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    地下350メートルの世界 「核のごみ」はどう処分するのか

     地下350メートルとは、いったいどんな世界なんだろう。あの日本のシンボル、東京タワー(高さ333メートル)がすっぽり入る深さである。そんな地下奥深くで今、わが国のエネルギー政策の「未来」にかかわる壮大な実験と研究が続けられているのをご存じだろうか。現役大学生の論客、山本みずきとともに、北海道にある研究施設を訪れ「核のごみ」の最終処分について考える。 その場所は、北海道最北の地、稚内市から南へ約50キロ、酪農が主産業という幌延町にあった。施設の名称は「幌延深地層研究センター」。原子力発電所から出た使用済燃料を再処理した後に発生する高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下深くに埋めて処分する「地層処分」の技術に関して、国立研究開発法人「日本原子力研究開発機構」が平成13年からこの場所で調査研究している。幌延深地層研究センター(北海道幌延町)提供:日本原子力研究開発機構 敷地面積19万平方メートルという広大な丘陵地に、2棟の研究施設と地下に通じる3本の立坑、ハコ型の排水処理施設、道路を挟んで少し離れた場所には掘削時に出た土を盛り土にしたズリ置き場がある。町の中心部からは4キロ離れているが、隣接地にはトナカイ観光牧場もあり、北海道の大自然を肌で感じられるイメージ通りの場所である。 今回は地下施設の取材ということで、さっそくヘルメットと長靴、軍手とつなぎ服に着替え、センター西側の立坑へ向かった。定員11人の工事用エレベーターに乗り、いよいよ地下350メートルの最深部へ。安全確保のため、鉄柵のゴンドラがゆっくりと動き出す。エレベーターの明かりを消すと、真っ暗闇の世界が広がる地下へと吸い込まれていく。息をのむような静けさと暗闇が緊張感をさらに増幅させる。到着までの4分30秒という時間がいつもより長く感じたのは気のせいか。ほぼ同じ高さの東京タワーを上ったときとは、まるで異なる感覚だった。 最深部へ到着し、エレベーターを降りると、そこは奥へと続く半円状のトンネル「水平坑道」の入り口だった。坑道の幅は約4メートル、高さは約3メートル。3本の立坑を「8」の字を描くように横に結んでつながっており、総延長は約800メートルにもなるという。ここでは坑道の掘削が周辺の地層や地下水に与える影響などを調査するほか、地震による長期的な影響の観測や、高レベル放射性廃棄物の処分を想定した模擬実験なども行う。エレベーターで地下350メートルへ。案内して頂いた日本原子力研究開発機構の棚井憲治さん 核のごみは、原発の運転により生じた使用済燃料から、燃料として再利用するプルトニウムやウランを取り出した後に残った廃液である。この廃液は放射能レベルが高く、元々の燃料の原料になった天然ウラン鉱石並の放射能レベルにまで下がるには数万年もの時間がかかるとされる。 このため、処分にあたっては廃液を融けたガラスと高温で混ぜ合わせてステンレス製の金属製容器(キャニスター)に入れ、冷やし固めて「ガラス固化体」にし、地下300メートルより深い地下の岩盤に埋める。その際、厚さ約20センチの炭素鋼(オーバーパック)に包んで、さらにベントナイトという粘土を主成分とした厚さ70センチの緩衝材で覆う「人工バリア」をつくり、火山活動や地殻変動などの影響が少ない安定した地質を選んで埋める考えだ。 地下350メートルの空間は、地上よりも少し蒸し暑い。坑道を進んで行くと、トンネルの壁から漏れ出た地下水が散見される。しばらくすると、トンネル内壁の一部分だけコンクリートが吹き付けられていない個所があった。「ここは見学者にこの辺りの地層を観察してもらうために、わざと窓のようにくり抜いています。およそ500万年前に堆積したと推定される泥岩の地質を見ることができます」。案内役を務めてくれた同機構研究計画調整グループの棚井憲治さんが説明してくれた。センターでは「幌延の窓」と呼んでいる場所だが、地質に詳しい人であれば、太古の昔、この辺りが海の底だったことが分かる地層らしい。事実、掘削工事に伴い、貝類の化石も多く見つかったという。「幌延の窓」実際の岩盤を見て触れることができる 幌延の地層には、地下水脈も多く、掘削工事中には地下水が溢れ、中断することもあった。平成25年2月には、毎時60立方メートルもの湧水量を記録し、一週間も工事の中断を余儀なくされている。大量の湧水が確認された場所は、今は止水対策により湧水が抑えられており、滴水を防ぐためにブルーシートが施されていた。なお、坑道を掘ると圧力差から必然的に地下水がそこに出てくるが、埋め戻すと地下水は元通りほとんど動かなくなるという。 核のごみの最終処分にあたって、地下水は人工バリアの劣化を助長し、長期保管する上で厄介な「敵」でもある。このため、核のごみを包むオーバーパックは、腐食に耐えられるよう十分に厚みを持たせている。 「約3センチ腐食するのにおよそ1千年はかかる。仮に地下水と接触しても、ガラスは水に溶けにくい性質がある。仮に溶けたとしても、地表に放射性物質が到達するまでには、地下深部の水の動きは非常に遅いといった理由により何十万年もの時間がかかり、結果的に地上の生活環境における放射線量は自然界に存在するよりもはるかに小さいレベルまで下がっている」。棚井さんは安全性をこう強調した。オーバーパックはガラス固化体と地下水との接触を防止する 坑道の入り口から数百メートル奥へ進むと、「試験孔」と呼ばれる大きな穴がある。直径2・4メートル、深さ4・2メートルの巨大な穴では、実物大のオーバーパックとそれを覆う緩衝材を使って実験している。センターでは放射性物質を使った実験は行っていないため、ガラス固化体の代わりに電熱ヒーターを内蔵した模擬オーバーパックを使用。これを緩衝材で覆って地中に埋めた後、埋め戻し材で坑道を埋め戻し、さらに「プラグ」と呼ばれる3メートルの分厚いコンクリートで蓋をする。実験では、地下水を送り込んで、人工バリアや周囲の岩盤の温度、水質、応力などの変化を設置した約200基のセンサーで計測し、地下水への影響や緩衝材の施工に問題が発生しないかなどを観測するという。