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    土用の丑の日はいらない ウナギ密輸の「闇」台湾・香港ルートを追う

    密だ。1キロ300万円超!土用の丑の日向けシラスの高騰 日本の水産庁にあたる、台湾の行政院農業委員会漁業署の黄鴻燕副署長は「香港への密輸があることは承知している。罰則強化を検討するなどしているが、取り締まりは容易ではない」と話す。 また、日本鰻輸入組合の森山喬司理事長に、台湾から香港を経由して、日本へシラスが入ってくる不透明な取り引きの実態について取材したところ、その事実を認めたうえで、「ただ、これは今に始まったことではない。台湾は07年からシラスの輸出を禁止したが、それ以前にも禁止していた時期がある。いわばずっと禁止状態で、同時に日本はずっと輸入している状態だ。今のところ、組合として台湾からのシラス輸入防止に向けて何らかの対策をうつつもりはない。香港からの輸入は日本政府も認めている」と話す。「台湾では日本よりシラスの漁期が早いことから、夏の〝土用の丑の日〟までに出荷サイズに育つシラスが多く、日本の養鰻業者にとってこのシラスはかなりありがたい存在」と続けた。 こうした状況に対して水産庁増殖推進部のウナギ担当者は「日本からすると、香港から輸入されるため密輸入とはいえないが、輸出を禁じている台湾からシラスが日本へ入ってくる仕組みはよくないとは思っている」と話す。 ウナギは、人工孵化(ふか)から育てた成魚が産卵し、その卵をもとに再び人工孵化を行う「完全養殖」の実用化技術が確立していない。つまり、天然の稚魚(シラス)を捕獲し、養殖の池に入れて育て、出荷するしか方法がない。 日本でウナギが大量消費される夏の「土用の丑の日」は例年7月下旬か8月上旬に訪れる。今年は7月30日だ。日本ではビニールハウスのなかでウナギを養殖するのが一般的な方法 シラスは一尾0・2グラムほどで、これを出荷サイズである200~250グラムほどにするには、天然の場合、環境にもよるが5年ほどかかる。一方、日本で一般的な養殖方法であるビニールハウスとボイラーを使って、水温を上げ、エサを与え続けて太らす方法だと、わずか6~7カ月ほどで出荷サイズにまで成長する。つまり、1月中旬までには養鰻池に入れなければ、その年の「土用の丑の日」の出荷には間に合わない。 日本のシラス漁最盛期は、年にもよる(シラスは、新月かつ大潮の日に海から川へ大量に遡上するため、そのタイミングで河口付近で採捕する)が、1月下旬~2月上旬が一般的である。シラスはマリアナ海溝で生まれて、黒潮にのってやってくるが、日本からみると黒潮の「上流」である台湾では、11月1日からシラス漁が解禁され、11、12月が最盛期となる。少しでも早くシラスが欲しい日本の養鰻業者が台湾のシラスに飛びついている、という構図だ。 シラスの価格は日々変動するが、土用の丑の日に間に合う時期のシラスを巡っては、数年前から1キロ300万円を超すことが常態化しており、これは銀の価格をもしのぐ。この高価格は考えてみたら当たり前だ。7月下旬の「土用の丑の日」に間に合わせるため、買う側である日本の養鰻業者はどうしてもシラスが欲しい。売る側はその足元を見て販売できるからだ。ウナギ特売の裏は、魑魅魍魎が跋扈する世界が また、高値でしかシラスが買えない状況をつくると、「購買力のある巨大な養鰻業者以外は購入できず、寡占化を進めることができる」(養鰻業者)という面もある。この影響は日本にとどまらない。「約10年前、台湾では1700社ほどの養鰻業者がいましたが、現在では1100社ほどに減っています。実際にウナギを取り扱っている企業となると、さらにその半分ほどです」(台湾区鰻魚発展基金会の郭瓊英元董事長)という。養鰻業者の数が減っている要因は他にもあるというが、なかでもシラス価格の高騰は大きな要因だという。 また、シラス価格の上昇は、最終的には消費者に価格転嫁される。特に「新仔(しんこ)」と呼ばれるシラスから半年ほどで出荷サイズに育てたウナギは人気があるため、価格転嫁しやすい。 だが、とある老舗ウナギ屋の店主は「日本の新仔幻想はくだらない。半年ほどで急に太らせた、いわば肥満児のウナギをありがたがって食べているだけ。正直ウナギのレベルとしては高くないので、ウチでは絶対に使わない。タダでもらっても使わない」と話す。 例年、土用の丑の日が近付けば、「今年もウナギ屋には行列ができています」「このスーパーではウナギが安値で購入できます」という食欲をそそる平和なニュースが流れる。だが、その舞台裏では魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する、ドロドロとした世界が広がっているのだ。ニホンウナギは黒潮にのって日本へやってくる (出典・水産庁資料をもとにウェッジ作成)  ウナギの問題は密漁や密輸入といった違法行為だけではない。日本人はこれまで世界のウナギを食い尽くしてきた。日本や台湾、中国、韓国など東アジアに生息しているニホンウナギは14年にIUCN(国際自然保護連合)によって、「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い」とされる絶滅危惧IB類に指定された。 護岸工事や堰(せき)の設置などといった環境要因もあるとはいえ、これまでシラスを採れるだけ採ってきたことと無縁ではないだろう。 このニホンウナギだけでなく、ヨーロッパウナギ、ビカーラ種などもそれぞれ絶滅危惧IA類、準絶滅危惧に指定されているが、これも日本人の「ウナギ爆食」と無縁ではない。日本の商社が世界のウナギをかき集め、それを日本人が食べ続けることで、資源量を大幅に減らしてきたのだ。絶滅危惧種だらけのウナギ(出典・各種資料をもとにウェッジ作成)   挙げ句の果てにはワシントン条約「違反」まで挙げ句の果てにはワシントン条約「違反」まで また、ヨーロッパウナギに至っては、09年から野生動物の国際取り引きを規制するワシントン条約の附属書Ⅱにも指定され、許可なしには取り引きが禁止されている。また、EUは域外との商取り引きを全面的に禁止している。 だが、毎年外食店やスーパーでウナギを購入してDNA検査を行っている北里大学の吉永龍起准教授によると、今なおヨーロッパウナギを取り扱っている店があるという。EU域外国へ不法に出されたシラスが、香港を経由して、中国で養殖・加工され、日本へ輸入されているものとみられている。 DNA検査を実施すると、ヨーロッパウナギであることがすぐに判明することなどから、昨年から急激にヨーロッパウナギを取り扱う店舗は減少したが、未だに日本国内で販売されている。 ウナギの取材を始めると、次から次へと違法行為や不正、業界のコンプライアンス意識の低さなどが明らかになってくる。「今年も土用の丑の日がやってきました。おいしくウナギをいただきましょう」などと言っている場合ではない。 そもそも「土用の丑の日」にウナギを食すようになったきっかけについては諸説あるが、江戸時代に平賀源内が知り合いのウナギ屋から依頼されて、閑散期である夏に売り上げを伸ばすためにつくったキャッチコピーという説がよく知られている。 日本のシラス問屋、養鰻業者のみならず、絶滅危惧種を大量販売し続けるスーパーや外食店、資源問題には触れず土用の丑の日だからといって消費を煽るメディア、それぞれに責任はある。知らず知らずのうちにではあるが、残念ながら、消費者もこうした状況をつくりあげている一員である。 もし、平賀源内がこの世にいれば、こうした「惨状」を知るにつけ、「土用の丑の日」のキャッチコピーを取り下げるかもしれない。

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    ウナギ研究の異端児が暴く 市場に出回るウナギ蒲焼きの正体

     [WEDGE REPORT] 吉永龍起(北里大学海洋生命科学部准教授)インタビュー聞き手・塩月由香(月刊「Wedge」編集部員) 7月に入り、美味しそうなウナギの蒲焼きのポスターやのぼりを目にすることが増えた今日このごろ。土用の丑の日を迎える24日前後には、「ひとつ鰻重でも」と考えている読者も多いことだろう。 だがウナギといえば、一方で資源の枯渇が叫ばれ、この1、2年ではさらに、中国産ウナギ蒲焼き商品の多くに絶滅危惧種に指定されているヨーロッパ種のウナギが使われていたといった報道も。店頭の蒲焼き商品に対して、産地だけでなく品種を自主的に開示するスーパーも出始めるなど、にわかに販売側の変化も出始めている。 こうした変化の影に一人の男がいる。市販のウナギの蒲焼きを片っ端からDNA検査し、結果を公表している北里大学海洋生命科学部の吉永龍起准教授だ。ウナギ研究者の中でも「異端児」の彼がなぜ蒲焼きの調査をしようと思ったのか。続ける理由とは。丑の日を前に話を聞いた。北里大学・吉永龍起准教授の研究室にて。(撮影:Wedge編集部)Q:いつから市販のウナギ蒲焼きのDNA検査を?──2011年から行っています。初年度はサンプル数がピース単位でわずか28検体でしたが、今年は1シーズンで170検体の商品を調査しました。商品は主にスーパーや牛丼チェーンを中心に、中国産の商品で実施しています。Q:検査はどのように行うのか?──まず買ってきた商品の写真を撮り、重さを測り、背開きかどうかなどウナギの捌き方を確認したうえで、人が触れていないと思われる部位の蒲焼きの身を、2、3ミリ角の大きさにカットし、PCRという遺伝子解析の手法を用いてDNAの配列を確認します。そして、世界で19種亜種が確認されているウナギのDNA配列と照らし合わせて、商品にどのウナギが使われているのかを確認します。ひつまぶしなど、蒲焼きの切れ端がたくさん入っている商品の場合、1つの商品の中に複数の品種のウナギが混ざっていることがあるので、ピースごとに検査しています。Q:検査を始めたきっかけは?──いま思えば本当にたまたまですね。2011年の東日本大震災で、当時、海洋生命科学部があった岩手県・三陸キャンパスが被災して、冷凍していた研究サンプルがすべて駄目になってしまった。約1カ月後に神奈川県・相模原キャンパスに緊急移転した後も、割り当てられた仮設の研究スペースはわずか机2個分で。10人ほどいた研究室の学生からは、学部が今後どうなるのかといった不安や、新4年生からは「もう自分たちは卒論なんてできない」といった雰囲気が漂っていました。そんな彼らを見ていて、こんな状況だけど、しっかりと卒論研究をさせたい、相模原キャンパスの近くに海はないけど、スーパーはたくさんあるのだから、市販の海産物商品を使ったDNA検査をさせようと思い、始めたのが、きっかけでした。中国産蒲焼からヨーロッパウナギを検出Q:検査を始めた初年度に中国産蒲焼きからヨーロッパウナギを検出。ヨーロッパウナギといえば09年にはレッドリストで絶滅危惧種に指定され、輸出規制も始まっていた品種ですね。検査結果を見たときの感想は?──ああ、けっこうまだ出回ってるんだと。実際にやってみてわかるのは面白いもんだなあと思った程度でした。蒸したり焼いたりといった蒲焼きの工程をへても遺伝子解析でウナギのDNAが判明することは、すでにほかの大学が発表していた手法だったので、取り立てて目新しいことをやっているという気持ちもありませんでした。そのため初年度は、水産加工商品全般で検査を行いました。蒲焼きのDNA検査を行う研究室員(撮影:Wedge編集部) 検査で判明したDNA結果は、東大時代の恩師である塚本勝巳教授(現・日本大学教授)をはじめとするウナギ研究者との飲み会の席でネタとして話したり、大学の講義で学生たちに伝えたりする程度でした。学生たちに対して検査結果を伝えようと思ったのは、有名なスーパーの商品でもこういった結果が出ているという事実を通して、世の中を疑う力を学生につけさせたいという思いからでした。 2012年に引き続き検査を行ったのも、蒲焼きのDNA検査が、研究室に入ってくる新4年生に、標本の扱い方や研究ノートのつけ方、失敗しない検査方法など、研究の基礎を教えるのに最適だったことが主な理由でした。  Q:2013年から一気に新聞やテレビ、雑誌などメディアに出るようになりましたね──そうですね。塚本先生や青山潤先生など、ウナギの研究で有名な先生方がメディア取材を受けた際に自分のDNA検査のことを話してくれたみたいで、次々、取材の依頼が入るようになりました。ニホンウナギがIUCNのレッドリストに登録された2014年は最もすごくて、レットリスト登録の6月から、国内の池入れ規制が発表された秋にかけて、新聞やテレビ、雑誌の取材が50件近くありました。あまりにも自分では意図しない展開だったのですが、とにかく、来るものは拒まず受けようと思って受けていました。 2013年のシラスウナギ(稚魚)の不漁で資源保護が大きく叫ばれるようになる中で、塚本教授からも、「これからは、ただ単に研究用にウナギを使うだけでなく、保全の観点も持ちながら、研究者も研究や情報発信をしないといけない」と言われていたことも、取材依頼を受け続けた理由でした。 ただ、取材は受けても、顔だけは出すまいと思っていたのに、とうとうテレビにも出てしまって。親は喜びましたが、自分としては複雑でした。ワシントン条約による輸出規制の効果Q:もともとはウナギの研究がメーンではなかったんですよね?──そうなんです。最初に入った大学は海のない信州大学で、大学ではヒツジの繁殖の研究をしていました。修士課程が終了する際に人生を真剣に考えて、このままではいけないと思い、ご縁があって紹介された東大の塚本教授のウナギ研究室に入れていただきました。塚本教授の勧めもあり、なぜ魚の資源量は増えたり減ったりするのか、魚の寿命はどうやって決まるのかという観点からワムシという魚の餌の一種である動物プランクトンの研究を行っていました。 ウナギは塚本研究室の一員として趣味程度で調査の手伝いをする程度でした。たまたま塚本教授が世界で初めてウナギの卵を見つけた船にも乗っていて、その後、発見時のドラマを描いた本の執筆にも加わらせていただきましたが、あくまでも趣味としてのウナギ研究でした。 被災後に相模原にキャンパスが移転し、ウナギ研究者との交流が増えたこともあり、ワムシ研究時の遺伝子解析手法を用いてウナギ蒲焼きのDNA調査を行ったことで、いまメディアからウナギ全般について取材されることが増えたのですが、いまでもウナギの研究者として紹介されるたびに、研究の本流にいる先生方を思うと、自分が出ていいのだろうかと逡巡します。Q:ただ、先生のDNA調査によって、業界では常識だった中国産・格安ウナギに絶滅危惧種指定のヨーロッパウナギが使用されていることがこの数年で一般にも知られるようになった。そうした自分が行ってきたことに対する自負や手ごたえもあるのでは?北里大学・吉永龍起准教授の研究チームが行った中国産蒲焼き商品のDNA検査結果。(nはサンプル商品数)──いえ、そうは思っていません。確かに今年になって、中国産ウナギ蒲焼きの材料からヨーロッパウナギが姿を消しているといった変化は起きていますが、背景には、スーパーや商社が、同様にDNAの検査結果を公表した環境保護団体の目を気にしているからだと思います。ワシントン条約による輸出規制の効果も出てき始めたのだと思います。 2014年にニホンウナギが取れたこともあり、今夏はたまたま中国産蒲焼きの材料がニホンウナギに切り替わったようですが、来年はどうなるか分からないですよね。またヨーロッパウナギを使った中国産蒲焼きに戻っているかもしれない。 今年、初めて5年間の調査をまとめてみましたが、改めて、ヨーロッパウナギからニホンウナギに切り替えている様子が分かりました。科学的な調査としては検体数や手法など穴もありますが、マーケットの動向を見るうえでは十分な資料だと思います。 検査では、取り違えがあってはいけないので、役割分担や流れをきっちり院生らに指導しながら行っています。調査結果に疑問を抱いたときのために、サンプルを再調査用に保存していますが、再調査をしてみて当初と違う結果が出たことはありません。今後は、これまでの調査結果を論文にまとめたいと思っています。後ろめたくても食えば食うだけウナギは減るQ:今後も市販のウナギ蒲焼きのDNA検査を続けるのでしょうか。──はい。今後も続けていくつもりです。ウナギって、水産資源をどう適正に消費するかを考えるうえで、最も適した材料だと思うんです。以前はすし屋も時価が普通でしたよね。魚は漁獲量が増えたり減ったりする生き物です。なのに、いつ行っても同じ値段で食べられることが果たして正しい食べ方なのか。資源が特に問題視されていないものは別ですが、ウナギという限られた資源で大量消費を続けることが正しいのか。 ウナギの完全養殖がうまくいって、好きなときに好きなだけ作れるようになったら人間の技術の勝利なので、安く、美味しくウナギを食べていいわけですけど、まだ完全養殖が事業レベルまで達していなくって、人間って動物の持つ力はそこまで達していないわけですよね。なのに第二、第三、第四のウナギを持ってきて食べようというのは、消費行動としては愚か。ただそれで研究者やメディアが、どれだけ大きな声を挙げたとしても、結局どうするかって消費者であって。後ろめたくても食えば食うだけウナギは減るわけですよね。そのためにも、消費者には賢くなってもらいたい。ビジネスでされている方にとって「売れるから売る」というスタンスは、しょうがないと思うんです。でも消費者には現状を知ってほしい。  そのうえで、テレビという媒体を通した発信の大切さを実感しています。消費者って耳の痛いことは聞きたくないから、テレビ局側もあまり、こうした苦言を放送しない。インタビューで資源について話したとしても、オンエアでは、今年は安いかどうかという部分だけでほかはカットされていたりする。活字メディアは取材で話したことをある程度書いてくれるけど、もともとアンテナを張っている人にしか情報が届かない可能性もある。 だから、これからも調査を続けながら、できるだけテレビなど多くの消費者に届く媒体で、耳の痛いことも含めて、限られた水産資源の食べ方を一緒に考えてもらえるように発信を続けたいと思います。ウナギの問題を解決することができれば、ほかのいろいろな問題の解決にもつながるような気がするんです。

