を検討し、早急に予算措置を行うこと。また、将来のわが国独自の早期警戒衛星の保有のため、関連する技術開発をはじめとする必要な措置を加速すること。 これは、従来の防衛予算の大綱・中期防、歳出化予算、概算要求といったことではなく、災害対応で予備費を充当するといった大胆な発想で早急に政府の決断を求めている。あわせて、現大綱・中期防に基づく能力向上型迎撃ミサイルの配備(PAC-3MSE:平成32年度配備予定、SM-3ブロックⅡA:平成33年度配備予定)、イージス艦の増勢(平成32年度完了予定)の着実な進捗、事業の充実・更なる前倒しを検討すること。 次が「わが国独自の敵基地反撃能力の保有」で、この点がマスコミに「敵基地能力の検討を提言」と大きく報道されたところである。 これは、従来からの敵基地攻撃とか策源地攻撃などについては議論されてきたが、今回は責任ある与党・自民党から「わが国独自の敵基地反撃能力の保有」が打ち出されたことで、野党から従来の日本の防衛政策の変更ではないか、例えば、民進党の安住淳代表代行の「専守防衛に徹してきた今までの流れを根本から変えていく話なので、私は反対だ」との発言など、専守防衛と逸脱するのではないかと言った批判がある。 専守防衛は「憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢」とされ、「相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保有する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限ること」を意味している。オスプレイを使って自衛隊員らが日米共同訓練を行った=2013年10月、滋賀県高島市(松永渉平撮影) これをさらに具体的にすると「政府は、わが国に対して誘導弾等による攻撃が行われた場合、そのような攻撃を防ぐのにやむをえない必要最小限度の措置として、他に手段がない場合に発射基地を叩くことについては、従来から憲法が認める自衛の範囲に含まれ可能と言明しているが、敵基地の位置情報の把握、それを守るレーダーサイトの無力化、精密誘導ミサイル等による攻撃といった必要な装備体系については、「現在は保有せず、計画もないとの立場をとっている。」とのことである。したがって、「わが国独自の敵基地反撃能力の保有」は憲法上からも専守防衛の観点からも可能と言うことになる。 従来からの敵基地攻撃とか策源地攻撃などの用語は、先制攻撃ではないかとの誤解が生じる恐れがあることから、今回「敵基地反撃能力」として、先制攻撃ではないことを明確にした。 先制攻撃は、武力攻撃が発生する前に武力行使をするものであり、わが国の憲法上はもとより、国際法上も許されるものではない。今回自民党の提言に盛り込んだ「わが国独自の敵基地反撃能力」については、こうした先制攻撃を考えるものではなく、このことを明示する趣旨で敵基地「反撃」能力との用語を用いた上で、これまでの法理上の解釈に基づき、かつ日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上を図る観点から検討すべきとしたものである。楯と矛を考える 日本の防衛政策は、自衛隊と米軍が、いわゆる「楯と矛」の関係性の中で日本の防衛を行っている。つまり、自分の国を守るという「楯」としての役割は自衛隊が担っている。一方、相手から攻撃された場合、では相手の国を攻撃するにはどうすればいいのかというと、全面的に「矛」としての米軍に依存するということになっている。 これが今の日本の防衛政策の仕組みだが、今回のトランプ米新政権が同盟国に対して自助努力を促していることからも、提言では「北朝鮮の脅威が新たな段階に突入した今、日米同盟全体の装備体系を駆使した総合力で対処する方針は維持するとともに、日米同盟の抑止力・対処力の一層の向上を図るため、巡航ミサイルをはじめ、わが国としての『敵基地反撃能力』を保有すべく、政府において直ちに検討を開始すること」とした。 三つ目が「排他的経済水域に飛来する弾道ミサイルへの対処」で、提言の内容は「昨年8月以降、北朝鮮は3度にわたりわが国の排他的経済水域内に弾道ミサイルを着弾させており、航行中の船舶への被害は生じなかったものの、操業漁船が多い海域でもあり、わが国船舶等の安全確保は喫緊の課題である。  このため、弾道ミサイル等の脅威からわが国の排他的経済水域を航行しているわが国船舶等の安全を確保するため、政府は、当該船舶に対して、航行警報等を迅速に発出できるよう、直ちに検討すること。また、これらの船舶の位置情報の把握に関する技術的課題や当該船舶を守るための迎撃を可能とする法的課題について検討すること これは、排他的経済水域内には、わが国の船舶が多く所在し、これらの安全を確保することは極めて重要と考えている。 一方、これらの船舶がどこに所在するかを精緻に把握することは難しいことから、今回の提言では、この船舶の位置情報を把握する技術的課題の検討とともに、迎撃のための法的課題の検討についても検討すべき旨を盛り込んだ上で、船舶への航行警報を迅速に発出するための検討に直ちに着手すべきとした。自衛隊と米軍の共同訓練でボートで沖縄本島東方の浮原島に上陸し、米兵ら(左)と担架を運ぶ自衛隊員=2016年11月7日 法的課題の検討とは、具体的に現在の自衛隊法第82条の3の規定による弾道ミサイル等に対する破壊措置は「我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止する」ことを目的とし、「我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等」を破壊するためのものであるため、排他的経済水域(EEZ)に落下する弾道ミサイルについては、同条の規定による措置を取ることはできないとの課題がある。 この点については、技術的課題に係る検討と併せ、政府において検討を進めてもらいたいとの提言である。今回の自民党の「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言」は、現憲法下で許容される範囲のもので、専守防衛を逸脱したものではない。今後は、国民の生命と財産をしっかりと守るためにも憲法改正を急ぎ、国際標準の防衛法制及び政策の策定が喫緊の課題となっている。

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮有事の「最悪シナリオ」に日本が取るべき選択肢は一つしかない

