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    捏造と愛人、そして自殺…科学スキャンダルから考える

    村中璃子 (医師・ライター) 「STAP細胞はあります」と涙で訴えた小保方晴子氏の論文が『ネイチャー』誌から撤回され、上司で研究者の笹井芳樹氏が自殺を図った2014年。 研究の現場で捏造がいとも簡単に行われることや、一流科学誌がそれと気づかずあっさりと論文を受理してしまうことが驚きでした。カンメラーはインチキ科学者なのか? しかし、そんな科学スキャンダル、格別に新しいことでもなさそうです。 1926年の晩秋、オーストリアの学者パウル・カンメラーは、森の中でピストル自殺を図りました。カンメラーは、水温を上げて飼うと陸上で交接するカエルが水中で交接するようになり、3世代経つと雄の前足の指に黒い婚姻瘤(水中でメスにしがみつくための突起)が出現するという「サンバガエルの研究」で有名な生物学者。 形質遺伝(環境から得た性質が代々受け継がれること)を立証したということで注目を浴びて社交界にもデビュー。世界中を講演して回っていましたが、自死のきっかけとなったのは、カンメラーの不在時に実験に使ったカエルの標本を検証して別の研究者が『ネイチャー』誌に発表した、「カンメラーの実験には再現性がなく、婚姻瘤はただ墨を注入していただけ」とする論文でした。  疑義への抗弁を思わせるカンメラーの謎めいた遺書は、『ネイチャー』と並ぶ一流誌『サイエンス』に掲載されるという異例の待遇を受け、世間は2度沸きましたが、結局、カンメラーが本当に捏造したかどうかは迷宮入り。その理由は後でタネ明かしします。 カンメラーは音楽家から生物学者に転向した異色の人。そして、彼の愛した女は、ウイーン世紀末を代表する作曲家グスタフ・マーラーの未亡人アルマ・マーラーだったというドラマまであります。 それにしても、人間というのはこれほどまでに時を越えて変わらない、多様なベクトルの欲望に満たされた生き物なのでしょうか。科学的探究心は名声や愛憎、焦りや絶望と隣り合わせ。目的のためには、ねつ造も不意打ちも不倫も辞さない。そして、そこにまつわる人の死すらもが、ゴシップとして消費されていく。 「墨を注入しただけ」というカンメラーへの批判は「ES細胞を混ぜただけ」とされるSTAP細胞とそっくりだし、カンメラーの愛人アルマはカンメラーの助手もつとめ、公私を共にする親密な関係にあったといいます。 年末の少し浮かれた慌ただしさの中、パラダイムを一転させるような科学的発見の難しさと危うさ、そして、そこへ至る、あるいは至ることのできない研究者たちにとってのパートナーシップの役割や捏造への誘惑など、本論を少々脱線して思いを馳せてしまいました。遺伝子研究の過去について語る、著者の冷めた眼差し さてさて、『双子の遺伝子』は、「遺伝は遺伝子だけでは決まらない」とするエピジェネティクスの概念を、豊富な双子研究の事例を通じて解説したもの。2章以降のタイトルは、才能遺伝子、肥満遺伝子、浮気遺伝子、同性愛遺伝子など、それぞれが週刊誌の見出しになりうる存在感ですが、読者はこの本にちりばめられた予想外で目をひく双子のエピソードばかりに心を奪われていてはいけません。この本の真の価値は、序章と1章で、カンメラーのエピソードを含む100年ちょっとの遺伝子研究の過去について語る、著者の冷めた眼差しの中にあります。 インチキ科学者とされたカンメラーは、その後、エピジェネティクスの登場で再評価を受けます。エピジェネティクスの趣旨は、環境が同じで遺伝子が同じでも結果が同じであることは稀で、「遺伝子には確実性がない」ということ。同じ遺伝子を持った一卵性の双子が、片方は病気なのに片方は健康だったり、片方はゲイなのに片方はストレートだったりするように。 ここでカンメラーの件のタネ明かしをすれば、サンバガエルの実験は再現されなくてもよいということになる。そして、後になって、捏造したのはカンメラーの方ではなく、実はナチス支持者が増え始めた当時のウイーンで、優生学的な思想の遺伝学者が、社会主義者としても有名だったカンメラーを陥れるため標本に墨を打ち込んで改ざんを加えたのだ、という説も出てきました。 本書では、STAP問題に似たカンメラーの騒動のほか、旧ソビエト連邦における衝撃の過去も語られます。 1928年、小麦を低温処理して生産性をあげる「春化処理」を考案したソ連のルイセンコ。農民出身で高等教育を受けていないこの男は、環境さえ整えば遺伝条件に関わらず生物は能力を上げることができるのだという主張で遺伝子絶対論を否定し、貧しい農民でも科学者になれるという出自も共産党の宣伝向きだとスターリンに重用されました。 しかし、実際には春化処理で生産性が上がることがなく、その事実は隠ぺいされ、遺伝学は「ブルジョアの偽科学」であるとして、多くの遺伝学者が銃殺されたり強制収容所へ送られたりしました。遺伝子研究は、長年、科学ではなく思想の問題であり、源流をたどればダーウィンの進化論や優生学にたどりつくということがはっきり理解されます。 今年、日本でも、唾液を郵送するだけで体質や病気のリスクなどがわかるという個人向けの遺伝子検査(DTC遺伝子検査)サービスが本格化し、話題になりました。遺伝性がはっきりした病気は取り扱わないなど、実際には分かることの非常に少ないこのサービスは、「占い程度」と揶揄されることもあります。(『遺伝子検査は「疫学」か「易学」か』参照) それでも利用者に共通しているのは、「自分を科学的に知りたい」という遺伝子への期待感。「遺伝子だけは知っている」という絶対的な信頼感。遺伝子研究の歴史が社会思想の歴史であったことを知れば、なりたい自分とのギャップに悩み、自分の知らない自分を知りたいという現代人の欲求にもマッチして、遺伝子検査が民間ビジネスとして成立する事情もうなずけます。エピジェネティクスとは何を研究する学問か 最後に、誤解を防ぐため申し添えたいのは、エピジェネティクスは「努力なのか、遺伝子なのか」という悩める現代人の二分法を研究する学問ではないことです。 では、エピジェネティクスとは何を研究する学問なのでしょう。 遺伝に影響を与える環境や努力以外の要素とは? 著者は「私は瞳の色が異なる一卵性双生児にも何度かあったことがある」といいます。もちろん、努力や環境で瞳の色が変わることはありません。同じ遺伝子を持った双子が全然違う能力や嗜好をもつのは、環境や努力のせいだという人もいるけれど、そんなことはないとも筆者は言います。 遺伝子が同じ双子が違う理由について、筆者がきちんと答えを提示できているかどうかは少々怪しいところがありますが、異なる瞳の色までもつことがあるという遺伝子のメカニズムについては、どうぞ本書を手に取って確認してください。関連記事■STAP騒動から何を学ぶべきか■魔女より、ありのままの女性に脚光を■捏造しても「バレない」科学界の“常識”を問う

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    小保方氏が「魂の限界まで取り組んだ」ことへの評価について

     STAP細胞騒動に一応の区切りが付けられた。1年近くに渡り日本中の話題となったこのニュースから学べることはなにか。大人力コラムニストの石原壮一郎氏が小保方晴子氏から学ぶ。* * * 割烹着姿がよく似合う小保方晴子氏がSTAP細胞について発表したのは、今年1月のことでした。いきなり華やかなスポットを浴びますが、その後さまざまな疑惑が噴出し、一転して厳しい目が向けられます。本人の「STAP細胞はありまぁす」という言葉の真偽を確かめるべく、7月からは本人と理研検証実験チームが個別に実験を行なってきました。STAP現象の検証結果についての記者会見で、小保方氏のコメントを配る関係者(左端)=2014年12月19日 そして12月19日、理研は記者会見を開き「STAP現象を再現できなかった。この時点で検証実験を終了する」と発表。事実上、理研としてはSTAP細胞の存在を否定しました。小保方氏は理研に退職届を出し、21日付で退職するそうです。これでどうやら、日本中が大騒ぎになり、自殺者まで出てしまったこの問題に一応の区切りがつきました。 大人としては、ほぼ一年にわたって繰り広げられた波乱の出来事から、何を学び取ればいいのか。詳しいことは理解できていないのに、組織の側が否定したからといって「ケシカラン!」「とんだ食わせ者だ」と尻馬に乗って非難するのは、もっとも恥ずかしい行為。もし周囲にその手の人がいたら、自分が迷惑を受けたわけでもないにもかかわらず、叩きやすい相手を無邪気に叩いてしまうみっともなさを他山の石にさせてもらいましょう。 小保方氏がどうとかSTAP細胞がどうとかは別として、大人として着目したいのは、小保方氏と野依良治・理研理事長がそれぞれに発表したコメント。 小保方氏は、まず「予想をはるかに超えた制約の中での作業となり」と無念をにじませつつ、「与えられた環境の中では魂の限界まで取り組み、今はただ疲れ切り、このような結果に留まってしまったことに大変困惑しております」と全力を尽くしたことを主張した上で、迷惑をかけたことへのお詫びと支援へのお礼を述べています。 高く評価できるのは、「魂の限界まで取り組み、今はただ疲れ切り」という表現。単に「全力で取り組みましたが」というよりも、はるかに迫力があります。ビジネスマンのみなさんも、仕事で頑張ったけど成果が出なかったときは「魂の限界まで取り組んで、今はただ疲れ切っています」と言ってみましょう。「それなら仕方ない」と思ってもらえそうです。 いっぽうで、結果を受けて「困惑」という言葉を使ったのは感心できません。本人にそんなつもりはなくても、どこか「他人事」のように受け取って腰が引けている印象を与えます。みなさんも、上司に「この結果について、どう思ってるんだ」と言われたときに、うっかり「困惑しています」と言うのは危険。素直に「残念だと思っています」と言ったほうが、聞く側に無用の引っ掛かりを覚えさせずに済みます。 野依理事長のコメントは「これ以上心の負担が増すことを懸念し、本人の意志を尊重することとした。前向きに新しい人生を歩まれることを期待する」というもの。 もし自分の部下や同僚が大きな失敗をして会社を辞めることになった場合、心の中では「やれやれ、ひどい目に遭った」と思っていたとしても、あくまで相手をねぎらいつつ応援の言葉をかけることで美しい構図が生まれて、後味の苦さを最小限に抑えられます。野依理事長が実際にどう思っているかはわかりませんが、このフレーズも覚えておきたいところです。 小保方氏は、こうやって一応の区切りはついても、たぶんしばらくはマスコミに追われるでしょう。いろいろたいへんでしょうが、いいことが少しでもたくさんある2015年になるように、微力ながらお祈り申し上げます(こうやってネタにさせてもらった後ろめたさを和らげるために、ねぎらいつつ応援の言葉をかけさせてもらいました)。関連記事■ 早大に再論文提出意向の小保方氏 粘れば大学の信頼低下する■ 小保方氏会見 佐村河内氏のような外見なら集中砲火浴びたか■ 小保方晴子氏 黒塗り「個人タクシー出勤」は以前と変わらず■ STAP細胞論文問題 小保方さん寵愛の笹井芳樹氏は雲隠れ状態■ 小保方晴子氏の学位取り消し 早大に批判が相次いでいる理由