地下水を注水しながら、模擬オーバーパックの腐食の状況を検証 安定した岩盤と人工物を組み合わせた「多重バリアシステム」。同機構が安全性の確保に絶対の自信をみせる地層処分だが、最終処分地はまだ何も決まっていない。 政府は今年5月、原発に伴い発生する「核のごみ」の最終処分をめぐり、基本方針を7年ぶりに改定した。国が前面に立って取り組むとして、具体的には、地層処分をするうえで科学的により適性の高い地域「科学的有望地」を示すこととした。国民的議論を喚起しようという狙いだ。 だが、世界を見渡しても最終処分地が正式に決まったのは、北欧のフィンランドとスウェーデンの2カ国だけ。いずれの国もこの問題の解決には苦慮しており、日本も例外ではない。 特に日本では、福島第一原発事故を契機に国民の多くが「原発アレルギー」に陥ったことが大きい。そもそも、既に生じた核のごみの最終処分と、原発再稼働をめぐる議論は別物のはずだが、この2つの問題をごちゃ混ぜにして多くの人が「原発」や「核」という言葉だけに過剰反応を示してはいないだろうか。いや、むしろ日本が直面する核のごみの処分という「至上命題」に対し、現世代が目を背けているだけで、未来世代に「解決」を先送りしているだけではないのか。 地下施設の見学が終わり、地上に戻ってくると、これまで抱いてきた疑問がふつふつと湧いてきた。「地震大国」の日本に地層処分は現実的ではないという否定的な見方もある。だが、最もあてにならないのは、戦争もすれば、テロも起こす「人間」だということも忘れてはならない。 たとえ今は平行線であっても、反対派、賛成派がそれぞれの立場で意見を出し合えばいい。国民一人ひとりが核のごみから目をそらすことなく、自分たちの身に置き換えて建設的な議論をしていくことこそ、いまできる唯一の解決策になるのかもしれない。(iRONNA編集長、白岩賢太)20歳の論客、山本みずきが考える「核のごみの最終処分」20歳の論客、山本みずきが考える「核のごみの最終処分」 わが国には、原発から出た「核のごみ」がどれだけあるかご存じだろうか。現在、使用済燃料は1万7千トンにも達している。この使用済燃料に由来する「核のごみ」をどう処分するのか。いま、日本が直面する大きな課題でもある。北海道幌延町にある国立研究開発法人「日本原子力研究開発機構」の幌延深地層研究センターを訪れた現役大学生の論客、山本みずきが「核のごみ」について考える。 ――政府は平成12年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」を定め、核のごみを地下300メートルより深く安定した地層に処分する「地層処分」の方針を決めました。現在、核のごみをいかに安全に処分するか、技術的な検討が続いていますが、そもそも原発の運転から生じる核のごみについて、山本さんはどんなイメージをお持ちですか?山本 人間の身体に害のある、近づきがたいイメージがあります。核のごみに対するアレルギーが私の中で支配的になっているのも事実です。とは言っても、日常生活の中で放射性廃棄物というのは遠い存在であり、いつも恐怖心を抱いていることはありません。友人との会話の中で核のごみについて触れることなんてありませんし、なんとなくですが、悪いイメージだけが先行しているような気はします。 それでも今回の施設見学を通して感じたのは、原子力研究開発機構が安全面には非常に配慮した上で慎重に研究を進めているということが理解できました。ただ、核のごみを安全に処分できるかどうかの評価については、やはり私自身の知識が乏しいこともあり、「核のごみとは何か」という基礎をしっかり理解した上で、ゆっくり考えてみたいと思っています。 ――幌延深地層研究センターでは、地層処分の実験場所が地下350メートルという、普段の生活では立ち入らない場所を見学しました。実際、地下の調査坑道を見学してみて、どんな印象を持たれましたか?山本 当たり前ですが、めちゃくちゃ深いなと思いました(笑)。最深部に行くまでには工事用エレベーターを使って片道約4分ほどかかります。そして見学を終えて、また地上に戻る時には、東京ディズニーシーのアトラクション「タワー・オブ・テラー」に乗っていたような不思議な感覚でした(笑)。地下トンネルの中では、核のごみを包むオーバーパック、緩衝材といった「人工バリア」の施工工程を間近で見ることができましたが、とにかく安全性に配慮した設計と施工の段取りになっており、私の想像以上に安全面に気を使ったシステムになっているという発見もありました。 特に印象に残っているのは、私たちを案内してくれた担当者の方の「あくまで幌延町は研究開発拠点である」という言葉です。幌延の施設は、あくまで地層の研究と処分技術の開発を進める場所であり、最終処分場になることはないということも、改めて知ることができました。この点については、まだ多くの人が誤解していると思いますし、こういう機会を通して皆さんにもぜひ知っていただきたいとも思います。 ――現在の科学技術では、日本に限らず先進国も含めて、地層処分が最も妥当な手段であると考えられています。半面、技術は確立しても、核のごみを受け入れる場所の選定をめぐっては、北欧のフィンランドとスウェーデンの2カ国以外に決定した例がないのも事実です。実際に建設する地下坑道の総延長は、研究施設の300倍250キロメートルにおよぶ山本 現代の科学力で最適な方法が地層処分であるのならば、それは早い段階で実現に向けて動くべきだと思います。そもそも、高レベル放射性廃棄物をいずれ処分しなければならないことは、原発を動かす前から分かりきっていたことだと思います。国や電力事業者だけでなく、私たち国民一人ひとりがこの問題の解決を先送りにしてきたツケが回ってきたというのが今の状態なんだと思います。だからこそ、私たちはこの問題から目をそむけてはならないのではないでしょうか。 わが国では原発そのものに反対する方が多いと思いますが、それでもこれまでは多くの人が原発の恩恵を享受してきたという事実もあると思います。もちろん、東京電力福島第一原発の事故以来、国や電力事業者に対する不信感は今も強烈にあります。たとえ国の発信している媒体などで数値が提示され、理解を求められたとしても、「どこかに嘘が隠されているのではないか?」