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    軽減税率ありきの出来レースを批判できないメディアの大罪

    安倍宏行(Japan In-depth 編集長) 連日ワイドショーを賑わせた「軽減税率」。どの番組でも、「コンビニで買った弁当をイートインで食べると税率は8%か10%か?」などとクイズまがいの質問をゲストに投げたりしていたが、相も変わらず本質に迫らない薄っぺらい内容ばかりだった。たまにボードを使って真剣に解説しているなと思いきや、やれ官邸が主導しただの、自公の元国対委員長同士が会っていただの、政局がらみの解説を政治評論家がしたり顔で話しているだけ、とか脱力するしかない。 間違いなく「軽減税率」は政局の賜物である。来年の参院選に向けその導入は不可避だった。つまり、結論ありきだったのだ。筆者が「筋悪」と評するこの政策は、低所得者層に対する「痛税感」緩和に効くように見える。しかし、それは一過性のものであり、いわばカンフル剤だ。やがて国民に大きなつけとなって返ってくる。それを承知で書かない新聞の罪は重い。テレビは論外だ。 ではなぜ「軽減税率」がダメなのか。答えは簡単だ。まず、一律に食品などに軽減税率をかけるので高所得者層にも恩恵が及ぶ。低所得者をターゲットにしたものではない、という意味で「逆進性」緩和になっていない。二つ目に税収が大きく減る。消費税率2%上げで税収増は5.6兆円が期待されている。しかし、「軽減税率」を導入すると1兆円超の税収が減る。率にして2割近い。その財源もまだ決まっていないという杜撰さだ。そもそも何故消費税率を10%に引き上げるのか。社会保障の充実の為ではなかったか。本当の目的を忘れ、大衆に受けの良い政策を推し進める政府・与党を何故大手マスコミは批判しないのか理解に苦しむ。 もう少し詳しく説明しよう。そもそも「逆進性」という言葉が独り歩きしていることに筆者は違和感を持つ。「逆進性」とは、消費税率が上がると収入に対する食料品など日用品の消費の割合が高い低所得者層ほど税負担率が強まることを言う。一般的に消費税のデメリットとしてこの「逆進性」という概念が語られてきた。しかし、慶應義塾大学の土居丈朗教授は、「個々人の消費行動 を一生涯通じてみてみると、消費税の負担は、(生涯)所得が多ければそれだけ多くなるか ら、税負担は生涯所得に対して比例的になるのであって、逆進的ではないと理解するのが 正しい」(注1)と述べている。従って頭から消費税の「逆進性」緩和が至上命題だ、と論ずることに疑義があることは指摘しておく。 とはいえ、短期的に低所得者層が負担が重いと感じることは事実であろうからなんらかの対策が取られるべきだという論には賛成する。しかし、その対策が「軽減税率」の導入では、高所得者層にも恩恵が及び、「逆進性」緩和にならないことは明白だ。低所得者層をターゲットとしている「給付付き税額控除」が注目されるのはその為だ。 この「給付付き税額控除」だが、「逆進性」緩和に資することは財政学の常識だ。低所得者に対し、年間支払った消費税の一部を還付する、というこの簡素な仕組みは、カナダなどで採用されている。同国の連邦付加価値税GST(Goods and Services Tax)の控除制度がそれで、1991年に導入された。その仕組みは、低所得者が年間に負担した消費税相当額を所得税の中で税額控除・給付するものだ。 控除は世帯ごとの収入により、家族構成と所得額に基づいて給付額が決まる。年収およそ3万カナダドル(約260万円:2015年12月22日時点で1カナダドル=約87円)以下は控除額が一定で、3万ドルを超えると控除額は低減していく。大体、夫婦と子供二人、年収260万円の世帯で、年間約7万円が還付される。これはカナダにおいて消費税の負担のかなりの割合を控除する額になっている。カナダ方式は制度がシンプルで行政コストが少ないことや、低所得者層を対象に給付が出来、消費税の逆進性を緩和する効果が大きい。「給付案」反対の新聞を全く批判しなかったテレビ これに対し公明党は、「給付を受ける側が自治体で申請手続きをする必要がある。税率8%への引き上げ時で、実際に実施された簡素な給付措置の申請率は、横浜市で66.1%(14年度実績)など3、4割の対象者が実際に給付を受けていない。」(注2)と反対している。しかし、申請率がその時低かったからこれからも低いままとは限らないし、制度が周知徹底さればおのずと申請率は高くなるだろう。実際カナダでは、高校卒業までに税制について学ぶという。カナダ方式の優れているところは、奨学金や少子化対策にも応用できる点だ。また、所得の捕捉だが、マイナンバーが導入された今、この懸念も払しょくされている。 また、2点目の税収減であるが、あれほど税収中立にこだわる財務省が今回あっさりと「軽減税率」を飲んだのも奇怪だ。財源が6,000億以上も足りないというのに、だ。景気回復による税収増に期待、などという話が出てくること自体信じがたい。空手形そのものではないか。膨れ上がる社会保障に充てる貴重な財源を減らし、その結果財政健全化の道も遠のく愚策に政府与党がまい進し、早々に「給付付き税額控除」を葬り去った理由は、経済合理性以外にある、とみるのが自然である。 それは、来年夏の参院選対策に他ならない。公明党の選挙協力が必要な自民党にとって最初から結論ありきだった。振り返ってみるとまるで出来レースだ。財務省が9月初めに出した給付案に読売新聞は反対の大キャンペーンを張った。さっさと給付案をひっこめたあたり、財務省も官邸の顔色を見たか、もしくは最初から言い含められていた可能性すら感じる。軽減税率の対象品目について合意し、記者会見する自民党の谷垣禎一幹事長(左)と公明党の井上義久幹事長=12月12日、東京都(長尾みなみ撮影) こうして世論は一気に給付案反対に傾き、全員野球で「軽減税率」賛成の空気が醸成された。後は一気に対象品目の線引きをどうするか、という議論に矮小化され、「軽減税率」反対論は一部のウェブメディアに掲載されるのみだった。そして、「軽減税率」の対象にしっかりと新聞も入ったのだ。つまり、最初から「軽減税率」ありきだったのだ。官邸、与党、財務省、新聞業界すべてが、である。「四方良し」、ということなのだろうが、国民にとっては全くもって「良くない」政策はこうした決まった。 筆者が問題とするのは、新聞は最初から「給付案」反対だったとしても、テレビがそれを全く批判しなかったことだ。現在対象品目の線引きなどを面白おかしく報道し、毎度のことだが本質に全く迫らなかった。そもそも2017年4月に消費税率を引き上げることが出来るのか、といった議論もなかった。景気が後退していれば、2%引き上げなど出来るはずもなく、さすれば「軽減税率」もなくなる道理だ。そこまで考えて安倍政権が今回「軽減税率」を決めたなら、あっぱれと言うほかはないが、国民にしてみれば選挙対策の茶番に付き合わされただけで、いい迷惑どころか、怒らねばいけないところだ。 消費税増税は少子高齢化による膨大な社会保障費負担を軽減するために必須のものだ。安倍総理は2014年11月、総選挙の前、消費税再増税の延期を訴える記者会見でこう言い切った「消費税の引き上げは、我が国の世界に誇るべき社会保障制度を次世代に引き渡し、そして、子育て支援を充実させていくために必要です。」さらに続けて、「財政再建の旗を降ろすことは決してありません。国際社会において、我が国への信頼を確保しなければなりません」と。 この決意はどこへ行ったのか。選挙の為に税をもてあそぶ政府・与党を批判しないマスメディアには猛省を促したい。(注1)「消費税の社会保障目的税化」という財政規律」 http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/c200511_2.pdf(注2)公明新聞 2015年11月6日 軽減税率は「給付」に勝る https://www.komei.or.jp/news/detail/20151106_18433

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    軽減税率が新聞、テレビを自殺に追い込む

    「軽減税率」一色だった12月の新聞、テレビだったが、この政策は全く国民の為にならないと言ったら驚く人も多かろう。軽減税率の導入で、社会保障に充てられるはずの財源は減り、財政の健全化も遠のく。そのわけを知りながら報道しなかった大メディアの罪はもっと重い。

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    軽減税率が新たな政治利権を生む 撤回する時間はまだ残されている

    とが可能となるため、必要な財源規模は軽減税率よりも少なくて済むことにある。 例えば、2014年4月の消費増税(5%→8%)では、給付付き税額控除に近い対策として、「簡素な給付措置」が実施された。正式には、臨時福祉給付金(総額約0.3兆円)と呼ばれる措置である。この給付の対象は、住民税(均等割)の非課税者(住民税の課税者の被扶養者や生活保護の受給者は除く)の約2400万人で、支給は1回のみの1人当たり1万円であった(注:公的年金の受給者などは0.5万円が加算され、加算対象者は約1200万人)。財政安定化のために将来に禍根を残す 政府の試算では、「酒、外食を除く飲食料品」に軽減税率を適用する場合、約1兆円の減税となるが、簡素な給付措置であれば、前回の約3倍(=1兆円÷0.3兆円)の給付、つまり1人当たり3万円(公的年金の受給者などは1.5万円の加算)の給付が可能である。 財源を半分の0.5兆円に抑制しても、前回の約1.6倍(=0.5兆円÷0.3兆円)の給付、つまり1人当たり1.6万円(公的年金の受給者などは1.2万円の加算)が給付可能で、低所得者対策に必要な財源規模は今回の軽減税率よりも少なくて済む。 なお、軽減税率の導入はどの財を軽減するかを巡って政治的な対立や新たな政治的利権を生み出す可能性が高い。さらに、欧州では、軽減税率の線引きを巡って税務当局と事業者との間で訴訟も頻発している。他方、給付付き税額控除は、軽減税率のように、業界から支援を受けた政治家が、特定の品目を軽減税率の対象とするため税制を歪める行動に出るといった社会的コストを発生させないで済むという面からも望ましい制度である。 もっとも、給付付き税額控除を適正に執行するためには、個人や世帯の収入や保有資産を正確に把握することが必要となる。このため、納税者番号制度を導入し、様々な支払調書に当該番号の記載を義務付け、個人の所得情報を網羅的に管理することが前提条件となるが、マイナンバー制度の稼働が間近のいま、その環境は急速に整いつつある。 なお、社会保障費が急増に財政赤字が恒常化し、政府債務が累増する中、将来的に財政を安定化させるためには、軽減税率を導入しない場合でも、消費税率を30%程度まで引き上げる必要があるという試算も多い。これは、「酒、外食を除く飲食料品」を対象に軽減税率を導入する場合、軽減税率を導入しない場合と同じ税収を得るには、消費税率を35%まで引き上げる必要があることを意味する。このような現状で軽減税率を導入すれば、社会保障費を削減しても、増税を消費税で行う場合には相当高い税率となることを覚悟する必要があり、将来に禍根を残すことになる。 以上のことから、財政学者といった有識者は、「軽減税率の導入を懸念するアカデミア有志による声明」というものを2015年12月14日に立ち上げ、現状の方向性に懸念を示している。2017年4月の導入まで残り時間は少ないが、まだ一年という時間はあり、政策変更の時間は十分に存在する。2016年1月4日に召集される国会での議論を含め、もう一度、軽減税率の導入の是非について、冷静に考えてみる必要があるのではないだろうか。

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    賛成識者がいない軽減税率 アベノミクス第三の矢との奇妙な共通点

    城繁幸(人事コンサルタント) 筆者は公明党について、既存のイデオロギーに縛られることなく合理的な判断のできるスマートな都市型政党とのイメージを持っていたが、それが最近揺らいでいる。同党が、生鮮食品および加工食品に対する消費税軽減税率の導入に固執したことが原因だ。 筆者の知る限り、軽減税率の導入に賛意を示している識者は一人もいない。これほど百害あって一利なしとの認識が広く共有されている政策も珍しい。というわけで、以下に代表的な弊害を挙げよう。1.低所得者層に対する支援効果がほとんど見込めない 2%の軽減税率とすると、食材の購入に毎月3万円払っている人間は600円ほど消費税が安くなる計算となるが、毎月30万円払っている食道楽は6000円も軽減されることになる。だったら両者から6600円ほど徴収して前者に5000円くらい支給するのが真の低所得者支援というものだろう。2.税収減による社会保障予算のカット 軽減税率の導入により、財務省試算によれば1兆円程度の税収減となり、当然ながらそのしわ寄せはどこかに及ぶことになる。既に先日、子育て世帯臨時特例給付金(2015年度一人当たり3000円)の来年度からの廃止が決まったが、効果の薄い軽減税率導入の余波で子育て世帯への支援が減ったとするならとんだブラックジョークである。3.事業者負担の増加 事業者は仕入れ品ごとに異なる税額を計算、控除しなければならないし、レジシステムも複雑な仕様変更が必要となる。実際に日本スーパーマーケット協会等、複数の小売り、外食業界団体が軽減税率の導入に反対を表明、かわりに簡素な給付金制度の導入を求めている。4.利権の発生 さらに言えば、軽減税率適用の線引きをどこに引くかという大問題が控えている。ハンバーガーを店で食べれば外食だが、テイクアウトすればどうなるのか。テイクアウトして店の外に並べられたベンチで食べればどうなるのか。なぜ社会のインフラ代表として新聞がこっそり紛れ込んでいるのか等、一国民として理解できない線の引かれ方がされている。 では、低所得者層に対する支援どうあるべきか。上記の日本スーパーマーケット協会と同じく、給付付き税額控除が望ましいというのが筆者のスタンスだ。これは一定の所得未満の低所得者に所得税を免除、あるいは逆に差額の一部を給付するというような仕組みで、就労意欲を損なわず、低所得者層を支援できるというメリットがある。政党では民主党や維新の会がマニフェストに明記し、筆者も所属するワカモノマニフェスト策定委員会も提案している政策だ。 日本は諸外国と比較すると、社会保障給付が高齢者に偏在し、現役世帯向けの給付がきわめて薄いという特徴がある。給付付き税額控除はこれを補い、現状では生活保護まで落ちなければ利用できないセーフティネットの幅を広げるものだ。 一連のアベノミクスと今回の軽減税率には奇妙な共通点がある。アベノミクスは現在停滞気味で、その原因は“第三の矢”と銘打った規制緩和に、政府がほとんど手を付けていない点にある。要するに痛みを伴う改革が怖いのだ。 軽減税率も弱者をいたわるふりをしつつ「多く取るつもりだったがちょっぴりまけてやる」という点で、何の痛みも伴わない、中身の無い政策である。一部には安保法案成立から現政権の暴走を危惧する論調もあるが、これほど暴走の危険のない、というか前に進むのかすら怪しい政権も珍しいというのが筆者の意見である。

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    軽減税率という「藁」にすがりつく新聞メディア

    室伏謙一(政策コンサルタント) 12月16日、与党の税制改正大綱がとりまとめられた。このうち、消費税率引上げに伴う負担増に関し、低所得者対策の一環として新聞、より正確に言えば、週2回以上発行される定期購読契約が締結された新聞について、軽減税率が適用されることとされた。新聞への軽減税率の適用がなぜ低所得者対策なのか、全く釈然としない。 新聞協会はかねてより新聞への軽減税率適用を訴えてきた。つまりは、新聞の購読者数の減少、広告収入の減少で財政的に厳しくなったところに、消費税率の引き上げでさらなる減収に繋がることを危惧したからということなのであろう。考えてみれば新聞メディア、特に大手は消費税増税キャンペーンには乗っていたのに、自分のこととなると軽減税率とは、ずいぶん都合のいい話と思われても仕方がない。 新聞協会は、欧州を例にして、諸外国においては新聞については軽減税率が適用されていると主張してきている。確かに、欧州諸国においては、例えば、フランスは2.1%、スウェーデンは6%といったように、10%を超える付加価値税に対して、新聞について軽減税率を設けている。イギリスに至っては0で、軽減ではなく非課税である。(ただし、ブルガリアやスロバキアのように新聞について軽減税率を適用していない国もある。) しかし、ここで考えなければいけないのは、そもそも軽減税率の適用品目は国によって異なり、低所得者対策ということであれば、生活必需品が対象に含まれて当然だが、今回の我が国の場合は含まれていないということである。欧州諸国においては、何も新聞と生鮮食料品のみを軽減税率の対象としているわけではなく、他の生活必需品と一体で検討した結果そうなっているだけである。 また、欧州諸国で新聞を軽減の対象としたり、非課税としたりしている背景は、メディアの多元性の確保といったことがあると思われ、低所得者対策とは観点が異なるように思う。別の言い方をすれば、民主主義の発展に資する、情報源の多様性の確保と、メディア間の公正な競争の担保という観点からそうなっているということのようである。軽減税率は購読者数減の解決につながらない軽減税率は購読者数減の解決につながらない さて、今回の新聞への軽減税率の適用、新聞業界にとっては「藁をも掴む思い」ということなのだろうが、その藁を掴んで、藁しべ長者のごとく、新聞購読者数の増加を見込むことができるのだろうか。  端的に言って、増加するとは思われない。新聞の購読者数は年々減少する傾向にあり、特に若年層でその傾向が著しい。(もっとも、元々若年層での購読者は少ないのだが。)税率8%でそうなのだから、軽減といっても言い方を変えれば税率据え置きなのであり、価格が安くなるわけでもないところ、そんなことで読者が増えるとは到底思えない。(もっと言えば、低所得者は若年層に多いようであり、その若年層において新聞購読者数が少ないのに、低所得者対策とは、ますます根拠に乏しい結論であると言わざるをえない。) そもそも、メディア接触や情報コミュニケーションの在り方が変化しているのであるから、通信と放送の融合といった実態も踏まえて、新聞は抜本的な業態変革を図ることに注力すべきであると思う。軽減税率に血眼を上げている暇はないのではないか。(新聞の役割が完全に終わったとは言わないが、新聞社の役割の新しいカタチを模索すべきであろう。) 今回の軽減税率のもう一つの論点として、根拠の薄い軽減税率の適用と引き換えに、政権への協力を暗に約束させられたのではないかということがある。単純に考えて、軽減税率のような大きなメリットが与えられる一方、いつその適用から外されるかという緊張感が生まれれば、自ずと論調は政権寄りになり、メディアの監視機能やチェック機能は十分に機能しなくなることは容易に想像できる。もっとも、近年では、先にも触れたとおり、情報接触は多様化し、新聞によって意見が左右されるということはなくなってきているのではないかとも思う。特にネットメディアが発展している昨今においては、新聞が権力チェック機関としての役割を十分に果たせなくとも、他のメディアがこれに代わることは十分可能である。そうなれば新聞離れは更に進むことにもなろう。(自分で自分の首を絞める、ということになるか。) 大切なのは、メディアはどうあれ、ジャーナリズム、ジャーナリストであることであろう。 軽減税率という「泥縄」を掴んだ新聞メディア、溺れて沈む前にこうしたことに気づくのだろうか?(公式ブログ「政治・政策を考えるヒント!」より2015年12月17日分を転載)

