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    なぜトランプは日本が嫌いなのか

    米大統領選は大詰めを迎えた。初の直接対決となった第一回テレビ討論会では、トランプ氏が「大統領らしさ」を意識し、普段の暴言を抑制。だが、「日本嫌い」で知られ、自国第一主義を貫く氏の政治理念は今も変わっていない。トランプが思い描く「米国の進路」は、日本にとって吉となるか、凶となるか。

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    米左翼メディアが垂れ流すトランプの「ネガキャン」に騙されるな

    渡邉哲也(経済評論家) ヒラリー・クリントン氏の健康不安問題により、ドナルド・トランプ氏が米国大統領になる可能性が急激に高まっている。選挙は水物であり、まだ一ヶ月以上を残しているため、どちらが大統領になるのかわからない状態ではあるが、日本のメディアや有識者などではそれを懸念する声も大きい。では、なぜこのような懸念が生まれているのか考えてみたい。 世界各国、基本的に『リベラルな思想』を持つメディアが多く、これは米国も同様である。また、米国では、日本の放送法における公平性規定がなく、各社支持、政党支持候補を明確にした報道が行われている。米大統領選候補者討論会の会場でトランプ氏に抗議する人=9月26日、ヘンプステッド(ロイター) 衛星放送で手軽に見ることができ日本語同時放送を行っていることもあり日本でよく引用されるCNNなどは左派リベラルメディアの典型であり、放送内容に関して、限りなく歪んでいると言わざる得ない。なぜならば、政治ニュースの殆どがトランプ批判であり、トランプへのネガティブキャンペーンの代表格的なメディアであるからだ。 また、共和党よりとされるFOXなども、トランプ氏は共和党主流派の候補ではなく、主義主張で異なる部分が大きい為、好意的な報道が少ないのである。 つまり、既存メディアのどれを引用しても孫引きしても、トランプに不利な情報ばかりになってしまうのである。ここに世論とマスメディアの大きな乖離が見られるわけだ。そうでなければ、トランプ氏が国民の大きな支持を受け大統領候補に選ばれることなどなかったわけである。 また、トランプ氏へのネガティブキャンペーンばかりになる理由は他にもある。それは対立候補であるヒラリー氏が原因であり、出す政策が印象論ばかりで具体策が何も無いからである。ヒラリー氏の演説を一時間聞いたところで『アメリカ初の女性大統領』以外の要素はほとんど出てこない。だから、ネガティブキャンペーンに終止する結果になるわけだ。 自由の国であったはずのアメリカであるが、ここ数年、ポリティカル・コレクトネス(政治的公平)といわれる『差別やヘイトを理由にした言葉狩り』は日本以上のものがあり、ここに不満を持つ国民も多かった。例えば、議会の議長であるチェアマンはマンが男性形であるため、男女を問わないチェア・パーソン、スチュワーデスが女性形だからという理由でキャビンアテンダントに変更されたのがその典型である。そして、それを聖域にした不可触化(タブー)が行われてきたのである。 しかし、ここに不満を持つ米国民は多く、あえて不可触に触れ、議論を始めたのがトランプ氏だったわけだ。だからこそ、メディア特にリベラルメディアにとって、彼は絶対に許せない存在であり、そこに不満を持つ多くの米国民の支持を集めることが出来たのである。『選挙演説としては正しい』トランプ氏の主張 また、彼の主張は明確であり、『アメリカファースト』アメリカ第一主義を唱え、その具体策に関しても非常にわかりやすいものであったのも彼への支持の要因になっているといえる。『中高齢層には古き良き強いアメリカ』 『若年層には保護主義と不法な労働者追い出しによる雇用の拡大』 『恐怖にはイスラム教徒排斥』と具体的かつ不満を持つ米国人にはとても魅力的に見えるオプションが並んでいるのだ。 私はトランプ氏の主張は、その是非と実現性を除いて『選挙演説としては正しい』と考える。選挙は国民の意志を問うものであり、国民の意見の代表者が政治家であるからなのだ。 そして、日本製品批判はかなりの的外れではあるが、経済政策の方針に関しては米国にとって正しいと考える。リーマン・ショックにより米国を中心とした先進国と新興国の構図は大きく変わった。 米国金融が世界を席巻している状況においては、米国から新興国への投資利益が金利や配当という形で米国に還流し、それがサービス業を中心とした経済と雇用の拡大を生み出していた。しかし、リーマン・ショックによりこの構造は破壊され、米国には投資利益がほとんど還流せず、安価な人件費で作られた新興国産品のみが流入するようになった。新興国の安価な産品の流入=雇用の略奪であり、これでは一部のグローバル企業の資本家を除き、米国労働者は貧しくなるばかりだからである。だからこそ、中国などからの製品に課税を行うことは労働者の保護と国家の発展基盤に繋がると思われるからなのである。共和党の米大統領候補トランプ氏 但し、前段で述べたようにそれが日本に向けられるのは間違っているといえる。なぜならば、特に自動車を中心に米国で売られている日本製品は主に米国製であるからなのである。日米自動車摩擦と貿易摩擦交渉により、日本のメーカーは日本からの輸出をやめ、現地生産に切り替えたのだ。 また、電気など他の製品も完成品輸出であり消費者向け商品の生産(BtoC)から、主要部品や生産機械などの生産(BtoB)に業態を変えており、ほとんど摩擦が生じない構造になっているからなのである。問題があるとすれば、日本のメーカーが中国やASEANなどで生産し米国に輸出している産品であり、それは日本製ではないからなのである。また、多くの日本のメーカーは新興国の賃金上昇により最終消費地生産に切り替え済み又は切り替える方向で生産計画を進めており、北米向けはNAFTA(米国自由貿易協定地域)で作られているものが中心になってきているからである。 トランプ氏の日本批判発言は無知が原因であると考えられ、この点に関しては、きちんと説明すれば問題にならないと考えるものである。また、日本によくある誤解として、大統領になればなんでも出来るというものがあるが、これは全くの間違いであることも述べておきたい。日本の総理と違い米国の大統領は議会演説以外、議会には参加しない。そして、米国大統領の権限は、非常時などの統制権と議会が出してきた議案に対する拒否権があるのみであり、あくまでも議会が優先する仕組みなのである。だからこそ、議会との関係が悪化すれば裸の王様になってしまうため、実際に必要なのは議会対策ということになるのだ。 そして、議会対策として考えるならば、日本としては関係が深く、政権与党である自民党とのパイプが太い共和党のほうが望ましいのであろう。その場合、トランプ氏の勝利は決して悪いばかりではないといえる。

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    トランプ台頭に思う日系移民の辛い過去

     【WEDGE REPORT】田村明子(ジャーナリスト) 吉田イサヨさんは、まだ20歳にもならぬうちに日本を後にした。彼女のパスポートは、自由の女神が立つリバティ島のお隣の島、エリス島にある移民博物館に展示されている。このエリス島は、1892年から62年間に渡ってアメリカ合衆国移民局が置かれていた場所で、この島を通って1200万人がアメリカに移住をしてきたそうだ。 世界中からアメリカにやってきた移民たちの古いパスポートが壁一面に並ぶ中、日本人のパスポートはイサヨさんを含めて3人分あった。明治に発行されたものが1枚、イサヨさんのを含めて大正発行が2枚。 パスポートといっても写真がついているわけではなく、墨筆に朱印が押された手形のような紙切れである。広島県佐伯郡に戸籍があったイサヨさんは、このパスポートが発行された当時18歳と6カ月で、渡米目的は夫の呼び寄せにより、とある。吉田イサヨさんのパスポート(著者撮影) 当時の年齢は数えだから、本人はおそらく実際にはまだ17歳半だっただろう。夫というのは、当時よく行われていた写真結婚の相手だったのだろうか。 今ならまだ高校生の年齢で、移民の花嫁としてはるばるアメリカに来てどのような一生を送ったのだろう。 「排日移民法」で入国は困難だったはずだが… 帰宅してから博物館のサーチエンジンを使ってみると、彼女が上陸したのは1925年となっていた。ところがその1年前の1924年1月、米国政府はJohnson Reed Act、通称悪名高き「排日移民法」を設置している。後の太平洋戦争開戦の遠因になったという説もあるこの法律により、日本からの移民の入国は極端に制限されるようになった。 それではイサヨさんは、どうして1925年に入国できたのか。不思議に思って博物館に問い合わせると、色々な興味深いことがわかった。 まずどういうわけなのか、サーチエンジンで出てきた彼女の到着年、1925年は間違っていた。 博物館の担当者が調べてくれたところによると、彼女は1917年12月22日に日本を出発し、1918年1月15日にサンフランシスコに上陸。パスポートは、遺族によって1988年にこの移民博物館に寄付をされたのだという。「黄禍」と呼ばれた日本人 日本からどのようなルートをたどってエリス島に上陸したのか不思議だったが、これも謎がとけた。この移民博物館で扱っている資料は、エリス島から入国した移民のものだけではなかったのである。“黄禍”と呼ばれた日本人 私が子供のころは、海外に行くのはごく一部の、恵まれたお金持ちの人だけだと思っていた。だから19世紀末から、日本人が移民としてアメリカに大勢渡っていたと知ったときは、驚きだった。 低賃金でも文句を言わずによく働いた日系移民は、そのうちアングロサクソン社会に脅威をもたらすようになり、Yellow Peril(黄禍)と呼ばれる反アジア移民、後にはもっと日系にターゲットをしぼった反日運動に面することになった。 イサヨさんがサンフランシスコに来る5年前の1913年には、California Alien Land Law of 1913、俗に排日土地法とも呼ばれる法の成立によって、米国市民権獲得の資格がない日系人は、土地が購入できないという法が設置されている。博物館には他の日系移民の写真も展示されている(著者撮影) おそらくその頃に撮影されたものだろう。サンフランシスコの一般民家の軒先に、「Japs keep on moving. This is a white man’s neighborhood.」(ジャップは立ち止まるな。ここは白人の住居地である)と巨大なバナーが掲げられ、女性がそれを指差している写真も、博物館には展示してあった。 私は1980年からニューヨークで36年暮らしてきたけれど、少なくとも面と向かってジャップと呼ばれたことはまだ一度もない。日本人だからといってあからさまな差別を受けることはほとんどないと言って良いと思う。 だがイサヨさんが移民してきた当時は、アジア系に対する差別は公然とあった。当時の日系移民たちは、どれほどの思いを耐え偲んできたのだろう。もうあのような野蛮な時代が来ることは、二度とないだろう。と思っていたのだけれど、このところ雲行きが怪しくなりつつある。ニューヨーカースピリットと対極のトランプ あのドナルド・トランプが、共和党の大統領候補の指名を受けることほぼ確定、というではないか。本人は生まれも育ちもニューヨークなのに、主張することはことごとく、リベラルなニューヨーカースピリットと対極にあるトランプ。 ニューヨークの予備選では共和党で圧勝したが、私の周辺ではトランプを支持する声は聞いたことがない。ニューヨークタイムズをはじめとする大手メディアにも、トランプを批判、揶揄する記事は山ほど出ているが、擁護する意見はまったくといって目にしない。 一体、彼の支持者はどこにいるのだろうか。そう不思議に思っていたら、先日一人出会った。 彼はフィギュアスケート界の大物、ディック・バットンである。1948年と1952年の二度の五輪で金メダルを獲得し、長年米国テレビでコメンテーターとしても活躍してきた。86歳になった現在、パークアベニューにある豪華なコンドミニアムで悠々自適の隠居生活を送っている。アメリカの移民問題が孕む矛盾 本人は競技引退後、ハーバード大学院ロースクール卒業。絵に描いたような共和党であるバットンは、自宅での単独インタビューに応じて私にこう語った。 「認めようが認めまいが、アメリカ合衆国の政府を運営していくのは、ビジネスの一種。この国最大のビジネスなのです。そして株主は国民たち。ドナルド・トランプならビジネスマンとして、手際よくこなしていくでしょう」ニューヨーカースピリットと対極の主張で快進撃を続けるトランプ氏(左端:著者撮影) トランプの支持者は一般的に、社会に不満を抱いた低収入、低学歴の白人と言われてきたが、こうしたバットン氏のような階層にも支持者がいるということは驚きだった。実は、ニューヨークのスケート関係者はトランプにちょっとした借りがある。80年代にセントラルパークにある屋外リンク、ウォールマンリンクの改装を成功させた立役者がトランプだったからだ。アメリカの移民問題が孕む矛盾 ニューヨーク市が6年と1200万ドルの予算をかけてもうまくいかずに醜態をさらした改装工事を、トランプは請け負ってからわずか数カ月で完成させた。それ以来、一部のニューヨーカーの間で、トランプは「エゴの塊ではあるが、やるときはやる」という評価もあるのだろう。 とはいうもののことが米国大統領となると、その責任の重さは冗談ごとではすまされない。何よりバットンが口にした、「株主であるアメリカ国民」の中に、我々マイノリティは含まれていないことは確実である。 アメリカ人の友人が、ある日ポスターをFBに書き込んだ。こちらを睨んだネイティブアメリカンの顔写真にこんなコピーがついている。 So you’re against immigration? Splendid! When do you leave?  (移民に反対? そりゃ素晴らしい。で、いつお発ちかね?) 本来正当なアメリカ人といえるのは、彼らネイティブアメリカンのみである。バットン氏もトランプ自身も、元を正せば移民の子孫に間違いない。アメリカの移民問題を考えると、いつも芥川龍之介の「くもの糸」を思い出す。それにしてもこの大統領選、一体どういう顛末になるのか。ニューヨーカーたちは息を呑んで見守っている。

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    トランプは反日主義者か? 日本人には理解できない米国の本音

    中岡望(東洋英和女学院大学大学院客員教授)トランプ氏の支持率上昇 米大統領選挙の様相が少し変わってきた。ドナルド・トランプ共和党大統領候補は、その暴言と粗暴な行動がひんしゅくを買い、大統領選挙ではヒラリー・クリントン民主党大統領候補に大敗するのではないかというのが一般的な予想であった。だが、ここにきて、トランプ氏の巻き返しが目立ってきた。8月26日から9月16日の期間に行われた10件の世論調査では、7件でクリントン氏支持がトランプ氏を上回ったが、その支持率の平均の差はわずか1.5%にまで縮小している。直近の9月14日のFox Newsの調査ではトランプ氏がクリントン氏を1%リード、9月16日のロサンゼルス・タイムズの調査ではトランプ氏のリードは6%であった。今までトランプ氏のさまざまな発言は半分“冗談”と受け流されてきたが、改めてトランプ氏の考え方を検討してみる必要がある。米共和党全国大会が開かれたクリーブランドで支持者に囲まれる同党大統領候補の不動産王、ドナルド・トランプ氏=7月20日、米オハイオ州 トランプ氏は人種差別主義者であり、白人優越主義者であると言われてきた。事実、過去のさまざまな発言や行動を見る限り、そうした指摘を的外れとして退けることはできない。もちろん、トランプ氏はそうした批判を退けてはいるが、同氏の本質は人種差別主義者、白人優越主義者である。と同時に、トランプ氏はこうした主張をすることを通して、保守的な白人アメリカ人の感情に訴え、支持を拡大する戦略を取っているともいえる。 同氏の人種差別的行動や発言はアメリカのメディアによって明らかにされている。たとえば、父親のフレッド・トランプ氏は連邦司法省から事務所を賃貸する際に黒人を差別していると告訴されている。また父親は極端な人種差別集団であるKKK(白人優越主義秘密結社クー・クラックス・クラン)の集会に参加して逮捕された経歴を持つ。こうした考え方はトランプ氏にも引き継がれ、自らが経営するトランプ・プラザホテルの経理担当者に黒人がいたのを知って、「黒人に俺のお金を触らせるな」と担当者を叱責している。また、殺害された白人の81%は黒人が犯人であると、黒人に対する差別を露骨に表現している。事実は15%である。保守国家アメリカの姿保守国家アメリカの姿 黒人に対する差別にとどまらず、メキシコ人に対しても同様な差別感を隠さない。メキシコの不法移民は殺人者であり、強姦者だという常軌を逸した発言も行っている。さらに、よく知られていることだが、アメリカとメキシコの間に壁を建設するという発想も、そうした差別意識から出ているのは間違いない。 自らの大学に対する集団訴訟に関して、連邦判事がメキシコ系アメリカ人であることを指摘し、批判されている。トランプ氏は自著の中で「自分の会社は多くのメキシコ人に雇用を提供している」と反論しているが、同氏の言動を見る限り、そうした主張を額面通りに受け取るのは難しい。またトランプ氏の白人至上主義の発想はドイツのヒトラーに対する共感にも見て取れる。民主主義とは程遠いロシアのプーチン大統領礼賛の中にも、同じメンタリティーを感じ取ることができる。 先に指摘したように、こうした言動は、支持基盤を拡大するうえで一定程度の効果を発揮している。ニューヨーク・タイムズのリン・ヴァーヴレック記者は「トランプ候補は国民に深く根差した人種差別の意識をうまく利用している」と指摘する(2016年2月23日)。 トランプ氏の最大の支持層は保守的な白人労働者階級といわれる。トランプ氏を支持する有権者の20%がリンカーン大統領の奴隷解放宣言は間違いであったと答えている。こうした状況は日本人には理解し難いといえる。アメリカは基本的に宗教的で保守的な国である。世論調査機関のピュー・リサーチ・センターの調査(2015年11月実施)では、アメリカ成人の89%が神の存在を信じていると答えている。63%は“確信”をもって神の存在を信じていると答えている。 共和党の大統領候補選びの過程で、必ず候補者の問われる質問に「神の存在を信じるか」「進化論を信じるか」というのがある。日本の常識では考え難い質問であるが、宗教的かつ保守的なアメリカ人にとっては候補者を判断する極めて重要な問題である。そうした宗教的な観点から、中絶反対、同性婚反対といった主張が出てくる。2016年の共和党の政策綱領の中に、学校での性教育は中止し、「禁欲を教えるべきだ」という政策が掲げられている。それが、アメリカのひとつの現実である。アメリカ社会の対日観アメリカ社会の対日観 トランプ氏が反日的かという問いに関していえば、直接的に日本人に対する差別的な発言は見つけられなかった。しかし、現在でも依然としてアメリカ人の中に反日的な意識が残っていることは間違いない。1917年にカリフォルニア州は日本人とインド人の土地の所有を禁止している。また、同州では日本人とアメリカ人の結婚を認めていない。 太平洋戦争中、日系アメリカ人は強制的に財産を奪われ、キャンプに収容されている。フランクリン・ルーズベルト大統領は妻のエレノアの反対を押し切って、同法案に署名している。レーガン大統領はその措置に関して日系アメリカ人に謝罪し、慰謝料を支払っている。だが、昨年12月にアイオワ州で行われた世論調査では、トランプ氏の支持者の48%が日系アメリカ人の強制収容は間違っていなかったと答えている。これも日本人からすれば驚くべき結果であり、もうひとつのアメリカの現実であり、トランプ氏の支持者の姿である。ちなみにセオドア・ルーズベルト大統領は白人優越論者であったが、日本人に対しては好意的であった。 8月5日、トランプ氏はアイオワ州の集会で演説し、「皆さんがご承知のようにアメリカは日本と条約を締結しています。その条約では、日本が攻撃されたとき、アメリカは全力で日本を守らなければなりません。もしアメリカが攻撃されたら、日本は何もする義務はないのです。彼らは居間に座って、ソニー製のテレビを見ていることができるのです。こんなことで良いのですか」と、いつもの口調で聴衆に訴えかけた。8月5日、米アイオワ州デモインでの集会に参加したトランプ氏(ロイター=共同)トランプの日本イメージは1980年代 従来から、トランプ氏は安全保障に関する日本の“フリーライド(ただ乗り)”を批判し、日本の基地負担を増やすべきだとか、沖縄からの撤兵、さらに北朝鮮の脅威に対抗するために日本に核兵器開発を認めるべきだと語り、物議を醸してきた。アイオワ州の集会での発言も、そうした流れの中にある。さらに同氏は、中国と日本を「アメリカから雇用を奪っている」とも批判している。こうした発言は、アメリカの孤立主義者の考え方である。 共和党の主流派はアメリカの国際的な役割の必要性を説くが、評論家のパット・ブキャナンに代表されるペレオコンサバティブ(超保守主義者)は、アメリカは国際的なコミットメントから手を引くべきだと主張しており、トランプ氏の主張もこれに呼応したものである。トランプ支持者の宗教的、保守的な白人労働者階級にとって、こうした日本批判、孤立主義の主張は心地よく響く。 おそらくトランプ氏は日本に関する知識があまりないのであろう。「ソニー製のテレビ」という言葉を持ち出すのも、彼のイメージにあるのは、通商摩擦が深刻で、日本が世界第一の経済大国になると言われた“1980年代の日本”のイメージであろう。ただ、日本のメディアを見ていると、トランプ氏の発言に過剰に反応していると思われる。 選挙中は、支持層に訴えかけるためにさまざまなレトリックが使われる。それが、そのまま政策に反映することはあまりない。ただ、注意すべきことは、そうした過激で差別的な発言を受け入れる素地がアメリカ社会にあるということである。トランプ氏の発言を無視する必要はなく、正確に分析する必要があるが、冷静な対応が必要である。

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    9・11式典を途中退席 健康不安はクリントン候補の死角となるか

    仲野博文(ジャーナリスト) (THE PAGEより転載) アメリカ大統領選挙まで60日を切った9月11日、ニューヨークでは15年前に発生した同時多発テロの犠牲者を追悼する式典が開催され、ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの両大統領候補も出席した。式典開始から間もなくして、クリントン氏は体調不良を訴えて会場を去るのだが、その様子を捉えた動画がネットにアップされ、凄まじい勢いで拡散。動画ではよろめいて膝から崩れるクリントン氏が、抱えられるようにして車に乗り込む様子がはっきりと確認でき、以前から指摘されていた健康不安説を再燃させる結果となった。クリントン陣営は当初、脱水症状が原因で気分が悪くなったのだと説明したが、のちに医師から肺炎と診断されていたことを明らかにした。健康状態を不安視する有権者が増える一方で、肺炎に関する事実を公表しなかったクリントン陣営に対する不信感も高まり始めているようだ。9月11日、米ニューヨークで、米中枢同時テロの追悼式典に出席した際の ヒラリー・クリントン氏 現地時間11日朝から世界貿易センター跡地で開催された追悼式典に出席したクリントン氏は、式典が始まって約1時間後にシークレットサービスの職員らに連れ添われる形で会場を離れ、車に乗り込もうとした際にはふらついた状態で膝から崩れ落ちかける一幕もあった。この様子を式典に参加するために会場の外にいたチェコ出身の元消防士の男性が動画撮影し、ツイッターに投稿したことによって、クリントン氏が膝を崩す形で倒れかけたシーンが瞬く間に世界中に知れ渡った。ツイッターで動画を公開した男性にはアメリカやチェコのメディアから取材申請が殺到し、2日の間に約2万6000通のメールが届いたのだという。 この男性はチェコメディアの取材に対し、自身が撮影した動画がこれほどの反響を呼ぶとは想像していなかったと語っている。動画の中でクリントン氏が膝を崩す格好で倒れかけるシーンは僅か数秒のものであったが、アメリカの有権者や世界中のメディアの関心を引くには十分すぎる内容であった。 クリントン陣営は当初、クリントン氏が暑さによって体調を崩したと発表していたが、のちに医師から肺炎と診断され、体調不良を起こす前日にも抗生物質を服用していたことを明らかにしている。・Zdenek Gazdaさんが撮影した動画「Hillary Clinton 9/11 NYC」クリントン候補をめぐっては、以前から健康不安説がささやかれ、最近では遊説先で演説を行った際に咳を繰り返していたことをメディアに取り上げられ、何らかの体調不良に見舞われているのではないかと話題になっていた。8月中旬にはクリントン氏の医療記録のコピーとされるものがネット上で拡散したが、医療記録は偽物であったことがすぐに判明している。また、8月末から9月初頭にかけて、アメリカ国内ではグーグルの検索ワードで「クリントンの健康状態」が上位にランクインしており、アメリカ人有権者の間でクリントン候補の健康状態が大きな関心事となっていた矢先に、クリントン陣営は肺炎の事実について発表を強いられたのだ。ウィキリークスや保守系メディアがバッシング 残り60日を切り、米大統領選挙は終盤戦に突入している。このタイミングでクリントン候補が肺炎と診断されたことは、選挙戦を優勢に進めてきた民主党サイドにとってはこれまでの勢いを変えてしまう可能性がある懸念事項で、一方でトランプ陣営にとっては起死回生のチャンスにもなり得る。加えて、今回の大統領選挙ではクリントンとトランプの両候補が自らの医療記録の公開には及び腰となっているが、クリントン陣営が肺炎の診断を受けた公式に発表したため、透明性の欠如に憤る有権者も少なくない。ウィキリークスや保守系メディアがバッシング ネット上にはクリントン氏の健康状態に関するさまざまな情報が氾濫しており、中には陰謀論めいた話も少なくない。クリントン氏の健康状態に関して当初ささやかれていたのは、彼女の頭部の負傷に関するものであった。2012年12月、当時米国務長官だったクリントン氏は、追跡検査で頭部に血栓が発見され、そのまま病院で抗凝血薬を使った治療を数日にわたり行った。血栓が見つかる数週間前、クリントン氏はウイルス性胃腸炎による脱水症状が原因で転倒し、頭部を強打していた。9月15日、選挙戦を再開した民主党大統領候補のヒラリー・クリントン氏 2012年の頭部負傷や、その後行われた血栓の治療、そして高齢も懸念され(大統領選挙直前の10月26日、クリントン氏は69回目の誕生日を迎える)、医療記録を公開して、健康状態についてクリアにしておくべきとの声は以前から少なくなかった。民主党候補者の指名争いでライバルであったバーニー・サンダース氏がクリントン氏よりも高齢のため(サンダース氏は75歳)、「健康問題」はサンダース氏に集中する形となり、クリントン氏の健康状態をめぐって大きく議論されることもあまりなかった。 ボストン在住のフォトグラファー廣見恵子氏は、米大統領選挙で各候補の動きを追うために全米各地を訪れ、クリントン氏の遊説にも何度も足を運んでいる。廣見氏がクリントン氏を最後に間近で目にしたのは、7月12日にニューハンプシャー州ポーツマスで行われた集会だった。廣見氏によると、それまでに何度もクリントン氏の遊説などを取材していたにもかかわらず、クリントン氏から健康上の不安を示すような様子は全く見られなかったのだという。「8月頃からクリントンの健康問題が話題になり始めましたが、私が行った取材の中ではそういった様子は全くなかったため、肺炎のニュースにも正直驚いています」と、廣見氏は語る。  クリントン氏の健康状態を問題視し、クリントン叩きを大々的に展開し始めたのが、アメリカ国内の保守系メディアやタブロイド紙だ。「健康に不安を抱えるクリントン氏に大統領職を全うできるかは疑問で、大統領選挙から即刻撤退すべし」という論調で、クリントン叩きに躍起になるメディアもあれば、クリントン氏のランニングメイトとして選挙戦を戦うティム・ケイン氏をすぐに大統領候補にするべきと伝えるメディアまで出る始末だ。また、ウィキリークスはツイッターに4択のアンケートを投稿し、「クリントン氏の本当の病状は何だと思うか?」という質問でクリントン氏の健康不安を煽り、激しい批判に晒された。問題のツイートはその後削除されている。求められる情報公開、吉と出るか凶と出るか求められる情報公開、吉と出るか凶と出るか 大統領候補や現職の大統領の健康状態が大きな関心事になったのは、いつ頃からなのか。歴代のアメリカ大統領について研究する歴史家のロバート・ダレック氏は2008年にNPR(米公共ラジオ)のインタビューの中で、「歴史的に見て、大統領や大統領候補者は自らが患っている慢性的な病気について公表するのを避けてきた」と語っている。 第一次世界大戦後にパリ講和会議を開催し、国際連盟の創設に尽力した第28代大統領のウッドロウ・ウィルソンは大統領時代の晩年に脳梗塞を発症した。一命は取り留めたが、左半身不随と重い言語障害が残り、職務の継続は無理な状態であったが、アメリカ国民に脳梗塞の発症はウイルソンの死後まで伝えられることは無く、ウイルソンは大統領職を最後まで全うした。逆に健康状態がよく知られていた例も少なくなく、第21代大統領のチェスター・アーサーは腎臓病、第35代大統領のジョン・F・ケネディは慢性痛に苦しんでおり、それらの情報は有権者の間でも周知の事実であった。ワシントンで開かれた党会合で並ぶコリン・パウエル氏(左)と ヒラリー・クリントン前国務長官=2014年9月 マサチューセッツ州選出の元上院議員ポール・トソンガス氏は1984年に悪性リンパ腫の治療に専念するために政界を引退したが、1992年の大統領選挙で政治の世界にカムバックし、大きな話題を呼んだ。トソンガス陣営は「癌に打ち勝った候補者」として強さをアピール。これに共感した有権者は多く、トソンガス氏は大統領選挙の序盤で後に大統領になるビル・クリントン氏よりも多くの支持を集めるほどであった。トソンガス氏のケースは異例中の異例で、ほぼ全ての候補者は自らの病気について積極的に情報公開することはない。 SNSで拡散された映像や、ネット上で広がる根拠のない噂に対応するため、クリントン氏にはより積極的な情報公開が求められているが、健康についての情報公開が吉と出るか凶と出るかは不明だ。 健康不安以外にも、トランプ氏同様に支持率が急落する爆弾をいくつも抱えている。クリントン氏は先週、LGBTの集会に演説を行い、トランプ支持者を激しく批判した。「トランプ支持者の半分は哀れな人たちで、人種差別主義者、性差別主義者、同性愛者嫌い、イスラム教徒嫌い……。そんな人間ばかりだ」と発言。度を越えた発言と捉えたアメリカ人は少なくないと報じられている。また、これからのクリントン財団の運営の仕方や、ウォール街との付き合い方、国務長官時代のメール問題に対する見解など、アメリカ人有権者の間で根強く残る「クリントン嫌い」の要因を払拭する必要がある。 この時期に民主党の大統領候補が変わる可能性はほぼゼロだが、医療記録から財団運営の詳細まで、有権者がクリントン氏に期待することの一つが「透明性」であることは間違いない。なかの・ひろふみ ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト

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    トランプ旋風が生み出す尖閣戦争の危機

    の悪夢」とまで語られる米国大統領選挙でのトランプ旋風。この「悪夢」の本質とは何であろうか。 それは、日米関係の骨幹である日米同盟についての無理解だろう。トランプ氏の「安保タダ乗り」「核武装容認」「在日米軍撤退」などの発言は、これを如実に表している。 アジアにおける米国のプレゼンスを支える日米同盟について、トランプ氏はなぜ、ここまで無理解な発言を続けるのか。日米同盟が米国のアジア・太平洋地域における経済的繁栄の最重要インフラであることは常識であり、日米同盟なしに米国の対中国政策もありえないのだがーー。トランプ氏と前ロンドン市長・ジョンソン氏を揶揄するポスター、ロンドン市(Gettyimages)「冷戦思考」が支えるトランプの対日政策 防衛省のある研究員は、こうしたトランプ氏の対日政策には、「冷戦思考」の軍事顧問が影響を与えていると指摘する。 「トランプ氏の安全保障ブレインは、元海軍少将のチャールズ・クービック氏と現役陸軍少将のバート・ミズサワ氏であるといわれます。 クービック氏は、オバマ政権でリビアとの平和交渉を非公式に担当した、自称中東通です。彼は、イラク戦争に海兵隊の工兵部隊として従軍したとの触れ込みですが、実際には常駐経験はなく、月に数回程度、それも税金対策としてイラクを訪れていたにすぎません。 一方でミズサワ氏は、アフガニスタンや上院軍事委員会で勤務したこともあるため、米国の軍事戦略には通暁しており、ブレインの中ではまともな方だと思います。彼は名前から分かるとおり日系人ですが、日本勤務の経験はなく、子供の頃に空軍軍人だった父とともに、三沢基地に短期間住んだことがあるだけです。 そんな彼らに共通するのは、中東重視です。アジアや中国問題に疎く、中東やロシアを重視する冷戦思考が彼ら戦略思想の根底にあります。また、米軍には、実戦ばかりで損な役回りの中東派と、実戦はないのに優遇されている太平洋派の間で、感情的なしこりもあります。 このような戦略思想や感情的なしこりを持つ彼らの考えが、トランプ氏の対日政策に影響を与えているのは間違いないでしょう」(防衛省の研究員)グーグルでもヒットしない者たち ちなみに、トランプ氏のブレインの能力不足については、すでに米国で問題視されている。3月に5人の政策アドバイザーが発表された際には、「グーグルでもヒットしない者たち」と話題になったほどだ。 では、日本に理解がなく、能力もないブレインに影響されたトランプ氏の対日政策は、どのような影響を与えていくのだろうか? 戦略国際問題研究所(CSIS)でアジア地域の外交・安全保障を研究するザック・クーパー氏は、「同盟関係に変化はない」と指摘する。 「米国の強さは、数十年にわたって、共通の価値観を根底とした世界的な同盟の要となってきました。なかでも日米関係は安全保障、経済、文化の面で、米国の同盟関係の強さの源です。トランプ氏が日本や他の同盟国を傷つける発言をしても、米国における同盟についての価値観に変化はなく、同盟は今後も続くでしょう」(クーパー氏) クーパー氏の発言は、プロの外交官や専門官の意見と共通する。だが、この種の意見には、希望的観測と長い時間をかけて築き上げてきた日米関係を覆させないという自負心が背景にあり、当然、日本へのリップサービスも込められているとみるべきだろう。 だが、今年3月にトランプ氏不支持を表明する共和党関係者の署名を報じて話題になった、ニュースサイト「War on the Rocks」のライアン・エバンス編集長は、トランプ氏の利己的な性格が与える影響を懸念する。 「トランプ氏は、米国が掲げている重要な理念であるグローバルコモンズへのアクセスと商業の自由を可能とする国際秩序を守ることについて、理解していないし、理解しようともしていません。 この理念によって最も恩恵を受けているのは米国であるにもかかわらず、トランプ氏は国家の利益について考えておらず、自己の利益を優先し、自分の会社との敵対関係しか頭にないのです」(エバンス編集長) このようなトランプ氏が唱える孤立主義的な外交・安全保障政策については、氏が属する共和党においてでさえ、懸念を示す向きが多いことは周知の通り。 というのも、これまでの共和党は、前回の大統領選挙でオバマ大統領に敗れたマケイン上院議員がアジア重視を鮮明にして、アジア・太平洋地域の海軍力強化に努めており、米軍のアジアへのコミットを強く支持してきた。それを覆すような発言を続けるトランプ氏は、共和党にとって、票が集まる人気者であると同時に、厄介者でもあるのだ。米国不在が生み出す中国の危険な挑戦米国不在が生み出す中国の危険な挑戦 しかし、ここにきてトランプ氏の大統領就任の可能性に戦々恐々とする米国で、日本は「普通の国」に生まれ変わるべきとの意見も出てきている。知日家として知られる世界戦略トランスフォーメーション研究所所長のポール・ギアラ氏も、そんな日本の再生をと唱える一人だ。 「トランプ氏の対日政策は、日本が非対称的な同盟関係を再考する機会となるでしょう。これは、日本のいびつな平和主義の終わりを意味するという点で、重要です。 実際、日本は少しずつではありますが、いわゆる『普通の国』として軍事力を持つことにより、新しい安全保障政策を打ち出し、“米国に使われる立場”から“経済的パートナー”へと変わりつつあります。 これは、日本が最前線国家として、中国と北朝鮮との摩擦に直面しており、ロシアやイラン、イスラム過激派に対しても、責任ある国家として対応しなくてはならなくなってきた。そのため、結果的に米国との関係性にも変化が現れ始めているのです」(ギアラ氏) ギアラ氏は、インタビューに際して「トランプ支持者ではない」と断った上で、日本がこれまでの日米同盟を見直す時期にきていると強調している。図らずも、トランプ氏の無理解な対日政策がトリガーとなり、日本が親離れする形での日米関係の見直し論が浮上しているのだ。 しかし、中国との間でスプラトリー(中国名:南沙)諸島の領有権問題を抱えるフィリピンの大統領政策担当スタッフであるアレハ・バーセロン氏は、「日米関係の見直しはアジア諸国に悪影響を与える」と懸念を示す。 「トランプ氏が大統領になれば、危険なシナリオを招く可能性があります。それは、アジアにおける米国のプレゼンス不在による、中国の覇権的行動の拡大です。 トランプ氏は、これまで日本やフィリピン、ASEAN諸国が築き上げてきた、アジアの平和と安定にほとんど興味がありません。彼が大統領に就任するということは、アジア諸国に対する米国の関与を著しく損なわせるとともに、それら諸国との安全保障条約を一方的に破棄するという、最悪の事態を招く可能性があります。 これまでアジア諸国の後ろ盾であった米国のプレゼンスが弱まれば、中国はその脅威を気にかけることなく、覇権的行動を強めることができるのです」(バーセロン氏) 中国が6月9日にフィリゲート艦1隻を尖閣諸島の接続海域に侵入させたことに続けて、中国戦闘機が空自戦闘機に空中戦を仕掛けたと報じられたこと(6月30日付産経新聞)は、記憶に新しい。中国がこのように軍事的挑発を強めている背景には、トランプ氏の対日政策が、米国からの“誤ったメッセージ”として受けとられている可能性が考えられる。 中国による南シナ海の領有化や北朝鮮による核・ミサイル開発にみられるように、アジアは世界で唯一残された、国家間における戦争の危機を内在する地域だ。過去にも、朝鮮戦争やイラクのクエート侵攻などは、「米国はアジアに関与しない」と受け取れる、“誤ったメッセージ”が発端となり起こったことであることを忘れてはならないだろう。 日本政府には、米国大統領選の推移を見守るだけではなく、米国の主要な同盟国として、従来に増して日米同盟の重要性を国内外に発信し、アジア地域の平和と安定を維持するために、“誤ったメッセージ”を払拭していく努力が求められる。このような積極的な関与こそが、新たな日米関係に求められる姿ではないであろうか。

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    日米同盟の関係見直し? トランプ発言が日本に与えた衝撃

    猪野亨(弁護士) 米国では、大統領予備選挙が行われ、共和党では当初の予想に反し、過激な発言を繰り返すトランプ氏が指名獲得を手中にしました。安倍自民党政権がトランプ氏の発言に右往左往しています。 トランプ氏の注目発言はこれです。日本の駐留米軍の経費を全額、日本に負担してもらう。米国の牛肉に38%の関税をかけるなら、日本車の輸入には38%の関税をかける。 石破氏が早速、反応しています。 「石破氏 『トランプ氏、安保条約よく読んで』 全額負担で」(毎日新聞2016年5月7日) 「石破氏は、日本は納税者の負担で他の多くの同盟国よりも多くの駐留経費を負担している▽日本に米軍基地があることで地域の平和と安定に寄与している▽米国の国益にも寄与している−−と説明。在日米軍は同条約に基づいて『極東における平和と安全』のために駐留しており、『ひたすら日本の防衛のために負担しているのだから、経費は日本が持つべきだというのは、条約の内容から論理必然として出てこない』と反論した」 これはトランプ氏への反論にもなっていないし、ましてやトランプ氏の支持層にとっては雑音でしかないでしょう。日米安保条約の最初の目的といえば、米国が自国の利益にならないようなことをするはずもなく、米国の利益のために日本を属国にしたというものです。石破茂前地方創生担当相 表現などは異なりますが、確かに石破氏のいう主張は従来の日本政府の見解でもあるのですが、しかし、それは米国が東西冷戦においてライバルのソビエトが崩壊してからは、唯一の超大国として、さらには世界市場を力によって維持するという世界の警察官を自負したしばらくの期間までです。 時代は既に米国が同盟国に負担を求める構図に変わっています。米国がその軍事力をもってしても世界の警察官としての役割を果たすことが現実に無理ということが米国の中でも認識されてきたということもでもあります。 今や米国の経済は傾き、財政赤字も極限に達している中で、世界の警察を自認しているような悠長なことは言っていられるような状況ではなくなったということです。オバマ政権のときから、アフガニスタン、イラクからの撤退が大きな課題になっていたのも、これ以上の財政負担ができなくなったし、何よりもそれに見合うような経済効果もなかったからです。 力の政策を推し進めてきたブッシュ政権が行ってきた政策の破綻がその象徴になりますが、米国ではいよいよ国民(有権者)もその矛盾をはっきりと意識したということでもあります。テロとの戦争に勝者はない 力の政策は変えない、それらは全て他の同盟国に押し付けるという選択です。トランプ氏が同盟国への負担を求める発言は、恐らく米国の中では民主党支持層の中にも支持が拡がることでしょう。それは裏を返せば日本に対する不満でもあるわけで、日本車への輸入に高額の関税を掛けるということは、同様に一定の支持を拡げることになります。 もはやトランプ大統領が誕生するかどうかは、全くの幻想ではなくなりました。米国内の矛盾を外的要因に向けることによって国内の統一を図ろうとする力(バランス)が働こうとしているのです。 そうなると民主党での指名の獲得がほぼ決まったクリントン氏の政策動向にも影響を与えないわけがありません。自国民ではなく、第三国への負担を求めるような政策は、米国大統領選挙では競って主張されることがありますが、その典型的な場面とも言えるからです。 石破氏は、このような米国を取り巻く経済環境、有権者意識の変化を理解できないのか、意図的に無視しているのか、従来の日本政府の見解を繰り返しているだけであり、トランプ氏にはともかくとして、米国有権者にも通用しない陳腐化した主張なのです。 石破氏としては、先に安保関連法を制定し、これからは米国のために自衛官の命を提供しようとしていた矢先のことですから、非常に動揺していることがうかがえます。 「平和という名の戦争国家 日本人に血を流させます! 結果は永遠に米国の属国だ」 結局、日本国家が選択肢として考えなければならないのは、さらなる大幅な負担増(財政面のみならず、自衛官の命を惜しみなく差し出す)を申し出て米国の機嫌を取るのか、米国との同盟関係を解消して新たな道を選択するのかということにならざるを得なくなります。 しかし、いずれにしても力で世界の平和は維持できないということは、これまで力で抑えきれなかったことをもってしても自明のことです。テロとの戦争に勝利はありません。カネも出し、日本の若者の命を差し出しても、それに見合うものがありますか?トランプ氏の発言は、私たちにも同様の問題を突きつけていることを自覚すべきことを物語っているのです。(「弁護士猪野亨のブログ」より2016年5月9日分を転載)

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    日米同盟解体・自主防衛のコストは25兆5319億円

     今後考えられる在日米軍の縮小・撤退は、日本を安全保障上の危機に晒すことになる。ドナルド・トランプ氏が米大統領になるか否かにかかわらず、日本における米軍の力が減じていくのは避けられないだろう。ならば、どう自力で国を守るかを考える必要がある。制約が多い自衛隊ではなく、国際的に見てもスタンダードな国防軍の創設を想定したとき、どれくらいのコストがかかるのか。 国防軍を創設する場合、現実的に大きな壁となるのは、コスト(費用)だ。「日米同盟にも、コストがかかっています。一方、仮に日米同盟がない場合にどのくらいのコストがかかるのか。自主防衛を議論するにはそうした総合的な評価が必要です」 そう語るのは、防衛大学校の武田康裕教授だ。武藤功・防衛大学校教授との共著『コストを試算! [日米同盟解体]』(毎日新聞社)での試算を紹介しよう。●日米同盟のコスト 日本の防衛費は4兆6453億円(数字は武田氏が利用した2012年度予算に基づく)で、これには米軍の駐留に関わる経費負担も含まれる。日本は「思いやり予算」などで在日米軍の駐留経費や米軍再編関係経費など4374億円を負担しており、この額が同盟維持の「直接経費」となる。島嶼防衛のための上陸訓練後、乗ってきたゴムボートを上陸用舟艇(LCU)に運ぶ陸上自衛隊と米海兵隊の隊員=2012年9月22日午前、米国・グアム島西部のアプラ港米海軍基地(大西史朗撮影) 同盟維持にかかるコストは他に「間接経費」がある。「税収や経済効果など、基地があることで日本が失う利益(機会費用)は約1兆3284億円。これを直接経費の4374億円と合算した計1兆7658億円が日米同盟を維持する総コストになります」(武田教授)●自主防衛のコスト 日米同盟は米軍が「矛」、自衛隊が「盾」の役割を担う。仮に完全自主防衛するためには、[1]島嶼防衛のための部隊と輸送力(2993億円)[2]攻勢作戦を担う空母機動部隊(1兆7676億円)[3]対地攻撃能力と対空戦闘能力を持つ戦闘機(1兆1200億円)[4]日米が共同開発したミサイル防衛システムに代わる情報収集衛星や無人偵察機(8000億円)[5]ミサイルを打ち込まれた場合に被害を最小化する民間防衛体制(2200億円)が新たに必要になる。総額は4兆2069億円だ。 また仮に日米同盟が解体するとなれば、日本の国際的な評価が下がり、貿易額の減少、エネルギー価格の高騰、円・株式・国債価格の下落による経済低迷が想定される。これらを「間接経費」というが、貿易額が6兆8250億円で、円・株式・国債価格の下落が12兆円、エネルギーが最大2兆5000億円で、合計21兆3250億円となる。 直接経費と間接経費の総額は、最大25兆5319億円に達すると武田教授は推計する。  以上は「日米同盟解体」という極端なケースを仮定した試算だが、より現実的なのは、日米同盟を維持しつつ、日本の防衛力を高め、機能を拡充する方法だろう。 「トランプ氏が日本の経費負担増を求めるなか、日米同盟の枠組みを維持したまま、日本の防衛努力を現状より増やす方向もあり得る。核の傘に加え、ミサイル防衛システムを支える高度な技術と情報を米軍に頼りつつ、尖閣など島嶼防衛やシーレーン対策で日本の負担を増やせば、それに応じて負担が軽減される米国は歓迎するだろう」(武田教授)  このやり方なら全面自主防衛より低コストで安全保障を維持できる。関連記事■ 「米国内の日米同盟破棄論」少数意見だが米孤立主義の反映■ 安倍首相 抑止力の意味を含め日本独自の打撃力を備えるべき■ 米国内の日米同盟「縮小論」 どんなシナリオで進むのか■ 米国元高官「日米同盟の役割理解できなかったの鳩山氏だけ」■ 「子ども手当1年分で日本は空母を持てる」と櫻井氏指摘

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    11戦無敗のトランプを破る秘策とは?

    【海野素央のアイ・ラブ・USA】海野素央(明治大学教授、心理学博士) 今回のテーマは「大統領候補テレビ討論会の見所(2)」です。「テレビ討論会の見所(1)」では、民主党のヒラリー・クリントン候補の健康問題と絡めて非言語コミュニケーションの重要性を指摘しました。 本稿では、まずテレビ討論会における共和党のドナルド・トランプ候補に対する有効な戦略を紹介します。次に、討論会でどのようにしてクリントン候補がオバマ大統領の出生地に関するトランプ候補の撤回発言を活用できるのかについて説明します。さらに、感情のコントロールと移入についても述べ、そのうえで討論会のポイントをまとめてみます。ワシントンD.C.のドナルド・レーガン国際空港でニアミスしたクリントン専用機(手前)と、トランプ専用機(奥)、(GettyImages)ブレンド戦略 これまで研究の一環として10州のクリントン陣営に入り、戸別訪問、電話による支持要請及び有権者登録を行ってきました、戸別訪問は昨年の8月から積み重ね、合計で2971軒になりました。その中でトランプ支持者はもちろんですが、同候補に傾いている無党派層の中に、ある傾向が存在することが明らかになったのです。彼らは、トランプ候補を「本物」とみなし、情熱的な姿に魅力を感じているのです。その一方で、クリントン候補の内政並びに外交・安全保障政策に関する知識にはそれほど価値を置いていないのです。 テレビ討論会で政策論争となった場合、クリントン候補の豊かな知識がトランプ候補を圧倒するという見方が確かにあるのですが、筆者は必ずしもそれがクリントン候補に優位に働くとはみていません。トランプ候補は、これまでメール及びクリントン財団の問題を最大限に活用し、クリントン候補を不正直で偽物であるというレッテルづけに一定の効果を上げてきました。討論会で不利な立場に立たされると、トランプ候補は「自分は世界の大統領になるのではない。米国の大統領になるのだ」と主張し、外国政府から献金を受けたクリントン財団を批判し反撃するでしょう。それに加えて、クリントン候補の削除された約3万3000通のメールにも触れ、攻撃を畳み掛けてくるでしょう。討論会でトランプ候補は、知識よりも正直や信頼に価値を置く無党派層に訴えるのです。大統領としての資質 クリントン候補の立場に立ちますと、内政及び外交・安全保障政策の知識をひけらかすよりも、トランプ候補の確定申告非公開やトランプ財団のフロリダ州パム・ボンディ司法長官に対する不正政治献金問題を攻撃し、クリントン財団の便宜供与疑惑及びメール問題と「ブレンド」してしまう戦略が効果的でしょう。ブレンド戦略とは、種類や品質が相違したコーヒー豆を混合して薄めるように、相手の攻撃を弱めるための他の議論や争点を持ち出して混ぜてしまう戦略です。 慈善事業に従事するはずのトランプ財団が、再選を狙うフロリダ州ボンティ司法長官の関連団体に2013年9月、2万5000ドル(約225万円)の政治献金をしていたのです。ガーディアン(電子版)によりますと、当時フロリダ州の検察当局はトランプ大学の詐欺問題の捜査を検討していましたが、同司法長官は十分な証拠はないとして捜査を取りやめたのです。 クリントン候補支持を表明している民主党のジェリー・コノリー下院議員(バージニア州第11選挙区)はワシントンでテレビ討論会に関する筆者のインタビューに次のように答えてくれました。4月23日、米ユタ州ソルトレイクシティで開かれた共和党大会の会場の外で見かけたTシャツには「トランプ、ヒラリー ストップ」とプリントされていた(AP) 「メディアは、クリントン財団とトランプのフロリダ州司法長官への不正な政治献金の問題を同等に扱っています。これは間違いです。クリントン財団が便宜を図ったという証拠はありません。トランプが彼女(ボンディ司法長官)に献金をした証拠はあります」 ちなみにメール問題に関しては、下院外交委員会に所属するコノリー議員は次にように述べました。 「メール問題よりも、トランプが日本と韓国の核保有を容認した発言の方が問題です」大統領としての資質 テレビ討論会でクリントン候補は、トランプ候補を米軍最高司令官になる資質に欠ける候補として描くでしょう。「核のボタン」を任せることができない危険人物として有権者に訴えるのです。 それに加えて、トランプ候補の資質を問う新たな問題が発生しました。トランプ候補は、2011年からオバマ大統領の出生地は米国ではないと述べて、大統領の資格がないと主張してきました。どころが、同候補は突然その発言を撤回したのです。その狙いは、アフリカ系の票の獲得であることは明らかですが、同候補の大統領になる適性を問われる発言が含まれているのです。 トランプ候補は、2008年クリントン陣営がオバマ候補(当時)の出生地の論争をはじめ、自分が今それを終わらせたと記者会見で発言したのです。これは事実に反します。しかも、同候補は自身の認識の誤りに基づいた発言に謝罪するどころか、オバマ大統領の出生地の論争に自分が終止符を打ったとして手柄にしているのです。 この件に関して、クリントン候補はテレビ討論会でトランプ候補に訂正並びに謝罪を求めるでしょう。クリントン候補は、トランプ候補を「嘘つきドナルド」と直接呼ばないまでも、そのような印象を有権者に与えて同候補の大統領になる資質を問う絶好の機会を得たのです。感情のコントロールと移入感情のコントロールと移入 トランプ候補は、前述しましたようにテレビ討論会でメール問題及びクリントン財団における便宜供与疑惑を突いて、クリントン候補に対する不信感を増幅させる戦略をとるでしょう。同候補はトランプ候補に追い詰められたとき、感情的になって議論しないことが必須です。というのは、有権者の中には女性は感情的でリーダーには適格ではないというステレオタイプ(固定観念)を持った有権者がいるからです。同候補が、トランプ候補の攻撃に感情的になってしまうと、米軍最高司令官に女性は適さないというステレオタイプを強化してしまう危険があるのです。 第2回目のテレビ討論会では、トランプ・クリントン両候補に感情移入の有無が求められます。第2回目の討論会は市民集会の形式をとり、会場の「決めかねている」有権者が直接候補者に質問をします。その際、候補者は質問をした有権者の立場に立って感情移入ができるか否かが問われます。討論会で感情移入の欠如が致命的になったケースを以下で紹介しましょう。8月26日、米ネバダ州ラスベガスで開かれた会合に参加したトランプ氏(ロイター=共同) 1992年の大統領選挙は、経済が最大の争点でした。選挙はH・W・ブッシュ大統領、ビル・クリントンアーカンソー知事(共に当時)、テキサス州の富豪家ロス・ペロー氏の3つどもえの戦いでした。市民集会の形をとったテレビ討論会で、会場のアフリカ系の若い女性が3人の候補者に次のような質問をしたのです。 「国の財政赤字は、3人の生活にどのような影響を与えていますか」 この質問に、ブッシュ大統領は不可解な表情を浮かべながら「あなたの質問の意味がよく分からない」と答えてしまったのです。それに対して、クリントン知事は「あなたは家を失った人を知っているのですね」と言いながら、質問をしたアフリカ系の有権者に歩み寄ったのです。同知事は、この有権者に感情移入をして理解を示し、彼女との物理的及び心理的距離の双方を縮めて味方につけることに成功したのです。 この2人の対応の相違が、選挙戦に影響を与えました。ブッシュ大統領は経済状況が悪い中で生活に苦しんでいる国民が多いのにもかかわらず、それに対する認識が欠如しているという印象を有権者に与えてしまいました。しかも討論会の最中に、同大統領は腕時計を見てしまったのです。この動作は、「討論会に集中していない」「早く終わりたい」というメッセージを有権者に発信してしまいました。 討論会後、これらの場面がメディアによって繰り返し放映されたのです。市民集会のスタイルをとる討論会では、会場で質問をした有権者に対する感情移入の有無が勝敗を決すると言っても過言ではありません。コイントス 最終弁論で有権者に好印象を残すチャンスが高いのは後攻めです。運としか言いようがないのですが、コイントスで勝ち後攻めを選択する必要があります。12年米大統領選挙の第1回目のテレビ討論会でロムニー元知事はコイントスに勝ち、後攻めを選び有利に立ちました。最終弁論において有権者に記憶に残る言葉を発することができるかが極めて重要な要因になります。テレビ討論会のポイント さて、トランプ候補は共和党候補指名争いで11回のテレビ討論会をこなし、容赦なく相手候補を攻撃しノックアウトしてきました。その一方で、本選に入ると同候補は大統領らしく振舞い柔軟な姿勢も見せています。テレビ討論会で、主としてどちらのスタイルをとるのか、あるいは混合型をとるのかにも注目です。言い換えれば、どちらのトランプ候補が討論会に登場するのかです。いずれにしても、同候補はクリントン候補にとって決してくみし易い相手ではないことは確かです。 トランプ・クリントン両候補にとってテレビ討論会の成否は、第1に効果的な非言語コミュニケーションの実践、第2に相手に攻撃された際の有効なブレンド戦略の活用、第3に感情のコントロール、第4に会場で質問をした有権者に対する感情移入、第5に効果的な最終弁論、にあると筆者はみています。

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    オバマ広島訪問 被爆者や家族、遺族の声

    Japan In-depth 編集部(Emi) 「過ちは繰り返しませぬから」と刻まれた原爆死没者の慰霊碑に現職のアメリカ大統領が献花することになれば、それは核を巡る歴史的な瞬間となるだろう。 謝罪なのか、謝罪ではないのか、政治的パフォーマンスなのか、現職の大統領として初めてとなるオバマ大統領の広島訪問は様々な視点で語られるが、日米の間に横たわる長い「戦後」の歴史に刻まれる大きな出来事には違いない。就任当初の2009年のチェコ・プラハでの演説で「核なき世界」を提唱したオバマ大統領は、被爆地で何を語るのか。 「世界中の人々とりわけ為政者は、広島に来て被爆の実相に触れて欲しい。」 広島市などは、国内外にこの思いを発信してきた。「実相」というのはあまり聞きなれない表現だと思うが、広島では原爆の被害や実態の全容を指す表現として一般的に使われる。被爆の「影響」、「様子」、「現実」、そんな言葉では表現しきれない、原爆のあまりに残酷で深い苦しみを指した言葉だ。そして世界の「為政者」の中でも、最も強い思いで訪問を願っていたのが、言うまでもなく原爆を投下したアメリカの大統領だ。 「核兵器を使用した唯一の国として行動する道義的な責任がある。」 2009年、プラハ演説でこう述べ、「核なき世界」を提唱したオバマ大統領は、ノーベル平和賞を受賞した。具体的な実績がない中での受賞は異例とも言えたが、今後の行動への期待や、核兵器廃絶への機運の高まりを後押しする受賞との見方が広がった。 その期待感は、もちろん広島にも広がった。 当時の広島市の秋葉忠利市長は、オバマ大統領と「多数派」を意味するマジョリティーという言葉を合わせた「オバマジョリティー」なる造語を掲げ、オバマ大統領に賛同するキャンペーンを市の事業として展開したほどだ。被爆者団体からも「オバマさんに広島に来て欲しい。」という声を聞くようになった。 しかしその期待感は、徐々に薄らいでいくことになる。 「核なき世界」を掲げた翌年の2010年9月には、オバマ政権下で初めて核爆発を伴わない臨界前核実験を実施し、核戦力を維持する姿勢を示した。 更に近年では、「Zマシン」というエックス線発生装置を使い、プルトニウムの反応を調べる新しいタイプの実験を繰り返している。被爆者団体などは、これを「新型の核実験だ。」として、抗議の声をあげた。 「あのノーベル平和賞受賞は何だったのか?」 去年、被爆から70年の節目の年にニューヨークで開かれたNPT・核拡散防止条約再検討会議も、核軍縮の停滞を感じさせるものだった。アメリカは、今後の核軍縮の取り組みを示す最終文書に盛り込まれた中東の非核化を巡る内容に反対し、会議は「決裂」という最悪の結果に終わった。5年に一度開かれるNPT再検討会議が最終文書の採択に失敗したのは、2005年以来のことだった。 プラハ演説の中で、オバマ大統領は確かに「アメリカは核兵器のない世界の平和と安全を追求する。」と述べた。しかし「この目標は直ちに達成される訳ではない。私の生きているうちは無理であろう。」と続けている。許しでも未来志向でもない「謝罪は必要ない」という言葉 そして日本政府も核の問題に関しては、国際的に非常に複雑な立場だ。 オバマ大統領の広島訪問について、安倍総理は「日本は唯一の戦争被爆国として核兵器の廃絶を一貫して訴えてきました。」と発言していたが、本当にそう言い切れるか。 去年、国連総会で核軍縮に関する作業部会の設置が、国連加盟国のおよそ3分の2にあたる138か国の賛成で決まったが、アメリカの「核の傘」の下にいる日本は、採決を棄権した。核兵器の法的禁止を目指す動きがあることから、アメリカなどが反対したことに配慮した判断だ。 更に同じく去年の8月6日の広島の平和記念式典での安倍総理の挨拶も物議を醸した。1994年以降、式典に列席してきた歴代の総理が必ず触れてきた「非核三原則の堅持」という文言を盛り込まず、被爆者らから批判の声が上がった。 「今回の訪問を、すべての犠牲者を日米で共に追悼する機会としたいと思う。」 オバマ大統領とともに広島を訪れる安倍総理はこう述べた。 アメリカの大統領の訪問を日本政府としてどう捉え、今後、核を巡る問題においてどのような立場で行動していくのか、国際社会で「唯一の被爆国」と言うなら何をすべきなのか、今回の訪問は日本にとってもそれらを再考する重要な機会だ。 オバマ大統領の広島訪問の日が近づくにつれ、被爆者や家族、遺族らからは様々な反応が聞かれる。 被爆者である母親、叔父、叔母の遺影を持って当日広島入りしようと決めた奈良県の男性もいる。東京の男性も、原爆で父親を亡くした広島の母親に、今回初めてじっくり核についてどう思うのか、アメリカに対してどんな感情を持っているのかを聞いたという。原爆投下は、確かに71年も前の出来事だ。しかし、原爆に関わりを持つ広島、長崎の人々にとっては、まだ「過去」や「歴史」と簡単に割り切ることは難しい。肉親を無残に失った悲しみ、放射線障害という未知なる病との闘い、被爆者に向けられた壮絶な差別、どれもまだ終わった問題ではない。 「オバマ大統領の謝罪は必要ない。」 インタビューに答える広島の人々、被爆者の中にもこう話す人がいることに驚く人もいるかもしれない。しかし当然、「謝罪はいらない」=「許し」「未来志向」という単な構造でもない。言葉の陰には、様々な思いが隠れている。 「憎しみだけでは生きてはいけなかった。」 「謝罪が広島訪問のハードルとなるなら、それを求めることは得策ではない。」 「これまでアメリカは広島の被害に目を向けなかった。ただ慰霊してくれるだけでも、大きな一歩だ。」 戦後71年、広島・長崎では、偏見や差別に晒されることをも恐れず、自らの体験を語り、核兵器廃絶を訴えてきた被爆者たちがいた。 「語り部」として子どもたちに証言を続けた人、被爆者運動の先頭に立った人、PTSD(心的外傷後ストレス障害)という概念もない時代、自らの壮絶な体験を伝え続けることは、容易ではなかった筈だ。それでも語り続ける原動力を尋ねると、多くの人が「もう他の誰にも自分のような思いをさせてはならない。」と言った。 「広島で何があったのかを知れば、核兵器を使うことの愚かさは伝わるはずだ。」 その思いが被爆の記憶を繋いできた。 しかし、現在被爆者の平均年齢は80歳を超えており、活動に力を入れていた被爆者たちの中には、この数年で鬼籍に入った人も少なくない。 「いつかホワイトハウスに行って、自分の体験を伝えたい。」と言っていた被爆者の女性もいた。既にその女性はこの世にはいないが、もしアメリカの大統領が広島を訪れると伝えることが出来たら、どんな言葉が返ってくるだろうか。 アメリカの意図、これまでの歴史、アジア諸国との関係…。今回の訪問は、様々に批評されるだろう。しかし、より多くの日本人に核をめぐるこの歴史的な瞬間について、自分自身でその意味を考えてみてほしい。

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    「核なき世界」オバマの覚悟は本物か

    「深く考えるためにここに来た」。米国の現職大統領として史上初めて被爆地・広島を訪問したオバマ氏。「謝罪」なき訪問に込められた真の狙いは何か。「核なき世界」の覚悟はどこまで本気なのか。iRONNA編集部がオバマ大統領の広島訪問という歴史的瞬間を総力特集でお届けする!