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    刑事告発でぎりぎり自律を示した理研と科学界

     理化学研究所がSTAP細胞の最初の記者会見を開いてから1年が経過した。当初、「夢の細胞」と期待されたものが、今や世界の科学史に残る不祥事と言われる始末だ。 実は、この事件は現在進行形だ。真相は不明な点が多いし、理研が組織として責任をとったとは言えない。多くの国民は、現状に納得していないだろう。 最近、STAP細胞騒動が新たな段階に入った。1月26日、理研の元研究員である石川智久氏(60)が、ES細胞を盗んだとして、小保方晴子氏を兵庫県警に刑事告発したのだ。 石川氏は北海道大学理学部を卒業した薬物動態の専門家。ドイツやアメリカでの研究、ファイザー中央研究所での勤務、東京工大教授(生体分子機能工学)などを経て、2009年から14年まで理研に勤務した。筆者も存じ上げているが、一流の研究者である。このような人物が実名で告発に踏み切った意義は大きい。 世間では、石川氏の行為について、賛否両論分かれている。ただ、私は、石川氏の行動によって、理研、科学界はぎりぎりのところで自律を示したと思う。それは、今回の告発がなければ、この事件の真相が闇に埋もれてしまうからだ。 理研がどう釈明しようと、世間は「理研は、今回の事件を有耶無耶でお茶を濁した」と感じる。 特に、昨年12月26日の記者会見は中途半端だった。理研は、STAP細胞とされていたものが、ES細胞であったことは認めたが、その原因について「誰が混入したか、特定できない」と説明し、過失の可能性すら否定しなかった。テレビを通じて、多くの国民が記者会見を見たが、納得した人は殆どいなかっただろう。 ただ、記者会見での理研の対応には仕方がない側面もある。強制捜査権がなく、捜査のプロでもない調査委員会が出来ることには限界があるからだ。 また、科学の世界の価値観は、一般社会とは若干異なる。科学者はエビデンスを重視する。きっちりとしたエビデンスがなければ、明言を避ける。この時点で、小保方氏はES細胞を盗んだとは認めていないし、このことを証明するエビデンスもない。 では、理研はどうすべきだったのだろうか。私は、捜査のプロ、つまり警察に捜査を依頼するか否かを判断し、結論に至った議論の過程を社会に説明すべきだったと思う。 状況証拠から考えれば、小保方氏が不正に関与した可能性は高い。その場合、彼女は応分の責任を負うべきだ。 STAP細胞の研究、再現研究、不正調査には膨大な税金が使われている。また、この事件のため、世界における我が国の科学の信頼は大きく損なわれた。信頼を回復するためにも、真相を究明し、国民は勿論、世界に向かって説明しなければならない。 ところが、真相を究明するのは、そんなに簡単ではない。例えば、ノバルティスファーマの臨床研究不正では、大学・学会・厚労省の調査結果と、東京地検の捜査には大きな乖離があった。関係者が、正直に語っていなかったためだろう。理研も、同様の可能性は否定出来ない。 前出の記者は「理研は下手に刑事告発をして、返り血を浴びるのが嫌だったのでしょう」と言う。つまり、刑事告発しないのは、他にも不正があり、露見するのと恐れているという訳である。 理研の不祥事は今に始まったことではない。04年には元理事が526万円の研究費を不正に流用していたことが発覚している。同じ年に、約190万円の海外研究費を二重取りしていた元主任研究員が詐欺容疑で告訴されている。さらに06年には、のべ1937人の職員が総額1068万円の放射線業務手当を不正に受け取っていたことが判明している。07年には事務方である研究業務課長が、189件、総額192万円のタクシー券を私的流用し処分されている。 STAP細胞事件をきっかけに、このような過去の不祥事がメディアで報じられた。理研は社会の信頼を失っている。今回、中途半端に幕引きすべきではない。こういう背景を考えれば、理研OBである石川氏が刑事告発したことは、私は高く評価したい。 では、これから理研はどのように対応すればいいだろうか。やるべきことは二つである。 まず、STAP細胞の研究不正を、なぜ、防げなかったのか、組織としての問題を議論すべきである。組織の問題は、組織図だけではない。運用、人事にまで及ぶ。 これまで、故笹井芳樹氏に強大な権限が集中し、山中伸弥・京大教授へのライバル心や予算獲得のために、不正を起こしやすい土壌を作り上げてしまったという主旨の報道が多かった。 ただ、そんなに簡単なものだろうか。理研は一人の研究者が仕切れるような柔な組織ではない。旧科学技術庁の最大の研究機関であり、巨額の予算は利権を生み出す。私たちが想像できない関係者がいるはずだ。小保方氏と故笹井氏に全ての責任を押しつけ、一件落着で済ませてはならない。 私は、組織の問題に関しては、理研関係者だけでなく、組織運営に長けた専門家、法律専門家、さらに官僚OBなども加えて、第三者による検証委員会を設置すべきだと思う。今のままでは、理研の組織としての問題は「隠蔽」されてしまう。 ついで、関係者の責任問題だ。笹井氏は自殺し、理研発生・再生科学総合研究センターは再編、幹部は一新された。 ただ、これでいいのだろうか。理事長や担当理事は、どのように責任をとるのだろうか。このままでは、誰が見ても「トカゲの尻尾切り」だ。野依良治理事長に、その意思はなくとも、周囲は、部下に責任をなすりつけ、幹部が自己保身に走ったように見える。そうなると、組織はモラルハザードを起こす。不正は繰り返され、やがて社会の信頼を失うだろう。これは、明治以来、先人達が築き上げてきた理研という国民の財産を、私たちの世代で失うことになる。先人は勿論、次の世代にも申し訳が立たない。このまま終わってはならない。 石川氏の刑事告発を受けて、この問題は更に動き出した。ここから先は、現場の研究者の問題ではない。理研幹部の矜持が問われている。関連記事■ 上昌広が問う STAP騒動から何を学ぶべきか■ 魔女より、ありのままの女性に脚光を■ 小保方晴子が開けたパンドラの箱 アカデミアの不都合な真実

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    STAP問題は終わらない

    で、STAP問題は一件落着したかに見える。しかし、まだ数多くの疑問が残されている。小保方さんは本当にSTAP細胞を捏造したのか。いったい何のために。マスコミが指摘しない疑問点を徹底分析する。

