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    日本は米国からトランス脂肪酸規制作成のプロセスを学ぶべき

    肪酸の危険性が90年代から指摘されています。世界保健機構(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)合同の食品規格委員会であるコーデックス委員会では、総エネルギー摂取量のうち、トランス脂肪酸からの摂取量を1%以下に抑えることが提言されています*1 。 トランス脂肪酸は、善玉コレステロールを減らし、悪玉コレステロールを増やすため、上述の心不全や脳梗塞のリスクが高まります。特に動物性脂質の摂取量が多い米国では、動物性脂肪にもトランス脂肪酸が含まれるため、せめて工業用に生成されるトランス脂肪酸を抑制し、摂取をできるだけ抑えるというのが国を挙げての課題となっています。 一昨年も話題になっていましたが、今年は遂にトランス脂肪、全面排除という見出しが紙面に躍るようになりました「トランス脂肪を全面排除へ、2018年までに 米FDA」。当然、日本はどうするかが問題になるでしょう。実際、米国で規制されたのに日本ではやらなくて大丈夫かという懸念を持つ人は多いと思います「アメリカで規制される「トランス脂肪酸」、日本でも規制すべきか?」。 当然、これに関して日本でも独自の分析が行われています。そして、本稿でも、*2 「米国のトランス脂肪酸“禁止” 日本が振り回される必要はない - 松永和紀 (科学ジャーナリスト))」に基本的に賛同し、規制までは必要はないと考えています。しかし、食品安全委員会の議論さえ、日本ではあまり広く知られておらず、しかも専門的で分かりにくいという印象を受けないでしょうか?また、日本ではトランス脂肪酸に関する成分表示義務さえもありませんが、それはあまりにも野放しだと言えないでしょうか。 米国では、規制案を早い段階から公開し、広くパブリックコメントで意見を集め、規制に反映していきます。また、その際に、科学的な根拠を示すだけでなく、社会的なインパクトについても、定量的に分析し、分かりやすい数値で公開しようと努力しています。こういったプロセスは我が国でもまだまだ見習うべきものです。本稿では、その米国の規制制定のプロセスについて解説し、トランス脂肪酸を規制すべきかについて、考えたいと思います。 ※本稿の参考文献は文末にまとめました。学ぶべきは米国の規制作成プロセス学ぶべきは米国の規制作成プロセス 上述のように、社会的なインパクトの客観的な分析や普及啓発といった面では、米国の規制作成プロセスが大変参考になります。こういった、規制のインパクトを事前に評価する制度を、規制の事前評価といい、米国では、規制影響分析(Regulatory Impact Analysis)や経済分析(Economic Analysis)と言います。 米国での規制影響分析は30年以上の歴史があるのに対して、我が国では導入はとても遅く、2007年に漸く本格実施になりました。しかしながら、米国に比べて導入が20年以上遅れており、まだまだ発展途上と言わざるをえません。 米国では、90年代から当該規制の導入の準備を行ってきました。そして、最も重要なことは、こういった規制の決定に際して、その効果、つまりコスト・ベネフィットに関する定量的な分析が行われ、しかも早期に一般に公開されるのです。筆者は日本で規制の事前評価を導入する際の準備のため、英米の制度を2000年以降研究してきました。その成果をふまえ、米国の社会的なインパクトに関する分析について説明したいと思います。 なお、実際には米国の規制も「トランス脂肪を全面排除へ」という見出しとは相当かけ離れていて、米国の規制の対象は、トランス脂肪酸(trans fat)全てではなく、工業用に生成する際にトランス脂肪酸が多く含まれてしまう部分水素添加油脂(Partially Hydrogenated Oils、マーガリンやショートニング等の原料)です。更に、規制の内容は、使用禁止ではなく、部分水素添加油脂を、3年後にGRASの対象から外すというものです。また、新規にFDAに承認申請し認められれば、使用可能です。(*3 食品安全委員会 食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況について)。 GRAS(グラス)は、アメリカ食品医薬品局(FDA)より食品添加物に与えられる安全基準合格証( Generally Recognized As Safe(訳:一般に安全と認められる)の頭字語)ですから、使用禁止というより安全基準合格証を貰えないというものです。更に動物の油に含まれるトランス脂肪酸等は規制の対象外で、マーガリンやショートニング等の部分水素添加油脂のみです。米国の規制作成における費用便益分析(コスト・ベネフィットアナリシス)  部分水素添加油脂をGRASから除外するという規制はFDA(米国厚生省食品医薬品局、DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES Food and Drug Administration)が担当しています。既に、90年代には、成分表示に関する規制の中で、部分水素添加油脂の含有量を表示するかどうかが検討され、1999年には成分表示を義務付ける規制として提案され、2006年から実施されています*4。 また、その際に部分水素添加油脂を使用することで、心不全などが発生することによる社会的な費用も明示的に分析されました。上述の規制影響分析では、規制の社会的なインパクトやそもそもの規制の必要性、そして、代替案との検討などを多角的に分析しています*5。 2013年に出された部分水素添加油脂をGRAS(グラス)から除外する規制案*6や最終案*7では、ここで行われた分析が踏襲されています。ただし、ここでは「経済分析」(Economic Analysis)と記載されています。最終案では、規制のコスト・ベネフィットについて、推計誤差が相当程度あることも断った上で、以下のようにまとめられています。「定量化された費用の現在価値(NPV) (20年分、表2)は、62億ドルと推定されます(ただし90%の信頼区間は 28億ドルから110億ドルです)。便益については 現在価値(20年分)が400億ドルと推計されますが、90%の信頼区間が110億ドルから4400億ドルです。便益から費用を引いた純便益の現在価値は1300億ドル、90%の信頼区間が50億ドルから4300億ドル(20年分)です。(著者訳)」We estimate the net present value (NPV) (over 20 years; Table 2) of quantified costs of this action to be $6.2 billion, with a 90 percent confidence interval of $2.8 billion to $11 billion. We estimate the net present value of 20 years of benefits to be $140 billion, with a 90 percent confidence interval of $11 billion to $440 billion. Expected NPV of 20 years of net benefits (benefits reduced by quantified costs) are $130 billion, with a 90 percent confidence interval of $5 billion to $430 billion. こういった社会的インパクトが予測誤差の範囲も含めて、定量的に提示されるのが米国の規制影響分析の特徴です。日本でも科学的な論証は事前の調査や独立行政法人の各研究所、審議会などで行われ、その点はある程度安心できると思います。米国の場合、それに加えて、社会的にどのようなインパクトを持つかについても、しっかりと検証できているのです。 上記のような推計には、部分水素添加油脂を使用することで心不全になった際の治療費用を推計する必要があります。更に、そのために働くことができなくなったことによる機会費用も算定しなければなりません。加えて、仮に心不全などで亡くなった場合、それによる社会的な費用、つまり、人命の損失も、金銭的に算定しなければなりません。そのために、様々な観点から、数多くの研究が必要となります。実際に、米国では多くの研究成果の蓄積があります。そういった研究成果をもとに、上記のような費用便益の推計が可能となるのです(具体的な研究について知りたい方は*8を参照してください)。 残念ながら、日本では社会的なインパクトを推計するための研究もその蓄積も極めて乏しいです。それは、そのような数字を冷静に受け止める社会的な素地が乏しかったことも一因でしょう。また、現実問題として、例えば、保険会社がそういったリスクを算定する際にも、データにアクセスできない、健康保険組合が個人情報保護を理由にデータを提供しない、社会的なインパクトをはかるための包括的なデータが存在しないといった様々な障害があります。 また、こういった規制案を早い段階から公開し、わかりやすく説明して来なかったことも、分析の蓄積が少なかった理由として挙げられます。それに対して、米国の規制制定は公開性(transparency)を最も重視します。透明性の確保からパブリックインボルブメントへ透明性の確保からパブリックインボルブメントへ 次に、米国の規制制定プロセスは *9に詳述されていますが、米国の規制作成の特徴として、規制案や規制影響分析が草稿の段階から公開され、パブリックコメントで広く情報を収集する仕組みになっています。 また、重要な規制は時代の変遷と共に修正され、十数年をかけて作成されます。規制案の説明も明確かつ客観的に行われています。結果として、国民の間にも、問題が周知され、分析の論点に関する理解も広く浸透します。トランス脂肪酸に対する人体への悪影響についても、既に90年代から指摘され、分析も行われてきました*4*5。 それは、規制作成の過程で、多くの国民の声が反映され、規制案が改善されていきます。こういった、政策決定への市民参画を「パブリックインボルブメント(Public Involvement)」といいます。 前述のように、米国は肥満にあたる成人の比率も高く、摂取量も高いことを前提に規制が作られています。それに対して、わが国では肥満率も摂取量も米国よりはるかに低く、こういった規制が導入される前提が違うのも事実です。前述の消費者安全委員会の評価書*3では、以下のように、わが国ではWHOの前述の摂取量の基準値よりも低く、規制は不要であるという結論が出ています。 <トランス脂肪酸の平均摂取量(エネルギー比)※>  ○アメリカ:2.2%   ○日本:0.3%   ※食品安全委員会「食品中に含まれるトランス脂肪酸」評価書より*10 しかし、そういった議論は省庁の審議会だけで終始し、なかなか一般には明らかにされる機会が少ないのが現状です。そのため、どうしても専門家の中での議論となるため、広い目でチェックする状況にないことが懸念されます。実際、トランス脂肪酸については議論されているものの、米国で問題になっている部分水素添加油脂の危険性については、十分議論されているとは言い難いです。 更に、日本では特定の利害関係者の意見が反映されやすいという問題も存在します。議論が特定の委員会内においてのみ行われ、パブリックコメントなど広く一般に意見を募集するプロセスが十分反映されているとは言いがたいこと、決定プロセス自体は非公開で、結論が決まった直後に初めて公開されるといった問題が指摘されます。結果として、市民参画からは程遠い状態と言わざるを得ません。 前述のように、規制の事前評価は、2007年以降我が国でも義務付けされ、総務省の政策評価のホームページ(規制の事前評価の点検結果)に評価書が掲載され、誰でもアクセスできるようになっています。しかし、最終的な評価書は掲載されているものの、規制案や分析案については、ほとんど公開されず、仮に公開されたとしても、規制の決定の直前になってしまっています。結果として、規制の改善につながらないのです。 更に、議員立法以外の法律や政令は分析が必要ですが、省令以下の法令は事前評価が義務ではありません。そのため、薬のインターネットの販売を禁止する規制も、極めて重要な規制であったにもかかわらず、省令のため、規制の事前評価が行われませんでした。 以上、社会的なインパクトの分析の蓄積の不十分、評価書自体の公表が極めて遅いこと、経済的なインパクトが大きな、重要な規制なのに、分析がなかったりと問題点が依然多いのが実情です。こういった問題が解消され、より規制作成が望ましい方向に向かうことを期待したいと思います。米国の結果を真似するのではなく、プロセスから学んで欲しいものです。 そして、広く客観的な議論によって政策を改善するという方向から、成分表示義務も含めて、部分水素添加油脂の規制を、国民の観点から検討していきたいものです。*1 農林水産省「トランス脂肪酸について国際的に行われている取り組み」 *2「米国のトランス脂肪酸“禁止” 日本が振り回される必要はない - 松永和紀 (科学ジャーナリスト) *3 消費者安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況について」*4 4 FR 62746 - Food Labeling: Trans Fatty Acids in Nutrition Labeling, Nutrient Content Claims, and Health Claims, *5 FDA 3[2003] Food Labeling: Food Labeling; Trans Fatty Acids in Nutrition Labeling; Consumer Research to Consider Nutrient Content and Health Claims and Possible Footnote or Disclosure Statements; Final Rule and Proposed Rule Jul 14, 2003 *6 FDA,[2013] "Tentative Determination Regarding Partially Hydrogenated Oils; Request for Comments and for Scientific Data and Information" *7 FDA,[2015], "Final Determination Regarding Partially Hydrogenated Oils"  (参考:農水省HP 食用の部分水素添加油脂の食品への使用規制にあたっての米国の摂取量推定やコスト・ベネフィット推計)*8 費用・便益分析―理論と応用 [単行本]T.F.ナス 勁草書房 2007-03-20*9 Economics of Regulation and Antitrust [ハードカバー] W. Kip Viscusi The MIT Press 2005-08-19*10 消費者庁ホームページ「トランス脂肪酸に関する情報」