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    被爆者と握手を交わしたオバマ大統領が目指す「核少なき世界」

    青山繁晴(独立総合研究所社長、作家) 噛み合うというのは、こうしたことを言うのだろうか。 オバマ米大統領の広島訪問である。訪問は万事良しと言っているのではない。オバマさんの掲げる「核無き世界」とは嘘と偽善であり、広島訪問には「歴史に名を残したい」という欲がある。 だが善と善だけが噛み合うとは限らない。悪もまた、善か、あるいは善に似るものと噛み合うことがある。 わたしは「アメリカ現職大統領による初の、しかし謝罪抜きの広島訪問」に反対した。そのようにマスメディアなどで繰り返し発信し、安倍政権の深部にも伝えた。 世の大勢と異なる少数意見であることは承知の上だ。しかし逆説的に述べたのではない。 謝罪が一切、無いままであれば、広島の原爆死没者慰霊碑(正式には広島平和都市記念碑)に刻まれた「安らかに眠って下さい 過ちは 繰り返しませぬから」の碑文の不可思議な問題がこのまま固着してしまうことに繋がると懸念するからだ。 この碑文には主語が無い。日本語の文章において主語が無い場合は、原則として語り手が主語になる。これが例えば英文ともっとも本質的に異なるところだ。英文は「I」(私)が必ず大文字で書かれ、その「I」をはじめ主語が常に明記される。しかし個を過度には主張しない日本文化では、主語が省かれることがある。そのとき、省かれた主語はふつう、暗黙のうちに語り手を指している。 広島市による現在の事実上の公式見解では碑文には「世界市民ないし人類」という主語があることになっている。しかし前述したように、それなら日本語の文章ではそれを明記せねばならない。 したがって、この主語なき碑文は、日本人が日本人に原爆を落としたかのようにも読めてしまう。事実、日本の自称リベラリストたちは「そもそも日本が間違った戦争を起こしたから原爆も落とされたのだ」という主張を教育や報道を通じ長年、日本社会に浸透させてきた。この主張は実はリベラリズムとは何の関係もない。西洋思想であるリベラリズムとは愛する人を護るためには自ら戦う思想であり、敗戦後日本に現れた偽のリベラリストは中韓、北朝鮮の虚偽に基づく反日プロパガンダとうり二つである。 たとえば敵国だったアメリカのハワイ・パールハーバーにある真珠湾攻撃の展示館では「アメリカが日本の資源輸入路を封鎖したために日本は攻撃に踏み切らざるを得なかった」という、まことに公平な説明と展示がなされている。この展示館は、アメリカ政府の公園局のものだ。すなわちアメリカ政府が米国民の税で建設し運用している。この事実を日本国民の大半が知らないだけだ。記念館を訪れて、しかも英語を解する日本人でもこれに気づかずに帰ってくる。「日本が悪かったはず」という刷り込み、思い込みに支配されているからだ。(まさかと思う人は、どうぞ展示館を訪れてください。費用と時間のない方は、拙著「逆転ガイド ハワイ真珠湾の巻」【ワニプラス刊】をご覧ください。宣伝しているのではありません。立ち読みでも結構です。展示の写真付きで事実を提示しています。展示館の入り口に立つパネルには「日米双方が国益を追求し、双方とも戦争回避を望んだ」と原文は英語で明記されています。日本を悪者にしていません)「原爆投下の代償に触れるだろう」 原爆投下について事実の探求とアメリカの自省が何ら無いまま大統領の被爆地訪問を受け容れれば、今後、長い時間を掛けてでも日米と世界が戦争の真実に向き合っていく機会の芽を、日本が自ら摘むことに繋がる。 わたしは評論家ではない。反対して終わりではない。 安全保障・外交や危機管理の実務をお上任せにするのではなく、民間からも利害関係なく取り組んで、民主主義国家日本の真の主人公としての責任を果たしていこうという問題提起をささやかに致している。そこで、ひとりの日本国民としてアメリカ政府の当局者たちに、水面下でふたつのことを提案した。 ひとつは、オバマ大統領が就任からまだ3か月だった西暦2009年4月にチェコのプラハで行った「核無き世界を」という演説のなかの一節、「唯一、核爆弾を投下した国としての道義的責任」を広島で再び述べることだ。 それを、オバマ大統領は献花する原爆記念公園(正式には広島平和記念公園)で被爆者を眼前に迎えて述べてほしい。これがふたつ目だ。 これらが実現すれば、プラハ演説の意義が変わる。「道義的責任」は原文の英文が「a moral responsibility to act」となっていて、「核無き世界へ向けて行動する責任」という意味付けがなされている。過去への責任は避けて通り、未来への責務へと巧みにすり替えられている。核の被害の実像を知らないプラハの民衆は素朴にこの演説に沸き立ち、オバマ大統領はこの演説だけでノーベル平和賞を受けてしまった。 だが、日本の被爆者を前にして述べれば、アメリカ国内向けには「謝罪していないことに変わりない」と説明しつつ、日本国民に対しては謝罪に近づく意味合いを持たせることができる。 わたしは、言うだけ無駄ではないかと考えながらも繰り返し、アメリカ側にこれを伝えた。 ところが意外なことが起きた。 オバマ大統領の副補佐官であるベン・ローズさんが大統領の広島訪問直前に講演し、「大統領は、原爆投下の代償に触れるだろう」という趣旨を発言したのだ。ローズさんはオバマ大統領の主要なスピーチライターである。つまり大統領が広島で発するメッセージ用に、その代償に言及する草稿を渡したことを暗示している。 メッセージは短いものになる予定だ。だが含意としては「原爆投下によって戦争を早く終わらせ全体の犠牲をむしろ減らしたというアメリカの従来の主張は何ら変えないが、それには代償があって、罪なき市民を虐殺した」という趣旨が込められるということだ。 わたしがホワイトハウスの他の当局者に確認してみると「謝罪ではなくて、あくまでcondolence 追悼の意だよ。しかし確かに広島、長崎への原爆投下の暗黒面を示唆する原稿が大統領の手にある」という答えが返ってきた。「限りなく謝罪に近い気持ちがオバマ大統領から表明されたと、日本側が受け取っても構わないという意味だね」と聞くと「もちろん、そうだ」。 ローズ副補佐官も「オバマ大統領のきわめて個人的な気持ちの表明になる」と述べている。「大統領は被爆者に会うよ」 そしてさらに、アメリカ政府の外交当局者からは「大統領は被爆者に会うよ」という示唆があった。 わたしの意見など決して何も影響はしていない。しかしアメリカ政府とオバマ大統領がぎりぎりの努力をしていること、安倍総理の積極外交と、それを理解した佐々江駐米大使の創意工夫が生きていることは分かる。広島市の平和記念公園で、被爆者の坪井直さん(右)と握手するオバマ米大統領=27日午後6時7分(代表撮影) どろどろに溶かされ、あるいは黒い影の残像だけに変えられ、さらには剥がれて垂れた皮膚をカーテンのように両腕から吊してさ迷ったあげくに死した被爆者の同胞(はらから)のために、ご家族、ご遺族のためにこそ、わたしは密かに、静かにこれを喜ぶ。 わたしは本稿を、西暦2016年の5月25日の深更に書いている。オバマさんの広島訪問の2日前である。前述のふたつを大統領が実行するかどうか訪問が終わって確認できてから書くのが、常道であり安全だ。 それを知りつつ、わたしは「訪問前に書いてほしい」という産経デジタルの要望に応えて、いま書いている。それは日米の努力の跡をもう一度確認して、どうぞオバマ大統領、実行に踏み切ってくださいという、ちいさき願いと祈りでもある。 それでも同時に忘れてはならない。オバマ大統領の言う「核無き世界」とは歴然たる嘘であり、実際には「核少なき世界」を目指しているに過ぎないことを。 核兵器は劣化しやすく、劣化した核を放置すれば甚大な被害が生まれるから維持費が高すぎる。そこで米露ともに核爆弾を1500発程度に減らしたいのがオバマさんの核政策だ。 なぜ1500発か。それだけあれば人類を一度、すべて殺害できるからだ。 したがってオバマさんの広島訪問でふたつのことが実行されてもなお、日本の核保有検討の権利はいささかも冒されてはならない。 わたしは日本の核保有に、個人として、あるいは安全保障の専門家の端くれとして反対である。一方で、それは日本の国家主権の制限をいささかも意味しない。唯一の被爆国だからこそ、自前の核抑止力を持つことを検討する権利を、世界でいちばん優先的に持っている。 そのリアリズムのうえに、おおくの同胞と共にわたしは深く祈る。この日本の新緑が輝くうちに、被爆者とご家族、ご遺族のこころが初めて安らぎますように。

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    謝罪なきオバマ訪問、原爆の正当性認める多大な外交的損失だ!

    武田邦彦(中部大特任教授) 先の大東亜戦争でアメリカは国際法上の大罪を3つ犯している。一つは1945年3月10日の東京大空襲、二つ目は同年8月6日と9日の広島・長崎への原爆投下、そして三つ目が東京リンチ(東京裁判)である。 原爆ドームが見える場所で、別れ際に安倍晋三首相の肩をたたくオバマ大統領(右)=5月27日午後6時20分、広島平和記念公園(上田潤撮影)戦争が終わって日本がアメリカ軍(形式的には連合軍となっているが実質はアメリカ軍)に占領され、その後は日米は友好国となったこと、戦後復興にいろいろな形でアメリカの世話になったことから、「戦争中のアメリカ軍のことはあまり話題にしたくない」という気分が日本を覆っていることは事実だ。 でも、「論理的に関係の無いことでも遠慮する」という曖昧な論理は国際政治では通用しない。友好国は友好国、歴史は歴史である。韓国や中国のように歴史を歪曲してはいけないが、事実は事実としてお互いに認めた方が真の友好関係を築くことができるのは言うまでも無い。 その意味で、アメリカ軍による大東亜戦争とその直後の国際的な犯罪行為と、未来にむかった両国の友好関係は別の物として論じ、しっかりした関係を築いていくことこそ大切である。 また、日本人は「和をもって尊しとなす」という素晴らしい文化を持っているが、その反面、とかく「付和雷同、議論不要」となりがちである。オバマ大統領の広島訪問についても「客人に悪いことは言いたくない」という日本的文化のもとで「犯罪人のアメリカの大統領が広島に来るのか」という発言を抑制する「空気」が日本列島にみなぎっていた。日本特有の「強い自主規制」も今後の日本のことを考えると望ましくない。 さて、本題に戻ると、3月10日の東京大空襲を指揮したアメリカ軍の将軍はル・メイだが、サイパンから出撃したB29の大編隊を二波に分け、第一波が東京の郊外に通常爆弾を落とし、その音と光に怯えた婦女子が東京の中心部に逃げる頃を見計らって、人体を焼くことを目的とした焼夷弾を投下するというものであった。原爆投下と東京大空襲はナチスの虐待と同質 つまり、「東京には婦女子を中心とした非戦闘員しかいない」ということを前提にした作戦で、最初から「虐殺」を狙ったものとして「単純な都市の絨毯爆撃」とはまったく質の違うもので、完全な戦争犯罪であった。 日本軍の重慶爆撃、ドイツ軍のロンドンへのロケット攻撃、そしてアメリカ軍の都市に対する無差別爆撃はいずれも民間人が犠牲になる可能性があったが、その被害の大きさから言えば、アメリカ軍の爆撃が何桁も大きい。しかも、東京大空襲では「意図的に婦女子の虐殺を狙った」という意味で明らかな犯罪である。 第二の広島、長崎への原爆投下は誰もが「重大な戦争犯罪」と見なすのは間違いない。広島には明治時代に大本営があったが、大東亜戦争時代には広島を全滅させる軍事上の理由は無かった。さらに長崎の市内には重要な軍事施設はなく、これも民間人の虐殺を狙ったものだった。原爆投下翌日の8月7日、米軍によって撮影された広島市全景(広島平和記念資料館提供) アメリカ軍の原爆投下を正当化させるために作られた理由の一つに「もし原爆を投下しなければその数倍の犠牲者を出した」という論理があるが、詭弁もここまで来るとという感じである。どんな残虐な兵器でも「使わなければ犠牲は増えた」という理屈を構えることができる。 つまり、兵器が残虐であればあるほど勝敗はハッキリするので敵の戦意を奪うからである。このような論理を認めたら「残虐な兵器の禁止」とか、「民間人を標的にしてはいけない」という戦時の国際的な約束はすべて反故になってしまう。 東京大空襲、原爆投下は第二次世界大戦でナチスによって行われたユダヤ人虐殺とまったく同質のものであることを日本は常に世界に対して発言し、態度で明確にする必要がある。 さらに、第三番目の国際法違反は東京リンチ(一般に「東京裁判」と言われるが、本論の趣旨にそって「アメリカ側の表現」は採用せず、国際的な概念でより正しい表現を用いる)である。第二次世界大戦直後の1948年にアメリカ主導で作られた国連で「世界人権宣言」が採択されているが、その第七条には「すべての人は、法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。」とあり、第二次世界大戦中の「戦争犯罪」についても、戦争に関係した各国の人々に対して「法の下の平等」を貫かなければならない。 ところが、アメリカはドイツと日本に対して戦争犯罪裁判を行い、「戦争に負けた」ことを理由に国の指導者、軍人などに対して死刑を含むリンチを行った。絞首刑になった日本の軍人、政治家も同じであるが、それより軽微な不祥事に対してもリンチが行われた一方、東京大空襲、各都市に対する絨毯爆撃、広島・長崎への原爆投下など桁の違う虐殺に対して「戦勝国」であるからという理由で罪を問われなかった。 そのアメリカ自体が憲法の14条で「司法権の範囲で個人に対する法の平等保護を否定してはならない」としているのだから、アメリカという国はもともと二重人格性をもつが、それが明確にでている。日本の自虐性示すだけだったオバマ訪問受け入れ このような事実を元に今回のオバマ大統領の広島訪問を考えると、第一に「もともと犯罪を起こした国の人を広島に受け入れてはいけない」、第二に「訪問するなら事前に謝罪と犠牲に対する具体的な贖罪」が求められ、さらに第三に「それでもアメリカの大統領の訪問は受け入れることができない」とするのは至極、当然のことと思われる。 大人同士のケンカの最中に無抵抗な子供を殺傷した場合、その理由はともかく無抵抗な子供を殺傷した記憶は強く残り、被害者は心理的な辛さを克服することはできないからである。人間には「間違いでやってしまう」ということはあり、それに対して謝罪や贖罪が求められるが、「人間社会でやってはいけない」という普遍的な行為を意図的にした場合、死刑を含む厳しい処置を求める必要があり、それが「再発防止」になることはハンムラビ法典以来の世界共通の概念である。 1964年にル・メイは日本の勲一等旭日大綬章を受賞している。慣例では天皇陛下がお渡しになる賞だが昭和天皇はお会いにならなかった。それはル・メイという明らかな戦争犯罪人を日本が認めると言うこと自体は許しがたいことだからである。 ここにル・メイの若干の語録を示したい。 「我々は東京を焼いたとき、たくさんの女子どもを殺していることを知っていた」 「戦争はソ連の参戦がなくても、原爆がなくても、二週間以内に終わっていたでしょう。原爆投下は、戦争終結とはなんら関係ありません」 ル・メイに勲一等旭日大綬章を出した日本は「絨毯爆撃による婦女子の虐殺」を世界に認めるという恥をさらしたが、今回、オバマ大統領を広島に迎えることはさらに日本の自虐性を示すことになるばかりか、巨大な犯罪を咎めないことによって「核攻撃の正当性」を日本自らが認めることになり、世界の核兵器の削減にも大きな問題を残す。 さらに、日本は中国や韓国に対して「歴史は正確な記録、正しい判断をすることによって未来の友好関係が拓ける」と言っているのに、アメリカに追従することが「得になる」からと言って説を曲げると、今後の外交的損失は計り知れない。 かつての日本人、つまり私たちの祖先が武士道を持ち誇り高い言動を崩さなかったからこそ、現代の日本の繁栄がある。左を見たり右を見たりしながら少しでも得になることを狙って行動する日本人であって欲しくない。 最後にアメリカとの戦争を決意した御前会議で永野軍令部総長が言った言葉を示して論を閉じたい。 「戦わざれば亡国必至、戦うもまた亡国を免れぬとすれば、戦わずして亡国にゆだねるは身も心も民族永遠の亡国であるが、戦って護国の精神に徹するならば、たとい戦い勝たずとも祖国護持の精神がのこり、われらの子孫はかならず再起三起するであろう」

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    サミットも「内政に有利」 安倍政権の筋悪な外圧利用

    には、原爆についての「暗黙の謝罪」という象徴性がどうしても必要だったのでしょう。 まとめ サミットや日米関係の成果を「外圧」として利用することの最大の問題は、民主主義の健全性を歪めるからです。責任ある経済政策を訴えることも、同盟の重要性を訴えることも政権のど真ん中の責務です。政権の支持基盤の中には多様な意見があるだろうけれど、その説得から逃げるようであれば、何のための本格政権かということになってしまうでしょう。(ブログ「山猫日記」より2016年5月26日分を転載)

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    米国に根強く残る原爆投下正当化論 オバマ訪問が世論を変えるか

    仲野博文(ジャーナリスト)「核兵器廃絶」を訴えパレードする被爆者ら=2015年4月、ニューヨーク(共同) 27日夕に被爆地広島を訪問したアメリカのオバマ大統領。現職のアメリカ大統領による初の広島訪問は、オバマ大統領自身が2009年4月にチェコで「核なき世界」を目指すと訴えたプラハ演説を行ったこともあり、数時間の広島滞在で何を行い、どのような言葉を発するのかに注目が集まった。 核兵器を実戦使用した唯一の国であるアメリカの大統領が、原爆投下から71年を経て広島を訪問することになり、広島市の平和記念公園周辺には多くの人が集まっていた。外国メディアの関係者も少なくなく、伊勢志摩サミットの取材で来日したドイツ公共放送の女性記者は、平和公園記念公園で筆者に対し、「現職の米大統領による広島訪問そのものが歴史的な瞬間だ」と語ってくれた。 オバマ大統領が1期目から自らに課した大きなタスクの一つが、核軍縮と核不拡散の推進だ。しかし、「核兵器を無くす」という考えにはアメリカ国内でも世論が二分している。 CNNが2010年に実施した世論調査では、回答者の49%が「アメリカを含む数か国は、他国の攻撃に備えて核兵器を保有すべき」と答えている。同様の調査が行われた1988年、回答者の56%が「世界中からすべての核兵器を無くすべき」と答えていたが、冷戦終結後の現在の方が核兵器保有を支持する声が多いのは皮肉な話だ。 核兵器を巡る世論調査には、第二次世界大戦末期に広島と長崎における原爆投下の「正当性」に関するものもある。こちらに関しては、時間の経過とともに原爆投下に否定的な見方をするアメリカ人が増えてきているが、「原爆を使用しなければ、より多くのアメリカ人が戦地で命を落としていた」という考えはアメリカ社会に根強く残っている。45年調査は85%が原爆投下支持 1945年にギャラップ社が実施した世論調査では、回答者の85%が広島への原爆投下を支持したが、それから70年後の2015年にピュー・リサーチ・センターによって行われた世論調査では、広島と長崎に対する原爆投下を支持するアメリカ人は56%にまで減少していた。  70年の間にアメリカ人の原爆投下に対する意識の変化が徐々に生じているように思えるが、原爆投下に対する見方には世代によって温度差が存在し、1980年代から2000年代初頭に生まれたいわゆる「ミレニアル世代」においては原爆投下に対する否定的な意見がより顕著になっている。調査に携わったピュー・リサーチ・センターのブルース・ストークス国際経済世論調査部門ディレクターが、調査結果から垣間見えるアメリカ国内の世論の変化についてこう語る。 「原爆投下に関する世論調査で、原爆投下は正しい判断だったとする声が、なぜこれだけ減少したのかを完全に知りうることは不可能ともいえる。ただ、一つの要因として過ぎ去った時間の存在を挙げることは可能であろう。広島での原爆投下や第二次世界大戦はそれぞれ『歴史』の中に消えてゆき、戦争体験者の数も減少傾向にある。高齢のアメリカ人と比較した場合、アメリカの若い世代の間では、原爆投下を正当化しようと考える人の数が少ない」 「我々の調査では、65歳以上のアメリカ人の70%が原爆投下の正当化を支持しているが、18歳から29歳までの若い回答者になると、原爆投下の正当化への支持は47%にまで急落する。年齢別だけではなく、性別や支持政党でも、原爆投下をめぐって意見が分かれていることが分かる。共和党員の74%が原爆投下を支持し、民主党員の場合は52%だった。原爆投下の正当性を支持した男性は62%に達したが、女性は50%だった。また、白人と非白人(ヒスパニックも含まれる)でも見解の違いは大きく出ている。白人の65%が原爆投下は正しかったと答えたが、同じ回答をした非白人は40%であった」(仲野博文撮影) 調査結果からは、原爆投下に対する日本とアメリカのギャップが少しずつ埋まりつつある傾向も見える。ストークス氏が再び語る。 「(2015年に行った)調査では原爆投下に対する日本とアメリカにおける見解のギャップが狭まってきたことを確証するものは無かった。しかし、より多くのアメリカ人が原爆投下の正当性に否定的な見解を示すようになり、その点では日本人が長年にわたって抱いてきた思いに近づいているとも言えるだろう」 米ランド研究所のアジア太平洋政策センターでアソシエイト・ディレクターを務めるスコット・ハロルド氏は、オバマ大統領の広島訪問によって日米間の原爆使用を巡る認識のギャップが埋まるという考えには否定的であったが、広島訪問が世界に向けて大きなメッセージを発信すると確信している。「オバマの弱腰外交」と批判する米メディアも 「オバマ大統領の広島訪問によって日米間のギャップが縮まるとは思えない。なぜならば、今回の訪問は戦争被害に苦しんでこられた方々に敬意を表し、同時に世界の核保有国に対して被爆地の広島からメッセージを送る目的で計画されたからだ。アメリカはロシアや中国、パキスタンやイランといった国々、さらには北朝鮮に対して、核兵器の配備や使用を決して行ってはならないという姿勢を打ち出す必要がある」 原爆使用の正当性を巡って、世代間で見解が異なるアメリカの国内事情については先に述べたが、メディアの論調も様々だ。 「ネオコン」の中心的人物として知られ、ブッシュ政権時に国連大使を務めたジョン・ボルトン氏は26日、ニューヨーク・ポスト紙に「オバマの恥ずべき謝罪ツアーが広島に上陸」と題したコラムを寄稿し、キューバとの国交回復や広島訪問といったオバマ外交を激しく批判している。(仲野博文撮影) ブッシュ政権時に見られた強硬な外交スタイルがオバマ政権下では用いられないことに苛立ちを隠さず、これまでのオバマ外交を弱腰と批判する姿から、ネオコンの中枢にいたボルトン氏の外交スタンスが垣間見えるが、彼がコラムの中で強調した「原爆投下によって、結果的に多くのアメリカ人兵士の命が救われたのだ」という考えは現在のアメリカ国内でも高齢者を中心に広く浸透している。 今回のオバマ大統領の言葉はアメリカ人の核兵器に対する意識を変えるきっかけになるのか?核軍縮同様、原爆投下を巡るアメリカ国内の声が変わるまでにはまだ長い時間を要するが、オバマ大統領が広島で発した言葉やミレニアルを含む若い世代が核兵器に対する認識を変えていく原動力になることを期待したい。