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    「小保方殺し」九つの疑問

    年)、『放射線を医学する』(リベルタ出版)がある。理研最終報告の疑問 昨年12月26日、理研は一連のSTAP細胞問題について、ひとつの「結論」を出した。要約すれば、数カ月間の検証実験の結果、小保方晴子さんらが『Nature』誌に発表した論文で報告したような現象全体を再現することはできなかった。 そして、STAP細胞として小保方晴子さんや若山照彦教授らが報告した細胞はES細胞であった可能性が極めて高く、それも故意にES細胞を混入してSTAP細胞なる細胞を捏造した疑いが濃厚である、というのが、その要旨である。 この発表を受けて、新聞、テレビは「STAP細胞はES細胞を使って捏造された物である」という見方をほぼ確実な結論であるかのように報じた。一方、小保方晴子さんは、筆者がこの原稿を書いている2015年1月15日の段階では、沈黙を続けている。 小保方さんが理研を退職し、理研の処分に対して異議を唱えていないことから、「小保方さんは捏造を認めた」と受け止める人々も多い。だが、待ってほしい。これが「結論」なのだろうか? 私は昨年4月、月刊『WiLL』6月号に寄稿した記事で二つのことを指摘した。 (1)STAP細胞が存在するかどうかは分からない。 (2)小保方晴子さんがSTAP細胞の存在を捏造した証拠は示されていない。 この(1)(2)は、挙証責任の所在が違うのに挙証責任が混同され、(2)についてまで小保方さんに挙証責任が求められていることの誤りを指摘した。そして、小保方晴子さんを犯罪者のように扱うマスコミの報道は魔女狩りのようだ、と批判した。 それから時間が経ち、12月26日の発表となった。 では、現在はどうか? この間に、笹井芳樹氏の自死という悲劇と、監視カメラ下での検証実験の終了という大きな二つの出来事があった。そしてさらに、マスコミやインターネット上で様々な議論が重ねられた。当然、当時と状況は違う。 しかし、この二つの異なる問題、 (1)STAP細胞は存在するか? (2)小保方晴子さんは、存在しないSTAP細胞を不正な方法によって捏造したのか? に対する私の判断は、いまも同じである。即ち、どちらについても挙証責任は果たされていない、と私は考える。その理由は以下の本文で述べるが、私が述べるのはあくまでも「疑問」だけである。 私は、STAP細胞が存在するかしないかというような高度に専門的な科学上の問題については、昨年の本誌6月号の記事と同様、いまも判断を下すことはできない。これは科学の問題であり、研究者たちが実験を繰り返すことによってしか検証し得ない問題だからである。 これから述べるのは、「小保方晴子さんがES細胞を使ってSTAP細胞なる物を捏造した」とする見方に対する私の疑問である。ES細胞でSTAP細胞を捏造できるのか?疑問1 ES細胞でSTAP細胞を捏造できるのか? 疑問の第一は、ES細胞を使ってSTAP細胞を捏造することがそもそも可能なのか? という疑問である。 復習すると、ES細胞は受精した受精卵が細胞分裂を行い、増えた細胞のなかから得られる細胞である。それは、受精卵の細胞分裂で生じた初期胚の一部である。それ(ES細胞)を他の個体の受精卵に混入すると、その受精卵の細胞と混在する形で、胎児の体を形成する過程に加わることが起こりえる。 しかしES細胞は、胎児と母体を繋ぐ胎盤の形成には加わらない。ES細胞は、他の受精卵から生じた胎児の体の一部になっていくことはあっても、胎盤の一部にはならないのである。 これは、発生生物学の常識である。この「常識」に異論を唱える専門家は事実上、いない。ところが、小保方さんや若山教授が『Nature』に発表した論文によれば、小保方さんがマウスから得てSTAP細胞と呼んだ細胞は、若山教授による処理を経てマウスの受精卵から生じた初期胚にそれを注入したところ、マウスの胎児のみならず、その胎児と母体を繋ぐ胎盤をも形成したとされた。 これが本当ならば、小保方さんが作製したSTAP細胞から若山教授が作製した細胞を、小保方さんや若山教授がES細胞ではない別の新しい万能細胞(多能性幹細胞)だと考えるのは当然だろう。だからこそ、当初、小保方さんや若山教授は「胎盤が光った」と言って喜んだのである。 しかし、今回の理研の発表は、その「胎盤」に見えた細胞の塊は実は胎盤ではなかったのだろう、と述べている。小保方さんがSTAP細胞と呼んだ細胞は、当初発表されたように胎盤を形成してはおらず、胎盤でない細胞塊を若山教授を含む著者たちが胎盤と見誤ったものだというのが、理研の「結論」である。 しかし、理研のこの「結論」には根拠がない。たしかに、若山教授らが胎盤でない細胞塊を胎盤と見誤った可能性はあり得るが、若山教授が実際にそうした見誤りをしたことの証明は、理研の発表のなかにはない。 この分野の世界的権威である若山教授がそのような見間違いをしたとする理研側の主張には、何も根拠がないのである。 したがって、若山教授らが見た細胞塊が、真実、胎盤であった可能性は依然、否定されていない。 これは科学上の問題である。したがって、他の自然科学の問題と同様、多くの違う研究者が同じ実験を繰り返して胎盤が形成されるかどうかを観察する以外に結論の出しようがない問題なのである。 それなのに、今回の発表をもって「あれは胎盤ではなかった」と結論づけることは、およそ科学の姿勢ではない。仮に、小保方さんや若山教授がマウスの胎盤だと判断した細胞塊が胎盤であったのなら、STAP細胞はES細胞ではない。胎盤の問題は、それほど決定的な論点である。 それにもかかわらず、根拠を示さないまま「あれは胎盤ではなかった」と理研が主張する理由を私は理解できない。小保方さんは、胎盤形成を予想したのか?疑問2 小保方さんは、胎盤形成を予想したのか? 疑問1は科学上の疑問であるが、これに加えて、「小保方さんがES細胞をSTAP細胞と偽って渡し、マウスの初期胚に混入させた」という仮説には不合理がある。 先ず先述したように、「ES細胞は胎盤を作らない」というのは発生生物学の常識である。当然、小保方さんも若山教授もその認識は共有していたはずである。それを前提に考えると、次のような疑問が生じる。 仮に、小保方さんがES細胞をSTAP細胞だと偽って若山研究室に渡したとする。その場合、小保方さんは、渡したES細胞がマウスの受精卵に注入されたあと、その細胞はES細胞なのだから、胎盤は形成しないことを予想しているはずである。 しかし事実として、若山教授は小保方さんから受け取った細胞を処理してマウスの受精卵に注入したあと、小保方さんから渡された細胞が胎盤を形成したと判断した。この意味を考えてほしい。 小保方さんが、ES細胞をSTAP細胞と偽って若山教授に渡したのであれば、小保方さんは渡した細胞が胎盤を形成するとは予想していなかったはずである。しかし、若山教授は胎盤が形成されたと判断した。その結果、小保方さんがマウスから作製し、若山教授に渡した細胞は胎盤をも形成する新しい万能細胞だと判断されたのである。 小保方さんが期待もしなかったことが若山教授の研究室で起こり、その結果、小保方さんは偶然(!)、胎盤をも形成する新しい万能細胞を作製したという名誉を得たことになる。こんな「成功」が偶然に起きたのだろうか? 疑問3 小保方さんはES細胞を混入する必要があったか?  疑問2に対して予想される反論はこうだ。 「小保方さんは、胎盤形成までは狙っていなかった。仮に胎盤形成は起こらず、胎児の形成だけが起こっても、遺伝子操作をせずに、酸処理だけでES細胞のような万能細胞を作るのに成功したことを若山教授に認めさせることができれば、それだけで大きな栄誉と地位を得られる研究成果になった。だから、若山教授が胎盤でない細胞塊を胎盤と見誤ったのは単なる幸運だった」 とする仮説である。 しかし、これもおかしい。なぜならこの仮説は、小保方さんがSTAP細胞が存在しないと思っていることを前提にしているからである。 考えても見てほしい。STAP細胞が本当に存在するかしないかは別として、小保方さんはSTAP細胞が存在すると思ったから実験に取り組んできたのではないだろうか? 科学上の真実が何であるかはともかくとして、小保方さんはそう信じてきたのではないだろうか? 小保方さんは、マウスの脾臓から得た細胞を酸で処理すると、細胞の初期化が起こった際に活性化し、細胞を緑色に発光させるOct4─GFPという遺伝子が活性化し、細胞が緑色に発光するのを確認した(彼女が記者会見で言った「STAP細胞作製に200回ほど成功している」という発言は、この細胞の発光を200回確認した、という意味であろうと私は推察する)。 この標識遺伝子によって細胞が緑色に発光したからといって、必ずしも細胞が初期化されているわけではない。細胞が死んでいく際にもこの発光現象は起きることがある。酸処理で死んでいく細胞を見ただけかもしれないことは、STAP細胞の発表直後から散々指摘されてきたとおりである。FACSは役に立たなかったのか? そうした緑色に発行した細胞が初期化された細胞、つまり万能細胞なのか、それとも単なる死んでいく細胞なのかは、最終的にはその細胞を他のマウスの初期胚に注入してどうなるかを見なければ分からないのである。だからこそ、緑色に発光したそれらの細胞を一定の処理のあと、他のマウスの受精卵に注入する実験を小保方さんは若山教授に託したのである。 注入された細胞がマウスの胎児や胎盤を作り上げればそれは万能細胞だし、作り上げなければ万能細胞ではないことになる。そのプロセスは高度の技術を求めるので、この分野の権威である若山教授が小保方さんの要請を受けた形で、それを試したのである。 すると、小保方さんが若山教授に渡したそれらの細胞は、別のマウスの受精卵の細胞と混じり合って増殖し、その受精卵を胎児に成長させた(これがキメラである)。それどころか、その混じり合った細胞の集まりはマウスの胎盤まで形成した、と若山教授は判断した。 このプロセスがES細胞を使った捏造だというのであれば、小保方さんの行動は全く不合理なものとなる。小保方さんは、自らがマウスから得たあの緑色に光る細胞をSTAP細胞だと思ったのではないだろうか?  それならば、そう思っているのに彼女がその細胞ではなく(!)