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    肉に含まれる飽和脂肪酸 摂取多い男性は精子濃度低いと判明

     白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏が、不妊と食事の関連について解説する。* * * 現在、日本では10組に1組の夫婦が不妊に悩んでいる。そのうち女性に原因があるケースが45%、男性に原因があるケースが40%、原因不明のケースが15%と報告されている。 この中で男性不妊の割合は年々増加傾向にある。環境ホルモンや様々なストレスを受けることによって、身体の中で発生する活性酸素が男性不妊の増加に拍車をかけていると指摘する報告もある。 これまで食事の内容と不妊の関連については複数の研究で報告されているものの、一貫した結果が得られなかった。そんな中、米国ニューハンプシャー州・ハノーバーのダートマス医科大学産婦人科のジル・アタマン博士らは2006年12月から2010年8月にかけてマサチューセッツ総合病院不妊治療センターを受診した米国人男性99例を対象に、質問票による食事調査と精子標本の分析を実施した。そのうち23例では、精子と精液中の脂肪酸濃度も測定した。 その結果、食事で脂肪の摂取が多かった群の男性は脂肪の摂取が少なかった群の男性に比べて、射精1回あたりの精子数が43%減少、単位精液量あたりの精子濃度は38%も減少していることが分かった。 さらに食事中の脂肪の質を比較・検討すると、精子の数と食事中の飽和脂肪酸の量に明らかな関連性が見いだされた。すなわち、肉やバターなどに多く含まれている飽和脂肪酸の摂取量が多い男性は摂取量が少ない男性に比べて、精子濃度が41%も低かったのだ。 一方、魚に含まれているオメガ-3不飽和脂肪酸の摂取量が多かった男性には、精子に奇形が少ない傾向が認められた。 これまでのところ飽和脂肪酸が精子の数を減らすメカニズムは不明であるが、「今回の研究は、食事で摂取する飽和脂肪酸が精子の質を下げている可能性を示唆するもの」であるとアタマン博士は指摘する。今後は、食事中の飽和脂肪酸の摂取量を減らし、オメガ‐3不飽和脂肪酸の摂取量を増やす――肉よりも魚の摂取を増やす――ようなライフスタイルの導入が不妊治療のオプションの一つになるかも知れない。 このように食事を変えても期待通りに赤ちゃんを授からないかもしれないが、少なくとも生活習慣病の原因になる動脈硬化の予防は期待できそうだ。関連記事■ 肌の潤い保つには、オリーブ油、えごま油など1日小さじ1杯■ 動脈硬化を防ぐ方法「暴飲暴食しない」「たばこ吸わない」■ 肥満で中性脂肪高い人は減量すべし 5~10%減量で20%低下■ 珈琲に痛風予防効果 尿酸値高い男性は「珈琲牛乳」がお勧め■ 不妊の原因 女性の場合は40%、男性の場合は40%、不明5%

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    健康目的の食品課税は導入すべきか

    を目的に日本ではたばこ税の増税をめぐる議論が展開されたが、海外では大量に摂取すると健康に悪影響がある食品に課税する動きが相次いでいる。日本でもメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)などになる人を減らすために、たばこ税の増税にとどまらず、国民の健康維持を目的にした食品への課税を導入すべきなのか。茨城キリスト教大名誉教授の板倉弘重氏と、早稲田大教授の池田清彦氏に見解を聞いた。(溝上健良)インタビューに答える早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦さん(左)と日本臨床栄養学会理事長で日本ポリフェノール学会会長の板倉弘重さん(右) ≪池田清彦氏≫自由のない国になりそう --海外での導入をどうみるか 「日本もそうだが、健康でなければならないから健康に悪いものは排除すべし、との幻想がある。私はこの流れは(多様性を認めない)“ソフトナチズム”だと思っている。たばこ税もそうだ。禁煙運動を始めたのはヒトラーだったが、行き着くところは『不健康な人間は排除せよ』となる。そうした機運は欧州で強い」 ●「愚行権」を認めよ --課税によって個人の自由が制限されるということか 「多様性のない社会へ突き進んでいるような気がする。個人的には、人は勝手にたばこを吸って酒を飲んで死ぬという『愚行権』があると思っている。それが認められないのは生きづらい社会だ。脂肪などの摂取も同じことで、そこへ税金をかけるのは変だ」 --糖分や脂肪をとりすぎると体に悪いことは確かだろう 「医者にかからずに一番長生きする方法はカロリー制限だ。動物実験では確かめられているが、栄養のバランスを取った上でカロリーをぎりぎりに制限すると長生きできる。ただ個人差があるので、カロリー制限したから長生きできるとも限らないけれども」 --ポテトチップスなどへの課税についてどう考える 「たばこの副流煙と違って、他人に迷惑をかけるものでもない。そうした個人の自由に規制をかけるのは問題だ」 --日本でこうした課税が導入される可能性はあるか 「あると思う。“ケーキ税”などということも言い出されかねないが、そうなると何にでも課税されうる。ハイヒールは体に悪いから税を、ともなりかねない。国民の体をコントロールして課税する、つまり『国民は健康であらねばならない』というのは、ソフトナチズムの考えにほかならない」 --課税によって代替品が出てくる可能性は 「昔のサッカリン(人工甘味料の一種)のようなものが出てくる可能性はある。代替品が出回ると税金が取れなくなるから、例えば発泡酒に増税し、さらにはノンアルコールビールに課税するようなことが起こるかもしれない」 --食品課税の導入によって、国民は健康になるか 「日本人の寿命はこれ以上延びないだろうし、何をもって健康かという問題もある。課税によってあまり変化はないだろう」 ●課税には副作用も --海外ではたばこの増税で密輸が増えたという事例もある 「米国で禁酒法時代にマフィアが栄えたように、日本でもやたらに税金をかけると闇組織が変なものを流して大問題になりかねない。あまり『清く正しく美しく』に突っ走るべきではない」◇ ≪板倉弘重氏≫教育的効果も期待できる --ハンガリー、デンマークでの導入事例をどうみるか 「世界的にメタボの人が増えており、肥満による疾患も多くなっている。それには食生活や運動が関係している。身近な食品への課税を通して消費者の行動の変容を促す取り組みで評価できる」 ◯医療費は減るはず --課税によって消費量が減れば国民の健康にはプラスになるか 「糖尿病や肥満による高血圧が減れば医療費も減るので、国民全体としてはいい結果が得られる。ただその食品を生産している企業は猛反対するだろうし、消費者からの反発もあり、課税への逆風は非常に強いだろう」 --消費者側の、個人の自由との兼ね合いは 「税金が高くなっても好きであれば食べればいいのであり、個人の自由を制限するものではない」 --仮に日本で導入する場合、どんな食品への課税が効果的か 「塩分に課税するとなれば漬物にもかかるなど問題があり、難しい。脂肪への課税も考えにくいが、あえていえば海外で規制が進んでいるトランス脂肪酸への課税だ。これはバウムクーヘンやクッキーなどに多く含まれている」 --ポテトチップスなど油を多用した菓子への課税は 「たくさん食べると体によくないので、栄養価が低く塩分・糖分の多い特定の食品への課税を考えてもいいかもしれない」 --課税による教育的効果は 「むしろそのほうが大きいかもしれない。導入の議論をすることで、国民の健康に対する意識を高める効果はあるだろう」 --子供への影響について 「中学生前後の子供は清涼飲料水やポテトチップスなどの消費が多いと考えられ、課税によってそれらより、自然の果物や野菜を食べるようになることが望ましい」 --たしかに加工食品は割安だ 「安いので子供はそちらに手を出してしまうが、加工食品への増税で値段が上がれば、消費量が減ることにつながる」 --判断力が未熟な子供が加工食品を食べ過ぎないためには 「子供の自己責任といっても難しいし、最近、特に男児の小児肥満は増える傾向にある。課税すれば健康改善の効果はあるはずだ」 ◯努力実る仕組みを --メタボになるのを予防するために必要なことは 「国の医療費は増え続けており、メタボについても予防策をもっと強調する必要がある。例えばきちんと運動をして、食生活を改善している人の健康保険料が安くなるような、努力した人にメリットがある仕組みづくりを考えるべきだ。また増税よりも、自然の食品がより安く入手できるようになることが望ましい」いけだ・きよひこ 昭和22年、東京都生まれ。64歳。東京都立大大学院博士課程修了(生物学専攻)。山梨大教授を経て、平成16年から早稲田大国際教養学部教授。専門は生物学。地球温暖化問題などでも発言しており、著書に「環境問題のウソ」「寿命はどこまで延ばせるか?」など。いたくら・ひろしげ 昭和11年、東京都生まれ。75歳。東大医学部卒。同第三内科講師、国立健康・栄養研究所臨床栄養部長などを歴任した。現在は日本臨床栄養学会理事長、日本ポリフェノール学会会長。専門は臨床栄養学。著書に「コレステロールをしっかり下げるコツがわかる本」など。