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    オバマ広島訪問 謝罪より大切なこと

    いかというと、そうではないだろう。米国の死活的国益がかかっているわけではないし、この訪問がなければ、日米関係が持たないということではない。波風を立てないことを優先するならば、退任後というオプションもあるだろう。 しかし、広島訪問は、オバマ大統領自身が政権発足直後に世界に対して高らかに示した「核なき世界」と不可分の関係にある。政権も終わりを迎えようとしている時、まさに弧を描くかのように、政権発足時に掲げた「あるべき世界」への道程を再確認する場所として広島は不可欠である。オバマ大統領の思い 世界に方向を示す オバマ外交は、一見大胆なようでいて、現実には極めて慎重な外交政策を展開してきた。オバマ外交の理想主義は、「あるべき世界(the world as it should be)」を視野におさめながらも、世界はその実現を容易には受け入れない「あるがままの世界(the world as it is)」に拘束されているという認識を踏まえたものだった。シリア内戦の惨状を前にしても、オバマ大統領は、米国にできることは限られていると割り切り、情緒的な介入論を退けた。 その結果、長期的には大胆な目的を掲げつつも、短期的には慎重な、ともすると消極的と批判される外交政策を展開してきた。そうした中、「核なき世界」というビジョンは、「あるべき世界」と「あるがままの世界」の緊張関係がはっきりと現れる典型的にオバマ的なアジェンダでもある。 大統領の心の内を垣間見ることはできないが、オバマ大統領自身が訪問を希望していることはまず間違いないだろう。学生の頃から核軍縮に関心を持つ大統領自身が、自ら筆をとって演説を起案し、世界に対して再度、進むべき方向性を自らの言葉で提示する。すぐには到達できないが、究極の頂に至る道筋を自らの言葉で敷き詰めていく。そして、それは自身の退任後の活動とも連動していく。こう考えると、大統領が訪問を自分の政権を締めくくる重要なピースの一つとして位置づけていることは間違いないだろう。 しかし、大統領選挙というもう一つの「あるがままの世界」の侵入に、政権は頭を悩ましているに違いない。安倍首相は返礼を 次は日本がケジメをつけるとき安倍首相は返礼を 次は日本がケジメをつけるとき松尾文夫(元共同通信ワシントン支局長)1945年の大空襲で焼け落ちたドレスデン城。2006年に再建された(Getty Images) 私はこれまで米大統領が広島を、日本の首相が真珠湾(パール・ハーバー)を互いに訪問して慰霊する「献花外交」をすべきだと主張してきた。これを最初に思い立ったのは、1995年。約3万5000人の犠牲者を出したドイツ・ドレスデン大空襲から50周年の年、英米の軍高官が慰霊の献花式に出席しているのを米国のテレビで見たことがきっかけだ。 それ以来、戦後60周年の2005年8月16日、ウォールストリート・ジャーナル紙のオピニオンページに寄稿するなど、日米のメディアを通じて提唱し続けてきた。だから、今回のオバマ大統領の広島訪問は感慨深いし、歓迎したい。原点にあるアメリカ駐在と戦争体験 オバマ大統領は、広島でどんな演説をするのか、被爆者と会うのか、まだ「if」がたくさんある。オバマ大統領個人としては、09年4月、「核兵器のない世界」の実現を訴え、しかも米大統領としては初めて、核兵器を使った唯一の核保有国として行動する、米国の「道義的な責任」に触れたプラハ演説を総括したいとの思いもあるだろう。 任期中、核軍縮は前進を見せず、ノーベル平和賞受賞は結果的に重荷になっていたはずだ。広島訪問は、来春の退任を前にしての「レガシー作り」の一つであることは間違いない。しかし、米国の現職大統領があの戦争の犠牲者全体を象徴する「ヒロシマ」の原爆死没者慰霊碑に花を手向けること自体、大きな意味を持つ。 なぜか日本と米国は、これだけ親しい関係にありながら戦後70年、ドイツが21年前の「ドレスデンの和解」で済ませている「文明の起源にまで遡る」死者を悼む、日本流に言えばお線香をあげるという鎮魂の儀式を公式に行なっていない。その意味で、今回、オバマ大統領による広島献花が実現すれば画期的なことだ。謝罪とは別の次元の話だと思う。核の問題だけにしないことこそが大事だ。 私が、こうした日米の慰霊儀式にこだわるのは、共同通信社で長年米国の特派員を務め、「米国という国」をとらえることをライフワークとしていることに加え、同世代の中でも深くあの戦争に関わった経験を持つからだ。まず小学校3年生のとき、まだ戦勝空気に満ち満ちていた1942年4月18日、ドーリットル飛行隊による東京初空襲を東京の戸山で見上げ、5年生の3学期には陸軍の将校だった父の任地である四国善通寺で艦載機による機銃掃射に遭った。 さらに敗戦約1カ月前には墳墓の地である福井で127機のB29による夜間爆撃を受け、焼夷弾を束ねた大型爆弾が欠陥製品で開かず、そのまま目の前の水田に落ち、泥しぶきを浴びただけで九死に一生を得た。そして、絵に描いたような軍国少年だった。 それに祖父が2・26事件で義兄の岡田啓介首相に間違えられて殺され、その葬式に父の任地だった中国の山海関から母親と帰る頃に人生の記憶が始まるなど、戦争と向き合う人生だったことも影響しているかもしれない。広島訪問まで時間がかかった原因広島訪問まで時間がかかった原因 米大統領の広島訪問よりも先に、日本の首相がパール・ハーバーを訪問することもできたはずだが、実行されてこなかった。一番のチャンスだったのは、06年に小泉純一郎首相が、ブッシュ大統領にエアフォースワンでテネシー州のエルビス・プレスリーの自宅に案内された時だ。松尾文夫 元共同通信ワシントン支局長 1933年生まれ。学習院大学政経学部政治学科卒業。共同通信社入社後、ニューヨーク、ワシントン特派員、バンコク支局長、ワシントン支局長などを歴任。04年『銃を持つ民主主義』で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。 プレスリーはパール・ハーバーのアリゾナ記念館の設立に6万ドルを寄付している。プレスリーの大ファンという小泉首相が自宅だけではなく、パール・ハーバーにも行きたいと言えば、実現は可能だったはずだ。 またドイツと違い、日本が戦争にけじめをつけて来なかったことが大きい。01年1月、ニューヨークタイムズ紙のインタビューで、ナチスドイツによる強制労働の補償交渉をまとめたアイゼンスタット米財務副長官(当時)が「心残りは同じように強制労働をさせた日本による補償を実現できなかったことだ」と述べ、サンフランシスコ平和条約が、日本による強制労働の補償や没収財産の返却を不可能にしたと説明している。 東西冷戦のしがらみの中でこの条約が結ばれたという背景もあり、日本が敗戦についてケジメをつけないまま現在に至っている。例えば、外国人に日本では「占領軍」を「進駐軍」と呼んでいると話すと、驚かれることがある。この言葉の言い換えは、敗戦によって占領されたという事実に日本が向き合いたくなかったという姿勢の表れでもある。 さらにこの戦争が、中国市場を巡っての戦争だったように、日米関係を考える時、米中関係について頭に入れておく必要がある。歴史的には、米中関係は、日中関係よりも先にはじまっている。いわゆるペリー提督による砲艦外交によって1854年、日米和親条約が結ばれたのに対して、米中は1784年、米国独立の翌年から通商を開始している。エンプレス・オブ・チャイナという船がインド洋経由で広東に入港し、米国産朝鮮ニンジンを輸出した。米中の絆は日本人が考えている以上に深いということだ。重要なのはポスト広島 新たな日本外交 オバマ大統領が広島を訪れる時、安倍晋三首相が同行するのは良いことだ。そして、安倍首相は広島での鎮魂の儀式に対する返礼として、パール・ハーバーを訪問する計画を早急に明らかにして欲しい。 オバマ大統領の広島訪問について韓国メディアが「日本が被害者であることは許さない」という趣旨の報道を行うなど、日本の戦争による被害者である韓国や中国からすれば、面白く思わない人も少なくないのは理解できる。だからこそ、中国、韓国の日本に対するわだかまりを解消するべく動く必要がある。その第一歩がパール・ハーバーの訪問だ。これを奇貨として「ニュー・ジャパン・ドクトリン」、新たな日本外交をスタートさせて欲しい。

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    広島被爆米兵の名前を刻んだ日本の歴史家

    ジュリアン・ライオール(デーリー・テレグラフ特派員)1945年8月6日に広島に落とされた原子爆弾によって亡くなった犠牲者の中には、12人の米兵捕虜も含まれていた。アマチュア歴史家の森重昭さんは、40年以上を費やし、被爆米兵の遺族を探し当てた。アメリカのバリー・フレシェット監督が、その記録を『灯篭流し(Paper Lanterns)』にまとめた。 40年もの間、森重昭さんは、広島で原子爆弾の犠牲になった14万人余りの人々に含まれていた被爆米兵捕虜12人の記録の断片を紡ぎ合わせてきた。政府機関のおざなりな対応や、声をひそめたような批判にもかかわらずだ。左から、森佳代子夫人、バリー・フレシェット監督、森重昭さん 今年79歳になる森さんは、彼自身も被爆者だ。労を惜しまずに積み重ねてきた彼の偉業は、図らずも被爆米兵ノーマン・ブリセットの親友が自分の大叔父だという米国人映画監督の目に留まるまでは、ほとんど知られることはなかった。 「この真実を突き止める活動の軌跡は、人の心を動かさずにはいられないことは分かっていました」とバリー・フレシェット監督は言う。しかし、この映画が、かかわる人々の人生を根こそぎ変えることになるとはゆめゆめ思わなかった。 「森さんは、40年の歳月をかけて被爆米兵の謎を読み解いてきました。史実を大切にする彼にとっては、些細な細部の歴史的な発見が大変重要だったのです」と監督は語った。「12人の飛行士に敬意を表し、人々の記憶にとどめ、遺族に何が起こったかを伝えたかった。彼はそれをやり遂げたのです」撃墜された米兵たち―その運命 2人が出遭う運命は、フレシェット監督が生まれるずっと前、陸軍B24爆撃機―ロンサム・レディー号とタロア号―さらに2機の海軍戦闘機が、1945年7月末に日本の巡洋艦を爆撃中に撃ち落とされた時から、既に始まっていた。 撃墜された爆撃機の乗組員全員が生き残ったわけではないが、パラシュートで助かった13人は、至近都市である広島の中国憲兵隊司令部に護送された。その後、トーマス・カートライト中尉は、尋問のために東京に送られた。この運命のいたずらがカートライト中尉の命を救うことになる。 1945年8月6日の朝8時15分に原爆が広島の空でさく裂したとき、米兵捕虜が拘留されていた憲兵隊司令部は、爆心地から400メートルも離れていなかった。 9人の米兵捕虜は、即死だったと言われている。シアトルのヒュー・アトキンソン軍曹だけは、奇跡的に原爆のさく裂の中生き残ったことが認められているが、翌日には放射線障害で亡くなったらしい。一方、ラルフ・ニール軍曹とノーマン・ブリセット三等兵曹の2人は、原爆が600メートル上空で炸裂する少し前に、尋問のため少し離れた市内の宇品(うじな)に連れて行かれた。とはいえ、2人も原爆の影響を免れることはできなかった。日本人の医者による手当てと治療の甲斐もなく、13日後に放射線障害により亡くなり、宇品憲兵隊員の手で埋葬された。 3日後、8月9日には、2つ目の原爆が長崎に落とされ、日本はついに8月15日に降伏した。世界初の原爆、投下後の混乱世界初の原爆、投下後の混乱 終戦前後の混乱期、米軍部は広島で拘留されていた捕虜がどのようになったか知るよしもなかった。家族には行方不明だと伝えるのが精一杯だった。家族が生存の望みを諦めた後も、長い間の問い掛けに対しても、通り一遍の返答が続いた。そして1983年なってやっと米政府は、渋々と米兵捕虜が広島で原爆の犠牲になったことを認めた。B24爆撃機の破片を手にする森さん 1945年当時8歳だった森さんも、故郷を飲み込んだ爆炎の中で九死に一生を得た。 「爆発時は、爆心地から2.5キロメートル北西の学校近くの丘にいました」と当時を思い出す。「爆風で小川に飛ばされ、気が付いたらきのこ雲の中にいたのです。あまりにも暗くて、10センチメートル前の自分の指先を見ようとしても真っ暗で見えないほどでした」 「さく裂は信じられない強さで、周りの家や、樹木、そこら中にあるものを空に向かって巻上げていったのです。地球が爆発したのかと思ったほどでした」と森さんは言った。 「自分が無事だったのは、まるで奇跡です」 戦後は、森さんも復興とともに彼自身の人生の再構築に励んだ。学校で特に歴史が得意で成績も抜きんでていたという森さんは、歴史学の教授になりたいという夢をもちながらも、大学卒業後は大手証券会社、その後、楽器メーカー・ヤマハを定年まで勤め上げた。リサーチには週末を当てたという。アマチュア歴史家としての使命を見出すアマチュア歴史家としての使命を見出す それでも森さんの歴史への飽くなき興味と研究への情熱がついえることは無かった。 38歳の時、終戦間際に米戦闘機が伊陸(いかち)村(現在山口県柳井市)近くの山に墜落したと近所で耳にした。 「そこで、私は実際に墜落現場に行き、農夫たちに話を聞いてみたところ、みんなが墜落を知っていたました。そして墜落した現場に私を連れて行ってくれたのです」 森さんが現場で目にしたのは爆撃機「ロンサム・レディー号」の残骸だった。その後、何年もの研究を通じて、乗組員の詳細や、彼らが広島の憲兵隊司令部に連れて行かれたことを突き止めた。また、その後に撃ち落とされた米爆撃機の乗組員3人も、捕虜に加えられたことも判明した。 しかし森さんにとっては、名前を調べるだけでは十分ではなかった。できれば何とか遺族を探し出して、自分の突き止めた情報を伝えたいと思った。政府機関は、ほとんど当てにならなかったので、まず、亡くなった米兵のファミリーネームを探し出して、同姓の米国人を探すことからはじめた。当時の国際電電公社オペレーターの通訳を通じて、ワシントン州から、ファミリーネームの合致する人を探し始めた。 「しかし、調査は簡単ではありませんでした。私は、心臓が悪くて現地に行くことができず、米国は50州もあり、数千万もの人が住んでいるのですから」 「そして、死ぬまでに、何とかご遺族を探し出して、亡くなった米兵捕虜の写真と名前を平和祈念資料館に原爆犠牲者として登録しようと心に決めたのです」。米兵捕虜の遺族とつながる 国際電話の請求書は月に7万円近くになることもあった。調査は難航を極めた。そんな時、ジェームズ・ライアンの兄、フランシス・ライアンに行き当たったのだ。 「被爆米兵の名前を初めて平和祈念資料館に登録できたときには、思わず涙が出ました」と森さんは当時を思い出した。「誰にも言われたわけでもないし、誰も手伝ってくれなかった。みんな上手くいかないと思っていたけれども、私は何としてもやり遂げようと思っていました」 フランシス・ライアンから出撃前の乗組員の写真を含む新たな情報を受け取り、ロンサム・レディ号元機長カートライト中尉を探し出すことができ、その後20年以上の友情をあたためた。カートライト氏が、昨年亡くなるまでに交わした手紙は、100通を超えるという。 「広島には、原爆で亡くなった人のために数十個の慰霊碑があるのですが、亡くなった米兵捕虜のためのものが一つもありませんでした」と森さんは言う。「私は、奇しくも生き残りました。ですから何としても、遺族を探し出して、愛する人の最後についてお伝えしようと、そう心に誓ったのです」。 1999年、森さんは、12人の被爆米兵捕虜の銅製記念碑を中国憲兵隊司令部の跡地に建てた。2012年の広島原爆記念日には、1945年に原爆投下を命じたハリー・トルーマン大統領の孫、クリフトン・トルーマン・ダニエルさんと一緒にこの記念碑を訪問し、献花をして弔意を表した。 徐々に森さんの努力は報われるようになり、メリーランド州の米国州立国会図書館の膨大な資料も含め、山のような資料から、遂に12人の被爆米兵の遺族全員を探し出した。 森さんは、広島で被爆した12人目の米兵を突き止め、目的が達成されたかのように思われるが、決して研究の手を休めたわけではない。今は、2度目に長崎に落とされた原爆の犠牲となった英国とオランダ捕虜の遺族の行方を捜している。森さんの献身が映画監督の心を動かした森さんの献身が映画監督の心を動かした 被爆米兵ノーマン・ブリセットの遺族は、森さんがさまざまな情報を届けてくれたことに心から感謝している。ノーマンの学生時代からの親友エディ・シャンドネは、甥のバリー・フレシェット監督に、やっと60年前に何が起こったかが分り家族が喜んでいると伝えた。 フレシェット監督は、「遺族がまとめたノーマンの本を手にして、即座に引き込まれた」と言う。「この話は、広島で被爆した12人の米兵の物語です。しかし、私たちはほとんど何も知らない。そのことが私には何とも奇妙に思えたのです。だから、このストーリーを語らずにはいられなかったのです」と監督は言った。 監督は、2013年の春に初めて森さんに連絡をとった。そして翌年の2月には、本に書いてあることが本当か、自分の眼で確かめるために単身で来日した。 「森さんの家に行き、応接間に入ると、一人ひとりの乗組員に関する書類がピアノやコーヒーテーブルの上に、ところ狭しと置かれていました。森さんは、それぞれの乗組員について驚くほど正確にご存知でした。結婚しているかどうか、子供がいるか、出身地や搭乗していた機体の名前まで…。 その後、直観で、誰かがこの活動を伝えなくてはいけないと思ったのです」と監督は言った。 「実際、まさか、マサチューセッツ州のローウェル(ノーマン・ブリセットの出身地)の住人よりノーマンのことを良く知っている人に日本で出会うなんて夢にも思いませんでした」 フレシェット監督は、この2年間、ドキュメンタリー・フィルムの制作に力を注ぎ、ノーマン・ブリセットの姪にあたるスーザン・ブリセット・アーキンスキーさんや、亡くなった叔父の名前を引き継いだ甥のラルフ・ニールさんと共に来日した。 遺族と森さんとの出会いは、当然のように感極まるものとなり、フレシェット監督の60分の映画『灯篭流し(Paper Lanterns)』のクライマックスとなった。映画は、それぞれの米兵とその遺族、そして彼らのバラバラとなったパズルのピースをつなぎ合わせた日本人の歴史家の物語となった。 「この3年間、この映画プロジェクトの制作は、はっきりいって楽ではありませんでした。でも、頑張った甲斐はありました」と監督は言った。「今や、遺族のみんなや関係者は、まるで一つの家族のようで、世界がとても小さく身近に感じられます。私にとって森さんの偉業を人々に知ってもらうことは、とても大切です。彼は、稀有な人なのです」 森さんは、映画の最後に語っている。「これが、戦争なのですよ。だから戦争をしてはいけないのです。戦争は絶対にしちゃいけないという結論を学びました。今後とも世界が平和であることを祈りましょう」と。森 重昭 MORI Shigeaki 1937年生まれ。アマチュア歴史家。広島原子爆弾を経験。2008年「原爆で死んだ米兵秘史」(光人社)を出版。広島で妻・佳代子と暮らし、2人の子供がいる。バリー・フレシェット Barry FRECHETTE 1970年生まれ。1992年米ストーンヒル大学卒業。25年間、ボストンで広報の短編ビデオを初めとする制作の仕事に携わる。現在Connelly Partnersでククリエイティブ・サービスのディレクターを務める。「灯篭流し(Paper Lanterns)は、映画デビュー作。ボストン郊外ビレリカ(Billerica)で妻キャロラインと2人の子供と暮らす。ジュリアン・ライオール Julian RYALL 英紙デーリー・テレグラフ特派員で、日本と韓国を担当。ウルバーハンプトン大学、セント・ランカシャー大学院でジャーナリズムの学位を習得。ロンドン出身。1992年来日、現在横浜在住。サウス・チャイナ・モーニング・ポストなど他紙にもフリーランスとして執筆。

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    オバマの広島訪問は日米それぞれの外交に何をもたらすのか

    を求める絶好の機会だ。 そのG7サミットが、事後のオバマ大統領の広島訪問に飲み込まれてしまうことは、日米関係の上では「これほど熾烈に争ったかつての敵が、今や、信頼と同盟関係で結ばれたパートナーである」ことをアピールするまたとない機会になることを考えればプラスだが、日本外交全体から見れば必ずしもプラスではない。 オバマ大統領の広島訪問に大半の関心が向けられることは不可避だ。しかし、それを踏まえたうえで、G7首脳会合を日本が主催するという7年に1度の年に、日本が、サミット議長国としていかに存在感を示すことができるか――安倍総理の外交手腕が問われることになるだろう。

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    オバマ大統領広島訪問直前に巻き起こった原爆資料館批判

     5月27日、オバマ大統領がアメリカの現職大統領として初めて広島を訪問する。今回の視察先の一つである広島平和記念資料館を巡り、現地ではちょっとした騒動が巻き起こっていた。 昭和30年に開館した資料館には、黒こげの弁当箱、原爆が投下された8時15分で止まった腕時計といった被爆者の遺品などが展示されている。る原爆資料館の本館(右)周辺と東館(左) 来場者の多くが思わず目をそらしてしまうのが、被爆者の等身大の人形だ。火傷でただれた両腕を突き出し、ボロボロの服でさまよう様は、原爆の悲惨さを伝えてきた。 だが、その人形が間もなく撤去される。2018年に予定されている資料館のリニューアルに合わせたものだが、広島市民を中心に反対の声が上がっている。「多くの市民が、人形を撤去する理由は、怖すぎるからだと思っている。でも、資料館は原爆の悲惨さを伝えるために、ある種の怖さは必要。それなのに年々マイルドになっているように感じます」(反対派住民) 終戦から70年が経ち、さまざまな「物証」の劣化が進んでいる。そのため高熱によって体が焼き付き、座っていたお尻の部分だけが黒く残った「人影の石」は劣化防止のため、ガラスで覆われ、3歳児が乗ったまま被爆してボロボロになった三輪車も保護のため、樹脂コーティングされた。反対派からすると、それらも当初のおどろおどろしい雰囲気を失わせていると見えるようだ。 今回の人形撤去について、広島市はこう回答した。「リニューアル後は、被爆者の遺品や写真、データ資料などを重視する方針で、残虐な印象を与えるから被爆人形を撤去するわけではありません」 オバマ大統領の訪問時、まだ人形は展示してあるという。資料館でオバマ大統領は何を感じるだろうか。関連記事■ オバマ氏の広島訪問 安倍首相の真珠湾訪問とバーター案も■ 【ジョーク】イラン大統領「オバマ無能」への対立候補の反応■ 【ジョーク】オバマ米大統領とプーチン・ロシア大統領の違い■ 【ジョーク】ヒラリー・クリントン氏が大統領目指すのはなぜ?■ オバマ大統領の広島訪問検討に韓国メディアが猛反発

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    「トランプ大統領」は日本の災厄となるか

    米大統領選の候補者指名争いでトップを走る共和党のドナルド・トランプ氏と民主党のヒラリー・クリントン氏の勢いが止まらない。中でも、数々の「放言」で批判を浴びるトランプ氏の躍進は、日本にとってもはや対岸の火事ではなくなりつつある。トランプ大統領の誕生は、日本にどんな影響を与えるのか。

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    日本でじわり広がる「トランプ大統領」待望論―対米自立か隷属か―

    古谷経衡(著述家)   数々の暴言・奇言・珍言(?)で当初「泡沫」扱いされてきたドナルド・トランプが、共和党予備選挙で過半数を獲得する可能性が日増しに高まってきた。そしてここにきて、日本でも、特に保守層からじわりと「トランプ大統領待望論」が広がりを見せている。その背景と構造を探る。演説するドナルド・トランプ(写真:REX FEATURES/アフロ)「対米追従からの脱却」としてのトランプ待望論3月23日、元大阪市長の橋下徹氏は、ツイッターで以下のように発言したことがにわかに注目された。沖縄の米軍基地をなくしたい人たちへ。トランプ氏が大統領になればすぐに沖縄米軍基地はなくなるよ。朝日新聞、毎日新聞、沖縄米軍基地反対派はトランプ氏を熱烈応援すべきだ。出典:橋下徹氏Twitter 無論この発言は、リベラルメディアへの揶揄を含んでいるが、橋下氏の見解には一理どころか二理も三理も、四理もある。ジャーナリストの冷泉彰彦氏によれば、「(トランプの姿勢は)強いて言えば、不介入主義とか、孤立主義と言えるもの」(Newsweek日本語版 2016年2月16日)という。特にトランプの対日姿勢に関する発言を聞いていれば、この分析は正鵠を射ている。 トランプは「在日米軍の駐留経費を(日本が)大幅増額せねば撤退」と発言しているし、「日本がアメリカの防衛義務を負わないのに、なぜアメリカが日本を守る必要があるのか」と言った主旨の発言(その事実認識はともかく)を繰り返している。この発言を額面通りとれば、このまま共和党予備選挙でトランプが指名され、本戦でも勝ったならば確実に日米同盟は後退する。あるいは辺野古移転問題が進展しないのならば、いっそのこと米軍はグアムまで後退し、日本防衛の必要なし、という流れになるかもしれない。 そうなると、逆説的には「対米従属」から日本は「強制的に脱却」する、という流れが強まる。中国の海洋進出や北朝鮮の核の脅威に、日本はアメリカの援護なしに自主防衛の道を余儀なくされるだろう。 ここに注目しているのが「民族派」「自主独立派」の流れをくむ日本国内の右派である。 現在のところ、日本の保守論客からは、トランプが白人ブルーカラー層から支持をされている点に着目して、民主党候補のサンダースと同様に反グローバリズムの視点から評価を下しているもの(三橋貴明氏)、既存メディアのタブーを突破して過激な言説が受けている姿勢そのものを評価するべき(田母神俊雄氏)などといった声が上がっている。 特に後者の、「トランプが既存メディアのタブーに果敢に挑戦する姿勢」を日本の国内状況に重ねあわせ、リベラルの姿勢を糾弾するもの(馬渕睦夫氏)など、「反メディア」の観点からトランプを評価する視点が多数であり、日本国内の「ネット右翼(ネット保守とも)」にもそのような風潮は根強くある。つまり反メディア、反リベラルとしてのトランプ評価(そしてそれを日本国内の状況に援用する)が圧倒的であり、いずれも「対米従属からの脱却」という視点での声は鈍かった。 が、前述の橋下氏のように「対米従属からの脱却」という視点からトランプを「逆張り」で評価する声も出始め、例えば憲政史家の倉山満氏は自身の動画番組で「(トランプが大統領になった場合)日本が自主独立を果たす最後のチャンスになる」(2016年3月13日)と肯定的な見解が保守正面から出始めている。トランプをめぐり三分される日本の保守層トランプをめぐり三分される日本の保守層 親米保守的傾向が強い産経新聞は、筋論でいえば共和党主流派が推したルビオへの支持が順当であったが、彼が地元フロリダで敗北し予備選から撤退すると、にわかに「トランプ準備論」とも言うべき論調が目立ってきた。 福井県立大学教授の島田洋一氏は、3月24日付の産経新聞で「日本は”トランプ政権”を視野に入れつつ、安全保障問題を中心に、より自律的姿勢を強めていくべきだろう」とコメント、トランプの姿勢を基本的には批判しつつも「自律的姿勢」という言葉を用いて対米自立の姿勢を匂わし、「トランプ準備論」ともいうべき主張を展開している。 旧来型の親米保守は-そしてこれが現在の保守層のマジョリティであるが-、いまだにトランプへの嫌悪感を引きずっている。例えば保守派の論客で知られる神奈川大学教授の小山和伸氏は、CS放送内で「(トランプがアメリカ大統領になった場合)日本はアメリカ無しでチャイナと戦う。それでいいんでしょうか」(2016年3月23日)と述べ、露骨なトランプ批判を隠さない。 親米保守にとってトランプは「日米同盟の強力な靭帯」破壊の害悪であると認識されているが、と同時に自主独立を目指すある種の右派・保守にとっては逆説的に「またとない機会」と受け止められ始めている。 つまりトランプへの評価を巡って、日本国内の保守層は「三分」されていると観て良い。 この構造を図示すると下記のようになる。 1)は「反メディア」「反リベラル・左派」としてのトランプ支持で、所謂「ネット保守層」の大きな部分を占める。ここに該当するのが前述した田母神氏や馬渕氏、といった論客の論調だ。 2)は古典的な親米保守の立場からトランプを批判するもので、前述の島田氏はこの中でも3)のベクトルに近い、より柔軟な立場であり、逆に小山氏はど真ん中、ということになる。 最後の3)は1)と2)のほぼ何処にも属さない民族主義的な対米自立志向の保守主義者であり、前述の例を用いれば倉山氏、ということになる。あるいは改憲論者である橋下氏にもこの傾向は顕著に現れていよう。 たったひとりの大統領候補(しかも予備選)の段階で、こうも保守層からの評価が分裂する現象は珍しい。”トランプ大統領”実際には難しいか?が、しかし…”トランプ大統領”実際には難しいか?が、しかし… ニューヨーク・タイムズによると、現時点(2016年3月27日午前)でトランプの共和党代議員(Delegates)の獲得数は738名、2位のテッド・クルーズは463名、主流派として孤軍奮闘するケーシックが143名である。残された代議員は848名、共和党の代議員の過半数は1,237名なので、トランプはちょうどあと500名弱の代議員を獲得すれば有無をいわず共和党大統領候補に指名されるが、ことはそう簡単にも行きそうにない。 同紙の予測によれば、6月7日に行われるカリフォルニア州予備選挙(代議員数172名)でトランプが勝てば過半数の可能性があるが、ここでクルーズに負けると過半数には一歩届かない、という風になる。そうなると候補者のいずれも過半数には届かないので共和党党大会で決選投票が行なわれる。米ニューヨーク州ベスページで開かれた集会で演説するトランプ氏(AP) 冒頭の冷泉彰彦氏によれば、「いずれの候補も過半数に届かない場合は、共和党党大会で1回~3回にわたって決選投票が実施される可能性が高まっている」(Newsweek日本語版 2016年3月15日)という主旨の分析を行っている。このシナリオが現実化すれば、トランプが共和党党大会で指名される可能性は遠退き、ロス・ペロー(1992年)のように民主・共和でもない第三の独自候補として脚光を浴びる可能性もある。国際政治学者の藤原帰一氏もこの可能性に言及している。いずれにせよ、6月7日の大票田・カリフォルニア州の結果を見極めるまで、トランプの周辺は予断を許さない状況が続く。 ちなみに最後に筆者の見解を述べると、前述の「保守の三分」分類で、私と最も親和性が高いのは3)である。私は、憲法9条2項を改正して対米従属によらない、自主防衛の道が日本の進むべき路線であると常日頃から思っているが、一方でトランプの反知性的な物言いには辟易して、とても彼を政治家として評価できる立場にはなかった。  しかしながら、事ここに至って、180度考え方を転換し、「日本の対米従属脱却」という視点で考えれば、日本の保守派からトランプ大統領待望論が沸き起こっている事実は、彼のレイシスト的発言は看過できないにせよ、筋論としては肯定するべきかなとも思いはじめている自分を偽ることが出来ない。真に「日本の対米追従」を終焉させるのは、もしかするとトランプ大統領が最適なのかもしれない可能性がある。 無論この場合は、かわぐちかいじ氏の『沈黙の艦隊』のように、日本が能動的に「対米追従からの脱却」を果たすのではなく、どちらかといえば「日本がアメリカから一方的に見放される」状況に陥るのだが、どちらにせよ「対米自立」が加速するのは間違いはない。まるで作家・村上龍氏が描いた『希望の国のエクソダス』や『愛と幻想のファシズム』といった世界に近い、「日本人自らが考え、選択する自主自立の国・社会」の可能性が開けるのかもしれない。そこへ、わずかにでも希望を見出す私が居る。 いずれにせよ今後の動静から目が離せない。今年は参院選も含め、興味深い”夏”になりそうだ。(2016年3月27日 Yahoo!ニュース個人 古谷経衡「だれ日。」より転載)