と思えるほどの不信感は、正直言って拭い去ることは難しいかもしれません。正しい情報を受け入れようとしないのは国民の責任とは言えないと思います。国は教育や広報活動などを通して、次世代と呼ばれる層も含めて、真摯にアプローチし、正しい情報を理解できる人を増やす努力を重ねるべきです。 ただ、原発再稼働と既に生じた核のごみをどう処分するかは、全く別の議論です。核のごみの最終処分という問題については、私たち現世代が現実から目をそらすのはあまりに無責任ですし、少なくとも私は自分より後の世代に問題解決を押し付けるようなことはしたくありません。 ――政府は今年5月、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分に関する基本方針を7年ぶりに改定しました。自治体からの応募を待つ従来の方式から、国が科学的により適性が高いと考えられる地域「科学的有望地」を示し、国民的議論を喚起しようとする方針に転換しました。近い将来、国からこの「科学的有望地」が提示される見通しですが、国民の理解が広がらなければ、一向に進展しない可能性だってあります。より多くの人に理解を深めてもらうにはどうすればいいのでしょうか?山本 この問題を理解するためには、当然のことながら国が積極的かつ丁寧に説明を続けることが不可欠です。ただ一方で、私たちも努力して勉強する必要があると思います。何が正しい情報なのか、何が誤った情報なのかを理解できるようにならなくては、理性的な判断を下すことができないと思います。国や電力事業者だけが努力をすればいいという話では決してありません。もちろん、反対や賛成の立場はそれぞれあるでしょうが、まずは私たち自身がこの問題について知ろうとする努力をしていかなければならないのではないでしょうか?両者の意見を聞いて比較検討し、もし反対するのなら現行の政策に対する代案を出すということまでしなければいけないと思います。これは地層処分に限らず全ての問題に対して言えることです。候補地が選定され、本格的に処分場が決定されるまでの18年以上の期間をつかって議論を深めるためには、国民一人ひとりが適確な判断力を身につけることが重要です。そのためにはもちろん専門的なことから、自分の意見を絶対的なものとせず、柔軟にさまざまな価値観に触れられる人材を形成していけるかが重要です。国や電力事業者からは、それを手助けする形で、何かしらアプローチがあるといいですね。 もう一つは、メディアにもこの問題を積極的に取り上げてもらう必要があります。私たちが自分たちの問題として核のごみの最終処分を考える、あるいは知ることのできる環境をつくっていくことが求められると思います。その上で、議論を深めるために、基礎的な知識を教えるような学校教育カリキュラムをつくったり、学校教育を終えた人々が今からでも学ぶためのシンポジウムを積極的に開催してみてはどうでしょうか? 知識を一方的に提供するだけではなく、地層処分の意義や問題点について、両方の立場の意見を聞ける場や発信できる機会が増えればいいなと思います。やまもと・みずき 慶應義塾大学法学部。1995年、福岡県生まれ。高校時代は生徒会長などを務め福岡市親善大使として活動する一方、ボランティア活動団体「Peaces」を設立。高校2年の時には、ジュネーブの国連欧州本部で世界的な軍縮を英語でスピーチした。2013年、「18歳の宣戦布告」(月刊正論2013年5月号)で論壇デビュー。現在は慶應義塾大学法学部政治学科に在籍する傍ら、国内外で講演・執筆活動に取り組む。iRONNA特別編集長としても活躍中。

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    なぜ「核のごみ」を地下に埋めるのか

    原発の運転から出た高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」を地下に埋めて処分する最終処分場の選定をめぐり、国が地震や火山の影響を受けにくい「科学的有望地」を示して選定を主導する基本方針に転換した。そもそも、核のごみはなぜ地下に埋めて処分するのか。地層処分の目的と課題について考えたい。

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    東京都市大学の学生記者が見た「地層処分」シンポジウム

     原子力発電所の運転で生じる高レベル放射性廃棄物の処分は、これまで原発による電力供給の恩恵を受けてきた、われわれにとって避けて通ることはできない問題だ。「原子力発電環境整備機構」(NUMO)は、原発の使用済燃料由来の高レベル放射性廃棄物を地下300メートル以上の深い地層(岩盤)に閉じ込めて安全に最終処分する事業を担っている。最大の課題は、最終処分場の建設場所の選定。NUMOでは、国民的な理解を得るため、さまざまな取り組みを行っている。東京都市大学で原子力を専攻する学生記者たちが、NUMOを取材した。全国でシンポ今月4日に開かれた「いま改めて考えよう地層処分」と題されたシンポジウム。約250人が参加し、活発な質問が出された 10月4日、東京都内で経済産業省・資源エネルギー庁とNUMOが主催して「いま改めて考えよう地層処分」と題するシンポジウムが開催された。東京を皮切りに、全国9都市で順次行われる。今年5~6月にも実施しており、第2弾となる。 NUMOは2000年に原発の使用済燃料由来の「高レベル放射性廃棄物」の最終処分を行うことを目的に設立された。全国の自治体からの公募で、「地層処分」を行う施設の建設場所を決めることにしているが、これまでの応募は1件で、これもその後、白紙撤回されたので、建設場所の選定は進んでいない。 今年5月には国が前面に立って取り組むことが基本方針の改定で決定された。シンポジウムは、この方針を説明し、最終処分問題の解決に向け参加者からの意見や疑問に答えるなど真の対話を目的としている。 東京でのシンポジウムには約250人が参加。まず専門家によるパネルディスカッションが行われた。その内容は(1)高レベル放射性廃棄物と処分方法(2)最終処分に向けた新たな取り組み(3)処分地の適性の考え方(4)段階的な処分地選定の進め方-の4項目。