    松竹伸幸(ジャーナリスト、編集者、「自衛隊を活かす会」事務局長) 北朝鮮情勢が風雲急を告げている。真剣な対策が必要だ。軍事対応と外交努力をどう適切に結合させればいいのか、その「最適解」を見つけだすことが決定的に重要だと考える。それはどんなものだろうか。 軍事対応だけでも、あるいは逆に外交努力だけでも、北朝鮮の核問題には対応できない。歴史的な経緯を見ればそれは明白だ。 いわゆる1990年代前半の朝鮮半島第一次核危機。クリントン政権が軍事対応を志向したが、その道を進めば100万人以上の死者が出るとの試算も出され、当時の韓国・金泳三政権が断固として反対したこともあって、軍事対応には至らなかった。後で論じるように、軍事対応が今でも同じ問題を引き起こすという構図は変わっていない。 一方、その核危機がカーター米元大統領の訪朝によって回避され、北朝鮮は1994年のいわゆる「米朝枠組み合意」により、核兵器を最終的には放棄することを約束した。その見返りに北朝鮮に対して軽水炉2基を供与するとともに、それが完成するまでの間、毎年50万トンの重油を供与することになり、日本も軽水炉建設費の30%を負担した。トランプ米新大統領の就任式会場で開会を待つ(左から)カーター、クリントン、ブッシュ(子)の各元大統領夫妻=1月20日、ワシントン(ロイター=共同) 「外交努力」の成果だと見られたが、北朝鮮は秘密裏に核開発を続行しており、ついにはIAEA(国際原子力機関)の査察を拒否し、NPT(核拡散防止条約)からの離脱も宣言、外交努力は見事に破綻したのである。「外交努力だけでなんとかなる」というならば、この時の失敗の教訓を徹底的に酌みつくした上で、「このやり方ならば」というものを説得的に提示しなければならないが、そういうものにはまだお目にかかっていない。 それに続くジョージ・W・ブッシュ大統領の時代、アメリカはイラク戦争に突入し、小泉純一郎首相は「北朝鮮が攻めてきたときはアメリカに頼る必要があるのだから」という理由で、その戦争を支持した。今回、トランプ政権のシリア爆撃を「理解」した安倍晋三首相につながってくるが、故金正日は、化学兵器の保有をちらつかせるような甘い対応では体制を打倒されるということをイラク戦争の教訓だと捉え、本気で核保有国になる決意を固めたとされる。シリア爆撃を「牽制」とする見方は、北朝鮮には通用しないだろう。 オバマ大統領の時代、アメリカは「戦略的忍耐」といって、北朝鮮が核放棄するまでは相手にしないという態度をとった。軍事対応は行わず、外交努力もしないという新たな対応だったが、結局その間に北朝鮮の核、ミサイル開発は加速した。 要するに、これまで世界がどういう対応をしようとも、北朝鮮は核、ミサイル開発をやめなかったということだ。アメリカが軍事対応してくるかもしれないという恐怖感があったとしても、何らかの経済的利益を得られるかもしれないという期待感があったとしても、そういうものには目を向けることなく、まさに自分たちも「戦略的忍耐」を堅持して、ただひたすら核開発を完遂するのが体制維持に決定的だと考え邁進しているのが、現在の北朝鮮ということである。 そういう国とどう向き合えばいいのか。我々は今まさにこの問題に直面している。単純な結論で済むはずがない。日本独自の立場も貫かなければならない この問題を考える上でもう一つ大切なことは、アメリカ抜きで解決することはできない問題であると同時に、日本独自の立場も貫かなければならないということである。日米の利害は一致しているように見えて、異なる部分もある。 北朝鮮の核、ミサイル開発を阻止するという目標では日米は共通している。情報交換その他、緊密な日米連携が必要であることは論を俟(ま)たない。 しかし、決定的に違うのは、もし戦争になるようなことがあれば、戦場になるのは日本(と韓国)だということである。アメリカに届くミサイルが完成しているわけではないので、米本土は戦場にならないからだ。 アメリカの中で「先制攻撃」がオプションの一つとして浮上しているのは、そうなる前に何らかの対処が必要だと考えられているからであって、主にアメリカの国益を最優先させる立場からである。90年代前半の核危機では100万人の死者というシナリオを前に冷静になれたが、トランプ政権下では、たとえ軍事攻撃をしたとしても、北朝鮮は体制維持を優先させようとするので、体制崩壊につながるような全面戦争に北は踏み切らないという楽観的な考え方も生まれつつあると聞く。 けれども、それはあくまで希望的観測である。北朝鮮が体制維持を最優先させるのは間違いないが、アメリカに一方的に攻撃され、反撃もできないとなれば、それこそ金正恩体制を維持する求心力は失われるだろう。体制維持のために反撃に出てくるシナリオだってあり得るということだ。「国体護持」の保証を得るため、どんなに被害が拡大しても戦争を止めなかったようとしなかった日本の過去のことを考えれば、こちらの方が現実味があるかもしれない。 そうなれば、アメリカの先制攻撃を支持し、発進基地を提供する日本は間違いなく標的となる。北朝鮮のミサイルの精度が高まっていることは日本政府も認めていることであって、日本に到達する前に落下したり、上空を通過していくということにはならないだろう。 要するに、日本としては、自国が戦場になることは避けるという目標を持つことが大切だということだ。アメリカがお気軽な先制攻撃のシナリオを持つのも、米本土は戦場にならないという安心感が生み出すものであって、自国を戦場にしないと考えて行動するのは、どの国であれ決して身勝手な立場ではない。お互いの異なる立場をぶつけ合って、対応を決めていく必要があるということだ。日米の軍事対応が外交努力と矛盾してはならない 一方、軍事的対応は絶対にとらないという選択肢も、あり得ないだろう。その選択肢は極論すれば、北朝鮮からミサイルが撃ち込まれるようなことがあっても「こちらは我慢する」「被害を受けても外交努力だけに徹する」と言っているように聞こえる。 1955年1月、アメリカのアチソン国務長官が、アメリカの防衛ラインは日本列島からフィリピンまでだと演説したため、金日成が韓国を攻撃しても反撃されないのだと考え、朝鮮戦争が勃発したというのが国際政治学では通説となっている。その教訓を踏まえれば、もし北朝鮮が核やミサイルで先制攻撃してくれば、それ相応の反撃をするという意図を北朝鮮側に伝えていく必要がある。北朝鮮のミサイル発射に備えて設置されたPAC3(地対空誘導弾パトリオット)=2012年10月12日、沖縄県石垣市(恵守乾撮影) 具体的に言えば、もしミサイルが日本に落ちてきた場合、現存のミサイル防衛システムを発動し、迎撃するのは当然だろう。10年ほど前までは、北朝鮮はミサイルを「衛星」だと強弁しており、仮に撃ち落とされれば反撃すると公言していた。本当にそれが「衛星」だったなら、北朝鮮の反撃にはそれなりの正当性があったと言える。しかし、今の北朝鮮は核、ミサイルの開発という意図を隠していないわけだから、落ちてくるミサイルを迎撃するのは、国際法上も許される自衛措置である。 他方で、日本あるいは日米がやろうとする軍事対応が、北朝鮮に核、ミサイル開発を止めさせるための外交努力と矛盾するものであってはならない。最終的にこれを止めさせるようとすれば、外交の力に頼るしかないからだ。 この点では、こちら側が先制攻撃するというのは、最悪のシナリオである。北朝鮮にミサイルや化学兵器を使用させる口実を与えてはならないのだ。 それと表裏一体のことだが、北朝鮮側の先制攻撃がない限り、こちら側は武力の行使をしないというメッセージも明確に伝えるべきだ。さらに、その武力行使の規模と態様も、もっぱら自衛措置の範囲に止まることを明確に北朝鮮に伝えるべきだ。ミサイルが撃ち込まれるなら、そのミサイル発射基地は叩くという程度のものにするということである。 北朝鮮は、イラクのフセイン政権の末路その他、アメリカがこれまでに実際にやってきたことを見て、武力を行使される時は体制が転覆される時だと感じ、必死になって核ミサイル開発に狂奔している。だからこそ、多少のメッセージで真意を伝わるのは簡単ではなかろうが、核ミサイル開発を止めさせようとすれば、そこに真剣になる必要があるのだ。 北朝鮮が核やミサイルを開発し、使用するようなことがあれば、現体制は維持されない可能性がある。しかし、その開発を中断し、核とミサイルを放棄するなら、体制の維持につながる報償は与える。与えることになる報償の内容は、外交関係者が知恵を出していかなければならないが、軍事対応と外交努力の結合というのはそういうことである。「敵基地攻撃」の抑止力が効かない相手 こちら側の武力行使が、先制攻撃されたときの自衛に限られるとなれば、その最初のミサイルが着弾することを前提としており、日本が被害を受けることになるではないかという批判が寄せられよう。しかし、それ以外の手段は創造できないほどの大規模な厄災を招くのであって、自衛に限るやり方こそが被害を最小化する考え方である。北朝鮮の労働新聞が3月7日掲載した、砲兵部隊による訓練で発射される4発の弾道ミサイルの写真(共同) 例えば、北朝鮮のミサイル基地を一挙に叩けばいいのだと、威勢のいいことを言う人もいる。けれども、テレビに映るミサイルの発射場面やアメリカの軍事衛星の写真を見ると、基地がどこにあるか分かっているような錯覚に陥るが、発射台がどこにあるのかすべて分かっているわけではない。たとえ分かったとしても、移動式の場合は、予想を超えたところから発射されることになる。しかも、すべての基地を一挙に完全に叩くことができなければ、残りのミサイルがアメリカではなく、日本と韓国に飛んでくることになるのである。 北朝鮮は、ノドン200発とスカッドER100発の計300発程度のミサイルを保有していると考えられている。最初の一撃で半分を破壊したとしても、なお150発のミサイルが残る。北朝鮮がその報復として、化学兵器を搭載したミサイルを東京に向けてきたらどうするのか。そういう想定を抜きにして、敵基地の先制攻撃論を語ってはならない。一方、自衛の場合に限って対応する場合は、発射した場所が特定されるのであって、破壊できる確実性もはるかに増すことになる。 いや、敵基地を攻撃するというのは、あくまで威嚇であって、抑止するためだという人もいるだろう。確かに、怖いから手を出さないでおこうと北朝鮮が認識すれば、暴発はしないかもしれない。しかしこの間、北朝鮮はそういうことにお構いなく、核やミサイル開発を加速させてきたではないか。抑止力というのは、要するに相手の意思をくじこうとするものであり、結局のところ「くじけない相手」には効かないのである。 であれば結論は明白だ。軍事と外交の適切な結合しかない。北朝鮮が先制攻撃するなら、こちらは自衛の範囲で対応することを明確にし、その意図を北朝鮮に伝える。同時に、北朝鮮が核やミサイル開発を放棄するなら、体制を転覆するようなことはしないという立場で、あらゆる外交努力を強める。簡単なことではないが、現状での「最適解」はそこにしか存在しないのではなかろうか。日米に中国の損失をかぶる覚悟はあるか なお最後に、中国が果たすべき役割について触れておく。日本やアメリカは、中国に役割を果たさせるため何をすべきかという問題も含めてだ。 北朝鮮の核、ミサイル開発を止めさせる上で、中国の役割が大きいと言われる。いくら国連が経済制裁を決めても、北朝鮮の輸出入の相手国がほとんど中国だけという現状では、中国が本気にならなければ効果は薄いものになるのは事実だろう。 ただ、中国に経済制裁の協力を本気で求めるには、中国が被る損失を誰がかぶるのかという問題は避けて通れない。日本やアメリカは、自分たちが中国の損失をかぶる覚悟があるのかということだ。 中国は現在、本来は受け入れるべき政治難民にあたる脱北者でさえ、拘束しては北朝鮮に戻しており、国際社会から批判を受けている。経済制裁が効いてくることになると、経済的に困窮した大量の難民が中国に逃れて来るのは目に見えている。中国全人代の全体会議で、言葉を交わす習近平国家主席(右)と張徳江・全人代常務委員長=3月12日、北京の人民大会堂(共同) その対策を中国任せにするという態度では、中国を本気にさせることはできない。日本やアメリカは、そこまで考え抜いて、経済制裁の実施を提唱すべきだろう。自分たちも費用を分担したり、難民を受け入れるのかという覚悟も必要になる。 同時に、中国を本気にさせようとしたら、現在のような先制攻撃路線は百害あって一利なしだ。中国は、制裁が北朝鮮の体制崩壊につながることを心配していると言われるが、実は最も懸念しているのは「在韓米軍の緩衝地帯」がなくなることである。 朝鮮半島が統一されれば、米軍の駐留を受け入れる国家が目の前に立ち現れることなる。軍事的な選択肢で北朝鮮が崩壊するようなことになれば、それを遂行した軍隊がそのまま占領し、継続して駐留するようになるであろうことは容易に推測できる。 これを逆の角度から見ると、中国を本気にさせることができるとすれば、経済制裁の結果として北朝鮮が崩壊するようなことがあっても、その際は韓国から米軍が撤退すると分かった時だけだろう。アメリカにその気はあるのだろうか。中国を本気にさせるというが、いま問われているのは「アメリカの本気度」のように思えてならないのである。

  • Thumbnail

    記事

    早晩、日本に「金正恩後の朝鮮半島」を考える局面が来る

    した一つ一つの「可能性」を吟味する議論こそが、現下の日本には要請されているのではなかろうか。 日本の安全保障政策論議には、「病が重篤になってから慌てて病院に行く」風情が漂っている。慌てた議論は、往々にして「火事見たさ」の議論に重なる。どちらも無益な議論である。