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    摂り過ぎるとアレルギーや大腸がんやうつ病の原因になる油も

     50代なのに30代にしか見えないドクター・南雲吉則先生が、女性セブン読者の健康に関する相談に回答するコーナー。今回は油に関する相談に回答する。【相談】 油って、太るイメージしかなかったのですが、体にいい油があると聞きました。油と健康について教えてください。(ココット・36才・主婦)【回答】 実は、油の良し悪しを見分けるポイントは、“室温で固まるかどうか”なんだ。 牛や豚は恒温動物だから、いつも体温が一定だよね。その脂は室温でラードみたいに固まっている。こういう脂を“飽和脂肪酸”と呼ぶんだけど、血管の中でも固まりやすいから動脈硬化を引き起こしやすい。 それに対して魚は変温動物。冷たい水の中では体温も低いけれど、脂肪分は固まらない。つまり魚の油は固まりにくいから、血管の中で動脈硬化も起こしにくいんだ。こういう固まりにくい油のことを、“不飽和脂肪酸”と呼ぶ。 この油は魚の皮に豊富に含まれているから、魚を食べるときに、皮を除いてしまうのはもったいない!! ぜひ丸ごと食べてみて。 そしてオリーブオイルなどの植物油も、魚の油と同様、室温では固まらないサラサラした油・つまり、不飽和脂肪酸だよね。植物油にはビタミンEやポリフェノールなどの抗酸化物質も多く含まれているんだよ。 ただ、植物油ならどんなものでもいい油かというとそうではない。植物油を固めて作ったマーガリンやショートニングは、常温でも固まっているから、動脈硬化の原因になるんだ。 これらは“トランス脂肪酸”と呼ばれていて、最近では、使用を規制している国もある。 さらに細かいことをいうと、植物油の中でも紅花油やコーン油、ひまわり油、ごま油などのリノール酸はオメガ6脂肪酸といわれる油で、摂りすぎるとアレルギーや大腸がん、うつ病の原因になることがわかってきた。 おすすめなのはオメガ3脂肪酸。これにはEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、ALA(αリノレン酸)があるんだ。 EPAやDHAは魚に含まれている油だね。抗酸化作用があるから若返りのサプリメントにもなっているよね。 ALAは菜種油の一種であるキャノーラ油や大豆、えごまなどの油だね。

