終わりなき闘い エボラ終息の日は来るか
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終わりなき闘い エボラ終息の日は来るか

流行国の西アフリカでも減少傾向にあるエボラ出血熱。今回は国際社会の対応が遅きに失し、それがエボラ史上最悪の流行を許す結果になったという批判も強い。終息に向けて課題も残るいま、国際社会は今後どう対応すべきか。また苦い教訓から得たものをどう生かすのか。

流行国の西アフリカでも減少傾向にあるエボラ出血熱。今回は国際社会の対応が遅きに失し、それがエボラ史上最悪の流行を許す結果になったという批判も強い。終息に向けて課題も残るいま、国際社会は今後どう対応すべきか。また苦い教訓から得たものをどう生かすのか。

沈静化も油断できない

 西アフリカのエボラ出血熱の流行は患者の発生報告が昨年末頃から大きく減り、最近は流行国であるリベリア、シエラレオネ、ギニアの3カ国の合計でも、1週間あたりの患者報告数は100件以下になっている。昨年9月、10月時点では最悪の場合、患者は年明けぐらいまでに100万人を超えるおそれがあるという予測もあった。もちろん、そうならないように国連エボラ緊急対策ミッション(UNMEER)が発足し、世界保健機関(WHO)だけでなく、他の国連機関や世界各国が協力して流行国の支援にあたったことが、最悪のシナリオ回避につながったことは間違いないだろう。
 そうした評価とも表裏をなす関係にあるのだが、今回は国際社会の対応が遅きに失し、それがエボラ史上最悪の流行を許す結果になったという批判も強い。秋以降の沈静化に向けた成果とあわせて考えれば、やればできるのに、やることをやらなかったということは認めなければならない。逆に油断をしていたり、遠く離れた国のことだからと無関心のままでいたりすると、防げる危機すら防げなくなってしまうということでもある。
 1976年にザイール(コンゴ民主共和国)で最初の流行が確認されて以来、エボラの流行は何度も繰り返されてきたが、今回のように大きく拡大したことはなかった。いったん流行が広がってしまえば、その沈静化のためだけにもいかに莫大な人と物と資金を投入しなければならないか、そして、病に対する恐怖や不安がいかに人と社会を理屈に合わない極端な行動に走らせるものであるか。そうした点も含め、今回の流行は、これまでの新興感染症対策の経験の中ですでに分かっていたはずの苦い教訓を再認識する機会でもあった。
 世界保健機関(WHO)の4月15日の発表によると、西アフリカ3カ国の患者報告数は現在、累計で2万5826件、うち死亡数1万704件となっている。ただし、直近の4月6日~12日の1週間では、ギニア28件、シエラレオネ9件、リベリア0件。3カ国合計で37件だった。
 WHOのマーガレット・チャン事務局長は今年1月25日の報告で「データは私たちの努力が最悪のシナリオを回避したことを示している」と述べ、対策の目標が流行の拡大を食い止める段階から「3カ国のエボラ症例をゼロにする」ことに移行していることを明らかにした。その沈静化傾向は春に入って、よりはっきりと認められるようになっているといえるだろう。
 国別にみると、リベリアでは3月27日に1件の報告があったのを最後に、報告0が続いている。シエラレオネも0に近づいている。一方、ギニアは週ごとの報告がまだ増えたり減ったりという波のある状態が続いている。目覚ましい成果ではあるが、再燃への懸念はまだ消えたわけではない。ゼロ目標について、マーガレット・チャン事務局長は1月の報告で「可能だが、簡単に実現できるものではない」と語り、「ここで満足したり、援助に疲れたりすることなく、必要な対策を維持していかなければならない」と油断することのないよう国際社会に呼びかけていた。この状態はいまも続いていると受け止めておくべきだろう。
 一方で、米国の生命倫理問題研究に関する大統領委員会(生命倫理委員会)は2月26日にオバマ大統領宛の報告書『エボラと倫理的課題:保健計画の策定および対応』(ETHICS and EBORA Public Health Planning and Response)を発表している。その中で示されている勧告は米国向けのものではあるが、国際社会の重要な構成メンバーであることを自他共に認める日本にとっても重視すべき点は少なくない。勧告の日本語訳を要約のかたちで紹介するので合わせて参考にしていただきたい。(宮田一雄)

「エボラの父」からの警告

邦人外交官は何を見たのか

 西アフリカのエボラの流行に対応するため、ガーナの首都アクラに本部を置く国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)にシニアアドバイザーとして日本から派遣されていた外務省アフリカ1課の小沼士郎交渉官が4月3日午後、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見を行った。
 小沼さんは医師免許を持つ外交官で、UNMEERには昨年12月10日から今年3月10日まで3カ月間、勤務し、UNMEERトップの事務総長特別代表を戦略面から補佐した。UNMEERの本部がアクラに置かれたのは、流行国に近いという地理的条件に加え、世界食糧計画(WFP)の物資輸送拠点があるなど、今回の緊急事態に対応する基盤が整っていたからだ。
 会見で小沼交渉官は、国連を中心にした国際社会の活動の成果や日本の貢献について報告するとともに、保健危機に対するWHOの初期対応能力などを検証すべき課題として指摘した。また、UNMEERの任務完了の見通しについては、流行国政府が担えるものから徐々に任務を地元に移行させていくフェイドアウト戦略をとっていくことになるとしたうえで、国連総会が始まる9月ごろまでには撤退を完了させるのがひとつの目標ではないかとの見方を示した。

国益を守るためにも

エボラ専門医「研究心が恐怖克服する」

加藤康幸氏
《2013年末から西アフリカで感染が広がったエボラ出血熱は過去最大のアウトブレイク(流行)である。国立国際医療研究センター国際感染症対策室・医長の加藤康幸は感染拡大を抑えるため、世界保健機関(WHO)のエボラ出血熱治療・感染防止チームの一員として西アフリカの流行地域のリベリア(首都モンロビア)に赴き、支援活動に従事した》
 私が8月、リベリアに入ったときは米国人の医師が感染してしまい、ちょうど治療のために米国に戻るところでした。私は入れ違いにその医師が治療行為を行っていた隔離病棟に入りました。きちんと感染防護をしているはずの医師までが感染してしまう。知識のある専門家も感染する。自分も罹(かか)る可能性はゼロではない。そう思うとやはり怖かった。
 自分はなぜ、怖いと感じるのに遠いリベリアまで行って患者の治療に当たるのだろうか。その答えを出すのは難しいが、使命感というよりもエボラ出血熱という感染症そのものに関心があるからでしょう。もちろん医師として患者を何とか助けてあげたいという気持ちは強い。しかしそれ以上にこの不思議な病気の実態を知りたいという研究心が強いのだと思う。
■話の肖像画 加藤康幸(1) / (2) / (3) / (4) / (5)(産経ニュース、2015.12.08~12)

問われる先進国としての姿勢

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