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    訪日シー・シェパード活動家の正体 どんな嫌がらせをしているのか

    河野邦夫(ライター)訪問者の5割以上は女性 イルカの追い込み漁が行われている和歌山県太地町に、シー・シェパード(SS)の活動家が訪れ、漁師らに悪質な嫌がらせを続けている。SSは、太地町を舞台にした『ザ・コーヴ』が米アカデミー賞を受賞した2010年から、活動家チームを常駐させるようになった。活動家のことを「コーヴ・ガーディアンズ」(入り江の見張り人)と名づけ、太地町のキャンペーンを全世界にアピールし、資金を寄付するよう呼びかけている。 SSのキャンペーンは今年で6年目に入ったが、これまで参加した人数を数えると、他の団体メンバーやリピーターを含め、通算で述べ700名近い活動家が太地町を訪れている。 読者の方々は驚くかも知れないが、訪問者の5割以上が女性であり、ほとんどが余暇を利用してキャンペーンに加わった一般人であるものの、それを反イルカ漁などの活動を生業とする一部の「プロフェッショナル」の職業活動家が統率している。 彼らは最新の撮影機器やネット技術を活用しており、嫌がらせの手法も年々進化している。さらに、太地町へのキャンペーン参加は、活動家としての出世の階段をあがっていく登竜門としての役割も持ち合わせていることも判明した。 私はそうした活動家ら1人1人の素性や動向を追跡してきたが、これまでの調査から、活動家とはいったいどんな人たちなのか、彼らは太地町でどんな嫌がらせを行っているのかといった実態が浮かび上がってきた。 手元に持つデータをもとに、太地を訪れる「シー・シェパード活動家の正体」を解き明かしたいと思う。 SSは昨年度からデンマークのフェロー諸島でも、太地町と同じような反捕鯨キャンペーンを行っている。デンマークでの活動家は欧州出身者が目立っているが、太地町に来ている活動家は割合としては米国人とオーストラリア人が多い。 これは地理的な理由が働いているだけでなく、コーヴ・ガーディアンズが米国のSS本部が主体となったキャンペーンである点と、南極海での調査捕鯨妨害活動でイニシアティブを取っているオーストラリアのSS支部が、日本のイルカ漁にも活動することに高い関心を持っていることなどが挙げられる。 太地町に活動家が殺到するようになった直接のきっかけはやはり『ザ・コーヴ』だったのだが、1年目の宣伝効果をふまえ、キャンペーンを継続するかどうかについては、現在、パリに逃亡している創始者のポール・ワトソン容疑者(64)が最終判断を下したようだ。 太地町の反イルカ漁キャンペーンは「可愛くて頭の良い動物が殺される」という人間の感情論に訴えるものであり、ワトソン容疑者の頭の中には、他のキャンペーンに比べても集客力があるとの認識があったようだ。 キャンペーン自体にショー的な要素も強く、太地での活動は当初からSSの最重要キャンペーンの一つとして、位置付けられている。3年目ごろからは米豪以外にも、欧州など他の地域の活動家も目立つようになった。 もう1つのSSの重要キャンペーンである南極海の調査捕鯨妨害キャンペーンに比べると、インフラや生活環境の整い、安全で快適に滞在できる日本国内でのキャンペーンは、体力的なハードルも低い。統計でみれば、参加した活動家の54%が女性だった。また女性は、可愛らしいイルカを守りたいという気持ちが男性よりも強いのかも知れない。キャリアアップになる太地での運動 活動家は大まかには2種類あり、1つはそれぞれの国で本職を持ち余暇を利用して太地町を訪れるアマチュア活動家、もう一つは日本で長期滞在が出来る、定職を持たない「プロ」の活動家である。 太地での運動に参加することは、プロの活動家にとって、キャリアアップの位置づけにもなっているようだ。 欧米やオーストラリアのメディアは、イルカ漁をやめさせるためにわざわざ太地まで訪れた活動家のことを記事に取り上げる傾向にある。ワトソン容疑者をはじめ活動家がTV出演を果たすケースもある。そうして、SSの顔として内外から認められるようになり、幹部としての階段を上がるのだ。 2003年にSS活動家として初めて太地町を訪れ、逮捕された人物がいる。ワトソン容疑者の右腕であり、側近中の側近、オランダ出身のアレックス・コーネリソンだ。 現在はSSグローバルのディレクターという肩書きを持ち、団体の事実上のトップ。太地の後に最重要幹部までのぼりつめた出世頭である。 コーヴ・ガーディアンズの1年目のリーダーを務めた米国人の活動家、スコット・ウェストと2年目のリーダー、南アフリカ出身の女性活動家、ロージー・クネケ、そして、その後を引き継いだ米国人女性活動家、メリッサ・セーガルも太地での実績が認められ、SS内で確固たる地位を得た。 スコット・ウェストは米国環境保護局(EPA)の元主任捜査官で、50歳で退職してからSSに加わった。団体内でキャリアを積んだ活動家とは異なり、犯罪捜査員としての実績をかわれ、最初から団体内ではVIP扱いだった。 太地のキャンペーン以外にも米オレゴン州で行われたダム関連のキャンペーン、さらには昨年度のデンマークのフェロー諸島のキャンペーンでもリーダーを歴任しており、ワトソン容疑者からの信頼が厚いのはこのことからもわかる。 ウェストは太地町以外の場所でも日本で活動場所を広げようとしていた。1年目のキャンペーン終了後、岩手県大槌町のイシイルカ漁をターゲットにしようと現地を訪問。その矢先に東日本大震災の津波に遭遇して、命からがら帰国した経緯を持つ。SSと距離を取る活動家も 2012年度以降、法務省はSSのリーダー格を入国拒否にする措置を取っている。これまでの対象者は15人程度に上るという。 入国拒否により太地町に来ることができなくなった活動家は他のキャンペーンに派遣されることも明らかになってきた。 SS南アフリカ支部を立ち上げたロージー・クネケは、祖国の金融機関でマネージャーを辞めた後に、SSに加わったインテリだ。太地の後、南極海での調査捕鯨妨害活動に加わり、 デンマーク・フェロー諸島でのキャンペーンでリーダー格を務めている。今年7月には現地で過激な妨害行為を働いたとして逮捕され、筋金入りの職業活動家の道を突き進んでいる。 こうした動きとは相反して、太地の後に、SSと距離を取る活動家もいる。2011年度から2年半太地町のキャンペーンリーダーを務めたメリッサ・セーガルのケースがこれにあてはまる。 彼女は太地への長期滞在を5回繰り返した。本来の法務省のSS対策から推察すると、極めて例外的なケースと言えるのだが、ついに昨年12月に入国拒否措置を受けた。 彼女は元々、米国で最大の動物愛護団体「PeTA」に所属していたが、30代になってSSに転身、太地でのキャンペーン統率も大過なくこなし、団体内でも信頼が厚かった。 しかし、先頃、セーガルはフェイスブック上でSSから脱退した事を明かした。彼女は「真のアクティビズムとは一人の人物のエゴよりも大きな大義に取り組む事。私はもはや組織や力関係には関わらない」と書き記し、SSが数少ない人物の方針で運営されていることを暴露した。 SSのような巨大組織は徹底したヒエラルキーと管理システムがあり、それに不満を持って去るメンバーが多いとは聞くが、セーガルもその一人となったようだ。強い信念を持つアマチュア活動家強い信念を持つアマチュア活動家 芸能人や著名人が太地町のチームに迎え入れられ中継に出演したり、帰国後にメディアに出演するなど、コーヴ・ガーディアンズの広告塔として活動をしている。 日本でも人気の「ビバリーヒルズ高校白書」に出演した経歴を持つ米女優、シャナン・ドハーティー、米国の人気テレビシリーズ「ザ・シンプソンズ」の共同ブロデューサーであるサム・サイモン、米テレビタレントのシモーネ・レイエスらがシー・シェパードの活動に賛同し、太地町を訪れている。 サム・サイモン(2015年3月没)はSSの大口支援者であり、ワトソン容疑者はその献身的な行為に経緯を示し、彼の名をSS船の名称にしている。 一方、彼らの大多数は普段はシー・シェパードの各国の支部で週末にチャリティやボランティア活動に参加している一般人の「アマチュア活動家」であり、それぞれの滞在期間は数日から2週間程度と比較的短い。 こういった短期滞在の活動家が入れ替わり立ち代わりやって来て、毎年6ヶ月もの間、太地町に「監視」の名目で滞在する。時には同時に20名の大人数が太地漁港やイルカ漁が行われる畠尻湾で威圧的に振る舞う。 これら一般人の活動家はそれぞれの祖国に帰った後もそれぞれの支部が催す反イルカ漁デモに加わるなどしている。 「アマチュア活動家」でも太地町には比較的長期滞在する活動家もいる。彼らの職業を見ると、中小企業の経営者やフリーランス系の仕事など長期休暇が取り易い職種についている。女性活動家には、主婦も多いのも特徴だ。 こういった経営者の業種を見ると、SMS送信サービス企業、動物病院、整体クリニック、ヨガスタジオ、ダイビング業、自然食品メーカー、工務店、車アクセサリーメーカー、アパレル系通販、ステージライティング業、情報技術リサーチ企業など分野は様々である。 しかし、どのアマチュア活動家も、シー・シェパードの活動を正義として捉え、太地町を訪れることに強い信念を持っているようであり、日本への渡航費用も自費である。中には、会社ぐるみで活動家のサポート体制をとっているようなケースもある。 また、シー・シェパードの活動に触発されて、祖国で務めていた仕事をやめて、プロとしての職業活動家の道に入るケースもみられる。 例えば昨年度のコーヴ・ガーディアンズのリーダーとして、3カ月近く滞在したノルウェー人女性活動家のカレン・ハーゲンは元々、幼稚園教師だったのだが、SSの幹部として認められたが故に、日本政府からにらまれ、入国が不可能になってしまった。連日のサイバーハラスメント 過去5年のキャンペーン形態の変化といえば、最も大きいのがテクノロジーの進歩による発信媒体の変遷である。 彼らは連日のように、早朝から太地町を訪れ、この日、追い込み漁が行われるかどうかを現場から報告し、漁が行われれば人間を大量虐殺するホロコーストかのように実況する。 初期のころはブログでの太地レポートという日誌的な情報発信だったのが、2012年度からはフェイスブックやツイッターなどを活用して、リアルタイムで漁の微に入り細に入りを報告していく傾向が顕著になった。漁の中止を求める横断幕を掲げる外国人の活動家たち=2015年9月1日朝、和歌山県太地町 イルカ漁が行われれば、ネット上で活動家が湾にカメラを向けて生中継を行う。そうして、「たった今イルカが湾に追い込まれている」「たった今殺されている」とナレーションを入れ、臨場感たっぷりに目の前で行われることを伝えるのである。活動家たちは、視聴者の感情に訴え、SSへの支持を広げているのだ。 現在のように警察や海保の特別チームが配備されていなかった初期のころ、活動家たちは、漁協関係者にカメラを近付けて集団で取り囲んだり、町民のトラックの前に座り込んで進路妨害するなどの実力行使の嫌がらせも行っていた。 英国人のサウンドエンジニアで、マーティン・スチュワートという活動家がいた。現地の全てを敵視し、現地では漁師以外の一般住民まで嫌がらせのターゲットにするなど好き放題を働いた。その横暴ぶりはSS幹部のスコット・ウェストに「腐ったリンゴ」とも言われるほどだった。 さらには日本に入り、諜報活動のようなことをしていたフランス人のトマ・ゲナール、津波被害の後に被災地で記念撮影するなど場違いな行動をとったカナダ人のタラ・ミレン。その後、治安当局の監視が厳しくなり、彼らのような破天荒な活動家は入国できなくなった。 そうした一方で、活動家が運び込む撮影・中継機器が年々高性能になっていることも特徴だ。 昨年度からはライブストリーム用に60倍以上のズーム撮影のできる最新のHDカメラが導入された。そうして、中継中に扇情的な煽りや罵詈雑言を撒き散らし、漁協や水族館関係者を勝手に撮影しネットにばらまくというサイバーハラスメントが中心的手法となってきている。 今後のコーヴ・ガーディアンズの展望を予想すると、SS幹部が相次いで入国拒否になっていることから、どうなるかわからない不透明な情勢になっている。昨年度以降は、長期滞在出来るという理由だけで、「アマチュア活動家」がリーダーとなるなどSS中枢の幹部がいない中での反イルカ漁キャンペーンが今年も行われている。 活動を継続させるためには寄付金と活動家集めが不可欠であり、リピーターの入国が難しくなって来た今、シー・シェパードがどのようにして新人活動家のリクルートを行うかが大きな課題となっているはずである。かわの・くにお ライター。和歌山県太地町のシー・シェパードの活動に詳しい 膨大なデータをもとに分析・編集するレポートは治安当局担当者、霞ヶ関の官僚らにも読まれ、SS対策を練る貴重な資料となっている。