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    軽減税率の適用が決まった新聞は自ら死を選んだ

    大西宏(ビジネスラボ代表取締役) 新聞メディアは、ニュースはインターネットでも、テレビでもいくらでも得ることができる時代のなかで、なぜ新聞なのか、どのような存在意義、新聞を購読する価値がなになのかを再構築する努力よりも、目先の利益で、軽減税率適用を働きかけ、政権の御用新聞となる道を選んだようです。 軽減税率の適用です。読売新聞が先頭にたって、新聞業界が求めてきたものです。 官僚的な理屈としては、ヨーロッパでも新聞は軽減税率が適用されているので、日本だけが特別なことをしているわけではないということですが、そもそも日本の新聞社は特殊です。放送にも資本参加し傘下におく、アメリカでは禁止されているクロスオーナーシップであり、しかも不動産事業など多角化し、プロ野球球団まで持っているのです。 財政の健全化のためには消費税増税が必要だと主張しておき、自らは逃げたのですから、口先だけのご都合主義で、いい加減だというだけでなく、それは権力に借りをつくり、ジャーナリズムとしては自ら死を選んだに等しいのです。 しかも、日本の特殊なサービスである、宅配だけの適用というのも奇妙な話です。橋下市長が、市長時代に、皮肉たっぷりに新聞記者に質問を投げかけ、記者が返答に困り、しどろもどろになったようですが、それこそ、もう自ら正論を主張できなくなってしまっている証拠です。橋下市長、新聞の軽減税率で記者を問い詰める 読売は沈黙、日経しどろもどろ... : J-CASTニュース 池田信夫さんの批判はさらに辛辣です。新聞業界は、200億円で買収されたことになると。その通りです。  新聞の軽減額はたいしたものではない。全国の日刊紙を合計しても200億円ぐらいで、政府が新聞を「買収」するコストとしては安いものだ。2016年1月からの通常国会では野党が、矛盾だらけの軽減税率について激しく批判するだろうが、「賄賂」をもらった新聞は政府を批判できない。何しろ最も理屈に合わない軽減対象が新聞なのだから。軽減税率というポピュリズムが政治を汚染する 200億円で新聞を「買収」した安倍政権 | JBpress(日本ビジネスプレス) そして、新聞社にとって不幸なことは、なりふりかわまず「買収」されてしまったことは、新聞メディアへの信頼は揺らぎ、さらに新聞離れを加速させることにつながっていくのです。 衰退から逃れるイノベーションには手をほとんどつけず、古い体質、古い仕組みのままで、現状維持をはかろうとしても、それはさらに悪い結果を呼びこむことになります。それは新聞メディアも批判してきたことではありませんか。そんな愚を新聞業界は犯してしまったのではないでしょうか。 (「大西宏のマーケティング・エッセンス」より2015年12月17日分を転載)

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    新聞に消費税の軽減税率を適応 インターネット時代では限界がある

    児玉克哉(社会貢献推進機構理事長) どうやら新聞も消費税の軽減税率の対象となるようです。自民党と公明党は定期購読の新聞を軽減税率の対象とすることで合意したと報道されています。他国の状況をみても新聞などが軽減税率となっているところはかなりあります。文字・活字文化は教養や思想の形成に大きな役割を果たしているので、特別扱いということでしょう。 ただ、活字業界においてこれまでの状況と最近、そしてもっと重要なことにこれからの状況は大きく異なる可能性があります。まず最も重要なことは、デジタル化の進行です。新聞社においても定期購読型の新聞の部数はどんどんと減っていっています。だからこそ、それを守るために消費税の軽減税率の適応を、という主張はわかるとしても、それくらいのことで問題が解決するような状況ではありません。おそらく次の5年で新聞の定期購読型、つまり宅配の日刊紙は部数をさらに減らすでしょう。これは軽減税率が適応されようとされまいと大きな影響はありません。 これからは、新聞社もデジタル新聞、あるいは情報企業として転換を迫られます。ここでポイントとなるのは、宅配の日刊紙を持っている新聞社のデジタル情報の販売に軽減税率が適応されるかどうか、です。おそらく新聞社はデジタル新聞などにも適応されるべきという主張でしょうが、デジタル新聞はこれまでの新聞とはかなり形態が異なります。さらに異なっていくでしょう。つまり紙媒体上の情報ではなく、情報そのものを売るのですから、形態も自由にアレンジできます。こうなると、これまで新聞社ではなかった企業が提供する情報と何が異なるのかが分からなくなります。また一定の枠を当てはめると、これから新聞社が枠を超えて新たな挑戦をしなければならないのに逆に足かせとなる可能性もあります。 私は、新聞への軽減税率の適応は、定期購読型の宅配新聞に限定しておいたほうがこれからの自由な発展を妨げないことにつながると思っています。新聞とインターネット、映像媒体との融合は大きな課題です。実はテレビ業界もこれから大きな変化が求められるでしょう。どんどんとインターネットとの融合が始まっています。新聞とテレビは大きな資本を必要とし、また許可制度が明確でしたから、新聞業界、テレビ業界を確定するのが比較的に容易でした。しかしインターネットの世界はそうはいきません。どんどんと新たな業者やシステムが入ってきます。従来の新聞業界やテレビ業界もそうした仕組みにも入っていくしかなくなるでしょう。 2%の軽減税率で、業界の変化が遅れることのほうが問題になるのではないかと思っています。新聞だけでなく、書籍の分野もそうです。デジタルブックは、想定されたようなデジタルブックの特別な端末によるものではなく、スマホで対応する形で普及しそうです。インターネット上の書籍や記事などと、従来の書籍や新聞記事とに明確な線引きをすることは不可能になっています。ヤフーニュース個人などは、独立した形での新たなメディアといえます。デジタルの新聞記事との明確な線引きはまずできません。しかし、時代はこうした形式の新たなメディアも必要としています。インターネット時代だから出来ることでもあります。 軽減税率を利権的なものにしてはいけないでしょう。そうすることは、政府のメディアに対する介入にもつながる可能性があります。昨今、メディアの記事や姿勢に対しての政府の介入とも言える批判が問題となっています。軽減税率の適応などの要素が入ると、政府批判をするような「偏向した」メディアは対象外、といったことにもなりかねません。今の時代においては、メディアは時代の流れを読んだ挑戦と政府からの自由を確立するために、軽減税率などについては慎重な姿勢も必要です。(「児玉克哉のブログ『希望開発』」より2015年12月15日分を転載)

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    軽減税率は高所得者が得するバラマキ策

    大竹文雄(大阪大学社会経済研究所教授)9月10日、財務省は日本型軽減税率案を与党税制協議会に提出した。しかし、世論では公明党が検討している欧州型の軽減税率への支持が高い。「軽減」という名前だけで判断すると効果のない低所得者対策を導入することになる。 消費税の軽減税率導入の是非をめぐる議論が高まっている。2017年4月に、消費税が8%から10%に引き上げられるタイミングで、消費税の逆進性を緩和するために軽減税率を導入することになっているからである。 9月10日に開催された与党税制協議会・消費税軽減税率制度検討委員会では、軽減税率導入に関する課題がまとめられた上で、マイナンバーカードを利用した還付ポイントによる「日本型軽減税率制度」という財務省案が提示された。 財務省案は、還付ポイント対象品の「酒類を除く飲食料品」を購入する際に、「マイナンバーカード」をかざし、消費税2%分相当の「還付ポイント」を取得して、そのポイント相当額が一定の限度額の範囲内で各個人の口座に事後的に還付されるというものである。 これに対し、公明党は特定品目の税率そのものを下げる欧州型の軽減税率の導入を検討していると言われている。 軽減税率の問題点として、実務的には事業者の負担の増大が挙げられてきた。経済学的には、軽減税率そのものに逆進性緩和という再分配効果が小さいこと、軽減税率の対象品目に需要をシフトさせてしまうことが指摘されてきた。 財務省案は還付ポイントに上限をつけることができるので、欧州型の軽減税率よりは所得再分配効果が期待できる。理論的にはよくできた制度である。 事務的な費用の大小を別にすれば、買い物の際に、消費税が軽減されるのか、事後的に還付という形で軽減されるのか、という消費税の軽減を受けるタイミングの違いが両制度の差である。その上で、財務省案では、還付金に上限をつけて再分配効果を強化することが可能になっている。 しかし、国民の間では、軽減税率に賛成する比率が高く、財務省の還付ポイント制度への支持は高くないようだ。例えば、毎日新聞社が9月19日と20日に実施した緊急全国世論調査によれば、消費税率を10%に引き上げる際に、軽減税率の導入することに「賛成」との回答は66%、「反対」は23%だった。財務省案の還付ポイント制度と軽減税率のどちらが好ましいかという質問では、「軽減税率の方が好ましい」が79%に達したという。 経済学的にも欧州の経験からも、軽減税率は非常に問題が大きく、導入しない方がいいとされている。それにもかかわらず、軽減税率がこれほど人々の間で人気があるのはなぜだろうか。本稿では、この点について考えたい。経済学者は否定的軽減税率の経緯 そもそも、軽減税率導入の議論の発端は、自民・公明の与党税制調査会の平成26年度与党税制改正にある。「消費税の軽減税率制度については、「社会保障と税の一体改革」の原点に立って必要な財源を確保しつつ、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。(中略)軽減税率制度の導入に係る詳細な内容について検討し、平成26年12月までに結論を得て、与党税制改正大綱を決定する」。 これを受けて、2014年6月5日の与党税制協議会で、「消費税の軽減税率に関する検討について」で、対象品目について8案が示された。 そして、平成27年度与党税制改正にも、「消費税の軽減税率制度については、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。平成 29年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源等について、早急に具体的な検討を進める。」と記されて現在の議論につながっているのだ。経済学者は否定的 多くの経済学者は、軽減税率の導入に反対である。14年6月11日の税制調査会でもほとんどの委員が軽減税率の導入に強い反対意見を述べた。 経済学者が批判する理由は主に二つある。第一に、軽減税率は低所得者対策として有効ではない。第二に、軽減税率は人々の消費行動に影響を与えるという意味で非効率性をもたらす。 「軽減税率は低所得者対策として有効でない」とは、信じられない人が多いだろう。 購入しないと生活できないからこそ生活必需品だ。生活必需品の消費税を軽減することは、低所得者の税負担を減らすのだから、低所得者の負担軽減政策になるに決まっているではないか。それが軽減税率に賛成する人の意見だ。実際、支出に占める食料品費支出の割合(エンゲル係数)は、高所得者ほど低くなるという「エンゲルの法則」はよく知られた事実である。 こうした指摘は、すべて正しいが、重要な事実を一つ見落としている。生活必需品は、高所得者も購入するということだ。確かに、支出に占める食料品費の「比率」は、高所得者の方が低所得者よりも小さい。しかし、食料品費の「金額」は高所得者の方が大きいのである。ということは、軽減税率の恩恵をより大きく受けるのは、高所得者なのである。消費税増税の低所得者に対する負担増加を小さくするために、軽減税率を導入した結果、高所得者の負担軽減は低所得者以上に大きくなるのである。軽減税率は補助金と同じ 消費税の税収は、軽減税率の導入によって軽減された額だけ減る。一定の税収を得るためには、軽減税率が存在すれば、その分、消費税の標準税率を引き上げる必要がある。つまり、軽減税率は、消費税を一律で取ると同時に軽減税率対象品目の購入金額に比例して、購入者に対して補助金を支払っているのと同じなのである。 そう説明されると、購入金額が高い高所得者ほど、より多くの補助金を受け取ることになることが理解できるのではないだろうか。 軽減税率と言えば、低所得者に優しい政策だと思う人が多いかもしれない。しかし、生活必需品に対する生産者への補助金だと考えることもできる。そう言われても、本当に低所得者のためだと感じるだろうか。 日本に住所がある個人や在留する外国人に一律1万2000円の定額を補助金として給付するという「定額給付金」政策が、09年3月4日に施行された。この政策は、バラマキ政策として批判された。所得水準に関係なく給付される補助金は、バラマキと言えるかもしれない。 もし、定額給付金がバラマキ政策であるならば、軽減税率は定額給付金よりも質の悪いバラマキ政策である。高所得者の方がより多くの補助金を受け取る補助金政策に賛成する人はあまりいないだろう。なぜ軽減税率は好まれるのかなぜ軽減税率は好まれるのか では、所得再分配効果がほとんどないにもかかわらず、軽減税率に賛成する人が多いのはなぜだろうか。 第一の理由は、行動経済学で知られている「アンカリング効果」だろう。人々は絶対的な水準で損得を判断するよりも参照点からの差で損得を判断することが多い。消費税が10%であればそれがアンカーとなって、その消費税率よりも税率が低ければ得をしたと考える。 もし、軽減税率が導入されたことによって、消費税率が11%になったとしても、軽減税率の存在が低所得者に優しいと感じられるのではないだろうか。定価が安く値引きがない場合と、定価が高く値引きがある場合で、どちらも値引き後の価格が同じ場合を比べると、値引きがある方が得したように感じてしまう。私たちは、定価という値段にアンカリングされてそこからの差で損得を感じてしまうからだ。 第二の理由は、中所得者以上の人たちが、軽減税率によって自分たちの方が低所得者よりも得をすることを知っているが、軽減税率が低所得者対策であるという名目を立てることで、政策への正当化をしやすいというものである。これは、還付額に上限がついている財務省案に対する反発が大きいことと整合的である。 第三の理由は、生活必需品の生産者が、自分たちの製品の需要を増やすために、軽減税率が低所得者対策であると主張することで、消費者の意識を歪めている可能性がある。 軽減税率によって価格体系に歪みがでることで、生活必需品の消費量を増やしてしまうことを生産者が狙っているのである。価格水準や所得水準にかかわらず一定量消費するものが真の生活必需品ではあるが、ほとんどの生活必需品は、価格が高くなるか、所得が減少すると少し消費量を減らす。 軽減税率の存在によって、軽減税率対象外の品目の消費を減らし、軽減税率対象品目の消費を増やすことが発生する。軽減税率が存在し、消費税の水準そのものが高くなることで、この歪みは大きくなる。消費行動を歪められる消費者にとって、それは望ましいことではないだろう。 つまり、人々が軽減税率を支持するのは、税金が軽減されるという名称からの錯覚、低所得者対策に有効だという誤解が大きな理由だと考えられる。そのような誤解のもとで、軽減税率を導入したところで、低所得者には何もメリットがない。 癌の治療方法として、科学的に効果が認められている現代医学の治療方法と、効果が認められていない民間療法があるのと似ている。患者が民間療法の方が効果があると信じているから、医学的に効果があると認められている手法ではなく、効果が認められていない民間療法を国の正式な医療政策に取り入れることは望ましくないだろう。低所得者対策として軽減税率を導入することは、それに近いことだ。 こうして考えてみると、軽減税率を導入するくらいなら、バラマキ政策と批判された定額給付金政策の方が低所得者に優しい政策なのである。より望ましいのは、再分配効果がより大きい給付付き税額控除である。給付付き税額控除とは、所得が低い人には給付金を渡すが、その給付金が所得が増えるに従って減額され、課税最低限以上になると給付金がゼロになる制度だ。 海外では多くの導入の実績がある。消費税の逆進性対策としては、カナダやシンガポールで導入されている。ただし、給付付き税額控除だと、勤労意欲が阻害される可能性がある。勤労収入があれば給付額が一定額まで増えるという勤労所得税額控除が導入されている国も多い。例えば、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、スウェーデン、カナダ、ニュージーランド、韓国等で導入されている。 給付付き税額控除や勤労所得税額控除は、かつてミルトン・フリードマンが提唱した「負の所得税」を具体的に制度化したものだ。労働意欲の阻害効果が小さく貧困対策のどちらにも優れているという点で優れた制度であるが、課税当局の所得の捕捉力が十分でないと給付が過大になる。マイナンバー制度の導入は、負の所得税の導入のインフラが整備されることを意味する。 私たちにとって税率が低い方がいいのは当然であるが、高齢化や貧困率の上昇に対応するための財源を確保する必要がある。財源としてどのような税制がいいのか、という基本に戻るべきである。再分配効果がほとんどない軽減税率を、低所得者対策と誤解して、導入する余裕は、この国にはない。おおたけ・ふみお 大阪大学社会経済研究所教授。1983年京都大学経済学部卒業、85年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。大阪大学経済学部助手、大阪府立大学講師等を経て現職。博士(経済学)。

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    消費税10%でまた景気を潰す気か

    「2017年4月からの消費税率10%」は既成事実なのか。2014年の8%への消費増税は負の効果が大きく、需要減は予想以上であった。もちろん、税と社会保障の見直しは待ったなしであるが、景気を潰しては元も子もない。いまこそ、国民的な議論が必要だ。

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    だからマスコミは甘すぎる 消費再増税を狙う財務省に騙されるだけだ