、あえてES細胞か、あるいはES細胞を混入した細胞を若山教授に渡した理由は一体、何なのだろうか? 不眠不休の実験を重ねながら、自分が得た細胞はSTAP細胞などというものではないと思ったのだろうか? 自分が作製した細胞はSTAP細胞などではないと認識したから小保方さんはES細胞を渡したか、あるいはES細胞を混入した細胞を若山教授に渡した、というのだろうか? 一体なぜ、やってみなければわからないキメラ形成の実験において、初めからSTAPが存在しないと思っているのでなければ意味を持たないES細胞混入をする必要があったのだろうか? 私のこの問いに対して、「何度やってもうまくいかなかったが、論文発表の期限が迫っていた。それでES細胞を混入させたのだろう」という仮説を言った人がいる。 しかし、昨年春の騒動のなかで論文撤回に最後まで抵抗し、理研上層部に従おうとしなかった小保方さんのその後の行動を思い出すと、彼女がそのような組織の要請に応じて自分の実験を放棄するとは考えにくい。疑問4 FACSは役に立たなかったのか?  これは非常に専門的な問題である。小保方さんが、Oct4─GFP陽性細胞というあの緑に光る細胞を作製した際、亡くなった笹井氏が記者会見で強調したように、理研の研究者たちはもちろん、それを直ちにSTAP細胞という万能細胞であるとは認識しなかった。死んでいく細胞も同じように緑色に発光することがあるからである。 そこで、理研の研究者たちがその点を確かめるために行った実験の一つが、FACSと呼ばれる実験である。これは、浮遊した細胞を機械で識別する光学的な装置で、こうした細胞を鑑別する際、広く利用される方法である。 笹井氏はこのFACSを使って、小保方さんが作製した緑色に光る細胞が「死んでいく細胞ではないと確認した」と述べていた。笹井氏のこの指摘は間違っていたのだろうか? FACSは死んでいく細胞と万能細胞を見分けるうえで、そんなに無力だったのだろうか? 「捏造」を唱える専門家のなかにも、FACSの信頼性そのものを疑う人は、私がいままで議論した人々のなかにはいなかった。小保方さんはどのようにしてES細胞を入手したのか?疑問5 ES細胞を若山教授の培養条件で生存させることができたのか?  これも、高度に専門的な論点である。正直に言って、私の能力を超えた問題である。だが、これも重要な論点なので、疑問の存在だけは指摘しておく。 小保方さんがマウスから得た細胞はSTAP細胞と名付けられはしたが、小保方さんがマウスから得た段階では増殖能力をもたない細胞であった。それを培養して増殖能力のある細胞に誘導したのは、若山教授とその研究室スタッフである。 仮に、小保方さんが若山研究室に渡した細胞がES細胞であったとすると、若山研究室はそのことを知らずに、つまり受け取った細胞の正体がES細胞であるとは知らずにその細胞を培養したことになる。 ところがその際、若山研究室で培養に用いられた培養液ではES細胞は死滅してしまうという指摘が、理研幹部の一人、丹羽氏から出されている。 つまり、仮に小保方さんが若山教授に渡した細胞がES細胞であったのなら、若山教授はそれらの細胞を培養すること自体ができなかったはずだ、ということになる。 しかし、若山教授は小保方さんから渡された細胞を培養することに成功した。そして、それらの培養した細胞からマウスの胎児を形成することに成功している。 ということは、小保方さんが若山研究室に渡した細胞は、少なくともES細胞ではなかったのではないか? ということになる。 これは、STAP細胞がES細胞だとする主張に対する決定的な反駁のようにも思われる。ただし、この培養液の問題については、ES細胞を問題の培養液で培養することは不可能ではないとする主張もあり、現時点では私の能力を超えた論点である。しかし結論は出されていないので、これも検証されるべき疑問の一つである。疑問6 小保方さんはどのようにしてES細胞を入手したのか?   次に、仮に小保方さんがES細胞を使ってSTAP細胞を捏造したというのであれば、小保方さんはどこからどうやって、そのES細胞を入手したのだろうか。 そのES細胞は若山研究室で管理されていた。ところが、それが小保方さんの研究室の冷蔵庫にあった、とNHKスペシャル(7月27日放送)は伝えた。NHKスペシャルでは、若山研究室にいたことのある元留学生を匿名で電話に登場させ、その留学生に「なぜ、あの細胞がそこ(小保方さんの研究室)にあるのか分からない」という趣旨の発言をさせている。 NHKのこの番組を見た人たちの多くは、この留学生への電話取材を見て、小保方さんが捏造目的でES細胞を若山研究室から持ち出したような印象を持ったのではないだろうか。 ES細胞は若山研究室の厳重な管理下にあったはずであるのに、それを小保方さんが持ち出すことができたのか?  このことについては逆に、報道する側に何らかの作為があったのではないか? つまり、「捏造」を捏造したのではないか、という可能性を指摘する声がインターネット上で見られる。「小保方さんがES細胞を使ってSTAP細胞を捏造した」という主張に対する大きな疑問点となっている。「遺伝子解析」は妥当だったのか?疑問7 「遺伝子解析」は妥当だったのか? 昨年の「捏造」疑惑報道のなかでたびたび」登場した言葉の一つは、「遺伝子解析」であった。そして若山教授の側から、「STAP細胞とされた細胞は、若山研究室から小保方さんに渡したマウスとは遺伝子が異なる」という指摘がなされた時には、私自身、「もしかすると、小保方さんは本当に捏造をしたのか?」と疑ったことを告白する。 ところが昨年7月上旬、小保方さんが『Nature』論文の撤回に同意した直後の報道に私は驚かされた。その「遺伝子解析」は「間違いだったかもしれない」と、若山教授の側が前言を撤回したからである。 小保方さんが論文撤回に同意したら、「偽造の証拠」(?)として持ちだされた「遺伝子解析」は「間違いだったかもしれない」と話が変わったのである。一体、この「遺伝子解析」は何だったのだろうか? これだけではない。「STAP細胞には、ES細胞に多くみられるトリソミーが見られる」という指摘も、いつの間にか曖昧にされている。このように、小保方さんが捏造をしたと主張する側の主張は、特に「遺伝子解析」を巡ってくるくる変わっているのである。 このように主張が二転三転したことをまずかったと思ったのだろうか。12月26日の理研の発表では、もう少し踏み込んだ「遺伝子解析」が発表された。要約すると、STAP細胞とされた細胞は、細胞の遺伝子であるDNAを比較、検討した結果、保存されていたES細胞とDNAが酷似しており、ES細胞そのものであろうと判断される、という「解析」である。 一見、決定的な証拠のように思う人もいるだろう。しかし、この「遺伝子解析」には落とし穴がある。そのSTAP細胞とされた細胞も、保存されていたES細胞も、元をただせばともにマウスから得られた細胞である。その元のマウスが血統上、極めて近いマウスであったとしたら、DNAが似ているのは当たり前である。この点について、12月26日の理研の発表は十分な説明を加えていない。 したがって、「遺伝子解析でSTAP細胞はES細胞であることが判明した」とは言えないのである。この点について、理研はどう説明するのだろうか? 疑問8 検証実験は本当に失敗したのか?  8番目の疑問は、今回の検証実験が本当に全面的な失敗だったのか?という疑問である。 新聞やテレビの報道だけに接していると、一般の人々は今回の検証実験は失敗だった、と思って疑わないだろう。 しかし今回の理研の発表によれば、たしかにキメラの作製には成功しなかったが、小保方さんがスクリーンの前で指さして見せたあの緑色に発光した細胞(Oct4─GFP陽性細胞)自体は、45回試みたうち40回、作製に成功しているというのである。 その先のキメラ形成に成功しなければ、当初、小保方さんらが『Nature』で発表した実験結果の完全な再現にはならないことはいうまでもない。だが、『Nature』の論文で小保方さんが担当したのは、基本的にはマウスから得た細胞を酸処理したところ、Oct4─GFPが活性化し、緑色に光る細胞が見られたという実験の前半部分である。その後のキメラ形成は、若山教授らが分担した実験である。 つまり、小保方さんは自分が担当した部分については、45回中40回、再現することに成功しているのである。それにもかかわらず、彼女が『Nature』で発表した実験結果が何一つ再現できなかったようなイメージが形成されているのは、あまりにも公平を欠いていないだろうか?TCR再構成に関するゲルの加工は小保方さんの意向だったのか?疑問9 TCR再構成に関するゲルの加工は小保方さんの意向だったのか?  私は、小保方さんとその共著者らに、何も批判されるべき点がないと言っているわけではない。すでに昨年の月刊『WiLL』6月号でも批判しているが、リンパ球の遺伝子(DNA)とSTAP細胞とされる細胞の遺伝子(DNA)を比較するために行った電気泳動の画像処理は強く批判されて当然の加工であり、この点に限って言えば「不正」と言われても仕方がない。 この電気泳動の結果は、STAP細胞とされた細胞が、一旦成熟したリンパ球に分化の逆行を起こさせたことを示す証拠として『Nature』の論文に掲載されたものであったが、その重要な個所でゲルの加工があったことは、最大級の批判を受けても仕方がない。 しかしこのゲルの加工は一体、誰の意向で行われたものだったのだろうか? また、このリンパ球の遺伝子とSTAP細胞とされる細胞の遺伝子を比較したこの部分(TCR再構成という現象の有無を確認した作業)にこうした加工があった以上、STAP細胞とされた細胞が、リンパ球を初期化(逆分化)させた細胞である証拠はないことになる。それは指摘、批判されているとおりであり、私もその指摘に異論はない。 しかしそれでも、たとえリンパ球由来である証拠はなかったとしても、小保方さんがマウスの脾臓から得た細胞のなかに、何らかの新しい万能細胞(多機能性幹細胞)が存在した可能性は依然残る。 TCR再構成を巡る小保方さんらの失態をもってSTAP細胞が存在する可能性そのものを全否定することは正しくない、と私は考える。関連記事■ 捏造しても「バレない」科学界の“常識”を問う■ 総括 理研の「闇」 解体論争で見えた深層■ 訂正、謝罪しないのはメディア共通の体質