  • Thumbnail

    記事

    朝鮮半島の恐怖は「次の一手」が読めない指導者の暴挙

    長谷川良(ウィーン在住ジャーナリスト) 父親・故金正日総書記が得意としてきた「瀬戸際外交(作戦)」がもはや通用しないことを息子の金正恩労働党委員長は一刻も早く悟るべきだろう。2016年12月、金正日総書記の死去から5年を迎え、平壌の万寿台の丘で銅像に向かい一礼する人たち(共同) 朝鮮半島が一触即発状況に陥ったことは今回が初めてではない。しかし、金正日総書記時代と根本的に違うのは米国にトランプ大統領が登場したことだ。正恩氏はトランプ氏の性格を多分十分に理解していないのだろう。「戦略的忍耐」を表明し、北側の度重なる国連決議違反に対しても静観し続けたオバマ前米大統領とは、その出自からそのキャリアまで全く違うのだ。トランプ大統領の米国にはもはや「瀬戸際作戦」は通用しないのだ。 朝鮮半島の政情はここにきて米国と北側の心理戦の様相を帯びてきた。なぜならば、両国とも「もし……するならば絶対に許さない」と表明し、武力行使も辞さない姿勢を見せているからだ。 北側は国営メディアを通じて得意のプロパガンダを駆使し、「相手が望むならば核戦争も辞さない」と宣言。一方、トランプ陣営は「核実験や弾頭ミサイルの発射の兆候が見られれば、即先制攻撃で破壊する」と警告を発しているのだ。両国とも武力行使の用意があることを繰り返し表明している。すなわち、北朝鮮も米国も武器のボタンに手をかけている状況だ。 ところで、北朝鮮と米国双方は本当に武力衝突を考えているのだろうか。北側は世界超大国の米軍と正面衝突した場合、勝算はまったくないことを軍事専門家でなくても分かるはずだ。だから、金正日総書記は瀬戸際外交を展開し、土壇場で米国が手を引くと期待していたのだ。幸い、相手側は土壇場で対話路線に転換させてきた経緯がある。正恩氏も父親と同じように瀬戸際作戦を展開させている、といった気持ちがあるかもしれない。 一方、トランプ氏の場合、対北作戦を展開させる前に2回、派手な軍事活動を指令している。同大統領は7日、地中海の米海軍駆逐艦からシリア中部のアサド軍のシャイラト空軍基地へ巡航ミサイル、トマホークを撃ち込む指令を出し、13日には、アフガニスタン東部のナンガルハル州のイスラム過激派テロ組織『イスラム国』(IS)の拠点に非核兵器では最高火力を持つ「MOAB」(GBU-43)を初めて投下させている。正恩氏は面子を大きく失わない段階で挑発を中止すべきだ トランプ氏の軍事デモンストレーションに対抗し、正恩氏は16日午前、弾道ミサイル1発の発射を命令したが、ミサイルはどうやら発射直後、爆発した。この段階でトランプ氏と正恩氏の脅迫作戦の勝負ははっきりしたのだ。米軍は北が弾道ミサイルを発射しようすれば、北のミサイル機能をマヒさせる電子攻撃を仕掛け、落下させるからだ。 北は昨年10月段階で計8度、中距離弾道ミサイル「ムスダン」(射程3500キロ)を発射し、成功は同年6月22日の1回だけだった。グアム米軍基地まで射程に収める弾道ミサイルの開発という平壌の宣伝文句が空しくなるほどの結果だったのだ。 弾道ミサイルを開発し、核搭載ミサイルで米本土を攻撃すると豪語した金正恩労働党委員長に対し、米国は電子戦を展開させ、軍事力の差を示したわけだ。今回のミサイル発射失敗も同じ理由が考えられるのだ(「米軍の電子戦で『ムスダン』は不能?」2016年10月21日参考)。 ちなみに、米軍は80機の戦闘機を運ぶ米原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島近海に派遣する一方、トマホーク巡航ミサイルを発射できる駆逐艦2隻のうち1隻は現在、朝鮮半島から約480キロ離れたところで待機中だ。 正恩氏は面子を大きく失わない段階で挑発を中止すべきだ。さもなければ、トランプ氏は米海軍特殊部隊を動員させ、奇襲攻撃に出ざるを得なくなるのだ。なぜならば、「もし、……ならば」と繰り返し表明してきた立場上、トランプ氏は一旦手をつけた刀(武器)を容易に鞘に納めることはできないのだ。 トランプ氏と中国の習近平国家主席の間で対北政策で一定の合意が達成された兆候が見られる。米財務省は14日、中国を「為替操作国」に認定することを見送る一方、中国国際航空は17日から北京と北朝鮮の首都・平壌を結ぶ便の運航を停止するとともに、中国旅行社は北観光を全面中止するなど、人的交流の制限に乗り出してきているのだ。金正恩氏を取り巻く情勢は限りなく北に不利だ。 正恩氏もトランプ氏も世代は異なり、国は違うが、面子を重視する点で似ている。その上、両者とも「計算できない、予想外の言動をする人物」と受け取られていることだ。換言すれば、朝鮮半島の危機とは、武力衝突の危機というより、「計算できない、予想外の言動に走る」2人の指導者の“次の一手”が読めない危険性を意味しているわけだ。データ主義が席巻する21世紀の国際社会では、次の一手が予想できないというほど怖いことはないのだ。世界は今、この恐怖と対峙しているのだ。(公式ブログ「ウィーン発 『コンフィデンシャル』」より2017年4月17日分を転載)

  • Thumbnail

    記事

    安倍首相が外交の素人・トランプ大統領を頼る危険性と愚かさ

    ない外交に世界中が振り回されている。北朝鮮がミサイル発射を繰り返すなか、そのトランプ政権に頼る日本の安全保障政策は危険だと、ジャーナリストの落合信彦氏は指摘する。 * * * トランプ政権の外交政策での支離滅裂が凄まじい。つい最近、安倍(晋三首相)とゴルフ三昧の首脳会談を終えて「信頼関係」を築いたと語っていたが、その舌の根も乾かぬうちに、再び日本バッシングを始めているのだ。トランプの懐刀でアメリカ国家通商会議(NTC)のトップに指名されたピーター・ナヴァロは、3月の講演で次のように日本を批判した。「日本からアメリカへの2日分の自動車輸出が、アメリカから日本への輸出の1年分より多い」 アメリカ車が消費者にとって魅力のない商品であることを棚に上げて、“日本はもっと車を輸入しろ”というのだ。何よりも、外交が一貫しない国は信頼されないということを、トランプは理解していないようだ。 トランプは当選直後に台湾総統の蔡英文と異例の電話会談をした。そのことは「1つの中国」と主張している習近平を揺さぶったが、今度は4月に仲良く米中首脳会談を行うというのである。 ビジネスの現場でカネのことばかり考えてきたトランプは、外交についてはまったくの素人だ。だからその場しのぎの外交を繰り出してくるのである。問題なのは、安倍が、そんな一貫しない国のトップを全面的に頼っていることだ。 3月上旬、北朝鮮が4発の弾道ミサイルを連射して秋田県沖の日本のEEZ(排他的経済水域)に着弾させた。それを受けて安倍は緊急でトランプと25分間にわたって電話会談した。安倍はトランプから「アメリカは日本を100%守る」と言われ、官邸は大喜びしたという。電話会談の内容はすぐに新聞記者たちにリークされた。官邸に入る安倍晋三首相=2017年4月7日、首相官邸(斎藤良雄撮影) しかし、トランプの「守る」という口約束を聞いて喜んでいる場合ではない。今の“一貫しないアメリカ”に頼るのは、愚かなのだ。 実際に北朝鮮から我が国に向けてミサイルが発射されたら、日本は自らの手で国土と国民を守るしかない。国会では森友学園とやらの「土地疑惑」が盛り上がって多くの時間が割かれている。防衛相の稲田朋美は自らの立場を“防衛”することに必死で国を守ることは何も考えていない。国家の安全が問われている今、いつまでもあのような矮小な議論をしている場合ではないはずだ。 日本政府・外務省は、北朝鮮の暴挙に対し「遺憾である」「断固とした措置をとる」「厳しく対応する」とお決まりのフレーズを繰り返している。彼らは日本国民がミサイルで殺されても、同じ言葉を発するつもりなのだろうか。 私は、金正恩は地上のミサイル迎撃体制が手薄な大阪周辺や九州をまず狙ってくるとみている。3月のように何発も一度にミサイルを発射されてイージス艦による高高度迎撃で撃ち漏らした場合、地上の“最終迎撃手段”であるPAC3で対処することになる。だが、その射程範囲はわずか20kmと狭い。 首都圏では、市ヶ谷の防衛省本部や練馬の朝霞駐屯地、千葉の習志野駐屯地にPAC3が配備されて人口密集地がカバーされているが、大阪などではそれが手薄なのだ。人口が多い都市では1発着弾しただけでも、多大な犠牲が出るだろう。 安倍はその責任をとって総理大臣を辞めたら、トランプの会社に雇ってもらうつもりなのではないか。安倍がトランプを全面的に頼っている姿を見ると、そうとしか思えない。関連記事■ 日中軍事力 総兵力:23万人/224万人、民兵:0/800万人■ 【ジョーク】金正男から金正恩にメール「TDL破壊しないで」■ 史上最も長生きは仏人女性の122歳 117歳まで喫煙していた■ 落合信彦氏 中国が軍事で米に挑んでも現状はお話にならない■ 北朝鮮 米韓怖いから日本だけミサイル攻撃すると大前研一氏

