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    勢いを増す離脱派に見え隠れする欧州の「トランプ現象」

    ックス教授(政治学)の分析では、離脱を支持する有権者は、白人で保守党を支持する低学歴の中高年層で、「移民問題」に最も関心を示す中間層という。経済停滞でEUと社会の現状に憎悪と不信を深める彼らの怒りを汲み取った点でジョンソン氏ら離脱派はポピュリストであり、米大統領選で中間層の不満に便乗して共和党候補となったトランプ氏と酷似している。 そこには、欧州よりも英国を優先する身勝手で排他的なイングランドナショナリズムが見え隠れする。こうした現象はイスラム移民排斥が強まるフランスや、シリア難民を拒否する東欧諸国、スペインからの分離独立を唱えるカタローニャ地方など昨今の欧州に共通する。名誉ある孤立名誉ある孤立 なぜ、そこまで英国は「主権」回復にこだわるのか。 ドーバー海峡に霧が立ち込めた際、高級紙『タイムズ』が「海峡から濃霧 大陸から孤立」と報じたように、濃霧によって大陸(欧州)から切り離されるイメージが英国人を安らかにする。「欧州と一緒にはなりたくない」民族感情があるのだ。EU懐疑論の背景には、名誉ある孤立を尊び、EUを憎悪する誇り高い反欧州感情がある。 15世紀の100年戦争以来、フランスとは19世紀に3度戦い、20世紀前半は2度ドイツとの大戦を経た。 世界に君臨した大英帝国時代から育まれた「英国と大陸欧州は違う」との自負心から、大英帝国を知る世代を中心に「自国だけでやっていける」との思いが強い。このため、EUの前身、欧州共同体(EC)に加入した1973年から単一通貨ユーロ圏や「シェンゲン協定」に参加せず、「独自の立ち位置」を続けてきた。英国人は、英米法という欧州大陸とは異なるきわめて民主的な法体系をもつ。政治統合を避けてビジネスでの統合に留まり、国境撤廃や共通通貨導入など国家の根本で統合に背を向け、一定の距離を保ってきた。 そもそも「統一ヨーロッパ」を構想したのは英国のチャーチル元首相だった。ところがソ連が崩壊し、旧東欧諸国がこぞって加盟して28カ国体制となったEUの主導権を握っているのはライバルの独仏だ。キングスカレッジ・ロンドンのアナン・メノン教授は、「離脱派の背景には、失われた大英帝国を懐かしむノスタルジーもあり、大国主義の名残が見え隠れする」と指摘。対照的にEUの中の英国として育った若い世代が残留を支持している。EU憎悪と帝国への郷愁という理屈を超えた感情がイングランドナショナリズムと結び付き、「中間層の不満を離脱派が内向きのポピュリズムで取り込んだ」(メノン教授)との見方が有力だ。「アングロスフィア」連合 大英帝国の遺産の一つに「アングロスフィア」連合(英語圏諸国連合)がある。同様の文化や言語、価値観をもつ米、英、カナダ、豪州、ニュージーランドのアングロサクソン諸国5カ国から成る米英同盟で、離脱派は、大陸欧州に代わって「アングロスフィア」連合なるものを再興して英国がリーダーとなり新時代の役割を担うべきと主張する。 現在、アングロサクソン諸国5カ国は、エシュロンと呼ばれる米国の国家安全保障局(NSA)を中心に構築された軍事目的の通信傍受(シギント)システムで協力、情報共有しており、このインテリジェンスでの連携を経済や政治に発展させようという構想だ。 しかし、国家連合で最も影響力のあるメンバーになるはずのオバマ米大統領が4月下旬に英国のEU残留を強く訴えたことで現実味を失っている。英語圏に郷愁を抱く離脱派には、米国が戦略的に貿易で最も優先するのは英国でもEUでもなくアジアであることを理解できない。オバマ大統領が個別貿易協定の締結を求めるなら、英国は「列の後ろに並ぶ」と発言したことで、「英仏海峡の代わりに大西洋」という選択肢はないことをEU離脱派は渋々認めた。しかし、この旧植民地ネットワークである英語圏連合構想は、国民投票で残留が決まっても、英国内でくすぶり続ける可能性がある。首相の信認揺らぐ?「パナマ文書」首相の信認揺らぐ?「パナマ文書」 離脱派を勢いづかせたのが、タックスヘイブン(租税回避地)の法人に各国首脳やその親族らが関わっている実態を暴露した「パナマ文書」だった。亡父が租税回避地に設立・運営した投資ファンドによって利益を得ていたことをキャメロン首相が認め、首相官邸前で退陣要求デモが起こるなど2010年の政権発足以来の最大の危機を迎えた。首相は財政健全化を掲げて国民に厳しい緊縮を強制させ、主要国首脳会議などで国際的な課税逃れ対策の必要性を主張してきただけに、首相自身が富裕層相手のタックスヘイブンで利益を得ていたことへの国民の怒りと不信が高まり、支持率と求心力は一気に低下した。 EU残留を訴える首相が国民の信認を失えば、投票の行方に大きく影響を与える。このためキャメロン首相は、この問題で指導力を発揮せざるをえない立場に置かれ、訪英した安倍晋三首相に、伊勢志摩サミットで課税逃れ対策を議論するよう伝達。5月12日、ロンドンで世界の汚職や腐敗根絶を話し合う「腐敗防止サミット」を開催して、タックスヘイブンの透明性向上策とペーパー会社の規制強化策を表明するなど信頼回復に躍起となった。スコットランド独立スコットランド民族党のスタージョン党首(ロイター=共同) 一方、親EU的なスコットランドでは、連合王国からの離脱を主張してEUへの加盟存続を求めるナショナリズムが台頭している。スコットランド民族党(SNP)党首でもあるスタージョン首相は、英国の国民投票でスコットランドの意に反してEUからの離脱が決まれば、独立の是非を問う住民投票を再度行なう方針を表明。5月のスコットランド議会選挙の公約に盛り込んだため、英国が離脱を選べば、EU残留を求め分離独立運動が再燃することは必至だ。独自通貨をもたないスコットランドは独立した場合、EUの統一通貨ユーロを想定。独立すれば、EUに残留する意向だ。スコットランド分離独立の動きが投票行動に影響を与える可能性がある。スコットランド独立を回避するためEUに残る選択もありうるからだ。 英世論調査会社「ユーガブ」の5月の調査によると、残留支持が42%、離脱は40%で拮抗している。英国はイングランドとスコットランドの2つのナショナリズムにさいなまれ、連合王国はナショナル・アイデンティティの危機に直面している。 与党保守党内で、8人の閣僚を含む保守党議員の約半数、一般党員の約70%が離脱を支持して多くの“反乱”者を出したキャメロン首相の求心力低下は避けられず、僅差で残留を果たしたとしても早期に党首交代を余儀なくされる可能性もある。党内支持を固め、首相を続けてEU加盟国の信頼を回復するには国民投票で「完勝」するしかない。国際社会が注視するなか、茨の路に立たされたキャメロン首相の前途に暗雲が垂れ込めている。おかべ・のぶる 産経新聞ロンドン支局長。1959年生まれ。81年、産経新聞社に入社。モスクワ支局長、社会部次長、社会部編集委員、編集局編集委員を歴任。2015年12月より、ロンドン支局長。著書に、『消えたヤルタ密約緊急電』(新潮選書/第22回山本七平賞)、『「諜報の神様」と呼ばれた男』(PHP研究所)がある。関連記事■ メルケル独首相、強力なリーダーシップの源泉とは?■ ついに21万社のリストが公開、「パナマ文書」で始まる金融覇権戦争■ 地域主義化する世界、1930年代の教訓

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    イギリスの知られざる戦略「国際防衛関与戦略」とは?

    廣瀬泰輔(国会議員秘書)(THE PAGEより転載) 冷戦後、自衛隊は海外でも活動するようになりました。国連平和維持活動(PKO)や海賊対処はその典型です。しかし、日本には、自衛隊の海外活動のあり方を分野横断的に整理した戦略が未だにありません。一方、英国には、外交・経済・軍事など複数の分野を踏まえて作られた、「国際防衛関与戦略」(以下、関与戦略)があります。関与戦略の柱になっているのが、防衛分野の人材や装備品などを外交の観点からも活用する「防衛外交」という考え方です。関与戦略には、途上国の軍隊を支援する「能力構築」や、産業振興の観点も踏まえた「武器輸出」などの取り組みも含まれています。「安全保障」「繁栄」「自由」を国益に掲げる英国は、諸外国に関与することで危機の発生を予防し、自国の安全保障と、経済活動に必要な地域の安定を確保しようとしています。 英国は、防衛分野の人材、ノウハウ、装備品などを外交の観点からも活用しています。これが、「防衛外交」(defence diplomacy)と呼ばれる考え方です。防衛外交は、2013年に英国防省が打ち出した『国際防衛関与戦略』(International Defence Engagement Strategy)の柱として位置付けられています。防衛外交に該当する活動としては、諸外国の軍隊との人的交流、国内外で行う他国軍に対する教育や訓練、情報交換や調整業務を行う連絡官の他国への派遣などがあります。例えば、英海軍は海上自衛隊に連絡官を派遣しています。連絡官を派遣することで、日英の防衛実務者同士が日常的に情報を交換できるようになり、日英関係を補完することになります。 「繁栄」を国益の一つに掲げている英国は、その基礎となる地域の安定に寄与するために、諸外国の軍関係者などに対して英国の国内外で教育や訓練を行っています。その中でも、途上国の軍人の技能や軍隊の能力などを高めようとする取り組みは、「能力構築」(capacity building)と呼ばれています。例えば、英国は、イスラム過激派組織の脅威に対応するために、ナイジェリアへ軍事顧問団を派遣し、ナイジェリア軍に対して訓練を行っています。ちなみに、英国防省の文書でも触れられているように、英国は教育や訓練を通じて国造りに関与することで、相手国における英国の影響力を維持しようとしています。何故なら、英国の『国家安全保障戦略』の中でも言及されているとおり、英国は影響力こそ国力の源泉だと考えているからです。日本と新型ミサイルの共同研究 10万人の雇用を抱える航空宇宙産業が主要産業となっている英国は、戦闘機などの装備品や関連する防衛技術を、経済・外交両面においても活用しています。英国政府は、主力産業の一翼を担う戦闘機などの装備品の輸出を促進するために、世界最大級となる武器の展示会の開催を支援しています。また、相手国との関係を強化しつつ、自国にない技術を取り入れ、より良い装備品を開発するために、防衛技術に関する協力も諸外国と行っています。例えば、英国は日本と新型ミサイルの共同研究を行っています。装備品や防衛技術に関する協力を進めることで、日英間には防衛当局者が集まる定期協議の場などが設置され、従来なかった結びつきが生まれています。こうした新たな繋がりが、日英関係をより深いものにしています。対外政策に軍の有用性を活かす英国 英国は、防衛分野の人材などを外交の観点からも活用する「防衛外交」という考え方を柱とした、分野横断的な『国際防衛関与戦略』をつくり、能力構築や武器輸出を通じて諸外国に関与することで、国益を確保しようとしています。一方、初めて自衛隊を海外での任務に派遣してから四半世紀が経つ日本には、自衛隊の海外活動に関する展望を、複合的観点から示した戦略はありません。確かに、防衛省には、諸外国の防衛当局との交流のあり方について示した「基本方針」はあります。しかし、それは、政府全体ではなく、防衛省としての一体性と整合性を確保しようとしたものに過ぎません。冷戦終結から25年。中国の海洋進出や北朝鮮の核開発など、日本を取り巻く安全保障環境は大きく変わりました。今後は、英国のように、防衛分野の人材などがもつ有用性に着目し、外交や経済など様々な観点から自衛隊の活用方法を考えてみると、日本の外交・安全保障政策にも幅と深みが出るのかも知れません。廣瀬泰輔(ひろせ・たいすけ)。元米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員。日本財団国際フェローシップ(2期)。EU短期招聘訪問プログラム(EUVP、2015年派遣)。防衛大学校卒。松下政経塾卒。予備自衛官。