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    「トランス脂肪酸は気にしなくていい」は本当か

    」という人が増えました。ところが、トランス脂肪酸は、マーガリンを避けたところで避けて通ることの出来る食品ではありません。菓子パンやドーナツ、フライドポテトやフライドチキン、スナック菓子など、私たちが「美味しい」と感じる身近な食べ物にトランス脂肪酸は含まれているからです。画像:iStock それもそのはず。トランス脂肪酸を含む油は、ファストフードやお菓子の「さくっ」とした食感を作ります。また、バターや植物油などと比べると、格段に日持ちする上、安い。トランス脂肪酸を含む食品の代表選手であるマーガリンも、1869年、ナポレオン3世の時代に、庶民や軍隊のための「高価なバターの代用品」として考案され、2年後に今のユニリーバ社の前身となる企業が製品化したのに始まります。 私たち庶民がコンビニやスーパー、ファストフード店などで、美味しいものを、簡単、かつ安く手に入れられるようになったのは、まさにトランス脂肪酸のおかげとも言えるのです。マーガリンが禁止なのにバターは禁止されない理由 6月16日、トランス脂肪酸、正確には植物性の油から「水素添加」の技術によって固形にした、トランス脂肪酸を多く含むマーガリンやショートニング等の油が、3年以内にアメリカの食品市場から消えることが決まりました。トランス脂肪酸は、摂れば摂るほど血中の悪玉コレステロールを上昇させ、善玉コレステロールを減少させることが知られています。 しかし、このニュースを聞いて、「なぜトランス脂肪酸が真っ先に!?」と思ったのは私だけでしょうか。炭酸飲料水にタバコ、合成着色料に発色剤。ちょっと考えるだけでも市場には「百害あって一利なし」のものが数多くあります。なぜトランス脂肪酸が真っ先にやり玉に上げられ、事実上の全廃を宣言されたのでしょう。 2003年には世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)が「総摂取エネルギー量の1%未満」という国際基準を設け、2006年にはアメリカでも商品パッケージへの含有量表示を義務付けられていたトランス脂肪酸。アメリカ保存食品製造業者協会(GMA)によれば、以来、メーカーの自主規制が進み、加工食品への使用量はすでに86%も減っているといいます。 スターバックス、マクドナルド、KFCなど、日本でもおなじみのファストフードチェーンも、アメリカではもうトランス脂肪酸を使用していません(日本のマクドナルドは使っています)。なぜ今さらトランス脂肪酸だけを取り上げ、3年間かけて「撲滅」に乗り出す必要があるのか、やはり釈然とはしません。もし、トランス脂肪酸が微量でも深刻な毒性を持つものであれば、すぐにでも「禁止」となるはず。この悠長かつ厳しい判断は、国際基準があるとはいえ、未だにトランス脂肪酸の「安全な閾値」がはっきりしないことに加え、何か別の事情があることを伺わせます。 バターなどの動物性脂肪に多く含まれ、トランス脂肪酸と同様に表示義務のある「飽和脂肪酸」は、早くも60年代から心筋梗塞のリスクを高める脂質として警戒されていました。70年代には、トランス脂肪酸と同様、悪玉コレステロールを上昇させることも分かっており、2000年代に入ってトランス脂肪酸の有害性が指摘されるまで、外食業界や食料品メーカーは、むしろ積極的に植物油脂由来のショートニング等を使う努力をしていたほどですが、飽和脂肪酸には、「市場からの排除」とまで踏み込んだ規制が課されることはありませんでした。 背景にあるのは、アメリカ食品医薬品局(FDA)と業界団体、および市民団体との力関係です。バターに関係しているのは、全米酪農協会という強力な業界団体。最近では、バターの飽和脂肪酸だけではなく、牛乳とがんとの関係もしばしば指摘されていますが、この協会がある限り、バターや牛乳が市場からなくなることは決してないと言われています。一方、FDAの公式文書も、今回下した事実上のトランス脂肪酸禁止の判断は、科学的エビデンスや専門家の意見だけでなく、トランス脂肪酸を排除しようとする市民運動に応えてのものだとしているとしています。 今回の判断の背景には、水素添加に代わる技術がすでにあるからだという意見もありますが、水素添加にかわる別の技術の安全性も確立してはおらず、トランス脂肪酸が他の脂質や添加物に比し、突出して有害であるというはっきりとしたエビデンスもありません。また、コーヒークリーム(乳製品に見えますが油脂です)など、特定の商品については水素添加以外の方法での製造が難しいものもあります。こうした中、GMAは、安全なレベルでのトランス脂肪酸使用を認める例外を設けるよう、FDAに嘆願書を提出する予定です。撲滅しても心筋梗塞は減らない撲滅しても心筋梗塞は減らない 「身体に悪い」という数々のエビデンスが出ているとされるトランス脂肪酸ですが、実際の研究報告を詳しく見ていくと、少々、驚くことがあります。それは、根拠となるすべての疫学調査において、トランス脂肪酸摂取量が自己申告に基づいていることです。「トランス脂肪酸は危険である」という議論は、1990年頃、アメリカの名門ハーバード大学が8万人以上を対象とした大規模調査の結果を発表したあたりからヒートアップしてきましたが 、この研究での使用データも自己申告によるものでした。 そういえば、私も人間ドックを受けた際、具体的な献立を週平均で何回とるのかといった非常に細かい問診票をもらって面倒に思い、とんかつ5回、ラーメン5回、ピザ10回などと適当な回答をし、問診担当のナースに「とんかつ5回ねぇ…」と、睨まれたことがあります。もちろん、被験者の全員が私のように不真面目な回答をするわけでもないし、自己申告に基づいたデータであっても疫学調査としてある程度の意味は持ちます。しかし、血中濃度などの「測定によるデータ」と比較すれば、アンケートによるデータの信頼性が低いのは否めません。 「トランス脂肪酸を多く摂取した」とされる人々は、現実の世界では、単にトランス脂肪酸が多く含まれるファストフードや菓子類を多く摂取している人。その人たちに心筋梗塞のリスクが高いからと言って、体に悪かったのは、本当にトランス脂肪酸なのか、それらの食品に共通して含まれている別の成分なのか、まったく別の体に良い食べ物を食べていなかったからなのかは、はっきりしません。 トランス脂肪酸単体での影響を知ろうとすれば、トランス脂肪酸以外の条件をそろえたうえで、心疾患の発症率を比較する必要がありますが、当然、そういった研究を人間で行ったものはありません。「トランス脂肪酸が無くなれば心筋梗塞は減る」の嘘っぽさ FDAは今回の決定に先立ち、「トランス脂肪酸を全廃すれば、年間約4000から6万例の心筋梗塞と、約1600から23000の心疾患関連死を予防することが出来る」との試算を出しました。しかし、この予測も、ざっくりとしたデータに基づいて設定した摂取基準値と、ざっくりと自己申告された食べた物のデータをもとに予測した結論を総合してはじき出した、「ざっくり×ざっくり」のラフな試算。予測値の幅が一けた以上違うことも頷けます。 ところで、ここに日本発の面白い報告があります。 東京大学のグループが昨年、JAMAという一流医学雑誌に発表した論文によれば、アメリカで「スタチン」という、悪玉コレステロールを下げる薬を飲んでいた人の1日当たりのカロリー摂取量は12年間で約190kcal、脂質摂取量も1 日あたり約10g 増加しているというものです。スタチンは世界でも日本でも最もよく飲まれている、非常によく効く薬です。飲んでいれば悪玉コレステロールが上がりにくいため、肝心の食生活には無頓着になり、逆に不摂生になってしまったのでしょう。スタチンを飲んでいなかった人の脂肪摂取量は増加していませんでした。 FDAによれば、2003年には3.3グラムあったアメリカ人の平均的な1日のトランス脂肪酸摂取量は、2012年にはなんと1グラムにまで落ちています。これはすでに国際的に定められた安全な摂取基準値の範囲内です。今回の決定は、この基準値を超えて摂取している食生活に偏りのある人に焦点を置いての判断ですが、今後、こういった人たち、「加工食品にトランス脂肪酸は入っていないから安心」とばかりに、ファストフードもスナック菓子も無頓着に食べ、スタチンと同様、カロリーや脂質の過剰摂取が起きれば、心血管の病気が減るどころか増える可能性も出てきます。 アメリカ人の3人に1人は適正体重をオーバーした「肥満」。肥満こそが「アメリカ人最大の死因である」と言われる中、トランス脂肪酸だけをなくしたところで、思い描くような結果が得られるとは限らないのです。 今のところ、アメリカ以外に「トランス脂肪酸を全廃する」とした国はありません。アメリカと同様、生活習慣病に悩む多くの国々では、加工食品への使用上限量を設けたり、パッケージに含有量の表示を義務づけたりすること、また、課税などの手段を通じた自主規制で対応しています。その結果、トランス脂肪酸の摂取量がへるだけでなく、トランス脂肪酸を含むような高カロリーで低栄養の食品の摂取量が減ることを期待しての施策です。<参考URL>・ハーバード大学公衆衛生学科のHPより(http://www.hsph.harvard.edu/nutritionsource/transfats/)・東京大学のプレスリリース「米国のスタチン服用者のカロリーおよび脂質摂取量が過去10年で増加」(http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20140507.pdf)それでも、私はマーガリンを食べたくないそれでも、私はマーガリンを食べたくない FDA(米食品医薬品局)は、6月17日付の報告書において、トランス脂肪酸には「安全な基準値は無い」と結論づけました。トランス脂肪酸の摂取量はゼロであることが望ましく、「摂れば摂るほど直線的に心疾患の発症率は上がっていく」としたのです。画像:iStock 「直線的には上がらない」「○○グラムまでならば問題ない」など数々の反論がある中、この結論は少々、断定的すぎるようにも見えます。一方でFDAは、心疾患のほか、がんや糖尿病、アレルギーや認知症など他の病気とトランス脂肪酸との関連性については明言を退け、「はっきりと関連性が認められるのは心疾患のみ」という判断もしました。  ここで、気になるのは、2003年にWHO(世界保健機関)とFAO(国際食糧農業機関)が提唱した「トランス脂肪酸は1日の総摂取カロリー量の1%未満」という国際基準値です。数々の論文を解析し、専門家の意見を総合した結果として、「安全な基準値は無い」と言い切ったFDAは、言ってみれば、国際基準に物申した形。10年以上も前に定められた国際基準は無効であり、「もっと厳しい基準が必要なのだ」と主張していることになります。 アメリカの決定を受けて、今後、国連機関がトランス脂肪酸の評価の見直しを行うのか、各国がトランス脂肪酸に関するより厳しい規制を始めるのかはわかりません。しかし、アメリカは、食品添加物や農薬など、他の有害物質については他国よりも緩い基準を用い、自国の産業を保護してきた国です。アメリカがトランス脂肪酸に限ってこのような判断を下したのは、まさに驚きとも言えます。「米英脂質戦争」が勃発? 合成着色料に合成甘味料、農薬に防カビ剤、発色剤、成長調整剤——人間が人工的に作り出した「便利で体に悪い食べ物」はたくさんあります。他の物質に関する禁止運動も多い中、トランス脂肪酸に「3年以内に全廃」という白羽の矢があたったのは、まさにお気の毒さまとも言えなくはありません。しかし、「安全である」とは断定できず、あのFDAが「安全値などない」と言っている以上、「マーガリンはなるべくやめておこうかな」という気にはなります。 こうなってくると知りたいのは、マーガリンなどトランス脂肪酸の多い油の代わりとなる油の方。特に、トランス脂肪酸という言葉を耳にするようになるずっと前から悪いと言われているバターの危険性はどうなのでしょうか。 昨年3月、イギリスのケンブリッジ大学を中心としたグループが、一流医学雑誌に面白い研究報告をしました。英国心臓財団等からサポートを得て、70以上もの脂質摂取に関する論文を解析した結果、「不飽和脂肪酸(バターに多い)と心疾患の発症に相関関係は見られなかった」というものです。しかも、「不飽和脂肪酸を植物油に置き換えたところで心疾患の発症リスクは下がらず、バターを控えて植物油を摂ろうという今の脂質栄養ガイドラインは根拠に乏しい」と結論づけました。 長らく「バターは体に悪い」と教えられ、バターたっぷりの美味しい食べ物を禁止されてきたアメリカで、メディアがこれに食いつかないはずがありません。「バターが帰ってきた!」「バターは健康的な食品!?」といった見出しがメディアをにぎわせました。 もちろん、イギリスのグループも「だからバターを摂り放題」と言ったわけではありません。しかし、米国心臓病学会と米国心臓協会は、2013年の秋、「飽和脂肪酸と心疾患との間には強い相関関係がある」との結論を改めて出したばかり。FDAとWHOを巡る「トランス脂肪酸(マーガリン)論争」もさることながら、専門家の間で起きている「米英飽和脂肪酸(バター)論争」も混迷気味なのです。 ちなみに、このイギリスの論文でも、数ある良い脂質・悪い脂質について検討した結果、トランス脂肪酸だけは、「心疾患のリスクをあげるもの」としてはっきりしていると結論づけています。また、最近、「体によい脂質」として注目されている魚油・エゴマ油などの「オメガ3系不飽和脂肪酸」については、摂れば摂るほどよいというはっきりした証拠は得られていないとしています。「それでも気にしたい人」はどうしたらいいのか 農林水産省のウェブサイトにもあるように、日本の専門家の間では「日本におけるトランス脂肪酸の摂取量は少ないから気にしなくていい」という議論が以前から主流です。先日、FMラジオのJ-Waveにゲスト出演し、トランス脂肪酸についてお話したのですが、担当ディレクターの方は、5年前に同じテーマを取り上げた際もゲストの専門家は同じ結論だったと言っていました。最近では、「日本でも加工食品への使用量は減っているから規制は要らない」「肉や乳製品など自然の食べ物の中にも少量含まれるから気にしても仕方ない」などの意見がありますが、FDAが「安全値は無い」とし、世界中の専門家が「体に悪い」とお墨付きをつける中、やっぱり、私は可能な限りトランス脂肪酸を摂りたくはありません。 私のように「まったく摂らないとは言わないが、少しでも健康に気をつけたい」と思う多くの消費者にとって、専門家の意見はもっともであるものの、少々、パターナリスティックにも聞こえます。日本では日本動脈硬化学会が、「コレステロール」「飽和脂肪酸」とともに「トランス脂肪酸」の栄養成分表示を義務化するよう声明を出していますが、私も、消費者が安心し、納得して商品を選べるよう、少なくともこれだけは早期に実現することを望んでいます。 では、現状では、どんな食品をどうやって食べることで、脂肪分を取ってくのがベストなのでしょうか。「ココナッツオイルは肌にいい」「エゴマ油は認知症を予防する」など、私たちも新しい謳い文句を日々耳にしますが、今まで一般的でなかった油についての信頼性の高い大規模データがあるとは思えませんし、いくら「体にいい」と言われても、魚油で作ったパンやお菓子はあまり食べる気がしません。 私だったら、どうするのか。たとえば、油を使ったパンを食べるのであれば、マーガリンではなくオリーブ油を使ったものを選ぶようにします。揚げ物はショートニングを使っているようなファストフード店では食べず、自宅で植物性の油で揚げ、日頃から肉よりも魚を食べるようにします。「オリーブ油も植物油も体に良くはない」という議論はありますが、摂るのであればできるだけ「黒」が確定しているトランス脂肪酸以外の脂質を摂っていくというスタンスです。バターは賛否両論の飽和脂肪酸を多く含むだけでなく、件のトランス脂肪酸も含まれていますので、やはりたくさんは摂りたくありません。ただし、ビタミンなどの栄養価が高く、風味も良いので、摂取量に気をつけながら時々は食べるでしょう。 また、次々に登場する「体にいい」といわれる油ですが、こちらは薬ではないので、私は積極的には摂りません。やりがちなのは、普段油を使わなかったような食べ物にまで何でもかんでもココナッツ油を塗りつけることや、ドレッシングに使っていたオリーブ油をエゴマ油に変えて頻繁にサラダを食べるようになることで、かえって脂質の総摂取量が増えること。もちろん私も流行りの油は試してみたいですが、値段も張るし、「熱に弱い、光に弱い」と、他の油と置き換えるには使い道が限られ、総摂取脂肪量を変えないまま、効果が感じられるほどに摂取するのは大変そう…。 大事なのは、ひとつの食品の中にいい脂質も悪い脂質も同時に含まれる場合が多いことを理解し、トータルで見てより健康的な油を、必要に応じて選んでいくことです。また、体にいい油も悪い油もカロリーは同じであるのを念頭におくことも重要です。トランス脂肪酸たっぷりのマーガリンも、オメガ3に富んだエゴマ油も、小さじ1杯で27キロカロリーあることはお忘れなく。i Chowdhury R., et al, Association of Dietary, Circulating, and Supplement Fatty Acid With Coronary Risk, Annals of Internal Medicine, vol.60, no.6, pp.398-408.むらなか・りこ 医師・ジャーナリスト。医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機構)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。