  • Thumbnail

    記事

    〝四面「核」歌〟状態の日本が生き残る道

    脅威を増している。日本を取り囲むこれらの核保有国の具体的な脅威とは。日本がとるべき戦略とは。核戦略・安全保障の専門家3人に語ってもらった。編集部(以下、――)北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まっています。今年に入っても2月、3月と続けて弾道ミサイルを発射していますが、狙いは何でしょうか。また、その技術はどれくらい進化しているのでしょうか。日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター 主任研究員の戸崎洋史氏神保:北朝鮮は、自らの核抑止力を技術的に証明することに躍起になっています。かつては核開発を進めることを通じて米国との直接交渉を目指していましたが、現在は核兵器の実戦配備を通じて事実上の核兵器国としての承認を欲している状況です。核弾頭の小型化、ミサイル実験の多種化、弾頭の大気圏再突入技術の誇示など、全てこのロジックに沿っています。小泉:核爆発装置があるという段階から、実際に戦略として核を使用できる段階まで進んできているということですね。ただ、北朝鮮は面積としてはかなり小さな国で、先制攻撃を受けた場合に核兵器が生き残る能力にはかなり疑問があると思いますが、いかがでしょうか。先制攻撃から生き残ってミサイルを発射できてもミサイル防衛もすり抜ける必要があるわけですし。戸崎:確かに、他の核保有国と比べると開発は初期段階ですが、恐らく自らが世間一般の常識の枠を超えた「非合理的」な存在として見られていることを知っていて、初期段階ながらも、何をするか分からない、核兵器をいつ使うか分からないという恐怖心を他国に抱かせようとしている側面もあるのではないでしょうか。さまざまな計算の上での行動だと思います。小泉:非合理性の合理的な利用、もしくは戦略的曖昧性といったところですね。神保:北朝鮮は抑止力について3層の戦略を考えていると思います。1層目は、韓国の都市部や米軍基地に対する通常戦力による奇襲能力や核兵器の打撃力を誇示して、米韓同盟にくさびを打ち込むこと。2層目は、日本の都市や在日米軍に対するミサイル攻撃能力の確保。過去10年程度進めてきた中距離弾道ミサイル・ノドンの連続発射実験、移動式発射台の運用、ミサイルの固体燃料化などは、ミサイル防衛を難しくさせています。 そして3層目は、米国に対して長距離弾道ミサイル・テポドン2改良型や開発中のKN−08などの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を本土に打ち込める能力を示し、米国と同盟国を切り離し(デカップリング)、拡大核抑止の信用性を揺るがすこと。これらが彼らの戦略だと思います。北朝鮮が攻撃対象にしやすいのは日本戸崎:その中で、特に危険なのは日本でしょうね。北朝鮮にとって、朝鮮半島統一という将来的な目的のためには、韓国に核戦力で壊滅的な被害を与えることは望ましくないことから、最も実際の攻撃対象としやすいのは日本でしょう。また、日本を威嚇して朝鮮半島事態への関与から手を引かせれば、米国による韓国防衛コミットメントの遂行も難しくなります。その意味でも、日本は3カ国の中で一番適当なターゲットだと思います。小泉:国力やテクノロジー面で劣勢な国は、必ずその制約の中で何かしらの軍事戦略を考えるものです。そういった意味では、北朝鮮も必ず相手の隙をつく作戦を考えてくると思われますので、侮れないですね。  北朝鮮が戦略的曖昧性を最大限に発揮する中で、米国は韓国との合同軍事演習で朝鮮半島上空に爆撃機を飛ばすなど、その程度の能力では核抑止は確立していないと北朝鮮に知らせる行動を繰り返し起こしています。これはイタチごっこのような気がしますが、どこかで均衡して交渉に向かうことはできるのでしょうか。日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター 主任研究員の戸崎洋史氏戸崎:難しい問題ですね。互いに相手の能力や意図を十分に認識しているつもりが、実際にはそうではない部分も少なくないと思います。北朝鮮が核を持ち、増強しようとする目的をどう捉えるかによっても変わってくるでしょうね。現体制の維持という防御的な目的であれば、交渉での解決を目指せるかもしれませんが、核を背景にした挑発などによって攻撃的な目的の達成を狙っている場合は、抑止など強い圧力をかけないと北朝鮮はチャンスだと判断しかねません。 しかも、北朝鮮の狙いも、自らの核戦力の強化とともに変わる可能性があり、その動きを絶えず慎重に把握していないと間違った政策判断を下すことになりかねません。――トランプ大統領は就任前に、北朝鮮への対応は中国に任せておけばいいという放任的な発言もしていました。小泉:トランプ大統領の選挙中の発言は正直あてにならないと思います。選挙戦中の発言とその後の行動が合致していないことが多々あります。選挙戦中は北朝鮮なんてどうでもいいと言っていましたが、現実的に彼が米国の安全保障戦略を仕切る立場においては、そうは言っていられないでしょう。神保:大統領選挙期間中のトランプ大統領に明確な北朝鮮政策があったとは思えません。しかし今年2月のマティス国防長官の韓国・日本訪問や、日米首脳会談の際のミサイル実験への対応、3月に実施されている最大規模の米韓合同軍事演習を通じて、トランプ政権が北朝鮮への軍事的警戒を強めていることは明確になりました。オバマ政権の「戦略的忍耐」が失敗したという認識のもとに、現在はマクファーランド大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)の下で北朝鮮政策の見直しが行われているとも伝えられています。  しかし、対北朝鮮政策が大幅に変更されることは考え難いと思います。北朝鮮の影に隠れた中国の核戦力――北朝鮮に関する報道の影に隠れて表に出ない中国の核戦力も日本にとって脅威となるのでしょうか。戸崎:中国は、核弾頭を250~300発、米国に届くICBMを少なくとも50基以上、日本を対象にできる中距離ミサイルを数百基保有していると言われています。ただし、中国の核戦力における透明性は低く、保有する核弾頭数も運搬手段の種類・数も公表していません。運搬手段については、海(潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM))、陸(弾道・巡航ミサイル)、空(爆撃機)と多様化しています。 さらに、米ロ間では、中距離ミサイルを全廃する中距離核戦力(INF)全廃条約を締結していますが、中国はその締約国ではなく、この中距離ミサイルも保有しています。このように、核運搬手段の多様性という点においては、他の核兵器保有国を上回っている状況です。 核戦略に関して、中国は一貫して「最小限抑止」、「先行不使用」、「非核兵器国には核兵器を使わない(消極的安全保証)」、という3点を主張してきましたが、核戦力が拡大していく中で変化する可能性も指摘されています。最近では、1基の弾道ミサイルに数発の核弾頭を載せたMIRV化ICBMを配備したという話もありますが、これは先制攻撃に有効な兵器のため、先行不使用政策を本当に今後も継続するのかという懸念が生じています。 日本にとっては核・通常両用の中距離ミサイルが脅威ですが、核を後ろ盾にしつつ、通常戦力を積極的に活用する戦略をとってくるのではないかと思います。核戦力と通常戦力の双方への対応も考えなければいけないという点で、北朝鮮以上に対応が難しいと思います。小泉:中国は、北朝鮮やロシアと違って通常戦力をどんどん近代化させているので、核に頼らなければならない場面は逆に減っていくと思います。日本にとって中国の核が問題になるとすれば、尖閣諸島などで米国のコミットメントが後退した場合に、通常戦力ではなんとか中国に対応できたとしても、核を使用されることになれば何もできなくなるというシナリオでしょう。 ただし、トランプ大統領は尖閣諸島においても日米安保条約を適用すると明言しました。その意味では、トランプ政権に変わったことで日本が中国の核を今まで以上に気にする必要が出てきたということはないと思います。中国の核開発と米ロ核軍縮の行方は?――中国の核弾頭数が明らかにされていないことを踏まえると、中国が数年後に米国やロシア並に多くの核弾頭を持つこともあり得るのでしょうか。小泉:それはさすがに難しいでしょうね。米国の分析にもありますが、中国で生産できる核分裂物質の数から考えると、そこまで多くの核弾頭を作れないと思います。戸崎:もし仮に、核弾頭数を大幅に増やすことができるとしても、どこまで増やすのかは、中国がどのような核戦略を目指すのかによっても変わってくると思います。米ロと同数程度の核弾頭を持つことで、米ロに並ぶ大国としての地位を築きたいと考えるのであれば、米ロの核弾頭数に並ぶまで数を増やすことを考えるかもしれません。 一方、米国に相当程度のダメージを与えられる能力を持つことで中国の目標達成に十分だと考えるのであれば、そこまで核弾頭数を増やす必要はないと考えるでしょう。神保:冷戦期の米ソ間の「戦略的安定性」を中国は異なる文脈で追求していくと思います。かつて米ソは数万発の核兵器を保有し、互いに第二撃能力を保持することを通じて、確実に報復が可能な「相互確証破壊」を基礎に据えて、相互抑止を模索しました。 しかし中国は自らの核心的利益を保護するために、米軍の介入を阻止する通常戦力を重視し、核戦力はその延長に位置付けられています。中国にとって重要なのは米国に対する限定的な確証報復(米本土の都市部を確実に攻撃すること)であり、米国と同じレベルの核戦力(パリティ)は目指さないと思います。したがって米中・中ロの間で核弾頭数では非対称の「戦略的安定性」をつくることができるかが、大きなポイントになります。――中国が核開発を進める一方で米国とロシアは2国間で核軍縮を進めてきましたが、この構図は続いていくのでしょうか。トランプ大統領は核戦力を増強する姿勢を見せ始めています。未来工学研究所客員研究員の小泉悠氏 小泉:米ロ間では18年までに戦略核弾頭(長射程で破壊能力の高い核兵器)の数を1550発まで削減する新戦略兵器削減条約(新START)という条約を結んでいます。ここまでは減らせるかもしれませんが、さらに1000発まで減らすことはできないでしょう。ロシアは中国を恐れているため、米国との2国間でのさらなる軍縮は避けたいと考えているからです。 そして、核軍縮に中国を巻き込めないのであれば中距離ミサイルを持てるようにすべきだというのがロシアの主張です。先日、ニュースでも報じられていましたが、とうとうロシアが米国とのINF全廃条約を破ったことは、その主張の強い表れだと思います。 米国にとっては、中国から飛んでくる核弾頭はせいぜい100発程度でしょうが、ロシアの場合は距離が近く、もっと多くの核弾頭が中国から飛んでくる可能性があります。保有する核弾頭数を1000発程度まで減らすと、ロシアは米国の1000発に加え、中国の数百発を気にしなくてはならなくなるため、新STARTを超えたさらなる削減はのまないでしょう。日本にとってのロシアの脅威とは?――ロシアの核戦略の中には、日本を核攻撃する計画もあるのでしょうか。小泉:ロシアの参謀本部の中には日本を核攻撃するオプションも用意してあるのでしょうが、標的は自衛隊の基地というより米軍基地でしょう。日ロ間の軍事的な対立レベルは低いので、日本を攻撃する優先度はそこまで高くないと思います。 ロシアが本当に核戦力を使うのは、日本と通常戦力で戦って劣勢になりそうな場合でしょうが、そのシナリオ自体が考えにくいです。今ヨーロッパでロシアと緊張が高まっているのは、ソ連崩壊後、ロシアの勢力圏だと思っていた地域が西側に取り込まれそうになっているからです。――昨年の日ロ首脳会談では北方領土問題が話題になりましたが、より重要なのは、平和条約締結によりロシアの危険度を下げることなのでしょうか。小泉:日本にとってのロシアの危険度はそこまで高くはないものの、日ロ間でずっとわだかまりが続くことは戦略的に望ましくないため、それを取り除こうとはしていますね。一番の原因は相互不信だと思います。結局日本は米国の同盟国であり、そんな国に領土を譲り渡すのは心配だ、ということをロシアは繰り返し言っています。慶應義塾大学総合政策学部准教授の神保謙氏神保:過去数年間の航空自衛隊のスクランブル数は、冷戦期の最も多い時期に匹敵します。中国機への対応が急速に増えたことに加え、ロシア機も過去3年ほど活発な活動を続けています。 日本は新しい防衛大綱のもとで力点を中国と接する南西にシフトしたいのですが、北方から離れられない状態であり、ロシアが自衛隊の構造改革を遅らせているともいえます。日本は中国とロシアの二正面で防衛態勢を維持する余裕はないので、ロシアとできるだけ信頼関係を深めて中国に注力できる状態にしていく必要があります。さらに外交戦略まで踏み込むと、日本は中ロ分断を進める必要があるでしょう。戸崎:中ロを分断するという意味においては、日本は基本的価値、あるいは国際秩序などよりは、もっと「利益」の側面に焦点を当てる方が良いと思います。神保:その通りだと思いますね。ヨーロッパから見たロシアとアジアから見たロシアは違い、アジアにとっては機会主義的な見方ができると思います。小泉:ロシアは、アジア太平洋にはそんなに不満を抱いているわけではなく、むしろ期待を持っています。ヨーロッパの国々と付き合ってもそこまで高度成長を望めないので、アジアに入っていくというポジティブな姿勢でいます。これまでは中国という非常に大きなパートナーがいましたが、その次に日本とどんな関係が結べるかというのがロシアの関心だと思います。その時に日本がロシアをうまく引き付けることで北方の脅威を軽減し、南西側の脅威に専念できるようにすることが、安保上の重要な方策でしょう。日本が生き残るための具体的な戦略とは?――北朝鮮、中国、ロシアという核保有国に取り囲まれる中、日本が生き残るための具体的な戦略について教えてください。神保:核戦略は単純なものではなく、それぞれの国、地域の特色に応じた戦略が重要で、日本はそれに適合した形での抑止戦略を丁寧に作り上げていく必要があります。その前提として、米国のアジアにおける地域的な核戦略が明確に定義されている必要があります。具体的には、米国が北朝鮮や中国の戦力構成に対してカスタマイズした兵器体系と宣言政策を明示していることです。 日本については、海上配備型迎撃ミサイルのSM−3ブロック2Aの配備計画を着実に遂行し、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)との二段構えのミサイル防衛態勢を構築するとともに、早期警戒、破壊措置命令が運用レベルで維持できるように整えておくことが重要だと思います。それでも穴があるようであれば、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)を導入してさらに多層的な迎撃態勢を整えていく必要があるでしょう。韓国の米軍烏山基地に到着した最新鋭迎撃システム「THAAD」の関連装備=3月6日夜(在韓米軍提供・共同)小泉:日本独自の敵基地攻撃能力も視野に入るのでしょうか。神保:実際の運用は難しいのではないかと思います。日本を射程におく北朝鮮のノドンについて言えば、発射までに要する時間が短い上に、抗堪化(敵の攻撃の中で生残り,その機能を維持できるようにすること)・秘匿化が進み、移動式発射車両を利用するとなると、これらの策源地を確実に攻撃できる能力を持つことは至難の技です。 そう考えると、日本にとっての有効な資源配分の在り方は、確実なミサイル防衛配備と拡大核抑止の信頼性の担保の2点セットであり続けるのではないかと思います。戸崎:おっしゃるとおりですね。ただ、北朝鮮による日本への核攻撃に対して、もし米国、韓国による防衛が間に合わないという状況になったときには、日本として敵基地攻撃をせざるを得ないような状況に追い込まれるかもしれません。 また、米韓が自国だけでなく日本の防衛も目的として敵のミサイルや指揮命令系統を攻撃するという梃子(てこ)、のようなものを常に与えておく必要があると思います。日本単独で24時間体制の監視・攻撃を行うことはほぼ不可能なので、米韓との協力体制を強化しておくことがいずれにしても不可欠です。米国が日本に期待すること――仮に日本がTHAADを配備したとすると、中国からの大きな反発を生むことになるのでしょうか。神保:韓国のTHAAD配備とは少し意味合いが違うと思います。中国が最も気にしているのは、新たに前方配備されたレーダーにより、核能力をはじめ中国の軍事情報が収集されてしまうことです。日本は、THAADの運用に必要なXバンドレーダーを既に地上に配備しているので、韓国のTHAAD配備と同じ目線で反発するということはないと思います。 ただ、一般論として新しい兵器体系が日本に入ることに対しての反対は間違いなくあるでしょう。戸崎:韓国がこれまでミサイル防衛に慎重だったのは中国との関係に留意していたからですが、その韓国が16年に入ってTHAAD導入を決定したこと自体に中国は強い不快感を抱いています。さらに、それが日米韓のミサイル防衛を通じた連携を強める可能性があるということも、反発を強める一因になっていると思われます。――米国が日本に対して、新たな役割として期待していることはありますでしょうか。神保:自らの防衛や地域間協力の責任をもっと担ってほしいという考え方はオバマ政権以前から継続してあると思います。 中国のA2/AD能力(遠方で米軍の部隊を撃破し、中国軍の作戦地域に進出させないようにする能力)拡大により、米国の前方展開のコストは飛躍的に増えています。その中で同盟国として期待されるのは、やはり抗堪性の高い形での駐留能力、つまりは米国がプレゼンスを確保できる環境を整備することだと思います。 そうすると、日本のミサイル防衛も首都防衛だけでなく、在日米軍基地防衛の在り方を考える必要がありますし、敵の攻撃に耐え得るような地下施設やコンクリートの厚い滑走路の建設、修復能力の強化、場合によっては、嘉手納、岩国、三沢などの米軍基地が攻撃されたときに他の航空基地や民間空港が使える体制を整える必要があるでしょう。 トランプ政権になって、米軍の駐留経費負担の問題も議論されます。労務費や光熱費といった使途もいいのですが、日米が協力して在日米軍基地の抗堪性の強化に投資するとすれば、非常にピントの合った議論ができるのではないかと思います。現代の戦略環境に沿った形で同盟を位置づけるためにお金を使うことが重要だと思います。