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    英国の国民投票で加盟国に拡大するEU離脱論

    遠藤乾(北海道大大学院教授) 6月23日、イギリスのEU残留・離脱が国民投票で決せられる。ここでは、その帰結がまだわからない段階で、EUへの影響を占う。前もって結論を煎じ詰めれば、どちらの結果になろうと、EUの危機は続くということになろう。なお、ここでは、イギリス自身へのインパクトや、スコットランドや政党政治を含めた国内政治への影響は射程から除外し、政治的な影響に焦点を絞る。 ‘Poll of polls’という世論調査の平均値を示す数字(6月11日現在)によれば、イギリスの国民は真っ二つに割れている。5月末に発表された移民統計で、去年一年で33万もの移民がイギリスに入国したことが明らかになり、10万人に抑えるとしたキャメロン政権への批判が強まり、「自ら移民を制御せよ」というEU離脱派が勢いづく形となっている。 もちろん、離脱ということになれば、ことは重大である。EU史上初めて、一加盟国、しかも域内で第2位の経済体であり、フランスと並んで最大の外交・軍事的なプレゼンスを誇る国がEUを離れるわけで、ダメージは避けられない。記者会見後に握手するオランド大統領(右)とキャメロン首相=2016年3月(ロイター) EUというのは、一面で、多くの国が集まることで規模を実現し、共同で影響力をかさ上げする権力装置である。比重の大きいイギリスの離脱によってその一角が崩れることで、EUの影響力の縮小は、国際政治・経済双方で目に見えるものとなろう。それは、EU共通外交安全保障政策の効果から、G7、IMF、世銀などの世界経済上のフォーラムにおける存在感にいたるまで、さまざまな場面で感じられるはずである。 ただし、それは、可視的なEUへの影響にとどまらない。多国間協力のもっとも濃密な形態であり、組織化の進んだEUが、イギリスのように古くからデモクラシーの伝統を紡いできた国の国民から「否」を突きつけられたとなれば、世界的に多国間主義が揺らぐことになろう。 EUに話を戻せば、この数年続いてきた危機に次ぐ危機により、すでにそれはダメージをうけていたわけで、イギリスの離脱はそれに輪をかけることになる。 何とか離脱を逃れたとしても、もしそれが僅差でなされるということになれば、離脱時ほどでないにしても、それに近い影響が想定しうる。つまり、半数に近いイギリス国民がEUを否定することで、EUという存在に疑義が付されるということになろう。 イギリスの離脱(あるいは僅差での残留)に対して、仮にイギリス以外のEU諸国、とりわけ独仏をはじめとした原6加盟国が結束して、イギリスなしででも、さらなる統合への意思を明確にし、具体的なプログラムを提示しなおすということになれば、EUへのダメージはいくばくか修復されるかもしれない。国民投票の乱立によって拡散する欧州懐疑主義 しかし、イギリス離脱の際に、それらの中核国が思い描いていることはばらばらである。フランスは、離脱するイギリスに対して懲罰的な態度で臨みたいと考えており、ドイツはその逆であると伝えられる。国民投票直後に開かれる欧州理事会(6月28~29日)で提出予定の「EU外交安全保障グローバル戦略」構想に基づき、独仏が反転攻勢をかけたいと協調できたとしても、オランダの財務相ダイセルブルームが述べたように、統合に「否」を突き付けられた局面で、さらなる統合を「解」として提示するのに、政治的に意味があるとはにわかには信じがたい。ジャンクロード・ユンケル欧州委員会委員長(左)とドナルド・トゥスク欧州理事会議長=2016年5月、三重県志摩市(AP) 反転攻勢どころではなく、大陸のEU諸国においても、欧州懐疑勢力が勢いづく可能性が高い。すでに、フランス国民戦線のマリーン・ル・ペン党首は、フランスにおいても同様の国民投票を実施すべきと主張している。スウェーデン国民の多数派も、イギリス離脱の場合には自身が離脱することを望んでいる。そうした懐疑主義の広がりに、利用しうる豊かな政治的資源を見出す勢力が、あちこちで国民投票を提唱するということにもなりかねない。そうなったとき、EUは立ち往生するだろう。 危機のなかにいるEUは、単一通貨ユーロであれ、人の自由移動をつかさどるシェンゲン体制であれ、それらの機能不全に対して、集権化(つまり統合)の必要に迫られてもいる。銀行同盟の完遂や内務警察協力の深化、あるいは域外国境警備の整備などがそれに当たる。けれども、そうした欧州懐疑主義の拡散や国民投票の乱立によって、必要な措置が取れないままとなる可能性もある。そうなった場合、機能不全のままのユーロやシェンゲンへの疑念がふつふつと生起するに違いない。 仮に大差で残留ということになれば、しばらくはそうした事態を避けられるかもしれない。けれども、イギリス国内の政治的な勢力配置図はがらりと変わり、残留でもUK独立党は勢いづき、保守党は党内の内戦の傷が深いまま政権が弱体化する。そうしたイギリスが加盟したままで、EUが上記の必要な集権化に向かえるのかどうか、疑問である。 こうして、EUはいずれにしても、内外に機能不全と信用不安に陥り、しばらくは停滞が避けられない。それが反転するさまを今から描くことは不可能だが、逆に「EUの崩壊」言説にそう簡単に乗れもしない。欧州懐疑勢力が独仏などの中枢国を本格的にむしばみ、その支援なしには政権や予算が組めないという事態に至らないかぎり、EUが当面生き残るだろう。そのあいだに、EUが信頼を回復し、必要な機能的集権化を図れるかどうか、まだまだ注視が必要である。

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    20年後か30年後に欧州は難民に乗っ取られるとの予測

     ヨーロッパの国のほとんどが、今ではEU(欧州連合)に加盟し、多くの国で通貨も統一されている。国境でのパスポート確認すらされない。しかしながらフランスやベルギーでは移民に紛れたテロリストがテロを起こすなどの事態にも発展した。これは、本当にヨーロッパが望んだ平和な未来をもたらすのか。ジャーナリストの落合信彦氏が、EUに待ち構える未来について解説する。* * * そもそもEU(欧州連合)は、1958年に発足した欧州経済共同体(EEC)と欧州原子力共同体(EURATOM)が前身だ。その後、ヨーロッパ共同体(EC)となりEUに至った。 当初の参加国はフランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクなどだ。これらは比較的裕福な国だったから、それだけであれば今のような問題は起こらなかっただろう。ところが、ギリシャのような貧しくて汚職が蔓延しているような国々が資金融通を目当てに次々に加盟してから、綻びが見え始めた。 EUは「来る者拒まず」で拡大を急いだために、将来どんな悲劇をもたらすかをまったく考えなかった。それが今、自滅の危機を招いているのだ。かつてイギリスの首相を11年務めたマーガレット・サッチャーをインタビューしたとき、彼女はこう語っていた。「ヨーロッパは歴史的に戦争が多い大陸でした。1951年にウィンストン・チャーチルが2度目の首相に就いたとき、彼は『ヨーロッパでの戦争はこれで終わりにしたい』と語っていました。そのためにはヨーロッパが一つになることが重要だったのは事実です。 1955年に彼が老齢で引退した後、3年後にできたのが欧州経済共同体と欧州原子力共同体でした。私は、これはおかしいと思いました。なぜなら、1949年にNATOができており、それによってヨーロッパの平和は保障されます。その上になぜ経済共同体が必要なのか。 さらに、通貨がユーロになってしまいました。これはまったく余計なことです。貧しい国々と裕福な国々が手をつないで繁栄するなど、絶対に無理なのです」 サッチャーは議会でEUへの加盟を迫られたとき、「ノーノーノーノーノー!」と5回もノーを繰り返した。それでも議会はEU加盟を選んだ。ギリシャ北部イドメニの難民キャンプで、テントに食料品を並べて売るシリア難民の家族=4月(共同) 現在のEUは加盟国を自由に行き来できるシェンゲン協定により、テロの危険に晒されている。 ヨーロッパは難民のごく一部を送還しはじめているが、ヨーロッパの未来を考えるならば、移民や難民を受け入れる法律を破棄し、シェンゲン協定も停止することが必要だ。そういうと「難民の人権はどうなるのか」という“人権派”から批判の矢が飛んできそうだが、もはやヨーロッパは自国民の生命と安全を守れないほどの状況に陥ってしまったのだ。 自業自得と言えばそれまでだが、このまま進めば20年後か30年後にはヨーロッパは難民に乗っ取られてしまうだろう。そしてヨーロッパ人の多くは今度はアメリカへの難民となり、世界滅亡に拍車をかけるかもしれない。 先を見通し、「難民受け入れ拒否」「シェンゲン協定停止」といったような英断をできるサッチャーのような政治家は、残念ながら見当たらない。関連記事■ 日本は欧州の一員としてユーロ維持を意思表明せよと大前研一■ 難民の受け入れに非積極的な日本が果たすべき役割■ 【キャラビズム】コンピュータ腕時計に続き健康診断腕時計?■ サッチャー女史 「EUは失敗します」と落合信彦氏に予言した■ 生きにくい現代社会において「哲学」を使うことをすすめる本

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    テロリストも利用した巨大難民の波とEUの満身創痍

    川口マーン惠美(作家)EUの国境はスカスカだ! 普段はサッカーなど見ないのに、めずらしく独仏親善試合の中継を見ていたら、突然、ドカーンとものすごい爆発音がした。アナウンサーが「何でしょうね……」と訝しがったが、まさかそのとき、フランスの戦後史上最大のテロがパリを襲い始めているとは誰も思わなかっただろう。 このとき、スタジアムのVIP席には、フランスのオランド大統領とドイツのシュタインマイアー外相が仲良く並んで座っていた。しかし爆発音の後まもなく、SPからの報せでオランド大統領は退席、裏で非常事態についての対策を協議し、そのあいだドイツの外相は、観客がパニックに陥らぬよう、何食わぬ顔で観戦を続けるように頼まれたという。そして、彼は本当に律儀に最後まで座っていた。 実はこの日の午前中、ドイツのナショナルチームの泊まっていたホテルに爆弾を仕掛けたという電話があり、選手たちは取るものも取りあえず避難を余儀なくされた。数時間後に警戒は解除となったが、予定されていたミーティングはできず、気味の悪さも残った。そのせいだけでもないだろうが、その夜の試合は2対0でドイツの負け。試合後は、パリの治安が不安定だったため、ドイツチームは大事をとって朝までスタジアムに留まった。しかも彼らが標的にならないよう、すでにスタジアムを去ったという偽の情報を流したというから、まさにスパイ大作戦のような緊張の一夜だったに違いない。2015年11月15日、襲撃があったパリ・バタクラン劇場前の道路は閉鎖され、バリケード前には犠牲者を悼む多くの花がたむけられていた (大西正純撮影) このテロの衝撃は甚大だった。エリゼ宮やド・ゴール空港ではなくコンサートホールやカフェが、そして、政府高官ではなく一般の若者たちが犠牲になった。しかも、週末の夜、皆が、ごく普通に楽しんでいるところをやられたのだ。13日の金曜日。すべてが象徴的だ。これからのテロは、用心したくてもできないと、おそらく皆がそう思い知った。とくにドイツ人は、独仏のサッカーの試合が狙われたことを気に病み、次はベルリンかと戦慄した。 翌日オランド首相は決然たる面持ちで、このテロを受けて立つ構えを見せ、国民の勇気と団結を求めた。「フランスは強い。この国は傷ついても、また立ち上がる。誰も我々を消し去ることはできない!」。この感情的な言葉を聞いていると、ひと昔前なら、氏はこの場で即刻、宣戦布告をしただろうと思われた。 ちなみに、オランド首相が決然たる面持ちで奮い立ったのはこれが初めてではない。大統領になって8カ月後に旧植民地マリに出兵したときも、14年9月にイラク領内のIS施設の空爆を宣言したときもそうだった。だが、この丸顔の大統領が勇ましいことを言うと、ろくなことが起こらない。フランスは、ISの敵国リストの二番目にランクがアップした。トップがアメリカで、ドイツは6番目だったと言われている。当たり前のようにあったカラシニコフ 今回の事件の後、世界の多くの首脳が、テロ批判とフランスへの弔意を表明した。しかし、シリアのアサド大統領だけは、この事態を招いた責任の一端はフランスの行動にあると言った。ドイツメディアはそれを的外れであると非難したが、すでに一年前、ドミニク―ドヴィルパン仏元首相は、「(イラク空爆は)世界各地に散らばるテロリストを我が国に呼び込むことになる」と警告していた。ドイツメディアはそれを思い出すべきではなかったか。 いずれにせよフランスは、1月のシャルリ・エブド事件以後、厳戒態勢でテロに備えていると言われていた。なのにパリに、当たり前のようにカラシニコフが何丁も存在したということが、フランス人のみならず、EU市民にショックを与えた。これではEUの国境などスカスカではないか。治安は保たれていないのだ。 しかもテロ事件直後にドイツ警察が、実は11月5日、ドイツ南部のバイエルン州のアウトバーンで、車に巧妙な細工をしてカラシニコフ8丁、拳銃2丁、手榴弾2個を隠し持っていた男性を拘束していたと発表した。拘束されたのはモンテネグロ人で、車のナビの行き先はパリに設定されていた。 車で見つかったカラシニコフが8丁で、今回のテロの犯人が8人。しかし、この銃がなくてもテロは成功した。ということは、パリで計画されているテロは他にもあるのか? パリにはあとどれだけの武器が隠されているのだろう。 報道によれば、武器は、多くがモンテネグロ経由で密輸されるそうだ。旧ユーゴは麻薬や武器を扱う犯罪組織が暗躍していることで有名だが、まさにそのバルカン半島を通って、多くの難民がやってくる。EU市民にとってこれ以上の脅威はない。 11月18日の時点で、今回のテロ事件で死亡した犯人のうち、身元が判明しているのは5人らしいが、詳細は発表されていない。何人かはフランスなどEU国籍を持っていた。大量難民への世論の行方に注目大量難民への世論の行方に注目 ISに合流するのは、EUの国籍を持った者にとっては実に簡単だ。当局は過激派の出入りを監視しているとはいえ、自国民の帰国を拒否するわけにはいかないし、自国民を国外追放にもできない。検挙は可能だが、それには確たる容疑が必要だ。結局、EU国籍の過激派は、自由に出たり入ったりしている。 フランスには、EU国籍のイスラム過激派が3000人もいるという。フランスは、シャルリ・エブド後、法律を変え、疑わしき人物に関しては電話盗聴もメール閲覧もできるようになったが、結局3000人もの人間を、24時間監視することは不可能で、今回の事件では警察の限界が露呈したともいえる。ちなみに、ドイツでEU国籍を持つイスラム過激派は約2000人だそうだ。 なお、テロリストのもう1人はシリアのパスポートを所持しており、10月にトルコ、ギリシャ経由で難民としてEUに入ったことがわかっている。前々から、怒涛のごとく流れ込んでくる難民の中にイスラムのテロリストが紛れ込んでいる可能性は指摘されていたが、その心配が現実になった。ドイツの憲法擁護庁はすぐに、国内にいる難民で過激派と特定された者は1人もいないと発表したが、それで安心する国民がたくさんいるとは思えない。ポーランドは、これ以上難民は受け入れないと発表した。他にもポーランドに続く国は多そうだ。EUは満身創痍である。 17日の夜は、ドイツのハノーヴァーでドイツとオランダのサッカーの親善試合が行われることになっていた。「勝ち負けではなく、我々の団結を示すために試合は行う!」というのがドイツ国民の強い意思で、試合前の国歌斉唱は、フランスへの友情を示すため、ラ・マルセイエーズに切り替えられることになった。メルケル首相、ガブリエル副首相、デ・メジエール内相、マース法相が観戦することも決まり、試合はテロとの対決の象徴になるはずだった。試合開始は8時半。 ところが、7時15分、試合は突然中止された。臨時ニュースが、スタジアムを囲んだものすごい数のパトカーと、重装備の警官を映していた。スピーカーから流れる「観客は一刻も早くスタジアムを離れるように」というアナウンスが、暗い夜空に響いた。テロリストの目的が、人々を不安に陥れることだったとしたなら、それはこの夜、完全に成功したと言えるだろう。「難民は被害者だ」と人道主義をアピールするドイツ政府 ドイツ政府の恐れているのは、このテロを機に、国民感情が難民排斥に傾くことだ。今年だけでドイツには100万人の難民が入ると見込まれている。しかもメルケル首相は頑として、シリア難民の受け入れに制限は設けないと言っている。だから、シリアのパスポートさえ持っていれば、テロリストが難民としてドイツに入ることは難しくない。そして、シリアのパスポートを調達することなど、ISにとっては、やはり簡単なことだろう。 今、EUでは、やみくもな移民・難民受け入れ政策に批判的な、いわゆる「極右」政党がめきめきと力をつけている。イギリスもフランスもそうだし、10月のウィーン市の市議会選挙では、「極右」政党の得票が3割を超え、過去最高となった。世界人道サミットで演説するドイツのメルケル首相=5月23日、トルコ・イスタンブール(アナトリア通信提供・共同) 皮肉にもパリのテロの前日、今まで寛大な難民政策でEUの鑑のように言われてきたスウェーデンが、国境での入国審査を導入し、これまでの難民政策を大きく転換した。スウェーデンは、すでに昨年の総選挙で「極右」が議席を倍増している。左派の現政権も、その力を無視できなくなったということだろう。 一方ドイツでも、移民排斥を声高に叫ぶ暴力グループが伸張し、今年になって、難民宿舎への放火事件が、すでに360件も起きている。ドイツにいる難民は拘束されているわけではなく、審査待ちのあいだ普通に生活している。一般の国民は暴力グループには与しないが、不安は徐々に膨らんでおり、将来、この不安票が「極右」政党に流れることを、メルケル首相はひどく警戒している。 そんなわけで、今、ドイツ政府は「難民は加害者ではない。被害者だ」というわかりやすいレトリックで、自らの人道主義コースをアピールしている。それどころか、難民こそドイツのチャンスという主張だ。 ドイツは労働力が足りない。技術者も熟練工も介護士も不足している。難民がその穴を埋めてくれる。また、少子化のドイツに若い難民がたくさん入ることによって、人口動勢も改善される。働き手が増えれば、社会保障費の収支も長期的には好転するというような有難い話だ。 また短期的に見ても、難民は景気向上の助けになる。まず、あちこちで住宅の建設が始まり、それに関連した需要が発生する。政府発表によれば、来年は難民関係の予算が61億ユーロになる。これが公共投資の代わりになり、難民景気を生む。しかも増税はしない。いくつかのリサーチは、来年、再来年は、難民のおかげで経済成長が見込めると保証している。 パリのテロは間違いなく、ドイツ人の不安をかき立てた。ドイツ政府の宣伝する“正しい難民の見方”を、いったいどれだけの人が信じているだろうか。かわぐち・まーん・えみ 日本大学芸術学部卒業。昭和60年、旧西独のシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ学終了。以後ドイツで作家活動。著書に『なぜ日本人は、一瞬でおつりの計算ができるのか』(PHP研究所)など多数。

