検索ワード:科学/57件ヒットしました

  • Thumbnail

    記事

    「帰れなくてもいいから火星へ行きたい…」 松本零士が語る宇宙の夢

    概念を読者にわかるようにした偉大な本です。また、地球の生命体の発生から現代に至るまでを書いた「生命の科学」(HGウェルズ著)も愛読していました。「宇宙と生命」というテーマに心惹かれました。 糸川英夫先生が亡くなる1、2カ月前にお会いして「私は本当は宇宙飛行士になって宇宙開発に携わりたかったけど、貧乏で断念しました。だから漫画家になったんです」と話したら、バーンと肩を叩かれて「だからよかったんじゃないか。それで今のあんたがいるんだ。頑張れよ」と言って背中を叩いてくれたんです。それが糸川先生とお会いした最後の会話でした。本当は自分が宇宙に行きたい松本零士氏 中国の探査機が月面着陸したけど、日本も行けないはずはないんですけどね。(ロケットの模型を手にして)これは「GXロケット」。民主党が政権をとったときに予算を全部消されまして。上半分は日本製、下半分はアメリカ製。だから機体に日の丸と星条旗が描いてある。設計も終わって、もう作り始めていたんですよ。じゃあ使った金はどうなるのか、もったいないですよね。しかし民主党は理解してくれなかった。ぱっと予算削られました。 私はアメリカの打ち上げもスペースシャトルが帰還するのも全部見ました。種子島の打ち上げも何度も見に行った。国際宇宙ステーション(ISS)に滞在していた油井(亀美也)さんとは、大きな液晶パネルの前に立って話をしました。お互いの映像が出て、タイムラグなしで話せるんですよ。 ある時、若田(光一)さんから電話があり、「いまどこですか?」って聞いたら「えー、中南米の上空あたりかなあ」って言うんです。携帯電話で普通に話せるんですよ。それもタイムラグがないのです。「じゃあ、日本の方をみてください」って言うと、「じゃあ、いま泳いでいくから」ってね、「ふわふわしてて気持ちいいよ」「時計もちゃんと動いてるよ」って言いながら移動して、「ああ東側は明るくなってる」「太陽も出てきてるけどまだニッポンが見えない」という会話ができるわけです。だんだん時代が変わってきていますね。 本当は自分が宇宙に行きたいんですけどね、帰れなくてもいいから…。絵を描く人間としては、実物の裏側まで見たのと写真資料だけというのは全然違う。写真はあくまで平面なので、わからないわけですよ。どういうものなのか。だから、ピラミッドでもどこでも実際に行って見て、ああこういうものかと分かるからリアルに描けるわけですね。 地球はいっぱい描いているけど、平面しか知らないわけですよ。この目で見たら書き方が少し変わると思うんですね。だから、地球をこの目でみたいというのが私の願望なんです。その次は月と火星に行きたいね。(聞き手 iRONNA編集部、川畑希望)