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    「リケジョの星」に振り回された2014年

    今年1月、ネイチャー誌に論文が掲載されるや、「世紀の発見」と世界中の称賛を浴びたSTAP細胞。「科学界の新星」「リケジョの星」…。注目を一身に集めた小保方晴子氏にとっても、この1年は「天国と地獄」を思い知る日々だった。科学史に残る汚点となったSTAP騒動。一連の問題を改めて振り返る。

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    「理」の受難 感情を善悪に置き換える人々

     今年は「理」の受難の年だったかと思います。理科、論理、理念、道理。理とは「ことわり」と読み、物事の筋道のことです。感情は人によって違うものですが、理というものは誰に対しても常に一定を保ちながら世の中を貫くものです。今年はその「理」にとっては受難の年だったのではないかと思うのです。 たとえば「理科」。これは科学の基本的な筋道を勉強するものです。今年、一人の若い女性科学者がSTAP細胞なるものを発見したと発表し、のちにその過程における不明瞭さや疑念などが指摘され、発見は撤回されるという事態になりました。もちろん科学者とはいえ人間ですから万能でないことは当たり前です。だからこそ彼らには常に厳しく科学的な倫理姿勢が求められます。しかし、世間はもはや科学とは無関係な彼女の私生活までさらしあげ、それが彼女への罰であり社会正義だと言わんばかりでした。あの騒動の中で結局、科学として何が問題だったのかという理科的アプローチで考えた人はどれだけいたでしょうか?漫画「美味しんぼ」の東京電力福島第1原発を訪れた主人公が鼻血を出す描写が議論になった問題で、セリフなど一部表現を変えた単行本が発売=12月10日 そして震災以降相変わらず、放射能に関する間違った知識と差別意識を堂々と口にする人は後を絶ちません。理科の知識よりも、自分の感情と憶測を優先するばかりか、人類が時間と犠牲を費やして育ててきた科学知識ですら陰謀だと主張し、思考停止に陥っています。社会のあらゆる場面で自分の感情が論理の上位概念にくることに何の疑念も感じないというのは、実はとても恐ろしいことだと思います。 理が軽視されたと言えば、年末の選挙はじめ政治もそうでした。野党の多くは「アベノミクス反対」「与党の暴走を止めよ」と訴えていましたが、それで対案はあるのかというと特にありませんでした。とりあえず与党のやることには何でも反対という単なるあまのじゃくです。一般有権者も「とにかく安倍首相が大嫌い」という単純な嫌悪感や、中韓へのマイナス感情から相手を知ることを放棄して妄想の中で巨悪の帝国を作り上げている人まで、実に感情が大手を振って歩いていた気がします。肝心の「日本に必要な政策は何なのか?」という議論は隅っこで地味に膝を抱えていました。 感情を持つことが愚かだといっているのではなく、感情と論理の優先順位は常に一定ではないということです。自分の好き嫌いに過ぎないものを社会的な文脈の中で善悪をつけて語るとき、「相手のことが嫌い(=悪)だからボコボコに殴ってもいいのだ。」と堂々と暴力を振るうことを自分に許すことになります。放射能の危険性を訴えるのは正義だから、福島のことはどれだけ口汚く大げさに罵っても許されるのだと。少し冷静に考えれば、こういう態度が暴力であることはまさに自明の理です。しかし人は善悪という文脈の中で自らの好悪に過ぎない主張を「より安全に」言いたがるものです。私たちが「理性」の力でその誘惑に対して踏みとどまれるかどうか。自戒もふくめて書きました。 来る年には「理」の復権あらんことを期待したいと思います。皆様もよいお歳をお迎えください。

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    魔女より、ありのままの女性に脚光を

     今年は周知のとおり、ほぼ月替わりで大物キャラクターが現れ、マスコミにとっては「豊作年」でした。佐村河内守氏、小保方晴子氏、野々村竜太郎氏、小渕優子氏、アマゾンレビュー炎上の某後妻本……と群雄割拠だったわけですが、やはり凋落の速さからもインパクトからも、第1位は小保方晴子さんだと思います。 私は「北朝鮮ブログ」なんて危なっかしいことをやっていて、時々ウェブ記事も書かせて頂いたりしていますが、本業は某メディアの端くれです。その特権に預かり小保方さんの記者会見にも参加できたのですが、彼女が放つ妖気というか、そのフィールドを“自分劇場”と化してしまう力は尋常ではありませんでした。時々いますね、こういうのを魔女というんでしょう。 実際、同席していた先輩(男性)もメロメロになっており、他媒体の記者からも「あれは許しちゃうよね、うん」などという声が上がっていました。私もすっかり何かに思考を乗っ取られ「許しちゃいましょう。可愛いし」などと戯言を言ったりしました。数時間後に正気に戻りましたが。人間とは愚かなものです。 何かと人や事象をカテゴライズ、ネーミングして語る側面が強い日本のマスコミですが(ちなみにこういう点が北朝鮮と似てます)、いかにも保守的な男性に好まれそうな要素を押さえていた小保方さんも、例にもれず「リケジョ」などと名付けられ物議を醸しました。 マスコミ業界もまだまだ保守的です。私も最近、業界の方に「女編集者なんて女じゃないよ」などと言い切られましたが、気が弱いので「ですよね~(笑)」としか返せませんでした。この業界の男性は同業者の女性を珍獣扱いし、「芸能人に会わせてあげるよ」などを誘い文句に純情な女子を食い散らかし、セフレや風俗嬢を陰でビッチ呼ばわりしておきながら、自分の嫁だけはちゃっかり良妻賢母でおまけに美人で元CAとかだったりする確率が高いですからね(私調べ)。年代にもよるけど。 そんななか、女性お笑いコンビの「日本エレキテル連合」さんが、2014年の流行語大賞を受賞したことは、二つの意味でパラダイムシフトと思える出来事でした。 夏に彼女たちのライブを見たとき、ようやく実力のある女性芸人が現れたと感じました。「女芸人は売れない、つまらない」というのはもはや幻想であると。これが一つ目。 二つ目。ありのままでいいんだって証明したこと。「アナと雪の女王」のパクりになるようで嫌なんですが…… 彼女たちは世間一般で言うところの「アラサー」で、「もうそろそろ結婚を……」などと言われる年齢です。しかし結婚に足る高スペック男性の恋愛対象になるためにひたすら努力するような世界では、彼女たちは勝ち抜くことが難しいかもしれません。実際に、そのような立場から考えついたと思しきネタもあります。私もイケメンに好まれざる女の一人として、彼女たちのネタや目のつけどころには共感できる部分が多いです。  しかし小保方さんが女子力で理研のオジさんたちに気に入られ、コピー&ペーストでチョチョイのチョイとやっていた一方でエレキテル連合さんは愚直にコントを追求し続け、毎日一本ずつネタ動画をアップすることをやめませんでした。彼女たちは、売れてきた途端に化粧が濃くなったり、「女」の部分を出し始める他の女性芸人とは違うものを感じます。 残念ながら実社会ではそのような個性やストイックさが女性としての評価に繋がることは少なく、「ゆるふわ」、「アラサーまでに結婚」、「エロい」、「男のわがままを笑って受け入れる」など固定化されたイメージに沿わない場合は人格や才能まで否定されてしまうケースが多いです。女性社長や女性個人事業主にも「女性ならではの視点を生かして」などとプレゼンする人が非常に多いですが、そのようなことを打ち出さず、言わば「無属性」のままで成功した女性に対しては「女を捨ててる」、挙げ句の果てには「ブスだからその分頑張ったんだろう」などと邪推されるわけです。 なので、最後の最後にエレキテル連合さんのような存在が脚光を浴びて本当に良かったと思っています。来年も、「女子力」もなく、可愛らしい「リケジョ」にもなれないような女性たちがありのままに、正当に評価されることを願ってやみません。まあ「北朝鮮ライター」などという謎属性の私には縁のない話なんですが。せめて婚活くらいは成功したいです。

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    STAP騒動から何を学ぶべきか

     12月26日、理研は記者会見し、「STAP細胞はES細胞の混入」であったと発表した。また、小保方晴子元研究員らが、『ネーチャー』の論文で発表した図や表の多くで、オリジナルデータが存在せず、実験自体が本当に行われていない可能性に言及した。今回の理研の調査で、ES細胞を混入させた人物については同定できなかったようだが、STAP細胞の研究は振り出しに戻ったことになる。 2014年1月29日、小保方氏が割烹着お姿で記者会見してから、一年弱でSTAP細胞研究は、世界の科学史に残る不祥事となってしまった。我が国の科学界の信頼を大きく損ねたことになる。 今後、小保方氏や他の研究員の理研内部での処分、研究費不正使用に関する民事責任が検討される。さらに、今回の記者会見により、理研だけでは真相究明が出来なかったことが明らかとなったので、世論次第では「偽計業務妨害」などの理由で刑事告発される可能性もある。 一体、STAP細胞騒動とは何だったのだろう。我々は、この事件から何を学べばいいのだろうか。 私にとっても、この事件は人ごとではなかった。合計68本のテレビ番組に出演し、コメントした。テレビでコメントする私の姿が、雑誌の4コマ漫画で取り上げられたこともあった。勿論、生まれて初めての経験である。 きっかけは、3月10日にテレビ会社に勤める知人からかかってきた電話だ。 「専門家が誰もコメントしてくれず、頼れる人がいません。(テレビで)話してくれませんか」。 勿論、知人の要求は分かっている。小保方氏を批判して欲しいのだ。 この方には、これまで随分とお世話になっていた。無碍に断るわけにはいかない。 番組の反響は、私の予想を超えていた。小保方氏を批判すると、大学や研究室に電話が殺到したのだ。お叱りの内容は「小保方さんを苛めないで」から、「日本の国富を流出させるのか」まで多岐にわたった。 同時に、他局からも出演依頼の電話が殺到した。よほど、コメントしてくれる専門家がいなかったのだろう。当時、マスコミで小保方氏を批判すれば、世間の反発を受けるのは明らかだった。多くの研究者が引き受けなかったのは無理もない。 実は、私がテレビ出演を決めた理由は、旧知のテレビ関係者への義理からだけではない。ボストン時代の小保方氏を知る女性研究者から、色んな話を聞いていたからだ。 彼女は誠実な研究者だ。私は彼女の情報を信用した。後日、様々な報道を通じて明らかになった事実とも符合する。 ここで全てを書くことはできないが、彼女は「小保方さんが実験している姿はあまり見たことがない」と言い、「彼女はまともな研究者ではない」と強調した。 さらに、彼女が言った「小保方さんのような女性研究者が出ることで、真面目に研究している女性たちが被害を蒙る。なぜ、男の先生方は、すべて真に受けてしまったのでしょう」という言葉が印象に残った。いまこそ、社会に意見を言わねばならないと思った。 STAP細胞騒動では、大勢に被害者が出た。故笹井芳樹氏は勿論、理研、早稲田大学、ハーバード大学の指導者たちは、世界の科学界から信頼を失ってしまった。理研の再生科学総合研究センター(CDB)の予算要求は対前年比で45%減だという。多くの雇用が失われる。 論文盗用やデータ改竄について、小保方氏本人にどの程度罪の意識があったかはわからない。ただ、小保方氏の周囲にいる大勢の男性が不幸になったことは間違いない。案外、年老いた豊臣秀吉を振り回した淀君もこんな感じだったのかも知れない。 では、このような事件の再発を予防するには、どうすればいいだろうか。現在、理研はガバナンスの再構築について議論を進めている。ただ、この議論で抜け落ちているのは、「研究者も人間である」という視点ではなかろうか。人は欲もあれば、色も好む。皆さんも信頼する女性の部下が画期的なデータをもって来たら、どの程度、批判的に吟味できるだろうか。私には自信がない。 前出の女性研究者は言う。「日本は女性研究者の登用が遅れている。もし、女性の部長が一人でもいて、彼女の論文をチェックしていたら、こんなことにはならなかった。」確かにそうだろう。小保方氏に振り回されたのは、全て著名な男性研究者ばかりだ。 昨今、安倍政権はウーマノミクスと言って、女性の登用に熱心だ。ところが、我が国の女性研究者の割合は約12%(07年現在、総務省発表)で、欧米先進国の30-40%と比較してはるかに低い。理研に関しても、6人の理事の中で女性は一人だけだ。このことには、色んな理由があるだろう。ただ、今こそ、STAP細胞事件を小保方氏個人や理研の組織の問題に歪曲せず、日本の科学界での人材登用にまでひろめて議論すべきではなかろうか。