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    シー・シェパード 追い込めるか

    日本の捕鯨やイルカ漁の妨害活動を続けている国際反捕鯨団体シー・シェパードに異変が起きている。首領のポール・ワトソン容疑者が移動制限を受け、資金面の問題でも包囲網が強化されているというのだ。国際包囲網によってシー・シェパードの活動はさらに追い込まれていくのか。

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    イルカ漁批判欧米人 自分たちの伝統文化だけは守る二重基準

     「(和歌山県)太地町で捕獲されたイルカの入手をやめよ」という世界動物園水族館協会(WAZA)の要求を日本動物園水族館協会(JAZA)が受け入れた。欧米のイルカ漁反対派は「日本のイルカ漁は残酷で野蛮」と主張する。出港する漁船を撮影する反捕鯨団体のメンバーら=和歌山県太地町 イルカ漁は娯楽ではなく食文化である。日本では古来よりイルカが貴重なタンパク源であった。欧米人は、「あんなにかわいいイルカを食べるなんて」と眉をひそめるが、自国で食べないものを食べる者を「野蛮」と決めつけるのはレイシズム(民族差別)の最も典型的パターンだ。 例えばヒンズー教では牛を神聖な生き物として扱って決して口にしないが、我々日本人や欧米人は食べる。それでもインドなどに多いヒンズー教徒が批判しないのは、「食文化の違い」を理解しているからである。欧米人よりずっと文化を理解している。  中国ではアルマジロを食べるし、韓国では犬を食べる風習がある。国によって事情が異なって当たり前だという意識が欧米人には希薄すぎる。  食文化でいえば、餌を強制的にガチョウやカモの胃に詰め込んで太らせてから肝臓を食べるフォアグラは“残酷”な生産方法だが、このほど欧州連合(EU)議会で「残酷な方法で生産されるフォアグラの輸入と販売を禁じる」とした提案は反対多数で否決された。他国の食文化に口出しをしても、自分たちの伝統文化だけは守るダブルスタンダードである。関連記事■ イルカ漁反対派の主張 極めて独善的な価値観の押し付けだ■ イルカ漁を批判する英国で近くキツネ狩りが復活する見込みに■ 白人はイルカ食べてもOKで日本人はNG 科学的根拠はない■ イルカ輸出もする太地町 人に慣れさせる訓練技術は世界唯一■ 「捕鯨が残酷」は昔欧米による残酷捕鯨のイメージが強いから

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    デンマークの反シー・シェパード風刺画集に滲み出る「真実の姿」

    佐々木正明(産経新聞外信部記者) シー・シェパード(SS)が北大西洋に浮かぶ群島に集い、現地の捕鯨に過激な妨害を加えている。デンマーク領フェロー諸島。香川県よりも小さい面積1400平方キロに人口5万人の住民が暮らすこの地域では、数百年前から続く伝統の捕鯨が行われてきた。 沖に出た漁師らがゴンドウクジラの群れを見つけると、他の漁船にも連絡しあい、協力し合って湾に追い込む。陸側には連絡を受けた島民が待ち構え、群れが近づくと一斉に海に入り、クジラを仕留める。海が真っ赤に染まる勇壮な北欧の捕鯨は、一方で、反捕鯨活動家にしてみれば、残虐に生き物を殺す野蛮な営みに映った。 島で生まれ育ったジェグヴァン・ア・ホーダナム・ジュニアさんは、SS創設者、ポール・ワトソン容疑者(64)=国際指名手配=に率いられた団体の姿や彼らのフェロー諸島での行動ぶり、そして、地元の食文化を紹介する風刺画を描いている。 コミカルなタッチは親しみやすく、その中にしたためられた辛辣な文句は、「新興宗教のようだ」とも指摘されるシー・シェパードの実態を如実に表現している。 ホーダナムさんは、厳しい気候条件にあるフェロー諸島で、鯨肉は貴重な食料源となっており、「われわれの文化の一部となっている」と話す。その上で、シー・シェパードのフェロー諸島での活動は何の成果も生み出さず、「世界中にフェロー諸島にまつわるうそをばらまいている」と訴える。 被害の構図は、イルカ漁が行われている和歌山県太地町での状況と似通っている。ホーダナムさんの興味深い作品を紹介したい。(1)「操り人形師」「踊れ、私の小さなペットたち」といいながら、両手のゆびにひもをつけ、SSの活動家を意のままに操るポール・ワトソン。机の上で、デンマークとフェロー自治政府の旗が燃やされている。恐ろしい表情のワトソンは、「$」の首飾りをつけており、金の亡者であることを揶揄している。実際、SSは過激な行動をすることで、支持者から寄付を集めている。 活動家たちは「恥を知れ」「デンマークをボイコットせよ」「フェローのこんちきしょうたち」とのメッセージを掲げている。(2)「クジラ好き」 前作とは一転して、コミカルな作品。ポール・ワトソンは捕獲する漁師らを「キラー」(殺し屋)と罵り、身をはって愛するクジラやイルカの命を守ろうとする。しかし、一方のクジラは、抱きつくワトソンに迷惑といわばかり、「フェロー諸島の人たちよ、頼むから今、殺してくれ」と頼んでいる。(3)「国際指名手配」 ホーダナムさんの風刺画にはポール・ワトソンを描いた作品が多い。欧米諸国では有名人であり、彼自身の存在こそがシー・シェパードなのである。団体は彼の指示なしでは動くことはない。フランスに本部を置く国際刑事警察機構(ICPO)の公式サイトでは、国際指名手配犯の個人データが掲載されている。掲載情報によると、ワトソンは1950年12月2日、カナダ・トロント生まれ。身長180センチ、体重120キロ(約240パウンド)。白髪で目の色は茶色という情報まで紹介されている。 「Vegan」(ビーガン)とは菜食主義者のことで、ワトソンは団体内でビーガンスタイルを徹底している。日章旗をバックに、太ったワトソンの絵。「240パウンドの菜食主義者」と揶揄しているのだ。(4)「刑務所での会話」 フェロー諸島では、シー・シェパードの猛攻に備え、今年、捕鯨妨害に関する違法行為を厳罰化する法律改正を行った。しかし、SSは果敢に妨害行為を働き、10人以上の活動家が逮捕された。 この作品では、刑務所の中で活動家が、施設から出された食事について話し合っている。今日のメニューは「チキン」。食べるか否か? 活動家の中には、菜食主義のルールをやぶって、肉や魚を食べている者がいることが、和歌山県太地町でも確認されている。そこで、刑務官が「明日は鯨肉を出してみようか」と同僚に打ち明けるのである。(5)「ハンバーガーは食べていいの?」 フェロー諸島でも住民は、なぜシー・シェパードは鯨肉だけに特化して、過激な妨害活動を続けるのかと不思議がっている。じゃあ、牛肉や鶏肉なら食べてもいいのか?。そんな素朴な疑問を諷刺した作品。シー・シェパードの活動家がファストフード店でハンバーガーを食べようとしている。そこに、「クジラ殺しを止めろ」ならぬ「ウシ殺しを止めろ」のプラカードを持った活動家が抗議しに訪れる。 ホーダナムさんは「何の違いがあるのか?」と皮肉っている。(6)「われわれはシー・シェパードのことを忘れない」 シー・シェパードの活動家は島々に土足で上陸し、住民たちの誇りや伝統の食文化を踏みにじっている。 1人の島民が「プロパガンダだ」「嘘つき」「憎たらしい」と言っても、意に介さず、デンマークやフェロー自治政府の旗を痛めつける。 SS活動家たちは常に、自分たちの「正義」を正当化するために、ネットで自らの活動を中継している。 カメラマンの1人が「われわれには真実なんて関係ない」と言いながら、様子を撮影する。活動家の意地悪そうな顔に、SSに対する島民の気持ちが反映されている。 右上にはフェロー諸島の美しい自然を紹介したサイトや伝統捕鯨に関するサイトのアドレスが紹介されている。(7)「見ざる、言わざる、聞かざる」 看板に記されたフェロー諸島の捕鯨に関する専門サイトのアドレス。しかし、「猿」になった活動家は聞かぬ、存ぜぬの態度。フェロー諸島で継承されてきた捕鯨の情報など知らなくても良いらしい。ホーダナムさんは「世界はシー・シェパードがどんな人たちなのかを知る必要がある」と訴える。自分の風刺画が世界中に知れ渡れば、人々はSSが広めている視点とは違った情報が行き渡ると考える。(8)「デンマーク人を責めないで」 2コマの漫画。フェロー諸島の青い海をバックに、デンマーク本国からきた若い男性が島民に訴える。「僕らはゴントウクジラを殺していないのに、フェロー諸島のクジラ殺しで今も責められるんだ」。 しかし、次のコマでレストランに行き、鯨肉で調理したフェロー料理を食べると、笑顔になり「なんておいしいんだ。約束してくれ、絶対に捕鯨をやめるなよ」と島民に話しかけている。 実は、デンマーク本国でも他の欧州諸国と同様、フェロー諸島の捕鯨について複雑な感情を持つ国民がいる。それでもホーダナムさんは、デンマーク本国から多くの支援があるといい、「感謝する」と述べている。(9)「オークションで」 デンマークの治安当局は、シー・シェパードの過激違法行為で犯行に使われた高速ゴムボート4隻を押収した。法治国家として厳格に法を執行した姿勢は、SSに対する強い牽制である。 しかし、ゴムボートが並べられたオークション会場では不人気で、なかなか値段がつかない。オークショナーが「ゴムボートは捕鯨にもいいよ。5ドルでどうだ? 誰かいるのか?」と呼びかけるが… シー・シェパードはこの押収がよほど痛かったのか、ネット上で寄付金を急募した。20万ユーロ(2700万円)がすぐに集まり、集金力の高さを見せつけた。(10)「ハッピー・バースデー、ポール」 ポール・ワトソンは現在、フランスのパリに滞在している。今年の2月には、「彼女なしの生活など想像できない」と自らのろける相手のロシア人女性と人生4度目の結婚を果たした。 美しい新妻が「誕生日のあなたにプレゼントを用意したの。外に出てみて」とワトソンに呼びかける。 しかし、外に出てみるとプレゼントはトヨタの新車だった。日本が大嫌いなワトソンはすぐにドアを閉めて、不機嫌そう。新妻は「なんで?」と疑問がっている。 実際、ワトソンがフェイスブック上で出す最近の声明には、反日とも受け止められる主張が目立ってきている。ジェグヴァン・ア・ホーダナム・ジュニア氏(Jógvan á Høvdanum Junior) 1979年9月生まれ、36歳。デンマーク・フェロー諸島在住 子供のころから絵を描くのが好きで、販売業としての仕事をもつかたわら、数々の風刺画を発表。地元のメディアで作品が掲載される。シー・シェパードに関する動画を作成し、作品はYoutubeでも公表されている。連絡先mynameisjogvan@gmail.com『シー・シェパードに関する風刺画集』http://www.nordportal.net/jokes『Youtubeでの動画集』https://www.youtube.com/channel/UC3zEwT_plQDdZsMnun-buOA