  • Thumbnail

    記事

    有人火星探査は地球人が宇宙人になる壮大な「夢」の第一歩だ

    のオバマ大統領は「2030年代中頃までに火星の有人探査をおこなう」と表明しているし、日本だって、文部科学省とJAXAを中心に火星探査計画を練っている。国際宇宙ステーションに宇宙飛行士が長期滞在をする理由の一つは、将来の有人火星探査を見据えての実験・訓練だとも言われている。また、原子炉で液体水素などを加熱して噴射する原子ロケットを作れば、ずっと短時間で火星に行くことができるから、遠くて時間がかかるという問題に関しては、技術的に乗り越えられないわけではない。 それに、なんといっても、火星は地球の「お隣さん」の惑星ではないか。自然と、月の次に訪れるべき天体の第一候補ということになっているのだ(金星もお隣さんだが、表面温度が460度なので有人探査はちょっとムリ)。 いろいろな面で火星は地球に似ている。火星は1日が約24時間40分で、自転軸が傾いているので季節があり、重力が地球の4割で、平均気温はマイナス43度なのだ。ええ? マイナス43度なんでムリ!と思われるかもしれないが、私が若い頃に住んでいたカナダのモントリオールでは、冬にマイナス25度なんてざらだったから、決してムリな気温ではない。それに、火星の最高気温はプラス20度だし。 というわけで、イエスとノーの理由を列挙してみたが、私は個人的に「イエス」だと信じている。人類は冒険心が豊かな生き物なので、未踏の地があったら、必ず誰かが行く。2030年代半ばまでに行かれるかどうかは別として、近い将来、必ず人類は火星に降り立つにちがいない。ただし、アメリカのNASAは日本のJAXAの10倍の予算を持っているので、おそらくアメリカ人が最初に火星に降り立つことになるだろう。でも、国際宇宙ステーションから引き続き欧米との協力関係を大事にしていれば、日本人宇宙飛行士も必ずや火星に降り立つことができる!科学研究だけじゃない、人間が火星に降り立つ究極の理由 ところで、なぜ、われわれは「有人」火星探査を目指すのか。小惑星探査機「はやぶさ」や金星探査機「あかつき」みたいに「無人」でもいいではないのか?  ご存じのように、すでに火星には、アメリカやロシア(旧ソ連)などから、数多くの無人探査機が送りこまれている。火星表面を「闊歩」するローバーから送られてきた火星の風景に息を呑んだ人も多いだろう(ローバーは実際には車輪で移動します、念のため)。このまま無人探査の頻度や精度を上げていけばいいのではないか? 不思議なことに、科学者の多くは、無人探査も有人探査も両方とも必要だと主張する。すべてが無人探査でわかるわけではないというのだ。生身の人間(科学者)が現場に出かけていって初めて発見できることがあるのだという。宇宙に限らず、深海を研究している科学者も、無人探査と有人探査を組み合わせるべきだという人が多い。ようするに、科学の「現場感覚」からすると、いずれは火星に人間が降り立つ必要があるのだ。 実は、科学研究だけでなく、火星に人間が降り立たなくてはいけない、究極の理由がある。それは「テラフォーミング」、すなわち火星の地球化計画である。火星は地球のお隣さんで、地球に似た惑星なので、将来、人類が移住する可能性があるのだ。 かつて、アフリカで誕生した人類は、長い年月をかけて、アフリカから世界中に移住した。そして今、われわれの目の前には火星という新たな大地が広がっている。 もちろん、これから何千年も何万年も、人類が地球に住み続ける可能性は高い。だが、地球温暖化に歯止めがかからなかったり、核戦争が勃発したり、バイオテロが起きたりして、地球環境が激変する恐れもある。そうなったら、人類は、新天地を目指して宇宙の旅に出るだろう。そのとき、まず最初の移住先として有力なのが火星ということなのだ。 ただし、すでに書いたように、現在のままの火星では、寒すぎて、ほとんど酸素もなく、水も流れていないから、お世辞にも住み心地が良いとは言えない。そこで、今から有人宇宙探査を始め、火星基地を建設し、何千年もかけて火星の住環境を改造していく必要がある。 無論、実際に火星に手を加えて地球人が住みやすい環境に改善してもかまわないのかどうかについては、国際的な合意が必要だ。また、もしも火星に生命が存在することが判明したら、その生命を絶滅に追い込むような火星環境の改造が許されるのか、という生命倫理上の問題も浮上するだろう。 近い将来、人類は火星に降り立つ。最初は、純粋に科学的な好奇心から火星を研究し、地球との比較から、さまざまな新知見が得られることだろう。もしかしたら、地球の生命の起源だってわかるかもしれない。 必要は発明の母というが、相乗効果として、テクノロジーも進歩する。たとえば、通常のロケット技術ではコストがかかりすぎて、億万長者しか火星に移住できない。みんなが火星に行くためには、蒸気機関車が新幹線へと進化したように、ロケットも劇的な進化を遂げなくてはならない。それは、はたしてスペースプレーン(飛行機と宇宙船を組み合わせたもの)なのか、それとも宇宙エレベーターなのか。 そして、科学研究が一段落し、テクノロジーが飛躍した後には、火星の本格的な開発が始まる。火星のテラフォーミングが順調に進めば、新天地を目指す人々が大挙して地球から火星へと移住する。地球人は(文字通りの)火星人となり、やがては宇宙人になる。 この壮大な「夢」の第一歩が、2030年代半ばの有人火星探査なのだ。日本も、是非、アメリカや他の国々と協力して、計画達成のために邁進してほしい。