    である黒田東彦氏までが消費税8%への引き上げ前に「消費税を増税しても影響はない」と発言してしまった。消費増税がもたらす負の影響を見誤ってしまった以上、力の及ぶ範囲でミスを挽回するしかない。したがって黒田総裁は当然、さらなる追加緩和を考えているはずである。 普通に考えても消費増税の影響で需要が落ちているのだから、日銀の追加緩和または政府の景気対策(もしくはその両方)を打つことになる。黒田総裁はマーケットに手を読まれるのが嫌いな人だから、皆が「いまのところ黒田は景気に対して強気だから、日銀の追加緩和はない」と思っているタイミングを狙って緩和を打つことは十分に考えられる。 財務省は「消費税の影響は軽微」といっていたが、もし仮に昨年、安倍晋三首相が消費税率10%への引き上げを見送らず、財務省のいうとおりに消費税の再増税を決めていたら、いまごろ日本経済はどうなっていただろうか。 2015年10月1日から消費税率が10%になるので、増税前の駆け込み需要とその後の反動減、消費の減少を2014年4月の8%への増税の影響(1―3月期4・5%増、4―6月期7・6%減、7―9月期1・1%減、10―12月期1・3%増)の3分の2と見積もると、今年10―12月期の実質GDPは「5~6%のマイナス成長」。財政再建どころではない。 マイナス5~6%というのは、政権存続が危ぶまれるレベルである。安倍首相自身、2014年4月に消費税を8%に上げた際、初めて消費増税の負の効果の大きさに気付き、「2度は騙されない」という思いで昨年末に10%への増税を見送った経緯がある。 また、最近の経済財政諮問会議で、財務省は総務省の家計調査の統計が当てにならないとかみついている。しかし、その反証として例に挙げたのが小売り統計であるが、これは中国の爆買いの影響を受けているのでご都合主義だ。なぜ官邸から話が出てこなかったのかなぜ官邸から話が出てこなかったのか いちばんの問題は、財務省の還付案を批判した人ですら、消費税の10%への引き上げ話を現実のように錯覚してしまい、財務省の拵えた土俵に乗って議論をしてしまったことだ。 官邸や財務省の動きを丁寧に調べず、リーク情報に頼って議論をしているから、財務省の還付案が政府・与党とは関係ない話であることに気付かない。 たとえば低所得者向けに一人当たり上限年4000円をマイナンバーの活用で還付する、という案は、G20(20カ国財務大臣・中央銀行総裁会議)の開催地トルコで、麻生太郎財務大臣が同行の記者にリークするかたちで発信したものだ。 G20における中心議題は、中国ショックと同国経済の改革であった。ところが中国経済をめぐる話は、麻生大臣がリークした還付案の話にかき消されるように、日本ではあまり報じられなかった。財務省としては中国ショックと消費増税による日本の景気悪化の話はできるだけ伝えず、「2017年4月からの消費税率10%」を既成事実化したかったのである。 財務省の還付案という「見せ球」に対して、「上限4000円は低すぎる」「マイナンバーの活用は無理がある」などと真正面から反論しようものなら、すかさず消費税率10%を既成事実化する議論のなかに組み込まれてしまう。 消費増税について議論するなら、せめてマスコミは安倍首相や麻生大臣の動静ぐらい細かくウォッチしてほしい。G20の前日にあたる2015年9月1日の「首相動静」を見ると、次のような記述がある。「(午後4時)31分、麻生太郎副総理兼財務相、財務省の田中一穂事務次官、佐藤慎一主税局長。5時5分、佐藤氏出る。浅川雅嗣財務官加わる。18分、田中、浅川両氏出る。25分、麻生氏出る」 麻生大臣と田中次官、浅川財務官が安倍首相のもとを訪れたのは、翌日のG20を控えて「消費増税にともなう還付の話をこのように打ち出します」と説明をするためである。財務省が麻生大臣と官邸に対して周到な根回しを行なったことが如実にわかる箇所だ。通常なら新聞に直接、リークをするところだが、新聞は軽減税率の適用を求めている手前、消費税の話に消極的だった。そこで麻生大臣に、G20のときに還付案を記者に話してもらったと思われる。麻生氏としてはもっと中国の話を伝えたかっただろうが、財務省の言い分を聞いてあげたことになる。 ところが、肝心の安倍首相は財務省の還付案について「それは党と財務省の問題」と突っぱねたのだ。以後、還付案に関する話が官邸から出てくることはなく、冒頭に記した白紙撤回へと至る。なぜ官邸から話が出てこなかったのか。ここを掘り下げて考えなければ駄目である。 日本のマスコミはつくづく甘いと思う。「政府」と「党」の区別もつかずに消費増税の動きを報じても、財務省に騙されるだけである。一つの情報を見るときに、それが官邸・政府による発表なのか、財務省によるものなのか、1次情報なのか、あるいは伝聞、リークなのかを峻別しなければならない。 いまの時点でいえるのは、消費増税が税制をめぐる議論である以上、来年度の税制改正大綱が固まる12月20日ごろまで、還付案は紆余曲折するということだ。財務省が案を出そうと、わざわざ現時点で安倍首相がコミットする理由がない。政治家というのは一見、何も考えずに発言しているように見えて、裏で必ず計算をしている。口にしたメッセージには何らかの意味があるし、意味のない言葉を簡単に口にしない。 したがって、外野から聞こえてくる「安倍首相は早く消費税で腹を固めたほうがいい」という意見は、消費税10%に対して賛成であれ反対であれ、政治を知らない「素人考え」である。いま再増税の有無を口にしたところで、安倍首相には一文の得もない。むしろ「10%に引き上げない」と宣言することで、政敵の攻撃に晒されるリスクのほうがはるかに高い。だから現状から一歩踏み出るような話はいっさいせず、ニュートラルの姿勢を貫くのが当然である。安倍自民党は2016年夏の参議院選挙を是が非でも勝たなければならない。無駄弾を撃つような真似は厳に慎むだろう。 そして、そのための布石は今回の内閣改造ではなく、税調人事である。うるさ型の野田毅氏から、従順な宮沢洋一氏への税調会長の交代は、聖域といわれた税調人事にも安倍首相が手を出し、パワーを見せつけた。 権力者が最も嫌うのは、余計なことをして自ら政権のパワーを落とし、政敵に付け入る隙を与えることである。今年10月7日に発足した第3次安倍改造内閣の顔ぶれがほぼ同じだったのも、メンバーが代わることで政治力が低下することを恐れたからだ。与党内に閣僚待機組が60人以上いるという現状で、やむなく一部のポストを入れ替えた、という消極的な意味合いにすぎない。「新・3本の矢」の正体は1本のみ「新・3本の矢」の正体は1本のみ 安倍首相は2015年9月24日、自民党総裁再任後の記者会見で「強い経済」「子育て支援」「社会保障」の「新・3本の矢」を掲げ、名目GDP600兆円を達成する、という目標を打ち出した。 この「GDP600兆円」という話と比べて、野党・民主党が国家公務員の20%削減を訴えたときは、失笑を禁じえなかった。国家公務員を20%減らしても、得られる削減効果はせいぜい1兆円止まりだろう。あまりにスケールが違うのではないか。マクロ経済の視点が欠けているうちは、どの党と提携しようと政権に就く望みは薄いので、諦めたほうがいい。その点、最近では中山恭子氏が党首を務める次世代の党のほうが金融政策の効果や消費増税の悪影響について、よほど深く理解している。 政治家としては「GDP600兆円が達成できれば、公務員の皆さんにもおこぼれが回りますよ」と囁きたくなるのが人情だし、「子育て支援」や「社会保障」の充実も「強い経済」が実現すれば、あとから付いてくる類のものだ。 だからこそ安倍首相も内閣改造時に「経済最優先」と述べたのであり、もとより第2次安倍内閣の発足時から安倍首相は経済を重視してきた。安全保障への関心が高いと見られる首相の政策としては意外に思われたが、それは「経済を立て直さないと安保はできない」と知っていたからである。 いずれにせよ、「新・3本の矢」の本質は1本目の矢すなわち「強い経済」である。新しい矢を打ち出したからといって、元祖「3本の矢」である「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」をやめたわけではない。とりわけ金融政策は雇用を促すという点で、今後もアベノミクスの柱となるはずだ。 経済政策の究極的な目標は「雇用」にある。アベノミクスを否定するエコノミストたちがことごとく頬かむりをして見ないようにしているのが、雇用の改善である。 2015年8月の有効求人倍率(季節調整値、10月2日厚生労働省発表)は前月比で0・02ポイント上がり、1・23倍となった。じつに1992年1月以来、23年7カ月ぶりの高水準である。雇用の先行指標といわれる新規求人倍率も1・85倍となり、23年9カ月ぶりの高水準を記録した。経済成長率の増加が失業率の低下をもたらす関係性については、図2の「オーカンの法則(Okun's law)」が示すとおりである。 GDP600兆円を実現するには、何を措いても「2017年4月からの消費税率10%」を停止すること、そして金融緩和の継続が必須である。その意味で「消費増税の影響は軽微」と言い募ってきた財務省や御用エコノミストや、野口悠紀雄氏のように「1ドル=120円で日本経済は危険水準」と断言した経済学者は無責任といわざるをえない。いっさい謝罪も釈明もせず、執筆や講演を続けること自体、筆者にはまるで理解できない。 読者の方には、2014年前後の経済・ビジネス書を古本屋で買って読んでみることをお薦めする。誰と誰が間違っていたか、一目瞭然である。新品で買うのはもったいないが、古本ならまあ楽しめる(ひと昔前の経済・ビジネス書を「ヴィンテージもの」と呼んで面白がる向きもあるらしいが、ワインと違って熟成の価値はまったくないので、筆者は品質を保証しない)。 安倍首相をはじめ、政治家が私の意見を求めるのは、データの積み重ねである経済予測の「打率」が比較的高いから、という理由にすぎない。打率が下がれば、誰も相手にしないだろう。政治生命が懸かっているぶん、政治家は凡百のエコノミストより、景気の行方に対して敏感である。経済予測の結果に対しても、はるかに厳しい。このシビアさをエコノミストに見倣ってほしい、と感じるのは筆者だけではないはずだ。たかはし・よういち 1955年、東京都生まれ。80年、大蔵省(現財務省)入省。理財局資金企画室長、内閣参事官などを歴任。現在、嘉悦大学教授・政策工房会長。小泉内閣・第一次安倍内閣のブレーンとして活躍。近著に『日本郵政という大罪』(ビジネス社)、『アベノミクスの逆襲』(PHP研究所)など。関連記事■ 高橋洋一・ブラック企業も減る!アベノミクスの効果とは■ 集団的自衛権は「正当防衛」だ■ トンチンカンな左派マスコミ■ 財務省を「成敗」した安倍総理

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    軽減税率論議の落とし穴 増税デフレの愚を繰り返すな

    【日曜経済講座】田村秀男(産経新聞編集委員) 与党内では、平成29年4月の消費税率10%引き上げに向けて、軽減税率導入論議がたけなわだが、肝心な点を忘れていないか。生活必需品の一部税率を据え置こうと、増税が引き起こす国民経済への災厄は甚大なことだ。 9年度の消費税増税は慢性デフレを引き起こし、26年度増税はアベノミクス効果を台無しにした。消費税率再引き上げという矢は安倍晋三首相が掲げる国内総生産(GDP)600兆円の的をぶち壊しかねない。 国内では財務省主導で緊縮財政路線がまかり通る。疑義をはさんだのは、米国の財務省である。先月発表の外国為替に関する議会報告書で、消費税増税による日本の景気減速を取り上げ、財政緊縮にこだわるとデフレに舞い戻るのではないかと警告した。米国の国益思考の表れだろうが、日本の指導層はデフレと緊縮財政をグローバル経済の中での日本の国益と重ね合わせてみればよい。 国際通貨基金(IMF)理事会は11月下旬、人民元の国際準備通貨単位である特別引き出し権(SDR)構成通貨認定について、投票権シェア70%以上の多数で承認する情勢のようだ。上海株式市場など金融市場の統制など、元はどうみてもSDRの条件である「自由利用可能通貨」を満たさない。ところが、英独仏など欧州は早々と支持表明した。金融界や産業界が元関連金融で得られる利益を重視したからで、その点では米国も同じで支持に回りかねない。 このまま元が国際通貨に仲間入りすれば、アジアでは元が貿易や投融資でドルと並ぶ標準的な決済通貨になり、円は排除されよう。元欲しさに、日本の産業界や金融界は北京詣でに腐心せざるをえなくなり、対中外交の手足を縛るようになるだろう。北京は、「SDR通貨」元を発行すれば、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)はドルに頼らなくても元建てで融資できるようになる。 中国の軍事部門は外貨準備を取り崩さなくても「国際通貨元」によって戦略物資や先端技術の調達が可能になる。米海軍がしばらくの間、南シナ海を遊弋(ゆうよく)しようとも、中国はSDR通貨元という軍資金を永続的に活用できるのである。日本がデフレを先延ばしするゆとりはない。デフレを容認する財政・金融政策 日本の対米協調路線はデフレを容認する財政・金融政策で支えられてきた。 9年度消費税増税が引き起こした内需減退で貯蓄は国内で投資されず、米国を中心とするグローバル金融市場に向かう。国内経済は慢性デフレとなり、余剰資金はますます海外に出る。世界最大の債権国日本と世界最大の債務国米国という組み合わせは同盟関係にふさわしいように見えるが、実は資産国が貧しくなり、債務国が豊かになるという、倒錯コンビだ。 24年末に発足した第2次安倍政権は金融の異次元緩和を柱とするアベノミクスを打ち出し、脱デフレを目指してきた。その「成果」を端的に示すのがグラフである。 24年末と27年6月末を比較すると、日銀は円資金発行量を181兆円増やし、円安・株高を演出した。企業と金融機関は収益を順調に拡大したが、内部留保となる利益剰余金は80兆円増えた。 さらに目覚ましいのは対外資産の増加250兆円である。利益剰余金と対外資産は24年末までの3年間でそれぞれ14兆円、90兆円増加したのだが、アベノミクスによってその増勢が加速したわけで、余剰資金を米国など海外に回すという従来モデルが一層強化されている。消費税増税の衝撃で経済成長率がマイナスに落ち込んだ26年度、さらにことし前半とデフレ圧力の再燃は、民間資金の対外流出を促進する要因だろう。 翻って、安倍首相が掲げた名目GDP600兆円の達成は、カネの流れさえ変えれば数年のうちにでも可能とも読み取れる。アベノミクスは資金面で十分すぎるほどの余剰を生んだ。しかし、増税と緊縮財政という最悪の政策をとったために、成果を押しつぶしてしまった。 対外投資増加分のうち100兆円が国内投資に回れば、投資額をはるかに上回るGDPの拡大が見込まれる。あるいは、内部留保の増加分がまるまる国内の賃上げや設備投資に回れば同様だ。 民間は内需が冷えると見込む限り、国内雇用や投資には踏み込まない。予定通りの消費税率引き上げに踏み切るなら、全品目を軽減税率とし、GDP600兆円を達成してから軽減対象品目を見直せばよい。内部留保に課税して、勤労者世代に回せばよい。要は実行プログラムだ。 

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    「軽減税率は先進国の常識」の大ウソ!欧州の「失敗」を繰り返さないために…

    あるけど)筋悪政策だと思っておりまして、これまでも何度か反対意見をブログ上で表明してまいりました。【消費増税】「軽減税率」は最悪の選択肢?! http://otokitashun.com/blog/column/4008/【メモ】世論調査の軽減税率「必要」74%で、軽く絶望が止まらない件 http://otokitashun.com/blog/memo/9232/ とはいえ、ここらで改めてこの分野の専門家をお呼びして、いま一度曇りなき眼で軽減税率を考えなおして見ようではないかっ!ということで、創価大学で経済学を教える中田大吾先生をお招きしたところ、 いきなり結論出ちゃったーー この政策を激烈に推し進めている公明党と強い関係(?)にある、創価大学で教鞭を取る教授とは思えぬド直球っぷり!ほらまあ、学の独立ということで…。■ 実は恩恵をうけるのは高所得者だとか、一人あたり数千円しか軽減されないのに事務コストが莫大とか多すぎる欠点はすでに指摘をしてきた通りですが、推進論者が主張する 「欧州などの先進国では、軽減税率が当たり前!日本がやらないのがオカシイ!」という理論の間違いについて、今日の勉強会の内容から指摘しておきたいと思います。 消費税(=経済学用語では一般に「付加価値税」)を導入している欧州の多くの国では、確かに軽減税率(複数税率)が敷かれているところが多いのは事実です。しかし、その部分だけをもって判断するのは軽率です。 欧州各国が付加価値税を導入し始めたのは1960~70年代にかけてで、ここが付加価値税の「第一世代」と呼ばれています。1980年代に導入した日本は第二世代、1990年以降に導入した東欧諸国などが第三世代に当たります。 で、付加価値税先進国(第一世代)は複数税率でスタートした国が多いのですが、これは従前の税制との整合性を図るために仕方なく、政治的妥協の末に取られた手法の一つでした。 当時の欧州は分野ごとに税制が異なるものが多数あり、これを機会に統一を図ろうとしたことに抵抗が大きく、現状を追認する形で複数税率になったのですね。 そこには「経済的困窮者に対して配慮を!」 というような、福祉政策的な観点はあまりなかったわけです。結果、非常に税制が複雑になり、新しい品目が生まれる度に議論になるなど、欧州各国は複数税率導入の後遺症にいまなお苦しむことになります。 こうした明確な「失敗例」を間近に見たため、付加価値税導入の第二世代・第三世代は複数税率を避けて「単一税率」を選択することが主流となっています。経年変化を数値で見ると以下のとおり。【1989年以前に軽減税率を導入】単一税率:12カ国 複数税率:36カ国→複数税率のシェア75%【1990年から94年に軽減税率を導入】単一税率:31カ国 複数税率:15カ国→複数税率のシェア33%【1996年以降に軽減税率を導入】単一税率:25カ国 複数税率:5カ国→複数税率のシェア16% ということで、複数税率の導入を世界が避けていることは明らかです。ですので「欧州では常識」という主張を正しく訂正するならば、「かつては複数税率がたしかに主流であったが、問題点が多いため、その反省から今のトレンドは単一税率になっている」ということになります。■ そんなわけで、中田先生からの軽減税率の講義内容は多岐に渡りましたが、「欧州で失敗とわかりきった結論を、20年後にわざわざ追いかける必要はない」 という言葉が印象的でした。先般のIMFによる勧告の中でも、軽減税率には否定的な見方が示されています。単一税率は優れた制度=消費税「軽減」慎重に-IMF財政局長http://www.jiji.com/jc/zc?k=201510/2015102800557 欧州が喉から手が出るほど実現したかった単一税率を、わざわざ手放すのは愚の骨頂とも言えるでしょう。 与野党の駆け引きの中で既定事実化されている軽減税率導入ですが、なんとかここから世論喚起により一発逆転がありえないかと思うばかりです。 衆参同日選挙を開催するために、再び消費税延期が争点になって吹っ飛ぶ!…なんてことは、ないかなあ。。微力ながら軽減税率導入には、最後まで異を唱え続けていく所存です。 そしてオンラインサロンに入会希望の方は、下記のページから予約申込をお待ちしております^^https://synapse.am/contents/monthly/usamiotokita それでは、また明日。