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    存亡の危機に立たされたシー・シェパード

    佐々木正明(産経新聞外信部記者)首領の国際手配で削がれた勢い 日本の捕鯨やイルカ漁に圧力を加えてきたシー・シェパード(SS)が1977年の結成以来の最大の節目を迎えている。近年の急成長の勢いに陰りが見え、「存亡の危機」を迎える可能性さえある。原因は、SSを創設して、世界にその名を轟かせてきたポール・ワトソン容疑者(64)の境遇に由来する。 これまでワトソン容疑者はSSの首領として世界を股にかけ、団体のキャンペーンを統率するため、文字通り7つの海と5つの大陸を飛び回っていた。しかし現在、彼は国際刑事警察機構(ICPO)から国際指名手配され、かつてのように自由に移動できない状況に置かれている。そのことが、SSの勢いを削いでいるのだ。 ワトソン容疑者に対しては、日本と中米コスタリカが2000年代にそれぞれSSが起こした事件で逮捕状を用意した。両国政府は厳格に法を適用し、ICPOに国際手配を要請。これを受け、ドイツ治安当局が2012年5月に入国したワトソン容疑者をいったんは拘束した。しかし、保釈され、身柄送致の準備が進められていた同年7月、ワトソン容疑者は忽然とドイツから姿を消した。仲間の助けを借りて、国外逃亡したのである。 ICPOはワトソン容疑者に対する国際手配の格を上げ、加盟国に「身柄拘束」を要請する「赤手配」に切り替えた。ICPOのホームページを見ると、国際テロ犯や武器密売人らとともに彼の手配書が掲載されている。 その後、ワトソン容疑者は紆余曲折を経て、昨年7月にフランスに移住した。オランド政権の中枢にパイプを持つSSの支持者がワトソン容疑者に対して「フランスは日本に身柄送致したりしないから移住したらいい」と薦めたのだろう。滞在はすでに1年以上が経過した。 しかし、反捕鯨国フランスに彼を拘束する動きはまったくみられない。日本政府も現地に捜査員を派遣して、治安当局に逮捕を迫ったが、オランド政権はこれを無視した。政治的な理由が働いていることは想像に難くない。 ICPOの赤手配を実行するかどうかはその国の国内事情による。かつて、日本政府も日系ペルー人のアルベルト・フジモリ元大統領が日本国内に滞在した際、ペルー政府の要請を受けたICPOの手配に対し、身柄拘束を拒否してきた経緯もある。 国際法をも無視する横暴な振る舞いはSSの真骨頂だ。ワトソン容疑者は国際社会の対立の間にできた法の空白地帯に便乗して立ち回ってきたからこそ、団体のお取りつぶしを免れてきた。「パリでのロマンス」に隠された打算 転んでもただでは起きない。フランスでもそうだった。彼は移住してまもなく、自ら「恋の街、ロマンスの街」というパリで動物愛護活動家のロシア人女性と人生4度目の結婚を果たす。2月14日のバレンタインデーにセーヌ川で行われた結婚式の様子は、公式サイトで報じられた。 明確なデータがあるわけではないが、SSの構成員は6~7割は女性だ。カリスマのワトソン容疑者はいつも女性に囲まれる。いわばクジラ界のドンファンがなぜ1人の女性と籍を入れたのかと言えば、それはフランス国内で法的に身を固める必要があったからだろう。結婚により、人権の国フランスが日本やコスタリカへ身柄送致を行う決断のハードルが上がる。パリでのロマンスの背景には、ワトソン容疑者のそんな打算が働いたのではないかとの疑惑が浮上している。5月のカンヌ映画祭のイベントで、レッドカーペットを妻と歩くシー・シェパードのポール・ワトソン容疑者。自身のフェイスブック上に公開された 一方で、彼はフランスで文化人、著名人としても扱われている。5月にカンヌ映画祭が行われた際には、主催者側が許可し、VIP扱いの待遇を受けた。ワトソン容疑者は正装して新妻とともに晴れ舞台に現われた。 カンヌ映画祭は、ICPOの赤手配犯が堂々とレッドカーペットを歩くイベントになってしまった。 7月には、国の諮問機関がパリで開いた気候変動対策会議に招待された。ワトソン容疑者は並み居る政財界のVIPらを前にスピーチを行ったのだ。この会議にはオランド大統領も出席していたわけだから、フランス政府がワトソン容疑者の滞在にお墨付きを与えていることがこのことからもわかる。 しかし、ワトソン容疑者は自身が捕まり、日本やコスタリカへ身柄送致されないよう細心の注意を払っているようだ。彼は昨年7月に移住して以来、一歩もフランス国外には出てはいない。他の国がICPOの要請に応じる危険性があることを恐れているのだ。 9月中旬、このことを裏付ける象徴的な出来事があった。隣国ベルギーのSS支部が「ワトソンに会おう」と題して、ワトソン容疑者を招待する支持者向けのイベントを企画した。 しかし、開催場所はベルギーとの国境沿いにあるフランス北部ダンケルクだった。ワトソン容疑者はパリから数百キロ先の隣国ベルギーに行くことを自制している証左なのである。 SSが結成されてからもう38年にもなるが、こんな現象は初めてであり、そのことは、団体のカリスマが、世界中で行われているSSのキャンペーンに参加できないことを意味する。アピール不足に陥ったSS SS=ポール・ワトソン。海千山千の彼がいなければ、団体の行動力は大きく低下する。ワトソン容疑者は自分の右腕をリーダー格として養成してきたが、団体では彼ほどの存在感を持つ人物は誰も見当たらない。これまで各国治安当局を悩ませてきた大胆な采配や過激な妨害はなりをひそめ、団体の活動はアピール不足に陥る。 白髭に白髪の巨漢は、これまで世界各国の主要メディアに取り上げられて来たスターでもあった。「客寄せパンダ」がいなくなることで、メディアの関心は薄まる。新聞の記事やテレビの情報番組に取り上げられなければ、SSに対する世間の関心も弱まり、団体の活動源である寄付金収入に大きく響いてしまう。 シー・シェパードは今年4月、重大な声明を行った。主要活動場所を北大西洋に移すと発表した。捕鯨国であるノルウェー、デンマーク、アイスランドを標的にして、ワトソン容疑者のいる欧州を北米、オーストラリアに次ぐ第3の拠点として発展させようと目論んだ。 6月、SSは妨害船3隻、活動家数十人の態勢で、北大西洋に浮かぶデンマークの自治領フェロー諸島に向かった。 大陸から離れ、気候条件も厳しいこの孤島群は数百年の間、鯨肉を貴重なタンパク源にして島民の命をつないできた。ゴンドウクジラを湾に追い込んで捕殺する「グリンド」は親から子、子から孫へ長年、継承されてきたこの島特有の漁法だ。SSは住民たちの伝統的な営みを「野蛮だ」と蔑み、抑止しようとしたのである。 フェロー諸島側も違法行為の厳罰化をする法改正を行い、本国から海軍艦船の派遣も受け、SSの過激な妨害に備えた。 活動家たちは実際に漁が行われている現場に直接介入した。派手な立ち回りを演じ、地元住民と軋轢を起こした。結果、10数人が逮捕され、SSの活動家たちはそれぞれの祖国へと強制送還された。 フランスからフェロー諸島へは近い。本来のSSの姿なら、ワトソン容疑者自身が参加し、部下たちを統率したキャンペーンになっていたであろう。しかし、主役のいないSSはやはりパンチ不足だった。日本の調査捕鯨妨害、和歌山県太地町のイルカ漁妨害に比べても、デンマークの捕鯨妨害に関する世界の主要メディアの関心は薄かった。 デンマーク治安当局はさらに追打ちをかけた。SSが妨害に用いた高速ゴムボート4隻を拿捕した。これは団体に大きな打撃を加えた。SSは急きょ、20万ユーロを集める寄付金の急募を行ったほどだ。日本でもしかれ始めた強固な包囲網日本でもしかれ始めた強固な包囲網 一方、SSへの逆風はさらに強まっている。今年、相次いで特別出費を余儀なくされているのだ。 6月、米国で日本側が訴えた捕鯨妨害関連訴訟で、日本側に255万ドル(3億1千万円)を支払うことで合意した。さらに、9月には、南極海でSS妨害船が沈没した事件にからみ、ワトソン容疑者が故意に船を沈めたとして、SS側が船の元オーナーに50万ドルを支払う司法判断が下された。 9月1日、和歌山県太地町で解禁されたイルカ漁の妨害のため、今年もSSは多数の活動家を現地に派遣しようとした。しかし、日本政府は事前に2人のリーダー格を入国拒否にする措置をとった。効果はてきめんだった。太地町でのSSは勢力が弱まった。 デンマークと同様、日本でも強固なSS包囲網がしかれ、団体はかつてのように日本を標的にして寄付金を稼ぐビジネスモデルが発揮できないでいる。 ワトソン容疑者の移動が制限されたことによる寄付金収入の先細り、そして、度重なる訴訟費用増大による特別出費は、SSの手足を奪っている。団体の扇の要であるワトソン容疑者がどんなに訴えようとも、彼はフランス国内から一歩も外に出られないでいるのである。 6月、ワトソン容疑者は自らの国際指名手配について声明を出し、自らに対する赤手配は「政治的な動機で出されたいんちきでばかげた嫌疑によるものだ」と訴えた。そうして、こんな強がりを言った。 「私は誰も傷つけず、どんな私有財産に対しても損害を与えていないのに、軽い罪でICPOのレッドリストに掲載されている歴史上唯一の人間である。日本は、私を排除し、孤立化させることで、さらには世界中を飛び回ることを不可能にさせることで、シー・シェパードの行動を止めることができると考えているようだ」 そんなことはまかり通らない、ワトソン容疑者はそう強調した。むしろ、国際指名手配がなされたことで、シー・シェパードはかつてないほど強靱な力を得たのだ、と強調してみせた。「日本政府が私に対してどんな圧力をかけようとも、シー・シェパードがダメージを受けることはないだろう。もし今日、私は死んだとしても、シー・シェパードは続き、さらに強くなるだろう。その理由はたった1つ。われわれの海で起こっている現実が、シー・シェパードの支持をよりいっそう増大させていることにつなげているのだ」もはや「負け犬の遠吠え」か シー・シェパードの団体名は直訳すれば、「海の番犬」を意味する。センチメンタルなワトソン容疑者の主張はもはや彼が追い詰められていることを物語る。大言壮語的なワトソン容疑者の口調を借りるなら、「負け犬の遠吠え」のようにも響く。 フランス政府もワトソン容疑者の庇護にメリットを見いだせなくなったとき、態度を180度変える可能性もあるだろう。オランド政権が選挙で負けて交代すれば、SSに対する風向きもまた変わってくるだろう。そのとき、彼はどこに向かうのだろうか?  SSが基盤を置くオーストラリアでも労働党政権から自由党政権に変わり、SSへの逆風が強まったと言われている。豪捜査当局は日本の治安当局に協力的になった。 これまで日本側はシー・シェパードに対して打つ手なしの状況が続いていた。しかし、盛り返し、いよいよチェックメイトの形が見えてきたようだ。 日本の治安当局は、彼を裁判にかけるタイミングを虎視眈々と狙っている。 今冬、日本は南極海で調査捕鯨を再開させる。そのとき、SSがどんな手をうってくるのか、注目される。 しかし、ワトソン容疑者のいない捕鯨妨害など、恐れるに足りず。海の番犬たちは策を誤り、墓穴を掘る可能性もあるだろう。

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    マグロ規制で日本がついた嘘

    絶滅が危惧される北太平洋海域のクロマグロの資源管理が話し合われた今年9月の会合で、日本は米国が提案した規制強化案を拒否し、対案の実質的合意にこぎつけた。仮に新ルールが導入されても、適用されるのは再来年以降。こんな緩いマグロ規制で本当に大丈夫なのか。

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    マグロ漁獲規制の必要性を否定する 水産庁の“主張”に再反論