  • Thumbnail

    記事

    「日本で火星に一番近い男」が体感 日本人と火星を隔てる壁

    目の前には道がある。僕ら日本人の多くは、火星の地にひとが立つなんてことを、リアルに感じていやしない。科学者だって、火星を「説明できる」だけにすぎない。自分がそこに立っている姿を、現実に起こり得ることとして「イメージできる」そんな日本人がいったいどれだけいるのだろう?見えない海を想像し、宇宙船という渡し舟を持たぬ限り、まさかその先へ行けるとは思ってはいまい。あるいは少しばかり水際で遊んでみる程度だろうか。僕でさえそうなのだ。日本人にとって火星は、月のようには、身近な存在にはなっていない。残念だけど、火星にかぐや姫はいないのだ。行きたい、よりも留まる力 火星飛行士に必要な資質はなんだろうか。まちがいなく、火星行きの発射台に立つまでに必要な資質とは、どんなことがあろうと「行きたい」と思い続けることができる能力だ。いかなる困難を前にしても前進することができるタフなやつ、「サバイバル能力」と言い換えてもいいだろう。僕自身も、これまで幾つかの選考を経験してきたが、「選考する」側が求める基準の一つにこの「サバイバル能力」があるであろうことが、選考試験で問われる項目の向こうにも透けて見えた。ここに落とし穴がある。火星飛行士が火星に降り立ってから必要となる資質は、前進する能力ではなく、そこに「留まる能力」なのだ。科学の外にあるもの 前提として断っておくと、選考する側にも迷いがある。これまで一度として人類は火星にひとを送ったことがない。数週間程度の月探査ミッションや数ヶ月単位の宇宙ステーションミッションと、数年にわたる火星探査ミッションでは、根本的な違いがある。そしてその「違い」とはいったい何なのか、実のところNASAはまだその答えを掴んではいない。 そこでNASAをはじめとする、有人火星探査計画に関わる人々がモデルとしようとしているのが『南極越冬隊』だ。南極は空気も水もあり地球上ではあるが、ストレスのかかる過酷な環境下において文明圏から1年以上も長期隔離されるという点においては、驚くほど火星と似ている。僕は2008-2010年にかけて、第50次日本南極観測地域観測隊の一員として、南極の昭和基地で越冬している。その経験から学んだことは「頑張りすぎない」ことだ。人間、頑張ろうとして100%、120%の力をだそうとしても、残念ながらそれは長続きはしない。どんなにタフな人間であっても、張り詰めた意志の力は徐々に疲弊し、終には簡単にへし折られる。替えのきかない、限られた人数で構成されたエクスペディション(探査)チームでは、それは致命傷となる。だから頑張りすぎず、たとえ60%でもいいから、継続していつもしなやかに、安定したパフォーマンスを発揮できるクルーの方が、長期のエクスペディション下では有効なのだ。南極や火星では、ぶれない「意志の力」よりも、ぶれない「気分の力」が問われる。いいかえれば、それは「そこに留まる力」あるいは「大地に根をおろす力」だ。僕たち日本人は、その能力に長けた民族だと思う。科学の外にあるもの 知識や経験は、僕らにそこに「あるもの」と「ないもの」を気づかせてくれる。人類はそうやって、未知なる火星に「ないもの」ーたとえば「水」や「酸素」ーを発見し、いかに宇宙空間で「水や酸素」を作り出すかに関心を持ってきた。すなわち知識や経験は、僕たち人類がこれまでいったい「何に関心を持ってきたか」その軌跡といってもいい。僕らが真っ先に火星に「水や酸素がない!」と気づくことは、それだけ僕らが生きていく上で「水や酸素」に関心を持ってきたからなのだ。そしていま、僕らは「人類が火星にいない」ことに気づき、火星に人類を送ろうとしている。(村上祐資氏提供) 僕はこれまで極地でいろいろなひとを見てきた。その経験を通じ僕なりに身につけた「ひとの見方」がある。それはそのひとが「何に関心があるか」より「何に無関心であったか」が、そのひとの為人(ひととなり)を形成しているということ。科学とは「強い関心ごと」から生まれる。科学や合理性にだけ頼った探査計画には足りないものがある。火星飛行士の選考においても、主に選考は候補者の「関心ごと」を土俵に上げ、クルーを選んでいく。きっと僕らは火星に立ってみて初めて、これまでに「何に無関心だったか」に気づかされることだろう。 僕たち日本人は、頭ではなく身体で心を動かしてきた民族だ。きっと四季折々の変化に富んだ大地に根を張り、生きてきたからだろう。日本の「細やかさ」は、日本人が可能な限り「無関心ごと」を無くそうと、日々や物事の変化に心を配り、尽くしてきたその軌跡である。そしてそこからは、美しい「調和」が生まれる。 2014年の第39次ISS長期滞在ミッションでは、若田光一さんが日本人として初めて、コマンダー(司令官)をつとめた。若田宇宙飛行士は、これまでの「けん引型」にはなかった、「調和型」の新しいコマンダー像を作ったとして評価されている。203X年には実現すると言われている、有人火星探査をはじめとする、数年にわたる閉鎖環境下における長期滞在ミッションでは、改めて「調和」の大切さが見直されるだろう。そして僕たち日本人「らしさ」がその鍵を握っている。

  • Thumbnail

    記事

    競争激化するロケットビジネス 日本はスペースXに勝てるか?

