トヨタに「死角」はないのか
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トヨタに「死角」はないのか

2015年3月期決算で過去最高の営業利益(2兆7000億円)と純利益(2兆1300億円)を見込む世界企業トヨタ。絶好調に見えるトヨタに「死角」はないのか。中長期な視点から見た、一つの可能性を紹介したい。

2015年3月期決算で過去最高の営業利益(2兆7000億円)と純利益(2兆1300億円)を見込む世界企業トヨタ。絶好調に見えるトヨタに「死角」はないのか。中長期な視点から見た、一つの可能性を紹介したい。

2つの危機感

燃料電池特許開放 2020年まで無償化

 昨年12月15日に世界の先陣を切って水素燃料電池車の市販モデル「MIRAI(ミライ)」を発売したトヨタ自動車。が、トヨタの打つ手はそれだけではなかった。今年1月6日、アメリカのラスベガスで開催された世界最大の家電見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ)で、今度は5700件近くにのぼる燃料電池車に関する単独特許を2020年まで、水素ステーション関連については永久に無償化すると発表、メディアを騒然とさせた。それからさらにおよそ1カ月がたった今、トヨタに寄せられた特許使用に関する問い合わせは十数件であるという。自動車メーカーも含まれているというが、水素ステーションや水素製造を手がけるエネルギー関連企業が主体とみられる。(トヨタが燃料電池車の特許を無償開放した本当の理由 PRESIDENT Online 2015.2.22)
トヨタの燃料電池車「特許無料開放」真の狙いとは(イザ! 2015.1.6)
「日本の町工場は農業になる」 シリコンバレーに26年、製造業に携わる経営者が語る、日本の危機と可能性(TechPeople 2015.3.28)
業界注目のCO2排出量の新指標 世界各国で温室効果ガスの削減が求められる中、燃料の製造時から車の走行時までに排出されるCO2排出量を示す「ウェル・ツー・ホイール(WtW)」という指標が、自動車業界で注目されている。日本自動車研究所の11年の調査によると、ガソリンエンジン車の走行1キロ当たりのCO2排出量は147グラム。“究極のエコカー”とされる燃料電池車(FCV)は、燃料の水素を製造する際にCO2を発生するため79グラムだ。これに対し、EVはわずか55グラムにすぎない。EVは燃料代も安価だ。日産によると、走行1キロ当たりの費用は2円で、ガソリン車(10円)やハイブリッド車(6円)を下回る。

意外な環境負荷

加速する次世代エコカー

大江紀洋の視線

 4月10日。ついに日経平均株価が、一時的にではあるが2万円を突破した。ITバブル2000年4月以来、15年ぶりのことだ。今の状態がバブルなのかそうでないか、活発な議論がなされている。
 日本企業の代表格、トヨタ自動車の株価は、3月24に年初来高値8783円をつけた。前日の23日と言えば、安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁が会談した日だ。
 「異次元の金融緩和」が為替を円安にし、輸出関連銘柄の株価を押し上げてきた。トヨタグループは春闘で過去最高水準の賃上げを実施し、アベノミクスの波及を担う役割も担う。
 トヨタは、まもなく発表する2015年3月期決算で、過去最高の営業利益(2兆7000億円)と純利益(2兆1300億円)を見込む。グループの世界販売台数は1000万台を超え、リーマンショック後の業績悪化を受け凍結してきた工場新設も、18年に中国、19年にメキシコで再開することを明らかにした。
 1000万台体制と言えば、かつて渡辺捷昭社長が目標に掲げ、その後訪れたリーマンショックの苦難で「兵站が伸びきっている」と評された数字。リーマン後、トヨタは1ドル70円でも利益を出せる体制づくりのために、部品や構造を共通化する「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」などのコスト構造改革を推し進めた。渡辺体制とは異なる、1000万台の規模でも安定成長できる体制を作るために、「意思ある踊り場」という表現で注意深く改革を鼓舞してきた豊田章夫社長にとって、過去最高の利益と工場新設を打ち出した2015年はエポックメイキングな年となるだろう。
 絶好調に見えるトヨタに「死角」はないのか。ここでは、中長期な視点から見た、一つの可能性を紹介したい。
 それはトヨタの「死角」というより、内燃機関という技術体系そのものの「死角」である。
 トヨタが昨年、予定を早めて発売に踏み切った燃料電池車(水素自動車)「MIRAI」。その後、特許情報の開示にも踏み切り、水素社会の実現に向けた動きを強めている。
 その背景はさまざま憶測されたが、もっとも真実めいているのは、米カリフォルニア州でハイブリッド車がエコカー対象から外れようとしていること。さらに、もっと奥底にあるのは、米EV(電気自動車)ベンチャー、テスラへの危機感かもしれない。
 テスラは、いま、米国人の富裕層の心をわしづかみにし始めている。テスラの販売台数は3.5万台とまだまだ比較にならないほど少ないが、その圧倒的なデザインやインターフェースは、乗る者たちに「次世代」を感じさせると言う。
 テスラは18650型という、ノートパソコン等に使われるもっともポピュラーな円筒型のリチウムイオン電池を、1台あたり7000本近く直列につなげて電池を構成してきたが、調達先のパナソニック(旧三洋電機)と共同で米国内に大規模電池生産工場を立ち上げる。テスラ率いる起業家イーロン・マスクは、新たなフェーズに入ろうとしている。
トヨタ自動車が発売した燃料電池車「ミライ」の生産ライン。
1日の生産台数は3台で、職人が一台一台手作業で組み立てている
=2月24日、愛知県豊田市
 トヨタは以前からずっと、EVに関心を寄せていない。その理由は航続距離が200km程度と短いからだ。次世代自動車にガソリン車並みの航続距離(500km)は必須と考えるトヨタは、航続距離が800kmに及ぶ燃料電池車に傾注してきた。
 しかし、燃料電池車にも大きな欠点がある。まず、現状のガソリン供給ネットワークを塗り替える、あるいは並存する形で、大規模な水素供給ネットワークを造り上げなければならないことだ。これはかなりの社会的コストだ。仮に日本が水素社会を実現したとしても、世界がそれを追いかけるかどうかはかなり不透明で、ガラパゴス化する可能性もある。
 さらに、もっと致命的なのは、資源国ではない日本は、水素の製造にコスト面で強みがないことだ(ある意味で結局水素の「輸入」に頼らなければならない)。現状考えられている技術体系では、水素製造から消費までのライフサイクル全体で見ると、燃料電池車はそれほどエコとは言えない。
 ではなぜトヨタは水素にこだわるのか? 本当の理由としてよく囁かれるのが、EVでは、これまで内燃機関で築き上げてきた巨大ピラミッド(トップメーカーとサプライヤーで構成される「系列」構造)が破壊されるから、というものだ。内燃機関が 電池とモーターにかわると、部品点数は一気に減り、日本勢が得意としてきたすり合わせもいらなくなり 自動車が一気にパソコン化する。燃料自動車なら、水素自体が一種の「危険物」のため、すり合わせの妙が残る。しかしこれが本当の理由だとすれば、トヨタはイノベーションのジレンマにはまりこんでいることになる。
 経営危機に陥ったパナソニックが、BtoCの家電メーカーから、自動車と住宅向けのBtoBに大きく舵を切ろうとしているように、日本の製造業は自動車産業への依存度を強めている。トヨタの「死角」が現実化したとき、日本経済は相当の傷を負うことになるだろう。
(Wedge編集長 大江紀洋)
   

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