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    多数の命が奪われる憎むべきテロ、その阻止のため緊急になすべきこと

      テロによって多数の国民の命が奪われる悪夢を現実化させるわけにはいかない。だからこそ、「刑事法の専門家、捜査の専門家、テロ対策の専門家、及びテロを憎む政治家」の立場から、声を大にして心から次のように訴えます。1  2020東京大会に関連して敢行される大規模テロの危険性等 周知のように、世界各地でテロが頻発しています。日本でも3年半後の2020東京大会に関連し、『大規模テロ』敢行の危険性が増大しています。   実は、平成16年に警察庁が発出した「テロ対策推進要綱」において、 既に「日本がテロの標的になる可能性が増大」、「テロ防止の法制備の必要性」が記載されていました。12年前にそうした発信がなされていたにもかかわらず、我が国では、テロ資金を規制する法律が一部成立したのみで、「テロ未然防止法(仮称)」のような抜本的法整備が全くなされないまま今日に至っています。  最近では、平成28年4月1日の衆議院内閣委員会において、警察庁警備局長(現 沖田芳樹警視総監)が「テロ対策に関する法整備は重要である」旨答弁していますが、それからほぼ1年。政府から「テロ未然防止法」のような抜本的な法整備への動向は見られません。   要は、多くの政治家においてテロという犯罪に対する具体的問題意識が弱く、国民においても、我が国における象徴的テロ行為が三菱重工爆破事件及びオウム事件の数件であることから、テロに対する具体的危機感に乏しいことが、その要因です。   しかし、2020東京大会に関連し大規模テロが敢行されれば、日本人及び外国人(含む要人)の命が瞬時に奪われるだけではなく、大会の実施が困難になります。そればかりか、テロ対策の法整備がなされないまま国際大会を大々的に開催した能天気な日本に対し世界的な批判が集まり、我が国の国際的信用が失墜しかねません。東京五輪・パラリンピックを控え、千葉海上保安部は千葉中央埠頭で県警など関係6機関とテロ対策合同訓練を実施した=2016年11月9日、千葉中央埠頭2  今、緊急になすべき課題と政治の責任   今、必要な緊急課題は、2020東京大会に関連した大規模テロの阻止であり、 そのためのテロに特化した「テロ未然防止法(仮称)」の整備です。こうした法律が大会の直前に施行されてもテロ阻止効果が半減します。ですから、その整備が今緊急に必要なのです。 未然防止という枠組みとなると、我が国の法制度上、新たな制度を取り入れることにもなります。 例えば、テロを敢行する恐れが存する者について、やむを得ない場合に、テロ阻止目的で、緊急にその身柄を拘束することです。ただ、その際、重要なことは、人権侵害の排除ないし人権擁護の価値観も重視しなければならないということです。  そこで、一つの試案ですが、既に現行法で導入されている「緊急逮捕制度」(※1)にならい、それと同様に、テロを敢行する恐れが高い者の身柄を緊急性に基づき拘束し、その身柄拘束の適否につき事後的(かつ直ち)に裁判官の判断・令状審査を得るという令状主義の徹底を図ることが考えられます。  要は、現行の緊急逮捕制度と同じ事後的令状主義の徹底のもと、テロ未然防止のため、緊急性に基づき、テロを敢行する恐れが高い者の身柄拘束を認めるとの試案です。※1 緊急逮捕制度は、裁判官から事前の令状を得て行われる「通常逮捕制度」と異なり、まず逮捕し、その後事後的速やかに裁判官の令状審査・令状を得るという制度 国民をテロから守るためには効果が乏しい   そして、こうした「テロ未然防止法」ですが、もともと2020東京大会に関連するテロ対策法であるので、その効力も大会終了時頃まで(時限立法)のものが望ましいというのであれば、それも選択肢だと思います。    いうまでもなく、政治の大きな役割は、国民の命を守ることにあります。テロに特化した「テロ未然防止法」の整備を今行わなければ、国民等の生命及び我が国の信用を危殆に陥れるものです。想定外のことへの対応では決してなく、まさに想定内の危機管理の問題です。   ことは、国民の大多数の命を守る気概が政府にあるかどうかの問題です。残された時間は最早少なく既に砂時計状態です。3  いわゆる共謀罪創設法案の射程範囲 報道によれば、政府が「テロ等準備罪」(以下、「いわゆる共謀罪」と云う)を新設すべく、それに関わる法律案 (組織犯罪処罰法改正案)を平成29年通常国会に提出すべく用意しているようです。 しかし、名称にいくら「テロ」の言葉を盛り込んでも、専門家の私から見て、この法案では、国民の多くの命をテロから守るためには効果が乏しいです。 私は、まさに、かつてこの組織犯罪処罰法の適用に係る捜査責任者、及びテロ関係の責任者に就いていた関係からこのように申し上げることができます。追って詳述します。 ですから、いわゆる共謀罪を法律化すればテロ対策に相当役立つと考える政治家がいらっしゃるとすれば、それは所管の官僚がそのように説明し、それにごまかされています。伊勢志摩サミット、東京五輪を見据えて外国人テロリストによるバスジャックを想定した対応訓練が福生署管内の富士見公園で行われた=2015年6月18日、東京都羽村市緑ケ丘 その上、いかにもテロ防止に資するような名称を付け、これでテロ対策の法律としてひと安心という誤った意識を国民と政治家に抱かせ(ミスリ−ディングする)、テロ未然防止法(仮称)の制定に至らないこと自体、何よりも極めて危険です。 政府がこの法律改正案(いわゆる共謀罪)を国会で通過させたいと考えているのは、16年前に署名した「国際組織犯罪防止条約」を締結するためには、この法改正が必要条件だからという理由です。  しかし、この条約のターゲットは、そもそも、不正な『金銭的利益』等に絡む国際組織犯罪の防止です。ですから、所管官僚等において、「テロ対策といえば法案を通過させやすい」という思いがあるとすれば、法律の作り方としては邪道です。 とにもかくにも、政府は、テロに特化した「テロ未然防止法」の制定に早急に取り組むべきです。にもかかわらず、国民をミスリーディングする恐れのある形でいわゆる共謀罪だけを通過させるようなスタンスでは、テロ対策に係る政府の責任の放棄です(組織犯罪撲滅に向けてのいわゆる共謀罪自体の導入を政治課題とすること自体に異論はありません)。 今は、国民の命を守るため、まずテロ対策に特化した「テロ未然防止法」の整備が緊急事態なのです。【この記事は、主に「水月会」のブログからの転記です】(若狭勝オフィシャルブログ「法律家(Lawyer)、議員(Legislator)、そのL字路交差点に立って」2017年1月17日分を転載)

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    噛み合わぬ質疑、飛ばされる論点 バランスを欠いた「共謀罪」論議

    室伏謙一(政策コンサルタント) 平成29年度予算案の審議も終盤、中央公聴会も既に開催され、分科会を経て後は締めくくり総括質疑、いわゆるシメソウと採決を待つばかり。24日に本会議採決が予定されていたが、その日は金曜日で初の「プレミアムフライデー」実施の日。さすがに「プレミアムフライデー」の夕方に衆議院本会議を入れるようなことをすれば、まさに掛け声倒れということか、翌週の27日月曜日に先延ばしになったようだ(おかげさまで他の委員会審議も後ろ倒し。さてはて、いいのか悪いのか…)。 さて、その予算委員会、本来予算に関連する審議が行われるべき場であるが、実際に行われている質疑の多くは予算とは直接的な関係がないものばかり。文科省天下り問題に南スーダンPKO問題、そして共謀罪。いずれも議論することの必要性や重要性を否定するつもりはないし、大いに議論すべきであるが、来年度予算についての質疑は国民の税金の使い途を決める大事な質疑。せめて予算委員会では来年度予算の中身や金額、編成の在り方といった内容の質疑に集中してもらいたいもの。 さはさりながら、衆院での来年度予算の審議が終わろうとしているところ、今後は本格的な法案の審議に入るわけであるので、こうした予算委員会で取り上げられた事項のうち、実際に法律改正を行うこととなる「共謀罪」について、テロに代表される組織犯罪への対処の在り方という観点から少々整理してみたい(なお、この「共謀罪」、「テロ等準備罪」とその名称を変えたが、本稿では便宜上「共謀罪」の方を使用する)。 まず、この「共謀罪」、関係法令を改正して新設しようという話が始まったのは小泉内閣の時代。その後衆院解散による廃案、再提出、解散による廃案を経て、与野党が修正案を提出しての活発な議論が行われたが、結局またしても衆院解散により廃案となっていた。つまり、この「共謀罪」についての検討や審議は最近始まった話ではないということだが、与野党、少なくとも自民公明のみならず、民主(当時)も、スタンスの違いはあるものの、前を向いて審議に参加していたわけである。 では、そのスタンスの主な違いとは何かと言えば、「共謀罪」の対象範囲である。当初は適用対象は「団体」とされ、対象犯罪も600以上であったようだが、民主党(当時)がこれを「組織的犯罪集団」に限定するとともに、対象犯罪も300程度に絞り込む修正案を出した。前述のとおり本案共々採決に至らず廃案になったのだが、次の段階の議論では、与党が提出した修正案では対象犯罪こそ600以上のままだったが、適用対象は民主党(当時)同様の「組織的犯罪集団」となったようで、廃案、再提出となったものの、少しずつではあるが、議論は建設的に行われてきたようである。今国会に提出予定の法案の適用対象も、どうやら「組織的犯罪集団」のようである。「国際組織犯罪防止条約」の批准のために必要か その対象犯罪、現在準備中の政府案では676とされていたが、ここへきて277まで絞り込むこととしたようだ。適用対象が「組織的犯罪集団」ということであれば、対象犯罪は基本的には組織犯罪と直接関連があるものなるはず。ところが、4年以上の懲役又は禁錮の刑を定める刑を「機械的」に対象としていたようで、これでは「共謀」とは無関係のものまで含まれてしまうことになるということで、絞り込んだということのようだ(少なくともそう聞いている)。 また、この「共謀罪」新設の背景は「国際組織犯罪防止条約」、いわゆるパレルモ条約の批准に必要であるからとされている。これについては両論あるようで、法務省や外務省は必要であるという立場であり法務省のサイトにもその旨説明がなされているが、例えば日本弁護士連合会は現行法で対処可能であり、不要であるとしている。現行制度で対処可能ならばあえて法令改正を行う必要はないということになるが、さてどう考えるべきだろうか。 これについて一つの考え方として、このパレルモ条約の性格を検証してみよう。この条約、国連の条約であって締約国・地域も187と多く、そこまで細かな内容が記載されているわけでもない。そしてこの手の条約の場合は、国内法で対処できると説明し、それを裏付ける根拠を示すことができれば批准は可能といえば可能。そうなってくると、条約の批准を金科玉条のように位置づけるのは少々難しくなってくるだろう。本来考えるべきは条約の批准云々よりも我が国の安全の確保。国際条約の批准やましてやオリンピックを根拠として必要性を訴えるのは主権国家としては筋違いのように思えてならない。さて、実際の法案審議では政府はどう説明するのか。 一方、「共謀罪」は国民の自由を奪うもののように野党や左翼系と言われる人たちから非難されている。金田法務大臣の答弁ではないが、成案が得られていない現段階では何とも言えないが、頭から否定することはできないだろう。「共謀罪」の新設、刑法を中心に法律の専門的知識がないと議論するのは難しいばかりか、聞いている方も理解するのは容易ではない。そこで、「平成の治安維持法」といったようなある種のレッテル貼りをしないと一般有権者に分かってもらえないと、左翼系の人たちを中心に考えているふしもあるようで、そこから自由を奪う云々の話につながっているという側面もあるようだ。(ご年配の元運動家の方々のある種のアレルギー反応みたいなものもあるのかもしれない。) まあ自由を奪うかどうかという話になってしまうと少々抽象論になってしまうのは、一般市民のレヴェルであれば無理もないように思うが、国会議員にはそんなお粗末な議論はしてもらいたくないもの。やはり具体的な点に関して論戦を行って、問題があるのであれば問題を明らかにして欲しいところである。重要案件の割にお粗末過ぎる与党 その具体的論点の一つとして、「犯罪を実行する団体に一変したと認められる場合には組織的犯罪集団に当たり得る」というものがある。これは法務省のみならず、菅官房長官や安倍総理までその趣旨の発言をしているのであるが、要は犯罪を実行する団体になったら一般団体にも共謀罪が適用されることとなるという話で、一般論として考えれば至極当然であろう。では、「一変したと認められる場合」とはどのような場合なのだろうか?ここが「自由を奪う」という観点からは非常に重要な点であるように思う。仮にこうした点が厳格に運用されれば、国民自由を奪う可能性は低くなると考えられるが、誰が何をもって「一変した」と認めるのだろうか?どこまでいったら「ヤバイ」ということになるのか、現状では分からない。これを法律に規定するのか、政令以下に委ねてしまうのか、更に解釈に委ねてしまうのか(もっとも関係法を改正したからといって、直ちに関連する犯罪の取締りができるようになるわけではないのだが)。 いずれにせよ「共謀罪」の新設のための関係法の改正案の提出はこれからである。それを受けて個別具体的な議論が法務委員会で行われることになるのであるが、予算委員会での審議の実態を踏まえて少々苦言を呈しておくと、共謀罪を巡る議論は与野党ともに議論が噛み合っていなかった。まず、野党側は成案が得られていないにも関わらず、細かい点を突きすぎていたように思う。そうして突いた点が実は成案には盛り込まれていませんでしたということになったらどうするつもりなのだろうか。民進党における「共謀罪」質疑の急先鋒である山尾志桜里衆議院議員、元検察官ということもあって、まさにこの質疑にはうってつけの専門家であるが、「空回り」との意見も民進党内にあったとも聞いている。専門という名の趣味の世界ではない実のある質疑が、果たして法案審議の段階でできるのだろうか。 他方、与党側も専門的な話であるとは言え、咀嚼した答弁ができていない場面が目立ったように思う。法務省の担当部局の役人は当然に説明できるのだろうが、重要案件の割に、そしてこれまでに何度も議論してきた事項にも関わらず、金田大臣のサポート体制も含めてお粗末だったように思う。(大臣ポストには待機組が多いので、交替前提であえて金田大臣に失点を重ねさせていたりして…) テロや国際犯罪から国民を守ろうという総論に反対する人はいないだろう。ただし、そのために法制的な面の検討も必要ではあるが、犯罪を未然に防ぐためにはまず国家としてのインテリジェンス機能(高度な情報の収集・分析等)の強化・充実が必要であろう。それでも犯罪が起こってしまうような時に対処するための一つの措置が刑事罰の強化であるが、ことが起こってから刑事罰でははっきり言って遅いだろう。国際的なテロや組織犯罪と紛争は表裏一体であったり紙一重であったりもする。警察、更には自衛隊の在り方や日常的な国民の意識の啓発等、ハード面ソフト面でいろいろやるべきことはあるはずではないか。 予算委員会ということであれば、そのための予算措置についての議論があってしかるべきであるが…(公式ブログ「政治・政策を考えるヒント!」より2017年2月23日分を転載)

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    第一次安倍内閣の嫌なムードに似てきたと安倍首相こぼす

     国会では「戦闘行為」や「共謀罪」をめぐって答弁が迷走する稲田朋美・防衛相と金田勝年・法相が野党から辞任を要求され、文科省では高級官僚の天下り腐敗が表面化、さらに安倍晋三首相にも昭恵夫人が名誉校長を務める私立小学校への国有地格安売却という疑惑が発覚した。「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」 そう啖呵を切って自身の疑惑を否定した首相だが、政権丸ごとの火だるま状態に心中穏やかでいられるはずがない。「総理は“あの時の嫌なムードに似てきたな”とこぼしている」(側近) 安倍首相の胸中には、不祥事や失言で5人の大臣が辞任に追い込まれ、政権が沈没していった10年前の第1次内閣の苦い経験が蘇っているようなのだ。 しかし、再登板後の安倍政権は10年前とは明らかに違う。この間、小渕優子・経産相と松島みどり・法相のダブル辞任(2014年10月)をはじめ、西川公也・農水相(2015年2月)、甘利明・経済再生相(2016年1月)が不祥事で辞任に追い込まれたが、政権基盤が揺らぐことはなかった。 それがなぜ、急にガタガタになったのか。政治ジャーナリスト・野上忠興氏は「ファイアマン(火消し役)の不在」を指摘する。「安倍政権が再登板後の数々の閣僚スキャンダルを乗り切ったのは、国会の数の力で押し切った面もあるが、それ以上に政権の危機管理に長けた菅義偉・官房長官の存在が大きい。衆院予算委員会で、平成29年度予算案の集中審議について、民進党の今井雅人氏の質問に頭を押さえる安倍晋三首相(右)=14日午後、国会・衆院第1委員室(斎藤良雄撮影) 菅氏が官邸の中心にどっかと座り、大臣が失言すれば呼びつけて厳重注意し、不祥事が発覚すれば持ち前の情報収集力で更迭すべきか、あくまで守るべきかを的確に判断して安倍首相に報告、うまく火消しをしてきた。ところが、最近は菅氏の影が薄く、政権の危機管理に大きな穴が開いている」 確かに菅氏の対応にはかつての機敏さがみられない。 防衛省が陸上自衛隊のPKO部隊の日報を1か月以上、稲田防衛相に報告しなかった問題では、記者会見で「厳重注意に値する」と他人事のような言い方だったし、金田法相が共謀罪の国会質疑を法案提出後にするよう求めた文書を出した問題では、火消しどころか、逆に菅氏が二階俊博・自民党幹事長から「緊張感を持ってやれ」と厳重注意を受ける始末だ。 一体、菅氏はどうしてしまったのか? ジャーナリストの藤本順一氏が語る。「菅さんは権力を持ちすぎた。安倍首相の再登板以来、歴代最長の3年以上官房長官として官邸中枢に座り、官僚機構を牛耳り、党の存在を軽んじて内政を思うままに操ってきた。しかも、先の改造人事ではポスト安倍に照準を合わせて幹事長のイスを狙って安倍総理の不信を買ってしまった。 政権の重鎮である麻生太郎・副総理や二階幹事長も世代交代を促しかねない菅さんの突出ぶりを面白いはずがなく、影響力を削りにかかっています。党内に足場のない菅さんは身動き取れずに、官邸内に雪隠詰めの状態です」 官邸の“存立危機事態”だ。関連記事■ SAPIO人気連載・業田良家氏4コマ「例え話国会」■ 安部首相ウェブマガジンから44本の記事を厳選・再録した本■ SAPIO人気連載・業田良家4コママンガ【1/2】「集団的自衛権」■ 安倍首相 民主党・小西議員を前にすると異常にヒートアップ■ 安倍首相 橋下維新との全面対決指示で菅氏の存在価値低下か

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    尖閣占領に「王手」をかけた中国 日本が取るべき一発逆転のシナリオ

    一色正春(元海上保安官) 前回の(「一色正春が読み解く尖閣史、日本はいつまで中国の侵略を許すのか」)に引き続き、中国が東シナ海で行ってきた主な侵略行為について振り返ります。震災から丸一年が経過した2012年3月16日に満を持して中国国家海洋局所属の海監が我が国領海を侵犯し(通算3度目)、その5日後に同局海監東海総隊の責任者が人民日報のインタビューに答えて、その行為を「日本の実効支配打破を目的とした定期巡視」と述べました。 海監総隊という中国の海洋権益を確保するための実行部隊の責任者が「日本の領海を実力で取りに行く」と明言したのですから、言われた我が国は宣戦布告がなされたくらいの認識がなければならないのですが、この時も日本政府の反応は鈍くマスコミも大々的に報じることはありませんでした。如何にこれが異常な事かは、日本の海上保安庁第十一管区本部長が「中国の西沙諸島実効支配を打破するために定期巡視を行う」と新聞のインタビューに答えたらどうなるかを考えてみればよくわかるかと思います。 ちなみに現在、アメリカが行っている航行の自由作戦は中国を含む13カ国が、領海を持たない人工島や国連海洋法条約で認められている範囲(12海里)を超えて主張する領海などを根拠にして他国の船舶や航空機の航行を制限しようとしていることに対して、それを容認しないという意思表示として単に航行するだけなので、他国を侵略する意図を持って行っている中国の蛮行とは全く異なるものです。 そんな中、その約1カ月後の4月17日に石原東京都知事(当時)が、アメリカのシンクタンクのシンポジウムで「東京都が尖閣を買い取る」と宣言したのです。自称識者の方たちの中には、この石原氏の言動により中国の攻勢が強まったとして、いまだに同氏を非難しますが、はたしてそうでしょうか。 この表を見ていただければ分かるとおり3月16日から定期的に行われるはずであった中国の定期巡視が石原氏の宣言後、約3カ月間行われていません。おそらく日本国民の熱狂的な反応と、何をするかわからない石原氏を警戒して定期巡視を行うことを控えたのでしょう。それは日本政府の国有化方針が報道されるようになってから中国公船による領海侵犯が再開されたことからも推測できます。 ですから、中国が石原氏の言動により尖閣への攻勢を強めることになったというのは事実誤認で、逆に中国の定期巡視を止める効果があったのです。それだけではなく一時的とはいえ中国の尖閣諸島への圧力をレベルダウンさせました。南シナ海の過去の事例を見ると中国の諸島侵略は、ある程度パターン化しており、それを簡単に言うと「漁船」と「活動家」を使い分けて既成事実を作り、「公船」や「軍艦」で海上抵抗勢力を排除し、最後に上陸占領するというものです。石原氏の発言で後退した中国 中国にしてみれば、3月に「日本の実効支配打破を目的とした定期巡視」などと大見得を切った以上、以降の主役は漁船から公船に移り、2016年10月現在のように公船が定期的に領海侵犯する予定であったものを、石原氏の発言により一旦後退し、一時的とはいえ台湾の船や活動家を使って様子を伺うしかない状況に追い込まれたのです。この試みは結果的には失敗に終わりましたが、中国が1970年代から一方的に行ってきた尖閣諸島侵略に対する、日本の数少ない実効的な反撃であったと言えます。 ですから中国のプロパガンダ通りに石原氏の「尖閣買取宣言」が中国の尖閣諸島侵略の原因であると吹聴するのは中国に尖閣侵略の口実を与えるだけではなく日本の反撃を封じることになり、結果的に尖閣諸島を危機にさらす行為に他なりません。それにしても、この時もそうですが日本青年社の灯台建設にしても本来は国家の責務である領土保全を民間や地方自治体が率先して行わなければならないこと自体が間違っているのですが、日頃から政府批判が大好きなマスコミもそこは指摘しません。東京都の尖閣諸島購入について語る石原慎太郎知事 =2012年4月17日、米国・ワシントン 石原氏の思わぬ反撃に少し怯んだかに見えた中国ですが、暫くすると自分たちの息のかかった台湾や香港の活動家を使って日本政府の反応をうかがい、尖閣諸島は東京都ではなく国が買い取るという話がメディアに流れ始めたころ、尖閣諸島付近海域への公船派遣を再開して日本の反応を確かめ、日本政府が石原氏のように反撃してこないと見るや9月に日本政府が国有化を発表したのを契機に堰を切ったように公船を尖閣諸島に送り込んでくるようになり現在に至っています。 つまり中国が日本の国有化を契機に尖閣への圧力を強めたというのは事実ですが、動機は日本の国有化に憤慨したというより、東京都と違い日本政府は何もしてこないので安心して行動できるようになったからというのが本当のところです。ところがマスコミは、連日、中国本土で起きる管制反日デモの映像を繰り返し流しながら、まるで日本が国有化したから暴動が起こるのは当然だというような論調で報道していました。そして、いつの間にか中国公船が我が国領海を侵犯する行為が当たり前のようになったのです。 自国の侵略行為を日本が原因であるかのようにイメージ操作をして自己反省が大好きな日本人の自虐意識に訴えかけ、その陰に隠れるような形で公船の領海侵犯という重大な主権侵害を既成事実化する。これが中国の情報戦というもので、戦いは既に始まっており、現在までのところ日本は一方的にやられています。 しかも、それに日本のマスコミや、いわゆる識者が結果的に協力した為、多くの国民は真実に気が付いておらず、事ここに至っているというにもかかわらずいまだに危機意識を持つ人が少なく、そしてそのような他国のプロパガンダを助長する利敵行為を取り締まる法令がないのが我が国の現状です。日本のグレーゾーンに隙をつく中国 それから3カ月経った総選挙投票日3日前の12月13日、中国は海だけでは飽きたりず空でも触手を伸ばし始め、初めて国家海洋局所属の航空機が尖閣諸島領空を侵犯しました。そして年が明けた2013年の1月には2010年の中国漁船体当たり事件を口実に日中ガス田協議を避け続けていた中国が日本との合意に反して、東シナ海に新たな採掘施設を建造していることが確認されました。尖閣諸島の我が国領海に対する侵犯行為も、東シナ海の日中いずれの国の排他的経済水域であるのかが確定していない海域におけるガス田開発も、日本がいくら抗議しても一向に止めない中国。それに対して、この期に及んでも「話し合うのが大事だ」という人もいれば、武力行使を検討すべきだという人もいます。 どちらが正しいかは、さて置いて、相手と話し合うにしても武力を行使するにしても、我が国の自衛隊が100パーセントの能力を発揮できるよう法整備を行い相手に圧力をかけるべきなのですが、国会内にはいまだ有効な代案も示さずに「安保法廃止」を訴えている人間が少なからずいることには絶望感を感じざるを得ません。だいたい彼らが昨年の安保法案審議の時に「戦争法案」「徴兵制」などと荒唐無稽な話を持ち出し、国会内でまともな論争をすることなく国会外でデモに明け暮れたため、肝心のグレーゾーンに対応する法整備が御座なりにされ、今、中国にその隙を突かれているのです。いったい彼らは誰のために自衛隊の手足を縛ろうとしているのでしょうか。外務省が公表した中国の海洋プラットホーム (第12基) =防衛省提供 今のところ中国が正面切って攻めてこないのは、人民解放軍を動かしたにもかかわらず尖閣攻略に失敗すれば、国内の批判により政権が持たないことがわかっているからです。だから米軍と協力するなど日本が尖閣防衛の体制を万全に整え、中国が力で奪おうとすれば失敗する可能性が高いと思わせることこそが最大の抑止力になるのです。 そんなことは過去の歴史を振り返れば簡単にわかることで朝鮮戦争が勃発したのは金日成が南進してもアメリカの介入はないと誤った判断をしたからです。それなのに沖縄を日本が自力で守ることが難しい現状を無視して基地反対運動を行っている人たち、特に国会議員は無責任としか言いようがありません。 そうこうしている間も日本国外務省は再々中国に話し合いを呼び掛けてきましが、中国は一向に応じる気配がありませんでした。そんな中国政府の身勝手な態度に業を煮やした日本政府は2015年7月に東シナ海での中国によるガス田開発の現状を示す写真や地図を外務省ホームページ上に公表しましたが、中国にとっては、この程度の反撃など痛くも痒くもないようで、目立った反応は返ってきませんでした。 彼らは日本からの度重なる開発中止の要請や交渉再開の呼びかけを無視する一方で、その間、東シナ海に16基もの海上プラットフォームを建設し、今この瞬間にも採掘を行っています。尖閣の島が難攻不落の要塞と化す日 こうしている間にも、そこから中国本土にガスが送り続けられ、海底でつながっていると思われる我が国ガス田の貴重な資源が吸い取られている可能性が非常に高いのですが、日本政府は何一つ有効な対抗策を取るどころか、そんな中国に年間300億円もの援助を行っているのですから、訳が分かりません。 それにしても恐るべきは2013年6月から約2年の間に、南シナ海の埋め立て工事を行いながら、東シナ海に12基もの海上プラットフォームを建造設置する中国の実行力です。仮に尖閣諸島の一部でも中国に占領されてしまえば、この強大な建造能力により、あっという間に尖閣の島が難攻不落の要塞と化してしまいかねません。一旦そうなってしまえば、たとえ取り返すことができたとしても多大な犠牲を払わなければならなくなるので何としても中国人の上陸を防がなければならないのですが、我が国の目に見える対応策は石垣島の巡視船増強だけです。沖縄県・尖閣諸島周辺の領海に侵入した中国公船(左)に 退去を促す海上保安庁の巡視船(同庁提供) 尖閣諸島と一口に言っても端から端まで約100キロメートルもあるため船だけで守ろうとすれば生半可な数では足りず、万全を期すためには中国漁船と同数以上の船が必要になります。しかも巡視船をいくら増やしても、相手が軍艦を出して来れば対応できないので島嶼防衛という観点から見れば戦力になりません。 やはり普通の国がやっているように島に人を配置するのが一番効果的で、ミサイル部隊を配備すれば、今のように敵が近寄ることすらできなくなるでしょう。それに巡視船10数隻を運用するためには年間数十億という多額の費用が掛かるので経済的にも島に人を常駐させる方が安く済みます。また、万が一上陸された場合に備えて海兵隊のような組織を創設することも必要です。 このようにして中国は東シナ海ガス田を独占的に採掘し、ゆっくりと時間をかけて中国公船を尖閣諸島周辺海域に常駐化させ、そしてとうとう今年の6月9日に尖閣諸島の接続水域に、6月15日には口永良部島の我が国領海に中国海軍の軍艦が侵入してくるようになりました。つまり中国の諸島侵略パターンの最終段階に入ったのです。 にもかかわらず、日本政府は6月9日のフリゲート艦の接続水域航行に対しては厳重に抗議したものの、6月15日の情報収集艦の領海侵入については、彼らが国連海洋法条約に明記された違反行為を行っているにもかかわらず「無害航行の可能性がある」と相手が言ってもいない言い訳まで代わりにして問題視しませんでした。そして8月5日には冒頭で述べた中国海警局の巡視船2隻と中国漁船6隻が同時に尖閣諸島周辺の領海に侵入する事件が発生したのです。誰かが死ななければ反撃できない それだけではありません。中国の侵略の魔の手は海の上だけではなく空にも伸びてきています。多少時間は前後しますが、今年の6月28日に航空自衛隊OBの元航空支援集団司令官が、中国軍戦闘機が我が国自衛隊機に空中戦を挑んだというような内容の記事を発表しました。記事の内容によると、故意に日本の領空に接近した中国軍戦闘機が、スクランブル対応した日本の戦闘機に対して、日本側が絶対先に攻撃してこないのを良いことに攻撃動作をとり、結果として日本の戦闘機が尻尾を巻いて逃げ帰ったということで、残念ながら、これが我が国の防衛体制の現状です。中国軍の戦闘機 いくら優れた性能の戦闘機に優秀なパイロットが乗っていても、彼らは相手から撃たれるまで何もできず、超音速の世界では先に撃たれた方がかなりの確率で撃墜されます。つまり誰かが死ななければ反撃できないということなのです。そして犠牲はパイロット1人にとどまるという保証はありません。 仮に戦闘機の後ろに爆撃機がいたとすれば、最悪の場合は核爆弾を積んだ爆撃機に我が国領空への侵入を許してしまい、多くの日本国民が無駄に命を失うという事態になりかねず、それから反撃しても失われた命は帰ってきません。 当然、現場の人間は、そうさせないために努力しますが、突き詰めていくと、いざという時に、今の法体系では現場の人間が自身の責任で法を破らなければならない事態に陥りかねません。 いくら机上の空論で迎撃は可能だとか色々と理屈をこねまわしても「自分たちは自国の国内法に従い、祖国防衛のために戦う」という信念に基づいて攻撃してくる敵と、いかに憲法や自衛隊法などの法令に違反しないように対応するのかということを一義的に考えなければいけない自衛官とのハンデは歴然としており、それは埋めようがありません。専守防衛というのはそういうことなのです。 このように歪な防衛体制を、60年以上も党利党略に明け暮れ法整備を怠り、現場に責任を押し付けてきた立法府の責任は誠に重いとしか言いようがありません。立党精神をなおざりにして政権維持のために存在してきた自民党、その自民党に反対するためだけに存在してきた野党、もういい加減、国会で「自衛隊が海外侵略を始める」というような、ありもしない危機を煽るのではなく、東シナ海や南シナ海で起こっている現実を直視して、実りある憲法改正論議を行ってもらわなければなりません。 そのためには我々国民も黙って見ているのではなく世論を喚起しなければならないのですが、政府もマスコミも、その判断材料となる東シナ海や南シナ海で起こっている事実を国民になかなか教えようとはしません。軍事機密までとは言いませんが、東シナ海や南シナ海における中国の動向は我が国の命運にかかわる重大な問題なのですから政府は嘘偽りなく発表し、マスコミはそれを厳しく監視するべきなのですが、まったくもって不十分です。そして、なぜか特定秘密保護法に反対している人たちも、このことについては何も言いません。国内法で既成事実をつくる中国 以上、日中国交樹立前後から中国が東シナ海で行ってきた主な侵略行為について簡単に振り返ってみましたが、書いていて嫌になるほどの日本政府の体たらくと、それに付け込んで、どんどんと侵略の度合いを深めてくる中国という図式が良くわかるかと思います。 最初は漁船を使い違法操業から始め、時折活動家に上陸を試みさせるなど段々と力を強め、自国の海軍力が充実したと見るや公船を送り込み、今や軍艦と戦闘機を使って我が国の領域を脅かすまでになりました。これら一連の流れを良く見れば中国が尖閣に注ぐ力をレベルアップするタイミングが何度かあったのがわかりますが、その時に日本政府はやるべきことをやってきませんでした。 繰り返しになりますが、1992年に中国が尖閣諸島を国有化した時、当時の中国の海軍力など取るに足らないもので、しかも天安門事件により世界的に孤立していたので、日本も同様に国有化して本格的な灯台を建造していたとしても中国は日本に対して有効な対応策をとれなかったはずです。2009年に中国が海島保護法制定した時も、相手が合意に反して単独でガス田を採掘しているのですから日本も試掘など有効な対応策を取るべきでした。尖閣諸島周辺の領海に侵入した中国漁船 =8月5日(海上保安庁提供) この2例を見てもわかるように、中国はまず国内法を制定して、それを根拠に既成事実を作るというパターンが多いので、彼らが中国の侵略行為を正当化するような国内法を作った時点で日本が対応すれば少なくとも後手に回ることはなかったのですが、歴代政権の無為無策が今日の事態を招いてしまいました。 今後は、このような事例の反省の上に立って中国に対抗していかねばならないのですが、今年の8月1日に中国の最高裁に当たる最高人民法院が中国の管轄海域で違法漁労や領海侵入をした場合に刑事責任を追及できるとする「中国の管轄海域で発生する関係事案審理における若干の問題に関する最高人民法院規定」を定めた(最高人民法院が海洋権益に関し具体的な条文で司法解釈を定めるのは初めて)ことに対して、10月17日時点で私の知る限り日本政府は何ら対応策を講じていません。 そもそも、これは2年前に尖閣諸島付近の公海で起こったパナマ船籍(船主は日本法人)の貨物船と中国漁船との衝突事故に端を発します。この事件の後に、中国漁船側が貨物船の船主を厦門海事裁判所に訴え、今年3月、最終的に当事者同士が和解しました。 その結果について、最高人民法院の周強院長が全人代で「我が国が釣魚島海域で司法管轄権を行使した典型例」「尖閣諸島に対する中国の司法管轄権が明確になった」と発表したのです。これに関して日本側の関係者は衝突場所が公海上であるため、和解協議の過程に裁判所は関与していないと述べており、百歩譲って中国の裁判所が和解案を取りまとめたとしても、公海上で起きた民事事件が尖閣諸島の様々な権利に影響を与えるはずがありません。漁民の生活を犠牲にする日本 要は中国の裁判所のトップが事実に基づかない話を根拠にして日本の主権を侵害するようなプロパガンダを行ったということなのですが、この時も日本政府は通り一遍の抗議しかしなかったので、その反応を見て味を占めた最高人民法院が5カ月後にこの規定を定めたということなのです。つまり、この問題に関しても日本は、すでに後手に回っており、いつものようにマスコミが大々的に取り上げることもなく、国会で質問されることもありません。 産経新聞の記事によれば条文の内容は条文では海上の自国領域での環境汚染や、シャコやサンゴなどの生物、資源の違法採取を厳重に刑事処分することを強調した上で、「ひそかに国境を越えて中国領海に違法侵入」し「域外への退去を拒む」場合などに厳罰を科すことができるとしている。規定が適用される「管轄海域」については、「内水、領海、接続水域、EEZ、大陸棚」などとしている となっています。条文の詳しい内容は確認できていないので断定はできませんが、この記事の内容を素直に読めば国連海洋法条約に定められている無害通航権を否定しているようにもとれます。それよりも日本にとって問題なのは規定が適用される管轄海域に内水、領海、接続水域だけではなく排他的経済水域と大陸棚を含めていることです。 彼らの主張する排他的経済水域は、東シナ海は沖縄トラフ(沖縄本島の西方約60海里)まで、南シナ海に至ってはほぼ全域の九段線ですから、東シナ海で操業する漁船だけではなくペルシャ湾から日本にエネルギーを運ぶタンカーも対象になりかねません。ここは南シナ海沿岸諸国と連携しながら厳重なる抗議を行って国際法に反する取り締まりを行わないよう釘を刺しておく必要があります。2014年12月、中国国家海洋局が立ち上げた尖閣諸島の 領有権を主張する専門のサイト 私は当初、8月5日に中国海警局の巡視船2隻と中国漁船6隻が同時に尖閣諸島の我が国領海に侵入したのは、中国の巡視船が自国の漁船に対して執行管轄権を行使して尖閣諸島海域で主権を行使したという実績を作るためだという見方をしていたのですが、この最高人民法院規定が制定されたことと重ね合わせて見ると、むしろ同規定により日本の漁船を拿捕して人質外交に使おうとしているのではないかという思いが強くなってきました。 なにしろ日本は竹島や北方領土で漁船の乗組員を人質に取られ良いようにやられた過去がありますから要注意です。それを警戒してか現在、日本政府は石垣島など地元の漁船を尖閣諸島に接近させないようにしていますが、そんなことを続けても漁民の生活を犠牲にするだけで何の解決にもなりません。日本が約40年間耐え忍んできた結果 とりあえずは中国のこの動きに対抗するため日本側も法整備を行い、いざというときは中国漁船を拿捕できるようにしておかなければなりません。 というのも現状、違法操業を行う中国漁船に対して尖閣諸島の領海内は外国人漁業の取締に関する法律(外規法)で対応できますが、領海を一歩出た排他的経済水域においては日中漁業協定に付属する書簡により北緯27度以南の東シナ海(領海を除く)において両国は互いに相手国の国民に対して漁業に関する自国の法令を適用しないとし、あえて国内法の適用範囲から同海域を除外しているため日本には中国漁船を取り締まる法律がないからです。沖縄県・尖閣諸島の大正島=2011年6月 具体的には、まず排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律(EEZ漁業法)施行令で定めている法律適用の特例海域から中国最高人民法院規定を精査して、それに対応する海域を外し、何かあればいつでも尖閣諸島沖の我が国領海及び排他的経済水域において、違法な中国漁船を取り締まることができるような体制を法的に整えます。 ちなみにEEZ漁業法施行令は政令ですから国会の審議を経なくとも閣議決定で改正可能なので、首相が決意すればすぐにでも出来ます。そして関係省庁間の調整を行い物理的に大量の人間を検挙することができる体制を整え、中国に対して「やられたらやり返す」という日本の意思を明確に示すことこそが抑止になるのです。その上で、日本も九州から沖縄の各漁協が協力して漁船団を組むよう行政が音頭を取り、海上保安庁の巡視船を護衛につけて尖閣諸島沖で操業し、日本の漁業権益を守らなければなりません。 日本は東シナ海の問題に対して今まで約40年間耐え忍んできました。このままで耐え忍ぶだけでは、じり貧でますます状況が悪くなるだけです。日本はそろそろ反転攻勢に出るべきです。

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    中国の尖閣侵略はこうやれば阻止できる

    次期米大統領、トランプ氏がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の離脱を明言した。「対中包囲網」を念頭に参加を決めた日本にとって、尖閣を含む東シナ海の防衛戦略を根底から見直す必要に迫られたとも言える。今も領海侵犯を続ける中国とどう対峙すべきか。日本が取るべき道はこれしかない!

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    中国の尖閣侵犯の狙いは「世論戦」 日本は自衛隊出動で本気を示せ!