基本方針の改定を受け、国が前面に立ち取り組む方策として科学的有望地が提示されることとなったが、これは地域で主体的な議論を始めるきっかけになればと考えてのことであり、一方的に処分地を決めるわけではないことなど、丁寧な説明が行われた。活発な質疑応答 その後の質疑応答では、来場者から多くの質問が出された。その内容は、最終処分の問題についてしっかりと学び、考えていることをうかがわせるものだった。ある参加者は、原発のメリットとデメリットをしっかりと理解した上で、「地層処分が本当に最適な方法なのか」と質問。「最終処分施設の建設場所が決まっていない現状で、さらに放射性廃棄物を増やすことになる再稼働には反対だ」との意見も出された。また。東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故後の経験から、処分施設が身近な場所に出来ることへの不安を口にする参加者もいた。地層処分を研究する地下300メートルの坑道 これに対し、登壇者から他の処分方法とのリスク比較や地層処分の有効性の説明を行ったほか、再稼働の是非にかかわらず、既に発生している廃棄物の処分は避けて通れない問題であること、安全性を最優先に技術開発を継続して行うことが説明されるなど、活発な質疑応答が行われた。若者が引き継ぐ シンポジウムの参加者は、年配の人が大半だったが、私たちとは別に5、6人ほど大学生と思われる若い人もいた。長い年月がかかる最終処分の問題は、私たちのような若い世代が引き継いでいき、関わっていくことが欠かせない。「知らないうちに処分地が決まっていた」という無関心は許されない。最近、多くの若者が安全保障関連法に関心を持ち、さまざまな活動をしている。最終処分をめぐる問題にももっと関心を持ち、議論に積極的に参加することが、これからを担う若者の責任ではないだろうか。 シンポジウムへの参加を通じ、私たちは高レベル放射性廃棄物という「原子力のゴミ」に向き合わなければならないと改めて感じた。原発の恩恵を多かれ少なかれ受けてきた世代は、後世に負担を先送りしないために、処分地を決めなければならない。すべての国民がこの問題を理解し、処分地の決定に納得することは難しいかもしれない。それでも今回のようなシンポジウムを通じて、一人でも多くの人に地層処分について興味を持ってもらい、知ってもらうことができれば、処分施設の建設場所の選定といった課題の解決に向けた、前進につながると感じた。入社4年目の技術者に聞く「興味を持ってもらえる情報発信が大切」 東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所の事故後、原発をめぐるさまざまな議論が活発化するなか、避けて通ることはできない高レベル放射性廃棄物の最終処分を前に進めるにはどうすればいいのか。「原子力発電環境整備機構」(NUMO)の入社4年目の技術者、藤本秋恵さんにインタビューを行った。安全性提示に意欲「説得」ではなく「理解」を目指したいと話すNUMOの藤本秋恵さん 技術部に所属する藤本さんは、「地層処分」の超長期の安全性について検討する業務に携わっているという。藤本さんは「地層処分に影響を及ぼす可能性があるさまざまな事態を想定したシナリオを設定し、安全性を評価している」と述べ、コンピューターシミュレーションによって地層処分の超長期の安全性を提示していきたいと意欲を示した。 安全性に不安を覚える人が多いが、一般の人に説明していく上で、どんなことを心がけているのだろうか。藤本さんは、「ホームページなどでの説明は一方通行なので誤解が生じることもあるため、対話活動が重要。実際、親族や友人に地層処分についていろいろと聞かれた際、対話することでお互い理解し合うことができた」と、エピソードを紹介。「相手の意見を聞き、不安の一つ一つに答えていくことで、理解と信頼を得たい」と語った。 NUMOでは地層処分について知ってもらうため、さまざまな取り組みを行っている。藤本さんは「まず興味を持ってもらうための情報発信が必要」、「移動展示車『ジオミライ号』のキャラバン活動も、その一つ。親子で楽しく理解できるよう、地層処分に関するアニメーション映像や簡単なクイズ、実験などの取り組みを行っている」と紹介した。将来につながる 「説得」するのではなく、「いろんな意見を聞いた上で、自分やNUMOが考えていることを正しく伝えたい」というのが、藤本さんの考え方だ。そのためにも、「どのような基準や条件に基づき、結論を導き出したのかを、理論的に説明するよう心がけている」という。 「放射性廃棄物の処分方法としては地層処分が最適である」という信念を持ち、「説得ではなく対話を通じた理解を目指していきたい」と語る藤本さんに、技術者としての誇りを感じた。 最後に藤本さんに、避けては通れない高レベル放射性廃棄物の処分をめぐる問題を前進させるため、将来を担う若者が何をすべきかを聞いた。 「自分たちの将来にも関係する問題だという観点から地層処分に興味を持ってほしい。大学での講義やシンポジウムなど身近にある考える機会をぜひ生かしてほしい」 藤本さんは、自分たちの問題として向き合う必要性を訴えた。地層処分 原子力発電所で使い終えた使用済燃料からウランやプルトニウムを取り出し、原発で再利用する過程で残る放射能レベルが高い廃液を、融けたガラスとともにステンレス製の容器に注入して固めて「ガラス固化体」にし人間の生活環境から長期に渡り隔離するため、地下300メートル以上の深さの地層(岩盤)の中に処分する方法。深い地層が持つ「物質を閉じ込める」という性質を利用したこの処分方法は、国際的にも共通した考え方となっており、すでにフィンランドやスウェーデンでは処分地が決まっている。《編集後記》 福島第1原発事故以降、原発をめぐるさまざまな議論が高まっているが、原子力という存在自体はなお一般社会と乖離しているように感じる。原子力を学ぶ学生の立場からは、原子力をエネルギーと言う大枠で捉えれば、その隔たりも解消しやすいのではないだろうかと考えている。このため、東京都市大学の学生が主体となり、科学体験教室や対話会を開き、エネルギー問題、特に原子力や放射線についての理解を促進する活動を行っている。NUMOの藤本さん(左)と意見を交換する学生記者 今回の取材を行った学生記者には、小学生時代に原子力発電所にあるPR館での体験がきっかけとなり、原子力工学を学ぶ道を選んだ者がいる。 地道なさまざまな広報活動を通じ、国民全体の科学への興味を高め、エネルギー問題に注目してもらうことが、原子力そして放射性廃棄物の最終処分問題に向き合うことにつながると感じた。取材・記事・写真:東京都市大学共同原子力専攻修士2年・北薗孝太、工学部原子力安全工学科4年・亀子湧生、同4年・島田優、同2年・川上達士