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    中国に接近する英国 アジアとは違う対中目線

    宇城健弘(ライター)(THE PAGEより転載)キャメロン英首相(左)に迎えられ、手を振る習近平中国国家主席=2015年10月21日、ロンドン 欧米主要国であり、かつての覇権国家だったイギリスが、中国の提唱する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に参加を決めたことは、日本でも衝撃を持って伝えられました。10月の中国・習近平国家主席の訪英時にも、イギリスは国を挙げた歓待を行い、ロンドン市場で元建て短期国債が発行されました。中国は人民元の国際化を目指しており、このロンドン市場での短期国債発行やSDR採用によって、その実現に近づいています。イギリスと中国が結びつきを強める背景には、どのような思惑があるのでしょうか。【図】「アジアインフラ投資銀行」創設メンバー57か国 国際通貨基金(IMF)は先月末、特別引き出し権(SDR=Special Drawing Rights)の構成通貨として中国の人民元も採用することを決めました。SDRとは、全世界共通の通貨単位を表し、構成通貨はこれまで米ドルとユーロ、英ポンド、日本円の4通貨でした。今回の決定で5通貨目の採用となります。 来年10月以降、5通貨のSDR構成比は、米ドル41.73%、ユーロ30.93%、人民元10.92%、円が8.33%、英ポンドは8.09%となります。人民元がドル、ユーロに次ぐ第3位。これで人民元は通貨取引において、一定の割合で使用できることになりました。 実際に、人民元の通貨シェアは国際銀行間通信協会(SWIFT)によると2015年8月次が2.79%で、はじめて日本円(2.76%)を上回り、第4位となりました。シェア1位は米ドル(44.82%)で、ユーロ(27.20%)、ポンド(8.45%)です。流通量でいえば、国際間取引に使えないというほうが不便という現実のあるわけです。SDRへの採用決定は、流通量という実績に国際的な信用というお墨付けが与えられたというわけです。 また、そのひと月前に行われた10月21日の習近平・中国国家主席の訪英と英国キャメロン首相との会談の際には、ロンドン市場で中国国外初の元建て短期債が発行されました。中国は「人民元の国際化」を目標としていましたが、SDRへの採用にとって、名実ともに達成されたといえるでしょう。英国が中国と結びつきを強めるワケ英国が中国と結びつきを強めるワケ 人民元国際化の第一歩は、このロンドン市場での元建て短期国債の発行といえます。英国といえば、米国と歴史的な関係が深いかつての覇権国家です。 その米国が、AIIBへの参加見送りの要請をしたのに英国は参加。習近平国家主席の訪米では歓迎ムードもそこそこだったのに、訪英では王室と会食するなど、国を挙げた歓迎をしています。 英国の中国戦略が米国とは真逆ベクトルにあるとさえ感じられるほどです。その理由には、アジアや日米では、中国の経済プレゼンスの高まりを警戒する視点が強いですが、「欧州は中国との間で地政学的な問題を抱えていない、中国の経済力を冷静に見れば、それに乗らないという選択肢はない」(ニッセイ基礎研究所 伊藤さゆり氏)からという見方があります。 米国経済のかげり。国際会議のパワーがG7からG20へと移行されたことで、米英のつながりが希薄化したこと。シリア制裁の足並みの乱れなどオバマ政権以降、英米関係のぎくしゃくは続いています。「英国にとってもはや米国との関係は特別という状況ではなくなっています。また英連邦のつながりも希薄化しているし、EU内でもユーロを導入していない、17年末までに実施される国民投票の結果次第でEU離脱の可能性もあるなど、英国の外交関係が変わりつつあります。その状況では、国際関係をテコに自国の利益を拡大させるためには、経済大国となった中国との関係を深めるのが必要不可欠だったのだと思います」 しかしその期待したい中国の成長も日本では、失速するなどネガティブな報道が多く見られています。言い換えれば、落ち目の中国とこれから結びつきを強める意味はどこにあるのかということにもなるでしょう。英伝統のパブでビールを楽しむ習近平国家主席(左)とキャメロン英首相。急速な中国傾斜には疑問の声が出ている=2015年10月22日、イギリスアジアからでは「気づかない」視点「中国がいろいろな問題を抱えているのは英国も承知しています。しかし、急失速するという認識ではないでしょう。これまでのような高成長はなくても、それでも欧州よりも高い成長力が持続すると見ていると思います。そしてなにより、日本は中国を“世界の工場”、つまり安価かつ豊富な労働力を利用した輸出拠点としてみてきたので、その勢いの衰えを感じていますが、英国やドイツにとっては、輸出拠点としての意味合いは薄く、むしろ膨大な人口を背景に、輸出先――消費地としての将来性に期待をしているのです」 昨年3月に習近平国家主席が訪独し、今年の6月には李克強首相がフランスを訪れていますが、欧州各国は中国の成長市場を取り入れたいし、中国は欧州とのつながりを強化して、人民元の国際化、米国との連携にくさびに打ち込むなどの思惑があるといえるでしょう。「人権問題や民主化という欧州が従来重視してきた価値観をいったん棚上げするような形で、経済大国となり、構造転換を目指す中国の成長を取り込もうという欧州の戦略が、狙い通りの効果を挙げることができるのか、今の段階では判断できません。とはいえ、欧州が、中国の経済力と今後の成長性を高く評価し、積極的に関係を深めようとしている現実を認識しておくことは大切だと思います」 欧州と同じように中国の利益“だけ”に上手に乗ることは、アジア圏ではなかなか難しいでしょう。しかし、アジアとは違う視点で中国を見ている欧州という地域があるという理解があれば、世界情勢を複眼的に見ることができるではないでしょうか。

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    欧州における反EUと右傾化は何を意味するのか

    小野昌弘(英国在住免疫学者、医師) 欧州各国で既存の主要政党への支持が軒並み崩れてきているという(英紙ザ・ガーディアン記事)。これはいったい何を意味しているのか。EU不信 極右が伸びている国が多いのは確かだが、右傾化といったキーワードだけでこの変化を捉えるのは難しい。起こっている事柄は間違いなく現在の政治エリートへの不信であるが、これは必ずしもいまに今に始まったことではない。理解の鍵になるのは、これと同時進行しているのが欧州連合=EU=に対する不信(Eurosceptic)さらには反EU(anti-EU)であろう。EUという制度で恩恵を被っている人は一体誰なのか、そしてそこから疎外された人々は誰なのか。 EUが好景気を享受していたときには、社会の隅々までEUの恩恵はゆきわたっていたのだろう、こうした不信は表には見えなかった。しかし、いま欧州各国で反EUを掲げる政党が支持を伸ばし、英国もまたEU離脱をめぐる国民投票に突き進んでいる。EUの恩恵 ロンドンという大都市・大学というアカデミアの世界にいると反EUの気分はわかりにくいのだが、どうやらこれらは、EUの制度のおかげで国境を移動して仕事をしている人々・そうしたEUからの移民を雇用して経済活動を行っている人々が集まっている世界であるからのようだ。(私自身も含めてのことであるが)このような環境にいる人々は、英国がEUから出ることを選択してしまうと、実際的に経済活動に支障が出て雇用問題でも困難に直面する。 またこれらの世界ではEU各国同士の国際結婚も進み、すでに家族レベルでEU各国間の絆は深まっている。これはひとつには1987年にはじまったエラスムス計画(Erasmus)により、大学生が在学中に容易にEU圏内で留学できるようになり、これが結婚に結びついた例が相当に多いことのおかげであるようである。少なくともEUの存在はこうした人々に個人レベルで恩恵となっている。亀裂 ところがそうした世界の外に出てみると様相は違う。統計的にも英国の地方都市・田舎にいけば、反EUの気分は広がっている。彼らはEUにより直接の恩恵を被っていない層・社会集団であると考えるのが妥当であろう。ここでは反EUキャンペーンのもと、EUは雇用を奪う移民を自由通過させてしまう欠陥制度と認識されるようになっている。これらの地域は反EU・右翼ポピュリストの英国独立党(UKIP)支持とも重なり、またこれらはロンドン以外はもともと労働党の支持基盤とも重なる。5月22日、ウィーンで、支持者にあいさつするオーストリア自由党の大統領候補ホーファー氏(中央)(ゲッティ=共同) この傾向は、フランスにおいて反EUを掲げる国民戦線(Front National)がかつての社会党支持基盤から支持を奪って党勢を拡大したことに重なって見える(注ー堀茂樹氏によると、「国民戦線」の党勢拡大が顕著なのは、かつての社会党ではなく共産党の支持基盤においてである」とのこと)。 EUの恩恵から疎外された人々がそこにいるとすると、その人たちの不満・不信はどこに向かっているのだろうか。根底にある中産階級への不信堕落 結論からいうと、EUの恩恵から疎外された多くの人々の根底には、中産階級(特に上部中産階級=upper middle class)への不信があるのではないか。中産階級の彼らは大企業や銀行の要職についていたり、弁護士・医師といった専門職をもち、あるいは終身雇用の安定した生活を享受して、国境を越えて活動しEUの恩恵を最も享受している。 経済的活動だけではない。右翼・左翼をとわず政治の運営をになっている政治家の多くがこうした一部の社会階層出身である。そしてリーマンショック後の経済悪化によっても、舵取りを失敗した当の本人たちが政治経済の場から交代することなく同じように安定した立場を独占している。 一方でこうした経済的余裕のある人々が、その社会的立場にみあう社会への責務(ノブレス・オブリージュ)があることをすっかり忘れ、自分たちの財産を増やすための投資や子供達への教育といった自分の個人的な経済問題で頭がいっぱいなようだ。この堕落が人々の不信につながっているのではないか。そして主流派の政治家とEU関係者がこういう人ばかりになり、広い庶民の意見を代弁する政党がなくなっているということが、既存の主要政党への支持が崩れていることの背景にあろう。だから、これは政党の問題というより、社会的な問題である。表現型 こうした社会の変化の結果としての表現型は国によって様々である。ハンガリーは極右が圧倒的に勢力を伸ばした典型的な国であり、ロンドン在住のピアニスト、アンドラシュ・シフは匿名の極右の人々にネットで脅迫されているため自国ハンガリーに帰国することを避けているという。 オーストリアでは最近の大統領選では極右候補ノルベルト・ホーファが勝利に近づいたもののごく0.6%の僅差で敗退した。 翻って見て日本において同様の問題は存在するだろうか。 欧州でEUに恩恵を被っているような中産階級は、日本でいえば安定した正規雇用にあり、しばしば海外出張を行うような人々がほぼ相当するであろうか。こうした人々の生きざまと、いまの日本社会を広く覆う病巣とのあいだになんらかの関係はないだろうか。自分自身のことは意外に理解しにくいものであるが、同時代の欧州の困難から学べることがあるかもしれない。(「Yahoo!ニュース個人」より2016年5月29日分を転載)