    山田吉彦(東海大学教授) 2010年9月7日、尖閣諸島海域で中国の漁船が、海上保安庁の2隻の巡視船に体当たりをする事件を起こした。この事件を契機に中国の尖閣諸島侵出の動きが本格化した。当時の民主党政権は、ことの重大さを認識せず、事件を起こした中国漁船の船長を処分保留で釈放してしまった。 当時の内閣は、中国への過度の配慮から尖閣諸島における日本の主権を放棄するような判断をしたのである。以後、中国船の尖閣諸島海域への侵入が続くようになった。2012年、民主党政権は、再び尖閣諸島の管理において大きな過ちを犯した。東京都の石原慎太郎知事(当時)の発案により、東京都が尖閣諸島を購入し、実効支配体制を確立しようとする動きに対抗し、国が尖閣諸島の魚釣島、南小島、北小島の三島を買い取り、国家管理の下、何も開発行為をしないことを選択したのだ。尖閣諸島沖で2010年に起きた中国漁船衝突事件で、動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」に当時投稿された事件のビデオとみられる動画 日本国政府の消極的な管理体制に対し、中国は恒常的に尖閣諸島海域への侵入を繰り返すようになった。現在では、3隻から4隻の中国海警局の警備船が、月に3回ほどの頻度で日本領海への侵入を続けている。これらの行為は、中国が尖閣諸島を管理しているという既成事実を作ることを目的としている。日本も島の開発を行わず海上保安庁が洋上から管理するだけなので、日本と中国の管理状況は、同等であるとしているのだ。 さらに中国は、尖閣諸島周辺海域に漁船団を送り込んでいる。今年8月には300隻を超える漁船が押し寄せたのだ。このような状況を中国中央電子台(CCTV)によるテレビ放送、特に衛星放送を通じて、「尖閣海域を管理し利用しているのは中国である」と国際社会にアピールしているのである。中国の侵略行為の非軍事作戦である「三戦」の中の「世論戦」である。国際世論を中国に有利になるように導こうとしているのだ。 先般、カタールの放送局アルジャジーラの記者から尖閣諸島問題に関する取材を受けた。取材後、記者に対し、尖閣諸島問題をどのように見ているのか質問をしたところ、「日本は尖閣諸島を必要としていないのではないか。 現状では管理しているとは言えない」との答えを得た。これが、国際社会における一般的な見方であるのかも知れない。島の開発を放棄し、周辺海域の監視だけを行う消極的な管理体制では、領有権の主張さえも危うくしているのだ。優先順位は南シナ海から東シナ海へ 今年7月、フィリピンが、中国の人工島建設などによる南シナ海への強引な侵出を抑止しようとしてオランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所に訴えていた裁判の判断が示された。 判断の内容は、中国の九段線による南シナ海支配は、歴史的に法的な根拠はないと一蹴され、人工島の建設も国連海洋法に規定された環境保全の義務に違反していることを指摘された。中国は、仲裁裁判所には管轄権が無いとし、判断を受け入れない意向を示したが、アジア諸国や欧米諸国は、中国に対し国際法の順守を強く求めている。中国の習近平国家主席=9月4日、中国・杭州 主催国としてなるG20を控え、国際的な孤立を恐れる中国は、一旦、南シナ海への侵出を控え、フィリピンに懐柔策を進める戦略に移行した。しかし、中国国内では、習近平政権の海洋戦略に対する疑念が広がり、ネット社会を中心に政策を批判する動きも現れ始めた。 習近平氏は、国家主席就任時に海洋強国になることを掲げた。海洋侵出を止めることは政権への信頼を失いことにつながりかねない。そこで、南シナ海戦略から東シナ海への侵出に、優先順位を移したようである。対日強硬策を採ることは、中国のナショナリズムを満足させることにつながる。 今年8月、中国は尖閣諸島侵出をこれまでにない規模で推し進めた。前述の300隻ほどの漁船団とともに15隻の中国海警局の警備船などを同時に日本の接続水域に送り込んだのである。 尖閣諸島を守る海上保安庁は、2015年度、第11管区海上保安本部石垣海上保安部に600人体制の尖閣専従部隊を設置した。この部隊は10隻の1500トンクラスの巡視船に交代要員を配置することで、12隻相当の能力を有し、那覇海上保安部に所属する2隻の3000トン級ヘリコプター搭載型の巡視船と連動し、総勢14隻相当の勢力をもっている。海上保安庁としては、かつて例をみない大規模な陣容である。 この専従部隊が、交代で常時、尖閣諸島周辺海域の警備にあたっている。しかし、中国側は、海上保安庁の警戒態勢や装備を十分に研究し対応策を打ち出して来る。今年8月に押し寄せた中国海警局の警備船は、日本の尖閣専従部隊に対抗し、3000トン級の指揮船の下、1500トン、1000トン級の警備船で構成されていたのだ。 この船団を構成するために本来、尖閣諸島を担当する東海分局所属の船だけではなく、他の地域で管理している船も動員しているのである。さらに、海上保安庁の主力装備である20ミリ機関砲を上回る、30ミリ機関砲を搭載している警備船も含まれていた。中国に性善説で向き合うことはできない 昨年12月までは、尖閣諸島周辺に姿を現す中国公船は、武器を搭載していなかったが、今は機関砲を装備している船が含まれている。恒常的に日本の管轄海域に侵入する船舶が増加していることも含め、中国側の尖閣諸島奪取戦略は、さらに一段階ステップアップしているのである。 中国は、軍艦の色を塗り替え、軍人を海上警備員に配置換えすることで、容易に海上警備能力の増強を果している。さらに、数限りない漁民、漁船をその配下に組み入れ、日本の領土、領海を脅かしているのである。この中国の拡大戦略に対抗するためには、海上保安庁の増強だけでは対応できない。447万平方キロに及ぶ領海+排他的経済水域を持つ日本の海を守るためには、現行の海上保安庁の体制では無理があるのだ。自衛隊との連携も不可欠であろう。サンゴ密漁中の中国船(左)に対し、監視と警告を発する海上保安庁の巡視船「するが」=2014年11月9日、小笠原村父島の領海内で(大山文兄撮影) 2012年には、106隻の漁船に乗った総勢2000人ほどの中国漁船が、五島列島の玉之浦という入り江を占拠した。2014年には、212隻、2000人を超える漁船がサンゴの密漁船といわれる小笠原諸島周辺に押し寄せた。さらに、今年は300隻、3000人以上が尖閣周辺海域を占拠したのだ。 この漁船団に乗る漁民が、島嶼への上陸をめざし動き出した場合、海上保安庁や島嶼に配備されている警察能力だけでは阻止することはできないだろう。無人島や過疎化、高齢化が進む島嶼を占領するためには、屈強な漁師であれば武器を持たなくても可能である。武器を持たない漁民に対しては、国土が脅かされても自衛隊の対応は難しいのだ。現行の自衛隊による警備出動もしくは治安出動において、島嶼防衛、島嶼警備が可能な制度を検討すべきである。 国際法廷の判断を「紙屑」とまでいう中国の暴走が、日本に領土、領海への侵出に向いているのである。中国の海洋侵出に対し、性善説で向き合うことはできない。紛争を予防するためにも、用意周到な対応策を持つことが必要である。

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    失速する中国、尖閣に集まる船は習近平の焦りそのもの

    岡本裕明(Blue Tree Management 株式会社 代表取締役) 尖閣周辺に漁船と公船らしき船が突如集まりだしています。日本政府は中国側に連日の抗議をしていますが、いったい中国に何が起きているのでしょうか?中国から一時の勢いを感じさせる話題が聞こえなくなった気がします。尖閣諸島・魚釣島周辺を警戒航行する海上保安庁の巡視船  今からちょうど1年前、中国の株価が暴落、そして今年1月に二度目の試練がありました。それから約半年強、中国の株式市場は政府の必死の市場介入で指数を維持し、不安感を鎮静させることに努めました。 ところが臭いものにいくら蓋をしても歪んだ蓋はきちんと閉まらず匂いは漏れます。不都合なことに鉄道部門でも問題は起きてしまいます。中国が威信をかけた高速鉄道輸出計画はメキシコやアメリカでの白紙撤回、そして、唯一受注しているインドネシアでも工事はほとんど進んでおらず、インドネシアと中国側でその責任の擦り付け合いをしています。 もともと日本への発注で10中8、9決まっていたもののインドネシアのジョコ大統領の慢心でひっくり返ったような経緯があります。ジョコ大統領は今になって日本に再びすり寄る姿勢を見せているともされています。いずれにせよ、中国の鉄道輸出が失敗したことは世界における周知の事実となっています。 そこに更なる打撃となったのが6月、英国が国民投票の結果、EUからの離脱を選択したことであります。これは中国政府にとっても想定外の結果でありました。中国は対欧州経済政策について英国との関係を強化し、英国を通じてEUへの食い込みを図るプランでありました。 事実、習近平国家主席が英国に訪問した際、女王をはじめ熱烈な歓待を受け、習国家主席としては自身の力を内外に示す真骨頂そのものでありました。英国の不都合はEUの離脱選択だけではありませんでした。親中派のキャメロン氏があっさり首相の席を降り、メイ首相に変わった途端、お約束だった中国による英国の原発事業を見直すと発表したのです。つまり、中国にとって完全にメンツを潰された形となりました。 問題は経済関係に留まりません。南シナ海に人工島を作り、飛行場まで建設した中国に対して仲裁裁判所の裁定で完全なるクロの判断が下されました。中国側はもちろん一歩も引かない態度でありますが、国際会議の席ではその件について言及せず、各国個別にやり取りするという外交的ディフェンスの姿勢に転じています。尖閣への船団は習近平のパフォーマンスか 更にアメリカは韓国に高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備することを決定しました。これは表向き、北朝鮮との対立軸となっていますが、当然ながら中国への脅威ともなります。中国はこの事実に大きく反発していますが、今のところ、これが覆る可能性は低そうです。 では今さらの尖閣の船団は何か、といえば中国の力を示す数少ない方法の一つともいえるのではないでしょうか?そしてこの作戦が中国全体の和をもって行われているとは思えず、習近平国家主席の苦しさそのものを表しているともいえましょう。G20首脳会議で議長を務めた中国の習近平国家主席 現在、中国では北戴河会議なるものが開催されています。これは共産党長老と現役指導部が現状を様々な見地から討議する年次の重要会議でありますが、長老には当然ながら反習近平派もあり、これらの施策の失敗を糾弾している可能性は否定できないでしょう。今年は2017年党大会に向けた人事問題が主題とされますが、当然、そこには激しい派閥争いが繰り広げられます。 個人的見地とすれば尖閣への船団は習国家主席とその派閥の北戴河会議向けパフォーマンスではないかという気がしてなりません。この会議があくまでも国内の力関係を見せつけるものである以上、習氏としてはコトがうまくいっていると見せつけなくてはいけません。 が、全体像としては反習近平派が攻め入る余地はかなりあるように思え、今後、共産党内の軋みが生じる可能性は否定できないと思います。中国数千年の歴史で皆丸く収まって仲良しが長く続いたことはなく、現代のように利害関係が複雑になればその力関係はより接戦となることでしょう。日本が中国国内事情で振り回されるのは全くありがたくないことであり、岸田外相の怒り心頭はこのあたりからくるのではないかと思います。(岡本裕明公式ブログ 2016年8月10日分を転載)

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    「核の戦国時代」に、どうする日本国憲法

    日高義樹(ハドソン研究所首席研究員)(『「核の戦国時代」が始まる』まえがき より)ワシントン情報から読み解く世界大混乱の行方 太平洋戦争が終わる直前、30万という日本人を一度に殺傷したアメリカの原子爆弾。 日本の人々は爆弾が落とされた場所に慰霊碑を建て、平和を求める聖地として大切にしてきた。 2016年5月、その聖地をアメリカの現職大統領が訪れて祈りを捧げたことは、原爆がもたらす惨劇をいま一度、世界の人々にはっきり示した歴史的な出来事だと受け取られている。しかし、この日、アメリカ国防総省の最高首脳たちは、2020年以降におけるアメリカの核戦力の大規模な増強と高性能化を検討しはじめている。 第二次世界大戦後の世界を動かしてきたのは、アメリカをはじめとする核保有国である。現実の世界は、広島の原爆慰霊碑を訪れた大統領の言葉とは逆に、これから「核の戦国時代」とも言うべき、危険な時代を迎えようとしている。 北朝鮮は水爆の実験を実施したと噂されている。ロシアはアメリカとの核兵器制限交渉を事実上やめて、新しい核弾頭とミサイルの開発を行っている。 中国は保有核兵器については隠蔽しているが、合わせて1000発を超える大陸間弾道ミサイルや中長距離ミサイルを実戦配備している。この大量のミサイルが水爆を装備していることは当然である。北京で開かれた軍事パレードで、天安門前を行進する中国人民解放軍兵士=9月(共同) 中国はアメリカやロシアを真似て、長距離爆撃機の開発を進めているが、搭載する水爆も多数つくっているはずである。 インドも新しいミサイルとミサイル潜水艦を建造し、核弾頭の開発と増強を行っている。  ハドソン研究所の中東専門家は、「経済封鎖を解かれたイランが核兵器開発に拍車をかけ、近い将来、核兵器保有国になることは確実だ」と述べている。 1989年11月、ベルリンの壁が崩壊した後、世界はアメリカの一人勝ち体制のもとで安定を続けてきた。ところがアメリカの力が急速に後退するとともに、世界は新たな対立と抗争の時代を迎えている。 地域大国のロシア、中国、イラン、インドが核兵器を「使える兵器」として増強し、核弾頭を搭載するミサイルの開発に力を入れている。北朝鮮は核保有国であることを誇示している。世界は「核の戦国時代」を迎えて、再び1960年代の核戦争の恐怖に直面しようとしている。完全に行き詰まった国際連合完全に行き詰まった国際連合 アメリカの力が後退するなかで、独裁者がすべてをとりしきる専制国家ロシア、中国、北朝鮮が核兵器を持ち、今後ますます侵略的な政策を露骨にしてくると思われる。そうしたなかで、まず懸念されるのは朝鮮半島である。 ワシントンの専門家は、朝鮮半島の歴史から見て北朝鮮が核兵器を開発しているのは、朝鮮半島の統一を国家目標にしているからだと見ている。すでに述べたように、北朝鮮は韓国の存在を認めず、朝鮮半島にあるべき国家は北朝鮮だけである、と主張している。北朝鮮の労働新聞が掲載した弾道ミサイル発射訓練の写真(共同) 北朝鮮が核兵器を開発するとともに、在韓米軍の陸軍師団は、朝鮮半島の南に移動してしまった。北朝鮮が韓国に侵略を始めた場合には、同じ民族同士の戦いになると見られている。 もっともワーク国防副長官が指摘したように、25年先の朝鮮半島情勢は、予想すらつきかねる。 中国もロシアもそれぞれ、国内的な政治不安を抱えている。アメリカという敵が後退したあと、ロシアと中国がどのような形で国内の政治的統一を保つのか。こうした問題を総合的に勘案すると、まさに25年後の世界は、予想することが非常に困難である。 変動に次ぐ変動の25年間になると考えられるが、危険なことに、世界にはいまや核兵器が溢れている。 日本は、予測の困難な国際情勢のなかで安全を保つためには何をなすべきか。まず基本的に必要なのは、日本の安定と繁栄を維持するために、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの国々との協力体制をつくることである。アメリカの世紀、アメリカ一人勝ちの時代が終わり、新しい国際的な協力の時代がすでに始まっているからである。 国連をはじめとするアメリカのシステムが、いまやうまく機能しなくなっていることは誰の目にも明らかである。国連が何を決めようとしても、ロシアと中国が反対する。国際平和の維持を標榜する国際組織、国際連合はいまや完全に行き詰まってしまった。 アメリカの共和党大統領候補になると思われるドナルド・トランプが、アメリカ国民の支持を集めているのは、彼が既存のアメリカの体制や世界の体制を変えようとしているからである。日本も「アメリカの後の世界」をつくるために、いかなる役割を果たすべきか考える必要がある。 日本は、アメリカの一部の人々によって動かされた日米安保外交や国連外交に代わる新たな外交政策を展開するために、従来の体制を根本的に変えなくてはならなくなっている。米の軍事力が日本と日本の憲法を覆った米の軍事力が日本と日本の憲法を覆った もっとも、日本でもすでにこの問題について多くの論議がなされている。憲法改正の動きもその一つといえる。 世界のすべての国が憲法を持っているわけではない。たとえばイギリスには憲法がない。だが憲法を持つ国にとっては、それを変えることは国民の社会生活に大きな影響を与えるために、たやすく行えることではない。 日本にとって重要なのは、憲法を変えるか否かという問題もさることながら、これからの日本が国際社会でどのように行動するべきか、という原則を明確にすることである。 私は『アメリカが日本に「昭和憲法」を与えた真相』(PHP研究所)という本を書いたとき、第二次世界大戦後に日本を占領し、サンフランシスコ講和条約で日本に独立を与えたアメリカの政治家や軍人たちが何を考え、どうしてきたかを詳細に調べた。また憲法作成に関わった人々にも直接会って話を聞いた。昭和21年11月に皇居前広場で開かれた日本国憲法公布記念祝賀都民大会 当時、日本を占領していた軍人たちは、あらゆる努力を結集して、日本の新しい憲法が日本人の手によって考えられ、つくられたという体裁を整えようとした。そう努力したのは当然のことである。占領軍が憲法を与えたということになれば、その憲法は占領体制が終わると同時に捨てられてしまう。憲法作成に関わった人々の誰もが私にこう言った。 「占領が終わったら、日本人はこの憲法を廃棄するだろうと思った。だから日本人がつくったのだという形をとることが大切だった」 占領軍の当事者たちはまた、古い明治憲法との連続性を維持することに全力を挙げた。 つまり新しい憲法は、明治憲法と同じように、日本人が作成したものであると、日本人をはじめ内外に示そうとしたのであった。 この試みが成功したのは、憲法そのものが優れたものであったからだ。アメリカの政治学の碩学であるハーバード大学のジョン・ケネス・ガルブレイス教授は、私とのインタビューのなかではっきりとこう言った。 「良い憲法は誰がつくっても良い」 たしかにそうであるが、日本の多くの人が信じ込んでいるように、この良い憲法が日本という国の安全を維持してきたわけではない。日本の安全が保たれたのは、アメリカの軍事力が日本と日本の憲法を覆ってきたからである。アメリカの力が、長い平和を日本にもたらしたのだ。 第二次世界大戦後の70年間にわたって、アメリカの力というドームが日本をすっぽりと覆い隠していたために、中にいる日本は平和な状況が当たり前のことになってしまった。 日本は、ドームそのものも、ドームの外にあるアメリカの力を見ることも認識することもなく、「憲法が平和をもたらしてくれた」と信じ込んでしまった。真の独立国になる機会を逃すな真の独立国になる機会を逃すな このドームが、いまや消えようとしている。憲法は依然として存在はしているものの、日本と日本の憲法を覆っていたアメリカの力が消えようとしている。  すでに触れたが、ドナルド・トランプが『ニューヨーク・タイムズ』の記者や編集者と1時間20分にわたって外交、国際問題を話し合ったなかで、「日米安保はいらない」と述べたことから、日本では日米安保条約の将来と日本の孤立について関心が強くなっている。大統領選の共和党候補トランプ氏(AP) 日米安保条約はアメリカの占領体制が終わり、サンフランシスコ講和条約が発効した1952年、アメリカの国際戦略の一つとして成立した。 当時のアメリカは、ソビエトや中国と関係を持つ国内過激派が日本政府を転覆させたり、日本がソビエトに基地を提供したりするのではないかと強く危惧していた。 そうした事態を防ぐ目的でつくられた日米安保条約がその後の60年間、アメリカの重要な国際戦略の一つとして存在し続けてきた。 日米安保条約がなくなれば、たしかに日本は孤立する懸念がある。だが、その孤立によって日本の安全が脅かされると、単純に考えるべきではない。日本は孤立することによって、ようやく真に独立した国家になる機会を手にするのである。 日本という国は、その存在のすべてを日米安保条約に基づくアメリカの政策に委ねてきた。このことは世界中の国が見てきたことである。 私は17年半続いた『日高義樹のワシントンリポート』という番組のために、ドイツの指導者、ヘルムート・シュミット元首相3回ほど、インタビューした。 1回目のインタビューの場所は、ハンブルクのアトランティック・ケンピンスキーホテルのスイートだった。シュミット元首相は、どっしりとした安楽椅子の背にもたれ、タバコを片手に、時々それをふかしながら辛口のアメリカ批判を聞かせてくれたが、そのなかで彼がこう言った。 「日本は世界に、アメリカしか友達がいない」 シュミット元首相は、アメリカの軍事力にすべてを頼っている日本は、結局のところ、あらゆることをアメリカに頼っているのだ、と指摘したのである。 日本は国連を金科玉条のごとく尊重し、外交の基本にしているが、国連はアメリカの力によって設立された国際機関である。日本外交は即、国連外交だと世界中から言われているが、それはすべてをアメリカに頼っている外交という意味に他ならない。 日米安保条約が空洞化し、アメリカが日本を見放せば、日本の国連外交は壊滅する。だが日米安保条約が空洞化することは、日本が真の独立国家として存在することを意味する。 世界は「核の戦国時代」に入るだけでなく、予想すらできない困難な状況になろうとしている。 だが逆に言えば、日本は真の独立国になる機会を手にすることになる。この機会を逃してはならない。ひだか・よしき ハドソン研究所首席研究員。1935年、名古屋市生まれ。東京大学英文学科卒業。1959年、NHKに入局。ワシントン特派員をかわきりに、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長を歴任。その後NHKエンタープライズ・アメリカ代表を経て、理事待遇アメリカ総局長。審議委員を最後に、1992年退職。その後、ハーバード大学客員教授、ケネディスクール・タウブマン・センター諮問委員、ハドソン研究所首席研究員として、日米関係の将来に関する調査・研究の責任者を務める。1995年よりテレビ東京で「日高義樹のワシントンリポート」「ワシントンの日高義樹です」を合わせて199本制作。主な著書に、『アメリカの歴史的危機で円・ドルはどうなる』『アメリカはいつまで日本を守るか』(以上、徳間書店)、『資源世界大戦が始まった』『2020年 石油超大国になるアメリカ』(以上 ダイヤモンド社)、『帝国の終焉』『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか』『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』『アメリカが日本に「昭和憲法」を与えた真相』『アメリカの大変化を知らない日本人』『「オバマの嘘」を知らない日本人』『中国、敗れたり』(以上、PHP研究所)など。関連記事■ アメリカは変えにくい憲法を日本に与えた■ 中国は本気で「核戦争」を考えている■ 国際社会は北朝鮮の核兵器開発を阻止できるか

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    お飾りになった自衛隊 現役隊員は「国軍」である自覚を持て

    者問題調査会代表)伊藤祐靖(海上自衛隊「特殊部隊」初代先任小隊長)(『自衛隊幻想 拉致問題から考える安全保障と憲法改正』第一章より抜粋)自衛隊は「抑止」の存在 荒谷卓(陸上自衛隊「特殊部隊」初代群長) 冷戦の間、ずっと日本は「抑止」だけできました。もっと言えば、日米安保があれば、日本は攻撃されることはないと考えてきた。日米安保は軍と軍の関係で成り立っています。だから自衛隊を保持しておくことが必要で、それによって日本の安全が保障されるということです。その意味で、自衛隊は「抑止」の存在であった。だから自衛隊が何かに対処する事態を、政府は具体的には検討していません。 仮にソ連が攻めてきたらどのように対処するか、どの程度の攻撃だったら日本は単独で持ち堪えられるのか、そういった検討をしていないのです。「基盤的防衛力構想」というものがありましたね。平成22年の防衛大綱改定で「動的防衛力」の構築に代わるまでは、「基盤的防衛力」という考え方で日本は防衛力を整備していました。「基盤的防衛力構想」は政府が説明しているように、具体的な想定に基づいて算出された戦力ではなく、必要な機能を最低限、持っておこうというものでした。「戦車がないのはおかしい」とか「戦闘機はあったほうがいい」とか、駆逐艦や補給艦などを一通り持っておくと、いざ本当に戦争になったときに、それをエクスパンド(増産)すれば対処できるという考えです。つまり、「基盤的防衛力構想」では、具体的な侵略などを想定して対処する戦力ではなかった。それは「防衛白書」でも説明しています。平成26年10月、航空自衛隊百里基地で行われた航空観閲式に出席した安倍晋三首相(手前) 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表) 私が予備自衛官になった頃に、現役自衛官やOBと話をしていてショックだったのは、拉致問題を自分たちの仕事だと捉えている人がほとんどいなかったことです。「自衛隊が拉致被害者救出に向かうべきではないですか?」と聞いても「憲法上の制約がある」「自衛隊法の制約がある」と、あれが駄目これが駄目と言うだけでした。いい加減な人間がそう言うならまだ救いがあるのですが、すごく真面目な自衛官が「自分たちの仕事ではない」という話をするので、かなりショックを受けました。 自衛隊の中にも拉致問題を考えてくれる人はいますが、一所懸命考えすぎると、自衛隊の中にいづらくなるという矛盾もあります。極めて真面目な組織なので、命令があればどんな犠牲を払ってでもそれを行うでしょうが、その命令がないので拉致問題に関わってこなかったわけです。ちなみに、拉致問題対策本部の職員は各省庁からの出向です。防衛省からきても事務官で、しかも防衛とは関係のない業務をしている。自衛隊との連絡将校のようなことはやっていないわけです。 よく例に挙げるのですが、実は自衛隊がはじめて拉致問題に関わったのは、平成25年12月の北朝鮮人権侵害問題啓発週間です。拉致問題対策本部主催のコンサートがあり、海上自衛隊の歌姫こと三宅由佳莉三等海曹が歌を歌ったときがはじめてでした。そこには「拉致問題には自衛隊は意地でも使わない」という日本政府の意思を感じます。自衛隊の存在を忘れていたとか、なんとなく使わないのではなく、「絶対に使わない」という明確な意図があるようです。 吉本正弘さん(元陸上自衛隊特殊作戦群副中隊長、予備役ブルーリボンの会幹事)が第六章で「防衛白書」の北朝鮮の項目に「拉致」に関する記述がないと述べていますが、拉致問題を安全保障の問題だと認めると対処しなければならなくなるわけです。さらに、これまでの論理がすべて破綻してしまうから困るということなのではないでしょうか。拉致問題交渉の場に自衛官を参加させるべきだった 荒谷 田中眞紀子外務大臣のときに、「TCOG:3国調整・監督グループ」という日米韓の外交・防衛部門が集まって北朝鮮問題について議論する枠組みがありました。参加国の外交・防衛部門から代表が出るということだったのですが、日本は外務省だけで、防衛庁(現防衛省)は出席していませんでした。つまり北朝鮮問題は拉致問題も含めて、総じて防衛省は関係なかったのです。おかしいですよね。 ですから私は、会合に防衛庁スタッフも出席できるように田中外務大臣に直訴したら、田中さんは、「そうだったの、それはおかしいわね」と言ってくれましたが、そうしたら、外務防衛両高級官僚から「何を勝手なことをやってるんだ」とひどく怒られました。でも結局は、その会合に防衛庁側が出席してよかったし、出席しないのはおかしいわけですよ。北朝鮮問題に関して、防衛省は当事者になっていないんです。拉致問題だけでなく、いろいろな意味でミサイル防衛以外当事者ではない。 平成28年8月3日に、北朝鮮が日本の排他的経済水域(EEZ)、秋田沖に弾道ミサイルを撃ってきました。そういうミサイルに関しては対処しています。が、防衛というのは対処だけではなく、安全保障問題に平素から絡んでいくのが常識です。でも日本は対処だけ。他国の軍隊が襲ってきたときの対処、ミサイルが飛んできたときの対処というふうにしてしまっているから片手落ちです。日朝間の拉致問題の交渉の場に、制服を着た自衛官を参加させれば北朝鮮に対するインパクトは大きく変わってきます。 荒木 北朝鮮の弾道ミサイルに対して安倍総理は、「我が国の安全保障に対する重大な脅威であり、許し難い暴挙だ」と語ったそうですが、では何をするのかといえば抗議するとか日米韓の連携を強めるといった程度の話です。それなら「許すしかない暴挙だ」の方が適当なのではないでしょうか。本当に許し難いなら具体的な方策を取るのが当然で、それができないならそういう言葉を使うべきではありません。そもそも領土に着弾したわけでもないミサイルが「許し難い暴挙」なら拉致問題は何なのかと思います。 荒谷 せっかく安保法制で、国民の中にも「国は守らなくてはならない」「いざというときには軍事的な対応も必要」というような議論が行われる素地ができてきたのです。もういい加減に、「危険だと判断されれば自衛隊は出さない」とか「後方支援は戦闘ではない」というくだらない議論をせず、「どんな目的でどういうときにどの程度の軍事力を使うことを国民は是とするか」という真面目な議論ができる場をつくっていかなければいけない。 おそらく多くの国民は、すでにそのような議論ができるようになっています。いい加減、馬鹿な議論はやめてくれ、と国民は思っているのではないでしょうか。だから拉致問題も、どうやって自衛隊を使うべきか、その条件がどこにあるのかを議論すればいい。それを本書ではシミュレーションしましたので、叩き台にしてもらえればいいと思います。拉致問題を知らない自衛隊拉致問題を知らない自衛隊 荒木 「予備役ブルーリボンの会」のシンポジウムで伊東寛さん(陸自初のサイバー戦部隊「システム防護隊」初代隊長、現在は経済産業省サイバーセキュリティ・情報化審議官)が、自衛隊には拉致問題に対する危機感がまったくないと指摘されていました。伊東さん自身も二七年間、自衛隊にいて任務に非常に真面目に励んでいたけれども、拉致問題について考えたことがなかった、どこか他国の人の話のように遠く感じていたといいます。 伊東さんは情報関係の部門にもいたので、拉致問題を知らなかったわけではありません。実は非常によく知っていたけれども、それを自衛官の問題として捉えることはなかったというわけです。自分が拉致問題を解決するために汗をかくということを、当時は考えつかなかったという。そしてシンポジウムではこう述べておられます。「私は自衛官として、戦争に備えていると思っていたけれども、すでに日本は戦争をしていたのかもしれない、自分の国の国民が外国の勢力に捕われてしまっているのは、すでに戦争かもしれないと気がつきました」米陸軍(手前)とともに訓練開始式に臨む陸上自衛隊員=2015年12月5日、兵庫県伊丹市の陸上自衛隊伊丹駐屯地 また、伊東さんは普段からブルーリボンバッジをつけていますが、防衛大学校の教授をしている後輩と食事をしたときに、「先輩、そのバッジは何ですか」と訊かれたといいます。防大の教授で、制服自衛官が、ブルーリボンバッジを知らなかったというわけです。伊東さんはすでに民間人なので、彼に「馬鹿野郎!」とは言えなかったそうですが(笑)、丁寧に説明して、自分のバッジを外して彼にあげた。そして、「あなたは防大の先生なのだから、明日からバッジをつけて歩け。おそらく防大生のほとんどがブルーリボンを知らず、『それは何ですか』と訊いてくるはずだから、そうしたら説明しろ」と言ったというわけです。伊東さんは、拉致が犯罪だと思っていたら解決しないと言っておられましたね。 北朝鮮による日本人拉致とは何なのか。普通の国の情報機関が行うような拉致は、その対象が要人などになります。が、北朝鮮はそのようなものではなく、基本的には山賊のやっている人さらいと同じ。そういう意味でいうと北朝鮮による拉致を表現するのは難しいものがあります。日本国内で北朝鮮が行ったことに関しては犯罪ですし、テロという側面もある。山賊が国を運営していて、その国の意思として日本人を拉致したわけですから、そういう意味では戦争ということになりますね。 伊藤祐靖(海上自衛隊「特殊部隊」初代先任小隊長) 私は何でもいいと思うんですよ。自分の国から国民をかっさらっていった奴をどう表現しようがね。犯罪者だろうと敵だろうと、山賊だろうと、何でもいいから、取り返すという話です。テロだろうが戦争だろうが、何かの表に照らし合わせれば拉致はそのうちのどれかに当てはまるのかもしれませんが、その表をつくるよりももっと大事なことがある。 荒谷 私は北朝鮮による拉致とは、少なくとも警察だけが対処する治安上の問題ではないし、外務省だけが対処する外交上の問題ではないと思います。その拉致にどう対処するのか、それを日本政府が決めればいいだけです。 荒木 平成11(1999)年、伊藤さんがイージス艦「みょうこう」に航海長として乗っていたとき、能登半島沖での北朝鮮工作船への対処で、日本初の「海上警備行動」の発令がありました。拉致被害者が乗っている可能性があることを前提としての命令は、そういう意味では日本としてはかなり明確な意思表示だったのでしょうか。現役自衛官は拉致問題に関心が薄い 伊藤 その命令はなかったですね。「拉致被害者が乗っている可能性があるから何々せよ」という命令はなかった。自衛隊得意のアクションだけです。「何々だから何々せよ」は、やはりなかったのです。「みょうこう」に乗っていた我々自衛官が「拉致被害者が乗っているんじゃないか」と思っただけです。我々はあの北朝鮮の工作船の中に日本人がいる可能性が非常に高いと考え、日本人が乗っていることを前提に任務遂行を考えました。 少なくとも私はいままで、上級司令部からの「拉致被害者が乗っている可能性があるので何々を行え」という命令は、見たことも聞いたこともありません。ただ、私も船乗りだったときは拉致問題に限らず、正直に言って、突き詰めて考えてはいませんでした。まだ二〇代から三〇代前半だったので若く、目の前の業務に追われていたわけです。自衛隊のやることなすことには根拠法規がある。だから船乗りだったときは、この業務を年に何回しなさい、というような決まりがあって、スケジュールを組んで、それをこなすことが真面目だと思っていました。 しかし、能登半島沖事案をきっかけに特殊部隊を創設した頃になって振り返ってみると、自分は真面目ではなかったと気がつきましたね。何をすべきかを何も考えていないなんて、頭がどうかしていました。先ほどの荒谷さんの話にもありましたが、その原因は何なのかと言うと「このために行ってこい」というのがないんです。つまり、目的がない。平成19年3月31日、陸上自衛隊中央即応集団の編成祝賀式に黒い覆面姿で出席した特殊作戦群隊員=東京都練馬区の朝霞駐屯地 荒木 私は平成15(2003)年、技能公募の予備自衛官補に応募し、10日間の訓練を終えて予備自衛官に任官しました。そのとき、現役の何人もの方から「ともかく失望しないでくれ」と言われ、最初は何を言われているのかわからなかったものです。予備自衛官は年間5日間の訓練に出頭します。任官して最初の訓練に行くと、その班の方は真面目な方々でした。しかし後で聞いてみると、最近は厳しくなったものの、昔は訓練に来ても昼は熱発(発熱のこと)就寝で訓練に参加せず、夜になるとどんちゃん騒ぎをしてそれを5日続け、手当てをもらって帰るというのが普通だったということでした。 予備自衛官制度は「とにかくあればよいだろう」ということだったのだと思います。一応揃えておいて、最低限のことをやっておく。しかし、それは3・11で激変しました。それまでも少しずつ変化していましたが、あのとき明確に変わりました。3・11のときには翌日に私のところにも連絡があり、災害派遣に行けますかという声がかかりました。いつでも行くと答えて、大学で当時の渡辺利夫学長に事情を説明し、場合によってはご迷惑をおかけしますと言ったものです。学長は理解のある方で、「よしわかった、私が責任をとるから行ってきてくれ」と言われました。結局は招集はかかりませんでしたが、そういうことがありました。だんだんと変わってきていることは間違いありません。よい方向に進んでいます。しかし、その後押しをする世論が内外に向けて必要です。 荒谷 現役自衛官が、拉致問題に対する関心が低いのではないかという指摘は、確かにその通りだと思いますし、一国民として関心を払うべき重要なことだと思います。ただ、自衛官の心情によって自衛隊が実力を行使するようなことは当然あるべきではありません。自衛隊を運用するためには、国家意思が絶対的に必要です。そして、国家意思の決定には国民の意思が必要です。自衛隊は自国の主権、領土、国民を守る実態と実力が必要 戦後の日本はずっと「我が国防衛」のために自衛隊は存在するのだと言っていました。でも実際は、我が国防衛すらしていなかった。していないと言い切るのは極端かもしれませんが、先ほど述べたように基盤的なことしかやっていなかったのです。だから何かあったときには「超法規でもいいからやるぞ!」という、現場にはそういった気持ちを持っている人もいます。装備が少なかろうが、敵が来たらやるしかないと考えている自衛官がいます。 しかし、全体を見ると、やはりやれないんですよ。平成15年まで、有事法制すらありませんでした。しかも、できた有事法制も信号機が赤でも行っていいとか、その程度のものです。なぜそのようなことになるのか。先ほどの話に戻りますが、国全体の理念の準備ができていないからです。まず、自国の安全と防衛を自分達で果たそうという国民の意識、政府の意思が必要なのです。 そして自衛隊は「国軍」である以上、自国の主権、領土、国民を守る実態と実力が必要。その次の段階として、国際的な軍事活動にどんな目的でどの程度参加すべきか、可能性と必要性を考えるという段取りですよ。その中で、アメリカの要求に対して日本はここまで応えましょう、ここから先はやらないという議論ができるようにならなくてはいけない。 つまり、アメリカの国益と日本の国益はどこまで重なっているのかをよく見極め、「トランプ候補がアメリカの大統領になったら、日米の国益が重なるかわからない」などという前に、自国と自国民の安全と防衛は自分の責任で果たすという自覚が必要です。

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    迎撃網は穴だらけ! 北朝鮮の脅威に自衛隊は無力なのか

    る」(最新平成28年版「防衛白書」)。“二正面作戦”を強いられている自衛隊 ノドンは「我が国に対する安全保障上の重大な脅威」(防衛省)であり、防衛大臣は「引き続き、情報収集・警戒監視に万全を期せ」と指示したが、それは難しい注文である。 現にノドン発射の兆候すら探知できなかった。このため海自イージスMD艦も、空自パトリオット(PAC-3)ミサイルの事前展開も、「Jアラート」の発信もなく、政府は自衛隊に破壊措置命令を出すことすらできなかった。『毎日新聞』(8月4日付)紙上で「政府関係者」が語ったとおり「もし日本の領土まで飛んで」いたら「迎撃できなかっただろう」。 翌々日の8月5日には、中国公船が尖閣諸島周辺の領海に侵入。その後も、領海や接続水域への侵入を繰り返した。自衛隊は“二正面作戦”を強いられている。これほど深刻かつ重大な脅威が迫っているのに、NHK以下マスコミ報道の扱いは小さい。この間、テレビや新聞はリオ五輪関連のニュースで埋め尽くされた。 マスコミはノドンの着水地点を「秋田県沖」と報じたが、的を射ていない。標的は秋田県ではなく、青森県の米陸軍「車力通信所」であろう。車力は発射軌道の延長線上に位置し、早期警戒レーダー「Xバンド・レーダー」が配備されている。韓国への配備が決まった迎撃システム「THAAD(ターミナル段階高高度地域防衛)」のレーダーでもある。つまりTHAAD配備への反発に加え、実際に車力を攻撃するための発射訓練であった。もはや発射実験の域は超えた。私はそう考える。 もとより米軍は事態を深刻に受け止めた。米国から要請があったと聞く。日本政府は今後、自衛隊がつねに迎撃態勢を取れるよう、破壊措置命令を常時発令することとした(政府は発令を肯定も否定もしていない)。関連法の想定を超えた異常な発令だが、現行法令上なしうる実効的な対処はほかにない。憲法上、自衛隊は軍隊ではない。ゆえに根拠法令がなければ、迎撃はおろか出動すらできない。 今後は(非公表の)破壊措置命令を根拠として、迎撃ミサイル「SM-3」を搭載した海自のイージスMD艦や、空自のPAC-3が常時展開される。 だが現実問題、イージスMD艦は4隻しかない。定期的な点検や整備の必要上、同時に運用できるのは最大で3隻。そのうち1隻を訓練や演習に充てれば、残りは2隻しかない。じつは2隻あれば、ほぼ日本全域をカバーできる。……ひと安心、というわけにはいかない。なぜなら、MD艦の乗員とて人間だからである。当たり前だが24時間、365日は戦えない。2隻を常時展開するのは“机上の空論”にすぎない。ロフテッド軌道によって迎撃がより困難にロフテッド軌道によって迎撃がより困難に2007年2月、米軍嘉手納基地で配備が完了し、公開された最新鋭の地対空誘導弾パトリオット(PAC-3)(鈴木健児撮影) さらにいえば、空自のPAC-3による迎撃網も穴だらけ。海自のSM-3と違い、PAC-3の迎撃範囲は小さい。すべてフル可動させても日本列島をカバーできない。おそらく都心や米軍基地など特定の拠点防空に絞った迎撃態勢となろう。だとすると、大阪の空にも、名古屋の空にも穴が開く。 ならば、どうすればよいか。MD艦と、能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックⅡA)の整備を進める。加えてTHAADを導入する。それらが整えば穴は塞がるが、それは最短でも2年後以降。それまでは今後も脅威にさらされる。 ノドンに加え、「ムスダン」の脅威も忘れてはならない。いずれも日本を射程に収める弾道ミサイルだ。しかもTEL(発射台付き車両)に搭載され移動して運用される。ゆえにSLBM同様「その詳細な発射位置や発射のタイミングなどに関する個別具体的な兆候を事前に把握することは困難である」(白書)。 北朝鮮は今年4月15日にムスダンを初めて発射させ、失敗した。その直後、私は「今回は失敗したが、次は発射に成功すると想定すべきだ」、「最近の(中略)一部航跡がロフテッド軌道を辿った」、「意図的に高く撃ち上げた可能性が高い。どうやら北朝鮮は本気だ」と警鐘を鳴らした(「時事評論」5月20日号拙稿)。 6月22日、北朝鮮は再び(正確には6度目)ムスダンを発射。高度は1000kmを超え、約400km飛翔し、日本海上に落下した。最新版「防衛白書」を借りよう。《高い角度で発射され、通常の軌道に比べて高高度まで打ち上げる一方で、短い距離を飛翔させる、いわゆる「ロフテッド軌道」で発射されたものとみられる》 さらに白書はこうも注記した。「ロフテッド軌道により弾道ミサイルが発射された場合、一般的に、迎撃がより困難になると考えられている」 上述のとおり通常軌道でも迎撃網には穴が開く。「迎撃がより困難になる」ロフテッド軌道なら、どうなるか。具体的には海自イージスMD艦が搭載する「SM-3ブロックⅠAミサイル」の迎撃高度より、はるかに高い軌道を描く。そのため自衛隊による迎撃は不可能となってしまう。 そこで日米は現在、先述した「SM-3ブロックⅡAミサイル」を開発中だが、最短でも2018年まで配備できない。年内や来年に再発射があり、もしロフテッド軌道を辿れば、日本への着弾が現実の脅威となってしまう。仮に核弾頭が搭載されれば、被害は甚大となろう(詳しくは拙著『日本人が知らない安全保障学』中公新書ラクレ)。 こうした軍事技術の進展に加え、見過ごせない問題がある。再び白書を借りよう。「仮に北朝鮮がこうした弾道ミサイルの長射程化をさらに進展させ、同時に核兵器の小型化・弾頭化等を実現した場合は、北朝鮮が米国に対する戦略的抑止力を確保したとの認識を一方的に持つに至る可能性がある。仮に、北朝鮮がそのような抑止力に対する過信・誤認をすれば、北朝鮮による地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となり得る」金正恩がどう考えているか金正恩がどう考えているか 流行りの「地政学」を“客観”に依拠した分析とするなら、“主観”に着目した分析も忘れてはならない。その意味で右の指摘は重要である。ベストセラーの書名を借りれば、『世界は感情で動く』(モッテルリーニー・紀伊國屋書店)。北朝鮮もその例外でない。 実際に北朝鮮が核の小型化・弾頭化に成功したか、よりも、金正恩にどう報告され、彼がどう考えているか、のほうが重要である。もし彼が「過信・誤認をすれば(中略)強く懸念すべき状況となり得る」(白書)。第2次朝鮮戦争が始まるかもしれない。 今年1月の核実験に始まり、2月のテポドン2派生型の発射以降、多くの「識者」がメディアに露出し「北朝鮮はまだ核の小型化・弾頭化に成功していない」と解説したが、私はひとり異論を表明してきた(月刊『正論』拙稿など)。この点、防衛省の認識はどうか。最新版の白書はこう述べる。「北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられる」 昨年度版の白書はこう書いていた。「北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も排除できない」 要は、この1年間の動き(と最新の『東アジア戦略概観』の表現)を踏まえ、防衛省として「核兵器の小型化・弾頭化」のプロセスが進んだ、つまり脅威が高まったとの認識を示したわけである。もし昨年の記述を踏襲すると“霞が関文法上”そうはならない。そこで微妙に表現を変えたのであろう。本稿執筆中の8月下旬現在、北朝鮮による核実験の兆候が伝えられている。はたして来年度版の防衛白書はどう表現するのであろうか。 話を戻そう。NHK以下テレビ御用達の「識者」らにより「北は弾道ミサイルの再突入技術をまだ獲得していない」とも解説された。しかし過去、北朝鮮はスカッドやノドン、テポドンなど弾道ミサイルの再突入を繰り返し成功させてきた。識者らは「高速で大気圏に再突入する弾頭を高熱から保護する技術はまだない」というが、惠谷治氏(軍事ジャーナリスト)と私は異論を表明してきた。専門にわたるので深入りしないが、ここでも先の“主観”に依拠した“感情論”が当てはまる。 つまり、実際に北が再突入技術を獲得したか、より、金正恩がどう思っているか、のほうが重要である。実際「獲得した」との報告を鵜呑みにした可能性が高い。専門的な技術論や地政学より、そのほうが重要な論点ではないだろうか。いつ何が起きても不思議でない 証拠を挙げよう。ムスダン発射の翌6月23日、北の朝鮮中央放送は「地対地中長距離戦略弾道ロケット『火星10』の試験発射を成功させた」と発表し、「高角発射(ロフテッド)体制」で行なわれたことや、「最大頂点高度1413・6km」まで上昇し、目標水域に正確に着弾させたことに加え、「再突入段階での弾頭の耐熱性と飛行安全性が検証された」と自画自賛した。現地視察を行なった金正恩は「太平洋の作戦地帯内の米軍を全面的かつ現実的に攻撃しうる確実な能力をもつことになった」と豪語した。潜水艦発射弾道ミサイルの実験を成功させた関係者らをたたえる金正恩朝鮮労働党委員長(中央)。朝鮮中央通信が8月25日に報じた(朝鮮通信=共同) たとえ客観的な事実がNOでも、金正恩がYESと考えているなら、「軍事的挑発行為の増加・重大化につながる」(白書)。そうである以上、いくらテレビ御用達の識者が技術的な問題点や地政学的な分析を披瀝しても議論の実益に乏しい。白書はこうも懸念する。「幹部の頻繁な処刑や降格・解任にともなう萎縮効果により、幹部が金正恩党委員長の判断に異論を唱え難くなることや、対南政策を担う統一戦線部の金養建(キム・ヤンゴン)部長が(中略)交通事故死し、後任には強硬派とされる金英哲(キム・ヨンチヨル)偵察総局長が就任したとの指摘もあることから、十分な外交的勘案がなされないまま北朝鮮が軍事的挑発行動に走る可能性も含め、不確実性が増しているとも考えられる」 昨年、(北朝鮮軍で対外工作を担当する)偵察総局の幹部(大佐)と、アフリカ駐在の外交官が相次いで韓国に亡命した(別途、2名の上将、中将と少将の計4名の将官も亡命)。今年4月には、中国のレストランで働いていた男女13人が集団で韓国に亡命した。8月17日には、駐英公使の韓国亡命も明らかになった。「今年に入って、北朝鮮のエリート層の亡命が相次いでいる。(中略)北朝鮮になんらかの異変が生じつつある」(8月23日付「産経抄」)。 これらは白書が懸念する「不確実性」の増大を強く示唆する。6月のムスダン発射、8月のノドン発射と今回のSLBM発射。それら発射の相次ぐ成功は「軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性」(白書)を飛躍的に増大させた。 もはや、いつ何が起きても不思議でない。関連記事■ ついに領海侵犯した中国の「灰色の船」■ 放送法論争、国民は怒っている■ 「サンデーモーニング」の何が気持ち悪いのか

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    核を持つ「反日国家の出現」という朝鮮半島危機に備えよ