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    注目度高まる「核のごみ」 解決が求められる環境問題

    萱野稔人(津田塾大学教授、哲学者)開沼博(社会学者)春香クリスティーン(タレント) 原発再稼働の問題にあわせて、「核のごみ」に関する注目が高まっている。典型的な主張は、行き場のないごみをこれ以上増やすな、処分方法も決まっていないのに無責任、といったものである。しかし、実際には、原子力発電に伴って発生する廃棄物の量は非常に小さなものである。また、処分方法が決まっていないという話でもない。地下深いところに埋設して人間の生活環境から隔離するという方法が最善であり、技術的にも可能であるということは、国際的にも確立していると言える。しかし、こうしたことに国民の多くが納得しているという状態にはない。私たちはこの問題にどう向き合い、どのように解決を図っていくべきなのか、哲学者の萱野稔人氏、社会学者の開沼博氏、タレントの春香クリスティーンさんという独自の考えを持つ3名の論者に語り合っていただいた。原発利用の是非とは別議論萱野稔人氏萱野 高レベル放射性廃棄物の問題を原発再稼働に必要以上に結び付けようと考える人がいますが、賛成できません。再稼働してもしなくても、目の前にある廃棄物はなくなりません。既に存在している以上、その処分は今後の原発利用とは切り離して議論すべき問題です。開沼 廃棄物の処分が前に進んでしまうと原発が推進されてしまう、そういうことを恐れて、廃棄物問題についても慎重なスタンスをとろうとしている人が多いですね。春香 若い世代も、せいぜい「処分地の選定とかいろいろ大変だよね」というところ止まりで、その先の情報収集や議論にはなかなか至らない状況だと思います。この問題の解決に向けて真剣に取り組むと原発推進に見えてしまうことが、若い人がこの問題に関わる壁になっている気もします。開沼 議論の整理が必要です。過去を振り返って、これまでの取り組みに問題もあったのではないか、例えば行政や事業者の情報公開の不十分さは徹底的に反省し改善すべき。その上で、私たちも課題解決の道を模索すべきです。これまでどおり「信頼できない」と言い続けても廃棄物は増え続けるばかりです。国民的議論で合意形成を春香 スウェーデンとフィンランドでは、20年以上かけてようやく処分地選定に至りました。この問題は、解決までにとても時間がかかる問題です。だからこそ若い世代も今から考えていかなければならないですよね。萱野 一人ひとりが当事者意識を持ち、「自分だったらどうするか」という問いをみんなで共有することが大事です。しかも、具体的な候補地が出てこないうちから共有し、考えていくことが大事だと思います。今こそ、国民的議論を起こし、総論において合意を形成していくべき段階でしょう。開沼博氏開沼 この問題は福祉や増税の問題と実はよく似ています。前の世代がやってきたことの負の遺産が次の世代に押し付けられてきた。最初は見て見ぬふりができたけれど、いよいよどうにかしなければならないところまで来てしまったように思います。そのことが、福祉や増税ほど国民生活に直結しないので肌感覚で判りにくいだけで、構造は同じ。いま議論しないと後世につけを回すばかり。あまりに無責任です。春香 確かに、今の世代にしっかり取り組んでもらわないと、次の世代に問題が先送られることになります。誰かが解決するだろうと目をそらすのは、自分の子供や孫のためにも絶対にしてはならないことだと思います。萱野 メディアの役割としては、アジェンダセッティング(議題設定)が大事だと思います。今こういうことが問題になっていますということを社会にはっきりと示さなければならないということです。しかし、それは情報の受け手であるわれわれとの共同作業で成り立つものです。読者に関心がないとメディアも取り上げません。そういう点で、国が率先して取り組むという姿勢は評価できると思っています。今は、日本の中で適性が高い地域はどこか、「科学的有望地」を示すということが検討されているようですが、議論喚起の材料として期待したいですね。やはり政策として動かなければ、メディアも国民も動きにくいですから。開沼 これまで国が全く動いてなかったわけではないけれど、伝わってなかったことも多くあったでしょうね。国民から信頼と承認を得るために必要なのは、何があろうとも「国民への押し付けはしない」という原則を貫くこと。そして、国民も自ら民主的に解決する道を模索すること。この前提の上での両者の努力が必要です。時間かけ解決する問題春香クリスティーン氏春香 安全を裏付けるデータがあるということはわかっても、今はネットでいろいろ調べられるということもあって、批判的な意見などに触れると疑心暗鬼になる部分もあると思うんです。だからデータの提示の仕方も難しいですね。開沼 大事なのは、関心を持った人が簡単に情報にアクセスできる環境を用意しておくことだと思います。萱野 「いろんな方法がある中で地層処分がいかにベターであるか、われわれはこう考えていますが、みなさんはどう判断しますか」ぐらいのスタンスで臨んでも良いのでしょう。「これが最善策で、他に方法はない」というと、かえって受け入れにくいということもあるように思います。春香 それしかないと言われると、いや他にもあるはずだ、となりますからね。それと、賛成反対という極論が出すぎると、新しく関心を持ったり自分で発言したりすることをためらいがちになるので、ニュートラルな議論の場も必要だという気がします。萱野 こういう問題にはバラ色の解決策はないという認識を広げていくことも大事です。これだけの人口の人間が近代文明のもとで生存していくためには、ある程度のマイナスの影響はどこかで受けざるを得ないけれど、それを何とか最小限に抑えて持続可能なものにするにはどうすればいいかという姿勢や議論を広げる方が、理解が深まりやすいのではないでしょうか。