    中西享(経済ジャーナリスト) 人工衛星などを搭載して打ち上げるロケットビジネスの競争が激化してきている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は将来的に需要増が見込まれる大型静止衛星など打ち上げの受注も視野に入れ、2020年をめどに1号機打ち上げを行う次世代新型ロケット「H3」の開発のゴーサインを出した。だが、ビジネスとして成り立つためにはロケットの価格の引き下げと、諸外国の顧客からの多様な要求に応えられる厳しい対応が求められており、ビジネスに勝ち残るためには航空宇宙技術のさらなるレベルアップが不可欠だ。日本の存在感 JAXAは国際宇宙ステーション(ISS)に物資を届ける無人補給機「こうのとり」を積んだ大型ロケット「HⅡB」を8月19日に打ち上げ、予定の軌道に乗せることに成功し、ISSとのドッキングし無事に補給物資を届けられた。鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた、国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給機「こうのとり」5号機を載せた国産大型ロケット「H2B」5号機。約15分後に予定軌道に投入され、打ち上げは5回連続の成功となった=2015年8月19日午後、種子島宇宙センター(沢野貴信撮影) エンジンなどが共通の「HⅡA」と合わせると、27回連続での成功で成功率は97%となり、米国やロシアのロケット打ち上げの失敗が続く中で、日本の存在感が増しており、ロケット売り込みのチャンスが到来している。このためJAXAはロケットの組み立てなどを担当しているプライムコントラクターの三菱重工業などと協力して、商業衛星を打ち上げるビジネスを狙いたいとしている。 無人補給機は宇宙に滞在している宇宙飛行士に食料や水などを運ぶ役割で、これまで運搬した補給機としては米国のシグナスとドラゴン、ロシアのプログレスなどがあるが、昨年の10月以降打ち上げロケットの失敗が相次いだ。このため、米航空宇宙局(NASA)からISSの飲料水の確保のため、「こうのとり」に水再生装置などを運んでくれるよう緊急の要請があった。 この水再生装置のフィルターがISSに届いたことで、ISSは継続した運用を可能とした。奥村理事長は打ち上げ後の記者会見で「外国の物資輸送が必ずしもうまくいかなかった事例があった直後だっただけに、大変大きなプレッシャーの元で仕事をした。そういった中できちっと打ち上げは成功したということは、我々のロケット打ち上げ技術の信頼性を外国から一段と高く評価してもらえるのではないか。 将来の宇宙については、例えば火星に行くとか議論が世界でされているが、遠方に行けば行くほど、どこかベースになるところから物を運ぶというプロセスというのは必ず入るんだろうと思う、そういう中で、我々の輸送機あるいはそのベースキャンプとのドッキングの仕方、キャプチャの仕方、そういったものがますますもって有人宇宙探査の世界でその存在感が高くなっていくのではないかと考える」と述べた。打ち上げ数を増やす 日本の人工衛星の打ち上げロケットの開発は、1975年に打ち上げられた「N-Ⅰ」から始まったが、この時は国産ロケットの技術レベルは十分ではなく、第2段ロケット以外の部品は米国からの技術を導入して作られた。86年に試験機1号が打ち上げられた「H-Ⅰ」では約半分の部品が国産となり、9機が打ち上げられ、ロケット技術のベースを築き上げた。 94年に打ち上げられた「H-Ⅰ」の後継機となる「H-Ⅱ」では第1段エンジンや固体ロケットブースタ(SRB)を国産化できたことで、ロケットすべてが国産化された。打ち上げ能力も4トンと大幅に向上、大型ロケットを自前で打ち上げられるだけの技術の蓄積ができた。 2001年にはこれを改良した「HⅡA」を打ち上げ、外国の衛星を打ち上げできるまで技術が向上、現在までに28機打ち上げている。09年には「HⅡA」を一回り大きくした「HⅡB」が登場、今回打ち上げた「HⅡB」はロケットの先頭部分(フェアリング)の長さが15メートルもあり、より多くの物資を運ぶことができる構造になっている。価格を半額に しかし、ロケットビジネスの将来を展望すると、新たな大型ロケットを開発しなければ、勝ち残れない時期に来ている。世界の商業衛星打ち上げ需要のうち、静止トランスファー軌道打ち上げ能力4トン以上の需要は60%あるが、「HⅡA」ロケットではその需要を十分カバーできない。 そのような状況を踏まえ、政府は将来的な宇宙ビジネスへの生き残りをかけて、20年に試験機1号を打ち上げるスケージュールを基に次世代新型ロケット「H3」の開発をスタートさせた。新型基幹ロケット機体の検討図(JAXA提供) 1986年に開発が始まった「HⅡ」ロケットの開発に携わった技術者の多くがシニアになりつつあるため、新世代の技術者にロケット技術を継承する意味でも、このタイミングで新型ロケットの開発に着手しなければならない事情もあった。 