    を招くので、規制を急ぐべき、といった内容であった。画像:iStock 本川一善水産庁長官は「産卵場の漁業の影響はほとんど無い」、「クロマグロは親が減っても子は減らない」とした上で、私の主張は「公平性や科学的根拠を欠く」と非難した。国会答弁の議事録はインターネットで公開されている。筆者は参考人として呼ばれなかったので、この場を借りて水産庁の主張の妥当性を検証する。結論から言えば、水産庁の主張はクロマグロの将来を憂慮させるものとなっている。 水産庁の主張を要約すると次のようになる。 a)日本海産卵場の漁獲がクロマグロの産卵に与える影響は軽微 b)クロマグロ幼魚の新規加入が減ったのは海洋環境が原因 c)クロマグロ幼魚の新規加入は親魚の資源量とは無関係に変動する d)親魚ではなく未成魚を獲り控えることが重要と科学委員会が言っている 順に検証していく。 a)日本海産卵場の漁獲がクロマグロの産卵に与える影響は軽微 山陰施網(まさあみ)漁業協同組合は、自主規制によって産卵場での親魚の漁獲上限を設定している(2011~14年は2000トン、15年は1800トン)。科学者が推定した03~12年の親魚量の平均は、約34000トンであり、2000トンの自主規制枠一杯まで漁獲をしても、親魚全体の6%に過ぎない。これを根拠に、水産庁は「産卵場の漁業の影響はほとんど無い」と主張している。 漁獲によって失われるのは、その年の産卵だけでは無い。その先の生涯の産卵機会が全て失われる。日本海産卵場の漁獲の主体である3歳の親魚を1トン漁獲すると、その先に卵を産むはずだった親魚が17トン失われる計算になる。再生産への影響をその年の産卵だけで評価するという水産庁の考え方は、根本的に間違っている。 産卵場の巻き網漁業の長期的な影響を評価するために、この漁業がなかった場合の親魚量を試算して、現状との比較をおこなった(下図参照)。現状の親魚資源量(青線)は、03年から12年の間に半減した。日本海産卵場の巻き網操業が無かったシナリオ(黄線)では、親魚の減少幅は半分以下に緩和され、親魚量は現在の回復目標水準である歴史的中間値と近い水準になった。産卵場の巻き網操業が無ければ、未成魚の漁獲半減といった急激な規制は不要であったことがわかる。この試算では、獲らなかった魚が生き残るところまでしか考慮していない。実際には、生き残った魚が卵を産み、それが未来の加入増加につながっていくので、親魚量はこの試算以上に増えていたはずだ。日本海沖産卵場での巻き網操業がなければ、現在の回復目標値に近い水準となっていた (注)ISCレポート等をもとに作成 b)クロマグロ幼魚の新規加入が減ったのは海洋環境が原因 魚の卵の生き残りは水温や海流など海洋環境の影響で変動をするのは事実である。しかし、近年のクロマグロの幼魚の加入減少が海洋環境の影響であるという科学的根拠は見当たらない。加入の減少について、北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)のクロマグロワーキンググループ座長である鈴木治郎氏(水産総合研究センター)は、「加入の減少に対する明確な説明はないが、次回の資源評価での重要な課題である」と述べている。ISCは加入減少の原因を特定していないのだ。 卵の生残率の指標として、親魚1キロあたり何個体の幼魚が新規加入したかを計算してみると、04年以降の卵の生残率は、長期的な平均値よりも良い値となる。これは、海洋環境がクロマグロにとって良好であることを示唆している。クロマグロの卵の生き残りに最も強く影響する産卵場周辺の水温は、好適な条件が続いている。 C)クロマグロ幼魚の新規加入は親魚の資源量とは無関係に変動する海洋環境が原因とは思えないクロマグロの新規加入減少 (出所)ISCレポート等をもとに作成 水産庁は、クロマグロは親と子の数に明瞭な相関関係が見られないので、親を残しても子は増えないと主張している。相関関係が無いから、因果関係が無いと断定することはできない。様々な誤差が含まれる漁獲データの解析では、本当は因果関係があったとしても、統計学的に有意な相関を見いだせないケースが多いからだ。 太平洋のマグロ類は、東側では全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)により、西側では中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)により管理されている。両者が、親魚量の回復を管理目標としていることからも、親魚の維持が重要であるという国際的なコンセンサスがあることは自明である。水産庁自身も、WCPFCでは親魚量を歴史的中間値まで回復させるべきと主張している。海外では「親魚を回復すべき」と主張しながら、国内では「親魚は減っても問題ない」と開き直るのは、自己矛盾である。 d)親魚ではなく未成魚を獲り控えることが重要と科学委員会が言っている 水産庁は、親魚の漁獲を規制しない理由として「科学者が様々なシナリオで計算した結果、幼魚削減シナリオのみで資源の回復が確認された」ということを常々述べてきた。ISCが検討したシナリオは、たったの7種類。未成魚の漁獲削減は15%から50%まで様々な段階を検討しているが、親魚については、規制無し、もしくは、15%削減しか検討していない。最初から未成魚の削減ありきの偏ったシナリオ選択をして、親魚の削減についてはそもそも検討していないのだから、親魚の削減によって資源が回復したという結果が得られないのは当然である。 WCPFCでは、日本の強い希望でWCPFC本会議とは独立した北小委員会という小規模な組織でクロマグロの資源管理の議論をしている。国際会議では、公平性の観点から、議事進行に強い権限を持つ議長を関係各国で持ち回りにするのが通常である。北小委員会の座長は、日本(水産庁)が独占している。北小委員会に対して、日本は強い影響力を持っているのだ。 水産庁は、北小委員会のみならずISCにも強い影響力を持っている。ISCは、北小委員会の指示で科学的な分析を行う組織であり、ISCの主要なメンバーは日本の水産総合研究センターの研究者である。長年、北小委員会の議長を務めた元水産庁次長の宮原正典氏が、現在は水産総合研究センターの理事長を務めていることからも、両者の緊密な関係は明らかだろう。 北小委員会およびISCは、日本寄りの提案を続けてきた。親魚の削減シナリオを除外しておくことは、巻き網で親魚を大量に獲っている唯一の国である日本に好都合である。また、日本の漁獲シェアが高かった02~04年の漁獲量を基準に漁獲上限を設定したので、最近年(10~12年の平均)と比較すると、日本はたった6%の削減だが、メキシコは49%、韓国は70%の大幅削減になる。韓国とメキシコは猛反発をしたが、水産庁は、日本企業への輸入自粛指導をちらつかせて、大幅な漁獲削減を呑ませたのである。 日本国内でも、未成魚の漁獲量は最近年から35%削減だが、親魚の漁獲量は3305トンから4882トンへと48%も増加している。幼魚の漁獲圧削減が必要なことは、筆者としても異論は無い。しかし、親魚を集中漁獲する特定の漁業だけが得をするような現在の規制のあり方には賛同できない。幼魚を主体に漁獲をする国内の小規模漁業者からは、「親魚も同様に規制をすべきだ」という不満の声が上がっている。 今後、日本主導の意図的な科学に基づく規制に対する国際的な風当たりが強まってくるのは間違いない。今年7月のIATTC年次会合で、米国は、日本よりも高い親魚水準を回復目標として、親魚の漁獲半減を含む様々なシナリオを分析した上で、太平洋の東西で共通の枠組みで規制を行う提案をしたが、日本が合意せず、採択されなかった。大幅な漁獲削減を行ったメキシコは、幼魚の加入が激減していることを憂慮し、来年はさらに250トン自主的に漁獲量を削減することを表明した。世界が9月のWCPFCでの日本の対応に注目している。日本が対応を誤れば、ワシントン条約での規制が現実味を帯びてくるだろう。求められる国家戦略の再構築日本の親魚は漁獲制限が2010年~12年の平均漁獲量を上回る (出所)各種資料をもとに作成 クロマグロの産卵場漁獲への懸念は降って湧いたものではない。10年に学術雑誌Natureは、「太平洋クロマグロの個体数は安定しており、高い漁獲率でも資源に悪影響はない」とするISCと、「産卵場での漁獲が続けば資源の枯渇を招く」という私の見解の相違をニュースとして取り上げている。同じ記事の中で、台湾の研究者は、「個体数は年々減少しつつあり、直ちに管理措置を講じなければ深刻な事態の前兆が現れるだろう」とコメントしている。こういった声に真摯に耳を傾けていれば、今頃、クロマグロは絶滅危惧種にはなっていなかっただろう。 クロマグロに依存している小規模漁業は危機的な状況に追い込まれている。山口県の見島のマグロ一本釣り漁業は消滅し、壱岐や対馬の一本釣り漁業も窮地に追い込まれている。漁業は離島の基幹産業であるばかりでなく、領海を監視する役割を果たしてきた。日本のEEZを守ってきた離島漁業の衰退は、国防上も大きな問題である。 産卵期の巻き網操業は、経済的に見ても問題が多い。産卵期のクロマグロは脂が抜けていて価値が低い。満足な冷凍設備がない巻き網船で漁獲するので、相場が安くても生で出荷せざるを得ない。脂の抜けたマグロを一度に水揚げするために、相場は暴落する。冬場には1キロ1万円を超えることも珍しくないクロマグロが、産卵場の巻き網だとその10分の1の値段しかつかない。 戦後の日本漁業は、食料難を解決するために、食料増産に国を挙げて取り組んできた。目先の漁獲量を増やすことが全てに優先され、地域経済、国防、海洋生態系の健全性、観光など、水産資源のもつ多面的な価値が損なわれている。内閣府、経済産業省、防衛省、環境省、国土交通省などを交えて、国益の観点から水産資源をどの様に利用すべきか議論をして、国家戦略を再構築する必要がある。   

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    クロマグロの科学的管理を阻む者は誰か 増幅した水産庁への不安