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    欧州はもはや共同の価値観を見失った

    長谷川良(ウィーン在住ジャーナリスト) 欧州連合(EU)は創設以来、紆余曲折を経ながら拡大してきた。創設当初6カ国時代から現在28カ国に拡大した。加盟を希望する候補国もブリュッセルのEU本部前で列をなしている。 EU拡大のハイライトは旧ソ連。東欧諸国が冷戦終了後、次々と加盟したことだろう。東西に分裂していた冷戦が幕を閉じることで、EUは欧州大陸で唯一の政治・経済機構となった。その潮流は欧州全土に留まらず、中東のトルコまでEU加盟国の称号を得ようと躍起となってきた。ここまでは良かったが、昨年からその潮流は逆流する兆しが見えだしたのだ。 EUに昨年、北アフリカ・中東諸国から100万人を超える難民・移民が殺到してきた。彼らは個人レベルだが、EU国民となることを目指して来た人々だ。問題は難民・移民の数が余りにも多く、収容問題でEU加盟国内で対立が表面化してきたことだ。 ブリュッセルで昨年開催された内相理事会で16万人の難民の分担が決定され、各加盟国が一定の難民を引き受けることになった時、チェコやスロバキアは早速、抗議し、スロバキアは、「わが国はイスラム教徒の難民は引き受けられない」とはっきりと拒否。ポーランドもそれに続いた。 ブリュッセルのEU本部が最も警戒している政治家、ハンガリーのオルバン首相は、「EUは経済機構に留まるべきだ。それ以外は主権国家の政府と議会が決定すべきだ」と提案している。それだけではない。「EUは共同の価値観の集団でもなく、政治機構でもない」と言い出したのだ。ハンガリーのオルバン首相 共同の価値観まで削除し、単なる経済機構となれば、EUの歴史が逆流したことを意味する、EU創設当初はあくまで経済的共同体だった、それが冷戦時代を経て、民主主義、自由、平等と法の支配を擁護する、といった共同価値観が強調されてきた。すなわち、金だけの集団ではなく、明確な価値観、世界観に裏付けられた機構と自負してきた。 財政危機、難民危機などを体験したEU加盟国には現在、ブリュッセル主導のEU運営に強い不満の声が出てきた。表面上はキャメロン英首相のEU機構改革と同列だが、ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアなど東欧加盟国からは「EU支配から脱皮して主権国家へ回帰」現象が見えだしたのだ。 右派政党「法と正義」(PiS)が主導するポーランドのシドゥウォ新政権は憲法裁判所改革、メディア法の改正など実行し、政権への権力集中を目指している。オルバン首相はポーランドの右派政権と連携を図り、チェコ、スロバキアなどを加えた東EUの創設を夢みてきている。経済機構としてのEUの利点は享受するが、それ以外は主権国家の権限で政策を決定していくという一見、利己的な改革案だ。 冷戦時代の東西分裂から大統合を目指してきたEUが現在、再び「分裂」に直面しているわけだ。このプロセスは一見、欧州が最初の振出点に戻ってきたように考えるかもしれないが、最初の「西欧と東欧」の時代は民主主義陣営と共産主義陣営といった明確な価値観を掲げていた。現在表面化した「西欧と東欧」の分裂はその共同価値観すら排除された純粋な経済共同体の発足を目指しているのだ。 共同の価値観を失った統合はいつでも分裂する危険性を内包している。その分裂のプロセスで欧州が再び戦場に戻る危険性も完全には排除できなくなる。ひょっとしたら、EUの東西分裂はロシアのプーチン大統領のユーラシア連合構想に現実味を与えることになるかもしれない。(公式ブログ「ウィーン発 『コンフィデンシャル』」より2016年1月14日分を転載)

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    移民国家へ一直線 強引すぎる外国人労働者の受け入れ拡大

    河合雅司(産経新聞論説委員)なし崩しに決まった介護の外国人大量受け入れ 北陸新幹線の開業によって金沢―東京駅間が2時間半弱で結ばれ、日本がまた一段と小さくなった。だが、同じ「縮む日本」でも歓迎されない話題もある。人口減少だ。 総務省によれば、2013年10月1日時点の生産年齢人口(15~64歳)は前年より100万人以上も減り、7901万人となった。32年ぶりの8千万人割れである。 これは始まりに過ぎない。すでにさまざまな産業で後継者不足の悲鳴が上がっているが、今後、勤労世代は毎年数十万人ペースで急坂を転げ落ちるように減っていく。 勤労世代の不足をどうカバーするのか。安倍政権が出した結論は、女性の活躍推進と外国人労働者による穴埋めだった。 とはいえ、男性中心の企業文化を改めなければならない女性の活躍推進は一朝一夕で実現できない。成長戦略の果実を急ぐ安倍政権は、まず外国人に活路を見出した。 しかし、その進め方は強引でさえある。外国人技能実習制度の趣旨をねじ曲げ、「単純労働者」の受け入れを実質的に解禁しようとしているのだ。 その象徴ともいうべき政策の大転換が、これまで原則認めてこなかった介護分野での単純労働者の大量受け入れを外国人技能実習制度に基づいて可能にするものだ。2月4日、厚生労働省の「外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会」の中間報告書に盛り込まれた。早ければ2016年度から受け入れが始まる。 技能実習制度は、日本で習得した技能を母国の経済発展のために役立ててもらうのが本来の目的だ。単純労働者に適用するのは明らかに趣旨を逸脱している。 政府は後ろめたさから「決して人手不足を補うものではない」と繰り返すが、こうした建前を信じる者はいない。それは厚労省の検討会の議論をみれば一目瞭然だ。 介護の仕事は、極めてデリケートな対人サービスである。認知症の人や会話が不自由な高齢者のわずかな表情の違い、短い言葉の中から、伝えようとしていることや体調の変化をつかみ取り、医師などに適切につなげていくことが求められる。一つの判断ミスが事故につながり、相手の死に直結しかねないだけに、専門用語はもとより方言などへの対応も含めた高いコミュニケーション能力が不可欠なのである。 その特殊性がゆえ、経済連携協定(EPA)に基づいて例外的に認めているインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国についても、母国で看護師資格などを身につけているような“エリート”を対象としている。しかも、滞在期間は原則4年。この間に日本語をマスターし、日本の看護師、介護福祉士の国家試験に合格しなければ帰国しなければならない厳しい条件付きである。 3カ国の“エリート”でさえ苦労しているのに、介護や看護を本格的に勉強したわけではない実習生であれば、介護技能を学ぶためにもなおさら日本語力が必要だろう。 ところが、厚労省の検討会メンバーには日本語教育の専門家が1人もいなかった。これでは、実習生にどれぐらいの日本語力を求めるのが適切なのか、知見に基づいた議論ができるはずもない。 結局、国際交流基金などが実施する「日本語能力試験」(5段階)のうち、介護業界が求めていた上から3番目の「N3」を受け入れ条件として課すことになったのだが、これですら推進派の横やりを受けて骨抜きになった。 1月23日の会議で示された中間報告の原案では「日本語能力試験『N3』程度を基本」となっていたが、わずか3日後の1月26日の会議の最終案では「入国時は『基本的な日本語を理解することができる』水準である『N4』程度を要件として課す。実習2年目(2号)については『N3』程度を2号移行時の要件とする」との文言が加筆されたのだ。介護を外国人に依存する危険性 外国人受け入れに積極的な与党議員の1人は「人手不足を補うために技能実習制度を活用するのに、日本語要件を厳しくしたのでは人が集まらない」と明かした。この種の有識者会議が「結論ありき」で、官僚のシナリオ通りに進むことは、霞が関の“お約束”ではあるが、あまりにあからさまだ。厚労省がどこまで語学力を重視していたのか怪しい。平成26年6月、ベトナムから来日し、研修の開講式で記念写真に納まる看護師や介護福祉士を目指す候補者=千葉市 「日本語能力試験」の公式ホームページによれば、「N3」は日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる、「N4」は基本的な日本語を理解できる――とある。「N4」は小学校低学年レベルともされる。 「大量受け入れ優先」という政策判断だ。 介護現場では「エリートが来るEPA指導に相当苦労しているのに、実習生となれば自分たちの仕事に支障が出る」との懸念も渦巻く。日本語を学ぶ体制も整えず、入り口だけを緩めるのだから混乱が起こることは想像に難くない。 介護の人材難は仕事の厳しさに比べ賃金水準が低いために起こっている。全産業の平均よりも10万円も安いのだ。まずすべきは処遇の改善だろう。資格を持ちながら他業種に移らざるを得なかった人々を呼び戻すのが先である。にもかかわらず、低賃金でも働く外国人が大量流入したのでは、日本人職員の賃金が低く据え置かれることになる。いずれ介護職に就く日本人がいなくなることだろう。 高齢化で介護の需要は伸びる。「安い労働力」に飛びついて大量に受け入れれば、底なしに受け入れ続けざるを得なくなるということだ。それでは外国人抜きに介護現場が回らなくなる危険性と隣り合わせとなる。各国で高齢化が進んでおり、介護人材は国際的な争奪戦が起こるとの予測もある。外国人に依存しすぎたのでは、彼らが来なくなった途端に日本の介護は大混乱に陥る。 介護は、医療と同じく人間の尊厳に関わる仕事だ。「国家の基礎」をなす極めて重要な仕事の1つであるともいえよう。過度に外国人に頼ってよいはずがない。技能実習の受け入れ枠も拡大技能実習の受け入れ枠も拡大 安倍政権下での「単純労働」受け入れ拡大は、介護が初めてではない。その第1弾は、昨年4月に決めた建設業に従事する技能実習生の滞在期間の緩和である。東日本大震災からの復興などに加え、東京五輪の開催準備で建設需要が急増するとして、滞在を実質2年延長できるよう五輪までの臨時措置として認めた。 安倍政権は第2弾ともいえる介護分野の追加と同時に、第3弾として技能実習制度そのものの改革を図ることにした。法令を守っている優良な企業・団体については受け入れ枠を2倍程度に広げ、実習生の滞在期間を5年に延長する緩和策を講じようというのだ。 昨年6月の新たな成長戦略では「国内外で人材需要が高まることが見込まれる分野・職種のうち、制度趣旨を踏まえ、移転すべき技能として適当なものについて、随時対象職種に追加していく」としており、今後、さらに増やす構えである。 だが、技能実習制度をめぐっては海外から「強制労働」との批判もある。安倍政権が本音と建前を使い分けて、強引ともいえる受け入れ拡大路線を突き進めば、予期せぬリスクを背負うことにもなりかねない。 安倍政権の「単純労働者」の受け入れ拡大の動きは、技能実習制度だけではない。国家戦略特区において外国人家事支援人材(メイド)を認めようとしているのだ。「女性の活躍推進のため」という名目で、地方自治体などが一定管理し、家事支援サービス会社に雇用されることを条件とするという。 これは、昨年秋の臨時国会に提出した国家戦略特区法改正案(衆院解散に伴い廃案)にも盛り込まれており、安倍政権は同法案をさらにバージョンアップして今国会での成立を目指している。 家事支援こそ「単純労働」の典型である。「女性の活躍推進のため」ということは、夫婦が働きに出た後の留守家庭に入って掃除や買い物などをすることを想定しているということだ。小さい子供の世話なども請け負うというのだろうか。メイド文化が根付いていない日本で、どれぐらいの人が留守中に見知らぬ人が家庭に入るのを許容するのだろうか。これを経済成長の手段とする政府の説明には無理がある。外国人医師も解禁へ 安倍政権は「単純労働」だけでなく、「高度人材」の受け入れ推進にも邁進している。 1月29日の産業競争力会議では、6月の成長戦略の再改定に向けた検討方針が示されたが、そこでも「外国人材活躍促進のための環境整備」が柱の1つとして打ち出された。 これと符合するように、看過できない動きが出て来た。国家戦略特区において、日本の医師免許を持たない外国人医師に、日本人患者の診療を解禁しようというのだ。1月27日に行われた国家戦略特区諮問会議の配布資料に規制改革の追加項目として記載された。 今回は医師の確保が困難な地方で認めようという提案だ。「あまり影響がない」とでも思っているのか、反対派の動きは鈍い。だが、医師のレベルは国によって大きく異なる。無制限に受け入れたのでは患者の安全が守れるのか疑問だ。 特区といっても壁のようなもので囲われるわけではない。患者が自由に医療機関を選べる日本においては、誰もがいつ外国人医師に受診することになるか知れない。例えば、旅先で急病となり、救急車で運び込まれた病院に、日本の医療水準に遠く及ばない外国人医師しかいなかったということだって想定される。そうでなくとも、高齢化が進むにつれて医師不足地域が広がることが予想される。そのすべてで外国人医師を認めたら、どこが特区なのか分からなくなる。 外国人医師については、2013年12月に成立した国家戦略特区法で、外国人患者一般に対して診療できる道を開いた。今回はこれを一歩踏み出そうというものだ。安倍政権はさらなる緩和を模索しており、今回の小さな一歩が大きな踏みだしに変わることは十分に考えられる。 政府は、外国人医師受け入れについて「外資誘致が拡大できる」とも説明しているが、これも詭弁と言わざるを得ない。 日本に来てまでビジネスをしようという人たちは、元気だからこそ異国に出向くことができる。出身国の医師がいようが、いまいが受診することは稀だろう。 一方、海外の名医がわざわざ母国でのポストをなげうってまで来日するとは思えない。万が一、日本で働く外国人ビジネスマンが急病になったり、大けがをしたりしたとしても、母国から来た二流どころの医師よりも、レベルの高い日本の病院を選ぶだろう。 世界展開するような大企業は、エリートビジネスマンを派遣するに際して、家族を含め医療面のバックアップに万全を期すだろう。大都市のオフィス街には、こうした需要を満たすべく、英語などで対応する医療機関も増えている。気がつけば移民国家!?気がつけば移民国家!? それにしても、なぜ安倍政権は外国人受け入れ拡大に前のめりなのだろうか。「勤労世代の不足を許せば、経済成長の足を引っ張る」との危機意識は理解するが、あまりに性急な印象だ。 背後にちらつくのは、外国人受け入れ推進派の影である。安倍政権がアベノミクスの第3の矢である成長戦略に苦しんでいることをチャンスとして、一気呵成に「外国人を入れるしか労働力不足には対応できず、日本の成長もない」との流れを作ろうということなのだろう。 推進派は実に巧妙である。昨年、「毎年20万人移民を受け入れ」構想をぶち上げた。これに国民世論が反発すると、今度はそれを逆手に取って、いずれ母国に帰る外国人労働者は移民とは異なるから大丈夫とのイメージを作り上げ、受け入れ要件をなし崩しに緩和し始めたのである。 「移民政策と誤解されないように配慮」との表現が1月29日の産業競争力会議の資料にも見つかった。機会があるたびにそう強調して回っているのだ。このまま「単純労働」の受け入れを進めたならば、気が付いたときには外国人が日本中にあふれ、移民受け入れに近い社会が実現しているかも知れない。目先の利益に流されてはならぬ われわれは、単純労働を事実上解禁する国策の大転換が十分な国民的議論もないまま進められていることにもっと危機感を持つ必要がある。 外国人を大量に受け入れることに伴うデメリットは少なくない。例えば、治安の悪化への懸念だ。外国人技能実習制度を隠れ蓑として来日し、失踪して不法滞在となる者は後を絶たない。犯罪組織の仲間に加わって不法行為に手を染めたりする例もあるという。 国際的なテロが頻発、日本人が標的として名指しされる時代となった。極度に恐れることは禁物とはいえ、外国人が増えることへの対策は考えておかねばならない。 外国人を大量に受け入れるとなれば、それを前提に生産ラインもできていくし、消費予測も行われる。忘れてならないのは、労働力として受け入れる業界だけでなく、彼らの消費をあてこむ業界も増えるという点だ。 もし、当該国と日本との関係が悪化し、大量に流入していた外国人が突如として来なくなったらどうなるのか。ただでさえ、日本人の勤労世代が減るのに、外国人まで減ったのでは社会は激変に見舞われることになるだろう。日本が外国人依存を高めるのを待って、日本を困らせるために突如として人の送り出しを止める国が出てくるかもしれない。 安い労働力がたくさん入ってくれば、日本人の賃金も下がり、雇用機会も奪うことにもなろう。結婚できない若者は増加し、新たな少子化の要因ともなり得るのだ。それで、さらに人口が減るという悪循環に陥り、だから、「もっと外国人を入れろ」という話になったのでは本末転倒もいいところだ。 日本人の女性や高齢者を活用すべきだ。外国人を受け入れるよりもはるかにコストもトラブルも少なくて済む。日本人自身の手で少子高齢化と人口減少をどう乗り切るかを考えるのが順序というものだ。安易な数合わせに走れば、必ずどこかで辻褄が合わなくなる。目前の利益だけを考え、子孫から後ろ指をさされるようなことがあってはならない。 日本社会の縮小は避けられない。すべてをこれまで通りにやろうとすれば無理が生じる。日本より人口が少なくとも発展している国はある。限られた人口で経済成長を達成し、豊かな社会を実現させることは可能なはずだ。小さくともキラリと光り輝く国を目指す。今を生きる日本人の覚悟が問われている。関連記事■ 毎年20万人の移民 やがて日本人が少数派に■ 呉善花氏「移民が日本文化を理解し社会に溶け込むのは難しい」■ 「移民ではなく、外国人労働者」 という詭弁は幾重にも罪深い