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    「トランス脂肪酸」恐るるに足らず

    になっている「トランス脂肪酸」。米国では以前から表示義務や添加規制をしてきたが、2018年までに加工食品への使用が全面禁止される。日本では含有量の表示義務すらないこの脂ばかりが悪者にされるのは何故なのか。

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    米国のトランス脂肪酸“禁止” 日本が振り回される必要はない

    松永和紀(科学ジャーナリスト) 「米、トランス脂肪酸禁止」「トランス脂肪酸を含む食品添加物の3年以内の全廃を通達」……。こんなふうに大手メディアに報道された後、さっそくネットメディアでは「マーガリン、マヨネーズは使わない!」「ワースト5の食品は……」などの情報があふれ始めました。 メディアは「○○は危ない」というコンテンツを流したがります。それは、やっぱりそんな情報が耳目を集めるから。ネットメディアはとりわけそう。アクセス数が稼げますもん。そんなわけで今、心配した人たちからの問い合わせや苦情が、食品企業に相次いでいるそうです。 でも、報道には間違いが目立ちます。そもそも、トランス脂肪酸は食品添加物ではありません。それに、トランス脂肪酸対策は、単純思考ではダメ。この話、けっこう複雑です。 私は2012年に本欄で、「科学無視のトランス脂肪酸批判 思わぬ弊害が表面化」という記事を書きました。アメリカでは“危険”でも、日本の状況は異なります。アメリカの新しい動きを踏まえて、日本のとるべき方向性を考えます。アメリカは、部分水素添加油脂を禁止した そもそも、アメリカはトランス脂肪酸を禁止したわけではありません。トランス脂肪酸は、肉や乳製品等に自然にごく微量含まれるほか、植物油を脱臭精製する際にも、わずかですが生成します。それに、植物油に水素を添加して固形や半固形の「部分水素添加油脂」(partially hydrogenated oils = PHOs、硬化油ともいう)にする工程で、多くできます。生成要因によるトランス脂肪酸の分類 今回、規制が決まったのは、トランス脂肪酸の主要摂取源であるPHOsです。アメリカ食品医薬品局(FDA)が6月16日、PHOsをGRAS(generally recognized as safe:一般的に安全な物質)としては認めない、とする決定を公表しました。準備期間を経て3年後には、PHOsは禁止となります。 アメリカのGRASは、食品に添加する物質についてあらかじめFDAが検討し、「長年の食習慣等から安全だとみなされ、使用が認められる物質」に分類する制度。日本人がイメージする「食品添加物」だけでなく、こしょうなどのスパイス、カモミールなどのハーブ類、乳酸菌などさまざまな食品素材が、GRASとして認められています。 GRAS分類に入れば、その後の食品への使用は自由。しかし、認められなければ、動物を用いた詳細な毒性評価試験などを行いそのデータをFDAに提出して審査を受け「food additive」としての承認を受け、定められた使用方法に則って使う、というのがアメリカのやり方です。Food additiveとして認められなければ、食品への使用はできません。 これまで、PHOsはGRASとされてきました。しかし、そのリストから除外する、というのが今回のFDAの決定です。事業者が食品素材として使いたい場合には、新たにFDAに安全性に関する詳細なデータを提出して、food additiveとしての承認を得る必要があります。 結局、トランス脂肪酸自体を禁止したわけではなく、肉や乳製品等に含まれるトランス脂肪酸、植物油を脱臭精製する時に意図せずできるトランス脂肪酸は、今回の措置の対象外。したがって、アメリカ人のトランス脂肪酸摂取量が今後、ゼロになるわけではありません。しかし、主要摂取源であるPHOsが禁止となれば、トランス脂肪酸の摂取量は大幅に減るでしょう。冠動脈疾患に苦しむアメリカ さて、アメリカはなぜ、PHOs禁止を決めたのでしょうか。それは、アメリカ人の心臓疾患が深刻だからです。年間に約61万人が心臓疾患で死亡し、死因の1位。心臓疾患もさまざまあり、先天性のものや心筋症、心臓弁膜症など器質的な疾患もありますが、37万人は冠動脈疾患、つまり心筋への血液の流れが止まってしまう病気により死亡していると考えられています。 冠動脈疾患は、高血圧、高コレステロール、喫煙、肥満、糖尿病、問題のある食事等が要因として挙げられており、トランス脂肪酸の摂取量の多さも、問題視されています。 FDAの資料によれば、2003年の時点で平均的な成人のPHOsからのトランス脂肪酸摂取量は4.6g/日で、1日に2000カロリーを摂取しているとするとそこに占める割合は2.0%に上っていました。マーガリンやパン、菓子等に多く含まれていました。 乳製品や植物油等として食べる量も含めると、1日のトランス脂肪酸トータルの摂取量は5.8g、エネルギー摂取量の2.6%でした。 WHOの勧告目標は、総エネルギー摂取量の1%未満。これは、天然由来、PHOsなど工業由来、両方を合わせての目標です。1%未満であるべきなのに、国民平均が2.6%なのですから、アメリカ人の摂取量が、2003年の時点で非常に多かったことがわかります。 含有量低減が加速した03-06年の栄養摂取調査や製品調査などを基に2010年にも推定が行われています。その際には、2歳以上のアメリカ人のPHOsからのトランス脂肪酸摂取量は平均で1日1.3g(総エネルギー摂取量の0.6%)まで下がりました。 しかし、人口を、摂取量が多い順に並べて10%のところにある人の数値(90パーセンタイル値)の摂取量は、2.6g(同1.2%)。PHOs由来のトランス脂肪酸のみでこの数値ですから、アメリカ人の摂取量はまだまだかなり多いことがわかります。 マーガリンやパン、揚げ物等の低減は進みましたが、冷凍ビスケット、ケーキやドーナツなどの表面につけるフロスティング、冷凍ピザ、電子レンジで作るポップコーンなどの中には、高含有量の製品もまだありました。PHOs禁止により、数千人の命が救われるPHOs禁止により、数千人の命が救われる FDAは、専門家を招集して検討し、トランス脂肪酸の摂取量はできるだけ減らした方がいい、という結論に達し、2013年11月に方針を打ち出しました。パブリックコメントを経て、この6月にPHOsの3年後の禁止を正式決定しました。FDAは、この措置によりアメリカ国内で数千人の命が救われる、としています。 PHOs禁止後の代替法、つまり水素添加によって植物油を固形、または半固形にするのではなく、ほかの方法で油を固形化する技術はもう開発されています。また、植物油の原材料の大豆を、遺伝子組換えやほかの育種技術によって改良し、固形化しやすい油にするなどの方法もあります。FDAはそうした代替技術があることを確認し、PHOsを排除した場合の経済的な影響も検討しました。排除のコストの見積もりは、20年間でおよそ62億ドル。得られるベネフィット(便益)は、1400億ドル。PHOsを排除して、それだけ多くの人が健康になり医療費を削減できれば、社会の利益はこんなに大きい、というわけです。日本人の摂取量は、アメリカ人よりうんと少ない では、日本でのトランス脂肪酸の健康影響は?そのことは前回も書きました。日本人の平均摂取量は、食品安全委員会が2012年に公表した評価書によれば、総エネルギー摂取量の0.31%です。肉や乳製品などからの天然のトランス脂肪酸、それに脱臭精製工程でできる分の摂取を除外し、PHOs由来のトランス脂肪酸のみを検討すると、総エネルギー摂取量の0.12%です。 この値は、2003年から2007年の国民健康・栄養調査や農水省の製品調査などに基づく推定値。その頃から企業のトランス脂肪酸削減が始まり、今では多くの製品が低減に成功していますので、現在の摂取量はさらに下がっているだろう、とみられています。食品安全委員会は「通常の食生活では、健康への影響は小さい」と説明しています。 「平均値はそうであっても、食生活に問題があり油っこいものやお菓子などを多くとっている人は、トランス脂肪酸摂取量が多い。だから規制を」という意見もあります。しかし、その点についても、食品安全委員会はデータを示しています。 日本人の95パーセンタイル値(多い順に並べて上位から5%の位置の人の数値)は、総エネルギー摂取量の0.73%。PHOs由来のトランス脂肪酸摂取量は、0.43%です。WHOの目標値を大きく下回っていること、そしてアメリカ人に比べてかなり摂取量が少ないことを、理解していただけることでしょう。飽和脂肪酸の摂取量増加は軽視できない 日本人の死因の第1位は「悪性新生物(がん)」です。2014年は37万人が死亡したと推定されています。2位は心疾患。死亡の推定数はかなり減って19万6000人。冠動脈疾患の発症率は欧米の3分の1から5分の1と言われています。こうした状況から見ても、アメリカに比べてトランス脂肪酸規制の優先順位は、下がってくるのです。 加えて、飽和脂肪酸問題があります。国内で、トランス脂肪酸を低減した製品で飽和脂肪酸含有量が増加するという「トレードオフ現象」が起きていることを、前回書きました。飽和脂肪酸も、冠動脈疾患のリスクを上げることが知られています。 日本人はもともと、飽和脂肪酸の摂取量が多いのです。厚生労働省が策定する日本人の食生活の“バイブル”的存在の「日本人の食事摂取基準2015年版」によれば、日本人の飽和脂肪酸摂取量の中央値(多い順に並べてちょうど中央に位置する人の摂取量)の、総エネルギー摂取量に対する割合は、男性で6.6%、女性で7.6%です。 