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    世界最大の「被害者」は日本だ! トランプ氏が日米関係をぶっ壊す

    日高義樹(米ハドソン研究所首席研究員)《徳間書店『トランプが日米関係を壊す』より》 アメリカ政治の中心になってきた共和党主流の保守勢力と、突如、大統領選挙戦に侵略してきた、いわば異星人の不動産王ドナルド・トランプが一大衝突を起こしたため、世界を主導する国が建国以来の大混乱に陥っている。 歴史的ともいえるこの政治的混乱によって、これまで国際社会の安定の基盤になってきたアメリカという、世界を支える大きなプレートが壊れ始めたことから、二〇一六年の今年は地球規模の震動が続くと思われる。とくに国の安全保障のすべてをアメリカに頼ってきた日本は、大きく揺れ動く世界情勢のなかで重大な影響を受けることになる。日本の安定と繁栄を保障してきた日米関係に危機が迫っている。米アラバマ州の集会で演説するトランプ氏=2015年8月21 日   アメリカのマスコミは、大統領選挙戦をめぐるドナルド・トランプと共和党保守勢力の衝突を、共和党の内戦としてなかば揶揄しながら報道している。だが、南北戦争を戦い、アメリカの北部工業州を中心に近代的なアメリカを作ったエイブラハム・リンカーン大統領以来、アメリカ政治の中核は常に共和党であった。 アメリカ政治を支えてきたのは、共和党の持つ保守的な考え方である。その共和党が、ドナルド・トランプという、これまでアメリカ政治には存在しなかった部外者の挑戦によって劇的な変動を起こしている。 いまの段階でドナルド・トランプの今後の動きを予想することは難しい。だが、アメリカの政治全体が、ドナルド・トランプの台頭によって大きく揺れ動くことになることは間違いない。 いまここで我々が知る必要があるのは、ドナルド・トランプが実際に大統領になるのかという予測もさることながら、なぜトランプの出現によって、アメリカに政治的な大旋風ともいうべき現象が起きたのか、そしてその結果、アメリカの政治がどう変わるのかということである。  なぜならば、トランプが大統領になるかどうかに関わりなく、トランプ旋風を巻き起こしたアメリカの人々の考え方が、いまや世界に大混乱を巻き起こそうとしているからである。 トランプ旋風に象徴される二〇一六年のアメリカの政治現象とは一体、何であるかを理解するとともに、今後どのような混乱が起きてくるのか、我々日本人にどのような危険をもたらすのかを予知し、備えておかねばならない。そのために、この本が皆様のお役に立つのであれば幸甚である。怒れるアメリカがトランプ旋風となった怒れるアメリカがトランプ旋風となった 二〇一六年のアメリカ大統領選挙は、アメリカ国民の怒りの爆発そのものである。とくにその怒りは既成政治家たちに向けられている。共和党の大統領候補としてドナルド・トランプの人気が異常な高まりをみせ、長期にわたって、フロントランナーの立場を維持してきたのはその証拠である。米ウィスコンシン州ミルウォーキーでの選挙集会で、妻のメラニアさん(右)にキスをするトランプ氏 =2016年4月 4日 ドナルド・トランプは、その強烈な個性と強い指導力によって、共和党の一般党員と、党に属さない保守勢力の人々の三十数パーセントを味方につけ、二〇一六年三月現在、依然として大統領選挙戦の主役になっている。 トランプは行く先々で熱狂的なファンにとり囲まれ、派手なジェスチャーと攻撃的な演説で、人々とマスコミの関心を集め続けているが、彼に対する強い支持と人気の原因を探ってみると、アメリカ国民の政治に対する不満が明確に浮かび上がってくる。その幾つかを分析してみよう。 ドナルド・トランプが注目をあびた最初の発言は、メキシコからの不法移民に対するものだった。トランプは、メキシコから際限なく入り込んでくる不法移民が、アメリカの人々の仕事を奪っているとして、オバマ大統領の移民政策を厳しく批判した。 オバマ大統領は、子供の時に親に連れられて入国し、成人になった一千万人近い不法滞在者をすべて、アメリカ国民として受け入れようとしている。そのためには大統領特別権限を発動することも辞さない構えでいる。これに対してドナルド・トランプは、不法移民は一人残らず追放するべきであると主張している。 ドナルド・トランプはさらに、今後、アメリカに不法に入国しようとするメキシコ人を阻止するために、メキシコ政府の費用で、一千キロ以上にわたるメキシコとの国境に、高い塀を作るべきだと主張している。 この発言が国際的な常識から見て大きく外れていることは明らかである。隣国との友好を考えれば、政治家が口にすることではない。メキシコ政府も「とんでもない考えだ。塀など作るつもりはまったくない」と反論している。 メキシコからの不法移民は安い賃金で働くため、仕事を奪われたアメリカ人の生活が圧迫されているのは事実である。だが、不法移民をすべて追放するというドナルド・トランプの考え方はあまりにも乱暴だと考える人が大勢いる。ニューメキシコ州の共和党議員は、フォックステレビに出演してこう述べた。「メキシコからの不法移民は我々の仕事を奪っている。だが、声をあげて移民に反対するには政治的な危険がある。有権者の多くはメキシコに家族や親類、友人がいる」 アメリカの政治家たちは、アメリカ人労働者の仕事のことを考えれば反対したいが、移民の国であるアメリカが、アメリカにやってくる人々を拒絶することはできないという建前から、ドナルド・トランプのような発言を控えてきた。「シリアを石器時代に」発言で思い出すカーチス・ルメイ将軍 アメリカという国は、基本的に移民によって成り立っている。移民を否定することは、国の成り立ちを否定することにつながる。このため政治家たちは、不法移民に対するはっきりした態度を示すことができないのである。 二〇一二年の大統領選挙の際、この問題の解決を問われた共和党候補のロムニー元マサチューセッツ州知事は、「不法移民が個人で判断し、悪いことをしていると思ったら、国外に出るべきだ」という、どっちつかずの発言をして人々をあきれさせた。不法移民が自主的に国外に出るはずがない。共和党のトランプ氏。大統領になれば国内外への衝撃は極めて大きい=2016年3月21日 ドナルド・トランプに人気があるのは、これまで普通の政治家たちが発言できなかったことを明確に主張しているからである。アメリカの人々が、現状にハラを立て政治的改革を望んでいるのは、賃金が上がらず、生活が良くなっていないこともさることながら、既成政治家たちが、現状を変えるための明確な対策を打ち出していないからだ。 ドナルド・トランプは、オバマ大統領の不明確な中東政策に対しても厳しい姿勢をとっている。大統領選挙に出馬した直後、記者たちと会見して次のように述べた。 「中東のテロリストをやっつけるために、戦闘行動をするのは間違っていない。だがいつまでもアメリカ軍を駐留させ、イラクやアフガニスタンの国作りに手を貸すのは間違っている。よその国ではなく、自分の国を作るために金と労力を注ぎ込むべきだ」 こうしたドナルド・トランプの主張には、自分たちのことだけを考えようというアメリカ国民の孤立主義的な姿勢がはっきりと窺える。トランプはNBCの番組に出演し、シリアで勢力を拡大しているイスラム国(IS)について聞かれた時にはこう述べた。「シリアに地上兵力を送るべきではない。徹底的な空爆を行って、テロリストとその支持者たちを全滅にするべきだ」 このテレビを私も見ていたが、トランプはキャスターの質問に、こうつけ加えた。「アメリカ空軍の卓抜した攻撃力からすれば、IS勢力を徹底的につぶして、シリアを石器時代に戻してしまうことも可能だ」 私がこの石器時代という言葉で思い出したのは、東京大空襲を行い、広島と長崎に核爆弾を落としたアメリカ空軍のカーチス・ルメイ将軍である。ルメイ将軍は、のちのベトナム戦争でアメリカ空軍による攻撃について説明した際、「ベトナムを石器時代に戻してやる」と言ったといわれている。 ルメイ将軍が日本の佐藤栄作首相から旭日章を受けた時、私は彼を探し出してインタビューしたことがある。一九八〇年代、レーガン政権の時代で、NHKの特別番組のための取材だったが、ルメイ将軍は質問をはぐらかして答えなかった。 ドナルド・トランプの「シリアを石器時代に戻す」という発言は、単純思考の有権者たちには大いに受けた。アメリカの有権者は、オバマ大統領が現在やっているシリア、イラク、アフガニスタンでの行動が、アメリカ軍の損害を増やしているだけで、まるで成果をあげていないことに苛立いらだっている。オバマの中途半端なやり方に苛立るアメリカ人の本音 ドナルド・トランプは、オバマ大統領や『ニューヨーク・タイムズ』が、ブッシュ政権の行き過ぎだとして厳しく批判した、テロリストに対する拷問にも賛成するような発言をした。「イスラム過激派のテロリストを拷問して何が悪い。拷問では自白させられないというが、心理的な負担を与えられる。水責めの拷問をこわがって、テロ行為をやらなくなるかもしれない」ニューヨーク市内のイベントで話すトランプ氏 トランプはこう言ったが、この発言をトランプは後になって取り消している。いずれにしてもトランプのこうした発言は、オバマ政権の中途半端なやり方に苛立っているアメリカの人々の本音を反映しているのである。 ドナルド・トランプがアメリカの有権者の強い支持を集めているのは、いま述べてきたような移民や中東政策についてだけではない。日本に関わりのある経済問題についても、おそろしく過激な発言をしており、それが受けているのである。 ドナルド・トランプは、大量の安い製品を輸出している中国に対して、アメリカは厳しい通商政策をとるべきで、「中国からの輸入品に対して四十八パーセントの関税をかけるべきだ」と主張している。 トランプはまたオバマ大統領が、中国の力を借りてアメリカの経済と金融の危機を回避したことを厳しく批判しているが、先に触れたフォックスニュースのインタビューで「中国はアメリカ経済を奪い、ウオール街を混乱に陥れている」と言っている。この時の発言を、やや長くなるが引用してみよう。 「ウオール街の市場が大混乱しているのは、中国がアメリカ経済を乗っ取ったせいだと、私はこれまで何度も指摘してきた。中国経済に乗っ取られた結果、アメリカ経済は弱くなり、経済の行き先を自らの力で決められなくなっている。中国が安いものを売り続けるならば、特別関税をかけて中国の安売りをくい止めなければならない。TPPに真っ向から反対するトランプ 中国は安いものをアメリカに売るだけでなく、通貨を政治的に操作している。中国はネットワークを利用し、不正な操作を行って通貨の交換レートを自分たちの都合の良いように動かしている。中国のこうした不法行為をやめさせなければならない」 この時、ドナルド・トランプは日本についても触れ、日銀が行っている円安政策は中国と比べれば悪質ではないが、アメリカに深刻な影響を与えているため、適切な対応策をとるべきであると主張した。 ドナルド・トランプは、自由貿易にも批判的で、TPPには真っ向から反対している。「TPP協定を結べば結局、アメリカ人の仕事が外国にとられてしまうことになり、労働者の生活が苦しくなる。おまけにTPP協定のもとに自由貿易を行うアジアの国々は、中国から原材料を安く買い入れるから、中国に利益を与えてしまうことになる」 自由貿易、とくにTPPは、私が顧問をしている全米商工会議所のトム・ドナヒュー会長も積極的に推し進めており、国際政策として反論が難しい雰囲気が全米にできあがりつつあった。 ところが、アメリカが以前に加盟した北米自由貿易協定(NAFTA)について、アメリカの利益になっていないという不満の声がくすぶっているため、労働組合を中心に、TPPに反対する声が高まっている。 こうした不満を取り上げて、正面から自由貿易に反対するドナルド・トランプは、アメリカ全体を覆っている孤立主義のムードに迎合し、その分だけ人気を集めることになった。だが、このトランプが巻き起こしている旋風は、世界におけるアメリカの立場を貶おとしめる結果になっている。(徳間書店『トランプが日米関係を壊す』まえがきと第一章第二部「怒れるアメリカがトランプ旋風となった」を転載しました)ひだか・よしき 1935年生まれ。東京大学英文学科卒業後、59 年にNHK入局。外信部、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長、米国総局長を歴任後、ハーバード大学客員教授に就任。現在はハドソン研究所首席研究員として日米関係の将来に関する調査、研究にあたっている。著書多数。

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    ヒラリーが大統領になると、アメリカの対日政策はどうなる?

    んのわずかである。 しかしそれは、日本は経済的に豊かで、テロなどの危険も少なく、政治も安定していて、日米関係において早急に対処しなければならない課題がなかったためだと考える。また、ヒラリーは、安倍政権の女性活躍政策については評価しており、育児休暇など子育て支援策については、参考にする部分もあるのかもしれない。 ただ一つ指摘しておきたいのは、アメリカ国内における日本以外のアジア系の影響力についてである。特に中国系、インド系、フィリピン系、ベトナム系、韓国系アメリカ人の伸び率(50%以上)と日系アメリカ人の伸び率(13.5%)の差(アジア系アメリカ人の人種別推移。2000年と2010年の人口調査による)が、対日政策に今後どのような影響を及ぼすのかは気になるところだ。  いずれにしても、アメリカ大統領にヒラリーがなったからといって、すぐさま対日政策が変わることはないと思われる。きしもと・ゆきこ 1953年東京生まれ。エッセイスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、集英社ノンノ編集部勤務。その後渡米し、ニューヨーク大学行政大学院修士課程修了。帰国後、文筆活動を開始。女性の人生の他、社会・政治評論も手掛ける。株式会社ビックカメラ社外監査役、日大法学部新聞学科非常勤講師。著書は、『定年女子 これからの仕事、生活、やりたいこと』(集英社)、『オバマのすごさ やるべきことは全てやる!』『ヒラリーとライス アメリカを動かす女たちの素顔』『感情労働シンドローム』(以上、PHP新書)、『なぜ若者は「半径1m以内」で生活したがるのか?』(講談社+α新書)など多数。関連記事■ ヒラリーさんって、どんな人?■ アメリカはイスラム国に勝てない■ 川口マーン惠美 これからのEU・世界情勢と日本の選択■ メルケル独首相、強力なリーダーシップの源泉とは?■ なぜ中国はいつまでも近代国家になれないのか?

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    暴力沙汰でますます過熱! 「トランプ教」はもう止められない

     [WEDGE REPORT]土方細秩子 (ジャーナリスト) 「外人恐怖症のファシスト」とドナルド・トランプ氏(69)を名付けたのは、ハリウッド俳優ジョージ・クルーニー。米国内ではトランプ氏をヒトラーに例える批判が噴出しており、共和党首脳部も「ストップ・ザ・トランプ」と銘打った作戦を展開中だ。トランプ候補の熱狂的支持者たち(iStock) しかし、トランプ氏の勢いを止めることはもはや不可能だ。3月15日、米大統領予備選は「第二のスーパーチューズデー」を迎えた。そこでなんと、対立候補のマルコ・ルビオ氏の地元、フロリダ州でトランプ氏がルビオ氏を破った。ここでルビオ氏は戦線離脱。ついに一時期14人もいた共和党候補は、トランプ、テッド・クルーズ、オハイオ州知事ジョン・ケーシックの3人に絞り込まれた。ケーシック氏はかろうじて地元オハイオで勝利、しかしこれまでトランプ氏を2位の立場で追ってきたクルーズ氏は全敗の結果だった。 ルビオ氏は選挙前の演説で「フロリダを制する者が共和党の指名を勝ち取る」と、地元での勝利を確信していた。しかし思わぬ敗退に、トランプ氏のツイッター「サンキュー、マルコ。その通りだ」が追い打ちをかけた。ラテン系移民からも支持 フロリダでの勝利は、トランプ氏にとって大きな意味を持つ。メキシコ移民に対する差別的発言などで、ラテン系から嫌われている、と思われていたトランプ氏。ところがラテン系移民の割合が多いフロリダでも支持を得た、つまりトランプ氏には周囲が考えていたよりも弱点が少ない。 さらに重要なのは、トランプ氏がイリノイ州でも勝利を収めたことだ。3月11日、トランプ氏はシカゴのイリノイ州立大学で集会を開こうとしていた。そこへトランプ氏に抗議するデモ隊が押しかけ、支持者との間で暴力騒ぎとなり、集会は「危険すぎる」とキャンセルされた。 この事件についてトランプ氏は「私の言論の自由が奪われた」などと発言。各界から「デモ隊にはトランプ氏に抗議する言論の自由はないのか」などの反発が起きている。さらにデモ隊を殴った支持者に対し「訴訟費用などは私が持とうと思う」とまで発言。暴力を煽っているのはトランプ氏自身、との批判がある。 そのイリノイですら勝利を収めたトランプ氏。普通の候補者ならば、自らの集会で暴力事件が起きれば「遺憾に思う」ものだし、暴力をふるった支持者に対し「理性的な対応を」と呼びかけるはずだ。ところがトランプ氏は「古き良き時代ならば、この程度では済まなかった。集会の邪魔をした人間は今回のことで次はもっとひどい目にあわされると学んだだろう」と言い抜ける。トランプ氏の厚顔無恥さを「テフロン・ドン」と揶揄する声があるが、まさにどんな批判も跳ね返すテフロン加工っぷりだ。暴力沙汰でヒートアップするトランプ熱暴力沙汰でヒートアップするトランプ熱 イリノイでの騒ぎはあわや乱闘、というところまで発展したため世界中でニュースとなったが、トランプ集会での暴力沙汰はこれまでにも何度も起きている。サウス・カロライナではトランプ氏を「白人至上主義」と非難した黒人男性が支持者から殴られ流血沙汰になった。 しかしこうした騒ぎがますます支持者をヒートアップさせ、熱狂的な「トランプ教」が広まっているようにすら感じられる。 実はトランプ・キャンペーンのボランティアに参加する人は、ある誓約書に署名させられるのだという。その誓約書には「生涯にわたりトランプ個人、トランプの家族などを決して悪く言わない」と明記されている。つまりボランティアと言えど「絶対服従」が強いられる。まさにファシストだ。米アリゾナ州で行われた選挙イベントで演説するトランプ氏(AP=共同) 15日の結果、ルビオ氏が脱落したことは、ストップ・ザ・トランプ運動に大きな打撃を与えるものとなった。現在運動の急先鋒である、元共和党候補ミット・ロムニー氏は、現在の候補者を最後まで競わせることで票を分け、トランプ氏が指名獲得に必要な過半数を取れなくする、という作戦を練っていた。ところが対立候補が2人となったことで、作戦は危機に陥っている。 共和党にとって「最後の希望」だったのは、元ニューヨーク市長、マイケル・ブルームバーグ氏の参戦だった。トランプ氏以上の億万長者で政治経験も豊富、人望もあるブルームバーグ氏ならばトランプ氏を破れる、との期待があったが、当のブルームバーグ氏は「立候補せず」の決断。理由は「出馬しようと思ったのは、両極端であるトランプとサンダースを止めたかったため。民主党候補がヒラリー・クリントンに決まりそうな以上、自分の出番はない」というものだった。つまりヒラリー氏がトランプ氏に勝つ、という希望的観測なのだが、現在のトランプ氏の勢いを見るとそれも黄信号が灯る。共和党支持者のトランプ支持率は50%超えに 脱落した共和党候補の中でも、ニュージャージー州知事クリス・クリスティ氏、元脳外科医のベン・カーソン氏は「トランプ支持」を表明した。「勝ち馬に乗りたい」という意識が、今後さらに広がる可能性がある。実際、15日時点で初めて共和党支持者の中でのトランプ支持が50%を超えた。 次々と問題発言を繰り返しながら、聴衆を熱狂させ人気を上げていくトランプ氏。「現代のヒトラー」の例えは決して大袈裟ではなくなった。既存の政治に愛想をつかしている、社会、政治に怒りを感じている、とはいえまさに理性を失った感のある米国人のトランプ熱。今年の大統領選挙は色々な意味で歴史に残るものになりそうだ。

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    不公平、不公平、トランプの怒りの矛先 支持者を負の方向へ動機づける

     [海野素央のアイ・ラブ・USA]海野素央 (明治大学教授、心理学博士) 今回のテーマは、「トランプ候補の不公平」です。ルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長の支持表明を得た不動産王ドナルド・トランプ候補は、4月19日(以下、現地時間)に地元ニューヨーク州で行われる共和党予備選挙でテッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)に圧勝して、クルーズ陣営の勢いを削ぎたいところです。公平を求めるトランプ候補(iStock) 同月26日にも、ペンシルべニア州及びコネチカット州など北東部5州で共和党予備選挙が開催されます。トランプ候補が急きょカリフォルニア州での記者会見をキャンセルした背景には、南部テキサス州を地盤とする同上院議員が苦戦すると予想される北東部で、一気に突き放そうという意図が見えてきます。 本稿では、ニューヨーク決戦を前に共和党予備選挙・党員集会におけるトランプ候補の言動に基づいて、どのような考え方やものの見方をする傾向があるのか、同候補の思考様式について述べていきます。トランプの不公平 トランプ候補の思考様式で看過できないのが「不公平」です(図表)。 トランプ候補は、『トランプ自伝』(ドナルド・トランプ&トニー・シュワォーツ, 相原真理子訳, ちくま文庫)の中で「良くしてくれた人には、こちらも良くする。けれども不公平な扱いや不法な処遇を受けたり、不当に利用されそうになった時には徹底的に戦うのが私の信条だ」と述べており、不公平に対してかなり敏感に反応する傾向があることが窺えます。その傾向は、ビジネスのみならず2016年米大統領選挙においても顕著に現れています。『トランプ自伝』 たとえば、昨年8月6日に開催された第1回共和党テレビ討論会で、フォックス・ニュースの女性キャスターで同討論会の司会を務めたメーガン・ケリー氏が同候補を公平に扱っていなかったと抗議をしています。トランプ候補は自分に対する質問が、他候補のそれと比較して厳しく不公平であったと議論したのです。それ以後、同候補はテレビ討論会が開催される度に、討論会の内容を公平・不公平で評価するようになりました。 これに加えて、指名獲得のルールに関してもトランプ候補は、独自の「不公平理論」を唱えています。クルーズ上院議員との代議員獲得争いが激化し、夏の共和党全国大会での決戦投票の可能性が報道されるようになると、トランプ候補は自分が最も予備選挙・党員集会で得票数が多い点を強調し始めたのです。その背景には、決戦投票に持ち込まれると、同候補よりも得票数が少なかった候補が指名獲得をする可能性が出てくるからです。同候補は、そのような事態を予想し、得票数が最も多い候補が指名を獲得できないのは不公平だと議論するのです。決選投票、TPP、日米安全保障まで不公平決選投票、TPP、日米安全保障まで不公平 さらに、獲得代議員数において過半数の1237人に最も近い数字を残した候補が指名を獲得できずに、決戦投票で突然現れた第3の候補に指名を奪われるのも不公平であると論じるのです。トランプ候補には、そもそも共和党全国大会で新しいルールで指名獲得を行うこと自体が不公平であるという意識が強いのです。同候補は、新しいルールをエスタブリッシュメント(既存の支配層)とワシントンにいるインサイダーによって作られたものだと主張して、反エスタブリッシュメント並びに反インサイダーに訴えるのは間違いありません。大統領予備選の投票に並ぶアリゾナ州の人たち=2016年3月22日、ギルバート(AP) トランプ候補の不公平に関する議論は続きます。通商問題と安全保障政策においても、トランプ候補は不公平理論を展開します。北米自由貿易協定(NAFTA)及び環太平洋経済連携協定(TPP)は相手国に有利な協定であり、米国には不利で不公平であると捉えています。 トランプ候補は、米ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで日米安全保障条約について、「米国が攻撃されても日本は何もする必要がない。日本が攻撃されれば、米国は全力で出かけていかなければならない」と述べて、条約が片務的で非常に不公平であると主張したのです。ここでも、独自の不公平理論に基づいて論じているのです。 ニューヨーク州での決戦を前に、トランプ候補は同州ロチェスターで集会を開き、現行の共和党予備選挙・党員集会の制度を「不公平なシステム」と批判したうえで、民主党予備選挙・党員集会についても触れたのです。同候補は、バーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)が各州で勝利を収めても、ヒラリー・クリントン候補に勝てないのは、民主党の選挙制度が崩壊しているからだと指摘したのです。 余談ですが、トランプ候補と同様、今回の大統領選挙において民主党候補指名争いで旋風を起こしているサンダース上院議員も、不公平理論を使用しています。ウォール街に公的資金を投入して金融機関を救済したのだから、今度は学生ローンに苦しんでいる若者をウォール街の金融機関が彼らを救うのは当然だと言うのです。 本論に戻りましょう。では、どうしてトランプ候補は今回の米大統領選挙において不公平に関して繰り返し言及するのでしょうか。それに関して、以下で説明しましょう。不公平に怒るトランプ支持者不公平に怒るトランプ支持者 昨年夏に中西部アイオワ州デモインで戸別訪問を実施していると、白人男性が筆者に声をかけてきたのです。 「不法移民は、税金を支払っていないのに教育を受けているのは不公平だ」 この白人男性は、不公平に怒っていたのです。同じくアイオワ州デモインでクリントン陣営が標的としている無党派層を訪問した時、この家の白人男性は退役軍人が不法移民よりも待遇が悪い点に不公平感を持っており、怒っていたのです。 上の2人の白人男性には、共通点がありました。第1にトランプ支持者であり、第2にトランプ候補の不公平の議論に共感し、第3に同候補に対して強いアイデンティティーを持っていました。トランプ支持者の中でも、特に核となっている熱狂的な支持者を理解するキーワードは不公平です。 学問的に言いますと、モチベーション理論の1つである公平理論を用いてトランプ候補の動機づけの手法を分析できます。公平理論では、人は自分の貢献(インプット)と結果(アウトカム)と、相手の貢献と結果を比較します。貢献には、金、教育、経験、能力、努力、スキル、時間、エネルギーなど、結果には給料、昇進昇格、有給休暇などのベネフィットや作業条件などが含まれます。比較する相手に対して不公平感が大きければ大きいほど、緊張感が生じ人はそれを解消しようと動機づけられるというのです。不公平から発生する緊張や怒りの解消には、正と負の動機づけがあります。 正に動機づけられた人は、一層努力し結果を高めようとします。ところが、今回の大統領選挙でトランプ候補は、不公平感を持つ支持者を負の方向へ動機づけているのです。彼らの貢献と結果は変えずに、相手(不法移民・イスラム教徒)の貢献と結果を変えようとしているのです。一般に、不法移民は高い技能を必要とする仕事には就いてはいませんが米国経済の底辺を支えており、一方、イスラム教徒は連邦下院議員をはじめ、多くの分野に進出し米国社会に貢献しています。非常に極端な解消法 同候補が主張するアメリカとメキシコの国境の壁やイスラム教徒入国全面禁止は、確かに上で紹介した白人男性や退役軍人にとって緊張や怒りを解消する動機づけになりますが、不法移民とイスラム教徒の貢献を否定する点において、非常に極端な解消法と言えます。そのような解消法は、到底受け入れる訳にはいきません。 トランプ候補にとって、公平・不公平は極めて重要な概念です。仮にトランプ候補が本選に進んだ場合、今後も支持者の不公平に対する怒りを使い、彼らを負の方向へ動機づける手法をとってくると筆者はみています。

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    「トランプ以後」の米共和党内部はどうなっているのか

    まう)。3. 心理的理由:自民党と共和党は保守同士で親和性がある。日本の鳩山政権は、「民主党同志」の日米関係構築に失敗した。また米側の対日政策関係者を見ても、共和党にはアーミテージ元国務副長官のような「義理・人情・浪花節が分かる人」がいるが、民主党には見当たらない。 かくしてオバマ政権が8年目を迎えた今も、日本外交における民主党人脈は乏しいままで、「いずれ共和党が政権に帰ってくれば…」といったことが語られがちである。しかるに共和党は、われわれが知っていた共和党ではなくなっているのかもしれない。真面目な話、「トランプ大統領」や「クルーズ大統領」が誕生したとしても、日米関係のキーパーソンは誰になるのか、ちょっと見当がつかないのである。 思えばこの10年ほどの米国社会の変化は、あまりにも激しかった。政党のアジェンダもどんどん見直していかなければならない。イラク、アフガン戦争で傷ついた後では、「強いアメリカ」と言っても今までとは違う「強さ」が必要になるだろうし、貧富の差」がこれだけ拡大した後では「プロ・ビジネス」など冗談じゃない、といった反忚になるだろう。ということは、共和党が変わるのも当然ということになる。 最後に、今週の『週刊ダイヤモンド』に登場している親米派、長島昭久衆議院議員のコメントを紹介させてもらおう。 「ここまでの大統領選挙を見ていると、米国社会が抱えているゆがみが想像以上に深刻だと感じます。(中略)僕がいた1990年代の活気ある米国とは、まったく違っています」[1] http://tippie.uiowa.edu/iem/[2] ウィスコンシン州予備選以前の詳細な「票読み」としては、ラリー・サバト教授の下記をご参照。 http://www.centerforpolitics.org/crystalball/articles/assessing-trumps-path-to-1237/[3] ちなみに共和党大会のルールでは、投票2回目では代議員の57%が自由投票となる。さらに過半数に達しないと、投票3回目では81%が自由投票になる。以下、延々と繰り返す。[4] http://www.xojane.com/issues/stephanie-cegielski-donald-trump-campaign-defector[5] 日本経済新聞2014年2月2日朝刊 風見鶏「なぜ日本は『共和党』なのか」を参照した。(公式ホームページ『溜池通信』より2016年4月8日のReportを転載)

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    トランプ快進撃に共和党パニック 誰が彼を躍進させたのか?