エネルギーには特にそういう面があります。すべてに優れたエネルギー源というのは存在しません。廃棄物の問題も、そういう全体像の中で、時間をかけて解決していくべき問題です。春香 日々生活していると楽しいことがたくさんあって、こういう問題から目を背けようと思えば簡単に背けられます。だけど、考えることを止めてしまうと何も進みません。感情論にならないように、というのはなかなか難しいかもしれないけれど、この問題にはどういう事実があるかということを知り、一人ひとりが考えてみることから始めたいですね。かやの・としひと 哲学者。津田塾大学教授。社会哲学、社会理論専攻。早稲田大学卒業後に渡仏し、パリ第10大学で哲学博士号を取得。東京大学大学院国際哲学交流センター研究員を経て、現職。現在、衆議院選挙制度に関する調査会委員などを務める。かいぬま・ひろし 社会学者。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程在籍。資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会原子力小委員会委員等を歴任。はるか・くりすてぃーん タレント。スイス・チューリッヒ出身。16歳で単身来日。国会議員の追っかけを趣味としており、「おもしろい政治ジャパン」などの著書がある。産経デジタルが運営する総合オピニオンサイトiRONNA(いろんな)で特別編集長として活躍中。

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    地層処分は技術的に確立、不安の払拭と意義の共有が課題

    堀義人(グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)松本真由美(国際環境経済研究所理事) 国は、今年7月、2030年度におけるエネルギーミックス(電源構成)の見通しの中で原子力発電の割合を20~22%程度と明記し、今後も活用していく方針を示した。エネルギー安定供給、経済性、地球温暖化対策などの面で、引き続き原発は必要との評価だ。こうした中、原子力発電の利用に当たり、使用済燃料に由来する高レベル放射性廃棄物の処分にも関心が集まっている。この問題をどう考えれば良いのか。グロービス経営大学院学長で、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの堀義人氏に、国際環境経済研究所理事の松本真由美氏が聞いた。核のごみ問題の解決が地球温暖化問題の解決に松本 日本では半世紀近くにわたり原子力発電を利用してきました。それに伴い、高レベル放射性廃棄物の最終処分という問題が生じているわけですが、堀さんはこの問題をどのようにお考えでしょうか。グロービス経営大学院学長でグロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの堀義人氏堀 ものごとは全体を俯瞰して考える必要があります。最終処分に道筋がついていない原子力発電所のことを『トイレなきマンション』と批判する方もいますが、私は二酸化炭素(CO2)を生む化石燃料利用こそが『トイレなきマンション』状態にあると思っています。今、世界の一番の脅威は地球温暖化です。化石燃料を燃やすことによって温室効果ガスの一つであるCО2が排出されて気温が上昇し、南極の氷河が溶けて海面上昇が起きています。気温上昇は台風の巨大化も誘発しているとされており、何千人もの死者を出す惨事にもなっています。原子力は確かに使用済燃料が出てきますが、きちんと管理することが十分可能であり、実際に世界中でそうなっています。そして、その量は、非常に小さなものなのです。「行き場のないごみ」と揶揄する方もいますが、管理や処分に必要とされる面積は、ほんの小さなものです。国民1人が一生の間に利用する電気に伴う高レベル放射性廃棄物は、ゴルフボール3個分程度のものでしかありません。原子力の利用を今やめれば、地球温暖化はさらに進行し、被害はより深刻化していくでしょう。そういった危機意識を、日本国民のみならず世界中の人たちが認識すべきだと思います。松本 地球全体の問題の解決策であり、廃棄物の問題だけで原子力を止める必要はないとお考えなのですね。廃棄物については、いずれにしてもすでに存在しているものであり、処分場を確保する必要があり、私たちがしっかり向き合って解決していかなければならないわけですよね。堀 原子力の恩恵を受けてきた私たちの世代で解決すべきことですし、解決できると思っています。原子力という有用な技術もしっかりと引き継ぎ、かつ、廃棄物の問題も解決していく。それが将来世代との関係で必要なことでしょう。松本 処分の方法としては、地下深くの安定した地層に埋設して処分する「地層処分」が、確実性や実現可能性の高い方法として国際的な共通認識とされていますが、この地層処分について、どのような見解をお持ちですか。堀 環境主義者として知られる英国の科学者、ジェームス・ラブロック氏は、高レベル放射性廃棄物を「自分の庭に埋めていいくらいだ」と言っています。地層処分の安全性や合理性を示すために、こうした発言をしたわけです。地層処分の技術的成立性は科学的にかつ国際的に検証済みです。ただ、そのことと、国民の不安を解消し理解を得ることとは同じではありません。科学的に大丈夫であっても、漠然とした不安が人々にはあります。このあたりをどうするか。地層処分は方法論としては確立していますが、問題の本質は政治的なものだと私は思います。松本 政治的、といいますと。堀 ある地域が処分場を前向きに検討しているとの情報が出てくるたびに、メディアや原子力発電に反対する人たちが押し寄せ、せっかく前向きに考えようとしていた自治体や住民の方々がしり込みをしてしまうことが何回か繰り返されてきました。こうした部分について、自治体などを矢面に立たせておくのではなく、国がしっかりと前面に立って、その地域や周辺地域の人々にきちんと説明し、地域の将来像を一緒に考えていくことが重要だと思っています。