食事摂取基準は、飽和脂肪酸の目標量を7%以下としています。女性では半数以上が、この基準を超えてしまっています。 一方、食事摂取基準は、トランス脂肪酸については目標量を定めていません。「工業由来のトランス脂肪酸の最大摂取群は、最小摂取群に比較してCHDの相対危険が1.30倍であり、喫煙、糖尿病、高血圧症など他の主要な冠動脈疾患危険因子のオッズ比が日本人で3〜8 倍程度であることに比較すると、リスクはかなり小さい」と記述しています。栄養学の専門家は、日本人にとっては飽和脂肪酸の方が大きな問題である、と判断しているのです。公衆政策は、コストとベネフィットの検討が必要 トランス脂肪酸の規制について検討して来た消費者委員会も5月、「とりまとめ」を公表しました。企業による自主的な削減を求め、消費者への情報提供、脂質を過剰摂取しないバランスのよい食生活の推進等を強調しています。ただし、今後、トランス脂肪酸の摂取量に増加傾向が認められる場合は、トランス脂肪酸含有量の上限値の設定や表示の義務化などを検討するとの姿勢です。 つまり、トランス脂肪酸にリスクはあるにせよ、日本人の摂取量は少なく、公衆政策の優先順位としては現状、高くない、という判断が大勢なのです。 公衆への規制は、その効果とコストを天秤にかける必要があります。国が禁止したら、企業は代替法への切り替えコストを強制されます。国も、国民に普及啓発しなければならないし、本当に禁止措置が守られているか調べる必要も出てきます。禁止にはそれなりのコストがかかります。そのコストがかかっても、アメリカのように大きな見返りがあればいい。 たしかに、トランス脂肪酸は日本人にとっても、摂取するメリットがなく、量を減らした方がいい物質です。しかし、現状の日本人大多数のトランス脂肪酸摂取量は少ない。国民全体に“禁止令”を出してごく一部いた高摂取の人が改善されたとしても、公衆政策として米国ほどの効果、利益が得られないのは確実です。 結局、トランス脂肪酸対策に多額の国家予算を割くより、禁煙や高血圧、糖尿病などを防ぐ対策の方が、効果が高い。飽和脂肪酸が増えるのも心配。そこまで考えると、軽々しく「アメリカが禁止したのだから、日本も禁止」とは言えないし、その単純思考が国民にとって得策ではないことも、理解していただけることでしょう。個人のマーガリン忌避は、意味がない個人のマーガリン忌避は、意味がない では、個人の対策は?「平均値なんてどうでもいい。とにかく、私は子どもに有害な物質を食べさせたくない」と仰る方もいることでしょう。 マーガリンや揚げ物、ケーキ等、目の敵にするのは個人の自由。でも、日本のマーガリン類は、トランス脂肪酸の含有量が大きく低減されています。たとえば、雪印のネオソフトは、トランス脂肪酸の含有量が製品10gあたり0.08g。熱量にするとわずか、0.72kcalです。1日に2000kcal摂取する人で、ネオソフト10gを食べたときの総エネルギー摂取量における割合は、0.04%です。日本生協連のコーンマーガリン10gのトランス脂肪酸含有量は、0.04gです。ネオソフトと同じように計算すると、総エネルギー摂取量における割合は、0.02%です。 こんなものを目の敵にしても、なんの意味もないことは、お分かりですね。トランス脂肪酸が多いとして以前に問題視された食品は、マーガリンに限らずパンや菓子等も、低減が大きく進んでいます。これからも、進むでしょう。これは、企業の自主的な努力。なにせ、日本の企業は、消費者の批判にはめっぽう弱い。努力しています。 非難するなら、今のデータで語らなくちゃダメ。でも、そうではない情報が残念ながら、とくにネットメディアにはあふれています。 では、「トランス脂肪酸も飽和脂肪酸も怖い。だから、脂質抜きの生活に」と走る?それはまずい。脂質のなかには、人が摂取しなければいけない必須脂肪酸も多く含まれています。それに、脂質は重要なエネルギー源でもあります。日本人は、肥満の人がいる一方、栄養摂取が少なすぎる痩せ問題も深刻です。結局、バランスのよい食生活の効率がいい トランス脂肪酸のみに注目するのではなく、バランスよく適度な量を食べる食生活に気を配る方が、トランス脂肪酸の低減だけでなく、飽和脂肪酸の摂り過ぎ防止もでき、肥満による生活習慣病、がんリスクの上昇なども防ぐことができます。一石二鳥どころか三鳥、四鳥。こちらの方が、圧倒的に効率がいい。国が盛んに「バランスよく適度な量を食べる食生活を」と呼びかけるのも、やっぱり国なりの計算があるのです。 複雑な話をここまで読んでくださって、ありがとうございました。ああ、私も「トランス脂肪酸は危険、食べるなマーガリン!アメリカは規制したのに日本は野放し」とさらさらと書きたい。そうしたら、短時間で効率よく、アクセス数をバリバリ稼げるかも。 でも、それはあまりにもダメダメの単純さなのです。いろいろ調べて、複雑なことはそのまま受け止めて考えましょうよ、と何度でも言いたい、書きたい、と思います。(6月24日追加) 日本では今年4月、加工食品の容器包装における栄養成分表示(熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量)が義務化されました。ただし、5年間の猶予期間があります。このほか、将来の義務化を見越して、飽和脂肪酸と食物繊維の表示が推奨されています。トランス脂肪酸は、対象となっていません。 メーカー等の中には、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸含有量をウェブサイトで情報開示するところが出て来ています。参考文献に挙げた雪印メグミルク、日本生協連のほか、山崎製パン、神戸屋なども、主な製品の含有量を公開しています。[参考文献]・科学無視のトランス脂肪酸批判 思わぬ弊害が表面化 日本人への影響は?http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1932・アメリカFDAニュースリリース The FDA takes step to remove artificial trans fats in processed foodshttp://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm451237.htm・アメリカFDA・GRAShttp://www.fda.gov/Food/IngredientsPackagingLabeling/GRAS/・アメリカCDC(疾病予防管理センター)・Heart Disease Factshttp://www.cdc.gov/heartdisease/facts.htm・食品安全委員会・食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況についてhttp://www.fsc.go.jp/osirase/trans_fat.html・農水省・トランス脂肪酸に関する情報http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/index.html・雪印メグミルク(株) 「トランス脂肪酸、その他脂質成分について」https://www.meg-snow.com/news/2014/pdf/20141001-920.pdf・日本生活協同組合連合会・トランス脂肪酸問題についてのQ&Ahttp://jccu.coop/food-safety/qa/qa01_02.htmlまつなが・わき 科学ジャーナリスト。1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ライターに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008受賞。2011年4月、科学的に適切な食情報を収集し提供する消費者団体「Food Communication Compass(略称FOOCOM=フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」を開設した。

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    期限切れ鶏肉 低いモラルの改善なく

    された危険な鶏肉がケンタッキー・フライド・チキン(KFC)に納入された事件も明るみに出た。 度重なる食品の問題で再発防止が叫ばれてきたが、今回の使用期限切れ鶏肉の供給問題で、中国における安全に対する認識の乏しさや、消費者の健康を顧みない利益優先の姿勢が改めて浮き彫りになった。 今回問題となった「上海福喜食品」が23日までに衛生監督当局に提出した顧客リストには、中国国内のセブン-イレブンやスターバックス、ピザハット、KFCなど約150の社名が記されていた。 中国内の販売先は上海や北京など20以上の省や市に及び、健康被害への懸念が広がっている。 また23日付の上海紙、東方早報は、冷凍設備のない倉庫で他社から納入された鶏肉を、上海福喜食品が自社製品とA見せかけて出荷する工作が行われていたと伝え、組織的関与を強く示唆した。カビが生えた牛肉を再加工した製品も出荷していたとの報道もあり、捜査当局は問題の商品の流通ルート特定を急いでいる。 上海福喜食品は米イリノイ州の食肉大手OSIの子会社で、系列工場が山東省や雲南省などにある。食品業界関係者は、「ファミリーマートなど日本企業は、米国系の工場なら中国製でも品質に問題ないと考えていたのではないか」と話している。 23日付の中国英字紙チャイナ・デーリーは、「外資の危険な行為が見逃されるべきではない」と批判。“外資たたき”による責任転嫁の一面ものぞかせた。