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    移民受け入れ「日本は身勝手な国」

    化に対応するためには、外国人材の本格的な受け入れが避けられないという意見もある。大和総研経済調査部で移民問題に詳しい児玉卓アジアリサーチ・ヘッドは、移民受け入れをめぐる議論を日本も早急に始めるよう提言している。評判悪い技能実習 ──政府は、技能実習生制度の見直しを行っているが、同制度は批判も多い。そもそも実習生の待遇を良くすれば、日本人の求職者が増え、外国人労働者を受け入れる必要はないのでは 「確かに待遇が改善され、求職者が増えれば、外国人労働者を受け入れる必要はなくなるだろう。ただ、現実問題として建設に関わる力仕事を(国内の)高齢者ができるのか。また女性の場合、保育所などの整備も必要だ。20年の五輪に間に合わせるには、外国人に頼るのはやむを得ない」 ──20年になって需要がなくなれば、帰ってもらうことになる。それでいいのだろうか 「技能実習制度はそもそも開発途上国への技術移転が名目だから、実習期間が終われば自国に帰ってもらうことになっている。しかし、それでは日本は身勝手な国と言われる。今はいいが、将来、外国の人材が本当に必要になったときに来てくれないだろう」 ──日本では、移民受け入れに対する警戒感が強い。移民を受け入れると言えば、選挙に落ちるという政治家もいる。外国人労働者の受け入れをどう考えるか東京・代々木の国立競技場の解体現場。2020年の東京五輪を前に建設現場などでの人手不足は深刻化、外国人の技能実習生への期待が高まる 「日本は少子高齢化で介護問題も深刻化している。また、誰が年金を負担していくのかという課題もある。外国人労働者が納税者として貢献するのかは不明だが、外国人労働者を受け入れることで解決できることは多い。外国人労働者は本当に要らないということを検証しないまま、受け入れないのは問題だ」 ──外国人労働者を受け入れるためには、どういう方法が考えられるのか 「移民法を作るのは難しい。現実には、技能実習生として来る建設労働者や介護分野の労働者に、まともな労働力としてのステータスを与えることから始める。日本が必要とするセクターで受け入れることで日本国民の理解を得ていく。そのうえで、家族や子弟の受け入れ、日本語教育を行うなど個別の受け入れ策につなげていくべきだろう」有期雇用ビザの検討 ──具体的な方法は 「当初は雇用期間を定めて受け入れるのがよい。技能実習制度より待遇は良いし、移民という言葉を使うこともない。労働者としてのステータスを与え、合法的にビザを与える。高度人材の受け入れについて、日本はハードルが低い」 ──まさにシンガポールが行っている方法だ。単純労働者と高度人材とを分けてビザを与えて管理している。外国人労働者の受け入れの上限人数はどのくらいと考えるか 「上限は決めるのは難しい。ただ、現在、日本には(在日韓国・朝鮮人など)特別定住者を含めると200万人の在留外国人がいる。これは全人口の約2%にあたる。日本が成長を維持していくには、30年の時点で5%程度にする必要がある」 ──ドイツなどでは移民排斥運動が起きた。移民が増えると、治安の悪化などを懸念する声もある 「今後も介護分野や建設現場を中心に外国人の労働者や技能実習生は増える。さらに留学生も政府は受け入れを増やす方針で、増え続けるだろう。しかし、このまま何もしなければ、ドイツのように事実上の移民がなし崩し的に増え、問題が噴出してから移民政策をとらざるを得なくなる」 ──政府は、高度人材の受け入れにも力を入れるとしている 「ほとんどの先進国で高度人材の獲得競争が繰り広げられる。日本は海外の高度人材にとって魅力的な国とは思われていない。さらにアジア以外の人材を呼ぶのも難しい。日本はアジア諸国との良好な関係の構築と維持を含め、外国の人材獲得のための競争力を強化していくことが重要だ」

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    アベノミクス第三の矢でいよいよ始まる移民受け入れ政策

     先週、在シンガポール日本大使館主催でアベノミクスに関するセミナーが開催されました。  内閣官房参与本田悦郎氏をキーノートスピーカー、シンガポール政府投資会社のチーフエコノミストと、シンガポール最大の不動産会社キャピタランド子会社の日本担当責任者をスピーカーに、コーディネーターをシンガポール国際問題研究所トップに依頼するという豪華編成。シンガポールを拠点にして5年になりますが、日本大使館主催でこれだけの規模のセミナーを見たのたのは初めてでした。 アベノミクスの推進者、本田悦郎官房参与講演の意図 講演ではアベノミクス政策により一部で復調の兆しをみせる日本経済の説明に始まり、インフレターゲットを達成することこそが最重要課題と本田参与が力説。ただし、折悪く日銀の黒田総裁が2015年度のインフレターゲットを2%から1%に軌道修正した直後のタイミングで「2020年までに設定したプライマリーバランス黒字化目標を達成できなくてもいたしかたない」といういささか歯切れの悪い場面もありました。  ただ全般的には、本田氏=安倍政権のアベノミクス推進に対するなみなみならぬ熱意だけはじゅうぶん伝わってくる講演で、シンガポール財界人に向けてアベノミクスの大枠を説明し、サポーターを増やす、という目的(私の推察ですが)はある程度果たされたのではないかと思います。 具体的にみえてきた高度外国人材の受け入れ 講演の中では特に言及されませんでしたが、配布された資料で最も気になったのがアベノミクス第三の矢の重点政策の労働資源として、女性と並び外国人が挙げられていたことです。労働力としての女性活用推進は第二次安倍政権発足当初から声高に叫ばれていましたし、昨年3月の自民党日本経済再生本部の「労働力強化に関する中間とりまとめ」で外国人技能実習生制度の拡充についてかなり詳しく述べられていましたが、高度人材に関する言及はごくわずかでした。それが今回の資料では、女性の労働戦力化と並ぶ柱として外国人が挙げられていたのです。  その中で、すでに段階的に実施されている政策は2つあります。 ・高度人材の要件に関する基準の緩和(給与水準や業績などの基準の見直し)・永住権取得に必要な居住期間を5年から3年に短縮  いっぽう、今後検討される政策としては、 ・国家戦略特区(福岡市、養父市、関西圏、新潟市、東京圏)における外国人の起業奨励・同区内における外国人家政婦の受け入れ(高度外国人材家庭向け)・外国人材の積極活用推進のための新基準の促進 が挙げられていました。この中ではさらに製造業セクターへの労働者受け入れも検討されており、2015年3月までに詳細な内容が決定されると書かれています。ここまで踏み込んで外国人受け入れを推進する目的はいったい何なのでしょうか? 少子高齢化では日本の先を行くシンガポール シンガポール政府関係のスピーカー、レスリー・テオ氏は日本経済の最大の問題点として「人口構造の変化」と「規制撤廃が進んでいないこと」を挙げました。後者は「農業、医療分野」と明言されていましたので明らかにTPPを指していると思われ、「人口構造の変化」は日本流にいえば少子高齢化社会への急激な変化です。  しかし、「人口構造の変化」が日本よりもっと深刻なのは実はシンガポールのほうです。一時期産児制限による人口抑制政策をとっていたこともあり、合計特殊出生率は日本の1.43を大幅に下回る1.2ぎりぎりラインで世界最低レベル。1975年に2.1を切ってからほぼ右肩下がりで推移しこれ以上伸びる気配がありません。ただ、シンガポール政府がこの状況に手をこまねいていたかというと、決してそうではありません。  保育園(すべて民営)の数は驚くほど多く自由に選べ、待機児童という言葉さえありません。また、外国人家政婦も低賃金でいつでも雇うことができますので、女性が働きながら子育てする理想的な環境が揃っています。財政サポートも充実しており、ベビー・ボーナスという出産給付金が1人あたり約50万円支給されるほか(3人目からはさらに高くなります)保育料の補助もあります。さらに以前は政府主催の無料お見合いパーティーなどを盛んに催していました。しかしこれだけのことをしたにもかかわらず、出生率は下がり、独身男女の数は増えるいっぽうでした。シンガポールでは少子高齢化に歯止めをかけることはできなかったのです。 移民政策に舵を切ったシンガポール そこでシンガポール政府がとった対策は、移民の受け入れでした。  外国人労働者を高度人材と単純労働者に分け、ビザの種類や滞在期間、規則などを厳密に区分して受け入れました。例えばIT技術者など絶対数が不足している高度人材の場合は、就業ビザや永住権が比較的簡単にとれやすいのですが、逆に低コスト労働者である外国人家政婦の場合は永住権申請はできず、また、妊娠がわかった時点でビザは取り消しとなり、国外退去処分を受けます。  永住者は帰化への段階的措置とみなされており、申請すればシンガポール国民になることも可能です(ただし審査基準は非公開で必ずなれるわけではありません)。帰化する人がもっとも多いのはシンガポール人とあまり変わらない華人系マレーシア人ですが、最近では中国からの帰化シンガポール人も増えています。  このように、シンガポールではすでに自力で人口を増やすのではなく、国にとって有用だと考える人材を輸入する、つまり移民を受け入れる方向に大きく舵を切りました。その結果、外国人人口はこの十年で約2倍に伸び、1人あたりGDPも日本を大きく超える経済成長を果たしました(ただし国民及び永住者は全住民の約70%程度にとどまっていて、その他は依然として外国人労働者です)。シンガポール政府は今後数十年間で人口を現在の倍の1,000万人まで増やす計画ももっているようですが、その実現策が移民を軸としたものであることは疑いようがありません。 移民受け入れと法人税減税はセット 建国当初から多民族国家だったシンガポールと違い、これまで海外からの人材受け入れを厳しく規制してきた日本にはバブル期などに人手不足に陥り、「移民受け入れ」議論が起きてもことごとく潰されてきました。しかし、特区をわざわざ作ってまで高度外国人材を受け入れるという政策の裏には、シンガポールと同じく日本の少子化・人口減少にはもはやドラスティックな改善が望めないという諦念が見え隠れしているような気がします。  そしてもう一つ、安倍政権が財務省の強硬な反対を押し切ってまで推進しようとしている法人税減税もこの高度外国人材受け入れと無関係ではないと私は考えています。というのも、コストのかかる教育を受け、高度なスキルをもつ人材は世界的にどこの国でも歓迎されており、シンガポールをはじめ多くの国が獲得競争をしています。彼らに移民してもらい働いてもらうことにより、国全体の経済成長を促すことができるからです。しかし日本では「(世界共通語である)英語が通じにくい」というハンデがあるうえ、企業法人税が非常に高いというデメリットも抱えています。これでは外国人にとって移民先や投資先として魅力がなく、他国との獲得競争に負けてしまいます。  私はこれまで中国とシンガポールで会社を設立してきましたが、海外からの投資や人材を呼び寄せたい国が真っ先に行うのは税の優遇です。中国に会社を設立したときには外資企業に対し「三免五減」で3年間は会社の利益に対して免税、5年間は減税されるという特典がありました。シンガポールでは3年の免税期間がありました。  これに類する外資企業への優遇措置を日本政府が直ちに行えば、国内企業と差が開きすぎて不満が噴出することは必至です。また、数年間免税や減税をしてもらっても、その後、世界的にみても非常に高い水準の法人税が課されることがわかっていれば進出する企業も二の足を踏んでしまいます。そこでまず段階的に法人税減税をしつつ、外国企業への優遇措置も検討していくというのが次の一手ではないかと考えるのです。外資企業が増えれば当然、そこで働く外国人も増えていきます。このようにステップを踏みながら外国からの高度人材を受け入れたい、というのが政府の本音なのではないかと推測するのです。まず永住権の取得期間を短縮したのはその表れではないでしょうか。 アベノミクス後に来るのは真の日本の国際化か? 本田氏が講演中何度も口にされた数々の政策実現期限である2020年は、東京オリンピック開催年でもあります。公共工事やインバウンド受け入れ整備など現内閣が推進する施策は多いと思いますが、その背景には東京オリンピック以降をにらんで日本という国の将来をどう形作っていくかのビジョンが反映されているはずです。アベノミクスはまさにその礎の政策となる運命にあります。  その意味で、外国人労働者(高度人材であれ単純労働者であれ)の受け入れはこれからの少子高齢化社会をどう乗り切っていくかの一つの解答になると同時に、本当の意味でこれからの日本が国際化していくのかどうかの重要政策の一つになるのではないでしょうか。