    西岡力(東京基督教大学教授) 金正恩政権はついに末期現象を見せ始めた。北朝鮮内部から伝わってくる多数の情報は、商売で自分の生活をどう守るのかしか考えていない住民たちはもとより、治安機関と軍や党の幹部らにさえ見捨てられつつある若い独裁者が、最大の支援国中国指導部を怒らせてしまった姿を赤裸々に伝えている。北朝鮮の労働新聞が8月29日に掲載した金日成社会主義青年同盟の大会で演説する金正恩朝鮮労働党委員長の写真 金正恩は、米本土まで届く核ミサイルを持って第2次朝鮮戦争を仕掛けるという金日成が1950年代に構想し、金正日が住民の15%を餓死させても強行した大戦略を完成させようと繰り返し実験をしている。かなり技術水準は上がり、あと数回実験すれば完成するか、すでに完成した可能性すらある。一方、独裁者が暗殺されるなど政権が突然崩壊する可能性も高まっている。政権崩壊のプロセスで、自分を守るためには何でもする独裁者のエゴイズムが、大規模な軍事挑発や韓国などに対するテロを引き起こす危険性がある。 一方、虎視眈々と半島全体を属国化しようと狙っている中国は言うことを聞かない金正恩にあきれて、厳しい制裁で屈服させるか、本人抜きの「新しい朝鮮」すなわち、親中で改革開放を行い、米韓の影響力を北進させない新政権の樹立を構想し始めている。中国首脳は親中政権樹立の過程で、韓国は対中経済依存度の高さを使っていくらでもコントロールできると判断しているという。 金正恩政権が倒れるプロセスは始まった。我が国と東アジア全体の自由民主主義勢力にとって最善のシナリオは、韓国と北朝鮮住民たちが主導する自由統一だ。最悪のシナリオは、金正恩が戦争やテロをしかけて大きな被害が出ることだ。次悪、あるいは長期的に見ると最悪とも言えるシナリオは、中国主導で金正恩政権が倒され、親中政権が北朝鮮地域にでき、韓国でも米国との同盟を破棄して中国と結ぼうという勢力が政権をとって半島全体が中国の影響下に入り「核を持つ反日国家」となることだ。 最善と最悪の間にさまざまな中間形があり得るが、まずその両極端を頭に置いて、我が国としては、できれば大混乱になる前にまず拉致被害者を助け出し、その上で抑止力を高めるため、現状の日米韓の3国軍事連繋を強める一方、最悪の場合、対馬が「核を持つ反日国家」との軍事的最前線となることもあり得ることを想定して、自衛力を高める努力をしなければならない。白村江の戦いで負けたあとと同じ地政学上の危機が来るかもしれない。現代版「防人」すなわち、憲法改正と軍備増強を急ぐべきときだ。 北朝鮮内部からの情報を紹介しよう。 住民は金正恩への忠誠心を持っていない。昨年10月、労働党創建70周年記念日に金正恩政権が住民に配った贈り物の中に、子供のための飴があった。しかし、国産のその飴は固くて不味いもので、子供らを失望させ、ある地方都市では金日成、金正日の銅像に向かってその飴を献げて「首領さまが召し上がって下さい。私たちは市場で買った飴を食べます」と話した子供が捕まった。金正恩を「肥った奴」と呼ぶ住民たち 同じ頃、中国と接する国境の町で、住民を集めて政治講演会が開かれた。平壌から派遣された党幹部の講師が「中国を信じるな。お前たちは国境に住んでいるので裏切り者がよく出る」と話したとき、聞いていた住民の一人が「そんなに我々を信じられないなら、朝鮮から切り離して中国にくっつけて下さい」と抗議し、その場で捕まった。 住民たちは、信用できる仲間同士話すときは、金正恩のことを本来呼ぶべき「元帥様」と言わず、「あの若い野郎」「肥った奴」などと呼んでいる。 金正恩政権成立5年目を迎え、当初は少しは暮らしがよくなるかもしれないと期待していた住民も、あきらめている。国境地域だけでなく、内陸まで市場では北朝鮮通貨はほとんど使われず、ドルか人民元がないと小さなもの以外買えない。中朝国境近くでは豆腐一丁も全て人民元でしか買えない。 治安機関も動揺している。今年2月から国家保衛部(政治警察)、人民保安省(一般警察)の末端職員の家族に対する配給が止まったという。職員本人分しか配給がないということだ。これまでは、90年代半ば、一般住民への配給が止まって300万以上が餓死したときもこのようなことはなかった。人民保安省職員らは、市場に行って難癖をつけて物資を没収するなどして家族を食べさせることができる。だが、保衛部は捜査の対象が政治犯であるため、捕まえたら収容所に送るか殺すかしなければならず、ワイロを受け取って見逃すとあとで自分が捕まりかねないから、役得がなく、むしろ生活が苦しいという。独裁政権を守る最後の砦と言うべき政治警察が末端から弱体化している。 引退した保衛部の元最高幹部は最近、肉親に「国がどうなるか分からない」と漏らした。末端の地方保衛部員らは、住民をなるべきならつかまえたくないと思っている。現政権は長く持たないから、政権崩壊後に自分たちが人民にリンチされることを恐れているという。北朝鮮・平壌にオープンしたすし専門店でタッチパネルを使い料理を注文する男性客=9月7日  様々な方法で外貨を貯めた新興富裕層(トンジュ)がいまや生産分野にも投資するようになった。社会はほとんど資本主義化している。外貨を払い、労働者を食べさせていけるなら小さな工場や商店の経営権を買うこともできる。一定のカネを上納して雇用する労働者を食べさせることができれば、運送業、薬局、食堂、中小工場の経営権を買える。登録は国営企業などになる。保衛部が金の出所を調査するが30万ドル以下であれば、華僑が投資したというとそれ以上問題にならない。労働者の解雇もできるという。 不動産業者が平壌と地方で営業している。土地やアパートを売買する(使用権という建前)。平壌で住宅を買う場合、最低5万ドル、まずまずの家なら30万ドル必要だという。病院務めの医者も自宅で闇開業している。家の表に紙で「●●科診療受けます」とはる。値段も決まっている。現金だけでなく米やトウモロコシでの支払いも認める。「いつかあの一家も殺される」怖いもの知らずにカネ儲け 金正恩のまわりの何人かを除くと、みなカネが全てと考えている。権力層の息子らはみな、外貨稼ぎ部門にいき、やりたい放題ドルを使っている。国家保衛部長金元弘の息子金チョルは外貨稼ぎの利権を父親の威光で従来の業者から奪い、怖いもの知らずでカネ儲けをし「セキ(子供)保衛部長」と呼ばれている。彼は、平壌で仲閒を引き連れ遊んでいる。いつかあの一家も殺されるとささやかれている。金チョルは金正恩の実兄正哲らとグループを作って平壌で贅沢三昧をしている。正哲は金正恩の了解もらわず海外に出かけている。保衛部もどうしようもない。4月に北朝鮮の労働新聞が掲載した金正恩第1書記(中央)の写真 ついに、昨年から党の秘密資金が枯渇しはじめた。各地方の党責任書記には外貨上納が割り当てられ、それができないと地位を追われる。軍や治安機関幹部らさえ金正恩への忠誠心はない。近く金正恩政権は倒れて、改革開放政権ができることは必至で、そのときまとまった外貨を持っていて鉱山などを買い占めればよい暮らしを維持できるが、それに失敗すれば軍や党の幹部もみな乞食になると考えている。 ソ連が崩壊したとき、外貨を持っていた者は油田やガス田などを買い占めマフィアになったが、それ以外の幹部は使用人となったと、陰で話し合っている。平壌の幹部は改革開放に備えて100万ドル集めることを目標にしており、地方幹部は10万ドルを目指している。物資の横流し、ワイロ、情報を海外に売るなど、地位を利用してカネになることなら何でもする。 金正恩があまりにも多く粛清、殺した。軍では軍団長、師団長クラスは簡単に殺す。党、軍、保衛部ではみな側近になりたがらない。昇進しても一切助言はせず、与えられたことだけする。 昨年の玄永哲人民武力部長公開処刑を見てみな恐れている。姜健軍官学校で行われた公開処刑を参観させられた軍幹部ら、俺たちは何のために生きているのかと感じ、忠誠心を失った。金儲けしか考えていない。 在外公館も本国から外貨は来ず、自給を強いられている。大使の月給が千ドル程度で麻薬や密輸で稼ぐしかない。海外で秘密資金の持ち逃げが続出している。昨年、香港で500万ドル、ロシアで600万ドル持ち逃げされた。秘密資金を管理している党39号室関係者が外貨を持って韓国に逃げた。韓国政府は私有財産は没収しない。まさに「悪の枢軸」 ISと手を組んだ韓国テロ計画 英国大使館公使をはじめ、高官の亡命が相次いでいる。韓国政府の調査によると2014年から16年に韓国に入った脱北者の約7割が「北朝鮮で自分は中・上級の暮らしをしていた」と答えている。経済的理由ではなく、体制への不満から脱北する幹部が増えている。 昨年、韓国マスコミが亡命説を報じ、北朝鮮が「スキー場工事に今も従事している」と否定した朴勝元上将は本当に亡命していることを私は確認した。彼は元人民軍総参謀部副参謀長を歴任した最高幹部の一人で機密情報を多数持っている。朴上将の略歴は以下の通りだ。1946年11月生まれ、現在69歳。人民軍人養成のための最高学府である金日成軍事総合大学を卒業し、1992年4月に中将階級に上がり、人民軍総参謀部副参謀長を歴任した。2000年9月に済州島で開催された第1回南北国防長官会談に北朝鮮側次席代表として参加、2002年4月人民軍上将(星3つ)階級となった。2010年9月、金正恩が後継者として正式に推戴された朝鮮労働党代表者会議で党中央委員に選出された。 韓国政府は認めていないが、私が入手した北朝鮮側の情報によると、亡命した将軍は4人いる。少将1、中将1、上将2。残り3名の名前は不明だ。韓国マスコミがやはり昨年亡命説を報じた朴在慶大将は亡命していないが、第三国で保護されている可能性がある。これまでの軍人亡命の最高位は大佐だったから、将軍が複数亡命した事実は、人民軍幹部の忠誠心がどれほど低下しているかを示す指標となる。北朝鮮の労働新聞が6月23日に掲載した中長距離戦略弾道ミサイル「火星(ファソン)」の発射実験を視察する金正恩朝鮮労働党委員長の写真 内部情報によると、多くの将軍らは金正恩にはついていけない、除去すべきだと考えているが、家族親戚まで粛清されるので機会を待っているという。朴勝元将軍も韓国で金正恩打倒を支援して欲しいと提案したという。 すでに金正恩暗殺未遂事件が2回あった。1回目は2012年11月3日、平壌紋繡通りの建設現場でのことだった。その日、金正恩は完工を控えた複合サービス施設柳京院と人民野外スケートリンク、ローラースケート場を視察するということになっていた。当日朝ある男性が柳京院の近隣の横になった檜の木の下に巧妙に隠されていた装填された機関銃を発見して直ちに保衛部に申告し、暗殺未遂事件が発覚した。事件直後、金正恩官邸と別荘をはじめとする専用施設30ヶ所余りに装甲車100台余りが新しく配置された。 2回目は日本でも一部で報じられた2013年5月、平壌市内での交通事故偽装暗殺企図だった。現場にいた女性交通巡査が「共和国英雄」称号を受けたことから、暗殺説が拡散していたが、北朝鮮は「金日成、金正日の肖像画を火事から守った」という偽情報を流していた。 最後に北朝鮮の金正恩政権がテロ集団ISに韓国内でテロを起こすことを依頼した、という驚くべき情報について書いておく。私が今年4月頃、北朝鮮内部から入手したところによると、米韓軍が斬首作戦(金正恩殺害軍事作戦)演習を行ったことに激怒した金正恩は3月初めISが支配するシリア国内に5人の使者を送り韓国内でのテロ実行を依頼し、見返りとして武器支援を提示した。ISはその依頼を受諾したという。まさに、「悪の枢軸」によるテロ連繋だ。

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    北朝鮮に交渉など通用しない! 脱北者による「亡命政権」の樹立を急げ

     李英和(関西大学教授) 金正恩政権の暴走がどうにも止まらない。外向けは、核ミサイル開発を予想以上に急加速させている。内向けには、高級幹部を相次いで粛清している。 北朝鮮の核問題は長らく「核・ミサイル開発」と表現されてきた。核とミサイルの間に「中黒(・)」を挿入する書き方だ。核弾頭の小型化が進まず、弾道ミサイルの精度と飛距離が不足なので、戦力化はかなり先の話だという前提に立っていたからだ。 ところが北朝鮮の核戦力は実戦配備の段階にまで近づく。今や「開発」の二文字と中黒を取り払い「核ミサイル問題」と表現するのが正しい。核ミサイルの現実的な脅威が周辺諸国の目と鼻の先に迫り来る。 金正恩政権が発足して5年を迎えるが、その間に処刑された高級幹部は100名を越す。確かに金正日政権の発足時にも粛清の嵐が吹き荒れた。犠牲者だけ数えれば、そのときの方が二桁も人数が多い。だが、先代が殺したのは大部分が地方の幹部や庶民だ。亡き金日成を慕う雰囲気を一掃し、金正日時代の到来を世に知らしめるのが狙いだった。ところが、金正恩は高級幹部を狙い撃ちだ。北朝鮮の労働新聞が掲載した、発射訓練を視察する金正恩氏の写真(共同) 側近たちを死の恐怖に陥れ、その余波で海外に逃亡する幹部が相次ぐ。その心はいったい何なのか、理解に苦しむ。 はっきりしているのはひとつ。北朝鮮は暴君の率いる核武装した「ならず者国家」ということである。突然の大きな危険に直面すると、ひとも国家も異様な言動に走ることがある。北朝鮮の核ミサイル問題で、中国の責任は極めて大だ。運搬機器、工作機械、ロケット燃料など、中国の歴代政権あるいは軍部による助力なしには、北朝鮮が核武装することはできなかった。 ところが習近平政権は自国の責任を棚に上げ、高高度防衛ミサイルの配備問題で韓国に八つ当たりする。正気を失っているのは中国だけではないようだ。日本と韓国の言論界と専門家も同じ。防衛ミサイル無用論を言い立て「交渉」による平和的解決を唱える。核ミサイルの迎撃が技術的に困難だとしても、その代案が「交渉」になるわけではない。むしろ経緯を振り返れば、北朝鮮との「交渉」がいかに無力であるかは容易にわかる。 かつてアメリカを含む国際社会は軽水炉建設を含む多額の経済援助を北朝鮮に提供した(94年核合意)。あるいは、韓国の左翼政権が莫大な経済支援をほぼ無条件で10年間も注ぎ込んだ。その結果が、いま目の前にある重大な核ミサイル危機である。交渉で核兵器を放棄するつもりは北朝鮮にない。 だとすれば、交渉以外の手段を探るほかない。有力な代案のひとつは軍事的手段だ。防御が無理と言うなら、攻撃で相手を制するしかない。だが、この選択肢は筆者を含む「平和愛好家」にとってはきつい。戦争を望まないというのなら、別の手段を真剣に急いで準備するほかない。筆者のいち押しは「亡命政権の樹立」だ。暴政に苦しむ国民が海外に亡命政権を作るのは珍しくない。 むしろ、その機運が醸成されないことの方が奇妙だ。だが、北朝鮮では亡命政権の機運が芽生えなかった。それには理由がある。ひとつは、韓国という強力な「反体制勢力」「合法政府」が存在すること。「どうせ統一するのだから、亡命政府は要らない」との論法だ。東西ドイツの場合のように、急激な吸収統一を想定する場合には、合理的で説得力がある。「亡命政権」はヨーロッパで樹立するのが望ましい だが、国際的には北朝鮮は独立国家であり、韓国民の半数以上が即時吸収統一を望まない。周辺諸国も建前上は段階的で平和的な統一を希望する。筆者は即時の吸収統一を強く支持するが、世論がそれを望まないのなら折れるしかない。その場合、金正恩政権の退場後には、何らかの平和愛好的な政権が一定期間存在することになる。それが理屈だ。ここに亡命政権樹立の必要性が生まれる。 もうひとつの理由は、亡命政権の中核となる有力な指導者に恵まれなかったことだ。これまで大物亡命者としては、黄長燁労働党書記(97年韓国亡命、2010年死去)が知られる。だが、黄元書記は政治家というよりも学者だ。亡命の時期も悪かった。亡命して間もなく韓国に親北朝鮮の左翼政権が登場した。おかげで10年間も「飼い殺し」に近い暮らしを強いられた。 その後も脱北者の人数は着実に増えた。だが「旗振り役」を欠くせいで、脱北者は離合集散を繰り返すばかり。亡命政権樹立の機運は一向に盛り上がらなかった。脱北者の団結を欠く情けない状況も、ようやく転機を迎えるようだ。このところ労働党、人民軍、内閣の高位幹部の脱北者が相次ぐ。多彩で有能な人材が蓄積されている。あとは旗振り役が現れるのを待つばかりだ。朝鮮中央通信が報じた軍海部隊を視察する金正恩第1書記(朝鮮中央通信=共同) 亡命政権を支持する国際世論も欠かせない。したがって亡命政権の性格が大切だ。親中でもなく親米でもなく、幅広い国際的支持を得られる中立的な政権。そして、それを体現する人望が厚くて政治力のある指導者の登場。これが期待される。亡命政権の樹立には、韓国政府の理解と寛容が不可欠だ。韓国憲法は当然のことながら、朝鮮半島で唯一の合法政府を「韓国」と明記する。これにこだわれば、亡命政府は受け入れ難い。 また「韓国籍」を取得した脱北者が亡命政権に加わるのも窮屈だ。外見上は「韓国政府の傀儡」と映りかねないからだ。奇異に聞こえるが、日本にある朝鮮総連の幹部と構成員も同じ。彼らの大半は「韓国籍」を持つ。韓国で左翼政権が誕生した際、調子づいて大挙して「朝鮮」から「韓国」に国籍を変えたからだ。 あれこれ消去法で考えると、亡命政権はヨーロッパで樹立されるのが望ましい。韓国以外の地での亡命者、あるいは韓国籍を何らかの形で離脱した脱北者。これらの北朝鮮人が亡命政権の樹立に向けて大同団結する。そして、その他の脱北者が亡命政権に支援を惜しまず、戦争を望まない平和愛好家がこぞって声援を送る。これが現時点で筆者の考え得る最良のシナリオだ。

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    北朝鮮に忍び寄る崩壊の足音

    北朝鮮が5度目の核実験を強行した。建国記念日に合わせた核実験の狙いは国威発揚だが、短い周期で弾道ミサイルの発射を繰り返す背景には、金正恩体制の維持を国際社会に認めさせたい思惑もある。亡命者が相次ぎ、軍事的挑発以外に生きる道がなくなった北朝鮮。忍び寄る「崩壊」のシナリオを読み解く。

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    金正恩に未来はない! 北朝鮮を揺るがす「エリート一家」の亡命

    朴斗鎮(コリア国際研究所所長) 8月24日午前5時半ごろ、北朝鮮は東部の咸鏡南道・新浦沖でまたもや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)1発を発射した。最長の500キロを飛び、日本の防空識別圏内に80キロほど入った海上に落下したとみられる。金正恩委員長は第7回朝鮮労働党大会以後も引き続き核・ミサイル開発と恐怖政治にしがみついているが、その強硬路線が体制内の亀裂を深めている。それは特権層に属する高官・外交官の亡命や中流エリート層に属する海外派遣員などの脱北として表面化している。 かつて脱北は政治的な理由による亡命、生きるための脱北が主流だったが、今では子どもの将来など未来を見据えた脱北という新しいスタイルが登場している。そこには金正恩体制には未来がないと判断する特権・エリート層(特に青年層)の意識変化が背景にある。 最近にも香港で開かれた国際数学オリンピックに参加し、銀メダルを獲得した18歳の男子生徒が7月16日に現地の韓国総領事館に逃げこみ亡命を申請した。 そうした折、韓国統一部は8月17日、在英国北朝鮮大使館のナンバー2、テ(太)・ヨンホ公使(党生活担当)が妻や子どもと共に亡命し、先ごろ韓国入りしたと発表した。 北朝鮮で最高権力層クラスの身分を持つテ氏は、在デンマーク大使館書記官、欧州連合(EU)担当課長、外務省欧州局長代理などを歴任してきた北朝鮮外務省を代表する欧州通のエリート外交官だ。英国では約10年勤務し北朝鮮体制宣伝を行っていたが、本国に呼び戻されるのを前に、先月半ばごろ亡命を決行した。亡命理由に「子どもの将来」を挙げていることから、亡命の背景には子息の「意識変化」が絡んでいると考えられる。 テ氏の亡命は、金正恩政権に大きな衝撃を与えている。テ氏の亡命が衝撃的なのは、彼が英国大使館を実質的に牛耳る党組織担当公使だっただけではない。彼の家系と夫人の家系が北朝鮮政権の根幹である抗日パルチザン人脈に繋がる核心層に属するからである。核心層すら見放す金正恩の「危険な火遊び」 テ・ヨンホ氏の父テ・ビョンヨル氏は、解放前の抗日パルチザン闘争で金日成の伝令兵を務めた人物だといわれている。1997年に死亡するまで、民族保衛相、政治安全局長、党中央委員、党軍事委員会委員、最高人民会議代議員を務め、人民軍大将と共和国2重英雄の称号を与えられている。 また兄と言われているテ・ヒョンチョル氏は朝鮮労働党7回大会で討論した人物だという(JNNニュース2016・8・18)。テ・ヒョンチョル氏は1953年生で党中央委員、金日成総合大学学長、教育委員会高等教育相などを歴任する思想・理論分野の現職重要幹部であり、2015年10月には金日成総合大学代表団のロシア訪問を引率した人物である。 一方夫人のオ(呉)・ソンヘ氏の家系もまたパルチザン家系だ。オ・ソンヘ氏は北朝鮮の最高特権層に属する抗日パルチサン一族の呉白龍(オ・ベンリョン)前国防委員会副委員長(息子はオ・クムチョル軍副総参謀長)の親族だと言われている。呉白龍は金日成主席のパルチザン時代の同志として知られており、党政治局委員、中央軍事委員会委員、護衛司令官を歴任した人物だ。 この「呉氏」の一族は、金日成に忠実な「模範一家」とされている。1960年代末に「遊撃隊5兄弟」の 題名で芸術映画化され(3部作)、北朝鮮だけでなく朝鮮総連幹部たちの忠実性教育の題材にもなった。 最近、呉兄弟の「首領決死擁護精神」に学ぶ運動である第3回「呉ジュンフプ7連隊称号争取運動熱誠者大会」が開催(2016・8・6)されたが、そこには金正恩委員長が直接参加している。しかし皮肉にも、呉ジュンフプの「首領観」に学ばなければならないと強調する大会を開いているその時に、「呉一族」から脱北者が出てしまったのだ。金正恩委員長に与えた衝撃には計り知れないものがある。 高官の脱北では、金正日総書記に大きな衝撃を与えた1997年2月の「黄長燁(ファン・ジャンヨプ)書記」の亡命が思い起こされるが、テ・ヨンホ氏はその地位では黄氏に及ばないが、その家系では黄氏をはるかにしのぐ人物だ。 今回のテ・ヨンホ氏亡命事件は、核とミサイル開発で求心力を強めようとする金正恩委員長の思惑が空回りしていることを示した。核心層でさえ「金正恩の核・ミサイルオールイン路線では北朝鮮の未来はない」と判断しているということだ。 金委員長は、今回のSLBM発射成功で、担当幹部と抱き合って喜ぶ無邪気な姿を労働新聞紙上にさらけ出したが、危険な火遊びにうつつを抜かしているどころではなくなってきている。パク・トゥジン コリア国際研究所所長。1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)など。

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    国際社会は北朝鮮の核兵器開発を阻止できるか

    武貞秀士(拓殖大学大学院特任教授)(PHP新書『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』より) 国際社会は、北朝鮮の核兵器開発を阻止できるのだろうか。 北朝鮮の核兵器開発には長い歴史がある。国家目標と軍事戦略の重要な根幹をなしているからだ。そして金正恩第一書記の体制下、核開発はさらに加速している。2014年4月から実施している新しい義務教育制度の教育カリキュラムは、理数系科目を重視する内容に変わった。義務教育の期間を1年延長して12年とし、物理、化学、数学、英語の時間を増やしたのである。日本の高校に当たる教育では、核分裂と核融合の違いを教え、ロケットの仕組みを高校生が説明できるという。2014年10月、羅先特別市の高級中学(日本の高校に当たる)を訪問したとき、高校生たちは目を輝かせて「科学者になりたい」と語っていた。羅先特別市の街には「科学立国」のスローガンが目についた。 北朝鮮の科学教育の重視は、核兵器開発計画と無関係ではない。北朝鮮に対する制裁を強化することにより、北朝鮮が核兵器開発を断念することはないだろう。 そして各国の姿勢の変化のなかで目立つのは、2016年1月以降の韓国の姿勢の変化だった。1月6日、北朝鮮が核実験をしたあと、韓国は中国との外相同士の電話会談を実現し、朴槿恵大統領と習近平国家主席とのホットラインでの中韓首脳協議を試みた。しかし、このホットラインでの協議に中国が応じたのは2月5日夜であった。 そして中国が中韓の首脳による電話会談に応じたとき、朴大統領は北朝鮮に対する強力で実効的な国連安保理決議の採択に向け、中国側の積極的な協力を要請した。国連安保理で中国が制裁問題に慎重姿勢を続けていることを考慮したうえでの要請であった。 しかし習国家主席は「当事国は朝鮮半島の平和・安定という大局に立ち、冷静に対処しなければならない」と答えた。つまり中国は、北朝鮮への強い制裁は避け、対話で解決しようと答えたのである。 2月7日に北朝鮮がミサイル発射をしたあと、韓国はアメリカとのあいだでTHAADの協議を再開することを表明した。これに対して中国の張業遂筆頭外務次官が2月16日、韓国を訪問して林聖男外務第一次官と会談を行ない、THAADの韓国配備に反対する立場を表明した。林外務第一次官は「韓国の安保と国益の観点から判断する事案である」という韓国政府の立場を張筆頭外務次官に説明した。それに対して張筆頭外務次官は韓国の立場を配慮し、「中国は安保理で新しく強力な対北朝鮮制裁決議案を通過させることに賛成する」と述べたが、実際には、中国は1月以降、強力な制裁には反対していた。 つまりは中国のほうにも、これまでに蓄積してきた中韓の戦略的な協力関係をフイにはしたくない、という苦悩がうかがえるのだ。一方で北朝鮮への影響力を維持するため、強い制裁は回避したい。国際社会の期待は、中国が強い制裁に応じてくれることである。北朝鮮の実験は「中韓離反」をもたらしたのか 中国の政策優先順位はどうなっているのか。その第一は、在韓米軍へのTHAAD配備阻止であるようにみえる。王毅外相は韓国の尹炳世外相との会談で「(配備は)中国の戦略的な安全利益を毀損するものだ」と厳しく批判した。中国のメディアは「THAADが韓国に配備されるなら、戦略と戦術の両面で中国の軍事的な目標に公式に選ばれる」と報道した。 しかし、韓国の方向転換は続いた。朴大統領は2月16日、国会演説を行ない、開城工業団地の全面中断措置を決定した。この演説で朴大統領は、米韓の「共助」、日米韓三国間の「協力」を強化して、中国・ロシアとの「連帯」も重視していくと述べたが、その発言は、中国との関係を格下げし、日米韓協力を格上げしていく、ということを示唆していた。 これは政策転換といってもよい内容だった。韓国の迷いが表れている。中国は韓国の姿勢が変化したことを注視して、韓国政府に警告を発する事態になっている。わずか一カ月のあいだに起きた東アジアの構造変化には、ただ驚くほかはない。韓国はアメリカとの同盟関係と中韓戦略的パートナーシップのあいだで板挟みになり、そして、アメリカとの同盟関係を優先しはじめた。 北朝鮮が核実験とミサイル発射をしたのは、規定路線を確認したにすぎない。実験を繰り返して、アメリカ東部を射程に入れる技術の習得を急ぐ。日本、アメリカ、韓国、中国、ロシアの対応は違っているが、そのなかでも韓国の変化に対し、中国は失望を禁じえないのではないだろうか。 北朝鮮の動きがめだった2016年前半であったが、奇妙なことに北朝鮮が多くのものを獲得していることがわかる。2016年2月と3月、北朝鮮の2つの実験が終わったあと、韓国は中国の姿勢に疑問をもちはじめている。中国が必要以上に北朝鮮を支援しているのではないか、とみなしはじめたのだ。つまり、北朝鮮の行動によって生じた重大事態の一つは、韓国の中国への猜疑心である。北朝鮮の実験が「中韓離反」をもたらしたのであれば、それは北朝鮮の「外交成果」を意味する。ことほどさように、東アジアの国際政治はいつもダイナミックなのだ。 たけさだ・ひでし 1949年兵庫県生まれ。77年慶應義塾大学大学院博士課程修了。防衛庁(当時)のシンクタンクである防衛研修所(のちに防衛研究所と改称)に入り、2011年に統括研究官として退職するまで36年間勤務。その間、スタンフォード大学、ジョージワシントン大学に客員研究員として滞在。11年より2年間、延世大学国際学部で日本人初の専任教授に着任。現在、拓殖大学大学院国際協力学研究科特任教授。著書に、『韓国はどれほど日本が嫌いか』 (PHP研究所)、『東アジア動乱』(角川oneテーマ21)などがある。関連記事■ 呉善花 「反日韓国」の苦悩 ■ 中国は本気で「核戦争」を考えている■ ヒラリーが大統領になると、アメリカの対日政策はどうなる?■ 難民・テロ・甦る国境……ヨーロッパから民主主義が消える?■ イスラームの悲劇~中東複合危機から第3次世界大戦へ

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    部下の失敗許す金正恩 「北朝鮮崩壊論」には現実味なし

    ったことで沈静化したものの、2011年の金正日総書記死去後に再び勢いを増した。 この問題については、安全保障問題で特集を組むことの多い雑誌「インテリジェンスレポート」が今年5月号で「『北朝鮮崩壊論』を検証する」という特集を組んでいた。崩壊論が語られてきた歴史や背景を検証するとともに、経済や軍事といった側面から崩壊論が妥当かを検証する興味深い内容になっている。 専門家で早期崩壊論に与する人は、まずいない。北朝鮮の軍事に詳しい聖学院大の宮本悟教授は「『北朝鮮崩壊論』は、朝鮮半島統一のために北朝鮮が崩壊して欲しいという願望」だと断じ、軍事クーデターが起きる可能性が極めて低いことを論じる。金正恩氏は侮れない相手だ アジア経済研究所主任調査研究員である中川雅彦氏は、経済という観点から検証。1990年代後半にどん底に落ち込んだ後、回復軌道に乗っている北朝鮮経済について「規模がアジア最低水準であるが、高度成長を続けている。食糧事情は飢餓水準より上で満腹の水準より下というものである」と結論づけた。中川氏の論考の副題は「満腹してなくても今日より明日がよく見える社会」である。 また、拓殖大大学院の武貞秀士特任教授(元防衛研究所主任研究官)は「側近の粛清、更迭、承認(おそらく「昇任」の間違い:澤田注)、降格、左遷が目立つのが金正恩第一書記の体制であるが、権力抗争の結果であるのかどうかについては不明である。権力の掌握度が高まった結果、人事権を自由自在に行使しているのが金正恩第一書記であるという見方が可能であろう」と指摘。「絶対にない」ことは世界に存在しないから突然の北朝鮮崩壊に備える必要はあるとしながらも、崩壊論には弊害が多いと説いている。 韓国統一省の高官や韓国の北朝鮮研究者は、「金正恩に関する情報は蓄積がないので判断が難しい」と言い続けてきた。その状態は、これからもしばらく続く。ただ、侮れない相手だとは考えた方がいいようだ。北朝鮮崩壊論は「読み物」としては面白いかもしれないが、それ以上のものではないと考えるべきだろう。

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    命を虫けら以下に扱う金正恩 知られざる北朝鮮「恐怖政治」の実態

    岡本裕明(Blue Tree Management 株式会社 代表取締役) 世の中には不思議なことがいろいろありますが身近な疑問の一つになぜ、北朝鮮はまだ存続しているのか、なぜ、金正恩氏はあれだけの横暴を続けることができるのか、であります。 直近のニュースによると副首相を処刑、その理由はどうも見せしめのようだったというのですが、彼には人の命は虫けら以下、ましてや副首相、あるいは叔父の張成沢氏といった身近な人間だからこそ、見せつけの恐怖政治を極めることができるのかもしれません。もはや、多少の忠誠心では収まらず、命を懸けて金体制を支持しなくてはいつ処刑されるかわからない事態とも言えるでしょう。 北朝鮮には出身成分という身分仕訳が全国民に対して行われているとされます。まず、大まかに「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」という三つの分類があり、それぞれにサブカテゴリーとして13,27,11種あり、合計51種の分類となります。敵対階層の多くは「日帝」の関連者、親日、親米、キリスト教、仏教、哲学者、富裕地主といった人たちがあげられるそうです。また、平壌には主に核心階層のみ居住を許されるともされ、どこまで真実かわかりませんが、同国には少なくとも金三代において国民を牛耳るシステムを作り上げているとも言えます。 また、朝鮮労働党の組織指導部は一種の党員を把握する人事部のようなものでここで作成される人事記録が悪化すれば格下げ、炭鉱送り、処刑といった罰が待ち構えます。全党員と勤労者が参加する土曜日午前10時の「生活総和」は自己批判をしあう会でありますが、参加者は好き嫌いにかかわらず自己批判を通じて組織に把握される仕組みが出来上がっているとも言えます。 こう見てくると流れとしては中国の文化大革命の時と非常に似ています。当時は毛沢東主席が作り上げようとする革命国家に対して紅衛兵が国の隅々まで回り、革命分子を見つけては、自己批判させ、祭り上げ、街中を引きずり廻し、資産を強奪し、命を奪っていきました。あの頃の中国に世界は誰も手を付けられない状態でありました。まさに傍観であります。 が、文化大革命は割とあっさり崩壊しました。一つは四人組の不正、分裂、崩壊、そしてもう一つは毛氏の死去であります。特に四人組の崩壊については結局、それぞれの野心が国民の不信を買い、毛氏の信頼を失ったこともあるでしょう。四人組の一人、江青は毛氏のワイフでありましたが様々な図書を読む限り、このワイフの性格は酷く、悪女そのものでありました。国連に北朝鮮を止める強制力はないのか 現代において北朝鮮が文化大革命とかなり似た状態で国家運営されている事態を見る限りにおいて長くは続かないだろうという予想はあります。ただ、どれぐらい持つのか、という点になるとこれは何ら根拠がなくなってしまいます。1年かもしれないし10年かもしれません。確実に言えることは金正恩氏に権力が集中している限りに於いて彼が末端まで掌握し、コントロールできる体制を維持できれば「基本的国家生命力」はある程度維持できます。 次いで、彼が諸外国との外交を行うにあたり、現在のように敵を作る一方であれば彼は国防を更に強化し、国民に緊張感を与え続けなくていけない一定の「成長」が求められます。 父の金正日氏の時は中国なりロシアなりのサポートがあり、外交的味方がいました。あるいは金正日氏の時代に飢饉があった際にも中国をはじめ日本も食糧支援をするなど基本的国家生命力の維持には人権的見地から手を差し伸べたのであります。それは金正日氏は金正恩氏ほど無謀な敵対外交をしませんでしたし、中国とのコミュニケーションもとっていました。 今の北朝鮮は外国からのサポートはないに等しいといっても過言ではありません。つまり、宣言こそしていませんが緊急事態がずっと続いているようなものでありましょう。国民の疲弊にも限界があります。国外脱出もあるでしょう。外交官からレストランで働く給仕まで脱出を試みるのは当然の成り行きであります。 諸外国はこの事態をじっと見守るしかないのでしょうか?体制という名のもので多くの民が虫けらのように殺害されたり生命の危機に陥れられているのに国連も何処も強制力が使えないのか、使わないのか、譲り合いなのか、火の粉を被りたくないのか、実に悩ましい状態だと言えそうです。(ブログ「外から見る日本、見られる日本人」より2016年9月5日分を転載)

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    北朝鮮金融制裁、中国の非協力

     [世界潮流を読む 岡崎研究所論評集]岡崎研究所 ウォールストリート・ジャーナル紙の6月5日付社説が、北朝鮮を「主要マネー・ロンダリング懸念先」に指定したオバマの対北朝鮮措置について、強制されれば大きな効果がある、オバマは今回本気かもしれない、として措置決定を評価しています。要旨、次の通り。 オバマ政権は北朝鮮を「主要マネー・ロンダリング懸念先」に指定した。これは金融分野で最も強い手段である。これが強制されれば、世界の銀行は北との金融取引を続けるか、米金融システムへのアクセスを維持するかの二者択一を迫られる。金正恩と中国の銀行にとっては難しいことになる。 この措置は時宜に適ったことだ。ミャンマーやイランに対してはこのような包括的な禁止措置を執ってきたが、北には一部の機関や個人に対する制裁しか執ってこなかった。そのため北は外国の銀行と取引を続け、麻薬や通貨偽造、奴隷労働や武器といった闇の市場で獲得した汚い金を動かしてきた。昨年オバマは世界で最も大きな制裁を受けている国家が北朝鮮だと述べたが、それは正しくなかった。しかし今回はそれにコミットしたのかもしれない。iStock 先例は2005年にブッシュ政権が執ったバンコ・デルタ・アジア銀行への制裁措置である。これにより2500万ドルのキム・ファミリーの資産が凍結され、他の銀行は米国の金融システムからの排除を恐れ北との取引を止めた。北は間もなくミサイルの部品や仲介業者への支払いができなくなり、措置の解除を懇願してきた。 ブッシュ政権は国務省のコンドリーザ・ライスとクリストファー・ヒルの強い主張によりバンコ・デルタ・アジア銀行に対する措置を、北朝鮮による非核化の約束と引き換えに、2007年に解除した。しかし予想通り北は約束を反故にした。他方この事例は国際的な金融システムへのアクセスを失うことに対する北のレジームの懸念の大きさを示すことにもなった。 今回の措置の効果は大きいかもしれない。外国の銀行が米のシステムから排除されることになれば、北はバンコ・デルタ・アジアの事例どころではない大きな問題に直面するだろう。 しかし、北の庇護者である中国は米国のシステムに依存しない一部の銀行に北と取引をさせたり、北への援助を強化したりして、米国の措置を阻害することができる。中国は米の今回措置を「一方的措置」であり、制裁は「中国の正当な権利と利益を害する」ことがあってはならないと批判した。中朝は関係修復か 措置の効果は米国がいかに中国を説得できるかにかかっている。その点で今回措置の決定のタイミングは希望をもたらすものである。それは南シナ海を巡り米中の緊張が高まる中、更に年次米中戦略経済対話の直前に、かつ習近平が金正恩の特使と会見した時期に措置が取られたからである。オバマ政権は過去屡々外交日程を考えて強硬措置の決定を躊躇ってきたが、今回は動いた。この措置が今後強制実施されることを希望する。出典:‘Squeezing Kim Jong Un’s Bankers’(Wall Street Journal, June 5, 2016)http://www.wsj.com/articles/squeezing-kim-jong-uns-bankers-1465145840*   *   * オバマ政権による北朝鮮マネー・ロンダリング(資金洗浄)懸念先指定の措置を評価しその強制実施を期待する論評です。論評は特に措置決定のタイミングを評価しています。論評の言う通り、今般の米国の措置は良いことです。 6月1日、米財務省は北朝鮮が核やミサイルの開発資金の不正な送金を続けていることや銀行に対してサイバー攻撃を掛けていることを指摘して、北朝鮮を法に基づくマネー・ロンダリング懸念先に指定、米金融システムへのアクセス拒否を含む金融取引を一段と厳しくする制裁措置を発表しました。これにより北朝鮮の銀行は米国の銀行との取引が禁止されるほか、北と取引を継続する米国以外の国の銀行は米国の金融システムから排除されることになります。財務省は声明で他国政府も同様の措置を講じるよう期待を示しました。 イランを核交渉に動かした要因として米国による金融措置の力は大きいものでした。また、2005~07年のバンコ・デルタ・アジア銀行制裁措置解除に向けた北朝鮮の執念を見れば、金融措置の潜在的インパクトは大きいです。しかし、イランの場合とは違い北朝鮮への効果は不確定だとの指摘もあります。第一は、同様の措置はイランの莫大な石油収入を止めるという大きな遮断効果を持ったが、北朝鮮への遮断効果は限られるとの点です。通貨偽造についても米国がその後100ドル紙幣の仕様を変更したため偽造ビジネスは相当程度できなくなりました。第二は、中国がどれほど協力するかということです。中国は既に今回措置を批判しています。中朝は関係修復か 中朝関係に最近、関係修復とも受け取られうる動きがみられます。5月9日、習近平は金正恩に祝電を送って北朝鮮労働党委員長に推戴されたことを祝いました。さらに、6月1日、習近平は北京を訪問中の李洙墉朝鮮労働党副委員長と会談しました。約3年ぶりの北朝鮮要人との会談でした。その席上、習近平自ら中国が求める朝鮮半島の非核化を念押ししたと言われます。中国の朝鮮半島研究者の中からは「原子力発電などの核開発は進めるが、核実験は封印すると約束したのではないか」との観測が出ているといいます。他方、5月の党大会で金正恩は「責任ある核保有国」を宣言し、核保有国の既成事実化を狙っています。北はイランなどの例も入念に検討しているに違いありません。

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    脱北で異様な緊張感 寂しい北の「建国記念日」祝賀会

    長谷川良(ウィーン在住ジャーナリスト) 9日は北朝鮮の第68回建国記念日だ。それに先立ち、海外の北朝鮮大使館では6日夜、ゲストを招いて祝賀会が開催された。海外駐在外交官の脱北が増加している時期だけに、大使館内の雰囲気は例年とは異なり、緊張感が漂っていたという。建国記念日を祝賀する在ウィーンの北大使館(2016年9月6日午後6時、筆者撮影)  駐オーストリアの北朝鮮大使館(金光燮大使、Kim Kwang Sop)でも同日、ゲストを招いて祝賀会が開かれたが、朝から雨模様で、気温も前日より5、6度低いこともあってか、ゲストの数は少なかった。当方が大使館前で見ていた範囲では、30分間に数人のゲストが目撃されただけだ。大使館の中庭には外交官がゲストの到着を待っていたが、手持ち無沙汰のようだった。 ところで、駐英北朝鮮大使館のテ・ヨンホ公使が脱北したことで、海外駐在外交官への監視の目が一段と厳しくなってきた。今年に入って既に5人の外交官が脱北したという。外交官の亡命防止策として、外交官の家族は帰国を命令されたという情報も流れた。確認はできていないが、6日のウィーンの祝賀会でゲストを接待する外交官の奥さんたちの姿は少なかったという。多くの外交官は単独赴任を強いられるのだろうか(参考までに、韓国の聯合ニュースが7日報じたところによると、「今年1月から8月までに韓国入りした脱北者は894人で前年同期比15%増加した)。 なお、毎年6月末から3カ月間、休暇を兼ねて平壌に戻る金光燮大使(大使の夫人、金敬淑夫人は故金日成主席と金聖愛夫人との間に生まれた長女)は8月中旬にウィーンに帰国している。北朝鮮で休暇を楽しんでいる間に、ウィーン駐在の外交官が脱北でもしたら大変、責任を追及されかねない。そこで今年は大急ぎでウィーンに戻ってきた、というのかもしれない。それとも、金正恩氏の命令が出たのかもしれない。なお、金敬淑夫人は現在、ウィーンに戻ってきている。 ウィーンの大使館の掲示板には9枚の写真が掲載されていたが、今年5月に36年ぶりに開催された第7回北朝鮮労働党大会の写真で占められていた。それも金正恩党委員長の写真だけだ。祖父の故金日成国家主席、父親・故金正日総書記の写真は1枚もなかった。当方の知る限り、祝賀会で両者の写真が展示されなかったのは初めてのことだ。金正恩氏にとって、祖父や父親の助けなくして一人立ちしたことを内外にアピールしたいところだ。好意的にいえば、政権を世襲して今年12月で5年目に入る金正恩委員長の政権掌握の自信の表れだろう。 ちなみに、北では2月の金正日総書記誕生日(光明星節)、4月の金日成主席誕生日(太陽節)には世界各地の北朝鮮大使館でも祝賀会が開催されるが、ゲスト参加数では金日成の誕生日が圧倒的に多い。「金日成主席にはカリスマ性があり、依然人気は高いが、その息子金正日になると人気はガックと落ちる」という。 3代目の金正恩委員長が自身の誕生日1月8日を公式祝日としないのは、父親や祖父の功績への配慮からというより、自らの人気のなさを知ったうえでの判断かもしれない。(公式ブログ「ウィーン発 『コンフィデンシャル』」より2016年9月9日分を転載)