    臨んだ水産庁の担当官の資源管理に対する極めて消極的な姿勢は明白であり、同種の資源に関する過去の教訓、漁業科学、及び関連国際法の諸規定の主旨のいずれにも即していない交渉態度と評価せざるを得ない。 ではなぜそう言えるのか、以下太平洋クロマグロの資源状態について簡単に振り返ったのち、会議のポイントに関して順を追って論じたい。 まず太平洋クロマグロの資源状態についてである。高級寿司ネタあるいはスーパーの比較的高級な食材として販売されている太平洋クロマグロは、国際的な科学評価によると、現在資源量が初期資源量比で3.6%程度まで減少しているとされている。これはつまり、漁獲が行われていなかった頃のこのマグロの量が100匹だったとすると、現在はわずか3~4匹程度にまで減少したことを意味する。これを受け、国際自然保護連合(IUCN)は2014年に太平洋クロマグロを絶滅危惧種指定している。 こうした危機的な状態を受け、2014年にWCPFCは北太平洋で①30キロ未満の比較的小さなクロマグロの漁獲を02~04年比で半減させること、②太平洋クロマグロの総漁獲努力量(≒太平洋クロマグロを取っている漁船の数)を02~04年比水準に抑制すること、の2つを法的拘束力を伴う措置として決定し、併せて③30キロ以上のクロマグロの漁獲を02~04年水準に抑制すること、を努力規定として採択した。 しかし、こうした措置はクロマグロ資源の適正な保全管理という観点からは緩慢なものでしかない。現在の規制措置で目指されているのは2024年までに過去に漁獲統計がある1950年代以降の漁獲量の中間値に回復させることであり、これは初期資源量比で7%程度に当たる。過去100匹いた魚が現在4匹を切るまでに減少しているにもかかわらず、現在の目標は10年後に7匹程度に回復させることに過ぎない。 では、漁業資源をどのレベルに保つことがグローバルスタンダードなのだろうか。これについては日本も批准している「国連公海漁業協定」という条約に明文規定がある。同協定第5条では、「入手することのできる最良の科学的証拠に基づ」き、「最大持続生産量(maximum sustainable yield: MSY)を実現することのできる水準に資源量を維持し、又は回復できることを確保」することを締約国に求めている。 MSY理論では、人間の手付かずの状態にある場合、生態系は均衡が保たれているので、資源は増えもしなければ減りもしない、と仮定される。人が魚を捕り始めると、確かに漁獲対象とされた資源の絶対量は減ってしまうが、魚1匹当たりの餌の量は増え栄養状態が良くなるなどすることから、親魚1匹当たりの資源増加量がふえる。人間が漁獲することによって資源の絶対量は減るが、余剰生産力は増えるのである。MSY理論において親魚資源量と余剰生産力の関係を示す場合に用いられる典型的なイメージが図であり、この図では、もともとの親魚の半分程度の量のとき、余剰生産力が最大であるように想定されている。余剰生産力が最大となる時の漁獲量が最大持続生産量すなわちMSYである。MSY曲線 国連公海漁業協定付属書Ⅱでは、 MSYという基準は、これを下回った場合全面禁漁を含む厳しい漁獲制限を伴う最低限度のラインとすべきである規定している。ただ、太平洋クロマグロのように初期資源量比4%未満という乱獲に陥っている資源に対してMSYという水準を当てはめると、長期間にわたる全面禁漁という極めて厳しい措置を取らなければならなくなってしまう。そこで乱獲状態に陥っている資源に関しては、上記の基準を大幅に緩め、MSYを回復目標として設定することができるとも規定している。MSYを下回れば直ちに禁漁という赤信号ラインにするのではなく、MSYを当面の目標としても良い、と言っているわけである。 WCPFC条約は第6条1項において、MSYに関する基準を定めた国連公海漁業協定付属書Ⅱを「この条約の不可分の一部を成す」と規定するとともに、2項において「十分な科学的情報がないことをもって、保存管理措置をとることを延期する理由とし、又はとらないこととする理由としてはならない」と定めている。十分科学的にわかっていないことを保全管理措置を取らないことの言い訳に使ってはいけない、という国際法上の原則は「予防原則」と呼ばれる。国際環境法で広く適用されている考え方である。 たしかにMSYという考え方は、単一の種しかモデルに含んでおらず、環境の変化も考慮に入れていないとして数十年以上も前から批判が広く提起されている。しかしながら、MSYを基準として用いなければならないというのは1982年に採択された国連海洋法条約にも明記されており、国連公海漁業協定及びWCPFC条約にも引き継がれている。日本はいずれの条約も批准しており、法を守らなければならないというのは国際法上のもっとも基本的な原則である。したがって、MSYという考え方を採用する必要が生じ、これを否定するには、上記全ての条約の改正ないしは条約からの脱退が必要となる。 今回の会議に際してアメリカは、以上の国際条約上の諸規定を見るならば、MSYを基準として用いなければならないのは明らかだが、クロマグロは乱獲された資源であることから、MSYをとりあえずの目標と緩く解釈することにやぶさかでなく、初期資源量比20%をMSYの代理値として用いて2030年までに達成すべき目標としてはどうか、と提案した。先述の図では資源量の半分程度がMSYであるとイメージされているところ、米国はこれを大幅に緩和して20%のラインと考えてもよい、つまりお椀型の頂点が中央の50%ではなく左側に大きく寄った20%とさし当り仮定することを受け入れる、という甘めのものとなっている。資源管理が自分たちのためになると気づきはじめた漁業者資源管理が自分たちのためになると気づきはじめた漁業者 初期資源量比20%という数字をMSYの代理値として用いることは、オーストラリア沖などで漁獲されるミナミマグロというクロマグロに匹敵する高級マグロでも採用されている。乱獲や違法操業により資源が激減したミナミマグロは2035年までに初期資源量比20%に回復させる管理措置を採択、現在資源は回復に向かっているとされている。この8月に東京で開かれたジャパン・インターナショナル・シーフードショーに出展した業界団体代表は、ミナミマグロが厳格な資源回復措置の下で規制されていることを力説、「我慢すれば、マグロは増える」とその効果を謳っている(水産経済新聞2015年8月31日付「「我慢すればマグロは増える」日かつ漁協と促進会 解体ショー大盛況」) 。ミナミマグロと同様資源が激減した大西洋クロマグロも、漁獲量の80%削減、幼魚の原則漁獲禁止、まき網と呼ばれる資源管理上問題の多い漁法の漁期を1カ月に制限するなど厳格な措置を導入、この結果資源は驚異的な回復を遂げた。 「漁業関係者は、本当に身を切る思いをしてきた。しかし今は、こうしたことが結局自分たちの利益になると気づきはじめている」と大西洋クロマグロを管理する国際機関ICCAT科学委員会議長のジョス・サンティアゴ氏は規制の効果を高く評価している(NHK「クローズアップ現代:食卓の魚高騰 海の資源をどう守る」2015年4月15日放映) 。北小委員会にオブザーバーとして参加したEU代表も、大西洋クロマグロの教訓を私たちに語ってくれた。規制によって恩恵を受けるのは、他でもなく漁業者自身なのだ。 ところが日本政府を代表して会議に臨んだ水産庁はこれに頑強に反対した。漁獲統計が行われはじめた1950年代以降、米国の提案する資源回復目標に到達したことは僅かあるいは全く存在せず、非現実的だから、というのがその理由である。具体的な統計という「現実」を見よ、米国の主張する目標はその「現実」からかけ離れている、というのである。WCPFCではコンセンサスでしか規制措置を採択できず、水産庁が反対したことから、米国提案は取り下げられざるを得なかった。しかしながらこうした主張は、残念ながら科学的も法的にも妥当と思われない。 太平洋クロマグロは明治期から大規模な商業的漁獲が行われているが、戦前の漁獲については統計に乏しい。データがないと、ついわれわれは具体的な数字がある現在を物差しにして考えてしまいがちである。例えば大昔、至る所に魚の群れが海中を覆い尽くしていたという伝承があったとしても、数字を伴わないこうした伝承は受け継がれたとしてもあくまで古き良き時代を大げさに記述したにすぎないと見なされがちである。乱獲の結果魚の数が激減し、魚体も小さくなってしまったとしても、そうなってしまった頃に魚を捕りはじめたり、研究をはじめるようになった人たちにとっては、その小さな魚が基準(ベースライン)になってしまい、乱獲と資源減少の記憶を忘却しがちである。シフティング・ベースライン症候群 こうした錯誤は「シフティング・ベースライン症候群(shifting the baseline syndrome)」と呼ばれる。著名な水産生物学者の一人であるブリティッシュ・コロンビア大のダニエル・ポーリーが今から20年前に発表した論文で名付けたものである ( Daniel Pauly (1995), "Anecdotes and the shifting baseline syndrome of fisheries." Trends in Ecology and Evolution, 10(10), 430.)。データがないことを乱獲の忘却の言い訳にしてはならないし、最良の科学的知見及び過去の文献を渉猟し、これらを推定する努力を怠ってはならない。ポーリーがこの論文で訴えたかったことの一つである。シフティング・ベースライン症候群に対する警告は、今やワシントンのスミソニアン博物館でもパネルで大きく展示されて一般に紹介されるほど(写真参照)、水産生物学では基礎知識の一つとなっている。残念ながら、北委員会での水産庁の主張は、「シフティング・ベースライン症候群」の悲しい一例と言えるだろう。スミソニアン博物館の「シフティング・ベースライン」のパネル説明。「私たちが捕まえる魚が小さくなると、もともとこの魚がいかに大きかったかということを 我々は忘れてしまう。『大きな魚』というものがどのくらい大きいかということに関する我々の比較のベースラインはシフトしてしまうのだ」との解説が付され ている。筆者撮影 ミナミマグロでは初期資源量比20%が用いられているではないか、これは日本も賛成したはずではないかとの主張に対しては、水産庁は「ミナミマグロは資源が一直線に減少しているが、太平洋クロマグロは資源量が上がったり下がったりしているから、このアプローチは受け入れられない」と主張する(Government of Japan, “Japan’s basic view in considering reference points for pacific bluefin tuna,” WCPFC-NC11-2015/IP-09, 2015, p. 11.) 。残念ながら、私にはこのロジックを理解することができない。 国連食糧農業機関(FAO)のデータベースを用いて世界の漁業資源の崩壊を網羅的に検討した論文によれば、ここ50年間に資源崩壊が起こった漁業資源366例のうち、資源がミナミマグロのように一直線に減少したものは約3分の1である一方、残りの3分の2については資源量の上下を繰り返したのち崩壊を迎えたか、一時資源量が安定したかに見えたにもかかわらず、つるべ落としのように資源が激減して崩壊に至ったと論証されている(Christian Mullon, Pierre Fréon and Philippe Cury (June 2005), “The dynamics of collapse in world fisheries,” Fish and Fisheries, Volume 6, Issue 2, pp. 111-120.) 。資源量が上下していることだけを理由に、だから資源崩壊のリスクはより少ないとの主張は、したがって科学的でない。 水産庁は大西洋のICCATでの規制強化による資源の急回復については、あれは失敗だったと説明している。資源回復しても、漁業者の利益につながっていないからだというのがその理由である(たとえば以下を参照。みなと新聞2015年8月17日付「WCPFC小委 日本「水産業衰え」懸念 米のマグロ管理論に反論」) 。残念ながら、その主張は先に紹介した実際に漁業を行っているEUの説明ともICCATの科学者の説明とも一致していない。 水産庁はさらに、「条約上、MSYを実現する資源量が目標であることは明確」であるが「MSYは定義されていない」と主張する(水産庁、「太平洋クロマグロの資源状況と管理の方向性について」、2015年8月、13頁) 。しかしながら、では一体水産庁はどの程度の資源レベルがMSYと考えられるのか、明確な説明を何ら試みていない。少なくとも、現在の暫定目標とされている初期資源量比7%程度でもその水準に満たすことができるとの科学的説明を、筆者は一度も目にしたことがないし、そのような説明が可能とも思われない。したがって、国連公海漁業協定第5条及びWCPFC条約第6条のMSYに関する条項の主旨を日本が忠実に実行しているとは、残念ながら全く思われない。 米国は初期資源量比20%という中期目標の他、この問題に対して科学的助言を与えている「北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)」という機関に成魚漁獲の半減など更なる削減措置を行った場合のシナリオ分析を行うよう提案していた。現行の30キロ未満の小型魚の漁獲を02−04年比で半減させるという措置は、この小型魚削減シナリオがWCPFCから作成を依頼されたシナリオのうち資源回復効果が一番高いとISCが報告したことに端を発している。これを受けて日本がこの規制措置をWCPFC北小委員会で提唱し、採択されたのである。実はWCPFC北小委員会が依頼したシナリオには成魚の削減シナリオや、02-04年比ではなく直近比での削減シナリオは含まれておらず、他国がもっと踏み込んだ措置が必要なのではないかと苦言を呈したにもかかわらず、そんなことをISCは言っていないので、科学的でないと水産庁は頑強に反対した。 現在の規制措置の問題点の一つは、成魚については有効な対策が何も取られていない点にある。成魚を保護すれば生まれてくる仔魚の量も当然増えることが予想される。確かに環境が収容可能な魚の量は限られており、資源が一定以上存在する場合は、水温などの環境変化に子供の数は左右されるだろう。しかし、資源量が激減している現在、成魚の保護は資源増加に直結する。元ICCAT事務局次長の三宅眞博士も「最も効果的な対策は、産卵期・場を禁漁にすること」によって親魚を保護することであり、「科学者はこれを最初から唱えてきています」とその意義を力説している(「過剰な漁獲能力の削減急務 水産総合研究センター遠洋水産研究所客員研究員 三宅眞氏に聞く」『OPRTニューズレター』第33号、2009年1月、2頁)。資源浪費的で経済的観点からも問題が多い資源浪費的で経済的観点からも問題が多い 現在親魚の一部は、産卵行動を行うため日本海沖で夏季に群れをつくって泳いでいる。この親魚を大きな網でぐるりと取り囲んで群れごと一網打尽に漁獲しているのがまき網漁業である。大間や壱岐など一匹一匹を大切に漁獲する一本釣り漁で水揚げされたクロマグロは水揚げ漁港でキロ当たり約5000円の卸値がつくが、まき網の卸値はキロ当たり約1000円(13年)と低い (漁業情報サービスセンター統計より)。資源浪費的で経済的観点からも問題が多い。 しかしながら、水産庁はこのまき網漁業の利益をどうしても擁護したいようで、まき網による親魚漁獲への規制の必要を決して認めようとしない。「親をいくら捕っても、子どもの数には関係ない」というのがその理由だが、親がなくても子は増えるという自然発生説かと見紛う珍妙な主張は、アリストテレスの頃ならまだしも、現代生物学の基本原理から残念ながらやや外れているように思われてならない。 現行の規制では有効な成魚削減などが盛り込まれていないため、こうしたもっと踏み込んだ削減措置を行ったらどうなるか、とりあえず科学評価してみよう、というのが米国提案の主旨である。しかし水産庁はこのシナリオ分析提案についても、徹底的に反対した。結局コンセンサスが得られたのは、現行規制に加えて10%削減した場合のシナリオ分析をISCに依頼するということにとどまった。 もし成魚の半減などの措置が有効とのシナリオ分析結果が出れば、当然米国などはこれを根拠にさらなる管理措置を求めるであろう。そもそもシナリオ分析をさせないでおけば、水産庁は内外に対して「ISCは成魚削減が必要だとのシナリオ分析をしていない。したがって成魚削減が必要との国際的な科学的は存在しないので、現行規制あるいは最大でもシナリオ分析がある現行比10%削減しか受け入れられない」と主張することが容易に想像され得よう。 WCPFC条約では、「国内的又は国際的な調査計画からの情報を適切な時期に収集し、及び共有すること」(第5条(i))及び「情報が不確実、不正確又は不十分である場合には、一層の注意を払う」(第6条2項)ことを構成国に義務付けている。また、先述の通り、「十分な科学的情報がないことをもって、保存管理措置をとることを延期する理由とし、又はとらないこととする理由としてはならない」。水産庁は意図的に国際的な調査計画からの情報の収集を妨げ、十分な科学的情報がないことを保存管理措置をとることを延期する理由としているとしか判断せざるを得ない。 今回の会議で唯一合意が得られたのは、今回会議参加国が実質的に合意した点として「加入量が劇的に減少(drops)」した場合どうするかを、来年決定する」という点である。しかし、12年のクロマグロの加入量は04年比で75%減、14年のクロマグロ幼魚(「ヨコワ」と呼ばれる)の漁獲量は2000年比で実に96%減少している(水産総合研究センター「太平洋クロマグロ2014年生まれ加入量モニタリング速報(2015年5月)及び水産庁への情報公開請求に基づくデータより)。資源が劇的に減少していることはもはや明らかである。 実はWCPFCは13年、今回原則合意されたものと文言がほとんど同一の管理措置をすでに採択している。加入量が1回減的に減少(a drop)した場合の措置を14年に検討しなければならない、という内容だった。ところが翌14年のWCPFC北委員会ではこの問題に対して何の討議も行われず、無視される結果となった。なお北小委員会の議事進行を管理する議長は一貫して日本の水産官僚あるいは元水産官僚(同一人物である)が独占してことを付言しておこう。 今回原則合意された「緊急措置」提案は、13年に採択されたものと文言がほぼ同一であるが、前回のものでは加入量が1回減少すれば緊急措置を発動することになっていたが、今回のものでは「減少(drops)」が複数形になっており、加入量の減少が最低2年以上継続しなければ、この措置は発動しないことになっている。まだ炎に包まれているだけだから問題はない 一般的に太平洋クロマグロの加入量は3年に1度上昇する。したがって緊急措置の発動を加入量の減少が3年継続した場合にすれば、ほとんど発動されることがないことになる。しかも現在のトレンドが続くと16年は加入量があがるため、この提案は結果的にポーズだけの単なる引き伸ばしに過ぎない。 火事に例えて言うと、周囲の住人たちが「あなたの家が炎に包まれている。直ちに消防車を呼ぶべきだ」と訴えているにもかかわらず、この家の管理人は「まだ炎に包まれているだけだから問題はない。家が数年間燃え続けて灰になってしまったときに消防車をどうやって呼ぶか、その方法をこれから1年間かけてじっくり考えようではないか」と燃え上がる家を前に訳知り顔に解説しているに等しい。 事実、今回の会議の主要な参加者は “drop”を “drops”と複数形にすることで緊急措置は全く意味がないか最良でも数年の引き伸ばしを意味するに過ぎないということに早い段階から気が付いており、筆者を前にこうした日本のあからさまな遅延戦術にあきれ果てる者すらいた。 会議参加者の多くから、会議の結果に失望するとの声が多く寄せられた。このままでは来年開催が予定されるワシントン条約で貿易禁止提案がなされることは避けがたい。また、現状の資源状態を放置すれば、資源状態はさらに悪化する可能性があり、そうなれば沿岸の零細漁業者には経営が立ち行かなくなるものがさらに増加するであろう。漁業は地方にとって貴重な経済基盤の一つであり、沿岸漁業の衰退は、地方創生にも逆行する。加えて漁業の衰退は、離島の無人島化にも繋がる。そこに漁業と漁船と人が存在することは、離島及び沿岸海洋の防衛にとっても重要であることは、かつて戦前には鰹節工場があった尖閣列島の事例を引き合いに出すまでもないであろう。 太平洋クロマグロは、一部の大規模漁業者の利益だけにあるのではなく、また一部の省庁の矮小な庁益のためにあるのでもない。持続可能な漁業は、全ての漁業者の長期的な利益に繋がるのみならず、地方経済の繁栄など我が国全体の利益に繋がる。「法の支配」は我が国の外交政策上の基本原則である。近視眼的、非科学的かつ国際法の諸規定の主旨をないがしろにした引き延ばし策は、我が国の資源・環境外交政策並びに漁業科学に対する信頼を損ねこそすれ、高めることはない。過去の政策の失敗をいち早く改め、我が国の国益に即した政策に変更されることを希望してやまない。   