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    地域のあり方と移民問題 日本の将来をスイスから学ぶ

    、なかなか議論は進まない。駐スイス大使を務めた國松孝次・元警察庁長官が、地域コミュニティのあり方や、移民問題について、駐日スイス大使のウルス・ブーヘル氏と対談した。國松:私は、1999年から3年間、駐スイス大使としてスイスに滞在しました。在任中、特に、私が強い関心を持ったのは、スイスの地方の町々でした。スイスにはゲマインデ(またはコミューン)と呼ばれる、日本では市町村にあたる基礎自治体があり、自分たちのことは自分たちで決める仕組みを守っています。そうした地域社会の強さと活力に感銘を受けました。そこでは、自治・自守・自決の精神にあふれています。住民相互の扶助意識、連帯感も強い。國松孝次氏とウルス・ブーヘル氏ブーヘル:まさに国の組織の最下層レベルであるゲマインデが強い自主決定権を持つことこそ、スイスという国のカギであり、特長です。さらに私はスイスという国が成功を遂げてきた理由のひとつだと考えています。過去数百年にわたってこの仕組みは機能してきました。 700年以上前にスイス連邦が建国された頃に遡ると、山間部のアルプスのコミュニティでは住民が力を合わせることでしか問題解決はできませんでした。厳しい自然の脅威にさらされる中で、生活物資を確保し、生きていくのは、ひとりの力では不可能です。彼らが築いた共同体では、住民は等しく権利を持ちました。これによって住民は守られ、助けを得られましたが、同時に義務も負いました。 権力者がいてコミュニティが作られたのではなく、個々人が集まってコミュニティを作り、権利と義務を負ったのです。ですから、自治体が自分に何をしてくれるのか、ではなく、自分たちが自分たちのために何をするかを考える。こうした市民感覚が育ってきたことが非常に重要だと思います。 自分たちの必要なことなどまったく分かっていない隣の村の他人に決められるのではなく、地域の人たちが自分たちのことは自分で決める。これが非常に重要で、私たちは今でもシステムとしてこれを維持しているわけです。スイスという国家はトップダウンで作られたのではなく、ボトムアップで出来上がっているのです。スイスも高齢化に直面している國松:直接民主制ですね。ブーヘル:はい。スイス型連邦主義と言われるものです。すべての問題は、その問題に関係するできる限り最末端のレベルの意思で解決すべきだという考えです。今、スイスには2300余の地方自治体がありますが、彼らが税率をどう決めるかは完全に自由です。税金のあり方と歳出を両方とも決めることができるのです。これは住民会議で徹底的に議論されます。 例えば、新しい校舎が欲しいという場合、本当に意味がある投資かどうかを検討し、よし、それでは建設費を賄うために税金を上げようという話になる。逆に、何か不要だというものがあれば、税金を下げることもできるのです。これは非常に重要なことです。もちろん、理想通りに行っていないケースも探せばありますが、私がスイスで住んでいたコミュニティなどは完璧に機能していました。國松:なるほど。日本の地域社会と対照的な状況のようです。日本も、かつては、相互扶助と連帯感の強い地域社会の伝統を持っていました。ところが、最近、その希薄化、あるいは崩壊が危惧されています。日本は、本格的な少子・高齢化の時代を迎えますが、それへの対応の中核を担うのは地域社会であり、その意味で、相互扶助の精神にあふれ、連帯感の強い地域社会の再生は、喫緊の最重要課題だと思います。安倍晋三内閣も「地域創生」を打ち出しています。そこで、ブーヘル大使に伺いたいのですが、スイスの地域社会の強さの秘訣は、どこにあるとお考えですか。地域社会の再生を目指す日本に、スイスの視点から、何か示唆いただけることはあるでしょうか。ウルス・ブーヘル駐日スイス大使ブーヘル:日本の仕組みについて語るのは難しいですが、私たちの経験をお話しすることがお役に立つのではないでしょうか。高齢化に直面しているのはスイスも同じです。そうした中で、スイスの多くの自治体には、退職後10年間くらいの働いていない人たちや、子どもの手が離れた母親などが、高齢者の面倒をみるようなボランティアに従事する制度があります。週に一度か二度、お年寄りの自宅を訪ね、可能な限り一緒にいてあげるのです。これは個人とコミュニティの強力なコミットメントがなければできないことです。 日本のように地域を超えて転勤したり、引っ越したりすることが多い社会では、そんなコミュニティを維持することは難しいと考えるかもしれません。しかし、最初のステップとして、例えば私の地元では、新しい家族が地域にやってきた時に、コミュニティが大歓迎します。引っ越した初めの段階から、ここがわが町であるという意識を持ってもらい、権利を実感してもらうのです。そうすることで、コミュニティに対する義務や責任も芽生えます。特に地方では、初めから、町の会合の場所や、道路の飾りつけといった様々な奉仕活動の日取りなどを教え、すべての活動に誘います。引っ越したその日からコミュニティの一員として生活してもらうわけです。移民をスイス社会の中に「統合」する政策移民をスイス社会の中に「統合」する政策國松孝次・元駐スイス大使國松:そうした新規の移住者に対して優しいというスイスのコミュニティの特長は、外国人居住者が増えていく中で、維持していくのがやや難しくなっているのではないでしょうか。EU(欧州連合)やEFTA(欧州自由貿易連合)などの諸国からの外国人居住者が中心の時代は問題はなかったかもしれませんが、それ以外の第三国からの移住者が増えると、人々の間の文化的な摩擦が増えるなどして、スイス社会も変革を迫られるのではありませんか。ブーヘル:移民問題は今のスイスの政治問題で最大かつデリケートなテーマです。スイスは明らかにグローバル化の勝者として世界有数の豊かな国になりました。国の門戸を開いて世界中から優秀な頭脳を引き寄せたのです。しかし、一方で負の側面として、移民のコミュニティとの同化や協調といった問題が生じました。60年代から70年代にかけてのイタリアからの移民はすでに第二世代、第三世代になっています。彼らはすでに、もとのスイス人よりもスイス人らしく振る舞っています。自然に溶け込むことでコミュニティの一員になってきました。 しかし、一方で、スイスにやってくるすべての外国人がこうした姿勢を持っているわけではないのも事実です。3~5年働いて国に帰っていく外国人はコミュニティの一員になろうとは考えず、4つある公用語の1つすら学ぼうとはしません。問題なのは、おそらく彼らは納税者としてスイスの富に貢献しているにもかかわらず、市民としての役割を担わず、コミュニティにも関与しないことです。國松:これまでスイスが採ってきた移民政策で、私が感心したのは、スイスの連邦政府がとても明確な移民政策を持っていることです。単純な同化政策でもなく、多文化併立政策でもなく、彼等をスイスの社会の中に「統合」するという政策を採ってきた。スイスの人たちを外国の人たちと調和させる政策だったとも言えます。ブーヘル:これまでの移民政策がうまくいったという点は私個人としても同意見です。スイスは小国で天然資源もありません。ではどうやって今のような、世界有数の豊かな国になったのか。スイスの成功のカギは19世紀から国を開いてきたことです。少なくとも海外からスイスに働きにやってきたい人たちにできる限りベストな仕組みを与えてきました。クリエイティブで働く意欲にあふれ、付加価値を増す人々を積極的に受け入れてきました。 世界最大の食品会社であるネスレや、その他のグローバル企業の多くが19世紀の移民によって創業されました。第二次世界大戦後も移民の受け入れによって革新的な人々をスイスに招き入れ続けた結果、多くの富が生まれました。 もちろん、彼らはおカネを生み出すだけでなく、社会の中で責任ある役割を担いました。税金を納め、スイスの基準に従い、参政権を得るのは難しいにもかかわらず、コミュニティの一員となり、社会の役割を担ったのです。有能な外国人をスイスに引き付けるために、給与水準や公共インフラ、医療、学校教育などの様々な条件を魅力的に保ってきたということです。スイスの経験に日本は大いに学ぶべき國松:スイスでは2014年2月に国民投票が行われ、移民の流入を制限することが支持されました。今後、連邦政府は移民政策に関して難しいかじ取りを迫られそうです。ブーヘル:従来、EU諸国に対する労働市場の開放について国民投票で支持を得てきましたが、2月の投票で方向が変わりました。まだこの投票結果は政策に反映されていません。 もちろん、様々な選択肢があります。ただ、基本的な問いに国民は答えを出さなければなりません。どのくらいの成長を欲するのかです。成長は富に直結します。より良い年金制度を維持しようとすれば、成長は不可欠です。成長がなければ将来世代がより豊かになるという道は閉ざされます。移民を制限する代わりに年金額が3分の2になっても良い、インフラも乏しくなっても構わないというのならばそれでもいいでしょう。 一方で、目に見える形で移民の弊害が出ているという指摘もあります。移民増によって社会福祉予算が大きく増え、犯罪が増加しているという指摘です。私は、具体的な現状分析をきちんとした上で、冷静に議論するべきだと考えています。國松:スイスが現実的な解決策を見出すことを期待しています。日本は少子・高齢化が進み、これまで同様の生活水準を維持しようと思えば、より多くの外国人労働者を受け入れざるを得ない状況にあります。しかし、一方で多くの外国人の流入が難しい社会問題を引き起こすことになるでしょう。外国人受け入れの必要性と、それによって起きる問題をどう調和させていくのか。スイスはたくさんの経験を積んでいます。日本が学べることは多いと思います。ブーヘル:そうですね。スイスが過去に採った政策ですと70年代から80年代の経験は教訓になるでしょう。当時、安い労働力としてより遠い国から違う文化的背景を持ったあまり高い教育を受けていない人たちを移民として受け入れました。しかし、彼らはスイスにうまくとけこむことはできませんでした。 ただ安い労働力を求めて、たとえ数万人といえども、低スキルの移民を入れるべきではないでしょう。グローバル経済の中で、われわれは最高の生産性を誇る国になるべきです。海外からの安価な労働力の流入は、生産性の一段の向上を図るために改革されるべきシステムを、永続化させることになりかねません。國松:貴重なご意見です。ブーヘル:今では移民は間違いなく必要です。スイスでは大まかに言って医療分野で働く人の50%が非スイス人です。ヘルパーから看護師、医者、大学教授まで、スイスの医療システムには必要不可欠です。これは問題でしょうか? 病気で倒れた時、助けてくれたドイツ人医師やイタリア人看護師に感謝しこそすれ、脅威に感じるはずはありません。社会システムに貢献している人は誰であれ尊重されるのです。日本は「内向き志向」日本は「内向き志向」國松:スイスが受け入れている外国人の数は約186万人。スイス全居住者の約23%は外国人という勘定になります。これは、ヨーロッパ各国のなかでも、群を抜いて多い。これに対して日本国内に居住する外国人の数は約206万人。全人口比では1.6%に過ぎません。 逆に、海外に居住するスイス人は60万人~70万人と聞きました。これは、スイスの人口の約10%にあたります。これだけの人々が、海外に進出して活躍しています。こうした海外のスイス人をつなぐOSAスイス海外協会という強力な組織があって、彼らをサポートしています。これに対し、海外に居住する日本人の数は、およそ120万人で、全人口の1%にも満たない。日本はよくその「内向き志向」を指摘されますが、スイスに比べれば、海外進出率は、10分の1ということになります。ブーヘル:スイスのスタンダードからみれば、日本の移民問題は、まだないに等しい。これからの問題です。スイスのよい経験と悪い経験の両方を参考にされたらよい。それから、海外進出率のことですが、スイスでは海外に行く経験を持つのはごく普通のことです。若い人たちが、旅行だけでなく、1~2年海外で勉強するというのは一般的で、そうした海外経験をプラスに評価します。ところが、日本で話を聞いていると、学生の時に1年海外に行ったりすると、1年を無駄にしたように受け取られるといいます。40歳になるまで外国を見たことがない人が、本当に外国の人たちを尊重できるはずはありません。 私の息子は14歳の時に6週間インドに行き、16歳では6週間ブラジルで過ごしました。そして高校を卒業すると南アフリカで3カ月生活した。今、彼は米国で勉強しています。私は彼に海外に行くことによって、同時にスイスをより理解してもらいたいと思っています。今は、日本政府も海外留学を後押しする制度を始めたようですが、これは非常に重要なことだと思います。 スイスも日本も伝統を重んじる国民ですが、古い考えに凝り固まるのではなく、発想を変えていかなければなりません。國松孝次(Takaji Kunimatsu) 1937年生まれ。東京大学卒業。61年に警視庁入庁後、大分・兵庫各県警本部長、警察庁刑事局長などを経て94年警察庁長官就任。99~2002年まで駐スイス特命全権大使を務める。ウルス・ブーヘル氏(Urs BUCHER) 1962年生まれ。ベルン大学卒業(ベルン州弁護士資格取得)。90年外務省入省。在ブリュッセル・スイス政府EU代表部審議官、外務省・経済省統合室室長などを経て2010年8月から現職。磯山友幸(いそやま・ともゆき) 経済ジャーナリスト。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、東京証券部、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務める。11年からフリーに。熊本学園大学招聘教授。近著に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)。関連記事■ 呉善花氏「移民が日本文化を理解し社会に溶け込むのは難しい」■ 「移民ではなく、外国人労働者」 という詭弁は幾重にも罪深い■ ちょっと待て移民論議 定住すれば労働者も「移民」