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    核は運べるか? 北朝鮮ミサイルの謎を暴く

     [WEDGE REPORT]能勢伸之 (フジテレビ解説委員兼ホウドウキョク「週刊安全保障」アンカー)【北朝鮮の弾道ミサイル能力を読み解く4つのポイント】1. 日本にとってまず脅威となるのは、技術も運用も確立済みのノドンやスカッドER2. 現在、日本にとって迎撃しにくいのはムスダン。ただし、4月の発射実験は3連続で失敗?3. ムスダンの発射実験失敗で米国本土に届く弾道ミサイルの開発も揺らぐ可能性4. 北朝鮮が発射実験に成功したとする潜水艦発射弾道ミサイルは将来の日本にとって大きな脅威 36年ぶりに開かれた北朝鮮の朝鮮労働党大会で、新設された「党委員長」に就任した金正恩氏は、過去4回の核実験を背景に「核強国の地位に堂々と上がっただけに、それ相応の対外関係を発展させていかなければならない」(党中央委員会活動報告5月7日)と核保有の意義を強調した。だが、「核」は、敵地への運搬ができなければ、「核兵器」にならない。4月23日に実施された潜水艦発射弾道ミサイルの発射試験は、日本にとって大きな意味を持つ(AP/Aflo) では、北朝鮮が今年に入って次々打ち上げた様々な弾道ミサイルはその役割を担えるだろうか。まず、党大会開会の辞で、金正恩氏が「わが軍隊と人民は……初の水素爆弾実験と地球観測衛星『光明星4号』の打ち上げを成功させ……」と意義を強調した、「銀河」。2月7日、衛星の軌道投入に使用された「銀河」は、防衛省では「テポドン2派生型」と呼ばれ、弾頭を大気圏に再突入できる技術力があれば、射程は1万2000kmと米本土もカバーし、〝事実上の弾道ミサイル〟となる。 金正恩氏が2カ月前、「核攻撃能力の信頼性をより高めるため、早期に核弾頭の爆発試験と、核弾頭搭載が可能な様々な弾道ミサイルの発射実験を行うと表明し、準備を命じ」(3月15日付朝鮮中央通信)ていたが、その言葉に沿う形で発射されたのは移動式中距離弾道ミサイル、ムスダンだ。4月15日に1回、同28日には2回と、計3回発射されたが、韓国軍はいずれも失敗と評価している。 さらに、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM/KN-11)発射試験(4月23日)も実施しているが、約30km飛んだところで爆発したとして、韓国軍は、飛翔が短く失敗と見ている。北朝鮮メディアが伝える党大会の金正恩氏の発言に、ムスダンやSLBMを示唆する言葉はなかった。 北朝鮮の保有する弾道ミサイルは大まかに4系統に分かれる。 まずは〝おなじみ〟のノドンに至るスカッド系統だ。1981年にエジプトから入手した旧ソ連の液体推進のスカッドB弾道ミサイルのコピー及び発展型で、別々のタンクに入った液体の燃料と酸化剤をエンジンで燃やし、噴射する。全長を長くして、推進剤を増やし、弾頭も小型化して、射程を1000kmに延伸したスカッドER、スカッドBの直径、全長ともに1・5倍に拡大、エンジンも大型化した射程1300kmのノドンなどがある。ノドンなら東京が射程に入る。北朝鮮の弾道ミサイルその歴史と能力北朝鮮の弾道ミサイルその歴史と能力 米国防総省の資料では、ノドンの移動式発射機は、50両以下とされる。見方を変えれば、この数だけ、ノドンは連射が可能ということになる。この系統のミサイルは、噴射口が1つで、4方向から噴射口に突き出したベーンという板を動かして、噴射の向きを変え、ミサイルの飛翔方向を調整する。北朝鮮は米国に届く弾道ミサイル開発に躍起だ(出所)防衛省「平成27年版防衛白書」など各種資料を基にウェッジ作成 2つ目は、ムスダンに代表される旧ソ連の液体燃料の潜水艦発射弾道ミサイルR-27の系統だ。北朝鮮は、ソ連崩壊(91年)前後に、R-27と、そのエンジン4D10を約50基入手したとされる。4D10は、メインエンジン1基の他に、偏向可能な小型のロケットエンジン2基を組み合わせた構造。小型のロケットエンジンの向きを変えて、ミサイルの飛翔方向を制御する。 R-27は旧ソ連時代に653発が試射され、579発が成功と安定した性能を示したとされる。ムスダンは、全長約9mのR-27を12m余に延長して、燃料と酸化剤の量を増やし、4D10、または、その北朝鮮版エンジンを使用したとみられ、最大射程は2500kmとも4000kmとも言われる。 ムスダンは、最大射程なら日本を飛び越えるが、物理的には意図的に高く打ち上げて手前に落とす方法で日本を狙うことも可能だ。もし発射実験に成功して運用が開始されれば、日本のイージス艦に現在装備されている迎撃ミサイルでは迎撃が困難であり、日本にとって厄介な存在となりかねない。 3つ目は、旧ソ連のOTR-21固体推進薬弾道ミサイルをベースに開発された短距離のKN-02ミサイル。液体の燃料よりも発射準備に時間がかからない固体燃料で、燃料と酸化剤を混ぜたゴム状の推進薬を充填したケースの中で燃焼させ、噴射する。射程150km程度とされるKN-02は、日本には届かない。  4つ目は、先述の「銀河」だ。第1段はスカッドのエンジン4基に偏向可能な小型ロケットエンジン4基、第2段はスカッドまたはノドンのエンジンを1基、第3段は固体推進モーターを使用しているとみられる。つまりこれまでの3系統の〝混成〟といったところ。米本土を狙う大陸間弾道ミサイルとして使用するなら射程1万2000kmに達する。ただし、一度、大気圏外に出た弾頭部が大気圏再突入の熱や振動に耐えられるのか、また、全長32mという大きさから発射準備が偵察衛星や偵察機から見られないように隠す竪穴式の発射装置「サイロ」の有無がカギとなる。 北朝鮮メディアは、3月24日に、弾道ミサイル用の固体ロケットモーター、4月9日に大陸間弾道ミサイル用の液体燃料エンジンの試験の画像を公開し、それぞれ金正恩氏が現地指導したと報じた。それだけ、北朝鮮にとっては重要ということだろう。液体燃料エンジン試験の画像を見ると、噴射の筋に太いのと細いのとがあるのが分かる。これは、何を意味するのか。 朝鮮中央通信は、3月9日、銀色の球体を前にした金正恩氏の「核爆弾を軽量化して弾道ロケットに合わせて標準化、規格化を実現した」との発言を複数の画像とともに報じた。その画像の中に、まだ詳細は不明ながら移動式の3段式大陸間弾道ミサイルと見られるKN-08の、第1段下部と思しき部分に大きさの異なる噴射口が映り込んでいた。4月9日の画像と比較すると、KN-08の1段目は、4D10系列の主エンジンと副エンジンを複数組み合わせたものとも推測され、同様に詳細不明な大陸間弾道ミサイルKN-14も同形式の可能性がある。日本にとって無視できないムスダン(共同) ここで、気にかかるのが、ムスダンの失敗である。4月15日の失敗後、28日まで、北朝鮮の技術者が、何もしなかったとは考えにくい。2週間弱の期間では発見、改善できなかった、何か抜本的問題があることを示唆するのか。もし、それが4D10系エンジンに関わるなら、KN-08やKN-14移動式大陸間弾道ミサイルの性能への〝疑問符〟につながりかねない。 そんな状況のまま党大会を迎えたことが、金正恩氏の「敵対勢力が核でわれわれの自主権を侵害しない限り……先に核兵器を使用せず」との「活動報告」に盛られた核先制不使用表明の背景にあるのだろうか。日米韓のミサイル防衛にかかわる潜水艦発射能力日米韓のミサイル防衛にかかわる潜水艦発射能力 実は日本にとっては、4月23日に試射された潜水艦発射弾道ミサイル(KN-11)の存在が大きい。たった30kmで散ったとしても、それが海中から飛び出し、点火することに成功したからだ。弾道ミサイル迎撃システムを備える海上自衛隊のイージス艦「こんごう」(GettyImages) 先述の通り韓国軍は失敗と評価したが、朝鮮中央通信(4月24日)は「最大発射深度での弾道ミサイル冷発射システムの安全性と新たに開発した大出力固体エンジンを利用した弾道ミサイルの垂直飛行態勢での飛行動力学的特性、階段熱分離の信頼性、設定された高度で戦闘部核起爆装置の動作正確性の確証を得ることを目的として……信頼性の完全な確証が得られ」として、発射準備が短くて済む固体推進薬のミサイルを海中の潜水艦から高圧ガスで撃ち出し点火、所定高度で核の起爆装置試験を行い、成功したと説明した。 米ジョンズ・ホプキンズ大学の北朝鮮分析サイト「38ノース」は、衛星画像の分析から、北朝鮮が弾道ミサイルを撃つためのさらに大きな潜水艦を建造している可能性を指摘した。従来、北朝鮮の弾道ミサイルは地上発射だけだったので、日本も米国も韓国も北朝鮮の方角だけを警戒していたはずだが、潜航中の潜水艦からの発射となれば、警戒すべき方角が広がる。 しかも、金正恩氏は「強力な核攻撃のもう1つの手段」(前掲)と評価していた。どの方角から飛んでくるか、予測しづらい潜水艦からの核弾頭。実現すれば、ノドンとともに日本にとって厄介な存在となるかもしれない。

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    金正恩「核保有」の次は「イスラム国」との連携か

     北朝鮮・金正恩労働党委員長の「偶像化」が進んでいる。36年ぶりの朝鮮労働党大会の開催は、独裁者の権力基盤を固めるためのものだ。この党大会は何をモデルに開催されたのか。そして、繰り返される「核保有」発言と、日米韓インテリジェンス関係者の間に飛び交う「謎の情報」について、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が読み解く。 * * * 5月6~9日、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の平壌で、朝鮮労働党第7回大会が行われた。前回の第6回大会が開催されたのは、36年前で、北朝鮮建国の父である金日成が主宰した最後の党大会だった。 第6回大会で、金日成は、全社会の主体(チュチェ)思想化を提唱し、当時存在していたソ連・東欧諸国などの社会主義国が掲げていたマルクス・レーニン主義とは、一線を画したイデオロギーで、北朝鮮を統治する方針を明確にした。北朝鮮の労働新聞に掲載された、戦闘機のコックピットに着席した金正恩第1書記(聯合=共同) さらに金日成の息子の金正日が政治局常務委員に選ばれ、共産主義国としては異例の世襲体制(王朝)の道筋がつけられた。北朝鮮の憲法では、朝鮮労働党は国家を指導する特別な位置にある。これは旧ソ連のスターリン憲法を踏襲したものだ。 過去36年間、労働党は大会を行っていなかったので、第6回大会で選出された幹部は、既に死去しているか、生きていても加齢で十分な活動ができないと推定される。今回の中央委員も中央委員候補も金正恩派によって完全に固められたと見ていいであろう。1934年にスターリンによって行われたソ連共産党第17回大会は「勝利者の大会」と呼ばれたが、これを金正恩が労働党第7回大会のモデルにしていると筆者は見ている。 問題は、金正恩が今後、核をどう取り扱うかだ。朝鮮労働党の規約改正で「経済建設と核戦力建設を並進させる」という文言が盛り込まれた。北朝鮮は、今後の核実験と長距離弾道ミサイル発射によって、恫喝をかけながら、米国を交渉に引き出そうとしている。ただし、米国と本格的に対峙することを避けるというのが金日成と金正日の政策だったのだが、遺訓から解放された金正恩には抑制が働かない可能性がある。 さらに北朝鮮の工作員が「イスラム国」(IS)の自称首都ラッカに出没しているという情報がインテリジェンス関係者の間で流れていることだ。北朝鮮は、地下秘密基地を造る土木能力に秀でているので、米軍の偵察衛星、無人飛行機やロシア軍の空爆から逃れる本格的な施設をISは必要としているのであろう。 北朝鮮は、過去にもシリアやリビアで地下秘密基地を造った実績がある。旧ソ連は、国際テロリスト・カルロス(終身刑が確定し、フランスで服役中)を支援したことがある。カルロスは、ソ連のルムンバ民族友好大学に留学したときにテロリストとしての訓練を受けたが、思想的に共産主義に共鳴したわけではない。カルロスの西側やOPEC(石油輸出国機構)に対するテロ攻撃が結果としてソ連の利益に役立つので利用したのだ。 ISと北朝鮮は、イデオロギーは異なるが、米国とその同盟国に対する敵対行動については、利益を共有している。北朝鮮の工作員が、ISのテロリストを偽装して、日本や韓国でテロ活動を行う危険に備えなくてはならない。●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。『SAPIO』で半年間にわたって連載した社会学者・橋爪大三郎氏との対談「ふしぎなイスラム教」を大幅に加筆し『あぶない一神教』(小学館新書)と改題し、発売中。関連記事■ 金正恩「表情は20代にしては不遜、不敵で生意気」と評される■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 次の将軍様・金正恩に「取り柄」が一つだけあるとの指摘出る■ 金正恩政権で予想される崩壊シナリオ 「朝鮮統一」「暗殺」等■ 金正恩氏がキューバ議長に親書 米朝首脳会談依頼か

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    「税金がない国」北朝鮮の意外な徴収方法とは!?

    会計のポータルサイト カイケイ・ファン 耳を疑ってしまうようなニュースが日々報じられている一方で、北朝鮮当局が自国民に対して強制的に募金を徴収していることを知っている人はあまり多くはないでしょう。どうして当局がそこまで頻繁に募金を集める必要があるのでしょうか? その背景には、国外ではあまり知られていない北朝鮮の税制事情があるのです。税金がない国、北朝鮮の強制募金の実情とは? 北朝鮮では1974年3月21日に「税金制度を完全になくすことについて」という最高人民会議法令が発布され、同年の4月1日には「世界ではじめての税金のない国になった」という内容の宣言が行われました。こういった経緯から、北朝鮮では4月1日を「税金制度廃止の日」と定めています。 近年では、外貨獲得手段の一つとして観光分野にも力を入れ、消費税や空港税といった税金がかからないというのが他国にはない特徴の一つとなっています。 このように税金がないと聞くと、国民に負担をかけない優しい国のように思う人も多いでしょう。しかし、その実情は決して甘いものではありません。 北朝鮮当局は税金を徴収しない代わりに、何らかの使用量や募金といった名目で、法的裏付けのない金を頻繁に徴収しているのです。さらに付加価値税は「取引収入金」として、所得税は「社会協同団体利益金」として、法人税は「国家企業利益金」として徴収しているようです。 結局、当局が国民に対して金銭を徴収していることには変わりなく、これが北朝鮮における事実上の税制であるといっても過言ではないでしょう。北朝鮮の硬貨税金が「ない国」から「なかった国」へ。北朝鮮の税制が復活する!? 現在、北朝鮮で行われている募金の徴収は、5月に開催予定となっている第7回労働党大会の資金集めのため。当局は「70日間戦闘」と呼ばれる労働党大会のキャンペーンを行っており、募金の徴収もその一環であるといわれています。 しかし、この労働党大会を前にして、税金制度が復活する動きが出ているようです。その背景には、金正恩(キム・ジョンウン)第一書記の意向があるといわれています。金第一書記はスイス留学の経験があり、税金のある生活を送っていたので、北朝鮮に税金がないことに疑問を感じていたようです。 復活が検討されているのは個人所得税であり、新興富裕層が対象になると言われています。これは、新興富裕層がお金によって権力を得ないようにするためだと考えられています。税率などの具体的な内容は未だに決まっておらず、現状では新しい情報が明らかになるのを待つよりありません。 3月2日には国連で北朝鮮制裁決議が採択されました。これによって統治資金の確保に大きな痛手を受けるのではないかと言われています。今回の税金導入が進歩的な理由から検討されたものかどうかはわかりませんが、そうであればいいと思いつつ、今後の動きに注目したいところです。(シェアーズカフェ・オンライン 2016年08月31日分を転載)【関連トピックス】■五輪選手の育成には、税金が使われている?http://www.kaikeinet.com/topics/20160524-21646.html■犬税に営業税、独身税って? 世界の変わった税制が生まれる背景とはhttp://www.kaikeinet.com/topics/20160325-20950.html■ギリシャの高い滞納率 納税意識の低さとその背景http://sharescafe.net/46653453-20151022.html■成立した税制改正関連法。覚えておきたい軽減税率の注意点 カイケイ・ネットhttp://sharescafe.net/48749879-20160603.html■企業版ふるさと納税、現行制度での課題点や懸念点は?http://sharescafe.net/47104676-20151207.html

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    「国防軍」創設から読み解く安倍総理の下心

    自民党の憲法改正草案は、9条2項を削除し「国防軍」の創設を明記する。先の参院選では、憲政史上初めて改憲勢力が衆参3分の2を超え、憲法改正はいよいよ政治スケジュールに上る。安倍首相の悲願でありながら、いまだ多くを語ろうとしない首相の本音と下心やいかに。

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    世界に誇れぬ憲法9条、総理は「洗脳」された世論を正常化できるか

    実を理解していないヒステリックな妄想でしかない。そんなことは絶対にあり得ない。 昨今の日本を取り巻く安全保障環境の劇的な変化に対応し、国民の生命と国土を守るためにこそ、その行動に理不尽な法的制限の課せられた自衛隊を、いかなる脅威にも柔軟に対応し得る世界標準の「軍隊」に改編すべきなのである。 繰り返すが、安倍総理がこうしたことを、国民にわかりやすく根気強く訴えてゆくことが国防軍創設の第一歩となろう。

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    安倍総理よ、憲法改正は「魔法の杖」ではない

    清谷信一(軍事ジャーナリスト)自衛隊は「戦力なき軍隊」 筆者も憲法改正自体には賛成の立場だ。現実問題として現憲法による制約や国防に関する歪んだ「常識」が存在し、それを是正する必要性は筆者も重々承知している。普通の日本人が現憲法を素直に読めば、我が国は自衛隊を含めて戦力を保有できず、交戦権もない、と読めるだろう。当然自衛隊は違憲だし、国防のための戦争もできない。つまりは自衛権を放棄している。それでも多くの国民は国防も自衛隊も必要だと認めている。現実の憲法のギャップを解消しなければならない。  だが筆者は現状での憲法改正は極めてリスクが大きく、改正をすべきではないと考えている。それは政治家の現実認識が非常に甘く、かつ当事者能力が著しく欠如しているからだ。つまり政治家に憲法を改正するための知識や見識、当事者能力がないということだ。 「憲法改正」を求める安倍首相をはじめとする保守の政治家、論壇の「保守の論客」と称する人たちの主張を聞くと、その主張がまるで70年代の観念的平和主義者のような空想的スローガンの連呼と同様に聞こえるのは筆者だけだろうか。  彼らは憲法さえ改正して「普通の国」にして自衛隊を国防軍にすれば、国防に関する全てのことは上手くいく、と思い込んでいるように思える。その一方で、現憲法下で可能な自衛隊を縛る個別の法律や規制の変更には極めて無関心だ。 だが、地道な努力によって防衛省や自衛隊を現実的に変えていかないと、憲法を改正するための実際的な問題点も見えてこないし、現実的な議論のベースができない。実際問題として憲法を改正しなくとも、自衛隊を縛る法令や規制を変えるだけで多くのことが変えられる。 これを怠って憲法を改正するのは、いわば基礎工事を抜きに楼閣を立てるようなものだ。形而上学的な観念や情念だけで憲法を改正してもまともな憲法にはならないだろう。またそのような現実的な変革の努力なしに文言だけを弄ぶ神学論争で新たな憲法を制定しようとしても、多数派の国民の理解は得られないだろう。  かつて小泉政権時代は「有事法」や「国民保護法」が制定され、一定の進歩を見た。「有事法」ができるまで自衛隊はその土地の地主の許可を取らないと塹壕や蛸壺一つ掘れなかった。また自衛隊は野戦病院を持っていたがそれを使うことができなかった。それをやれば「犯罪者」になるのだ。まるで喜劇やコントのようだがこれが現実だ。衆院本会議で有事法制関連7法案が起立多数で可決=2004年5月(撮影・瀧誠四郎).jpg そして未だに自衛隊を縛る法制や規制は少なくない。現在の法制を順守する限り、自衛隊は戦争も戦闘行為も、国民を守るために戦うこともできない。 戦時に国防を全うしようとすると、犯罪者になり、それが嫌ならば侵略されるままに指をくわえて見ているしかない。だから「ミグ25事件」や「オウム真理教事件」の時も、連隊長クラスは腹を切る覚悟で部隊を動かしたのだ。政治と行政の無能が自衛隊の現場の指揮官に責任を押し付けている。これが我が国の「文民統制」の現実である。このような責任の押し付けは文民統制が機能しているとはいえず、法治国家といえない。だがそれを政治家もメディアも大きな問題と受けとっておらず、その解消に不熱心だ。我が国の文民統制に問題点はないと思い込んでいる。保守系も含めて「軍事音痴」「平和ボケ」は度しがたいのが我が国の現実だ。  このような政治の無関心が、法律や各種の規制が自衛隊を歪めている現状を放置している。どうせ「軍隊」でもないし、戦争はできないのだという開き直りや諦めが自衛隊の常識、となっている。当然ながらそのような考えを元にした自衛隊の装備調達や運用は軍事的整合性を欠いている。法や規制は自衛隊の行動を縛るだけではなく、自衛隊から軍事的整合性のある思考力や常識すらも奪いとっているのだ。 その意味では吉田茂の言った自衛隊は「戦力なき軍隊」という言葉は正鵠を得ている。自衛隊が精強だというのはイリュージョンであり、憲法さえ変えれば自衛隊が「軍隊」として機能するというのは幻想に過ぎない。戦争を前提としない平和ボケ戦争を前提としない平和ボケ 右派左派問わず、憲法さえ変えれば自衛隊がすぐにでも戦闘や戦争ができると思っているのであれば、それは「平和ボケ」に他ならない。  自衛隊が戦争を前提としていない平和ボケに陥っている好例は、衛生、特に陸自のファースト・エイド・キットだ。自衛隊は戦争や戦闘で死傷者がでることを組織として想定していない。 近年まで陸自は各隊員には第二次大戦当時と同様に包帯二本を支給するだけだった。5年前の東日本大震災後にはファースト・エイド・キットを導入したが、米陸軍のそれは18アイテムあるのに対して、陸自の海外用は8アイテム、国内用に至っては3アイテムだけだ。ポーチ以外の内容物は止血帯、包帯が各1個だけだ。PKO用ですら途上国のものと比べても大きく見劣りしている。 防衛省は筆者がこの事実を指摘した当時、国内用装備が粗末でも「国内は病院がいっぱいあるから大丈夫」だと主張していた。尖閣諸島のどこに総合病院があるのか。また国内が戦場になった場合、民間人も死傷するわけで、自衛隊が勝手に病院を専有することできない。それは空論に過ぎない。10式戦車(菊池雅之氏撮影) 筆者がこのことを追求したためか、防衛省と陸幕は、その後は戦時には国内用のセットをPKO用と同じように補充する「計画」があると主張を変えた。 だがそれは事実ではない。率直に申せば陸幕衛生部の保身のための嘘である。防衛省には備蓄はなく、業者の流通在庫を当てにするというが、その「計画」とやらは業者すら知らなかったし、現実として流通在庫はほとんど無い。アイテムの多くは輸入品であり、使用期限がある製品を売る当てもないのに貯めこみ、ムダな在庫を抱え込むことはできない。 だが陸幕衛生部は「計画」があると主張して、そのよう防衛大臣や幕僚長に説明しているのだ。このような「思いつき」あるいは「寝言」レベルの話が防衛省では「計画」と称するのであれば、防衛大綱や中期防衛力整備計画などの内容もかなり怪しいと疑わざるをえない。現状維持と組織防衛のために組織のトップを騙すことが恒常化しているのが自衛隊という組織だ。そしてその嘘を政治家は検証することなく信じ込んでいる。 因みに最新式の10式戦車の衛生キットは箱だけで中身が支給されてもいないのだ。これで果たして戦争、戦闘ができるのだろうか。「戦争ごっこ」だけをやっていればよい 「演習」という「戦争ごっこ」 メディック(衛生兵)にしても陸自は概ね250人に一人であるのに対して、諸外国は概ね20名に一人だ。我が国からODAを受けているヨルダン軍など15名に一人だ。しかも自衛隊のメディックは民間の准看護師扱いなので、医官の指示がないと投薬も注射もできない。当然簡単な縫合手術もできない。つまり諸外国のメディックよりも能力が大きく劣る。個々の隊員も他国で支給されるような痛み止めすら持つことが許されない。多少大げさにいえば自衛隊のメディックは石器時代レベルだ。 自衛隊が戦闘や戦争をすれば諸外国の軍隊なら助かる隊員の命や手足が、戦傷による痛みでのたうちまわりながら無為に失われるだろう。まるで旧軍と同じだ。西部方面普通科連隊(菊池雅之氏撮影) このような事態は「駆けつけ警護」でも発生する可能性があるのだ。PKOの駆けつけ警護で自衛隊が多大な損害を出すだけではない。他国の兵士を救護するときに、諸外国のレベルからみて著しく劣った救命処置を行えば、諸外国の信用を失うことになる。安倍首相をはじめ、安保法制を議論した政治家のどれだけがこのような極めて深刻な現実を認識しているのか。たいへん疑問である。  仮に医師法の改正が政治的に難しいのであれば、フランスの軍のように医官を増やして現場に派遣するという手段もある。だが現状自衛隊の部隊での医官の充足率は2割を切っており、インターンに至ってはゼロである。医官を多少増やしても焼け石に水だ。それにも関わらず、組織を改変し、医官を増やす努力は行われていな。反面10式戦車のような武張った威張りの効く「火の出る玩具」だけを喜々として買っているのが自衛隊の現実だ。この現実に防衛省も自衛隊も危機感を持っていない。 防衛省の平成28年度の行政事業レビューの資料では国内用セットをPKO用と同等とするのは以下のように予算的に難しいと説明している。「個人携行救急品を全隊員分確保した場合、約13億円が必要となるが、限られた予算においては現実的な金額ではない。よって、即応隊員分等の最低限必要となる分を確保し、有事等の際において追加で必要となる隊員分の取得方法について検討を実施している」としている。  島嶼防衛やゲリラ・コマンドウ対処などでもファースト・エイド・キットの充実は必要だ。現状連隊規模の戦車部隊が我が国に揚陸してくるような事態は想定し難い。これは「防衛白書」や「防衛大綱」でも認めている。にも関わらず、より優先順位が低い衛生品の、たかだか13億円を使うは惜しい、そのような「ムダなカネ」があれば戦車でも買いたい言っているのだ。平和ボケもいいところだ。あるいは隊員の命を虫けら並とでも思っているとしか考えられない。仮に島嶼防衛もゲリラ・コマンドウ事態も絶対起こらないというのであれば、陸自は大幅に戦力を削減すべきだろう。繰り返すが、このような状況に関して政治は無知であり、無関心だ。  このように自衛隊は死傷者がでることを想定しない。「演習」という「戦争ごっこ」だけをやっていればよい、というのが自衛隊という組織の本質であり、このような組織が真摯に、軍備の整備や実用的な兵器や装備の調達、開発ができるはずがない。やればできたの事なかれ主義やればできたの事なかれ主義 自衛隊の装輪装甲車は車幅が2・5メートル以下となっているが、これは道路法の規制による。だが、その規制は在日米軍を例外扱いしている。ところが衛省や自衛隊は「法令で決まっていることだから仕方ない」と、規制の変更も米軍と同じ扱いをしてくれと要求もしてこなかった。96式装輪装甲車(菊池雅之氏撮影) だが例外規定もあり、法律を改正せずとも国交省に許可をとれば2・5メートル以上の横幅も可能だったが、それすら利用してこなかった。戦争が起こるわけでもない、面倒くさいことはやりたくない、現状維持が楽だからだろう。結果96式装甲車は他国の8輪装甲車と比べて、路外踏破性が著しく悪く、事実上路外で使用できない。軍用の装甲車として失格だ。近年開発された機動戦闘車は全幅が3メートル近くだが、そのまま採用される予定だ。これはメーカー側から「全幅が2.5メートルならまともなものが作れない」と詰め寄られた結果だ。つまり現行法でもやればできたのが、事なかれ主義でやってこなかったのだ。 無線も同様だ。筆者は長年自衛隊、特に陸自の無線は通じないと警鐘を鳴らしてきたが、先の東日本大震災ではそれが現実となった。自衛隊の無線は、国交省から割り当てられている周波数帯が軍用無線にあったものではなく、無線がつながりにくい。しかも新旧3世代同居で相互につながりにくいので尚更つながりにくく、混線も多い。 米軍と演習をしても米軍の無線機が通じるところでも、自衛隊の無線機は通じないことは多い。現代の軍隊は情報化、ネットワーク化されており、音声無線のみならず動画やデータをやり取りするが陸自ではそれは不可能だ。ネットワーク化では既に中進国からも遅れている。この周波数帯の問題を解決しないかぎり、無線機はまともに機能しない。事実最新型のNEC製の無線機もよく通じないと現場の隊員は指摘している。また周波数帯の問題は無人機の運用にも大きな障害となっている。 この周波数帯の問題も法改正など必要なく、政治家が決断すれば解消する話だ。だが政治家は「東日本大震災」という「実戦」の後でも、このような実態に興味すらもっていない。そして通じない「最新型無線機」が無為に調達され続けている。これはいくら憲法を変えても続くだろう。できることから手を付けよすぐにできることから手を付けよ このように憲法を変えるまでもなく、政治家の決断で法改正あるいは、単なる規制の緩和は可能であり。それによって自衛隊をより「戦える組織」にすることは可能である。本来これらの問題点を一つ一つ検証し、それを解消してくことが政治家やジャーナリズムの仕事のはずだ。 だが現実は政治やメディアはこのような地味で時間がかり、専門知識と勉強が必要で面倒な作業が必要な現実には目をつぶっている。現実から逃避してひたすら憲法改正を連呼するか、件法改正絶対反対、自衛隊に戦争をさせるな、という不毛な感情論を戦わせている。職業的な当事者意識と能力が欠如していると言わざるをえない。 ところが多くの保守系の政治家や「保守の論客」諸氏は自分たちこそ、現実派であり、改憲に反対する勢力は原理主義や思考停止だと思い込んでいる。筆者からみればどちらの側も原理主義であり、思考停止にしか見えない。 法律を変えたから外地で戦闘ができるはずだ、お前ら戦闘やってこい、といわれる現場の自衛官たちこそいい迷惑だ。保守の劣化は目を覆うばかりだ。  繰り返すが国防を真摯に考えるならば、まずできることから手を付けるべきだ。有事法の充実と自衛隊を縛る諸々の法律や規制を一つずつ潰していくべきだ。それは今日からでも手をつけることが可能だ。またその過程において様々な議論が起こり、憲法改正の本質的な議論のベースとなるだろう。 すぐにできることをやらずに、憲法改正のみを連呼し、憲法を改正すればすべてが魔法のように上手くいくと思い込むのは夢想であり、観念主義にすぎない。 これらのような法律や規制を撤廃する努力を精一杯行い、それでも問題があるから憲法を改正したいというのであれば、多くの国民の理解も得られるのではないか。逆にそのような努力を一切怠り、憲法さえ変えれば素晴らしい未来が実現すると宣伝しても多くの国民の賛同は得られまい。 実際に既に小泉政権が先鞭をつけて、この問題に手を付けている。できないわけがない。何故それ以降の政権にそれができないのか。憲法改正は「ドラえもん」のポケットでも、すべてを癒やす魔法の杖ではない。

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    東シナ海上空は異常事態 安倍総理よ、中国に断固たる意思を見せろ!

    西村眞悟(元衆院議員) 先の時事通信で、東シナ海における中共の軍艦と戦闘機による領海と領空侵犯に対して、安倍内閣が国家の領域を守るという「断固たる意思」、即ち「命令」を発せられるか否かが、我が日本が平和を維持するか、彼の侵略を受けるか否か、即ち、戦争と平和の分かれ道となる。と書いた。そこで、この重大問題を取り上げ、安倍晋三内閣は、平成二十二年九月の菅直人内閣と同じ愚を繰り返していると警告する。 平成二十二年九月、中国漁船と称する船が、尖閣諸島領海内で、退去を命じる我が国の海上保安庁巡視船の右舷に突進して追突した。海上保安庁は、その船の船長を逮捕して石垣島に連行した。ところが、中共は、中国漁船に加害行為はなく、日本は武器を使って福建省の零細な漁民から生活の糧である漁場を奪っている、日本は昔も今も中国人民をいじめている、と国際社会に宣伝した。菅直人内閣は、この中共の国際宣伝が世界に広まっているのに反論せず、検察は中国人船長を釈放してしまった。 これでは、中共の国際社会に吹聴しているウソが事実として定着することになる。そこで、海上保安官の一色正春氏が、事実を明らかにする為に、中国漁船が我が巡視船に突進して衝突する影像を公開した。これにより、中共の対日非難はウソであることが国際社会に明らかになり中共は沈黙した。一色正春は、我が国の窮状を救った功績を讃えられるべきである。しかし、菅内閣は一色正春を犯罪者扱いした。 平成二十八年六月二十八日、元航空自衛隊航空支援集団司令官織田邦男空将(F4戦闘機パイロット)は、東シナ海上空で中国軍戦闘機が緊急発進した空自戦闘機に攻撃動作を仕掛け、空自戦闘機がミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱した、とする記事を公表した。さらに、織田空将は、戦闘機同士がいったん格闘戦に陥ると、空中衝突やミサイル発射に至る可能性は十分ある、と書き、産経新聞の取材に対して常識を度外視して中国軍機が尖閣上空まで近づいてきている、これが常態化すれば領空の安定は守れなくなると語った。航空自衛隊のF4EJ改戦闘機 六月三十日、自衛隊の統合幕僚長は、四月~六月の対中緊急発進(スクランブル)は過去最高だった昨年同期よりも1・7倍以上の約二百回に達したと発表した。しかし、その前日の六月二十九日、政府は、織田空将の指摘した事実を否定し、織田空将に対して遺憾だと述べた。また翌三十日に対中緊急発進の異常な頻発を公表した統合幕僚長も、政府に歩調を合わせて織田空将の指摘した事実を否定した。 そして、政府や自衛隊内では、退官している織田空将に、現役の誰がスクランブル時の状況をもらしたのかという「犯人捜し」が始められた。すると、中共は、この日本政府の否認を受けて、空自戦闘機がさきに中国戦闘機にレーダーロックオンをして仕掛けてきた、だから我々は正当な対応をした、すると空自戦闘機は赤外線の妨害弾を発射して逃げた、と公表して空中格闘戦(ドッグファイト)があったことを認めたのだ。   このように、東シナ海上空における空自戦闘機(F15)と中国軍戦闘機(Su30)のドッグファイトを空自OBの織田空将がはじめに指摘し、それを、日本政府が否認し、中共は認めた。東シナ海でのスクランブル発進は200回 では、この日本政府の否認を受けて、中共が認めたということは何を意味しているのか。それは、中共の公表内容を見れば明らかである。つまり、中共は、平成二十二年九月と同様に、我が国の沈黙の上に乗っかって、非は日本にあり、正義は中共にありと宣伝しているのである。この事態は、海における菅直人内閣の対応の、空における安倍内閣による再現ではないか。 そこで、目を「現場」に転じていただきたい。統合幕僚長が発表したように、四月~六月の東シナ海上空でのスクランブル発進は二百回、つまり我が国南西沖上空は、スクランブルが一日二回以上の異常事態なのだ。その為に、那覇基地の空自パイロットと機体の整備員は、我が国の領空を守るために、二十四時間待機している。その様子を前に見学したが、彼らは飛行服を着用してジッと待機し、ベルが鳴るとF15に向かって飛び出しコックピットに駆け上がって轟音を響かせて発進してゆく。そして、たった一人で上空で遭遇するのは、ミサイルを装備した中共の戦闘機Su30である。 その時、彼らを支えて任務を遂行させるものは何か。それは、祖国への愛と、祖国を守るという国家の意思を体現した使命感である。しかるに、安倍内閣は、まるで平成二十二年の菅直人内閣のように、事実にフタをして触れることなく、中共の我が空自機に非があるとする宣伝に反論もせずに済まそうとしている。これでは、四月からでも二百回以上、東シナ海上空で身の危険を顧みずに我が国を守っている空自パイロットと整備員が報われない。申し訳ないではないか。これでは、士気が維持できず領空防衛は破綻するではないか。 織田空将が言うように、「常識を度外視して中国軍機が尖閣上空まで近づいてきている、これが常態化すれば領空の安定は守れなくなる」のであるから、今こそ、最高指揮官の安倍総理大臣は、我が国家の領土領海領空を護るという断固たる国家の意思を明確にして、身の危険を顧みずに任務に当たる自衛官を激励すべきである。内閣総理大臣によるその「断固たる国家の意思」の表明が、平和を維持するか、彼の乱を招き入れるかの分岐点となる。安倍晋三首相 安倍総理よ!断ずるに当たって、断ぜざるは、却って、その乱を受くこの警告を忘れてはならない。今、断ずる時が来ている。東シナ海上空の「異常事態」に関する織田邦男空将の警告的公表の記事を見て、我が国の運命に影響を与える公表であると思い、直ちに雨の広島で候補者の中丸ひろむ君とともに、私の任務だと思って心ある有権者に国防こそ緊急重要課題だと訴えた。事態を公表した織田邦男空将に感謝する。(「西村眞悟の時事通信」より 2016年7月27日分を転載)

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    日本は「言うだけ番長」か 中国の領海侵犯には海兵隊で対抗せよ!

    が分かれている。中国はいまや四面楚歌だ。5月末の広島でのG7外相会談でも、伊勢志摩サミットでも「海洋安全保障」がテーマとなり(名指しは避けたが)中国の行動に対する懸念が共有された。シャングリラ会議(第15回アジア安全保障会議、6月3~5日)や米中戦略・経済対話(6月6日・7日)でも中国批判や中国に対する牽制が相次いだ。 シャングリラ会議ではアシュトン・カーター米国防長官が36回も「原則(principle)」という言葉を使い「原則に基づく安全保障のネットワーク(principled security network)」を築くと演説した。いわゆる「九段線」を主張し、南シナ海のほぼ全域が「古来より中国の海」と主張する中国に対して、フィリピン沖スカボロー礁の埋め立てはけっして容認しないと強く牽制。「中国は孤立の“万里の長城”を築いている」とも指弾した。会議で中国を支持した国はなく、中国の孤立が際立った。 米主導の“対中包囲網”に対する反発があったのかもしれない。南シナ海の問題から世界の目を逸らそうと、東シナ海で挑発した可能性もありうる。当時実施されていた日米印の共同軍事演習に対する牽制の可能性もある。実際、6月15日の領海侵犯はインド軍艦艇を追尾する航跡だった。それがたんなる偶然とは考えにくい。同様に、9日の接続水域侵入も、中国フリゲートがロシア艦を追尾する航跡だった。たんなる偶然とは思えない。「日米同盟への挑戦といった趣旨ではなく、中国が領域を主張している尖閣周辺海域を、ロシアの軍艦が通航したことを受けた中国としての主権的行動」と見る専門家もいる。以上どれか1つだけが正しい見方ということではあるまい。 要は、中国が機会をうかがっていた最中、絶好の機会が訪れた。ロシア艦の出現は、日本の接続水域に入る格好の口実になった。そういうことであろう。一部マスコミは「軍の暴走」説を唱えたが、フリゲートや情報収集艦には、中国共産党の政治担当士官が乗艦していた蓋然性が高い。その意向を無視して「暴走」できるほど、中国軍は甘くない。正確にいえば、中国に「中国軍」など存在しない。中国国営CCTVのニュースを見ると、中国人アナウンサーが「日本人が中国軍と呼ぶ人民解放軍」と話す場面に出くわす。べつに正式名称を論っているのではない。 中華人民共和国(中国)の憲法は、その前文で「中国共産党の領導の下、マルクス・レーニン主義」云々と明記し、共産党が中国を「領導」する執政党(政権担当政党)と位置付けている。「領導」は「指導」よりも強く、上下関係のなかで用いられ、「上から命令し、服従を強いる」のが「領導」である。人民解放軍(中国軍)はどうか。憲法第93条と国防法第13条が「中華人民共和国中央軍事委員会は全国の武装力量を領導する」と明記。国防法は「中華人民共和国の武装力量は、中国共産党の領導を受け、武装力量内にある共産党組織は共産党の規則に従って活動する」(第19条)と明記する。解放軍は共産党が領導する、いわば「党の軍隊」であり、国家の軍隊(中国軍)ではない。「党が鉄砲(軍)を指導するのであって、鉄砲が党を指導するのではない」(毛沢東)。トカラ海峡は「国際海峡」ではない 日本の自民党は「自衛隊」を「国防軍」とする憲法改正草案を公表しているが、中国共産党内の議論は真逆である。もし、解放軍を「国防軍」にすれば、「党の軍隊」ではなく「国家の軍隊」となってしまう。軍の防護対象が共産党(政権)ではなく国家そのものとなる。それでは、もし内乱が起こり、軍が中立を維持すれば、政権が倒れてしまうかもしれない。共産党にとって、それは避けたい。だから解放軍の「国防軍」化論は潰されてきた(拙著『日本人が知らない安全保障学』中公新書ラクレ)。共産党の人民解放軍である以上「軍の暴走」という見方自体が的を射ていない。トカラ海峡は「国際海峡」ではない 中国の公船は、昨年度も一昨年度も34回にわたり領海に侵入した。およそ月に3回の頻度で領海侵入を繰り返している。遺憾ながら、日本政府として黙認しているようにも見える。なぜ、こんなことになってしまうのか。そもそも中国船は、領海の外側の接続水域で何日間も待機している。待機しながら、海上保安庁の隙を突くように領海侵入し、たとえば3時間航行したあと、また接続水域に戻る。こうしたパターンが「常態化」している。 そして今回「白い船」ではない「灰色の船」(軍艦)が入ってきた。「白い船」で常態化した右パターンを「灰色の船」で既成事実にする腹であろう。そうなれば、地域の安全保障環境は激変する。絶対に阻止しなければいけない。日本国にそうした危機感があるだろうか。マスコミも中国公船が接続水域に入ろうが、領海に入ろうが、ベタ記事扱いだ。国民も驚かない。中国に慣らされてしまっている。軍艦が入っても一過性の報道で終わり。今日もマスコミは中国艦ではなく、都知事選や参院選の行方を報じている。中国海軍のドンディアオ級情報収集艦 中国の海洋進出は「サラミ・スライス」戦術と評される(6月15日放送フジテレビ報道チャンネル「ホウドウキョク あしたのコンパス」拙コメント)。サラミを薄くカットするように、目立たないように、少しずつ敵対勢力を切り崩し、徐々に既成事実を積み重ねていく。最初は漁船や抗議船だったのが公船となり、やがて公船の規模能力が拡大。兵装した公船から軍艦となり、その軍艦が接続水域に侵入し、ついに領海侵犯した。もはや薄い「サラミ・スライス」というより「厚切りハム」(福島香織氏)に近い。重大な危機感をもって厳正に対処すべき事態である。 いつものごとく中国側は正当性を強弁している。領海侵犯に関し「(屋久島、種子島と奄美群島付近の)トカラ海峡は、国際航行に使われている海峡であり、中国軍艦の通過は国連海洋法条約に規定された航行の自由の原則に合致する」との国防省談話を出した。外務省報道局長も当日の定例会見で「トカラ海峡は、国際航行に使われる海峡であり、各国の艦船は通過通航権を有し、事前通告もしくは承認は必要なく、国際法に違反していない」と主張した。誤解を招く海上保安庁の表現 いずれも国際法上の根拠を欠く。日本の「識者」ですら誤解しているが、当該海峡は国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約)が定める「国際海峡」ではない。国際海峡に関する規定は「海峡内に航行上及び水路上の特性において同様に便利な公海又は排他的経済水域の航路が存在するものについては、適用しない」(第36条)と明記されている。当該海峡は中央に公海が存在しており、国際海峡には当たらない。ゆえに「通過通航権」も発生しない。もちろん「航行の自由の原則」もない。それは公海上の権利であって、領海では「無害通航権」しか認められない。それが世界の常識である。 誤解を招く海上保安庁の表現 問題は通過通航権である。これが認められると「海峡又はその上空を遅滞なく通過すること」や「武力による威嚇又は武力の行使(中略)その他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるものを差し控えること」(条約第39条)などの義務を遵守するかぎり、沿岸国つまり日本の海岸スレスレを、中国の潜水艦が潜没航行できる。中国の戦闘機が上空を飛行できる。中国が「国際海峡」と言い出した背景には、以上の事情があるのではないだろうか。 かつて領海は3カイリだった。それが12カイリとなり、それまで国際航行に使用されてきた海峡が沿岸国の領海でカバーされてしまうことになったことから「国際海峡」の「通過通航権」が認められた。島国であり、安全保障上も重要な海峡を有する日本は困ったことになった。具体的には「宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道及び大隅海峡」である。海峡の幅が24カイリ以内であり、中央の公海部分がなくなれば「国際海峡」となってしまう。 そこで日本は「領海及び接続水域に関する法律」の附則で「特定海域に係る領海の範囲」を定めた。「特定海域」とは右の5海峡である。「当分の間、(中略)特定海域に係る領海は、それぞれ、基線からその外側三海里の線及びこれと接続して引かれる線までの海域とする」と明記した。つまり原則は領海12カイリだが、特定海域は例外として(基線から)3カイリまでが領海と規定した。 この結果、《津軽海峡等は「通過通航権」の認められる「国際海峡」ではなく、ただの海峡ということ》になった(高野雄一『国際法概論』弘文堂)。この点、海上保安庁公式サイトが「国際航行に使用されるいわゆる国際海峡である宗谷海峡、津軽海峡……」と表記しているが、誤解を招く表現ではないだろうか。もし私が中国当局者なら今後、「日本政府が認めているとおり国際海峡」と主張する。本当に「無害通航」だったのか 津軽海峡などを中国の情報収集艦が堂々と通航する現状に憤慨し、「きちんと12カイリを主張し、重要な海峡を領海で塞げ」と主張する保守派の「識者」が少なくないが、そうなれば安全保障上も失うものが大きい。3カイリに留めた「日本の対処は賢明で合理的といえよう」(高野前掲著)。本当に「無害通航」だったのか 無害通航権はどうか。たとえばNHKニュースは「軍艦には領海での無害通航権が認められています」と報道した。民放や新聞も例外でない。マスコミ報道を鵜呑みにしたのか、自民党の国防族議員までが「国連海洋法条約で、無害通航権がある」と指摘した。テレビ番組で「無害かそうでないかは航行の態様で決まる、航行の目的は関係ない」と解説した防衛大臣経験者もいるが、いずれも妥当でない。日本を代表する国際海洋法学者の教科書を借りよう。 そもそも「軍艦に対して無害通航権が認められるかどうかについては、今日も一般条約上の規定がなく、解釈が対立している」「国連海洋法条約でも、軍艦の無害通航権について明文の規定をおくことに合意が成立せず、問題は未解決のままである」(山本草二『国際法』有斐閣)。フィンランドやイラン、ルーマニア、スウェーデンなど、事前許可制その他の国内法上の規制措置を適用する旨、(海洋法条約310条による)解釈宣言を行なっている国もあれば、英米はじめ、それに反対する旨の宣言を行なった国もある(山本草二『海洋法』三省堂)。 以上をどう解釈するかは、通過通航権を含め、津軽海峡を米軍の核搭載原潜が航行するケースで悩ましい問題をもたらす。「事前協議」(日米交換公文)の対象となり、「持ち込ませず」との非核三原則を貫くのか。なら、そうした「船種別規制」を強行する国際法上の根拠は何か。戦後日本は、こうした問題を直視せず、見て見ないふりを続けている。中国側の主張と行動は、そうした日本の隙を突いた格好ともなった。 論点を喫緊の問題に戻そう。6月15日の領海侵犯は本当に「無害通航」だったのか。国連海洋法条約は「通航は、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる」と規定した上で「次の活動のいずれかに従事する場合には、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するものとされる」とし、「沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為」(や「調査活動」)を挙げた(第19条)。 6月15日に領海侵入したのは「情報収集艦」である。まさに「情報の収集を目的とする行為」ではないだろうか。ならば国際法上「無害通航」とはいえない。かつて私は中国公船による領海の侵入を、NHK等が「領海侵犯」と報じ、保守派がそうとう騒ぎ立てたことに異議を表明してきた。国連海洋法条約第17条により「すべての国の船舶は(中略)領海において無害通航権を有する」からである。 だが今回は違う。それこそ領海侵犯と評すべき事態である。数日前まで中国フリゲートの接続水域侵入で大騒ぎしながら軍艦の領海侵入を「無害通航(だから、やむをえない)」と報じ、官民挙げてそう受け止めている。本末転倒ではないか。このままでは中国軍艦の領海侵犯が「常態化」してしまう。 最大の問題は今後の対応である。国連海洋法条約は「軍艦が領海の通航に係る沿岸国の法令を遵守せず、かつ、その軍艦に対して行われた当該法令の遵守の要請を無視した場合には、当該沿岸国は、その軍艦に対し当該領海から直ちに退去することを要求することができる」(第30条)と明記するが、それ以上の規定がない。このため、沿岸国の退去要求に従わない軍艦に対し、武器の使用や武力の行使を含めた措置を取りうるのか、国際法上の論点となっている。 しかも、対応する日本の国内法が未整備なため、現状では実効的な対処が難しい。そこで2012年「日本を取り戻す。」と大書した自民党の「重点政策2012」(民主党でいうマニフェスト)で「『領海警備法』の検討を進めます」と明記されたが、法整備は(護憲派が「戦争法案」とバカ騒ぎした)平和安全法制でも見送られた。いまこそ再検討すべきではないだろうか。必要なのは日本版「海兵隊」 共同通信によると、6月9日未明の接続水域侵入に外務次官が対応した際「もし領海に侵入したら、必要な行動を取る」と中国大使を脅したらしい。事実なら、嘆かわしい。なぜなら、その6日後の15日、実際に領海侵犯されたにもかかわらず、日本政府は海上警備行動を発令しなかったからである。政府は一昨年の5月14日「我が国の領海及び内水で国際法上の無害通航に該当しない航行を行う外国軍艦への対処について」閣議決定した。そこでは「海上における警備行動を発令し、自衛隊の部隊により行うことを基本とする」と明記された。臨時閣議に臨む(左から)石原経済再生相、安倍首相、麻生財務相 併せて「特に緊急な判断を必要とし、かつ、国務大臣全員が参集しての速やかな臨時閣議の開催が困難であるときは、内閣総理大臣の主宰により、電話等により各国務大臣の了解を得て閣議決定を行う。この場合、連絡を取ることができなかった国務大臣に対しては、事後速やかに連絡を行う」とも明記された。要は、電話閣議で自衛隊を出動させるとの閣議決定である。だが、海上警備行動は発令されなかった。それどころか、中国に対する「抗議」すら控え「懸念」の表明に留めた。いったい何のための閣議決定だったのか。大きな疑問を禁じえない。安倍内閣にして、この有り様。なんともやりきれない。正直、私は落胆した。 日本版「海兵隊」を 政府が海警行動すら控える以上、もはや何を書いても空しいが、さらなる問題が控えている。海警行動が発令されても、法律上、正当防衛か緊急避難に該当する場合(または重大凶悪犯罪の現行犯や逮捕した被疑者が逃亡する場合)を除いて「人に危害を与えてはならない」。それ以前の問題として「必要であると認める相当な理由のある場合において」「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において」しか「武器を使用することができ」ない。こんな縛りでは現場が困る。 そこで「船舶の進行の停止を繰り返し命じても乗組員等がこれに応ぜずなお」「抵抗し、又は逃亡しようとする場合」「進行を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる」よう法改正された。だが、それも中国軍艦には適用できない。なぜなら「軍艦(略)を除く」と明記されたからである。いわゆる警察作用でしかない海警行動が法的根拠であるかぎり、撃沈はおろか危害射撃も許されない。 中国による一連の行動は、国連憲章にも、国連海洋法条約にも、日中共同声明にも違反する。国際法上も許されない。だが、仮に日本がそう「抗議」したところで、中国人は聞く耳をもたない。「法」や「言葉」ではなく、「力」だけが中国の行動を抑制できる。結果的に、日本は「言うだけ番長」のごとき対応に終始した(6月20日時点)。領海侵犯されたら、遅滞なく海警行動を発令する。実効的な対処を可能とすべく法律を早急に改正する。諸悪の根源たる憲法九条の改正も進める。陸自の「水陸機甲団」を中核とした日本版「海兵隊」を創設する。いますぐ、そうした作業に着手すべきだ。そうでなければ、すべてが無に帰す。このままなら、中国の高笑いが続く。関連記事■ 「サンデーモーニング」の何が気持ち悪いのか■ 韓国に圧倒される日本の対外発信■ 歴史戦に勝つ「女子力」