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    マグロ急減で漁業者衝突 動かぬ水産庁の不可思議

    2014年11月には、国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種に指定したほどだ。零細漁師と大型巻き網漁業の対立 興味深いのは、国内漁業者の間に、根深い対立が発生する事態に及んでいることだ。それは家族経営的な零細の漁師が多い沿岸漁業者と、日本水産やマルハニチロなど大手資本が運営する巻き網漁業者の対立だ。前者は禁漁を決断し、後者は産卵期の巻き網漁業をやめようとしない。 「堪忍袋の緒が切れたんです」。6月10日、対馬の沿岸漁業者がもつ漁船が、入港してきた巻き網漁船を取り囲んだ。沿岸漁業者が抗議のために出した漁船はなんと102隻にも及ぶ。その2日後にも、74隻で巻き網漁船を取り囲む事態が発生した。 対馬の沿岸部には太平洋クロマグロ(以下、クロマグロ)の養殖場が点在する。対馬沖にヨコワ(クロマグロの幼魚)が出現するこの時期、漁獲したヨコワを養殖場へ入れるため、巻き網漁船が入港してくる。対馬で巻き網漁業(右)を取り囲んだ沿岸漁業者の漁船 (写真:森山淳) 対馬では、収入の9割がクロマグロ、という漁業者も多いという。こうした沿岸漁業者にとって、全国的に知られる青森県の大間1年分以上のクロマグロを、わずか1日で水揚げする能力をもつ大型巻き網漁業は脅威だ。 「巻き網漁船が通ったあとは、海がカラカラになり、しばらく漁ができなくなるのです。せめてヨコワが対馬海峡を通過する5~6月と、日本海から戻ってくる11~12月の操業は勘弁してくれと昨年9月に要望書を出したんです」。対馬市曳縄漁業連絡協議会の梅野萬寿男会長はそう話す。今年、対馬と壱岐の漁業者は、6~7月の産卵期の禁漁を決めた。クロマグロはこの時期、日本海で卵を産む。もちろん収入は減るが資源の持続性を維持するためには仕方ない措置と考えてのことだ。しかし、巻き網漁業の側は、禁漁する気などさらさらない。 「彼らは無反応なばかりでなく、私たちの仲間が海上に設置しておいた『シイラ漬け』という竹でつくった仕掛けごと巻く事態も発生した。こうした状況が続くようでは、もう私たちはこの島で生活することができなくなると、抗議船を出したんです」 結局、8月末に日本遠洋旋網(まきあみ)漁業協同組合との話し合いが行われることになったが、あくまで話し合いの場が用意されたに過ぎず、根本的な解決はされていない。 「魚が大量にいた時代は巻き網漁船が巻いても誰も文句は言わなかった。今はそういう状況じゃない。何もかもやめろとは言っていない。こちらにも生活があるので、せめてこの時期の漁だけは自粛してもらいたいという話だ」(対馬の漁業者・宮﨑義則氏)。聞き慣れぬシュプレヒコール 「巻き網やめろー」、「産卵期のクロマグロを獲るなー」、「水産庁は資源管理をしっかりやれー」 8月3日。昼下がりの都心で聞き慣れないシュプレヒコールが鳴り響いた。「クロマグロの資源悪化と水産庁の無策に、いてもたってもいられなくなったんです」。デモを企画した茂木陽一氏は釣り業界ではよく知られた存在で、多くの釣り人がデモに参加した。8月3日に行われた釣り人らによるデモ (写真:Wedge) 「参加者は、国内のみならず、海外でも釣りを行っている人が多く、魚の減少と水産庁の資源管理の甘さを肌で感じています」。このデモには、全国各地から90人ほどが参加。本業は水産業とは関係のない一般企業のサラリーマンが大半で、弁護士や医師、主婦も参加していた。 デモ隊は水産庁と、産卵期に巻き網漁船でクロマグロを漁獲する共和水産の親会社・日本水産の本社前を通り、道行く人にビラを配った。また、農林水産大臣、水産庁長官、日本水産社長ら宛に、13279人分の署名を渡した。こうしたデモだけでなく日本水産に対しては、一部で不買運動まで発生する事態に発展している。 多くの漁業者が、現在水産庁が行っているクロマグロの規制について、「絶滅懸念を払拭するだけの納得感が薄い」と話す。「目の前にある魚は獲る」習性をもつ漁師が、自ら禁漁をするとは異常事態ともいえる。それでも水産庁の腰が重いのは、巻き網漁業の目の前の利益を守らなければならない特別な事情でもあるからだろうか。 Wedge編集部では、巻き網漁業者の代表として、日本水産と山陰旋網漁業協同組合に対しインタビューを申し込んだ。 日本水産 インタビュー「産卵期クロマグロの禁漁が必要ならばそれに従う」 日本水産の小池邦彦代表取締役専務執行役員、前橋知之執行役員がクロマグロの巻き網漁業についての取材に応じた。小池専務(左)と前橋執行役員(右)(写真:井上智幸)─産卵期にクロマグロを漁獲する理由は。日本水産:地域ごと、漁法ごとに魚が漁獲できる時期というものがあり、日本海で巻き網を使って漁をする場合、6~7月の産卵期となる。この時期以外は漁獲しづらい。─クロマグロが減少しているという実感はあるか。日本水産:資源レベルが低位にあることは認識しているが、「絶滅危惧種2類」かというと、そこまでいっているのかなという思いも一方ではある。─資源が減少した要因としては、環境要因が大きいと感じているか。日本水産:自然環境が変化している、ということは感じている。今の漁獲量が、過剰かどうかはわからない。日本は管理が行き届いているほうだと思っている。海外の管理はどうなんだろうという思いもある。─ホームページで「資源の持続的な利用」について、声明を出しているが、現時点でクロマグロを持続的に利用する取り組みをしているという認識か。日本水産:水産庁やISC、WCPFCなどの国際機関の出した科学的な根拠に基づいて、合理的に利用しているという認識をもっている。─NGOとも意見交換を行っている旨の記載がホームページにあったが、具体的にはどのNGOと意見交換を行っているのか。日本水産:WWF(世界自然保護基金)、MSC(海洋管理協議会)、ASC(水産養殖管理協議会)など。海外子会社はその地域のNGOなどと意見交換をしている。─クロマグロを持続的に利用するにあたって、現在行っている取り組みは。日本水産:関係子会社が、山陰漁業協同組合を通じて、漁獲量を自主規制している。─日本水産から子会社の共和水産に対して、自主規制枠を設定すべき、もしくは削減すべきといった要望を出しているのか。日本水産:していない。あくまで業者間で自主的に行っている。─産卵期における共和水産の漁獲量は。日本水産:公表していない。─産卵期の巻き網操業を止めてくれという要望が沿岸漁業者などから出ているが、話し合う気はあるか。日本水産:個別に沿岸漁業者と話すというよりは、水産庁主催の会議など、オフィシャルな場で全体像を見つつ話し合うべきだと思っている。個別の部分だけをみても資源の維持には繋がらない。─日本水産に対してデモや不買運動が発生している。日本水産:当社としては科学的根拠に基づいて、資源を合理的に有効利用したいと考えている。守るべきルールの中で仕事をしている。違反はしていない。デモや不買運動については、正直、困惑しているが、静観するしかないと考えている。科学者に様々な意見があるのは承知している。私どもは科学者ではないので、公の科学的な根拠に基づいた指針に従わざるを得ない。そのなかで、「産卵期は禁漁にすべき」という指針が出れば、当然それには従う。─グループ会社を含めて、日本水産に水産庁のOBは何人いるのか。日本水産:本体の顧問に1人いる。山陰旋網漁業協同組合 インタビュー「クロマグロが減っている実感はない」 クロマグロの日本海沖産卵期における巻き網操業の拠点・鳥取県境港のキーマンが取材に応じた。取材に応じる白須組合長(右)と森脇副組合長(左) (写真:小平尚典)─産卵期にクロマグロを漁獲する理由は。山陰旋網(さんいんまきあみ)漁業協同組合:産卵場に集まってくる時期が巻き網で漁を行う私たちにとっては最も獲りやすい。地中海などでも産卵期に漁が行われている。 また、産卵前のクロマグロがもっとも美味しいので、その時期を狙っている。産卵後は味が落ちるので獲らない。 サケもタラもボラも産卵親魚を漁獲している。産卵親魚を獲ることが悪いという考えには違和感がある。─産卵期の漁獲量上限を1800トンとする自主規制を行っているが、どのように各企業に割り振っているのか。山陰旋網:今年の場合は、日本海各海区大中型まき網漁業資源管理計画に参加している船団の共有枠と、各海区のなかで船団別に割り振っている枠を併用した。船団別の枠は、融通しあうことはあるが、売買はしていない。 自主規制している上限の量に達しなかったら、「クロマグロが減っている」と批判されるので、事前に決めた数量を漁獲できるよう工夫している。ちなみに自主規制1800トンには、内臓やエラも含まれている。─そもそもクロマグロが減少しているという実感はあるか。山陰旋網:あまりそういった感覚はない。昨年も今年も自主規制の上限に達したので漁獲を止めたが、規制がなければ、もっと獲れていた。 昨年と今年の漁獲量や獲ったクロマグロのサイズをみると、11年からはじめた自主規制の効果が出始めてきているのでは、とも感じている。 また、魚は毎年同じところに来ないが、資源量を調査する場所は毎年同じところだ。調査箇所をたまたま通らない可能性もある。─仮に産卵期のクロマグロ漁が資源に悪影響を及ぼすので禁漁すべきという話になったら従うか。山陰旋網:公的機関の結論ということであれば、検討せざるを得ない。ただ、私たちは境港の加工、流通業者に「もっと獲ってこい」、「なんで獲ってこんのだ」と叱られている。説明してもなかなか納得してくれない現状もある。 水産庁は、日本全体で未成魚について半減すれば、高い確率で回復するということを言っているので、今行っている産卵期の巻き網操業に問題があるとは考えていない。─禁漁は補助金があれば解決する話なのか。山陰旋網:補助金だけでは解決しない。産卵期のクロマグロ漁が禁漁となれば、即刻倒産する境港の零細企業も出てくるだろう。補助金が関係者すべてに行き渡るわけがない。周辺産業まで含めると、100億円程度の経済評価額で、影響は観光業にまで及ぶ。─世間に訴えておきたいことは。山陰旋網:巻き網業者を悪者扱いしないでほしい。巻き網がないとアジ、イワシ、サバなどは、ほとんど消費者の口には入らないだろう。 クロマグロは高級魚だが、巻き網で獲ることにより、手ごろな値段で食べることができる。この役割は大変なものだと自負している。※取材対応者:白須邦夫代表理事組合長(共和水産社長)、森脇寛副組合長(若葉漁業社長)、米村健治専務理事、川本英文参事、相田仁顧問(共和水産元会長)、共和水産の橋津寛常務   

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    マグロをスポーツで釣る米国人「絶滅危惧だから保護」の傲慢

     豊かな自然に恵まれた日本では、海の幸、山の幸を凝らした世界一の食文化が育まれてきた。寿司、和牛、日本米など、海外で高く評価される料理・食材は多い。しかし、その日本の食卓が危機に瀕している。鮮魚が食べられなくなり、味噌や豆腐が食卓から消える日がやってくるかもしれない。その背後には、アメリカの政治的意図や中国の拡張、そして“内なる敵”の存在がある。 “外圧”が日本の食文化を脅かす事例の最たるものが、マグロ・クジラ問題だろう。 築地の中央卸売市場で毎年盛り上がりを見せるマグロの初競り。落札価格は急騰し、5年前まで1本500万円程度だったものが、今年は5649万円(大間産、269kg)の過去最高額となった。「高級モノの競りでは中国が存在感を見せています。昨年は香港の寿司チェーンが3249万円で落札しましたし、今年も途中で中国の業者が5000万円台の値を示しました。落札した日本の寿司チェーンのオーナーは『海外に持って行かれるより、日本でおいしいマグロを食べて欲しい』と頑張ったそうです」(築地のマグロ仲卸業者) 中国の拡張だけではない。  野生生物の国際取引を規制するワシントン条約会議に大西洋クロマグロの禁輸案が提起されたのは2年前のこと。欧米が支持した提案(提案国・モナコ)は大差で否決されたが、世界のクロマグロの約8割を消費する日本への批判はやまない。だが、そもそも欧米に批判の資格があるのか疑問だ。東京海洋大学の末永芳美教授が説明する。「アメリカでは、大西洋クロマグロのスポーツフィッシングが弁護士や医師など富裕層の間で盛んです。『ゲーム・ハンティング』などと称して重さや体長を競う。彼らは重さや長さを測って写真を撮ったら、マグロを浜に埋めて廃棄してきたのです。 その後、1980年代にはマグロが日本で高く売れることに気付き、素人たちが一攫千金に乗り出した時期もあった。彼らがもっと自由にスポーツフィッシングを楽しむため、環境団体と組んでマグロ漁の禁止・制限に乗り出した経緯があります」 末永氏によれば、ICCAT(大西洋マグロ類保存国際委員会)が米国に割り当てる漁獲枠(948.7t)のおよそ半分がスポーツフィッシング消費なのだという。つまり毎年400~500tがレジャー目的で消えているのだ(日本の同漁獲枠は1000t強)。マグロを釣り上げては埋める人間に「絶滅危惧だから保護しろ」と言われても説得力はない。 関連記事■ 5649万円マグロ落札社長 「海外に落札されるのは違うでしょ」■ 寿司チェーン マグロ1貫1グラム減らし1日100万円利益■ 1億5千万円マグロを釣った大間の漁師 最初は潜水士を志した■ 史上最高額マグロ落札社長 マグロ2切れを家族4人で分けた過去■ 1.5億マグロ競った寿司店 “中国にマグロが”と言われ苦悩

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    マグロ 未成魚乱獲で絶滅危機のウナギの二の舞になる危険も

    、絶滅が危惧されるウナギも同じ道を通ってきた。確証を得られた頃には手遅れで、もはや待ったなしなのだ。漁業補助金など活用できるものはすべて活用して、法制化を進め、「国民魚」であるマグロ資源の管理に全力で臨むべきである。 今年の6月、日本経済新聞に「余るクロマグロ」という見出しの記事が踊った。境港での初水揚げは去年の3倍量という豊漁だったが、築地に送られたマグロのうち、2/3のマグロにはセリで値がつかなかったという。 8月に行われた太平洋クロマグロの資源管理に関する会議では、水産庁が全国の漁業関係者数百名に向けて「メジを食べるのはやめましょう」と訴えかけた。我々消費者も、市場が望んでいない品種だということを伝えるべきではないか。和歌山県の近畿大学水産研究所や長崎県、鹿児島県などでは、養殖の研究が進んでいる。9月上旬に行われれた、「中西部太平洋まぐろ類委員会」で資源管理への道筋も見えてきた。加えて、買い手がいないということもひとつの圧力にはなる。 これから先もうまいマグロを口にするためには、我々消費者の意識にも変革が必要だ。ちなみに本当に味の乗ったうまいホンマグロが出回るのは冬。そもそも旬でもない夏に、未成熟なメジマグロを食べるのはいかがなものか。そんな道理は通らないし、粋でもない。旬を味わう楽しみを知る人は「春キハダ、夏ミナミ、秋メバチ、冬ホンマグロ」なんて呪文を唱えながらマグロの種類をも回遊する。さあ、いよいよ食欲の秋がやってきた!関連記事■ 1億5千万円マグロを釣った大間の漁師 最初は潜水士を志した■ マグロ完全養殖に成功の近畿大 事業が軌道に乗るまでの労苦■ マグロをスポーツで釣る米国人「絶滅危惧だから保護」の傲慢■ 1.5億円マグロ揚げた大間で「子どもに漁師継がせたくない」の声も■ 寿司チェーン マグロ1貫1グラム減らし1日100万円利益