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    消費増税を強行して習近平を喜ばせたいのか

    上念司(経済評論家) 増税による景気の悪化で安倍政権は終わる。それを一番喜ぶのは誰だろう?財務省はそんなに習近平を喜ばせたいのか? いま、日本の景気が絶好調なら私も増税に賛成する。しかし、直近の2四半期の経済成長率はまさかのマイナスだった。2014年の3月ごろまでは絶好調だったアベノミクスは、消費税以降元気がない。それを物語るグラフがある。http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2015/0831/1126.html これは内閣府が発表しているGDPギャップ(需給ギャップ)の推移を示すグラフである。GDPギャップは、一国の経済における総需要と総供給の差を表している。GDPギャップがマイナスということは、需要が不足して供給力が余っている状態を表している。供給力が余るというのは、具体的に言えば、製造設備の稼働は不十分で、働ける人が全員働けない状態ということだ。 2012年末に安倍政権が成立して以降、GDPギャップは順調に解消されるかに見えた。ところが、本来アベノミクスのメニューになかった増税が強行された。そして、このグラフを見れば明らかなとおり2014年第2四半期(4~6月)からGDPギャップは再びマイナス転換し、その幅を拡大させた。 2014年4月からいったい何が起こったのか?考えるまでもない、消費税の8%への増税だ。そして、それが日本経済にはっきりとした悪影響を与えたのだ。 増税によってマイナス転換したGDPギャップはその後も底這い状態を続けている。今年の6月現在でGDPギャップは-1.7%であり、名目価値に換算すると約9兆円のマイナスだ。 税率を上げても税収が増えるとは限らない。もし、税率さえ上げればたちどころに税収が増えるのであれば、消費税を100%にして完全なる財政再建を目指せばいい。しかし、そんなことをすれば、人々は消費を抑制し、景気が悪化することで税収は減る。実際に、消費税の増税によって、GDPギャップをマイナスにする効果を持つことは十分に証明されているではないか。 例えば、缶ジュースが100円で売られているとしよう。買い手は、売値の100円よりも高い105円の価値が缶ジュースにあると思っている。105円の価値があるジュースを、いま100円で買えると思っているからこそ、お金を使うわけだ。 ところが、ある時政府が缶ジュースに10%の税金をかけた。そうすると売値は110円になってしまう。これは、缶ジュースに105円の価値があると持っていた人にとって、お得感を消して余りある値上げとなる。結局この人は缶ジュースを買わない。そして、缶ジュースが売れないことで、政府はアテにしていた税収も得られなくなる。結局、国民にとっても政府にとっても望まない結果となってしまった。 昨年の消費税増税においてはまさにこれが起こった。もし、2012年からのアベノミクスの蓄積がなかったら、1997年と同じように税収はマイナスになっていただろう。逆にいえば、消費税増税をしなければ、もっと大きな税収増を期待できたはずだった。 歴史上、増税によって財政再建を成し遂げた国はない。安定財源とは経済成長である。最も優先されるべきは、長期停滞からの脱出である。それを期待するからこそ、日本人の多くは安倍政権を支持した。平和安全保障関連法案をめぐる、マスコミの執拗な偏向報道にもめげず、支持率が回復しているのはひとえに経済に対する期待である。それは、野党には経済政策で全く期待が持てないということの裏返しでもある。だからこそ、安倍政権は日本経済の復活に全力を挙げるべきだ。少なくとも、GDPギャップを縮小傾向に持っていき、安定的にプラスに転換するまで、増税は凍結しなければならない。 そして、直近やるべきことは、むしろ増税とは正反対の政策であり、具体的には大規模な補正予算である。財政政策の失敗によって開いたGDPギャップは財政政策によって穴埋めするしかないのだ。 しかし、現在検討されている補正予算はその規模が3兆円と極めてショボい。6月現在、内閣府が発表したGDPギャップは約9兆円であり、それに比べるとたった3分の1の規模しかない。これではまったくもって不十分である。最低でも10兆円程度の大型補正予算を組むべきだ。10兆円程度の大型補正予算、財源はある 財源はある。特別会計に目を向けて見よう。1ドル70~80円台の超円高が進んだ時に行った為替介入のおかげで、外国為替特別会計に多額の含み益が生じている。資金の推移を見ていただければ、10兆円ぐらいすぐにここから持ってこられることがわかる。外国為替特別会計の資金残高推移(平成20年3月31日)107.4兆円(平成21年3月31日)109.7兆円(平成22年3月31日)112.4兆円(平成23年3月31日)116.4兆円(平成24年3月31日)124.9兆円(平成25年3月31日)136.6兆円(平成26年3月31日)141.6兆円出典:財務省 しかも、日本は変動相場制の国であり、本来為替介入は必要のない政策だ。他の先進国で為替介入のための資金をこれほど巨額に積み上げている国はない。はっきり言ってこの特別会計にある資金を全額取り崩して国民には何の不利益もない。これらの財源を使えば、10兆円の大型補正など容易いことだ。 もちろん、補正予算の中身も重要だ。財政政策というと、まるで公共事業しか選択肢がないように吹聴する輩がいるが、これもトンデモない間違いである。今回の消費税増税によって財布の紐を最も固く締めたのは低所得者層である。彼らに増税で失った分を補てんするためには、公共事業よりも、所得税の減税や、定額給付金の支給など方が、圧倒的に効率が良い。 11月24日の新聞各紙の報道によれば、政府は2015年度補正予算で「所得の低い年金受給者を対象にした1人3万円の給付金を盛り込む方針を固めた。」そうだ。これ自体は決して悪いことではない。しかし、給付対象を年金受給者に限定するのではなく、若い世代にも積極的に配るべきだ。政治的な理由で予算規模がどうしても3兆円台しかないなら、全額をこの給付に充当しても構わない。それぐらいのメリハリが必要だ。 もし、安倍総理が昨年解散総選挙をせず、当初の予定通り10%への消費税増税が強行されていたらどうなったであろうか?当初の予定では、今年の10月から消費税は10%に増税されていた。しかし、今年の6月から始まったチャイナショックにより、世界同時株安が発生し、9月末には一時的に日経平均が17,000円割れとなった。10月には1ドル118円台という円高も発生している。もしこのタイミングで増税を強行していたら、大変な惨事になっていたことだろう。目に見える景気の悪化により、平和安全法制をめぐる一連の偏向報道で叩き落された内閣支持率は、本格的に下降トレンド入りしていたかもしれない。もし、安倍政権が倒れていたら、それこそ習近平は大喜びしていただろう。 では来年に向けて世界経済にリスクはないのか? おそらく、チャイナショックはこれでは終わらない。支那の経済成長率6.9%はトンデモない粉飾決算であり、いずれ化けの皮が剥がれるときがくる。むしろ、第2弾、第3弾が津波のように襲うと考えておくべきだ。 しかも、アメリカが今年の年末に利上げすると言っている。アメリカ経済は好調だが、利上げのタイミングが早すぎる。もし、利上げが強行されれば、半年程度のタイムラグをおいてアメリカ経済がリセッションに突入する恐れもある。 日本は20年近くにわたって経済的に停滞してきた。これ以上誤った政策を採用したらとても耐えられるものではない。仮にこれらの世界経済のリスクが顕在化しなかったとしても、景気回復の途上にある日本が増税するのは早すぎる。 「決めたことだから」という間抜けな理由だけで、国の存亡にかかわる決定を下していいのか?しかも、決めた当事者である民主党は、この体たらくである。律儀に約束を守る必要はない。 増税によって税収は伸びず、財政再建にも寄与しない。国民も政府も増税の死荷重によってお互いに得るものはない。軽減税率の話も揉めている。一つもいいことはない。習近平を喜ばせること以外に、増税を強行する理由があるのだろうか?私にはまったくその必要性が見えない。

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    日本財政に残された時間は15年 消費増税を予定通り実施せよ

    月の消費税率10%への引き上げは極めて困難な状況に陥りつつあるようにも見えるが、そうとは限らない。 消費増税は、直近(2014年4月)の増税を含め、1989年の消費税導入(0%→3%)、97年の増税(3%→5%)の3回あるが、増税の影響を成長率との関係で評価する場合、それはトレンド成長率(=潜在成長率)との比較で分析する必要がある。つまり、消費増税に伴う成長率への影響の大きさは、「実質成長率-トレンド成長率」と定義して評価するのが正しい。 このため、上述の潜在成長率(80年代=4.4%、90年代=1.6%、直近=0.5%)や内閣府「四半期別GDP速報」データ等を利用し、「実質成長率-トレンド成長率」を試算したものが以下の図表である。図表:増税前後における「実質成長率-トレンド成長率」の推移(出所)筆者作成 図表から、増税期(4-6月期)における実質成長率の屈折幅は「89年(2.4%減)>2014年(2%減)>97年(1.4%減)」であり、増税期の影響は97年ケースよりも大きいが、89年ケースよりも若干小さいことが読み取れる。 もっとも、図表のグラフから、増税5期後(2015年7-9月期)の足元において、「実質成長率-トレンド成長率」がマイナスであるため、今後の景気動向に注意を払い、2017年4月の消費税率10%への引き上げが予定通りに実施可能か否か、冷静な判断が必要であることは確かである。 だが、上記の第1・第2で言及した財政や異次元緩和の限界を考慮すると、安倍首相の発言の通り、リーマン・ショックのようなことが起こらない限り、2017年4月の増税を予定通り実施する必要がある。つまり、安倍首相の発言は正しいのである。 なお、2015年7月、内閣府は経済財政諮問会議に、「中長期の経済財政に関する試算」(いわゆる中長期試算)の改訂版を示した。同試算によると、実質GDP成長率が2%程度の経済再生ケースで消費税率を10%に引き上げても、政府が目標する2020年度の国・地方の基礎的財政収支の黒字化は達成できず、6.2兆円の赤字となることが明らかになっている。この関係では、消費増税を含む税制改革のほか、急増する社会保障費を抑制するため、社会保障の抜本改革に取り組むことが求められている。

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    安倍政権増税先送り論 財務省は消費税32%試算を発表し牽制

    し、自民党と公明党は2017年4月の増税実施を前提に、食料品への軽減税率を導入する協議を進めている。消費増税を延期する気があるようには見えない。 東京新聞論説副主幹でジャーナリストの長谷川幸洋氏はそれでも「増税延期は既定路線」と見ている。「今年4~6月期と7~9月期のGDP速報値が2期連続マイナスとなり、景気後退がはっきりしている。この景気では消費増税は無理。もし強行すればアベノミクスで公約しているデフレ脱却ができません。 最終的には国会で来年度予算案を成立させた後、来年5月に発表される1~3月のGDP速報値を見て決断することになるでしょう」 現段階でそれをいわないのは、財務省との全面戦争に突入することを恐れているからではないか。財務省の正門=東京都千代田区 財務省は強力な予算編成権を武器に政界、財界、霞が関に隠然たる力を持つ。安倍首相が予算編成前に「消費税再延期」を打ち出せば同省を完全に敵に回し、「一億総活躍社会」や「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」といった新たな看板政策のことごとくに「財源がない」と予算をつけてもらえなくなり、実行できなくなるからだ。そうなれば安倍政権の基盤そのものが危うくなる。 すでに財務省は自民党に「増税実施圧力」をかけている。自民党政調幹部が語る。「来年の参院選を睨んで農業関係にはTPP(環太平洋経済連携協定)対策の補正予算を組み、財界には公約の法人税減税を行なわなければならない。国土強靱化の公共事業の上積みも必要だ。 しかし、財務省は『消費税を予定通り上げなければ、財源不足になるから予算をつけるのは難しくなります』と説明し、社会保障では医療費の診療報酬引き下げ、農水予算では水田の転作要求、文教予算では教員削減や大学予算削減など、各分野でとても飲めない予算カットを突きつけてきている。 財界や建設業界、農業団体への公約が反故にされ、医師会の診療報酬がカットされるようなことになれば、党内から選挙を戦えないと官邸への不満が噴き出すだろう」 予算を「人質」に取って地元や支持団体にバラ撒きたい与党議員たちを増税賛成へと切り崩し、政権を揺さぶるのはこの省の得意とする手法だ。 過去、民主党に政権交代した直後の09年末の予算編成でも、財務省は「財源がない」と同党の公約だった子ども手当を半額に値切り、一気に評価を落とす原因となった。民主党政権は、最後は消費税増税へと突き進んで自滅に追い込まれていった。 さらに財務省は今年10月に財政制度等審議会が提出した資料の中で、財政再建が進まない場合、増大する社会保障費を消費税でまかなうためには税率を「最高32%」まで上げなければならないという試算を公表し、安倍政権の増税先送りを牽制している。これも同省の得意な情報操作といっていい。関連記事■ 菅総理言及の消費税増税 「経済の常識知らぬ妄言」と専門家■ 日本は消費税増税の必要まったくなし 財源は十分あると識者■ 財務省 安倍政権に消費税10%実現させて使い捨てとの見方も■ 安倍首相 財務省の天下り先を潰して厳しい報復受けた過去も■ 消費増税 安倍・海江田の「談合質疑」は国民をバカにしている

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    公明党が新聞に軽減税率を適用しようとする本当の理由

    者がどのように反応するかで…つまり、幾らの値上げになるかで、消費者と生産者の負担割合が決まるのです。消費増税一番敏感になっている業界は? ここまでのことはご理解頂けたでしょうか? では、新たに消費税が増税されることに一番敏感になっている業界はどこか? 例えば、生鮮食品を市場に提供している農家や漁業者はどうか? 生鮮食品というのは、そもそも天候などによって価格が大きく変動するので、消費税率が8%から10%に引き上げられ2%分価格が上がったとしても、普段の価格の変動振りからすれば、殆ど無視できるとも言えるのです。つまり、そのくらいの価格変動には消費者は格別の反応を示さない、と。 となれば、農家や漁業者が増税分を負担するのではなく、消費者がほぼ全額を負担することになり、従って、その分を軽減してやるということは、消費者の負担が軽くなることになるでしょう。 では、新聞はどうでしょうか? 新聞の購読者は、値上げに対してどのような反応を示すと予想されるのでしょうか? グラフをご覧ください。 この10年間ほど、新聞の発行部数が傾向的に落ちているのが分かると思います。 それからもっと注目すべきは、2014年の減り方が激しいことです。2013年と比べると144万部も減っているのです。前年比3.3%の減少。 要するに、そもそも新聞離れが起きているなかで、消費税が引き上げられたために、それを契機に新聞の購読を止める人が増えたのです。 ということで、新聞社は、また消費税が引き上げられると、さらに購読者が減ることを恐れているのです。 しかし、仮に購読者が減ることを恐れて、新聞代を据え置きにするならば、実質的に増税分は新聞社の負担になるで、それまた新聞社の利益を減らしてしまうのです。 これが新聞社が、新聞にも軽減税率を適用して欲しいと要望している真の理由なのです。 口では、新聞は民主主義の礎なんて言っていても、それはあくまでも建前。 新聞は、真実を報道してこそ役割を果たしていると言えるのですが、新聞社に軽減税率を適用しろと主張する背景に関しては真実を報道してはいないのです。 そのような新聞社を公明党が助ければ、今後新聞社は公明党のことを悪く書く訳にはいかなくなるでしょ? それが公明党の狙いだと思います。(オフィシャルブログ「経済ニュースゼミ」より転載)