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    孤立深める中国軍暴走の危機 「アメリカ頼み」では尖閣を守れない

    井本省吾(元日本経済新聞編集委員) 国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は、中国が南シナ海に設定した独自の境界線「九段線」には国際法上の法的根拠がないと認定した。 同裁判所はこのほか、「南沙諸島には排他的経済水域(EEZ)を設けられる国連海洋法条約上の『島』はなく、中国はEEZを主張できない」「中国がスカボロー礁でフィリピン漁民を締め出したのは国際法違反」「ミスチーフ礁とセカンドトーマス礁はフィリピンのEEZ内にある」などと認定。中国の主張をほとんど退け、中国の国際的孤立を浮き彫りにした。 案の定、中国は逆上し(たふりをし)、「違法茶番劇」(中国メディア)、「紙くず(注―裁判所の判決)に外交努力が邪魔されるべきではない」(駐米大使)と批判して、領有権問題は当事者間の対話で解決されるべきだと、中国政府の従来の主張を繰り返した。中国は二国間対話を進めれば、孤立しないと思い込んでいるのだ。 「これは中国の錯誤である」――。米国の世界的な戦略家であるエドワード・ルトワック氏は近著「中国4.0――暴発する中華帝国」(文春新書)の中で、中国の動きを予測するかのように書いている。 (ベトナムのような)小国は圧倒的なパワーを持つ中国と二国間交渉をするはずはなく、他国の支援、同盟によって対抗しようとする。ベトナムより大きい日本でも同様だ。<中国が大きくなればなるほど、それに対抗しようとする同盟も大きくなるのだ。……中国が日本に対して圧力をかけようとすると、アメリカが助けに来るし、べトナム、フィリピン、それにインドネシアなども次々と日本の支持にまわり、この流れの帰結として、中国は最初の時点よりも弱い立場に追い込まれる。これが(中国の錯誤の)核心である> 安倍首相の活発な海外歴訪が示すように、実際の昨今の動きはそうなってきている。その分、国際法を無視する中国の孤立化が進んでいる。オランダの仲裁裁判所の判決はその決定打というべきものなのだが、中国はそれに気付いていない。あるいは気付いていても対応を変えられないのだ。中国人民解放軍の陸軍機関を視察する習近平国家主席(手前右)=7月27日(新華社=共同) ルトワック氏の「チャイナ4.0」とは、かつて国民党軍の高官が酔っ払って書いた「九段戦」という馬鹿げた地図を放棄し、アメリカの警戒感を解消するために空母の建設を放棄することにある。<(このチャイナ4.0は)今の中国にとって究極の最適な戦略だが、現在の中国にはおそらく実行不可能(だ)> 1つは今の中国は内向きで海外の正確な情報が習近平にまで届かず、極めて不安定だからだ。また、外国を理解できず、「自分たちこそ世界一、後の国は我々の家来だ」という昔ながら「冊封体制」のメンタリティが外国への理解を阻んでしまう。2000年代半ば以降の経済大国化(の幻想、過信)が「冊封」メンタリティをいやまし高め、それが大きな弊害となっている。<今1つは習近平がチャイナ4.0を思いついたとしても、彼は人民解放軍に殺されるかもしれないし、人民解放軍がわざと対外危機を起こすかも知れない> 世界の大国にのし上がりながら、北朝鮮とそれほど変わらない独裁国家の不安定性が増長されている。「今そこにある危機」である。日本の役所の大好きな「先延ばし戦略」は逆効果 では、日本はどうすればいいのか。日本人は今、昨今の尖閣領域への中国軍の侵入の増加などから「中国政府が軍をコントロールできていないために、現場が暴走するのではないか」という懸念を持っている。ルトワック氏は「この懸念は実に真っ当なもの」として対中「封じ込め政策」を提案している。 その提案は結論から言えば「尖閣領域のような小さな島の問題はアメリカに頼らず、自分でやれ」ということだ。米国は核抑止や大規模な本土侵略に対する抑止は日米条約によって提供する。だが、島嶼奪還のような小規模なことにまで責任は持てない。「日本が自分で担うべき責任の範囲なのである」。 ルトワック氏は戦略家として米国の軍事戦略にも深くかかわっている。だから、この姿勢は米政府もほぼ同様だ、と言っていい。 島嶼防衛は日本独自の責務--。そのためには多元的な対中封じ込め戦略が不可欠だ、と提案する。<(海上保安庁、海上自衛隊、陸上自衛隊、航空自衛隊、外務省などが)独自の対応策を考えておくべきなのである。「多元的能力」を予め備えておくことによって、尖閣に関する「封じ込め政策」は、初めて実行可能なものとなる>中国海軍艦が尖閣諸島周辺の接続水域に侵入した問題で記者会見する河野克俊統合幕僚長=6月9日、防衛省 その際、「慎重で忍耐強い対応」という日本の役所の大好きな「先延ばし戦略」は逆効果だ、とルトワック氏は警告する。<そもそも中国は、(過去)15年のうちに三度も政策を変更している。さらに作戦レベルや現場レベルで、ソ連でさえ決して許さなかったような軍事冒険主義が実質的に容認されている> 昨今の東シナ海、南シナ海での中国海軍の危なっかしい行動にそれが現れている。<これに対抗するには、有事に自動的に発動される迅速な対応策が予め用意されていなければならない。中国が突然、尖閣に上陸したとき、それに素早く対応できず、そこから対応策を検討したり、アメリカに相談をもちかけたりするようでは、大きな失敗につながるだろう> 自分でやらずに、すぐにアメリカに頼る日本の外務省の体質を熟知したような指摘である。そして外務省も尖閣侵入のような有事に備えて海外諸国と連携した対応策を用意しておかねばならない、と説く。 例えば、中国との貿易が多いEU(欧州連合)に依頼して、中国からの貨物処理のスピードを遅らせるよう手配する。<こうすれば中国はグローバルな規模で実質的に「貿易取引禁止状態」に直面することになり……かなり深刻な状況に追い込まれるはずだ> 大事なのは、こうした具体的な行動が実現できるように、平時から自力で準備しておくこと。対米依存度の高い外務省や防衛省は「今そこにある危機」に対応し、それをやっているだろうか。そこが問題である。(ブログ『鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌』より2016年7月14日分を転載)

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    憲法9条が国防に支障を来す? 保守のプロパガンダに騙されるな

    がよい」が昨年の63%から68%に増え、「変える方がよい」の27%(昨年は29%)を大きく上回った。安全保障関連法に「賛成」は34%、「反対」は53%で、安保関連法に「反対」と答えた人の93%が憲法9条を「変えない方がよい」と答えた」 毎日新聞「憲法9条、改正反対52% 「憲法改正」は拮抗」 「憲法9条について「改正すべきだと思わない」とする人が52%で半数を超え、「改正すべきだと思う」とした27%を大きく上回った。「憲法を改正すべきだと思うか」については「思う」「思わない」がともに42%で拮抗(きっこう)した。」 NHK「世論調査 憲法改正「必要」27% 「必要ない」31%」「「改正する必要があると思う」が22%、「改正する必要はないと思う」が40%、「どちらともいえない」が33%でした。」 憲法9条についてみてみると、改正すべきでないが多数です。           朝日      毎日    NHK改正すべきでない   68%    52%    31%改正すべき      27%    27%    27% この調査を見る限り、憲法9条は現状維持で当然のことです。政府主導で行われる改憲策動はあまりにも胡散臭く、憲法9条を自民党憲法草案のように「改正」してしまったら、それこそこの日本は、また戦前の暗黒時代に逆戻りです。憲法9条を目の敵にする安倍政権 しかし、それでも思う疑問は2つです。1つは、どちらにも回答しない人たちって何を考えているのだろうということ、もう1つは、改正すべきが27%もいることです。 産経新聞によれば、憲法9条があるから国防に支障を来しているそうです。 「施行69年、国民を守れない憲法… 今こそ9条の改正や緊急事態条項の創設が欠かせない」 現状のどこで一体、国防に支障を来しているというのでしょう。毎年、聖域としてあれだけ莫大な国家予算をぶんどっていますが、自衛隊は世界有数の軍事力にまで肥大化しています。この憲法の枠組み、歯止めをさらに取っ払わなければ国防に支障を来すということは、さらなる軍事力増強を目指すという意味でもあります。昨今、安倍政権は核兵器を持つことも化学兵器を持つことも憲法に違反しないなどと言っています。恐るべき軍事力増強への執念です。 さて、安倍政権は憲法9条を、これでもかというほど目の敵にしています。日本の右翼層はこぞって自主憲法だ、軍隊だと声高に叫んでいます。何故でしょう。安倍氏らが決まって口にするのが中国や北朝鮮の脅威論です。これだけいつでも脅威論を叫んでいると「オオカミ少年」そのものなのですが、実際に現状の自衛隊の軍事力でも十分すぎるくらいのものです。 このような経緯からすれば、この憲法9条の「改正」の意味(争点)は、現状の維持か(従来ベースでの増強)、それとも、さらなる飛躍的な軍事力の増強と国軍化、さらには日本の防衛とは直接の関係のない海外で戦闘行為を行うことの是非です。護憲派の集会でメッセージを掲げる参加者(東京都江東区) マスコミの世論調査もしっかり前提を踏まえた上での調査をやってもらいたいものです。NHKなどは「どちらともいえない」に誘導したかった動機が見え見えです。 さて、これに対する典型的な言い掛かりがこれです。 「「立憲主義を守れ!」と騒ぐなら、自衛隊を否定すべきだろう。」(岩田温の備忘録) 典型的な争点のすり替えでもあるのですが、要は「憲法9条を守れ」というのであれば自衛隊を解散しろというのか!」というレベルのものです。仮想敵国の脅威というプロパガンダにだまされるな 自衛隊創設時であれば、このような争点設定も当たっているのですが、現在、日本は自衛隊という世界にもまれにみる巨大な軍事力を保有しています。ただ少なくとも海外での戦闘行為は憲法上できないということで大きな制約を課してきました。保有する軍事力も大きく制約されてきました。軍事力を米軍のもとで世界に展開したいと考えていた日本支配層にとっては憲法9条は邪魔な存在そのものでした。 その現状の枠組みを取っ払うのかどうか、というのが争点です。 欺されてはいけません。今時の9条の改憲の争点は、自衛隊が合憲か違憲かというのは争点ではありません。典型的なすり替えにころりと欺されてしまうと、9条改憲に賛成してしまったり、あるいは「どちらともいえない」などという心許ない選択になってしまいます。憲法を変えたがっている安倍自民党は決して自衛隊は違憲状態だから憲法改正によって憲法に適合させるなどとは言っていないのです。 欺されてはいけません。実際に中国や北朝鮮が本当に日本本土に侵攻してくるのかどうかということも冷静になって考えてみればわかることです。今、現実に中国や北朝鮮が日本本土に侵攻してくる計画があるのですか?中国、北朝鮮脅威論はすべて安倍政権側によって垂れ流されたプロパガンダです。何故、この程度のことに欺されてしまうのでしょう。東西冷戦下と全く事情が違うということすらも理解できていないのかもしれませんが、東西冷戦下では、それぞれの政治体制を守るため、双方が軍事力を対峙させてきたものであり、東西間では経済的な結びつきは全くなかったものです。現在、貿易相手国として、日米にとっても中国は不可欠の存在になっているのに、これで戦争状態に突入ですか。 ところで、最近、台湾が沖ノ鳥島問題で、軍艦を差し向けるそうです。「台湾が沖ノ鳥島問題で海軍艦を派遣へ 馬英九政権の対日強硬姿勢に歯止めがかからなくなってきた…」(産経新聞2016年5月2日) 台湾と開戦しますか。台湾を仮想敵国として軍事力増強しますか。憲法9条の改正しますか。この程度のことで騒いでいたら、夜もおちおち眠れなくなってしまいます。それ以上に日本が海外で武力行使をしてくる国になる方がよほど怖いと思いますよ。戦争の当事国になるわけですから。 憲法9条の「改正」の是非は、争点ずらしに欺されてはいけません、仮想敵国の脅威というプロパガンダに欺されてはいけません。9条を含む現行憲法を守りましょう!(弁護士 猪野 亨のブログより転載)

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    日米同盟解体・自主防衛のコストは25兆5319億円

     今後考えられる在日米軍の縮小・撤退は、日本を安全保障上の危機に晒すことになる。ドナルド・トランプ氏が米大統領になるか否かにかかわらず、日本における米軍の力が減じていくのは避けられないだろう。ならば、どう自力で国を守るかを考える必要がある。制約が多い自衛隊ではなく、国際的に見てもスタンダードな国防軍の創設を想定したとき、どれくらいのコストがかかるのか。 国防軍を創設する場合、現実的に大きな壁となるのは、コスト(費用)だ。国防軍創設の鍵はコスト(写真:菊池雅之)「日米同盟にも、コストがかかっています。一方、仮に日米同盟がない場合にどのくらいのコストがかかるのか。自主防衛を議論するにはそうした総合的な評価が必要です」 そう語るのは、防衛大学校の武田康裕教授だ。武藤功・防衛大学校教授との共著『コストを試算! [日米同盟解体]』(毎日新聞社)での試算を紹介しよう。●日米同盟のコスト 日本の防衛費は4兆6453億円(数字は武田氏が利用した2012年度予算に基づく)で、これには米軍の駐留に関わる経費負担も含まれる。日本は「思いやり予算」などで在日米軍の駐留経費や米軍再編関係経費など4374億円を負担しており、この額が同盟維持の「直接経費」となる。 同盟維持にかかるコストは他に「間接経費」がある。「税収や経済効果など、基地があることで日本が失う利益(機会費用)は約1兆3284億円。これを直接経費の4374億円と合算した計1兆7658億円が日米同盟を維持する総コストになります」(武田教授)自主防衛のコスト●自主防衛のコスト 日米同盟は米軍が「矛」、自衛隊が「盾」の役割を担う。仮に完全自主防衛するためには、[1]島嶼防衛のための部隊と輸送力(2993億円)[2]攻勢作戦を担う空母機動部隊(1兆7676億円)[3]対地攻撃能力と対空戦闘能力を持つ戦闘機(1兆1200億円)[4]日米が共同開発したミサイル防衛システムに代わる情報収集衛星や無人偵察機(8000億円)我が国の防衛体制を改めて考えるべき(写真:横田徹)[5]ミサイルを打ち込まれた場合に被害を最小化する民間防衛体制(2200億円)が新たに必要になる。総額は4兆2069億円だ。 また仮に日米同盟が解体するとなれば、日本の国際的な評価が下がり、貿易額の減少、エネルギー価格の高騰、円・株式・国債価格の下落による経済低迷が想定される。これらを「間接経費」というが、貿易額が6兆8250億円で、円・株式・国債価格の下落が12兆円、エネルギーが最大2兆5000億円で、合計21兆3250億円となる。 直接経費と間接経費の総額は、最大25兆5319億円に達すると武田教授は推計する。  以上は「日米同盟解体」という極端なケースを仮定した試算だが、より現実的なのは、日米同盟を維持しつつ、日本の防衛力を高め、機能を拡充する方法だろう。 「トランプ氏が日本の経費負担増を求めるなか、日米同盟の枠組みを維持したまま、日本の防衛努力を現状より増やす方向もあり得る。核の傘に加え、ミサイル防衛システムを支える高度な技術と情報を米軍に頼りつつ、尖閣など島嶼防衛やシーレーン対策で日本の負担を増やせば、それに応じて負担が軽減される米国は歓迎するだろう」(武田教授)  このやり方なら全面自主防衛より低コストで安全保障を維持できる。コストを試算! 日米同盟解体 ―国を守るのに、いくらかかるのか―関連記事■ 「米国内の日米同盟破棄論」少数意見だが米孤立主義の反映■ 安倍首相 抑止力の意味を含め日本独自の打撃力を備えるべき■ 米国内の日米同盟「縮小論」 どんなシナリオで進むのか■ 米国元高官「日米同盟の役割理解できなかったの鳩山氏だけ」■ 「子ども手当1年分で日本は空母を持てる」と櫻井氏指摘

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    尖閣有事、自衛隊は何ができるか

    い。東シナ海にも触手を伸ばす中国との「尖閣有事」に、自衛隊は何ができるのか。国境の最前線からわが国の安全保障を考える。

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    激化する中国の軍事行動、自衛隊は憲法違反を犯すしか対抗できない

    になりません。では自衛隊ならば相手になるのかというと、今のところ一概にそうとは言えないところに我が国安全保障の問題点があります。 何しろ最高法規である日本国憲法の前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と謳い、他国が侵略してくることを想定せず自国の安全や国民の生存を他国に委ねているわけですから是非もないのですが、そろそろ米国の作った憲法に基づく「専守防衛」という自縄自縛のまじないにより、最初の一発を撃てないと固く信じ込まされている人たちも現実を直視して眼をさまし、最初に誰かが犠牲にならなければ国を守れないという我が国の防衛体制の問題点に真正面から取り組んでいただかねばなりません。 この問題は票にならないだけではなくマスコミや野党から攻撃される面倒なことかもしれませんが、面倒だからといって放置するのは、その不作為により犠牲者が出ることを容認しているのと同じことで、最前線で祖国防衛の任に就いている人間の生命を軽んじていると言っても過言ではなく、そんなものは「平和主義」でも何でもありません。 こう言うと、専守防衛であっても「相手が攻撃の意思を見せた時には先制攻撃が許される」「だからと大丈夫だ」と反論される方もいるでしょうが、はたして今から殴りかかる相手に「今から殴るぞ」と宣言してから殴りかかる人がいるでしょうか。よく例にあげられるのが「日本を攻撃する意図をもってミサイルに燃料を注入し出した時点で敵ミサイル基地を攻撃することは可能である」という話ですが、相手国の人間も馬鹿ではありませんから本気で日本を攻撃するつもりであれば、簡単にばれるような方法で準備するはずはなく、仮にその端緒をつかんだとしても、どうやって相手の意図を確認するのでしょう。まさか相手に「今からどこを攻撃するのですか」と訊いてから判断するつもりなのでしょうか。 ミサイルが発射され着弾地点が判明してからでは遅いのです。いずれにしてもスパイ組織を持たない我が国が単独で相手国の情報を得ることは非常に困難であり、このような話は机上の空論としか言いようがありません。そして何よりも今までの日本政府の対応を見ていると、普段は法令解釈上可能であると言っていたとしても、いざというときに攻撃をためらうあまり、それとは違う別の解釈を持ち出して決断しない可能性もあり、実際に適正なタイミングで攻撃命令を下せるかどうかは疑わしいと言わざるを得ません。やはり憲法をはじめとする国家の安全保障にかかわる重要な法令は、解釈によって違う意味にとることができるようなものではなく、誰がどう読んでも同じ解釈しかできないようなものでなければなりません。それに憲法が国家権力を縛るものだと言うのであれば、すべての公務員に我が国の領域を守る義務を課すべきです。 そして法令以上に深刻なのが、我々日本国民の意識の問題です。極端に戦争を恐れるあまり、見たくないものは見ず、聞きたくないものは聞かず、考えたくないものは考えないで70年以上過ごしてきたため、国民の大半は安全保障に関する知識と理解が極端に欠乏しており、そこに野党やマスコミが付けこんだのが昨年の安保法成立を巡る騒動です。中国は挑発に対する日本の反応を見極めている 憲法を護り、他国と対話をするだけで平和が保たれるのであれば、こんな楽なことはなく、少し考えれば実現不可能であることくらい小学生でもわかる話なのですが、自分は頭が良いと思っている人ほど自らの過ちを認められないため、思考の袋小路に逃げ込み現実を見ようとしません。口先だけで平和を唱えていた人たちが、ナチスドイツの軍備増強や領土拡張に目を瞑り結果的に第二次世界大戦を引き起こした歴史の教訓を忘れてはなりません。  このような日本国民の意識の弊害が顕著に現れたのが最近の東シナ海における中国の乱暴狼藉に対する我が国政府の対応です。おそらく選挙期間中であるため、普段より戦争アレルギーの人たちに配慮し、マスコミの印象操作を恐れているのでしょうが、あまりにも腰が砕けた態度では、敵に侮られるだけではなく、南シナ海で懸命に中国と対峙している国々に申し訳が立たないばかりか、昔の日本を知る国や同盟国からの信頼を失い、そして心ある日本国民から見放され9年前の参議院議員選挙のように本末転倒の結果になりかねません。東シナ海 自民党が政権に返り咲く事が出来たのは民主党政権の安全保障に関する無能ぶりに危機感を抱いた多くの国民が、もう彼らには国政を任せられないと3年半前の総選挙で判断したからです。そして安倍晋三であれば中韓に対して卑屈な態度をとらないだろうと期待したからこそ再度、総理大臣に選ばれたのです。昨今の自民党のだらしなさを見ていると、民主党と同じ轍を踏まないかと心配になるくらいです。現政権は反対勢力が、いくら「アべ政治を許さない」と吠えたところで倒れません。倒れるのは安倍晋三に日本の将来を託した人たちが失望した時です。 そこら辺を理解している中国は、今までの総理大臣とは違い、自分たちの言う事を聞かない安倍晋三をその座から引き降ろすべく日本に対して様々な工作活動を仕掛けてきます。中国という国は孫子の兵法を読めば解るように正々堂々と戦うことより謀をもって敵を欺き勝つことを至上としている国ですから、自分たちの挑発に対する日本の政府や国民の反応をじっくりと見極めて、何が日本の弱点なのかということを研究し、その弱点を突くべく虎視眈々と我が国を狙っており、現に尖閣諸島侵略の最大の障害である沖縄基地の海兵隊を撤退させるべく「夷を以て夷を制す」作戦を実行中です。そんな彼らが次の標的に選んだのが、今回の参議院議員選挙です。何しろ、彼らには国政選挙ではありませんが日本の首相を決める2010年の民主党代表選挙という成功体験がありますから、おそらく7月12日に南シナ海の問題に関して自分たちに不利な国際仲裁裁判所の判決が出て、国際社会から非難を浴びる前に既成事実を作ろうと考えたのでしょう。 中国は日本だけではなく1996年に台湾で初の直接選挙が行われようとしていた時も、台湾国民にプレッシャーをかけ選挙結果に影響を与えようとして軍事演習を行い台湾海峡にミサイルを撃ち込みましたが、アメリカ海軍が台湾周辺に空母を終結させ、武力による脅しには決して屈しないという態度を明確に示し、中国の軍事的圧力に反発した台湾国民により選挙結果も中国が望まない李登輝総統が大差をつけて当選したので、以降、この結果に懲りた中国は台湾の選挙に対して軍事的な圧力をかけることはしなくなりました。選挙期間中は日本への攻撃が有効であるということを彼らに思わせるような行動だけは慎まなければならないのです。然るに日本政府は、中国海軍の軍艦が尖閣諸島の接続水域を航行した時、真夜中に駐日中国大使を呼びつけて抗議を行ったところまでは良かったのですが、その後は何に配慮しているのか分かりませんが必要以上に問題を小さく見せようとして事態の鎮静化を図っているように感じられました。日本政府の対応は何がいけなかったのか 日本の安全保障を考えれば、逆に選挙期間中こそ中国の乱暴狼藉の実態を国民に周知し、正々堂々と我が国の安全保障に関する問題点を訴え、それに対する今後の方針を示すべきです。さすれば共産党系の野党はそれに応えることなどできるはずもなく、その姿を見た国民は正しい判断をするでしょう。そうやって日本に対しては選挙期間中に軍事的な圧力をかければ逆効果になるという実績を作ることこそ、今後予想される中国の不当な圧力に対する抑止効果となるのです。尖閣諸島 では、今回の日本政府の対応は何がいけなかったのか、中国側の言い分は如何に正当性がないのかを具体的に説明します。まず中国海軍の軍艦が尖閣諸島沖の接続水域に侵入した件ですが、事実関係として押さえておかなければいけないのが、最初にロシア海軍の軍艦が尖閣諸島沖の接続水域に進入したということです。それに対する中国側の言い分は「自分たちが領有権を主張する尖閣諸島の領海に他国の軍艦が接近したので警戒行動を行っただけで何ら問題はない」というものです。確かに接続水域は公海であり全ての国の船舶に対して自由な航行が認められているので、ロシア軍艦の通行は何の問題もありませんが、我が国の立場として、この中国の主張を認めることができるか否かは考えるまでもないでしょう。 もし自分の家の前に、かねてから「この家は俺のものだ」と主張している人間が現れ、武器のようなものをもってうろうろしていれば、例えそこが公道であっても、普通はその場から立ち去ることを要求するのではないでしょうか。国際法上禁止されていないから問題ないとおっしゃる方もいるようですが、禁止されていないからといって何をやっても許されるという話ではありません。現実的ではありませんが、台湾や日本が中国本土の領有権を主張しながら同様の行為を行えばどうなるかということを考えれば良くわかるかと思います。 問題は中国軍艦の接続水域侵入が国際法に違反したか否かということではなく、いたずらに軍事的な緊張を高めたということであり、それに対して何も抗議しなければ彼らの領有権を認めることに繋がりかねないということなのです。接続水域は公海だから問題ないなどと言っていれば、次は領海に侵入してくるのは火を見るより明らかで、そうなってからでは遅いのです。軍事的な衝突を避けるためには、いかに手前で防ぐかということが大事なのです。 次に中国海軍の軍艦が我が国領海である吐噶喇(トカラ)海峡に侵入した件ですが、これも中国海軍の情報収集艦がインド海軍の軍艦を追跡していたという事実と、それ故に彼らが明らかに国際法に違反したということを認識しておかねばなりません。ところが、この事件に対する日本政府の対応は、尖閣沖での時とは打って変わって「抗議」ではなく「懸念」を伝達するだけでした。 しかも、その理由というのが、なぜかは分かりませんが中国自身の主張と異なる「無害通航」に該当する可能性があるという理屈です。この時、中国が主張したのは吐噶喇(トカラ)海峡が「国際海峡」であるという出鱈目な解釈に基づく「通過航行権」です。この「無害通航権」と「通過航行権」は似て非なるもので、これを詳しく説明すると本論から話がそれてしまうので詳しい説明は省きますが、「通過航行権」には「無害通航権」で認められていない上空の飛行や潜水艦の潜没航行が認められているなど、より航行の自由度が高いという認識だけ持っていただければ以降の説明が理解できるかと思います。「国際海峡」とは何か そこで「国際海峡」とは何なのかと言いますと「国際航行に使用される海峡であって、海峡の沿岸国の基線から測定して、それぞれ12海里を超えない範囲で領海を確定した結果、航路がいずれかの沿岸国の領海内に取り込まれる海峡」です。これだけ読むとわかりにくいかと思いますので簡単に説明すると、船が国と国との間を行き来する時に通る海峡(二つの陸地により狭められた海の部分)のうち、海峡の幅が狭いため海峡の全体または一部が沿岸国の領海になり、その領海を自由に通行できなければ著しく不便になってしまう海峡を「国際海峡」と定義し、そこを通行する権利を「通過航行権」言います。 有名なところでは地中海と大西洋を繋ぐ「ジブラルタル海峡」、ペルシャ湾とアラビア海を繋ぐ「ホルムズ海峡」やインド洋と南シナ海を繋ぐ「マラッカ海峡」があります。世界地図を頭に思い浮かべて、もしこれらの海峡が沿岸国の都合により船舶の通行が制限されたらどうなるかということを考えてみてください。地中海沿岸の国はアメリカ大陸と船による貿易が行えなくなり、我が国をはじめとするアジア諸国に石油エネルギーや食料など生活に欠かせない多くの輸入品が入ってこなくなるなど、特定の国だけではなく世界全体の利益が損なわれるため、すべての国の船舶に「通過航行権」を与え、より自由度の高い通行権を保証しているのです。 となると吐噶喇(トカラ)海峡が国際海峡にあたるか否かが問題になってくるわけですが、結論を先に言いますと、地図を見ていただければ分かるとおり、そこが通れなくなったとしても影響を受ける船はほとんどありませんので国際海峡には該当しません。とは言え国際海峡については日本にも改善すべきところはあり、本来、我が国には「宗谷海峡」「津軽海峡」「対馬海峡東水道」「対馬海峡西水道」「大隅海峡」の五つの国際海峡があるにもかかわらず、その五つの海峡だけ領海の幅を3海里(通常は12海里)のままに据え置き、あえて海峡内に公海を作ることにより他国船の自由な航行を認め、「通過航行権」の問題を避けてきたという経緯があります。 これは核を搭載したアメリカの艦船が太平洋と日本海の間を移動する際、領海の幅を広げてしまうと必然的に日本の領海に入らなければならなくなり、それが非核三原則(核を持ち込ませない)に抵触するので、それを避けるために、あえて領海の幅を広げなかったと言われていますが、いずれにしろ我が国が国連海洋法条約に明記されている「国際海峡」や「通過航行権」に対する態度を曖昧なままにしてきたところを中国に突かれたということであり、日本はこのような外交姿勢を改める必要があります。 しかし、いくら日本の外交姿勢が曖昧であったとしても中国の出鱈目な主張を認めるわけにはいきません。吐噶喇(トカラ)海峡は一般の地図には載っていませんが実際は瀬や岩礁が点在しているうえ、黒潮の通り道で潮が速く操船が難しいため普通の船は特に理由がない限り通行を避け、東シナ海と太平洋を行き来するときは、その直ぐ北側にある事実上の国際海峡である大隅海峡を通行します。 これは船員の常識であり、日本をはじめとする水路誌の推薦航路に吐噶喇(トカラ)海峡は載っておらず、海運関係者に「吐噶喇(トカラ)海峡は国際海峡だ」などと言えば一笑に付されるのがおちで、中国政府はよくもそんな出鱈目が言えるものだと感心するほどです。とにかく中国という国は、法令は守るものではなく自己を正当化するためのものと考えていますから、色々な屁理屈をこねくり回し、それが通らないとなると平気で法令を無視するので、まともに相手をするのではなく、こちらもそれなりのロジックをあらかじめ考えておく必要があります。なぜ中国の立場から言い訳する? ではなぜ、中国はそのような大嘘を臆面もなく吐いてくるのかといえば、軍艦が外国の領海において無害通航権を持つか否かについては国際法も学説も一致した見解はなく(日本は無害通航を認める見解)言ったもの勝ちの世界であり、何より彼ら自身が国内法として1992年に制定した「領海及び接続水域法」により、自国の領海における外国軍艦の無害通航を認めていないからです。そして情報収集艦が日米印合同訓練に参加していたインド海軍の軍艦を追跡していたということは、電波情報の収集を行いながら我が国領海内に侵入したということであり、国連海洋法条約第19条第2項(C)に有害行為として明記されている「沿岸国の防衛又は安全を害することになるような情報の収集を目的とする行為」に該当するからです。 つまり中国は自分たちの行為が国連海洋法条約に定める「無害通航」にあたらないと自覚していたからこそ、「国際海峡」という概念を持ち出してきたのですが、我が国政府は、ご丁寧に彼らが主張していない「無害通航」にあたる可能性があるから違法とは言えないなどと、彼らの立場に立って言い訳をしているのです。おまけに一部の人たちは、今回の中国軍艦の行動はアメリカが南シナ海で行っている「航行の自由作戦」と同じだから日米両国は何も言えないなどと頓珍漢なことを言いだす始末です。南シナ海・南沙諸島のスービ礁 中国が南シナ海で埋め立てを行い自国の領海であると主張している岩礁は、そもそも島ではなく、国連海洋法条約に「自然に形成された陸地であっても高潮時水面下に没するものは領海を有しない」「人工島、施設及び構築物は、島の地位を有しない。これらのものは、それ自体の領海を有せず、また、その存在は、領海、排他的経済水域又は大陸棚の境界画定に影響を及ぼすものではない」と明記されており、いかなる解釈をもってしても領海の存在を認めることはできません。もし、その様な事が可能であるとすれば、公海にある世界中の浅瀬を大国が力ずくで埋め立ててしまえば、世界中にその国の領海が存在することになります。普通に考えれば、その様な行為が許されるはずがないことは言うまでもありません。そのような、世界中の国の中で中国一国だけが主張する領海と、自然に形成され現に人が住んでいる島とを同列に扱うこと自体が大間違いです。そもそも中国が主張する「九段線」自体が荒唐無稽なものであることは小学生でも地図を見るだけで理解するでしょう。 いずれにしろ日本政府が、何だかんだと理屈をつけて中国海軍の軍艦が我が国領海内で行った軍事行動を容認してしまったのは大失態としか言いようがなく、これでさらに中国の行為がエスカレートし、武力衝突の危険性が高まることは間違いありません。数年前から中国海軍は潜水艦の領海内潜没航行、航空機の異常接近、射撃用レーダー照射などなど、我が国自衛隊に対してやりたい放題で、彼らは日本が何をしても反撃してこないと思い込んでいるのかもしれませんが、行き着くところまで行ってしまえばお互い引くに引けなくなってしまい武力衝突が起こりかねません。それを避けるためには日本側の毅然とした対応が必要なのですが、今回の日本政府の対応を見ていると心もとない限りです。海だけではなく空でも由々しき事態 しかも東シナ海において海だけではなく空でも由々しき事態になっていることが、先日、明らかになりました。先月の28日に航空自衛隊OBの元空将が、東シナ海上空で中国軍の戦闘機が航空自衛隊のスクランブル機に対し、攻撃態勢をとったということをインターネットニュースで発表しました。翌29日、日本政府は航空自衛隊機がスクランブル発進を行ったことは認めましたが中国戦闘機の攻撃動作については公式発表では否定しました。 このニュースに接して思い起こされるのが平成22年に起こった尖閣諸島沖漁船体当たり事件です。あの時、国民に先駆けて映像を見た国会議員のうち数人は「大したことはない」と言うようなことを言っていましたが、実際はどうだったでしょうか。 何より事件のあった6月17日から元空将が発表するまで日本政府からの発表は何もなく、ようやく12日経過した29日になって元空将の記事を否定する形で発表を行ったこと自体が異常で、国民の知る権利を害するだけではなく、このような日本政府の態度が中国の反日宣伝工作に利用されると心配していたところ、案の定、当初は「事実無根だ」と言っていた中国が7月4日には「日本の航空自衛隊機が中国軍機に高速で接近挑発し、火器管制レーダーをわが方に照射した」と発表しました。これは平成22年に「中国の漁船が自国の領海内で操業中、日本の巡視船に体当たりされた」と主張していたのと同じで、日本も中国もやっていることが同じで進歩がありません。 元空将の記事によれば不測の事態を恐れた航空自衛隊機が現場を離脱したとありますが、簡単に言えば自衛隊機が中国軍機に対して日本領空への接近を阻止しようと試みたところ今までにない好戦的な態度をとったため、それ以上は何もできない自衛隊機が逃げ帰ったということです。このような我が国の主権にかかわる重大なことを、政府は元空将が発表するまで公表せず、そのことに対してマスコミは何も追及しないどころか、当初、大手メディアで記事にしたのは私の知る限り産経新聞だけでした。一体国民の知る権利に応えると日頃息巻いているマスコミの人たちは何をやっているのでしょうか。特定秘密保護法に反対する人たちは、政府が国民に対して情報を隠すことを危惧していたにもかかわらず、今まさに、その様な事が行われているというのに何ら抗議しないというのは理解に苦しみます。 そこで、なぜ日本政府が情報を隠し、毅然とした対応ができなかったのかを考えてみると「領有権を主張していない海域なので領海内を軍艦が情報収集しながら航行しても問題はない。」「中国軍機は実際にミサイルを発射したわけではないので問題はない」と考え、危機を危機として認識できなかった。中国を刺激して武力衝突になったら大変なので、嫌中世論にならないよう情報を隠し、ひたすら衝突を避けるべく、中国に対して過剰な配慮を行った。中国との対立がクローズアップされれば「戦争反対」「安保法廃案」と共産党系野党が勢いづくので選挙に不利になると考え、参議院選挙への影響を考慮した。 というような理由が思い浮かびます。どれも可能性がありそうに思えますが、私が思うに本当の理由は我が国に外国の軍艦が有害通行をした場合や外国軍機が領空を侵犯しそうになったとき(領空侵犯してからの法令はある)対処する法令がないからではないでしょうか。現行法で外国軍艦の領海侵犯に対して現実的に出来ることといえば海上警備行動を発令し自衛隊の艦船や航空機に中国軍艦を追尾させることくらいですが、本来、海上警備行動というのは国籍不明の不審船や海賊船に対応するためのもので軍艦相手に発令する事態を想定していません。したがって、武器の使用基準等は警察官職務執行法に準ずるため相手がこちらを攻撃してこない限り退去を要請することしかできません。自衛隊の能力を軍隊に近い形で発揮できる「防衛出動」 ちなみに国連海洋法条約においても軍艦の不法行為については軍艦が領海の通航に係る沿岸国の法令を遵守せず、かつ、その軍艦に対して行われた当該法令の遵守の要請を無視した場合には、当該沿岸国は、その軍艦に対し当該領海から直ちに退去することを要求することができる。旗国は、軍艦又は非商業的目的のために運航するその他の政府船舶が領海の通航に係る沿岸国の法令、この条約又は国際法の他の規則を遵守しなかった結果として沿岸国に与えたいかなる損失又は損害についても国際的責任を負う。 としか謳われていません。だったら他国も日本と同じように退去要請しかできないではないかと思われるかもしれませんが、他国の場合は軍艦には軍艦=軍隊が対峙するわけで、いざとなれば国防のために妨げになる国内法は日本のように存在しません。日本だけが軍隊の装備をした警察官が他国の軍艦と相対するというおかしな話がまかり通っており、多くの人が、その異常さに気が付いていません。これは、例えて言えばボクサーがフルコンタクト空手の大会に非常に重いグローブをつけて出場するようなもので、相手はキックやパンチを自由に打ち込んでくるのに対して、自分はグローブが重いため防御に徹しなければならず、たまに訪れる反撃の機会もグローブが重いため相手に対したダメージを与えられないという理不尽な話なのです。 領空侵犯に関しても、相手が領空侵犯する寸前までは法律上明確な規定はなく、相手が領空に侵入してはじめて「これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。」と定められているだけで、現代の航空機の性能を考えると現実的な話ではありません。沖縄・先島諸島を通過した中国海軍艦船、ルージョウ級ミサイル駆逐艦116=2012年10月(防衛省提供) では、我が国の自衛隊は相手の侵略に対して為す術がないのかというと、そうではなく自衛隊の能力を軍隊に近い形で発揮できる防衛出動というものがあります。ですから、本来は自衛隊が相手国の軍艦や攻撃機に対応するためには防衛出動の発令を待たねばならないのですが、その発令条件は非常に厳しく国会の承認を得なければなりませんので非常に時間がかかります。なので、まず比較的発令要件の容易な海上警備行動や領空侵犯に対する措置で対応しようとしますが、前述のとおり法令通りに動けば自衛隊が最初の一発を食らう可能性が高く非常に危険なのです。話が飛びますが、昨年の安保法案審議中に「自衛官のリスクが高まる」と言って同法に反対していた人たちが、この現実的にある自衛官のリスクを放置しているという事実が、彼らが本気で自衛官のことを考えていないということの証です。 話を元に戻せば防衛出動というのは「我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態 」か「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」になるまで発令できませんので、現実的には誰かが犠牲になってから閣議や国会の審議を経て「防衛出動」が命ぜられることになることが想定されます。言い方を変えれば誰かが犠牲になるまで待たねばならないということです。つまり現行法で自衛隊を出動させれば、法令の縛りにより無駄な犠牲者が出る可能性が非常に高いのです。 当然、中国は、そのような我が国の法体制を熟知していますから、その弱点を突いてくることは火を見るより明らかで、不要な犠牲を避けるには相手が強く出てくれば撤退させるしかないわけで、それならば最初から自衛隊は出動させないと今回は判断したのではないでしょうか。自国を守る法令がないから神頼みしかない? 残念ながら、現在の我が国の法制度では自衛官が自国民や領域を守るために、法令に違反しなければならないケースがあります。はたして国家国民を守るために自衛官が法令に違反しなければならない今の法制度が正しいと言えるでしょうか。これらの問題は「戦力の不保持」や「交戦権の否定」を定めている日本国憲法に帰結します。国家の持つ当然の権利である自衛権を制限し、世界最高水準の戦闘機、軍艦、戦車を保有する24万人の戦闘集団を戦力でないと強弁するのはもう限界です。ここまで現実と乖離した憲法をもとにいくら法令を作ったところで、どこかに矛盾が生じ、その犠牲となるのは現場の人間です。今まで露骨に日本を侵略する国がなかったおかげで、この矛盾が露呈することはありませんでしたが、これからはそうはいきません。日本海から津軽海峡に向かう中国海軍艦隊。左手前からルフ級、ジャンカイII級、ドンディアオ級。中国海軍艦隊は日本列島を一周している(統合幕僚監部提供) 繰り返しになりますが、今からでも日本政府は東シナ海で起こっていることを国民に公表し、日本の安全保障にかかわる法体系の不備の改正を訴えるべきではないでしょうか。そして憲法を改正して他国と同様に国を守る体制を整えるのか、それとも日本だけは別だと現実逃避して多大な損害を被るまで何もしないのか、それを我々国民が選択しなければなりません。 とはいえ、法律を変えたり作ったりするには時間がかかり、憲法であればなおのことです。しかし、その間、相手が待ってくれているという保証はありません。そこで私が犠牲者の心配をする必要がないとりあえずの中国の尖閣侵略への対抗策を提案させていただきます。 それは、尖閣諸島の我が国領海に中国の公船や軍艦または軍用機が接近した翌日には、内閣総理大臣が日本国民を代表して靖国神社にお参りし平和を祈願する。総理大臣が行けない時は防衛大臣などの主要閣僚が代行する。というものです。 対外的には「自国の神様に平和を祈願して何が悪い」と主張すれば、実際に実力行使に及んでいる国と祈祷しているだけの国のどちらに非があるのかは一部の国以外は理解してくれるでしょう。そして、国内向けには「我が国は自国を守る法令がないため、神頼みしかない。今後もそれでいいのか」と訴えかけて国民の意識の変革を促します。中国の狙いは公船や軍艦、軍用機を尖閣の我が国領域に繰り返し侵入させることにより、日本人の感覚を麻痺させて、メディアをはじめとする日本人が騒がなくなることです。しかし、首相が靖国神社に行けば某国の意向を気にするマスコミは騒がないわけにはいかず、少なくともそれは阻止できるはずです。これが実現可能かどうかは、さておき、今は一刻も早く普通の国並みの法体制を整備し自衛官が心置きなく国防の任務に就けるようするのが政治家の務めではありませんか。