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    サケ高の陰に「円安」「ウクライナ」「震災」

     サケの取引価格が高止まりとなっている。東京・築地市場での10月の平均価格は輸入、国産ともに現在、前年同期に比べ1~3割高い。ギンサケは7割ほど値上がりしている。急激な円安で輸入価格が高まったことも背景にあるが、世界的なすし人気や東日本大震災後に輸入が拡大したチリ産銀サケの出荷調整、ウクライナ情勢など複雑な要因が絡み合ったことが要因のようだ。 財務省の貿易統計などによると、平成24年のサケの国内需要は40万トン超。6割強を輸入が占めており、そのうちの約6割がチリ産だ。築地市場での輸入サケ・ますの10月の平均単価は1キロ1292円で前年同月より12%高い。 さらに輸入サケの高騰につられ、国内の養殖物も値上がりしている。総務省の小売物価統計調査によると、10月の東京23区内におけるサケの小売価格は100グラム279円と前年同期比で14%高値だ。東日本大震災の津波で養殖施設が流された国内有数のサケの養殖県である宮城県産も、昨年10月は1キロ600~700円台が相場だったが、今年10月は1000~1400円台と2倍近くに跳ね上がっている。 ここ2年の急激な円安により輸入サケの価格が上がったことや、水揚げに使用する燃料費などの高騰もサケの価格高止まりに影響はしている。だが、その大きな要因は23年の東日本大震災後、宮城県など産地である東北地方のサケの水揚げ量が激減し、その供給量を補填(ほてん)するためチリ産サケの輸入量が急激に増えたことにある。 そもそも、震災前の22年のサケの卸値は1キロ900~1000円台で推移していた。それが、震災後の23年には700~900円台に2~3割も値下がりした。水産庁加工流通課は「震災後にチリが日本へ大量輸出したが、供給量が急激に増えたため買いたたかれ、輸入サケの価格が下落した」と指摘する。 東北地方の本格的なサケの水揚げ量が回復しないなか、円安が直撃し、日本に輸入されるサケの価格は高騰。さらに、ウクライナ情勢をめぐり、ロシアが今年8月に欧米からの食品輸入を禁じ、チリ産サケの買い付けを増やしたことで、「サケの取引価格が急上昇したのではないか」(業界関係社)とも予想される。 近年の日本食ブームもあり、サケの需要は世界的に拡大している。国内のサケの水揚げ量が本格回復しないなか、円高や日本への出荷量が削減するなど複雑な要因が絡み、価格上昇につながっているようだ。(西村利也)

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    日本の食卓から魚が消える

    南極海調査捕鯨の敗訴に始まり、ニホンウナギの国際自然保護連合による絶滅危惧種指定、クロマグロも資源崩壊の危機を迎え、日本を取り巻く水産資源は厳しさを増している。日本の食卓から魚が消える日は来るのか。iRONNA編集部が現状をリポートする。

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    上海の寿司屋で働いた日本人 中国人の産地意識の低さに驚く

     なぜ「中国毒食品」はなくならないのか。その根底には、日本人とは相容れない中国人特有の「衛生観念」があるはずだ──そのことを間近で観察するため、上海の寿司屋にバイトとして潜入した上海在住のジャーナリスト・西谷格氏が、驚きの中国外食事情をリポートする。* * * 冷蔵庫の扉や作業台の脚などが黒ずんでいたので暇な時間に拭こうとしたら「これで拭けばいい」とテーブルの上にあった布巾を手渡された。この布巾は、先ほどまで包丁やまな板、濡れた手などを拭いていたものだ。 掃除を終えて茶色く変色した布巾を先輩に返すと、ざっと水洗いをしただけで再びまな板を拭いていた。拙著『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』(宝島社新書)でも書いたが、中国の厨房では布巾=手拭き=雑巾なのである。※画像と本文は関係ありません 日本では産地偽装がたびたび問題となったが、ここでは産地に対するこだわりは皆無。看板メニューのサーモン寿司の産地を聞くと、「山東省の大連だ」との返事。だが、大連があるのは遼寧省。「千葉の横浜」といっているようなもので、地理感覚すら適当。しかも梱包されていた発泡スチロールには英語と中国語の表記で「チリ産」と書かれていた。国産だろうが外国産だろうが、特に興味はないらしい。 怪しげな産地表示もあった。「鮭ふりかけ弁当」などに使われる冷凍焼きサーモンの切り身パックは日本輸出用の商品らしく、パッケージには日本語で「デンマーク産」と書いてあった。だが別の箇所に貼られた中国語の表記を見ると「チリ産」とあるのだ。どういうことかと社員に尋ねたが、「俺も分からん」と首をかしげるだけだった。 14時になるとまかない飯の時間。中華風豚バラ煮込みなど、厨房でこしらえた大皿の中華料理を20人近いスタッフ全員でつつき合う。食器は客と同じものを使うが、自分たちが使う際だけ熱湯をかけて消毒していた。客にはしないのかよ、と言いたくなる。 中国人の食事の習慣として、骨などの食べかすはテーブルの上に吐き捨てる。だが、食後のテーブルは紙ナプキンで拭き取るだけ。醤油や食べかす等の汚れがあっても水拭きをしないので、テーブルはひどくベタついている。食後は自由時間となるが、仕事中はほとんど立ちっぱなしで足腰が激しく疲労していたため、ひたすら寝て体力回復に務めた。■ 88才料理研究家 ドラマ女優がエプロンで手を拭くのに違和感■ “美人の産地”出身 中国No.1モデルのFカップ透けドレス■ 中国人観光客 バイキングで空ペットボトルにジュース詰める■ 中国人観光客 食事や宿泊フロアを隔離するホテルも存在する■ 中国人観光客に「ストリップ劇場」が人気 夫婦で鑑賞が定番

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    消費者が知るべき水産資源の現状

    ガジンランド)を上梓した国際東アジア研究センターの小松正之客員主席研究員に話を聞いた。――今までにも漁業改革を訴える本を出されています。今回の本では、どんなことを意図して書かれたのですか?『ウナギとマグロだけじゃない!日本の海から魚が消える日』(小松正之、マガジンランド)小松:私は、故郷である岩手県陸前高田市広田町を含め、漁村地域の衰退が著しいのを目の当たりにし、2006年から本格的に水産業の改革に乗り出しました。これまでに日本の漁業改革を促す本を3冊出しましたが、今回の本でも本質的な主張は変わっていません。 海外では限りある水産資源をみんなで守り、持続的に食べていこうという流れがあります。海はみんなのものであり、資源を乱獲すれば日本国民全体が困ることになる。ですから、一般国民や消費者にももっと関心とこの問題に介入する気持ちを持ってもらい、消費者から政治家、行政や関係団体などに良い意味で影響を与えてもらいたいなと。そのための勉強の素材をわかりやすく、一般の人たちがアクションを起こせるヒントとなるような情報を入れて書きました。――これまで小松先生は、魚食を守るために数々の会議の委員を務めていますね。小松:私たちは07年に、日本経済調査議会で「魚食を守る水産業改革高木委員会」(以下、高木委員会)を組織し、日本の水産業再生のための提言を発表しました。これは政府に持ち込まれ、私が委員を務めた内閣府の規制改革会議の提言にも盛り込まれましたし、将来の日本の水産業を構築するためには非常に有益だと思います。趣旨は次の4つに集約できます。 まず、科学的根拠の尊重による環境と資源の保護および持続的利用を徹底し、かつ国家戦略の中心に位置づけ、これに基づく水産の内政および外交を展開せよというもの。2つ目が、水産業の構造改革を直ちに実行すること。例えば漁業権や協同組合の近代化などですね。3つ目が、改革のために予算の組替えを断行すること。資源の管理を科学的根拠に基づき、不要な制度は見直さなければなりません。そして最後が、生産から末端の流通加工、消費までをひとつのチェーンとみなし、情報共有できるよう消費者も関心を持つようにしていくこと。この4つの提言になりますが、重要なのは科学的根拠に基づくということと、海は国民共有の財産であるということです。――07年の高木委員会の提言以降、どういった進展がありましたか?小松:抜本的と呼べるような改革はまだなされていません。それでも、わずかながらも進んだことを探せば、2つだけあります。小松正之氏 ひとつは、新潟で日本初の本格的なIQの導入に向けて動き出したことです。IQとは、「個別割当方式(Individual Quota)」といい、決められた全体の漁獲量を、それぞれの漁業者に割り当てる方法です。漁業者は自分に割り当てられた量を獲ってしまえば終わりなので、「ライバルより早く、多く獲らなければ」と乱獲の原因となる早い者勝ちの図式にはなりません。 新潟ではホッコクアカエビ、いわゆる甘エビが対象種となっています。地道な実戦を積み重ねていくことで、日本のモデルとなり、各地でも同様の取り組みが広がっていけばよいと思います。 もうひとつは、我々は漁業権の優先順位を廃止し、経営能力をもとに企業の新規参入を促したかったのですが、漁業権の問題や漁協は動かなかった。しかし、これまでかきなどの養殖は、ほとんど漁協に許可が与えられましたが、宮城県石巻市の桃浦に石巻桃浦かき生産者合同会社ができ、初めて漁協以外に漁業権が与えられたんです。これは現状維持派からすれば、青天の霹靂なんです。戦後60年何も改革が進んでいなかったことを考えれば、これらの人には大きな変化でしょうね。 認可を与える順番は、まずは漁協、次に漁業者の集まりとして漁業生産組合、そして民間企業の順です。つまり、桃浦の例は、これまで2番目だった漁業生産組合に1番目の漁協と同じ権利を与えました。ただ、本来は3番目の民間企業のような経営能力のある人に許可を与えなければ抜本的な改革にはならないと思います。――漁協を通じないで認可が下りると、漁協側は問題があるのでしょうか?小松:漁協側は、その許認可をもとに、漁場の手数料や販売手数料を徴収してきました。地主と小作農家の関係のようなものです。でも、漁業生産組合のような小作農家に許認可を与えると、地主になってしまうわけで、これまでの漁場や販売などの手数料を徴収してきたシステムが壊れてしまう。その利権を失いたくがないがために、彼らはすごく抵抗してきました。――小松先生はこれまでにも直接漁業者の方々と話す機会もたくさんあったと思うのですが、改革に対する反応はどうですか?小松:このような話をすると、漁業者はよくわかっていて、「小松さん、立ちがあってください」と言ってもらえますし、仲間もすごく増えています。利権を持っている業界や全漁連などの団体は、補助金をもらって生きながらえているのに対し、漁協に支払う負担が大きく漁業者はなかなか持ちこたえられない。 政治家は、新しい制度を考えるのが仕事の一つだと思うのですが、赤字が生じていても、制度を変えずに補助金をばら撒くほうが楽なのでそうなりがちです。本当は、黒字化するためにシステムや装備の近代化や、モノの考え方を変えていかなくてはいけないのですが。――消費者はどうでしょうか?小松:日本の場合、魚に関して「美味しいか」「安いか」、あとはせいぜい「健康志向か」という意識ぐらいで、二言目には「食文化」を出してしまう。「食文化」とは、まず資源があり、継続して10年から100年先まで長期的に供給できて、そこに料理の工夫や継続があって、はじめて食文化というわけです。だから、マグロにしても資源を回復させて継続的に供給があって、結果として食文化になるわけですよ。消費者も不勉強ではいられないんです。――消費者が勉強したい場合、そうした情報を政府は公開しているのでしょうか?小松:役所が公開している国際資源や沿岸資源の現況は、専門家のためのもので、わかりやすくしても普段から水産業に携わっている人が読んでやっとわかるレベルです。たとえば、アメリカでは専門のマスコミやモントレー(アメリカのカリフォルニア州にある水族館。水産資源を守る活動で有名。)の科学者などがわかりやすい情報を提供しているので、消費者も勉強しやすいんですね。――水産資源といえば、昨年末には食品偽装の問題もありました。小松:シバエビを使用していると謳っておきながら、実はバナメイエビを使っていたというニセの表記問題がありました。エビ全体では、国産が2万トン、輸入品を合わせると約30万トンの供給量で、そのうちシバエビは1200トンしかないんです。こういった情報を役所などがわかりやすく提供していれば、消費者もシバエビの数と値段を考えればそんなにたくさんのお店でしかも安価に提供することは難しいとすぐにわかるはずです。 資源について消費者にわかりやすく訴えるためには、たとえば、アメリカのスーパーマーケットでは、信号機カラーで魚の資源状態を表示しています。それを参考に私が作成した信号表示の「消費者の購入目安」図があります。 これを見ると、基本的にクロマグロやウナギは食べてはいけないことになる。こうした情報を役所が積極的に出さなければいけないし、消費者も魚を食べ続けたいならば求めないといけないと思うんですね。――3月末には調査捕鯨中止の判決が国際司法裁判所で下されました。小松:もともと国際捕鯨委員会(以下、IWC)が1982年に資源保護を理由に、商業捕鯨の一時停止を採択しました。これに対し、日本は資源が豊富な種もいることから、IWCへ商業捕鯨の一時停止の解除と捕鯨の再開を要求してきました。また日本はクジラの資源量や生態を調べるために調査捕鯨を87年から南極海で、94年から北大西洋で実施してきました。 今回の国際司法裁判所での判決は奇妙と言わざるを得ません。日本が調査捕鯨のために必要だと主張している捕鯨枠の頭数を実際には獲っていないんです。つまり、獲り過ぎならばわかりますが、獲らなさ過ぎで利益も出ていないのに、日本の調査捕鯨には商業性があると判断されたのですね。また、南極海には豊富な資源があるにも関わらず、国際捕鯨取締条約の目的と条項に反して設定され、いまだに撤廃されていない商業捕鯨の一時停止を適用している。これはどう見ても条約と科学に反している。 それにもかかわらず、日本政府は判決を尊重するとのコメントを発表しました。この捕鯨裁判の一件でも、衰退する日本のやる気のなさがあらわれた気がします。小松正之(こまつ・まさゆき)1953年岩手県生まれ。米エール大学経営学大学院卒。経営学修士(MBA)、東京大学農学博士号取得。1977年水産庁に入庁後、資源管理部参事官、漁場資源課課長などを歴任。国際捕鯨委員会、ワシントン条約、国連食糧農業機関などの国際会議に出席し、水産業の発展に従事。2005年、米ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれる。著書に『日本の食卓から魚が消える日』(日本経済新聞出版社)、『海は誰のものか』(マガジンランド)ほか多数。