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    軽減税率の導入 当初の納税事務はこうなる

    (「公明新聞」2015年11月29日付紙面より) 消費税の軽減税率に関し、制度設計をめぐる与党協議が続いています。このうち、事業者の納税事務について26日、軽減税率がスタートする2017年4月から当面実施する「簡素な経理方式」で大筋合意しました。その内容を解説します。<免税制度は維持> 大筋合意の内容は、現行の納税方法を維持し、変更点を極力少なくする形で標準税率と軽減税率で複数になる税率に対応できるようにするのが基本的な考え方です。従って、全国約800万ある事業者のうち約500万を占める課税売上高1000万円以下の事業者の納税義務を免除する制度も存続となり、実際に納税事務を行うのは残り約300万事業者となる見通しです。<区分経理> 消費税の納税額算出のイメージ現在、納税事業者は「客から受け取った消費税額(売上税額)」から「仕入れ先に支払った消費税額(仕入税額)」を差し引いて税金を国に納めています(仕入税額控除)。その際には、売上額や仕入額が分かる帳簿とともに、仕入れ先が発行した請求書や領収書などの書類を保存し、税務署から照会があった際には提示することで正確を期します。こうした納税方法を「請求書等保存方式」と言い、軽減税率導入後も当面、この方式が継続されます。 ただ、税率が複数になることへの対応は必要です。現状の単一税率では、売り上げにかかる消費税の総額から仕入れにかかる消費税の総額を差し引いて納税額を算出しますが、軽減税率が導入された際には、日常的に帳簿や請求書の軽減税率対象項目に印を付けるなどして、標準税率対象と区分した上で納税額を計算することになります【図参照】。<中小事業者への特例>軽減税率の与党協議に臨む(左から)公明党の斉藤税調会長、自民党の宮沢税調会長ら=11月11日午前、国会 こうした税率ごとの区分は、中小事業者で難しいケースも想定されます。そこで、課税売上高5000万円以下(1000万円超)の事業者の場合は、売上総額の一定割合を軽減税率対象の売り上げとみなして納税額を計算する「みなし課税方式」を選択できるようにします。 その際に用いる軽減税率対象の売上割合は、(1)仕入れ総額に占める軽減税率対象の割合(2)通常の連続10営業日の総売上高に占める軽減税率対象の割合―のいずれかを用いるとし、(1)や(2)を算出できない場合は売上高の半分を軽減税率対象とみなします。 また、仕入税額の算出では、課税売上高5000万円以下(1000万円超)の事業者について、売上額の一定割合(みなし仕入れ率)を仕入額とみなして簡単に計算する簡易課税制度を引き続き適用できます。※「簡素な経理方式」は軽減税率導入から当面の経過措置として実施され、最終的には納税額を正確に計算するためのインボイス(消費税額などが示された納品書)制度が導入されます。

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    ただちに成長政策を総動員せよ

    田村秀男(産経新聞編集委員) 安倍晋三首相は消費税率の再引き上げを先送りし、「アベノミクス」を衆院総選挙の争点に据えて勝利した。民主党など野党に対案がなかったためばかりではない。アベノミクスによる恩恵が中小企業や地方に行き渡っていないし、家計収入が実質減になっている状況下にもかかわらず、有権者の圧倒的多数は依然として、アベノミクスによる経済の再生に強い希望を抱いているからだ。安倍首相は2015年、総選挙勝利で強大化させたポリティカル・キャピタル(政治資本)を生かし、アベノミクスをまき直し、ただちに大胆な景気浮揚策を打つべきだ。 アベノミクスに今後残された時間的ゆとりはさほど長くない。消費税増税による景気破壊は、1997年4月、そして2014年4月の増税と2度も繰り返された。その教訓から、首相は来年10月に予定されていた再増税の1年半延期を決断したが、17年4月の消費税率10%実施は不可避だ。首相はこの決断に先立ち、側近の本田悦朗内閣参与(静岡県立大教授)を通じて米ウォール街など外国の投資ファンドの反応を探らせた。「延期は1度だけなら問題はないが、2度、3度となるようだと、市場は日本売りに転じる可能性がある」と首相に進言した。 あと2年余りで再増税待ったなしだ。首相はそれまでに増税に十分堪えうるだけの、力強い成長軌道に日本経済を乗せ、15年デフレから完全に抜け出さなければならない。通常の策では無理だろう。 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は10月末に異次元緩和追加に踏み切った。安倍首相周辺では、「黒田さんが首相に消費税増税しても大丈夫と言ってミスリードしたことへのおわび。日銀にはさらなる追加策を期待できる」と受け止めた。市場は沸き立ったが、株高による実体経済へのかさ上げ効果は限られる。日銀がおカネを刷って、金融市場に流し込んで円安・株高に誘導し、景気をよくするという手法は有効には違いないが、米国ほど大きくはない。過去のデータから試算すると、株価が2倍に上がった場合、米国では実質成長率が15%程度増えてきたが、日本は5%程度の上昇にとどまっている。 消費税率8%の重圧はこれから来年にかけてかかり続ける。挽回策は賃上げである。そこで生きるのが、安倍首相のポリティカル・キャピタルのはずで、首相は経済界や連合への賃上げを前にも増して強く求めるだろう。 グラフを見よう。法人企業統計によると、14年7~9月期に製造業は中小企業の収益が好転したが、従業員給与は依然として前年比マイナスだ。非製造業となると、大手、中小企業とも収益の改善基調がかなり弱まっている。非製造業は内需型であり、実質賃金の減少を最も受けやすい。輸出型の大企業の多い製造業大手の収益は円安とともに急回復するだろうが、産業界全体に賃上げムードが広がる情勢とは言いがたい。 4月の消費税増税は年間8.1兆円の負担を全家計に押し付けて、経済をマイナス成長に暗転させた。安倍首相はこの際、増税で打撃を受けた中低所得者向けに思い切った所得税減税、または増税分の負担軽減策をとるべきではないか。規模は5兆円なら、13、14年度の税収増による余剰収入で難なく賄える。首相は法人に対する法定実効税率(国税・地方税合計の税率)引き下げを重視するが、痛んでいるのは需要側、つまり家計である。 安倍晋三首相はさらに、1ドル=120円時代を日本企業の国内回帰に生かす政策を取るべきだ。輸出で日本と激しく競合する韓国は、朴槿恵(パク・クネ)大統領が円安批判を口にするほどだから、打撃の大きさはかなりのもので、裏返すとソニーやシャープなどが韓国サムスンに巻き返す機会が到来した。中国の人民元に対しても、円は2012年12月に比べて、2年間で50%以上も下落した。しかも、中国経済も鉄道貨物輸送量という「モノ」で計れば、14年全体を通して実質マイナス成長である。中国での生産・投資に見切りを付けて、本国に戻る動機は十分ある。 10兆円規模の大型補正予算も必要だ。その前提となるのは、東日本大震災復興、国土強靱(きょうじん)化、地方創生を合わせて着実に達成する中長期の公共投資計画である。それを、アベノミクス第3の矢である「成長戦略」の規制緩和や戦略特区、地方創生プログラムに組み合わせればよい。さらに、戦略特区に海外から国内に回帰する企業を迎え入れる。国内志向企業にこそ税を優遇すべきだ。 総選挙での圧勝の意義は、安倍首相がアベノミクスを妨害する勢力を排して思う存分、スピーディーに成長政策を総動員できることなのだ。

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    デフレ脱却のための特効薬はない

    そもそもアベノミクスとは何なのか? アベノミクスとは 1.量的緩和 2.財政出動 3.成長戦略 という3つの柱を基本に、「適宜適切な政策を打つ」というデフレ脱却を目的とした「総合的な経済政策の総称」であり、何か特別な政策があるわけではないし、特効薬のようなものではない。まぁ、簡単に説明すれば、インフルエンザにかかった時処方される「総合感冒薬」のようなものであり、特効薬の「タミフル」はないという話である。アベノミクスという言葉ばかりが先行し、イメージが膨らみすぎているのは問題といえよう。 唯一、アベノミクスが従来の政策と違うのは、1の量的緩和であり、大規模な量的緩和により通貨を増やし、結果的に通貨安に持ち込み、製造業などの国際競争力を大きく引き上げていることにあるのだと思われる。また、通貨増刷効果により、株式などの資産価格が上がるとともに、円安による効果で、円換算での企業の海外資産や海外売り上げが上昇し、企業のバランスシート改善が起きていることにあるのだと思う。 2.の財政出動に関しては、小泉構造改革、民主党の公共事業叩きなどにより、弱体化しまともに更新されてこなかった日本のインフラを見直し、震災などの教訓も糧として、少子高齢化と地震大国に合わせた新たな設計図に基づくインフラ計画を作るというものであるが、オリンピック特需や建設労働者等の人の問題もあり、なかなか前に進んでいないのが現状であると思われる。しかし、だからあきらめるわけにもいかず、人の育成を含め中長期的対応が必要となる大切な柱だと思われる。 そして、3、の成長戦略であるが、ウーマノミクス(女性の活用)や特区制度など規制改革、TPPやコーポレートガバナンス(企業統治)強化など企業改革が含まれるが、経済政策として正しく機能するかは不透明である。国が民間企業にどこまで関与すべきなのか?そして、規制を緩和することで本当に景気が改善されるのかは不透明である。まぁ、良くも悪くも聞こえの良いお題目を並べているようにしか見えないし、それはそれでよいのだと思われる。逆に政府の押し付けは民間の自由なビジネスを阻害し、それが結果的にマイナスになる場合も多いのが事実だからである。 では、「日本を救うのはアベノミクスしかない」という与えられたテーマの主題に入りたい。先述したようにアベノミクスとは「デフレ脱却」を目的にした総合的な経済政策の総称である。これに正解も間違いも存在しない。 唯一、議論が分かれるとすれば「デフレ」は善か悪かという話になる。デフレというのはモノの値段が継続して下がり続ける状態を言う。消費者から見れば、こんなにありがたいものはないが、結果的にこれは経済規模を引き下げるだけでなく、売価の低下は流通業者を苦しめ、生産者にしわ寄せがいき、結果的にそこにかかわる労働者に負担が行くことになる。いわゆるデフレスパイラルといわれるものである。ここで気を付けたいのは、消費者は単なる消費者ではなく労働者でもあるという事である。 それに対して、適正なインフレは経済規模を拡大させ、デフレの反対で所得などの上昇にも寄与する。モノの値段は上がるが賃金も上がる状態である。これは拡大を前提とした資本主義経済では正しい選択であるといえる。問題があるとすれば、価格の上昇と賃金のアップの間に時間差があることと、それが適正に賃金に反映されるかということになる。この点に関しては「政労使交渉」や税制上の優遇などで対応しているが、さらなる努力が必要であるといえるのだろう。 「日本を救うのはアベノミクスしかない」という事であるがアベノミクスを批判する主張の多くは、単なる印象論であったり、非経済学的な非論理的主張ばかりである。そして、まともな具体的対案を見たことがない。今回の選挙でも同様である。対案がないのであれば「アベノミクスしかない」といえるのだろう。

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    首相は財務官僚を成敗したほうがいい

    アベノミクスは素晴らしい効果を上げていたのに、8%への消費税引き上げで打撃を受けてしまった。さらなる消費増税など断じてやるべきではない」 安倍氏は総裁選に向けてアベノミクスを作成するときにも、クルーグマン氏の意見を聞いている。目ぼしいエコノミストに総当たりするほど勉強して考案したのがアベノミクスである。財務省のこれまでのやり方からみれば、邪道に映ったのだろう。 アベノミクスを動かすにはまず第一の矢として金融緩和、第二の矢として財政出動、第三の矢が産業の構造改革、規制撤廃である。 日銀総裁のポストは日銀法によって守られており、総裁は政治家のいうことなど聞く耳をもたない。安倍氏はひそかに白川方明前総裁に打診したといわれるが、白川氏と財務官僚は一体だ。次官がつねに日銀の審議委員に天下っていた。その財務官僚は5年の不景気に続いて、15年のデフレ、合わせて20年間も国民を不景気のなかに放ったらかし、国の借金が1000兆円にもなろうというのにまったく策がなかった。 首相になった安倍氏は日銀法の改正を正面から打ち出して、財務省に喧嘩を仕掛けた。白川氏は日銀法改正に直面すると辞任して〝改正騒ぎ〟を避けた。 その後任に抜擢したのが黒田東彦氏(元・財務省財務官)である。黒田氏は第一の矢である異次元の金融緩和を放つと、極限まで来ていた円高を円安に向けた。財務省、日銀の無策が企業の海外逃避を招いたのだが、振り返ってみると、この間彼らはどんな打開策を考えていたのか。財務省「税金の使途はおれが決める」 消費税を8%に上げた際、安倍首相は増収分のうち2兆円は「おれが使う」と宣言した。東日本大震災で災害復興費の調達のため、企業の法人税を臨時に引き上げた。安倍氏はまず、その分を返済して、さらに毎年、法人税を引き下げて20%台まで下げるという企業活性化策を考えていた。円安と法人税下げで、新規企業や海外企業を誘致して経済の活性化を図る戦略だ。 ところが、これに財務省は猛烈に反対した。もともと財務省は「税金の使途はおれが決める」という独善思想の持ち主だ。福祉施設や研究機関に寄付する金にも税金をかける。戦時並みの価値の一元化的発想だ。 安倍氏の法人税減税の発想は政治家の選択として十分ありうると思うが、財務官僚には許せない。“勝手”とみえたのだろう。毎日のように次官、主計局、主税局の局長らが翻意を迫りにやって来た。麻生財務相が抑え込んでくれるものと思っていた安倍氏はとんだ思惑違いだった。 麻生氏を官邸に呼んで、こう口説いたという。「われわれが組閣前に誓ったことは『税率を上げよう』ということではなくて、『税収を上げよう』ということだったじゃないですか」 法人税の減税は、安倍氏の戦略では税収を上げる決め手の一つだ。すると幹部がすっ飛んで来て「これは一回こっきりしか可能ではありません」という。安倍氏は断固「次の年も下げる」と言い放った。 20年間も不景気を続け、GDPまで下げた財務官僚の誰が責任を取ったのか。政治家の安倍氏が新機軸で財政を立て直そうという。失敗すれば、選挙によって責任を取らされるのは安倍氏の側だ。 財政はもちろん、国のあらゆる政策について財務省が下知(げじ)をしている。 戦時中は軍部、内務省が内閣を握っていたが、いま内閣を完全に握っているのは財務省である。にもかかわらず、責任を背負っているのは政治家である。これは終わったはずの官僚内閣制の姿ではないか。 財務官僚の根回しの凄さは、政権中枢を担った人なら誰でも知っている。財務省の意のままにならなかったからといって、税制調査会長が女性問題をバラされて失脚したのは公然の秘密。政治家などは国税庁に政治資金を握られているから、反抗できないといわれている。国税庁と年金徴収を合併させて「歳入庁」をつくるのが最善の形だと思うのだが、何十年も前から叫ばれながら、国会の場に上ったことがない。財務省が独占的に国税を握って、政界を操縦したいからだ。 説得力も抜群にうまい。菅直人氏は鳩山由紀夫首相のときの財務相で5カ月務めた。そのあと首相になるのだが、菅氏のあとを継いだ野田佳彦氏は「菅首相が増税論を熱心に説くのを聞いて驚いた。人が変わったようだった」という。その野田氏もわずか3カ月で強烈な増税信者になり、首相になって「三党合意を世に問おうじゃないですか」というほどの財務省信者になってしまう。 この財務省攻勢に対して、安倍氏は2014年6月、木下康司次官を退任させ、新財務次官に香川俊介氏(主計局長)、主計局長に田中一穂氏(主税局長)の人事を決めた。木下、香川、田中の3人はいずれも54年組の同期。これはまったく異例の人事である。同期が2人続けば、3人目の主税局長は国税庁長官か退任というのがこれまでの常識だ。しかし安倍氏は、かつて第一次安倍内閣時代に秘書官を務めた田中氏が安倍氏の「法人税減税論」に理解を示していることから、どうしても田中氏を主計局長、次官と歩ませたい。かといって、上にいる次官、主計局長の2人を飛ばせば田中氏が省内で浮いてしまう。そこで3人を順番に昇級させる手を打った。 こういう人事ができたのは、人事に先立つ5月「内閣人事局」を創設して各省の審議官以上600人の人事を内閣官房が評価できるシステムを創ったからだ。これによって内閣が省をまたいだ人事や降格もできるようにしたからである。派閥連立内閣だった自民党 財務官僚が与党の幹部を籠絡し、与党をほとんど“支配”できたのは、中選挙区制度が70年間も続いたからだ。中選挙区制度というのは一つの選挙区で3~5人が選ばれる。当然、同一政党から複数の立候補者が出るから、党内に最大五つの派閥ができるはずだ。自民党は総裁をこの五つの派閥からたらい回しで選んだ。このため、派閥単位の合従連衡が起こる。一方、親分は数がものをいうから子分たちを年功序列で遇し、時期が来たら閣僚に押し込む。盆暮れの資金も多いほど子分が増える。 こうなると官僚は重要政策を通そうとすると、親分か代貸しクラスの幹部を説得し、派閥をまとめてもらう。幹部には担当の係を付け、係が業界に頼んで政治献金をさせる。政・官・業の癒着はこういう持ちつ持たれつの関係で生まれた。 たとえば、旧宮沢派に親中派が多いという特色がある。官房長官を務めた加藤紘一氏、河野談話を出した河野洋平氏がいる。新人議員はこの親中派閥に楯突くような人は入ってこない。派閥によって色が違うから、自民党はつねに派閥連立内閣だった。政策は派閥ごとに出すため、官僚に付け込まれやすい。 安倍首相は7回当選で、初回は中選挙区制だったが、2回以降は小選挙区制に変わった。初回とそれ以後の金の掛かりようはケタが違ったという。政治資金は政党助成金によって党が配分するから、派閥の力は弱まった。ちなみに、2012年総選挙は自民党当選者294人のうち119人が当選1回。当然、派閥色も薄まる。 『読売新聞』の調査では町村派92人、額賀派52人、岸田派44人、麻生派37人、二階派29人、石原派15人、大島派13人で合計282人。現有議席が衆参で408人だから派閥に入っていない人が120人程度いることになる。 総裁の任期は3年で、20人の推薦人がいれば、誰でも立候補できる。最近はほかの派閥に属していても、自分の好みの人物の推薦人になる傾向がある。これを「新人類」と呼ぶとすると、昔ながらの派閥的発想しかできない人がいる。これを「守旧派」と名付ける。派閥をいっさい考慮しないで一本釣りで閣僚を決めるようになったのは、小泉純一郎内閣が最初だ。ところが、守旧派はこういうやり方が納得できない。 財務省は税制改正に当たって民主党の菅直人氏、野田佳彦氏を口説き落とし、当時、野党だった自民党の谷垣禎一総裁に「増税を主張するのは責任ある野党のあり方」といわしめた。 今回、8%へ引き上げたことについて、安倍氏は「2020年のオリンピックが決まって、つい脇が甘くなってしまった」と後悔している。まして景気が下向いているときに10%への二段上げなど、とんでもないというのが安倍氏の心境だった。 8月5日、麻生財務相は官邸に財務省の香川事務次官、田中一穂主計局長、佐藤慎一主税局長を引き連れて、首相に直談判に来た。要は「消費税の二段引き上げをやらないと日本の財政再建について、国際的信用を失う」との言い分である。しかし安倍首相は景気が鈍化している実感を語り、麻生氏らの申し入れを強く拒んだ。優先順位の第一は景気を持ち上げること この間、財務省は自民党の“守旧派”への説得を進めた。谷垣禎一幹事長、二階俊博総務会長、野田毅税制調査会長、伊吹文明衆議院議長ら。閣内では麻生太郎副総理をはじめ主要閣僚も含まれていた。いずれも党の重鎮であって反旗を翻されると党の結束が揺らぐ。 一方、安倍外交に対する不満も潜在化しそうだった。安倍氏はかねてから、日本の対中外交に不満だった。 これまでの日本外交は、とくに中国に対して“土下座外交”というべきものだった。中国は一歩譲れば、次は二歩譲ることを強要する。日中会談をしたいと思えば、(1)靖国参拝をやめる、(2)尖閣諸島は中国のものといえ――といった条件を付けてくる。靖国神社は戦後30年にわたって歴代首相が参拝している。ところが、中曽根康弘首相時代、“公式参拝”をめぐって国内がもめると、中国はすかさず「参拝するな」と押し込んできた。次は明白に日本領土である沖縄県・尖閣諸島の自国への帰属を主張し、「領土問題が存在することを認めろ」という。さらに、「沖縄も中国に帰属していた」などというたわけたことまで言い出している。 中国に対しては、607年、聖徳太子が「対等外交」を申し入れ、明治になっても福沢諭吉が「脱亜論」を書いている。歴史的にみて中国は「敬して遠ざける」のが最適の付き合い方なのである。 安倍首相は「地球儀を俯瞰する外交」を掲げ、2年足らずで50カ国以上を歴訪した。安倍氏の外交戦略の第一は、中国に軍事的に負けないように日米安保体制を強化すること。第二は東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携し、中国の膨張を防ぐこと。第三が豪州、さらにはインドとの準軍事同盟を築くことである。 中国とは戦略的互恵関係を構築し、積極的平和主義を貫く。安倍氏はいま、戦後日本が失った精神的なものを取り返す途上にある。 「河野談話」のように検証してみると実態がないのに、強制連行を認めてしまったものもある。『朝日新聞』が吉田清治氏の証言はウソだと認めて取り消したが、この32年間に日本はいつの間にか20万人を性奴隷にした汚名を着せられている。いずれも戦後外交の大失敗だが、失敗した原因は土下座精神だ。 その真相の矯正を忘れ、日中友好がいいことだと短絡する守旧派が党内に多数存在する。 首相がダブル引き上げを拒否すれば、引き上げ派の守旧派と親中派が動き出す可能性がある。過去の政変は各派の思惑が重なって重層化して勢いを増す。税法を変えるとか、新法を制定することもできるが、法の内容をめぐる議論をすると党内が真っ二つになる可能性がある。 2015年9月の総裁選をめざして党内が蠢いてくる可能性もある。思惑が交差する官界、政界の動きを見ながら、安倍首相は「民意に問うのがいちばん」と考えたのだろう。そのきっかけになったのは、味方の一人と考えていた黒田日銀総裁が9月15日に語った次の言葉だったに違いない。 「増税して予想以上に景気が落ち込めば、その時点で財政・金融的な措置で対応が可能だが、仮に先送りによって政府の財政再建に向けた決意、方針に疑念をもたれて、国債価格が大きく下がったりすると、財政・金融で対応することが困難になる」 これは財務省の言い分を正直に語ったものだが、同じセリフで橋本龍太郎首相は消費税を引き上げ、平成10年の参院選で惨敗し、政権を去ることになった。あとを襲った小渕政権も含め、10年間にわたって税収は減り続けたのである。肝心なことは税収を増やすことであって、安倍政権では税収は3兆5000億円ほど増えた。第一優先順位は景気を持ち上げることであって、増税をして財源をつくり出すことではない。 小泉純一郎首相は一枚看板の郵政改革法案が参議院で否決されたとき、「どうしても民意に問うてみたい」と衆院の解散に打って出て大勝した。反対する議員の選挙区には“刺客”を立てて落選させることまであえてした。 今回でいえば、最たる守旧派は野田毅税制調査会長だろう。安倍氏の思惑とは関係なく、「税の再引き上げは既定路線、当然2015年の10月から10%にする。安倍さんが何といおうと、私は動かない」と断じた。さながら古い自民党時代の派閥の親分か調査会、部会の長の言い草だ。こういう手合いに公認を与えると党の一体化を損う。 財務省のメンツは丸つぶれだが、麻生財務相が辛うじて出した救いの手は「10%への増税は3年後の2017年4月から始める。その際、経済情勢をみて決めるというような弾力条項は付けない」というもの。経済はつねに変わるもので、こういうのを石頭というのではないか。首相は財務官僚を成敗したほうがいい。屋山太郎(政治評論家)1932年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、編集委員兼解説委員を歴任。81年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。87年に退社。2001年に正論大賞を受賞。最近刊に『それでも日本を救うのは安倍政権しかない』(PHP研究所)がある。