国が前面に立った「科学的有望地」の提示に期待国際環境経済研究所理事の松本真由美氏松本 最終処分は各国にとっても難しい問題であり、現在、処分地が決定している国はフィンランドとスウェーデンだけです。日本ではこれまで、自治体に立候補してもらい、国は受け身の立場でしたが、今年5月に政策を変更し、国が前面に立って、科学的により適性が高い地域、つまり「科学的有望地」を提示し、国民的議論の契機にしていく考えを表明していますね。堀 期待したいです。ただ、国が科学的有望地を提示すれば、それがどれだけ「検討の参考材料」のようなものだとしても、抵抗が起こる可能性があります。その際に、強力な“推進力”となるものが必要です。その一つが、この廃棄物の処分が進めば、地球温暖化問題も解決に近づく、ということへの国民の共通理解だと思います。ある地域が国家的な課題を引き受ける場合には、その地元の方々の理解はもちろん、国民的な理解を得ることがすごく重要になってくるでしょう。地元の方々が心の中では賛成でも、地元以外の人たちによる反対運動が活発化して大騒動になると、ほっといてくれ、静かにしておいてくれ、となってしまいます。調査を受け入れようとする地域が出てきた場合に、そのほかの地域の多くの人たちが拍手を送るような状況になるよう、国民的な議論の喚起が不可欠だと思います。将来世代のためにいま何をすべきか考え、声を上げていくことが重要松本 私は、全国各地のシンポジウムで議事進行役を務めることがありますが、多くの方々が地層処分に反対という会場もある一方で、この問題を自分の事として冷静に考えなければいけないと思っている方たちが比較的多くいらっしゃる会場もあります。堀 原子力発電に絡む問題として、高レベル放射性廃棄物の最終処分をどう考えますか―とそこだけを切り取って聞くと、多くの方々は問題だ、難しい、だから原発も反対だ、となってしまいがちです。しかし、この問題が解決しなければ、もっと大きな脅威がある、ということまで合わせて議論すると、前向きに解決していこうという方々が増えてきます。そうした全体論で考えることが大切です。松本 堀さんは各界のリーダー的な方々ともお付き合いがあります。そうした方々はオピニオンリーダーとして発信力もありますし、影響力もあると思うのですが、最終処分の問題に関して各界のリーダーに何を求めますか。堀 見識のあるオピニオンリーダーがこの問題についてしっかり考え、何が一番重要なのかを考え、逃げないで声を上げていくことが重要です。これは財界や学会の方々、そして政治家の方々も含め、ポピュリスト(大衆主義者)的に動くのではなく、100年後、200年後、500年後の将来世代のためにも、いま何をすべきか考え、声を上げていくことが重要だと思います。堀義人氏(左)と松本真由美氏松本 国とNUMOは、国民や地域の理解を得ながら最終処分問題の解決を進めていこうとしています。期待することは何でしょうか。堀 常に発信し、可能な限り多くの人を巻き込んでいくことが大切です。一番良くないのは黙ってしまうことです。私はソーシャルメディアが重要だと思っていますので、ツイッターやフェイスブックなどを活用したコミュニケーションをもっと多くやっていいと思います。特に主婦層を含めた女性がコミュニケーションしやすい方法で、なぜ最終処分が重要なのかを地道に発信していけば、必ず世論が変わってくると思います。松本 ビジネスマン層、高齢者層、そして主婦層、さまざまな対象の方がいらっしゃいますので、それぞれの層のご意見や質問にも応える形で、双方向のコミュニケーション活動を続けていく、こうした活動を積み上げていき、信頼を醸成していくことが大切ですね。本日はありがとうございました。ほり・よしと グロービス経営大学院学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー。1962年生まれ。京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、92年(株)グロービスを設立し代表取締役に就任。96年グロービス・キャピタル設立し、代表パートナー。2006年グロービス経営大学院を開学、学長に就任。著書に『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)など。まつもと・まゆみ 国際環境経済研究所理事。大学卒業後、テレビ朝日報道局、NHK BS1のキャスターを経て、2008年度より東京大学の環境・エネルギー分野の人材育成プロジェクトに携わる。教育と研究を行う一方、講演、シンポジウム、執筆など幅広く活動。NPO法人国際環境経済研究所理事。東京大学教養学部客員准教授。

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    求められる「地層処分」の実現 国民的な議論を

    増田寛也(元総務大臣)竹内薫(科学作家)山本みずき 日本では、過去半世紀にわたる原子力発電の利用により、使用済燃料由来の高レベル放射性廃棄物が既に相当量発生している。この処分の方法としては、地下深部に埋設して人間の生活環境から隔離して処分する、いわゆる地層処分が国際的にも最良とされており、日本もその方針であるが、これまでの処分地選定が進んでこなかった。こうした状況を受け、本年5月、国が前面に立って取り組むことなどを柱とした新たな国の方針が示された。私たちはこの問題にどう向かっていくべきなのか―元総務大臣の増田寛也氏、科学作家の竹内薫氏、若い世代を代表し大学生の山本みずきさんに話し合ってもらった。現世代が向き合うべき課題 ――高レベル放射性廃棄物は既に発生している以上、確実に処分する必要があります。どう取り組むべきなのでしょうか。増田寛也氏増田 海外をみると、すでにフィンランドとスウェーデンが地層処分する場所を決定しています。私も現地を訪れて話を聞いてきましたが、両国とも20年、30年という長い時間をかけて地元との合意にこぎつけています。日本もこうした経験にならって、しっかり取り組みを進めていくべきだと思います。いま国内には、高レベル放射性廃棄物の処分の問題が解決していないのだから原発の再稼働をやめるべきだという意見があります。しかし、処分の方法や技術は既にあり、問題は処分場所を決めることですから、決して不可能なことではありません。