アジアは中国にのみ込まれるのか

アジアは中国にのみ込まれるのか

シンガポールの「建国の父」リー・クアンユー元首相が亡くなった。リー氏の死をもって東南アジアの小さな島をアジアの金融センターにまで押し上げた開発独裁型統治は完全に終焉を告げた。域内の経済連携が進み、中国も金融覇権への野心を隠さない中、アジアはどう変わっていくのか。

宮田一雄の視点

 3月29日に行われたシンガポールのリー・クアンユー元首相の葬儀には、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の首脳をはじめ、日本の安倍晋三首相、韓国の朴槿恵大統領ら世界の要人が多数参列した。すでに第一線を退いて久しく、91歳で亡くなった「国父」の存在感が、シンガポールだけでなく、アジアの成長という観点からもいかに大きいものであったかを示していた。
 だが、葬儀は一方で、個性の強い指導者を輩出した戦後のアジア型開発独裁の時代がすでに役割を終えていることを象徴的に示すものでもあった。依然として一党独裁の国家であり続ける中国の超大国化というもう一つの世界史的現実に直面しつつ、ポスト開発独裁のシンガポール、そしてアジアはどこへ向かうのか。

少年の「犯罪」が晒したこと

  • 岐路に立つシンガポール リー・クアンユー後の体制再構築

    岐路に立つシンガポール リー・クアンユー後の体制再構築

    名実ともにシンガポールの「国父」だったリー・クアンユー氏の死去を経て、同国はいよいよポスト・リー時代に踏み出した。リー時代の遺産は、いま1965年の独立から半世紀をこの8月に控えて、最大の岐路に立ち至っている。

開発独裁時代の終焉

29日、国葬会場に安置された
リー・クアンユー氏のひつぎ
(シンガポール情報通信省提供・
ゲッティ=共同)
 強権支配と引き替えにシンガポールの繁栄を一代で築いたリー・クアンユー氏は、1970年前後から80年代にかけて、勃興期のアジア諸国に登場した開発独裁型指導者の代表格であった。アジアが世界の成長センターに成長し、多くの国が政治民主化に踏み出した中、リー氏の死はとりわけ東南アジアで開発独裁時代の終焉を物語るものとなった。
 アジアの開発独裁型指導者を振り返ると、リー氏のほか、インドネシアのスハルト大統領(肩書き当時、以下同じ)、フィリピンのマルコス大統領、韓国の朴正熙大統領、台湾の蔣経国総統らが浮かぶ。おもむきは異なるが、華人(中国系)の権利を抑制して長期政権を敷き、開発モデルとして、「日本に学べ」というルック・イースト政策を掲げたマレーシアのマハティール首相も仲間に入るだろう。
 これらの指導者を個別にみれば、クーデターによる政権奪取の有無や、軍人出身か文民かなど背景はそれぞれ異なる。だが、指導者自身を頂点とするエリート(官僚、軍人)支配の下で、経済効率を最大限に重視した政治が行われた点はほぼ共通している。国内統制を図る上では「共産主義の脅威」が極端に強調され、秘密警察による国民監視が常態化していた点も、この時代のアジア地域に共通する特徴だった。
 こうした開発独裁型の指導者は、その目標でもあった国民生活の向上が実現するにつれ、政治の民主化やより自由な市場経済を求める国内外の声に直面するジレンマに陥った。戒厳令の解除など、晩年に自らの手で段階的な民主化を準備していた蔣経国の例もあるが、無理な権力維持の末に暗殺や政権崩壊など劇的な形で政権を去った指導者が多い。その意味で、リー氏は幸せな末期を迎えたといえるだろう。(産経新聞編集委員兼論説委員・山本秀也)

「独裁」批判に再生回数80万回

 シンガポールの検察当局は3月31日、初代首相の故リー・クアンユー氏をイエス・キリストと比較して批判する内容の映像を動画サイト「ユーチューブ」に投稿したとして、同国の少年(16)を宗教的な感情を傷つける発言をした罪で訴追した。