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    「安倍総理vs財務省」どちらが正しいか

    安倍晋三首相が決断した消費増税先送りは、予定通りの引き上げを主張してきた財務省を首相サイドが抑え込んだ形になった。当面の景気はもちろんだが、財政・税制は世界最高レベルの財政赤字を抱えるわが国の在り方を揺るがす課題でもある。本当にリーダーシップを発揮すべきなのは誰なのか。

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    「財政規律」に縛られすぎた財務省の過ち

     11月17日、安倍総理はGDPの一次速報を受けて、消費税増税延期を決めた。この消費税増税判断に関しては、消費税増税法により、景気弾力条項が設けられており、政権(つまり、総理)が決めるとされており、総理はその条項に従い増税の延期を決めたわけである。衆院解散後、首相官邸で記者会見する安倍晋三首相=11月21日午後  この増税判断に関しては、財務省は予定通りの実施を求めており、ここで総理の判断と財務省の間で判断に対する違いが生じたわけである。なぜ、財務省はそこまでして増税にこだわるのか?そこには「財政規律問題」とその根底にある「財政均衡論」が存在する。   日本の政府は1000兆円を超える大きな債務を抱えており、これを健全化することは政治の使命である。問題はこの債務をいつまでにどのような形で健全化させるかという話になる。よく、国家の債務を家計に例える人がいるがそれは間違っている。なぜなら、国家は通貨発行権を保有しており、徴税権も持っているので、自国通貨建て債務では破綻しない。   これを簡単に説明すると 個人の場合、所得以上の支出を続けた場合、簡単に破綻する。国家の場合、税収以上の支出を続けても、お金を刷ることができるので破綻しないわけである。しかし、お金をたくさん刷れば、当然お金の価値が低下してお金の信用が失われる。   では、お金の信用とは何かという話になる。 もともとお金とは金の引換券(兌換紙幣)であった。銀行にお金を持ち込むと金と交換してもらえることでお金の信用を担保していたわけである。このような体制を「金本位制」と呼ぶ。そして、この発展版が第二次世界大戦以降続いてきた「ブレトンウッズ体制」である。第二次世界大戦により米国に世界中の金が集まった。米国はその金と両替できるドルを発行し、他国はドルとの両替を保証されたお金を発行することで疑似的な金本位制を取ったわけである。これを「ドル基軸体制」とも呼ぶ。   しかし、これは米国のニクソンショック(ドルと金の兌換中止)により崩壊し、現在ではお金と金は直接的に結びついていない。そして、これにより世界の国々は自由にお金を発行できるようになり、支出が税収を上回ってはいけないとする単純な「財政均衡論」は成立しなくなったのだ。   では、現在のお金を担保するものは何かという話になるが、それはお金を発行する国の国富(国、企業、個人の純資産)ということになる。そして、国富は景気に左右される。景気が良ければ、株価や不動産の価格も上がり、個人の所得も増加する。その結果、国富全体が底上げされることになる。言い換えれば、景気が改善され国富が増えれば、通貨を増刷しても問題ないという理屈になる。   そして、消費税増税の最大の問題は、消費税というものは消費に税金をかけるという構造であるため、消費減退効果が高く、景気を悪化させる要因になるという点にある。アベノミクスにより改善がみられてきた国内の景気指数であるが、今年4月の消費税増税を機に一気に悪化しており、消費税の景気悪化効果を立証するとともに、安倍総理の最大の政治目標であるデフレからの脱却にも赤信号がともったわけである。この現状を受け止め、安倍総理は消費税増税延期を決めたと考えられる。   ここで財務省の最大の過ちは何かといえば、例え「税率」を引き上げたとしても、景気が悪化してしまえば元も子もなく税収全体が落ち込むことにある。無理にこれを行えば、国民の負担が増加するだけであり、結果的に財政バランスをさらに悪化しかねないわけである。これでは何の意味もない。財務省は、財政均衡論と財政規律に縛られすぎているとしか言いようがない。  先述したように、現在の通貨制度では単純な財政均衡論は成立しない。しかし、だからといって、無分別に支出を増やしていいわけでもなく、支出に応じた税収を確保することは、中長期的な国の信用にとって不可欠である。また、税収は景気に左右され、景気が改善されれば自然に増える側面もある。   この様ないろいろな要素を踏まえ、デフレからの脱却、景気改善という選択を優先したのが今回の消費税増税延期であるといえる。そして、私はこの判断を正しい判断であったと評価するものである。経済は生き物であり、景気は気に左右される側面も強い。生き物を財務省が主張するように期日通り実施と杓子定規に扱う事は間違っており、状況を見て判断すべきなのである。   そして、安倍総理は消費税増税を2017年4月まで延期し、この時までに消費税を上げられる環境を作ると明言した。逆説的に言えば、この時までに上げられる(あげても景気に大きく左右しない)環境を作れなければ、安倍総理が唱える経済政策は失敗ということになるのだろう。日程的には増税の前年2016年7月に参議院選挙もある。これまでに改善されていなければ、次の消費税増税も危うくなり、退陣し、延期や廃止をかけた選挙が再び行われるように思われる。

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    財務省シナリオ「増税決め安倍勇退、谷垣か麻生首相」だった

     消費増税先送りと解散総選挙が決まった。私が予想した通りの展開だ。 そもそも消費増税は民主党の野田佳彦政権と自民党、公明党による3党合意で決まった。それを合意に加わった自民党の安倍晋三政権がひっくり返すというのだから、あらためて選挙で民意を問うのは、政治的にまったく正統性のある手続きである。 3党合意の増税路線に賛成して自民党に投票した有権者からみれば、安倍政権ができたと思ったら突然、公約を反故にして増税先送りでは納得がいかないだろう。 ところが、一部のマスコミは「増税を決めた法律には景気次第で増税を停止できる景気条項があるのだから、解散しなくとも政権が決めればいい。税金の無駄遣いだ」と解散を批判している。 私に言わせると、こういう批判は政治のリアリズムとダイナミズムを理解していない。解散なしで増税先送りを決めようとすると、何が起きるかを考えればすぐ分かる。 自民党の税制調査会を牛耳るベテランたちは増税断行を強硬に唱えていた。野田毅税調会長は言うに及ばず、麻生太郎財務相や谷垣禎一幹事長も増税派である。 民主党はもともと増税に賛成だ。舞台裏では財務省があの手この手で増税根回しに動いていた。そこで安倍首相が先送りを言い出せば、政権を揺るがす大政局になったのは間違いない。 大手マスコミはほとんど増税賛成だから結局、安倍は先送り断念に追い込まれただろう。そうなったら政権の求心力は低下する一方、景気は悪化するので最終的に政権が崩壊してもおかしくない。 それどころか、増税せざるをえなくなった安倍政権は財務省にとって、もはや用済みである。「総理、ご苦労さまでした」の一言で安倍は谷垣や麻生に交代する。実は、これが財務省にとってベストシナリオだった。 つまり「景気条項があるから、先送りしたいならできるじゃないか」という議論は一見、もっともらしいが、裏に秘めた真の思惑は「安倍政権、さようなら」なのだ。 増税先送りなら政局になるくらいの見通しは、政治記者ならだれでも分かる。それでもなぜ景気条項のような建前論を吐くかといえば、理由は2つだ。 まず、左派マスコミは増税賛成だろうが反対だろうが、とにかく安倍政権を倒したい。その思惑が一致するから、増税賛成派の朝日新聞も反対派の東京新聞も同じように景気条項論を持ち出す。 次に、永田町で暮らす政治記者や政治評論家たちは結局、財務省を敵に回したくない。裏で財務省が糸を引いているのは分かっていても、そんな「本当の話」をずばずば書き始めたら、財務省とその応援団に睨まれる。 財務省は奥の院でマスコミのトップ層とツーカーだから、記者は下手をすると自分が飛ばされてしまう。評論家は「永田町の政治が財務省によって動かされている」という実態を暴いたら、飯の食い上げだ。彼らにとっては永田町と霞が関情報こそが商売のタネであるからだ。商売相手を敵にするバカはいない。 はっきり言えば、政治記者も評論家も国民の暮らしなど眼中にない。だから解散も予想外だったのである。 今回の解散は政治バトルの戦場を永田町・霞が関から一挙に国民レベルに拡大した。その結果、増税派は雪崩を打って先送り容認に動いた。戦う前から安倍首相の完勝である。(一部敬称略)■文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)※週刊ポスト2014年12月5日号■関連記事 解散・総選挙 財務省と経産省との官邸主導権巡る暗闘が発端  菅総理言及の消費税増税 「経済の常識知らぬ妄言」と専門家  安倍政権誕生で批判の口火切るのは朝日ではなく読売、日経か  菅首相 震災直後に息吹き返すが余命は財務省の「思惑」しだい  増税批判する産経新聞に財務省有力OB「おたくはひどいな」

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    デタラメばかりだった財務省とエコノミスト

    シナリオしか頭にない人間は、想定外の事態が起きたときに墓穴を掘ることになる。 複眼シナリオで見ると、消費増税見送りのチャンスは、じつは9月の「石破の乱」にあった。石破茂氏との交渉が決裂してすわ倒閣、という事態になれば、消費税凍結が国民に信を問う格好の解散カードとなっていたからだ。しかし幸か不幸か、石破氏は政権内に封じ込められ、衆議院解散は沙汰やみとなった。 これからも増税をめぐり、安倍政権の周囲でさまざまな画策が生じるはずだ。財務省としては、石破氏のように自分の思いどおりになる与党議員を探して懐柔することだろう。地方議員には「もし増税が潰れたら予算づくりもやり直しになってしまう。あなたの地元の要望も通らない」と脅しをかけ、経団連には「消費税増税なくして法人税減税なし」という。 だが、そもそも私にいわせれば、税率と支出が結び付いて予算が青天井になる現行の仕組みが異常である。法人税は個人の所得税と重複する「二重課税」だから、もともと無駄な税金だ。マイナンバーなどで個人の所得をきっちり捕捉して増収を図るのがセオリーだ。 いずれにせよ、こうした動きを誰より注意深く見ているのは安倍総理自身である。マスコミは財務省のプロパガンダやお天気エコノミストの観測気球ばかり流さず、ロジックとファクトに基づく報道をすべきだろう。高橋洋一(嘉悦大学教授)1955年、東京生まれ。80年、大蔵省(現財務省)入省、理財局資金企画室長、内閣参事官などを歴任。第一次小泉内閣、第一次安倍内閣で「改革の司令塔」として活躍。2008年、山本七平賞受賞。最新刊は、『アベノミクスの逆襲』(PHP研究所)。