     [WEDGE REPORT]辰巳由紀 (スティムソン・センター主任研究員) 11月に投票を控えたアメリカの大統領選挙に向けて民主、共和両党から大統領候補者を選ぶ予備選が年明けから真っ盛りだ。中でも3月1日は「スーパー・チューズデー」と呼ばれる全米11州と米領サモアで予備選が行われる日で、全米でその結果に関心が集まった。iStock その結果は、民主党側は8州で勝ったヒラリー・クリントン前国務長官が優位を固める結果となった。とはいえ、昨年の段階では泡沫候補だと言われていたバーニ―・サンダース上院議員が当初の予想以上に健闘しているという事実は変わっていない。また、クリントン氏が国務長官時代に、国務省から支給される電子メールのアカウントではなく、個人の電子メールで公務に関するやり取りをしていた件に関するFBIによる捜査は依然として続いており、捜査結果がクリントン氏にどのような影響を与えるのかは、引き続き、大きなリスクとなっている。3月7日に、独立系候補として出馬するのではないかとささやかれていたマイケル・ブルームバーグ前NY市長が、「自分が出馬するとトランプ氏やクルーズ上院議員を利することになる」として今年の大統領選には出馬しない意向を表明したが、このことは民主党陣営が抱える脆弱さを示唆する動きとして注目されている。予想に反し快進撃止まらぬトランプ氏 共和党の状況はもっと深刻だ。大統領選挙に向けた動きが本格化し、ドナルド・トランプ氏が立候補を表明してからというもの、長年の共和党支持者やベテランの共和党系政治評論家、ロビイストなどは、トランプ氏は耳目を引く発言で話題を集めてはいるが、予備選がはじまれば、有権者は冷静な判断をするはずで、結果、トランプ氏は失速するだろうとみていた。しかし、ふたを開けてみると、1月に予備選がはじまって以来、初戦のアイオワ州こそ、テッド・クルーズ上院議員の後塵を拝したものの、トランプ氏は快進撃を続けている。 3月1日のスーパー・チューズデーでも、トランプ氏は11州のうち7州で勝つという好成績を収め、予備選のトップランナーの地位を確立し、3月5日にカンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、メインの4州で行われた予備選でも、ケンタッキーとルイジアナの2州で勝利した。3月15日にはフロリダ州やオハイオ州のように、他の候補者の地元で予備選が行われるが、これらの州でもトランプ氏の優勢が伝えられる。つまり、当初の予想を大きく裏切る形で、トランプ氏が共和党の大統領候補に指名される可能性がかなり現実味を帯びてきているのだ。 この結果、共和党内部では一種のパニック状態が発生している。3月3日には、2012年大統領選に共和党側から出馬したミット・ロムニー氏がトランプ氏は「詐欺師」だと批判する演説を行い、08年大統領選でオバマ大統領と戦ったジョン・マケイン上院軍事委員長も、トランプ氏に批判的な声明を出した。ポール・ライアン下院議長もスーパーチューズデー当日の3月1日に記者会見を行い、その中で、「共和党は(奴隷解放を掲げた)リンカーン大統領の政党だ」「我々(共和党)はすべての人は神の下に平等に創られたと信じている。これは基本的なことで、我々の党の大統領候補になりたいと思う人間がいるならば、彼らはこの事実を理解しなければならない」と、これまでの選挙戦でイスラム教徒やヒスパニック系移民に対する敵対的なコメントを続けてきたトランプ氏を暗に非難した。トランプ氏大統領候補選出で共和党団結不可能にトランプ氏大統領候補選出で共和党団結不可能に ラインス・プリーバス共和党全国委員会委員長は、共和党全国委員会は最終的に大統領候補として指名された候補を「100%支持する」と述べているが、すでに共和党の議員の中にはトランプ氏が大統領候補になった場合はトランプ氏には投票しないと明言する議員も出始めている。 特に、ロムニー氏が極めて批判的な演説を3月3日に行ったことについては「遅すぎた」という声がある一方、彼の演説は、トランプ氏に対する強い反発が共和党内の中道派・穏健派の間にあることの表れで、今の時期にあれだけ批判的な演説を彼がしたということは、夏の党大会で共和党候補を党が一丸となって支持しようという雰囲気を醸成することは、トランプ氏が候補として指名された場合ほぼ不可能になるのではないか、という見方も出てきており、その場合、トランプ氏に反発する勢力がポール・ライアン下院議長を「第3の候補」として担ぐ可能性も否定できず、ロムニー氏が自ら「第3の候補」として出馬するのではないかという憶測も流れている。共和党が内部から瓦解する結果になるのではないか、と指摘する声もあるほどだ。何しろ、まだ予備選も終わっていない時期に、ワシントン・ポスト紙のような大手の新聞が、「共和党はトランプ氏を止めなければいけない」という社説を掲載することそのものが異常事態だ。米ニューヨークで演説するトランプ氏(ゲッティ=共同) 現在のところ、共和党側の動きが突出して目立っているため、共和党側だけがいわゆる「反エスタブリッシュメント」の動きに揺り動かされているように見えるかもしれない。しかし、実際は、民主党、共和党ともに、政治の現状に不満を持つ人が一般の有権者の支持層の中に増えており、それが共和党側ではトランプ氏の快進撃という形で、民主党側では、リベラルを通り越して、時に「社会主義者」と揶揄されるサンダース上院議員の予想以上の健闘という形で表れているという見方がより現実に近いだろう。 01年にブッシュ政権が発足してから、特に9月11日の連続テロ事件以降、一般のアメリカの有権者は漠然とした不安の中で過ごしてきた。出口が見えないアフガニスタンやイラクでの戦闘に加え、08年にはリーマン・ショックがアメリカ経済を席捲した結果、国内の経済格差がこれまでにないほど広がった。さらに、選挙戦期間中は「思いやりのある保守主義」を唱えていたブッシュ政権の8年間で、議会での民主、共和両党間の対立は厳しくなる一方で、国民のために予算を成立させ、法律を通過させるという立法府としての基本的な機能を果たすことさえおぼつかなくなってきた。 この状況を打開してくれるのではないかという国民の期待を背負って「チェンジ(変革)」を合言葉に当選したオバマ大統領の8年間も、状況に大きな改善は見られていない。米国経済は回復基調に乗ったとはいえ、そのペースは遅く、一進一退を続けている。格差問題も解消には程遠く、例えば、若年層が、学生ローンを抱え、独り立ちするために必要な十分な収入が得られる仕事になかなかつけないため、大学を卒業した後、再び両親と同居するケースも増えてきている。議会での党派対立は厳しくなる一方で2013年にはとうとう、1996年以来の連邦政府閉鎖という事態にまで発展、オバマ大統領もインタビューで、任期中に後悔していることとして「党派対立が厳しい状態を改善できなかったこと」と答える状況に至った。 つまり、現在の政治状況に対して多くの有権者が抱えるフラストレーションが、現在のような状況に結び付いているといえる。米国内の潮流が対外政策に影響及ぼす可能性も そして、気を付けなければいけないのは、国内の状況に対して充満するこのような苛立ちは、対外政策においては、「強いアメリカ」であり続けたいという強い思いがある一方で「アメリカだけが世界の安全に対して大きな負担をしてきている」という不公平感につながりかねないということだ。 オバマ政権の8年間で、すでにヨーロッパに対してはNATOが自分たちを守るために十分な投資をしていないどころか、景気を理由に国防費を削減している、財政が厳しいのはお互いさまではないか、という批判が表面化している。アジア太平洋地域では南シナ海における中国の行動について、今でこそまだ、「アメリカは中国に断固たる決意で自らの行動がコストを伴うことをわからせなければいけない」という声が主流だが、この声と「地域の国は自分たちで自分たちを守るためにもっと努力すべきだ」という主張は常に背中合わせだ。そして、米国のこのような状況がすぐに好転する可能性が低い以上、このような苛立ちも当面の間続くと思われる。 日本は、「トランプ大統領」の危険について声高に論じるよりも、米国内のこのような潮流がこれから米国の対外政策にどのような影響を与えるかについて、より真剣に考える必要があるだろう。

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    「在日米軍撤退」「核保有容認」示唆 トランプ氏発言をどう受け止めるか?

    渡辺靖(慶應大SFC教授)(THE PAGEより転載) 「イスラム教徒の米国入国を拒否すべき」「(メキシコとの)国境に万里の長城を造る」など過激な発言が続くドナルド・トランプ氏。米大統領選の共和党有力候補が、今度は日米同盟をはじめとするアジアの安全保障をやり玉に上げています。「在日米軍撤退」「日韓の核保有容認」などを示唆したトランプ氏発言の真意はどこにあり、どのように受け止めればよいのでしょうか。アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏に寄稿してもらいました。オバマ大統領も発言を批判 米大統領選の共和党候補指名争いで首位を走る実業家ドナルド・トランプ氏の発言がまたもや物議を醸している。今回は外交・安保政策に関してである。サウスカロライナ州スパータンバーグで勝利宣言を行った後、支持者に手を振るトランプ氏=2016年2月22 日  同氏は「米国はもはや裕福ではない」として「日韓が米軍の駐留経費負担を大幅に増額しない場合は米軍を撤退させる」「中国や北朝鮮への対抗手段として日韓の核兵器保有を容認する」と発言。かねてより日本の「安保タダ乗り」を批判していた同氏だが、さらに踏み込んだ格好だ。 米国務省の報道官は「日韓との条約義務は不変」「恥ずべき考え」、ホワイトハウスの報道官は「日韓による核保有はアメリカ政府の政策に反するもので、地域を不安定にする」「なぜいい考えなのか、想像できない」と反論した。バラク・オバマ大統領も「世界を分かっていない」と酷評。大統領選の候補者の発言を批判するのは異例だ。 日本政府は「誰が大統領になろうとも、日米安保体制を中核とする日米同盟は我が国の外交の基軸だ」「非核三原則は政府の重要な基本方針であり、今後も堅持することに変わりはない」と抑制的に対応。 韓国政府も「同盟国としての役割はきちんと果たしている」「韓国政府は朝鮮半島非核化に対する一貫した確固たる立場を堅持している」と述べている。日本の左派や右派、中ロは歓迎?米軍撤退に関して、日本の一部には歓迎する向きもあろう。 左派にとって、それは米軍基地問題の解決を意味する。また、右派にとっては、自主防衛への道が開けることを意味する(もっとも、その場合、左派は米軍撤退後の「力の空白」をどう埋め合わせるか、右派は大幅増する防衛費の財源をどう確保するか、それぞれ道筋を示す必要があるが)。 当然ながら、ロシアや中国、北朝鮮は米軍撤退を大いに歓迎するだろう(トランプ氏は中国が沖縄県の尖閣諸島を占領した場合の対応については「どうするかは言いたくない」と明言を避けている)。 米国が第二次世界大戦後のリベラルな国際秩序の形成を主導したことは多言を要しない。その鍵となったのは世界規模における同盟関係の構築だ。 実は、米国の初代大統領ジョージ・ワシントンは海外との恒久的な軍事同盟の締結を戒めていた。欧州流の「旧世界」の紛争に巻き込まれたくなかったからである。 その米国が敢えて同盟関係の締結に踏み切ったのは、東西冷戦下の一九四七年(米州共同防衛条約=リオ協定)。以来、パキスタン以外に信頼できる同盟国を持たない中国とは対照的に、今日では50か国以上と同盟関係を結んでいる。米兵は世界の4分の3以上の国々に駐留し、米軍基地は海外の約700か所に存在している。 トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)についても関係見直しを明言しているが、まさに過去70年の米国の外交・安保政策のコペルニクス的転換と言う他ない。東アジアで「核競争」のリスク 日米同盟に関して言えば、確かに、ベトナム戦争や冷戦の終結後、その「漂流」が危惧された時期はあったものの、全面的な米軍撤退が米側から示唆されたことはない。 戦後日本は米国の「核の傘」に入ることで、防衛費を低く抑えたまま「平和国家」として歩み、経済成長や社会発展に注力することが出来た。 米国にとっても、民主主義国家であり、経済・技術大国であり、一億人以上の人口規模を有する先進国である日本との同盟関係は重要だ。世界の成長センターでありながら、地政学的緊張の続くアジア太平洋地域における平和と安定の「礎石」であるとの認識は、民主党・共和党の垣根を超え、広く共有されている。 ましてや、ロシアや中国、北朝鮮が核を保有したまま米軍が撤退すれば、日韓の一部から核保有論が上がっても不思議ではない。東アジアにおける核競争や紛争が米国の国益を損ねることは自明だ。 経済コストや軍事リスクが格段に高まるだけではなく、リベラルな国際秩序そのものが崩壊しかねないからだ。ひいては中東情勢にも影響を与えかねない。トランプ氏はISに対して核兵器使用の可能性を排除しない考えを示しているが、外交・安保政策のプロにとって同氏のこうした世界観はまさに「悪夢」であろう。 トランプ氏は「ワシントン」、すなわちプロの政治家(とその周辺)を仮想敵とすることで有権者の人気を博しているが、外交のプロすらも仮想敵としているのだろうか。支持層に向けた選挙用の発言? もっとも、選挙中のこうした発言は若干差し引いて考える必要があるのも確かだ。 以前述べたように、「トランプ旋風」は米国におけるミドルクラスの先細りと密接に絡んだ現象である。ミドルクラスの縮小は、元来、国内的には排他主義的傾向、対外的には孤立主義的傾向と結びつきやすい。トランプ氏とメラニア夫人=2016年2月14日  現に、トランプ氏は「米国はとても強く豊かな国だったが、今は貧しい国だ。債務超過国だ」としたうえで「多額の費用をかけて米軍のプレゼンスを維持するのは割に合わない」と述べ、国内の再建を優先する姿勢を繰り返し強調している。 とりわけ、同氏の中核的な支持基盤である「プア・ホワイト」(白人の労働者層・貧困層)に対して、TPP(自由貿易)から在外米軍まで、すべて理不尽であり、彼らがその割りを食わされていると説くことはアピール材料になる。 トランプ氏は3月21日に国家安全保障に関するアドバイザー5人を発表したが、いずれも知名度は低い。共和党のジェフ・セッションズ上院議員(アラバマ州選出)が責任者に指名されているが、同氏は「外交通」というより「反不法移民の急先鋒」として知られる人物だ。メキシコとの国境に巨大な壁を設けることこそ国家安全保障の要であり、かつ有権者ウケするという読みなのだろうか。ビジネス的ブラフ? 軌道修正も? 今後、アドバイザーが拡充され、同盟政策や東アジアの専門家が加われば、より現実的な姿勢に転ずる可能性はある。 また、仮に正式に共和党の候補者に指名された場合、本選では元国務長官である民主党のヒラリー・クリントン氏と論戦を交える公算が高い。その準備過程を通して軌道修正する可能性もある。幸い、これまでの履歴を見ていると、トランプ氏は自らの立場を改めることを「変節」ではなく「進化」だとして前向きに捉える傾向があるようだ。 さらに言えば、ビジネスの世界のタフな交渉に長けたトランプ氏にとって、「米軍撤退」や「核保有容認」を持ち出すことは、駐留経費負担釣り上げのための日韓に対するブラフ なのかもしれない。 ただ……このように差し引いて考えること自体、希望的観測に過ぎるのかもしれないし、そこにトランプ氏の、真意の読めない、先の読めない不気味さと危うさがある。わたなべ・やすし 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など

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    角栄とトランプ共通点 反エリート期待の空気と娘の存在

     アメリカ大統領選挙候補の指名レースで注目を一身に集めるドナルド・トランプ氏。型破りな言動が反発を買う一方で熱狂的な人気を集め、予備選序盤からの快進撃は「トランプ劇場」と称された。その背景を分析すると、日本の歴代総理で随一の人気を誇る田中角栄との共通点が浮かび上がってきた。 角栄が首相に就任したのは1972年。7年8か月続いた鉄道官僚出身の佐藤栄作首相の後継を決める自民党総裁選は、「角福戦争」と呼ばれた。大蔵省出身のエリートである福田赳夫優位の下馬評を角栄がひっくり返す劇的な結末に、国民は喝采を送った。長く続いた官僚政治の閉塞感が庶民宰相誕生の背景にあったのだ。 トランプ人気にも似た空気が読み取れる。候補者選びが始まった当初、本命と見られていたのは父と兄が大統領経験者のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事。同氏に「退屈」「低エネルギー」のレッテルを貼って支持を広げた。そこにはやはり名門エリート一家への不満、物足りなさがあった。 「政治は数、数は力、力はカネ」の“名言”は、角栄流政治の象徴といわれる。その資金力が首相にのぼりつめるには欠かせなかった。 米国の大統領選ではテレビCMに巨額を投じる必要があるため通常は各種団体からの寄付が不可欠だが、トランプ氏の場合、総資産45億ドルといわれる自前の財力がある。『トランプ革命』(双葉社刊)の著者・あえば直道氏(政治評論家)が指摘する。 「お金があるから寄付を求める必要がなく、関係各所を気にしてペコペコする必要もなくなる。有権者はそれを『ウソがない』と評価している」 こうした共通点の他にも2人には共通点がある。角栄の娘・眞紀子氏は「晩年、病に倒れた角栄が座る車イスを押して、有権者の前で父に代わって演説した」(政治評論家の小林吉弥氏)。トランプの娘・イヴァンカ氏も父を支える。父と同じペンシルベニア大卒の元モデルで、トランプ氏の会社の役員も務める。 選挙活動にも同行。共和党唯一の女性候補だったフィオリーナ氏に対しトランプ氏が「あの顔を見ろ、誰が投票するだろうか」と女性蔑視の暴言を吐いて批判されそうになると、「父は性差別主義者だと思わない。そんな考えなら私が彼の会社で要職に就くことはなかった」と即座にフォローする。その機転から有権者の人気も高い。 “じゃじゃ馬娘”の存在は、どちらの父も心強く思ったことだろう。関連記事■ 角栄とトランプの共通点 ビジネスマンとしての実績■ トランプと角栄の共通点に人の心を動かすスピーチ術■ トランプと角栄 人心掌握術と突破力という共通点■ 江沢民、トウ小平 田中角栄が被告になった後も敬意払い訪問■ 田中角栄 北方四島交渉でソ連に「イエスかノーか?」と強気

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    トランプ氏 カジノで大儲けした日本人に大リベンジの過去

     「億万長者ピエロ」「やがて消える泡沫候補」──そんな当初の見方は覆された。米大統領選の共和党候補者指名レースでトップを走る「暴言王」ドナルド・トランプ氏(69)。その対日政策に関する発言には「日本憎し」の心情が迸っている。その根源には何があるのか。在米ジャーナリストの高濱賛氏が探った。* * * 「円安のせいで建機大手のキャタピラーは日本のコマツとの競争が難しくなっている。私が計画している不法移民流入阻止のためのメキシコ国境に作る壁はすべてキャタピラーに発注する」 「日本は為替操作をしている。これに対抗するには、アメリカは日本製品に輸入関税をかける以外にない」 口を開けば、“反日愛国”的な言説を繰り返すトランプ氏。東アジア問題専門家のロバート・ケリー氏は「トランプは今なお、“マイケル・クライトンの80年代”に生きている」と失笑する。クライトン氏は1980~90年代頃の日米貿易戦争を題材に、日本の脅威を描いた小説『ライジング・サン』の著者。ケリー氏は、トランプ氏の日本観はそれ以来“凍結”したままだというのだ。 1988年、当時から不動産王として広く知られる存在だったトランプ氏は、ニューヨーク屈指の名門「プラザ・ホテル」を3億9000万ドルで買収した。 プラザ・ホテル買収の翌月、氏は日本メディア「朝日新聞」の単独インタビューに応じている。当時の所有者は日本の青木建設などだったため、“日本人から買い戻した”ことを自慢したかったようだ。取材した記者は、アメリカの象徴のようなホテルを日本企業に買われたことが不満だったトランプ氏の、「愛国心」が背景にあるのではと推測する(*注)。【*注/「朝日新聞」2016年3月8日付。その後、トランプ氏は「プラザ・ホテル」を1995年にサウジアラビアの王族とシンガポール企業に3億2500万ドルで売却している】 この頃、トランプ氏は世界各地のカジノで名を馳せた「柏木昭男」という日本人ギャンブラーと出会った。「ロサンゼルス・タイムズ」(1992年2月8日付)によると、柏木氏は1990年2月、トランプ氏が経営するカジノで9億円を儲けた。これを知ったトランプ氏はその後、カジノ側が負けたカネを自ら取り戻そうと、柏木氏にバカラでの直接対決を挑んだという。 6日間の死闘の末、トランプ氏は柏木氏から15億円を奪い返し、“リベンジ”を果たした。これほどまでの執念はどこから生まれたのか。 1990年3月、アメリカの男性誌『プレイボーイ』に掲載されたトランプ氏のインタビューでは、日本および日本人への疑念や嫌悪感が赤裸々に語られている。 「(日本が中東から輸入する原油を運ぶ)タンカーを守っているのは米軍の戦艦だ。日本人は『米軍に感謝する』と頭をペコペコ下げているが、その実、アメリカのやっているバカさ加減をあざ笑っている。日本の優秀なエンジニアは車やVCRを作り、アメリカの優秀なエンジニアはミサイルを作り、それで日本を守っているんだ」 トランプ氏は当時43歳。“商売相手”としての日本人についてはこうも語る。 「日本人はニューヨークのビルを買うことなぞ朝飯前。誰よりも高い値段でビルを買ってくれる。不動産業を営む私にとり日本人は最高の顧客だ。だが、なんとなく屈辱を感じているのも確かだ」(同前)関連記事■ トランプ氏 超格差社会から目そらさせ日中を悪者にする作戦■ トランプ氏は南部で苦戦 「暗殺予告」に怯える日々■ 「東京でシボレー走ってない」のトランプ氏日本叩きは筋金入り■ 「メタボの夫にも食べさせたい!」ホテルで七面鳥料理三昧■ トランプ・米大統領誕生なら日本はついに戦争に駆り出される