三菱重工業を主体とした機体メーカー各社はJAXAの意向を受けて、15年度からその「H3」の基本設計に着手、オールジャパンで最新のロケット技術を開発し、日本の航空宇宙技術のレベルアップにも役立てたいとしている。「H3」ロケットの概要は、全長63メートルの大型ロケットで、「H-2B」よりさらに大きいサイズになる。メインロケットの外付けする固体ロケットは機種により4本まで付けることができる。6.5トン以上の静止衛星を軌道に乗せることができるなど、多様な衛星需要に応えられるスペックになっている。 世界の静止衛星などの打ち上げ需要を見ると、年間20機程度が見込まれる。今後はスカパー放送など衛星を使った通信需要が伸びるアジア諸国の打ち上げが増えるとみられ、日本としてはこれらのアジア諸国の需要を積極的に獲りたいところだ。また、地球温暖化に伴う自然災害の増加で、台風や干ばつなどをリアルタイムで地域ごとに細かく観測できる衛星の需要も高まっている。だが、世界的のロケット市場を見まわすと、強豪ぞろいで日本が安定的に獲得できる保証はどこにもない。 JAXAではロケットの生産基盤を維持し、信頼性を確保するため年間で6機以上の大型ロケットを安定的に打ち上げることを目指している。このため、そのうち3機程度は日本の観測衛星など官需で賄い、残りは海外を含む商業市場から受注したいとしている。官需である程度の採算を確保したうえで、海外受注を伸ばしたいという作戦だ。価格を半額に JAXAは「H3」の開発に当たり「顧客の声を実現することを第一に考えたロケットで、信頼性と価格の両面で世界のトップクラスであるとともに、柔軟性などサービス面にも注力、日本のロケット技術を集大成しつつ、得意分野の技術を融合したい」としている。このほか国際的な競争力をつけるための重要なポイントは、打ち上げ費用の削減と、打ち上げまでの期間の短縮による打ち上げ機会の拡大だ。 JAXAでは1機当たりの打ち上げコストを、「H2A」から半分の約50億円に抑制、組み立て作業をスピードアップして打ち上げ間隔を最短で26日程度(これまでは53日)に短縮する。 日本はこれまでに09年に外国から初めてとなる韓国政府の衛星を受注、打ち上げに成功した。その後13年にカナダのテレサット社の商業衛星、15年にはドバイからも受注するなど、打ち上げ成功率の向上と相まって海外からの受注を少しずつ獲得できる力が備わりつつある。三菱重工の営業担当者が需要のありそうな各国を回るなど、獲得に向けた営業活動も強化している。手強い競争相手スペースX手強い競争相手スペースX ロケットビジネスは米国の民間会社スペースX社が06年に新規参入したことで、日本は一層の厳しい競争にさらされそうだ。スペースXは米国のベンチャー投資家イーロン・マスクによって02年に創設された会社で、宇宙輸送を担うロケット「ファルコン9」の開発製造をしている。 15年6月には打ち上げに失敗したが、「ファルコン9」はNASAのISSへ物資補給にも使用され、低価格なことから民間通信衛星市場でシェアを急速に拡大しており、ロシアの「プロトン」の失敗が増えたことから、その分が「ファルコン9」に流れ、既に30機もの打ち上げを受注しているといわれている。JAXAの担当者は「あれほどの低価格でどうしてファルコン9ロケットを作れるのか不思議だ。『H3』の手強い競争相手になる」と話す。 欧州では欧州諸国が資金を出し合って開発したロケット「アリアン5」が多くの民間衛星を打ち上げてきた実績があり、1回の打ち上げで2機の衛星を打ち上げる技術も持っており、民間衛星打ち上げの半分のシェアを持っている。ここも「アリアン5」の後継となる「アリアン6」の開発を決定、20年には試験機を打ち上げる計画だ。 JAXAでは「アリアン6」も日本の「H3」のライバルになるとみている。失敗が増えているロシアのプロトンMは20年以降にアンガラロケットへの移管が決まっており、油断できないライバルだ。 JAXAの「H3」プロジェクトチームの有田誠サブマネージャーは「H3は日本が宇宙にアクセスする手段を将来にわたって確保し、海外ロケットとの競争にも勝っていけるよう、これまでも定評のある信頼性をさらに高めた安くて乗り心地の良いロケットだ。世界中の人にその素晴らしさを知ってもらい、日本のロケットが活躍できる機会を増やしたい」と夢を膨らませる。小型ロケットも改良 次世代大型ロケット「H3」の開発と並行して、JAXAでは小型ロケット「イプシロン」の改良も進める。「イプシロン」は13年に試験機が打ち上げられ、16年度以降に「強化型イプシロン」を打ち上げる計画だ。500キロ~800キロ程度の地球低周回軌道衛星を打ち上げるのに適しており、観測用の衛星として需要があるため、小型衛星でも日本が得意とする高感度カメラやセンサー技術を組み合わせて世界をリードできる技術を磨きたいとしている。小型ロケットのため、「H3」のような大掛かりな打ち上げ装置などが不要なため、低コストでの打ち上げも可能で、発展途上国からの需要も期待できる。なかにし・とおる 1948年岡山県生まれ。1972年共同通信社に入社、経済分野を取材し編集委員などを経て2010年に退職し、現在は経済ジャーナリスト。