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    「日本は移民に占拠される」20年前に仏政治家が警告していた

    家のノーベル文学賞 国家ぐるみでの買収疑惑が浮上■ 移民受け入れに肯定的な米国でも1150万人の不法移民問題あり■ 大前氏 年間40万人の移民受け入れねば国力維持困難と指摘■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ【4/4】「移民の勧め」■ 三橋貴明氏 移民増え日本人5000万人切ったら「日本」でない

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    仏・移民排斥党創設者 23年前から日本の移民受け入れに反対

    人気連載・業田良家4コマ【4/4】「移民の勧め」■ 移民受け入れに肯定的な米国でも1150万人の不法移民問題あり■ 大前氏 年間40万人の移民受け入れねば国力維持困難と指摘■ 「日本は移民に占拠される」20年前に仏政治家が警告していた■ 移民受け入れで自国民賃金低下は誤り 海外移転工場の回帰も■ 大前氏 年間40万人の移民受け入れねば国力維持困難と指摘■ 外国人労働者と労働者不足に悩む国同士はWin-Winの関係

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    移民受け入れ 欧州に学ぶな

    宮家邦彦(外交政策研究所代表) ついに恐れていた事件がパリで起きた。フランス生まれのイスラム過激主義者が風刺週刊紙本社に乱入、自動小銃を乱射して記者や警官十数人を殺害したのだ。この許し難い蛮行には驚愕(きょうがく)と憤りを禁じ得ない。犠牲者のご冥福を心からお祈りする。 欧米メディアは連日、言論・表現の自由の重大な侵害として事件を大々的に取り上げた。各国首脳も口をそろえて「卑劣なテロを断固非難」した。当然だろう、異存などあるはずがない。だが、あまのじゃくの筆者はどこか引っ掛かる。ここは誤解を恐れず疑問点を挙げてみよう。 まずは問題とされた風刺画の質だ。漫画家たちに「表現の自由」があることは疑いない。風刺画の内容を変えろとか、掲載するななどというつもりもない。驚くのは風刺画家たちの無知と傲慢さだ。 特に、預言者ムハンマドに関する一部の風刺画は第三者の筆者が見ても悪趣味としか思えない。漫画家の自由はあくまで「表現」の自由であり、風刺に関するフランスの一般キリスト教徒と同程度の許容度をイスラム教徒に求める権利までは含まない。もちろん、北朝鮮を扱った米国のB級映画や今回の趣味の悪い風刺画にも「表現」の自由はある。だが、欧米マスコミの金科玉条的報道にはやはり違和感を覚えるのだ。 キリスト教徒だけではない。次に違和感を覚えるのは、今回の事件についてイスラム諸国の指導者やオピニオンリーダーが多くを語らないことだ。なぜテレビカメラの前でこの野蛮なテロ行為を明確に非難しないのか。風刺画の内容がひどいからテロリストに同情するのか。そうではないだろう。されば、なぜ沈黙を守るのか。この点も実に気になる。 第3に、この問題は表現の自由にとどまらない。今回の悲劇は、イスラム勢力の過激化と極右勢力の台頭という欧州社会の変質・両極化、さらには欧州各国内の非キリスト教的なものに対する差別意識の根強さを象徴している。欧米の識者は事件の背景として欧州の経済的不振・貧困の拡大などを挙げているが、理由はそれだけではないだろう。 確かに貧困は人々から他者に配慮する余裕を奪い宗教的過激主義を助長する。しかし、移民2世、3世たちが今も貧困から抜け出せない真の理由は欧州各国で台頭する排外的民族主義の差別ではないのか。非キリスト教徒移民を受け入れながら、結果的に国内の格差・不平等を解消できない最大の原因は、実は欧州諸国自身が作り上げたシステム自身の破綻にあるのではないのか。 最後に、最も気になることがある。こうした欧州諸国の現状は日本の将来を暗示しているのではないのか、という漠然とした不安だ。長い伝統の中で健全な市民社会が生まれたこと。経済の成熟により出生率が低下し、人口が減少したこと。それを補うため移民導入を断行し、短期的には一定の成果を挙げたこと等々、日本と欧州には共通点が少なくない。しかし、例えば英仏は旧植民地から多くのイスラム教徒移民を受け入れ、現在国内のムスリム人口は全体の5~8%に達するという。イギリスが移民の宗教・文化を尊重するのに対し、フランスは世俗主義の尊重を移民に求めるなどスタイルの違いはあるが、結局は両国とも新移民の同化に失敗し、イスラム過激主義という爆弾を抱えてしまったのだ。 それでは日本はどうか。人口の減少は現実の大問題であり、減少率はフランスをはるかに上回る。労働力不足を埋めるため日本は大規模な移民受け入れに踏み切るのか。踏み切った場合、欧州諸国が直面した問題を克服できるのか。欧州とは違いイスラム教徒の移民は少ないだろうが、新移民の同化が困難な点は日本も同じだ。欧州に学ぶのか、学ばないのか。日本はいま決断を迫られている。 みやけ・くにひこ 昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。第1次安倍内閣では首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。関連記事■ 「移民ではなく、外国人労働者」 という詭弁は幾重にも罪深い■  「イスラム国」は空爆国が育てた■ 古谷経衡が説く 移民政策の本当の怖さ

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    テロ事件で浮かび上がるフランスの「国のかたち」

    山口昌子(前産経新聞パリ支局長) 司馬遼太郎氏は、「この国のかたち」という表現で日本国のありかたについて鋭い洞察を行ったが、フランスの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」テロ事件と事件に対するフランス人の反応はまさしく、フランスという国の《かたち》を浮かび上がらせたといえる。つまり、フランスがフランス革命に端を発する《共和国》であり、その理念が《自由、平等、博愛》と《非宗教》であることを強く印象付けたからだ。死守した理念 シャルリー・エブドがイスラム過激派をきわどい風刺や挑発の対象にし始めたのは約10年前だ。犠牲者の中の警官2人のうちの1人がステファン・シャルボニエ編集長の護衛官だったように、編集長は絶えず「死の脅迫」にさらされてきた。そして、この「死の脅迫」に屈せずに、文字通り死守したのが、《フランス共和国》の理念の一つである《自由》、つまり《表現の自由》だった。テロ事件発生当日の1月7日、犠牲者らに連帯を示すため首都パリのレピュブリック広場に集まった人々=2015年、フランス(共同) だからこそ、事件数時間後にはデモの名所レピュブリック広場に約10万人が自発的に結集し、事件4日後の「共和国デモ」には仏全土で約370万人が党派の相違などを乗り越えて結集した。この事件は一部で誤解されているように、決して“イスラム教(宗教)対西欧文明”の対決や価値観の対立ではなく、《テロ対民主主義》の「戦い」(バルス仏首相)だ。少なくとも、フランス人はそう考えている。大規模デモの名称が「共和国行進」と命名されたのも偶然ではない。「私はシャルリー」の「シャルリー」は「自由」の代名詞だ。下品でどぎつい風刺を必ずしも支持していない人たちも参加したゆえんだ。 いわゆる「1968年5月革命世代」が中心になって生まれたシャルリー・エブド(当初の名称は「ハラキリ」)の風刺、挑発の対象は当初、当時影響力を誇っていたカトリックだった。政治家も軍人も人気スターも大富豪も例外ではない。風刺が文化であり伝統であるフランスでさえもシャルリー・エブドが抱える係争事件は名誉毀損(きそん)など実に「約80件」と伝えられる。ただ、法律に訴えても、テロという極めて野蛮で卑怯(ひきょう)な手段に訴えたのは今回が初めてだ。 一方で事件直後、ニコラ・サルコジ前大統領らが「混同(アマルガム)するな」と訴えたのは、イスラム過激派とイスラム教徒とを混同するな、という意味だ。フランスにはアラブ系(多くはイスラム教徒)が国民の約8%を占める。イスラム教徒イコール、テロリストでないことを明確に訴えたわけだ。フランソワ・オランド大統領の招待にベンヤミン・ネタニヤフ・イスラエル首相とマハムード・アッバス・パレスチナ自治政府議長ら各国首脳が参加し、バラク・オバマ米大統領の欠席をホワイトハウスが声明を出して「誤り」と認めたのも、このデモが「反テロ」だからだ。「非宗教」が国是 フランスはまた、「非宗教」が国是である。公共の場でのイスラム教徒の女性のスカーフやブルカ(全身を覆った衣服)を禁止した通称「スカーフ禁止令」は決して「信教の自由」には抵触しない。この法律ではユダヤ教のキッパ(男性がかぶる小さな皿状の帽子)もキリスト教の大型の十字架も禁止されている。服装などによる宗教的規律から解放されるがゆえに《自由》であり、宗教的外見から無縁であるがゆえに《平等》であり、信仰とは無関係な市民的空間を構築できるがゆえに《博愛》だからだ。 「非宗教」で「共和国」なので冒涜(ぼうとく)罪(不敬罪)は存在しないが、テロ賛美は刑法で禁止されている。極右系のタレントが「私はシャルリー・クリバリ(テロ犯の一人)」と発言して拘束されたのは、「テロ賛美」だからだ。デカルトの国フランスの論理やフランス人の唯我独尊的態度は誤解や反発を招きやすく、イスラム教徒の多いアフリカや中東諸国などで激しい反仏デモが展開されているが、今回の事件は冷戦終了後の世界が「テロ対民主主義」の対決であることを示唆した事件ともいえそうだ。関連記事■ 石原慎太郎が読み解く イスラムテロに絡む歴史の背景■  「イスラム国」は空爆国が育てた■ 「世界の警察官」を放棄 不安抱え続ける同盟国