 動画はリー氏の政権運営が「独裁」的だったとする内容だった。当局がイエスを侮辱したとして訴追したのは、欧米メディアの批判をかわす狙いもあるとみられる。

 少年は動画で、リー氏とイエスは「権力に飢え、悪意があったにもかかわらず、哀れみ深く親切な人間であると人々をだました」と話した。ヒトラーや毛沢東、スターリンの画像も示し、リー氏を「恐ろしい人間」「独裁者」とした。リー氏は事実上の一党支配を築き、名誉毀損訴訟で野党を弱らせるなど強権的手法を取った。警察は29日に少年を逮捕した。(共同)

アジア 独裁のゆくえ

  • シンガポール、中国…一党独裁国家の成功条件

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    シンガポールの成功やリー・クアンユー氏の功績を語るとき、必ず独裁的な政治体制の是非が議論になる。独裁国家が成功するかどうか、注目すべき存在について経営コンサルタントの日沖健が分析する。

鍵を握るAECとAIIB

 東南アジア諸国連合(ASEAN)は、今年末にASEAN経済共同体(AEC)の発足を控える。ASEANは合計人口が6億を超える大市場で、AECは域内のモノやヒト、サービスの各分野の自由化を目指すとともに、世界市場での地位向上も図る。
 一方でASEAN10カ国は中国が設立を主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーにも手を挙げた。ASEANを含むアジア各国からの参加は23カ国に上った。創設メンバーは6月の設立協定調印までにインフラ建設のための融資制度や入札制度、評価方法などAIIBの運用ルールを決めることになっているが、内容次第では、中国の影響力拡大に直結しかねない。

ASEAN経済共同体(AEC)

 東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国が国際舞台での政治・経済的な地位向上を図るため、今年末の創設を目指す。(1)単一市場・生産拠点(2)競争力のある経済圏(3)公正な経済発展(4)世界経済への統合―を柱に掲げる。発足後は人口6億1700万、域内総生産約2兆5000億ドル(約298兆5750億円)の大市場となる。域内関税について、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ブルネイは2010年に撤廃しており、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーは今年末までに原則無税化を始めて18年の完全撤廃を目指す。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)

 中国が設立を主導する国際金融機関。新興国に鉄道や道路、発電所などの建設資金を融資する。中国は創設メンバーとなるための申請期限を3月末に設定、英国やドイツ、フランスなど欧州主要国、インド、韓国、オーストラリアなどが参加を表明、57カ国が創設メンバーに名を連ねた。日本と米国は、組織運営や融資の決定方法が不透明などとして当面の参加を見送った。中国は年内設立に向け、設立協定交渉の6月末の合意を目指す。本部は北京に設置する。

「新金融体制を」野心露わに

 中国国営新華社通信によると、中国の習近平国家主席は22日、インドネシアのジャカルタで開かれたアジア・アフリカ会議(バンドン会議)の60周年を記念する首脳会議で演説し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を念頭に「公平かつ公正、寛容な国際経済と金融体制の建設を推進し、発展途上国のために良好な外部環境をつくる」と述べた。先進国中心の既存の国際金融体制に対抗し、途上国が主導する新たな体制構築を急ぐと宣言した格好だ。
 中国財政省はかねてAIIBを、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)などによる国際金融秩序への対抗ではなく、補完的な存在だと説明してきたが、演説で真意をあらわにした。新華社は習氏の同日の演説を国家的な指針を示す「重要講話」と位置づけた。
 習氏は、中国を起点にアジアや中東、アフリカを経由して欧州に至る陸路と海路の大規模な経済圏「シルクロード(一帯一路)」構想の実現に向けた協力を各国に訴えた。その過程でAIIBに加え、中国独自で運営するシルクロード基金も通じ、途上国支援を強化していく考えを示した。(産経新聞、2015.04.23)

アジアの未来はどちらに

  • 中国主導ではアジアが荒れる AIIBへの“甘い幻想”を斬る

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  • 日本の立場を危うくする「アジアの時代」の足音

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アジアは中国にのみ込まれるのか

アジアインフラ投資銀行に日本も参加すべきだと思いますか?

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