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    尖閣で日中開戦「5日」で敗北!米国に見捨てられる驚愕のシナリオ

    道を開くことは、第二次大戦以来の再敗戦を望む自殺行為と言えるでしょう。安倍政権が現実を見据えた外交・安全保障政策を実行してくれることを期待します。(ブログ「切捨御免!ワタセユウヤの一刀両断!」より2016年1月18日分を転載)

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    中国軍の尖閣上陸を許すな! 自衛隊が着せられる「侵略者」の汚名

    とも無く、日本は平和を維持してきた。それは日本国民にとって大変幸せなことであった。しかし昨今、日本の安全保障環境は急激に悪化しており、特に南西諸島では戦後経験したことのない緊迫した領域に突入しつつある。インターネットのオピニオンサイト、JBPRESSの6月28日付の記事で元航空自衛隊の空将(元F4パイロット)の織田邦男氏が東シナ海は一触即発の危機にあることを明かしている。航空自衛隊のスクランブル機が中国軍機に攻撃動作を仕かけられ、いったんは防御機動でこれを回避したが、このままではドッグファイト(格闘戦)に巻き込まれ、不測の状態が生起しかねないと判断し、自己防御装置(チャフやフレアだと思われる)を使用しながら中国軍機によるミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱したというのだ。 本来スクランブル発進とは、領空侵犯の恐れがある国籍不明機に対して、退去勧告、または警告して領空侵犯を防ぐことにある。しかし、このケースでは、空自のパイロットは戦域から離脱したということは逆に追い出されてしまったということになる。尖閣諸島の海域では、中国海警局の公船の接続水域への侵入、領海侵犯は日常的になってしまっており、更に軍艦まで接続水域に侵入してくるようになり制海権を失いつつある。今回の事件は、それだけではなく尖閣上空の制空権まで失いつつあるという象徴的な事件である。尖閣諸島の天気予報がない日本 中国政府が進める実効支配は多角的で戦略的である。中国気象局は2012年9月11日から尖閣諸島の天気予報を行っている。天気予報を開始するにあたって、中国気象局の報道官は、「全国の陸地、河川・湖、及び海上の気象予報・警報などを行う責任を負っている」と述べている。一方、日本の気象庁は尖閣諸島の天気予報を未だに行っていない。気象行政では尖閣諸島を実効支配しているのは中国だということになる。ところで、ネットでその天気予報をみると尖閣諸島は福建省の一部となっている。つい数年前までは、台湾の宜蘭県の一部と主張していたが知らない間に変更されているのだ。変更された明確な日は不明だが、調べたところ2013年11月23日に中国政府が一方的に東シナ海に防空識別圏を設定した直前のようである。当然、尖閣諸島上空はこの防空識別圏の範囲に含まれている。ここで、頭を切り替えて理解しておかなければならないのは、この時から尖閣諸島上空は中国空軍にとって、侵入するエリアではなく、日本の航空自衛隊機に対してスクランブル発進を行うエリアになっていたということである。沖縄県・久米島周辺のEEZで確認された中国の海洋調査船「科学号」(第11管区海上保安本部提供) 中国は海底資源においても実効支配を進めている。その秘密兵器が海洋調査船「科学号」とROV(遠隔操作型無人探査機)「発現号」である。中国国内ではその活動の詳細が大々的に報道されているが、なぜか日本国内では報道規制されているかのように、その詳細が全く報じられていない。日本のメディアでは、《沖縄県・久米島周辺の排他的経済水域(EEZ)で19日、中国の海洋調査船「科学号」が海中に何らかの物体を投入したのを、海上保安庁の巡視船が確認した。》としか報道していない。しかし、中国のメディアは、《科学号は2014年4月8日から5月にかけて、沖縄トラフ熱水域の熱水噴出孔周辺の海洋物理及び化学環境の観測、サンプル収集、分析を行う予定》と報じていた。そこで久米島沖の熱水鉱床の存在を調べると、実は2012年に産業技術総合研究所が久米島西方海域に新たな海底熱水活動域を発見していたことがわかった。それは2008年から進めてきた研究の成果であり、鉱床の存在の可能性について調査・研究を進めていく予定と報道していた。戦争は「実効支配を失ったら負け」 日本の資源である熱水鉱床を堂々と横取りしたことは許せないが、中国政府の目的はそのような小さなものではない。中国メディアの報道では中国は「沖縄トラフは中日海洋経済区分の境界線であり、熱水鉱床は中国側にある」「日本が主張する日中境界線は国際法の原則に違反しており、中国は国連に東シナ海境界案を提出している」と主張している。つまり、これは熱水鉱床という海底資源スポットを奪う目的ではなく、東シナ海における日中間のEEZの境界線を日本の主張する日中中間線から沖縄トラフへ大きく変更させるのが目的なのである。科学号は出港に際して、その目的と期間を宣言し、側にずっと張り付いていて監視していた海上保安庁の監視・警告をことごとく無視して、宣言の計画通りに調査して帰港したのである。この瞬間に日本は東シナ海のEEZにおける制海権を事実上失ったといえるのではないだろうか。 戦争は「実効支配を失ったら負け」 このように、現在の政府の尖閣諸島への対応は最悪のパターンに向かっている。だから今後、決して尖閣諸島に人民解放軍を一人たりとも上陸をさせてはならない。これまでと状況が激変し、中国は上陸者の逮捕に動く海上保安庁を中国領土に対する侵略者と批判し始める可能性があるからだ。また、自衛隊は米軍と共に島嶼奪還訓練を行っているが、上陸されてからでは遅い。島を取り返す自衛隊に対しても、中国政府は日本を侵略者として次のように批判するであろう。「日本の自衛隊が我が国固有の領土に攻撃を仕掛けてきた。中国は断固として我が国の領土を守る。侵略者に対して手加減はしない。日本に対する核攻撃も辞さない。多くの日本国民が命を失うことになるかもしれないが、その責任は中国の領土を侵略しようとする日本政府にある」 このような嘘は国際的に通用しないと思ったら大きな間違いである。人民解放軍が尖閣諸島に上陸した時点で、実効支配しているのは日本ではなく中国になるからだ。つまり、尖閣諸島を守るためにパトロールしているのは人民解放軍であり、侵入を企てているのが自衛隊ということになるのである。「戦争は先に手を出したほうが負けだ」という声を聞くがそれは大きな間違いである。日本が尖閣諸島を実効支配している時に人民解放軍に射撃をしても「中国が日本を侵略した」と批判声明を発表することができる。中国がなんだかんだと批判をしても、実効支配しているのは日本であるから国際的に通用するのである。しかし、日本が実効支配を失い奪還作戦で人民解放軍に射撃をした場合、逆に中国に「日本が先に攻撃をした」と言われてしまうのである。「戦争は、先に攻撃を仕掛けたら負けではなく、実効支配を失ったら負け」なのである。沖縄防衛「真の敵」による煽動工作 日本政府はこれまで、「中国を刺激しない」という意味不明な理由で、尖閣諸島に日本国民を上陸させず、日本の建造物も建てず、自衛隊の監視隊も配備せず、天気予報も行わず、石垣市の環境調査のための航空機による調査も「不測の事態を避けるため」という理由で中止させてきた。これは、外国の目から見たら、尖閣諸島は中国の領土であるあるから日本は遠慮していたとしか見えないのである。日本政府が尖閣諸島防衛のために最も優先することは、外国人の誰が見てもわかるような方法で尖閣諸島を実効支配することである。具体的には、大きな日章旗を掲げた建造物を尖閣諸島内に建設することである。これにより、尖閣諸島に上陸しようとする外国人を射殺しても日本を批判する国はどこにもいなくなるのである。日本政府が今やるべきことは、領土、領海、領空の実効支配を断固として守ることである。実効支配している国こそ、侵略者に対して先に攻撃する資格があるのである。EEZ(排他的経済水域)に関しても、勝手に資源の調査を行わせてはならない。中国に対する黙認はEEZ内にあらたな軍事基地建設を許すことと同義である。沖縄防衛「真の敵」による煽動工作 南西諸島の島嶼防衛を考える時、決して無視できないものがある。それは沖縄の世論である。沖縄の世論は沖縄県民が作っているのではない、沖縄の琉球新報、沖縄タイムスの二紙を中心とした地元マスコミが作っているのである。沖縄の歴史を見ると、中国が軍事覇権を強める時期には必ず沖縄の反米世論はエスカレートしているのである。沖縄で過去最大の反米運動は佐藤総理大臣が米国と沖縄返還交渉を始めた1967年頃から71年11月の沖縄返還協定が国会で批准されるまでの間である。1960年代当初より毛沢東は核兵器の開発を急いでおり、1964年に最初の核爆発に成功し、その後核実験を繰り返し1970年4月24日に初の人工衛星、東方紅1号の打ち上げに成功し事実上核保有国となった。その裏では、日本の安保闘争と沖縄返還闘争の工作を仕掛けて日米安保の破棄を目指していたのである。日の丸を振って盛り上がっていた沖縄の復帰運動が、なぜ急に左旋回して安保闘争のようになったのかわからないという方が多いが、その理由は明確である。1960年4月28日に発足して沖縄県祖国復帰運動(大衆運動)の中心を担っていた沖縄県祖国復帰協議会は、毛沢東とつながっていた左翼の統一組織であり、本当の目的は日米安保破棄、在沖米軍基地の撤去であり、祖国復帰は県民を扇動するための材料に過ぎなかったからである。女性遺体遺棄事件に対する抗議集会が行われたキャンプ瑞慶覧のゲート前に立つ米軍関係者=5月22日午後、沖縄県北中城村 そして、現在の沖縄でも同じように反米運動が盛り上がっている。米軍属による女性暴行殺人事件をきっかけに、海兵隊の撤退を明記した抗議決議が沖縄県議会で可決され、6月19日の県民大会の大会決議案にも明記され、海兵隊の撤退が沖縄の総意という構図を作られてしまったのである。尖閣諸島や東シナ海を我が物顔で領海侵犯や領空侵犯を繰り返す人民解放軍の脅威に目を向けることなく、むしろ海兵隊の撤退を求めている状況は、1960年台後半に中国が核兵器を開発しても目を向けず、米軍基地の撤去運動が繰り広げられていた時と全く同じである。つまり、沖縄のマスコミと一部の政治勢力が1960年代には事実上中国共産党のコントロール下にあり、現在に至るまで日米安保破棄の工作を続けてきたということにほかならない。「琉球侵略」にすり替えられた国連勧告「琉球侵略」にすり替えられた国連勧告 「沖縄県知事が米軍基地の撤去を要求しようが外交防衛権は政府の専権事項であるから、政府は無視して粛々と安全保障政策を進めれば良い」という声を聞くことがある。確かにその言葉は正しいけれども、その論理を打ち砕く工作も進められている。それは国連の自由権規約委員会、人種差別撤廃委員会から2008年、2010年、2014年に2回、計4回日本政府に「沖縄の人々を公式に先住民族と認めて、文化、言語と土地、資源の権利を保護するべきとの勧告が提出されていることである。日本政府はこの勧告を認めていないが、国連基準では沖縄県民は1879年に日本に侵略され滅ぼされた先住民族なのである。去年9月に沖縄県の翁長知事が国連人権理事会で「(日米両政府により)沖縄の自己決定権がないがしろにされている」と訴えたが、国連からすると琉球民族の酋長が米軍基地の押し付けという差別の解消を訴えにやってきたと認識しているはずである。これらの先住民族勧告は国連NGOの「反差別国際運動(部落解放同盟が母体)」と「市民外交センター」の働きかけの結果、2008年から4回も出されて、実績を積み上げてきた。しかもこの8年間、県議会や各市議会で議論されたことも意見書が出されたこともないし、ほとんどの日本国民も当事者である沖縄県民も知らされずに進められていたのである。なんとも巧みな工作である。 多くの日本国民が自覚の無い間に尖閣諸島の実効支配を失っているだけではなく、沖縄県民が日本人で無くなっているのである。これは尖閣諸島に対する政府の失策以上に大きな問題である。なぜなら、この工作の本質は日本政府による「沖縄防衛」を「琉球侵略」にすり替えることだからだ。この大嘘は多くの日本人には理解困難なようであるが、かれらの言い分は次のようになる。「沖縄の人々は日本に侵略され滅ぼされた琉球王国の子孫であり先住民族である。1879年以降、明治政府により同化政策、皇民化政策により日本人であるかのように洗脳をされてしまった。第二次大戦の時にはその洗脳が成功し、勇敢に戦った人もいたが天皇に利用された犠牲者である。現在も同化政策により母国語である琉球語を日常で話すことができなくなってしまっている。琉球民族の誇りでありアイデンティティーである言語を奪われ差別を受けている。2008年の自由権規約による勧告にあるように、学校でも琉球語の教育のカリキュラムを取り入れるべきであり、米軍基地の押し付け差別の解消のため、2014年の自由権規約委員会の勧告にあるように土地と資源の権利を保護するように新たな法律をつくるべきである」 笑い話のようだが、これが国連基準として定着している沖縄県民の認識である。翁長知事は、在沖海兵隊の撤退を要求し始めたが、日本政府も米国政府もその要求を受け入れないことは百も承知であるはずである。その要求を拒否されたことをもって、琉球民族は日米両政府に差別されていると再び国連に訴えることが目的なのである。この訴えが万一国際社会に浸透するようなことがあれば、日本の沖縄防衛が琉球侵略とのレッテルが貼られてしまうのである。政府が行う沖縄防衛策はこれしかない政府が行う沖縄防衛策はこれしかない 結局、中国は尖閣諸島においても沖縄県全体においても、侵略しているのは中国ではなく日本だという国際世論をつくる巧みな工作をすすめているのである。政府は尖閣諸島など島嶼防衛の最前線はこのプロパガンダとの戦いであることをしっかり受け止めて対処するべきである。プロパガンダの発信源は沖縄のマスコミと国連である。沖縄のマスコミ対策は報道の自由を盾にされるため法整備は困難だが、政府がやるべき重要なことがある。それは、総理大臣、または防衛大臣が直接沖縄県民に政府の沖縄防衛政策への協力をお願いするメッセージを発信することである。これまで防衛大臣が沖縄に入ったときには県民ではなく知事の説得にあたっていたがそれは大きな間違いである。安全保障に対する説明責任を知事に押し付けることになるからである。外交防衛は政府の専権事項であるなら、当然説明責任も政府にあるはずだ。例えば次のようなメッセージを政府広報として全県民に届けていただきたい。「今、沖縄は中国の軍事的脅威の中にあります。どのようなことが起きても政府は断固として沖縄県民の生命と安全を守ります。また先の大戦のように決して沖縄を戦場にさせるようなことはしません。そのためには、自衛隊と同盟軍である米軍で沖縄の領海、領空、領土を断固として守ります。まだまだ、備えとしては不十分なため、自衛隊も増強配備し日米の共同訓練も積み重ねていきます。そのため、これから沖縄の皆様には多くの協力をいただくことになりますが、子々孫々平和な沖縄を残すために是非ともご理解、ご協力をお願い致します」 ただこれだけで、県民の認識は飛躍的に変わるはずである。中国の脅威は政府が口にしない限り「右翼による煽動」として一蹴されるのである。 国連先住民族勧告についても、政府がすぐにでも取るべき対策がある。それは、尖閣諸島と同様、外務省のHPで「沖縄県民自ら日本政府に先住民族として認めるよう要請をあげたことはない。国連の人権理事会や自由権規約委員会の沖縄県民を先住民族とする勧告は誤りである」と多言語で発信することである。続いてこの勧告が出されることになった背景の調査と再発防止のための法整備を行うことである。 以上、国防の危機にある日本政府の盲点や弱点を明らかにし、対応策を提案してみた。南京大虐殺や従軍慰安婦プロパガンダよりも長い歴史があり成功しているのが沖縄プロパガンダである。沖縄プロパガンダとは沖縄の政治報道全てといってもよい。つまり沖縄の政治を利用した日本政府に対する攻撃を沖縄のマスコミが作り出す沖縄の世論で隠蔽しているのである。その目的は日米安保破棄と在沖米軍基地の撤去に集約される。中国は60年近くそのための工作を続けてきた。復帰前は沖縄を日本に復帰させることにより日米安保を破棄させようと扇動し、工作に失敗し日本に復帰した現在は、逆に沖縄を日本から独立させることにより日米安保を破棄させようとしている。中国にとって翁長知事の誕生は人民解放軍数百万に匹敵する大きな戦力であろう。 中国に対する尖閣防衛、沖縄防衛は人民解放軍の部隊や装備を分析しているだけでは勝つことができない。沖縄のマスコミと政治工作、そして国連工作も日本の敵なのである。今後、防衛省はこれらを国家安全保障の危機として明確に位置づけて防衛計画を策定するべきである。大きな反発が予想されるが、可能なら防衛白書にも明記して日本の常識としてほしい。終戦から70年間、銃弾の飛ばない戦争は続けられ、日本は無抵抗なまま攻撃を受け続けてきたのである。そろそろ反撃を開始しようではないか。

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    海上で平和憲法など通用しない!日本版「海兵隊」創設こそ世界基準だ

    ド)だが、各国のコースト・ガードとは似て非なる組織だ。たとえばアメリカ合衆国のコースト・ガードは国土安全保障省の傘下にあり、軍隊に準じた組織となっている。日本の海上保安庁も、そうした名実ともの「JCG」に生まれ変わるべきときなのではないだろうか。 離島防衛の観点からは、海上保安庁に加え、陸海空自衛隊の活動が期待される。海上保安庁と海上自衛隊などが連携して、離島に上陸される前に、海上で食い止めなければならない事態が、今後、予想される。日本版「海兵隊」を創設を日本版「海兵隊」創設を いや、すでに起きている。今年6月、立て続けに発生している中国海軍による接続水域侵入や領海侵入、空軍戦闘機による航空自衛隊機への乱暴な威嚇や挑発は記憶に新しい。だが、安倍政権は、中国情報収集艦に領海侵入されても「海上における警備行動」を発令せず、自ら閣議決定した方針を空文化させた(詳しくは「Voice」8月号拙稿ほか)。その二日後、中国空軍機の威嚇を受けた際、空自機を空域から離脱させた。その経緯を問題提起した織田邦男(元空将)の論文を、内閣官房副長官が「国際関係に影響を与える」、「遺憾」と非難し、統合幕僚長も「不適切」と切り捨てた。いま、現場は激しく動揺している(月刊「正論」8月号、9月号拙稿参照)。平成28年度末の開発完了を目指し、テストフライトを重ねている空自新輸送機C2(防衛装備庁/航空自衛隊提供) 自衛隊を名実ともに軍隊とすべきである。私は一貫して、そう主張してきた。自衛隊には領域警備の任務すらない、集団的自衛権も限定的にしか行使できない。世界中どこを探しても、そんな軍隊はない。 加えて海兵隊の創設も必要であろう。陸上自衛隊に新設される「水陸機動団」などの部隊をベースに、海空の部隊と統合を図りながら、強襲揚陸能力などを付与していくのが現実的な政策ではないだろうか。たとえば陸自が新たに水陸両用車AAV7を導入するのはよいが、陸自に搭載可能な輸送艦はない。陸上自衛隊の部隊としてではなく、陸海空とは別の軍種として海兵隊を創設すべきと考える。 そもそも島国という典型的な海洋国家でありながら、海兵隊を持っていない。この現状は国際標準から外れている。「自衛隊」は憲法九条のもとガラパゴス化した歪な組織となっている。他方、海は一つ、世界に通じている。海の上では日本独自の「平和憲法」など通用しない。「自衛隊」がグローバル・スタンダードから遠いのと同じように、海兵隊を持たない日本の現状は世界基準に反している。

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    ロシア軍艦尖閣航行が示した東シナ海危機管理メカニズムの必要性

     小谷哲男 (日本国際問題研究所主任研究員) 中国海軍の艦船が、6月9日未明に尖閣諸島周辺の接続水域を初めて航行し、東シナ海における日中間の緊張が再び高まっている。ロシア海軍が先に同海域に入ったこともあり、中国側の意図やロシア海軍の動きとの関連など、不明な点が多い。以下では、中国海軍の動きを分析し、今後の東シナ海情勢の見通しを考えてみたい。尖閣について特定の立場をとっていないロシア まず、時系列を追ってみよう。 8日21時50分ごろ、ロシア海軍の駆逐艦や補給艦など艦船3隻が尖閣諸島の久場島と大正島の間の接続水域に南から入った。3隻は5時間余りにわたって接続水域を航行したあと、9日3時05分ごろ、久場島と大正島の間を北に向かって接続水域から出た。ロシア海軍の動きは、海上自衛隊の護衛艦「はたかぜ」が監視していた。東シナ海上空から臨む尖閣諸島 8日21時30分頃、尖閣諸島北方の海域に遊弋していた中国海軍フリゲート艦が突然警告音のような汽笛をならし、南下の動きを開始したため、付近で警戒監視していた護衛艦「せとぎり」がこれを追跡した。9日0時50分ごろ、同フリゲート艦が、久場島の北東で接続水域に入り、南側に向かったあと、Uターンするように向きを北向きに変え、およそ2時間20分にわたって接続水域の中を航行した。この間「せとぎり」が監視を続け、航行の目的などを確認するため、無線で呼びかけを続けた。同フリゲート艦は、3時10分ごろに大正島の北北西で接続水域から出て、そのまま北の方向に航行した。 この間、公邸にいた安倍晋三首相にはリアルタイムで情報が入り、対処については、シンガポールに外遊中の中谷元防衛相が米軍との連絡も含めて実施した。齋木昭隆外務事務次官は、中国の程永華大使を2時に外務省に呼び出し、挑発行為について抗議をした。程大使は尖閣諸島の主権を主張し、抗議は受け付けないとするも、「事態のエスカレートは望まない」と回答した。 まず、ロシア海軍の動きはどのように理解するべきだろうか。ロシア海軍が今回の航路を取ったことはこれまでもあった。今回尖閣の接続水域を航行したロシア艦船は、インド洋や東南アジアなどでの訓練を終えて、母港のウラジオストックに帰港中だったと考えられる。 日露戦争時、バルチック艦隊がバルト海からインド洋、そして対馬海峡を目指した時も、尖閣諸島が属する八重山諸島付近を航行したことを考えれば、今回も通常の航路を通ったとみるのが正しいだろう。ロシアは尖閣諸島の領有権について特定の立場をとっておらず、ロシア海軍が接続水域内を航行することは、国際法上も問題はない。このため、日本政府もロシアに抗議をしていない。中国海軍はロシア海軍を識別できていなかったのか中国海軍はロシア海軍を識別できていなかったのか では、中国海軍の動きはどのように分析できるだろうか。これまでのところ、2つの見方が存在する。 1つは、日本がホストしたG7伊勢志摩サミットで、それぞれウクライナと南シナ海における行動を批判された中ロが連携して、日本に圧力をかけたという見方である。中国のメディアは「中ロ連携行動」と報道している。だが、この見方には無理がある。まず、ロシアが尖閣諸島の領有権に関して中国と歩調を合わせれば、フリーハンドを失い、中国に利用されることになる。また、中ロ両政府が連携していたならば、東京の中国大使館も事態を把握していたはずだが、深夜に外務省に呼び出された程大使は事態を知らなかったと日本側は分析している。 もう1つは、中国海軍が、ロシア海軍が接続水域に入ったことに便乗したという見方である。 ロシア海軍が接続水域に入るのを確認した中国海軍は、「主権維持行為」の一環としてロシア艦艇の監視を口実に、接続水域に入るという既成事実を作った。現場の艦長には、その程度の決定権はあると考えられ、このような突発的事態であれば、軍より格下の外交部(中国外務省)に連絡が入ってなくても不思議ではない。共産党政治局にも事後連絡でよい。 実際の時系列をみれば、この2つ目の分析の方が説得力はある。しかし、それでも疑問は残る。中国海軍は、尖閣の接続水域に入ったのがロシア海軍だと認識していたのだろうか。中国海軍は尖閣諸島の北方にいたが、ロシア海軍は南から接続水域に入っている。中国海軍のレーダーもその動きは探知していたはずだが、識別までできていたかは疑問だ。東シナ海を24時間常続監視している日本とは違い、中国にはそこまでの監視能力はまだない。 仮に中国海軍がロシア海軍を識別できていなかったとすれば、次のような分析も可能だ。尖閣の北方にいた中国のフリゲート艦は、レーダーで4隻(ロシア海軍3隻+海自1隻)の船影が尖閣の接続水域に接近し、入るのを確認した。ただし、識別はできておらず、海自が4隻の護衛艦を接続水域に入れてきた場合に備えて、確認および「主権維持行為」のために北方から接続水域に入り、ロシア艦船であることを確認した上で、接続水域から離脱したというものだ。つまり、中国海軍がロシア海軍を識別できていなかったため、今回の事態が起こった可能性がある。 2015年11月には、中国海軍情報収集艦が、尖閣諸島南方の接続水域の外側で反復航行する事案が初めて確認された。その他の中国海軍艦船も、尖閣諸島により近い海域で確認されるようになっていたが、接続水域には入らなかった。中国側は、軍艦を接続水域に入れることは日本側の対応を招き、事態が拡大することを認識していたはずだ。だが、日本側が先に海自を接続水域に入れれば、中国側も接続水域、さらには領海に入る手はずだったのではないか。 日本がロシアに抗議をしなかったように、中国にしてもロシア海軍が尖閣の接続水域を航行することには何の問題もない。接続水域にいるのがロシア海軍だとわかっていれば、中国海軍が「主権維持行為」を行う必要もない。ロシア海軍だと識別できていなかったために、接続水域に入るというリスクの高い行動を取らざるを得なかったと考えられる。「東シナ海は安定している」国際社会の誤解「東シナ海は安定している」国際社会の誤解 この見方が正しいとすれば、尖閣諸島周辺における中国側の監視・識別能力が不足しているため、第三国艦船という想定外の要因によって、東シナ海における緊張が拡大する可能性を示している。また、意図はどうであれ、中国海軍が尖閣の接続水域に入るという前例ができた以上、今後も同様の事案が発生する可能性は非常に高い。 このため、日本は中国による一方的な現状変更の試みに毅然と対処し、南シナ海だけでなく、東シナ海においても中国の行動が緊張を高めていることを国際社会に訴える必要がある。尖閣諸島・魚釣島周辺を警戒航行する海上保安庁の巡視船 国際社会には、南シナ海問題に対する懸念を強める一方、東シナ海は安定していると誤解する傾向がある。中国の政府公船(国家海警局所属)は、領海の外側にある接続水域にはほぼ常駐し、およそ10日間接続水域に留まった後、領海に数時間侵入し、帰還するという行動パターンが確認されるようになったからだ。2015年度に中国の政府公船が尖閣諸島の領海に侵入した回数は、前年度と同じ34回だった。 だが、14年度は3000トン級以上の大型船の割合は35%であったが、15年度は60%に増えた。海警は、12000トンと通常の軍艦よりも大きい巡視船も所有するようになっている。2015年末以降は機関砲を搭載した船による領海侵入も発生するようになった。頻度は変わっていないが、実際の状況はますます悪化しているのだ。このことを積極的に国際社会に発信し、東シナ海でも中国の行動を牽制する必要がある。海上連絡メカニズムを先行させよ 他方、日中防衛当局間で協議が行われてきた「海空連絡メカニズム」の運用開始も急務だ。 日中は、「海空連絡メカニズム」の中身、つまり防衛当局間にホットラインを設置すること、定期行儀を行うこと、および艦船および航空機同士が連絡に使う無線の周波数については原則合意している。ただ、中国側がこのメカニズムを尖閣諸島の領海と領空でも適用することを主張しているため、運用開始ができていない。これを領海と領空でも適応するなら、中国はこれを日本の領海と領空を侵犯する口実に使うだろう。それは認められない。 他方、中国の空軍は領空でのメカニズム適応にこだわっているが、中国海軍は領海での適用には必ずしも固執していない可能性が高い。仮にそうであれば、「海空」を切り離し、海自と中国海軍の間の海上連絡メカニズムとして先行運用してはどうか。米中にも同様の枠組みがあるが、海軍同士の枠組みを先に作り、後に空軍同士の枠組みを作っている。 危機管理のメカニズムができても、中国の現状変更行動を抑制することには直接つながらないだろう。メカニズムがある米中双方の軍同士でもいまだに一触即発の事態は起こっている。だが、危機が起こった際に、米中が直接連絡するメカニズムは機能している。日中間で危機を適切に管理するためにも、海上連絡メカニズムを先行させることが望ましい。

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    尖閣接続水域進入は中露連携なのか? 中国政府関係者を直撃取材

    遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士) 8日から9日にかけての中露海軍艦艇による尖閣諸島接続水域進入に中露連携はあったのか?中国のメディアは「日本は中露が連携したとは、どうしても認めたがらない」と報道。そこで中国政府関係者を直撃取材した。中国メディアの報道 日本の防衛省によると、6月8日午後9時50分ごろ、ロシア海軍の駆逐艦など3隻が尖閣諸島の久場島と大正島の間を南から北に向かって航行しているのを海上自衛隊の護衛艦が確認し、9日午前0時50分ごろ、中国海軍のフリゲート艦1隻が沖縄 県の尖閣諸島の久場島の北東で、日本の領海のすぐ外側にある接続水域に入ったのを確認したとのこと。 これに関して、日本のおおかたのメディアは、ロシアの艦艇3隻は通常の「軍艦に関する無害航行」であり、これまでにもあったことから大きな問題ではないとする一方、中国の軍艦が尖閣諸島周辺の接続水域に入ったのは初めてで、これまでの中国国家海警局の巡視船による進入とは違うと警戒しているというものが多い。 日本政府の見解も、おおむねこの範囲内にあり、ロシアに対しては外交ルートを通した注意喚起に留めたのに対し、中国に関しては真夜中の2時に程永華・中国大使を呼びつけて激しい抗議をしたようだ。尖閣諸島の領有権は日本にあるので、自国の領土だと主張する中国に対して厳しく処するのは良いことだ。 ただ、これら一連の動きに対して、中国のメディアは異口同音に「日本は中露が連携したとは、どうしても認めたがらない」とか「認めてしまうと日本が中露連携によって孤立化させられていることを認めざるを得ないからだ」と書き立てている。実際はどうなのか? 中国政府関係者を直撃取材 少しでも実態に近づきたいと思い、中国政府関係者に連絡し、単独取材した。 「中国のメディアは、“日本が認めたがらない”という言葉を仲介して、まるで中露連携があったように書き立てているが、中国が実際にどのような行動に出たのかに関しては書いていない。実際はどうなのか」という旨の質問をぶつけてみた。 すると、以下のような回答が戻ってきた。●現象を見れば、説明するまでもないだろう。一目瞭然ではないか。中国がなぜ、手の内を明かさなければならないのか?●そもそも中国とロシアの間には「中露戦略合作(協力)パートナーシップ」がある。戦略的に何も話し合わないと考えるのは、むしろ奇妙なことだ。●もちろんロシアという国は、自国の利益しか考えない国だ。中国が南シナ海問題で日米を中心とした西側諸国から非難されようと、自分の利益に関係ないと思ったら、一切関わってこようとしない。アメリカと余計な摩擦を招くことを嫌うからだ。●しかし、G7の動きを考えてみてくれ。ついこの間まではG8だった。そのロシアを、ウクライナ問題を口実にG8から追い出したのはアメリカだ。日本はそのアメリカに追随しているではないか。今般の出来事が、G7が終わって間もない時期であったことに注目してほしい。中露、どちら側が誘ったのか?中露、どちら側が誘ったのか? 「では、ロシア側から話があったのですか?」 筆者は食い下がった。すると相手は、「いやなことを聞くな」という語調になりながらも、次のような説明をしてくれた。●中国が、ロシア海軍の動きを知らないということは、逆に不自然だろう。ロシア海軍は、世界の各地でさまざまな軍事演習を行っている。これまでもよくあることだが、今回は3月に東南アジアで反テロ対策の国際的な軍事演習に参加していて、自国に帰る途中だった。●覚えているだろうか?3月10日、全人代開催の真っ最中に、王毅(外相)が突然姿を消してロシアに行きラブロフ(外相)と会っただろう? なんであの厳粛な全人代を中断してまでロシアに行かなければならなかったと思っているんだい?北朝鮮の問題だけだと思ったかもしれないが、実は3月下旬にはロシアの大型対潜艦アドミラル・ヴィノグラードフなど3隻がウラジオストックを出航して南シナ海に向かうことになっていた。出航前のさまざまな打ち合わせがあったと見ていいだろう。日本はどこを見ているのかなぁ……。●実はロシアはかつて(2013年)、南シナ海で中国に不利な発言をしたことがある。それを食い止める意味もあっただろう。今ではアメリカがウクライナ問題を使って「国際社会での虐めっ子ごっこ」のようなことをするから、中露の意気が投合しても不思議ではないだろう。G7では、関係のないヨーロッパ諸国まで巻き込んで、南シナ海問題を批難したりしたんだから、中露の利害が一致するところに追い込んだのはアメリカさ。それに追随する日本も悪い。●特にロシアとしてはバルト海を中心にして6月5日から始まった米軍とNATO関係国による軍事演習には激怒している。アメリカが東ヨーロッパ諸国を煽って、ロシアを牽制するため、かつてない大規模な実弾軍事演習を展開している。そのアメリカに日本が追随するなら、ロシアは容赦しない。●現に中露両国は5月28日から“空天安全-2016”シミュレーション演習を行なっている(国防部網情報)。中露の利害が一致しないはずがないし、中露が緊密に連携を取ってないはずがないということだ。●でも、日本は北方領土問題があるから、ロシアの恨みを買うようなことをしたくはないのだろう。だから「中露連携」があったとは認めたくない。中国メディアの報道の意味は、そういうことだ。 以上が取材した結果、中国政府関係者から得た回答である。 たしかに3月10日、全人代開催中だというのに、記者会見を終えた王毅外相は、突然姿を消したことがある。その裏には、このような戦略が隠されていたとは……。握手を交わすロシアのラブロフ外相(右)と中国の王毅外相=3月11日、モスクワ(ロイター) しかし軍事演習関係なら、なぜ外相が行って国防部長(大臣)が行かなかったのだろうか。それを含めた(カモフラージュのための)戦略なのかを聞いてみた。「露骨に分かるようなことはしない」という答えがが戻ってきた。そうだったのか……。筆者にも読み切れなかった。 それにしても、日本側が「中露は連携していただろう!」と厳しく詰問して、中国が「いや、そんなことはしていない」とか「そのようなことを明かす義務はない」といった否定的態度に出るのなら話は分かるが、今回は全く逆で「さあ、疑えよ」と言わんばかりだ。要するに、「いざとなったら中露が連携するぞ」という新たな威嚇なのかもしれない。 少なくとも、背景にある経緯はわかった。そういった要素も頭に入れながら、今後はどのような動きに出るのか、慎重に見極めていきたい。追記:以上はあくまでも中国政府関係者が「私個人の意見だが」という条件を付けて話したものであり、おまけに「中露連携があった」と断言する言葉は最後まで避けた。したがって「当たらずとも遠からず」といったところか。またロシア外務省は連携を否定しているが、いずれの国も「いくつもの顔」を持っているのが外交の世界。ロシアとしては日本に嫌われたくはなく、日露首脳の交流を通して、アメリカにより孤立化させられている現状から逃れるためにも、親日的姿勢を一方では模索しているものと考えられる。(『Yahoo!ニュース個人』より2016年6月13日分を転載)えんどう・ほまれ 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。 1941年、中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』など多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)。

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    「東シナ海は危機。もう日本に猶予はない」と櫻井よしこ氏

     ここ数か月、南シナ海を舞台にした中国の攻勢が、1~2年前とは違ったレベルで進んでいる。埋めたてた岩礁にミサイルを配備し、さらなる人工島も建造し始めた。日本はこの事態にどう対応すべきか。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が解説する。* * * 日本は今のうちから、南シナ海が完全に奪われた後のシミュレーションを行っておく必要があります。マラッカ海峡が閉鎖されて中東の石油が入ってこなくなった時にどうすべきか。本当に大変な状況になりつつあるのです。 南シナ海で起きることは、東シナ海でも起きると覚悟しておかなければなりませんから、日本は何としてでも米国と緊密に協力し合いながら、中国の南シナ海、東シナ海における支配を許さないよう、強い抑止力を構築していかなければなりません。中国がしていることに注目して、勝手な行動を許さない態勢を作らなければ、大変なことになります。 中国はすでに東シナ海で侵略的な動きを加速させています。東シナ海は深く、南シナ海のように簡単に埋め立てることはできません。そこで中国が着々と進めてきたのが、ガス田開発にかこつけた海上プラットホームの建設です。 各プラットホームはヘリポートを備えており、無人機を含む航空機の離着陸が可能です。レーダーやミサイル発射装置も十分に配備可能な、まさに「洋上基地」と呼ぶべきものです。 加えて中国は1万2000トンの大型巡視船「海警2901」の建造を進めており、強力なエンジン10隻分をドイツから購入済みです。対して日本の海上保安庁には1万トンを超える大型船はなく、海上自衛隊にも砕氷艦「しらせ」を除けば5隻しかありません。 今が千載一遇のチャンスと考えている中国が、南シナ海同様、今後数か月以内に東シナ海の海上プラットホームにもミサイル発射装置を配備するなど、“次の一手”に打って出る可能性は十分にあると思います。 そうなった時に、日本の防衛能力で尖閣諸島や東シナ海を守り切れるのか。  日本もアジアの国々も、中国と1対1で対峙するのはもはや不可能です。4月3日に海上自衛隊の潜水艦がフィリピンに寄港し、4月12日には同じく自衛艦がベトナムのカムラン湾に寄港したように、アジア諸国との連携を深めていくことが必要です。 米国との同盟関係はとりわけ重要です。オバマ大統領が消極的なことが世界を不安にしていますが、それでも米国は重要な同盟相手です。日米関係をさらに強固にしつつ、米国だけに頼らない防衛体制も構築するべきです。  日本に残された猶予はもうほとんどないことを、深く認識しておかなければなりません。関連記事■ 3000名もの中国漁民のゴミや糞尿が五島列島の海を汚している■ 中国が最も嫌がるのは日本、インド、ASEAN合同軍事演習■ 中国 南シナ海の領土主張と同手法を尖閣に適用する可能性も■ 中国軍 海南島に原潜秘密基地建設で南シナ海での対立激化か■ 李登輝氏「安保法制は台湾、東アジア安定に寄与する」と指摘

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    尖閣周辺のロシア軍艦航行 日本政府が抗議しなかった理由とは

     尖閣周辺を中国艦艇とロシア艦艇が同時期に航行するという異常事態が発生した。南シナ海で「航行の自由」作戦を繰り返すアメリカへの挑発か。中露は水面下で手を結んでいるのか。様々な憶測が飛び交うなか、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が両国の真意を読む。* * * 外交では、相互主義という原則がある。相手がやったのと同じ事をやり返す権利だ。日本政府も相互主義原則を適用して、中国の青島沿岸の領海や海南島沿岸の接続水域を自衛隊の護衛艦が通航することだってできる。 しかし、日本はあえてそれをしていない。それは、中国の外交部と海軍の間に、深刻な見解の相違があることが明白だからだ。6月9日未明に尖閣周辺の接続水域に中国軍艦が通航したとき、直ちに齋木昭隆外務事務次官(当時)が程永華駐日中国大使を外務省に呼びつけて激しく抗議した。〈外務省の斎木昭隆事務次官は午前2時ごろ、程永華駐日中国大使を同省に呼び出し、今回の行為を「一方的に緊張を高める行為だ」として同水域から直ちに出るよう抗議した。中国が尖閣諸島の領有権を主張しているためだ。〉(6月10日「朝日新聞」朝刊)。中国の程永華駐日大使 もし、中国外交部が中国海軍の行動を支持しているならば、深夜の呼び出しに程永華大使が応じることはない。大使館の当直が「大使と連絡が取れません」といって、翌日の勤務時間になってから、齋木氏の呼び出しに応じるという態度を取ったはずだ。日本政府としては、中国の外交部と海軍の間の温度差を最大限に活用して、日本に有利な状況を作り出そうと考えている。 ロシアの軍艦の航行について、日本政府が抗議せずに無視するのは、中露が連携している事実はないというインテリジェンス情報を外務省が得ていることと、この問題をことさら取りあげて、北方領土交渉に悪影響を与える必要はないとの首相官邸の政治判断によるものだ。裏返して言うならば、安倍晋三政権下で、日露の信頼関係がかなり高まっているので、今回は日本がロシアに「貸し1」という形で大人の対応をしているということだ。【PROFILE】1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。SAPIO で半年間にわたって連載した社会学者・橋爪大三郎氏との対談「ふしぎなイスラム教」を大幅に加筆し『あぶない一神教』(小学館新書)と改題し、発売中。関連記事■ 皮肉好き外務官僚 前原氏に「お子様ランチ」のあだ名つける■ 前原元外相が駐露大使を召還でなく「呼び戻す」とした理由■ ロシア人の罵り言葉 「あいつは中国人百人分ぐらい狡い」■ 安倍政権が大使館と総領事館新設へ 外務官僚のポスト増える■ 中国にいくらODAでカネ払っても日中関係改善に関係ナシ