  • Thumbnail

    記事

    オスプレイの飛行再開でメディアの偏向報道は続く

    山田順(ジャーナリスト) 12月19日のNHK「ニュース7」のトップニュースは、オスプレイの飛行再開だった。なんで、この程度のことが、トップニュースになるのかまったく理解できない。先日のオスプレイの墜落は、1人も死者を出さず、事故原因が機体にないことはすでに米軍によって公表されている。とすると、これ以上、なにが問題なのだろうか? ところが、NHKをはじめとする日本の大メディアは、「100パーセント安全でないとダメ」というオールオアナッシングの非科学(宗教)に染まっていて、それを主張する人間のコメントしか報道しない。それをいいことに、たとえば沖縄の翁長知事は「原因究明をしっかりやって説明を果たしてもらわないと認められない。とんでもないことだ」などと現地視察で記者団にコメントした。しかし、前記したように、事故原因はすでに公表されている。それ以上なにが知りたいのだろうか。1月6日、米軍普天間飛行場に駐機する新型輸送機オスプレイ=沖縄県宜野湾市 じつは、この方は、米軍がどんな報告を出そうと聞く耳を持っていない。そればかりか、沖縄は米国の従属国・日本の一地方だという事実を受け入れられないという、現実無視メンタリティの持ち主である。 だから、自分の行動を「植民地の王」としてふさわしいと信じているようだ。ところが、沖縄の人々で、自分たちの状況に不満を持っている人は、大メディアと現地メディアが騒ぐほど多くないだろう。 ただ、それがバレてしまうとメディアは困るので、基地反対派、オスプレイ反対派のインタビューコメントばかりを取り上げる。 NHKニュースは、「アメリカ軍がオスプレイの飛行を再開させたことについて、普天間基地がある沖縄県宜野湾市の住民からは、批判や不安の声が聞かれました」などと、嘘ではない程度にナレーションして、たとえば40代の男性の「小さい子どもがいるので、飛行を再開すると聞いて非常に不安です。こんなに早く飛行を再開することは許されることではありません」などいう声を伝えた。 しかし、ここであえて言いたいが、もし日本のメディアが伝えるようにオスプレイが本当に危険な飛行機なら、いちばん不安なのは、それに搭乗するパイロットなどのクルーたちだろう。次に、そうした兵士を送り出した親や家族たちだ。万が一の事故で巻き込まれる可能性がある地上にいる住民より、彼らのことを心配する方が、たとえメディアとしても先に来なければならない。沖縄住民を本当に危険にさらしているのは誰だ 在沖縄米軍トップのニコルソン中将(四軍調整官)は、飛行再開に先立ち、現地を訪れて住民らに事故について謝罪し、「MV22の安全性と信頼性に米軍が最大級の自信を持っていることを日本国民に理解していただくことが重要だ」とする声明を発表した。そして、「この4年間、ここを飛んでいるが事故は1度もなかった」と言った。 日本のメディアの論理で行くと、この司令官は部下の命を顧みない、人命無視の非情な軍人ということになる。2016年12月22日、沖縄県名護市で開かれたオスプレイ不時着事故への抗議集会に参加した翁長雄志知事(奥中央)。同市内で開かれた北部訓練場返還式には欠席した(恵守乾撮影) 不思議なことに、この国では翁長知事のような考えが正義だと考える人間が少なくない。たとえば、民進党の蓮舫代表は、オスプレイの飛行再開より、事故原因の説明が先だと指摘し、「安全を担保した、 どのように担保したのかを、しっかり政府は説明する責任があると思います」と述べた。 オスプレイが飛ぶこと自体に反対なので、いくらコメントを求めてもこうなるという程度のことしか、この人は言わない。 おそらく、この日本には、オスプレイが飛ぶことを歓迎している人もいっぱいいるだろう。私は、沖縄と同じように米軍基地が多い神奈川県民だが、小さい頃から基地に遊びに行ったりしたこともあり、米軍に出て行ってほしいと思ったことは1度もない。本当にほとんどの沖縄県民が、今度のことで怒っているのか? メディアはちゃんと世論調査して、その結果を公表してほしいと思う。 沖縄の住民を本当に危険にさらしているのは、じつは米軍であるわけがない。それは、尖閣諸島に押し寄せ、しばしば領海侵犯する中国の艦船と、最近、領空侵犯寸前を繰り返すようになった中国軍機のほうだ。 民兵が乗っている中国の「偽装漁船」、あるいは中国空軍の戦闘機「スホイ30」や戦略爆撃機「轟&K」とオスプレイでは、どちらがより潜在的な脅威か考えてみたほうがいい。米軍は、日本の同盟軍である。 これまで、翁長知事はワシントンDCやスイスに出向き、「県民の人権が侵害されている」などと訴えてきた。しかし、この人は行く場所を間違えている。彼が本当に抗議しに行くべきなのは、アメリカ政府、国連、日本政府ではない。それは、北京だろう。それをしなければ、この知事は、県民の安全を平気で無視できる偽善者と言わざるをえない。(Yahoo!ニュース個人より2016年12月19日分を転載)