  • Thumbnail

    記事

    初の宇宙飛行から25年、節目を迎えた日本の宇宙開発

    原野城治(ニッポンドットコム代表理事)日本人宇宙飛行士、油井亀美也さんが、国際宇宙ステーション(ISS)での約5か月に及ぶ長期滞在を開始。8月には日本の補給機「こうのとり」がISSに向かう。日本の宇宙開発の現状をまとめた。宇宙飛行した日本人は油井さんで10人に  宇宙航空研究会開発機構(JAXA)の宇宙飛行士、油井亀美也(ゆい・きみや)さん(45)が2015年7月23日、国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在のためソユーズ宇宙船に搭乗して出発。宇宙空間に出た日本人は油井さんで10人目となった。モスクワ郊外「星の町」のガガーリン宇宙飛行士訓練センターで、最終試験を前に記者団とやりとりする油井亀美也さん=5月7日(NASA提供) 日本人初の宇宙飛行となった1990年のTBS社員の秋山豊寛さんが、旧ソ連のミール宇宙ステーションに行ってから今年で25年。また、毛利衛さんが宇宙開発事業団(現JAXA)で初の宇宙飛行士候補に選ばれてから30年がたった。(毛利さんが米スペースシャトル「エンデバー」で宇宙へ旅立ったのは1992年) 一方、JAXAは7月8日、2020年度に初打ち上げを予定している新型国産ロケット「H3」の開発計画を発表した。開発費用は約1900億円で、1回の打ち上げコスト、作業日数を大幅に削減し、年6回の打ち上げを予定している。目覚ましい中国の宇宙開発、日本も「宇宙基本計画」を決定 世界の宇宙開発は、相変わらず激しい競争が続いている。特に活発なのは中国で、2020年代に大型宇宙ステーションを建造するとともに、同時期にロシアと協力しての“有人月面探査”の実現を目指している。中国は03年に有人宇宙飛行に成功、13年には無人探査機を月面着陸させた。 一方、日本政府は15年1月9日の宇宙開発戦略本部会合で、2024年度までの宇宙政策の指針を定める新「宇宙基本計画」を決定した。安倍晋三首相は会合で「新たな安全保障政策を十分に踏まえ、長期的かつ具体的な計画とすることができた。歴史的な転換点となる」と強調した。 具体的には、人工衛星を利用した船舶監視や情報収集など宇宙システムを安全保障目的に直接的に利用できる体制を整備する。また、今後10年間で人工衛星など最大45基を打ち上げ、その費用は官民合わせて5兆円規模とする目標を盛り込んだ。 特に宇宙の探査・研究では、今後10年間に大型「H2A」ロケットによる中型衛星3基、小型の「イプシロンロケット」による小型衛星5基の打ち上げを行う計画だ。有人宇宙探査についても「慎重かつ総合的に検討を行う」とした。ISSへの参加延長の結論は2016年にISSへの参加延長の結論は2016年に しかし、日本は独力で宇宙飛行士を宇宙に送り出し、地球へ帰還させる技術を持っていない。このため、日本人が宇宙飛行を行うには外国の宇宙船を利用するほかなく、25年ごろまでは米国、ロシアなどの宇宙船を利用せざるを得ない。 また、油井さんが今回乗り込んだ「国際宇宙ステーション」(ISS)への日本の参加延長問題について、政府は16年度末までに結論を出すとしている。ISSは米国、ロシア、日本、カナダ及び欧州宇宙機関 (ESA) が協力して運用している。軌道上での組立は1999年から開始され、2011年7月に完成した。地上から約400キロ上空を時速約2万7700キロで飛行し、1日で地球を約16周する。当初の運用期間は16年までの予定であったが、米国が24年ごろまでの延長を検討している。 問題は運用費用で、各国・機関が2010年までにISS計画に支出した額は、米国6兆4400億円、日本7100億円、欧州4600億円、カナダ1400億円。さらに、11~15年までの5年間の各国予想支出額は、米国1兆8900億円、日本2000億円、欧州2500億円、カナダ250億円の見込み。宇宙の探査・研究に費用が掛かりすぎるとの批判があり、16年以降どのような形で継続されるかは予断を許さない状況となっている。 さらに問題なのは、ISSへの宇宙飛行士輸送がロシアのソユーズ宇宙船に完全に依存している状態であること。クリミア併合問題などで欧米とロシア間の対立が深刻化する中、ISSの運営をめぐっても双方がけん制するなど、影響が出かねない状況になっている。米ロに次ぐ滞在時間、存在感増す日本人宇宙飛行士 日本人の宇宙飛行の活動は、宇宙環境での様々な実験を行うことを目的に、当初は米国のスペースシャトル、08年以降は国際宇宙ステーションを利用し行っている。ISSでは日本の宇宙実験棟「きぼう」の取り付けや組み立てなどで実績を挙げている。09年からはロシアのソユーズ宇宙船を利用して地球とISSを往還しており、日本人宇宙飛行士の宇宙滞在時間は、古川聡さんがISSから帰還した2011年11月以降、累計で米国、ロシアに次ぐ第3位となっている。 日本人初の有人宇宙飛行をしたのは、1990年12月のTBS社員・秋山豊寛さん。ソユーズで飛行し、宇宙ステーションミールに6日間滞在した。日本人第1号の宇宙飛行士は1992年の毛利衛さんで、米スペースシャトルで飛行し、2000年に2度目の宇宙飛行を行った。 1994年に、日本かつアジアの女性として初の有人宇宙飛行をしたのは向井千秋さんで、98年にも2度目の飛行をした。向井さんの2度目は毛利さんより先で、複数回宇宙を飛行した最初の日本人宇宙飛行士となった。 今回の油井亀美也さんは、 防衛大学校卒の元航空自衛官で戦闘機パイロット。11年にJAXA宇宙飛行士に認定され、今回、国際宇宙ステーションで5か月間滞在する。45歳であることから“中年の星”と期待される油井さんは、日本が打ち上げる無人補給船「こうのとり」のドッキングにおけるロボットアーム操作、千葉工大が開発した超小型の流星観測衛星「S-CUBE(エスキューブ)」などの宇宙空間放出を行う。新型ロケット「H3」:打ち上げコスト半減目指す 一方、JAXAが発表した新型国産ロケット「H3」の開発計画は、現在の国産大型ロケット「H2A」、「H2B」の第2段ロケットを大型化したエンジンを開発し、第1段エンジンとして採用する。エンジン・システムの簡素化により、1回の打ち上げコストを「H2A」の約半分である約50億円にするとともに、打ち上げにかかる作業日数も半減し、年6回の打ち上げを目指すとしている。 このほか、まだ最終決定には至っていないが、日本は3年後をめどに、日本初の無人の月面着陸機「SLIM(スリム)」の打ち上げを計画している。SLIMは、小型ロケット「イプシロン」5号機で、開発・打ち上げ費用は100億~150億円を見込んでいる。世界の注目を浴びた小惑星探査機「はやぶさ」などで蓄積した技術を活かし、無人の月面探査につなげたい考えだ。