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    「高負担」受容し財政危機避けよ

    京都産業大学客員教授・吉田和男 安倍晋三首相は極めて重い決断を強いられた。来年10月から予定されていた消費税率の10%への引き上げを1年半先送りして平成29年4月から実施することを決断した。消費税等改正法の付則で経済動向に関する確認の念押しが規定されていることに基づいている。 8%への消費税率引き上げを行った後の経済動向は決して良好なものではなかった。株価は好調で、賃上げやボーナス上昇など明るいニュースもあったが、景気指標は芳しくないものが多かった。世界的にも深刻な財政状況 4~6月期の国内総生産(GDP)成長率はマイナス7・3%であった。いわゆる消費税率引き上げに伴う個人消費の1~3月期の駆け込み需要に対する反動減がマイナス成長を生み出した。この反動減からの回復が注目されたが、7~9月期のGDP速報値はマイナス1・6%となり、期待された回復が見られなかった。この数値を受けて、安倍首相は経済動向から判断して、法改正を行っての税率引き上げの先送りを選択した。アベノミクスによる成長軌道への回復を優先した結果であった。 一方、財政状況も一時の余裕もないまで悪化している。政府債務残高は1千兆円を超え、GDP比は200%超にもなっており、戦時並みの財政状況になっている。 世界的に見てもこれほど大きな政府債務になっている国はない。財政危機が論じられたPIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)の百数十%程度と比較してもダントツの財政赤字である。財政危機を迎えた国の苦悩は、年金の減額や公務員の解雇などに始まる歳出のカットとともに、失業率の上昇とインフレが同時に起こるなど、尋常ではない。 PIIGSのように、大量の国債が売られて財政危機になる状況はもっとも避けるべきことである。財政状況の悪化から国債が売られると正常な財政運営ができなくなる。国債残高がこれほど大きくなってくると、もっとも心配されるのが金融市場での国債の信認の大きさである。国債は安全資産として貯蓄の手段となっているが、国債発行が限度を超えれば国債価格の下落が心配される。金融危機につながる恐れも 現在、長期金利が1%以下になっているが、これがいつ上昇する(国債価格の下落)か分からない。現在の低金利は日本銀行の政策的なオペレーションによって生まれているが、これが常識的な水準になるだけで大幅な国債価格の下落になる。集中的に国債が売られることもあり得る話となる。 こうなれば、国債を多く所有している金融機関にとっては含み損を持つことになり、場合によっては金融危機につながる。 この危惧に対しては、日本の国債の大多数が国内の金融機関や投資家によって保有されていることが、諸外国の財政危機との相違であると指摘されている。財政危機を起こした国では、外国の投機的な国債保有によって財政赤字が直接的な危機につながったという議論である。その点で日本とは異なることが指摘される。 しかし、外国人が国債を保有しているかどうかは財政危機とは必ずしも結びつかない。「空売り」によって国際金融市場で投機的マネーが大きく動き、財政危機を顕在化させることは否定できない。 いずれにしても、国債は税金の後払いであり、「タダ」では決してない。合理的に考えれば、税負担となる国債元利払いの現在割引価値は国債発行額そのものなので、国債発行と税は何の差もない。しかし、金融上の制約があり、後世代にツケを回すのにも限界があると考えるのが常識であろう。消費税率の引き上げを先送りした安倍首相は「財政ギャンブル」を行ったことになる。 国民の負担率上昇は不可避 すなわち、財政問題を先送りしたことで、増税による短期的なマイナスの回避を優先し、財政赤字のもたらすリスクを取るという判断を行ったのである。 もっとも安倍首相の判断も、消費税率の引き上げを1年半先延ばししたものの財政規律を放棄したわけではなく、消費税率10%への引き上げは経済状況のいかんにかかわらず実施することを明言している。これは最低限、必要な措置であり、金融市場からのアタックがないことを望むのみである。 今後、予想される人口の少子高齢化などの要因で、財政支出が増えることはあっても減ることはない。年金医療費の拡大は不可避であり、子育て支援などの支出も充実させることが望まれている。社会保障費だけで年々1兆円ずつ拡大していかざるを得ない。 財政の効率化は常に行われなければならず、不断の行財政改革は必要であるが、国民負担率の上昇は避けられないことを認識すべきである。現在の状況を前提とし、2020年度プライマリーバランスの黒字化を目指すとすれば、いずれ北欧でみられるように消費税率は20%を超えることは避けられない。日本は高負担社会になることの覚悟が求められる。(よしだ かずお)

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    増税の先にニッポンの未来はあるか

    2015年10月に予定されていた消費税率10%の再引き上げが延期された。安倍晋三首相は「デフレ脱却が危うくなる」として1年半先送りする方針を表明。景気の腰折れを回避する狙いがあるとはいえ、時間的猶予だけでは問題解決にならないという意見も根強い。増税の先に未来はあるのか。

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    コストカット優先主義からの脱却を

    KeroChan(東京都) 先日、財務省が文部科学省に対して、小学校の35人学級の設置を40人に戻すように申請していたことが話題となった。これは、教職員や国庫負担の削減を目的としたものであるが、インターネット上を中心に財務省への批判が殺到した。 確かに、財務省の申請は、教員の負担軽減や公教育の拡充が求められている現状と明らかに逆行しており、批判が殺到することは目に見えている。しかし、コストカットを最優先し、必要な投資までも行わないという問題は財務省ばかりでなく、我々国民も抱える問題であると認識すべきである。 1990年代のバブル崩壊以降、財政健全化や行政による無駄遣いがマスメディアを通じて取り上げられることとなった。とりわけ、公共事業に対するバッシングは凄まじいものであった。「公共事業=悪」というイメージが植えつけられ、政府支出の削減が実行された。また、国民生活から見ても、ファストフードや100円ショップなどの安値でモノを得られる店が人気を集め、生活を支える存在に成長した。こうした傾向が何年にも渡って続き、あらゆる場において「とにかく削減しろ!」「とにかく安くしろ!」という論調が現在に至るまで、我が国を支配することとなった。政府支出の削減や規制緩和をはじめとした、構造改革を強く求める声が大きいこともその支配の強さを象徴している。iRONNAの読者の方々の中にもこうした考えを持っておられる方が多くいるのではないかと思う。 こうした現状と合わせて考えると、財務省の文部科学省に対する申請の目的と多くの国民が普段求めている考え方はそんなに変わらないと私は思った。今回は教育予算の削減について言及したからこそ、こうした批判が集まったのであって、その他の分野に関する予算であれば、削減に賛成するだろう。こうしたコストカット優先主義の考え方は多くの弊害をもたらした。人材派遣の広がりによる雇用の不安定化や食の安全に対する不安、インフラの老朽化の放置などがそれに当たる。我が国が今抱える緊急を要する問題の諸悪の根源は、コストカット優先主義に起因する。例に挙げた教育問題に限らず、あらゆる事案を解決するためには、それなりの費用と人材育成が必要であるということを忘れてはいないだろうか。 今、我々に求められているのは、コストカット優先主義から脱却し、必要なものに適切な量を投資することである。コストを削って解決しようとする考え方は、欠陥をもたらすだけである。

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    恐るべき消費増税の「破壊力」

    力の認識だ。 甘利明(あまり・あきら)経済財政・再生相はGDP速報値発表後の記者会見で、「デフレ下で消費増税を行うことの影響について学べた」「デフレマインドが払拭しきれないなかで、消費税を引き上げるのはかなり影響が大きい」と反省の弁を述べたが、そんなことは1997年4月の橋本龍太郎政権当時の消費税増税後のデフレ不況をみればわかるのに、甘利氏は周辺の内閣府エコノミストたちから楽観論ばかり吹き込まれたのだろう。 本欄などで、「消費税増税でアベノミクスは殺される」と1年半以上前から警告してきた筆者からすれば、これらエリート官僚たちは、権力と納税者のカネを使って収集した豊富な情報をいったいどのように加工、歪曲(わいきょく)したか、知りたいところだ。 問題はこれからだ。再増税を先送りしたところで、景気が復調するわけではない。 甘利氏は「大事なことは好循環をしっかりまわしていくことだ」と言い、「企業収益は過去に例のないくらいに好業績をあげている。それが内部留保にとどまらず、雇用者報酬に反映されることが一番大事だ」としており、賃上げを引き続き産業界に求めて行くつもりのようだ。 しかし、消費税増税で実質所得が減って消費が冷え込む中で、賃上げを求めるには無理がある。好業績なのは輸出大手なのだが、内需型企業は原材料コスト上昇に悩まされている。現役世代へ所得減税 即効性が期待されるのが金融緩和である。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は10月末に思い切った「異次元緩和」追加策を打ち出し、円安、株高を演出した。円安は株高を導き、株高は実体経済を押し上げるという読みがある。 伝統的な日銀マンは金融政策を通じて株高に誘導するのは「タブー」で口にしたがらなかったのだが、黒田日銀は株式のインデックス投信を信託銀行全体の規模並みで買い上げるのだから、随分と変わったものだ。では、株高で実体経済はどのくらい押し上げられるのか。 グラフは2008年9月のリーマン・ショックを起点に、実質GDP、家計消費と株価を指数化して、推移を追ったものだ。株価が低迷している間、実質GDPは低迷する一方、家計消費はわずかながら上向いてきた。デフレで物価が下がっているなかで名目消費は横ばいでも実質では物価下落分だけプラスになる。 そんな基調の中で、安倍政権が12年12月に発足して、アベノミクスへの期待で株価が上昇し始めた。すると、家計消費も実質GDPも上昇軌道を描き出したことが読み取れる。ところが、この2つとも今年4月にぽきんと折れた。いったん下がった株価は6月から反転上昇し始めたにもかかわらず、GDPは下向いたままだし、家計消費の回復は弱々しい。 グラフのデータは9月までで、10月末の異次元緩和追加と円安・株高を反映していないが、株高によるGDP押し上げ効果は日本の場合、米国に比べてかなり弱い。リーマン・ショック後のデータをもとにした筆者の試算では、株価が2倍になった場合、米国では11年9月以降、一貫して実質GDPが15%前後増えるが、日本では12年12月以降は5%前後で、7月以降は2%台まで落ち込んだ。 安倍政権が消費税増税を見送るだけでは、アベノミクスを蘇生(そせい)させられない。デフレ再燃の恐れが顕在化した以上、政府は増税効果を相殺する財政政策を打ち出すべきだ。現役世代向けの所得税減税が急がれる。

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    消費増税は日本の未来に役立つのか

    不履行となった例は、(政治的な理由によるものを除けば)ない。日本は財政危機にはないのであり、それゆえ消費増税は必要がない。 消費増税は不要だと言うと、決まって「では、社会保障の財源はどうするのだ」という反論が返って来る。しかし、財政破綻があり得ない国が財源に悩む必要などない。そもそも、税というものを、政府支出の「財源」と考える発想自体が間違いなのだ。課税とは、政府収入を増やすための手段ではなく、国民経済を適切に運営するための手段なのである。この考え方を「機能的財政論」と言う。 機能的財政論によれば、財政赤字の善し悪しは、それが国民経済にもたらした「結果」で判断すべきとされる。具体的には、失業や物価上昇率、あるいは社会格差などが判断指標となろう。 例えば、完全雇用が達成され、需要超過で高インフレであるなら、財政支出の削減や課税によって、加熱した需要を冷却する必要がある。逆に、失業率が高く、デフレであるならば、財政支出の拡大や減税によって消費や投資を刺激すべきである。しかも、完全雇用やデフレ脱却を達成するまで、財政赤字を拡大し続けてもよいし、そうすべきなのだ。 この「機能的財政論」によれば、長期のデフレに苦しむ現在の日本は、財政赤字を拡大すべき状況なのであって、消費増税どころか消費減税が必要だということになる。まして、格差の拡大が懸念される中で、逆進性があって低所得者層に不利に働く消費税を増税してよいはずがない。 国債の増発による金利の高騰を不安視する声が後を絶たないが、デフレ下での金利高騰はまずあり得ない。しかも、中央銀行が国債を購入すれば金利を低く抑えることは容易だ。実際、日本銀行は、現在、量的緩和によってそれを実行しているのである。 我が国の政治家・官僚・経済学者らは、「機能的財政論」という税財政政策の基本的な理解を欠いたまま、消費税の是非を巡って大騒ぎを繰り返してきた。そんなことだから、二十年も虚しく失われたのだ。

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    消費税増税延期と解散総選挙をめぐる5つの矛盾

     消費税増税延期と解散を巡る議論が進んでいる。そして、この議論には5つの大きな矛盾が存在する。物事はそれを分解し、論点を丁寧に整理することでこの矛盾と本質が見えてくる。今回の矛盾は政権交代による逆転現象が生み出したものであり、非常に興味深いものでもある。1.消費税増税法案の矛盾 民主党政権下で三党合意により生み出された消費税増税法案。この法律は大きな矛盾を抱えている。この法律には附則18条(景気弾力条項)が含まれており、その時の政権の判断によりその施行を延期又は廃止できるとしている。しかし、自動的にその実施期日が変更になったり、法律が廃止される条項が含まれていない。つまり、政権の判断で延期や廃止ができるが、法律そのものは生き残ってしまうのだ。これを廃止するには新たな法律が必要となる。2.廃止法案の矛盾 自民党は総理による消費税増税延期判断があった場合、国民の信を問う総選挙を行うとしているわけだが、これは先程の法律の矛盾があるためである。総理の判断により実質的に延期や廃止ができるが、法改正を必要とするので、この法改正が選挙の争点になるからである。与党自民党は「増税延期又は廃止法案」を争点に掲げるとしており、反面、野党第一党の民主党とその支持母体の連合は「予定通り実施すべき」としていた。これを単純に整理すると与党自民党「消費税増税延期」、野党民主党「消費税増税賛成」となるわけで、野党が票を失う要因となる増税を謳うというありえない状況となるわけだ。この矛盾に気がついたのが、11月14日になって突如消費税増税延期を容認し、意見を翻した。3.内閣不信任の矛盾 消費税増税延期を国民に問うという解散について、野党などは「解散に大義がない」として、内閣不信任を提出するとしているが、もし、不信任が決議された場合、「解散」又は「内閣総辞職」になるのだが、与党自民党が解散を容認しているため、安倍総理が「内閣総辞職」を選択する可能性はなく、「解散」を選択すると思われる。つまり、内閣不信任案の提出が「解散」を促進するものになってしまうのである。4.アベノミクス批判の矛盾 アベノミクスとは 1.量的緩和 2.財政出動 3.成長戦略 という3つの柱をベースに、デフレ脱却に向けて適宜必要な政策を組み合わせてゆくというものである。当然であるが、この経済政策に消費税増税は含まれていない。そして、現在の経済の失速の原因は「消費税増税」によるものであることは間違いなく、昨年の消費税増税判断の間違いを批判する事はできても、アベノミクスを批判するのは間違いである。また、消費税増税の間違いを正すのが今回の判断であり、争点なのである。5.消費税増税推進の矛盾 アベノミクスと消費税増税が直接的関係がないことは先述したが、景気悪化を批判しながら、消費税増税推進を進めるのは矛盾している。消費税は消費に税金をかけるという構造上、消費が大きく減退するリスクが高い。そして、現在の指標の悪化はこの消費税増税に因るものである。原因と結果がわかっているからこそ、総理は消費税増税延期を決定するとかんがえられるわけであり、さらなる増税は景気悪化に拍車をかけるものになる。だから、景気悪化を批判し増税を行うべきだとするのは根本的に間違っているといえるのである。 最後に、論理的矛盾が生じているものはいつか破綻する。物事には原因があって過程があり結果がある。結果や印象を見ているだけではなかなかわからないものが綺麗に論理整理することで見えてくると私は信じている。

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    総理、さらなる増税は無理です。

    日銀が追加の金融緩和を行ない、確かに株価は上がった。だが、所得は伸びず、4月の消費増税が国民生活を直撃している。とても来年10月に消費税率を10%に上げる環境にはない。安倍総理のブレーンからも延期論が出始めた。

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    脱デフレ 消費増税見送りが最低条件

     「日本は脱デフレに向けた過程で、今まさに正念場にある」「インフレ目標早期達成のためにできることは何でもやる」-。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は10月31日に突如、最後の賭けに出た。 長期国債買い入れ額を年50兆円から80兆円に増やす一方、日本株連動の上場投信(ETF)の買い入れ額をこれまでの3倍の年3兆円とする。長期国債買い入れは政府の一般会計向け国債発行額(2014年度は41.2兆円)の倍近いし、借換債など含めた市中発行額(14年度は167.9兆円)の44%に相当する。ETFの買い入れ額は信託銀行を上回り、日銀が日本株の主購入機関になる。想定していなかった市場に与えた衝撃はすさまじく、円相場は急落する一方で株価は急騰している。資金供給残高(マネタリーベース=MB)は15年末に国内総生産(GDP)の7割強(米国は2割強)に達する見通しで、これも異次元だ。マーケットへのマネー大量投入で脱デフレと景気の好循環を実現できるのか。成功体験もとに 黒田日銀が念頭に置いているのは米国の量的緩和の成功だ。米FRB(連邦準備制度理事会)はリーマン・ショック後の3次にわたる量的緩和政策によって、株価を押し上げ、その株価が先導する形で景気を上昇軌道に乗せた。筆者試算によると、13年1~3月期以来、米国のMBが「100」増えるごとに、株価は「15前後」上昇を続け、株価が「100」上昇すると、実質GDPは「12~15」増えてきた。 日本の場合はどうか。MBの「100」の増加に対し、日経平均株価上昇幅は異次元緩和開始の13年4月から12月末まで実に「100前後」と目覚ましかったが、消費税増税実施の今年4月から9月末までの日経平均上昇幅は「55~60」で安定的に推移している。株価上昇幅100に対する実質GDPの増加分はどの程度か。13年1~3月期から今年7~9月期(実質成長率を民間予測平均の年率1.9%とした)まで、おおむね「5~6」で推移している。 黒田日銀はこれまでの異次元緩和の成果に手応えを感じているわけである。この「成功体験」をもとに、緩和を大胆に拡大して、一気呵成(かせい)に脱デフレを実現しようと狙う。黒田氏が「中央銀行総裁として歴史に名を残すか」とつぶやくゆえんである。過大評価は禁物 だが、米国と日本には決定的な違いがある。日本では消費税増税があり、さらに株価に対する実体経済の反応度は、日本は米国の3分の1程度に過ぎない。日本の株価は絶えず、ニューヨーク・ウォール街の投機に左右される不安定さがつきまとう。また円安は内需型産業のコスト増を招き、急激な円安は実体経済の混乱を生みかねない。 消費税について、黒田総裁は昨年秋の税率8%実施決定に際し、安倍晋三首相に増税しても金融緩和で景気への悪影響を相殺できると進言した。しかし、円安と税率アップのダブル効果で物価は3%台半ばまで一気に上昇し、実質賃金の下落を招き、家計消費を押し下げている。黒田氏と気脈を通じる内閣参与の本田悦郎静岡県立大学教授や浜田宏一エール大学教授は、異次元緩和を強化しても、税率10%への再引き上げ時期を1年半延ばすべきと、主張している。両氏に黒田氏が同調するのが当然だ。 株価については、実体経済への影響を過大評価するのは禁物だ。グラフが示すように、01年から5年間の日銀量的緩和時期、株価は確かに上昇基調にあったが、脱デフレには至らなかった。当時のブッシュ政権の容認で日本は円安誘導策をとり、輸出増に成功したが、物価下落率以上に賃金・所得が下がり続けた。今回は、円安にも関わらず、輸出は増えない。内需、特に家計消費や実質賃金を押し下げる消費税増税はデフレ再燃の最大の要因となる。増税によるデフレ効果は1年後にはっきりと表れる。1997年度の消費税増税では、その年の7~9月期から企業の生産が減り、在庫が急増し始め、98年度から慢性デフレに突入した。日銀は異次元緩和の弾薬を今回で使い果たす。必ず成功させるためには、消費税率の再引き上げ見送りが最低条件になるだろう。 (産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)