  • Thumbnail

    記事

    テロを知らない日本人でもよく分かる「共謀罪」議論の核心

    福田充(日本大学危機管理学部教授) 自民党安倍政権はこれまで、国家安全保障会議設置法、特定秘密保護法、平和安全法制など、安全保障に関する法制度を整備してきたが、その方針は常に一貫していた。それは、グローバルな安全保障環境において国際的に求められる基準に適した法制度を日本国内で整備するという姿勢である。 現在の安全保障、テロ対策はグローバルな枠組みにおいて機能するものであり、日本もその国際社会の中で生きている以上、グローバリゼーションに適応する形で改革すべきであるという方針である。現代の国際安全保障において、平和構築や集団安全保障も、テロ対策も、国際社会が一致団結して克服せねばならない課題であり、そのために日本に求められているのは安全保障における国際協調路線である。日本がこれまでの一国平和主義の殻を破って脱却するための生みの苦しみのプロセスである。 この方針は、現在の国会で審議が進んでいるテロ等準備罪に関する組織犯罪処罰法改正案においても一貫している。国際化する組織犯罪への対処のため、国連において国際組織犯罪防止条約が発効した際には、当時の小泉政権において日本政府はこの条約に署名した。 その後の自民党政権は、この国際組織犯罪防止条約が求める諸項目に関して国内法整備を進めるための作業を進めてきた。その一つが、国際組織犯罪防止条約における第5条の「組織的な犯罪集団への参加の犯罪化」である。この「組織的な犯罪集団への参加の犯罪化」を国内法制度において整備するための方策が、安倍政権が主張するところのこのテロ等準備罪に関する組織犯罪処罰法の改正案である。 これが過去の経緯を踏まえて、メディアや野党によって「共謀罪」と呼称されていることは周知の通りであるが、これも繰り返されてきた「いつか来た道」である。これまでも通信傍受法は「盗聴法」と呼ばれて批判され、平和安全法制も「戦争法」と揶揄された。いずれも組織犯罪に対するインテリジェンス、国際安全保障におけるグローバル・スタンダードへの適応には不可欠な法整備であったにもかかわらず、極めてドメスティックな、レトロスペクティブな志向によるラベリングによって、本来なされるべき議論と合意形成が阻害されてきたという不幸な歴史が繰り返されている。 通信傍受法も、特定秘密保護法も、平和安全法制も、完全な法体系ではなかったかもしれない。本来、国会ではその法案の不備が議論され、修正される過程の中で、政府による説明責任が果たされ、より広い合意形成がなされ、よりよい法体系が構築されるというのが、議会制民主主義の理想である。テロ等準備罪の創設に反対する民進党の泉健太衆院議院運営委員会理事=2月16日午後、国会内 しかしながら、特定秘密保護法も、平和安全法制もこうしたラベリングによって「廃案ありき」が前提の野党や一部メディア報道によって、十分な議論が尽くされないまま、十分な修正が施されないまま、与党の数の論理により不完全な形で成立してきた。このパターンが、今回の組織犯罪処罰法の改正においても繰り返されようとしている。われわれ日本人はまずこの「負のらせん構造」から脱却しなくてはならない。常に問題となるテロ等準備罪の「等」 当然、この組織犯罪処罰法の改正案も完全なものではなく、検討すべき問題が含まれている。この組織犯罪処罰法が、これまでの歴史的なコンテクストとは異なり、テロ対策の文脈で運用されることが、本来議論すべき論点の一つであるが、これは戦後の日本が法体系の中で例えば「テロ対策基本法」のような形でテロリズムというものを規定してこなかったことに起因する。1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件でさえも当時の日本ではテロリズムではなく、治安犯罪としての「事件」として扱われたのである(※注1)。このテロ対策後進国である日本において、これまでの歴史的コンテクストの中で扱われてきた「組織犯罪」に、現代的なテロリズムという問題がなじむのか、このねじれた状態の中で根本的な問いに立ち返る必要がある。 同時にこの組織犯罪処罰法の改正案が戦後の日本の法体系における特性から大きく一歩を踏み出し、逸脱する側面は否定できない。その最も大きな論点は、これまで処罰の対象を、違法な「行為」に限定してきた刑法の体系から、違法行為の計画段階で処罰することを目的としているという点である。危機管理上、テロ対策で重要であるのは、テロリズムに起因するテロ事件を未然に防止することである。テロ対策では、テロを防止するために計画段階でテロ組織を拘束できることが望ましく、イギリスのテロ対策を筆頭に欧米の法制度において広がりつつある(※注2)。 そして、法制度において常に問題となるのは「テロ等準備罪」でも使用されている、この「等」の表現であり、この「等」に含まれる範囲の曖昧さに、運用における危険性が残されるという指摘である。運用の恣意性を排除するために、「組織的犯罪集団」をどのように規定するか。「準備行為」の範囲をどこまでとするか、「実行準備行為」において、どこから実行とみなすか、その基準の明確化が求められる。2月に入り、組織犯罪処罰法改正案の審議において政府は、犯罪の合意があっても実行準備行為がなければ逮捕できないとの統一見解を示した。味の素スタジアムで記念撮影する、各国・地域の国内オリンピック委員会の視察団=2月6日 テロリズムのための道具の準備、資金の準備を把握するためには、準備行為を監視し、実行準備行為を捕捉しなくてはならない。そのためには通信傍受によるシギント(SIGINT)、情報衛星や監視カメラなどによるイミント(IMINT)などのインテリジェンス活動の強化が求められる。そこで課題となるのは、テロリズムを防止するための「安全・安心」の価値と、テロ対策によって影響を受ける「自由・人権」の価値のバランスをどうとるかという問題である(※注1)。国民の「自由・人権」を守りながら、テロ対策を実行するために、リベラルで民主的な危機管理をどう構築していくか、これが最も重要な課題である。 2月に入り、NHKが実施した世論調査の結果、テロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法の改正案をめぐり、これらの法整備が必要だと思うかという問いに対して、「必要だと思う」という回答者が46%、「必要ではないと思う」という回答者が14%という世論の動向が明らかとなった。2020年の東京オリンピック・パラリンピックをひかえた日本が、欧米のテロ対策先進国が世界に求めるテロ対策のグローバル・スタンダードに対して、どう対応するのか、世界が注目している。【引用文献】※注1 福田充『メディアとテロリズム』(新潮新書、2009)※注2 福田充『テロとインテリジェンス~覇権国家アメリカのジレンマ』(慶應義塾大学出版会、2010)

  • Thumbnail

    テーマ

    日本人が知らない「共謀罪」のウソ、ホント

    「共謀罪」の構成要件を厳しくして「テロ等準備罪」を新設する法案をめぐり、政府は対象犯罪を277に絞り込んだ。遅きに逸した感は否めないが、野党や左派メディアは相も変わらず「廃案ありき」の大合唱である。彼らに言いたいことは山ほどあるが、ここはあえて両論併記で議論の核心を読み解いてみよう。