  • Thumbnail

    記事

    「火星に水」があるならどんな生物が生存できるのか

    (THE PAGEより転載)佐竹渉(日本科学未来館 科学コミュニケーター) 火星に液体の水がある可能性が高まった――。9月末、アメリカ航空宇宙局(NASA)がこう発表しました。これを裏付ける証拠が見つかったというのです。そうなると、「火星にも生命はいるのか」という期待が沸いてきます。 ここでは、火星にNASAの発表通りに「液体の水」が存在したと仮定して、どんな生物がいるのか、地球にいる生物を参考に探っていきたいと思います。魚やカニみたいな生物がいたらいいなと期待する一方、発見されたとしても微生物のような小さな生物だろうと思われる方が多いのではないでしょうか。どのような生物ならば火星にも生存できそうか、地球の生物を参考に想像してみましょう。地球と火星の「水」の違い ここからは、地球と火星の水の違いが、どのように生物に影響を与えるのか、水の塩分濃度と酸性かアルカリ性か、という水質の2点に注目していきます。 はじめは塩分濃度についてです。塩分濃度が高い環境は多くの生物にとって過酷な環境です。 多くの生物は体の中に水を蓄えて生きているという話をしました。自分の体液よりも塩分濃度が高い塩水で過ごすと、体液中の水が出ていってしまうため、生きていけません。キュウリを塩もみして、キュウリの水分を出すことができますが、これと同じです。私たち哺乳類は、皮膚のバリア機能が優れているので、すぐに水分を失うようなことはありませんが、バリア機能が未発達の生物だったらひとたまりもありません。 続いて、酸性・アルカリ性に注目すると、強酸性・強アルカリ性といった極端な環境下では、生物の膜や殻などが破壊されてしまうためやはり生きていけません。私達の普段の生活でも、酸性やアルカリ性の強い薬品を扱う際は、手袋を着けます。もし、皮膚に薬品がかかってしまったときは急いで水で洗い流す、ということをして皮膚の破壊を防いでいます。 しかし、地球には、過酷な環境で生きている生物がいます。どのような生物がいるか、その一部を紹介したいと思います。過酷な環境でも生きる生物たち過酷な環境でも生きる生物たち「アルテミア」 まずは、塩分濃度が高い環境で生きている生物「アルテミア」です。アルテミアはアメリカのグレートソルト湖をはじめとした、20%以上もの高い塩分濃度でも生きることができます。 また、卵は完全に乾燥しない物質を含んでいるため、乾燥した状態に置かれても10年以上耐えることができます。高い塩分濃度のみならず、乾燥という悪条件の中でも耐えられるため、絶滅することなく今まで生き延びることができたと言われています。 続いて、極端な酸性・アルカリ性に強い生物です。北海道の噴気孔で発見された「ピクロフィルス」という細菌はpH0.7という驚異的な酸性環境下でも生きることができます。人間ならば、皮膚が焼けただれてしまうくらいの酸性度です。 他にも、温泉に生息する「イデユコゴメ」という紅藻の一種はpH0.24まで生育可能であるという報告があります。強固な細胞壁を持つ上、その外側にガラス成分である珪酸を沈着することで溶けずにいられるのです。 一方、アルカリ性に強い生物として挙げられるものは、「アルカリフィルス・トランスバーレンシス」という、南アフリカの地下3200mから採取された細菌です。pHが8.5~12.5という非常に過酷なアルカリ性の環境下で発見されています。火星にいるとしたら……? これまでの火星の調査や研究によって、火星も地球と同じように様々な気候変動を経験しており、昔は火星にも海があったと考えられるようになりました。具体的には、約40億年前~35億年前の火星には大量の水が地表と地下に存在していたと考えられており、その火星の水は10億年程度の時間を経て、アルカリ性の状態から、現在のような酸性の状態へと変化したと推定されています。このようなことをふまえ、火星は過去のある時期に、今よりももっと生命に適した環境があったと考えられているのです。 そして、このような生物に適した環境下でいくつかの生命が生まれたとすれば、それらを完全に絶滅させることは難しいといわれています。地球の過酷な環境でも生きている生物がいることはこれまで紹介してきた通りです。いまこの瞬間にも、火星の液体の水という過酷な環境で生きている生物の存在を期待し、どんな生物が火星にいるかを想像しながら、気長にその発見を待っていただけたらと思います。さたけ・わたる 1983年、北海道生まれ。東京大学大学院理学系研究科で隕石の研究に携わり博士(理学)を取得。博物館と科学館の違いに興味を持ち、2014年より現職。

  • Thumbnail

    記事

    2025年に火星への移住は実現するか?