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    「世界の警察官」を捨てたオバマは本気か

    坂元一哉(大阪大学大学院教授)米国とは仲良く、中国とは喧嘩せず いま、アメリカの存在感が問われています。アメリカの覇権が終わりつつあるのか、それともオバマ大統領とオバマ政権個有の性格に絡んでいる一時的なものなのか。いまのアメリカをにらんで日本はどう動けばよいのか──そうした問題が提起されています。 私は21世紀の国際政治には二つの大きな問題があり、どちらも20世紀をどう見るかということに関係すると考えています。 一つ目は、20世紀を1914年から1991年で区切ってアメリカの世紀とする見方です。20世紀は第一次世界大戦でヨーロッパが衰退し、それに代わってアメリカが第二次大戦と冷戦に勝って世界の覇権を握った世紀。そう見ると、軍事・政治・経済あるいはさまざまなソフトパワーを含めたアメリカの世界指導が、今後どうなるのかというのが21世紀の大問題になります。 もう一つは、20世紀を日露戦争における日本の勝利、つまり1905年から始まって、1997年の香港返還までと見て、それまで西洋に押されていたアジアの興隆の世紀とする見方。この場合、21世紀の大問題は何かと言うと、興隆したアジアのリーダーシップを誰が握るのかということになるでしょう。 われわれはこの二つの大問題のなかで、どういう立ち位置を選択すればいいのかしっかり考え、そのことを踏まえて中韓との歴史問題も考えていく必要があります。 京都大学で国際政治学を教えた高坂正堯は、処女作『海洋国家日本の構想』(中央公論社)のなかで、「巨大な隣国から自己の同一性を守ることは実に難しい。日本が東洋でも西洋でもない立場を取ろうと思うならば、遠くの力とより強く結びついて、近くの力と均衡をとる必要がある」と言っています。のちに高坂はこのことを「アメリカとは仲良く、中国とは喧嘩せず」と表現しましたが、この立ち位置が、二つの問題に対応するとき非常に重要になってくるのではないでしょうか。 21世紀の世界秩序を、アメリカと日本を含むその同盟国をひとつの「極」、政治経済的な「極」としつつ、豊かな文化的多様性があるものにしていく。その意味での「一極多様」の世界をアメリカと同盟しながら作っていく。それが日本のいまの国家目標であるべきだと私は思っています。 中国との関係についていえば、常にある程度距離をおかないと独立を保っていられない、というのが長い間の日本の歴史的な立ち位置でした。しかし19世紀後半から20世紀中ごろまで、中国が弱体化したため日本は中国に深入りしてしまって、結局失敗した。 いまはグローバリゼーションの時代でアジア大陸との経済関係はどうしても深まるのですが、それでも政治的には、中国との距離感が重要だと思います。 遠くにある大国には飲みこまれにくいものですから、仲良くする。近くにある大国とあまり仲良くなると、飲みこまれるおそれがあるので、喧嘩にならない程度に距離を取る。ただ、昨今、取り沙汰されている「中国の夢」がもし東アジアでの覇権を求めることであるのならば、対抗しなければならないでしょう。 高坂は処女作の結論として、日本はアジアの一員だといって、アジアのなかだけで日本を考えるようではだめで、世界のなかでの日本を考えなければならない、ということを言っています。これは地政学的に中国大陸から距離をとって自立しなければならない日本がしばしば陥る孤立感に対する、大切な処方箋かもしれません。アジアのなかで孤立することがあっても、世界のなかでは孤立しないようにしなければならない、ということです。 もっとも孤立ということに関していえば、孤立をおそれて、あるいは孤立に耐えきれず、おかしな国と同盟を結んだりするのはまずい。 われわれにはその失敗があって、中国大陸での権益維持のために中国と戦争して、そのために世界から孤立し、孤立はいやなので変な相手と手を結んでしまった。あのとき日本がナチス・ドイツと同盟を結んだ理由は、ドイツの中国支援をやめさせたかったことと、「ドイツがフランスやイギリスをやっつけてしまえば、東南アジアの植民地はどうなるんだ。われわれも発言権がほしい」ということだったのでしょう。 でも、もしあのとき、ドイツと同盟を結ばず、孤立したままだったならばどうだったか。アメリカとあのようなかたちの戦争にはならなかったでしょうし、いつまでもナチスとの連想を歴史問題のなかで持ち出されるようなことにもならなかったでしょう。米国は内向きになっているのか「アメリカとは仲良く、中国とは喧嘩せず」を基本として、今後日本がとるべき外交について少し考えてみましょう。 まず、アメリカをどう見るか。アメリカはいまでも世界最大の軍事大国で、他国を断然、引き離しています。経済力の回復はシェールガス革命で期待が持てます。そしてなんと言ってもアメリカには人を引き付ける魅力があって、アメリカ人になりたい人は多い。中国からは人が出ていくけれど、アメリカへは入ってくる。ソフトパワーが全然違うと言っていいと思います。 それからアメリカの今の政権はあと3年で交代する。今の政権はテロ戦争から撤退するためのやむをえない政権だったのかもしれません。3年は長いですが、政権が代わればどうなるか。アメリカが今後、長期的に衰退の一途をたどっていくかどうかは、少し慎重に見る必要があるでしょう。 「アメリカは内向きになっている」とよく言われますが、たしかにそういう面はある。国内問題重視の傾向は明白で、PEW(調査機関ピュー・リサーチ・センター)の2013年12月の調査では、アメリカ人は、五十年近い調査の歴史のなかで、最も内向きになっているという結果が出ています。 ただ、経済的には内向きになっているとは言えないでしょう。たしかにシェールガス革命がおきてからは、中東との関係については、中東の石油の安全のために無理して頑張るという気持ちが国民のなかで薄れている可能性はあるかもしれません。ですが全体としては、外の世界との経済関係が大事だと思っているようです。 またアメリカのようにいわば世界指導で国をまとめているところは、「内向き」には限界がある。オバマ大統領は、アメリカは「世界の警察官ではない」という例の発言の際に、世界の中でアメリカが特別な役割を果たしていることは否定していません。アメリカがいま、世界指導の意欲を失ったと言えるかといったら、それは違うのではないかと思います。 それに、この政治家は世界指導ができそうにない政治家だとアメリカ国民に思われたら、アメリカ大統領にはなれないでしょうし、そう思われてしまう大統領は国民の支持を失い「内向き」な政策もうまくやれなくなるでしょう。そこにアメリカの「内向き」が完全な「内向き」になれない理由がある。 はたしてそうしたアメリカ政治の感覚が変わるのかどうか。いざとなって、外からの刺激がくると、団結し強くなるのがアメリカです。2000年の選挙では、ブッシュとゴアで大接戦でしたが、9・11テロが起きた瞬間にブッシュの支持率は90%近くにまであがり、アメリカは一気に「外向き」の「強いアメリカ」になりました。 そういうことがあるので、今の状況に、あまりとらわれ過ぎない方がいいかもしれません。太平洋の覇権を分割する?太平洋の覇権を分割する? 中国の台頭と日米同盟への影響も日本人がきちんと考えなくてはならない問題です。第二次世界大戦で、ヨーロッパの戦いはロシアが勝ったと言ってもいいかもしれませんが、太平洋の戦いに勝ったのはアメリカであり、それで太平洋の支配権を握ったわけです。それを中国が暗に「半分よこせ」と言い出せばアメリカは怒るでしょう。習近平国家主席との昨年の会談でオバマ大統領は、「われわれは中国の平和的発展を歓迎する」ときちんと釘をさしています。 かつて太平洋を二分していたのはアメリカ海軍と日本海軍です。しかし、これはうまくいかなかった。いろいろな理由がありますが、太平洋の西側を支配していたほうがアジアへ力を行使しやすいということが大きかったでしょう。日本が西太平洋を支配してアジア大陸で力を持ち、巨大な帝国を作ろうとしているように見えてアメリカは困った。 それと同じように、太平洋の西側は自分の縄張りだと言わんばかりの中国の主張を受け入れてしまうと、アメリカは何かあるたびに中国の顔色をうかがいながら太平洋の西側に入れてもらわなくてはならなくなる。ですから最近、東シナ海、南シナ海で野心を露わにしてきた中国に対して、アメリカの圧力がきつくなりました。 中国が平和的でなく台頭して地域の覇権を握るようなことをアメリカは、決して認めることができないと思います。なぜかというと、そういう中国の覇権を認めたら、日米同盟が終わってしまうからです。そうなると世界は、「アメリカはこれだけ大事な同盟を捨てた。だったら他の同盟も危ない」と見るようになり、アメリカの世界指導が壊れてしまいます。そうなれば長期的にはアメリカ自身の安全と繁栄も危うくなり、そのことをめぐってアメリカ民主主義は大混乱に陥るでしょう。 そういうことを中国がどれくらい分かっているのだろうかと時々、不安になります。アメリカが日本を好きとか嫌いとかではなく、地政学的に考えたら、アメリカは日本との同盟で太平洋の覇権を作り上げていて、世界の指導国として幸せに暮らしているわけです。それを壊そうとするような言動は、アメリカから見ればきわめて危険な火遊びにしか思えないでしょう。ウクライナ問題と日本 ウクライナ問題はロシアのクリミア併合、それに反発した米欧日による制裁およびG8からのロシア追放という事態になり、いまだに先の展開が読めない状態が続いています。クリミアはロシア人が多く住んでいるからロシア人の土地だというのがロシアの主張です。ウクライナがEUに入ることになれば、ロシアの同国への影響力は格段に落ちてしまい、クリミア半島にある大事な軍事基地もどうなるかわからなくなる。住民投票でもロシア併合が圧倒的に支持されたのだから併合した、というのがロシアの主張でしょう。 だがウクライナを支持する国々から見れば、それは力による現状変更以外のなにものでもない。しかもロシアの行動が問題なのは、ウクライナが1994年に核兵器を捨てたときロシアは米英とともに、ウクライナの安全保障を約束していることです。ウクライナにしてみれば、核があったら、今回のように領土をとられることはなかった、と思いたくなるのではないでしょうか。それは今後の世界の核不拡散体制の発展にとって、非常に大きな痛手になります。 日本が米欧とともにロシアを強く批判したのは当然です。 米欧のやりかたも賢明ではなかったかもしれません。早急にウクライナを西側に引っ張ってこようとしていますが、東部や南部にはロシア人がたくさん住んでいる地域があるので、ウクライナが分裂しかねませんし、その過程で、思わぬ衝突があるかもしれません。ウクライナ国境に軍隊を集結させているロシアの動きが気になります。 こんどのウクライナ問題にも関連して、オバマ大統領の外交リーダーシップがいろいろ批判されています。その弱さがプーチン大統領につけこまれたのではないか、という批判です。 たとえばシリア問題では、アサド政権が化学兵器を使えばそれがレッドラインだ、と言っておきながら、実際にそのレッドラインが超えられると、限定的に空爆すると言って、結局できなかった。非常に限定的なものになると言いながら、それすらできなかった。そしてその後の演説では、アメリカは「世界の警察官ではない」と言ってしまう。 アメリカが「世界の警察官ではない」と思うのは別にそれでいいのですが、言ってしまうのがまずいわけです。言ってしまえば、ああアメリカはやる気がないんだ、怖くないなとなって、その後の大統領の言葉が力を失います。 こういう場合に本当のことを言ってしまうというのは本当に困ったことです。安倍首相の靖國参拝に関しても、オバマさん自身ではありませんが、オバマ政権は「失望」したと言ってしまった。これも「失望」するのは自由ですけど、そう表で言ってしまってはいけないでしょう。アメリカがそう言ってしまえば、中国や韓国はここぞとばかり「もっと言ってやろう」となるわけで、地域の緊張をますます高めるだけなんです。やり方が下手だと思います。 この点に関連しますが、オバマ政権内には、日中関係ではあたかも日本が中国を挑発していると考えている人もいると聞きました。驚くべき話です。ちょっと考えればわかりますが、中国は核を保有し、海空軍軍力を急速に強化しつつ、日本に対して「その島は俺の島だから返せ」と言っている国です。日本がそんな国を警戒し、それに対抗しようとすることはあっても、挑発なんかするわけがない。 いま日本の安全保障の問題は、核を持たない国が核を持っている国の挑発行為にどう対応するか、という深刻な問題なのです。その意味ではウクライナ問題にも似たところがある。そこのところをオバマ政権にも本当によく分かってもらわないといけません。中国の歴史宣伝への対抗 中国の歴史宣伝にどう対抗するか。これもいまの日本外交にとってとても大切な問題でしょう。日中歴史共同研究に参加した経験も踏まえてお話ししたいと思います。 まず基本的なことからいうと、歴史というのは誰かを批判するためにあるのではなく、何かを学ぶためにあるものです。この点を忘れた歴史宣伝というのは、まったく困ったものです。 日本の軍国主義の歴史といっても、そこから学べるのは日本だけでなく、中国も、どうしたら過去の日本のようにならないか学べる。本来そういうものであってほしいところです。人を批判して何かを得ようとするためだけに歴史を学ぼうとすれば歴史理解が一面的になる。 たとえば日中歴史共同研究でも、中国側は1945年まではいろいろ言えるんです。でも、45年を過ぎたら朝鮮戦争は語れないし、大躍進は語れないし、文化大革命も語れない。まして天安門事件は語れない。私は1945年~72年までを担当していましたが、相手側には、大事なことで語れないことがたくさんあったという印象です。 二番目に、歴史宣伝が思わぬ力を持たないようにしなければなりません。困るのは、ウソを百回つかれて反論しないと、あたかもそのウソがウソではないかのように思われてしまうことです。中国にはどうも、事実より正義を重視するところがあって、事実に則っていなくても自分たちが正義だと思えば何でも言ってしまおうとする傾向があるように思えます。これに対してこちらは、あくまで事実を重視してそれに基づいて正義を論じなければなりません。 気をつけなければならないのは、本当のことも百回言わないと本当とは思ってもらえないこと。国際社会ではそうなりがちだということです。従来、日本政府は、相手のウソの宣伝にこちらがムキになって反論するのは大人げない、という態度でしたが、それでは相手の思うつぼです。黙っていると「反論しないのはやましさの表れ」とばかり、いくらでも言ってきて、「止めて欲しかったら言うことを聞け」となりかねません。それでは永遠に終わらないので、こちらは反論しなければならないのです。 その点、今回の安倍首相の靖國参拝問題で、安倍政権が中国側の批判に対して、いちいち反論することにしたのはすごくいいことだと思います。この参拝は国のために戦ってなくなった人々の魂の慰霊であり、過去の反省も踏まえて、不戦の誓いをたてるものだ、という安倍首相の真意の説明。何度も何度も繰り返すべきだと思いますし、こういう問題については「沈黙は金ならず」と覚悟すべきです。サンフランシスコ平和条約受諾演説で、吉田茂は謝罪などしていない 戦争の反省に関する歴史問題を議論すると、よく「日本は負けたんだから我慢しなければならない。サンフランシスコ平和条約を忘れてはならない」などと言う人がいます。しかしそういう人たちはサンフランシスコ平和条約で日本が反省の言葉を述べたとか、謝罪の言葉を述べたと思いこんでいる。でも、そうではありません。 そうしたことに関して唯一あるのは、吉田茂が平和条約を受諾する演説のなかで第二次世界大戦について「われわれはこの人類の大災厄において古い日本が演じた役割を悲痛な気持をもって回顧するものであります。私は、古い日本と申しましたが、それは古い日本の残骸の中から新しい日本が生れたからであります」と述べたことだけです。そしてこの言葉は、歴史認識問題の原点であり、われわれはこの気持ちを持ち続け、また述べ続けなければならないでしょう。しかし、サンフランシスコ平和条約受諾後に繰り返してきた謝罪については、これ以上繰り返してはいけません。 それはなぜか。 一つは、新たな謝罪をすれば、過去の謝罪がどんどん軽くなってしまうからです。過去の謝罪はいったいなんだったのか、ということになる。 もう一つは、新たな謝罪をすると、また新たな謝罪を求めるインセンティブを相手に与えてしまうからです。これは、よくありません。「頼めばまたやってくれる」と思わせてしまえば、それはそう思わせるほうが悪い。 よく「中国、韓国の人々の気持ちがすめばいいではないか」と言う人がいますが、日本と両国との長期的な関係にとってよくないことを言っていると思います。もちろん善意で言っておられるのでしょうが、それで新たな謝罪をすると結果的に問題をこじらせ、かえって関係を悪化させてしまうでしょう。これまでの謝罪と反省の歴史は何度でも繰り返して説明すべきだと思いますし、吉田のような気持ちを多くの日本人が持っていることをはっきり伝えるべきです。ですが私は、新たな謝罪はすべきでないと思っています。尖閣問題は解決済みだ尖閣問題は解決済み 尖閣諸島問題については、中国は昔から自分のものであるのに日本が盗んだと言っていますが、日本が領土として編入した時点で、実際に中国が領有していた証拠がありません。また本当に領有していたならば、なぜ日本に「盗られた」後、75年間も黙っていたのか。 中国政府は最近、1943年の「カイロ宣言」を挙げ、「日本国が清国人から盗取したすべての地域を中華民国に返還する」とこの宣言に書いてあるから返せ。ポツダム宣言の第八項に「カイロ宣言は履行すべし」と書いてあるから返せ、と日本を責め立てています。 たしかに日本はポツダム宣言を受諾して戦争を終わらせました。ただポツダム宣言というのは、基本的に戦争を終わらせる条件の大枠を決めたものであり、敗戦国日本が国際社会に復帰する具体的条件は、その宣言を背景にした平和条約に書いてあるのです。 平和条約にはどう書いてあるかというと、尖閣諸島が含まれる沖縄県の地位については、第三条に「日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)、孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する」とある。つまり米国の施政権下におくと書いてあるのです。 そして大事なポイントは、サンフランシスコで平和条約を議論する講和会議(1951年9月)において、米国全権ダレスが、米国は沖縄の施政権を持つが、主権は日本に残る。日本には「残存主権」(residual soverei-gnty)があると明言していることです。 その20年後、1972年の沖縄施政権の返還は、これらの了解のもとで、施政権を返還したものです。よく施政権が返ってきただけだ、という言う人がいるのですが、それは意味のある議論ではありません。なぜなら、日本はすでにサンフランシスコ平和条約によって尖閣諸島を含む沖縄の主権を回復していたからです。返ってくるべきはもちろん施政権だけだったわけです。 こう言うと中国側は、「われわれは講和会議に招かれなかった。サンフランシスコ平和条約は認められない」と言うでしょう。中国が招かれなかったのは、アメリカをはじめ国連軍と朝鮮戦争を戦い、国連から「侵略者」の烙印を押されたからです。 しかしサンフランシスコ平和条約での領土処理が受け入れられないということだったら、1972年に日中の国交回復を話し合う場で、つまり日本と中国との戦争に決着をつけた場で、中国は「尖閣はカイロ宣言に基づいて返せ」と言わなければならなかった。しかし、田中角栄が尖閣はどうするのか聞いたにもかかわらず、周恩来は「今は話したくない」と答えています。日中共同声明を出すときに話したくなかったら、いつ話すのか。 日中共同声明の第一項には、「日本国と中華人民共和国との間のこれまでの不正常な状態は、この共同声明が発出される日に終了する」と書かれているのです。当然、この時点でカイロ宣言についても決着がついたということになるでしょう。そう考えると中国側はいまさら「カイロ宣言にもとづいて返せ」とは言えない。40年以上前に決着がついている話なんです。 尖閣問題で一番大切なことは、これが小さな島をめぐる小さな問題ではないということです。よく「大局的に考え領土問題として話し合ってはどうか」という人がいますが、それはできません。なぜなら、いま中国がやっていることは、正義に基づかず、力を背景に現状を変更しようとする試みだからです。それを認めては今後の日中関係は絶対にうまくいきません。この問題で譲るのは無理なのです。 それで戦争になったらどうするんだ、という心配があるかもしれません。しかし、いまの中国はまだこの問題で日本と戦争するほど強くありませんし、その気も無いでしょう。正義のためだったら死んでもいいとまでは思いませんが、正義を言うことができるときに言わないのは、まったくの不正義だと思います。 不正義を受け入れて日中関係を長期的に安定させることはできません。そして、もしこの問題で日本がそういうことをすれば、南シナ海の領有権問題にも重大な影響を与え、アジア全体が混乱してしまうでしょう。自分のことだけ考えていればいいという問題ではすでになくなっています。世論工作にも力を もう一つの大きな歴史問題に河野談話があります。 ハーバード大学の政治哲学者マイケル・サンデルの有名な著作『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)は、全体としてとてもよい本だと思うのですが、ひとつだけ当惑するのは、この本の中でマイケル・サンデルが、国家にとっての歴史の重みの議論として、三つの例を並べているところです。その三つの一つはナチスのホロコースト問題、もう一つはオーストラリアのアボリジニの問題、そしてこの二つに並べて日本の慰安婦問題がとりあげられている。さらに何万人もの朝鮮やアジアの女性が強制的に日本兵の「性奴隷」にされたというようなことが書いてある。河野談話そのものよりも、談話の意味が誤解されていることが問題だ この例を見てもそうですが、河野談話は談話そのものよりも、談話の意味が誤解されているところが問題なのかもしれません。河野談話の本来の趣旨は、慰安婦の制度というのは、当時はそう考えなかったが、いまから振り返って考えてみれば、女性の尊厳と人権を深く傷つけるものであり、たいへん申し訳なかった、と政府が謝罪することだったのではないでしょうか。 もちろん河野談話は、きちんとした調査に基づかずに、官憲の関与を不用意に認めてしまったところが問題です。ですがこの談話は、当時は日本国籍であった朝鮮人の女性を軍が強制連行して慰安婦にしたというようなことを認めた談話ではありません。この点はあらためて明確にする必要があると思います。 もちろん女性の尊厳と人権にかかわる問題ですから慎重に、匍匐前進をするかのように時間をかけてやっていかねばならないでしょう。ですが、事実は明確にしてこの談話にまつわるひどい誤解を解く必要があります。 日本は、歴史問題について欧米での世論工作にもっと力をいれるべきです。昨年、エズラ・ヴォーゲル教授(ハーバード大学の知日派)とお話しする機会があったのですが、その際に教授は「アメリカやヨーロッパでは日本の謝罪のことは知られていない。日本はもっと説明した方がいい」とおっしゃっていました。私もそのとおりだと思います。 なぜ、アメリカやヨーロッパで説明しなければならないか。その答えは簡単です。中国や韓国は、アメリカやヨーロッパの世論にも強く働きかけて日本を批判しようとしているからです。 中国や韓国が歴史認識問題で日本を攻撃しようとしても、得にならないどころか損になる。そういうことに気づくまで、もう戦後70年にもなりますが、われわれの謝罪と反省の歴史を繰り返し説明すべきです。ある新聞がそのことを「積極的説明主義」と書いていましたが、いい言葉です。 われわれは、歴史問題を言われ続けると、つい、この歴史の重荷を何とか降ろせないものか、と考えてしまいます。しかしそれをやろうとしてはいけません。世界のどの国にも背負うべき歴史の重荷があり、たとえば米国の奴隷問題もそうですが、歴史の重荷というものは降ろそうとして降ろせるような性格ものではないからです。 われわれにできることは、この重荷を背負うわれわれの足腰を鍛えることだけです。「積極的説明主義」はその意味での足腰の鍛錬になるでしょう。われわれの足腰を鍛え、たまには他国の足腰の弱さも指摘してあげる。そうしているうちに重荷がだんだん軽く感じられるようになる。そういうことではないかと考えています。さかもと・かずや 1956年福岡県生まれ。大阪大学教授。京都大学法学部卒、同大学大学院法学研究科修士課程修了のあと、オハイオ大学に留学。帰国後、京都大学法学部助手、三重大学人文学部助教授、大阪大学法学部助教授などを経て、現職。2009年には第九回正論新風賞受賞。近著に『日米同盟の難問──「還暦」をむかえた安保条約』(PHP研究所、2012年)がある。