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    STAP問題の本質は何だったのか

    日本の科学界を揺さぶったSTAP騒動。研究不正と捏造、博士号の信頼性、日本トップだったはずの理化学研究所の迷走……。STAPが突きつけた問題の本質は何か。

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    捏造しても「バレない」科学界の“常識”を問う

    al biology.(発生生物学におけるコペルニクス革命のようなものだと言っても過言ではない)」 STAP細胞の論文の著者の1人で理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長が理研のホームページに載せた文章の一部だ。マウスの細胞を酸性の液体に浸すだけで、体のあらゆる組織になる万能細胞に変化する。地動説という歴史的発見と比べられるほど衝撃的な内容だった。 1つ1つの細胞は本来、体のあらゆる細胞になる遺伝情報を持っている。しかし、受精卵から分裂を繰り返して筋肉や皮膚などに分化したあとは、他の種類の細胞になるための遺伝情報はロックされる。このロックがはずれ、受精卵のときのようにどんな種類の細胞にもなれる状態に戻ることを「初期化」と言い、人為的に起こすのは難しい。 初期化された細胞は多能性細胞とか万能細胞と呼ばれる。有名なのは、京都大学の山中伸弥教授が作ったiPS細胞で、分化した細胞にいくつかの遺伝子を入れることで強制的に初期化を引き起こした。それに比べて酸性の液体に浸すだけ、という手法のシンプルさがSTAP細胞の特徴だとされた。 「将来は、病気やけがで失われた手足が生えてくるようになるかもしれない」 論文の筆頭著者の小保方晴子研究ユニットリーダーは、1月28日に開かれた成果発表の記者会見で〝夢の細胞〞の可能性を語っていた。 しかし、事態は急展開する。実験データがおかしいと指摘する声が相次いだことから理研が調査したところ、数々の問題が発覚。論文発表からおよそ2か月後、理研の調査委員会は論文の核心部分のデータが捏造であると認定した。 「未熟な研究者が起こした問題だ」 理研の野依良治理事長は、記者会見でこのように述べ、小保方氏の責任の重さを強調した。調査委に不正を問われたのは小保方氏だけで、笹井・若山両氏については関与はなかったとされた。画像の捏造などわかりやすい「研究不正」だけを調査対象にしたからだ。しかし、STAP騒動の闇はもっと深い。ずさんな実験放置する第一人者 理研側の説明によれば、小保方氏には今回の論文を書くだけの経験や技術はなく、『Nature』や『Cell』などのトップジャーナルへの掲載回数も多い笹井氏が全体の構成を組み立てたとしている。その論文を丁寧に見ていくと、1つ1つのデータを慎重にチェックすべき笹井氏が、データがあいまいなまま成果を誇張していたのではないか、という疑問が浮かび上がってくる。 小保方晴子氏らは『Nature』論文で、酸性の液体に浸して作ったSTAP細胞の存在を3段階にわけて証明した。万能細胞で特徴的なOct4と呼ばれる遺伝子が働いているかを確かめたのが第1段階。細胞を試験管などで培養したり、マウスの皮膚の下に移植したりして、体のいろいろな組織に変化するかを調べたのが第2段階。第3段階は細胞がマウスの全身の組織に変化するかを調べた。 問題になったのは、第2段階の実験の写真。皮膚や筋肉、それに腸の細胞として掲載された3組の写真(写真A)のうち下段3枚が、3年前の小保方氏の博士論文に「細い管を通す刺激によって作った細胞」として掲載している写真(写真B)の下段3枚と酷似。酸と細い管では、実験方法が全く異なる。小保方氏はミスと主張するが、調査委員会は、写真は「STAP細胞の多能性を示す重要なデータ」で、「実験の方法の違いを認識せずに使ったという小保方氏の説明を納得するのは困難」だから、捏造と認定した。小保方氏から提供された細胞でマウス実験を行っていた山梨大学の若山照彦教授は「自分が行っていた実験が何なのかわからなくなった」と漏らしている。 まず疑問なのは、いったん分化した細胞を人工的に初期化できたのか、という論文の根幹部分の証明があいまいなことだ。体内には、分化する前の万能性のある細胞がわずかに存在するという報告があるた め、それをSTAP細胞と誤認していないことを証明する必要がある。 論文によれば、この証明にはT細胞と呼ばれるリンパ球の一種が使われている。T細胞が働く際には「TCR再構成」と呼ばれる特有の現象を起こす。仮にT細胞が初期化され万能細胞に変化したとしてもこの現象の痕跡は残るため、T細胞から作ったとされるSTAP細胞や、STAP細胞から作ったマウスでTCR再構成の跡が見つかれば、初期化が成功したことを証明できる。 しかし論文を読んでも、STAP細胞を含む細胞の固まりで確認されたというデータがあるだけで、STAP細胞自体にあったかどうか、よくわからない。さらに、STAP細胞から作ったマウスのしっぽの細胞で調べたという記述はあるが、具体的な実験データは載っていない。にもかかわらず、成果発表の記者会見で笹井氏はこう述べた。 「間違いなく分化した細胞からできている」 不正疑惑発覚後の3月5日に公表されたSTAP細胞作成の手順書には、驚くべき事実が書かれていた。STAP細胞を変化させたSTAP幹細胞にはTCR再構成の跡は確認できなかったというのだ。 ある免疫学の専門家は「分化した細胞からSTAP細胞ができたという証拠はどこにもない。初期化説は危うくなった」と厳しく指摘する。 論文をめぐっては、ほかにも、実験の結果がはっきり出ないような種類のマウスや、細胞の識別法が選択されているといった問題が指摘されている。この分野の第一人者である笹井氏がこうしたずさんさを認識していなかったとは考えにくい。 理研の調査委が小保方氏に実験の詳細を記した「実験ノート」の提出を求めたところ、3年間で2冊しかなかったという。日付も含め、記述は断片的、かつあいまいで石井俊輔委員長は、「数十人指導した経験があるが、これまでに見たことがない」というような内容だったそうだ。笹井氏は「研究者の命」とも言われる実験ノートすら事前に確認していなかったのだろうか。成果の誇張再現性の軽視 成果発表の記者会見では、理研のプレスリリースとは別に、笹井氏からA4の資料が配られた。題名は「STAP細胞が明らかにした新しい原理の補足解説」。問題なのは、iPS細胞と比較した内容だ。 資料には、STAP細胞の作成にかかる期間は2日から3日、作成効率は30%と書かれている。一方、iPS細胞は、作成期間が2週間から3週間、作成効率は0・1%。iPS細胞と比較して短期間に効率よく作ることができる、ということを強調した内容だった。 しかし実は、ここに書かれたiPS細胞のデータは、iPS細胞が初めて作成された8年前のものだった。5年前にはすでに作成効率は20%まで向上。昨年には、イスラエルのグループが7日間で100%の作成効率を実現したとするなど、状況は一変している。幹細胞研究では世界トップレベルと言われる笹井氏がそのことを知らないはずはなく、研究成果を誇張する目的だと指摘されても言い逃れできないだろう。 理研は、山中教授らからの指摘を受け、「誤解を招く表現だった」として謝罪。この資料を撤回することを明らかにした。科学者にあるまじき無責任さが、ここにも見え隠れする。  今回の研究における最大の問題は、実験結果が本当に正しいのか、発表前の確認が不十分で、疑惑発覚後も適切な検証をやろうとしないことだ。  科学の分野では、研究成果が他の研究機関で同じように再現できるか確認されて初めて成果として認められる。そのため、再現性の確認は重要なプロセスだ。「コペルニクス革命」「iPSを超える」と発表するレベルの研究なら、「研究成果を発表する前に研究室の責任者などが、別の研究者に同じ条件で実験をやらせて再現できるか何度も確認するのが普通」という声もある。実際、山中氏は何度も実験を繰り返して徹底的にデータをとり、確証を得てからiPS細胞の発表を行ったという。 そもそも共同研究者は性善説に立ち他の研究者を疑わないという文化がある。加えてSTAP細胞の研究は、情報の漏えいを防ぐために研究内容が秘密にされていたようだ。しかし、そうした事情はあっても、若い研究者を教育し、研究を主導する立場にあった笹井氏が、実験を小保方氏一人に任せきりにして一切同席しなかったのは理解に苦しむ。 不正疑惑の発覚後も、小保方氏の実験の様子を公開すれば、STAP細胞が作成できるかどうかすぐにわかるはずだがそうしない。それどころか、小保方氏が単独で再現実験を行い、3つある段階のうち(11頁の図の説明文参照)、第1段階までしか成功していないにもかかわらず、理研は一時「再現に成功した」と発表していたのだから聞いて呆れる。無責任の連鎖 専門性と権威の壁 ずさんな実験内容や検証の怠慢。そして成果の誇張。問題を引き起こしたのは、こうした無責任の連鎖ではないか。