    諌山裕(グラフィックデザイナー) 火星に移住する……その目標が2025年、つまり10年後という計画。 夢があるとか、野心的とかいうより、無謀な計画といった方がいいかもしれないのだが……2025年に火星移住? そんな計画「マーズワン」の移住候補者に日本人がいると話題に - ねとらぼ 2025年に火星に移住──そんな途方もない計画に本気で挑んでいる「マーズワン」プロジェクトをご存じでしょうか。オランダの民間非営利団体「マーズワン財団」が進めているもので、このほど、その最初の移住候補者100人が絞られました。候補者の中には、メキシコ在住の日本人シェフ・島袋悦子さんの名前も! 島袋さんはブログやTwitterで情報を発信しており、「火星で最初のSUSHIバー開店を目指す」と意気込んでいます。 火星で寿司屋の前に、ネタやシャリはどうする?(^_^) 火星で米や魚介類を育てるのは、生半可なことじゃないと思うぞ。まぁ、ジョークのつもりなのだろうが。 火星への片道切符としての、火星移住計画だが、問題は山積みだね。 いつかは可能になると思うが、あと10年では無理っぽい。テクノロジーとしては現在のレベルでも可能だが、問題は火星までの距離の克服と資金が足りるのかどうか。 人間が行く前に、ロボットが基地の建設をして、人間が生活できるだけの環境を造ることになっているが、それが可能かどうか。複数回の無人機で基地を設置するようだが、同じ場所にピンポイントで着陸できるのかどうか。過去の探査機では、往々にして予定地点から外れてしまっているので、居住スペースのベースとなる着陸ポッドが予定ポイントを大きく外れてしまうと、その時点で計画はポシャる。居住スペースが完成しなければ、人間が行くことはできない。 火星までの距離は大きな壁で、現行のロケットでは数か月はかかることになり、狭い船内で数か月を過ごすのは並大抵のことではない。宇宙線や太陽風による放射線被爆の問題を無視したとしても、けっして楽な旅ではないことは想像できる。 これまで火星に到達した無人探査機は比較的小さなものだが、人間が4人乗れるような大きさの宇宙船だと、火星に到達したとしても着陸するのはかなり難しい。重力の弱い月面着陸とは違い、火星の重力は地球の3分の1ほどあり、しかも空気が薄いため、パラシュートが効果的には使えない。安全に着陸するためには、逆噴射ロケットを噴かして着陸するという、難易度の高い方法になる。 開発中の逆噴射式ロケットは、まだ実験段階であり、安定性や信頼性に欠ける。 火星で居住するための「家」を、ロボットで造ることが可能なのかどうかも怪しい。そのための実験を、火星の環境に似たグリーンランドの荒野で行うなどの準備も必要だが、技術やノウハウの蓄積には時間がかかり、そろそろ始めないと10年後には間に合わない。が、そのようなことをしているというニュースはない。 克服しなければいけない技術的なハードルが多く、それを10年で達成できる見込みはない。 無謀な計画を、見切り発車で実行したとする。 想像できる悪いシナリオは……(1)火星までの航行中に、閉鎖環境に耐えられず、乗員は心身に異常をきたす。(2)火星までの航行中に、放射線被爆許容量を超え、火星に到着したときには瀕死の状態になる。(3)火星には到達したが、周回軌道に入るのに失敗し、漂流することになる。(4)火星周回軌道に入ることには成功するが、火星着陸に失敗する。(5)火星に着陸はしたが、着陸船が損傷してしまう。(6)火星に着陸はしたが、予定ポイントから大きく外れてしまい、ロボットが造った基地に辿り着けない。(7)無事、火星に着陸するが、居住環境が不完全で、生存環境を維持できない。(8)火星での生活を始めるが、酸素・水・食料の生産ができなくなる。(9)後続の移民船が、資金難で頓挫する。……etc この計画が実行されると、当初は注目を集め、資金もある程度集まるだろうが、その熱狂も徐々に薄れていくと思われる。アポロ計画のときの月着陸も、回数を重ねるほどに人々の関心は薄れていった。それと同じことが起こるだろう。 火星への飛行は、地球と火星が接近する場合が最短距離となるので、その周期は約26ヶ月おきになる。物資や人員の補充のためにロケットを飛ばすにしても、2年おきにしか飛ばせない。火星からSOSが来ても、最大2年待つしかない。その間、火星は自力で生きのびる術を探すことになる。 否定的なことばかり書いたが、もし、実現したらとてつもなくすごいことには違いない。 火星への人類到達を、NASAよりも先に民間の計画が実行されるとしたら、それだけでも歴史的な偉業といえるかもしれない。 ただし、リスクは予想できないほど大きい。 現実的な火星移住を目指すのなら、とりあえず、地球→火星間を2週間くらいで行けることを可能にする、プラズマエンジンとか核パルスエンジンとか、そっちの実用化が先だろうね。 化学燃料ロケットで火星に人間を送るのは、筏で太平洋を横断するより無謀なことだと思う。(「諫山裕の仕事部屋」より2015年2月19日分を転載)