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    フランス共和国が誇る「社会統合」の限界

    、現在の世界で宗教、価値観の壁を乗り越えて和解するということは極めて難しい状況となっています。テロと移民問題を混同するな ─―欧州ではイスラム教徒(ムスリム)や移民に対する排外主義が強まっていると聞きます。 細谷:欧州の戦後70年は、アウシュビッツ解放を起点とし、ホロコーストの反省の上に成り立っています。人種やナショナリズムを乗り越え、移民に対して非常に寛容な社会をつくりました。寛容さ、多様性というものが、欧州を統合する上での非常に大きな価値だったわけです。サルコジ前大統領は顔全体を覆い隠すベールの着用を禁止する「ブルカ禁止法」を成立させた(YOUSSEF BOUDLAL/REUTERS/AFLO) しかし、1960~70年代の脱植民地化の時期と、冷戦終結後の2度にわたって、大きな津波のように移民が増えたことにより、2つの意味で当初想定していなかった事態が起きました。 まず1つが移民の規模。フランスでは、イスラム系だけで450~500万人で、全体では700万近い移民がいるといわれています。戦後初期には移民の割合は極めて小さな比率でしたから、現在のように国民の10%を超えるほどまで移民が増えてしまったのは想定外でした。 2つ目の想定外は経済です。移民に対する寛容さというのは、戦後の欧州の経済成長と不可分に結び付いていました。経済的余裕があったから、とりわけ社会党政権の下では移民に対してさまざまな社会保障のサービスが拡充されてきました。ところが、経済成長が失速し、ユーロが非常に厳しい緊縮財政を要求しているために、移民の多くが属する貧困層に対して手厚く社会保障を提供できなくなってきています。 さらに、国家を動かすエリートの多くは富裕層でグランゼコール出身という共通した背景を持ちます。社会学者のブルデューが文化資本という言葉で指摘したとおり、移民が国家の中枢に入るのはかつては容易ではありませんでした。社会保障の面でも雇用の面でも、移民の人たちを一定程度フランス社会に統合することができたのは、経済成長が基礎にあったのです。それが困難となり失業率が上昇すると、移民の人たちへの不満が高まってきます。グランゼコールとは、フランスの高度専門職養成学校。大学とは別の学校組織であり、実務に特化したエリート教育を行う。フランソワ・オランド大統領はその一つであるフランス国立行政学院(ENA:写真参照)出身。ENA出身の大統領には、ジャック・シラク氏、ヴァレリー・ジスカール・デスタン氏がいる。日産自動車のカルロス・ゴーン社長もグランゼコールの1つであるエコール・ポリテクニークの出身。(GAMMA-RAPHO/GETTY IMEGES) 経済成長の鈍化も、失業も、財政赤字もグローバル化と新興国の台頭が進む世界における構造的な問題なのですが、多くの国で、苦い薬を飲むよりは「他者」の責任にしようというポピュリズムが蔓延しています。欧州各国で移民増加に対して厳しい姿勢を取る右派政党が支持率を伸ばしています。格差是正の極左と移民排斥の極右が連立したギリシャまで極端ではなくても、穏健で中道的、寛容で多様性に基づく政策は、非常に取りづらくなっています。 困難な課題に向き合うことを求めるよりも、各政党は「敵」をつくって不満をそらし、国民の支持を獲得しようとします。民主主義諸国では、統治能力が低下し、内なる「敵」として移民に批判的な声が高まっています。欧州の抱える構造的な問題の一つの表出が移民問題なのですが、政治レベルで解決することが難しくなっています。 ─―そこにテロ事件が起きてしまったわけですね。 細谷:移民問題と、テロは別個に考える必要があります。「ホームグロウン*」テロリストの多くが「ローンウルフ」と言われます。それぞれが一匹狼で、組織ではなく個人がインスパイアされて、独自の行動でテロを起こす。移民に寛容な社会をつくれば、むしろテロリストが外から入りやすくなる。格差のない民主主義的な社会をつくってもテロの解決にならないわけです。*「ホームグロウン」とは“地元育ち”の意味で、移民出身でイギリスやフランスで生まれ育ったテロリストのこと。「ローンウルフ」とは“一匹狼”のテロリストで、組織としての規模が極端に小さいか、個人や兄弟・親戚程度の範囲内のつながりでテロが計画・実行される。シリア出身の活動家、アブー・ムスアブ・アッ=スーリーは04年、『グローバル・イスラム抵抗への呼びかけ』という大著をネット上で発表し、「ローンウルフ」型のテロを主軸に据えたグローバル・ジハードの理論を体系化した(参考:池内恵著『イスラーム国の衝撃』〈文春新書〉)。 何かの目的があったとき、多くのムスリムの人も投票によって自分たちの意思を実現しています。他にロビーやデモなど、ムスリムの人たちが自分たちの意思を表明する機会はたくさんあります。ところが、今回のテロ事件は、そういった平和的で民主主義的手段ではなく、物理的な暴力で自らの意思を貫徹しようとした。これはフランスとかイギリスでの移民政策の変化とは、あまり関係がありません。【アジアカップ観客射殺事件】イラク第3の都市モスルで、1月12日に行われたサッカーアジアカップ、イラク・ヨルダン戦を観戦していた少年13名が、ISILによって殺害された。モスルはイスラム国(ISIL)が勢力を広げている地域であり、サッカーは西洋のものとして観戦禁止令が出ているという。この事件のように、ISILのような過激派は、相手がイスラム教徒であって、何か問題がある行動を起こしていなくても、自らの論理と動機で殺戮する。(BRADLEY KANARIS/GETTY IMEGES) 財政赤字を増やして貧困層に対する社会保障を手厚くし、学校教育でムスリムに対するより正しい理解を求めていく。ムスリムの人権保護を法律でより手厚くする。それでテロはなくなるかといったら、実際のテロ事件を見ればそんなことはないわけです。経済格差や偏見をなくすこととテロを防ぐことは別個に考えるべきです。 グローバリゼーションで人が簡単に移動できるようになったことと、インターネットで世界に向けて簡単に情報発信し、不満を抱える若者たちを煽動できるようになったことが、テロの背景にあると思います。 欧州の中で各国がポピュリズムを脱し苦い薬を飲んで構造改革を進め、イスラムの中で強まる過激派やテロリズムを消化していくという両方の動きが出てこないと安定しません。これは相当に厄介です。 ─―なぜテロはフランスで起きたのでしょうか? 細谷:ドイツでは民族(フォルク)が国家の基盤になっています。イギリスの場合は多文化主義が基礎となり、アメリカの場合は憲法で国家理念を規定しています。他方、フランスの場合は、あくまでも理念に基づいて、自らが共和国の一員であるということがフランス国民の前提条件となっています。結び付けるものはフランス語であり、フランスが誇る理念であるため、政教分離は絶対に譲れない。それは共和国が成立するための核心の原理です。だから、それを否定するイスラム過激派と衝突しやすいのです。2世がむしろ「フランス」に反発 フランスにいるムスリムの多くは、基本的には憲法の規定する政教分離を受け入れています。ですが、自らの意思で来た移民1世はわかっていても、2世たちの中には疑問を持つ人はいるかもしれない。しかも、インターネットの情報には、ジハードやテロを煽動するものがあるわけです。 また、イギリスとの違いでいえば、フランスの場合はシェンゲン協定に入っています。イギリスの場合は、入国を管理していますから、そこで政策的に移民を国境で管理する余地があります。他方でフランスは、EU域内からの移民の流入を止める余地がない。 私がフランスに行った2009年当時、すでに移民が深刻な政治問題となっていました。サルコジ大統領は選挙で、極右の国民戦線(FN)に票を奪われないためにも移民に強硬な姿勢を示しました。移民担当大臣というポストを新設し、エリック・ベッソンがそれに就いて、移民に対して厳しく対処する姿勢をアピールしました。 フランスに入国すると、長期滞在の場合はしばらくしてから移民局に行かなければなりません。私も行きましたが、そこでフランス語が話せるかどうかが試されます。能力がないと、強制的にフランス語学校に通う必要がある。また、フランス共和国の理念を誇示する長時間のビデオを見せられます。しかし、いくらやっても社会統合には限界がある。それはもうフランス人はわかっています。徐々に移民の制限のほうに動いていかざるを得ないと考えています。 今回の「シャルリー・エブド」の事件は、多くのフランス人たちにとっても、これまでフランス共和国が誇ってきた麗しき社会統合の限界を感じさせる、大きな政治的転換点となってしまう懸念があります。ほそや・ゆういち 1971年生まれ。英国バーミンガム大学大学院国際関係学修士号所得(MIS)後、慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了、法学博士。近著に『グローバル・ガバナンスと日本』(中央公論新社)。関連記事■ 「世界の警察官」を放棄 不安抱え続ける同盟国■ ナショナリズムという「病」■ スコットランドの独立否決で分離独立主義の幻想を増長と中国紙

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    イスラモフォビアと フランス流「自由原理主義」の疲弊

    西欧とイスラム 「原理主義」の衝突(2)村中璃子 (医師・ライター)  今年、1月11日。1月7日に起きたシャルリー・エブド紙襲撃に始まる一連のテロ事件を受け、370万人という戦後最大のデモがフランス全土で行われた。そして、13日。今度は事件をうけて招集された臨時議会で、バルス首相の1時間にわたる演説に先立ち「ラ・マルセイエーズ」が大斉唱された。バルスは内務大臣時代にイスラム教徒(ムスリム)とロマ(通称ジプシー)の排斥で名をあげた社会党の議員。仏革命時に作られた国歌ラ・マルセイエーズが議会で斉唱されるのは、1918年に第1次大戦でフランスが勝利して以来、初めてのことである。 演説の中で首相は、「我々はテロに対する、イスラム原理主義に対する、急進的なイスラム勢力に対する戦争に入った」と述べ、「フランス版愛国者法(パトリオット・アクト)」の内容を8日以内に検討すると発表した。同議会ではイスラム国(ISIL)空爆継続を可決した他、翌14日には、仏海軍の主力空母「シャルル・ドゴール」を空爆に参加させる意向も表明。内閣は21日、国内治安維持のために今後3年間で7億3500万の予算確保、内務省・司法省あわせて2670人のテロ対策人員の増員(うち1100人が諜報業務)、搭乗者名記録制度の導入、盗聴法の強化、テロ犯罪者および容疑者のデータベース作成など具体案を提出した。 事件後、オード県やタルヌ県ではムスリムの礼拝施設に銃弾が撃ち込まれ、ローヌ県ではモスクに隣接するスナックが爆破されるなどイスラム教を標的とした事件も多発している。また、昨年11月に罰則が強化されたばかりの「テロ擁護罪」の適用により、ムスリムの少年や若者を中心とした逮捕が相次ぎ、1月19日までに起訴されたケースは全国で117件(うち禁固刑12件、実刑判決7件)。アムネスティと司法組合が事態を憂慮する声明をだすまでに至っている。 しかし、パリでイスラム系のテロが起きたのは、今回が初めてではない。95年から96年にかけて、地下鉄の駅で複数のテロが起き、死傷者が出たが、デモもラ・マルセイエーズ斉唱もなかった。1995年7月、地下鉄サン・ミッシェル駅で(10人死亡、写真)、8月には同凱旋門駅において(17人負傷)、「武装イスラム集団」(GIA)によるテロが起き、96年にもポール・ロワイヤル駅でテロが起きた(4人が死亡、日本人4人を含む91人が負傷)。今回のシャルリー・エブド事件よりも犠牲者は多かった。(AP IMAGES/AFLO)差別とされないイスラモフォビア 今回の騒ぎを受け、内外の論者からあがっているのが、「スカーフ論争」をきかっけに90年代頃から顕在化してきた「イスラモフォビア(嫌イスラム感情)」の問題だ。公道にあふれて祈るイスラム教徒の姿は、イスラモフォビアの心象風景なのだろうか。公道での礼拝は2011年サルコジ大統領によって禁止された(CHARLES PLATIAU/REUTERS/AFLO) 同志社大学グローバル・スタディーズ研究科准教授の菊池恵介氏によれば、「イスラモフォビアが広く浸透するのは、それが差別とは認識されていないから。『イスラムには自由や男女平等、政教分離といった西洋的な普遍主義を受け入れることができない』といえば差別には見えない」。 しかし、実際の問題はイスラムが西洋普遍主義を受け入れられないから起きるわけではない。テロ事件の犯人を含め、移民2世3世は文化的にはフランスに同化している。自らをムスリムと名乗ることがあっても、それは私たちの多くが「日本人は仏教徒である」と説明するのと似て、コーランの中身もよく知らなければ、モスクに通っているわけでもない、もちろんアラビア語も話せない。しかし、マジョリティのフランス人にとっての身近な隣人ムスリムは、「よくは知らない」が家父長性や原理主義などと強く結び付いたものだ。流行作家ウエルベックをどう読むか 普遍主義を至上とするフランス人の間には別の空気も存在する。 「今のフランスには“自由・平等・博愛”といった共和国理念への疲労感、特に自由主義への疲労感みたいなものが漂っています。たとえば、フランスにおける結婚制度は、アムール(愛)中心の個人主義を至上とするあまり、完全に崩壊している。自由に対する異常なまでの執着、いわば“自由の原理主義”といったものが『本当にフランス人に幸せをもたらしたのか?』という問いですよね」 こう語るのはフランスの国民的流行作家ミシェル・ウエルベックの近著3冊を翻訳した、東京大学文学部の野崎歓教授。ウエルベックはかねてから「イスラムは馬鹿げた宗教」と公言するなど、フランスの一般人の間ではイスラモフォビアの代表作家として見られていた。新作『服従』の中で、ウエルベックは2022年、「イスラム友愛党」がルペン率いる極右政党、国民戦線(FN)を打ち破り、フランス史上初のイスラム政権を実現する様を描いた。 シャルリー・エブド事件があった1月7日は、たまたま『服従』の出版日で、ウエルベックは当初テロの標的とすら噂された。ウエルベックは、犠牲者のひとりで友人の経済ジャーナリスト、ベルナール・マリスの死に「私はシャルリーだ」と涙を見せた後はしばらくマスコミから姿を消し、1月末に再び現れて「我々には火に油を注ぐ権利がある」と発言した。 しかし、野崎氏によれば「ウエルベックは形式に流れ、難解さを競って活気を失ったフランス文学界に、“同時代を描ききる”バルザック的鮮烈なスタイルで登場した純文学の人。文体では村上春樹に似るという人もいるが、内容的には村上龍のような強いメッセージ性をもつ超人気作家」。新作『服従』は「必ずしもイスラモフォビックな内容ではなく、現実味のない未来を描いて“自由の疲弊”を強烈に批判したものとも読める。ウエルベックが描くのは、自分を抑圧するものから自由になっていくことのまぶしさと悲惨さ。脱宗教化と多文化共存の中で価値が多様化し、すがるべき価値が見つけられなくなっている、共和国の原理への問いかけです」。 ウエルベックが好むのは、男女のセクシュアリティが無い未来、脱宗教化のいきすぎた西洋社会、不老不死などのテーマ。『服従』の中のフランスでは、有能なムスリム系大統領のもと、オイルマネーで経済が潤い、シャリーア(イスラム法)により社会的地位の高い人は妻をふたりもつことが許され、ワインも愉しむことができる。 厄介なのは、『服従』の中で拡大して語られるイスラムのイメージ自体は、完全に間違っているとも言えないことだ。家父長制、政教一致、ジハードなどの教義は、2世3世の日常生活の中でゆるく適応されている。たとえば、ジハードは広義には「神の道のために努力すること」。道徳的な振る舞いや祈りなどを通じて、フランス社会で日々実践していくことには何ら問題はない。しかし、ジハードをコーランの別の箇所にある、報復の肯定や殉教主義と共に原理主義的に解釈すれば「聖戦」という狭義の過激行動を肯定することにもなる。 フランス人が「自由原理主義」の不毛を自覚しながらも、イスラムフォビアを抜け出すことができないことの背景には、こうした事情があることも見逃せない。流行作家ミシェル・ウエルベックの『服従(原題:Soumission)』が注目を浴びる(写真)中、有識者からは高まるイスラモフォビアを諌める声もあがっている。政治学者のオリビエ・ロワは事件直後、1月9日付けの『ル・モンド』紙でテロリストとムスリムの差異を改めて強調し、フランス国民に落ち着きを呼びかけた。また、事件から約3週間後の1月26日、仏国内のマグレブ系社会学者たちは、『問題になるってどんな気持ち?』と題して、自らがイスラモフォビアの対象となることの苦しみと抗議の声明を「恐る恐る」ともいうべきタイミングとトーンで発表した。「表現の自由」ではなく「表現の内容」を疑問視する論者もメディアに登場し始めている。(WOLFGANG RATTAY/REUTERS/AFLO) 1月30日には「テロリストがかわいそうだ」と発言し、黙祷に参加しなかった8歳の児童がテロ擁護罪で逮捕されるなど、呆れるほど過熱したイスラモフォビアの余波は続いている。欧州移民の受難はこれからもまだ続きそうだ。関連記事■ 無秩序時代の到来と米国の役割■ ロシアにも宣戦した「イスラーム国」の脅威■ 「アル=カーイダ3.0」世代と変わるグローバル・ジハード■  「イスラム国」は空爆国が育てた■ サウジが見据える数年後の石油市場