そしてその連鎖は研究グループ内にとどまらない。 理研は3月14日の中間発表で、「STAPの真偽は科学界の検証に任せたい」と繰り返したが、「疑惑のかかる論文の検証を第三者が金と人をかけてやると思うのか」と記者に指摘され軌道修正。最終報告では、1年間かけてSTAP細胞が存在するかどうかをゼロから実験する計画を明らかにした。 しかし、この計画、よく見ると論文の実験プロセスとは異なる方法でSTAP細胞ができるかどうかを確認しようとしている。これでは、再現ができてもできなくても、論文で書かれたSTAP細胞が本当は何だったのか、疑問が残ったままになってしまう。 前述のとおり、体内には分化する前の万能性ある細胞がもともとわずかに存在するとされていて、それが酸性の液体に浸すことで選び出された可能性。さらに、受精卵から作られるES細胞など他の万能細胞が実験中のミスで紛れ込んだ、または意図的に混入された可能性も指摘されている。実際、公表されているSTAP細胞の遺伝子データを分析したところ、ES細胞に非常に近いという結果が出た、という情報もある。インターネット上では、この1か月ほど、STAP細胞が存在するのかを巡ってさまざまな議論が行われていた。 理研は最終報告を公表した記者会見で「すべての実験プロセスを検証する必要はない」とコメントしたが、「無責任ではないか」という記者からの指摘を受け、「やるつもりだ」とここでも前言を翻した。しかし、どういった手順で何を調べ、いつまでに結果を出すのか、具体的な計画は明らかにされていない。その上、検証に不可欠なはずの実験データや試料の確保が十分できているか疑わしい。 調査委員会が小保方氏らに研究室の出入りを禁止し、証拠の保全を行ったのは、予備調査の開始から1か月がたった3月13日。研究室に残された画像の中には、元になった試料がなんなのか特定できなかったものもあるという。実験ノートが3年で2冊というのも驚きだが、調査委が実験ノートの提出を求めたのが3月19日というのはもっと驚きだ。対応が遅すぎるのではないか、という指摘に対し、石井委員長は「研究不正の判断にはこれで十分」という説明を繰り返すだけだった。 「問題の全容を解明せず、なぜ再発防止策が立てられるのか」。 記者からの質問に対し、理研側から明確な回答はなかった。 分子生物学のある研究者は、「結局、研究成果に問題があっても、誰も指摘しないし、不正が明らかになることはほとんどない」と話す。STAP細胞の論文が掲載された『Nature』の採択率はわずか数%ほど。数ある科学雑誌の中でも狭き門の1つだ。 しかし、『Nature』のシステムは、論文の審査を行う専門家の人選について著者側が希望する人、しない人を伝えられる仕組みになっている。トップジャーナルといえども、不正や内容の厳密なチェックは期待できないのが実情だ。 さらに生き物を扱う生物学では実験の条件を厳密に揃えることが難しいこともあり、ほかの分野に比べ、実験結果を他の研究機関が再現できないケースが目立つという。例えば、ある製薬会社が実施した調査では、医学と生物学の論文の70%以上が再現できないという結果だった。再現ができない理由が検証されないため、不正は見つからず、論文の著者の責任が問われるケースはまれだ。 「専門性が高いので、専門家でなければ問題に気づくのは難しく、簡単にはバレない。見て見ぬふりをする無責任な体質は、科学界全体に蔓延している」と前述の研究者は話す。製薬業界でも相次ぐ不正  専門家の無責任さは、命や健康にかかわる医学の分野でも問題になっている。昨年から今年にかけ、武田薬品工業とノバルティスファーマがそれぞれ販売している高血圧の薬の効果を調べた臨床研究で、相次いで不正が発覚。武田薬品工業の薬「ブロプレス」の効果を調べた臨床研究で、広告に使われた研究結果を示したグラフが、論文のものに比べて武田の薬に有利なように書き換えられていた疑いがあることが今年2月、明らかになった。 研究は京都大学が中心となって行われた。広告では、書き換えられたグラフを元に、研究グループのメンバーや当時の日本高血圧学会の幹部らは広告でブロプレスの有効性を強調。「長期間使うと効果が高い」などと、研究結果と異なる発言を繰り返していた。研究グループの1人は、「広告の内容は誤りで、事前にきちんと確認すべきだった」と、メディアの取材に対し率直に責任を認めた。現在、厚生労働省などが調査を進めている。武田薬品工業が販売するカンデサルタン(商品名ブロプレス)と、従来使用されてきたアムロジピンの心疾患系イベントの発症抑制効果を比較する臨床試験(CASE-J試験)について、2006年の同じ学会発表で異なる2つの図が登場した。上図Cは追跡期間36カ月でカンデサルタンの線がアムロジピンの線を下回り、再び戻ることがない。長期服用すればカンデサルタンが優れている可能性を示す「ゴールデンクロス」として、14年3月に武田の長谷川閑史社長が謝罪会見するまでの約7年間、プロモーション活動に使われた。しかし実際のデータは図Dであり、36カ月でカンデサルタンの線がアムロジピンの線を下回るものの39カ月で再び上回り、カンデサルタンの優位性は明らかではなかった。(出所)京都大学医学部附属病院・由井芳樹氏の分析をもとにウェッジ作成 また、ノバルティスファーマの高血圧の薬「ディオバン」を巡る臨床研究では、研究を行った京都府立医科大学の調査の結果、結論部分につながるデータが、ディオバンの効果が高くなるように操作されていたことが判明している。 2つの研究の資金はいずれも製薬会社側が負担した。研究の実施と平行して2つの薬の売り上げは増加。これまでの売り上げは、国内だけでいずれも1兆円を超えている。 「都合の良いデータになるようデータやグラフを少し変える。広告の記事や講演会で、自社の薬の良さを大げさに表現してもらう。製薬会社はそれを期待して医師に金を払い、医師が応える、ということが常態化している。『少し』なら許される、という共通認識が問題の背景にあると思う」とある製薬会社の元社員は話す。 実は、2つの研究を巡っては、発表された当時から、問題点を指摘する声が一部の専門家から挙がっていた。しかし、その指摘はほとんど検証されることなく、研究結果はさまざまな広告や診療ガイドラインに掲載され、薬は売れ続けた。 当初から2つの研究の問題を指摘していた、臨床研究適性評価教育機構の桑島巌理事長は「この2社の薬はライバル関係にあるため、よりいいデータを得たいという思惑が働き、不正につながった可能性もある。自分が問題点を指摘しても取り上げられないどころか、強く反論され、学会にまで抗議され、まともに議論もできなかった。専門家の自律など全く機能していない」と話す。 2つのケースは氷山の一角だとする指摘も多く、「追及がほかの臨床研究に広がらないか、各製薬会社は戦々恐々としている」(前述の製薬会社元社員)。データよりも、自分や組織の利益を優先する。そこには科学とはかけ離れた〝常識〞があった。無責任では済まされない 科学研究の不正は、社会に大きな影響を与える時代になっている。アメリカの研究機関の調査によれば、1つの研究論文の不正によって生じる損失は5000万円あまりにのぼるという。薬の効果を偽ることが患者の健康や医療費に影響を与えるのはもちろんだが、STAP細胞のような基礎研究の分野の不正も、発覚しないまま莫大な研究予算とリソースがそこに投入され、大きな損失を生む可能性が高まってきている。 特に再生医療は国の成長戦略の一環として重要視され、各地に産学連携の拠点も設けられている。民間でも大企業やベンチャーが製品開発にしのぎを削り、経済産業省がまとめた報告書によれば、2012年に90億円あまりだった市場規模は、30年には1兆円にまで増える見込みだ。 捏造が発覚しないままだと、それを研究テーマにした他の研究者がキャリアを棒に振ってしまうという問題も起こる。研究論文の捏造事件で有名な、アメリカ・ベル研究所のヘンドリック・シェーンの事件では、捏造された論文を元に世界の100以上の研究機関が研究を行い、少なくとも10億円以上の研究費と多数の研究者のキャリアが無駄に費やされた。日本で同じことが起こらない保証はない。   4月9日、小保方氏は記者会見で「実験は確実に行われていて、私は決して悪意をもってこの論文を仕上げたわけではない」とミスであることを強調し、理研に再調査を求めた。さらに「STAP細胞の作成には200回以上成功」と主張したが、本稿で見てきたようなずさんな実験を何回繰り返したとしても、STAP細胞の存在が証明されるわけではない。小保方氏が主張する「実験の成功」を裏付ける新たな事実が会見の中で示されることはなかった。 社会と科学の距離が近づく中で、問われているのは科学者としてのあり方だ。専門性の陰に隠れ、ずさんな研究を行い、検証を怠り、結果を誇張するような問題が続けば、研究の自由を奪ってでも、規制や監視を強めるべきだという声が高まることは避けられない。科学者らしい態度とはなんなのか。一連の問題は、科学技術立国を掲げる日本に、重い問いを投げかけている。