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    アベノミクスを否定する増税は延期すべきである

    いう方がいます。私はそうした人に、「では、具体的にどのように想定しておられたのか」と聞いてみたい。 消費増税の前に、民間エコノミスト約40名の回答を基に集計された「EPSフォーキャスト調査」を見ても、今年4―6月期の実質GDP成長率を前期比年率マイナス4~5%と予測していました。ところが、いざ蓋を開けてみると、マイナス7.1%というリーマン・ショック以来の大幅な落ち込みだったのです。 いまでも駆け込み需要からの反動減は緩やかに回復基調にあるものの、ほとんどの経済指標が予想を下回るものになっており、よいデータはせいぜい有効求人倍率や完全失業率、最近低迷してはいるものの株価や為替ぐらいです。さまざまな景気動向指数は低迷しており、たとえばCI(composite indexes)一致指数は、7月(前月差0.6%増)を除いて4月からマイナスが続いています。内閣府が景気の基調判断を「足踏み」から「下方への局面変化」に下方修正したこともあり、過去に遡って「景気後退がすでに起こっている」という判断を行なう可能性が高いと思います。 今年4―6月期のGDP速報(二次速報値)でプラスに寄与したのは民間在庫品増加と財貨・サービスの輸入の減少です。しかし商品が売れないために在庫が積み増しされ、また内需が弱く輸入が減ったことでプラスに寄与しただけですから、褒められた話ではありません。残りすべての値がマイナスで、その結果、成長率がマイナス7.1%(前期比年率)に落ち込んだのです。内需だけを見るともっと厳しく、おそらくマイナス15%程度に達するでしょう。それだけの激しい落ち込みを、われわれは今年、経験したのです。見誤った増税のタイミング いまの日本は、まだデフレを脱却した普通の経済状態に回復していません。アベノミクス「第一の矢」である大胆な金融緩和で、15年間続いたデフレ経済のマインドを変えようとしている段階で、ようやく効果が表われつつあります。インフレ率を、消費者物価指数の生鮮食品を除く総合指数であるコアCPIの前年同期比で見ると、アベノミクスが始まったころのマイナスから、今年8月は消費税率引き上げの影響(2.0%)を除いた数値で1.1%と、かなりの勢いで上昇しています。同時に労働市場がタイトになっていることもあり、名目賃金も増加しています。しかし現在はまだ、名目賃金の増加ペースは物価上昇率に追い付いていないということに注意すべきです。 アベノミクスが効いてくると、消費も投資も促進されて労働市場がタイトになり、名目賃金が上昇します。その結果、やがて賃金の上昇率がインフレ率を超え、実質賃金がプラスに転じます。 ところが、その実現を前に消費税率を上げたのは、きわめてタイミングが悪かった。デフレ脱却はまだ道半ばで、結果的には、3%の消費税率アップには耐えられる状況ではなかったのです。したがって私は、「5年間にわたって1%ずつ消費税率を上げるべきだ」と主張したのです。 安倍総理とも何回かお話をしましたが、周囲の状況から私の案が政治過程で多数派になるのは難しい、と感じました。そこで予定どおり3%の税率引き上げを行なうと同時に、増税の衝撃を緩和するために、5.5兆円の補正予算を組み、公共事業や中低所得者に対する給付を行なう。また、賃金を増やした企業に対する法人税の税額控除を含めて1兆円程度の法人税減税措置を行ない、そしてこれまで行なってきた大胆な金融緩和を継続するという3つの手段で、3%の消費税率引き上げを乗り切るしかないと考えたのです。 ところが、誤算もありました。 第一に、公共事業の工事がなかなか進まないことです。人手不足、なかでも建設業における熟練労働者不足と建設資材の高騰で供給制約が生じ、消費増税によるマイナスのインパクトを相殺するまでに至っていません。 第二に、円安が進んだにもかかわらず、数量ベースでの輸出が伸びてこないことです。私は輸出がもっと増加し、消費増税の衝撃を和らげてくれるものと予想していたのですが、輸出は伸び悩み、今年度上半期(4―9月)は過去最大の貿易赤字となりました。 こうした誤算がいくつか重なり、「こうなっては困る」と懸念するリスクシナリオのほうが実現してしまったわけです。 天候不順という消費に対する悪化要因も私は否定しませんが、日照時間や降水量の統計を見ても、極端に雨ばかり続いたわけではありません。74人が犠牲になった広島県の土砂災害のように悲惨な自然災害があったので、心理的なインパクトは大きいのですが、日本全体として見て、今年がそれほど異常気象だったわけではありません。 にもかかわらず、これだけ消費が伸び悩んでいるのは、つまるところ実質賃金がマイナスになってしまったためです。3%の消費増税がもたらす効果は2%程度のインフレにほぼ等しいので、消費税を3%上げることで実質賃金がさらに2%押し下げられ、実質可処分所得の減少とともに購買能力が落ちたのです。このような消費の減退を見て、期待インフレ率であるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)も、今年7月ごろから下降に転じています。このままだと2%程度にインフレ率が達する時期が後ズレしてしまうかもしれません。 やはり問題は消費税引き上げのタイミングにあった、といわざるをえない。増税どころの話ではない 消費増税にともない、駆け込み需要と反動減が生じたため、日本経済が本来もっている成長トレンドが視界不良になっている点も見逃してはなりません。そこで今年の1―3月期と4―6月期の実質GDPを均して、昨年の7―9月期と10―12月期の平均からの伸び率を見ると、年率約1.5%であることがわかります。しかし、家計消費だけを見ると年率約マイナス2%程度となります。4―6月期はマイナス7.1%まで落ちているので、仮に7―9月期が1―6月期の平均と同じ実質GDPであったとしても、つまりゼロ成長だったとしても、それを4―6月期と比べるとプラスに見える。それだけ「ゲタ(Carry Over)」を履かせているということです。 1―6月期に対して7―9月期がゼロ成長だった場合でも、7―9月期の実質GDP成長率は4―6月期の3.8%増(年率)という数字になります。ということは、7―9月期の実質GDP成長率が対前期比で3.8%になって初めて1―6月期と同じ実質GDPの水準、つまりゼロ成長になるわけです。 われわれがめざす目標は、「平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度」です。この点は、「社会保障と税の一体改革関連法」(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行なうための消費税法の一部を改正する等の法律)の附則第18条に記されています。単純に考えると、7―9月期で前期比プラス5.8%の成長をしなければ、1―6月期に対して2%の成長を達成できないことになるのです。 ところが最新の「EPSフォーキャスト調査」(2014年10月)を見ても、7―9月期の実質GDP成長率(前期比年率)の予測値は3.66%、つまり1―6月期からマイナス成長です。実際の成長率はもっと低いのではないか、というエコノミストも多いのですが、この3.66%がそのまま実現した場合でも、景気後退で現在の成長トレンドも維持できない。増税どころの話ではないのです。 いずれにせよ、消費税率が10%に引き上げられることで、日本経済がさまざまな意味で「異次元の世界」に突入していくことは間違いありません。消費税率が2桁台になり、かつ10%ですから計算が容易になります。たとえば、40万円の液晶テレビなら4万円、5000万円のマンションなら500万円を税金でもっていかれる、と即座に頭で理解できる。国民に与える心理的な影響は計り知れません。 消費税額が鮮明にイメージされるぶん、財布の紐が急速に固くなるのです。2017年4月まで延期する むろん私は、「永久に消費税率を上げるな」といっているのではありません。いつかはタイミングを見計らい、税率を引き上げ、国民の皆さんにご負担いただかないといけないとは思います。財政再建のためにも、日本の税体系全体を見直すうえでも、消費税の増税は避けられないでしょう。 しかし、まずはデフレ脱却を優先し、そのために消費税の再増税を2017年4月まで延期する、というのが私の最も現実的な選択です。昨年4月の日銀金融政策決定会合で、資金供給量を2年で2倍にし、2%のインフレ率を達成するという「量的・質的金融緩和」が決定されました。ところが今年4月の消費増税の影響で、2年で2倍というスケジュールが若干、遅れている。 私の予想では、2015年の年末には、インフレ率が2%付近に達するのではないかと思います。しかし、それでアベノミクス「第一の矢」が目的を達成したと安心するのではなく、実際のインフレ率とインフレ予想が2%程度で10カ月程度安定していることを見届けたうえで、2016年9月か10月ごろにデフレ脱却宣言を行ない、10月には増税実施を確認できるでしょう。そして6カ月の準備期間をおいて、翌2017年4月1日に再増税を実施するシナリオがベストだと思います。くどいようですが、今年7―9月期の「瞬間風速」だけで、日本の運命を左右するような再増税の決断をしてはなりません。 もし予定どおりに来年10月に8%から10%へ消費税率を引き上げた場合、その悪影響を打ち消す効果があるとすれば、黒田東彦日銀総裁が進める金融緩和を強化すること。もう一つは、国民に現金を配ることです。高所得者は2%程度の再増税に耐えられるかもしれませんが、中低所得者や若年層は、1%の増税でも大変な負担です。彼らに「子育て補助金」などの名目で集中的に給付金を出し、ショックを緩和することが必要となるでしょう。 しかし、それがつねに可能とは限りません。私はインフレ率が2%で安定し、増税によっても実質の可処分所得がマイナスにならないときまで、消費税増税を延期すべきであると考えています。増税して税収が落ちる可能性 一方で、軽減税率に関しても議論がありますが、問題点も多い。もし軽減税率を導入するとなると、どの分野に適用するのかという際限のない議論が始まってしまうでしょう。 最も大事な点は、消費税率を引き上げても税収が上がるとは限らないという点です。消費税自体の税収は上がっても、所得税や法人税の税収が落ちる可能性があるからです。前回、消費税率を引き上げた1997年のように、増税したにもかかわらず、税収が減ってしまったら元も子もありません。いまのように実質賃金がマイナスで、期待インフレ率も低下し、購買能力および購買意欲も脆弱な状況で増税した場合、税収が大きく落ちる可能性があります。他方で、将来マクロ経済が安定してくれば、持続的な税収増が期待できる。そのときまで増税をしてはいけません。 加えて、名目GDPが1%増えたときに税収が何%増えるかを表す税収弾性値も、デフレからインフレへの過渡期にある現在では3程度あるといわれています。つまり名目GDPが1%増えたとき、税収は3%程度増えるということです。そこで名目GDPをできるだけ増やし、弾性値効果を最大限発揮させて税収を増やしたうえで、経済が安定したときに増税を行なうのが正しいやり方だと思います。 最近、衆議院議員の山本幸三先生が消費税の再増税に対する慎重論を発表し、自民党内部にそれに同調する動きも生まれました。徐々に潮目が変わったように感じます。「消費税の再増税のスケジュールは既定路線であり、その路線を変えたら社会保障は実行できない」という思考停止状態を一刻も早く脱する必要があります。税率を上げると税収が全体として減ってしまう危険性が高いのです。「所要の措置を講ずる」べき 何が何でも「予定どおりに増税すべきだ」という人たちの言い分は、第一に、消費増税が一体改革関連法の本則で決まっていること。第二に、消費増税は国際公約だから延期した場合、国債の信認が傷つく、ということだけですが、はっきりいって二つとも間違っています。 一体改革関連法の本則にはたしかに「消費税法の一部を次のように改正する」と記されていますが、附則第18条・第3項で、次のように定められています。 「この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、〈中略〉消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、〈中略〉経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」 したがって、今年4月の消費増税の影響で、4―6月期の実質GDP成長率が前期比年率マイナス7.1%という東日本大震災以上に悪化した経済状況にもかかわらず、再増税の延期措置を講じなかった場合、右の附則第18条の趣旨に反することになるでしょう。 国債の信認についても、10年物国債の金利は0.5%を切っており(2014年10月下旬現在)、日本国債はマーケットで安全資産と見なされています。ニューヨークで国連総会が行なわれた今年9月下旬、私も安倍総理に同行しました。その前にブリュッセルとロンドンを訪れ、年金基金の運用機関やヘッジファンドなど約70社の機関投資家と話しました。彼らは日本の消費税の再増税に対する問題意識が高く、「次の増税はうまくタイミングを選んで慎重に実施してほしい。前回の消費税増税のネガティブな影響はわれわれもよく認識している」という意見が過半数でした。 加えて、ルー米財務長官も今年10月10日に開催された国際通貨金融委員会(IMFC)で “need to carefully calibrate the pace of overall fiscal consolidation”(財政再建のペースは注意深く設計し直す必要がある)と発言しています。これは「財政再建を急ぎすぎてはならない」という明確なメッセージです。概して、外国のメディアや投資家、格付け機関、研究者のほうが日本のメディアよりも消費増税をより冷静に見ていると私は思います。 われわれがなすべきは、「いま必要な政策の優先順位は何か」ということを虚心坦懐に議論し、ベストな選択をすることにほかなりません。先の附則第18条には「所要の措置を講ずる」べきである、とまさに正論が記されています。 デフレ脱却を確実にして名目GDPを増やすことは経済政策の基本であり、名目GDPが増えなければ「成長戦略」は失敗します。要は、デフレのままでは何をやってもダメなのです。15年間のデフレを経験した日本人が、身に染みて感じたことではないですか。 最も恐ろしいのは、現下のデフレ脱却に失敗したら、その真の原因は消費税増税であっても、「アベノミクスが失敗したからだ」といわれてしまうことです。インフレ期待に働きかけることでデフレ脱却をめざすアベノミクスはデフレから脱却できる唯一の政策ですが、それを「机上の空論」だと批判する人は、いまでも少なくありません。そのアベノミクスが否定されたら、日本は未来永劫デフレから脱却できなくなります。 私も大学で教鞭を執っていますが、20代の若者たちは物心ついてからずっとデフレ経済のなかで暮らしていて、所得は増えないものだと思っています。彼らは結婚もなかなかできず、子供を産んでも二人以上はまず望みません。そんな社会がこれからも続いたら、日本の未来は失われてしまいます。 だからこそ今回は絶対に失敗できない。慎重にも慎重を期して、この大事な決断を政治家の方々に行なってほしい。国民の声をよく聞いてほしいと思います。 「消費税の再増税は決まったことだから粛々とやればよい」という、そんな単純な次元でものを語ってほしくないのです。本田 悦朗(ほんだ  えつろう) 内閣官房参与・静岡県立大学教授。1955年、和歌山県生まれ。東京大学法学部卒。大蔵省(現・財務省)で関税企画官や理財局国有財産第二課長を務める一方、在ソビエト連邦日本大使館二等書記官、在ニューヨーク日本総領事館領事財務部長、在米国日本大使館公使などを歴任。欧州復興開発銀行(EBRD)日本代表理事、財務省大臣官房政策評価審議官などを経て現職。著書に『アベノミクスの真実』(幻冬舎)がある。関連記事■アベノミクス「第一の矢」でデフレ不況を打ち抜け/原田泰■安倍政権は大本営発表をやめよ/小浜逸郎■冨山和彦・なぜローカル経済から日本は甦るのか

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    黒田さんに注文します 今度こそ首相に増税見送り進言を

     やると決めたら、大胆にドーンと。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁はさすがだ。日銀生え抜きの白川方明(まさあき)前総裁ときたら、too late,too little(遅すぎ、ちょっぴり)策しかとらなかったために、金融緩和効果は出ず、むしろ円高・株安、デフレ加速を招く始末だった。 それでも、その黒田さんに注文がある。異次元緩和を強化しても、来年10月予定の消費税率10%引き上げを脱デフレ遂行まで見送るよう、安倍晋三首相に進言することだ。 理由第1は、今年4月からの消費税増税がアベノミクス効果、特に異次元緩和効果を台無しにしかけたという現実だ。安倍首相の信認が厚い黒田総裁は昨年9月、首相に対して増税による景気へのマイナスは金融緩和で打ち消せると進言したのは、大変な誤りだった。 円安による物価押し上げと消費税増税の影響で、物価は急上昇し、実質賃金を大きく押し下げてしまい、増税後の消費需要を冷え込ませた。 第2は、マーケットの一時的なにぎわいが実体経済の回復に結びつくとは限らない点だ。今回の緩和強化は、米国の景気回復や利上げ期待と重なって、ドル高・円安、株高に弾みを付けたが、ウォール街の投資ファンドの投機的思惑に左右される円や日本株価が安定した上昇を続けるはずはない。 2000年代後半の円安・株高局面でも日本はデフレから脱出し損ねた。アベノミクスが株価を押し上げた13年でも、実質的な消費は低迷を続けた。量的緩和=株高=個人消費・設備投資増という米国型の好循環は、慢性デフレ病の日本で容易には実現しないのだ。 金融緩和が実体経済に効き出すには約9カ月かかる、と米連邦準備制度理事会(FRB)幹部から聞いた。 日本で異次元緩和が本格的に始まった時期は13年4月。9カ月後の今年1月からの日本の景気は消費税増税前の駆け込み需要と増税後の急激な反動減と夏場以降の低迷で覆われる。緩和効果が弱い上に消費税増税で需要を冷やすのは、まさに自殺行為である。 安倍首相は4日から、消費税率再引き上げについて、前回の増税決断前のときとほぼ同じ顔ぶれの有識者からその是非について意見を聞く。その有識者、特に経済学者・エコノミストの多数は予定通り増税しても、景気に不安はないと主張したが、かれらはひと言も判断の誤りを認めようともせず、前回と同じく、「増税しないと、国債への信認が失われる」と繰り返すだろう。 前回は滅多にない災厄だが、起きれば打つ手がない、という国債の「テールリスク」論に黒田総裁が同調した。 国債相場の安定の鍵が日銀にあることは、日銀買い入れがもたらした相場の超安定から見ても明らかだ、 総裁は今度こそ、一部有識者の妄論を一笑に付して欲しいところだ。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男)