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    検証・繰り返される食品問題/中国食品事故の対応策

    河岸宏和(食品安全教育研究所代表)安全管理の根本にあるべきプロ意識とは 「また中国の工場で……」、食品に関する報道が日夜、テレビで繰り返されています。 今年7月、中国のマクドナルドやケンタッキー・フライド・チキンなど大手ファストフード店に食材を納入していた米食肉大手OSIグループの中国法人「上海福喜食品」(上海市)が、消費期限を過ぎた肉を使うなどの不正を行なっていたことが判明しました。東方衛視台(上海のテレビ局)による工場の潜入取材が事件発覚の引き金です。同番組では、従業員が床に落ちた食肉を拾って生産ラインに戻す姿や、使用期限切れの食肉を新鮮な食肉に混ぜる様子が放映されていました。また、この工場では「麦楽鶏(チキンマックナゲット)」製造の際、消費期限を半月過ぎた18tの冷凍鶏皮と鶏胸肉を混ぜて再び原材料をつくり、その段階で新たな消費期限を刻印していました。つまり元の消費期限を6カ月余り過ぎた原料肉でつくられたハンバーグ、チキンナゲットが出荷され、消費者に届けられていたのです。出荷先には日本のマクドナルドやファミリーマートも含まれていました。潜入記者が工場作業員に尋ねると「消費期限切れでも食べられるし、死ぬわけではない」と答えていた、とのことです。上海市食品薬品監督管理局はこの報道を受けて20日に同工場を閉鎖、同社を立ち入り調査し、生産停止を命じました。 番組で放送された従業員の行動は工場作業者のモラルに反しています。しかし、潜入した記者が確認したことが事実であれば、工場では日常的に不正が行なわれていたことになります。当然、従業員自ら作業内容を決めることは考えられないので、この工場では、組織全体の総意として期限の過ぎた肉などを使用していたと考えられます。 食品工場をめぐるトラブルはほかにも近年、少なくありません。2007年から08年には、千葉、兵庫両県で「天洋食品」(中国河北省石家荘市)が製造した冷凍餃子を食べた計10人が中毒症状を訴えた事件が起きました。同じく2008年には、三鹿集団(同市)によって製造されたメラミン入りの粉ミルクを飲み、乳幼児数名が死亡しています。 なぜ、日本はこうした過去の中国食品事件を「他山の石」にして、今回の不祥事を未然に防ぐことができなかったのでしょうか。いつから日本人は「利益さえ出ればいい」という精神構造に陥ってしまったのでしょうか。今回のような事件が二度と起こらないためにも、本稿で検証を試みたいと思います。 以前、『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系列・1990~2011年放送)というドラマが放送されていました。高校を中退した小島五月(泉ピン子)はラーメン屋の「幸楽」でバイトをしながら結婚して、家庭を築くことができました。藤岡琢也(第1~7シリーズ)と宇津井健(第8シリーズ~)が演じる五月の父・岡倉大吉はサラリーマンを辞めて自宅を改築し、割烹「おかくら」を始めます。さらに、高校を中退した森山壮太(長谷川純)を板前の見習いとして雇い、仕入れから調理までの修業を積ませます。 五月も壮太も、いまの時代設定ならば重労働の飲食店ではなく、コンビニ、ファミリーレストランのバイトやパートで働いていたという可能性は高いでしょう。ラーメン屋や割烹で働くのと、コンビニやファミレスなどの外食チェーン店で働くのとでは労働条件はそれほど変わりません。ところが、3年、5年、10年と長く働き続けたときの成長の度合いに、大きな差が生まれます。 仮に、壮太が高校を辞めてファミレスの厨房で働いていたとします。おそらく10年たっても、壮太は独立して自分の店をもつこともできないばかりか、貯金もできず、自分の家庭を築くことさえできなかったでしょう。 外食チェーン店での厨房の調理といえば、せいぜい中国などから輸入されたパン粉が付いた成形肉のトンカツを揚げる作業や、カットされて凍結輸入されたネタを解凍し、寿司ロボットから出てくるシャリ玉の上に載せる程度です。こうした単純な仕事では、板前、職人として成長することは望めません。壮太は自営の「おかくら」で働いていたからこそ、自ら仕入れてきた魚の捌き方を学び、旬の野菜を選定する目も養われて、ごまかしの利かない一人前の職人として成長することができたのです。働いている人たちが仕事を通じて成長を実感できるかどうかは、従業員のモラルやプロ意識を高めるうえで非常に大切な点だと思います。 昨年末、「和食 日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたように、長い年月を経て和食文化を受け継いできた職人の努力とプロ意識が、食品をめぐる安全管理の根本にあるのではないでしょうか。 中国の工場では「幸楽」の味を再現できない  前述した『渡る世間は~』の最終シリーズ(2010年10月~2011年9月放送)で、「幸楽」が事業拡大のためにインターネット販売事業を始めるエピソードがあります。製品づくりから発送までを工場に一元化し、野菜中心のさっぱりした餃子を全国に販売しようとします。サンプルを送り、試食したユーザーにツイッターやブログで投稿してもらい口コミで評判を広めようとする計画でした。これは見事に、世の中の流れを反映しています。 現代の食品づくりに際して重要なことは、「こだわりの味、特徴のある製品を自分たちの手でつくれる土壌があるかどうか」です。流通する餃子のレシピが同じでも、「幸楽」の味を100パーセント、再現することはできません。長年つくり続けてお客さまに支持されていること、その餃子をつくれる職人がお客さまの目が届く店舗で働いていることに価値があります。ですから、「幸楽」の餃子と称して工場の大きな電動ミキサーで配合し、餃子製造器で包んで販売した製品は、信用される餃子ではなくなるのです。 もしかしたら職人が手で包む餃子と、機械が包む餃子を並べてみても、大きな違いはないかもしれません。むしろ機械で包んだほうが、均質性が保たれ、作業効率は向上するでしょう。しかし、「職人の手で包む餃子」こそがほかに代替できない「幸楽」の味なのです。 仮に、インターネットの口コミの影響で、お客さまが殺到し、お店の厨房では餃子をつくることができなくなったとします(ここからは私の創作です)。「同じ配合でつくればどこでつくっても同じだよ」と食品コンサルタントに指導され、「幸楽」はレシピを中国の工場に渡し、現地で餃子を製造することに決めました。食材の配合工程も、手作業であることに変わりありません。つくる場所が「幸楽」の厨房か、中国の工場かの違いだけです。こうして中国で製造された餃子は、パソコン上で注文を受け、日本にある配送センターから出荷されます。この生産・販売工程によって、お客さまの要望に数多く応えることができ、たくさんの量の餃子を売ることで、「幸楽」は利益を確保できるようになりました。 しかし、ここで大事な落とし物をしていることに皆さんは気が付いたでしょうか。 それは、注文が殺到した繁忙期、寝る間を惜しんで餃子を包んでくれた「幸楽」の従業員の仕事がなくなってしまったことです。せっかく「幸楽」の餃子が売れたにもかかわらず、足元を見ると自分たちの仕事を失ってしまう。ネット販売によって、売り上げアップを見込めたとしても、中国に製造拠点を移すことが必ずしも正解ではない、という例ではないでしょうか。 この物語で描かれる世界は、まさしく日本の飲食業界の縮図だと思いませんか。「安ければ、どこで製造しても同じだろう」という発想で中国に製造を請け負わせた結果、自分たちの働く場所がなくなってしまうのが本当に効率的なのでしょうか。一人前になるまで従業員を教育するという、日本の飲食業の伝統を食品企業はいつの間にか放棄してしまったのではないでしょうか。輸出入時の事前検査は無力 冒頭の報道を受け、日本マクドナルドは7月22日に一部店舗で「チキンマックナゲット」の販売を休止し(国内工場の冷凍庫に保存されていた中国とタイの別会社のナゲットを順次配送し、23日に販売再開)、ファミリーマートも鶏肉加工商品の販売を停止しました。 報道を見るかぎり、使用期限の過ぎた凍結肉、床に落ちた肉や再生品(不良品を再度原料として使用したもの)が混入した製品を食べた消費者に、健康被害が出るわけではありません。しかし、過剰な報道が繰り返し行なわれることで、企業イメージが悪くなることを恐れた結果、各社は製品の販売中止や中国産原料の使用禁止を判断しました。 その際、「輸出時、輸入時の検査を強化すべき」との声を多く聞きますが、そもそも輸入業者や厚生労働省の各検疫所による食品検査は、一部のサンプル検査でしか行なえず、輸入商品すべてを検査することは不可能です。コンテナのなかで試料がサンプリングされそうな場所にあらかじめ正常な商品を配置することで、検査の潜り抜けも許してしまいます。また、非破壊(X線など)による食品の成分検査も行なえません。仮にすべての商品の検査を実施すれば、可食部分はなくなってしまいます。輸出入時の事前検査も必要ですが、検査だけでは食品事故は防ぐことはできないのです。 さらに、事前検査が事実上無力であることを示す事例を紹介しましょう。 前述した中国の粉ミルク事件や、2007年に米国でメラミン入りのペットフードが回収された事件を覚えていますか。粉ミルク事件は、商品の受け入れ検査時点で薄めた牛乳成分の蛋白値が正常値になるように、食品成分ではない尿素から工業的に生成されるメラミンを混入したことが問題でした。メラミンはタンパク質ではありませんが、タンパク質と同じ窒素原子を多量に含むため、乳製品などにメラミンを混ぜて、分析上タンパク質含量を多く見せかける偽装が可能になります。メラミンは本来、食品に含まれる物質ではないため、通常の検査では検出することができません。 