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    国会前デモは「じいさんたちの同窓会」だった

    れば、俺たち、もう一回、青春を送れる」っていうくそじじいがいっぱい出てきちゃったの。2015年7月、安全保障関連法案に反対し、国会前をデモ行進する人たち呉:そうそう。新聞や週刊誌の写真見てると、ああ、こいつ、こいつって、知ってるヤツがいっぱい(笑い)。中川:元気そうだな、お前、みたいな。呉:いや、ホント、国会前デモやっていたのとは別の、人権啓発とか部落解放とかの活動をしている若いのに話を聞くと、「年寄りにはうんざりしますよ」っていうんだよ。30年前、40年前と理論がまったく変わっていないって。なぜ変われないかというと、自分の居場所をそこに見つけて、メシも食っていけるし、自分のアイデンティティも確認できるし、他との理論闘争もないしで、安住できるから。中川:ああ、なるほど。呉:だけど、中川君は去年から左翼がうんぬんといったけど、俺は一昨年夏の朝日新聞の慰安婦虚報謝罪から、左翼衰退が顕著になったと思う。あの事件で、今まで左翼の理論は、すごい虚妄な理論やウソの事実のうえに乗っかって組み立てられていたということがわかっちゃったでしょう。── 一方でSEALDsの登場が「リベラルの希望」といわれていますが。呉:あれを取り込もうと思った段階でバカだよ(笑い)。あんなものは何の役にも立たない。大衆を利用する方法はいくらでもあって、毛沢東でもスターリンでもやっているけど、じゃあ、アジったら、あいつら武器もって国会に突入するのかよ。中川:たぶん、「単位落とすぞ」っていわれたら、デモに来る数、激減じゃないですか?呉:俺が住んでいる名古屋でもあちこちにビラが貼ってあったの。ビラじゃなくてフライヤーとか呼んでて、その辺も軟弱で嫌なんだけど、それに「何月何日、何々公園に武器をもって集まれ」って書いてあったの。俺は感動して、ついに機動隊に殴りかかるかと思って、よく見たら武器じゃなくて「楽器」だった。『Yの悲劇』かよ(笑い)。この冗談の解説は入れないように。──了解しました!関連記事■ ネトウヨは変人が徒党組んでる、相手するのバカバカしいの指摘■ 国会前デモ報道のNHK 報じないことにデモ起こされたためか■ デモは出会いの場 全共闘世代の武勇伝に女子大生「すごい」■ 総選挙で新人議員184名誕生 氏名標作成業者は徹夜で名入れ■ SAPIO人気連載・業田良家氏4コマ「例え話国会」

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    安田純平さん手記「私が新聞社を辞めて戦場に行った理由」

    収めた。帰国後、これについての記事を書こうとした矢先、強硬なストップがかかったのだ。 米英両国が国連安全保障理事会に提出したイラク大量破壊兵器査察・廃棄決議案が11月初めに採択され、すでに査察が始まっていたが、このころの新聞やテレビは、いずれも査察の状況や各国の外交について述べるばかり。戦争が迫っている国の人々の表情などは、ほとんど見えてこない状態だった。 大手メディアもイラクに入国できる人数が限られ、「本筋」の査察取材で手一杯。調査団は、参加者20人余のうち半数は全国紙やテレビ局などメディア関係者という奇妙な市民グループだったが、それは、なかなか見えてこないイラク市民の様子を伝える格好のチャンスだったからだ。米国の「対テロ戦争」と追随する日本政府の方針に疑問 私は、戦争が近づいているといわれている国の人々がどのような表情をして暮らしているのか、そうした場所にいるということがどういった心境なのかを知りたいと思った。また、そうした人々の声を伝えるのが記者の役割だと考えていた。91年の湾岸戦争のとき、高校生だった私は、テレビゲームのようだったバグダッドの映像を見て「あの下にも人が住んでいるのだな。それはどのような心境なのだろうか」と感じていた。それは、さまざまな人々の境遇に触れる事のできる記者を志した原点の一つでもあった。 戦争の機運が高まり、世界的に反戦世論が広がってきていたにもかかわらず、日本国内は動きが鈍く、新聞やテレビで扱われることはほとんどなかった。長野県内にはそういった動きがなく、イラクにゆかりのある人も見当たらなかったため、地方紙に必須の「県内とからめた」イラク関連の記事を書くのが困難だった。イラク行きを決めたのは、「それなら自分が行くことで関連づけてしまえ」と〝安易な方向〟に走った面もあった。県内関係者が行くのを待ち、土産話を取材する機会を捜すという方法をとれないほど好奇心が勝っていた。 記事には出来なかったが、共感してくれた県内有志が帰国後に報告会を開いてくれた。「長野県に住む自分たちとは関係ない」などと思っていない県民がこの時期からたくさんいた。身近な人を取り上げることで読者が親近感を持つという地方紙としての考え方はあってもいいし、逆に、記者が自ら体験しても親近感を持ってくれるものだという側面も感じた。 しかし、これもとがめられた。あくまで個人的に話をしたのだが、就業規則に引っかかるらしく、「会社の名を語った」とされた。見てきたものを伝える、その方法をことごとく封じられた。 なぜ会社がそこまで強硬だったのかは分らない。ただ、12月に行く前に「取材で行きたい」と申請したが「危険だからだめ」とにべもなく却下されていた。さらに、「休みであっても何かあれば会社の名前が出る。休みは強制できないが、行かないでほしい」という会社側の意向に辟易し、強行したことが溝をつくってしまったかもしれない。画像はイメージです市民の側の現場に身を置くしかない 私は2002年3月、やはり休暇を使ってアフガニスタンを取材した。「9・11」のテロ事件から始まった米国の「対テロ戦争」と、追随する日本政府の方針に疑問を感じていたからだ。同時に、それまで知らなかったアフガン民衆の困窮も知った。アフガン攻撃をきっかけに、経済のグローバル化による貧富の差の拡大が広く認識されるようになったが、「貧」の側にいる人々の存在と、「富」の側にある日本の中で比較的「貧」である地方の暮らしを考えることは、自分の中で新しい視点につながっていくのではないかと思った。地方で記者をしながら、休みを使って紛争地帯・貧困地域に行こうと考えたのはそのためだ。しかし、そもそも大した日数はつぎ込めないのに記事を書けないのならば、その意味は半減する。 編集幹部は「イラクの話などに力を入れては読者にしかられてしまう」と言った。しかし、戦争が始まれば、紙面は戦争の記事で埋まることは分かっていた。帰国後に読んでみると、県内の市民数人に意見を聞き、攻撃反対の世論があることを紹介する記事が書かれ、各地で始まったデモや集会の紹介も手厚くなっていた。通信社からの配信を多数使い、米英側、イラク側の発表を織り交ぜていた。バグダッドにいた日本人に電話取材もしていた。識者へのインタビューも頻繁に行っている。朝日新聞なども似た内容だ。 せめて戦争が始まる前に、この程度でも力を入れることはできないものかと思う。後から検証することは大事だが、始まってしまえば人々が傷つき殺される。この段階で反戦の論調を打ち出しても基本的に手遅れである。 また、月並みな感想だが、どのメディアも、イラク市民の様子はいまいち伝わってこない。息遣いや生生しさを感じない。爆撃に対する恐怖も覚えない。戦況を伝えることは重要だが、あくまで基礎情報であって、それによって市民に何が起こっているのかを伝えるのが報道の使命のはずだ。そのためにはイラク市民の側の現場に身を置くしかない。 1月の段階で、メディア情報にはこうした最も重要なはずの部分が欠落することは予想がついていて、歯がゆい気持ちで日本でそれを見ることになるのはつらいと思った。アフガン攻撃でも、現場がどうなっているのかが見えてこず、焦燥感でいっぱいだったからだ。戦前にイラクに行っていながら記事にすることができなかった苛立ちと失望の中で、そうした情報に晒されるのは我慢できないだろうと思い至った。 戦争中に私がバグダットなどで訪れた病院は、血と膿と消毒液の混ざった生臭いにおいが充満し、路上に放置された民間人の遺体は強烈な腐臭を放っていた。空爆跡地は血だまりも残り、騒然とした空気が漂っていた。人々が発する怒りや嘆きも感じた。一方で、戦争のさなかにも人々は笑い、何気ない暮しをしていた。そうしたメディアからでは得られないものを全身で感じ、戦争とは何かを叩き込みたかったがため、私は現場へ向かうことを選んだ。そして、もちろん現場で取材できることの限界にもぶつかった。それらはフリーにならなければできないことだった。組織ジャーナリストとフリーランスの違い組織ジャーナリストとフリーランスの違い それにしても、膨大な情報の中から取捨選択して新聞を作っていることは周知の事実なのに、多くのメディアが「公明正大」「客観」と言う言葉を未だに使いたがるのはこっけいだ。組織ジャーナリズムの中にいるかぎり、記者は取捨選択に組み込まれる。バグダット陥落後に入って来たある全国紙の記者は、悔しそうにしながら「会社の論調に合わない記事はボツになる。悩んでいる同僚は多い」と話していた。記者たちがそうした悩みを抱えながら取材をしていることを、読む側も知っていてもいいと思う。 自分自身の状況判断と責任で行動を取れるかどうかが、組織ジャーナリストとの違いだ。フリーになって初仕事という意味では、開戦前後の葛藤はイラク戦争取材の中でも充実感の残った部分だ。組織の命令で動くならば、諦めもつくし、文句を言って気を紛らわすことも出来る。理不尽であると同時に、気楽な面もあったのだなと感じた。 組織から「危険だから行ってはいけない」という指示を受けることがあることは、私も何度も経験している。それが記者の声明を心配してのことと言うよりも、家族からの賠償請求など会社の責任を気にしてのことだということもよく言われる。しかし、私は「休みで行くので自己責任だ」と主張したが、会社は納得しなかった。あるブロック紙のカメラマンは、「家族が賠償を請求しないという文書を出すからイラクに行かせてほしい」と会社と交渉したが受け入れられなかったという。「何かあったら会社の名前に傷がつく」ことを恐れているようだ。私などは「紛争地がらみで会社名が出ればハクがつくだろうに」と思ったものだが、そう簡単なものではないらしい。  戦争中の3月末、通信施設が壊滅して連絡手段がいっさい途絶え、私を含む日本人の安否確認ができなくなり、ある通信社は死亡記事を用意していたらしい。私の記事を作るうえで、信濃毎日新聞のある幹部に取材をしたようだが、その幹部は私の行動で会社が取材されたことに激怒していた、という話を耳にした。何も迷惑をかけたつもりはないが、何かあれば当然、経歴とともにマスコミに出ることになるだろうし、あることないこと書くところも出てくるだろう。「何も起こらないのが一番」と考えるのも無理はない。恐らくどんな会社にいてもそうした反応をするはずだ。しかし、それが取材活動を制限することになるならば、その守りたい「名」とは何かと思わざるを得ない。(『創』2003年8月号)

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    安田純平さんも見殺しにするのか

    昨年6月に内戦下のシリアに入国後、行方が分からなくなったフリージャーナリスト、安田純平さんとみられる男性の画像がインターネットに投稿された。「助けてください。これが最後のチャンスです」。身柄を拘束した犯人グループの思惑と安田さん本人の覚悟が複雑に絡み合う事件の舞台裏を読み解く。

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    「嘘とカネ」思惑が渦巻く安田純平さん拘束の舞台裏

    高世仁(ジン・ネット代表) 私はテレビの制作会社をやっておりまして、報道番組やドキュメンタリー番組を作っています。時々フリーランスのジャーナリストから依頼されて、企画をプロデュースしてテレビ局へ売り込むということもやっている。安田純平さんもそのフリーランスの一人でした。 安田さんは、もともと信濃毎日新聞の記者で、フリーになって、2004年にイラクで拘束されています。あの時は高遠菜穂子さんたち三人が拘束された後に、安田さんと他にもう一人拘束されました。だから安田さんは今回二回目の拘束ということで、心配なのは「一回拘束されたのにまたやったのか」というバッシングにあいやすい状況にいることです。 彼は、新聞記者出身ですので、もともとはペンと写真の人です。2012年にシリア内戦で自由シリア軍に従軍して、その時初めてビデオカメラを回したのですが、それが素晴らしい出来でした。今後これを超える戦場ルポが果たして出るのかなというくらい素晴らしかった。それはTBSの「報道特集」で放送されました。 今回、安田さんは昨年の5月23日にトルコに入ってから、私に連絡してきて、どういう取材をしたらいいのかアドバイスを求められました。シリアに入るのは非常に難しくて、他のジャーナリスト仲間も、国境を超える時にトルコ側の国境警備隊から銃で撃たれたりしている。今回は今まで以上に厳しそうだと言っていました。 でも彼はトルコ南部、シリアとの国境付近ですごくいい取材をしていたんです。それだけで番組ができるような取材でしたから、私はそれで取材を終えて帰ってくるかなと思っていたんです。 そしたら、6月20日になって「シリアに入れる」という連絡が来た。その後22日に、共同通信の原田浩司さんに「これからシリアに入る」、23日にフリーのジャーナリスト常岡浩介さんに「どうももうシリアに入ってしまったらしい。ヘトヘトだ」というメッセージが入りました。そして、その直後に拘束されたようです。 その後7月3日に、現地の人から「安田さんと連絡がつかない」と連絡があり、4日には拘束されていることがわかりました。シリアで行方不明になったジャーナリスト安田純平さんとみられる男性の映像。フェイスブック上に公開された=2016年3月 常岡さんは安田さんの長年の友人ですが、彼と相談してこれからやることは二つということにしました。一つは、情報をそっと探ること。もう一つは、メディアに出さないことです。 なぜなら、拘束したグループから何のメッセージもなく、何のために拘束しているのかわからない。騒ぐことでこちらが有利になるのか不利になるのかわからない状況です。だからとにかく、そっとやろうね、と決めました。 その後、7月12日に、常岡さんがトルコに行きました。その時私たちが考えていたのは「もしかしたらスパイ容疑をかけられているんじゃないか」ということでした。あくまでも推測ですが。ヌスラ戦線が拘束したわけではない 安田さんが消息を絶ったところは、ヌスラ戦線というアルカイダ系の組織が強い影響力を持っている場所だったので、我々はてっきりヌスラ戦線が拘束したと思っていました。そこで、そのスパイ容疑を晴らすために安田さんが書いた本とか、記事とかテレビ出演している映像とかをヌスラ戦線に見せて、ちゃんとしたジャーナリストだよとアピールしようと思ったのです。 でも、事前にこのミッションは失敗が見えていました。というのも、5月の段階で、それまでシリア取材を熱心にやっていた日本人ジャーナリストが、トルコの空港についた時点で次々に入国禁止になって強制送還されていたからです。例えば、若い女性ジャーナリストの鈴木美優さん、『ジャーナリストはなぜ「戦場に行くのか」』(集英社新書)の執筆者でもある横田徹さんなどが立て続けに強制送還されました。 ましてや常岡さんは「イスラム国」を取材した数少ないジャーナリストで、2014年に日本で私戦予備陰謀というとんでもない容疑でパスポートから何から取り上げられて家宅捜索されたことのある人だから入国は絶対無理だと思いました。私は「まあダメもとで行ってらっしゃい、旅費は半分カンパするよ」と言って送り出したんです。画像はイメージです そしたら案の定、トルコには入れずにすぐに帰されて来ました。ここで問題なのは、トルコに入国できないこの3人というのが、いずれもヌスラ戦線と連絡を取れて土地勘のある人たちなんですよ。しかもみな安田さんの友人。安田さん救出に最も力になれそうな人たちが、ことごとく現地に近づけなくなっているんです。 これはあくまで推測ですが、日本政府が、そうしているんじゃないかなと私は思っています。というのも、安田さんが以前イラクでとらわれた後、日本政府が「安田純平にはビザを出すな」とイラク政府に要請したんです。だから安田さんはまともな方法ではイラクに入れなくなったので、コック(料理人)になってイラクの軍の基地でシェフとして働いた。その状況を書いた本が『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』(集英社新書)というのですが、これは戦場取材に新たな手法を持ち込んだ名著だと私は思っています。 彼は基地から出られないのでずっと厨房にいる。この本には「厨房から見た戦争」が描かれている。イラク社会ってどんなものかとか、戦争が民営化されていることもよく分かる。世界中からイラクに出稼ぎに来ていて、格差と戦争とか、大事なことがたくさん書いてあるすごく面白い本です。幾つものグループが救出に動く さて、7月以降、安田さんの友達などを含めて、民間で幾つものグループが救出に動き出します。そして、それぞれ間接的・直接的に拘束者との接触に成功しています。日本にこういう人材がいるのかと私は驚きましたね。 そのうちの一つがヌスラ戦線に「日本人が捕まっているだろ?」と問い合わせたら、ヌスラ戦線の方が「知らない」と言うのです。実は現地はヌスラ戦線の影響力が強いところですが、最初に安田さんを拘束したのはヌスラ戦線じゃなかった。実は現地には他にもいろんな武装グループがあって、その中にはヌスラ戦線と付かず離れずで、密貿易などをやっている「ならず者集団」もいます。最初に安田さんを拘束したのはそういうグループだったのです。 それで、ヌスラ戦線が日本からの通報を受けて調べたら、その「ならず者集団」が拘束していたので「我々のテリトリーで勝手なことするな」と怒って、ヌスラ戦線の部隊がそのグループを攻撃しました。これは死者が出るくらいの戦闘で、結果、ヌスラ戦線が安田さんの身柄を引き取りました。画像はイメージです 今日の話は、どこから聞いたとか一切言えないですけど、今、ヌスラ戦線に安田さんは捕まっていて、12月10日段階で、安田さんが生きていることは確実になっています。 問題はヌスラ戦線がどんな組織かということですが、もともとはイスラム国と同根のアルカイダ系組織で、途中からイスラム国と分かれます。今はイスラム国と最も激しく戦っている武装勢力です。今まで何人もジャーナリストを捕まえていますが、まだ殺していません。2012年にはスペイン人のジャーナリスト3人を身代金も何も取らずに帰しています。この時はクゥエート政府が仲立ちしたと言われています。 だから我々もなんとか静かに交渉がやれればと思っていたら、とんでも無いことが起こりました。昨年12月23日に「国境なき記者団」が「安田さんの拘束者が身代金要求をしている。期限内に金を払わないと、殺すか、他の組織に売ると言っている」と声明で発表した。これがドカーンと報道されて、日本人のほとんどがこの事件を知ることになりました。それまでは、常岡さんたちが、日本のメディアに「慎重にして」とお願いしていた。一時期「これは安倍政権がメディアに圧力をかけて黙らせている」というツイッターかなんかがあったけど、逆だったのです。 そんな中、国境なき記者団の声明発言で安田さん拘束が報道された。これが非常に問題だったのは、そもそも安田さんの家族にも、外務省にも身代金の要求は来ていない、つまり根本的に間違った情報だったのです。そこでおかしいじゃないかと問い合わせたら、国境なき記者団は29日に発言を撤回するんです。「5000万円で私が解決してあげる」「5000万円で私が解決してあげる」 どうしてこんなことが起きたのか。私が知っている安田さんを助けようとしている民間のルートの一つにスエーデン人のNさんというのがいて、この人が外務省に「5000万円で私が解決してあげる」と持ちかけていたんです。外務省は相手にしなかった。で、Nさんは、自分の出番を作るために国境なき記者団を使って演出したんだと私は思っています。 Nさんがヌスラ戦線にどんな取引を持ちかけているか分かりませんが、もし身代金での交渉ということになると、大変なことになります。 ご存知のように日本政府は、テロリストとは交渉も接触もしません。身代金も払いません。安田さんのご家族も巨額のお金を払えるわけがない。日本には身代金を払う人がいない。ですから、身代金での交渉となると、安田さんの身柄は非常に危険なことになってしまう。我々は、今一生懸命情報を探っている段階ですけど、Nさんのおかげで非常に難しい状況に立たされています。 こういう混乱が起きる背景の一つには、日本政府の「関与せず」というスタンスがある。政府に頼れないから、民間の人たちがこういうふうに一生懸命やるわけです。それぞれのルートがトルコまで行って独自に調査をやっています。 そして、私が知っている3人のヌスラ戦線と話が付けられるジャーナリストの動きは封じられています。 もし、トルコへの入国禁止を日本政府が要請しているとすれば、「関与せず」だけではなくて救出活動を邪魔することになっている。そもそもジャーナリストが武装集団に拉致された場合、どこの国もなんらかの形で政府が乗り出すものなんです。ところが、日本はそうなっていない。それどころか政府は、危ないところにいくジャーナリストは「蛮勇だ」などと言ってバッシングに加担する。このような日本特有の事情要因があって、今回の状況は起きているんだと思います。 とはいえ、日本政府が出て来ればかえって話がごちゃごちゃになるかもしれない。それが1年前の後藤健二さんの時の教訓でもありますので、私たちとしても動きがとれません。今はとにかく情報を集めようとしている状況です。 ただ12月10日の段階では少なくとも安田さんはまだ大丈夫だということがわかっています。これから、新たな段階でみなさんにご協力をお願いすることがあるかもしれない。その時はよろしくお願いします。  最後に、なぜ戦場に行かなければならないのかというきょうのシンポのテーマについて安田さんは先ほど紹介した本にこう書いています。「戦後60年が過ぎ、戦争を知っている日本人が年々減っていく中で、現場を知る人間が増えることは、空論に踊らないためにも、社会にとって有意義だ」。つまり、戦争のリアリティーを知る人が少なくなる中で、戦争のリアルを知っている人間がいるっていうことは、戦争が空論として論じられないためにもいいんじゃないかというのです。今の日本の状況にぴったりの言葉だと思います。 安田さんは非常に志のある有能な人だし、イラクでコックをやりながらアラビア語をマスターしていたので、拘束者との間に変な誤解が生じることはないと思います。必ず、無事で帰ってくると信じています。(1月15日に都内で行われたシンポジウム「ジャーナリストはなぜ戦場へ行くのか」での発言を収録)

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    取材現場での事故は殉職? 戦場ジャーナリストたちの意志と覚悟

     昨年6月にシリアで行方不明となった安田純平さんの動画が今年3月に公開された。いま安田さんをめぐる状況はどうなっているのか。4月19日に開催したシンポジウムの一部を紹介する。安田純平さんの意志を尊重すべき藤原亮司(ジャパンプレス) 安田純平さんが昨年6月23日にトルコの国境を越えてシリアに入って、すぐに地元の武装勢力につかまったということを、私はその数日後に耳にしました。個人的にも親交がありますので、私はそれから安田さんの情報をずっと追いかけてきました。私自身もシリアで取材したことがありますので、現地の友人や安田さんの友人、あるいは私が使っていたコーディネーターなどから情報を得ています。おそらく今はヌスラ戦線というシリアの反体制派グループに拘束されているだろうと言われています。 彼がつかまって以降、公にはずっと情報がなかったのですが、昨年12月22日付で、「国境なき記者団」という団体が声明を出しました。その内容は、日本政府が解放交渉を行わなければ安田純平は人質として転売されるか殺されるであろうというものでした。なぜそんな発表がなされたかというと、セキュリティ会社の社長を名乗るスウェーデン人の男がおりまして、それまでもずっと日本のメディアや政府に自分が仲介役になれる、交渉できると持ちかけて、一儲けしようと企んでいたのです。しかし相手にされず、国境なき記者団でよく知っているベンジャミンというアジア太平洋担当デスクに話を持ちかけた。そして彼が上司の判断を得ず、会社の会議にかけずに個人の判断でリリースを出してしまい、世界に広まってしまったということです。 それは全くの誤報であり、国境なき記者団に抗議を送ったところ、ベンジャミンの上司からすぐにメールが返ってきて、撤回させるとのことでした。私だけでなく複数の人が働きかけたと思いますが、それによって国境なき記者団は、声明を取り下げたわけです。 その後、今年の3月、今度は安田純平さん本人がビデオで語っている映像が流れ、大きく報道されて知られることになりました。今日のシンポジウムの開催趣旨にもありますが、「こういう局面で私たちが何をすべきか、何ができるのか」??。私は、何もしないでほしいと思っているんです。というのは、安田さんが3月16日のメッセージの中で、ご家族や奥様、ご兄弟のことを言っています。「いつもみんなのことを考えている。みんなを抱き締めたい。みんなと話がしたい。でも、もうできない」。これは、安田さんが家族や関係者に伝えようとした強烈な覚悟、意思表示だったと思うんです。自分は身代金による解放を望んでいないので、もう家族たちには会えないだろうという決意表明をしたのだと思います。私はこれは、一人の職業人として、ジャーナリストとして、本当に立派な覚悟のしかただと思っています。イラク日本人人質事件。保護されたバグダッドのウムクラ・モスク前から日本の両親に携帯電話をかける安田純平さん=2004年4月17日 安田さんは過去に一度、3日間ほどではありますが、イラクでも拘束されたことがあります。戦場においてジャーナリストや取材者が一時的に拘束されるというのは、時々起こりうることなんです。12年前にイラクで安田さんが拘束されたこともよくあることの一つだったにもかかわらず、大きく扱われてしまった。高遠菜穂子さんら他の3人の誘拐事件とタイミングが重なったために、非常に大きな扱いをされたわけです。 それ以降、彼はずっと、自分がもしどこかで拘束されたり、身の上に何かがあった時どう処すればいいかを考えて取材地に向かっていたはずです。彼はそれを、今回ヌスラ戦線と思われるところから流れてきたビデオによって、しっかりと表明したんです。それに対して我々はじめ同業者、あるいは関係者や一般の人たちが、政府に安田さんを解放してやってほしいと働きかけることは、安田さんの意に反することでもあるのです。これは国家が国民の身に何かが起きた時に、尽力する責任がある、義務があるということとは全く別の話で、当然政府にはそうした責務があるのですが、一方で安田純平さん個人が、自分の職責において、自分の生き方において、政府による交渉を望んでいないので何もしないでくれという訴えかけをしてきた時、私は友人として、同じ仕事をしている人間として、彼の意志を尊重したいと思うんです。 また、闇雲に政府に働きかけたり、それによって政府が何か動いたり、また我々の側からヌスラ戦線に解放してくれとアピールするといったことは、身代金を欲しがっている人間のことをこちらから宣伝してやっているようなものです。それは安田さんにとって何のメリットもないことだと、僕は思っています。現場での事故は殉職現場での事故は殉職野中章弘(アジアプレス代表) フリーランスのネットワークであるアジアプレス・インターナショナルは、シリア、イラク、パレスチナ、アジアの各地で30年ほど取材してきました。その中で1999年には、我々のインドネシア人のメンバーだったアグス・ムリアワン君が東ティモールで殺害されるということがありました。この時は襲撃されて殺害されており、今回のように拘束、誘拐ではなかったのですが、それは僕のジャーナリスト人生の中で一番つらい出来事でした。殺害されたという報告を受けてすぐに東ティモールに行こうとしたのですが、国連もジャーナリストもすべて撤退して入れない。まず、彼の故郷であるバリ島に行って、家族に報告をしなければいけない。説明に行くと、数十人の家族や親戚たちが待っているわけです。そこでアグス君がどうして亡くなったのか、どういう状況だったのかを報告しなければいけなかったのですが、それが僕の人生の中で最もつらい瞬間でした。それから東ティモールの事件の現場に行きましたが、国連との交渉や検視など、いろんな手続があり、殺害から3年後にようやく遺体を掘り起こして、東ティモールの海岸で荼毘に伏して、遺灰を故郷バリ島の海岸に流しました。 2012年には山本美香さんがシリアで殺害されました。山本さんも一時期アジアプレスに在籍していたこともあって、昔からよく知っていた仲間でした。こういう仕事をしていると、当然そういうリスクがあります。 ただ、誤解のないように言っておくと、アジアプレスのメンバーたちは自分が戦場ジャーナリストだという意識はたぶんあまりないと思います。これは大切なところで、戦場だから行っているわけではなくて、そこに伝えなければいけないことがあるから行っているのです。アジアプレスの譲れない原則のひとつは戦争に反対するということです。戦争が起きた時に、我々の命も生活もすべてが破壊されるわけです。戦争に向かうような動きに対して警告を発して権力を監視する。それがジャーナリズムにとって最も大切な使命なのです。そういうことが起きている現場に行き、現状を報告し、なぜそれが起きるのか、それを起こさないためにはどうしたらいいのか、そのような問題提起をすることがジャーナリストの使命、ミッションです。ただ、現場に行けば、いろんな形で事故が起こる。戦場でなくても、取材活動の中では、思わぬ事故が起きるわけです。山本さんも言っていたように、そういう現場での事故というのは殉職だと思います。職業に付随したリスク、それ以上でもそれ以下でもないと思います。 安田純平君の話をしますと、彼が信濃毎日新聞を辞めてフリーで仕事を始めた後、時々会って取材の話を聞いてきました。彼は、主に中東地域の取材をしてきたジャーナリストです。日本のフリーランスの中で、最もイラクやシリアの取材経験の長いジャーナリストの一人です。彼は彼の、本当の意味での自己責任で、自分の職責を全うするということで取材に行ったわけです。ここはきちんと共有したいと思うのです。彼はジャーナリストとして、そこで起きていることを世界に伝えるという役割を自分に課して取材に行った。そこで起きた事故です。 土井敏邦さんや、アジアプレスの綿井健陽や石丸次郎などを中心に、戦場ジャーナリストの仕事をサポートする動きが出てきていますが、とても大切なことです。画像はイメージです フリーランスの権利、取材の自由や安全を守る組織は、日本には全くありません。これは他の国と大きく違うところです。ですから安田君がこういうことになったからといって、組織的に救援に動けるような体制は、全くとられていないのです。友人たちが個々に動くということはあっても、救援活動を担う主体が日本にはない。これは非常に大きな問題です。誰かを責めているわけではなく、僕自身も含めて我々フリージャーナリストを守る主体は我々です。自分たちで自分たちを守るというふうに動かなければいけないのですが、残念ながら山本美香さんであれ、後藤健二さんであれ、その前には2007年に長井健司さんがミャンマーで殺害されましたが、いくつかそういう例がありながら、フリーランスの側が自分たちの権利を守っていくための組織作りができていません。だから我々自身にまず課題があるというふうに僕は感じています。 ただ、誘拐などが起きた場合、我々のできる力を遥かに超えてしまう。身代金であれ、処刑であれ、どう対応するのか。現実的な対応は非常に難しい。できることは限られている。フリーはマスメディアの人たちが行かないような場所に行けば仕事になる、お金になる、現実的にそういう面もあります。でもそういう補完的な気持ちで行っているわけではないのです。戦争の実相というのは、まず戦場の取材から始めなければいけない。僕は絶対にそう思います。ホワイトハウスやペンタゴンを取材したって戦争の本質はわかりません。イラク戦争でも取材の起点は戦場にしかない。だからそこに行くという判断を、自分でしているわけです。 アジアプレスのメンバーが万が一、拘束された場合は、基本的には一切救援活動はしないことにしています。責任を自分で負うということを引き受けて現場に行く。それがフリーランスの仕事のやり方であり、生き方だと思います。ジャーナリズムの自殺ジャーナリズムの自殺新崎盛吾(新聞労連委員長) フリーランスと組織ジャーナリズム、これは決して二つに分けられるものではありません。戦場取材等で、別の立場を取らざるを得ないケースはままあるのですが、取材に対しては同じ思いを共有していると考えています。 安田さんを初めて知ったのは、イラク戦争の時でした。2003年3月、実は私も、共同通信のイラク戦争取材班の一員として中東におりました。3月20日に米軍によるバグダッド空爆が始まるわけですが、大手メディアは全てヨルダンやシリアに撤退して、イラク国内にはフリーの方々だけが残っている状況でした。この時、安田さんは「人間の盾」として、イラク国内で取材活動をされていたわけです。私のような社会部記者がなぜ取材班に加わっていたかといえば、イラク国内には多くの日本人が残っており、空爆で日本人が亡くなったり、けがを負ったりすることがあるかもしれない。そんな最悪の事態に備える意味もありました。 イラク国内のフリーの方々は、大きな情報源にもなりました。今、隣にいる志葉さんは当時、空爆下のバグダッドで取材をされていました。私が志葉さんと初めて会ったのは、シリア・ダマスカスの空港でした。バグダッドから到着する便の乗客を取材している時にお会いして、イラク国内の話を聞いて記事にしたり、撮影された写真の提供をお願いしたりした訳です。もちろん自分で直接取材しなければ分からない、現場に入りたいという思いはありますが、業務命令でイラク国内に入れない状況下では、やむを得ない取材手法です。イラク邦人人質事件。成田空港に到着した渡辺修孝さん(左)と安田純平さん。記者らを前に、イラクに残る発言はしていないと釈明した=2004年4月20日、成田空港 その後、4月10日にバグダッドが陥落し、フセイン像が倒される映像が世界に流れるわけですが、実は共同通信の取材班は、この直前にバグダッドに戻っていました。本社から許可が出ていない中、現場の判断で半ば会社の命令を無視する形で戻ったため、後に社内では問題視されたのですが、歴史的に見ればバグダッド発で報じた共同通信の評価は高まりました。フリーであっても組織であっても、そういう現場の思いがあってこそ、戦場取材が成り立つわけです。 バグダッド陥落の日の紙面で、例えば読売は外電写真を使ってアンマン発で記事を出していました。ジャーナリズムの観点から、本当にそれでいいのかということです。ベトナム戦争の時は大手メディアも記者を従軍させ、現地から写真や映像を送り、戦争の生々しい現実を茶の間に伝えた結果、反戦ムードが高まりました。それが、メディアが本来やるべき戦争取材のあり方だと思います。戦争に反対し、ムーブメントをつくっていくためには、やはり戦場で何が起きているのか取材しなければいけない。そこに組織かフリーかの違いはないと思っています。  新聞労連は今回、安田さんの即時解放を求める声明を出しました。私は映像が流れた直後から、安田さんに対する罵詈雑言、いわゆる自己責任論などがネットで大量に流れたことに大変ショックを受けました。そんな一方的に非難されることを彼がしたのか、冷静に考えてほしいという思いがあります。声明にも書きましたが、メディアの人間、ジャーナリズムの人間は、国民の知る権利を最前線で背負っていると自覚しています。そして大手メディアが、ある意味尻込みをしている地域に、あえて入った安田さんがなぜ非難されるのか。国に迷惑をかけたというような発想が出てくることが、私にはちょっと理解しづらいのです。彼は戦争の現実を伝えるために、ある意味で命を張って行った。結果として危険に晒されたかもしれないけれども、それはジャーナリストとしてのリスクの部分だと思います。 特に今、大手メディアの中では安全最優先、あるいはコンプライアンスという考え方がかなり強まり、記者個人が自由に動ける範囲が少しずつ狭まっているように感じます。そういう中で、現場に行かなければならない、人々に伝えなければならないという思いを失くしてしまったら、組織であってもフリーであっても、ジャーナリズムの自殺だろうと思います。

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    シリアで拘束の安田純平氏が託した「イスラム国の重大資料」

     昨年6月9日、本誌記者に送られてきたメールは、こんな書き出しだった。〈突然の相談で恐縮です〉──それに続けてイスラム国(IS)の内部資料を入手したと綴られていた。送り主はフリージャーナリストの安田純平氏。 3月16日、安田氏と思われる人物が拘束されている動画が、インターネット上に公開された。動画を公開したシリア人男性は各種メディアに対し、安田氏がシリアでイスラム過激派組織「ヌスラ戦線」に拘束されたと証言している。 安田氏がシリアに入ったのは、本誌記者とメールのやり取りをした直後だったとみられている。安田氏と親しいフリージャーナリスト・鈴木美優氏の話。「安田さんはトルコ南部のアンタキアからシリア北西部のイドリブを目指す取材を計画していたようです。危険なルートであることを自覚し、緊張している部分もありましたが、イスラム国に対抗しようとする勢力への取材に興味を持っていました。ただ昨年の6月21日を最後に、連絡は途絶えてしまいました」 安田氏はトルコからシリアへと国境を越えた付近で拘束されたとみられている。その直前、冒頭のメールを含む本誌記者とのやり取りで安田氏は「トルコで入手したISに関する重大資料を記事にしたい」との考えを述べていた。安田純平氏のツイッター 安田氏の安否が確定しない中で、資料の詳細を説明するのは控えるが、文書、写真に加え、映像も含まれるものだ。3月22日にもベルギーの連続爆破テロの犯行声明を発表したIS。安田氏の資料の中にはそのISの資金管理に関係すると思われる資料もあり、それを分析した安田氏は〈イスラム国との戦いは「テロリスト」というより、国家に対して行うのと同等の規模で臨まなければならないのでは〉とメールに書き記している。 そうした問題意識が、安田氏を危険なシリアに向かわせたのだろうか。 安田氏と連絡が取れなくなり、シリアで拘束されたという情報が関係者の間で流れた昨年7月上旬、外務省邦人テロ対策室は本誌の取材に対し、「(安田氏が)拘束されたのではないかという情報は把握しており、事実確認を含めて情報収集している」と話していた。しかし、今回動画が公開されたことを受けて改めて取材すると「事案の性質上、回答は控えます。政府としては、様々な情報網を駆使して全力で対応に努めております」(外務省報道課)と答えるのみで、この間の“情報収集”の成果が何なのかはわからない。 思い出されるのは昨年1月にISによって拘束・殺害動画が公開された後藤健二氏のケースだ。安田氏の安否について前出の鈴木氏はこう指摘する。「ヌスラ戦線の兵士に取材したところ、公開された動画にヌスラ戦線のロゴが入っていないことを不思議がっていました。過去の例とはそこが違うそうです。一言でヌスラ戦線といっても、組織の中には様々なグループがある。安田氏の拘束は、ヌスラ戦線の中にいる外国人義勇兵グループが独自に動いて行なわれたものではないでしょうか。取材した兵士も、安田氏のことを知らなかったですから。 ISと違い、ヌスラ戦線は動画公開後に身代金取引で解放されるケースもあります。まだ生存している可能性が高いと信じています」 動画が公開されたのは、身代金を求める交渉のために安田氏の生存を証明する必要があったからなのか。安田氏が消息を絶ってから、まもなく10か月になろうとしている。関連記事■ 日本人拘束の「イスラム国」 日本語話す兵士存在と週刊誌報じる■ ネット駆使するイスラム国 正当性訴える「PR動画」多数製作■ 湯川遥菜氏救出に動いたイスラム法学者「外務省が見捨てた」■ イスラム国邦人人質事件 政府は解放交渉の有力ルートを無視■ イスラム国の目標 イスラエル、レバノンなど支配地域の拡大