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    カネと宣伝で中国に幻惑される米国

    ヘンリー・S・ストークス(元『ニューヨーク・タイムズ』東京支局長)加瀬英明(評論家)北村稔(立命館大学教授)中国に幻惑される米国加瀬 安倍首相の靖國参拝に対しての世界の反応を見ると、いかに中韓の宣伝戦が成功しているかがわかりますね。同時に、日本がどれだけ宣伝戦において遅れをとっているか、ハッキリしたと思います。 昨年12月、ワシントンを半年ぶりに訪れましたが、アメリカはこんなに変わったのかとショックを受けました。オバマ政権もそうですが、議会も、主なシンクタンクも、中国の目覚ましい興隆がこれからも続き、日本は衰退していくという認識なんです。尖閣諸島を覆うように設定された中国の防空識別圏(英『エコノミスト』誌) ちょうど中国が尖閣諸島を覆うように防空識別圏を設定しました。アメリカはそれを認めないといい、グアム島からB-52を2機飛ばして、その防空識別圏を横切らせるという、型通りの反発はしましたが、それだけでした。バイデン副大統領は北京で習近平と会いましたが、本当にアメリカが中国の防空識別圏に対して強く反発するのでしたら、訪中すべきではない。しかも、会談時間は安倍首相の倍の時間を費やしています。 1996年に李登輝総統が総統選挙に出た時に、中国が台湾を威嚇するため、台湾海峡にミサイルを撃ち込んだことがありました。あのときは、アメリカは第七艦隊を台湾海峡に派遣し、すぐに上院で中国の危険な挑発について公聴会が開かれました。しかし、このたびの中国の防空識別圏設定に対して公聴会のカゲもありません。 中国に対する非難がほとんどゼロなのに、安倍首相の靖國神社参拝については、アメリカの識者やマスコミは「暴挙」「挑発的」という議論ばかりです。 駐日アメリカ大使館は「アメリカ政府は失望した」と発言しましたね。ところが、小泉首相が6回にわたって靖國神社を参拝したときには、ブッシュ政権は一言も批判めいたことを言っていません。この数年でアメリカが大きく変わりました。北村 それは民主党のせいなのでしょうか。それとも、アメリカ議会筋に変化があったのでしょうか。加瀬 中国に幻惑されているのだと思います。支那事変のころ、介石政権はアメリカ議会、研究所、マスコミを金漬けにしました。それと同じことを今の北京政権が行なっている。ワシントンポスト紙には毎日チャイナ・デイリーの英語版が折り込まれているのです。英語メディアの重要性北村 そう、英語のメディアって大切ですよ。中国人がやっているように、お金を使って英語で世界に自国の主張を広げるということは、情報戦の基礎ですよね。日本人はあいかわらず情報戦への認識がない。「謀略」を嫌がりますし、「無謀」という言葉もある。日本人のスタンスは謀略と無謀の中間だと思うのです。「謀略をやると相手を騙しているようで悪いし、無謀って言うとバカだ」と(笑)。ストークス 日本人はこちらが誠意をつくせば、相手もそうこたえてくれると思っている。のんびりしているんです。北村 中国人なんて、孫子の時代から二重スパイが一番大事で、君主たる者は、二重スパイをいかに使うかが資質として求められたのです。『なぜアメリカは、対日戦争を仕掛けたのか』(祥伝社)加瀬 ストークスさんとの共著『なぜアメリカは、対日戦争を仕掛けたのか』(祥伝社新書)のような、時系列で追ったものが今までなかったのですが、やっていて、日本の喜劇性とアメリカとの差に然としました。 アメリカは一貫して日本を叩き潰そうとしていましたが、日本は最後まで誠意をもって和平努力を続けていました。これは、昭和天皇が謀略などを一切お許しにならなかったことが大きいと思うのです。 アメリカではルーズベストの前任者のフーバー大統領の回想録が一昨年出ましたが、その中で「このあいだの日米戦争はルーズベルトが一方的に悪い。ルーズベルトが仕掛けた戦争だった。彼は狂人だった」と書いています。北村 蔣介石の国民党からすると、アメリカが出てくると日本に勝てるわけですから、真珠湾攻撃の日の彼の日記には、「神は助け給うた」と書かれていますよ。アメリカに参戦してほしいので、蔣介石は色々な謀略をするのです。国際宣伝処をつくって、「日本軍は残虐で中国人は一所懸命抵抗している」ということを、英語メディアに訴える。外国人記者を抱え込んで、ネットワークを作るんですね。今もいきる「記者協定」加瀬 日本は日中記者協定で「中華人民共和国を批判するような報道はしません」と取り決め、今でも有効なんです。ストークス 日本の新聞・テレビは、言論の自由を自ら否定している。それでいながら、民主主義という言葉をさかんに振り回す。その言葉を使う資格があるのか、と言いたい。北村 だから、中国で暴動が起こっても、映像を他の通信社から買って流しているんじゃないですか。 以前、日本の新聞社の北京支局に行ったら、雇っている現地の中国人スタッフに話を聴かれてしまうから、「外で話そう」と連れ出されました。そのときの話では、中国人スタッフを雇わなければならないのだ、とのことでした。中国の情報網が緻密に張り巡らされて、日本は頭から抑え込まれている状態なんです。 中国人は長い歴史の中で、外交でいかにお金を使って相手を取り込むかということに長けています。 かつてアイリス・チャンの『レイプ・オブ・ナンキン』の売れ行きがすごいと騒がれましたが、あれは在米華僑が買い占めたのです。アメリカ人の編集者たちの間ではそう言われていました。お金を使って操作し、事態を盛り上げていくのは昔も今も得意です。共産党も国民党も、同じ知恵を持っているんでしょうね。「アメリカ人が幻惑されているのではないか」との話がありましたが、まさにその通り。中国人のパフォーマンスは決して弱気になることはありません。深刻に考えたりせず、強気で押してきます。ビジネスでも何でもそうです。 日本人は「おとなしくて誠実にしていれば正義は理解される」と思っていますが、そんなの相手にわかるはずがありません。中国人は思い切りお金を使って自分に有利なようにする。を言うことに対しての恥の概念がまったくありませんし、政治のレベルから個人のレベルまで徹底しています。これでは日本人はかないませんよ。中国人を好む米国人加瀬 以前、日本政府の対米折衝をお手伝いしたときに、キッシンジャーが国務長官でした。お酒の席で「なぜアメリカ人は日本人より中国人を好むのか」と聞いたことがあります。すると、「中国人は論理的で話がわかりやすいけれども、日本人は何を考えているのかさっぱりわからないから苦手だ」と言われました。ストークスさんも最近のご著書の中で「西洋人はディベートの社会であり、中国人も同じくディベートの社会だ」とおっしゃっていますよね。論理的で「正しい、間違っている」の判断がはっきりしています。北村 中国人は、論理的でなくても、自分に有利なように見せかけることが得意なんです。理屈を言ってダメだったら、また別の理屈を持ってきて、理屈を積み重ねていきます。そこに「恥ずかしい」という概念はありません。加瀬 アメリカ人も多分にそうですね。ストークス 日本人は和を大切にしているので、私が正しい、おまえは完全に間違っているといって、相手をやり込めることをしません。リクツ(理屈)といって、嫌われます。白と黒をハッキリさせずに、相手の顔も立てようとしますね。ところが、日本の外では和の心は通用しません。日本人のよい面が、外国では裏目に出る。北村 個人的な話で恐縮ですが、私は外国に行くとダブルスタンダードで行動します。問題が起こったら常に権利を主張するようにしています。自ら引いてしまうと、やられる一方だから。加瀬 ストークスさんは日本外国特派員協会(=FCCJ)の最古参ですよね。ストークス ロサンゼルス・タイムズのサム・ジェームソン氏が私よりも少し前に来日しましたが、サムが他界したので、私が最古参です。加瀬 僕も協会の古いメンバーで、実はストークスさんよりも古参なのですが、協会所属記者のほとんどが反日ですね。たとえば、ニューヨーク・タイムズの特派員でニコラス・クリストフ記者はとにかく日本を憎んでいるとしか思えなかった。ストークス 彼には中国生まれの中国人の奥さんがいますから、その影響もあるかもしれません。加瀬 あるとき、クリストフ記者が僕に取材をしにやってきたのです。僕は昔からニューヨーク・タイムズに署名原稿を書いていて、ニューヨーク・タイムズの持ち主だったイフジン・サルツバーガー夫人と個人的に親しくしていたので、手紙を何通か持っていたのです。それを見せたら突然態度が変わって椅子から床に落ちそうでしたよ(笑)。インタビュー記事を見たら、僕のことを褒めているんです。北村 アハハハハ(笑)。特派員協会には日本嫌いの記者ばかり日本嫌いの記者ばかり加瀬 クリストフ記者をはじめ、協会にいる欧米の記者は、なぜ日本嫌いが多いのでしょうか。昨年末12月26日、安倍首相が靖國神社に参拝したことに関しても、また、慰安婦のことに関しても、日本を非難する記事ばかりでしょう。『連合国戦勝史観の虚妄』(祥伝社)ストークス 外国特派員協会は、占領下に創立されたころから反日です。42年前に来日した時、協会があまりにも“アメリカ的”なので、私はアメリカ人記者とは少し距離を置いた見かたをしていました。クラブのバーで年配のアメリカ人記者たちがサイコロをふったり、賭け事にふけっていました。西部劇のような空気でしたね。日本人に対しても、「クサイ」といって侮る態度をとったり、ハナから反日的でした。そういう戦勝気分にひたった記者たちがいなくなってきたので、だいぶ変わってきましたが、反日的空気は多分に残っています。 それに、先の戦争で日本人によって白人の天下が壊されてしまったという怨念が心の底のどこかにありますね。 このところ、一番の問題は、フィナンシャル・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルに駐日特派員が記事を書いてもめったに掲載してくれません。たとえばニューヨーク・タイムズでは一面トップは中国に関する記事が掲載されます。 中国は巨額の資金を動かしているわけですが、それに比べると、日本がアメリカなど海外で使うお金はまるで目薬の一滴のごときものです。加瀬 アメリカ人から見ると、中国はいまだに非常にロマンチックな国で、日本はそうではないようですね。親しいアメリカ人などと話すと、日本人が「日本がまたアメリカよりもいいものをつくった」といって不快感を買うのに、中国人相手だとよいものを創る力がないためか、そんな感情は起こらないようです。中国に対しては親しみがあるんですね。ストークス ウォール・ストリート・ジャーナルなども「世界の工場・中国」と記事を発信していますけれど、友人たちも誰もが口をそろえて「中国は世界の工場だ」と言います。何といっても中国が動かしているお金は、目がクラクラしてしまうほど莫大なのです。火をつけたのは朝日加瀬 ストークスさんは、南京大虐殺について北村稔先生のご著書を読まれてたりして、「日本がホロコーストに近いことをやったなどというのはでっち上げである」ということを理解するようになったとおっしゃっていますよね。慰安婦についても韓国が言うことはおかしいと確信するようになられたと。 しかし、僕が欧米の親しい人たちに、様々な資料を英語で提供して話をしても、なかなか信じてもらえないのです。彼らはあまり関心を持ちません。 マイケル・グリーンのような親しい友人に慰安婦や南京事件の話をすると、「ナチスのホロコーストと同じように公理になっているから、そのままにしておいて言わない方が日本のためだ」と言うのです。「もうそうなってしまっているから、そんなことを今持ち出すとかえって日本が損をする」というんです。ストークス これまで日本政府が放置しておいたために、南京事件も慰安婦問題も、深い根を張るようになりました。 それに、南京事件も戦後かなり長い間、欧米で話題にならなかったのに、日本の朝日新聞などのマスコミが、そんな事実はなかったのに大きく取り上げ、日本の学校教科書にものるようになった。慰安婦についても、韓国が何もいっていなかったのに、火をつけたのは朝日新聞です。両方とも、多分にメイド・イン・ジャパンです。北村 私が子供のころは「南京大虐殺」など誰も言わなくて、日本人もあんなものはだと思っていたのでしょう。中国人ですら、済んだことだとしていたのに、蒸し返したのは朝日新聞の本多勝一記者でしょう。日本が中華人民共和国との国交を樹立した1972年に、『中国の旅』を出版して、日本軍人の「百人斬り」の話を持ち出してきた。これに対して日本国内で反論が出現すると、もともとの言い出しっぺである台湾の国民党が総力を挙げて資料集を出してきた。さらに中国共産党も、南京攻防戦には全く関係ないのに、台湾があれだけ騒いでいるなら、と資料を出してきました。蒸し返したら、どんどん事態が大きくなってしまったのです。 私は2001年に文春新書で『南京事件の探究─その実情を求めて』を出版しましたが、すでに「一回土俵を割っている」テーマですから、日本人の反論は一切援用せずに、南京陥落当時の西洋人たちの言説の中に虐殺のことが書いてあるのかを検証しました。 そして、裁判の陪審員制度を念頭において、「常識を備えた人間は、この資料をどう判断するか」を検証してみたのです。 さらに新書の出版に先立ち、『東亜』という雑誌に論文を書いて、それに対する研究者たちの意見も新書に盛り込んだものですから、簡単には反論できない仕組みになっていました。 それでもまだ色々言っている人は、真実がどうかということではなくて、「私がそう思っているんだ。過去の日本は軍国主義であり、その悪の象徴は南京大虐殺なんだ」と信じていて、それをひっくり返されると非常に不愉快なようです。 このあと確信したのは、東京裁判のときに、ナチスのホロコーストと同じような民族虐殺を演出しないと、先制攻撃を計画したA級戦犯という罪名だけでは戦争指導者を死刑にできないから南京事件をフレームアップした、ということです。ニュルンベルク裁判で死刑になったのは、みんなA級戦犯とユダヤ人虐殺=人道に対する罪(いわゆるC級戦犯)との併合罪ですから、なんとかしてホロコーストに匹敵するものを作り出そうとしたのです。ストークス 外国特派員協会で北村先生のお話を伺って、私も目が開かれました。奇襲攻撃は、アメリカの“お家芸”北村 A級戦犯も、ロンドンに設置された連合国戦争犯罪委員会の当時(1944年)の議論では、「立ち上げるのは無理だ」とされていました。戦争をやること自体はずっと認められていたわけですし、先に手を出したほうが侵略戦争(aggressive war)の定義ですから、それだけで戦争犯罪人として重罪を課すのは無理だと言われていたのです。のちにパリ不戦条約がA級戦犯の根拠にされますが、当初はだれもそんなことを考えてはおりません。 それでもA級戦犯の創出に固執したのは、ドイツに痛めつけられていたチェコの亡命政権でした。政権を代表して出席していた弁護士のエチェルは「ナチスドイツの戦争は通常の戦争ではなく、民族虐殺をともなう邪悪な戦争であり、責任者を一網打尽にするためにはA級戦犯の立上げが不可欠である」という論陣を張っていました。元々はナチスドイツが憎かった。日本など全然関係なかったのです。そして日本と交戦状態にあった中国とオーストラリアの代表だけが、エチェルの意見を支持していました。 このあとドイツが昭和20年の5月に、日本は8月に降伏します。連合国側は、三国同盟との関係から日本にも戦犯の条件を適用しようとしました。 そしてドイツ敗戦直後にユダヤ人強制収容所が解放され、本当に無茶苦茶なことが行われていた事実が判明したので、それまで少数意見だったA級戦犯の立上げ気運が一気に進むのです。ドイツを罰しようということです。 日本はその流れの中に巻き込まれ、裁判を補強するために南京大虐殺が捏造されたのです、ナチスのとばっちりですよ。日本人はユダヤ人に対する人種差別なんてしていませんからね。ユダヤを救ったのは日本加瀬 イギリスもアメリカもユダヤ人を見殺しにしていたのを、日本人が救ったんですからね。ストークス そうですね。1938年にナチスの迫害を逃れた2万人近いユダヤ人難民が、シベリア鉄道に乗ってソ満国境の満洲里の向う側のオトポールまで、次々と到着しました。零下20度の厳寒でした。しかし、満洲国への入国ビザがなかったので、ソ連はヨーロッパへ送りかえそうとしました。このときに、人道上の理由によって、ユダヤ難民の入国を許したのが、関東軍の東條英機参謀長でしたね。加瀬 当時、ハルビンのユダヤ人協会のカウフマン会長の息子が、八十数歳で、イスラエルのテルアビブにいましたが、ジェネラル・トージョーが救ってくれたと感謝していました。その前に、日本政府は「ユダヤ人を差別しない」と決定していました。北村 世界中がユダヤ人を見殺しにしています。映画監督のスピルバーグが日本びいきなのは、彼がユダヤ系アメリカ人として、そのあたりの事情をよく理解しているからだと思います。加瀬 国際法では、自衛のためなら先制攻撃を加えてもいいのです。アメリカを例にとると、テキサスをはじめとする州を隣国メキシコから奪う時、先制攻撃を加えて米墨戦争を始めています。 また、スペインからフィリピン、グアム、プエルトリコなどを奪いましたが、この米西戦争は1898年、アメリカの奇襲攻撃によって始まっています。 ハワイも米西戦争と同じ年に、海兵隊を突然上陸させて強引に併合しています。そもそも、アメリカは北アメリカ大陸を盗み取ったではありませんか。 宣戦布告をせずに奇襲攻撃をかけるのは、アメリカの“お家芸”なんですよ。北村 そもそも「戦争」は「やりますよ」「はい、やりましょう」なんて言って始まるものではありません。ヨーコもレノンも靖國を参拝ヨーコもレノンも靖國の参拝ストークス 1985年の夏、息子と家内、家内の母と一緒に靖國に参拝したことがあります。家族でよく靖國神社の近くを通っていたので、参拝するのはすごく自然な成り行きでした。何度も靖國神社の正殿参拝をしています。 色々な国が安倍首相の靖國参拝を批判することは、私にとって本当に理解できないことです。アメリカにはアーリントン墓地もありますし、北フランスには第一次世界大戦のイギリス兵の戦死者の墓があり、多くの諸外国の方々がお参りをしていますが、誰もそれに対して文句を言う人はありません。 私が通っていた全寮制の学校は600年の歴史がありますが、敷地内に戦没者追悼施設がありました。その追悼施設の前を通る時は必ず帽子をとり、敬礼をしたのです。その学校に通っていた少年たちは、将来イギリス軍の将校となるから戦死者に敬意を表していました。 そういった墓地と靖國神社の違いは、「霊力」を感じるかどうかです。靖國は素晴らしいです。常に祭祀が行われ、温かいものを感じます。いつも家族連れで賑わっています。アーリントンは靖國と違って、いつも閑散としていますね。ぜひヨーロッパにもそのような神社があったらいいんですけれどね。加瀬 私はオノ・ヨーコのいとこですが、ヨーコとジョン・レノンは東京に来ると、靖國神社にお参りしていました。日本の若い人にいうと、「ウソー!」といいますが、AP通信社が撮った写真があります。 南京大虐殺や慰安婦に関して、事実に基づく説明をしようとしても、耳を傾けてくれないのはどうしてでしょうか。ストークス 南京事件に関しての最重要人物はティンパリーでしょう。彼がスパイであったことを北村先生が『南京事件の探究』で暴いておられます。 支那事変は、国民党、共産党、日本の三者がかかわって戦いました。日本も戦争ですから多少は悪いことをやっているでしょうが、中国側が一方的に日本だけが悪いことをやったと針小棒大にいうことは私としては受け入れられません。 日米もお互いがお互いを理解することが重要です。 アメリカ人は、ペリーが日本に対してした酷い仕打ちをまったく理解していません。ペリーが平和だった日本にやってきて、法を無視して武力で江戸をレイプしたのです。それがその後の日本に大きな影響を及ぼしました。日本のあり方をペリーが歪めてしまったのです。そこに源流があるということを、日本人の大多数もよく理解していませんし、ましてやアメリカ人はペリーがいいことをやったと自負しているのです。私はペリーの研究者で、本を書いているところです。真珠湾攻撃はその報いだったともいえます。事実なんてどうでもいいストークス 私は『連合国戦勝史観の虚妄』のなかで、東京裁判がどれほど不正なものであって、裁かれるべきだったのは日本ではなく、連合国だったと説きました。日本は侵略国家ではなかった。それなのに、多くの日本国民がなぜか東京裁判史観を信仰して、逆立ちをしています。私の本を読んでください。南京事件は完全にでっち上げたものです。これが一番の基本です。それを日本の学校教科書にのせているのですから、理解できません。北村 中国では、政治目的のためなら、平気で嘘をでっち上げます。劉少奇は共産党のナンバー2であり、社会主義の枠組みのなかで国家建設に取り組んでいたにもかかわらず、あろうことか「資本主義を復活させようとする実権派である」という烙印を押されて悲惨な死を強いられました。南京事件をでっち上げたけでなく、中国の歴史では種々のでっち上げが、一貫して行われてきました。たくさんの嘘をでっち上げますが、そのうち幾つかは、後に時の政権による名誉回復が行われる。そして名誉回復を公式に行わない限り、「あの人は、実はいい人だった」ということにはならないのです。政治文化上の一種のゲームです。西洋人にも日本人にもそんな政治風土はありませんから、中国人があんなにも言い張るのだから全くのではないだろうと思ってしまいます。 私の本を英訳してくださったハル・ゴールド氏も言っていましたが、アメリカ人は南京事件にあまり興味が無いのです。そして先ほど申し上げたように、アイリス・チャンの『レイプ・オブ・ナンキン』の大ブレークも、買い占めの結果であることは出版関係者の間では知れ渡っていたといいます。 我々は、事実をちゃんと世界に伝えなくてはならないと考えていますから、「あんなものは嘘だ」と反論しますが、アイリス・チャンにとっては事実かどうかは関係ないのです。日本を叩いて、それが中国の利益になるのであれば、愛国者として讃えられる。英語版が出版される『日中戦争』(PHP研究所) 2008年に上梓した『日中戦争──戦争を望んだ中国 望まなかった日本』(PHP研究所)の英語版が、このたび出版されるはこびとなりました。共著者の林思雲さんは中国人ですが、「中国人にとっては事実なんてどうでもいい。言ったことが政治的にプラスになれば平気で嘘をいう」と述べています。 以前、大学の同僚で誠実な人柄の中国人研究者に、南京事件に関して「あんなにをついたら、日本人なら人格が目減りしてしまうと思うものだけれど、そんなことでいいのですか」と質問してみると、「敵にダメージを与えるためならやっても構わないと思います」という答えでした。 日本人が「人間というものは、あんなに嘘をつくものではない」と真面目に取り組もうとしても、み合いませんし消耗するだけですから、「また嘘をついているな」という気持ちでかからないとダメです。 林思雲さんによると、個人的に騙そうとしているのではなく、自分たちの所属している共同体のためにプラスになるのであれば嘘をつくのだそうです。 そして中国人も全て嘘だとわかっていても、「嘘だ」というと売国奴にされるのでそういう発言はしない。ですからそのが拡大してしまうのです。1959年の大躍進政策の時も、信じられない量のお米が収穫されたという記事が人民日報に載るのですよ。加瀬 朝日新聞にも「あまりにも豊作で、稲の上に寝っ転がれる」と載っていましたよ(笑)。北村 さすが朝日ですねぇ(笑)。加瀬 これは中国共産党が始めたことではなくて、「儒教」がそうなんです。日本では儒教はよいものにつくり変えられて、道徳の教えですが、中国では統治思想ですね。北村 そうですね。加瀬 ある村に羊を盗んだ父親がいて、そのことを息子がばらした。それを孔子がひどく叱っているのです。身内が不祥事を起こした時は、絶対外に漏らしてなならないのです。ですから、2011年に起きた温州市鉄道衝突脱線事故でも、証拠隠滅のために大きな穴を掘って埋めてしまいましたよね。中国は共産主義国家であるというよりは、いまでも儒教国家です。北村 そうなんですね、体質は伝統的な儒教国家なのです。私は2005年に『中国は社会主義で幸せになったのか』(PHP新書)を上梓しましたが、社会主義の衣を着た封建王朝が中華人民共和国であり、それは中国人にもわかっているのです。トウ小平は1979年に改革開放政策を開始するに当たり、資本主義の生産様式を導入することにより中国社会の封建的要素を一掃し民主的な社会主義社会を実現するのだ、と豪語しました。しかし結局は経済の自由化に伴う民主化の進展が、共産党の一党独裁と衝突し、10年後には天安門事件が発生しました。ミラーイメージ加瀬 外交をやる上で一番重要なことは鏡のイメージ(mirror image)であると思います。これによって、選択を誤ることが多い。つまり、「相手の国も自分たちと同じような価値観をもって考え、行動するに違いない」と思い込むけれども、実際には自分の姿を鏡で見ているだけなのです。 南京事件や慰安婦問題についてもそうです。日本は歴史を通じて奴隷制度がなく、奴隷がいないのです。ところが、韓国にも中国にも、西洋にも奴隷がいます。また、大虐殺が繰り返し行われています。中国もヨーロッパも、「都市」というのは日本やイギリスの城とは違って、都市を全部ぐるっと高い城壁で囲っているのです。南京もそうですね。歴史上、中国でも欧州でも、城壁の中の者を皆殺しにしてしまうのです。ところが、まず日本史では“虐殺”がありません。日本で合戦があると、一般の庶民は殺しません。北村 「ここから逃げろ」と城の一角を開けておきますよね。加瀬 戦国時代は、近所の百姓や町民が弁当をもって土手のうえから合戦を見物しているのです。そして城主が責任をとって腹を切ると、他の者は許される。西洋は宗教戦争や宗教裁判もありましたが、30年戦争では数百万人が殺され、異端裁判では数十万人が拷問され、焼き殺されています。 日本では、秀吉が最初は宣教師を歓迎します。しかし、宣教師によって扇動された信者が神社仏閣を破壊したり、日本人を捉えて金儲けの為に海外に奴隷として売り払っていました。これには秀吉も怒って、キリスト教を禁ずるわけです。それでも、踏み絵をして改宗すれば許されたのです。改宗せず処刑されたのは数千人です。北村 マニラに放逐された高山右近らの例からもわかるように、「信仰を捨てたくないのなら海外へ行け」と、かなり人道的でしたよね。加瀬 1972年に日中国交正常化をしましたが、それ以来、「ミラーイメージ」によって中国も日本とあまり違わないと思ってしまっている。ところが、いま、その高いツケを支払わされているのです。北村 経済が発展して中産階級が出現すれば、中国社会も民主化するのではないかと甘いことを考えていたら、急速な経済発展の結果として生じたのは格差だけでした。その理由は、富を平等に分配する仕組みがないからです。要するに、万民に平等に適用される法律が存在せず、権力さえ握れば何でもできる。「慰安施設を作れ」と命令したGHQ「慰安施設を作れ」加瀬 アメリカ人もヨーロッパ人も奴隷制度を行っていたし、大虐殺も繰り返し行っていたから、「ミラーイメージ」で日本人も同じようにすると思っているのです。ですから、南京大虐殺も性奴隷も「アリ」と思ってしまう。ストークス 中国には中国の立場、見かたがあります。西洋が侵略してきて、生き残りをかけた戦いを中国もやってきたのです。もっとも、介石政権は日本を挑発して戦わせて、アメリカから援助を引き出そうとしました。 それに歴史的に夷狄として見下してきた日本に日清戦争、義和団の乱以来、上に立たれた悔しさがあります。いまでも、日本に我慢できないんですよ。北村 中国人は何千年も前から外から攻め込まれていますから、侵略にはものすごく敏感です。日本のことも怖いのです。先日の研究会で若手の中国研究者と話しましたが、中国人は日本のことを怖がっているのだというのです。それは「ミラーイメージ」というよりも、思い違いの一種だと思いますが……。 慰安婦のことについては、先ほどのゴールド氏は、「西洋と日本とでは、売春に関する考え方が全く違う。西洋の場合は、国家や軍が見て見ぬ振りをすることはあっても、日本のように表立って容認することは絶対にない。その結果、第一次世界大戦では大量のアメリカ軍兵士がヨーロッパ戦線で梅毒に感染してしまったそうです。しかし軍は慰安婦としての売春婦の存在を容認しなかった。容認してしまうと、売春という存在してはならない悲惨な職業に、国家が組織として関与してしまうからだ」と述べていました。 女性史を研究している女性研究者の講演を聞いたことがありますが、廃娼運動を推進したキリスト教の救世軍の根本にある考えは、日本人の想像する「かわいそうだから」という理由とは違って、「汚い、いかがわしい女が自分たちの夫や息子と交わることを根絶する」というものだそうです。“汚いものを社会からなくす”という考えなのです。日本の場合は江戸時代以来の遊郭文化があるし、吉原でも年季が明けたら遊女は結婚したりしているので、売春をとりまく社会的状況がまったく違う。ゴールド氏は「これを説明するのは大変だ」と言っていました。マッカーサー総司令部は慰安施設に「レクリエーションセンター」と名付けた。ずいぶん“婉曲”ですねぇ加瀬 日本が戦争に敗れてアメリカ軍が進駐してきて、マッカーサーの総司令部が日本側に命令した最初の一つが「慰安施設を作れ」というものです。 アメリカ人は今頃になって「慰安婦を“comfort woman”と婉曲にいうのはよくない」と言いますが、日本に進駐してきたマッカーサー総司令部が慰安施設につけたのは「recreation center」です。「婉曲的」だとか非難できる立場ですか! 世界中の国の中で、日本の慰安婦を批判する資格のまったくない国は、韓国です。 韓国では今でも日本製の漢語をそのまま使っており、駅の改札口から窓口まで、数千あります。 李承晩政権時に朝鮮戦争が始まって、米軍が来た際「慰安婦」を設けました。韓国語でウィアンプと発音します。これは日本語です。1964年に時事通信特派員として韓国に行った際、東亜日報に「慰安婦募集」という広告が掲載されていたのです。当時はまだ漢字も使っていましたから。僕は昭和20年8月15日で「慰安婦」というものは世界からいなくなったと思っていたのですが、韓国で見てびっくりしました。韓国国軍幹部にインタビューした際に、「なぜまだ慰安婦が韓国にあるのか」と聞いたところ、「私は日本の帝国陸軍の将校でした。韓国は国軍を作ったときに、日本軍で将校をやっていた者が幹部になりました。ですから、日本軍の制度をそのまま使っています」と言っていました。 その後、『日本軍と性暴力』という研究書を韓国の学者たちが書きましたが、韓国政府の圧力で絶版になったのです。 その中に、「慰安婦制度を韓国が設けたのは、国連軍に感謝するためと、一般の子女を守るためだった」「韓国軍情報部が、その辺を歩いている娘をさらって強姦をして、一日のうちに慰安婦になることを強制した」ということが出ています。ストークス もっとも私がはじめて日本に来たときには、外務省で銀座のホステスを外国記者に提供することがごく普通に行われていましたよ。私は断りましたが、韓国だって同じことでした。そんな時代でしたね。シンクタンクで委託研究を加瀬 今はアメリカのシンクタンクやマスコミ、大学は中国の金漬けです。韓国も莫大な資金を投入しています。北村 お金はやはり大きいということですよね。だろうとなんだろうと、やがて本当にしてしまうのが中国外交の基本ですから、「誠実で正しいをやっていれば、いずれは理解される」というのは大間違いで、バカにされるだけです。ストークス 日本では饒舌な人は、軽蔑されますね。古代から「ことあげしてはならない」という戒めがありました。万葉集にも、そういう警告が行なわれています。だけど、日本以外の国では通用しません。加瀬 慰安婦や南京事件については、むこうの主要なシンクタンクに100万ドル、200万ドルくらい出して、委託研究をやるといいのです。そうすると、スポンサーのいうことを聞きますから。さらに、共同研究にして、そのなかにこちらも入りこんで研究すれば、次第に世界の見かたが変わってくるでしょう。ところが、日本はそういうお金の出し方をしないのです。北村 出来高払いで上手に資金を提供すれば、むこうのシンクタンクも、お金をもらえるのだったらということで、きちんと研究してくれるでしょう。でも、お金の提供の仕方に注意しないといけません。お金だけ取られてしまう危険があります。加瀬 ヒモをつけておいて、こちらも参加するんですよ。北村 “お目付け役”ですね。加瀬 お金は、一気にではなく、小間切れに渡していき数年にわたって委託研究をさせるのです。北村 そうすれば、欧米シンクタンクを動かせる。これは必ず実行しなければなりませんね。 中国に対しては、こちらの決意と力量をキチンと提示しなければなりません。 中国人は外敵の侵入に怯えて万里の長城を作るような歴史を持っており、そのリアクションとして外に出ていこうとするのです。理屈では絶対にやめませんから、軟弱な態度で対処するのは、かえって彼らに侵略という罪を犯させてしまうことになる、と私は考えています。加瀬 韓国も中国の長年の属国で親華思想、小中華ですから、完全に中国のコピーです。昔から事大主義といって、強い物に諂う。「事」は仕えるという意味ですね。力しか理解しない人たちです。中国人と西洋人は似ている加瀬 ストークスさん、最後にお訪ねしたいのですが、「日本」を世界にわからせるためには、何をしたらいいでしょうか。たとえば、日本外国特派員協会を閉鎖して追放するとか(笑)。ストークス このところ、日本食からアニメ、デザイン、ファッションなど日本が西洋に及ぼしてきた文化的な影響は、大きなものがあります。そこへゆくと、中国が近代に入って西洋に及ぼした影響は、何一つありませんね。 政府が海外で「クール・ジャパン」のキャンペーンに力を入れているのも結構ですが、日本人の精神性、歴史についての知識をひろめることに努力するべきですよ。加瀬 中国人も西洋人も自己中心的で、そういう意味ではすごく似ているので相性がよいのでしょう。西洋人が中国に幻惑されているのは、「お化けを見て騒いでいる」ようなものですよ。北村 中国に対するロマンが、昔からヨーロッパにあるのでしょうね。加瀬 世界をキリスト教化するのが当時の夢なのです。しかし、日本は嫌われる。特に宣教師の子供たちが日本に対して恨み骨髄に徹するほど日本を嫌っています。両親が一所懸命日本人を改宗させようとするのに、その努力はまったく結ばれないから「日本はなんて嫌なところだ」となってしまう。 ところが、中国人はすぐにコロっと改宗してしまうのです。北村 現世利益でしょう。西洋とつながることができて、優先的に商売できますからね。日本人は多神教というか多元的価値を容認しますから、一神教であるキリスト教の布教は相当に困難でしょうね。 現実の中国と向き合い、どのように日本の行く末を見定めるのか、まさしく今が選択の時だと思います。ストークス 日本文化の特徴は、はかなさと物慾がないことですね。昨年は伊勢神宮の遷宮式が日本中で大きな話題を呼びましたが、ひと口でいえば、簡潔さですね。昔、私の叔父が駐日大使をつとめていましたが、天皇の宮殿にまったく金銀が使われていないことに、驚いていました。中国の故宮や、西洋の宮殿はどこを見ても目にも眩い財宝がこれでもかこれでもかとあります。西洋も中国も物慾が強いという共通点があります。日本は理解し難いんですね。ヘンリー・スコット・ストークス 1938年、イギリス生まれ。61年、オックスフォード大学修士課程修了後、62年、フィナンシャル・タイムズ社入社。64年、初代東京支局長、67年、『ザ・タイムズ』東京支局長、78年、『ニューヨーク・タイムズ』東京支局長を歴任。三島由紀夫と最も親しかった外国人記者としても知られる。著書に『三島由紀夫 生と死』(徳間書店)、『なぜアメリカは、対日戦争を仕掛けたのか』(祥伝社、加瀬英明氏との共著)。かせ・ひであき 1936年、東京都生まれ。慶應大学経済学部卒業後、エール大学、コロンビア大学に学ぶ。『ブリタニカ国際大百科事典』初代編集長を経て、評論家として活動。映画『プライド 運命の瞬間』(98年)『ムルデカ 17805』(〇一年)の監修も担当した。海外での講演も多い。きたむら・みのる 1948年、京都府生まれ。京都大学文学部卒業。同大学院博士課程中退。三重大学助教授を経て、立命館大学教授。法学博士。著書『第一次国共合作の研究』(岩波書店)、『「南京事件」の探求』(文春新書)、『中国は社会主義で幸せになったのか』(PHP新書)、共著『日中戦争』(PHP研究所)など。

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    「世界の警察官」を放棄 不安抱え続ける同盟国

    田久保忠衛(杏林大学名誉教授) 昭和8年、千葉県生まれ。外交評論家、杏林大学名誉教授。早稲田大学法学部卒。時事通信社でワシントン支局長などを歴任。59年に杏林大学教授、平成8年から現職。専門は国際政治。著書に『戦略家ニクソン』(中公新書)など。第12回正論大賞受賞。 安倍晋三首相の顰(ひそ)みに倣って地球儀を俯瞰(ふかん)すれば、日本の頼みの綱であるオバマ米大統領が「世界の警察官」役を放棄すると宣言したことではっきりした米国の「内向き」傾向に、同盟国や友好国が今年も不安を抱いた状態が続いていくということになろうか。 目に見えないタガが外れ、ロシアや中国周辺、中東での秩序は乱れている。シリアとイラクにかけては国家でない「イスラム国」が、ちょうど日本と同じ面積を何となく実効支配している異常は、鬱陶(うっとう)しいことこのうえない。疑問視された大統領の指導性 20世紀初頭にカリブ海に進出してきた外国の影響力を排除するために、セオドア・ルーズベルトは「でっかい棍棒(こんぼう)片手に猫なで声」外交を展開したが、オバマ政権は棍棒を使う意思がないとみられているところに、国際情勢混乱の一因が潜んでいるように思われる。 とりわけ、国際テロリスト勢力に対して、手の内を明かすような発言をホワイトハウスの最高司令官が口にしてはやりにくい、との気持ちが米国防総省の制服組にはかなり前から存在していたようだ。 どの部隊を何年何月までに撤収させるとか、地上戦闘部隊は投入しないとの発言を繰り返せば、性悪な敵に重要なヒントを与えてしまう。 さて、昨年12月に、アシュトン・カーター氏がチャック・ヘーゲル国防長官に代わり、次期国防長官に指名された。オバマ政権ではロバート・ゲーツ、レオン・パネッタの2国防長官が辞任しているから、4人目の国防長官となる。これは異例だし、ゲーツ、パネッタ両氏はそれぞれ回想録を書き、ホワイトハウスのあまりに細かい管理(micro-management)と大統領の指導性不足に注文をつけている。機能不全のホワイトハウス 事実上、更迭されたヘーゲル氏の人事をめぐるごたごたで明らかになったのは、デニス・マクドノー大統領首席補佐官、スーザン・ライス同補佐官(国家安全保障)ら大統領側近が壁を作り、国防総省だけでなく国務省との風通しがまことに悪くなっているという事実だ。ヘーゲル長官はシリア、ウクライナ、イスラム国問題などでホワイトハウスの戦略が不明であるうえ、決定に時間がかかるのに我慢ができなかったのだろう。 米国の内向きという曖昧な表現の実体を解明するのは難しいが、謎の葉を一枚一枚はがした末にたどりつく芯はホワイトハウスの機能不全だ。新国防長官に就任するカーター氏は物理学者で兵器の性能にも詳しいし、パネッタ国防長官の下で副長官として年間6千億ドルの国防総省関係予算を扱った経験を持つ。 英誌エコノミスト12月6日号は、カーター氏が2006年に北朝鮮に対して先制爆撃をすべしと論じたタカ派であることをオバマ大統領は知っているかね、とちゃかしたような記事を載せていたが、オバマ政権に残された2年間にはヘーゲル時代と別の政策が打ち出されるのか、あるいは外交・防衛に明るいといえない側近の壁は揺るがないのか。2年は続く米国の内向き傾向 戦後の冷戦は、突如として始まったベルリンの壁の崩壊を機にあっという間に終焉(しゅうえん)してしまった。ソ連帝国は74年間で歴史の幕を閉じた。代わって登場したのが1プラス6の国際秩序だ。軍事力、経済力、技術力、情報力などずば抜けた国力を持つ米国を、フランスのユベール・ベドリーヌ元外相は「ハイパー・パワー」と称した。その下で日本、中国、ロシア、英国、フランス、ドイツの6プレーヤーがそれぞれの役を演じてきた。しかし、1プラス6の時代も長くは続かなかった。中国、インド、ブラジルなどの諸国が著しく国力を増強させ、なかんずく中国はあっという間に米国に次ぐ世界第2の経済力、軍事力をつけてしまったのである。 米国は国力を維持し続けているし、移民などによる人口増で、主要国が抱える少子化問題に悩む必要はない。さらにシェール革命でエネルギーは自立から輸出国に転換する勢いがあるが、他の諸国の国力増大があるから、あくまでも相対的な国力低下にすぎない。 だが、オバマ大統領はイラクから撤退し、16年にはアフガニスタンからも撤兵する。海外で棍棒を使いたくないとの大統領の気持ちは強く、国防長官にカーター氏が指名されたにもかかわらず、内向きの傾向は少なくともあと2年間は続くと見なければならない。 米国にべったり寄りかかって棍棒を軽視してきた日本が何をすべきかはおのずと明らかだろう。ソフトパワー重視もいいが、アニメと日本食のPRを熱心に試みても尖閣諸島や小笠原諸島に不法に入ってきた中国船には何の効果もない。米国との絆を強めつつ日本は何をすべきか。安倍晋三首相はご自身が運命の人であることを自覚しておられると信じている。■ 中国大船団 自衛隊・機動隊で制圧せよ (一色正春氏)