この方法は、中国では検査法の原理の裏をかいた手口として、口コミで各地に広まっています。食品成分を分析した結果、正常な値が確かめられれば、受け入れ検査で有害な商品をピックアップすることは困難です。 受け入れ検査を「抜き打ち」で行なうことはそれなりに効果があります。中国のスーパーでは、野菜を仕入れるときに試薬を使用して農薬検査を実施します。検査担当者は「検査を行なわないと、バイヤーが精査せず何でも仕入れてくる危険がある」とコメントしていました。なんと中国人自身が中国人を信頼していないのです。 海外からの輸入食品についても、こうした「抜き打ち」検査は必ず実施すべきです。中国に限らず、海外と日本の倫理観には隔たりがあるにもかかわらず、日本の輸入業者の多くは十分な対応をしていません。鶏肉加工販売会社「比内鶏」が、比内地鶏と偽って別の鶏肉を販売していたケースも、鶏がどこから「比内地鶏」として運ばれてくるのかをチェックしなければ、偽装は発見できません。段ボールに「比内地鶏」と書かれているからといって、それで安心していてはダメです。 ミートホープの偽装挽肉では、納品先の工場が受け入れ検査として細菌検査しか行なっていなかったという報道がありました。もし納入ごとに挽肉の外観検査や理化学検査を行なっていれば、契約どおりの挽肉かどうかを確認できたはずです。仕入れ原料の製造先の点検、監査は形だけになりがちですが、原料から品質まで徹底管理するためにもいっそう細かい点検が必要です。 まさに「農場から食卓」までの品質管理が重要なのです。“自分の大切な人が食べる”と想定してつくる 驚いたことに、報道で事故を起こした中国の工場を見ると、日本の工場よりも綺麗な設備が多く、従業員の服装も問題なく見えます。しかし、だからといって従業員教育が十分に行なわれているとは限りません。 報道をテレビで見ると、「“自分の大切な人が食べる”と想定して製品をつくる」という、食品製造に携わる人であれば当然身に付けておくべき基本的な教育指導が抜け落ちているように映ります。食品工場の従業員に対しては、「使用期限の過ぎた肉は使用しない」「床に落ちた肉は使用しない」といったルールを繰り返し伝え続けることが、一見、地道でいてじつは有効です。先輩社員が床に落ちた肉を平気で使用している現場や指導する社員がいない現場が遍在するかぎり、マニュアル教育をいくら施しても、新人作業者も落ちた肉を拾って再使用するようになるでしょう。 人間同士の関わりのなかで「ルール違反行為を目撃した場合は、その場で笛を吹く」という基本動作を従業員に徹底していれば、今回報道されたようなことは防げたはずです。欧米では、内部告発者を「ホイッスル・ブロワー」と呼びます。本来の意味は、サッカーなどの審判です。サッカーの審判はルール違反をした選手を見つけると試合中であってもその場で笛を吹きます。ルール違反の内容によってはイエローカード、レッドカードが審判から出され、ゲームに参加することができなくなるケースもあります。工場の従業員教育のなかでも、同様に「ルール違反の現場を見たら、たとえ上司であってもその場で笛を吹くこと、それでも改善しなければ○○へ連絡する」という指導を施すことが重要です。 中国に生産拠点を置く日本企業の多くは、2008年に起きた冷凍餃子中毒事件を契機にチェック体制の強化に乗り出しました。直営工場に監視カメラを増設した企業もあります。しかし現場に行って確認すると、録画したビデオの保存期間はせいぜい1カ月程度です。これでは実際にルール違反が起きたときに時間を遡って犯人を特定することはできません。作業員の一挙手一投足を第三者機関によってチェックするシステムの導入や、部外者に警報を鳴らす顔認識機能を備えた防犯カメラの設置でもしないかぎり、完全無欠の事故防止策など存在しません。 事故を防ぐ最大の対策となるのは、工場で働く従業員の人間性とモラルの向上です。ルール違反が横行する現場では、得てして従業員のモラルが低下し、「この工場でつくられた製品は自分が食べないからどうでもいい」という思考に陥りがちです。中国の工場で働いている人たちの多くは、普段は路傍で食事をするような生活環境で暮らしており、日本人のように高価な食品を口にすることはめったにありません。論語に「己所不欲勿施於人(己の欲せざるところは、人に施すことなかれ)」という言葉があります。食品工場は、基本的に自分たちが食べたくないものをつくる場所であってはなりません。つねに、“自分の大切な人が食べる”と想定して食品をつくるように心掛ける教育をすべきでしょう。監査を行なうのは信頼関係を守るため あなたが飲食店やスーパーで鶏肉団子をお客さまに販売しているとします。「この鶏肉団子の原料を教えてくれますか」「使用している添加物は何がありますか」とお客さまから質問されたら、正確に答えることができますか? 販売者は原材料に関する情報をしっかり頭に入れて、お客さまからの問い合わせに対応することが求められます。 とくに添加物は注意が必要です。食品添加物を食品に使用した場合は、原則としてすべて表示する必要がありますが、ここにも抜け穴があります。栄養強化の目的で使用されるもの、加工助剤および「キャリーオーバー(食品加工時に使用されるが、完成前に除かれたり、少量になるもの)」は、表示が免除されているため、最終商品に表示がありません(JAS法に基づく個別の品質表示基準で表示義務のあるものは除く)。「キャリーオーバー」については、添加物を使用していても、最終商品に添加物の効果が認められなければ表示しなくてもよいという考え方です。たとえば、コンビニ弁当のソーセージに保存料を使用していても、ソーセージを入れることによって弁当の賞味期限が引き延ばされるようなことはないので、表示は不要です。とはいえ、ほんの少しの添加物が最終商品に残っている可能性があります。食品販売に携わる人は、表示義務のない添加物を含め使用しているすべての添加物を把握することが必要です。 原料についても同様で、「鶏肉団子は鶏肉でできています」という回答では不十分です。ブロイラーのどの部位にあたるのか、産卵後の親鶏の肉なのか、それとも肉を取ったあとに骨を砕いた肉なのか、製品販売者は第三者に説明できないといけません。鶏肉団子を仕入れる側は、製造者の肉の素性を事前に決めて契約書に配合率を記載させ、製造時に監査を行ない、記録を付けることを要求しなければなりません。併せて、鶏が食べる餌の配合を行なう工場の監査が必要です。蛋白値をごまかすために、メラミンなどの物質が使用されている可能性があるからです。 さらに飲食店、スーパーが定期的に監査を行なっているという事実をネット上で消費者に向けて公表することで、生産・流通工程の透明性を訴えることにもつながります。何より私たち消費者が、自分たちの口に入れる食品の情報をいつでも確認できる透明性のある企業を選ぶ意識をもつべきでしょう。 食品メーカーや販売会社が仕入れ先の工場を監査する際、仕入れる商品を製造する該当の作業場、保管施設しか監査を行なわない場合がほとんどです。しかし、それでは不十分です。給水・排水設備、冷蔵設備から、トイレやロッカールーム、ゴミの保管場所に至るまで工場内にあるすべての設備をチェックする必要があります。消火栓の前に棚が放置されていたり、非常口が施錠されていて開かない状態を見た場合は、監査項目になくても注意しなくてはなりません。原料の保管庫内に、使用期限の切れた原料や本来、使用していない外国産の材料の保管が判明した場合は、入荷伝票まで遡って事実確認すべきでしょう。食品関連の法律以外でも、従業員の労働環境などで法律違反があり、すぐに改善できない場合は、仕入れ先を変更すべきです。 こういった細かい仕入れ先の監査は、一般的には行なわれていません。しかし、産地偽装された原料や使用期限の過ぎた原料を使用した製品をつかまされないためには、仕入れ先全体の監査が必要なのです。皆さんが知り合いから10万円を借りたとして、借りたお札の枚数を数えない人はいないと思います。その作業こそが監査です。日本人には「まぁ、そこまでいわなくても」「長い付き合いじゃないか」という馴れ合いの精神があります。しかし、お互いを尊重し、信頼する関係を守るために、監査をする必要があると私は思います。ミートホープによる偽装挽肉事件も、挽肉の仕入れ先が工場全体の監査を行なっていれば未然に防げた事件かもしれません。食品偽装や産地偽装が発覚したあとで、「騙された」と発言してももはやあとの祭りで、人間関係と同様、企業間の信頼関係は崩れてしまいます。 中国のレストランに行くと、誰もが本当に楽しそうに食事をしています。朝、公園を散歩すると、食事をとりながら、わいわい話している姿も見かけます。また中国人は、粉から製麺した中華そばや、食肉処理されたばかりの豚肉を食べます。これらは中国の立派な文化です。食道楽が多いことで知られる中国から学べる食文化と知恵はまだ存在するはずです。 原料を見極め、食品を製造する職人を日本全体で育て、日本の食品業界が安易に「チャイナ・フリー(中国産を使用しない)」の方向へ舵を切らず、自らの足元を絶えず点検することを願っています。 河岸宏和(かわぎし・ひろかず)食品安全教育研究所代表1958年、北海道生まれ。帯広畜産大学卒業後、大手ハムメーカーや大手流通チェーンなどで、品質管理に携わる。近著に『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。』(東洋経済新報社)がある 。ホームページ「食品工場の工場長の仕事とは」を主宰。

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    頻発する中国食品問題 このままで大丈夫か

    いまや中国産食品抜きに日本の食卓は成り立たないのが現実。しかし、食品業界を知り尽くしたプロは、輸入商品すべての検査は不可能と断言する。では、どうするか。現実的な対応策を提案する。