  • Thumbnail

    記事

    安倍首相が「共謀罪」で駆逐したい本当のターゲット

    山下幸夫(共謀罪法案対策本部事務局長) 政府は、かつて国会に上程して3度廃案になったいわゆる共謀罪法案を手直しして「テロ等準備罪」を創設する組織犯罪処罰法改正案を国会に上程する予定である。 しかしながら、そもそも、国会で3度も廃案になったのは、国会審議を経て、共謀罪法案が極めて危険で濫用のおそれのある法案であることが明らかとなり、多くの国民の反対の声を受けて、野党が強力に反対したからであった。 我が国においては、法律上保護されるべき利益(保護法益)を侵害した既遂犯を処罰するのが原則であり、例外的に結果が発生しなかった未遂犯も処罰する。また、例外的に、重大な犯罪については準備段階から予備罪・準備罪として処罰し(約46罪)、それよりもさらに重大な犯罪(刑法で言えば内乱罪など)についてのみ、陰謀罪・共謀罪として賜与罰される(21罪)。 このように、犯罪の既遂から遡って、既遂犯←未遂犯←準備罪・予備罪←陰謀罪・共謀罪という流れの祥で、犯罪を合意したという共謀段階での処罰は極めて例外であるというのが我が国の刑事法の体系であった。「テロ等準備罪」を新設する法案をめぐり組織的犯罪集団と認定される基準について見解を示した金田勝年法相 ところが、今回新たに上程されようとしている法案では、277もの新たな共謀罪(政府はこれを「テロ等準備罪」と呼んでいる」)を新設しようとしており、極めて例外であった共謀罪・陰謀罪を一挙に10倍以上も増やそうとしているが、それは刑事法の体系を崩すものであり、刑事法による処罰は抑制的であるべきであるとする謙抑主義に反している。 そもそも、犯罪の合意(新たな法案では、これを「計画」と言い換える)だけで犯罪が成立し、しかも、言葉を直接交わさないでも、「暗黙・黙示の合意」でも良いとされることから(2005年の国会審議では、当時の法務省の大林刑事局長は、「目くばせ」でも合意が成立すると答弁したことが有名である)、果たしていかなる場合に合意が成立したのかが極めて曖昧である。 そのため捜査機関、とりわけ警察による恣意的な運用によって、市民運動や労働組合などによる反政府的な運動の弾圧に利用されるおそれがある。 「暗黙・黙示の合意」は、何ら言葉を交わしていないのであるから、実際には何の合意もしていないのに、警察が、政府に反対する運動をしている市民団体や労働組合の構成員について、「犯罪の合意があったに違いない」と認定されすれば逮捕したり家宅捜索をすることが可能になるのである。 したがって、捜査機関、とりわけ警察による恣意的な運用を招く恐れがあり、えん罪を生む恐れがある。会社組織でも「組織的犯罪集団」に? 新たな法案では、かつての政府案が、単に「団体の活動」として、団体を限定していなかったことから、一般の市民運動団体、労働組合、会社組織も適用されるのではないかと指摘され、対象となる「団体」があまりにも広すぎるとの批判があったことを受けて、新たな法案では、「団体」に変えて、「組織的犯罪集団」という用語が使用され、団体のうち、その結合関係の基礎としての共同目的が対象犯罪(長期4年以上の犯罪)を実行することにある団体と定義されるようである。 今年の通常国会の予算委員会の審議において林真琴刑事局長は、2017年1月31日、「そもそもの結合の目的が犯罪の実行にある団体に限られる」と答弁して、普通の団体は除外されると答弁していたが、金田法務大臣は、その団体の活動内容が一変すれば、普通の団体にも適用されることを認める答弁をしていたことから、法務省としての統一見解を求められ、2017年2月16日、法務省は、「もともと正当な活動を行っていた団体についても、目的が犯罪を実行することに一変したと認められる場合には、組織的犯罪集団にあたりうる」ことを認めている。画像はイメージです しかも、「一変」したかどうかは、第1次的には逮捕状を請求する警察や勾留請求をする検察官の判断による。警察は、特定の団体の構成員を四六時中尾行するなどして、その行動を監視して、その情報を集積した上で、彼らなりに「一変」したどうかを判断するのであり、そこでは恣意的な判断がされるおそれがある。 そうだとすると、普通の市民運動団体、労働組合、会社組織でも「組織的犯罪集団」に当たりうることとなり、「一般人には適用されない」という菅官房長官の説明は完全に破綻したことになる。 また、新たな法案では、単なる「計画」だけでなく、「準備行為」が必要とされる。国会に上程される法案には、例示として、「資金又は物品の手配」や「関係場所の下見」を挙げた上で、「その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」が行われたことを要求するようである。 アメリカの各州の州法においては、共謀罪の成立を認めるためには、単なる共謀だけでなく、「顕示行為」(overt act)として一定の客観的行為を要求するのが普通である。そして。これは犯罪の成立要件ではなく、処罰条件であると解されており、その考え方を我が国の法律に取り入れようとしていると考えられる。共謀(計画)しただけで広範な処罰が可能に 今年の予算委員会における審議の際に、林真琴刑事局長は「準備行為が疎明されなければ逮捕・勾留しないように法案を作成する」と述べているが、「準備行為」が処罰条件としてなのか、犯罪構成要件としてなのかは、現時点では不明である。 ただ、新たな法案が参考にしたと考えられるアメリカの州法で要求されている「顕示行為」(overt act)は、共謀を裏付ける何らかの客観的行為であれば足りるとされ、かなり緩やかに認められていると指摘されている。 したがって、新たな法案で要求される「準備行為」についても、予備罪・準備罪におけるような法益侵害の可能性のある犯罪的な行為に限らず、およそ犯罪的ではない中立的行為でも「準備行為」となると解され、例えば、ATMで現金を下ろす行為など広く日常的に行為も「準備行為」とされることになると考えられるから、何ら濫用の歯止めとはならないと考えられる。 最近、外務省は、民進党のヒアリングにおいて、この法案の根拠となっている国連国際犯罪防止条約を批准するために、新たに共謀罪を立法した国はノルウェーとブルガリアの2ヶ国であることを明らかにしているが、その2ヶ国が一体いくつの共謀罪を新設したのかは明らかにされていない。数百の単位の共謀罪を新設したとは考えにくい。 国連は2004年に、この国連条約を各国が立法するための立法担当者向けの「立法ガイド」を作成しているが、そこでは、実質的に見て重大な組織犯罪について、未遂以前の段階で処罰できるようにすれば良いとされている。 我が国の現行法上、未遂以前の段階で処罰できる犯罪としては、①陰謀罪8、②共謀罪13、③予備罪38、④準備罪8がそれぞれあり、実質的に重大な犯罪についてはこれらの犯罪が既に対応していると言える。しかも、我が国には、判例上、共謀共同正犯理論が認められており、組織犯罪について単に共謀しただけの者についても広範な処罰が可能となっており、予備罪についても共謀共同正犯が認められている。 したがって、共謀した者のうちの1人が予備行為をすれば、単に共謀(計画)しただけの者にも予備罪の共謀共同正犯が成立する。「共謀罪」法案本当のターゲット これは準備行為を共謀罪の成立に必要とするという新たな法案と、かなり近い処罰が可能になるといえるし、未遂以前の段階で処罰可能な法制度は既に存在していると言えるのである。 したがって、国連条約を批准するために何らかの立法が必要であるとしても、実質的に見て重大な組織犯罪を未遂以前の段階で処罰する罰則が足りない部分を、ゼロベースで検討して、それを必要とする立法事実があれば個別立法をすることにより対応可能であると考えられる。参院予算委員会で答弁する安倍晋三首相 =2月28日、国会・参院第1委員会室 政府は、新たな法案は、2020年東京オリンピック・パラリンピックのための「テロ対策」として必要であり、安倍首相は、「テロ等準備罪」がなければオリンピックを開催できないとまで述べている。しかし、安倍首相は、オリンピック招致の際には、「日本が世界で有数の安全国」であると述べていたのであり、矛盾している。 そもそも、国連の国際組織犯罪防止条約は、元々、経済的利益の獲得を直接又は間接な目的とする組織犯罪を対象とする条約であり、マフィアや暴力団対策のための条約であった。ただ、2001年のアメリカでの9.11同時多発テロを受けて、その後、G8においては、この条約をテロ対策のためのものであると読み替えるようになったという経緯がある。 しかし、本条約の主たるターゲットは組織犯罪であることは明らかであり、テロ対策が主たる目的ではないことは明らかである。 ちなみに、我が国は、国連の13のテロ防止関連条約の全てに加入し、そのための国内法整備も済んでいるし、政府の国際組織犯罪・国際テロ対策推進本部は、2004年12月10日に「テロの未然防止に関する行動計画」を策定し、その後、その行動計画に基づく国内法整備が実施されている。 このように、我が国は、テロ対策についての法整備はかなり実施されている。それを何のテロ対様もないかのように説明するのは極めてミスリーディングであると言わなければならない。共謀罪を実際に検挙するためには、共謀の現場を押さえるのがもっとも効果的であるが、実際には、共謀のための謀議は、密室など人から見えない場所で行われることから、実際には共謀罪を検挙することは難しいと考えられるため、謀議に加わった共犯者の自首や自白がなければ立件は難しいと考えられる。 ところで、この法案が成立すれば、それを検挙するための捜査手法が必要となる。国民のプライバシーが根こそぎ把握されるおそれ その捜査手法としては、尾行などの古典的な捜査のほかに、おとり捜査や潜入捜査(組織の中に、捜査官がその身分を隠して潜入すること)も考えられるし、なるべく早く、謀議の内容を把握する捜査方法として考えられるものとして通信傍受や室内盗聴が考えられる。 既に、通信傍受法(盗聴法)は2016年の通常国会で成立し、対象犯罪を財産犯である窃盗・強盗、詐欺・恐喝を加えるとともに、殺人、傷害、傷害致死、現住建造物等放火、爆発物使用などの殺傷犯、逮捕・監禁、略取・誘拐、児童ポルノの提供罪等のその性質上必ずしも組織犯罪ではない一般犯罪も対象犯罪する改正は、既に2016年12月1日から施行されており、既に詐欺罪での通信傍受が実施されたことが報道されている。 テロ等準備罪(共謀罪)を一挙に277も新設する法案が成立すれば、盗聴捜査が有用・必要という理由で盗聴の対象犯罪とする改正がなされることが強く予想される。画像はイメージです また、通信だけでなく、室内の会話を補足する必要があるとして、現在認められていない室内盗聴(会話傍受)の制度化を求められる声があがることも予想される。これらが実施されれば、これまで公安警察がとってきた手法が、刑事警察の分野でも日常的に行われるようになり、監視国家化が進むことは間違いない。 それだけでなく、政府は、テロ対策を掲げていることから、アメリカが9.11の後の愛国者法で認めたように、テロの未然防止のための傍受(行政盗聴)を可能にする法律を提出することも考えられる。これが実現されれば、まさに監視社会となり、国民の全てのプライバシーが根こそぎ政府に把握されるおそれがある。 政府は、本年3月10日頃までに閣議決定をして、新たな法案(組織犯罪処罰法改正案)を国会に上程する予定である。国会審議を通じて、この法案の問題について多角的な検討が行われることが期待されるが、この法案が国民の自由や人権に密接に関わる重要法案であることから、決して、数の力に頼った強行採決がされるべき法案ではない。国会での審議を通じて、この法案の問題点をあぶり出し、廃案にすべきである。