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    日本人人質殺害事件と戦場ジャーナリズム

    安田純平(フリージャーナリスト)金平茂紀(TVジャーナリスト)綿井健陽(ジャーナリスト/映画監督)豊田直巳(フォトジャーナリスト)野中章弘(アジアプレス代表)司会進行:篠田博之(月刊「創」編集長)1月20日の公開前から仲間の間では懸念~安田純平──安田さんは後藤健二さんと面識があって、1月20日に映像が公開される前から、後藤さんのことは案じていたということですね。安田 本当に僕の知っている人たちがどんどん戦場で犠牲になっていくような状況で、こういう事件が起きるたびに、「なんで俺はこんなところに居るんだろう」とか、そういう気持ちばかりです。 後藤さんの件については、昨年10月の末にシリアに行っているらしい、と聞いていました。11月の頭にある週刊誌のインタビューの仕事があったはずなのですが、連絡もない。その後に講演会の予定もあったけれど、そこにも連絡がない。どうもおかしい、ということで、我々の間では11月の半ば過ぎには、何かまずいことになっているのではないか、という話になっていたんですね。 ただ、これまでのイスラム国の件もそうですけれど、交渉して身代金を払って帰ってくるケースでも、基本的には表に出ないで、ずっと裏で交渉していて、帰ってきた時に実はこうだった、みたいな感じになっている。だから、いま騒ぐのはまずいのではないか、と我々はお互いに言っていました。 僕もシリアに行った時は、移動する手段もないし、インターネットも繋がらなくなって、1週間ぐらい音信不通になったことがあります。日本では死亡説が流れていたんですが、そういうことはあるんですね。しかも後藤さんは非常に慎重な人でしたから、何か事情があるのではないか、あまり騒がないほうがよいと思っていたんです。シリア北部アレッポで取材活動中の後藤健二さん(インデペンデント・プレス提供) でもそれから1カ月経っても帰ってきていないということで、さすがにまずいのではないかと思いました。そのころご家族にどうなんですか、みたいに訊いたんですけれど、奥さんは「取材中です」とおっしゃっていた。むしろご家族はマスコミが騒ぎ出すのを警戒していたようで、外務省に「マスコミから守ってほしい」と言っていたみたいです。 私がご家族に訊いてみたのは12月の半ば頃ですけれど、12月の頭にはイスラム国側から身代金要求のメールが入っていた。それに対して日本政府は選挙中でもあったし、ほとんど交渉にはなっていなかったみたいです。交渉するとしたら、身代金を払うか払わないかしかないわけですから。 人質が解放された国というのは、裏でお金を払って、「払っていません」と言い張ってやっているわけですけれど、そのへんの決定も含めて最終的には官邸がやるしかない。ただ官邸もそんな状態じゃなかったようで、事実上動いてなかったんだと思うんですね。で、そうこうしているうちに、1月20日にあの映像が出てしまった。 その間、政府はヨルダンに対策本部を作って、人は居たけれども、何をしていたのか疑問なんですね。動画が出てからは、ヨルダンが絡んできたりとか、いろいろあって、それ以降の事情については、金平さんの方が詳しいかもしれません。国の形が変わるくらいの深刻な事態国の形が変わるくらいの深刻な事態~金平茂紀金平 今日はこのシンポジウムに1部のところで参加できて良かったと思っています。私は常々「現場の取材をしない人は語る資格はない」と思っている人間です。コメンテーターとか、解説者とか、そういう役割の人はもちろん必要ですが、自分は現場で取材をしたことに基づいてものを言いたい。ここにいらっしゃる方はそれぞれ身体を張って戦場取材をしている人ですよね。 今度の一連のことは、非常に多くの論点を含んでいる深刻な事態だと思っています。大袈裟に言うんじゃないですけど、この国の形が変わりつつあるのではないかとも思います。今年はちょうど戦後70年という節目にあたる年ですけれども、「戦後」というような尺度が〝無化〟されつつあるという気がします。戦後から「災後」を経て、本来であれば2011年の3月11日で、日本人は自分たちのやってきたことを反省して生き直すチャンスだったかもしれないものを、無かったことにして、前の通りにやればいいんだというように、どんどん逆向きに進んで行っています。「戦後」から「災後」に行って、今恐らく「戦前」になりつつあるんだという状況認識です。そのことが非常に露骨な形で表れてきているのが、今回のイスラム国による人質殺害事件への対応ということです。2015年2月、テロ行為非難を決議した衆院本会議で拍手する安倍首相 その間政府、あるいは外務省が、それから僕らを含めてですけれどもメディアがとり続けている姿勢というのは、この国が今までと形を変えようとしているというくらい大きな節目だと思います。恐らく皆さんもこの間の危機的な状況を敏感に感じられているからこそ、今日もこれだけ大勢の方が会場に来ていらっしゃるんだと思うんですね。 私はテレビ報道の仕事ばかりやってきた人間ですけれども、今回ばかりは現場に取材に行って、胃液が逆流するような思いを何度もしました。今まで国家と個人の関係で言うと、国民の生命財産を守るというふうに、どこかの政治指導者が口を酸っぱくするぐらい、口だけで言っていますけれども、実際に国家が国民の生命財産を守ろうとしていたのかどうなのかが問われています。 それを事実に即してきちんと検証しなきゃいけない。それが今メディアの最大の責務だろうと思っています。市民の側、あるいは国民の側の権利が蹂躙されようとしているときに、果たして今の国家とか、政府とか、官庁とかそういう所が自分たちを本気で守ろうとしているのかということをきちんと考えなければいけない、一種岐路に立たされている。それが偶然戦後70年の今年に重なってしまったんだと思うんですね。 ここに来る前に、ある外交官の方と話をしてきたんですけれど、その人はもう退官されて、それまで40年ずっと外交官として一線で働いてきた人ですけれども、同じことを言っていました。私たちの国の形が変わろうとしている。これまで自分たちは外交官として、国民の生命財産を守るために身体を張って、プライド、矜持を持って仕事をしてきたけれども、これからは違うことになるのではないか。「大義」のためには国民の犠牲もやむを得ない、と。そういうことを、危機感を持って語っていました。 事実経過で言えば、いろんな節目があるんですけれども、湯川遥菜さんが拘束されたのが昨年の8月です。10月6日に警視庁の公安部が常岡浩介さんとか、中田考というイスラム法学者に家宅捜索を行った。あの時の報道は皆さんよく記憶していると思いますけれども、常岡さんや中田さんを、いわば叩いた形ですよね。 その後に、11月1日に拘束されているという情報を政府が把握していたということになっていて、12月3日に後藤さんの奥さんのところに身代金の要求が来るわけです。しかしそれは外務省ないし政府の方から表に出さないようにということを言われていた形跡がある。実はその前の日の12月2日は衆議院選挙の公示日です。 今になって「テロには屈しない」とか大騒ぎをしていますが、その間、本当に国は人質を救出しようとしていたのか。交渉の糸口をつかむために、情報を表に出さないというやり方は他の国でもやっています。ただ、何もやっていない国というのは滅多にない。本当に日本の政府が何もやっていなかったということであるならば、責務を放棄していたと言わざるをえない。 そういうようなことを今、私たちは本当は検証しなきゃいけない。現場で取材をしている人たちが、どこまでやるかということが試されている、それくらいの気持ちで今考えているんです。私はそう思って、きょうここに参りました。戦場取材はこれからどうなるのか戦場取材はこれからどうなるのか~綿井健陽──綿井さんもイラク戦争を始め、戦場取材をやってきた経験から今回の事件についてお話しいただけますか。綿井 僕は「アジアプレス」というフリージャーナリスト集団に所属して15年くらいになるんですが、イラク戦争の取材は2003年からやってきました。去年ですが、イラク戦争の10年を描くドキュメンタリー映画『イラク チグリスに浮かぶ平和』の制作(各地で上映中)と、NHKでドキュメンタリー番組を放送しました。 この人質事件に関しては、「日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(JVJA)」という、12年前に設立した、映像ジャーナリストと写真ジャーナリストの団体から、日本語、アラビア語の声明を出したり、その後はインターネット放送を通じてアラビア語で解放を呼びかけたりと、なんとかできることをしようと試みました。 しかし結局、力及ばず残念でした。今までも報道関係者が殺害されることは、この10年ぐらいの間では結構ありました。思い起こすのは、2004年にイラクで橋田信介さんと小川功太郎さんが車で移動中に襲撃されて殺害されたことです。2007年にビルマで長井健司さんが撮影中に背後から政府軍兵士に射殺された。その後2012年にシリアで山本美香さんが殺害されました。その間には、バンコクでロイター通信のカメラマンである村本博之さんがデモの取材中に銃撃されて殺害されています。 しかし、今回の後藤さんの事件はそれまでとは殺害までの経緯が異なります。取材や移動中の銃撃・殺害ではなくて、拘束されて身代金の要求、そして殺害された。しかも首を斬られて、なおかつその後にまた日本人全体に対する殺害予告ということですから、ちょっとこれまでとは違う恐怖感を感じます。 橋田さんたちがイラクで亡くなった後は、私もそうでしたけれどフリーランスは、その後もイラクの取材に結構行っているんですよね。けれども、振り返ると2004年の10月下旬に香田証生さんが首を斬られて、星条旗に包まれて、バグダッド市内で遺体で発見されたという事件がありました。 当時、日本の大手メディアはバグダッドから日本人記者を引き揚げさせるんですね。事件が起きる直前に、新聞がまず引き揚げさせて、香田さんの事件の後には共同通信が日本人記者をバグダッドから引き揚げさせた。その後、唯一NHKだけが日本人記者・カメラマンを2~3カ月交代で常駐させるという時期が長く続くんです。しかし、NHKも常駐をしているものの、ほとんど外には出ない。ホテルの中で、あるいは民家の宿舎の中でしか動けなくて、実質的にはイラク人スタッフしか外で取材できないという状況が当時始まるんです。 イラクの状況はその後、どんどん悪化していきました。報道陣の誘拐も相次ぎました。外国メディアも現地にはいるんですが、イラク人スタッフでしか、取材できなくなります。イラク・アルビルにある難民キャンプ だから香田証生さん殺害後の2004年の後半以降、フリーランスもイラク取材をする人は物凄く減りました。僕自身も行く回数は減りましたし、2006~7年に入った時は、ほとんど身動きができないくらいで、バグダッドまで入ったはよいけれども、自分自身での映像・写真取材はほとんどできないという状況でした。 2013年に6年ぶりにバグダッドに取材に行ったんですが、その時に外国の通信社のイラク人スタッフに話を聞きました。過去10年間で「イラク人だけで5人のスタッフが亡くなった。私たちの生活はイラク人市民とともにある」と言うのです。イラクではこの12年間で報道関係者が約160人亡くなっているんですけれど、そのうち85%がイラク人です。 イラク市民の死者も、報道関係者の死者も、過去10年を調べたら一番多いのは2006~7年の内戦状態、宗派抗争が激化した時期でした。イラク市民の死者数とイラク報道陣の死者数は連動していて、報道陣の殺害が多い時は、彼らが取材をするイラク市民全体も、毎日のように殺されているということがよく分ります。メディアが狙われる時、市民はもっと死んでいるということです。 今回、後藤さんが殺害されたことで、いま周りの人と話しているのは、これからフリーランスが戦場取材に行ったとしても、発表媒体がどれくらいあるかですね。後藤さんはテレビ朝日系列「報道ステーション」で、この3年ぐらいは何度もリポートをされていました。でも専属ではなくて、他の発表媒体にも持ち込んだりしていました。フリーランスの場合は、取材に行く前に「放送しましょう」と決まっていることはまずないんですね。危険地域の場合は特に取材が全部終わってから、「放送しましょう」「やりません」という判断になります。 後藤さんはたくさんテレビに出ていたたようにも見えますけど、取材に行ったけれど放送できなかったこともあったようです。だから取材してリポートがどんどんできる時は、欲も出ると言いますか、できる時にもっとやっておこうとか、そういう「もっと…」「もう少し…」という気持ちになっていったのではないか、と推測します。私自身もそんな時期はありました。今回、取材日程を見ても相当無理をしているし、フリーランスであるがゆえの、ベテランゆえの、何か「落とし穴」というようなものに嵌ってしまったのか……。ただこれは、本人がいないので確実なことは何も言えません。 今ネット上でこういう書き込みがあります。「テレビ局がフリーランスの、戦争取材の映像を買うからあの連中はそういうところに取材に行くんだ。だからテレビ局はそのような映像を買うのをやめるべきだ」と書いてあった。一人の書き込みかもしれませんけれど、僕が恐れているのは、それこそ放送局がフリーランスの戦争取材の映像等の扱いについて、これからどのように対応するのかということです。 似たような経験としては、2011年の3・11の後に福島第一原発の取材に行った時、立ち入り禁止区域に入った映像は、しばらく出せませんでした。「立ち入り禁止区域の映像は出せません」とテレビ局スタッフの方から言われました。一番訊かれたのは、「どこの許可を取って撮られた映像でしょうか?」ということでした。報道・取材はいつから「許可制」になったのかと驚きました。政府や国家が立ち入り制限・禁止をしているエリアこそ、とても重要な事実が隠されている。それを伝えるのがジャーナリズムの役目でしょう。 戦争取材に行くスピリットや心意気みたいなものは、多分これまでと変わらず、フリーランスの人たちは皆さんそれぞれあると思うんですけれども、ここから先どうやって発表することができるのか。特にマスメディアでの発表に関しては、この後にじわじわ影響が出てくるんだろうなというのが、いま気になっていることです。戦場から伝えることで初めてわかる真実も戦場から伝えることで初めてわかる真実も~豊田直巳──豊田さん、そのあたりいかがですか。豊田 その前に一つ申し上げておきたいことがあります。綿井君からありましたように、日本ビジュアル・ジャーナリスト協会の仲間たちで、後藤さんが拘束されている映像が出たその日に、二人を解放してくれ、という声明を出しました。その後も救援の一部を担うような形を取らざるを得なかったのですけれども、少しお話しておいた方が良いかなと思うのは、実は今日のシンポジウムのタイトルも「後藤健二さんの死を悼み…」ですね。つまり湯川さんは消えてしまう。これは後藤さんがジャーナリズムに関わっていたということで、このシンポジウムのテーマとしてそうしたのでしょうが、僕たちの一回目の声明は、まだ二人が存命だという前提で二人について出しました。 僕たちも湯川さんがどのような人であるかということはネットに残っている映像くらいでしか知らなかったんです。その映像は彼が戦争オタクなのか軍事訓練なのか、様々な憶測を呼ぶようなもので、躊躇する部分はあったんですけれども、原則に立つべきだと僕たちは思いました。ジャーナリストであるかどうか、湯川さんがどんな人であるかに関わらず、殺してはいけないという原点に立つということです。だから二人の解放を訴えました。ただ、最近気になるのは、メディアの扱いが後藤さんだけの死を悼んでいるように見えることです。 それからもう一つ。なぜ僕がここにいるのか、といえば、綿井君も僕も後藤さんを知っていたということです。知っていると言っても20年前に1週間ほどヨルダンで一緒に居たことがあるというだけです。でも、安田さんと同じように、僕らの所には後藤さんが行方不明という情報は入っていました。それにも関わらず救えなかった。何もできなかったという後ろめたさもあって、彼の映像が出た時には何かしなければと思ったわけです。 今日のテーマである、後藤さんや僕らが危険を冒してでも戦場に行かなければならない理由というのは、もう既に金平さんが仰ったとおりです。現場に行かないと分からないことはいっぱいあるということを、自分の取材の中で体験してきているわけです。トルコ南東部のアクチャカレ付近から望むシリア。鉄条網の向こうは過激派「イスラム国」が支配する地域だ=2015年1月(共同) 例えば日本の自衛隊が派兵されるされないという議論のあった11年前、自衛隊がイラク中部のサマワに派遣され、しかも自衛隊が行くと給水支援ができる、サマワの人たちは水で困っているから水を支援するんだと説明されたんです。だから僕は実際に取材に行ってみたのですが、行ってすぐ分かったこととは、地元の人たちは水に困っているどころか、毎日お風呂に入っていました(会場笑)。だから、自衛隊がサマワに行く理由は全くないとわかるわけです。にもかかわらず何故かサマワの町の中には「自衛隊員の皆様ようこそ」という日本語で書かれた横断幕が掲げられていた。常識で考えて、日本軍という横断幕なら分かるけれども、自衛隊という言葉を知っているイラク人が何人いるんだろうと。結局それは日本人の「ジャーナリスト」が書いたものだと判明しますが、それが日本で報道されて、自衛隊が地元で歓迎されている、という話になっちゃうわけです。 必要があればジャーナリズムがカバーしなきゃいけないことはやっぱりあるんだ。しかも、国の流れが悪い方に行くことを止められる可能性が1%でもあるんじゃないかという思いもあって行っています。危険との天秤にはかけますけれども、ジャーナリズムの方を優先せざるを得ない場合もあるんだということをご理解頂きたいと思います。戦場で斃れた記者の大半がフリーランスだ戦場で斃れた記者の大半がフリーランスだ~野中章弘──シンポジウムのタイトルについての話もあったので主催者としてコメントすれば、きょうはジャーナリズムについて議論するということで後藤さんの名前を掲げました。それ以上の意味はありません。ただ豊田さんの指摘は大事なことだとは思います。 次に野中さんから、戦場取材についてお話をいただけますか。野中 先ほど綿井君から亡くなったジャーナリストの話がありました。1975年、ベトナム戦争が終わってから今年でちょうど40年になりますけれども、ベトナム戦争で取材中に亡くなった日本人ジャーナリストは十数名。実は沢山のジャーナリストが亡くなっています。それから40年経って、その間に何人のジャーナリストが戦争や内戦、騒乱などで亡くなったのか。数えてみると8人なんです。うち6人がフリーランスです。2004年、橋田信介さんと小川功太郎さんがイラクで襲撃されて殺害されましたが、この事件から今年の後藤健二さんまで、犠牲者は6人。この40年間のうちで最後の10年に集中している。6人のうち5人がフリーランスのジャーナリストで、企業内ジャーナリストは村本博之さんというロイター通信の方です。 その6人には共通点があるんですね。それは映像ジャーナリストだということです。犠牲者が増えた主な原因は2つあると思います。一つは、イラク戦争以降にジャーナリストが抱えるリスク、直面するリスクの質が大きく変わったということです。実は殺害・誘拐された人はジャーナリストだけじゃないんです。赤十字国際委員会、NGOスタッフなど人道援助の関係者たちも同じような目にあっています。まだ解放されていない国連などの職員たちも沢山いるということです。 80年代、90年代、僕もアジアの戦場取材を沢山やりましたけれども、それは戦場の危険であって、ジャーナリストが武装勢力のターゲットになることはほとんどなかったんです。今はジャーナリスト自身、あるいは外国人自身がターゲットになるという意味で、リスクが非常に高くなっています。 もう一つ、何故映像ジャーナリストたちの犠牲者が多いのか。ビデオカメラを持って現場に行った時は、とにかくインパクトのある映像、迫力のある映像を撮ろうと考える。これはカメラマンの本能です。だから前へ前へと進む。ファインダーを覗いている時は他のものは見えないんです。とにかく良いショットを撮ろうと前に進むんですね。記事を書くジャーナリストたちももちろん大変な仕事なんですけれども、ただ記者は戦場から帰ってきた人の話を聞いても記事は書けるわけです。けれども、写真とかビデオというのは、幾ら下手でもとにかく現場に行かないと撮れないわけですね。 フリーランスの場合は余計にそのプレッシャーが強いわけです。テレビ局のカメラマンよりも迫力のある映像を撮らないと発表できないからです。NHKとかTBSのクルーがもう既に同じような映像を撮っているとフリーランスの映像を使う必要はないわけです。ですからフリーランスがいつも考えるのは、NHKやTBSと区別される映像を撮るということ。やっぱり戦場でいちばんインパクトのあるシーンは戦闘ですから、どうしても、前へ前へと進んでしまうんですね。 ただ誤解のないように言っておきますと、ネットなどを見ていると、フリーランスは危険な映像を撮って沢山の金を貰っていると書いている人もいる。我々の中にそういう野心がないわけではないんですよ。しかし名誉の為に言っておくと、お金へのこだわりは、我々の中、少なくとも僕の周りにいる人の中では、あんまりない。勿論お金がないと取材の最前線まで行けない。だけど我々はお金よりも、お金に変えられない価値を生み出すためにこういう仕事をしています。それは現場で起きていることを多くの人に伝えるということです。それが我々にとっての最大の価値なんですね。ですから単にお金になるから、戦場取材で迫力のある映像を撮ろうとしているわけではない。 戦争取材の基本は戦場にある。はっきり言ってそうです。これはもう疑いのないことです。戦場で何が起きているのかを伝えなければ戦争の本質を伝えることにはならない。オバマ大統領がホワイトハウスでこういう声明を出しました、安倍首相がこういうふうに言っています、という報道も必要ですが、それだけでは戦争の実相を伝えることにはならない。映像ジャーナリストたちは、戦争の悲惨な実態、現実をみんなに知らせる、そういう役割を担って現場に行くわけですね。 また何故フリーのジャーナリストたちがそういう所へ行くようになったかと言うと、カメラがデジタル化され、小さなカメラでも戦場取材ができるようになったからなんです。フリーランスのジャーナリストがドキュメンタリーを作ったり、ニュース番組の中に登場したりというようなことは、20年ほど前まではあまりなかったんです。それまでテレビの取材はテレビ局のカメラマンが何百万円かのカメラを使って取材をしていた。だけどカメラが小型化され、安く手に入るようになってから、フリーランスの人たちもそういう仕事をするようになったわけです。 フリーランスの場合はたいてい単独で行動しますから、より危険です。何か起きた時に自分の救援をしてくれるような態勢を整えて行くわけではない。もちろん保険もかけません。戦争保険というのは僕の記憶では、危ない所では一日10万円ということもあります。たいがいのフリーランスは、保険にかける10万円があるんだったら取材費に使うわけです。かけても「海外旅行保険」ですが、これは多分戦場ではおりないと思います。何かあったら同僚たち、仲間たちが救援活動に携わるということです。本来ならばフリーランスのジャーナリストたち、我々自身が、仲間たちがそのようになったときに、すぐに救援に行けるように、あるいはそうならないように情報を共有したり、助け合う環境を整えることが今大切なのではないかと思います。「危険な所へ行くな」という誤った認識──イラク戦争の頃から、日本人が標的になるみたいな状況が出て来たのじゃないかと言われますが、綿井さんはイラク戦争の取材に頻繁に行かれていたので、その辺どうですか。イラク戦争が日本の戦争報道においてひとつのターニングポイントじゃないかとよく言われますが…。綿井 基本的に中東は日本人に対する親近感、尊敬の念と言いますか、日本人であることのアドバンテージはこれまで高かったです。2003年に行った時も、日本人というだけでチヤホヤされたような時期はありました。けれども、その日本がなぜアメリカの側についているのか、なぜ自衛隊を派遣するのかとか、そういうことを訊かれたことも事実です。 しかし、2013年にイラクのバグダッドに行ったんですけれども、「日本人ですか?」と声を掛けられることがほぼ皆無でした。それまではだいたいアジア人と言うと圧倒的に代表は日本人だったと思うんですけれども、バグダッドの街を歩いていても、99%「中国人ですか、韓国人ですか」としか言われることがなくなってしまった。それは、日本人に対して憎しみが高まったのではなく、相対的に中国とか韓国の電化製品や車が増え、中国・韓国系企業で働く人も増えて、生活や仕事の接点が日本よりも圧倒的に増えたんですね。 イラクに自衛隊が派遣されていた当時、自衛隊員が狙われるよりも、自衛隊が契約している道路補修業者や、地元の人で日本と接点があるイラク人が狙われるであろう、と思いました。そうすると、今回の邦人人質・殺害事件を受けて、今後は日本の企業で働いている、日本のメディアで働いている通訳の人とか、日本と接点のある人が狙われる可能性が高いんじゃないでしょうか。この予測は外れて欲しいんですけれど、自分自身の身の安全もありますが、地元の協力者たちが、日本や日本人と付き合うことで感じる「不安感」のようなものが高まることを危惧しています。「危険な所へ行くな」という誤った認識安田 今回、我々が問題にすべきなのは、どうやって現場の取材をするかという手法の部分だと思うんです。後藤さんがどうやって現場に入ったのかまだ全然経緯が分からなくて、どういう判断基準があったかも分からない。イスラム国に今まで行ってきた人って、イスラム法学者の中田先生のような、直接パイプのある人のつてで許可証を貰って入るとか、少なくともイスラム国の戦闘員と一緒に入るとかいう形でしか入れていないんですよ。後藤さんは、報道された範囲では、ガイドと一緒に検問所まで行って、そこで一人で降りてバスで向かって行ったんですけれど、誰も迎えにも来ていない。かなりイレギュラーな入り方をしていて、その辺の詳細が分からないんです。許可証があったかなかったかはっきりしないんですけれど、その入り方を見ていると、たぶんとっていないですね。 後藤さんの判断の基準は分かりませんけれど、我々が検証すべきなのは、その手法がしっかりしたものだったのか、ということです。その後朝日新聞がシリア側を取材したってことで産経や読売、政府関係者も批判していましたけれども、朝日が入った場所はコバニというトルコ国境に近いところです。イスラム国が攻め込んできたところをクルド勢力が追い返して解放した街と言ってアピールしている所ですよね。そこにクルド勢力のプレスツアーが入ったわけですよ。はっきり言ってそこでどうやって人質になるのという話ですけど、それから、アサド政権のビザをとって、ダマスカスからアレッポへ入ってその先へ行ったわけですよね。情報省の役人が付いているわけですよ。要するにどちらもイスラム国を排除したということをアピールしている現場ですよね。そこで護衛も付けているわけですよ。そういうところで、イスラム国が人質にするとしたら、襲撃してきて、護衛を蹴散らして、外国人を捕まえて連れ去るという状況ですよね。そうなるとコバニは解放されてないんじゃないかという話じゃないですか。 要するに具体的にこういう危険があるという指摘は何一つしていない。ただ危険だと言っているだけです。朝日新聞を批判しているところは〝空気読め〟っていうだけの批判しかできていない。僕は「空気読め」って話が一番危険だと思うんですよね。我々が必要なのは、自分の頭で物ごとを判断して、やっていることとか起きていることが妥当なのかそうでないのか判断することじゃないですか。そのための具体的な情報を出すのが我々の仕事であって、「空気読め」というのに乗るわけにはいかないし、使命感なんかなくたって、事実を見てくれればそれで良いわけです。 この間イラク北部で旅行者が捕まりました。どこでどうやって捕まったのか全然説明がないじゃないですか。政府にはクルド政府から絶対に説明があったはずですよ。官房長官が、イスラム国が戦闘をやっているようなところに入るなんて危険であると、一歩間違えれば大変なことになる恐れがあったと言っているんですけど、どういう危険があるのか何にも話してない。 それがクルド側とイスラム国側の最前線まで行こうとしたのかそうじゃないのか、全然違う所で捕まったのか。不審者だって言うのならどういう不審な行動をしたのかとか、それを全然説明しないんですよね。危ない危ないと言うだけで、具体的にそれがどうだったのか我々に判断させないようにしているわけですよ。恐怖を煽って政治的な要求を通すってテロの手法じゃないですか(拍手)。だから我々がやるべきことは、雰囲気とか恐怖とかいうことではなくて、それを克服して何がどうなっているのかをそれぞれ我々が頭で考えることなんですよ。テロに屈しないということは、そういうことだと思うんですよね。 それをどうやっていくかが、我々がすべきことで、政府の側は、そうさせないようにしたいわけですよね。旅券返納とかいうことも、「シリアなんて危ない所に行くなんて」「当然だろう」って雰囲気になっちゃってるわけじゃないですか。恐怖を煽って雰囲気だけで物事を進めようとしている。本当にこれは危険な方向に行っていると思いますよ。 しかも、パスポートを取り上げて、渡航禁止というのは憲法違反だと言うと、じゃあ憲法の方がまずいって話になっているわけでしょう。だから完全に憲法を変えるための流れになっているわけですよ。メディアもかなりやばいところに来ちゃったなというのが僕の印象です。映像で戦場の光景を伝えることの重要性映像で戦場の光景を伝えることの重要性金平 安田さんが今言われたことが一番、僕がこの場で話すべきことだと思っています。つまり何が現場で起きているかということについての丁寧な説明がなされていないんですよね。僕らが持っている強みというのは、フリーであろうが企業ジャーナリストであろうが現場で見てきたことを、その中の公益性があると思われる情報をきちんと提供することだと思うんですね。 例えば今言われていたコバニについては、僕はレバノンに取材に行っていた時にBBCワールドでコバニからのレポートをやっていまして、凄かったですよ。BBCの記者の顔のアップからずーっとズーム・バックしていくんですけれども、周りが全部瓦礫で、つまり破壊され尽くした跡にその記者が立っている。その映像を見た人は、ここで行われている愚かさというのが目に焼き付いて離れない。それくらい価値のあるレポートだったわけです。そういうことに何故僕らのメディアが気付かないかと言えば、そういうことに目配せする能力、編集する能力が劣化しているんですよ。物凄く狭い鎖国のような状態で自分たちの国のことだけ考えていて非常に勇ましいことを言って…。この間総理の所信表明演説を聞いていたら「列強」とか言ってました(笑)。もうびっくりしますね。つまり物凄く想像力が幼稚化しているというか、世界をちゃんと見ていないんですよ。 シリアのアレッポだって、僕らの同僚は1月初めに行きましたよ。やっぱり風景を見ると心を打たれるんです。アレッポって観光地だったですからね。遺跡観光で凄く賑わっていたところが今は無人で、荒れ果てていて、遺跡どころではないんですよ。遺跡の遺跡になっちゃっているわけです。そういう無人のところをずっと見た時に、僕らが伝えるメッセージの大きさというのがあると思うんです。それをいっしょくたにして「シリアは危ないらしいぞ、その周りも危ないらしいぞ」と言って、パスポートを取り上げるなんてもっての外です。そんなことをやる権利が国家にあるというふうに彼らは思ってしまっているというところで、西側のジャーナリストから言うと、「君らの国というのは江戸時代か!」みたいな話になるわけですよ。 僕らの国って主権在民ですよ。国家が先にあってその許しを得るとか許可を得るとか、いつからそんな国になっちゃったんだろう。イラク戦争を仕掛けたアメリカでさえ第一次湾岸戦争の時はCNNのピーター・アーネットが国防総省による退去勧告を無視してずっととどまり続けて、バグダッドから中継をやったんです。バグダッドの夜空がイルミネイティッドって最初にやったあの生中継をホワイトハウスの地下にあるシチュエーションルームという作戦本部がみんなで見ていたんですよ。つまりそれくらいメディアの力というのは強いんです。国防総省の人間でさえそれを見て自分たちの作戦を考えないといけないぐらい強い力を持っているということについての自覚がなくなってしまって、どこかの下僕になってしまっている。それはもうジャーナリズムじゃないでしょう。 例えば、朝日が注意深くやったシリア国内の取材を叩く新聞社というのは何なのですか。その新聞社のカイロ支局の人間はその記事を読んで泣いていると思いますよ。つまり僕が言いたいのは、ここに来ている理由もそうなんですけれども、フリーであろうが、組織内ジャーナリストであろうが、ジャーナリストである内部的自由というのがあるんですよ。これは近代国家であれば当たり前の、つまり自分の意見というのがあって、会社が、あるいは組織の上の人間から理不尽な命令をされたらそれに対して逆らう権利です。例えばイラク戦争でバグダッドが陥落した時、有名なサダム・フセインの銅像が倒れる瞬間があったでしょう。あの時に、恥ずかしいことながら、外務省の退去勧告に従って、日本の企業メディアは、どこもいなかったんです。何人かフリーの人だけが立ち会っていたわけですね。そこでレポートしていたのが綿井さんなんですよ。もちろん周りにはイタリアとかフランスとかそういう海外の企業ジャーナリストが一杯いて、そこからちゃんと中継をやっていたりしていたんです。何故日本だけいないんですか! 何故綿井さんだけなんですか!綿井 正確に言うと、当時、共同通信の記者・カメラマン3人は、開戦前に一度撤退した後、バグダッド陥落前にまたバグダッドに戻ってきました。豊田 私もいました!(会場笑)金平 フリーはいた(笑)。でも企業ジャーナリストは横並びで、今だから言いますけれど、外信部長会議というのがあって、みんなで引き揚げたわけですよ。  イギリスだってドイツだってフランスだって人質がとられたりしても、交渉をして帰ってきました。交渉もしない国ってなんですか。交渉もしない国でないというのであれば、その証拠をちゃんと出すべきですよ。そうじゃないと、国民は国家を信用できなくなるじゃないですか。いざとなったら救ってくれないんだ、という話になるわけで、きちんとメディアは、国に対して情報を開示しなさいみたいなことを言わないといけないと思います。そうじゃないと「テロに屈しない」という大義だけで、物凄く幼稚なわけですよ。今の政権の幼稚さには、がっかりというか恥ずかしいというか。つまり海外のジャーナリストたちの普通の感覚でいえば「ああそうなんだ、助けてくれないんだ」というふうに、僕も日本人ですから思われたくないですよね。ただ今現下で起きている状況はそうなっていて、一番問題なのはそこに引っ張られて、例えばパスポートの返納命令があっても「迷惑だよな」みたいなことを言う人たちが多い。メディアの僕らの仲間だってわからないですよ。「迷惑だよな」と思っている人がいるかもしれない。 さっきの社論と内部的自由の関係というのは、これから本当に僕らのメディアの存在意義を考える時に一番大事な話で、僕らがどこまで自分達の良心に従って組織の中できちんとした報道をしていくか。最終的には自分たちがやっていることが誰のためなんだという、そこが今揺らいでいるのではないかという気がしてしょうがないですね。これは僕の個人的な意見ですけれど。

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    田母神氏の論文から思うこと

     石破茂です。   田母神(前)航空幕僚長の論文についてあちこちからコメントを求められますが、正直、「文民統制の無理解によるものであり、解任は当然。しかし、このような論文を書いたことは極めて残念」の一言に尽きます。 同氏とは随分以前からのお付き合いで、明るい人柄と歯に衣着せぬ発言には好感を持っており、航空幕僚長として大臣の私をよくサポートしてくれていただけに、一層その感を深くします。参院外交防衛委員会の参考人質疑を終え、衛視に囲まれながら引き揚げる 田母神俊雄・前空幕長(中央)=2008年11月11日  日中戦争から先の大戦、そして東京裁判へと続く歴史についての私なりの考えは、数年前から雑誌「論座」などにおいて公にしており、これは田母神氏の説とは真っ向から異なるもので、所謂「民族派」の方々からは強いご批判を頂いております(その典型は今回の論文の審査委員長でもあった渡部昇一上智大学名誉教授が雑誌「WILL」6月号に掲載された「石破防衛大臣の国賊行為を叱る」と題する論文です。それに対する私の反論は対談形式で「正論」9月号に、渡部先生の再反論は「正論」11月号に掲載されています。ご関心のある方はそちらをご覧下さい)。  田母神氏がそれを読んでいたかどうか、知る由もありませんが、「民族派」の特徴は彼らの立場とは異なるものをほとんど読まず、読んだとしても己の意に沿わないものを「勉強不足」「愛国心の欠如」「自虐史観」と単純に断罪し、彼らだけの自己陶酔の世界に浸るところにあるように思われます。 在野の思想家が何を言おうとご自由ですが、この「民族派」の主張は歯切れがよくて威勢がいいものだから、閉塞感のある時代においてはブームになる危険性を持ち、それに迎合する政治家が現れるのが恐いところです。 加えて、主張はそれなりに明快なのですが、それを実現させるための具体的・現実的な論考が全く無いのも特徴です。 「東京裁判は誤りだ!国際法でもそう認められている!」確かに事後法で裁くことは誤りですが、では今から「やりなおし」ができるのか。賠償も一からやり直すのか。 「日本は侵略国家ではない!」それは違うでしょう。西欧列強も侵略国家ではありましたが、だからといって日本は違う、との論拠にはなりません。「遅れて来た侵略国家」というべきでしょう。 「日本は嵌められた!」一部そのような面が無いとは断言できませんが、開戦前に何度もシミュレーションを行ない、「絶対に勝てない」との結論が政府部内では出ていたにもかかわらず、「ここまできたらやるしかない。戦うも亡国、戦わざるも亡国、戦わずして滅びるは日本人の魂まで滅ぼす真の亡国」などと言って開戦し、日本を滅亡の淵まで追いやった責任は一体どうなるのか。敗戦時に「一億総懺悔」などという愚かしい言葉が何故出るのか。何の責任も無い一般国民が何で懺悔しなければならないのか、私には全然理解が出来ません。 ここらが徹底的に検証されないまま、歴史教育を行ってきたツケは大きく、靖国問題の混乱も、根本はここにあるように思われます。 大日本帝国と兵士たちとの間の約束は「戦死者は誰でも靖国神社にお祀りされる」「天皇陛下がお参りしてくださる」の二つだったはずで、これを実現する環境を整えるのが政治家の務めなのだと考えています。総理が参拝する、とか国会議員が参拝する、などというのはことの本質ではありません。 「集団的自衛権を行使すべし!」現内閣でこの方針を具体化するスケジュールはありませんが、ではどうこれを実現するか。法体系も全面的に変わりますし、日米同盟も本質的に変化しますが、そのとき日本はどうなるのか。威勢のいいことばかり言っていても、物事は前には進みません。 この一件で「だから自衛官は駄目なのだ、制服と文官の混合組織を作り、自衛官を政策に関与させるなどという石破前大臣の防衛省改革案は誤りだ」との意見が高まることが予想されますが、それはむしろ逆なのだと思います。 押さえつけ、隔離すればするほど思想は内面化し、マグマのように溜まっていくでしょう。 「何にも知らない文官が」との思いが益々鬱積し、これに迎合する政治家が現れるでしょう。それこそ「いつか来た道」に他なりません。 制服組はもっと世間の風にあたり、国民やマスコミと正面から向き合うべきなのだ、それが実現してこそ、自衛隊は真に国民から信頼され、尊敬される存在になるものと信じているのです。(石破茂オフィシャルブログ 2008年11月5日分を転載)

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    田母神氏&室谷氏対談「朝日はずる賢い」「最近の左翼は知的レベルが低い」

     朝日新聞は、慰安婦報道の大誤報を認めながら、2週間たっても謝罪もせず、木村伊量(ただかず)社長の記者会見も開かない。日本と日本人の名誉を著しく傷付けながら、このまま逃げ切るつもりなのか。今年2月の東京都知事選で61万票を獲得した田母神俊雄元空幕長と、新著『ディス・イズ・コリア』(産経新聞出版)がベストセラーとなっているジャーナリストの室谷克実氏が緊急対談し、朝日を「ずる賢い」「あきれた」などと一刀両断し、不買運動を呼びかけた。 ──朝日の検証記事(5日)後の対応をどう見るか 田母神氏「何とか、うまく逃げ切ろうという魂胆が丸見えだ。検証記事を読んでも『虚偽証言を見抜けなかった』『他紙も間違っていた』などと言い訳ばかり。潔くない。心から改心して謝罪していたら、国民の反応もまったく違っただろう。ずる賢い。実に朝日らしい」 室谷氏「編集担当の杉浦信之氏が『慰安婦問題の本質、直視を』という文章を書いていたが、昔から左翼が責任回避するときに使う得意な論法だった。あきれた。朝日の罪は国内にとどまらない。世界中で『慰安婦=強制連行』『日本人=悪』という事実無根のイメージが広まっている」 田母神氏「木村社長はすぐ、記者会見を開くべきだ。そのうえで、英語とフランス語、中国語、韓国語などで、自社の大誤報を世界に向けて説明し、訂正・謝罪しなければならない。木村社長は教育の一環である全国高校野球の開会式で立派なあいさつをしていたが、球児や国民に対して『間違ったら訂正して謝罪する』と自ら範を示すべきじゃないのか」 室谷氏「朝日の誤報といえば、サンゴ事件(1989年4月)や、伊藤律架空会見(1950年9月)があるが、今回は次元が違う。誤報で国の名誉を汚し、他国の批判材料になった。朝日は、国民全体に甚大な損失を与えている。甲子園のスタンドから『ウソつき』『きちんと謝罪しろ!』といったヤジが飛んでもよかった(苦笑)」朝日新聞の“特異体質”について語る田母神氏(左)と室谷氏 ──そういえば、田母神氏がアパグループの懸賞論文で最優秀賞を獲得したとき、朝日は厳しかった 田母神氏「確か、社説で『こんなゆがんだ考えの持ち主が、こともあろうに自衛隊組織のトップにいたとは。驚き、あきれ、そして心胆が寒くなるような事件である』と書かれた。何も間違っていないのに、ひどいこと書くなと思った。都知事選でも朝日は冷淡だったが、61万票を得たことで、もう『田母神だけがおかしい』といえなくなったのでは」 室谷氏「最近の左翼は知的レベルが低い。私の『呆韓論』(産経新聞出版)も読まずに批判し、レッテルだけ貼る。左翼のデモを見ても老人ばかりだ。日教組教育が下火になり、若者などがインターネットで幅広い情報に触れることができるようになったことが大きい」 田母神氏「その通り! ネットの出現で、メディアがウソをつき続けることができなくなった。私がツイッターで慰安婦問題を取り上げると、リツイートが1万件を超えることもある。国民の関心は極めて高い」 ──韓国メディアは朝日擁護が多いようだ 室谷氏「驚いたが、朝鮮日報は9日、国際部長の『朝日新聞の孤立』というコラムで、『(朝日は)孤立し、疲れが見えてきた。これを知恵を持って助ける方法が韓国政府にはあるはずだ』と主張した。同紙は2012年9月、編集幹部によるコラムで吉田清治氏の著書『朝鮮人慰安婦と日本人』を絶賛している。吉田証言を虚偽と断定した朝日にハシゴを外されたのに、韓国政府に朝日支援を求めるなど、相当入れ込んでいる。まさに『ディス・イズ・コリア』だ!」 --まさか、産経新聞の加藤達也ソウル支局長に対する、ソウル中央地検の「情報通信網法」違反疑惑での聴取とも関係するのか 室谷氏「韓国各紙が『言論の自由』『報道の自由』という価値観を持っているとは思えない。紙面を読む限り、身内の朝日がイジめられているから、こちらは産経をイジめてやれ、という雰囲気を感じる」 田母神氏「私が現役時代から、韓国はおかしかった。2004年ごろ、防衛協議で韓国に行くと、韓国の国防担当者は『韓国と中国、日本で頑張っていこう』といい、同盟国・米国のことは言わなかった。『韓国は何を考えているのか』と訝しがったが、当時は左翼の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権だった。今では日本のことも言わず、中国だけでは(笑)」 室谷氏「朝日は以前、韓国について『軍事独裁国家だ』と厳しく批判していた。ところが、1998年に左翼の金大中(キム・デジュン)政権ができてから、韓国が大好きになった」 ──朝日に謝罪・改心させるにはどうすればいいか 田母神氏「朝日も民間企業だから、経済的な影響が出ないと動かない。朝日の購読をやめて、企業は広告出稿を止めるべきだ。朝日は戦前・戦中と戦争をあおって売り上げを伸ばし、戦後は180度方向転換して部数を伸ばした。今回の大誤報を機に、親日新聞に大転換するよう促すべきだ」 室谷氏「朝日は上から下まで日教組教育の申し子みたいなタイプが多いから、無理でしょう」 田母神氏「関係者によると、朝日内部にも『現在の路線はおかしい』という意見はあるらしい。そうした正論を守るためにも、経済的に徹底的に締め上げないとダメだ。国民運動を呼びかければいい。もし、朝日が改心したら、その時こそ、(かつて軍旗に採用され、現代は陸上、海上自衛隊が使用している)旭日旗によく似た、朝日新聞の社旗がいきるのではないか」むろたに・かつみ 1949年、東京都生まれ。慶応大学法学部卒。時事通信入社、政治部記者、ソウル特派員、「時事解説」編集長、外交知識普及会常務理事などを経て、評論・執筆活動に。主な著書に、27万部を突破した『呆韓論』(産経新聞出版)や、ベストセラーになっている『ディス・イズ・コリア』(同)など。たもがみ・としお 1948年、福島県生まれ。71年に防衛大学校卒業後、航空自衛隊入隊。統合幕僚学校長、航空総隊司令官などを経て、2007年に航空幕僚長に就任。08年、懸賞論文への応募をめぐって幕僚長を更迭。同年11月に定年退官。その後、執筆・講演活動で中心に活躍。今年2月の東京都知事選で、61万票を獲得する。主な著書に『田母神戦争大学』(産経新聞出版)など。

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    そもそも「安保関連法案」とは? PKOや他国軍の後方支援をどう規定

    (THE PAGEより転載) 安倍晋三首相が今国会での成立を目指す安全保障関連法案が、今月15日にも衆議院特別委員会で採決される情勢です。6月の憲法審査会で3人の憲法学者が「違憲」と表明して以来、法案が「合憲」か「違憲」かに特に注目が集まってきましたが、そもそもこの安全保障関連法案がどんな内容か、必ずしも理解が深まっているとはいえないかもしれません。今回の法整備によって、日本の国際貢献、具体的には自衛隊の活動がどう変わるのか。安全保障問題に詳しい美根慶樹氏が解説します。そもそも「安保関連法案」とは?(上) 集団的自衛権をどう規定国際貢献は湾岸戦争以来の新しい任務 [図表]衆議院で審議されている安全保障関連法案の内容 国際貢献は自衛隊にとって湾岸戦争以来の新しい任務ですが、その重要性はますます増大しています。典型的な国際貢献は国連の平和維持活動であり、これは冷戦が終わる頃から急増し、日本も1992年に初めて参加しました。 安倍首相は、安全保障関係の法整備に関連して、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献する必要があると強調しています。 今回の法整備では、国連平和維持活動法(PKO法)の改正と「国際平和支援法案」が国際貢献の強化について規定しています。「国際平和支援法案」は新規の法案になっていますが、現在は失効しているテロ対策特別措置法(テロ特措法、2001年成立)とイラク人道復興支援特別措置法(イラク特措法、2003年成立)を恒久法(有効期限を定めない法律)にしたものです。自衛隊が海外で活動する点では「重要影響事態法」の場合と類似していますが、「国際平和支援法案」の場合は日本に対する脅威が前提となっていません。  国際貢献は国際の平和と安定のため各国が協力するところに主眼があり、それは本来各国の「自衛」のためでありません。 しかし、日本の場合は自衛隊が海外へ出動することに関する日本国憲法の制約があり、国際貢献も、法的には、「自衛」の枠内で処理されてきました。自衛隊員は、PKOに従事している場合も行動を厳しく制限され、武器は、自らの生命・身体を守るためやむをえない場合、つまり「自衛」の場合以外は原則として使用できず、他国の隊員が危機に瀕していても駆け付けて救助すること(駆け付け警護)などできませんでした。 しかし、これではあまりに不公平であり、改善する必要があると指摘されてきました。今回のPKO法改正案においてはそれを可能とする新しい規定がPKO法第26条として追加され、いわゆる「駆け付け警護」の問題は解決しました。国連ではないPKOにも参加可能に国連ではないPKOにも参加可能に また、PKO法改正案は、国連が実施するのではない平和維持活動(「国際連携平和安全活動」と名付けられています)への自衛隊の参加を可能とすることを新たに提案しています。PKOは通常国連が主体となって行われますが、そうでなく、数カ国の合意で実施する場合も認めているのです。その場合も紛争当事者の同意が条件となっていることなど基本的な仕組みは国連のPKOと類似していますが、紛争が終了していることは必ずしも条件となっておらず、紛争当事者が「武力紛争の停止およびこれを維持することに合意」している場合もその条件を満たすとみなされています。 国連ではないPKOへの参加を認めることは、紛争により危険にさらされている住民の保護などのために機動的対処できる面があるでしょうが、自衛隊の出動を国連でない機関や国による要請の場合にまで認めると、それらの機関や国と意見が違う国が出てきて、争いになり、自衛隊の派遣が反対される恐れがあります。写真]安倍首相は、日本は国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献する必要があると訴えている(ロイター/アフロ) また、派遣された部隊が国連の指揮下にないことも、後述する多国籍軍と同様に、自衛隊の派遣について争いが生じ、批判される原因となるおそれがあると思われます。 PKO改正法案はしきりに「いずれの紛争当事者にも偏ることなく実施」することの必要性を述べていますが、国連による自衛隊の派遣でない場合に、どちらの当事者にも偏らないで実施することが困難なことを法案みずから示唆しているように思われます。「多国籍軍」への後方支援の範囲は 国際貢献面での今回の法整備においては、「国際社会の平和および安全を脅かす脅威を除去するために国際社会が国連憲章の目的に従い共同して対処」し、「我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要がある」場合が想定されており(国際平和共同対処事態)、国際平和支援法案はその場合の日本の自衛隊のあり方を定めています。これがいわゆる「多国籍軍」の場合であり、紛争は終了していません。 この事態では紛争は継続しており、日本が国際紛争に巻き込まれることを厳禁している憲法に抵触しないか、問題になりえます。これについて、国際平和支援法案は、支援として具体的に行う行動の範囲・種類、支援を行なう場所、国連の決議などによって歯止めをかけ、憲法違反になるのを防ごうとしています。自衛隊が行なう行動としては、捜索救助、船舶検査などとともに、いわゆる後方支援として物品や役務を「共同して対処する国の軍隊(つまり多国籍軍)」に提供することが想定されています。武器について言えば、提供は認められていませんが、輸送は認められています。これらの行動は集団的自衛権の行使として認められているのではなく、「武力の行使」でないとの考えに基づいており、テロ特措法やイラク特措法で認められていました。 後方支援は、武力行使を伴う戦闘行為ではないのは明らかですが、紛争中の当事者から中立の立場で実施することはできない、戦闘している国に後方支援すると、やはり敵対行為とみなされるとも指摘されています。 支援を行なう場所については、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」と明記されています。 これは、支援活動を地理的に戦闘地域と切り離すための規定ですが、複雑な状況である現場においてそれははたして可能か、疑問の余地があります。国際平和支援法の前身であったイラク特措法の国会質疑において、当時の小泉純一郎首相が「どこが戦闘地域で、どこが非戦闘地域か、日本の首相にわかる方がおかしい。自衛隊が活動している地域は非戦闘地域だ」と答えたのは有名な故事ですが、「戦闘地域」と「非戦闘地域」の境界は明確でない、明確になしえないことを雄弁に語っているように思われます。「戦闘地域」でなければ紛争に巻き込まれないというのは机上の空論になるおそれがあります。紛争中の「多国籍軍」協力は憲法違反?紛争中の「多国籍軍」協力は憲法違反? 国連決議についても問題がありえます。激しい紛争の場合は国連安保理決議がなかなか成立しません。また、決議があるかないかさえ争いの対象になることがあります。イラク戦争がまさにその例であり、米英豪などが2003年3月、イラクに対する攻撃に踏み切った際に決議の有無が問題となり、独仏などはないという立場を取りました。 また、PKOの部隊は国連の指揮下に入りますが、多国籍軍は特定国の司令官が全体の指揮を執ります。ただし、PKOの場合はもちろん、多国籍軍の場合も国連の決議があることが多いので、多国籍軍としてもその決議に従う義務があります。その意味では、司令官といえども自由に行動できるわけではありませんが、国連の指揮下にあれば、決議だけでなく、実際の活動においても特定国の意思が働く余地はきびしく制限されます。 このように考えると、紛争が継続中に多国籍軍に協力することは憲法第9条が禁止する国際紛争での武力行使の禁止に違反する恐れがあると言わざるをえません。機雷の除去についても紛争が継続中であれば人道的な措置という理由だけでは説明しきれません。 多国籍軍への協力が憲法上問題となりうることは今回初めて出てきたことでなく、テロ特措法やイラク特措法にあったことですが、恒久法である国際平和支援法を成立させると今後繰り返し問題になる可能性があると思われます。(美根慶樹/平和外交研究所)美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹

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    戦争、戦争ってうるさいよ!

    集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法が施行された。国会前では安保法に反対する学生団体SEALDsらが「戦争反対」「憲法守れ」と恒例のラップ調で気勢を上げていましたが、はっきり言って耳障りです。少しは「現実」を直視する努力もしてみてはどうですか?