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    総括 理研の「闇」 解体論争で見えた深層

    造や改ざんを認定したあとに、次々と明らかになった深刻な疑義について本部は悉く隠蔽を続けた。 例えば、STAP細胞が全身だけでなく胎盤にもなる特殊な細胞である根拠として、論文に掲載されている2枚のマウスの写真(図1)。一方はSTAP細胞から、もう一方は比較のために胎盤にはならないとされるES細胞(既存の万能細胞)から、それぞれ作ったとしていたが、実際には2枚とも同じ種類の細胞を使ってできたマウスの写真だったことがわかったのだ。この事実はCDBの内部調査で判明したが、本部はマスコミが報じるまでこうした調査を行っていること自体明らか。 さらに、インターネット上で公開されている細胞の遺伝子データの分析によって見つかった疑義が相次いで報告された際にも、本部は同様の対応をとっている。 論文には、3種類の細胞の作成に成功したと書かれている(図2)。生後1週間のマウスの細胞を酸処理して作られたSTAP細胞。この細胞は胎盤にもなる能力を持っているが、増殖することはないとされた。2つ目は、STAP細胞から作られたFI幹細胞。胎盤になる能力に加え、STAP細胞にはなかった増殖する能力も持つとされた。そして3つ目は、同じくSTAP細胞を培養して作られるSTAP幹細胞だ。STAP細胞とは異なり胎盤にはならないが、増殖する能力を持つ。 遺伝子解析の結果、この3つの細胞はいずれも既存の全く別の細胞だった可能性があることがわかったのだ。 分析を行ったのは、神奈川県横浜市にある理研統合生命医科学研究センターの遠藤高帆上級研究員らのグループ。分析の結果、まずSTAP細胞の遺伝子データに8番目の染色体が通常より1本多くなる「トリソミー」と呼ばれる異常があることを突き止めた。8番目の染色体がトリソミーを起こしたマウスは胎児の段階で死んでしまい、通常生まれてこない。「生後1週間のマウスの細胞から作った」とする論文の記述と矛盾する結果だった。 遠藤氏らはさらに、FI幹細胞の遺伝子データにも不審な点があるのを見つけた。この細胞は遺伝子の特徴から、胎盤以外の細胞に変化するES細胞と、胎盤になる能力を持つ既存の幹細胞であるTS細胞が9対1の割合で混ざったものである可能性が高いことがわかったのだ。 同じ頃、千葉市にある放射線医学総合研究所の分析により、研究室に残っていたSTAP幹細胞8株はいずれも元となったSTAP細胞とは遺伝子の特徴が異なっていることも判明している。この細胞の正体は未だにわからないままだ。図2:STAP細胞の正体は既存の幹細胞である可能性が高い 実は、この3つの調査結果は1枚のペーパーにまとめられ、6月上旬に本部に報告されている。作成したのは、論文の著者の1人で山梨大学の若山照彦教授。この3つの調査結果を論文撤回の理由書に書き込み、共著者と理研の同意を得て『Nature』の編集部に送ろうと考えたためだ。 しかし、この理由書に竹市センター長とCDBの笹井芳樹副センター長は猛反発した。結局、編集部には、笹井氏が作成した「疑義が指摘されたため撤回する」という簡単な理由書が提出され、理研はSTAP細胞の存在を揺るがすこれらの調査結果を自ら公表することはなかった。リスク管理なき“賭け”の代償 今回の問題が根深いのは、問題が生じるリスクをCDBは事前に把握できたと考えられるからだ。それは小保方氏の採用過程に現れている。 改革委員会の提言書によると、CDBの中で小保方氏の採用を強く働きかけたのは、当時副センター長だった西川伸一氏だという。西川氏は論文の共著者であるハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授から依頼を受け、1年半ほど前から小保方氏に実験や論文の構成のアドバイスを行っていた。 西川氏は、12年の10月に理研が新しい研究者を国際公募した際、小保方氏に応募を促したという。さらに、小保方氏に推薦書など必要書類の提出がないまま面接を受けさせる特別待遇を許した上、人事委員会に内定を働きかけたとされている。小保方氏は当時、論文発表の実績はほとんどなかった。「公募には40人あまりが応募し、書類選考で5人に絞られた。有名な雑誌に論文を何本も掲載している候補者がいた中、実績がほとんどない小保方氏が通ったのは西川氏の強力な推薦があったからだろう」とCDBの関係者は話す。これでは出来レースと受け取られても致し方ない。 なぜ、採用を急いだのか。人事委員会での選考後、竹市センター長は採用の最終決定を行う本部の理事会に小保方氏を推薦している。その際、竹市センター長が野依良治理事長に送った文書には、STAP細胞への期待として、iPS細胞はガン化のリスクを排除できないため、新しい手法の開発が急務であると書かれていた。改革委員会は、一連の採用過程を「俄には信じ難い杜撰さ」とした上で、「iPS細胞研究を凌駕する画期的な成果を獲得したいとの強い動機に導かれて小保方氏を採用した」と指摘している。 東京大学医科学研究所の上昌広特任教授は理研のガバナンスの問題について、次のように話す。「実績はなくても、アイディアに秀でた若手を抜擢すること自体は悪いことではない。しかし、そうしたハイリスクな採用を行うのであれば、リスクを慎重に見極め、通常にも増して注意深く対応する責任が生じるのは当然」   小保方氏の採用は、実績のないベンチャー企業への投資のようなものと言える。そうしたハイリスク投資を行うなら、リスクの把握のための情報収集や、リスクが発現した場合も全体の収益を大きく棄損しないように手を打つのが普通だろう。小保方晴子氏と今年8月に自ら命を絶った理化学研究所の笹井芳樹氏 竹市センター長らは、実績がほとんどない小保方氏を研究内容が魅力的だという理由だけで、実績のある他の研究者に優先して採用した。にもかかわらず、リスクを把握するための情報収集をほとんど行わず、採用後も何ら監視の目を行き届かせる機会を設けなかった。 そして決定的なのは、不正が明らかになったあとの対応だ。理研にしかできない実験室封鎖や証拠保全を行わない。会見では「STAPの真偽はサイエンスコミュニティーに任せる」と言い募る。極めて限定的な研究不正だけで事態を収拾させようとし、事実関係の解明を求められても、別の再現実験でお茶を濁す。次々明るみになる疑惑には、常に正面から向き合わず時間を浪費した。社会的責任を理解できない科学者たち 小保方氏の採用に深く関わった西川氏は、改革委員会の提言をみて周囲にこう漏らしたという。 「小保方さんの採用に責任など感じていない。捏造する人を選んだことで責任を問われるなら、研究不正をした研究機関は全て解体のはずだ」 解体論をめぐる議論の中で浮かび上がってくるのは、不正が認定され、STAPの存在が揺らぎ、組織的な隠蔽を指摘されて社会から強い非難を受け続けているにもかかわらず、社会的な責任について理解すらできていない科学者の姿だ。一般社会と科学者たちの断絶は絶望的と言っていいほど深い。科学者や研究機関の社会的な責任について、想像したことすらないだろう西川氏や理研の幹部に、この先何を求めればよいのか│。 7月2日、『Nature』に発表された2本の論文は正式に撤回された。『Nature』編集部は複数の深刻な間違いが見つかったことがその理由だとしている。世界的に注目を集めた研究成果は発表からわずか5カ月で白紙に戻った。撤回に際して、論文の共著者の笹井氏はこんなコメントを公表した。 「共著者として痛切に後悔し反省しております。STAP現象全体の整合性を疑念なく語ることは現在困難であると言えます」 理研は、今後示すとしている改革の実行計画の中で、「解体」をどのように扱うだろうか。

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    小保方晴子が開けたパンドラの箱 アカデミアの不都合な真実

    保証すること。リーダー的立場の大学が輩出する人材の質が粗悪なら、他は推して知るべしと見られるからだ。STAP細胞論文の疑義に対する調査の中間報告で、記者の質問に耳を傾ける理研の野依良治理事長=2014年3月 この保証があってこそ、学位を取得した日本の研究者が世界の場で自信を持って活躍できる。この日本のリーダーとしての責務と、民事裁判で縺れたくないといういわば組織防衛の責務とは相いれ難い。  この2つの責務をかかえた中で、早稲田の首脳は後者を優先した。今後同大でPh.D.を取得していく者の利益より、過去にPh.D.を取得した者の利益を守ったのだ。 確かに、今回の結果は、乱発された学位を持つ多くのPh.D.に安堵を与え、さしあたりの平和は保たれたように見える。しかし、今後、早稲田はどのような手立てで失地を取り戻そうとするのだろうか。小保方氏によってたまたま、不都合な真実を持ち込まれる先となってしまった早稲田の大人たちは頭をかかえているに違いない。 小保方氏は日本のアカデミアのパンドラの箱を開けた。たくさんの低品質の学位が乱発され、今も乱発されていること。そして、研究機関が、共同研究・知的財産等の多くの近代的問題を抱える中で、その管理に必要な訓練・経験を積んだ人材を育てていないこと。この2つの不都合な真実に我々はどう向き合っていくべきなのだろうか。 理研の改革に携わる者が直面する難題を解決できるような成熟した環境をつくっていくために、我々自身にも取り組むべき課題があると思われる。

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    小保方晴子氏の学位取り消し 早大に批判が相次いでいる理由

    名門・早稲田の権威は地に堕ちた。早大は10月7日、小保方晴子氏の学位を取り消すと発表。しかしこの決定に批判が相次いでいる。「おおむね1年間の猶予期間を設ける」条件を付けたからだ。  猶予期間中に論文内容を訂正し、再度の指導や研究倫理教育を受けるなどの条件を満たした場合、博士号は維持されることになる。早大大学院で小保方氏とともに博士号をとった研究者はこの決定を重くみる。  「断固たる措置なら即取り消しのはず。これを機に安易に授与する博士論文を抜本的に見直すべきだった」  前回7月の会見では、「不正はあったが故意ではない」として「学位は取り消さない」と発表した早大だったが、内部の反発を受けて再調査を決定し、大学を挙げて3か月かけて「慎重に協議を重ね」(早大の会見配布資料)出した結果が「小保方氏次第」という責任丸投げだった。  週刊ポスト 2014年10月24日号関連記事■小保方氏の博士論文に早稲田大「不正は故意ではない」と判断■小保方晴子氏 黒塗り「個人タクシー出勤」は以前と変わらず■小保方氏 「ポエム」実験ノート原因で海外のオファー頓挫か■小保方氏の検証実験「成果ないことの確認作業」と理研関係者■小保方氏会見 現場では「カワイイよ、オボちゃん」の声出た