  • Thumbnail

    記事

    役所や企業に厳しくとも「共謀罪」が日本にもたらす巨大利益

    若林亜紀(ジャーナリスト) 今、国会で共謀罪についての論議が深まり、構成条件を厳しくした「テロ等準備罪」に名を変えて審議が行われている。金田勝年法務大臣は同法案について「国際組織犯罪防止条約の締結に伴って必要となる法整備である」と述べ、条約の目的を離れた意図はないことを明言した。 実は、「テロ等準備罪」の成立を待つ条約がもう一つある。国連腐敗防止条約である。これは国際組織犯罪防止条約の関連条約として、2003年の国連総会で採択された。日本では、小泉内閣時の2006年の国会で、川口外相のもと、当時外務副大臣であった金田現法相が趣旨説明をし、与野党の全会一致で署名(調印)が認められた。国連総会=ニューヨーク(国連提供、共同) だが、正式な条約締結のためには共謀罪の整備が必要とされ、国際組織犯罪防止条約とともに未締結のままとなっている。 その間世界の181の国と地域が次々と締結し、2016年末で未締結の国は日本、北朝鮮、シリアぐらいとなってしまった。日本はトランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数(CPI)では清廉度が世界で20位と高いながら、腐敗防止法制の点では世界から大きく遅れ、孤立している。その結果、国際的な腐敗防止網の抜け穴となってしまっている。2012年には、日本の地方銀行がテロや麻薬絡みの巨額の国際マネーロンダリング(資金洗浄)事件に利用されていたことが露見し、アメリカから強い非難を受けた。とばっちりで日本の金融機関が一律に銀行間の国際送金網から外される恐れも一時あった。 私はジャーナリストの仕事の延長で、腐敗をなくす国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルの日本代表を務めている。その観点からも、「テロ等準備罪」の成立と国連腐敗防止条約の締結を強く望む。 まず、腐敗防止の国際法制と条約の特徴を挙げよう。腐敗防止の国際条約としては他に、OECD外国公務員贈賄防止条約というものがある。これは、1997年にOECD(経済協力開発機構)で採択された、国際ビジネスにおいて相手国の公務員にワイロを送らないという条約である。日本も締結しているが、締結国は41カ国しかない。 国連腐敗防止条約というのは、2003年に国連総会で採択されたより包括的な条約である。①官民の透明性を高め、腐敗防止の公的機関を設立する。また、民間の腐敗防止団体の運営も奨励する。②外国公務員への贈賄だけでなく、自国公務員をも含めた公務員の贈収賄を禁じる③犯罪者の引き渡しや捜査・司法の国際協力④資金洗浄の防止と犯罪収益の没収、当該国への返還⑤日本では禁じられていない、民間企業間での贈収賄も違法とする、などを内容とする。 役所や企業にとっては厳しい法律だが、日本にもたらすメリットも大きい。貿易立国の日本に絶対必要な国連条約の締結 ひとつは、2001年のアニータ事件のような、海外に持ち出された犯罪収益の回収である。2001年に青森県住宅供給公社の職員が約15億円を横領した。職員はアニータというチリ人女性と結婚し、国際別居婚をしながら彼女に少なくとも11億円を国際送金した。職員の横領罪が確定した後、公社による民事訴訟で裁判所は職員に横領額の賠償を命じた。公社はチリに渡った金の回収を図ったが、現地で再び訴訟を行うことを余儀なくされた。結局、回収できたのは1億5000万円ほどで、チリでかかった6000万円の訴訟費用などを除くと5000万円しか残らなかった。国連腐敗防止条約を結べば、捜査の国際協力や犯罪収益の没収・国際回収が迅速・容易になると見込まれる。 条約締結は日本企業にもメリットがある。安倍政権は「質の高い日本のインフラを世界に売り込む」ことを掲げているし、実際に日本企業が途上国の鉄道や地下鉄、魚市場、水道設備、発電所の建設などを次々に受注している。 ただし、インフラ事業は契約の相手が途上国の政治家や公務員であるため、また、外国企業との競争も激しいため、贈収賄のリスクが高い分野である。それなのに、日本が国連腐敗防止条約を締結していないために、日本人や日本企業の腐敗に対する意識やリスク管理が世界の常識から大きくずれているので、うっかりワイロを払ってしまうケースも少なくない。こうして日本企業が外国で有罪となり企業の評判を落としたり、外国当局から数十億円規模の罰金・解決金を科されたりする事件が毎年起きている。 国連腐敗防止条約の締結は、貿易立国であり、投資立国であり、インフラ輸出を進める日本が、収益と信頼を守るためにぜったいに必要なのだ。省庁が集まる霞が関 また、アジアやアフリカの発展途上国ではかつてはワイロが横行していたが、この10年でどの国も国連腐敗防止条約を締結し、刑法を改正するとともに贈賄防止法を新設し、公的・中立の腐敗防止委員会を設立している。日本では腐敗を告発する先はマスコミしかない。明らかな犯罪となれば警察に告発できるが、それ以外の不正について相談や届出を受けたり、調査や懲罰をしてくれたりする機関はない。だが日本や北朝鮮、シリア以外の世界のほとんどの国では、いまや警察や消防と同格に腐敗防止委員会という公的機関があるのだ。 国連腐敗防止条約の署名に関しては、2006年の国会で与野党が全会一致で承認している。だから、共謀罪の構成条件が厳格になった「テロ等準備罪」の新設には野党も反対する理由がないはずだ。不満があるなら、法案の修正に知恵を出せばよい。 国連腐敗防止条約の締結をこれ以上先送りすることはできない。

  • Thumbnail

    記事

    共謀罪を「テロ等準備罪」と言い換えを垂れ流す世論誘導がひどすぎる

    猪野亨(弁護士) 安倍政権は、共謀罪を成立させようと躍起になっていますが、そのもっとも姑息であり卑劣な方法が名称を変えたことです。「テロ等準備罪」としながらも、「テロ」に限定しないというあからさま偽称名称を用いていますし、仮に「テロ」に限定したとしても、この共謀罪の危険性は全く除去されるものではありません。 しかし、名称を偽称することによること、東京オリンピックの開催には共謀罪が必要だという安倍政権のデマ宣伝が一定の影響力が出ています。「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を創設する組織犯罪処罰法改正案を今国会に提出する政府方針に対しては、賛成66.8%、反対は15.6%だった。退位、57%が恒久制度化=「共謀罪」に賛成6割超-時事世論調査(時事通信2017年2月17日) 名称を変更しただけ、しかも世論誘導を狙っていることがあからさまだったのですが、その結果がこれだけいとも簡単に世論が誘導されてしまう、というのは世論の恐ろしさでもあります。もうちょっと考えようよ、と思いたくなる気持ちもよくわかります。[名前を変えたらコロッと騙される】共謀罪あらため「テロ等準備罪」、必要が46%、必要ないが14%【NHK世論調査】(Everyone says I love you !) 上記記事のNHKの調査が2月14日ですから、さらに悪化した状況です。もっともマスコミによっては結果は多少違います。日本テレビの世論調査では、賛成33.9% 反対37.0%  わからない、答えない29.2%2017年2月定例世論調査(日本テレビ世論調査) この違いはどこから来るのでしょうか。これはどうみても質問の仕方が全く違うからです。時事通信「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を創設する組織犯罪処罰法改正案を今国会に提出する政府方針NHK 政府が組織的なテロや犯罪を防ぐため、「共謀罪」の構成要件を厳しくして「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法の改正案を今の国会に提出する方針であることをめぐり、こうした法整備が必要だと思うか聞いたところ日本テレビ 政府は、組織的犯罪集団が犯罪を実行しなくても準備段階で罪に問える「共謀罪」の趣旨を含んだ、「テロ等準備罪」を設ける法案を今の国会に提出する方針です。犯罪の計画段階で、処罰の対象となることに対して、人権侵害や、捜査機関による乱用の恐れがあるとの指摘もあります。あなたは、この法案に賛成ですか、反対ですか? 時事通信もNHKもそうですが、あからさまに政府の宣伝の上に乗った上で、質問を組み立てています。日本テレビに質問事項が一番、まともです。国会でも現在、共謀罪の問題点が野党議員によって追及されていますが、金田法相をはじめ、まともな答弁が全くありません。 金田法相は、「一般市民は非対象」などと答弁していますが、全く理由になっていません。これでどうして人権侵害がないなどと言えますか。「金田法相は「正当な活動を行っていた団体について、結合の目的が犯罪を実行することに一変したと認められる状況に至らないかぎり、組織的犯罪集団と認められない」としたうえで、「認定するかの判断は、裁判所が行うもの」と述べ、一般市民がテロ等準備罪の対象にならないことを、あらためて強調した。」 あからさまな詭弁です。犯罪捜査は警察、検察の捜査機関がまず行うという大前提とそれによってもたらされる効果(影響)というものがすっぽりと抜け落ちています。 最終的に裁判所において「無罪判決」が出ればいいというものではありません。構成要件が不明確なものは本来、それだけで罪刑法定主義に反するものとして違憲無効ですが、制定された法律というものは捜査機関によって独り歩きするもの、というのは、治安維持法制定過程での歴史が証明しています。帝国議会での答弁でも労働運動は対象外というのが政府答弁ですが、その後、労働運動にも適用されていったことは歴史が語っています。(『弁護士 猪野亨のブログ』より2017年02月20日分を転載)