既に廃棄物は発生しているので、再稼働する、しないにかかわらず処分は必要ともいえます。処分の問題は原発の再稼働の問題とは切り離して考えるべきでしょう。竹内 増田さんが指摘したように、原発の再稼働と高レベル放射性廃棄物の処分は、別個の問題として認識すべきです。何としてもそれを発生させてきた現世代で解決しなければならないということを、特にこれまでその恩恵に浴してきた世代が認識する必要があります。さもないと、若年世代、将来世代につけを回すことになります。ただし、これからも技術革新は目覚ましく進展するでしょうから、新しいテクノロジーが生み出されたら、それに柔軟に対応して処分をやり直せるような余地を残しておくことも肝要です。 ――地層処分への理解が国民の中で進んでいないように思えます。竹内 日本の場合、原発への関心は非常に高いのですが、地層処分については知らない人、無関心な人が多数を占めます。特に地層処分の科学的知見について知られていないように思います。知識がほとんどない中で、地層処分は漠然と怖いという受け止めがされているのかもしれません。 ――若い世代もそうなのでしょうか。山本 当然ながら恐怖心を抱いている人は一定数いますが、他方で、高レベル放射性廃棄物を地層処分する必要があることを認識している友人も一定程度います。なぜかといえば、原発事故を目の当たりにしたことで必然的に原発への関心が高まっているからです。ただし、私たちより年上の方々が、問題解決を私たちに委ねればよいという姿勢でいられると困ってしまいます。冷静に受け止めたい「科学的有望地」 ――こうした中で地層処分への理解を促すにはどうしたらよいでしょうか。増田 安全性・確実性が高いこと、そしてそのために慎重に調査や評価を進めていくということを、丁寧に説明していくことが重要だと思います。日本は地震国で火山国のため、地中に埋めるのは危ないのではないかと受け止められがちです。しかし、地層処分場に必要とされるのは数キロ四方ですから、その程度のスケールで安定した場所を探すことは十分可能と考えられています。私は人間が恒久的に管理する方が危ないと思うし、将来世代に負担を強いることは是非とも避けたいと考えています。竹内薫氏竹内 地層処分については、例えば活断層の存在が人々を不安にしているのかと思いますが、断層活動は過去数十万年にわたり同じ場所で起こっていることが分かっています。このように日本が蓄積してきた科学的知見を生かし、危険な場所を避けて埋設できることを丁寧に説明していくことが重要です。ただし、100%の安全が確保されることはあり得ません。リスクも説明し、それにしっかり対応していくという姿勢を示すことが、結果的に信頼獲得につながっていくと思います。山本 地層処分への理解を促すに当たって大切なのは、この問題が国民一人一人の問題であること、自身の問題でもあることを認識してもらうことではないでしょうか。私たち若者をはじめ、みんなの問題だということを、どう広められるかがポイントになるように感じます。また、学校教育を通じた人づくり、社会づくりが重要ではないかと思います。高レベル放射性廃棄物の処分は待ったなしの問題です。こうした局面では事実を客観的に受け入れ、理性的な判断をしていく必要があります。こうした難題はこの問題に限らず今後も私たちにふりかかってくるでしょう。先日、地層処分で先行するフィンランドを訪れましたが、基礎的な知識の土壌があるように感じました。 ――処分に向けた取り組みがなかなか進まない現状を打破するために国が打ち出した方策の一つが、科学的により適性が高い地域、つまり「科学的有望地」の提示です。増田 これは国が前面に出て、処分の実現に向けて責任を果たしていくという意思を明確にしたものであり、その点、適切な判断であったと評価しています。ただ、気を付けなければならないのは、国が候補地を指定するのではないということです。国が科学的有望地を示すことが地域で主体的に議論を始めるきっかけとなり、その議論を煮詰めて次のステップにつなげていく、そうとらえていただくことが重要です。大切なことは、地域で対話を積み重ね、合意形成を図っていくということなのです。この点について、地方自治体の首長の方々が拒否反応を示さずに、しっかり冷静に受け止めてもらえるかどうかがカギになると思います。丁寧な対話が重要 ――最後に地層処分を着実に推進する上で、重要だと思われることを教えてください。山本みずき氏増田 国や電気事業者、事業の実施主体が問題の解決に向けた積極的な姿勢を示し続けるとともに、国民や地域住民と対等の立場で議論し、合意形成へと議論を積み重ねていくことです。間違っても押しつけの姿勢であってはなりません。また、安全性について国民の納得感を得るには、規制当局の明確な関与が何より大事でしょう。北欧の成功からも学べる点であり、日本の規制当局にもコミットメントを求めたいところです。竹内 科学技術の話を社会科学的な側面も加え、複合的に丁寧に説明していくことが求められます。そうした人材を育てていく必要もあります。山本 すべての国民がこうした重要な問題への理解を深められるように、活発な議論の場をつくることが求められると思います。賛成する意見と反対する意見の双方を聞くこと、その上で冷静に比較検討し、少しずつ改善案を提示していくことが重要だと思います。 ――本日は多くの貴重な意見をありがとうございました。ますだ・ひろや 総合資源エネルギー調査会放射性廃棄物ワーキンググループ委員長。1951年、東京都生まれ。東京大学法学部卒、建設省入省。1995~2007年の12年間、岩手県知事を3期務め、環境政策を推進。2007~08年に総務大臣。現在は、野村総合研究所顧問、東京大学公共政策大学院客員教授を務める。たけうち・かおる サイエンス作家。1960年、東京都生まれ。東京大学理学部卒、マギル大学大学院博士課程修了。科学評論やエッセー、書評、講演など幅広い場面で、物理、数学、脳、宇宙など難解な分野でも親しみやすく読者に伝えている。やまもと・みずき 慶應義塾大学法学部。1995年、福岡県生まれ。高校時代からボランティア団体を設立するなど活躍、国連欧州本部で世界的な軍縮に向け英語でスピーチも行った。2013年「18歳の宣戦布告」(月刊正論2013年5月号)で論壇デビュー。